説明

ヒト卵巣癌中のマイクロRNAシグネチャー

【課題】卵巣癌の治療に対する相当な研究にもかかわらず、卵巣癌はいまだに効果的診断および処置が困難であり、患者に見られる死亡率は、疾患の診断、処置および予防の改善が必要であることを示している。
【解決手段】本発明は、卵巣癌の診断、予後診断および治療のための新規な方法および組成物を提供する。また、本発明は、抗癌剤を同定する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2007年9月6日出願の米国仮特許出願第60/967,663号の利益を主張し、この開示は、参照することにより本明細書に明示的に組み込まれる。
政府援助
【0002】
本発明は、全体的または部分的に、国立癌研究所助成番号−−−−−−−−−からの助成金により補助された。政府は、本発明においてある特定の権利を有する。
【0003】
本発明は、概して、分子生物学の分野に関する。より具体的には、マイクロRNA(miRNAまたはmiR)分子を含む方法および組成物に関する。miRNAアレイ等、分析のため、または分析用ツールとしてmiRNAを単離、標識化、調製するための方法および組成物が記載される。さらに、診断、治療および予後診断におけるmiRNAに応用できる。
【背景技術】
【0004】
上皮性卵巣癌は、最も一般的な婦人科悪性腫瘍であり、また世界中の女性において6番目に一般的な癌であり、年間ほぼ125,000件の死亡(1)をもたらしている極めて侵攻性の自然史を伴う。検出および細胞傷害性療法の発展にもかかわらず、進行卵巣癌に罹患した患者のうち最初の診断後5年間生存するのはわずか30%のみである(2)。この疾患の高い死亡率は、主に、卵巣癌の70%超が後期段階の診断であることに起因する。事実、卵巣癌がその初期段階で診断された場合、すなわちまだ器官に限局されている場合、5年生存率は90%を超える。残念ながら、この初期段階で診断されるのは、すべての卵巣癌のわずか19%である。確かに、この幾分不良な予後は、(i)この疾患のその早期発症における潜行性の無症候的性質、(ii)早期検出のための確実で低侵襲的な方法の欠如、および(iii)化学療法に対する腫瘍の耐性に起因する。ヒト卵巣癌の大部分が、卵巣表面上皮(OSE)から派生する上皮性卵巣癌(OEC)に代表される(3)。
【0005】
卵巣腺癌は、4つの主要な組織学的亜型である、漿液性、粘液性、類内膜および明細胞として生じるが、漿液性が最も一般的である。現在のデータでは、これらの組織型が異なる形態学的および分子遺伝学的変化に関連していることが示されている(4)が、亜型のそれぞれがどのように発生するかを決定するためには、卵巣癌を促進する分子機構のさらなる研究が必要である。
【0006】
過去5年間にわたり、発現プロファイリング技術が大幅に改善され、これにより癌疫学および臨床的に応用できるバイオマーカーに対する知識が広がった(5、6)。しかしながら、これらの技術により、新たなバイオマーカーのほとんどに、診断、薬剤開発、および個人に合わせた治療への使用の可能性が与えられたが、今のところ、この新生組織形成の起源における詳細な機構に対する洞察はほとんど提供されておらず、したがって、卵巣腫瘍形成が、新規またはまだ十分特性決定されていない経路を介して生じている可能性を示唆している。
【0007】
マイクロRNAと呼ばれる微小なノンコーディングRNAの新たなクラスが最近発見され、大部分は、標的mRNAの3’非翻訳領域(3’UTR)への部分的配列ホモロジーを介して結合し、翻訳のブロックおよび/またはmRNA分解をもたらすことにより(7)、転写後レベルでの遺伝子発現を制御することが示されている。マイクロRNAは、70〜100ntのヘアピンpre−miRNA前駆体から切断された19〜25ntの長さの分子である。該前駆体は、細胞質RNase III Dicerにより約22ntのmiRNA二本鎖に切断されるが、一時的な二本鎖の1つの鎖(miRNA*)が分解し、一方、成熟miRNAとして機能する他方の鎖は、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に組み込まれ、アンチセンス配列を含有する標的mRNAの選択を促進する。
【0008】
いくつかの研究は、miRNAが分化、細胞増殖および細胞死等の必須プロセスにおいて重要な役割を担っていることを実証している(8、9)。
【0009】
さらに、癌においては、miRNAが異常発現または変異することが示されており、miRNAが制御する標的に依存して、それらが新規のクラスの腫瘍遺伝子または腫瘍抑制遺伝子としての役割を担う可能性があることを示唆しており、肺癌において下方制御されたlet−7は、RAS(10)を抑制し、白血病において削除または下方制御されたHMGA2(11、12)mir−15およびmir−16は、BCL2(13)を抑制し、mir−17−5pおよびmir−20aは、癌原遺伝子c−Myc(14)により生じる細胞死および増殖のバランスを制御する。
【0010】
明らかな証拠により、miRNAポリシストロンmir−17〜92は、リンパ腫および肺癌(15)における腫瘍遺伝子として機能し、mir−372およびmir−373は、p53経路を麻痺させることにより、精巣生殖細胞腫瘍における新規な腫瘍遺伝子であり(16)、B細胞リンパ腫および充実性腫瘍に過剰発現したmiR−155は、遺伝子導入マウスの生体内モデルにおいて、B細胞悪性腫瘍の発達につながる(17)ことが示されている。
マイクロRNAマイクロアレイ技術は、正常試料と腫瘍試料との間で特異的に発現したマイクロRNAを認識するため(18〜20)、また明確な臨床病理学的特徴および疾患の結果と関連したmiRNA発現シグネチャーを特定するため(21、22)の強力なツールとして使用されている。また、いくつかの研究は、異常なマイクロRNA発現につながる分子機構を調査しており、マイクロRNA遺伝子におけるゲノム異常の存在を特定している(21、23、24)。より最近では、いくつかの証拠が、ゲノムDNAメチル化パターンの変化として、マイクロRNA遺伝子が後成的機構によっても制御され得ることを示しており、miR−127(25)およびmiR−124a(26)はCpGアイランドの過剰メチル化により転写的に不活性化され、一方肺癌において、let−7a−3の過剰発現はDNA低メチル化に起因するようである(27)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Cannistra SA. Cancer of the ovary. N Engl J Med 2004;351:2519−29.
【非特許文献2】Greenlee RT, Hill−Harmon MB, Murray T and Thun M. Cancer statistics, 2001. CA Cancer J. Clin. 2001;51:15−36.
【非特許文献3】Feeley KM and Wells M. Precursor lesions of ovarian epithelial malignancy. Histopathology 2001;38:87−95.
【非特許文献4】Bell DA. Origins and molecular pathology of ovarian cancer. Mod Pathol 2005; 18 Suppl 2:S19−32.
【非特許文献5】Schwartz DR, Kardia SL, Shedden KA et al. Gene expression in ovarian cancer reflects both morphology and biological behavior, distinguishing clear cell from other poor−prognosis ovarian carcinomas. Cancer Res 2002;62:4722−9.
【非特許文献6】De Cecco L, Marchionni L, Gariboldi M et al. Gene expression profiling of advanced ovarian cancer: characterization of a molecular signature involving Fibroblast Growth Factor 2. Oncogene 2004;23:8171−83.
【非特許文献7】He L, Hannon GJ. MicroRNAs: small RNAs with a big role in gene regulation. Nature Rev Genet 2004;5:522−31.
【非特許文献8】Miska EA. How microRNAs control cell division, differentiation and death. Curr Opin Genet Dev 2005 ;5: 563−8.
【非特許文献9】Zamore PD, Haley B. Ribo−gnome: the big world of small RNAs. Science 2005;309:1519−24.
【非特許文献10】Johnson SM, Grosshans H, Shingara J, et al. RAS is regulated by the let−7 microRNA family. Cell 2005;120:635−47.
【非特許文献11】Mayr C, Hemann MT, Bartel D. Disrupting the pairing between let−7 and HMGA2 enhances oncogenic transformation. Science 2007;315:1576−9.
【非特許文献12】Lee YS, Dutta A. The tumor suppressor microRNA let−7 represses the HMGA2 oncogene. Genes Dev. 2007;21: 1025−30.
【非特許文献13】Cimmino A, Calin GA, Fabbri M et al. miR−15 and miR−16 induce apoptosis by targeting BCL2. Proc Natl Acad Sci USA 2005;102:13944−9.
【非特許文献14】O’Donnell KA, Wentzel EA, Zeller KI, Dang CV, Mendell JT. c−Myc−regulated microRNAs modulate E2F1 expression. Nature 2005;435:839−43.
【非特許文献15】He L, Thomson JM, Hemann MT et al. A microRNA polycistron as a potential human oncogene. Nature 2005 ;435: 828−33.
【非特許文献16】Voorhoeve PM, Ie Sage C, Schrier M et al. A genetic screen implicates miRNA− 372 and miRNA−373 as Oncogenes in Testicular Germ Cell Tumors. Cell 2006;124:1169− 81.
【非特許文献17】Costinean S, Zanesi N, Pekarsky Y et al. Pre−B cell proliferation and lymphoblastic leukemia/high−grade lymphoma in E(mu)−miR155 transgenic mice. Proc Natl Acad Sci U S A. 2006;103:7024−9.
【非特許文献18】Iorio MV, Ferracin M, Liu CG et al. Cancer Res. 2005;65:7065−70.
【非特許文献19】Calin GA, Croce CM. MicroRNA signatures in human cancers. Nat Rev Cancer 2006;6:857−66.
【非特許文献20】Esquela−Kerscher A, Slack FJ. Oncomirs − microRNAs with a role in cancer. Nat Rev Cancer 2006;6:259−69.
【非特許文献21】Calin GA, Ferracin M, Cimmino A et al. MicroRNA signature associated with prognosis and progression in chronic lymphocytic leukemia. N Engl J Med 2005;353:1793−801.
【非特許文献22】Yanaihara N, Caplen N, Bowman E et al. Unique microRNA molecular profiles in lung cancer diagnosis and prognosis. Cancer Cell 2006;9:189−98.
【非特許文献23】Calin GA, Croce CM. MicroRNAs and chromosomal abnormalities in cancer cells. Oncogene 2006;25:6202−10.
【非特許文献24】Zhang L, Huang J, Yang N et al. MicroRNAs exhibit high frequency genomic alterations in human cancer. Proc Natl Acad Sci U S A. 2006;103:9136−41.
【非特許文献25】Saito Y, Liang G, Egger G et al. Specific activation of microRNA−127 with downregulation of the proto−oncogene BCL6 by chromatin−modifying drugs in human cancer cells. Cancer Cell 2006;9:435−43.
【非特許文献26】Lujambio A, Ropero S, Ballestar E et al. Genetic unmasking of an epigenetically silenced microRNA in human cancer cells. Cancer Res 2007;67: 1424−9.
【非特許文献27】Brueckner B, Stresemann C, Kuner R et al. The human let−7a−3 locus contains an epigenetically regulated microRNA gene with oncogenic function. Cancer Res 2007;67:1419−23.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
卵巣癌の治療に対する相当な研究にもかかわらず、卵巣癌はいまだに効果的診断および処置が困難であり、患者に見られる死亡率は、疾患の診断、処置および予防の改善が必要であることを示している。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、部分的に、正常な対照細胞と相対的に卵巣癌細胞に特異的に発現したmiRNAの、卵巣癌特異的シグネチャーに基づく。
したがって、本発明は、対象が卵巣癌を有している、または発病する危険性があるかどうかを診断する方法を包含し、該方法は対象からの試験試料中の少なくとも1つのmiRのレベルを測定するステップを含み、対照試料中の対応するmiRのレベルと相対的な試験試料中のmiRのレベルの変化は、対象が卵巣癌を有している、または発病する危険性があることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0014】
特許または出願ファイルは、カラーで作成された1つもしくは複数の図面および/または1つもしくは複数の写真を含み得る。カラーの図面(複数を含む)および/または写真(複数を含む)を備える本特許または特許出願公開の複写は、要求に応じて、また必要な料金の支払いをもって米国特許商標庁により提供される。
【図1−1】卵巣癌および正常卵巣組織のクラスタ分析を示す図である。図1Aは、チップにスポットされた全ヒトmiRNAに基づく卵巣癌からの正常組織の分離を示す、階層的クラスタ分析により生成されたツリーである。
【図1−2】卵巣癌および正常卵巣組織のクラスタ分析を示す図である。図1Bは、正常な卵巣に対して腫瘍において最も大幅に下方調整されたマイクロRNAのいくつかを示す図である。図1Cは、正常な卵巣に対して腫瘍において最も大幅に上方調整された4つのマイクロRNAを示す図である。
【図2A】miR−200a、miR−141、miR−199a、miR−125b1、miR−145のプローブによる、ヒト卵巣癌のノーザンブロット分析を示す図である。ヒト卵巣細胞株上のmiR−199a、miR−125b1およびmiR−145の評価である。5Sプローブを、異なるレーンの発現レベルの正規化に使用した。
【図2B】正常試料と比較したmiR−140の下方調整を検証するためのリアルタイムPCRを示す図である。
【図3A】正常組織と比較した、異なる卵巣癌組織型(漿液性、類内膜、および明細胞)を特徴付けるマイクロRNAシグネチャーを示すベン図である(図3A、miRの上方調整)。
【図3B】正常組織と比較した、異なる卵巣癌組織型(漿液性、類内膜、および明細胞)を特徴付けるマイクロRNAシグネチャーを示すベン図である(図3B、下方調整)。
【図4】図4Aは、漿液性および類内膜腫瘍におけるmiR−222マイクロアレイデータ発現のt−試験グラフを示す図である。 図4Bは、最も小さい組の試料に対するノーザンブロットによる検証を示す図である。
【図5−1】脱メチル化剤5’−AZAによる処置前および処置後の、OVCAR3細胞株の発現パターンを示す図である。 図5Aは、マイクロアレイプロファイリングから得られた、特異的に発現した最も有意なmiRを報告している表である。 図5Bは、階層的クラスタツリーを示す図である。
【図5−2】脱メチル化剤5’−AZAによる処置前および処置後の、OVCAR3細胞株の発現パターンを示す図である。 図5Cは、miR発現レベルのグラフ表示として報告されている、5つの最も有意に誘引されたmiRの上方調整を検証するリアルタイムPCRを示す図である(各バーは、3回の技術的な繰り返しの平均から得られた独立した実験である)。
【図5−3】脱メチル化剤5’−AZAによる処置前および処置後の、OVCAR3細胞株の発現パターンを示す図である。 図5Dは、EtBrゲル染色で正規化された、処置後のmiR−21の上方調整を示すノーザンブロットを示す図である。
【図6A】図8−表1において報告されるmiRシグネチャーによる、癌であるか正常組織であるかの各試料の確率(0.0から1.0)のグラフを示したPAM分析を示す図であり、29個のmiRのより小さい組、つまり4個の上方調整されたmiR(miR−200a、miR−200b、miR−200cおよびmiR−141)ならびに25個の下方調整されたmiR(miR−199a、miR−140、miR−145およびmiR−125b 1が中でも最も有意である)が、89%の分類率で正常試料と腫瘍試料とを区別していることを説明している。
【図6B】図8−表1において報告されるmiRシグネチャーによる、癌であるか正常組織であるかの各試料の確率(0.0から1.0)のグラフを示したPAM分析を示す図であり、29個のmiRのより小さい組、つまり4個の上方調整されたmiR(miR−200a、miR−200b、miR−200cおよびmiR−141)ならびに25個の下方調整されたmiR(miR−199a、miR−140、miR−145およびmiR−125b 1が中でも最も有意である)が、89%の分類率で正常試料と腫瘍試料とを区別していることを説明している。
【図7−1】ヒト卵巣癌および2つの正常組織のパネルに対するノーザンブロッティング(図7A)を示す図であり、miR−21およびmiR−203は、CpGアイランドに関連しており、CpGアイランドに埋没したmiR−203は875bpの長さであり、miR−21は成熟配列の2kb上流のCpGアイランドで特徴付けられ(図7B)、一方miR−205は、その成熟形態の2Kb上流にわたる領域においていかなるCpGアイランドも示していない。
【図7−2】ヒト卵巣癌および2つの正常組織のパネルに対するノーザンブロッティング(図7A)を示す図であり、miR−21およびmiR−203は、CpGアイランドに関連しており、CpGアイランドに埋没したmiR−203は875bpの長さであり、miR−21は成熟配列の2kb上流のCpGアイランドで特徴付けられ(図7B)、一方miR−205は、その成熟形態の2Kb上流にわたる領域においていかなるCpGアイランドも示していない。
【図7−3】ヒト卵巣癌および2つの正常組織のパネルに対するノーザンブロッティング(図7A)を示す図であり、miR−21およびmiR−203は、CpGアイランドに関連しており、CpGアイランドに埋没したmiR−203は875bpの長さであり、miR−21は成熟配列の2kb上流のCpGアイランドで特徴付けられ(図7B)、一方miR−205は、その成熟形態の2Kb上流にわたる領域においていかなるCpGアイランドも示していない。
【図8】図8(表1)腫瘍試料と正常試料との間の特異的に発現したマイクロRNAのPAM分析。SAM分析により発見された39個のmiRのうち、29個のmiR、つまり4個の上方調整されたmiRおよび25個の下方調整されたmiRが、89%の分類率で正常試料および腫瘍試料を分類することができた。上方調整された4個のmiRは、Zhangら、2005年により行われたゲノム研究で、増幅されることが判明しており、Zhang研究においては、下方調整されたmiR中、25個のうち10個が削除されたことが判明し、4個は不一致で、11個は、いかなる複製損失または増幅をも示さない。
【図9】図9(表2)正常卵巣組織に対し腫瘍試料において特異的に発現したmiRを示す図である。腫瘍と正常組織の間での特異的に発現したマイクロRNAのSAM分析は、10個のマイクロRNAが上方調整され、29個が下方調整されたことを示している(q−値<1%および倍率変化>3)。上方調整された10個のmiRのうち6個は、Zhangら、2005年により行われたゲノム研究で、増幅されることが判明しており、4個はいかなる複製損失または増幅をも示さず、Zhang研究においては、下方調整されたmiR中、29個のうち12個は削除されたことが判明し、6個は不一致で、11個はいかなる複製損失または増幅をも示さない。
【図10−1】図10(表3)正常組織と比較した異なる組織学的亜型のSAM分析を示す図である。
【図10−2】図10(表3)正常組織と比較した異なる組織学的亜型のSAM分析を示す図である。
【図10−3】図10(表3)正常組織と比較した異なる組織学的亜型のSAM分析を示す図である。
【図10−4】図10(表3)正常組織と比較した異なる組織学的亜型のSAM分析を示す図である。
【図11】図11(表4)対として比較した異なる組織型の腫瘍のmiRNA発現のSAM分析を示す図である。
【図12】図12(表5)EOC臨床病理学的特徴に関連したマイクロRNAを同定するSAM分析を示す図である。
【図13】図13(表6)我々の分析から得られた最も有意なマイクロRNAの、検証済みの、また重要な予測標的をまとめた表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
具体的な態様において、対象が卵巣癌を有している、または発病する危険性があるかどうかを診断する方法が本明細書で提供され、該方法は、対象からの試験試料中の少なくとも1つのmiRのレベルを測定するステップを含む。対照試料中の対応するmiRのレベルと相対的な試験試料中の前記miRのレベルの変化は、対象が卵巣癌を有している、または発病する危険性があることを示している。
【0016】
別の具体的な態様において、miR発現と卵巣癌との間の相関関係または卵巣癌の素因を特定するステップを含む方法が本明細書で提供され、該方法は、(a)疾患または病状を有する、または有する疑いのある対象から単離されたmiRを標識化するステップと、(b)miRをmiRアレイにハイブリダイズするステップと、(c)アレイへのmiRハイブリダイゼーションを決定するステップと、(d)参照と比較して、疾患または病状を表す、試料中に特異的に発現したmiRを特定するステップとを含む。
【0017】
具体的な態様において、特異的に発現したmiRを特定するステップが、前記試料のmiRプロファイルを生成するステップと、miRプロファイルを評価して、前記試料中のmiRが正常試料と比較して特異的に発現しているかどうかを決定するステップとを含む方法が、本明細書で提供される。ある特定の実施形態において、miRプロファイルは、表1に示されるmiRのうちの1つもしくは複数から選択される。また、ある特定の実施形態において、miRプロファイルは、図3Aまたは図3Bに示されるmiRのうちの1つもしくは複数から選択される。
【0018】
具体的な態様において、卵巣癌は、明細胞癌、漿液性癌または卵巣類内膜癌のうちの1つもしくは複数の癌である。具体的な態様において、該miRプロファイルは、表3に示されるmiRのうちの1つもしくは複数から選択され、それにより卵巣癌細胞が正常細胞から区別される。また、ある特定の実施形態において、該miRプロファイルは、表4に示されるmiRのうちの1つもしくは複数から選択され、それにより卵巣癌細胞が、漿液性、非漿液性類内膜、非類内膜、明細胞、非明細胞、低分化および非低分化のうちの組織型により区別される。
【0019】
具体的な実施形態において、該miRプロファイルは、miR−200a、miR−200b、miR−200c、miR−141、miR−199a、miR−140、miR−145およびmiR−125b 1からなる群から選択される少なくとも1つのmiRを含み、正常試料と比較したmiRNAの1つもしくは複数の発現の差は、卵巣癌を示している。また、ある特定の実施形態において、該miRプロファイルは、少なくともmiR−200a、miR−200b、miR−200c、miR−141、miR−199a、miR−140、miR−145およびmiR−125b1を含み、正常試料と比較したmiRの1つもしくは複数の発現の差は、卵巣癌を示している。
【0020】
具体的な態様において、正常試料と比較したmiR−200a、miR−200b、miR−200cもしくはmiR−141の発現の増加、および/またはmiR−199a、miR−140、miR−145もしくはmiR−125b1の発現の減少が卵巣癌を示している方法が、本明細書で提供される。
【0021】
具体的な態様において、該miRプロファイルが、miR−200a、miR−200b、miR−200cおよびmiR−141からなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAを含み、正常試料と比較したmiRNAの1つもしくは複数の発現の差が漿液性卵巣癌を示している方法が、本明細書で提供される。
【0022】
具体的な態様において、該miRプロファイルが、miR−205、miR−21、miR−182、miR−200bおよびmiR−141からなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAを含み、正常試料と比較したmiRNAの1つもしくは複数の発現の差は、卵巣類内膜癌を示している方法が、本明細書で提供される。
【0023】
具体的な態様において、漿液性、類内膜、明細胞および/または低分化卵巣癌の卵巣癌組織型の間を区別するステップを含む方法が、本明細書で提供される。ある特定の実施形態において、該miRプロファイルは、図3Aまたは図3Bに示されるmiRのうちの1つもしくは複数から選択され、漿液性卵巣癌を示している。ある特定の他の実施形態において、該miRプロファイルは、図3Aまたは図3Bに示されるmiRのうちの1つもしくは複数から選択され、卵巣類内膜癌を示している。ある特定の他の実施形態において、該miRプロファイルは、図3Aまたは図3Bに示されるmiRのうちの1つもしくは複数から選択され、明細胞卵巣癌を示している。
【0024】
具体的な態様において、卵巣癌細胞の増殖を阻害する方法が本明細書で提供され、該方法は、i)表3に示される群から選択される1つもしくは複数のmiRの発現もしくは活性を阻害する1つもしくは複数の薬剤を細胞内に導入するステップと、ii) miRの1つもしくは複数の標的遺伝子の発現を高める1つもしくは複数の薬剤を細胞内に導入する、もしくは、i)およびii)の1つもしくは複数の薬剤の組合せを細胞内に導入するステップと、該1つもしくは複数の薬剤が、miRの発現または活性を阻害する、miRの1つもしくは複数の標的遺伝子の発現もしくは活性を高める、またはそれらの組合せをもたらす条件下で細胞を維持し、それにより卵巣癌細胞の増殖を阻害するステップとを含む。具体的な実施形態において、該細胞は、ヒト細胞である。
【0025】
具体的な態様において、miR−200a、miR−200b、miR−200cおよびmiR−141の発現は、上方制御され、共通推定標的として、卵巣癌において下方調整される腫瘍抑制因子BAPl、BRCAl関連タンパク質を有する方法が本明細書で提供される。
【0026】
具体的な態様において、正常組織と比較して、卵巣癌細胞におけるmiR−21、miR−203、miR−146、miR−205、miR−30−5pおよびmiR−30cのうちの1つもしくは複数のレベルを調節するための方法が本明細書で提供され、該方法は、有効量の脱メチル化剤を投与するステップを含む。具体的な実施形態において、該レベルは、5−アザ−2’−デオキシシチジン脱メチル化処置後に増加する。
【0027】
具体的な態様において、miR−21、miR−203、miR−146、miR−205、miR−30−5pおよびmiR−30cのうちの1つもしくは複数の発現を変化させるための方法が本明細書で提供され、該方法は、それらの過剰発現を担うDNA低メチル化機構を制御するステップを含む。
【0028】
該少なくとも1つのmiRは、当業者に周知の様々な技術を使用して測定することができる。一実施形態において、該少なくとも1つのmiRのレベルは、ノーザンブロット分析を使用して測定される。別の実施形態において、試験試料中の該少なくとも1つのmiRのレベルは、対照試料中の対応するmiRのレベルより低い。また、別の実施形態において、試験試料中の該少なくとも1つのmiRのレベルは、対照試料中の対応するmiRのレベルより高くなり得る。
【0029】
また、本発明は、対象の1つもしくは複数の予後診断マーカーに関連した癌を診断する方法を提供し、該方法は、対象からの癌試料中の少なくとも1つのmiRのレベルを測定するステップを含み、対照試料中の対応するmiRのレベルと相対的な試験試料中の該少なくとも1つのmiRのレベルの変化は、対象が1つもしくは複数の予後診断マーカーに関連した癌を有していることを示している。一実施形態において、該少なくとも1つのmiRのレベルは、対象から得られた試験試料からRNAを逆転写して、1組の標的オリゴデオキシヌクレオチドを提供し、該標的オリゴデオキシヌクレオチドを、miR特異的プローブオリゴヌクレオチドを含むマイクロアレイにハイブリダイズさせて、試験試料のハイブリダイゼーションプロファイルを提供し、試験試料のハイブリダイゼーションプロファイルを、対照試料から生成したハイブリダイゼーションプロファイルと比較することにより測定される。少なくとも1つのmiRの信号の変化は、対象がそのような癌を有している、または発病する危険性があることを示している。
【0030】
また、本発明は、対象の癌を処置する方法を包含し、対照試料から生成された信号に相対的な少なくとも1つのmiRの信号が、脱制御(例えば下方制御、上方制御)される。
【0031】
また、本発明は、対象から得られた試験試料からRNAを逆転写して、1組の標的オリゴデオキシヌクレオチドを提供し、該標的オリゴデオキシヌクレオチドを、miR特異的プローブオリゴヌクレオチドを含むマイクロアレイにハイブリダイズさせて、試験試料のハイブリダイゼーションプロファイルを提供し、試験試料のハイブリダイゼーションプロファイルを、対照試料から生成されたハイブリダイゼーションプロファイルと比較することにより、対象が、対象内の1つもしくは複数の有害予後診断マーカーに関連した癌を有している、または発病する危険性があるかどうかを診断する方法を包含する。信号の変化は、対象が癌を有している、または発病する危険性があることを示している。
【0032】
また、本発明は、対照細胞と相対的に対象の癌細胞の少なくとも1つのmiRが下方制御または上方制御されている、癌を有する対象の癌を治療する方法を包含する。該少なくとも1つのmiRが癌細胞内で下方制御されている場合、該方法は、対象の癌細胞の増殖が阻害されるように、有効量の少なくとも1つの単離miRを対象に投与するステップを含む。該少なくとも1つのmiRが癌細胞内で上方制御されている場合、該方法は、対象の癌細胞の増殖が阻害されるように、有効量の前記少なくとも1つのmiRの発現を阻害するための少なくとも1つの化合物を対象に投与するステップを含む。
【0033】
関連した実施形態において、本発明は、対象の癌を治療する方法を提供し、該方法は、対照細胞と相対的に、癌細胞内の少なくとも1つのmiRの量を決定するステップと、癌細胞内の発現したmiRの量を、癌細胞内の発現したmiRの量が対照細胞内の発現したmiRの量よりも少ない場合、有効量の少なくとも1つの単離miRを対象に投与すること、または、癌細胞内の発現したmiRの量が対照細胞内の発現したmiRの量よりも多い場合、対象の癌細胞の増殖が阻害されるように、有効量の該少なくとも1つのmiRの発現を阻害するための少なくとも1つの化合物を対象に投与することにより、変化させるステップと、を含む。
【0034】
本発明は、さらに、少なくとも1つの単離miRおよび薬学的に許容される担体を含む、癌を治療するための薬学的組成物を提供する。薬学的組成物の具体的な実施形態において、少なくとも1つの単離miRは、好適な対照細胞と相対的に癌細胞において下方制御されているmiRに対応する。
【0035】
別の具体的な実施形態において、薬学的組成物は、少なくとも1つのmiR発現阻害剤化合物および薬学的に許容される担体を含む。また、具体的な実施形態において、薬学的組成物は、好適な対照細胞と相対的に癌細胞において下方制御および/または上方制御されているmiRに特異的な、少なくとも1つのmiR発現阻害剤化合物を含む。
【0036】
一実施形態において、本発明は、抗癌剤を同定する方法を提供し、該方法は、試験薬剤を細胞に提供するステップと、癌細胞における減少した発現レベルに関連する少なくとも1つのmiRのレベルを測定するステップとを含み、好適な対照細胞と相対的な該細胞におけるmiRのレベルの増加は、試験薬剤が抗癌剤であることを示している。
【0037】
また、本発明は、抗癌剤を同定する方法を提供し、該方法は、試験薬剤を細胞に提供するステップと、癌細胞における増加した発現レベルに関連する少なくとも1つのmiRのレベルを測定するステップとを含み、好適な対照細胞と相対的な該細胞におけるmiRのレベルの減少は、試験薬剤が抗癌剤であることを示している。
【0038】
具体的な実施形態において、少なくとも1つのmiRは、表3に示される群から選択される。具体的な実施形態において、該miRは、miR−200a、miR−141、miR−200c、およびmiR−200b、miR−199a、miR−140、miR−145、およびmiR−125b1からなる群から選択される。
【0039】
具体的な態様において、miRNAの同定もまた本明細書で提供され、その発現は、組織型、リンパ管および器官浸潤、ならびに卵巣表面の関与等の、特定の卵巣癌の生物病理学的特徴と相関する。
【0040】
別の具体的な態様において、正常組織と比較して卵巣癌において上方調節されたmiR−21、miR−203、およびmiR−205のレベルは、OVCAR3細胞の5−アザ−2’−デオキシシチジン脱メチル化処置の後に大幅に増加したことが本明細書で開示される。
【0041】
また、別の具体的な態様において、過剰発現を担うDNA低メチル化機構を制御することにより、これらのmiRの発現を変化させるための方法が開示される。
【0042】
添付の図面に照らして読めば、以下の好ましい実施形態の詳細な説明から、本発明の様々な目的および利点が当業者に明らかとなる。
図面の簡単な説明
【0043】
特許または出願ファイルは、カラーで作成された1つもしくは複数の図面および/または1つもしくは複数の写真を含み得る。カラーの図面(複数を含む)および/または写真(複数を含む)を備える本特許または特許出願公開の複写は、要求に応じて、また必要な料金の支払いをもって米国特許商標庁により提供される。
【0044】
図1A−1C:卵巣癌および正常卵巣組織のクラスタ分析を示す図である。
【0045】
図1A:チップにスポットされた全ヒトmiRNAに基づく卵巣癌からの正常組織の分離を示す、階層的クラスタ分析により生成されたツリーである。
【0046】
図1B:正常な卵巣に対して腫瘍において最も大幅に下方調整されたマイクロRNAのいくつかを示す図である。
【0047】
図1C:正常な卵巣に対して腫瘍において最も大幅に上方調整された4つのマイクロRNAを示す図である。
【0048】
図2A:miR−200a、miR−141、miR−199a、miR−125b1、miR−145のプローブによる、ヒト卵巣癌のノーザンブロット分析を示す図である。ヒト卵巣細胞株上のmiR−199a、miR−125b1およびmiR−145の評価である。5Sプローブを、異なるレーンの発現レベルの正規化に使用した。
【0049】
図2B:正常試料と比較したmiR−140の下方調整を検証するためのリアルタイムPCRを示す図である。
【0050】
図3Aおよび3B:正常組織と比較した、異なる卵巣癌組織型(漿液性、類内膜、および明細胞)を特徴付けるマイクロRNAシグネチャーを示すベン図である(図3A、miRの上方調整;図3B、下方調整)。
【0051】
図4A:漿液性および類内膜腫瘍におけるmiR−222マイクロアレイデータ発現のt−試験グラフを示す図である。
【0052】
図4B:最も小さい組の試料に対するノーザンブロットによる検証を示す図である。
【0053】
図5A−5D:脱メチル化剤5’−AZAによる処置前および処置後の、OVCAR3細胞株の発現パターンを示す図である。
【0054】
図5A:マイクロアレイプロファイリングから得られた、特異的に発現した最も有意なmiRを報告している表である。
【0055】
図5B:階層的クラスタツリーを示す図である。
【0056】
図5C:miR発現レベルのグラフ表示として報告されている、5つの最も有意に誘引されたmiRの上方調整を検証するリアルタイムPCRを示す図である(各バーは、3回の技術的な繰り返しの平均から得られた独立した実験である)。
【0057】
図5D:EtBrゲル染色で正規化された、処置後のmiR−21の上方調整を示すノーザンブロットを示す図である。
【0058】
図6Aおよび6B:図8−表1において報告されるmiRシグネチャーによる、癌であるか正常組織であるかの各試料の確率(0.0から1.0)のグラフを示したPAM分析を示す図であり、29個のmiRのより小さい組、つまり4個の上方調整されたmiR(miR−200a、miR−200b、miR−200cおよびmiR−141)ならびに25個の下方調整されたmiR(miR−199a、miR−140、miR−145およびmiR−125b 1が中でも最も有意である)が、89%の分類率で正常試料と腫瘍試料とを区別していることを説明している。
【0059】
図7Aおよび7B:ヒト卵巣癌および2つの正常組織のパネルに対するノーザンブロッティング(図7A)を示す図であり、miR−21およびmiR−203は、CpGアイランドに関連しており、CpGアイランドに埋没したmiR−203は875bpの長さであり、miR−21は成熟配列の2kb上流のCpGアイランドで特徴付けられ(図7B)、一方miR−205は、その成熟形態の2Kb上流にわたる領域においていかなるCpGアイランドも示していない。
【0060】
図8:表1.腫瘍試料と正常試料との間の特異的に発現したマイクロRNAのPAM分析。SAM分析により発見された39個のmiRのうち、29個のmiR、つまり4個の上方調整されたmiRおよび25個の下方調整されたmiRが、89%の分類率で正常試料および腫瘍試料を分類することができた。上方調整された4個のmiRは、Zhangら、2005年により行われたゲノム研究で、増幅されることが判明しており、Zhang研究においては、下方調整されたmiR中、25個のうち10個が削除されたことが判明し、4個は不一致で、11個は、いかなる複製損失または増幅をも示さない。
【0061】
図9−表2:正常卵巣組織に対し腫瘍試料において特異的に発現したmiRを示す図である。腫瘍と正常組織の間での特異的に発現したマイクロRNAのSAM分析は、10個のマイクロRNAが上方調整され、29個が下方調整されたことを示している(q−値<1%および倍率変化>3)。上方調整された10個のmiRのうち6個は、Zhangら、2005年により行われたゲノム研究で、増幅されることが判明しており、4個はいかなる複製損失または増幅をも示さず、Zhang研究においては、下方調整されたmiR中、29個のうち12個は削除されたことが判明し、6個は不一致で、11個はいかなる複製損失または増幅をも示さない。
【0062】
図10−表3:正常組織と比較した異なる組織学的亜型のSAM分析を示す図である。
【0063】
図11−表4:対として比較した異なる組織型の腫瘍のmiRNA発現のSAM分析を示す図である。
【0064】
図12−表5:EOC臨床病理学的特徴に関連したマイクロRNAを同定するSAM分析を示す図である。
【0065】
図13−表6:我々の分析から得られた最も有意なマイクロRNAの、検証済みの、また重要な予測標的をまとめた表である。
好ましい実施形態の詳細な説明
【0066】
本発明は、miRNAの調製および特性決定に関する組成物および方法、ならびに治療、予後診断、および診断用途へのmiRNAの使用を目的とする。
【0067】
本明細書において交換可能に使用される、「miR」、「マイクロRNA」、「miR」、または「miRNA」は、miR遺伝子からの未プロセシングまたはプロセシング後のRNA転写物を指す。miRはタンパク質に翻訳されないため、「miR」という用語はタンパク質を含まない。プロセシングされなかったmiR遺伝子転写物は、「miR前駆体」とも呼ばれ、典型的には約70〜100ヌクレオチドの長さのRNA転写物を含む。miR前駆体はまた、RNAse(例えば、Dicer、Argonaut、またはRNAse II(例えばE.coli RNAse III等))による消化により、活性な19〜25ヌクレオチドRNA分子にプロセシングされ得る。この活性な19〜25ヌクレオチドRNA分子はまた、「プロセシング済」miR遺伝子転写物または「成熟」miRNAとも呼ばれる。本明細書において使用される「miR」という用語は、成熟miR、pre−miR、pri−miR、またはmiR種配列を含む、miR−オリゴヌクレオチドの1つもしくは複数を含み得ることを理解されたい。ある特定の実施形態において、様々なmiR核酸の混合物もまた使用することができる。また、ある特定の実施形態において、該miRは、送達を高めるように修飾され得る。
【0068】
miRNA(miR)情報は、http:/microrna.sanger.ac.uk/sequences/でmiRNAのレジストリを維持しているSanger Instituteから入手可能である。miRBase Sequenceデータベースは、ヌクレオチド配列および様々な源から発行されたmiRNAの注釈を含む。miRBase Registryは、発行前に、新規miRNAの従来の命名法に適合する、新規なmiRNA遺伝子に対する一意の名称を提供する。また、miRBase Targetsは、動物における前提となるmiRNA標的の源である。
【0069】
活性な19〜25ヌクレオチドRNA分子は、(例えば、無傷細胞または細胞溶解物を使用して)自然プロセシング経路を介して、または、(例えば、単離Dicer、Argonaut、もしくはRNAase III等の単離プロセシング酵素を使用して)合成プロセシング経路によりmiR前駆体から得ることができる。活性な19〜25ヌクレオチドRNA分子はまた、miR前駆体からプロセシングされることなく、生物学的または化学的合成により直接生成することができることを理解されたい。
【0070】
本発明は、対象が癌を有している、または発病する危険性があるかどうかを診断する方法を包含し、該方法は対象からの試験試料中の少なくとも1つのmiRのレベルを測定するステップと、試験試料中のmiRのレベルを、対照試料中の対応するmiRのレベルと比較するステップとを含む。本明細書において使用される「対象」は、乳癌を有する、または有する疑いのある任意の哺乳動物であり得る。具体的な実施形態において、該対象は、癌を有する、または有する疑いのあるヒトである。
【0071】
少なくとも1つのmiRのレベルは、対象から得られる生物学的試料の細胞において測定することができる。例えば、従来の生検技術により、関連した卵巣癌を有する疑いのある対象から、組織試料を取り出すことができる。別の実施例において、対象から血液試料を取り出すことができ、標準的技術により、DNA抽出のために白血球を単離することができる。血液または組織試料は、放射線治療、化学治療またはその他の治療処置の前に対象から得ることが好ましい。対応する対照組織または血液試料は、対照の非罹患組織から、正常なヒト個人もしくは正常個人の集団から、または対象の試料中の大多数の細胞に対応する培養細胞から得ることができる。次いで、対象の試料からの細胞中の所与のmiR遺伝子から生成されたmiRのレベルを対照試料の細胞からの対応するmiRレベルと比較することができるように、対照組織または血液試料を対象からの試料とともに処理することができる。
【0072】
対照試料中の対応するmiRのレベルと相対的な、対象から得られた試料中のmiRのレベルの変化(すなわち増加または減少)は、対象の癌の存在を示している。一実施形態において、試験試料中の該少なくとも1つのmiRのレベルは、対照試料中の対応するmiRのレベルより高い(すなわち、miRの発現が「上方制御」されている)。本明細書において使用されるように、対象からの細胞試料または組織試料中のmiRの量が対照細胞または対照組織試料中のmiRの量よりも多い場合、miRの発現は「上方制御」されている。別の実施形態において、試験試料中の少なくとも1つのmiRのレベルは、対照試料中の対応するmiRのレベルより低い(すなわち、miRの発現が「下方制御」されている)。本明細書において使用されるように、対象からの細胞または組織試料中の遺伝子から生成されたmiRの量が対照細胞または組織試料中の同じ遺伝子から生成された量よりも少ない場合、miR遺伝子の発現は「下方制御」されている。対照および正常試料中の相対的miR遺伝子発現は、1つもしくは複数のRNA発現標準に対して決定することができる。該標準は、例えば、ゼロmiR遺伝子発現レベル、標準細胞株中のmiR遺伝子発現レベル、または正常ヒト対照の集団に対して事前に得られているmiR遺伝子発現の平均レベルを含み得る。
【0073】
試料中のmiRのレベルは、生物学的試料のRNA発現レベルを検出するための好適な任意の技術を使用して測定することができる。生物学的試料からの細胞中のRNA発現レベルを決定するための好適な技術(例えば、ノーザンブロット分析、RT−PCR、in situハイブリダイゼーション等)は、当業者には周知である。具体的な実施形態において、少なくとも1つのmiRのレベルは、ノーザンブロット分析を使用して検出される。例えば、全細胞RNAは、核酸抽出緩衝液の存在下での均質化、次いで遠心分離により細胞から精製することができる。核酸は沈殿し、DNaseでの処理および沈降法によりDNAが除去される。次いで、RNA分子は、標準的技法に従いアガロースゲル上でのゲル電気泳動により分離され、ニトロセルロースフィルタに移される。次いでRNAは、加熱によりフィルタ上に固定される。特定のRNAの検出および定量化は、問題のRNAと相補的な、適切に標識化されたDNAまたはRNAプローブを使用して達成される。例えば、参照することによりその全開示内容が組み込まれる、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, J. Sambrook et al., eds., 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989, Chapter 7を参照されたい。
【0074】
所与のmiRのノーザンブロットハイブリダイゼーションに好適なプローブは、所与のmiRの核酸配列から生成することができる。標識化DNAおよびRNAプローブの調整、ならびにそれらの標的ヌクレオチド配列へのハイブリダイゼーションの条件は、参照によりその開示内容が本明細書に組み込まれる、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, J. Sambrook et al., eds., 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989, Chapters 10 and 11に記載されている。
【0075】
例として、核酸プローブは、例えばH、32P、33P、14C、もしくは35S等の放射性核種、重金属、または、標識化されたリガンド(例えば、ビオチン、アビジンまたは抗体)、蛍光分子、化学発光分子、酵素等に対する特定の結合対メンバーとして機能することができるリガンドで標識化することができる。
【0076】
プローブは、参照することによりその全開示内容が本明細書に組み込まれる、Rigbyet al. (1977), J. MoI. Biol. 113:237−251のニックトランスレーション法により、またはFienberg et al. (1983), Anal. Biochem. 132:6−13のランダムプライミング法により、高い比活性度まで標識化することができる。後者は、一本鎖DNAまたはRNA鋳型からの高い比活性度の32P標識化プローブの合成に最適な方法である。例えば、ニックトランスレーション法によって、事前に存在するヌクレオチドを高放射性ヌクレオチドと置き換えることにより、10cpm/マイクログラムを優に超える比活性度を有する32P標識化核酸を調製することができる。
次いで、ハイブリダイズしたフィルターを写真用フィルムに露光することにより、ハイブリダイゼーションのオートラジオグラフィー検出を行うことができる。ハイブリダイズされたフィルタで露光された写真用フィルムのデンシトメトリックスキャンにより、 miR遺伝子転写レベルの正確な測定を行うことができる。別の手法を用いて、コンピュータ画像化システム、例えばAmersham Biosciences社(Piscataway、NJ)から入手可能なMolecular Dynamics 400−B 2D Phosphorimagerにより、miR遺伝子レベルを定量化することができる。
【0077】
DNAまたはRNAプローブの放射性核種標識化が実用的でない場合、ランダムプライマー法を使用して、類似体、例えばdTTP類似体5−(N−(N−ビオチニル−ε−アミノカプロイル)−3−アミノアリル)デオキシウリジン三リン酸を、プローブ分子に組み込むことができる。ビオチニル化プローブオリゴヌクレオチドは、蛍光染料または呈色反応を生成する酵素に結合したアビジン、ストレプトアビジン、および抗体(例えば抗ビオチン抗体)等のビオチン結合タンパク質との反応により検出することができる。
【0078】
ノーザン法およびその他のRNAハイブリダイゼーション技術に加えて、in situハイブリダイゼーションの技術を使用してRNA転写のレベルの決定を達成することができる。この技術は、ノーザンブロッティング技術よりも必要とする細胞が少なく、顕微鏡カバースリップ上に全細胞を堆積させること、および放射性またはその他の標識化された核酸(例えばcDNAまたはRNA)プローブを含有する溶液で、細胞の核酸成分をプローブすることを含む。この技術は、対象からの組織生検試料の分析に特に適している。in situハイブリダイゼーション技術の実践は、参照によりその全開示内容が本明細書に組み込まれる米国特許第5,427,916号により詳細に記載されている。所与のmiRのin situハイブリダイゼーションに好適なプローブは、核酸配列から生成することができる。
【0079】
また、miR遺伝子転写物の逆転写、次いでポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)による逆転写された転写物の増幅により、細胞中のmiR遺伝子転写物の相対数を決定することができる。miR遺伝子転写物のレベルは、内標準物質、例えば同じ試料に存在する「ハウスキーピング」遺伝子からのmRNAのレベルと比較して定量化することができる。内標準物質としての使用に好適な「ハウスキーピング」遺伝子は、例えば、ミオシンまたはグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(G3PDH)を含む。定量的RT−PCRのための諸方法およびそれらの変化形は、当技術分野の範囲内である。
【0080】
いくつかの場合において、試料中の複数の異なるmiRの発現レベルを同時に決定することが望ましい場合がある。別の場合において、癌と相関するすべての既知のmiR遺伝子の転写物の発現レベルを決定することが望ましい場合がある。何百ものmiR遺伝子の癌特異的発現レベルを評価することは、時間がかかり、また大量の全RNA(各ノーザンブロットに対し少なくとも20μg)、および放射性同位体が必要なオートラジオグラフィー技術を必要とする。
【0081】
これらの制限を克服するために、1組のmiR遺伝子に特異的な1組のプローブオリゴデオキシヌクレオチドを含有するマイクロチップ形式(すなわちマイクロアレイ)のオリゴライブラリを構築することができる。そのようなマイクロアレイを使用して、RNAを逆転写して1組の標的オリゴデオキシヌクレオチドを生成し、それらをマイクロアレイ上のプローブオリゴデオキシヌクレオチドにハイブリダイズさせてハイブリダイゼーションまたは発現プロファイルを生成することにより、生物学的試料中の複数のマイクロRNAの発現レベルを決定することができる。次いで、試験試料のハイブリダイゼーションプロファイルを対照試料のハイブリダイゼーションプロファイルと比較して、どのマイクロRNAが癌における変化した発現レベルを有するかを決定することができる。
【0082】
本明細書で使用される場合、「プローブオリゴヌクレオチド」または「プローブオリゴデオキシヌクレオチド」は、標的オリゴヌクレオチドにハイブリダイズすることができるオリゴヌクレオチドを指す。
【0083】
「標的オリゴヌクレオチド」または「標的オリゴデオキシヌクレオチド」は、(例えばハイブリダイゼーションにより)検出されるべき分子を指す。
【0084】
「miR特異的プローブオリゴヌクレオチド」または「miRに特異的なプローブオリゴヌクレオチド」は、特定のmiRにハイブリダイズする、または特定のmiRの逆転写物にハイブリダイズするように選択される配列を有するプローブオリゴヌクレオチドを意味する。
【0085】
特定の試料の「発現プロファイル」または「ハイブリダイゼーションプロファイル」は、本質的に試料の状態のフィンガープリントであり、2つの状態が同様に発現した任意の特定遺伝子を有し得るが、いくつかの遺伝子の評価は、同時に、細胞の状態に一意の遺伝子発現プロファイルの生成を可能とする。すなわち、正常細胞を癌細胞から区別することができ、癌細胞内で、異なる予後状態(良好または不良な長期的生存の見通し)を決定することができる。異なる状態の癌細胞の発現プロファイルを比較することにより、これらの状態のそれぞれにおいてどの遺伝子が重要か(遺伝子の上方および下方制御の両方を含む)に関する情報が得られる。
【0086】
異なる予後結果となる差次的発現と同様に、癌細胞または正常細胞中に特異的に発現した配列の同定により、この情報をさまざまな様式で使用することができる。例として、(例えば化学療法薬が特定の患者において長期予後を改善するように作用するかどうかを決定するために)特定の治療計画を評価することができる。
同様に、患者試料を既知の発現プロファイルと比較することにより、診断を行う、または確認することができる。さらに、これらの遺伝子発現プロファイル(または個々の遺伝子)により、癌発現プロファイルを抑制する、または不良予後プロファイルをより良好な予後プロファイルに変換する薬剤候補をスクリーニングすることができる。
【0087】
したがって、本発明は、対象が癌を有している、または発病する危険性があるかどうかを診断する方法を提供し、該方法は、対象から得られた試験試料からのRNAを逆転写して、1組の標的オリゴデオキシヌクレオチドを提供するステップと、該標的オリゴデオキシヌクレオチドを、miRNA特異的プローブオリゴヌクレオチドを含むマイクロアレイにハイブリダイズさせて、試験試料のハイブリダイゼーションプロファイルを提供するステップと、該試験試料のハイブリダイゼーションプロファイルを、対照試料から生成されたハイブリダイゼーションプロファイルと比較するステップとを含み、少なくとも1つのmiRNAの信号の変化は、対象が癌を有している、または発病する危険性があることを示している。
【0088】
一実施形態において、該マイクロアレイは、ヒトmiRNomeの実質的部分に対するmiRNA特異的プローブオリゴヌクレオチドを含む。
【0089】
該マイクロアレイは、既知のmiRNA配列から生成された遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプローブから調製することができる。該アレイは、各miRNAに対し、1つは活性な成熟配列を含有し、他方はmiRNAの前駆体に特異的である、2つの異なるオリゴヌクレオチドプローブを含有してもよく、該アレイはまた、ハイブリダイゼーションの厳密性条件のための対照として機能し得る対照、例えばヒト相同分子種と数塩基分しか違わない1つもしくは複数のマウス配列を含有してもよい。また、両方の種からのtRNAをマイクロチップ上にプリントし、特定のハイブリダイゼーションの、内部の比較的安定な陽性対照を提供することができる。また、非特異的ハイブリダイゼーションの1つもしくは複数の適切な対照をマイクロチップ上に含めてもよい。この目的のために、配列は、任意の既知のmiRNAとのいかなるホモロジーも存在しないことを基準として選択される。
【0090】
該マイクロアレイは、当技術分野で知られた技術を使用して製造することができる。例として、適切な長さ、例えば40ヌクレオチドのプローブオリゴヌクレオチドは、C6位で5’−アミン改質され、市販のマイクロアレイシステム、例えばGeneMachine OmniGrid(商標)100 MicroarrayerおよびAmersham CodeLink(商標)活性化スライド等を使用してプリントされる。標的RNAに対応する標識化cDNAオリゴマーは、標的RNAを標識化プライマーで逆転写することにより調製される。第1の鎖合成の後、RNA/DNAハイブリッドは、変性してRNA鋳型を分解する。次いで、このように調製された標識化標的cDNAは、例えば6X SSPE/30%ホルムアミドで25℃で18時間、次いで0.75X TNT中37℃で40分洗浄等のハイブリダイズ条件下で、マイクロアレイチップにハイブリダイズされる。固定されたプローブDNAが試料中の相補的標的cDNAを認識するアレイ上の部分で、ハイブリダイゼーションが生じる。標識化標的cDNAは、アレイ上の結合が生じる正確な位置をマークし、自動検出および定量化を可能とする。出力は、ハイブリダイゼーションイベントのリストからなり、特定のcDNA配列の相対存在量を示し、したがって患者試料中の対応する相補的miRの相対存在量を示す。一実施形態によれば、該標識化cDNAオリゴマーは、ビオチン標識化プライマーから調製されたビオチン標識化cDNAである。次いで、該マイクロアレイは、例えばStreptavidin−Alexa647複合体を使用したビオチン含有転写物の直接検出により処理され、従来のスキャン方法を利用してスキャンされる。該アレイ上の各スポットの画像強度は、患者試料中の対応するmiRの存在量に比例する。
【0091】
該アレイの使用は、miRNA発現検出にとっていくつかの利点を有する。第1に、1時点で同じ試料から数百遺伝子の広範囲の発現を同定することができる。第2に、オリゴヌクレオチドの慎重な設計により、成熟分子および前駆体分子の両方の発現を同定することができる。第3に、ノーザンブロット分析と比較して、チップは少量のRNAを必要とし、2.5μgの全RNAを使用して再現可能な結果を提供する。比較的限られた数のmiRNA(種毎に数百個)により、それぞれの種に対し異なるオリゴヌクレオチドプローブを備える、いくつかの種に共通のマイクロアレイの構築が可能となる。そのようなツールは、様々な条件下での、それぞれの既知のmiRに対する種を超えた発現の分析を可能とする。
【0092】
特定のmiRの定量的発現レベル検定の使用に加え、miRNomeの実質的部分に対応する、好ましくはmiRNome全体に対応するmiRNA特異的プローブオリゴヌクレオチドを含有するマイクロチップを使用して、miR発現パターンの分析のために、miR遺伝子発現プロファイリングを行うことができる。異なるmiRシグネチャーは、確立された疾患マーカーと関連付けることができ、または直接疾患状態に関連付けることができる。
【0093】
本明細書に記載される発現プロファイリング法によれば、癌を有する疑いのある対象の試料からの全RNAは、定量的に逆転写されて、試料中のRNAに相補的な1組の標識化標的オリゴデオキシヌクレオチドを提供する。次いで、標的オリゴデオキシヌクレオチドは、miRNA特異的プローブオリゴヌクレオチドを含むマイクロアレイにハイブリダイズされ、試料のハイブリダイゼーションプロファイルを提供する。その結果、試料中のmiRNAの発現パターンを表す、試料のハイブリダイゼーションプロファイルが得られる。該ハイブリダイゼーションプロファイルは、試料からの標的オリゴデオキシヌクレオチドの、マイクロアレイ中のmiRNA特異的プローブオリゴヌクレオチドに対する結合からの信号を含む。該プロファイルは、結合の存在または不在(信号対ゼロ信号)として記録され得る。より好適には、記録されるプロファイルは、各ハイブリダイゼーションからの信号の強度を含む。該プロファイルは、正常、すなわち非癌性の対照試料から生成されたハイブリダイゼーションプロファイルと比較される。信号の変化は、対象における癌の存在を示している。
【0094】
miR遺伝子発現を測定するためのその他の技術もまた、当技術分野の範囲内であり、RNA転写および分解の割合を測定するための様々な技術が含まれる。
【0095】
本発明はまた、1つもしくは複数の予後診断マーカーに関連した癌を診断する方法を提供し、該方法は、対象からの癌試験試料中の少なくとも1つのmiRのレベルを測定するステップと、癌試験試料中の該少なくとも1つのmiRのレベルを、対照試料中の対応するmiRのレベルと比較するステップとを含む。対照試料と相対的な試験試料中の少なくとも1つのmiRNAの信号の変化(例えば、増加、減少等)は、対象が1つもしくは複数の予後診断マーカーに関連した癌を有している、または発病する危険性があることを示している。
【0096】
該癌は、悪い(すなわち不良な)予後に関連したマーカー、または良い(すなわち良好な)予後に関連したマーカーを含む、1つもしくは複数の予後診断マーカーまたは特性と関連し得る。ある特定の実施形態において、本明細書に記載される方法を使用して診断される癌は、1つもしくは複数の悪い予後特性と関連する。
【0097】
これらの予後診断マーカーのそれぞれと関連した癌細胞において発現が変化した特定のマイクロRNAが、本明細書に記載される。一実施形態において、該少なくとも1つのmiRのレベルは、対象から得られた試験試料からのRNAを逆転写して、1組の標的オリゴデオキシヌクレオチドを提供し、標的オリゴデオキシヌクレオチドを、miRNA特異的プローブオリゴヌクレオチドを含むマイクロアレイにハイブリダイズさせて、試験試料のハイブリダイゼーションプロファイルを提供し、試験試料のハイブリダイゼーションプロファイルを、対照試料から生成されたハイブリダイゼーションプロファイルと比較することにより測定される。
【0098】
いかなる一理論にも束縛されることを望まないが、細胞内の1つもしくは複数のmiRのレベルの変化が、これらのmiRの1つもしくは複数の意図される標的の脱制御をもたらす可能性があり、よって癌の形成へとつながり得ると考えられる。
【0099】
したがって、(例えば、CLL細胞において上方制御されたmiRのレベルを低下させることにより、または癌細胞において下方制御されたmiRのレベルを増加させることにより)miRのレベルを変化させることは、癌の治療を成功させる可能性がある。癌細胞において脱制御されるmiRNAの推定遺伝子の標的の例が、本明細書に記載される。
【0100】
したがって、本発明は、対象における癌を治療する方法を包含し、少なくとも1つのmiRは、対象の癌細胞において脱制御(例えば下方制御、上方制御等)されている。該少なくとも1つの単離miRが癌細胞において下方制御されている場合、該方法は、対象の癌細胞の増殖が阻害されるように、有効量の該少なくとも1つの単離miRを投与するステップを含む。該少なくとも1つの単離miRが癌細胞において上方制御されている場合、該方法は、癌細胞の増殖が阻害されるように、有効量の該少なくとも1つのmiR遺伝子の発現を阻害するための化合物(本明細書においてはmiR遺伝子発現阻害化合物と呼ばれる)を対象に投与するステップを含む。
【0101】
「治療する」、「治療すること」および「治療」という用語は、本明細書で使用される場合、例えば癌などの疾患または病状に関連した症状を改善することを指し、疾患症状の発症を予防もしくは遅延させること、および/または疾患もしくは病状の症状の重症度もしくは頻度を低下させることを含む。本明細書において、「対象」および「個人」という用語は、哺乳動物等の動物を含むように定義され、霊長類、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、ラット、ネズミ、またはその他のウシ科、ヒツジ科、ウマ科、イヌ科、ネコ科、げっ歯類、もしくはネズミ科の種を含む。好ましい実施形態において、該動物は、ヒトである。
【0102】
本明細書において使用される場合、単離miRの「有効量」は、癌に罹患した対象における癌細胞の増殖を阻害するのに十分な量である。当業者は、対象の大きさおよび体重、疾患の浸透度、対象の年齢、健康および性別、投与経路、ならびに投与が局所性か全身性か等の因子を考慮することにより、所与の対象に投与されるべきmiRの有効量を容易に決定することができる。
【0103】
例えば、単離miRの有効量は、治療される対象の近似的または推定体重に基づくことができる。そのような有効量は、本明細書に記載のように、非経口または経腸的に投与されることが好ましい。例えば、対象に投与される単離miRの有効量は、約5〜3000マイクログラム/体重kgの範囲であるか、約700〜1000マイクログラム/体重kgの範囲であるか、または約1000マイクログラム/体重kgを超えることができる。
【0104】
また、当業者は、所与の対象への単離miRの投与に適切な投薬計画を容易に決定することができる。例えば、miRは、(例えば、単回投与または単回沈着等として)対象に1回投与することができる。代替として、miRは、約3日間から約28日間、より具体的には約7日間から約10日間、対象に1日1回または2回投与することができる。具体的な投薬計画において、miRは、7日間、1日1回投与される。投薬計画が複数の投与を含む場合、対象に投与されるmiRの有効量は、全投薬計画にわたり投与されるmiRの総量を含み得ることが理解される。
【0105】
本明細書において使用される「単離」miRは、人間の介入により合成された、もしくは自然の状態から変化した、もしくは除去されたものである。例えば、合成miR、またはその自然の状態の共存物質から部分的または完全に分離されたmiRが、「単離」されたとみなされる。単離miRは、実質的に精製された形態で存在し得るか、またはmiRが送達されている細胞に存在し得る。したがって、細胞に意図的に送達された、または細胞中に発現したmiRが、「単離」miRとみなされる。miR前駆体分子から細胞内で生成されたmiRもまた、「単離」された分子とみなされる。
【0106】
単離miRは、いくつかの標準的技術を使用して得ることができる。例えば、該miRは、当技術分野において知られた方法を使用して化学的に合成または組み換えにより生成することができる。一実施形態において、miRは、適切に保護されたリボヌクレオシドホスホロアミダイトおよび従来のDNA/RNA合成装置を使用して化学的に合成される。合成RNA分子または合成試薬の販売供給業者は、例えば、Proligo社(Hamburg、Germany)、Dharmacon Research社(Lafayette、CO、U.S.A.)、Pierce Chemical社(Perbio Science社の一部、Rockford、IL、U.S.A.)、Glen Research社(Sterling、VA、U.S.A.)、ChemGenes社(Ashland、MA、U.S.A.)およびCruachem社(Glasgow、UK)を含む。
【0107】
代替として、該miRは、任意の好適なプロモーターを使用して、組み換え環状または線状DNAプラスミドから発現させることができる。プラスミドからのRNAの発現に好適なプロモーターは、例えば、U6もしくはHl RNA pol IIIプロモーター配列、またはサイトメガロウイルスプロモーターを含む。その他の好適なプロモーターの選択は、当技術分野の範囲内である。本発明の組み換えプラスミドはまた、癌細胞内の該miRの発現のための誘導プロモーターまたは制御可能なプロモーターを含むことができる。
【0108】
組み換えプラスミドから発現した該miRは、標準的技術により、培養細胞発現系から単離することができる。組み替えプラスミドから発現させた該miRはまた、癌細胞に送達することができ、また癌細胞中で直接発現させることができる。癌細胞に該miRを送達するための組み換えプラスミドの使用は、以下でより詳細に説明する。
【0109】
該miRは、別個の組み換えプラスミドから発現させることができ、または同じ組み換えプラスミドから発現させることができる。一実施形態において、該miRは、単一プラスミドからのRNA前駆体分子として発現され、癌細胞内に既存のプロセシングシステムを含むがこれらに限定されない好適なプロセシングシステムにより、前駆体分子が機能的miRにプロセシングされる。その他の好適なプロセシングシステムは、例えば、in vitroショウジョウバエ細胞溶解物システム(例えば、参照によりその全開示内容が本明細書に組み込まれる、Tuschlらによる米国特許公開第2002/0086356号に記載のもの等)および大腸菌RNAse IIIシステム(例えば、参照によりその全開示内容が本明細書に組み込まれる、Yangらによる米国特許公開第2004/0014113号に記載のもの等)を含む。
【0110】
該miRの発現に好適なプラスミドの選択、該miRを発現させるために該プラスミドに核酸配列を挿入するための方法、および組み替えプラスミドを対象となる細胞に送達する方法の選択は、当技術分野の範囲内である。例えば、参照によりその全開示内容が本明細書に組み込まれる、Zeng et al. (2002), Molecular Cell 9:1327−1333; Tuschl (2002), Nat. Biotechnol, 20:446−448; Brummelkamp et al. (2002), Science 296:550−553; Miyagishi et al. (2002), Nat. Biotechnol. 20:497−500; Paddison et al. (2002), Genes Dev. 16:948−958; Lee et al. (2002), Nat. Biotechnol. 20:500−505;およびPaul et al. (2002), Nat. Biotechnol. 20:505−508を参照されたい。
【0111】
一実施形態において、該miRを発現するプラスミドは、CMV中間体早期プロモーターの制御下でmiR前駆体RNAをコード化する配列を含む。本明細書において使用される、プロモーターの「制御下」とは、プロモーターがmiRコード配列の転写を開始することができるように、miRをコード化する核酸配列がプロモーターの3’に位置することを意味する。
【0112】
該miRはまた、組み換えウイルスベクターから発現させることもできる。該miRは、2つの別個の組み換えウイルスベクターから、または同じウイルスベクターから発現させることができることが企図される。該組み換えウイルスベクターから発現したRNAは、標準的技術を使用して培養細胞発現系から単離することができ、または、癌細胞中に直接発現させることができる。癌細胞に該miRを送達するための組み換えウイルスベクターの使用は、以下でより詳細に説明する。
【0113】
本発明の組み換えウイルスベクターは、該miRをコード化する配列、および該RNA配列を発現させるための任意の好適なプロモーターを含む。好適なプロモーターは、例えば、U6もしくはHl RNA pol IIIプロモーター配列、またはサイトメガロウイルスプロモーターを含む。その他の好適なプロモーターの選択は、当技術分野の範囲内である。本発明の組み換えウイルスベクターはまた、癌細胞内の該miRの発現のための誘導プロモーターまたは制御可能なプロモーターを含むことができる。
【0114】
該miRのコード配列を受容することができる任意のウイルスベクター、例えば、アデノウイルス(AV)由来のベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス(例えばレンチウイルス(LV)、ラブドウイルス、マウス白血病ウイルス等)、ヘルペスウイルス等を使用することができる。ウイルスベクターの指向性は、外膜タンパク質もしくはその他のウイルスからのその他の表面抗原によるベクターの偽型化により、または異なるウイルスカプシドタンパク質を置換することにより、必要に応じて変更することができる。
【0115】
例えば、本発明のレンチウイルスベクターは、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、狂犬病、エボラ、モコラ等からの表面タンパク質で偽型化され得る。本発明のAAVベクターは、異なるカプシドタンパク質血清型を発現するように該ベクターを操作することにより、異なる細胞を標的とするように作製できる。例えば、血清型2ゲノムに血清型2カプシドを発現するAAVベクターは、AAV2/2と呼ばれる。AAV2/2ベクターにおける血清型2カプシド遺伝子は、血清型5カプシド遺伝子により置き換えられ、AAV 2/5ベクターを生成し得る。異なるカプシドタンパク質血清型を発現するAAVベクターを構築するための技術は、当技術分野の範囲内であり、例えば、参照によりその全開示内容が本明細書に組み込まれる、Rabinowitz, J.E., et al. (2002), J. Virol. 76:791−801を参照されたい。
【0116】
本発明における使用に好適な組み換えウイルスベクターの選択、RNAを発現させるために核酸配列を該ベクターに挿入するための方法、該ウイルスベクターを対象となる細胞に送達するための方法、および発現したRNA生成物の回収は、当技術分野の範囲内である。例えば、参照することによりその全開示内容が本明細書に組み込まれる、Dornburg (1995), Gene Therap. 2:301−310; Eglitis (1988), Biotechniques 6:608−614; Miller (1990), Hum. Gene Therap. 1:5−14;およびAnderson (1998), Nature 392:25−30を参照されたい。
【0117】
特に好適なウイルスベクターは、AVおよびAAVから得られるものである。該miRを発現させるための好適なAVベクター、組み換えAVベクターを構築するための方法、および該ベクターを標的細胞に送達するための方法は、参照によりその全開示内容が本明細書に組み込まれる、Xia et al. (2002), Nat. Biotech. 20:1006−1010に記載されている。該miRを表現させるための好適なAAVベクター、組み換えAAVベクターを構築するための方法、該ベクターを標的細胞に送達するための方法は、参照によりその全開示内容が本明細書に組み込まれる、Samulski et al. (1987), J. Virol. 61:3096−3101; Fisher et al. (1996), J. Virol, 70:520−532; Samulski et al. (1989), J. Virol. 63:3822−3826;米国特許第5,252,479号;米国特許第5,139,941号;国際特許出願第WO94/13788号;および国際特許出願第WO93/24641号に記載されている。一実施例において、該miRは、CMV中間体早期プロモーターを含む単一組み換えAAVベクターから発現される。
【0118】
ある特定の実施形態において、本発明の組み換えAAVウイルスベクターは、ヒトU6RNAプロモーターの制御下でポリT終止配列と操作可能に接続したmiR前駆体RNAをコード化する核酸配列を含む。本明細書で使用される、「ポリT終止配列と操作可能に接続した」とは、センスまたはアンチセンス鎖をコード化する核酸配列が5’方向のポリT終止シグナルのすぐ隣にあることを意味する。該ベクターからの該miRの配列の転写中、ポリT終止シグナルは、転写を終止するように機能する。
【0119】
本発明の治療方法の他の実施形態において、miR発現を阻害する有効量少なくとも1種の化合物を対象に投与することもできる。本明細書において使用される、「miR発現を阻害する」とは、治療後の活性な成熟した形態のmiRの生成が、治療前に生成された量より少ないことを意味する。当業者は、例えば、診断方法に関して上述したmiR転写レベルを決定するための技術を使用して、癌細胞においてmiR発現が阻害されているかどうかを容易に決定することができる。阻害は、遺伝子発現のレベルで(すなわち、miRをコード化するmiR遺伝子の転写を阻害することにより)、またはプロセシングのレベルで(すなわち、miR前駆体の成熟した活性なmiRへのプロセシングを阻害することにより)生じ得る。
【0120】
本明細書において使用される場合、miR発現を阻害する化合物の「有効量」は、癌関連染色体特性に関連した癌を患う対象における癌細胞の増殖を阻害するのに十分な量である。当業者は、対象の大きさおよび体重、疾患の浸透度、対象の年齢、健康および性別、投与経路、ならびに投与が局所性か全身性か等の因子を考慮することにより、所与の対象に投与されるべきmiR発現阻害化合物の有効量を容易に決定することができる。
【0121】
例えば、発現阻害化合物の有効量は、治療される対象の近似的または推定体重に基づくことができる。そのような有効量は、本明細書に記載のように、とりわけ非経口または経腸的に投与される。例えば、対象に投与される発現阻害化合物の有効量は、約5〜3000マイクログラム/体重kgの範囲であるか、約700〜1000マイクログラム/体重kgの範囲であるか、または約1000マイクログラム/体重kgを超えることができる。
【0122】
また、当業者は、所与の対象へmiR発現を阻害する化合物を投与するのに適切な投薬計画を容易に決定することができる。例えば、発現阻害化合物は、(例えば、単回投与または単回沈着等として)対象に1回投与することができる。代替として、発現阻害化合物は、約3日間から約28日間、より好ましくは約7日間から約10日間、対象に1日1回または2回投与することができる。具体的な投薬計画において、発現阻害化合物は、7日間、1日1回投与される。投薬計画が複数の投与を含む場合、対象に投与される発現阻害化合物の有効量は、全投薬計画にわたり投与される化合物の総量を含み得ることが理解される。
【0123】
miR遺伝子発現を阻害するための好適な化合物は、二本鎖RNA(例えば、低分子もしくは小分子の干渉RNAつまり「siRNA」等)、アンチセンス核酸、およびリボザイム等の酵素RNA分子を含む。これらの化合物のそれぞれは、所与のmiRに標的化され、標的miRを破壊する、または、標的miRの破壊を誘引することができる。
【0124】
例えば、所与のmiR遺伝子の発現は、該miRの少なくとも一部と、少なくとも90%、例えば少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の配列ホモロジーを有する、単離二本RNA(「dsRNA」)分子によるmiR遺伝子のRNA干渉を誘引することにより阻害され得る。具体的な実施形態において、該dsRNA分子は、「低分子もしくは小分子の干渉RNA」つまり「siRNA」である。
【0125】
本発明の方法において有用なsiRNAは、約17ヌクレオチドから約29ヌクレオチドの長さの、好ましくは約19から約25ヌクレオチドの長さの、低分子二本鎖RNAを含む。該siRNAは、標準的なワトソン−クリック塩基対相互作用により互いにアニールされた(以降「塩基対化された」)、センスRNA鎖および相補的なアンチセンスRNA鎖を含む。該センス鎖は、標的miR内に含有される核酸配列と実質的に同一の核酸配列を含む。
【0126】
本明細書において使用される場合、標的mRNA内に含有される標的配列と「実質的に同一の」siRNA中の核酸配列は、該標的配列と同一の、または1つもしくは2つの核酸だけ該標的配列と異なる核酸配列である。該siRNAのセンス鎖およびアンチセンス鎖は、2つの相補的な一本鎖RNA分子を含み得るか、または2つの相補的部分が塩基対化され、一本鎖「ヘアピン」領域により共有結合している単一分子を含み得る。
【0127】
該siRNAはまた、1つもしくは複数のヌクレオチドの追加、削除、置換および/または改変により、自然発生RNAとは異なる改変RNAであってもよい。そのような改変は、該siRNAの末端(複数を含む)もしくは該siRNAの1つもしくは複数の内部ヌクレオチド等への非ヌクレオチド物質の追加、または該siRNAをヌクレアーゼ分解に耐性化させる改質、または該siRNA内の1つもしくは複数のヌクレオチドのデオキシリボヌクレオチドとの置換を含み得る。
【0128】
また、該siRNAの1つまたは両方の鎖は、3’オーバーハングを含んでもよい。本明細書において使用される「3’オーバーハング」は、二本のRNA鎖の3’−末端から延長した少なくとも1つの不対ヌクレオチドを指す。したがって、ある特定の実施形態において、該siRNAは、1から約6ヌクレオチド(リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドを含む)の長さ、1から約5ヌクレオチドの長さ、1から約4ヌクレオチドの長さ、または約2から約4ヌクレオチドの長さの少なくとも1つの3’オーバーハングを含む。ある特定の実施形態において、該siRNAの両方の鎖に3’オーバーハングが存在し、2ヌクレオチドの長さである。例えば、該siRNAの各鎖は、ジチミジル酸(「TT」)またはジウリジル酸(「uu」)の3’オーバーハングを含み得る。
【0129】
該siRNAは、化学的もしくは生物学的に生成することができ、または単離miRに関して上述したように、組み換えプラスミドもしくはウイルスベクターから発現させることができる。dsRNAまたはsiRNA分子を生成および試験するための例示的方法は、参照によりその全開示内容が本明細書に組み込まれる、Gewirtzによる米国特許出願公開第2002/0173478号、およびReichらによる米国特許出願公開第2004/0018176号に記載されている。
【0130】
また、所与のmiR遺伝子の発現は、アンチセンス核酸により阻害され得る。本明細書において使用される「アンチセンス核酸」は、標的RNAの活性を改変する、RNA−RNAまたはRNA−DNAまたはRNA−ペプチド核酸相互作用により標的RNAに結合する核酸分子を指す。本発明の方法における使用に好適なアンチセンス核酸は、一般にmiR中の連続核酸配列と相補的な核酸配列を含む一本鎖核酸(例えばRNA、DNA、RNA−DNAキメラ、PNA等)である。アンチセンス核酸は、miR中の連続核酸配列と50〜100%相補的、75〜100%相補的、または95〜100%相補的な核酸配列を含み得る。該miRの核酸配列は、本明細書に提供される。いかなる理論にも束縛されることを望まないが、アンチセンス核酸は、miR/アンチセンス核酸二本鎖を分解するRNase Hまたは別の細胞ヌクレアーゼを活性化すると考えられている。
【0131】
また、アンチセンス核酸は、標的特異性、ヌクレアーゼ耐性、送達、または分子の有効性に関連したその他の特性を高めるための、核酸骨格または糖および塩基部分(もしくはそれらの同等物)への改質も含有し得る。そのような改質は、コレステロール部分、アクリジン等の二本鎖インターカレータ(duplex intercalator)、または1つもしくは複数のヌクレアーゼ耐性基を含む。
【0132】
アンチセンス核酸は、化学的もしくは生物学的に生成することができ、または単離miRに関して上述したように、組み換えプラスミドもしくはウイルスベクターから発現させることができる。生成または試験のための例示的な方法は、当技術分野の範囲内であり、例えば、参照によりその全開示内容が本明細書に組み込まれる、Stein and Cheng (1993), Science 261:1004およびWoolf らによる米国特許第5,849,902号を参照されたい。
【0133】
また、所与のmiR遺伝子の発現は、酵素核酸により阻害され得る。本明細書において使用される「酵素核酸」は、miRの連続核酸配列との相補性を有する基質結合領域を含み、miRを特異的に切断することができる核酸を指す。酵素核酸基質結合領域は、例えば、miR中の連続核酸配列と50〜100%相補的、75〜100%相補的、または95〜100%相補的な核酸配列であってもよい。酵素核酸はまた、塩基、糖、および/またはホスフェート基において改質を含むことができる。本発明の方法における使用のための例示的酵素核酸は、リボザイムである。
【0134】
酵素核酸は、化学的もしくは生物学的に生成することができ、または単離miRに関して上述したように、組み換えプラスミドもしくはウイルスベクターから発現させることができる。dsRNAまたはsiRNA分子を生成および試験するための例示的方法は、参照によりその全開示内容が本明細書に組み込まれる、Werner and Uhlenbeck (1995), Nucl. Acids Res. 23:2092−96; Hammann et al. (1999), Antisense and Nucleic Acid Drug Dev. 9:25−31;およびCechらによる米国特許第4,987,071号に記載されている。
【0135】
少なくとも1つのmiR、またはmiR発現を阻害するための少なくとも1つの化合物は、癌関連染色体特性に関連した癌を有する対象の癌細胞の増殖を阻害する。本明細書において使用される「癌細胞の増殖を阻害する」とは、癌細胞を殺す、または癌細胞の増殖を永久もしくは一時的に阻むもしくは遅速化させることを意味する。対象の癌細胞の増殖数が、miRまたはmiR遺伝子発現阻害化合物の投与後に一定を維持した、または減少した場合に、癌細胞の増殖が阻害されたと推断することができる。また、癌細胞の絶対数は増加したが、腫瘍の増殖速度が減少した場合に、癌細胞の増殖が阻害されたと推断することができる。
【0136】
対象の体内の癌細胞の数は、直接測定により、または原発腫瘤もしくは転移性腫瘤の大きさからの推定により決定することができる。例えば、対象における癌細胞の数は、免疫組織学的方法、フローサイトメトリー、または癌細胞の特徴的表面マーカーを検出するように設計されたその他の技術により、測定することができる。
【0137】
miRまたはmiR遺伝子発現阻害化合物は、これらの化合物を対象の癌細胞に送達するのに好適な任意の手段により対象に投与することができる。例えば、miRまたはmiR発現阻害化合物は、これらの化合物、またはこれらの化合物をコード化する配列を含む核酸を対象の細胞に導入するのに好適な方法により投与することができる。一実施形態において、癌細胞には、少なくとも1つのmiRまたはmiR遺伝子発現阻害化合物をコード化するプラスミドまたはウイルスベクトルが導入される。
【0138】
真核細胞に対する導入方法は当技術分野において周知であり、例えば、細胞の核または前核中への核酸の直接注入;電気穿孔法;リポソーム輸送または親油性物質により媒介される輸送;受容体媒介核酸送達、バイオバリスティック(bioballistic)つまり粒子加速;リン酸カルシウム沈殿、およびウイルスベクターにより媒介される導入を含む。
【0139】
例えば、細胞には、リポソーム輸送化合物、例えばDOTAP(N−[1−(2,3−ジオレオイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチル−アンモニウムメチルサルフェート、Boehringer−Mannheim社)またはその等価物、例えばLIPOFECTIN等を導入することができる。使用される核酸の量は、本発明の実践には重要ではないが、0.1〜100マイクログラムの核酸/10細胞で、許容される結果を得ることができる。例えば、10細胞あたりDOTAP3マイクログラム中約0.5マイクログラムのプラスミドベクターの比率を使用することができる。
【0140】
また、miRまたはmiR遺伝子発現阻害化合物は、任意の好適な経腸または非経口投与経路により、対象に投与することができる。本発明の方法に好適な経腸投与経路は、例えば、経口送達、直腸送達、または鼻内送達を含む。好適な非経口投与経路は、例えば、血管内投与(例えば、静脈内ボーラス注射、静脈内注入、動脈内ボーラス注射、動脈内注入、および脈管へのカテーテル点滴等);組織周囲および内部注射(例えば、腫瘍周囲注射および腫瘍内注射、網膜内注射、または網膜下注射);(例えば、浸透圧ポンプによる)皮下注入を含む皮下注射または沈積;例えば、カテーテルまたはその他の留置デバイス(例えば、網膜ペレット(retinal pellet)、または坐薬、または多孔質、非多孔質もしくはゼラチン状材料を含むインプラント)による、対象となる組織への直接適用;ならびに吸入を含む。特に好適な投与経路は、患者への注射、注入および静脈内投与である。
【0141】
本発明の方法において、miRまたはmiR発現阻害化合物は、送達試薬と組み合わせた裸のRNAとして、またはmiRもしくは発現阻害化合物を発現させる配列を含む核酸(例えば、組み換えプラスミドまたはウイルスベクター)として、対象に投与することができる。好適な送達試薬は、例えば、Mirus Transit TKO親油性試薬;リポフェクチン;リポフェクタミン;セルフェクチン;ポリカチオン(例えばポリリシン)、およびリポソームを含む。
【0142】
該miRまたはmiR遺伝子発現阻害化合物を発現させる配列を含む組み換えプラスミドおよびウイルスベクター、ならびにそのようなプラスミドおよびベクターを癌細胞に送達するための技術が、本明細書で説明される。
【0143】
具体的な実施形態において、miRまたはmiR遺伝子発現阻害化合物(またはそれらをコード化する配列を含む核酸)を対象に送達するためにリポソームが使用される。リポソームはまた、sまたは核酸の血液半減期を増加させることができる。本発明における使用に好適なリポソームは、一般に中性または負に帯電したリン脂質およびコレステロール等のステロールを含む、標準的な小胞形成脂質から形成することができる。脂質の選択は、一般に、所望の脂質の大きさおよびリポソームの血液流中の半減期等の因子を考慮することにより導出される。例えば、参照することによりその全開示内容が本明細書に組み込まれる、Szoka et al. (1980), Ann. Rev. Biophys. Bioeng. 9:467;ならびに米国特許第4,235,871号、第4,501,728号、第4,837,028号、および第5,019,369号に記載のように、リポソームを調製するための様々な方法が知られている。
【0144】
本発明の方法における使用のためのリポソームは、リポソームを癌細胞に標的化させる配位子分子を含むことができる。腫瘍細胞抗原に結合するモノクローナル抗体等の、癌細胞に高頻度で見られる受容体に結合する配位子が好ましい。
【0145】
また、本発明の方法における使用のためのリポソームは、単核マクロファージ系(「MMS」)および細網内皮系(「RES」)による一掃を避けるために改質されてもよい。そのような改質リポソームは、表面上にある、またはリポソーム構造に組み込まれたオプソニン化阻害部分を有する。特に好ましい実施形態において、本発明のリポソームは、オプソニン化阻害部分および配位子の両方を備えることができる。
【0146】
本発明のリポソームの調製における使用のためのオプソニン化阻害部分は、典型的には、リポソーム膜に結合した大型の親水性ポリマーである。本明細書において使用される場合、オプソニン化阻害部分は、例えば、脂溶性アンカーの膜自体へのインターカレーションにより、または膜脂質の活性基への直接的な結合により化学的または物理的に膜に結合したとき、リポソーム膜に「結合」する。これらのオプソニン化阻害親水性ポリマーは、例えば、参照によりその全開示内容が本明細書に組み込まれる、米国特許第4,920,016号に記載のように、MMSおよびRESによるリポソームの摂取を大幅に減少させる保護表面層を形成する。
【0147】
リポソームを改質するのに好適なオプソニン化阻害部分は、好ましくは、約500から約40,000ダルトン、より好ましくは約2,000から約20,000ダルトンの数平均分子量を有する、水溶性ポリマーである。そのようなポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)またはポリプロピレングリコール(PPG)誘導体;例えば、メトキシPEGまたはPPG、およびステアリン酸PEGまたはPPG;合成ポリマー、例えば、ポリアクリルアミドまたはポリN−ビニルピロリドン;直鎖、分岐鎖、またはデンドリマー状ポリアミドアミン;ポリアクリル酸;ポリアルコール、例えば、カルボン酸基またはアミノ基が化学的に結合したポリビニルアルコールおよびポリキシリトール、ならびにガングリオシド、例えば、ガングリオシドGMlを含む。PEG、メトキシPEG、もしくはメトキシPPGのコポリマー、またはそれらの誘導体もまた好適である。さらに、オプソニン化阻害ポリマーは、PEGと、ポリアミノ酸、多糖類、ポリアミドアミン、ポリエチレンアミン、またはポリヌクレオチドとのブロックコポリマーであってもよい。オプソニン化阻害ポリマーはまた、アミノ酸もしくはカルボン酸を含有する天然多糖類、例えば、ガラクツロン酸、グルクロン酸、マンヌロン酸、ヒアルロン酸、ペクチン酸、ノイラミン酸、アルギン酸、カラギーナン等;アミノ化多糖類もしくはオリゴ糖類(直鎖もしくは分岐鎖);または、例えば、炭酸の誘導体と反応した結果カルボン酸基を有するカルボキシル化多糖類またはオリゴ糖類であってもよい。好ましくは、オプソニン化阻害部分は、PEG、PPG、またはそれらの誘導体である。PEGまたはPEG誘導体で改質されたリポソームは、「PEG化リポソーム」と呼ばれる場合がある。
【0148】
オプソニン化阻害部分は、数多くの周知の技術のうちの任意の1つにより、リポソーム膜に結合され得る。例えば、PEGのN−ヒドロキシスクシンイミドエステルは、ホスファチジル−エタノールアミン脂溶性アンカーに結合し、次いで膜に結合し得る。同様に、Na(CN)BH、および60℃の30:12の比率のテトラヒドロフランおよび水等の溶媒混合物を使用した還元的アミノ化により、デキストランポリマーをステアリルアミン脂溶性アンカーで誘導体化することができる。
【0149】
オプソニン化阻害部分で改質されたリポソームは、未改質リポソームよりも非常に長く循環に留まる。このため、そのようなリポソームは、「ステルス」リポシームと呼ばれることがある。ステルスリポソームは、多孔質または「漏れやすい」微小血管系により(栄養物などが)供給される組織中に蓄積することが知られている。したがって、そのような微小血管系の欠陥により特徴付けられる組織、例えば、充実性腫瘍は、これらのリポソームを効率的に蓄積する。Gabizon, et al. (1988), Proc. Natl. Acad. ScL, U.S.A., 18:6949−53を参照されたい。さらに、RESによる摂取の低減は、肝臓および脾臓におけるリポソームの著しい蓄積を防止することにより、ステルスリポソームの毒性を低下させる。したがって、オプソニン化阻害部分で改質されたリポソームは、該miRまたはmiR遺伝子発現阻害化合物(またはそれらをコード化する配列を含む核酸)を腫瘍細胞に送達するのに特に適している。
【0150】
該miRまたはmiR遺伝子発現阻害化合物は、対象に投与する前に、当技術分野で知られた技術に従い、「薬剤」とも呼ばれることもある薬学的組成物として製剤化され得る。したがって、本発明は、癌を治療するための薬学的組成物を包含する。一実施形態において、薬学的組成物は、該少なくとも1つの単離miRおよび薬学的に許容される担体を含む。具体的な実施形態において、該少なくとも1つのmiRは、好適な対照細胞と相対的に癌細胞において発現レベルが低下したmiRに対応する。
【0151】
別の実施形態において、本発明の薬学的組成物は、少なくとも1つのmiR発現阻害化合物を含む。具体的な実施形態において、該少なくとも1つのmiR遺伝子発現阻害化合物は、miR遺伝子の発現が対照細胞よりも癌細胞において大きいmiR遺伝子に特異的である。
【0152】
本発明の薬学的組成物は、少なくとも無菌で発熱物質を含まないことを特徴とする。本明細書において使用される「薬学的製剤」は、ヒトおよび家畜への使用のための製剤を含む。本発明の薬学的組成物を調製するための方法は、例えば、参照によりその全開示内容が本明細書に組み込まれる、Remington’s Pharmaceutical Science, 17th ed., Mack Publishing Company, Easton, Pa. (1985)に記載されるように、当技術分野の範囲内である。
【0153】
本発明の薬学的製剤は、薬学的に許容される担体と混合された、少なくとも1つのmiRもしくはmiR遺伝子発現阻害化合物(もしくはそれらをコード化する配列を含む少なくとも1つの核酸)(例えば0.1から90重量%)、またはその生理学的に許容される塩を含む。本発明の薬学的製剤はまた、リポソームおよび薬学的に許容される担体によりカプセル化される、少なくとも1つのmiRまたはmiR遺伝子発現阻害化合物(またはそれらをコード化する配列を含む少なくとも1つの核酸)を含む。
【0154】
特に好適な薬学的に許容される担体は、水、緩衝水、生理食塩水、0.4%食塩水、0.3%グリシン、ヒアルロン酸等である。
【0155】
具体的な実施形態において、本発明の薬学的組成物は、ヌクレアーゼによる分解に耐性を有する、少なくとも1つのmiRまたはmiR遺伝子発現阻害剤化合物(またはそれらをコード化する配列を含む少なくとも1つの核酸)を含む。当業者は、例えば、2’位で改質される1つもしくは複数のリボヌクレオチドをmiRに組み込むことにより、ヌクレアーゼ耐性核酸を容易に合成することができる。好適な2’改質リボヌクレオチドは、フルオロ、アミノ、アルキル、アルコキシ、およびO−アリルにより2’位で改質されたものを含む。
【0156】
本発明の薬学的組成物はまた、従来の薬学的賦形剤および/または添加剤を含むことができる。好適な薬学的賦形剤は、安定剤、酸化防止剤、浸透圧調整剤、緩衝剤、およびpH調整剤を含む。好適な添加剤は、例えば、生理学的に生体適合性の緩衝剤(例えば、トロメタミン塩酸塩等)、キラント(例えばDTPAもしくはDTPA−ビスアミド等)またはカルシウムキレート錯体(例えばカルシウムDTPA、CaNaDTPA−ビスアミド等)の添加、あるいは、任意選択で、カルシウムまたはカルシウム塩(例えば、塩化カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、グルコン酸カルシウムもしくは乳酸カルシウム等)の添加を含む。本発明の薬学的組成物は、液体形態で包装することができ、または凍結乾燥することができる。
【0157】
本発明の固体の薬学的組成物には、例えば、医薬品グレードのマンニトール、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、ナトリウムサッカリン、タルカム、セルロース、ブドウ糖、蔗糖、炭酸マグネシウム等の、従来非毒性で固体の薬学的に許容される担体を使用することができる。
【0158】
例えば、経口投与用の固体の薬学的組成物は、上に列挙した担体および賦形剤のいずれか、ならびに、10〜95%、好ましくは25%〜75%の、該少なくとも1つのmiRまたはmiR遺伝子発現阻害化合物(またはそれらをコード化する配列を含む少なくとも1つの核酸)を含むことができる。エアロゾル(吸入)投与用の薬学的組成物は、上述のようなリポソームにカプセル化された、0.01〜20重量%、好ましくは1%〜10重量%の当該少なくとも1つのmiRまたはmiR遺伝子発現阻害化合物(またはそれらをコード化する配列を含む少なくとも1つの核酸)、ならびに噴射ガスを含むことができる。所望により、例えば鼻腔内送達のためのレシチン等、担体もまた含めることができる。
【0159】
また、本発明は、抗癌剤を同定する方法を包含し、該方法は、試験薬剤を細胞に提供するステップと、該細胞における少なくとも1つのmiRのレベルを測定するステップとを含む。一実施形態において、当該方法は、試験薬剤を細胞に提供するステップと、癌細胞における低下した発現レベルに関連する少なくとも1つのmiRのレベルを測定するステップとを含む。好適な対照細胞と相対的な、該細胞におけるmiRのレベルの増加は、試験薬剤が抗癌剤であることを示している。
【0160】
他の実施形態において、当該方法は、試験薬剤を細胞に提供するステップと、癌細胞における増加した発現レベルに関連する少なくとも1つのmiRのレベルを測定するステップとを含む。好適な対照細胞と相対的な、該細胞におけるmiRのレベルの低下は、試験薬剤が抗癌剤であることを示している。
【0161】
好適な薬剤は、薬物(例えば小分子、ペプチド等)、および生物学的巨大分子(例えばタンパク質、核酸等)を含むが、これらに限定されない。該薬剤は、組み換えにより、合成的に生成することができ、または、天然源から単離(すなわち精製)されてもよい。細胞にそのような薬剤を提供するための様々な方法(例えば導入)が、当技術分野において周知であり、そのような方法のいくつかは上に記載されている。少なくとも1つのmiRの発現を検出するための方法(例えばノーザンブロッティング、in situハイブリダイゼーション、RT−PCR、発現プロファイリング)もまた、当技術分野において周知である。
【0162】
ここで以下の非制限的な実施例により本発明を例示するが、以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を例示することを意図しており、そのように指定されない限りは、特許請求の範囲において定義されるような本発明の範囲を制限するように解釈されるべきではない。
【実施例】
【0163】
実施例
【0164】
ここに、大規模な組の正常卵巣組織および腫瘍卵巣組織における、ゲノム全体のmiRNA発現プロファイリングの結果を示す。ここでは、卵巣癌特異的miRNAシグネチャーの存在を示す。また、マイクロRNA遺伝子の改変されたメチル化が、その異常な発現を担う可能な後成的機構として同定される。
【0165】
材料および方法
【0166】
卵巣癌試料および細胞株
【0167】
全部で84個の急速冷凍された正常卵巣組織および悪性卵巣組織が、GOG Tissues Bank、Columbus Children’s Hospital、Columbus (OH、USA)で収集された。マイクロアレイ分析用に使用された組織のコレクションは、15個の正常卵巣組織切片、および69個の悪性組織を含み、これはすべて上皮性卵巣癌であり、漿液性癌31個(そのうち29個は乳頭状を示した)、類内膜癌8個、明細胞癌4個、低分化癌9個、および粘液性癌1個を含んでいた。卵巣癌細胞株IGROV1は、元々Dr. Bernard (Institute Gustave Roussy、Villejuf、France)により未治療の患者の中分化卵巣癌から得られたものであり、OAW−42はDr. Ulrich U. (Department of Obstetrics and Gynecology、University of UIm、Germany)から得、OVCAR3、OVCAR8およびSK−OV3はAmerican Type Culture Collectionから購入した。すべての細胞株は、10%(v/v)ウシ胎仔血清(FCS)、3mML−グルタミンおよび100 U/mlペニシリン/ストレプトマイシンを添加した、RPMI培地(Life Technologies社、Rockville、MD)内で維持した。
【0168】
miRNAマイクロアレイハイブリダイゼーションおよび定量化
【0169】
メーカーの使用説明書に従い、Trizol (Invitrogen、Carlsbad、CA)を用いて全RNA単離を行った。RNAの標識化およびマイクロRNAマイクロアレイチップへのハイブリダイゼーションは、以前説明したように(28)、各試料からの5μgの全RNAを使用して行った。ハイブリダイゼーションは、4回スポットされた460個の成熟マイクロRNA(ホモサピエンス235個、ハツカネズミ222個、シロイヌナズナ3個)に対するプローブを含有する、我々のマイクロRNAマイクロアレイ(Ohio State Comprehensive Cancer Center、バージョン2.0)上で行った。多くの場合、所与の成熟マイクロRNAに対し、2つ以上のプローブセットが存在する。さらに、ほとんどの前駆体マイクロRNAに対応する4組のプローブが存在する。ハイブリダイゼーション信号は、Streptavidin−Alexa647複合体で検出し、スキャンされた画像(Axon 4000B)はGenepix 6.0ソフトウェア(Axon Instruments社、Sunnyvale、CA)を使用して定量化した。
【0170】
マイクロRNAマイクロアレイデータのコンピュータ分析
【0171】
マイクロアレイ画像は、GENEPIX PROを使用して分析した。各miRNAの2つのスポットの平均値をバックグラウンド除去し、正規化し、さらなる分析に供した。Richard Simon & Amy Peng Lam(29)により開発されたBRB ArrayToolsを使用して、卵巣マイクロアレイデータのグローバル中央値正規化を行った。その後の統計分析の前に、非存在コール(absent call)は4.5を閾値とした。このレベルは、実験で検出される平均最低強度レベルである。miRNAの命名は、Genome Browser (genome.ucsc.edu)およびSanger Center (microrna.sanger.ac.uk/)のmiRNAデータベースに従い、矛盾する場合はmiRNAデータベースに従った。特異的に発現したmiRNAは、Tusher, Tibshirani and Chu(30)の最近の論文に基づき、Stanford University Labsで開発された方法、マイクロアレイの有意性分析(SAM)内のt検定手順を使用して同定した。
【0172】
また、miRNAシグネチャーを同定するために、Tibshirani, Hastie, Narasimhan and Chu(31)による「最短収縮重心法(nearest shrunken centroid method)」により遺伝子発現データから試料分類を行うPAMを適用した。
【0173】
ノーザンブロッティング
【0174】
前述したようにノーザンブロット分析を行った。RNA試料(各10μg)を、15%ポリアクリルアミド、7M尿素標準プレキャストゲル(Bio−Rad、Hercules、CA)上に展開し、Hybond−N+膜(Amersham社、Piscataway、NJ)に転写した。ULTRAhyb−Oligoハイブリダイゼーション緩衝液(Ambion社、Austin、TX)中で16時間、370℃でハイブリダイゼーションを行った。膜を370℃で2×SSPEおよび0.5% SDSで2回洗浄した。
【0175】
プローブとして使用したオリゴヌクレオチドは、以下の成熟マイクロRNAの配列(参照することにより本明細書に完全に組み込まれるsanger.ac.uk/Software/Rfam/mirna/のmiR Registry)に対しアンチセンスであった:
miR−200a: 5′− ACA TCG TTA CCA GAC AGT GTT A −3′[配列番号:92];
miR−141: 5′− CCA TCT TTA CCA GAC AGT GTT A − 3′[配列番号:93];
miR−199a: 5′− GAA CAG GTA GTC TGA ACA CTG GG −3′[配列番号:94];
miR−125b1: 5′TCA CAA GTT AGG GTC TCA GGG A −3′[配列番号:95];
miR−145: 5′− AAG GGA TTC CTG GGA AAA CTG GAC −3′[配列番号:96];
miR−222: 5′− GAG ACC CAG TAG CCA GAT GTA GCT −3′[配列番号:97];
miR−21:5′− TCA ACA TCA GTC TGA TAA GCT A −3′[配列番号:98]。
【0176】
5S RNAまたはEtBrゲルを正規化に使用した。ポリヌクレオチドキナーゼ(Roche社)を使用して、各プローブ200ngを100μCi [γ−32P]−ATPで末端標識化した。
再ハイブリダイゼーションの前に、ブロットを沸騰した0.1% SDS中で10分間ストリップした。
【0177】
リアルタイムPCR
【0178】
シングルチューブTaqMan MicroRNA Assaysを使用して、メーカー(Applied Biosystems社、Foster City、CA)の使用説明書に従い、Applied Biosystems Real−Time PCR機器上で成熟マイクロRNAを検出および定量化した。
18S rRNAで正規化を行った。テンプレート不含対照およびRTマイナス対照を含むすべてのRT反応を、GeneAmp PCR 9700 Thermocycler(Applied Biosystems社)で行なった。
遺伝子発現レベルは、ABI Prism 7900HT Sequence検出システム(Applied Biosystems社)を使用して定量化した。テンプレート不含対照を含む比較リアルタイムPCRは、3回行った。相対的発現は、比較Ct法を用いて計算した。
【0179】
脱メチル化実験
【0180】
OVCAR3細胞を、10μM 5’アザ−2’デオキシシチジン(5`−AZA、Sigma社)による処置の48時間前に、低密度で播種した。24時間の処置後、細胞を回収し、全RNAをTrizol試薬(Invitrogen社)を用いて単離した。未処置細胞およびAZA処置細胞の両方に対し3試料を用いて、マイクロアレイプロファイリングによりmiR発現を評価した。
特異的に発現したマイクロRNAを、ランダム係数モデルによる一変量2クラスのT−検定を使用して同定した。
【0181】
結果
【0182】
マイクロRNA発現シグネチャーは正常卵巣から卵巣癌組織を区別する。
【0183】
数多くの研究(19)によりすでに検証されているカスタムマイクロアレイプラットフォームを使用して、異なる患者からの不均一の組の卵巣組織に対するマイクロRNA発現プロファイルを評価した。この組は、正常卵巣試料15個、卵巣悪性腫瘍69個、および卵巣癌細胞株5個の、計89個の生物学的に独立した試料を含んだ。各腫瘍試料は、単一の検体から得た(データ省略)。
【0184】
チップ上にスポットされたすべてのヒトマイクロRNAに基づく教師なし階層的クラスタ化は、正常組織および悪性組織により表される2つの主要なグループでの試料の明確な区別を有するツリーを生成した(図1)。
【0185】
癌細胞に対し正常組織を区別するマイクロRNAを同定するために、我々はSAMおよびPAMツールを使用したが、2種類のクラス予測分析から得られた結果は、概して重複していた。正常組織と癌組織との間のSAM比較では、特異的に発現した39個のmiRNA(q−値<1%および倍率変化>3)が同定されたが、10個が腫瘍において上方調整され、残りは下方調整されていた(一覧は図9−表2に報告されている)。
【0186】
図6Aおよび6BのPAM分析は、図8−表1において報告されるmiRシグネチャーによる、各試料が癌であるか正常組織であるかの確率(0.0から1.0)のグラフ表示を示しており、より小さい組の29個のmiR、つまり4個の上方調整miR(miR−200a、−200b、−200cおよび−141)ならびに25個の下方調整miR(miR−199a、miR−140、miR−145およびmiR−125b1が中でも最も有意である)が、89%の分類率で正常組織と腫瘍とを区別していることを説明している。
【0187】
マイクロアレイ分析で得られた結果を確認するために、我々は
いくつかの特異的に発現したマイクロRNAに対し、ノーザンブロット(図2A)またはリアルタイムPCR(図2B)を行った。我々は、卵巣癌において最も有意に上方調整されたmiR−200aおよびmiR−141、ならびに最も有意に下方調整されたマイクロRNA:miR−199a、miR−140、miR−145およびmiR−125b1の発現を分析した。すべての実験で、マイクロアレイ分析により得られた結果が確認された。
【0188】
生体病理学的特徴およびマイクロRNA発現
【0189】
上皮性卵巣癌が、異なる形態学的および分子遺伝学的変化により特徴付けられる異なる組織学的亜型として発生することを考慮して、我々は、マイクロRNA発現プロファイルが卵巣癌の異なる組織型において異なるかどうかを評価するために、それらのそれぞれのマイクロRNAプロファイルを、正常組織と比較することにした。SAM分析から得られた完全な一覧を図10−表3に報告し、図3Aおよび3Bにベン図として要約を示す。
【0190】
正常組織に対し腫瘍において最も有意に上方調整された4個のマイクロRNAのうちの二(2)個(図3A)、miR−200aおよびmiR−200cは、考慮された3つすべての組織型(漿液性、類内膜、および明細胞)において上方調整されており、一方miR−200bおよびmiR−141の上方調整は、類内膜および漿液性の組織型で共通している。
【0191】
さらに、類内膜組織型は、3個の追加のマイクロRNA、miR−21、miR−203およびmiR−205の上方調整も示している。miR−125b1、miR−199aおよびmiR−140を含む19個のmiRは、正常組織と比較して検査された3つの組織型すべてにおいて下方調整され(図3B)、一方4個は、異なるシグネチャーのそれぞれの一対の分析において共通しており、例えば、miR−145は、漿液性癌および明細胞癌の両方において下方調整され、miR−222は、類内膜癌および明細胞癌の両方において下方調整されている。
【0192】
「混合」または「低分化」として分類された腫瘍を考慮して、我々は、第1のグループが、例えば、miR−200cおよびmiR−181の過剰発現を類内膜癌と共有し、miR−214の下方調整を漿液性と共有する、異なる組織型の特徴を有するシグネチャーを明らかとしており、一方「低分化」腫瘍は極めて異なるパターンのマイクロRNA発現(図10−表3)を有することを発見した。
【0193】
次いで、我々は、図11−表4に報告される対の腫瘍の異なる群のmiRNA発現を比較し、特に、2つの最も数の多い組織型癌、漿液性癌および類内膜癌を比較した。漿液性癌と比較して類内膜癌において特異的に発現したマイクロRNAを考慮すると、miR−212が上方調整され、miR−302b*およびmiR−222 (図4AのマイクロアレイデータのT−検定分析、p<0.05)が、マイクロRNAのうち、最も有意に下方調整されたことが判明した。
【0194】
図4Bにおいて、小規模の試料の組に対するノーザンブロットは、類内膜癌と比較した漿液性癌におけるmiR−222過剰発現を検証している。次いで、我々は、腫瘍検体に関連したその他の臨床病理学的特徴に焦点を当てた。患者の年齢に関しては有意に特異的に発現したmiRは発見されなかったが、リンパ腺−脈管浸潤、卵巣表面、管、子宮、および骨盤腹膜の関与(図12−表5)等、その他の腫瘍特性はmiR発現に影響するようであった。
【0195】
疾患の異なる悪性度または段階に関連したmiRが存在するかどうかを調査するために、我々は、すべての腫瘍または最も数の多い漿液性組織型のみを考慮して比較分析を行ったが、特異的に発現した有意なマイクロRNAを少しも得なかった。
【0196】
様々なシグネチャーのmiRNAメンバーの確認済みまたは潜在的な標的
【0197】
「diana.pcbi.upenn.edu/tarbase」におけるDianaTarbaseを使用して、我々は、我々の分析から得られた最も有意なmiRNAの確認済みの標的を検索し、いくつかの興味深いデータを得た。例えば、ERBB2およびERBB3受容体は、miR−125(32)により標的とされ;卵巣癌において下方調整されたmiR−101は、癌原遺伝子MYCN(33)を標的とすることが示されている。次いで我々は、「diana.pcbi.upenn.edu/miRGen」データベースを使用してそれらの潜在的標的を分析し、これらの分子のいくつかに対し、卵巣癌における発現レベルを評価した。例えば、4つの最も有意に上方調整されたマイクロRNA、miR−200a、miR−200b、miR−200cおよびmiR−141はすべて、共通推定標的として、卵巣癌において下方調整されている腫瘍抑制因子BAPl、BRCAl−関連タンパク質を有する。得られた情報を、図13−表6に要約する。
【0198】
miR発現の後成的制御
【0199】
異常DNAメチル化パターンもまたヒト卵巣癌を特徴付けるマイクロRNA発現の変化に寄与し得るかどうかを評価するために、我々は、脱メチル化剤5−アザ−2’−デオキシシチジンによる処置の前後に、卵巣細胞株OVCAR3のmiRプロファイリングを分析した。マイクロアレイデータの分析では、11個のヒトマイクロRNAが特異的に発現し、9個が上方調整、2個が下方調整され(各一変量試験の有意性閾値:p<0.001)、miR−21、miR−203、miR−146b、miR−205、miR−30−5pおよびmiR−30cが、処置の際に最も有意に誘引される(特異的に発現したmiRは図5Aに列挙し、一方得られた階層的クラスタツリーは図5Bに報告する)ことが示された。
【0200】
該5つの最も有意に誘引されたmiRの上方調整を検証するためのリアルタイムPCRは、miR発現レベルのグラフ表示(図5C)として図5Cおよび5Dに説明し、miR−21はまた、ノーザンブロット(図5D)により検証した。
【0201】
興味深いことに、miR−21、miR−203およびmiR−205は、正常組織と比較して、卵巣癌において過剰発現しており(図9−表2におけるSAM分析ならびに図3Aおよび3Bにおけるベン図を参照)、脱メチル化処置後のこれらのmiR遺伝子の再活性化は、低メチル化がin vivoでのその過剰発現を担う機構である可能性があることを示唆している。我々は、ヒト卵巣癌および2つの正常組織のパネルに対するノーザンブロッティング(図7A)を行い、処置の際に誘引された最も有意なmiRであるmiR−21の過剰発現を確認した。さらに、CpG Island Searcher Program(34)を使用して、我々は、miR−21およびmiR−203がCpGアイランドに関連し、CpGアイランドに埋没したmiR−203は875bpの長さであり、miR−21は成熟配列の2kb上流のCpGアイランドで特徴付けられ(図7B)、一方miR−205は、その成熟形態の2Kb上流にわたる領域においていかなるCpGアイランドも示していないことを検証した。
【0202】
考察
【0203】
ここでの実施例において、ヒト卵巣癌においてマイクロRNAが異常に発現することを示す。全体的なマイクロRNA発現は、正常組織と癌組織を明確に区別し、ヒト卵巣癌において変化し、またこの新生物の発達に関与し得るいくつかのマイクロRNAを同定することができる。
【0204】
我々が発見した最も有意に上方調整された4つすべてのマイクロRNA、同じファミリーに属するmiR−200aおよびmiR−141;miR−200b(miR−200aの同じ領域、chr.lp36.33に存在);ならびにmiR−200c(miR−141の同じ領域、chr.12pl3.31に存在)は、Zhang et al.(24)によりゲノムレベルで得られた結果に一致し、それらの上方調整を促す機構がマイクロRNA遺伝子の増幅である可能性を示唆している。
【0205】
興味深いことに、これらすべてのmiRは、共通推定標的、つまり腫瘍抑制因子BAPl、BRCA1−関連タンパク質を有する(24)。卵巣癌発癌における脱分化の根本的機構として発見され提案された(35)、GATA因子の発現の変化もまた、マイクロRNAの脱制御により促される可能性がある。特に、卵巣腫瘍の85%において核から損失または排除されるGATA6は、miR−200aにより制御され得、卵巣癌細胞株の大部分において存在しないGAT A4は、miR−200bにより標的とされ得る(図12−表5)。
【0206】
下方調整された遺伝子のうち、特に、我々は乳癌においても変化するmiR−125b1およびmiR−145(18);肝細胞癌等のその他の腫瘍において下方調整されることが最近示されたmir−199a(36);卵巣癌において削除されるmiR−140(24)を発見した。
【0207】
興味深いことに、miR−140は、確かに卵巣癌においてしばしば削除されることの多い脆弱領域であるchr.6q22に存在し、c−SRK、MMP13およびFGF2等の重要な分子を標的とすることが予測される。
【0208】
これらの実施例において利用可能な正常対照が全正常卵巣で代表されても、我々のデータは、ヒト卵巣癌において変化し、この悪性疾患の生物学に関与し得るいくつかのマイクロRNAを同定することができる。実際に、異なる組織型の卵巣癌(漿液性、類内膜、明細胞および混合)を正常組織と比較することにより得られるmiRNAシグネチャーはほとんどの場合重複しているが、それらはまた、「組織型特異的」であるように見えるいくつかのマイクロRNAを明らかとし、例えば、類内膜腫瘍は、4つの最も有意に上方調整されたmiR(miR−200a、miR200b、miR−200cおよびmiR−141)をその他の腫瘍と共有しているが、数多くの充実性腫瘍において誤って制御され(18、37、38)、また異なる細胞系において抗アポトーシス的役割を果たす(39、40)ことが知られているmiR−21、およびmiR−205およびmiR−182の過剰発現もまた示している。
【0209】
類内膜腫瘍はまた、その他のクラスの腫瘍と比較していくつかのマイクロRNAの下方調整を示し、例えば、miR−222が、c−Kit(41)を標的とし、癌に関与し(42−44)、酸欠乏状態(45)において下方調整されることをすでに示している。
【0210】
これらの差は、現在EOCが同一の治療方針で治療されているとしても、異なる組織型が生物学的および病原的に異なるEOCの存在を表すことを裏付けている。最近では、マイクロアレイ分析により、異なる組織型(漿液性、粘液性、類内膜および明細胞)が、おそらく源の器官(それぞれ卵管、結腸粘膜および類内膜膜)の遺伝子発現パターンを反映して、異なる経路の変化を示すことが確認されている(46)。
【0211】
とりわけ、特異的に発現したマイクロRNAの多くは、組織型に依存して特異的に活性化された経路に関与した分子を標的とすることが予測されている。例えば、漿液性癌において下方調整されたmiR−212は、推定標的として、この卵巣癌の亜型において過剰発現したWT1を有する(47)。miR−212の別の推定標的はBRCAlであり、遺伝性の卵巣癌において変異したこの分子は、最近、散発性上皮性卵巣癌(OEC)の病因にも関与することが判明しており、後成的変化に起因する遺伝子機能の損失がより一般に観察されている(48)。BRCAl発現の減少は、1つもしくは複数のマイクロRNAの過剰発現により決定することができる。
【0212】
類内膜と比較して漿液性組織型において上方調整されたmiR−299−5pおよびmiR−135bは、それぞれ、類内膜癌において過剰発現したDLKl(デルタ様1)およびMSX2(mshホメオボックス2)を標的とすると考えられる(47)。他の腫瘍と比較して、明細胞癌は、それぞれ、2つの推定標的RBP4(レチノール結合タンパク質4)およびSLC40A1(溶質担体40−鉄−制御輸送体、メンバー1)とは反対の(46)、miR−30−5pおよびmiR−20aの発現レベルを示す。正常組織と比較して、明細胞癌はまた、miR−18a、miR−19aおよびmiR−19bのより低い発現を示し、これはクラスター17〜92(削除されていることがZhangらによりすでに検証されている)の下方調整の可能性を示唆している。E2F1およびc−Mycにより媒介される複雑な制御に関与するこのクラスターは、最近B細胞リンパ腫(15)において示唆されているように、推定癌原遺伝子、または腫瘍抑制因子の二重の性質を有すると思われ、例えば、肝細胞癌では、miR−17−92クラスターをコード化する遺伝子座(13q31)でLOHが報告されている(49)。卵巣癌では、少なくとも明細胞組織型において、このクラスターは腫瘍抑制因子の役割を果たすこともできる。本明細書に示すデータは、確かに、EOCの亜型の発達につながる分化のプロセスにおいてマイクロRNAが制御の役割を有し得ることを示唆している。
【0213】
興味深いことに、低分化癌は、マイクロRNA発現の極めて異なるパターンを有し、正常卵巣と比較して、いくつかのマイクロRNAの上方調整を示している。より興味深いことに、それらの1つであるmiR−373は、最近、精巣生殖細胞腫瘍における推定癌原遺伝子として説明されている(16)。
【0214】
腫瘍の段階または悪性度に関連して有意に特異的に発現したマイクロRNAがないことは、我々の試料の組のほとんどが、この種の新生物の後期の診断を考慮して予測されるように、進行期の腫瘍で代表される事実により説明することができるが、試料の異なるグループ間での大きさの差は、統計分析の限界を示していた可能性がある。あるいは、マイクロRNAは、ヒト卵巣癌の進行ではなく発症に重要となり得る。
【0215】
我々の分析の結果、多数のmiRが過剰発現したが、Zhang研究においては増幅されたとは報告されておらず、また下方調整されているが削除されてはおらず、後成的制御機構の関与は、実際にヒトEOCにおけるマイクロRNA発現に対する役割を果たし得る。
【0216】
確かに、卵巣細胞株の脱メチル化処置後に誘引された最も有意なマイクロRNAのうち、miR−21、miR−203およびmiR−205が卵巣癌において上方調整されることが判明した。さらに、miR−203およびmiR−21は、CpGアイランドに関連し(miR−203はCpGアイランドに埋没し、一方miR−21はその成熟配列の2 kb上流にCpGアイランドを有する)、これは脱メチル化がこれらのマイクロRNA遺伝子の再活性化につながるという考えを支持している。とりわけ、miR−21は、いくつかのヒト腫瘍において上方調整されること、また異なる細胞モデルにおいて抗アポトーシス的役割を有することがすでに説明されている。ここで、これらのデータは、DNA低メチル化が、潜在的に発癌性のmiRのin vivo過剰発現を担う後成的機構である可能性があることを示している。
【0217】
発明者らが知る限り、これは、正常卵巣に対し癌において、また異なる亜型の腫瘍において特異的に発現したmiRの同定を焦点とした、ヒトEOCにおける完全miR発現プロファイリングを説明する最初の報告である。ここでのデータは、発病に対し、また異なる組織型の卵巣癌の発症に対しマイクロRNAが果たす重要な役割を示し、変化したDNAメチル化を、ゲノム変異に影響されないマイクロRNAの異常発現を担う可能な後成的機構として同定している。
【0218】
特許法の条項に従い、本発明の原理および作用様式を、その好ましい実施形態で説明し例示してきた。しかしながら、本発明は、その精神または範囲から逸脱せずに、具体的に説明され例示されたものとは異なる様式で実践され得ることを理解されたい。
【0219】
miR遺伝子データベース
【0220】
対象となるmiRNAは、公開データベースに列挙されている。ある特定の好ましい実施形態において、公開データベースは、命名および学名の割当てのために、また記録およびワールドワイドウェブによるオンライン検索用のデータベースへの配列の登録のためにmiRNA配列が提出される、Sanger Institute http://microrna.sanger.ac.uk/sequences/により提供される中央保管所であってもよい。一般に、Sanger InstituteによりmiRNAの配列に関し収集されたデータは、種、源、対応する遺伝子配列、および遺伝子位置(染色体の座標)、ならびに完全転写産物および成熟した完全処理miRNA(5’末端リン酸基を有するmiRNA)の配列を含む。別のデータベースは、National Institutes of Health and the National Library of Medicineにより管理されるNational Center for Biotechnology Information (NCBI)ウェブサイトからアクセス可能なGenBankデータベースであってもよい。これらのデータベースは、参照により本明細書にすべて組み込まれる。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

【表8】

【表9】

【表10】

【表11】

【表12】

【0221】
参考文献
【0222】
上述の参考文献および以下の参考文献は、それらが例示的手順または本明細書に記載される手順を補足するその他の詳細を提供する範囲内において、参照することにより本明細書に明確に組み込まれる。
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象が卵巣癌を有している、または発病する危険性があるかどうかを診断する方法であって、
前記対象からの試験試料中の少なくとも1つのmiRのレベルを測定するステップを含み、
対照試料中の対応するmiRのレベルと相対的な、前記試験試料中の前記miRのレベルの変化が、前記対象が卵巣癌を有している、または発病する危険性があることを示している、方法。
【請求項2】
miR発現と卵巣癌または卵巣癌の素因との間の相関を同定するステップを含み、
(a)疾患または病状を有する、または有する疑いのある対象から単離された前記miRを標識化するステップと、
(b)前記miRをmiRアレイにハイブリダイズするステップと、
(c)前記アレイへのmiRハイブリダイゼーションを決定するステップと、
(d)参照と比較して、前記疾患または病状を表す、試料中に特異的に発現したmiRを同定するステップと、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
特異的に発現したmiRを同定するステップが、前記試料のmiRプロファイルを生成するステップと、前記miRプロファイルを評価して、前記試料中のmiRが正常試料と比較して特異的に発現しているかどうかを決定するステップとを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記miRプロファイルが、表1に示される1つもしくは複数のmiRから選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記miRプロファイルが、図3Aまたは図3Bに示される1つもしくは複数のmiRから選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記卵巣癌が、明細胞、漿液性または卵巣類内膜癌のうちの1つもしくは複数である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
miRプロファイルが、表3に示される1つもしくは複数のmiRから選択され、それにより卵巣癌細胞が正常細胞から区別される、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
miRプロファイルが、表4に示される1つもしくは複数のmiRから選択され、それにより卵巣癌細胞が、漿液性、非漿液性類内膜、非類内膜、明細胞、非明細胞、低分化および非低分化のうちの組織型により区別される、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記miRプロファイルが、miR−200a、miR−200b、miR−200c、miR−141、miR−199a、miR−140、miR−145およびmiR−125b1からなる群から選択される少なくとも1つのmiRを含み、
正常試料と比較した1つもしくは複数のmiRNAの発現の差が、卵巣癌を示している、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
前記miRプロファイルが、少なくともmiR−200a、miR−200b、miR−200c、miR−141、miR−199a、miR−140、miR−145およびmiR−125b1を含み、
正常試料と比較した1つもしくは複数のmiRの発現の差が、卵巣癌を示している、請求項3に記載の方法。
【請求項11】
正常試料と比較したmiR−200a、miR−200b、miR−200cもしくはmiR−141の発現の増加、および/またはmiR−199a、miR−140、miR−145もしくはmiR−125b1の発現の減少が、卵巣癌を示している、請求項3に記載の方法。
【請求項12】
前記miRプロファイルが、miR−200a、miR−200b、miR−200cおよびmiR−141からなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAを含み、
正常試料と比較した1つもしくは複数のmiRNAの発現の差が、漿液性卵巣癌を示している、請求項3に記載の方法。
【請求項13】
前記miRプロファイルが、miR−205、miR−21、miR−182、miR−200bおよびmiR−141からなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAを含み、
正常試料と比較した1つもしくは複数のmiRNAの発現の差が、卵巣類内膜癌を示している、請求項3に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つのmiRが、miR−200a、miR−200b、miR−200c、miR−141、miR−199a、miR−140、miR−145およびmiR−125b1のうちの1つもしくは複数のmiRである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
miR−200a、miR−200b、miR−200cおよびmiR−141の発現が、卵巣癌において上方調節されている、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
miR−199a、miR−140、miR−145およびmiR−125b1の発現が、卵巣癌において下方調節されている、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
漿液性、類内膜、明細胞および/または低分化卵巣癌の卵巣癌組織型の間を区別するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記miRプロファイルが、図3Aまたは図3Bに示される1つもしくは複数のmiRから選択され、漿液性卵巣癌を示している、請求項3に記載の方法。
【請求項19】
前記miRプロファイルが、図3Aまたは図3Bに示される1つもしくは複数のmiRから選択され、卵巣類内膜癌を示している、請求項3に記載の方法。
【請求項20】
前記miRプロファイルが、図3Aまたは図3Bに示される1つもしくは複数のmiRから選択され、明細胞卵巣癌を示している、請求項3に記載の方法。
【請求項21】
卵巣癌細胞の増殖を阻害する方法であって、
i)表3に示される群から選択される1つもしくは複数のmiRの発現もしくは活性を阻害する1つもしくは複数の薬剤を前記細胞内に導入するステップと、
ii)前記miRの1つもしくは複数の標的遺伝子の発現を高める1つもしくは複数の薬剤を前記細胞内に導入する、もしくは、i)およびii)の1つもしくは複数の薬剤の組合せを前記細胞内に導入するステップと、
前記1つもしくは複数の薬剤が、前記miRの発現または活性を阻害する、前記miRの1つもしくは複数の標的遺伝子の発現もしくは活性を高める、またはそれらの組合せをもたらす条件下で細胞を維持し、それにより卵巣癌細胞の増殖を阻害するステップと、を含む方法。
【請求項22】
前記細胞が、ヒト細胞である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
miR−200a、miR−200b、miR−200cおよびmiR−141の発現が、上方制御され、共通推定標的として、卵巣癌において下方制御されている腫瘍抑制因子BAPl、BRCAl関連タンパク質を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
正常組織と比較して、卵巣癌細胞におけるmiR−21、miR−203、miR−146、miR−205、miR−30−5pおよびmiR−30cのうちの1つもしくは複数のmiRレベルを調節するための方法であって、有効量の脱メチル化剤を投与するステップを含む方法。
【請求項25】
5−アザ−2’−デオキシシチジン脱メチル化処置後に前記レベルが増加する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
miR−21、miR−203、miR−146、miR−205、miR−30−5pおよびmiR−30cのうちの1つもしくは複数のmiRの発現を変化させるための方法であって、それらの過剰発現を担うDNA低メチル化機構を制御するステップを含む方法。
【請求項27】
前記対象がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
対象内の1つもしくは複数の予後診断マーカーに関連した卵巣癌を診断する方法であって、
前記対象からの卵巣癌試料中の少なくとも1つのmiRのレベルを測定するステップを含み、対照試料中の対応するmiRのレベルと相対的な、前記試験試料中の前記少なくとも1つのmiRのレベルの変化が、前記対象が前記1つもしくは複数の予後診断マーカーに関連した卵巣癌を有していることを示している、方法。
【請求項29】
対象が卵巣癌を有している、または発病する危険性があるかどうかを診断する方法であって、
(1)前記対象から得られた試験試料からRNAを逆転写して、1組の標的オリゴデオキシヌクレオチドを提供するステップと、
(2)前記標的オリゴデオキシヌクレオチドを、miRNA特異的プローブオリゴヌクレオチドを含むマイクロアレイにハイブリダイズして、前記試験試料のハイブリダイゼーションプロファイルを提供するステップと、
(3)前記試験試料のハイブリダイゼーションプロファイルを、対照試料から生成されたハイブリダイゼーションプロファイルと比較するステップと、を含み、
少なくとも1つのmiRの信号の変化が、前記対象が卵巣癌を有している、または発病する危険性があることを示している、方法。
【請求項30】
前記対照試料から生成された信号と相対的な前記少なくとも1つのmiRの信号が、上方制御および/または下方制御されている、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記マイクロアレイが、miR−200a、miR−200b、miR−200c、miR−141、miR−199a、miR−140、miR−145およびmiR−125b1、ならびにこれらの組合せからなる群から選択される1つもしくは複数のmiRに対する、miR特異的プローブオリゴヌクレオチドを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
対象が、対象内の1つもしくは複数の有害予後診断マーカーに関連した卵巣癌を有している、または発病する危険性があるかどうかを診断する方法であって、
(1)前記対象から得られた試験試料からRNAを逆転写して、1組の標的オリゴデオキシヌクレオチドを提供するステップと、
(2)前記標的オリゴデオキシヌクレオチドを、miRNA特異的プローブオリゴヌクレオチドを含むマイクロアレイにハイブリダイズして、前記試験試料のハイブリダイゼーションプロファイルを提供するステップと、
(3)前記試験試料のハイブリダイゼーションプロファイルを、対照試料から生成されたハイブリダイゼーションプロファイルと比較するステップと、を含み、信号の変化が、前記対象が癌を有している、または発病する危険性があることを示している、方法。
【請求項33】
前記マイクロアレイが、miR−200a、miR−200b、miR−200c、miR−141、miR−199a、miR−140、miR−145およびmiR−125b1、ならびにこれらの組合せからなる群から選択されるmiRNAに対する、少なくとも1つのmiR特異的プローブオリゴヌクレオチドを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
対照細胞と相対的に対象の癌細胞において少なくとも1つのmiRが下方制御または上方制御されている、卵巣癌を有する前記対象中の卵巣癌を治療する方法であって、
(1)前記少なくとも1つのmiRが前記癌細胞において下方制御されている場合、前記対象における癌細胞の増殖が阻害されるように、有効量の少なくとも1つの単離miRを前記対象に投与するステップ、または、
(2)前記少なくとも1つのmiRが前記癌細胞において上方制御されている場合、前記対象の癌細胞の増殖が阻害されるように、有効量の前記少なくとも1つのmiRの発現を阻害するための化合物を前記対象に投与するステップを含む方法。
【請求項35】
ステップ(1)における前記少なくとも1つの単離miRが、miR−199a、miR−140、miR−145およびmiR−125b 1、ならびにこれらの組合せから選択される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
ステップ(2)における前記少なくとも1つのmiRが、miR−200a、miR−200b、miR−200cおよびmiR−141、ならびにこれらの組合せからなる群から選択される、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
対象の卵巣癌を治療する方法であって、
(1)対照細胞と相対的に、卵巣癌細胞における少なくとも1つのmiRの量を決定するステップと、
(2)前記卵巣癌細胞において発現したmiRの量を、
i)前記癌細胞において発現したmiRの量が対照細胞において発現したmiRの量よりも少ない場合、有効量の少なくとも1つの単離miRを前記対象に投与することにより、または、
ii)前記癌細胞において発現したmiRの量が対照細胞において発現したmiRの量よりも多い場合、前記対象の癌細胞の増殖が阻害されるように、前記少なくとも1つのmiRの発現を阻害するための有効量の少なくとも1つの化合物を前記対象に投与することにより、変化させるステップと、を含む方法。
【請求項38】
ステップ(i)および/または(ii)における前記少なくとも1つの単離miRが、miR−200a、miR−200b、miR−200c、miR−141、miR−199a、miR−140、miR−145およびmiR−125b1、ならびにこれらの組合せからなる群から選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
少なくとも1つの単離miRおよび薬学的に許容される担体を含む、卵巣癌を治療するための薬学的組成物。
【請求項40】
前記少なくとも1つの単離miRが、好適な対照細胞と相対的に卵巣癌細胞において上方制御または下方制御されているmiRに対応する、請求項39に記載の薬学的組成物。
【請求項41】
前記単離miRが、miR−200a、miR−200b、miR−200c、miR−141、miR−199a、miR−140、miR−145およびmiR−125b1、ならびにこれらの組合せからなる群から選択される、請求項40に記載の薬学的組成物。
【請求項42】
少なくとも1つのmiR発現阻害剤化合物および薬学的に許容される担体を含む、卵巣癌を治療するための薬学的組成物。
【請求項43】
前記少なくとも1つのmiR発現阻害剤化合物が、好適な対照細胞と相対的に、卵巣癌細胞において上方制御または下方制御されているmiRに特異的である、請求項42に記載の薬学的組成物。
【請求項44】
前記少なくとも1つのmiR発現阻害剤化合物が、miR−200a、miR−200b、miR−200c、miR−141、miR−199a、miR−140、miR−145およびmiR−125b1、ならびにそれらの組合せからなる群から選択されるmiRに特異的である、請求項43に記載の薬学的組成物。
【請求項45】
卵巣癌抗癌剤を同定する方法であって、試験薬剤を細胞に提供するステップと、卵巣癌細胞における減少した発現レベルに関連する少なくとも1つのmiRのレベルを測定するステップとを含み、好適な対照細胞と相対的な前記細胞における前記miRのレベルの増加が、前記試験薬剤が卵巣癌抗癌剤であることを示している、方法。
【請求項46】
前記miRが、miR−200a、miR−200b、miR−200c、miR−141、miR−199a、miR−140、miR−145およびmiR−125b1、ならびにこれらの組合せからなる群から選択される、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
卵巣癌抗癌剤を同定する方法であって、試験薬剤を細胞に提供するステップと、卵巣癌細胞における増加した発現レベルに関連する少なくとも1つのmiRのレベルを測定するステップとを含み、好適な対照細胞と相対的な前記細胞における前記miRのレベルの減少が、前記試験薬剤が卵巣癌抗癌剤であることを示している、方法。
【請求項48】
前記miRが、miR−200a、miR−200b、miR−200c、miR−141、miR−199a、miR−140、miR−145およびmiR−125b1、ならびにこれらの組合せからなる群から選択される、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
個体の卵巣癌を検出するためのキットであって、対照と比較した前記個体における表3に示される群から選択される1つもしくは複数のmiRを検出するための1つもしくは複数の試薬、対照と比較した前記個体における表3に示される群から選択される1つもしくは複数のmiRの1つもしくは複数の標的遺伝子、またはこれらの組合せを備えるキット。
【請求項50】
前記miRが、miR−200a、miR−200b、miR−200c、miR−141、miR−199a、miR−140、miR−145およびmiR−125b1、ならびにこれらの組合せからなる群から選択される、請求項46に記載のキット。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図5−3】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図7−3】
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【図8】
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【図9】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【図10−3】
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【図10−4】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2010−538610(P2010−538610A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524221(P2010−524221)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【国際出願番号】PCT/US2008/075565
【国際公開番号】WO2009/033140
【国際公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(593172050)ジ・オハイオ・ステイト・ユニバーシティ・リサーチ・ファウンデイション (33)
【氏名又は名称原語表記】THE OHIO STATE UNIVERSITY RESEARCH FOUNDATION
【Fターム(参考)】