説明

ヒトデコラーゲンペプチドを有効成分とする血糖値上昇抑制剤およびヒトデコラーゲンペプチドの製造方法

【課題】 水産廃棄物であるヒトデコラーゲンペプチドを有効成分とする血糖値上昇抑制剤およびヒトデコラーゲンペプチドの製造方法を提供する。
【解決手段】 ヒトデをプロテアーゼ処理して得られるヒトデコラーゲンペプチドを有効成分とする血糖値上昇抑制剤およびヒトデをアルカリ処理、酸処理および水浸処理するヒトデ処理工程と、前記ヒトデ処理後に弱酸性ないし中性プロテアーゼで処理をしてヒトデ加水分解物を生成するヒトデ加水分解物生成工程と、前記ヒトデ加水分解物からヒトデコラーゲンペプチドを回収するヒトデコラーゲンペプチド回収工程とを有するヒトデコラーゲンペプチドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトデコラーゲンペプチドを有効成分とする血糖値上昇抑制剤およびヒトデコラーゲンペプチドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトデの多くは貝や魚を食べる肉食性で、養殖の篭に入り込んで養殖生物を食べてしまうため、北海道の主要な養殖であるホタテの養殖のほか、エビ、ツブ、カニ、アサリ、ホッキ等の養殖に被害を与え、漁業に深刻な影響を及ぼしている。現在、ヒトデを捕獲し陸揚げすることによる懸命な駆除が行われているが、その数は一向に減少していない。
【0003】
また、棘皮動物であるヒトデは、多くの塩分やサポニンを含んでいる。サポニンはコレステロールの吸収を抑制する等健康上有用な物質にも挙げられるが、作用の強いものには経口毒性があるため、ヒトデそのものは食用に適さない。そのため、捕獲・陸揚げされたヒトデは、水産廃棄物として焼却処理または埋め立て処理がされているほか、肥料として加工されている。
【0004】
従来、水産廃棄物を有効利用する試みがいくつかなされている。例えば、特開平9−10246号公報では、水産廃棄物である魚皮コラーゲンの活用を可能にした代用皮膚(特許文献1)が開示されており、また、特開2006−124258号公報では、醸造酢を用いて水産廃棄物である魚の頭や内臓等の腐敗を防ぎ、同時にアミノ酸を生成させた液体肥料が開示されている(特許文献2)。
【0005】
また、特開2006−271332号公報には、本発明者等により水産廃棄物であるイトマキヒトデの幽門盲のうから見出されたトリプシン活性を有するポリペプチドが開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−10246号公報
【特許文献2】特開2006−124258号公報
【特許文献3】特開2006−271332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ヒトデの焼却処理についてはヒトデが高水分かつ高塩分であることから焼却施設を傷めてしまうこと、埋め立て処理については埋め立て施設の処理能力に限界を来して新たな受け入れが困難となっていること、さらに、肥料への加工については一定の施肥効果が認められるものの、コストがかさんでしまうこと等、様々な問題が生じている。
【0008】
また、トリプシン活性を有するポリペプチドすなわち酵素は、ヒトデの分泌物であり、ヒトデそのものを有効利用するものではない。ヒトデそのものは、これまで肥料へ加工する以外、有効利用形態がほとんどないため、さらなるヒトデそのものの有効利用形態が求められている。
【0009】
他方、昨今において、生活習慣の変化から糖尿病患者は増加傾向にあり、そのうちの95%以上が2型糖尿病患者である。2型糖尿病患者の多くはインスリン抵抗性を誘発しており、このような病態にも対応可能な血糖値上昇抑制作用を奏する薬剤の開発が望まれている。
【0010】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、水産廃棄物であるヒトデコラーゲンペプチドを有効成分とする血糖値上昇抑制剤およびヒトデコラーゲンペプチドの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、ヒトデをプロテアーゼ処理して得られる加水分解物にコラーゲンペプチドが多く含まれること、さらにはそのコラーゲンペプチドが血糖値上昇抑制効果を有することを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] ヒトデをプロテアーゼ処理して得られるヒトデコラーゲンペプチドを有効成分とする血糖値上昇抑制剤。
[2] 前記ヒトデコラーゲンペプチドが20〜50μmの粒子径分布を有する担体を用いたゲル濾過クロマトグラフィーに供して得られる低分子の主要画分のヒトデコラーゲンペプチドである、[1]に記載の血糖値上昇抑制剤。
[3] 前記プロテアーゼが弱酸性ないし中性プロテアーゼである、[1]または[2]に記載の血糖値上昇抑制剤。
[4] グルコース吸収阻害剤である、[1]から[3]のいずれかに記載の血糖値上昇抑制剤。
[5] 前記ヒトデがアルカリ処理、酸処理および水浸処理されたヒトデである、[1]から[4]のいずれかに記載の血糖値上昇抑制剤。
[6] 前記ヒトデが水浸処理されたヒトデであって、かつ前記ヒトデコラーゲンペプチドが前記加水分解物から得られる加水分解液を珪藻土濾過、限外濾過および逆浸透膜濾過のうちのいずれか1または2以上の濾過処理をして得られるヒトデコラーゲンペプチドである、[1]から[4]のいずれかに記載の血糖値上昇抑制剤。
[7] ヒトデをアルカリ処理、酸処理および水浸処理するヒトデ処理工程と、前記ヒトデ処理後に弱酸性ないし中性プロテアーゼで処理をしてヒトデ加水分解物を生成するヒトデ加水分解物生成工程と、前記ヒトデ加水分解物からヒトデコラーゲンペプチドを回収するヒトデコラーゲンペプチド回収工程とを有するヒトデコラーゲンペプチドの製造方法。
[8] ヒトデを水浸処理する水浸処理工程と、前記水浸処理後に弱酸性ないし中性プロテアーゼで処理をしてヒトデ加水分解物を生成するヒトデ加水分解物生成工程と、前記ヒトデ加水分解物からヒトデ加水分解液を回収するヒトデ加水分解液回収工程と、前記ヒトデ加水分解液から珪藻土濾過、限外濾過および逆浸透膜濾過のうちのいずれか1または2以上の濾過処理をしてヒトデコラーゲンペプチドを回収するヒトデコラーゲンペプチド回収工程とを有するヒトデコラーゲンペプチドの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、処分することが困難な水産廃棄物であるヒトデそのものをヒトデコラーゲンペプチドとして有効利用するとともに、インスリン抵抗性を有する2型糖尿病患者にも有効な血糖値上昇抑制剤およびヒトデコラーゲンペプチドの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明における水抽出液、加水分解液およびヒトデコラーゲンペプチド(CP)の製造方法の実施形態を示した図である。
【図2】本発明における水抽出液および加水分解液をSDラットに投与した場合の糖負荷試験における血糖値変化を示した図である。
【図3】本発明における水抽出液および加水分解液をWistarラットに投与した場合の糖負荷試験における相対血糖値変化を示した図である。
【図4】本発明における水抽出液および加水分解液をWistarラットに投与した場合の糖負荷試験における血中インスリン変化を示した図である。
【図5】本発明における水抽出液および加水分解液をGKラットに投与した場合の糖負荷試験における相対血糖値変化を示した図である。
【図6】本発明における加水分解液の上澄み液をWistarラットに投与した場合の糖負荷試験における相対血糖値変化を示した図である。
【図7】ヒトデコラーゲンペプチド(CP)調製のための加水分解条件の検討結果を示した図である。図中、C/Pはコラーゲン量(%)を示す。
【図8】ヒトデコラーゲンペプチド(CP)調製のためのプロテアーゼの種類の検討結果を示した図である。図中、C/Pはコラーゲン量(%)を示す。
【図9】ヒトデコラーゲンペプチド(CP)調製のためのプロテアーゼの濃度の検討結果を示した図である。図中、C/Pはコラーゲン量(%)を示す。
【図10】ヒトデコラーゲンペプチド(CP)調製のためのプロテアーゼの処理時間の検討結果を示した図である。図中、C/Pはコラーゲン量(%)を示す。
【図11】ヒトデコラーゲンペプチド(CP)調製のための中和後の濾過処理の検討結果を示した図である。図中、C/Pはコラーゲン量(%)を、AIP2013は限外濾過膜を、NTR7410は逆浸透膜(ルーズRO膜)を示す。
【図12】未処理ヒトデ原料から調製したヒトデコラーゲンペプチド(従来CP)、ヒトデ原料を3〜5cmのブロック状にカットして調製したヒトデコラーゲンペプチド(ブロックCP)およびミートチョッパーで処理して直径9.6mmの目皿を通して調製したヒトデコラーゲンペプチド(ミンチCP)のコラーゲン量(C/P)を比較した図である。
【図13】ヒトデコラーゲンペプチド(CP)調製の検討工程を示した図である。
【図14】ヒトデコラーゲンペプチド(CP)調製工程のためのカドミウム含有量の検討結果を示した図である。図中、Cdはカドミウム含有量を示す。
【図15】ヒトデコラーゲンペプチド(CP)調製工程における中和後に電気透析を用いた場合のカドミウム含有量の検討結果を示した図である。図中、Cdはカドミウム含有量を示す。
【図16】本発明におけるヒトデコラーゲンペプチド(CP)の製造方法の実施形態を示した図である。
【図17】未処理ヒトデ原料から調製したヒトデコラーゲンペプチド(従来CP)、ヒトデ原料を3〜5cmのブロック状にカットして調製したヒトデコラーゲンペプチド(ブロックCP)、ミートチョッパーで処理して直径9.6mmの目皿を通して調製したヒトデコラーゲンペプチド(ミンチCP)およびより純度の高いヒトデコラーゲンペプチド(HiCP)のコラーゲン量(C/P)を比較した図である。
【図18】本発明におけるヒトデコラーゲンペプチド(CP)の製造方法の他の実施形態を示した図である。
【図19】本発明における逆浸透膜濾過を行って調製した従来CPをWistarラットに投与した場合の糖負荷試験における相対血糖値変化を示した図である。
【図20】本発明におけるより純度(C/P)の高いヒトデコラーゲンペプチド(CP)をWistarラットに投与した場合の糖負荷試験における相対血糖値変化を示した図である。
【図21】本発明におけるより純度(C/P)の高いヒトデコラーゲンペプチド(CP)をCD1マウスに投与した場合の糖負荷試験における相対血糖値変化を示した図である。
【図22】本発明におけるヒトデコラーゲンペプチド(CP)をCD1マウスに投与した場合の血糖値総和曲線下面積(area under the blood concentration time curve;AUC)を示した図である。縦軸は血糖値総和(mg・2時間/dL)を示し、横軸は各群の名称(CPの投与量)を示す。
【図23】本発明におけるヒトデコラーゲンペプチド(CP)に含まれるペプチドの分子量をゲル濾過クロマトグラフィーにより測定し、230nmの吸光度から溶出ピーク位置を決定して示した図である。
【図24】実施例13で得られた本発明におけるヒトデコラーゲンペプチド(CP)に係るF3ゲル濾過分画物をCD1マウスに投与した場合の糖負荷試験における相対血糖値変化を示した図である。
【図25】本発明におけるヒトデコラーゲンペプチド(CP)をCD1マウスに投与した場合の糖負荷試験における胃内グルコース量と胃内滞留時間との関係を示した図である。
【図26】本発明におけるヒトデコラーゲンペプチド(CP)をCD1マウスに投与した場合の糖負荷試験において摘出した胃の状態を示した写真図である。
【図27】本発明におけるヒトデコラーゲンペプチド(CP)をWistarラットに投与した場合の糖負荷試験における血中インスリン変化を示した図である。
【図28】本発明におけるヒトデコラーゲンペプチド(CP)のα−グルコシダーゼ阻害活性の検討結果を示した図である。図中、PCはポジティブコントロールであるデオキシノジリマイシンを示す。
【図29】本発明におけるヒトデコラーゲンペプチド(CP)を投与した場合のWistarラットの小腸におけるグルコース吸収率の測定結果を示した図である。図中、DWは蒸留水を示す。
【図30】本発明におけるヒトデコラーゲンペプチド(CP)をCD1マウスに投与した場合の糞中グルコース濃度の測定結果を示した図である。図中、DWは蒸留水を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るヒトデコラーゲンペプチドを有効成分とする血糖値上昇抑制剤およびヒトデコラーゲンペプチドの製造方法について詳細に説明する。本発明に係るヒトデコラーゲンペプチドを有効成分とする血糖値上昇抑制剤は、ヒトデをプロテアーゼ処理することにより加水分解して得られるヒトデコラーゲンペプチドを有効成分とする。
【0016】
本発明におけるヒトデコラーゲンペプチドの「ペプチド」は、「ポリペプチド」、「タンパク質」、「ペプチドフラグメント」または「ペプチド部分断片」と交換可能に用いられる。一方、「コラーゲン」とは、型を含め特に限定されないが、主たる抗原部位であるテロペプチドをペプシン処理により消化して得られるアテロコラーゲンのほか、コレクチン、フィコリン、アディポネクチン、マクロファージスカベンジャー受容体等のコラーゲン様領域を有するタンパク質も含む趣旨である。
【0017】
本発明におけるヒトデの種類は特に限定されず、例えば、棘皮動物門のヒトデ綱、ムカシヒトデ綱、クモヒトデ綱、シャリンヒトデ綱、座ヒトデ綱等に属するものが挙げられ、具体的には、漁業被害の主な対象であるマヒトデ(Asterias amurensis)やニッポンヒトデ(Distolasterias nipon)、イトマキヒトデ(Asteria pectinfera)のほか、アカヒトデ(Certonardoa semiregularis)、オニヒトデ(Acanthaster planci)、トゲモミジガイ(Astropecpten polyacanthus)、スナヒトデ(Luidia quinaria)、ヤツデスナヒトデ(Luidia maculata)、タコヒトデ(Plazaster borealis)、ヤツデヒトデ(Coscinasterias acutispina)、ニホンクモヒトデ(Ophioplocus japonicus)、シャリンヒトデ(Xyloplax spp.)等を挙げることができる。また、ヒトデは生のままのほか、冷凍したものや乾燥後粉末化したものを用いてもよく、その態様も限定されない。
【0018】
本発明におけるゲル濾過クロマトグラフィー(Gel Filtration Chromatography;GFC)は、20〜50μmの粒子径分布を有する担体を用いたものであれば、膨張時間や温度、カラムサイズ等の諸条件は特に限定されず、20〜50μmの粒子径分布を有する担体は適宜選択することができる。本実施例においては、Sephadex G−50 Superfine(GEヘルスケアバイオサイエンス社)を担体として用いてゲル濾過クロマトグラフィーを行っている。
【0019】
本発明にいう「低分子の主要画分」とは、ヒトデをプロテアーゼ処理して得られるコラーゲンペプチドを、20〜50μmの粒子径分布を有する担体を用いたゲル濾過クロマトグラフィーに供した結果、得られる複数の画分(縦軸を230nm吸光度、横軸を時間すなわち分子量とした場合に現れる複数のピーク)のうち、低分子を示す主要な画分(時間の遅いことを示す高いピークすなわち分子量の小さいことを示す高いピーク)をいう。
【0020】
本発明におけるプロテアーゼは、ヒトデが有するペプチドやタンパク質のペプチド結合を加水分解することができるものであれば特に限定されず、例えば、酸性プロテアーゼ、中性プロテアーゼ、またはアルカリプロテアーゼのいずれであるか、アミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼのいずれであるか、エキソペプチダーゼ、エンドペプチダーゼのいずれであるか等は問われない。なお、本実施例においては、食品添加物用のプロテアーゼである「スミチーム(登録商標)」P(新日本化学工業社)、プロテアーゼP「アマノ」3G(天野エンザイム社)、「アルカラーゼ(登録商標)」(ノボザイムズジャパン社)を用いている。また、より多くのヒトデコラーゲンペプチドを抽出したい場合には弱酸性ないし中性プロテアーゼを用いることが好ましい。なお、本実施例においては食品添加物用の弱酸性ないし中性プロテアーゼであるスミチームP(新日本化学工業社)を好適な酵素として用いている。
【0021】
なお、本発明において、「弱酸性ないし中性」とは、pHが3〜9であることをいい、pHが4〜8であることが好ましい。
【0022】
本発明におけるプロテアーセ処理は、プロテアーゼが働いてヒトデが有するペプチドやタンパク質のペプチド結合を加水分解できる条件下での処理であれば特に限定されないが、プロテアーゼが好適に働いてヒトデの分解度を高める条件として、例えば、加水量についてはヒトデ重量に対して等倍量から数倍量、プロテアーゼ添加量についてはヒトデに対して0.1%(w/w)以上、反応時間については攪拌下にて5時間以上、反応温度については常温から60℃の間等の条件を好適な条件として挙げることができる。
【0023】
本発明に係る血糖値上昇抑制剤の効果には、食餌や糖等を摂取した際の血糖値の上昇を抑制する効果のみならず、食餌や糖等の摂取に影響を受けることなく元来高い血糖値を正常に近い値に低下させる効果が含まれる。そのため、糖尿病を発症している患者のみならず、糖尿病を発症していないものの発症するリスクを有している、いわゆる糖尿病リスク者にも好適な効果を有する。
【0024】
本発明に係る血糖値上昇抑制剤は、グルコース吸収阻害活性を有している。すなわち、本発明に係る血糖値上昇抑制剤は、インスリンの分泌を促進させず、そのため、インスリンの分泌量に影響を与えずに血糖値の上昇を抑制する作用を奏することができる。また、2型糖尿病の患者の多くはインスリン抵抗性を有しており、骨格筋、脂肪組織、肝臓等のインスリンの標的臓器において、その作用効率が低下している状態である。そのため、本発明のようにインスリンの分泌量に影響を与えない他の作用機序を有する血糖値上昇抑制であれば、インスリン抵抗性を有する2型糖尿病患者にも非常に有用であるといえる。
【0025】
また、本発明に係る血糖値上昇抑制剤は、α−グルコシダーゼ阻害活性がなく、そのため、α−グルコシダーゼ阻害により小腸で分解されなかった糖質が大腸に運ばれた後、大腸内の細菌によってこの糖質が分解されてガスが発生することによる腹部膨満感を生じないという効果がある。
【0026】
グルコース吸収阻害効果の確認は、例えば、糖の胃内滞留時間を測定することにより、腸管におけるグルコース吸収率を測定することにより、あるいは排便中のグルコース濃度を測定することにより行うことができる。また、併せて、血中インスリン濃度を測定することにより、あるいはα−グルコシダーゼ阻害活性を測定することにより、より正確にグルコース吸収阻害効果の確認を行うことができる。なお、これらを測定する方法や用いる試薬等は、当業者によって適宜選択可能な方法や試薬等を用いることができる。
【0027】
本発明に係る血糖値上昇抑制剤は、本発明におけるヒトデコラーゲンペプチドの他、この作用を損なわない範囲で、医薬の製剤化のために一般的に利用される種々の賦形剤や他の医薬活性成分、例えば従来用いられてきたグルコース吸収阻害剤やインスリン分泌促進剤等を含んでいてもよい。特に、本発明に係る血糖値上昇抑制剤は、本発明におけるヒトデコラーゲンペプチドを安定に保持できる緩衝剤を含む剤型、例えば、注射剤ないしシロップ等の液剤または錠剤等の固形剤として利用されることが好ましい。緩衝剤を含む液剤の非限定的な例としては、中性の緩衝化生理食塩水またはリン酸緩衝化生理食塩水等を挙げることができる。また、前記剤型は、例えばグルコース、マンノース、スクロース、デキストラン、マンニトール等の糖質、タンパク質、アミノ酸、抗酸化剤、静菌剤、キレート剤(例えば、EDTAまたはグルタチオン)、浸透圧調節剤、懸濁剤、増粘剤および/または保存剤その他、薬学的に許容可能な種々の成分を含んでいてもよい。
【0028】
また本発明におけるヒトデコラーゲンペプチドが血糖値上昇抑制効果を失わない範囲で、ヒトデコラーゲンペプチドを得る過程やこれを得た後に、他の処理を追加することもできる。例えば、原料処理、水等による洗浄や希釈、自然濾過、減圧濾過、加圧濾過、遠心濾過、珪藻土濾過(セライト濾過)、砂濾過、限外濾過、逆浸透膜濾過(ルーズRO濾過)、熱時濾過、電気透析等の濾過処理、pH調節、エバポレーター等による濃縮、蒸留、乾燥等の各処理を挙げることができる。
【0029】
次に、本発明に係るヒトデコラーゲンペプチドの製造方法について説明する。本発明に係るヒトデコラーゲンペプチドの製造方法は、
(i)ヒトデに対してアルカリ処理、酸処理および水浸処理をするヒトデ処理工程
(ii)ヒトデ処理後に弱酸性ないし中性プロテアーゼで処理をしてヒトデ加水分解物を生成するヒトデ加水分解物生成工程
(iii)ヒトデ加水分解物からヒトデコラーゲンペプチドを回収するヒトデコラーゲンペプチド回収工程
以上(i)〜(iii) の工程を有している。
【0030】
本実施例における「ヒトデ処理工程」は、0.2Mの水酸化ナトリウム水溶液に一晩浸漬させた後、0.2Mの塩酸に一晩浸漬させ、さらに一晩水浸させる工程である。また、本実施例における「ヒトデ加水分解物生成工程」は、水浸処理後、水画分を除いた固体画分にプロテアーゼを加えてヒトデを加水分解することによりヒトデ加水分解物を得る工程である。さらに、本実施例における「ヒトデコラーゲンペプチド回収工程」は、生成したヒトデ加水分解物から撹拌、遠心分離あるいは凍結乾燥を経てヒトデコラーゲンペプチドを回収する工程である。
【0031】
また、本発明に係るヒトデコラーゲンペプチドの、他の態様の製造方法は、
(i)ヒトデを水浸処理する水浸処理工程
(ii)水浸処理後に弱酸性ないし中性プロテアーゼで処理をしてヒトデ加水分解物を生成するヒトデ加水分解物生成工程
(iii)ヒトデ加水分解物からヒトデ加水分解液を回収するヒトデ加水分解液回収工程
(iv)ヒトデ加水分解液から珪藻土濾過、限外濾過および逆浸透膜濾過のうちのいずれか1または2以上の濾過処理をしてヒトデコラーゲンペプチドを回収するヒトデコラーゲンペプチド回収工程
以上(i)〜(iv)の工程を有している。
【0032】
本実施例における「水浸処理工程」は、ヒトデ重量に対して2倍となる水をヒトデに加えて水浸させ、一晩ほど静置する工程である。また、本実施例における「ヒトデ加水分解物生成工程」は、水浸処理後に弱酸性ないし中性プロテアーゼを加えて加水分解させる工程である。また、本実施例における「ヒトデ加水分解液回収工程」は、プロテアーゼ処理工程後、濾過により沈殿物と濾液とを分離して、濾液を回収することによりヒトデ加水分解液を得る工程である。さらに、本実施例における「ヒトデコラーゲンペプチド回収工程」は、珪藻土濾過をした後、限外濾過または逆浸透膜濾過をし、さらに珪藻土濾過をしてヒトデコラーゲンペプチドを回収する工程である。
【0033】
本発明における濾過は、カドミウム等の重金属を除去が可能であれば特に限定されず、例えば、自然濾過、減圧濾過、加圧濾過、遠心濾過、珪藻土濾過、砂濾過、限外濾過、逆浸透膜濾過、熱時濾過、電気透析等や、これらの組み合わせを挙げることができる。なお、本発明において、酸性度はpH3以下を好適なpHとしている。また、水相を濾過処理前または処理後にアルカリ溶液で中性にしても良く、しなくてもよいが、濾過処理前および処理後にアルカリ溶液を用いて中性にするのが好ましい。さらに、得られた固相は、肥料の原料として利用することもできる。
【0034】
本発明における濃縮および乾燥は、乾燥したCPを得ることができれば特に限定されないが、製造コストが安く、大量調製に好適な凍結乾燥やスプレードライ(噴霧乾燥)が好ましい。
【0035】
また、本発明においては、例えば、原料処理、水等による洗浄や希釈、自然濾過、減圧濾過、加圧濾過、遠心濾過、珪藻土濾過(セライト濾過)、砂濾過、限外濾過、逆浸透膜濾過(ルーズRO濾過)、熱時濾過、電気透析等の濾過処理、pH調節、エバポレーター等による濃縮、蒸留、乾燥等の任意の処理工程を追加することにより、さらに精度の高いCPを得ることもできる。
【0036】
以上のようにして得られるコラーゲンペプチドは、本発明に係る血糖値上昇抑制剤のみならず、健康食品素材、ペットフード、化粧品等への応用が期待できる。
【0037】
以下、本発明に係るヒトデコラーゲンペプチドを有効成分とする血糖値上昇抑制剤およびヒトデコラーゲンペプチドの製造方法について、実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例】
【0038】
<実施例1>ヒトデ水抽出液および加水分解液の調製
凍結マヒトデ10kgを未処理のまま、これの2倍量(w/w)の水を加え、15℃以下にて16時間放置した。その後、0.5mm目合のザルにて粗濾過を行うことによって目視できる夾雑物を除去し、濾液(1)と残渣(1)とに分けた。マヒトデに対して0.2倍量の水(w/w)を溜水とし、これを用いてヒトデを洗浄後、濾液(1)に洗浄後の溜水を加えたものと残渣(1)とに分けた(図1)。
【0039】
濾液(1)について、さらに珪藻土を原料とした濾過助剤であるラヂオライト#100(昭和化学工業社)を用いて珪藻土濾過して濾液(2)を得た後、分画分子量6000の限外濾過膜AIP2013(旭化成社)を用いて限外濾過することによって高分子画分を除去し、これを透過液とした(図1)。この透過液を塩分阻止率90%の逆浸透膜NTR729HG(日東電工社)を用いて逆浸透膜濾過(ルーズR0濾過)して濃縮し、水抽出液を得た(図1)。
【0040】
一方、残渣(1)については、マヒトデに対して2倍量(w/w)の水とプロテアーゼであるスミチームP(新日本化学工業社,以下、「SP」という。)0.2%(w/w)とを加えて、カジワラレオニーダーKH05型にて攪拌しながら50℃で8時間プロテアーゼ処理を行い、加水分解物を得た。続いて、0.5mm目合のザルを用いて加水分解物の粗濾過を行うことにより、目視できる夾雑物を除去し、マヒトデに対して0.2倍量の水(w/w)を溜水とし、これを用いて残渣を洗浄した。洗浄後、濾液(3)に洗浄後の溜水を加えたものと残渣(2)とに分けた。得られた濾液(3)を「加水分解液」とした(図1)。
【0041】
<実施例2>SDラットを用いた血糖値上昇抑制効果の検討
健常ラットであるSDラットを用いて、ヒトデの水抽出液および加水分解液の糖負荷試験を行い、血糖値を測定した。
【0042】
被検物質として、実施例1において得られた「水抽出液」および「加水分解液」を−30℃にて凍結保存したものを5℃で解凍し、攪拌して均質化したものを各々使用した。試験動物は、9週齢オスのSDラット(日本チャールス・リバー社)のうち、試験開始時の体重が254〜286gのものを使用した。試験構成群は、コントロール群、対照群、水抽出群、加水分解群の4群を、各々6匹として行った。糖負荷はグルコースを用いて行った。コントロール群については、グルコースの代わりに蒸留水を投与し、被検物質として加水分解液を投与した。対照群、水抽出群、加水分解群の各々については、グルコースを投与し、被検物質として蒸留水、水抽出液、加水分解液を各々投与した。
【0043】
試験方法は以下のとおりである。まず、SDラットを18時間絶食させて血糖値を測定し、これを初期血糖値とした。続いて、コントロール群については、経口投与ゾンデ(FUCHIGAMI社)を用いて、蒸留水5mL/kgと、加水分解液10mL/kgとを混合した溶液15mL/kgを、対照群、水抽出群、加水分解群については、経口投与ゾンデ(FUCHIGAMI社)を用いて、41%(w/v)のグルコース水溶液5mL/kgと、被検物質10mL/kgとを混合した溶液15mL/kgを、各々強制経口投与した。投与時間を0分とし、15,30,60,120分経過後に血糖値の測定を行った。血糖値の測定は、無麻酔下、尾静脈において小型血糖値測定機グルコカードダイアメーター{以下グルコカード(登録商標);ARKRAY社}を用いて行った。なお、動物実験は、「動物に関する指針(国立大学法人北海道大学大学院水産科学研究院)」に準じて実施した。
【0044】
[データ解析]
得られた数値に基づいて、各群における平均値および標準誤差を算出した。正規性については、カイ二乗(χ2)適合度検定を用いることにより行った。各群間の統計解析はExcel(Microsoft社;登録商標)のマクロを用いて行った。まず、Bartlett検定による等分散性検定を行い、有意水準5%にて等分散性が認められた場合には更に一元配置分散分析を行い、有意な場合にはTukey−Kramer法を用いた多重比較検定をすることにより行った。また、対照群との平均値を比較することにより被検物質の効果を評価した。その結果を図2に示す。なお、有意水準は危険率5%および1%とし、各々「*」および「**」で示す。
【0045】
図2に示すように、対照群では糖負荷後すみやかに血糖値が上昇し、60分経過後に最高血糖値に達した。その後、血糖値は120分を経過するまで徐々に低下し、9週齢のSDラットの糖負荷試験における通常の血糖値を示した。一方、水抽出群および加水分解群では、対照群に比べて30,60分経過後の血糖値が低値を示した。特に、加水分解群では60分経過後には対照群に対して5%有意水準にて有意性を示した。
【0046】
本実施例2により、ヒトデの加水分解液投与による有意な血糖値上昇抑制効果が示された。
【0047】
<実施例3>Wistarラットを用いた血糖値上昇抑制効果の検討
健常ラットであるWistarラットを用いて、ヒトデの水抽出液および加水分解液の糖負荷試験を行い、血糖値および血中インスリン濃度を測定した。
【0048】
被検物質は、実施例2で調製したものと同じものを用いた。試験動物は、10週齢オスのWistarラット(日本チャールス・リバー社)のうち、試験開始時の体重が334〜388gのものを使用した。試験構成群は、対照群、水抽出群、加水分解群の3群を、各々6匹として行った。対照群、水抽出群、加水分解群の各々については、グルコースを投与し、被検物質として蒸留水、水抽出液、加水分解液を各々投与した。なお、動物実験は、「動物に関する指針(国立大学法人北海道大学大学院水産科学研究院)」に準じて実施した。
【0049】
試験方法は以下のとおりである。まず、Wistarラットを18時間絶食させて血糖値を測定し、これを初期血糖値とした。血中インスリン濃度測定用の血液を採取後、経口投与ゾンデ(FUCHIGAMI社)を用いて41%(w/v)のグルコース水溶液5mL/kgと、被検物質10mL/kgとを混合した溶液15mL/kgを各々強制経口投与した。投与時間を0分とし、15,30,60,120分経過後に血糖値測定および血中インスリン濃度測定用の血液採取を行った。
【0050】
血糖値の測定は実施例2と同様にして行った。血中インスリン濃度の測定は以下のとおりである。まず、無麻酔下、尾静脈における血液100μLをインスリン分泌測定用のエッペンドルフチューブに採取し、20000×g,4℃にて10分間遠心分離(KUBOTA3630)を行い、血清を得た。続いて、この血清中のインスリン濃度を、森永インスリン測定キット(森永生化学研究所)を用いて測定した。各群における血糖値は初期血糖値を100%とした相対血糖値(%)として示した。
【0051】
[データ解析]
得られた数値に基づいて、各群における平均値および標準誤差を算出した。各群間の統計解析は、Excel(Microsoft社;登録商標)のマクロを用い、Dunnett多重比較検定をすることにより行った。また、対照群との平均値を比較することにより被検物質の効果を評価した。その結果を図3および図4に示す。なお、有意水準は危険率5%および1%とし、各々「*」および「**」で示す。
【0052】
図3に示すように、対照群では糖負荷後すみやかに血糖値が上昇し、60分経過後に最高値に達した。その後、血糖値は120分を経過するまで徐々に低下し、10週齢のWistarラットの糖負荷試験における通常の血糖値を示した。一方、水抽出群および加水分解群では、対照群に比べて30分経過後の血糖値が低値を示した。特に、加水分解群では15,30,60,120分経過後のすべての測定点において、対照群に比べて低い血糖値を示し、15,30,60分経過後において対照群に比べて有意に低い血糖値が認められた。詳細には、30,60分経過後には対照群に対して1%有意水準にて有意性を示し、60分経過後には対照群に対して5%有意水準にて有意性を示した。
【0053】
一方、血中インスリン濃度については図4に示すように、対照群では30分経過後に最高値を示し、その後、徐々に低下し、10週齢のWistarラットの糖負荷試験における通常の血中インスリン濃度を示した。一方、水抽出群および加水分解群においても、対照群と同様に30分経過後に最高値を示し、その後、徐々に低下した。その結果、各群間には有意差は認められなかった。
【0054】
本実施例3により、ヒトデの水抽出液および加水分解液は、血糖値上昇抑制効果を示すとともに、血中インスリン濃度に対して影響を与えないということが示された。特に加水分解液において血糖値上昇抑制効果が顕著に示された。このことから、ヒトデの水抽出液および加水分解液はインスリン分泌を促進せず、糖の吸収を抑制することによる血糖値上昇抑制効果を呈することが示され、インスリン抵抗性を誘発する2型糖尿病患者に非常に有益であることが示された。
【0055】
<実施例4>糖尿病モデルラットを用いた血糖値調節機能の検討
2型糖尿病モデルラットを用いて、ヒトデの水抽出液および加水分解液の糖負荷試験を行い、血糖値を測定した。
【0056】
被検物質は、実施例2で調製したものと同じものを用いた。試験動物は、12週齢オスのGKラット(日本エスエルシー社)のうち、試験開始時の体重が252〜283gのものを使用した。試験構成群は、対照群、水抽出群、加水分解群の3群を、各々8匹として行い、被検物質として蒸留水、水抽出液、加水分解液を各々投与した。なお、動物実験は、「動物に関する指針(国立大学法人北海道大学大学院水産科学研究院)」に準じて実施した。試験方法は、実施例2と同様にして血糖値を測定し、データ解析を行う方法であった。各群における血糖値は初期血糖値を100%とした相対血糖値(%)として示した。その結果を図5に示す。
【0057】
図5に示すように、対照群では糖負荷後すみやかに血糖値が上昇し、60分経過後に最高血糖値に達した。その後、血糖値は120分を経過するまで徐々に低下し、12週齢オスのGKラットの糖負荷試験における通常の血糖値を示した。一方、水抽出群および加水分解群では、15,30,60,120分経過後のすべての測定点において、対照群に比べて低い血糖値を示した。特に、加水分解群では30,60分経過後において対照群に比べて顕著に低い血糖値が認められ、30分経過後には対照群に対して1%有意水準にて有意性を示し、60分経過後には対照群に対して5%有意水準にて有意性を示した。
【0058】
本実施例4により、健常モデルラットのみならず、2型糖尿病モデルラットにおいても、ヒトデの水抽出液および加水分解液は血糖値上昇抑制効果を示した。特に加水分解液は、顕著な血糖値上昇抑制効果を示した。
【0059】
<実施例5>ヒトデの加水分解液の血糖値上昇抑制効果の検討
実施例3および4において、ヒトデの加水分解液が顕著な血糖値上昇抑制効果を示したことから、加水分解液の上澄み液のみを投与する糖負荷試験を行い、血糖値を測定した。
【0060】
実施例2で調製したものと同じものを被検物質として、各々20,000×g,4℃にて10分間遠心分離(コクサンH−2000B)を行い、その上澄み液を採取し用いた。試験動物は、14週齢オスのWistarラット(日本チャールス・リバー社)のうち、試験開始時の体重が400.20〜486.23gのものを使用した。試験構成群は、対照群、上澄群の2群を、各々6匹として行い、被検物質として蒸留水、加水分解液の上澄み液を各々投与した。なお、動物実験は、「動物に関する指針(国立大学法人北海道大学大学院水産科学研究院)」に準じて実施した。試験方法は、実施例2と同様にして血糖値を測定し、データ解析を行う方法であった。各群における血糖値は初期血糖値を100%とした相対血糖値(%)として示した。その結果を図6に示す。
【0061】
図6に示すように、対照群では糖負荷後すみやかに血糖値が上昇し、15分経過後に最高血糖値に達した。その後、血糖値は60分を経過するまでほぼ平衡を保ち、その後緩やかに低下し、120分後に初期血糖値とほぼ同じ値になり、14週齢のWistarラットの糖負荷試験における通常の血糖値を示した。一方、上澄群では、対照群に比べて15,30,60分経過後において血糖値が低値を示し、特に30分経過後には対照群に対して5%有意水準にて有意性を示した。
【0062】
本実施例5おいて、「加水分解液の上澄み液」を投与することにより30分経過後にのみ有意な血糖値低下が示された。一方、上記実施例3における「加水分解液」の投与では、30分経過後のみならず、15,60分経過後でも有意な血糖値低下が示された。つまり、「加水分解液の上澄み液」は「加水分解液」よりも、やや血糖値上昇抑制効果が低いことが示された。このことから、加水分解液の遠心後の沈殿物に血糖値上昇抑制効果を示す物質が主要に含まれており、当該物質としてコラーゲンペプチドである可能性が示唆された。
【0063】
<実施例6>ヒトデコラーゲンペプチドの調製
ヒトデからコラーゲンペプチドを調製した。具体的には、実施例1で得られた濾液(3)すなわち加水分解液を塩酸や硫酸等の酸でpH3にし、これを三相分離器(アルファラバルCHPX407)または遠心分離器(コクサンH600S)にて4000×g,室温にて30分間遠心することにより水相、油相、固相の三相に分離した(図1)。得られた水相を、珪藻土を原料とした濾過助剤であるラヂオライト#100(昭和化学工業社)を用いて珪藻土濾過した後、攪拌しながら10Nの水酸化ナトリウム溶液を加えることにより中和した。つづいて、分画分子量6000の限外濾過膜AIP2013(旭化成社)を用いた限外濾過、活性炭FC(二村化学工業社)による処理、珪藻土を原料とした濾過助剤であるラヂオライト#100(昭和化学工業社)を用いて珪藻土濾過を順次行った(図1)。
【0064】
最後に、得られた溶液をエバポール(大川原製作所社)にて減圧濃縮し、噴霧乾燥機DCTR−3型(阪本技研社)にてスプレードライ(噴霧乾燥)して粉末状のヒトデコラーゲンペプチド含有物50gを得た(図1)。得られたヒトデコラーゲンペプチド含有物中のコラーゲンを定量し、このヒトデコラーゲンペプチド含有物がコラーゲンを主要に含んでいることを確認した。なお、コラーゲンの定量は、日本食品アミノ酸組成表(科学技術庁資源調査会・資源調査所編)に準じたアミノ酸分析方法により行った。すなわち、6Nの塩酸で加水分解後、L8500アミノ酸自動分析計(HITACHI社)でヒドロキシプロリン量を検出し、検出されたヒドロキシプロリン量に係数11.1を乗じた値をコラーゲン量として算出した。
【0065】
<実施例7>ヒトデコラーゲンペプチドの抽出条件の検討
(1)加水分解条件の検討
ヒトデコラーゲンペプチド調製過程における限外濾過の限外濾過膜の検討を行った。具体的には、実施例6において、プロテアーゼをSPから「アルカラーゼ(登録商標)」(ノボザイムズジャパン社,以下、「Alc.」という。)に代えて加水分解処理したものを、分画分子量6000の限外濾過膜であるAIP2013(旭化成社)から、各々5K,10K,30K,50Kの限外濾過膜であるペリコン2(ミリポア社)に代えて限外濾過を行い、低分子画分を除去して保持液を得た。この保持液に含まれるコラーゲンタンパク質量を定量し、ヒトデ重量に対するコラーゲン重量{コラーゲン歩留り(%)}と、タンパク量に対するコラーゲン量{C/P(%)}とを算出した。なお、コラーゲンの定量は、日本食品アミノ酸組成表(科学技術庁資源調査会・資源調査所編)に準じたアミノ酸分析方法により行った。一方、タンパク質の定量は、上述のアミノ酸分析方法を用いて得られた個々のアミノ酸の、N量の総計に係数6.25を乗じることにより算出した。その結果を図7に示す。
【0066】
図7に示すように、コラーゲン歩留りとC/Pの値は、限外濾過膜の分画分子量が5Kにおいて最も高く、30Kにおいて最も低くなった。これは、既にコラーゲンはコラーゲンペプチドに分解されており、限外濾過膜の分画分子量が小さいとコラーゲンペプチドが膜通過できず、コラーゲン歩留りの値が高くなり、逆に分画分子量が大きいとコラーゲンペプチドが膜通過するため、コラーゲン歩留りの値が低くなることを示している。
【0067】
(2)プロテアーゼ種類の検討
食品添加物用のプロテアーゼであるAlc.、プロテアーゼP「アマノ」3G(天野エンザイム社,以下、「AP」という。)、SPを用いて、ヒトデから抽出されるコラーゲンペプチドの量について検討を行った。
【0068】
具体的には、実施例6のSPの代わりにAlc.,AP,SPを用い、各々を加えてプロテアーゼ処理して得た加水分解物を遠心分離器(コクサンH600S)にて4000×g,室温にて30分間遠心分離し、上澄み液を得た。得られた上澄み液を、珪藻土を原料とした濾過助剤であるラヂオライト#100(昭和化学工業社)を用いて珪藻土濾過した後、分画分子量を6Kから5Kの限外濾過膜(旭化成)に代えて限外濾過を行い、保持液を得た。この保持液のコラーゲン歩留り(%)とC/P(%)とを算出した。その結果を図8に示す。
【0069】
図8に示すように、3種のプロテアーゼを用いた場合すべてにおいてコラーゲンが検出され、これらプロテアーゼにより加水分解されていることが示された。特に、弱酸性ないし中性プロテアーゼであるSPを用いた場合に最も高いコラーゲン歩留り値を示したことから、コラーゲンを効率よく得るためには弱酸性ないし中性プロテアーゼを用いて加水分解するのが好適であることが示された。
【0070】
(3)プロテアーゼ濃度の検討
次に、弱酸性ないし中性プロテアーゼであるSPの添加濃度の検討を行った。具体的には、実施例6のSPの濃度を、ヒトデに対して0.1,0.2,0.4,0.8%(w/w)とし、各々を加えてプロテアーゼ処理して得た加水分解物を遠心分離器(コクサンH600S)にて4000×g,室温にて30分間遠心分離し、上澄み液を得た。得られた上澄み液を、珪藻土を原料とした濾過助剤であるラヂオライト#100(昭和化学工業社)を用いて珪藻土濾過した後、分画分子量を6Kから5Kの限外濾過膜(旭化成社)に代えて限外濾過を行い、保持液を得た。この保持液のコラーゲン歩留り(%)とC/P(%)とを算出した。その結果を図9に示す。
【0071】
図9に示すように、すべての酵素濃度において、コラーゲンが検出され、これら濃度のプロテアーゼにより加水分解されていることが示された。特に、プロテアーゼ濃度が0.2%の場合に、最も高いコラーゲン歩留り値を示したことから、コラーゲンを効率よく得るためにはプロテアーゼ濃度を0.2%として加水分解するのが好適であることが示された。
【0072】
(4)プロテアーゼ処理時間の検討
続いて、SPの処理時間の検討を行った。具体的には、実施例6のSPの処理時間を2,4,6,8時間にとして、各々プロテアーゼ処理して得た加水分解物を遠心分離器(コクサンH600S)にて4000×g,室温にて30分間遠心分離し、上澄み液を得た。そして、実施例6と同様に、ヒトデ重量に対する上澄み液のタンパク量(%)とヒトデ重量に対する上澄み液のコラーゲン重量(%)を算出した。その結果を図10に示す。
【0073】
図10に示すように、すべてのプロテアーゼ処理時間において、コラーゲンが検出され、プロテアーゼにより加水分解されていることが示された。また、処理時間の変化によるコラーゲン歩留り値およびC/P値に大きな差はみられなかったが、処理時間が長くなるにつれてコラーゲン歩留り値およびC/P値が上昇する傾向を示した。
【0074】
(5)中和後の濾過処理の検討
実施例6における中和した中和後の、限外濾過膜により濾過および濃縮した場合のコラーゲン歩留り値の減少が大きいことから、逆浸透膜により濾過および濃縮した場合との比較を行った。具体的には、分画分子量6000の限外濾過膜AIP2013(旭化成)と塩分阻止率10%の逆浸透膜NTR7410HG(日東電工社)とを用いて濾過して濃縮し、保持液を得た。この保持液のコラーゲン歩留り(%)とC/P(%)とを算出した。その結果を図11に示す。
【0075】
図11に示すように、塩分阻止率10%の逆浸透膜を用いて濾過した場合、分画分子量6000の限外濾過膜を用いて濾過した場合の2倍以上の歩留りを示した。
【0076】
(6)ヒトデ原料処理の検討
以上(1)〜(5)の結果を踏まえたうえで、ヒトデ原料の処理についての検討を行った。具体的には、実施例6で得られた未処理ヒトデ原料から調製したヒトデコラーゲンペプチド(以下、「従来CP」という。)の他、ヒトデ原料を3〜5cmのブロック状にカットしたもの、およびカットする代わりにミートチョッパーで処理して直径9.6mmの目皿を通したものを、各々、デカンテーションにてその約2倍量の水で約10回洗浄し、内臓等を除去して調製したヒトデコラーゲンペプチド(以下、それぞれを「ブロックCP」および「ミンチCP」という。)のC/P値を、実施例7と同様の手法により算出した。その結果を図12に示す。
【0077】
図12に示すように、ブロックCPとミンチCPとのヒトデコラーゲンペプチドのC/P値は、いずれも、従来CPのC/P値よりも高いことが示された。また、ミンチCPのC/P値と比較して、ブロックCPのC/P値の方が高いことが示された。
【0078】
<実施例8>カドミウム含有量の検討
(1)ヒトデコラーゲンペプチド調製工程におけるカドミウム含有量の検討
ヒトデコラーゲンペプチド調製工程におけるカドミウム含有量の検討を行った。すなわち、図13に示すように、コラーゲンペプチド調製工程における酸性処理の段階を様々に変え、各々のコラーゲン歩留り(%)と含有カドミウム(Cd)量(ppm)とを比較定量した。
【0079】
図13に示すように、具体的には、酸性処理を行わないコントロール、加水分解液を直接酸性処理する工程(A)、プロテアーゼ処理直後に酸性処理する工程(B)、プロテアーゼ処理直前に酸性処理する工程(C)、ヒトデに加水した直後とプロテアーゼ処理直前とにおいて2度酸性処理する工程(D)の5つの工程を設定し、得られる加水分解液と、コラーゲンプチドの各々のコラーゲン歩留り(%)と、含有カドミウム(Cd)量(ppm)とを各々測定し算出した。
【0080】
なお、コラーゲン歩留り(%)の測定および算出は、実施例7と同様の方法で行った。一方、カドミウムの検出は、MLS−1200MEGとEM−45マイクロウェーブ乾燥装置(ともに日本ゼネラル社)とを使用して、硝酸にて湿式分解後、Z−6000原子吸光光度計(HITACHI社)で分析することにより行った。その結果を図14に示す。
【0081】
図14に示すように、工程(A)について、目的産物であるヒトデコラーゲンペプチドには、カドミウムがほとんど検出されなかった。また、加水分解液のカドミウム含有量については、コントロールおよび工程(A)で最も低い値を示した。このことから、酸性処理は、加水分解液を得る前段階で行っても含有カドミウムを除去できないが、加水分解液を得た後に行うことにより、含有カドミウムを除去できることが示された。
【0082】
(2)中和後に逆浸透膜を用いて濾過した場合のカドミウム除去の検討
実施例6における中和後の、逆浸透膜により濾過および濃縮して得られる保持液に含まれるカドミウムを除去するために、電気透析によるカドミウム除去の検討を行った。具体的には、電気透析装置マイクロアシライザーS3型(アストム社)を用い、逆浸透膜により濾過および濃縮して得られる保持液について電気透析処理を行ってカドミウムを除去した後、活性炭FC(二村化学工業社)による処理および珪藻土を原料とした濾過助剤であるラヂオライト#100(昭和化学工業社)を用いて珪藻土濾過を行った。その結果を図15に示す。
【0083】
図15に示すように、逆浸透膜により濾過および濃縮して得られる保持液に含まれる0.308ppmのカドミウム量が、6時間の電気透析処理後には検出限界である0.002ppm以下になっていた。
【0084】
以上、実施例6、実施例7および本実施例8より、本発明に係るヒトデコラーゲンペプチドの製造方法としては、図16に示す各工程が好適であることが示された。
【0085】
<実施例9>より純度(C/P)の高いヒトデコラーゲンペプチドの調製
図16に示すヒトデコラーゲンペプチドの製造方法とは異なる、より純度(C/P)の高いヒトデコラーゲンの製造方法を検討した。
【0086】
凍結マヒトデから内臓を除去して得られた体壁約1.1kgを原料として、0.2Mの水酸化ナトリウム水溶液4Lに一晩浸漬してアルカリ処理し、続いて0.2Mの塩酸4Lに一晩浸漬して酸処理した。さらに蒸留水に一晩浸漬して水浸処理して得られた原料に2倍量(w/w)の水とSP0.2%(w/w)とを加えて、攪拌しながら50℃で8時間プロテアーゼ処理を行い、加水分解物を得た。この加水分解物を遠心分離器(コクサンH−2000B)にて、10000×g,4℃で10分間遠心分離を行い、その上澄み液を採取して凍結乾燥することによりヒトデコラーゲンペプチド(以下、「HiCP」という。)を得た。得られたHiCPのC/P値を実施例7と同様の手法により算出した。その結果を図17に示す。
【0087】
図17に示すように、HiCPのC/P値は、従来CP、ブロックCPおよびミンチCPのいずれのC/P値よりも高いことが示され、その値は87.8%であった。
【0088】
以上、本実施例9より、本発明に係るヒトデコラーゲンペプチドの製造方法としては、図18に示す工程も好適であることが示された。
【0089】
<実施例10>Wistarラットへのヒトデコラーゲンペプチドの投与による血糖値上昇抑制効果の検討
健常ラットであるWistarラットを用いて、ヒトデコラーゲンペプチドの糖負荷試験を行い、血糖値を測定した。
【0090】
(1)逆浸透膜濾過を行って調製した従来CPの投与による血糖値上昇抑制効果の検討
被検物質は、実施例7(5)で逆浸透膜濾過を行って調製した従来CPを用いた。試験動物は、9〜10週齢オスのWistarラット(日本チャールス・リバー社)のうち、試験開始時の体重が平均約390gのものを使用した。試験構成群は、対照群とヒトデコラーゲンペプチド群の2群を、各々5匹として行った。グルコースを投与した後、被検物質として蒸留水とヒトデコラーゲンペプチドとを各々投与した。なお、動物実験は、「動物に関する指針(国立大学法人北海道大学大学院水産科学研究院)」に準じて実施した。
【0091】
試験方法は以下のとおりである。まず、Wistarラットを16時間絶食させて血糖値を測定し、これを初期血糖値とした。対照群には41%(w/v)のグルコース水溶液5mL/kgと蒸留水10mL/kgとを、ヒトデコラーゲンペプチド群には41%(w/v)のグルコース水溶液5mL/kgと15%ヒトデコラーゲンペプチド水溶液10mL/kgとを混合し、各々、経口投与ゾンデ(FUCHIGAMI社)を用いて強制経口投与した。投与時間を0分とし、15,30,60,120分経過後に血糖値の測定を行った。血糖値の測定は実施例2と同様にして行った。
【0092】
[データ解析]
得られた数値に基づいて、実施例3と同様にして、各群における平均値および標準誤差を算出した。その結果を図19に示す。なお、有意水準は危険率5%および1%とし、各々「*」および「**」で示す。
【0093】
図19に示すように、対照群は糖負荷後すみやかに血糖値が上昇し、15分経過後に最高値に達した後、血糖値は120分を経過するまで徐々に低下し、9〜10週齢のWistarラットの糖負荷試験における通常の血糖値を示した。一方、ヒトデコラーゲンペプチド群では、糖負荷後15分までゆるやかに血糖値が上昇して最高値に達した後、その後ゆるやかに低下した。また、15,30,60分経過後の測定点において、対照群に比べて低い血糖値を示し、15,30分経過後において対照群に比べて有意に低い血糖値が認められた。詳細には、30分経過後には対照群に対して1%有意水準にて有意性を示し、15分経過後には対照群に対して5%有意水準にて有意性を示した。
【0094】
(2)HiCPの投与による血糖値上昇抑制効果の検討
被検物質は、実施例9で調製したHiCPを用いた。試験動物は、11〜12週齢オスのWistarラット(日本チャールス・リバー社)のうち、試験開始時の体重が平均約390gのものを使用した。試験構成群は、対照群とヒトデコラーゲンペプチド群の2群を、各々5匹として行った。グルコースを投与した後、被検物質として蒸留水とヒトデコラーゲンペプチドとを各々投与した。なお、動物実験は、「動物に関する指針(国立大学法人北海道大学大学院水産科学研究院)」に準じて実施した。
【0095】
試験方法は以下のとおりである。まず、Wistarラットを16時間絶食させて血糖値を測定し、これを初期血糖値とした。対照群には41%(w/v)のグルコース水溶液5mL/kgと蒸留水10mL/kgとを、ヒトデコラーゲンペプチド群には41%(w/v)のグルコース水溶液5mL/kgと15%ヒトデコラーゲンペプチド水溶液10mL/kgとを混合し、各々、経口投与ゾンデ(FUCHIGAMI社)を用いて強制経口投与した。投与時間を0分とし、15,30,60,120分経過後に血糖値の測定を行った。血糖値の測定は実施例2と同様にして行った。
【0096】
[データ解析]
得られた数値に基づいて、実施例3と同様にして、各群における平均値および標準誤差を算出した。その結果を図20に示す。なお、有意水準は危険率5%および1%とし、各々「*」および「**」で示す。
【0097】
図20に示すように、いずれの群も糖負荷後すみやかに血糖値が上昇し、15分経過後に最高値に達した。その後、対照群では、血糖値は120分を経過するまで徐々に低下し、11〜12週齢のWistarラットの糖負荷試験における通常の血糖値を示した。一方、ヒトデコラーゲンペプチド群では、15,30,60分経過後の測定点において、対照群に比べて低い血糖値を示し、15,30分経過後において対照群に比べて有意に低い血糖値が認められた。詳細には、30分経過後には対照群に対して1%有意水準にて有意性を示し、15分経過後には対照群に対して5%有意水準にて有意性を示した。
【0098】
<実施例11>CD1マウスへのヒトデコラーゲンペプチドの投与による血糖値上昇抑制効果の検討
健常マウスであるCD1マウスを用いて、ヒトデコラーゲンペプチドの糖負荷試験を行い、血糖値を測定した。
【0099】
被検物質は、実施例9で調製したHiCPを用いた。試験動物は、8週齢のCD1マウス(日本チャールス・リバー社)のうち、試験開始時の体重が平均約30gのものを使用した。試験構成群は、対照群とヒトデコラーゲンペプチド群の2群を、各々6匹として行った。グルコースを投与した後、被検物質として蒸留水とヒトデコラーゲンペプチドとを各々投与した。なお、動物実験は、「動物に関する指針(国立大学法人北海道大学大学院水産科学研究院)」に準じて実施した。
【0100】
試験方法は以下のとおりである。まず、CD1マウスを16時間絶食させて血糖値を測定し、これを初期血糖値とした。対照群には41%(w/v)のグルコース水溶液5mL/kgと蒸留水10mL/kgとを、ヒトデコラーゲンペプチド群には41%(w/v)のグルコース水溶液5mL/kgと15%ヒトデコラーゲンペプチド水溶液10mL/kgとを混合し、各々、経口投与ゾンデ(FUCHIGAMI社)を用いて強制経口投与した。投与時間を0分とし、15,30,60,120分経過後に血糖値の測定を行った。血糖値の測定は実施例2と同様にして行った。
【0101】
[データ解析]
得られた数値に基づいて、実施例3と同様にして、各群における平均値および標準誤差を算出した。その結果を図21に示す。なお、有意水準は危険率5%および1%とし、各々「*」および「**」で示す。
【0102】
図21に示すように、いずれの群も糖負荷後すみやかに血糖値が上昇し、30分経過後に最高値に達した。その後、対照群では、血糖値は120分を経過するまで徐々に低下し、8週齢のCD1マウスの糖負荷試験における通常の血糖値を示した。一方、ヒトデコラーゲンペプチド群では、15,30,60,120分経過後のすべての測定点において、対照群に比べて低い血糖値を示し、30,60,120分経過後において対照群に比べて有意に低い血糖値が認められた。詳細には、60分経過後には対照群に対して1%有意水準にて有意性を示し、30,120分経過後には対照群に対して5%有意水準にて有意性を示した。
【0103】
<実施例12>CD1マウスを用いたヒトデコラーゲンペプチドの投与量の検討
健常マウスであるCD1マウスを用いて、ヒトデコラーゲンペプチドの投与量を変えて糖負荷試験を行い、血糖値を測定することにより、ヒトデコラーゲンペプチドの投与量を検討した。
【0104】
被検物質は、実施例9で調製したヒトデコラーゲンペプチドを用いた。試験動物は、9週齢のCD1マウス(日本チャールス・リバー社)のうち、試験開始時の体重が平均約30gのものを使用した。試験構成群は、ヒトデコラーゲンペプチドの投与量別に、対照群、500mg/kg・w群、750mg/kg・w群、1.0g/kg・w群、1.5g/kg・wおよび2.0g/kg・w群の6群を、各々7匹として行った。グルコースを投与した後、被検物質として蒸留水とヒトデコラーゲンペプチドとを各々投与した。なお、動物実験は、「動物に関する指針(国立大学法人北海道大学大学院水産科学研究院)」に準じて実施した。
【0105】
試験方法は以下のとおりである。まず、CD1マウスを16時間絶食させて血糖値を測定し、これを初期血糖値とした。対照群には41%(w/v)のグルコース水溶液5mL/kgと蒸留水10mL/kgとを、500mg/kg・w群、750mg/kg・w群、1.0g/kg・w群、1.5g/kg・wおよび2.0g/kg・w群には41%(w/v)のグルコース水溶液5mL/kgとヒトデコラーゲンペプチド500mg/kg・w、750mg/kg・w、1.0g/kg・w、1.5g/kg・wまたは2.0g/kg・wとを各々混合して、各々蒸留水により15mL/kgとなるよう調製し、経口投与ゾンデ(FUCHIGAMI社)を用いて強制経口投与した。投与時間を0分とし、15,30,60,120分経過後に血糖値の測定を行った。血糖値の測定は実施例2と同様にして行った。
【0106】
[データ解析]
得られた数値に基づいて血糖値の総和を算出し、これと時間経過とを表したグラフで描かれる曲線(血糖値総和−時間曲線)と横軸(時間軸)によって囲まれた部分の面積を算出し、血糖値総和曲線下面積(area under the blood concentration time curve;AUC)を求めた。その結果を図22に示す。なお、有意水準は危険率5%および1%とし、各々「*」および「**」で示す。
【0107】
図22に示すように、ヒトデコラーゲンペプチドの投与量が1.5g/kg・wの場合で有意に低い血糖値総和値が認められ、5%有意水準にて有意性を示した。
【0108】
<実施例13>ヒトデコラーゲンペプチドに含まれるペプチドの分子量の検討
分子篩クロマトグラフィーの一種であるゲル濾過クロマトグラフィーにより、ヒトデコラーゲンペプチドに含まれるペプチドの分子量を検討した。
【0109】
蒸留水で十分に膨潤させたSephadex G−50(GEヘルスケアバイオサイエンス社)をカラムに充填し、蒸留水で平衡化した。これに、実施例12で示したヒトデコラーゲンペプチド1.5g/kg・wを供し、蒸留水で溶出しながらフラクションを5mLずつ回収した。回収したフラクション(ゲル濾過分画物)をF1、F2およびF3とした。これらは、蒸留水で十分に洗浄した充填カラムにそれぞれ供して蒸留水で溶出し、230nmの吸光度から溶出ピーク位置を決定した。その結果を図23に示す。
【0110】
図23に示すように、ヒトデコラーゲンペプチドはF3で示される分子量が約300〜5000の低分子のゲル濾過分画物を多く含むことが示された。
【0111】
<実施例14>CD1マウスへのF3ゲル濾過分画物の投与による血糖値上昇抑制効果の検討
健常マウスであるCD1マウスを用いて、実施例13で得られたF3ゲル濾過分画物の糖負荷試験を行い、血糖値を測定した。
【0112】
被検物質は、実施例13で得られたF3ゲル濾過分画物を用いた。試験動物は、9週齢のCD1マウス(日本チャールス・リバー社)のうち、試験開始時の体重が平均約30gのものを使用した。試験構成群は、対照群とF3ゲル濾過分画物群の2群を、各々6匹として行った。グルコースを投与した後、被検物質として蒸留水とF3ゲル濾過分画物とを各々投与した。なお、動物実験は、「動物に関する指針(国立大学法人北海道大学大学院水産科学研究院)」に準じて実施した。
【0113】
試験方法は以下のとおりである。まず、CD1マウスを16時間絶食させて血糖値を測定し、これを初期血糖値とした。対照群には41%(w/v)のグルコース水溶液5mL/kgと蒸留水10mL/kgとを、F3ゲル濾過分画物群には41%(w/v)のグルコース水溶液5mL/kgと15%F3ゲル濾過分画物水溶液10mL/kgとを混合し、各々、経口投与ゾンデ(FUCHIGAMI社)を用いて強制経口投与した。投与時間を0分とし、15,30,60,120分経過後に血糖値の測定を行った。血糖値の測定は実施例2と同様にして行った。
【0114】
[データ解析]
得られた数値に基づいて、実施例3と同様にして、各群における平均値および標準誤差を算出した。その結果を図24に示す。なお、有意水準は危険率5%および1%とし、各々「*」および「**」で示す。
【0115】
図24に示すように、いずれの群も糖負荷後すみやかに血糖値が上昇し、30分経過後に最高値に達した。その後、対照群では、血糖値は120分を経過するまで徐々に低下し、9週齢のCD1マウスの糖負荷試験における通常の血糖値を示した。一方、F3ゲル濾過分画物群では、15,30,60,120分経過後のすべての測定点において、対照群に比べて低い血糖値を示し、かつ有意に低い血糖値が認められた。詳細には、30分経過後には対照群に対して1%有意水準にて有意性を示し、15,60,120分経過後には対照群に対して5%有意水準にて有意性を示した。
【0116】
<実施例15>ヒトデコラーゲンペプチドの血糖値上昇抑制機構の検討
ヒトデコラーゲンペプチドの血糖値上昇抑制機構を検討するため、グルコースの胃内滞留時間の検討、インスリン分泌の検討、α−グルコシダーゼ阻害の検討および小腸グルコース吸収阻害の検討を行った。
【0117】
(1)ヒトデコラーゲンペプチド投与によるグルコース胃内滞留時間の検討
実施例9で調製したヒトデコラーゲンペプチドを糖負荷したCD1マウスに投与することにより、グルコースの胃内滞留時間と胃内グルコース量とを測定し、その遅延効果から血糖値上昇抑制効果を検討した。まず、11週齢のCD1マウス(日本チャールス・リバー社)のうち、試験開始時の体重が平均約30gのものを選択し、各々41匹として対照群とヒトデコラーゲンペプチド群の2群を試験構成群とした。グルコースを投与した後、被検物質として蒸留水とヒトデコラーゲンペプチドとを各々投与した。なお、動物実験は、「動物に関する指針(国立大学法人北海道大学大学院水産科学研究院)」に準じて実施した。
【0118】
試験方法は以下のとおりである。まず、CD1マウスを16時間絶食させた後、対照群には被検サンプルとして41%(w/v)のグルコース水溶液5mL/kgと蒸留水10mL/kgとを、ヒトデコラーゲンペプチド群には被検サンプルとして41%(w/v)のグルコース水溶液5mL/kgと15%ヒトデコラーゲンペプチド水溶液10mL/kgとを混合し、各々、経口投与ゾンデ(FUCHIGAMI社)を用いて強制経口投与した。投与時間を0分として15,30,60,120分経過後、これら糖負荷試験をしたCD1マウスを、炭酸ガスを用いて経時的に屠殺した。
【0119】
屠殺した各々のマウスの胃の両端をピンセットではさみ、胃を摘出した後、1mL生理食塩水に浸漬し、胃内容物を生理食塩水に溶解させ、共洗いをした。これを2回繰り返した後、その溶解物を遠沈管に移し遠心分離器(コクサンH600S)にて2000×g,4℃にて10分間遠心分離し、上清を回収した。得られた上清の量を、10mLメスシリンダーを用いて測定し、次いで、グルコース定量発色試薬3.0mLを加えて37℃、30分間発色反応を行った後、発色反応で生成した赤色物質を505nmで吸光値を測定し、投与した被検サンプルのグルコース定量発色の吸光値とからグルコース量を測定した。なお、投与時間15分後の検体のみ、1/10倍に希釈して測定した。また、グルコース定量試薬は、30mMリン酸緩衝液(pH7.4)500mLに、終濃度5.3mMのフェノールと、0.255mMの4−アミノアンチピリン(和光純薬工業社)と、2900unitsのAspergillus niger由来グルコースオキシダーゼ(和光純薬工業社)と、355unitsの西洋わさびペルオキシダーゼ(Horseradish Peroxidase;HRP)とを溶解して調製した。その結果を図25に、摘出した胃の状態を図26(写真)に示す。なお、図25において、有意水準は危険率5%および1%とし、各々「*」および「**」で示す。
【0120】
図25に示すように、対象群は糖負荷後すみやかに胃内グルコース量が減少し、60分経過後までにすべての胃内グルコースが消化された。一方、ヒトデコラーゲンペプチド群では、胃内グルコース量は120分を経過するまで徐々に減少した。また、ヒトデコラーゲンペプチド群では、15,30,60,120分経過後のすべての測定点において、対照群に比べて高い胃内グルコース量の値を示し、かつ有意に高い値が認められた。詳細には、15,30分経過後には対照群に対して1%有意水準にて有意性を示した。また、図26に示すように、ヒトデコラーゲンペプチド群では、15,30分経過後において、対照群に比べて胃のふくらみが大きいことが確認された。
【0121】
以上より、ヒトデコラーゲンペプチドの投与により胃内のグルコースの滞留時間を遅延させることができることが確認され、血糖値の上昇を穏やかにする効果を有することが確認された。
【0122】
(2)ヒトデコラーゲンペプチド投与によるインスリン分泌の検討
健常ラットであるWistarラットを用いて、実施例9で調製したヒトデコラーゲンペプチドの糖負荷試験を行い、血中インスリン濃度を測定した。
【0123】
被検物質は、実施例9で調製したものと同じものを用いた。試験動物は、11週齢オスのWistarラット(日本チャールス・リバー社)のうち、試験開始時の体重が平均約390gのものを使用した。試験構成群は、対照群、ヒトデコラーゲンペプチド群の2群を、各々5匹として行った。対照群、ヒトデコラーゲンペプチド群の各々については、グルコースを投与し、被検物質として蒸留水、ヒトデコラーゲンペプチドを各々投与した。なお、動物実験は、「動物に関する指針(国立大学法人北海道大学大学院水産科学研究院)」に準じて実施した。
【0124】
試験方法は以下のとおりである。まず、Wistarラットを16時間絶食させた後、血液採取して血中インスリン濃度を測定し、これを初期血中インスリン濃度とした。対照群には41%(w/v)のグルコース水溶液5mL/kgと蒸留水10mL/kgとを、ヒトデコラーゲンペプチド群には41%(w/v)のグルコース水溶液5mL/kgと15%ヒトデコラーゲンペプチド水溶液10mL/kgとを混合し、各々、経口投与ゾンデ(FUCHIGAMI社)を用いて強制経口投与した。投与時間を0分とし、15,30,60,120分経過後に血液採取を行い、血中インスリン濃度を測定した。なお、血中インスリン濃度の測定は実施例3と同様にして行った。
【0125】
[データ解析]
得られた数値に基づいて、実施例3と同様にして、各群における平均値および標準誤差を算出した。その結果を図27に示す。なお、有意水準は危険率5%および1%とし、各々「*」および「**」で示す。
【0126】
図27に示すように、対照群では15分経過後に最高値を示し、その後、徐々に低下し、11週齢のWistarラットの糖負荷試験における通常の血中インスリン濃度を示した。一方、ヒトデコラーゲンペプチド群においても、対照群と同様に15分経過後に最高値を示し、その後、徐々に低下した。なお、各群間には有意差は認められなかった。
【0127】
本実施例15(2)により、ヒトデコラーゲンペプチドは、血中インスリン濃度に対して影響を与えないということが示された。このことから、ヒトデコラーゲンペプチドはインスリン分泌を促進しないことが示され、ヒトデの水抽出液および加水分解液と同様に、インスリン抵抗性を誘発する2型糖尿病患者に非常に有益であることが示された。
【0128】
(3)ヒトデコラーゲンペプチド投与によるα−グルコシダーゼ阻害の検討
α-グルコシダーゼ阻害の検討は栗原等の方法(T.OHTA et al.Biosci.Biotechnol.Biochem.66(7),1552−1554(2002))に従った。すなわち、試料である15%ヒトデコラーゲンペプチド0.1mLと、基質溶液としてマルトース水溶液またはスクロース水溶液0.1mLと、0.1Mマレイン酸緩衝液(pH6.0)0.7mLとを試験管に加えて混合した後、α−グルコシダーゼ粗酵素液0.1mLを加えて37℃、1時間酵素反応を行った。反応後、2.0Mマレイン酸−トリス−水酸化ナトリウム緩衝液(pH7.4)1.0mLを加えて酵素反応を停止させた。この反応停止溶液0.02mLを試験管に取り、本実施例15(1)で調製したグルコース定量発色試薬3.0mLを加えて37℃、30分間発色反応を行った後、発色反応で生成した赤色物質を505nmで吸光値を測定した。
【0129】
[データ解析]
阻害活性(阻害率)は、次式により算出した。
阻害率(%)=100×{1−(A−A‘)/(B−B’)}
A :糖を加え、試料を加えていないときの吸光値
A’:糖を加え、試料を加えたときの吸光値
B :糖を加えず、試料を加えていないときの吸光値
B’:糖を加えず、試料を加えたときの吸光値
なお、すべての試験は一定量および一定時間で行っているため、吸光値の変化量はそのまま酵素反応速度に相当するとみなし、阻害率を算出した。また、ポジティブコントロールとしてデオキシノジリマイシンを用いた。その結果を図28に示す。
【0130】
図28に示すように、ヒトデコラーゲンペプチドには、α−グルコシダーゼ活性は確認されなかった。
【0131】
(4)ヒトデコラーゲンペプチド投与によるグルコース吸収阻害の検討
[4−1:Wistarラットの小腸におけるグルコース吸収率の測定]
健常ラットであるWistarラットの小腸を用いて、ヒトデコラーゲンペプチド投与によるグルコース吸収阻害を検討した。
【0132】
被検物質は、実施例9で調製したヒトデコラーゲンペプチドを用いた。試験動物は、10週齢オスのWistarラット(日本チャールス・リバー社)のうち、試験開始時の体重が平均約390gのものを使用した。なお、動物実験は、「動物に関する指針(国立大学法人北海道大学大学院水産科学研究院)」に準じて実施した。
【0133】
試験方法は以下のとおりである。まず、Wistarラットを16時間絶食させた後、炭酸ガスを用いて屠殺し、約20cmとなるように小腸を切除して回収した。回収した小腸を生理食塩水で洗浄し、下端をヒモで縛ったものを12本準備した。次に、このうちの6本の小腸には、41%(w/v)のグルコース水溶液5mL/kgと蒸留水10mL/kgとを混合した溶液(以下、「溶液A」という。)を各々1mLずつ流入し、上端をヒモで縛った。残りの6本の小腸には、41%(w/v)のグルコース水溶液5mL/kgと15%ヒトデコラーゲンペプチド水溶液10mL/kgとを混合した溶液(以下、「溶液B」という。)を流入し、上端をヒモで縛ることにより計12本の検体を作製した。生理食塩水の入った50mLのメスシリンダーを12本用意し、これらに各々の検体を吊して入れ、30分(溶液Aが2本と溶液Bが2本)、60分(同左)、120分(同左)間浸漬した。各々の外液の一部を回収し、本実施例15(3)と同様の手法により、溶液中のグルコース量を測定した。その結果を図29に示す。
【0134】
図29に示すように、いずれの群もすみやかに糖の吸収が始まるが、対照群とヒトデコラーゲンペプチド群とでは、60,120分経過後の測定点において、ヒトデコラーゲンペプチド群の方が対照群と比べて低い糖吸収率を示した。
【0135】
[4−2:CD1マウスの糞中グルコース濃度の測定]
健常マウスであるCD1マウスにヒトデコラーゲンペプチドを投与し、糞中のグルコース濃度を測定した。
【0136】
被検物質は、実施例9で調製したヒトデコラーゲンペプチドを用いた。試験動物は、10週齢のCD1ラット(日本チャールス・リバー社)のうち、試験開始時の体重が平均約30gのものを使用した。試験構成群は、対照群とヒトデコラーゲンペプチド群の計6群を、各々7匹として行った。なお、動物実験は、「動物に関する指針(国立大学法人北海道大学大学院水産科学研究院)」に準じて実施した。
【0137】
試験方法は以下のとおりである。まず、自由摂水かつ自由摂餌下のCD1マウスについて、対照群には被検サンプルとして41%(w/v)のグルコース水溶液5mL/kgと蒸留水10mL/kgとを、ヒトデコラーゲンペプチド群には被検サンプルとして41%(w/v)のグルコース水溶液5mL/kgと15%ヒトデコラーゲンペプチド水溶液10mL/kgとを混合し、各々、経口投与ゾンデ(FUCHIGAMI社)を用いて強制経口投与した。自由摂水かつ自由摂餌下で12時間経過後、各々の糞を回収し、湿重量を測定した。回収した糞を凍結乾燥した後、乾燥重量を測定した。乾燥した糞を蒸留水に懸濁し、遠心分離器(コクサンH−2000B)にて10000×g,4℃にて10分間遠心分離して上清を回収し、本実施例15(4)[4−1]と同様の手法により回収した上清のグルコース含量を測定した。その結果を図30に示す。
【0138】
図30に示すように、ヒトデコラーゲンペプチドを投与した場合はグルコースが吸収されずに糞中に排泄されていることが確認された。
【0139】
以上(1)〜(4)より、本発明におけるヒトデコラーゲンペプチドの血糖値上昇抑制の機構は、グルコース吸収阻害であることが確認された。
【0140】
以上のような本実施例によれば、ヒトデコラーゲンペプチドを有効成分とする血糖値上昇抑制剤およびヒトデコラーゲンペプチドを提供することが可能である。
【0141】
一般に、単一の有用物質を分離精製するためには、抽出する試薬や煩雑な工程が必要とであり、目的成分以外の有用成分が変性を受けることや、目的成分以外の成分が大量に廃棄物として排出されることが多い。本発明は、このような問題点を解決するものでもあり、処分することが困難な水産廃棄物であるヒトデから有用物質を抽出することにより、ヒトデ全体を有効利用することができ、漁業におけるヒトデの問題の解決に資することが期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトデをプロテアーゼ処理して得られる加水分解物に含まれるヒトデコラーゲンペプチドを有効成分とする血糖値上昇抑制剤。
【請求項2】
前記ヒトデコラーゲンペプチドが20〜50μmの粒子径分布を有する担体を用いたゲル濾過クロマトグラフィーに供して得られる低分子の主要画分のヒトデコラーゲンペプチドである、請求項1に記載の血糖値上昇抑制剤。
【請求項3】
前記プロテアーゼが弱酸性ないし中性プロテアーゼである、請求項1または請求項2に記載の血糖値上昇抑制剤。
【請求項4】
グルコース吸収阻害剤である、請求項1から請求項3のいずれかに記載の血糖値上昇抑制剤。
【請求項5】
前記ヒトデがアルカリ処理、酸処理および水浸処理されたヒトデである、請求項1から請求項4のいずれかに記載の血糖値上昇抑制剤。
【請求項6】
前記ヒトデが水浸処理されたヒトデであって、かつ前記ヒトデコラーゲンペプチドが前記加水分解物から得られる加水分解液を珪藻土濾過、限外濾過および逆浸透膜濾過のうちのいずれか1または2以上の濾過処理をして得られるヒトデコラーゲンペプチドである、請求項1から請求項4のいずれかに記載の血糖値上昇抑制剤。
【請求項7】
ヒトデをアルカリ処理、酸処理および水浸処理するヒトデ処理工程と、
前記ヒトデ処理後に弱酸性ないし中性プロテアーゼで処理をしてヒトデ加水分解物を生成するヒトデ加水分解物生成工程と、
前記ヒトデ加水分解物からヒトデコラーゲンペプチドを回収するヒトデコラーゲンペプチド回収工程と
を有するヒトデコラーゲンペプチドの製造方法。
【請求項8】
ヒトデを水浸処理する水浸処理工程と、
前記水浸処理後に弱酸性ないし中性プロテアーゼで処理をしてヒトデ加水分解物を生成するヒトデ加水分解物生成工程と、
前記ヒトデ加水分解物からヒトデ加水分解液を回収するヒトデ加水分解液回収工程と、
前記ヒトデ加水分解液から珪藻土濾過、限外濾過および逆浸透膜濾過のうちのいずれか1または2以上の濾過処理をしてヒトデコラーゲンペプチドを回収するヒトデコラーゲンペプチド回収工程と
を有するヒトデコラーゲンペプチドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図26】
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【公開番号】特開2009−235064(P2009−235064A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48595(P2009−48595)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(591190955)北海道 (121)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】