説明

ヒトホスファチジルイノシトール3−キナーゼδの阻害剤

PI3Kδ活性を選択的に阻害する化合物を含めた、PI3Kδ活性を阻害する化合物が開示される。この化合物を使用して、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼδアイソフォーム(PI3Kδ)活性を阻害する方法、ならびにPI3Kδが白血球機能において役割を果たす、免疫の障害および炎症などの疾患を治療する方法も開示される。本発明の別の態様は、好中球によって媒介される医学的状態を治療する方法であって、その必要のある哺乳動物に、好中球中のホスファチジルイノシトール3−キナーゼδ(PI3Kδ)活性を選択的に阻害する、治療有効量の化合物を投与するステップを含む方法を提供することである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3K)酵素、より詳細には、PI3Kδ活性の選択的阻害剤、およびそのような阻害剤を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3’−リン酸化ホスホイノシチドを介する細胞シグナル伝達は、様々な細胞過程、例えば、悪性形質転換、成長因子シグナル伝達、炎症、および免疫に関係している(概説については、Ramehら、J. Biol Chem、274巻:8347〜8350頁(1999年)を参照されたい)。これらのリン酸化シグナル伝達産物の生成に関与する酵素は、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3−キナーゼ;PI3K)である。PI3Kは、ウイルス性オンコプロテイン、およびホスファチジルイノシトール(PI)をリン酸化する成長因子受容体チロシンキナーゼ、およびイノシトール環の3’−ヒドロキシルでのそのリン酸化誘導体に関連する活性として最初に同定された(Panayotouら、Trends Cell Biol 2巻:358〜60頁(1992年))。
【0003】
PI3キナーゼ活性化の一次産物であるホスファチジルイノシトール−3,4,5−三リン酸(PIP3)のレベルは、様々なアゴニストで細胞を処理すると増大する。したがって、PI3キナーゼ活性化は、細胞成長、分化、およびアポトーシスを含めた様々な細胞応答に関与すると考えられている(Parkerら、Current Biology、5巻:577〜99頁(1995年);Yaoら、Science、267巻:2003〜05頁(1995年))。PI3キナーゼ活性化の後に産生されるリン酸化脂質の下流標的は十分に特徴づけられていないが、新たに現れている証拠は、プレクストリン相同ドメイン含有タンパク質、およびFYVEフィンガードメイン含有タンパク質は、様々なホスファチジルイノシトール脂質に結合しているとき活性化されることを示す(Sternmarkら、J Cell Sci、112巻:4175〜83頁(1999年);Lemmonら、Trends Cell Biol、7巻:237〜42頁(1997年))。インビトロで、プロテインキナーゼC(PKC)のいくつかのアイソフォームは、PIP3によって直接活性化され、PKC関連プロテインキナーゼ、PKBは、PI3キナーゼによって活性化されることが示された(Burgeringら、Nature、376巻:599〜602頁(1995年))。
【0004】
現在、PI3キナーゼ酵素ファミリーは、その基質特異性に基づいて3つのクラスに分けられている。クラスIのPI3Kは、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルイノシトール−4−ホスフェート、およびホスファチジルイノシトール−4,5−ビホスフェート(PIP2)をリン酸化することによって、それぞれ、ホスファチジルイノシトール−3−ホスフェート(PIP)、ホスファチジルイノシトール−3,4−ビホスフェート、およびホスファチジルイノシトール−3,4,5−トリホスフェートを生成することができる。クラスIIのPI3Kは、PIおよびホスファチジルイノシトール−4−ホスフェートをリン酸化する一方で、クラスIIIのPI3Kは、PIのみをリン酸化することができる。
【0005】
PI3キナーゼの最初の精製および分子クローニングにより、これは、p85およびp110サブユニットからなるヘテロ二量体であることが明らかになった(Otsuら、Cell、65巻:91〜104頁(1991年);Hilesら、Cell、70巻:419〜29頁(1992年))。その時以来、4つの異なるクラスIのPI3Kが同定され、PI3Kα、β、δ、およびγと指定されており、それぞれは、異なる110kDaの触媒サブユニットおよび調節サブユニットからなる。より具体的には、触媒サブユニットのうちの3つ、すなわち、p110α、p110β、およびp110γは、それぞれ同じ調節サブユニット、p85と相互作用し、一方、p110γは、異なる調節サブユニット、p101と相互作用する。以下に説明するように、ヒトの細胞および組織におけるこれらのPI3Kのそれぞれの発現パターンも異なる。一般に、PI3キナーゼの細胞機能についての豊富な情報が蓄積されてきているが、個々のアイソフォームによって果たされる役割は、大部分は未知である。
【0006】
ウシp110αのクローニングが記載されている。このタンパク質は、Saccharomyces cerevisiaeのタンパク質:Vps34p、液胞タンパク質のプロセシングに関与するタンパク質に関係するとして同定された。組換え型のp110α産物も、p85αと結合することによって、形質移入されたCOS−1細胞におけるPI3K活性を生じることが示された。Hilesら、Cell、70巻、419〜29頁(1992年)を参照されたい。
【0007】
p110βと指定された第2のヒトp110アイソフォームのクローニングは、Huら、Mol Cell Biol、13巻:7677〜88頁(1993年)に記載されている。このアイソフォームは、細胞中でp85と結合し、遍在的に発現されると言われているが、これは、p110β mRNAは、多数のヒト組織およびマウス組織において、ならびにヒト臍帯静脈内皮細胞、ジャーカットヒト白血病T細胞、293ヒト胚の腎細胞、マウス3T3線維芽細胞、HeLa細胞、およびNBT2ラット膀胱癌細胞において見出されるためである。そのような広い発現は、p110βアイソフォームは、シグナル伝達経路において明らかに重要であることを示す。
【0008】
PI3キナーゼのp110δアイソフォームの同定は、Chantryら、J Biol Chem、272巻:19236〜41頁(1997年)に記載されている。ヒトp110δアイソフォームは、組織に制限された様式で発現されることが観察された。これは、リンパ球およびリンパ組織中で高濃度で発現され、このタンパク質は、免疫系におけるPI3キナーゼ媒介シグナル伝達において役割を果たすことができることを示している。P110δアイソフォームに関する詳細は、特許文献1、特許文献2、および特許文献3にも見出すことができ、それぞれ参照により本明細書に組み込まれている。Vanhaesebroeckら、Proc Natl Acad Sci USA、94巻:4330〜5頁(1997年)、および特許文献4も参照されたい。
【0009】
PI3Kα、β、およびδサブタイプのそれぞれにおいて、p85サブユニットは、標的タンパク質における、そのSH2ドメインのリン酸化チロシン残基(適切な配列関係中に存在する)との相互作用によって、PI3キナーゼを原形質膜に局在させるように作用する(Ramehら、Cell、83巻:821〜30頁(1995年))。p85の2つのアイソフォーム、すなわち、遍在的に発現されるp85α、ならびに脳およびリンパ組織中に主に見出されるp85βが同定された(Voliniaら、Oncogene、7巻:789〜93頁(1992年))。p85サブユニットがPI3キナーゼp110α、β、またはδ触媒サブユニットに結合することが、これらの酵素の触媒活性および安定性のために必要であると思われる。さらに、Rasタンパク質の結合もPI3−キナーゼ活性を上方制御する。
【0010】
p110γのクローニングにより、酵素のPI3Kファミリー内のなおさらなる複雑性が明らかになった(Stoyanovら、Science、269巻:690〜93頁(1995年))。p110γアイソフォームは、p110αおよびp110βと密接に関係するが(触媒ドメインにおいて45〜48%の同一性)、述べたように、標的化サブユニットとしてp85を利用しない。代わりに、p110γは、そのアミノ末端付近に「プレクストリン相同性ドメイン」と呼ばれる追加のドメインを含有する。このドメインは、p110γとヘテロ三量体Gタンパク質のβγサブユニットとの相互作用を可能にし、この相互作用は、その活性を調節するように思われる。
【0011】
PI3Kγに対するp101調節サブユニットは、ブタにおいて最初にクローン化され、ヒトオルソログが引き続いて同定された(Krugmannら、J Biol Chem、274巻:17152〜8頁(1999年))。p101のN末端領域とp110γのN末端領域との相互作用は、上述したGβγを通じたPI3Kγ活性化にとって極めて重要であると思われる。
【0012】
構造的に活性なPI3Kポリペプチドは、特許文献5に記載されている。この刊行物では、キメラ融合タンパク質の調製物が開示されており、この調製物において、SH2間(iSH2)領域として公知であるp85の102残基断片が、マウスp110のN末端にリンカー領域を介して融合している。このp85 iSH2ドメインは、無傷のp85に匹敵する様式でPI3K活性を明らかに活性化することができる(Klippelら、Mol Cell Biol、14巻:2675〜85頁(1994年))。
【0013】
したがって、PI3キナーゼは、そのアミノ酸同一性、またはその活性によって定義することができる。この増大しつつある遺伝子ファミリーの追加のメンバーには、Saccharomyces cerevisiaeのVps34 TOR1、TOR2(ならびに、FRAPおよびmTORなどのその哺乳動物相同体)、毛細血管拡張性運動失調遺伝子産物(ATR)、ならびにDNA依存性プロテインキナーゼ(DNA−PK)の触媒サブユニットを含めたより遠縁の脂質ならびにプロテインキナーゼが含まれる。一般に、Hunter、Cell、83巻:1〜4頁(1995)を参照されたい。
【0014】
PI3キナーゼはまた、白血球活性化のいくつかの局面に関与していると思われる。p85結合性PI3キナーゼ活性は、CD28の細胞質ドメインに物理的に関連することが示されており、これは、抗原に対する応答におけるT細胞の活性にとって重要な共刺激分子である(Pagesら、Nature、369巻:327〜29頁(1994年);Rudd、Immunity、4巻:527〜34頁(1996年))。CD28を介したT細胞の活性化は、抗原による活性化に対する閾値を下げ、増殖反応の規模および継続時間を増大させる。これらの効果は、重要なT細胞成長因子である、インターロイキン−2(IL2)を含めたいくつかの遺伝子の転写の増大に関連する(Fraserら、Science、251巻:313〜16頁(1991年))。CD28が、PI3キナーゼともはや相互作用することができないようなCD28の突然変異により、IL2産生の開始の失敗に至り、T細胞活性化におけるPI3キナーゼについての極めて重要な役割を示している。
【0015】
酵素のファミリーの個々のメンバーに対する特定の阻害剤は、各酵素の解読機能についての貴重はツールを提供する。2つの化合物、すなわちLY294002およびワートマニンは、PI3キナーゼ阻害剤として広く使用されている。しかし、これらの化合物は、非特異的PI3K阻害剤であり、その理由はこれらが、クラスIのPI3キナーゼの4つのメンバーを区別しないためである。例えば、様々なクラスIのPI3キナーゼのそれぞれに対するワートマニンのIC50値は、1〜10nMの範囲である。同様に、これらのPI3キナーゼのそれぞれに対するLY294002についてのIC50値は、約1μMである。(Frumanら、Ann Rev Biochem、67巻:481〜507頁(1998年))。したがって、個々のクラスIのPI3キナーゼの役割を研究することにおける、これらの化合物の有用性は限られている。
【0016】
【化1】

ワートマニンを使用した研究に基づくと、PI3キナーゼ機能は、Gタンパク質共役受容体を通じた白血球シグナル伝達のいくつかの局面についても必要とされるという証拠が存在する(Thelenら、Proc Natl Acad Sci USA、91巻:4960〜64頁(1994年))。さらに、ワートマニンおよびLY294002は、好中球移動およびスーパーオキシド放出を遮断することが示された。しかし、これらの化合物は、PI3Kの様々なアイソフォームを区別しないので、どの特定の1つまたは複数のPI3Kアイソフォームがこれらの現象に関与しているかが不明確なままである。
【0017】
最近の刊行物は、PI3Kδについての選択的阻害剤が公知であり、これらは、ある特定の型の障害を治療することができることを実証している。PI3Kδの選択的阻害剤は、例えば、特許文献6;特許文献7;特許文献8;および特許文献9、ならびに公開された特許文献10、ならびに特許文献11、特許文献12、および特許文献13に開示されている。
【0018】
特許文献12には、PI3Kδの選択的阻害剤が開示され、これらは、癌および肉腫などの固形腫瘍、ならびに血管系またはリンパ細網系を伴う癌、骨髄腫および白血病などのリンパ腫および血液癌を治療するのに有用であることが示されている。これは、PI3Kδの選択的阻害剤は、腫瘍増殖速度および血管新生を著しく低減し、放射線療法と併用すると、PI3Kδ阻害剤は、腫瘍血管系発生を低減することに関して顕著な相乗効果を有したことを実証している。したがって、本発明の化合物は、血管新生を阻害することによって腫瘍を治療するのに有用であり、これらは、他の腫瘍治療と併用することによって、相乗効果をもたらすことができる。
【0019】
Puri、Current Enz. Inhibition、2巻、147〜61頁(2006年)には、通常の造血細胞の増殖に影響することのない、選択的PI3Kδ阻害剤による急性骨髄性白血病細胞増殖の阻害が開示されている。これには、そのような阻害剤は、高血圧の動物モデルにおいて有効であるという証拠も記載されている。
【0020】
Leeら、FASEB J.、20巻、455〜65頁(2006年)には、PI3Kδの阻害により、マウス喘息モデルにおいてアレルギー性気道炎症および応答性亢進が減弱するという証拠が記載されており、PI3Kδの選択的阻害剤は、喘息およびアレルギー反応、ならびに免疫不全を治療するのに有用であることを実証している。Billottetら、Oncogene 1〜12頁(2006年)には、PI3Kδの小分子阻害剤は、急性骨髄性白血病(AML)培養において細胞増殖を阻害し、AML細胞に対する、広く使用されているAML化学療法剤VP16の細胞毒性効果を増強したことが報告されている。したがってこれは、選択的なPI3Kδ阻害剤は、造血癌を治療するのに有用であり、他の治療剤と相乗的であることを実証する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】米国特許第5,858,753号明細書
【特許文献2】米国特許第5,822,910号明細書
【特許文献3】米国特許第5,985,589号明細書
【特許文献4】国際公開第97/46688号
【特許文献5】国際公開第96/25488号
【特許文献6】米国特許第6,518,277号明細書
【特許文献7】米国特許第6,667,300号明細書
【特許文献8】米国特許第6,949,535号明細書
【特許文献9】米国特許第6,800,620号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第2006/0106038号明細書
【特許文献11】国際公開第2005/113554号
【特許文献12】国際公開第2005/112935号
【特許文献13】国際公開第2005/113556号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
いくつかの選択的なPI3Kδ阻害剤がこのように公知であるが、癌などの増殖性障害、ならびに過剰または破壊性の免疫反応、例えば、喘息、関節リウマチ、多発性硬化症、およびループスなどを治療するのに有用な追加の治療剤についての必要性が残っている。本発明は、PI3Kδの強力な阻害剤であり、δアイソフォームに対して非常に選択的であり、PI3Kの他のアイソフォームに対して活性がはるかに小さい新規の化合物を提供する。これらの化合物は、リンパ腫、白血病、および過剰な免疫応答障害を含めた、造血細胞、特にリンパ球および白血球の過剰な活性、蓄積または産生と関連した障害を治療するのに有用である。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の一態様は、ヒトPI3Kδの生物活性を阻害することができる化合物を提供することである。本発明の別の態様は、他のPI3Kアイソフォームと比較して選択的にPI3Kδを阻害し、良好なバイオアベイラビリティーを有する化合物を提供することである。本発明のさらに別の態様は、ヒトPI3Kδ活性を選択的に調節する方法を提供し、それによってPI3Kδ機能または機能不全によって媒介される疾患の医療を促進することである。本発明のさらに別の態様は、ヒトPI3Kδの機能を特徴づける方法を提供することである。
【0024】
本発明の別の態様は、白血球機能を混乱させる方法であって、白血球を、白血球中のホスファチジルイノシトール3−キナーゼδ(PI3Kδ)活性を選択的に阻害する化合物と接触させるステップを含む方法を提供することである。白血球は、好中球、Bリンパ球、Tリンパ球、および好塩基球からなる群から選択される細胞を含むことができる。
【0025】
例えば、白血球が好中球を含む場合では、この方法は、刺激性(stimulated)スーパーオキシド放出、刺激性エキソサイトーシス、および走化性移動からなる群から選択される、少なくとも1つの好中球機能を混乱させるステップを含む。この方法は、好中球による細菌貪食または殺菌を実質的に混乱させないことが好ましい。白血球がBリンパ球を含む場合では、この方法は、Bリンパ球の増殖、またはBリンパ球による抗体産生を混乱させるステップを含む。白血球がTリンパ球を含む場合では、この方法は、Tリンパ球の増殖を混乱させるステップを含む。白血球が好塩基球を含む場合では、この方法は、好塩基球によるヒスタミン放出を混乱させるステップを含む。
【0026】
本方法では、PI3Kδ阻害剤は選択的であることが好適である。PI3Kδ阻害剤は、生化学アッセイ法において、他のタイプIのPI3Kアイソフォームと比べて、PI3Kδの阻害に関して少なくとも約10倍選択的であることが好適である。この化合物は、生化学アッセイ法において、他のタイプIのPI3Kアイソフォームと比べて、PI3Kδの阻害に関して少なくとも約20倍選択的であることが好ましく、30倍選択的であることがより好ましい。いくつかの実施形態では、この化合物は、生化学アッセイ法において、PI3Kαと比べて、PI3Kδの阻害に関して少なくとも50倍選択的である。
【0027】
本発明の化合物は、PI3Kδ活性を阻害することができ、構造式(I)を有し:
【0028】
【化2】

[式中、U、V、W、およびZは、独立して、CR、N、NR、およびOからなる群から選択され、
またはU、V、W、およびZのうちの少なくとも1つはNであり、U、V、W、およびZのうちのその他は、CR、NR、S、およびOからなる群から選択され、
U、V、W、およびZのうちのすべてではないが少なくとも1つはCRと異なり;
Aは、環員として少なくとも2つの窒素原子を含有する、場合により置換された単環式もしくは二環式の環系であり、系の少なくとも1つの環は芳香族であり;
Xは、C(R、C(RC(R、CHCHR、CHRCHR、CHRCH、CH=C(R)、C(R)=C(R)、およびC(R)=CHからなる群から選択され;
Yは、なし(すなわち、結合)、S、SO、SO、NH、N(R)、O、C(=O)、OC(=O)、C(=O)O、およびNHC(=O)CHSからなる群から選択され;
は、H、置換または非置換のC1〜10アルキル、置換または非置換のC2〜10アルケニル、置換または非置換のC2〜10アルキニル、置換または非置換のC1〜6ペルフルオロアルキル、置換または非置換のC3〜8シクロアルキル、置換または非置換のC3〜8ヘテロシクロアルキル、置換または非置換のC1〜4アルキレンC3〜8シクロアルキル、置換または非置換のアリール、置換または非置換のヘテロアリール、置換または非置換のアリールC1〜4アルキレンOR、置換または非置換のヘテロアリールC1〜4アルキレンN(R、置換または非置換のヘテロアリールC1〜4アルキレンOR、置換または非置換のC1〜3アルキレンヘテロアリール、置換または非置換のC1〜3アルキレンアリール、置換または非置換のアリールC1〜6アルキル、アリールC1〜4アルキレンN(R、C1〜4アルキレンC(=O)C1〜4アルキレンアリール、C1〜4アルキレンC(=O)C1〜4アルキレンヘテロアリール、C1〜4アルキレンC(=O)ヘテロアリール、C1〜4アルキレンC(=O)N(R、C1〜6アルキレンOR、C1〜4アルキレンNRC(=O)R、C1〜4アルキレンOC1〜4アルキレンOR、C1〜4アルキレンN(R、C1〜4アルキレンC(=O)OR、およびC1〜4アルキレンOC1〜4アルキレンC(=O)ORからなる群から選択され;
は、独立して、H、置換または非置換のC1〜6アルキル、置換または非置換のC3〜8シクロアルキル、置換または非置換のC3〜8ヘテロシクロアルキル、置換または非置換のアリール、C1〜3アルキレンアリール、置換または非置換のヘテロアリール、置換または非置換のヘテロアリールC1〜3アルキル、置換または非置換のC1〜3アルキレンヘテロアリール、ハロ、NHC(=O)C1〜3アルキレンN(R、NO、OR、CF、OCF、N(R、CN、OC(=O)R、C(=O)R、C(=O)OR、アリールOR、NRC(=O)C1〜3アルキレンC(=O)OR、アリールOC1〜3アルキレンN(R、アリールOC(=O)R、C1〜4アルキレンC(=O)OR、OC1〜4アルキレンC(=O)OR、C1〜4アルキレンOC1〜4アルキレンC(=O)OR、C(=O)NRSO、C1〜4アルキレンN(R、C2〜6アルケニレンN(R、C(=O)NR1〜4アルキレンOR、C(=O)NR1〜4アルキレンヘテロアリール、OC1〜4アルキレンN(R、OC1〜4アルキレンCH(OR)CHN(R、OC1〜4アルキレンヘテロアリール、OC2〜4アルキレンOR、OC2〜4アルキレンNRC(=O)OR、NR1〜4アルキレンN(R、NRC=O)R、NRC(=O)N(R、N(SO1〜4アルキル)、NR(SO1〜4アルキル(alkl))、SON(R、OSOCF、C1〜3アルキレンアリール、C1〜4アルキレンヘテロアリール(alkyleneeteroaryl)、C1〜6アルキレンOR、C(=O)N(R、NHC(=O)C1〜3アルキレンアリール、アリールOC1〜3アルキレンN(R、アリールOC(=O)R、NHC(=O)C1〜3アルキレンC3〜8ヘテロシクロアルキル、NHC(=O)C1〜3アルキレンヘテロアリール、OC1〜4アルキレン(alklene)OC1〜4アルキレンC(=O)OR、C(=O)C1〜4アルキレンヘテロアリール、およびNHC(=O)ハロC1〜6アルキルからなる群から選択され;
は、なし、H、置換または非置換のC1〜6アルキル、置換または非置換のC3〜8シクロアルキル、置換または非置換のC3〜8ヘテロシクロアルキル(heterocyclolkyl)、置換または非置換のアリール、置換または非置換のアリールC1〜3アルキル、C1〜3アルキレンアリール、置換または非置換のヘテロアリール、ヘテロアリールC1〜3アルキル、置換または非置換のC1〜3アルキレンヘテロアリール、C(=O)R、C(=O)OR、アリールOR、アリールOC1〜3アルキレンN(R、アリールOC(=O)R、C1〜4アルキレンC(=O)OR、C1〜4アルキレンOC1〜4アルキレンC(=O)OR、C(=O)NRSO、C1〜4アルキレンN(R、C2〜6アルケニレンN(R、C(=O)NR1〜4アルキレンOR、C(=O)NR1〜4アルキレンヘテロアリール、SON(R、C1〜3アルキレンアリール、C1〜4アルキレンヘテロアリール、C1〜6アルキレンOR、C1〜3アルキレンN(R、C(=O)N(R、アリールOC1〜3アルキレンN(R、アリールOC(=O)R、およびC(=O)C1〜4アルキレンヘテロアリールからなる群から選択され;
は、独立して、H、置換または非置換のC1〜10アルキル、置換または非置換のC3〜8シクロアルキル、置換または非置換のC3〜8ヘテロシクロアルキル、置換または非置換のC1〜4アルキレンN(R、置換または非置換のC1〜3アルキレンヘテロC1〜3アルキル、置換または非置換のアリールヘテロC1〜3アルキル、置換または非置換のアリール、置換または非置換のヘテロアリール、置換または非置換のアリールC1〜3アルキル、置換または非置換のヘテロアリールC1〜3アルキル、C1〜3アルキレンアリール、置換または非置換のC1〜3アルキレンヘテロアリール、C(=O)R、およびC(=O)ORからなる群から選択され、
または同じ原子上もしくは隣接する結合した原子上の2つのRは、環化することによって3〜8環員を有する環を形成することができ、この環は場合により置換されており、環員としてNR、OおよびSから選択される最大2個のヘテロ原子を含むことができ;
は、H、置換または非置換のC1〜10アルキル、置換または非置換のC2〜10アルケニル、置換または非置換のC2〜10アルキニル、置換または非置換のC3〜8シクロアルキル、置換または非置換のC3〜8ヘテロシクロアルキル、置換または非置換のC1〜3アルキレンN(R、アリール、置換または非置換のアリールC1〜3アルキル、置換または非置換のC1〜3アルキレンアリール、置換または非置換のヘテロアリール、置換または非置換のヘテロアリールC1〜3アルキル、および置換または非置換のC1〜3アルキレンヘテロアリールからなる群から選択され;
または2つのR基は、これらが結合している窒素と一緒になって、N、OもしくはSである第2のヘテロ原子を場合により含有する、5員環もしくは6員環を形成し;
は、H、置換または非置換のC1〜6アルキル、置換または非置換のC3〜8シクロアルキル、置換または非置換のアリール、および置換または非置換のヘテロアリールからなる群から選択され、
または2つのR基は、これらが結合している窒素と一緒になって、N、OもしくはSである第2のヘテロ原子を場合により含有する、5員環もしくは6員環を形成し;
前記A、R、R、R、R、およびRは、独立して、C1〜10アルキル、C2〜10アルケニル、C2〜10アルキニル、C3〜8シクロアルキル、C3〜8ヘテロシクロアルキル、C1〜6アルキレンOR、C1〜4アルキレンN(R、アリール、C1〜3アルキレンアリール、ヘテロアリール、C(=O)OR、C(=O)R、OC(=O)R、ハロ、CN、CF、NO、N(R、OR、OC1〜6ペルフルオロアルキル(perfluoralkyl)、OC(=O)N(R、C(=O)N(R、SR、SO、SO、オキソ(=O)、およびCHOからなる群から選択される1〜3個の置換基で場合により置換されており;
nは、0または1である];または
その薬学的に許容できる塩、もしくはプロドラッグ、もしくは溶媒和物(例えば、水和物)である。
【0029】
本発明の別の態様は、好中球によって媒介される医学的状態を治療する方法であって、その必要のある哺乳動物に、好中球中のホスファチジルイノシトール3−キナーゼδ(PI3Kδ)活性を選択的に阻害する、治療有効量の化合物を投与するステップを含む方法を提供することである。この方法によって治療することができる例示的な医学的状態には、刺激性スーパーオキシド放出、刺激性エキソサイトーシス、および走化性移動からなる群から選択される望ましくない好中球機能を特徴とする状態が含まれる。この方法によって、好中球による食作用活性または殺菌は、実質的に阻害されないことが好ましい。
【0030】
本発明のさらに別の態様は、破骨細胞の機能を混乱させる方法であって、破骨細胞を、破骨細胞中のPI3Kδ活性を選択的に阻害する化合物と接触させるステップを含む方法を提供することである。この方法によれば、この化合物は、骨に優先的に結合する部分を含む。
【0031】
本発明の別の態様は、骨吸収障害を回復させる必要のある哺乳動物において、骨吸収障害を回復させる方法であって、この哺乳動物に、哺乳動物の破骨細胞中のPI3Kδ活性を阻害する、治療有効量の化合物を投与するステップを含む方法を提供することである。この方法による治療に適用できる好適な骨吸収障害は、骨粗鬆症である。
【0032】
本発明の別の態様は、過剰な免疫応答または望まれない免疫応答を回復させる必要のある哺乳動物において、過剰な免疫応答または望まれない免疫応答を回復させる方法であって、この哺乳動物に、哺乳動物の破骨細胞中のPI3Kδ活性を阻害する、治療有効量の化合物を投与するステップを含む方法を提供することである。式(I)の化合物を用いて治療可能な過剰な免疫応答または望まれない免疫応答の例として、それだけに限らないが、喘息、関節リウマチ、エリテマトーデス、および多発性硬化症が挙げられる。他のそのような障害として、障害、例えば、自己免疫性甲状腺炎、多発性硬化症、いくつかの型の糖尿病、およびレイノー症候群など;移植片拒絶障害、例えば、GVHDおよび同種移植拒絶反応など;慢性糸球体腎炎;炎症性腸疾患、例えば、慢性炎症性腸疾患(CIBD)、クローン病、潰瘍性大腸炎、および壊死性全腸炎など;炎症性皮膚疾患、例えば接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、乾癬、またはじん麻疹など;感染による発熱および筋肉痛が挙げられる。
【0033】
本発明のさらに別の態様は、造血起源の癌細胞の成長または増殖を阻害する方法であって、癌細胞を、癌細胞中のPI3Kδ活性を選択的に阻害する化合物と接触させるステップを含む方法を提供することである。この方法は、リンパ腫、多発性骨髄腫、および白血病からなる群から選択される癌の成長または増殖を阻害することにおいて有利となり得る。
【0034】
本発明の別の態様は、PI3Kδポリペプチドのキナーゼ活性を阻害する方法であって、PI3Kδポリペプチドを、構造式(I)を有する化合物と接触させるステップを含む方法を提供することである。
【0035】
本発明のさらに別の態様は、白血球機能を混乱させる方法であって、白血球を、構造式(I)を有する化合物と接触させるステップを含む方法を提供することである。
【0036】
本発明の別の態様は、生化学的アッセイ法および細胞に基づくアッセイ法においてPI3Kδ活性を阻害し、PI3Kδ活性が過剰であるか、望ましくない医学的状態を治療することにおいて治療上の利点を示す、構造式(I)を有する化合物を提供することである。
【0037】
本発明のこれらおよび他の態様および利点は、選択された実施形態の以下の詳細な説明から明らかとなり、これらを本発明の範囲を限定することなく、本発明の理解を高めるために提供する。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明は、PI3Kδの活性を選択的に阻害する化合物を提供する。本発明は、細胞、特に白血球、破骨細胞、および癌細胞中のPI3Kδアイソザイムの活性を選択的に調節する方法を含めた、PI3Kδ活性を阻害する方法をさらに提供する。この方法には、インビトロ、インビボ、およびエクスビボでの適用が含まれる。
【0039】
臨床状況においてPI3Kδ活性を選択的に調節する方法の特定の利点は、PI3Kδ活性によって媒介される疾患または障害を回復させることである。したがって、過剰または不適切なPI3Kδ活性を特徴とする疾患または障害の治療は、PI3Kδの選択的モジュレーターを投与することによって治療することができる。
【0040】
さらに、本発明は、選択的なPI3Kδ阻害剤を含む医薬組成物を提供する。選択的なPI3Kδ阻害剤化合物(または、この化合物を含む医薬組成物)、およびこの化合物を使用するための指示書を含む製品も提供される。本発明の他の方法は、アイソザイムの生理的役割のさらなる特徴づけを可能にすることを含む。
【0041】
本明細書に記載される方法は、インビトロ、インビボ、またはエクスビボの細胞を含めた細胞中のPI3Kδの活性を選択的に阻害し、好ましくは特異的に阻害する化合物を使用して恩恵を得る。本発明の方法によって処置される細胞には、内因性のPI3Kδを発現するものが含まれ、ここで内因性は、細胞が、PI3Kδポリペプチドまたはその生物学的に活性な断片をコードする1つまたは複数のポリヌクレオチドを細胞中に組換え導入することなく、PI3Kδを発現することを示す。本方法は、外因性のPI3Kδを発現する細胞の使用も包含し、ここでPI3Kδまたはその生物学的に活性な断片をコードする1つまたは複数のポリヌクレオチドが、組換え手順を使用して細胞中に導入されている。
【0042】
細胞は、インビボ、すなわち、生存対象、例えば、ヒトを含めた哺乳動物中とすることができ、PI3Kδ阻害剤を治療的に使用することによって、対象中のPI3Kδ活性を阻害することができる。あるいは、細胞は、エクスビボ法またはインビトロ法のために、別々の細胞として、または組織中で単離することができる。本発明によって包含されるインビトロ法は、PI3Kδ酵素またはその生物学的に活性な断片を、本発明の阻害剤化合物と接触させるステップを含むことができる。PI3Kδ酵素は、精製および単離された酵素を含むことができ、酵素は、天然源(例えば、組換え技術によって改変することなくPI3Kδポリペプチドを通常発現する細胞もしくは組織)から単離され、または外因性酵素を発現させるために組換え技法によって改変された細胞から単離される。
【0043】
用語「選択的なPI3Kδ阻害剤」は、本明細書で使用する場合、PI3Kファミリーの他のアイソザイムより有効にPI3Kδアイソザイムを阻害する化合物を指す。「選択的なPI3Kδ阻害剤」化合物は、従来より一般的にPI3K阻害剤と称される化合物、例えば、ワートマニンまたはLY294002よりPI3Kδに関して選択的であると理解される。同時に、ワートマニンおよびLY294002は、「非選択的なPI3K阻害剤」とみなされる。さらに、本発明の化合物は、PI3Kδの発現または活性を選択的に負に制御し、本発明の治療法において使用するのに許容できる薬理学的特性を有する。
【0044】
酵素活性(または他の生物活性)の阻害剤としての化合物の相対的効力は、それぞれの化合物が既定の程度に活性を阻害する濃度を求め、次いで結果を比較することによって確立することができる。一般に、好適な判定は、生化学アッセイ法において活性を50%阻害する濃度、すなわち、50%阻害濃度、すなわち「IC50」である。IC50判定は、当技術分野で公知の従来の技法を使用して実現することができる。一般に、IC50は、試験中の様々な濃度の阻害剤の存在下で、所与の酵素の活性を測定することによって求めることができる。次いで、実験的に得られた酵素活性の値は、使用される阻害剤濃度に対してプロットされる。50%の酵素活性(いずれの阻害剤も存在しない状態での活性と比較した場合)を示す阻害剤の濃度が、IC50値として採用される。類似して、他の阻害濃度を、活性の適切な判定によって定義することができる。例えば、いくつかの状況において、90%阻害濃度、すなわち、IC90を確立することが望ましい場合がある。
【0045】
本発明の化合物は、約10μM以下のPI3Kδに対してIC50値を示す。いくつかの実施形態において、化合物は、5μM未満のPI3Kδに対してIC50を有する。他の実施形態では、この化合物は、1μm未満、例えば、1nmに下がってまでのPI3Kδに対するIC50を有する。
【0046】
したがって、「選択的なPI3Kδ阻害剤」は代わりに、他のクラスIのPI3Kファミリーメンバーのいずれか、またはすべてに対する50%阻害濃度(IC50)より、少なくとも10分の1、好ましくは少なくとも20分の1、より好ましくは少なくとも30分の1低い、PI3Kδに対するIC50値を示す化合物を指すと理解することができる。用語「特異的なPI3Kδ阻害剤」は、他のPI3KクラスIファミリーメンバーのいずれか、またはすべてに対するIC50より、少なくとも50分の1、好ましくは少なくとも100分の1、より好ましくは少なくとも200分の1、さらにより好ましくは少なくとも500分の1低い、PI3Kδに対するIC50を示す選択的なPI3Kδ阻害剤化合物を指すと理解することができる。
【0047】
したがって、最も好適な本発明の化合物は、PI3Kδに対して低いIC50値を有し(すなわち、強力な阻害剤である)、他のPI3Kアイソフォームと比較して、PI3Kδを阻害することに関して選択的である。
【0048】
一実施形態では、本発明は、白血球機能を阻害する方法を提供する。より詳細には、本発明は、好中球ならびにTリンパ球およびBリンパ球の機能を阻害または抑制する方法を提供する。好中球に関して、PI3Kδ活性の阻害により、好中球の機能が阻害されることが予想外に見出された。例えば、本発明の化合物は、古典的な好中球機能、例えば、刺激性スーパーオキシド放出、刺激性エキソサイトーシス、および走化性移動などの阻害を誘発することが観察された。しかし、本発明の方法により、好中球の他の機能に実質的に影響することなく、これらの細胞のある特定の機能の抑制が可能になることがさらに観察された。例えば、好中球による細菌の食作用は、本発明の選択的なPI3Kδ阻害剤化合物によって実質的に阻害されないことが観察された。
【0049】
したがって、本発明は、細菌の食作用を実質的に阻害することなく、好中球機能を阻害する方法を含む。本方法によって阻害するのに適した好中球機能には、PI3Kδの活性または発現によって媒介される任意の機能が含まれる。そのような機能として、限定することなく、刺激性スーパーオキシド放出、刺激性エキソサイトーシスまたは脱顆粒、走化性移動、血管内皮への接着(例えば、好中球の連結/回転、好中球活性の誘発、および/もしくは好中球の内皮へのラッチング(latching))、経壁血管外遊出、または内皮を介した周辺組織への遊出が挙げられる。一般に、これらの機能は、「炎症性機能」と一括して呼ぶことができるが、その理由はこれらが、炎症に対する好中球応答に一般に関係するためである。好中球の炎症性機能は、これらの細胞によって示される殺菌機能、例えば、細菌の食作用および殺害と区別することができる。したがって、本発明は、好中球の1つまたは複数の炎症性機能が、異常であるか、望ましくない疾患状態を治療する方法をさらに含む。
【0050】
PI3Kδが、B細胞およびT細胞を含めたリンパ球の刺激性増殖において役割を果たすことがさらに立証された。さらに、PI3Kδは、B細胞による抗体の刺激性分泌において役割を果たすと思われる。本発明の選択的なPI3Kδ阻害剤化合物を使用することによって、これらの現象を、PI3Kδの阻害によって阻止することができることを立証した。したがって、本発明は、リンパ球増殖を阻害する方法、およびBリンパ球による抗体産生を阻害する方法を含む。本発明によって可能になる他の方法には、これらのリンパ球機能の1つまたは複数が異常であるか、望ましくない疾患状態を治療する方法が含まれる。
【0051】
PI3Kδ活性を選択的または特異的に阻害することによって、PI3Kδ媒介性疾患の治療を促進する一方で、一般に、他のクラスIのPI3キナーゼの活性の同時阻害に関連する合併症を低減または排除することができることがこれまでに判定された。この実施形態を例示するために、本発明の方法は、他のPI3Kアイソフォームと比べて、PI3Kδの選択的な阻害を示すことが見出された化合物のクラスのメンバーを使用して実践することができる。
【0052】
本発明の方法は、一般的な構造式(I)を有する化合物を使用して実践することができる。好適な方法では、他のPI3Kアイソフォームと比べて、少なくとも10倍選択的なPI3Kδの阻害を示すことが判定された化合物が使用される。
【0053】
例えば、この方法は、以下の化合物を使用して実践することができる:
6−[1−(6−アミノ−プリン−9−イル)−エチル]−3−ブロモ−1−メチル−5−フェニル−1,5−ジヒドロ−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−4−オン;
3−ブロモ−1−メチル−5−フェニル−6−[(1−(9H−プリン−6−イルスルファニル)−エチル]−1,5−ジヒドロ−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−4−オン;
3−メチル−5−フェニル−6−(9H−プリン−6−イルスルファニルメチル)−5H−イソオキサゾロ[5,4−d]ピリミジン−4−オン;
6−(6−アミノ−プリン−6−イルメチル)−3−メチル−5−フェニル−5H−イソオキサゾロ[5,4−d]ピリミジン−4−オン;
2−[1−(4−アミノ−ベンゾイミダゾール−1−イル)−エチル]−3−フェニル−3H−ピリド[3,2−d]ピリミジン−4−オン;
3−フェニル−2−[1−(9H−プリン−6−イルアミノ)−エチル]−3H−ピリド[3,2−d]−ピリミジン−4−オン;
およびこれらの混合物。
【0054】
不斉中心を有する構造式(I)の化合物については、この方法は、化合物のラセミ混合物、または特定の鏡像異性体を使用して実践してもよい。RがHではない場合のCHRなど、Xが不斉中心を表す場合、S鏡像異性体は時に好適である。
【0055】
本発明の方法を、PI3Kδ阻害活性を示す化合物のクラスのメンバーを使用して実践し、それによって、PI3Kδ活性によって媒介される疾患におけるPI3Kδ活性の阻害を促進することができる。特に、本発明の方法は、一般的な構造式(I)を有する化合物:
【0056】
【化3】

[式中、U、V、W、およびZは、独立して、CR、N、NR、およびOからなる群から選択され、
またはU、V、W、およびZのうちの少なくとも1つはNであり、U、V、W、およびZのうちのその他は、CR、NR、S、およびOからなる群から選択され、
U、V、W、およびZのうちのすべてではないが少なくとも1つはCRと異なり;
Aは、環員として少なくとも2つの窒素原子を含有する、場合により置換された単環式もしくは二環式の環系であり、系の少なくとも1つの環は芳香族であり;
Xは、C(R、C(RC(R、CHCHR、CHRCHR、CHRCH、CH=C(R)、C(R)=C(R)およびC(R)=CHからなる群から選択され;
Yは、なし(すなわち、結合)、S、SO、SO、NH、N(R)、O、C(=O)、OC(=O)、C(=O)O、およびNHC(=O)CHSからなる群から選択され;
は、H、置換または非置換のC1〜10アルキル、置換または非置換のC2〜10アルケニル、置換または非置換のC2〜10アルキニル、置換または非置換のC1〜6ペルフルオロアルキル、置換または非置換のC3〜8シクロアルキル、置換または非置換のC3〜8ヘテロシクロアルキル、置換または非置換のC1〜4アルキレンC3〜8シクロアルキル、置換または非置換のアリール、置換または非置換のヘテロアリール、置換または非置換のアリールC1〜4アルキレンOR、置換または非置換のヘテロアリールC1〜4アルキレンN(R、置換または非置換のヘテロアリールC1〜4アルキレンOR、置換または非置換のC1〜3アルキレンヘテロアリール、置換または非置換のC1〜3アルキレンアリール、置換または非置換のアリールC1〜6アルキル、アリールC1〜4アルキレンN(R、C1〜4アルキレンC(=O)C1〜4アルキレンアリール、C1〜4アルキレンC(=O)C1〜4アルキレンヘテロアリール、C1〜4アルキレンC(=O)ヘテロアリール、C1〜4アルキレンC(=O)N(R、C1〜6アルキレンOR、C1〜4アルキレンNRC(=O)R、C1〜4アルキレンOC1〜4アルキレンOR、C1〜4アルキレンN(R、C1〜4アルキレンC(=O)OR、およびC1〜4アルキレンOC1〜4アルキレンC(=O)ORからなる群から選択され;
は、独立して、H、置換または非置換のC1〜6アルキル、置換または非置換のC3〜8シクロアルキル、置換または非置換のC3〜8ヘテロシクロアルキル、置換または非置換のアリール、C1〜3アルキレンアリール、置換または非置換のヘテロアリール、置換または非置換のヘテロアリールC1〜3アルキル、置換または非置換のC1〜3アルキレンヘテロアリール、ハロ、NHC(=O)C1〜3アルキレンN(R、NO、OR、CF、OCF、N(R、CN、OC(=O)R、C(=O)R、C(=O)OR、アリールOR、NRC(=O)C1〜3アルキレンC(=O)OR、アリールOC1〜3アルキレンN(R、アリールOC(=O)R、C1〜4アルキレンC(=O)OR、OC1〜4アルキレンC(=O)OR、C1〜4アルキレンOC1〜4アルキレンC(=O)OR、C(=O)NRSO、C1〜4アルキレンN(R、C2〜6アルケニレンN(R、C(=O)NR1〜4アルキレンOR、C(=O)NR1〜4アルキレンヘテロアリール、OC1〜4アルキレンN(R、OC1〜4アルキレンCH(OR)CHN(R、OC1〜4アルキレンヘテロアリール、OC2〜4アルキレンOR、OC2〜4アルキレンNRC(=O)OR、NR1〜4アルキレンN(R、NRC=O)R、NRC(=O)N(R、N(SO1〜4アルキル)、NR(SO1〜4アルキル)、SON(R、OSOCF、C1〜3アルキレンアリール、C1〜4アルキレンヘテロアリール、C1〜6アルキレンOR、C(=O)N(R、NHC(=O)C1〜3アルキレンアリール、アリールOC1〜3アルキレンN(R、アリールOC(=O)R、NHC(=O)C1〜3アルキレンC3〜8ヘテロシクロアルキル、NHC(=O)C1〜3アルキレンヘテロアリール、OC1〜4アルキレンOC1〜4アルキレンC(=O)OR、C(=O)C1〜4アルキレンヘテロアリール、およびNHC(=O)ハロC1〜6アルキルからなる群から選択され;
は、なし、H、置換または非置換のC1〜6アルキル、置換または非置換のC3〜8シクロアルキル、置換または非置換のC3〜8ヘテロシクロアルキル、置換または非置換のアリール、置換または非置換のアリールC1〜3アルキル、C1〜3アルキレンアリール、置換または非置換のヘテロアリール、ヘテロアリールC1〜3アルキル、置換または非置換のC1〜3アルキレンヘテロアリール、C(=O)R、C(=O)OR、アリールOR、アリールOC1〜3アルキレンN(R、アリールOC(=O)R、C1〜4アルキレンC(=O)OR、C1〜4アルキレンOC1〜4アルキレンC(=O)OR、C(=O)NRSO、C1〜4アルキレンN(R、C2〜6アルケニレンN(R、C(=O)NR1〜4アルキレンOR、C(=O)NR1〜4アルキレンヘテロアリール、SON(R、C1〜3アルキレンアリール、C1〜4アルキレンヘテロアリール、C1〜6アルキレンOR、C1〜3アルキレンN(R、C(=O)N(R、アリールOC1〜3アルキレンN(R、アリールOC(=O)R、およびC(=O)C1〜4アルキレンヘテロアリールからなる群から選択され;
は、独立して、H、置換または非置換のC1〜10アルキル、置換または非置換のC3〜8シクロアルキル、置換または非置換のC3〜8ヘテロシクロアルキル、置換または非置換のC1〜4アルキレンN(R、置換または非置換のC1〜3アルキレンヘテロC1〜3アルキル、置換または非置換のアリールヘテロC1〜3アルキル、置換または非置換のアリール、置換または非置換のヘテロアリール、置換または非置換のアリールC1〜3アルキル、置換または非置換のヘテロアリールC1〜3アルキル、C1〜3アルキレンアリール、置換または非置換のC1〜3アルキレンヘテロアリール、C(=O)R、およびC(=O)ORからなる群から選択され、
または同じ原子上もしくは隣接する結合した原子上の2つのRは、環化することによって3〜8環員を有する環を形成することができ、この環は場合により置換されており、環員としてNR、OおよびSから選択される最大2個のヘテロ原子を含むことができ;
は、H、置換または非置換のC1〜10アルキル、置換または非置換のC2〜10アルケニル、置換または非置換のC2〜10アルキニル、置換または非置換のC3〜8シクロアルキル、置換または非置換のC3〜8ヘテロシクロアルキル、置換または非置換のC1〜3アルキレンN(R、アリール、置換または非置換のアリールC1〜3アルキル、置換または非置換のC1〜3アルキレンアリール、置換または非置換のヘテロアリール、置換または非置換のヘテロアリールC1〜3アルキル、および置換または非置換のC1〜3アルキレンヘテロアリールからなる群から選択され;
または2つのR基は、これらが結合している窒素と一緒になって、N、OもしくはSである第2のヘテロ原子を場合により含有する、5員環もしくは6員環を形成し;
は、H、置換または非置換のC1〜6アルキル、置換または非置換のC3〜8シクロアルキル、置換または非置換のアリール、および置換または非置換のヘテロアリールからなる群から選択され
または2つのR基は、これらが結合している窒素と一緒になって、N、OもしくはSである第2のヘテロ原子を場合により含有する、5員環もしくは6員環を形成し;
前記A、R、R、R、R、およびRは、独立して、C1〜10アルキル、C2〜10アルケニル、C2〜10アルキニル、C3〜8シクロアルキル、C3〜8ヘテロシクロアルキル、C1〜6アルキレンOR、C1〜4アルキレンN(R、アリール、C1〜3アルキレンアリール、ヘテロアリール、C(=O)OR、C(=O)R、OC(=O)R、ハロ、CN、CF、NO、N(R、OR、OC1〜6ペルフルオロアルキル、OC(=O)N(R、C(=O)N(R、SR、SO、SO、オキソ(=O)、およびCHOからなる群から選択される1〜3個の置換基で場合により置換されており;
nは、0または1である];または
その薬学的に許容できる塩、もしくはプロドラッグ、もしくは溶媒和物(例えば、水和物)を使用して実践することができる。
【0057】
本発明の化合物は、PI3Kδ活性の選択的阻害剤である。この化合物は、生化学アッセイ法においてPI3Kδの阻害を示し、細胞に基づくアッセイ法においてPI3Kδ発現細胞の機能を選択的に混乱させる。本明細書に記載されるように、本化合物は、好中球および他の白血球中のある特定の機能、ならびに破骨細胞の機能を阻害する能力を実証した。
【0058】
本明細書で使用する場合、用語「アルキル」は、指定された数の炭素原子を含有する直鎖もしくは分岐の炭化水素基、または環式炭化水素基、一般にメチル、エチル、ならびに直鎖および分岐のプロピルおよびブチル基、ならびにシクロプロピル、シクロペンチルおよびシクロヘキシル基、ならびに直鎖、分岐鎖および環式の基の組合せ、例えば、シクロプロピルメチルおよびノルボルニルとして定義される。炭化水素基は、最大16個の炭素原子、好ましくは1〜8個の炭素原子を含有することができる。用語「アルキル」は、環式、二環式、および「架橋アルキル(bridged alkyl)」、すなわち、C〜C16二環式もしくは多環式炭化水素基、例えば、ノルボルニル、アダマンチル、ビシクロ[2.2.2]オクチル、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル、ビシクロ[3.2.1]オクチル、またはデカヒドロナフチルを含む。用語「シクロアルキル」は、環式のC〜C炭化水素基、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロヘキシル、およびシクロペンチルとして定義される。
【0059】
用語「アルケニル」は、炭化水素基が少なくとも1つの炭素間二重結合を含有することを除いて「アルキル」とまったく同様に定義される。用語「アルキニル」は、炭化水素基が少なくとも1つの炭素間三重結合を含有することを除いて「アルキル」とまったく同様に定義される。「シクロアルケニル」は、少なくとも1つの炭素間二重結合が環内に存在することを除いて、シクロアルキルと同様に定義される。
【0060】
用語「ペルフルオロアルキル」は、各水素原子が、フッ素で置換されているアルキル基として定義される。
【0061】
用語「アルキレン」は、置換基を有するアルキル基として定義され、例えば、用語「C1〜3アルキレンアリール」は、1〜3個の炭素原子を含有し、アリール基で置換されたアルキル基を指す。同様に、「アルキレン」は、別の基の記述を伴うことなく使用されるとき、二価のアルキル基を指すことができ、これは、2つの他の構造的な特徴を一緒に連結することができ、例えば、CHおよび(CHは、1炭素および3炭素のアルキレン基である。
【0062】
用語「ハロ」または「ハロゲン」は、フッ素、臭素、塩素、およびヨウ素を含むことが本明細書で定義される。多くの場合、フルオロまたはクロロが好適である。
【0063】
用語「ハロアルキル」は、1つまたは複数のハロ置換基、フルオロ、クロロ、ブロモ、ヨード、またはこれらの組合せで置換されたアルキル基として本明細書で定義される。同様に、「ハロシクロアルキル」は、1つまたは複数のハロ置換基を有するシクロアルキル基として定義される。
【0064】
用語「アリール」は、単独または組合せで、単環式または多環式の芳香族基、好ましくは、単環式または二環式の芳香族基、例えば、フェニルまたはナフチルとして本明細書で定義される。別段の指定のない限り、「アリール」基は非置換であってもよく、または例えば、1つもしくは複数の、特に、1〜3個のハロ、アルキル、フェニル、ヒドロキシアルキル、アルコキシ、アルコキシアルキル、ハロアルキル、ニトロ、アミノ、アルキルアミノ、アシルアミノ、アルキルチオ、アルキルスルフィニル、およびアルキルスルホニルで置換されてもよい。例示的なアリール基として、フェニル、ナフチル、ビフェニル、テトラヒドロナフチル、クロロフェニル、フルオロフェニル、アミノフェニル、メチルフェニル、メトキシフェニル、トリフルオロメチルフェニル、ニトロフェニル、カルボキシフェニルなどが挙げられる。用語「アリールC1〜6アルキル」および「ヘテロアリールC1〜6アルキル」は、C1〜6アルキル置換基を有するアリールまたはヘテロアリール基として定義される。
【0065】
用語「ヘテロアリール」は、1つまたは2つの芳香環を含有し、芳香環中に少なくとも1個の窒素、酸素、または硫黄原子を含有する単環式または二環式の環系として本明細書で定義され、これは、非置換であってもよく、または例えば、1つもしくは複数の、特に、1〜3個の置換基、例えば、ハロ、アルキル、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、アルコキシ、アルコキシアルキル、ハロアルキル、ニトロ、アミノ、アルキルアミノ、アシルアミノ、アルキルチオ、アルキルスルフィニル、およびアルキルスルホニルなどで置換されてもよい。ヘテロアリール基の例として、チエニル、フリル、ピリジル、オキサゾリル、キノリル、イソキノリル、インドリル、トリアゾリル、イソチアゾリル、イソオキサゾリル、イミダゾリル、ベンゾチアゾリル、ピラジニル、ピリミジニル、チアゾリル、およびチアジアゾリルが挙げられる。
【0066】
用語「C3〜8ヘテロシクロアルキル」は、酸素、窒素、および硫黄からなる群から選択される、1つまたは複数のヘテロ原子を含有する単環式の環系として定義される。「C3〜8ヘテロシクロアルキル」基は、環に結合したオキソ基(=O)も含有することができる。「C3〜8ヘテロシクロアルキル」基の非限定例として、1,3−ジオキソラン、2−ピラゾリン、ピラゾリジン、ピロリジン、ピペラジン、ピロリン、2H−ピラン、4H−ピラン、モルホリン、チオホリン(thiopholine)、ピペリジン、1,4−ジチアン、および1,4−ジオキサンが挙げられる。
【0067】
用語「ヒドロキシ」は−OHとして定義される。
【0068】
用語「アルコキシ」−ORとして定義され、式中、RはC1〜C8アルキル、C2〜C8アルケニルまたはC2〜C8アルキニルであり、それぞれのアルキル、アルケニルおよびアルキニル基は、場合により置換されている。
【0069】
用語「アルコキシアルキル」は、水素がアルコキシ基によって置換されているアルキル基として定義される。用語「(アルキルチオ)アルキル」は、酸素原子ではなく硫黄原子が存在することを除いて、アルコキシアルキルと同様に定義される。
【0070】
用語「ヒドロキシアルキル」は、アルキル基に付加したヒドロキシ基として定義される。
【0071】
用語「アミノ」は、−NHとして定義され、用語「アルキルアミノ」は−NRとして定義され、式中、少なくとも1つのRはアルキルであり、第2のRはアルキルまたは水素である。
【0072】
用語「アシルアミノ」は、RC(=O)Nとして定義され、式中、Rはアルキルまたはアリールである。
【0073】
用語「アルキルチオ」は、−SRとして定義され、式中、Rはアルキルである。
【0074】
用語「アルキルスルフィニル」は、R−SOとして定義され、式中、Rはアルキルである。
【0075】
用語「アルキルスルホニル」は、R−SOとして定義され、式中、Rはアルキルである。
【0076】
用語「アミノ」は、−NHとして定義され、用語「アルキルアミノ」は、−NRとして定義され、式中、少なくとも1つのRは、アルキル、アルケニルまたはアルキニルであり、第2のRは、アルキル、アルケニル、アルキニルまたは水素である。
【0077】
用語「アシルアミノ」は、RC(=O)Nとして定義され、式中、Rは、アルキル、アルケニル、アルキニル、またはアリール、ヘテロアリール、またはヘテロシリル(heterocylyl)である。
【0078】
用語「ニトロ」は、−NOとして定義される。
【0079】
用語「トリフルオロメチル」は、−CFとして定義される。
【0080】
用語「トリフルオロメトキシ」は、−OCFとして定義される。
【0081】
用語「シアノ」は、−CNとして定義される。
【0082】
アルキル、アルケニルおよびアルキニル基は、置換が化学的に理にかなう程度に置換されていることが多い。一般的な置換基として、それだけに限らないが、ハロ、=O、=N−CN、=N−OR、=NR、OR、NR、SR、SOR、SONR、NRSOR、NRCONR、NRCOOR、NRCOR、CN、COOR、CONR、OOCR、COR、およびNOが挙げられ、式中、各Rは、独立して、H、C1〜C8アルキル、C2〜C8ヘテロアルキル、C1〜C8アシル、C2〜C8ヘテロアシル、C2〜C8アルケニル、C2〜C8ヘテロアルケニル、C2〜C8アルキニル、C2〜C8ヘテロアルキニル、C6〜C10アリール、またはC5〜C10ヘテロアリールであり、各Rは、ハロ、=O、=N−CN、=N−OR’、=NR’、OR’、NR’、SR’、SOR’、SONR’、NR’SOR’、NR’CONR’、NR’COOR’、NR’COR’、CN、COOR’、CONR’、OOCR’、COR’、およびNOで場合により置換されており、式中、各R’は、独立して、H、C1〜C8アルキル、C2〜C8ヘテロアルキル、C1〜C8アシル、C2〜C8ヘテロアシル、C6〜C10アリールまたはC5〜C10ヘテロアリールである。アルキル、アルケニルおよびアルキニル基はまた、C1〜C8アシル、C2〜C8ヘテロアシル、C6〜C10アリールまたはC5〜C10ヘテロアリールによって置換されてもよく、そのそれぞれは、特定の基について適切である置換基によって置換されてもよい。
【0083】
アリール部分およびヘテロアリール部分は、C1〜C8アルキル、C2〜C8アルケニル、C2〜C8アルキニル、C5〜C12アリール、C1〜C8アシル、およびこれらのヘテロ型(heteroform)を含めた様々な置換基で置換されてもよく、そのそれぞれは、それ自体さらに置換されてもよく、アリール部分およびヘテロアリール部分についての他の置換基として、ハロ、OR、NR、SR、SOR、SONR、NRSOR、NRCONR、NRCOOR、NRCOR、CN、COOR、CONR、OOCR、COR、およびNOが挙げられ、式中、各Rは、独立して、H、C1〜C8アルキル、C2〜C8ヘテロアルキル、C2〜C8アルケニル、C2〜C8ヘテロアルケニル、C2〜C8アルキニル、C2〜C8ヘテロアルキニル、C6〜C10アリール、C5〜C10ヘテロアリール、C7〜C12アリールアルキル、またはC6〜C12ヘテロアリールアルキルであり、各Rは、アルキル基について上述したように場合により置換されている。アリールまたはヘテロアリール基上の置換基はもちろん、そのような置換基のそれぞれの型、または置換基のそれぞれの成分について適当である場合、本明細書に記載された基でさらに置換されてもよい。したがって、例えば、アリールアルキル置換基は、アリール基について一般的である場合、本明細書に記載された置換基で、アリール部分上で置換されてもよく、これは、アルキル基について一般的または適当である場合、本明細書に記載された置換基で、アルキル部分上でさらに置換されてもよい。
【0084】
「ヘテロ型」は、本明細書で使用する場合、修飾されたアルキル、アルケニル、アリールなどを指し、N、OおよびSから選択される、少なくとも1個のヘテロ原子が、記述されている炭化水素基中の少なくとも1個の炭素原子に取って代わる。
【0085】
式(I)の化合物の好適な実施形態では、Xが、CH、CHCH、CH=CH、CH(CH)、CH(CHCH)、CHCH(CH)、およびC(CHからなる群から選択される。さらなる好適な実施形態では、Yは、なし(すなわち、Yがなく、したがってこれはXとAの間の結合を表す)、S、およびNHからなる群から選択される。
【0086】
XがCH(CH)またはCH(CHCH)であるなど、Xが不斉炭素を含有する場合、XのS鏡像異性体を使用することが好ましいことが多い。他の実施形態では、R鏡像異性体を使用することができる。
【0087】
いくつかの実施形態では、XはCHRまたはCHRCHRであり、YはNRであり、R基のうちの2つは環化して環を形成する。そのような実施形態においてXがキラルである場合、ある特定の実施形態では、S鏡像異性体が好適であることが多く、いくつかの実施形態では、R鏡像異性体が好適である。いくつかのそのような実施形態では、−X−Y−が一緒になって、以下のような環を表すことができる。
【0088】
【化4】

A環は、単環式であっても二環式であってもよい。単環式のA環系は芳香族である。二環式のA環系は、少なくとも1つの芳香環を含有するが、両方の環が芳香族であってもよい。A環系の例として、それだけに限らないが、イミダゾリル、ピラゾリル、1,2,3−トリアゾリル、ピリジジニル、ピリミジニル、ピラジニル、1,3,5−トリアジニル、プリニル、シンノリニル、フタラジニル、キナゾリニル、キノキサリニル、1,8−ナフチリジニル、プテリジニル、1H−インダゾリル、およびベンゾイミダゾリルが挙げられる。Aのいくつかの好適な実施形態は、少なくとも1つのピリミジン環を含み、例えば、これらには、プリンおよびプテリジン環系、ならびにイミダゾールピリミジン、ピラゾロピリミジン、およびピロロピリミジンが含まれる。
【0089】
構造式(I)のいくつかの好適な化合物では、Aは、以下のものからなる基から選択される、場合により置換された環系によって表される。
【0090】
【化5】

【0091】
【化6】

A環系は、N(R、ハロ、C1〜3ハロアルキル、C1〜3アルキル、S(C1〜3アルキル)、およびORからなる群から選択される、1〜3個、好ましくは1個または2個の置換基で場合により置換されてもよい。特定の置換基として、それだけに限らないが、NH、NH(CH)、N(CH、NHCH、NH(C)、Cl、F、CH、CF、SCH、およびOHが挙げられる。
【0092】
特に好適なA環には以下のものが含まれる
【0093】
【化7】

以下の環系について、
【0094】
【化8】

好適な実施形態では、nは0である。好適な環系の例として、それだけに限らないが、以下のものが挙げられる。
【0095】
【化9】

【0096】
【化10】

環系は非置換であり(すなわち、RおよびRはヒドロである)、またはこれらは、アリールもしくはヘテロアリール基について適当な置換基、好ましくはC1〜6アルキル、ハロ、C1〜6アルコキシ、CF、C3〜8シクロアルキル、アリール、もしくはヘテロアリールのうちの1つもしくは複数で置換されてもよい。V、W、およびZを含有する環が置換されている場合、1つまたは2つの置換基によって置換されていることが多い。いくつかの実施形態では、置換基は、Vによって表される原子上にあり、いくつかの実施形態では、これは、Wによって表される原子上にある。
【0097】
好適な実施形態では、式(I)中のRは、場合により置換されたC1〜6アルキル、アリール、ヘテロアリール、C3〜8シクロアルキル、C3〜8ヘテロシクロアルキル、C1〜4アルキレンC3〜8ヘテロシクロアルキル、C1〜4アルキレンシクロアルキル、およびC1〜4アルキレンアリールからなる群から選択される。特定のR基として、それだけに限らないが、場合により置換された形態の以下のものが挙げられる。
【0098】
【化11】

【0099】
【化12】

基は、1〜3個の置換基、例えば、ハロ、OR、C1〜6アルキル、C2〜6アルケニル、C2〜6アルキニル、アリール、C3〜8ヘテロシクロアルキル、ヘテロアリール、C1〜4アルキレンOR、CF、NO、N(R、C(=O)OR、SON(R、CN、C(=O)R、C1〜4アルキレンN(R、OC1〜4ペルフルオロアルキル、オキソ、およびCHOで置換されてもよい。R基についての具体的な置換基として、それだけに限らないが、Cl、F、CH、CH(CH、OH、OCH、(CHN(CH、CHC≡CH、C(=O)NH、C、NO、NH、およびCOHが挙げられる。いくつかの実施形態では、Rは、フェニル基、ヘテロアリール基、またはC3〜8シクロアルキルまたはC3〜8ヘテロシクロアルキルであることが好ましく、そのそれぞれは、非置換であるか、最大3個の置換基で置換されている。
【0100】
本明細書で使用する場合、ピリミジン−4−オン環状構造は、5,6−縮合二環式または6,6−縮合二環式の系とすることができ、環状構造の以下の番号付けが便宜上使用される。
【0101】
【化13】

プリン環状構造が、式(I)中の基Aとして場合によって存在し、便宜上、その環状構造の番号付けは以下の通りである。
【0102】
【化14】

Aがプリンを表す場合、これは、プリンの位置9でYに場合により結合しており、これは、プリンの位置6で場合により結合している。Aが、プリン環の位置6でYに結合しているとき、Yは、S、NHまたはNRを表すことが多く、プリン基は、例えば、アミンによって位置9でさらに置換されていることが多い。
【0103】
生物系は、化合物の絶対立体化学的性質に対して非常に感度のよい活性を示すことができることが一般に認められている。E.J. Ariens、Medicinal Research Reviews、6巻:451〜466頁(1986年);E.J. Ariens、Medicinal Research Reviews、7巻:367〜387頁(1987年); K.W. Fowler、Handbook of Stereoisomers: Therapeutic Drugs、CRC Press、Donald P. Smith編、35〜63頁(1989年);およびS.C. Stinson、Chemical and Engineering News、75巻:38〜70頁(1997年)を参照されたい。
【0104】
したがって、本発明は、不斉中心を有する構造式(I)の化合物のすべての可能な立体異性体および幾何異性体を含み、ラセミ化合物だけでなく、光学的に活性な異性体も同様に含む。
【0105】
構造式(I)の化合物が、単一の鏡像異性体として望まれる場合、これは、最終生成物の分割、または異性体的に(isomerically)純粋な出発材料からの、もしくはキラルな補助試薬を使用した立体特異的な合成によって得ることができる。例えば、Z. Maら、Tetrahedron:Asymmetry、8巻(6号)、883〜888頁(1997年)を参照されたい。最終生成物、中間体、または出発材料の分割は、当技術分野で公知である任意の適当な方法によって実現することができる。特定の立体異性体は、PI3Kδのキナーゼ活性を阻害する優れた能力を示す。
【0106】
用語「プロドラッグ」は、本明細書で使用する場合、例えば、加水分解によって、インビボで急速に変換されて構造式(I)または(II)を有する化合物になる化合物を指す。プロドラッグの設計は、一般に、Hardmaら(編)、Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics、9版、11〜16頁(1996年)に論じられている。プロドラッグの徹底的な考察は、Higuchiら、Prodrugs as Novel Delivery Systems、14巻、ASCD Symposium Series、およびRoche(編)、「Bioreversible Carriers in Drug Design」、American Pharmaceutical Association and Pergamon Press(1987)に提供されている。
【0107】
簡単に言えば、薬物の投与の後に、体からの排除、または何らかの生体内変換が続き、それによって薬物の生物活性が低減または排除される。あるいは、生体内変換プロセスにより、最初に投与された薬物と比較してそれ自体より活性であるか、等しく活性である代謝的な副生成物が導かれる場合がある。これらの生体内変換プロセスの理解が増すことにより、いわゆる「プロドラッグ」の設計が可能になり、これは、生体内変換の後、その変化した状態においてより生理的に活性となる。したがって、プロドラッグは、生物学的に活性な代謝産物に変換される薬理学的に不活性な化合物を包含する。
【0108】
例えば、プロドラッグは、例えば、エステルまたはアミド連結の加水分解を通じて薬理学的に活性な形態に変換され、それによって、得られる生成物上に官能基を導入または露出することができる。プロドラッグは、内因性化合物と反応することによって、化合物の薬理学的特性をさらに増強する、例えば循環半減期を増加させる水溶性コンジュゲートを形成するように設計することができる。あるいは、プロドラッグは、例えば、グルクロン酸、スルフェート、グルタチオン、アミノ酸、またはアセテートと、官能基上で共有結合性修飾を起こすように設計することができる。得られたコンジュゲートは、不活化し、尿中に排泄するか、親化合物より強力にすることができる。高分子量コンジュゲートはまた、胆汁中に排泄し、酵素切断を施し、循環中に復帰させ、それによって最初に投与された化合物の生物学的半減期を有効に増加させることができる。
【0109】
PI3Kδ活性の負の調節因子を同定する方法
PI3Kδタンパク質、ならびに生物活性を有するその断片を、任意の様々な薬物スクリーニング技法で、想定される負の調節因子化合物をスクリーニングするのに使用することができる。PI3Kδの負の調節因子は、PI3Kδの、その生物学的機能のいずれかを実施する能力を縮小し、または無効にする化合物である。そのような化合物の例は、PI3Kδポリペプチドのホスファチジルイノシトールをリン酸化し、または細胞内で適切な構造を標的にする能力を減少させる作用剤である。PI3Kδ活性を負に調節する化合物の選択性は、PI3Kδに対するその活性を、他のタンパク質に対するその活性と比較することによって評価することができる。選択的な負の調節因子には、例えば、PI3Kδポリペプチドに特異的に結合する抗体および他のタンパク質またはペプチド、PI3Kδポリペプチドに特異的に結合するオリゴヌクレオチド、ならびにPI3Kδポリペプチドと特異的に相互作用する他の非ペプチド化合物(例えば、単離された有機分子または合成有機分子)が含まれる。負の調節因子には、上述した通りであるが、PI3Kδポリペプチドの特定の結合パートナーと相互作用する化合物も含まれる。
【0110】
PI3Kδの選択的な負の調節因子の開発に現在好適な標的として、例えば、以下のものが挙げられる:
(1)細胞内で他のタンパク質に接触し、かつ/またはPI3Kδを局在化させるPI3Kδポリペプチドの細胞質領域;
(2)特定の結合パートナーを結合するPI3Kδポリペプチドの領域;
(3)基質を結合するPI3Kδポリペプチドの領域;
(4)調節シグナルに対して活性部位と直接相互作用することができるか、またはできないPI3Kδポリペプチドのアロステリック調節部位;
(5)多量体化を媒介するPI3Kδポリペプチドの領域。
【0111】
例えば、モジュレーターの開発のための1つの対象は、p110δ部分の活性化および/または細胞内局在化に関与することができる、p85とp110δの同定された調節相互作用である。さらなる他の選択的なモジュレーターには、特定の調節ヌクレオチド配列またはPI3Kδをコードするヌクレオチド配列を認識するものが含まれる。PI3Kδ活性のモジュレーターは、異常なPI3Kδ活性が関与する広範囲の疾患および生理的状態の治療において、治療上有効となり得る。
【0112】
したがって、本発明は、PI3Kδポリペプチドの阻害剤としての試験化合物の効力を特徴づける方法であって、(a)試験化合物の存在下でPI3Kδポリペプチドの活性を測定するステップと;(b)試験化合物の存在下でのPI3Kδポリペプチドの活性を、等価な量の参照化合物(例えば、本発明のPI3Kδ阻害剤化合物)の存在下でのPI3Kδポリペプチドの活性と比較するステップとを含み、参照物の存在下より、試験化合物の存在下でのPI3Kδポリペプチドの活性が低いことは、試験化合物が、参照化合物より強力な阻害剤であることを示し、参照物の存在下より、試験化合物の存在下でのPI3Kδポリペプチドの活性が高いことは、試験化合物が、参照化合物より作用の弱い阻害剤であることを示す方法を提供する。
【0113】
本発明は、PI3Kδポリペプチドの阻害剤としての試験化合物の効力を特徴づける方法であって、(a)参照阻害率(percentage of inhibition)によって、PI3Kδポリペプチドの活性を阻害する対照化合物(例えば、本発明のPI3Kδ阻害剤化合物)の量を求め、それによって対照化合物についての参照阻害量(inhibitory amount)を定義するステップと;(b)参照阻害率によって、PI3Kδポリペプチドの活性を阻害する試験化合物の量を求め、それによって試験化合物についての参照阻害量を定義するステップと;(c)試験化合物についての参照阻害量を、対象化合物についての参照阻害量と比較するステップとを含み、対照化合物より、試験化合物についての参照阻害量が低いことは、試験化合物が、対照化合物より強力な阻害剤であることを示し、対照化合物より、試験化合物についての参照阻害量が高いことは、試験化合物が、対象化合物より作用の弱い阻害剤であることを示す方法をさらに提供する。一態様では、この方法は、PI3Kδポリペプチドの活性を50%、60%、70%、または80%阻害する化合物の量である参照阻害量を使用する。別の態様では、この方法は、PI3Kδポリペプチドの活性を90%、95%、または99%阻害する化合物の量である参照阻害量を使用する。これらの方法は、インビトロ生化学アッセイ法、インビトロの細胞に基づくアッセイ法、またはインビボアッセイ法において化合物の参照阻害量を求めるステップを含む。
【0114】
本発明は、PI3Kδ活性の負の調節因子を同定する方法であって、(i)試験化合物の存在下および非存在下でPI3Kδポリペプチドの活性を測定するステップと、(ii)PI3Kδ活性を減少させ、PI3Kδへの結合を、本発明の化合物と競合する試験化合物を負の調節因子として同定するステップとを含む方法をさらに提供する。さらに、本発明は、PI3Kδ活性を阻害する化合物を同定するための方法であって、(i)PI3Kδポリペプチドを、試験化合物の存在下および非存在下で本発明の化合物と接触させるステップと、(ii)試験化合物をPI3Kδ活性の負の調節因子として同定するステップとを含み、この化合物は、PI3Kδへの結合を本発明の化合物と競合する方法を提供する。したがって、本発明は、PI3Kδ活性の候補の負の調節因子をスクリーニングし、かつ/または候補のそのような負の調節因子の作用機序を確認するための方法を提供する。そのような方法は、他のPI3Kアイソフォームに対して並行して使用することによって、アイソフォームすべてにわたって、および/または本発明の化合物と比べて、試験化合物の比較上の活性を確立することができる。
【0115】
これらの方法では、PI3Kδポリペプチドは、キナーゼ活性を示すp110δの断片、すなわち、p110δの触媒部位を含む断片とすることができる。あるいは、PI3Kδポリペプチドは、p85のp110δ結合ドメイン由来の断片とすることができ、PI3Kδのアロステリックモジュレーターを同定するための方法を提供する。この方法は、内因的にまたは外因的に、PI3Kδまたはそのサブユニットを発現する細胞を発現する細胞中で使用することができる。したがって、そのような方法において使用されるポリペプチドは、溶液中で遊離していても、固体支持体に付着しても、細胞表面上にディスプレイされるように修飾されていても、または細胞内に位置していてもよい。その場合、活性の調節、またはPI3Kδポリペプチドと試験されている作用剤との間の結合複合体の形成は測定することができる。
【0116】
ヒトPI3Kポリペプチドは、受容体−リガンド相互作用を調査するためのメラニン保有細胞アッセイシステム、酵母に基づくアッセイシステム、および哺乳動物細胞発現システムを含めた、当技術分野で公知であり、実践されている方法による、生化学的、または細胞に基づくハイスループットスクリーニング(HTS)アッセイ法に適用できる。概説については、Jayawickremeら、Curr Opin Biotechnol、8巻:629〜34頁(1997年)を参照されたい。自動HTSアッセイ法および小型化HTSアッセイ法も例えば、Houstonら、Curr Opin Biotechnol、8巻:734〜40頁(1997年)に記載されているように包含される。
【0117】
そのようなHTSアッセイ法は、化合物のライブラリーをスクリーニングすることによって、所望の特性を示す特定の化合物を同定するのに使用される。化学的ライブラリー、天然産物ライブラリー、およびランダムな、または設計されたオリゴペプチド、オリゴヌクレオチド、または他の有機化合物を含むコンビナトリアルライブラリーを含めた、化合物の任意のライブラリーを使用することができる。化学的ライブラリーは、公知の化合物、公知の化合物の独自の構造的類似体、または天然産物のスクリーニングから同定された化合物を含むことができる。
【0118】
天然産物ライブラリーは、天然源、一般に、微生物、動物、植物、または海洋生物から単離された物質のコレクションである。天然産物は、微生物の発酵、その後の発酵ブロスの単離および抽出によって、あるいは微生物または組織(植物もしくは動物)自体からの直接抽出によって、その供給源から単離される。天然産物ライブラリーは、ポリケチド、非リボソームペプチド、およびそのバリアント(天然に存在しないバリアントを含む)を含む。概説については、Caneら、Science、282巻:63〜68頁(1998年)を参照されたい。
【0119】
コンビナトリアルライブラリーは、多数の関連化合物、例えばペプチド、オリゴヌクレオチド、または混合物としての他の有機化合物などからなる。そのような化合物は、従来の自動合成プロトコール、PCR、クローニング、または独自の合成方法によって設計および調製するのに、相対的に簡単明瞭である。ペプチドおよびオリゴヌクレオチドコンビナトリアルライブラリーが特に興味深い。
【0120】
対象とするさらに他のライブラリーとして、ペプチド、タンパク質、ペプチド模倣体(peptidomimetic)、マルチパラレル(multiparallel)合成コレクション、組換え、およびポリペプチドライブラリーが挙げられる。コンビナトリアル化学の概説、およびそれによって作成されたライブラリーについては、Myers、Curr Opin Biotechnol、8巻:701〜07頁(1997年)を参照されたい。
【0121】
PI3Kδ活性の阻害剤の治療用途
本発明は、治療的または予防的にPI3Kδ活性を選択的または特異的に阻害するための方法を提供する。この方法は、PI3Kδ活性の選択的または特異的な阻害剤を、そのために有効な量で投与するステップを含む。この方法は、症状または病理が、PI3Kδの発現または活性によって媒介される任意の状態であるか、この状態を受けやすくなり得るヒトまたは動物を治療するのに使用することができる。
【0122】
「治療すること」は、本明細書で使用する場合、障害にかかりやすい場合があるが、まだ障害を有すると診断されていない動物において障害が起こることを防止すること;障害を阻害すること、すなわち、その発症を抑止すること;障害を軽減すること、すなわち、その後退を引き起こすこと;または障害を回復させること、すなわち、障害に関連する症状の重症度を低減することを指す。「障害」は、限定することなく、医学的障害、疾患、病状、症候群などを包含するものとする。
【0123】
本発明の方法は、動物対象、好ましくは哺乳動物、より好ましくは霊長類、およびさらにより好ましくはヒトを治療する様々な様式を包含する。治療することができる哺乳動物の中では、例えば、イヌおよびネコを含めたコンパニオンアニマル(ペット);ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、およびヤギを含めた家畜;ラット、マウス、ウサギ、モルモット、および非ヒト霊長類を含めた実験動物;ならびに動物園検体である。非哺乳動物には、例えば、トリ、魚、爬虫類、および両生類が含まれる。
【0124】
本発明の方法は、炎症性障害を有するか、炎症性障害を受けやすくなり得る対象を、治療的または予防的に処置するのに使用することができる。本発明の一態様は、炎症過程の局面を媒介することにおけるPI3Kδの関与に由来する。いずれの理論によっても束縛されることを意図することなく、炎症は、白血球(例えば、好中球またはリンパ球)活性化および走化性移動によって一般に媒介されるプロセスを伴うため、ならびにPI3Kδは、そのような現象を媒介することができるため、PI3Kδのアンタゴニストは、炎症と関連する傷害を抑制するのに使用することができると理論化される。
【0125】
「炎症性障害」は、本明細書で使用する場合、過剰な、または未制御の炎症反応が、過剰な炎症症状、宿主組織損傷、または組織機能の喪失に導く任意の疾患、障害、または症候群を指す。「炎症性障害」は、白血球の流入および/または好中球走化性によって媒介される病的な状態も指す。
【0126】
「炎症」は、本明細書で使用する場合、傷害因子および傷害組織の両方を破壊、希釈、囲繞(隔離)するのに役割を果たす、組織の傷害または破壊によって誘発される局部的、保護的応答を指す。炎症は、白血球の流入および/または好中球走化性と関連する。炎症は、病原体およびウイルスの感染、ならびに、非感染性手段、例えば、心筋梗塞または発作後の外傷または再灌流、外来抗原に対する免疫応答、および自己免疫応答などから生じ得る。したがって、本発明に適用できる炎症性傷害は、特異的な防御系の反応、ならびに非特異的な防御系の反応に関連する傷害を包含する。
【0127】
本明細書で使用する場合、用語「特異的な防御系」は、特異的抗原の存在に反応する免疫系の構成要素を指す。特異的な防御系の応答から生じる炎症の例には、外来抗原に対する古典的な応答、自己免疫疾患、およびT細胞によって媒介される遅延型過敏応答が含まれる。慢性炎症疾患、固体移植組織および固体移植器官、例えば、腎臓移植および骨髄移植の拒絶反応、ならびに移植片対宿主疾患(GVHD)は、特異的な防御系の炎症反応のさらなる例である。
【0128】
用語「非特異的な防御系」は、本明細書で使用する場合、免疫記憶ができない白血球(例えば、顆粒球、およびマクロファージ)によって媒介される炎症性障害を指す。非特異的な防御系の反応から少なくともある程度生じる炎症の例として、成人(急性)呼吸窮迫症候群(ARDS)または多臓器傷害症候群などの状態に関連する炎症;再灌流傷害;急性糸球体腎炎;反応性関節炎;急性炎症性成分を有する皮膚疾患;発作などの急性化膿性髄膜炎または他の中枢神経系炎症性障害;熱傷;炎症性腸疾患;顆粒球輸血関連症候群;およびサイトカイン誘発性毒性が挙げられる。
【0129】
「自己免疫疾患」は、本明細書で使用する場合、組織傷害が、体自体の成分に対する体液性または細胞媒介性応答に関連する、任意の群の障害を指す。「アレルギー性疾患」は、本明細書で使用する場合、アレルギーから生じる任意の症状、組織損傷、または組織機能の喪失を指す。「関節炎疾患」は、本明細書で使用する場合、様々な病因に起因する関節の炎症性病変を特徴とする任意の疾患を指す。「皮膚炎」は、本明細書で使用する場合、様々な病因に起因する皮膚の炎症を特徴とする皮膚疾患の任意の大きいファミリーを指す。「移植片拒絶」は、本明細書で使用する場合、移植組織および周囲組織の機能の喪失、疼痛、腫張、白血球増多症、および血小板減少症を特徴とする、臓器または細胞(例えば、骨髄)などの移植組織に対して向けられた任意の免疫反応を指す。
【0130】
本発明の治療法には、炎症細胞活性化と関連する障害を治療するための方法が含まれる。「炎症細胞活性化」は、炎症細胞(それだけに限らないが、単球、マクロファージ、Tリンパ球、Bリンパ球、顆粒球(すなわち、多形核白血球、例えば好中球、好塩基球、および好酸球など)、肥満細胞、樹状細胞、ランゲルハンス細胞、および内皮細胞を含む)における、増殖性細胞応答の刺激(それだけに限らないが、サイトカイン、抗原、もしくは自己抗体を含む)、可溶性メディエーター(それだけに限らないが、サイトカイン、酸素ラジカル、酵素、プロスタノイド、もしくは血管作用性アミンを含む)の産生、または新規もしくは増加した数のメディエーター(それだけに限らないが、主要な組織適合性抗原もしくは細胞接着分子を含む)の細胞表面発現による誘発を指す。これらの細胞におけるこれらの細胞型の1つまたは組合せの活性化は、炎症性障害の開始、永続化、または増悪の一因となり得ることが当業者によって理解されるであろう。
【0131】
本発明の化合物は、好中球によるスーパーオキシド放出を阻害することが見出された。スーパーオキシドは、細胞殺害の機構として、感染のシグナルを含めた任意の様々な刺激に応答して、好中球によって放出される。例えば、スーパーオキシド放出は、腫瘍壊死因子α(TNFα)によって誘発されることが公知であり、この因子は、リポ多糖(LPS)などの細菌性細胞壁成分と接触すると、マクロファージ、肥満細胞、およびリンパ球によって放出される。TNFαは、炎症過程の極めて強力で無差別のアクチベーターであり、好中球および様々な他の細胞型の活性化、白血球/内皮細胞接着の誘発、発熱、MHCクラスI産生の増強、および血管新生の刺激に関与している。あるいは、スーパーオキシド放出は、ホルミル−Met−Leu−Phe(fMLP)、またはホルミル化メチオニンによってN末端でブロックされた他のペプチドによって刺激することができる。そのようなペプチドは、通常真核生物において見出されないが、基本的に細菌の特性であり、免疫系に対して細菌の存在を知らせる。fMLP受容体を発現する白血球、例えば、好中球およびマクロファージは、刺激されることによって、感染の部位に向けて、これらのペプチドの勾配(gradient)を上って遊走する(すなわち、走化性)。本明細書で実証されるように、本発明の化合物は、TNFαまたはfMLPに応答した好中球による、刺激性スーパーオキシド放出を阻害する。刺激性エキソサイトーシスおよび有向走化性移動(directed chemotactic migration)を含めた好中球の他の機能も、本発明のPI3Kδ阻害剤によって阻害されることが示された。したがって、本発明の化合物は、これらの好中球機能のいずれか、またはすべてによって媒介される、炎症性障害などの障害を治療することにおいて有用であることを予期することができる。
【0132】
本発明は、関節炎疾患、例えば、関節リウマチ、単関節関節炎、骨関節炎、痛風関節炎、脊椎炎など;ベーチェット病;敗血症(sepsis),敗血症ショック、内毒素ショック、グラム陰性敗血症、グラム陽性敗血症、および毒素ショック症候群;敗血症(septicemia)、外傷、または出血に続発する多臓器傷害症候群;眼障害、例えば、アレルギー性結膜炎、春季結膜炎、ブドウ膜炎、および甲状腺関連眼障害など;好酸球性肉芽腫;肺または呼吸器の障害、例えば、喘息、慢性気管支炎、アレルギー性鼻炎、ARDS、慢性肺炎症疾患(例えば、慢性閉塞性肺疾患)、珪肺症、肺サルコイドーシス、胸膜炎、肺胞炎、血管炎、気腫、肺炎、気管支拡張症、および肺酸素毒性など;心筋、脳、または四肢の再灌流傷害;線維症、例えば、嚢胞性線維症など;ケロイド形成または瘢痕組織形成;アテローム性動脈硬化症;自己免疫疾患、例えば、全身性エリテマトーデス(SLE)、自己免疫性甲状腺炎、多発性硬化症、一部の形態の糖尿病、およびレイノー症候群など;移植片拒絶障害、例えば、GVHDおよび同種移植拒絶反応など;慢性の糸球体腎炎;炎症性腸疾患、例えば、慢性炎症性腸疾患(CIBD)、クローン病、潰瘍性大腸炎、および壊死性全腸炎など;炎症性皮膚疾患、例えば、接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、乾癬、またはじん麻疹など;感染による発熱および筋肉痛;中枢神経系または末梢神経系炎症性障害、例えば、髄膜炎、脳炎、および軽微な外傷による脳または脊髄損傷など;シェーグレン症候群;白血球血管外遊出を伴う疾患;アルコール性肝炎;細菌性肺炎;抗原抗体複合体媒介性疾患;循環血液量減少性ショック;I型糖尿病;急性および遅延型過敏症;白血球悪液質および転移による疾患状態;熱傷;顆粒球輸血関連症候群;ならびにサイトカイン誘発性毒性などの疾患を治療する方法を可能にする。
【0133】
この方法は、再灌流傷害、すなわち、組織または臓器が、虚血の期間の後に再灌流を経験する状態から生じる傷害であるか、この傷害を受けやすくなり得る対象を治療することにおいて有用性を有することができる。用語「虚血」は、動脈血の流入の閉塞による局所組織貧血を指す。一過性虚血の後の再灌流は、患部における血管の内皮を通じた好中球の活性化および遊出を特徴的にもたらす。活性化好中球の蓄積により、次に反応性の酸素代謝産物が生成され、これは、関わった組織または臓器のコンポーネントに損傷を与える。この「再灌流傷害」の現象は、血管発作(全体的虚血および局所的虚血を含む)、出血性ショック、心筋虚血または心筋梗塞、臓器移植、ならびに脳血管れん縮などの状態に一般に関連する。例えば、再灌流傷害は、心臓バイパス処置の終結時、または心臓が一旦血液を受け入れるのを妨げられ、再灌流し始める場合の心停止の間に起こる。PI3Kδ活性の阻害によりそのような状態における再灌流傷害の量が低減すると予期される。
【0134】
神経系に関して、全体的虚血は、脳全体への血流がある期間止まるとき起こる。全体的虚血は、心停止から生じ得る。局所的虚血は、脳の一部が、その通常の血液供給を奪われるとき起こる。局所的虚血は、脳血管の血栓塞栓性(thromboembolytic)閉塞、外傷性頭部損傷、浮腫、または脳腫瘍から生じる場合がある。一過性であっても、全体的および局所的虚血の両方は、広範な神経細胞損傷を引き起こす場合がある。神経組織損傷は、虚血の開始後数時間、または数日さえかけて起こるが、一部の永続的な神経組織損傷は、脳への血流が停止して最初の数分後に発生し得る。
【0135】
虚血は、アテローム性動脈硬化症、血栓、またはれん縮の結果として冠動脈がふさがれた、心筋梗塞および他の心血管障害中の心臓においても起こり得る。したがって、本発明は、哺乳動物において、心臓組織損傷、特に、心虚血から生じ、または再灌流傷害によって引き起こされる損傷を治療するのに有用であると考えられる。
【0136】
別の態様では、本発明の選択的なPI3Kδ阻害剤は、骨の疾患、特に、破骨細胞機能が異常であるか、望ましくない疾患を治療する方法において使用することができる。以下に示すように、本発明の化合物は、破骨細胞機能をインビトロで阻害する。したがって、そのような化合物および他のPI3Kδ選択的阻害剤を使用することは、骨粗鬆症、パジェット病、および関連した骨吸収障害を治療することにおいて価値のあることになり得る。
【0137】
さらなる態様では、本発明は、造血起源の癌細胞、好ましくはリンパ系起源の癌細胞、より好ましくはBリンパ球またはBリンパ球前駆体に関連し、または由来する癌細胞の成長または増殖を阻害するために、PI3Kδ阻害性化合物を使用する方法を含む。本発明の方法を使用した治療に適用できる癌として、限定することなく、リンパ腫、例えば、リンパ系組織および細網内皮性組織の悪性新生物、例えば、バーキットリンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、リンパ球性リンパ腫など;多発性骨髄腫;白血病、例えば、リンパ球性白血病、慢性骨髄性(myeloid(myelogenous))白血病などが含まれる。好適な実施形態では、本PI3Kδ阻害性化合物は、慢性骨髄性(myeloid(myelogenous))白血病細胞の成長または増殖を阻害または制御するのに使用することができる。
【0138】
別の態様では、本発明は、好塩基球および/または肥満細胞の機能を抑制し、それによって過剰であるか、望ましくない好塩基球および/または肥満細胞活性を特徴とする疾患または障害の治療を可能にする方法を含む。この方法によれば、本化合物は、好塩基球および/または肥満細胞におけるPI3Kδの発現または活性を選択的に阻害するのに使用することができる。この方法は、好塩基球および/または肥満細胞による刺激性ヒスタミン放出を阻害するのに十分な量でPI3Kδ阻害剤を使用することが好ましい。したがって、本選択的なPI3Kδ阻害剤を使用することは、ヒスタミン放出を特徴とする疾患、すなわち、障害、例えば、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、ARDS、気腫、および関連した障害などを含めたアレルギー性障害を治療することにおいて価値のあることになり得る。
【0139】
PI3Kδ活性の阻害剤の医薬組成物
本発明の化合物は、純粋の化学物質として投与することができるが、医薬組成物または製剤の形態で化合物を投与することが一般的であり、好ましい。したがって、本発明は、PI3Kδ活性のモジュレーターとして活性である化学的または生物学的化合物(「作用剤」)、および生体適合性の医薬担体、補助剤、またはビヒクルを含む医薬組成物も提供する。この組成物は、唯一の活性部分として、または他の作用剤と組み合わせた作用剤、例えば、賦形剤(複数も)または他の薬学的に許容できる担体と混合したオリゴ−もしくはポリヌクレオチド、オリゴ−もしくはポリペプチド、薬物、またはホルモンなどを含むことができる。担体および他の成分は、製剤の他の成分と適合性であり、そのレシピエントに有害でない場合、薬学的に許容できるとみなすことができる。
【0140】
医薬組成物の製剤および投与のための技法は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、18版、Mack Publishing Co, Easton、PA、1990年に見出すことができる。本発明の医薬組成物は、任意の従来方法、例えば、混合、溶解、顆粒化、糖衣丸製造、ゲル状化、乳化、カプセル化、封入、溶融スピニング、噴霧乾燥、または凍結乾燥プロセスを使用して製造することができる。最適な医薬製剤は、投与経路および所望の投与量に応じて当業者によって決定することができる。そのような製剤は、投与される作用剤の物理的状態、安定性、インビボ放出速度、およびインビボクリアランス速度に影響し得る。治療されている条件に応じて、これらの医薬組成物は、全身的または局所的に処方および投与することができる。
【0141】
医薬組成物は、適当な薬学的に許容できる担体を含有するように製剤化され、場合により、活性化合物を加工して薬学的に使用することができる製剤にするのを促進する賦形剤および助剤を含むことができる。投与様式により、一般に担体の性質が決まる。例えば、非経口投与用製剤は、水溶性形態での活性化合物の水溶液を含むことができる。非経口投与に適した担体は、食塩水、緩衝食塩水、デキストロース、水、および他の生理的に適合性の溶液の中から選択することができる。非経口投与に好適な担体は、生理的に適合性の緩衝液、例えば、ハンクス液、リンガー液、または生理的緩衝食塩水などである。組織または細胞投与については、浸透される特定の障壁に適切な浸透剤が製剤中に使用される。そのような浸透剤は、一般に当技術分野において公知である。タンパク質を含む製剤については、製剤は、安定化物質、例えば、ポリオール(例えば、スクロース)および/または界面活性剤(例えば、非イオン性界面活性剤)などを含むことができる。
【0142】
あるいは、非経口用途のための製剤は、適切な油性注入懸濁液として調製された、活性化合物の分散系または懸濁液を含むことができる。適当な親油性溶媒またはビヒクルとして、ゴマ油などの脂肪油、および合成の脂肪酸エステル、例えば、オレイン酸エチルもしくはトリグリセリドなど、またはリポソームが挙げられる。水性注入懸濁液は、懸濁液の粘度を増大させる物質、例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ソルビトール、またはデキストランなどを含有することができる。場合により、懸濁液はまた、化合物の溶解度を増大させる適当な安定剤または作用剤を含有することによって、非常に濃縮された溶液の調製を可能にすることができる。活性作用剤のpH感受性の可溶化および/または徐放をもたらす水性ポリマー、例えば、Rohm America Inc.(Piscataway、NJ)から入手可能なEUDRAGIT(登録商標)シリーズなどのメタクリル酸ポリマーも、コーティングまたはマトリックス構造として使用することができる。エマルジョン、例えば、水中油型および油中水型分散系も使用し、乳化剤または分散剤(表面活性物質;界面活性剤)によって場合により安定化することができる。懸濁液は、懸濁剤、例えば、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレン(polyoxyethlyene)ソルビトールおよびソルビタンエステル、微結晶性セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド、ベントナイト、寒天、トラガカントゴム、ならびにこれらの混合物などを含有することができる。
【0143】
活性作用剤を含有するリポソームも、非経口投与のために使用することができる。リポソームは一般に、リン脂質または他の脂質物質に由来する。リポソーム形態中の組成物も、他の成分、例えば、安定剤、保存剤、賦形剤などを含有することができる。好適な脂質には、リン脂質およびホスファチジルコリン(レシチン)が含まれ、ともに天然および合成である。リポソームを形成する方法は、当技術分野で公知である。例えば、Prescott(編)、Methods in Cell Biology、XIV巻、33頁、Academic Press、New York(1976年)を参照されたい。
【0144】
経口投与に適した投与量で作用剤を含む医薬組成物は、当技術分野で周知である薬学的に許容できる担体を使用して製剤化することができる。経口投与用に処方される製剤は、錠剤、ピル、カプセル、カシェ剤、糖衣丸、ロゼンジ、液体、ゲル、シロップ、スラリー、エリキシル剤、懸濁液、または散剤の形態であることができる。例えば、経口用途のための医薬製剤は、活性化合物を固体賦形剤と混合し、場合により得られた混合物を粉砕し、錠剤または糖衣丸コアを得るために、必要に応じて適当な助剤を添加した後、顆粒の混合物を加工することによって得ることができる。経口製剤は、非経口用途について記載されたものと種類が同様の液体担体、例えば、緩衝水溶液、懸濁液などを使用することができる。
【0145】
好適な経口製剤には、錠剤、糖衣丸、およびゼラチンカプセルが含まれる。これらの製剤は、1つまたは複数の賦形剤を含有することができ、これには、限定することなく、以下のものが含まれる:
a)希釈剤、例えば、ラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、またはソルビトールを含めた糖など;
b)結合剤、例えば、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、トウモロコシ、コムギ、米、ジャガイモなどに由来するデンプンなど;
c)セルロース物質、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびナトリウムカルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなど、ゴム、例えば、アラビアゴムおよびトラガカントゴムなど、ならびにタンパク質、例えば、ゼラチンおよびコラーゲンなど;
d)崩壊剤または可溶化剤、例えば、架橋ポリビニルピロリドン、デンプン、寒天、アルギン酸もしくはアルギン酸ナトリウムなどのその塩、または発泡性組成物など;
e)滑剤、例えば、シリカ、タルク、ステアリン酸またはそのマグネシウム塩もしくはカルシウム塩、およびポリエチレングリコールなど;
f)香味剤および甘味料;
g)例えば、生成物を同定するため、または活性化合物の量(投与量)を特徴づけるための着色剤または顔料;ならびに
h)他の成分、例えば、保存剤、安定剤、膨張剤、乳化剤、溶液プロモーター、浸透圧を調節するための塩、および緩衝液など。
【0146】
ゼラチンカプセルには、ゼラチンで作製された押し込み型カプセル、ならびにゼラチンおよびグリセロールまたはソルビトールなどのコーティングで作製されたソフトな密封カプセルが含まれる。押し込み型カプセルは、充填剤、結合剤、滑剤、および/または安定剤などと混合された活性成分(複数も)を含有することができる。ソフトカプセルでは、活性化合物は、安定剤の有無にかかわらず、適当な流体、例えば、脂肪油、流動パラフィン、または液体ポリエチレングリコール中に溶解または懸濁させることができる。糖衣丸コアは、濃縮された糖溶液などの適当なコーティングとともに提供することができ、この溶液は、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル、ポリエチレングリコール、および/または二酸化チタン、ラッカー溶液、および適当な有機溶媒または溶媒混合物も含有することができる。
【0147】
医薬組成物は、活性作用剤の塩として提供することができる。塩は、対応する遊離酸形態または遊離塩基形態より、水性または他のプロトン性溶媒中で可溶性である。薬学的に許容できる塩は、当技術分野で周知である。酸性部分を含有する化合物は、適当な陽イオンと薬学的に許容できる塩を形成することができる。適当な薬学的に許容できる陽イオンには、例えば、アルカリ金属(例えば、ナトリウムまたはカリウム)陽イオン、およびアルカリ土類(例えば、カルシウムまたはマグネシウム)陽イオンが含まれる。
【0148】
塩基性部分を含有する構造式(I)の化合物は、適当な酸と薬学的に許容できる酸付加塩を形成することができる。例えば、Bergeら、J Pharm Sci、66巻:1頁(1977年)には、薬学的に許容できる塩が詳細に記載されている。塩は、本発明の化合物の最終の単離および精製の間にインサイツで、または遊離塩基官能基を適当な酸と反応させることによって別々に調製することができる。
【0149】
代表的な酸付加塩として、それだけに限らないが、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、クエン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、樟脳酸塩、樟脳スルホン酸塩(camphorolsulfonate)、ジグルコン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、フマル酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2−ヒドロキシエタンスルホン酸塩(イソチオン酸塩)、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩または硫酸塩、ニコチン酸塩、2−ナフタレンスルホン酸塩、シュウ酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3−フェニルプロピオン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、リン酸塩またはリン酸水素塩、グルタミン酸塩、炭酸水素塩、p−トルエンスルホン酸塩、およびウンデカン酸塩が挙げられる。薬学的に許容できる酸付加塩を形成するのに使用することができる酸の例として、限定することなく、無機酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、およびリン酸など、ならびに有機酸、例えば、シュウ酸、マレイン酸、コハク酸、およびクエン酸などが挙げられる。
【0150】
塩基性付加塩は、本発明の化合物の最終の単離および精製の間にインサイチュで調製するか、カルボン酸含有部分を、薬学的に許容できる金属陽イオンの水酸化物、炭酸塩、もしくは炭酸水素塩などの適当な塩基、あるいはアンモニアまたは有機の1級、2級、もしくは3級アミンと反応させることによって別々に調製することができる。薬学的に許容できる塩基性付加塩として、それだけに限らないが、アルカリ金属またはアルカリ土類金属に基づく陽イオン、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、およびアルミニウム塩など、ならびにアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウムなどを含めた無毒性の4級アンモニウムおよびアミン陽イオンが挙げられる。塩基付加塩の形成に有用な他の代表的な有機アミンには、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペリジン、ピペラジンなどが含まれる。
【0151】
塩基性の窒素含有基は、低級アルキルハライド、例えば、メチル、エチル、プロピル、およびブチル塩化物、臭化物およびヨウ化物など;ジメチル、ジエチル、ジブチル、およびジアミル硫酸塩のようなジアルキル硫酸塩;長鎖アルキルハライド、例えば、デシル、ラウリル、ミリスチル、およびステアリル塩化物、臭化物、およびヨウ化物など;アリールアルキルハライド、例えば、ベンジルおよびフェネチル臭化物など;ならびに他のものなどの作用剤で四級化することができる。改良された溶解度または分散性を有する生成物がそれによって得られる。
【0152】
前述を踏まえると、本明細書に現れる本発明の化合物へのいずれの言及も、構造式(I)の化合物、ならびにその薬学的に許容できる塩、溶媒和物、4級の誘導体、およびプロドラッグを含むことが意図される。
【0153】
薬学的に許容できる担体中で製剤化される本発明の化合物を含む組成物を、調製し、適切な容器中に入れ、指定された条件の治療のためにラベルで表示することができる。したがって、本発明の化合物の剤形、および化合物を使用するための指示書を含むラベルを含む容器などの製品も企図される。キットも企図される。例えば、キットは、医薬組成物の剤形、および医学的状態の治療において組成物を使用するための指示書を含む添付文書を含むことができる。いずれの場合でも、ラベル上に示される条件は、炎症性障害、癌などの治療を含むことができる。
【0154】
PI3Kδ活性の阻害剤の投与方法
PI3Kδ活性の阻害剤を含む医薬組成物は、非経口および経腸の技法を含めた任意の従来方法によって対象に投与することができる。非経口投与様式には、組成物が、消化管を通る以外の経路、例えば、静脈内、動脈内、腹腔内、髄内、筋肉内、関節内、クモ膜下、および脳室内注入によって投与されるものが含まれる。経腸投与様式には、例えば、経口(頬側および舌下を含む)および直腸投与が含まれる。経上皮投与様式には、例えば、経粘膜投与および経皮投与が含まれる。経粘膜投与として、例えば、経腸投与ならびに経鼻、吸入、および深肺投与;膣投与;ならびに直腸投与が挙げられる。経皮投与には、例えば、パッチおよびイオン導入デバイス、ならびにペースト、軟膏(salve)、または軟膏(ointment)の局所適用を含めた受動的または能動的な経皮(transdermal)または経皮(transcutaneous)様式が含まれる。非経口投与は、高圧技法、例えば、POWDERJECT(登録商標)を使用して実現することもできる。
【0155】
外科的技法には、デポー(リザーバー)構成物、浸透圧ポンプなどの移植が含まれる。炎症を治療するのに好適な投与経路は、関節炎などの局部的障害に対する局所(local)もしくは局所(topical)送達、または分散型(distributed)障害に対する全身送達、例えば、再灌流傷害、もしくは敗血症などの全身状態に対する静脈内送達とすることができる。気道を伴うもの、例えば、慢性閉塞性肺疾患、喘息、および気腫を含めた他の疾患については、投与は、噴霧、エアロゾル、散剤などの吸入または深肺投与によって実現することができる。
【0156】
新生物疾患、特に白血病、および他の分散型癌の治療については、非経口投与が一般に好適である。非経口投与後の体内分布を最適化するための化合物の製剤が望ましいであろう。PI3Kδ阻害剤化合物は、化学療法、放射線療法、および/または手術の前、間、または後に投与することができる。
【0157】
さらに、PI3Kδ阻害剤化合物の治療指数は、細胞を癌細胞として識別するマーカーを発現する癌細胞への標的送達のために、化合物を修飾または誘導体化することによって高めることができる。例えば、以前に記載されているように、癌細胞に選択的または特異的であるマーカーを認識する抗体に化合物を連結することができ、その結果、この化合物は、この細胞の近傍に運ばれることによってその効果を局所的に発揮する(例えば、Pieterszら、Immunol Rev、129巻:57頁(1992年);Trailら、Science、261巻:212頁(1993年);およびRowlinson−Buszaら、Curr Opin Oncol、4巻:1142頁(1992年)を参照されたい)。これらの化合物の腫瘍指向性送達は、とりわけ、放射線療法または化学療法から生じ得る潜在的な非特異的毒性を最小限にすることによって、治療上の利点を高める。別の態様では、PI3Kδ阻害剤化合物および放射性同位体または化学療法剤は、同じ抗腫瘍抗体に結合することができる。
【0158】
骨吸収障害または破骨細胞媒介性障害の治療については、PI3Kδ阻害剤は、任意の適当な方法によって送達することができる。関節内注入などによる局所的投与が望ましい場合がある。場合によっては、化合物を骨に向けることができる部分に、化合物を結合することが望ましくなり得る。例えば、PI3Kδ阻害剤を、骨の主要な成分であるヒドロキシアパタイトに対して高い親和性を有する化合物に結合することができる。これは、例えば、エストロゲンを骨に標的送達するために開発されたテトラサイクリン−カップリング法に適応させることによって実現することができる(Ormeら、Bioorg Med Chem Lett、4巻(11号):1375〜80頁(1994年))。
【0159】
中枢神経系標的を調節することにおいて治療上有効であるために、本発明の方法で使用される作用剤は、末梢性に投与される場合、血液脳関門を容易に貫通するべきである。しかし、血液脳関門を貫通することができない化合物は、静脈内経路によって依然として有効に投与することができる。
【0160】
上述したように、作用剤自体および作用剤の製剤の特徴は、投与される作用剤の物理的状態、安定性、インビボ放出速度、およびインビボクリアランス速度に影響し得る。そのような薬物動態学的および薬力学的情報は、前臨床インビトロおよびインビボ試験を通じて収集し、後に臨床試験過程の間にヒトにおいて確認することができる。したがって、本発明の方法で使用される任意の化合物について、治療有効用量は、生化学的および/または細胞に基づくアッセイ法から最初に推定することができる。次いで、投与量を動物モデルにおいて処方することによって、PI3Kδの発現または活性を調節する望ましい血中濃度範囲を実現することができる。ヒト試験が行われるにつれて、様々な疾患および病状のための治療の適切な投与量レベルおよび継続時間に関するさらなる情報が現れる。
【0161】
そのような化合物の毒性および治療効果は、例えば、LD50(集団の50%に対して致死性の用量)、およびED50(集団の50%において治療的に有効な用量)を求めるための、細胞培養または実験動物における標準的な薬学的手順によって求めることができる。有毒作用と治療効果の間の用量比は「治療指数」であり、これは一般に比LD50/ED50として表される。大きい治療指数を示す、すなわち、有毒用量が有効用量より実質的に高い化合物が好適である。そのような細胞培養アッセイ法および追加の動物試験から得られるデータを、ヒトに使用するための様々な投与量を処方することにおいて使用することができる。そのような化合物の投与量は、ほとんど、またはまったく毒性を有さないED50を含む様々な血中濃度内にあることが好ましい。
【0162】
本発明によれば、投与のタイミングおよび順序を調節する任意の有効な投与レジメンを使用することができる。作用剤の用量は、有効量の作用剤を含む薬学的投与量単位を含むことが好ましい。本明細書で使用する場合、「有効量」は、1つまたは複数の薬学的投与量単位の投与を通じて、PI3Kδの発現もしくは活性を調節し、かつ/または対象の生理的パラメータの測定可能な変化を引き出すのに十分な量を指す。
【0163】
ヒト対象についての例示的な投与量レベルは、体重1キログラム当たり活性作用剤約0.001ミリグラム(mg/kg)から約1000mg/kgの水準である。一般に、活性作用剤の投与量単位は、例えば、指示、投与経路、および病状の重症度に応じて、約0.01mg〜約1000mg、好ましくは約0.1mg〜約100mgを含む。投与経路に応じて、適当な用量は、体重、体表面積、または臓器サイズによって計算することができる。最終的な投与量レジメンは、薬物の作用を調節する様々な要因、例えば、化合物の比放射能、疾患状態の素性および重症度、患者の応答性、患者の年齢、状態、体重、性別、および飲食物、ならびに任意の感染の重症度を考慮して、適正な医療行為に照らして主治医によって決定される。考慮に入れることができる追加の要因には、投与の時間および頻度、薬物の組合せ、反応感度、ならびに療法に対するトレランス/応答が含まれる。本明細書に述べた製剤のいずれかを伴う治療に適切な投与量のさらなる洗練は、特に、開示された投与量情報およびアッセイ法、ならびにヒト臨床試験において観察された薬物動態学的なデータを踏まえると、過度の実験を伴うことなく、当業者によって日常的に行われる。適切な投与量は、用量応答データと一緒に、体液または他の試料中の作用剤の濃度を求めるための確立されたアッセイ法を使用して確認することができる。
【0164】
投薬の頻度は、作用剤の薬物動態学的パラメータ、および投与経路に依存する。投与量および投与が調節されることによって、十分なレベルの活性部分が提供され、または所望の効果が維持される。したがって、医薬組成物は、作用剤の所望の最低レベルを維持するために、必要に応じて、単一用量、複数の別々の用量、持続注入、徐放デポー、またはこれらの組合せで投与することができる。短時間作用型の医薬組成物(すなわち、短い半減期)は、1日に1回、または1日に1回超(例えば、1日に2回、3回、もしくは4回)投与することができる。長時間作用型医薬組成物は、3〜4日毎、毎週、または2週間毎に1回投与することができる。ポンプ、例えば、皮下、腹腔内、または硬膜下ポンプなどを、持続注入のために使用することができる。
【0165】
以下の実施例は、本発明の理解をさらに助け、この実施例が関係する、当業者に周知の従来方法、例えば、ベクターおよびプラスミドの構築、そのようなベクターおよびプラスミド中へのポリペプチドをコードする遺伝子の挿入、または宿主細胞中へのベクターおよびプラスミドの導入の理解を前提とするために提供される。そのような方法は、例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989年)、Ausubelら(編)、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley & Sons, Inc.(1994年);およびAusubelら(編)、Short Protocols in Molecular Biology、4版、John Wiley & Sons, Inc.(1999年)を含めた多数の刊行物に詳細に記載されている。以下に記載される特定の物質および条件は、本発明の特定の態様を例示することが意図されており、これらの妥当な範囲を限定すると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0166】
(実施例1)
組換え型PI3Kα、β、およびδの調製および精製
p110触媒サブユニットおよびp85調節サブユニットからなる組換え型PI3Kヘテロ二量体複合体を、BAC−TO−BAC(登録商標)HTバキュロウイルス発現系(GIBCO/BRL)を使用して過剰発現させ、次いで生化学アッセイ法で使用するために精製した。4つのクラスIのPI3キナーゼを、以下のようにバキュロウイルスベクター中にクローン化した:
p110δ:FLAG(登録商標)タグ化型のヒトp110δ(配列番号1)(Chantryら、J Biol Chem、272巻:19236〜41頁(1997年)を参照されたい)を、標準的な組換えDNA技法を使用して、昆虫細胞発現ベクターpFastbac HTb(Life Technologies、Gaithersburg、MD)のBamH1−Xba1部位中にサブクローニングし、その結果クローンは、このベクターのHisタグとインフレームであった。FLAG(登録商標)系は、米国特許第4,703,004号;同第4,782,137号;同第4,851,341号;および同第5,011,912号に記載されており、試薬は、Eastman Kodak Co.から入手可能である。
【0167】
p110α:上述した、p110δについて使用した方法と同様に、FLAG(登録商標)タグ化型のp110α(Voliniaら、Genomics、24巻(3号):427〜477頁(1994年)を参照されたい)を、pFastbac HTb(Life Technologies)のBamH1−HindIII部位にサブクローニングし、その結果クローンは、ベクターのHisタグとインフレームであった。
【0168】
p110β:p110β(Huら、Mol Cell Biol、13巻:7677〜88頁(1993年)を参照されたい)クローンを、以下のプライマーを使用して製造者のプロトコールに従って、ヒトMARATHON(登録商標)Ready脾臓cDNAライブラリー(Clontech、Palo Alto CA)から増幅した:
【0169】
【化15】

5’プライマーを構築することによって、p110β配列とインフレームでFLAG(登録商標)タグを収めた。増幅後、FLAG(登録商標)−p110β配列を、標準的な組換え技法を使用して、pFastbac HTa(Life Technologies)のEcoR1−Not1部位中にサブクローニングし、その結果クローンは、このベクターのHisタグとインフレームであった。
【0170】
p110γ:p11oγ cDNA(Stoyanovら、Science、269巻:690〜93頁(1995年)を参照されたい)を、以下のプライマーを使用して製造者のプロトコールに従って、ヒトMarathon Ready脾臓cDNAライブラリー(Clontech)から増幅した:
【0171】
【化16】

引き続いて、FLAG(登録商標)タグを、p110γ配列の5’末端に結合し、標準的な組換えDNA技法を使用して、pFastbac HTb(Life Technologies)のBamH1−Spe1部位にクローン化し、FLAG(登録商標)−110γ配列は、ベクターのHisタグとインフレームであった。
【0172】
p85α:FLAG(登録商標)タグ化p85 cDNA(Skolnikら、Cell、65巻:83〜89頁(1991年)を参照されたい)のBamH1−EcoR1断片を、ベクターpFastbac dual(Life Technologies)のBamH1−EcoR1部位中にサブクローニングした。
【0173】
上記クローンを含有する組換え型のバキュロウイルスを、製造者の推奨プロトコール(Life Technologies)を使用して作製した。Hisタグ化p110α、p110β、またはp110δ触媒サブユニットおよびp85サブユニットを発現するバキュロウイルスを、Sf21昆虫細胞中に同時感染させた。ヘテロ二量体の酵素複合体を濃縮するために、p85サブユニットを発現する過剰量のバキュロウイスルを感染させ、p85と複合体形成したHisタグ化p110触媒サブユニットを、ニッケル親和性カラム上で精製した。p110γは、p85と結合しないので、Sf21細胞を、Hisタグ化p110γのみを発現する組換え型のバキュロウイルスで感染させた。代替の手法では、p101をバキュロウイルス中にクローン化することによって、その好適な結合パートナーであるp110γとの同時発現を可能にすることができる。
【0174】
感染して72時間後のSf21細胞(3リットル)を収集し、Dounceホモジナイザーを使用して、低張性緩衝液(20mMのHEPES−KOH、pH7.8、5mMのKCl、完全なプロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche Biochemicals、Indianapolis、IN)中でホモジナイズした。ホモジネートを1000×gで15分間遠心分離した。上清を10,000×gで20分間さらに遠心分離し、その後に100,000×gで60分間超遠心分離した。可溶性画分を、50mlの緩衝液A(50mMのHEPES−KOH、pH7.8、0.5MのNaCl、10mMのイミダゾール)で平衡化した、10mLのHITRAP(登録商標)ニッケル親和性カラム(Pharmacia、Piscataway、NJ)上に直ちに装填した。カラムを緩衝液Aを用いて広範に洗浄し、10〜500mMのイミダゾールの線形勾配を用いて溶出した。遊離p85サブユニットを洗浄ステップの間にカラムから取り出し、ヘテロ二量体の酵素複合体のみを250mMのイミダゾールで溶出した。ニッケル画分のアリコートを、10%のSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)によって分析し、SYPRO(登録商標)Red(Molecular Probes, Inc.、Eugene、OR)で染色し、STORM(登録商標)PhosphoImager(Molecular Dynamics、Sunnyvale、CA)で定量化した。活性画分をプールし、50mMのHEPES−KOH、pH7.5、50mMのNaCl、2mMのジチオトレイトール(DTT)を含有する緩衝液Bを用いて予め平衡化した5mLのHi−trapヘパリンカラム上に直接装填した。カラムを50mLの緩衝液Bを用いて洗浄し、0.05〜2MのNaClの線形勾配を用いて溶出した。PI3K酵素複合体を含有する1つのピークが、0.8MのNaClで溶出した。SDS−ポリアクリルアミドゲル解析は、精製されたPI3K酵素画分は、p110およびp85サブユニットの1:1化学量論の複合体を含有することを示した。ヘパリンクロマトグラフィーの間の酵素複合体のタンパク質プロファイルは、脂質キナーゼ活性のプロファイルに対応した。活性画分をプールし、液体窒素下で凍結させた。
【0175】
(実施例2)
PI3Kδのハイスループットスクリーニング(HTS)および選択性アッセイ法
独自の化学的ライブラリーのハイスループットスクリーニングを実施することによって、PI3Kδ活性の候補阻害剤を同定した。PI3Kδは、PIP脂質イノシトール環のD3’位置で、γ−[32P]ATPからPIP/PSリポソームへのリン酸転移を触媒する。この反応はMgClに依存し、30mMのEDTAを含有するpH8.0の高モル濃度のリン酸カリウム緩衝液中でクエンチされる。スクリーニングにおいて、この反応を、ライブラリー化合物の存在または非存在下で実施する。反応生成物(およびすべての非標識の生成物)を96ウェルのプリウェットしたPVDFフィルタープレートに移し、濾過し、高モル濃度リン酸カリウムで洗浄した。シンチラントを乾燥したウェルに添加し、取り込まれた放射能を定量化した。
【0176】
アッセイ作業の大部分は、BIOMEK(登録商標)1000ロボットワークステーション(Beckman)を使用して実施し、すべてのプレートは、Wallac液体シンチレーションプレートカウンタープロトコールを使用して読み取った。
【0177】
基質および酵素の3Xアッセイ原料を作製し、トラフ(ロボットアッセイ用)、または96ウェルのV底ポリプロピレンプレート(マニュアルアッセイ用)に貯蔵した。試薬は、室温で少なくとも3時間安定であった。
【0178】
HTS用の3X基質は、20mMのHEPES、pH7.4中に0.6mMのNaATP、0.10mCi/mLのγ−[32P]ATP(NEN、Pittsburgh、PA)、6μMのPIP/PSリポソーム(Avanti Polar Lipids, Inc.、Atlanta、GA)を含有していた。
【0179】
HTS用の3X酵素原料は、20mMのHEPES、pH7.4中に1.8nMのPI3Kδ、150μg/mLのウマIgG(安定剤としてのみ使用した)、15mMのMgCl、3mMのDTTを含有していた。
【0180】
ジメチルスルホキシド(DMSO)中の化学的ハイスループットスクリーニング(HTS)ライブラリー試料(それぞれ、22化合物のプールを含有する)を2回蒸留水中で18.75μMまたは37.8μMに希釈し、20μLの希釈液を、96ウェルポリプロピレンプレートのウェル中に配置し、アッセイした。負の阻害剤対照(または正の酵素対照)は、水で希釈したDMSOであり、正の阻害剤対照は、50%および100%の阻害をもたらすのに十分なLY294002の濃度を使用した。
【0181】
20μLのプールした化学的ライブラリー希釈液に、20μLの3X基質を添加した。反応は、20μLの3X酵素を用いて開始し、室温で10分間インキュベートした。この希釈液は、反応体積中で、200μMの最終濃度のATPを確立した。反応を、150μLのクエンチ緩衝液(1.0Mのリン酸カリウムpH8.0、30mMのEDTA)を用いて停止した。次いで、クエンチした溶液の一部(180μL)を、PVDFフィルタープレート(100%のメタノール、水、および最終的に1.0Mのリン酸カリウム(pH8.0)洗浄緩衝液の連続した200μLの洗浄でプリウェットしたMillipore #MAIP NOB)に移した。
【0182】
PVDFフィルタープレートを適度な真空(2〜5mmHg)下で吸引し、5×200μLの洗浄緩衝液を用いて洗浄し、次いで吸引によって乾燥させた。引き続いてフィルターをブロットし、完全に空気乾燥させ、1ウェル当たり50μLのEcoscintシンチレーションカクテルを加えたWallac計数カセット中に挿入した。取り込まれた放射能を定量化し、酵素陽性対照(100%に設定)に対して正規化した後、データを分析することによって、50%阻害値での曲線の交点を識別して阻害剤についてのIC50値を推定した。阻害剤は、PI3KαおよびPI3Kβに対する選択性アッセイ法にもかけた(実施例9におけるアッセイプロトコールを参照されたい)。
【0183】
選択性アッセイ法から、本発明の化合物は、3PIKδの強力で選択的な阻害剤であることが見出された。例えば、上述したように、PI3キナーゼ阻害剤LY294002(Calbiochem、La Jolla、CA)は、試験した様々なPI3キナーゼアイソフォームの中で有意な選択性を有さない。本発明者らのアッセイ条件下で、LY294002は、PI3キナーゼのすべての3つのアイソフォームを阻害し、IC50は、0.3〜1μMであった。本化合物は、δアイソフォームより、少なくとも10分の1作用の弱いα、β、およびγアイソフォームの阻害剤である。これらの結果は、本発明の化合物は、PI3Kδ活性を選択的に阻害する能力を有することを示す。
【0184】
(実施例3〜7)
PI3Kδは、白血球中でかなりのレベルで発現されるので、白血球機能に対するPI3Kδ選択的阻害剤の効果を研究することは重要である。したがって、いくつかの型の白血球中のPI3Kδ阻害の効果を試験した。好中球を試験することによって、PI3Kδの選択的阻害が誘発し得る効果を求めた(以下の実施例3)。PI3Kδ活性の選択的阻害は、活性化好中球に特徴的ないくつかの、しかしすべてではない機能の阻害に有意に関連すると思われることが意外にも見出された。さらに、B細胞およびT細胞の機能に対するPI3Kδ阻害の効果も試験した(以下の実施例4〜5)。さらに、PI3Kδは、破骨細胞中でも発現されるので、これらの特殊化された細胞の機能に対するPI3Kδ阻害の効果を試験した(以下の実施例6)。好塩基球機能に対するPI3Kδの効果も試験した(以下の実施例7)。
【0185】
(実施例3)
好中球機能におけるPI3Kδの役割の特徴づけ
好中球機能、例えば、スーパーオキシド生成、エラスターゼエキソサイトーシス、走化性、および殺菌などに対する本発明のPI3Kδ阻害剤の効果を試験することができる。
【0186】
A.ヒト血液由来の好中球の調製
健康な志願者に由来するヘパリン化血のアリコート(8mL)を、7.3%のFICOLL(登録商標)(Sigma、St. Louis、MO)および15.4%のHYPAQUE(登録商標)(Sigma)の3mLのクッション上に層状に積み重ね、卓上遠心分離機(Beckman)を用いて、900rpmで、室温で30分間遠心分離した。FICOLL(登録商標)−HYPAQUE(登録商標)クッションのすぐ上の好中球に富むバンドを収集し、0.1%のゼラチンを含有するハンクス平衡塩溶液(HBSS)を用いて洗浄した。残留する赤血球を、0.2%のNaClを用いた低張性溶解によって除去した。この好中球調製物を、0.1%のゼラチンを含有するHBSSを用いて2回洗浄し、直ちに使用した。
【0187】
B.好中球に由来するスーパーオキシド産生の測定
スーパーオキシド産生は、好中球活性化の特徴の1つである。様々なアクチベーターが、好中球によるスーパーオキシド産生を増強する。3つの異なるアゴニスト:すなわち、それぞれ別々のクラスのアクチベーターを表す、TNF1α、IgG、およびfMLPによるスーパーオキシド産生に対する本PI3Kδ阻害剤の効果を測定する。好中球によって産生されるスーパーオキシドは、Greenら、(14.5.1〜14.5.11頁、補遺12、Curr Protocols Immunol(Colliganら編)(1994年))によって記載された方法の修飾によりチトクロムCを還元した際の吸光度の変化をモニターすることによって以下のように測定する。96ウェルプレートの個々のウェルを、ヒトフィブリノーゲンまたはIgGの2mg/mLの溶液50μLを用いて4℃で一晩コーティングする。ウェルをPBSを用いて洗浄し、以下の試薬を各ウェルに添加した:HBSSまたはスーパーオキシドジスムターゼ(1mg/mL)50μL、HBSSまたはTNF1α(50ng/mL)50μL、チトクロムC(2.7mg/mL)50μL、および精製したヒト好中球懸濁液(2×10細胞/mL)100μL。プレートを200rpmで2分間遠心し、550nmでの吸光度を2時間モニターした。産生されたスーパーオキシドの相対量を測定するために、スーパーオキシドジスムターゼ含有ウェルから得た値をすべてから減じ、いずれの阻害剤も含まないウェルから得た値に対して正規化する。
【0188】
本発明の化合物は、好中球よるTNF誘発性スーパーオキシド産生を、濃度依存様式で阻害する。さらに、IgGによって誘発されるスーパーオキシド産生は、本発明の化合物によって有意に阻害されなかった。
【0189】
別の強力な誘発物質である、細菌性ペプチドホルミル化−Met−Leu−Phe(fMLP)によって誘発されるスーパーオキシド産生に対する本発明の化合物の効果も試験することができる。TNF誘発性スーパーオキシド産生のように、fMLP誘発性スーパーオキシド産生も、本発明の化合物によって阻害される。これらの結果は、本発明のPI3Kδ阻害剤化合物は、好中球によるスーパーオキシド産生の刺激特異的誘発を防止することができることを示し、PI3Kδがこのプロセスに関与していることを示す。
【0190】
C.好中球に由来するエラスターゼエキソサイトーシスの測定
スーパーオキシド産生に加えて、活性化好中球はまた、炎症の間の組織および軟骨の破壊に関与するいくつかのプロテアーゼを放出することによって応答した。プロテアーゼ放出の徴候として、エラスターゼエキソサイトーシスに対する本化合物の効果を測定する。エラスターゼエキソサイトーシスを、Ossannaら(J Clin Invest、77巻:1939〜1951頁(1986年))により記載された手順の修飾によって以下のように定量化する。精製したヒト好中球(0.2×10)(DMSOまたはDMSO中の本化合物の連続希釈液で処理した)を、0.01mg/mLのサイトカラシンB、1.0μMのアジ化ナトリウム(NaN)、5μg/mLのL−メチオニン、および1μMのfMLPを含有するPBS中のfMLPを用いて、96ウェルプレート内で、37℃で90分間刺激する。インキュベーション期間の終わりに、プレートを1000rpmで5分間遠心し、上清90μLをエラスターゼ基質ペプチド、MeO−suc−Ala−Ala−Pro−Val−pNA(式中MeO−suc=メトキシ−スクシニル;pNA=p−ニトロアニリド)(Calbiochem、San Diego、CA)の10mMの溶液10μLに移す。96ウェルプレートリーダー内で410nmでの吸光度を2時間モニターする。エキソサイトーシスされたエラスターゼの相対量を測定するために、すべての吸光度値を、いずれの阻害剤も含まない値に対して正規化する。本発明のPI3Kδ阻害剤化合物は、fMLP誘発性エラスターゼエキソサイトーシスを有意に阻害し、用量依存様式でそのように阻害する。
【0191】
D.fMLP誘発性ヒト好中球遊走の測定
好中球は、組織を通じて遊走する固有の能力を有し、炎症または組織傷害の部位に到達する最初の細胞型の1つである。fMLPの濃度勾配に向かった好中球遊走に対する本化合物の効果を測定する。遊走アッセイ法を実施する前の日に、6ウェルプレートを、組換え型ICAM−1/Fc融合タンパク質(Van der Vierenら、Immunity、3巻:683〜690頁(1995年))(炭酸水素塩緩衝液中25μg/mL、pH9.3)を用いてコーティングし、4℃で一晩放置する。洗浄後、0.5%のウシ血清アルブミン(BSA)を含むRPMI−1640中の1%アガロース溶液を、阻害剤を含むウェルまたは含まないウェルに添加し、プレートを冷蔵庫内に配置した後、ゲル化アガロース中に孔を開けることによってプラークを作り出す(1ウェル当たり6つの周辺の孔に囲繞された1つの中央の孔)。
【0192】
ヒト好中球を上述したように得、5×10細胞/mLで0.5%のBSAを補充したRPMI媒質中に再懸濁する。等しい体積の好中球懸濁液および媒質(DMSOまたはDMSO中の試験化合物の連続希釈液を含む)を合わせた後、好中球を周辺の孔中にアリコートし、中央の孔にfMLP(5μM)を入れる。プレートを5%のCOの存在下で、37℃で4時間インキュベートした後、D−PBS中の1%のグルタルアルデヒド溶液を添加することによって遊走を終結させる。アガロース層を除いた後、ウェルを蒸留水で洗浄し、乾燥させる。
【0193】
NIH 1.61プログラムを使用して、Nikon DIAPHOT(登録商標)倒立顕微鏡(1倍対物レンズ)ビデオワークステーションで好中球遊走の分析を行う。Microsoft ExcelおよびTable Curve 4(SSPS Inc.、Chicago IL)プログラムを使用して、それぞれの試験した条件について遊走指数を得る。遊走指数は、1細胞当たりの遊走した好中球の数対遊走の正味の距離を表す曲線の下の面積として定義される。
【0194】
本発明のPI3Kδ阻害剤化合物は、好中球遊走に対する効果を有し、この活性を用量依存様式で阻害する。
【0195】
E.好中球の殺菌能力の測定
本発明のPI3Kδ阻害剤化合物が、ある特定の好中球機能に影響することを考えれば、この化合物が、好中球媒介性殺菌に影響するかどうかは興味深い。好中球媒介性Staphylococcus aureus殺害に対する化合物の効果を、ClarkおよびNauseef(7.23.4〜7.23.6頁、2巻、補遺6、Curr Protocols Immunol(Colliganら編)(1994年))によって記載された方法に従って試験した。精製したヒト好中球(5×10細胞/mL)(DMSOまたはDMSO中の本化合物の連続希釈液で処理した)を自己血清と混合する。一晩成長したS. aureus細胞を洗浄し、HBSS中に再懸濁させ、10:1の比で、血清でオプソニン化した好中球に添加した。37℃で20分間インキュベーションすることによって、食作用によって細菌を好中球に内部移行させる。内部移行しなかった細菌を、37℃で5分間、10単位/mLのリソスタフィンによって殺し、全混合物を37℃で回転する。最大90分まで様々な時間で試料を回収し、好中球を水で希釈することによって溶解させた。トリプチカーゼ−ソイ−寒天プレート上に適切な希釈液を蒔き、一晩成長させた後、S. aureusコロニーをカウントすることによって、生存可能な細菌をカウントする。
【0196】
S. aureusの好中球媒介性殺害は、DMSO(対照)で処理した試料および本化合物で処理した試料において同様である。したがって、PI3Kδ阻害剤は、S. aureusを殺害する好中球の能力に有意に影響せず、PI3Kδは、好中球機能のこの経路に関与していないことを示す。
【0197】
(実施例4)
Bリンパ球機能におけるPI3Kδの役割の特徴づけ
古典的な指標、例えば、抗体産生および特異的な刺激誘発性増殖などを含めたB細胞機能に対するPI3キナーゼ阻害剤の効果も試験する。
【0198】
A.ヒト末梢血由来のB細胞の調製および刺激
健康な志願者に由来するヘパリン化血(200mL)を等しい体積のD−PBSと混合し、10×10mLのFICOLL−PAQUE(登録商標)(Pharmacia)上に層状に積み重ね、1600rpmで、室温で30分間遠心分離する。末梢血単核細胞(PBMC)をFICOLL(登録商標)/血清界面から収集し、10mLのウシ胎児血清(FBS)上に被せ、800rpmで10分間遠心分離することによって血小板を除去する。洗浄後、DYNAL(登録商標)Antibody Mix(B細胞キット)(Dynal Corp.、Lake Success、NY)を用いて、4〜8℃で20分間、細胞をインキュベートする。非結合抗体を除去した後、PBLを、抗マウスIgGでコーティングされた磁気ビーズ(Dynal)と、穏やかに振盪しながら4〜8℃で20分間混合し、その後、磁気ビーズ分離器で、標識された非B細胞を排除する。この手順をもう一度繰り返す。B細胞を10%のFBSを含むRPMI−1640中に再懸濁し、さらに使用するまで氷上で保持する。
【0199】
B.ヒトB細胞による抗体産生の測定
抗体産生を試験するために、B細胞を、50〜75×10細胞/ウェルで、阻害剤を含む96ウェルプレートまたは阻害剤を含まない96ウェルプレート中にアリコートし、これにIL−2(100U/mL)およびPANSORBIN(登録商標)(Calbiochem)Staphylococcus aureus 細胞(1:90,000)を添加した。24〜36時間後に培地の一部を除去し、新鮮な培地(阻害剤を含む、または含まない)およびIL−2を添加する。COインキュベーターの存在下で、37℃でさらに7日間培養物をインキュベートする。それぞれの条件(3通りで)からの試料を取り出し、ELISAによって測定した場合のIgGおよびIgMについて分析する。簡単に言えば、IMMULON(登録商標)4 96ウェルプレートを、炭酸水素塩緩衝液中の150ng/mLのロバ抗ヒトIgG(H+L)(Jackson ImmunoResearch、West Grove PA)、または2μg/mLのロバ抗ヒトIgG+IgM(H+L)(Jackson ImmunoResearch)を用いてコーティングし(50μL/ウェル)、4℃で一晩放置する。0.1%のTWEEN(登録商標)−80(PBST)(350μL/ウェル)を含有するリン酸緩衝食塩水を用いて3回洗浄し、PBST(100μL/ウェル)中の3%のヤギ血清を用いて、室温で1時間ブロックした後、PBSTで希釈したB細胞使用済み培地(B cell spent media)の試料(100μL/ウェル)を添加する。IgGプレートについては、希釈範囲は、1:500〜1:10000であり、IgMについては1:50〜1:1000である。1時間後に、ビオチン結合抗ヒトIgG(100ng/mL)または抗ヒトIgM(200ng/mL)(Jackson ImmunoResearch)に30分間、その後ストレプトアビジン−HRP(1:20000)に30分間、最終的にH(1:10000)を含むTMB溶液(1:100)に5分間プレートを曝し、工程間にPBSTで3回洗浄する。色展開(Color development)をHSO溶液によって停止し、ELISAプレートリーダーでプレートを読み取った。
【0200】
本発明の化合物は抗体産生を阻害した。
【0201】
C.細胞表面IgM刺激に応答したB細胞増殖の測定
上記実験において、B細胞を、PANSORBIN(登録商標)を使用して刺激する。B細胞が、抗IgM抗体を使用してその細胞表面IgMを通じて刺激される場合の、B細胞増殖応答に対する本発明の化合物の効果も測定した。マウス脾細胞(Balb/c)を、10%のFBS/RPMI中、1ウェル当たり2×10細胞で、96ウェルマイクロタイタープレートに蒔く。完全培地中の適切な希釈の試験阻害剤を細胞に添加し、プレートを30〜60分間インキュベートした後、刺激を加える。試験阻害剤を用いてプレインキュベーションした後、マウスIgMのμ鎖に特異的なヤギ抗体のF(ab’)調製物を、25μg/mLの最終濃度でウェルに添加する。プレートを37℃で3日間インキュベートし、1μCiの[H]−チミジンをそれぞれのウェルに添加し、最後に4時間培養する。プレートを繊維フィルター上に回収し、洗浄し、βカウンター(Matrix96、Packard Instrument Co.、Downers Grove、IL)を使用して放射標識の取込みを求め、1分当たりのカウント(CPM)で表す。
【0202】
本発明の化合物は、抗IgM刺激性B細胞増殖を、用量依存様式で阻害する。本発明の化合物はB細胞増殖を阻害するので、これらの化合物および他のPI3Kδ阻害剤は、臨床状況におけるB細胞の望ましくない増殖を抑制するのに使用することができることが想定される。例えば、B細胞悪性腫瘍において、分化の様々な段階のB細胞は、未制御の増殖を示す。上記に示した結果に基づいて、PI3Kδ選択的阻害剤は、そのような細胞の成長を制御、限定、または阻害するのに使用することができると推論することができる。
【0203】
(実施例5)
Tリンパ球機能におけるPI3Kδの役割の特徴づけ
CD3+CD28の同時刺激に応答したT細胞増殖を測定する。製造者のプロトコール(Dynal)に従って、抗体をコーティングした磁気ビーズを使用して、負の選択により健康なヒト血液からT細胞を精製し、RPMI中に再懸濁する。細胞を、DMSOまたはDMSO中の本化合物の連続希釈液で処理し、ヤギ抗マウスIgGでプレコーティングした96ウェルプレート上に1×10細胞/ウェルで蒔く。次いで、マウスモノクローナル抗CD3および抗CD28抗体を、それぞれ0.2ng/mLおよび0.2μg/mLで各ウェルに添加する。プレートを37℃で24時間インキュベートし、[H]−チミジン(1μCi/ウェル)を添加する。さらに18時間インキュベーションした後、細胞を自動細胞ハーベスターで回収し、洗浄し、取り込まれた放射能を定量化する。
【0204】
本PI3Kδ阻害剤化合物は、T細胞の抗CD3−および抗CD28誘発性増殖を阻害したが、効果は、B細胞に対する効果、または好中球のいくつかの機能に対する効果ほど強くない。
【0205】
(実施例6)
破骨細胞機能におけるPI3Kδの役割の特徴づけ
破骨細胞に対する本PI3Kδ阻害剤化合物の効果を分析するために、マウス骨髄細胞を単離し、血清含有培地(10%の熱不活化したFBSを含むαMEM;Sigma)中で、この細胞をマクロファージコロニー刺激因子−1(mCSF−1)およびオステオプロテジェリンリガンド(OPGL)で3日間処理することによって、破骨細胞に分化させる。破骨細胞が発生していた4日目に、培地を除去し、細胞を回収する。成長培地、すなわち、1%の血清ならびに55μg/mLのOPGLおよび10ng/mLのmCSF−1を含む2%のBSAを含有するαMEM中で、10細胞/ウェルで象牙質片上に破骨細胞を蒔く。3時間後に、オステオポンチン(25μg/mL)およびPI3K阻害剤(100nM)を含む、または含まない、1%の血清および1%のBSAに、培地を交換する。24時間毎に新鮮なオステオポンチンおよび阻害剤で培地を交換する。72時間で、培地を除去し、象牙質表面を水で洗浄することによって細胞残骸を除去し、酸ヘマトキシリンを用いて染色する。過剰の染料を洗浄し、共焦点顕微鏡法を使用してピット深を定量化する。
【0206】
本PI3キナーゼ阻害剤は、破骨細胞機能に対する阻害性効果があった。非特異的な阻害剤であるLY294002およびワートマニンの両方は、破骨細胞活性を阻害した。しかし、本PI3Kδ阻害剤化合物は、より大きい効果を有し、場合によっては、破骨細胞活性をほとんど完全に阻害した。
【0207】
(実施例7)
好塩基球機能におけるPI3Kδの役割の特徴づけ
一般に、Miuraら、J Immunol、162巻:4198〜206頁(1999年)に記載されている方法に従って、従来のヒスタミン放出アッセイ法を使用して、好塩基球機能に対する本発明の化合物の効果の評価を試験する。簡単に言えば、0.1nM〜1,000nMのいくつかの濃度の試験化合物とともに37℃で10分間、濃縮された好塩基球をプレインキュベートする。次いで、ポリクローナルヤギ抗ヒトIgE(0.1μg/mL)またはfMLPを添加し、さらに30分間インキュベートさせる。上清中に放出されるヒスタミンを、自動蛍光定量的技法を使用して測定する。
【0208】
好塩基球が抗IgEで刺激される場合、ヒスタミン放出の用量依存的減少が本化合物について観察された。ヒスタミン放出のこの抑制は、1,000nMで本質的に100%であった。好塩基球がfMLPで刺激される場合、本化合物はいずれの効果も誘発しなかった。比較のために、非選択的なPI3K阻害剤LY294002を0.1nMおよび10,000nMで試験し、最高濃度で100%に近いヒスタミンの阻害を示す。
【0209】
これは、PI3Kδ活性の本阻害剤は、アレルギーのメディエーターの1つであるヒスタミンの放出を抑制するのに使用することができることを示す。様々なPI3キナーゼの活性が、多くの細胞型におけるタンパク質輸送、分泌、およびエキソサイトーシスに必要とされるので、上記のことは、肥満細胞などの他の細胞によるヒスタミン放出も、PI3キナーゼδ選択的阻害剤によって混乱させることができることを示す。
【0210】
化学合成の例
本発明の化合物の具体的な非限定的な例を、これらの合成のための例示的および一般的経路とともに以下に提供する。合成の化学反応の一般的原理に従って必要である場合、保護基を使用することができることが、当技術分野において理解される。これらの保護基は、当業者に直ちに明らかな、塩基性、酸性、または水素化分解条件下で、合成の最終ステップにおいて通常除去される。任意の化学的官能性の適切な操作および保護を使用することによって、本明細書に具体的に示されていない構造式(I)の化合物の合成は、以下に示すスキームに類似した方法によって実現することができる。
【0211】
別段の記述のない限り、すべての出発材料は、市販の供給業者から得、さらに精製することなく使用した。すべての反応およびクロマトグラフィー画分は、250mmのシリカゲルプレート上で薄層クロマトグラフィー(TLC)によって分析し、紫外(UV)光、またはヨウ素(I)染色を用いて視覚化した。生成物および中間体は、フラッシュクロマトグラフィーまたは逆相高速液体クロマトグラフィーによって精製した。
【0212】
合成例において以下の略語を使用する:aq(水)、RT(室温)、HO(水)、HCl(塩酸)、MeOH(メタノール)、TFA(トリフルオロ酢酸)、KCO(炭酸カリウム)、SOCl(塩化チオニル)、CHCl(塩化メチレン)、DMF(ジメチルホルムアミド)、AcOH(酢酸)、KOAc(酢酸カリウム)、TLC(薄層クロマトグラフィー)、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)、HATU(O−(7−アザベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート)、POCl(オキシ塩化リン)、NBS(N−ブロモスクシンアミド)、CHCN(アセトニトリル)、DIEA(ジイソプロピルエチルアミン)、およびNH(アンモニア)。
【0213】
一般的な手順
本発明の化合物は、以下のスキームおよび例によって調製することができる。本発明の化合物を作製するために当業者によって容易に適応することができる追加の方法および例は、国際公開第2005/113554号ならびに代理人整理番号61608−3000100下で2006年11月13日に出願された、Whiteらによる「THIENOPYRIMIDINONES FOR TREATMENT OF INFLAMMATORY DISORDERS AND CANCERS」という表題の米国仮出願;米国特許第6,518,277号;同第6,667,300号;同第6,949,535号;および同第6,800,620号、ならびに公開された米国特許出願第2006/0106038号に開示されている。
【0214】
スキーム1
【0215】
【化17】

スキーム2
【0216】
【化18】

スキーム3
【0217】
【化19】

スキーム4
【0218】
【化20】

スキーム5
【0219】
【化21】

スキーム6
【0220】
【化22】

【0221】
【化23】

A3:1−メチル−5−ニトロ−1H−ピラゾール−4−カルボン酸フェニルアミド。トルエン(10mL)中の市販の1−メチル−5−ニトロ−1H−ピラゾール−4−カルボン酸(2.5g、14.6mmol)の溶液を、DMF(3滴)で処理し、その後に塩化チオニル(5.3mL、73.0mmol)を添加した。得られた混合物を還流した状態で16時間加熱し、室温に冷却した。次いで冷却した溶液を回転蒸発によって濃縮することによって残留物を得た。この残留物をジオキサン(10mL)中に溶解させ、次いでジイソプロピルエチルアミン(DIEA)(7.6mL、43.8mmol)で処理し、その後にアニリン(1.67mL、18.3mmol)を添加した。得られた混合物を室温で16時間撹拌したままにし、次いでHO(75mL)で処理した。黄色沈殿物が形成し、これをフリットガラス漏斗を通して濾過することによって収集した。沈殿物を真空乾燥器内で、50℃で2.5時間乾燥させた。黄色固体として回収された純粋な生成物。LC/MS (AP−ESI、AcOH 0.05%) m/z 247 (MH+)。
【0222】
【化24】

A4:5−アミノ−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸フェニルアミド。酢酸(25mL)中の1−メチル−5−ニトロ−1H−ピラゾール−4−カルボン酸フェニルアミド(1.5g、6.09mmol)の溶液を、室温で亜鉛末(2.39g、36.5mmol)で処理した。得られた混合物を室温で20分間撹拌したままにし、次いで、濾紙を通して濾過した。濾液を回転蒸発により濃縮することによって残留物を得、これを塩化メチレン(20mL)中に溶解させた。次いでこの溶液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した(1×35mL)。酢酸エチル(75mL)を添加し、その後に飽和塩化ナトリウム水溶液(20mL)を添加した。有機層を抽出し、水層を酢酸エチル(3×75mL)で抽出した。合わせた有機抽出液を硫酸マグネシウム上で乾燥させ、濾過し、回転蒸発によって濃縮することによって、淡白色固体として生成物を得た。LC/MS (AP−ESI、AcOH 0.05%) m/z 217 (MH+)。
【0223】
【化25】

A5:N−(2−メチル−4−フェニルカルバモイル(phenylcarbomoyl)−2H−ピラゾロ−3−イル)−プロピオンイミド酸メチルエステル。5−アミノ−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸フェニルアミド(1.1g、5.09mmol)のオルトプロピオン酸トリメチル溶液を酢酸(10滴)で処理し、得られた溶液を100℃で18時間加熱した。反応混合物を回転蒸発によって濃縮し、次いで酢酸エチル(25mL)中に溶解させた。次いでこの溶液を、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(1×25mL)、およびHO(1×25mL)で洗浄した。有機抽出液を硫酸マグネシウム上で乾燥させ、濾過し、回転蒸発によって濃縮することによって残留物を得、これをヘキサン(5mL)で処理した。沈殿物が形成し、これを濾紙を通して濾過することによって収集した。さらに精製することなく白色固体として回収された純粋な生成物。LC/MS (AP−ESI,AcOH 0.05%) m/z 287 (MH+)。
【0224】
【化26】

A6:6−エチル−1−メチル−5−フェニル−1,5−ジヒドロ−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−4−オン。オルトプロピオン酸トリメチル(5mL)中のN−(2−メチル−4−フェニルカルバモイル−2H−ピラゾロ−3−イル)−プロピオンイミド酸メチルエステル(760mg、2.65mmol)の溶液を、を室温で、酢酸(0.30mL)で処理した。得られた溶液を還流した状態で4日間加熱した。反応物を室温に冷却させると、白色沈殿物が形成した。この反応混合物を、濾紙を通して濾過し、生成物を黄褐色固体として回収した。LC/MS (AP−ESI, AcOH 0.05%) m/z 255 (MH+)。
【0225】
【化27】

A7:3−ブロモ−6−(1−ブロモ−エチル)−1−メチル−5−フェニル−1,5−ジヒドロ−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−4−オン。一般的な手順。酢酸(11mL)中の6−エチル−1−メチル−5−フェニル−1,5−ジヒドロ−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−4−オンの溶液を、酢酸カリウム(1.35g、13.7mmol)で処理し、その後に臭素(0.704mL、13.7ml)をゆっくり添加し、得られた混合物を100℃で7時間加熱した。出発材料がLC/MSによって完全に消滅した後、反応混合物を1:1の飽和したチオ硫酸ナトリウム/酢酸エチル(20mL)の撹拌混合物中に注いだ。水層を分離し、有機層をH0(1×50mL)で洗浄した。次いで有機抽出液を硫酸マグネシウム上で乾燥させ、濾過し、回転蒸発によって濃縮することによって、淡白色固体として粗生成物(864mg)を得た。HPLC(C−18 Vydacカラム 5.0×25cm、0.05%のCHCOHを含有する10〜20%CHCN/H0)によって精製し、引き続いて凍結乾燥させることによって、白色固体として精製生成物を得た。LC/MS (AP−ESI, AcOH 0.05%) m/z 413 (MH+)。
【0226】
【化28】

C2:5−アミノ−3−メチル−イソオキサゾール−4−カルボン酸フェニルアミド。ピリジン(2.5mL)中の市販の5−アミノ−3−メチル−イソオキサゾール−4−カルボン酸(200mg、1.41mmol)およびアニリン(321μL、3.52mmol)の溶液を−20℃に冷却し、次いでオキシ塩化リン(phosphorous oxychloride)(164μL、1.76mmol)で処理した。−20℃で25分後、反応混合物を室温に16時間加温させた。この反応混合物をHO(30mL)で処理し、水層を酢酸エチル(2×25mL)で抽出した。合わせた有機抽出液を硫酸マグネシウム上で乾燥させ、濾過し、回転蒸発により濃縮することによって粗生成物を得た。HPLC(C−18 Vydacカラム 5.0×25cm、0.05%のAcOHを含有する10〜20%のCHCN/H0)によって精製し、引き続いて凍結乾燥することによって白色固体として精製生成物を得た。LC/MS (AP−ESI, AcOH 0.05%) m/z 218 (MH+)。
【0227】
【化29】

C3:5−(2−クロロ−アセチルアミノ)−3−メチル−イソオキサゾール−4−カルボン酸フェニルアミド。塩化メチレン(2ml)中の5−アミノ−3−メチル−イソオキサゾール−4−カルボン酸フェニルアミド(103mg、0.474mmol)の溶液を、塩化クロロアセチル(37μL、0.474mmol)で処理し、室温で16時間撹拌した。次いでこの溶液をDIEA(83mL、0.474mmol)で処理した。20分後に、この反応混合物を、追加の等量の塩化クロロアセチル(37μL、0.474mmol)およびDIEA(83mL、0.474mmol)で処理した。この溶液を室温で45分間撹拌したままにし、次いで1NのHCl(5mL)で処理した。水相を酢酸エチル(1×10mL)で抽出した。有機層を分離し、次いで硫酸マグネシウム上で乾燥させ、濾過し、回転蒸発により濃縮することによって粗生成物を得た。HPLC(C−18 Vydacカラム 5.0×25cm、0.05%のCHCOHを含有する10〜20%のCHCN/H0)によって精製し、引き続いて凍結乾燥することによって、白色固体として精製生成物を得た。LC/MS (AP−ESI, AcOH 0.05%) m/z 294 (MH+)。
【0228】
【化30】

C4:6−クロロメチル−3−メチル−5−フェニル−5H−イソオキサゾロ[5,4−d]ピリミジン−4−オン。オキシ塩化リン(7mL)中の5−(2−クロロ−アセチルアミノ)−3−メチル−イソオキサゾール−4−カルボン酸フェニルアミド(45mg、0.153mmol)の溶液を、封管中で、130℃で1時間40分間加熱した。次いで反応混合物を回転蒸発により濃縮することによって、黄褐色残留物を得た。残留物を酢酸エチル(10mL)中に溶解させ、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(10mL)で処理した。有機層を分離し、硫酸マグネシウム上で乾燥させ、濾過し、回転蒸発により濃縮することによって、精製することなく純粋な生成物を得た。LC/MS (AP−ESI, AcOH 0.05%) m/z 276 (MH+)。
【0229】
【化31】

F2:3−アミノ−ピリジン−2−カルボン酸フェニルアミド。ピリジン(55mL)中の3−アミノピコリン酸(2.0g、14.5mmol)の撹拌混合物に、DIEA(10液)を添加した。注:出発材料はあまり可溶性ではなかった。加熱および超音波処理によって溶解度を増大させる試みにより、わずかに溶解度が改善した。アニリン(3.3mL、36.2mmol)を添加し、反応混合物を−20℃に冷却した。10分後に、POClおよび反応物を4時間撹拌したままにした。水(50mL)を添加し、反応混合物を18時間撹拌したままにした。次いでこの反応混合物を、センタードガラス漏斗(centered glass funnel)を通して濾過し、濾液をジクロロメタン(2×150mL)で抽出した。合わせた有機抽出液を、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(2×200mL)およびHO(1×200mL)で洗浄した。次いで有機抽出液を硫酸マグネシウム上で乾燥させ、濾過し、濃縮することによって粗生成物を得た。1時間にわたって30mL/分で、ジクロロメタン中の1〜2%の酢酸エチルで溶出するISCO自動システムで精製することにより、純粋な生成物を得た。LC/MS (AP−ESI, AcOH 0.05%) m/z 214 (MH+)。
【0230】
【化32】

F3:3−(2−クロロ−プロピオニルアミノ)−ピリジン−2−カルボン酸フェニルアミド。0℃で、3−アミノ−ピリジン−2−カルボン酸フェニルアミド(457mg、2.14mmol)のジクロロメタン溶液に、2−塩化クロロプロピオニル(0.212mL、2.14mmol)を添加した。40分後に、反応混合物をHO(10mL)で処理した。水層を分離し、ジクロロメタン(1×15mL)で抽出した。有機層を合わせ、硫酸マグネシウム上で乾燥させ、濾過し、濃縮することによって、さらに精製することなく、薄灰色固体として生成物を得た。LC/MS (AP−ESI, AcOH 0.05%) m/z 304 (MH+)。
【0231】
【化33】

F4:2−(1−クロロ−エチル)−3−フェニル−3H−ピリド[3,2−d]ピリミジン−4−オン。オキシ塩化リン(5mL)中の3−(2−クロロ−プロピオニルアミノ)−ピリジン−2−カルボン酸フェニルアミド(625mg、2.06mmol)の溶液を、封管中で、125℃で48時間加熱し、次いで室温に冷却し、濃縮することによって残留物を得た。この残留物を酢酸エチル/ジクロロメタン(dichoromethane)(2:1、30mL)中に溶解させ、次いで飽和炭酸水素ナトリウム溶液(1×50mL)、その後にHO(1×50mL)で洗浄した。次いで有機層を硫酸マグネシウム上で乾燥させ、濾過し、濃縮することによって粗生成物を得た。1時間にわたって30mL/分で、ジクロロメタン中の5〜10%のメタノールで溶出するISCO自動システムで未精製物質を精製することにより、純粋な生成物を得た。LC/MS (AP−ESI, AcOH 0.05%) m/z 286 (MH+)。
【0232】
【化34】

F5:2−(1−アミノ−エチル)−3−フェニル−3H−ピリド[3,2−d]ピリミジン−4−オン。2−(1−クロロ−エチル)−3−フェニル−3H−ピリド[3,2−d]ピリミジン−4−オン(304mg、1.06mmol)の7NのNH/MeOH溶液を、封管中で、85℃で26.5時間加熱し、次いで室温に冷却し、濃縮することによって生成物を得た。LC/MS(AP−ESI,AcOH 0.05%) m/z 267(MH+)。
【0233】
【化35】

化合物1:6−[1−(6−アミノ−プリン−9−イル)−エチル]−3−ブロモ−1−メチル−5−フェニル−1,5−ジヒドロ−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−4−オン。一般的な手順。DMF(2mL)中の3−ブロモ−6−(1−ブロモ−エチル)−1−メチル−5−フェニル−1,5−ジヒドロ−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−4−オン(45mg、0.109mmol)の撹拌溶液を、アデニン(15mg、0.111mmol)で処理し、その後に炭酸カリウム(15mg、0.109mmol)を添加した。得られた混合物を室温で16時間撹拌し、飽和塩化ナトリウム水溶液(5mL)を添加することによってクエンチし、これにより白色沈殿物を得た。濾過後、生成物を白色固体として得た:H NMR(400MHz,DMSO−d)δ8.26(見かけ上、微細なd,J=1.8Hz,1H),7.97(見かけ上、微細なd,J=2.2Hz,1H),7.59(m,2H),7.44(t,J=6.6Hz,1H),7.33(t,J=7.9Hz,1H),7.20(br s,2H),7.07(d,J=7.3,1H),5.43(q,J=6.6Hz,1H),3.84(見かけ上、微細なd,J=1.8,3H),1.70(d,J=7.0,3H);LC/MS(AP−ESI,AcOH0.05%)m/z468(MH+)。
【0234】
【化36】

化合物2:3−ブロモ−1−メチル−5−フェニル−6−[1−(9H−プリン−6−イルスルファニル)−エチル]−1,5−ジヒドロ−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−4−オン。化合物1について記載した一般的な手順に従って、DMF(2mL)中の3−ブロモ−6−(1−ブロモ−エチル)−1−メチル−5−フェニル−1,5−ジヒドロ−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−4−オン(25mg、0.06mmol)の撹拌した溶液を、6−メルカプトプリン一水和物(11mg、0.06mmol)で処理し、その後に炭酸カリウム(9mg、0.06mmol)を添加した。生成物を黄色固体として得た:H NMR(400MHz,DMSO−d)δ8.42(s,1H),8.38(微細なd,J=2.6Hz,1H),7.54(br s,2H),7.32(m,1H),7.25(d,J=8.1,1H),7.08(t,J=7.7,1H),5.08(q,J=7.2,1H),3.92(見かけ上、微細なd,J=2.8Hz,1H),1.68(d,J=6.8,3H);LC/MS(AP−ESI,AcOH0.05%)m/z485(MH+)。
【0235】
【化37】

化合物4:3−メチル−5−フェニル−6−(9H−プリン−6−イルスルファニルメチル)−5H−イソオキサゾロ[5,4−d]ピリミジン−4−オン。化合物1について記載した一般的な手順に従って、DMF(500μL)中の6−クロロメチル−3−メチル−5−フェニル−5H−イソオキサゾロ[5,4−d]ピリミジン−4−オン(20mg、0.073mmol)の撹拌した溶液を、6−メルカプトプリン一水和物(12.5mg、0.073mmol)で処理し、その後に炭酸カリウム(10mg、0.073mmol)を添加した。未精製の反応混合物を、HPLC(C−18 Lunaカラム 1×18mm、0.05%のCHCOHを含有する10〜20%のCHCN/HO)によって精製した。凍結乾燥後に、生成物を綿毛状の白色固体として得た:H NMR (400MHz,DMSO−d)δ8.55(s,1H),8.45(br s,1H),7.55(m,5H),4.40(s,2H),2.44(s,3H);LC/MS(AP−ESI,AcOH0.05%)m/z(MH+)392。
【0236】
【化38】

化合物5:6−(6−アミノ−プリン−9−イルメチル)−3−メチル−5−フェニル−5H−イソオキサゾロ[5,4−d]ピリミジン−4−オン。化合物1について記載した一般的な手順に従って、DMF(500μL)中の6−クロロメチル−3−メチル−5−フェニル−5H−イソオキサゾロ[5,4−d]ピリミジン−4−オン(20mg、0.073mmol)の撹拌した溶液を、アデニン(10mg、0.111mmol)で処理し、その後に、炭酸カリウム(15mg、0.109mmol)を添加した。未精製の反応混合物を、HPLC(C−18 Lunaカラム 1×18mm、0.05%のCHCOHを含有する10〜20%のCHCN/H0)によって精製した。凍結乾燥後に、生成物を綿毛状の白色固体として得た:H NMR(400MHz,DMSO−d)δ8.25(s,1H),8.20(s,1H),7.63(m,5H),5.14(s,2H),2.47(s,3H);LC/MS(AP−ESI,AcOH0.05%)m/z(MH+)375。
【0237】
【化39】

化合物11:2−[1−(4−アミノ−ベンゾイミダゾール−1−イル)−エチル]−3−フェニル−3H−ピリド[3,2−d]ピリミジン−4−オン。DMF(500μL)中の2−(1−クロロ−エチル)−3−フェニル−3H−ピリド[3,2−d]ピリミジン−4−オン(94mg、0.329mmol)の撹拌溶液に、アデニン(66mg、0.494mmol)を添加し、その後に炭酸カリウム(45mg、0.329mmol)を添加した。次いで得られた混合物を80℃で1時間加熱し、室温に冷却し、HO(10mL)で処理した。得られた混合物を濃縮することによって粗生成物を得、次いでこれを、HPLC(C−18 Lunaカラム 250×21.20mm、0.05%のCFCOHを含有する10〜20%のCHCN/HO)によって精製した。凍結乾燥後に、生成物を白色固体として得た:H NMR(400MHz,DMSO−d)δ8.83(m,1H),8.45(微細なd,J=1.2Hz,1H),8.20(微細なd,J=1.6Hz,1H),8.10(m,1H),7.85(m,1H),7.70(d,J=8.2Hz,1H),7.59(t,J=7.8Hz,1H),7.44(t,J=7.4Hz,1H),7.34(t,J=7.4Hz,1H),7.12(d,J=8.2Hz,1H),5.51(q,J=7.0Hz,1H),1.77(d,J=6.8Hz,3H).LC/MS(AP−ESI,AcOH0.05%)m/z385(MH+)。
【0238】
【化40】

化合物12:3−フェニル−2−[1−(9H−プリン−6−イルアミノ)−エチル]−3H−ピリド[3,2−d]ピリミジン−4−オン。エタノール(1mL)中の2−(1−アミノ−エチル)−3−フェニル−3H−ピリド[3,2−d]ピリミジン−4−オン(328mg、1.23mmol)の溶液に、6−ブロモプリン(245mg、1.23mmol)およびDIEA(429μL、2.46mmol)を添加した。得られた溶液を85℃で24時間加熱し、室温に冷却し、濃縮することによって粗生成物を得た。次いで未精製物質を、HPLC(C−18 Lunaカラム 250×21.20mm、0.05%のCFCOHを含有する10〜20%のCHCN/HO)によって精製した。凍結乾燥後に生成物を得た。LC/MS (AP−ESI, AcOH 0.05%) m/z 385 (MH+)。
【0239】
(実施例9)
PI3Kの効力、選択性、およびバイオアベイラビリティーの生化学アッセイ法
20μMのATPを使用する生化学アッセイ法
上記実施例2に記載された方法を使用して、PI3Kδに対する阻害活性および効力、ならびに他のクラスIのPI3Kアイソザイムに対するPI3Kδについての選択性について、本発明の化合物を試験した。PI3Kα(「α」)、PI3Kβ(「β」)、PI3γ(「γ」)、およびPI3Kδ(「δ」)について、IC50値(μM)を示す。化合物の選択性を例示するために、PI3Kδと比べたPI3Kα、PI3Kβ、およびPI3Kγについての化合物のIC50値の比を、それぞれ「α/δ比」、「β/δ比」、および「γ/δ比」として示す。
【0240】
最初の選択性アッセイ法は、放射標識検出のために100μLのEcoscintを使用することを除いて、実施例2における選択性アッセイプロトコールとまったく同様に行った。引き続く選択性アッセイ法は、3X基質原料が0.05mCi/mLのγ[32P]ATPおよび3mMのPIP2を含有したことを除いて、同じ3X基質原料を使用して同様に行った。引き続く選択性アッセイ法はまた、3X酵素原料が、ここでは3nMの任意の所与のPI3Kアイソフォームを含有したことを除いて、同じ3X酵素原料を使用した。
【0241】
すべての選択性アッセイ法について、試験化合物を検量し、100%のDMSO中の10〜50mMの原料中に溶解させ(そのそれぞれの溶解度に応じて)、−20℃で貯蔵した。化合物を解凍し(室温または37℃)、希釈して水中で300μMにし、これから水中への3倍希釈系列を行った。これらの希釈液から酵素(正の)対照、および酵素なし(バックグラウンド)対照のために使用した水のブランクとともにアッセイウェル中に20μLを添加した。アッセイ法の残りは、実施例2における選択性アッセイプロトコールに従って本質的に行った。
【0242】
(実施例10)
PI3Kδ活性の阻害剤についての細胞に基づくアッセイデータ
上記の実施例3に記載した方法を使用して、本発明の化合物を、好中球(PMN)エラスターゼ放出のアッセイ法における阻害活性および効力について試験した。
【0243】
本発明の化合物を試験し、PI3Kδの選択的阻害剤であることを示した。選択した化合物についてのインビトロの活性データとともに、本発明の範囲内の具体的な化合物の一部を表1に示す。
【0244】
【表1−1】

【0245】
【表1−2】

【0246】
【表1−3】

明確さと理解の目的で、ある特定の実施形態に具体的に言及して本発明を説明してきたが、本発明が以下に示す特許請求の範囲において定義されるように、本発明の範囲内でさらなる変更および改変を実践することができることが当業者に明らかになる。したがって、特許請求の範囲において具体的に列挙したもの以外に、本発明に対していかなる限定も行われるべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の化合物:
【化41】

[式中、U、V、W、およびZは、独立して、CR、N、NR、およびOからなる群から選択され、
またはU、V、W、およびZのうちの少なくとも1つはNであり、U、V、W、およびZのうちのその他は、CR、NR、S、およびOからなる群から選択され、
U、V、W、およびZのうちのすべてではないが少なくとも1つはCRと異なり;
Aは、環員として少なくとも2つの窒素原子を含有する、場合により置換された単環式もしくは二環式の環系であり、前記系の少なくとも1つの環は芳香族であり;
Xは、C(R、C(RC(R、CHCHR、CHRCHR、CHRCH、CH=C(R)、C(R)=C(R)、およびC(R)=CHからなる群から選択され;
Yは、なし(すなわち、結合)、S、SO、SO、NH、N(R)、O、C(=O)、OC(=O)、C(=O)O、およびNHC(=O)CHSからなる群から選択され;
は、H、置換または非置換のC1〜10アルキル、置換または非置換のC2〜10アルケニル、置換または非置換のC2〜10アルキニル、置換または非置換のC1〜6ペルフルオロアルキル、置換または非置換のC3〜8シクロアルキル、置換または非置換のC3〜8ヘテロシクロアルキル、置換または非置換のC1〜4アルキレンC3〜8シクロアルキル、置換または非置換のアリール、置換または非置換のヘテロアリール、置換または非置換のアリールC1〜4アルキレンOR、置換または非置換のヘテロアリールC1〜4アルキレンN(R、置換または非置換のヘテロアリールC1〜4アルキレンOR、置換または非置換のC1〜3アルキレンヘテロアリール、置換または非置換のC1〜3アルキレンアリール、置換または非置換のアリールC1〜6アルキル、アリールC1〜4アルキレンN(R、C1〜4アルキレンC(=O)C1〜4アルキレンアリール、C1〜4アルキレンC(=O)C1〜4アルキレンヘテロアリール、C1〜4アルキレンC(=O)ヘテロアリール、C1〜4アルキレンC(=O)N(R、C1〜6アルキレンOR、C1〜4アルキレンNRC(=O)R、C1〜4アルキレンOC1〜4アルキレンOR、C1〜4アルキレンN(R、C1〜4アルキレンC(=O)OR、およびC1〜4アルキレンOC1〜4アルキレンC(=O)ORからなる群から選択され;
は、独立して、H、置換または非置換のC1〜6アルキル、置換または非置換のC3〜8シクロアルキル、置換または非置換のC3〜8ヘテロシクロアルキル、置換または非置換のアリール、C1〜3アルキレンアリール、置換または非置換のヘテロアリール、置換または非置換のヘテロアリールC1〜3アルキル、置換または非置換のC1〜3アルキレンヘテロアリール、ハロ、NHC(=O)C1〜3アルキレンN(R、NO、OR、CF、OCF、N(R、CN、OC(=O)R、C(=O)R、C(=O)OR、アリールOR、NRC(=O)C1〜3アルキレンC(=O)OR、アリールOC1〜3アルキレンN(R、アリールOC(=O)R、C1〜4アルキレンC(=O)OR、OC1〜4アルキレンC(=O)OR、C1〜4アルキレンOC1〜4アルキレンC(=O)OR、C(=O)NRSO、C1〜4アルキレンN(R、C2〜6アルケニレンN(R、C(=O)NR1〜4アルキレンOR、C(=O)NR1〜4アルキレンヘテロアリール、OC1〜4アルキレンN(R、OC1〜4アルキレンCH(OR)CHN(R、OC1〜4アルキレンヘテロアリール、OC2〜4アルキレンOR、OC2〜4アルキレンNRC(=O)OR、NR1〜4アルキレンN(R、NRC=O)R、NRC(=O)N(R、N(SO1〜4アルキル)、NR(SO1〜4アルキル)、SON(R、OSOCF、C1〜3アルキレンアリール、C1〜4アルキレンヘテロアリール、C1〜6アルキレンOR、C(=O)N(R、NHC(=O)C1〜3アルキレンアリール、アリールOC1〜3アルキレンN(R、アリールOC(=O)R、NHC(=O)C1〜3アルキレンC3〜8ヘテロシクロアルキル、NHC(=O)C1〜3アルキレンヘテロアリール、OC1〜4アルキレンOC1〜4アルキレンC(=O)OR、C(=O)C1〜4アルキレンヘテロアリール、およびNHC(=O)ハロC1〜6アルキルからなる群から選択され;
は、なし、H、置換または非置換のC1〜6アルキル、置換または非置換のC3〜8シクロアルキル、置換または非置換のC3〜8ヘテロシクロアルキル、置換または非置換のアリール、置換または非置換のアリールC1〜3アルキル、C1〜3アルキレンアリール、置換または非置換のヘテロアリール、ヘテロアリールC1〜3アルキル、置換または非置換のC1〜3アルキレンヘテロアリール、C(=O)R、C(=O)OR、アリールOR、アリールOC1〜3アルキレンN(R、アリールOC(=O)R、C1〜4アルキレンC(=O)OR、C1〜4アルキレンOC1〜4アルキレンC(=O)OR、C(=O)NRSO、C1〜4アルキレンN(R、C2〜6アルケニレンN(R、C(=O)NR1〜4アルキレンOR、C(=O)NR1〜4アルキレンヘテロアリール、SON(R、C1〜3アルキレンアリール、C1〜4アルキレンヘテロアリール、C1〜6アルキレンOR、C1〜3アルキレンN(R、C(=O)N(R、アリールOC1〜3アルキレンN(R、アリールOC(=O)R、およびC(=O)C1〜4アルキレンヘテロアリールからなる群から選択され;
は、独立して、H、置換または非置換のC1〜10アルキル、置換または非置換のC3〜8シクロアルキル、置換または非置換のC3〜8ヘテロシクロアルキル、置換または非置換のC1〜4アルキレンN(R、置換または非置換のC1〜3アルキレンヘテロC1〜3アルキル、置換または非置換のアリールヘテロC1〜3アルキル、置換または非置換のアリール、置換または非置換のヘテロアリール、置換または非置換のアリールC1〜3アルキル、置換または非置換のヘテロアリールC1〜3アルキル、C1〜3アルキレンアリール、置換または非置換のC1〜3アルキレンヘテロアリール、C(=O)R、およびC(=O)ORからなる群から選択され、
または同じ原子上もしくは隣接する結合した原子上の2つのRは、環化することによって3〜8環員を有する環を形成することができ、前記環は場合により置換されており、環員としてNR、OおよびSから選択される最大2個のヘテロ原子を含むことができ;
は、H、置換または非置換のC1〜10アルキル、置換または非置換のC2〜10アルケニル、置換または非置換のC2〜10アルキニル、置換または非置換のC3〜8シクロアルキル、置換または非置換のC3〜8ヘテロシクロアルキル、置換または非置換のC1〜3アルキレンN(R、アリール、置換または非置換のアリールC1〜3アルキル、置換または非置換のC1〜3アルキレンアリール、置換または非置換のヘテロアリール、置換または非置換のヘテロアリールC1〜3アルキル、および置換または非置換のC1〜3アルキレンヘテロアリールからなる群から選択され;
または2つのR基は、これらが結合している窒素と一緒になって、N、OもしくはSである第2のヘテロ原子を場合により含有する、5員環もしくは6員環を形成し;
は、H、置換または非置換のC1〜6アルキル、置換または非置換のC3〜8シクロアルキル、置換または非置換のアリール、および置換または非置換のヘテロアリールからなる群から選択され、
または2つのR基は、これらが結合している窒素と一緒になって、N、OもしくはSである第2のヘテロ原子を場合により含有する、5員環もしくは6員環を形成し;
前記A、R、R、R、R、およびRは、独立して、C1〜10アルキル、C2〜10アルケニル、C2〜10アルキニル、C3〜8シクロアルキル、C3〜8ヘテロシクロアルキル、C1〜6アルキレンOR、C1〜4アルキレンN(R、アリール、C1〜3アルキレンアリール、ヘテロアリール、C(=O)OR、C(=O)R、OC(=O)R、ハロ、CN、CF、NO、N(R、OR、OC1〜6ペルフルオロアルキル、OC(=O)N(R、C(=O)N(R、SR、SO、SO、オキソ(=O)、およびCHOからなる群から選択される1〜3個の置換基で場合により置換されており;
nは、0または1である];または
その薬学的に許容できる塩。
【請求項2】
nが0であり、V、W、およびZのうちの1つがNRである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
nが0であり、V、W、およびZのうちの1つがOである、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
nが0であり、V、W、およびZのうちの1つがSである、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
nが1であり、V、W、U、およびZのうちの1つがNであり、その他がCRである、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
nが1であり、V、W、U、およびZのうちの2つがNであり、その他がCRである、式(I)の化合物。
【請求項7】
Aが場合により置換された二環式の芳香族基である、請求項1から6のいずれかに記載の化合物。
【請求項8】
Aがピリミジン環またはピリミジノン環を含み、Aが最大3個の置換基によって場合により置換されている、請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
がフェニル、ヘテロアリールおよびC3〜8シクロアルキルからなる群から選択される、場合により置換された環である、請求項7または8に記載の化合物。
【請求項10】
XがC(Rである、請求項9に記載の化合物。
【請求項11】
Yが結合、NHまたはSである、請求項9に記載の化合物。
【請求項12】
XがCHまたはC(R)Hであり、RがC1〜C4アルキルである、請求項10または11に記載の化合物。
【請求項13】
XがC(R)Hであり、S配置にある、請求項12に記載の化合物。
【請求項14】
XおよびYが一緒に環化することによって、以下の式の環を形成する、請求項9に記載の化合物。
【化42】

【請求項15】
Aがハロ、NH、NHMe、NMe、OH、SMe、およびMeから選択される、最大3個の置換基で場合により置換されたプリン基である、請求項1から14のいずれかに記載の化合物。
【請求項16】
XがCHMeまたはCHEtである、請求項1から13のいずれかに記載の化合物。
【請求項17】
が、ハロ、OR、C1〜6アルキル、C2〜6アルケニル、C2〜6アルキニル、アリール、C3〜8ヘテロシクロアルキル、ヘテロアリール、CF、NO、N(R、C(=O)OR、SON(R、CN、C(=O)R、C(=O)N(R、C1〜4アルキレンN(R、OC1〜4ペルフルオロアルキル、オキソ、およびCHOからなる群から選択される1〜3個の置換基で場合により置換されたフェニルである、請求項15または請求項16に記載の化合物。
【請求項18】
少なくとも1つの薬学的に許容できる賦形剤と混合された、請求項1から17のいずれかに記載の化合物を含む医薬組成物。
【請求項19】
白血球機能を混乱させる方法であって、前記白血球を、有効量の請求項1に記載の化合物と接触させるステップを含む方法。
【請求項20】
白血病と診断された対象を治療するための方法であって、有効量の請求項1から17のいずれかに記載の化合物を前記対象に投与するステップを含む方法。
【請求項21】
リンパ腫と診断された対象を治療するための方法であって、有効量の請求項1から17のいずれかに記載の化合物を前記対象に投与するステップを含む方法。
【請求項22】
免疫学的障害と診断された対象を治療するための方法であって、有効量の請求項1から17のいずれかに記載の化合物を前記対象に投与するステップを含む方法。
【請求項23】
前記免疫学的障害が喘息、関節リウマチ、多発性硬化症およびループスから選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
高血圧と診断された対象を治療するための方法であって、有効量の請求項1から17のいずれかに記載の化合物を前記対象に投与するステップを含む方法。
【請求項25】
癌または肉腫と診断された対象を治療するための方法であって、有効量の請求項1から17のいずれかに記載の化合物を前記対象に投与するステップを含む方法。
【請求項26】
骨吸収障害と診断された対象を治療するための方法であって、有効量の請求項1から17のいずれかに記載の化合物を前記対象に投与するステップを含む方法。
【請求項27】
ホスファチジルイノシトール3−キナーゼδポリペプチドのキナーゼ活性を阻害する方法であって、前記ポリペプチドを請求項1に記載の化合物と接触させるステップを含む方法。

【公表番号】特表2011−503193(P2011−503193A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−534149(P2010−534149)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【国際出願番号】PCT/US2008/083262
【国際公開番号】WO2009/064802
【国際公開日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(504158043)アイコス、コーポレーション (5)
【氏名又は名称原語表記】ICOS CORPORATION
【Fターム(参考)】