説明

ヒト化抗−α9インテグリン抗体及びその使用

本発明は、ヒトα9インテグリンを免疫特異的に認識するヒト化抗体を提供するものである。これら抗体のあるものは、α9インテグリンの生物学的機能を抑制し、癌、例えば、癌細胞の増殖や転移、並びに関節リウマチ、変形性関節症、肝炎、気管支喘息、線維症、糖尿病、動脈硬化、多発性硬化症、肉芽腫、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)、自己免疫疾患などの炎症性疾患など、α9インテグリンが関与する様々な障害又は疾患に対する治療効果を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトα9インテグリンを免疫特異的に認識するヒト化抗体に関し、癌、炎症性疾患、自己免疫疾患を含むα9インテグリンが関与し又はこれを伴う様々な疾患又は障害の治療及び診断への該抗体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞は、インテグリンと呼ばれている細胞表面受容体のグループに仲介されて、細胞外マトリックス(extracellular matrix:以下、ECMという)に接着する。インテグリンは、α鎖とβ鎖の1:1ヘテロ二量体を形成することによってその機能を発揮する。現在までに、少なくとも、18種のα鎖、8種のβ鎖及び24種のαβヘテロ二量体が同定され、確認されている。各インテグリンは特定のリガンドを認識することが知られている。インテグリンは、そのリガンド特異性又は作用によりサブファミリに分類され、コラーゲン受容体、ラミニン受容体、フィブロネクチンやビトロネクチンなどに存在するArg−Gly−Asp(RGD)配列を認識するRGD受容体、及び白血球のみに存在する白血球特異的受容体に分類される(Hynes, R. O., 2002, Integrins: Bidirectional, Allosteric Signaling Machines. Cell 110:673−87、及び宮坂昌之, 2000, 接着分子ハンドブック新版, 秀潤社)。α4及びα9インテグリンは、上記のいずれにも属しないサブファミリのメンバーであり、α4インテグリンサブファミリと呼ばれている(Elise L. Palmer, Curzio Rfiegg, Ronald Ferrando, Robert Pytela, Sheppard D., 1993, Sequence and Tissue Distribution of the Integrin α9 Subunit, a Novel Partner of β1 That Is Widely Distributed in Epithelia and Muscle. The Journal of Cell Biology, 123:1289−97)。一方、ECMは、これまで単に細胞間を固定する物質として機能していると考えられていたが、最近になってインテグリンが介在するECM細胞間相互作用が、細胞の成長、接着、移動などの制御に深く関与し、癌の進行、炎症の増悪などを含む疾患の発症と関連することが明らかになってきている。
【0003】
例えば、ECMの1つであるオステオポンチン(osteopontin:以下、OPNという)は、分子量約41kDaの、リン酸化された分泌型酸性糖タンパク質であり、母乳、尿、尿細管、破骨細胞、骨芽細胞、マクロファージ、活性化T細胞、腫瘍細胞などに広く認められる分子である。OPNは、その分子中央に接着配列GRGDS(配列番号1)を有し、ヒトOPNではSVVYGLR(配列番号2)配列、マウスOPNではSLAYGLR(配列番号3)配列を有し、また、そこに近接してトロンビン切断部位を有する。OPNは、GRGDS(配列番号1)配列を介してRGDインテグリンに、SVVYGLR(配列番号2)配列又はSLAYGLR(配列番号3)配列を介してα4(α4β1)及びα9(α9β1)インテグリンと結合する。
【0004】
国際公開WO02/081522は、OPNノックアウトマウス又はOPNに対する中和抗体を使ってOPNの作用を阻害することによる、関節リウマチや肝炎に対する治療効果を開示している。更に、この公開公報には、SVVYGLR(配列番号2)配列はα9及びα4インテグリンを認識して炎症性疾患が発症するために必須であり、OPNの受容体が免疫担当細胞などで発現され、炎症性疾患に関与していることが開示されている。
【0005】
また、α4β1はトロンビンで切断されていないOPN(非切断型OPN)とトロンビンで切断されたOPN(切断型OPN)のN末端フラグメントの両方に結合するのに対して、α9β1は切断型OPNのみに結合する点で接合特性に違いがあることが知られている(Y Yokosakiら, 1999,The Journal of Biological Chemistry, 274:36328−36334; P. M. Greenら, 2001, FEBS Letters, 503:75−79; S. T. Barryら, 2000, Experimental Cell Research, 258:342−351)。
【0006】
α4及びα9インテグリンは、OPN以外にも多数の共通リガンドを共有している。既知のリガンドとしては、フィブロネクチンのEDAドメイン、プロペプチド−フォンビルブラント因子(propeptide−von Willebrand factor:pp−vWF)、組織トランスグルタミナーゼ(tissue transglutaminase:tTG)、第XIII血液凝固因子、血管細胞接着分子−1(vascular cell adhesion molecule−1:VCAM−1)などがある。更に、α4インテグリンにより特異的に認識されるリガンドとして、フィブロネクチンのCS−1ドメインやMadCAM−1(α4β7)などが知られており、α9インテグリンにより特異的に認識されるリガンドとして、テネイシンCやプラスミンなどが知られている。
【0007】
インテグリンサブユニットα9、α4及びβ1のアミノ酸配列は公知であり、例えば、ヒトα9はNM_002207として、マウスα9はNM_133721として、ヒトα4はNM_000885として、マウスα4はNM_010576として、ヒトβ1はX07979として、マウスβ1はNM_010578としてGenBankに登録されている。これらのインテグリンは、種間でアミノ酸配列の類似性が高いことも知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
現在、癌、炎症性疾患、及び自己免疫疾患の治療薬は種々知られているが、より改善された癌、炎症性疾患、自己免疫疾患の予防薬及び/又は治療薬等を開発することが望まれている。本発明は一部には、本発明者らがα9インテグリンを特異的に阻害する抗体が癌抑制及び抗炎症効果を有することを発見したことに基づく。
【0009】
これまで、本発明者らは、ヒトα9インテグリンを免疫特異的に認識し、ハイブリドーマクローン1K11、21C5、24I11、25B6及び28S1(それぞれ、受託番号FERM BP−10510、FERM BP−10511、FERM BP−10512、FERM BP−10513及びFERM BP−10832)により産生されるマウスモノクローナル抗体、並びにマウスα9インテグリンを免疫特異的に認識し、ハイブリドーマクローン18R18D、12C4’58、11L2B及び55A2C(それぞれ、受託番号FERM ABP−10195、FERM ABP−10196、FERM ABP−10197及びFERM ABP−10198)により産生されるモノクローナル抗体を単離した。本明細書で、ハイブリドーマクローンの名称は、クローンにより作製されるモノクローナル抗体の名称として互換的に使用される。これらマウス抗ヒトα9インテグリン抗体は全てIgGlアイソタイプであった。これらモノクローナル抗体の一部は、ヒト及び/又はマウスα9インテグリンとオステオポンチンなどのα9インテグリンのリガンドとの間の結合を阻害する。よって、これら抗α9インテグリン抗体はα9インテグリンの機能を阻害し、癌、例えば、癌細胞の増殖や転移、並びに関節リウマチ、変形性関節症、肝炎、気管支喘息、線維症、糖尿病、動脈硬化、多発性硬化症、肉芽腫、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)、自己免疫疾患などの炎症性疾患に対する治療効果を示す。
【0010】
更に、本発明の抗α9インテグリン抗体は、被験者におけるα9インテグリンの存在及びその量を検出するインビボ診断剤として使用することができ、それによりα9インテグリンが関与する障害又は疾患を診断することができる。
【0011】
しかし、これらのモノクローナル抗体はマウス由来であるので、免疫原性によるヒトへの悪影響の可能性があり、診断又は治療のためのヒトへ直接使用することを妨げていた。免疫原性を低下させるために、本発明者らは、由来するマウス抗α9インテグリン抗体が示す生物学的活性と同等の生物学的活性を示すヒト化抗体を調製した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
従って、本発明は、ヒトα9インテグリンを免疫特異的に認識し、非ヒト由来部分とヒト由来部分からなる抗原結合領域を有するヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントを提供する。該抗体は、具体的な態様において、本発明のヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントは、1K11、21C5、24I11、25B6及び28Slモノクローナル抗体などの非ヒト(ドナ)由来の相補性決定領域(complementarity determining region:CDR)とヒト(アクセプタ)由来のフレームワーク領域(framework region:FR)を有する。1つの態様において、該ヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントは、ヒトα9インテグリンとヒトα9インテグリンのリガンドとの間の結合を阻害する。
【0013】
具体的態様において、ヒトα9インテグリンを免疫特異的に認識するヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントは、(i)ヒトH鎖可変領域(V領域)由来の少なくとも1つのH鎖FR(FRH)と、ヒトα9インテグリンを免疫特異的に認識する非ヒト抗体のH鎖の相補性決定領域(CDRH)の少なくとも1つに由来する少なくとも1つのCDRHを有する重鎖(H鎖)、又は(ii)少なくとも1つのヒト軽鎖(L鎖)のV領域由来のL鎖FR(FRL)と、ヒトα9インテグリンを免疫特異的に認識する非ヒト抗体のL鎖相補性決定領域(CDRL)の少なくとも1つに由来する少なくとも1つのCDRLを有するL鎖、あるいは(i)と(ii)の両方を有する。例えば、本発明のヒト化抗体の少なくとも1つのCDRH及び/又は少なくとも1つのCDRLが由来する非ヒト抗体は、受託番号FERM BP−10510、FERM BP−10511、FERM BP−10512、FERM BP−10513及びFERM BP−10832からなる群から選択されるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体である。
【0014】
好ましい具体的態様において、本発明のヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントは、(i)ヒトFRH由来の少なくとも1つのFRHと、配列番号4、5及び6のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する少なくとも1つのCDRH、又は(ii)ヒトFRL由来の少なくとも1つのFRLと、配列番号11、12及び13のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する少なくとも1つのCDRL、あるいは(iii)(i)と(ii)の両方を有する。本発明のヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号4、5及び6のアミノ酸配列をそれぞれ有するCDRH1、CDRH2及びCDRH3を有してもよい。又は、本発明のヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号11、12及び13のアミノ酸配列をそれぞれ有するCDRL1、CDRL2及びCDRL3を有する。好ましくは、本発明のヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号4、5、6、11、12及び13のアミノ酸配列をそれぞれ有するCDRH1、CDRH2、CDRH3、CDRL1、CDRL2及びCDRL3を有する。他の態様においては、本発明のヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントは、GenBankアクセッション番号X65891(配列番号18)によりコードされたヒトH鎖の可変領域に由来するFRH、又はGenBankアクセッション番号X72441(配列番号23)によりコードされたヒトκL鎖の可変領域由来のFRLを有する。好ましくは、本発明のヒト化抗体のFRHは、配列番号19、20、21及び22(X65891のそれぞれFRH1、FRH2、FRH3及びFRH4に対応する部位をコードしている)のアミノ酸配列からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を有する。他の好ましい態様においては、本発明のヒト化抗体のFRLは、配列番号24、25、26及び27(X72441のそれぞれFRL1、FRL2、FRL3及びFRL4に対応する部位をコードしている)のアミノ酸配列からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を有する。最も好ましくは、本発明のヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントは、(i)配列番号29のアミノ酸配列を有するH鎖可変領域(VH領域)、又は(ii)配列番号31のアミノ酸配列を有するL鎖可変領域(VL領域)、あるいは(iii)(i)と(ii)の両方を有する。
【0015】
他の好ましい具体的態様においては、本発明のヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントは、(i)ヒトFRH由来の少なくとも1つのFRHと、配列番号32、33及び34のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する少なくとも1つのCDRH、又は(ii)ヒトFRL由来の少なくとも1つのFRLと、配列番号37、38及び39のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する少なくとも1つのCDRL、あるいは(iii)(i)と(ii)の両方を有する。本発明のヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号32、33及び34のアミノ酸配列をそれぞれ有するCDRH1、CDRH2及びCDRH3を有してもよい。または、本発明のヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号37、38及び39のアミノ酸配列をそれぞれ有するCDRL1、CDRL2及びCDRL3を有する。好ましくは、本発明のヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号32、33、34、37、38及び39のアミノ酸配列をそれぞれ有するCDRH1、CDRH2、CDRH3、CDRL1、CDRL2及びCDRL3を有する。
【0016】
他の好ましい具体的態様において、本発明のヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントは、(i)ヒトFRH由来の少なくとも1つのFRHと、配列番号42、43及び44のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する少なくとも1つのCDRH、又は(ii)ヒトFRL由来の少なくとも1つのFRLと、配列番号47、48及び49のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する少なくとも1つのCDRL、あるいは(iii)(i)と(ii)の両方を有する。本発明のヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号42、43及び44のアミノ酸配列をそれぞれ有するCDRH1、CDRH2及びCDRH3を有してもよい。又は、本発明のヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号47、48及び49のアミノ酸配列をそれぞれ有するCDRL1、CDRL2及びCDRL3を有する。好ましくは、本発明のヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号42、43、44、47、48及び49のアミノ酸配列をそれぞれ有するCDRH1、CDRH2、CDRH3、CDRL1、CDRL2及びCDRL3を有する。
【0017】
他の好ましい具体的態様においては、本発明のヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントは、(i)ヒトFRH由来の少なくとも1つのFRHと、配列番号52、53及び54のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する少なくとも1つのCDRH、又は(ii)ヒトFRL由来の少なくとも1つのFRLと、配列番号57、58及び59のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する少なくとも1つのCDRL、あるいは(iii)(i)と(ii)の両方を有する。本発明のヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号52、53及び54のアミノ酸配列をそれぞれ有するCDRH1、CDRH2及びCDRH3を有してもよい。又は、本発明のヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号57、58及び59のアミノ酸配列をそれぞれ有するCDRL1、CDRL2及びCDRL3を有する。好ましくは、本発明のヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号52、53、54、57、58及び59のアミノ酸配列をそれぞれ有するCDRH1、CDRH2、CDRH3、CDRL1、CDRL2及びCDRL3を有する。
【0018】
他の好ましい具体的態様においては、本発明のヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントは、(i)ヒトFRH由来の少なくとも1つのFRHと、配列番号62、63及び64のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する少なくとも1つのCDRH、又は(ii)ヒトFRL由来の少なくとも1つのFRLと、配列番号67、68及び69のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する少なくとも1つのCDRL、あるいは(iii)(i)と(ii)の両方を有する。本発明のヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号62、63及び64のアミノ酸配列をそれぞれ有するCDRH1、CDRH2及びCDRH3を有してもよい。又は、本発明のヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号67、68及び69のアミノ酸配列をそれぞれ有するCDRL1、CDRL2及びCDRL3を有する。好ましくは、本発明のヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号62、63、64、67、68及び69のアミノ酸配列をそれぞれ有するCDRH1、CDRH2、CDRH3、CDRL1、CDRL2及びCDRL3を有する。
【0019】
本発明は更に、ヒトα9インテグリンを免疫特異的に認識する本発明のヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントをコードするヌクレオチド配列を有する単離された核酸分子を提供する。具体的には、本発明は、配列番号4、5、6、32、33、34、42、43、44、52、53、54、62、63及び64からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を有するヒト化H鎖、又は配列番号11、12、13、37、38、39、47、48、49、57、58、59、67、68及び69からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を有するヒト化L鎖、あるいは前記ヒト化H鎖及び前記ヒト化L鎖の両方をコードするヌクレオチド配列を有する単離された核酸分子を提供する。好ましくは、そのような単離された核酸分子は、VH領域をコードする配列番号28のヌクレオチド配列、又は配列番号29のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を有する。他の好ましい具体的態様においては、そのような単離された核酸分子は、VL領域をコードする配列番号30のヌクレオチド配列、又は配列番号31のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を有する。また他の好ましい具体的態様においては、本発明の単離された核酸分子は、配列番号28及び30の両方のヌクレオチド配列を有する。更にまた他の好ましい具体的態様においては、本発明の単離された核酸分子は、それぞれ配列番号10及び17のアミノ酸配列などのドナ由来又は異種由来のシグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列を更に有する。
【0020】
本発明は更に、ヒトα9インテグリンを免疫特異的に認識する本発明のヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントのH鎖又はL鎖あるいはその両方をコードするヌクレオチド配列を有する発現ベクタなどのベクタを提供する。そのようなベクタでは、本発明のヌクレオチド配列は、1つ以上の調節因子に操作可能に結合されていてもよい。本発明のヌクレオチド配列は、CDRが由来する非ヒトドナ抗体由来のシグナルペプチド又は異種由来のシグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列を有してもよい。
【0021】
更に、本発明は、本発明の核酸分子を有するベクタを含む本発明の核酸分子を有する宿主細胞を提供する。一態様においては、本発明は、本発明のヒト化H鎖をコードする第1の核酸分子と、本発明のヒト化L鎖をコードする第2の核酸分子を有し、第1及び第2の核酸分子が生物学的に機能する本発明のヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントを発現するように、それぞれ調節因子に機能的に結合している、単離された宿主細胞を提供する。
【0022】
従って、本発明は更に、ヒト化抗体が発現する条件下で本発明の宿主細胞を培養し、産生されたヒト化抗体を回収することを含む、本発明のヒト化抗体の調製方法を提供する。
【0023】
本発明はまた、本発明のヒト化抗体の少なくとも1つを有する組成物を提供する。更に、本発明は、本発明のヒト化抗体の少なくとも1つ及び医薬的に許容されるキャリアを有するα9インテグリンが関与する障害又は疾患を予防又は治療するための医薬組成物を提供する。前記組成物はいずれも更に、当該障害又は疾患を相加的又は相乗的に改善することができる他の活性化合物を更に有することができる。そのような活性化合物としては、これらに限定するものではないが、ヒトα4インテグリンに免疫特異的に結合可能な抗体などの抗体又はその抗原結合フラグメントの他、抗炎症化合物、化学療法剤などを挙げることができる。
【0024】
他の態様では、本発明は、α9インテグリンが関与する又はこれを伴う障害又は疾患を予防又は治療する方法を提供する。該方法は、予防的又は治療的に有効な量の本発明のヒト化抗体の少なくとも1つを、それを必要とする被験者に投与することを含む。そのような使用では、本発明のヒト化抗体は、ヒト化抗体の生物学的効果を強化する治療的成分に結合されていてもよい。そのような治療的成分としては、例えば、抗α4抗体(例えば、二重特異性抗体を形成する)などの別の抗体、細胞増殖抑制的又は細胞破壊性である細胞毒素、放射性元素、及び/又は抗炎症薬や抗生物質などを含む別の治療薬を挙げることができる。
【0025】
更に他の態様では、本発明は、被験者におけるα9インテグリンが関与する又はこれを伴う障害又は疾患を診断する方法を提供する。該方法は、検査する被験者に診断的に有効な量の本発明のヒト化抗体を投与することを含む。そのような診断的使用においては、本発明のヒト化抗体は、放射性元素などの検出可能なマーカーで標識されていてもよい。
【0026】
(定義)
本明細書において、用語「抗体」は、α9インテグリンなどの、所望の抗原に免疫特異的に結合することができる抗体分子を意味し、抗体分子全体又はその抗原結合フラグメントなどのフラグメントを包含する。
【0027】
本明細書で使用される用語「免疫特異的に認識する」とは、抗体又はその抗原結合フラグメントの標的ポリペプチド又はタンパク質、特にα9インテグリンに特異的に結合する能力を意味する。そのような抗体は、他のポリペプチド又はタンパク質に非特異的に結合しない。しかし、標的ポリペプチド又はタンパク質(例えば、ヒトα9インテグリン)に免疫特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントは、別の抗原に交差反応してもよい。例えば、ヒトα9インテグリンを免疫特異的に認識する本発明のヒト化抗体又は抗原結合フラグメントは、例えば、マウスα9インテグリンに交差反応してもよい。好ましくは、ヒトα9インテグリンに免疫特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントは他の抗原に交差反応しない。
【0028】
本明細書で使用される用語「抗原結合フラグメント」は、標的ポリペプチド又はタンパク質、特にヒトα9インテグリン及び/又はマウスα9インテグリン、に免疫特異的に結合する能力を保持している抗体のフラグメントを意味し、単鎖抗体、Fabフラグメント、F(ab’)フラグメント、ジスルフィド結合Fvs、標的ポリペプチド又はタンパク質に特異的に結合し軽鎖の可変領域(VL)及び/又は重鎖の可変領域(VH)又は相補性決定領域(CDR)を含有するフラグメントを包含する。このように、ヒト化抗体の抗原結合フラグメントは、部分的に又は完全にヒト定常領域を有しても有さなくてもよい。上述の抗体フラグメントを取得する様々な方法が、当技術分野で周知である。
【0029】
本明細書で使用される用語「ヒト由来」又は「非ヒト由来」は、そのアミノ酸配列がヒト抗体又は非ヒト抗体の対応する部分に由来する抗体部分を意味する。
【0030】
本明細書で使用される用語「アクセプタ配列」は、通常は非ヒト抗体であるドナ抗体のCDRに対するアクセプタとして働く、ヒト抗体のVH又はVL領域に由来するフレームワーク領域のヌクレオチド配列又はアミノ酸配列を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】マウス24I11VHcDNAのヌクレオチド配列(配列番号7)及びその推定アミノ酸配列(配列番号8)を示す。アミノ酸残基は1文字コードで示す。シグナルペプチド配列(配列番号10)をイタリック体で示し、成熟VHのN末端アミノ酸残基(E)を二重下線で示す。Kabatらの定義(Sequences of Proteins of Immunological Interests, 1991, 第5版, NIH Publication No. 91−3242, U.S. Department of Health and Human Services)に従うCDR配列を下線で示す。
【図2】マウス24I11VLcDNAのヌクレオチド配列(配列番号14)及びその推定アミノ酸配列(配列番号15)を示す。アミノ酸残基は1文字コードで示す。シグナルペプチド配列(配列番号17)をイタリック体で示し、成熟VLのN末端アミノ酸残基(D)を二重下線で示す。Kabatらの定義(1991)に従うCDR配列を下線で示す。
【図3】SpeI及びHindIII部位(下線)が両端に配置された24I11VH遺伝子のヌクレオチド配列(配列番号72)及びその推定アミノ酸配列(配列番号8)を示す。アミノ酸残基は1文字コードで示す。シグナルペプチド配列(配列番号10)をイタリック体で示し、成熟VHのN末端アミノ酸残基(E)を二重下線で示す。Kabatらの定義(1991)に従うCDR配列を下線で示す。イントロン配列をイタリック体で示す。
【図4】NheI及びEcoRI部位(下線)が両端に配置された24I11VL遺伝子のヌクレオチド配列(配列番号73)及びその推定アミノ酸配列(配列番号15)を示す。アミノ酸残基は1文字コードで示す。シグナルペプチド配列(配列番号17)をイタリック体で示し、成熟VLのN末端アミノ酸残基(D)を二重下線で示す。Kabatら(1991)の定義に従うCDR配列を下線で示す。イントロン配列をイタリック体で示す。
【図5】pCh24Ill及びpHu24Ill(合わせて発現ベクタ)の構造を概略的に示す。プラスミドは、上部に示すSalI部位から時計回りに、抗体重鎖遺伝子の転写が開始できるように、ヒトサイトメガロウィルス(CMV)主要前初期プロモータ及びエンハンサ(CMVプロモータ)で始まる重鎖転写ユニットを含有する。CMVプロモータの後に、VHエクソン、イントロンを間に有するCH1、ヒンジ、CH2及びCH3エクソンを含むヒトγ−1重鎖定常領域を含有するゲノム配列、並びにCH3に続いてmRNA処理のためのγ−1遺伝子のポリアデニル化部位を有する。重鎖遺伝子配列の後、CMVプロモータで始まり、その後にVLエクソン、前にイントロン部分を有するヒトκ鎖定常領域エクソン(CL)を含有するゲノム配列、κ遺伝子のポリAシグナルと並ぶ軽鎖転写ユニットを有する。軽鎖遺伝子の後に、SV40初期プロモータ(SV40プロモータ)、大腸菌キサンチン・グアニン・ホスホリボシル・トランスフェラーゼ遺伝子(gpt)及びSV40ポリアデニル化部位(SV40ポリ(A)部位)を含有する断片を有する。最後に、プラスミドは、細菌の複製オリジン(pUC ori)及びβラクタマーゼ遺伝子(βラクタマーゼ)を有するプラスミドpUC19の一部を含有する。
【図6】24I11VH(配列番号9)、ヒト化24I11(Hu24I11)VH(配列番号29)、並びにGenBankアクセッション番号X65891のヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列由来のヒトアクセプタ配列のFRHl(配列番号19)、FRH2(配列番号20)、FRH3(配列番号21)及びFRH4(配列番号22)のアミノ酸配列を並べて比較した図を示す。アミノ酸残基は1文字コードで示す。配列上の数字はKabatら(1991)の定義に従う位置を示す。Kabatら(1991)により定義されるCDR配列を下線で示す。二重下線の残基はCDRと接触していると予測され、これらの部位においてはヒト化型でもマウス残基を保持した。X65891のCDR残基は図中省略されている。
【図7】24I11VL(配列番号16)、ヒト化24I11(Hu24I11)VL(配列番号31)並びにGenBankアクセッション番号X72441のヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列由来のヒトアクセプタ配列のFRLl(配列番号24)、FRL2(配列番号25)、FRL3(配列番号26)及びFRL4(配列番号27)のアミノ酸配列を並べて比較した図を示す。アミノ酸残基は1文字コードで示す。配列上の数字はKabatら(1991)の定義に従う位置を示す。Kabatら(1991)により定義されるCDR配列を下線で示す。二重下線の残基はCDRと接触していると予測され、これらの部位においてはヒト化型でもマウスの残基を保持した。X72441のCDR残基は図中省略されている。
【図8】Hu24I11VH遺伝子の構築に使用したオリゴヌクレオチドを示す。
【図9】Hu24I11VL遺伝子の構築に使用したオリゴヌクレオチドを示す。
【図10】SpeI及びHindIII部位が両端に配置されたHu24I11VH遺伝子の構築に使用したオリゴヌクレオチド(5’末端に5’−GGG尾部、3’末端にCCC−3’尾部を有する配列番号74)を示す。矢印は、各オリゴヌクレオチドの位置及び方向(5’から3’へ)を示す。シグナルペプチド(配列番号10)及びVH領域(配列番号29)のアミノ酸残基は1文字コードで示す。
【図11】NheI及びEcoRI部位が両端に配置されたHu24I11VL遺伝子の構築に使用したオリゴヌクレオチド(5’末端に5’−GGG尾部、3’末端にCCC−3’尾部を有する配列番号75)を示す。矢印は、各オリゴヌクレオチドの位置及び方向(5’から3’へ)を示す。シグナルペプチド(配列番号17)及びVL領域(配列番号31)のアミノ酸残基は1文字コードで示す。
【図12】SpeI及びHindIII部位(下線)が両端に配置されたHu24I11VH遺伝子のヌクレオチド配列(配列番号74)及びシグナルペプチド(配列番号10、イタリック体で表示)及びVH領域(配列番号29)の推定アミノ酸配列を示す。アミノ酸残基は1文字コードで示す。成熟VHのN末端アミノ酸残基(Q)を二重下線で示す。Kabatら(1991)の定義に従うCDR配列を下線で示す。イントロン配列をイタリック体で示す。
【図13】NheI及びEcoRI部位(下線)が両端に配置されたHu24I11VL遺伝子のヌクレオチド配列(配列番号75)及びシグナルペプチド(配列番号17、イタリック体で表示)及びVL領域(配列番号31)の推定アミノ酸配列を示す。アミノ酸残基は1文字コードで示す。成熟VLのN末端アミノ酸残基(D)を二重下線で示す。Kabatら(1991)の定義に従うCDR配列を下線で示す。イントロン配列をイタリック体で示す。
【図14】ヒトα9インテグリンに対するキメラ及びヒト化24I11抗体の親和性の比較を示す。CHO/α9細胞に対して1μg/mL及び0.5μg/mLのキメラ及びヒト化24I11抗体の結合を、細胞ELISAによって調べた。実験は3回測定した。SEMでの吸光度値の平均を図に示す。
【図15】ヒトα9インテグリンに対するマウス、キメラ及びヒト化24I11抗体の結合をFACSで分析した結果を示す。CHO/huα9細胞に対する各抗体の結合を1、0.33、0.11、0.037及び0.012μg/mLで試験した。図中、幾何平均チャネル蛍光(MCF)の値(Y軸)を、試験した各抗体の濃度(X軸)に対してプロットした。
【図16】抗ヒトα9インテグリン抗体による、ヒトα9/CHO−K1細胞と、hOPN(RAA)N−half、テネイシンC、VCAM−1又はヒトフィブロネクチンとの間の細胞接着阻害活性の結果を示す。
【図17】抗ヒトα4インテグリン抗体存在下におけるヒトメラノーマ細胞に対する抗ヒトα9インテグリン抗体の細胞接着阻害活性の結果を示す。
【図18】抗α4インテグリン抗体及び抗α9インテグリン抗体による肝炎に対する治療効果を示す。図中、NHGは正常ハムスター抗体を、NRGは正常ラット抗体を示す。
【図19】抗α9インテグリン抗体がB16−BL6細胞の成長を抑制したことを示す。
【図20】ヒトα9/CHO−K1細胞(図20a)、ヒトα4/CHO−K1(図20b)及びヒト好中球(図20c)に対して抗ヒトα9インテグリン抗体を使用したFACS分析の結果を示す。
【図21】ECMとして固定化VCAM−1を使用した場合の、抗α9インテグリン抗体によるB16−BL6細胞の細胞成長抑制を示す。
【図22】マウス関節リウマチモデルにおける抗−α9インテグリンの治療効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(ヒトα9インテグリンに対する抗体の調製)
ヒトα9インテグリン又はそのエピトープを免疫特異的に認識する抗体は、本技術分野で公知のいかなる適切な方法によって作製してもよい。
【0033】
本発明で抗原として使用されるα9インテグリンは、(1)α9インテグリンを発現するヒトのあらゆる細胞又は該細胞が存在するあらゆる組織由来のタンパク質、(2)α9インテグリンをコードする遺伝子DNA、好ましくはcDNAを細菌、酵母、動物細胞などの細胞株などにトランスフェクトし、発現させた組換えタンパク質、又は(3)合成タンパク質であってもよい。
【0034】
α9インテグリンは、ヒトα9インテグリン(配列番号76、1−29残基はシグナルペプチドである)のアミノ酸配列と実質的に同じアミノ酸配列を有するポリペプチドを包含する。
【0035】
本明細書で、用語「実質的に同じアミノ酸配列を有するポリペプチド」とは、自然に発生するヒトα9インテグリンと実質的に同等の生物学的特性を有する限り複数のアミノ酸、好ましくは1〜10個のアミノ酸、より好ましくは1〜数個(例えば、1〜5個)のアミノ酸が置換、欠失及び/又は修飾されているアミノ酸配列を有する変異ポリペプチドを意味し、並びに複数のアミノ酸、好ましくは1〜10個のアミノ酸、より好ましくは1〜数個(例えば、1〜5個)のアミノ酸が自然に発生するヒトα9インテグリンのアミノ酸配列に付加されているアミノ酸配列を有する変異ポリペプチドを意味する。更に、変異ポリペプチドは、これらの複数のアミノ酸の置換、欠失、修飾及び付加の複数を有するものであってもよい。
【0036】
本発明における抗原としてのヒトα9インテグリンは、本技術分野で周知の方法、例えば、遺伝子組み換え技術に加え、化学的合成方法、細胞培養法等、又はそれらの変法により作製することができる。
【0037】
変異ポリペプチドを作製する方法として、例えば、合成オリゴヌクレオチド部位突然変異導入法(gapped duplex法)、亜硝酸塩若しくは亜硫酸塩処理によってランダムに点突然変異を導入する点突然変異法、Bal31酵素若しくはその他の酵素により欠失変異体を調製することを含む方法、カセット変異法、リンカースキャニング法、ミスインコーポレーション法、ミスマッチプライマ法、DNAセグメント合成法などを挙げることができる。
【0038】
本発明において抗原として使用するヒトα9インテグリンには、前記α9インテグリンの「一部」も包含される。ここで「一部」とは、OPN、VCAM−1、テネイシンC等のα9インテグリンのリガンドと結合するために必要な領域を有する部分をいい、具体的には、完全ヒトα9インテグリン(配列番号76の30番目〜1035番目のアミノ酸残基)の14番目〜980番目のアミノ酸残基を有する部分及び11番目〜981番目のアミノ酸残基を有する部分である。前記α9インテグリンの「一部」は、後述する本技術分野において公知の方法若しくはその変法に従って、遺伝子組換技術又は化学的合成法により作製することもできるし、また細胞培養方法により単離したヒトα9インテグリンをタンパク分解酵素などにより適切に切断することにより作製することもできる。
【0039】
抗原としては、α9インテグリンを細胞膜上に過剰発現する細胞自体、又はその膜画分を用いることもできる。ヒトα9インテグリンを過剰発現する細胞は、本技術分野で周知の組換えDNA技術により調製することができる。
【0040】
上述のように調製された適切な抗原を使用して、ヒトα9インテグリン又はその任意のエピトープに特異的な抗体は、本技術分野で周知の様々な方法により調製することができる。ヒトα9インテグリンに対するポリクローナル抗体は、本技術分野で周知の様々な手段により作製することができる。例えば、目的の抗原を、これらに限定するものではないが、ウサギ、マウス、ラットなどの様々な宿主動物に投与して、該抗原に特異的なポリクローナル抗体を含有する抗血清の生成を誘導することができる。宿主の種に応じて、免疫応答を高めるために様々なアジュバントを使用してもよい。アジュバントとしては、これらに限定するものではないが、フロイント(完全又は不完全)アジュバント、水酸化アルミニウムなどのミネラルゲル、リゾレシチンなどの界面活性物質、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油乳剤、キーホールリンペットヘモシアニン、ジニトロフェノール、及びBCG(Bacille Calmette−Guerin:カルメット・ゲラン桿菌)やコリネバクテリウム・パルブムなどのヒトに対して潜在的に有用なアジュバントを挙げることができる。このようなアジュバントも本技術分野で周知である。
【0041】
モノクローナル抗体は、本技術分野で公知の多様な技術であって、ハイブリドーマ、組換え、ファージ提示法又はこれらの組み合わせを含む方法により作製することができる。例えば、モノクローナル抗体は、本技術分野で公知であり、例えば、Harlowら, 1988, Antibodies: A Laboratory Manual,(Cold Spring Harbor Laboratory Press, 第2版)、Hammerlingら, 1981, Monoclonal Antibodies and T−Cell Hybridomas, pp. 563−681(Elsevier, N.Y)(両者の全体を参照することにより本明細書に組み入れられる)に記載されるようい教示される。本明細書で使用される用語「モノクローナル抗体」は、ハイブリドーマ技術により作製された抗体に限定されない。用語「モノクローナル抗体」は、ハイブリドーマ技術により作製することができる真核クローン、原核クローン、ファージクローンを含む単一のクローンに由来する抗体をいい、その作製方法を意味するものではない。
【0042】
ハイブリドーマ技術を使って特異抗体を作製、スクリーニングする方法は、本技術分野において常用の周知方法である。限定されない例えでは、マウスを目的の抗原又は該抗原を発現する細胞で免疫してもよい。免疫応答を検出したら、例えば、マウス血清中に抗原に特異的な抗体を検出したら、マウス脾臓を摘出し、脾細胞を単離する。該脾細胞は周知方法で適当なミエローマ細胞(例えば、P3U1、P3X63−Ag8、P3X63−Ag8−U1、P3NS1−Ag4、SP2/0−Ag14、P3X63−Ag8−653など)と融合させる。ハイブリドーマは、限界希釈法により選択及びクローン化する。ハイブリドーマクローンを本技術分野において公知の方法で分析し、抗原に結合できる抗体を分泌している細胞を得る。通常高濃度に抗体を含有する腹水は、陽性ハイブリドーマクローンをマウス腹腔内に接種して作成することができる。
【0043】
特定のエピトープを認識する抗体フラグメントは公知技術により作成してもよい。例えば、パパイン(Fabフラグメントの作製)やペプシン(F(ab’)フラグメントの作製)などの酵素を使用して、イムノグロブリン分子をタンパク質分解させることによりFabやF(ab’)フラグメントを作製してもよい。F(ab’)フラグメントは完全軽鎖、可変領域、CH1領域及び重鎖のヒンジ領域を有する。
【0044】
本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントは、本技術分野において公知である抗体の作製方法、特に化学合成又は、好ましくは、組換え発現技術により作製することもできる。
【0045】
抗体をコードするヌクレオチド配列は、当業者が入手できる情報から得てもよい(すなわち、GenBank、文献から、又は所定のクローニング及び配列分析)。特定の抗体又はそのエピトープ結合フラグメントをコードする核酸を含有するクローンを入手できないが、抗体分子又はそのエピトープ結合フラグメントの配列が公知の場合には、当該イムノグロブリンをコードする核酸は、化学的に合成し、あるいは適切なソース(例えば、抗体cDNAライブラリ、又は、抗体を発現するように選択されたハイブリドーマ細胞などの、抗体を発現する組織若しくは細胞から形成されたcDNAライブラリ、又は前記組織若しくは細胞から単離された核酸、好ましくは、ポリA+RNA)から該配列の5’端にハイブリダイズする合成プライマを使用してPCR増幅を行うことによって、又は、例えば、該抗体をコードするcDNAライブラリからcDNAクローンを識別する特定の遺伝子配列に特異的なオリゴヌクレオチドプローブを使用してクローニングを行うことによって入手してもよい。PCRにより増幅された核酸は、本技術分野において周知の方法により複製可能なクローニングベクタにクローン化してもよい。
【0046】
組換え抗体の調製
抗体のヌクレオチド配列が決定されたならば、抗体のヌクレオチド配列を、ヌクレオチド配列を操作する本技術分野において周知の方法、例えば、組換えDNA技術、部位突然変異導入法、PCRなどにより操作し(例えば、上記Sambrookら、及びAusubelら編, 1998, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, NYに記載の方法を参照。両者は全体を参照することにより本明細書に組み入れられる)、例えば、抗体のエピトープ結合ドメイン領域又は抗体の生物学的活性を高める若しくは下げるような抗体の部位へ置換、欠失及び/又は挿入によりアミノ酸を導入することによって、異なるアミノ酸配列を有する抗体を作製してもよい。
【0047】
抗体の組換え発現には、該抗体をコードするヌクレオチド配列を含有する発現ベクタの構築が必要である。抗体分子又は抗体の重鎖若しくは軽鎖又はそれらの一部をコードするヌクレオチド配列が得られたならば、抗体分子を作製するためのベクタは、上述したように本技術分野において周知の技術を使用する組換えDNA法により作製してよい。当業者に周知である方法により、抗体をコードしている配列及び適切な転写及び翻訳調節シグナルを含有する発現ベクタを構築することができる。そのような方法としては、例えば、インビトロ組換えDNA法、合成法及びインビボ遺伝子組み換えを挙げることができる。重鎖可変領域、軽鎖可変領域、重鎖及び軽鎖両可変領域、重鎖及び/又は軽鎖可変領域のエピトープ結合フラグメント又は抗体の1つ以上の相補性決定領域(CDR)をコードするヌクレオチド配列は、発現のためのベクタにクローン化されてもよい。そのような配列は、元の抗体のシグナルペプチド又は非相同のシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドに融合させてもよい。その後、そのように調製した発現ベクタを抗体発現に好適な宿主細胞に導入する。従って、本発明は、ヒトα9インテグリンを免疫特異的に認識するヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントをコードするポリヌクレオチドを含有する宿主細胞を含有する。
【0048】
重鎖に由来するポリペプチドをコードする第1のベクタと軽鎖に由来するポリペプチドをコードする第2のベクタの本発明の2つの発現ベクタを、宿主細胞に共に導入してもよい。この2つのベクタは、重鎖及び軽鎖ポリペプチドを等しく発現させるために同一の選択マーカーを含有してもよく、又は両プラスミドを確実に維持するために異なる選択マーカーを含有してもよい。または、重鎖及び軽鎖ポリペプチドの両方をコードし、発現することができる単一のベクタを使用してもよい。重鎖及び軽鎖をコードする配列は、cDNA又はゲノムDNAを有してもよい。
【0049】
他の実施形態では、抗体は本技術分野において公知の様々なファージ提示法により作製することができる。ファージ提示法では、機能的抗体ドメインは、当該ドメインをコードしているヌクレオチド配列を保持するファージ粒子の表面に提示される。特定の実施形態では、このようなファージは、レパートリまたはコンビナトリアル抗体ライブラリ(例えば、ヒトまたはマウス)から発現したFabやFv又はジスルフィド結合安定化Fvなどの抗原結合ドメインを提示するために用いることができる。目的の抗原に結合する抗原結合性ドメインを発現するファージは、例えば、標識化抗原又は固体表面若しくはビーズに結合もしくは捕捉された抗原等の抗原を用いて、選択または識別することができる。これらの方法に用いるファージは、典型的には、fd及びM13を含む繊維状ファージである。抗原結合性ドメインは、ファージ遺伝子IIIまたは遺伝子VIIIタンパク質のいずれかに組換え融合したタンパク質として発現される。本発明のイムノグロブリン又はそのフラグメントの作製に使用することのできるファージ提示法としては、以下の文献に開示されているものが挙げられる:Brinkmanら, 1995, J. Immunol. Methods, 182:41−50;Amesら, 1995, J. Immunol. Methods, 184:177−186;Kettleboroughら, 1994, Eur. J. Immunol., 24:952−958;Persicら, 1997, Gene, 187:9−18;Burtonら, 1994, Advances in Immunology, 57:191−280;国際出願PCT/GB91/01134;国際公開WO 90/02809;WO 91/10737;WO 92/01047;WO 92/18619;WO 93/11236;WO 95/15982;WO 95/20401、及び米国特許第5,698,426号;第5,223,409号;第5,403,484号;第5,580,717号;第5,427,908号;第5,750,753号;第5,821,047号;第5,571,698号;第5,427,908号、第5,516,637号、第5,780,225号、第5,658,727号;第5,733,743号;及び第5,969,108号。これら文献の各々は、参照によりその全文が本明細書に組み込まれるものとする。
【0050】
上記参考文献に記載されているように、ファージ選択後、ヒト抗体などの抗体、又は任意の他の所望のフラグメントを作製するためにファージから抗体コード領域を単離し、例えば、以下に詳しく説明するように、哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母および細菌などの任意の所望の宿主に発現させることができる。例えば、Fab、Fab’及びF(ab’)フラグメントを組換えにより作製する技術を、以下の文献に開示されているような、当技術分野で公知の方法を用いて利用することができる:国際公開WO 92/22324;Mullinaxら, 1992, BioTechniques, 12(6):864−869;及びSawaiら, 1995, AJRI, 34:26−34;並びにBetterら, 1988, Science, 240:1041−1043(これら文献の各々は、参照によりその全文が本明細書に組み込まれる)。一本鎖Fvs及び抗体の作製に使用する技術の例として、米国特許第4,946,778号及び第5,258,498号;Hustonら, 1991, Methods in Enzymology, 203:46−88;Shuら, 1993, PNAS, 90:7995−7999;及びSkerraら, 1988, Science, 240:1038−1040に記載のものが挙げられる。
【0051】
本発明の抗体分子を上述のいずれかの方法により作製後、イムノグロブリン分子を精製するための本技術分野で公知の任意の方法により精製することができ、例えば、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、アフィニティー、特にプロテインA又はプロテインG精製後の特異的抗原に対するアフィニティーによるもの、及びサイジングカラムクロマトグラフィー)、遠心分離、示差的溶解、又はタンパク質を精製する任意の他の標準的方法により実施することができる。更に、本発明の抗体又はそのフラグメントを本明細書に記載の、または本技術分野で公知の、精製を容易にする異種ポリペプチド配列に融合させてもよい。
【0052】
ヒトにおける抗体のインビボ使用及びインビトロ検出アッセイなどの使用において、キメラ、ヒト化又はヒト抗体の使用が好ましい。キメラ抗体及びヒト化抗体については、詳しく後述する。
【0053】
他の化合物又は異種ポリペプチドに融合又は結合した抗体は、インビボ治療又は診断用途に加え、インビトロイムノアッセイ、精製法(例えば、アフィニティークロマトグラフィー)に使用できる。例えば、国際公開WO 93/21232;欧州特許第439,095号;Naramuraら, 1994, Immunol. Lett., 39:91−99;米国特許第5,474,981号;Gilliesら, 1992, PNAS, 89:1428−1432;及びFellら, 1991, J. Immunol., 146:2446−2452を参照することができ、これらの文献は、参照によりその全文が本明細書に組み込まれる。例えば、抗体は、公知方法又は市販のキットを使用して種々の手段により標識することができる(例えば、ビオチン標識、FITC標識、APC標識)。他の例としては、インビボでの抗体の生物学的効果を高める治療成分に、抗体を結合させてもよい。そのような治療成分としては、例えば、他の抗体、細胞増殖抑制性又は細胞破壊性である細胞毒素、放射性元素、及び/又は抗炎症剤、抗生剤などの別の治療薬を挙げることができる。本発明では、ヒト化抗−ヒトα9インテグリン抗体は、抗−α4抗体などの他の抗体に結合(例えば、二重特異性抗体形成)させてもよい。他の例として、本発明のヒト化抗体は、インビボ診断で使用するために、放射性元素などの検出可能なマーカーで標識してもよい。
【0054】
(キメラ及びヒト化抗体)
キメラ抗体は、マウスモノクローナル抗体由来の可変領域とヒトイムノグロブリン由来の定常領域を有する抗体など、抗体の異なる部位が異なる動物種に由来する分子である。キメラ抗体の作製方法は本技術分野において公知である。例えば、Morrison, 1985, Science, 229:1202;Oiら, 1986, BioTechniques, 4:214; Gilliesら, 1989, J. Immunol. Methods, 125:191−202;米国特許第5,807,715号、第4,816,567号及び第4,816,397号で参照された。これらの文献は、参照によりその全文が本明細書に組み込まれる。
【0055】
ヒト化抗体は、目的の抗原に結合し、非ヒト種由来の1つ以上の相補性決定領域(CDR)とヒトイムノグロブリン分子由来の1つ以上のフレームワーク領域とを含有する可変領域とを有する分子である。非ヒト抗体をヒト化する代表的な方法は、以下のような多数の文献に開示されている;Queenら,1989, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:10029−10033;米国特許第5,585,089号及び第5,693,762号;Riechmannら, 1988, Nature, 332:323;及びTsurushitaら, 2005, Methods 36:69−83(これら文献は全て、参照によりその全文が本明細書に組み込まれる)。例えば、Tsurushitaらの文献(前記2005、以下「Tsurushitaという」)は、Queenら(前記1989)により開発された抗体−ヒト化方法に基づいて、マウスモノクローナル抗体のヒト化の実践的かつ指示的手順を提供している。Tsurushitaに開示されている一般的な手順を以下に簡単にまとめる。
【0056】
(ヒト化抗体を調製するための一般的な手順)
(マウスV遺伝子のクローニング及びシークエンシング)
目的マウスモノクローナル抗体のVH及びVL領域をコードするcDNAは種々の方法によりクローニングすることができる。例えば、SMART RACE cDNA増幅キット(BD Biosciences, カリフォルニア州)又はGeneRacerキット(Invitrogen, カリフォルニア州)を使用する5’RACE(rapid amplification of cDNA ends:cDNA末端の迅速増幅)法が通常使用されている。5’RACEのための遺伝子特異的プライマは、目的モノクローナル抗体のH鎖及びL鎖のアイソタイプに基づいて、H鎖及びL鎖のそれぞれの可変領域の直後の下流に結合できるように調製することができる。5’RACEをγ1、γ2a、γ2b又はγ3などのマウスの各サブタイプに特異的であるように設計してもよい。あるいは、全てのサブタイプに共通のプライマを、サブタイプに共通し又は相同性の高い領域に基づいて設計してもよい。Tsurushitaでは、以下の5’RACEプライマを例示している。
(i)5’−GCCAGTGGATAGACTGATGG−(配列番号129)(マウスγl、γ2a、γ2b及びγ3H鎖のクローニング用)
(ii)5’−GATGGATACAGTTGGTGCAGC−(配列番号130)(マウスκ軽鎖のクローニング用)。
【0057】
PCRにより増幅したV遺伝子フラグメントは、例えば、ZeroBluntTOPOPCRクローニングキット(Invitrogen)を使用して、プラスミドベクタに直接クローン化でき、そのDNA配列を決めることができる。得られた配列は、例えば、それがコードするアミノ酸配列を、モデル241タンパク質シーケンサ(Hewlett−Packard, カリフォルニア州)を使用したN末端アミノ酸シークエンシングにより決定された目的モノクローナル抗体のアミノ酸配列と比較することによって確認する。典型的には、クローン化されたDNA配列の信憑性を確認するには、例えば、エドマン分解による目的抗体のN末端の少なくとも15〜20個のアミノ酸残基の決定で十分である。Tsurushitaは、マウスのN末端アミノ酸として最も一般的である2つアミノ酸の内の1つであるグルタミンがN末端アミノ酸である場合、ピログルタミンに転換され、N末端でのシークエンスを妨害する可能性について警告している。その場合には、配列を得るためにN末端のブロックを解除する必要がある。
【0058】
(V領域の三次元モデリング)
VH及びVL領域の配列に基づいて、CDRの立体配座構造を保持する上で重要となる可能性のある、目的抗体のフレームワーク残基を、例えば、R. Levyら, 1989, Biochemistry 28:7168−7175又はB. Zilberら, 1990, Biochemistry 29:10032−10041に記載されている方法に特定する。典型的には、VH及びVL領域のそれぞれを、β鎖とイムノグロブリンスーパーファミリのドメイン構造を有するループ様構造である、14の構造的に意味のあるセグメントに分割する。目的抗体から得られた各セグメントのアミノ酸配列を、PDBデータベース(H.M. Bermanら, 2000, Nucleic Acids Res. 28:235−342参照)で公知構造の抗体の対応セグメントと並べて比較する。複数の配列を並べて比較することにより、目的セグメントのそれぞれに最も相同性の高い対応セグメントを選択し、V領域の三次元モデルを構築する。構造を最適化するために、モデルの共役勾配エネルギ最小化を複数回行う(例えば、Pressら, 1990, Numerical Recipes, Cambridge University Press, Cambridgeに記載されているENCAD;Weinerら, 1981, J. Comp. Chem. 2:287−303に記載されているAMBER;BioMolecular Modelling又はCancer Research UKによって運営されているBMMウェブサイトより入手可能な3D−JIG−SAW;又はSwiss Institute of Bioinformatics, Genevaによって運営されているExPASyプロテオミクスサーバーにおいて入手可能なSWISS−MODELを使用する)。
【0059】
(ヒトフレームワークの選択)
V領域の構造のモデリングと並行して、マウスVH及びVL領域のcDNAクローニングから推定されたアミノ酸配列のそれぞれを、例えば、Kabatデータベース(Johnsonら, 2000, Nucleic Acids Res. 28:214−218参照)、GenBankなどのデータベースのヒトV領域配列と比較する。配列全体として、マウス配列と少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%又は少なくとも約95%の相同性を有するヒトフレームワーク領域は、例えば、Smith−Watermanアルゴリズム(Gusfield, 1997, Algorithms on Strings, Trees, and Sequences, Cambridge University Press, Cambridge)又はBLAST(Karlinら, 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264−2268)などを使用して検索することができる。これらのヒト配列は、cDNAに基づきタンパク質に由来する配列に基づいていてもよいが、大抵の場合、cDNAに基づくタンパク質由来の配列における体細胞超変異に関連する免疫原性の可能性を排除するために生殖細胞系列を使用することが好ましい。あるいは、Queenら(前記1989)に記載されているように、共通フレームワーク配列を使用して、cDNAに基づくタンパク質由来の配列から得られるフレームワークにおける超変異残基を同定し、除去することもできる。生殖細胞系列VHセグメントをアクセプタフレームワークとして使用する場合、第14染色体上のVHセグメントのみが機能性VH領域を産生するため、第15及び16染色体ではなく、第14染色体上にコードされているVHセグメントを使用する必要がある。
【0060】
(ヒト化V領域の設計)
Queenら(前記1989)に従えば、CDRの約4〜6Å以内のフレームワークアミノ酸は正しいCDR構造を支える主要なフレームワーク残基である可能性が考えられるため、これらのアミノ酸を同定する必要がある。該同定は、原子座標からの原子間距離を計算する、National Science Foundation(NSF)が支援する分子可視化無料ソフトウェブサイトにおいて利用可能なRASMOLなどのコンピュータプログラムを使用して、又はコンピュータモデルを手動で調べることにより行うことができる。主要フレームワーク位置のアミノ酸がマウスドナ配列とヒトアクセプタ配列で異なる場合、通常、マウスドナの残基でヒト残基を置換する。しかし、そのような残基がCDR構造を支持する上で貢献度が低い場合には、対応するヒト配列を使用するのが一般的である。また、選択したヒトアクセプタが、V領域配列の約10−20%未満で起こる「異常」アミノ酸を含有する場合には、それらは親和性成熟中の体細胞超変異の結果であることがあり、ヒトの免疫原性の可能性を回避するためにそれらをドナ残基で置換する必要がある。
【0061】
更に、ヒト化V領域を設計するためには、潜在的なN結合型糖鎖合成シグナルの残基などの他の因子を注意深く考慮する必要がある(詳細についてはTsurushita参照)。
【0062】
ヒト化抗体は、治療的使用のために要求される又は削除されるべきエフェクタ機能に応じて、ヒトκ若しくはλ軽鎖由来のヒト定常領域若しくはその一部、及び/又はヒト抗体のγl、γ2、γ3、γ4、μ、αl、α2、δ又はε重鎖、あるいはそれらの変異体を含有してもよい。例えば、抗体のFc受容体への結合を低下させ、及び/又は補体への結合力を低下させるように、変異を有する定常領域のFc部分を本発明のキメラ又はヒト化抗体の可変領域に融合させてもよい(例えば、Winterら, 英国特許第2,209,757号;Morrisonら, 国際公開WO 89/07142;Morganら,国際公開WO 94/29351参照)。そのような抗体分子の操作は、上述の組換えDNA技術により行うことができる。
【0063】
好ましくは、得られたキメラ又はヒト化抗体は、非ヒトドナ抗体と同じ特異性及び非ヒトドナ抗体の親和性と同様又は少なくとも1/3、少なくとも1/2又は少なくとも2/3の親和性を有する。他の態様においては、得られたキメラ又はヒト化抗体の親和定数は、少なくとも約1×10−1、好ましくは少なくとも約1×10−1、最も好ましくは少なくとも約1×10−1である。
【0064】
上述の一般的な手順に加え、CDR移植(欧州特許EP 239,400;国際公開WO 91/09967;米国特許第5,225,539号;第5,530,101号及び第5,585,089号)、ベニアリング又は表面再構成(欧州特許EP 592,106;及びEP 519,596;Padlan, 1991, Molecular Immunology, 28(4/5):489−498;Studnickaら, 1994, Protein Engineering, 7(6):805−814;Roguskaら, 1994, Proc Natl. Acad. Sci. USA, 91:969−973)、及び鎖シャッフリング(米国特許第5,565,332号)など、本技術分野において公知の様々な方法により、抗体をヒト化することができる。これらの文献の全ては、参照によりその全文が本明細書に組み込まれる。
【0065】
(医薬としてのヒト化抗体の調製のためのその他の検討)
医薬としてヒト化抗体を提供するためには、その効率的かつ安定な製造システムを用意する必要がある。例えば、H及びL鎖配列を挿入してヒト化抗体用の適切な発現ベクタを調製し、発現ベクタでトランスフェクトされた高生産性細胞株を、ワーキングセルバンク(WCB)の安定及び半永久的な細胞源であるマスターセルバンク(MCB)の種細胞として取得できる。ヒト化抗体は、WCBからの機能する細胞を培養し、培養液を回収することによって調製することができる。
【0066】
適切な調節遺伝子を有する様々な発現ベクタを、前記のような産生細胞株の調製に使用することができる。宿主細胞としては、哺乳類のタンパク質を発現させるために通常使用される細胞をヒト化抗体の発現に使用することができる。そのような宿主細胞としては、これらに制限されないが、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(Chinese hamster ovary:CHO)細胞、SP2/0−Agl4.19細胞、NSO細胞等を挙げることができる。ヒト化抗体の生産性は、発現ベクタと宿主細胞の最適な組み合わせを選択することによって最大化することができる。また、培養溶媒の組成は、好適な溶媒を選択するために、種々の無血清培養培地及び添加剤を試して、宿主細胞によるヒト化抗体の発現が最適になるようにする。
【0067】
効率及び最終収量に基づいて、宿主細胞により産生されたヒト化抗体は、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィーなどの本技術分野で周知の方法により培養上清から精製できる。
【0068】
(医薬組成物及び治療的使用)
本発明は、ヒトα9インテグリンを免疫特異的に認識する、上述のヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントを含有する医薬組成物を提供する。有効成分として本発明のヒト化抗体を含有する医薬組成物は、α9インテグリンに関連する障害又は疾患、例えば、これに限定されないが、癌、例えば、癌細胞の成長又は転移、及び関節リウマチ、骨関節炎、肝炎、気管支喘息、線維症、糖尿病、動脈硬化、多発性硬化症、肉芽種、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎及びクローン病)、自己免疫疾患などの炎症性疾患を予防及び/又は治療するための薬剤として使用することができる。
【0069】
本発明のヒト化抗体を含有する医薬組成物は、臓器移植後の慢性拒絶反応の治療や全身性自己免疫疾患、エリテマトーデス、ブドウ膜炎、ベーチェット病、多発性筋炎、糸球体増殖性腎炎、サルコイドーシスなどの自己免疫疾患の治療にも使用することができる。
【0070】
上記の障害又は疾患の予防又は治療のための本発明のヒト化抗体を含有する予防薬及び/又は治療薬は、毒性が低く、好適な溶媒中に混合して得られた液剤として直接又は適当な剤形の医薬組成物として、ヒトに経口又は非経口投与することができる。
【0071】
上述の投与に使用される医薬組成物は、前記抗体又はその塩及び医薬的に許容される担体、希釈剤又は添加剤を含有する。そのような組成物は、経口又は非経口投与に適した剤形として提供される。
【0072】
用量は、投与される対象の年齢や体重、対象疾患、状態、投与経路などによって異なる。例えば、大人の関節リウマチ患者の予防及び/又は治療に本抗体を使用する場合、本発明の抗体を、通常、一回につき約0.01mg〜20mg/体重1kg、好ましくは約0.1mg〜10mg/体重1kg、より好ましくは約0.1mg〜5mg/体重1kgを1日に1〜5回程度、好ましくは1〜3回程度静脈注射することが望ましい。他の非経口投与及び/又は経口投与では、上記用量に対応する量の抗体を投与することができる。状態が特に重症な場合には、用量を状態に応じて増加してもよい。
【0073】
様々な投与システム、例えば、リポゾームカプセル剤、微粒子、マイクロカプセル、変異ウィルスを発現する組換え細胞、受容体介在エンドサイトーシスなどが知られており、本発明の医薬組成物の投与に使用することができる(例えば、Wu及びWu, 1987, J. Biol. Chem. 262:4429−4432参照)。投与の方法としては、これに限定されないが、皮内、筋内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外及び/又は経口経路を挙げることができる。化合物は、例えば、注入又はボーラス注入、上皮又は皮膚粘膜を介する吸収(例えば、口腔粘膜、直腸及び腸粘膜など)などの任意の利用しやすい経路で投与してよく、他の生物学的に活性な薬剤と一緒に投与してよい。投与は、全身性でも局所的でもよい。また、例えば、エアロゾル化剤を含む剤形で、吸入器や噴霧器を使用して、経肺投与を採用することもできる。
【0074】
特定の実施形態では、本発明の医薬組成物を治療が必要な患部に局所的に投与することが望ましいことがあり、例えば、これに限定するものではないが、手術中の局所注入、例えば、手術後の創傷被覆材との併用等の局所適用、注射、カテーテル、坐薬、鼻腔用スプレー、あるいは例えば、シアラスト膜(sialastic membrane)などの膜又は線維を含む多孔質、無孔質又はゲル状の物質の移植により投与することができる。一実施形態において、感染組織の部位(又は元の部位)に直接注入することにより投与することもできる。
【0075】
他の実施形態では、医薬組成物を小胞、特にリポソーム(Langer, 1990, Science 249:1527−1533;Treatら, 1989, in Liposomes in the Therapy of Infectious Disease and Cancer, Lopez Berestein and Fidler (編), Liss, New York, pp. 353−365;Lopez−Berestein, 同書, pp.317−327、及び同書全体を参照)の状態で投与することができる。
【0076】
他の実施形態では、医薬組成物を放出制御システムにより投与することができる。一実施形態では、ポンプを使用してもよい(前記Langer;Sefton, 1987, CRC Crit. Ref. Biomed. Eng. 14:201;Buchwaldら,1980, Surgery 88:507;及びSaudekら, 1989, N. Engl. J. Med. 321:574参照)。他の実施形態では、ポリマー物質を使用することができる(Medical Applications of Controlled Release, Langer and Wise (編), 1974, CRC Pres., Boca Raton, Florida;Controlled Drug Bioavailability, Drug Product Design and Performance, Smolen and Ball (編),1984, Wiley, New York;Ranger and Peppas, 1983, J. Macromol. Sci. Rev. Macromol. Chem. 23:61;及びLevyら, 1985, Science 228:190;Duringら, 1989, Ann. Neurol. 25:351;Howardら, 1989, J. Neurosurg. 71:105参照)。更に他の実施形態では、放出制御システムを組成物の標的の付近に置くことができ、これにより全身性の用量の何分の1かの量のみを投与してもよい(例えば、Goodson, ,1984, 前記Medical Applications of Controlled Release, vol. 2, pp. 115−138参照)。また、別の放出制御システムがLangerの総説(1990,Science 249: 1527−1533)に記載されている。
【0077】
経口投与用の組成物としては、例えば、固体又は液体の剤形、特に錠剤(糖衣錠及びフィルムコート錠を含む)、丸剤、顆粒剤、粉剤、カプセル剤(ソフトカプセルを含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤を挙げることができる。そのような組成物は、公知の方法により製造され、製剤の分野で通常使用されている賦形剤、希釈剤、添加剤を含有する。錠剤の賦形剤又は添加剤としては、乳糖、澱粉、ショ糖、ステアリン酸マグネシウムなどを挙げることができる。
【0078】
注射剤としては、静脈内、皮下、皮内及び筋内注射並びに点滴用の剤形を挙げることができる。これらの注射剤は、公知方法により製造することができる。注射剤は、例えば、上述の抗体又はその塩を、注入剤に通常使用されている蒸留水性溶媒又は油性溶媒に溶解、懸濁又は乳化させて調製することができる。注射剤用の水性溶媒としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の添加剤を含有する等張溶液を挙げることができ、それらは、アルコール(例えば、エタノール)、多価アルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤(例えば、ポリソルベート80、HCO−50(水素化ヒマシ油のポリオキシエチレン(50モル)付加物))などの適当な可溶化剤と組み合わせて使用してもよい。油性溶媒としては、例えば、ゴマ油、ダイズ油などを使用でき、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどの可溶化剤と組み合わせて使用してもよい。そのように調製された注射剤は、好ましくは適切なアンプルに充填される。直腸投与に使用される坐薬は、前記抗体又はその塩を坐薬用の通常使用される基剤と混合して調製することができる。
【0079】
望ましくは、上述の経口又は非経口で使用される医薬組成物は、有効成分の投与量を調製するのに適した単位用量の剤形に調製される。そのような単位用量の剤形としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、注入剤(アンプル剤)、坐剤を挙げることができる。含有される前記抗体の量は、通常、単位用量の剤形あたり約5mg〜500mgであり、特に注射剤では約5mg〜100mg、他の剤形では10mg〜250mgであることが好ましい。
【0080】
上記組成物のそれぞれは、上述の抗体と何ら有害な相互作用を引き起こさない限り、他の活性組成物を更に含有してもよい。
【0081】
本発明はまた、細胞及び/又は組織再構成の阻害剤及び/又は促進剤に関し、そのような阻害剤及び/又は促進剤は、有効成分としてα9インテグリン結合機能性分子(例えば、OPN、VCAM−1、テネイシンC、フィブロネクチン、pp−vWF、tTGなど)を有する。また、本発明は、細胞及び/又は組織再構成を阻害及び/又は促進する方法に関し、そのような方法は、α9インテグリン結合機能性分子にα9インテグリン発現細胞及び/又は組織(例えば、腫瘍細胞、好中球、平滑筋など)を接触させることを含む。そのような治療薬における有効成分の用量、投与方法、医薬組成物などは、本発明のヒト化抗体を含有する医薬に関する前記説明を参照することにより適切に決めることができる。
【0082】
上述のように、本発明は更に、α9インテグリンが関与している又はα9インテグリンを伴う障害又は疾患を予防又は治療する方法を提供する。本方法は、本発明の少なくとも1つのヒト化抗体の有効量を、それを必要とする被験者に投与することを含む。
【0083】
(診断的使用)
本発明のヒト化抗体を含有する医薬組成物は、癌、例えば、癌細胞の増殖や転移、及び関節リウマチ、骨関節炎、肝炎、気管支喘息、線維症、糖尿病、癌転移、動脈硬化、多発性硬化症、肉芽種などの炎症性疾患の診断薬、あるいは臓器移植後の慢性拒絶反応、又は全身性自己免疫疾患、エリテマトーデス、ブドウ膜炎、ベーチェット病、多発性筋炎、糸球体増殖性腎炎、サルコイドーシスなどの自己免疫疾患などの診断薬として使用することができる。本発明のヒト化抗体は、α9インテグリンを特異的に認識することができるため、試験体液中のα9インテグリンの定量、特にサンドイッチイムノアッセイ、競合アッセイ、イムノメトリ、ネフロメトリなどの定量法、免疫染色などに使用することができる。これらの免疫学的方法を本発明のアッセイ方法に適用する際に、特別な条件、手段などの説明は必要なく、通常の条件及び手段に本技術分野で普通の技術的検討を加えて、アッセイ系を構築すればよい。これらの一般的な技術的手段の詳細については、総論や教科書などを参照できる。
【0084】
上述のように、α9インテグリンは、本発明の抗体を使用することによって高感度で定量することができる。本発明のヒト化抗体は、インビボでα9インテグリンを定量する方法へ応用して、α9インテグリンが関与する様々な疾患を診断する機会に特に有用である。例えば、α9インテグリンの発現レベルの上昇又は低下の検出により、被験者が癌や炎症性疾患などのα9インテグリンが関与する疾患を現在患っている可能性が高いこと、又は将来これらの疾患を患う可能性が高いことを診断することができる。従って、本発明はまた、α9インテグリンが関与又はα9インテグリンを伴う障害又は疾患の診断方法であって、本発明の少なくとも1つのヒト化抗体の有効量を、それを必要とする被験者に投与することを含む方法を提供する。そのようなインビボ診断に必要な投与量は、治療での使用量より少なくてよく、通常の手段に従って当業者が決定することができる。
【0085】
本発明のヒト化抗体は、体液や組織などの試験液に存在するα9インテグリンを特異的に検出するために使用することもできる。ヒト化抗体はまた、α9インテグリンの精製用抗体カラムの調製、精製における各フラクションに含有されるα9インテグリンの検出、又は試験される細胞におけるα9インテグリンの挙動の分析に使用することができる。
【実施例】
【0086】
以下の実施例では、ヒト及び/又はマウスα9インテグリンを免疫特異的に認識するモノクローナル抗体の調製、該モノクローナル抗体の可変領域のシークエンシング、該抗体のエピトープマッピング、該抗体の他の特徴付け、該抗体のキメラ化及びヒト化、並びに得られたキメラ及びヒト化抗体の特徴付けについて説明するが、これらの実施例は何ら本発明を制限するものでない。
【0087】
1.ヒトα9インテグリンに対するマウス抗体の調製
ヒトα9インテグリンに対するマウスモノクローナル抗体をサブトラクティブ免疫化法(Williams C. V.ら, 1992, Biotechniques 12:842−847)に従って調製した。簡単には、Balb/cマウス3匹に、マウス1匹当たり4×10個のCHO−K1細胞を腹腔内注射した。2日後、4mg/マウスのシクロホスファミドを該マウスの腹腔内に投与した。シクロホスファミド注射の2週間後に、マウス1匹当たり2×10個のヒトα9インテグリンを発現しているCHO−K1細胞(ヒトα9/CHO−K1細胞)を該マウスの腹腔内に注射し、2週間後に更にマウス1匹当たり3×10個の同細胞を腹腔内に注射した。ハイブリドーマを本技術分野で周知の方法により調製した(例えば、Harlowら, 1988, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 第2版;Hammerlingら, 1981, Monoclonal Antibodies and T−CeIl Hybridomas, pp.563−681, Elsevier, N. Y参照)。ヒトα9/CHO−K1細胞とは免疫特異的に反応するが、ヒトα4インテグリンを発現するCHO−K1細胞とは反応しないモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマクローンを樹立し、ヒトα9インテグリンを免疫特異的に認識するモノクローナル抗体を産生する5つのハイブリドーマクローン(すなわち、1K11、21C5、24I11、25B6及び28Sl)を単離した。
【0088】
2.抗ヒトα9インテグリンモノクローナル抗体のエピトープ分析
ヒトα9インテグリンのN残基及びその後3残基毎に後ろにずれる位置から始まる12残基のポリペプチド(すなわち、アミノ酸残基1〜12、4〜15、7〜18など)を調製し、5nmol/スポットとなるようにC6スペーサー及び2βAla残基を介してセルロース膜に結合させた。この膜をブロッキング緩衝液(ミルク/0.05%Tween20含有PBS)でブロックし、過酸化酵素で標識した各抗ヒトα9インテグリンモノクローナル抗体(すなわち、それぞれ1K11、21C5、24I11、及び25B6)1.0μg/mLを含有する溶液10mLと3時間、室温で反応させた。T−TBSで洗浄後、上記膜を増強化学発光(enhanced chemiluminescence:ECL)検出試薬と1分間、室温で反応させた。酵素反応の結果として放出された発光を測定し、抗体のエピトープを発光強度に基づいて決定した。対照例として、市販のヒトα9インテグリンに対するモノクローナル抗体であるY9A2(Wangら, 1996, Am J Respir Cell Mol Biol 15, 664−672参照)を使用した。
【0089】
下記表1にエピトープマッピングの結果を示す。この結果から本発明者らにより単離されたモノクローナル抗体がY9A2とは異なるエピトープを有していることが示された。
【0090】
【表1】

【0091】
3.抗ヒトα9インテグリン抗体のCDR分析
モノクローナル抗体(すなわち、1K11、21C5、24I11、25B6及び28Sl)のCDRのアミノ酸配列を、それぞれのハイブリドーマから抽出したmRNAの逆転写により決定し、cDNAを調製した。これらのcDNAを鋳型として、H鎖及びL鎖の可変領域を、ScFvクローニングプライマ(軽鎖ミックス及び重鎖ミックス:Amersham Biosciences Corp., イリノイ州)を使用してPCRにより伸長、増幅した。PCR産物をpCRIITOPOベクタにクローニングし、シークエンシングしてアミノ酸配列を決定した。この工程を各抗体について3回繰り返した。結果を表2に示す。
【0092】
【表2】

【0093】
4.細胞接着抑制作用
(1)細胞接着にはα9インテグリンのそのリガンド、すなわち、OPN、フィブロネクチン、テネイシンC、VCAM−1などの種々のECM、への結合が関与していることが知られており、よって単離した抗ヒトα9インテグリン抗体の細胞接着抑制作用を試験した。
【0094】
簡単には、GRD配列がRAA配列で置換されたOPNのN末端部位からトロンビン切断部位までを大腸菌宿主細胞から単離し、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)部位をプレシジョンプロテアーゼ(Amersham Biosciences Corp., イリノイ州)で切断して、hOPN(RAA)N−halfをGST融合タンパク質として調製した。VCAM−1はR&D Systems社(Minneapolis, ミネソタ州)から購入した。テネイシンC及びヒトフィブロネクチンは、それぞれAEIDGIEL(配列番号92)を含有するポリペプチド(テネイシンCのα9インテグリン結合領域)及びCPEDGIHELFP(配列番号:93)を含有するポリペプチド(ヒトフィブロネクチンのα9インテグリン結合領域)を合成し、それらをウシ血清アルブミン(bovine serum albumin:BSA)に結合して調製した。ヒトα9インテグリンとしては、ヒトα9インテグリンを多く発現するCHO−K1細胞(ヒトα9/CHO−K1)を使用した。
【0095】
50μLのテネイシンC、フィブロネクチン、VCAM−1又はhOPN(RAA)N‐halfを1.25〜5.0μg/mLとなるように96ウェルプレートの各ウェルに加え、37℃で1時間静置してプレートをコートした。プレートをブロッキング溶液(0.5%BSA/PBS)でブロッキングし、PBSで1回洗浄した後、ヒトα9/CHO−K1細胞(1.0×10個/mL)と単離モノクローナル抗体(10g/mL)との混合物の0.25%BSA最小必須培地(minimum essential media:MEM)を200μL/ウェルでプレートに加え、37℃、5%COで1時間静置した。接着しなかった細胞をPBSで洗い流し、接着した細胞を0.5%クリスタルバイオレット(和光、大阪、日本)/20%メタノールで固定、染色した。染色された細胞を室温に30分間放置した後、20%酢酸溶液を添加し、溶解した。590nmの波長でODを測定し、接着活性を定量した。
【0096】
図16に示すように、テネイシンCが関与する細胞接着は、21C5、24I11、25B6及び28Slにより抑制されたが、1K11では抑制されなかった。フィブロネクチンが関与する細胞接着は、21C5、25B6及び28Slにより抑制され、24I11による抑制の程度は低く、1K11では抑制されなかった。VICAM−1が関与する細胞接着は、21C5、24I11、25B6及び28Slにより抑制されたが、1K11では抑制されなかった。同様に、hOPN(RAA)N−halfが関与する細胞接着は、21C5、24I11、25B6及び28Slにより抑制されたが、1K11では抑制されなかった。
【0097】
(2)α4インテグリン及びα9インテグリンは多くの共通ECMリガンドを有するので、抗α4インテグリン抗体及び抗α9インテグリン抗体の両者が存在すれば、細胞接着抑制活性が高められると期待される。そこで、両方の抗体を組み合わせた場合の転移癌に対する抑制作用を、α9インテグリンだけでなくα4インテグリンも発現するヒトメラノーマ細胞(G361)とECMとしてのVCAM−1(1.25μg/mL)との間の細胞接着に基づいて、インビトロで試験した。抗ヒトα4インテグリン抗体としては、ラットモノクローナル抗体P1H4(Cat. No. MAB16983Z, Chemicon International Inc., カリフォルニア州)を使用した。
【0098】
図17に示すように、VCAM−1が関与する接着は、抗ヒトα9インテグリン抗体単独ではいずれも抑制されなかったが、抗ヒトα4インテグリン抗体を共存させることによって、陽性コントロール(Y9A2)、21C5及び24I11により抑制された。α9インテグリン分子を多く発現する細胞は、通常、α4インテグリン分子も発現するので、この結果は、抗ヒトα9インテグリン抗体と抗ヒトα4インテグリン抗体の両方を使用することによって細胞接着を効果的に抑制することができ、それによりこれらのインテグリン分子が関与する転移癌などの様々な障害及び疾患の抑制を強化することができることを示している。
【0099】
5.FACS分析における抗ヒトα9インテグリン抗体の使用
抗ヒトα9インテグリン抗体がFACSに使用できるかどうかを、ヒトα9/CHO−K1細胞、CHO−K1細胞及びα9インテグリンを内因的に発現するヒト好中球を使用して試験した。ヒト好中球では、FACS分析は、細胞数1.0×10で行い、抗体は氷上で反応させた。Fc受容体との非特異的反応を50%ヤギ血清でブロックした。FITC標識抗マウスIgG抗体を二次抗体として使用した。その結果、全ての抗ヒトα9インテグリン抗体が、ヒトα9/CHO−K1及びヒト好中球上のα9インテグリンを検出でき、全ての抗体がヒトα4/CHO−K1細胞と反応しなかった(図20a、20b、20c参照)。これらの結果は、全ての抗ヒトα9インテグリン抗体が、FACSを使用して細胞上に発現されたヒトα9インテグリンタンパク質を検出できることを示している。
【0100】
6.抗α9インテグリン抗体の治療的効果
抗α9インテグリン抗体の治療的効果を、マウスを用いて調べた。
【0101】
抗マウスα9インテグリンモノクローナル抗体(11L2B、12C4’58、18R18D及び55A2C)を、マウスα9インテグリンを発現するCHO−K1細胞(マウスα9/CHO−K1細胞)でハムスターを免疫し、マウスα9/NIH3T3細胞と反応するが、マウスα4/NIH3T3細胞には反応しないモノクローナル抗体を選択した以外は、上記マウス抗ヒトα9インテグリン抗体について記載された方法(上記、1.参照)と実質的に同じ方法により調製した。
【0102】
6.1.肝炎に対する治療的効果
国際公開WO 02/081522は、肝炎がOPN機能の抑制によって治療できることを開示している。従って、抗α9インテグリン抗体の治療的効果を、ハムスター抗マウスα9インテグリン抗体11L2B及びラット抗マウスα4インテグリン抗体R1−2(Pharmingen)を使用して、マウス肝炎モデルで検討した。200μgのコンカナバリンA(ConA)(Vector)の静脈内注射の12時間後にマウスの血中AST及びALT値を、GPT/ALT−PIII及びGOT/AST−PIII(富士フィルム)を使用して測定した。ConA注射の3時間前に、200μgの抗体を投与した。図18に示すように、AST及びALT値は、抗α9インテグリン抗体により低下することが確認され、治療効果が認められた。更に、この治療効果は抗α4インテグリン抗体との併用により高められた。この結果は、肝炎は、抗α9インテグリン抗体により治療できることを明らかにした。
【0103】
6.2.マウス癌細胞株の成長に対する抗α9インテグリン抗体の効果
マウスメラノーマ細胞株B16−BL6は、α9インテグリンを多く発現する。従って、樹立した抗マウスα9インテグリン抗体の癌細胞に対する細胞成長抑制活性を調査した。
【0104】
10%FCS/DMEM中で5×10個/mLとなるように調製したB16−BL6細胞を、細胞培養用の96ウェルプレート(Becton Dickinson)上に用意した。10μg/mLの抗マウスα9インテグリン抗体と抗マウスα4インテグリン抗体を添加した後、100μLの細胞抗体懸濁液を各ウェルに添加した。37℃、5%COで24時間静置し、セルカウンティングキット8(Cell Counting Kit 8:同仁化学研究所)を各10μL添加し、更に37℃、5%COで1時間静置した。吸光度(OD450)を測定し、細胞数を定量的に分析した。図19に示すように、12C4’58は抑制活性が最も高く、B16−BL6細胞の成長を約35%阻害した。55A2C及びR1−2のどちらも成長を約20%阻害することができた。
【0105】
次いで、インビボ状態に近い状態での細胞成長に対する抑制効果を分析するために、VCAM−1を固相に固定化して同様にアッセイした。VCAM−1はα9インテグリンに対するリガンドであり、組換え可溶型VCAM−1タンパク質、rhVCAM−1−Fcキメラ(Roche)を使用した。10μg/mLで固相に固定化されたrhVCAM−1−Fcキメラを使用し、0.5%BSA/PBSで非特異的反応をブロックした。キメラは、抗体の単独使用では10μg/mLの濃度で、併用使用ではそれぞれ5μg/mLの濃度で添加した。その後、図19と同じ手順を行った。その結果、12C4’58とα4抑制性抗体クローンR1−2とを同時に投与した場合には、図21に示したように、細胞成長抑制効果は約20%まで著しい増加を示したが、12C4’58の単独投与及びR1−2の単独使用では、抑制効果は全く認められず又はわずかに認められただけであった。
【0106】
6.3.マウス関節リウマチモデルにおける抗α9インテグリンの治療効果
7週齢メスマウス(Balb/c)(各群3匹)に、400μg/マウスのハムスター抗マウスα9インテグリン抗体(55A2C)又は正常ハムスターIgG(NHG)を腹腔内注射した。24時間後、2mg/マウスのII型コラーゲン特異性モノクローナル抗体の関節炎誘起カクテル(Chondrex Inc.)を静脈内注射した。72時間後、400μg/マウスの55A2C又はNHGを50μg/マウスのLPSとともに腹腔内注射した。マウスをLPSの投与3日前からLPSの投与後6日まで観察し、関節炎の程度をWoodら(1969, Int. Arch. Allergy Appl. Immunol. 35:456)の方法に従って得点化した。結果を図22に示す。コントロールNHGを注射されたマウスは得点が高く、関節リウマチを発症したが、抗マウスα9インテグリン抗体を注射したマウスでは、関節リウマチの発症は完全に阻止された。従って、抗α9インテグリン抗体は関節リウマチに対する予防及び治療効果を有することが示された。
【0107】
7.非ヒト抗体のヒト化
7.1.マウス24I11V遺伝子のクローニングとシークエンシング
マウス24I11ハイブリドーマ細胞は、10%ウシ胎児血清(FBS:HyClone, Logan, ユタ州)を含有するTIL培地I(免疫生物研究所、群馬、日本)中で、7.5%COインキュベーターを用いて、37℃で培養した。TRIzol試薬(Invitrogen, Carlsbad, カリフォルニア州)を添付プロトコールに従って使用して、約3×10個のハイブリドーマ細胞から全RNAを抽出した。GeneRacerキット(Invitrogen)を添付プロトコールに従って使用して、オリゴdT−プライムドcDNAを合成した。24I11重鎖及び軽鎖の可変領域cDNAを、マウスγ−1及びκ鎖定常領域にそれぞれアニールするプライマと、GeneRacerキットに添付されているGeneRacer5’プライマ(5’−CGACTGGAGCACGAGGACACTGA−)(配列番号94)とを使用して、PhusionDNAポリメラーゼ(New England Biolabs, Beverly, マサチューセッツ州)によるポリメラーゼチェインリアクション(PCR)により増幅した。重鎖可変領域(VH)のPCR増幅には、配列5’−GCCAGTGGATAGACAGATGG−(配列番号95)を有するプライマを使用し、軽鎖可変領域(VL)のPCR増幅には、配列5’−GATGGATACAGTTGGTGCAGC−(配列番号96)を有するプライマを使用した。増幅されたVH及びVLcDNAは、配列決定のためにpCR4Blunt−TOPOベクタ(Invitrogen)にサブクローンした。可変領域のDNAシークエンシングはTocore(Menlo Park, カリフォルニア州)で行った。数個の重鎖及び軽鎖クローンの配列を決定したところ、典型的なマウス重鎖及び軽鎖可変領域に相同である、特有な配列が同定された。24I11のVH及びVLのコンセンサスcDNA配列とその推定アミノ酸配列を、それぞれ図1及び2に示す。
【0108】
7.2キメラ24I11IgG1/κ抗体の構築
24I11VHcDNAを鋳型とし、5’−GGGACTAGTACCACCATGAAATGCAGCTGGGTTATCTTC−(配列番号97)(下線はSpeI部位)を5’プライマとして、5’−GGGAAGCTTAGAGGCCATTCTTACCTGAGGAGACGGTGACTGAGGTTCC−(配列番号98)(下線はHindIII部位)をプライマ(図3)として使用して、PCRを行い、24I11VHをコードする遺伝子を、スプライスドナシグナル及び適当なフランキング制限酵素部位を有するエクソンとして作製した。同様に、24I11VLcDNAを鋳型とし、5’−GGGGCTAGCACCACCATGAGTGTGCCCACTCAACTCCTG−(配列番号99)(下線はNheI部位)を5’プライマとして、5’−GGGGAATTCTGAGAAGACTACTTACGTTTTATTTCCAGCTTGGTCCCCCC−(配列番号:100)(下線はEcoRI部位)をプライマ(図4)として使用して、PCRを行い、24I11VLをコードする遺伝子を、スプライスドナシグナル及び適当なフランキング制限酵素部位を有するエクソンとして作製した。24I11VH及びVLエクソンのスプライスドナシグナルは、それぞれマウス生殖細胞系列JH4及びJκ2配列由来のものを用いた。PCR増幅フラグメントは、QIAquickゲル抽出キット(Qiagen, Valencia, カリフォルニア州)を用いてゲル精製し、SpeI及びHindIII(VH用)又はNheI及びEcoRI(VL用)で消化し、ヒトγ1及びκ定常領域を含む哺乳類発現ベクタにクローン化してキメラ24I11IgG1/κ抗体を作製した。得られた発現ベクタpCh24I11の構造を模式的に図5に示す。
【0109】
7.3.ヒト化24I11V遺伝子の作製
24I11可変領域のヒト化は、Queenら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86: 10029−10033, 1989)に概説されているように行った。まず、24I11可変領域の分子モデルを、コンピュータプログラムを用いて構築した。次いで、ヒト可変領域配列のホモロジ検索に基づいて、24I11VHに高ホモロジ(FRHで72.4%(63/87)のアミノ酸相同性)を有する、GenBankアクセッション番号X65891のヌクレオチド配列によりコードされるヒトアミノ酸配列を、ヒト化24I11VHのフレームワークを提供するアクセプタとして選択した。同様に、GenBankアクセッション番号X72441(FRLで77.5%(62/80)のアミノ酸相同性)のヌクレオチド配列によりコードされるヒトアミノ酸配列を、24I11VLのヒト化用のアクセプタとして選択した。
【0110】
相補性決定領域(CDR)との重要な接触がコンピュータモデルにより示唆されたフレームワーク位置については、ヒトフレームワークアミノ酸を24I11可変領域のアミノ酸に置換した。この置換を、27、28、29、30、48、66、67及び71番目の位置(Kabat番号付けシステムによる:Kabatら, Sequences of Proteins of Immunological Interests, 第5版, NIH Publication No. 91−3242, U.S. Department of Health and Human Services, 1991)について行い、ヒト化24I11(Hu24I11)VH(図6)を作製した。軽鎖については、70及び71残基について置換を行い、ヒト化24I11(Hu24I11)VL(図7)を作製した。24I11、設計されたHu24I11及びヒトアクセプタのVH及びVLのアミノ酸配列を並べて比較した図をそれぞれ図6及び図7に示す。
【0111】
Hu24I11VH及びVLのそれぞれをコードする遺伝子を、シグナルペプチド、スプライスドナシグナル及び後の哺乳類発現ベクタへのクローニングのための適当な制限酵素部位を有するエクソンとして設計した。Hu24I11VH及びVLエクソンのスプライスドナシグナルは、それぞれヒト生殖細胞系列JH4及びJκ1配列由来のものを用いた。Hu24I11VH及びVLエクソンのシグナルペプチド配列は、それぞれ対応するマウス24I11VH及びVL配列由来のものを用いた。Heら(J. Immunol. 160:1029−1035, 1998)に概説されているように、ThermalAceDNAポリメラーゼ(Invitrogen)を使用して、いくつかの重複合成オリゴヌクレオチドプライマの伸長及びPCR増幅により、Hu24I11VH及びVL遺伝子を構築した。Hu24I11VH及びVL遺伝子の構築に使用したオリゴヌクレオチドをそれぞれ図8及び9に示す。Hu24I11VH及びVL遺伝子におけるオリゴヌクレオチドの位置をそれぞれ図10及び11に示す。PCR増幅されたフラグメントは、配列決定のために、QIAquickゲル抽出キット(Qiagen)を用いてゲル精製し、pCR4Blunt−TOPOベクタにクローン化した。SpeI及びHindIII(VH用)又はNheI及びEcoRI(VL用)で消化した後、Hu24I11VH及びVL遺伝子を哺乳類発現ベクタの対応する部位にサブクローンしてヒトIgG1/κ型を作製した。得られた発現ベクタpHu24I11の構造を概略的に図5に示す。得られたHu24I11VH及びVL遺伝子のヌクレオチド配列及びその推定アミノ酸配列をそれぞれ図12及び13に示す。
【0112】
7.4.キメラ及びヒト化24I11IgG1/κの一過性発現
Durocherら(Nucl. Acids Res. 30:e9, 2002)に従って、それぞれpCh24I11及びpHu24I11プラスミドDNAを、ポリエチレンイミンを使用してHEK293細胞にトランスフェクトし、キメラ及びヒト化24I11IgG1/κ抗体を、一過性に発現させた。一過性にトランスフェクトしたHEK293細胞を、10%FBSを含有するDMEM中、37℃で7.5%COインキュベーター内に4日間保持した。培養上清中のCh24I11及びHu24I11IgG1/κ抗体のそれぞれの発現量を、サンドイッチELISAにより測定した。ELISAプレートに、PBSで2000倍希釈したヤギ抗ヒトIgGFcγ鎖特異的ポリクローナル抗体(SouthernBiotech, Birmingham, アラバマ州)を100μg/ウェルで添加して4℃、一晩コートし、洗浄緩衝液(0.05%Tween20を含有するPBS)で洗浄し、300μL/ウェルのブロッキング緩衝液(2%スキムミルク及び0.05%Tween20を含有するPBS)で1時間、室温でブロックした。洗浄緩衝液で洗浄後、ELISA緩衝液(1%スキムミルク及び0.025%Tween20を含有するPBS)で適切に希釈した検体を、100μL/ウェルでELISAプレートに添加した。標準として、ヒトミエローマ血清(SouthernBiotech)から精製したヒトIgG1/κ抗体を使用した。ELISAプレートを室温で2時間静置し、洗浄緩衝液で洗浄した後、2000倍希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合ヤギ抗ヒトκ鎖ポリクローナル抗体(SouthernBiotech)を100μL/ウェルを使用して結合した抗体を検出した。室温で1時間静置し、洗浄緩衝液で洗浄した後、100μL/ウェルのABTS基質(bioWORLD, Dublin, オハイオ州)を添加して発色させた。100μL/ウェルの2%シュウ酸を添加して発色を停止させ、405nmで吸光度を測定した。
【0113】
7.5.ヒト化24I11の特徴付け
キメラ及びヒト化24I11抗体のヒトα9インテグリンへの結合を細胞ELISAにより調べた。組換えヒトα9インテグリンをその表面に発現するCHO−K1安定形質転換体(CHO/huα9:Gene Techno Scienceから入手)を2×10個/ウェルで、50μLの10%FBS含有F12/DMEM(HyClone)を有する96ウェル組織培養プレートの各ウェルに播種し、37℃、7.5%COインキュベーター内で一晩培養した。ヒトα9インテグリンへの結合を調べるために、50μLのキメラ24I11、ヒト化24I11又は無関係なIgG1/κミエローマ抗体(SouthernBiotech)を有する10%FBS含有F12/DMEMを各ウェルに添加した。4℃で1時間静置した後、細胞を氷冷PBSで2回洗浄し、100μLの1000倍希釈HRP結合ヤギ抗ヒトIgGポリクローナル抗体(SouthernBiotech)を各ウェルに添加した。4℃で1時間静置した後、細胞を氷冷PBSで3回洗浄し、発色させるために、100μLのABTS基質を添加した。100μLの2%シュウ酸を添加して発色を停止させ、405nmで吸光度を測定した。ヒトα9インテグリンへのキメラ24I11抗体の結合は、0.5及び1μg/mLの両方で、ヒト化24I11抗体の結合とほとんど同程度である結果を得た(図14)。
【0114】
マウス、キメラ及びヒト化24I11モノクローナル抗体が結合する抗原をCHO/huα9細胞を使用したFACS結合アッセイにより調べた。精製マウス24I11モノクローナル抗体はGene Techno Sciencesから入手した。各試験について約8×10個のCHO/huα9細胞(各試験)をFACS結合緩衝液(0.5%BSA及び0.05%NaNを含有するPBS)で洗浄し、種々の量の試験抗体を含有するFACS結合緩衝液200μLに懸濁した。30分間氷冷後、細胞をFACS結合緩衝液で2回洗浄した。マウス24I11で染色した細胞を、FACS結合緩衝液で希釈した200倍希釈FITC標識ヤギ抗マウスIgGポリクローナル抗体(SouthernBiotech)200μLに懸濁した。キメラ又はヒト化24I11で染色した細胞をHACS結合緩衝液で希釈した200倍希釈FITC標識ヤギ抗ヒトIgGポリクローナル抗体(SouthernBiotech)200μLに懸濁した。30分間氷冷後、細胞をFACS結合緩衝液で洗浄し、200μLのFACS結合緩衝液に懸濁し、FACSCanフローサイトメータ(BD Biosciences, Franklin Lakes, ニュージャージー州)を使用して分析した。この分析において、キメラ及びヒト化24I11抗体のCHO/huα9細胞への結合は非常に類似していた(図15)。
【0115】
一過性に発現された抗体を使用した細胞ELISA及びFACS実験の結果は、マウス24I11抗体のヒト化が成功したことを示している。
【0116】
その他の本願に記載されたマウス抗ヒトα9抗体(すなわち、1K11、21C5、25B6及び28Sl)のヒト化についても、上記と同じ手順で行うことができる。これらのマウスモノクローナル抗体のそれぞれのVH及びVL領域のDNA配列及びアミノ酸配列を以下に要約する。
【0117】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明のヒト化モノクローナル抗体は、α9インテグリンの機能を阻害し、癌、例えば、癌細胞の増殖や転移、並びに、関節リウマチ、変形性関節症、肝炎、気管支喘息、線維症、糖尿病、癌転移、動脈硬化、多発性硬化症、肉芽腫、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)、及び自己免疫疾患などの炎症性疾患に対する治療効果を示す。本発明の抗α9インテグリン抗体及び抗α4インテグリン抗体の両方を有含する医薬組成物は、癌及び炎症性疾患に対する更に優れた治療効果を示す。
【受託番号】
【0119】
マウス抗ヒトα9インテグリンモノクローナル抗体を産生する、本明細書において1K11、21C5、24I11、25B6及び28S1として示したハイブリドーマは、微生物の寄託に関するブタペスト条約に基づいて日本国305−8566茨城県つくば市東1丁目1番1号AISTつくば中央第6所在の、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに、2006年2月15日付けで、それぞれ受託番号FERM BP−10510、FERM BP−10511、FERM BP−10512、FERM BP−10513及びFERM BP−10832として寄託されている。これらは全て、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0120】
本明細書中で参照された配列を以下に要約する。














【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)ヒト抗体のVH領域由来の少なくとも1つのFRH、及びヒトα9インテグリンを免疫特異的に認識する非ヒト抗体のCDRHの少なくとも1つに由来する少なくとも1つのCDRHとを有するH鎖;
(ii)ヒト抗体のVL領域由来の少なくとも1つのFRL、及びヒトα9インテグリンを免疫特異的に認識する非ヒト抗体のCDRLの少なくとも1つに由来する少なくとも1つのCDRLとを有するL鎖;又は
(iii)前記(i)と(ii)の両方
を有する、ヒトα9インテグリンを免疫特異的に認識するヒト化抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項2】
前記非ヒト抗体が、受託番号FERM BP−10510、FERM BP−10511、FERM BP−10512、FERM BP−10513及びFERM BP−10832からなる群から選択されるハイブリドーマが産生するマウスモノクローナル抗体である、請求項1に記載のヒト化抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項3】
前記ヒト化抗体の少なくとも1つのCDRHが配列番号4、5及び6のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し、かつ、該ヒト化抗体の少なくとも1つのCDRLが配列番号11、12及び13のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項1に記載のヒト化抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項4】
前記ヒト抗体のVH領域がGenBankアクセッション番号X65891(配列番号18)のヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列由来であるアミノ酸配列を有し、かつ、前記ヒト抗体のVL領域がGenBankアクセッション番号X72441(配列番号23)のヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列由来であるアミノ酸配列を有する、請求項2又は3に記載のヒト化抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項5】
前記H鎖が配列番号29のアミノ酸配列を有し、かつ、前記L鎖が配列番号31のアミノ酸配列を有する、請求項4に記載のヒト化抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項6】
配列番号29のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を有する、単離された核酸分子。
【請求項7】
前記ヌクレオチド配列が配列番号28のヌクレオチド配列を有する、請求項6に記載の核酸分子。
【請求項8】
シグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列を更に有する、請求項6に記載の核酸分子。
【請求項9】
前記シグナルペプチドが配列番号10のアミノ酸配列を有する、請求項8に記載の核酸分子。
【請求項10】
配列番号31のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を有する、単離された核酸分子。
【請求項11】
前記ヌクレオチド配列が配列番号30のヌクレオチド配列を有する、請求項10に記載の核酸分子。
【請求項12】
シグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列を更に有する、請求項10に記載の核酸分子。
【請求項13】
前記シグナルペプチドが配列番号17のアミノ酸配列を有する、請求項12に記載の核酸分子。
【請求項14】
前記核酸分子が1つ以上の調節因子に作動可能となるように結合されている、請求項6若しくは10又は両方に記載の核酸分子を有するベクタ。
【請求項15】
請求項14に記載のベクタを有する、単離された宿主細胞。
【請求項16】
請求項15に記載の宿主細胞をヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントが発現される条件下で培養し、発現されたヒト化抗体を回収することを含む、ヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントを調製する方法。
【請求項17】
請求項1、2又は5のいずれか1項に記載のヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントと、医薬的に許容されるキャリアとを有する医薬組成物。
【請求項18】
請求項5に記載のヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントの有効量を、それを必要とする被験者に投与することを含む、α9インテグリンが関与する障害又は疾患を予防又は治療する方法。
【請求項19】
請求項1又は2に記載のヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントの有効量を検査対象に投与することを含む、α9インテグリンが関与する障害又は疾患を診断する方法。
【請求項20】
(i)ヒト抗体のVH領域由来の少なくとも1つのFRHと、配列番号32、33及び34のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する少なくとも1つのCDRHとを有するH鎖;
(ii)ヒト抗体のVL領域由来の少なくとも1つのFRLと、配列番号37、38及び39のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する少なくとも1つのCDRLとを有するL鎖;又は
(iii)前記(i)と(ii)の両者
を有するる、ヒトα9インテグリンを免疫特異的に認識するヒト化抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項21】
(i)ヒト抗体のVH領域由来の少なくとも1つのFRHと、配列番号42、43及び44のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する少なくとも1つのCDRHとを有するH鎖;
(ii)ヒト抗体のVL領域由来の少なくとも1つのFRLと、配列番号47、48及び49のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する少なくとも1つのCDRLとを有するL鎖;又は
(iii)前記(i)と(ii)の両方
を有する、ヒトα9インテグリンを免疫特異的に認識するヒト化抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項22】
(i)ヒト抗体のVH領域由来の少なくとも1つのFRHと、配列番号52、53及び54のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する少なくとも1つのCDRHとを有するH鎖;
(ii)ヒト抗体のVL領域由来の少なくとも1つのFRLと、配列番号57、58及び59のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する少なくとも1つのCDRLとを有するL鎖;又は
(iii)前記(i)と(ii)の両方
を有する、ヒトα9インテグリンを免疫特異的に認識するヒト化抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項23】
(i)ヒト抗体のVH領域由来の少なくとも1つのFRHと、配列番号62、63及び64のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する少なくとも1つのCDRHとを有するH鎖;
(ii)ヒト抗体のVL領域由来の少なくとも1つのFRLと、配列番号67、68及び69のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する少なくとも1つのCDRLとを有するL鎖;又は
(iii)前記(i)と(ii)の両方
を有する、ヒトα9インテグリンを免疫特異的に認識するヒト化抗体又はその抗原結合フラグメント。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20a】
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【図20b】
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【図20c】
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【図21】
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【図22】
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【公表番号】特表2011−509650(P2011−509650A)
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−526077(P2010−526077)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【国際出願番号】PCT/JP2009/050606
【国際公開番号】WO2009/088105
【国際公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(501416243)株式会社ジーンテクノサイエンス (9)
【出願人】(000124269)科研製薬株式会社 (18)
【Fターム(参考)】