ヒト多能性幹細胞からヒト代用皮膚を調製するための方法
本発明は、表皮誘導を刺激する薬剤およびケラチノサイトの最終分化を刺激する薬剤の存在下で、ヒト多能性幹細胞を、外胚葉分化を支持する細胞と一緒に共培養する工程含む、ヒト多能性幹細胞から派生したヒトケラチノサイト集団を得るためのex vivoにおける方法に関する。本発明のさらなる目的は、本発明の方法により得られたヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団の器官型培養液を準備する工程を含む、ヒト代用皮膚を調製するための方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ヒト多能性幹細胞に由来するヒトケラチノサイト集団を得るためのex vivoにおける方法およびヒト代用皮膚を調製するための方法に関する。
【0002】
発明の背景
皮膚は、増殖中のケラチノサイトの単一基底層に起源を有する分化中の細胞の機能性単位へと組織化された自己再生層からなる。角質層を含む死滅したおよび死滅中の細胞は落屑中に連続的に脱落し、そして胚芽層に見られる表皮幹細胞から派生した細胞によって置き換えられる。表皮機能の低下は、体温調節の低下、微生物に対する防御の減退、乾燥のリスク、創傷修復の阻害、および化粧品の懸念につながる。皮膚移植のための十分な自己ドナーがない場合、培養ヒトケラチノサイトを用いた創傷の被覆は、処置のための有望な選択肢の一つである。
【0003】
さらに、ヒト皮膚用in vitroおよびin vivoモデルは、表皮細胞の系統を研究するための、あるいは治療効果または毒性効果について化粧品および医薬化合物を試験するための素晴らしいツールを示し得る。例えば、in vitroモデルの必要性は、化合物および調合物の試験のために動物を使用する代わりになる物を提供するという動機が存在するという事実によって高くなっている。
【0004】
さらに、多くの疾病が、細胞自律的にまたはその多層表皮組織形成能の変化のいずれかを通じて、ケラチノサイトの機能に影響を及ぼす。ヒト皮膚用in vitroおよびin vivoモデルは、疾病の分子的機序を明らかにし、結果として、治療能を潜在的にもつ薬理学的または生物学的化合物を同定する方法を示し得る。
【0005】
従って、皮膚療法のために、またはヒト皮膚用in vitroおよびin vivoモデルを得るために、有用であり得るヒトケラチノサイト集団を得るための方法が必要とされる。
【0006】
胚幹細胞(例えば、「誘導多能性幹(induced pluripotent stem)」細胞について「iPS」細胞と呼ばれているものなど)の全特徴を再現するように遺伝子的に再プログラム化されている胚幹細胞および体細胞は、広範な増殖能を有する多能性幹細胞であり、従って研究および医療において大きな可能性を有する用途がある。それ故、多能性幹細胞からヒトケラチノサイトを得るためのいくつかの試みが従来技術において記載されている。例えば、文献WO02/097068は、胚幹細胞のケラチノサイトへの分化を誘導するための方法を記載している。さらなる研究は、ヒトケラチノサイト集団を得るための胚幹細胞の使用を報告している(Coraux C. et al. 2003; Ji L. et al. 2006; Metallo CM. et al. 2007;およびAberdam E. et al. 2008)。しかしながら、今までに、従来技術の方法では、ドナー由来の成体基底ケラチノサイトを使用した場合に有用であった技術に従って処置した場合、多層表皮形成能を示すであろう(in vitroでまたは動物に異種移植した後)ヒト多能性幹細胞から派生したヒトケラチノサイトを得ることができなかった(例えばGreen, 2008参照)。
【0007】
発明の要約
本発明は、表皮誘導を刺激する薬剤およびケラチノサイトの最終分化を刺激する薬剤の存在下で、ヒト多能性幹細胞を、外胚葉分化を支持する細胞と一緒に共培養する工程を含む、ヒト多能性幹細胞から派生したヒトケラチノサイト集団を得るためのex vivoにおける方法に関する。
【0008】
本発明はまた、ヒト多能性幹細胞から派生したヒトケラチノサイト集団を得るためのex vivoにおける方法に関し、前記方法は、BMP−4およびアスコルビン酸の補充されたケラチノサイト培養培地の存在下で、フィーダー線維芽細胞層で被膜された細胞培養表面上でヒト多能性幹細胞を培養する工程を含む。
【0009】
本発明はまた、前記の方法によって得ることのできるヒト多能性幹細胞から派生した単離された実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団に関する。
【0010】
本発明はまた、本発明のヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団と、場合により薬学的に許容される担体または賦形剤とを含む、医薬組成物に関する。
【0011】
本発明はまた、本発明のヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団の器官型培養液を準備することからなる工程を含む、ヒト代用皮膚を調製するための方法に関する。
【0012】
本発明はまた、前記の方法によって得ることのできるヒト代用皮膚に関する。
【0013】
本発明はまた、前記のヒト代用皮膚を動物に移植するための方法に関する。
【0014】
本発明はまた、前記の方法によって得ることのできるヒト皮膚のための動物モデルに関する。
【0015】
最後に、本発明は、皮膚損傷に関連した病態の処置のための前記のヒト代用皮膚に関する。
【0016】
発明の詳細な説明
定義
本明細書において使用した用語「マーカー」は、細胞の同定に使用することのできる、細胞表面上または細胞中に発現されるタンパク質、糖タンパク質または他の分子をいう。マーカーは、一般的に、従来の方法によって検出され得る。細胞表面マーカーの検出に使用することのできる方法の具体的で非制限的な例は、免疫組織化学法、蛍光活性化細胞分取(FACS)および酵素的分析である。
【0017】
用語「ヒトケラチノサイト集団」は、ヒト表皮を再構成でき、そして、死滅し完全にケラチン化した細胞への角質層の分化の過程におけるケラチン産生能によって特徴付けられる、細胞集団をいう。基底ケラチノサイトのマーカーは、ケラチン5、14(K5/K14)および転写因子p63を有する基底層マーカー、ケラチン1およびケラチン10(K1/K10)、インボルクリン、フィラグリンを有する基底上層マーカー、並びにインテグリンα6およびβ4、ラミニン−5およびコラーゲンVIIを有する真皮−表皮接合部に特異的なマーカーを含む。
【0018】
本明細書において使用した用語「ヒト多能性幹細胞」は、あらゆる成体細胞を形成する能力を有するあらゆるヒト前駆細胞をいう。
【0019】
本明細書において使用した用語「ヒト胚幹細胞」または「hES細胞」または「hESC」は、あらゆる成体細胞を形成する能力を有するヒト前駆細胞をいう。hES細胞は、1週令未満の受精胚から派生する。
【0020】
本明細書において使用した用語「ヒト誘導多能性幹細胞」または「ヒトiPS細胞」または「ヒトiPSC」は、ヒト非多能性細胞(例えば成体体細胞)から人工的に派生したタイプのヒト多能性幹細胞をいう。ヒト誘導多能性幹細胞は、あらゆる成体細胞を形成する能力を有する点でヒト胚幹細胞と同一であるが、胚から派生しない。典型的には、ヒト誘導多能性幹細胞は、あらゆる成体体細胞(例えば線維芽細胞)におけるOct3/4、Sox2、Klf4およびc−Myc遺伝子の誘導発現を通じて得ることができる。例えば、ヒト誘導多能性幹細胞は、Takahashi K. et al. (2007)、Yu et al. (2007)により記載のプロトコールに従って得ても、あるいはこれらの元のプロトコールにおいて細胞の再プログラミング化に使用される1つまたはその他の薬剤が、iPS系の起点にある体細胞に作用する任意の遺伝子もしくはタンパク質によって置換されているか、またはiPS系の起点にある体細胞に導入されている任意の他のプロトコールによって得てもよい。基本的には、成体体細胞は、Oct3/4、Sox2、Klf4およびc−Myc遺伝子を含む、レトロウイルスなどの、ウイルスベクターを用いてトランスフェクションされる。
【0021】
本明細書において使用した用語「実質的に純粋で均一な集団」は、全細胞数の大半(例えば、少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95%)が、対象のケラチノサイトの特定の特徴を有する細胞集団をいう。
【0022】
本明細書において使用した用語「単離された」は、その自然環境の少なくともいくつかの成分から分離された細胞または細胞集団をいう。
【0023】
本明細書において使用した用語「ケラチノサイト培養培地」は、ヒトケラチノサイトの成長、増殖および生存を支持するに必要な栄養分を含む培養培地をいう。従って、本発明による適切な培養培地は、細胞が成長できる最小培地、例えば、少なくとも10%のウシ胎児血清(FCS)の補充されたダルベッコ変法イーグル最小必須培地(DMEM)などである。別の特定の実施態様において、培養培地は、5μg/mlのインシュリン、0.5μg/mlのヒドロコルチゾン、10−10Mのコレラ毒素、1.37ng/mlのトリヨードチロニン、24μg/mlのアデニンおよび10ng/mlのリコンビナントヒトEGFの補充された2/3DMEM、1/3HAM:F12および10%ウシ胎児血清(FCII、Hyclone)からなるFAD培地である。
【0024】
用語「細胞培養表面」または「細胞培養マトリックス」は、細胞培養に適したあらゆるタイプの表面またはマトリックスをいう。用語「細胞培養表面」は、組織培養プレート、ディッシュ、ウェルまたはボトルを含むがこれらに限定されるわけではない。特定の実施態様において、培養表面は、培養プレート、ディッシュ、ウェルまたはボトルのプラスチック表面である。細胞培養表面は、真皮線維芽細胞の被膜に適合性していなければならない。
【0025】
本明細書において使用した表現「外胚葉分化を支持する細胞」は、適切な基質を与え、そしてヒト多能性幹細胞の成長および分化を支持するに適切な因子を分泌する細胞をいう。特定の実施態様において、外胚葉分化を支持する細胞は、線維芽細胞の群、より特定するとヒト線維芽細胞の群、より特定すると真皮線維芽細胞の群から選択される。特定の実施態様において、外胚葉分化を支持する細胞は、マイトマイシンにより不活性化させたヒト真皮線維芽細胞である。
【0026】
本明細書において使用した表現「フィーダー線維芽細胞」は、多能性幹細胞のための基底層として作用し、そして多能性を失うことなく未分化状態の幹細胞を維持するための分泌因子、細胞外マトリックスおよび細胞接触を与える、細胞をいう。フィーダー細胞を、γ照射またはマイトマイシンによって不活性化することができる。本発明の実施態様によると、フィーダー線維芽細胞は、線維芽細胞の群、より特定するとヒト線維芽細胞の群、より特定すると真皮線維芽細胞(真皮線維芽細胞株を含む)の群に由来し得る。真皮線維芽細胞株の例は、CCD−1112SK(Hovatta O, et al. 2003)および3T3−J2(Rheinwald JG et al. 1975)を含むがこれらに限定されるわけではない。特定の実施態様において、真皮線維芽細胞は、培養表面に被膜される前に増殖を停止するように前以って処理される。それ故、真皮線維芽細胞は、照射され得るか、またはマイトマイシンなどの細胞周期遮断剤を用いて処理され得る。
【0027】
本明細書において使用した用語「真皮線維芽細胞」は、真皮の細胞外マトリックスを合成および維持する細胞集団をいう。真皮線維芽細胞の特異的マーカーは、ビメンチンおよびFAP(線維芽細胞活性化タンパク質)を含む。
【0028】
本明細書において使用した表現「表皮誘導を刺激する薬剤」は、ケラチン8、ケラチン18、ケラチン5およびケラチン14などの表皮マーカーの発現を誘導することができる薬剤をいう。典型的には、表皮誘導を刺激する薬剤は、栄養膜および中胚葉の誘導を阻害する。
【0029】
特定の実施態様において、表皮誘導を刺激する薬剤は、骨形成タンパク質(例えばBMP−2、BMP−4およびBMP−7)、レセプター制御型Smadタンパク質(例えばSmad1、Smad5およびSmad9)およびTGFβファミリーのリガンド(例えば成長および分化因子6GDF−6)(Moreau et al., 2004)からなる群より選択される。好ましい態様において、表皮誘導を刺激する薬剤は、BMP−、BMP−4、BMP−7、Smad1、Smad5、Smad7およびGDF−6からなる群より選択される。好ましい実施態様において、表皮誘導を刺激する薬剤はBMP−4である。
【0030】
用語「BMP−4」は、骨形成タンパク質4をいう。BMP−4は、TGF−βタンパク質スーパーファミリーに属するポリペプチドである。例示的なネイティブなBMP−4アミノ酸配列が、GenPeptデータベースにおいてアクセッションナンバーAAC72278で提供される。
【0031】
本明細書において使用した表現「ケラチノサイトの最終分化を刺激する薬剤」は、ケラチン5およびケラチン14の発現を刺激する薬剤をいう。実際に、ケラチン5およびケラチン14は、3次元培養において最終分化できる基底ケラチノサイトのマーカーである。1つの特定の実施態様において、ケラチノサイトの最終分化を刺激する薬剤は、アスコルビン酸およびレチノイン酸からなる群より選択される。
【0032】
用語「アスコルビン酸」は、式:
【化1】
で示される(R)−3,4−ジヒドロキシ−5−((S)−1,2−ジヒドロキシエチル)フラン−2(5H)−オンをいう。
【0033】
本明細書において使用した用語「器官型培養液」は、培養細胞がin vitroにおいて組織または器官を再構築するのに使用される、3次元組織培養液をいう。
【0034】
本明細書において使用した用語「病態」は、皮膚損傷に関連したあらゆる疾病または症状をいう。用語「皮膚損傷に関連した病態」は、皮膚損傷、傷害、機能不全、欠陥または異常によって特徴付けられるあらゆる疾病または臨床症状をいう。従って、この用語は、例えば、傷害、変性疾病および遺伝子疾病を包含する。ある実施態様において、対象の病態は、遺伝性皮膚症、例えば表皮水疱症、色素性乾皮症、魚鱗癬、外胚葉異形成症、キンドラー症候群およびその他である。
【0035】
本明細書において使用した用語「被験体」は、皮膚損傷に関連した病態を患っている可能性があるが、前記病態を有していても有していなくてもよい、哺乳動物、好ましくはヒトをいう。
【0036】
本発明の脈絡において、本明細書において使用した用語「処置(treating)」または「処置(treatment)」は、病態の発症を遅延もしくは予防すること、病態の症状の進行、増悪もしくは悪化を逆行、寛解、阻止、減速もしくは停止すること、病態の症状の回復をもたらすこと、および/または病態を治癒することを目的とした方法をいう。
【0037】
本発明の方法
本発明は、表皮誘導を刺激する薬剤およびケラチノサイトの最終分化を刺激する薬剤の存在下で、ヒト多能性幹細胞を、外胚葉分化を支持する細胞と一緒に共培養する工程を含む、ヒト多能性幹細胞から派生したヒトケラチノサイト集団を得るためのex vivoにおける方法に関する。
【0038】
前記の方法によって得ることができるヒト多能性幹細胞から派生したヒトケラチノサイトは、ヒト基底ケラチノサイトの全ての形態学的および機能的特性を再現することができる。実際に本発明者らは、前記細胞がヒト表皮を再構築でき(in vitroおよびin vivoにおいて)、そしてそれはケラチン産生能によって特徴づけられることを実証した。より特定すると、前記細胞は、ケラチン5、14(K5/K14)および転写因子p63を有する基底層マーカー、ケラチン1およびケラチン10(K1/K10)、インボルクリン、フィラグリンを有する基底上層マーカー、並びにインテグリンα6およびβ4、ラミニン−5およびコラーゲンVIIを有する真皮−表皮接合部に特異的なマーカーを含む、基底ケラチノサイトのマーカーを発現する。それらはまた、皮膚幹細胞のマーカーであるケラチン19、並びに角膜細胞のマーカーであるケラチン3および12も発現し得る。
【0039】
本発明の実施態様は、ヒト多能性幹細胞から派生したヒトケラチノサイト集団を得るためのex vivoにおける方法に関し、前記方法は、BMP−4およびアスコルビン酸の補充されたケラチノサイト培養培地の存在下で、フィーダー線維芽細胞層で被膜された細胞培養表面上でヒト多能性幹細胞を培養する工程を含む。
【0040】
特定の実施態様において、ヒト多能性幹細胞は、胚幹細胞(hES細胞)またはヒト誘導多能性幹細胞(ヒトiPS細胞)を含むがこれらに限定されるわけではない。
【0041】
本発明の実施態様によると、hES細胞はあらゆるhES細胞株から選択され得る。hES細胞株の例は、SA−01、VUB−01、H1(Thomson JA et al 1998)およびH9(Amit M et al. 2000)を含むがこれらに限定されるわけではない。本発明によると、hES細胞は、国際特許出願WO2002/097068に記載のようにLIFの存在下で培養されない。さらに、本発明によると、hES細胞は、Metallo CM. et al. (2007)またはJi L; et al. (2006)に記載のように胚様体に分化したものではないと理解されたい。
【0042】
本発明の実施態様によると、ヒトiPS細胞は、あらゆるヒトiPS細胞株から選択され得る。ヒトiPS細胞株の例は、クローン201B(Takahashi et al., 2007)およびiPS(包皮またはIMR−90)−1−MCB−1(Yu et al., 2007)を含むがこれらに限定されるわけではない。
【0043】
あるいは、hES細胞またはヒトiPS細胞は、治療目的で構成され得るマスターセルバンクから選択され得る。好ましい様式において、hES細胞またはヒトiPSは、大部分のヒト集団における免疫拒絶を回避または制限するように選択され得る。典型的には、hES細胞またはヒトiPS細胞は、主要組織適合性抗原A、BおよびDRをコードする遺伝子に対してHLAホモ接合型であり、これは、HLAレパートリーにおいて単純な遺伝子プロファイルを有することを意味する。前記細胞は、皮膚損傷(例えば、創傷、火傷、照射、疾病に関連した表皮の異常など)に関連した病態の細胞療法に使用するためのヒト代用皮膚の調製に適し得る、再生可能な細胞源としての幹細胞バンクを作製するのに役立ち得る。
【0044】
別の特定の実施態様において、ヒト多能性幹細胞は、ヒト皮膚の遺伝子疾病の原因となる1つの突然変異または複数の突然変異を有し得る。
【0045】
本発明の実施態様によると、細胞培養表面は、真皮線維芽細胞が自然にそれに接着し得るように選択される。細胞培養表面の様々な材料が選択され得る。このような材料の例は、ゼラチンで被膜された組織培養ディッシュまたはディッシュ群を含むがこれらに限定されるわけではない。
【0046】
特定の実施態様において、ケラチノサイト培養培地には、グルタミン、表皮成長因子(EGF)、ピルビン酸ナトリウム、アデニン、インシュリン、ヒドロコルチゾン、コレラ毒素およびトリヨードチロニンからなる群より選択される1つ以上の薬剤が補充され得る。特定の実施態様において、ケラチノサイト培養培地は、Rheinwald JG. et al. (1975)によって記載されたものである。
【0047】
本発明の実施態様によると、ケラチノサイト培養培地におけるアスコルビン酸の濃度は、0.01mMから1mMまで変更し得る。特定の実施態様において、アスコルビン酸の濃度は0.3mMである。
【0048】
ケラチノサイト培養培地におけるBMP−4の濃度は、0.02nMから77nMまたは0.3ng/mlから1000ng/mlまで変更し得る。特定の実施態様において、BMP−4の濃度は0.5nMである。
【0049】
本発明によると、ヒト多能性幹細胞(例えばhES細胞またはヒトiPS細胞)を、ヒト基底ケラチノサイト(「ヒト多能性幹細胞から派生したヒトケラチノサイト」)の全ての形態学的および機能的特性を再現した細胞集団において細胞の完全な分化を可能とする十分な時間、培養する。特定の実施態様によると、期間は、20日間から60日間、好ましくは20日間から40日間まで変更し得る。
【0050】
本発明のさらなる目的は、前記の方法によって得ることのできるヒト多能性幹細胞から派生した単離されたヒトケラチノサイト集団に関する。
【0051】
別の実施態様によると、本発明の方法は、アスコルビン酸およびBMP−4を包含しないケラチノサイト培養培地の存在下で、真皮線維芽細胞層で被膜された細胞培養表面上で、前記したように得られたヒト多能性幹細胞から派生したヒトケラチノサイト集団を培養する工程をさらに含み得る。さらなる工程は、ヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団を得るのに適切であり得る。
【0052】
真皮線維芽細胞、細胞培養表面およびケラチノサイト培養培地は、ケラチノサイト培養培地にアスコルビン酸およびBMP−4が補充されていないならば、前記したのと同じであり得る。
【0053】
本発明のさらなる目的は、前記の方法によって得ることができるヒト多能性幹細胞から派生した単離された実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団に関する。
【0054】
医薬組成物
本発明の方法により得られたヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団は、皮膚療法に適し得る。
【0055】
それ故、本発明は、本発明のヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団と、場合により薬学的に許容される担体または賦形剤とを含む医薬組成物に関する。ある実施態様において、医薬組成物は、少なくとも1つの生物学的に活性な物質または生理活性因子をさらに含み得る。
【0056】
本明細書において使用した用語「薬学的に許容される担体または賦形剤」は、前駆細胞の生物活性の効力を妨げることなく、そして投与される濃度において宿主に対して過度な毒性を与えない、担体培地をいう。適切な薬学的に許容される担体または賦形剤の例は、水、塩溶液(例えばリンガー液)、オイル、ゼラチン、炭水化物(例えばラクトース、アミラーゼまたはデンプン)、脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、およびポリビニルピロリンを含むがこれらに限定されるわけではない。医薬組成物は、液体、半液体(例えばゲル)または固体(例えば、マトリックス、格子、足場など)として調合され得る。
【0057】
本明細書において使用した用語「生物学的に活性な物質または生理活性因子」は、本発明の医薬組成物におけるその存在が前記組成物を受ける被験体にとって有益である、あらゆる分子または化合物をいう。当業者によって認識されているように、本発明の実施における使用に適した生物学的に活性な物質または生理活性因子は、生理活性分子および化合物の多種多様なファミリーにおいて見出され得る。例えば、本発明の脈絡において有用な生物学的に活性な物質または生理活性因子は、抗炎症剤、抗アポトーシス剤、免疫抑制剤または免疫調節剤、抗酸化剤、成長因子および薬物から選択され得る。
【0058】
本発明の関連した態様は、皮膚損傷に関連した病態を患っている被験体を処置するための方法に関し、前記方法は、被験体に、本発明のヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団(またはその医薬組成物)の有効量を投与するステップを含む。
【0059】
本明細書において使用した用語「有効量」は、意図した目的を達成するのに十分である、ヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団(またはその医薬組成物)の任意の量をいう。
【0060】
本発明のヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団(またはその医薬組成物)を、任意の適切な方法を使用して被験体に投与し得る。
【0061】
本発明のヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団を、単独でもしくは他の細胞と組み合わせて、および/または他の生物学的に活性な因子または試薬、および/または薬物と組み合わせて移植し得る。当業者によって理解されているように、これらの他の細胞、生物学的に活性な因子、試薬および薬物を、本発明の細胞と共に同時にまたは連続的に投与し得る。
【0062】
ある実施態様において、本発明による処置は、細胞に基づいた処置を開始する前に被験体を薬理学的に免疫抑制することをさらに含む。被験体の全身的または局所的免疫抑制法は当技術分野において周知である。
【0063】
効果的な投与量および投与レジメンは、被験体の病態の性質に基づいた適正医療業務によって容易に決定され得、そしてそれは、病態の症状の程度、および対象の組織もしくは器官の損傷もしくは変性の程度、および被験体の特徴(例えば、年齢、体重、性別、身体全体の健康など)を含むがこれらに限定されるわけではない多くの因子に依存するだろう。
【0064】
本発明のヒト代用皮膚および動物モデル
本発明のヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団はまた、ヒト代用皮膚の調製にも適し得る。
【0065】
典型的には、本発明のヒト代用皮膚は、扁平上皮へと重層化される前記のヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団のin vitroで派生した培養液から生じる多層表皮を含む。特定の実施態様において、本発明のヒト代用皮膚は、前記の多層表皮および真皮を含み得る。
【0066】
それ故、本発明のさらなる態様は、本発明のヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団の器官型培養液を準備することからなる工程を含む、ヒト代用皮膚の調製法に関する。
【0067】
本発明のヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団の完全な重層化および組織学的分化を、3次元器官型培養法の使用によって達成することができる(Doucet O, et al. 1998 ; Poumay y. et al. 2004 ; Gache Y. et al. 2004)。例えば、本発明のヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団のin vitro培養液を気液界面で培養させる場合、高度に整然とした角質層が形成される。
【0068】
特定の実施態様において、本発明によるヒト代用皮膚を、Poumay, Y et al. 2004によって記載されたように生成し得る。本発明のヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団の培養を、ポリカーボネート製培養インサート上で行ない得る。これらの細胞を、11日間、1.5mM CaCl2および50μg/mlアスコルビン酸の補充されたEpilife培地中に維持し得る。前記細胞を、10日間かけて培養培地を除去することによって気液界面に曝した。
【0069】
特定の実施態様において、ヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団を、前記したように器官型培養液を準備する前に、ヒト真皮線維芽細胞の定植された細胞培養マトリックス上に前以って播種する。この特定の実施態様により、真皮および表皮を含むヒト代用皮膚を得ることが可能となる。このような方法は、Del Rio M. et al. (2002)またはLarcher F. et al. (2007)によって記載のプロトコールにより行なわれ得る。例えば、本発明のヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団を、生存している真皮線維芽細胞の定植されたフィブリンマトリックス上に播種し得る。その後、器官型培養液をケラチノサイトが集密するまで浸しながら培養させ、そして最後に7日間かけて気液界面において維持して、上皮の重層化および分化を促進する。
【0070】
本発明のさらなる目的は、前記の方法によって得ることのできるヒト代用皮膚に関する。
【0071】
本発明のさらなる目的は、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはマウスに、前記のヒト代用皮膚を移植するための方法に関する。特定の実施態様において、前記動物は免疫不全動物(例えばNOD/SCIDマウス)である。前記方法は、ヒト皮膚用動物モデルを提供するのに有用であり得る。
【0072】
特定の実施態様において、本発明のヒト代用皮膚を移植された動物を、Del Rio M. et al. (2002)によって記載のように生成し得る。簡潔に述べると、動物を剪毛し、そして無菌的に洗浄する。その後、全層創傷をマウスの背側に作り出し、そして最後に本発明のヒト代用皮膚の移植を、無菌条件下で行なう。その後、前記動物上にヒト皮膚を得るのに10〜12週間で十分であり得る。
【0073】
本発明のさらなる目的は、前記の方法により得ることのできるヒト皮膚のための動物モデルに関する。
【0074】
本発明のヒト代用皮膚および動物モデルは、様々な用途を有し得る。これらの用途は、化合物すなわち、腫瘍および病理学的起因物質(例えばヒトパピローマウイルス)を培養するための基質をスクリーニングするための、および皮膚損傷に関連したヒト傷害または病態をモデリングするための、使用を含むがこれらに限定されるわけではない。
【0075】
例えば、本発明のヒト代用皮膚および動物モデルを、様々なin vitroおよびin vivo試験に使用し得る。特に、しかし限定するわけではないが、本発明のヒト代用皮膚および動物モデルは、スキンケア製品、薬物代謝、試験化合物に対する細胞応答、創傷治癒、光毒性、真皮刺激、真皮炎症、皮膚腐食性および細胞損傷の評価において用途を見出す。典型的には、本発明の動物モデルのために、前記製品を、ヒト皮膚上に局所的に投与し得るか、または経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内および経皮経路で投与し得る。
【0076】
本発明は、様々なスクリーニングアッセイを包含する。いくつかの実施態様において、スクリーニング法は、本発明のヒト代用皮膚または動物モデル並びに少なくとも1つの試験化合物または製品(例えば保湿剤、化粧品、染料または香水などのスキンケア製品;前記製品は、クリーム、ローション、液体およびスプレーを含むがこれらに限定されるわけではない任意の形状であり得る)を準備し、前記製品または試験化合物を前記ヒト代用皮膚または動物モデルに適用し、そしてヒト代用皮膚または動物モデルに対する前記製品または試験化合物の効果をアッセイすることを含む。典型的には、本発明の動物モデルのために、前記試験化合物または製品を、ヒト皮膚上に局所的に投与し得るか、または経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内および経皮経路で投与し得る。多種多様なアッセイを使用して、ヒト代用皮膚または動物モデルに対する前記製品または試験化合物の効果を決定し得る。アッセイは、前記化合物または製品の毒性、効能または効力を対象とすることができる。さらに、成長、バリア機能または組織強度に対する前記化合物または製品の効果も試験することができる。
【0077】
他の好ましい実施態様において、本発明のヒト代用皮膚または動物モデルは、皮膚を通過しての薬物導入の効力をスクリーニングするための用途を見出す。
【0078】
特定の実施態様において、本発明のヒト代用皮膚または動物モデルはまた、皮膚において自然に起こる腫瘍の培養および研究に、並びに、皮膚に影響を及ぼす病原体の培養および研究に有用である。従って、いくつかの実施態様において、本発明のヒト代用皮膚または動物モデルを、悪性細胞と共に播種することが意図される。その後、これらの再構成されたヒト代用皮膚または動物モデルを使用して、その自然環境における腫瘍に対する効力について、化合物または他の処置戦略(例えば照射またはトモセラピー)をスクリーニングすることができる。いくつかの実施態様において、本発明は、対象の病原体を感染させた再構成されたヒト代用皮膚または動物モデルおよび少なくとも1つの試験化合物または処置を準備し、そして代用皮膚または動物モデルを前記試験化合物または処置で処置することを含む方法を提供する。
【0079】
別の特定の実施態様において、本発明のヒト代用皮膚または動物モデルはまた、皮膚損傷に関連したヒト傷害または病態をモデリングするのに有用である。例えば、本発明のヒト代用皮膚および動物モデルは、創傷、火傷(例えば火による火傷、日焼けなど)、または照射、病原体などによって引き起こされる病変、化学製品もしくは環境条件によって引き起こされる刺激、変性疾病および遺伝子疾病をモデリングするためのin vitroおよびin vivoの両方のモデルを提供し得る。ある実施態様において、対象の病態は、遺伝性皮膚症、例えば表皮水疱症、色素性乾皮症、魚鱗癬、外胚葉異形成症、キンドラー症候群およびその他である。典型的には、本発明のヒト代用皮膚または動物モデルは、ヒト皮膚の遺伝子疾病の原因となる1つの突然変異または複数の突然変異を有し得る、多能性幹細胞から生成され得る。前記のin vitroおよびin vivoの両方のモデルは、医学研究のために特に関心を有し得るか、または前記傷害および病態の治療もしくは予防のための化合物のスクリーニングのために有用であり得る。特に、本発明は、ライブラリーから、特にコンビナトリアルライブラリーから、例えばハイスループットまたはハイコンテンツな技術を使用して化合物をスクリーニングするための、本発明によるヒト代用皮膚および動物モデルの使用を意図する。典型的には、本発明の動物モデルのために、前記試験化合物または製品をヒト皮膚上に局所的に投与し得るか、または経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内および経皮経路で投与し得る。
【0080】
本発明のさらなる態様において、本発明のヒト代用皮膚を、皮膚損傷に関連した病態の処置に使用し得る。
【0081】
それ故、本発明は、本発明のヒト代用皮膚を必要とする患者に移植することからなる工程を含む、皮膚損傷に関連した病態の処置法に関する。
【0082】
例えば、本発明のヒト代用皮膚は、創傷閉鎖および火傷処置適用において用途を見出す。火傷および創傷閉鎖の処置のための移植片の使用が、米国特許第 5,693,332号;5,658,331号;および6,039,760号に記載されている。従って、本発明は、本発明によるヒト代用皮膚および創傷に患う患者を準備し、そして前記患者に、創傷が閉鎖されるような条件下でヒト代用皮膚を移植することを含む、火傷によって引き起こされた創傷を含む、創傷閉鎖のための方法を提供する。
【0083】
本発明は、以下の図面および実施例によってさらに説明されるだろう。しかしながら、これらの実施例および図面は、なんら本発明の範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】ケラチノサイト系統の確立:異なる分化工程における(0−10−25−40日目)hES細胞の形態の顕微鏡分析。最初は、典型的なhES細胞コロニーは丸い。10日後、コロニーの周縁部のhES細胞は、移動し始め、そしてフィーダー層へと広がり始めた。20日後から、これらの細胞は容量が増加し、平板化し、そして上皮の形態になった。分化終了時には、これらの細胞は、床状の上皮形態になり、ケラチノサイト形態に特徴的な密集した接着性細胞のコロニーを形成した。
【図2】ケラチノサイト系統の確立:40日間の分化の間にhES細胞から派生した細胞の定量PCR分析。多能性遺伝子マーカーであるOCT4およびNANOGは、5日目から急速に減少し、最終的に20日目に検出不可能となった。単層上皮の最初の特異的マーカーであるケラチン18およびケラチン8の転写物(KRT18およびKRT8)は、10日目まで大きく増加し、次に減少し、そして分化の終了時まで基底レベルで安定した。表皮の増殖基底層に特異的であるケラチン5およびケラチン14をコードする転写物(KRT5およびKRT14)は、10日目から40日目まで着実に増加した。
【図3】ケラチノサイト系統の確立:40日間の分化の間のhES細胞のFACS分析から、動態の開始時における60%付近から40日目の1%付近まで、未分化状態SSEA3(ステージ特異的胚抗原(Stage-Specific Embryonic Antigen))のマーカーの減少を確認した。表皮系統への傾倒が10日目に観察され、この時にケラチン18(K18)の発現の最高値は63%まで上昇した。25日後にK18は、40日目に基底レベル(9%)に到達するまで連続的に減少した。25日目から、単層上皮のK8/K18マーカーと重層上皮のK5/K14マーカーとの間の切り替えが、K14に対して陽性である派生したhES細胞の59%で起こり、このことから、培養液における基底増殖表皮細胞の増殖を確認した。
【図4】hES細胞から派生した均一で純粋なケラチノサイト集団の特徴付け:後続の培養後のヒト初代成体ケラチノサイト(HK)およびhES細胞から派生したケラチノサイト(K−hES細胞)の形態の顕微鏡分析。40日間の分化後、hES細胞から派生したケラチノサイトの後続の培養を、BMP4およびアスコルビン酸を用いずに、マイトマイシン処理3T3フィーダー細胞上に播種されたFAD培地中で行なった。これらの条件下で、hES細胞から派生したケラチノサイト(K−hES細胞)は、成体初代ヒトケラチノサイト(HK)と同じコロニー形態を提示した。K−hES細胞は、ケラチノサイト形態に特徴的な密集した接着性細胞のコロニーを形成した。
【図5】hES細胞から派生した均一で純粋なケラチノサイト集団の特徴付け:HKおよびK−hES細胞のFACS分析により、K18の減少、並びに細胞の95%超がK5およびK14を発現するK−hES細胞の均一な細胞集団が判明した。
【図6】hES細胞から派生した均一で純粋なケラチノサイト集団の特徴付け:OCT4/NANOG、KRT8/KRT18、KRT5/KRT14、インテグリンα6およびβ4(ITGA6/ITGB4)、ラミニン−5およびコラーゲンVII(LAMB3/Col7A1)のケラチノサイト接着遺伝子マーカーを用いたK−hES細胞およびHKの定量PCR分析を行なった。遺伝子発現レベルは、基底ケラチノサイトに特徴的であるこれらの試験した全遺伝子について類似していた。
【図7】hES細胞から派生した機能性ケラチノサイトの確立:HKおよびK−hES細胞のコロニー形成アッセイ。in vitroにおけるヒトケラチノサイトの成長能を、成長している接着性コロニーの数によって推測することができる。K−hES細胞のコロニー形成分析は、HKと比較してこれらの細胞のコロニー形成能の40%の増加を示した。
【図8】hES細胞から派生した機能性ケラチノサイトの確立:HKおよびK−hES細胞の器官型上皮培養。10日間の気液分化後のヘマトキシリン/エオシンによる組織染色。上皮構造は、床状の細胞形状を有する詳細に明らかにされた基底層、並びに、ケラトヒアリン顆粒を含む顆粒層と、死滅扁平脱核細胞の重層として見られる角質層とを含む基底上層から構成されるようであった。
【図9】器官型HKおよびK−hESC表皮におけるPCRアレイ。表皮遺伝子の大きなパネルを、HKおよびK−hES細胞から派生した器官型表皮から抽出されたcDNAに対して試験した。データを、自家製のケラチノサイトに焦点を当てるプライマー定量PCRアレイ、およびアレイアシストソフトウェアで実施したヒートマップ分析を使用して収集した。2つの器官型表皮は非常に類似した発現パターンを提示した。
【図10】半合成無血清培地におけるK−hES細胞の均一プロファイル。半合成無血清培地中およびフィーダー細胞を含むFAD培地中に維持されたK−hES細胞の定量PCR分析は、ケラチン5および14転写物(KRT5およびKRT14)の類似した発現を示した。
【図11】9継代まで安定なK−hESCの表現型:9回までの連続的継代におけるK−hES細胞の定量PCR分析は、KRT5、KRT14、ITGA6およびITGB4を含む、ケラチノサイト表現型に関連した遺伝子の安定な発現を示した。
【図12】免疫不全マウスへの異種移植後の長期のin vivoにおけるヒト表皮再生。a.K−hESCの移植された人工皮膚移植片のヘマトキシリン−エオシンによる染色。スケールバーは50μmである。b.K−hESCの移植された人工皮膚移植片上でのヒトインボルクリンに対して指向されるmAb SY−5を使用したイムノペルオキシダーゼ染色は、有棘層および顆粒層に適切に位置している。抗マウス二次抗体に因り、真皮バックグラウンドが観察され得ることを注記する。スケールバーは50μmである。
【図13】4匹の免疫不全マウスへの異種移植後の長期のin vivoにおけるヒト表皮再生。K−hESCの移植された人工皮膚移植片のヘマトキシリン−エオシンによる染色。スケールバーは100μmである。
【図14】ケラチノサイト系統の確立:定量PCR分析:K−hES細胞およびHKのPCR分析は、K19、K3およびK12遺伝子の異なる発現レベルを示した。
【図15】hESC、K−hESCおよびHKにおけるMHCクラスI(HLA−ABC)およびクラスII(HLA−DR)タンパク質の発現 hESC、HK、およびH9から派生したK−hESCにおけるMHCクラスI(HLA−ABC)およびクラスII(HLA−DR)発現の代表的なFACS分析。
【図16】誘導多能性幹細胞を使用したケラチノサイト系統の確立(A)分化40日目における誘導多能性幹細胞(iPS)および派生したiPSの形態の分析。(B)40日間の分化の間における派生した誘導多能性幹細胞(iPS)のOCT4/NANOG、KRT8/KRT18、KRT5/KRT14の定量PCR分析。
【図17】iPSから派生したケラチノサイトの特徴付け(A)後続の培養後の、iPS(K−iPS)からおよびhESC(K−hESC)から派生したケラチノサイトならびにヒト初代ケラチノサイト(HK)の顕微鏡分析。(B)K−iPS、K−hESCおよびHKにおけるOCT4/NANOG、KRT8/KRT18、KRT5/KRT14およびP63の定量PCR分析。(C)K−iPS、K−hESCおよびHKにおけるケラチン5および14の免疫蛍光分析。
【0085】
実施例1:hESからケラチノサイト集団およびヒト代用皮膚を調製するための方法
材料および方法
hES細胞の維持培養
hESC(SA−01およびH9)を、37℃で5%CO2の下で、20%(vol/vol)ノックアウト血清リプレースメント(KSR、Invitrogen)、1mMグルタミン、0.1mM非必須アミノ酸(Invitrogen)、4ng/mlリコンビナントヒトbFGF(PeProTech)および0.1mM 2−メルカプトエタノールの補充されたDMEM/F12(Sigma)中で、マウス線維芽細胞のSTOフィーダー層(10mg/mlのマイトマイシンCで不活性化し、そして30000/cm2で播種)上で成長させた。継代のために、hESCコロニーを切り出し、そして5日毎に継代を行なった。
【0086】
hES細胞からケラチノサイトへの派生
派生のために、凝集塊を、5μg/mlインシュリン、0.5μg/mlヒドロコルチゾン、10−10Mコレラ毒素、1.37ng/mlのT3、24μg/mlアデニンおよび10ng/mlリコンビナントヒトEGFの補充された2/3DMEM、1/3HAM:F12および10%ウシ胎児血清(FCII、Hyclone)から構成されるFAD培地中で、マイトマイシンC処理3T3線維芽細胞上に播種した。0.5nMのヒトリコンビナントBMP−4(R&D Systems Europe, UK)および0.3mMアスコルビン酸(Sigma)を加えた場合に、外胚葉分化の誘導がなされた。細胞を、上皮細胞のクローンが単離されるまで同じ培地で成長させた。その後、細胞を、BMP4およびアスコルビン酸を含有しないFAD培地中の同じフィーダー層に播種した。対照として、初代ヒトケラチノサイト(HK)を、FAD培地中のマイトマイシンC処理3T3線維芽細胞上で培養した。
【0087】
半合成無血清培地中での培養のために、HKおよびk−hES細胞を、KGM−2培地(Lonza)中、BioCoatコラーゲンIプラスチック(BD Biosciences)上に播種した。
【0088】
定量PCR
全RNAを、製造業者のプロトコールに従ってRNeasy Mini抽出キット(Qiagen)を使用してhES細胞、HKおよびK−hES細胞から単離した。ゲノムDNAが増幅しないようにカラム上でDNaseI消化を行なった。RNAのレベルおよび品質を、ナノドロップ技術を使用して確認した。全500ngのRNAを、SuperscriptIII逆転写キット(Invitrogen)を使用して逆転写した。mRNA発現を定量するために、リアルタイムRT−PCR分析を、製造業者の説明書に従ってLightCycler480システム(Roche diagnostics)およびSYBR Green PCR Master Mix(Roche Diagnostics)を使用して行なった。遺伝子発現の定量は、DeltaCt法に基づき、そして18s発現で標準化した。融解曲線および電気泳動分析を行なうことにより、PCR産物の特異性をコントロールし、そして非特異的増幅を除いた。
【0089】
FACS分析
細胞を、トリプシン−EDTA(Invitrogen)を使用して培養プレートから剥し、そして2%パラホルムアルデヒド中で15分間室温で固定した。PBSで洗浄した後、細胞を、0.1%サポニン(Sigma)を用いて透過処理した。1:100で希釈した一次抗体を1時間室温で0.1%FCSを含むPBS中でインキュベーションした。対照試料は特異的アイソタイプを使用してまたは全く一次抗体を使用せずに行なった。種特異的二次抗体を1時間かけて室温で加え、そして染色した細胞を、CellQuestソフトウェア(BD Biosciences)を使用してFACScaliburフローサイトメーターで分析した。
【0090】
免疫細胞化学
細胞を、4%パラホルムアルデヒド中で15分間室温で固定し、その後、0.4%トリトンX−100および5%BSA(Sigma)の補充されたPBSで透過処理しブロッキングした。一次抗体を一晩4℃でブロッキング緩衝液中でインキュベーションした。マウス抗K14、ウサギ抗K14、マウス抗K5はNovacastraから、マウス抗ColVII、マウス抗インテグリンα6およびマウス抗ラミニン5はSanta-Cruz Biotechnologyから、そしてマウス抗インテグリンβ4はBDbiosciencesから購入した。細胞を、種特異的フルオロフォア結合二次抗体(Invitrogen)を用いて1時間かけて室温で染色し、そして核をDAPIを使用して染めた。免疫蛍光画像が、Axibisionイメージングソフトウェアを使用してZeiss Z1顕微鏡で得られた。
【0091】
コロニー形成アッセイ
初代ケラチノサイトおよびK−hES細胞をトリプシン処理し、そして10cmプレートでFAD培地中、マイトマイシンC処理3T3線維芽細胞フィーダー層上に14個の細胞/cm2で蒔いた。細胞を2週間培養し、その後、70%エタノールで固定し、そしてBlue-RAL555(Sigma)で染色した。水道水で洗浄した後、プレートを乾燥させ、そしてコロニーを計測した。各実験は三重に行なった。
【0092】
器官型培養液
ヒト代用皮膚を他で詳述されているように(Poumay Y et al., 2004)生成した。ケラチノサイト培養をポリカーボネート製培養インサート(NUNC)上で行なった。これらの細胞を11日間、1.5mM CaCl2および50μg/mlのアスコルビン酸の補充されたEpilife培地中に維持した。10日間、培養培地を除去することによって細胞を気液界面に曝した。
【0093】
免疫不全マウスへの移植
生物工学操作された皮膚等価物を、ヒト線維芽細胞の定植されたフィブリンマトリックスを使用して生成した。K−hESCをフィブリンマトリックス上に播種し、集密となるまで浸しながら成長させ、その後、記載(Del Rio et al., 2002)のように、6週令の雌nu/nuマウス(Jackson Laboratory, Bar Harbor, ME)の背中に移植した。移植片を移植から10〜12週間後に回収し、そして組織標本を、10%緩衝ホルマリン中で固定しパラフィン包埋した。
【0094】
アレイに基づいた比較ゲノムハイブリダイゼーション
アレイに基づいた比較ゲノムハイブリダイゼーション(a−CGH)分析を、5245個のBACクローンのIntegragenチップゲノムワイドBACアレイを使用して行なった(526kbの中間値のスペーシング)。
【0095】
結果:
hES細胞(SA−01またはH9)を、BMP4(0.5nM)およびアスコルビン酸(0.3mM)の補充されたFAD培地中で、マイトマイシンCで前処理された3T3フィーダー細胞上に播種し、そして10、25および40日目という異なる時点で回収した。
【0096】
本発明者等は、分化中に、顕微鏡によって、上皮形態が次第に増加したことを観察した。最初に、未分化hES細胞は培養液中で単一細胞層コロニーを形成した。10日目に、コロニーの周辺から派生したhES細胞は、移動し始め、そしてフィーダー層へと広がり始めた。20日後から、これらの細胞は容量が増加し、平板化し、そして上皮の形態をとるようになった。分化終了時には、これらの細胞は、床状の上皮形態を有するようになり、ケラチノサイト形態に特徴的な密集した接着性細胞のコロニーを形成した(図1)。hES細胞の分化の分子的特徴付けは、定量PCRおよびFACS分析によって全て動態に沿って行なわれた。経時的q−PCR分析は、多能性遺伝子マーカーであるOCT4およびNANOG(Amit M. et al. 2000)が5日目から急速に減少し、最後には20日目に検出不可能となったことを示した(図2)。特に、FACS分析は、動態の開始時における60%付近から40日目における1%付近までの、未分化状態SSEA3(ステージ特異的胚抗原)のマーカーの減少を確認した。
【0097】
in vivoにおける表皮発達は、胚発達中の構造分子の時間的発現パターンによって特徴付けられる(Mack JA. et al. 2005)。表皮は、ケラチン8およびケラチン18(K8およびK18)を発現している単層外胚葉細胞を生じる外胚葉から派生する。定量Q−PCRを使用して、ケラチノサイト系統に沿って初期マーカーをコードする遺伝子、ケラチン18および8(KRT8/KRT18)の発現は、培養10日目にピークに達し、次週以降次第に減少した。一生涯におよび表皮の増殖基底層に特異的である、ケラチン5および14(KRT5/KRT14)をコードする遺伝子の発現は、10日目から次第に増加した(図1B)。FACS分析は、K18の一過性発現を確認し、発現の最高値は10日目から25日目までの間であり(63%から59%)、40日目における基底レベル(9%)まで着実に減少した。本発明者等は、40日間の分化の終了時に、培養液中におけるケラチン14の増殖(59%)を確認した(図3)。最後に、hES細胞からケラチノサイトへの派生は、in vivoにおける表皮発達に相当する(Byrne C. et al. 1994)。まとめると、得られたデータは、この分化プロトコールが、in vitroにおいて表皮発達の全ステップを再現し、これにより、分化40日目におけるK8/K18からK5/K14へのこの劇的な移行に関与する分子的事象のより良い解明の機会が与えられることを明確に示す。本発明者等は、誘導期間が終了したと考え、そして培地からBMP4およびアスコルビン酸を取り除くことによって誘導を停止した。FAD培地中、マイトマイシンC処理3T3フィーダー細胞上での継代後、典型的な床状の上皮形態を示す細胞は自発的に、成長コロニーを形成し;我々は、それらを、「ヒト胚幹細胞から派生したケラチノサイト」(K−hES細胞)と名付けた(図4)。4継代後のFACS分析によりもはやケラチン18は全く見られず、そして極めて均一な細胞集団が見られ、この細胞集団における細胞の95%超がHKのようにケラチン5および14を発現していた(図5)。K−hES細胞とHKとの比較は、類似の表現型を示した。Q−PCRによって評価した遺伝子発現レベルは、ケラチン14、ケラチン5、インテグリンα6およびβ4、コラーゲンVIIおよびラミニン−5をコードするものを含む、基底ケラチノサイトに特徴的な全ての試験した遺伝子について類似していた(図6)。ケラチン5および14の位置は、K−hES細胞の細胞区画において免疫蛍光によって決定され、これはHKにおいて観察されたものと同一であった。予期されたように、Oct4のいくらかの染色およびいくらかの残りのK18染色が観察された。基底上層のより分化したケラチノサイトのマーカーであるケラチン10は存在せず、このことから、基底ケラチノサイトとしてのK−hESCの表現型特徴を確認した。これらの細胞の接着能は、膜におけるインテグリンα6およびβ4の位置、並びに細胞外マトリックスにおけるラミニン−5およびコラーゲンVIIの位置によって示唆された。
【0098】
本条件で得られたK−hES細胞の特徴付けは、細胞が、培養液中のHKに密接に同一であったことを示す。さらに、hES細胞の派生は、同じ遺伝子的バックグラウンドを有する実質的に純粋で均一なケラチノサイト集団を生成する効率的な手段を与える。
【0099】
しかしながら、K−hES細胞は、ヒト成体初代ケラチノサイトの典型的なマーカーに加えて、有意なレベルのケラチン19(限られた毛包間表皮のケラチノサイトおよび毛包のケラチノサイトにしか発現されない、in vivoおよびin vitroにおける皮膚幹細胞マーカー)並びにケラチン3および12(角膜細胞マーカー)を発現していた(図14参照)。
【0100】
in vitroにおいて規定のケラチノサイトに使用される一般的に認められている基準は、細胞培養系におけるそのコロニー形成能である。in vitroにおけるヒトケラチノサイトの成長能を、それらが生成できるコロニー数によって推測することができる(Barrandon Y. et al. 1985)。興味深いことに、K−hES細胞のコロニー形成分析は、コロニー形成能の少なくとも40%の増加を示した(図7)。
【0101】
その生理学的関連性を試験するために、K−hES細胞を、その多層表皮産生能について評価した(図8)。再構成された表皮を、in vitroにおいてK−hES細胞を使用して生成した。気液分化から10日後に、K−hES細胞の器官型培養液の凍結切片組織染色は、重層表皮の再構成を示した(Poumay Y. et al. 2004)。表皮構造は、床状の細胞形状を有する詳細に明らかにされた基底層、並びに、ケラトヒアリン顆粒を含む顆粒層と、死滅扁平脱核細胞の重層として見られる角質層とを含む基底上層から構成されるようであった。K−hES細胞から派生した表皮の正常な形態学的組成はまた、間接的な免疫蛍光染色によって分析したところ、分化マーカーの正規の発現および位置に反映されていた。予期した通り、K14染色は、再構成された表皮の基底区画において観察されたが、他の基底上層においては陰性であった。K10は、K14陽性の単一基底層のすぐ上の、全分化層に存在していた。最後に、ケラチノサイト分化の後期マーカーであるフィラグリンおよびインボルクリンは、専ら、表皮の最上層において検出された。予期した部位における後期マーカーの存在は、本発明者等の器官型K−hES細胞培養液が、分化に向けて生理学的経路を追随したことの指標であった。
【0102】
基底膜帯が、使用した培養条件下で見られるかどうかを評価するために、接着分子の発現を、再構成した皮膚において検査した。これらの細胞の接着能は、基底細胞膜におけるインテグリンα6およびβ4の良好な局在によって確認された。さらに、表皮と真皮との間の接着を可能とする細胞外マトリックスタンパク質であるラミニン−5およびコラーゲンVIIの分泌が観察された。
【0103】
さらに、表皮遺伝子パネルを使用したPCRアレイは、HKおよびK−hES細胞器官型表皮が非常に類似した発現パターンを示すことを明らかにした(図9)。
【0104】
最後の実証として、K−hESCの自己再生上皮生成能を、ストリンジェントなin vivo試験により評価した。成体ヒト線維芽細胞を含むフィブリンマトリックスにK−hESCを播種して、in vitroにおいて集密な表皮層を得た。その後、これらの器官型培養液を、同所移植によって免疫不全nu/nuマウスの背側領域に移植した(Del Rio M. et al. 2002; Larcher F. et al. 2007)。10〜12週間後、5匹中4匹のマウスに由来するK−hESCから派生した表皮は、形態学的に正常な多層構造を示し、これは、正常でネイティブなヒト皮膚のそれと一致していた(図12aおよび図13)。ヒトインボルクリンに対する免疫反応性は、有棘層および顆粒層(二次抗体に起因する真皮バックグラウンド)に適切な位置を示していた(図12b)。この長期のin vivoにおける再生特徴は、K−hESCが表皮幹細胞の機能的能力を有することを明瞭に示す。
【0105】
臨床的応用のために、動物またはヒト生産物を含有しないin vitro培養プロトコールを使用することが必須である。ケラチノサイト前駆体の増殖または最終分化を促進するための理想的な培養培地は、化学的に規定されるべきであり、そして無血清または合成血清リプレースメントのいずれかであるべきである。興味深いことに、本発明者等は、フィーダー層を含まない無血清培地であるKGM2中でK−hES細胞の培養を行なった。KGM2中で成長しているK−hESCの免疫蛍光分析は、ケラチン5、14並びにインテグリンα−6およびβ−4の均一な発現を示した。半合成無血清培地中、およびフィーダー細胞を含むFAD培地中で維持されたK−hES細胞の定量PCR分析は、ケラチン5および14転写物の類似の発現を示した(図10)。
【0106】
本研究の主な結果は、hESCから派生した細胞が、in vitroおよびin vivoにおいて成体ヒトケラチノサイトの全ての形態学的および機能的特性を再現することができるという実証である。これは、外胚葉分化、好ましくは、表皮誘導を刺激できそして栄養膜および中胚葉の誘導を阻害できる長期かつ低濃度のBMP処理に関連した、外胚葉分化を支持する細胞との共培養に基づいたプロトコールを使用して、未分化ES細胞を処理することによって得られた。アスコルビン酸を加えて、他の著者(Bamberger C. et al. 2002)によって使用されたレチノイン酸の非存在下でケラチノサイトの最終分化を刺激した。本発明者等のプロトコールの成功裏の結果はまた、ケラチノサイトが完全に分化するまで処理を連続的に行い、これには40日間の培養を必要としたという事実からも分かる。その段階において、培養液には、成体表皮毛包間ケラチノサイトと限りなく同等であると見なされる細胞が増殖した。これらの細胞は、随意に凍結および解凍しながら、9継代まで維持できるので(図11)、それらは、ヒトケラチノサイトの大量の細胞生産および多層表皮のための実践的な中間ステップを示し得る。
【0107】
K−hESCの免疫原性をFACSによって分析した。成体基底ケラチノサイトとは異なり、K−hESCは、非常に低いレベルのHLA−ABC抗原しか示さず、そしてHLA−DRを全く示さなかった(図15)。K−hESCは、主要組織適合性複合体の抗原をあるとしても僅かしか発現せず、このことは代用皮膚の低い免疫原性を示している。
【0108】
実施例2:iPSからケラチノサイト集団およびヒト代用皮膚を調製するための方法
実施例1に記載したのと同じ分化プロトコールを、ヒト誘導多能性幹細胞(iPS)を用いて行なった。簡潔に述べると、iPSを、5μg/mlのインシュリン、0.5μg/mlのヒドロコルチゾン、10−10Mのコレラ毒素、1.37ng/mlのトリヨードチロニン、24μg/mlのアデニンおよび10ng/mlのリコンビナントヒトEGFの補充された2/3DMEM、1/3HAM:F12および10%ウシ胎児血清(FCII、Hyclone)からなるFAD培地中、マイトマイシンC処理3T3線維芽細胞に播種した。0.5nMのヒトリコンビナントBMP−4(R&D Systems Europe, UK)および0.3mMアスコルビン酸(Sigma)を加えた場合に、外胚葉分化の誘導がなされた。細胞を、上皮細胞のクローンが単離されるまで同じ培地で成長させた。その後、細胞を、BMP4およびアスコルビン酸を含有しないFAD培地中、同じフィーダー層に播種した。対照として、初代ヒトケラチノサイト(HK)を、FAD培地中、マイトマイシンC処理3T3線維芽細胞上で培養した。
【0109】
図16および17に示したように、本発明者らは、単離された実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団は誘導多能性幹細胞(K−iPS)からも派生し得ることを示した。
【0110】
【表1】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ヒト多能性幹細胞に由来するヒトケラチノサイト集団を得るためのex vivoにおける方法およびヒト代用皮膚を調製するための方法に関する。
【0002】
発明の背景
皮膚は、増殖中のケラチノサイトの単一基底層に起源を有する分化中の細胞の機能性単位へと組織化された自己再生層からなる。角質層を含む死滅したおよび死滅中の細胞は落屑中に連続的に脱落し、そして胚芽層に見られる表皮幹細胞から派生した細胞によって置き換えられる。表皮機能の低下は、体温調節の低下、微生物に対する防御の減退、乾燥のリスク、創傷修復の阻害、および化粧品の懸念につながる。皮膚移植のための十分な自己ドナーがない場合、培養ヒトケラチノサイトを用いた創傷の被覆は、処置のための有望な選択肢の一つである。
【0003】
さらに、ヒト皮膚用in vitroおよびin vivoモデルは、表皮細胞の系統を研究するための、あるいは治療効果または毒性効果について化粧品および医薬化合物を試験するための素晴らしいツールを示し得る。例えば、in vitroモデルの必要性は、化合物および調合物の試験のために動物を使用する代わりになる物を提供するという動機が存在するという事実によって高くなっている。
【0004】
さらに、多くの疾病が、細胞自律的にまたはその多層表皮組織形成能の変化のいずれかを通じて、ケラチノサイトの機能に影響を及ぼす。ヒト皮膚用in vitroおよびin vivoモデルは、疾病の分子的機序を明らかにし、結果として、治療能を潜在的にもつ薬理学的または生物学的化合物を同定する方法を示し得る。
【0005】
従って、皮膚療法のために、またはヒト皮膚用in vitroおよびin vivoモデルを得るために、有用であり得るヒトケラチノサイト集団を得るための方法が必要とされる。
【0006】
胚幹細胞(例えば、「誘導多能性幹(induced pluripotent stem)」細胞について「iPS」細胞と呼ばれているものなど)の全特徴を再現するように遺伝子的に再プログラム化されている胚幹細胞および体細胞は、広範な増殖能を有する多能性幹細胞であり、従って研究および医療において大きな可能性を有する用途がある。それ故、多能性幹細胞からヒトケラチノサイトを得るためのいくつかの試みが従来技術において記載されている。例えば、文献WO02/097068は、胚幹細胞のケラチノサイトへの分化を誘導するための方法を記載している。さらなる研究は、ヒトケラチノサイト集団を得るための胚幹細胞の使用を報告している(Coraux C. et al. 2003; Ji L. et al. 2006; Metallo CM. et al. 2007;およびAberdam E. et al. 2008)。しかしながら、今までに、従来技術の方法では、ドナー由来の成体基底ケラチノサイトを使用した場合に有用であった技術に従って処置した場合、多層表皮形成能を示すであろう(in vitroでまたは動物に異種移植した後)ヒト多能性幹細胞から派生したヒトケラチノサイトを得ることができなかった(例えばGreen, 2008参照)。
【0007】
発明の要約
本発明は、表皮誘導を刺激する薬剤およびケラチノサイトの最終分化を刺激する薬剤の存在下で、ヒト多能性幹細胞を、外胚葉分化を支持する細胞と一緒に共培養する工程を含む、ヒト多能性幹細胞から派生したヒトケラチノサイト集団を得るためのex vivoにおける方法に関する。
【0008】
本発明はまた、ヒト多能性幹細胞から派生したヒトケラチノサイト集団を得るためのex vivoにおける方法に関し、前記方法は、BMP−4およびアスコルビン酸の補充されたケラチノサイト培養培地の存在下で、フィーダー線維芽細胞層で被膜された細胞培養表面上でヒト多能性幹細胞を培養する工程を含む。
【0009】
本発明はまた、前記の方法によって得ることのできるヒト多能性幹細胞から派生した単離された実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団に関する。
【0010】
本発明はまた、本発明のヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団と、場合により薬学的に許容される担体または賦形剤とを含む、医薬組成物に関する。
【0011】
本発明はまた、本発明のヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団の器官型培養液を準備することからなる工程を含む、ヒト代用皮膚を調製するための方法に関する。
【0012】
本発明はまた、前記の方法によって得ることのできるヒト代用皮膚に関する。
【0013】
本発明はまた、前記のヒト代用皮膚を動物に移植するための方法に関する。
【0014】
本発明はまた、前記の方法によって得ることのできるヒト皮膚のための動物モデルに関する。
【0015】
最後に、本発明は、皮膚損傷に関連した病態の処置のための前記のヒト代用皮膚に関する。
【0016】
発明の詳細な説明
定義
本明細書において使用した用語「マーカー」は、細胞の同定に使用することのできる、細胞表面上または細胞中に発現されるタンパク質、糖タンパク質または他の分子をいう。マーカーは、一般的に、従来の方法によって検出され得る。細胞表面マーカーの検出に使用することのできる方法の具体的で非制限的な例は、免疫組織化学法、蛍光活性化細胞分取(FACS)および酵素的分析である。
【0017】
用語「ヒトケラチノサイト集団」は、ヒト表皮を再構成でき、そして、死滅し完全にケラチン化した細胞への角質層の分化の過程におけるケラチン産生能によって特徴付けられる、細胞集団をいう。基底ケラチノサイトのマーカーは、ケラチン5、14(K5/K14)および転写因子p63を有する基底層マーカー、ケラチン1およびケラチン10(K1/K10)、インボルクリン、フィラグリンを有する基底上層マーカー、並びにインテグリンα6およびβ4、ラミニン−5およびコラーゲンVIIを有する真皮−表皮接合部に特異的なマーカーを含む。
【0018】
本明細書において使用した用語「ヒト多能性幹細胞」は、あらゆる成体細胞を形成する能力を有するあらゆるヒト前駆細胞をいう。
【0019】
本明細書において使用した用語「ヒト胚幹細胞」または「hES細胞」または「hESC」は、あらゆる成体細胞を形成する能力を有するヒト前駆細胞をいう。hES細胞は、1週令未満の受精胚から派生する。
【0020】
本明細書において使用した用語「ヒト誘導多能性幹細胞」または「ヒトiPS細胞」または「ヒトiPSC」は、ヒト非多能性細胞(例えば成体体細胞)から人工的に派生したタイプのヒト多能性幹細胞をいう。ヒト誘導多能性幹細胞は、あらゆる成体細胞を形成する能力を有する点でヒト胚幹細胞と同一であるが、胚から派生しない。典型的には、ヒト誘導多能性幹細胞は、あらゆる成体体細胞(例えば線維芽細胞)におけるOct3/4、Sox2、Klf4およびc−Myc遺伝子の誘導発現を通じて得ることができる。例えば、ヒト誘導多能性幹細胞は、Takahashi K. et al. (2007)、Yu et al. (2007)により記載のプロトコールに従って得ても、あるいはこれらの元のプロトコールにおいて細胞の再プログラミング化に使用される1つまたはその他の薬剤が、iPS系の起点にある体細胞に作用する任意の遺伝子もしくはタンパク質によって置換されているか、またはiPS系の起点にある体細胞に導入されている任意の他のプロトコールによって得てもよい。基本的には、成体体細胞は、Oct3/4、Sox2、Klf4およびc−Myc遺伝子を含む、レトロウイルスなどの、ウイルスベクターを用いてトランスフェクションされる。
【0021】
本明細書において使用した用語「実質的に純粋で均一な集団」は、全細胞数の大半(例えば、少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95%)が、対象のケラチノサイトの特定の特徴を有する細胞集団をいう。
【0022】
本明細書において使用した用語「単離された」は、その自然環境の少なくともいくつかの成分から分離された細胞または細胞集団をいう。
【0023】
本明細書において使用した用語「ケラチノサイト培養培地」は、ヒトケラチノサイトの成長、増殖および生存を支持するに必要な栄養分を含む培養培地をいう。従って、本発明による適切な培養培地は、細胞が成長できる最小培地、例えば、少なくとも10%のウシ胎児血清(FCS)の補充されたダルベッコ変法イーグル最小必須培地(DMEM)などである。別の特定の実施態様において、培養培地は、5μg/mlのインシュリン、0.5μg/mlのヒドロコルチゾン、10−10Mのコレラ毒素、1.37ng/mlのトリヨードチロニン、24μg/mlのアデニンおよび10ng/mlのリコンビナントヒトEGFの補充された2/3DMEM、1/3HAM:F12および10%ウシ胎児血清(FCII、Hyclone)からなるFAD培地である。
【0024】
用語「細胞培養表面」または「細胞培養マトリックス」は、細胞培養に適したあらゆるタイプの表面またはマトリックスをいう。用語「細胞培養表面」は、組織培養プレート、ディッシュ、ウェルまたはボトルを含むがこれらに限定されるわけではない。特定の実施態様において、培養表面は、培養プレート、ディッシュ、ウェルまたはボトルのプラスチック表面である。細胞培養表面は、真皮線維芽細胞の被膜に適合性していなければならない。
【0025】
本明細書において使用した表現「外胚葉分化を支持する細胞」は、適切な基質を与え、そしてヒト多能性幹細胞の成長および分化を支持するに適切な因子を分泌する細胞をいう。特定の実施態様において、外胚葉分化を支持する細胞は、線維芽細胞の群、より特定するとヒト線維芽細胞の群、より特定すると真皮線維芽細胞の群から選択される。特定の実施態様において、外胚葉分化を支持する細胞は、マイトマイシンにより不活性化させたヒト真皮線維芽細胞である。
【0026】
本明細書において使用した表現「フィーダー線維芽細胞」は、多能性幹細胞のための基底層として作用し、そして多能性を失うことなく未分化状態の幹細胞を維持するための分泌因子、細胞外マトリックスおよび細胞接触を与える、細胞をいう。フィーダー細胞を、γ照射またはマイトマイシンによって不活性化することができる。本発明の実施態様によると、フィーダー線維芽細胞は、線維芽細胞の群、より特定するとヒト線維芽細胞の群、より特定すると真皮線維芽細胞(真皮線維芽細胞株を含む)の群に由来し得る。真皮線維芽細胞株の例は、CCD−1112SK(Hovatta O, et al. 2003)および3T3−J2(Rheinwald JG et al. 1975)を含むがこれらに限定されるわけではない。特定の実施態様において、真皮線維芽細胞は、培養表面に被膜される前に増殖を停止するように前以って処理される。それ故、真皮線維芽細胞は、照射され得るか、またはマイトマイシンなどの細胞周期遮断剤を用いて処理され得る。
【0027】
本明細書において使用した用語「真皮線維芽細胞」は、真皮の細胞外マトリックスを合成および維持する細胞集団をいう。真皮線維芽細胞の特異的マーカーは、ビメンチンおよびFAP(線維芽細胞活性化タンパク質)を含む。
【0028】
本明細書において使用した表現「表皮誘導を刺激する薬剤」は、ケラチン8、ケラチン18、ケラチン5およびケラチン14などの表皮マーカーの発現を誘導することができる薬剤をいう。典型的には、表皮誘導を刺激する薬剤は、栄養膜および中胚葉の誘導を阻害する。
【0029】
特定の実施態様において、表皮誘導を刺激する薬剤は、骨形成タンパク質(例えばBMP−2、BMP−4およびBMP−7)、レセプター制御型Smadタンパク質(例えばSmad1、Smad5およびSmad9)およびTGFβファミリーのリガンド(例えば成長および分化因子6GDF−6)(Moreau et al., 2004)からなる群より選択される。好ましい態様において、表皮誘導を刺激する薬剤は、BMP−、BMP−4、BMP−7、Smad1、Smad5、Smad7およびGDF−6からなる群より選択される。好ましい実施態様において、表皮誘導を刺激する薬剤はBMP−4である。
【0030】
用語「BMP−4」は、骨形成タンパク質4をいう。BMP−4は、TGF−βタンパク質スーパーファミリーに属するポリペプチドである。例示的なネイティブなBMP−4アミノ酸配列が、GenPeptデータベースにおいてアクセッションナンバーAAC72278で提供される。
【0031】
本明細書において使用した表現「ケラチノサイトの最終分化を刺激する薬剤」は、ケラチン5およびケラチン14の発現を刺激する薬剤をいう。実際に、ケラチン5およびケラチン14は、3次元培養において最終分化できる基底ケラチノサイトのマーカーである。1つの特定の実施態様において、ケラチノサイトの最終分化を刺激する薬剤は、アスコルビン酸およびレチノイン酸からなる群より選択される。
【0032】
用語「アスコルビン酸」は、式:
【化1】
で示される(R)−3,4−ジヒドロキシ−5−((S)−1,2−ジヒドロキシエチル)フラン−2(5H)−オンをいう。
【0033】
本明細書において使用した用語「器官型培養液」は、培養細胞がin vitroにおいて組織または器官を再構築するのに使用される、3次元組織培養液をいう。
【0034】
本明細書において使用した用語「病態」は、皮膚損傷に関連したあらゆる疾病または症状をいう。用語「皮膚損傷に関連した病態」は、皮膚損傷、傷害、機能不全、欠陥または異常によって特徴付けられるあらゆる疾病または臨床症状をいう。従って、この用語は、例えば、傷害、変性疾病および遺伝子疾病を包含する。ある実施態様において、対象の病態は、遺伝性皮膚症、例えば表皮水疱症、色素性乾皮症、魚鱗癬、外胚葉異形成症、キンドラー症候群およびその他である。
【0035】
本明細書において使用した用語「被験体」は、皮膚損傷に関連した病態を患っている可能性があるが、前記病態を有していても有していなくてもよい、哺乳動物、好ましくはヒトをいう。
【0036】
本発明の脈絡において、本明細書において使用した用語「処置(treating)」または「処置(treatment)」は、病態の発症を遅延もしくは予防すること、病態の症状の進行、増悪もしくは悪化を逆行、寛解、阻止、減速もしくは停止すること、病態の症状の回復をもたらすこと、および/または病態を治癒することを目的とした方法をいう。
【0037】
本発明の方法
本発明は、表皮誘導を刺激する薬剤およびケラチノサイトの最終分化を刺激する薬剤の存在下で、ヒト多能性幹細胞を、外胚葉分化を支持する細胞と一緒に共培養する工程を含む、ヒト多能性幹細胞から派生したヒトケラチノサイト集団を得るためのex vivoにおける方法に関する。
【0038】
前記の方法によって得ることができるヒト多能性幹細胞から派生したヒトケラチノサイトは、ヒト基底ケラチノサイトの全ての形態学的および機能的特性を再現することができる。実際に本発明者らは、前記細胞がヒト表皮を再構築でき(in vitroおよびin vivoにおいて)、そしてそれはケラチン産生能によって特徴づけられることを実証した。より特定すると、前記細胞は、ケラチン5、14(K5/K14)および転写因子p63を有する基底層マーカー、ケラチン1およびケラチン10(K1/K10)、インボルクリン、フィラグリンを有する基底上層マーカー、並びにインテグリンα6およびβ4、ラミニン−5およびコラーゲンVIIを有する真皮−表皮接合部に特異的なマーカーを含む、基底ケラチノサイトのマーカーを発現する。それらはまた、皮膚幹細胞のマーカーであるケラチン19、並びに角膜細胞のマーカーであるケラチン3および12も発現し得る。
【0039】
本発明の実施態様は、ヒト多能性幹細胞から派生したヒトケラチノサイト集団を得るためのex vivoにおける方法に関し、前記方法は、BMP−4およびアスコルビン酸の補充されたケラチノサイト培養培地の存在下で、フィーダー線維芽細胞層で被膜された細胞培養表面上でヒト多能性幹細胞を培養する工程を含む。
【0040】
特定の実施態様において、ヒト多能性幹細胞は、胚幹細胞(hES細胞)またはヒト誘導多能性幹細胞(ヒトiPS細胞)を含むがこれらに限定されるわけではない。
【0041】
本発明の実施態様によると、hES細胞はあらゆるhES細胞株から選択され得る。hES細胞株の例は、SA−01、VUB−01、H1(Thomson JA et al 1998)およびH9(Amit M et al. 2000)を含むがこれらに限定されるわけではない。本発明によると、hES細胞は、国際特許出願WO2002/097068に記載のようにLIFの存在下で培養されない。さらに、本発明によると、hES細胞は、Metallo CM. et al. (2007)またはJi L; et al. (2006)に記載のように胚様体に分化したものではないと理解されたい。
【0042】
本発明の実施態様によると、ヒトiPS細胞は、あらゆるヒトiPS細胞株から選択され得る。ヒトiPS細胞株の例は、クローン201B(Takahashi et al., 2007)およびiPS(包皮またはIMR−90)−1−MCB−1(Yu et al., 2007)を含むがこれらに限定されるわけではない。
【0043】
あるいは、hES細胞またはヒトiPS細胞は、治療目的で構成され得るマスターセルバンクから選択され得る。好ましい様式において、hES細胞またはヒトiPSは、大部分のヒト集団における免疫拒絶を回避または制限するように選択され得る。典型的には、hES細胞またはヒトiPS細胞は、主要組織適合性抗原A、BおよびDRをコードする遺伝子に対してHLAホモ接合型であり、これは、HLAレパートリーにおいて単純な遺伝子プロファイルを有することを意味する。前記細胞は、皮膚損傷(例えば、創傷、火傷、照射、疾病に関連した表皮の異常など)に関連した病態の細胞療法に使用するためのヒト代用皮膚の調製に適し得る、再生可能な細胞源としての幹細胞バンクを作製するのに役立ち得る。
【0044】
別の特定の実施態様において、ヒト多能性幹細胞は、ヒト皮膚の遺伝子疾病の原因となる1つの突然変異または複数の突然変異を有し得る。
【0045】
本発明の実施態様によると、細胞培養表面は、真皮線維芽細胞が自然にそれに接着し得るように選択される。細胞培養表面の様々な材料が選択され得る。このような材料の例は、ゼラチンで被膜された組織培養ディッシュまたはディッシュ群を含むがこれらに限定されるわけではない。
【0046】
特定の実施態様において、ケラチノサイト培養培地には、グルタミン、表皮成長因子(EGF)、ピルビン酸ナトリウム、アデニン、インシュリン、ヒドロコルチゾン、コレラ毒素およびトリヨードチロニンからなる群より選択される1つ以上の薬剤が補充され得る。特定の実施態様において、ケラチノサイト培養培地は、Rheinwald JG. et al. (1975)によって記載されたものである。
【0047】
本発明の実施態様によると、ケラチノサイト培養培地におけるアスコルビン酸の濃度は、0.01mMから1mMまで変更し得る。特定の実施態様において、アスコルビン酸の濃度は0.3mMである。
【0048】
ケラチノサイト培養培地におけるBMP−4の濃度は、0.02nMから77nMまたは0.3ng/mlから1000ng/mlまで変更し得る。特定の実施態様において、BMP−4の濃度は0.5nMである。
【0049】
本発明によると、ヒト多能性幹細胞(例えばhES細胞またはヒトiPS細胞)を、ヒト基底ケラチノサイト(「ヒト多能性幹細胞から派生したヒトケラチノサイト」)の全ての形態学的および機能的特性を再現した細胞集団において細胞の完全な分化を可能とする十分な時間、培養する。特定の実施態様によると、期間は、20日間から60日間、好ましくは20日間から40日間まで変更し得る。
【0050】
本発明のさらなる目的は、前記の方法によって得ることのできるヒト多能性幹細胞から派生した単離されたヒトケラチノサイト集団に関する。
【0051】
別の実施態様によると、本発明の方法は、アスコルビン酸およびBMP−4を包含しないケラチノサイト培養培地の存在下で、真皮線維芽細胞層で被膜された細胞培養表面上で、前記したように得られたヒト多能性幹細胞から派生したヒトケラチノサイト集団を培養する工程をさらに含み得る。さらなる工程は、ヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団を得るのに適切であり得る。
【0052】
真皮線維芽細胞、細胞培養表面およびケラチノサイト培養培地は、ケラチノサイト培養培地にアスコルビン酸およびBMP−4が補充されていないならば、前記したのと同じであり得る。
【0053】
本発明のさらなる目的は、前記の方法によって得ることができるヒト多能性幹細胞から派生した単離された実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団に関する。
【0054】
医薬組成物
本発明の方法により得られたヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団は、皮膚療法に適し得る。
【0055】
それ故、本発明は、本発明のヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団と、場合により薬学的に許容される担体または賦形剤とを含む医薬組成物に関する。ある実施態様において、医薬組成物は、少なくとも1つの生物学的に活性な物質または生理活性因子をさらに含み得る。
【0056】
本明細書において使用した用語「薬学的に許容される担体または賦形剤」は、前駆細胞の生物活性の効力を妨げることなく、そして投与される濃度において宿主に対して過度な毒性を与えない、担体培地をいう。適切な薬学的に許容される担体または賦形剤の例は、水、塩溶液(例えばリンガー液)、オイル、ゼラチン、炭水化物(例えばラクトース、アミラーゼまたはデンプン)、脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、およびポリビニルピロリンを含むがこれらに限定されるわけではない。医薬組成物は、液体、半液体(例えばゲル)または固体(例えば、マトリックス、格子、足場など)として調合され得る。
【0057】
本明細書において使用した用語「生物学的に活性な物質または生理活性因子」は、本発明の医薬組成物におけるその存在が前記組成物を受ける被験体にとって有益である、あらゆる分子または化合物をいう。当業者によって認識されているように、本発明の実施における使用に適した生物学的に活性な物質または生理活性因子は、生理活性分子および化合物の多種多様なファミリーにおいて見出され得る。例えば、本発明の脈絡において有用な生物学的に活性な物質または生理活性因子は、抗炎症剤、抗アポトーシス剤、免疫抑制剤または免疫調節剤、抗酸化剤、成長因子および薬物から選択され得る。
【0058】
本発明の関連した態様は、皮膚損傷に関連した病態を患っている被験体を処置するための方法に関し、前記方法は、被験体に、本発明のヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団(またはその医薬組成物)の有効量を投与するステップを含む。
【0059】
本明細書において使用した用語「有効量」は、意図した目的を達成するのに十分である、ヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団(またはその医薬組成物)の任意の量をいう。
【0060】
本発明のヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団(またはその医薬組成物)を、任意の適切な方法を使用して被験体に投与し得る。
【0061】
本発明のヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団を、単独でもしくは他の細胞と組み合わせて、および/または他の生物学的に活性な因子または試薬、および/または薬物と組み合わせて移植し得る。当業者によって理解されているように、これらの他の細胞、生物学的に活性な因子、試薬および薬物を、本発明の細胞と共に同時にまたは連続的に投与し得る。
【0062】
ある実施態様において、本発明による処置は、細胞に基づいた処置を開始する前に被験体を薬理学的に免疫抑制することをさらに含む。被験体の全身的または局所的免疫抑制法は当技術分野において周知である。
【0063】
効果的な投与量および投与レジメンは、被験体の病態の性質に基づいた適正医療業務によって容易に決定され得、そしてそれは、病態の症状の程度、および対象の組織もしくは器官の損傷もしくは変性の程度、および被験体の特徴(例えば、年齢、体重、性別、身体全体の健康など)を含むがこれらに限定されるわけではない多くの因子に依存するだろう。
【0064】
本発明のヒト代用皮膚および動物モデル
本発明のヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団はまた、ヒト代用皮膚の調製にも適し得る。
【0065】
典型的には、本発明のヒト代用皮膚は、扁平上皮へと重層化される前記のヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団のin vitroで派生した培養液から生じる多層表皮を含む。特定の実施態様において、本発明のヒト代用皮膚は、前記の多層表皮および真皮を含み得る。
【0066】
それ故、本発明のさらなる態様は、本発明のヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団の器官型培養液を準備することからなる工程を含む、ヒト代用皮膚の調製法に関する。
【0067】
本発明のヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団の完全な重層化および組織学的分化を、3次元器官型培養法の使用によって達成することができる(Doucet O, et al. 1998 ; Poumay y. et al. 2004 ; Gache Y. et al. 2004)。例えば、本発明のヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団のin vitro培養液を気液界面で培養させる場合、高度に整然とした角質層が形成される。
【0068】
特定の実施態様において、本発明によるヒト代用皮膚を、Poumay, Y et al. 2004によって記載されたように生成し得る。本発明のヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団の培養を、ポリカーボネート製培養インサート上で行ない得る。これらの細胞を、11日間、1.5mM CaCl2および50μg/mlアスコルビン酸の補充されたEpilife培地中に維持し得る。前記細胞を、10日間かけて培養培地を除去することによって気液界面に曝した。
【0069】
特定の実施態様において、ヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団を、前記したように器官型培養液を準備する前に、ヒト真皮線維芽細胞の定植された細胞培養マトリックス上に前以って播種する。この特定の実施態様により、真皮および表皮を含むヒト代用皮膚を得ることが可能となる。このような方法は、Del Rio M. et al. (2002)またはLarcher F. et al. (2007)によって記載のプロトコールにより行なわれ得る。例えば、本発明のヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団を、生存している真皮線維芽細胞の定植されたフィブリンマトリックス上に播種し得る。その後、器官型培養液をケラチノサイトが集密するまで浸しながら培養させ、そして最後に7日間かけて気液界面において維持して、上皮の重層化および分化を促進する。
【0070】
本発明のさらなる目的は、前記の方法によって得ることのできるヒト代用皮膚に関する。
【0071】
本発明のさらなる目的は、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはマウスに、前記のヒト代用皮膚を移植するための方法に関する。特定の実施態様において、前記動物は免疫不全動物(例えばNOD/SCIDマウス)である。前記方法は、ヒト皮膚用動物モデルを提供するのに有用であり得る。
【0072】
特定の実施態様において、本発明のヒト代用皮膚を移植された動物を、Del Rio M. et al. (2002)によって記載のように生成し得る。簡潔に述べると、動物を剪毛し、そして無菌的に洗浄する。その後、全層創傷をマウスの背側に作り出し、そして最後に本発明のヒト代用皮膚の移植を、無菌条件下で行なう。その後、前記動物上にヒト皮膚を得るのに10〜12週間で十分であり得る。
【0073】
本発明のさらなる目的は、前記の方法により得ることのできるヒト皮膚のための動物モデルに関する。
【0074】
本発明のヒト代用皮膚および動物モデルは、様々な用途を有し得る。これらの用途は、化合物すなわち、腫瘍および病理学的起因物質(例えばヒトパピローマウイルス)を培養するための基質をスクリーニングするための、および皮膚損傷に関連したヒト傷害または病態をモデリングするための、使用を含むがこれらに限定されるわけではない。
【0075】
例えば、本発明のヒト代用皮膚および動物モデルを、様々なin vitroおよびin vivo試験に使用し得る。特に、しかし限定するわけではないが、本発明のヒト代用皮膚および動物モデルは、スキンケア製品、薬物代謝、試験化合物に対する細胞応答、創傷治癒、光毒性、真皮刺激、真皮炎症、皮膚腐食性および細胞損傷の評価において用途を見出す。典型的には、本発明の動物モデルのために、前記製品を、ヒト皮膚上に局所的に投与し得るか、または経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内および経皮経路で投与し得る。
【0076】
本発明は、様々なスクリーニングアッセイを包含する。いくつかの実施態様において、スクリーニング法は、本発明のヒト代用皮膚または動物モデル並びに少なくとも1つの試験化合物または製品(例えば保湿剤、化粧品、染料または香水などのスキンケア製品;前記製品は、クリーム、ローション、液体およびスプレーを含むがこれらに限定されるわけではない任意の形状であり得る)を準備し、前記製品または試験化合物を前記ヒト代用皮膚または動物モデルに適用し、そしてヒト代用皮膚または動物モデルに対する前記製品または試験化合物の効果をアッセイすることを含む。典型的には、本発明の動物モデルのために、前記試験化合物または製品を、ヒト皮膚上に局所的に投与し得るか、または経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内および経皮経路で投与し得る。多種多様なアッセイを使用して、ヒト代用皮膚または動物モデルに対する前記製品または試験化合物の効果を決定し得る。アッセイは、前記化合物または製品の毒性、効能または効力を対象とすることができる。さらに、成長、バリア機能または組織強度に対する前記化合物または製品の効果も試験することができる。
【0077】
他の好ましい実施態様において、本発明のヒト代用皮膚または動物モデルは、皮膚を通過しての薬物導入の効力をスクリーニングするための用途を見出す。
【0078】
特定の実施態様において、本発明のヒト代用皮膚または動物モデルはまた、皮膚において自然に起こる腫瘍の培養および研究に、並びに、皮膚に影響を及ぼす病原体の培養および研究に有用である。従って、いくつかの実施態様において、本発明のヒト代用皮膚または動物モデルを、悪性細胞と共に播種することが意図される。その後、これらの再構成されたヒト代用皮膚または動物モデルを使用して、その自然環境における腫瘍に対する効力について、化合物または他の処置戦略(例えば照射またはトモセラピー)をスクリーニングすることができる。いくつかの実施態様において、本発明は、対象の病原体を感染させた再構成されたヒト代用皮膚または動物モデルおよび少なくとも1つの試験化合物または処置を準備し、そして代用皮膚または動物モデルを前記試験化合物または処置で処置することを含む方法を提供する。
【0079】
別の特定の実施態様において、本発明のヒト代用皮膚または動物モデルはまた、皮膚損傷に関連したヒト傷害または病態をモデリングするのに有用である。例えば、本発明のヒト代用皮膚および動物モデルは、創傷、火傷(例えば火による火傷、日焼けなど)、または照射、病原体などによって引き起こされる病変、化学製品もしくは環境条件によって引き起こされる刺激、変性疾病および遺伝子疾病をモデリングするためのin vitroおよびin vivoの両方のモデルを提供し得る。ある実施態様において、対象の病態は、遺伝性皮膚症、例えば表皮水疱症、色素性乾皮症、魚鱗癬、外胚葉異形成症、キンドラー症候群およびその他である。典型的には、本発明のヒト代用皮膚または動物モデルは、ヒト皮膚の遺伝子疾病の原因となる1つの突然変異または複数の突然変異を有し得る、多能性幹細胞から生成され得る。前記のin vitroおよびin vivoの両方のモデルは、医学研究のために特に関心を有し得るか、または前記傷害および病態の治療もしくは予防のための化合物のスクリーニングのために有用であり得る。特に、本発明は、ライブラリーから、特にコンビナトリアルライブラリーから、例えばハイスループットまたはハイコンテンツな技術を使用して化合物をスクリーニングするための、本発明によるヒト代用皮膚および動物モデルの使用を意図する。典型的には、本発明の動物モデルのために、前記試験化合物または製品をヒト皮膚上に局所的に投与し得るか、または経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内および経皮経路で投与し得る。
【0080】
本発明のさらなる態様において、本発明のヒト代用皮膚を、皮膚損傷に関連した病態の処置に使用し得る。
【0081】
それ故、本発明は、本発明のヒト代用皮膚を必要とする患者に移植することからなる工程を含む、皮膚損傷に関連した病態の処置法に関する。
【0082】
例えば、本発明のヒト代用皮膚は、創傷閉鎖および火傷処置適用において用途を見出す。火傷および創傷閉鎖の処置のための移植片の使用が、米国特許第 5,693,332号;5,658,331号;および6,039,760号に記載されている。従って、本発明は、本発明によるヒト代用皮膚および創傷に患う患者を準備し、そして前記患者に、創傷が閉鎖されるような条件下でヒト代用皮膚を移植することを含む、火傷によって引き起こされた創傷を含む、創傷閉鎖のための方法を提供する。
【0083】
本発明は、以下の図面および実施例によってさらに説明されるだろう。しかしながら、これらの実施例および図面は、なんら本発明の範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】ケラチノサイト系統の確立:異なる分化工程における(0−10−25−40日目)hES細胞の形態の顕微鏡分析。最初は、典型的なhES細胞コロニーは丸い。10日後、コロニーの周縁部のhES細胞は、移動し始め、そしてフィーダー層へと広がり始めた。20日後から、これらの細胞は容量が増加し、平板化し、そして上皮の形態になった。分化終了時には、これらの細胞は、床状の上皮形態になり、ケラチノサイト形態に特徴的な密集した接着性細胞のコロニーを形成した。
【図2】ケラチノサイト系統の確立:40日間の分化の間にhES細胞から派生した細胞の定量PCR分析。多能性遺伝子マーカーであるOCT4およびNANOGは、5日目から急速に減少し、最終的に20日目に検出不可能となった。単層上皮の最初の特異的マーカーであるケラチン18およびケラチン8の転写物(KRT18およびKRT8)は、10日目まで大きく増加し、次に減少し、そして分化の終了時まで基底レベルで安定した。表皮の増殖基底層に特異的であるケラチン5およびケラチン14をコードする転写物(KRT5およびKRT14)は、10日目から40日目まで着実に増加した。
【図3】ケラチノサイト系統の確立:40日間の分化の間のhES細胞のFACS分析から、動態の開始時における60%付近から40日目の1%付近まで、未分化状態SSEA3(ステージ特異的胚抗原(Stage-Specific Embryonic Antigen))のマーカーの減少を確認した。表皮系統への傾倒が10日目に観察され、この時にケラチン18(K18)の発現の最高値は63%まで上昇した。25日後にK18は、40日目に基底レベル(9%)に到達するまで連続的に減少した。25日目から、単層上皮のK8/K18マーカーと重層上皮のK5/K14マーカーとの間の切り替えが、K14に対して陽性である派生したhES細胞の59%で起こり、このことから、培養液における基底増殖表皮細胞の増殖を確認した。
【図4】hES細胞から派生した均一で純粋なケラチノサイト集団の特徴付け:後続の培養後のヒト初代成体ケラチノサイト(HK)およびhES細胞から派生したケラチノサイト(K−hES細胞)の形態の顕微鏡分析。40日間の分化後、hES細胞から派生したケラチノサイトの後続の培養を、BMP4およびアスコルビン酸を用いずに、マイトマイシン処理3T3フィーダー細胞上に播種されたFAD培地中で行なった。これらの条件下で、hES細胞から派生したケラチノサイト(K−hES細胞)は、成体初代ヒトケラチノサイト(HK)と同じコロニー形態を提示した。K−hES細胞は、ケラチノサイト形態に特徴的な密集した接着性細胞のコロニーを形成した。
【図5】hES細胞から派生した均一で純粋なケラチノサイト集団の特徴付け:HKおよびK−hES細胞のFACS分析により、K18の減少、並びに細胞の95%超がK5およびK14を発現するK−hES細胞の均一な細胞集団が判明した。
【図6】hES細胞から派生した均一で純粋なケラチノサイト集団の特徴付け:OCT4/NANOG、KRT8/KRT18、KRT5/KRT14、インテグリンα6およびβ4(ITGA6/ITGB4)、ラミニン−5およびコラーゲンVII(LAMB3/Col7A1)のケラチノサイト接着遺伝子マーカーを用いたK−hES細胞およびHKの定量PCR分析を行なった。遺伝子発現レベルは、基底ケラチノサイトに特徴的であるこれらの試験した全遺伝子について類似していた。
【図7】hES細胞から派生した機能性ケラチノサイトの確立:HKおよびK−hES細胞のコロニー形成アッセイ。in vitroにおけるヒトケラチノサイトの成長能を、成長している接着性コロニーの数によって推測することができる。K−hES細胞のコロニー形成分析は、HKと比較してこれらの細胞のコロニー形成能の40%の増加を示した。
【図8】hES細胞から派生した機能性ケラチノサイトの確立:HKおよびK−hES細胞の器官型上皮培養。10日間の気液分化後のヘマトキシリン/エオシンによる組織染色。上皮構造は、床状の細胞形状を有する詳細に明らかにされた基底層、並びに、ケラトヒアリン顆粒を含む顆粒層と、死滅扁平脱核細胞の重層として見られる角質層とを含む基底上層から構成されるようであった。
【図9】器官型HKおよびK−hESC表皮におけるPCRアレイ。表皮遺伝子の大きなパネルを、HKおよびK−hES細胞から派生した器官型表皮から抽出されたcDNAに対して試験した。データを、自家製のケラチノサイトに焦点を当てるプライマー定量PCRアレイ、およびアレイアシストソフトウェアで実施したヒートマップ分析を使用して収集した。2つの器官型表皮は非常に類似した発現パターンを提示した。
【図10】半合成無血清培地におけるK−hES細胞の均一プロファイル。半合成無血清培地中およびフィーダー細胞を含むFAD培地中に維持されたK−hES細胞の定量PCR分析は、ケラチン5および14転写物(KRT5およびKRT14)の類似した発現を示した。
【図11】9継代まで安定なK−hESCの表現型:9回までの連続的継代におけるK−hES細胞の定量PCR分析は、KRT5、KRT14、ITGA6およびITGB4を含む、ケラチノサイト表現型に関連した遺伝子の安定な発現を示した。
【図12】免疫不全マウスへの異種移植後の長期のin vivoにおけるヒト表皮再生。a.K−hESCの移植された人工皮膚移植片のヘマトキシリン−エオシンによる染色。スケールバーは50μmである。b.K−hESCの移植された人工皮膚移植片上でのヒトインボルクリンに対して指向されるmAb SY−5を使用したイムノペルオキシダーゼ染色は、有棘層および顆粒層に適切に位置している。抗マウス二次抗体に因り、真皮バックグラウンドが観察され得ることを注記する。スケールバーは50μmである。
【図13】4匹の免疫不全マウスへの異種移植後の長期のin vivoにおけるヒト表皮再生。K−hESCの移植された人工皮膚移植片のヘマトキシリン−エオシンによる染色。スケールバーは100μmである。
【図14】ケラチノサイト系統の確立:定量PCR分析:K−hES細胞およびHKのPCR分析は、K19、K3およびK12遺伝子の異なる発現レベルを示した。
【図15】hESC、K−hESCおよびHKにおけるMHCクラスI(HLA−ABC)およびクラスII(HLA−DR)タンパク質の発現 hESC、HK、およびH9から派生したK−hESCにおけるMHCクラスI(HLA−ABC)およびクラスII(HLA−DR)発現の代表的なFACS分析。
【図16】誘導多能性幹細胞を使用したケラチノサイト系統の確立(A)分化40日目における誘導多能性幹細胞(iPS)および派生したiPSの形態の分析。(B)40日間の分化の間における派生した誘導多能性幹細胞(iPS)のOCT4/NANOG、KRT8/KRT18、KRT5/KRT14の定量PCR分析。
【図17】iPSから派生したケラチノサイトの特徴付け(A)後続の培養後の、iPS(K−iPS)からおよびhESC(K−hESC)から派生したケラチノサイトならびにヒト初代ケラチノサイト(HK)の顕微鏡分析。(B)K−iPS、K−hESCおよびHKにおけるOCT4/NANOG、KRT8/KRT18、KRT5/KRT14およびP63の定量PCR分析。(C)K−iPS、K−hESCおよびHKにおけるケラチン5および14の免疫蛍光分析。
【0085】
実施例1:hESからケラチノサイト集団およびヒト代用皮膚を調製するための方法
材料および方法
hES細胞の維持培養
hESC(SA−01およびH9)を、37℃で5%CO2の下で、20%(vol/vol)ノックアウト血清リプレースメント(KSR、Invitrogen)、1mMグルタミン、0.1mM非必須アミノ酸(Invitrogen)、4ng/mlリコンビナントヒトbFGF(PeProTech)および0.1mM 2−メルカプトエタノールの補充されたDMEM/F12(Sigma)中で、マウス線維芽細胞のSTOフィーダー層(10mg/mlのマイトマイシンCで不活性化し、そして30000/cm2で播種)上で成長させた。継代のために、hESCコロニーを切り出し、そして5日毎に継代を行なった。
【0086】
hES細胞からケラチノサイトへの派生
派生のために、凝集塊を、5μg/mlインシュリン、0.5μg/mlヒドロコルチゾン、10−10Mコレラ毒素、1.37ng/mlのT3、24μg/mlアデニンおよび10ng/mlリコンビナントヒトEGFの補充された2/3DMEM、1/3HAM:F12および10%ウシ胎児血清(FCII、Hyclone)から構成されるFAD培地中で、マイトマイシンC処理3T3線維芽細胞上に播種した。0.5nMのヒトリコンビナントBMP−4(R&D Systems Europe, UK)および0.3mMアスコルビン酸(Sigma)を加えた場合に、外胚葉分化の誘導がなされた。細胞を、上皮細胞のクローンが単離されるまで同じ培地で成長させた。その後、細胞を、BMP4およびアスコルビン酸を含有しないFAD培地中の同じフィーダー層に播種した。対照として、初代ヒトケラチノサイト(HK)を、FAD培地中のマイトマイシンC処理3T3線維芽細胞上で培養した。
【0087】
半合成無血清培地中での培養のために、HKおよびk−hES細胞を、KGM−2培地(Lonza)中、BioCoatコラーゲンIプラスチック(BD Biosciences)上に播種した。
【0088】
定量PCR
全RNAを、製造業者のプロトコールに従ってRNeasy Mini抽出キット(Qiagen)を使用してhES細胞、HKおよびK−hES細胞から単離した。ゲノムDNAが増幅しないようにカラム上でDNaseI消化を行なった。RNAのレベルおよび品質を、ナノドロップ技術を使用して確認した。全500ngのRNAを、SuperscriptIII逆転写キット(Invitrogen)を使用して逆転写した。mRNA発現を定量するために、リアルタイムRT−PCR分析を、製造業者の説明書に従ってLightCycler480システム(Roche diagnostics)およびSYBR Green PCR Master Mix(Roche Diagnostics)を使用して行なった。遺伝子発現の定量は、DeltaCt法に基づき、そして18s発現で標準化した。融解曲線および電気泳動分析を行なうことにより、PCR産物の特異性をコントロールし、そして非特異的増幅を除いた。
【0089】
FACS分析
細胞を、トリプシン−EDTA(Invitrogen)を使用して培養プレートから剥し、そして2%パラホルムアルデヒド中で15分間室温で固定した。PBSで洗浄した後、細胞を、0.1%サポニン(Sigma)を用いて透過処理した。1:100で希釈した一次抗体を1時間室温で0.1%FCSを含むPBS中でインキュベーションした。対照試料は特異的アイソタイプを使用してまたは全く一次抗体を使用せずに行なった。種特異的二次抗体を1時間かけて室温で加え、そして染色した細胞を、CellQuestソフトウェア(BD Biosciences)を使用してFACScaliburフローサイトメーターで分析した。
【0090】
免疫細胞化学
細胞を、4%パラホルムアルデヒド中で15分間室温で固定し、その後、0.4%トリトンX−100および5%BSA(Sigma)の補充されたPBSで透過処理しブロッキングした。一次抗体を一晩4℃でブロッキング緩衝液中でインキュベーションした。マウス抗K14、ウサギ抗K14、マウス抗K5はNovacastraから、マウス抗ColVII、マウス抗インテグリンα6およびマウス抗ラミニン5はSanta-Cruz Biotechnologyから、そしてマウス抗インテグリンβ4はBDbiosciencesから購入した。細胞を、種特異的フルオロフォア結合二次抗体(Invitrogen)を用いて1時間かけて室温で染色し、そして核をDAPIを使用して染めた。免疫蛍光画像が、Axibisionイメージングソフトウェアを使用してZeiss Z1顕微鏡で得られた。
【0091】
コロニー形成アッセイ
初代ケラチノサイトおよびK−hES細胞をトリプシン処理し、そして10cmプレートでFAD培地中、マイトマイシンC処理3T3線維芽細胞フィーダー層上に14個の細胞/cm2で蒔いた。細胞を2週間培養し、その後、70%エタノールで固定し、そしてBlue-RAL555(Sigma)で染色した。水道水で洗浄した後、プレートを乾燥させ、そしてコロニーを計測した。各実験は三重に行なった。
【0092】
器官型培養液
ヒト代用皮膚を他で詳述されているように(Poumay Y et al., 2004)生成した。ケラチノサイト培養をポリカーボネート製培養インサート(NUNC)上で行なった。これらの細胞を11日間、1.5mM CaCl2および50μg/mlのアスコルビン酸の補充されたEpilife培地中に維持した。10日間、培養培地を除去することによって細胞を気液界面に曝した。
【0093】
免疫不全マウスへの移植
生物工学操作された皮膚等価物を、ヒト線維芽細胞の定植されたフィブリンマトリックスを使用して生成した。K−hESCをフィブリンマトリックス上に播種し、集密となるまで浸しながら成長させ、その後、記載(Del Rio et al., 2002)のように、6週令の雌nu/nuマウス(Jackson Laboratory, Bar Harbor, ME)の背中に移植した。移植片を移植から10〜12週間後に回収し、そして組織標本を、10%緩衝ホルマリン中で固定しパラフィン包埋した。
【0094】
アレイに基づいた比較ゲノムハイブリダイゼーション
アレイに基づいた比較ゲノムハイブリダイゼーション(a−CGH)分析を、5245個のBACクローンのIntegragenチップゲノムワイドBACアレイを使用して行なった(526kbの中間値のスペーシング)。
【0095】
結果:
hES細胞(SA−01またはH9)を、BMP4(0.5nM)およびアスコルビン酸(0.3mM)の補充されたFAD培地中で、マイトマイシンCで前処理された3T3フィーダー細胞上に播種し、そして10、25および40日目という異なる時点で回収した。
【0096】
本発明者等は、分化中に、顕微鏡によって、上皮形態が次第に増加したことを観察した。最初に、未分化hES細胞は培養液中で単一細胞層コロニーを形成した。10日目に、コロニーの周辺から派生したhES細胞は、移動し始め、そしてフィーダー層へと広がり始めた。20日後から、これらの細胞は容量が増加し、平板化し、そして上皮の形態をとるようになった。分化終了時には、これらの細胞は、床状の上皮形態を有するようになり、ケラチノサイト形態に特徴的な密集した接着性細胞のコロニーを形成した(図1)。hES細胞の分化の分子的特徴付けは、定量PCRおよびFACS分析によって全て動態に沿って行なわれた。経時的q−PCR分析は、多能性遺伝子マーカーであるOCT4およびNANOG(Amit M. et al. 2000)が5日目から急速に減少し、最後には20日目に検出不可能となったことを示した(図2)。特に、FACS分析は、動態の開始時における60%付近から40日目における1%付近までの、未分化状態SSEA3(ステージ特異的胚抗原)のマーカーの減少を確認した。
【0097】
in vivoにおける表皮発達は、胚発達中の構造分子の時間的発現パターンによって特徴付けられる(Mack JA. et al. 2005)。表皮は、ケラチン8およびケラチン18(K8およびK18)を発現している単層外胚葉細胞を生じる外胚葉から派生する。定量Q−PCRを使用して、ケラチノサイト系統に沿って初期マーカーをコードする遺伝子、ケラチン18および8(KRT8/KRT18)の発現は、培養10日目にピークに達し、次週以降次第に減少した。一生涯におよび表皮の増殖基底層に特異的である、ケラチン5および14(KRT5/KRT14)をコードする遺伝子の発現は、10日目から次第に増加した(図1B)。FACS分析は、K18の一過性発現を確認し、発現の最高値は10日目から25日目までの間であり(63%から59%)、40日目における基底レベル(9%)まで着実に減少した。本発明者等は、40日間の分化の終了時に、培養液中におけるケラチン14の増殖(59%)を確認した(図3)。最後に、hES細胞からケラチノサイトへの派生は、in vivoにおける表皮発達に相当する(Byrne C. et al. 1994)。まとめると、得られたデータは、この分化プロトコールが、in vitroにおいて表皮発達の全ステップを再現し、これにより、分化40日目におけるK8/K18からK5/K14へのこの劇的な移行に関与する分子的事象のより良い解明の機会が与えられることを明確に示す。本発明者等は、誘導期間が終了したと考え、そして培地からBMP4およびアスコルビン酸を取り除くことによって誘導を停止した。FAD培地中、マイトマイシンC処理3T3フィーダー細胞上での継代後、典型的な床状の上皮形態を示す細胞は自発的に、成長コロニーを形成し;我々は、それらを、「ヒト胚幹細胞から派生したケラチノサイト」(K−hES細胞)と名付けた(図4)。4継代後のFACS分析によりもはやケラチン18は全く見られず、そして極めて均一な細胞集団が見られ、この細胞集団における細胞の95%超がHKのようにケラチン5および14を発現していた(図5)。K−hES細胞とHKとの比較は、類似の表現型を示した。Q−PCRによって評価した遺伝子発現レベルは、ケラチン14、ケラチン5、インテグリンα6およびβ4、コラーゲンVIIおよびラミニン−5をコードするものを含む、基底ケラチノサイトに特徴的な全ての試験した遺伝子について類似していた(図6)。ケラチン5および14の位置は、K−hES細胞の細胞区画において免疫蛍光によって決定され、これはHKにおいて観察されたものと同一であった。予期されたように、Oct4のいくらかの染色およびいくらかの残りのK18染色が観察された。基底上層のより分化したケラチノサイトのマーカーであるケラチン10は存在せず、このことから、基底ケラチノサイトとしてのK−hESCの表現型特徴を確認した。これらの細胞の接着能は、膜におけるインテグリンα6およびβ4の位置、並びに細胞外マトリックスにおけるラミニン−5およびコラーゲンVIIの位置によって示唆された。
【0098】
本条件で得られたK−hES細胞の特徴付けは、細胞が、培養液中のHKに密接に同一であったことを示す。さらに、hES細胞の派生は、同じ遺伝子的バックグラウンドを有する実質的に純粋で均一なケラチノサイト集団を生成する効率的な手段を与える。
【0099】
しかしながら、K−hES細胞は、ヒト成体初代ケラチノサイトの典型的なマーカーに加えて、有意なレベルのケラチン19(限られた毛包間表皮のケラチノサイトおよび毛包のケラチノサイトにしか発現されない、in vivoおよびin vitroにおける皮膚幹細胞マーカー)並びにケラチン3および12(角膜細胞マーカー)を発現していた(図14参照)。
【0100】
in vitroにおいて規定のケラチノサイトに使用される一般的に認められている基準は、細胞培養系におけるそのコロニー形成能である。in vitroにおけるヒトケラチノサイトの成長能を、それらが生成できるコロニー数によって推測することができる(Barrandon Y. et al. 1985)。興味深いことに、K−hES細胞のコロニー形成分析は、コロニー形成能の少なくとも40%の増加を示した(図7)。
【0101】
その生理学的関連性を試験するために、K−hES細胞を、その多層表皮産生能について評価した(図8)。再構成された表皮を、in vitroにおいてK−hES細胞を使用して生成した。気液分化から10日後に、K−hES細胞の器官型培養液の凍結切片組織染色は、重層表皮の再構成を示した(Poumay Y. et al. 2004)。表皮構造は、床状の細胞形状を有する詳細に明らかにされた基底層、並びに、ケラトヒアリン顆粒を含む顆粒層と、死滅扁平脱核細胞の重層として見られる角質層とを含む基底上層から構成されるようであった。K−hES細胞から派生した表皮の正常な形態学的組成はまた、間接的な免疫蛍光染色によって分析したところ、分化マーカーの正規の発現および位置に反映されていた。予期した通り、K14染色は、再構成された表皮の基底区画において観察されたが、他の基底上層においては陰性であった。K10は、K14陽性の単一基底層のすぐ上の、全分化層に存在していた。最後に、ケラチノサイト分化の後期マーカーであるフィラグリンおよびインボルクリンは、専ら、表皮の最上層において検出された。予期した部位における後期マーカーの存在は、本発明者等の器官型K−hES細胞培養液が、分化に向けて生理学的経路を追随したことの指標であった。
【0102】
基底膜帯が、使用した培養条件下で見られるかどうかを評価するために、接着分子の発現を、再構成した皮膚において検査した。これらの細胞の接着能は、基底細胞膜におけるインテグリンα6およびβ4の良好な局在によって確認された。さらに、表皮と真皮との間の接着を可能とする細胞外マトリックスタンパク質であるラミニン−5およびコラーゲンVIIの分泌が観察された。
【0103】
さらに、表皮遺伝子パネルを使用したPCRアレイは、HKおよびK−hES細胞器官型表皮が非常に類似した発現パターンを示すことを明らかにした(図9)。
【0104】
最後の実証として、K−hESCの自己再生上皮生成能を、ストリンジェントなin vivo試験により評価した。成体ヒト線維芽細胞を含むフィブリンマトリックスにK−hESCを播種して、in vitroにおいて集密な表皮層を得た。その後、これらの器官型培養液を、同所移植によって免疫不全nu/nuマウスの背側領域に移植した(Del Rio M. et al. 2002; Larcher F. et al. 2007)。10〜12週間後、5匹中4匹のマウスに由来するK−hESCから派生した表皮は、形態学的に正常な多層構造を示し、これは、正常でネイティブなヒト皮膚のそれと一致していた(図12aおよび図13)。ヒトインボルクリンに対する免疫反応性は、有棘層および顆粒層(二次抗体に起因する真皮バックグラウンド)に適切な位置を示していた(図12b)。この長期のin vivoにおける再生特徴は、K−hESCが表皮幹細胞の機能的能力を有することを明瞭に示す。
【0105】
臨床的応用のために、動物またはヒト生産物を含有しないin vitro培養プロトコールを使用することが必須である。ケラチノサイト前駆体の増殖または最終分化を促進するための理想的な培養培地は、化学的に規定されるべきであり、そして無血清または合成血清リプレースメントのいずれかであるべきである。興味深いことに、本発明者等は、フィーダー層を含まない無血清培地であるKGM2中でK−hES細胞の培養を行なった。KGM2中で成長しているK−hESCの免疫蛍光分析は、ケラチン5、14並びにインテグリンα−6およびβ−4の均一な発現を示した。半合成無血清培地中、およびフィーダー細胞を含むFAD培地中で維持されたK−hES細胞の定量PCR分析は、ケラチン5および14転写物の類似の発現を示した(図10)。
【0106】
本研究の主な結果は、hESCから派生した細胞が、in vitroおよびin vivoにおいて成体ヒトケラチノサイトの全ての形態学的および機能的特性を再現することができるという実証である。これは、外胚葉分化、好ましくは、表皮誘導を刺激できそして栄養膜および中胚葉の誘導を阻害できる長期かつ低濃度のBMP処理に関連した、外胚葉分化を支持する細胞との共培養に基づいたプロトコールを使用して、未分化ES細胞を処理することによって得られた。アスコルビン酸を加えて、他の著者(Bamberger C. et al. 2002)によって使用されたレチノイン酸の非存在下でケラチノサイトの最終分化を刺激した。本発明者等のプロトコールの成功裏の結果はまた、ケラチノサイトが完全に分化するまで処理を連続的に行い、これには40日間の培養を必要としたという事実からも分かる。その段階において、培養液には、成体表皮毛包間ケラチノサイトと限りなく同等であると見なされる細胞が増殖した。これらの細胞は、随意に凍結および解凍しながら、9継代まで維持できるので(図11)、それらは、ヒトケラチノサイトの大量の細胞生産および多層表皮のための実践的な中間ステップを示し得る。
【0107】
K−hESCの免疫原性をFACSによって分析した。成体基底ケラチノサイトとは異なり、K−hESCは、非常に低いレベルのHLA−ABC抗原しか示さず、そしてHLA−DRを全く示さなかった(図15)。K−hESCは、主要組織適合性複合体の抗原をあるとしても僅かしか発現せず、このことは代用皮膚の低い免疫原性を示している。
【0108】
実施例2:iPSからケラチノサイト集団およびヒト代用皮膚を調製するための方法
実施例1に記載したのと同じ分化プロトコールを、ヒト誘導多能性幹細胞(iPS)を用いて行なった。簡潔に述べると、iPSを、5μg/mlのインシュリン、0.5μg/mlのヒドロコルチゾン、10−10Mのコレラ毒素、1.37ng/mlのトリヨードチロニン、24μg/mlのアデニンおよび10ng/mlのリコンビナントヒトEGFの補充された2/3DMEM、1/3HAM:F12および10%ウシ胎児血清(FCII、Hyclone)からなるFAD培地中、マイトマイシンC処理3T3線維芽細胞に播種した。0.5nMのヒトリコンビナントBMP−4(R&D Systems Europe, UK)および0.3mMアスコルビン酸(Sigma)を加えた場合に、外胚葉分化の誘導がなされた。細胞を、上皮細胞のクローンが単離されるまで同じ培地で成長させた。その後、細胞を、BMP4およびアスコルビン酸を含有しないFAD培地中、同じフィーダー層に播種した。対照として、初代ヒトケラチノサイト(HK)を、FAD培地中、マイトマイシンC処理3T3線維芽細胞上で培養した。
【0109】
図16および17に示したように、本発明者らは、単離された実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団は誘導多能性幹細胞(K−iPS)からも派生し得ることを示した。
【0110】
【表1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表皮誘導を刺激する薬剤およびケラチノサイトの最終分化を刺激する薬剤の存在下で、ヒト多能性幹細胞を、外胚葉分化を支持する細胞と一緒に共培養する工程を含む、ヒト多能性幹細胞に由来するヒトケラチノサイト集団を得るためのex vivoにおける方法。
【請求項2】
ヒト多能性幹細胞から派生したヒトケラチノサイト集団を得るためのex vivoにおける方法であって、BMP−4およびアスコルビン酸の補充されたケラチノサイト培養培地の存在下で、フィーダー線維芽細胞層で被膜された細胞培養表面上でヒト多能性幹細胞を培養する工程を含む方法。
【請求項3】
前記ヒト多能性幹細胞が胚幹細胞(hES細胞)またはヒト誘導多能性幹細胞(ヒトiPS細胞)である、請求項1または2記載のex vivoにおける方法。
【請求項4】
アスコルビン酸およびBMP−4を含有しないケラチノサイト培養培地の存在下で、真皮線維芽細胞層で被膜された細胞培養表面上で、ヒト多能性幹細胞から派生したヒトケラチノサイトを培養するさらなる工程を含む請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
請求項4記載の方法によって得ることのできるヒト多能性幹細胞から派生した単離された実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団。
【請求項6】
請求項5のヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団と、場合により薬学的に許容される担体または賦形剤とを含む、医薬組成物。
【請求項7】
皮膚損傷に関連した病態の処置のための、請求項5記載のヒト多能性幹細胞から派生した単離された実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団。
【請求項8】
請求項5記載のヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団の器官型培養液を準備することからなる工程を含む、ヒト代用皮膚を調製するための方法。
【請求項9】
請求項5記載の実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団が、ヒト真皮線維芽細胞の定植された細胞培養マトリックス上に前以って播種されている、請求項8記載の方法。
【請求項10】
請求項8または9記載の方法によって得ることのできるヒト代用皮膚。
【請求項11】
化合物をスクリーニングするための請求項10記載のヒト代用皮膚の使用。
【請求項12】
腫瘍または病理学的起因物質を培養するための請求項10記載のヒト代用皮膚の使用。
【請求項13】
皮膚損傷に関連した病態の処置のための請求項10記載のヒト代用皮膚。
【請求項14】
創傷閉鎖または火傷処置のための請求項10記載のヒト代用皮膚。
【請求項1】
表皮誘導を刺激する薬剤およびケラチノサイトの最終分化を刺激する薬剤の存在下で、ヒト多能性幹細胞を、外胚葉分化を支持する細胞と一緒に共培養する工程を含む、ヒト多能性幹細胞に由来するヒトケラチノサイト集団を得るためのex vivoにおける方法。
【請求項2】
ヒト多能性幹細胞から派生したヒトケラチノサイト集団を得るためのex vivoにおける方法であって、BMP−4およびアスコルビン酸の補充されたケラチノサイト培養培地の存在下で、フィーダー線維芽細胞層で被膜された細胞培養表面上でヒト多能性幹細胞を培養する工程を含む方法。
【請求項3】
前記ヒト多能性幹細胞が胚幹細胞(hES細胞)またはヒト誘導多能性幹細胞(ヒトiPS細胞)である、請求項1または2記載のex vivoにおける方法。
【請求項4】
アスコルビン酸およびBMP−4を含有しないケラチノサイト培養培地の存在下で、真皮線維芽細胞層で被膜された細胞培養表面上で、ヒト多能性幹細胞から派生したヒトケラチノサイトを培養するさらなる工程を含む請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
請求項4記載の方法によって得ることのできるヒト多能性幹細胞から派生した単離された実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団。
【請求項6】
請求項5のヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団と、場合により薬学的に許容される担体または賦形剤とを含む、医薬組成物。
【請求項7】
皮膚損傷に関連した病態の処置のための、請求項5記載のヒト多能性幹細胞から派生した単離された実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団。
【請求項8】
請求項5記載のヒト多能性幹細胞から派生した実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団の器官型培養液を準備することからなる工程を含む、ヒト代用皮膚を調製するための方法。
【請求項9】
請求項5記載の実質的に純粋で均一なヒトケラチノサイト集団が、ヒト真皮線維芽細胞の定植された細胞培養マトリックス上に前以って播種されている、請求項8記載の方法。
【請求項10】
請求項8または9記載の方法によって得ることのできるヒト代用皮膚。
【請求項11】
化合物をスクリーニングするための請求項10記載のヒト代用皮膚の使用。
【請求項12】
腫瘍または病理学的起因物質を培養するための請求項10記載のヒト代用皮膚の使用。
【請求項13】
皮膚損傷に関連した病態の処置のための請求項10記載のヒト代用皮膚。
【請求項14】
創傷閉鎖または火傷処置のための請求項10記載のヒト代用皮膚。
【図4】
【図12】
【図13】
【図17】
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図14】
【図15】
【図16】
【図12】
【図13】
【図17】
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2011−525370(P2011−525370A)
【公表日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515354(P2011−515354)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【国際出願番号】PCT/EP2009/057817
【国際公開番号】WO2009/156398
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(500366598)インセルム(アンスティチュ・ナショナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル) (17)
【氏名又は名称原語表記】INSERM(INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【国際出願番号】PCT/EP2009/057817
【国際公開番号】WO2009/156398
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(500366598)インセルム(アンスティチュ・ナショナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル) (17)
【氏名又は名称原語表記】INSERM(INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE)
【Fターム(参考)】
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