説明

ヒト口腔癌検出のための唾液の代謝バイオマーカー

本発明は、個体における口腔癌及び歯周病の診断又はそれらの予後の提供に使用するための、新規の、口腔疾患及び歯周病の唾液メタボロームを提供する。本発明はまた、個体の唾液中に見出される代謝産物を検出することによって、口腔癌及び歯周病を診断する又はそれらの予後を提供する、新規の方法を提供する。最後に、本発明は、個体における口腔癌及び歯周病の診断又は予後に有用な、唾液代謝産物の検出用のキットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
口腔癌、主に口腔扁平上皮癌(OSCC)は、口腔における影響の大きい疾患であり、米国において毎年34,000人を超えて罹患しており(American Cancer Society, 2007)、世界中で年間400,000人を超えて罹患している(The Oral Cancer Foundation www.oralcancerfoundation.org)。治療の進歩にもかかわらず、この疾患の全体的な5年生存率は、わずか約50%であって過去30年間改善されておらず、全ての癌のなかで最悪のままである(Epstein, J. B. et al., J Can Dent Assoc, 68(10):617-21 (2002); Mao, L. et al., Cancer Cell, 5(4):311-16 (2004))。この癌に関連する死亡率は特に高いが、それは、発見又は診断が困難だからではなく、癌の転移が既にリンパ節又は頸部に広がった後でようやく発見されることが多いことに起因している(The Oral Cancer Foundation www oralcancerfoundation.org)。したがって、安価であり感受性が高く正確であるような、新規の非影響的診断ツールが、口腔癌を可能な限り早期に検出して高い死亡率を低減するために必要である(Mignogna, M.D. et al., Eur J Cancer Prev, 13(2): 139-42 (2004))。
【0002】
口腔癌腫は、一連の分子突然変異を介して生じ、過形成から形成異常へ、そして上皮内癌への制御不能な細胞増殖をもたらし、続いて浸潤癌をもたらす。主な危険因子には、環境及び遺伝因子と共に煙草及びアルコール暴露が含まれる(Brinkman and Wong, 2006; Figuerido et al., 2004; Hu et al., 2007; Turhani et al., 2006)。これらの癌は、通常、後期になって検出され、この時期には、疾患が進行し、したがって不十分な予後及び生存しかもたらされない。現在、外科手術及び放射線療法が一次治療であるが、頭部及び頸部に位置するため、これは、通常、患者に術後欠陥及び機能障害をもたらす(Thomson and Wylie, 2002)。したがって、早期の疾患検出が、優れた結果を有するより効果的な治療をもたらすことができるので必須である。
【0003】
唾液、血液及び尿は、多様な経路により系統的に影響を受け、したがって、これらの生体液は、全身性の疾患及び状態のモニタリングにおける使用に十分に適している。多数の臨床ツールが、血清及び尿における異なる遺伝子発現の検出を介して癌診断及び予後を助けるために開発されてきた(Drake, R.R. et al., Expert Rev Mol Diagn, 5(l):93-100 (2005); Hu, S. et al., Expert Rev Proteomics, 4(4) :531-38 (2007))。初期口腔癌の唾液に基づいた検出は、かっては、唾液の低い密度、関連する遺伝子突然変異の少ない種類、及び癌の進行により引き起こされる様々な効果によって妨げられてきたが、多数の研究が、口腔癌を有する患者と健康な個体とを識別する分子レベルのマーカーを探求してきた。例えば、血清中のCyfra 21−1、組織ポリペプチド抗原、CA125、CA19−9、SCC及び口腔扁平上皮癌(OSCC)の胎児性腫瘍マーカーの濃度も、OSCC患者の唾液において上昇していることが見出された(Nagier, R. et al., Clin Cancer Res, 12(13):3979-84 (2006))。
【0004】
唾液は、簡単な採取及び処理、最小限の侵襲性、並びに低い費用のために、診断液として大きな注目を集めている。多くの研究者は、乳癌、卵巣癌、シェーグレン症候群、肝細胞癌、白斑症及び口腔癌のような多様な疾患のための潜在的な診断マーカーとして、唾液タンパク質を研究してきた(Ryu et al., 2006; Streckfus et al., 2000; Rhodus et al., 2005; Brailo et al., 2006, Yio et al., 1992; Gorelik et al., 2005; Hu et al., 2007)。ヒト唾液プロテオームが近年完成し、耳下腺、顎下腺及び舌下腺からの唾液管液は、ほぼ1,166個のタンパク質を含有することが見出された(Denny et al., J. Proteome Res., 7(5): 1994-2006 (2008))。潜在的な唾液疾患マーカーとしてのこれらのタンパク質の使用は、多数の疾患の初期検出のため、並びに治療の前、後及び間の疾患進行をモニタリングするための、簡単な臨床ツールの開発をもたらすことができる(Kingsmore, 2006)。
【0005】
唾液マーカーを同定する研究の他の例には、口腔癌患者の全唾液において1千個を超えるタンパク質を同定したXieらが挙げられる。彼らの分析は、全唾液が、大部分が上皮からである剥離した細胞、並びに、幾つかが癌発症に寄与すると想定される、30種を超える異なる細菌種を含有することを明らかにした(Xie, H. et al., MoI Cell Proleomics, 7(3):486-98 (2008))。Shpitzerらは、口腔扁平上皮癌(OSCC)患者の唾液において、無機化合物及びアルブミン、乳酸デヒドロゲナーゼ、アミラーゼ、全免疫グロブリンなどのようなタンパク質を分析した。彼らは、対照試料と比較して、口腔癌患者の唾液においてカリウム及びアミラーゼレベルが有意に低減しており、一方、他のマーカーのレベルが増加していることを見出した(Shpitzer, T., et al., J Cancer Res Clin Oncol, 133(9):613-17 (2007))。Chenらは、アルファ−アミラーゼ及びアルブミンの両方のレベルが、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化質量分析(MALDI−MSTOF)により測定すると、正常対照よりもOSCC患者の唾液において有意に高いことを見出した(Chen, Y. C. et al., Rapid Commun Mass Spectrom, 16(5)364-9 (2002))。Liらは、mRNAプロフィールパターン分析に基づいて口腔癌検出のトランスクリプトーム診断手法を開発した。RNA、OZA、SAT、IL8、ILlbの定量レベルを含有する分類及び回帰ツリー(CART)モデルは、対照個体からOSCCを有する患者を区別するのに90%を超える感受性及び特異性を有する診断方法をもたらした。最後に、Huらは、ショットガンプロテオミクス手法にMALDI−MSを使用して、対照と比較してOSCC患者の唾液試験片に有意に異なるレベルで見出される、高度な識別性を有する5つの唾液タンパク質のパネルを発見した(Hu, S. et al., Cancer Genomics Proteomics, 4(2):55-64 (2007)) (Hu et al., 2008)。
【0006】
代謝は、細胞の遺伝子型と表現型の隔たりを埋めるため、並びに細胞の包括的で全体論的理解を促進するための、潜在能力を有している。代謝方法論は、数百の代謝産物を定性的及び定量的な様式の両方で同時にモニタリングすることを可能にし、特定の環境変数に対する反応をもたらす細胞経路挙動の解明を可能にする(Fernie, A. R. et al., Nat Rev MoI Cell Biol, 5(9):763-9 (2004); Fraenkel, D.G., Annu Rev Genet, 26: 159-77 (1992); Ideker, T. et al., Science, 292(5518):929-34 (2001); Raamsdonk, L.M. et al., Nat Biotechnol, 19(l):45-50 (2001); Spinnler, H.E. et al., Proc Natl Acad Sci USA, 93(8):3373-6 (1996))。大規模な代謝産物分析が、質量分析と組み合わせたガスクロマトグラフィー(Fiehn, O. et al., Nat Biotechnol, 18(11): 1157-61 (2000))、質量分析と組み合わせた液体クロマトグラフィー(L−MS)(Plumb, R. et al., Analyst, 128(7):819-23 (2003))、NMR(Reo, N.V., Drug Chem Toxicol, 25(4):375-82 (2002))、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析(Aharoni, A. et al., Omics, 6(3):217-34 (2002))及び質量分析と組み合わせた毛細管電気泳動(CE−MS)(Soga, T. et al., J Proteome Res, 2(5):488-94 (2003))を使用して、実施された。2つの研究において、代謝産物プロフィールが腎細胞癌患者の尿から解明された(Kind, T. et al., Anal Biochem, 363(2): 185-95 (2007); Perroud, B. et al., MoI Cancer, 5:64 (2006))。NMRによるメタボローム分析も、リンパ節転移の予後のため及び乳癌の化学療法に対する患者反応をモニタリングするための診断ツールとして実施された(概説、Claudino, W.M. et al., J Clin Oncol, 25(19):2840-6 (2007))。
【0007】
本発明は、口腔癌及び歯周病を診断する及びそれらの予後を提供するのに有用な唾液代謝バイオマーカーの当該技術における必要性を満たすものである。本発明は、口腔癌及び歯周病の診断のための非侵襲的な方法も提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、初めて、網羅的メタボロームプロファイリング分析によって同定された唾液代謝産物バイオマーカーを、口腔疾患診断及び予後における使用のために提供する。この口腔疾患メタボロームの同定及びハイスループット毛細管電気泳動−質量分析(CE−MS)技術の進化によって、本発明の方法は、口腔癌及び歯周病を含む口腔疾患の初期検出における使用に十分に適している。更に、本発明の方法を、他の唾液代謝バイオマーカーの同定のための発見プラットフォームとして使用することができる。
【0009】
一つの実施態様において、本発明は、被験者における口腔疾患の診断及び予後に有用な、唾液の代謝産物バイオマーカーを提供する。表2に記載の小分子バイオマーカーは、口腔疾患を有する個体と健康な個体の唾液試料を差異化することを可能にする。一つの実施態様において、本発明は、被験者における口腔疾患の診断及び予後における使用のための、唾液の口腔疾患メタボロームを提供する。特定の実施態様において、これらのメタボロームは、表2に記載の代謝産物のサブセットを含む。別の実施態様において、本発明のメタボロームは、表2に記載の代謝産物を全て含む。
【0010】
第二の実施態様において、本発明は、被験者における口腔疾患を診断する又はその予後を提供する方法を提供する。特定の実施態様において、これらの方法は、最初に、被験者の唾液の試料中の、少なくとも1つの唾液の口腔疾患代謝産物バイオマーカーのレベルを決定する工程、次に、前記レベルを1つの、又は両方の、唾液疾患メタボロームと比較する工程、最後に、少なくとも1つの唾液の口腔疾患代謝産物が、口腔疾患に罹患していない個体の試料中のレベルと比較して、異なるレベルで唾液試料に存在するかを決定し、それによって、被験者における口腔疾患を診断する又はその予後を提供する工程、を含む。他の実施態様において、少なくとも1つの唾液の口腔疾患代謝産物のレベルが、対照唾液メタボロームと比較される。さらに別の実施態様において、少なくとも1つの唾液の口腔疾患代謝産物は、表2に記載の代謝産物から選択される代謝産物を含む。
【0011】
第三の実施態様において、本発明は、新規の唾液の口腔疾患小分子バイオマーカー又は口腔疾患代謝産物バイオマーカーを同定する方法を提供する。一つの実施態様において、これらの方法は、最初に、口腔疾患を罹患している1人以上の個体からの唾液試料から代謝産物を分離する工程、次に、前記代謝産物のレベルを決定する工程、最後に、いずれかの代謝産物が、口腔疾患を罹患している少なくとも1人の個体からの唾液中に、口腔疾患を罹患していない個人からの唾液試料の前記代謝産物のレベルと比較して、異なるレベルで存在しているかを決定し、それによって新規の唾液の口腔疾患小分子バイオマーカーを同定する工程を含む。
【0012】
第四の実施態様において、本発明は、個体の疾患状態を分類するモデルを開発する方法を提供する。一つの実施態様において、この方法は、最初に、第1疾患状態に罹患している個体又は個体の群からの唾液の第1試料中の、少なくとも1つの代謝産物のレベルを決定する工程、次に、第2疾患状態に罹患している個体又は個体の群からの唾液の第2試料中の、少なくとも1つの代謝産物のレベルを決定する工程、最後に、前記第1及び前記第2試料からの前記少なくとも1つの代謝産物のレベル同士を比較し、それによって、前記第1及び前記第2疾患状態の分類のためのモデルを開発する工程を含む。
【0013】
第五の実施態様において、本発明は、2つ以上の疾患状態の1つを有すると推定される個体の疾患状態を差異化する分類方法を提供する。幾つかの実施態様において、この方法は、個体の唾液代謝プロフィールを決定する工程、前記代謝プロフィールを前記2つ以上の疾患状態の分類モデルと比較する工程、及び、どの疾患状態が前記代謝プロフィールと最も高度に相関しているかを決定し、それによって、個体の疾患状態を分類する工程、を含む。
【0014】
第六の実施態様において、本発明は、個体における口腔疾患の診断及び予後に有用であるキットを提供する。幾つかの実施態様において、本発明のキットは、少なくとも1つの唾液の口腔疾患代謝産物バイオマーカーと結合する試薬を含む。特定の実施態様において、唾液の口腔疾患バイオマーカーは表2に記載のものである。他の実施態様において、キットは、表2に記載の代謝産物のサブセット又は全てに結合する、複数の試薬を含む。
【0015】
(関連出願の相互参照)
本出願は、米国仮出願第61/099,110号(2008年9月22日出願)の優先権の利益を請求し、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0016】
(連邦支援下の研究及び開発により行われた発明に対する権利の主張)
本発明は、NIHの補助金番号RO1 DE 015970による政府の支援により行われた。政府はこの発明に対して特定の権利を有する。
【0017】
(コンパクトディスクにより提出された「配列リスト」、表又はコンピュータープログラムリストの付録に対する参照)
適用なし。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】TM4ソフトウエアパッケージにより生成した、口腔癌を有する個体、健康な対照個体、及び歯周病を有する個体において異なるレベルを示す(p<0.05)、45個のピークのヒートマップを示す。
【図2】複数の唾液代謝産物を、A)口腔癌(n=69)又はB)歯周病(n=11)と健康な対照(n=87)との間で識別する能力についての、ROC曲線分析の結果を示す。実線及び点線は、それぞれ、訓練セットとしての全データ及び10回の交差検定を使用して得たROC曲線である。カットオフ確率の50%を使用して計算されたROC曲線下面積は、それぞれ、口腔癌では0.865(0.810)であり、歯周病では0.969(0.954)であった。注:括弧に入っていない値は、全訓練値により得られ、括弧に入っている値は、10回交差検定により得られる。
【図3】主成分(PC)分析のスコアプロットを示す。全ての群の被験者は、(a)口腔癌の3つの異常値を有さない三次元図、及び(b)その拡大図、において示されている。符号は、健康な対照(中空円)、口腔癌(中空四角)、乳癌(ばつ印)、膵臓癌(中実円)及び歯周病(中空三角)を示す。第1、第2及び第3のPC(PC1、PC2及びPC3)の累積の割合は、44.8%、57.6%及び67.0%であった。
【図4】性別による主成分(PC)分析のスコアプロットを示す。男性及び女性の値は、それぞれ、中空円及び着色中実三角で可視化されている。(a)健康な対照及び(b)口腔癌を有する被験者の三次元PCプロットが示されている。42人の男性(青色)及び27人の女性(赤色)の対照被験者、並びに口腔癌を有する41人の男性及び23人の女性の患者を合計したものをこの分析に含めた。18人の対照被験者、5人の口腔癌患者及び他の疾患を有する全ての患者は、性別情報を入手できなかったので除外した。対照被験者のPC1、PC2及びPC3の累積の割合は、それぞれ、43.0%、52.9%及び60.6%であり、口腔癌を有する患者は、それぞれ、50.2%、65.7%及び77.5%であった。
【図5】人種及び民族の主成分(PC)分析スコアプロットを示す。アフリカ系アメリカ人、アジア人、白人及びラテンアメリカ系被験者のデータは、それぞれ、中空円、中実四角、十字及び中実円で可視化されている。(a)健康な対照及び(b)口腔癌を有する被験者の三次元PCプロットが示されている。人種又は民族には、健康な対照及び口腔癌を有する被験者として、それぞれ、12人及び4人のアフリカ系アメリカ人、15人及び5人のアジア人、37人及び41人の白人、5人及び5人のラテン系アメリカ人を含めた。18人の対照被験者、5人の口腔癌患者及び他の疾患を有する全ての患者は、人種又は民族の情報を入手できなかったので除外した。対照被験者のPC1、PC2及びPC3の累積の割合は、それぞれ、43.0%、52.9%及び60.9%であり、口腔癌を有する患者は、それぞれ、42.0%、63.2%及び70.2%であった。
【発明を実施するための形態】
【0019】
口腔癌のトランスクリプトーム研究(Zimmermann, B.G. et al., Ann N YAcadSci, 1098:184-91 (2007); Zimmermann, B.G. and Wong, D.T., Oral Oncol, p. doi: 10.1016/j.oraloncology .2007.09.009 (2007))及びプロテオーム研究(Hu, S. et al., Proteomics, 5(6): 1714-28 (2005))は、臨床用途に潜在的な核酸及びタンパク質バイオマーカーを同定したが、口腔疾患を罹患している患者の唾液代謝産物のレベルの網羅的な変化は、依然として、代謝手法を介して調査されたことがない。本発明は、特に、高解像度の化合物分離及び高い検出感度が必要とされる場合に(Soga, T. et al., J Proteome Res, 2(5):488-94 (2003); Soga, T. et al., J Biol Chem, 281(24): 16768-76 (2006))、代謝研究に十分に適した、新規のCE−MS法を提供する。毛細管電気泳動(CE)は、電荷及び形状に基づいて成分の時間的な分離を可能にし、一方、質量分析(MS)は、CEによって共移動する化合物の追加的な二次分離を提供する。したがって、CE−MSは、唾液メタボローム分析に特に適しており、それは、唾液が多様な電解質を含有していることが知られているからである。一つの実施態様において、本発明は、口腔癌又は歯周病の診断及び予後に有用な、小分子バイオマーカーを提供するが、これらは、口腔癌又は歯周病に罹患している患者の唾液試料におけるCE−MSを使用する網羅的代謝産物プロフィール分析により同定されていたものである。これらのプロフィールを、健康な対照個体から得た唾液試料から生成されたプロフィールと比較した。第二の実施態様において、本発明は、プロテオーム及びトランスクリプトームに基づいた診断試験と一緒に使用することができる、口腔癌の初期検出の補足的手法である方法も提供する。
【0020】
健康な個体と口腔癌及び歯周病を有する個体との間の唾液代謝産物プロフィールの差を探求するために、大規模な代謝分析が実施された。CE−TOF−MSに基づいた分析は、口腔疾患を有する患者の唾液中に、健康な対照個体と比較して統計的に有意に異なったレベルで存在した28個の代謝産物を同定した(表2)。
【0021】
一つの実施態様において、本発明は、被験者を診断し、口腔癌の予後を提供するのに有用な、唾液の口腔癌代謝産物バイオマーカーを提供する。有用なバイオマーカーには、口腔癌を罹患している個体又は個体の群の唾液中に、口腔癌を罹患していない個体又は個体の群の唾液中のレベル又は濃度と比較して異なるレベル又は濃度で存在しているものが含まれる。一つの実施態様において、バイオマーカーは、表2に記載の代謝産物を含む。特定の実施態様において、本バイオマーカーは、CN(120.0801m/z)、トレオニン、ロイシン、イソロイシン、カダベリン、グルタミン酸、チロシン、ピペリデイン、アルファ−アミノ酪酸、セリン、アラニン、バリン、フェニルアラニン、ピペコリン酸、コリン、CN(72.0813m/z)、トリプトファン、C(139.05m/z)、グルタミン、C14(145.1331m/z)、ベータ−アラニン、カルニチン、COS又はC11P(288.9691m/z)、ピペリジン、ピロリンヒドロキシカルボン酸、タウリン、及びベタイン、からなる群より選択される。
【0022】
第二の実施態様において、本発明は、患者を診断し、歯周病の予後を提供するのに有用な、唾液の歯周病代謝産物バイオマーカーを提供する。一つの実施態様において、唾液歯周病バイオマーカーは、歯周病を罹患している患者又は患者の群の唾液中に、歯周病を罹患していない個体又は個体の群におけるレベルと比較して異なるレベル又は濃度で存在する代謝産物を含む。別の実施態様において、本バイオマーカーは、表2に記載のものを含む。特定の実施態様において、本発明の歯周病バイオマーカーは、C(59.0616m/z)、CS(173.0285m/z)、C306219(309.2312m/z)、CN(120.0801m/z)、トレオニン、ロイシン、イソロイシン、カダベリン、プトレッシン、チロシン、エタノールアミン、ピペリデイン、アルファ−アミノ酪酸、セリン、アラニン、バリン、フェニルアラニン、ピペコリン酸、タウリン、トリプトファン、グリセロホスホコリン、及びガンマ−アミノ酪酸、からなる群より選択される。
【0023】
第三の実施態様において、本発明は、口腔癌と歯周病とを識別するのに有用である代謝産物バイオマーカーを提供する。一つの実施態様において、本バイオマーカーは、口腔癌を罹患している患者又は患者の群において、歯周病を罹患している患者又は患者の群における代謝産物のレベル又は濃度と比較して、異なるレベル又は濃度で存在する小分子を含む。特定の実施態様において、本バイオマーカーは、表2に記載のものである。特定の実施態様において、本バイオマーカーは、C(59.0616m/z)、CS(173.0285m/z)、CN(120.0801m/z)、ピペリデイン、ピペコリン酸、CN(72.0813m/z)、タウリン、グリセロホスホコリン、及びピロリンヒドロキシカルボン酸、からなる群より選択される。
【0024】
別の実施態様では、本発明は、被験者において口腔癌を診断する又はその予後を提供するのに有用な、唾液の口腔癌メタボロームを提供する。一つの実施態様において、本発明の口腔癌メタボロームは、表2に記載の代謝産物のサブセットを含む。別の実施態様において、メタボロームは、表2に記載の代謝産物のうちの、少なくとも約1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、15個、20個、25個、30個、35個、40個、又は全てを含む。さらに別の実施態様において、メタボロームは、口腔癌を罹患している個体又は個体の群の唾液中に、口腔癌を罹患していない個体又は個体の群の唾液におけるレベル又は濃度と比較して、異なるレベル又は濃度で存在している代謝産物の群を含む。特定の実施態様において、本発明のメタボロームは、口腔扁平上皮癌、口唇癌、舌癌、歯肉癌、頬粘膜癌、頭頸部扁平上皮癌などのような、口腔癌の種類に特異的である。さらに別の実施態様において、本発明は、口腔癌の特定の時期又は分類、口腔癌の特定の予後、口腔癌の治療経過についての特定の予後、又は、特定の化学療法薬の効能若しくは反応についての特定の予後、に対応する唾液メタボロームを提供する。
【0025】
関連する実施態様において、本発明は、個体における歯周病を診断する又はその予後を提供するのに有用な、唾液の歯周病メタボロームを提供する。一つの実施態様において、本発明の口腔癌メタボロームは、表2に記載の代謝産物のサブセットを含む。別の実施態様において、メタボロームは、表2に記載の代謝産物のうち、少なくとも約1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、15個、20個、25個、30個、35個、40個、又は全てを含む。さらに別の実施態様において、メタボロームは、歯周病を罹患している個体又は個体の群の唾液中に、歯周病を罹患していない個体又は個体の群の唾液におけるレベル又は濃度と比較して、異なるレベル又は濃度で存在している代謝産物の群を含む。特定の実施態様において、本発明のメタボロームは、歯肉炎、歯肉歯周炎、セメント質歯周炎、歯槽歯周炎、連結組織歯周炎などのような、歯周病の種類に特異的である。さらに別の実施態様において、本発明は、歯周病の特定の時期又は分類、歯周病の特定の予後、歯周病の治療経過についての特定の予後、又は、歯周病の治療に使用される特定の薬剤の効能若しくは反応についての特定の予後、に対応する唾液メタボロームを提供する。
【0026】
さらに別の実施態様において、本発明により提供されるメタボロームは、口腔癌と非口腔癌、口腔癌と歯周病、又は歯周病と非口腔癌を分類する、識別する、又は差異化するのに有用である。特定の実施態様において、非口腔癌は、乳癌又は膵臓癌であってもよい。更なる実施態様において、本発明のメタボロームは、分類又は差異化モデルの開発に有用である。
【0027】
本発明の一つの実施態様において、新規の唾液口腔癌代謝産物バイオマーカーを同定する方法が提供される。特定の実施態様において、これらの方法は、(a)口腔癌を有する個体又は個体の群からの第1の唾液試料中の、代謝産物のレベルを決定する工程;(b)前記バイオマーカーのレベルを、口腔癌を有さない個体又は個体の群からの第2の唾液試料中の、同じバイオマーカーのレベルと比較する工程;(c)前記第1試料中の代謝産物のレベルが、前記第2試料中の代謝産物のレベルと異なるかを決定し、それによって、唾液の口腔癌代謝産物バイオマーカーを同定する工程、を含む。別の実施態様において、本発明は、新規の唾液の歯周病代謝産物バイオマーカーを同定する方法を提供する。
【0028】
別の実施態様において、本発明は、個体における口腔癌を診断する又はその予後を提供する方法を提供する。特定の実施態様において、これらの方法は、(a)個体からの唾液の試料中の、表2に記載の唾液の口腔癌代謝産物バイオマーカーから選択される少なくとも1つのバイオマーカーのレベルを決定する工程;(b)前記少なくとも1つの代謝産物のレベルが、口腔癌メタボロームプロフィールにおいて見出されるレベルに相当するかを決定し、それによって、口腔癌を診断する又はその予後を提供する工程、を含む。特定の実施態様において、口腔癌を診断する又はその予後を提供する方法は、(i)前記少なくとも1つの代謝産物を、口腔癌の代謝プロフィールを含む第1プロフィールと比較する工程;(ii)前記少なくとも1つの代謝産物を、対照の代謝プロフィールを含む第2プロフィールと比較する工程;(iii)どちらの代謝プロフィールが、前記個体からの前記少なくとも1つの代謝産物のレベルと最も類似しているかを決定し、それによって、前記個体が口腔癌を有するか又は有さないかを診断する工程、を含む。さらに別の実施態様において、これらの方法は、個体からの少なくとも1つの代謝産物のレベルを、歯周病代謝プロフィールと比較する工程を更に含む。
【0029】
特定の実施態様において、口腔癌代謝産物バイオマーカーのレベルは、HPLC、TLC、電気化学分析、毛細管電気泳動、質量分析、屈折率分光法(RI)、紫外分光法(UV)、蛍光分析、ガスクロマトグラフィー(GC)、放射化学分析、近赤外分光法(近IR)、核磁気共鳴分光法(NMR)、及び光散乱分析(LS)、を含む群から選択される技術を使用して決定される。特定の実施態様において、唾液代謝産物は、飛行時間質量分析(TOF−MS)と組み合わせた毛細管電気泳動(CE)により検出される。他の実施態様において、代謝産物は、タンデム型質量分析(MS/MS)により検出される。
【0030】
特定の実施態様において、本発明の方法は、表2に記載の少なくとも1つの唾液の口腔癌代謝産物バイオマーカーのレベル又は濃度を、検出すること又は決定することを含む。他の実施態様において、これらの方法は、表2に記載の代謝産物のうちの、少なくとも約2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、15個、20個、25個、30個、35個、40個、又は全てを検出することを含む。
【0031】
幾つかの実施態様において、本発明は、個体の疾患状態を分類又は差異化する方法を提供する。特定の実施態様において、これらの方法は、(a)前記個体からの唾液試料中の少なくとも1つの代謝産物のレベルを決定する工程;(b)前記少なくとも1つの代謝産物のレベルを、第1疾患状態の第1唾液代謝プロフィールと比較する工程;(c)前記少なくとも1つの代謝産物のレベルを、第2疾患状態の第2唾液代謝プロフィールと比較する工程;及び、(d)どちらの代謝プロフィールが前記少なくとも1つの代謝産物のレベルと最も緊密に相関するかを決定し、それによって、前記個体の疾患状態を分類する工程、を含む。
【0032】
一つの実施態様において、本発明は、特定の種類の口腔癌を別の種類の口腔癌から分類又は差異化する方法を提供する。別の実施態様において、これらの方法は、口腔癌を歯周病から、又は口腔癌を非口腔癌から、分類又は差異化することを可能にする。さらに別の実施態様において、これらの方法は、本明細書において、第1期の特定の疾患を第2期の同じ疾患から分類又は差異化することを可能にする。例えば、本発明の方法は、第1期の特定の種類の口腔癌をより進行した第2期の同じ種類の口腔癌から、又は、第1の生存予後又は転移予後を有する口腔癌の種類を第2の生存予後又は転移予後を有する同じ種類の口腔癌から、分類又は差異化することを可能にする。
【0033】
本発明において、個体の代謝産物のレベルとメタボロームプロフィールの両方の比較には、多くの相関方法論を用いることができる。これらの相関法の非限定例には、パラメトリック及び非パラメトリック法、並びに相互情報に基づいた方法論及び非線形手法が挙げられる。パラメトリック手法の例には、ピアソン相関(ピアソンr、直線又は積率相関とも呼ばれる)及びコサイン相関が非限定的に挙げられる。非パラメトリック法の非限定例には、スピアマンのR(又は順位序列)相関、ケンドールのタウ相関及びガンマ統計が挙げられる。それぞれの相関方法論を使用し、データセットにおいて個体の代謝産物のレベルの間の相関レベルを決定することができる。全ての代謝産物のレベルと他の全ての代謝産物との相関は、マトリックスとして考慮するのが最も容易である。ピアソン相関を非限定例として使用し、この方法における相関係数rを相関レベルの指標として使用する。他の相関法が使用される場合、rに対応する相関の同等レベルが0.25(又は約0.25)〜0.5(又は約0.5)であるという認識を持ちながら、rと類似の相関係数を使用することができる。相関係数を、相関遺伝子配列の数を多様な数に低減するように望ましく選択することができる。rを使用する本発明の特定の実施態様において、選択される係数値は、約0.25以上、約0.3以上、約0.35以上、約0.4以上、約0.45以上又は約0.5以上であることができる。係数値の選択は、データセットの代謝産物の間のレベルがそのレベル以上と相関する場合、本発明のサブセットにおそらく含まれないことを意味する。したがって、幾つかの実施態様において、この方法は、唾液データセットの別の代謝産物と、所望の相関関数を超えて相関するレベルで存在する1つ以上の代謝産物を除外又は排除する(分類に使用しない)ことを含む。しかし、代謝産物が他のいかなる代謝産物とも相関しない場合がありうることが指摘され、その場合には、分類における使用から必ずしも排除する必要はない。
【0034】
さらに別の実施態様において、本発明は、唾液代謝産物の検出用のキットを提供する。特定の実施態様において、本キットは、唾液の口腔癌代謝産物バイオマーカーの検出用である。特定の実施態様において、本キットは、表2に記載の唾液代謝産物と結合する、少なくとも1つの試薬を含む。他の実施態様において、本キットは、表2に記載の代謝産物のうち、少なくとも約2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、15個、20個、25個、30個、35個、40個、又は全てに結合する試薬を含む。
【0035】
<定義>
「代謝産物」又は「小分子」には、唾液又は細胞のような生物学的試料に存在する有機及び無機分子が含まれる。これらには、代謝のみならず異化の産物と中間体の両方が含まれる。この用語には、大型のタンパク質(例えば、5,000、6,000、7000、8,000、9,000、又は10,000Daを超える分子量を有するタンパク質)、大型の核酸(例えば、5,000、6,000、7,000、8,000、9,000、又は10,000Daを超える分子量を有する核酸)、又は大型の多糖類(例えば、5,000、6,000、7,000、8,000、9,000、又は10,000Daを超える分子量を有する多糖類)のような、大型の高分子は含まれない。小分子は、一般に、溶液、細胞の細胞質、又はミトコンドリアのような多様なオルガネラにおいて、遊離状態で見出され、そこで、これら小分子は、更に代謝されうるか、高分子と呼ばれる大分子の生成に使用されうる、中間体のプールを形成する。用語「小分子」には、シグナル伝達分子、及び、食物由来のエネルギーを使用可能な形態に変換する化学反応における中間体が含まれる。小分子の例には、糖、脂肪酸、アミノ酸、小型のポリペプチド、ヌクレオチド、小型のポリヌクレオチド、細胞プロセスの際に形成される中間体、及び生物学的試料に見出される他の小分子が挙げられる。一つの実施態様において、本発明の小分子は単離されている。
【0036】
用語「メタボローム」には、所定の生物、唾液のような生物学的流体、生物学的試料、組織、臓器、細胞、又はこれらのサブセットに存在する、あらゆる小分子が含まれうる。メタボロームには、代謝産物と異化の産物の両方が含まれる。メタボロームは、癌又は歯周病のような疾患に罹患している生物の、生物学的試料中の小分子のサブセットを意味する場合もある。幾つかの実施態様において、メタボローム又は疾患メタボロームは、疾患を罹患している個体からの唾液のような生物学的試料における小分子のサブセットであって、疾患を罹患していない個体からの同様な生物学的試料中のものと比較して濃度が異なっているような小分子のサブセットを意味する場合がある。メタボロームを同定する一般的方法は、例えば、米国特許第7,005,255号において見出すことができる。
【0037】
「疾患メタボローム」は、所定の疾患を罹患している個体又は個体の群からの生物学的試料中で異なる濃度又はレベルで存在する、一組の代謝産物を意味する。疾患メタボロームは、特定の生物学的試料、すなわち唾液、組織、又は腫瘍型から由来してもよい。メタボロームプロフィールは、1個体からの単一の又は複数の試料から、あるいは個体の群からの1つ以上の試料から、生成することができる。例えば、唾液の口腔癌メタボロームプロフィールを、口腔癌を罹患している個体又は個体の群から採取した唾液の試料から生成することができる。一つの実施態様において、本発明の唾液の口腔癌メタボロームは、表2に記載の1つ以上の代謝産物のレベルを含む。他の実施態様において、本発明の唾液の口腔癌メタボロームプロフィールは、表2に記載の代謝産物のうち、少なくとも約2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、15個、20個、25個、30個、又は全ての代謝産物のレベルを含むことができる。
【0038】
「メタボロームプロフィール」、「代謝プロフィール」、「疾患メタボロームプロフィール」又は「疾患代謝プロフィール」は、全て、対照若しくは唾液メタボロームのようなメタボロームにおいて、又は、唾液の口腔癌メタボローム若しくは歯周病メタボロームのような疾患メタボロームにおいて見出される代謝産物の、定量的又は定性的なレベルを意味する。
【0039】
一つの実施態様において、本発明は、ある生物種の全メタボロームの小分子プロフィールに関する。別の実施態様において、本発明は、疾患メタボローム又はそのサブセットに関する。特定の実施態様において、本発明は、癌メタボローム又は歯周病メタボロームのような、唾液の疾患メタボロームに関する。他の実施態様において、本発明は、全身性又は遺伝的素因を有する疾患の唾液メタボロームに関する。別の実施態様において、本発明は、ある生物種、例えば動物、例えば哺乳動物、例えばマウス、ラット、ウサギ、ブタ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、クマ、サル、又はヒト、のメタボロームのコンピューターデータベース(下記に記載されている)に関する。別の実施態様において、本発明は、ある生物、例えば哺乳動物、例えばマウス、ラット、ウサギ、ブタ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、クマ、サル、及び、好ましくはヒト、のメタボローム又はそのサブセットを含む、小分子ライブラリーに関する。
【0040】
「小分子プロフィール」、「代謝プロフィール」、又は「メタボロームプロフィール」は、1つ以上の小分子又は代謝産物の濃度レベルに関する情報を意味する。幾つかの実施態様において、本発明のプロフィールは、生物学的試料、すなわち唾液、血液、尿、生検又は組織からの、疾患メタボローム、すなわち口腔癌メタボローム、歯周病メタボローム、全身性疾患メタボローム又は遺伝子的にかかりやすい疾患のメタボローム、又はそのサブセットに関する。本発明のプロフィールは、疾患に罹患している1人の個体、あるいは個体の集団から採取した試料に由来してもよい。
【0041】
用語「癌」は、ヒトの癌及び癌腫、肉腫、腺癌、リンパ腫、白血病、固体、及びリンパ性癌、などを意味する。異なる種類の癌の例には、口腔癌、口腔扁平上皮癌(OSCC)、乳癌、胃癌、膀胱癌、 卵巣癌、甲状腺癌、肺癌、前立腺癌、子宮癌、精巣癌、神経芽細胞腫、頭部、頸部、子宮頸部及び膣の扁平上皮癌、多発性骨髄腫、軟部組織癌及び骨肉腫、結腸直腸癌、肝癌(すなわち、肝細胞癌)、腎癌(すなわち、腎細胞癌)、胸膜癌、膵臓癌、子宮頸癌、肛門癌、胆管癌、消化管カルチノイド腫瘍、食道癌、胆嚢癌、小腸癌、中枢神経系の癌、皮膚癌、絨毛癌、骨肉腫、線維肉腫、神経膠腫、黒色腫、B細胞リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、小細胞リンパ腫、大細胞リンパ腫、単球性白血病、骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、及び、急性骨髄性白血病、が挙げられるが、これらに限定されない。本出願に包含される癌には、転移性と非転移性の両方の癌が含まれる。
【0042】
本明細書で使用されるとき、用語「口腔癌」は、個体の頭部又は頸部に生じる一群の悪性又は新生物性癌を意味する。口腔癌の非限定例には、口唇、舌、咽喉、扁桃腺、頸部、頬前庭、硬及び軟口蓋、歯茎の癌(歯肉及び歯槽の癌を含む)、鼻咽腔癌、食道癌、舌癌、頬粘膜癌、頭頸部扁平上皮癌、などが挙げられる。
【0043】
「頭頸部扁平上皮癌」は、口腔及び咽頭を含む頭部及び頸部に生じる上皮細胞由来の一群の癌を意味する。これらの腫瘍は、口腔、口腔咽頭、下咽頭、喉頭、及び鼻咽頭を含む、多様な解剖学的位置から生じるが、幾つかの場合では、共通して、煙草及び/又はアルコール暴露に関連する原因を有する可能性がある。口腔は、口唇の赤唇縁から、硬及び軟口蓋の上位と舌の有郭乳頭の下位との接合部の間の平面まで延びている領域として定義される。この領域には、頬粘膜、上部及び下部歯槽堤、口腔底、臼後三角、硬口蓋及び舌の前側三分の二が含まれる。口唇は、口腔における悪性腫瘍の最も一般的な部位であり、非黒色腫皮膚癌を除いて、全ての頭頸部癌のうち12%を占めている。扁平上皮細胞癌は、最も一般的な組織学型であり、98%が下唇に関与する。頻度の順番で次に最も一般的な部位は、舌、口腔底、下顎歯肉、頬粘膜、硬口蓋、及び上顎歯肉である。咽頭は、口腔咽頭、鼻咽腔、及び下咽頭から構成される。口腔咽頭の癌に最も一般的な部位は、扁桃洞、軟口蓋及び舌底、続いて咽頭壁である。下咽頭は、梨状陥凹(癌が関与する最も一般的な部位)、後側咽頭壁、及び輪状軟骨後部領域に分けられる。
【0044】
「歯周病」は、歯肉炎、歯周炎などを含む、個体の歯茎に影響を与える一群の疾患を意味する。歯周病は、侵襲性、慢性、又は壊死性に更に分類することができる。歯周炎は、一般に、歯肉、セメント質、歯槽骨、及び歯周靱帯を含む歯周組織の炎症により特徴付けられる。
【0045】
「治療処置」及び「癌療法」は、化学療法、ホルモン療法、放射線療法、及び免疫療法を意味する。
【0046】
本明細書において「治療有効量若しくは用量」又は「十分量若しくは用量」とは、投与されたとき効果を生じる用量を意味する。正確な用量は、治療の目的に依存し、当業者により既知の技術を使用して確かめることができる(例えば、Lieberman, Pharmaceutical Dosage Forms (vols. 1-3, 1992); Lloyd, The Art, Science and Technology of Pharmaceutical Compounding (1999); Pickar, Dosage Calculations (1999);及びRemington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th Edition, 2003, Gennaro, Ed., Lippincott, Williams & Wilkinsを参照すること)。
【0047】
「転移」は、癌が、原発腫瘍又は起点からリンパ節のような体の他の組織及び部分に広がることを意味する。
【0048】
「唾液」は、口、鼻、又は喉からの任意の水性分泌物である。本発明の目的において、唾液は、喀痰及び鼻又は後鼻粘液を含むことができる。
【0049】
「予後を提供する」とは、被験者において、転移の可能性についての予測、無病及び全生存率の予測、癌治療の推測される経過及び結果、又は癌から回復する可能性を提供することを意味する。
【0050】
「診断」は、被験者において、癌又は歯周病のような疾患状態を確認することを意味する。本発明により提供される診断方法を、当該技術において周知の他の診断方法と組み合わせることができる。他の診断方法の非限定例には、唾液試料における既知の疾患バイオマーカーの検出、口腔X腺撮影、体軸断層撮影(CAT)走査、陽電子放射断層撮影法(PET)、放射性核種走査、口腔生検、などが挙げられる。
【0051】
用語「癌関連代謝産物」又は「腫瘍特異的代謝産物」又は「バイオマーカー」又は「代謝バイオマーカー」は、癌、歯周病、全身性疾患又は遺伝的素因を有する疾患のような疾患を有する被験者からの、生物学的試料、例えば唾液に、疾患を有さない被験者の生物学的試料と比較して異なるレベル又は濃度で存在する小分子であって、疾患を診断すること、予後を提供すること、又は罹患細胞若しくは組織を優先的に薬理学的作用物質の標的にすることに有用である小分子を意味し、これらの語は交換可能である。
【0052】
マーカーは、単独で使用してもよいし、例えば口腔癌又は歯周病のような疾患の診断又は予後における任意の用途の他のマーカーと組み合わせて使用してもよいということは、当業者には理解されるであろう。
【0053】
「生物学的試料」には、生検及び部検試料のような組織切片、及び組織学の目的で採取された凍結切片が含まれる。そのような試料には、唾液、血液、及び血液画分又は血液製剤(例えば、血清、血漿、血小板、赤血球など)、リンパ、及び舌組織、初代培養のような培養細胞、、外植片、並びに、形質転換細胞、糞便、尿、などが含まれる。生物学的試料は、典型的には、真核生物、最も好ましくは哺乳動物、例えば、チンバンジー又はヒトのような霊長類、、ウシ、イヌ、ネコ、モルモット、ラット、マウスのような齧歯類、ウサギ、又は、鳥類、は虫類、若しくは魚類、から得られる。
【0054】
「核酸」は、一本又は二本鎖形態のいずれかの、デオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチド、及びこれらのポリマー、並びにこれらの補体、を意味する。この用語は、既知のヌクレオチド類似体又は修飾主鎖残基若しくは結合を含有する核酸を包含し、これらは、合成、天然、及び非天然であり、標準核酸と同様の結合特性を有し、標準ヌクレオチドと同様の方法で代謝される。そのような類似体の例には、ホスホルチオエート、ホスホルアミデート、メチルホスホネート、キラル−メチルホスホネート、2−O−メチルリボヌクレオチド、ペプチド−核酸(PNA)が非限定的に挙げられる。
【0055】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」は、アミノ酸残基のポリマーを意味するために、本明細書において交換可能に使用される。この用語は、1つ以上のアミノ酸残基が対応する天然アミノ酸の合成化学模倣体であるようなアミノ酸ポリマー、並びに天然アミノ酸ポリマー及び非天然アミノ酸ポリマーに当てはまる。
【0056】
用語「アミノ酸」は、天然及び合成アミノ酸、並びに、天然アミノ酸と同様の方法で機能するアミノ酸類似体及びアミノ酸模倣体を意味する。天然アミノ酸は、遺伝子コードでコードされたもの、並びに後に修飾されるアミノ酸、例えばヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタメート及びO−ホスホセリン、である。アミノ酸類似体は、天然アミノ酸と同じ基本的化学構造を有する化合物、すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ酸、及びR基、例えばホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウム、と結合しているα−炭素を意味する。そのような類似体は、修飾R基(例えば、ノルロイシン)又は修飾ペプチド主鎖を有するが、天然アミノ酸と同じ塩基化学構造を保持する。アミノ酸模倣体は、アミノ酸の一般的な化学構造と異なる構造を有するが、天然アミノ酸と同様な方法で機能する化合物を意味する。
【0057】
アミノ酸を、一般的に知られている3文字符号によるか又はIUPAC−IUB生化学命名委員会により推奨されている1文字符号により、本明細書において参照することができる。同様に、ヌクレオチドを、慣用的に許容される1文字コードで参照することができる。
【0058】
「標識」又は「検出部分」は、分光的、光化学的、生化学的、免疫化学的、化学的、又は他の物理的な手段により検出可能である組成物である。例えば、有用な標識には、32P、蛍光染料、高電密度試薬、酵素(例えば、ELISAに慣用的に使用されるもの)、ビオチン、ジゴキシゲニン、又はハプテン、及び、例えばペプチドに放射標識を組み込むことにより検出可能にすることができる若しくはペプチドに対して特異的に反応性の抗体を検出することに使用できるタンパク質、が含まれる。
【0059】
「抗体」は、抗原に特異的に結合し、それを認識するような、免疫グロブリン遺伝子又はそのフラグメント由来のフレームワーク領域を含むポリペプチドを意味する。既知の免疫グロブリン遺伝子には、カッパ、ラムダ、アルファ、ガンマ、デルタ、イプシロン及びミュー定常部領域遺伝子、並びに無数の免疫グロブリン可変部領域遺伝子が含まれる。軽鎖は、カッパ又はラムダのいずれかに分類される。重鎖は、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタ又はイプシロンに分類され、それによって免疫グロブリンのクラス、すなわちIgG、IgM、IgA、IgD及びIgEがそれぞれ定義される。典型的には、抗体の抗原結合領域が、結合の特異性及び親和性において最も重要である。抗体は、血清由来のポリクローナル若しくはモノクローナル、ハイブリドーマ、又は組み換えクローンであることができ、また、キメラであってもよく、霊長類化又はヒト化されてもよい。
【0060】
<診断及び予後の方法>
本発明は、唾液に異なるレベル又は濃度で存在する代謝産物又は小分子を検査することにより、口腔癌又は歯周病を診断する方法を提供する。診断は、患者において本発明の1つ以上の代謝産物のレベルを決定すること、次にそのレベルをベースライン又は範囲と比較することを伴う。典型的には、ベースライン値は、唾液、又は組織試料(例えば、舌若しくはリンパ組織)、血清又は血液のような、生物学的試料を使用して測定した、健康な人又は当該の疾患に罹患していない個体における、本発明の代謝産物を表す。本発明の代謝産物のレベルの、ベースライン範囲からの(上方又は下方への)変動は、患者が疾患を有すること、又は疾患若しくはその転移形態若しくは嚢外拡大を発生する危険性があることを示す。
【0061】
当業者は、罹患した被験者と健康又は対照個体の小分子又は代謝プロフィールを比較して、本発明の方法に適した代謝産物プロフィールを決定することができる。これらの比較は、手作業によって、例えば目で見て行うこともできるし、そのような比較を行うように設計されたソフトウエアを使用して行うこともでき、例えば、ソフトウエアプログラムは、使用者に有用な情報を提供する二次出力を提供することができる。例えば、ソフトウエアプログラムは、プロフィールを確認するために使用できるし、プロフィールの手作業による比較が可能ではない場合に読み取りを提供するために使用できる。適切なソフトウエアプログラムの選択、例えばパターン認識ソフトウエアプログラムは、当該技術の範囲内である。そのようなプログラムの例はPirouetteである。プロフィールの比較は、定量的にも定性的にも実施できることに留意するべきである。
【0062】
代謝産物プロフィールは、当該技術において周知の多くの方法により決定することができる。一つの実施態様において、小分子プロフィールは、毛細管電気泳動(CE)及び質量分析(MS)(Garcia et al., Curr Opin Microbiol, 11(3):233-39 (2008))、HPLC(Kristal, et al., Anal. Biochem., 263: 18-25 (1998))、薄層クロマトグラフィー(TLC)又は電気化学分離技術(WO99/2736I5、WO92/13273、米国特許第5,290,420、同第5,284,567号、同第5,104,639号、同第4,863,873号及び米国再発行特許第32,920号を参照すること)を使用して決定することができる。屈折率分光法(RI)、紫外分光法(UV)、蛍光分析、放射化学分析、近赤外分光法(近IR)、核磁気共鳴分光法(NMR)、光散乱分析(LS)、飛行時間質量分析(TOF−MS)、及び、当該技術に既知の他の方法のような、小分子の存在を決定する又は細胞の小分子を同定するための、他の技術も含まれる。
【0063】
検出可能部分を、本明細書に記載されるアッセイに使用することができる。多種多様な検出可能部分を使用することができ、標識の選択は、必要とされる感受性、抗体との結合の容易さ、安定性要件、並びに利用可能な器具及び廃棄規定によって決まる。適切な検出可能部分には、放射性核種、蛍光染料(例えば、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、Oregon Green(商標)、ローダミン、テキサスレッド、テトラローダミンイソチオシアネート(TRITC)、Cy3、Cy5など)、蛍光マーカー(例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)、フィコエリトリンなど)、腫瘍関連プロテアーゼにより活性化される自己消光蛍光化合物、酵素(例えば、ルシフェラーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼなど)、ナノ粒子、ビオチン、ジゴキシゲニン、などが含まれるが、これらに限定されない。
【0064】
イムノアッセイの技術及びプロトコールは、 Price and Newman, "Principles and Practice of Immunoassay," 2nd Edition, Grove's Dictionaries, 1997及びGosling, "Immunoassays: A Practical Approach," Oxford University Press, 2000に一般的に記載されている。競合的及び非競合的イムノアッセイを含む、多様なイムノアッセイ技術を使用することができる(例えば、Self et al., Curr. Opin. Biotechnol., 7:60-65 (1996)を参照すること)。イムノアッセイという用語は、酵素増幅イムノアッセイ技術(EMIT)、酵素結合免疫吸着アッセイ技術(ELISA)、IgM抗体捕捉ELISA(MAC ELISA)及び微粒子酵素イムノアッセイ(MEIA)のような酵素イムノアッセイ(EIA);毛細管電気泳動イムノアッセイ(CEIA);ラジオイムノアッセイ(RIA);イムノラジオメトリックアッセイ(IRMA);蛍光偏光免イムノアッセイ(FPIA);及び化学ルミネセンスアッセイ(CL)、を非限定的に含む技術を包含する。望ましい場合、そのようなイムノアッセイを自動化することができる。イムノアッセイをレーザー誘起蛍光法(例えば、Schmalzing et al., Electrophoresis, 18:2184-93 (1997); Bao, J. Chromatogr, B. Biomed. Set, 699:463-80 (1997)を参照すること)と一緒に使用することもできる。フローインジェクションリポソームイムノアッセイのようなリポソームイムノアッセイ及びリポソーム免疫センサーも本発明における使用に適している(例えば、Rongen et al., J Immunol Methods, 204: 105-133 (1997)を参照すること)。加えて、タンパク質/抗体複合体の形成が光拡散を増加し、それがマーカー濃度の関数としてピーク速度信号に変換される比濁分析アッセイは、本発明の方法における使用に適している。比濁分析アッセイは、Beckman Coulter(Brea, CA; Kit #449430)により市販されており、Behring Nephelorneter Analyzerを使用して実施することができる(Fink et al., J. Clin. Chem. Clin. Biochem., 27:261-276 (1989))。
【0065】
エピトープに対する抗体の特異的な免疫結合を、直接的又は間接的に検出することができる。直接標識には、抗体に結合されている、蛍光又は発光タグ、金属、染料、放射性核種などが含まれる。ヨード125(125I)で標識した抗体を使用することができる。エピトープマーカーに対して特異的な化学発光抗体を使用する化学ルミネセンスアッセイは、タンパク質レベルの感受性の高い非放射性検出に適している。蛍光色素で標識された抗体も適している。蛍光色素の例には、DAPI、フルオレセイン、ヘキスト33258、R−フィコシアニン、B−フィコエリトリン、R−フィコエリトリン、ローダミン、テキサスレッド、及びリサミンが非限定的に挙げられる。間接標識には、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ(AP)、β−ガラクトシダーゼ、ウレアーゼなどのような当該技術に周知の多様な酵素が含まれる。ホースラディッシュペルオキシダーゼ検出系を、例えば、過酸化水素の存在下において450nmで検出可能な可溶性生成物を生じる発色基質である、テトラメチルベンジン(TMB)と共に使用することができる。アルカリホスファターゼ検出系を、例えば、405nmで容易に検出できる可溶性生成物を生じる発色基質である、p−ニトロフェニルホスフェートと共に使用することができる。同様に、β−ガラクトシダーゼ検出系を、例えば、410nmで検出可能な可溶性生成物を生じる発色基質である、o−ニトロフェニル−β−ガラクトピラノシド(ONPG)と共に使用することができる。ウレアーゼ検出系を、ウレア−ブロモクレゾールパープル(Sigma Immunochemicals; St. Louis, MO)のような基質と共に使用することができる。
【0066】
直接又は間接標識からのシグナルは、例えば、発色基質から色を検出するための分光光度計を使用して、125Iを検出するためのガンマ計数器のような、放射線の検出のための放射線計数器を使用して、又は、特定の波長の光の存在下で蛍光を検出するための蛍光計を使用して、分析することができる。酵素結合抗体の検出では、定量分析を、製造会社の説明書に従ってEMAX Microplate Reader(Molecular Devices; Menlo Park, CA)のような分光光度計を使用して行うことができる。望ましい場合、本発明のアッセイを自動化すること又はロボットで実施することができるし、複数試料からのシグナルを同時に検出することができる。
【0067】
抗体を、ポリスチレンビーズ、磁気又はクロマトグラフマトリックス粒子、アッセイプレート(例えば、マイクロタイターウエル)の表面、固体基質材料、又は膜片(例えば、プラスチック、ナイロン、紙)などのような、多様な固体支持体上に固定することができる。アッセイストリップは、抗体又は複数の抗体を固体支持体に整列して被覆することによって作成することができる。次にストリップを試験試料に浸け、洗浄及び検出工程により素速く処理して、着色スポットのような測定可能なシグナルを生成することができる。
【0068】
有用な物理フォーマットは、複数の異なるバイオマーカーの検出のために、複数の独立したアドレス可能位置を有する表面を含む。そのようなフォーマットには、マイクロアレイ又は「代謝産物チップ」(例えば、Ng et al., J Cell MoI. Med., 6:329-340 (2002)を参照すること)及び特定のキャピラリー装置(例えば、米国特許第6,019,9044号を参照すること)が含まれる。これらの実施態様において、それぞれの独立した表面位置は、それぞれの位置での検出のために、1つ以上の代謝産物マーカーを固定するための結合試薬を含むことができる。あるいは、表面は、表面の独立した位置に固定されている1つ以上の独立した粒子(例えば、微粒子又はナノ粒子)を含んでもよく、この場合微粒子は、検出のために1つ以上の代謝産物マーカーを固定する結合試薬を含む。
【0069】
分析は、多様な物理フォーマットで実施することができる。例えば、マイクロタイタープレートの使用又は自動操作を使用して、多数の試験試料の処理を促進することができる。あるいは、単一試料フォーマットを、適時の診断又は予後を促進するために開発することができる。
【0070】
<組成物、キット及び統合系>
本発明は、本発明の代謝産物や、本発明の代謝産物バイオマーカーに特異的な結合試薬などを使用して、本明細書に記載されているアッセイを実施する組成物、キット、及び統合システムを提供する。
【0071】
本発明は、固相アッセイに使用されるアッセイ組成物を提供し、そのような組成物は、例えば、本発明の、1つ以上の代謝産物、又は固体支持体に固定されている代謝産物に対する1つ以上の結合試薬、及び標識試薬を含むことができる。それぞれの場合において、アッセイ組成物は、結合に望ましい追加的な試薬を含むこともできる。本発明の代謝産物の発現又は活性のモジュレーターをアッセイ組成物に含めることもできる。
【0072】
本発明は、本発明の診断アッセイを実施するキットも提供する。本キットは、典型的に、本発明の代謝産物に特異的に結合する結合試薬を含む1つ以上のプローブ、及びプローブの存在を検出する標識を含む。本キットは、本発明の代謝産物に特異的な幾つかの結合試薬を含むことができる。
【0073】
本明細書の実施態様のいずれにおいても、カメラ又は他の記録装置(例えば、光ダイオード及びデータ記憶装置)により観察される(更に記録されてもよい)光学画像は、例えば画像をデジタル化し、画像をコンピューターにより記憶及び分析することにより、更に処理されてもよい。多様な市販の周辺機器及びソフトウエアが、デジタル化、デジタル化ビデオ又はデジタル化光画像を記憶及び分析するために利用可能である。
【0074】
従来のシステムの一つは、試験片の視域からの光を、当該技術において慣用的に使用される冷却電荷結合素子(CCD)カメラにまで導く。CCDカメラは、画素(ピクセル)のアレイを含む。試験片からの光はCCDにおいて画像化される。試験片の領域に対応する特定のピクセルを抽出して、それぞれの位置において光強度の読み取り値を得る。高速化のために、複数のピクセルが並行して処理される。本発明の装置及び方法は、例えば蛍光又は暗視野顕微鏡技術により、任意の試料を観察するために容易に使用できる。
【0075】
〔実施例〕
<実施例1>
この実施例は、口腔癌(n=69)又は歯周病(n=11)に罹患している疾患患者及び87人の健康な対照個体からの唾液試料についての大規模メタボローム分析を記載する。
【0076】
口腔癌(n=69)及び歯周病(n=11)、並びに対照(n=87)からの唾液代謝産物を、毛細管電気泳動とエレクトロスプレーイオン化飛行時間質量分析を組み合わせること(CE−TOF−MS)により分析した。本実施例において同定されたバイオマーカーは、口腔癌を診断すること又はその予後を提供することに使用できる。
【0077】
患者の選定
口腔癌患者及び健康な対照個体の唾液を、白人、アジア人、アフリカ系アメリカ人、及びラテンアメリカ系出身の被験者から得た。民族性、年齢、及び、唾液採取と研究コホートの測定との間の時間を表1にまとめる。本発明の代謝産物が口腔癌を識別することができ、単に癌特異的ではないことを示すため、口腔癌患者と対照個体の唾液で有意に異なる代謝産物のレベルを、乳癌及び膵臓癌を罹患している患者とも比較した。
【0078】
[表1]対照及び疾患コホートに含まれる個体の臨床的変数

【0079】
唾液の採取
被験者に、採取の少なくとも1時間前には飲食、喫煙、又は口腔衛生製品の使用を控えるように求めた。被験者に、水で口をすすぐように求めた。被験者に、口をすすいだ5分後、氷上(例えば氷を充填した発泡スチロールコーヒーカップの中)に保持した50ccのFalcon管に、つばを吐き出すように求めた。被験者には、粘液を咳により吐き出さないように念を押した。典型的には、5mlの非刺激唾液を5〜10分間で採取することができる。次に唾液試料を2,600(×)gにより4℃で15分間遠心分離し、不完全な分離が生じた場合は更に20分間回転した。上澄みを分け、2本の新たな管に等分に移した。1本の管の試料をタンパク質分析に使用し、2番目の管の上澄みをRNA分析に使用した。細胞ペレットが元の管に残り、同じ試料IDを付けた。試料を採取時から30分以内に処理及び凍結し、次にドライアイスに保存して実験室に送った。
【0080】
試料の調製
凍結試料を解凍し、それぞれ27μlを分析のために取り出した。2mMのメチオニンスルホン及び2mMの3−アミノピロリジンを含有する3μlの水を、対照と口腔癌唾液試料にそれぞれ加えた。第二セットの唾液試料(17個の対照、乳癌、膵臓癌、及び歯周症の試料)を解凍し、それぞれ24μlを分析に使用した。1mMのメチオニンスルホン及び1mMの3−アミノピロリジンを含有する6μlの水を、これらの試料にそれぞれ加えた。
【0081】
代謝産物標準
市販の供給者から得た全ての化学標準は、分析又は試薬等級であり、Milli-Q(Millipore, Bedford, MA)脱イオン水、0.1NのHCl、又は0.1NのNaOHにより調製した。典型的な保存液は、試薬に応じて、1mM、10mM、又は100mMで調製した。使用溶液は、適切な濃度を得るために脱イオン水で希釈することにより、使用直前に調製した。
【0082】
装置
全てのCE−MS実験は、Agilent CE毛細管電気泳動系(Agilent technologies, Waldbronn, Germany)、Agilent G3250AA LC/MSD TOF系(gilent Technologies, Palo Alto, CA)、Agilent 1100シリーズ二成分HPLCポンプ、G 1603 A Agilent CE−MSアダプター、及びG 1607 A Agilen CE−ESI−MS噴霧器キットを使用して実施した。データ取得は、CEでは、G2201 AA Agilent Chemstationソフトウエアを使用し、TOF−MDでは、Analyst QSソフトウエア(v.1.1)を使用して実施した。
【0083】
CE−TOF−MS分析
代謝産物の分離は、電解質として1Mのギ酸を充填した融解シリカ毛細管(直径50μm、全長100cm)において実施した。試料溶液を50mbarの圧力で3秒間注入し、30kVの電圧を印加した。毛細管の温度を20℃に維持し、試料トレーを5℃未満に維持した。メタノール及び0.5μMのレセルピンを含有する水溶液(50%v/v)からなるシース液を、10μl/分で送達した。ESI−TOF−MSを陽イオンモードで実施した。毛細管電圧を4,000Vに設定し、窒素ガス(加熱器温度300℃)を10psigの流速に設定した。TOF−MSでは、フラグメンター、スキマー及びOCT RFV電圧を、それぞれ75V、50V、125Vに設定した。自動再校正機能は、2つの参照質量の参照標準を使用して実施した。メタノール二量体付加物イオン(〔2MeOH+H〕、65.059706m/z)及びヘキサキスホスファゼン(〔M+H〕、622.028963m/z)は、正確な質量測定のための標準物質をもたらした。正確な質量データを、50〜1,000m/z範囲にわたって1.5サイクル/秒の速度で得た。
【0084】
代謝産物の同定
本研究に使用したCE−TOF−MSによる標準質量校正の正規化に基づいた代謝測定技術の、質量精度における標準偏差は、200〜400m/zの範囲で10ppmであり、この範囲外では30ppmであった(Soga, T. et al., J Biol Chem, 281 (24): 16768-76 (2006))。このレベルの精度では、MSデータのみでは代謝産物を未知のピークに割り当てることが可能ではないので(Kind, T. and O. Fiehn, BMC Bioinformatics, 7:234 (2006))、候補化合物が市販されている場合は唾液試料を分析する前に候補分子でスパイクするか、又はタンデム型質量分析(MS/MS)フラグメントスペクトルを比較した。アラニン、ベータ−アラニン、アルパラギン酸、ベタニン、カダベリン、カルニチン、シトルリン、D−アルファ−アミノ酪酸、ガンマ−アミノ酪酸、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒポキサンチン、イソロイシン、トリシン、リシン、オルニチン、ピペコリン酸、ピペリジン、フェニルアラニン、プロリン、プトレッシン、セリン、トレオニン、チロシン、トリプトファン、及びバリンを、適合したm/z値及び対応する標準化合物の正規化移動時間に基づいて同定した。組成式も、アイソトープ分布パターンにより確認される。
【0085】
その他のピークは、m/z値、及び、Artificial Neural Networks (ANNs) (Sugimoto, M. et al. Large-scale prediction of cationic metabolite identity and migration time in capillary electrophoresis mass spectrometry using artificial neural networks. Anal Chem 77 (1), 78-84 (2005))により予測された移動時間に基づいて同定した。候補化合物は、Kyoto Encyclopedia of Gene and Genomics(KEGG)データベース(Goto, S. et al., LIGAND: database of chemical compounds and reactions in biological pathways. Nucleic Acids Res 30 (1), 402-404 (2002))及びHuman Metabolome Database (HMDB)(Wishart, D. S. et al HMDB: the Human Metabolome Database. Nucleic Acids Res 35 (Database issue), D521-526 (2007))から得た。コリンのm/zの理論値及び測定値、並びに移動時間の測定値及び予測値は、それぞれ、104.1070m/z 及び104.1075m/z(4.96ppm)、並びに8.75分(括弧内の値は誤差である)及び7.78分(0.97分)であった。エタノールアミンでは、それぞれ、62.0600m/z及び62.0601m/z(1.21ppm)、並びに8.16分及び7.78分(0.38分)であった。ピペリデインでは、それぞれ、84.0808m/z及び84.0807m/z(0.42ppm)、並びに8.78分及び7.84分(0.94分)であった。ピロリンヒドロキシカルボン酸では、それぞれ、130.0499m/z及び130.0498m/z(0.230ppm)、並びに12.90分及び13.09分(0.19分)であった。
【0086】
大部分の条件は、CE−TOF−MSを使用したカチオン性代謝産物分析に使用されたものと同一であった。1μMのレセルピンを含有するメタノール−水(50%v/v)を、シース液として5μl/分で送達した。ESI−Q−TOF−MSを、陽生成物イオン走査モードにより実施し、イオンスプレー電圧を5,500Vに設定した。乾燥空気(GS1)を10psiに維持した。脱クラスター電位1及び2、並びに衝突エネルギー電圧を、それぞれ60V、15V、及び20Vに設定した。再校正を、レセルピン(〔M+H〕、609.2906m/z)及びそのフラグメントイオン(〔M+H〕、195.0652m/z)により手作業で実施した。
【0087】
データ分析及び結果
生データを、雑音除去、ベースライン修正、ピーク検出、及び切片電気泳動図のピーク面積の統合を実施するソフトウエアにより分析した。それぞれの電気泳動図の幅を0.02m/zに固定した。Agilent TechnologiesからのMass Hunter又はLC−MSデータ用のXCMS(Smith, CA. et. al., Anal Chem, 78(3):779-87 (2006))のような、同様のソフトウエアが市販されている。続いて、それぞれのピークの正確なm/z値を時間内に検出し、m/zドメインピークの質量スペクトルに当てはめたガウス曲線により計算した。複数の測定値のピークの整列を、(Baran, R. et al., BMC Bioinformatics, 7:530 (2006))に記載されている動的計画法技術により実施し、適合ピークの重ね合わせ電気泳動図を生成した。
【0088】
唾液対照及び口腔癌試料からの統計的に有意なピーク(p<0.15)を整列させた。注入容量の偏り及び複数の測定における検出器の感受性の変動を回避するため、全てのピーク面積を内部対照に対して標準化して、シグナル強度の正規化のための相対面積を得た。閾値SN比の2以内で検出されないピークは、ピーク面積は0であると考慮した。膵臓癌、乳癌、歯周病、及び第2対照コホート唾液試料の相対面積を、1.25/1.1の因数で掛けて、試料濃度の標準化の根拠にした。
【0089】
CE−TOF−MSは、それぞれの試料において平均で3041のピークを同定した(最小1585、最大8400、標準偏差1137)。次に、アイソトープ化合物、共鳴、スパイク、フラグメントイオン、及び付加物イオンを除去し、ピークデータセットを、試料プロフィール(対照試料87個及び口腔癌試料69個)と比較した。ピークをm/z及び移動時間に従って整列させた。45個の代謝産物が、健康対照との比較で有意な差(p<0.05;スチール・ドワス検定)を示すものとして同定された。口腔癌と対照とを識別するために得られたマーカーのプールは、以下の28個の代謝産物を含む:ピロリンヒドロキシカルボン酸、ロイシンとイソロイシン、アラニン、コリン、トリプトファン、バリン、トレオニン、ピペコリン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、タウリン、ピペリデイン、カルニチン、及び他の2個の代謝産物(p<0.001;スチール・ドワス検定)、並びに、ピペリジン、アルファ−アミノ酪酸、フェニルアラニン、及び1つの代謝産物(p<0.01;スチール・ドワス検定)、また、ベタイン、セリン、チロシン、グルタミン、ベータ−アラニン、カダベリン、及び他の2個の代謝産物(p<0.05;スチール・ドワス検定)。全てのコホートについて検出されたマーカーを表2に提示する。
【0090】
[表2]健康な個体と口腔癌患者の唾液試料を識別する同定された唾液代謝産物

【0091】
CE−TOF−MSにより得られた唾液代謝産物プロフィールは、多数の経路により影響を受ける複雑な産物である。したがって、発明者らの実験プロフィールと特定の生物学的経路との直接的な関係は、解明することが困難である。それにもかかわらず、同定された口腔癌代謝産物バイオマーカーのいくつかは、一般的な癌進行の原則と関係づけることができる。
【0092】
同定されたバイオマーカーによる、口腔癌及び歯周病を対照試料から識別する能力を評価するために、多重ロジスティック回帰(MLR)モデルを、健康なコホートと各疾患コホートとの間で独立して開発した。ステップワイズ変数選択法(閾値p>0.10で非予測ピークを排除する逆方向手順)を使用して、予測モデルを構築した。構築されたモデル、及び10回交差検定手順により生じたモデルは、優れた分離能力を示し、全てのROC値は、10回交差検定の結果においても0.81を超えた(図2及び表3)。
【0093】
[表3]対照と口腔癌又は歯周病とを識別するメタボロームバイオマーカーのロジスティック回帰モデル

【0094】
歯周病のMLRモデルは、3つの代謝マーカーにだけ高いROC値を生じた、MeV TM4ソフトウエアパッケージを使用して生成された代謝産物ヒートマップ(図1)は、識別性を有する代謝産物バイオマーカーのレベルが、対照及び歯周病コホートにおいて一貫して低いことを明らかにした。逆に、口腔癌は、他の群と比較して広く異なるプロフィール試料を構成し、このことは、なぜ口腔癌のMLRモデルが正確な分類を得るためにより多くのパラメーターを必要とするかを説明する一助になっている。OSCC、口咽頭癌、舌癌、又は頸部癌を含む口腔癌の不均質な特性が、そのような異なるプロフィールを引き起こすかもしれず、このことは、単一分類モデルの分離能力を低下させかねない。
【0095】
それぞれの疾患群に基づいた主成分分析は、単独で群を分離するのに十分な能力を有する明らかに卓越した代謝産物マーカーを示さなかった(図4)。単一の代謝産物は疾患を区別するのに十分ではないが、これらのマーカーの候補の変化は、一般に、その変化の観点から以前の研究との一致を示した。ポリアミンは、一般に、細胞増殖及び繁殖(Casero, R. A., Jr. & Marton, L. J., Nat Rev Drug Discov 6 (5), 373-390 (2007); Geraer, E. W. & Meyskens, F. L., Jr. Nat Rev Cancer 4 (10), 781-792 (2004); Tabor, C. W. & Tabor, H. Annu Rev Biochem 53, 749-790 (1984))と、また、口腔癌における腫瘍増殖(Dimery, I. W. et al., Am J Surg 154 (4), 429-433 (1987))と相関することが知られている。プトレッシンは、口腔癌細胞に影響を与える化学療法をモニターするために使用される(Okamura, M. et al. Anticancer Res 27 (5A), 3331-3337 (2007))。血清中のプトレッシン及びカダベリンの濃度は、癌患者において放射線療法により減少するが、依然として健康な人よりも高かった(Khuhawar, M. Y., et al., J Chromatogr B BiomedSci Appl 723 (1-2), 17-24 (1999))。口腔のポリアミンのレベルも、歯周炎及び歯茎の治癒により影響を受ける(Silwood, C. J., et al., J Dent Res 81 (6), 422-427 (2002))。
【0096】
これらの結果は、口腔癌患者の唾液中のオルチニン及びプトレッシンのレベルが健康な対照よりも概して高いことを明らかにした。ポリアミンの定量レベルは腫瘍増殖と、また歯周炎の状態の調節と関連していることが知られていたが、発明者たちの結果は、唾液のポリアミンが、癌の種類及び歯周炎によって影響を受け、他の癌よりも口腔癌において顕著に高いレベルであることを示している。
【0097】
ポリアミンに加えて、口腔癌においてより多く見出されるトリプトファン(Carlin, J. M. et al. Experientia 45 (6), 535-541 (1989))は、以前には腫瘍発症のマーカーとして同定された。検出されたピークとヒトの癌との間の間接的修正として、乳癌においてより高いレベルを示すPro−Pro−Glyの反復ペプチドは、腫瘍浸潤及び転移に重要な役割を果たす、マトリックスメタロプロテアーゼ2(MM−2、ゼラチナーゼA)に対するインヒビターとして知られている(Jani, M. et al., Biochimie 87 (3-4), 385-392 (2005))。アミノ酸トランスポーターACST2及びLAT1の発現レベルは、原発性ヒト癌において上昇しており、この癌細胞は、細胞外と細胞内との間でアミノ酸の交換を活性化することにより代謝経路を最適化する。ペプチド及び酸は、多様な供給源、例えば断片化タンパク質、から誘導されるので、これらの化合物を含む唾液メタボロームプロフィールは、統合された結果を有していたのかもしれない。
【0098】
同定されたポリアミン含有代謝産物であるオルニチン、プトレッシン、及びスペルミジンはいずれも、肝細胞の尿素回路に見出される代謝産物である。プトレッシンは、オルニチンデカルボキシラーゼ(ODC)によりオルニチンから誘導され、スペルミジンは、スペルミジンシンターゼによりプトレッシンから誘導される。ポリアミンは、細胞増殖及び繁殖に重要な役割を果たすことが知られている(Gerner, E.W. and Meyskens, F.L., Jr., Nat Rev Cancer, 4(10):781-92 (2004); Takes, R.P., Oral Oncol, 40(7):656-67 (2004); Tabor, CW. and Tabor, R, Amu Rev Biochem, 53:749-90 (1984); Seller, N., Curr Drug Targets, 4(7):565-85 (2003); Casero, R. A., Jr. and Marton, L.J., Nat Rev Drug Discov, 6(5):373-90 (2007))。ポリアミン合成経路の阻害は、以前は、口腔癌の腫瘍増殖に関連づけられていた(Dimery, LW. et al., Am J Surg, 154(4):429-33 (1987))。白金(II)及びパラジウム(II)との多数の抗癌ポリアミン複合体(生体アミンを含む)が化学療法に広く使用されてきた(Lomozik, L. et al., Coordination Chemistry Reviews, 249(21-22):2335-2350 (2005))。
【0099】
<実施例2>
ヒトパピローマウイルス(HPV)、人種、喫煙、及びアルコール依存を含む、多数の因子が、OSCC及び口咽頭癌の発症の危険因子として以前から知られていた(Kademani, D,, Mayo Clin Proc, 82(7): 878-87 (2007); Pintos, J. et al., Oral Oncol, 44(3): 242-50 (2008); D'Souza, G. et al., N Engl J Med, 356(19); 1944-56 (2007))。高齢者における口腔癌の蔓延率の増加を考えると、予防的唾液抗酸化機構の加齢性の低下、及び/又はDNA損傷を引き起こす口腔発癌物質への暴露の加齢性の増加が、口腔癌の頻度の増加に役割を果たすのかもしれない(Hershkovich, O. et al., J Gerontol A Biol Sci Med ScU 62(4):361-66 (2007))。
【0100】
唾液腺のランスクリプトーム研究において、加齢性の差異が報告されている(Srivastava et al., Archives of Oral Biology, 53 (11): 1058-1070 (2008))。生体液における代謝産物の標準化に慣用的に使用される他の方法は、異なる統計結果を生じることが報告されており(Schnackenberg et al. BMC Bioinformatics, 8: S3 (2007))、したがって、相関する臨床パラメーターを有する被験者における代謝産物レベルの一貫した減少又は増加が説明されるべきである。対照被験者及び膵臓癌の患者において、代謝産物と年齢との間に正の相関があり、一方、口腔癌若しくは乳癌又は歯周病の患者にはなかった。したがって、年齢が唾液代謝産物の濃度と相関するとは思われない。
【0101】
次に、代謝産物ピークの相対面積を、対照コホートと口腔癌コホートの両方において男性と女性で比較した。口腔癌コホートでは、ピペリジン、セリン、及びトレオニンのレベルが男性と女性では有意に異なっていた(p<0.05:マン・ホイットニー)。健康なコホートでは、チロシンと、質量電荷比が214.444m/zである未同定の代謝産物が有意に異なっていた。性別(図4)及び人種又は民族(図5)に基づいた57個の代謝産物マーカーのPCA分析も明確な分離を示さなかったので、このことは、利用可能な臨床パラメーターにおける個体試料の偏差も有意ではなかったことを示しているのかもしれない。
【0102】
健康な個体においては、年齢が代謝産物濃度に対する最大の影響を及ぼしていたが、口腔癌の患者における代謝産物濃度は、個体の年齢により影響を受けたとは思われなかった。これらのデータは、代謝産物の濃度に対して、口腔癌の状態の方が年齢又は性別よりも大きな影響を及ぼすことを示す。
【0103】
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31. Srivastava, A. et al. Age and gender related differences in human parotid gland gene expression. Arch Oral Biol. 53 (11), 1058-1070 (2008).
32. Schnackenberg, L.K. et al. Metabonomics evaluations of age-related changes in the urinary compositions of male Sprague Dawley rats and effects of data normalization methods on statistical and quantitative analysis. BMC Bioinformatics 8, S3 (2007).
【0104】
本明細書に記載の実施例及び実施態様は、例示のためだけのものであって、それらに基づく種々の修飾又は改変も、当業者に対して提案され、且つ、本出願の趣旨及び範囲、並びに付属の特許請求の範囲に含まれ得る、ということが理解される。本明細書において引用されている全ての刊行物、特許、及び特許出願は、それらの全体を参照することにより全目的において本出願に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体における口腔疾患を診断する又は口腔疾患の予後を提供する方法であって、
(a)前記個体からの唾液の試料中の、表2に記載の唾液の口腔疾患代謝産物バイオマーカーから選択される少なくとも1つのバイオマーカーのレベルを決定する工程;及び
(b)前記少なくとも1つの代謝産物のレベルが、口腔疾患メタボロームプロフィールにおいて見出されるレベルに相当するかを決定し、それによって、口腔疾患を診断する又は口腔疾患の予後を提供する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記口腔疾患が口腔癌又は歯周病である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの唾液の口腔疾患代謝産物バイオマーカーのレベルが、HPLC、TLC、電気化学分析、毛細管電気泳動、質量分析、屈折率分光法(RI)、紫外分光法(UV)、蛍光分析、ガスクロマトグラフィー(GC)、放射化学分析、近赤外分光法(近IR)、核磁気共鳴分光法(NMR)、及び光散乱分析(LS)、を含む群から選択される技術を使用して決定される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
工程(b)が、
(i)前記少なくとも1つの代謝産物のレベルを、口腔疾患の代謝プロフィールを含む第1プロフィールと比較する下位工程;
(ii)前記少なくとも1つの代謝産物のレベルを、対照の代謝プロフィールを含む第2プロフィールと比較する下位工程;及び
(iii)どちらの代謝プロフィールが前記個体からの前記少なくとも1つの代謝産物のレベルに最も類似しているかを決定し、それによって、前記個体が口腔疾患を有するか又は有さないかを診断する下位工程
を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの代謝産物を、歯周病の代謝プロフィールを含む第3プロフィールと比較する工程を更に含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
唾液の口腔疾患代謝産物バイオマーカーを同定する方法であって、
(a)口腔疾患を有する個体からの第1唾液試料中の、代謝産物のレベルを決定する工程;
(b)前記バイオマーカーのレベルを、口腔疾患を有さない個体からの第2唾液試料中の、同じバイオマーカーのレベルと比較する工程;及び
(c)前記第1試料中の代謝産物のレベルが前記第2試料中の代謝産物のレベルと異なるかを決定し、それによって、唾液の口腔疾患代謝産物バイオマーカーを同定する工程
を含む、方法。
【請求項7】
個体の口腔疾患の診断又は口腔疾患の予後の提供に使用するためのキットであって、表2に記載の代謝産物から選択される代謝産物を検出するための少なくとも1つの試薬を含む、キット。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【公表番号】特表2013−505428(P2013−505428A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−528103(P2011−528103)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【国際出願番号】PCT/US2009/064974
【国際公開番号】WO2010/034037
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(511071500)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (2)
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF CARIFORNIA
【住所又は居所原語表記】Office of Technology Transfer,1111 Franklin St.,12th Floor,Oakland,California 94607−5200(US)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】