説明

ヒトストレスタンパク質−ペプチド複合体

【課題】哺乳類における腫瘍の増殖を治療的に阻害する新規方法及び組成物を提供すること。
【解決手段】ヒトから採取した腫瘍組織から単離されたヒトストレスタンパク質−ペプチド複合体の精製された集団であって、該複合体はそれぞれペプチドと非共有結合したHsp60、Hsp70、Hsp90及びgp96からなる群より選択されるストレスタンパク質を含む。選択される腫瘍組織としては、黒色癌、肝細胞癌、腺癌、扁平上皮癌、気管支癌、リンパ腫、及びその他が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、ヒトストレスタンパク質−ペプチド複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近交系マウスおよびラットは、遺伝的バックグラウンドが同じであるマウスおよびラットに由来する腫瘍に対して予防的に免疫化することができることが見い出されている(非特許文献1〜4参照。総説に関しては非特許文献5参照)。これらの研究は、不活性化した癌細胞を接種したマウスが後の生きた癌細胞の誘発に対して免疫化されるようになることを示しただけでなく、腫瘍−特異的抗原の存在も示した。
【0003】
その後の研究により、予防的に誘発された免疫現象は癌特異的であることが示された。マウスは、免疫化のために使用した腫瘍細胞に対して特異的に免疫化することができるが、他の無関係な腫瘍による誘発に対しては依然として感受性のままである(非特許文献6及び7参照)。癌細胞の免疫原性の立証がもととなって、腫瘍誘発に対する耐性を引き出す癌由来分子の研究が行われた。一般的方法は、癌細胞由来のタンパク質を分別し、その画分のもととなった癌に対してマウスを免疫感作する能力を個々に試験することであった(非特許文献5及び8参照)。多数のタンパク質がこの方法によって同定されたが、これらのタンパク質の大部分は、ストレス誘発タンパク質またはストレスタンパク質として知られる種類のタンパク質に関する(非特許文献9参照)。ストレスタンパク質は、実際に、最もよく保存され、豊富に存在するタンパク質であるので、恐らく、腫瘍特異的抗原に対する候補とはならない。ストレスタンパク質は、その後、種々のペプチドと共有的に会合しないで、ストレスタンパク質−ペプチド複合体を形成することが示された(非特許文献9〜12参照)。
【0004】
また、研究により、ストレスタンパク質−ペプチド複合体が、ATPによる処理によって、免疫原性を失うことが示された(非特許文献13参照)。この処理は、ストレスタンパク質−ペプチド複合体をそのストレスタンパク質およびペプチド成分に解離することが知られている。正常細胞および腫瘍細胞由来のストレスタンパク質の構造に相違がないこと、およびストレスタンパク質が、ATPに依存して広範囲のペプチドと結合することを考慮すると、ストレスタンパク質−ペプチド複合体の免疫原性は、ストレスタンパク質自体から得られるものではなく、ストレスタンパク質と会合したペプチドに由来すると考えられる。
【0005】
癌の免疫療法における概念上の主な困難の一つは、ヒトの癌が、実験動物の癌と同様、抗原的に異なるという可能性である。明らかに、共通の腫瘍抗原が存在するという証拠は、最近いくつかあり(非特許文献14及び15参照)、これは、癌の免疫療法の見込みがあることを予知するものである。にもかかわらず、実験およびヒトの系から得られた圧倒的な証拠を鑑みると、少なくとも、ヒトの腫瘍は、抗原のとてつもない多様性および異質性を示すと考えるのが妥当である。
【0006】
癌患者の個々の腫瘍の免疫原性抗原(または、抗原を共有する場合は、免疫原性抗原のいくつかの異なる種類「のみ」ですら)を同定するという見通しは暗く、実行できそうにない。従来の癌の療法は、典型的には、特異的抗原決定基の単離および解析に基づき、それが、その後の免疫療法の標的になると考えられる。さらに、研究によって、哺乳類は、遺伝的バックグランドが同じである哺乳類に由来する腫瘍に対して予防的に免疫感作できることが示されいるが、今までは、腫瘍のある哺乳類を、該哺乳類に先在している癌を治療する手段としてそれ自身の腫瘍に由来する組成物により治療的に免疫感作することができるということは認識されていなかった。
【非特許文献1】Gross (1943) Cancer Res. 3:323-326
【非特許文献2】Prehn ら、(1957) J. Natl. Cancer Inst. 18:769-778
【非特許文献3】Kleinら、(1960) Cancer Res. 20:1561-1572
【非特許文献4】Oldら、(1962) Ann NY Acad. Sci. 101:80-106
【非特許文献5】Srivastavaら、(1988) Immunology Today 9:78-83
【非特許文献6】Basombrio (1970) Cancer Res. 30:2458-2462
【非特許文献7】Globersonら、(1964) J. Natl. Cancer Inst. 32:1229-1243
【非特許文献8】Old (1981) Cancer Res. 41:361-375
【非特許文献9】Lindquist ら、(1988) Annual Rev. Genet. 22:631-677
【非特許文献10】Gething ら、(1992) Nature 355:33-45
【非特許文献11】Young (1990) Annu. Rev. Immunol. 8:401-420
【非特許文献12】Flynn ら、(1991) Nature 353:726-730
【非特許文献13】Udono ら、(1993) J. Exp. Med. 178:1391-1396
【非特許文献14】Kawakamiら、(1992) J. Immunol. 148:638-643
【非特許文献15】Darrowら、(1989) J. Immunol. 142:3329-3334
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、哺乳類における腫瘍の増殖を治療的に阻害する新規方法及び組成物を提供することが本発明の目的である。本明細書に記載する方法は、特異的抗原決定基の単離および解析を必要とせず、従って、哺乳類の予め定めた特定の腫瘍の増殖の阻害において有効である免疫原組成物を作って使用するためのより迅速な方法を提供する。
【0008】
本発明のこの目的および他の目的ならびに特徴は、以下の記載および請求の範囲から明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ストレスタンパク質が、そのもととなった細胞の抗原ペプチドに結合するという認識から、予め選択した腫瘍に対する抗原ペプチドを容易に単離するための方法が提供される。ストレスタンパク質−ペプチド複合体が一度単離されると、先在する腫瘍に対する免疫反応を引き出すために、そのもととなった動物にそれを逆投与する。従って、この方法は、特定の腫瘍抗原を単離し、解析する必要が回避され、予め選択した腫瘍に対して有効な免疫原性組成物を容易に作ることができる。
【0010】
本発明は、その最も広い範囲では、哺乳類における予め選択した腫瘍の増殖を阻害する方法を提供する。該方法は、治療を受ける哺乳類に、薬剤的に許容されうる担体をストレスタンパク質−ペプチド複合体と組み合わせて含む組成物を投与することを含む。該複合体は、該哺乳類から先に切り取った腫瘍細胞から単離され、そのもととなった腫瘍細胞に対する免疫反応を哺乳類において開始するように作用することを特徴とする。複合体は次いで、腫瘍細胞に対する免疫反応を哺乳類において引き出すのに十分な量で哺乳類に逆投与して、哺乳類にまだ残っている腫瘍細胞の増殖を阻害する。
【0011】
この方法は、他の従来の癌療法、例えば手術、放射線療法および化学療法などと組み合わせて使用してもよい。例えば、癌組織を手術によって切り取った後、本明細書に記載の原理を用いてその切り取った組織からストレスタンパク質−ペプチド複合体を単離し、その複合体を哺乳類に逆投与することができる。その後、複合体は、手術中に切り取られなかった残りの腫瘍細胞に対して特異的免疫反応を誘発する。その方法は、原発性腫瘍が体の種々の箇所に転移している場合に癌療法を施すことができるものである。
【0012】
本明細書で使用する「腫瘍」は、正常組織の侵攻を招く可能性のある、増殖が異常または制御できない細胞を意味すると理解される。また、その用語は、転移した、増殖が異常または制御できない細胞、すなわち、体内の第一の場所(すなわち、原発性腫瘍)から、原発性腫瘍から空間的に隔てられた第二の場所に広がった異常細胞も含むものとする。
【0013】
本明細書で使用する「ストレスタンパク質」は、次の規準を満たす細胞タンパク質を意味すると理解される。すなわち、それは、細胞をストレス性刺激にさらすと細胞内濃度が増加するタンパク質であり、他のタンパク質またはペプチドに結合することができ、アデリシン三リン酸(ATP)および/または低pHの存在下では結合したタンパク質またはペプチドを遊離することができる。ストレス性の刺激としては、それらに限定されないが、熱ショック、栄養欠如、代謝破壊、酸素ラジカルおよび細胞内病原体の感染が挙げられる。
【0014】
確認された最初のストレスタンパク質は、熱ショックタンパク質(Hsp)であった。その名が示すように、Hspは、典型的には熱ショックに反応して細胞により誘発される。哺乳類のHspは、今日までに主要な3つのファミリーが確認されており、Hsp60、Hsp70およびHsp90である。数字は、そのストレスタンパク質の近似分子量(キロダルトン)を示す。各ファミリーのメンバーは保存性が高い。例えば、Bardwellら、(1984) Proc. Natl. Acad. Sci. 81:848-852; Hickeyら、(1989) Mol. Cell Biol. 9:2615-2626; Jindal (1989) Mol. Cell. Biol. 9:2279-2283(それらは、参考文献として本明細書に添付する。)参照。今日までに確認された哺乳類Hsp90のメンバーとしては、細胞質ゾルHsp90(Hsp83としても知られる)ならびに小胞体同等物のHsp90(Hsp83としても知られる)、Hsp87、Grp94(ERp99としても知られる)およびgp96がある。例えば、Gething ら、(1992) Nature 355:33-45 (参考文献として本明細書に添付する。)参照。今日までに確認されたHsp70ファミリーのメンバーとしては、細胞質ゾルHsp70(p73としても知られる)およびHsc70(p72としても知られる);小胞体同等物のBiP(Grp78としても知られる);ならびにミトコンドリア同等物のHsp70(Grp75としても知られる)がある(Gething ら、(1992)前出)。今日までに、哺乳類Hsp60ファミリーのメンバーは、ミトコンドリアにおいて確認されているだけである(Gething ら、(1992)前出)。
【0015】
さらに、Hsp60、Hsp70およびHsp90ファミリーは、ストレスタンパク質とアミノ酸配列において関連している(例えば、35 %より多くのアミノ酸が同一である)が、その発現レベルはストレス性の刺激によっては変わらないことが見いだされた。従って、本明細書で使用するストレスタンパク質の定義は、3つのファミリーのメンバーとのアミノ酸同一性が少なくとも 35 〜 55 % 、好ましくは 55 〜 75 % 、最も好ましくは 75 〜 85%であり、細胞におけるその発現レベルがストレス性の刺激に反応して刺激される他のタンパク質、ムテイン、類似体、およびそれらの変種を含むものとする。
【0016】
本明細書で使用する「ペプチド」は、哺乳類の腫瘍細胞からストレスタンパク質−ペプチド複合体の形で単離されたアミノ酸配列を意味すると理解される。
【0017】
本明細書で使用する「免疫原性ストレスタンパク質−ペプチド複合体」は、哺乳類の腫瘍細胞から単離することができ、ペプチドと共有的に会合していないストレスタンパク質を含む任意の複合体を意味すると理解される。その複合体はさらに、複合体のもととなった腫瘍細胞に対する免疫反応を哺乳類において誘発するように作用することを特徴とする。
【0018】
「免疫反応」は、抗原による刺激によって哺乳類に生じる細胞反応を意味すると理解され、抗原の哺乳類からの放出に関する。免疫反応は、典型的には、実際にリンパ性および/または食作用であることを特徴とする1種類以上の細胞集団によって媒介される。
【0019】
本発明により特定される発明では、ストレスタンパク質−ペプチド複合体におけるストレスタンパク質は、Hsp70、Hsp90およびgp96から成る群から選択される。Hsp70−ペプチド、Hsp90−ペプチドおよびgp96−ペプチド複合体を含むストレスタンパク質−ペプチド複合体は、哺乳類から切り取った腫瘍細胞のバッチから同時に単離することができる。免疫療法の際には、腫瘍に対する最適の免疫反応を刺激するために、上記した1種以上の複合体を哺乳類に投与することができるものとする。
【0020】
本明細書に記載した方法は、特に、ヒトの癌の治療に有用である。しかし、ここに記載した方法は、同様に、他の哺乳類、例えば家畜(すなわち、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジおよびブタ)およびペット(すなわち、ネコおよびイヌ)の癌の免疫療法にも有用である。
【0021】
本発明の別の態様においては、免疫応答はT細胞カスケードを経て、より特定すれば細胞傷害性T細胞カスケードを経て活性化される。ここで用いられている「細胞傷害性T細胞」とは、クラスIの組織適合性抗原複合体を細胞表面に発現しかつ細胞内病原体に感染している標的細胞を標的としかつ溶解させることのできる、細胞表面の糖タンパクマーカーCD8を発現しているT細胞を意味する。
【0022】
本発明の別の態様においては、ストレスタンパク質−ペプチド複合体を治療上有効な量のサイトカインと併用して哺乳類に投与することができる。ここで用いられている「サイトカイン」とは免疫応答を媒介する他の細胞の機能に影響を与える分泌性ポリペプチドを言う。それ故、その複合体は腫瘍に対する免疫応答を増強するためにサイトカインと併用投与しうる。サイトカインとして好ましいものは、インターロイキン-1α(IL-1α)、インターロイキン-1β(IL-1β)、インターロイキン-2(IL-2)、インターロイキン-3(IL-3)、インターロイキン-4(IL-4)、インターロイキン-5(IL-5)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-7(IL-7)、インターロイキン-8(IL-8)、インターロイキン-9(IL-9)、インターロイキン-10(IL-10)、インターロイキン-11(IL-11)、インターロイキン-12(IL-12)、インターフェロンα(IFNα)、インターフェロンβ(IFNβ)、インターフェロンγ(IFNγ)、腫瘍壊死因子α(TNFα)、腫瘍壊死因子β(TNFβ)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、及びトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)があるがそれらに限定されない。
【0023】
その複合体は、当業界ではよく知られた技術を用いて、従来から用いられている製剤学的に受容しうる担体、アジュバント、又は賦形剤とともに、哺乳類に投与しうる。ストレスタンパク質−ペプチド複合体の投与量と投与方法は、その複合体の生理的条件下における安定性、免疫応答を引き起こす効力、腫瘍の大きさと分布、及び治療を受ける哺乳類の年齢、性別、体重によって変わる。
【0024】
典型的には、投与量はその複合体の由来した腫瘍に対しての免疫応答を開始するのに十分で、かつその哺乳類中の腫瘍の増殖を阻害するのに十分な量とすべきである。ストレスタンパク質−ペプチド複合体の1回投与量は好ましくはその哺乳類の体重1kg あたり複合体約1-1000μgの範囲であり、最も好ましくはその哺乳類の体重1kgあたり約100-250μgである。典型的な投与量としては約75kgの体重のヒトに対して約5から約20mgの範囲である。さらに免疫応答の強度はその複合体をその個体に繰り返し投与することによって増強される。好ましくは哺乳類は少なくとも1週間間隔で2回のストレスタンパク質−ペプチド複合体の投与を受ける。もし必要であれば、その複合体を後日さらに投与することにより免疫応答を増強しうる。しかしながら、最適な投与量及び投与レジメンは当業者が通常行っている実験によって見出しうるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明は、ストレスタンパク質−ペプチド複合体がその由来した細胞の抗原タンパク質を監督する(chaperone)という観察に基づいている。従来の癌治療は腫瘍特異抗原を単離し特性を明らかにし、それによりその腫瘍特異抗原を特異的治療レジメの標的とすることに基づいたものである。哺乳類の癌の抗原性は多様であるので、それぞれの癌に対する腫瘍特異抗原の単離及び特性を調べることは実際的でない。本発明では、治療対象となるそれぞれの腫瘍の腫瘍特異抗原の単離及び特性を明らかにすることを不要とすることにより、癌免疫療法に別のアプローチを提供するものである。
【0026】
本発明は哺乳類のあらかじめ選択された腫瘍の増殖を阻害する方法を提供する。その方法は、治療しようとする哺乳類の腫瘍細胞を得る、又は単離することを含む。これは当業界でよく知られた、従来の外科的手法により容易に行いうる。典型的には、腫瘍細胞は通常の腫瘍切開術中に哺乳類から切除される。本方法は、その後、切除した腫瘍細胞からストレスタンパク質−ペプチド複合体を単離することを含む。この単離は以下に詳細に述べる単離法のいずれか一つを用いて行われる。ストレスタンパク質−ペプチド複合体は、それを哺乳類の体内に戻し入れたときに、その複合体の由来した細胞と同種の腫瘍細胞に対して特異的免疫応答を開始させる能力があるという点に特徴づけされる。最後に、本方法は、単離したストレスタンパク質−ペプチド複合体を、その哺乳類がその腫瘍に対して免疫応答を引き出し、その免疫応答によってその哺乳類の体内に残存する腫瘍細胞の増殖を阻害するのに十分な量、戻し入れることを含む。
【0027】
このアプローチは、従来からの癌治療法、例えば手術、放射線療法及び化学療法などの1種又はそれ以上と併用しうるものである。例えば、癌組織の外科的切除手術後、ここに述べた原理を用いて切除した組織からストレスタンパク質−ペプチド複合体を単離し、その複合体をその哺乳類に戻すことができる。戻された複合体はその哺乳類の体内で、手術で除去できなかった腫瘍細胞に対して特異的免疫応答を誘導する。また別な方法として、ここに述べた方法は、原発腫瘍が体内の多部位へ転移している場合の癌治療に新規なアプローチを提供する。例えば、癌が転移し、外科的侵襲ができないとき、ストレスタンパク質−ペプチド複合体を単独で、あるいは他の標準的な化学療法剤との併用で用いうる。
【0028】
本発明はヒトの癌の免疫療法において特に有用ではあるが、ここに述べた方法は例えば家畜(例えばウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、及びブタ)やペット(例えばネコ、及びイヌ)に発生する癌の治療に対しても応用しうるものである。
【0029】
従来の方法に比べてこのアプローチが持つ利点の主たるものは、それぞれの腫瘍について腫瘍特異抗原を単離及び特性を明らかにする必要のないことである。ストレスタンパク質−ペプチド複合体を単離しさえすれば、それ以上特性を調べることなくその哺乳類に戻し入れるのみである。免疫原性を有する複合体を単離する工程は当業界で通常行われ、よく知られたものであるので、技術者は迅速にかつ定法として、治療を受ける各個体に「あつらえの」("tailor-made") 特異的な免疫原性組成物を調製しうる。
【0030】
従来法に勝る本方法の別の利点としては、精製したストレスタンパク質−ペプチド複合体をそれが由来した個体に戻し入れることは、形質転換の可能性のある薬剤(例えば、形質転換DNA)及び/又は免疫抑制性薬剤を治療を受ける哺乳類に接種する危険性 (そのことは生化学的に素性の明らかでない腫瘍又は腫瘍抽出物中にその複合体が存在するときに問題となりうる) を排除できることである。さらに、ストレスタンパク質−ペプチド複合体はアジュバントの無い状態でも著明な免疫応答を誘導する。アジュバントはその複合体の免疫療法剤としての性質を増強しうるが、著明な免疫応答を誘導させるための前提条件としてアジュバントの存在が必要なわけではない。
【0031】
本方法は各種の腫瘍、例えば、間葉起源の腫瘍(肉腫)すなわち線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、脊索肉腫、骨原性肉腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、滑膜肉腫、中皮肉腫、ユーイング(Ewing's) 腫瘍、骨髄性白血病、単球性白血病、悪性リンパ腫、リンパ性白血病、形質細胞腫、平滑筋肉腫、及び横紋筋肉腫の治療に用いうる。
【0032】
さらに本方法は上皮起源の腫瘍(癌)、すなわち扁平上皮癌、基底細胞癌、汗腺癌、皮脂腺癌、腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、嚢胞癌、延髄癌、未分化癌(単純癌)、気管支原性癌、気管支癌、黒色癌、腎細胞癌、肝細胞癌、胆管癌、乳頭状癌、移行上皮癌、扁平上皮癌、絨毛癌、精上皮癌、胎生期癌、悪性奇形種、奇形癌の治療に用いうる。これらの腫瘍に対する免疫応答を誘導する効力を有する組成物の一般的な調製方法を以下に詳細に述べる。
【0033】
理論に拘束されることを望まないが、ストレスタンパク質−ペプチド複合体はその由来した腫瘍細胞をT細胞カスケードによって刺激すると考えられる。以前行われた実験では、同系統のマウス又はラットに起源をもつ腫瘍から由来するストレスタンパク質−ペプチド調製品で予防的に免疫されたマウスでは、その調製品が単離された腫瘍に対し免疫学的抵抗性を示した。しかし、そのマウスは抗原性の明確な腫瘍に対して免疫を示さなかった。さらに、正常組織由来のストレスタンパク質−ペプチド複合体は試験に供試したいかなる腫瘍に対しても抵抗性を示さなかった。例えば、Srivastavaら, (1984) Int. J. Cancer 33:417 ; Srivastavaら, (1986) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83:3407 ; Palladinoら(1987) Cancer Res. 47:5074; Feldwegら,(1993) J. Cell Biochem. Suppl. 17D:108(Abst.); Udonoら(1993) J. Cell Biochem. Suppl. 17D:113及び Udono(1993) J. Exp.Med. 178:1391-1396を参照せよ。これらの公表文献は参考として本明細書中に組み込むことにする。近年、予防的免疫は、典型的にはT細胞カスケードを、より特異的には細胞傷害性T細胞カスケードを経由することが確立された。例えば、Blachereら(1993) J. Immunother. 14:352-356を参照すればよいが、この公表文献は参考として本明細書中に組み込むこととする。このことにより、ストレスタンパク質複合体もまた同様な作用機作、特定すれば細胞傷害性T細胞カスケードを経由して治療効果を媒介するものと考えられる。
【0034】
典型的にはストレスタンパク質−ペプチド複合体は、治療対象の哺乳類から切除した腫瘍組織から直接単離する。しかし、ある条件下では複合体の単離に用いうる腫瘍組織の量は限られている。そのため、ストレスタンパク質−ペプチド複合体の単離前に、切除した腫瘍組織を当業界で既知の技法を用いて増殖させうる。例えば、切除した腫瘍組織はin vivoで、例えばヌードマウスを腫瘍組織サンプルでトランスフェクトさせるか、あるいはin vitroで、例えば培養中腫瘍細胞を何度も継代することによって増殖させうる。増殖させた腫瘍組織を採取し、ストレスタンパク質−ペプチド複合体の単離の出発材料として用いうる。
【0035】
本発明の実施に有用なストレスタンパク質は次の判定基準を満足する細胞性タンパク質と定義しうる。細胞がストレス性刺激に曝されたときに細胞内濃度が増加するタンパク質であって、他のタンパク質又はペプチドと結合する能力があり、結合したタンパク質又はペプチドをアデノシン三リン酸(ATP)の存在下で又は低pHの条件下で放出する能力があるタンパク質である。
【0036】
最初に同定されたストレスタンパク質はHsp類であり、それは熱ショックに反応して細胞内で合成されるものである。現在までのところ、哺乳類のHsp類として3つのファミリーが同定されており、それらはHsp60、Hsp70及びHsp90であり、その番号はキロダルトンで表したストレスタンパク質のおよその分子量を示している。その後、栄養素欠如、代謝中断、酸素ラジカル、及び細胞内病原体の感染など(それらに限定されないが)のストレス性刺激に反応して誘導された、これらのファミリーに属する多数のストレスタンパク質が発見された。例えば、Welch(May 1993) Scientific American 56-64 ; Young(1990) 同上 ; Craig(1993) Science 260:1902-1903 ; Gethingら(1992)同上 ;及びLindquistら(1988)同上を参照すればよいが、これらの公表文献は参考として本明細書中に組み込むことにする。本発明の実施にあったてはこの3種のファミリーに属する全ての哺乳類のストレスタンパク質を用いうる。
【0037】
主要なストレスタンパク質はストレスを与えられた細胞中では非常に高濃度に蓄積されるが、ストレスを与えられなかった細胞中では低又は中等度の濃度しかみられない。例えば、非常に誘導されやすい哺乳類Hsp70は正常温度ではほとんど検出されないが、熱ショックをかけた細胞中では最も活発に合成されるタンパク質の一つとなる(Welchら(1985), J. Cell. Biol.,101:1198-1211)。これに対して、Hsp90 及びHsp60タンパク質は正常温度条件で大多数の(全てではないが)哺乳動物細胞中で豊富に存在しており、加熱によってさらに誘導される(Laiら(1984), Mol. Cell. Biol. 4:2802-10 ; van Bergen en Henegouwenら(1987), Genes Dev., 1:525-31)。
【0038】
現在までに同定されたHsp90ファミリーのタンパク質としては、細胞質ゾル性Hsp90(Hsp83としても知られている)及び小胞体性で同等のHsp90(Hsp83としても知られている)、Hsp87、Grp94(ERp99としても知られている)、並びにgp96(Gethingら(1992)同上)がある。現在までに同定されたHsp70ファミリーのものとしては、細胞質ゾル性Hsp70(p73としても知られている)及びHsc70(p72としても知られている)、小胞体性で同等のBiP(Grp78としても知られている)、並びにミトコンドリア性で同等のHsp70(Grp75としても知られている)がある(Gethingら(1992)同上)。現在までに同定されたHsp60ファミリーのタンパク質としてはミトコンドリア性のものがあるのみである(Gethingら(1992)同上)。
【0039】
ストレスタンパク質類は高度に保存されたタンパク質の1種である。例えば、DnaK(大腸菌から得たHsp70)は、そのアミノ酸配列の約50%が真核生物から得たHsp70タンパク質と同一である(Bardwellら(1984) Proc. Natl. Acad. Sci. 81:848-852)。Hsp60及びHsp90の両ファミリーともファミリー内での保存が高レベルで行われていることを示している(Hickeyら(1989) Mol. Cell. Biol. 9:2615-2626 ; Jindai(1989) Mol. Cell. Biol. 9:2279-2283)。さらに、Hsp60、Hsp70及びHsp90ファミリーは、ストレスタンパク質とその配列が関連しているタンパク質、例えば35%以上のアミノ酸の同一性があるがその発現レベルがストレスによって変動しないタンパク質から構成されていることが見出された。それ故、ここではストレスタンパク質の定義は、他のタンパク質、ムテイン、類似体、及びそれらの変異体であって、すくなくとも35%から55%、好ましくは55%から75%、最も好ましくは75%から85%のアミノ酸が、3つのファミリーを構成するタンパク質 (それらの細胞内での発現量はストレス性刺激に応じて増強される) のアミノ酸と同一であるものをも包含する。
【0040】
本発明の、免疫原性を有するストレスタンパク質−ペプチド複合体は、哺乳類の体内で免疫応答を誘導する能力のあるペプチドと非共有結合で会合しているストレスタンパク質を含有するいかなる複合体をも含むものである。好ましい複合体としてはHsp70-ペプチド、Hsp90-ペプチド、及びgp96-ペプチドの各複合体であるがそれらに限定されない。例えばgp96は、細胞質ゾル性Hsp90の小胞体性での同等のものであるが、そのgp96は哺乳類のストレスタンパク質であり、本発明の実施に用いうる。
【0041】
本発明の実施に有用なストレスタンパク質−ペプチド複合体を単離する典型的な方法を下記に詳述する。
【0042】
Hsp70-ペプチド複合体の精製
Hsp70-ペプチド複合体の精製は前述しているが、例えばUdonoら(1993)同上を参照のこと。
【0043】
最初に腫瘍細胞を3倍量の1X溶解用緩衝液(5mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH7)、150mM NaCl、2mM CaCl2、2mM MgCl2及び1mM フェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)からなる)に懸濁する。次いで、ペレットを顕微鏡観察で99%以上の細胞が溶解するまで氷上で超音波処理する。超音波処理のかわりに機械的剪断によって溶解させることもでき、この方法の場合は、細胞を典型的には30mM重炭酸ナトリウム pH 7.5、1mM PMSF中に再懸濁し、氷上で20分間インキュベートし、ダウンス(dounce)ホモゲナイザーで95%以上の細胞が溶解するまでホモゲナイズする。
【0044】
溶解物を1000gで10分間遠心し、破壊されていない細胞、核及びその他の細胞性破片を除去する。上清を100,000gで90分間再度遠心し、その上清を採取し、2mM Ca2+及び2mM Mg2+含有のリン酸塩緩衝生理食塩液(PBS)で平衡化したCon A セファロースと混合する。機械的剪断によって細胞を溶解した場合には、Con A セファロースと混合する前に上清を等量の2X溶解用緩衝液で希釈する。上清をConA セファロースと結合させるため4℃で2-3時間放置する。結合しなかったものを採取し10mMトリス酢酸 pH 7.5、0.1mM EDTA、10mM NaCl、1mM PMSFに対して36時間(3回、各回100倍量)透析する。透析物を17,000rpm(Sorvall SS34ローター)で20分間遠心する。その上清を採取し、20mMトリス酢酸pH7.5、20mM NaCl、0.1mM EDTA及び15mM 2-メルカプトエタノールで平衡化したMono Q FPLC カラムにアプライする。カラムを20mMから500mMのNaClの濃度勾配で展開し、溶出した画分をドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で分画し、適当な抗Hsp70抗体(例えばStressGenのN27F3-4クローンから得られるもの)を用いてイミュノブロッティングで性質を明らかにする。
【0045】
抗Hsp70抗体に強い免疫反応性を示す画分をプールし、Hsp70-ペプチド複合体を硫酸アンモニウムで、特定するならば50%-70%の硫酸アンモニウムカットで沈殿させる。沈殿物を17,000rpm(SS34 Sorvallローター)で遠心して採取し、70%硫酸アンモニウムで洗う。洗浄した沈殿物を溶解させ、残留硫酸アンモニウムをSephadex(登録商標) G25カラム(Pharmacia)でゲルろ過して除去する。
【0046】
Hsp70-ペプチド複合体はこの方法を用いて見かけ上均一となるまで精製しうる。典型的には、1gの細胞又は組織から、1mgのHsp70-ペプチド複合体を精製しうる。
【0047】
Hsp90-ペプチド複合体の精製
最初に腫瘍細胞を3倍量の1X溶解用緩衝液(5mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH7)、150mM NaCl、2mM CaCl2、2mM MgCl2及び1mM フェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)からなる)に懸濁する。次いで、ペレットを顕微鏡観察で99%以上の細胞が溶解するまで氷上で超音波処理する。超音波処理のかわりに機械的剪断によって溶解させることもでき、この方法の場合は細胞を典型的には30mM重炭酸ナトリウム pH 7.5、1mM PMSF中に再懸濁し、氷上で20分間インキュベートし、ダウンス(dounce)ホモゲナイザーで95%以上の細胞が溶解するまでホモゲナイズする。
【0048】
溶解物を1000gで10分間遠心し、破壊されていない細胞、核及びその他の細胞性破片を除去する。上清を100,000gで90分間再度遠心し、その上清を採取し、2mM Ca2+及び2mM Mg2+含有のリン酸塩緩衝生理食塩液(PBS)で平衡化したCon A セファロースと混合する。機械的剪断によって細胞を溶解した場合には、Con A セファロースと混合する前に上清を等量の2X溶解用緩衝液で希釈する。上清をConA セファロースと結合させるため4℃で2-3時間放置する。結合しなかったものを採取し、10mMトリス酢酸 pH 7.5、0.1mM EDTA、10mM NaCl、1mM PMSFに対して36時間(3回、各回100倍量)透析する。透析物を17,000rpm(Sorvall SS34ローター)で20分間遠心する。得られた上清を採取し、溶解用緩衝液で平衡化したMono Q FPLCカラムにアプライする。タンパク質はその後200mMから600mM NaClの塩濃度勾配で溶出する。
【0049】
溶出した画分をSDS-PAGEで分画し、3G3(Affinity Bioreagents)などの抗Hsp90抗体を用いたイミュノブロッティングで同定されたHsp90-ペプチド複合体を含有する画分を得る。Hsp90-ペプチド複合体はこの方法を用いて見かけ上均一となるまで精製しうる。典型的には、1gの細胞又は組織から、150-200μgのHsp90-ペプチド複合体を精製しうる。
【0050】
gp96-ペプチド複合体の精製
最初に腫瘍細胞を3倍量の1X溶解用緩衝液(5mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH7)、150mM NaCl、2mM CaCl2、2mM MgCl2及び1mM フェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)からなる)に懸濁する。次いで、ペレットを顕微鏡観察で99%以上の細胞が溶解するまで氷上で超音波処理する。超音波処理のかわりに機械的剪断によって溶解させることもでき、この方法の場合は、細胞を典型的には30mM重炭酸ナトリウム pH 7.5、1mM PMSF中に再懸濁し、氷上で20分間インキュベートし、ダウンス(dounce)ホモゲナイザーで95%以上の細胞が溶解するまでホモゲナイズする。
【0051】
溶解物を1000gで10分間遠心し、破壊されていない細胞、核及びその他の細胞性破片を除去する。上清を100,000gで90分間再度遠心し、その上清を採取し、2mM Ca2+及び2mM Mg2+含有のリン酸塩緩衝生理食塩液(PBS)で平衡化したCon A セファローススラリーと混合する。機械的剪断によって細胞を溶解した場合には、Con A セファロースと混合する前に上清を等量の2X溶解用緩衝液で希釈する。上清をCon A セファロースと結合させるため4℃で2-3時間放置する。そのスラリーをカラムに詰め、1Xの溶解用緩衝液でOD280がベースラインに低下するまで洗う。次いでカラムをカラムベッドの半量の10%α-メチルマンノシド(α-MM)で洗い、パラフィルムで密封し、37℃で15分間インキュベートする。カラムを室温まで冷却し、パラフィルムをカラムの底から除去し、カラムの5倍量のα-MMをカラムにアプライする。溶出液をSDS-PAGEで分画し性質を調べる。細胞のタイプ、及び溶解用緩衝液と組織との比によって異なるが、典型的にはgp96-ペプチド複合体は約60%から95%の純度である。
【0052】
もしさらに精製する必要がある場合には、サンプルを5mM リン酸ナトリウムを含有する緩衝液(pH7)で平衡化したMono Q FPLC カラムにアプライする。タンパク質は、0-1MのNaCl濃度勾配で溶出する。gp96画分は400mMから550mMのNaClの間に溶出される。
【0053】
別の方法として、100,000gの遠心で得られたペレットから単離したgp96画分を、5倍容のPBS(1%デオキシコール酸含有、Ca2+及びMg2+を含まない)に再懸濁し、氷上で1時間インキュベートする。懸濁液を20,000gで30分間遠心し、上清を採取し界面活性剤を除去するためPBS(Ca2+及びMg2+を含まない)に対して数回交換しつつ透析する。透析物を100,000gで90分間遠心し上清をさらに精製する。カルシウムとマグネシウムをどちらも終濃度が2mMとなるように上清に添加する。サンプルを5mM リン酸ナトリウムを含有する緩衝液(pH7)で平衡化したMono Q HPLC カラムにアプライする。タンパク質は、0-1MのNaCl濃度勾配で溶出する。gp96の画分は400mMから550mMのNaClの間に溶出される。
【0054】
gp96-ペプチド複合体はこの方法で見かけ上均一となるまで精製しうる。典型的には1gの細胞/組織から10-20μgのgp96を単離しうる。
【0055】
複合体の製剤化と投与
切除した腫瘍からストレスタンパク質−ペプチド複合体を精製した後、そのストレスタンパク質−ペプチド複合体を治療を受けている哺乳類に、その哺乳類の体内でそのストレスタンパク質−ペプチド複合体が由来した腫瘍細胞に対しての免疫応答を刺激するために、戻される。本発明のストレスタンパク質−ペプチド複合体はそのまま保存するか又は生理的に受容しうる担体、賦形剤、又は安定化剤と混合して投与剤型に調製される。これらの物質は投与を受けようとする対象に対して、用いる用量と濃度において無毒でなければならない。
【0056】
複合体が水溶性の場合は適当な緩衝液、例えばPBS(5mM リン酸ナトリウム、150mM Nacl、pH7.1)又はその他の生理的に適合性の溶液中で製剤化しうる。もし複合体の水性溶媒に対する溶解度が低い場合には、Tween又はポリエチレングリコールなどの非イオン性界面活性剤を用いて製剤化しうる。
【0057】
製薬業界でよく知られた方法のいずれを用いても経口あるいは非経口投与に用いる溶液を調製しうるが、それらの方法については、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, (Gennaro, A.,編), Mack Pub., 1990に記載されている。製剤中には、例えば、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコール類、植物由来の油、水素化ナフタレンなどを含む。直接投与用の製剤には、特にグリセロール及びその他の高粘度の組成物を含有させることができる。生体に適合性のある、好ましくは生体に吸収されるポリマー類、例えばヒアルロン酸、コラーゲン、リン酸三カルシウム、ポリブチレート、ポリラクチド、ポリグリコリド、及びラクチド/グリコリド共重合物がin vivoでのストレスタンパク質−ペプチド複合体の放出を制御するために有用な賦形剤となりうる。
【0058】
吸入用製剤中には賦形剤として例えば乳糖を含有させることができる。水性溶液には、例えばポリオキシエチレン-9-ラウリルエーテル、グリココール酸、及びデオキシコール酸を含有させることができる。油性溶液は点鼻用滴下剤の投与剤型として有用であろう。ゲルは鼻腔内局所に適用しうる。
【0059】
ここに提供した化合物は製剤学的に受容しうる無毒の賦形剤及び担体と混合することにより、医薬組成物を形成しうる。さらに、投与製剤中には任意に1種又はそれ以上のアジュバントを含有させることもできる。好ましいアジュバントとしては、プルロニックトリブロック共重合体、ムラミルジペプチド及びその誘導体、無毒化エンドトキシン、サポニン及びQS-21などの誘導体、及びリポソームがあるがそれらに限定されない。本発明では複合体が長時間にわたって放出されるような徐放性製剤をもその範囲に含んでいる。
【0060】
本発明に従って調製されたストレスタンパク質−ペプチド複合体ファミリーの投与法は、生理的条件下での複合体の安定性及び治療対象の哺乳類の体内での腫瘍の大きさと分布に依存する。複合体の好ましい投与量は、レシピエントの腫瘍の大きさと分布、年齢、性別及び体重、レシピエントの全般的健康状態、その複合体の相対的生物学的有効性、複合体の剤型、製剤中の賦形剤の存在とタイプ、及び投与経路などの変動要因によっても変わる。
【0061】
通常は本発明の複合体は、非経口投与用としては水性の生理的緩衝液に約0.001から10%(w/v)の濃度で複合体を含有する液として提供される。好ましい用量の範囲はレシピエントの体重1kgあたり1回約1から1000μgであり、最も好ましくはレシピエントの体重1kgあたり1回約100から250μgである。典型的な用量としては約75kgの体重の被験者に対して約5mgから約20mgの範囲である。しかし、これら投与量は複合体と共に投与されるアジュバントの量によって変動してもよい。
【0062】
複合体は好ましくは、標準的な方法で投与される水性溶液の一部をなすものであり、標準的な方法とは、例えば、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、眼窩内投与、眼内投与、心室内投与、頭蓋内投与、包内投与、髄腔内投与、槽内投与、腹腔内投与、口腔内投与、直腸内投与、膣内投与、鼻腔内投与、又はエアロゾル投与によるものである。水性溶液は、好ましくは、生理的に受容しうる液であることによりその複合体の哺乳類への送達に加え、その溶液がその哺乳類の電解質及び/又は体液バランスに影響を及ぼさない。複合体用の水性溶媒はそれ故、生理食塩水(0.9% NaCl, 0.15M), pH7-7.4であるか又はその他の薬学的に受容しうる塩類を含んでもよい。
【0063】
好ましくはレシピエントは2週間間隔で三回ワクチンの接種を受けるはずである。もし必要であれば、さらに後日複合体を追加投与することで応答を増強しうる。最適用量及び接種スケジュールは当業界でよく知られている技法を用いて各ストレスタンパク質−ペプチド複合体について経験的に定めうる。
【0064】
各種のサイトカイン、抗体、及びその他の生理活性物質をストレスタンパク質−ペプチド複合体と共に投与しうる。例えば各種のサイトカイン、すなわち、
インターロイキン-1α(IL-1α)、インターロイキン-1β(IL-1β)、インターロイキン-2(IL-2)、インターロイキン-3(IL-3)、インターロイキン-4(IL-4)、インターロイキン-5(IL-5)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-7(IL-7)、インターロイキン-8(IL-8)、インターロイキン-9(IL-9)、インターロイキン-10(IL-10)、インターロイキン-11(IL-11)、インターロイキン-12(IL-12)、インターフェロンα(IFNα)、インターフェロンβ(IFNβ)、インターフェロンγ(IFNγ)、腫瘍壊死因子α(TNFα)、腫瘍壊死因子β(TNFβ)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、及びトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)を生理的応答を最大限にするために併用投与しうる。しかし、現在のところ発見されていないサイトカインも本発明においては有効であることが期待される。さらに従来用いられている抗生物質もストレスタンパク質−ペプチド複合体と併用投与しうる。しかしながら、適当な抗生物質の選択は対象疾患によって変わる。
【実施例1】
【0065】
本実施例では、C57BL/6及びC3Hマウスで体重が約100gのものをJackson Laboratories, Bar Harbor, Me, USAより購入して用いる。マウスに実験腫瘍を誘導するため、悪性腫瘍細胞をマウスの皮下に注入する。特定して言えば、悪性の紡錘形細胞癌6139の細胞をC3Hマウスの皮下に注入し、悪性のマウスルイス肺癌細胞をC57BL/6マウスの皮下に注入し、悪性のマウスB16メラノーマ細胞をC57BL/6マウスの皮下に注入する。
【0066】
腫瘍が目視及び触知しうる大きさになったときに腫瘍組織のサンプルを切除する。対照として正常な非悪性の組織を実験腫瘍の発生したマウスから切除する。
【0067】
gp96-ペプチド、Hsp90-ペプチド、及びHsp70-ペプチド複合体を、切除した正常組織及び腫瘍由来組織の双方から、前述した方法を用いて単離する。単離後、複合体をPBSと混合し、その複合体が由来したマウスに戻す。通常各実験に6匹のマウスを用いる。実験は下記のスケジュールで行う。
【0068】
実験 マウスに戻した組成物
1 gp96-ペプチド
2 Hsp70-ペプチド
3 Hsp90-ペプチド
4 gp96-ペプチド 及び Hsp70-ペプチド
5 gp96-ペプチド 及び Hsp90-ペプチド
6 Hsp70-ペプチド 及び Hsp90-ペプチド
7 Hsp70-ペプチド、Hsp90-ペプチド、及びgp96-ペプチド
8 緩衝液のみ
実験の第1シリーズにおいては複合体は腫瘍細胞から単離されるが、第2シリーズにおいては正常細胞から単離される。マウスにあらかじめ選択した複合体20μg(合計重量で)を、1週間間隔で三回接種する。治療期間中、各腫瘍の大きさを毎日測定する。4週間後マウスを屠殺し腫瘍の発達を組織学的に調べる。さらに、屠殺したマウスで腫瘍の転移の有無を調べる。
【0069】
正常細胞から由来する複合体で治療したマウスの腫瘍は増殖し続け、転移していることが期待される。これに対して、腫瘍細胞から由来する複合体で治療したマウスの腫瘍はその増殖が対照のマウスの腫瘍の増殖より遅いことが期待され、いくつかの例では腫瘍の大きさが減少し、治療中に腫瘍の緩解を示すことが期待される。
【0070】
その他の実施態様
本発明はその本質的な特性と精神を離れることなく他の特別な形式で実施しうるものである。本実施態様はそれ故いかなる態様においても説明するためのものであり、制限的ではなく、本発明の範囲は前述の詳細な説明によるよりはむしろ後述の請求の範囲によって示されており、請求の範囲に記載の事項と均等の範囲内及び意味内にある全ての変更はそれ故、本特許に包含されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0071】
ストレスタンパク質が、そのもととなった細胞の抗原ペプチドに結合するという認識から、予め選択した腫瘍に対する抗原ペプチドを容易に単離するための方法が提供される。ストレスタンパク質−ペプチド複合体が一度単離されると、先在する腫瘍に対する免疫反応を引き出すために、そのもととなった動物にそれを逆投与する。従って、この方法は、特定の腫瘍抗原を単離し、解析する必要が回避され、予め選択した腫瘍に対して有効な免疫原性組成物を容易に作ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトから採取した腫瘍組織から精製するステップにより得られる、ペプチドと非共有結合したヒトストレスタンパク質を含む、精製されたヒトストレスタンパク質−ペプチド複合体。
【請求項2】
ヒトから採取した白血病細胞から精製するステップにより得られる、ペプチドと非共有結合したヒトストレスタンパク質を含む、精製されたヒトストレスタンパク質−ペプチド複合体。
【請求項3】
前記複合体のストレスタンパク質がHsp60ファミリー、Hsp70ファミリー、またはHsp90ファミリーのメンバーである、請求項1または2に記載の精製された複合体。
【請求項4】
前記複合体のストレスタンパク質が、Hsp70、Hsp90およびgp96からなる群より選択される、請求項1または2に記載の精製された複合体。
【請求項5】
前記複合体が、Hsp70、Hsp90およびgp96からなる群より選択される少なくとも2つの異なるストレスタンパク質を含む、請求項1または2に記載の精製された複合体。
【請求項6】
前記腫瘍組織が転移した腫瘍組織である、請求項1に記載の精製された複合体。
【請求項7】
前記腫瘍組織が肉腫から得られた組織である、請求項1に記載の精製された複合体。
【請求項8】
前記腫瘍組織が癌から得られた組織である、請求項1に記載の精製された複合体。
【請求項9】
前記腫瘍組織が、黒色癌、肝細胞癌、腎細胞癌、腺癌、嚢胞腺癌、扁平上皮癌、表皮癌、気管支原性癌、気管支癌、移行上皮癌およびリンパ腫からなる群より選択される組織から得られたものである、請求項1に記載の精製された複合体。
【請求項10】
前記白血病細胞が骨髄性白血病を患うヒトから得られた細胞である、請求項2に記載の精製された複合体。
【請求項11】
見かけ上均一となるまで精製されている、請求項1または2に記載の精製された複合体。
【請求項12】
前記複合体のストレスタンパク質がgp96であり、精製ステップが、
(i)腫瘍組織の腫瘍細胞を溶解して溶解物を得ること、
(ii)該溶解物を遠心して清澄した上清を得ること、
(iii)該上清を、上清中のgp96−ペプチド複合体がコンカナバリンAに結合する条件下でコンカナバリンAと接触させること、
(iv)α−メチルマンノシドを含む緩衝液で該複合体を溶出させること、
を含む、請求項1に記載の精製された複合体。
【請求項13】
前記複合体のストレスタンパク質がgp96であり、精製ステップが、
(i)腫瘍組織の腫瘍細胞を溶解して溶解物を得ること、
(ii)該溶解物を1000×gで遠心して第1上清を得ること、
(iii)第1上清を100,000×gで遠心して清澄した上清を得ること、
(iv)該清澄した上清を、gp96−ペプチド複合体がコンカナバリンAに結合する条件下でアガロースビーズに固定化されているコンカナバリンAと接触させること、
(v)アガロースビーズを第1緩衝液で洗浄すること、
(vi)10%α−メチルマンノシドを含む第2緩衝液で該ビーズから該複合体を溶出させること、
を含む、請求項1に記載の精製された複合体。
【請求項14】
前記複合体のストレスタンパク質がgp96であり、精製ステップが、
(i)ヒト白血病細胞を溶解して溶解物を得ること、
(ii)該溶解物を遠心して清澄した上清を得ること、
(iii)該上清を、上清中のgp96−ペプチド複合体がコンカナバリンAに結合する条件下でコンカナバリンAと接触させること、
(iv)α−メチルマンノシドを含む緩衝液で該複合体を溶出させること、
を含む、請求項2に記載の精製された複合体。
【請求項15】
前記複合体のストレスタンパク質がgp96であり、精製ステップが、
(i)ヒト白血病細胞を溶解して溶解物を得ること、
(ii)該溶解物を1000×gで遠心して第1上清を得ること、
(iii)第1上清を100,000×gで遠心して清澄した上清を得ること、
(iv)該清澄した上清を、gp96−ペプチド複合体がコンカナバリンAに結合する条件下でアガロースビーズに固定化されているコンカナバリンAと接触させること、
(v)アガロースビーズを第1緩衝液で洗浄すること、
(vi)10%α−メチルマンノシドを含む第2緩衝液で該ビーズから該複合体を溶出させること、
を含む、請求項2に記載の精製された複合体。

【公開番号】特開2008−69167(P2008−69167A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−264540(P2007−264540)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【分割の表示】特願2004−239675(P2004−239675)の分割
【原出願日】平成7年4月6日(1995.4.6)
【出願人】(504276406)マウント シナイ スクール オブ メディシン オブ ニューヨーク ユニバーシティー (1)
【Fターム(参考)】