説明

ヒト多能性幹細胞からヒトメラノサイトを調製するための方法

本発明は、ヒト多能性幹細胞を、外胚葉分化を支持する細胞と共に、表皮誘導を刺激する薬剤およびケラチノサイトの最終分化を刺激する薬剤の存在下において共培養することからなる工程を含む、ヒト多能性幹細胞から誘導されたヒトメラノサイトの集団を得るためのex vivoにおける方法に関する。本発明はまた、前記方法によって得ることのできるヒトメラノサイト並びに細胞療法およびスクリーニングアッセイにおけるその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ヒト多能性幹細胞から誘導されたヒトメラノサイトの集団を得るためのex vivoにおける方法に関する。
【0002】
発明の背景
メラノサイトは、皮膚、眼および髪の呈色に関与する色素産生細胞である。脊椎動物の発達において、メラノサイトは神経堤から発生し、そして運命特定、増殖、遊走、生存および分化の複雑な過程を受け、その後、最終的には表皮に帰する。色素沈着は、メラノソームと呼ばれる特殊な細胞小器官におけるメラニン色素の高度に調節された製造によって達成される。メラニン形成と呼ばれるこの過程を通して、メラノソームが樹状突起に沿って輸送され、そして成長している髪にまたは周辺のケラチノサイトに移動し、DNA損傷および組織癌を引き起こす太陽光の紫外線(UV)照射の有害な作用からヒト組織を保護するのに重要な役割を果たす。過去10年間かけて、いくつかの遺伝子が、メラノサイトの関与する色素沈着障害に関連づけられた。こうした疾患は3つのタイプに分類され得る。第1に、神経堤からのメラノサイトの発達に影響を及ぼす疾病(限局性白皮症、ワールデンブルグ症候群および遺伝性対側性色素異常症)、第2に、メラニン合成に欠陥を有する疾病(白皮症)、そして第3に、メラノソームの成熟または移動の疾患(ヘルマンスキープドラック症候群、チェディアック・東症候群およびグリセリ症候群)(Rose PT et al)。興味深いことに、成熟したメラノサイトの機能および調節に関してより良く理解するために多くの努力がなされてきたが、ヒトの胚性前駆体からのメラノサイトの発達および分化に関与する分子的および細胞的機序は非常に僅かしか分かっていない。
【0003】
1セットの胚性転写因子を用いての体細胞の形質転換により、胚性幹細胞(hESCs)の多能性特性を有する細胞が産生される。これらの人工多能性幹細胞(hiPSCs)はあらゆる細胞型に分化する能力を有し、それらは、多種多様な疾病の処置のための治療プラットフォームとしての細胞を産生するための可能性ある入手源となっている。こうした細胞の治療利点の概念証明として、hiPSCから誘導された骨髄細胞は、適切なヒト化マウスモデルにおいて鎌状赤血球貧血の表現型を逆行し得ることが実証された。
【0004】
メラノサイトのin vitroにおける誘導は、Yamane et al (1999)によって初めて報告され、彼らは、幹細胞因子(SCF)、エンドセリン3(EDN3)、12−O−テトラデカノイル−ホルボール13−アセタート(TPA)およびデキサメタゾンを含む培地中で21日間、ストロマ細胞系ST2の単層上でマウス胚性幹細胞を共培養した。より最近ではHerlyn研究室(Fang et al , 2006)が、Wnt3a、エンドセリン−3およびSCFと命名されたタンパク質誘導物質の組合せを使用してフィーダー細胞の非存在下においてヒト胚様体を使用してメラノサイトをhESCから誘導できることを示した。
【0005】
しかしながら、2次元プロトコールを使用してヒト多能性幹細胞からヒトメラノサイトを生成する方法の報告は従来技術において全くない。
【0006】
従って、ヒト多能性幹細胞からヒトメラノサイトを生成する新規な方法の必要性が当技術分野において依然としてある。
【0007】
発明の要約:
本発明は、ヒト多能性幹細胞を、外胚葉分化を支持する細胞と共に、表皮誘導を刺激する薬剤およびケラチノサイトの最終分化を刺激する薬剤の存在下において共培養することからなる工程a)を含む、ヒト多能性幹細胞から誘導されたヒトメラノサイトの集団を得るためのex vivoにおける方法に関する。
【0008】
本発明はまた、前記の方法によって得ることのできるヒト多能性幹細胞から誘導されたヒトメラノサイトの単離され実質的に純粋で均一な集団に関する。
【0009】
本発明はまた、前記のヒト多能性幹細胞から誘導されたヒトメラノサイトの実質的に純粋で均一な集団および場合により薬学的に許容される担体または賦形剤を含む、薬学的組成物に関する。
【0010】
さらなる局面において、本発明はまた、処置法において使用するための、前記したようなヒト多能性幹細胞から誘導されたヒトメラノサイトの単離され実質的に純粋で均一な集団または薬学的組成物に関する。
【0011】
本発明はまた、本発明によるヒト多能性幹細胞から誘導されたヒトメラノサイトの単離され実質的に純粋で均一な集団を準備することからなる工程およびヒトケラチノサイトの集団を準備することからなる工程を含む、ヒト代用皮膚を調製する方法に関する。
【0012】
さらに、本発明は、前記した方法によって得ることのできるヒト代用皮膚および処置法におけるその使用に関する。
【0013】
別の局面において、本発明は、
i)前記したようなヒト多能性幹細胞から誘導されたヒトメラノサイトの単離され実質的に純粋で均一な集団を、試験化合物の存在下または非存在下においてインキュベーションする工程;
ii)前記試験化合物の存在下または非存在下においてメラノサイトの集団の前記の所与の生物学的効果を比較する工程
を含む、ヒトメラノサイトに対する所与の生物学的効果について化合物をスクリーニングするための方法に関する。
【0014】
本発明はまた、化合物をスクリーニングするための、前記に定義したようなヒト多能性幹細胞から誘導されたヒトメラノサイトの単離され実質的に純粋で均一な集団の使用またはヒト代用皮膚の使用に関する。
【0015】
発明の詳細な説明:
本発明は、ヒト多能性幹細胞を、外胚葉分化を支持する細胞と共に、表皮誘導を刺激する薬剤およびケラチノサイトの最終分化を刺激する薬剤の存在下において共培養することからなる工程a)を含む、ヒト多能性幹細胞から誘導されたヒトメラノサイトの集団を得るためのex vivoにおける方法に関する。
【0016】
「メラノサイト」という用語は当技術分野におけるその一般的な意味を有する。それは、皮膚および髪の呈色に関与する上皮および髪における色素性メラニン分泌細胞を指す。
【0017】
有利には、本発明のex vivoにおける方法は、ヒト多能性幹細胞からヒトメラノサイトへの分化の種々の段階のモニタリングを可能とする2次元法である。それ故、本発明の方法は、この分化の過程を(正にまたは負に)干渉する化合物をスクリーニングするのに有用であり得る。
【0018】
「細胞培養表面」または「細胞培養マトリックス」という表現は、細胞培養に適したあらゆるタイプの表面またはマトリックスを指す。「細胞培養表面」という用語は、組織培養プレート、ディッシュ、ウェルまたはボトルを含むがそれらに限定されない。特定の態様において、培養表面は、培養プレート、ディッシュ、ウェルまたはボトルのプラスチック表面である。細胞培養表面は、真皮線維芽細胞のコーティングに適合性である。
【0019】
本明細書において使用する「外胚葉分化を支持する細胞」という表現は、ヒト多能性幹細胞の増殖および分化を支持するための適切な基質を提供し、そして適切な因子を分泌する細胞を指す。特定の態様において、外胚葉分化を支持する細胞は、線維芽細胞、より特定するとヒトおよびマウスの線維芽細胞、より特定すると真皮線維芽細胞の群から選択される。特定の態様において、外胚葉分化を支持する細胞は、マイトマイシンにより不活性化または照射により不活性化されたヒト真皮線維芽細胞である。
【0020】
本発明の1つの態様において、外胚葉分化を支持する細胞はフィーダー線維芽細胞である。
【0021】
本明細書において使用する「フィーダー線維芽細胞」という表現は、多能性幹細胞のための基底層として作用し、そして多能性を失うことなく未分化状態の幹細胞を維持するための、分泌因子、細胞外マトリックスおよび細胞との接触を与える、細胞を指す。フィーダー細胞は、γ照射またはマイトマイシンによって不活性化され得る。本発明の態様によると、フィーダー線維芽細胞は、線維芽細胞、より特定するとヒト線維芽細胞、およびより特定すると真皮線維芽細胞(真皮線維芽細胞系を含む)の群からであり得る。真皮線維芽細胞系の例は、CCD−1112SK(Hovatta O, et al. 2003)および3T3−J2(Rheinwald JG et al. 1975)を含むがそれらに限定されない。特定の態様において、真皮線維芽細胞は、その増殖を停止するために前もって処理され、その後、培養表面にコーティングされる。それ故、真皮線維芽細胞は、照射され得るか、またはマイトマイシンなどの細胞周期遮断剤を用いて処理され得る。
【0022】
本明細書において使用する「真皮線維芽細胞」という用語は、真皮の細胞外マトリックスを合成および維持する細胞の集団を指す。真皮線維芽細胞の特異的なマーカーとしてはビメンチンおよびFAP(線維芽細胞活性化タンパク質)が挙げられる。
【0023】
本発明の態様によると、細胞培養表面は、真皮線維芽細胞がそれに自然に付着し得るように選択される。細胞培養表面の種々の材料が選択され得る。このような材料の例としては、プラスチック組織培養ディッシュまたはゼラチンでコーティングされたディッシュが挙げられるがそれらに限定されない。
【0024】
本明細書において使用する「表皮誘導を刺激する薬剤」という表現は、ケラチン8およびケラチン18などの表皮マーカーの発現を誘導することのできる薬剤を指す。典型的には、表皮誘導を刺激する薬剤は、栄養膜および中胚葉誘導を阻害する。
【0025】
特定の態様において、表皮誘導を刺激する薬剤は、骨形成タンパク質(例えばBMP−2、BMP−4およびBMP−7)、受容体制御型Smadタンパク質(例えばSmad1、Smad5およびSmad9)およびTGF−βファミリーのリガンド(例えば成長および分化因子6:GFD−6)(Moreau et al., 2004)からなる群より選択される。好ましい態様において、表皮誘導を刺激する薬剤は、BMP−2、BMP−4、BMP−7、Smad1、Smad5、Smad7およびGFD−6からなる群より選択される。好ましい態様において、表皮誘導を刺激する薬剤はBMP−4である。
【0026】
「BMP−4」という用語は、骨形成タンパク質4を指す。BMP−4は、TGF−βタンパク質スーパーファミリーに属するポリペプチドである。例示的な天然BMP−4アミノ酸配列は、GenPeptデータベースにおいてアクセッションナンバーAAC72278の下で提供される。
【0027】
1つの態様において、表皮誘導を刺激する薬剤は、BMP−2、BMP−4、BMP−7、Smad1、Smad5、Smad7およびGFD−6からなる群より選択される。
【0028】
好ましい態様において、表皮誘導を刺激する前記薬剤はBMP−4である。BMP−4の濃度は、0.02nM〜77nMまたは0.3ng/mL〜1000ng/mLまで変化し得る。特定の態様において、BMP−4の濃度は0.5nMである。
【0029】
本明細書において使用する「ケラチノサイトの最終分化を刺激する薬剤」という表現は、ケラチン5およびケラチン14の発現を刺激する薬剤を指す。実際に、ケラチン5およびケラチン14は、3次元培養液中で最終分化することのできる基底ケラチノサイトのマーカーである。1つの特定の態様において、ケラチノサイトの最終分化を刺激する薬剤は、アスコルビン酸およびレチノイン酸からなる群より選択される。
【0030】
好ましい態様において、ケラチノサイトの最終分化を刺激する前記薬剤はアスコルビン酸である。
【0031】
「アスコルビン酸」という用語は、式:
【化1】


を有する(R)−3,4−ジヒドロキシ−5((S)−1,2−ジヒドロキシエチル)フラン−2(5H)−オンを指す。
【0032】
本発明の態様によると、アスコルビン酸の濃度は0.01mMから1mMまで変化し得る。特定の態様において、アスコルビン酸の濃度は0.3mMである。
【0033】
本明細書において使用する「ヒト多能性幹細胞」という用語は、あらゆる成人細胞を形成する能力を有するあらゆるヒト前駆細胞を指す。
【0034】
特定の態様において、ヒト多能性幹細胞は、ヒト胚性幹細胞(hES細胞)またはヒト人工多能性幹細胞(hiPS細胞)を含むがそれらに限定されない。
【0035】
好ましい態様において、前記ヒト多能性幹細胞は、ヒト胚の破壊を伴うことなく得られる。
【0036】
本明細書において使用する「ヒト胚性幹細胞」または「hES細胞」または「hESCs」という用語は、あらゆる成人細胞を形成する能力を有するヒト前駆細胞を指す。hES細胞は、1週令未満の受精した胚から誘導される。
【0037】
本発明の態様によると、hES細胞はあらゆるhES細胞系から選択され得る。hES細胞系の例としては、SA01、VUB−01、WA01(H1)(Thomson JA et al 1998)およびWA09(H9)(Amit M et al. 2000)が挙げられるがそれらに限定されない。本発明によるとhES細胞は、Fang et al (2006)に記載のように胚様体に前もって分化されない。
【0038】
本明細書において使用する「ヒト人工多能性幹細胞」または「ヒトiPS細胞」または「ヒトiPSCs」または「hiPSCs」という用語は、ヒト非多能性細胞(例えば成人体細胞)から人工的に誘導されたタイプのヒト多能性幹細胞を指す。ヒト人工多能性幹細胞は、あらゆる成人細胞を形成する能力においてはヒト胚性幹細胞と同一であるが、胚から誘導されない。典型的には、ヒト人工多能性幹細胞は、あらゆる成人体細胞(例えば線維芽細胞)におけるOct3/4、Sox2、Klf4およびc−Myc遺伝子の誘導発現を通して得ることができる。例えば、ヒト人工多能性幹細胞は、Takahashi K. et al. (2007)によって、Yu et al. (2007)によって記載のプロトコールに従って、またはさもなければ、これらの元のプロトコールにおいて細胞を再プログラミング化するために使用される1つまたは他の薬剤を、iPSC系の起源において体細胞に作用するかまたは移行される任意の遺伝子またはタンパク質によって置き換える任意の他のプロトコールによって得ることができる。基本的には、成人体細胞を、Oct3/4、Sox2、Klf4およびc−Myc遺伝子を含む、レトロウイルスなどのウイルスベクターを用いてトランスフェクションする。
【0039】
本発明の態様によると、ヒトiPS細胞は、あらゆるヒトiPS細胞系から選択され得る。ヒトiPS細胞系の例としては、クローン201B(Takahashi et al., 2007)およびhiPS(包皮)またはIMR90(Yu et al., 2007)が挙げられるがそれらに限定されない。
【0040】
あるいは、hES細胞またはヒトiPS細胞は、治療目的で構成され得るマスターセルバンクから選択され得る。好ましい様式において、hES細胞またはhiPS細胞は、大半のヒト集団において免疫拒絶を回避または制限するように選択され得る。典型的には、hES細胞またはhiPS細胞は、主要組織適合性抗原A、BおよびDRをコードする遺伝子に対してHLAホモ接合性であり、このことはそれらがHLAレパートリーにおいて簡単な遺伝子プロファイルを有していることを意味する(Nakatsuji N et al, 2008およびTaylor C et al 2003)。前記細胞は、メラノサイト欠乏症に関連した病態の細胞療法に使用するためのメラノサイトを調製するのに適し得る再生可能な細胞の入手源としての幹細胞バンクを作るのに役立ち得る。
【0041】
別の特定の態様において、ヒト多能性幹細胞は、ヒトの遺伝子疾病の原因である突然変異または複数の突然変異、および特に、ヒト皮膚の遺伝子疾病の原因である突然変異を有し得る。
【0042】
本明細書において使用する「メラノサイト欠乏症に関連した病態」または「色素沈着障害」という表現は、機能的なメラノサイトの欠乏が存在する任意の病態または疾病を指す。これは、メラニンの合成に必要な酵素の欠乏症、メラノサイトの発達および/または増殖および/または生存が不十分なことに起因し得る。
【0043】
メラノサイト欠乏症またはメラノサイトの関与する色素沈着障害に関連した病態としては、神経堤からのメラノサイトの発達に影響を及ぼす疾病(限局性白皮症、ワールデンブルグ症候群および遺伝性対側性色素異常症)、メラニン合成に欠陥を有する疾病(白皮症)、メラノソームの成熟または移動の疾患(ヘルマンスキープドラック症候群、チェディアック・東症候群およびグリセリ症候群)および白斑が挙げられるがそれらに限定されない。
【0044】
典型的には、工程a)を、表皮誘導を刺激する薬剤およびケラチノサイトの最終分化を刺激する薬剤の補充された基礎培養培地中で行なう。適切な基礎培養培地は、例えば、5μg/mLのインシュリン、0.5μg/mLのヒドロコルチゾン、10−10mol/Lのコレラ毒素、1.37ng/mLの組換え表皮成長因子の補充された、FAD培地(ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)およびHam’s F12培地の3:1混合物)、および10%ウシ胎児血清であり得る。
【0045】
1つの態様において、基礎培養培地には動物に由来する物質が含まれていない。好ましい態様において、基礎培養培地は、本質的に、合成化合物、ヒト起源の化合物および水からなる。有利には、前記培養培地は、医薬品および医薬部外品の製造管理および品質管理規則(「GMP」条件の下)に従って細胞を培養するために使用され得る。典型的には、血清を、Ying et al., 2003、Lowell et al., 2006およびLiu Y et al., 2006に記載のようにN2B27培地によって置換し得る。N2B27は、1:1比のDMEM/F12およびNeurobasal培地、N2サプリメント(1/100)、B27サプリメント(1/50)およびβ−メルカプトエタノール(1/1000)を含む。それは、例えば、Stem Cell Sciences UK Ltdからの参照番号SCS−SF−NB−02の下で入手可能である。
【0046】
別の態様において、工程a)を、基礎培養培地中で、表皮誘導を刺激する薬剤およびケラチノサイトの最終分化を刺激する薬剤の存在下、およびメラノサイトの分化を刺激する薬剤の存在下において行なうことができる。典型的には、メラノサイトの分化を刺激する前記薬剤は、WNTファミリータンパク質(例えばwnt3a)、幹細胞因子(SCF)およびエンドセリン3(EDN3)(Fang et al, 2006)からなる群より選択され得る。これらのタンパク質は、神経堤から色素細胞への分化に関与する。Wntファミリーのタンパク質は、マウスにおいて神経細胞および色素細胞の形成を誘導した。EDN3またはその受容体のいずれかが欠損している動物におけるメラノサイトの不在は、この経路が、神経堤に由来するメラノサイト集団の発達に重要であることを示唆する。
【0047】
in vitroにおける研究は、EDN3が、メラノサイト前駆体の増殖、生存および分化を促進することを示す。KIT(SCF受容体をコードする)の突然変異は、メラノサイト系統の特定化に影響を及ぼさないが、その代わりに後の発達段階においてメラノブラストの生存を妨害する。特に、SCF/KITシグナル伝達は、前駆体メラノブラストの遊走、増殖、生存および分化に必須である。
【0048】
Wnt3aシグナル伝達は神経堤細胞のメラノサイト運命を決定し、EDN3は細胞運命に対して寄与し、そしてSCFは関連づけられた前駆体の増殖/生存を促進する。
【0049】
本発明によると、ヒト多能性幹細胞(例えばhES細胞またはヒトiPS細胞)を、工程a)の間に、色素細胞集団のクローンの出現を可能とするに十分な時間かけて培養する。色素細胞集団の前記クローンは、顕微鏡を使用せずに裸眼によって当業者によって容易に識別される。
【0050】
特定の態様によると、工程a)を、少なくとも35日間、好ましくは少なくとも40日間、さらにより好ましくは少なくとも45日間、少なくとも50日間、少なくとも55日間、少なくとも60日間、少なくとも65日間、少なくとも70日間、または少なくとも75日間行なう。
【0051】
典型的には、工程a)を最大で120日間、好ましくは最大で100日間行なう。
【0052】
本発明のさらなる目的は、前記したような方法によって得ることのできるヒト多能性幹細胞から誘導されたヒトメラノサイトの単離された集団に関する。
【0053】
本明細書において使用する「単離された」という用語は、その天然の環境の少なくともいくつかの成分から分離された細胞または細胞集団を指す。
【0054】
本発明のさらなる目的は、前記したような方法によって得ることのできるヒト多能性幹細胞から誘導されたヒトメラノサイトの単離され実質的に純粋で均一な集団に関する。
【0055】
本明細書において使用する「実質的に純粋で均一な集団」という用語は、細胞の総数の大半(例えば少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95%)が対象のメラノサイトの特異的な特徴を有する、細胞集団を指す。
【0056】
1つの態様において、本発明によるヒトメラノサイトの単離され実質的に純粋で均一な集団は、Taqmanアレイによって評価したところ成人メラノサイトと比較して異なって調節されるいくつかのメラニン形成起源を有する。
【0057】
1つの態様において、ヒトiPS細胞を使用する場合、本発明によるヒトメラノサイトの単離され実質的に純粋で均一な集団は、導入遺伝子(これは、工程a)の前に行なわれた再プログラミング化工程中に前記細胞に導入された)を含む。
【0058】
さらなる態様によると、工程a)の後に以下の工程:
b)工程a)で得られた細胞集団から色素細胞を単離する工程;
c)適切な培養培地中で前記の単離された細胞を培養する工程
を行なうことができる。
【0059】
本明細書において使用する「単離する」という用語は、培養中の細胞を指す場合、前記細胞のクローニング、すなわち、培養中の他の細胞から前記細胞を分離して新規なクローンを確立するという事実を指す。典型的には、工程b)は、細胞培養の技術分野の当業者には公知の標準的な技術を使用して行なわれ得る。
【0060】
1つの態様において、前記の単離工程b)は、機械的および/または酵素的処理を使用した細胞の解離を含み得る。典型的には、前記の単離工程b)はトリプシンを用いての処理を含み得る。
【0061】
典型的には、前記の単離工程b)はさらに、適切な細胞培養表面上への単離された色素細胞の播種を含み得る。
【0062】
本明細書において使用する「適切な培養培地」という用語は、特定の細胞集団の成長、増殖および生存を支持するのに必要な栄養分を含む培養培地を指す。
【0063】
特に、ヒトメラノサイトのために適切な培養培地(「メラノサイト培養培地」とも呼ばれる)は、ヒトメラノサイトの成長、増殖および生存を支持するのに必要な栄養分を含む培養培地である。典型的には、本発明によるメラノサイト培養培地は、例えば、成長因子の補充された254CF培地(Invitrogen)からなり得る。
【0064】
典型的には、本発明による工程c)に適した適切な培養培地は、BMP−4およびアスコルビン酸を欠失している。
【0065】
本発明のヒトメラノサイト(またはヒトメラノサイトの実質的に純粋で均一な集団)は、以下:
1)色素沈着障害または皮膚病変の細胞療法;
2)ヒト代用皮膚を再構築することによる、組織工学;
3)薬理学的および毒性学的研究に有用な細胞モデル;
4)メラノサイト発達の機序の研究、およびメラノーマの処置のための新たな治療標的の同定
を含むがそれらに限定されない、いくつかのタイプの適用のために使用することができる。
【0066】
1)色素沈着障害または皮膚病変の細胞療法
その後、本発明の方法に従って得られたヒト多能性幹細胞から誘導されたヒトメラノサイトの実質的に純粋で均一な集団は、療法に使用するために適切であり得る。
【0067】
過去10年間かけて、いくつかの遺伝子が、メラノサイトの関与する色素沈着障害に関連づけられた。こうした疾患は3つのタイプに分類され得る。第1に、神経堤からのメラノサイトの発達に影響を及ぼす疾病(限局性白皮症、ワールデンブルグ症候群および遺伝性対側性色素異常症)、第2に、メラニン合成に欠陥を有する疾病(白皮症)、第3に、メラノソームの成熟または移動の疾患(ヘルマンスキープドラック症候群、チェディアック・東症候群およびグリセリ症候群)。興味深いことに、成熟したメラノサイトの機能および調節に関してより良く理解するために多くの努力がなされてきたが、ヒトの胚性前駆体からのメラノサイトの発達および分化に関与する分子的および細胞的機序は非常に僅かしか分かっていない。
【0068】
さらに白斑は皮膚上の色素脱失した斑である。それは、黒色色素メラニンを産生する細胞であるメラノサイトの班を免疫系が破壊した場所に起こる。
【0069】
色素脱失した皮膚は、さらされた皮膚の領域上で光感受性となり、発赤したり、太陽への曝露で火傷をしたりする。白斑のタイプ、程度および期間に依存して、局所的および全身的な副腎皮質ステロイド、局所的な免疫調節剤、および光療法などの従来の医学的療法は常に成功するとは限らず、そして再色素沈着化は不完全であることが多い。
【0070】
医学的療法では再色素沈着化を引き起こすことができない場合、または手術に対する応答が優れている分節型白斑の場合には手術的方法が重要となる。手術的処置の基本原則は、色素性ドナー皮膚からレシピエントの白斑領域への生存可能なメラノサイトの自己移植である。組織移植および細胞移植を含む種々の移植法が記載されている。疾病の安定性は、成功裏な結果を得るための最も重要な基準である。
【0071】
それ故、本発明は、本発明のヒト多能性幹細胞から誘導されたヒトメラノサイトの実質的に純粋で均一な集団、および場合により薬学的に許容される担体または賦形剤を含む、薬学的組成物に関する。特定の態様において、薬学的組成物はさらに、少なくとも1つの生物学的に活性な物質または生理活性因子を含み得る。
【0072】
本明細書において使用する「薬学的に許容され得る担体または賦形剤」という用語は、前駆細胞の生物活性の効力に干渉せず、そして投与される濃度において宿主に対して過度に毒性ではない、担体媒体を指す。適切な薬学的に許容され得る担体または賦形剤の例としては、水、塩溶液(例えばリンガー液)、油、ゼラチン、炭水化物(例えばラクトース、アミラーゼまたはデンプン)、脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、およびポリビニルプロリンなどが挙げられるがそれらに限定されない。薬学的組成物は、液体、半液体(例えばゲル)または固体(例えばマトリックス、格子、スキャホールドなど)として製剤化され得る。
【0073】
本明細書において使用する「生物学的に活性な物質または生理活性因子」という用語は、本発明の薬学的組成物中におけるその存在が、前記組成物を受ける被験体にとって有益である任意の分子または化合物を指す。当業者によって認識されているように、本発明の実施において使用するに適した生物学的に活性な物質または生理活性因子は、多種多様なファミリーの生理活性分子および化合物に見出され得る。例えば、本発明の脈絡において有用な生物学的に活性な物質または生理活性因子は、抗炎症剤、抗アポトーシス剤、免疫抑制剤または免疫調節剤、抗酸化剤、成長因子および薬物から選択され得る。
【0074】
本発明の関連した局面は、メラニン欠乏症に関連した病態に罹患する被験体を処置するための方法に関し、前記方法は、本発明のヒト多能性幹細胞から誘導されたヒトメラノサイトの実質的に純粋で均一な集団(またはその薬学的組成物)の効率的な量を被験体に投与する工程を含む。
【0075】
本明細書において使用する「被験体」という用語は、皮膚損傷に関連した病態に罹患し得るが、前記病態を有していても有していなくてもよい、哺乳動物、好ましくはヒトを指す。
【0076】
本発明の脈絡において、本明細書において使用する「処置する」または「処置」という用語は、病態の発症を遅延または予防すること、病態の症状の進行、増悪、または悪化を逆行、軽減、抑制、減速または停止すること、病態の症状の寛解をもたらすこと、および/または病態を治癒することを目的とした方法を指す。
【0077】
本明細書において使用する「効率的な量」という用語は、意図した目的を達成するのに十分であるヒト多能性幹細胞から誘導されたヒトメラノサイトの実質的に純粋で均一な集団(またはその薬学的組成物)の任意の量を指す。
【0078】
本発明のヒト多能性幹細胞から誘導されたヒトメラノサイトの実質的に純粋で均一な集団(またはその薬学的組成物)は、任意の適切な方法を使用して被験体に投与され得る。
【0079】
特定の態様において、本発明による処置はさらに、細胞をベースとした処置を開始する前に被験体を薬理学的に免疫抑制することを含む。被験体の全身的または局所的免疫抑制のための方法は当技術分野において周知である。
【0080】
効果的な投与量および投与計画は、被験体の病態の性質に基づいた良質の医療のための原則によって容易に決定され得、そして病態の症状の程度、および対象の組織または器官の損傷または変性の程度、および被験体の特徴(例えば年齢、体重、性別、全般的な健康状態など)を含むがそれらに限定されない多くの因子に依存する。
【0081】
典型的には、本発明のヒトメラノサイトは、色素沈着障害および色素性遺伝性皮膚症を処置するための方法において使用され得る。
【0082】
典型的には、本発明のヒトメラノサイトは、ヒト皮膚生理機能に似ているメラニン沈着した表皮を確立することによって、皮膚病変を処置するための方法に使用され得る(重度に火傷した患者、下肢潰瘍、例えば糖尿病性皮膚潰瘍および鎌状赤血球貧血など)。
【0083】
本発明のヒトメラノサイトはまた、遺伝子疾患および光線過敏症を含む、皮膚色素沈着障害に関与する機序への洞察を与えるために使用され得る。
【0084】
2)組織工学−ヒト代用皮膚の再構築
前記したような方法によって得ることのできるヒト多能性幹細胞から誘導されたヒトメラノサイトは、初代ヒトメラノサイトの全ての形態学的および機能的特質を再現することができる。実際に、本発明者らは、前記細胞がメラノソームを通してメラニンを産生および分泌することができることを実証した。ヒトケラチノサイトと共に3次元器官型システムに取り込まれると、それらはメラニン沈着した多層化表皮の形成に関与することができる。
【0085】
本発明のヒト多能性幹細胞から誘導されたヒトメラノサイトの実質的に純粋で均一な集団は、ヒト代用皮膚を調製するのにも適切であり得る。有利には、本発明によるヒト代用皮膚はメラニン沈着した代用皮膚である。
【0086】
本発明のヒト多能性幹細胞から誘導されたヒトメラノサイトの実質的に純粋で均一な集団は、単独で、または他の細胞と組み合わせて、および/または他の生物学的に活性な因子または試薬、および/または薬物と組み合わせて移植され得る。当業者によって理解されるように、これらの他の細胞、生物学的に活性な因子、試薬、および薬物は、本発明の細胞と同時にまたは連続して投与され得る。
【0087】
典型的には、本発明によるヒトメラノサイトの実質的に純粋で均一な集団は、ヒトケラチノサイトと組み合わせて移植され得、それによりヒト表皮を再構築し得る。当業者は、前記細胞をどのような比で組み合わせるかを知っている。
【0088】
典型的には、メラノサイトとケラチノサイトの比は、所望の結果に応じて、1:1から1:100まで変化し得る。好ましい態様において、本発明によるヒトメラノサイトは、1:3から1:20まで変化する比でケラチノサイトと組み合わせて使用される。
【0089】
このような方法を実施するのに有用なケラチノサイトは、ヒト表皮を再構築することのできるヒト起源の任意のケラチノサイトであり得る。それらはヒト皮膚試料から単離された初代ケラチノサイトであり得る。あるいは、それらはヒト多能性幹細胞から誘導されたケラチノサイトであり得る。
【0090】
典型的には、ケラチノサイトは、Guenou et al. 2009に記載の方法に従ってヒト多能性幹細胞から誘導され得る。
【0091】
ケラチノサイトの全層形成および組織学的分化は、3次元器官型培養法の使用によって達成され得る(Doucet O, et al. 1998 ; Poumay y. et al. 2004 ; Gache Y. et al. 2004)。例えば、気液界面におけるヒトケラチノサイトのin vitroにおける培養の場合、高度に秩序立った角質層が形成される。
【0092】
本明細書において使用する「器官型培養」という用語は、in vitroにおいて組織または器官を再構築するために培養細胞が使用される、3次元組織培養を指す。
【0093】
特定の態様において、本発明によるヒト代用皮膚は、Poumay, Y et al. 2004によって記載のように生成され得る。ケラチノサイトの培養は、ポリカーボネート培養インサート上で実施され得る。これらの細胞を、1.5mM CaClおよび50μg/mlアスコルビン酸の補充されたEpilife培地中で11日間維持し得る。細胞は、10日間かけて培養培地を除去することによって気液界面にさらされる。
【0094】
特定の態様において、ケラチノサイトが、ヒト真皮線維芽細胞の定植された細胞培養マトリックス上に播種され、その後、前記したようなその器官型培養液を与える。この特定の技術は、真皮および表皮を含むヒト代用皮膚を得ることを可能とする。このような方法は、Del Rio M. et al. (2002)またはLarcher F. et al. (2007)によって記載のようなプロトコールを通して実施され得る。例えば、ケラチノサイトは、生真皮線維芽細胞の定植されたフィブリンマトリックス上に播種され得る。その後、器官型培養は、ケラチノサイトがコンフルエンスとなるまで液内増殖し、そして最終的に7日間かけて気液界面で維持され、上皮の層別化および分化を増強する。
【0095】
典型的には、本発明のヒト代用皮膚は、ヒトケラチノサイトと共に、前記したようなヒト多能性幹細胞から誘導されたヒトメラノサイトの実質的に純粋で均一な集団のin vitroにおいて得られた培養から生じた多層化表皮を含み、これはメラニン沈着した扁平上皮へと層別化した。特定の態様において、本発明のヒト代用皮膚は、前記したようなメラニン沈着した多層化表皮および真皮を含み得る。
【0096】
それ故、本発明のさらなる局面は、前記したようなヒト多能性幹細胞から誘導されたヒトメラノサイトの集団を準備すること、およびヒトケラチノサイトの集団を準備することからなる工程を含む、ヒト代用皮膚を調製する方法に関する。
【0097】
本発明のさらなる目的は、前記したような方法によって得ることのできるヒト代用皮膚に関する。
【0098】
本発明のさらなる目的は、動物に、好ましくは哺乳動物に、より好ましくはマウスに、前記したようなヒト代用皮膚を移植するための方法に関する。特定の態様において、前記動物は免疫不全動物(例えばNOD/SCIDマウス)である。前記方法はヒト皮膚のための動物モデルを提供するのに有用であり得る。
【0099】
特定の態様において、本発明のヒト代用皮膚の移植された動物は、Del Rio M. et al. (2002)によって記載のように生成され得る。簡潔には、動物の毛を剃り、そして無菌的に清潔にする。その後、マウスの背側に全層の創傷を作り、そして最後に本発明のヒト代用皮膚を用いての移植を、無菌条件下において実施する。その後、10〜12週間であれば、前記動物上にヒト皮膚を得るのに十分であり得る。
【0100】
本発明のさらなる目的は、前記したような方法に従って得ることのできるヒト皮膚のための動物モデルに関する。
【0101】
本発明のヒト代用皮膚および動物モデルは多種多様な用途を有し得る。これらの用途としては、化合物をスクリーニングするための使用、腫瘍および病気の原因物質(例えばヒトパピローマウイルス)を培養するための基質、および皮膚損傷に関連したヒト傷害または病態をモデリングするための、および薬理毒性アッセイのための使用を含むがそれらに限定されない。
【0102】
特に、本発明の代用皮膚および動物モデルは、UV曝露によって誘導されたDNA損傷およびUV曝露によって誘導されたDNA損傷に対する種々の薬物の可能性ある効果を研究するために使用され得る。
【0103】
例えば、本発明のヒト代用皮膚および動物モデルは、多種多様なin vitroおよびin vivo試験のために使用され得る。特にであって制限するものではないが、本発明のヒト代用皮膚および動物モデルは、スキンケア製品、薬物代謝、試験化合物に対する細胞応答、創傷治癒、光毒性、皮膚刺激、皮膚炎症、皮膚腐食性、および細胞損傷の評価に用途を見出す。典型的には、本発明の動物モデルのために、製品はヒト皮膚上に局所的に投与され得るか、または経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内および経皮経路を通して投与され得る。
【0104】
本発明は、多種多様なスクリーニングアッセイを包含する。いくつかの態様において、スクリーニング法は、本発明のヒト代用皮膚または動物モデルおよび少なくとも1つの試験化合物または製品(例えばスキンケア製品、例えば保湿剤、化粧品、染料、または香水;製品は、クリーム、ローション、液体およびスプレーを含むがそれらに限定されない任意の形状であり得る)を準備し、前記製品または試験化合物を、前記のヒト代用皮膚または動物モデルに適用し、そしてヒト代用皮膚または動物モデルに対する前記製品または試験化合物の効果をアッセイすることを含む。典型的には、本発明の動物モデルのために、試験化合物または製品は、ヒト皮膚上に局所的に投与され得るか、または、経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内および経皮経路を通して投与され得る。多種多様なアッセイを使用して、ヒト代用皮膚または動物モデルに対する前記製品または試験化合物の効果を決定し得る。アッセイは、前記化合物または製品の毒性、作用強度または効力に向けられ得る。さらに、成長、バリア機能または組織強度に対する前記化合物または製品の効果が試験され得る。
【0105】
他の好ましい態様において、本発明のヒト代用皮膚または動物モデルは、皮膚を通しての薬物導入の効力をスクリーニングするための用途を見出す。
【0106】
特定の態様において、本発明のヒト代用皮膚または動物モデルはまた、皮膚に自然に生じる腫瘍の培養および研究のために、並びに、皮膚に影響を及ぼす病原体の培養および研究のために有用である。従って、いくつかの態様において、本発明のヒト代用皮膚または動物モデルを悪性細胞と共に播種することが考えられる。その後、これらの再構築されたヒト代用皮膚または動物モデルは、その自然な環境において腫瘍に対する効力について、化合物または他の処置戦略(例えば放射線またはトモセラピー)をスクリーニングするために使用され得る。いくつかの態様において、本発明は、対象の病原体に感染させた再構築されたヒト代用皮膚または動物モデルおよび少なくとも1つの試験化合物または処置を準備し、そして、代用皮膚または動物モデルを前記試験化合物または処置で処置することを含む方法を提供する。
【0107】
別の特定の態様において、本発明のヒト代用皮膚または動物モデルはまた、皮膚損傷に関連したヒト傷害または病態をモデリングするのに有用である。例えば、本発明のヒト代用皮膚および動物モデルは、創傷、火傷(例えば火による火傷、日焼けなど)、または照射、病原体などによって引き起こされた病変、化学製品または環境条件によって引き起こされた刺激、変性疾病および遺伝子疾病をモデリングするためのin vitroおよびin vivoモデルの両方を提供し得る。特定の態様において、対象の病態は、遺伝性皮膚症、例えば表皮水疱症、色素性乾皮症、魚鱗癬、外胚葉異形成症、キンドラー症候群およびその他である。典型的には、本発明のヒト代用皮膚または動物モデルは、ヒト皮膚の遺伝子疾病の原因となる1つの突然変異または複数の突然変異を有し得る多能性幹細胞から生成され得る。前記したようなin vitroおよびin vivoモデルの両方が、医学的研究のために特に関心を有し得るか、または前記傷害および病態の処置または予防のために化合物をスクリーニングするのに有用であり得る。特に、本発明は、例えばハイスループットまたはハイコンテンツな技術を使用して、ライブラリーから、特にコンビナトリアルライブラリーから化合物をスクリーニングするための、本発明によるヒト代用皮膚および動物モデルの使用を考える。典型的には、本発明の動物モデルのために、試験化合物または製品をヒト皮膚上に局所的に投与し得るか、または経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内、および経皮経路を通して投与し得る。
【0108】
本発明のさらなる局面において、本発明のヒト代用皮膚は、皮膚損傷に関連した病態の処置のために使用され得る。
【0109】
それ故、本発明は、本発明のヒト代用皮膚をそれを必要とする患者に移植することからなる工程を含む、皮膚損傷に関連した病態の処置のための方法に関する。
【0110】
例えば、本発明のヒト代用皮膚は、創傷閉鎖および火傷処置の適用に用途を見出す。火傷および創傷閉鎖の処置のための移植片の使用は、U.S. Pat. Nos. 5,693,332、5,658,331および6,039,760に記載されている。従って、本発明は、本発明によるヒト代用皮膚および創傷に罹患した患者を準備し、そして創傷が閉鎖されるような条件下において患者にヒト代用皮膚を移植することを含む、火傷によって引き起こされた創傷を含む、創傷閉鎖のための方法を提供する。
【0111】
3)薬理学的および毒性学的研究に有用な細胞モデル
本発明のヒトメラノサイトの単離され実質的に純粋な集団は、種々のスクリーニング試験のための重要な材料源を提供し得る。それ故、それらはハイコンテンツスクリーニング(HCS)およびハイスループットスクリーニング(HTS)アッセイに使用され得る。例えば、これらのアッセイは、メラノサイトに関連した疾患に対する治療標的を同定するために役立ち得る。皮膚の色素沈着をモデュレーションする化粧的に活性な物質または化合物を同定するために他のアッセイも実施することができる。
【0112】
本発明のヒトメラノサイトの単離され実質的に純粋な集団は、動物実験に代わる有用なものであり得、臨床試験を実施する前にヒトにおける予測データを得ることができる。
【0113】
有利には、本発明のヒトメラノサイトの単離され実質的に純粋な集団は、健康であれまたは病気を有しているのであれ、多種多様なヒト被験体を起源とする多種多様な異なるヒト多能性幹細胞から得ることができる。特に、それらは、種々の民族起源、種々の遺伝子疾患を反映した種々の遺伝子型、またはUV照射に対する皮膚感受性を反映した種々の表現型を含み得る。それ故、ヒトメラノサイトの単離され実質的に純粋な集団は、種々のフォトタイプに対して得ることができる。スキンフォトタイプ(SPT)は、太陽光に対するヒトの感受性に基づいた分類システムである。皮膚タイプIおよびIIのヒトは、しわおよび皮膚癌を含む光老化作用に対して最もリスクが高い。しかしながら、しわおよび皮膚癌を含む太陽の作用は、いずれのスキンタイプでも起こり得る。
SPT I−常に赤くなり、決して日焼けしない
SPT II−容易に赤くなり、少し日焼けする
SPT III−中程度に赤くなり、次第にライトブラウン色へと日焼けする
SPT IV−少し赤くなり、常に中程度のブラウン色へとよく日焼けする
SPT V−稀に赤くなり、過度に黒く日焼けする
SPT VI−決して赤くならず、ひどく色素沈着している
【0114】
本発明のヒトメラノサイトは、皮膚刺激および腐食性、in vitroにおける光毒性、およびUV照射に対する応答を研究するために使用され得る。
【0115】
1つの局面において、それ故、本発明は、
i)前記したようなヒト多能性幹細胞から誘導されたヒトメラノサイトの単離され実質的に純粋で均一な集団を、試験化合物の存在下または非存在下においてインキュベーションする工程;
ii)メラノサイトの集団の前記の生物学的効果を、前記試験化合物の存在下または非存在下において比較する工程
を含む、ヒトメラノサイトに対する所与の生物学的効果について化合物をスクリーニングするための方法に関する。
【0116】
典型的には、本明細書において使用する「生物学的効果」という表現は、皮膚科学的および/または化粧目的のためにスクリーニングされる化合物の望ましい作用(例えばメラニン合成の刺激)または望ましくない作用(例えば毒性)のいずれかを指し得る。当業者は、スクリーニング法の特定の目標に従って、どのタイプの生物学的効果をアッセイしようとするかを理解しているだろう。
【0117】
別の局面において、本発明は、特に化粧品学または日焼けの臨床試験において化合物をスクリーニングするためのin vitro細胞モデルとしての本発明のヒトメラノサイトの使用に関する。
【0118】
4)メラノサイト発達の機序の研究、およびメラノーマの処置のための新たな治療標的の同定
本発明のヒトメラノサイトはまた、メラノサイトの生理学的および病理学的発達に関与する機序およびシグナル伝達経路を解明するために使用され得る。
【0119】
本発明のヒトメラノサイトはまた、メラノーマの処置のための新たな治療標的を同定するために使用され得る。
【0120】
それ故、本発明はまた、メラノサイトの発達を研究するための細胞モデルとしての前記に定義したようなヒトメラノサイトの使用に関する。
【0121】
メラノサイトの胚発達は、神経堤における細胞運命特定により開始され、その後、細胞の遊走およびニッチへの局在が起こる。メラノサイト発達に関与する多くの遺伝子がまた、メラノサイトを起源とする高悪性度で致命的な形態の皮膚癌であるメラノーマの発達に関与している。リンパ節まで広がっていない初期段階のメラノーマは、僅かな再発のリスクをもって切除することができるが、転移性メラノーマと診断された患者は、放射線療法および化学療法に対する大半の腫瘍の抵抗性に因り高い死亡率を有する。メラノーマへと発達した形質転換されたメラノサイトは異常に増殖し、そして皮膚において放射状に増殖し始めることが多い。この放射状の増殖の後に垂直的な増殖が起こり得、基底膜を通して根底にある真皮へと侵襲し、その後、転移が起こる。しかしながら、正常なメラノサイトがどのようにメラノーマ細胞になるのか、どのようにメラノーマは、その進行において正常なメラノサイトおよびその前駆体の特性を利用するのかについては依然として明らかになっていない。
【0122】
メラノーマはまた、個体発生および再生の間に必要とされる多くの調節シグナルおよび経路を利用する。
【0123】
前記したようなその研究においてUong et al (2010)は、メラノーマ形成は、メラノサイト発達および再生と多くの特徴を共有しているが、依然として答えるべき多くの質問があることを示す。メラノサイトおよびメラノサイト幹細胞の正常な調節および挙動のさらなる解明は、癌処置のためのより良好な戦略の開発を可能とするだろう。
【0124】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明される。しかしながら、これらの実施例は、いずれにしても本発明の範囲を制限するものと捉えるべきではない。
【0125】
実施例:ヒト多能性幹細胞からメラノサイト集団およびヒト代用皮膚を調製するための方法
この報告書において、本発明者らは、iPS再プログラム化細胞(hiPSC)およびhESCが、メラノサイトの純粋で機能的な集団を生成できることを実証する。これらの細胞は、BMP4およびアスコルビン酸を補充したFAD培地中のフィーダー細胞上での指定された表皮誘導の2次元プロトコールに従って得られた。多能性幹細胞から誘導されたこれらのメラノサイトは、メラノサイトの全ての主要なマーカーを発現し、メラノソームを発達させ、そしてケラチノサイト中へ遊走することのできるメラニンを合成する。
【0126】
材料および方法
hESC培養およびメラノサイトへの分化
2つの細胞系、すなわちSA01(Cellartis, Gotenborg Sweden)およびWA09(H9)(Wicell, Madison WI)からhESC、並びにレトロウイルス山中因子(Takahashi et al.)およびレンチウイルストムソン因子(Thomson et al.)を使用して誘導したhiPSCを、10mg/mLのマイトマイシンCを用いて不活性化し、30000/cmで播種し、そして以前に記載(Guenou et al., 2009)のように増殖させた、STOマウス線維芽細胞上で増殖させた。
【0127】
分化のために、hESCおよびhiPSC凝集塊を、5μg/mLのインシュリン、0.5μg/mLのヒドロコルチゾン、10−10Mのコレラ毒素、1.37ng/mLのトリヨードサイロニン、24μg/mLのアデニンおよび10ng/mLの組換えヒトEGFを補充した2/3DMEM、1/3HAM:F12および10%ウシ胎児血清(FCII, Hyclone, Logan, UT, USA)からなるFAD培地中のマイトマイシンCで処理した3T3線維芽細胞上に播種した。3つの独立した実験を、各々の多能性細胞系を使用して実施した。外胚葉分化の誘導は、0.5nMのヒト組換えBMP−4(R&D, UK)および0.3mMアスコルビン酸(Sigma-Aldrich)を使用して実現した。細胞を、色素性集団のクローンが観察されるまで同じ培地で増殖させ、そして単離した。単離後、色素細胞をトリプシン0.05%(Invitrogen)を使用して解離し、そして成長因子を補充したメラノサイト特異的培地254CF(Invitrogen)中に単一細胞として播種した。これらの条件において1週間培養した後、メラノサイトに類似した形態を提示する細胞を、その形態に基づいて機械的に単離し、そして少なくとも12回の継代の間は同じ培地中で別々に増殖させた。
【0128】
ケラチノサイトおよびメラノサイト培養
対照として、初代ヒトケラチノサイト(HK)をFAD培地中でマイトマイシンCで処理した3T3線維芽細胞上で培養し、そして初代ヒト表皮メラノサイト(HEM)を、成長因子を補充した254CF培地(Invitrogen)中で培養した。
【0129】
定量RT−PCR(Q−PCR)
全RNAを、hESC、HEMおよびhiPSCから(mel−hiPSC)およびhESCから(mel−hESC)誘導されたメラノサイトから、RNeasyミニ抽出キット(Qiagen, Courtaboeuf, France)を使用して製造業者のプロトコールに従って単離した。オンカラムDNaseI消化を実施して、ゲノムDNAの増幅を回避した。RNAレベルおよび品質を、ナノドロップ技術を使用して確認した。合計で500ngのRNAを、SuperscriptIII逆転写キット(Invitrogen)を使用した逆転写のために使用した。Q−PCR分析を、LightCycler480システム(Roche, Basel Switzerland)およびSYBR Green PCRマスターミックス(Roche)を使用して製造業者の指示に従って実施した。遺伝子発現の定量はDeltaCt法に基づき、そして18S発現に規準化した。融解曲線および電気泳動分析を実施して、PCR産物の特異性を制御し、そして非特異的増幅を排除した。プライマーミックス(1μM)を2枚の96ウェルプレートにローディングすることによってQ−PCRアレイを調製した。SYBR Green PCRマスターミックスおよび12.5ngのcDNAの添加後にQ−PCRを上記のように実施した。
【0130】
免疫細胞化学
細胞を4%パラホルムアルデヒド中で固定し(15分間、室温)、その後、透過処理をし、そして0.4%TritonX−100および5%BSA(Sigma-Aldrich)を補充したPBS中で遮断した。一次抗体を4℃で遮断緩衝液中で一晩かけてインキュベーションした。抗体は、マウス抗MITF(DAKO)、マウス抗TRP1(Abcam)、ウサギ抗チロシナーゼ(Abcam)、マウス抗Rab27(BD pharmingen)、マウス抗SSEA3/4(R&D)、マウス抗TRA1−81(eBioscience)、マウス抗RPE65(Abcam)、ウサギ抗K14(Novacastra)、ウサギ抗PAX6(Covance)およびマウス抗PAX3(Santa Cruz)抗体を含んだ。細胞を、種特異的なフルオロフォアのコンジュゲートした二次抗体(Invitrogen)を用いて染色し(1時間、室温);DAPIを用いて核を可視化した。3つの独立した実験を各々のhESC系を使用して実施した。落射蛍光照射を備えたツァイス顕微鏡を使用して写真を撮影した。
【0131】
FACS分析
細胞を、トリプシン−EDTA(Invitrogen)を使用して培養プレートから剥離し、そして2%パラホルムアルデヒド中で固定した(15分間、室温)。PBSで洗浄後、細胞を0.1%サポニン(Sigma-Aldrich)を用いて透過処理するかまたはしなかった。1:100に希釈した一次抗体を、0.1%FCSを含むPBS中でインキュベーションした(1時間、室温)。対照をアイソタイプ特異的抗体を用いてまたは全く一次抗体を用いずに作製した。種特異的二次抗体を加え(1時間、室温)、そして細胞をCellQuestソフトウェア(BD Biosciences)を使用してFACScaliburで分析した。各実験のために分析した事象の数は10,000であった。各々の細胞系について3回の独立した実験を実施した。
【0132】
メラノソームのトランスファーの定量
初代培養からまたは多能性幹細胞から誘導されたヒトケラチノサイト(HK)およびメラノサイトを、1:3の比で3日間、成長因子を補充したepilife培地中で共培養した。3日後、メラノソームを可視化するために抗TRP1抗体を用いておよびケラチノサイトに特異的である抗ケラチン14抗体を用いて免疫染色を実施した。その後、ツァイス蛍光顕微鏡を用いて蛍光を観察した。メラニン沈着したケラチノサイトの数を、ケラチン14を発現し、そしてその細胞質にTRP1陽性小胞を提示するケラチノサイトの検出によってArrayScan(Cellomics)を使用して定量した。
【0133】
結果
色素性系統の確立
以前に、本発明者らは、ヒト個体発生中の表皮形成の時間生物学に配慮したhESCからのプロトコールを開発し、これにより基底ケラチノサイトの全ての表現型特徴を示す均一な細胞集団を生成した(Guenou et al)。この過程では分化40日目において細胞の僅か60%がケラチノサイトであり(Guenou et al)、他の外胚葉由来の細胞型の確立を可能とする。トムソンおよび山中因子(IMR90およびPolyF)を使用したiPS再プログラミング化細胞並びに未分化hESC(SA01およびWA09(H9))を、40日間以上かけて表皮誘導のプロトコールに従って、マイトマイシン処理3T3−J2(BMP4(0.5nM)およびアスコルビン酸(0.3nM)を補充したFAD培地中のフィーダー細胞)上に播種した。
【0134】
興味深いことに、徐々の色素沈着が、数週間後に、hiPSCおよびhESCから誘導されたケラチノサイトの周辺の領域で検出可能であった。これらの多能性幹細胞から誘導された色素性集団が、メラノサイト系統に傾倒する細胞を含むことを確認するために、本発明者らは定量PCR(qPCR)によって分化過程の全てに沿って分子特徴付けを実施した。このために、発現プロファイルを、hiPSCおよびhESC試料において、未分化状態、色素沈着の前後、および精製された色素細胞などの種々の時点において分析した。第1に、時間経過qPCR分析は、多能性遺伝子マーカーOCT4、NANOGおよびSOX2の転写の減少を実証し、これは急速に検出不可能なレベルに到達し、これはヒト成人メラノサイト(HEM)の1つと同等であった。さらに、メラニン合成の調節因子をコードする遺伝子、例えばTRP1、TYROSINASEおよびMITFは、培養中の色素細胞が増える間に次第に増加した。興味深いことに、神経堤に由来する細胞マーカー、例えばSOX10およびPAX3のレベルの増加と平行して、本発明者らはまた神経管に由来する細胞マーカーPAX6の増加も観察した。
【0135】
これらのデータは、神経堤に由来する色素細胞および神経管に由来する色素細胞を含む外胚葉層から誘導されたいくつかの色素性表現型の形成を実証する。
【0136】
多能性幹細胞から誘導されたメラノサイトの均一で純粋な集団の特徴付け
色素性集団は、単離および2回の継代後に、ヒト成人メラノサイト(HEM)と類似した形態を示した。これらの細胞は、iPSCから誘導されたメラノサイトについてはmel−iPSCと命名され、そしてhESCから誘導されたメラノサイトについてはmel−hESCと命名された。mel−iPSCおよびmel−hESCのqPCR分析は、SOX10、PAX3、MITF−Mアイソフォーム、TRP1およびTYRなどのメラノサイト生物学に関与する重要な遺伝子の発現が、HEMと類似した発現パターンを指示することを示した。実際に本発明者らは、多能性および自己再生に特徴的な全ての遺伝子(OCT4、NANOG、SOX2)の発現の減少またはPAX6およびOTX2の発現の減少を観察し、このことからこの色素細胞集団が網膜色素上皮ではなかったことが確認された。免疫染色分析は、mel−iPSCおよびmel−hESC核におけるOCT4、TRA1−81およびPAX6の発現がないこと、並びに、PAX3およびMITFの正しい核における配置、およびTRP1、TYROSINASE(TYR)およびRab27の細胞質における発現を確認した。
【0137】
さらに、4回の継代後のFACS分析により、対照の未分化mel−iPSおよびmel−hESCと比較して、mel−iPSおよびmel−hESCにおけるSSEA4およびTRA1−81の発現がないことが明らかとなった。この分析はまた、mel−iPSCおよびmel−hESCの80%超が、成人メラノサイトの対照培養液とちょうど同じように、TRP1陽性およびMITF陽性であったことを示した。
【0138】
こうした培養条件下、細胞は12回の継代まで活発に増殖し、その形態およびその表現型を維持しながら、随意に凍結および解凍することができた。
【0139】
多能性幹細胞から誘導されたメラノサイトは機能的である
メラニンを産生および分泌するその能力を実証するために、メラノソーム移動を、mel−iPSCまたはHEMをヒト成人ケラチノサイト(HK)と一緒に共培養することによって評価した。3日間の共培養後、ケラチノサイトへのメラノソームの移動が、タンパク質TRP1(メラノソーム膜で発現される)およびケラチン14(特にケラチノサイトで発現される)の共免疫染色によって検出された。アレイスキャン分析は、mel−iPSCと共に培養したケラチノサイトの20%に、HEMと共に培養した場合は45%にメラノソームが検出可能であったが、メラノサイトの非存在下において培養したHKにはTRP1染色は全く検出できなかったことを示した。
【0140】
興味深いことに、その移動後に、そのDNAを紫外線照射から保護すると期待されるように、メラノソーム局在は、ケラチノサイトの核周辺区画にあった。類似の結果がmel−hESCを用いて得られ、メラニン沈着したケラチノサイトの20%が、3日間の共培養後に検出可能であった。
【0141】
メラニン沈着した多層化表皮の生成を可能とする3次元器官型システムを使用して、本発明者らは、in vitroにおける生理学的に似た状況においてiPSCから誘導されたまたはhESCから誘導されたメラノサイトのいずれかの機能性を評価した。従って、本発明者らは90%ケラチノサイト(HK)および10%メラノサイト(mel−iPSC、mel−hESCおよびHEM)の共培養が、機能的でメラニン沈着した表皮の形成をもたらし、基底層に正しくメラノサイトが帰り、そして分化したケラチノサイトからなる表皮の上層にメラニン沈着が起きたことを示した。
【0142】
多能性幹細胞から誘導されたメラノサイトのさらなる機能的評価は、メラノサイトを、マトリックス上に単層として播種された成人基底ケラチノサイトと培地−空気界面において混合することによる、in vitroにおける多層化表皮の3次元再構築を使用して探索された。完全に多層化した表皮の発達後、顕微鏡による観察で、hESCまたはiPSCのいずれかから誘導されたメラノサイトを含む再構築組織における淡い色素沈着が明らかとなった。フォンタナマッソン染色は、表皮の基底層におけるメラニン含有細胞の存在を確認した。TRP1免疫染色は、基底層への、多能性幹細胞から誘導されたメラノサイトのこのような正しい帰還を確認した。表皮の上層において、メラニン含有過程はケラチノサイトによって囲まれた。皮膚色素沈着を制御する生理学的物質であるαメラノサイト刺激ホルモン(αMSH)を用いてメラニン沈着した表皮を処理すると、組織におけるメラニンの産生が活性化された。
【0143】
【表1】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト多能性幹細胞を、外胚葉分化を支持する細胞と共に、表皮誘導を刺激する薬剤およびケラチノサイトの最終分化を刺激する薬剤の存在下において共培養することからなる工程a)を含む、ヒト多能性幹細胞から誘導されたヒトメラノサイトの集団を得るためのex vivoにおける方法。
【請求項2】
外胚葉分化を支持する前記細胞が、フィーダー線維芽細胞である、請求項1記載のex vivoにおける方法。
【請求項3】
表皮誘導を刺激する前記薬剤が、BMP−2、BMP−4、BMP−7、Smad1、Smad5、Smad7およびGFD−6からなる群より選択される、請求項1または2記載のex vivoにおける方法。
【請求項4】
ケラチノサイトの最終分化を刺激する前記薬剤が、アスコルビン酸およびレチノイン酸からなる群より選択される、請求項1〜3のいずれか1項記載のex vivoにおける方法。
【請求項5】
前記ヒト多能性幹細胞が、ヒト胚性幹細胞(hES細胞)またはヒト人工多能性幹細胞(hiPS細胞)である、請求項1〜4のいずれか1項記載のex vivoにおける方法。
【請求項6】
前記工程a)を少なくとも35日間、好ましくは少なくとも40日間、さらにより好ましくは少なくとも45日間、少なくとも50日間、少なくとも55日間、少なくとも60日間、少なくとも65日間、少なくとも70日間または少なくとも75日間行なう、請求項1〜5のいずれか1項記載のex vivoにおける方法。
【請求項7】
工程a)の後に、さらに以下の工程:
b)工程a)で得られた細胞集団から色素細胞を単離する工程;
c)前記の単離された細胞を適切な培養培地中で培養する工程
を含む、請求項1〜6のいずれか1項記載のex vivoにおける方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載の方法によって得ることのできるヒト多能性幹細胞から誘導されたヒトメラノサイトの単離され実質的に純粋で均一な集団。
【請求項9】
請求項8のヒト多能性幹細胞から誘導されたメラノサイトの実質的に純粋で均一な集団および場合により薬学的に許容され得る担体または賦形剤を含む、薬学的組成物。
【請求項10】
処置の方法に使用するための、請求項8記載のヒト多能性幹細胞から誘導されたヒトメラノサイトの単離され実質的に純粋で均一な集団または請求項9の薬学的組成物。
【請求項11】
請求項8記載のヒト多能性幹細胞から誘導されたヒトメラノサイトの単離され実質的に純粋で均一な集団を準備することからなる工程およびヒトケラチノサイトの集団を準備することからなる工程を含む、ヒト代用皮膚を調製する方法。
【請求項12】
請求項11記載の方法によって得ることのできるヒト代用皮膚。
【請求項13】
処置の方法において使用するための請求項12記載のヒト代用皮膚。
【請求項14】
i)請求項8記載のヒト多能性幹細胞から誘導されたヒトメラノサイトの単離され実質的に純粋で均一な集団を、試験化合物の存在下または非存在下においてインキュベーションする工程;
ii)前記試験化合物の存在下または非存在下において前記のメラノサイトの集団の生物学的効果を比較する工程
を含む、ヒトメラノサイトに対する所与の生物学的効果について化合物をスクリーニングするための方法。
【請求項15】
化合物をスクリーニングするための、請求項8記載のヒト多能性幹細胞から誘導されたヒトメラノサイトの単離され実質的に純粋で均一な集団または請求項12記載のヒト代用皮膚の使用。

【公表番号】特表2013−520163(P2013−520163A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−553338(P2012−553338)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【国際出願番号】PCT/EP2011/052504
【国際公開番号】WO2011/104200
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(591100596)アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル (59)
【Fターム(参考)】