説明

ヒトメガリンの測定方法

【課題】従来法に比較して簡便で所要時間が短く、且つ、ヒトメガリンの定量も可能なヒトメガリンの測定方法ならびに細胞・組織・臓器特異的な機能性疾患を部位直接的かつ、早期に診断可能とする方法の提供。
【解決手段】ヒトメガリンを測定することによりメガリンの発現が認められる臓器の疾患を検出する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトメガリンの測定方法に関する。ヒトにおいて、メガリンの発現の認められる細胞・組織・臓器に対して、局所特異的に発現しているメガリンを迅速かつ簡便に定量検出し、それによって細胞・組織・臓器の直接的な障害の程度の早期診断を可能とせしめ、障害の進行ならびにその治療による予後を維持・改善に向かわすことを可能とする検出方法に関する。本発明は、腎疾患や肺疾患等のメガリンの発現が認められる臓器の疾病の診断に適応することができる。
【背景技術】
【0002】
1.メガリンのクローニング
実験膜性腎症モデルであるHeymann腎炎の病因抗原の検索の結果、1982年、Kerjaschki D.とFarquhar M.G.は、細胞膜タンパク質gp330を同定した(非特許文献1参照)。1994年、Saito A.らはラットのgp330の完全一次構造を決定し、脊椎動物でクローニングされた最大の細胞膜タンパク質であることにちなんでメガリン(Megalin)と改名した(非特許文献2参照)。
【0003】
2.メガリンの発現部位
Glycoprotein330(gp330)あるいはLow Density Lipoprotein(LDL)-receptor related protein 2(LRP-2)としても知られるメガリン(Megalin)は、腎臓近位尿細管上皮、ならびに他の組織および細胞、例えば、肺のII型細胞、精巣、子宮内膜、胎盤、内耳の上皮細胞、腎上皮で、ならびに胚卵黄嚢、および神経外胚葉上に発現される分子量が約600kDaの糖タンパク質である(非特許文献3〜5を参照)。腎臓においては、メガリンは、尿排泄前に近位尿細管内のタンパク質等のエンドサイトーシス・再吸収に関係するエンドサイトーシス受容体として機能する。再吸収されたタンパク質等は、その後、リソゾームにより分解される(非特許文献6参照)。
【0004】
3.メガリンのヌクレオチド配列
メガリン(Megalin)とは、哺乳動物の腎近位尿細管上皮細胞膜上に最も多く発現する糖タンパク質であり、そしてそのcDNAコーディング配列は、Korenberg , J.R. et al.(1994)中に開示される遺伝子受託番号第U04441号、Hjaeln , G. et al.(1996)中に開示される遺伝子受託番号U33837号をもつヒトメガリンcDNA配列とヌクレオチド同一性を持つものである(非特許文献7および8を参照)。また、ラットにおいてもヒトメガリンと相同性をもつラットメガリンがSaito et al.(1994)により見出されており、そのcDNA配列は遺伝子受託番号第L34049号として開示されている(非特許文献2参照)。
【0005】
4.メガリンのアミノ酸配列およびタンパク質構造
メガリンは、ヒトでは4655アミノ酸、ラットでは4660アミノ酸から成る巨大な細胞膜タンパク質であり、そのアミノ酸配列から予想される分子量は約520kDaで、糖鎖を加えると約600kDaに及ぶ(非特許文献2参照)。メガリンはLDLレセプター遺伝子ファミリーに属し、その巨大な細胞外領域は4つの機能的ドメインを有し、単一の細胞膜貫通領域を介して短い細胞内領域へ続く。メガリンは糸球体(ラット)、近位尿細管、肺胞II型細胞、副睾丸腺、甲状腺、副甲状腺、卵黄嚢膜、内耳、小腸、脈絡膜などの上皮細胞膜の管腔側(糸球体上皮では管腔側と基底膜側の両方)のclathrin-coated pitに主に存在し、多様なリガンドの細胞内への取り込み・代謝に関係している(非特許文献9および10を参照)。メガリンのノックアウトマウスでは、低分子量蛋白尿、骨代謝異常、呼吸不全、脳奇形などが起こる(非特許文献11参照)。メガリンのホモログは線虫(C.elegans)にも存在し、生物学的重要性も示唆されている(非特許文献12参照)。
【0006】
5.腎炎の病因としてのメガリンの重要性
実験膜性腎症(Heymann腎炎)の主要病因抗原であるメガリンは、上皮細胞型スカベンジャー受容体であり、その生理学的・病理学的役割が明らかにされてきている。その中で、ヒト膜性腎症の発症機序の解明の為に、古くから動物モデルが使われてきたが、なかでもラットHeymann腎炎(Heymann nephritis )は最も解析が進んでいる膜性腎症モデルである。Saito A.らは、Heymann腎炎の病的エピトープとリガンド結合ドメインについても解析した結果を開示しており、メガリンの主要抗原領域ならびにリガンドとの結合に主に寄与するメガリンの機能領域についても明らかにしている(非特許文献13〜16を参照)。
【0007】
6.メガリンの多様なリガンド
生体内でメガリンは近位尿細管上皮細胞の管腔側に最も豊富に発現している。ヒト腎では、近位尿細管上皮細胞以外は、糸球体を含め、発現は認められない。メガリンは糸球体を濾過する様々なリガンド(低分子量タンパク質や薬剤など)をエンドサイトーシスによって細胞内に取り込み、それらをライソゾームへ運搬した後、メガリン自身はリサイクリングによって細胞表面に再び現れる(非特許文献9および10を参照)。あるいは管腔側から基底膜側へのトランスサイトーシスにも関係している。ビタミンA,B12,Dなどの結合タンパク質の取り込み・代謝にも関係する(非特許文献10を参照)。ChristensenとWillnowは、メガリンは、3つのビタミン担体タンパク質、ビタミンD結合タンパク質(DBP)、レチノール結合タンパク質(RBP)、及びトランスコバラミン(TC)、ならびにそれらの会合ビタミンである(OH)ビタミン25D3 、ビタミンA(レチノール)、およびビタミンB12の再吸収を仲介することを明らかにしている(非特許文献3参照)。Saito A.らは、脂肪細胞から分泌され、肥満患者で血液中に増加するレプチンが、メガリンのリガンドとして近位尿細管上皮細胞に取り込まれ、代謝されることを明らかにしている(非特許文献17参照)。この脂肪細胞つまり、内臓脂肪の蓄積の結果としてメタボリック症候群という複合的な病態を呈するが、脂肪細胞が分泌するアディポサイトカインのひとつであるレプチンは、メタボリック症候群患者の血液中において増加している。腎臓は血液中のレプチンが最も集積する臓器であるとともに、レプチンは腎障害性の役割を演ずることが示唆されている(非特許文献18参照)。また、いわゆるレプチン受容体はメガリンの作用域より下流の近位尿細管から集合管にかけて存在することも判明している。
【0008】
メタボリック症候群とは、内臓肥満、高血圧、高脂血症、耐糖能異常などを合併し、インスリン抵抗性を基盤とする病態として定義されるが、このような病態では動脈硬化性疾患の発症リスクが高く、蛋白尿を呈し、糸球体・尿細管肥大を組織学的な特徴とする腎症が発症することもある。このような症例が、明らかな糖尿病を合併すると、更に高血糖の病像が加わり、糖尿病性腎症が顕在化するとともに、重症化する可能性がある。あるいは2型糖尿病は基本的にメタボリック症候群の病態が先行あるいは並存する為、本来その腎症の病像は、メタボリック症候群関連腎症として内包しているともいえる。
【0009】
また、Saito A.らはメガリンを高発現するラット卵黄嚢上皮由来細胞(L2細胞)を用いた実験において、125I標識AGE(advanced glycation end products)(グルコース由来)のL2細胞への取り込みが、抗メガリン抗体によって有意に抑制されることから、その取り込み経路にメガリンが関与することを明らかにしてきている(非特許文献19)。糖尿病性腎症の発症機序として、メイラード反応による糖化修飾蛋白advanced glycation end products(AGE)の関与が指摘されている。血液中に存在する低分子量のAGEは糸球体を濾過し、近位尿細管上皮細胞によって再吸収・代謝される。さらに腎症が進行すれば、より高分子量のAGEも糸球体を濾過し、近位尿細管上皮細胞に蓄積し、過剰な代謝負荷となる。また更に、Saito A.らは、グルコース以外にも、メチルグリオキサールやグリセルアルデヒド、グリコールアルデヒド由来のAGEの細胞取り込みにもメガリンが関与することを明らかにしている。また、メタボリック症候群では脂肪肝などの肝障害を合併することが多い。肝臓内に豊富に存在するliver type fatty acid binding protein(L-FABP)は、健常者でも血液中に放出されているが、肝障害ではさらに血液中に逸脱し増加する。Saito A.らは血液中に存在するL-FABPも速やかに糸球体を濾過し、近位尿細管上皮細胞においてメガリンを介して再吸収されることを明らかにしている(非特許文献20)。
【0010】
7.メガリンと相互作用する機能性タンパク質
細胞内でのメガリンの輸送機序を明らかにする為に、メガリンの細胞内ドメインに結合するアダプター分子が探索され、Dab2 , ANKRA , MAGI-1 , GAIP , GIPC , Galphai3 ,MegBP , ARH等々の様々なタンパク質が同定されている(非特許文献21〜26を参照)。このような分子を介して、メガリンはエンドサイトーシスあるいはトランスサイトーシスに関わるとともに、これらに関連したシグナル伝達にも関与している。メガリンはまた、近位尿細管上皮細胞においキュビリン(Cubilin)という細胞膜受容体と共役的に働くことによって、更に多様なリガンドの細胞取り込みに関与する(非特許文献2参照)。たとえばキュビリンは、トランスフェリン、アルブミン、内因性ビタミンB12などに直接結合する受容体であるが、それらのエンドサイトーシスにメガリンが間接的に関与している。また、メガリンは、近位尿細管上皮細胞の、Na−Hexchanger isoform 3(NHE3)と相互作用を及ぼしあうことも知られている(非特許文献27参照)。NHE3はNa再吸収に重要な役割を演ずるアンチポーターであるが、メガリンによるリガンド取り込みにも影響を与えている(非特許文献28参照)。メガリンはまた、NHE3の不活性化・代謝に関与している可能性がある。糖尿病性腎症やメタボリック症候群関連腎症の初期には糸球体過剰濾過が起こる。これは近位尿細管のNa再吸収の亢進が第一義的な原因であると推定されており(非特許文献29参照)、その際、重要な役割を演ずるのがNHE3であり、ここに上述したメガリンによるNHE3の不活性化・代謝が関与していると考えられている(非特許文献28参照)。
【0011】
8.メガリンの尿中排泄とメガリンのリガンドの尿中排泄の関連性
Lehesteらは、メガリン・ノックアウト・マウスおよび、近位尿細管機能が弱められたFanconi症候群を伴う患者が、その尿中にタンパク質およびレチノールの排泄増加を来すことを開示している(非特許文献30)。更に、Moestrup S.K.らは、Fanconi症候群患者において、メガリンの尿中排泄量が正常に比して際立って低下しており、このことが近位尿細管におけるメガリンの機能・発現の低下およびそれに続く、レチノール結合タンパク質を含む糸球体濾過タンパク質の尿中排泄増加を来す要因であることを明らかにしている(非特許文献31)。
【0012】
9.尿毒症モデル実験と臓器再生モデル実験によって得られたメガリンの機能の重要性
メガリンは前述のように様々な低分子量タンパク質の近位尿細管上皮細胞への取り込み・代謝に関わる。腎不全になると、そのような代謝機構が障害される結果、低分子量タンパク質が、いわゆる尿毒素タンパク質として、血液・組織に蓄積する。その代表例がβ2-ミクログロブリン(β2-m)であり、長期透析患者で透析アミロイドーシスを引き起こす原因となる(非特許文献32参照)。前述のAGEも、腎不全・透析患者で血液中に蓄積し、動脈硬化や臓器障害の病因となることが示唆されており、一種の尿毒素タンパク質として考えられている(非特許文献33参照)。さらにレプチンも透析患者で蓄積し、栄養障害や免疫低下に関係していると考えられている。Tabata Y.とGejyo F.らはメガリンの機能を利用した尿毒素タンパク質の代謝モデルの効果・有効性を開示している(非特許文献34および特許文献1を参照)。これは、メガリンを発現する細胞を、生体内において足場タンパク質(scaffold)とともに移植し、周囲の血管(新生血管)から漏出する低分子量タンパク質を、メガリンを介してその細胞に取り込ませ代謝させるというものである。移植に用いたメガリン発現細胞(卵黄嚢上皮由来L2細胞)自体がメガリンを介してβ2-mを取り込み・代謝することを確認している(非特許文献34参照)。L2細胞を皮下組織に移植したヌードマウスの両腎を摘出後、腎不全状態を惹起させ、その後服腔内注射した125I標識β2-mの移植組織塊および各種臓器での取り込みを測定した結果、移植L2細胞塊はその他の臓器に比較して有意に125I標識β2-m を取り込むこと、L2細胞を移植しない対照群と比して血液中の125I標識β2-mのクリアランスはL2細胞移植群で促進されることを明らかにしている(特許文献34参照)。
【0013】
10.プロテオライシスとメガリンの尿中排泄
また、近年、メガリンがNotchlike signal pathwayの下で、proteolysisを受けている可能性が示唆されてきている(非特許文献35および36を参照)。これは、metalloproteaseが媒介するectodomainのsheddingとgamma-secretaseが媒介するintramembrane proteolysisの2段階による切断様式を含む。
【0014】
また、肺胞II型細胞上にもメガリンが発現することが知られている。
上記のように、メガリンについては、腎臓等の臓器における代謝との関係で多くの研究がされている。しかしながら、腎臓を含めた臓器疾患とメガリンとの関係は明確になっておらず、また種々の臓器疾患において、メガリンの発現や体液中への排泄等がどうなっているのかについては研究されていなかった。
【0015】
従来メガリンの検出方法としては、ウサギ等の免疫動物に免疫してえられたポリクローナル抗体を用いた組織染色あるいはWestern Blottingによる方法が知られている。
【0016】
しかしながら、この従来法では、細胞や電気泳動で分離したタンパク質等を染色するため、組織の固定や切片の作成、電気泳動やその後の膜上への転写等、極めて煩雑で多くの時間を必要とし、また、メガリンの量を定量することは困難である。
【0017】
また、組織・臓器の機能障害の程度を診断するという観点からいえば、特に腎疾患において尿細管障害を特異的かつ簡便に診断する有効な術は無い。腎疾患の診断マーカーとしては、尿や血液中のアルブミン、クレアチニン、β2-ミクログロブリン、L-FABP等々を検出するという数多くの診断方法が用いられている現状であるが、これらの診断マーカーは何れも腎組織由来のものではなく、腎糸球体での濾過と尿細管での再吸収の過程の総合的な現象・機能の結果を捉えたものでしかない。すなわち、上記マーカーを用いても腎臓における糸球体障害と尿細管障害の特定は困難であり、上記マーカーは腎臓外由来の間接的なマーカーであるため疾患の早期診断には有効性が乏しい。また、肺疾患、特に炎症に対する現状の診断マーカーであるKL-6(急性期炎症マーカー)等と比しても同様のことがいえる。
【0018】
【特許文献1】国際公開第WO02/091955号パンフレット
【非特許文献1】Kerjaschki D. , Farquhar M.G. (1892) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 79 , 5557-5561
【非特許文献2】Saito A. et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 91 , 9725-9729
【非特許文献3】Christensen E.I. , Willnow T.E. (1999) J. Am. Soc. Nephrol. 10 , 2224-2236
【非特許文献4】Juhlin C. , Klareskog L. et al. (1990) J. Biol. Chem. 265 , 8275-8279
【非特許文献5】Zheng G , McCluskey R.T. et al. (1994) J. Histochem. Cytochem. 42 , 531-542
【非特許文献6】Mausbach A.B. , Christensen E.I. (1992) Handbook of Physiology : Renal Physiology , Windhager , editor , New York , Oxford University Press , 42-207
【非特許文献7】Korenberg J.R. et al. (1994) Genomics 22 , 88-93
【非特許文献8】Hjalm G. et al. (1996) Eur. J. Biochem. 239 , 132-137
【非特許文献9】Farquhar M.G. et al. (1995) J.Am. Soc. Nephrol. 6 , 35-47
【非特許文献10】Christensen E.I. et al. (2002) Nat. Rev. Mol. Cell. Biol. 3 , 256-266
【非特許文献11】Willnow T.E. et al. (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 93 , 8460-8464
【非特許文献12】Yochem J. et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 90 , 4572-4576
【非特許文献13】Kerjaschki D. et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 89 , 11179-11183
【非特許文献14】Saito A. , Farquhar M.G. et al. (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 93 , 8601-8605
【非特許文献15】Yamazaki H. , Farquhar M.G. et al. (1998) J. Am. Soc. Nephrol. 9 , 1638-1644
【非特許文献16】Orlando R.A. ,Farquhar M.G. et al. (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 94 , 2368-2373
【非特許文献17】Saito A. , Gejyo F. et al. (2004) Endocrinology. 145 , 3935-3940
【非特許文献18】Tarzi R.M. Lord G.M. et al. (2004) Am. J. Pathol. 164 , 385-390
【非特許文献19】Saito A. Gejyo F. et al. (2003) J. Am. Soc. Nephrol. 14 , 1123-1131
【非特許文献20】Takeda T. , Gejyo F. , Saito A. et al. (2005) Lab. Invest. 85 , 522-531
【非特許文献21】Oleinikov A.V. et al. (2000) Biochem. J. 347 , 613-621
【非特許文献22】Rader K. , Farquhar M.G. et al. (2000) J. Am. Soc. Nephrol. 11 , 2167-2178
【非特許文献23】Patrie K.M. , Margolis B. et al. (2001) J. Am. Soc. Nephrol. 12 , 667-677
【非特許文献24】Lou X. , Farquhar M.G. et al. (2002) J. Am. Soc. Nephrol. 13 , 918-927
【非特許文献25】Petersen H.H. , Willnow T.E. (2003) J. Cell. Sci. 116 , 453-461
【非特許文献26】Takeda T. , Farquhar M.G. et al. (2003) Mol. Biol. Cell. 14 , 4984-4996
【非特許文献27】Biemesderfer D. et al. (1999) J. Biol. Chem. 274 , 17518-17524
【非特許文献28】Hryciw D.H. et al. (2004) Clin. Exp. Pharmacol. Physiol. 31 , 372-379
【非特許文献29】Vallon V. et al. (2003) J. Am. Soc. Nephrol. 14 , 530-537
【非特許文献30】Leheste J. et al. (1999) Am. J. Pathol. 155 , 1361-1370
【非特許文献31】Anthony G.W. , Moestrup S.K. et al. (2002) J. Am. Soc. Nephrol. 13 , 125-133
【非特許文献32】Gejyo F. , Schmid K. et al. (1985) Biochem. Biophys. Res. Commun. 129 , 701-706
【非特許文献33】Henle T. , Miyata T. (2003) Adv. Ren. Replace Ther. 10 , 321-331
【非特許文献34】Saito A. , Tabata Y. , Gejyo F. et al. (2003) J. Am. Soc. Nephrol. 14 , 2025-2032
【非特許文献35】Zou Z. , Biemesderfer D. et al. (2004) J. Biol. Chem. 279 , 34302-34310
【非特許文献36】Grigorenko A.P. et al. (2004) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 101 , 14955-14960
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、従来法に比較して簡便で所要時間が短く、且つ、ヒトメガリンの定量も可能なヒトメガリンの測定方法を提供することである。更に、本測定方法を用いることで、細胞・組織・臓器特異的な機能性疾患を部位直接的かつ、早期に診断可能とするものである。特に、尿中メガリンを測定することによる腎疾患を検出する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記のように、ヒトメガリンについては多数の報告がなされており、腎臓や肺等の臓器代謝との関連は示唆されていた。しかしながら、臓器機能に障害が表れた場合に、メガリンの発現がどのように変動し、メガリンの消長がどうなるか等については不明であった。
【0021】
本発明者らは、高感度かつ迅速にヒトメガリンを測定する方法について鋭意検討を行い、ヒトメガリンに結合性を有するリガンド、特に抗ヒトメガリン抗体を用いた、尿等の体液検体中のメガリンを正確に測定する方法を見出した。
【0022】
さらに、本発明者らは、臓器機能に障害を有する患者体液中のヒトメガリンを測定し、ヒトメガリンが臓器疾患を検出・診断するためのマーカーとなり得ることをはじめて見出し、本発明を完成させるに至った。
【0023】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 固相に結合したヒトメガリンに結合性を有する第1のリガンドおよびヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドを用いて検体中のヒトメガリンを測定する方法であって、固相に結合したヒトメガリンに結合性を有する第1のリガンドと検体を反応させ、かつヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドと検体とを反応させ、検体中のヒトメガリンとヒトメガリンに結合性を有するリガンドとの複合体形成により固相に結合したヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドを測定することを含む検体中のヒトメガリンを測定する方法。
[2] 固相に結合したヒトメガリンに結合性を有する第1のリガンドと検体との反応の後にヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドと検体との反応を行わせる、2ステップからなる、[1]の検体中のヒトメガリンを測定する方法。
【0024】
[3] 固相に結合したヒトメガリンに結合性を有する第1のリガンドと検体との反応とヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドと検体との反応を同時に行わせる、1ステップからなる、[1]の検体中のヒトメガリンを測定する方法。
[4] ヒトメガリンに結合性を有する第1のリガンドおよびヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドが共に抗体である[1]〜[3]のいずれかの検体中のヒトメガリンを測定する方法。
[5] ヒトメガリンに結合性を有する第1のリガンドがヒトメガリンの糖鎖に特異的なレクチンであり、ヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドが抗体である[1]〜[3]のいずれかの検体中のヒトメガリンを測定する方法。
[6] ヒトメガリンに結合性を有する第1のリガンドが抗体であり、ヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドがヒトメガリンの糖鎖に特異的なレクチンである[1]〜[3]のいずれかの検体中のヒトメガリンを測定する方法。
【0025】
[7] ヒトメガリンに結合性を有する第1のリガンドおよび/またはヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドがトランスコバラミンビタミンB12(Transcobalamin-vitamin B12)、ビタミンD結合タンパク質(Vitamin-D-binding protein)もしくはレチノール結合タンパク質(Retinol-binding protein)であるビタミン結合性タンパク質(Vitamin-binding proteins);アポリポプロテインB(Apolipoprotein B)、アポリポプロテインE(Apolipoprotein E)、アポリポプロテインJ/クラステリン(ApolipoproteinJ/clusterin)もしくはアポリポプロテインH(Apolipoprotein H)であるリポプロテイン;副甲状腺ホルモン(PTH)、インスリン、上皮細胞成長因子(EGF)、プロラクチン、レプチンもしくはサイログロブリンまたはこれらの受容体であるホルモンまたはそれらのホルモンの受容体;イムノグロブリン軽鎖、PAP-1もしくはβ2-マイクログロブリンである免疫およびストレス応答関連タンパク質;PAI-I、PAI-I-ウロキナーゼ、PAI-I-tPA、プロウロキナーゼ、リポプロテインリパーゼ、プラスミノーゲン、α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、α1-マイクログロブリンもしくはリゾチームまたはこれらのインヒビターである酵素またはそれらの酵素のインヒビター;アミノグリコシド、ポリミキシンB、アプロチニン(Aprotinin)もしくはトリコサンチン(Trichosantin)である薬剤または毒物;アルブミン、ラクトフェリン、ヘモグロビン、匂い物質結合タンパク質(Odorant-binding protein)、トランスサイレチンもしくはL-FABPであるキャリアタンパク質;ならびにチトクローム-c、カルシウム(Ca2+)、後期糖化生成物(advanced glycation end products(AGE))、キュビリンもしくはNa-H交換輸送体アイソフォーム(Na-Hexchanger isoform 3(NHE3))である受容体関連タンパク質(RAP)、からなる群から選択される物質またはその結合性断片である[1]〜[6]のいずれかの検体中のヒトメガリンを測定する方法。
【0026】
[8] 固相に結合したヒトメガリンもしくはヒトメガリンの一部断片およびヒトメガリンに結合性を有するリガンドを用いて検体中のヒトメガリンを測定する方法であって、検体とヒトメガリンに結合性を有するリガンドを反応させ、次いで、該反応物と前記固相に結合したヒトメガリンを反応させ、固相に結合したヒトメガリンに結合性を有するリガンドを測定し、固相に結合した該ヒトメガリンに結合性を有するリガンドの減少率に基づいて、検体中のヒトメガリンを競合的に定量する、検体中のヒトメガリンを測定する方法。
【0027】
[9] ヒトメガリンに結合性を有するリガンドが抗ヒトメガリン抗体である[8]の検体中のヒトメガリンを測定する方法。
[10] ヒトメガリンに結合性を有するリガンドを用いて検体中のヒトメガリンを測定する方法であって、検体と粒子に結合したヒトメガリンに結合性を有するリガンドとを反応させ、凝集反応を生起させた後、得られた凝集の程度に基づいてヒトメガリンを測定するヒトメガリンを測定する方法。
[11] ヒトメガリンに結合性を有するリガンドが抗ヒトメガリン抗体であり、凝集反応が免疫凝集反応である、[10]のヒトメガリンを測定する方法。
[12] [1]〜[11]のいずれかの方法によりヒトメガリンを測定することによりメガリンの発現が認められる臓器の疾患を検出する方法。
【0028】
[13] メガリンの発現が認められる臓器の疾患が肺疾患である[12]の臓器の疾患を検出する方法。
[14] メガリンの発現が認められる臓器の疾患が腎疾患である[12]の臓器の疾患を検出する方法。
[15] 腎疾患が尿細管障害である、[14]の腎臓疾患を検出する方法。
[16] 検体が尿である、[14]または[15]の方法。
[17] ヒトメガリンに結合性を有するリガンドを含む、メガリンの発現が認められる臓器の疾患を検出するためのキット。
[18] ヒトメガリンに結合性を有するリガンドが抗ヒトメガリン抗体である、[17]のメガリンの発現が認められる臓器の疾患を検出するためのキット。
[19] メガリンの発現が認められる臓器の疾患が肺疾患である[18]のメガリンの発現が認められる臓器の疾患を検出するためのキット。
【0029】
[20] メガリンの発現が認められる臓器の疾患が腎疾患である[18]のメガリンの発現が認められる臓器の疾患を検出するためのキット。
[21] 腎疾患が尿細管障害である、[20]の腎疾患を検出するためのキット。
[22] ヒトメガリンからなる、メガリンの発現が認められる臓器の疾患を検出するための疾患検出用マーカー。
[23] メガリンの発現が認められる臓器の疾患が肺疾患である[22]の疾患検出用マーカー。
【0030】
[24] メガリンの発現が認められる臓器の疾患が腎疾患である[22]の疾患検出用マーカー。
[25] 腎疾患が尿細管障害である、[24]の疾患検出用マーカー。
[26] ヒトメガリンの、メガリンの発現が認められる臓器の疾患を検出するための疾患検出用マーカーとしての使用。
[27] メガリンの発現が認められる臓器の疾患が肺疾患である、[26]のヒトメガリンの疾患検出用マーカーとしての使用。
[28] メガリンの発現が認められる臓器の疾患が腎疾患である、[26]のヒトメガリンの疾患検出用マーカーとしての使用。
[29] 腎疾患が尿細管障害である、[28]のヒトメガリンの疾患検出用マーカーとしての使用。
【発明の効果】
【0031】
本発明の方法により、尿等の検体中のヒトメガリンを高感度にかつ正確に測定することができる。また、メガリンを発現する細胞、組織または臓器の機能に障害が生じた場合に、細胞からメガリンが逸脱し検体中に蓄積する。すなわち、検体中のヒトメガリンを測定することにより、細胞、組織または臓器の機能障害を間接的にではなく、直接的に検出・診断することができる。従って、本発明の方法を用いて検体中のヒトメガリンを測定することにより、腎疾患、肺疾患等のメガリンの発現が認められる臓器の疾患を早期にかつ正確に検出することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明は、検体中のヒトメガリンを測定する方法である。配列番号1にヒトメガリンのヌクレオチド配列、配列番号2にヒトメガリンのアミノ酸配列を表す。
【0033】
本発明のヒトメガリンの測定においては、ヒトメガリンに結合性を有する第1のリガンドを固相に結合したものを用いる。固相としては、従来の免疫分析において用いられている何れのものをも用いることができ、例えば、プラスチック製のマイクロタイタープレートのウェルや、磁性粒子等を好ましく用いることができる。
【0034】
ヒトメガリンに結合性を有するリガンドとしては、例えば抗ヒトメガリン抗体が挙げられ、モノクローナル抗体もポリクローナル抗体も用いることができる。
【0035】
また、ヒトメガリンに結合性を有するリガンドとして、ヒトメガリンの糖鎖に特異的なレクチンを用いることもできる。レクチンとしては、コンカナバリンA、コムギ胚レクチン(WGA)、ヒマレクチン(RCA)、レンズマメレクチン(LCA)等が挙げられるがこれらには限定されない。
【0036】
さらに、ヒトメガリンに結合性を有するリガンドとして、トランスコバラミンビタミンB12(Transcobalamin-vitamin B12)、ビタミンD結合タンパク質(Vitamin-D-binding protein)もしくはレチノール結合タンパク質(Retinol-binding protein)等のビタミン結合性タンパク質(Vitamin-binding proteins);アポリポプロテインB(Apolipoprotein B)、アポリポプロテインE(Apolipoprotein E)、アポリポプロテインJ/クラステリン(ApolipoproteinJ/clusterin)もしくはアポリポプロテインH(Apolipoprotein H)等のリポプロテイン;副甲状腺ホルモン(PTH)、インスリン、上皮細胞成長因子(EGF)、プロラクチン、レプチンもしくはサイログロブリンまたはこれらの受容体等のホルモンまたはそれらのホルモンの受容体;イムノグロブリン軽鎖、PAP-1もしくはβ2-マイクログロブリン等の免疫およびストレス応答関連タンパク質;Enzymes and enzyme inhibitors : PAI-I、PAI-I-ウロキナーゼ、PAI-I-tPA、プロウロキナーゼ、リポプロテインリパーゼ、プラスミノーゲン、α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、α1-マイクログロブリンもしくはリゾチームまたはこれらのインヒビター等の酵素またはそれらの酵素のインヒビター;アミノグリコシド、ポリミキシンB、アプロチニン(Aprotinin)もしくはトリコサンチン(Trichosantin)等の薬剤または毒物;アルブミン、ラクトフェリン、ヘモグロビン、匂い物質結合タンパク質(Odorant-binding protein)、トランスサイレチンもしくはL-FABPであるキャリアタンパク質;ならびにチトクローム-c、カルシウム(Ca2+)、後期糖化生成物(advanced glycation end products(AGE))、キュビリンもしくはNa-H交換輸送体アイソフォーム(Na-Hexchanger isoform 3(NHE3))等の受容体関連タンパク質(RAP)、からなる群から選択される物質またはその結合性断片等が挙げられる。ここで、結合性断片とは、前記物質の断片であって、ヒトメガリンと結合する部位を含む断片をいう。
【0037】
抗ヒトメガリン抗体等のヒトメガリンに結合性を有するリガンドの固相への結合は、従来からこの分野において周知の方法で行うことができ、例えば、マイクロタイタープレートのウェル等に結合する場合には3〜10μg/mL程度(好ましくは5μg/mL程度)の抗体等のヒトメガリンに結合性を有するリガンド溶液を固相に加え、4℃で一夜(好ましくは12時間以上)放置することにより行うことができる。尚、固相濃度に関しては、上記記載の推奨濃度幅は完全長の抗体を固相する際に、理論的に算出した値である。その理論式は、
Q = (2 / √3)・(MW / N)・(2r)−2・109 (ng / cm2)
Q : molecular weight density (ng / cm2)
MW : molecular weight (dalton:Da)
N : Avogadro’s number = 6・1023 (mole−1)
r : Stokes radius of molecular = (R・T20) / (6・π・η20・D20・N) (cm)
R : gas constant = 8.3・107 (g・cm2・sec−2・°K−1・mole−1
T20 : room temperature(20℃) = 293°K
η20 : viscosity of water at 20℃ = 1・10−2(g・cm−1・sec−1)
D20 : diff. coeff. of molecular ref. to water at 20℃ (cm2・sec−1)
であり、これは物理吸着様式による固相化の際に適応される。従って、ヒトメガリンに結合性を有するリガンドの固相化においては、個々の分子量等の上記変動因子に左右された理論上の固相濃度が設定される為、個々の固相分子種及び、固相面の形状等で異なる。従って、上記の固相濃度に限定されるものではない。また、固相吸着様式が、共有結合の場合にも、本発明は適応されるが、この場合は吸着面に存在する、共有結合に用いる官能基の数等も加味される為、これについても、固相濃度は限定されるものではない。結合後、タンパク質の非特異的吸着部位をブロックする為に、定法に基づき、ウシ血清アルブミン(以下、BSAと略す)やカゼイン等でブロッキングを行う。また、固相が磁性粒子の場合も、上記マイクロタイタープレートの場合と同様である。
【0038】
このように固相に結合された抗ヒトメガリン抗体等のヒトメガリンに結合性を有するリガンドと、検体を反応させ、検体中のヒトメガリンを、抗原抗体反応等のリガンド-レセプター結合反応により前記固相に結合されたヒトメガリンに結合性を有するリガンドを介して固相に結合させる。すなわち、固相に結合された抗ヒトメガリン抗体等のヒトメガリンに結合性を有する第1のリガンド-ヒトメガリンの複合体を形成させる。ここで、検体はヒトメガリンを含むかもしれないものであれば何であってもよい。検体としては、例えば、尿、肺胞洗浄液、血液・血清・血漿、呼気凝縮液等を挙げることができる。この抗原抗体反応は4℃〜45℃、より好ましくは20℃〜40℃、さらに好ましくは25℃〜38℃で行うことができ、また、反応時間は、10分〜18時間、より好ましくは10分〜1時間、さらに好ましくは30分〜1時間程度である。
【0039】
次いで、洗浄後、ヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドを、前記固相に結合された検体中のヒトメガリンと反応させる。すなわち、固相に結合された抗ヒトメガリン抗体等のヒトメガリンに結合性を有する第1のリガンド-ヒトメガリン-ヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドの複合体を形成させる。ヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドとしては抗ヒトメガリン抗体等、ヒトメガリンに結合性を有する第1のリガンドと同じものを用いることができる。但し、ヒトメガリンに結合性を有する第1のリガンドおよびヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドの両方が抗ヒトメガリンモノクローナル抗体である場合、第1の抗ヒトメガリン抗体と第2の抗ヒトメガリン抗体が認識・結合するエピトープは異なっている必要がある。なお、第1の抗ヒトメガリン抗体および第2の抗ヒトメガリン抗体の組合せとしては、モノクローナル抗体およびモノクローナル抗体、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体ならびにポリクローナル抗体およびポリクローナル抗体の組合せがあるが、いずれの組合せも用いることができる。この反応は4℃〜45℃、より好ましくは20℃〜40℃、さらに好ましくは25℃〜38℃で行うことができ、また、反応時間は、10分〜18時間、より好ましくは10分〜1時間、さらに好ましくは30分〜1時間程度である。これにより、ヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドは、ヒトメガリン及びヒトメガリンに結合性を有する第1のリガンドを介して固相に結合される。
【0040】
次いで、洗浄後、固相に結合された第2の抗ヒトメガリン抗体等のヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドを測定する。これは、免疫分析の分野において定用されている種々の方法により行うことができる。例えば、ヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドを、酵素、蛍光、ビオチン、放射標識等で標識して酵素標識体を作製しておき、これらの標識を測定することにより固相に結合したヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドを測定することができる。これらのうち、酵素あるいは蛍光による標識が好ましく、酵素としてはペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、β‐ガラクトシダーゼ及びグルコースオキシダーゼ等が、蛍光としてはFluorescein Isothiocyanate(FITC)等が挙げられるがこの限りではない。標識の検出は、対応する基質と酵素標識体とを反応させ、反応の結果生じる色素、蛍光、発光等を測定することにより行うことができる。あるいは、ヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドが標識されていない場合には、ヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドに対する、標識された第3の抗体を反応させ、この標識に基づき第3の抗体を測定することによってもヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドを測定することができる。
【0041】
なお、固相あるいは標識に用いる抗ヒトメガリン抗体は、ヒトメガリンに対して特異的なFabやF(ab’)2のような免疫グロブリン断片、あるいは、組換え体として発現されたscFv、dsFv、diabody、minibody等の組換え抗体であってもよい。本発明において、「抗体」という語は、ヒトメガリンに特異的なこれらの断片をも包含する。これらの断片の調製方法はこの分野において周知である。
【0042】
上記の方法は、固相に結合された抗ヒトメガリン抗体等のヒトメガリンに結合性を有する第1のリガンドと検体を反応させ、次いで洗浄し、その後にヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドを反応させる2ステップからなる方法である。固相に結合された抗ヒトメガリン抗体等のヒトメガリンに結合性を有する第1のリガンドと検体との反応と検体とヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドとの反応を同時に行わせる1ステップからなる方法を採用してもよい。
【0043】
本発明は、さらに固相に結合したヒトメガリンもしくはヒトメガリンの一部断片およびヒトメガリンに結合性を有するリガンドを用いて検体中のヒトメガリンを測定する方法であって、検体とヒトメガリンに結合性を有するリガンドを反応させ、次いで、該反応物と前記固相に結合したヒトメガリンを反応させ、固相に結合したヒトメガリンに結合性を有するリガンドを測定し、固相に結合した該ヒトメガリンに結合性を有するリガンドの減少率に基づいて、検体中のヒトメガリンを競合的に定量する、検体中のヒトメガリンを測定する方法をも包含する。この方法のためには、ヒトメガリンを固相に結合する必要があるが、前記の物質の固相へ結合の方法に従って行うことができる。また、ヒトメガリンの一部断片は限定されず、ヒトメガリンに結合性を有するリガンドが結合するヒトメガリンの一部断片を用いればよい。ヒトメガリンの一部断片としては、配列番号2に表されるヒトメガリンのアミノ酸配列の一部部分配列を化学合成や遺伝子工学の手法により作製して用いることができる。ヒトメガリンに結合性を有するリガンドは前記のものを用いることができ、その中でも抗ヒトメガリン抗体が好ましい。競合法においては、用いる固相に結合したヒトメガリンもしくはヒトメガリンの一部断片およびヒトメガリンに結合性を有するリガンドの量が重要であるが、競合法は公知であり、公知技術に基づいて、適宜決定することができる。
【0044】
さらに、本発明は、ヒトメガリンに結合性を有するリガンドを用いて検体中のヒトメガリンを測定する方法であって、検体と粒子に結合したヒトメガリンに結合性を有するリガンドとを反応させ、凝集反応を生起させた後、得られた凝集の程度に基づいてヒトメガリンを測定するヒトメガリンを測定する方法を包含する。
【0045】
該方法において用いられる粒子としては、直径0.05〜10μmの、好ましくは直径0.1〜0.4μmのラテックス、直径0.5〜10μmのゼラチン粒子及び動物赤血球を挙げることができる。粒子への抗体の結合方法は、この分野において周知であり、物理吸着あるいは共有結合のどちらの結合様式をも適応可能である。
【0046】
該方法において、粒子上に抗ヒトメガリン抗体が結合されている粒子と検体とを、例えば、黒色のスライドグラス上で混合し、凝集して沈殿する粒子の有無を観察することにより検対中のヒトメガリンを検出することができる。また、この凝集の吸光度測定によりヒトメガリンを定量することもできる。更にまた、Pulse Immunoassayにより検出することも可能である。
【0047】
本発明のヒトメガリンの測定方法を用いることにより、インタクトなヒトメガリンだけではなく、ヒトメガリンの断片を測定することもできる。
【0048】
検体中のヒトメガリンを測定することにより、検体を採取した被験体がヒトメガリンを発現する細胞・組織・臓器等に障害を有しているかどうかを判定することができる。すなわち、臓器の疾患等を検出または診断することができる。
【0049】
細胞、組織または臓器としては、メガリンの発現が認められる細胞、組織または臓器ならばいずれも対象となり得るが、好ましくは肺および腎臓であり、さらに好ましくは腎臓である。また、腎臓疾患では、特に腎炎や尿細管障害を検出することができる。また、糖尿病性腎障害も好適に検出することができる。さらに、メタボリック症候群やメタボリック症候群関連腎症の検出にも利用できる。
【0050】
上記の細胞、組織または臓器の機能障害を有する被験体においては、細胞からヒトメガリンが逸脱し、検体中のヒトメガリン量が増加する。被験体から採取した検体中のヒトメガリンをin vitroで測定し、正常人に比較して検体中のヒトメガリン濃度が有意に増加している場合、細胞、組織または臓器の機能障害を有していると診断することができる。
【0051】
ここで、検体は上記のように、尿、肺胞洗浄液、血液・血清・血漿、呼気凝縮液等を用いることができるが、肺疾患を検出する場合には特に肺胞洗浄液を用いるのが好ましく、腎疾患を検出する場合には、尿が好ましい。
【0052】
さらに、被験体から採取した検体中のヒトメガリンを測定することにより、腎疾患等の細胞、組織または臓器の機能障害に罹患するリスクを評価することができる。被験体から採取した検体中のヒトメガリンをin vitroで測定し、正常人に比較して検体中のヒトメガリン濃度が有意に増加している場合、細胞、組織または臓器の機能障害に罹患するリスクが高いと評価することができる。すなわち、検体中のヒトメガリンを測定することにより、腎疾患予備軍等の疾患に罹患するリスクの高い被験体をスクリーニングし、適切な処置を施すことが可能になる。
【0053】
さらに、被験体から採取した検体中のヒトメガリンを定期的に測定し、ヒトメガリン濃度をモニタすることにより、臓器機能の管理をすることができる。
【0054】
ヒトメガリンは、ヒトメガリンの発現が認められる細胞、組織または臓器の機能障害の検出または診断のためのマーカーとして用いることができる。本発明は、ヒトメガリンの、メガリンの発現が認められる臓器の機能障害すなわち疾患を検出するための検出用マーカーとしての使用を包含し、さらにヒトメガリンからなる、メガリンの発現が認められる細胞、組織または臓器の機能障害すなわち疾患を検出・診断するための疾患検出・診断用マーカーを包含する。
【0055】
また、ヒトメガリンの発現が認められる細胞、組織または臓器の機能障害の検出または診断においては、インタクトなヒトメガリンだけではなく、ヒトメガリンの断片を測定してもよい。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。尚、実施例に用いたEnzyme -Linked Immunosorbent Assay(ELISA)という方法は、1971年にEngvall E.とPerlmann P.が最初の報告をして以来、現在まで多くの報告がなされており、本技術の根幹は確固たる基盤の上に成り立っている(Engvall E , Perlmann P. (1971) Immunochemistry. 8 , 871-874)。
【0057】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0058】
Enzyme -Linked Immunosorbent Assay(ELISA)を用いた尿中ヒトメガリンの検出
(1)抗ヒトメガリン・マウスモノクローナル抗体の作製
ヒトメガリン50μgをマウス腹腔にアジュバントと共に数回免疫し、その血清力価が上昇したことを確認した。追加免疫(静脈内)後3日目に脾臓を取り出し、脾細胞を得た。これとマウスミエローマ細胞をポリエチレングリコール3500の存在下(10:1細胞)で融合させ、ハイブリドーマ細胞を作製した。この細胞を1週間CO2気下37℃で培養し、その培養上清中の抗ヒトメガリン抗体の有無を調べた。そこで抗体産生を認めた陽性ウェル中の細胞を限界希釈法により希釈し2週間培養し、同様に培養上清の抗ヒトメガリン抗体の有無を調べた。更にその後、抗体産生を認めた陽性ウェル中の細胞を再度限界希釈し、同様の培養を行った。この段階で抗ヒトメガリン抗体を産生している細胞を、フラスコにて培養し、その一部をジメチルスルホキシド(DMSO) 10%含有ウシ胎児血清(FCS)にサスペンドし(5×106個/mL)、液体窒素中に保存した。
【0059】
次に各ウェルの上清を用い、ヒトメガリンに対する培養上清中の産生抗体の反応性を調べた。ヒトメガリンを140mM NaCl,2.7mM KCl,10mM Na2HPO4,1.8mM KH2PO4,pH7.3(以下、PBS,pH7.3と略す)に溶解した。プラスチック製マイクロタイタープレート(Nunc-ImmunoTMModule F8 MaxisorpTM Surface plate, Nalge Nunc International社製)のウェルに、1ウェル当たり100μLの、上記ヒトメガリン/PBS,pH7.3溶液を加え、3pmol/ウェル、4℃、12時間の条件下で、ヒトメガリンをマイクロタイタープレート上に固相化した。12時間後、ウェルに加えておいたヒトメガリン/PBS,pH7.3溶液をデカンテーションにより除去し、そのマイクロタイタープレートのウェルへ、145mM NaCl,3.6mM Na2HPO4,1.4mM KH2PO4,0.05%(v./v.) Tween20(以下、PBS-Tと略す)を200μL/ウェルで添加し、デカンテーションによるPBS-Tの除去を行い、ウェル内の吸着過剰分のヒトメガリンを洗浄した。この洗浄工程を計2回行った。その後、145mM NaCl,7.2mM Na2HPO4,2.8mM KH2PO4,1%(wt./v.) BSA,5%(wt./v.) ラクトース(以下、抗原固相プレート用ブロッキング液と称す)を200μL/ウェルで添加し、4℃、12時間の条件化でヒトメガリン固相化マイクロタイタープレートのウェル内のブロッキングを行った。12時間経過後、4℃のままで保存状態とした。培養上清中の抗体の反応性を確認する為に、このブロッキング完了後のヒトメガリン固相化マイクロタイタープレートを用いた。上記ヒトメガリン固相化マイクロタイタープレートのウェルへ、ハイブリドーマ培養上清を100μL/ウェルで加え、37℃、1時間加温した。その後、ウェルに加えておいた培養上清をデカンテーションにより除去し、そのマイクロタイタープレートのウェルへPBS-Tを200μL/ウェルで添加し、デカンテーションによるPBS-Tの除去を行い、ウェル内の洗浄をした。この洗浄工程を計3回行った。その後、ウェルへPeroxidase-Conjugated Goat Anti-Mouse Immunoglobulins(DAKO社製)を100μL/ウェル(2000倍希釈:0.55μg/mL)で加え、37℃、1時間加温した。この酵素標識抗体の希釈には、145mM NaCl,3.6mM Na2HPO4,1.4mM KH2PO4,0.05%(v./v.) Tween20,0.5%(wt./v.) BSA(以下、酵素標識抗体希釈液と称す)を用いた。その後、ウェルに加えておいた酵素標識抗体をデカンテーションにより除去し、そのマイクロタイタープレートのウェルへPBS-Tを200μL/ウェルで添加し、デカンテーションによるPBS-Tの除去を行い、ウェル内の洗浄をした。この洗浄工程を計3回行った。その後、ウェルへ3,3’,5,5’-tetramethylbenzidine(以下、TMBと略す)溶液(TMB One-Step Substrate System:DAKO社製)をペルオキシダーゼ酵素反応基質溶液として、100μL/ウェルで加え、25℃、30分放置した。その後直ちに、そのウェル内の基質反応液へ313mM H2SO4溶液(以下、反応停止液と称する)を100μL/ウェルで添加し、ウェル内での酵素反応を停止させた。その後、本ウェルの吸光度を測定し、450nmの吸光度から630nmの吸光度を差し引いた数値を反応性評価の指標とした(Josephy P.D. , Mason R.P. et al.(1982) J. Biol. Chem. 257 , 3669-3675)。尚、TMBを用いた比色定量の方法は、1981年にBos E.S.らが最初の報告をして以来、現在まで多くの報告がなされており、本技術の根幹は確固たる基盤の上に成り立っている(Bos E.S. et al. (1981) J. Immunoassay. 2 , 187-204)。
【0060】
その結果、固相化したヒトメガリンへ抗ヒトメガリン抗体の強い反応性を示すモノクローナル化ハイブリドーマ細胞を選択し、本培養上清中のイムノグロブリンのクラスとサブクラスをImmunoglobulin Typing Kit,Mouse(和光純薬工業社製)を用いて、培養上清原液100μLから、各クローン毎に確認した。その結果を基に、得られた単クローン細胞ライブラリーの中から、IgGクラスに限定して後述する腹水化へ移行した。
【0061】
次に、これらの細胞を25mLのフラスコで培養し、更に75mLのフラスコで培養した。この細胞をプリスタン処理マウス腹腔中に注射し、腹水を採取した。
【0062】
(2)抗ヒトメガリン・マウスモノクローナル(IgG)抗体の精製
得られた腹水(10mL)と混濁血清処理剤(FRIGEN(登録商標)II:協和純薬工業社製)を、腹水1.5容に対してFRIGEN(登録商標)IIを1容の比率で混和し、1〜2分攪拌振とうすることで、腹水からの脱脂を行った。遠心機で3000rpm(1930×g)、10分間遠心分離を行い、清澄化された腹水遠心上清(10mL)を分取した。この腹水遠心上清(10mL)に硫安分画処理(終濃度50%飽和硫安)を氷浴中で1時間施し、沈降したイムノグロブリン画分をPBSで懸濁溶解させた。この硫安分画操作を計2回行い、腹水からのイムノグロブリン粗画分を得た。得られたイムノグロブリン粗画分(10mL)に対して等量の20mMリン酸ナトリウム, pH7.0(以下、20mM NaPB,pH7.0と称す)を混合し、プロテインGカラム(HiTrap Protein G HP,5mL:Amersham BioSciences社製)を用いてアフィニティー精製を行った。サンプルをプロテインGカラムに吸着後、20mM NaPB,pH7.0(50mL)をプロテインGカラム内に通し、サンプル中のIgG以外の夾雑物を洗浄除去した。その後、プロテインGカラムにアフィニティー吸着したIgGは、0.1M グリシン-HCl,pH2.7で溶出させ、カラムからの溶出直後の溶出画分を1M Tris(hydroxymethyl)aminomethane-HCl,pH9.0(以下、Tris(hydroxymethyl)aminomethaneをTrisと略す)で中和し回収した。中和後、アフィニティー精製物に対して500倍容のPBSで4℃、6時間の透析を行い、本透析は計2回行った。本透析操作に用いた透析膜は透析用セルロースチューブ(Viskase Companies社製)で行った。そこで得られたIgG溶出画分を、抗ヒトメガリンモノクローナル抗体の精製物とし、4℃での保存ならびに後述する操作に用いることとした。尚、本精製には、BioLogic LPシステム(Bio Rad Laboratories社製)に上述のプロテインGカラムを接続し、流速は1mL/minで一貫して行った。
【0063】
(3)抗ヒトメガリンモノクローナル抗体固相化マイクロタイタープレートの作成
精製抗ヒトメガリンモノクローナル抗体をPBS,pH7.3に終濃度5μg/mLで溶解した。プラスチック製マイクロタイタープレート(Nunc-ImmunoTMModule F8 MaxisorpTM Surface plate, Nalge Nunc International社製)のウェルに、1ウェル当たり100μLの、上記抗ヒトメガリンモノクローナル抗体/PBS,pH7.3溶液を加え、4℃、12時間の条件下で、抗ヒトメガリンモノクローナル抗体をマイクロタイタープレート上に固相化した。12時間後、ウェルに加えておいた抗ヒトメガリンモノクローナル抗体/PBS,pH7.3溶液をデカンテーションにより除去し、そのマイクロタイタープレートのウェルへ、PBS-Tを200μL/ウェルで添加し、デカンテーションによるPBS-Tの除去を行い、ウェル内の吸着過剰分の抗ヒトメガリンモノクローナル抗体を洗浄した。この洗浄工程を計2回行った。その後、86mM NaCl,100mM Tris,0.5%(wt./v.) BSA,0.05%(v./v.) Tween20(以下、抗体固相プレート用ブロッキング液と称す)を200μL/ウェルで添加し、4℃、12時間の条件化でヒトメガリン固相化マイクロタイタープレートのウェル内のブロッキングを行った。12時間経過後、4℃のままで保存状態とした。
【0064】
(4)ペルオキシダーゼ標識化抗ヒトメガリンモノクローナル抗体の作成
西洋ワサビペルオキシダーゼ(以下、HRPと略す)(Peroxidase from horseradish TypeVI:Sigma社製)を純水に4mg/mLの濃度で溶かし、このHRP溶液500μL(2mg)に対して、100mMのメタ過ヨウ素酸ナトリウム溶液(100μL)を加えて、20分間、室温で攪拌した。これを、該HRP溶液に対して500倍容の1mM酢酸ナトリウム,pH4.0溶液(以下、1mM酢酸緩衝液と称す)で4℃、6時間の透析を2回行った。透析操作に用いた透析膜は透析用セルロースチューブ(Viskase Companies社製)であった。次に、抗ヒトメガリンモノクローナル抗体を、2.4mM Na2CO3, 7.6mM NaHCO3, pH9.6溶液(以下、10mM 炭酸緩衝液と称す)に8mg/mLの濃度で溶かした。上述のHRP溶液500μL(2mg)に、HRP溶液に対して1/3倍容の120mM Na2CO3, 380mM NaHCO3, pH9.6溶液(以下、0.5M 炭酸緩衝液と称す)を加え、ここに、上述の抗ヒトメガリンモノクローナル抗体500μL(4mg)を混合し、室温で2時間攪した。その後、4mg/mLの水素化ホウ素ナトリウム溶液(50μL)を加え、氷水浴中で2時間攪拌した。これに対し、硫安分画処理(終濃度50%飽和硫安)を氷浴中で1時間施し、沈降した画分を100mM Tris,145mM NaCl,1%(v./v.)BSA,pH7.6溶液(以下、標識抗体浮遊液と称す)1mLで懸濁溶解させた。この硫安分画操作を計2回行い、標識抗体溶液量に対して3/4倍容の2.8mM KH2PO4,7.2mM Na2HPO4,145mM NaCl,1%(wt./v.)BSA,0.02%(v./v.) フェノール,40%(wt./v.) D-ソルビトール溶液(以下、標識抗体保存液と称す)を加えた。HRP標識化抗ヒトメガリンモノクローナル抗体を得た。尚、本HRP標識化の方法は、1974年にNakane P.K.とKawaoi A.が最初の報告をして以来、現在まで多くの報告がなされており、本技術の根幹は確固たる基盤の上に成り立っている(Nakane P.K. , Kawaoi A. (1974) J.Histochem.Cytochem. 22 , 1084)。
【0065】
(5)尿中ヒトメガリンの測定
上述した抗ヒトメガリンモノクローナル抗体固相化マイクロタイタープレートと、HRP標識化抗ヒトメガリンモノクローナル抗体を用いて、尿中のヒトメガリンを測定した。先ず、原尿90μLと2M Tris,0.2M Ethylenediamine-N,N,N’,N’-tetraacetic acid(以下、Ethylenediamine-N,N,N’,N’-tetraacetic acidをEDTAと略す),pH8.0溶液10μLを混合し、該混合液100μLを抗ヒトメガリンモノクローナル抗体固相化マイクロタイタープレートのウェルへ加えた。37℃で1時間放置し、その後、ウェルに加えておいた尿サンプル溶液をデカンテーションにより除去し、そのマイクロタイタープレートのウェルへ、PBS-Tを200μL/ウェルで添加し、デカンテーションによるPBS-Tの除去を行い、洗浄を行った。この洗浄工程を計3回行った。その後、HRP標識化抗ヒトメガリンモノクローナル抗体(上記調製原液を標識抗体希釈液で10000倍希釈)溶液を100μL/ウェルで加えた。37℃で1時間放置し、その後、ウェルに加えておいたHRP標識化抗体溶液をデカンテーションにより除去し、そのマイクロタイタープレートのウェルへ、PBS-Tを200μL/ウェルで添加し、デカンテーションによるPBS-Tの除去を行い、洗浄を行った。この洗浄工程を計3回行った。次に、ウェルへTMB溶液(TMB One-Step Substrate System:DAKO社製)をペルオキシダーゼ酵素反応基質溶液として、100μL/ウェルで加え、25℃、30分放置した。その後直ちに、そのウェル内の基質反応液へ反応停止液100μL/ウェルで添加し、ウェル内での酵素反応を停止させた。その後、本ウェルの吸光度を測定し、450nmの吸光度から630nmの吸光度を差し引いた数値を尿中ヒトメガリン測定評価の指標とした。検量線の標準品としては、抗ヒトメガリンモノクローナル抗体作出時に免疫用抗原として用いたヒトメガリンを使用し、その検量線結果を表1および図2に記載した。尚、実際の尿中ヒトメガリン測定の臨床結果については、表2、図3および図4に示した。この結果、健常人に比して、腎疾患患者および腎疾患予備軍で有意に、尿中へのヒトメガリンの排泄が認められた(図3および4)。尚、尿中へのメガリン排泄量のクレアチニンクリアランスの結果からも、同様の結果が得られ、尿排泄時の濃縮率の影響ではないことも示された(図3および4)。本発明の目的は、従来法に比較して簡便で所要時間が短く、且つ、ヒトメガリンの定量も可能なヒトメガリンの測定方法を提供することであり、更に、本測定方法を用いることで、細胞・組織・臓器特異的な機能性疾患を部位直接的かつ、早期に診断可能とするものであるが、上述の臨床結果は、これを大きく支持するものである。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】ヒトメガリンの遺伝子座およびタンパク質の構造概略を示した図である。
【図2】ヒトメガリンの標準品を用いたヒトメガリン検出ELISA検量線を示した図である。
【図3】尿中ヒトメガリン臨床結果を示した図である(その1)。
【図4】尿中ヒトメガリン臨床結果を示した図である(その2)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固相に結合したヒトメガリンに結合性を有する第1のリガンドおよびヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドを用いて検体中のヒトメガリンを測定する方法であって、固相に結合したヒトメガリンに結合性を有する第1のリガンドと検体を反応させ、かつヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドと検体とを反応させ、検体中のヒトメガリンとヒトメガリンに結合性を有するリガンドとの複合体形成により固相に結合したヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドを測定することを含む検体中のヒトメガリンを測定する方法。
【請求項2】
固相に結合したヒトメガリンに結合性を有する第1のリガンドと検体との反応の後にヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドと検体との反応を行わせる、2ステップからなる、請求項1記載の検体中のヒトメガリンを測定する方法。
【請求項3】
固相に結合したヒトメガリンに結合性を有する第1のリガンドと検体との反応とヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドと検体との反応を同時に行わせる、1ステップからなる、請求項1記載の検体中のヒトメガリンを測定する方法。
【請求項4】
ヒトメガリンに結合性を有する第1のリガンドおよびヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドが共に抗体である請求項1〜3のいずれか1項に記載の検体中のヒトメガリンを測定する方法。
【請求項5】
ヒトメガリンに結合性を有する第1のリガンドがヒトメガリンの糖鎖に特異的なレクチンであり、ヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドが抗体である請求項1〜3のいずれか1項に記載の検体中のヒトメガリンを測定する方法。
【請求項6】
ヒトメガリンに結合性を有する第1のリガンドが抗体であり、ヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドがヒトメガリンの糖鎖に特異的なレクチンである請求項1〜3のいずれか1項に記載の検体中のヒトメガリンを測定する方法。
【請求項7】
ヒトメガリンに結合性を有する第1のリガンドおよび/またはヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドがトランスコバラミンビタミンB12(Transcobalamin-vitamin B12)、ビタミンD結合タンパク質(Vitamin-D-binding protein)もしくはレチノール結合タンパク質(Retinol-binding protein)であるビタミン結合性タンパク質(Vitamin-binding proteins);アポリポプロテインB(Apolipoprotein B)、アポリポプロテインE(Apolipoprotein E)、アポリポプロテインJ/クラステリン(ApolipoproteinJ/clusterin)もしくはアポリポプロテインH(Apolipoprotein H)であるリポプロテイン;副甲状腺ホルモン(PTH)、インスリン、上皮細胞成長因子(EGF)、プロラクチン、レプチンもしくはサイログロブリンまたはこれらの受容体であるホルモンまたはそれらのホルモンの受容体;イムノグロブリン軽鎖、PAP-1もしくはβ2-マイクログロブリンである免疫およびストレス応答関連タンパク質;PAI-I、PAI-I-ウロキナーゼ、PAI-I-tPA、プロウロキナーゼ、リポプロテインリパーゼ、プラスミノーゲン、α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、α1-マイクログロブリンもしくはリゾチームまたはこれらのインヒビターである酵素またはそれらの酵素のインヒビター;アミノグリコシド、ポリミキシンB、アプロチニン(Aprotinin)もしくはトリコサンチン(Trichosantin)である薬剤または毒物;アルブミン、ラクトフェリン、ヘモグロビン、匂い物質結合タンパク質(Odorant-binding protein)、トランスサイレチンもしくはL-FABPであるキャリアタンパク質;ならびにチトクローム-c、カルシウム(Ca2+)、後期糖化生成物(advanced glycation end products(AGE))、キュビリンもしくはNa-H交換輸送体アイソフォーム(Na-Hexchanger isoform 3(NHE3))である受容体関連タンパク質(RAP)、からなる群から選択される物質またはその結合性断片である請求項1〜6のいずれか1項に記載の検体中のヒトメガリンを測定する方法。
【請求項8】
固相に結合したヒトメガリンもしくはヒトメガリンの一部断片およびヒトメガリンに結合性を有するリガンドを用いて検体中のヒトメガリンを測定する方法であって、検体とヒトメガリンに結合性を有するリガンドを反応させ、次いで、該反応物と前記固相に結合したヒトメガリンを反応させ、固相に結合したヒトメガリンに結合性を有するリガンドを測定し、固相に結合した該ヒトメガリンに結合性を有するリガンドの減少率に基づいて、検体中のヒトメガリンを競合的に定量する、検体中のヒトメガリンを測定する方法。
【請求項9】
ヒトメガリンに結合性を有するリガンドが抗ヒトメガリン抗体である請求項8記載の検体中のヒトメガリンを測定する方法。
【請求項10】
ヒトメガリンに結合性を有するリガンドを用いて検体中のヒトメガリンを測定する方法であって、検体と粒子に結合したヒトメガリンに結合性を有するリガンドとを反応させ、凝集反応を生起させた後、得られた凝集の程度に基づいてヒトメガリンを測定するヒトメガリンを測定する方法。
【請求項11】
ヒトメガリンに結合性を有するリガンドが抗ヒトメガリン抗体であり、凝集反応が免疫凝集反応である、請求項10記載のヒトメガリンを測定する方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法によりヒトメガリンを測定することによりメガリンの発現が認められる臓器の疾患を検出する方法。
【請求項13】
メガリンの発現が認められる臓器の疾患が肺疾患である請求項12記載の臓器の疾患を検出する方法。
【請求項14】
メガリンの発現が認められる臓器の疾患が腎疾患である請求項12記載の臓器の疾患を検出する方法。
【請求項15】
腎疾患が尿細管障害である、請求項14記載の腎臓疾患を検出する方法。
【請求項16】
検体が尿である、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
ヒトメガリンに結合性を有するリガンドを含む、メガリンの発現が認められる臓器の疾患を検出するためのキット。
【請求項18】
ヒトメガリンに結合性を有するリガンドが抗ヒトメガリン抗体である、請求項17記載のメガリンの発現が認められる臓器の疾患を検出するためのキット。
【請求項19】
メガリンの発現が認められる臓器の疾患が肺疾患である請求項18記載のメガリンの発現が認められる臓器の疾患を検出するためのキット。
【請求項20】
メガリンの発現が認められる臓器の疾患が腎疾患である請求項18記載のメガリンの発現が認められる臓器の疾患を検出するためのキット。
【請求項21】
腎疾患が尿細管障害である、請求項20記載の腎疾患を検出するためのキット。
【請求項22】
ヒトメガリンからなる、メガリンの発現が認められる臓器の疾患を検出するための診断用マーカー。
【請求項23】
メガリンの発現が認められる臓器の疾患が肺疾患である請求項22記載の疾患検出用マーカー。
【請求項24】
メガリンの発現が認められる臓器の疾患が腎疾患である請求項22記載の疾患検出用マーカー。
【請求項25】
腎疾患が尿細管障害である、請求項24記載の疾患検出用マーカー。
【請求項26】
ヒトメガリンの、メガリンの発現が認められる臓器の疾患を検出するための疾患検出用マーカーとしての使用。
【請求項27】
メガリンの発現が認められる臓器の疾患が肺疾患である、請求項26記載のヒトメガリンの疾患検出用マーカーとしての使用。
【請求項28】
メガリンの発現が認められる臓器の疾患が腎疾患である、請求項26記載のヒトメガリンの疾患検出用マーカーとしての使用。
【請求項29】
腎疾患が尿細管障害である、請求項28記載のヒトメガリンの疾患検出用マーカーとしての使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−263750(P2007−263750A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−89306(P2006−89306)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【出願人】(591125371)デンカ生研株式会社 (72)
【Fターム(参考)】