説明

ヒトレプチン由来のポリペプチドとその使用

ヒトレプチンに存在するアミノ酸配列を含むポリペプチドは、ヒトレプチンに対するヒトC反応性タンパク質の阻害作用を阻止する。したがって、上記のようなポリペプチドは、レプチンに対するCRPの影響に関連する症状を治療または予防するための手法に関連する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C反応性タンパク質(CRP)に関連する症状の予防および治療に関する。より具体的には、本発明は、ヒトCRPのレプチン阻害作用を阻止するためのヒトレプチン由来ポリペプチドの使用に関する。
【0002】
本明細書に引用する文献は、後述する文献書目に対応する括弧内の数字で示す。
【背景技術】
【0003】
過去10年の間に蓄積された分子および生理学的証拠から、レプチンは、エネルギー摂取および消費の調節に関与する重要な脂肪細胞ホルモンであることが確証された(1、2)。レプチンは、貫膜レプチン受容体との結合後、シグナル伝達経路でタンパク質、例えば、転写のシグナル伝達物質および活性化因子(STAT)、ヤヌスキナーゼ(JAK)ならびにホスファチジルイノシトール-3キナーゼ(PI3-キナーゼ)を刺激することにより、シグナルを中枢神経系(CNS)にもたらし、安定した体重を効率的に維持する(12、13)。レプチンまたはレプチン受容体遺伝子におけるヌル突然変異は、過食症、重度の肥満、および高血糖を引き起こす可能性がある(2〜4)。反対に、レプチン欠損動物およびヒトへのレプチン置換によって、食物摂取および体重の十分な正常化作用をもたらすことができる。
【0004】
逆説的に、肥満した個体の大部分は、レプチンレベルが低下しているというよりもむしろ上昇している(5)。外生のレプチンを投与する治験では、レプチンレベルをさらに高め、有意な減量を誘導することができなかった(6)。これらの観察結果は、肥満防止にレプチンが明らかに無効であることについて難問を提示し、「レプチン耐性」の概念を生み出した(7、8)。
【0005】
近年の研究により、潜在的な分子機構が解明され始めている。例えば、レプチンにより誘導されるサイトカインシグナル抑制因子-3(SOCS-3)が増加すると、CNSおよび膵臓β細胞におけるレプチンの作用が低下する可能性がある(8)。それでもやはり、この機構がすべてのレプチン耐性を十分に説明できるかについては依然として不明である。
【0006】
C反応性タンパク質(CRP)は、例えば、感染、外傷、および進行癌などのストレス症状に応答して、肝臓により産生される。血清CRPレベルは一般に、肥満の場合に上昇することから、肥満に関連する軽度の炎症状態および肥満の心臓血管リスクの増加のマーカーである(9〜11)。しかし、CRPの上昇、ならびに肥満およびその他の疾患とのその関係は、依然として適切に説明されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、CRPに関連する症状、例えば、肥満、インスリン抵抗性、糖尿病、炎症、メタボリック症候群、アテローム硬化症、冠動脈疾患、ならびに不妊症を治療および予防する新規の手法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、本発明は、一態様において、CRP/レプチン複合体の形成を破壊する薬剤を用いることにより、レプチンに対するCRPの阻害作用を阻止して、遊離レプチンのレベルを正常化する方法を提供する。一実施形態では、この薬剤は、8〜40個の連続したアミノ酸のセグメントからなるポリペプチドであり、このセグメントは、コア領域と、ヒトレプチン残基54から残基74までのアミノ酸のセグメント:VTGLDFIPGLHPILTLSK(配列番号2)とを除く全長ヒトレプチン(配列番号1)に存在する。したがって、この場合、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39もしくは40個のアミノ酸残基からなるポリペプチドのいずれを用いてもよい。好ましくは、上記ポリペプチドは、長さが15〜25個のアミノ酸残基である。
【0009】
本発明の別の形態では、CRP/レプチン複合体破壊活性を呈示するポリペプチドを提供する。一実施形態では、このカテゴリーのポリペプチドは、ポリペプチドBのアミノ酸配列(配列番号3)、または少なくとも1つの改変を含む、ポリペプチドBのアミノ酸配列(配列番号3)と少なくとも60%同一の配列を含む。別の実施形態は、(i)ポリペプチドC1のアミノ酸配列(配列番号4)もしくは(ii)ポリペプチドEのアミノ酸配列(配列番号5)、またはこれらとそれぞれ少なくとも60%同一の配列を含むポリペプチドに関する。これに関して考えられる改変として、限定するものではないが、保存的アミノ酸置換、挿入または欠失、C末端切断、およびN末端切断が挙げられる。
【0010】
本発明の別の態様に従い、薬剤におけるCRP/レプチン複合体破壊活性を検出する方法が提供され、この方法は、(A)上記薬剤をCRPおよびレプチンといずれかの順序で接触させ;その後(B)それぞれ上記薬剤の非存在および存在下で、CRP/レプチン複合体形成、レプチンの量、およびCRPの量からなる群より選択される指標を測定することを含み、その結果、上記指標がCRP/レプチン複合体破壊活性を証明する。一実施形態では、CRP/レプチン複合体の量またはCRPの量は、レプチンアフィニティーカラムを用いて測定する。別の実施形態では、レプチンの量は、レプチン活性を評価する、例えば、レプチン刺激シグナル伝達経路の成分のいずれか、例えば、JAK2、STAT3、STAT5、STAT6、SH2ドメイン含有タンパク質チロシンホスファターゼ(SHP-2)、成長因子受容体結合-2(Grb-2)、細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)およびPI-3キナーゼ、をモニタリングすることにより測定する。
【0011】
関連する態様では、本発明は、薬学的に許容される担体と一緒に、CRP/レプチン複合体破壊活性を有するポリペプチド、またはこのようなポリペプチドをコードする核酸のいずれかを含む医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物を用いて、CRPに関連する症状(限定するものではないが、肥満、炎症、冠動脈性心疾患、不妊症、および糖尿病などを含む)を改善することができる。本発明の組成物はまた、食物摂取の抑制、体重および脂肪蓄積の低減、ならびにインスリン抵抗性の緩和のためにそれぞれ用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、レプチンが、哺乳動物の血清中のタンパク質、いわゆる「血清レプチン相互作用タンパク質」(1〜5の番号が付けられている:SLIP1〜5)と相互作用するという本発明者の発見に基づいている。本発明者はさらに、SLIP-1がC反応性タンパク質(CRP)であることもみいだした。
【0013】
CRPをSLIPとして同定したことは、いくつかの点に関して注目すべきことである。第1に、CRPは炎症マーカーであり、一般に肥満で増加する(9、15)。肥満に伴うCRPの増加は、炎症が肥満の代謝性合併症であり、脂肪沈着および肝臓脂肪症の主要なパターンと密接に関連しているという事実と一致する。さらに、肥満およびインスリン抵抗性におけるCRPの上昇は、心臓血管疾患の高い危険性を示す(11、16)。
【0014】
本発明者は、エネルギー平衡におけるCRPの生理学的役割が、レプチンの存在に依存的であることをみいだした。例えば、ob/obマウスにおける食物摂取および体重に対し、CRP単独では影響を与えない。
【0015】
反対に、本発明者は、CRPが、レプチンに直接結合することにより、レプチン作用を妨げるよう作用することを発見した。CRP/レプチン複合体の形成は、レプチンのその受容体との結合を妨げるため、レプチンが仲介するシグナル伝達を干渉する。その結果、CRP/レプチン複合体のin vivoでの形成は、特に、レプチン抵抗性として現されるように、レプチンの生理学的作用の減弱に寄与する。さらに、この複合体形成は、CRPが、肥満の病原、ならびにその代謝および心臓血管系合併症に直接寄与することがわかっている作用機構を強調する。
【0016】
また、レプチン生理機能におけるCRPの役割は種依存的であることを見出した。例えば、図6は、ヒトレプチンが、マウスレプチンとの結合と比較して、はるかに効率的にヒトCRPに結合することだけではなく、ヒトCRPが、マウスレプチンよりもヒトレプチンのシグナル伝達能力に顕著な阻害作用を有することを示す。ヒトおよびマウスレプチンの配列アラインメント(図2B)は、レプチンのフレキシブルドメイン(flexible domain)(該ドメインには、へリックス構造がない)は、種間で保存度が低いことを証明する。
【0017】
これらの知見から、本発明者は、レプチン構造と、そのCRPとの結合との間に相互関係が存在すると考えるに到った。したがって、本発明の主要な態様は、ヒトレプチンの構造と、in vivoでの該レプチンとCRPとの複合体形成との相互関係に関する。
【0018】
さらに具体的には、本発明者は、CRPが、レプチン受容体と結合するのに必要なレプチンの重要なドメインと相互作用することを明らかにした。このことから、レプチンは、(i)レプチン分子の表面の比較的接触しにくいαへリックスB、C、Dのコア領域と、(ii)分子の表面に露出したαへリックスAおよびその他のフレキシブルドメインとを有することがわかる(図2Cを参照)。レプチンの露出領域(ii)がCRPとの結合に重要な役割を果たすという理解に基づき、本発明は、(a)レプチンの露出領域に見出される配列に対応する、または該配列からなるアミノ酸配列を有し、かつ(b)CRPとの競合的結合により、CRP/レプチン複合体破壊活性を呈示する、可変長のポリペプチドを提供する。
【0019】
したがって、本発明のポリペプチドの一次構造は、レプチンのコア領域(図2C参照)およびN末端、ならびに、成熟タンパク質には存在しない21-残基リーダーセグメントを含まないレプチン分子の対応部分を有する。既述したように、本発明の一実施形態は、本発明のこのタイプのポリペプチドから、ヒトレプチン残基57から残基74までのセグメント(配列番号2)に存在するものからなるアミノ酸配列を含むポリペプチドを排除する。
【0020】
前述した条件にかかわらず、本発明のポリペプチドは、該ポリペプチドの(例えばCまたはN末端方向の5〜10残基の)オーバーラップに対応する部分の存在が該ポリペプチドのCRP/レプチン複合体破壊活性を実質的に妨げない限り、そのアミノ酸配列中にコア領域またはリーダーセグメントとのいくらかのオーバーラップを包含してもよい。
【0021】
本発明のこれらポリペプチドの例として、B、C1およびEで表す3つのポリペプチドが挙げられ、そのアミノ酸配列を以下に示す:
ポリペプチドB:KVQDDTKTLIKTIVTRINDISHTQS(配列番号3)
ポリペプチドC1:VSSKQKVTGLDFIPGLHPILTLSKM(配列番号4)
ポリペプチドE:LAFSKSCHLPWASGLETLDSLGGVLEA(配列番号5)
本発明のその他のポリペプチドと同様に、上記ポリペプチドは化学的に容易に合成され、試験すると、CRP/レプチン複合体破壊活性を呈示する。
【0022】
この活性により、本発明のポリペプチドは、それ自体薬剤候補として推奨されるだけではなく、慣用の最適化および合理的薬剤設計のための対象としても推奨され、これによって、in vivoでレプチンに対するCRPの阻害作用を阻止する薬剤が得られる。例えば、このために、これらのポリペプチドの変異体は有効であるはずである。
【0023】
本発明に関して「変異体」のカテゴリーには、記述したように、とりわけ、CRP/レプチン複合体破壊活性と、レプチンの露出領域の一部の配列に対応するかまたは該配列を含むポリペプチドに対する実質的相同性の両方を呈示するあらゆるポリペプチドが含まれる。これに関して、「実質的」とは、配列アラインメント比較により決定される、少なくとも約60%、好ましくは約70%、さらに好ましくは約80%、特に、約90%〜95%の範囲にあるアミノ酸レベルでの相同性を意味する。
【0024】
このような比較のために、配列をアラインメントする様々な技術が利用可能である。比較のための配列の最適なアラインメントは、例えば、SmithおよびWatermanの局所相同性アルゴリズム(33)により、NeedlemanおよびWunschの相同性アラインメントアルゴリズム(34)により、ならびに、PearsonおよびLipman1の類似性検索方法(35)により実施することができる。これらのアルゴリズムのコンピューターによる実施プログラムとして、限定するものではないが、以下のものが挙げられる:Intelligenetics(Mountain View, California)によるPC/GeneプログラムのCLUSTAL;Wisconsin Genetics Software Package(Genetics Computer Group, Madison, Wisconsin, USA)のGAP、BESTFIT、BLAST、FASTAおよびTFASTA、ならびにCLUSTALプログラム(36〜40)。また、41〜43も参照されたい。
【0025】
このような実質的相同性を呈示するポリペプチドは、少なくとも1つの保存的アミノ酸改変により特徴付けることもできる。アミノ酸配列に対する「保存的改変」とは、本発明に含まれる化合物を象徴するCRP/レプチン複合体破壊活性を排除しない置換、挿入、または欠失である。
【0026】
同じクラスの残基を用いて、保存的アミノ酸置換を実施してもよいことは公知である。これに関して、天然に存在する残基を、以下に示す共通の側鎖特性に基づいて、複数のクラスに分類することもできる:(1)疎水性−Met、Ala、Val、Leu、Ile;(2)中性親水性−Cys、Ser、Thr;(3)酸性−Asp、Glu;(4)塩基性−Asn、Gln、His、Lys、Arg;(5)鎖の配向に影響を与える残基−Gly、Pro;ならびに(6)芳香性−Trp、Tyr、Phe。このように、ある種の保存的置換では、アミノ酸を所与の位置で、同じクラスに属す別のアミノ酸と置換する。
【0027】
保存的改変を実施する際、アミノ酸のハイドロパシー指数(hydropathic index)を考慮してもよい。各アミノ酸には、その疎水性と電荷特性に基づいてハイドロパシー指数が割り当てられている。ハイドロパシー指数は次の通りである:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(−0.4);トレオニン(−0.7);セリン(−0.8);トリプトファン(−0.9);チロシン(−1.3);プロリン(−1.6);ヒスチジン(−3.2);グルタミン酸(−3.5);グルタミン(−3.5);アスパラギン酸(−3.5);アスパラギン(−3.5);リシン(−3.9);およびアルギニン(−4.5)。
【0028】
類似のハイドロバシー指数またはスコアを有し、しかも同様の生物学的活性を依然として保持する他のアミノ酸で、特定のアミノ酸を置換してもよいことは公知である。ハイドロパシー指数に基づいて改変を実施する場合、ハイドロパシー指数が±2の範囲内にあるアミノ酸の置換が好ましく、±1の範囲内にあるアミノ酸の置換が特に好ましく、±0.5の範囲内にあるアミノ酸の置換がより一層好ましい。
【0029】
同様に、親水性に基づき類似アミノ酸の置換を効果的に実施できることもわかっている。以下に示す親水性値が下記アミノ酸残基に与えられている:アルギニン(+3.0);リシン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0.+-.1);グルタミン酸(+3.0.+-.1);セリン(+3.0);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);トレオニン(−0.4);プロリン(−0.5.+-.1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5);およびトリプトファン(−3.4)。類似した親水性値に基づいて改変を実施する場合、親水性値が±2の範囲内にあるアミノ酸の置換が好ましく、±1の範囲内にあるアミノ酸の置換が特に好ましく、±0.5の範囲内にあるアミノ酸の置換がより一層好ましい。
【0030】
以下の表に、前述した原理に従う保存的アミノ酸置換の例を挙げる。
【表1】

【0031】
このように、保存的改変は、所与の位置のアミノ酸残基の極性または電荷にほとんど、または全く影響がないように、規範的残基による天然アミノ酸残基の置換を含むことができる。あるいは、この関連の置換は、例えば、固相ペプチド合成により、または翻訳系の遺伝子プログラミングを用いて(30)、1個以上の非天然アミノ酸残基を導入することができる。
【0032】
公知の、または将来開発されるであろう前記およびその他の手法により、擬ペプチドオリゴマーである変異体を取得することができ、これは、改善された安定性および/または生物学的利用能を呈示し、したがって、医薬用途として優れた候補となりうる。すでに記載したもの以外にも、この目的のための改変(32)として以下のものが挙げられる:C末端およびN末端システインの添加によるジスルフィド結合形成を含む環状変異体の形成;例えばペプチドにおける1以上のアミド結合がC-N(CH3)-CO-Cの構造を有するN-メチル化変異体の形成を目的とする、アミド窒素アルキル化;側鎖改変(例えば、選択したフェニルアラニン残基のメチル化またはハロゲン化);選択部位でのアラニンのメチルアラニンによる置換;キラリティー改変(例えば、選択したL-アミノ酸のD-アミノ酸による置換);レトロインバースペプチド、すなわち、逆配列および反対のキラリティー(Lの代わりにD)を有するペプチドの形成;アミド結合代用物を有するペプチドの形成(例えば、CO-NH-結合のCH2-NH-結合への選択的還元);ならびにアザペプチド類似体を提供するための、窒素原子による鎖中の1以上のα炭素の置換。
【0033】
本発明に含まれる他のポリペプチドと同様に、所与の任意の変異体をCRP/レプチン複合体破壊活性について、以下に記載のようにスクリーニングすることができる。このようにして収集された情報は、他の好適な変異体の設計に用いることができる。例えば、特定のアミノ酸残基への改変によって、活性が破壊される、望ましくなく低減する、もしくは不適当な活性が生じることがわかった場合には、このような改変を含む変異体は避ける。言い換えれば、このような慣用の実験から収集された情報、ならびに提供された情報に基づき、単独で、または他の改変と組み合わせて、さらなる置換を回避すべきアミノ酸を容易に決定することができる。
【0034】
本発明のポリペプチドおよび変異体は、「ペグ化」(この用語は、ポリエチレングリコール(PEG)の1以上の分子の共有結合による誘導体化を意味する)することができる。様々な媒質中、特に水溶液中で、長い、鎖様PEG分子は水和され、高速運動状態になる。PEG置換基の運動により大容積が一掃され、その他の分子の接近および干渉を防止する。PEGポリマー鎖は、免疫応答やその他のクリアランス機構から該分子を保護するため、該分子の生物学的利用能を延長し、保存する。同様に、生体吸収、生体内分布、及び生体クリアランスは、そのサイズ、重量、形状、及びPEG鎖を問題の分子に連結するために使用する結合、を変更することによって改変することができる(29)。
【0035】
本発明によれば、CRP/レプチン複合体の形成の破壊は、レプチン作用経路(leptin-affected pathway)の機能不全に関連する症状を治療または予防するための治療手段として評価される。前述したように、ヒトCRPとレプチンとの会合に影響を与える薬理学的干渉を用いて、レプチンに対するヒトCRPの阻害作用を阻止することができ、これによって、食物摂取の抑制、体重および脂肪蓄積の低減、ならびに、肥満、メタボリック症候群、炎症、アテローム硬化症、不妊症、インスリン抵抗性、およびII型糖尿病の緩和を達成することができる。これに加え、本発明に従い、ヒトCRPとレプチンとの間の相互作用を改変し、中枢神経系(CNS)へのレプチンの輸送を増加することによって、CNSでのレプチン誘導作用を増強することもできる。
【0036】
近年の研究から、CRP産生を調節する上での循環レプチンの正の役割が示されており(15、26〜28)、CRPは、レプチンと結合して、CNSおよび末梢におけるレプチンの作用を減弱することができる。本発明者は、ヒトレプチンは、生理学的範囲内で、CRP分泌に用量依存的な正の作用を生じるが、レプチンが持続的に増加しても、CRPの産生を高めるものではないことをみいだした(図7参照)。したがって、本発明のポリペプチドを治療薬として用いて、CRP/レプチン複合体構造からレプチンを遊離させ、これにより、レプチンの生理学的機能を回復することができる。
【0037】
したがって、本発明はまた、CRP/レプチン複合体破壊活性を有するポリペプチド、または該ポリペプチドをコードする核酸と、その薬学的に許容される担体からなる医薬組成物、ならびに、正常なシグナル伝達経路を誘導するのに利用可能なレプチン(「遊離レプチン」)の、CRPにより仲介される減少を阻止するのに有効な量で上記組成物を被検者に投与することに関する。
【0038】
ポリペプチドコード核酸の使用を含む実施形態では、遺伝子治療の分野に関する考慮事項が関連してくる。例えば、これらの考慮事項として、以下のことが挙げられる:(i)本明細書に記載するようにポリペプチドをコードする哺乳動物発現ベクターを構築すること、および(ii)本発明に従い、治療プロトコールの関連で該ベクターを導入すること。これに用いるためのベクター輸送技術の例として次のものが例示される:(a)in vivoまたはex vivoでの細胞への直接DNAマイクロインジェクション;(b)バリステック(ballistic)金粒子送達;(c)リポソーム仲介トランスフェクション;(d)受容体仲介遺伝子輸送;(e)DNAトランスポゾンの使用(44〜46)。これ以外に、本発明は、記載するように、ポリペプチドコードヌクレオチド送達のためのアデノウイルスベースの遺伝子治療系の使用を包含する。アデノウイルスベクターの構築およびパッケージングは周知の技術であり、潜在的に有用なアデノウイルスベクターは、例えば、米国特許第5,707,618号、および引用刊行物(47〜49)に記載されている。
【0039】
前述したように、本発明の医薬組成物を用いて、レプチンへのCRPの影響に関連する症状のいずれかを患う被検者を治療することができる。そのため、本発明の医薬組成物の投与様式は、治療ポリペプチドまたはタンパク質を投与するのに適したものである。
【0040】
したがって、本発明の医薬組成物は、許容されている医療に従い、経口、眼、鼻、鼻涙、局所(例えば肺、舌下、口腔)、または硬膜下腔内(脳脊髄液)送達用に製剤化することができる。同様に、本発明の組成物の製剤化は、投与様式を、他の考慮事項の中でも、薬学的に許容される担体中に、適切には賦形剤(例えば、デンプン、ラクトース、結晶セルロース、乳酸カルシウム、アルミノメタケイ酸マグネシウム、および無水ケイ酸);崩壊剤(例えば、カルボキシメチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースカルシウム);潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウムおよびタルク);コーティング剤(例えば、ヒドロキシエチルセルロース);ならびに経口および粘膜製剤に用いるタイプの香味剤を含むように、適応させることができる。外用薬の場合には、慣用の方式で、注射溶液を形成することができる可溶化剤および補助的な可溶化剤(例えば、注射用蒸留水、生理食塩水、およびプロピレングリコール)、懸濁化剤(例えば、ポリソルベート80のような界面活性剤)、pH調節剤(例えば、有機酸およびその金属塩)および安定化剤(注射に使用される);ならびに、水性または油性可溶化剤および補助的な可溶化剤(例えば、アルコールおよび脂肪酸エステル)、粘着付与剤(例えば、カルボキシビニルポリマーおよび多糖)および乳化剤が用いられる。
【0041】
本発明の別の形態は、前述したポリペプチドまたは変異体のような薬剤において、CRP/レプチン複合体破壊活性を検出する方法を提供する。好ましい実施形態では、本発明の方法は、(A)上記薬剤をCRPおよびレプチンといずれかの順序で接触させること;および、その後(B)それぞれ該薬剤の非存在および存在下で、CRP/レプチン複合体形成、レプチンの量、およびCRPの量からなる群より選択される指標を測定することを含み、その際、上記指標は各々、CRP/レプチン複合体破壊活性を明示するものである。
【0042】
薬剤は様々な手法でスクリーニングすることができる。スクリーニングは、レプチンを、複合体破壊活性について試験されるべき推定薬剤及びCRPと共に同時に又は連続的にインキュベートすることにより実施することができる。これは、潜在的にCRP/レプチン複合体破壊活性を有する薬剤の存在または非存在下で、一定量のCRPをレプチンアフィニティーカラムに充填し、その後、CRP/レプチン複合体形成を排除または減少するようにCRPと相互作用するものを同定することにより実施し得る。複合体破壊活性を有する薬剤は、該薬剤の非存在下での同様の試行と比較して、カラムを通過した(washed through)CRPの量を増加させるはずである。
【0043】
あるいは、CRP/レプチン複合体形成を阻害または排除するような、CRPとの相互作用に基づいて潜在的な活性薬剤を同定することができる。これは、まずCRPと、潜在的にCRP/レプチン複合体破壊活性を有する薬剤とを接触させてCRP−薬剤複合体を形成させ、非結合薬剤を除去し、得られたCRPをレプチンと接触させ、例えば、免疫沈降および放射線標識によりCRP-レプチン複合体形成を測定し、この値を、上記薬剤の非存在下でのCRPレプチン複合体形成と比較することを含んでもよい。
【0044】
また、複合体破壊活性を有する薬剤は、培養細胞におけるレプチンのシグナル伝達能を阻害する能力についてスクリーニングすることにより同定することも可能である。例えば、潜在的薬剤をレプチンおよびCRPと共インキュベートした後、この混合物を、レプチン受容体を含む培養細胞と一緒にインキュベートする。その後、レプチン誘導によるSTAT3またはPI3キナーゼなどの活性をアッセイすることができる。その結果を薬剤の非存在下で得られた結果と比較する。活性薬剤は、培養細胞においてレプチンがシグナル伝達する能力を再生するはずである。これに関して、このアッセイは、レプチンに刺激されるシグナル伝達経路の任意の成分(例えば、JAK2、STAT3,、STAT5、STAT6、SH2ドメイン含有タンパク質チロシンホスファターゼ(SHP-2)、成長因子受容体結合-2(Grp-2)、細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)およびPI-3キナーゼなど)のモニタリングを含むことができる。
【0045】
本発明に従い、複合体破壊活性を有する薬剤のスクリーニングは、高スループットベースで実施することもできる。このために、例えば、OB-Rbを過剰発現するHEK293細胞を96ウェルプレートで増殖させることができる。HEK293細胞はまた、レプチン応答性レポーター遺伝子(例えば、ルシフェラーゼレポーターに機能的に結合したレプチン誘導性プロモーターなど)を保持することができる。レプチンへの暴露に対して細胞が応答すると、STAT3のリン酸化を誘導しうるが、これは、蛍光標識抗体により、または以前の刊行物に記載の蛍光プレートリーダーにおけるルシフェラーゼ活性の増加により検出可能である。CRPのレプチンとの前インキュベーションによりレプチンの作用は打ち消されるが、CRP/レプチン複合体破壊活性を有するポリペプチドによってレプチンの作用は回復する。
【0046】
以下の実施例を参照しながら、本発明の詳細な説明を続けるが、これらの実施例は例示を目的とするにすぎず、本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0047】
実施例1.血清レプチン相互作用タンパク質の精製および同定
A.SLIPの精製
マウスまたはヒト組換えレプチン(NHPPのAF Parlow、 Torrance, CAから購入)をAmino-Linkキット(Pierce Biotechnology、Rockford, IL)によりセファローズビーズに共有結合させた。ラットまたはヒト血清(1.5 ml)をアフィニティーカラムに充填し、樹脂に通過させた後、15容量のPBS−0.5%Tween-20(ラットサンプルの場合)、またはCa2+含有バッファー(0.1 M Tris−Cl、0.1 M NaCl、2mM CaCl2)(ヒトサンプルの場合)でカラムを洗浄した。保持材料をグリシン酸性溶液で溶出した後、直ちに溶出液をTris−バッファー(50 mM、pH=9.5)中で中和した。
【0048】
銀染色SDSゲル上でヒトレプチン−アフィニティーカラムの溶出物から30-、42-、65-、70-、および85-Kdの見かけ分子量を有する5つの主要なSLIPを同定し、それぞれヒトSLIP-1、2、3、4、および5と表した。また、血清レプチンをSLIPと一緒に共溶出してもよい。マウスレプチン−アフィニティーカラムにラット血清を通過させると非常に類似した分子量のタンパク質が得られたことから、5つのヒトSLIPはすべて、ラット対応部を有する。
【0049】
B.SLIP-1の同定
SDS-PAGEゲルからラットSLIP-1を切除し、トリプシン消化の後MALDI-TOFアッセイに付した。この分析により、ラットSLIP-1はラットC反応性タンパク質(CRP)として同定された。同様に、ヒトSLIP-1は、質量分析(ナノLC-MS/MSゲル内タンパク質同定)で、ヒトCRPとして同定された。質量分析アッセイは、CTO-BIO Service(Rockville, MD)によるThermo Finnigan LTQ質量分析計で実施した。データ分析は、Turbo-Sequestソフトウェアで実施した。二重荷電ペプチド(「z」)について2.33より大きいフィルタリングスコアは、ヒトCRPとの有意な一致を示している。さらにウエスタンブロットアッセイで、ヒトまたはラットCRPを特異的に認識するポリクローナル抗体を用いて、SLIP-1をCRPとして確認する。
【0050】
実施例2.免疫沈降アッセイによるCRPとレプチンの直接的結合の実証
CRPとレプチンとの物理的相互作用を調べるため、これらのタンパク質の直接的結合を免疫沈降アッセイにより決定した。すでに確立されているアフィニティー精製プロトコール(20)を用いて、ラットCRPを新鮮なラット血清から>95%純度まで精製した。この純度は、市販の供給源から得たヒトCRP調製物の純度と同等であった。質量分析によりさらに純度を確認した。精製したヒトおよびラットCRPタンパク質をそれぞれ組換えヒトおよびマウスレプチンと予め混合した後、ヒトおよびマウスレプチンに特異的な抗体を添加した。沈降反応物中のCRPおよびレプチンの濃度はすべて、ヒトまたはラットで観察された生理学的範囲内であった(11および15)。また、並行して行なった実験では、組換えレプチンをヒトまたはラット血清と予め混合することにより、免疫沈降前に直接相互作用させた。得られたタンパク質沈降物は、特異的抗CRP抗体を用いたウエスタンブロットアッセイに付した。抗ヒトレプチンを用いた免疫沈降により、レプチン/CRP混合物およびヒト血清の両方からヒトCRPをプルダウン(pull down)することができた。同様に、抗マウスレプチンを用いた免疫沈降により、レプチン/CRP混合物およびラット血清のいずれからもラットCRPを沈降させる(bring down)ことができた。抗ヒトCRPおよびラットCRP抗体を用いて免疫沈降を実施し、レプチンタンパク質がプルダウンすることが見出された場合に、CRPとレプチンの直接的相互作用がさらに確認される。
【0051】
実施例3.レプチンのその受容体への結合に対するCRP干渉の実証
ヒトレプチンがその受容体に結合する安定性をCRP結合が干渉するか否かを調べるために、ロングフォーム(long-form)のヒトレプチン受容体で安定にトランスフェクトしたHEK293細胞株であるOB-Rbを用いた(17)。ヨードジェン(Iodogen)法を用いて、ヒトレプチンをNa125Iでヨウ素化した。簡潔に言うと、100 mMリン酸バッファー(pH 7.5)中の15μgの組換えヒトレプチンを50μgヨードジェン含有ガス管において1mCiの無担体Na125I(2200 Ci/mmol)と一緒にインキュベートした。室温で10分のインキュベーション後、100μlの0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)で反応を停止した。反応混合物を直ちに逆相HPLCで精製した。分離には、溶出剤A中20%の溶出剤Bでの5分間のアイソクラティックステップの後、溶出剤A中20〜50%、次に50〜60%の溶出剤Bの2つの連続した30分間の線状勾配を1.5 ml/分の流速で用いた(ここで、溶出剤Aは0.1%TFAを含む水であり、溶出剤Bは0.1%TFAを含むアセトニトリルである)。125I標識レプチン(約2ng/ml)を1mlのμ-MEM中の様々な濃度のヒトCRPと一緒に1時間、前インキュベートした後、OBR-発現HEK293細胞に添加した。インキュベーションを4℃で3時間続けた後、培地を吸引し、細胞を0.1N NaOHに溶解させ、シンチレーションにより計数した。
【0052】
この細胞株でのレプチンのその受容体とのKdは1.0×10-9Mであることがわかった。図4Aに示すように、125I標識ヒトレプチンと一緒にヒトCRPを前インキュベートすると、用量依存的様式でレプチンのその受容体との結合は低減した。IC50値は、約2ng/mlヒトレプチンの存在下で約80 ng/mlのCRPであり、5.8:1の分子比が得られた(CRPの五量体構造に基づくCRP:レプチン)。反対に、ヒトCRPは、図4Bに示すように、マウスレプチンに対して低い親和性(約2ng/mlのマウスレプチンの存在下で64μg/mlを超えるIC50)を呈示した。
【0053】
実施例4.シグナル伝達試験
CRPとレプチンとの相互作用がレプチンの細胞作用を減弱させるか否かを決定するために、レプチンがSTAT3のチロシンリン酸化およびPI3-キナーゼ活性を刺激する能力を、CRPの存在下、in vitroで評価した。OB-Rbを過剰発現するHEK293細胞を2時間血清飢餓状態に置いた後、レプチンとCRP(CHEMICONまたはEMD Biosciences)とを添加した。CRPの存在または非存在下、レプチンをμ-MEM(さらに1mM Ca2+を含む)中、37℃で30分前インキュベートした後、細胞にアプライした。レプチンと一緒に30分インキュベートした後、溶解バッファーに細胞を回収した(18)。得られたタンパク質抽出物は、抗ホスホ-STAT3特異的抗体を用いたウエスタンブロット分析(Cell Signaling、Beverly, MA)に付した。初代視床下部ニューロンに関連する研究のために、安楽死直後にラットから視床下部を外科的に単離し、CRPの存在または非存在下でレプチンと一緒にインキュベートするため、DMEM中に置いた。
【0054】
ヒトCRPおよびラットCRPの両方が、それぞれヒトまたはマウスレプチンにより誘導されるSTAT3のチロシン−リン酸化を減弱することがわかった(図5Aおよび5B)。レプチンに誘導されるSTAT3リン酸化を阻止するのに必要なヒトCRPおよびラットCRPの濃度は、ヒトおよびラット血漿で観察された範囲(11、21および22)内であったが、ヒトCRPと比較して高い量のラットCRPが同等の効果を達成するのに必要であった。ヒトCRPとマウスレプチンとの間の低い親和性の観察結果と一致するように、高濃度のヒトCRPは、マウスレプチンにより誘導されるSTAT3活性化を阻止することができなかった(図5C)。
【0055】
培地への過剰なEGTAの添加がレプチンシグナル伝達に対するヒトCRPの阻害作用を阻止したことから、別の研究により、ヒトCRPによるレプチンシグナル伝達の減衰には、カルシウムイオンの存在が必要であることが明らかにされた。
【0056】
並行して行なったアッセイは、ヒトCRPは、たとえ高い濃度でも、ヒト初代肝細胞においてIL-6に誘導されるSTAT3の活性化を抑制しないことを示しているため、さらにりん光体-STAT3およびPI3-キナーゼアッセイにより、ヒトCRPは、初代視床下部ニューロンにおけるレプチンシグナル伝達を特異的に阻害することが証明された。同様に、ラットCRPは3T3-L1脂肪細胞においてインスリンに刺激されるPI3-キナーゼ活性を阻止しなかった。
【0057】
ヒト肝細胞をドナーの肝臓から単離した。簡潔に言うと、肝臓を3段階プロセスで灌流に付した。細胞内結合を破壊するために、EGTAを補充したカルシウム無含バッファーを使用し、次にEGTAを含まない同じ灌流バッファーを用いた。最後に、消化酵素(コラゲナーゼおよびDNアーゼ)を補充したカルシウム含有バッファーを用いた。消化後、3段階の低速遠心分離により肝実質細胞を単離した。少なくとも85%の生存率を有する細胞をコラーゲンコーティング組織培養皿に塗布し、10%ウシ胎子血清(FBS)、0.1μMデキサメタゾン、0.1μMインスリン、および50μg/mlゲンタマイシンを補充した肝細胞維持培地(HMM)(Cambrex BioScience、Walkersville, MD)中で2〜4時間培養した。次に、これらの細胞を、FBSを含まない前記培地中で培養した。
【0058】
播種から約24時間後、0.1μMデキサメタゾンと0.1μMインスリンとを補充した血清無含HMMで肝細胞を洗浄し、次に同じ培地中でさらに48時間培養した。続いて、これらの細胞を、0.1μMデキサメタゾンを補充した血清無含HMMに移した後、レプチン(NHPP)またはrhIL-6(R&D Systems、Minneapolis, MN)で24時間または48時間刺激した。PI3-キナーゼ阻害剤に関連する実験のために、LY294002(EMD BioSciences、CA)で肝細胞を1時間前処理した後、ホルモン刺激に付した。
【0059】
別の対照において、ヒト血清アルブミンは、ヒトCRPより数百倍高い濃度であっても、レプチンにより誘導されるSTAT3のリン酸化に認めうるほどの影響を及ぼさないことがわかった。同様に、ヒト血清アミロイドP成分(SAP)も、CRPよりはるかに高い濃度で循環しているが、培養細胞中で共インキュベートしても、レプチンシグナル伝達に影響を与えなかった。
【0060】
実施例5.CRP機能の評価と生理学的指標のモニタリング
ヒトCRPの機能的作用を評価し、注入による循環CRPの上昇が、レプチンにより通常引き起こされる食物摂取の抑制および減量を打ち消すかまたは減衰することができるか否かを調べた。そのCRPの最小基礎血漿レベルのために、ラットモデルに代わりにob/obマウスを実験に採用した(23)。
【0061】
マイクロ浸透圧ポンプ(No.1007D、DURECT、Cupertino, CA)を製造者の説明書に従いob/obまたは野生型マウスに皮下移植した。浸透圧ポンプには、生理食塩水、CRP、レプチンまたはレプチン+CRPを予め充填しておいた。手術後、食物摂取(24時間)、体重、および体温を毎日モニタリングした。Medisense(Abbot Park, IL)の製品であるPrecision Plus(登録商標)グルコース計を用いて、尾静脈血液サンプルから血中グルコース濃度を測定した。
【0062】
それぞれCHEMICON(Temecular, CA)およびR&D Systems(Minneapolis, MN)製のELISAキットを用いて、製造者の説明書に従ってヒトおよびマウスレプチン濃度を測定した。それぞれLINCO Research(St. Charles, MO)およびHELICA(Fullerton, CA)製のELISAキットを用いて、血清マウスインスリンおよびヒトCRPを測定した。既に記載されたプロトコール(19)を用いて、血清および組織トリグリセリドを測定した。
【0063】
様々な量のヒトCRPを、単独でまたはヒトレプチンと一緒に、皮下移植したマイクロ浸透圧ポンプを介して、8週令のob/obマウスに投与した。遊離および結合形態のレプチンの両方を検出することができるELISAアッセイにより、血清レプチン濃度が、レプチンおよびレプチン/CRP注入動物でほとんど同じであることがわかった。図6A〜6Dに示すように、6日間の連続注入期間中、ヒトレプチンは、ob/obマウスにおいて予想された食物摂取および体重の減少を引き起こした。10μg/日という低い用量でヒトCRPを共注入しても、ヒトレプチンの上記作用は部分的にしか減衰しなかったが、これより高い40μg/日の濃度で、ヒトCRPは、食欲を抑制し、かつ減量を誘導するレプチンの作用を完全に阻止することができた。
【0064】
これらの観察結果と一致し、体温の記録により評価されるように、レプチンにより誘導されるエネルギー消費にも減衰が認められた。ヒトCRPは40μg/日の高注入用量で、レプチンにより誘導される直腸温度の増加を完全に阻止した。
【0065】
重要なことには、これらのマウスで達成されたヒトCRPの血清濃度は、表面上健康なドナーから得たヒト血漿で観測した生理学的範囲と類似していることである。
【0066】
ob/obマウスに対するレプチン投与は、血中グルコース、血漿インスリン、ならびに血清および肝トリグリセリドの低下など、糖尿病を緩和したが、ヒトCRPの共注入によりこれらの効果は逆転した。レプチン作用に対するCRPの負の作用をさらに確認するものとして、CRPのレプチンとの共注入によりob/obマウスの視床下部組織におけるSTAT3の活性化も阻害された。対照的に、ヒトCRPだけを投与した場合、食物摂取および体重に影響はなかった。したがって、CRPの影響は、レプチンの存在に依存的である。
【0067】
前記in vivoデータは、単一のミニ浸透圧ポンプに貯蔵されたCRPとレプチンの混合物の注入を受けたマウスから収集した。また、ヒトCRPおよびレプチンは別個の浸透圧ポンプでも注入された。レプチン(レプチンのみ、またはレプチン+CRP)を注入した全群の血清における総ヒトレプチン濃度は、互いに極めて類似していた(15〜20 ng/ml)。理由は依然として明らかではないが、別個のポンプによる手法では、単一のポンプによる手法で認められた場合と比較して、ob/obマウスにおけるヒトCRPの血清濃度を達成するのに、より高い注入用量のヒトCRPを必要とした。また、単一ポンプからの注入と比較して、レプチンに対するヒトCRPの検出可能な作用が後に認められたが、これは、恐らく、拡散および結合平衡を達成するのに時間を要するためであろう。それでも、単一浸透圧ポンプで達成したものと一致する血清濃度で、やはりヒトCRPは、ヒトレプチンの生理学的作用(例えば、食物摂取および体重の減少、ならびに血中グルコースおよび血清インスリンの調整など)を減衰することがわかった。
【0068】
in vivo試験をさらに補充するために、遺伝子導入により発現される(transgenically expressed)ヒトCRPを産生するマウス(24)において、ヒトレプチンの飽満および減量機能を評価した。これらのマウスにおけるヒトCRPの平均基線血清濃度(average baseline serum concentration)は、約15μg/mlであった。このような高い基礎レベルにも関わらず、ヒトCRP単独では、トランスジェニックマウスの食物摂取および体重に有意に影響を与えなかったが、これは、マウスレプチンに対するヒトCRPの低親和性と一致している。トランスジェニックマウスにおけるヒトレプチンの作用を評価するために、野生型マウスのエネルギー平衡に一時的にすぎないが最大限に影響を与えることがわかっている0.6 mg/kg/日の用量(25)を注入した。CRPトランスジェニック体の野生型同腹子にヒトレプチンを注入すると、食物摂取、体重、および副睾丸脂肪体重量に予想通りの減少が生じた。それでもやはり、これらのヒトレプチンの生理学的作用は、CRPトランスジェニックマウスでは完全に鈍化した。注入の終了時には、トランスジェニックマウスの血清中の総ヒトレプチン濃度は平均7.6 ng/mlであったが、これは野生型同腹子における平均濃度3.2 ng/mlより高かった。これらの結果は、レプチンの生理学的作用に対するヒトCRPの負の作用を示している。
【0069】
実施例6.CRP産生に対するレプチンの作用の評価
レプチン自体が肝細胞におけるCRPの発現を刺激しうるかどうかを試験するために、CRP分泌および発現を分析した。
【0070】
肝細胞を単離し、実施例4に記載のように処理した。培養培地を遠心分離にかけ、脱離細胞を除去した後、SDS-サンプルバッファー(Boston Bioproducts, MA)中、95℃で5分間加熱した。10%SDSポリアクリルアミドゲルでの分離後、タンパク質をニトロセルロース膜に一晩電気泳動的に転写させた。0.5%Tween 20を含むPBS中の5%無脂肪乳を用いて予めブロッキングしておき、適当な一次抗体と一緒に上記膜を室温で2時間インキュベートし、洗浄し、対応するペルオキシダーゼ結合型抗CRP抗体と一緒に室温で1時間インキュベートした。タンパク質を検出するために、ECL試薬と一緒に上記膜をインキュベートし、ブロットをX-Omatフィルム(Kodak)に暴露した。次の2種類のCRP抗体を用いた:抗ヒトCRP(EMD Biosciences、CA)および抗ラットCRP(Alpha Diagnostic Intl.,San Antonio, TX)。
【0071】
CRP mRNA発現は、定量的リアルタイムRT-PCRにより測定した。簡潔にいうと、全肝細胞RNAをTRIzol試薬(Invitrogen、Carlsbad, CA)で単離し、DNアーゼI(Ambion、Austin, TX)で処理し、Suprescriptキット(Invitrogen、Carlsbad, CA)を用いて逆転写した。以下のように、Taqman装置(ABI7700)で、リアルタイムPCRを実施した:50℃で2分を1サイクル;95℃で10分を1サイクル;95℃で15秒、60℃で1分を40サイクル。プローブとプライマーの配列は以下の通りである:
ヒトCRPプローブ:5’-/6 FAM/TGCAAGGCGAAGTGTTCACCAAACC/BHQ_A/-3’(配列番号6);
ヒトCRP5’プライマー:5’-GGCGGGCACTGAAGTATGAA-3’(配列番号7);
ヒトCRP3’プライマー:5’-GCCTCAGGGCCACAGCT-3’(配列番号8);
ヒト18s rRNAプローブ:5’-/6-FAM/CGCGCAAATTACCCACTCCCGA/BHQ_A/-3’(配列番号9);
ヒト18s rRNA 5’プライマー:5’-ACATCCAAGGAAGGCAGCAG-3’(配列番号10);
ヒト18s rRNA 3’プライマー:5’-TCGTCACTACCTCCCCGG-3’(配列番号11);
ラット18s rRNAプローブ:5’-/6-FAM/CGCGCAAATTACCCACTCCCGA/BHQ_A/-3’(配列番号12);
ラット18s rRNA 5’プライマー:5’-GCACGAGGCGAGAAAGGA-3’(配列番号13);
ラット18s rRNA 3’プライマー:5’-TTCGTCACTACCTCCCCGG-3’(配列番号14);
ラットCRPプローブ:5’-/6-FAM/CCTTCTTGGGACTGATGCTGGTGACA/BHQ_A/-3’(配列番号15);
ラットCRP5’プライマー:5’-TGTGCCACCTGGGAGTCTG-3’(配列番号16);
ラットCRP3’プライマー:5’-TTCCGCACCCTGGGTTT-3’(配列番号17)。
【0072】
6〜8時間の短い処理ではCRP遺伝子発現に影響を与えなかったが、生理学的濃度のヒトレプチンと一緒にヒト肝細胞を24時間インキュベートすると、培養培地に分泌されたCRPに対する用量依存的な正の作用が生じた(図7)。また、リアルタイムPCRアッセイを用いたCRP遺伝子発現の並行実験でも、ヒトCRP mRNA発現に対する用量依存的な正の作用を示した。特異的PI3-キナーゼ阻害剤であるLY294002と一緒にヒト初代肝細胞を前インキュベートすると、CRP発現に対するレプチンの作用が完全に阻害されたが、これは、レプチンにより誘導される肝細胞CRP産生がPI3キナーゼ依存的プロセスであることを示唆している。
【0073】
実施例7.ポリペプチドの評価
ヒトレプチンとヒトC反応性タンパク質との間の相互作用に関連するドメインを決定するために、一連のポリペプチド(25アミノ酸の平均長)を化学的に合成した。ポリペプチドB(配列番号3)、ポリペプチドC1(配列番号4)およびポリペプチドE(配列番号5)がこれらのペプチドを代表するものである。
【0074】
in vitro実験では、これらのポリペプチドの各々をヒトCRPと一緒に30分間前インキュベートした後、さらに45分間ヒトレプチンと混合した。次いで、こうして得られた混合物を、ロングフォーム(long form)のレプチン受容体であるOB-Rbを過剰発現するHEK-293細胞に添加した。30分のインキュベーション後、細胞をタンパク質抽出バッファー(18)に回収した。ウエスタンブロットアッセイにおいてSTAT3に対するチロシンリン酸化を刺激する能力によって測定した上記細胞におけるレプチンのシグナル伝達を評価した(ポリペプチドB、C1およびEについてはそれぞれ図8、9、10を参照)。ヒトCRPはレプチンによるSTAT3の活性化を抑制したが、ヒトCRPと一緒にポリペプチドの各々を前インキュベートすると、ヒトCRPの阻害作用を阻止すると共に、レプチンシグナル伝達を回復することができた。いずれのポリペプチドもそれ自体がSTATリン酸化に何らかの変化を誘導することはなかった。また、ポリペプチドC1は、レプチンに対するCRP活性を阻止するのに、低濃度の方がより有効であることも観察された。
【0075】
in vivo実験において、ミニ浸透圧ポンプを介してヒトCRPおよびレプチンと一緒にポリペプチドEをob/obマウスに共注入した。注入期間中、24時間毎の食物摂取と体重を追跡した(図11A〜11D)。ポリペプチドの非存在下で、ヒトCRPはヒトレプチンの飽満および減量作用を阻止することができたが、ヒトCRPおよびレプチンとポリペプチドEとを共注入すると、ヒトレプチンのこれらの機能をいずれも回復することができた。注入の終了時に、ポリペプチドEは、血中グルコースに対するヒトレプチンの有益な作用を回復できることがわかった(図11E)。
【0076】
実施例8.米国特許第6,777,388号の六量体とポリペプチドの比較
実施例6に記載したものと同様のin vitroプロトコールに従い、米国特許第6,777,388号に開示されたペプチドに由来する配列:NH2-S-C-H-L-P-W-COOH(配列番号18)を含む六量体ペプチドをヒトCRP(8μg/ml)およびヒトレプチン(2nM)と一緒に1時間、前インキュベートした。次に、得られた混合物をロングフォームのレプチン受容体であるOB-Rbを過剰発現したHEK-293細胞に添加した。30分のインキュベーション後、細胞をタンパク質抽出バッファーに回収した。細胞におけるヒトレプチンのシグナル伝達を評価するため、STAT3に対するチロシンリン酸化をウエスタンブロットアッセイで測定した。
【0077】
結果(図12)は、’388特許の六量体が0.8 μM(または800 nM)という高い濃度で、ヒトレプチンのシグナル伝達能力に対するヒトCRPの負の作用を阻止できなかったことを示す。同じセットの実験で、ポリペプチドEは、ヒトレプチンのシグナル伝達能力を回復することができた(図10)。
【0078】
引用刊行物




【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図1は、ヒトレプチンタンパク質の完全な配列(配列番号1)を示す。下線を引いた部分は、それぞれ、残基26〜50、51〜75および111〜137の、ポリペプチドB(配列番号3)、ポリペプチドC1(配列番号4)およびポリペプチドE(配列番号5)を示す。
【図2−1】図2Aは、ヒトレプチン構造の線図を示す。強調した部分は、それぞれ、残基25〜44のαへリックスA、残基72〜88のαへリックスB、残基92〜115のαへリックスC、残基141〜164のαへリックスD、および残基127〜136のへリックスEを示す。
【図2−2】図2Bは、ヒトおよびマウスレプチンタンパク質のアミノ酸配列アラインメントを示す。保存アミノ酸は、マウスレプチンの配列では「*」として示し、可変残基はヒトおよびマウスレプチン配列の両方において太字で示す。下線を引いた配列は、αへリックスB、CおよびDからなるコア領域を表す。
【図2−3】図2Cは、ヒトレプチン構造の立体図を示す。αへリックスB、CおよびDからなるコア領域の概略を示す。
【図3】図3は、血清レプチン相互作用タンパク質(SLIP)の精製およびCRPの同定を示す。図3Aは、レプチンアフィニティーカラムから溶出したヒト血清由来の5つの主なSLIPを示す。銀染色SDSゲルの上から下に向かって、バンドはそれぞれSLIP-5、SLIP-4、SLIP-3、SLIP-2およびSLIP-1に対応し、見かけ分子量はそれぞれ85、70、65、42および30Kdであった。点線の矢印で示すように、SLIPと一緒に血清レプチンを共溶出した。図3Bは、ウエスタンブロットアッセイにおいて特異的抗CRP抗体により、SLIP-1がヒトCRPであることを証明する。左側のレーンはSLIP-1のカラム画分を示し、右側のレーンはヒトCRP標準を示す。
【図4】図4Aは、ヒトレプチンのその受容体への結合に対するヒトCRPの干渉作用を示す。ロングフォーム(long-form)のヒトレプチン受容体であるOB-Rb(14)で安定にトランスフェクトしたHEK293細胞を用いて、ヒトCRPが、ヒトレプチンのその受容体と結合する能力を干渉するか否かを調べる。この細胞株のヒトレプチンとヒトレプチン受容体とのKdは1.0×10-9Mであることがわかっている。125I-標識ヒトレプチンと一緒に様々な量のヒトCRPを前インキュベートすると、用量依存的な様式でレプチンのその受容体への結合が低減する。約2ng/mlのヒトレプチンの存在下で、IC50値は、約80ng/mlのヒトCRPであり、これにより5.8:1(CRP の五量体構造に基づくCRP:レプチン)の分子比が得られる。グラフ右下の点線は、二千倍過剰の非標識レプチンを添加したときに結合した125I-レプチンを示す。図4Bは、マウスレプチンに対するヒトCRPの作用を示す。図4Bは、2ng/mlの125I-標識マウスレプチンを様々な量のヒトレプチンと一緒に前インキュベートした後、ヒトOB-Rbで安定にトランスフェクトしたHEK293細胞に添加した。約2ng/mlのマウスレプチンの存在下で、IC50値は約64μg/mlを超えるCRPであり、これは、ヒトCRPが、ヒトレプチンと比較して、マウスレプチンに対しはるかに低い親和性を有することを示す。グラフ右下の点線は、二千倍過剰の非標識マウスレプチンを添加したときに結合した125I-レプチンを示す。
【図5−1】図5は、レプチンシグナル伝達に対する精製ヒトまたはラットCRPの作用の決定を示す。図5Aおよび5Bは、OB-Rbで安定にトランスフェクトしたHEK293細胞系において、それぞれヒトまたはマウスレプチンにより誘導されるSTAT3のチロシンリン酸化に対するヒトCRP(5A)およびラットCRP(5B)の減衰作用を示す。図5Cは、ヒトCRPは、マウスレプチンにより誘導されるSTAT3のチロシン−リン酸化に対して減衰作用を有しないことを示す。
【図5−2】図5Dおよび5Eは、NIH-IMAGE 6.0ソフトウェアを用いてデジタルスキャンした画像(例えば、図5Aおよび5Bに示すものなど)の分析に基づく、ヒトCRP(5D)またはラットCRP(5E)の存在下での、レプチンにより刺激されるSTAT3活性化の定量評価を示す。このデータ(活性化の相対的倍数)はそれぞれ、ヒトCRPについての異なる3セットの実験の平均と、ラットCRPについての異なる2セットの実験の平均とを示す。レプチンだけで治療した群と比較すると、P<0.05である。
【図6】図6は、ob/obマウスにおいてレプチンにより誘導される飽満および減量作用に対するヒトCRPの作用を示す。様々な量のCRPを単独で、または0.3 mg/kg/日のヒトレプチンと一緒に、浸透圧ポンプを用いて8週齢の雄ob/obマウスに注入する。矢印は手術日を示す。6日の注入期間中、食物摂取(図6Aおよび6C)と体重(図6Bおよび6D)とを毎日モニタリングする。ヒトCRPは、それぞれ10μg/日(図6Aおよび6B)の低用量と、高用量(図6Cおよび6D)で注入する。ob/obマウスの体重がばらばらであるため、体重は、手術前の体重の%として表す。図6Aおよび6Cでは、生理食塩水およびレプチン群を除いてn=4である。図6Bおよび6Dでは、生理食塩水群はn=5、CRPおよびレプチン注入群はn=6、そしてレプチン+CRPを注入した群はn=7である。記号「*」および「#」はそれぞれ、スチューデントの両側t検定におけるP<0.01およびP<0.05を示す。図6Aおよび6Bの両方で、2日目からのレプチン対生理食塩水およびCRPはP<0.01であり;3日目からのレプチン+CRP対生理食塩水、対CRP、および対レプチン群はP<0.05である。図6Cおよび6Dの両方で、3日目からのレプチン対生理食塩水、対CRP、および対レプチン+CRP群はP<0.01またはP<0.05である。さらに、図6Cにおいて、2日目のレプチン+CRP対生理食塩水、対CRPはP<0.01である。
【図7】図7は、CRP発現に対するヒトレプチンの作用を示す。生理学的濃度のヒトレプチンでヒト肝細胞を24時間処理した後、分泌したCRPのウエスタンアッセイのために培地を回収し、2つの異なる実験の画像をデジタルスキャニングした後、示された結果を定量する。
【図8】図8は、自身のチロシンリン酸化によりもたらされるSTAT3活性化のウエスタンブロット分析を示す。ヒトCRPは、ポリペプチドBの非存在下でレプチンによるSTAT3の活性化を抑制する。しかし、ポリペプチドBと一緒にヒトCRPを前インキュベートすると、レプチンシグナル伝達に対するヒトCRPの阻害作用を阻止することができる。対照は、ポリペプチドB自体はSTATリン酸化に対し何の作用も有しないことを示す。
【図9】図9は、自身のチロシンリン酸化によりもたらされるSTAT3活性化のウエスタンブロット分析を示す。ヒトCRPは、ポリペプチドC1の非存在下でレプチンによるSTAT3の活性化を抑制する。しかし、ポリペプチドC1と一緒にヒトCRPを前インキュベートすると、レプチンシグナル伝達に対するヒトCRPの阻害作用を阻止することができる。対照は、ポリペプチドC1自体はSTATリン酸化に対して何の作用も有しないことを示す。図9Aに示すように、ポリペプチドC1の最大作用は、50 nMという低い濃度で達成することができるが、図9Bでは、ポリペプチドC1の濃度をそれ以上高くしても、その作用はさらに向上していない。
【図10】図10は、自身のチロシンリン酸化によりもたらされるSTAT3活性化のウエスタンブロット分析を示す。ヒトCRPは、ポリペプチドEの非存在下でレプチンによるSTAT3の活性化を抑制する。しかし、ポリペプチドEと一緒にヒトCRPを前インキュベートすると、レプチンシグナル伝達に対するヒトCRPの阻害作用を阻止することができる。対照は、ポリペプチドE自体はSTATリン酸化に対して何の作用も有しないことを示す。
【図11−1】図11は、ミニ浸透圧ポンプで、ヒトCRPおよびレプチンと一緒にポリペプチドEをob/obマウスに共注入すると、ヒトレプチンの生理学的作用を回復することを示す。図11Aおよび11Bは、ポリペプチドEの非存在下での実験データを示し、図11Cおよび11Dは、ポリペプチドEの存在下でのデータを示す。ヒトCRPおよびレプチンの注入用量は、それぞれ48μg/日/マウスおよび12μg/日/マウスであった。ポリペプチドE(図では「P」で示す)の注入速度は、それぞれ24μg/日/マウスの中用量(図では「Pm」で示す)と、48μg/日/マウスの高用量(図では「Ph」で示す)とした。注入を通して、食物摂取(図11Aおよび11C)と体重(図11Bおよび11D)とを毎日モニタリングした。図A〜D中の矢印は手術日を示している。注入終了時に、血中グルコース、ヒトCRP、およびヒトレプチンの測定のために血液サンプルを収集した。ヒトCRPおよびヒトレプチンの血清濃度はそれぞれ0.85±0.1μg/mlおよび18ng±2ng/mlであった。
【図11−2】図11Eは、高用量のポリペプチドEを注入したマウス群からの血中グルコース濃度を示す。また、ヒトCRPおよびレプチンを注入したが、ポリペプチドEを注入していないマウスからのグルコース濃度も示す。
【図12】図12は、そのチロシンリン酸化の程度により測定されるSTAT3活性化のウエスタンブロット分析を示す。すでに示したように、ヒトCRPとレプチンとを共インキュベートすると、レプチン刺激によるSTAT3活性化の低減が起こった。しかし、米国特許第6,777,388号の六量体(L型:NH2-S-C-H-L-P-W-COOH(配列番号18);D型:NH2-W-P-L-H-C-S-COOH(配列番号19))をヒトCRPおよびヒトレプチンと一緒に前インキュベートしても、レプチン刺激によるSTAT3の活性化を回復することはできなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
αへリックスB、CおよびDからなるコアを除くヒトレプチンタンパク質配列(配列番号1)中に連続配列として存在する8〜40アミノ酸残基のセグメントを含むポリペプチドであって、(i)該ポリペプチドは、CRP/レプチン複合体の形成を破壊し、(ii)該ポリペプチドのアミノ酸配列は配列番号2を除くものである、上記ポリペプチド。
【請求項2】
前記セグメントが、前記ヒトレプチンタンパク質の露出表面領域に存在する、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
15〜25アミノ酸残基のセグメントを含む、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項4】
(A)配列番号3のアミノ酸配列;あるいは
(B)(i)保存的アミノ酸置換、挿入、もしくは欠失、(ii)C末端切断、または(iii)N末端切断である少なくとも1つの改変を含む配列番号3のアミノ酸配列を含む、請求項2に記載のポリペプチドであって、配列番号3のアミノ酸配列と少なくとも60%同一である、上記ポリペプチド。
【請求項5】
(A)配列番号4のアミノ酸配列;あるいは
(B)(i)保存的アミノ酸置換、挿入、もしくは欠失、(ii)C末端切断、または(iii)N末端切断である少なくとも1つの改変を含む配列番号4のアミノ酸配列を含む、請求項2に記載のポリペプチドであって、配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも60%同一である、上記ポリペプチド。
【請求項6】
(A)配列番号5のアミノ酸配列;あるいは
(B)(i)保存的アミノ酸置換、挿入、もしくは欠失、(ii)C末端切断、または(iii)N末端切断である少なくとも1つの改変を含む配列番号5のアミノ酸配列を含む、請求項2に記載のポリペプチドであって、配列番号5のアミノ酸配列と少なくとも60%同一である、上記ポリペプチド。
【請求項7】
(i)請求項1に記載のポリペプチド、または該ポリペプチドをコードする核酸、および(ii)薬学的に許容される担体、を含む医薬組成物。
【請求項8】
薬剤におけるCRP/レプチン複合体破壊活性を検出する方法であって、
(A)該薬剤とCRPおよびレプチンとをいずれかの順序で接触させ;その後
(B)それぞれ上記薬剤の非存在および存在下で、CRP/レプチン複合体形成、レプチンの量、およびCRPの量からなる群より選択される指標を測定することを含み、
その際、上記指標はCRP/レプチン複合体破壊活性を証明するものである、上記方法。
【請求項9】
ステップ(B)が、それぞれ上記薬剤の非存在および存在下で、レプチンアフィニティーカラムにCRPを充填した後、通過したCRPの量を測定することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(B)が、STAT3および/またはPI3キナーゼアッセイによりレプチン活性を測定することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
被検者における遊離レプチンのレベルを正常化する方法であって、薬理学的に有効な量の請求項7に記載の医薬組成物を該被検者に投与することを含む、上記方法。
【請求項12】
前記被検者は、肥満およびII型糖尿病からなる群より選択される症状を有するかまたはその危険性がある、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記被検者は、メタボリック症候群、炎症、アテローム硬化症、および不妊症からなる群より選択される症状を有するかまたはその危険性がある、請求項11に記載の方法。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11−1】
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【図11−2】
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【図12】
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【公表番号】特表2008−535797(P2008−535797A)
【公表日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−500945(P2008−500945)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際出願番号】PCT/US2006/008503
【国際公開番号】WO2006/096816
【国際公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(507301213)ザ ユニバーシティ オブ ピッツバーグ オブ ザ コモンウェルス システム (1)
【Fターム(参考)】