説明

ヒトノイラミニダーゼ阻害剤又はケミカルシャペロン組成物

【課題】hNEU2に対する阻害剤又はhNEU2に対しケミカルシャペロン効果を示す組成物の提供。
【解決手段】次式(I)で表されるチオシアロオリゴ糖結合デンドリマー化合物若しくはその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物、及び薬理学上許容される担体を含む、ヒトノイラミニダーゼ2(hNEU2)の阻害剤。


(式中、E及びEは、炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかであり、互いに同一でも異なっていてもよく、R、Rは、同一又は異なった炭化水素基を示し、R、R及びRは酸素、窒素及び/又はカルボニル基を含んでもよい同一又は異なった炭化水素鎖を示し、Yはチオシアロオリゴ糖残基若しくは他の置換基であって少なくとも1つはチオシアロオリゴ糖残基を示し、lは0〜2の整数であり、mは0〜2の整数であり、kは0又は1の数を示し、kが0のときは3−mは1である)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チオシアロオリゴ糖結合デンドリマー化合物からなるヒトノイラミニダーゼ阻害剤、又は、ヒトノイラミニダーゼのケミカルシャペロン効果を有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
デンドリマーとは、ギリシャ語の「dendra」(樹木)を語源とする規則正しく分岐した樹状高分子化合物の総称である。デンドリマーによる球状のナノメートルスケールの空間は、様々な官能基を組み込むことで比較的自由にデザイン可能であることから、ナノテクノロジーの分野において、新規デンドリマーのデザインが現在盛んに行われている。
特に、近年、生体機能分野におけるデンドリマーの利用が著しく、生体系における外部刺激に応答するデンドリマー、DDS(薬物送達システム)に利用可能なデンドリマー、分子センサーとして機能し得るデンドリマーなど、多面的にその有効性を生かすべく研究が進んでいる。
【0003】
例えば、これまでにも、細菌やウィルスなどの感染による生体に対する外部環境からの干渉に対する有効な防御ツールとしてデンドリマーの利用が考慮されている。
細菌の感染に関しては、腸管出血性大腸菌O−157が産生するベロ毒素による生体への攻撃を有効に防御し得るデンドリマーの開発などが行われている。腸管出血性大腸菌O−157が産生するベロ毒素は、赤痢菌由来のシガ毒素と類似した細菌毒素のAB5ファミリーに属するタンパク質である。これらの毒素は、腎臓細胞上のグロボトリオシルセラミド(Gb3、Galα1−4Galβ1−4Glcβ1−Cer)中のグロボ3糖部分を認識し、接着することにより細胞内に取込まれ毒性を示すことが報告されている。
また、本発明者らは、各種糖鎖含有カルボシランデンドリマー化合物に関する知見に基づいて(非特許文献1参照)、インフルエンザウィルス等のウィルス表面に存在するノイラミニダーゼ(シアリダーゼ)活性を阻害するチオシアロシド型オリゴ糖を含むデンドリマーを製造し、その効果を報告している(特許文献1、特許文献2)。
このように、インフルエンザウィルスなどに存在するノイラミニダーゼと糖鎖との関連性については、感染症の防御方法の開発の進展と共に、その研究も進められ、多くの知見が明らかにされているところである。
【0004】
ところで、ノイラミニダーゼは、ヒトなどの哺乳類の細胞内にも存在しており、重要な役割を担っている。ヒトノイラミニダーゼ(hNEU)は、エキソ−α−シアリダーゼとも称され、糖タンパク質、糖脂質、ガングリオシドなどに結合している非還元シアル酸鎖を加水分解することにより、分子輸送、抗原マスキング、増殖、分化及び膜機能などの調節、維持などに関与している。哺乳類のノイラミニダーゼは、その細胞内における局在性、pH至適性及び基質特異性に基づいて、リソゾーム由来(NEU1)、細胞質由来(NEU2)、細胞膜由来(NEU3)及びミトコンドリア/リソゾーム由来(NEU4)に分類される。
ヒトノイラミニダーゼが、その機能異常により正常に働かなくなると、糖脂質や糖タンパク質に結合しているN−アセチルノイラミン酸(NeuAc)が切除されずに残存し、NeuAcが付加されたままの糖質又は糖タンパク質の蓄積が生じて様々な疾患の原因となる。例えば、リソゾームにおいて機能するhNEUに機能異常が生じると、いわゆる「リソゾーム病」と称される重篤な症状を示す先天代謝異常症を発症することがある。hNEUが関係する疾患のうち、例えば、リソゾーム病の治療においては、現在のところ酵素補充法などが有効な治療法として行われているが、中枢神経性の疾患等においては、末梢血管内に投与された酵素は血液脳関門を通過することができないため、脳内の障害部位まで到達することができず、有効な治療効果を得ることができない。そのため、hNEUの異常に起因する疾患のうち、特に、中枢神経系の疾患においては、酵素補充法以外に有効な治療法の確立が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−107230
【特許文献2】特開2009−242387
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Matsuokaら,Bull.Chem.Soc.Jpn.,71:2709-2713 1998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
hNEU関連疾患の治療法として、酵素補充法以外にケミカルシャペロン法は、中枢性の疾患においても効果を示す事が期待されている。ケミカルシャペロンとは、酵素の活性中心に入ることにより、酵素の構造を安定化するもので、例えば、酵素阻害剤の中には、低濃度においてケミカルシャペロンとして機能するものが存在する。
そこで、本発明は、hNEUのうち、hNEU2に対する阻害剤の提供を目的とする。
さらに、本発明は、hNEU2に対するケミカルシャペロンとしての効果を示す組成物の提供を目的とする。
また、本発明は、hNEU2の機能異常に起因する疾患の治療剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記事情に鑑み、hNEU2に対する阻害活性を有し、ケミカルシャペロンとしても機能する物質の探索を行ったところ、チオグリコシド結合型シアル酸オリゴ糖を結合させたデンドリマーがhNEU2活性を阻害し、かつ、ケミカルシャペロンとしても機能することを見出し、本発明を完成させた。
発明者らは、すでに、チオグリコシド結合型シアル酸オリゴ糖を結合させたデンドリマーのうち、インフルエンザウィルスのノイラミニダーゼ活性を有効に阻害し得る化合物を見出しているが(特許文献2)、今回、該化合物がhNEU2にも阻害効果を示し、かつ、ケミカルシャペロンとして機能することを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、次式(I)
【化1】


(式中、E及びEは、炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかであり、互いに同一でも異なっていてもよく、R、Rは、同一又は異なった炭化水素基を示し、R、R及びRは酸素、窒素及び/又はカルボニル基を含んでもよい同一又は異なった炭化水素鎖を示し、Yはチオシアロオリゴ糖残基若しくは他の置換基であって少なくとも1つはチオシアロオリゴ糖残基を示し、lは0〜2の整数であり、mは0〜2の整数であり、kは0又は1の数を示し、kが0のときは3−mは1である)で表されるチオシアロオリゴ糖結合デンドリマー化合物若しくはその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物、及び薬理学上許容される担体を含む、ヒトノイラミニダーゼ2(hNEU2)の阻害剤である。
【0010】
あるいは、上記式(I)(式中の説明は上述と同じ)で表されるチオシアロオリゴ糖結合デンドリマー化合物若しくはその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物、及び薬理学上許容される担体を含む、hNEU2に対するケミカルシャペロンとして効果を示す組成物若しくは医薬組成物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、hNEU2の活性を有効に阻害する阻害剤を提供する。
【0012】
本発明は、hNEU2のケミカルシャペロンとして効果を示す組成物又は医薬組成物を提供する。特に、本発明のケミカルシャペロン組成物又は医薬組成物に含まれる式(I)の化合物は、Yがチオグリコシド結合で構成されているため、hNEU2により消化されにくくなっており、そのため、ケミカルシャペロンとしての効果を十分に発揮することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のデンドリマー化合物のケミカルシャペロンとしての効果を示す結果である。(1)は、凍結保存していたhNEU2を解凍した直後に活性を測定した。また、(2)は、デンドリマー化合物を添加せずに他のサンプルと同様の処理を行った。
【図2】hNEU2と各種デンドリマー化合物を混合して、処理を行った後、Native−PAGEを行った結果を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のhNEU2阻害剤又はケミカルシャペロン組成物に含まれる式(I)の化合物において、式(I)中、E及びEは、炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかであり、互いに同一でも異なっていてもよいが、炭素又はケイ素が好ましく、ケイ素が最も好ましい。
及びRは、同一又は異なった炭化水素基を示すが、炭素数3〜6のアルキル基、フェニル基、ビニル基、及びアリル基のいずれかが好ましく、このうち炭素数3〜4のアルキル基又はフェニル基がより好ましい。
、R及びRは、酸素、窒素及び/又はカルボニル基を含んでもよい同一又は異なった炭化水素基を示すが、炭素数3〜12のアルキル基、アルキレン基、アルケニレン基及びアルコキシレン基(オキシアルキレン基)のいずれかが好ましく、このうち炭素数3〜6のアルキレン基がより好ましい。
【0015】
Yの少なくとも1つは、非還元末端にチオグリコシド型のシアル酸を有する1糖〜3糖を示す。シアル酸としては、NeuAc(N−アセチルノイラミン酸:N−acetylneuraminic acid、Neu5Ac)又は、NeuGc(N−グリコリルノイラミン酸:N−glycolylneuraminic acid、Neu5Gc)が利用可能であるが、NeuAc(N−アセチルノイラミン酸)残基が好ましい。また、シアル酸に結合する糖としては、1〜3糖が好ましく、当業者において周知の糖であれば如何なるものであっても使用することができ、限定はしないが、例えば、ガラクトース、グルコース、ラクトース、セロビオースなどが好適に使用可能である。Yとデンドリマー骨格との結合は、グリコシド結合又はチオグリコシド結合であり、特に、チオグリコシド結合が好ましい。従って、Yは、例えば、以下の置換基となる。
【化2】


また、本発明の阻害剤又は組成物に含まれるデンドリマーにおいては、1分子中の全てのYの位置が上記置換基のいずれかであることが望ましいが、必ずしも、全てのYが上記置換基である必要はなく、例えば、水素、C=C二重結合、水酸基などであってもよく、当該技術分野における通常の合成方法により、チオシアロオリゴ糖以外にYの位置に結合し得ると当業者によって予測され得る置換基の如何なるものであってもよい。
【0016】
式(I)のチオシアロオリゴ糖結合デンドリマー化合物の構造は、k、l、mの組み合わせに応じて種々の構造を取り得るが代表的な化学式は下記のようになる。
【化3】


(式Ia、Ib、Ic及びId中、E及びEは、炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかであり、互いに同一でも異なっていてもよく、Rは、炭化水素基を示し、R、R及びRは酸素又は窒素あるいはカルボニル基を含んでもよい同一又は異なった炭化水素鎖を示し、Yはチオシアロオリゴ糖残基若しくは他の置換基であって少なくとも1つはチオシアロオリゴ糖残基を示す)
【0017】
本発明の式(I)の化合物は、例えば、次の反応式に従って製造することができる。
【化4】


(上記式中、Xはハロゲン原子、Xは反応脱離性の保護基を示し、Yは、チオシアロオリゴ糖である)
式(IV)の化合物は、式(III)で表されるハロゲン化デンドリマーと式(IV)で表されるスルフィド化合物とを反応させ、必要に応じて、スルフィド化合物中のチオシアロオリゴ糖残基の保護基を脱離させることにより本発明の式(I)の化合物を製造できる。
【0018】
式(I)の化合物の製造方法の例として、化合物(36)の製造方法を後述の実施例中に示す。他のチオシアロオリゴ糖のチオアセテート誘導体を製造する場合にも、同様な方法により製造することができる。
また、ハロゲン化デンドリマーは、例えば、次のようにして製造することができる。
Fan(0)3−Brを例にすると、既知化合物のトリオール(トリス(3−ヒドロキシプロピル)フェニルシラン)に脱離基としてメシル基を導入し、臭素アニオンによる求核置換反応を行うことで調製できる(この反応については、例えば、Matsuokaら,Biomacromolecules 7,pp.2274−2283,2006、などを参照のこと)。また、他の構造を持つハロゲン化デンドリマーについても同様に製造することができる。
式(III)の化合物と式(IV)の化合物の反応は、例えばナトリウムメトキシド等の塩基の存在下で行うことができる。また、Yの保護基の脱離は例えばナトリウムメトキシド等の塩基を用いた加水分解により行うことができる。
【0019】
得られた本発明の式(I)の化合物は、洗浄、各種クロマトグラフィー、ゲル濾過等により精製することができる。
【0020】
また、本発明におけるhNEU2は、一般に、「ヒトノイラミニダーゼ2」と称される酵素のことであり、天然のhNEU2のみならず、変異等により活性が低下したhNEU2であってもよい。hNEU2とは、例えば、NCBI Accession No: NM_005383.2(GI: 222352169, GeneID:4759)として登録されているタンパク質と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質のことである。
ここで、「実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質」とは、NM_005383.2として登録されているアミノ酸配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%,81%,82%,83%,84%,85%,86%,87%,88%,89%,90%,91%,92%,93%,94%,95%,96%,97%,98%,最も好ましくは約99%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、タンパク質リン酸化酵素活性を有するタンパク質である。
あるいは、NM_005383.2として登録されているアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質としては、NM_005383.2として登録されているアミノ酸配列中の1又は数個(好ましくは、1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1〜5個)のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、タンパク質リン酸化酵素活性を有するタンパク質である。
【0021】
本発明のhNEU2阻害剤又はhNEU2に対するケミカルシャペロン組成物は、一般式(I)のデンドリマー化合物又はその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物を含む。さらに、本発明のhNEU2阻害剤又はhNEU2に対するケミカルシャペロン組成物を「剤」又は「組成物」として使用する場合には、目的に応じて、バッファー、塩、その他の添加物質等を含んでいてもよい。特に、本発明の「阻害剤」又は「組成物」をhNEU2の機能異常に起因する疾患の治療剤又は医薬組成物として使用する場合には、薬理学上許容される担体を含んでいてもよい。ここで、「ケミカルシャペロン」組成物は、hNEU2を安定化し(例えば、構造の安定化などにより)、活性を上昇又は保持する効果を示す組成物のことであり、インビトロ又はインビボにおいて使用することができる。
【0022】
「薬理学上許容される担体」は、溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌及び抗真菌剤、アイソトニックに作用して吸着を遅らせる薬剤及びその類似物を含み、薬剤的投与に適するもののことである。該担体及び該担体を希釈するために好ましいものの例には、限定はしないが、水、生理食塩水、フィンガー溶液、デキストロース溶液、及びヒト血清アルブミンなどが含まれる。また、リポソーム及び不揮発性油などの非水溶性媒体も用いられる。さらに、本発明の化合物の活性を保護又は促進するような特定の化合物が、該組成物中に包含されていてもよい。
【0023】
本発明の阻害剤又はケミカルシャペロン組成物を医薬若しくは医薬組成物として使用する場合、静脈内、皮内、皮下、経口(例えば、吸入なども含む)、経皮及び経粘膜への投与を含み、治療上適切な投与経路に適合するように製剤化される。非経口、皮内、又は皮下への適用に使用される溶液又は懸濁液には、限定はしないが、注射用の水などの滅菌的希釈液、生理食塩水溶液、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、又は他の合成溶媒、ベンジルアルコール又は他のメチルパラベンなどの保存剤、アスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなどの無痛化剤、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)などのキレート剤、酢酸塩、クエン酸塩、又はリン酸塩などの緩衝剤、塩化ナトリウム又はデキストロースなど浸透圧調製のための薬剤を含んでもよい。
pHは塩酸又は水酸化ナトリウムなどの酸又は塩基で調製することができる。非経口的標品はアンプル、ガラスもしくはプラスチック製の使い捨てシリンジ又は複数回投与用バイアル中に収納される。
【0024】
注射に適する医薬組成物には、滅菌された注射可能な溶液又は分散媒を、使用時に調製するための滅菌水溶液(水溶性の)又は分散媒及び滅菌されたパウダーが含まれる。静脈内の投与に関し、適切な担体には生理食塩水、静菌水、又はリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)が含まれる。注射剤として使用する場合、組成物は滅菌的でなくてはならず、また、シリンジを用いて投与されるために十分な流動性を保持していなくてはならない。該組成物は、調剤及び保存の間、化学変化及び腐食等に対して安定でなくてはならず、細菌及び真菌などの微生物由来のコンタミネーションを防止する必要がある。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)、及び適切な混合物を含む溶媒又は分散媒培地を使用することができる。例えば、レクチンなどのコーティング剤を用い、分散媒においては必要とされる粒子サイズを維持し、界面活性剤を用いることにより適度な流動性が維持される。種々の抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、及びチメロサールなどは、微生物のコンタミネーションの防止に対して使用可能である。また、糖、マンニトール、ソルビトールなどのポリアルコール及び塩化ナトリウムのような等張性を保つ薬剤が組成物中に含まれてもよい。吸着を遅らせることができる組成物には、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンなどの薬剤が含まれる。
【0025】
滅菌的な注射可能溶液は、必要な成分を単独で、又は他の成分と組み合わせた後に、適切な溶媒中に必要量の活性化合物を加え、滅菌することで調製される。一般に、分散媒は、基本的な分散培地及び上述したその他の必要成分を含む滅菌的媒体中に活性化合物を取り込むことにより調製される。滅菌的な注射可能な溶液を調製するための滅菌的パウダーの調製方法には、活性な成分及び滅菌溶液に由来する何れかの所望な成分を含むパウダーを調製する真空乾燥及び凍結乾燥が含まれる。
【0026】
経口組成物には、不活性な希釈剤又は体内に取り込んでも害を及ぼさない担体が含まれる。経口組成物には、例えば、ゼラチンのカプセル剤に包含されるか、加圧されて錠剤化される。経口的治療のためには、活性化合物は賦形剤と共に取り込まれ、錠剤、トローチ又はカプセル剤の形態で使用される。また、経口組成物は、流動性担体を用いて調製することも可能であり、流動性担体中の該組成物は経口的に適用される。さらに、薬剤的に適合する結合剤、及び/又はアジュバント物質などが包含されてもよい。
錠剤、丸薬、カプセル剤、トローチ及びその類似物は以下の成分又は類似の性質を持つ化合物の何れかを含み得る:微結晶性セルロースのような賦形剤、アラビアゴム、トラガント又はゼラチンなどの結合剤;アルギン酸、PRIMOGEL、又はコーンスターチなどの膨化剤;ステアリン酸マグネシウム又はSTRROTESなどの潤滑剤;コロイド性シリコン二酸化物などの滑剤;スクロース又はサッカリンなどの甘味剤;又はペパーミント、メチルサリチル酸又はオレンジフレイバーなどの香料添加剤。
【0027】
本発明の医薬組成物は、植込錠及びマイクロカプセルに封入された送達システムなどの徐放性製剤として、体内から即時に除去されることを防ぎ得る担体を用いて調製することができる。エチレンビニル酢酸塩、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸などの、生物分解性、生物適合性ポリマーを用いることができる。このような材料は、当業者によって容易に調製することができる。また、リポソームの懸濁液も薬剤的に受容可能な担体として使用することができる。有用なリポソームは、限定はしないが、ホスファチジルコリン、コレステロール及びPEG誘導ホスファチジルエタノール(PEG−PE)を含む脂質組成物として、使用に適するサイズになるように、適当なポアサイズのフィルターを通して調製され、逆相蒸発法によって精製される。
【0028】
本発明の阻害剤又はケミカルシャペロンを医薬又は医薬組成物として使用する場合、適切な投与量レベルは、対象の疾患、投与される患者の状態、投与方法等に依存するが、当業者であれば、容易に最適化することが可能である。
注射投与の場合は、例えば、一日に患者の体重あたり約0.1μg/kgから約500mg/kgを投与するのが好ましく、一般に一回又は複数回に分けて投与され得るであろう。好ましくは、投与量レベルは、一日に約0.1μg/kgから約250mg/kgであり、より好ましくは一日に約0.5〜約100mg/kgである。
経口投与の場合は、組成物は、好ましくは1.0から1000mgの活性成分を含む錠剤の形態で提供され、好ましくは活性成分が1.0,5.0,10.0,15.0,20.0,25.0,50.0,75.0,100.0,150.0,200.0,250.0,300.0,400.0,500.0,600.0,750.0,800.0,900.0及び1000.0mgである。化合物は一日に1〜4回の投与計画で、好ましくは一日に一回又は二回投与される。
【0029】
医薬組成物又は製剤は、一定の投与量を保障すべく、均一単位投与量により構成されなくてはならない。単位投与量は、患者の治療に有効な一回の投与量を含み、薬剤的に受容可能な担体と共に製剤化された一単位のことである。本発明の単位投与量を決定する場合には、製剤化される化合物の物理的、化学的特徴、期待される治療上の効果、及び該化合物に特有な留意事項等が考慮される。
【0030】
以下に実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
まず、本発明の阻害剤又はケミカルシャペロン組成物に含まれるデンドリマー化合物の合成方法については、特開2009−242387(特許文献2)に詳述されているので、併せて参照のこと。以下には、合成経路の説明等を行う。
【0032】
1.n−ペンテニル S−(メチル 5−アセトアミド−4,7,8,9−テトラ−O−アセチル−3,5−ジデオキシ−D−グリセロ−α−D−ガラクト−2−ノニュロピラノシロネート)−(2→6)−2,3,4−トリ−O−アセチル−6−チオ−β−D−グルコピラノシド(6)の合成
目的化合物(6)は下記のスキームのように合成することができる。
【化5】

【0033】
n−ペンテニル 2,3,4−トリ−O−アセチル−6−O−t−ブチルジメチルシリル−β−D−グルコピラノシド(2)の合成
アルゴン雰囲気下、既知のペンテニルグルコシド(1)をピリジンに溶解させ、氷冷下でTBDMSClを加え、氷冷のまま1時間撹拌する。その後、無水酢酸を加え、室温で2時間攪拌する。氷冷下でメタノールを加えた後、反応液を濃縮する。残渣を酢酸エチルに溶解させ、1M硫酸水溶液、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水乾燥させた後、セライト濾過し、濾液を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ[4:1(v/v)ヘキサン−酢酸エチル,シリカゲル]で精製し、化合物(2)得る。
【0034】
n−ペンテニル 2,3,4−トリ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシド(3)の合成
完全保護グルコシド(2)を酢酸に溶解させ、水を加え、50℃で2時間撹拌する。反応液を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ[2:1(v/v)ヘキサン−酢酸エチル,シリカゲル]で精製し、化合物(3)を得る。
【0035】
n−ペンテニル 2,3,4−トリ−O−アセチル−6−ブロモ−6−デオキシ−β−D−グルコピラノシド(4)の合成
アルゴン雰囲気下、アルコール(3)をピリジンに溶解させ、氷冷下でトリフェニルホスフィン及び四臭化炭素を順に加え、45℃で15分撹拌する。氷冷下、メタノールを加えて、反応を停止させ、反応液を濃縮する。残渣を少量のメタノールに溶解させ、そこにトルエンを加えて結晶化した副生成物をセライト濾過により除去し、濾液を濃縮する。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ[5:2(v/v)ヘキサン−酢酸エチル,シリカゲル]で精製し、化合物(4)を得る。
【0036】
n−ペンテニル S−(メチル 5−アセトアミド−4,7,8,9−テトラ−O−アセチル−3,5−ジデオキシ−D−グリセロ−α−D−ガラクト−2−ノニュロピラノシロネート)−(2→6)−2,3,4−トリ−O−アセチル−6−チオ−β−D−ガラクトピラノシド(6)の合成
アルゴン雰囲気下、シアル酸チオアセテート(5)及びブロミド(4)をDMF(1mL)に溶解させ、氷冷下でジエチルアミンを加え、室温で6時間撹拌する。反応液を酢酸エチルで希釈し、1M塩酸水溶液、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水乾燥させた後、セライト濾過し、濾液を濃縮する。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ[2:3(v/v)トルエン−酢酸エチル,シリカゲル]で粗精製し、ついで分取型GPCにより目的化合物(6)を単離することができる。
【0037】
2.n−ペンテニル S−(メチル 5−アセトアミド−4,7,8,9−テトラ−O−アセチル−3,5−ジデオキシ−D−グリセロ−α−D−ガラクト−2−ノニュロピラノシロネート)−(2→6)−2,3,4−トリ−O−アセチル−6−チオ−β−D−ガラクトピラノシド(11)の合成
目的化合物(11)は下記のスキームのように合成することができる。
【化6】

【0038】
n−ペンテニル 2,3,4−トリ−O−アセチル−6−O−t−ブチルジメチルシリル−β−D−ガラクトピラノシド(8)の合成
アルゴン雰囲気下、既知のペンテニルグルコシド(例えば、Matsuoka及びNishimura,Macromolecules 28, pp.2961−2968,1995、などを参照のこと)(7)をピリジンに溶解させ、氷冷下でTBDMSClを加え、氷冷のまま5時間撹拌する。その後、無水酢酸を加え、室温で6時間攪拌する。氷冷下でメタノールを加えた後、反応液を濃縮する。残渣を酢酸エチルに溶解させ、1M硫酸水溶液、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水乾燥させた後、セライト濾過し、濾液を濃縮する。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ[4:1(v/v)ヘキサン−酢酸エチル,シリカゲル]で精製し、化合物(8)を得る。
【0039】
n−ペンテニル 2,3,4−トリ−O−アセチル−β−D−ガラクトピラノシド(9)の合成
完全保護ガラクトシド(8)を酢酸に溶解させ、水を加え、50℃で2時間撹拌する。反応液を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ[1:1(v/v)ヘキサン−酢酸エチル,シリカゲル]で精製し、化合物(9)を得る。
【0040】
n−ペンテニル 2,3,4−トリ−O−アセチル−6−ブロモ−6−デオキシ−β−D−ガラクトピラノシド(10)の合成
アルゴン雰囲気下、アルコール(9)をピリジンに溶解させ、氷冷下でトリフェニルホスフィンおよび四臭化炭素を順に加え、50℃で1時間撹拌する。氷冷下、メタノールを加えて反応を停止させ、反応液を濃縮する。残渣を少量のメタノールに溶解させ、そこにトルエンを加えて結晶化した副生成物をセライト濾過により除去し、濾液を濃縮する。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ[4:1(v/v)ヘキサン−酢酸エチル,シリカゲル]で精製し、化合物(10)を得る。
【0041】
n−ペンテニル S−(メチル 5−アセトアミド−4,7,8,9−テトラ−O−アセチル−3,5−ジデオキシ−D−グリセロ−α−D−ガラクト−2−ノニュロピラノシロネート)−(2→6)−2,3,4−トリ−O−アセチル−6−チオ−β−D−ガラクトピラノシド(11)の合成
アルゴン雰囲気下、チオアセテート(5)及びブロミド(10)をDMF−メタノール混合液(1:1(v/v))に溶解させ、氷冷下で炭酸カリウムを加え、室温で21時間撹拌する。氷冷下、酢酸を加えて反応を停止させ、反応液を濃縮した。残渣をピリジンに懸濁し、無水酢酸を加えて、一晩攪拌する。反応液を濃縮して、その残渣をクロロホルムに溶解させ、1M硫酸水溶液、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水乾燥させた後、セライト濾過し、濾液を濃縮する。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ[15:14:1(v/v/v)クロロホルム−酢酸エチル−メタノール,シリカゲル]で粗精製し、次いで分取型GPCにより目的化合物(11)を単離することができる。
【0042】
3.n−ペンテニル S−(メチル 5−アセトアミド−4,7,8,9−テトラ−O−アセチル−3,5−ジデオキシ−D−グリセロ−α−D−ガラクト−2−ノニュロピラノシロネート)−(2→6)−O−(2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−ガラクトピラノシル)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシド(26)の合成
目的化合物(26)は下記のスキームのように合成をすることができる。
【化7】

【0043】
n−ペンテニル O−(2,3−ジ−O−アセチル−4,6−O−イソプロピリデン−β−D−ガラクトピラノシル)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシド(23)の合成
アルゴン雰囲気下、既知のペンテニルラクトシド(例えば、Matsuoka及びNishimura,Macromolecules 28, pp.2961−2968,1995、などを参照のこと)(22)をDMFに溶解させ、氷冷下で2−メトキシ−1−プロペン及びp−トルエンスルホン酸一水和物を順に加え、氷冷のまま3時間撹拌する。その後、ピリジン及び無水酢酸を加え、室温で一晩攪拌する。反応液を濃縮し、残渣を酢酸エチルに溶解させ、1M硫酸水溶液、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水乾燥させた後、セライト濾過し、濾液を濃縮する。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ[4:1(v/v)トルエン−酢酸エチル,シリカゲル]で精製し、化合物(23)を得る。
【0044】
n−ペンテニルO−(2,3−ジ−O−アセチル−β−D−ガラクトピラノシル)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシド(24)の合成
完全保護ラクトシド(23)を酢酸に溶解させ、水を加え、50℃で2時間撹拌する。反応液を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ[1:4(v/v)トルエン−酢酸エチル, シリカゲル]で精製し、化合物(24)を得る。
【0045】
n−ペンテニル O−(2,3−ジ−O−アセチル−6−ブロモ−6−デオキシ−β−D−ガラクトピラノシル)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシド(25)の合成
アルゴン雰囲気下、ジオール(24)をピリジンに溶解させ、氷冷下でトリフェニルホスフィン及び四臭化炭素を順に加え、50℃で30分、60℃で3時間時間撹拌する。氷冷下、さらにトリフェニルホスフィン及び四臭化炭素を順に加え、60℃で30分撹拌する。氷冷下、メタノールを加えて反応を停止させ、反応液を濃縮する。残渣を少量のメタノールに溶解させ、そこにトルエンを加えて結晶化した副生成物をセライト濾過により除去し、濾液を濃縮する。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ[3:1(v/v)トルエン−酢酸エチル,シリカゲル]で精製し、化合物(25)を得る。
【0046】
n−ペンテニル S−(メチル 5−アセトアミド−4,7,8,9−テトラ−O−アセチル−3,5−ジデオキシ−D−グリセロ−α−D−ガラクト−2−ノニュロピラノシロネート)−(2→6)−O−(2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−ガラクトピラノシル)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシド(26)の合成
アルゴン雰囲気下、チオアセテート(5)及びブロミド(25)をDMF−メタノール混合液(1:1(v/v),1mL)に溶解させ、氷冷下で炭酸カリウムを加え、室温で36時間撹拌する。氷冷下、酢酸を加えて反応を停止させ、反応液を濃縮した。残渣をピリジンに懸濁し、無水酢酸を加えて、3日間攪拌する。反応液を濃縮して、その残渣を酢酸エチルに溶解させ、1M硫酸水溶液、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水乾燥させた後、セライト濾過し、濾液を濃縮する。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ[1:1→2:3→0:1(v/v)トルエン−酢酸エチル,シリカゲル]で粗精製し、次いで分取型GPCにより目的物化合物(26)を単離することができる。
【0047】
4.n−ペンテニル S−(メチル 5−アセトアミド−4,7,8,9−テトラ−O−アセチル−3,5−ジデオキシ−D−グリセロ−α−D−ガラクト−2−ノニュロピラノシロネート)−(2→6)−O−(2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシル)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシド(35)の合成
目的化合物(35)は下記のスキームのように合成することができる。
【化8】

【0048】
O−(2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシル)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−アセチル−α−D−グルコピラノシルブロマイド(28)の合成
市販のセロビオースα−アセテート(PFANSTIEHL LABORATORIES Inc.,Waukegan,IL 60085−0439,USA)(27)を酢酸−無水酢酸混合液に溶解させ、氷冷下、30%臭化水素−酢酸溶液を加えて密栓し、室温で3.5時間攪拌する。さらに氷冷下で30%臭化水素−酢酸溶液を加えて一晩攪拌する。反応液を氷水に注ぎ、酢酸エチルで抽出し、水で5回洗浄し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順に洗浄する。硫酸マグネシウムで脱水乾燥させた後、セライト濾過し、濾液を濃縮した。残渣をジエチルエーテルで洗浄することにより化合物(28)を得る。
【0049】
n−ペンテニル O−(2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシル)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシド(29)の合成
アルゴン雰囲気下、セロビオースα−ブロミド(28)及び4−ペンテン−1−オール、モレキュラーシーブス4Aをジクロロメタンに懸濁させ、2時間攪拌する。−20℃でトリフルオロメタンスルホン酸銀を加え、40分攪拌し、反応液をセライト濾過し、不溶物をクロロホルムで洗浄する。濾液と洗浄液を合わせて、氷水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順に洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水乾燥させた後、セライト濾過し、濾液を濃縮する。残渣をフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィ[4:1(v/v)トルエン−酢酸エチル,シリカゲル]で精製し、化合物(29)を得る。
【0050】
n−ペンテニル O−β−D−グルコピラノシル−(1→4)−β−D−グルコピラノシド(30)の合成
ペンテニルセロビオシド(29)をメタノール−ジクロロメタン混合液に溶解させ、1Mナトリウムメトキシド・メタノール溶液を加え、室温で2時間撹拌する。IR−120B(H+型)を加えてpH〜4とした反応液を綿栓濾過し、樹脂をメタノールで洗浄する。濾液と洗浄液を合わせて濃縮し、残渣として、化合物(30)を得る。
【0051】
n−ペンテニル O−(2,3−ジ−O−アセチル−4,6−O−イソプロピリデン−β−D−グルコピラノシル)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシド(31)の合成
アルゴン雰囲気下、セロビオシド(30)をDMFに溶解させ、氷冷下で2−メトキシ−1−プロペン及びp−トルエンスルホン酸−水和物を順に加え、氷冷のまま2時間、室温に戻して4時間撹拌した。その後、ピリジン及び無水酢酸を加え、室温で一晩攪拌した。反応液を濃縮し、残渣を酢酸エチルに溶解させ、1M硫酸水溶液、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水乾燥させた後、セライト濾過し、濾液を濃縮する。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ[5:1 (v/v)トルエン−酢酸エチル,シリカゲル]で精製し、化合物(31)を得る。
【0052】
n−ペンテニル O−(2,3−ジ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシル)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシド(32)の合成
完全保護セロビオシド(31)を酢酸に溶解させ、水を加え、50℃で2時間撹拌する。反応液を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ[1:2(v/v)トルエン−酢酸エチル,シリカゲル]で精製し、化合物(32)を得る。
【0053】
n−ペンテニル O−(2,3−ジ−O−アセチル−6−ブロモ−6−デオキシ−β−D−グルコピラノシル)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシド(33)の合成
アルゴン雰囲気下、ジオール(32)をピリジンに溶解させ、氷冷下でトリフェニルホスフィン及び四臭化炭素を順に加え、50℃で1時間時間撹拌する。氷冷下、メタノールを加えて反応を停止させ、反応液を濃縮する。残渣を少量のメタノールに溶解させ、そこにトルエンを加えて結晶化した副生成物をセライト濾過により除去し、濾液を濃縮する。残渣をフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィ[1:1(v/v)ヘキサン−酢酸エチル,シリカゲル]で精製し、化合物(33)を得る。
【0054】
n−ペンテニル O−(2,3,4−トリ−O−アセチル−6−ブロモ−6−デオキシ−β−D−グルコピラノシル)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシド(34)の合成
アルゴン雰囲気下、アルコール(33)をピリジンに溶解させ、氷冷下で無水酢酸を加え、室温で6時間時間撹拌する。反応液を濃縮し、残渣をフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィ[2:1(v/v)トルエン−酢酸エチル,シリカゲル]で精製し、化合物(34)を得る。
【0055】
n−ペンテニル S−(メチル 5−アセトアミド−4,7,8,9−テトラ−O−アセチル−3,5−ジデオキシ−D−グリセロ−α−D−ガラクト−2−ノニュロピラノシロネート)−(2→6)−O−(2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシル)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシド(35)の合成
アルゴン雰囲気下、チオアセテート(5)及びブロミド(34)をDMFに溶解させ、氷冷下でジエチルアミンを加え、室温で20時間撹拌する。反応液を濃縮し、残渣をクロロホルムに溶解させ、1M塩酸水溶液、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水乾燥させた後、セライト濾過し、濾液を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ[100:30:1(v/v/v)クロロホルム−酢酸エチル−メタノール,シリカゲル]で粗精製し、ついで分取型GPCにより目的化合物(35)を単離することができる。
【0056】
5.チオシアロオリゴ糖結合型デンドリマーの合成
チオシアロオリゴ糖結合型デンドリマーを以下のスキームのように合成することができる。
【化9】

【0057】
4−アセチルチオ−ペンテニル S−(メチル 5−アセトアミド−4,7,8,9−テトラ−O−アセチル−3,5−ジデオキシ−D−グリセロ−α−D−ガラクト−2−ノニュロピラノシロネート)−(2→6)−2,3,4−トリ−O−アセチル−6−チオ−β−D−グルコピラノシド(36)の合成
アルゴン雰囲気下、ペンテニルグリコシド(6)を1,4−ジオキサンに溶解し、チオ酢酸を加え、加熱し50℃とした。そこでAIBNを加え、80℃で3時間撹拌する。その後、氷冷下でシクロヘキセンを加え、室温に戻して数分間撹拌する。反応液を濃縮し、残渣をフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィ[トルエン→酢酸エチル,シリカゲル]で精製し、化合物(36)を得る。
【0058】
Fan(0)3−NeuSGlcS(OAc,OMe)(37)の合成
アルゴン雰囲気下、チオアセテート(36)及びFan(0)3−BrデンドリマーをDMF−メタノール混合液に溶解させた。そこに1Mナトリウムメトキシド・メタノール溶液を加え、室温で19時間撹拌する。その後、氷冷下で酢酸を加えて反応を停止させ、反応液を濃縮する。残渣をアルゴン雰囲気下、ピリジンに懸濁させ、無水酢酸を加え、室温で5時間撹拌する。その後反応液を濃縮し、残渣をクロロホルムに溶解させ、1M硫酸水溶液、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水乾燥させた後、セライト濾過し、濾液を濃縮する。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ[15:14:1→10:9:1(v/v/v)クロロホルム−酢酸エチル−メタノール, シリカゲル]で精製し、目的化合物(37)を得ることができる。
【0059】
Ball(0)4−NeuSGlcS(OAc,OMe)(38)の合成
アルゴン雰囲気下、チオアセテート(36)及びBall(0)4−BrデンドリマーをDMF−メタノール混合液に溶解させる。そこに、1Mナトリウムメトキシド・メタノール溶液を加え、室温で24時間撹拌する。その後、氷冷下で酢酸を加えて反応を停止させ、反応液を濃縮する。残渣をアルゴン雰囲気下、ピリジンに懸濁させ、無水酢酸を加え、室温で22時間撹拌する。その後反応液を濃縮し、残渣をクロロホルムに溶解させ、水で洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水乾燥させた後、セライト濾過し、濾液を濃縮する。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ[15:14:1→7:7:1(v/v/v)クロロホルム−酢酸エチル−メタノール,シリカゲル]で精製し、目的化合物(38)を得ることができる。
【0060】
Dumbbell(1)6−NeuSGlcS(OAc,OMe)(39)の合成
アルゴン雰囲気下、チオアセテート(36)及びDumbbell(1)6−BrデンドリマーをDMF−メタノール混合液に溶解させた。そこに1Mナトリウムメトキシド・メタノール溶液を加え、室温で23時間撹拌する。その後、氷冷下で酢酸を加えて反応を停止させ、反応液を濃縮した。残渣をアルゴン雰囲気下、ピリジンに懸濁させ、無水酢酸を加え、室温で22時間撹拌する。その後反応液を濃縮し、残渣をクロロホルムに溶解させ、水で洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水乾燥させた後、セライト濾過し、濾液を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ[15:14:1→5:4:1(v/v/v)クロロホルム−酢酸エチル−メタノール,シリカゲル]で精製し、目的化合物(39)を得ることができる。
【0061】
Ball(1)12−NeuSGlcS(OAc,OMe)(40)の合成
アルゴン雰囲気下、チオアセテート(36)及びBall(1)12−BrデンドリマーをDMF−メタノール混合液に溶解させた。そこに1Mナトリウムメトキシド・メタノール溶液(を加え、室温で8時間撹拌する。その後、氷冷下で酢酸を加えて反応を停止させ、反応液を濃縮する。残渣をアルゴン雰囲気下、ピリジンに懸濁させ、無水酢酸を加え、室温で24時間撹拌した。その後反応液を濃縮し、残渣をクロロホルムに溶解させ、水で洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水乾燥させた後、セライト濾過し、濾液を濃縮する。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ[15:14:1→15:0:1 (v/v/v)クロロホルム−酢酸エチル−メタノール,シリカゲル]で精製し、目的化合物(40)を得ることができる。
化合物(11)、化合物(26)及び化合物(35)を担持したファン型、ボール型、ダンベル型の各デンドリマー化合物も上記5の方法と同様に合成することができる。
また、エーテル又はアミド伸長型チオシアロオリゴ糖結合型デンドリマーの合成、並びに、チオシアロシド化合物の脱保護については、特開2009−242387(特許文献2)に詳述されているので、そこに記載の方法に従って合成を行った。
【0062】
6.hNEU2に対する各種デンドリマー化合物の影響について
上記合成例に沿って合成した下記の化合物についてhNEU2阻害活性を測定した。
【化10】


精製したリコンビナントhNEU2(NCBI Accession No: NM_005383.2)は、合成基質である4MU−NeuAcを用いて酵素活性を測定した。hNEU2の活性は、0.2mM酢酸ナトリウムバッファー(pH6.0)、2μLの50mg/mLBSA、5μLの2mM4MU−NeuAc、20μLの種々の濃度の各種デンドリマー化合物、及び5μLのリコンビナントhNEU2(活性;9.5nmol/30min/5μL)を含む、40μLの反応液中で測定した。反応液を37℃、30分間のインキュベーションの後、770μLのグリシン−NaOH(pH10.7)を、反応を停止させるために添加した。解離した4−メチルウンベリフェロン(4−MU)の蛍光を蛍光スペクトロメーター(励起波長:360nm、蛍光波長:455nm)で測定し、50%阻害(IC50)を示す濃度を決定した。
測定結果を以下の表に示す。
【表1】


表1から、デンドリマーの形状としてダンベル型>ファン型>>ボール型の順で、阻害活性の傾向が認められた。また、50%阻害する濃度(IC50)については、ダンベル(1)6>ファン(0)3>ボール(0)4の傾向が見出された。さらに、糖鎖とデンドリマー間のリンカーとしては、リンカー無>エーテル伸長型>アミド伸長型の順となっていた。
【0063】
7.hNEU2に対する各種デンドリマー化合物のケミカルシャペロンとしての効果
上記各種デンドリマー化合物にhNEU2に対する阻害活性が認められたので、次に、ケミカルシャペロンとしての効果の有無について、検討を行った。
hNEU2溶液5μL(活性;9.5nmol/30min/5μL)に対して、各種デンドリマー化合物5μLを、各濃度0.05、0.5、5mMとなるように加え、氷上にて、30分間放置した。30分後、水を10μL添加し、反応溶液を20μLとした。さらに、氷上にて1時間放置後、反応液から16μLを分取してNaive−PAGE(pH8.0)による電気泳動を行い、2μLを酵素活性測定に用いた。
デンドリマー化合物は、ダンベル(1)6−NeuSGal、ダンベル(1)6−エーテル−NeuSGal、ダンベル(1)6−NeuSLac、ダンベル(1)6−エーテル−NeuSLacを用いた(下記を参照のこと)。
【化11】

【0064】
酵素活性測定の結果、いずれのデンドリマー化合物においても、化合物の濃度依存的にhNEU2活性が高まることが分かった(図1)。すなわち、デンドリマー化合物の添加濃度の上昇により、インビトロにおけるhNEU2の変性による活性低下が抑制されていることが明かとなった。
また、Native−PAGEの結果、阻害剤濃度5mMにおいてhNEU2のバンドより低分子両側の位置にラダー状のバンドが、また、Running gel上端付近で濃いバンドがそれぞれ観察された(図2)。このように、電気泳動像において、Running gel上端付近で濃いバンドやラダー状のバンドが観察されたことは、hNEU2とデンドリマーが複数の会合様式で結合していることを示している。デンドリマーのhNEU2への結合に基づき、hNEU2の変性による不活性化が抑制されるという安定化効果が認められたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明はhNEU2の阻害活性及びケミカルシャペロン活性を有するデンドリマー化合物を含む組成物を提供する。本発明は、hNEU2関連疾患の治療法の開発などに利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式(I)で表されるチオシアロオリゴ糖結合デンドリマー化合物若しくはその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物、及び薬理学上許容される担体を含む、ヒトノイラミニダーゼ2(hNEU2)の阻害剤。
【化1】


(式中、E及びEは、炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかであり、互いに同一でも異なっていてもよく、R、Rは、同一又は異なった炭化水素基を示し、R、R及びRは酸素、窒素及び/又はカルボニル基を含んでもよい同一又は異なった炭化水素鎖を示し、Yはチオシアロオリゴ糖残基若しくは他の置換基であって少なくとも1つはチオシアロオリゴ糖残基を示し、lは0〜2の整数であり、mは0〜2の整数であり、kは0又は1の数を示し、kが0のときは3−mは1である)
【請求項2】
及びRが同一又は異なる炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基、ビニル基、又はアルケニル基である請求項1に記載のhNEU2阻害剤。
【請求項3】
、R及びRが同一又は異なり、アミド結合を含んでもよく、炭素数1〜6の直鎖アルキル基、アルキレン基、又はアルケニレン基、又はアルコキシレン基(オキシアルキレン基)である請求項1又は請求項2に記載のhNEU2阻害剤。
【請求項4】
及びEがケイ素である請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のhNEU2阻害剤。
【請求項5】
がフェニル基又はメチル基、Rが−C3H6−、−C3H6−O−C3H6−又は−C3H6C5H8−NHCOC5H10−、Rが−C5H10−、Yが以下の置換基
【化2】


のずれかである請求項4に記載のhNEU2阻害剤。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のhNEU2阻害剤を含む、hNEU2に対しケミカルシャペロン効果を示す組成物。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかに記載のhNEU2阻害剤を含む、hNEU2の機能異常に起因する疾患の治療剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−63933(P2013−63933A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204020(P2011−204020)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【出願人】(511227956)
【Fターム(参考)】