説明

ヒトインフルエンザウイルス感染を予防するための散布剤

【課題】ヒトインフルエンザウイルス感染を予防するための散布剤を提供する。
【解決手段】ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩を含む水溶液又はアルコール含有率10ないし60%のアルコール溶液を含むヒトインフルエンザウイルス感染を予防するための散布剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトインフルエンザウイルス感染を予防するための散布剤に関するものであり、詳細には、ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩を含む水溶液又はアルコール含有率10ないし60%のアルコール溶液を含むヒトインフルエンザウイルス感染を予防するための散布剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、抗インフルエンザ薬が盛んに研究・開発され、タミフル(登録商標)やザナミヴィル(登録商標)等のインフルエンザウイルスの増殖を抑えることができる薬剤が開発されるに至っている。しかし、これらの抗インフルエンザ薬は、使用可能時期が狭い範囲に限られたり、また、副作用の観点から必ずしも汎用に適した薬剤といえるものではなく、更に、これらの抗インフルエンザ薬はヒトインフルエンザウイルスの増殖を個人レベルで抑える作用を持つものの、ヒトインフルエンザウイルス感染が拡大するのを予防し得るものではない。ヒトインフルエンザウイルスの感染拡大を予防するためには、手洗い、うがい、手の消毒等をまめに行うことが推奨されるものの、ヒトインフルエンザウイルスは、空気中を漂うものであるため、前記の方法だけでは十分に感染を予防することは困難であり、そして感染が拡大した場合は、結果的に職場閉鎖や学級閉鎖を行わざるを得なくなる。
【0003】
特開2007−238470号公報(特許文献1)は、コレスタノールを部分構造として有する糖脂質誘導体がヒトインフルエンザウイルス等を含むウイルスに対して高い感染阻害活性を有すること及び該誘導体を空気中へ散布する用途に使用し得ることを開示する。
しかし、上記公報には、ウイルスに対して高い感染阻害活性を有する物質としては、上記誘導体しか開示されておらず、他のウイルス感染阻害活性を有する化合物に付いては何ら記載されていない。
一方、幅広い抗菌性を有し、天然素材で安全性が高い物質としてヒノキチオールが知られている。しかし、ヒノキチオールは、水溶化が困難であり、紫外線に弱いという欠点を有しているため、溶解性が高いアルコールに混ぜて使用されるのが一般的であり、歯磨き、ヘアートニック等に使用されるに留まっている。
また、天然ヒノキチオールは食品添加物に指定されているにも拘らず、上記の理由等により、梅干のカビの予防程度にしか使用されていない。
【特許文献1】特開2007−238470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ヒトインフルエンザウイルスの感染を予防する効果が高く、安全性に優れ且つ実用性の高いヒトインフルエンザウイルス感染の予防剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、安全性に優れる天然素材であるヒノキチオール、若しくはその金属錯体又はそれらの塩を含む水溶液又はアルコール溶液を、ヒトインフルエンザウイルスの感染が想定される場所に散布することにより、効果的にヒトインフルエンザウイルスの感染を予防し得ることを見い出し、本発明を完成させた。また、本発明の散布剤は経済性にも優れ、実用性の高い薬剤となり得る。
【0006】
即ち、本発明は、
(1)ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩を含む水溶液又はアルコール含有率10ないし60%のアルコール溶液を含むヒトインフルエンザウイルス感染を予防するための散布剤、
(2)前記ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩において2種以上の金属が使用される前記(1)記載の散布剤、
(3)前記金属が銅、亜鉛、アルミニウム、ビスマス又はこれらの混合物である前記(2)記載の散布剤、
(4)アロエ、緑茶、熊笹、及びドクダミからなる群より選ばれる少なくとも1種の植物抽出物を含む前記(1)ないし(3)の何れか1つに記載の散布剤、
(5)グリセリン及び界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む前記(1)ないし(4)の何れか1つに記載の散布剤、
(6)ヒトインフルエンザウイルス感染を予防する方法であって、前記(1)ないし(5)の何れか1つに記載の散布剤をヒトインフルエンザウイルスの感染が想定される場所に散布することからなる方法、
(7)散布方法が、空気中への噴霧である前記(6)記載の方法、
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のヒトインフルエンザウイルス感染を予防するための散布剤は、少量のヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩の使用においても、ヒトインフルエンザの感染を有効に予防することができるため、安全性が高く、また、実用性の高い薬剤となり得る。
特に、抗ウイルス効果の高いヒノキチオールの金属錯体を用いれば、使用するヒノキチオールの量を削減でき、また、散布方法を噴霧により行うことで更に使用量を削減することができる。この際、金属錯体に含まれる金属も微量となる為に環境だけでなく、例えば、オフィス、教室、トイレ、病院、電車、乗用車、家庭内等に直接噴霧することも問題とはならない。
更に、本発明のヒトインフルエンザウイルス感染を予防するための散布剤は、人への安全な予防散布剤としての使用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
更に詳細に本発明を説明する。
本発明の、ヒトインフルエンザウイルス感染を予防するための散布剤は、ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩を含む水溶液又はアルコール含有率10ないし60%のアルコール溶液を含む。
【0009】
本発明に使用するヒノキチオールは、タイワンヒノキ、ヒバ、アスナロ等の原料植物に由来する精油から抽出された天然物でもよく、化学合成品でもよい。また、市販品のヒノキチオールをそのまま用いてもよい。原料植物としては、入手容易性の観点から、ヒバが好ましい。原料植物からのヒノキチオールの抽出・精製は公知の方法により行うことができる。前記精油としてはヒバ油が好ましい。化学合成品も公知の方法により得ることができる。市販のものとしては、たとえば、高砂香料(株)や大阪有機化学工業(株)から販売されているものを挙げることができる。
【0010】
ヒノキチオールの金属錯体としては、ヒノキチオールと、亜鉛、銅、鉄、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、バリウム、スズ、コバルト、チタン、バナジウム、ビスマスなどとの金属錯体が挙げられる。ヒノキチオールと金属との割合は、特に限定されるものではないが、通常、ヒノキチオール:金属のモル比が2:1のもの、あるいは3:1のものが好ましく用いられる。
【0011】
ヒノキチオール若しくはヒノキチオールの金属錯体の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;銅塩、亜鉛塩等の遷移金属塩;ジエタノールアミン塩、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール塩、トリエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩;モルホリン塩、ピペラジン塩、ピペリジン塩等のヘテロ環アミン塩、アンモニウム塩、アルギニン塩、リジン塩、ヒスチジン塩等の塩基性アミン塩等の有機塩類等を挙げることができる。
【0012】
これらのヒノキチオール若しくはその金属錯体又はこれらの塩は、1種類だけ単独で含有されていてもよいし、2種類以上併用してもよく、2種以上の金属が使用されるのが好ましい。
【0013】
また、好ましくは、前記金属は銅、亜鉛、アルミニウム、ビスマス又はこれらの混合物である。
また、ヒノキチオール銅錯体、ヒノキチオール塩化亜鉛混合物等が好ましい。
【0014】
また、ヒノキチオールの金属錯体又は金属錯体の塩は、耐光性がヒノキチオールよりも優れているので、耐候性が要求される場合には、ヒノキチオールの金属錯体又は金属錯体の塩を用いることが好ましい。
更に、ヒノキチオールの金属錯体又は金属錯体の塩は、ヒノキチオールよりも低い濃度(例えば、1/10程度の濃度)で同等の効果を示すことから経済的な面からも好ましい。
【0015】
ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩は、媒体1000gに対して、50μgないし100g、好ましくは、0.1gないし80g、より好ましくは、0.5ないし50gの割合で添加される。
尚、上記媒体は、水であるか又はアルコール含有率10ないし60%となるアルコール(水溶液)である。
【0016】
水溶液に使用する水は、水道水でも脱イオン水や蒸留水等の精製水でも使用できるが、脱イオン水等の精製水を使用するのが好ましい。
アルコール溶液に使用するアルコールは、たとえば、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。これらは単独であるいは複数を組み合わせて使用してもよい。好ましいアルコールはエタノールである。
【0017】
本発明のヒトインフルエンザ感染を予防するための散布剤は、アロエ、緑茶、熊笹、及びドクダミからなる群より選ばれる少なくとも1種の植物抽出物を含むこともできる。
【0018】
アロエの抽出物とは、主にアロエが葉に持つゼリー状の身(葉肉)を厚搾抽出法で抽出し、熱を加えて濃縮安定化したエキスをいう。このようなアロエエキスに代えて、主成分であるアントラキノン誘導体のアロインやバーバーロインを用いてもよい。アロエ抽出物には、アロインやバーバーロインの他、アロエ‐エモジン、アロエシン、アロエニンなども含まれる。
【0019】
緑茶の抽出物としては、粉砕した緑茶を熱湯で抽出し、精製し濃縮した液を使用する。緑茶の抽出物の主成分は茶ポリフェノールである。茶ポリフェノールは、分子内にフェノール性水酸基を複数もつ化合物の総称で、カテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、エピガテキンガレート、エピガロカテキンガレートなどを主要成分とする。
【0020】
熊笹の抽出物は、低温高圧圧搾抽出法で、熊笹を抽出することにより得られる。低温高圧圧搾抽出法は、熊笹を高圧に設定した機械装置によって温度を上げずに抽出する方法で、その時にしぼり出された液を濃縮した液が熊笹抽出物となる。熊笹は、日本や中国に広く分布しているイネ科のササの1種である。熊笹の抽出物には、主成分であるトリテルペノール(β−アミリン・フリーデン)の他、リグニン残渣、還元糖、グルコースなどの糖類も含まれている。熊笹の抽出物に代えて、これらの合成品の混合物を用いることもできる。
【0021】
ドクダミは、日本、タイワン、中国、ヒマラヤ、ジャワに分布し、山野や庭などに見られる多年草である。ドクダミの抽出物は、熊笹と同様に、低温高圧圧搾抽出法という方法で抽出する。ドクダミ抽出物には、クエルシトリン(quercitrin)、アフゼニン(afzenin)、ハイぺリン(hyperin)、ルチン、クロロゲン酸、β−シトステロール、cisおよびtrans-N-(4-ヒドロキシスチリル)が含まれている。熊笹の抽出物に代えて、これらの合
成品の混合物を用いることもできる。
【0022】
前記抽出物としては、アロエ、緑茶、熊笹及びドクダミの抽出物から選択される1種類だけを用いてもよいが、2種類以上を併用することが好ましく、より好ましくは上記4種の抽出物を全て含む。
【0023】
前記抽出物を添加する際の配合量は、ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩1質量部に対して、1ないし4質量部使用するのが好ましく、より好ましくは、1.2ないし3.5質量部の範囲である。
また、添加する際の各抽出物の配合量は以下の通りである。
例えば、アロエの抽出物は、媒体1000gに対して、20μgないし100g、好ましくは、0.1gないし10g、より好ましくは、0.5ないし2.5gの割合で添加される。
例えば、緑茶の抽出物は、媒体1000gに対して、20μgないし100g、好ましくは、0.1gないし5g、より好ましくは、0.2ないし2gの割合で添加される。
例えば、熊笹の抽出物は、媒体1000gに対して、10μgないし50g、好ましくは、0.05gないし3g、より好ましくは、0.1ないし1gの割合で添加される。
例えば、ドクダミの抽出物は、媒体1000gに対して、10μgないし50g、好ましくは、0.05gないし3g、より好ましくは、0.1ないし1gの割合で添加される。
尚、上記媒体は、水又はアルコール含有率10ないし60%となるアルコール(水溶液)である。
【0024】
本発明のヒトインフルエンザウイルス感染を予防するための散布剤は、グリセリン及び界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むこともできる。
【0025】
グリセリンとしては、グリセリンおよびグリセリンの各種誘導体が挙げられる。
界面活性剤としては、グリセリン脂肪酸エステル類、キラヤサポニン等が挙げられる。これらを含有することにより、ヒノキチオール濃度を10質量%にまで高めた水溶液とすることができる。
アルコール溶液を使用する場合は、上記のような添加物を使用することなく高濃度のヒノキチオール溶液とすることができる。
【0026】
前記水溶液又はアルコール溶液中には更に、柿の葉、松、杉、あま茶づる、シソ、ワサビ、アカネ、ウメ、ニンニク、ペパーミント、ヨモギ、サンショウ、ダイオウ、アザミ、ハッカ、ビワ、ムラサキ、ラベンダー、レモングラス、及びレンギョウの抽出成分、ハチミツより抽出されるプロポリス等を含有してもよい。これらは、ヒノキチオールの殺菌力
を損なうことなく、水に対するヒノキチオールの溶解度を高めることができる。
【0027】
上記に加え、さらに必要に応じて、従来使用されている添加剤、例えば金属石鹸、動物抽出物、ビタミン剤、ホルモン剤、アミノ酸等の薬効剤、色素、香料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、金属イオン封鎖剤、pH調整剤等を適宜配合することもできる。
【0028】
本発明のヒトインフルエンザウイルス感染を予防するための散布剤の好ましい態様としては、以下が挙げられる。
0.5ないし5%のヒノキチオール銅錯体を含むアルコール含有率10ないし60%のエタノール溶液(水溶液)。
0.5ないし5%のヒノキチオール塩化亜鉛混合物を含むアルコール含有率10ないし60%のエタノール溶液(水溶液)。
0.5ないし5%のヒノキチオールアルミニウム錯体を含むアルコール含有率10ないし60%のエタノール溶液(水溶液)。
0.5ないし5%のヒノキチオールビスマス錯体を含むアルコール含有率10ないし60%のエタノール溶液(水溶液)。
【0029】
本発明はまた、ヒトインフルエンザウイルス感染を予防する方法であって、前記散布剤をヒトインフルエンザウイルスの感染が想定される場所に散布することからなる方法に関する。
ヒトインフルエンザウイルスの感染が想定される場所としては、ヒトインフルエンザウイルスが多く存在しそうな場所であれば特に特定しないが、例えば、オフィス、教室、トイレ、病院、電車、乗用車、家庭内等が考えられる。
【0030】
また、散布方法としては、薬剤を均一に散布し得る方法であれば特に限定されないが、噴霧器による噴霧で、特に、マイクロミストができる噴霧器による噴霧する方法が挙げられる。
本発明の散布方法に使用される噴霧器としては、アルコール溶液を安全に噴霧し得る噴霧器であれば、特に限定されないが、例えば、液化炭酸ガスボンベから送出される気化ガスの圧力を利用して噴霧する噴霧器が好ましい。
本発明の散布方法に使用可能な、具体的な噴霧器の1態様を図1に示した。
即ち、液化炭酸ガスが充填されかつサイホン式送出機構を備えた炭酸ガスボンベ10からの送出経路11に、温度調整可能な加温器12と圧力調整器13を設けて、この送出経路11と薬液タンク(容器)14とを噴霧手段であるスプレーガン15に接続してなり、液化炭酸ガスを加温気化して送出するとともに、薬液タンク14内の薬液を前記気化ガス圧力を利用して噴霧できるようにした噴霧器である。
図1に示した噴霧器では、薬液タンク14内の薬液がなくなった場合には、新たに薬液タンクを取換補給すれば、継続的に使用できる。
【0031】
上記で記載したような噴霧器を用い、インフルエンザウイルスがいそうな空中や付着しそうな場所に本発明の散布剤を噴霧することにより、抗ウィルス効果を得ることができる。ヒノキチオール(若しくはその金属錯体又はそれらの塩)は分子量が小さいためにマイクロミスト液とともに長時間空中にただようことが解っており、これにより、ヒノキチオールは超微粒子になって煙霧化し、散布空間内の全体に渡って隅々まで万遍に侵入でき、また散布状態も均一化し、長期に亘って抗ウイルス効果を示すことが期待でき、また、これにより、使用する薬量を削減することも可能となる。
特に、図1で示した噴霧器を使用した場合は、液化炭酸ガスの気化ガスを利用して噴霧するため、散布剤との化学反応を生じることがなく、薬液の性質変化のおそれがない。更に、特に薬液の容器とは別の液化炭酸ガスボンベから送出される気化ガスを利用して噴霧するものであるため、噴霧のためのガス容量が大きく、薬液容器を取換え補給することに
より、長時間の継続的な噴霧が可能になり、噴霧能力が最後まで低下することもない。
【実施例】
【0032】
以下の実施例により本発明をより詳しく説明する。但し、実施例は本発明を説明するためのものであり、いかなる方法においても本発明を限定することを意図しない。
製造例1:ヒノキチオール塩化亜鉛混合物の製造
ヒノキチオール32.8g(0.2mol)に40℃ないし50℃でメタノール150gを滴下して溶解し、そのままの温度で1時間攪拌した。この溶液に、メタノール100gに塩化亜鉛(ZnCl2)13.6g(0.1mol)を溶解させた溶液を、30℃な
いし40℃で1.6時間かけて滴下し、40℃ないし45℃で5時間反応させた。冷却後、析出物を濾取し、濾物をメタノール30gで2回洗浄した。減圧下(133.3Pa)19ないし48℃で乾燥することにより、ヒノキチオール塩化亜鉛混合物37.1gを淡黄色塊として得た。
【0033】
製造例2:ヒノキチオールナトリウム塩の製造
25%水酸化ナトリウム水溶液112g(0.7mol)を、ヒノキチオール121.1g(0.738mol)をメタノール160gに溶解した溶液に、35℃ないし40℃でゆっくり滴下した。溶液を30℃ないし40℃で2時間反応させた。減圧下で溶媒(メタノール)を留去して黄色塊を沈殿させ、該残渣をアセトン300gで再結晶し、濾過した後、減圧下(133.3Pa、7時間)で乾燥することにより、黄色のナトリウム塩(2水和物、133g)を得た。
【0034】
実施例1:ヒノキチオール、ヒノキチオール塩化亜鉛混合物及びヒノキチオールナトリウム塩のインフルエンザウイルス(PR−8株)に対する抗ウイルス効果
1.検体
製造例1で得たヒノキチオール塩化亜鉛混合物を30%エタノール水溶液に溶解して、1%ヒノキチオール塩化亜鉛混合物溶液及び0.3%ヒノキチオール塩化亜鉛混合物溶液を調製し、製造例2で得たヒノキチオールナトリウム塩を30%エタノール水溶液に溶解して、3%ヒノキチオールナトリウム塩溶液を調製し、ヒノキチオールを30%エタノール水溶液に溶解して、1%ヒノキチオール溶液を調製し、被検溶液とした。
2.試験目的
上記で調製した検体のインフルエンザウイルス(PR−8株)に対する不活性化試験を行う。
3.試験概要
検体にインフルエンザウイルス液を添加・混合して作用液とした。室温で60分間転倒混和を行い、作用後に作用液のウイルス感染価を測定した。尚、対照として30%エタノール水溶液及びリン酸緩衝液(PBS)を用いた。
4.試験方法
1)試験ウイルス
インフルエンザウイルス(PR−8株)(Infuluenz virus PR8 strain)(発育鶏卵に接種、2日後に回収したもの HA:2048)
2)使用細胞
MDCK細胞(理研バイオリソースセンター)
3)使用培地
(1)細胞増殖培地
ダルベッコ変法MEM(シグマ社)にカナマイシン(0.05mg/mL)及びウシ胎児血清(10%)を加えたものを使用した。
(2)細胞維持培地
ダルベッコ変法MEM(シグマ社)にカナマイシン(0.05mg/mL)、トリプシン及びBSA(0.1%)を加えたものを使用した。
4)ウイルス浮遊液
試験ウイルス液をPBSにて100倍に希釈して用いた。
5)試験操作
検体0.5mLにウイルス浮遊液0.5mLを添加・混合し、作用液とした。室温で60分間転倒混和により作用させた後、作用液を0.1%BSA/PBSにて10倍段階希釈した。
6)ウイルス感染価の測定
細胞増殖培地を用い、使用細胞をマイクロプレート(96穴)に単層培養した後、細胞増殖培地を除き、MEMにて2回洗浄した後に、作用液の各希釈液0.1mLを4穴づつに接種し、36℃の炭酸ガス(5%)インキュベーターにて1時間反応後、希釈液を取り除き、0.1mLの細胞維持培地を各穴に加え、36℃の炭酸ガス(5%)インキュベーターにて5日間培養した。培養後、倒立顕微鏡にて細胞変性の有無を観察及び培養液のHAの有無をニワトリ赤血球を用いて確認し、Reed−Muench法により50%組織培養感染量(TCID50)を算出した。
結果を表1に纏めた。
【表1】

【0035】
上記の成績から、ヒノキチオール、ヒノキチオール塩化亜鉛混合物及びヒノキチオールナトリウム塩を用いた場合、ヒトインフルエンザウイルスは検出されず、これにより、ヒトインフルエンザウイルスに対する抗ウイルス効果を有することが確認された。
【0036】
実施例2:散布剤の噴霧試験
噴霧器を用いて噴霧した際のヒノキチオール(金属錯体)の散布・残存状態を評価するために、以下の試験を行った。
実施例1にて調製した1%ヒノキチオール塩化亜鉛混合物溶液を、液化炭酸ガスボンベの圧力を利用して噴霧する噴霧器(シャットノクサス(登録商標)、新耕産業(株)社製)を用いて部屋内に噴霧し、部屋内で無作為に選ばれた4箇所における噴霧前と噴霧後の採菌による一般生菌、黄色ブドウ球菌及び真菌の菌数の減少度合いを、ヒノキチオール(金属錯体)の散布・残存状態の評価とした。噴霧は、おおよそ10m3当りに、1%ヒノ
キチオール塩化亜鉛混合物溶液40mLを部屋内にまんべんなく噴霧し、20分後に採菌した。
結果を表2に纏めた。
【表2】

表2から、液化炭酸ガスボンベの圧力を利用する噴霧器による噴霧により、何れの採菌箇所においても細菌の繁殖が抑えられており、このことより、ヒノキチオール塩化亜鉛混合物が部屋内において、まんべんなく散布・残存していることが判った。
上記の噴霧試験結果は、実施例1において実証されたヒトインフルエンザウイルスに対する抗ウイルス効果が、噴霧により部屋内でもまんべんなく発揮されるであろうことを明確に示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の散布方法に使用可能な噴霧器の1態様を示した概略図である。
【符号の説明】
【0038】
10:炭酸ガスボンベ
11:送出経路
12:温度調整可能な加温器
13:圧力調整器
14:薬液タンク(容器)
15:スプレーガン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩を含む水溶液又はアルコール含有率10ないし60%のアルコール溶液を含むヒトインフルエンザウイルス感染を予防するための散布剤。
【請求項2】
前記ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩において2種以上の金属が使用される請求項1記載の散布剤。
【請求項3】
前記金属が銅、亜鉛、アルミニウム、ビスマス又はこれらの混合物である請求項2記載の散布剤。
【請求項4】
アロエ、緑茶、熊笹、及びドクダミからなる群より選ばれる少なくとも1種の植物抽出物を含む請求項1ないし3の何れか1項に記載の散布剤。
【請求項5】
グリセリン及び界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項1ないし4の何れか1項に記載の散布剤。
【請求項6】
ヒトインフルエンザウイルス感染を予防する方法であって、請求項1ないし5の何れか1項に記載の散布剤をヒトインフルエンザウイルスの感染が想定される場所に散布することからなる方法。
【請求項7】
散布方法が、空気中への噴霧である請求項6記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−173555(P2009−173555A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−11602(P2008−11602)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【出願人】(399084720)八尋産業株式会社 (8)
【出願人】(501382063)株式会社ジェイシーエス (14)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】