説明

ヒト化抗CD16A抗体を用いる自己免疫疾患の治療方法

有害な免疫応答の減少にとって有用なCD16A結合タンパク質が記載される。一態様においては、必要に応じて、エフェクター機能を欠く、ヒト化抗CD16A抗体は、特発性血小板減少性紫斑病および自己免疫性溶血性貧血などの免疫障害の治療に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられるものとする、2005年7月11日に提出された米国特許仮出願第60/698,623号の利益を請求するものである。
【0002】
本発明は、CD16A結合タンパク質および免疫障害の治療方法に関する。本発明は、生体臨床医学および免疫学の分野において有用である。
【背景技術】
【0003】
Fcγ受容体(FcγR)は、免疫グロブリンG(IgG)分子のFc領域に結合する細胞表面受容体である。他の機能のうち、これらの受容体は、抗体-抗原複合体の形成を、エフェクター細胞応答に共役させる。例えば、免疫複合体による活性化しているFcγ受容体の架橋は、病原体の食作用、直接的な細胞傷害性による外来細胞および形質転換細胞の殺傷、毒性物質の消失、ならびに炎症性応答の開始をもたらし得る。注目すべきことに、Fcγ受容体は自己免疫において重要な役割を果たす。活性化しているFc受容体への自己抗体の結合は、特発性血小板減少性紫斑病、関節炎、全身性エリテマトーデス、自己免疫性溶血性貧血などの自己免疫疾患の病原性後遺症を誘発する。
【0004】
ヒトおよびげっ歯類においては、FcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIと呼ばれる3つのクラスのFcγ受容体が存在する(RavetchおよびBolland, 2001 Annual Rev. Immunol. 19:275-90; ならびにRavetchおよびKinet, 1991, Annual Rev. Immunol. 9:457-92を参照)。FcγRI部位は、一般的には、モノマーIgGにより占有されるが、RIIおよびRIII受容体は、一般的には、占有されず、免疫複合体と相互作用することができる。FcγRIは、CD64とも呼ばれ、高い親和性でモノマーIgGに結合し、単球およびマクロファージ上に存在する。FcγRIIは、CD32とも呼ばれ、中程度の親和性でマルチマーIgG(免疫複合体または凝集したIgG)に結合し、B細胞、血小板、好中球、マクロファージおよび単球などの様々な細胞型上に存在する。FcγRIIIは、CD16とも呼ばれ、中程度の親和性でマルチマーIgGに結合し、骨髄細胞上で優勢な活性化しているFcγRである。FcγRIIIは2つの形態で見出される。FcγRIIIA(CD16A)、膜貫通シグナリング形態(50〜65 kDa)は、NK細胞、単球、マクロファージ、および特定のT細胞により発現される。FcγRIIIB(CD16B)、グリコシル-ホスファチジル-イノシトールアンカー形態(48 kDa)は、ヒト好中球により発現される。例えば、Scallonら、1989, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 86:5079-83およびRavetchら、1989, J. Exp. Med. 170:481-97を参照されたい。CD16Aのタンパク質および核酸配列は、受託番号P08637(タンパク質)およびX52645(核酸)としてGenbankに、また受託番号CAA36870としてSWISS-PROTに報告されている。CD16Bのタンパク質および核酸配列は、受託番号075015(タンパク質)およびX16863(核酸)としてGenbankに、またCAA34753としてSWISS-PROTに報告されている。
【発明の開示】
【0005】
一態様においては、本発明は、自己免疫疾患を有する個体の治療に用いることができるCD16A結合タンパク質を提供する。本発明のCD16A結合タンパク質は、マウス抗体以外のものであり、キメラ抗体、ヒトおよびヒト化抗CD16Aモノクローナル抗体、そのフラグメント、一本鎖抗体、ならびにVHドメインおよび/またはVLドメインを含む他の結合タンパク質が挙げられる。
【0006】
一態様においては、CD16A結合タンパク質は、ヒトIgG重鎖から誘導されたFc領域(例えば、ヒトIgG1から誘導されたFc領域)を含み、このFc領域はエフェクター機能を欠き、および/またはFc受容体への結合を低下させるように改変されている。一実施形態においては、CD16A結合タンパク質は、例えば、Fc領域の残基297における置換に起因して、グリコシル化されていない。
【0007】
別の態様においては、CD16A結合タンパク質はヒトIgG重鎖から誘導されたFc領域(例えば、ヒトIgG1から誘導されたFc領域)を含み、このFc領域は低下したエフェクター機能を有し、および/またはFc受容体への結合を低下させるように改変されている。
【0008】
一態様においては、CD16A結合タンパク質は、マウスモノクローナル抗体(mAb)3G8のVHドメインから誘導された3個の相補性決定領域(CDR)を含むVHドメインを含むヒト化3G8抗体である。一実施形態においては、VHドメインはHu3G8VH-1のVHドメインの配列を有する。一実施形態においては、前記結合タンパク質のCDRは、マウスCDRの配列を有する。いくつかの変形においては、VHドメインのCDRは、以下の置換:CDR1中の位置34でのVal、CDR2中の位置50でのLeu、CDR2中の位置52でのPhe、CDR2中の位置54でのAsn、CDR2中の位置60でのSer、CDR2中の位置62でのSer、CDR3中の位置99でのTyr、およびCDR3中の位置101でのAspのうちの少なくとも1個以上により3G8のものと異なる。一実施形態においては、VHドメインはHu3G8VH-22のVHドメインの配列を有する。一実施形態においては、VHドメインは、配列番号51の配列を有するFR3ドメインを含む。VHドメインを、抗体重鎖定常ドメイン、例えば、ヒトCγ1定常ドメインに連結することができる。
【0009】
いくつかの変形においては、CD16A結合タンパク質は、表4に記載の配列を有するVHドメインを有する。いくつかの変形においては、CD16A結合タンパク質は、表1に示される置換のうちの1個以上によりHu3G8VH-1の配列と異なるVHドメインを有する。
【0010】
一態様においては、CD16A結合タンパク質は、マウスモノクローナル抗体3G8のVLドメインから誘導された3個の相補性決定領域(CDR)を含むVLドメインを含むヒト化3G8抗体である。一実施形態においては、この結合タンパク質のCDRは、マウスCDRの配列を有する。いくつかの変形においては、VLドメインのCDRは、以下の置換:CDR1中の位置24でのArg;CDR1中の位置25でのSer;CDR1中の位置32でのTyr;CDR1中の位置33でのLeu;CDR1中の位置34でのAla;CDR2中の位置50でのAsp、TrpまたはSer;CDR2中の位置51でのAla;CDR2中の位置53でのSer;CDR2中の位置55でのAlaまたはGln;CDR2中の位置56でのThr;CDR3中の位置92でのTyr、CDR3中の位置93でのSer;およびCDR3中の位置94でのThrのうちの少なくとも1個以上により3G8のものと異なる。一実施形態においては、VLドメインは、Hu3G8VL-1、Hu3G8VL-22またはHu3G8VL-43のVLドメインの配列を有する。VLドメインを、抗体軽鎖定常ドメイン、例えば、ヒトCK定常領域に連結することができる。
【0011】
いくつかの変形においては、CD16A結合タンパク質は、表4に記載の配列を有するVLドメインを有する。いくつかの変形においては、CD16A結合タンパク質は、表2に示される置換のうちの1個以上によりHu3G8VL-1の配列と異なるVLドメインを有する。
【0012】
一態様においては、CD16A結合タンパク質は、上記のVHドメインおよびVLドメインの両方を含む(重鎖および軽鎖をコードするポリヌクレオチドの同時発現により調製することができる)。必要に応じて、ヒト化重鎖可変領域は、表4に記載の配列を含み、および/またはヒト化軽鎖可変領域は表4に記載の配列を含む。例えば、例示的な実施形態においては、前記結合タンパク質は、配列番号113の配列を有する重鎖可変領域および配列番号96、100または118の配列を有する軽鎖可変領域を有する。別の例示的な実施形態においては、前記結合タンパク質は、配列番号109の配列を有する重鎖可変領域および配列番号96の配列を有する軽鎖可変領域を有する。別の例示的な実施形態においては、前記結合タンパク質は、配列番号104の配列を有する重鎖可変領域および配列番号96の配列を有する軽鎖可変領域を有する。
【0013】
一実施形態においては、CD16A結合タンパク質は、2個の軽鎖および2個の重鎖を含むテトラマー抗体であり、該軽鎖はVLドメインおよび軽鎖定常ドメインを含み、該重鎖はVHドメインおよび重鎖定常ドメインを含む。一実施形態においては、軽鎖定常ドメインはヒトCKであり、および/または重鎖定常領域はCγ1である。
【0014】
本発明の一実施形態においては、CD16A結合タンパク質は、5 nM未満の結合定数でCD16AまたはsCD16Aに結合する抗原結合部位を含む。
【0015】
一実施形態においては、CD16A結合タンパク質は、未改変のFc領域を含む参照CD16A結合タンパク質(例えば、位置297でグリコシル化されたヒトIgG1 Fcドメイン)と比較して、少なくとも1個のFcエフェクターリガンドへの結合が低下したアグリコシルFc領域を含む。このFcエフェクターリガンドは、FcγRIIIまたは補体のC1q成分であってよい。
【0016】
本発明は、グリコシル化されていないFc領域を含む、ヒトまたはヒト化抗CD16Aモノクローナル抗体などの、CD16A結合タンパク質を包含する。本明細書で用いられる「グリコシル化されていない」Fc領域は、Fc領域全体がグリコシル化部位を含まないか、またはFc領域内の特定の領域がグリコシル化されていないか、またはFc領域内の特定の残基がグリコシル化されていないFc領域を包含する。1つの特定の実施形態においては、本発明は、Fc領域のCH2ドメインの位置297に対応するアミノ酸がアグリコシルである、ヒトIgG1から誘導されたFc領域を含むCD16A結合タンパク質(本明細書では以後GMA-161と呼ぶ)を提供する。別の実施形態においては、本発明は、GMA-161と結合に関して競合し、および/またはGMA-161と同じCD16Aのエピトープに結合するCD16A結合タンパク質を提供する。本発明はまた、GMA-161のアミノ酸配列と、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を含む分子も包含する。
【0017】
本発明はまた、GMA-161の可変重鎖および/もしくは軽鎖のアミノ酸配列と、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、もしくは少なくとも99%同一である可変重鎖および/もしくは可変軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体またはそのフラグメントも包含する。本発明はさらに、GMA-161の1個以上のCDRのアミノ酸配列と、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、もしくは少なくとも99%同一である1個以上のCDRのアミノ酸配列を含む抗体またはそのフラグメントを包含する。2個のアミノ酸配列の同一性(%)の決定を、BLASTタンパク質検索などの、当業者には公知の任意の方法により決定することができる。
【0018】
一実施形態においては、本発明は、CD16Aに結合し、CD16へのFc受容体の結合を阻害するヒト化抗体であるCD16A結合タンパク質を提供する。
【0019】
一態様においては、本発明は、本明細書に記載のCD16A結合タンパク質と、製薬上許容し得る賦形剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0020】
一態様においては、本発明は、本明細書に記載のCD16A結合タンパク質のVHドメインをコードする、単離されたポリヌクレオチド、必要に応じて、発現ベクターを提供する。一態様においては、本発明は、本明細書に記載のCD16A結合タンパク質のVLドメインをコードする、単離された核酸、必要に応じて、発現ベクターを提供する。一態様においては、本発明は、本明細書に記載のポリヌクレオチドを含む細胞、必要に応じて、哺乳動物細胞を提供する。一態様においては、本発明は、本明細書に記載のCD16A結合タンパク質を発現する細胞系、必要に応じて、哺乳動物細胞系を提供する。
【0021】
本発明はさらに、本明細書に記載のCD16A結合タンパク質を哺乳動物に投与することを含む、該哺乳動物における有害な免疫応答(または望ましくない免疫応答)を低下させる方法を提供する。一実施形態においては、有害な免疫応答を低下させることは、抗体を介する血小板枯渇に対して防御することを含む。
【0022】
一態様においては、本発明は、哺乳動物において好中球減少症(例えば、重篤な好中球減少症または中程度の好中球減少症)を誘導することなく、該哺乳動物における有害な免疫応答を治療する方法であって、該方法はヒトIgGから誘導されたFc領域を有するCD16A結合タンパク質を該哺乳動物に投与することを含み、該Fc領域の位置297のアミノ酸がアグリコシルである、前記方法を提供する。
【0023】
上記方法の実施形態においては、有害な免疫応答は、炎症性応答、例えば、自己免疫疾患により引き起こされる炎症性応答である。一実施形態においては、炎症性応答は、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、慢性関節リウマチ(RA)、全身性エリテマトーデス(SLE)、自己免疫性溶血性貧血(AHA)、強皮症、自己抗体により誘発されたじんましん、天疱瘡、脈管症候群、全身性脈管炎、グッドパスチャー症候群、多発性硬化症(MS)、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、シェーグレン症候群、ライター症候群、川崎病、多発性筋炎および皮膚筋炎により引き起こされる。本発明に従って治療することができる疾患または症状の他の例としては、静脈内免疫グロブリン(IVIG)治療を用いる治療に影響を受けやすい任意の疾患(例えば、アレルギー性喘息)も挙げられる。本発明は、自己免疫疾患に対して防御し、哺乳動物における有意な好中球減少ももたらさないCD16A結合タンパク質を提供する。一実施形態においては、CD16A結合タンパク質は、抗CD16A抗体である。これらのCD16A結合タンパク質は、ヒトの治療剤としての使用にとって特に有利である。一態様においては、本発明は、ヒトIgGから誘導されたFc領域およびFc領域のCH2ドメインの各々の位置297のアグリコシルアミノ酸を有するCD16A結合タンパク質を投与することにより、好中球減少を有さない哺乳動物における自己免疫疾患または該哺乳動物における好中球減少症を治療する方法を提供する。
【0024】
別のさらなる態様においては、本発明は、CD16A結合タンパク質が細胞上のFcγRIIIに結合する条件下で、該細胞をCD16A結合タンパク質と接触させることにより、該細胞上でのIgG抗体のFcγRIIIへの結合を阻害する方法を提供する。
【0025】
一態様においては、本発明は、有害な免疫応答の治療において治療効果が改善されたCD16A結合タンパク質を作製する方法であって、以下の工程:i) IgGから誘導されたFc領域を含む第1のCD16A結合タンパク質を取得すること;およびii) 第1のCD16A結合タンパク質よりも、哺乳動物に投与した場合に有害な免疫応答の治療において有効である、Fc領域の位置297でアグリコシル化された第2のCD16A結合タンパク質を作製するために第1のCD16A結合タンパク質のFc領域を改変すること、を含む前記方法を提供する。
【0026】
一態様においては、本発明は、有害な免疫応答の治療において治療効果が改善されたCD16A結合タンパク質を作製する方法であって、以下の工程:i) IgGから誘導されたFc領域を含む第1のCD16A結合タンパク質を取得すること;およびii) 第1のCD16A結合タンパク質よりも、哺乳動物に投与した場合に有害な免疫応答の治療において有効である、第1のCD16A結合タンパク質の未改変のFc領域と比較してFcエフェクターリガンドへの結合が低下した第2のCD16A結合タンパク質を作製するために第1のCD16A結合タンパク質のFc領域を改変すること、を含む前記方法を提供する。一実施形態においては、Fcエフェクターリガンドは、FcγRIIIまたは補体のC1q成分である。
【0027】
一態様においては、前記方法は、3G8投与の結果である1種以上の有意な有害作用を引き出すか、またはマウス3G8の投与よりも有意に低いレベルのそのような作用を引き出すことなく、被験体における有害な免疫応答を低下させるためにCD16A結合タンパク質を投与することを含む。
【0028】
本発明の一実施形態においては、有害な免疫応答の治療における治療効果の改善は、抗体を介する血小板枯渇に対する防御における有効性の改善を含む。有害な免疫応答は、必要に応じて、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)またはmuFcγRIII-/-、huFcγRIIIAトランスジェニックマウスへの日常的なモノクローナル抗体6A6の投与に起因するものである。
【0029】
本発明は、免疫障害の治療のため、または免疫障害の治療のための薬剤の調製のための、エフェクター機能を欠く、ヒトIgG重鎖から誘導されたFc領域を含むCD16A結合タンパク質の使用を提供する。他の実施形態においては、本発明は、免疫障害の治療のため、または免疫障害の治療のための薬剤の調製のための、エフェクター機能が低下した、ヒトIgG重鎖から誘導されたFc領域を含むCD16A結合タンパク質の使用を提供する。
【0030】
治療用モノクローナル抗体の使用は、「初回投与」副作用の問題により制限される。軽度な流感様徴候から重篤な毒性までの初回投与副作用は、軽度から重篤までであってよく、高熱、寒気/悪寒、頭痛、震え、吐気/嘔吐、下痢、腹痛、倦怠感、筋肉/関節のアーチおよび疼痛、ならびに全身衰弱などの徴候が挙げられる。初回投与副作用は、FcγR含有細胞上でFcγRに結合し、かつFcγRを活性化するmAbのFc領域により刺激されるリンホカイン産生およびサイトカイン放出により引き起こされると考えられる。
【0031】
かくして、本発明は、1個以上のFcγRへのFcの結合を減少させるか、または排除することにより、初回投与副作用に関連する少なくとも1つの徴候を減少させるか、または排除するCD16A結合タンパク質を包含する。そのようなCD16A結合タンパク質は、野生型Fc領域と比較して、1個以上のアミノ酸改変を有する変異体Fc領域を含む。この改変は、比較可能な野生型Fc領域と比較して、1個以上のFcγRへのFcの結合を減少させるか、または排除する。典型的には、この改変はアミノ酸置換である。しかしながら、前記改変はアミノ酸挿入および/または欠失であってもよい。典型的には、前記改変を、CH2および/またはヒンジ領域中で行う。あるいは、1個以上のFcγRへのFcの結合を、1個以上のFc領域上の1個以上のグリコシル基を変化させるか、または排除することにより減少または排除することができる。Fcグリコシル化を、当業界でよく知られた方法により変化させるか、または排除することができる。例えば、Fcグリコシル化を、フコシル化において欠損した細胞(例えば、fuc6ヌル細胞)中でFcを産生させることにより変化させるか、または脱グリコシル化酵素もしくはグリコシル化部位(例えば、CH2ドメイン中の位置297-299のN-X-S/Tグリコシル化部位)を変化させるか、もしくは排除するアミノ酸改変により排除することができる。FcγR結合を、当業界で公知の、かつ本明細書に例示された標準的な方法を用いて測定することができる。かくして、本発明の抗体は、リンホカイン産生またはサイトカイン放出により引き起こされるそれらのin vivoでの毒性が低下するか、またはなくなるため、特に有用である。
【0032】
リンホカイン産生およびサイトカイン放出を測定する方法は、当業界で公知かつ日常的であり、本明細書に包含される。例えば、限定されるものではないが、TNF-α、GM-CSF、IFN-γなどのサイトカインの分泌を測定することにより、サイトカイン放出を測定することができる。例えば、米国特許第6,491,916号; Isaacsら、2001, Rheumatology, 40: 724-738 (それぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする)を参照されたい。限定されるものではないが、インターロイキン-2(IL-2)、インターロイキン-4(IL-4)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-12(IL-12)、インターロイキン-16(IL-16)、PDGF、TGF-α、TGF-β、TNF-α、TNF-β、GCSF、GM-CSF、MCSF、IFN-α、IFN-β、TFN-γ、IGF-I、IGF-IIなどのリンホカインの分泌を測定することにより、リンホカイン産生を測定することができる。例えば、Isaacsら、2001, Rheumatology, 40: 724-738; Soubraneら、1993, Blood, 81(1): 15-19(それぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする)を参照されたい。
【0033】
本明細書で用いられる用語「Fc領域」は、IgG重鎖のC末端領域を定義するのに用いられる。境界はわずかに変化してよいが、ヒトIgG重鎖Fc領域は、Cys226からカルボキシ末端まで伸びると定義される。IgGのFc領域は、2個の定常ドメイン、CH2およびCH3を含む。ヒトIgG Fc領域のCH2ドメインは通常、アミノ酸231からアミノ酸341まで伸びる。ヒトIgG Fc領域のCH3ドメインは通常、アミノ酸342から447まで伸びる。ヒトIgG Fc領域のCH2ドメイン(「Cγ2」ドメインとも呼ぶ)は通常、アミノ酸231から340まで伸びる。CH2ドメインは、別のドメインと密接に対になっていない点でユニークである。むしろ、2個のN結合分枝状炭水化物鎖が、無傷の天然IgGの2個のCH2ドメインの間に割り込んでいる。
【0034】
本明細書を通して、IgG重鎖における残基の番号付けは、参照により明確に本明細書に組み入れられるものとする、Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service, NH1, MD (1991)に記載のEU指標のものである。「Kabatに記載のEU指標」とは、ヒトIgG1 EU抗体の番号付けを指す。
【0035】
「ヒンジ領域」は、一般的には、ヒトIgG1のGlu216からPro230まで伸びるものとして定義される。同じ位置に重鎖間S-S結合を形成する最初の、および最後のシステイン残基を置くことにより、他のIgGアイソタイプのヒンジ領域をIgG1配列と整列させることができる。
【0036】
初回投与副作用と関連する少なくとも1個の徴候を減少させるか、または排除するであろうFc改変の例としては、限定されるものではないが、位置233でのプロリンによる置換;または位置235でのアラニンによる置換、もしくは位置235でのアラニンによる置換、または位置234でのアラニンによる置換および位置235でのアラニンによる置換、もしくは位置238でのアルギニンによる置換;または位置265でのアラニンによる置換;または位置265でのグルタミン酸による置換;または位置270でのアラニンによる置換;または位置270でのアスパラギンによる置換;または位置297でのアラニンもしくはグルタミンによる置換;または位置298でのプロリンもしくはアスパラギンによる置換;または位置299でのセリンもしくはトレオニン以外の任意のアミノ酸による置換;または位置265でのアラニンによる置換および位置297でのアラニンによる置換;または位置265でのアラニンによる置換および位置297でのグルタミンによる置換;または位置265でのグルタミン酸による置換および位置297でのアラニンによる置換;または位置265でのグルタミン酸による置換および位置297でのグルタミンによる置換を有するものが挙げられる。本発明はさらに、本明細書に列挙される変異体のいずれかの組合せを包含する。
【0037】
本発明は、有効量の1種以上の本発明の抗体を投与することを含む、患者における初回投与副作用に関連する少なくとも1個の徴候を減少させるか、または排除する方法を包含する。本発明の方法は、限定されるものではないが、高熱、寒気/悪寒、頭痛、震え、吐気/嘔吐、下痢、腹痛、倦怠感、筋肉/関節のアーチおよび疼痛、ならびに全身衰弱などのサイトカイン放出症候群に関連する少なくとも1つの徴候を減少させる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
1. 定義
特に定義しない限り、本明細書で用いられる全ての業界用語、表記および他の科学的用語または専門用語は、本発明が属する分野の通常の知識を有する者により一般的に理解される意味を有することが意図される。いくつかの事例においては、明確性のため、および/または参照を容易にするために、一般的に理解される意味を有する用語を本明細書で定義し、本明細書に記載のそのような定義の包含は、必ずしも当業界で一般的に理解されるものと実質的な差異を示すと解釈すべきではない。本発明の実施は、特に指摘しない限り、当業界の技術の範囲内にある、分子生物学(組換え技術など)、微生物学、細胞生物学、生化学、核酸化学、および免疫学の従来の技術を用いるであろう。そのような技術は、Current Protocols in Immunology (J.E. Coliganら(編)、1999, 2001までの補遺を含む); Current Protocols in Molecular Biology (F.M. Ausubelら(編)、1987, 2001までの補遺を含む); Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第3版(SambrookおよびRusset, 2001); PCR: The Polymerase Chain Reaction, (Mullisら(編)、1994); The Immunoassay Handbook (D. Wild(編)、Stockton Press NY, 1994); Bioconjugate Techniques (Greg T. Hermanson(編)、Academic Press, 1996); Methods of Immunological Analysis (R. Masseyeff, W.H. Albert,およびN.A. Staines(編)、Weinheim: VCH Verlags gesellschaft mbH, 1993); HarlowおよびLane、Using Antibodies: A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 1999;ならびにBeaucageら(編)、Current Protocols in Nucleic Acid Chemistry John Wiley & Sons, Inc., New York, 2000などの文献に完全に説明されている。
【0039】
用語「重鎖」、「軽鎖」、「可変領域」、「フレームワーク領域」、「定常ドメイン」などは、免疫学の分野でその通常の意味を有し、天然の免疫グロブリンおよび合成(例えば、組換え)結合タンパク質(例えば、ヒト化抗体)の対応するドメインを指す。天然の免疫グロブリン(例えば、IgG)の基本構造単位は、2個の軽鎖および2個の重鎖を有するテトラマーである。通常、天然の免疫グロブリンは、約150,000ダルトンの糖タンパク質として発現されるが、以下に記載のように、IgGを非グリコシル化形態で産生させることもできる。各鎖のアミノ末端(「N」)部分は、主に抗原認識を担う約100〜110個以上のアミノ酸の可変領域を含む。各鎖のカルボキシ末端(「C」)部分は、1個の定常ドメインを有する軽鎖および通常は3個の定常ドメインとヒンジ領域を有する重鎖と共に、定常領域を定義する。かくして、IgG分子の軽鎖の構造は、N-VL-CL-Cであり、IgG重鎖の構造はN-VH-CH1-H-CH2-CH3-C(式中、Hはヒンジ領域である)である。相補性決定領域(CDR)からなるIgG分子の可変領域は、フレームワーク断片と呼ばれる、抗原および非CDR断片と接触した残基を含み、CDRループの構造を維持し、その位置を決定する。かくして、VLおよびVHドメインは、構造N-FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4-cを有する。
【0040】
本明細書で用いられる用語「CD16A結合タンパク質」、「CD16A抗体」、および「抗CD16A抗体」は、互換的に用いられ、様々な免疫グロブリン様タンパク質または免疫グロブリン由来タンパク質を指す。「CD16A結合タンパク質」は、VLおよび/またはVHドメインとの相互作用(Fcを介する結合とは異なる)を介してCD16Aに結合する。CD16A結合タンパク質の例としては、キメラ、ヒト化およびヒト抗体(例えば、2個の重鎖および2個の軽鎖を含む)、そのフラグメント(例えば、Fab、Fab'、F(ab')2、およびFvフラグメント)、二官能性もしくは多官能性抗体(例えば、Lanzavecchiaら、1987, Eur. J. lmmunol. 17:105を参照)、一本鎖抗体(例えば、Birdら、1988, Science 242:423-26を参照)、融合タンパク質(例えば、ファージ展示融合タンパク質)、「ミニ抗体」(例えば、米国特許第5,837,821号を参照)ならびにVLおよび/もしくはVHドメインまたはその断片を含む他の抗原結合タンパク質が挙げられる。一態様においては、CD16A結合タンパク質は、「テトラマー抗体」、すなわち、一般的には、天然のIgGの構造を有し、可変ドメインおよび定常ドメインを共に含む(すなわち、VLドメインとヒトCκなどの軽鎖定常ドメインとを含む2個の軽鎖およびVHドメインと重鎖ヒンジとヒトCγ1などの定常ドメインとを含む2個の重鎖)。明確に注記されるものを除いて、マウス抗体3G8はCD16A結合タンパク質の定義から特に排除される。
【0041】
結合タンパク質または抗体(本明細書で広く定義される)に言及する場合、各ドメインへのアミノ酸の割り当ては、Kabat, Sequences of Proteins of Immunological Interest (National Institutes of Health, Bethesda, Md., 1987および1991)の定義に従うものとする。免疫グロブリンの成熟な重鎖および軽鎖の可変領域に由来するアミノ酸を、該鎖におけるアミノ酸の位置により指定する。Kabatは、多くの抗体のアミノ酸を記載し、各サブグループのアミノ酸共通配列を同定し、および各アミノ酸に残基番号を割り当てた。Kabatの番号付けスキームは、問題の抗体を、保存されたアミノ酸に対する参照によりKabatの共通配列の1つと整列させることにより、彼の抄録に含まれない抗体にも拡張可能である。残基番号を割り当てるためのこの方法は、当業界で標準的になってきており、キメラまたはヒト化変異体などの種々の抗体における同じ位置のアミノ酸を容易に同定することができる。例えば、ヒト抗体軽鎖の位置50のアミノ酸は、マウス抗体軽鎖の位置50のアミノ酸と同じ位置を占める。かくして、キメラまたはヒト化抗体の文脈において本明細書で用いられる場合、「Fc領域の位置297での」などの参照は、対応するヒト免疫グロブリンの位置297に対応する、免疫グロブリン鎖中のアミノ酸位置、免疫グロブリン鎖の領域、または免疫グロブリン鎖から誘導されたポリペプチドの領域を指す。
【0042】
免疫グロブリンの「Fc領域」とは、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を指す。Fc領域の境界はいくらか変化してもよいが、通常、Fc領域はポリペプチドのカルボキシ末端に伸びる(およびCH2とCH3ドメインを包含する)位置226-230ほどである。ヒトFc領域の配列は、Kabat、上掲に見出される。さらに、種々のアロタイプ変異体が存在することが知られている。
【0043】
「Fcエフェクターリガンド」は、IgG抗体のFc領域に結合することによって、病原体の消失および破壊をもたらすエフェクター機構を活性化するリガンドである。Fcエフェクターリガンドとしては、3種の細胞性Fc受容体型-FcRγI、FcRγII、およびFcRγIIIが挙げられる。3種のFc受容体型の各々の複数のアイソフォームも含まれる。従って、用語「Fcエフェクターリガンド」は、FcγRIIIA(CD16A)およびFcγRIIIB(CD16B)の両方を含む。用語「Fcエフェクターリガンド」はまた、新生児のFc受容体(Fcγn)および補体のC1q成分も含む。Fc受容体へのIgGの結合は、抗体依存的細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)、炎症メディエーターの放出、抗体産生の制御、免疫複合体の消失および抗体でコーティングされた粒子の破壊などの様々な生物学的プロセスを誘発する。IgGへの補体のC1q成分の結合は、補体系を活性化させる。補体の活性化は、オプソニン作用、細胞病原体の溶解、および炎症応答において重要な役割を果たしている。
【0044】
本明細書で用いられる「エフェクター機能」とは、抗体のFc領域と、Fc受容体またはリガンドとの相互作用の結果起こる生化学的事象を指す。エフェクター機能としては、限定されるものではないが、抗体依存的細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)、抗体依存的細胞媒介性食作用(ADCP)、および補体依存的細胞傷害性(CDC)が挙げられる。エフェクター機能は、抗原の結合後に動作するものおよび抗原結合とは無関係に動作するものの両方を含む。
【0045】
本明細書で用いられる場合、「エフェクター機能を欠く」Fc領域は、Fc受容体に結合せず、および/または補体のC1q成分に結合せず、そのような結合に特徴的な生物学的応答を誘発しない。本明細書で用いられる場合、「エフェクター機能が低下した」Fc領域は、Fc受容体に対する親和性が低下し、および/または補体のC1q成分に対する親和性が低下し、かくして、そのような結合に特徴的な生物学的応答を誘発する効率が低い。エフェクター機能が低下したFc領域を含む分子は、野生型エフェクター機能活性を有する野生型Fc領域を含む分子と比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも50%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも99%低下したエフェクター機能活性を有してもよい。
【0046】
用語「グリコシル化部位」とは、糖残基の結合のための位置として哺乳動物細胞により認識されるアミノ酸残基を指す。オリゴサッカリドなどの炭水化物が結合するアミノ酸残基は、通常、アスパラギン(N-結合)、セリン(O-結合)、およびトレオニン(O-結合)残基である。結合の特定の部位は、通常、「グリコシル化部位配列」と呼ばれる特徴的なアミノ酸の配列を有する。N-結合したグリコシル化のためのグリコシル化部位配列は、-Asn-X-Ser-または-Asn-X-Thr(式中、Xはプロリン以外の従来のアミノ酸のいずれかであってよい)である。ヒトIgGのFc領域は、2個のグリコシル化部位を有し、1つはCH2ドメインの各々におけるものである。ヒトIgGのCH2ドメイン中のグリコシル化部位で起こるグリコシル化は、位置297のアスパラギン(Asn 297)でのN-結合グリコシル化である。
【0047】
用語「キメラ」は、抗体に関して言及する場合、当業界における通常の意味を有し、重鎖および/もしくは軽鎖の一部がある種(例えば、マウス)に由来する抗体と同一であるか、または相同であるが、残りの部分が別の種(例えば、ヒト)の抗体と同一であるか、または相同である抗体を指す。
【0048】
本明細書で用いられる用語「ヒト化」は、当業界におけるその通常の意味を有する。一般的な用語では、非ヒト抗体のヒト化は、非ヒト免疫グロブリンVLおよびVH領域に由来するCDR配列を、ヒトフレームワーク領域中で置換することを含む。さらに、本明細書で用いられる「ヒト化」抗体は、親和性を増加させるため、または他の目的のために導入されたCDRおよび/またはフレームワーク領域中にさらなる置換および突然変異を含んでもよい。例えば、ヒト配列中の非ヒトフレームワーク残基の置換は、親和性を増加させることができる。例えば、Jonesら、1986, Nature 321:522-25; Queenら、1989, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 86:10029-33; FooteおよびWinter, 1992, J Mol. Biol. 224:487-99; Chothiaら、1989, Nature 342:877-83; Riechmannら、1988, Nature 332:323-27; Coら、1991, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 88:2869-73; Padlan, 1991, Mol. Immunol. 28:489-98を参照されたい。得られる可変ドメインは、非ヒトCDR配列と、ヒト抗体フレームワーク配列またはヒト共通配列(例えば、Kabat、上掲に開示されたもの)から誘導されたフレームワーク配列とを有する。様々な異なるヒトフレームワーク領域を、本発明のヒト化モノクローナル抗体の基礎として、単独で、または組合わせて用いることができる。ヒト化抗体のフレームワーク配列は、「実質的にヒト」であり、これは少なくとも約70%のヒト抗体配列、通常は少なくとも約80%のヒト配列、および最も頻繁には少なくとも約90%のフレームワーク配列が、ヒト抗体配列に由来するものであることを意味する。いくつかの実施形態においては、実質的にヒトのフレームワークは、VH FR4ドメイン(例えば、配列番号64)の位置113にセリンを含む。本明細書で用いられる「ヒト化抗体」は、テトラマー抗体に加えて、非ヒト抗体から誘導されたCDRと、ヒトフレームワーク領域から誘導されたフレームワーク配列とを含む一本鎖抗体、抗体フラグメントなどを含む。
【0049】
本明細書で用いられる「哺乳動物」としては、ヒト、非ヒト霊長類、マウスおよびラットなどのげっ歯類、ならびに他の哺乳動物が挙げられる。
【0050】
本明細書で用いられる「好中球減少症」は、その通常の意味を有し、血液中に循環する好中球の数が異常に低い状態を指す。ヒト血液における好中球の正常なレベルは、年齢および種族によってわずかに変化する。平均成体レベルは、血液1 mm3あたり約1500個の細胞である。500細胞/mm3未満の好中球計数は、重篤な感染の大きな危険性をもたらす。一般的には、ヒトにおける、重篤な好中球減少症は、約500細胞/mm3未満の血液好中球計数により定義され、中程度の好中球減少症は、約500〜1000細胞/mm3の血液好中球計数を特徴とする。
【0051】
本明細書で用いられる「治療」とは、治療しようとする個体または細胞の疾患経過を変化させる試みにおける臨床的な介入を指し、予防のために、または臨床病理の経過の間に実施することができる。治療の治療的効果としては、限定されるものではないが、疾患の発生もしくは再発の防止、徴候の軽減、疾患の任意の直接的もしくは間接的な病理学的結果の減少、疾患の進行速度の低下、疾患状態の軽減もしくは緩和、および寛解もしくは予後の改善が挙げられる。
【0052】
「有効量」は、治療の際に有益な、または望ましい臨床的結果を得るのに十分な量である。有効量を、1回以上の用量で患者に投与することができる。「治療上有効量」は、疾患の進行を緩和し、軽減し、安定化し、逆転させるか、もしくは遅延させるか、またはさもなければ、疾患の病理学的結果を減少させるか、または疾患の徴候を減少させるのに十分である量である。軽減または減少は、永続的である必要はなく、通常は永続的ではないが、少なくとも1時間、少なくとも1日、または少なくとも1週間以上の期間であってよい。有効量は、一般的には、一件一件に基づいて医師により決定され、当業者の技術の範囲内にある。典型的には、有効量を達成するための好適な用量を決定する場合には、いくつかの因子を考慮に入れる。これらの因子としては、患者の年齢、性別および体重、治療しようとする症状、症状の重篤度ならびに投与される結合タンパク質の形態および有効濃度が挙げられる。「炎症を減少させる量」は、被験体における炎症を減少させる量である。炎症における減少を、C反応性タンパク質レベルの低下、補体の消費の低下、炎症の部位(例えば、RAを有する被験体における関節、狼瘡を有する被験体における腎臓、ミエリン鞘など)での免疫複合体蓄積の減少、サイトカイン放出の減少、マクロファージおよび好中球の移動などの当業界で公知の基準により評価することができる。
【0053】
本明細書で用いられる「実質的な配列同一性」とは、最大の一致と比較し、整列した場合、少なくとも約80%のアミノ酸残基同一性、好ましくは少なくとも約90%、もしくは少なくとも約95%の同一性を有する2個以上の配列またはサブ配列(例えば、ドメイン)を指す。2個の類似する配列(例えば、抗体可変領域)間の配列同一性を、(1)配列の全体の長さに渡るか、もしくは異なる長さのものである場合、2個の配列の短い方の全体の長さに渡る(および整列された配列もしくは整列された配列の短い方の長さが「L」残基である場合)同一性の総数を最大化させるために配列を整列させること;(2)アミノ酸同一性が存在する位置の数(比較から除外されると指定された数の「E」残基を含まない)を計測すること(ここで、同一性の数を「N」と命名する);(3)ならびにNを「L」-「E」により除算することにより測定することができる。例えば、6個の特定の残基が比較から除外され、残りの74個の位置に65個の同一性が存在する、それぞれ長さ80残基の2つの配列の比較においては、配列同一性はN/(L-E)または65/(80-6)または87.8%である(説明のためであって、限定されるものではないが、それらが融合タンパク質の非抗体ドメインにある場合、残基を計算から「除外されるもの」として特定することができる)。あるいは、最適のアラインメントおよび配列同一性を、Smith & Waterman, 1981, Adv. Appl. Math. 2:482 [局所相同性アルゴリズム]、Needleman & Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48:443 [相同性アラインメントアルゴリズム]、Pearson & Lipman, 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:2444[類似性検索方法]、またはAltschulら、1990, J. Mol. Biol. 215:403-10 [BLASTアルゴリズム]に記載のアルゴリズムのコンピューター化された実行により算出することができる。Ausubelら、上掲、ならびにWisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, WI中でのGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTAを参照されたい。上記のアルゴリズムのいずれかを用いる場合、デフォルトパラメーター(Window長、ギャップペナルティなどに関する)を用いる。配列同一性の程度が少なくとも約70%同一であり、好ましくは少なくとも約80%、もしくは少なくとも約90%、もしくはさらに少なくとも約95%同一である場合、アミノ酸または核酸配列は、第2の配列と「実質的に類似する」。実質的に同一である配列はまた、実質的に類似している。
【0054】
本明細書で用いられる、ポリペプチド、ポリペプチドドメインもしくは領域、またはアミノ酸配列は、2つの配列が同一であるか、または実質的に類似しており、類似する生物学的機能を有する場合、別のもの「から誘導される」。例えば、ヒト化マウスモノクローナル抗体においては、相補性決定領域(CDR)は、マウスモノクローナル抗体の対応するCDR「から誘導され」、可変ドメインフレームワーク領域を、対応するヒト抗体のフレームワーク配列「から誘導する」ことができる。1個のドメインなどを、例えば、本明細書に記載のものなどの、該ドメインなどが含まれるタンパク質の結合親和性もしくは他の特性に影響するか、またはあるいは、それらを変化させない突然変異の導入に起因して、2つの配列が異なる場合でも、親のドメインなどから誘導することができることが明らかであろう。また、通常、親ドメインなど「から誘導された」ドメインなどは、親分子に由来する物質(例えば、遺伝的物質)または情報(例えば、ヌクレオチドもしくはアミノ酸配列)を用いて作製、産生または設計されることも理解されるであろう。
【0055】
アミノ酸については、標準的な省略形を用いる:アラニン、Ala(A);セリン、Ser(S);トレオニン、Thr(T);アスパラギン酸、Asp(D);グルタミン酸、Glu(E);アスパラギン、Asn(N);グルタミン、Gln(Q);アルギニン、Arg(R);リジン、Lys(K);イソロイシン、Ile(I);ロイシン、Leu(L);メチオニン、Met(M);バリン、Val(V);フェニルアラニン、Phe(F);チロシン、Tyr(Y);トリプトファン、Trp(W);グリシン、Gly(G);ヒスチジン、His(H);プロリン、Pro(P);およびシステイン、Cys(C)。
【0056】
本明細書で用いられる「GMA-161」とは、VL鎖が配列番号98に記載の配列を有し、VH鎖が配列番号120に記載の配列を有するCD16A結合タンパク質を指す。
【0057】
2. 序論
FcγRIIIA受容体CD16Aは、細胞傷害性および免疫複合抗体をエフェクター応答に共役させることにおいて役割を果たしている。自己免疫疾患および他の病理学的状態に存在するFcγRIIIA受容体と免疫グロブリン凝集物(例えば、免疫複合体)との相互作用は、被験体において有害な炎症性応答をもたらすと考えられる。特定の機構により束縛されることを意図するものではないが、FcγRIIIA受容体(一般的には、本明細書では「CD16A」または「CD16A受容体」と呼ばれる)と免疫グロブリン凝集物の相互作用を減少させることは、この炎症性応答を軽減するであろうと考えられる。また、特定の機構により束縛されることを意図するものではないが、CD16Aと免疫グロブリン凝集物との相互作用を減少させるための1つの方法は、該相互作用を阻害するための、抗CD16A抗体、または他のCD16A結合タンパク質の使用によるものである。
【0058】
モノクローナル抗体3G8(「mAb 3G8」)は、1 x 109 M-1のKaでヒトCD16AおよびBのFc結合ドメインに結合するマウスモノクローナル抗体である(Fleitら、1982, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 79:3275-79)。3G8は、単離されたヒトNK細胞、単球および好中球、ならびにCD16Aによりトランスフェクトされた293細胞への、ヒトIgG1免疫複合体の結合を阻害する。mAb 3G8を、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の治療のためにヒト患者に投与する実験を行った(Clarksonら、1986, N. Engl. J Med. 314:1236-39; Soubraneら、1993, Blood 81:15-19)。3G8抗体の投与は、血小板レベルの増加をもたらし、HAMA応答、サイトカイン放出症候群、および/または明白な好中球減少症などの1つ以上の有意な副作用を伴うことが報告された。
【0059】
本発明は、ヒト化および/またはアグリコシル化モノクローナル抗体などの新規CD16A結合タンパク質、ならびに該タンパク質を投与することにより被験体における有害な免疫応答を減少させるための方法を提供する。これらの結合タンパク質の投与は、2つの異なる自己免疫疾患:自己免疫性溶血性貧血(AHA)および特発性血小板減少性紫斑病のよく確立されたモデルにおいて防御的であることが示されている。これらの結果は、他の自己免疫疾患についても同様にこの治療が有効であることを示している。さらに、本発明者らは、予想外にも、エフェクター機能が変化した抗CD16A抗体(例えば、アグリコシル化抗体)の投与が、急性の重篤な好中球減少症を誘導することなく、自己免疫障害に特徴的な有害な免疫応答に対して防御することを発見した。かくして、本発明は、代替的な治療を用いる場合に観察される明白な副作用なしに、抗体を介して行われる自己免疫症状の治療のための新しい試薬および方法を提供する。
【0060】
3. CD16A結合タンパク質
種々のCD16A結合タンパク質を、本発明の方法において用いることができる。好適なCD16A結合タンパク質としては、ヒトもしくはヒト化モノクローナル抗体ならびにCD16A結合抗体フラグメント(例えば、scFvもしくは一本鎖抗体、Fabフラグメント、ミニ抗体)および軽鎖可変領域ドメイン、重鎖可変領域ドメイン、もしくはその両方との相互作用を介してCD16Aに結合する別の抗体様タンパク質が挙げられる。
【0061】
いくつかの実施形態においては、本発明に従う使用のためのCD16A結合タンパク質は、マウス抗CD16A抗体などの、非ヒト抗CD16A抗体から誘導された配列を有する1個以上のCDR、および1種以上のヒト免疫グロブリンのフレームワーク配列から誘導された1個以上のフレームワーク領域を有するVLおよび/またはVHドメインを含む。CDRおよび他の配列を取得することができるいくつかの非ヒト抗CD16Aモノクローナル抗体が公知である(例えば、TammおよびSchmidt, 1996, J. Immunol. 157:1576-81; Fleitら、1982, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 79:3275-79; LEUKOCYTE TYPING II: Human Myeloid and Hematopoietic Cells, Reinherzら(編)、New York: Springer-Verlag; 1986; LEUCOCYTE TYPING III: White Cell Differentiation Antigens McMichael AJ(編)、Oxford: Oxford University Press, 1986); Leukocyte Typing IV: White Cell Differentiation Antigens, Kappら(編)、Oxford Univ. Press, Oxford; Leukocyte Typing V: White Cell Differentiation Antigens, Schlossmanら(編)、Oxford Univ. Press, Oxford; Leukocyte Typing VI: White Cell Differentiation Antigens, Kishimoto(編)、Taylor & Francisを参照されたい)。さらに、実施例に示されるように、細胞上で発現されるヒトCD16Aを認識する新しいCD16A結合タンパク質を、モノクローナル抗体または関連する結合タンパク質の産生および選択のためのよく知られた方法(例えば、ハイブリドーマ技術、ファージ展示など)を用いて取得することができる。例えば、O’Connelら、2002, J. Mol. Biol. 321:49-56; HoogenboomおよびChames, 2000, Imm. Today 21:371078; Krebsら、2001, J. Imm. Methods 254:67-84;ならびに本明細書に記載の他の参考文献を参照されたい。非ヒト種由来のモノクローナル抗体を、当業界で公知の抗体ヒト化の技術を用いてキメラ化またはヒト化することができる。
【0062】
あるいは、CD16Aに対する完全なヒト抗体を、ヒト免疫系のエレメントを有するトランスジェニック動物(例えば、米国特許第5,569,825号および5,545,806号を参照)、ヒト末梢血細胞(Casaliら、1986, Science 234:476)を用いて、Huseら、1989、Science 246:1275により概略された一般的プロトコルに従ってヒトB細胞に由来するDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、および他の方法により、作製することができる。
【0063】
いくつかの目的のためには、3G8により結合した同じエピトープで、または3G8による結合を阻害するのにこのエピトープに少なくとも十分近い位置でCD16A受容体に結合するCD16A結合タンパク質を使用することが有利であってよいことが意図される。所望の結合特性を有する結合タンパク質を同定するためのエピトープマッピングおよび競合的結合実験のための方法は、実験免疫学の分野の当業者にはよく知られている。例えば、HarlowおよびLane,上掲; Stahlら、1983, Methods in Enzymology 9:242-53; Kirklandら、1986, J. Immunol. 137:3614-19; Morelら、1988, Molec. Immunol. 25:7-15; Cheungら、1990, Virology 176:546-52;ならびにMoldenhauerら、1990, Scand. J. Immunol. 32:77-82を参照されたい。また、以下の実施例およびセクション3G(i)も参照されたい。例えば、2つの抗体が、ELISAプレート上の抗原を捕捉する抗体の1つを用いることにより同じ部位に結合するかどうかを決定した後、第2抗体が捕捉された抗原に結合する能力を測定することができる。エピトープ比較を、第1抗体を、直接的または間接的に、酵素、放射性核種またはフルオロフォアを用いて標識し、標識されていない第2抗体が、溶液中、または固相上で、細胞上の抗原への第1抗体の結合を阻害する能力を測定することにより達成することもできる。
【0064】
また、抗体が、ELISAプレート上で形成された免疫複合体へのCD16A受容体の結合を阻害する能力を測定することもできる。そのような免疫複合体を、最初にフルオレセインなどの抗原でプレートをコーティングした後、該プレートに特定の抗フルオレセイン抗体を適用することにより形成させる。次いで、この免疫複合体は、sFcγRIIIaなどの可溶性Fc受容体のリガンドとして役立つ。あるいは、可溶性免疫複合体を形成させ、酵素、放射性核種またはフルオロフォアで直接的または間接的に標識することができる。次いで、溶液中または固相上で、細胞上のFc受容体へのこれらの標識された免疫複合体の結合を阻害する抗体の能力を測定することができる。
【0065】
本発明のCD16A結合タンパク質は、ヒト免疫グロブリンFc領域を含んでも含まなくてもよい。Fc領域は、例えば、scFv結合タンパク質中に存在しない。Fc領域は、例えば、ヒトまたはヒト化テトラマーモノクローナルIgG抗体中に存在する。以下に詳細に説明するように、本発明のいくつかの実施形態においては、CD16A結合タンパク質は、エフェクター機能が変化した、例えば、未変化のFc領域(例えば、天然のIgG1タンパク質のFc)と比較して、Fc受容体または補体のCI成分などのエフェクターリガンドに対する親和性が低下したFc領域を含む。一実施形態においては、Fc領域は位置297に対応するFc領域のアミノ酸でグリコシル化されていない。そのような抗体は、Fcエフェクター機能を欠く。
【0066】
かくして、本発明のいくつかの実施形態においては、CD16A結合タンパク質は、結合タンパク質におけるFcドメインの不在に起因して、Fc受容体または補体のC1成分などのエフェクターリガンドへのFcを介する結合を示さないが、他の場合では、結合またはエフェクター機能の欠如は抗体の定常領域における変化に起因するものである。
【0067】
本発明は、1個以上の領域中に1個以上のアミノ酸改変(例えば、置換、しかし挿入もしくは欠失も含む)を有する変異体Fc領域を含み、その改変が、FcγRに対する該変異体Fc領域の親和性を変化させる、例えば、増加させるか、または低下させる、CD16A結合タンパク質を包含する。そのような変異体Fc領域の例は、2004年1月9日に提出された、米国特許継続出願第10/754,922号および2004年7月28日に提出された同第10/902,588号(それぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする)に開示されている。いくつかの実施形態においては、本発明は、変異体Fc領域が、野生型Fc領域と比較して、少なくとも1個のアミノ酸改変を含み、該変異体Fc領域が任意のFcγRに結合しないか、または当業者には公知の標準的なアッセイ(例えば、in vitroアッセイ)により決定されるように、野生型Fc領域を含む比較可能な分子と比較して、低下した親和性で結合する、該変異体Fc領域を含むCD16A結合タンパク質を包含する。そのような変異体の例としては、限定されるものではないが、位置233でのプロリンによる置換;または位置238でのアルギニンによる置換;または位置265でのアラニンによる置換;または位置265でのグルタミン酸による置換;または位置270でのアラニンによる置換;または位置270でのアスパラギンによる置換;または位置297でのアラニンもしくはグルタミンによる置換;または位置298でのプロリンもしくはアスパラギンによる置換;または位置299でのセリンもしくはトレオニン以外の任意のアミノ酸による置換;または位置234でのアラニンによる置換;または位置235でのアラニンによる置換;または位置234でのアラニンによる置換および位置235でのアラニンによる置換;または位置265でのアラニンによる置換および位置297でのアラニンによる置換;または位置265でのアラニンによる置換および位置297でのグルタミンによる置換;または位置265でのグルタミン酸による置換および位置297でのアラニンによる置換;または位置265でのグルタミン酸による置換および位置297でのグルタミンによる置換が挙げられる。本発明はさらに、本明細書に列挙された変異体のいずれかの組合せを包含する。
【0068】
好ましくは、前記の1個以上のアミノ酸改変は、FcγRIIIAおよび/またはFcγRIIAに対する変異体Fc領域の親和性を増加させる。好ましい実施形態においては、本発明の分子はさらに、野生型Fc領域を含む比較可能な分子(すなわち、Fc領域中の1個以上のアミノ酸改変を除いて、本発明の分子と同じアミノ酸配列を有する)がFcγRIIBに結合するよりも低い親和性でFcγRIIBに特異的に結合する(Fc領域を介して)。いくつかの実施形態においては、本発明は、野生型Fc領域を有する比較可能な分子と比較して、FcγRIIIAおよび/またはFcγRIIAに対する変異体Fc領域の親和性を増加させ、FcγRIIBに対する変異体Fc領域の親和性を増強させる、1個以上のアミノ酸改変を有する変異体Fc領域を有する分子を包含する。他の実施形態においては、本発明は、野生型Fc領域を有する比較可能な分子と比較して、FcγRIIIAおよび/またはFcγRIIAに対する変異体Fc領域の親和性を増加させるが、FcγRIIBに対する変異体Fc領域の親和性を変化させない1個以上のアミノ酸改変を有する変異体Fc領域を有する分子を包含する。
【0069】
4. mAb 3G8 CDR配列と類似するCDR配列を含むCD16A結合タンパク質
本発明の実施において用いることができるCD16A結合タンパク質としては、マウスモノクローナル抗体3G8のCDRから誘導された(すなわち、同じか、または類似する配列を有する)CDR配列を含むタンパク質が挙げられる。CDRコード配列などの、マウス3G8モノクローナル抗体の重鎖および軽鎖可変領域をコードする相補的cDNAを、実施例に記載のようにクローニングし、配列決定した。3G8の核酸およびタンパク質配列を以下に提供し、配列番号1および2(VL)ならびに配列番号3および4(VH)と命名する。マウス可変領域およびCDR配列を用いて、3G8 CDRから誘導された相補性決定領域を含む多数のキメラおよびヒト化モノクローナル抗体を作製し、その特性を分析した。高い親和性でCD16Aに結合し、他の望ましい特性を有するヒト化抗体を同定するために、3G8から誘導されたCDRを有するVH領域を含む抗体重鎖を作製し、3G8から誘導されたCDRを有するVL領域を含む抗体軽鎖と混合して(同時発現により)、分析のためにテトラマー抗体を作製した。得られたテトラマー抗体の特性を、以下に記載のように決定した。以下に記載のように、本明細書の以下に記載のヒト化抗体タンパク質などの、3G8 CDRを含むCD16A結合タンパク質を、本発明に従って用いて、有害な免疫応答を減少させることができる。
【0070】
A. VH領域
一態様においては、本発明のCD16A結合タンパク質は、少なくとも1個のCDR(および通常は3個のCDR)がマウスモノクローナル抗体3G8重鎖のCDR(およびより典型的には、3個全部のCDR)の配列を有し、結合タンパク質の残りの部分が実質的にヒトのものである(ヒト抗体(複数も可)の重鎖可変領域から誘導され、かつそれと実質的に類似する)重鎖可変ドメインを含んでもよい。
【0071】
一態様においては、本発明は、実質的にヒトフレームワークにある3G8抗体から誘導されるが、重鎖可変ドメインの少なくとも1個のCDRが、対応するマウス抗体3G8重鎖CDRとは配列において異なるCDRを含むヒト化3G8抗体または抗体フラグメントを提供する。例えば、一実施形態においては、CDRは、少なくとも表1に示される1個以上のCDR置換(例えば、CDR1中の位置34のバリン、CDR2中の位置50のロイシン、CDR2中の位置52のフェニルアラニン、CDR2中の位置52のチロシン、CDR2中の位置52のアスパラギン酸、CDR2中の位置54のアスパラギン、CDR2中の位置60のセリン、CDR2中の位置62のセリン、CDR3中の位置99のチロシン、および/またはCDR3の位置101のアスパラギン酸)を有することにより3G8 CDR配列と異なる。好適なCD16A結合タンパク質は、これらの置換のうちの0、1、2、3、もしくは4個以上を含んでもよく(これらの置換のうちの1〜4個を有することが多い)、必要に応じて、同様にさらなる置換を有してもよい。
【0072】
一実施形態においては、CD16A結合タンパク質は、Hu3G8VH-1構築物のVHドメインと同じか、または類似する重鎖可変ドメイン配列を含んでもよく、その配列を表4に提供する。例えば、本発明は、(1)表1に記載のCDR置換の0個、1個、または2個以上が、Hu3G8VH-1のVHドメインと異なり;(2)表1に記載のフレームワーク置換の0個、1個または2個以上が、Hu3G8VH-1のVHドメインと異なり;および(3)残りの位置で、Hu3G8VH-1のVH配列と少なくとも約80%同一、頻繁には、少なくとも約90%、および時には少なくとも95%同一であるか、またはさらに少なくとも約98%同一である配列を有するVHドメインを含むCD16A結合タンパク質を提供する。
【0073】
本発明のCD16A結合タンパク質のVHドメインの例は、表3および6に示されるような、Hu3G8VH-5およびHu3G8VH-22の配列を有する。
【0074】
VHドメインは、表1に示される置換の少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、または少なくとも6個が、Hu3G8VH-1(表4)のものと異なる配列を有してもよい。これらの置換は、ヒトに投与した場合、CD16Aに対する親和性の増加および/またはCD16A結合タンパク質の免疫原性の低下をもたらすと考えられる。特定の実施形態においては、残りの位置でのHu3G8VH-1 VHドメインとの配列同一性の程度は、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%または少なくとも約98%である。
【表1】

【0075】
例示のためであって、限定されるものではないが、いくつかのCD16A結合タンパク質VHドメインの配列を、表4に示す。以下の実施例に記載のように、ヒトCγ1定常領域に融合されたこれらの配列を含む重鎖を、hu3G8VL-1軽鎖(以下に記載)と同時発現させてテトラマー抗体を形成させ、CD16Aへの該抗体の結合を測定して、hu3G8VH-1 VHドメインと比較したアミノ酸置換の効果を評価した。VHドメインがhu3G8VH-1、2、3、4、5、8、12、14、16、17、18、19、20、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、42、43、44、および45の配列を有する構築物は高い親和性結合を示し、hu3G8VH-6および-40 VHドメインは中間の結合を示した。hu3G8VH-5およびhu3G8VH-22のVHドメインを含むCD16A結合タンパク質は、特に好ましい結合特性を有すると考えられる。
【0076】
B. VL領域
同様の研究を行って、好ましい結合特性を有する軽鎖可変ドメイン配列を同定した。一態様においては、本発明は、少なくとも1個のCDR(および通常は3個のCDR)が、マウスモノクローナル抗体3G8軽鎖のCDR(およびより典型的には、3個全部のCDR)の配列を有し、結合タンパク質の残りの部分が実質的にヒトのものである(ヒト抗体(複数も可)の重鎖可変領域から誘導され、かつそれと実質的に類似する)軽鎖可変ドメインを含むCD16A結合タンパク質を提供する。
【0077】
一態様においては、本発明は、実質的にヒトフレームワークにある3G8抗体から誘導されるが、軽鎖可変ドメインの少なくとも1個のCDRが、マウスモノクローナル抗体3G8軽鎖CDRと配列において異なるCDRを含むヒト化3G8抗体または抗体フラグメントを提供する。一実施形態においては、CDRは、表2に示される1個以上の置換(例えば、CDR1中の一24のアルギニン;CDR1中の位置25のセリン;CDR1中の位置32のチロシン;CDR1中の位置33のロイシン;CDR2中の位置50のアスパラギン酸、トリプトファンもしくはセリン;CDR2中の位置53のセリン;CDR2中の位置55のアラニンもしくはグルタミン;CDR2中の位置56のトレオニン;CDR3中の位置93のセリン;および/またはCDR3中の位置94のトレオニン)などの、CDR中に1個以上のアミノ酸置換を少なくとも有することにより、3G8配列と異なる。様々な実施形態においては、可変ドメインはこれらの置換のうちの0、1、2、3、4、5個以上を有してもよく(これらの置換のうちの1〜4個を有することが多い)、必要に応じて、同様にさらなる置換を有してもよい。
【0078】
一実施形態においては、好適なCD16A結合タンパク質は、Hu3G8VL-1構築物のVLドメインと同じか、または類似する軽鎖可変ドメイン配列を含んでもよく、その配列を表5に提供する。例えば、本発明は、(1)表2に記載のCDR置換のうちの0個、1個、または2個以上が、Hu3G8VL-1のVLドメインと異なり;(2)表2に記載のフレームワーク置換のうちの0個、1個または2個以上が、Hu3G8VL-1のVLドメインと異なり;ならびに(3)残りの位置のHu3G8VL-1 VL配列と、少なくとも約80%同一、頻繁には、少なくとも約90%、および時には、少なくとも約95%同一であるか、またはさらに少なくとも約98%同一である配列を有するVLドメインを含むCD16A結合タンパク質を提供する。
【0079】
本発明のCD16A結合タンパク質のVLドメインの例は、表4および6に示されるような、Hu3G8VL-IまたはHu3G8VL-43の配列を有する。
【0080】
VLドメインは、表2に示される置換のうちの0個、1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、または少なくとも9個が、Hu3G8VL-1(表5)のものと異なる配列を有する。これらの置換は、ヒトに投与した場合、CD16Aに対する親和性の増加および/またはCD16A結合タンパク質の免疫原性の減少をもたらすと考えられる。特定の実施形態においては、残りの位置での配列同一性の程度は、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%または少なくとも約98%である。
【表2】

【0081】
例示のためであって、限定されるものではないが、いくつかのCD16A結合タンパク質VLドメインの配列を、表5に示す。以下の実施例に記載のように、ヒトCK定常ドメインに融合されたこれらの配列を含む軽鎖を、Hu3G8VH-1重鎖(上記)と同時発現させてテトラマー抗体を形成させ、CD16Aへの該抗体の結合を測定して、Hu3G8VL-1 VLドメインと比較したアミノ酸置換の効果を評価した。VLドメインがhu3G8VL-1、2、3、4、5、10、16、18、19、21、22、24、27、28、32、33、34、35、36、37および42の配列を有する構築物は、高い親和性結合を示し、hu3G8VL-15、17、20、23、25、26、29、30、31、38、39、40および41は中間の結合を示した。hu3G8VL-1、hu3G8VL-22、およびhu3G8VL-43のVLドメインを含むCD16A結合タンパク質は、特に好ましい結合特性を有すると考えられる。
【0082】
C. VLおよび/またはVHドメインの組合せ
当業界で知られ、本明細書の他の場所に記載のように、免疫グロブリン軽鎖および重鎖を、それらがテトラマー抗体を産生するように結合する条件下で組換え的に発現させるか、またはin vitroでそのように組合わせることができる。同様に、VLおよび/またはVHドメインの組合せを、一本鎖抗体の形態で発現させ、VLおよび/またはVHドメインを含むさらに他のCD16A結合タンパク質を、公知の方法により発現させることができる。かくして、本明細書に記載の3G8由来VLドメインを、本明細書に記載の3G8由来VHドメインと組合わせて、CD16A結合タンパク質を作製することができ、そのような組合せが全て意図される。
【0083】
例示のためであって、限定されるものではないが、有用なCD16A結合タンパク質の例は、VHドメインがhu3G8VH-1、hu3G8VH-22またはhu3G8VH-5に由来するものであり、VLドメインがhu3G8Vl-1、hu3G8VL-22またはhu3G8VL-43に由来するものである、少なくとも1個のVHドメインと、少なくとも1個のVLドメインを含むものである。特に、hu3G8VH-22およびhu3G8VL-1、hu3G8VL-22もしくはhu3G8VL-43のいずれか、またはhu3G8VH-5およびhu3G8VL-1を含むヒト化抗体は、好ましい特性を有する。
【0084】
本明細書に記載のVLおよびVHドメインの配列を、親和性成熟などの当業界で公知の方法によりさらに改変することができることは当業者には理解できるであろう(Schierら、1996, J. Mol. Biol. 263:551-67; Daughertyら、1998, Protein Eng. 11:825-32; Boderら、1997, Nat. Biotechnol. 15:553-57; Boderら、2000, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 97:10701-705; HudsonおよびSouriau, 2003, Nature Medicine 9:129-39を参照)。例えば、CD16A結合タンパク質を、親和性成熟技術を用いて改変して、CD16Aに対する親和性が増加し、および/またはCD16Bに対する親和性が低下したタンパク質を同定することができる。
【0085】
D. 定常ドメインおよびFc領域
上記のように、本発明のCD16A結合タンパク質は、軽鎖および/または重鎖定常領域(IgG分子中のCH1およびCH2ドメインを接続するヒンジ領域など)を含んでもよい。任意の型(例えば、IgM、IgG、IgD、IgAおよびIgE)の免疫グロブリンに由来する定常ドメインを用いることができることが意図される。軽鎖の定常ドメインは、ラムダまたはカッパであってよい。重鎖の定常ドメインは、任意のアイソタイプ(例えば、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4)であってよい。キメラ定常ドメイン、定常ドメインの一部、および天然のヒト抗体定常ドメインの変異体(アミノ酸残基の欠失、挿入または置換を含む)を用いることができる。例えば、定常ドメインのアミノ酸配列の変化を改変して、得られるポリペプチドの免疫原性または半減期の変化などの、追加の、または異なる特性を提供することができる。この変化は、少数(例えば、10個未満、例えば、1、2、3個以上)のアミノ酸残基の挿入、欠失または置換から、定常領域ドメインの実質的な改変までである。意図される変化としては、膜受容体との相互作用、補体固定、循環における持続性、および他のエフェクター機能に影響するものが挙げられる。例えば、ヒンジまたは他の領域を、米国特許第6,277,375号に記載のように改変することができる。特に、Fc領域のアミノ酸を欠失させるか、または変化させることが有利であることが多いであろう。例えば、抗体がエフェクター機能を欠く(または実質的に低下する)ように、Fc領域を改変して、FcγRIIIおよび補体のC1q成分などのFcエフェクターリガンドへの結合を減少させるか、または排除することができる。そのような改変されたFc領域を有する抗体は、哺乳動物に投与した場合、未改変の抗体と比較して、抗体依存的細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)および/または補体媒介性溶解をほとんど誘導しないか、または全く誘導しない。エフェクター機能を欠く抗体を同定するためのアッセイは、当業界で公知である。例えば、米国特許第6,194,551号、第6,528,624号および第5,624,821号; 欧州特許第EP 0 753 065 B1号; ならびにPCT公開第WO 00/42072号を参照されたい。
【0086】
本発明のCD16A結合タンパク質は、結合タンパク質のFcドメインと、FcγRIIAおよび/もしくはFcγRIIIAとの相互作用の減少(例えば、マクロファージの活性化の可能性を最小化し、および/もしくは好中球減少を最小化するため)ならびに/またはFcγRIIBへのFc領域の結合の増加(例えば、エフェクター細胞活性化のFcγRIIBを介する阻害を増加させるため;BollandおよびRavetch, 1999, Adv. in Immunol. 72:149を参照)をもたらす1個以上のアミノ酸置換または欠失(親の天然のIgG1と比較する)を含むヒトIgG1 Fcドメインを含んでもよい。結合における所望の変化に影響する特定の突然変異を、微生物、ウイルスまたは哺乳動物細胞の表面上に発現された突然変異Fcライブラリーの展示を用いて選択し、所望の特性(複数も可)を有する突然変異Fc変異体について、そのようなライブラリーをスクリーニングすることにより同定することができる。さらに、文献は、Fcの特定の残基または領域が、これらの残基の欠失または突然変異がFcγR結合の減少をもたらすと予想されるようなFcγ相互作用に関与することを報告している。FcγRのためのヒト抗体上の結合部位は、残基233〜239であると報告されている(Canfieldら、1991, J. Exp. Med. 173:1483-91; Woofら、1986, Mol. Imm. 23:319-30; Duncanら、1988, Nature 332:563)。ヒトIgG1 Fcと複合体化したFcγRIIIの結晶構造は、受容体とそのリガンドとの接触の可能性を示し、また、単一のFcγRIIIモノマーは、非対称的な様式でFcホモダイマーの両サブユニットに結合することを示した。Fc領域のアラニン走査突然変異誘発により、多くの予測される接触残基の重要性が確認された(Shieldsら、2001, J. Biol. Chem. 276: 6591-6604)。
【0087】
Fc領域突然変異の例としては、例えば、L235E、L234A、L235A、およびD265Aが挙げられ、Cγ-1中、全てのFcRに対して低い親和性を有することが示された(Clynesら、2000, Nat. Med. 6:443-46; Alegreら、1992, J. Immunol. 148:3461-68; Xuら、2000, Cell Immunol. 200:16-26)。FcR結合に影響することを意味するさらなるFc領域改変は、WO 00/42072(例えば、「クラス4」Fc領域変異体)およびWO 02/061090に記載されている。
【0088】
FcγRIIAおよびFcγRIIIAまたは他のタンパク質に対するFc結合を、単離された組換えFcγRへの結合を測定するためのELISAおよび細胞への結合を測定するためのRIAまたはFACSなどのいくつかの方法のうちのいずれかにより測定することができる。免疫複合体および熱凝集した、もしくは化学的に架橋したFcまたはIgGを用いて、そのようなアッセイにおいてFcRに対する親和性を試験することができる。一実施形態においては、免疫複合体を、抗原(フルオレセインなど)に対する親和性を有するFabの文脈においてFcを発現させ、抗体と抗原を混合して免疫複合体を形成させることにより作製する。
【0089】
E. アグリコシル化またはグリコシル化における変化に起因してFcエフェクターリガンドへの結合が低下したFc領域
上記で考察したように、Fcドメイン(例えば、抗CD16Aモノクローナル抗体)を含む本発明のCD16A結合タンパク質においては、Fcドメインを改変して所望の特性を達成することができる。特定の態様においては、本発明は、グリコシル化されていないFc領域を含む、ヒトまたはヒト化抗CD16Aモノクローナル抗体などのCD16A結合タンパク質を提供する。いくつかの実施形態においては、アグリコシル化された抗体を、Fc領域の改変により作製する。そのような改変の例としては、限定されるものではないが、アラニンもしくはグルタミンによる位置297での置換;またはプロリンもしくはアスパラギンによる位置298での置換;またはセリンもしくはトレオニン以外の任意のアミノ酸による位置299での置換が挙げられる。他の実施形態においては、本発明のアグリコシル化抗体を、そのグリコシル化経路に突然変異を有する細胞系において産生させることができる。そのような細胞系は当業者には公知であり、例えば、fuc6が挙げられる。下記の実施例10に示されるように、本発明者らは、予想外にも、エフェクター機能が変化した抗CD16A抗体(アグリコシル化抗体)の投与は、急性の重篤な好中球減少症を誘導することなく、自己免疫障害に対して防御することを発見した。この発見に基づいて、危険な副作用を誘導することなく、自己免疫疾患に対して防御するために治療用抗CD16A抗体を設計することができる。
【0090】
一実施形態においては、本発明は、ヒトIgG1から誘導されたFc領域を含むCD16A結合タンパク質であって、該Fc領域のCH2ドメインの位置297に対応するアミノ酸がアグリコシルである、前記タンパク質を提供する。Fc領域全体、Fc領域内の特定の領域、またはFc領域中の特定のアミノ酸残基に関して言及する場合、用語「アグリコシル」または「アグリコシル化された」とは、該特定の領域または残基に炭水化物残基が結合していないことを意味する。
【0091】
本発明は、グリコシル化されていないFc領域を含む、ヒトまたはヒト化抗CD16Aモノクローナル抗体などのCD16A結合タンパク質を包含する。本明細書で用いられる、「グリコシル化されていない」(または「アグリコシル化された」)Fc領域は、Fc領域全体がグリコシル化部位を含まない、またはFc領域内の特定の領域がグリコシル化されていない、またはFc領域内の特定の残基がグリコシル化されていないFc領域を包含する。
【0092】
本発明は、グリコシル化されていないFc領域を含む、ヒトまたはヒト化抗CD16Aモノクローナル抗体などのCD16A結合タンパク質を包含する。1つの特定の実施形態においては、本発明は、ヒトIgG1から誘導されたFc領域を含むCD16A結合タンパク質であって、該Fc領域のCH2ドメインの位置297に対応するアミノ酸がアグリコシルである、前記タンパク質(本明細書においては、GMA-161と呼ぶ)を提供する。別の実施形態においては、本発明は、GMA-161と結合に関して競合し、および/またはGMA-161と同じCD16Aのエピトープに結合するCD16A結合タンパク質を提供する。本発明はまた、GMA-161のアミノ酸配列と少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を含む分子も包含する。
【0093】
本発明はまた、GMA-161の可変重鎖および/または軽鎖のアミノ酸配列と少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、もしくは少なくとも99%同一である可変重鎖および/または可変軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体またはそのフラグメントも包含する。本発明はさらに、GMA-161の1個以上のCDRのアミノ酸配列と少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、もしくは少なくとも99%同一である1個以上のCDRのアミノ酸配列を含む、抗体またはそのフラグメントを包含する。2個のアミノ酸配列の同一性%の決定を、BLASTタンパク質検索などの、当業者には公知の任意の方法により決定することができる。
【0094】
一態様においては、CD16A結合タンパク質は、上記のような、VHドメインおよびVLドメインの両方を含む(重鎖および軽鎖をコードするポリヌクレオチドの同時発現により調製することができる)。必要に応じて、ヒト化重鎖可変領域は、配列番号109もしくは120に記載の配列を含むか、もしくはそれからなり、および/またはヒト化軽鎖可変領域は、配列番号96もしくは98に記載の配列を含む。例えば、例示的な実施形態においては、前記結合タンパク質は、配列番号109もしくは120の配列を有する重鎖可変領域および配列番号96もしくは98の配列を有する軽鎖可変領域を有する。別の例示的な実施形態においては、前記結合タンパク質は、配列番号109の配列を有する重鎖可変領域および配列番号96の配列を有する軽鎖可変領域を有する。別の例示的な実施形態においては、前記結合タンパク質は、配列番号109の配列を有する重鎖可変領域および配列番号98の配列を有する軽鎖可変領域を有する。別の例示的な実施形態においては、前記結合タンパク質は、配列番号120の配列を有する重鎖可変領域および配列番号98の配列を有する軽鎖可変領域を有する。別の例示的な実施形態においては、前記結合タンパク質は、配列番号120の配列を有する重鎖可変領域および配列番号98の配列を有する軽鎖可変領域を有する。
【0095】
一実施形態においては、CD16A結合タンパク質は、配列番号109もしくは120に記載のVHドメインと同じか、または類似する重鎖可変ドメイン配列を含んでもよい。一実施形態においては、本発明は、0、1、または2個以上のアミノ酸改変により配列番号109もしくは120のVHドメインと異なる配列を有するVHドメインを含むCD16A結合タンパク質を提供する。他の実施形態においては、本発明は、配列番号109もしくは120のVH配列と少なくとも約80%同一、頻繁には、少なくとも約90%、および時には、少なくとも約95%同一であるか、または少なくとも約98%同一であるCD16A結合タンパク質を提供する。
【0096】
他の実施形態においては、VHドメインは、本明細書に記載の改変のうちの少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、または少なくとも6個が、配列番号109または120のものと異なる配列を有してもよい。特定の実施形態においては、VHドメインを有する配列同一性の程度は、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%または少なくとも約98%である。
【0097】
一実施形態においては、CD16A結合タンパク質は、配列番号96もしくは98に記載のVLドメインと同じか、または類似する軽鎖可変ドメイン配列を含んでもよい。一実施形態においては、本発明は、0個、1個、または2個以上のアミノ酸改変により、配列番号96もしくは98のVLドメインと異なる配列を有するVLドメインを含むCD16A結合タンパク質を提供する。他の実施形態においては、本発明は、配列番号96もしくは98のVL配列と少なくとも約80%同一、頻繁には、少なくとも約90%、および時には、少なくとも約95%同一であるか、または少なくとも約98%同一であるCD16A結合タンパク質を提供する。
【0098】
他の実施形態においては、VLドメインは、本明細書に記載の改変のうちの少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、または少なくとも6個が、配列番号96または98のものと異なる配列を有してもよい。特定の実施形態においては、VLドメインを有する配列同一性の程度は、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%または少なくとも約98%である。
【0099】
アグリコシル化されたヒトIgG抗体は、Fc受容体およびC1qなどのFcエフェクターリガンドへの結合の低下を示す(例えば、Jefferisら、1995, Immunology Letters 44:111-17; Taoら、1989, J. of Immunology, 143:2595-2601; Friendら、1999, Transplantation 68:1632-37; RadaevおよびSun, 2001, J. of Biological Chemistry 276:16478-83; Shieldsら、2001, J. of Biological Chemistry 276:6591-6604、ならびに米国特許第5,624,821号を参照されたい)。特定の機構により束縛されることを意図するものではないが、本明細書に記載のCD16A結合タンパク質のFcドメインの位置297のアミノ酸のアグリコシル化は、CD16Aおよび補体のC1q成分への結合の低下をもたらすと考えられる。そのようなアグリコシル化された抗体は、エフェクター機能を欠く。
【0100】
ヒトIgG1定常領域においては、位置297の残基はアスパラギンである。本発明の一実施形態においては、CD16A結合タンパク質のFc領域の位置297の残基、またはそれに対応する残基は、アスパラギン以外のものである。アスパラギンの代わりに別のアミノ酸残基に置換することにより、位置297でのN-グリコシル化が排除される。哺乳動物細胞におけるCD16A結合タンパク質の発現に際してグリコシル化をもたらさないであろう任意のアミノ酸残基の置換は、この実施形態にとって好適である。例えば、本発明のいくつかの実施形態においては、位置297のアミノ酸残基は、グルタミンまたはアラニンである。いくつかの実施形態においては、位置297のアミノ酸残基は、必要に応じてPEGに連結された、システインである。
【0101】
本発明の他の実施形態においては、位置297の残基は、アスパラギンであってもよく、またはそうでなくてもよいが、グリコシル化されていない。これを、様々な方法で達成することができる。例えば、位置297のアスパラギン以外のアミノ酸残基は、位置297でのN-結合グリコシル化にとって重要であることが知られており(JefferisおよびLund, 1997, Chem. Immunol. 65:111-28を参照)、CH2ドメインの位置297以外の位置の残基の置換は、残基297でアグリコシル化されたCD16A結合タンパク質をもたらし得る。例示のためであって、限定されるものではないが、トレオニンまたはセリン以外のものであるCH2ドメイン中の位置299の残基は、位置297でアグリコシル化された抗体をもたらすであろう。同様に、プロリンによる位置298でのアミノ酸の置換は、位置297でアグリコシル化されたアミノ酸を有する抗体をもたらすであろう。本発明の他の実施形態においては、IgG1ドメインよりもむしろ、IgG2またはIgG4のFcドメインを用いる。
【0102】
CD16A結合タンパク質のアミノ酸残基の改変は、当業者の能力の範囲内にあり、前記結合タンパク質またはその一部をコードするポリヌクレオチドの突然変異により達成することができる。IgG由来Fc領域を含むCD16A結合タンパク質は、必ずしもアミノ酸レベルで突然変異させて、アグリコシル化する必要はない。IgG由来Fc領域の位置297でアグリコシル化された結合タンパク質を、特定の細胞(例えば、大腸菌;PCT公開WO 02061090A2を参照)、細胞系中で、またはAsn297でのグリコシル化が起こらない特定の細胞培養増殖条件下でCD16A結合タンパク質を発現させることにより産生させることができる。あるいは、炭水化物基を、例えば、酵素的に、タンパク質を発現させた後、CD16A結合タンパク質から除去することができる。タンパク質上の炭水化物基を除去または改変するための方法は公知であり、エンドグリコシダーゼおよびペプチド:N-グリコシダーゼの使用が挙げられる。
【0103】
様々な方法を用いて、CD16A結合タンパク質のFc領域を改変してその特性を変化させることができることは明らかであろう。従って、特に特定しない限り、CD16A結合タンパク質のFc領域を改変する文脈で本明細書で用いられる用語「改変すること」は、タンパク質自体を直接改変すること、タンパク質をコードするポリヌクレオチドを改変すること、および/またはタンパク質の産生のための好適な発現系を改変または選択することを含む。
【0104】
アルギニン297に対応する位置でアグリコシル化されたCD16A結合タンパク質に加えて、その位置での炭水化物の部分的除去のみ、または改変に起因してFcエフェクターリガンドへの結合が低下した変異体を、本発明において用いることができる。例えば、Fc領域を改変して、エフェクター機能を有する結合タンパク質を与えない非天然炭水化物を含有させることができる。本明細書で用いられる、「改変されたFc領域」は、親Fc領域から誘導されたが、親Fc領域とはグリコシル化パターンにおいて異なるFc領域である。
【0105】
いくつかの実施形態においては、本発明は、グリコシル化部位を改変、例えば、欠失させることにより、本発明の抗体の炭水化物含量を改変する方法を包含する。抗体の炭水化物含量を改変する方法は当業界でよく知られており、本発明の範囲内に包含され、例えば、米国特許第6,218,149号; 欧州特許第0 359 096 B1号; 米国特許公開第2002/0028486号; WO 03/035835; 米国特許公開第2003/0115614号; 米国特許第6,218,149号; 米国特許第6,472,511号(全てその全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする)を参照されたい。他の実施形態においては、本発明は、本発明の抗体の1個以上の内因性炭水化物部分を欠失させることにより、該抗体の炭水化物含量を改変する方法を包含する。特定の実施形態においては、本発明は、297に隣接する位置を改変することにより、抗体のFc領域のグリコシル化部位をシフトさせることを包含する。
【0106】
F. CD16A結合タンパク質の製造
本発明のCD16A結合タンパク質を、de novoタンパク質合成および結合タンパク質をコードする核酸の組換え発現などの、当業界でよく知られた様々な方法を用いて製造することができる。所望の核酸配列を、組換え方法(例えば、所望のポリヌクレオチドの予め調製された変異体のPCR突然変異誘発)または固相DNA合成により製造することができる。通常は、組換え発現方法を用いる。一態様においては、本発明は、本明細書に開示されたCD16A結合タンパク質もしくはそのCD16A結合フラグメントをコードする配列、例えば、本明細書に記載のVLもしくはVH、または本明細書に記載の抗体重鎖もしくは軽鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチドを提供する。遺伝子コードの縮重性のために、様々な核酸配列がそれぞれの免疫グロブリンアミノ酸配列をコードし、本発明は本明細書に記載の結合タンパク質をコードする全ての核酸を含む。
【0107】
抗体の組換え発現は当業界でよく知られており、例えば、必要に応じて定常領域に連結された、軽鎖および重鎖可変領域をコードする核酸を、発現ベクター中に挿入することにより実行することができる。発現ベクターは、典型的には、ポリペプチド(例えば、免疫グロブリン鎖)をコードするDNA断片を機能し得る形で連結して、免疫グロブリンポリペプチドの発現を確保する、プロモーター、エンハンサー、および転写終結配列などの制御配列を含む。発現ベクターは、典型的には、エピソームとして、または宿主染色体DNAの不可欠な部分として、宿主生物中で複製可能である。軽鎖および重鎖を、同じか、または異なる発現ベクター中にクローニングすることができる。
【0108】
免疫グロブリン軽鎖および重鎖を、標準的な方法を用いて発現させる。複数のポリペプチド鎖抗体または抗体フラグメント種を、宿主細胞が抗体または抗体フラグメントの各鎖を産生し、ポリペプチド鎖をマルチマー構造に集合させてin vivoで抗体または抗体フラグメントを形成させる、単一の宿主細胞発現系において作製することができる。例えば、Lucasら、1996, Nucleic Acids Res., 24:1774-79を参照されたい。重鎖および軽鎖を別々の発現ベクター上にクローニングする場合、このベクターを同時トランスフェクトして、無傷の免疫グロブリンの発現および集合を得る。あるいは、別々の発現宿主において抗体重鎖および軽鎖を組換え産生させた後、in vitroで別々の重鎖および軽鎖から抗体を集合させることは公知である。例えば、米国特許第4,816,567号およびCarterら、1992, Bio/Technology 10:163-67を参照されたい。
【0109】
CD16A結合タンパク質を、原核または真核細胞中で都合よく発現させる。抗体発現のための有用な宿主としては、細菌(例えば、PCT公開WO 02/061090)、酵母(例えば、サッカロミセス)、昆虫細胞培養(Putlitzら、1990, Bio/Technology 8:651-54)、植物および植物細胞培養(LarrickおよびFry, 1991, Hum. Antibodies Hybridomas 2:172-89)、ならびに哺乳動物細胞が挙げられる。発現のための方法は当業界でよく知られている。例えば、大腸菌においては、pelBなどの種々の原核分泌シグナル配列に融合された重鎖および軽鎖の発現を駆動するlacプロモーターを用いるベクターにより、ペリプラズム空間または培養培地へのscFvおよびFabフラグメントの分泌の成功が得られた(Barbasら、1991, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 88:7978-82)。T7プロモーターの代わりにlacプロモーターを挿入したpET25bから誘導されたベクターを用いることができる。
【0110】
哺乳動物細胞は、テトラマー抗体またはそのフラグメントなどのCD16A結合タンパク質を製造するのに特に有用である。無傷の異種タンパク質を分泌することができるいくつかの好適な宿主細胞系が公知であり、CHO細胞系、COS細胞系、HeLa細胞系、L細胞および骨髄腫細胞系が挙げられる。哺乳動物細胞のための発現ベクターは、複製起点、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合部位、RNAスプライス部位、ポリアデニル化部位、および転写ターミネーター配列などの発現制御配列を含んでもよい。発現制御配列の例は、内因性遺伝子、サイトメガロウイルス、SV40、アデノウイルス、ウシパピローマウイルスなどから誘導されたプロモーターである。一実施形態においては、結合タンパク質を、ベクターpCDNA3.1または類似するベクター中のCMV極初期エンハンサー/プロモーターを用いて発現させる。分泌を容易にするために、前記遺伝子を、免疫グロブリンの高レベルの分泌のために広く用いられている、Orlandiら、1989, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 86:3833-37により記載されたマウスVH遺伝子のシグナル配列を含む遺伝子カセットに融合させることができる。
【0111】
目的のポリペプチドをコードするDNA断片を含むベクターを、細胞宿主の型に応じて、日常的な方法を用いて、宿主細胞中に導入することができる。例えば、一般的には、原核細胞には塩化カルシウムトランスフェクションが用いられるが、他の細胞宿主にはリン酸カルシウム処理、エレクトロポレーション、リポフェクション、ビオリスティックスまたはウイルスに基づくトランスフェクションを用いることができる。哺乳動物細胞をトランスフェクトするのに用いられる他の方法としては、ポリブレン、プロトプラスト融合、リポソーム、エレクトロポレーション、およびマイクロインジェクションの使用が挙げられる(一般的には、Sambrookら、上掲を参照されたい)。一過的発現のためには、細胞、例えば、HEK293を、陽イオン脂質(例えば、LIPOFECTAMINE(商標)2000、Invitrogen)を用いて、別々の重鎖および軽鎖発現ベクターと同時トランスフェクトすることができる。この方法は、3日後に条件化培地中で10〜20 mg/lのIgGの発現レベルを達成することができる。次いで、この細胞を再供給し、同様の量をさらに3日後に収穫することができる。いくつかの用途のために、CD16A結合タンパク質を発現する細胞を、非常に低レベルのウシIgGについてスクリーニングされたFBSを含む培地、または、あるいは、無血清培地中で維持することができる。
【0112】
テトラマー抗体の発現に加えて、一本鎖抗体、抗体フラグメント、および他のCD16A結合タンパク質を調製することができる。例えば、免疫グロブリンフラグメントを、テトラマー抗体のタンパク質溶解的消化により、またはより頻繁には、トランケートされた抗体構築物の組換え発現により調製することができる。通常、一本鎖V領域(「scFv))構築物を、短い連結ペプチドを用いてVLおよび/またはVHドメインを連結することにより作製する(例えば、Birdら、1988, Science 242:423-26; 米国特許第4,946,778号; 第5,455,030号; 第6,103,889号; および第6,207,804号を参照されたい)。
【0113】
一度発現させたら、前記結合タンパク質を、硫酸アンモニウム沈降、アフィニティクロマトグラフィー、ゲル電気泳動などの当業界でよく知られた手順を用いて精製することができる(一般的には、HarrisおよびAngal, 1990, Protein Purification Applications, a Practical Approach Oxford University Press, Oxford, UK; ならびにColiganら、上掲を参照されたい)。一実施形態においては、Poros A(Perceptive Biosystems, Inc)などの高流速プロテインA樹脂を用いて抗体を捕捉し、低いpHで溶出した後、サイズ排除クロマトグラフィーを行って、存在する微量の凝集物を除去することにより、精製を達成する。FcγRIIIAは凝集したIgGに優先的に結合するため、凝集物の除去が特定の適用にとって望ましいであろう。前記結合タンパク質を、必要に応じて、例えば、少なくとも約80%純粋、頻繁には、少なくとも約90%純粋、より頻繁には、少なくとも約95%純粋、または少なくとも約98%純粋などの、実質的な純度まで精製することができる。本内容においては、純度%を、調製の総タンパク質含量の重量%として算出し、これは、結合タンパク質を精製した後、前記組成物に意図的に添加される成分を含まない。
【0114】
CD16A結合タンパク質を、発現後に改変することができる。例えば、ポリエチレングリコールを用いる抗体の誘導体化(「ペグ化」)が、生物学的活性を変化させることなく、滞留時間(半減期および安定性)を増加させ、in vivoでの免疫原性を減少させると報告されている。例えば、Leongら、2001, Cytokine 16:106-19; Koumenisら、2000, Int. J. Pharm. 198:83-95; 米国特許第6,025,158号を参照されたい。CD16A結合タンパク質を、検出可能な標識またはリガンド(例えば放射性アイソトープまたはビオチン)にコンジュゲートさせることができる。他の改変は当業界でよく知られており、それも意図される。
【0115】
G. CD16A結合タンパク質の特性
特定の実施形態においては、以下に記載の特性を有するCD16A結合タンパク質を、本発明の方法において用いる。
【0116】
i) 結合親和性
CD16A結合タンパク質を、その結合特性および生物学的活性を参照することにより説明することができる。種々の実施形態においては、本発明のCD16A結合タンパク質とCD16Aとの相互作用に関する結合定数は、0.1〜5 nM、約2.5 nM未満、約1 nM未満、または約0.5 nM未満である。通常、前記結合タンパク質は、3G8または本明細書の以下に記載の重鎖Ch3G8VHおよび軽鎖Ch3G8VLを含むキメラ抗体により類似する条件下で示される結合親和性の4倍、必要に応じて、2倍以内である親和性でCD16Aに結合する。一実施形態においては、CD16Aに対する結合親和性は、3G8のものよりも高い。代替的な実施形態においては、CD16Bに対する結合親和性は、3G8またはキメラ抗体Ch3G8より高くなく、好ましくはそれより低い。
【0117】
ELISA、バイオセンサー(動態分析)、およびラジオイムノアッセイ(RIA)などの様々な方法を用いて、結合を測定することができる。ELISAはよく知られており(HarlowおよびLane、上掲、ならびにAusubelら、上掲を参照)、結合タンパク質、または、あるいは、精製された抗体を含む条件化培地を用いて実行することができる。50%の見かけの最大結合をもたらす抗体の濃度は、抗体の推定値Kdを提供する。
【0118】
また、FcγRIIIAに結合する抗体の動的特性および平衡特性に関する情報も提供する、バイオセンサーアッセイを用いて、結合を検出することもできる。例示的なバイオセンサーアッセイは、BIAcore系を用いる(Malmqvistら、1997, Curr. Opin. Chem. Biol. 1:378-83)。BIAcore系は、リガンド(例えば、CD16A)を固定するセンサーチップ上に分析物を通過させることに拠っている。分析物の結合を、チップに結合した質量に直接的な割合で変化する、以下の表面プラスモン共鳴(SPR)シグナルにより測定することができる。固定された濃度の分析物を、特定量の時間に渡って、チップ上を通過させ、結合速度、k(on)の測定を可能にする。この期間の後、バッファーのみをチップ上に通過させ、分析物が表面から解離する速度、k(off)を測定することができる。平衡解離定数を、動的定数の比;Kd=k(on)/k(off)から算出することができる。
【0119】
ラジオイムノアッセイ(RIA)を用いて、FcγRIIIを担持する細胞に対する抗体の親和性を測定し、これらの抗体による細胞に対するIgG複合体の阻害を測定することができる。例示的なアッセイにおいては、125I標識された結合タンパク質を調製し、該タンパク質の特異的放射活性を決定する。標識された結合タンパク質と細胞を数時間混合し、細胞および結合した物質を、遠心分離により未結合の物質から分離し、両区画における放射活性を測定する。直接的な結合形式を用いて、結合データのScatchard分析を用いて、ヨウ素化された結合タンパク質のKd、およびその結合部位の数を決定する。過剰の冷たい(未標識の)結合タンパク質競合因子を含む対照を含有させて、特定の相互作用を反映する結果を確保することができる。好適な細胞の例としては、(1)正常なヒト末梢血リンパ球から誘導されたNK細胞またはマクロファージ;(2)huCD16Aトランスジェニックマウスから得られた細胞(Liら、1996 J. Exp. Med. 183:1259-63);(3)RIIまたは別の受容体(CD8もしくはLFA-3など)の膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインに融合されたCD16Aの細胞外部分を発現する哺乳動物細胞系;(4)CD16A発現ベクターで一過的または安定的にトランスフェクトされた(および必要に応じて、最適な発現受容体発現のためにγ鎖を同時発現する)哺乳動物細胞系(例えば、CHO、HEK-293、COS)が挙げられる。
【0120】
CD16Aの発現にとって有用な発現ベクターおよび結合アッセイにおける使用のための他のポリペプチドの例としては、強力なプロモーター/エンハンサー配列(例えば、CMV極初期)およびCD16A遺伝子を導入するポリリンカー領域にフランキングするポリアデニル化/転写終結部位を含む哺乳動物発現ベクター(例えば、pCDNA3.1またはpCI-neo)が挙げられる。通常、前記ベクターはネオマイシン耐性遺伝子などの選択マーカーを含む。
【0121】
一実施形態においては、アッセイにおける使用のために発現されるCD16Aは、配列:
MWQLLLPTALLLLVSAGMRTEDLPKAVVFLEPQWYRVLEKDSVTLKCQGAYSPEDNSTQWFHNESLISSQASSYFIDAATVDDSGEYRCQTNLSTLSDPVQLEVHIGWLLLQAPRWVFKEEDPIHLRCHSWKNTALHKVTYLQNGKGRKYFHHNSDFYIPKATLKDSGSYFCRGLFGSKNVSSETVNITITQGLAVSTISSFFPPGYQVSFCLVMVLLFAVDTGLYFSVKTNIRSSTRDWKDHKFKWRKDPQDK (配列番号116)を有する。
【0122】
配列:
MWQLLLPTALLLLVSAGMRTEDLPKAVVFLEPQWYRVLEKDSVTLKCQGAYSPEDNSTQWFHNESLISSQASSYFIDAATVDDSGEYRCQTNLSTLSDPVQLEVHIGWLLLQAPRWVFKEEDPIHLRCHSWKNTALHKVTYLQNGKGRKYFHHNSDFYIPKATLKDSGSYFCRGLVGSKNVSSETVNITITQGLAVSTISSFFPPGYQVSFCLVMVLLFAVDTGLYFSVKTNIRSSTRDWKDHKFKWRKDPQDK (配列番号117)を含むCD16Aを用いることもできる。
【0123】
さらなるCD16A変異体および置換体は、当業者には公知であるか、または科学文献から容易に認識できるであろう。
【0124】
競合アッセイ形式を用いて、受容体への別の分子の結合を阻害するCD16A結合タンパク質の能力を測定することができる。例えば、ある競合アッセイ形式においては、固定量の標識された3G8を、変化する量の未標識の3G8、CD16A結合タンパク質または無関係のIgG(対照)のいずれかと混合し、FcγRIIIAを発現する細胞に添加する。インキュベートし、溶液中で遊離した材料から、細胞に結合した材料を分離した後、結合した標識された3G8(および/または必要に応じて、未結合の標識された3G8)の量を決定する。次いで、標識された3G8の結合の50%の低下をもたらす未標識のmAbの濃度(IC50)を、このデータから決定する。
【0125】
ii) FcγRIIIAに対する免疫複合体結合の阻害
本発明のCD16A結合タンパク質の別の特徴は、CD16Aに対する免疫複合体の結合を阻害する能力(「IC阻害活性」)である。通常、前記結合タンパク質は、本明細書に記載の、3G8またはキメラ抗体、Ch3G8により類似する条件下で示される活性の4倍、好ましくは、2倍以内であるIC阻害活性を有する。
【0126】
CD16Aへの複合体化したIgGの結合を阻害する抗体の能力を測定するためのアッセイは公知である。例えば、Knappら、1989, Leukocyte Typing IV, Oxford University Press, Oxford, p. 574-97;ならびにEdbergおよびKimberly, 1997, J. Immunol. 159:3849-57を参照されたい。1つの好適なアッセイは、競合アッセイについて上記された形式を用いるRIAアッセイであるが、上記の競合アッセイにおいて用いられる125I標識された3G8に関して、125標識された凝集した無関係のヒトIgG1を置換するものである。
【0127】
本発明は、CD16A結合タンパク質が細胞上のFcγRIIIに結合する条件下で、細胞と、CD16A結合タンパク質とを接触させることにより、細胞上でのCD16AへのIgG抗体の結合を阻害する方法を提供する。この接触を、in vivo(例えば、結合タンパク質を哺乳動物中で投与することによる)またはin vitro(例えば、FcγRIIIを発現する培養された細胞に抗体を添加することによる)で行うことができる。FcγRIIIへの結合から阻害されるIgG抗体を、結合タンパク質の添加もしくは投与の前もしくは後に、動物に投与するか、もしくは培養培地に添加するか、または通常は動物中に存在させるか、もしくは疾患状態に応答して存在させることができる。一実施形態においては、細胞の表面上のCD16は、CD16Aである。
【0128】
iii) 血小板枯渇に対するin vivoでの防御
有害な免疫応答を低下させる本発明のCD16A結合タンパク質の能力を、様々な動物モデルにおいて評価することができる。モデル系の例は、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)のマウスモデルである(Oyaizuら、1988, J Exp. Med. 167:2017-22; Mizutaniら、1993, Blood 82:837-44を参照されたい)。下記の実施例9を参照されたい。他の好適なモデルは、当業界で公知である。他の動物モデルとしては、例えば、Current Protocols in Immunologyに記載の炎症性疾患のげっ歯類モデルが挙げられる(いくつかの事例においては、ヒトCD16Aに関するトランスジェニック動物を用いることにより改変される)。トランスジェニックマウスを、日常的な方法を用いて作製するか、または商業的な起源(例えば、Taconic Inc., German Town, New York)から購入することができる。
【0129】
マウスモデルにおいて血小板枯渇からの防御を提供するCD16A結合タンパク質の能力を評価するのに好適な手順の例は、以下の実施例8に記載されている。CD16A結合タンパク質を、様々な濃度で、muFcγRIII-/-、huFcγRIIIAトランスジェニックマウスに投与した後、ITPをマウスにおいて誘導することができる(例えば、6A6またはキメラ6A6抗体を投与することにより)。6A6/ch6A6の投与後に定期的な間隔で、マウスを出血させ、血小板計数を決定する。必要に応じて、次いで、各分子のIC50を、最大の血小板枯渇が陰性対照群において観察される時点で決定する。実施例8の結果および以前の研究に基づけば、最大の枯渇は6A6投与後2〜6時間で起こった。IC50を、SigmaPlotプログラム中に提供された4パラメーター適合などの曲線適合化プログラムを用いて図式的に決定する。未処理群および無関係のアイソタイプが一致したmAbの同一の製剤を投与した群と比較した、処理群における6A6の投与後の血小板の枯渇の統計的に有意な阻害は、所望の生物学的活性の指標である。
【0130】
CD16A結合タンパク質による防御をアッセイした実験を、以下の実施例に記載する。HEK-293細胞中で産生された組換えマウス3G8、ヒトIgG1もしくはIgG2定常ドメインを有するキメラ3G8(HEK-293およびCHO-K1細胞中で産生されたch3G8-γ1、ならびにHEK-293細胞中で産生されたch3G8-γ2)、ならびにch3G8-γ1変異体(ch3G8-γ1 D265A)の調製物は、有意な防御を提供しなかった。ハイブリドーマから産生されたマウス3G8、およびHEK-293細胞中で産生された、アグリコシル化されたヒトG1定常領域を含む3G8のキメラ変異体(Ch3G8-G1 N297Q)を、マウスモデルにおける血小板枯渇から動物を防御することができた。以下の実施例10、11および15〜17に示されるように、Ch3G8 N297Qおよびアグリコシル化されたヒト化抗体は、ITPマウスモデルにおいて血小板枯渇に対して防御した。特定の理論によって束縛されることを意図するものではないが、1つの可能性は、ch3G8 N297Qがエフェクター機能を大きく欠いているため、ITPに対するマウスの防御においてch3G8よりも有効であるということである。かくして、これらのデータは、エフェクター機能を含まない抗CD16A抗体(例えば、アグリコシル化抗体)が、いくつかのグリコシル化された(例えば、グリコシル化された組換え)抗体と比較して利点を有することを示唆している。さらに、実施例に記載のように、muFcγRIII-/-、huFcγRIIIBトランスジェニックマウスへのアグリコシル化された抗CD16A抗体の投与は、血液、脾臓、および骨髄における好中球枯渇をもたらさなかった。特定の理論により束縛されることを意図するものではないが、これらの予期せぬ結果に関してはいくつかの可能性のある説明が存在する。タンパク質のグリコシル化は、異なる細胞系、特に、異なる種に由来するものにおいて変化することが知られている。異なる細胞型における発現の結果として、抗体定常領域に結合した炭水化物の性質における差異は、活性の差異の原因となり得る、すなわち、活性の欠如が、部分的に、グリコシル化依存的様式で抗体Fc領域を介するFc受容体(または補体)へのch3G8結合により引き起こされるエフェクター細胞活性化の結果生じる。あるいは、組換えマウスおよびch3G8は、活性に影響し、CD16A結合タンパク質を発現する異なる細胞系を用いることにより排除することができる他の翻訳後改変を含んでもよい。アイソタイプの組合せおよび/またはエフェクター機能を排除するための突然変異を含むアイソタイプは、Fc上の炭水化物の排除と同様の防御効果を提供することができる。
【0131】
5. 治療方法
有害な免疫応答を特徴とするいくつかの疾患および症状を、本発明の結合タンパク質、すなわち、本明細書に記載のCD16A結合タンパク質(例えば、本明細書に開示されたVLおよび/またはVH配列、ならびに、必要に応じて、エフェクター機能が低下した本明細書に開示された改変されたFc領域を含む)を用いて治療することができる。一実施形態においては、結合タンパク質を、自己免疫疾患を有する被験体に投与する(すなわち、自己抗体の産生を特徴とする疾患)。自己免疫疾患において観察される病原性IgG抗体は、これらの疾患の病原性誘因であるか、または疾患の進行に寄与し、細胞性Fc受容体の不適当な活性化を介して疾患を媒介すると考えられる。凝集した自己抗体および/または自己抗原と複合体化した自己抗体(免疫複合体)は、活性化しているFcRに結合することによって、いくつかの自己免疫疾患の病原性後遺症(部分的には、自己組織に対する免疫学的に媒介される炎症のために起こる)を誘発する。特定の作用機構により束縛されることを意図するものではないが、本明細書に記載のCD16A結合タンパク質は、自己免疫抗体と、FcγRIII受容体との相互作用を妨害し、減少させる。
【0132】
治療することができる自己免疫疾患の例としては、限定されるものではないが、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、慢性関節リウマチ(RA)、全身性エリテマトーデス(SLE)、自己免疫性溶血性貧血(AHA)、強皮症、自己抗体により誘発されたじんましん、天疱瘡、脈管症候群、全身性脈管炎、グッドパスチャー症候群、多発性硬化症(MS)、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、シェーグレン症候群、ライター症候群、川崎病、多発性筋炎および皮膚筋炎が挙げられる。本発明に従って治療することができる疾患または症状の他の例としては、静脈内免疫グロブリン(IVIG)療法を用いる治療に影響を受けやすい任意の疾患(例えば、アレルギー喘息)も挙げられる。かくして、従来はIVIG療法により治療される自己免疫疾患(一実施形態においては、ITP以外の症状)の治療が意図される。IVIGの作用機構に関する詳細な理解は確立されていないが、細胞性FcγRの活性の調節が、そのin vivoでの効力において役割を果たしていると提唱されている。IVIGの防御活性は、調製物に存在するダイマー性またはポリマー性IgGの割合が小さいことに依存するかもしれない。細胞傷害性および免疫複合体抗体とエフェクター応答との関連付けにおけるFcγRIII経路の特異性ならびにmAbを用いてこの経路を直接的に阻害する能力は、抗FcγRIII抗体がIVIGと比較して増強した活性を有することを強く示唆している。
【0133】
本発明の抗体を投与することにより治療することができる自己免疫障害の他の例としては、限定されるものではないが、円形脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質症候群、自己免疫性アジソン病、副腎の自己免疫疾患、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎、自己免疫性卵巣炎および精巣炎、自己免疫性血小板減少症、ベーチェット病、水疱性類天疱瘡、心筋症、セリアック病-皮膚炎、慢性疲労免疫機能障害症候群(CFIDS)、慢性炎症性脱髄性多発神経障害、チャーグ・ストラウス症候群、瘢痕性類天疱瘡、CREST症候群、寒冷凝集素症、クローン病、円板状エリテマトーデス、本態性混合型クリオグロブリン血症、線維筋痛-線維筋炎、糸球体腎炎、グレーブス病、ギランバレー、ハシモト甲状腺炎、特発性肺線維症、特発性血小板性紫斑病(ITP)、IgAニューロパシー、若年性関節炎、扁平苔癬、紅斑性狼瘡、マクニクル病、混合型結合組織疾患、多発性硬化症、1型もしくはインスリン依存性糖尿病、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、悪性貧血、結節性多発性動脈炎、多発性軟骨炎、多内分泌腺症候群、リウマチ性多発性筋痛、多発性筋炎および皮膚筋炎、原発性ガンマグロブリン血症、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、乾癬性関節炎、レイノルド現象、ライター症候群、慢性関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、スティフマン症候群、全身性エリテマトーデス、紅斑性狼瘡、高安動脈炎、一時的側頭動脈巨細胞性動脈炎、潰瘍性大腸炎、ブドウ膜炎、疱疹状皮膚脈管炎、白斑、およびヴェーゲナー肉芽腫症などの脈管炎が挙げられる。炎症性障害の例としては、限定されるものではないが、喘息、脳炎、炎症性腸疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アレルギー障害、敗血性ショック、肺線維症、未分化型脊椎関節症、未分化型関節症、関節炎、炎症性骨溶解、および慢性的なウイルスもしくは細菌感染の結果生じる慢性炎症が挙げられる。いくつかの自己免疫障害は、炎症症状と関連する。かくして、自己免疫障害と考えられるものと、炎症障害と考えられるものの間には重複が存在する。従って、いくつかの自己免疫障害はまた、炎症障害を特徴とする。本発明の方法に従って予防、治療または管理することができる炎症障害の例としては、限定されるものではないが、喘息、脳炎、炎症性腸疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アレルギー障害、敗血性ショック、肺線維症、未分化型脊椎関節症、未分化型関節症、関節炎、炎症性骨溶解、および慢性的なウイルスもしくは細菌感染の結果生じる慢性炎症が挙げられる。
【0134】
有害な免疫応答の減少を、炎症の減少として検出することができる。特定の実施形態においては、抗体は、該抗体を投与しなかった動物における炎症と比較して、少なくとも99%、少なくとも95%、少なくとも90%、少なくとも85%、少なくとも80%、少なくとも75%、少なくとも70%、少なくとも60%、少なくとも50%、少なくとも45%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも35%、少なくとも30%、少なくとも25%、少なくとも20%、または少なくとも10%、動物における炎症を減少させる。あるいは、有害な免疫応答の減少を、治療する症状の徴候的特徴の減少(例えば、自己免疫症状に罹患する被験体により示される徴候の減少)として、または自己免疫の分野における医師および実験者により容易に認識することができる他の基準により検出することができる。多くの場合、減少の特異的兆候は、治療する特定の症状に依存するであろう。例えば、例示のためであって、限定されるものではないが、ITPを有する被験体における有害な免疫応答の減少を、該被験体における血小板レベルの上昇として検出することができる。同様に、貧血を有する被験体における有害な免疫応答の減少を、該被験体におけるRBCレベルの上昇として検出することができる。医師であれば、血小板もしくはRBCレベルの有意な変化、または治療後の他の応答を認識するであろう。
【0135】
有害な免疫応答は、必要に応じて、muFcγRIII-/-、huFcγRIIIAトランスジェニックマウスへの、抗血小板抗体、必要に応じて、マウスモノクローナル抗体6A6の投与から得られる特発性血小板減少性紫斑病に起因する。
【0136】
一態様においては、本発明は、エフェクター機能を大きく欠いているCD16A結合タンパク質を投与することによる、ITPなどの自己免疫疾患を治療するための方法を提供する。一実施形態においては、CD16A結合タンパク質は、ヒトIgGから誘導されたFc領域を含む。一実施形態においては、Fc領域はアグリコシルである。一実施形態においては、CH2ドメインの各々の位置297は、アスパラギンまたはプロリン以外の残基である。一態様においては、前記結合タンパク質は、本明細書の他の場所に記載された可変領域配列を含む。しかしながら、本明細書で考察されるように、本発明の組成物および治療方法は、マウスmAb 3G8から誘導された特定のCD16A結合タンパク質に限定されないが、CD16A結合タンパク質に一般的に適用可能である。一実施形態においては、CD16A結合タンパク質は、2個の軽鎖および2個の重鎖を有するテトラマー抗体タンパク質である。
【0137】
関連する態様においては、本発明は、治療上有効量の本明細書に記載のCD16A結合タンパク質を含む医薬組成物を哺乳動物に投与することにより、好中球レベルを有意に減少させるか、または好中球減少症(例えば、重篤な好中球減少症もしくは中程度の好中球減少症)を誘導することなく、該哺乳動物における有害な免疫応答を減少させる方法を提供する。一実施形態においては、前記哺乳動物は、ヒトである。一実施形態においては、前記哺乳動物は、1個以上のヒトトランスジーンを含む非ヒト哺乳動物(例えば、マウス)である。
【0138】
治療適用のためには、本発明の結合タンパク質を、製薬上許容し得る賦形剤もしくは担体、例えば、水、緩衝化された水、0.4%塩水、0.3%グリシンなどの水性担体、必要に応じて、安定性、貯蔵期限を増加させるか、もしくは生理学的条件を近似する他の物質(酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウム、ヒスチジンおよびアルギニン)などと共に製剤化する。個体への投与のために、前記組成物は、好ましくは、滅菌されており、発熱源および他の夾雑物を含まない。結合タンパク質の濃度は、例えば、約0.01%未満、通常は少なくとも約0.1%未満から、5重量%まで、広く変化してもよい。非経口的に投与可能な組成物を調製する方法は当業者にとって公知であるか、または明らかであり、例えば、Remington, The Science Of Practice And Pharmacy、第20版、Mack Publishing Company, Easton, PA, 2001により詳細に記載されている。典型的には、本発明の医薬組成物を、非経口経路、最も典型的には、静脈内、皮下、筋肉内経路により投与するが、投与の他の経路(例えば、粘膜、表皮、腹腔内、経口、鼻内、および肺内)を用いることもできる。特定の実施形態においては、本発明の抗体を、筋肉内、静脈内、または皮下に投与する。本発明の組成物を、患者の身体の他の部位、例えば、骨髄、脊髄に投与することができる。前記組成物を、例えば、輸液もしくはボーラス注射により、表皮もしくは皮膚粘膜上皮(例えば、経口粘膜、直腸および腸粘膜など)によるなど、任意の都合のよい経路により投与することができ、また、他の生物学的に活性な薬剤と共に投与することができる。投与は、全身的なものであっても、または局所的なものであってもよい。さらに、例えば、吸入器もしくは噴霧器、およびエアロゾル化剤を含む製剤の使用により、肺投与を用いることもできる。例えば、米国特許第6,019,968号; 第5,985, 320号; 第5,985,309号; 第5,934,272号; 第5,874,064号; 第5,855,913号; 第5,290,540号; および第4,880,078号; ならびにPCT公開WO 92/19244; WO 97/32572; WO 97/44013; WO 98/31346; およびWO 99/66903(それぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする)を参照されたい。
【0139】
必要ではないが、医薬組成物を、正確な量の投与にとって好適な単位投与剤形で供給するのが好ましい。
【0140】
一実施形態においては、CD16A結合タンパク質を、持続的放出(例えば、数週間もしくは数ヶ月間に渡る放出)のための形態、製剤または装置中で投与することができる。
【0141】
一実施形態においては、CD16A結合タンパク質をコードするポリヌクレオチド(例えば、CD16A結合タンパク質発現ベクター)を、患者に投与する。投与後、CD16A結合タンパク質を患者において発現させる。CD16A結合タンパク質の投与において有用なベクターは、ウイルス(例えば、アデノウイルスから誘導される)または非ウイルスであってよい。通常、前記ベクターは、タンパク質(複数も可)の転写を駆動させるのに役立つプロモーターおよび、必要に応じて、エンハンサーを含むであろう。そのような治療用ベクターを、in vivoで、in vitroで、もしくはex vivoで細胞または組織に導入することができる。ex vivoでの治療のためには、ベクターを、患者から取得された細胞、例えば、幹細胞中に導入し、自家移植のためにクローン的に増殖させ、同じ患者に戻すことができる(例えば、米国特許第5,399,493号および第5,437,994号を参照)。
【0142】
前記組成物を、予防的および/または治療的処理のために投与することができる。予防的適用においては、組成物を、予想されるか、または潜在的な有害な免疫応答の前に、患者に投与する。例えば、特発性血小板減少性紫斑病および全身性エリテマトーデスは、有害な免疫応答が特定の薬剤の投与により悪化し得る症状である。本発明のCD16A結合組成物を、そのような薬剤により誘導される応答を見越して投与して、応答の規模を低下させることができる。治療的適用においては、組成物を、症状およびその合併症を少なくとも部分的に軽減するのに十分な量で、既に有害な免疫応答に罹患している患者に投与する。これを達成するのに十分な量は、「治療上有効量」または「治療上有効用量」であってよい。これらの使用にとって有効な量は、症状の重篤度および患者自身の免疫系の一般的状態に依存するが、一般的には、用量あたり約0.01〜約100 mgの抗体であり、より一般的には、患者1人あたり0.1〜50 mgおよび1〜10 mgの用量を用いる。結合タンパク質の「炎症を減少させる量」を哺乳動物に投与して、有害な免疫応答を減少させることもできる。
【0143】
有害な免疫応答に関連する1つ以上の徴候、例えば、自己免疫疾患の治療、予防または軽減において有効である本発明の組成物の量を、標準的な臨床技術により決定することができる。また、前記製剤中で用いられる正確な用量は、投与の経路、および症状の重篤度に依存するであろうが、医師の判断および各患者の環境に従って決定すべきである。有効用量を、in vitroまたは動物モデル試験系から誘導された用量応答曲線から外挿することができる。
【0144】
患者に投与される本発明の組成物の用量は、典型的には、患者の体重1 kgあたり、約0.1 mg〜約10 mgであり、例えば、患者の体重1 kgあたり、約0.1、約0.2、約0.3、約0.4、約0.5、約0.6、約0.7、約0.8、約1、約1.5、約2、約2.5、約3、約3.5、約4、約4.5、約5、約5.5、約6、約6.5、約7、約7.5、約8、約8.5、約9、約9.5、および約10 mgである。好ましくは、患者に投与される用量は、患者の体重1 kgあたり、約0.1 mg〜約3 mgである。他の実施形態においては、本発明の組成物の用量は、患者の体重1 kgあたり、約0.1 mg、約0.3 mg、約1.0 mgまたは約3.0 mgである。最も好ましい実施形態においては、本発明の組成物を、約30分間に渡って静脈内投与する。他の実施形態においては、本発明の組成物を、少なくとも約1時間、少なくとも約30分間、または少なくとも約15分間に渡って静脈内投与する。
【0145】
CD16A結合タンパク質の投与を、例えば、病気の性質、患者の症状および結合タンパク質の半減期などの因子に応じて、例えば、毎日、毎週、2週間毎、または任意の好適な間隔で、治療する医師の判断に従って投与することができる。
【0146】
治療上または予防上有効量の本発明のCD16A結合タンパク質を用いる被験体の治療は、1回の治療を含んでもよく、または好ましくは、一連の治療を含んでもよい。好ましい例においては、被験体を、約0.1〜約10 mg/kg体重の範囲で、約1〜約10週間、好ましくは約2〜約8週間、より好ましくは、約3〜約7週間、およびさらにより好ましくは、約4、約5、または約6週間に渡って、1週あたり1回、本発明のCD16A結合タンパク質を用いて治療する。他の実施形態においては、本発明の医薬組成物を、1日1回、1日2回、または1日3回投与する。他の実施形態においては、医薬組成物を、週に1回、週に2回、2週間毎に1回、月に1回、6週間毎に1回、2ヶ月毎に1回、年に2回または年に1回投与する。また、治療に用いられる抗体の有効用量は、特定の治療の経過に渡って増加または減少してもよいことも理解されるであろう。
【0147】
CD16A結合タンパク質を、有害な免疫応答またはその徴候もしくは後遺症の軽減に向けられる他の治療と組合わせて投与することができる。かくして、前記結合タンパク質を、例えば、非ステロイド性抗炎症剤(例えば、アスピリン、イブプロフェン)、ステロイド(例えば、コルチコステロイド、プレドニゾン)、免疫抑制剤(例えば、シクロスポリンA、メトトレキサートシトキサン)、および抗体(例えば、IVIGと組合わせる)などの化学療法剤などの別の薬剤(複数も可)の同時投与を含む治療計画の一部として投与することができる。
【0148】
A. 医薬組成物
本発明の組成物としては、医薬組成物(例えば、不純物を含む組成物もしくは非滅菌組成物)の製造において有用なバルク薬剤組成物および単位投与剤形の調製において用いることができる医薬組成物(すなわち、被験体もしくは患者への投与にとって好適である組成物)が挙げられる。そのような組成物は、予防上もしくは治療上有効量の本明細書に開示された予防剤および/もしくは治療剤またはこれらの薬剤と製薬上許容し得る担体との組合せを含む。好ましくは、本発明の組成物は、予防上または治療上有効量の本発明の抗体および製薬上許容し得る担体を含む。
【0149】
1つの特定の実施形態においては、前記医薬組成物は、治療上有効量のCD16A結合タンパク質および製薬上許容し得る担体から構成される。別の実施形態においては、前記医薬組成物は、1つ以上のさらなる薬剤をさらに含む。
【0150】
特定の実施形態においては、用語「製薬上許容し得る」とは、連邦政府もしくは州政府の規制当局により認可されていること、または動物、およびより具体的には、ヒトにおける使用のための米国薬局方もしくは他の一般的に認識される薬局方に列挙されていることを意味する。用語「担体」とは、治療剤と共に投与される希釈剤、アジュバント(例えば、Freundのアジュバント(完全および不完全)、賦形剤、またはビヒクルを指す。そのような製薬上の担体は、水および石油、動物、野菜もしくは合成起源のもの、例えば、ピーナツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油などの油などの滅菌液体であってよい。前記医薬組成物を静脈内投与する場合、水が好ましい担体である。塩水溶液および水性デキストロースおよびグリセロール溶液を、特に、注射可能な溶液のために、液体担体として用いることもできる。好適な製薬上の賦形剤としては、スターチ、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、モルト、フリー、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどが挙げられる。必要に応じて、前記組成物は、少量の湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝化剤を含んでもよい。これらの組成物は、溶液、懸濁液、乳液、錠剤、ピル、カプセル、粉末、持続放出製剤などの形態を取ってもよい。本発明の組成物は、Handbook of Pharmaceutical Excipients, Arthur H. Kibbe (編、2000), Am. Pharmaceutical Association, Washington, DC(その内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする)に開示されたものなどの、当業界で公知の任意の賦形剤を含んでもよい。
【0151】
一般的には、本発明の組成物の成分を、例えば、活性薬剤の量を示すアンプルもしくはサチェットなどの密閉容器中の乾燥した凍結乾燥粉末もしくは水を含まない濃縮物として、別々に、または単位投与剤形中に一緒に混合して供給する。前記組成物を輸液により投与する場合、滅菌された医薬等級の水または塩水を含む輸液ボトルと共にそれを調剤することができる。前記組成物を注射により投与する場合、注射用の滅菌水または塩水のアンプルを、前記成分を投与の前に混合することができるように、提供することができる。
【0152】
本発明の組成物を、中性の形態または塩の形態として製剤化することができる。製薬上許容し得る塩としては、限定されるものではないが、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などから誘導されたものなどの陰イオンを用いて形成されたもの、およびナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどの陽イオンを用いて形成されたものが挙げられる。
【0153】
6. CD16A結合タンパク質の治療効果の増強
関連する態様においては、本発明は、元の(すなわち、未改変の)Fc領域と比較して、少なくとも1個のFcエフェクターリガンドへの結合が低下したFc領域を有するように、CD16A結合タンパク質を改変することにより、1個以上のFcドメインを含む該タンパク質(例えば、2個のFcドメインを含む抗CD16A抗体)の治療効果を増強する方法を提供する。例えば、Fc領域を、該Fc領域がグリコシル化されないように改変することができる。上記のように、Fc領域の改変を、いくつかの方法(例えば、遺伝子突然変異により、Fcグリコシル化パターンを変化させる発現系の選択によるなど)で達成することができる。一実施形態においては、Fcエフェクターリガンドは、FcγRIIIである。一実施形態においては、Fcエフェクターリガンドは、補体のC1q成分である。本内容において用いられるように、対象CD16A結合タンパク質が好中球減少症を誘導しない(または重篤度の低い好中球減少症をもたらす)場合に投与した際に、好中球減少症を誘導する参照結合タンパク質と比較した場合、対象CD16A結合タンパク質は「治療効果」を増加させる。例えば、有害な免疫応答(例えば、哺乳動物におけるITPもしくは実験的に誘導されたITP)の重篤度を減少させ、動物における好中球レベルをx%低下させるCD16A結合タンパク質は、yがxより大きい場合、例えば、2倍大きい場合、有害な免疫応答の重篤度を減少させ、動物における好中球レベルをy%低下させるCD16A結合タンパク質よりも大きい「治療効果」を有する。一実施形態においては、改変されたタンパク質がアグリコシル化されるような突然変異により、前記タンパク質を改変する。
【0154】
例えば、本発明は、(i)親免疫グロブリン重鎖をコードする親ポリヌクレオチドに少なくとも1個の突然変異を導入して、改変された免疫グロブリン重鎖をコードする改変されたポリヌクレオチドを産生させ、この突然変異は、改変された免疫グロブリン重鎖中に、親免疫グロブリン重鎖のCH2ドメイン中のグリコシル化を変化させ、減少させるか、もしくは排除するアミノ酸置換を導入するものであり;および(ii)改変されたポリヌクレオチドを、改変されたCD16A結合タンパク質重鎖を産生するように改変された免疫グロブリン重鎖として細胞中で発現させることにより、改変された免疫グロブリン重鎖を含む改変されたCD16A結合タンパク質を製造する方法であって、改変されたCD16A結合タンパク質は、親免疫グロブリン重鎖を含む親CD16A結合タンパク質よりも大きい治療効果を有する、前記方法を提供する。必要に応じて、前記重鎖を、軽鎖との同時発現の条件下で産生させて、テトラマー抗体を産生させる。
【0155】
7. サイトカイン放出症候群の排除
治療用モノクローナル抗体の使用は、「初回投与」の副作用の問題により、制限される。軽度な流感様徴候から重篤な毒性までの初回投与副作用は、軽度から重篤までであってよく、高熱、寒気/悪寒、頭痛、震え、吐気/嘔吐、下痢、腹痛、倦怠感、筋肉/関節のアーチおよび疼痛、ならびに全身衰弱などの徴候が挙げられる。初回投与副作用は、FcγR含有細胞上でFcγRに結合し、かつFcγRを活性化するmAbのFc領域により刺激されるリンホカイン産生およびサイトカイン放出により引き起こされると考えられる。あるいは、初回投与副作用は、C1qなどの補体関連受容体に結合するFc領域により引き起こされ得る。
【0156】
かくして、本発明は、1個以上のFcγRへのFcの結合を減少させるか、または排除することにより、あるいはC1qなどの少なくとも1つの補体関連受容体へのFcの結合を減少させるか、または排除することにより、初回投与副作用に関連する少なくとも1つの徴候を減少させるか、または排除するCD16A結合タンパク質を包含する。そのようなCD16A結合タンパク質は、野生型Fc領域と比較して、1個以上のアミノ酸改変を有する変異体Fc領域を含む。この改変は、比較可能な野生型Fc領域と比較して、1個以上のFcγRへのFcの結合を減少させるか、または排除する(またはC1qなどの少なくとも1種の補体関連受容体へのFcの結合を減少させるか、もしくは排除する)。典型的には、この改変はアミノ酸置換である。しかしながら、前記改変はアミノ酸挿入および/または欠失であってもよい。典型的には、前記改変を、CH2および/またはヒンジ領域中で行う。あるいは、1個以上のFcγRへのFcの結合を、1個以上のFc領域上の1個以上のグリコシル基を変化させるか、または排除することにより減少させるか、または排除することができる。Fcグリコシル化を、当業界でよく知られた方法により変化させるか、または排除することができる。例えば、Fcグリコシル化を、フコシル化において欠損した細胞(例えば、fuc6ヌル細胞)中でFcを産生させることにより変化させるか、または脱グリコシル化酵素もしくはグリコシル化部位(例えば、CH2ドメイン中の位置297-299のN-X-S/Tグリコシル化部位)を変化させるか、もしくは排除するアミノ酸改変により排除することができる。FcγR結合を、当業界で公知の、かつ本明細書に例示された標準的な方法を用いて測定することができる。かくして、本発明の抗体は、リンホカイン産生またはサイトカイン放出症候群により引き起こされるそれらのin vivoでの毒性が低下するか、またはなくなるため、特に有用である。
【0157】
リンホカイン産生およびサイトカイン放出を測定する方法は、当業界で公知かつ日常的であり、本明細書に包含される。例えば、限定されるものではないが、TNF-α、GM-CSF、IFN-γなどのサイトカインの分泌を測定することにより、サイトカイン放出を測定することができる。例えば、米国特許第6,491,916号; Isaacsら、2001, Rheumatology, 40: 724-738 (それぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする)を参照されたい。限定されるものではないが、インターロイキン-2(IL-2)、インターロイキン-4(IL-4)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-12(IL-12)、インターロイキン-16(IL-16)、PDGF、TGF-α、TGF-β、TNF-α、TNF-β、GCSF、GM-CSF、MCSF、IFN-α、IFN-β、TFN-γ、IGF-I、IGF-IIなどのリンホカインの分泌を測定することにより、リンホカイン産生を測定することができる。例えば、Isaacsら、2001, Rheumatology, 40: 724-738; Soubraneら、1993, Blood, 81(1): 15-19(それぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする)を参照されたい。
【0158】
本明細書で用いられる用語「Fc領域」は、IgG重鎖のC末端領域を定義するのに用いられる。境界はわずかに変化してよいが、ヒトIgG重鎖Fc領域は、Cys226からカルボキシ末端まで伸びると定義される。IgGのFc領域は、2個の定常ドメイン、CH2およびCH3を含む。ヒトIgG Fc領域のCH2ドメインは通常、アミノ酸231からアミノ酸341まで伸びる。ヒトIgG Fc領域のCH3ドメインは通常、アミノ酸342から447まで伸びる。ヒトIgG Fc領域のCH2ドメイン(「Cγ2」ドメインとも呼ぶ)は通常、アミノ酸231から340まで伸びる。CH2ドメインは、別のドメインと密接に対になっていない点でユニークである。むしろ、2個のN結合分枝状炭水化物鎖が、無傷の天然IgGの2個のCH2ドメインの間に割り込んでいる。
【0159】
本明細書を通して、IgG重鎖における残基の番号付けは、参照により明確に本明細書に組み入れられるものとする、Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service, NH1, MD (1991)に記載のEU指標のものである。「Kabatに記載のEU指標」とは、ヒトIgG1 EU抗体の番号付けを指す。
【0160】
「ヒンジ領域」は、一般的には、ヒトIgG1のGlu216からPro230まで伸びるものとして定義される。同じ位置に重鎖間S-S結合を形成する最初の、および最後のシステイン残基を置くことにより、他のIgGアイソタイプのヒンジ領域をIgG1配列と整列させることができる。
【0161】
初回投与副作用と関連する少なくとも1個の徴候を減少させるか、または排除するであろうFc改変の例としては、限定されるものではないが、位置233でのプロリンによる置換;または位置234でのアラニンによる置換、もしくは位置235でのアラニンによる置換、または位置234でのアラニンによる置換および位置235でのアラニンによる置換、もしくは位置238でのアルギニンによる置換;または位置265でのアラニンによる置換;または位置265でのグルタミン酸による置換;または位置270でのアラニンによる置換;または位置270でのアスパラギンによる置換;または位置297でのアラニンもしくはグルタミンによる置換;または位置298でのプロリンもしくはアスパラギンによる置換;または位置299でのセリンもしくはトレオニン以外の任意のアミノ酸による置換;または位置265でのアラニンによる置換および位置297でのアラニンによる置換;または位置265でのアラニンによる置換および位置297でのグルタミンによる置換;または位置265でのグルタミン酸による置換および位置297でのアラニンによる置換;または位置265でのグルタミン酸による置換および位置297でのグルタミンによる置換を有するものが挙げられる。本発明はさらに、本明細書に列挙される変異体のいずれかの組合せを包含する。
【0162】
本発明は、有効量の1種以上の本発明の抗体を投与することを含む、患者における初回投与副作用に関連する少なくとも1個の徴候を減少させるか、または排除する方法を包含する。本発明の方法は、限定されるものではないが、高熱、寒気/悪寒、頭痛、震え、吐気/嘔吐、下痢、腹痛、倦怠感、筋肉/関節のアーチおよび疼痛、ならびに全身衰弱などのサイトカイン放出症候群に関連する少なくとも1つの徴候を減少させる。
【実施例】
【0163】
8. 実施例
実施例1:マウス3G8 VHおよびVLならびにそれから生成されたキメラ分子
A)マウス3G8 VHおよびVL
マウス3G8抗体軽鎖をコードするcDNAをクローニングした。3G8抗体重鎖の配列は、Jeffery Ravetch博士により提供された。3G8 VHおよびVLのアミノ酸配列を、以下の表1および3に提供する。可変領域をコードする核酸配列は、
配列番号1(3G8VH)

配列番号3(3G8VL)

である。
【0164】
B)キメラ重鎖
ヒト定常ドメインに融合されたマウス3G8 VHの発現をコードするキメラ遺伝子を作製するために、3G8 VHをコードする核酸を、標準的な技術(重複PCR増幅など)を用いて、シグナルペプチド(Orlandiら、1989, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 86:3833-37を参照;以下の小文字の下線部)およびヒトCγ1定常領域(以下の小文字部分)をコードする配列に融合させた。クローニングを容易にするために、VH FR4の1個の残基の変化(ala→ser)をもたらすSacI部位を導入した。FR4におけるこの変化は、CD16への結合に影響しない。得られる核酸は、以下に示される配列を有する。VHドメインをコードする領域は大文字である。
【0165】
配列番号5(ch3G8VH)

【0166】
この構築物を、pCI-Neo(Promega Biotech)の、細胞におけるキメラ重鎖の発現のための使用のためのポリリンカーのNheI-EcoRI部位に挿入した。
【0167】
C)キメラ軽鎖
ヒト定常ドメインに融合されたマウス3G8 VLをコードするキメラ遺伝子を作製するために、この3G8 VL断片を、標準的な技術を用いて、シグナル配列(上記のVHについてと同様;小文字の下線部)およびヒトCκ定常領域(小文字)のcDNAに融合させたところ、以下に示す配列を有する核酸が得られた。
【0168】
配列番号6(ch3G8VL)


【0169】
この構築物を、pCI-Neo(Promega Biotech)の、細胞におけるキメラ軽鎖の発現のための使用のためのポリリンカーのNheI-EcoRI部位に挿入した。
【0170】
D)発現
上記のch3G8VHおよびch3G8VLキメラタンパク質を同時発現させて、ch3G8と呼ばれるキメラ抗体を形成させることができる。キメラ抗体ch3G8を、骨髄細胞または他の哺乳動物細胞(例えば、CHO、HEK-293)中で発現させることができる。ch3G8および変異体などのCD16A結合タンパク質の発現のための手順の例を、以下の実施例4に提供する。
【0171】
実施例2:ヒト化抗CD16A結合タンパク質
A)ヒト化重鎖
マウス3G8 VHクローンに由来するCDRコード配列を、ヒト生殖腺VH配列VH2-70から誘導されたフレームワーク配列に融合させて、Hu3G8VHと命名したVHをコードするポリヌクレオチドを作製した。このポリヌクレオチドを、重複PCR手順により生成させた。第一の工程においては、以下に示されるプライマーおよび戦略ならびに鋳型としてマウス3G8 VHポリヌクレオチド(配列番号1)を用いる。
【0172】


【0173】
得られた断片を、EcoRIおよびSacIで消化し、pUC18中にクローニングした。配列決定後、重複PCRの最後の周回のために1個のプラスミドを選択して、2回目のPCR工程の間に起こる欠失を補正した。得られたポリヌクレオチドは以下の配列を有する。
【0174】
配列番号16(hu3G8VH)

【0175】
次いで、Hu3G8VH配列を、分泌シグナル配列(上記の通り;小文字の下線部)およびヒトCγ1定常領域(小文字)のcDNAをコードする断片と組み合わせた。得られたポリヌクレオチドは、以下の配列を有する。
【0176】
配列番号17(hu3G8VH-1)


【0177】
哺乳動物細胞(HEK-293)中での発現のために、Hu3G8VH-1配列を、pUCおよびpCDNA3.1中への介入的クローニング後に、pCI-NeoポリリンカーのNheI-EcoRI部位にクローニングした。
【0178】
B)ヒト化軽鎖
マウス3G8 VLクローンに由来するCDRコード配列を、ヒトB3生殖腺V-κ遺伝子から誘導されたフレームワーク配列に融合させた。このポリヌクレオチドを、以下に示されるプライマーおよび戦略ならびに鋳型としてマウス3G8 VLポリヌクレオチド(配列番号2)を用いる重複PCR手順により生成させた。
【0179】


【0180】
得られたポリヌクレオチドは、以下の配列を有する。
【0181】
配列番号25(hu3G8VL)

【0182】
Hu3G8 VL遺伝子断片を、標準的な技術を用いてシグナル配列(以下に記載、小文字、下線)およびヒトC-κ定常領域(小文字)のcDNAと組み合わせたところ、以下の配列を有する生成物が得られた。
【0183】
配列番号26(hu3G8VL-1)

【0184】
この構築物を、哺乳動物細胞における発現のためにpCI-Neo中に挿入した。
【0185】
実施例3:変異体CD16A結合タンパク質
部位特異的突然変異誘発により、VLまたはVHドメイン中に配列変化を導入する追加の発現構築物を作製した。典型的な突然変異誘発反応は、0.05 ml容量中に10 ngのプラスミドDNA(大腸菌のメチル化コンピテント株から単離されたもの)、それぞれ、目的の突然変異を含む、それぞれ125 ngのフォワードおよびリバースプライマー、反応バッファー、およびdNTPを含んでいた。2.5ユニットのPFUTURBO(登録商標)DNAポリメラーゼ(Stratagene)を添加し、反応物を15サイクルの95℃、30秒;55℃、1分;68℃、12分にかけた。次いで、PCRの産物を、DpnIエンドヌクレアーゼで消化し、制限されたDNAを用いて、大腸菌株XL-10 GOLD(登録商標)ウルトラコンピテント細胞を形質転換した。DpnIはメチル化されたDNAのみを消化するため、それは親の、突然変異されていないプラスミドを消化して、優勢な種として、目的の突然変異を含む、新規に合成された非メチル化産物を脱離させるであろう。
【0186】
変異体VHドメインの配列を、表4に示す。変異体VLドメインの配列を、表5に示す。
【0187】
実施例4:哺乳動物細胞における発現
重鎖および軽鎖発現プラスミドの様々な組合せ(例えば、上記のヒトCγ1およびCκ定常ドメインに融合されたキメラ、ヒト化および変異体VLおよびVHドメイン)を、時には、本明細書で「組換え抗体」と呼ばれる、組換えテトラマー抗体(すなわち、2個の重鎖および2個の軽鎖を含む)の一過的発現のためにHEK-293細胞中に同時トランスフェクトした。トランスフェクションを、製造業者の説明書に従って、6穴プレート中、LIPOFECTAMINE(登録商標)2000(Invitrogen)を用いて実行した。
【0188】
組換え抗体を、重鎖発現プラスミド(すなわち、VHおよび定常ドメインを含む重鎖をコードする)および軽鎖発現プラスミド(すなわち、VLおよび定常ドメインを含む軽鎖をコードする)を、組換え抗体の一過的発現のためにHEK-293細胞中に一緒に同時トランスフェクトすることにより調製した。
【0189】
表4に列挙されるHu3G8VH変異体を、hu3G8VL-1軽鎖と同時発現させた。参考のために、多くのアッセイは、(i)ch3G8VHとch3G8VL(「ch3G8VH/ch3G8VL)の同時発現により産生された組換え抗体および(ii)hu3G8VH-1とhu3G8VL-1(「hu3G8VH-1/hu3G8VL-1」)の同時発現により産生された組換え抗体を含んでいた。
【0190】
表5に列挙されるHu3G8VL変異体を、ch3G8VH重鎖と同時発現させた。参考のために、多くのアッセイは、(i)ch3G8VHとch3G8VL(「ch3G8VH/ch3G8VL)の同時発現により産生された組換え抗体および(ii)ch3G8VHとhu3G8VL-1(「ch3G8VH/hu3G8VL-1」)の同時発現により産生された組換え抗体を含んでいた。
【0191】
3日後、条件化培地中の組換え抗体のレベルをELISAにより決定し、実施例5に記載のように、捕捉されたsCD16Aへの結合についてELISAにより該組換え抗体を分析した。選択された抗体を、実施例6に示されるように、CD16Aの細胞外ドメインを発現する細胞に結合する細胞について分析した。
【0192】
実施例5:CD16Aへの結合のELISA測定
可溶性形態のCD16Aへの抗体の結合を検出するために、サンドイッチELISAを実施した。
【0193】
可溶性ヒトCD16A
可溶性形態のヒトCD16Aを、膜貫通領域の直前にトランケートされたCD16Aを含むpcDNA3.1由来発現ベクターを用いて、HEK-293細胞から発現させた。このベクターを作製するために、CD16AをコードするcDNAを、プライマー3Aleft[gttggatcctccaactgctctgctacttctagttt] (配列番号27)および3Aright[gaaaagcttaaagaatgatgagatggttgacact] (配列番号28)を用いて増幅し、BamHIおよびHindIIIで消化し、ベクターpcDNA3.1(Novagen)のポリリンカーのBam/HindIII部位にクローニングした。この構築物を用いて、HEK-293細胞を一過的にトランスフェクトした。いくつかのアッセイのために、分泌された産物を、ヒトIgGセファロースカラム上でのアフィニティクロマトグラフィーを用いて、条件化培地から精製した。いくつかのアッセイにおいては、条件化培地中のsCD16Aの量を定量し、未精製のsCD16Aを用いた。ELISA捕捉抗体(LNK16 mAb)は前記抗原に特異的に結合し、洗浄工程において夾雑物の除去が可能になるため、精製は必要ではなかった。
【0194】
sCD16A構築物のアミノ酸配列を、以下に示す。(下線のシグナル配列は、発現の間に切断除去される。最後の7個の残基は、CD16A遺伝子よりはむしろベクターpCDNA3.1に由来するものである):

【0195】
ELISA形式
プレートを、最初に、室温で2時間、炭酸バッファー中、100 ng/ウェルの抗CD16A mAb LNK-16(Advanced ImmunoChemical, Long Beach CA; 第5回Human Lymphocyte Differentiation Antigens Workshopを参照)でコーティングした。3G8による結合を阻害しない任意の抗sCD16A抗体を用いることができる。PBS-T-BSAで30分間ブロッキングした後、sCD16A条件化培地を1/10の希釈率で添加し、室温で16時間インキュベートした。あるいは、精製されたsCD16Aを用いた場合、それをPBS-T-BSA中、50 ng/mlの濃度に希釈した。0.05 mlを各ウェルに添加し、室温で少なくとも2時間インキュベートした。
【0196】
次いで、プレートを洗浄し、PBS-T-BSA中、0.5μg/mlで開始する組換え抗体の希釈物を添加し、室温で1時間インキュベートした。次いで、捕捉されたsCD16Aへの組換え抗体の結合を、抗ヒトIgG-HRPコンジュゲートおよびTMB基質を用いて測定した。希硫酸を用いて発色を停止させた後、プレートを450 nMで読み取った。
【0197】
結合アッセイの結果
この実施例は、CD16Aへの結合に関するヒト化抗CD16A抗体の結合特性が、キメラ3G8抗体の特性と同じか、または類似していることを示す。
【0198】
比較結合試験に基づいて、組換え抗体を、高い、中間の、または低い親和性での結合として分類した。高い、および中間の結合親和性を有する抗体は、セクション4において上記で考察されている。hu3G8VH-9、10、11、13、15、21、38、39、または41のVHドメインを有する組換え抗体は、sCD16Aへの結合をほとんど示さないか、または全く示さなかった。これらのデータから、特定の置換(または置換の組合せ)が一般的には結合にとって有害であるようである。例えば、VHの位置52のチロシンもしくはアスパラギン酸(すなわち、52Yおよび52D)または位置94のトレオニン(94T)の置換は、結合にとって有害である。同様に、位置50のロイシンと、位置54のアスパラギン酸との組合せ(50L+54N)は結合にとって有害であり、94でのアルギニンと101のアスパラギン酸との組合せ(94R+101D)も同様である。しかしながら、101のアスパラギン酸は、位置94がグルタミン、リジン、ヒスチジンまたはアラニン(アルギニンではなく)である場合、許容される。さらに、34V+94R+101Dは中間の活性を有する。これは、高親和性結合の維持において、位置34、94および101の間の関係を示し、34Vが特に重要な残基であることを示唆している。同様に、hu3G8VL-6、7、8、9、11、12、13、および14のVLドメインを有する組換え抗体は、sCD16Aへの結合をほとんど示さないか、または全く示さなかった。これらのデータから、特定の置換(または置換の組合せ)が、一般的には結合にとって有害であるようである。例えば、位置34のアラニン(34A)または位置92のチロシン(92Y)の置換は、一般的には結合にとって有害である。
【0199】
例示的な結合アッセイの結果を、図1に示す。
【0200】
実施例6:CD16Aを発現する細胞への抗体の結合
CHO-K1細胞により発現されるCD16Aに結合する選択されたヒト化抗体の能力を、直接的結合競合アッセイによりアッセイした。
【0201】
FcγRIIbの膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインに融合されたFcγRIIIAの細胞外ドメインを発現するCHO-K1細胞を、細胞結合アッセイに用いた。細胞を、96穴平底組織培養プレート(FALCON(登録商標)MICROTEST(商標)組織培養プレート、96穴)中、ウェルあたり40,000個の細胞で塗布し、37℃で、CO2インキュベーター中、約24時間インキュベートした。次いで、プレートを、25 mM Hepes、75μM EDTA、11.5 mM KCI、115 mM NaCl、6 mM MgSO4、1.8 mM CaCl2、0.25% BSA(結合バッファー)で3回、穏やかに洗浄した。
【0202】
次いで、間接的結合アッセイのために、100μlの抗CD16A mAbの連続希釈液(最終濃度:1μg/ml、0.5、0.25、0.125、0.0625、0.03、0.015、0μg/ml)を、結合バッファー中、ウェルに添加した。次いで、プレートを23℃で1時間インキュベートし、結合バッファーで3回洗浄した。次いで、50μl/ウェルのユウロピウム(EU)標識された抗ヒトIgG(100 ng/ml)を各ウェルに添加し、プレートを23℃で30分間インキュベートした後、結合バッファーで3回洗浄した。最後に、100μlのDELFIA(登録商標)増強溶液、Eu3+/Sm3+の定量測定における使用を意図された酸性キレート化洗剤溶液(PerkinElmer/Wallac)を添加した。振とうしながら15分間インキュベートした後、プレートを、VICTOR2装置(PerkinElmer/Wallac)中、時間分解蛍光(励起340 nm;放出615 nm)について読み取った。このアッセイの結果を、図2に示す。
【0203】
上記のCHO-Kl細胞も、競合アッセイにおいて用いた。上記の結合バッファーで洗浄した後、変化する量の精製された未標識のmAb(1.2〜75 nM最終濃度)を、固定された濃度のEu-Ch3G8-N297Q(最終濃度2.5 nM)と混合した。次いで、プレートを、23℃で1時間インキュベートし、結合バッファーで3回洗浄した。100μlのDELFIA(登録商標)増強溶液(PerkinElmer/Wallac)を添加し、振とうしながら15分間インキュベートした後、プレートを、VICTOR2装置(PerkinElmer/Wallac)中、時間分解蛍光(励起340 nm;放出615 nm)について読み取った。このアッセイの結果を、図3に示す。
【0204】
これらのアッセイは、ヒト化抗CD16Aモノクローナル抗体が、トランスフェクトされた細胞の表面上のCD16Aに高い親和性で結合することを示している。Hu3G8-22.1-N297Qは、Ch3G8-N-297Qよりも高い親和性でCD16Aを担持する細胞に結合する。
【0205】
実施例7:免疫複合体へのsCD16Aの結合の阻害
FITC-BSAに結合する4-4-20のアッセイ
FITC-BSAへのch4-4-20またはch4-4-20(D265A)の結合を、ELISAによりアッセイした。(Ch4-4-20は、それが3G8のものの代わりに4-4-20のそれぞれVHおよびVL領域を含む以外はCh3G8と同一である。かくして、それはハプテンフルオレセインに対する高い親和性および特異性を保持する。4-4-20は、Bedzykら、1989, J. Biol. Chem. 264:1565-9に記載されている)。FITC-BSA(1μg/ml〜50 ng/ウェル)を、炭酸バッファー中、Nunc maxisorbイムノプレート上にコーティングし、約16時間結合させた。BSAでブロッキングした後、ch4-4-20の希釈液をウェルに添加し、RTで1時間結合させた。未結合のmAbを洗浄除去した後、HRPコンジュゲートヤギ抗ヒトIg二次抗体を添加した。1時間後、二次抗体を除去し、洗浄し、TMB基質を用いて展開した。酸性停止溶液の添加後、プレートを450 nmで読み取った。ch4-4-20およびch4-4-20(D265A)は両方とも、高い親和性でFITC-BSAに結合した(データは示さない)。
【0206】
ch4-4-20/FITC-BSA免疫複合体に結合するsFcRのアッセイ
同じ形式を用いて、ch4-4-20とFITC-BSAの間でELISAプレート上に形成された免疫複合体(IC)へのsFcRの結合をアッセイした。この場合、本発明者らは、二次試薬として、ビオチン化sFcRまたはビオチン化抗ヒトG2 mAbを用いた後、ストレプトアビジン-HRP検出を行った。
【0207】
マウス、キメラおよびヒト化3G8によるICに結合するsFcRの阻害
ch4-4-20とsFcRの濃度を固定したところ、このアッセイにおいて約90%の最大シグナルを得た。sCD16Aを、マウス、キメラもしくはヒト化3G8の連続希釈液と予め混合し、1時間インキュベートした後、免疫複合体を含むプレートに添加した。ヒト化またはキメラ3G8の連続希釈液を、sCD16A-G2-ビオチンと共に1時間インキュベートした。次いで、この混合物を、ヒトIgG1キメラ形態の抗フルオレセインmAb 4-4-20とFITC-BSAの間の免疫複合体を含むELISAウェルに添加した。1時間後、ICへの可溶性受容体の結合を、ストレプトアビジン-HRPコンジュゲートおよびTMB展開を用いて検出した。その結果を、図4に示す。このアッセイは、ヒト化抗CD16A抗体が、免疫複合体中のIgGに結合するCD16Aの強力な阻害剤であることを示している。
【0208】
実施例8:抗CD16Aモノクローナル抗体パネルの分析
標準的な方法を用いて、sCD16Aでマウスを免疫し、追加免疫した後、ハイブリドーマのパネルを作製した。8個の96穴プレートを、sCD16Aで直接的にコーティングされたプレート上で、結合活性についてELISAによりスクリーニングした。これらのうちの93個は、陽性のシグナルを与え、さらに拡張させた。これらのうち、37個は、FRCSによるヒト血液細胞への結合に関して陽性であった。次いで、これらの上清を、CD16Aと免疫複合体との相互作用を阻害する能力およびその結合部位(エピトープ)と3G8のものの類似性について分析した。アッセイは、キメラ3G8ダウンを用いる捕捉ELISAおよびsRIIIa-Igに結合する免疫複合体の阻害を含んでいた。これらのアッセイに基づいて、3G8と同様の結合特性および阻害特性を有する抗体、ならびに3G8とは異なる結合特性および/または阻害特性を有するmAbを単離した。
【0209】
DJ130c(DAKO)および3G8を、前記アッセイにおける対照として用いた。mAb DJ130cは、3G8と異なるエピトープでCD16に結合する市販のmAbである(TatumおよびSchmidt)。このmAbは、FcγRIIIa-免疫複合体結合を阻害しない(TatumおよびSchmidt)。ELISAに基づく阻害アッセイにおいて、DJ130cは結合を阻害するよりもむしろ増強する。
【0210】
このデータは、パネルが、Ch3G8と同じエピトープに結合し、免疫複合体に結合するsCD16Aを阻害する抗体を含むことを示唆している(表3)。mAbのパネルは、Ch3G8と同じエピトープに結合しない抗体も含む。これらの後者の抗体の多くは、sCD16aと、免疫複合体中のIgGとの相互作用を阻害しない。
【表3】

【0211】
実施例9:in vivoでの血小板枯渇の誘導
自己抗体により誘導されたヒトFc-FcγRIII相互作用を阻害する、CD16A結合タンパク質のin vivoでの活性を、自己免疫疾患の動物モデルを用いて評価することができる。1つの好適なモデルは、ITPおよび抗血小板mAb 6A6の「受動的マウスモデル」である(Oyaizuら、1988, J. Exp. Med. 167:2017-22; Mizutaniら、1993, Blood 82:837-44を参照)。6A6は、NZW x BSXB Fl個体から誘導されたIgG2aアイソタイプmAbである。6A6の投与は、muFcγRIII-/-、huFcγRIIIAトランスジェニックマウスにおいては血小板を枯渇させるが、ヒトトランスジーンを含まないmuFcγRIII-/-マウスにおいては血小板を枯渇させない。Samuelssonら、2001, Science 291:484-86を参照されたい。他の抗血小板モノクローナル抗体を、該モデルにおける6A6の代わりに用いることができる。あるいは、ポリクローナル抗血小板抗体を用いることができる。
【0212】
血小板枯渇からの最も大きい程度の防御を与えるCD16A結合タンパク質を、muFcγRIII-/-、huFcγRIIIAトランスジェニックマウスにCD16A結合タンパク質を投与し、mAb 6A6に誘導された血小板枯渇の任意の減少を測定することにより同定することができる。
【0213】
関連するアッセイを、枯渇するmAbがヒトアイソタイプを有するように、上記に提供されたプロトコルにおいてマウスmAbの代わりに6A6のキメラヒトIgG1κキメラ誘導体を用いて実行することができる。このアッセイを行うために、キメラ6A6モノクローナル抗体(ch6A6)を、マウス抗血小板モノクローナル抗体6A6 VHおよびVL領域をコードするcDNA断片を、それぞれヒトCγ1およびCκ cDNA断片に融合させることにより調製した。得られた遺伝子を、293細胞中で同時発現させ、キメラ6A6を、プロテインAアフィニティクロマトグラフィー、次いで、サイズ排除クロマトグラフィーにより精製した。
【0214】
キメラ6A6抗体が血小板枯渇を誘導することを証明するために、ch6A6を、muFcγRIII-/-、huFcγRIIIAトランスジェニックマウスに投与した。ch6A6を、i.v.または腹腔内(i.p.)的に各動物に投与した(0.1μg/g)。ch6A6の投与後、動物を2時間、5時間、24時間および48時間出血させ、血漿の血小板計数を、Z2(商標)COULTER COUNTER(登録商標)粒子計測器および70μmの開口部を備えたサイズ分析装置を用いて決定した。1.5〜4μmのサイズの粒子(血小板に対応する)を計測し、各濃度について血小板計数対時間をプロットすることにより、データを分析した。
【0215】
0.1μg/gのch6A6をi.p.的に注入した2時間後、約75%の血小板が枯渇した。次いで、ch6A6注入後5時間に渡って低いままであった血小板の数は徐々に増加し、ch6A6注入の72時間後には正常に戻った。
【0216】
0.1μg/gのch6A6をi.v.的に注入した2時間後、約60%の血小板が枯渇した。次いで、ch6A6注入後6時間に渡って低いままであった血小板の数は徐々に増加し、ch6A6注入の48時間後には正常に戻った。
【0217】
実施例10:血小板枯渇からマウスを防御するCD16A結合抗体の能力の分析
実験的ITPにおいて血小板枯渇を減少させるCD16A結合タンパク質の能力を、下記のようにアッセイすることができる。CD16A結合タンパク質を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中、0.5、1、2または5μg/gの濃度でmuFcγRIII-/-、huFcγRIIIAトランスジェニックマウスの群に静脈内(i.v.)的に投与した。対照は、PBSのみまたは無関係のヒトIgGI(陰性対照)もしくはヒト静脈内免疫グロブリン(IVIG;陽性対照)であった。CD16A結合タンパク質または対照の投与の1時間後に、0.1μg/gのch6A6を、静脈内または腹腔内的に各動物に投与することにより、ITPを誘導した。ch6A6の投与後、動物を2時間、5時間、24時間および48時間出血させた。血漿の血小板計数を、上記のZ2(商標)COULTER COUNTER(登録商標)粒子計測器およびサイズ分析装置を用いて決定し、投与した結合タンパク質の各濃度について血小板計数対時間をプロットすることにより、データを分析した。
【0218】
muFcγRIII-/-、huFcγRIIIAトランスジェニックマウスに、ch6A6のi.p.注入の1時間前にマウス3G8(0.5μg/g)を注入した場合、33%の血小板が2時間の時点で枯渇した(図5)。次いで、血小板の数は徐々に増加し、ch6A6注入の24時間後には正常に戻った。muFcγRIII-/-、huFcγRIIIAトランスジェニックマウスに、ch6A6のi.v.注入の1時間前にマウス3G8(0.5μg/g)を注入した場合、30%の血小板が2時間の時点で枯渇した(図6)。次いで、血小板の数は急速に増加し、ch6A6注入の5時間後に正常に戻った。
【0219】
これらの結果は、ヒトIVIGを投与する場合に認められた防御と類似していた。muFcγRIII-/-、huFcγRIIIAトランスジェニックマウスに、ch6A6のi.p.注入の1時間前にヒトIVIG(1 mg/g)を注入した場合、33%の血小板が2時間の時点で枯渇した(図5)。次いで、血小板の数は徐々に増加し、ch6A6注入の24時間後には正常に戻った。。muFcγRIII-/-、huFcγRIIIAトランスジェニックマウスに、ch6A6のi.v.注入の1時間前にヒトIVIG(1 mg/g)を注入した場合、20%の血小板が2時間の時点で枯渇した(図6)。次いで、血小板の数は急速に増加し、ch6A6注入の5時間後には正常に戻った。
【0220】
図5および6に示される結果は、m3G8が、ch6A6により媒介される血小板枯渇からマウスを防御し、防御のレベルはIVIGにより与えられる防御と類似していたことを示している。
【0221】
HEK-293細胞中で産生された組換えマウス3G8、ヒトIgG1またはIgG2定常ドメインを有するキメラ3G8(HEK-293およびCHO-Kl細胞中で産生されたch3G8-γ1、ならびにHEK-293細胞中で産生されたch3G8-γ2)、ならびにch3G8-γ1変異体(ch3G8-γ1 D265A)の調製は、この実験において有意な防御をもたらさなかった。muFcγRIII-/-、huFcγRIIIAトランスジェニックマウスに、ch6A6のi.p.注入の1時間前にch3G8γ1またはγ2(0.5μg/g)を注入した場合、約60%の血小板が5時間の時点で枯渇した(図7)。次いで、血小板の数は正常まで徐々に戻った。枯渇は、抗CD16A結合タンパク質を受けなかったマウスにおけると同様に重篤ではなかったが、これらのキメラ抗体は、あったとしても、マウス3G8よりも有意に低い防御しかもたらさなかった。アスパラギン酸265をアラニンに変化させたch3G8変異体は、同様の結果を示した。興味深いことに、実施例11に示されるように、アグリコシル化された変異体を作製するためのch3G8の改変により、前記抗体の防御効果が増加した。
【0222】
実施例11:Ch3G8 N297Qは、ch6A6により媒介される血小板枯渇からマウスを防御する
アグリコシル化型のch3G8-γ1を、残基297がアスパラギン(N)からグルタミン酸(Q)に変化するように、ch3G8-γ1をコードする発現ポリヌクレオチドを突然変異させ、コードされた抗体を発現させることにより調製した。残基297は、N-結合グリコシル化部位中にあり、この突然変異はこの部位でのFcドメインのグリコシル化を防止する。このアグリコシル化抗体、ch3G8 N297Qを、ch3G8-γ1について記載されたようにHEK-293細胞中で産生させた(上記の実施例4を参照)。ch6A6により媒介される血小板枯渇に対して防御するch3G8-N297Qの能力を、上記のプロトコルを用いて試験した。
【0223】
muFcγRIII-/-、huFcγRIIIAトランスジェニックマウスに、ch6A6のi.p.注入の1時間前に1μg/gのアグリコシル化形態のch3G8(ch3G8 N297Q)を注入した場合、約75%の血小板が2時間の時点で枯渇した(図8)。血小板レベルは、ch3G8 N297Qの非存在下よりも早く増加し、ch6A6注入の24時間後までに正常に戻った。
【0224】
muFcγRIII-/-、huFcγRIIIAトランスジェニックマウスに、ch6A6のi.v.注入の1時間前に1μg/gのch3G8 N297Qを注入した場合、約60%の血小板が2時間の時点で枯渇した(図9)。血小板レベルは、ch3G8 N297Qの非存在下よりも早く増加し、ch6A6注入の48時間後までに正常に戻った。
【0225】
muFcγRIII-/-、huFcγRIIIAトランスジェニックマウスに、ch6A6のi.v.注入の1時間前にch3G8 N297Q(2μg/g)を注入した場合、わずかに40%の血小板が2時間の時点で枯渇した(図9)。血小板レベルは、ch3G8 N297Qの非存在下よりも早く増加し、ch6A6注入の5時間後までに正常に戻った。
【0226】
かくして、ch3G8-N297Qは、一貫して血小板計数を有意に改善することができた。エフェクター細胞上のヒトCD16Aへの3G8の結合は、免疫複合体と相互作用するCD16Aの能力を阻害し、ADCCまたは食作用などのエフェクター機能を誘発する。キメラおよびマウス3G8分子は、CD16Aに結合する同様の能力を有し、in vitroで免疫複合体へのsCD16Aの結合を阻害するその能力において類似している。特定の機構により束縛されることを意図するものではないが、mAbの結合(およびかくして)ならびに阻害活性は、抗体のFab部分に限定されると考えられ、huCD16Aの阻害が、トランスジェニックマウスITPモデルにおける防御機構であると考えられる。上記のデータは、Fcドメインのグリコシル化状態が、抗CD16A抗体のin vivoでの防御能力に影響し得ることを示唆している。Fcドメイングリコシル化の除去(例えば、D265AもしくはN297Q突然変異を用いるか、またはヒトγ2Fcドメインを用いることによる)は、FcRへのFc結合を減少させるか、または排除する。アグリコシル(N297Q)変異体の場合、補体固定化も破壊される。
【0227】
実施例12:アグリコシルCD16A結合タンパク質の投与後の好中球レベル
好中球レベルに対する、アグリコシル化CD16A結合タンパク質の効果を試験し、グリコシル化されたCD16A結合タンパク質のものと比較した。CD16A結合タンパク質、または無関係なヒトIgG1(陰性対照)もしくはマウスRB6-8C5(陽性対照)などの対照を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中、5μg/gの濃度で、muFcγRIII-/-、huFcγRIIIBトランスジェニックマウスの群に投与した。別の陰性対照として、PBSのみを投与した。24時間後、マウスを安楽死させ、血液、脾臓および骨髄を収集した。好中球をFACSにより分析した。染色実験を、3%FCSを含むRPMI中で行った。マウス細胞を、FITCコンジュゲート3G8(PharMingen)およびR-PEコンジュゲートRB6-8C5(PharMingen)を用いて染色した。FACSCALIBUR(商標) (Becton Dickinson)を用いるフローサイトメトリーにより、サンプルを分析した。
【0228】
5μg/gのch3G8(上記のように調製)の腹腔内注入は、血液および脾臓におけるマウス好中球枯渇をもたらした(図10;右上のクアドラント)。マウス3G8の投与後に、同様の結果が見られた(結果は示さない)。ch3G8処理された動物の骨髄においては、好中球はCD16について弱く染色し、それはキメラ抗体またはシェディングによる受容体占有を示唆し得る(図10;右上のクアドラントから左上のクアドラントへのシフトを参照)。対照的に、5μg/gのch3G8 N297Qの腹腔内注入は、血液、脾臓または骨髄におけるマウス好中球枯渇をもたらさなかった(図10)。さらなる実験において、ヒト化グリコシル化3G8抗体は、アグリコシル化形態の同じ抗体と比較して、循環する血液好中球の実質的により多い枯渇を示した。
【0229】
実施例13:自己免疫性溶血性貧血モデル
本実施例は、CD16A結合タンパク質の投与が、自己免疫性溶血性貧血のモデルにおいて赤血球枯渇を防止することを証明するものである。
【0230】
muFcγRIII-/-、huFcγRIIIa+マウスにおいて抗体依存的赤血球枯渇を防止するHu3G8-5.1-N297Qモノクローナル抗体の能力を評価した。Hu3G8-5.1-N297Qは、重鎖Hu3G8VH-5および軽鎖Hu3G8VH-1およびアスパラギン297の指定された置換を有するアグリコシル抗体である。マウスを0日目に出血させ、RBCレベルを、Z2(商標)COULTER COUNTER(登録商標)粒子分析装置を用いて決定した。次の日、それぞれ3匹の動物の群に、0.5 mg/kgのHu3G8-5.1-N297QまたはPBSを静脈内注入した。1群のマウスは、いかなる化合物も受容しなかった。1時間後、マウス抗RBC IgG2a mAb 34-3Cを各動物に腹腔内(i.p.)投与(2.5 mg/kg)することにより、RBC枯渇を最初の2群において誘導した。34-3Cの投与後、動物を2時間、5時間、24時間および48時間出血させ、RBC計数を決定した。RBC計数をプロットすることにより、データを分析した。図11に示されるデータは、このモデルにおいてRBC枯渇を防止するHu3G8-5.1-N297Qの能力を証明している。
【0231】
実施例14:抗体依存的細胞性細胞傷害性(ADCC)の阻害
本実施例は、ヒト化3G8変異体が、in vitroで、かつマウス3G8と同様の活性でADCCを阻害することを証明するものである。
【0232】
方法:
抗体依存的細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)の評価のためのプロトコルは、Dingら、1998, Immunity 8:403-11に以前に記載されたものと同様である。簡単に述べると、HER2を過剰発現する乳癌細胞系SK-BR-3に由来する標的細胞を、ユウロピウムキレートビス(アセトキシメチル)2,2':6',2''-テルピリジン-6,6''-ジカルボキシレート(DELFIA(登録商標)BATDA Reagent, Perkin Elmer/Wallac)を用いて標識した。次いで、標識された標的細胞を、キメラ抗HER2(ch4D5、100 ng/ml)またはキメラ抗フルオレセイン(ch4-4-20、1μg/ml)抗体でオプソニン化(コーティング)した。抗フルオレセイン抗体の場合、SK-BR-3細胞をフルオレセインハプテンでコーティングした後、抗体をオプソニン化した。FICOLL-PAQUE(商標)(Amersham Pharmacia)勾配遠心分離により単離された末梢血単核細胞(PBMC)を、エフェクター細胞として用いた(エフェクター:標的比:ch4D5=(37.5:1)およびch4-4-20=(75:1))。37℃、5%CO2で3.5時間インキュベートした後、細胞上清を収穫し、酸性ユウロピウム溶液(DELFIA(登録商標)Europium Solution, Perkin Elmer/Wallac)に添加した。形成されたユウロピウム-TDAキレートの蛍光を、時間分解フルオロメーター(Victor2 1420, Perkin Elmer/Wallac)において定量した。標的細胞を、それぞれ2% TX-100および培地のみと共にインキュベートすることにより、最大放出(MR)および自発的放出(SR)を決定した。抗体非依存的細胞性細胞傷害性(AICC)を、抗体の非存在下で標的細胞およびエフェクター細胞をインキュベートすることにより測定した。各アッセイを3回実施した。平均特異的溶解(%)を、(ADCC-AICC)/(MR-SR)x100として算出した。
【0233】
結果:
抗CD16A変異体の添加は、HER2/neuタンパク質(ch4D5)(図12)、またはハプテン、フルオレセイン(ch4-4-20)(図13)に対する抗体を介してADCCを阻害した。ch4D5を介するADCCの阻害は、試験した3種の3G8変異体の全てについて、300 ng/mlで50%を超えていたが、アイソタイプ対照抗体はこのアッセイにおいて効果がなかった。抗フルオレセイン抗体の場合、阻害は、マウス3G8(図13A)およびヒト化3G8変異体(図13B)について、1μg/mlを超える濃度で約50%であったが、アイソタイプ対照抗体およびキメラ3G8はほとんど効果がなかった。
【0234】
実施例15:Hu3G8-5.1-N297Qの投与は、huFcγRIIa+、huFcγRIIIa+マウスにおいて免疫血小板減少症(ITP)を防止する
本実施例は、抗CD16A抗体の投与が、CD32Aにより媒介されるITPに対して防御することを示すものである。FcγRIII-/-、hCD16Aマウスにおけると同様、ch6A6抗体の投与は、FcγRIII-/-、hCD32AトランスジェニックマウスにおいてITPを誘導する。0.1μg/gのch6A6をi.p.注入した5時間後、約80%の血小板が枯渇する(示さず)。血小板の数は、ch6A6の注入後24時間は低いままであり、次いで、徐々に増加し、ch6A6注入の48時間後に正常に戻った。予想された通り、ch6A6注入の1時間前のhu3G8-5.1のi.v.注入(0.5μg/g)は、ITPに対してFcγRIII-/-、hCD32Aマウスを防御しなかった(示さず)。
【0235】
単一のトランスジェニックマウスにおけると同様、ch6A6は、FcγRIII-/-、hCD16A、hCD32A二重トランスジェニックマウスにおいてITPを誘導する。0.1μg/gのch6A6をi.p.注入した5時間後に、約80%の血小板が枯渇した(図14)。血小板の数はch6A6注入後24時間に渡って低いままであり、次いで徐々に増加し、ch6A6注入の48時間後に正常に戻った。
【0236】
FcγRIII-/-、hCD32Aマウスとは対照的に、FcγRIII-/-、hCD16A、hCD32Aマウスは、hu3G8-5.1の投与によりITPに対して防御された。1μg/gのh3G8 5.1をch6A6のi.p.注入の1時間前に注入する場合、完全な防御が観察され;0.75μg/gまたは0.5μg/gのh3G8-5.1の投与から部分的な防御が得られた(図14)。かくして、このデータは、CD32AはITPを媒介することができるが、1μg/gのh3G8-5.1の注入は、血小板枯渇に対してマウスを完全かつ予想外に防御する。
【0237】
実施例16:CHO-S細胞系において産生されたHu3G8-5.1-N297Qを用いる血小板枯渇の防止
Hu3G8-5.1-N297Qを、CHO-S細胞系中で産生させた。FcγRIII-/-、hCD16A単一トランスジェニックマウスにおいてITPに対して防御するこの抗体の能力を、実施例13に記載の手順を用いて決定した。図15に示されるように、ch6A6のi.p.注入の1時間前にCHO-S細胞中で産生された0.5 mg/kg以上のHu3G8-5.1-N297Qの投与は、ITPに対してマウスを完全に防御する。
【0238】
実施例17:アグリコシル化されたヒト化抗体の治療効果
時間0で、0.1μg/gのch6A6のi.p.注入により、上記のマウスにおいてITPを誘導した。2時間後、血漿中の血小板の数を決定して、ITPの存在を確認した。ch6A6のi.p.注入の3時間後、異なる濃度でhu3G8-5.1-N297Qをマウスにi.v.注入した(矢印)。その結果(図16A)は、血小板の数は、Hu3G8-5.1-N297Q注入後、急速に正常に戻るが、非処理マウスにおいては血小板の数は低いままであることを示している。これらの結果は、hu3G8-5.1-N297Q抗体の投与を用いて、マウスモデルにおいてITPを治癒させることができることを示している。
【0239】
この実験においては、時間0で、0.1μg/gのch6A6のi.p.注入により、ITPを誘導した。2時間後、血漿中の血小板の数を決定して、ITPの存在を確認した。ch6A6のi.p.注入の3時間後、0.5μg/gでhu3G8-22.1-N297Qおよびhu3G8-22.43-N297Qをマウスにi.v.注入した(矢印)。その結果は、血小板の数は、Hu3G8-22.1-N297Q注入後、急速に正常に戻るが、非処理マウスおよびHu3G8-22.43-N297Qで処理したマウスにおいては血小板の数は低いままであることを示している(図16B)。これらのデータは、hu3G8-22.1-N297Qを用いて、マウスモデルにおいてITPを治癒させることができることを示している。
【0240】
実施例18:muFcγRIII-/-、huFcγRIIIAトランスジェニックマウスにおけるAHAにおけるHu3G8-22.1-N2970の治療効果
この実験においては、0日目に50μgのマウス抗RBC IgG2a mAb 34-3Cのi.p.注入により、AHAを誘導した。1日目に、血液中のRBCの数を決定して、AHAの存在を確認した。2時間後、種々の濃度のHu3G8-22.1-N297Qを、マウスにi.v.注入した(矢印)。その結果は、RBCの数はHu3G8-22.1-N297Q注入後も安定なままであるが、非処理マウスにおいてはRBCの数は落ち続けることを示している(図17)。Hu3G8-22.1-N297Qの最適な濃度は0.5μg/gである。RBCの数は7日目に全てのマウスにおいて正常に戻った。RBCの数に対する反復する出血の効果を決定するために、対照マウスを毎日出血させたが、注入しなかった。マウスモデルにおけるこれらの結果は、Hu3G8-22.1-N297Qを用いて、AHAを治癒させることができることを示唆している。Hu3G8-22.1-N297Qはさらに、自己抗体によるRBC枯渇を防止し、従って、貧血に対してマウスを防御する。
【表4】






【0241】
【表5】





【0242】
【表6】








【0243】
実施例18:特発性血小板減少性紫斑病(ITP)を有する患者におけるGMA-161の第I相、非盲検、二中心、単回投与、用量上昇、安全性、寛容性、免疫原性試験
Fcγ受容体III(FcγRIII、CD16A)に対するヒト化抗体、GMA-161は、抗体によりコーティングされた血小板の脾臓および肝臓のマクロファージによる食作用を阻害するために開発されたものである。難治性ITPを有する患者においてマウス抗CD16A mAb 3G8を用いて、いくつかの臨床試験を行った。多くの患者において血小板計数の上昇が観察されたが、サイトカイン放出症候群、一過性好中球減少症、およびヒト抗マウス抗体(HAMA)応答により、さらなる臨床開発が阻害された。「ヒト化」することに加えて、GMA-161を3G8から改変して、補体を固定するか、またはリンパ球、好中球もしくはNK細胞上の受容体に結合するそのFcドメインの能力を低下させた。
【0244】
患者:
患者を、少なくとも6ヶ月間、ITPに関して診断した。好ましくは、この患者は、試験治療を開始する前の7日以内に1回の測定を含む、少なくとも6週間間隔での2回の測定において、50,000/mm3未満の血小板計数を有するであろう。
【0245】
GMA-161の投与:
患者は、0日目にGMA-161の1回のIV注入を受容し、血液サンプルの回収について7日間、安全性観察のためにモニターされる。患者は、0.1 mg/kg体重の用量でGMA-161を用いる治療を受容するであろう。GMA-161は、5 mg/mLのタンパク質濃度を有する液体溶液(25 mg/バイアル)である。GMA-161は、154 mM塩化ナトリウムを含む、pH7.2の5 mMリン酸ナトリウムと1.7 mMリン酸カリウムから構成されるバッファー中にある。
【0246】
免疫学的評価および血小板計数評価:
免疫学的評価のためのサンプルを、以下に特定した様々な時点で回収する:また、血小板計数もモニターする。血液サンプルを、GMA-161の投与の2時間、5時間、24時間および48時間後に回収し、血漿の血小板計数を、70μmの開口部を備えた粒子計測およびサイズ分析装置Z2(商標)COULTER COUNTER(登録商標)を用いて決定することができる。データを、相対血小板レベル(実際の血小板計数を、時間0での血小板計数で割る)対各濃度の時間をプロットすることにより分析する。
【0247】
0日目(注入前)、7日目、21日目および28日目:
抗血小板アッセイ、抗核抗体(ANA)、抗二本鎖DNA抗体、抗カルジオリピン抗体(ACA)、リンパ球サブセット(ナチュラルキラー細胞など)、および血清免疫グロブリン(IgG、IgA、およびIgM)濃度、ならびに血清サイトカインアッセイ(例えば、インターロイキン-6[IL-6]、IL-8、および主要壊死因子α[TNFα])。患者がサイトカイン放出症候群の兆候または徴候を示す場合、血液をサイトカインアッセイのために注入の30分後に回収する。
【0248】
0日目(注入前)および7日目:
血清CD16AならびにC3およびC4補体。注入前の抗GMA-161抗体血清を、0日目に回収する。注入後の抗GMA-161抗体アッセイは、Genzyme Immunology Laboratoryにより決定されるように、血液GMA-161レベルがもはや該アッセイを阻害しない時に開始する。
【0249】
患者の治療の成功は、GMA-161投与後に血小板レベルの顕著な増加を示し、血小板枯渇の兆候を示さず、最少の副作用を示し、および好ましくはサイトカイン放出症候群を示さない。かくして、最大の寛容量を、用量上昇試験において決定することができる。
【0250】
実施例19:特発性血小板減少性紫斑病(ITP)を有する患者におけるGMA-161の第I相、非盲検、二中心、単回投与、用量上昇、安全性、寛容性、免疫原性試験
Fcγ受容体III(FcγRIII、CD16A)に対するヒト化抗体、GMA-161は、抗体によりコーティングされた血小板の脾臓および肝臓のマクロファージによる食作用を阻害するために開発されたものである。難治性ITPを有する患者においてマウス抗CD16A mAb 3G8を用いて、いくつかの臨床試験を行った。多くの患者において血小板計数の上昇が観察されたが、サイトカイン放出症候群、一過性好中球減少症、およびヒト抗マウス抗体(HAMA)応答により、さらなる臨床開発が阻害された。「ヒト化」することに加えて、GMA-161を3G8から改変して、補体を固定するか、またはリンパ球、好中球もしくはNK細胞上の受容体に結合するそのFcドメインの能力を低下させた。
【0251】
患者:
患者を、少なくとも6ヶ月間、ITPに関して診断した。好ましくは、この患者は、試験治療を開始する前の7日以内に1回の測定を含む、少なくとも6週間間隔での2回の測定において、50,000/mm3未満の血小板計数を有するであろう。
【0252】
GMA-161の投与:
患者は、0日目にGMA-161の1回のIV注入を受容し、血液サンプルの回収について7日間、安全性観察のためにモニターされる。患者は、0.3 mg/kg体重の用量でGMA-161を用いる治療を受容するであろう。GMA-161は、5 mg/mLのタンパク質濃度を有する液体溶液(25 mg/バイアル)である。GMA-161は、154 mM塩化ナトリウムを含む、pH7.2の5 mMリン酸ナトリウムと1.7 mMリン酸カリウムから構成されるバッファー中にある。
【0253】
免疫学的評価および血小板計数評価:
免疫学的評価のためのサンプルを、以下に特定した様々な時点で回収する:また、血小板計数もモニターする。血液サンプルを、GMA-161の投与の2時間、5時間、24時間および48時間後に回収し、血漿の血小板計数を、70μmの開口部を備えた粒子計測およびサイズ分析装置Z2(商標)COULTER COUNTER(登録商標)を用いて決定することができる。データを、相対血小板レベル(実際の血小板計数を、時間0での血小板計数で割る)対各濃度の時間をプロットすることにより分析する。
【0254】
0日目(注入前)、7日目、21日目および28日目:
抗血小板アッセイ、抗核抗体(ANA)、抗二本鎖DNA抗体、抗カルジオリピン抗体(ACA)、リンパ球サブセット(ナチュラルキラー細胞など)、および血清免疫グロブリン(IgG、IgA、およびIgM)濃度、ならびに血清サイトカインアッセイ(例えば、インターロイキン-6[IL-6]、IL-8、および主要壊死因子α[TNFα])。患者がサイトカイン放出症候群の兆候または徴候を示す場合、血液をサイトカインアッセイのために注入の30分後に回収する。
【0255】
0日目(注入前)および7日目:
血清CD16AならびにC3およびC4補体。注入前の抗GMA-161抗体血清を、0日目に回収する。注入後の抗GMA-161抗体アッセイは、Genzyme Immunology Laboratoryにより決定されるように、血液GMA-161レベルがもはや該アッセイを阻害しない時に開始する。
【0256】
患者の治療の成功は、GMA-161投与後に血小板レベルの顕著な増加を示し、血小板枯渇の兆候を示さず、最少の副作用を示し、および好ましくはサイトカイン放出症候群を示さない。かくして、最大の寛容量を、用量上昇試験において決定することができる。
【0257】
実施例20:特発性血小板減少性紫斑病(ITP)を有する患者におけるGMA-161の第I相、非盲検、二中心、単回投与、用量上昇、安全性、寛容性、免疫原性試験
Fcγ受容体III(FcγRIII、CD16A)に対するヒト化抗体、GMA-161は、抗体によりコーティングされた血小板の脾臓および肝臓のマクロファージによる食作用を阻害するために開発されたものである。難治性ITPを有する患者においてマウス抗CD16A mAb 3G8を用いて、いくつかの臨床試験を行った。多くの患者において血小板計数の上昇が観察されたが、サイトカイン放出症候群、一過性好中球減少症、およびヒト抗マウス抗体(HAMA)応答により、さらなる臨床開発が阻害された。「ヒト化」することに加えて、GMA-161を3G8から改変して、補体を固定するか、またはリンパ球、好中球もしくはNK細胞上の受容体に結合するそのFcドメインの能力を低下させた。
【0258】
患者:
患者を、少なくとも6ヶ月間、ITPに関して診断した。好ましくは、この患者は、試験治療を開始する前の7日以内に1回の測定を含む、少なくとも6週間間隔での2回の測定において、50,000/mm3未満の血小板計数を有するであろう。
【0259】
GMA-161の投与:
患者は、0日目にGMA-161の1回のIV注入を受容し、血液サンプルの回収について7日間、安全性観察のためにモニターされる。患者は、1.0 mg/kg体重の用量でGMA-161を用いる治療を受容するであろう。GMA-161は、5 mg/mLのタンパク質濃度を有する液体溶液(25 mg/バイアル)である。GMA-161は、154 mM塩化ナトリウムを含む、pH7.2の5 mMリン酸ナトリウムと1.7 mMリン酸カリウムから構成されるバッファー中にある。
【0260】
免疫学的評価および血小板計数評価:
免疫学的評価のためのサンプルを、以下に特定した様々な時点で回収する:また、血小板計数もモニターする。血液サンプルを、GMA-161の投与の2時間、5時間、24時間および48時間後に回収し、血漿の血小板計数を、70μmの開口部を備えた粒子計測およびサイズ分析装置Z2(商標)COULTER COUNTER(登録商標)を用いて決定することができる。データを、相対血小板レベル(実際の血小板計数を、時間0での血小板計数で割る)対各濃度の時間をプロットすることにより分析する。
【0261】
0日目(注入前)、7日目、21日目および28日目:
抗血小板アッセイ、抗核抗体(ANA)、抗二本鎖DNA抗体、抗カルジオリピン抗体(ACA)、リンパ球サブセット(ナチュラルキラー細胞など)、および血清免疫グロブリン(IgG、IgA、およびIgM)濃度、ならびに血清サイトカインアッセイ(例えば、インターロイキン-6[IL-6]、IL-8、および主要壊死因子α[TNFα])。患者がサイトカイン放出症候群の兆候または徴候を示す場合、血液をサイトカインアッセイのために注入の30分後に回収する。
【0262】
0日目(注入前)および7日目:
血清CD16AならびにC3およびC4補体。注入前の抗GMA-161抗体血清を、0日目に回収する。注入後の抗GMA-161抗体アッセイは、Genzyme Immunology Laboratoryにより決定されるように、血液GMA-161レベルがもはや該アッセイを阻害しない時に開始する。
【0263】
患者の治療の成功は、GMA-161投与後に血小板レベルの顕著な増加を示し、血小板枯渇の兆候を示さず、最少の副作用を示し、および好ましくはサイトカイン放出症候群を示さない。かくして、最大の寛容量を、用量上昇試験において決定することができる。
【0264】
実施例21:特発性血小板減少性紫斑病(ITP)を有する患者におけるGMA-161の第I相、非盲検、二中心、単回投与、用量上昇、安全性、寛容性、免疫原性試験
Fcγ受容体III(FcγRIII、CD16A)に対するヒト化抗体、GMA-161は、抗体によりコーティングされた血小板の脾臓および肝臓のマクロファージによる食作用を阻害するために開発されたものである。難治性ITPを有する患者においてマウス抗CD16A mAb 3G8を用いて、いくつかの臨床試験を行った。多くの患者において血小板計数の上昇が観察されたが、サイトカイン放出症候群、一過性好中球減少症、およびヒト抗マウス抗体(HAMA)応答により、さらなる臨床開発が阻害された。「ヒト化」することに加えて、GMA-161を3G8から改変して、補体を固定するか、またはリンパ球、好中球もしくはNK細胞上の受容体に結合するそのFcドメインの能力を低下させた。
【0265】
患者:
患者を、少なくとも6ヶ月間、ITPに関して診断した。好ましくは、この患者は、試験治療を開始する前の7日以内に1回の測定を含む、少なくとも6週間間隔での2回の測定において、50,000/mm3未満の血小板計数を有するであろう。
【0266】
GMA-161の投与:
患者は、0日目にGMA-161の1回のIV注入を受容し、血液サンプルの回収について7日間、安全性観察のためにモニターされる。患者は、3.0 mg/kg体重の用量でGMA-161を用いる治療を受容するであろう。GMA-161は、5 mg/mLのタンパク質濃度を有する液体溶液(25 mg/バイアル)である。GMA-161は、154 mM塩化ナトリウムを含む、pH7.2の5 mMリン酸ナトリウムと1.7 mMリン酸カリウムから構成されるバッファー中にある。
【0267】
免疫学的評価および血小板計数評価:
免疫学的評価のためのサンプルを、以下に特定した様々な時点で回収する:また、血小板計数もモニターする。血液サンプルを、GMA-161の投与の2時間、5時間、24時間および48時間後に回収し、血漿の血小板計数を、70μmの開口部を備えた粒子計測およびサイズ分析装置Z2(商標)COULTER COUNTER(登録商標)を用いて決定することができる。データを、相対血小板レベル(実際の血小板計数を、時間0での血小板計数で割る)対各濃度の時間をプロットすることにより分析する。
【0268】
0日目(注入前)、7日目、21日目および28日目:
抗血小板アッセイ、抗核抗体(ANA)、抗二本鎖DNA抗体、抗カルジオリピン抗体(ACA)、リンパ球サブセット(ナチュラルキラー細胞など)、および血清免疫グロブリン(IgG、IgA、およびIgM)濃度、ならびに血清サイトカインアッセイ(例えば、インターロイキン-6[IL-6]、IL-8、および主要壊死因子α[TNFα])。患者がサイトカイン放出症候群の兆候または徴候を示す場合、血液をサイトカインアッセイのために注入の30分後に回収する。
【0269】
0日目(注入前)および7日目:
血清CD16AならびにC3およびC4補体。注入前の抗GMA-161抗体血清を、0日目に回収する。注入後の抗GMA-161抗体アッセイは、Genzyme Immunology Laboratoryにより決定されるように、血液GMA-161レベルがもはや該アッセイを阻害しない時に開始する。
【0270】
患者の治療の成功は、GMA-161投与後に血小板レベルの顕著な増加を示し、血小板枯渇の兆候を示さず、最少の副作用を示し、および好ましくはサイトカイン放出症候群を示さない。かくして、最大の寛容量を、用量上昇試験において決定することができる。
【0271】
本明細書に記載の実施例および実施形態は例示目的のみのためのものであり、それに照らして様々な改変または変更を当業者に示唆するであろうし、本明細書の精神および範囲ならびに添付の特許請求の範囲内に含まれることが理解される。本明細書で引用される全ての刊行物(配列アクセッション番号および対応する注釈を含む)、特許および特許出願は、それぞれ個々の刊行物、特許または特許出願が具体的かつ個々に参照により組み入れられるものと示されたのと同じ程度まで、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0272】
【図1】図1は、CD16A結合タンパク質によるsCD16Aの結合に関するELISAからの結果を示す。Hu3G8-24.43は、Hu3G8VH-24の重鎖、およびHu3G8VL-43の軽鎖を有する抗体である。Hu3G8-5.1は、Hu3G8VH-5の重鎖、およびHu3G8VL-1の軽鎖を有する抗体である。Ch3G8は、キメラ3G8抗体である。HuIgG1は、無関係な免疫グロブリンである。
【図2】図2は、CD16Aの細胞外ドメインを発現するCHO-K1細胞へのヒト化およびキメラ抗体の結合に関するアッセイの結果を示す。Hu3G8-22.1は、Hu3G8VH-22の重鎖、およびHu3G8VL-1の軽鎖を有する抗体である。Hu3G8-5.1は、Hu3G8VH-5の重鎖、およびHu3G8Vl-1の軽鎖を有する抗体である。Hu3G8-22.43は、Hu3G8VH-22の重鎖、およびHu3G8VL-43の軽鎖を有する抗体である。N297Qは、抗体がアグリコシル化されていることを示す。
【図3】図3は、細胞に基づく競合アッセイの結果を示す。示されたアグリコシル化されたヒト化抗体は、CD16Aの細胞外ドメインを発現するCHO-K1細胞への結合についてアグリコシル化されたキメラ抗体と競合する。
【図4】図4は、免疫複合体へのsCD16Aの結合の阻害を示す。Hu3G8-1.1は、重鎖Hu3G8VH-1、および軽鎖Hu3G8VL-1を有する抗体である。
【図5】図5は、ch6A6のi.p.注入の1時間前に、mAb 3G8(0.5μg/g)またはヒトIVIG(1 mg/g)をi.v.注入したマウスにおいてITP防御を示す。
【図6】図6は、ch6A6のi.v.注入の1時間前に、mAb 3G8(0.5μg/g)またはヒトIVIG(1 mg/g)をi.v.注入したマウスにおいてITP防御を示す。
【図7】図7は、6A6のi.p.注入の1時間前に、ch3G8(0.5μg/g)をi.v.注入したマウスにおけるITP防御の不在を示す。
【図8】図8は、ch6A6のi.p.注入の1時間前に、ch3G8 N297Qをi.v.注入したマウスにおけるITPからの防御を示す。
【図9】図9は、ch6A6のi.v.注入の1時間前に、ch3G8 N297Qをi.v.注入したマウスにおけるITPからの防御を示す。
【図10】図10は、CD16A結合タンパク質または対照の投与後の好中球のFACS走査の結果を示す。x軸はCD16に対する抗体を用いる標識を示し、y軸はGr-1抗原に対する抗体を用いる標識を示す。右上のクアドラントは好中球を示し;左上のクアドラントは3G8-FITCによる染色を示さない他の顆粒球および好中球を示す。
【図11】図11は、ヒト化抗CD16A抗体によるAIHAの防止を示す。
【図12】図12は、ヒト化3G8抗体によるch4D5を介する抗体依存的細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)の阻害を示す。
【図13】図13A-Bは、マウス3G8(図13A)およびヒト化3G8抗体(図13B)によるch4-4-20を介するADCCの阻害を示す。
【図14】図14は、hu3G8-5.1の投与によるITPに対するFcγRIII-/-、hCD16A、hCD32Aマウスの防御を示す。
【図15】図15A-Bは、hu3G8-5.1 N297Qの投与によるITPに対するFcγRIII-/-、hCD16Aマウスの防御を示す。図15(A)は、指定された時間での各用量に関するデータ点を示す。図15(B)は、5時間の時点での用量応答を示す。
【図16】図16A-Bは、血小板減少症を誘導したマウスへのアグリコシル化されたヒト化抗体の投与の治療効果を示す。図16(A)は、Hu3G8-5.1-N297Qの投与を示す。図16(B)は、Hu3G8-22.1-N297QおよびHu3G8-22.43-N297Qの投与を示す。
【図17】図17は、自己免疫性溶血性貧血の治療におけるヒト化抗CD16A抗体の治療効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マウス3G8抗体重鎖から誘導された相補性決定領域(CDR)を含むVHドメインと、マウス3G8抗体軽鎖から誘導されたCDRを含むVLドメインとを含む抗CD16A抗体であって、少なくとも1個の該CDRは、VHドメインにおいては、CDR1中の位置34のVal、CDR2中の位置50のLeu、CDR2中の位置52のPhe、CDR2中の位置54のAsn、CDR2中の位置60のSer、CDR2中の位置62のSer、CDR3中の位置99のTyr、CDR3中の位置101のAsp、ならびに、VLドメインにおいては、CDR1中の位置24のArg、CDR1中の位置25のSer、CDR1中の位置32のTyr、CDR1中の位置33のLeu、CDR1中の位置34のAla、CDR2中の位置50のAsp、TrpまたはSer、CDR2中の位置51のAla、CDR2中の位置53のSer、CDR2中の位置55のAlaまたはGln、CDR2中の位置56のThr、CDR3中の位置92のTyr、CDR3中の位置93のSer、およびCDR3中の位置94のThrからなる群より選択される少なくとも1個の位置で対応するマウスCDRとは異なる、前記抗体。
【請求項2】
エフェクター機能を欠くか、または低下したエフェクター機能を有するFc領域を有する、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
ヒトIgG1から誘導されたFc領域を含む、請求項2に記載の抗体。
【請求項4】
Fc領域の残基297に対応するアミノ酸がアスパラギンではない、請求項3に記載の抗体。
【請求項5】
一本鎖抗体である、請求項2に記載の抗体。
【請求項6】
テトラマー抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項7】
Hu3G8VH-22のVHドメインの配列を有するVHドメインを含む、請求項6に記載の抗体。
【請求項8】
Hu3G8VL-IまたはHu3G8VL-43のVLの配列を有するVLドメインを含む、請求項7に記載の抗体。
【請求項9】
配列番号113の配列を有する重鎖可変領域および配列番号96、100、または118の配列を有する軽鎖可変領域を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項10】
エフェクター機能を欠くか、または低下したエフェクター機能を有し、マウス抗体3G8の6個の相補性決定領域を全部含む、ヒト化抗CD16A抗体。
【請求項11】
配列番号51の配列を有するFR3ドメインを含むVHドメインを含む、請求項10に記載の抗体。
【請求項12】
配列番号109または104の配列を有する重鎖可変領域および配列番号96の配列を有する軽鎖可変領域を含む、請求項10に記載の抗体。
【請求項13】
請求項2または10に記載の抗体を哺乳動物に投与することを含む、該哺乳動物における有害な免疫応答を減少させる方法。
【請求項14】
哺乳動物において重篤な好中球減少症を誘導することなく、必要に応じて、該哺乳動物において中程度の好中球減少症を誘導することなく、該哺乳動物における有害な免疫応答を治療する方法であって、請求項2または10に記載の抗体を該哺乳動物に投与することを含む、前記方法。
【請求項15】
有害な免疫応答が、自己免疫疾患により引き起こされる炎症性応答である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
有害な免疫応答の治療が、抗体を介する血小板枯渇に対して防御することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
有害な免疫応答を減少させる必要がある哺乳動物においてそのような有害な免疫応答を減少させる方法であって、ヒトIgG重鎖から誘導されたFc領域を含むCD16A結合タンパク質を該哺乳動物に投与することを含み、該Fc領域がエフェクター機能を欠くか、またはFc受容体への結合を減少させるように改変されたものである、前記方法。
【請求項18】
CD16A結合タンパク質が、ヒト化モノクローナル抗体である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記抗体が、ヒトIgG1から誘導されたFc領域を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
Fc領域の位置297のアミノ酸残基がグリコシル化されていない、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
Fc領域の位置297のアミノ酸残基がアスパラギンではない、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記抗体がヒト化形態の3G8抗体である、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記抗体が3G8抗体によるCD16A結合を阻害する、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記抗体が、マウス3G8抗体重鎖から誘導された相補性決定領域(CDR)を含むVHドメインおよびマウス3G8抗体軽鎖から誘導されたCDRを含むVLドメインを含み、少なくとも1個の該CDRが、VHドメインにおいては、CDR1中の位置34のVal、CDR2中の位置50のLeu、CDR2中の位置52のPhe、CDR2中の位置54のAsn、CDR2中の位置60のSer、CDR2中の位置62のSer、CDR3中の位置99のTyr、CDR3中の位置101のAsp、ならびに、VLドメインにおいては、CDR1中の位置24のArg、CDR1中の位置25のSer、CDR1中の位置32のTyr、CDR1中の位置33のLeu、CDR1中の位置34のAla、CDR2中の位置50のAsp、TipまたはSer、CDR2中の位置51のAla、CDR2中の位置53のSer、CDR2中の位置55のAlaまたはGln、CDR2中の位置56のThr、CDR3中の位置92のTyr、CDR3中の位置93のSer、およびCDR3中の位置94のThrからなる群より選択される少なくとも1個の位置で対応するマウスCDRとは異なる、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
前記抗体が、Hu3G8VH-22のVHドメインの配列を有するVHドメインを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
前記抗体が、Hu3G8VL-1またはHu3G8VL-43の配列を有するVLドメインを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項27】
前記抗体が、配列番号113の配列を有する重鎖可変領域および配列番号96、100、または118の配列を有する軽鎖可変領域を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記抗体が、配列番号51の配列を有するFR3ドメインを含むVHドメインを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項29】
前記抗体が、配列番号109の配列を有する重鎖可変領域および配列番号96の配列を有する軽鎖可変領域を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項30】
有害な免疫応答が、自己免疫疾患により引き起こされる炎症性応答である、請求項18に記載の方法。
【請求項31】
有害な免疫応答が、特発性血小板減少性紫斑病または自己免疫性溶血性貧血である、請求項18に記載の方法。
【請求項32】
VLおよび/またはVHドメインとの相互作用を介してCD16Aに特異的に結合する有効量の抗CD16A抗体を哺乳動物に投与することを含み、抗CD16A抗体がエフェクター機能を欠くか、または低下したエフェクター機能を有する、該哺乳動物における有害な免疫応答を減少させる方法。
【請求項33】
抗CD16A抗体が、Fc受容体への結合が低下するような1個以上のアミノ酸改変を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
抗CD16A抗体が、マウス3G8抗体重鎖から誘導された相補性決定領域(CDR)を含むVHドメインおよびマウス3G8抗体軽鎖から誘導されたCDRを含むVLドメインを含み、該抗体がエフェクター機能を有するFc領域を欠く、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
抗CD16A抗体が、マウス3G8抗体重鎖から誘導された相補性決定領域(CDR)を含むVHドメインおよびマウス3G8抗体軽鎖から誘導されたCDRを含むVLドメインを含み、該抗体が、Fc受容体への結合が低下するように、Fc領域中に1個以上のアミノ酸改変を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
抗CD16A抗体が、ヒトIgG1から誘導されたFc領域を含み、Fc領域のCH2ドメインの位置297に対応するアミノ酸がアスパラギンではない、請求項32または35に記載の方法。
【請求項37】
抗CD16A抗体が、ヒトIgG1から誘導されたFc領域を含み、Fc領域のCH2ドメインの位置297に対応するアミノ酸がグリコシル化されていない、請求項32または35に記載の方法。
【請求項38】
抗CD16A抗体を、哺乳動物の体重1 kgあたり、約0.1〜30.0 mgの用量で投与する、請求項32〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
抗CD16A抗体を、哺乳動物の体重1 kgあたり、約0.1〜20.0 mgの用量で投与する、請求項32〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
抗CD16A抗体を、哺乳動物の体重1 kgあたり、約0.1〜10.0 mgの用量で投与する、請求項32〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
抗CD16A抗体を、哺乳動物の体重1 kgあたり、約0.1〜5.0 mgの用量で投与する、請求項32〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
抗CD16A抗体を、哺乳動物の体重1 kgあたり、約0.1〜3.0 mgの用量で投与する、請求項32〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
抗CD16A抗体を、哺乳動物の体重1 kgあたり、約1.0〜30.0 mgの用量で投与する、請求項32〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
抗CD16A抗体を、哺乳動物の体重1 kgあたり、約1.0〜20.0 mgの用量で投与する、請求項32〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
抗CD16A抗体を、哺乳動物の体重1 kgあたり、約1.0〜10.0 mgの用量で投与する、請求項32〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
抗CD16A抗体を、哺乳動物の体重1 kgあたり、約1.0〜5.0 mgの用量で投与する、請求項32〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
抗CD16A抗体を、哺乳動物の体重1 kgあたり、約1.0〜3.0 mgの用量で投与する、請求項32〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
抗CD16A抗体を、哺乳動物の体重1 kgあたり、約5.0〜30.0 mgの用量で投与する、請求項32〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
抗CD16A抗体を、哺乳動物の体重1 kgあたり、約5.0〜20.0 mgの用量で投与する、請求項32〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
抗CD16A抗体を、哺乳動物の体重1 kgあたり、約0.1 mgの用量で投与する、請求項32〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
抗CD16A抗体を、哺乳動物の体重1 kgあたり、約0.3 mgの用量で投与する、請求項32〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項52】
抗CD16A抗体を、哺乳動物の体重1 kgあたり、約1.0 mgの用量で投与する、請求項32〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項53】
抗CD16A抗体を、哺乳動物の体重1 kgあたり、約3.0 mgの用量で投与する、請求項32〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項54】
抗CD16A抗体を、少なくとも1日1回投与する、請求項32〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項55】
抗CD16A抗体を、少なくとも10日間に渡って、少なくとも1日1回投与する、請求項32〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項56】
抗CD16A抗体を、週に1回、週に2回、2週間毎に1回、月に1回、6週間毎に1回、2ヶ月毎に1回、年に2回または年に1回投与する、請求項32〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項57】
抗CD16A抗体を前記哺乳動物に対して、局所的に、経口的に、静脈内に、皮内に、または皮下に投与する、請求項32〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項58】
抗CD16A抗体を、少なくとも1時間に渡って、前記哺乳動物に静脈内投与する、請求項32〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項59】
抗CD16A抗体を、少なくとも30分間に渡って、前記哺乳動物に静脈内投与する、請求項32〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項60】
抗CD16A抗体を、少なくとも15分間に渡って、前記哺乳動物に静脈内投与する、請求項32〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項61】
請求項2または10に記載の抗体と結合に関して競合し、請求項2または10に記載の抗体と同じエピトープに結合する抗体。
【請求項62】
請求項4に記載の抗体のアミノ酸配列と、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を含むCD16A結合タンパク質。
【請求項63】
VLおよび/もしくはVHドメインとの相互作用を介してCD16Aに特異的に結合する有効量の抗CD16A抗体を投与することを含む、患者における初回投与副作用を減少させる方法であって、該抗体は、1個以上のFcγRへの該抗体のFc領域の結合を減少させるか、または排除することにより、初回投与副作用に関連する少なくとも1個の徴候を減少させるか、または排除する、前記方法。
【請求項64】
マウス3G8抗体重鎖から誘導された相補性決定領域(CDR)を含むVHドメインおよびマウス3G8抗体軽鎖から誘導されたCDRを含むVLドメインを含む有効量の抗CD16A抗体を投与することを含む、患者における初回投与副作用を減少させる方法であって、該抗体は、1個以上のFcγRへの該抗体のFc領域の結合を減少させるか、または排除することにより、初回投与副作用に関連する少なくとも1個の徴候を減少させるか、または排除する、前記方法。
【請求項65】
抗CD16A抗体が、ヒトIgG1から誘導されたFc領域を含み、Fc領域のCH2ドメインの位置297に対応するアミノ酸がアスパラギンではない、請求項63または64に記載の方法。
【請求項66】
抗CD16A抗体が、ヒトIgG1から誘導されたFc領域を含み、Fc領域のCH2ドメインの位置297に対応するアミノ酸がグリコシル化されていない、請求項63または64に記載の方法。
【請求項67】
抗CD16A抗体が、ヒトIgG1から誘導されたFc領域を含み、Fc領域のCH2ドメインの位置297に対応するアミノ酸がグリコシル化されておらず、該抗CD16A抗体が、請求項65に記載の抗CD16A抗体と結合に関して競合するか、または請求項65に記載の抗CD16A抗体と同じエピトープに結合する、請求項63に記載の方法。
【請求項68】
抗CD16A抗体が、Fc領域中に1個以上のアミノ酸改変を含む、請求項63または64に記載の方法。
【請求項69】
1個以上のアミノ酸改変が、Fc領域のCH2ドメインまたはヒンジ領域中の改変を含む、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
1個以上のアミノ酸改変が、位置234、235、またはその両方に突然変異を含む、請求項68に記載の方法。
【請求項71】
1個以上のアミノ酸改変が、プロリンによる位置233での置換;またはアルギニンによる位置238での置換;またはアラニンによる位置265での置換;またはグルタミン酸による位置265での置換;またはアラニンによる位置270での置換;またはアスパラギンによる位置270での置換;またはアラニンもしくはグルタミンによる位置297での置換;またはプロリンもしくはアスパラギンによる位置298での置換;またはセリンもしくはトレオニン以外の任意のアミノ酸による位置299での置換;またはアラニンによる位置265での置換およびアラニンによる位置297での置換;またはアラニンによる位置265での置換およびグルタミンによる位置297での置換;またはグルタミン酸による位置265での置換およびアラニンによる位置297での置換;またはグルタミン酸による位置265での置換およびグルタミンによる位置297での置換を含む、請求項68に記載の方法。
【請求項72】
初回投与副作用がサイトカイン放出症候群である、請求項63または64に記載の方法。
【請求項73】
有害な免疫応答が慢性関節リウマチ(RA)により引き起こされる炎症性応答である、請求項30に記載の方法。
【請求項74】
有害な免疫応答が全身性エリテマトーデス(SLE)により引き起こされる炎症性応答である、請求項30に記載の方法。
【請求項75】
有害な免疫応答が全身性エリテマトーデス(SLE)により引き起こされる炎症性応答である、請求項32に記載の方法。
【請求項76】
有害な免疫応答が特発性血小板減少性紫斑病(ITP)により引き起こされる炎症性応答である、請求項32に記載の方法。
【請求項77】
有害な免疫応答が慢性関節リウマチ(RA)により引き起こされる炎症性応答である、請求項32に記載の方法。
【請求項78】
有害な免疫応答を減少させる必要がある哺乳動物においてそのような有害な免疫応答を減少させる方法であって、ヒトIgG重鎖から誘導されたFc領域を含むCD16A結合タンパク質を該哺乳動物に投与することを含み、該Fc領域が低下したエフェクター機能を有するか、またはFc受容体への結合を減少させるように改変されたものである、前記方法。
【請求項79】
VLおよび/またはVHドメインとの相互作用を介してCD16Aに特異的に結合し、低下したエフェクター機能を有する、抗CD16A抗体。
【請求項80】
VLおよび/またはVHドメインとの相互作用を介してCD16Aに特異的に結合する抗CD16A抗体であって、少なくとも1個の補体関連受容体への該抗体のFc領域の結合を減少させるか、または排除することにより、初回投与副作用に関連する少なくとも1個の徴候を減少させる、前記抗体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2009−500458(P2009−500458A)
【公表日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−521640(P2008−521640)
【出願日】平成18年7月11日(2006.7.11)
【国際出願番号】PCT/US2006/027387
【国際公開番号】WO2007/009065
【国際公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(504438727)マクロジェニクス,インコーポレーテッド (23)
【Fターム(参考)】