説明

ヒト可溶性CD146、その調製および使用

本発明は、インビボ、エクスビボまたはインビトロにて血管形成を調節するための組成物および方法に関する。より具体的には、本発明は、ヒト治療との関連において使用可能な可溶性 CD146 タンパク質、ならびに対応する抗体に関する。本明細書に記載する、特定の形態のCD146は、インビボまたはエクスビボにて、成熟および未熟内皮細胞の両方を動員するため、ならびに、それらの血管形成に対する影響を上昇させるために用いることが出来る。本発明はまた、かかる化合物を含む組成物、特に、医薬または診断組成物、例えばキット等、ならびに該化合物、組成物および細胞を用いる治療または診断方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、血管形成をインビボ、エクスビボまたはインビトロにて調節するための組成物および方法に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、ヒト治療との関連において使用可能な可溶性 CD146 タンパク質、ならびに対応する抗体に関する。本明細書に記載する、特定の形態のCD146は、インビボまたはエクスビボにて、成熟および未熟内皮細胞の両方を動員するため、ならびにそれらの血管形成に対する影響を上昇させるために使用することができる。それらはさらに、組成物、特に医薬、診断または化粧品組成物、および対応するキットを調製するために用いることが出来る。
【0003】
本発明はさらに、上記化合物、組成物および細胞を用いる治療または診断方法および美容処置にも関する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
胚発生 (脈管形成)の間の分化(differentiating)内皮細胞から、または成人期 (血管形成)の間の既存の血管からの新生血管形成は、高等生物における器官形成、再生、および創傷治癒の必須の特徴である。
【0005】
治療的血管形成は、組織虚血を引き起こす疾患または障害に罹患している患者を治療するための有効な手段である。
【0006】
非外科的治療を用いる虚血の治療が、新生血管形成を助ける血管新生因子の発見によって可能となった。いくつかの候補血管新生因子がいままでに臨床試験の対象であったことが記載されている。
【0007】
しかし熱意は一連のよくない臨床転帰によって阻まれてきた。VEGFに関して、例えば、この因子の強力な血管新生効果にもかかわらず、その発現は患者における筋血流を効果的には改善しなかった。これは下流の微小循環を妨げる漏れやすい血管裂孔および動静脈シャントの形成によって説明された。
【0008】
内皮前駆細胞(EPC)は、成体ヒト末梢血、骨髄および臍帯血において同定された(Asahara T, Murohara T, Sullivan A, Silver M, van der Zee R, Li T,Witzenbichler B, Schatteman G, Isner JM. Isolation of putative progenitor endothelial cells for angiogenesis. Science. 1997 275:964−7)。循環するEPCは、骨髄からの動員の後に出生後の新血管形成に関与する。血液または自己骨髄単核細胞から得られた培養により拡張された(culture−expanded) EPCの移植は、虚血−誘導性新血管形成をインビボにて増強することができることが判明した。
【0009】
しかし、治療アプローチとしての患者における培養細胞の使用は、末梢血におけるEPCの割合が小さいこと、十分な数のEPCを単離するために大量の骨髄を採取する必要性、および回収されたEPCの不均一性によりかなり制限されている。
【0010】
したがってそれらの欠点にもかかわらず、血管新生(angiogenic)増殖因子の使用は今日まで、患者、例えば、重篤な末梢動脈疾患(末梢血管疾患とも称される)または虚血性心疾患を示す患者の治療のための治療的血管形成の第一の戦略であり続けている。
【0011】
MCAM、MUC18、またはMel−CAMとしても知られるCD146は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する内皮結合(junction)の成分である(Bardin N, Anfosso F, Massae JM, Cramer E, Sabatier F, Le Bivic A, Sampol J, Dignat−George F. Identification of CD146 as a component of the endothelial junction involved in the control of cell−cell cohesion. Blood. 2001; 98:3677−84)。かかるファミリーのメンバーとして、それは5つのIg ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞質領域から構成される。
【0012】
CD146は主にそれらの細胞質ドメインの長さによって異なっている2つの異なる(distincts)形態にて現れることが知られている: 長い(long)アイソフォーム (ここで「長いCD146」とされる)および短い(short)アイソフォーム (ここで「短いCD146」とされる)であり、両者は細胞の膜において、主に内皮細胞において存在する。
【0013】
CD146は、内皮単層形成の際のその発現の制御、傍細胞透過性の制御におけるその関与(Bardin N, Anfosso F, Massae JM, Cramer E, Sabatier F, Le Bivic A, Sampol J,Dignat−George F. Identification of CD146 as a component of the endothelial junction involved in the control of cell−cell cohesion. Blood. 2001; 98:3677−84)およびそのアクチン細胞骨格との共局在化 (Anfosso F, Bardin N, Vivier E, Sabatier F, Sampol J, Dignat−George F. Outside−in signaling pathway linked to CD146 engagement in human endothelial cells. J Biol Chem. 2001; 276:1564−9)によって示されるように、細胞および組織構造の制御に関与している。
【0014】
膜性(membranous)CD146は、ヒト黒色腫における腫瘍増殖、血管形成、および転移を促進することが報告されている。膜性 CD146 発現レベルおよび分布は、ヒト悪性黒色腫における腫瘍進行および転移の発症と密接に関連している。抗−膜性 CD146 抗体はヌードマウスにおいてヒト黒色腫細胞の増殖および転移特性を顕著に阻害することができるとして記載されている(Mills L, Tellez C, Huang S, Baker C, McCarty M, Green L, Gudas JM, Feng X, Bar−Eli M. Fully human antibodies to MCAM/MUC18 inhibit tumor growth and metastasis of human melanoma. Cancer Res. 2002; 62:5106−14)。膜性 CD146は、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)のインビトロモデル(Kang Y, Wang F, Feng J, Yang D, Yang X, Yan X. Knockdown of CD146 reduces the migration and proliferation of human endothelial cells. Cell Res. 2006; 16(3):313−8)およびニワトリ絨毛尿膜 (CAM) アッセイおよびマウスにおける腫瘍増殖のインビボモデル (Yan X, Lin Y, Yang D, Shen Y, Yuan M, Zhang Z, Li P, Xia H, Li L, Luo D, Liu Q, Mann K, Bader BL. A novel anti−CD146 monoclonal antibody, AA98, inhibits angiogenesis and tumor growth. Blood. 2003;102:184−91)の両方において、血管新生特性を提示することが示されている。mAb AA98は、Yan et al.によって正常組織の血管と比較して腫瘍内血管系に対して顕著に制限された免疫反応性を提示することが示された。
【0015】
最後に、本発明者らは最近、CD146が単球経内皮移動の制御に関与していることを示した(CD146 and its soluble form regulate monocytes transendothelial migration. Arteriosclerosis, thrombosis and Vascular Biology, 2009; 29: 746−53)。
【0016】
異なる局在および機能的相違がニワトリ CD146の2つの膜性アイソフォームについて文献において同定されている。一つの研究において、著者らは各アイソフォームのそれぞれの役割を同定するために、CD146−GFP キメラを用いて極性化上皮メイディン・ダービー・イヌ腎臓 (MDCK) 細胞へのニワトリ CD146ターゲティングを分析した。彼らは、共焦点顕微鏡法により短い(short)CD146および長い(long)CD146がそれぞれ頂端および側底膜に向けられていることを示した (Guezguez B, Vigneron P, Alais S, Jaffredo T, Gavard J, Maege RM, Dunon D. A dileucine motif targets MCAM−l cell adhesion molecule to the basolateral membrane in MDCK cells. FEBS Lett. 2006; 580:3649−56)。別の研究において、同グループは、長いCD146がリンパ球において微絨毛誘導を介して回転(rolling)を促進し、接着受容体活性を示すことを示し、活性化T 細胞の炎症部位への動員におけるその関与を示唆した(Guezguez B, Vigneron P, Lamerant N, Kieda C, Jaffredo T, Dunon D. Dual role of melanoma cell adhesion molecule (MCAM)/CD146 in lymphocyte endothelium interaction: MCAM/CD146 promotes rolling via microvilli induction in lymphocyte and is an endothelial adhesion receptor. J Immunol. 2007; 179:6673−85)。
【0017】
可溶性形態のCD146の存在は最初はウェスタンブロットにより発見され、CD146 膜−結合形態の拮抗阻害剤としてのその可能性のある役割が示唆された (Bardin N, Francaes V, Combes V, Sampol J, Dignat−George F. CD146: biosynthesis and production of a soluble form in human culturedendothelial cells. FEBS Lett. 1998; 421:12−4)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、現在まで、可溶性形態は構造的または機能的に特徴決定されていない。
【課題を解決するための手段】
【0019】
ヒト CD146 の生物学的活性形態が膜−結合形態としてだけでなく、ヒト血清中に存在する可溶性形態としても存在するという本発明者らの発見から画期的な成果がもたらされた。本発明者らは初めて、sCD146 レベルにおける変化が内皮関門の完全性、例えば、透過性、白血球移動または血管形成における変化に関連した病理生理学的条件に関連しうるということを示唆し(N. Bardin, F. Anfosso, V. Combes, J. Nedelec, I. Besson−Faure, P. Brunet, V. Moal, J. Sampol, and F. Dignat−George. Soluble CD146, a junctional endothelial adhesion molecule, is increased in vascular disorders, Workshop K endothelial cells; DK, vol. 55, no. SUPPL. 01, 1 January 2000, page 63, ISSN: 0340−6245)、次いで慢性腎不全患者の血漿におけるsCD146のレベルの上昇を記載した (Bardin N, Moal V, Anfosso F, Daniel L, Brunet P, Sampol J, Dignat−George F. Soluble CD146, a novel endothelial marker, is increased in physiopathological settings linked to endothelial junctional alteration, Thromb Haemost. 2003; 90:915−20)。
【0020】
本発明者らはこのたび本明細書において、初めて、該可溶性形態の構造を記載し、当該技術分野の示唆および特にWu Guang−JER et al.からの以前の観察に反して (Wu Guang−JER et al.:“Soluble METCAM/MUC 18 blocks angiogenesis during the in vivo tumor formation of human prostate cancer LNCaP cells.”Proceedings of the American Association for cancer research annual meetings、 vol. 47, April 2006, page 59n & 97TH annual meeting of the AACR; Washington DC, USA, April 01−05, 2006, ISSN: 0197−016X参照)、ヒト可溶性 CD146の治療特性、特にその血管新生特性を実証する(特に本明細書において提供するインビボ実験結果を参照)。
【0021】
該文献において、可溶性 EphB4 または可溶性 Notch1といった様々な可溶性受容体が、それらのリガンドについてのわな(trap)として作用して、血管形成の内因性阻害剤として作用することが示された。これはVEGFの血管新生効果を遮断する可溶性形態のVEGFR2 についても同様である(Holash J, Davis S, Papadopoulos N, et al. VEGF−Trap: a VEGF blocker with potent antitumor effects. Proc Natl Acad Sci U S A. 2002; 99: 11393−8)。対照的に、その他の可溶性分子は血管形成の活性化因子として作用することが示され、例えば、可溶性 N−カドヘリン断片(Derycke L, Morbidelli L, Ziche M, et al. Soluble N−cadherin fragment promotes angiogenesis. Clin Exp Metastasis. 2006; 23: 187−201) または可溶性 CD40 リガンド (Melter M, Reinders ME, Sho M, et al. Ligation of CD40 induces the expression of vascular endothelial growth factor by endothelial cells and monocytes and promotes angiogenesis in vivo. Blood. 2000; 96: 3801−8)が挙げられる。阻害剤または活性化因子という可溶性分子の観察された逆の効果についての理由は未知であるが、異なるシグナル伝達経路に起因しうる。したがって、可溶性形態の受容体分子は、リガンドをトラップし、その効果を阻害しうるということを仮定することができる。対照的に、膜タンパク質脱落(shedding)に起因するその他の可溶性分子、例えば、可溶性 CD146は、その受容体を活性化するリガンドとして作用する可能性がある。
【0022】
本発明者らは特に、本明細書において可溶性形態のCD146を用いる新規なツールを提供し、これは組織虚血の治療を改善しつつ古典的に用いられていた治療により観察される有害な副作用を低減するものである。本発明者らは本明細書において、可溶性形態のCD146が新血管形成プロセスにおける鍵となる機能を満たすことを示す。
【0023】
本発明者らは本明細書において、ヒト可溶性形態のCD146 (本明細書において「可溶性 CD146」という)を特徴決定し、治療との関連において有用なそのアミノ酸配列を同定する。本発明者らは特に、内皮細胞、特に、内皮前駆細胞(EPC)に対するその有利な走化性および血管新生効果を記載する。ヒト可溶性形態のCD146は、哺乳類対象、特にヒト対象における治療的脈管形成および/または血管形成を促進することができる。
【0024】
本明細書に記載する物および組成物のその他の利点をさらに以下に示す。
【0025】
発明の概要
本発明者らは本明細書において初めて、ヒト可溶性 CD146が、内皮細胞、特に内皮前駆細胞、平滑筋細胞および造血細胞の移行能力または可動化 (走化性活性)および活性化を誘導すること、およびこの分子が脈管形成および/または血管形成をインビボで促進することが出来ることを示す。単独でまたは他の血管新生因子および/または成熟または未熟内皮細胞と組み合わせて投与されうるこの分子は、組織虚血を示すかまたはかかる組織虚血が生じる危険にある患者における治療的血管形成のための有利なツールである。
【0026】
本発明は特に、新規なタンパク質である、本明細書において「可溶性 CD146」というヒト可溶性 CD146を提供する。このタンパク質はヒト血清中に天然に存在し、その生物学的活性形態が本発明者らにより単離され本明細書において提供される。
【0027】
一つの側面において、本発明は、約 558 アミノ酸、好ましくは 約 552 〜約 558 アミノ酸、より好ましくは 557、556、555、554、553または552 アミノ酸を含む単離ヒト可溶性 CD146 タンパク質を記載する。
【0028】
特定の態様において、本発明は本明細書に記載するように、哺乳類治療、特にヒト治療との関連において有用な、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、および配列番号7から選択される配列にある(consisting in)アミノ酸配列を含むヒト可溶性 CD146 タンパク質を提供する。
【0029】
別の側面において、本発明は、本明細書に記載する可溶性 CD146 タンパク質および医薬上許容される担体を含む組成物を提供する。別の側面において、この組成物はさらに、成熟または未熟内皮細胞、特に内皮前駆細胞、および/または別の血管新生因子を含む。
【0030】
本発明による医薬組成物はまた、唯一の生理活性物質として、ヒト可溶性 CD146 タンパク質と接触された、および/または、ヒトの短い(short)または可溶性 CD146 タンパク質を発現するように遺伝的に改変された、成熟または未熟内皮細胞を含んでいてもよい。
【0031】
さらなる側面において、本発明は、組織虚血を導く、あるいは、標準的発現と比較して、CD146、特に 可溶性 CD146に対する受容体の活性化の低下、またはe−NOS、uPa、MMP−2およびKDRをコードする遺伝子から選択される遺伝子の発現の低下を特徴とする、疾患、障害または機能不全状態の治療または診断における使用のための、あるいは、虚血の予防における使用のための本明細書に記載するタンパク質または組成物に関する。
【0032】
特に、本発明は、本明細書において示す疾患、障害または機能不全状態を診断、予防または治療するための組成物を調製するための、本明細書に記載するタンパク質または組成物の使用に関する。
【0033】
特定の態様において、本発明は、本明細書において示す哺乳類、好ましくはヒトにおける疾患、障害または機能不全状態の診断、予防または治療方法、特に、癌 (例えば、乳癌、黒色腫等)の診断方法、または組織虚血の予防または治療方法を提供する。
【0034】
癌の診断方法は好ましくは、哺乳類血清中に、可溶性 CD146 タンパク質の量を投薬する工程を含む。
【0035】
組織虚血の予防または治療方法は、好ましくは哺乳類に、有効量の本明細書に記載する組成物を投与する工程を含み、特に可溶性 CD146 タンパク質を含む方法である。
【0036】
さらなる側面において、本発明は、傷跡の美的外観を改善するための、または予防における、瘢痕形成(cicatrization)または創傷、傷口または切り傷の治癒を促進するための、本明細書に記載するタンパク質または組成物の使用に関する。
【0037】
本発明の目的は、哺乳類上皮、特にヒト上皮、特に創傷、傷口または切り傷の後の瘢痕形成における、あるいは植皮との関連における使用のための本明細書に記載するタンパク質または組成物である。
【0038】
本発明のもう一つの目的は、哺乳類、特にヒトにおける痂皮または褥瘡の予防または治療における使用のための本明細書に記載するタンパク質または組成物である。
【0039】
本発明のさらなる目的は、哺乳類、特にヒトにおける植皮との関連において使用するための本明細書に記載するタンパク質または組成物である。
【0040】
配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6および配列番号7から選択される配列にある(consisting in) アミノ酸配列を含むヒト可溶性 CD146 タンパク質に選択的に結合するモノクローナル抗体が、さらに本明細書において提供される。この抗体は好ましくはまた、本発明のヒト可溶性 CD146 タンパク質の生物学的活性を中和する。好ましくは、抗体は哺乳類、好ましくはヒトにおける新血管形成、血管透過性および/または血管内皮細胞増殖を低下または阻害する。
【0041】
本明細書において開示される、抗体、または該抗体および医薬上許容される担体を含む医薬組成物は、哺乳類、好ましくはヒトにおける、望ましくない過度の新血管形成または血管透過性、可溶性形態のCD146および/またはCD146、特に、可溶性 CD146の受容体の過剰発現または過剰活性化、あるいは標準的発現と比較してe−NOS、uPa、MMP−2およびKDRをコードする遺伝子から選択される遺伝子の過剰発現を特徴とする、疾患、障害または機能不全状態、例えば癌の予防または治療に用いることが出来る。
【0042】
さらなる態様において、本発明は、本発明のヒト可溶性 CD146、ヒトの短い形態のCD146、またはその組換え形態をそれぞれコードする単離核酸分子を提供する。
【0043】
核酸分子は、ベクターによりトランスフェクトまたは形質転換された宿主細胞、特に成熟または未熟内皮細胞または前駆細胞、好ましくは内皮前駆細胞によって認識される制御配列に作動可能に連結した核酸分子を含む複製可能ベクターにおいて提供されうる。本発明はさらに、ベクターまたは核酸分子を含むかかる宿主細胞を提供する。
【0044】
別の側面において、本開示は、本明細書に記載するタンパク質、抗体、細胞または組成物のいずれか1以上を含むキットを提供する。典型的には、キットはまた、開示された方法にしたがってタンパク質、抗体、細胞または組成物を使用するための指示書も含む。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図 1:組換えヒト可溶性 CD146のインビボおよびインビトロでの走化性活性。A:正常マウスにおいて12 日間維持されたマトリゲルプラグの顕微鏡検査。1 μg/μl PBSまたは1 μg/μl c−myc ペプチドのいずれかを含む対照マトリゲルプラグおよび1 μg/μl rh−sCD146 (可溶性 DC146)を含むマトリゲルプラグを同じマウスに注射した。毛細血管様の構造をrh−sCD146 (矢印) の存在下でマトリゲルプラグにおいて観察した。対照またはrh−sCD146 マトリゲルにおける抗−CD31 (緑色)および抗−CD117 (赤色) 抗体による免疫染色を示す。核をdapiで標識した(青色)。B: 陰茎(penian)静脈を介して500,000のEPDCを注射したヌードマウスにおいて12 日間維持されたマトリゲルプラグの免疫染色。1 μg/μl c−myc ペプチドを含む対照マトリゲルプラグおよび1 μg/μl rh−sCD146を含むマトリゲルプラグを同じマウスに注射した。免疫染色を抗−ヒト CD31 (赤色) 抗体を用いてマトリゲルプラグにおいて行った。細胞核をdapiで標識した(青色)。C: rh−sCD146のEPCに対するインビトロでの走化性効果。EBM2 培地中の200,000のEPCを8 μmの細孔径のTranswell フィルターの上側区画に播いた。以下の物質を培地中様々な濃度でTranswell フィルターの下側区画に添加した: rh−sCD146、c−myc ペプチド、免疫除去した(immunodepleted) rh−sCD146 (Ip rh−sCD146)、その対照 (IpC)、またはVEGF。Transwell フィルターを一晩37℃でインキュベートした。細胞を蛍光色素で標識し、蛍光強度を測定した。結果は4 連の実験の平均値 +/− SEMである。 *、**、***: P<0.05、P<0.01、P<0.001、実験 vs 対照。D: rh−sCD146で満たし、正常マウスにおいて12 日間維持されたマトリゲルプラグの切片に対して、抗−CD45、抗−CD34、抗−αsma、抗−MOMA2、抗−CD31および抗−CD117 抗体を用いて免疫染色を行った。核をDAPIで標識した(青色)。共−標識 (co−labelling) はCD31/CD146、CD117/CD31、CD117/CD146、CD117/CD33およびCD117/CD45についても行った。重ね合わせた図を示す。黄色領域は共−標識に対応する。いくつかの図において、これらの領域は矢印によってより良好に示される。
【図2】図 2:内皮前駆細胞(progenitor) 由来細胞の血管新生能力に対する組換えヒト可溶性 CD146のインビトロでの効果。A:マトリゲルプラグにおいて偽−毛細血管を生産するEPCの能力を様々な濃度の rh−sCD146、Fc−CD146または対照 IgG1、c−myc ペプチド、免疫除去したrh−sCD146 (Ip rh−sCD146)またはその対照 (IpC)、あるいはVEGFの存在下または非存在下にて評価した。管の数を5 時間のインキュベーションの後に計数した。結果は6 連の実験の平均値+/− SEM である。*、**: P<0.05、P<0.01、実験 vs. 対照。B: EPCの増殖能力を (A)に記載の実験条件を用いて評価した。結果は5 連の実験の平均値+/− SEMである。**、***: P<0.01、P<0.001、実験 vs. 対照。C: EPCの遊走能力を(A)に記載の実験条件を用いて評価した。結果は4 連の実験の平均値 +/− SEMである。*、***: P<0.05、P<0.001、実験 vs. 対照。
【図3】図 3:組換えヒト可溶性 CD146に応答しての内皮前駆細胞−由来細胞における血管新生遺伝子転写産物および生成物の上方制御。A:遺伝子発現プロファイルにおける変化を、50 ng/ml rh−sCD146 によって3時間処理されたかまたは処理されていないEPCにおいて血管新生経路に特異的なオリゴ−アレイを用いてモニターした。遺伝子発現変化はqPCRによって確認した。結果は4 連の実験の平均値である。*、**: P<0.05、P<0.01、実験 vs. 対照。B: ウェスタンブロット分析をMMP−2、e−NOS、uPA、KDR (VEGFR2とも称される)のタンパク質上方制御を確認し、誘導の反応速度論を確立するために行った。代表的実験を各タンパク質について示す。C: Bに記載の3−5の実験の定量。*、**、***: P<0.05、P<0.01、P<0,001、実験 vs. 対照。
【図4】図 4:ラット虚血後肢モデルにおける組換えヒト可溶性 CD146の局所注射の効果。A: ラットは後肢において虚血を誘導するための手術を受けた。翌日、ラットを10 μg/mlのc−myc ペプチドまたは10 μg/mlのrh−sCD146のいずれかを含む溶液の毎日の局所注射に5または12 日間供した。動物を脱落 (auto−amputation) レベルおよび血液灌流速度(perfusion rate) (レーザードップラー分析)について手術の後20 日間、5 日毎に分析した。結果は各群において9匹の異なる動物の平均値である。*: P<0.05、実験vs. 対照。B: 組織化学的検査を非処理対照、c−myc ペプチド−処理ラットまたはrh−sCD146−処理ラットからの後肢筋肉切片について手術の12 日後に行った。C:対照動物、c−myc 処理ラットおよび rh−sCD146処理ラットにおける組織化学的検査(12 日間)によって観察された、炎症および線維症レベル、壊死繊維の量、血管形成および筋肉外観に対する効果の評価。−(非存在)、+/− (低発現)、+ (中程度の発現)、++ (高発現)として規定される半定量が与えられる。 D:共−免疫染色をrh−sCD146により2 日間処理された虚血ラットまたは非処理ラット(対照)の筋肉切片において抗−CD117 (緑色)および抗−CD146 (赤色) 抗体を用いて行った。核を DAPI (青色)で標識した。重ね合わせた(merge)図を示す。黄色領域は共−標識(矢印により示される)に対応する。
【図5】図 5:インビトロでの内皮前駆細胞の血管新生能力に対するrh−sCD146およびVEGFの相加的効果。A: rh−sCD146 (50 ng/ml)およびVEGF (20 ng/ml)を共に添加した場合の、後期(late)EPCの増殖能力を、各増殖因子を別々に添加した場合の効果と比較して評価した。結果は4 連の実験の平均値 +/− SEMである。B: rh−sCD146 (50 ng/ml)およびVEGF (20 ng/ml)を共に添加した場合の、各増殖因子を別々に添加した場合の効果と比較しての後期(late)EPCの遊走能力を創傷治癒アッセイを用いて評価した。結果は4 連の実験の平均値+/− SEMである。C:マトリゲルプラグにおいて偽−毛細血管を生産するEPCの能力を様々な条件にて評価した。rh−sCD146 (50 ng/ml)およびVEGF (20 ng/ml)を共に添加した場合の毛細血管様の構造の数を各増殖因子を別々に添加した場合の効果と比較して評価した。さらに、増殖因子の添加の前にプレインキュベートされた抗−VEGFR2 抗体(Ab)の効果を、対照条件(Ab)、rh−sCD146の存在下(Ab + rh−sCD146)、VEGFの存在下(Ab + VEGF)および2つの増殖因子の存在下(Ab + rh−sCD146 + VEGF)にて試験した。最後の条件(洗浄Ab + rh−sCD146 + VEGF)において、抗体をプレインキュベートし、次いで2つの増殖因子の添加の前に洗浄した。管の数を5 時間のインキュベーションの後に計数した。結果は6 連の実験の平均値 +/− SEMである。**: P<0.01、***: P<0.001、実験 vs. 対照。
【図6】図 6:抗−sCD146 抗体の特徴決定。抗体を可溶性 CD146 (A)に結合するが膜 CD146 (B)には結合しないその能力について、タンパク質 G ビーズおよびHuvecにそれぞれ結合させた(coupled) sCD146についてのフローサイトメトリー分析によって試験した。sCD146に対する結合を示すが膜 CD146に対する結合を示さない 6 種類の抗体が示される。***: p<0.001; $、$$: p<0.01、p<0.001、Ab+sCD146 vs sCD146。
【図7】図 7: EPC 増殖におけるsCD146−誘導性上昇に対する抗−sCD146 抗体の遮断効果。可溶性 CD146に結合することができるが膜 CD146には結合することができない抗体を EPC 増殖に対するsCD146 効果を阻害するその能力について試験した。これらの抗体のなかで、6つの抗体はsCD146−誘導性EPC 増殖を顕著に遮断した。***: p<0.001; $、$$: p<0.01、p<0.001、Ab+sCD146 vs sCD146。
【図8】図 8:ヒトケラチノサイトの増殖に対する組換えヒト可溶性 CD146の効果:ヒトケラチノサイトの増殖能力に対する様々な濃度の可溶性 CD146の効果を試験した。結果は4 連の実験の平均値 +/− SEMである。*: P<0.05、実験 vs. 対照 (C)。
【発明を実施するための形態】
【0046】
発明の詳細な説明
本発明の下記の記載において、以下の用語が用いられ、以下に示すように定義される意図である。
【0047】
「ヒトの長いCD146 タンパク質」または「長いCD146」は、内皮細胞の膜に主に存在し、以下の配列番号8に対応するアミノ酸配列を有するヒトタンパク質、ペプチドまたはアミノ酸分子をいう:
【化1】

【0048】
「ヒトの短いCD146 タンパク質」または「短いCD146」は、内皮細胞の膜に主に存在し、以下の配列番号9に対応するアミノ酸配列を有するヒトタンパク質、ペプチドまたはアミノ酸分子をいう:
【化2−1】

【化2−2】

【0049】
「ヒト可溶性 CD146 タンパク質」または「可溶性 CD146」は、約 552 〜約 558 アミノ酸、好ましくは 558 アミノ酸、より好ましくは 557、556、555、554、553または552 アミノ酸を含むヒトタンパク質、ペプチドまたはアミノ酸分子をいう。
【0050】
本発明によるヒト可溶性 CD146 タンパク質の一例は配列番号8 のアミノ酸配列の少なくとも 残基1から 552すべて、好ましくは少なくとも残基1から557すべてを含む。
【0051】
特定の態様において、本発明は以下の配列番号1にある(consisting in) アミノ酸配列を含むタンパク質を提供する:
【化3】

これは、本明細書に記載する哺乳類治療、特にヒト治療との関連において有用な好ましいヒト可溶性 CD146 タンパク質に対応する。
【0052】
哺乳類治療との関連において有用な別のヒト可溶性 CD146 タンパク質は以下に示す配列の1つにあるアミノ酸配列を有する:
配列番号2:
【化4−1】

【化4−2】

配列番号3:
【化5】

配列番号4:
【化6】

配列番号5:
【化7−1】

【化7−2】

配列番号6:
【化8】

配列番号7:
【化9】

【0053】
上記配列のなかで、配列番号1および配列番号6が特に好ましい。
【0054】
可溶性 CD146はヒト血清中に存在し、それから抽出されるかまたは人工的に再生される。好ましい態様において、可溶性 CD146は、配列番号1または配列番号6にある(consisting in)アミノ酸配列を含む。好ましくは、本明細書において開示されるヒト可溶性 CD146は生物学的に活性のヒト可溶性 CD146であり、即ち、それは脈管形成および/または血管形成を、インビトロ、エクスビボまたはインビボにて開始させ、促進し、上昇させるかまたは刺激する。好ましくは、可溶性 CD146は走化性活性を示し、即ち、可溶性 CD146は脈管形成および/または血管形成が起こるべき部位への内因性または外来性細胞の動員または遊走を誘導することができ、好ましくは内皮起源の細胞であり(KDR+ および/または CD31+ 細胞)、好ましくは未熟内皮細胞 (特に CD117+ 細胞)、成熟内皮細胞 (特に KDR+ 細胞)、内皮前駆細胞(EPC)、例えば、幹細胞(典型的には骨髄由来幹細胞)、およびそれらの混合物から選択される細胞であり、および/または、かかる細胞の血管−様構造への組織化を可能とするかまたは促進する。生物学的に活性のヒト可溶性 CD146はまた、先に規定したように内皮細胞を活性化することができ、即ち、偽−毛細血管生成を増殖させるおよび/または促進するそれらの能力を上昇させることができる。
【0055】
本明細書において開示されるヒト可溶性 CD146はさらに好ましくは 、CD146の短いアイソフォーム (「短いCD146」)、CD146の受容体、特に可溶性 CD146の受容体、および/または、かかる短いアイソフォームのCD146および可溶性 CD146の受容体を含む複合体と、細胞、好ましくは上記の細胞から選択される細胞上で相互作用することができる。
【0056】
本発明による典型的なヒト可溶性 CD146 タンパク質は先に説明したように、治療との関連において(治療的または予防的タンパク質)または診断との関連において有用であり、ヒトへの投与、特に血流における注射による投与、および/または皮下および/または筋肉内投与による投与に適合性のタンパク質である。
【0057】
「治療」という用語は、疾患、障害または機能不全状態を軽減または治癒させることができる治療的および予防的(prophylactic or preventive)処置または手段の両方をいう。かかる治療はそれを必要とする哺乳類対象、好ましくはヒト対象のために意図される。したがって、組織虚血を導く疾患、障害または機能不全状態に罹患している対象、またはかかる疾患、障害または機能不全状態の「発症のリスクがある」と考えられ、これが阻止されるべきである対象が考慮される。
【0058】
組織虚血を導く疾患、障害または機能不全状態は、異常脈管形成および/または血管形成を導く疾患、障害または機能不全状態であり、特に望ましくない過度の新血管形成、血管透過性(内皮細胞の細胞間結合の変化) および/または血管内皮細胞増殖を導く疾患、障害または機能不全状態である。かかる疾患の例としては、癌; 糖尿病; 加齢性黄斑変性症; 関節リウマチ; 乾癬;あらゆる既知の血管疾患、例えば、アテローム性血管疾患、心血管疾患、例えば、冠動脈疾患、虚血性心疾患および脳卒中、脳血管虚血、末梢血管疾患、例えば、末梢動脈閉塞性疾患が挙げられる。
【0059】
望ましくない新血管形成を導くこれらの症状において、新しい血管が疾患組織に栄養を与え、正常組織を破壊し、癌の場合は、新しい血管が腫瘍細胞が血液循環中に脱出し、他の臓器に留まることを可能とする(腫瘍転移)。
【0060】
障害は上記の疾患の結果であることもあるし、外傷の結果であることもあり得る。典型的な障害は、例えば、炎症、浮腫、線維症または壊死である。
【0061】
機能不全状態の例は、少なくとも1つの特定の形態のCD146または、CD146、特に可溶性 CD146に対する受容体の非存在、または一方で標準的発現と比較しての過剰発現によって特徴づけられる。機能不全状態のその他の例は、e−NOS、uPa、MMP−2およびKDRをコードする遺伝子から選択される遺伝子の、標準的発現と比較しての発現減少または過剰発現によって特徴付けられる。
【0062】
発現の非存在を特徴とする機能不全状態は、ヒト可溶性 CD146、またはかかる可溶性 CD146を含む治療的組成物あるいは本発明による細胞(以下に記載する)によって有利に治療される。
【0063】
過剰発現を特徴とする機能不全状態、例えば、癌は、ヒト可溶性 CD146に対する抗体、またはかかるヒト可溶性 CD146に対する本明細書に記載するようなあらゆるその他のアンタゴニストによって有利に治療される。特定の態様において、機能不全状態、例えば、癌は、ヒト可溶性 CD146に対する抗体と、血管新生因子、例えば、VEGFに対する抗体によって治療されうる。
【0064】
本明細書はそれゆえ約 552から558 アミノ酸、好ましくは 552から557 アミノ酸、より好ましくは 552または557 アミノ酸を含む単離ヒト可溶性 CD146 タンパク質を記載する。「単離」とは、ヒト対象におけるその天然源または環境の成分、特に、該対象の骨髄または血液から同定および分離または回収されたことを意味する。
【0065】
好ましいヒト可溶性 CD146 タンパク質は、配列番号1または配列番号6にあるアミノ酸配列を含み、本明細書に記載するように哺乳類治療、特にヒト治療との関連において有用なタンパク質に対応する。
【0066】
本明細書はさらに、それぞれ本明細書に記載する本発明のタンパク質をコードする核酸分子を提供する。
【0067】
かかる核酸分子は好ましくはそれぞれ本発明の生物学的に活性のヒト CD146、特にヒト可溶性 CD146、ヒトの短い形態の CD146をコードするRNAまたはDNAおよびそれらの組換え形態である。
【0068】
核酸配列の例を以下に提供する:
配列番号17 (短いCD146)
【化10−1】

【化10−2】

【0069】
配列番号10 (可溶性 CD146)
【化11−1】

【化11−2】

【0070】
配列番号11 (可溶性 CD146)
【化12】

【0071】
配列番号12 (可溶性 CD146)
【化13】

【0072】
配列番号13 (可溶性 CD146)
【化14】

【0073】
配列番号14 (可溶性 CD146)
【化15−1】

【化15−2】

【0074】
配列番号15 (可溶性 CD146)
【化16−1】

【化16−2】

【0075】
配列番号16 (可溶性 CD146)
【化17−1】

【化17−2】

【0076】
天然(非組換え)分子は、例えば所望のタンパク質を発現することが知られている組織、例えば、血液、特に、血清または骨髄から、または組織サンプル (骨髄、血液、血清等)、好ましくは治療すべき対象のサンプルから、調製された核酸ライブラリーから単離することが出来、ここでライブラリーは適当なプローブによりスクリーニングされる(例えば、Hoskins RA, Stapleton M, George RA, Yu C, Wan KH, Carlson JW, Celniker SE. Rapid and efficient cDNA library screening by self−ligation of inverse PCR products (SLIP). Nucleic Acids Research 2005; 33:185−197参照)。
【0077】
あるいは核酸分子は、例えばオリゴヌクレオチド合成によって、人工的に生産することもできる (例えば、Michaels ML, Hsiao HM, Miller JH. Using PCR to extend the limit of oligonucleotide synthesis. Biotechniques. 1992; 12:44− 48参照)。
【0078】
本発明による好ましいヒト可溶性 CD146 タンパク質は以下の工程を含む方法を用いて得ることが出来る:哺乳類細胞をヒト可溶性 CD146 タンパク質を発現する適当なベクターによりトランスフェクトする工程、および、発現されたヒト CD146 タンパク質を単離する工程。
【0079】
別のポリペプチド、例えば、タグポリペプチド配列に融合した組換えヒト可溶性 CD146 (rh−sCD146) タンパク質が本明細書に記載される(実験部分における c−myc タグ付加ヒト可溶性 CD146を参照、ここで可溶性 CD146の配列は配列番号7である)。
【0080】
核酸分子は、ベクターによってトランスフェクトまたは形質転換された宿主細胞、特に成熟または未熟内皮細胞または前駆細胞、好ましくは内皮前駆細胞 (EPC、本明細書においてEPDCとも示される)、典型的には本明細書において先に記載した細胞によって認識される制御配列に作動可能に連結した核酸分子を含む複製可能ベクターにおいて提供されうる。本発明はさらに、以下にさらに説明するベクターまたは核酸分子を含む宿主細胞を提供する。
【0081】
本発明のアミノ酸分子は、哺乳類、好ましくはヒトにおける診断、治療的または予防的使用に適合するように設計されうる。それらは、様々なタイプの組織、特に、病的組織、例えば、典型的には、虚血組織、好ましくはヒトにおける組織へとターゲティングするために、例えば、グリコシル化、メチル化、アセチル化、リン酸化されることが出来る。
【0082】
グリコシル化された可溶性ヒト CD146の発現のために好適な宿主細胞は哺乳類細胞株から選択され得、例えば、CHO 細胞である。
【0083】
別の態様において、本発明は、血管細胞増殖、典型的には内皮細胞増殖の促進のために有用な、好ましくは治療上有効量の、本明細書に記載する可溶性 CD146 タンパク質を医薬上許容される担体または賦形剤中にて含む組成物、特に医薬組成物を提供する。
【0084】
可溶性 CD146 タンパク質の「治療上有効量」は、先に定義したような哺乳類の治療を可能とする量である。
【0085】
本発明との関連において有用な医薬上許容される賦形剤、媒体または担体は、例えば、生理食塩水、等張、緩衝溶液、例えば、マンニトール 20 %であり、所望により、安定化剤、例えば、同質遺伝子(isogenic)アルブミンまたはいずれかのその他の安定化タンパク質、グリセロール等およびまた、アジュバント、例えば、ポリブレンまたはDEAE デキストラン等と組み合わされていてもよい。
【0086】
特定の側面において、本明細書に記載する、可溶性 CD46、好ましくはヒト可溶性 CD146を含む組成物はさらに少なくとも1つのその他の血管新生因子を含んでいてもよい。
【0087】
本発明との関連において、血管新生因子は血管の発達を支持する因子である。
【0088】
本発明との関連において有用な血管新生因子は、アンギオジェニン、アンジオポイエチン−1、Del−1、線維芽細胞増殖因子: 酸性 (aFGF)および塩基性(bFGF)、ホリスタチン、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子 (GM−CSF)、幹細胞因子(SCF)、肝細胞増殖因子 (HGF) /スキャッター(scatter) 因子(SF)、インターロイキン−8 (IL−8)、レプチン、ミッドカイン、胎盤増殖因子、血小板由来内皮細胞増殖因子 (PD−ECGF)、血小板由来増殖因子−BB (PDGF−BB)、プレイオトロフィン (PTN)、エリスロポエチン(erytropoietin) (EPO)、内皮一酸化窒素合成酵素(nitric oxyd synthase)(e−NOS)、プログラニュリン、プロリフェリン(proliferin)、トランスフォーミング増殖因子−アルファ (TGF−アルファ)、トランスフォーミング増殖因子−ベータ (TGF−ベータ)、腫瘍壊死因子−アルファ (TNF−アルファ)、血管内皮増殖因子(VEGF)、血管透過性因子 (VPF)、アンジオポイエチン−1 (Ang1)、プラスミノーゲン活性化因子ウロキナーゼ (PLAU/u−Pa)、マトリックスメタロペプチダーゼ MMP−2、VEGF受容体 2 (KDR)、ストロマ細胞由来因子−1 (SDF−1)等、およびそれらの混合物から選択されうる。
【0089】
好ましい血管新生因子は、血管内皮増殖因子(VEGF −実験部分および図 5参照)、ストロマ細胞由来因子−1 (SDF−1)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、エリスロポエチン (EPO)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子 (GM−CSF)、幹細胞因子(SCF)、インターロイキン−8 (IL−8) およびそれらの混合物から選択されうる。
【0090】
別の特定の側面において、本明細書に記載する可溶性 CD146に対する抗体を含む組成物は上記の血管新生因子の1つに対する少なくとも1つのその他の抗体を含んでいてもよい。
【0091】
別の特定の側面において、本明細書に記載するヒト可溶性 CD146を含む組成物はさらに、成熟または未熟内皮細胞または前駆細胞、典型的にはヒト起源のもの、好ましくはインビトロで拡張された(expanded)前駆細胞、特に幹細胞または内皮前駆細胞、典型的には血液または骨髄に由来する細胞、例えばCD34、CD133、CD31、VE−カドヘリン、VEGFR2、c−Kit、CD45 および/または Tie−2を発現する細胞から選択されるものを含んでいてもよい。
【0092】
医薬上許容される賦形剤に所望により組み込まれていてもよい本明細書において先に定義した可溶性 CD146と接触される上記の細胞を含む組成物は、以下にさらに説明する本発明の態様である。かかる組成物は添加された可溶性 CD146を含まない。
【0093】
好ましい態様において、前駆細胞は組換え前駆細胞である。かかる組換え細胞は、上記のような特定の生物学的活性形態のCD146、好ましくはヒトの短い形態のCD146またはヒト可溶性形態のCD146を発現し、好ましくはこれらの過剰発現を可能とする遺伝子または核酸コンストラクトを含むまたはそれにある(consisting in)適当なベクターを用いて遺伝的に改変されていてもよい。
【0094】
多くのベクターが利用可能である。好ましいベクターは、プラスミド、レトロウイルス、レンチウイルスおよびアデノウイルスから選択されうる。ベクター成分は一般に、これらに限定されないが、以下の1以上を含み、これらは容易に当業者によって選択可能である:シグナル配列、複製起点、1以上のマーカー遺伝子、エンハンサー要素、プロモーター、および転写終結配列 (例えば、Liu JW, Pernod G, Dunoyer−Geindre S, Fish RJ, Yang H, Bounameaux H, Kruithof EK. Promoter dependence of transgene expression by lentivirus−transduced human blood−derived endothelial progenitor cells. Stem Cells. 2006; 24:199−208参照)。
【0095】
かかる前駆細胞は、適当なベクター、好ましくは上記のようにプラスミドによって、公知のプロトコール、好ましくは内皮前駆細胞に適当なプロトコール、 例えば、エレクトロポーレーションまたはリポソームの使用にしたがってトランスフェクトしてよく、次いで、所望により以下の1以上を補充されたあらゆる公知の好適な培地において培養され得る(例えばEGM−2を含む培地): 適当なホルモン、増殖因子、バッファー等。前駆細胞は次いで当業者に公知のあらゆる方法を用いてインビトロで拡張されうる(例えば、Delorme B et al. Presence of endothelial progenitor cells, distinct from mature endothelial cells, within human CD146+ blood cells. Thromb Haemost. 2005 ;94:1270−9参照)。
【0096】
本発明によるヒト可溶性 CD146 タンパク質の、エクスビボでの、治療的または予防的特性を示す、特に人体において血管形成を刺激することができる、先に定義した成熟または未熟内皮細胞あるいは前駆細胞の調製のための使用もまた本発明に組み込まれる。本発明者らは実際、本発明によるヒト可溶性 CD146 タンパク質と接触され、「前処理」または「プライミング」された(primed)細胞がそれ自体で、対象に一度投与されると、脈管形成および/または血管形成を誘導または刺激することができることを発見した。「前処理」または「プライミング」された細胞は医薬上許容される支持体に所望により組み込まれる前に本発明によるヒト可溶性 CD146 タンパク質と接触されるかまたはその存在下で培養されたものである。
【0097】
かかる細胞ならびに該細胞を好ましくは医薬上許容される支持体中にて含む医薬組成物は本発明のさらなる目的である。かかる医薬組成物の調製において、さらにヒト可溶性 CD146を所望により添加してもよい。
【0098】
好ましい「前処理」または「プライミング」された細胞は、短い形態の CD146または可溶性 CD146を過剰発現するように先に説明したように遺伝子的に改変された細胞である。
【0099】
さらなる側面において、本発明は、組織虚血を導く、または標準的値と比較して、CD146、特に 可溶性 CD146の受容体の活性化の低下を特徴とする、あるいはe−NOS、uPa、MMP−2 およびKDRをコードする遺伝子から選択される遺伝子の発現の低下を特徴とする、疾患、障害または機能不全状態の治療において使用するための本明細書に記載するタンパク質または組成物に関する。
【0100】
本発明は虚血の予防に使用するための本明細書に記載するタンパク質または組成物に関する。
【0101】
特に、本発明は、本明細書において先に定義した疾患、障害または機能不全状態の予防または治療のための組成物を調製するための、本明細書に記載するタンパク質または組成物の使用に関する。
【0102】
別の特定の態様において、本発明は、本明細書において示す哺乳類、好ましくはヒトにおける疾患、障害または機能不全状態の予防または治療方法、特に組織虚血の予防または治療方法であって、可溶性 CD146 タンパク質を含む本明細書に記載する有効量の組成物を哺乳類に投与することを含む方法を提供する。
【0103】
さらなる側面において、本発明は、傷跡の美的外観を改善するための、または予防における、瘢痕形成(cicatrization)あるいは創傷、傷口または切り傷の治癒を促進するための、本明細書に記載するタンパク質または組成物の使用に関する。
【0104】
本発明の目的は、特に創傷、傷口または切り傷の後のあるいは植皮との関連における、哺乳類上皮、特にヒト上皮の瘢痕形成(cicatrization)における使用のための本明細書に記載するタンパク質または組成物である。
【0105】
本発明のもう一つの目的は、哺乳類、特にヒトにおける痂皮または褥瘡の予防または治療における使用のための本明細書に記載するタンパク質または組成物である。
【0106】
瘢痕形成との関連における使用のために好ましい組成物は当業者に知られた方法にしたがって局所適用のために有利に製剤される。
【0107】
別の態様において、本発明はさらに、本発明によるヒト可溶性 CD146 タンパク質、好ましくは、配列番号1または配列番号6にある(consisting in) アミノ酸配列を含むタンパク質に選択的に結合するモノクローナル抗体を提供する。
【0108】
この抗体はまた好ましくは本発明のヒト可溶性 CD146 タンパク質の生物学的活性を中和する。好ましくは、モノクローナル抗体は本明細書において規定する対象、典型的には哺乳類、好ましくはヒトにおける新血管形成、血管透過性および/または血管内皮細胞増殖を低下させるかまたは阻害する。
【0109】
モノクローナル抗体はまた、好ましくは、(標準的発現と比較しての)可溶性 CD146受容体の過剰発現または(標準的発現と比較しての) e−NOS、uPa、MMP−2およびKDRをコードする遺伝子から選択される遺伝子の過剰発現を低下または抑制することができる。
【0110】
ヒト可溶性 CD146 タンパク質およびCD146または可溶性 CD146 タンパク質受容体 (またはCD146 タンパク質受容体サブユニット)の両方に結合する抗体も本発明の範囲に含まれる。かかる抗体を作成する方法は当該技術分野において公知である(例えば、Despoix N, Walzer T, Jouve N, Blot−Chabaud M, Bardin N, Paul P, Lyonnet L, Vivier E, Dignat−George F, Vaely F. Mouse CD146/MCAM is a marker of natural killer cell maturation. Eur J Immunol. 2008;38: 2855−64参照)。
【0111】
本発明との関連において本発明者らにより選択される、(膜 CD146よりも)可溶性 CD146に選択的に結合することが出来る好ましい抗体は、図 7に示される(2B9−4、2B9−5、26D12−6、26D12−7、26D12−8および15E8−1)。
【0112】
本明細書に記載する抗体はそれぞれ適当な用量にて医薬上許容される担体をさらに含む組成物中に組み込まれてもよい。
【0113】
特定の側面において、本明細書に記載する抗体、特に本明細書に記載するヒト可溶性 CD146に対して特異的な抗体、 好ましくは配列番号1または配列番号6にある(consists in)抗体を含む、本明細書に記載する組成物はさらに、少なくとも1つの他の抗−血管新生因子を含んでいてもよい。本発明との関連において、抗−血管新生因子は、血管発達を阻害するかまたはそれに干渉する因子である。
【0114】
本発明との関連において有用な抗−血管新生因子は、先に規定した血管新生因子に対する抗体、アンジオアレスチン、アンギオスタチン (プラスミノーゲン断片)、抗血管新生 抗トロンビン III、軟骨由来阻害剤 (CDI)、CD59 補体断片、エンドスタチン (コラーゲン XVIII 断片)、フィブロネクチン断片、gro−β、ヘパリナーゼ、ヘパリン六糖(hexasaccharide)断片、ヒト絨毛性ゴナドトロピン (hCG)、インターフェロンアルファ/ベータ/ガンマ、インターフェロン誘導性タンパク質 (IP−10)、インターロイキン−12、クリングル 5 (プラスミノーゲン断片)、メタロプロテイナーゼ阻害剤 (TIMP)、2−メトキシエストラジオール、胎盤リボヌクレアーゼ阻害剤、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤、血小板因子−4 (PF4)、プロラクチン 16kD 断片、プロリフェリン−関連タンパク質 (PRP)、レチノイド、テトラヒドロコルチゾール−S、トロンボスポンジン−1 (TSP−1)、トランスフォーミング増殖因子−ベータ (TGF−b)、バスキュロスタチン(vasculostatin)、バソスタチン(vasostatin)(カルレティキュリン断片)等、およびそれらの混合物から選択されうる。
【0115】
本明細書において開示される、抗体または少なくとも該抗体および医薬上許容される担体を含む医薬組成物は、哺乳類、好ましくはヒトにおいて、望ましくない過度の新血管形成または血管透過性を特徴とする疾患、障害または機能不全状態、例えば癌、特に乳癌または黒色腫、あるいはCD146、特に 可溶性 CD146に対する受容体の過剰発現または過剰活性化、または標準的発現と比較してのe−NOS、uPa、MMP−2およびKDRをコードする遺伝子から選択される遺伝子の過剰発現を特徴とする疾患、障害または機能不全状態の予防または治療のために用いることが出来る。
【0116】
診断または医薬組成物の用量は、治療される対象、投与経路、標的とされる組織、生物学的に活性の化合物 (本明細書において開示されるようなもの)等に応じて当業者により調整することが出来る。
【0117】
様々なプロトコールを投与のために用いることが出来、例えば、ヒト可溶性 CD146およびいずれかのその他の先に定義した化合物(例えば上記のような「前処理」された、「プライミング」された、および/または、遺伝子改変された細胞)の同時または逐次投与、単回または繰り返し投与等が挙げられ、これらは当業者によって調整されうる。
【0118】
本発明による物(product)を含む医薬組成物は患者に、標的とされる病的組織または領域によって、例えば、全身的に、皮下に、髄腔内にまたは脳内に投与することが出来る。好ましい注射様式は、全身注射であり、特に静脈内または動脈内注射、または皮下注射が好ましい。
【0119】
本発明の分子はさらに診断方法において用いることができる。診断という用語は、あらゆるインビボ、エクスビボまたはインビトロ診断を意味し、分子検出、モニタリング、定量、比較等が挙げられる。特に、ヒト可溶性 CD146 タンパク質は、哺乳類、好ましくはヒトにおける疾患、特に虚血または癌、腫瘍転移の存在、またはかかる疾患状態の進行の指標を提供するバイオマーカーとして用いることが出来る。特にヒト可溶性 CD146 タンパク質の血清濃度は、この観点において価値の高い指標であり得る。測定値は実際、対象の健康状態と関係する標準値と比較されうる。可溶性形態のCD146の過剰発現は、特に、癌の存在の指標であり得る。
【0120】
診断という用語はまた、インビトロ、エクスビボまたはインビボで細胞のアポトーシスを引き起こすかまたは上昇させる化合物または治療法のスクリーニングのための分子の使用も含む。
【0121】
本明細書においてはまた、本明細書に記載する少なくとも1つの生物学的に活性の物(product)、例えば、ヒト可溶性 CD146、該ヒト可溶性 CD146に対する抗体、特にモノクローナル抗体、「前処理」または「プライミング」された(該ヒト可溶性 CD146により刺激された) および/または(短い形態の CD146または可溶性 CD146を過剰発現するように)遺伝的に改変された細胞、及び所望により(ii) 指針を提供するリーフレットを含むキットも提供される。
【0122】
本発明のさらなる側面および利点は以下の実施例において説明されるが、これは例示的なものであって限定的なものではないとみなすべきである。本出願において引用するすべての刊行物は本明細書において引用により組み込まれる。
【実施例】
【0123】
実施例 1: 可溶性 CD146は実験的後肢虚血において血管新生特性を示し、新血管形成を促進する
材料および方法
組換えヒト可溶性 CD146
可溶性形態のヒト CD146に対応するc−myc タグ付加組換えタンパク質を Biocytex (Marseille、France)から得た。CD146のそのN−末端でのエピトープ標識(epitope tagging)により、抗− c−myc ペプチド抗体(Abcam)を用いる組換え分子の特異的な検出およびその内在性CD146からの識別が可能となった。
【0124】
インビボでのマトリゲルプラグ
非免疫不全またはヌードマウスを麻酔し、0.1 μg/μlのc−myc ペプチドまたは0.1 μg/μlのrh−sCD146のいずれかを含む400μlの氷冷マトリゲルを各動物の左側および右側鼠径部にそれぞれ注射した。動物に次いで実験に応じて500,000の後期(late)EPCを注射したかまたはしなかった。12 日後、マトリゲルプラグを取り出し凍結した。上記手順は制度認可動物使用プロトコールに基づいて行った。
【0125】
ラットにおける後肢虚血の誘導
雄性ラットを左大腿動脈全体の完全切除、次いでマイクロビーズ注射によって片側後肢虚血に供した。レーザードップラー組織イメージングは左総大腿動脈の閉塞が1日目に血液かん流を約 90%低下させたことを示した。手術の後、動物を4つの治療群に分けた: 2つの対照群には虚血内転筋筋肉において 10 μgのc−myc ペプチドを5または12 日間、毎日注射した;2つの実験群は対照群と同様に処理し、ただし、c−myc ペプチドの代わりに組換えヒト可溶性 CD146 (rh−sCD146)を用いた。上記手順は制度認可動物使用プロトコールに基づいて行った。
【0126】
レーザードップラー血流分析
虚血と正常後肢血流との比をレーザードップラー血流アナライザーを用いて測定した。様々な時点で(術後1、5、10、15および21日目)、動物を目的の領域 (脚(leg and feet)) の上の2 連続のレーザースキャニングに供した。血流は虚血対正常後肢比として表した。
【0127】
形態学的、組織学的および免疫化学的評価
虚血誘導または開始後20日目に、動物を致死量のペントバルビタール (Clin Midy、Gentilly、France)により屠殺し、筋肉を4% リン酸緩衝パラホルムアミド (Sigma−Aldrich)による経心臓的かん流によって固定した。凍結切片を滑走式ミクロトーム (CM1900、Leica、France SA)により切断し、−20℃で保存した。すべての切片を実験条件を知らない調査員によりデジタルカメラ (DXM1200、Nikon France SA)を備えた光学顕微鏡 (Eclipse TE 2000−U、Nikon France SA)を用いて調べた。
【0128】
組織学的分析を虚血誘導の20 日後に、エオシン−ヘマトキシリンにより染色された一連の筋肉切片に対する虚血領域の中心部(core)および境界域において誘導された細胞変化の顕微鏡検査によって行った。切片を2つの連続した切片上で光学顕微鏡下で調べた。細胞変化の半定量評価を非存在 (−)から強度(++)の4点スケールを用いて行った。毛細血管密度を筋肉低温切開片の顕微鏡分析により判定した。
【0129】
インビボマトリゲルプラグ実験または筋肉に対する実験において、5 μmの厚さの切片を染色のために用いた。正常血清中でブロッキングした後、切片を一晩4℃で抗−CD31 (1/50)、抗−CD117 (1/50)、抗−CD34 (1/40)、抗−CD45 (1/200) 抗体、抗−MOMA2 抗体(1/200)、抗−αsma 抗体(1/80)、抗−CD33 抗体(1/100)、または抗−CD146 抗体(1/100)により処理した。シグナル増幅は非共役(non−coupled)の場合、蛍光色素 (Alexa 488またはAlexa 647)−結合(conjugated)二次抗体 (1/250; Invitrogen)を用いた。切片をDAPI (1:1000、Sigma−Aldrich)により対比染色し、すすぎ、そしてマウントした。非特異的染色の評価のために、代替の(alternating)切片を一次抗体なしでインキュベートした。
【0130】
循環前駆内皮細胞の単離および細胞培養
ドナーから同意後に採取されたヒト臍帯血サンプルをヘパリン化チューブ中に収集した。単核細胞 (MNC)を密度勾配遠心分離によって単離した。臍帯血 MNCを次いで24 時間プラスチックフラスコ中でRPMI/10% ウシ胎仔血清 (FCS)中に前播種した。非接着細胞を0.2% ゼラチン被覆 24−ウェルプレート (ウェル当たり105 細胞)上に播種し、EGM−2 SingleQuotsを補足した内皮基礎培地−2 (EBM−2) (EGM−2 培地、Clonetics、Walkersville、MD、USA)中に維持した。内皮前駆細胞由来細胞 (EPDC)(後期(late)内皮前駆細胞(EPC)とも称される)の拡張のために、コロニーをトリプシン処理し、細胞を実験に応じてプレートまたはlabtek スライドに再播種した。細胞を標準条件下(湿気のある環境、5% CO2、37℃)で維持した。
【0131】
EPDC 刺激実験のために、細胞をEBM2中で3 時間維持し、次いで、50 ng/mlの組換えヒト可溶性 CD146 (rh−sCD146) (biocytex)、20 ng/mlのVEGF (R&D systems、Minneapolis、MN、USA)または適当な溶液で実験に応じて1から24 時間刺激した。
【0132】
インビトロ走化性活性
実験をEGM2 培地において半透過性 Transwell フィルター(8 μm 孔隙率; 24 ウェル; B&D)に対して行った。あらかじめ30分間37℃でカルセインにより標識した500,000のEPDCを上側区画に播いた。様々な濃度の rh−sCD146を次いで下側区画に添加し、フィルターを横切るEPDCの遊走を一晩37℃でのインキュベーションの後測定した。蛍光強度を細胞蛍光(cytofluor)装置(Cytofluor Series 4000; PerSeptive Biosystems)を用いて測定した。
【0133】
マトリゲルにおける内皮細胞管形成
96−ウェルプレートを冷マトリゲル(商標) 基底膜(Basement Membrane) (10 mg/ml、BD Biosciences、Bedford、MA、USA): EBM−2 培地の1:1混合物によりあらかじめ被覆した。45 分間の37℃での重合後、EPDCをrh−sCD146またはVEGFを追加したかまたは追加していないEBM中に104 細胞/ウェルにて播いた。5 時間後、代表的な視野の写真を400x 倍率にて倒立顕微鏡の下で各条件について撮影した。毛細管形成を管の全長および視野あたりの管の数をLucia(登録商標)ソフトウェア(Nikon)を用いて測定することにより評価した。
【0134】
細胞増殖アッセイ
EPDCを96−ウェルプレート(5.103/ウェル)に播き、EGM−2 培地において3日間培養した。細胞を次いでEBM−2 培地中で2 時間プレインキュベートした。細胞増殖をRoche CorporationからのBrdU Labeling and Detection Kit IIIを用いて5−ブロモ−2’−デオキシ−ウリジン(BrdU)の細胞内 DNAへの取り込みによりアッセイした。簡単に説明すると、細胞をEBM−2 培地中で rh−sCD146 またはVEGFの非存在下または存在下でBrdU 標識溶液とともに12 時間インキュベートした。細胞内DNAをヌクレアーゼ処理により部分的に消化し、取り込まれたBrdUをペルオキシダーゼ−結合一次抗体により検出した。吸光度を405 nmにてUvmc2 マイクロプレートリーダー (Safas、Monaco)を用いて測定した。結果は任意単位として表した。実験は三連で行った。
【0135】
創傷治癒アッセイ
再現可能な創傷を24−ウェルプレート上で培養したEPDCの融合性単層(confluent monolayer)の上にピペットチップを用いて作った。創傷の表面を400xの倍率で Olympus 倒立顕微鏡を用いて測定し、Biocom Visiolab 画像分析ソフトウェア (Les Ulis、France)により獲得した。培地を除き、EPDCを様々な濃度のrh−sCD146を含むかまたは含まないEBM−2とともに6 時間インキュベートした。細胞創傷修復をもとの創傷の面積から6 時間のインキュベーションの後に測定した創傷面積を差し引くことによって算出した。結果を 100%とみなした元の創傷の面積のパーセンテージとして表した。
【0136】
ウェスタンブロット分析
ウェスタンブロット分析を以下のようにして行った。簡単に説明すると、細胞をrh−sCD146で処理したかまたは処理していないプレート上で成育させ、PBSで洗浄し、プレートを引きはがし(scraped off)、300 μlの氷冷溶解バッファー(150 mM NaCl、50 mM Tris HCl (pH 7.4)、2.4 mM EDTA、1% Nonidet P40、0.5 mM フッ化フェニルメチルスルホニル)により30分間4℃で抽出した。遠心分離 (12,000 g、10分間、4℃)により細胞残屑および核を除いた後、タンパク質をタンパク質アッセイ (Biorad)により定量した。30 μgのタンパク質を40 μlのNuPage LDS サンプルバッファー (Invitrogen)に再懸濁した。サンプルを次いで4−12% NuPage SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動 (Invitrogen)にかけ、ニトロセルロースメンブレン (Invitrogen)上にトランスファーした。メンブレンを特異的一次抗体(抗−KDR、抗 uPa、抗−MMP−2、抗 e−NOS (以下参照))、次いでペルオキシダーゼと結合させた二次抗体によりプローブし、ECLキット(Amersham)により現像した。はがした(stripping)後様々な抗体によりメンブレンをプローブした。
【0137】
遺伝子発現プロファイリング
全細胞RNAを50 ng/mlのrh−sCD146によって3 時間処理されたかまたは処理されていない培養EPDCから単離した。これをDNase 消化工程を含めて製造業者の指示にしたがってRNeasy Kit (Qiagen GmbH、Hilden、Germany)を用いて行った。オリゴアレイハイブリダイゼーションを血管形成オリゴアレイ (Tebu−Bio)を用いて製造業者にしたがって行った。スポットをTebu−Bio ソフトウェアを用いて定量した。バックグラウンドの差し引きをシグナル平均強度について試験および参照 DNA スポットの両方において行った。計算された比における正規化をすべての比の平均に対して行った。ハイブリダイゼーションは3回行い、データは1つの代表的実験からとった。
【0138】
RNA 単離、cDNA 合成およびリアルタイム PCR
全細胞RNAをDNase 消化工程を含めて製造業者の指示にしたがってRNeasy Kit (Qiagen GmbH、Hilden、Germany)を用いてEPDCから単離した。5 μg の全RNAを40 UのRNaseOUT (Invitrogen、Frederick、Maryland、USA)、150 ngのランダムヘキサマープライマー(Roche Manheim、Germany)、10mMのdNTPs (Invitrogen)、および200 UののSuperscript II (Invitrogen)を含む50 μl の反応液において逆転写した。cDNA サンプル (0.2 μl)を最適オリゴヌクレオチド濃度の0.4 μMにて様々な遺伝子または対照遺伝子に特異的なプライマーセットを用いるqPCRに供した。フォワード (F)およびリバース(R)特異的プライマー配列は以下の通りであった:
UPA−F: TTTGCGGCCATCTACAGGAG (配列番号18)
UPA−R: AGTTAAGCCTTGAGCGACCCA (配列番号19)
KDR−F: TGTGGGTTTGCCTAGTGTTTCT (配列番号20)
KDR−R: CACTCAGTCACCTCCACCCTT (配列番号21)
eNOS−F: CTCATGGGCACGGTGATG (配列番号22)
eNOS−R: ACCACGTCATACTCATCCATACAC (配列番号23)
MMP2−F: TGATCTTGACCAGAATACCATCGA (配列番号24)
MMP2−R: GGCTTGCGAGGGAAGAAGTT (配列番号25)
【0139】
反応をFastStart DNA MasterPLUS SYBR Green Iキットを用いて製造業者の指示にしたがって(Roche) 20 μlの総体積にて行った。増幅サイクルは以下の通りであった: 95℃10分(ホットスタートPCR)、次いで、40 サイクルの、95℃10秒、62℃10秒および72℃20秒(産物増幅)。増幅サイクルの最後に、融解温度分析を、温度のゆっくりとした(0.1℃/秒)95℃までの上昇によって行った。増幅、データ取得および分析はLight Cycler装置およびLightCycler 3.5.2 ソフトウェア (Roche)を用いて行った。各遺伝子についての閾値サイクル (Ct)をGAPDHのものに対して正規化した。与えられた値は106のGAPDH 転写産物コピーに対する所与の遺伝子についての転写産物コピー数を示す。
【0140】
ペプチド、抗体および阻害剤
組換えヒト可溶性形態のCD146 (rh−sCD146)およびそのFITC接合バーションを調製した。このペプチドは、ヒト CD146のN−末端 c−myc エピトープタグ付加細胞外ドメイン(EQKLISEEDL (配列番号26))に対応する。該タグは外因性組換えタンパク質の特異的追跡および対照免疫除去(immunodepletion)実験のために用いた。対応するc−myc ペプチド (Abcam)を対照として用いた。Fc−CD146をヒト IgG1のFc部分とヒト CD146の細胞外部分との融合により作成した。抗−KDR (Sigma)、抗 uPa (American diagnostic inc.)、抗−MMP−2 (Calbiochem)、抗 e−NOS (Santa Cruz Biotechnology)、抗−CD146 (クローン S−Endo−1; Biocytex)、抗−CD31 (B&D)、抗 CD45 (B&D)、抗 CD33 (B&D)、および抗−CD117 (B&D) 抗体は1/500希釈にて用いた。
【0141】
本研究において用いた抗−マウス抗体は以下の通りである: 抗−CD45、抗−CD34、抗−αsma、抗−MOMA2 (Dako Inc.; Glostrup; Denmark)、Alexa fluor 488 抗−CD31およびAlexa fluor 647 抗−CD117 (Biolegend)、抗−CD33 (Santa Cruz)および抗−CD146。
【0142】
本研究において用いた抗−ラット抗体は以下の通りである: 抗−CD117 (Neuromics)、および抗−CD146。
【0143】
抗−VEGFR2 遮断(blocking)抗体を用いた(r212; Acris Antibodies GmbH、Herford; Germany)。
【0144】
イムノアッセイを用いて培地におけるVEGF濃度を判定した。実験を製造業者(Invitrogen)によって記載されているようにして行った。
【0145】
統計分析
データは示された数の実験の平均±SEMとして表した。統計分析は Prism ソフトウェア (GraphPad Software Inc.、San Diego、USA)を用いて行った。有意差はノンパラメトリックマンホイットニー検定を用いて判定した。P 値< 0.05を有意であるとみなした。
【0146】
結果
組換えヒト可溶性 CD146はインビボおよびインビトロで内皮細胞に対する走化性活性を示す
本発明者らは、非免疫不全マウスにrh−sCD146 (0,1 μg/μl)を含む三次元マトリゲルプラグを埋め込むことによって内皮細胞に対するrh−sCD146の走化性特性を調べた。rh−sCD146はmyc−タグ付加されているため(材料および方法参照)、c−myc ペプチド (0,1 μg/μl)を対照分子として用いた。結果は、14 日後、rh−sCD146 マトリゲルプラグは、対照マトリゲルプラグよりも約 100倍多い細胞を含んでいたことを示した。これらの細胞は血管−様構造を組織することができ、これらのほとんどはCD31について陽性に染色され、それらが内皮起源であることを示した (図 1A)。
【0147】
rh−sCD146で満たされたマトリゲルプラグに存在する様々な細胞タイプを調べるために、CD31、CD45、CD34、α−SMA、CD117およびMOMA−2についての染色を行った。図 1Bに示す結果は、造血細胞(CD45 陽性)、単球/マクロファージ (MOMA−2 陽性)、平滑筋細胞および/または 周皮細胞 (α−SMA 陽性)および内皮細胞(CD31 陽性)がrh−sCD146により動員され得たことを示す。血管−様構造に組み込まれた細胞のなかで、本発明者らは、CD34 陽性細胞 (造血幹細胞および前駆/成熟内皮細胞のマーカー)および未分化マーカー CD117により染色された未熟細胞を観察した。これらの細胞をよりよく特徴決定するために、共染色を行った(図1B)。結果は、血管−様構造に関係するCD31 陽性細胞はCD146についても陽性であったことを示す。興味深いことに、血管−様構造中に存在するCD31 陽性またはCD146 陽性細胞の約 10−15 %が未分化マーカー CD117によって共染色された(図 1B)。最後に、二重標識 CD117+/CD33−およびCD117+/CD45−は、これら未分化細胞は骨髄起源または造血起源のものではないことを示した。
【0148】
本発明者らは、ヒトEPCを注射したヌードマウスにおいて同じタイプのマトリゲルプラグ実験を行った(図 1B)。ヌードマウスに埋め込まれたrh−sCD146 (1 μg/μl)を含むマトリゲルプラグは、正常マウス (上記参照)において既に観察されたのと同様に、対照プラグと比べて多数の細胞を動員することができた。これらの細胞の部分は抗−ヒト CD31 抗体による陽性標識によって示されるようにヒト EPCであったが、ヒト EPC は同じ動物における対照プラグにおいては観察されなかった。興味深いことに、EPCはまた、構造化された血管の作成(elaboration)にも関与していた (図 1B)。
【0149】
rh−sCD146のEPCに対する走化性活性をインビトロで確認した(図 1C)。rh−sCD146の走化性活性は0から50 ng/mlまで上昇し、その後400 ng/mlまでプラトーに維持された。50 ng/ml rh−sCD146によって観察された走化性効果は20 ng/ml VEGFによって観察されたものと同様であった。rh−sCD146の免疫除去の後にc−myc ペプチドまたはバッファー溶液によって処理されたサンプルにおいては走化性活性は検出できなかった。
【0150】
まとめると、これらの結果は、rh−sCD146が成熟および未熟内因性内皮細胞および外因性に投与したEPCの両方を動員することができたことを示す。これはEPCは血管形成および脈管形成の主な主体を構成するため、この分子の重要な性質である。
【0151】
組換えヒト可溶性 CD146は内皮前駆細胞(EPC)の血管新生能力をインビトロで上昇させる
本発明者らはEPCの機能的特性に対するrh−sCD146の影響を調べた。この目的のために、本発明者らは、様々な濃度のrh−sCD146の、EPC 管形成、遊走および増殖に対する効果を評価し、これらの効果を血管新生サイトカインであるVEGFの効果と比較した。毛細管の形成は、細胞微環境を模倣し、三次元細胞組織化を可能とするラミニンに基づくゲルであるマトリゲルプラグのモデルにおいて評価した(図 2A)。EPCをマトリゲルプラグ上に播いた場合、内皮管の自発的な形成が起こり、管は次いで毛細血管ネットワークを形成した。rh−sCD146の添加は、管の数 (図 2A) および長さ (データ示さず)における上昇により示されるように、このネットワークの発達を改善した。この効果は25および100 ng/ml rh−sCD146の間で用量依存的であった。50 ng/ml rh−sCD146により観察された効果は20 ng/ml VEGFにより観察された効果と同様であった。細胞が対照 c−myc ペプチドまたは免疫除去された rh−sCD146により処理された場合には効果は観察されなかった。EPC 増殖 (図 2B) および遊走 (図 2C)に対するrh−sCD146の効果もまた評価した。両方の場合において、rh−sCD146の効果は分子特異的であり (rh−sCD146の免疫除去の後のバッファーでは効果無し)、用量依存的であった。これらの実験において、50ng/ml rh−sCD146の効果はまた、20 ng/ml VEGFによって観察されたものと同様であった。
【0152】
したがって、EPCの動員に加えて、rh−sCD146はこれら細胞をその血管新生活性を上昇させることにより活性化することができるようであった。マトリゲルプラグにおけるEPC 増殖、遊走および血管−様構造を組織する能力はVEGFにより観察されたのもと非常に類似の程度にて上昇した。
【0153】
1971年におけるFolkmanおよび同僚らの先駆的研究以来、いくつかの血管新生増殖因子の治療的能力が熱心に研究されてきた。
【0154】
それらのなかでも、VEGFは血管形成を上昇させることが繰り返し示されてきており、VEGF ペプチドまたはVEGFをコードするプラスミド DNAの注射に基づく多数の治療アプローチが試験されてきた(Nomi M, Miyake H, Sugita Y, Fujisawa M, Soker S. Role of growth factors and endothelial cells in therapeutic angiogenesis and tissue engineering.Curr Stem Cell Res Ther. 2006;1:333−43)。
【0155】
bFGFもまた、側副細動脈(collateral arteriolar)増殖を上昇させることが示されてきており、実験によりVEGFとbFGFとの間の相互依存関係が示唆されている(Stavri GT, Zachary IC, Baskerville PA, Martin JF, Erusalimsky JD. Basic fibroblast growth factor upregulates the expression of vascular endothelial growth factor in vascular smooth muscle cells. Synergistic interaction with hypoxia. Circulation. 1995; 92(1):11−4)。
【0156】
血管を発達させることにより血管平滑筋細胞の動員を媒介するアンジオポイエチン−1、エリスロポエチン (EPO)および顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)もまた、梗塞を起こした心筋層における虚血後の血管の側副(collateral)形成に関与しているようである(Vandervelde S, van Luyn MJ, Tio RA, Harmsen MC. Signaling factors in stem cell−mediated repair of infarcted myocardium. J Mol Cell Cardiol. 2005; 39(2):363−76)。最後に、内皮一酸化窒素合成酵素 e−NOSは、虚血組織において強力な血管新生効果を示すことが示された(Duda DG, Fukumura D, Jain RK., Role of eNOS in neovascularization: NO for endothelial progenitor cells. Trends Mol Med. 2004;10:143−5)。
【0157】
可溶性形態のCD146はこのたび、本発明者らにより本明細書において実証されるように、新規な非常に重要な血管新生増殖因子として出現する。本発明者らのインビトロでの実験は実際に50 ng/ml rh−sCD146により得られる効果が20 ng/ml VEGFにより観察される効果と同様であったことを示す(図 2)。
【0158】
rh−sCD146とVEGFとの効果は非常に類似していたため、本発明者らはかかる効果が相加的であるか、相乗的であるか、またはそうでないのかを試験した。この目的のために、同じ実験を、rh−sCD146 50 ng/mlとVEGF 20 ng/mlとの両方の因子の添加によって行った(図 5)。結果は、両方の分子のEPC 増殖(図 5A)、遊走(図 5B)およびマトリゲルにおいて毛細血管様の構造を形成する能力(図 5C)に対する効果が相加的であることを示す。機構をさらに調べるために、本発明者らは、抗−VEGFR2 抗体の存在下でのマトリゲルにおける毛細管形成についてのさらなる実験を行った。これらの抗体を、VEGFR2を完全に遮断するためにVEGF および/または rh−sCD146による処理の最初から細胞とともにインキュベートしたか、または抗体の洗浄およびさらなるrh−sCD146 + VEGFによる処理の前に細胞とともにプレインキュベートした。この最後の条件は、刺激の前に膜に存在するVEGFR2の遮断を可能とするが、rh−sCD146によって後から誘導されたVEGFR2の遮断は可能としないものである。
【0159】
結果(図 5C)は、抗−VEGFR2 抗体は、 1/ 対照条件においては効果を有さず、2/ VEGF 効果を完全に遮断し、および、 3/ rh−sCD146の効果を部分的に遮断したことを示す。rh−sCD146およびVEGFが抗体の存在下で添加された場合、毛細血管様の構造の数は抗体無しの条件と比べて減少し、管の数は抗−VEGFR2 抗体の存在下でのrh−sCD146により観察されたものと同様であった。最後に、細胞を抗体の洗浄およびrh−sCD146およびVEGFによるさらなる刺激の前に抗−VEGFR2 抗体により前処理した場合、毛細血管様構造の数は先の条件より有意に高く、細胞表面でのrh−sCD146による新しいVEGFR2の誘導が示唆される。したがって、これらの実験は、rh−sCD146 応答は、多くの場合sCD146−特異的経路を伴うのみならず、少数の部分において、細胞表面での新しいVEGFR2の誘導によりVEGF シグナル伝達経路を伴うことを示す。
【0160】
VEGF 分泌がrh−sCD146 処理によって修飾されたかどうかを試験するための実験も行った。24時間 50 ng/ml rh−sCD146により処理されたEPCは、非処理 EPCと比較して VEGF 分泌において統計的に有意な上昇を示した(71.8 +/− 6.1 対 54.8 +/− 3.2 pg/ml、n=6; p< 0.05)。
【0161】
組換えヒト CD146は内皮前駆細胞における血管新生促進遺伝子の転写を誘導する
本発明者らは、EPCに対して観察されたrh−sCD146の機能的効果が部分的には遺伝子転写に依存している可能性があることを仮定した。この仮説を試験するために、本発明者らは、血管新生遺伝子に特異的なオリゴ−アレイを用いてrh−sCD146によるEPCの処理の際の遺伝子発現における変化をモニターした。113のプローブされた遺伝子(方法参照)のなかで、いくつかは上方制御され、いくつかは下方制御されたか、あるいは変化しなかった。上方制御された遺伝子のなかで、本発明者らは、50 ng/ml rh−sCD146により3時間処理されたEPCにおいて少なくとも 5−倍再現性良く上方制御された4つの遺伝子を選択した。それらには、eNOS、VEGF受容体 2 (KDR)、マトリックスメタロペプチダーゼ MMP−2およびプラスミノーゲン活性化因子ウロキナーゼ (PLAU/u−Pa)が含まれた(図 3)。EPCの50 ng/ml rh−sCD146による処理の際のこれらの遺伝子の発現変化をqPCRおよびウェスタンブロット分析によって確認した。qPCR 実験により、4つのすべての遺伝子についてのmRNAが50 ng/ml rh−sCD146による処理の3 時間後に効果的に有意に上昇したことが明らかとなった (図 3A)。タンパク質レベルでは、eNOSおよびu−Paの発現は処理の1時間後に有意に上昇したが、KDRおよびMMP−2の上昇は処理の3時間後に観察された(図3Bおよび3C)。タンパク質発現の上昇は24 時間維持された。
【0162】
したがって、rh−sCD146の主な効果の1つは、いくつかの血管新生促進タンパク質の転写および翻訳を上昇させることであった。本研究においてrh−sCD146によって上方制御されるタンパク質は、血管形成の際に特別の重要性を有するようである。
【0163】
KDRの活性は、特に、脈管形成の際または腫瘍血管形成の際に劇的に上昇する。それは内皮細胞に対して、いくつかのタンパク質、例えば、uPA、uPARおよびいくつかのMMPの発現を誘導することによって作用する。本発明者らの研究においてrh−sCD146によって誘導される2つのその他のタンパク質はu−PAおよびMMP−2である。それらは、遊走および細胞増殖の際に基底膜および細胞外マトリックスの分解を促進するタンパク質分解複合体に属する。それらは生理的血管形成および腫瘍血管形成の両方に関与する。興味深いことに、CD146の活性はしばしばMMP−2の活性と共役(coupled)しているようである。実際、黒色腫の抗−MUC18 抗体による処理が、HUVECがマトリゲルプラグにインビトロで定着する能力を低下させること、および、これはMMP−2のコラゲナーゼ活性の低下と関連していたことが示された。
【0164】
もうひとつのrh−sCD146に誘導されるタンパク質であるeNOSも、血管形成において重要な役割を果たしているようである。eNOSの幹細胞の動員における役割は必須であるようである。虚血心筋症患者由来の骨髄単核細胞のeNOS シンターゼ転写エンハンサー AVE9488による前処理は、これら前駆細胞の新血管形成を誘導する能力を回復させることができる。
【0165】
組換えヒト可溶性 CD146の局所注射はラット虚血後肢モデルにおける新血管形成を上昇させる
rh−sCD146のインビトロおよびインビボ特性に鑑み、本発明者らは、その可能性のある治療的効果をラット後肢虚血のインビボモデルにおいて試験した。図 4Aに示す結果は、虚血後肢の10 μg rh−sCD146/日による5 日間の処置の後、動物の脱落(auto−amputation)のレベルが虚血の開始の5 日間後に、c−myc ペプチドで処置された対照動物と比較して有意に低下していたことを示した。対照的に、虚血の開始の10または20 日後では処置群の間に有意な違いはなかった。レーザードップラー組織イメージングによると、左総大腿動脈の閉塞が1日目において血液かん流を約 90%低下させたことが示された。rh−sCD146による処置は、5日目に対照群と比較して血液灌流速度を有意に上昇させたが、10日および20日目に2群の間では血流のさらに有意な変化は検出できなかった。
【0166】
動物が同じ用量の rh−sCD146 (10 μg/日)であるが、より長い期間 (12 日間)処置された場合、脱落(auto−amputation) レベルは対照ラットと比較して5、10 および20日目において有意に低下しなかった。これらの症状において、血液灌流速度はまた、5日から20日目に有意に上昇し、20日目において同じ動物の対照脚における血液灌流速度の約 60 % に達した(図 4A)。20 日後の筋肉切片の組織化学的検査によると、rh−sCD146によって処置されなかった虚血後肢において炎症、石灰化、線維症領域および多数の壊死した筋線維が示された(図 4B)。対照的に、rh−sCD146で12 日間処置された虚血後肢においては、線維症はほとんどまったく観察されず、炎症および壊死した筋線維は大いに低減した (図 4Bおよび図 4C)。毛細血管の調査は、対照虚血肢と比較してその数が有意に上昇し、筋肉外観がインタクトな(intact)筋線維の大多数について大幅に改善されたことを示した(図 4Bおよび図 4C)。興味深いことにそして有利なことに、本発明者らはまた、切断された肢の治癒に対するrh−sCD146の栄養効果も観察した(データ示さず)。
【0167】
血管−様構造に参加するCD117/CD146 陽性内皮前駆細胞がインビボでrh−sCD146を含むマトリゲルプラグにおいて観察されたため(図 1B参照)、本発明者らは、かかる細胞が虚血後のラット筋肉においても検出できるかどうかを試験した。この目的のために、本発明者らは、初期事象を検出するために、処置の開始後2日間rh−sCD146で処理されたかまたは処理されなかった後肢虚血を有するラットの筋肉を分析した。結果は、CD117/CD146 陽性細胞がrh−sCD146で処置された動物においては検出できたが、かかる細胞は対照ラットにおいてはみられなかったことを示す (図 4D)。
【0168】
結論
マトリゲルプラグのインビボでの実験は、それらの血管−様構造への挿入およびそれらの内皮マーカー、CD34、CD146 またはCD31についての陽性染色(これらの細胞の二重染色はそれらがCD33およびCD45陰性であることを示し、それらが骨髄または造血起源ではないことを示している)によって証明されるように、sCD146が、内皮細胞、および造血細胞、例えば、単球、平滑筋細胞および/または周皮細胞を含む様々な細胞タイプに対して走化性活性を示すことを示した。これらの実験はさらに、sCD146が、本明細書においてEPDCとも示す、外因性に注射された後期(late)内皮前駆細胞(EPC)を動員することができることも示した。
【0169】
動員された内皮細胞は血管−様構造の形成に参加した。インビトロにおいて、sCD146は、EPCの血管新生特性を増強し、細胞遊走、増殖および毛細血管様の構造を確立する能力を上昇させた。
【0170】
現在に至るまで、可溶性 CD146の受容体はいまだに知られていない。膜 CD146はこの受容体ではない。というのは、両分子の間の同種親和性相互作用が実証されていないからである。
【0171】
観察された効果は、特に、VEGFの効果と相加的であった。sCD146はVEGFR2 発現およびVEGF 分泌を増強させた。
【0172】
血管新生促進の役割と一致して、sCD146に刺激されたEPCの遺伝子発現プロファイリングは、特に、eNOS、uPa、MMP2およびVEGFR2の上方制御を明らかにした。膜に結合したCD146のサイレンシングはこれらの応答を阻害した。
【0173】
sCD146の可能性のある治療的関心を後肢虚血のモデルにおいて試験した。本発明は、sCD146の局所注射が有意に脱落(auto−amputation)、組織壊死、線維症、炎症を低下させ、血流を上昇させたことを実証する。本明細書において、sCD146 が走化性および血管新生特性を示し、肢虚血のモデルにおいて効率的な新血管形成を促進することが確立される。組換えヒト sCD146はしたがって、虚血疾患および障害における治療的血管形成のための新規な戦略を支持する。
【0174】
sCD146の有益な効果に影響を与える完全な機構は不明であり、いまだ解明されていないが、いくつかの経路が関与している可能性がある。sCD146は局所内皮常在細胞および/または単球浸潤に対して作用している可能性がある。というのは本発明者らはマトリゲルプラグにおいてインビボで単球に対する走化性効果を実証したからである(Bardin N, Blot−Chabaud M, Despoix N, et al. CD146 and its soluble form regulate monocyte transendothelial migration. Arterioscler. Thromb Vasc Biol. 2009; 29: 746−53)。あるいは、またはさらに、sCD146は内皮前駆細胞を新血管形成領域へ動員することにより脈管形成において役割を果たしている可能性がある。この最後の仮説と一致して、後期(late)内皮前駆細胞の特徴を提示する細胞がマトリゲルプラグにおいて動員され、血管−様構造として組織化された。さらに、未熟内皮細胞がsCD146による処置の2日後に動物の筋肉切片において観察され得た。
【0175】
実施例 2:生体ヒト皮膚外植片についての皮膚治癒反応速度論に対する活性成分の治癒活性の研究
この研究の目的は、生体皮膚外植片に対してUVB 照射によって誘導された表皮および真皮病変の治癒反応速度論に対するsCD146 の活性を実証することであった。この活性を、一般的形態の観察によって、およびフィブロネクチンおよびインテグリン β4の特異的免疫標識によって評価した。
【0176】
操作方法
外植片の調製
42−歳女性 (P718AB42)の腹部形成術から30の外植片を調製し、BIO−ECの外植片培地 (BEM)にて生きた状態を維持した。
【0177】
外植片を以下のようにそれぞれ1mLのBEMを含む12−ウェル培養皿中で9つの外植片の2つのロットと6つの外植片の2つのロットに分けた:
【表1】

【0178】
表皮および真皮病変
表皮および真皮病変をRMX3W コントロールユニットを備えたVilber Lourmat UV シミュレーターにより伝えられた10J/cmのUVB 照射により作りだした。火傷は外植片の中央の4mm 直径の領域に限定された。
【0179】
2.生成物(product)の適用
sCD146を外植片当たり7.5 μgの濃度で試験した。それを局所適用し(外植片上に適用したフィルターペーパーディスク上に30μL) (P1)、19μLを1mL BEMに組み込んだ (P2)。D0、D2、D5、D6およびD8にP1およびP2 生成物を局所適用し、BEMに組み込んだ。培地を同時に交換した。
【0180】
3. サンプル
D0に、ロット NおよびBの3つの外植片を照射の最後にサンプリングした。それらを半分に切った:一方の半分を通常のブアン溶液中で固定し、他方の半分を−80℃で保存した。D4およびD11に、各ロットからの3つの外植片をサンプリングし、同様に処理した。
【0181】
4. 組織学
ブアン溶液中での固定の48 時間後、Leica 1020 組織プロセッサーによってサンプルを脱水し、パラフィンに含浸した。それらをLeica EG 1160 包埋センターにより操作手順 MO−H−153にしたがって包埋した。5μmの切片をLeica RM 2125 Minot ミクロトームによって操作手順 MO−H−173にしたがって作り、Superfrost(登録商標) 組織学的−シラン処理スライドグラスに取り付けた。凍結サンプルをLeica CM3050 クリオスタットにて7 μmの切片にした。切片を免疫学的標識のために組織学的−シラン処理スライドグラスに取り付けた。顕微鏡観察をX25の倍率でLeica Orthoplan 顕微鏡を用いて光学顕微鏡により行った。写真をSony DXC 390Pトリ CCDカメラにより撮影し、Leica IM1000 データアーカイブソフトウェアにより保存した。
【0182】
4.1 一般的形態
一般的形態をマッソン・トリクロームのGoldner's 変法による染色後、操作手順 MO−H−157にしたがってパラフィン切片上で観察した。
【0183】
4.2 フィブロネクチン免疫標識
フィブロネクチンを凍結切片上でChemiconからのマウス抗−フィブロネクチンモノクローナル抗体、クローン TV−1(カタログ番号MAB 88904)により、1/50th にて1時間周囲温度でビオチン/ストレプトアビジン増幅システムを用いて標識し、FITCにより可視化し、ヨウ化プロピジウムにより核対比染色を行った。この標識はT0およびD4にサンプリングした外植片に対して行った。
【0184】
4.3 インテグリン β4の免疫標識
インテグリン β4をChemiconからのマウス抗−インテグリンβ4 モノクローナル抗体、クローン 3E1(カタログ番号MAB 1964)により、1/600th で1 時間 30 分周囲温度にて、ビオチン/ストレプトアビジン増幅システムを用いて凍結切片上で標識し、FITCにより可視化し、核対比染色をヨウ化プロピジウムを用いて行った。この標識はT0およびD11に採取した外植片に対して行った。
【0185】
調べた活性基準
治癒活性をUVBによって誘導された病変の末端および病変上で調べた。
【0186】
用いた組織学的用語の解説:
海綿状態: デスモソームの結合を破壊しない細胞間浮腫。
棘細胞離開:デスモソームの結合を破壊する細胞間浮腫。
濃縮された(pycnotic)核:細胞壊死を導く核退化。
細胞浮腫: 細胞の腫れ。
表皮有棘層肥厚:細胞層の数の上昇またはケラチノサイトのサイズの上昇による表皮の厚さの上昇。
錯角化:最後の生きている表皮層である顆粒層の角質化。
【0187】
結果
一般的形態
D0:
非火傷ロット (N0)
角質層は厚く、中程度に薄板状(lamellar)であり、表面上およびその基部(base)において中程度に角質化している。表皮は4から5の細胞層を有し、良好な形態である。真皮−表皮接合部のトポグラフィーは中程度である(moderate)。真皮乳頭層は適度に厚いコラーゲン繊維を有し適度に密な(dense)ネットワークを形成している。それは良好に細胞化している(cellularized)。
【0188】
火傷ロット (B0)
角質層は厚く、適度に薄板状であり、表面上およびその基部において中程度に角質化している。表皮は4から5の細胞層を有し、良好な形態である。真皮−表皮接合部のトポグラフィーは中程度である。真皮乳頭層は適度に厚いコラーゲン繊維を有し、適度に密なネットワークを形成している。それは良好に細胞化している。
【0189】
D4:
非火傷ロット (NJ4)
角質層は厚く、わずかに薄板状であり、表面上およびその基部においてわずかに角質化している。表皮は4から5の細胞層を有し、良好な形態である。真皮−表皮接合部のトポグラフィーは中程度である。真皮乳頭層は適度に厚いコラーゲン繊維を有し、適度に密なネットワークを形成している。それは良好に細胞化している。
【0190】
非処置火傷ロット (BJ4)
非火傷区域において、角質層は厚く、中程度に薄板状であり、表面上およびその基部においてわずかに角質化している。表皮は4から5の細胞層を有し、良好な形態である。真皮−表皮接合部のトポグラフィーは中程度である。真皮乳頭層は適度に厚いコラーゲン繊維を有し、適度に密なネットワークを形成している。それは良好に細胞化している。
【0191】
病変において、変化は非常に顕著であり、かなり多数のケラチノサイトがあり、明らかに濃縮された核および核周囲の浮腫を有している。 ケラチノサイトは良好な形態を有し、中程度の数にて、主に基底部に存在している。
【0192】
病変の端部において、ケラチノサイトは良好な形態を有し、適度に強い存在を有し、中程度に層状化している。ケラチノサイト増殖芽(growth bud)は中程度であり、いくぶん厚く、変化した構造の下に新しい(neo−)ケラチノサイトが中程度に発達している。
【0193】
火傷 + 生成物 P1 ロット (BP1J4)
非火傷区域において、角質層は厚く、わずかに薄板状であり、表面上およびその基部において中程度に角質化している。表皮は4から5の細胞層を有し、良好な形態である。真皮−表皮接合部のトポグラフィーは適度に顕著である(marked)。真皮乳頭層は適度に厚いコラーゲン繊維を有し、適度に密なネットワークを形成している。それは良好に細胞化している。
【0194】
病変において、変化は顕著であり、適度に多数の、中程度に浮腫性のケラチノサイトがあり、濃縮された核および核周囲の浮腫を有している。良好な形態を有するケラチノサイトは数において中程度であり、主に基底部にある。
【0195】
病変の端部において、ケラチノサイトは良好な形態を有し、数において中程度であり、適度に規則的で非常に層状化しているわけではない。ケラチノサイト増殖芽は小さく、薄く、変化した構造の下で新しい−ケラチノサイトはあまり発達していない。
【0196】
火傷 + 生成物 P2 ロット (BP2J4)
非火傷区域において、角質層は厚く、わずかに薄板状であり、表面上で中程度に角質化しており、わずかに錯角化している。表皮は4から5の細胞層を有し、良好な形態である。真皮−表皮接合部のトポグラフィーは中程度である。真皮乳頭層は適度に厚いコラーゲン繊維を有し、非常に密ではないネットワークを形成している。それは良好に細胞化している。
【0197】
病変において、変化は適度に中程度であり、中程度の数のケラチノサイトがあり、濃縮された核および核周囲の浮腫を有している。良好な形態を有するケラチノサイトは基底部および基底層直上にて適度に多数であり、いくつかのわずかに層状化した新しい−ケラチノサイト区域がある。
【0198】
病変の端部において、良好な形態を有するケラチノサイトが明らかに存在しており、非常に層状化しているわけではない。ケラチノサイト増殖芽は小さく薄く、変化した構造下で新しい−ケラチノサイトはあまり発達していない。
【0199】
D11:
非火傷ロット (NJ11)
角質層は非常に厚く、わずかに薄板状であり、表面上でわずかに角質化しており、非常に顕著な錯角化を伴う。表皮は5から6の細胞層を有し、中程度に変化した形態を備える。顕著な基底海綿状態がある。真皮−表皮接合部のトポグラフィーは中程度である。真皮乳頭層は適度に厚いコラーゲン繊維を有し、適度に密なネットワークを形成している。それは良好に細胞化している。
【0200】
火傷および非処置ロット (BJ11)
非火傷区域において、角質層は厚く、中程度に薄板状しており、表面上で中程度に角質化しており、錯角化が進んでいる。表皮は4から5の細胞層を有し、中程度に変化した形態を備える。顕著な基底海綿状態がある。DEJ トポグラフィーは中程度である。真皮乳頭層はいくぶん厚いコラーゲン繊維を有し、適度に密なネットワークを形成している。それは良好に細胞化している。
【0201】
病変において、変化は非常に顕著であり、多数のケラチノサイトを伴い、明らかに濃縮された核および核周囲の浮腫を有する。良好な形態を有するケラチノサイトは基底部に少なく、層状化していない。
【0202】
病変の端部において、良好な形態を有するケラチノサイトが明らかに存在し、2または3の細胞層において適度に良好に層状化している。ケラチノサイト増殖芽は非常に明らかであり、中程度に厚く、変化した構造の下で新しい−ケラチノサイトの非常に顕著な発達がみられる(およそ2.5 顕微鏡視野)。
【0203】
火傷 + 生成物 P1 ロット (BP1J11)
非火傷区域において、角質層は厚く、中程度に薄板状であり、表面上でわずかに角質化しており、非常に顕著な錯角化を伴う。表皮は3から4の細胞層を有し、中程度に変化した形態を伴う。これらの変化は中程度の数の中程度に浮腫性の細胞の存在を特徴とし、濃縮された核および核周囲の浮腫が上側の表皮層にある。中程度の基底海綿状態がある。真皮−表皮接合部のトポグラフィーは中程度である。真皮乳頭層は適度に厚いコラーゲン繊維を有し、非常に密ではないネットワークを形成している。それは良好に細胞化している。
【0204】
病変において、変化は顕著であり、非常に多数のケラチノサイトを有し、濃縮された核および核周囲の浮腫を伴う。良好な形態を有するケラチノサイトは非常に少ない。
【0205】
病変の端部において、良好な形態を有するケラチノサイトは少なく、非常に非規則的であり、あまりよく層状化していない。ケラチノサイト増殖芽は小さく薄く、構造化は良好でなく、変化した構造の下で新しい−ケラチノサイトはあまり発達していない。
【0206】
火傷 + 生成物 P2 ロット (BP2J4)
非火傷区域において、角質層は厚く、中程度に薄板状であり、表面上でわずかに角質化しており、非常に顕著な錯角化を伴う。表皮は3から4の細胞層を有し、明らかに変化した形態を伴う。これらの変化は多数の明らかに浮腫性の細胞の存在により特徴づけられ、上側細胞層における濃縮された核および核周囲の浮腫を伴う。顕著な基底および基底層直上の海綿状態がある。真皮−表皮接合部のトポグラフィーは中程度である。真皮乳頭層は適度に厚いコラーゲン繊維を有し、非常に密ではないネットワークを形成している。それは良好に細胞化している。
【0207】
病変において、変化は非常に顕著であり、多数のケラチノサイトを伴い、濃縮された核および核周囲の浮腫を伴う。良好な形態を有する新しい−ケラチノサイトは基底部にて数において中程度であり、わずかに層状化している。
【0208】
病変の端部において、良好な形態を有するケラチノサイトが明らかに存在し、適度に良好に層状化している。ケラチノサイト増殖芽は適度に明白であり薄く、2から3の細胞層にわたってわずかに層状化しており、変化した構造の下での新しい−ケラチノサイトの明らかな発達を伴う(およそ 2 顕微鏡視野)。
【0209】
フィブロネクチン
一次抗体または二次抗体をPBSと交換した後は標識は観察されず、これは観察した標識の特異性を示す。
【0210】
D0:
非火傷ロット (N0)
標識は真皮乳頭層にわたって明白である。それは密であり、明らかに線維状(filamentous)である。
【0211】
火傷ロット (B0)
標識は真皮乳頭層にわたって明白である。それは密であり、明らかに線維状である。
【0212】
D4:
非火傷ロット (NJ)
標識は真皮乳頭層にわたって適度に明白である。それは密であり、中程度に線維状である。
【0213】
火傷および非処置ロット (BJ4)
非火傷区域において、標識は真皮乳頭層にわたって適度に明白である。それは密であり、中程度に線維状である。
【0214】
病変において、標識は真皮乳頭層にわたって適度に明白である。それは適度に密であり、明らかに線維状である。
【0215】
火傷 + 生成物 P1 ロット (BP1J4)
非火傷区域において、標識は真皮乳頭層にわたって適度に明白である。それは密であり、中程度に線維状である。
【0216】
病変において、標識は真皮乳頭層にわたって明白である。それは密であり、非常に明らかに線維状である。
【0217】
火傷 + 生成物 P2 ロット (BP2J4)
非火傷区域において、標識は真皮乳頭層にわたって適度に明白である。それは密であり、中程度に線維状である。
【0218】
病変において、標識は真皮乳頭層にわたって明白である。それは適度に密であり、明らかに線維状である。
【0219】
インテグリン β4
一次または二次抗体をPBSと交換した後標識は観察されず、これは観察された標識の特異性を示す。
【0220】
D0:
非火傷ロット (N0)
標識は明白で規則的である。それは基底ケラチノサイト上で中程度に側面に沿っている(laterally)。
【0221】
火傷ロット (B0)
標識は明白で規則的である。それは基底ケラチノサイト上で中程度に側面に沿っている。
【0222】
D11:
非火傷ロット (NJ11):
標識は適度に明白であり、適度に規則的である。それは基底ケラチノサイト上で中程度に側面に沿っている。
【0223】
火傷および非処置ロット (BJ11):
非火傷区域において、標識は適度に明白であり、適度に規則的である。それは基底ケラチノサイト上で中程度に側面に沿っている。
【0224】
病変において、標識は中程度であり不規則である。それは基底ケラチノサイト上で非常に中程度に側面に沿っている。
【0225】
火傷 + 生成物 P1 ロット (BP1J11):
非火傷区域において、標識は適度に明白であり、規則的である。それは基底ケラチノサイト上で中程度に側面に沿っている。
【0226】
病変において、標識は適度に明白であり適度に規則的である。それは基底ケラチノサイト上で非常に中程度に側面に沿っている。
【0227】
火傷 + 生成物 P2 ロット (BP2J11):
非火傷区域において、標識は適度に明白であり、適度に規則的である。それは基底ケラチノサイト上で中程度に側面に沿っている。
【0228】
病変において、標識は非常に明白であり、適度に規則的である。それは基底ケラチノサイト上で中程度に側面に沿っている。
【0229】
議論
一般的形態
【表2】

新しい−ケラチノサイト:
新しい−ケラチノサイト無し: −
わずかな新しい−ケラチノサイト: +
中程度の数の新しい−ケラチノサイト: ++
多数の新しい−ケラチノサイト: +++
増殖芽の強度:
陰性: −
低: +
中程度: ++
顕著: +++
非常に顕著: ++++
【0230】
D4:
火傷および非処置ロットとの比較:
局所適用した生成物 sCD146 による処置(P1)は病変の端部においても病変自体においても表皮再構築活性をまったく誘導しなかった。BEMに組み込まれたsCD146による処置 (P2)は弱い表皮再構築活性を誘導し、いくつかの基底の新しい−ケラチノサイトが病変上に存在した。
【0231】
この時点で、穏やかな表皮不寛容反応が現れ、sCD146を局所適用して処置したロット上でより強かった。
【0232】
D11:
火傷および非処置ロットとの比較:
局所適用したsCD146 による処置(P1)は病変の端部においても病変自体においても表皮再構築活性を誘導しない。
【0233】
BEMに組み込まれたsCD146による処置 (P2)は弱い表皮再構築活性を誘導し、病変上の中程度の数の新しい−ケラチノサイトの存在および端部での適度に顕著な表皮増殖芽の存在を特徴とした。
【0234】
この時点で、顕著な表皮不寛容反応が現れ、CD146 の局所適用により処置したロットでは非常に強く、生成物 CD146をBEMに組み込んだ場合にはより中程度であった。
【0235】
フィブロネクチン
【表3】

フィブロネクチンの発現:
陰性: −
低: +
中程度: ++
顕著: +++
非常に顕著: ++++
【0236】
D0 :
フィブロネクチンは真皮乳頭層において明白である。それは密であり、明らかに線維状である。
【0237】
D4:
非火傷区域において、フィブロネクチンの発現は変化しない。
【0238】
損傷領域においてsCD146を局所適用した場合(P1)、フィブロネクチンの過剰発現が顕著であり、明らかにより線維状のネットワークを示し、真皮乳頭層の線維芽細胞の遊走を促進している。この過剰発現は生存培地に組み込んだ sCD146 (P2)では程度がより低い。
【0239】
インテグリン β4:
【表4】

インテグリン β4の発現:
陰性: −
低: +
中程度: ++
顕著: +++
非常に顕著: ++++
【0240】
D0 :
インテグリン β4の発現は明白であり、規則的である。それは基底ケラチノサイト上で中程度に側面に沿っている。
【0241】
D11:
非火傷および非処置ロットにおいて、インテグリン β4の発現は適度に明白であり、適度に規則的である。それは基底ケラチノサイト上で中程度に側面に沿っている。
【0242】
処置ロット
非火傷区域において、処置にかかわらず、非処置対照に関してインテグリンβ4の発現はあまり変化しない。
【0243】
損傷区域においてsCD146を局所適用した場合(P1); インテグリンβ4は非処置対照に関して中程度に過剰発現している。それは明らかに生存培地に組み込まれたsCD146の場合過剰発現されている。
【0244】
結論
一般的形態:
BEM 生存培地に11 日間組み込まれたsCD146は、病変の端部および病変自体の両方において観察されたもっとも顕著な表皮再構築活性を誘導し、それは基底位置における中程度の数のわずかに層状化した新しい−ケラチノサイトの存在を特徴とする。しかし、この活性はかなり顕著な表皮不寛容反応により減弱される。
【0245】
フィブロネクチン:
フィブロネクチンは初期(early)真皮治癒マーカーである。生存の4 日後のその過剰発現は、真皮乳頭層におけるそのネットワークの改善を示し、線維芽細胞の遊走を促進し、それらは最終的には変化した区域に定着する。
【0246】
火傷および非処置ロットにおいて、フィブロネクチンの発現は病変において上昇し、それは真皮治癒の正常の活性である。フィブロネクチンのもっとも顕著な過剰発現は局所適用したsCD146により観察される。
【0247】
インテグリン β4:
インテグリン β4はヘミデスモソームにおける基底膜上へのケラチノサイトの固定に関与する。その再構築または維持は表皮治癒活性を示す有益な指標である。培地に11 日間組み込まれたsCD146は、インテグリン β4に対するもっとも明白な活性を誘導する。
【0248】
上記の詳細な実験は以下のことを実証する:
−生存培地に組み込まれたsCD146はケラチノサイト刺激およびインテグリン β4 発現に関して最良の活性を有する(図 8にあるデータによって確認される)。
−局所適用したsCD146は真皮再構築に対して最良の活性を有する。
【図1−1】

【図1−2】

【図1−3】

【図2−1】

【図2−2】

【図3−1】

【図3−2】

【図4−1】

【図4−2】

【図4−3】

【図4−4】

【図5−1】

【図5−2】

【図6A】

【図6B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
552から558のアミノ酸を含むヒト可溶性 CD146 タンパク質。
【請求項2】
配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6 および配列番号7から選択される配列にあるアミノ酸配列を含む請求項1のタンパク質。
【請求項3】
請求項1または2のタンパク質および医薬上許容される担体を含む組成物。
【請求項4】
血管内皮増殖因子(VEGF)、ストロマ細胞由来因子-1 (SDF-1)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、エリスロポエチン (EPO)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子 (GM-CSF)、幹細胞因子(SCF)、インターロイキン-8 (IL-8) およびそれらの混合物からなる群から選択される血管新生因子をさらに含む、請求項3の組成物。
【請求項5】
内皮前駆細胞 (EPC)、好ましくはヒト可溶性 CD146 タンパク質と接触された細胞をさらに含む、請求項3または4の組成物。
【請求項6】
内皮前駆細胞が、請求項2の可溶性 CD146 タンパク質または配列番号9のヒトの短いCD146 タンパク質を発現する核酸コンストラクトを含む組換え細胞である請求項5の組成物。
【請求項7】
ベクターがプラスミドである請求項6の組成物。
【請求項8】
請求項2のタンパク質に選択的に結合するモノクローナル抗体。
【請求項9】
請求項8の抗体および医薬上許容される担体を含む組成物。
【請求項10】
哺乳類における組織虚血を導く疾患または障害の治療において使用するための請求項1または2のいずれかのタンパク質または請求項3から7 のいずれかの組成物。
【請求項11】
哺乳類における虚血の予防において使用するための請求項1または2のいずれかのタンパク質または請求項3から7 のいずれかの組成物。
【請求項12】
哺乳類上皮の瘢痕形成において使用するための請求項1または2のいずれかのタンパク質または請求項3から7 のいずれかの組成物。
【請求項13】
哺乳類における痂皮の予防においてまたは植皮との関連において使用するための請求項1または2のいずれかのタンパク質または請求項3から7 のいずれかの組成物。
【請求項14】
傷跡の美的外観を改善するための請求項1または2のいずれかのタンパク質または請求項3から7 のいずれかの組成物の使用。
【請求項15】
人体において血管形成を刺激することができる成熟または未熟内皮細胞をエクスビボで調製するための請求項1または2 のいずれかのタンパク質の使用。
【請求項16】
哺乳類における望ましくない過度の新血管形成、望ましくない血管透過性および/またはCD146のための受容体の過剰活性化を特徴とする疾患または障害の治療における使用のための、請求項8のモノクローナル抗体または請求項9の組成物の使用。
【請求項17】
請求項1または2のタンパク質をコードする核酸分子。

【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−524519(P2012−524519A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−546857(P2011−546857)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051080
【国際公開番号】WO2010/086405
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(503285612)ユニヴェルシテ・ドゥ・ラ・メディテラネ (15)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE LA MEDITERRANEE
【出願人】(591049848)
【氏名又は名称原語表記】INSERM
【Fターム(参考)】