説明

ヒト前立腺癌の骨への移動および浸潤を調節する骨芽細胞因子

ヒト骨形成細胞(osteogenic cells)は、癌細胞の組織への移動および/または浸潤を刺激する生理活性を分泌する。ヒト前骨芽細胞および骨芽細胞により生成される馴化培地(CM)は、ヒト前立腺癌細胞の移動と組織浸潤を誘発した。したがって、馴化培地および/またはそこから単離されるタンパク質は、転移性誘導因子を同定するために使用することができる。またそのような因子の阻害剤の同定方法も記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1、発明の分野
本発明は、一般的に生物学および医学の分野に関連する。より特定すると、前骨芽細胞および骨芽細胞からの、前立腺癌細胞の骨への転移を刺激する因子の同定、単離、および使用のための工程に関連する。
【0002】
本願は、2004年1月28日に出願された米国仮出願第60/539,887号の優先権の恩典を主張し、このすべての内容は参照として本明細書に組み入れられる。米国政府は認可番号R01DK061456に従って本発明における権利を有する。
【背景技術】
【0003】
2、関連する技術の説明
前立腺癌(CaP)は男性の癌による死亡原因の第2位であり、推定189,000人/年が前立腺癌を有すると診断されている。全前立腺癌の83%が局部的および局所的なステージで発見されていることは注目に値する。2002年には、推定30,200人の男性が前立腺癌で死亡すると予測されている。
【0004】
ある癌の独特な臨床的特徴は、骨盤および脊柱における骨形成性または造骨性の病変の形成であり、CaP転移の部位で大量の骨が生成される。実際、脊椎転移は前立腺癌転移の90%に現れ、再発も一般的である(2年以内に起こる危険性は45%である)。しかし、著しい研究努力にもかかわらず、この骨形成応答を仲介する分子メカニズムはいまだ明らかではない。
【0005】
現在の治療は、外科的介入、放射線療法、ホルモン療法、および化学療法からなる。これらすべてに広範な副作用があり、原発腫瘍の根絶に対して方向付けられるが、しばしば転移病巣を逃し、またはこのプロセスを予防しない。したがって、この疾患に対する新しく、かつ改善された治療方法の同定において、骨転移に関与する因子を同定し活用する必要性が依然として存在する。
【発明の開示】
【0006】
発明の概要
それゆえに、本発明に従って、以下の工程を含む、骨への癌細胞の転移を予防するのに有用な薬剤を同定する方法が提供される:(a) 骨形成前駆細胞馴化培地(osteogenic precursor cell-conditioned medium)(OCM)を提供する工程;(b) 骨転移性癌細胞を提供する工程;(c) OCMを骨転移性癌細胞と、候補物質の存在下において接触させる工程;および(d)骨転移性癌細胞の移動および/または浸潤を評価する工程であって、候補物質の非存在下で見られる移動および/または浸潤と比較した、工程(d)で見られる移動および/または浸潤の違いが、候補物質を骨転移阻害物質であると同定する、工程。候補物質は有機医用薬剤小分子でも、抗体またはその断片、またはペプチド、ポリペプチド、またはペプチド模倣体でもよい。骨転移性癌細胞はLNCaP-C4-2B細胞のような前立腺癌細胞でもよく、または乳癌細胞でもよい。細胞は原発腫瘍単離株でもよく、または腫瘍細胞株でもよい。OCMは前骨芽細胞、骨芽細胞、骨芽前駆細胞、および/または骨芽アクセサリー細胞で馴化されたものでよい。この方法はさらに、候補物質の非存在下で工程(d)を行う段階を含む。
【0007】
別の態様において、骨形成細胞の増殖により馴化された培地を含む組成物が提供される。また、転移性前立腺癌細胞による骨組織への移動および/または浸潤を促進する、骨形成細胞馴化培地から得られるタンパク質因子も提供される。さらにもう一つの態様においては、前立腺癌細胞による骨組織への移動および/または浸潤を促進する、骨形成細胞馴化培地から得られる熱不安定性タンパク質因子が提供される。またさらにもう一つの態様においては、骨形成細胞により生産されるタンパク質因子を得る方法が提供され、ここでその因子は転移性前立腺癌細胞による骨組織への移動および/または浸潤を促進し、(a)骨形成細胞馴化培地を入手する工程;および(b)培地のタンパク質成分と非タンパク質成分とを分離する工程、を含む。
【0008】
さらに別の態様は、骨形成細胞により生成されるタンパク質因子を得る方法を含み、ここで因子は前立腺癌細胞による骨組織への移動および/または浸潤を促進し、(a)骨形成細胞馴化培地を入手する工程;および(b)培地のタンパク質成分と非タンパク質成分とを分離する工程を含む。さらに別の態様は、骨形成細胞馴化培地から因子を分離する方法を含み、ここで因子は癌細胞による骨組織への移動および/または浸潤を促進し、(a)骨形成細胞馴化培地を入手する工程;(b)骨形成細胞馴化培地の成分を分画する工程;および(c)(b)由来の分画における癌細胞の転移および/または浸潤の促進をアッセイする工程を含み、ここで癌細胞の移動および/または浸潤を促進する分画は、分離された因子を含む。
【0009】
さらに別の態様は、骨形成細胞馴化培地から因子を同定する方法を提供し、ここで因子は前立腺癌細胞による骨組織への移動および/または浸潤を促進し、(a)骨形成細胞馴化培地を入手する工程;(b)骨形成細胞馴化培地の成分を分画する工程;(c)(b)由来の分画における癌の移動および/または浸潤の促進をアッセイする工程;および(d)(c)の分画における因子を同定する工程を含む。
【0010】
さらなる態様では、骨形成細胞馴化培地に対するポリクローナル抗血清が提供される。また、(a)骨形成細胞馴化培地に対するポリクローナル抗血清を作製する工程;および(b)骨形成細胞の非存在下における培地で見出されるタンパク質に反応する抗体を、抗血清から除去する工程を含む、抗体群を調製する方法も提供される。さらに、ハイブリドーマ細胞を調製する方法も供給され、その方法は、(a)骨形成細胞馴化培地に対する抗体を分泌するハイブリドーマ細胞群を作製する工程;および(b)骨形成細胞の非存在下における培地で見出されるタンパク質に反応する抗体を抗血清から除去する工程を含む。
【0011】
実例的な態様の説明
前立腺癌や乳癌のようなある種の癌は、局部的骨形成を誘導する転移性により特徴付けられる。前立腺癌細胞の場合、これらの細胞のあるものは、骨組織を生成する細胞を誘発するシグナルを生成するのに対して、他の細胞はしばしば骨侵食(骨溶解性)病変を形成する。したがって、癌細胞の骨への転移をもたらす因子を同定することは、骨形成転移性癌における、可能性のある介入の別の観点を可能にするであろう。
【0012】
本発明は、前骨芽細胞、骨芽細胞のような骨形成細胞が、癌細胞による骨組織への移動および/または浸潤を刺激する因子または因子群を生成するという観察に関係する。この発明は、そのような因子の精製および同定の方法、ならびに馴化培地、およびそれに対するポリクローナルおよびモノクローナル抗体も提供する。また、このような因子の阻害剤を同定する方法も記載されている。
【0013】
I、馴化培地を調製するための骨形成細胞の培養
正常な培養条件下で、骨形成細胞はさまざまな量の血清の存在下で増殖し、かつ培養皿に対する接着性を保持し、基本的に二次元的な、細胞の平面シートとして増殖する。これらの細胞のインビトロ拡張のためには、トリプシン処理による樹脂からの開放、および再培養が必要である。4から6週間後、細胞は血清、ならびにより高い濃度のカルシウムおよびリン酸塩を含む培地に移植される。無血清状態で増殖させられた骨形成細胞は、明らかに異なる発達パターンを示す。このプロセスには、培養の初期0〜48時間以内に添加されるTGF-βまたは他の骨形成成長因子の存在が必要とされる。
【0014】
ヒト初代前骨形成細胞由来の馴化培地は、100mm組織培養皿に10mlの培養培地(10%FBS DMEM培地)中の5×10細胞をプレーティングすることにより調製された。接着を可能にするための24時間に続いて、培地が除去され、細胞は10ml/皿のPBSで3回洗浄された。その後、洗浄された細胞は、1%(v/v)ITS+(Becton Dickenson、Bedford、MA)を添加した10ml/皿の無血清DMEM培地中で72時間インキュベートされた。72時間後に収集された培地は0.2μmフィルターでろ過され、ヒト前立腺癌細胞のインビトロ移動および浸潤アッセイに直接用いられた。
【0015】
II、転移性
A、転移性前立腺癌細胞
ヒト前立腺腺癌の大多数(70%)は、前立腺辺縁部に発生する。腫瘍が発達するにしたがって、前立腺周囲の脂肪、精嚢、および局所リンパ節、具体的には下腹部および閉鎖リンパ節に局所的に拡がりはじめる。ひとたび腫瘍が血管床を破ると、癌細胞は遠方の部位まで血液循環によって(血行性に)拡がり、そこで許容性組織の毛細血管床においてとどまり、二次腫瘍や転移を形成する。前立腺癌(CaP)転移の最も一般的な部位は軸骨格、具体的には骨盤、大腿、脊柱であり、肋骨および頭蓋骨ではより少ない骨の関与がみられる。遠位の内臓への転移は、より一般的でないが、肝臓、肺、脳の硬膜を含む。一般的に、癌細胞の転移的拡張は高度に選択的で、非ランダムなプロセスである。周囲の組織環境に対し応答することも操作することもできる腫瘍細胞だけが、最終的に組織中に転移病変を形成しうる。CaP細胞に関して、海綿質(trabecular bone)を含む骨髄が、転移性CaP細胞の増殖と生存を支持しうる許容環境に相当する(Pazdur,2002)。
【0016】
本発明に従って、種々の癌細胞が種々の請求される態様のために利用されるであろう。まず第一に、転移性前立腺癌細胞がOCM活性または活性群のための標的として用いられうる。これらの細胞はOCMに感受性があり、移動性および/または浸潤性の変化はその転移能力の変調を示す。同様に、非転移性前立腺癌細胞は、前立腺癌細胞の転移性細胞へのトランスフォーメーションを変化させるOCMにおける活性を示すために使用される。最終的に、正常非癌性前立腺細胞が、正常前立腺組織におけるそれらの活性の作用をモニターするために使用される。
【0017】
B、細胞移動の測定
走化的(chemotaxtic)移動アッセイが修正を加えて記載されたように行われた(Jeffers et al.、1996)。簡単にいうと、細胞をトリプシンによって収集し、無血清培地で一回洗浄し、無血清DMEM培地に5×10生存細胞/mlの濃度で再懸濁した。その後、25,000細胞/0.5mlを3mmポアサイズの24穴細胞培養インサート(cell culture insert)(Becton Dickinson、Bedford、MA)に添加した。インサートは、0.5mlの無血清DMEM、ヒト初代骨芽細胞由来の72時間無血清馴化培地を含むウエル中に置かれ、5%CO2−95%空気中で37℃で48時間インキュベートされた。インキュベーション期間の最後に、非浸潤細胞をフィルター上面から綿棒で取り除き、浸潤細胞をHema3(登録商標)溶液(CMS、Houston、TX)で染色した。フィルター当たり全浸潤細胞数は、10倍の倍率で定量した。熱で非活性化した骨芽細胞馴化培地、トランスフォーミング成長因子β1、血小板由来成長因子βを、移動の陰性対照として含めた。インビトロ浸潤を測定するために、細胞をMatrigelでコートした細胞培養インサート(Becton Dickinson)にプレーティングした。
【0018】
C、浸潤の測定
本発明に関して、アッセイは骨組織の腫瘍細胞浸潤を評価するために行われるであろう。このようなアッセイは、コラーゲン、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、ビトロネクチン、ラミニン、またはそれらの組み合わせのような薬剤を含む人工の支持材への癌細胞移動を測定するモデル系に依存する。1つの組み合わせは、Matrigelとさまざまな細胞外タンパク質との混合物によって表される。
【0019】
III、骨形成前駆細胞
本発明は、骨前駆細胞または成熟骨細胞(骨形成細胞)より得られる馴化培地の使用を提供する。本明細書において使用されるように、骨前駆細胞は骨芽細胞に分化できるか、または拡張できる任意の細胞である。下記の項はこれらの細胞の特徴を記載する。骨芽細胞または前駆細胞は、骨髄または骨のような一次供給源に由来する。さらに、細胞はヒト、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、ネズミ起源を含むいくつかの異なる種由来でもよい。
【0020】
A、骨前駆細胞(骨芽前駆細胞(osteoprogenitor cells))
ヒト骨前駆細胞は、低量の骨タンパク質(オステオカルシン、オステオネクチン、およびアルカリフォスファターゼ)を発現し、内部複雑性の程度が低い、サイズの小さい細胞として特徴付けられる(Long et al、1995)。分化するために刺激されると、これらの前骨芽細胞は外観、サイズ、抗原発現、内部構造において骨芽細胞となる。通常は、これらの細胞は骨髄中に非常に低い頻度で存在するが、これらの細胞の単離工程は記載されている(Long et al、1995)。米国特許第5,972,703号には、骨前駆細胞の単離方法および使用方法がさらに記載されており、これは具体的に参照として本明細書に組み入れられる。
【0021】
B、前骨芽細胞
前骨芽細胞は、骨芽前駆細胞と骨芽細胞との中間に位置する。アルカリフォスファターゼのような骨表現型マーカーの発現の増加(Kale et al.、2000)を示す。それらは限定された増殖能を有するが、それにもかかわらず分裂し続け、さらなる前骨芽細胞または骨芽細胞を生成する。
【0022】
C、骨芽細胞
骨芽細胞は、骨細胞系列の中で最も成熟した細胞である。それらは大きな細胞であり、偏在性の核を保有し、骨形成に必要な細胞外タンパク質を産生する。骨芽細胞は、具体的に参照として本明細書に組み入れられる米国特許出願第09/753,043号に記載されているように、前骨芽細胞および骨芽細胞の両方の集団として骨から得ることができる。
【0023】
D、骨芽アクセサリー細胞
骨前駆細胞はインビトロでの増殖のためにアクセサリー細胞を必要とすると考えられる。中間的な大きさの比較的低い細胞複雑性(または成熟度)、および高いTGFβRII発現を有する独特な細胞集団は、骨アクセサリー細胞を含むものとして既に同定されていた。このような特性に基づくセルソーティング(cell sorting)は、骨アクセサリー細胞が濃縮された細胞集団を生成し、HBPC拡張アッセイにおいて特異的な活性の増加を示す。米国特許第6,576,465号を参照されたい。
【0024】
精製されたアクセサリー細胞のフローサイトメトリーは、これらの細胞が、あるとしてもわずかしかSTRO-1抗原を発現しないこと、およびP-セレクチン、E-セレクチン、またはL-セレクチンの発現をも欠くことを示す。さらに、これらの細胞は、細胞/基質タンパクであるオステオカルシンまたはオステオネクチンを全く発現しないか、もしくはごく少量しか発現しないようである。この細胞はさらに、CD3(T細胞マーカー)、CD56(NK細胞マーカー)、CD68(マクロファージマーカー)、CD34(造血性細胞マーカー)およびvon Willebrand因子(内皮細胞マーカー)を発現しない。したがって、これらの細胞はT細胞、造血性細胞、NK細胞、マクロファージ、または内皮細胞ではない。この細胞は、上記で述べたように、高いTGFβRIIの発現により特徴付けられる。
【0025】
IV、精製方法
本発明にしたがって、骨組織への移動および/または浸潤を誘導する精製された因子、および因子を分離、精製、同定する方法が提供される。下記に記載された分離技術を使って、馴化培地は分画され、その結果生じた画分は転移性誘導活性のような活性について試験される。
【0026】
本発明のさまざまな態様において、骨形成細胞馴化培地から分子を分画することが望ましいであろう。任意の技術に有用性が認められ、分配や沈殿(塩析)のような化学的方法、クロマトグラフィー、等電点電気泳動、遠心分離または電気泳動のような物理的方法、酵素的方法(グリコシラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼなど)、質量分析、および熱によるもの(加熱、凍結融解)でさえ含まれうる。
【0027】
任意の多種多様なクロマトグラフィー手段が本発明にしたがって採用されうる。例えば、薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、ペーパークロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、または超臨界流体クロマトグラフィーが、種々の化学種の分離を遂行するために使用されうる。
【0028】
分配クロマトグラフィーは、2つの相が互いに接触しており、かつ一つもしくは両方の相が溶質を構成する場合、溶質はそれ自身、二相間で分配されるという理論に基づいている。通常、分配クロマトグラフィーは吸着剤と溶媒で満たされたカラムを採用する。溶質を含む溶液は、カラムの上部に重層される。その後、溶媒が連続的にカラムを通過し、これによりカラム材質を通じた溶質の移動を可能にする。溶質はその移動率に基づいて収集されうる。分配クロマトグラフィーの2つの最も一般的なカラムの種類は、ペーパークロマトグラフィーおよび薄層クロマトグラフィー(TLC)である;これらはともに吸着クロマトグラフィーと呼ばれる。両方の場合において、マトリックス(matrix)は結合した液体を含む。分配クロマトグラフィーの他の例は、ガス−液体およびゲルクロマトグラフィーである。
【0029】
ペーパークロマトグラフィーは、ペーパーシート形式のセルロースカラム上で行われる分配クロマトグラフィーの変種である。セルロースは広範囲に乾燥している場合でさえ大量の結合した水を含む。分配は、結合した水と展開溶媒との間で起こる。しばしば使用される溶媒は水である。通常、分離されるべき溶液混合物をごく少量紙の上部に置き、乾燥させる。毛細管現象が溶質を紙中に引き込み、試料を溶解し、成分を流れの方向に移動させる。ペーパークロマトグラムは上昇または下降どちらの溶媒の流れでも展開されうる。二次元分離は、第一の泳動の後、移動軸を90度変化させることによって可能となる。
【0030】
薄層クロマトグラフィー(TLC)は脂質を分離するために非常に一般的に使用されており、したがって本発明の好ましい態様であると考えられる。TLCはペーパークロマトグラフィーの長所を有するが、微細に分離され、均一な層中に形成されうる任意の物質も使用することが出来る。TLCにおいて、固定相は、ガラスまたはプラスチックプレートの表面に均一に塗布された吸着剤の層である。プレートは通常、プレートの周囲に沿って選択された高さでテープを配置することによってウエルを作製し、ゲルの表面に注がれる吸着剤のスラリーを形成することによって作製される。吸着剤が乾燥した後、テープは除去され、プレートはペーパークロマトグラフィーの紙とちょうど同じように取り扱われる。試料が適用され、プレートは溶媒と接触させられる。溶媒がプレートの末端までほとんど到達すれば、プレートは除去され、乾燥される。その後、スポットは蛍光、免疫学的同定、放射活性の計測、または色の変化を生成するために表面に種々の試薬をスプレーする段階によって同定される。
【0031】
ガス−液体クロマトグラフィー(GLC)において、移動相はガスであり、固定相はチューブの内表面またはカラムまたは固体支持体のいずれかに吸着された液体である。通常、液体はエーテルのような揮発性溶媒中に溶解された固体として適用される。試料は、揮発しうる任意の試料でよく、ヘリウム、アルゴン、または窒素のような不活性ガスとともに液体として導入され、その後加熱される。この気体混合物は管を通過する。揮発した化合物は、その分配係数に従って、ガス移動相と液体固定相との間で持続的に再分配される。
【0032】
GLCの利点は小分子の分離にある。感度とスピードは非常に良好で、スピードは標準的な液体クロマトグラフィーの1000倍に達する。非破壊検出計を使用することによって、GLCはグラム量の物質を予備的に精製するのに使用できる。GLCは、アルコール、エステル、脂肪酸およびアミンの分離において主に使用されている。
【0033】
ゲルクロマトグラフィーもしくは分子ふるいクロマトグラフィーは、分子サイズに基づく分配クロマトグラフィーの特別な型である。ゲルクロマトグラフィーの背後にある理論は、小さな孔を含む不活性物質の小粒子で調製されたカラムにより、分子が孔を通過もしくは巡回することで、大きな分子がより小さな分子からそのサイズに依存して分離されるというものである。粒子が作られている材料が分子を吸収しないならば、流速を決定づける唯一の因子はサイズである。したがって、形状が比較的一定である限りは、分子はカラムからサイズの減少にしたがって溶出される。ゲルクロマトグラフィーは異なるサイズの分子を分離することにおいては卓越しており、なぜなら分離はpH、イオン強度、温度などすべての他の因子と無関係であるからである。また、実質的に吸着もなく、ゾーンの広がりも少なく、かつ溶出体積は単に分子量に関係する。
【0034】
ゲルクロマトグラフィーのためのゲル物質は、構造が通常ランダムである三次元ネットワークである。ゲルは一般に不活性で、分析される物質と結合も反応もせず、かつ帯電していない架橋ポリマーである。ゲル内の空間は液体で満たされ、この液体がゲル容量の大部分を占めている。一般的なゲルはデキストラン、アガロース、およびポリアクリルアミドであり、それらは水溶液に使用される。
【0035】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、格別なピークの分解能を有する、非常に速い分離により特徴付けられる。これは非常に細かい粒子と高い圧力の維持と適切な流速とを使用することによって達成される。分離はおよそ数分間で、または多くとも一時間で達成される。さらに、粒子は非常に小さく、密に詰められているために、空隙容量(void volume)が総容量(bed volume)の非常に小さい割合でしかないことから、試料はごく少量しか必要でない。また、バンドが非常に狭いために試料の希釈が非常にわずかであることから、試料の濃度を非常に高くする必要はない。
【0036】
アフィニティクロマトグラフィーは、単離されるべき物質と特異的に結合している分子との間の特異的親和性に依存するクロマトグラフィー手法である。これは、レセプター−リガンド形式の相互作用である。カラム材料は、結合パートナーの一つを不溶性マトリックスに共有結合的にカップリングすることにより合成される。すると、カラム材料は溶液から物質を特異的に吸着することができる。溶出は、結合が起こらないような状態に変える(pH、イオン強度、温度などを変更する)ことによって生じる。
【0037】
マトリックスは、それ自体、どんな有意な程度にも分子を吸着せず、広い範囲の化学的、物理的、および温度的安定性を有する物質でなければならない。リガンドは、その結合特性に影響しないような方法で連結されなければならない。リガンドはまた、比較的強固な結合をも提供しなければならない。かつ、試料もしくはリガンドを破壊することなく物質を溶出することが可能でなくてはならない。アフィニティクロマトグラフィーの最も一般的な形態の一つは、イムノアフィニティクロマトグラフィーである。本発明に合致する使用に適する抗体の生成は、下記に論じられる。
【0038】
V、抗体
本願の一つの態様において、骨形成前駆細胞馴化培地に含まれる因子または因子群に対する抗体を調製することが望まれるであろう。抗体はポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体(Mab)でよい。一つの態様において、抗体はモノクローナル抗体である。抗体の調製および特徴付けの方法は当技術分野において周知である(例えばHarlow and Lane、1998を参照されたい)。
【0039】
簡単に述べると、ポリクローナル抗体は、本発明のポリペプチドを含む抗原で動物を免疫し、その免疫化動物から抗血清を収集することにより調製される。広範囲な動物種が抗血清の生成のために使用できる。典型的には、抗−抗血清の生成のために使用される動物は、ウサギ、マウス、ラット、ハムスター、ブタ、もしくはウマを含む非ヒト動物である。ウサギは比較的血液の量が多いため、ポリクローナル抗体の生成のための好ましい選択肢である。
【0040】
ポリクローナル抗体もモノクローナル抗体も、抗原のアイソフォームに特異的な抗体は、一般的に当業者に公知であるように、慣例的な免疫技術を使用して調製されうる。本発明の化合物の抗原性エピトープを含む化合物は、ウサギやマウスのような1つまたは複数の実験動物を免疫するために使用され、その後、本発明の化合物に対する特異的抗体を生成することに進むであろう。抗体生成のための時間の経過後、単に動物の採血をして全血から血清試料を調製することにより、ポリクローナル抗血清が得られる。
【0041】
当技術において周知であるように、与えられる組成物は免疫原性において種々である。したがって、宿主の免疫システムを高めることがしばしば必要とされ、それはペプチドもしくはポリペプチドの抗原を担体に連結することにより達成しうる。例示的な、かつ好ましい担体は、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、多重抗原ペプチド(MAP)、ウシ血清アルブミン(BSA)である。オボアルブミン、マウス血清アルブミン、またはウサギ血清アルブミンのような他のアルブミンも担体として使用できる。ポリペプチドを担体に共役させる方法は当技術分野において周知であり、グルタルアルデヒド、m-マレイミドベンゾイル−N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、カルボジイミド、およびビス−ジアゾ化ベンジジンを含む。
【0042】
また当技術分野において周知であるように、特定の免疫原化合物の免疫原性は、アジュバントとして公知である、免疫反応の非特異的刺激剤の使用により強化することができる。例示的かつ好ましいアジュバントは、フロイント完全アジュバント(ヒト型結核菌(Mycobacterium tuberculosis)の死菌を含む免疫反応の非特異的刺激剤)、フロイント不完全アジュバントおよび水酸化アルミニウムアジュバントを含む。
【0043】
ポリクローナル抗体の生成に使用される抗原化合物の量は、免疫に使用される動物と同様に免疫原の性質によっても種々である。免疫原の投与のために、種々の経路(皮下、筋肉内、皮内、静脈内および腹腔内)が使用できる。ポリクローナル抗体の生成は、免疫後、種々の時点で免疫動物から血液をサンプリングすることによりモニターすることができる。二回目の、すなわち追加免疫の注射が与えられてもよい。追加免疫および力価測定の工程は、適当な力価が達成されるまで繰り返される。望ましいレベルの免疫原性が得られれば、免疫化動物は血液を抜かれ、血清は単離および貯蔵され、かつ/または動物はmAbを生成するために使用されうる。
【0044】
mAbは、参照として本明細書に組み入れられる米国特許第4,196,265号に例示されているように、周知の技術を使用することによって容易に調製される。典型的には、この技術は選択された免疫原化合物により適切な動物を免疫することに関する。免疫原化合物は抗体産生細胞を刺激するのに有効な方法で投与される。マウスやラットのようなげっ歯動物は好ましい動物であるが、ウサギ、ヤギ、カエル細胞の使用もまた可能である。ラットの使用はある種の利点を提供する(Goding、1986)が、マウスが好ましく、BALB/cマウスはもっとも慣例的に使用され、一般的に高い割合の安定な融合体をもたらすので最も好ましい。
【0045】
下記の免疫化において、抗体を生成する能力を有する体細胞、具体的はBリンパ球(B細胞)がmAb産生プロトコールにおける使用のために選択される。これらの細胞は生検による脾臓、扁桃、もしくはリンパ節から、もしくは末梢血試料から得ることができる。脾臓細胞と末梢血細胞が好ましく、前者はそれらが分裂形質芽球のステージにある抗体産生細胞の豊富な源であるからであり、後者は末梢血が簡単に入手できるからである。しばしば、動物の一団は免疫され、最も高い抗体力価を有する動物の脾臓が除去され、脾臓を注射器でホモジナイズすることにより脾臓リンパ球が得られるであろう。典型的には、免疫されたマウス由来の脾臓は、約5×107〜2×108のリンパ球を含む。
【0046】
免疫された動物由来の抗体産生Bリンパ球は、一般的には免疫された動物と同一種の不死化ミエローマ細胞と融合される。ハイブリドーマ産生融合手法における使用に適するミエローマ細胞株は、抗体を産生せず、高い融合能力を有し、かつ望ましい融合細胞(ハイブリドーマ)のみの成長を支持するある種の選択培地における生育を不可能にする酵素欠損を有する。
【0047】
当業者に公知であるように、多くのミエローマ細胞の任意のものが使用できる(Goding、1986;Campbell、1984)。例えば、免疫動物がマウスである場合はP3-X63/Ag8、P3-X63-Ag8.653、NS1/1.Ag 4 1、Sp210-Ag14、FO、NSO/U、MPC-11、MPC11-X45-GTG1.7、およびS194/5XX0 Bu1;ラットの場合はR210.RCY3、Y3-Ag1.2.3、IR983Fおよび4B210;かつ、U-266、GM1500-GRG2、LICR-LON-HMy2およびUC729-6はすべて細胞融合に関連して有用である。
【0048】
抗体産生脾臓またはリンパ節細胞とミエローマ細胞とのハイブリッドを調製する方法は、通常、体細胞とミエローマ細胞とを2:1の割合で混合する段階を含むが、その割合は細胞膜の融合を促進する薬剤または薬剤群(化学的または電気的)の存在下で、約20:1から1:1まで変えることができる。センダイウイルスを使用する融合方法(Kohler and Milstein、1975;1976)、およびポリエチレングリコール(PEG)を使用する融合方法、例えばGefter et al.(1977)による37%(v/v)PEGを使用する方法が記載されている。電気的に誘導される融合方法の使用も適している(Goding、1986)。
【0049】
通常、融合手法は約1×10-6〜1×10-8の低い頻度で生存ハイブリッドを生成する。しかし、生存する融合ハイブリッドは選択培地中で培養することによって親の非融合細胞(特に、通常無制限に分裂し続ける非融合ミエローマ細胞)と区別されるため、上記のことは問題とならない。選択培地は一般的に、組織培養培地中にヌクレオチドのデノボ合成を妨げる薬剤を含む培地である。例示的かつ好ましい薬剤は、アミノプテリン、メトトレキサートおよびアザセリンである。アミノプテリンおよびメトトレキサートはプリン、ピリミジンの両方のデノボ合成を妨げるのに対し、アザセリンはプリン合成だけを妨げる。アミノプテリンまたはメトトレキサートが使用される場合、培地にはヌクレオチドの源としてヒポキサンチンおよびチミジンが補われる(HAT培地)。アザセリンが使用される場合は、培地にはヒポキサンチンが補われる。
【0050】
好ましい選択培地はHAT培地である。ヌクレオチドサルベージ経路を作動させることができる細胞だけが、HAT培地中で生存することができる。ミエローマ細胞はサルベージ経路における鍵酵素、例えばヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)が欠損しており、生存することができない。B細胞はこの経路を作動させることができるが、培養において限られた寿命を有し、一般的に2週間以内に死ぬ。したがって、選択培地で生存できる唯一の細胞は、ミエローマとB細胞とから形成されたハイブリッドである。
【0051】
この培養はハイブリドーマの一群を提供し、そこから特定のハイブリドーマが選択される。典型的には、ハイブリドーマの選択は、マイクロタイタープレートにおける単一クローン希釈によって細胞を培養し、次に、所望の反応性のために個々のクローン上清(約2から3週間後)を試験することにより行われる。アッセイはラジオイムノアッセイ、酵素イムノアッセイ、細胞毒性アッセイ、プラークアッセイ、ドットイムノ結合アッセイなどのように、感度がよく単純で、かつ速いものでなければならない。
【0052】
選択されたハイブリドーマは連続的に希釈され、個々の抗体産生細胞株にクローニングされ、クローンはmAbを提供するために無制限に増殖させることができる。この細胞株は2つの基本的な方法でmAb産生のために利用されうる。ハイブリドーマ試料は、初代融合物のための体細胞とミエローマ細胞とを提供するのに使用されたタイプと組織適合する動物に(しばしば腹腔内に)注入されうる。注入された動物は、融合された細胞ハイブリッドにより産生された特異的モノクローナル抗体を分泌する腫瘍を発生させる。血清や腹水のような動物の体液は、高濃度のmAbを提供するために抜かれる。個々の細胞株はインビトロでも培養することができ、mAbは培養培地中に自然に分泌され、そこから高濃度で容易に得られる。どちらの方法で生成されたmAbも、望ましい場合には、ろ過、遠心分離、HPLCまたはアフィニティクロマトグラフィーなど種々のクロマトグラフィー方法を用いてさらに精製することができる。
【0053】
VI、スクリーニングアッセイ
またさらなる態様において、本発明は転移性因子の阻害剤の同定方法を提供する。これらのアッセイは候補物質の大型ライブラリーのランダムスクリーニングを含みうる。または、これらのアッセイは、本明細書において同定された転移性因子の機能をより調節する可能性をより高くすると考えられる特性に注目して選択される、特定のクラスの化合物に焦点を当てるために使用されてもよい。
【0054】
阻害剤を同定するために、一般的には候補物質の存在下および非存在下における癌細胞の移動および/または浸潤を決定する。例えば、方法は一般的には以下の工程を含む。
(a)候補調節物質を提供する工程;
(b)候補調節物質を細胞と混合する工程;
(c)ステップ(b)における細胞の移動および/または浸潤を測定する工程;および
(d)候補物質の非存在下における移動および/または浸潤と、ステップ(c)における移動および/または浸潤とを比較する工程、
ここで、移動および/または浸潤の減少が、該候補調節物質が実際に転移の阻害剤であることを示す。
【0055】
アッセイは単離された細胞もしくは無傷生物で実施されうる。
【0056】
もちろん、有効な候補物質が見出されない可能性があるという事実にもかかわらず、本発明のすべてのスクリーニング方法は、それ自体が有用であることが理解されるであろう。本発明は、単にこのような候補物質を発見する方法のみではなく、このような候補物質をスクリーニングするための方法をも提供する。
【0057】
A、調節物質
本明細書で使用されているように、“候補物質”という用語は転移(移動および/または浸潤)活性を潜在的に阻害しうる任意の分子を指す。候補物質はタンパク質もしくはその断片、小分子、または核酸分子でさえあってもよい。阻害剤として抗体を使用することも可能であり、将来の薬剤設計の基礎とされるファーマコア(pharmacore)をもたらす可能性がある。
【0058】
さまざまな商業的供給源から、有用な化合物の「しらみつぶしの」("brute force")同定のための試みにおける、有用な薬物のための基本的な基準に見合うと考えられる、小分子ライブラリーを入手することもできる。組み合わせで生成されたライブラリー(例えばペプチドライブラリー)を含むこのようなライブラリーをスクリーニングすることは、大量の関連のある(および関連のない)化合物を活性についてスクリーニングするために迅速かつ効果的な方法である。組み合わせアプローチは、活性であるが他の点では望ましくない化合物をモデルとした、第二、第三、および第四世代の化合物の創出による、潜在的薬剤の迅速な進展をももたらす。
【0059】
候補化合物は天然由来の化合物の断片または一部分を含む可能性があり、または他の場合には不活性な公知化合物の活性な組み合わせとして見出される可能性もある。動物、バクテリア、真菌、葉や樹皮をふくむ植物源、海洋試料のような天然源から単離された化合物が、潜在的に有用な医用薬剤の存在に関して、候補物質としてアッセイされることが提案される。スクリーニングされる医用薬剤は化学的組成物または人工化合物から誘導または合成されうることが理解されるであろう。したがって、本発明により同定される候補物質は、ペプチド、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、小分子阻害剤、もしくは公知の阻害剤または刺激剤から始める合理的薬剤設計により設計されうる他の任意の化合物でありうることが理解される。
【0060】
他の適切な調節物質としてはアンチセンス分子、リボザイム、および抗体(一本鎖抗体を含む)が含まれ、それぞれは標的分子に特異的である。このような化合物は本明細書の他所においてより詳しく記載されている。例えば、翻訳および転写開始部位もしくはスプライスジャンクションに結合するアンチセンス分子は理想的な候補阻害剤であろう。
【0061】
当初に同定される調節化合物に加えて、本発明者らは、他の立体的に類似した化合物が、調節物質の構造の鍵となる部分を模倣するために製剤されうることも意図する。ペプチド調節物質のペプチド類似体を含むこのような化合物は、当初の調節物質と同一の方法で使用されるであろう。
【0062】
B、インサイト(in cyto)アッセイ
本発明は転移(移動および/または浸潤)活性を阻害する能力について化合物をスクリーニングすることを意図する。他所に記述された癌細胞を含む種々の細胞が、このようなスクリーニングアッセイのために利用できる。または、例えばタンパク質の発現、mRNA発現(全細胞またはポリA RNAのディファレンシャルディスプレイ)などを見る分子分析が行われうる。
【0063】
C、インビトロアッセイ
インビトロアッセイは種々の動物モデルの使用を含む。サイズと扱いやすさ、および生理学的および遺伝的構造の情報から、マウスが好ましい態様である。しかし、ラット、ウサギ、ハムスター、モルモット、アレチネズミ(gerbil)、ウッドチャック、ネコ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ、サル(チンパンジー、テナガザルおよびヒヒを含む)を含む他の動物も同様に適している。阻害剤のためのアッセイはこれらの種のいずれか由来の動物モデルを使用することによって実施される。
【0064】
このようなアッセイにおいて、1つまたは複数の候補物質が動物に投与され、候補物質で処理されていない同様の動物と比較した場合の、候補物質が癌細胞の転移(移動および/または浸潤)活性を改変する能力により、阻害剤調節物質が同定される。
【0065】
試験化合物によるこれらの動物の処置は、適切な形態で動物へ化合物を投与することを含むであろう。投与は臨床、または非臨床目的のために利用できる任意の経路によるものであり、経口、経鼻、口腔、または局所投与をも含むがこれらに限定されない。また、投与は気管内点滴、気管支点滴、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、または静脈内注射でもよい。具体的に意図された経路は全身静脈注射、血液またはリンパ供給を介した局所投与、または患部への直接投与である。
【0066】
インビボにおける化合物の有効性の決定は、種々の異なる基準を含みうる。また、毒性および用量反応の測定はインサイトアッセイよりも有意義な方法で動物において行うことができる。
【0067】
VII、実施例
下記の実施例は、本発明の好ましい態様を提示するために含まれる。以下の実施例に開示された技術は本発明の実施において十分に機能するために発明者により発見された技術を表しており、したがってその実施のための好ましい態様を構成すると考えられることが、当業者により理解される。しかし、本願の開示に照らしてみると、当業者は、多くの変更が開示された特定の態様においてなされうることを理解し、かつ本発明の精神および範囲から離れることなく同様のまたは類似の結果を得るであろう。
【0068】
実施例1
前立腺癌細胞(CaP)の骨特異的転移を仲介する分子的メカニズムは不明であるが、骨芽細胞由来走化性勾配に沿ったCaP細胞の骨への選択的なホーミングを含む可能性がある。本発明者らは、CaP細胞のインビトロの移動および湿潤に対する骨芽細胞(OB)分泌タンパク質の役割を直接試験するために、ヒト初代前骨芽細胞および骨芽細胞(OB)を用いた。
【0069】
データは、ヒト初代OB由来の馴化培地(CM)が、親LNCaPもしくは脳転移性DuCaP細胞(後者は示されていない;図1A〜B)と比較して、骨転移性LNCaP-C4-2BおよびVCaPヒトCaP細胞の選択的移動および浸潤を刺激する、効力のある走化性因子を分泌することを示す。このように、細胞移動における7〜8倍の増加が、OB-CMへの暴露に続いて見られ(図1A)、同様に浸潤能力においてはおよそ2倍の増加が見られる(図1B)。
【0070】
走化性効果はCMを煮沸することによって完全に無効となり(図2)、このことはOB-CMにおける活性がタンパク質であることを示している。同様に、プロテアーゼにより活性が消失する(示されていない)。骨芽細胞により分泌されるタンパクのDNAマイクロアレイ解析は、CaP細胞機能に影響を及ぼす能力を有する以下の8種のタンパク質の存在を示す:肝細胞成長因子、インシュリン様成長因子IおよびII、塩基性線維芽細胞成長因子、ストローマ由来成長因子1、血管内皮成長因子、インターロイキン6、およびインターロイキン8。しかし、移動アッセイにおけるこれらのタンパクの評価は、これらのうち2つ以外はCaP細胞移動を増加させることができないことを示した(図2)。重要なことだが、2つの刺激タンパク質、すなわち塩基性線維芽細胞成長因子およびIL-6それぞれに対する中和抗体は、OB-CM誘導性の移動をブロックすることができなかった(示されていない)。
【0071】
したがって、骨芽細胞はCaP細胞の転移能に影響を及ぼす、おそらく独特な因子を分泌する。総合すると、骨芽細胞由来タンパク質は骨転移性CaP細胞の移動および浸潤を刺激し、このことは骨へのCaP転移の高い発生率を説明しうる。
【0072】
本明細書において開示および請求されているすべての化合物および/または方法は、本開示に照らして過度の実験なしに作製および実行することができる。本発明の化合物および方法は好ましい態様に関して記載されているが、本化合物および/または方法、および方法の段階または段階の順序において、この発明の概念、精神および範囲から逸脱することなく変更が適用されうることは、当業者には明らかであろう。さらに具体的には、同一もしくは類似の結果が達成されるのであれば、化学的および生理学的両方に関連するある種の薬剤が、本明細書に記載された薬剤に対して代用されうることは明らかであろう。当業者に明らかな、このような類似の代用および修正のすべては、添付の特許請求の範囲によって定義されたように、本発明の精神、範囲、および概念の中にあるとみなされる。
【0073】
VIII、参考文献
下記の参考文献は、本明細書に示したものを補う、例示的な手順または他の詳細な記述を提供する範囲で、具体的に参照として本明細書に組み入れられる。
【0074】



【図面の簡単な説明】
【0075】
以下の図面は本明細書の一部を形成し、本発明の特定の局面をさらに明示するために含まれる。本発明は、本明細書に示されている特定の態様の詳細な記述と組み合わせて一つまたは複数の図面を参照することによって、よりよく理解されるであろう。
【図1】図1A〜Bは、転移性C42B CaP細胞の浸潤と移動における、骨芽細胞により誘発される変化を示す図である。
【図2】わずかな骨芽細胞分泌タンパク質がCaP細胞移動を調節することを示す図である。bFGF、塩基性線維芽細胞成長因子;IL、インターロイキン;HGF、肝細胞成長因子;TGF B1、トランスフォーミング成長因子β1;PDGF、血小板由来成長因子;IGF、インシュリン様成長因子;SDF、ストロマ由来成長因子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、癌細胞の骨への転移を阻止するのに有用である薬剤を同定する方法:
(a)骨形成前駆細胞馴化培地(osteogenic precursor cell-conditioned medium)(OCM)を提供する工程;
(b)骨転移性癌細胞を提供する工程;
(c)該OCMを該骨転移性癌細胞と、候補物質の存在下において接触させる工程;および
(d)該骨転移性癌細胞の移動および/または浸潤を評価する工程、
ここで、該候補物質の非存在下で見られる移動および/または浸潤と比較した、工程(d)で見られる移動および/または浸潤の違いが、該候補物質を骨転移阻害物質であると同定する。
【請求項2】
候補物質が有機医用薬剤の小分子である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
候補物質が抗体またはその断片である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
候補物質がペプチド、ポリペプチド、またはペプチド模倣体である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
骨転移性癌細胞が前立腺癌細胞または乳癌細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前立腺癌細胞がLNCaP-C4-2B細胞である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
OCMが前骨芽細胞、骨芽細胞、および骨芽前駆細胞、および/または骨芽アクセサリー細胞により馴化される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
浸潤が、コラーゲン、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、ビトロネクチン、ラミニン、またはそれらの組み合わせのような特定の細胞外タンパク質を通じた細胞通過(cell passage)によりモニターされる、請求項1記載の方法。
【請求項9】
移動が、約3から約8ミクロン、または約3ミクロンのポアサイズを有する膜を通じた細胞通過によりモニターされる、請求項1記載の方法。
【請求項10】
候補物質の非存在下で行われる工程(d)をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
骨形成細胞(osteogenic cell)の増殖により馴化された培地を含む、組成物。
【請求項12】
前立腺癌細胞による骨組織への移動および/または浸潤を促進する、骨形成細胞馴化培地から得られる熱不安定性タンパク質因子。
【請求項13】
転移性前立腺癌細胞による骨組織への移動および/または浸潤を促進する、骨形成細胞馴化培地から得られるタンパク質因子。
【請求項14】
以下の工程を含む、骨形成細胞により生産されるタンパク質因子を得る方法であって、該因子は転移性前立腺癌細胞による骨組織への移動および/または浸潤を促進する、方法:
(a)骨形成細胞馴化培地を入手する工程;および
(b)該培地のタンパク質成分と非タンパク質成分とを分離する工程。
【請求項15】
以下の工程を含む、骨形成細胞により生産されるタンパク質因子を得る方法であって、該因子は前立腺癌細胞による骨組織への移動および/または浸潤を促進する、方法:
(a) 骨形成細胞馴化培地を入手する工程;および
(b) 該培地のタンパク質成分と非タンパク質成分とを分離する工程。
【請求項16】
以下の工程を含む、骨形成細胞馴化培地から因子を分離する方法であって、該因子は癌細胞による骨組織への移動および/または浸潤を促進する、方法:
(a)骨形成細胞馴化培地を入手する工程;
(b)骨形成細胞馴化培地の成分を分画する工程;および
(c)(b)由来の分画における癌細胞の移動および/または浸潤の促進をアッセイする工程、
ここで、癌細胞の移動および/または浸潤を促進する分画は、分離された因子を含む。
【請求項17】
以下の工程を含む、骨形成細胞馴化培地から因子を同定する方法であって、該因子は前立腺癌細胞による骨組織への移動および/または浸潤を促進する、方法:
(a) 骨形成細胞馴化培地を入手する工程;
(b) 骨形成細胞馴化培地の成分を分画する工程;
(c)(b)由来の分画における癌細胞の移動および/または浸潤の促進をアッセイする工程;および
(d)(c)の分画における因子を同定する工程。
【請求項18】
骨形成細胞馴化培地に対するポリクローナル抗血清。
【請求項19】
以下の工程を含む、抗体群を調製する方法:
(a)骨形成細胞馴化培地に対するポリクローナル抗血清を作製する工程;および
(b)骨形成細胞の非存在下における培地で見出されるタンパク質に反応する抗体の該抗血清を除去する工程。
【請求項20】
以下の工程を含む、ハイブリドーマ細胞を調製する方法:
(a)骨形成細胞馴化培地に対する抗体を分泌するハイブリドーマ細胞群を作製する工程;および
(b)骨形成細胞の非存在下における培地で見出されるタンパク質に反応する抗体の抗血清を除去する工程。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−523642(P2007−523642A)
【公表日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−551481(P2006−551481)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【国際出願番号】PCT/US2005/002619
【国際公開番号】WO2005/072388
【国際公開日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(500047572)ザ、リージェンツ、オブ、ザ、ユニバーシティ、オブ、ミシガン (12)
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF MICHIGAN
【Fターム(参考)】