説明

ヒト化c−Kit抗体

本発明は、線維症などc−Kitに関連する障害を処置する組成物および方法に、より具体的には、ヒト化c−Kit抗体を含む組成物に関する。本発明は、モノクローナル抗体など、細胞結合型の膜c−KitレセプターにおけるSCFのアンタゴニストおよびニュートラルアンタゴニストである作用物質を提供する。c−Kitに結合するヒト化(非マウス)モノクローナル抗体を提供する。本発明は、前出の抗体または特異的結合因子のいずれかをコードする核酸配列をも提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(技術分野)
本願は、2006年4月24日出願の米国仮特許出願第60/794,771号(これは、本明細書に参考として援用される)に基づく利益を主張する。
【0002】
本発明は、c−Kitに関連する炎症性疾患、線維性疾患、自己免疫性疾患、および癌性疾患を処置する組成物、ならびにヒト化c−Kit抗体を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
肥満細胞は、喘息、関節リウマチ、および炎症性腸疾患などの炎症性状態の媒介に関与しており、アレルギー性炎症における役割が広く認知されている。肥満細胞は、重度の喘息患者由来の肺外植片において数が増大し、ロイコトリエン、ヒスタミン、およびTh2サイトカインなどの、臨床的に重要な炎症メディエータの主要な供給源である。肥満細胞は、疾患組織中のあらかじめ形成されたTNFの主要な供給源である。
【0004】
幹細胞因子(SCF)は、細胞および膜結合型の、以下でc−Kitと定義されるチロシンキナーゼレセプターを介してシグナル伝達する糖タンパク質であり、このシグナル伝達経路は、しばしば他のサイトカインとの相乗作用により、造血における主要な役割を果たし、正の調節因子としても負の調節因子としても作用する。放出された可溶性c−Kitレセプターが、SCFの調節において役割を果たす可能性がある。c−Kitは、リンパ系列および赤血球系列に属する成熟細胞の前駆細胞である多能性造血幹細胞において発現される。他の造血細胞と異なり、肥満細胞の前駆細胞および成熟肥満細胞は、高レベルのc−Kit発現を保持する。したがって、c−Kitを介するSCFシグナル伝達は、肥満細胞の発達、機能、細胞内輸送、および生存に重要である。該シグナル伝達は、配偶子形成およびメラニン形成においても役割を果たす。W遺伝子座においてc−Kitを不活性化する突然変異を有するマウスは、実質的に肥満細胞を有さない。ヒトにおける、c−Kitを活性化する突然変異は、肥満細胞症と関連する。
【0005】
c−Kit陽性多能性造血幹細胞は、間葉細胞、線維芽細胞、および肥満細胞を含む複数の細胞型の前駆細胞である。線維性疾患は、細胞外マトリックス沈着をもたらす過剰な線維芽細胞の活性および増殖を部分的に特徴とする。c−Kit陽性骨髄多能性造血幹細胞が、線維性組織中の線維芽細胞および肥満細胞の供給源であると報告されている。
【0006】
肥満細胞は、炎症メディエータ、血管新生メディエータ、分裂促進メディエータ、および線維形成メディエータの持続的な供給源を提供することができる。肥満細胞は、線維芽細胞と機能的および解剖学的に結合し、線維芽細胞の活性化において直接的な役割を有する。肥満細胞は、線維芽細胞を介するコラーゲン収縮、細胞外マトリックス沈着の反応速度および大きさを増大させ、線維芽細胞を筋線維芽細胞に変換することができる。線維芽細胞の側では、SCFを分泌して肥満細胞をさらに活性化し、増大させ、両細胞型ともに、線維形成性ネットワークの構成要素である。
【0007】
特発性肺線維症(IPF)および強皮症を含む大半のヒト線維性疾患において、肥満細胞数および肥満細胞メディエータが顕著に増大する。一部の強皮症患者および強皮症のTskマウスモデルにおいては、肥満細胞の分化表現型が検出される。肥満細胞症の侵襲性の全身性形態が骨髄線維症を特徴としうることは、肥満細胞が線維症におけるエフェクター細胞でありうることを示す。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
Sutent(登録商標)などのクラスに属するGleevec(登録商標)およびその他の薬剤は、c−Kitシグナル伝達活性を標的とすることができる、多標的チロシンキナーゼレセプターインヒビターであるが、他の多数のキナーゼを阻害する。これらのキナーゼインヒビターが、癌治療について示唆されている。骨髄抑制、貧血症、ならびに心毒性および末梢浮腫を含む多数の副作用が、Gleevecに関して報告されている。したがって、これらの分子は、c−Kitシグナル伝達に関連する疾患の慢性的な処置の危険性プロフィールに対して最良の有益性を有さないことがある。こうして、新たな治療法および試薬、特に、より強力かつ選択的で、c−Kitに関連する炎症性および線維性疾患の処置により良好な安全性プロフィールを有する治療法および試薬が必要である。こうした化合物は、骨髄性白血病などの腫瘍性疾患、GISTおよび肥満細胞症などのc−Kit突然変異に関連する疾患、黒色腫および各種のSCLCなどにおける、c−Kitの過剰発現および/または過剰なSCF自己分泌活性に関連する疾患において、顕著により良好な有効性および安全性のプロフィールをも示すことができる。ヒトc−Kitを標的とし、重篤な有害事象なしに治療的有益性を及ぼすことのできる治療法および試薬は、現時点で存在しない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
本発明は、モノクローナル抗体など、細胞結合型の膜c−KitレセプターにおけるSCFのアンタゴニストおよびニュートラルアンタゴニストである作用物質を提供する。より具体的な実施形態において、c−Kitに結合するヒト化(非マウス)モノクローナル抗体を提供する。さらにより具体的な実施形態において、本発明のヒト化抗体は、配列番号2、4、および6に示すアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列を含む。本発明は、前出の抗体または特異的結合因子のいずれかをコードする核酸配列をも提供する。本発明に関連する実施形態において、前述の核酸配列のいずれかを含むベクターを提供する。さらに別の実施形態において、前述の核酸またはベクターのいずれかを含む宿主細胞を提供する。
【0010】
一実施形態において、c−Kit結合因子およびニュートラルアンタゴニストは、配列番号2、4、または6を含んでよい。別の実施形態において、前述の作用物質のいずれかは、配列番号2、4、または6に示すアミノ酸配列の1つ以上と、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%以上同一であるアミノ酸配列を含む。そのような実施形態において、配列番号2、4、または6のそれぞれに対する配列変異は、例えば、その配列位置において別のヒトアミノ酸を用いる、IgGの対応するフレームワーク領域に対する保存的置換を示し得る。
【0011】
例示的実施形態において、c−Kitに結合する抗体または特異的結合因子は、配列番号2、4、または6で示すアミノ酸配列を含む。しかし、本発明の抗体は、IgG抗体のアイソタイプの混合物(例えば、IgG1サブタイプ、IgG2サブタイプ、IgG3サブタイプ、またはIgG4サブタイプの混合物)でよいことを意図する。
【0012】
前述の抗体のいずれかは、例えば、(例えば、IgG1サブタイプもしくはIgG3サブタイプの、または他の任意のIgGサブタイプの)天然または突然変異のIgG抗体でよい。前述の抗体は、表面プラズモン共鳴(BIAcore分析)により決定される、1×10−2未満、または1×10−3未満、または1×10−4、1×10−5、1×10−6、1×10−7、1×10−8、もしくは1×10−9未満のkを特徴とするアビディティーを示しうる。
【0013】
前述の抗体は、細胞アッセイにより決定される、1×10−2未満、または1×10−3未満、または1×10−4、1×10−5、1×10−6、1×10−7、1×10−8、もしくは1×10−9未満のニュートラルアンタゴニストIC50を示しうる。特定の実施形態において、ヒト化抗体の親和性および機能的効力は、マウス親抗体の親和性および効力と少なくとも同等である。好ましい実施形態において、ヒト化抗体は、c−Kitレセプターのアゴニストではなく、アナフィラキシー様反応を生じうる肥満細胞を活性化せず、マウス親抗体と少なくとも同等なPD/PKおよび免疫原性プロフィールを示すべきである。
【0014】
本発明においては、多数の方法が意図される。例えば、前述の抗体または特異的結合因子を産生する方法であって、前述の宿主細胞を培養することによって、核酸を発現させて抗体または作用物質を産生する工程を含む方法を提供する。そのような方法は、宿主細胞培養物から、抗体または作用物質を回収する工程をも含んでよい。関連の実施形態では、前述の方法により単離した抗体または作製した作用物質を提供する。
【0015】
本発明は、前出の抗体または特異的結合因子のいずれかを用いて、例えば、その有効量を投与することにより、c−Kitに関連する障害を処置または予防する方法をさらに提供する。処置されるそのような障害の1つの例は、線維性疾患である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(詳細な説明)
マウス抗ヒトc−Kit抗体SR−1については、米国特許第5,919,911号および米国特許第5,489,516号に記載され、それぞれは参考として本明細書に援用される。SR−1は、c−Kitに適する結合特性を示し、SCF媒介レセプターシグナル伝達を遮断したが、この分子は、明白な免疫原性の問題を乗り越えてヒト治療において所望となるすべての特性を有したわけではなかった。Broudyは、SR−1が、レセプターの内在化およびリン酸化を生じうる、一定のアゴニスト様活性を有することを報告した(J Cell Physiol、1994年3月、第158巻、第3号、545〜554頁)。これらの機能的な活性は、該分子の有効性および安全性を低下させる。モノクローナル抗体のヒト化は確立された手法であり、生物学的活性も適切に翻訳されると一般に期待されるが、ヒトフレームワークに依存するヒト化SR−1抗体のコンフォメーションは、c−Kitにおいて異なる内在的活性を生じ、このため、異なる生物学的機能を生じる可能性がある。この特定の例では、所望の薬理学的特性が求められ、非所望の「アゴニスト性の」特性は求められないであろうが、これを達成する手法は公表されていない。SR−1抗体の相補性決定領域を、構造的に異なるIgG1およびIgG2およびIgG4のヒト重鎖およびヒト軽鎖の独自の組み合わせに挿入したところ、意外にも、c−Kitに対する同様の親和性を維持した。しかし、これらのフレームワーク領域の各々は、欠陥を有することが分かった。
【0017】
IgG2バックグラウンド中のヒト化SR−1は、c−Kitに対する高親和性を有することが分かったが、複数の細胞型においてSCFを介するレセプターの内在化を完全に遮断することができず、培養した肥満細胞によるアッセイにおいてc−Kitのリン酸化、生存シグナル、およびこれを介する該細胞の異常な凝集を生じた。治療ストラテジーの目的が、SCFによる生存シグナルを遮断することによりアポトーシスを介して肥満細胞および前駆細胞を枯渇させ、インビボにおけるアナフィラキシー様反応を生じうる肥満細胞の活性化を回避することであるので、これらの特性は潜在的に望ましくない。マウスSR−1のCDR領域をヒトIgG1フレームワークに挿入した場合、親和性および機能的効力は同様に維持されたが、このバックグラウンドは、このアイソタイプの抗体でしばしば見出される補体活性および細胞を介する細胞毒性に起因して、あまり望ましくない。マウスSR−1のCDR領域を、ヒトIgG4フレームワークに挿入した場合、親和性および機能的効力は同様に維持されたが、意外にも、この分子は、精製およびスケールアップ時に顕著な凝集を示した。
【0018】
こうして、本発明は、補体活性を有さず、可溶性c−Kitレセプターに対してではなく膜c−Kitレセプターに対する所望の親和性、ニュートラルアンタゴニスト効力を保ちながらもc−Kitおよび肥満細胞を活性化しない抗体を作製することにより、これらの分子の各々における欠陥を克服しようと試みた。この抗体は、適切なPD/PKをも示すべきであり、肥満細胞を枯渇させるのに有効であり、インビボにおける肥満細胞アゴニズムの形跡を有さない。
【0019】
(ヒト化SR−1κ軽鎖)
配列番号1は、SR−1ヒト化κ軽鎖をコードする核酸を表す。
【0020】
【化1】

配列番号2は以下の通りであり、太字がCDRを表す(例えば、CDR1は配列番号2のアミノ酸43〜58であり、CDR2は配列番号2のアミノ酸74〜80であり、CDR3は配列番号2のアミノ酸113〜121である)。
【0021】
【化2】

成熟ヒト化κ軽鎖は、配列番号2のアミノ酸20〜248である。
【0022】
(ヒト化SR−1非グリコIgG1重鎖)
【0023】
【化3】

CDRは、太字で表される(例えば、CDR1は配列番号4のアミノ酸50〜54であり、CDR2は配列番号4のアミノ酸69〜85であり、CDR3は配列番号4のアミノ酸118〜125である)。
【0024】
【化4】

(ヒト化SR−1 IgG2重鎖)
【0025】
【化5】

以下は、SR−1 IgG2重鎖の全長アミノ酸配列であり、CDRは、太字で表される。
【0026】
【化6】

(SR−1 MULC)
【0027】
【化7】

CDRは、太字で表される。
【0028】
【化8】

(SR−1 muIgG2a重鎖)
【0029】
【化9】

SR−1の軽鎖CDR1は、RASESVDIYGNSFMH(配列番号8のアミノ酸44〜58)であり、CDR2は、LASNLES(配列番号8のアミノ酸74〜80)であり、そしてCDR3は、QQNNEDPYT(配列番号8のアミノ酸111〜121)である。重鎖CDR1は、SYNMH(配列番号10のアミノ酸50〜54)であり、CDR2は、VIYSGNGDTSYNQKFKG(配列番号10のアミノ酸69〜85)であり、そしてCDR3は、RDTRFGN(配列番号10のアミノ酸118〜125)である。
【0030】
本願において示す重鎖および軽鎖の各々は、細胞内で成熟形態にプロセシングされることを理解する。したがって、シグナルペプチドが開裂し、抗体の重鎖の場合、C末端のリジンが開裂する。したがって、該成熟形態は、タンパク質分解によりプロセシングされ、哺乳類細胞内で発現する場合、グリコシル化などの他の翻訳後修飾をも含む。各重鎖および軽鎖のシグナルペプチドは、配列番号2および10のアミノ酸1〜20、ならびに配列番号4、6、および10のアミノ酸1〜19である。
【0031】
マウスSR−1軽鎖のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を、配列番号7および配列番号8に示す。マウスSR−1重鎖のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を、配列番号9および配列番号10に示す。さらなる置換(例えば、マウスアミノ酸の保存的置換)を含む改変体も、高結合親和性を保持しうる。親和性に影響しない限りで、CDRおよびフレームワーク内における配列位置の置換、欠失、または挿入を行ってよい。
【0032】
一実施形態において、ヒト化抗体は、マウスSR−1のもとのマウスCDR、例えば、配列番号8の配列位置約44〜58、約74〜80、および約113〜121を保持する軽鎖を含む。他の実施形態において、ヒト化抗体は、マウスSR−1のマウスCDR、例えば、配列番号10の配列位置約50〜54、約68〜85、および約118〜125を保持し、ヒト由来のフレームワーク領域を有する重鎖を含む。本明細書で用いる通り、「約」という用語は、c−Kitに対する親和性が維持される限りにおいて、2〜5アミノ酸配列位置の変化を意図する。
【0033】
一実施形態において、該作用物質は、配列番号2、4、または6に示すアミノ酸配列を含んでよい。別の実施形態において、前述の作用物質のいずれかが、配列番号2、4、または6に示すアミノ酸配列と、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%以上同一であるアミノ酸配列を含む。そのような実施形態において、配列番号2、4、または6それぞれに対する配列変異は、例えば、その配列位置において別のヒトアミノ酸を用いる、IgGの対応するフレームワーク領域に対する保存的置換を示し得る。
【0034】
一実施形態において、前述の抗体は、表面プラズモン共鳴(BIAcore分析)法により決定される、10−2未満、または10−3未満、または10−4、10−5、10−6、10−7、10−8、10−9未満のkを特徴とするアビディティーを示す。別の実施形態において、前述の抗体は、細胞アッセイにより決定される、1×10−2未満、または1×10−3未満、または1×10−4、1×10−5、1×10−6、1×10−7、1×10−8、1×10−9未満のニュートラルアンタゴニスト効力のIC50を示す。
【0035】
本発明は、各種の特異的結合因子およびニュートラルアンタゴニスト剤を提供し、それらは、マウスSR−1に由来し、1×10−2以下の範囲、もしくは1×10−9以下までの範囲(例えば、10−2、10−3、10−4、10−5、10−6、10−7、10−8、10−9以下)にあるc−Kitに対するKd(解離速度定数)および/または1×10−2以下の範囲、もしくは1×10−9以下までの範囲(例えば、10−2、10−3、10−4、10−5、10−6、10−7、10−8、10−9以下)にあるc−Kitに対するニュートラルアンタゴニストIC50などの望ましい特性ならびに/あるいはc−Kitに関連する疾患の症状を低減する能力を保持する、ヒトc−Kit特異的抗体またはヒト化c−Kit特異的抗体を含むが、これに限定されない。本発明は、該特異的結合因子ポリペプチドをコードする核酸、該核酸を含むベクターおよび組換え宿主細胞、該特異的結合因子の産生法、該特異的結合因子を含む薬学的処方物、該薬学的処方物の調製法、ならびに該薬学的処方物および化合物による患者の治療法をも提供する。
【0036】
これらの改変軽鎖可変領域をコードする核酸は、CDRグラフトまたはヒト化した重鎖をコードする核酸とともに構築および共発現し、この逆も同様であり、場合によっては、定常領域に結合してもよい。適切な結合親和性を維持する限りにおいて、任意のヒト化またはキメラの重鎖および軽鎖を組み合わせてよい。哺乳類細胞に所望の遺伝子を導入し、結果として得られる組換え免疫グロブリン産物を発現し、精製し、特性解析する。
【0037】
「抗体」という用語はもっとも広い意味において用い、完全に構築された抗体、モノクローナル抗体(ヒト抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、および抗原に結合することのできる抗体断片(例えば、Fab’、F’(ab)2、Fv、単鎖抗体、ダイアボディ(diabody))を含み、所望の生物学的活性を示す限りにおいて、以上の抗体の相補性決定領域(CDR)を含む。「抗体」という用語は、用語の適用範囲からマウス抗体(すなわち、マウスハイブリドーマにより産生されるか、またはマウスハイブリドーマにより産生される抗体と同じ配列を有する抗体)を明確に除外する。
【0038】
「特異的結合因子」という用語は、所望の抗原結合特性を有するCDR由来の配列を含む、前出で定義した抗体および組換えペプチドまたは他の化合物を含む。具体的には、重鎖CDR3を含むことが好ましい、マウスSR−1の1つ以上のCDRと少なくとも80%、90%、または100%同一であるアミノ酸配列を含むペプチドを該用語に含める。
【0039】
本明細書で用いる「ニュートラルアンタゴニスト」という用語は、アゴニスト活性を阻害することのできる特異的結合因子を意味すると理解する。これらの作用物質は、所望の抗原結合特性を有するCDR由来の配列を含む、前出で定義した抗体および組換えペプチドまたは他の化合物を含む。具体的には、重鎖CDR3を含むことが好ましい、マウスSR−1の1つ以上のCDRと少なくとも80%、90%、または100%同一であるアミノ酸配列を含むペプチドを該用語に含める。
【0040】
抗体のFcドメインを、少なくとも1つの抗原結合ペプチドに付随する「ビヒクル」として含む分子である「ペプチボディ(peptibody)」も、該用語に含める。SR−1抗体由来の抗体CDRは、特に重鎖CDR3を含むペプチボディへの組み込みに適しうる。ペプチボディの産生は、2000年5月4日公開の特許協力条約公開による国際特許公開第00/24782号に、全般的に記載されている。ペプチドは、リンカーを伴ってかまたは伴わずに、タンデムに(すなわち、連続的に)結合してよい。システイニル残基を含むペプチドは、別のCys含有ペプチドと交差結合してよく、その一方または両方をビヒクルに結合してよい。複数のCys残基を有する任意のペプチドは、ペプチド内のジスルフィド結合をも形成してよい。これらのペプチドのいずれかを誘導体化してよい、例えば、カルボキシル末端をアミノ基でキャップしてもよく、システインをキャップしてもよく、またはアミノ酸残基以外の部分によりアミノ酸残基を置換してもよい(例えば、Bhatnagarら、J.Med.Chem.、第39巻、3814〜3819頁、1996年、およびCuthbertsonら、J.Med.Chem.、第40巻、2876〜2882頁、1997年[これらをその全体において、参考として本明細書に援用される]を参照のこと)。該ペプチド配列は、抗体に対する親和性成熟と同様に最適化してもよく、あるいはアラニンスキャニングまたはランダム突然変異誘発もしくは定方向突然変異誘発による変更に続くスクリーニングにより最適の結合体を同定してもよい(Lowman、Ann.Rev.Biophys.Biomol.Struct.、第26巻、401〜424頁、1997年)。
【0041】
特異的結合因子の所望の活性を保持しながら、特異的結合因子の構造、例えば、特異的結合因子のペプチド部分そのものの内部またはペプチド部分とビヒクル部分との間に各種の分子を挿入することができる。例えば、Fcドメインまたはその断片などの分子、ポリエチレングリコールまたはデキストランなどの他の関連分子、脂肪酸、脂質、コレステロール基、小さい炭水化物、ペプチド、細胞毒性剤、化学療法剤、本明細書に記載の検出可能な成分(蛍光剤、放射性同位元素などの放射性標識を含む)、オリゴ糖、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、干渉(または他の)RNA、酵素、ホルモンなどを容易に挿入することができる。この方式での挿入に適する他の分子は、当業者がよく理解するところであり、本発明の適用範囲内に含める。これは、例えば、2つの隣接するアミノ酸間における、場合によっては適切なリンカーにより結合する所望の分子の挿入を含む。
【0042】
「単離した」抗体とは、それを発現した細胞の成分から同定および分離した抗体である。細胞の混入成分とは、抗体の診断または治療のための使用と干渉する物質であり、酵素、ホルモン、および他のタンパク質性または非タンパク質性の溶質を含んでよい。好ましい実施形態では、抗体を、(1)抗体重量で95%超まで、およびもっとも好ましくは重量で99%超まで、(2)少なくとも15残基のN末端もしくは内部のアミノ酸配列を得るのに十分な程度まで、または(3)クーマシーブルーもしくは、好ましくは、銀染色を用いる還元性もしくは非還元性の条件下において、SDS−PAGEによる均質性まで精製する。単離した天然に存在する抗体は、抗体の天然環境の少なくとも1要素が存在しないので、組換え細胞内におけるインサイチュの抗体を含む。しかし、単離した抗体は、少なくとも1つの精製工程により調製することが通例である。
【0043】
本明細書で用いる「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均質の抗体集団から得られる抗体、すなわち、該集団を構成する個々の抗体が、微小量において存在しうる天然に存在する可能性のある突然変異を除いて同一であることを指す。モノクローナル抗体は、高度に特異性であり、異なるエピトープに対する異なる抗体を含むことが通例であるポリクローナル抗体調製と対照的に、単独の抗原部位またはエピトープに対する。
【0044】
その重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、ヒト免疫グロブリンは、異なるクラスに帰属させることができる。5つの主要クラス、IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMがあり、これらのいくつかは、サブクラスまたはアイソタイプ、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2にさらに分けられる。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインを、それぞれ、α、δ、ε、γ、およびμと呼ぶ。免疫グロブリンの異なるクラスのサブユニット構造および3次元配置は、周知である。異なるアイソタイプは異なるエフェクター機能を有する。例えば、IgG1アイソタイプおよびIgG3アイソタイプは、ADCC活性を有する。
【0045】
「超可変」領域という用語は、抗原結合に関与する抗体のアミノ酸残基を指す。超可変領域は、相補性決定領域すなわちCDR由来のアミノ酸残基[すなわち、Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、メリーランド州、ベセスダ、Public Health Service、National Institutes of Health、1991年が述べる通り、軽鎖可変ドメイン中の残基24〜34(L1)、残基50〜56(L2)、および残基89〜97(L3)、ならびに重鎖可変ドメイン中の残基31〜35(H1)、残基50〜65(H2)、および残基95〜102(H3)]を含む。すべてのCDRを含む全抗原結合部位よりも低親和性ではあるが、単一のCDRであっても、抗原を認識し結合しうる。抗体のCDRは、標的分子に結合する能力を保持する限りにおいて、上記に指定した限界を超える追加のまたはより少数の配列を含んでよいことが理解される。
【0046】
Chothiaら、J.Mol.Biol.、第196巻、901〜917頁、1987年が、超可変「ループ」由来の残基の別の定義を、軽鎖可変ドメイン中の残基26〜32(L1)、残基50〜52(L2)、および残基91〜96(L3)、ならびに重鎖可変ドメイン中の残基26〜32(H1)、残基53〜55(H2)、および残基96〜101(H3)と述べている。
【0047】
「フレームワーク」またはFR残基とは、超可変領域残基以外の可変領域残基である。
【0048】
「抗体断片」は、インタクトな全長抗体の部分、好ましくは、インタクトな抗体の抗原結合領域または同可変領域を含む。抗体断片の例は、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、およびFv断片;ダイアボディ;線形抗体(Zapataら、Protein Eng.、第8巻、第10号、1057〜1062頁、1995年);単鎖抗体分子;ならびに抗体断片から形成した多重特異性抗体を含む。
【0049】
抗体のパパイン消化は、各々が単一の抗原結合部位を含み「Fab」断片と呼ばれる2つの同一な抗原結合断片と、定常領域を含む残余の「Fc」断片とを産生する。Fab断片は、可変ドメインのすべてのほか、軽鎖の定常ドメインおよび重鎖の第1定常ドメイン(C1)をも含む。Fc断片は炭水化物を提示し、多数の抗体エフェクター機能(補体および細胞レセプターに結合することなど)に関与し、これが抗体のクラス同士を識別する。
【0050】
ペプシン処理は、単一のポリペプチド鎖中に存在する抗体のVドメインおよびVドメインを含む、2つの「一本鎖Fv」抗体断片または「sFv」抗体断片を有するF(ab’)2断片を産生する。Fab断片は、抗体のヒンジ領域由来の1つ以上のシステインを含む重鎖C1ドメインのカルボキシ末端において少数の追加残基を含むことで、Fab’断片とは異なる。Fvポリペプチドは、Fvが抗原結合に所望の構造を形成することを可能にする、VドメインとVドメインとの間のポリペプチドリンカーをさらに含むことが好ましい。sFvの総説については、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies、第13巻、RosenburgおよびMoore編、ニューヨーク、Springer−Verlag社、269〜315頁、1994年中のPluckthun論文を参照のこと。
【0051】
「Fv」とは、完全な抗原認識部位および抗原結合部位を含む最小の抗体断片である。この領域は、緊密な非共有結合中の、1つの重鎖可変領域および1つの軽鎖可変領域による2量体からなる。各可変ドメインの3つのCDRが相互作用して、V2量体の表面に抗原結合部位を規定するのは、この立体配置においてである。合計6つのCDRが、抗体に抗原結合特異性を与える。ただし、単一の可変ドメイン(または1つの抗原に対して特異的な3つのCDRのみを含むFvの半分)は、全結合部位よりも低親和性ではあるが、抗原を認識し結合する能力を有する。
【0052】
「ダイアボディ」という用語は、2つの抗原結合部位を含む小型の抗体断片であって、同一のポリペプチド鎖(V)において軽鎖可変ドメイン(V)に結合した重鎖結合ドメイン(V)を含む抗体断片を指す。同一の鎖における2つのドメイン間での対形成を可能にするには短すぎるリンカーを用いることにより、該ドメインは、別の鎖の相補性ドメインと対形成せざるをえず、2つの抗原結合部位を創出する。ダイアボディは、例えば、欧州特許第404,097号;国際特許公開第93/11161号;およびHollingerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第90巻、6444〜6448頁、1993年により詳細に述べられている。
【0053】
抗体断片の産生には、各種の技術が開発されている。従来、これらの断片は、インタクトな抗体のタンパク質分解性消化により得られたが、組換え宿主細胞により直接に産生することもできる。例えば、Betterら、Science、第240巻、1041〜1043頁、1988年;Skerraら、Science、第240巻、1038〜1041頁、1988年;Carterら、Bio/Technology、第10巻、163〜167頁、1992年を参照のこと。
【0054】
本発明書に提供する通り、炎症性疾患、自己免疫性疾患、腫瘍性疾患、および線維性疾患を処置する組成物および方法は、単独でまたは他の治療薬との併用で、1つ以上の抗c−Kit治療薬を用いて所望の効果を達成してよい。本発明に従う使用に適する例示的な抗線維化剤は、トランスホーミング増殖因子β(TGF−β)、インターロイキン−4(IL−4)、インターロイキン−5(IL−5)、インターロイキン−9(IL−9)、インターロイキン−13(IL−13)、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、腫瘍壊死因子α(TNF−α)、インターロイキン−1β(IL−1β)、結合組織成長因子(CTGF)、インターロイキン−6(IL−6)、オンコスタチンM(OSM)、血小板由来成長因子(PDGF)、単球化学誘導タンパク質1(CCL2/MCP−1)、ならびに肺および活性化調節型ケモカイン(pulmonary and activation−regulated−chemokine)(CCL18/PARC)から選択されるサイトカインを含む。
【0055】
本発明によるSR−1由来の抗体は、当該分野においてよく知られる抗体発現系(例えば、HarlowおよびLane、Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、1988年を参照のこと)の1つを用いる組換えDNA法により産生することが好ましい。該抗体は、免疫グロブリン由来の可変配列とヒト定常領域とを有するキメラ融合タンパク質であることも好ましく、または、ヒト抗体残基を含むが、好ましくは、マウスSR−1のCDRを少なくとも保持する、よりヒト様のモノクローナル抗体(ヒト抗体またはヒト化抗体など)であることもより好ましい。インタクトな全長分子に加えて、「抗体」という用語は、その断片またはc−Kitに結合するインタクトな分子および/または断片のマルチマーもしくは凝集体をも指す。
【0056】
「ヒト化抗体」という句は、マウスモノクローナル抗体が通例である非ヒト抗体由来の抗体を指す。あるいは、ヒト化抗体は、非ヒト親抗体の抗原結合特性を保持するかまたは実質的に保持するが、ヒトに投与すると親抗体と比べて免疫原性が低下するキメラ抗体に由来してよい。本明細書で用いる「キメラ抗体」という表現は、異なる種に由来することが通例である2つの異なる抗体に由来する配列を含む抗体(例えば、米国特許第4,816,567号を参照のこと)を指す。キメラ抗体は、ヒト抗体断片およびマウス抗体断片、一般には、ヒト定常領域およびマウス可変領域を含むことがもっとも通例である。
【0057】
(抗体の組換え産生)
被験体の免疫グロブリンのアミノ酸配列は、直接のタンパク質配列決定により決定してよく、これをコードする適切なヌクレオチド配列は、共通コドン表により設計することができる。
【0058】
あるいは、モノクローナル抗体をコードするDNAを単離し、既存の手順を用いて(例えば、モノクローナル抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することのできるオリゴヌクレオチドプローブを用いることにより)、ハイブリドーマ細胞から配列決定してよい。配列決定は、一般に、被験体の遺伝子またはcDNAの少なくとも一部の単離を必要とする。これは、モノクローナル抗体をコードするDNAまたは、好ましくは、mRNA(すなわち、cDNA)のクローニングを必要とすることが通例である。クローニングは、標準的な技法(例えば、Sambrookら、1989年、Molecular Cloning:A Laboratory Guide、第1〜3巻、Cold Spring Harbor Press社[参考として本明細書に援用される]を参照のこと)を用いて行う。例えば、ポリA+mRNA、好ましくは膜結合型mRNAの逆転写によりcDNAライブラリーを構築し、ヒト免疫グロブリンポリペプチド遺伝子配列に特異的なプローブを用いて該ライブラリーをスクリーニングしてよい。ただし、好ましい実施形態では、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて対象の免疫グロブリン遺伝子断片(例えば、軽鎖可変断片)をコードするcDNA(または全長cDNAの部分)を増幅する。増幅した配列は、任意の適切なベクター、例えば、発現ベクター、ミニ遺伝子ベクター、またはファージディスプレイベクター内に容易にクローニングすることができる。対象の免疫グロブリンポリペプチドの一部の配列を決定することが可能である限りにおいて、使用する特定のクローニング法が重要なのでないことを理解されたい。
【0059】
本明細書で用いる「単離した」核酸分子または「単離した」核酸配列とは、(1)核酸の天然の供給源において関連することが通例である、少なくとも1つの混入核酸分子から識別し分離するか、または(2)クローニングし、増幅し、タグを付加し、または別段にバックグラウンドの核酸から識別して、対象の核酸配列を決定できるようにする核酸分子である。単離した核酸分子は、天然において見出される形態または状況とは異なる。ただし、単離した核酸分子は、例えば、核酸分子が天然細胞の場合とは異なる染色体位置にある抗体を発現することが通例である、細胞内に含まれる核酸分子を含む。
【0060】
クローニングおよび配列決定に用いるRNAの1つの供給源は、トランスジェニックマウス由来のB細胞を得、該B細胞を不死化細胞に融合させることで産生するハイブリドーマである。ハイブリドーマを用いる利点は、スクリーニングおよび対象のヒトモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの選択が容易なことである。あるいは、RNAは、免疫化した動物のB細胞(または脾臓全体)から単離することができる。ハイブリドーマ以外の供給源を用いる場合は、特異的な結合特性により、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンポリペプチドをコードする配列に関してスクリーニングすることが望ましい場合もある。こうしたスクリーニングの1つの方法が、ファージディスプレイ法の使用である。ファージディスプレイ法は、例えば、Dowerら、国際特許公開第91/17271号、McCaffertyら、国際特許公開第92/01047号、ならびにCatonおよびKoprowski、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第87巻、6450〜6454頁、1990年に述べられており、これらの各々は参考として本明細書に援用される。ファージディスプレイ法を用いる一実施形態において、免疫化したトランスジェニックマウス由来のcDNA(例えば、全脾臓cDNA)を単離し、ポリメラーゼ連鎖反応を用いて免疫グロブリンポリペプチドの一部、例えば、CDR領域をコードするcDNA配列を増幅し、増幅した配列をファージベクターに挿入する。対象のペプチド、例えば、所望の結合特性を有する可変領域ペプチドをコードするcDNAは、パニング法などの標準的な技法により同定する。
【0061】
次いで、増幅またはクローニングした核酸配列を決定する。免疫グロブリンポリペプチドの可変領域全体をコードする配列を決定することが通例であるが、可変領域の一部、例えば、CDRコード部分のみを配列決定すれば十分な場合もある。配列決定した部分が少なくとも30塩基の長さであること、より多くの場合には、可変領域の約3分の1または約2分の1の長さをコードする塩基を配列決定することが通例である。
【0062】
配列決定は、cDNAライブラリーから単離したクローンに対してか、または、PCRを用いる場合は、増幅した配列のサブクローニング後か、もしくは増幅した断片の直接的なPCR配列決定により行うことができる。配列決定は、標準的な技法(例えば、Sambrookら、1989年、Molecular Cloning:A Laboratory Guide、第1〜3巻、Cold Spring Harbor Press社、およびSanger,F.ら、1977年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第74巻、5463〜5467頁[参考として本明細書に援用される]を参照のこと)を用いて行う。クローニングした核酸配列をヒト免疫グロブリンの遺伝子およびcDNAの公表された配列と比較することにより、配列決定する領域に依存して、(i)ハイブリドーマ免疫グロブリンポリペプチド(重鎖のアイソタイプを含む)の生殖細胞系列断片による使用、ならびに(ii)N領域付加および体細胞突然変異過程から生じる配列を含む重鎖可変領域および軽鎖可変領域の配列を、当業者は容易に決定するであろう。免疫グロブリン遺伝子配列の1つの情報源は、メリーランド州、ベセスダ、米国立保健研究所、米国立医学図書館内の米国立バイオテクノロジー情報センターである。
【0063】
一旦単離されると、DNAは、発現制御配列に作動可能に連結し、または発現ベクター中に入れることができ、次いでそれをE.coli細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、または通常なら免疫グロブリンタンパク質を産生しない骨髄腫細胞などの宿主細胞内にトランスフェクトし、組換え宿主細胞内におけるモノクローナル抗体の合成を導く。抗体の組換え産生は、当該分野において周知である。
【0064】
発現制御配列とは、特定の宿主生物中の作動可能に連結したコード配列の発現に必要なDNA配列を指す。真核生物に適する制御配列は、例えば、プロモーター配列、場合によっては、オペレーター配列、およびリボゾーム結合部位を含む。真核細胞は、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、およびエンハンサーを用いることが公知である。
【0065】
核酸を別の核酸配列と機能的な関係に配置する場合は、これを作動可能に連結する。例えば、プレ配列または分泌リーダーのDNAをポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現させる場合は、これをポリペプチドのDNAに作動可能に連結し、プロモーターまたはエンハンサーが配列の転写に影響を及ぼす場合は、これをコード配列に作動可能に連結する。または、リボゾーム結合部位を設置して翻訳を促進する場合は、これをコード配列に作動可能に連結する。一般に、作動可能に連結したとは、結合したDNA配列が隣接し、分泌リーダーの場合は、読み取る相において隣接することを意味する。ただし、エンハンサーは、隣接する必要がない。結合は、好都合な制限酵素部位におけるライゲーションにより達成される。こうした部位が存在しない場合は、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたは合成オリゴヌクレオチドリンカーを、既存の方法に従って用いる。
【0066】
細胞、細胞株、および細胞培養物は互換的に用いることが多く、本明細書における該呼称対象は、子孫細胞を含む。形質転換体および形質転換細胞は、転換の回数に関わらず、これらに由来する初代対象細胞および初代対象培養物を含む。すべての子孫細胞が意図的または不慮の突然変異に起因してDNA含量において正確に同一でなくてもよいことも、理解される。もとの形質転換細胞においてスクリーニングしたのと同一の機能または生物学的活性を有する突然変異体の子孫細胞を含める。
【0067】
本発明は、本発明の特異的結合因子または抗体をコードする単離した核酸、場合によっては、宿主細胞、核酸を含むベクターおよび宿主細胞が認識する制御配列に作動可能に連結した核酸、ならびに、特異的結合因子または抗体の産生のための組換え技術であって、宿主細胞を培養して核酸を発現させる工程と、場合によっては、宿主細胞培養物または培地から特異的結合因子または抗体を回収する工程とを含んでよい組換え技術をも提供する。
【0068】
当該分野では、多くのベクターが公知である。ベクター成分は、シグナル配列(例えば、特異的結合因子または抗体の分泌を導いてよい)、複製起点、1つ以上の選択マーカー遺伝子(例えば、抗生物質耐性もしくは他の薬剤耐性、栄養要求性補体欠損症を与えるか、または培地内で得られない重要な栄養分を補給してよい)、エンハンサーエレメント、プロモーター、および転写終結配列、以上の1つ以上を含んでよく、これらのすべては当該分野で公知である。
【0069】
適切な宿主細胞は、前述の原核細胞、酵母細胞、または高等真核細胞を含む。この目的に適する原核生物は、グラム陰性菌またはグラム陽性菌、例えば、エシェリキア属、例えば、E.coli、エンテロバクター属、エルビニア属、クレブシエラ属、プロテウス属、サルモネラ属、例えば、ネズミチフス菌、セラチア属、例えば、Serratia marcescans、および赤痢菌属などの腸内細菌科のほか、B.subtilisおよびB.licheniformisなどのバチルス属、シュードモナス属、ならびにストレプトミセス属などの真正細菌を含む。原核生物に加え、糸状菌または酵母菌などの真核細菌が、特異的結合因子をコードするベクターに適するクローニング宿主または発現宿主である。Saccharomyces cerevisiae、または通常の製パン酵母が、下等真核宿主微生物ではもっともよく用いられる。ただし、ピチア属宿主、例えば、P.pastoris、Schizosaccharomyces pombe;クルイベロミセス属宿主、ヤロウィア属宿主;カンジダ属宿主;Trichoderma reesia;Neurospora crassa;Schwanniomyces occidentalisなどのシュワニオミセス属宿主;また、例えば、アカパンカビ属宿主、アオカビ属宿主、トリポクラジウム属宿主、ならびにA.nidulansおよびA.nigerなどのコウジカビ属宿主などの糸状菌宿主など、他の多数の属、種、および菌株がよく用いられ、本明細書で有用である。
【0070】
グリコシル化特異的結合因子または抗体の発現に適する宿主細胞は、多細胞生物に由来する。非脊椎動物細胞の例は、植物細胞および昆虫細胞である。多数のバキュロウイルス株および変種、ならびにヨウトガ(毛虫)、ネッタイシマカ(蚊)、ヒトスジシマカ(蚊)、ショウジョウバエ(果実蠅)、カイコなどの宿主由来の対応する許容性昆虫宿主細胞が同定されている。こうした細胞のトランスフェクション用の各種ウイルス株は、例えば、オートグラファ・カリフォルニカNPVのL−1改変体およびカイコNPVのBm−5株が市販されている。
【0071】
しかし、もっとも重要なのは脊椎動物細胞であり、培養物(組織培養物)中の脊椎動物細胞の増殖は、所定の手順である。有用な哺乳類宿主細胞株の例は、CHOK1細胞(ATCC CCL61)、DXB−11、DG−44を含むチャイニーズハムスター卵巣細胞およびチャイニーズハムスター卵巣細胞/−DHFR(CHO、Urlaubら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第77巻、4216頁、1980年);SV40により形質転換したサル腎臓CV1系(COS−7、ATCC CRL1651);ヒト胎児腎細胞株(293細胞または懸濁培養物中での増殖用にサブクローニングした293細胞[Grahamら、J.Gen Virol.、第36巻、59頁、1977年]);ハムスター胎仔腎細胞(BHK、ATCC CCL10);マウスセルトリ細胞(TM4、Mather、Biol.Reprod.、第23巻、243〜251頁、1980年);サル腎細胞(CV1、ATCC CCL70);アフリカミドリザル腎細胞(VERO−76、ATCC CRL1587);ヒト子宮頸癌細胞(HELA、ATCC CCL2);イヌ腎細胞(MDCK、ATCC CCL34);バッファローラット肝細胞(BRL3A、ATCC CRL1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL75);ヒト肝癌細胞(Hep G2、HB 8065);マウス乳腺腫瘍(MMT 060562、ATCC CCL51);TRI細胞(Matherら、Annals N.Y Acad.Sci.、第383巻、44〜68頁、1982年);MRC5細胞またはFS4細胞である。
【0072】
宿主細胞は形質転換されるか、または宿主細胞に特異的結合因子または抗体産生用の上述の核酸またはベクターをトランスフェクトし、プロモーターの誘導、形質転換体の選択、または所望の配列をコードする遺伝子の増幅に適切に改変した既存の栄養培地中で培養した。さらに、新規のベクターと、選択マーカーにより分離した転写単位の複数のコピーをトランスフェクトした細胞株とが、特異的結合因子または抗体の発現に特に有用であり好ましい。
【0073】
本発明の特異的結合因子または抗体を産生するために用いる宿主細胞は、各種の培地中で培養してよい。ハムF10培地(Sigma社製)、最小必須培地(MEM培地、Sigma社製)、RPMI−1640培地(Sigma社製)、およびダルベッコ改変イーグル培地(DMEM培地、Sigma社製)などの市販培地が、宿主細胞の培養に適している。さらに、Hamら、Meth.Enz.、第58巻、44頁、1979年、Barnesら、Anal.Biochem.、第102巻、255頁、1980年、米国特許第4,767,704号;同第4,657,866号;同第4,927,762号;同第4,560,655号;または同第5,122,469号;国際特許公開第90103430号;国際特許公開第87/00195号;または米国特許登録第30,985号に記載の培地のいずれかを、宿主細胞用の培地として用いてよい。これらの培地のいずれかに、必要に応じて、ホルモンおよび/または成長因子(インスリン、トランスフェリン、または表皮成長因子など)、塩(塩化ナトリウム、カルシウム塩、マグネシウム塩、およびリン酸塩など)、緩衝液(HEPESなど)、ヌクレオチド(アデノシンおよびチミジンなど)、抗生物質(ゲンタマイシンTM剤など)、微量元素(マイクロモルの範囲における最終濃度で存在することが通例である無機化合物と定義する)、およびグルコースまたは同等のエネルギー源を補充してよい。他の任意の必要な補充物質をも、当業者に知られる適切な濃度で含めてよい。温度、pHなどの培養条件は、発現用に選択した宿主細胞とともに既に用いたものであり、当業者には明らかであろう。米国特許出願第20030082735号に記載の、適切な各々の軽鎖および重鎖の対合を含むpDC323およびpDC324発現ベクターを、CS9宿主細胞株にトランスフェクトした。
【0074】
宿主細胞を培養すると、特異的結合因子または抗体を細胞内のペリプラズム空間で産生するか、または直接に培地内で分泌することができる。特異的結合因子または抗体を細胞内で産生する場合、第1段階として、例えば、遠心分離または限外濾過により、宿主細胞または溶解した断片の粒子破片を除去する。
【0075】
特異的結合因子または抗体の組成物は、例えば、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィーもしくは陰イオン交換クロマトグラフィー、または好ましくは、対象の抗原、プロテインAもしくはプロテインGを親和性リガンドとして用いる親和性クロマトグラフィーを用いて精製することができる。プロテインAは、ヒトγ1重鎖、ヒトγ2重鎖、またはヒトγ4重鎖に基づく特異的結合因子もしくは抗体の精製に用いることができる(Lindmarkら、J.Immunol.Meth.、第62巻、1〜13頁、1983年)。プロテインGは、すべてのマウスアイソタイプおよびヒトγ3に推奨される(Gussら、EMBO J.、第5巻、1567〜1575頁、1986年)。親和性リガンドが付着するマトリックスは、アガロースであることがもっとも多いが、他のマトリックスも使用できる。制御細孔ガラスまたはポリ(スチレンジビニル)ベンゼンなどの力学的に安定したマトリックスは、アガロースで達成できるよりも速い流速および短い工程時間を可能にする。特異的結合因子または抗体がC3ドメインを含む場合、Bakerbond ABX(登録商標)樹脂(ニュージャージー州、フィリップスバーグ、J.T.Baker社製)が、精製に有用である。エタノール沈殿法、逆相HPLC、等電点電気泳動、SDS−PAGE、および硫酸アンモニウム沈殿法などの他のタンパク質精製法も、回収する特異的結合因子または抗体に依存して可能である。
【0076】
(キメラ抗体およびヒト化抗体)
当該分野で公知である標準的な手順(Morrison,S.L.ら、1984年、「Chimeric Human antibody Molecules;Mouse Antigen Binding Domains with Human Constant Region Domains」、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第81巻、6841〜6855頁;およびBoulianne,G.L.ら、Nature、第312巻、643〜646頁、1984年)を用いて、げっ歯類モノクローナル抗体のIg可変ドメインをヒトIg定常ドメインに融合するキメラモノクローナル抗体を産生することができる。一部のキメラモノクローナル抗体はヒトにおいて免疫原性が低いことが分かっているが、げっ歯類Ig可変ドメインは、やはり、顕著なヒト抗げっ歯類反応をもたらしうる。
【0077】
ヒト化抗体は、例えば、(1)非ヒト相補性決定領域(CDR)をヒトフレームワークおよび定常領域に移植する工程(当該分野で「CDRグラフト」によるヒト化と呼ぶ工程)、あるいはまた、(2)非ヒト可変ドメインの全体を移植するが、表面残基の置換(当該分野で「ベニアリング(veneering)」と呼ぶ工程)によりヒト様表面で「覆う(cloaking)」工程を含む各種の方法により実現してよい。これらの方法は、例えば、Jonesら、Nature、第321巻、522〜525頁、1986年;Morrisonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第81巻、6851〜6855頁、1984年;MorrisonおよびOi、Adv.Immunol.、第44巻、65〜92頁、1988年;Verhoeyerら、Science、第239巻、1534〜1536頁、1988年;Padlan、Molec.Immun.、第28巻、489〜498頁、1991年;Padlan、Molec.Immunol.、第31巻、第3号、169〜217頁、1994年;およびKettleborough,C.A.ら、Protein Eng.、第4巻、第7号、773〜783頁、1991年(これらの各々は参考として本明細書に援用される)において開示されている。
【0078】
特に、単独または併用で、げっ歯類の抗体をインビボでヒトに反復投与すると、レシピエントにおいてげっ歯類抗体に対する免疫反応、いわゆるHAMA(ヒト抗マウス抗体)反応が生じる。反復投与が必要な場合、HAMA反応は薬剤の有効性を制限することがある。抗体の免疫原性は、ポリエチレングリコールなどの親水性ポリマーにより抗体を化学改変すること、または遺伝子工学の方法を用いて抗体結合構造をよりヒト様とすることにより低下させてよい。
【0079】
CDRグラフトは、マウスIg重鎖可変ドメインおよびマウスIg軽鎖可変ドメイン由来の6つのCDRの1つ以上を、ヒトIg可変ドメインの適切なフレームワーク領域に導入する工程を含む。この技法(Riechmann,Lら、Nature、第332巻、323頁、1988年)は、保存フレームワーク領域(FR1〜FR4)を、抗原との第1の接触部分であるCDRループを支持する骨格として用いる。しかし、CDRグラフトの重大な欠点は、フレームワーク領域のアミノ酸が抗原結合に寄与する可能性があり、CDRループのアミノ酸が2つのIg可変ドメインの結合に影響を及ぼす可能性もあるため、もとのマウス抗体よりも結合親和性が実質的に低いヒト化抗体をもたらす可能性があることである。キメラSR−1抗体は、細胞ベースのアッセイにおいて、適切な機能的効力を示さなかった。
【0080】
ヒト化モノクローナル抗体の親和性を維持するために、もとのマウス抗体のフレームワーク領域に酷似するヒトフレームワーク領域の選択、および抗原結合部位のコンピュータモデル化により援助されるフレームワークまたはCDR内での単一アミノ酸の部位特異的突然変異誘発により、CDRグラフト法を改善することができる(例えば、Co,M.S.ら、1994年、J.Immunol.、第152巻、2968〜2976頁)。
【0081】
抗体をヒト化する1つの方法は、非ヒト重鎖配列および非ヒト軽鎖配列をヒト重鎖配列および同軽鎖配列に合わせて整列する工程と、非ヒトフレームワークを該整列に基づいてヒトフレームワークにより選択および置換する工程と、分子モデリングによりヒト化配列の立体配置を予測して親抗体の立体配置と比較する工程とを含む。この工程に続き、ヒト化配列モデルの推定コンホメーションが非ヒト親抗体による非ヒトCDRのコンホメーションを十分に近似するまで、CDR構造を撹乱するCDR領域内残基の復帰突然変異を反復する。該ヒト化抗体をさらに誘導体化することにより、例えば、Ashwellレセプター(米国特許第5,530,101号および同第5,585,089号を参照のこと)による取り込みおよびクリアランスを促進してよい。
【0082】
合理的な設計によるマウスモノクローナル抗体の多数のヒト化が報告されている(例えば、2002年7月11日公開の第20020091240号、国際特許公開第92/11018号、および米国特許第5,693,762号、米国特許第5,766,866号を参照のこと。ヒト抗体工学についても、例えば、Studnickaら、米国特許第5,766,886号、Studnickaら、Protein Engineering、第7巻、805〜814頁、1994年に記載されている)。
【0083】
(抗体改変体の産生)
所望の特異的結合因子または抗体のアミノ酸配列改変体は、コードDNAに適切なヌクレオチド変化を導入すること、またはペプチド合成により調製してよい。こうした変異は、例えば、特異的結合因子または抗体のアミノ酸配列内における残基の欠失および/または挿入および/または置換を含む。欠失、挿入、および置換の任意の組み合わせを行うことによる最終構築物が所望の特性を有するならば、最終構築物に到達する。アミノ酸の変化は、グリコシル化部位の数または位置の変化など、特異的結合因子またはヒト化抗体もしくは改変体抗体の翻訳後プロセスを変化させることがある。
【0084】
特異的結合因子または抗体のアミノ酸配列改変体をコードする核酸分子は、当該分野で公知である各種の方法により調製する。該方法は、特異的結合因子または抗体の初期に調製した改変体または非改変体バージョンに対する、オリゴヌクレオチドを介する(または部位特異的な)突然変異誘発、PCR突然変異誘発、およびカセット突然変異誘発を含む。
【0085】
突然変異誘発の好ましい配置である、特異的結合因子または抗体の特定の残基または領域を同定する有用な方法は、CunninghamおよびWells、Science、第244巻、1081〜1085頁、1989年が述べる通り、「アラニンスキャニング突然変異誘発」と呼ばれる。同方法では、残基または標的残基のグループ(例えば、arg、asp、his、lys、およびgluなどの正に荷電した残基)を同定し、電気的に中性または負に荷電したアミノ酸(アラニンまたはポリアラニンであることがもっとも好ましい)で置換して、アミノ酸の抗原との相互作用に影響を与える。次いで、置換部位にさらなる変異または置換部位に対する他の変異を導入することにより、該置換に対して機能的な感受性を示すこれらのアミノ酸配置を純化する。したがって、アミノ酸配列変異の導入部位はあらかじめ定めるが、突然変異そのものの性質はあらかじめ定める必要がない。例えば、所定の部位における突然変異の性能を分析するため、標的コドンまたは標的領域においてアラニンスキャニング突然変異誘発またはランダム突然変異誘発を実施し、発現した改変体を所望の活性についてスクリーニングする。
【0086】
特異的結合因子または抗体のアミノ酸配列改変体は、元の特異的結合因子または抗体(マウスまたはヒト化)の重鎖または軽鎖のアミノ酸配列と少なくとも60%のアミノ酸配列の同一性を有するか、または少なくとも65%、または少なくとも70%、または、例えば、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、および100%を含む、少なくとも75%もしくは少なくとも80%の同一性を有し、より好ましくは、少なくとも85%の同一性、さらにより好ましくは、少なくとも90%の同一性、そしてもっとも好ましくは、少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を有する。本明細書では、本配列に関する同一性または相同性を、元の配列と同一であり、必要ならば、配列を整列しギャップを導入した後で最大百分率による配列の同一性を達成する、候補配列中のアミノ酸残基の百分率として定義し、いかなる保存的置換(下記の表1に定義)をも配列同一性の一部とは考えない。特異的結合因子または抗体配列への、N末端、C末端、もしくは内部の拡張、欠失、または挿入のいずれをも、配列の同一性または相同性に影響を及ぼすと解釈するものとする。こうして、配列の同一性は、2つのポリペプチドのアミノ酸位置の類似性を比較するのによく用いる標準的な方法により判定することができる。BLASTまたはFASTAなどのコンピュータプログラムを用いることにより、各アミノ酸の最適のマッチングに応じて2つのポリペプチドを整列する(1つまたは両方の配列の全長に沿うか、または1つまたは両方の配列のあらかじめ定めた部分に沿う)。該プログラムは、初期設定のオープニングペナルティーおよび初期設定のギャップペナルティーを提供し、PAM250[標準的なスコア行列;Dayhoffら、Atlas of Protein Sequence and Structure、第5巻、補遺3、1978年に収録]などのスコア行列を、該コンピュータプログラムと併用することができる。次いで、例えば、百分率による同一性を以下のように計算することができる。同一のマッチ総数に100を乗じ、次いで、マッチしたスパン内の長いほうの配列の長さと、2つの配列を整列するために長いほうの配列に導入したギャップ数との合計で除する。
【0087】
(挿入)
アミノ酸配列の挿入は、1残基〜100以上の残基を含むポリペプチドの範囲の長さのアミノ末端融合および/またはカルボキシ末端融合のほか、単一または複数のアミノ酸残基の配列内挿入を含む。末端挿入の例は、N末端のメチオニル残基を含む特異的結合因子もしくは抗体、またはエピトープタグもしくはサルベージレセプターエピトープに融合した特異的結合因子もしくは抗体(抗体断片を含む)を含む。特異的結合因子または抗体分子の他の挿入改変体は、特異的結合因子または抗体分子の血清半減期を増大させるポリペプチドへの融合、例えば、N末端またはC末端における融合を含む。
【0088】
エピトープタグの例は、flu HAタグポリペプチドおよびその抗体である12CA5[Fieldら、Mol.Cell.Biol.、第8巻、2159〜2165頁、1988年];c−mycタグおよびこれに対する8F9抗体、3C7抗体、6E10抗体、G4抗体、B7抗体、および9E10抗体[Evanら、Mol.Cell.Biol.、第5巻、第12号、3610〜3616頁、1985年];ならびに単純ヘルペスウイルス糖タンパク質D(gD)タグおよびその抗体[Paborskyら、Protein Engineering、第3巻、第6号、547〜553頁、1990年]を含む。他の例示的なタグは、一般には約6つのヒスチジン残基からなるポリヒスチジン配列であり、これが、ニッケルとのキレート化を用いて、該標識化された化合物の単離を可能にする。FLAG(登録商標)(ニューヨーク州、ロチェスター、Eastman Kodak社製)などの他の標識およびタグが周知であり、当該分野において慣用的に使用される。
【0089】
「サルベージレセプター結合エピトープ」という用語は、インビボにおけるIgG分子の血清半減期の延長を担う、IgG分子(例えば、IgG、IgG、IgG、またはIgG)Fc領域のエピトープを指す。
【0090】
(置換)
改変体の別の種類は、アミノ酸置換改変体である。これらの改変体は、除去した特異的結合因子または抗体分子中の少なくとも1つのアミノ酸残基と、その代りに挿入した異なる残基とを有する。超可変領域もしくはCDR領域またはフレームワーク領域のいずれかの内部における置換突然変異誘発が企図される。保存的置換を表1に示す。「好ましい置換」の見出しの下に、最高度の保存的置換が見出される。該置換が生物学的活性の変化をもたらさない場合、表1で「例示的置換」と称するか、またはアミノ酸クラスとの関連で下記に詳しく述べるより実質的な変化を導入し、その産物をスクリーニングしてよい。
【0091】
【化10】

特異的結合因子または抗体の生物学的特性の実質的な改変は、(a)例えば、シートもしくはヘリックスのコンフォメーションなどの置換領域におけるポリペプチド骨格の構造、(b)標的部位における電荷もしくは疎水性、または(c)側鎖の体積を維持することに対するその効果が顕著に異なる置換を選択することにより達成する。天然に存在する残基は、以下の共通の側鎖特性に基づき、群別する。
【0092】
(1)疎水性:ノルロイシン、met、ala、val、leu、ile;
(2)中性で親水性:cys、ser、thr;
(3)酸性:asp、glu;
(4)塩基性:asn、glu、his、lys、arg;
(5)鎖の配向性に影響する残基:gly、pro;および
(6)芳香族性:trp、tyr、phe。
【0093】
保存的置換は、アミノ酸をそのクラスの別のメンバーで置換することを含む。非保存的置換は、これらのクラスの1つのメンバーを別のクラスのメンバーで置換することを含む。
【0094】
特異的結合因子またはヒト化抗体もしくは改変体抗体の適正なコンフォメーションを維持することに関与しない任意のシステイン残基も、一般にセリンで置換することにより、該分子の酸化安定性を改善し、異常な架橋結合を阻止してよい。逆に、1つ以上のシステイン結合を特異的結合因子または抗体に付加して、その安定性を改善してよい(特に、抗体が、Fv断片などの抗体断片である場合)。
【0095】
(親和性成熟)
親和性成熟は、親である特異的結合因子または抗体のCDR内に突然変異(欠失、挿入、または置換)を有する特異的結合因子または抗体の改変体を調製およびスクリーニングし、親である特異的結合因子または抗体と比べて結合親和性などの生物学的特性を改良した改変体を選択することを含む。こうした置換改変体を産生する好都合な方式は、ファージディスプレイ法を用いる親和性成熟である。略述すると、複数の超可変領域部位(例えば、6〜7部位)を突然変異させて、各部位に可能なすべてのアミノ置換を産生する。こうして産生された特異的結合因子または抗体の改変体は、各粒子内にパッケージ化されたM13の遺伝子III産物への融合体として、フィラメント状のファージ粒子から一価の様式で提示しうる。次いで、ファージディスプレイされた改変体を、その生物学的活性(例えば、結合親和性)についてスクリーニングする。
【0096】
アラニンスキャニング突然変異誘発を実行して、抗原結合に顕著に寄与する超可変領域残基を同定することができる。あるいは、または加えて、抗原抗体複合体の結晶構造を解析して、特異的結合因子または抗体と抗原との間の接触点を同定することが有益でありうる。こうした接触残基および隣接残基が、本明細書で詳述する技法による置換の候補である。こうした改変体を産生したら、本明細書に述べる通りに改変体のパネルをスクリーニングにかけ、1つ以上の関連するアッセイにおいて卓越する特性を有する特異的結合因子または抗体を、さらなる開発に選択してよい。
【0097】
遺伝子シャフリングおよび定方向進化を用いる技法をも用いて、特異的結合因子または抗体の改変体を調製し、これらを所望の活性に関してスクリーニングしてよい。例えば、Jermutusら、Proc Natl Acad Sci USA、2001年1月2日、第98巻、第1号、75〜80頁は、リボゾームディスプレイ法に基づき個別化したインビトロ選択ストラテジーを、インビトロでのDNAシャフリングによる多様化と組み合わせることで、一本鎖Fv抗体断片(scFv)の解離速度の安定性または熱力学的安定性を導出することを報告している。Fermerら、Tumour Biol.、2004年1〜4月、第25巻、第1〜2号、7〜13頁は、ファージディスプレイのDNAシャフリングとの併用により、親和性の大きさがほぼ3桁上昇したことを報告している。
【0098】
(グリコシル化の変更)
親である特異的結合因子または抗体と比べて、グリコシル化のパターンが改変された、例えば、特異的結合因子もしくは抗体に見出される1つ以上の炭水化物部分を欠失する、および/または特異的結合因子もしくは抗体に存在しない1つ以上のグリコシル化部位を付加する、特異的結合因子または抗体の改変体をも産生することができる。
【0099】
抗体を含むポリペプチドのグリコシル化は、N結合型またはO結合型であることが通例である。N結合型とは、アスパラギン残基側鎖に対する炭水化物部分の付着を指す。Xをプロリン以外の任意のアミノ酸とするトリペプチド配列である、アスパラギン−X−セリンおよびアスパラギン−X−スレオニンが、アスパラギン側鎖に対する炭水化物部分の酵素的付着の認識配列である。これらのトリペプチド配列のいずれかがポリペプチド中に存在すると、潜在的なグリコシル化部位が創出される。こうして、これらのトリペプチド配列の1つ以上を含むようにアミノ酸配列を変化させることによって、特異的結合因子または抗体にN結合型グリコシル化部位を付加してよい。O結合型によるグリコシル化とは、5−ヒドロキシプロリンまたは5−ヒドロキシリジンをも用いうるが、ヒドロキシアミノ酸(最も一般的に、セリンまたはスレオニン)に対する糖の1つ、N−アセイルガラクトサミン、ガラクトース、またはキシロースの付着を指す。もとの特異的結合因子または抗体の配列に1つ以上のセリン残基またはスレオニン残基を挿入または置換することによって、特異的結合因子または抗体にO結合型によるグリコシル化部位を付加してよい。
【0100】
(他の改変)
Fc領域において、1つ以上のシステイン残基を除去または挿入し、これによって、この領域における鎖間のジスルフィド結合の形成を排除または増進してよい。こうして産生されたホモダイマーの特異的結合因子または抗体は、内在化能が向上し、かつ/または補体媒介性細胞死滅および抗体依存性細胞傷害(ADCC)が増大しうる。Caronら、J.Exp Med.、第176巻、1191〜1195頁、1992年、およびShopes,B.、J.Immunol.、第148巻、2918〜2922頁、1992年を参照。ホモダイマーの特異的結合因子または抗体は、Wolffら、Cancer Research、第53巻、2560〜2565頁、1993年に記載のヘテロ二官能性架橋剤を用いて調製してもよい。あるいは、2つのFc領域を有する特異的結合因子または抗体を加工することができ、これによって、補体溶解およびADCC能力を高めることもできた。Stevensonら、Anti−Cancer Drug Design、第3巻、219〜230頁、1989年を参照。
【0101】
CDR内の配列が、抗体をMHCクラスIIに結合させ、望ましくないヘルパーT細胞反応を誘発することが示されている。保存的置換は、特異的結合因子または抗体にアビディティーを保持させながら、望ましくないT細胞反応を誘発する能力を低下させることができる。
【0102】
重鎖または軽鎖の1つ以上のN末端20アミノ酸を除去することも企図される。
【0103】
例えば、サルベージレセプター結合エピトープの組み込みまたは付加によるか(例えば、適切な領域の突然変異によるか、またはペプチドタグにエピトープを組み込み、次いで、例えば、DNAまたはペプチド合成によりこのペプチドタグを特異的結合因子または抗体のいずれかの端部または中央部に融合することにより)(例えば、国際特許公開第96/32478号を参照)、またはPEGもしくは多糖ポリマーを含む他の水溶性ポリマーなどの分子を付加することにより血清中半減期を延長する改変も望ましいことがある。
【0104】
サルベージレセプター結合エピトープは、Fcドメインの1つまたは2つのループに由来する1つ以上の任意のアミノ酸残基を、特異的結合因子または抗体もしくは断片の類似の配列位置に導入する領域を構成することが好ましい。Fcドメインの1つまたは2つのループに由来する3つ以上の残基を導入することも、より好ましい。Fc領域(例えば、IgGの)のC2ドメインからエピトープを取り出し、特異的結合因子または抗体のC1領域、C3領域、もしくはV領域、または複数の該領域に導入することがさらにより好ましい。あるいは、Fc領域のC2ドメインからエピトープを取り出し、特異的結合因子または抗体断片のC領域もしくはV領域、またはその両方に導入する。Fc改変体およびそのサルベージレセプターとの相互作用について述べる国際特許出願である、国際特許公開第97/34631号および国際特許公開第96/32478号をも参照のこと。
【0105】
インビボにおけるIgGホメオスタシスの調節は、FcRnへの結合に依存する。IgGのFcドメインとFcRnとの間の相互作用の改変は、モノクローナル抗体の血清半減期を延長することが報告されている。新生児FcレセプターであるFcRnに結合する親和性の上昇をもたらすFc中の突然変異、および分解の遅延化、およびPKプロフィールの改善が好ましいであろう。IgGにおけるFcRn結合部位は、C2−C3のドメイン間界面に位置する。この領域における残基の突然変異(M428LおよびT250Q/M428L、T250Q/M428L、P257I/Q311I、M252Y/S254T/T256E、H433K/N434F/Y436H、またはM252Y/S254T/T256E/H433K/N434F/Y436H)は、pH6.0およびpH7.3におけるヒトFcRnに対するIgG1の親和性の上昇をもたらす。さらに、これらの突然変異の一部は、サルに静脈内投与すると、薬物動態特性の改善(クリアランスの遅延、半減期の延長)をもたらした。
【0106】
C1q結合部位および/または抗体依存性細胞傷害性(ADCC)などの補体依存性細胞傷害(CDC)に関与する定常領域の他の部位が同定されている[例えば、Molec.Immunol.、第29巻、第5号、633〜639頁、1992年;Shieldsら、J.Biol.Chem.、第276巻、第9号、6591〜6604頁、2001年(その全体は参考として本明細書に援用される)を参照のこと]。Fcレセプター結合部位内における残基の突然変異は、ADCCもしくはCDC活性の変化、または半減期の変化などのエフェクター機能の変化(すなわち、上昇または低下)をもたらしうる。上述の通り、潜在的な突然変異は、アラニンによる置換、保存的置換、非保存的置換、もしくは異なるサブクラスに由来する同一の配列位置における対応するアミノ酸残基による置換(例えば、該配列位置における対応するIgG2残基によるIgG1残基の置換)を含む、1つ以上の残基の挿入、欠失、または置換を含む。
【0107】
(他の共有結合改変)
特異的結合因子または抗体の共有結合改変も、本発明の適用範囲内に含まれる。該当の場合、特異的結合因子または抗体の化学的合成または酵素的開裂もしくは化学的開裂により該改変を行ってよい。選択した側鎖またはN末端残基もしくはC末端残基と反応しうる有機誘導体化剤と標的アミノ酸残基を反応させることにより、共有結合改変の他の種類を特異的結合因子または抗体に導入することができる。
【0108】
システイニル残基は、クロロ酢酸、クロロアセトアミドなどのα−ハロアセテート(および対応するアミン)と反応して、カルボキシメチル誘導体またはカルボキシアミドメチル誘導体を与えることがもっとも多い。システイニル残基は、ブロモトリフルオロアセトン、α−ブロモ−β−(5−イミドゾイル)プロピオン酸、クロロアセチルホスフェート、N−アルキルマレイミド、3−ニトロ−2−ピリジルジスルフィド、メチル2−ピリジルジスルフィド、p−クロロ第二水銀安息香酸、2−クロロ水銀−4−ニトロフェノール、またはクロロ−7−ニトロベンゾ−2−オキサ−1,3−ジアゾールとの反応によっても誘導体化する。
【0109】
ヒスチジル残基は、ジエチルピロカーボネートがヒスチジル側鎖に対して相対的に特異性であるため、pH5.5〜7.0において、該作用物質との反応により誘導体化する。パラブロモフェンアシルブロミドも有用であり、反応は、pH6.0における0.1Mカコジル酸ナトリウム中で行うことが好ましい。
【0110】
リジニル残基およびアミノ末端残基は、コハク酸無水物または他のカルボン酸無水物と反応する。これらの作用物質による誘導体化は、リジニル残基の電荷を逆転する効果を有する。α−アミノ含有残基を誘導体化するのに適する他の試薬は、メチルピコリニミデート、ピリドキサールホスフェート、ピリドキサール、クロロボロヒドリド、トリニトロベンゼンスルホン酸、O−メチルイソウレア、2,4−ペンタンジオンなどのイミドエステル、およびトランスアミナーゼを触媒とするグリコキシレートとの反応を含む。
【0111】
アルギニル残基は、1つ以上の既存の試薬との反応により改変され、その中には、フェニルグリオキサール、2,3−ブタンジオン、1,2−シクロヘキサンジオン、およびニンヒドリンがある。グアニジン官能基のpKが高いため、アルギニン残基の誘導体化は、反応をアルカリ性の条件下で行うことが必要である。さらに、これらの試薬は、リジン各基のほか、アルギニンのイプシロン−アミノ基と反応することがある。
【0112】
チロシル残基の特異的改変は、芳香族ジアゾニウム化合物またはテトラニトロメタンとの反応によりチロシン残基にスペクトル標識を導入する特定の関心により行ってよい。N−アセチルイミジゾール(acetylimidizole)およびテトラニトロメタンを用いて、それぞれ、O−アセチルチロシル種および3−ニトロ誘導体を形成する。チロシル残基は、125Iまたは131Iを用いてヨード化し、ラジオイムノアッセイに用いる標識タンパク質を調製する。
【0113】
カルボキシル側基(アスパルチル基またはグルタミル基)は、RおよびR’が、1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリニル−4−エチル)カルボジイミドまたは1−エチル−3−(4−アゾニア−4,4−ジメチルペンチル)カルボジイミドなどの異なるアルキル基であるカルボジイミド(R−N(二重結合)C(二重結合)N−R’)との反応により選択的に改変する。さらに、アスパルチル残基およびグルタミル残基は、アンモニウムイオンとの反応により、アスパラギニル残基およびグルタミニル残基に転換される。
【0114】
グルタミニル残基およびアスパラギニル残基は、それぞれ、対応するグルタミル残基およびアスパルチル残基に脱アミド化されることが多い。これらの残基は、中性または塩基性の条件下で脱アミド化される。これらの残基の脱アミド化形態は、本発明の適用範囲内に属する。
【0115】
他の改変は、プロリンおよびリジンのヒドロキシル化、セリル残基またはスレオニル残基のヒドロキシル基のリン酸化、リジン側鎖、アルギニン側鎖、およびヒスチジン側鎖のα−アミノ基のメチル化(T.E.Creighton、『Proteins:Structure and Molecular Properties』、サンフランシスコ、W.H.Freeman & Co.、79〜86頁、1983年)、N末端アミンのアセチル化、および任意のC末端カルボキシル基のアミド化を含む。
【0116】
共有結合改変の別の種類は、グリコシドを特異的結合因子または抗体に化学的または酵素的に結合させることを含む。これらの手順は、N結合型またはO結合型によるグリコシル化に対して、グリコシル化の能力を有する宿主細胞内における特異的結合因子または抗体の産生を必要としないために有利である。用いる結合モードに依存して、1つ以上の糖が、(a)アルギニンおよびヒスチジン、(b)遊離カルボキシル基、(c)システインの場合などの遊離スルフヒドリル基、(d)セリン、スレオニン、もしくはヒドロキシプロリンの場合などの遊離ヒドロキシル基、(e)フェニルアラニン、チロシン、もしくはトリプトファンなどの芳香族残基、または(f)グルタミンのアミド基に付着してよい。これらの方法は、1987年9月11日公開の国際特許公開第87/05330号、ならびにAplinおよびWriston、CRC Crit.Rev.Biochem.、259〜306頁、1981年に記載されている。
【0117】
特異的結合因子または抗体に存在する任意の炭水化物部分の除去は、化学的または酵素的に達成してよい。化学的な脱グリコシル化は、特異的結合因子または抗体の化合物トリフルオロメタンスルホン酸または同等の化合物への曝露を必要とする。この処理は、特異的結合因子または抗体をインタクトなままとしながら、結合糖(N−アセチルグルコサミンまたはN−アセチルガラクトサミン)を除く大半またはすべての糖を開裂する。化学的な脱グリコシル化は、Hakimuddinら、Arch.Biochem.Biophys.、第259巻、52頁、1987年、およびEdgeら、Anal.Biochem.、第118巻、131頁、1981年が述べている。特異的結合因子または抗体における炭水化物部分の酵素的な開裂は、Thotakuraら、Meth.Enzymol.、第138巻、350頁、1987年が述べる通り、各種のエンドグリコシダーゼおよびエキソグリコシダーゼの使用により達成することができる。
【0118】
特異的結合因子または抗体に対する共有結合改変の別の種類は、各種の非タンパク質性ポリマー、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリオキシエチル化ソルビトール、ポリオキシエチル化グルコース、ポリオキシエチル化グリセロール、ポリオキシアルキレン、またはデキストランなどの多糖ポリマーの1つに特異的結合因子または抗体を結合させる工程を含む。こうした方法は、当該分野において公知であり、例えば、米国特許第4,640,835号;同第4,496,689号;同第4,301,144号;同第4,670,417号;同第4,791,192号、同第4,179,337号、同第4,766,106号、同第4,179,337号、同第4,495,285号、同第4,609,546号、または欧州特許第315456号を参照のこと。
【0119】
(治療的使用)
「処置」とは、障害の発現を予防するまたは障害の病理を変化させる意図により行う介入である。したがって、「処置」とは、治療的処置および予防的(prophylactic or preventative)措置の両方を指す。処置を要する被験体は、既に障害を伴う被験体のほか、障害を予防すべき被験体をも含む。
【0120】
処置を目的とする「哺乳類」とは、ヒト、家畜(domestic and farm)動物、動物園用動物、競技用動物、またはペット用動物(例えば、イヌ、ウマ、ネコ、ウシなど)を含み、哺乳類と分類される任意の動物を指す。
【0121】
本明細書で用いる表現「治療有効量」とは、肥満細胞または前駆細胞の数および/または活性の低下、線維性要素またはその前駆体の低減を提供するか、あるいはc−Kit関連の疾患と関連する症状の重症度または進行の低減を提供する(すなわち、「治療的有効性」を提供する)一定量の治療的または予防的ヒト化c−Kit抗体を指すことを意図する。肥満細胞および前駆細胞である造血多能性幹細胞が、c−Kitを発現する主要な細胞株であるため、肥満細胞などのHSC由来の細胞で疾患に関与する細胞を、本発明の組成物および方法により処置しうることを意図する。
【0122】
「線維化低減活性」という表現は、免疫系の活性化および線維症から生じる炎症を全面的または部分的に抑制し、逆転する能力を指すことを意図する。
【0123】
本明細書で用いる「線維性疾患または線維性障害」という用語は、1つ以上の組織における線維症を伴う状態を指す。本明細書で用いる「線維症」という用語は、器官または組織の正常な構成物または治癒として線維性組織の形成とは対照的に、反応性過程として、器官または組織における過剰な線維性結合組織の異常な形成または発達を指す。線維症は、任意の特定の組織における正常な沈着を超えた、線維芽細胞の蓄積およびコラーゲンの沈着を特徴とする。本明細書で用いる用語「線維症」は、「間葉細胞−線維芽細胞間の形質転換、過剰な線維芽細胞増殖、コラーゲンおよび他の細胞外マトリックスタンパク質の活性および沈着を伴う異常な治癒」と同義的に用いる。
【0124】
線維芽細胞は、体内全体の結合組織に分散する結合組織細胞である。線維芽細胞は、I型および/またはIII型コラーゲンを含む非剛性の細胞外マトリックスを分泌する。組織への外傷に応答して、近傍の線維芽細胞または間葉前駆細胞が循環を経て創傷に移動し、肥満細胞などの他の細胞およびそれらのメディエータの影響下において次々に活性化し、増殖し、大量のコラーゲン性細胞外マトリックスを産生しうる。コラーゲンは、細胞外マトリックスおよび結合組織、軟骨、ならびに骨の主要な成分であるグリジンおよびプロリンに富む線維性のタンパク質である。コラーゲン分子は、α鎖と呼ばれる3本鎖ヘリックス構造であり、ロープ様のヘリックス形状で互いに巻きついている。コラーゲンは、いくつかの形態または種類において存在する。このうち、もっともよくみられるI型は、皮膚、腱、および骨中に見出され、III型は、皮膚、血管、および内部器官中に見出される。
【0125】
肥満細胞に関連する線維性疾患は、病理的線維化または瘢痕(心内硬化症を含む)、特発性間質性線維症、間質性肺線維症、筋肉周囲の線維化、シンマーズ線維症、中心静脈周囲の線維化、肝炎、皮膚線維腫、胆汁性肝硬変、アルコール性肝硬変、急性肺線維症、特発性肺線維症、急性呼吸逼迫症候群、腎線維症/糸球体腎炎、腎線維症/糖尿病性腎症、強皮症/全身性、強皮症/限局性、ケロイド、肥厚性瘢痕、高度の関節癒着/関節炎、骨髄線維症、角膜瘢痕、嚢胞性線維症、筋ジストロフィー(デュシェンヌ型)、心線維症、筋線維症/網膜剥離、食道狭窄症、およびペイロニー病(payronles disease)を含む。瘢痕修正/整形手術、緑内障、白内障性線維症、角膜瘢痕、関節癒着、移植片対宿主病、腱手術、神経絞扼、デュピュイトラン拘縮、OB/GYNでの癒着/線維症、骨盤内癒着、硬膜外線維症、再狭窄症を含むさらなる線維性障害が、手術により誘発または開始されることがある。フィブロネクチンの沈着が原因因子である線維性状態を本発明により処置できることも意図する。特発性肺線維症、ブレオマイシン肺、嚢胞性線維症、および、腎におけるFn沈着を特徴とし、最終的には腎不全をもたらす疾患を含む糸球体腎症も、本発明に従って処置しうる状態の例である。免疫系の活性化を伴い、肥満細胞がTNFなどの炎症性サイトカインを分泌し、リンパ球を活性化しこれと直接に相互作用しうる炎症も、本発明に従って処置することができる。
【0126】
強皮症は、皮膚および他の器官における線維芽細胞による新規コラーゲンの過剰産生がもたらす、皮膚の肥厚および硬化を特徴とする、線維性障害をもたらす結合組織の自己免疫疾患であると考えられる。強皮症は、多数の器官に関与する限局性または全身性疾患として生じうる。強皮症は、全身性硬化症とも呼ばれる。強皮症病理の発現は、罹患した疾患組織/器官における肥満細胞数の増加と関連する。
【0127】
全身性硬化症は、ヒアリン化し肥厚したコラーゲン性の線維性組織の形成を特徴とし、特に、手および顔面の皮膚の肥厚および深部組織への癒着を伴う。該疾患は、食道の蠕動の喪失および同粘膜下の線維症による嚥下困難、肺線維症による呼吸困難、心筋線維症、および腎血管病変をも特徴とする(『Stedman’s Medical Dictionary』第26版、Williams & Wilkins社、1995年)。強皮症患者の30〜70%が肺線維症に罹患し、拘束性肺疾患を生じることが多い(Atamasら、Cytokine and Growth Factor Rev、第14巻、537〜550頁、2003年)。患者の一部は、強皮症と、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、および多発性筋炎などの他の結合組織疾患とを併発する。強皮症の症状が、多発性筋炎および全身性エリテマトーデスの症状と併存する場合、該状態を混合性結合組織病(MCTD)と呼ぶ。
【0128】
皮膚炎の一部の形態において存在する症状は、とりわけ、ヒスタミン放出をもたらす皮膚肥満細胞の脱顆粒により生じることが知られる。こうして、本発明による処置に適する、肥満細胞に関連する別の障害は、色素性蕁麻疹である。この障害は、擦ると蕁麻疹を生じ、多数の肥満細胞を含む、単一もしくは複数の色素斑または結節である特徴的な皮膚病変を示す。紅斑、浮腫、丘疹、および掻痒などの関連する皮膚炎(皮膚の炎症)の異なる形態が、ヒトおよび動物の皮膚炎において存在することがあり、これらのすべてが、本発明により処置可能である。
【0129】
肥満細胞症は、多くの場合、腫瘍性疾患であり、新規のまたは異常な肥満細胞増殖を伴い、SCF自己分泌シグナル伝達の促進またはc−Kit突然変異の活性化をもたらすことがある。肥満細胞症は、限局性でも全身性でもありえ、骨髄など複数の器官に関与する。肥満細胞は、特定の事象に応答して、その1つがヒスタミンである特定のメディエータまたは化学物質を体内に放出する。全身性肥満細胞症に罹患する患者は、肥満細胞数の増加を発現するか、または適正に機能しない異常な形態の肥満細胞を発現する。さらに、該肥満細胞は、死滅すべき時に死滅せず、総肥満細胞負荷をさらに増大させる。肥満細胞が脱顆粒しその内容物を放出するとき、多くの急性の状態または疾患および重篤となる可能性のある状態または疾患を生じうる。肥満細胞障害は、孤立性皮膚肥満細胞腫などの限局性疾患から肥満細胞性白血病といったより重度の疾患までをもたらす増殖性障害をも含む。例は、皮膚肥満細胞腫、侵襲性肥満細胞症、無痛性肥満細胞症、関連の血液障害を伴う肥満細胞症、色素性蕁麻疹、恒存発疹性斑状血管拡張症(tmep)、全身性肥満細胞疾患、肥満細胞性白血病、骨髄性白血病、全身性肥満細胞症(色素性蕁麻疹などの皮膚症状を伴うかまたは伴わない)、肥満細胞活性化症候群/障害、ならびに孤立性肥満細胞腫およびびまん性皮膚肥満細胞症など、より高頻度の小児性肥満細胞障害を含む。
【0130】
肥満細胞活性化症候群または同障害は、正常または正常に近い数の肥満細胞を特徴とする。しかし、該肥満細胞は、その内容物の放出を容易に誘発し、これが同一の症状を頻繁にもたらす。この障害には、アナフィラキシーおよびショックの危険が存在するが、肥満細胞の増殖性障害と異なり、本症候群は、より侵襲性または悪性の段階へと進行する可能性を有することはない。肥満細胞の脱顆粒を伴う該障害の例は、腹痛、蕁麻疹および発疹、アナフィラキシー、食道の炎症、血圧変化およびショック、腸の痙攣および膨張、骨痛(軽度から高度/消耗性)、発疹を伴うおよび伴わない掻痒、胸痛、肝臓、脾臓、および他の器官の関与、認知困難/もやもや感、吸収不良、変性椎間板疾患、片頭痛、下痢、筋痛、浮動性めまい/回転性めまい/頭部ふらふら感、悪心、浮動性めまい感、骨粗鬆症/骨減少症、疲労、末梢神経障害および知覚異常、潮紅、心拍亢進、胃食道逆流、ならびに嘔吐を含みうる。
【0131】
アレルギー性疾患における肥満細胞の役割は、ヒスタミンなどの肥満細胞特異的メディエータを遮断する薬剤と、その活性において肥満細胞のアポトーシスを引き起こすコルチコステロイドとにより、臨床的に検証されている。さらなる肥満細胞関連疾患は、ケモカインが誘導する肥満細胞および好塩基球の脱顆粒ならびにヒスタミン放出を阻害することにより処置することができる、ヒスタミンを介するアレルギー反応を含む。本発明の方法および組成物により効果的に処置しうる肥満細胞関連の障害または疾患の例は、接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、アレルギー性皮膚炎、湿疹状皮膚炎、および昆虫の咬傷または刺傷により生じる皮膚炎をも含むが、これに限定されない。
【0132】
本発明の方法および組成物による処置に適する他の肥満細胞関連の適応症は、間質性肺疾患における肺の炎症性状態、例えば、サルコイドーシス、新生児呼吸促迫症候群(RDS)、気管支肺異形成症(BPD)、および、成人RDS(ARDS)などの血清PLA2活性の亢進を特徴とする状態を含む。
【0133】
肥満細胞は、関節炎においても役割を示すことが公表されている。肥満細胞は、RA患者およびOA患者の炎症性滑膜組織において増大し、Gleevecが、滑膜外植片において肥満細胞のアポトーシスを生じることが示されており、ヒトの症例研究が、RA患者における有効性を示す。肥満細胞は、敗血症性ショック、膵臓炎、膠原血管病、急性腎不全、腹膜炎、および自己免疫性ブドウ膜炎において役割を有する。
【0134】
研究は、肥満細胞が、多発性硬化症の病態生理に関与することをも示唆する。脳内の肥満細胞は、脱髄を生じうる血管作用性アミンを放出すると考えられる。肥満細胞から放出されるヒスタミンは、血管の安全性を変化させ、多発性硬化症の病因に関与する血液脳関門の部分的な機能停止を生じることがある。こうして、本発明の方法および組成物は、多発性硬化症に関連する病的状態の処置または改善に適することを意図する。
【0135】
c−Kitは、メラニン細胞および腸細胞のほか精母細胞など特定の非免疫細胞においても発現する。本発明は、黒色腫およびGISTの処置において有用でありえ、男性の避妊剤として有用でありうる。
【0136】
(薬学的処方物の投与および調製)
本発明の方法の実施において用いる抗c−Kit特異的結合因子または抗c−Kit抗体は、所望の送達法に適する担体を含む薬学的組成物へと処方してよい。適切な担体は、抗c−Kit特異的結合因子およびニュートラルアンタゴニスト剤または抗体と併用するとき、c−Kitにおける高親和性結合および効力を保持し、被験体の免疫系と非反応性である任意の物質を含む。例は、滅菌リン酸緩衝生理食塩液、静菌性水など多数の標準的な薬剤担体のいずれかを含むがこれに限定されない。各種の水性担体、例えば、水、緩衝水、0.4%生理食塩水、0.3%グリシンなどを用いてよく、安定性を高めるために、軽度の化学改変などを施したアルブミン、リポタンパク質、グロブリンなど他のタンパク質を含めてよい。
【0137】
処方物中の例示的な抗体濃度は、約0.1mg/ml〜約180mg/mlまたは約0.1mg/mL〜約50mg/mL、または約0.5mg/mL〜約25mg/mL、あるいはまた約2mg/mL〜約10mg/mLの範囲でよい。抗体の水性処方物は、例えば、pHが約4.5〜約6.5、または約4.8〜約5.5、あるいはまた約5.0の範囲にあるpH緩衝液中で調製してよい。この範囲内のpHに適した緩衝液の例は、アセテート(例えば、酢酸ナトリウム)、サクシネート(コハク酸ナトリウムなど)、グルコネート、ヒスチジン、シトレートおよび他の有機酸緩衝液を含む。緩衝液濃度は、例えば、緩衝液および処方物の所望の等張性に依存して、約1mM〜約200mM、または約10mM〜約60mMでありうる。
【0138】
抗体を安定化させうる等張化剤を処方物中に含めてよい。例示的な等張化剤は、マンニトール、スクロース、またはトレハロースなどのポリオールを含む。高張性液または低張性液が適することもあるが、水性処方物は、等張性であることが好ましい。処方物中のポリオールの例示的な濃度は、約1%〜約15% w/vの範囲でよい。
【0139】
抗体処方物に界面活性剤を添加して、調合した抗体の凝集を低減し、および/または処方物中の微粒子の形成を最小化し、および/または吸着を低減することもできる。例示的な界面活性剤は、ポリソルベート(例えば、ポリソルベート20、またはポリソルベート80)またはポロキサマー(例えば、ポロキサマー188)などの非イオン性界面活性剤を含む。界面活性剤の例示的な濃度は、約0.001%〜約0.5%、または約0.005%〜約0.2%、あるいはまた約0.004%〜約0.01% w/vの範囲でよい。
【0140】
一実施形態において、処方物は、上記に同定した作用物質(すなわち、抗体、緩衝液、ポリオール、および界面活性剤)を含み、ベンジルアルコール、フェノール、m−クレゾール、クロロブタノール、および塩化ベンゼソニウムなど1つ以上の防腐剤を基本的に含まない。別の実施形態では、例えば、約0.1%〜約2%、あるいはまた約0.5%〜約1%の範囲の濃度で処方物中に防腐剤を含めてよい。処方物の所望の特性に有害な影響を及ぼさないのであれば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第16版、Osol,A.編、1980年に所載のものなど、薬剤として許容される1つ以上の他の担体、賦形剤、または安定剤を処方物中に含めてよい。許容される担体、賦形剤、または安定剤は、用いる用量および濃度においてレシピエントに対して無毒性であり、追加の緩衝剤;共溶媒;アスコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化剤;EDTAなどのキレート剤;金属錯体(例えば、亜鉛タンパク質複合体);ポリエステルなどの生体分解性ポリマー;および/またはナトリウムなどの塩形成性対イオンを含む。
【0141】
抗体の治療用処方物は、所望の純度を有する抗体を任意の生理的に許容される担体、賦形剤、または安定剤(Remington’s Pharmaceutical Sciences、第16版、Osol,A.編、1980年)と混合することにより、凍結乾燥性剤または水溶液の形で保存用に調製する。許容される担体、賦形剤、または安定剤は、用いる用量および濃度においてレシピエントに対して無毒性であり、リン酸、クエン酸、および他の有機酸などの緩衝液;アスコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化剤;防腐剤(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノールアルコール、ブチルアルコール、またはベンジルアルコール;メチルパラベンまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルチノール;シクロヘキサノール;3−ペンタノール;およびm−クレゾールなど);低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリジンなどのアミノ酸;単糖、二糖、および、グルコース、マンノース、マルトース、またはデキストリンを含む他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース、またはソルビトールなどの糖;ナトリウムなどの塩形成性対イオン;金属錯体(例えば、亜鉛タンパク質複合体);および/またはTWEEN(登録商標)、PLURONICS(登録商標)、もしくはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤を含む。
【0142】
一実施形態において、特許請求の発明の適切な処方物は、等張化し安定化するポリオール、ソルビトール、スクロース、または塩化ナトリウムなどの等張化剤と併用した、リン酸、酢酸、またはTRIS緩衝液などの等張性緩衝液を含む。こうした等張化剤の一例は、5%のソルビトールまたはスクロースである。さらに、該処方物は、凝集を防止するため、および安定化などのため、重量/体積で0.01%〜0.02%の界面活性剤を場合によって含みうるであろう。処方物のpHは、4.5〜6.5、または4.5〜5.5の範囲でよい。抗体のための薬学的処方物の他の例示的な記載は、米国特許出願第2003/0113316号および米国特許第6,171,586号に見出すことができ、各々はその全体が参考として本明細書に援用される。
【0143】
本明細書の処方物は、処置する特定の適応症の必要に応じ、複数の活性化合物、好ましくは、相互に有害な作用を及ぼし合わない相補的活性を有する活性化合物をも含んでよい。例えば、免疫抑制剤をさらに提供することが望ましいことがある。該分子は、意図する目的に有効な量の組み合わせにおいて存在することが適当である。
【0144】
有効成分は、例えば、液滴形成法または界面重合法により調製したマイクロカプセル、例えば、コロイド薬剤送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、およびナノカプセル)またはマクロエマルジョン中の、それぞれ、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチンマイクロカプセルおよびポリ−(メチルメタクリレート)マイクロカプセル中に取り込んでもよい。こうした技法は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第16版、Osol,A.編、1980年中に開示されている。
【0145】
抗体の懸濁液および結晶形態も企図される。懸濁液および結晶形態を作製する方法は、当該分野で公知である。
【0146】
インビボでの投与に用いる処方物は、無菌性でなければならない。本発明の組成物は、既存のよく知られた滅菌法により滅菌してよい。例えば、滅菌は、滅菌濾過膜を介する濾過により容易に達成される。結果として得られる溶液は、使用用に包装してもよく、無菌条件下で濾過して凍結乾燥し、凍結乾燥した調製物を投与前に滅菌溶液と併用してもよい。
【0147】
凍結乾燥の工程は、特に、ポリペプチドが液体組成物中では相対的に不安定である場合、長期保存用にポリペプチドを安定化させるために用いることが多い。凍結乾燥化のサイクルは、凍結、一次乾燥、および二次乾燥の3段階からなることが通例である(WilliamsおよびPolli、Journal of Parenteral Science and Technology、第38巻、第2号、48〜59頁、1984年)。凍結段階では、溶液が十分に凍結するまで冷却する。この段階では、溶液中のバルク水が氷を形成する。氷は、一次乾燥段階で昇華するが、これは、真空を用いて、チャンバー圧を氷の蒸気圧未満に低下させることにより実施する。最後に、チャンバー圧を低下させ、シェルフ温度を上昇させた二次乾燥段階において、吸着水または結合水を除去する。該工程は、凍結乾燥ケーキとして知られる物質を産生する。この後、使用前に該ケーキを還元することができる。
【0148】
凍結乾燥物質の標準的な還元法は、非経口投与用薬剤の生産において抗菌剤の希釈液を用いる場合もあるが、一定量の純水(凍結乾燥中に除去した量と等量であることが通例)を加え再構成ことである(Chen、Drug Development and Industrial Pharmacy、第18巻、第11および12号、1311〜1354頁、1992年)。
【0149】
賦形剤は、場合によって、凍結乾燥品用の安定剤として作用することが公知である(Carpenterら、Developments in Biological Standardization、第74巻、225〜239頁、1991年)。例えば、既知の賦形剤は、ポリオール(マンニトール、ソルビトール、およびグリセロールを含む);糖(グルコースおよびスクロースを含む);およびアミノ酸(アラニン、グリシン、およびグルタミン酸を含む)を含む。
【0150】
さらに、ポリオールおよび糖は、凍結および乾燥が誘発する損傷からポリペプチドを保護し、乾燥状態における保存中の安定性を高めるためにも用いることが多い。一般に、糖、特に二糖は、凍結乾燥工程および保存中のいずれにおいても有効である。単糖および二糖ならびにPVPなどのポリマーを含む他のクラスの分子も、凍結乾燥品の安定剤として報告されている。
【0151】
注射用の薬学的処方物および/または薬剤は、上述の通り、適切な溶液による還元に適した粉末であってよい。これらの例は、凍結乾燥粉末、回転乾燥粉末、または噴霧乾燥粉末、アモルファス粉末、顆粒、沈殿物、または微粒子を含むがこれに限定されない。注射用処方物は、場合によって、安定剤、pH改変因子、界面活性剤、バイオアベイラビリティ改変因子、およびこれらの組み合わせを含んでよい。
【0152】
徐放調製物を調製してよい。徐放調製物の適切な例は、抗体を含む固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスであって、成型品、例えば、フィルム、またはマイクロカプセルの形態であるマトリックスを含む。徐放性マトリックスの例は、ポリエステル、ハイドロゲル(例えば、ポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリレート)、またはポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号)、L−グルタミン酸とyエチル−L−グルタメートとのコポリマー、非分解性エチレン−酢酸ビニル、Lupron Depot(登録商標)(乳酸−グリコール酸コポリマーおよび酢酸ロイプロリドからなる注射用マイクロスフェア)などの分解性乳酸−グリコール酸コポリマー、およびポリ−D−(−)−3−ヒドロキシブチル酸を含む。エチレン−酢酸ビニルおよび乳酸−グリコール酸などのポリマーが100日超にわたる分子の放出を可能とするのに対し、ある種のハイドロゲルはより短期間にわたってタンパク質を放出する。カプセル化した抗体が長期にわたって体内に滞留する場合、37℃の水分に曝露される結果として変性または凝集し、生物学的活性の喪失および免疫原性の変化の可能性が生じることがある。関与する機構に応じて、安定化のための合理的ストラテジーを案出することができる。例えば、凝集機構が、チオジスルフィド交換を介する分子間のS−S結合形成であることが判明する場合は、スルフヒドリル残基を改変し、酸性溶液から凍結乾燥し、水分含量を調節し、適切な添加物を用い、特定のポリマーマトリックス組成物を開発することにより安定化を達成してよい。
【0153】
本発明の処方物は、本明細書に記載の通り、短期作用性、速放性、長期作用性、徐放性であるように設計してよい。こうして、該薬学的処方物は、制御放出用または徐放用に処方され得る。
【0154】
疾患の状態、年齢、体重、全般的な健康状態、性別、および被験体の食餌、投与間隔、投与経路、排出率、および薬剤の組み合わせに応じて、特定の用量を調整してよい。有効量を含む上記の剤形のいずれもが、所定の実験の限界内に十分とどまり、したがって、本発明の適用範囲内に十分とどまる。
【0155】
特異的結合因子または抗体は、非経口投与、皮下投与、腹腔内投与、肺内投与、および鼻腔内投与、ならびに、局所的処置を所望の場合は、病変内投与を含む任意の適切な手段により投与する。非経口注入は、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、皮内投与、または皮下投与を含む。さらに、特異的結合因子または抗体は、パルス注入、特に、特異的結合因子または抗体の漸減投与により投与することが適当である。投与は注射で行うことが好ましく、投与が短期または長期であるかに部分的に依存して、静脈内注射または皮下注射がもっとも好ましい。外用投与、特に、経皮投与、経粘膜投与、経直腸投与、経口投与、または局所投与、例えば、所望の部位の近傍に設置したカテーテルを介した投与を含む他の投与法を企図する。本発明の特異的結合因子または抗体は、毎日〜毎週〜毎月(例えば、毎日、隔日、3日おき、または週あたり2、3、4、5、もしくは6回)の範囲の頻度で0.01mg/kg〜100mg/kgの範囲の投与量において、好ましくは、週あたり2または3回の頻度で0.1mg/kg〜45mg/kg、0.1mg/kg〜15mg/kg、または0.1mg/kg〜10mg/kgの範囲の投与量においてあるいは月に1回45mg/kgまでで生理溶液により静脈内投与することがもっとも好ましい。
【0156】
(他の作用物質との併用投与)
本発明の抗体は、他の抗炎症治療剤との併用で投与してもよい。併用投与は、作用物質がその治療効果を及ぼす期間に一定の重複が存在する限りにおいて、異なる時点および異なる経路における2つの異なる治療剤の投与を含む。当該分野で公知である例示的な抗c−Kit剤は、イマチニブメシレート(GleevecTM)を含む。イマチニブメシレートは、Ablチロシンキナーゼ由来のシグナル伝達にも拮抗するので、特異的なc−Kitインヒビターではないことに注意すべきである。
【実施例】
【0157】
(SR−1のヒト化)
SR−1は、所望の機能活性であることはいまだ示されていないが、意外にも、親和性を維持するのに必要な復帰突然変異なしに、直鎖状のCDRグラフトによりヒト化された。もっとも規範的な残基を保持し、付加的なプロリン残基を導入しなかったヒトフレームワークを、アクセプター配列として選んだ。これらの基準に基づく重鎖のアクセプター配列は、フレームワークIおよびIIに対応するVH1 1−46、フレームワークIIIに対応するVH1 1−eであり、JH4をもっとも近接するJ領域(フレームワークIVとしても知られる)とした。軽鎖のアクセプター配列は、VK4 B3生殖細胞系列の配列であり、JK2をもっとも近接するJ領域とした。
【0158】
アイソタイプの切り替えを行い、ヒト化抗体のヒトIgG2形態、IgG1形態、IgG4P形態、および非グリコシル化IgG1形態を産生した。配列位置297(Kabatによる付番)における単一残基の、アスパラギン酸からグルタミン酸への突然変異により、ヒトIgG1の定常領域配列からN結合型グリコシル化コンセンサス部位を除去した。
【0159】
非グリコシル化IgG1形態におけるヒト化SR−1(hSR−1 aIgG1)は、可溶性c−Kitと比べてより高い親和性を有する所望の方式で膜c−Kitに結合し、高度に強力なSCFのニュートラルアンタゴニストであり、c−Kitシグナル伝達の近位側および遠位側のリードアウトを用いて試験された、細胞に基づくすべてのアッセイにおいて、c−Kitのアゴニズムを直接には媒介しない。非グリコシル化IgG1のアイソタイプを選択し、バイスタンダー効果によるエフェクター機能および細胞死滅を回避した。この抗体は、サルにおいて、予測外でかつ所望の半減期、非線形性のPK、および飽和標的媒介抗体の除去を示した。該抗体は、予想通りに、インビボにおいて肥満細胞を枯渇させた。
【0160】
(c−Kitダイマーへの結合)
幹細胞因子(SCF)による結合と同時にc−Kitが活性化すると、もっとも高い可能性でクラスリン依存性経路を介して、ダイマー化/オリゴマー化、自己リン酸化、およびレセプター内在化が生じる。SR−1モノクローナル抗体は、Biacoreによる定量の通り、可溶性c−Kitの細胞外ドメインモノマーと比べて1000倍高い親和性でc−Kitダイマーに結合する。速度論的モデル化は、SR−1が、放出された可溶性レセプターのモノマーがng/mL単位で存在する場合でさえ、天然の膜結合型レセプターに選択的に結合することを示唆する。
【0161】
糖タンパク質上に存在する炭水化物は、生物学的特性および機能的特性に影響を及ぼしうる。SR−1の非グリコシル化IgG1形態へのヒト化は、結合パラメータが保存されることを示した。ヒト化SR−1 aIgG1は、組換えc−KitレセプターFcに1.0pMのKinExA平衡結合Kdで結合し、Biacoreアッセイを用いたところ、hSR−1 aIgG1は、幹細胞因子(SCF)結合をKi=70pMで遮断した。hSR−1 aIgG1は、レセプターのモノマーと比べ、レセプターのダイマーにより高い親和性で結合する。これは、ヒト化により確実に翻訳されるとは予測されない重要な特性であり、しかも、可溶性c−Kitモノマーがインビボにおいて該抗体に対するシンクとして作用する可能性が低いために重要な特性である。
【0162】
(c−Kit依存性の細胞生存およびレセプターシグナル伝達の阻害)
ヒト巨核芽球細胞株UT−7は生存でSCFに依存し、SCFの除去またはその阻害が急速な生存能力の喪失および増殖の低下をもたらす。このアッセイは、SCFアンタゴニストのIC50効力の定量に適する。hSR−1 aIgG1は、35pMの平均IC50を示した。
【0163】
hSR−1 aIgG1が、MO7e細胞におけるSCFを介するc−Kitのリン酸化および内在化を強力に阻害したことは、該抗体が、SCFを介するc−Kitシグナル伝達事象を遮断しうることを示す。SR−1が本来c−Kitの内在化およびリン酸化を媒介する能力を有するという知見に反して、意外にも、MO7e c−Kitレセプターの近位側リン酸化のリードアウトにおいて、hSR−1 aIgG1に関するアゴニズムの証拠は検出されなかった。注目すべきことは、該IgG2抗体であるhSR−1 IgG2は効力がわずかに低く、SCFを介するc−Kitレセプターの内在化を完全には阻害しなかった。
【0164】
hSR−1 aIgG1は、単離した初代ヒトCD34+骨髄細胞、初代ヒトCD117+(c−Kit)骨髄細胞を用いる、GM−CSF由来のコロニー形成に対するSCFの相乗効果の中和を、1.0ug/mLにおいて示す。これは、hSR−1 aIgG1が、c−Kitの内在化またはリン酸化を媒介せず、このアッセイでは、hSR−1 aIgG1固有の生存アゴニスト活性が、該抗体の最高10ug/mLの濃度までは観察されなかったという出願人らの新たな知見と符合する。実際、該抗体は、生存をベースライン未満に阻害することができた。
【0165】
(肥満細胞凝集、CDC活性、およびFcR活性の欠如)
骨髄CD34+細胞由来の培養ヒト肥満細胞を用いて、化合物の見かけの効力および序列を評価した。hSR−1 aIgG1は、SCF依存性の肥満細胞生存を阻害し、肥満細胞への生存シグナルを与えず、c−Kitレセプターのリン酸化を媒介せず(図3)、同型の肥満細胞凝集の媒介能力を示さなかった。しかし、hSR−1 IgG2は、SCFによる肥満細胞生存を遮断することはできたが、それ自体が生存シグナルを与え、c−Kitレセプターのリン酸化を媒介する部分アゴニスト活性を示し、肥満細胞のクラスター化に対する再現効果をもたらした。非ヒト霊長類において、hSR−1 aIgG1を4週間にわたり週1回、最高30mg/kg、または2週間にわたり週1回、皮下で最高150mg/kgをインビボで投与したところ、この抗体に予測外の異常は観察されなかった。
【0166】
hSR−1 aIgG1は、FcγレセプターI=CD64、FcγレセプターII=CD32、およびFcγレセプターIII=CD16を発現するU−937細胞に結合する、検出可能な非特異的FcRを示さない。対照的に、高親和性FcγRIに対するSR−1 IgG1アイソタイプおよび同IgG4Pアイソタイプの結合は、検出されたと推測される。したがって、hSR−1 aIgG1にはADCC活性が予測されず、最新の実験データは、補体依存性の細胞傷害性による細胞死を示さない。非グリコシル化キメラマウス/ヒトIgG1抗体は、一定のエフェクター機能を保持することが報告されており(Hybridoma、1991年4月、第10巻、第2号、211〜217頁)、そのため、hSR−1 aIgG1のこれらの所望の活性は期待されない。データは、標準的な手法を適用したなら、したがって典型的なIgG2アイソタイプまたはIgG1アイソタイプまたはIgG4アイソタイプを選択したなら、c−Kitにおける高親和性の結合体、機能的なニュートラルアンタゴニストであり、肥満細胞を活性化しない、適切な特性を有する分子を産生しなかったであろうことを示す。
【0167】
(薬物動態)
予備的なPK試験を実施して、3mg/kgでの単回の静脈内投与または皮下投与後の雄カニクイザルにおけるhSR−1 IgG2とhSR−1 aIgG1とのPKを比較した。時間プロフィールは、いずれについても非線形性のPKを示す。低濃度では、濃度がより急速に低下した。2つの抗体は、カニクイザルにおける単回の静脈内投与または皮下投与後のC/CmaxおよびAUC0−tlastで測定した通り、同様の曝露を示した。AUC0−tlastによれば、血清クリアランスは、いずれのヒト化抗体についても約≦0.3mL/時間/kgであった。バイオアベイラビリティは、皮下投与後におけるhSR−1 aIgG1およびhSR−1 IgG2のヒト化SR−1バージョンについて、それぞれ、約82%および69%であった。
【0168】
アフリカミドリザルにおける週1回の反復投与後のSR−1およびヒト化抗体の予備的な曝露データによれば、ヒト化抗体の方が、SR−1と比べてより高度の曝露を達成した。注目すべきは、hSR−1 aIgG1が、群PKにおいても同様に最良の結果を示したことであり、分子のグリコシル化の程度が、その薬物動態特性を変化させることがあり、抗体の場合、その代謝および他の生物学的特性を変化させることがあることが、既に示されている(Cancer Immunol Immunother、1992年、第35巻、第3号、165〜174頁)。
【0169】
(表1.雄カニクイザルに対するhSR−1 IgG2またはhSR−1 aIgG1の単回静脈内投与または単回皮下投与後の薬物動態パラメータ推定値)
【0170】
【表1】

=静脈内投与後における推定初期濃度
max=皮下投与後における最大濃度
max=Cmaxの時点
AUC0−tlast=時点0から定量可能な濃度を有する最終時点までの濃度−時間曲線下面積
CL=静脈内投与後におけるクリアランス;CL/F=皮下投与後における見かけのクリアランス
F%=バイオアベイラビリティ%
AUC0−tlastに基づき計算したクリアランス
−該当なし
、Cmax、AUC0−{last}、CL、CL/F、およびF%は、3つの重要な図に報告される。
【0171】
(ヒト用量の推定)
肥満細胞増大の創傷PDモデルにおける最小有効用量は、サルにおける2週間にわたり週1回投与する<0.3mg/kgである。体表面積に基づく用量変換によれば、ヒトにおける最小有効用量は、同等の投与法で<0.1mg/kgとなると推定される。ただし、現時点では、hSR−1 aIgG1によるヒトにおけるc−Kit阻害の程度と持続との間のPKおよび薬力学的な関係、ならびに臨床的評価項目が未知であるため、これは、予備的な推定である。より正確な推定は、より多くの薬物動態および薬力学データが入手されるときになされるであろう。
【0172】
(インビトロにおける効力:サルにおけるSR−1およびhSR−1 aIgG1による肺および結腸の基底肥満細胞の枯渇)
ヒトにおいて、トリプターゼを発現し、キマーゼを欠く肥満細胞MCtは、おもに肺および結腸などの粘膜組織に局在し、このサブタイプが皮膚およびより高いレベルで一部の強皮症患者の皮膚において検出されていることは、この状態における肥満細胞の活性化の別の可能性を示唆する。トリプターゼおよびキマーゼの両方を発現する肥満細胞MCtcも、これら組織の一部に同時に局在化し、強皮症および他の線維性状態に同様に関連している。したがって、いずれのサブタイプも、粘膜組織および結合組織に関わる疾患(例えば、IPF、SSc、喘息、RA、およびIBD)におけるc−Kitインヒビターの主要標的となるであろう。肥満細胞は、一般に、長命であり組織常駐型であるため、治療剤は、高度に強力、有効であり、良好な分布容積およびPKを有することも必要となるであろう。さらに、肥満細胞は、活性化して脱顆粒し、新規にメディエータを合成し、次いで、これらが炎症反応において重要な役割を果たすまで、大部分は休眠中である。
【0173】
インビボ試験の目的は、肺および結腸に存在するなど粘膜組織および結合組織の基底肥満細胞の枯渇を示し、c−Kitの持続的で高度な阻害に続く、造血に対する効果および前駆細胞に対する効果のほか、赤血球形成、メラニン形成、および精子形成に対する影響(したがって、雄の避妊における有用性)を判定することであった。CD34+骨髄細胞CFUアッセイ(1.0ug/mLにおける阻害)におけるヒトおよびサルのc−Kitでの同等の機能的効力、およびそのサルにおけるPKに基づき、SR−1モノクローナル抗体を選択した。
【0174】
SR−1は、4週間にわたり週1回、3mg/kg〜30mg/kgの範囲の用量で投与した。時系列試験では、結腸基底肥満細胞が、第14日までに、2回の投与後に最大限の枯渇を示し(Ctroughは細胞IC50の>800倍)たので、c−Kitアンタゴニストの結腸基底肥満細胞に対する薬理学的活性を定量する時点として、第14日を選択した。実際的な理由で、肺基底肥満細胞は、剖検および試験の終了時点である第28日に評価した。
【0175】
週1回投与するSR−1の3.0mg/kg投与時において、肺基底肥満細胞の枯渇が、UT−7細胞IC50の>200倍のCtroughPKレベルにおいて観察された。より低用量のSR−1の結腸および肺の基底肥満細胞、メラニン形成、および精子形成に対する効果は、評価しなかった。
【0176】
しかし、0.3、1.0、および3.0mg/kgにおいて、hSR−1 aIgG1による低用量試験を実施した。第14日のCtroughレベルは、該細胞IC50の>200、>2000、および>8000倍であり、これらのCtroughレベルは、無効、結腸基底肥満細胞のほぼ半数の枯渇(69%)、およびほぼ完全な枯渇(96%)に対応した(表1にまとめる)。hSR−1 aIgG1に関する曝露、細胞効力、および効果関係は、SR−1について報告される結果と呼応する。
【0177】
(サルにおける肥満細胞増大の創傷薬力学モデルにおけるSR−1およびhSR−1 aIgG1のインビボでの有効性)
皮膚への損傷には活発な炎症反応が続き、ここでは、まず好中球が、次いでマクロファージおよび肥満細胞が、近傍の組織から、また、組織の循環、肉芽形成、および再上皮化、ならびに線維芽細胞に関連する創傷基底結合組織の収縮に由来して移動する(Diegelmann RFら、Front.Biosci.、2004年1月1日、第9巻、283〜289頁)。皮膚創傷は、関与する細胞型の多くがこの疾患と関連するため、線維症において重要となりうる機構を研究するモデルである。さらに、皮膚創傷は、ヒトにおいて、線維芽細胞由来SCFにおける肥満細胞の増加および活性化および密度の上昇と関連することが報告されている(Trautmann Aら、J.Pathol.、2000年1月、第190巻、第1号、100〜106頁)。サルにおける皮膚創傷の後、肥満細胞数は時間依存的に増大し、ヒトにおける範例と同等の、創傷後第14日に到達するプラトーを示す。
【0178】
週1回投与する0.3、1、または3mg/kgのSR−1投与は、第14日に、創傷活性化による肥満細胞の増大に対してほぼ最大限の阻害を生じた(図1)。最大限の阻害とは、創傷後第14日までに、ベースライン時の数に対する肥満細胞の増大を100%遮断する能力であると定義する。0.3mpk投与に対するCtroughレベルは、第14日におけるUT−7 IC50の>7倍であった(表2)。3週間以内に、血清レベルがUT−7 IC50の約2倍となり、この曝露において部分的な阻害が観察された(図1)。3週間経過時に、1mg/kgコホートおよび3mg/kgコホートの両方で依然最大限の有効性が観察され、ここでの血清Ctroughレベルは、該IC50の>200倍を維持した。これらの試験は、IC50濃度の>7倍の持続的なCtrough曝露が、創傷により増大する肥満細胞の最大限の阻害に必要である可能性が高い。
【0179】
0.3、1.0、および3.0mg/kgのhSR−1 aIgG1投与を、本モデルのSR−1について示した最大限の有効性に基づき評価した。試験対象の最低用量(0.3mg/kg)において、創傷が誘発する肥満細胞の増大に対する最大限の阻害は、2週間以内に観察された。この時点における血清Ctroughレベルは、UT−7 IC50の>200倍であった(表2)。
【0180】
表2は、創傷PDモデルにおけるSR−1およびhSR−1 aIgG1のPD/PK効果をまとめる。
【0181】
【表2】

パンチ生検後第21日まで、ヒト(左)または非ヒト霊長類(右)において切開創傷を作製した(図2)。肥満細胞および/またはSCFを発現する線維芽細胞を、それぞれ、発色染色法またはIHCにより明らかにした。ヒトにおいて、SCFの発現は上昇の後ベースラインに戻り、その後一時的に、正常な創傷治癒の間に肥満細胞数の一過性の増大が生じる。創傷に対する同様の肥満細胞反応が、サルにおいて観察される。線維症および異常な創傷治癒の間、SCF発現および肥満細胞数は、上昇を維持する(図2)。
【0182】
(造血とメラニン形成)
マウスの遺伝子解析は、c−Kitが胚発生中の造血において役割を果たすことを示すが、ヒトにおいては、限局性皮膚白皮症の被験体における不活性化型および/または機能喪失型のヘテロ接合c−Kit突然変異が、血液学的異常と結びついていない。造血幹細胞の可動化にはSCFがG−CSFとともに用いられるので、SCFおよびc−Kitは、ヒトの造血において重要である。さらに、おもにBCR−ABL、PDGFR、およびc−Kitを標的とする多重キナーゼインヒビターであるGleevecは、その主要な薬理学的効果として骨髄抑制を有し、GIST患者において、グレード3〜4の重度の貧血症および血小板減少症が報告されている(Hensley MLら、Semin.Hematol.、2003年4月、第40巻、第2号補遺2、21〜25頁)。
【0183】
マウスの遺伝子解析は、c−Kitが、胚形成中における神経堤からのメラニン芽細胞の移動において役割を果たすことを示し、この役割が、ヒト限局性皮膚白皮症において裏付けられる。Gleevecは、少数のGIST患者の毛髪に「帯状の」脱色素を生じることが報告されているが、これは恒常的な結果ではなく、色素過剰も報告されている。PDGFなどの他のキナーゼの寄与を除外することはできない。多重キナーゼインヒビターおよびc−Kit抗体を投与したマウスを対象とする試験が、体毛の色素沈着の阻害は完全に可逆的であると示すことから、c−Kitの阻害はメラニン細胞機能に影響するが、出生後状況における生存には影響しないことが示唆される(Mossら、2003年)。
【0184】
4週間にわたり週1回投与する3〜30mg/kgの用量決定試験でSR−1を用い、造血、精子形成、および活発なメラニン形成を阻害するのに必要な曝露量を決定した。ベースライン時、試験開始後第4、第7、第14、第21、および第28日に採取した血液試料に対して、細胞の分化形態を含む全血液パネル検査を実施した。新規に単離した血液試料の分析は、バルバドスのクイーンエリザベス病院臨床血液検査室において実施した。
【0185】
対照動物およびベースライン時の値と比べて、分析した任意の血液学的パラメータに対するSR−1の顕著な影響は検出されなかったが、投与開始4週間後の薬剤治療動物において、RBCの顕著でない減少が見られた。調べた最高用量である、4週間にわたり週1回の30mg/kgにおいて、UT−7 IC50効力の>70,000倍の曝露レベルを達成した。血液学的パラメータに対して顕著な影響がみられないことは、アフリカミドリザルNHP種における骨髄組織病理学分析が、薬剤治療コホートと対照コホートとの間の差を示さず、CD117陽性造血幹細胞の枯渇を示さないことから、造血の潜在的な冗長経路を示唆することにより確認された。黒色腫における有用性が存在しうるため、4週間にわたり週1回投与する3〜30mpkのメラニン形成に対する効果も検討した。疾患状態をより良好に反映しうる活性化メラニン細胞に対する効果を評価するために、脱毛してメラニン形成を活性化させた。いずれのコホートにおいても、外被の正常な毛色が目に見える形で影響されることはなかった。しかし、30mg/kg投与を受けるサルで新たに生え換わる体毛において、体毛の色素沈着の阻害が様々な程度で観察された。10mg/kgコホートでは効果が観察されなかったことは、無効用量が10〜30mg/kgの間であることを示唆する。10mg/kgコホートにおけるSR−1曝露量は、UT−7 IC50の>8000倍であった。肥満細胞枯渇の最大限の有効性は、UT−7 IC50の>7倍において達成された。これらのデータは、c−Kitの阻害がメラニン細胞機能に影響し、過剰なメラニン細胞活性を特徴とする疾患においては、遮断のためにより高度の用量/曝露量が必要となりうることを示唆する。
【0186】
(精子形成)
マウス試験は、c−Kitが、分化したc−Kitレセプター陽性精原細胞の保持および増殖に重要であるが、精原細胞分化の初期段階には重要でないことを示している。不活性c−Kitレセプターの対立遺伝子についてヘテロ接合体である限局性皮膚白皮症の被験体が、雌雄ともに繁殖可能であることは、この程度のc−Kit不活性化が、始原生殖細胞の発達、精子形成、または卵子形成に影響を及ぼさないらしいことを示唆する。
【0187】
SR−1は、0.3〜30mg/kgで精子形成の用量依存的な阻害を示した。週1回の0.3mg/kg投与は、より高用量時に観察される最大限の効果を下回り、ED50を定めるにはより低用量の用量決定試験を必要とした。達成された曝露量は、肥満細胞増大の創傷モデルにおける最大限の有効性に必要な曝露量であるUT−7 IC50の7倍である。PKの外挿は、最終投与の1カ月後に該抗体が消失するらしいことを示唆したが、回復の慎重な評価時点として9カ月を選択した。9カ月後に投与を受けたすべての動物において正常な精子形成が見られたことは、hSR−1 aIgG1様の分子が、雄用の避妊剤として有用であることを示す。
【0188】
(概要)
ヒト化抗c−Kit非グリコシル化IgG1(hSR−1 aIgG1)抗体は、c−Kitシグナル伝達の近位側および遠位側のリードアウトを用いて調べる細胞に基づくすべてのアッセイで中和している、高度に強力で特異的な抗体である。本来、該抗体は、マウスモノクローナルSR−1親抗体について報告されるc−Kitレセプターの内在化またはリン酸化を媒介しない。ヒト化IgG1アイソタイプ、ヒト化IgG2アイソタイプ、およびヒト化IgG4アイソタイプに対する非グリコシル化IgG1アイソタイプの選択は、標準的な手法に基づいては予測されなかったであろう。hSR−1 aIgG1は、該抗体が、膜c−Kitレセプターにおいて適切な薬理学的特性を示し、c−Kitおよび肥満細胞におけるアゴニスト活性を回避し、バイスタンダー効果によるエフェクター機能および細胞死滅を欠くことを示す新たな実験により、経験的に選択された。この抗体は、サルにおいて、良好な皮下バイオアベイラビリティおよび半減期、非線形性のPKおよび標的を介する飽和抗体の除去、ならびに肥満細胞の枯渇を示した。これらのデータは、ヒトにおいて有効な肥満細胞枯渇用量を予測するであろう。
【0189】
サル創傷PDモデルにおけるマウスSR−1モノクローナル親抗体の最小限の有効用量は、<0.3mg/kg(Ctroughは細胞IC50の>7倍)であり、やや高度の曝露量(Ctroughは細胞IC50の>800倍)も、皮膚、結腸、および肺の基底肥満細胞の枯渇に有効であった。同様に、新たに生え換わる体毛における体毛色素沈着に対する質的な影響が生じるには、細胞IC50の>8000倍を超える曝露レベルが必要である。新たに生え換わる体毛における体毛色素沈着の阻害は、げっ歯類における多重キナーゼインヒビターおよびc−Kit抗体について報告されており、hSR−1 aIgG1は、過剰なメラニン細胞活性に関連する疾患において有用でありうる。効果は、処置の中止と同時に可逆的である。精子形成の阻害における最大限未満の効果が、創傷PDモデルにおいて最大限の有効性を与えた曝露量である細胞IC50の>7倍のレベルで示された。
【0190】
本明細書において参照した、および/または出願データシートに掲載した、前出の米国特許、米国特許出願公開、米国特許出願、外国特許、外国特許出願、および非特許刊行物は、その全体が参考として本明細書に援用される。
【0191】
上記より、本明細書では、例示を目的として本発明の特定の実施形態を記載してきたが、本発明の意図および適用範囲から逸脱しない限り、様々な変更を行ってよいことが、理解される。
【図面の簡単な説明】
【0192】
【図1】SR−1が創傷活性化モデルにおける肥満細胞を阻害することを示す図である。
【図2】創傷治癒モデルにおける肥満細胞カウントを示す図である。
【図3】ヒト化SR−1アイソフォームが、幹細胞因子(SCF)の誘発するc−Kitの活性化、およびc−Kitによるその後のリン酸化を阻害することを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
c−Kitに特異的に結合し、配列番号2に示すアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、結合因子。
【請求項2】
配列番号2に示す可変領域のアミノ酸配列と95%以上同一であるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の結合因子。
【請求項3】
配列番号2に示す可変領域のアミノ酸配列と98%以上同一であるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の結合因子。
【請求項4】
配列番号4のアミノ酸配列をさらに含む、請求項1に記載の結合因子。
【請求項5】
相補性決定領域において少なくとも1つの保存的アミノ酸置換を有し、c−Kitに対する結合因子の親和性が維持される、請求項1に記載の結合因子。
【請求項6】
1つの保存的アミノ酸置換が存在する、請求項5に記載の結合因子。
【請求項7】
c−Kitに特異的に結合し、配列番号4に示すアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、結合因子。
【請求項8】
配列番号4に示す可変領域のアミノ酸配列と95%以上同一であるアミノ酸配列を含む、請求項7に記載の結合因子。
【請求項9】
配列番号4に示す可変領域のアミノ酸配列と98%以上同一であるアミノ酸配列を含む、請求項7に記載の結合因子。
【請求項10】
配列番号2のアミノ酸配列をさらに含む、請求項7に記載の結合因子。
【請求項11】
相補性決定領域において少なくとも1つの保存的アミノ酸置換を有し、c−Kitに対する結合因子の親和性が維持される、請求項7に記載の結合因子。
【請求項12】
1つの保存的アミノ酸置換が存在する、請求項11に記載の結合因子。
【請求項13】
c−Kitに特異的に結合し、配列番号6に示すアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、結合因子。
【請求項14】
配列番号6に示す可変領域のアミノ酸配列と95%以上同一であるアミノ酸配列を含む、請求項13に記載の結合因子。
【請求項15】
配列番号6に示す可変領域のアミノ酸配列と98%以上同一であるアミノ酸配列を含む、請求項13に記載の結合因子。
【請求項16】
配列番号2のアミノ酸配列をさらに含む、請求項13に記載の結合因子。
【請求項17】
相補性決定領域において少なくとも1つの保存的アミノ酸置換を有し、c−Kitに対する結合因子の親和性が維持される、請求項13に記載の結合因子。
【請求項18】
1つの保存的アミノ酸置換が存在する、請求項17に記載の結合因子。
【請求項19】
表面プラズモン共鳴分析により決定される、c−Kitに対して10−2未満のアビディティーkdを示す、請求項1から18のいずれか一項に記載の結合因子。
【請求項20】
配列番号2、4、または6に示すアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を含む、c−Kitに結合する特異的結合因子をコードする核酸配列。
【請求項21】
配列番号1、3、または5に示す群から選択される核酸と少なくとも90%同一である核酸配列を含む核酸。
【請求項22】
請求項20から21のいずれかに記載の核酸配列を含む、ベクター。
【請求項23】
請求項22に記載のベクターを含む、宿主細胞。
【請求項24】
c−Kit特異的結合因子を産生する方法であって、請求項23に記載の宿主細胞を培養することによって、前記核酸を発現させて該特異的結合因子を産生する工程を含む、方法。
【請求項25】
前記宿主細胞培養物から前記特異的結合因子を回収する工程をさらに含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
被験体における線維症、炎症、自己免疫、または癌に関連するc−Kit疾患またはc−Kit障害を低減または処置する方法であって、治療有効量のc−Kit抗体を被験体に投与する工程を含む、方法。
【請求項27】
前記障害または疾患が線維症である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
アンタゴニスト抗体が、ヒト抗体、ヒト化抗体、単鎖抗体、または抗体断片からなる群から選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
ペプチドまたはポリペプチド結合因子、可溶性レセプターまたは可溶性ヘテロダイマーレセプターが、Fcドメインをさらに含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記線維性障害が、強皮症、間質性肺疾患、間質性肺線維症、慢性B型肝炎または慢性C型肝炎から生じる線維症、放射線が誘発する線維症、および創傷治癒から生じる線維症からなる群から選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
線維症促進性サイトカインに対する第2のアンタゴニストを投与する工程をさらに含み、該サイトカインがトランスホーミング増殖因子β(TGF−β)、インターロイキン−4(IL−4)、インターロイキン−5(IL−5)、インターロイキン−9(IL−9)、インターロイキン−13(IL−13)、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、腫瘍壊死因子α(TNF−α)、インターロイキン−1β(IL−1β)、結合組織成長因子(CTGF)、インターロイキン−6(IL−6)、オンコスタチンM(OSM)、血小板由来成長因子(PDGF)、単球化学誘導タンパク質1(CCL2/MCP−1)、ならびに肺および活性化調節型ケモカイン(CCL18/PARC)から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
治療有効量の請求項1に記載の組成物を含む、線維性障害に罹患する被験体において線維症を低減または予防するための薬学的組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−534052(P2009−534052A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−507805(P2009−507805)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【国際出願番号】PCT/US2007/010155
【国際公開番号】WO2007/127317
【国際公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(500203709)アムジェン インコーポレイテッド (76)
【Fターム(参考)】