説明

ヒト末梢血微小胞におけるmiRNAの発現およびその使用

【課題】miRの異常な発現と疾患またはその素因との相関を同定することである。
【解決手段】本発明は、微小胞およびその中のmiRを含有するサンプルを検討することによる、障害の診断、予後および治療のための新規方法および組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ヒト末梢血微小胞におけるmiRNAの発現およびその使用に関する。
優先権の主張、および連邦政府による資金提供を受けた研究開発に関する記載
本出願は、2007年9月14日に提出された米国仮特許出願60/993,809号、および2008年5月22日に提出された61/055,178号に対する優先権を主張し、これら文献を本明細書において参照としてすべて援用する。本発明は政府のいかなる援助も受けておらず、したがって政府は本発明における権利を有するものではない。
【背景技術】
【0002】
マイクロRNA(miRNAまたはmiR)は、動物および植物において発現される低分子ノンコーディングRNAである。これらは、細胞の機能、細胞の生存、細胞の活性化、および発生時の細胞の分化を制御する7;8
【0003】
マイクロRNAは、19−25ヌクレオチドのRNAの低分子ノンコーディングファミリーであり、配列特異的な様式でメッセンジャーRNA(mRNA)を標的とし、miRNAおよびそれらの標的との間の相補性の程度に依存して、翻訳の抑制またはmRNAの分解の誘発することにより、遺伝子の発現を制御する (Bartel, D.P. (2004) Cell 116, 281- 297; Ambros, V. (2004) Nature 431, 350-355)。多くのmiRは、遠位の関連する器官の間で配列中に保存されており、これらの分子が本質的な過程にかかわっていることを示唆する。事実miRは、発生時の遺伝子発現の制御(Xu, P., et al. (2003) Curr. Biol. 13, 790-795)、細胞の増殖 (Xu, P., et al. (2003) Curr. Biol. 13, 790-795)、アポトーシス (Cheng, A.M., et al. (2005) Nucl. Acids Res. 33, 1290-1297)、グルコース代謝 (Poy, M.N., et al. (2004) Nature 432, 226-230)、ストレス抵抗性 (Dresios, J., et al. (2005) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102, 1865-1870) 、および癌(Calin, G.A, et al. (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99, 1554-15529; Calin, G.A., et al. (2004) Proc. Natl Acad. ScL USA 101, 11755-11760; He, L., et al (2005) Nature 435, 828-833; およびLu, J., et al (2005) Nature 435:834-838)に関与している。
【0004】
miRが、哺乳類の血球新生に一役を担っているという強力なエビデンスもある。マウスにおいてmiR−181、miR−223、miR−142は、血球新生組織中で差次的に発現され、それらの発現は血球新生および分化系列決定の間に制御を受ける (Chen, C.Z., et al. (2004) Science 303, 83-86)。マウスの血球新生前駆細胞におけるmiR−181の異所的発現は、B細胞内コンパートメントにおける増殖をもたらした(Chen, C.Z., et al. (2004) Science 303, 83-86)。マウス血球新生系細胞における系統的なmiR遺伝子のプロファイリングは、神経組織と比較して血球新生系における異なるmiR発現パターンを明らかにし、細胞分化の間に起こる個々のmiRの発現の変化を同定した(Monticelli, S., et al. (2005) Genome Biology 6, R71)。近年の研究は、CD34臍帯血前駆体細胞のヒト赤血球新生培養において、miR−221およびmiR−222が低レベルに調節されることを同定した(Felli, N., et al. (2005) Proc. Natl. Acad. ScL USA. 102, 18081-18086)。これらのmiRは、腫瘍遺伝子c−Kitを標的とすることが発見された。さらなる機能の研究は、赤血球新生培養におけるこれら2つのmiRの低下が、Kitタンパク質の産生を翻訳レベルで遮断できなくなり、早期赤血球細胞のexpansion(成熟血球の増幅)を導くことを示した (Felli, N., et al. (2005) Proc. Natl. Acad. Sci USA. 102, 18081-18086)。miR群が細胞分化を制御するという仮定と一致して、miR−223は、C/EBPaおよびNFI−Aの関与する制御回路の鍵となるメンバーであり、オールトランスレチノイン酸処理した急性前骨髄球性白血病細胞株において、顆粒球の分化をコントロールすることが発見された(Fazi, F., et al. (2005) Cell 123, 819-831)。
【0005】
B細胞性慢性リンパ性白血病における、2つのmiRの高頻度の欠失および低発現が同定された。この発見が、頭頚部癌、小細胞肺癌、神経膠芽腫、乳癌、慢性リンパ性白血病、およびバーキットリンパ腫における、miRの異常な発現を実証する多数の論文を刺激することとなった9−12。より最近には、炎症とmiR間の関連性がマクロファージにおいて報告されている13
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Bartel, D.P. (2004) Cell 116, 281-297
【非特許文献2】Ambros, V. (2004) Nature 431, 350-355
【非特許文献3】Xu, P., et al. (2003) Curr. Biol. 13, 790-795
【非特許文献4】Cheng, A.M., et al. (2005) Nucl. Acids Res. 33, 1290-1297
【非特許文献5】Poy, M.N., et al. (2004) Nature 432, 226-230
【非特許文献6】Dresios, J., et al. (2005) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102, 1865-1870
【非特許文献7】Calin, G.A, et al. (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99, 1554-15529
【非特許文献8】Calin, G.A., et al. (2004) Proc. Natl Acad. Sci USA 101, 11755-11760
【非特許文献9】He, L., et al (2005) Nature 435, 828-833
【非特許文献10】Lu, J., et al (2005) Nature 435:834-838
【非特許文献11】Chen, C.Z., et al. (2004) Science 303, 83-86
【非特許文献12】Monticelli, S., et al. (2005) Genome Biology 6, R71
【非特許文献13】Felli, N., et al. (2005) Proc. Natl. Acad. ScL USA. 102, 18081-18086
【非特許文献14】Fazi, F., et al. (2005) Cell 123, 819-831
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そのような障害に関する検査を目的として、そのようなマクロファージの存在を確認するための組織サンプルが獲得されている。加えて現在までのところ、血中を循環する微小胞がmiRを含有することを示す報告はなされていない。
【0008】
本発明のさらなる利点、目的、および特色は、以下の記述で部分的に説明することとし、そして当業者には以下の実験で部分的に明らかになり、または本発明を実施することで学ばれることと思う。本発明の目的および利点は、付記した請求項で特に指摘したように理解され、達成されることと思う。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の概要
1つの側面において、微小胞内に存在し、そして/または組織、体液、および/もしくは細胞において具体的なmiRの発現レベルが変化している、具体的なmiRを同定するための方法を提供する。
【0010】
微小胞は細胞間の情報交換を促進する。マクロファージ、血小板、T細胞、および腫瘍を含む多くの細胞は、核酸および/またはタンパク質を含有する小さな微小胞を放出する1−5。微小胞内に含有される因子は、血管新生、細胞の成長、および細胞の分化を制御する1−3
【0011】
もう1つの側面において、特定の障害に罹っている患者の末梢血のような体液中のmiRの存在を決定する。
もう1つの側面において、肺線維症に罹っている患者の肺組織中のmiRの存在を決定する。
【0012】
なおもう1つの側面において、被験者(例えばヒト)の特定の障害を診断または予後診断する方法を本明細書にて提供する。1つの特定の方法に従って、被験者由来検査サンプル中の少なくとも1つのmiR遺伝子産生物のレベルを、コントロールサンプル中の対応するmiR遺伝子産生物のレベルと比較する。コントロールサンプル中の対応するmiR遺伝子産生物のレベルと比較しての、検査サンプル中のmiR遺伝子産生物のレベルの変化(例えば増加、減少)が、被験者が急性炎症性障害を有する、または発症するリスクがあるかのいずれかであることを示す。
【0013】
1つの態様において被験者由来検査サンプル中のmiR遺伝子産生物のレベルは、コントロールのレベルより高い。もう1つの態様において、少なくとも1つのmiR遺伝子産生物は、本明細書に示したようなmiRNAから成る群より選択される。
【0014】
特定の態様において診断または予後診断される障害は、単核食細胞および/またはTHP−1細胞による微小胞放出を引き起こすものである。
特定の態様において診断または予後診断される障害は、炎症反応を引き起こすものである。
【0015】
もう1つの態様において本発明は、被験者(例えばヒト)の癌および/または炎症性障害を治療する方法である。
1つの特定の方法において、表I−VIに見出せる群の1つまたはそれより多くより選択される、少なくとも1つのmiR遺伝子産生物の発現を阻害するための化合物の有効量を、被験者に投与する。
【0016】
1つの態様において、少なくとも1つのmiR遺伝子産生物の発現を阻害するための化合物は、表I−VIに見出せる群の1つまたはそれより多くより選択されるmiR遺伝子産生物の発現を阻害する。
【0017】
本発明はさらに、癌および/または炎症性障害を治療するための医薬組成物を提供する。1つの態様において本発明の医薬組成物は、少なくとも1つのmiR発現阻害化合物、および医薬的に受容可能な担体を包含する。特定の態様において、少なくとも1つのmiR発現阻害化合物は、その発現が正常と比較して疾患患者由来血液中でより高いmiR遺伝子産生物に対して特異的である。
【0018】
なおもう1つの態様において、医薬組成物はさらに少なくとも1つの抗炎症薬を包含する。
1つの態様において本発明は、miR遺伝子産生物の過剰発現と関連する癌、および/またはmiR遺伝子産生物の過剰発現と関連する肺の障害を治療するための、医薬組成物である。そのような医薬組成物は、少なくとも1つのmiR遺伝子産生物の有効量、および医薬的に受容可能な担体を包含し、その場合少なくとも1つのmiR遺伝子産生物が結合して、そのmiR遺伝子産生物の発現を低減させる。もう1つの態様において、少なくとも1つのmiR遺伝子産生物は、そのmiR遺伝子産生物の核酸配列と相補的である核酸配列を包含する。まだもう1つの態様において、少なくとも1つのmiR遺伝子産生物は、miR、またはそのバリアントもしくは生物学的に活性なそのフラグメントである。なおもう1つの態様において、医薬組成物はさらに少なくとも1つの抗癌薬を包含する。
【0019】
本発明の様々な目的および利点は、添付の図を照らし合わせて読むことで、好ましい態様の以下の詳細な記載から当業者には明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、分化がマクロファージからの微小胞の放出を誘導したことを示す。末梢血単球(PBM)は、未処理のまま(淡黒点)とするか、または24時間GM−CSFで処理(黒点)した。細胞を含まない上清を集め、超遠心した。小胞をPBS中に再懸濁し、フローサイトメトリーでサイズについて解析した。解析の前に、2μm標準ビーズを使用してFSSおよびSSCのパラメータを調整した(示していない)。3名の別個のドナーからの代表的なデータを示す。
【図2】図2A−2Cは、微小胞がマクロファージの分化を仲介することを示す。微小胞を、PMA処理したTHP1細胞より集めた後、未分化のTHP1細胞(図2B)または単球(図2C)に加えた。コントロールとして、THP1細胞を未処理のまま残した(図2A)。細胞は毎日写真撮影した。第3日の細胞を示す。
【図3】図3A−3Cは、末梢血微小胞の単離を示す。インフォームドコンセント後、正常なボランティアドナーからの20cc血液から血漿を得た。0.5cc血漿由来の微小胞を、CD206−FITCまたはMHCII−FITC抗体と共にインキュベートし、前方散乱 対 側方散乱を使用してのサイズ(図3A)、および表面抗原発現(図3B)について、BD FACS Caliburで解析した。同位体のコントロールと比較してのCD206またはMHC IIのいずれかの発現のパーセントを、図3Aに示したゲート領域に関して決定した(図3C)。2人のドナーの平均±SEMを示す。
【図4】末梢血微小胞の由来の解析。図4は、健常なドナー(n=10)由来の末梢血微小胞をフローサイトメトリーにより解析した。細胞の由来を決定するため、微小胞を、CD3、CD202b(Tie−2)、CD66b、CD79a、またはCD41aについて染色し、T細胞、内皮細胞、好中球、B細胞、または血小板に由来するものを決定した。単核食細胞由来の微小胞は、CD14、CD206、CCR3、CCR2、またはCCR5に対してポジティブとした。ゲートされた全イベントの最大値の%の平均±S.E.Mを示す。
【図5A】末梢血微小胞およびPBMCからのmiRNAの発現。(図5A)微小胞およびPBMCに関する階層的クラスター解析を、フィルタリング基準に基づいて示す。
【図5B】末梢血微小胞およびPBMCからのmiRNAの発現。微小胞(図5B)に関する発現プロファイルを示すヒートマップを作製した。
【図5C】末梢血微小胞およびPBMCからのmiRNAの発現。PBMC(図5C)に関する発現プロファイルを示すヒートマップを作製した。
【図5D】末梢血微小胞およびPBMCからのmiRNAの発現。(図5D)各サンプル群で共有する数、および各サンプル群に特異的な数を示す。
【図6】図6:表1は、様々な疾患、ならびにそれらに関連してアップレギュレートおよびダウンレギュレートされたmiRを示す。癌および癌以外の適用を含む、ヒトの疾患の組織内において重要であるマイクロRNAを列記する。我々のデータセット(図7、表II)からは血漿中に検出されないmiRNAを、特定の疾患の組織内で増加することが知られているmiRNAと比較して、発見者らは、数種のmiRNAが血漿中のバイオマーカーとして役立ててよいことを予測することを今回確信する(図6、表1の増加した発現の列の太字のmiRを参照のこと)。
【図7−1】図7−1:表IIは、血漿中で発現されたmiR、および検出されなかったmiRを示す。
【図7−2】図7−2:表II(続き)は、血漿中で発現されたmiR、および検出されなかったmiRを示す。
【図7−3】図7−3:表II(続き)は、血漿中で発現されたmiR、および検出されなかったmiRを示す。
【図8】図8:表IIIはmiRを列記し、すべての個体からの血漿微小胞およびPBMCにおける最も高発現の10のmiRNAを示す。
【図9】図9:表IVは、Sanger miRBase単独(上)、またはSanger miRBaseおよびTargetScanからの共通の標的(下)を使用すると、獲得免疫系の代謝および制御に関与する基準経路が、これらのmiRNAの発現により大きく制御されることを示す。
【図10−1】図10−1:表Vは、PBMC分画中では20のmiRNAが、微小胞血漿サンプルと比較して3倍の発現増加を有したこと、同様にPBMCと比較しての血漿小胞における倍数変化(最後の列)を示す。
【図10−2】図10−2:表V(続き)は、PBMC分画中では20のmiRNAが、微小胞血漿サンプルと比較して3倍の発現増加を有したこと、同様にPBMCと比較しての血漿小胞における倍数変化(最後の列)を示す。
【図11−1】図11−1:表VIは、検出されたすべてのmiRに関する正規化した発現データ:ディテクターの名称、平均−MNC、標準偏差−MNC、ディテクターの名称、平均−血清、標準偏差−血清を示す。
【図11−2】図11−2(続き):表VIは、検出されたすべてのmiRに関する正規化した発現データ:ディテクターの名称、平均−MNC、標準偏差−MNC、ディテクターの名称、平均−血清、標準偏差−血清を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は部分的には、炎症反応に関与し、そして/または血中で発現レベルが変化している具体的なマイクロRNA(miRNA)の同定に基づく。本発明はさらに部分的には、特定の診断、予後診断、および治療の特徴と、これらのmiRNAとの関連性に基づく。
【0022】
本明細書において説明して実例を挙げたように、特定のmiRNAは、組織の障害時および/または炎症時にアップレギュレートまたはダウンレギュレートされる。
本明細書において互換的に使用される場合、“miR遺伝子産生物”、“マイクロRNA”、“miR”、“miR(斜体)”、または“miRNA”は、プロセシングされていないまたはプロセシングされたmiR遺伝子からのRNA転写物をいう。miR遺伝子産生物はタンパク質に翻訳されないため、“miR遺伝子産生物”という用語はタンパク質を含まない。プロセシングされていないmiR遺伝子転写物はまた、“miR前駆体”とも呼ばれ、典型的には約70−100ヌクレオチド長のRNA転写物を包含する。miR前駆体は、リボヌクレアーゼ(例えばダイサー、アルゴノート、RNAseIII(例えば大腸菌RNAse III))により活性な19−25ヌクレオチドRNA分子に消化されることにより、プロセシングされ得る。この活性な19−25ヌクレオチドRNA分子はまた、“プロセシングされた”miR遺伝子転写物、または“成熟”miRNAとも呼ばれる。
【0023】
活性な19−25ヌクレオチドRNA分子は、天然のプロセシング経路(例えばインタクトな細胞もしくは細胞可溶化液を使用して)を通して、または合成のプロセシング経路(例えば単離されたプロセシング酵素、例えば単離されたダイサー、アルゴノート、RNAseIIIを使用して)により、miR前駆体から得ることができる。活性な19−25ヌクレオチドRNA分子はまた、miR前駆体からプロセシングするのではなく、生物学的または化学的合成により直接合成することもできる。マイクロRNAを本明細書においてこの名称でいう場合、別に指摘していない限り、その名称は前駆体および成熟型の双方に対応する。
【0024】
本発明は、被験者が、微小胞が放出される障害を有するか、または発症するリスクがあるかどうかを診断または予後診断する方法を包括的に含む。
当該方法は、被験者由来サンプル中の少なくとも1つのmiR遺伝子産生物のレベルを決定し、そしてサンプル中のmiR遺伝子産生物のレベルをコントロールと比較することを包含する。本明細書において使用する場合、“被験者”は、そのような障害を有する、または有すると疑われるあらゆる哺乳類であることができる。好ましい態様において、被験者は、そのような障害を有する、または有すると疑われるヒトである。
【0025】
少なくとも1つのmiR遺伝子産生物のレベルは、被験者から得た生体サンプルの細胞において測定することができる。
もう1つの態様において、サンプルは被験者から採取することができ、そしてDNAは標準的な技術により抽出および単離することができる。例えばある種の態様において、サンプルは、放射線療法、化学療法、またはその他の治療処置の開始前に、被験者から入手することができる。対応するコントロールサンプル、またはコントロールリファレンスサンプル(例えばコントロールサンプルの母集団から得たもの)は、被験者の障害を受けていないサンプルから、正常なヒト個体もしくは正常な個体集団から、または被験者のサンプル中の大半の細胞に対応する培養細胞から得ることができる。その後、コントロールサンプルは被験者由来サンプルと共に処理することができ、その結果被験者のサンプル由来細胞中の所定のmiR遺伝子から産生されるmiR遺伝子産生物のレベルを、コントロールサンプルの細胞由来の対応するmiR遺伝子産生物のレベルと比較することができる。あるいはリファレンスサンプルを、検査サンプルとは別に(例えば別の時に)入手して処理することもでき、検査サンプル由来細胞中の所定のmiR遺伝子から産生されるmiR遺伝子産生物のレベルを、リファレンスサンプル由来の対応するmiR遺伝子産生物のレベルと比較することができる。
【0026】
1つの態様において、検査サンプル中の少なくとも1つのmiR遺伝子産生物のレベルは、コントロールサンプル中の対応するmiR遺伝子産生物のレベルより高い(すなわちmiR遺伝子産生物の発現は“アップレギュレート”されている)。本明細書において使用する場合、被験者由来サンプル中のmiR遺伝子産生物の量が、コントロール(例えばリファレンススタンダード、コントロール細胞サンプル、コントロール組織サンプル)中の前記遺伝子産生物の量より多い場合、miR遺伝子産生物の発現は“アップレギュレート”されている。
【0027】
もう1つの態様において、検査サンプル中の少なくとも1つのmiR遺伝子産生物のレベルは、コントロールサンプル中の対応するmiR遺伝子産生物のレベルより低い(すなわちmiR遺伝子産生物の発現は“ダウンレギュレート”されている)。本明細書において使用する場合、被験者由来サンプル中のその遺伝子から産生されるmiR遺伝子産生物の量が、コントロールサンプル中の前記遺伝子から産生される量より少ない場合、miR遺伝子産生物の発現は“ダウンレギュレート”されている。コントロールおよび正常なサンプル中の相対的なmiR遺伝子の発現は、1つまたはそれより多くのRNA発現スタンダードに関して決定することができる。スタンダードは、例えばmiR遺伝子のゼロレベルの発現、スタンダードの細胞株におけるmiR遺伝子の発現レベル、被験者の障害を受けていないサンプル中のmiR遺伝子発現レベル、または正常なヒトコントロールの集団に関する先に得たmiR遺伝子発現の平均レベル(例えばコントロールリファレンススタンダード)を包含することができる。
【0028】
少なくとも1つのmiR遺伝子産生物のレベルは、当業者に周知されている多様な技術(定量的または半定量的RT−PCR、ノーザンブロット解析、液相ハイブリダイゼーション法)を使用して測定することができる。特定の態様において、少なくとも1つのmiR遺伝子産生物のレベルは、被験者から得た検査サンプル由来のRNAを逆転写して、ひと組の標的オリゴデオキシヌクレオチドを提供し、その標的オリゴデオキシヌクレオチドを1つまたはそれより多くのmiRNA特異的なプローブオリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせて(例えばmiRNA特異的なプローブオリゴヌクレオチドを包含するマイクロアレイ)、検査サンプルに関するハイブリダイゼーションプロファイルを提供し、そして検査サンプルのハイブリダイゼーションプロファイルを、コントロールサンプルから作成したハイブリダイゼーションプロファイルと比較することにより測定する。コントロールサンプルと比較しての検査サンプル中の少なくとも1つのmiRNAのシグナルの変化が、被験者が特定の障害を有する、またはそのリスクがあることを示す。
【0029】
またマイクロアレイは、公知のmiRNA配列から作成された遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプローブから調製することができる。アレイは、各miRNAに対して2つの異なるオリゴヌクレオチドプローブを含有してよく、一方は活性な成熟した配列を含有し、そして他方はmiRNAの前駆体に対して特異的なものとする。このアレイはまた、ハイブリダイゼーションのストリンジェントな条件のためのコントロールとして役立てることができるコントロール、例えばわずか数塩基しかヒトのオルソログと異ならない1つまたはそれより多くのマウスの配列を含有してよい。双方の種由来のtRNAおよびその他のRNA(例えばrRNA、mRNA)もまた、マイクロチップ上にプリントし、特異的なハイブリダイゼーションのための内部基準の、比較的安定なポジティブコントロールを提供してよい。非特異的なハイブリダイゼーションに関する1つまたはそれより多くの適当なコントロールもまた、マイクロチップ上に含めてよい。この目的に関しては配列は、いかなる公知のmiRNAといかなる相同性もないことに基づいて選択する。
【0030】
マイクロアレイは、当該技術分野に公知の技術を使用して製作してよい。例えば適当な長さ、例えば40ヌクレオチドのプローブオリゴヌクレオチドは、C6位で修飾された5’−アミンとし、市販の利用可能なマイクロアレイシステム、例えばthe GeneMachine OmniGrid(登録商標)100 Microarrayer およびAmersham CodeLink(登録商標)活性化スライドを使用してプリントする。標的RNAに対応する標識cDNAオリゴマーは、標識プライマーによる標的RNAの逆転写により調製する。最初の二本鎖の合成に続いて、RNA/DNAハイブリッドを変性させ、RNAの鋳型を分解する。その後このように調製した標識した標的cDNAを、ハイブリダイゼーションの条件下でマイクロアレイチップにハイブリダイズさせる、例えば6X SSPE/30%ホルムアミド、25℃、18時間、続いて0.75X TNT中、37℃で40分間洗浄する。固定化したプローブDNAがサンプル中の相補的な標的cDNAを認識するアレイ上の位置で、ハイブリダイゼーションが起こる。標識した標的cDNAは、結合が起こるアレイ上の正確な位置を指し示し、自動的な検出および定量を可能にする。結果はハイブリダイゼーションのイベントのリストから成り、特異的なcDNA配列が比較的多量にあること、そしてそれ故患者サンプル中に対応する相補的miRが比較的多量にあることを示す。1つの態様に従って標識cDNAオリゴマーは、ビオチン標識プライマーより調製されたビオチン標識cDNAである。次に、例えばStreptavidin-Alexa64複合体を使用してのビオチン含有転写物の直接的な検出によりマイクロアレイを処理し、従来のスキャン法を利用してスキャンする。アレイ上の各スポットの画像強度は、患者サンプル中の対応するmiRの量と比例する。
【0031】
アレイの使用は、miRNAの発現検出に関していくつかの利点を有する。第一に、数百の遺伝子の網羅的な発現を同一サンプル中で一度に同定することができる。第二に、オリゴヌクレオチドプローブの注意深いデザインを通して、成熟した分子と前駆体分子の双方の発現を同定することができる。第三に、ノーザンブロット解析と比較して、チップは少量のRNAを必要するため、2.5μgの総RNAを使用して再現性ある結果を提供する。比較的限定された数のmiRNA(一種あたり数百)であることが、各種に関する個別のオリゴヌクレオチドプローブを用いて、いくつかの種に関する共通のマイクロアレイの作成を可能にする。そのようなツールは、様々な条件下での公知の各miRに関する種横断的な発現の解析を可能にする。
【0032】
具体的なmiRの定量的発現レベルのアッセイのための使用に加えて、miRNomeの実質的な部分、好ましくはmiRNome全体に対応する、miRNA特異的なプローブオリゴヌクレオチドを含有するマイクロチップを利用して、miR発現パターンの解析のためのmiR遺伝子発現プロファイリングを実行してもよい。個別のmiRシグネチャは、確立された疾患のマーカーに、または直接疾患の状態に関連させることができる。
【0033】
本明細書に記載した発現プロファイリング法に従って、特定の障害を有すると疑われる被験者由来サンプルからの総RNAを、定量的に逆転写して、サンプル中のRNAに相補的なひと組の標識した標的オリゴデオキシヌクレオチドを提供する。次に標的オリゴデオキシヌクレオチドを、miRNA特異的プローブオリゴヌクレオチドを包含するマイクロアレイにハイブリダイズさせて、サンプルに関するハイブリダイゼーションプロファイルを提供する。この結果は、サンプル中のmiRNAの発現パターンを表す、サンプルに関するハイブリダイゼーションプロファイルである。このハイブリダイゼーションプロファイルは、マイクロアレイ中のmiRNA特異的プローブオリゴヌクレオチドへの、サンプル由来標的オリゴデオキシヌクレオチドの結合からのシグナルを包含する。プロファイルは、結合の有無(シグナル 対 ゼロシグナル)として記録してよい。より好ましくは記録されるプロファイルは、各ハイブリダイゼーションからのシグナルの強度を含む。このプロファイルを、正常なコントロールサンプルまたはリファレンスサンプルから作成されたハイブリダイゼーションプロファイルと比較する。シグナルの変化が、被験者における特定の障害の存在、または発症する傾向を示す。
【0034】
miR遺伝子の発現を測定する他の技術もまた、当該分野の技術の範囲内であり、RNAの転写および分解の速度を測定するための様々な技術を含む。
本発明はまた、被験者が有害な予後を伴う特定の障害を有するか、または発症するリスクがあるかどうかを診断する方法を提供する。本方法において、特定の障害の有害な予後と関連する少なくとも1つのmiR遺伝子産生物のレベルは、被験者から得た検査サンプル由来のRNAを逆転写して、ひと組の標的オリゴデオキシヌクレオチドを提供することにより測定する。次にこの標的オリゴデオキシヌクレオチドを、1つまたはそれより多くのmiRNA−特異的プローブオリゴヌクレオチド(例えばmiRNA−特異的プローブオリゴヌクレオチドを包含するマイクロアレイ)とハイブリダイズさせて、検査サンプルに関するハイブリダイゼーションプロファイルを提供し、そして検査サンプルハイブリダイゼーションプロファイルを、コントロールサンプルから作成されたハイブリダイゼーションプロファイルと比較する。コントロールサンプルと相対しての検査サンプル中の少なくとも1つのmiRNAのシグナルの変化が、被験者が有害な予後を伴う特定の障害を有する、または発症するリスクがあることを示す。
【0035】
症例によっては、サンプル中の複数の異なるmiR遺伝子産生物の発現レベルを同時に決定することが望ましいこともある。他の症例では、特定の障害に相関するすべての公知のmiR遺伝子の転写物の発現レベルを決定することが望ましいこともある。数百ものmiR遺伝子または遺伝子産生物に関する具体的な発現レベルを評価することは、時間もかかり、多量の総RNA(各ノーザンブロットに関しては少なくとも20μg)を必要とし、自動放射線撮影技術は放射性同位体を必要とする。
【0036】
これらの制限を克服するため、ひと組のmiR遺伝子に対して特異的であるひと組のオリゴヌクレオチド(例えばオリゴデオキシヌクレオチド)プローブを含有する、マイクロチップフォーマット(すなわちマイクロアレイ)上のオリゴライブラリーを構成してよい。そのようなマイクロアレイを使用して、生体サンプル中の多数のマイクロRNAの発現レベルを、RNAを逆転写してひと組の標的オリゴデオキシヌクレオチドを作成し、そしてそれらをマイクロアレイ上のプローブオリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせて、ハイブリダイゼーション、または発現プロファイルを作成することにより、決定することができる。次に検査サンプルのハイブリダイゼーションプロファイルを、コントロールサンプルのそれと比較して、どのマイクロRNAが変化した発現レベルを有するかを決定することができる。本明細書において使用する場合、“プローブオリゴヌクレオチド”または“プローブオリゴデオキシヌクレオチド”は、標的オリゴヌクレオチドとハイブリダイズする能力のあるオリゴヌクレオチドをいう。“標的オリゴヌクレオチド”または“標的オリゴデオキシヌクレオチド”は、検出される分子(例えばハイブリダイゼーションを介して)をいう。“miR特異的プローブオリゴヌクレオチド”または“miRに対して特異的なプローブオリゴヌクレオチド”により、特異的なmiR遺伝子産生物と、または特異的なmiR遺伝子産生物の逆転写物とハイブリダイズするように選択された配列を有する、プローブオリゴヌクレオチドを意味する。
【0037】
特定のサンプルの“発現プロファイル”または“ハイブリダイゼーションプロファイル”は、本質的にサンプルの状態のフィンガープリントである;2つの状態で、どれか特定の遺伝子の発現が類似していてもよく、いくつかの遺伝子を同時に評価することで、その細胞の状態に独特である遺伝子発現プロファイルの作成が可能になる。すなわち、正常なサンプルは、対応する障害提示サンプルとは識別されてよい。そのような障害提示サンプルの内で、異なる診断の状態(例えば良好なまたは悪い長期生存の見通し)が決定されてもよい。異なる状態にある障害提示サンプルの発現プロファイルを比較することにより、これら状態の各々においてどの遺伝子が重要であるか(遺伝子のアップレギュレーションおよびダウンレギュレーション双方を含む)に関する情報が得られる。
【0038】
障害提示サンプル内で異なって発現された配列の同定、ならびに異なる予後の結果に至る異なる発現は、いくつかのやり方でのこの情報の使用することが可能になる。例えば特定の治療計画を(例えば特定の被験者における長期的予後を改善するように化学療法薬が作用するかどうかを決定するために)評価してよい。同様に、被験者由来サンプルを公知の発現プロファイルと比較することにより、診断を行う、または確立してよい。さらにこれらの遺伝子発現プロファイル(または個々の遺伝子)は、特定の障害の発現プロファイルを抑制する、または悪い予後のプロファイルをより良好なプロファイルに変換する薬剤候補物質のスクリーニングを可能にする。
【0039】
細胞内の1つまたはそれより多くのmiR遺伝子産生物のレベルの変化は、結果的にこれらmiRに関する1つまたはそれより多くの意図された標的の制御を解除してしまう可能性があり、そのことが特定の障害を導き得る。それ故、miR遺伝子産生物のレベルを(例えば障害提示細胞内でアップレギュレートされているmiRのレベルを減少させることにより、障害提示細胞内でダウンレギュレートされているmiRのレベルを増加させることにより)変化させることで、障害を治療することができるものと思われる。
【0040】
したがって本発明は、被験者の障害を治療する方法を包括的に含み、その場合被験者の細胞において少なくとも1つのmiR遺伝子産生物は制御が解除されている(例えばダウンレギュレート、アップレギュレートされている)。1つの態様において、検査サンプル中の少なくとも1つのmiR遺伝子産生物のレベルが、コントロールサンプルまたはリファレンスサンプル中の対応するmiR遺伝子産生物のレベルより高い。もう1つの態様において、検査サンプル中の少なくとも1つのmiR遺伝子産生物のレベルが、コントロールサンプル中の対応するmiR遺伝子産生物のレベルより低い。少なくとも1つの単離されたmiR遺伝子産生物が検査サンプル中でダウンレギュレートされている場合、当該方法は、少なくとも1つの単離されたmiR遺伝子産生物、または単離されたそのバリアントもしくは生物学的に活性なそのフラグメントの有効量を投与し、そうして被験者体内の障害提示細胞の増殖を阻害することを包含する。
【0041】
例えば、あるmiR遺伝子産生物が被験者の癌細胞内でダウンレギュレートされている場合、有効量の単離されたmiR遺伝子産生物を被験者に投与することで、癌細胞の増殖を阻害することができる。被験者に投与する単離されたmiR遺伝子産生物は、癌細胞内でダウンレギュレートされている内在する野生型miR遺伝子産生物と同一であることができ、またはそのバリアントもしくは生物学的に活性なそのフラグメントであることもできる。
【0042】
本明細書において定義する場合、miR遺伝子産生物の“バリアント”は、対応する野生型miR遺伝子産生物と100%より少ない同一性を有するが、対応する野生型miR遺伝子産生物の1つまたはそれより多くの生物的活性を保有するmiRNAをいう。そのような生物的活性の例として、標的RNA分子の発現の阻害(例えば標的RNA分子の翻訳を阻害する、標的RNA分子の安定性を調節する、標的RNA分子のプロセシングを阻害する)、ならびに癌および/または骨髄増殖性障害と関連する細胞の過程(例えば細胞の分化、細胞の成長、細胞死)の阻害を含むが、これに限定されない。これらのバリアントには、miR遺伝子における種のバリアント、および1つまたはそれより多くの変異(例えば置換、欠失、挿入)の結果であるバリアントを含む。ある種の態様においてバリアントは、対応する野生型miR遺伝子産生物と少なくとも約70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%同一である。
【0043】
本明細書において定義する場合、miR遺伝子産生物の“生物学的に活性なフラグメント”は、対応する野生型miR遺伝子産生物の1つまたはそれより多くの生物学的活性を保有する、miR遺伝子産生物のRNAフラグメントをいう。上に記載したように、そのような生物学的活性の例として、標的RNA分子の発現の阻害、ならびに癌および/または骨髄増殖性障害と関連する細胞の過程の阻害を含むが、これに限定されない。ある種の態様において生物学的に活性なフラグメントは、少なくとも約5、7、10、12、15または17ヌクレオチド長である。特定の態様において、単離されたmiR遺伝子産生物は、1つまたはそれより多くの付加的な抗癌治療と組み合わせて被験者に投与することができる。適切な抗癌治療には、化学療法、放射線療法、およびそれらの組み合せ(例えば放射線化学療法)を含むが、これに限定されない。
【0044】
癌細胞内で少なくとも1つの単離されたmiR遺伝子産生物がアップレギュレートされている場合、当該方法は、少なくとも1つのmiR遺伝子産生物の発現を阻害し、そうして障害提示細胞の増殖を阻害する化合物の有効量を、被験者に投与することを包含する。そのような化合物は、本明細書においてmiR遺伝子発現阻害化合物という。適切なmiR遺伝子発現阻害化合物の例として、本明細書に記載したもの(例えば二本鎖RNA、アンチセンス核酸、および酵素としてのRNA分子)を含むが、これに限定されない。
【0045】
特定の態様において、miR遺伝子発現阻害化合物は、1つまたはそれより多くの抗癌治療と併用して被験者に投与することができる。適切な抗癌治療には、化学療法、放射線療法、およびそれらの組み合せ(例えば放射線化学療法)を含むが、これに限定されない。
【0046】
本明細書に記載したように、少なくとも1つの単離されたmiR遺伝子産生物が癌細胞内でアップレギュレートされている場合、当該方法は、少なくとも1つのmiR遺伝子産生物の発現を阻害する少なくとも1つの化合物の有効量を被験者に投与し、そうして癌細胞の増殖を阻害することを包含する。
【0047】
“治療する”、“治療すること”、“治療”という用語は、本明細書において使用する場合、疾患の症状の開始を妨げるもしくは遅らせる、および/または疾患、障害もしくは状態の症状の重症度もしくは頻度を軽減することを含む、疾患または状態、例えば癌および/またはその他の状態または障害に関連する症状を寛解させることをいう。“被験者”、“患者”および“個体”という用語は、本明細書において、動物、例えば哺乳類(霊長類、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ウサギ、モルモット、ラット、マウス、またはその他のウシ、ヒツジ、ウマ、イヌ、ネコ、げっ歯類、もしくはネズミの種を含むがこれに限定されない)を含むものと定義する。好ましい態様において動物はヒトである。
【0048】
本明細書において使用する場合、“単離された”miR遺伝子産生物は、合成されたもの、またはヒトの介入により天然の状態から変化させたもしくは取り出されたものである。例えば、合成miR遺伝子産生物、またはその天然の状態の共存する材料から部分的にもしくは完全に分離されたmiR遺伝子産生物は、“単離された”とみなされる。単離されたmiR遺伝子産生物は、実質的に精製された形で存在することができ、またはmiR遺伝子産生物が送達された細胞内に存在することができる。したがって送達可能なように送達された、または細胞内で発現されたmiR遺伝子産生物は、“単離された”miR遺伝子産生物とみなされる。miR前駆体分子から細胞内部で産生されるmiR遺伝子産生物もまた、“単離された”分子であるとみなされる。本発明に従って、本明細書に記載した単離されたmiR遺伝子産生物を、被験者(例えばヒト)を治療するための医薬剤の製造のために使用することができる。
【0049】
単離されたmiR遺伝子産生物は、いくつかの標準的な技術を使用して得ることができる。例えばmiR遺伝子産生物は、当該技術分野で公知の方法を使用して化学的に合成する、またはリコンビナントにより産生させることができる。1つの態様においてmiR遺伝子産生物は、適当に保護されたリボヌクレオシドホスホラミダイト、および従来のDNA/RNAシンセサイザーを使用して化学的に合成する。合成RNA分子または合成試薬の市販供給元として、例えばProligo (Hamburg, Germany), Dharmacon Research (Lafayette, CO, U.S.A.), Pierce Chemical (Perbio Scienceの一部, Rockford, IL, U.S.A.), Glen Research (Sterling, VA, U.S.A.), ChemGenes (Ashland, MA, U.S.A.) およびCruachem (Glasgow, UK)を含む。
【0050】
あるいはmiR遺伝子産生物は、いずれかの適切なプロモーターを使用して、リコンビナントの環状または直鎖DNAプラスミドから発現させることができる。プラスミドからRNAを発現するための適切なプロモーターとして、例えばU6もしくはHl RNA pol IIIプロモーター配列、またはサイトメガロウイルスプロモーターを含む。その他の適切なプロモーターの選択も当該分野の技術の範囲内である。本発明のリコンビナントプラスミドはまた、細胞(例えば癌細胞、骨髄増殖性障害を提示する細胞)におけるmiR遺伝子産生物の発現のための、誘導性プロモーターまたは制御可能なプロモーターを包含することができる。
【0051】
リコンビナントプラスミドから発現させたmiR遺伝子産生物は、標準的な技術により培養細胞発現系から単離することができる。リコンビナントプラスミドから発現させたmiR遺伝子産生物はまた、細胞内に送達し、細胞内で直接発現させることができる。
【0052】
miR遺伝子産生物は、別々のリコンビナントプラスミドから発現させることができ、または同一のリコンビナントプラスミドから発現させることもできる。1つの態様においてmiR遺伝子産生物は、ただ1つのプラスミドからRNA前駆体分子として発現させ、そして癌細胞内に現存するプロセシングシステムを含むがこれに限定されない適切なプロセシングシステムにより、前駆体分子を機能的なmiR遺伝子産生物にプロセシングする。
【0053】
miR遺伝子産生物を発現するための適切なプラスミドの選択、核酸配列をプラスミド内に挿入して遺伝子産生物を発現させる方法、およびリコンビナントプラスミドを対象の細胞に送達する方法は、当該分野の技術の範囲内である。例えばZeng et al. (2002), Molecular Cell 9:1327-1333; Tuschl (2002), Nat. Biotechnol, 20:446-448; Brummelkamp et al. (2002), Science 296:550-553; Miyagishi et al. (2002), Nat. Biotechnol. 20:497-500; Paddison et al (2002), Genes Dev. 16:948-958; Lee et al. (2002), Nat. Biotechnol. 20:500-505;および Paul et al. (2002), Nat. Biotechnol. 20:505-508を参照のこと。これら文献の全開示内容を本明細書において参照として援用する。例えばある種の態様において、miR遺伝子産生物を発現するプラスミドは、CMV即時−早期プロモーターのコントロール下でmiR前駆体RNAをコードする配列を包含することができる。本明細書において使用する場合、プロモーターの“コントロール下”は、miR遺伝子産生物をコードする核酸配列がプロモーターの3’に位置し、その結果プロモーターがmiR遺伝子産生物をコードする配列の転写を開始することができることを意味する。
【0054】
miR遺伝子産生物はまた、リコンビナントウイルスベクターから発現させることができる。miR遺伝子産生物は、2つの別々のリコンビナントウイルスベクターから、または同一のウイルスベクターから産生させることができると考えられる。リコンビナントウイルスベクターから発現させたRNAは、標準的な技術により培養細胞発現系から単離するか、または細胞(例えば癌細胞、骨髄増殖性障害を提示する細胞)内で直接発現させるかのいずれかとすることができる。
【0055】
本発明の治療法のその他の態様において、miRの発現を阻害する少なくとも1つの化合物の有効量を、被験者に投与することができる。本明細書において使用する場合、“miRの発現を阻害すること”は、治療後にmiR遺伝子産生物の前駆体および/または活性な成熟した形の産生が、治療前に産生された量より少ないことを意味する。当業者は、例えば本明細書で考察したmiR転写物のレベルを決定するための技術を使用して、miRの発現が細胞内で阻害されているかどうかを容易に決定することができる。阻害は、遺伝子の発現レベルで(すなわちmiR遺伝子産生物をコードするmiR遺伝子の転写を阻害することにより)、またはプロセシングのレベルで(例えば成熟した活性なmiRへのmiR前駆体のプロセシングを阻害することにより)起こることができる。
【0056】
本明細書において使用する場合、miRの発現を阻害する化合物の“有効量”は、癌および/または骨髄増殖性障害に罹っている被験者における細胞の増殖を阻害するための十分量である。当業者は、所定の被験者に投与するmiR発現阻害化合物の有効量を、因子、例えば被験者のサイズおよび体重;疾患の浸透の程度;被験者の年齢、健康状態および性別;投与経路;ならびに投与が局所的または全身性であるかどうかを考慮することにより、容易に決定することができる。
【0057】
当業者はまた、miRの発現を阻害する化合物を所定の被験者に投与するための適当な投与計画を、本明細書に記載したように容易に決定することができる。miR遺伝子の発現を阻害するための適切な化合物として、二本鎖RNA(例えば低分子干渉RNAまたは“siRNA”)、アンチセンス核酸、および酵素としてのRNA分子、例えばリボザイムを含む。これらの化合物は各々、所定のmiR遺伝子産生物を標的とし、標的miR遺伝子産生物の発現を(例えば翻訳を阻害することにより、開裂および/または分解を誘導することにより)妨害することができる。
【0058】
例えば所定のmiR遺伝子の発現は、miR遺伝子産生物の少なくとも一部分との、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列相同性を有する、単離された二本鎖RNA(“dsRNA”)を用いて、miR遺伝子のRNA干渉を誘導することにより阻害することができる。特定の態様において、dsRNA分子は“低分子干渉RNA”または“siRNA”である。
【0059】
少なくとも1つのmiR遺伝子産生物の投与、またはmiR発現を阻害するための少なくとも1つの化合物の投与は、癌および/または骨髄増殖性障害を有する被験者における、細胞(例えば癌細胞、骨髄増殖性障害を提示する細胞)の増殖を阻害することになる。本明細書において使用する場合、“癌細胞、または骨髄増殖性障害を提示する細胞の増殖を阻害する”ことは、細胞を死滅させる、または細胞の成長を永久にもしくは一時的に抑止もしくは遅延させることを意味する。被験者の体内のそのような細胞の数が、miR遺伝子産生物もしくはmiR遺伝子発現阻害化合物の投与後に一定であるか、または減少している場合、細胞増殖の阻害を推測することができる。癌細胞または骨髄増殖性障害を提示する細胞の増殖の阻害はまた、そのような細胞の絶対数は増加していても、腫瘍の成長速度が減少している場合にも、推測することができる。
【0060】
miR遺伝子産生物またはmiR遺伝子発現阻害化合物はまた、あらゆる適切な経腸的または非経口の投与経路により被験者に投与することができる。本方法のための適切な経腸投与経路には、例えば経口、経直腸、または経鼻による送達を含む。適切な非経口経路には、例えば血管内投与(例えば静脈内ボーラス注射、静脈内点滴、動脈内ボーラス注射、動脈内点滴、および血管内へのカテーテル滴下注入);組織周囲および組織内への注射(例えば腫瘍周囲および腫瘍内への注射、網膜内注射、または網膜下注射);皮下注入(例えば浸透圧ポンプによる)を含む皮下注射または皮下設置(deposition);例えばカテーテルまたはその他の設置デバイス(例えば網膜ペレット、または座剤、または多孔質、非多孔質、もしくはゼラチンの材料を包含するインプラント)による対象組織への直接投与、;および吸入、を含む。特に適切な投与経路は、注射、注入、および腫瘍内への直接注射である。
【0061】
miR遺伝子産生物またはmiR遺伝子発現阻害化合物は、それらを被験者に投与する前に、当該分野の公知の技術に従って、時には“医薬剤”と呼ばれる医薬組成物として製剤化することができる。したがって本発明は、癌および/または骨髄増殖性障害を治療するための医薬組成物を包括的に含む。
【0062】
本医薬組成物は、少なくとも1つのmiR遺伝子産生物またはmiR遺伝子発現阻害化合物(またはmiR遺伝子産生物もしくはmiR遺伝子発現阻害化合物をコードする配列を包含する少なくとも1つの核酸)(例えば0.1から90重量%)、または生理学的に受容可能なその塩を、医薬的に受容可能な担体と混合して包含する。ある種の態様において本発明の医薬組成物は、付加的に1つまたはそれより多くの抗癌薬(例えば化学療法薬)を包含する。本発明の医薬製剤はまた、リポソームおよび医薬的に受容可能な担体によりカプセル化された、少なくとも1つのmiR遺伝子産生物またはmiR遺伝子発現阻害化合物(またはmiR遺伝子産生物もしくはmiR遺伝子発現阻害化合物をコードする配列を包含する少なくとも1つの核酸)を包含することができる。
【0063】
本発明の医薬組成物はまた、従来の医薬用賦形剤および/または添加剤を包含することができる。適切な医薬用賦形剤には、安定剤、抗酸化剤、浸透圧調整剤、バッファー、およびpH調整剤を含む。適切な添加剤として、例えば生理学的に生物学的適合性のあるバッファー(例えばトロメタミン塩酸塩)、キレート剤(例えばDTPA、DTPA−ビスアミド)もしくはキレートカルシウム複合体(例えばカルシウムDTPA、CaNaDTPA−ビスアミド)の添加、または所望により、カルシウム塩もしくはナトリウム塩(例えば塩化カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、もしくは乳酸カルシウム)の添加を含む。本発明の医薬組成物は、液体の形での使用のために梱包することができるし、または凍結乾燥することもできる。
【0064】
本発明の固体医薬組成物用には、従来の非毒性の固体の医薬的に受容可能な担体;例えば医薬グレードのマンニトール、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルカム、セルロース、グルコース、ショ糖、炭酸マグネシウム、等を含むことができる。
【0065】
例えば経口投与用の固体医薬組成物は、上に列記した担体および賦形剤のいずれか、および10−95%、好ましくは25%−75%の少なくとも1つのmiR遺伝子産生物またはmiR遺伝子発現阻害化合物(またはそれらをコードする配列を包含する少なくとも1つの核酸)を包含することができる。エアゾール(吸入)投与用の医薬組成物は、0.01−20重量%、好ましくは1重量%−10重量%の、少なくとも1つのmiR遺伝子産生物またはmiR遺伝子発現阻害化合物(またはmiR遺伝子産生物もしくはmiR遺伝子発現阻害化合物をコードする配列を包含する少なくとも1つの核酸)を、上に記載したようなリポソーム内、および噴霧剤内に封入して包含することができる。担体はまた所望の場合には、例えば鼻腔内送達用のレシチンを含めることができる。
【0066】
本発明の医薬組成物はさらに、1つまたはそれより多くの抗癌薬を包含することができる。特定の態様において当該組成物は、少なくとも1つのmiR遺伝子産生物またはmiR遺伝子発現阻害化合物(またはmiR遺伝子産生物もしくはmiR遺伝子発現阻害化合物をコードする配列を包含する少なくとも1つの核酸)、および少なくとも1つの化学療法薬を包含する。本発明の方法に適する化学療法薬として、DNA−アルキル化薬、抗腫瘍性抗生物質、抗代謝薬、チューブリンの安定化剤、ホルモンのアンタゴニスト剤、トポイソメラーゼ阻害薬、プロテインキナーゼ阻害薬、NMG−CoA阻害薬、CDK阻害薬、サイクリン阻害薬、カスパーゼ阻害薬、メタロプロテイナーゼ阻害薬、アンチセンス核酸、三重鎖DNA、核酸アプタマー、ならびに分子的に修飾されたウイルス、細菌および外毒素の薬剤を含むが、これに限定されない。本発明の組成物に適する薬剤の例として、シチジンアラビノシド、メトトレキセート、ビンクリスチン、エトポシド(VP−16)、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、シスプラチン(CDDP)、デキサメタゾン、アルグラビン、シクロホスファミド、サルコリシン、メチルニトロソウレア、フルオロウラシル、5−フルオロウラシル(5FU)、ビンブラスチン、カンプトテシン、アクチノマイシン−D、ミトマイシンC、過酸化水素、オキサリプラチン、イリノテカン、トポテカン、ロイコボリン、カルムスチン、ストレプトゾシン、CPT−11、タキソール、タモキシフェン、ダカルバジン、リツキシマブ、ダウノルビシン、1−β−D−アラビノフラノシルシトシン、イマチニブ、フルダラビン、ドセタキセル、およびFOLFOX4を含むが、これに限定されない。
【0067】
1つの態様において本方法は、検査薬を細胞に提供し、そして癌細胞内の減少した発現ルベルに関連する少なくとも1つのmiR遺伝子産生物のレベルを測定することを包含する。適切なコントロール(例えばコントロール細胞内のmiR遺伝子産生物のレベル)と比較して、細胞内でのmiR遺伝子産生物のレベルが増加することが、検査薬が抗癌薬であることを示す。
【0068】
適切な薬剤には、薬剤(例えば低分子物、ペプチド)、および生体高分子(例えばタンパク質、核酸)を含むが、これに限定されない。薬剤は、リコンビナントにより、合成により製造することができるが、あるいは天然の原料から単離(例えば精製)してもよい。そのような薬剤を細胞に提供するための様々な方法(例えば形質導入)は、当該分野において周知されており、そのような方法のいくつかは本明細書でも上述している。少なくとも1つのmiR遺伝子産生物の発現を検出するための方法(例えばノーザンブロット法、in situハイブリダイゼーション、RT−PCR、発現プロファイリング)もまた、当該技術分野において周知されている。これらの方法のいくつかもまた本明細書に記載する。
【実施例】
【0069】
以下の非限定的な実施例を参照することにより本発明はより理解されることと思うが、これら実施例は本発明を説明するためであって、限定するために提示する訳ではない。
本明細書のデータは、活性化された単核食細胞およびTHP−1細胞が、新たに単離された単球の生存および分化を誘導する微小胞を放出することを示す。理論に拘束されることは望まないが、発見者らは本明細書において、特定の炎症性疾患のもとでは微小胞の含有量が変化して急速に反応を誘導するのではないかと考えている。データはまた、微小胞がヒト末梢血内を循環することを示す。循環血液中の微小胞は、正常な細胞の恒常性を制御し、組織の傷害および炎症の間には遠位の細胞への指示を循環する。
【0070】
微小胞は、疾患の病因、および自然免疫反応の全身へのメディエーターに関するバイオマーカーとして、役立つものと思われる。したがって侵襲的方法により組織を得る代わりに、末梢血中の微小胞の単離を通して同様の情報を入手できることは、有益である。また末梢血中の微小胞の正常なシグネチャを理解することは、急性炎症イベント時のイベントを理解するための基盤を提供することにもなる。
【0071】
また本明細書に示したように異常なマクロファージの分化は、免疫の恒常性の破壊をきたす。単球の成熟はGM−CSFまたはM−CSFにより誘導されるため、発見者らは、GM−CSFおよびM−CSFを介した分化の機序および相違点を理解する研究に着手した。M−CSFとは異なり、GM−CSFに対する応答における分化への傾倒は、急速で非可逆的であった(データは示していない)。わずか4時間の処置でマクロファージの分化が誘導されるため、持続的なGM−CSFの刺激はこの効果に関しては必要ではなかった。同様の観察結果は、マクロファージの分化のモデルとして使用されるPMA処理したTHP1細胞においても得られた。
【0072】
したがって発明者らは、分化を誘導する際に、シグナルを維持するか、または他の細胞を活性化して分化させるかのいずれかである少なくとも1つの因子が分泌されると特定した。それ故、単球またはTHP1細胞を、各々GM−CSFに4時間またはPMAに1時間暴露させ、その後細胞を洗浄し、刺激物質を含まない最小培地に入れた。24時間後、培養液の上清を集め、未分化の単球またはTHP1細胞に加えた。特に、PMA処理したTHP1細胞の上清、またはGM−CSF処理した単球の上清は、単球およびTHP1細胞を分化させた(データは示していない)。
【0073】
培養液上清中の27種類までの異なるサイトカインを検出するためBioplex懸濁アレイシステムを使用したが、発見者らは原因となるサイトカインを検出することはできなかった。発見者らは、増殖因子非依存性のTHP1細胞株をGM−CSF刺激した単球の上清を用いて分化させたことから、サイトカイン/増殖因子がこの効果の原因ではないと結論した。発明者らは次に、微小胞が培養液上清中に分泌されて骨髄の成熟を仲介する可能性について調べた。
【0074】
図1に示したように、GM−CSFで24時間処理した単球は、未処理の単球(淡黒点)と比較して、培養液上清中に有意数の微小胞(黒点)を放出していた。
同様にPMA処理したTHP1細胞もまた、分化の間に微小胞を分泌した(データは示していない)。特に図1は、分化がマクロファージからの微小胞の放出を誘導したことを示す。末梢血単球(PBM)は未処理のまま(淡黒点)、またはGM−CSFで24時間処理(黒点)した。細胞を含まない上清を集め、超遠心した。小胞をPBS中に再懸濁し、フローサイトメトリーでサイズについて解析した。解析の前に、FSSおよびSSCのパラメータを、2μmスタンダードビーズを使用して調整した(示していない)。3名の異なるドナーからの代表的なデータを示す。
【0075】
PMA処理したTHP1細胞由来の微小胞を精製し、新たに単離した単球、または未分化のTHP1細胞のいずれかに加えた。形態的に示した(図2A−2Cを参照のこと)ように、微小胞単独で、双方の細胞タイプにおいてマクロファージの分化、および表面抗原の発現を誘導した(データは示していない)。
【0076】
これらの微小胞の含有物を解析した。発見者らは、PMA処理したTHP1細胞由来微小胞内に、miRNAの存在を検出した(データは示していない)。
発見者らはまた、正常なボランティアの末梢血中の循環する微小胞およびmiRNAについても評価した。サイズに基づいて、発見者らは循環血液中の微小胞の3つの亜集団を発見した(図3A)。マクロファージ由来微小胞は、マンノース受容体(CD206)およびMHC IIを検出する抗体を使用して検出した(図3B)。血漿中の全微小胞のおよそ40%(ゲート領域)が、CD206またはMHCIIのいずれかの発現に基づき、マクロファージに由来する(図3C)。
【0077】
発明者らはさらに、miRNAが末梢血微小胞内に含有されているかどうかを決定した。我々は多数のmiRNAの発現を検出した。最も高く検出されたmiRNAを、表IIIを示す図8に示す(n=51)。
【0078】
特に、miR−146は末梢血中では検出されず、一方miR−155の発現は最も高発現のmiRNAの80分の1であった。miR−146およびmiR−155の双方とも我々のIPF患者サンプル中では上昇していたが、正常なドナー由来末梢血中では低くて検出されなかったことから、循環血液中のmiRNAを検討することは、疾患のバイオマーカーとして役立つと思われる。
【0079】
今回本明細書において、循環血液中の微小胞はmiRNAを含有し、そして循環血液中微小胞が、miRNAが細胞−対−細胞の情報交換を行うための手段を提供することができることを示す。miRNAを収容する微小胞はまた、疾患の遺伝的基盤への洞察を提供することができ、予測バイオマーカーとして役立てることができる。
【0080】
またマクロファージの分化の間に放出される微小胞は、未成熟細胞の成熟を仲介することができる。マクロファージの成熟時に集められた微小胞は、ヒト単球の分化および生存を仲介し、RNAを含有する。miRNAおよびプロセシングされたmRNAの双方とも、未成熟細胞に成熟のシグナルを与える原因となる。
【0081】
実施例−血漿
微小胞は、正常な健康な固体の血漿から単離する。微小胞およびマッチする単核細胞の双方からRNAを単離し、リアルタイムPCRにより420の公知の成熟miRNAについてプロファイリングする。データセットの階層的クラスター解析は、末梢血単核細胞(PBMC)および血漿微小胞間のmiRNA発現における有意差を示した。
【0082】
我々は、微小胞およびPBMCで有意に発現された各々104および75のmiRNAについて観察した。特に33のmiRNAは、PBMCと比較して微小胞において特異的に発現された。miRNAのコンピュータによるモデリングを行い、検出されたmiRNAにより制御される生物学的経路を決定した。血液由来微小胞で発現されたマイクロRNAの大半は、血液細胞の細胞分化および代謝経路を制御すると予測された。興味深いことに選択された数種のマイクロRNAは、免疫機能の重要なモジュレータであると予測される。
【0083】
本実施例は、正常な被験者の循環血血漿の微小胞におけるmiRNAの発現を同定し定義する初めての例である。
近年のエビデンスは、細胞間のmRNAおよびmiRNAの遺伝子交換が、エキソームを介しての伝達を通して達成される可能性があることを明らかにしている(PMID:17486113)。微小胞は、正常な健常な細胞タイプ、または損傷された細胞タイプにより放出されるエンドサイトーシス由来の小さなエキソソーム/小胞である(PMID: 17337785, PMID: 17409393, PMID: 16791265)。微小胞は細胞膜から細胞外環境に排出されて、細胞間の情報交換を促進する。これらの小さなサイズ(50nmから1μm)にもかかわらず、微小胞は生理活性分子内に濃縮され、核酸および/またはタンパク質を含有すると予想されている:これらの細胞粒子は、成長、分化、および癌の進行に一役を担う(PMID: 16453000)。末梢血において、2/3の微小胞は血小板に由来する。血小板由来微小胞は、血管新生および癌、例えば肺癌の転移拡大に一役を担う(PMID: 15499615)。血小板由来微小胞は、造血細胞、内皮細胞、および単核球細胞における遺伝子発現を制御することで免疫反応を誘導する(PMID: 17378242, PMID: 17127485)。
【0084】
興味深いことに、微小胞とmiRNAとの関係が近年構築されてきた。近年、Valadiおよび共同研究者らは、ヒトおよびマウスのマスト細胞株から放出される小胞が、1200を越えるmRNAおよびおよそ121のmiRNA分子を含有することを報告した(PMID: 17486113)。反対に本発明は、自然の状態で生成されるヒト血漿および血液の微小胞が、ex vivoで生物学的効果を導くマイクロRNAを含有していることに関する。
【0085】
図8−表1は、マイクロRNAが、癌および癌以外の適用を含むヒトの疾患において重要であることを示す。ヒト血漿微小胞において、疾患組織では発現が増加するが、正常には本来の低発現または検出できない発現を伴うマイクロRNA分子(表1図6に示す)は、健康および疾患の変化を定義する機会を提供し、そして有効なバイオマーカーであってよい(太字、増加した発現の列)。同様に正常には豊富なマイクロRNAが、組織内で観察される減少を反映して、ヒト血漿微小胞内で減少していてもよい(太字、減少した発現の列)。
【0086】
かなりのエビデンスが、ヒト遺伝子系の不可避な礎石としてのmiRNAの重要性を示している。遺伝子材料を伝達するために微小胞の使用を採り入れることは、ヒト体内での有効な伝達方法となるだろう。微小胞によるmiRNAの伝達は、遠距離での情報交換を可能にすることだろう。
【0087】
方法
血液の採集および微小胞の単離。末梢血(40cc)は、インフォームドコンセント後24名女性および27名男性の健康な非喫煙白人ドナーから、EDTA試験管に採集した。血液の採集は、午前中および午後の早い時間のいずれかに行った。女性ドナー、ならびに男性ドナーの年齢の中央値は29歳であった。末梢血は無菌低エンドトキシンPBSで1:1希釈し、以前に記載されている(PMID: 16931806)ようにficoll-hypaque (d=1.077)上で層化し、遠心した。単核細胞画分はPBS中で1回洗浄した。微小胞は血漿から精製した。手短には小胞を160,000×g、1時間、4℃の遠心により濃縮した(PMID: 10648405)。
【0088】
RNA抽出。トリゾール(Invitrogen, Carlsbad, CA)抽出法により、総RNAを単離した。低分子RNAの収率を上げるため、RNAを一晩沈殿させた。RNAの濃度を決定し、Agilent 2100 バイオアナライザー(Agilent Technologies, Inc, Santa Clara, CA)でのキャピラリー電気泳動によりRNAの完全性(integrity)を決定した。単核細胞から単離したRNAに関しては、9以上のRNA integrity number(RIN)のみを使用した。微小胞においてはインタクトの18sおよび28s rRNAが可変的であったため、これらのサンプルに関してはRINで制限することはできなかった。
【0089】
定量的PCRによるmiRNAのプロファイリング。420の成熟ヒトmiRNAの発現を、リアルタイムPCRによりプロファイリングした。以前にに公開された逆転写条件(PMID: 18158130)を使用して、420の公知のヒト成熟miRNAに対するループプライマーの混合物(Mega Plex kit, Applied Biosystems, Foster City, CA)を用いて刺激することにより、RNA(50ng)をcDNAに変換した。微小胞中の公知のコントロールmiRNAがないため、いくつかの内部コントロールについて検討した。内部コントロール、すなわち低分子核小体(sno)RNA U38B、snoRNA U6、低分子核(sn)RNA U6、ならびに18Sおよび5S rRNAに対するプライマーを、プライマーの混合物中に含めた。
【0090】
発現は、384ウェル反応プレートを装備したApplied Biosystems 7900HT リアルタイムPCR装置を使用してプロファイリングした。液体ハンドリングロボットおよびZymak Twisterロボットを使用して、スループットを増加し、エラーを低減した。リアルタイムPCRは標準的な条件を使用して行った。
【0091】
フローサイトメトリー。末梢血微小胞は、遠心により濃縮せずに直接血漿から免疫染色した。由来する細胞を決定するため、0.5ccの血漿を抗体のパネルごとに免疫染色した。パネルIは、CD66b−FITC(好中球)、CD202b(Tie2)−PE(内皮細胞)、CD206 PE−Cy5(マクロファージ/樹状細胞)、CD79a−APC(B細細胞)およびCD14 Pe−Cy7(単球)を認識する抗体を含有した。パネルIIは、CD41a−PE−Cy5(血小板)、CCR2−APC(単球)、CCR3−PE(樹状細胞)、CCR5−PE−Cy7(マクロファージ)、およびCD3−Alexa610(T細胞)に対する抗体を含有した。パネルIIIはアイソタイプのコントロール抗体を含有した。サンプルはBD Aria フローサイトメーター(BD Biosciences San Jose, CA)で解析した。データはゲートされた細胞のパーセントとして表した。
【0092】
統計解析。バックグラウンドのノイズを低減するため、個々の観察結果の80%が35より高いCT生スコアを有したmiRNAは、データ解析時に除外した。内部コントロール(18S、5S、snoRNA U38B、snoRNA U43、およびsnRNA U6)は血漿微小胞においては非常に可変的であり、同様に血漿微小胞 対 末梢血単核細胞(PBMC)における発現レベルも有意に異なった。
【0093】
したがって、あるmiRNAを正規化補正因子として使用することに起因するバイアスを低減し、そしてRT−PCRアレイ間のサンプルの変動を低減するため、median normalization(中央値による正規化)解析を使用して、各アレイ上のmiRNA全体の発現に対する相対的発現に基づいて、血漿微小胞およびPBMC間でmiRNAを比較した(PMID: 16854228)。ドナーの性別および年齢をコントロールし、線形混合モデルを使用して、血漿微小胞およびPBMC間での特異的なmiRNAの差を見積もった。倍数変化は、見積もられた平均の差に基づいて算出した。
【0094】
各組織に関するフィルタリング基準を満たしたmiRNAを使用してヒートマップを作成し、miRNAの相対的発現の平均に基づいて、miRNAの階層的クラスタリングを行った。miRNAの発現はまた、血漿微小胞およびPBMCに関するそれらのC生スコアに基づいてランクづけした。さらなる統計解析、例えばANOVAを行って、2つの処理群間で有意に発現されているmiRNAを決定した。
【0095】
経路の解析および予測。予測されるmiRNAの標的は、miRanda (microrna.sanger.ac.uk/targets/v5/)を使用して決定した。miRandaアルゴリズムに基づき、各標的についてスコアを作成し、17より大きいスコアのみをIngenuity Pathway Analysis ソフトウェア(Ingenuity Systems, Redwood City,CA)を使用してさらに解析した。このソフトウェアを使用して、基準の経路をmiRNAの標的に基づいて決定した。データセットを検討して、miRNAの標的の遺伝子オントロジーに基づいて関連する経路を決定した。
【0096】
結果
末梢血微小胞の亜集団
最初に、正常な健康な被験者の末梢血中の微小胞の由来細胞を検討した。フローサイトメトリーを使用して、以前に報告された(PMID: 10648405)ように末梢血微小胞の大半が血小板由来であることを発見した(図4)。
【0097】
我々はまた、単核細胞食細胞系列に由来する微小胞の第二の大きな集団についても観察した。単核食細胞上の表面抗原を検出する抗体を用いて、この集団を免疫染色した。特にわずかなパーセントの末梢血微小胞だけしか、T細胞および好中球に由来していなかった。B細胞に由来する小胞は検出できなかった(データは示していない)。興味深いことに、内皮細胞由来の表面抗原を発現する微小胞の小さな亜集団を検出した。
【0098】
血漿微小胞およびPBMCにおけるmiRNAの発現
miRNAが、末梢血中の微小胞内コンパートメントに含有されていて、体内の異なる組織間の情報伝達を可能にし、遺伝子の変化に影響を及ぼすかどうかを検査するため、精製した血漿由来微小胞に関するmiRNAプロファイリングを行った。27名男性および24名女性を包含する51名の非喫煙の健康な個体に由来する微小胞のすべての亜集団について解析した。微小胞およびPBMC間でmiRNAの発現に違いがあるかどうかを決定するため、各ドナー由来PBMCもまた精製した。リアルタイムPCR解析を行って、420のmiRNAの発現について検討した。フィルタリングしたデータに、PBMCおよび血漿サンプル間のmiRNA発現プロファイルを比較する階層的クラスター解析を行った(図5A)。
【0099】
3つを除くすべてのPBMCサンプルを、微小胞サンプルとは別にクラスター化したところ、2群間のmiRNA発現プロファイルが有意に異なることを示した。バックグラウンドのノイズを低減するフィルタリング基準に基づくと、微小胞およびPBMCサンプルにおいて各々104および75のmiRNAが発現されていることを発見した(図5Bおよび5C)。
【0100】
これらのmiRNAのうち、71は各サンプル群で共有していた(図5D)。特に、2つのmiRNA、すなわちmiR−031および29cのみがPBMCサンプル中だけで発現され、一方4つのmiRNA(miR−127、−134、−485−5P、および−432)は血漿画分において独自に発現されていた。血漿中で正常に発現された104miRNAすべてを示す(表II図7に示す)。
【0101】
年齢および性別の効果
いずれかのサンプル群からのmiRNA発現において、年齢および/または性別の効果は観察できなかった。特に、女性および男性双方のドナーの年齢の中央値は29歳であった。最も高年齢の個体は58歳であり、最も若年齢は21歳であった。したがって差異を検討するためさらにデータを層別化した。年齢のマッチしたサンプル間の検討でも、PBMCおよび微小胞サンプル間でmiRNA発現にいかなる有意な効果も明らかにされなかった。性別をコントロールして、我々はまた年齢の上位四分位点を年齢の下位四分位点と比較した。すなわち各群の平均年齢は各々48.9±6.2歳および21.9±1.2歳であった。しかし年齢に基づいてのサンプルセット間で、miRNA発現に有意差を検出することはできなかった(データは示していない)。
【0102】
PBMCおよび微小胞におけるmiRNA発現の比較
表III図8に、すべての個体に由来する血漿微小胞およびPBMCにおいて、最も高発現の10のmiRNAを示す。血漿に関する最も高発現の10のmiRNAは、高い方から順にmiR−223、−484、−191、−146a、−016、−026a、−222、−024、−126、および−32である。一方PBMCにおいては、miR−223、−150、−146b、−016、−484、−146a、−191、−026a、−019b、および−020aが高く発現されていた。微小胞における最も高発現の10のmiRNAは、100%の個体で検出された。しかしPBMCサンプルでは、miR−150(98%のドナー)およびmiR−484(89%のドナー)を除くすべてが100%の個体で観察された。
【0103】
我々はまた、これらmiRの6つ(miR−223、miR−484、miR−191、miR−146a、miR−26a、およびmiR−16)が、PBMCおよび微小胞の双方において最も高発現の10で共有されていることを発見した。特にmiR−223は、双方のコンパートメント内で最も顕著に発現されたmiRである。各個体のドナーのランキング解析に基づいて、具体的なmiRNAが最も高発現の10のmiRNAに挙げられる頻度を決定したところ、miR−223はPBMCおよび微小胞の双方において100%の頻度であった。miR−486の発現は、血漿微小胞で最も高い10のmiRNAに挙げられているにもかかわらず、このmiRNAは、プロファイリングした個体の20%のみでしか最も高い10に挙げられていないことを発見した。興味深いことに血漿微小胞において最も高発現のmiRNA群は、組織特異的なmiR群として同定できなかった。
【0104】
我々はさらに、各々>66%および>88%という任意の値(データセットからのnatural cut-off)より大きなランキングスコアを持つ、微小胞およびPBMCのmiRの集合的機能について検討した。この基準に基づいて、微小胞およびPBMCのサンプルから最も高い9にランクされたmiRについて、さらに検討した。したがって、血漿で見出されたmiR−223、−484、−191、−146a、−016、−026a、−222、−024、および−126の組み合わせた機能を解析した。PBMCに関しては、以下のmiRNA、すなわちmiR−223、−150、−146b、−016、−484、−146a、−191、−026a、および−019bの組み合わせた機能を検討した。Sanger miRBase Target version 5を使用して、血漿微小胞に関する組み合わせたmiRの、1578の予測される標的を見出した(データは示していない)。これらの組み合わせの標的についてコンピュータ解析を行って、それらが集合的に制御する経路を決定した。Ingenuity Pathway Analysis (IPA)ソフトウェアを使用し、獲得免疫系の代謝および制御に関与する基準の経路が、miRNAで示されたこれらの発現により大きく制御されることを発見した(表IV図9の上に示す)。
【0105】
PBMC画分から検討した9のmiRNAについて、1857の予測されるmRNAの標的を見出した(データは示していない)。最終的にこれらのmiRNAにより制御される最も高い5の基準の経路は、とりわけ様々なアミノ酸および脂質の代謝経路である(表IV図9の上に示す)。我々はまたSanger miRBase およびTargetScanから共通して予測される標的を見出し、それらの機能を決定した(表IV図9の下に示す)。
【0106】
次に、微小胞およびPBMC間でどのmiRNAが異なって発現されたかについて検討した。20のmiRNAが、微小胞サンプルと比較してPBMC画分において3倍より高く発現された(表V図10に示す)。反対に、15のmiRNAは、PBMCと比較して血漿微小胞において有意に発現されていた。
【0107】
図11:表VIは、PBMCおよび血漿において発現されたすべてのmiRNA(ディテクターの名称)に関する、正規化したデータの平均を各々の標準偏差と共に示す。
考察
これらの実施例において、発見者らは今回、末梢血中の正常な恒常的状態下でmiRが微小胞内にて循環することを示す。本明細書において、104のmiRが血漿微小胞内で発現され、そしてmiRの発現はPBMCとは有意に異なっていたことを示す。今日までに多数の研究が、多くの細胞の機能を制御するmiRの能力を示している。しかしながらこれらの研究はほとんど、miRがそのホスト細胞内にとどまって効果を及ぼすことを意味している(PMID: 17923084)。我々のデータは、微小胞内に含有されたmiRNAが、細胞の恒常性を制御するための遠位の細胞への情報伝達シグナルであると思われることを示すものである。
【0108】
微小胞内のこれらのmiRNAは、異なる組織の標的へと循環すると思われる。血漿微小胞内で最も高発現されたmiRNAのさらなる検討は、これらの機能の多くが血球新生および細胞分化プログラムを制御することを示す(表III図8に示す)。例えばmiR−223の発現は、骨髄、顆粒球、および破骨細胞の分化を制御する(PMID: 18278031, PMID: 17471500, PMID: 16325577)。miR−223はまた造血幹細胞の増殖に一役を担っているようである(PMID: 18278031)。興味深いことにmiR−223は、急性骨髄性白血病(AML)では喪失される(PMID: 18056805)。反対にmiR−126のダウンレギュレーションは巨核球の分化時に起こる(PMID: 16549775)。特にmiR−24の発現は、血球新生の強力なポジティブおよびネガティブ制御因子であるTGF−βにより制御される(PMID: 16123808, PMID: 18353861)。微小胞内で発現されるmiR−24およびmiR−16は双方とも赤血球の産生を制御する(PMID: 17906079, PMID: 17976518)が、一方miR−16はリンパ系の発生もまた調節する(PMID: 16616063)。miR−16の発現の喪失は、慢性リンパ性白血病(CLL)において広範に検討されている(PMID: 17327404, PMID: 17351108)。
【0109】
血漿微小胞内で発現される多くのmiRはまた、細胞周期の進行にかかわるタンパク質を制御する(PMID: 18365017 PMID: 17914108)。miR−222はp27Kiplを標的とし(PMID: 17914108)、一方miR−24はpl6(INK4a)を抑制する(PMID: 18365017)。miR−16の増加された発現は、結果的に細胞周期G0/G1期に細胞を蓄積することになる(PMID: 16123808)。反対に乳癌細胞におけるmiR−126の発現は細胞の増殖および腫瘍の成長を増大するが、転移を阻害する(PMID: 18185580)。このことは血管細胞接着分子−1(VCAM1)を通して起こる(PMID: 18227515)。
【0110】
他のmiRが血漿微小胞内で高発現されるのとは異なり、miR−146aは異なるレベルで機能するようである。miR−146aは腫瘍抑制因子として作用し、このmiRの喪失は前立腺癌の発症と関連することが示唆された(PMID: 18174313)が、miR−146aは免疫機能もまた調節する(PMID: 16885212, PMID: 18057241)。血漿微小胞におけるこのmiRの発現が、免疫制御機能を定義する可能性がある(表IV図9に示す)。
【0111】
標的の遺伝子オントロジーを検討するIPA解析に基づくと、miR−146aの発現により影響を受けると予測される最大の関連ネットワークは、細胞の増殖、免疫系およびリンパ系の発生および機能である。加えてこのmiRは、自然免疫反応を制御すると予測されている。この解析から我々は、LPS/IL−1およびトール様受容体のシグナリングが、このmiR−146aにより制御されると予測される最も高い5の基準経路の中にあることを発見した。
【0112】
今日までmiR−484またはmiR−486の機能はわかっていない。miR−146aと同様に、miR−484およびmiR−486も免疫反応のモジュレータとして機能するようである。特にmiR−484は、相対的発現に基づくと微小胞画分において2番目に高く発現されたmiRである。予測モデリングは、このmiRが複数の機能を有することを示している。微小胞内で発現された多くの他のmiRの様に、miR−484は血球新生を制御すると予測される。特に、NK細胞シグナリング経路およびIL−4シグナリング経路が、miR−484の標的であると予測されるが、一方miR−484は抗原提示を制御すると提唱されている。加えてmiR−486は、細胞の分化、増殖および成長も制御するようである。
【0113】
我々は血漿微小胞内に104のmiRを検出したが、プロファイリングした全miRから検出できなかったものも多い。血漿微小胞内の検出できなかったmiRもまた、疾患のバイオマーカーとして役立つかもしれない。近年Lawrieらは、B細胞リンパ腫の患者の血漿中にmiRが検出されたことを報告した(PMID: 18318758)。この研究は、これらの患者由来血漿中でmiR−155、miR−210およびmiR−21が上昇し、そしてmiR−21が再発に相関することを示した。この研究に基づき、我々は正常な個体においてmiR−155およびmiR−21を検出したが、miR−210は発見できなかった。興味深いことに我々は、血漿において75%の個体がmiR−155を発現し、60%がmiR−21を発現することを発見した(データは示していない)。
【0114】
したがって、疾患の予測マーカーとしてこれらのmiRを使用するためには、各個体は疾患の検出の前にベースラインを必要とすることになる。したがってmiR−210の発現は、B細胞リンパ腫のより良いマーカーとして役立つものと思われる。さらなる関連性も存在すると思われる。例えばmiR−203は血漿微小胞には検出できない。このmiRの上昇した発現は膀胱癌および結腸腺癌と関連しており、したがってバイオマーカーとして使用できると思われる(PMID: 18230780, PMID: 17826655)。
【0115】
正常には発現されるがその後疾患にともなって喪失されるという逆の関係も、血漿miRに関して存在すると思われる。例えば急性リンパ芽球性白血病(ALL)において、miR−223はダウンレギュレートされる(PMID: 18056805)。miR−223は血漿微小胞内で発現される最も顕著なmiRであるため、その減少した発現はALLの診断マーカーとして有用であると思われる。加えてmiR−15a/16は、慢性リンパ球性白血病(CLL)では喪失またはダウンレギュレートされる(PMID: 18362358)。我々は、miR−16は検討したすべての健常な個体で発現されていたことを発見したが、miR−15aはプロファイリングした個体の44%にしか発現されていなかった(データは示していない)。
【0116】
我々が正常な個体の血液中に組織特異的なmiRNAを検出しなかったことは興味深い(PMID: 18025253)。正常な個体からの微小胞の大半は、血液細胞に由来する。我々は、わずかなパーセントの内皮細胞由来の微小胞を実に検出した。この内皮細胞由来微小胞は、内皮細胞の損傷時に増加すると思われる。同様に、末梢血中の組織特異的miRおよび微小胞の検出は、組織損傷時にしばしば起こるイベントであると思われる。腫瘍は微小胞を産生する(PMID: 16283305)ため、これらが末梢血中に検出されてもよい。
【0117】
miRが血漿中で検出されることが報告された(PMID:18318758)が、本発明は公知の血漿由来miRすべての特徴づけを行った最初の研究である。本研究において我々は、人種を因子としてコントロールした。
【0118】
末梢の体液および/または血液中のmiRの存在、不在、またはレベルの変化を検査することは、様々な疾患について検討し、独特のmiRNAプロファイルを同定し、そして疾患の予測因子であるバイオマーカーとして、有用となり得る。微小胞内に含有される循環血液中のmiRは、血液細胞の恒常性の産生ならびに代謝機能を制御する上での、生命維持機能を有する。
【0119】
明確に参照として援用しなかった本明細書に引用したすべての公開文献の関連技術を、それらの全内容において本明細書にて参照として援用する。本発明は、その好ましい態様に関して特に示し記載してきたが、当業者には、付記した請求項に包括的に含まれる本発明の範囲から離れることなく、形および詳細における様々な変更を行ってよいことは、理解されるものとする。
【0120】
本発明を様々なそして好ましい態様に関して記載してきたが、当業者には、本発明の本質的な範囲から離れることなく、その要素について様々な変更を行ってよく、そして均等物を置き換えてよいことは、理解されなければならない。加えて、特定の状況または材料を本発明の技術に適応するために、本発明の本質的な範囲から離れることなく、多くの修飾を行ってよい。それ故本発明は、本発明を実行するために考慮された本明細書に開示された特定の態様に限定されないが、本発明は請求項の範囲内に収まるすべての態様を含むものとすることを意図する。
【0121】
対象のmiRは公開データベースに列記されている。ある種の好ましい態様において、公開データベースは、miR配列に命名の割り付けが行われ、同様に世界中のウェブサイトを介して到達でき、オンライン検索できるデータベース内の配列の保管場所でもあるSanger研究所www.http://microrna.sanger.ac.uk/sequences/により提供される中心的レポジトリであることができる。一般にSanger研究所によりmiRの配列について集められたデータは、種、原料、対応するゲノム配列およびゲノムの位置(染色体の座標)、ならびに完全長の転写産生物、および成熟した完全にプロセシングされたmiRNA(5’末端リン酸基を有するmiRNA)の配列を含む。もう1つのデータベースとして、アメリカのthe National Institutes of Health(国立衛生研究所)およびthe National Library of Medicine(国立医学図書館)により維持管理されている、National Center for Biotechnology Information (NCBI:国立生物工学情報センター)のウェブサイトを通してアクセスするGenBankデータベースが可能である。これらのデータベースをすべて本明細書において参照として援用する。
【0122】
【表1】

【0123】
【表2】

【0124】
【表3】

【0125】
【表4】

【0126】
【表5】

【0127】
【表6】

【0128】
【表7】

【0129】
「参考文献」
1. Baj-Krzyworzeka M, Szatanek R, Weglarczyk K, Baran 7, Urbanowicz B, Branski P, Ratajczak MZ, Zembala M. Tumour-derived microvesicles carry several surface determinants and mRNA of tumour cells and transfer some of these determinants to monocytes(腫瘍由来微小胞は、腫瘍細胞のいくつかの表面決定因子およびmRNAを保有し、これらの決定因子の一部を単球に移送する). Cancer Immunol Immunother. 2006; 55:808818.
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【図2a】

【図2b】

【図2c】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の疾患または障害を診断または予後診断する方法であって、以下:
i)被験者由来の微小胞を含有するサンプル中の、少なくとも1つのmiR遺伝子産生物のレベルを決定する;そして
ii)サンプル中の少なくとも1つのmiR遺伝子産生物のレベルをコントロールと比較し、その場合コントロールのレベルと比較しての、被験者由来サンプル中の少なくとも1つのmiR遺伝子産生物のレベルの増加が、そのような障害の診断または予後診断となること
を含有する前記方法。
【請求項2】
少なくとも1つのmiR遺伝子産生物が、表Iに示した群およびその組み合わせより選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つのmiR遺伝子産生物が、表IIに示したフィルタリング後の発現された血漿miRの群、およびその組み合わせより選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つのmiR遺伝子産生物が、表IIIに示した群およびその組み合わせより選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つのmiR遺伝子産生物が、表IVに示した群およびその組み合わせより選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つのmiR遺伝子産生物が、表Vに示した群およびその組み合わせより選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1つのmiR遺伝子産生物が、表VIに示した群およびその組み合わせより選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
疾患の病因、および自然免疫反応の全身へのメディエーターに関するバイオマーカーとして、1つまたはそれより多くの微小胞を包含するバイオマーカー。
【請求項9】
バイオマーカーが末梢血中の微小胞より単離される、請求項8に記載のバイオマーカー。
【請求項10】
障害が、結腸腺癌、結腸直腸癌、前立腺癌、肺癌、乳癌、B細胞リンパ腫、膵癌、びまん性大細胞型BCL、CLL、膀胱癌、腎癌、低酸素腫瘍、子宮筋腫、卵巣癌、C型肝炎ウイルスに関連する肝細胞癌、ALL、アルツハイマー病、骨髄線維症、真性多血症、血小板血症、HIV、HIV−1潜伏期を含む、表Iに列記されたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
発現されたmiRNAが血漿微小胞内に見出され、そして以下:miR−223、miR−484、miR−191、miR−146a、miR−016、miR−26a、miR−222、miR−024、miR−126、およびmiR−32、の1つまたはそれより多くを包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
発現されたmiRがPBMC内に見出され、そして以下:miR−223、miR−150、miR−146b、miR−016、miR−484、miR−146a、miR−191、miR−026a、miR−019b、およびmiR−020aの、1つまたはそれより多くを包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
疾患が結腸腺癌であり、そして少なくとも以下のMiR:miR−20a、miR−21、miR−106a、miR−181bおよびmiR−203がアップレギュレートされる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
疾患が結腸直腸癌であり、そして少なくとも以下のMiR:miR−19a、miR−21、miR−127、miR−31、miR−96、miR−135bおよびmiR−183がアップレギュレートされ;そして少なくとも以下のmiR;miR−30c、miR−133a、miR−l43、miR−133bおよびmiR−145がダウンレギュレートされる、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
疾患が前立腺癌であり、そして少なくとも以下のMiR:miR−21がアップレギュレートされ;そして少なくとも以下のmiR:miR−15a、miR−16−1、miR−143およびmiR−145がダウンレギュレートされる、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
疾患が肺癌であり、そして少なくとも以下のMiR:miR−17−92、miR−19a、miR−21、miR−92、miR−155、miR−191、miR−205およびmiR−210がアップレギュレートされ;そして少なくとも以下のmiR:miR−let−7がダウンレギュレートされる、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
疾患が乳癌であり、そして少なくとも以下のMiR:miR−21およびmiR−155がアップレギュレートされ;そして少なくとも以下のmiR:miR−125bおよびmiR−145がダウンレギュレートされる、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
疾患がB細胞リンパ腫であり、そして少なくとも以下のMiR:miR−155、miR−17−92、miR−19a、miR−92、miR−142、miR−155、miR−221、miR−17−92、miR−19a、miR−21、miR−92、miR−155、miR−191、miR−205、およびmiR−210がアップレギュレートされる、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
疾患が膵癌であり、そして少なくとも以下のMiR:miR−103、miR−107、miR−18a、miR−31、miR−93、miR−221、miR−224およびmiR−155がアップレギュレートされ;そして少なくとも以下のmiR:miR−133a、miR−216、miR−217がダウンレギュレートされる、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
疾患がびまん性大細胞型BCLであり、そして少なくとも以下のMiR:miR−155およびmiR−17−92がアップレギュレートされる、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
疾患が慢性リンパ性白血病であり、そして少なくとも以下のMiR:miR−23b、miR−24−1、miR−146、miR−155、miR−195、miR−221、miR−331、miR−29a、miR−195、miR−34a、およびmiR−29cがアップレギュレートされ;そして少なくとも以下のmiR:miR−15a、miR−16−1、miR−29およびmiR−223がダウンレギュレートされる、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
疾患が膀胱癌であり、そして少なくとも以下のMiR:miR−223、miR−26b、miR−221、miR−103−1、miR−185、miR−23b、miR−203、miR−17−5p、miR−23a、およびmiR−205がアップレギュレートされる、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
疾患が腎癌であり、そして少なくとも以下のMiR:miR−28、miR−185、miR−27、およびmiR−let−7f−2がアップレギュレートされる、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
疾患が低酸素腫瘍であり、そして少なくとも以下のMiR:miR−23、miR−24、miR−26、miR−27、miR−103、miR−107、miR−181、miR−210、およびmiR−213がアップレギュレートされる、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
疾患が子宮筋腫であり、そして少なくとも以下のMiR:miR let−7ファミリー、miR−21、miR−23b、miR−29b、およびmiR−197がアップレギュレートされる、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
疾患が卵巣癌であり、そして少なくとも以下のMiR:miR−199*、miR−200aおよびmiR−214がアップレギュレートされ;そして少なくとも以下のmiR:miR−100、miR−let−7クラスター、およびmiR−125bがダウンレギュレートされる、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
疾患がC型肝炎ウイルスに関連する肝細胞癌であり、そして少なくとも以下のMiR:miR−122、miR−100、およびmiR−10aがアップレギュレートされ;そして少なくとも以下のmiR:miR−198およびmiR−145がダウンレギュレートされる、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
疾患が急性リンパ芽球性白血病(ALL)であり、そして少なくとも以下のMiR:miR−128b、miR−204、miR−218、miR−331、miR−181b−1、およびmiR−17−92がアップレギュレートされる、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
疾患がアルツハイマー病であり、そして少なくとも以下のMiR:miR−9およびmiR−128がアップレギュレートされ;そして少なくとも以下のmiR:miR−107がダウンレギュレートされる、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
疾患が骨髄線維症であり、そして少なくとも以下のMiR:miR−190がアップレギュレートされ;そして少なくとも以下のmiR:miR−31、miR−150およびmiR−95がダウンレギュレートされる、請求項1に記載の方法。
【請求項31】
疾患が骨髄線維症、真性多血症、または血小板血症の1つまたはそれより多くであり、そして少なくとも以下のmiR:miR−34a、miR−342、miR−326、miR−105、miR−149、およびmiR−147がダウンレギュレートされる、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
疾患がHIVであり、そして少なくとも以下のMiR:miR−29a、miR−29b、miR−149、miR−378およびmiR−324−5pがアップレギュレートされる、請求項1に記載の方法。
【請求項33】
疾患がHIV−1潜伏期であり、そして少なくとも以下のMiR:miR−28、miR−125b、miR−150、miR−223およびmiR−382がアップレギュレートされる、請求項1に記載の方法。
【請求項34】
コントロールが以下から成る群:
i)リファレンススタンダード;
ii)障害を有していない被験者由来の少なくとも1つのmiR遺伝子産生物のレベル;および
iii)そのような障害を提示していない被験者サンプル由来の少なくとも1つのmiR遺伝子産生物のレベル
より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項35】
被験者がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項36】
被験者が障害による異なる結果を有するかどうかを決定および/または予測する方法であって、以下:
i)微小胞を含有するサンプル中の、少なくとも1つのmiR遺伝子産生物のレベルを決定する;そして
ii)サンプル中の少なくとも1つのmiR遺伝子産生物のレベルをコントロールと比較し、その場合コントロールのレベルと比較しての、サンプル中の少なくとも1つのmiR遺伝子産生物のレベルの変化が、そのような障害を示すこと
を包含する前記方法。
【請求項37】
変化が、サンプル中の少なくとも1つのmiR遺伝子産生物のレベルの減少である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
少なくとも1つのmiR遺伝子産生物が、表I−VIに示した群より選択される、請求項33に記載の方法。
【請求項39】
前記サンプルが被験者由来である、請求項36に記載の方法。
【請求項40】
被験者がヒトである、請求項36に記載の方法。
【請求項41】
コントロールが以下からなる群:
i)リファレンススタンダード;および
ii)微小胞を含有するリファレンスサンプル由来の少なくとも1つのmiR遺伝子産生物のレベル
より選択される、請求項36に記載の方法。
【請求項42】
表I−VIIに列記した1つまたはそれより多くのmiR、およびそのサブセットを包含する、肺の障害のためのバイオマーカー。
【請求項43】
障害が表IIに列記したもの:結腸腺癌、結腸直腸癌、前立腺癌、肺癌、乳癌、B細胞リンパ腫、膵癌、びまん性大細胞型BCL、CLL、膀胱癌、腎癌、低酸素腫瘍、子宮筋腫、卵巣癌、C型肝炎ウイルスに関連する肝細胞癌、ALL、アルツハイマー病、骨髄線維症、真性多血症、血小板血症、HIV、HIV−1潜伏期を含む、請求項42に記載のバイオマーカー。
【請求項44】
被験者が疾患または障害を有する、または発症するリスクがあるかどうかを診断する方法であって、被験者由来検査サンプル中の少なくとも1つのmiRのレベルを測定し、
その場合検査サンプルが被験者由来の微小胞を包含し、そして
その場合コントロールサンプル中の対応するmiRのレベルと比較しての、検査サンプル中のmiRのレベルの変化が、被験者が卵巣癌を有するかまたは発症するリスクがあるかのいずれかであることを示す、
ことを包含する前記方法。
【請求項45】
miRの発現と、疾患またはその素因との相関を同定することであって、以下:
(a)疾患または状態を有するまたは有すると疑われる被験者由来サンプルから単離されたmiRを標識する;
(b)そのmiRをmiRアレイとハイブリダイズさせる;
(c)アレイに対するmiRのハイブリダイゼーションを決定する;そして
(d)リファレンスと比較して疾患または状態の典型である、サンプル中で異なって発現されたmiRを同定すること
を包含する、前記同定法を含む請求項44に記載の方法。
【請求項46】
異なって発現されたmiRの同定が、サンプルに関するmiRプロファイルを作成し、そしてmiRプロファイルを評価して、サンプル中のmiRが正常なサンプルと比較して異なって発現されているかどうかを決定することを包含する、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
miRプロファイルが、表I−VIに示した1つまたはそれより多くのmiR、およびそのサブセットより選択される、請求項44に記載の方法。
【請求項48】
疾患または障害の増殖を阻害する方法であって、以下:
i)表I−VIIに示した群およびそのサブセットより選択される、1つまたはそれより多くのmiRの発現または活性を阻害する、1つまたはそれより多くの薬剤を細胞内に導入する;
ii)miRの1つもしくはそれより多くの標的遺伝子の発現を高める1つもしくはそれより多くの薬剤を細胞内に導入する、またはi)およびii)の1つもしくはそれより多くの薬剤を組み合わせたものを細胞内に導入する、そして
iii)1つもしくはそれより多くの薬剤が、miRの発現もしくは活性を阻害する、miRの1つもしくはそれより多くの標的遺伝子の発現もしくは活性を高める、またはそれらを組み合わせた結果に帰着し、それにより疾患または障害の増殖を阻害する、という状態下に細胞を維持すること、
を包含する前記方法。
【請求項49】
細胞がヒトの細胞である、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
癌治療薬を同定する方法であって、検査薬を細胞内の微小胞に提供し、そして細胞内の減少した発現レベルに関連する少なくとも1つのmiRのレベルを測定し、その場合適切なコントロール細胞と比較しての細胞内のmiRのレベルが増加することが、検査薬が治療薬であることを示すこと、を包含する前記方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図7−3】
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【図8】
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【図9】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【図11−1】
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【図11−2】
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【公表番号】特表2010−538653(P2010−538653A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−525014(P2010−525014)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【国際出願番号】PCT/US2008/076109
【国際公開番号】WO2009/036236
【国際公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(593172050)ジ・オハイオ・ステイト・ユニバーシティ・リサーチ・ファウンデイション (33)
【氏名又は名称原語表記】THE OHIO STATE UNIVERSITY RESEARCH FOUNDATION
【Fターム(参考)】