説明

ヒト型Fcレセプター発現細胞、及びそれを用いたヒト型Fcレセプターの製造方法

【課題】 遺伝子工学手法を用いてヒト型FcレセプターFcγRIを工業的に製造すること。
【解決の手段】 可溶性ヒト型FcレセプターFcγRIをコードするDNA配列を含む発現プラスミドを形質転換することで得られる、可溶性ヒト型FcレセプターFcγRIを安定的に発現するCHO細胞を用いて生産することで、前記課題を解決することができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遺伝子工学的手法により得られた、ヒト型Fcレセプターを発現する細胞、および前記細胞を用いたヒト型Fcレセプターの製造に関する。
【背景技術】
【0002】
Fcレセプターとは免疫グロブリン分子のFc領域に結合する一群の分子である。個々の分子は免疫グロブリンスーパーファミリーに属する認識ドメインによって、単一の、あるいは、同じグループの免疫グロブリンイソタイプをFcレセプター上の結合ドメインによって認識する。これによって一定の免疫応答においてどのアクセサリー細胞が動因されるかが決まってくる(非特許文献1)。Fcレセプターは、さらに、サブタイプに分類することができ、IgG(免疫グロブリンG)に対するレセプターはFcγRI、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIIの存在が報告されている(非特許文献1)。なかでも、FcγRIとIgGの結合親和性は高く、その平衡解離定数(Kd)は10−8M以下である(非特許文献2)。FcγRIはIgG(免疫グロブリンG)に対するレセプターであり、単球とマクロファージ上に構成的に発現され、好中球および好酸球上においては誘導的に発現される。FcγRIは、細胞外領域、細胞膜貫通領域、細胞質内領域に区分され、IgGとの結合は、IgGのFc領域とFcγRIの細胞外領域で起こり、その後細胞質へとシグナルが伝達される。FcγRIはIgGとの結合に直接関わる分子量約42000のα鎖と、γ鎖の2種類のサブユニットによって構成されており、γ鎖は細胞膜と細胞外領域の境界にあるアミノ酸システインを介した共有結合によりホモダイマーを形成している(非特許文献1)。
【0003】
近年になり、Fcレセプターの予想外の免疫抑制的な生物学的特性は、特に、自己免疫疾患または自己免疫症候群、移植物の拒絶および悪性リンパ増殖の領域において医薬として注目を浴びつつある(非特許文献2)。
【0004】
FcγRIα鎖のアミノ酸配列および遺伝子塩基配列は非特許文献3により明らかにされ、その後、遺伝子組換え技術により、大腸菌(特許文献1)あるいは動物細胞を利用した発現が報告されている(非特許文献4)。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の大腸菌を利用した発現系ではFcγRIの細胞外領域タンパク質の発現量が極めて低く、また、発現したタンパク質は菌体内発現のため、多くの場合発現したタンパク質は不溶性の封入体となる。封入体タンパク質は可溶化等の操作をすることにより、活性型タンパク質として調製することは可能であるが、煩雑な操作を必要とする。また、非特許文献4に記載の動物細胞を用いた系では、FcγRIの菌体外ドメイン遺伝子をpMSベクターに導入し、それをHEK 293T細胞に形質転換させることで細胞外にFcγRIを発現させているが、一過性の発現のため、FcγRIの工業的な生産には不向きであった。
【0006】
【特許文献1】特表2004−530419号公報
【非特許文献1】J.V.Ravetch等,Annu.Rev.Immunol.,9,457,1991
【非特許文献2】Toshiyuki Takai,Jpn.J.Clin.Immunol.,28,318,2005
【非特許文献3】J.M.Allen等,Science,243,378,1989
【非特許文献4】A.Paetz等,Biochem.Biophys.Res.Commun.,338,1811,2005
【非特許文献5】Yasukawa K.等、J.Biochem.,108,673,1990
【非特許文献6】C.Chen等,Mol.Cell.Biol.,7,2745,1987
【非特許文献7】G.Urland等,P.N.A.S.,77,4216,1980
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明は、前記問題点を解決し、遺伝子工学手法を用いてヒト型FcレセプターFcγRIを安定的に発現可能な細胞、およびそれを用いたヒト型FcγRIの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を鑑みてなされた本発明は、以下の発明を包含する:
(1)可溶性ヒト型FcレセプターFcγRIをコードするDNA配列を含む発現プラスミドを形質転換することにより得られる、可溶性ヒト型FcレセプターFcγRIを安定的に発現するCHO細胞。
(2)可溶性ヒト型FcレセプターFcγRIをコードするDNA配列が、ヒト型FcレセプターFcγRIの全DNA配列のうち膜貫通領域を除去した配列であることを特徴とする、(1)に記載の細胞。
(3)可溶性ヒト型FcレセプターFcγRIをコードするDNA配列が、ヒト型FcレセプターFcγRIの全DNA配列のうち膜貫通領域を除去した配列中の少なくとも1塩基が他のヌクレオチドに置換、および/または欠失、および/または付加されている配列であることを特徴とする、(1)に記載の細胞。
(4)発現プラスミドがSV40プロモーター系に由来するDNA配列を含んでいることを特徴とする、(1)から(3)に記載の細胞。
(5)発現プラスミドがさらにジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子を含んでいることを特徴とする、(4)に記載の細胞。
(6)(1)から(5)に記載の細胞を用いることを特徴とする、ヒト型FcレセプターFcγRIの製造方法。
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
1.可溶性ヒト型FcγRIをコードするDNA配列
本発明の細胞を取得する際に用いる、可溶性ヒト型FcγRIをコードするDNA配列は、報告されているヒト型FcγRIをコードするDNA配列に適当な修飾を加えることで、本来なら膜タンパク質であるFcγRIを細胞外に分泌させることが可能なDNA配列である。前記適当な修飾法としては、終止コドンを細胞外領域あるいは膜貫通領域に挿入する方法、膜貫通領域を除去する方法が例示できるが、膜貫通領域を除去する方法が好ましい。配列番号1にはヒト型FcγRIの全アミノ酸配列およびそれをコードするDNA配列が示されており、このアミノ酸中、細胞外領域はアミノ酸番号1から277番のアミノ酸配列に相当し、膜貫通領域は278番から299番目のアミノ酸配列に相当する(略図を図1に示す)。前記細胞外領域あるいは膜貫通領域に終止コドンを挿入することは、インビトロミュータジェネシス(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)のような、DNAに突然変異を挿入するための市販のキットを用いて行なうことができ、前記膜貫通領域を除去することも、前記市販のキットを用いて行なうことができる。また、適当なオリゴヌクレオチドを作製しPCR法により、前記細胞外領域あるいは膜貫通領域に終止コドンを挿入したもの、または前記膜貫通領域を除去したものを調製してもよい。
【0010】
また、可溶性ヒト型FcレセプターFcγRIをコードするDNA配列が、ヒト型FcレセプターFcγRIの全塩基配列のうち膜貫通領域を除去した配列中の少なくとも1塩基が他のヌクレオチドに置換、および/または欠失、および/または付加されている配列であっても、宿主細胞から分泌され、かつ、ヒト型FcγRIの活性を保持するものは前記DNA配列を有しているものとみなすことができる。ヌクレオチド配列の置換としては、あるアミノ酸をコードするヌクレオチドから別のアミノ酸をコードするヌクレオチドへの変換を例示することができる。なお、前記DNA配列はヒト型FcγRIのcDNA等を出発材料として作製してもよいし、人工的に合成してもよい。
【0011】
さらに、前記DNA配列中には、発現した可溶性ヒト型FcγRIの簡便な精製を目的に、タグ配列を付加させてもよい。タグ配列とはヒトFcγRIに限らず、遺伝子工学に多用されるオリゴアミノ酸をコードするDNA配列であり、ポリヒスチジンタグ、C−mycタグを例示することができる。タグ配列の付加は前記DNA配列の5’末端側、3’末端側いずれもよい。
2.発現プラスミド
本発明の細胞を取得する際に用いる可溶性ヒト型FcγRIをコードするDNAを発現させる、すなわち可溶性ヒト型FcγRIを発現し得る複製可能な発現プラスミドは、前項で説明した可溶性ヒト型FcγRIをコードするDNA配列、前記DNA配列を発現させるためのDNA配列および宿主中でプラスミドDNAを複製するための複製起点を有し、かつ、選定された宿主を形質転換できるものであれば、適宜選定し使用できる。前記DNA配列を発現させるためのDNA配列としては、乳糖プロモータ系、トリプトファンプロモータ系、GAL4プロモータ系、SV40プロモータ系、アデノウイルスプロモータ系に由来する配列が例示でき、宿主との関係において適宜選定すればよいが、本発明の細胞株を取得する際に用いるプロモータ系としては、SV40プロモータ系に由来する配列が好ましい。また、これらのプラスミドを用いて形質転換する操作にあたり、プラスミドが導入されなかった宿主と導入された宿主との選別を可能にするために、発現プラスミド中にアンピシリンといった薬剤に対する耐性を宿主に付与するためのDNA配列を含んでいるのが好ましい。
3.宿主
本発明の宿主としては、安定的にタンパク質を発現可能なCHO細胞(チャイニーズハムスターの卵巣細胞)が好ましい。
【0012】
また、前記宿主に、可溶性ヒト型FcγRIをコードするDNA配列を含んだ発現プラスミドを導入し、さらに特定の薬剤に対する耐性も付与した細胞について、薬剤に対する耐性の強さから前記細胞のスクリーニングを行なうことで、可溶性ヒト型FcγRIを高発現する細胞を得ることができる。前記スクリーニングにおいて、薬剤としてはメソトレキセート(MTX)、耐性濃度としては数μM以上がそれぞれ好ましい。MTXに対する耐性の付与方法は、ジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子(dhfr)を可溶性ヒト型FcγRIをコードするDNA配列と同一の発現プラスミドに挿入すればよい。
4.可溶性FcγRIの精製
本発明の細胞を用いて提供される、遺伝子工学的方法により生産された可溶性ヒト型FcγRIは、生産に用いた培養液、あるいは培養上清中から、通常の生理活性タンパク回収法によって分離精製することができる。分離回収方法としては、市販のHPLC、カラムクロマトグラフィーを例示することできる。また、培養液中から前記タンパクを生産する際に、培養液中の他のタンパク質の減少、例えば、培養細胞を無血清培地で培養して前記タンパクを発現させることにより分離回収の効率を高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明で提供される、可溶性ヒト型FcγRIをコードするDNA配列を含む発現プラスミドを形質転換して得られた、安定的にFcγRIを発現可能なCHO細胞を用いて、ヒト型FcγRIの生産を行ない、該タンパクを分離回収することにより、自然状態では極めて微量にしか生産されないFcγRIと同等のものである可溶性FcγRIを工業的に製造することが可能である。本発明の細胞を用いて製造されたヒト型FcγRIは、個体発生および免疫機構の研究、さらにはそれらの成果に基づく治療診断薬等の開発に大きな意義を持つ。また、抗FcγRI抗体を作製するための免疫源、さらにはFcγRIの免疫化学測定方法の標準物質として用いることもできる。
【実施例】
【0014】
以下、本発明をさらに詳細に説明するために実施例を示すが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0015】
実施例1 可溶性ヒト型FcγRI発現プラスミドの作製
可溶性ヒト型FcγRI発現プラスミドの作製は、以下の方法で行なった。
(1)可溶性ヒト型FcγRIをコードするDNAを以下の方法で調製した。
(1−1)Human cDNA clone SC119841プラスミド(Origene社製)をテンプレートとし、配列番号2(5’−GA[AGATCT]ATGTGGTTCTTGACAACTCTGCTCC−3’:角かっこ部分は制限酵素BglIIサイト)と配列番号3(5’−CG[TCTAGA]CTAGTGGTGGTGGTGGTGGTGGACAGGAGTTGGTAACTGGAGGC−3’:角かっこ部分は制限酵素XbaIサイト)のオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして使用した。なお、FcγRIタンパク質の調製および定量を行なうために、発現タンパク質のC末端側にポリヒスチジンタグが付加されるようにPCRプライマーを作製した。
(1−2)PCR反応を、94℃・5分の熱処理後、94℃・30秒間の第一ステップ、65℃・30秒間の第二ステップ、72℃・1分間の第三ステップを25サイクル行ない、最後に、72℃・7分の条件で行なった。反応液組成を表1に示す。
【0016】
【表1】

(1−3)PCR反応終了後、0.9%のアガロース電気泳動にて、設計通りのサイズのDNAバンドを確認した。
(1−4)目的産物に相当するDNAバンドをアガロースゲルから抽出(QIAquick Gel extraction kit:キアゲン社製)し、可溶性ヒト型FcγRIをコードするDNAを調製した。
(2)(1)で調製したDNAを制限酵素BglIIとXbaIにより消化し、これらの制限酵素により事前に消化したプラスミドpECEdhfr(非特許文献5)とライゲーションし(Ligation Kit Ver.2、タカラバイオ社製)、50μg/mLの抗生物質カルベシニリンを添加したLB寒天培地を用いて大腸菌JM109株に形質転換した。
(3)(2)の形質転換体を50μg/mLの抗生物質カルベシニリンを含むLB培地により培養(37℃、18時間)し、QIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン社製)によりプラスミドを抽出した。
(4)抽出プラスミドを制限酵素BglIIとXbaIにより消化し、0.9%のアガロース電気泳動に供した。
【0017】
結果、インサートサイズから設計通りであることを確認し、これをpECEFcRdhfrとした。図2にpECEFcRdhfrの構造概略を示す。
【0018】
実施例2 可溶性ヒト型FcγRI発現プラスミドの配列確認
実施例1で作製したpECEFcRdhfrプラスミド(図2)に挿入されている、可溶性ヒト型FcγRIをコードするDNA配列をチェーンターミネータ法に基づくBig Dye Terminator v3.1 Cycle Sequencing kit(PEアプライドバイオシステム社製)を用いてサイクルシークエンス反応に供し、全自動DNAシークエンサーABI Prism 310 DNA analyzer(PEアプライドバイオシステム社製)において解析した。なお、配列番号4(5’−AGCTGTATGGGGTCACTTCG−3’)と配列番号5(5’−TTTTTCCACTGGAATTCTAACC−3’)と配列番号6(5’−AGTGGGGATGTCACAGATGC−3’)と配列番号7(5’−AGGAACACATCCTCTGAATACC−3’)に示すオリゴヌクレオチドをシークエンス用プライマーとして使用した。
【0019】
解析の結果、pECEFcRdhfrに挿入されている可溶性FcγRIをコードするDNAの塩基配列は設計通りであることを確認した。
【0020】
実施例3 可溶性ヒト型FcγRIの抗体結合活性の確認
pECEFcRdhfrプラスミド(図2)をリポフェクトアミン(インビトロジェン社製)によりCOS7細胞に導入し、10% FCSを含むD−MEM培地(GIBCO社製)で培養することで(37℃、3日間)、一過的に細胞外へヒト型FcγRIを発現させ、培養後、培養液を回収した。回収した培養上清の抗体結合活性を以下の方法でELISA法により評価した。
(1)96穴のELISAプレート(Nunc社製)に100μg/mLから段階的に希釈したガンマグロブリン製剤(化学及血清療法研究所製)を各ウェルに100μLずつ添加し、4℃で18時間静置することによりガンマグロブリンを固相に固定化した。
(2)TBS緩衝液(0.2%(w/v)Tween 20、150mM NaClを含むTris−HCl緩衝液(pH8.0))で洗浄後、Starting Block Blocking Buffers(PIERCE社製)によりブロッキング操作を行なった。
(3)TBS緩衝液で洗浄後、調製した培養上清を100μL添加し、(1)で固定化したヒトガンマグロブリンと反応させた(30℃、2時間)。
(4)(3)の反応終了後、TBS緩衝液で洗浄し、His−probe(H−15)HRP抗体(Santa Cruz Biotechnology社製)を添加した。
(5)(4)の反応終了後、TBS緩衝液で洗浄し、TMB Peroxidase Substrate(KPL社製)を添加し450nmの吸光度を測定した。
【0021】
評価結果を図3に示す。図3の通り、pECEFcRdhfrにより形質転換されたCOS細胞の培養上清に抗体結合活性が検出された。すなわち、pECEFcRdhfrに挿入された可溶性ヒト型FcγRIをコードするDNA配列により、細胞膜貫通領域が欠失したヒト型FcγRIを得ることができ、かつ、当該FcγRIはヒト抗体に結合活性を保持していることを示している。
【0022】
実施例4 可溶性ヒト型FcγRIを発現するCHO細胞の作製
pECEFcRdhfr(図2)をChenらの方法(非特許文献6)により、dhfr遺伝子欠損CHO細胞株DBX−11(非特許文献7)に導入することで可溶性ヒト型FcγRIを発現するCHO細胞を作製し、MTX(メソトレキセート)を用いて前記細胞のスクリーニングを行なった。
(1)上記発現プラスミドが導入されたDBX−11株を5nMのMTXを含む培地で培養し、増殖した細胞株をモノクローナル化し実施例3と同様な方法で活性を評価した。
(2)最も活性の強い株について、さらに、50nM MTXを含む培地で培養し、耐性を獲得した増殖株の活性を評価した。
(3)(2)の操作を繰り返すことにより、最終的に初期のMTX濃度に対して1000倍となる5μM MTX存在下においても増殖する細胞宿主、すなわち、MTX耐性を獲得することと連動してFcγRI遺伝子が高度に集積された細胞株を分離した。
【0023】
最終スクリーニング結果を図4に示す。図4の通り、モノクローナル化された任意のCHO細胞株の培養上清中から可溶性ヒト型FcγRIが検出された。
【0024】
実施例5 可溶性ヒト型FcγRI発現細胞を用いたFcγRI生産
実施例4の細胞のうち、ヒト型FcγRI発現量が最も多いM5u−12D株を用いて、以下の方法でヒト型FcγRI生産を行なった。
(1)M5u−12D株を高密度培養システムBelloCell(CESCO社製)を用いて、5% 透析牛胎児血清入りD−MEM/F12培地(GIBCO社製)で細胞が密な状態まで培養した。
(2)培養後、培地を除き、5% 透析牛胎児血清を含むD−MEM(GIBCO社製)/ExCell302(SAFCバイオサイエンス社製)の1対1混合培地で培養した。(3)栄養源が枯渇する前に培養上清を回収し、新たな培地と交換した。
(4)(2)から(3)の操作を繰り返して合計10Lの可溶性FcγRI含有培養上清を得た。
【0025】
実施例6 可溶性FcγRIの分離精製
実施例5で得られた可溶性FcγRI培養上清を、以下の方法で分離精製した。
(1)実施例5で得られた可溶性FcγRI培養上清10Lを、20mM酢酸緩衝液(pH5.2)で透析し脱塩処理を施した。
(2)20mM酢酸緩衝液(pH5.2)で平衡化した300mLのStreamline SPゲル(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を備えた吸着流動床システム(GEヘルスケバイオサイエンス社製)に添加し、同緩衝液で洗浄後、10%グリセロール、1M NaClを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.4)により溶出し、可溶性ヒト型FcγRI濃縮画分を調製した。
(3)(2)で得られた可溶性ヒト型FcγRI濃縮画分を、20mM イミダゾール、0.5M NaClを含む20mM リン酸緩衝液(pH7.4)に透析し、同緩衝液で平衡化したHisTrap HSカラム(GEヘルスケバイオサイエンス社製)に添加し、洗浄後、500mM イミダゾール、0.5M NaClを含む20mM リン酸緩衝液(pH7.4)で溶出することで、可溶性FcγRI精製標品を10mg得た。なお、タンパク質濃度の定量は、イムノグロブリンを標準タンパク質としてブラッドフォード法に基づくプロテインアッセイキット(Bio−Rad社製)を用いて行なった。
【0026】
図5にHisTrap HSカラムのクロマトパターンを、図6に精製標品のTSKgel G3000SWのクロマトパターンを示す。図6の通り、培養上清からの不純物が除かれ、高純度に精製された可溶性ヒト型FcγRIを得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】可溶性ヒト型FcγRIの構造を示す図。SSはシグナルペプチド、ECは細胞外部分、TMは膜貫通領域部分、Cは細胞内部分をそれぞれコードする領域を示す。図の上部の数字は、それぞれの領域のDNAがコードするアミノ酸数を示す。
【図2】発現プラスミドpECEFcRdhfrの構造を示す図。
【図3】発現プラスミドpECEFcRdhfrを導入したCOS細胞培養上清中の抗体結合活性を示す図。横軸は固定化抗体濃度、縦軸は450nmにおける吸光度である。
【図4】可溶性ヒト型FcγRI発現CHO細胞のスクリーニング結果を示す図。横軸はスクリーニング対象のCHO細胞株、縦軸は450nmにおける吸光度を表す。
【図5】精製クロマトパターンを示す図。横軸はニッケルキレートクロマトの溶出時間、縦軸は280nmにおける吸光度である。図中、矢印の位置が可溶性FcγRI溶出フラクションに対応する。
【図6】可溶性ヒト型FcγRIの精製標品のゲルろ過法による純度検定結果を示す図。横軸はゲルろ過クロマトの溶出時間、縦軸は280nmにおける吸光度である。図中、矢印が可溶性ヒト型FcγRIである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶性ヒト型FcレセプターFcγRIをコードするDNA配列を含む発現プラスミドを形質転換することにより得られる、可溶性ヒト型FcレセプターFcγRIを安定的に発現するCHO細胞。
【請求項2】
可溶性ヒト型FcレセプターFcγRIをコードするDNA配列が、ヒト型FcレセプターFcγRIの全DNA配列のうち膜貫通領域を除去した配列であることを特徴とする、請求項1に記載の細胞。
【請求項3】
可溶性ヒト型FcレセプターFcγRIをコードするDNA配列が、ヒト型FcレセプターFcγRIの全DNA配列のうち膜貫通領域を除去した配列中の少なくとも1塩基が他のヌクレオチドに置換、および/または欠失、および/または付加されている配列であることを特徴とする、請求項1に記載の細胞。
【請求項4】
発現プラスミドがSV40プロモーター系に由来するDNA配列を含んでいることを特徴とする、請求項1から3に記載の細胞。
【請求項5】
発現プラスミドがさらにジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子を含んでいることを特徴とする、請求項4に記載の細胞。
【請求項6】
請求項1から5に記載の細胞を用いることを特徴とする、ヒト型FcレセプターFcγRIの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−278948(P2009−278948A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−136381(P2008−136381)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】