説明

ヒト癌原蛋白質に特異的な抗体を含む肝硬変症診断キット

ヒト癌原遺伝子HCCR‐2から発現された蛋白質に特異的に結合する抗体を用いて、抗原‐抗体結合反応により検体試料中のHCCR‐2蛋白質を検出する方法及びこれを用いた肝硬変症診断キットが開示される。本発明の検出方法及び診断キットは、肝硬変症に対する診断の正確度及び再現性が高いので肝硬変症の早期診断に非常に有用に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、ヒト癌原遺伝子HCCR‐2から発現された蛋白質に特異的に結合する抗体を用いて、抗原‐抗体結合反応によって血液試料中のHCCR‐2蛋白質を検出する方法及びこれを用いた肝硬変症診断キットに関する。
【0002】
〔背景技術〕
肝硬変症とは、肝に結節を形成する広義の繊維化症を称し、慢性肝疾患の末期病変であって持続的で反復的な弥漫性肝損傷とその結果により繊維化と肝細胞の再生結節が形成される疾患である(Ikeda et al.,Hepatology 18:47〜53,1993;Minami H and Okanoue T,Int Med.80:646〜649,1997;Kiyosawa K,Hepatology Research 24:S40〜S45, 2002)。肝炎の主要要因としては、一般に、ウイルス、薬剤、アルコール、代謝性疾患、慢性胆汁うっ滞、肝‐静脈血流閉塞などがある。このうちB型ウイルス肝炎は、慢性肝炎または肝硬変症の危険を増加させるが、成人で急性肝炎を患う場合には10%程度、父母から出生直後に垂直感染される場合には90%以上で慢性B型肝炎保菌者となり、成人になってから40〜50代にその多くが慢性肝炎や肝硬変症に移行する(Velazquez et al.,Hepatology, 37(3):520〜527, 2003)。一方、C型ウイルス肝炎も慢性肝炎と肝硬変症の主要要因として推定されており全体肝癌患者の16.6%においてC型肝炎ウイルス抗体に陽性を示す。また、肝硬変症は、肝癌患者の60〜90%で認められ、肝硬変症患者の5〜20%で肝癌が発生するということは、肝硬変症が肝癌の主要危険因子であるということを示唆する。従って、肝硬変症の早期発見及び肝硬変症を来す因子の除去が必要である(Velazquez et al.,Hepatology 37(3):520〜527, 2003)。肝硬変を来すことができる因子としては、ウイルス性因子以外にも持続的な暴飲によるアルコール摂取、薬剤、血色素症などがある。従って、これらの疾患と危険因子の早期鑑別と除去、予防接種及び伝染の遮断が重要である。
【0003】
肝硬変症は肝の炎症が長期間持続された結果、肝の表面が凸凹になる症状を表すが、これは臨床的には範囲が広くて、外見上正常人とほとんど差がなく何の症状もない患者から顔色が悪くやつれており腹水が溜まっている患者に至るまで症状は多様である。肝硬変症はあるが合併症を伴わず臨床的には正常である前者のような状態を代償性肝硬変症と称し、各種の合併症を伴う後者のような状態の肝硬変症を非代償性肝硬変症と称す。
【0004】
肝硬変症に対する最も確実な検査は、腹腔鏡検査または肝組織検査を通じて成されている。腹腔鏡検査は腹に小さい穴を開けて内視鏡を入れて肝を直接観察する検査であって肝の表面が凸凹になった硬変の所見を示していればそれによって診断を下すことができる。また、組織検査で肝繊維化などの所見が観察されれば肝硬変症診断を下すことができる。しかし、このような検査は患者にとって非常に負担になるだけでなく、大体、診察所見、血液検査、超音波やCT所見などを総合することによって診断することができる。肝硬変症の場合、血清アラニンアミノ転移酵素(serum alanine aminotransferase,ALT)(従来のGOT,GPT)値、即ち、肝炎数値はあまり高くなく、大体正常であるか正常の2倍以内である場合が多いため診断に有効に適用されていない。代償性肝硬変症の場合には、固有の機能を果たすことのできる肝細胞がある程度十分であるため、アルブミン、ビリルビンなどの数値は正常から大きく外れていないが、非代償性肝硬変症の場合にはそうではないためアルブミンが減少したりビリルビンが増加する所見を示すことがある。肝硬変症または進んだ状態の慢性肝疾患を患う患者達においては機能を果たす肝細胞がどれくらい存在するかが重要であり、アルブミンやビリルビンはこれを概略的にのみ推測できるようにしてくれる指標である。また、肝細胞においては、血液疑固因子を作り出すときに機能する肝細胞が十分でなければこれらが十分作られないため血液疑固が遅延される場合がある。プロトロンビン時間(prothrombin time又はPT)という検査は、血液疑固時間を直接測定する検査であり、これもやはり残余肝機能を評価する指標の一つである。肝硬変になると脾臓が大きくなり、大きくなった脾臓内に血小板が多く溜まっており一般の血液検査上、血小板数値が低く示される。原因を知らずに血小板が低下されていれば肝硬変症の可能性を疑うべきである。慢性肝炎におけるように肝炎ウイルスに対する血清学的標識子検査も重要である。韓国の肝硬変症の60%くらいがB型肝炎ウイルスに起因し、20%くらいがC型肝炎ウイルスに起因している。従って、B型やC型肝炎ウイルスの標識子が陽性であれば慢性肝疾患を有している可能性が高く、ここに肝硬変症を示唆するほかの所見があれば臨床的に肝硬変症という診断を下すのにあまり無理はない。
【0005】
肝癌の早期発見のための選別検査のうち一つである血清アルファー‐胎児蛋白(alpha‐fetoprotein;AFP)の数値が肝硬変症においては非特異的に増加することもする(Adinolfi A et al., J Med Genet.12(2):138〜151, 1975; Lok AS and Lai CL.Hepatology 9(1), 110〜115, 1989;Johnson PJ.Clin Liver Dis.5(1):145〜159, 2001)。AFP数値は正常な成人の血清には存在しないが多くの肝癌患者においては増加するため肝癌診断に有用に用いられている。しかし、これは肝癌以外に、慢性肝炎、肝硬変症などの陽性疾患や絨毛膜癌腫、肝母細胞腫等の悪性疾患及び妊婦でも増加することがある(Collier J and Sherman M, Hepatology 27:273〜278, 1998;Okuda K, J.Hepatol.32(1 Suppl):225〜237, 2000)。即ち、肝癌を伴わない慢性肝炎と肝硬変症患者の一部においては血清AFP数値が非特異的に上昇されることがある。このような理由でAFPは慢性肝疾患患者の肝癌選別のために必ず必要な検査であるが、その数値を解釈して肝癌可否を診断する際には考慮すべき事項が多い。従って、このような研究の一環として肝硬変症患者の早期診断のためには、既存のAFP検査法などに比べて敏感度と特異度とがより高い新しい血清学的検査方法の開発が求められている。
【0006】
そこで、本発明者らは、肝硬変症の有効な早期診断のための検査方法を開発しようと研究を重ねた結果、ヒト癌原遺伝子であるHCCR‐2(韓国特許公開第2002‐41550号,GenBank Accession No.AF315598)から発現される蛋白質に特異的に結合する抗体を用いて、抗原‐抗体結合反応によって肝硬変症を有効に検出できることを確認することによって本発明を完成した。
【0007】
〔発明の詳細な説明〕
本発明の目的は、肝硬変症の有効な早期診断のために血清中のヒト癌原蛋白質を検出する方法及びこれを用いた肝硬変症診断キットを提供することである。
【0008】
上記目的より、本発明は、ヒト癌原遺伝子HCCR‐2から発現された蛋白質に特異的な抗体を含み、抗原‐抗体結合反応を通じて生体試料中のHCCR‐2蛋白質の発現を検出する方法及びこれを用いた肝硬変症診断キットを提供する。
【0009】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0010】
上記ヒト癌原遺伝子HCCR‐2(GenBank Accession No.AF315598;韓国特許公開第2002‐41550号)は、哺乳動物において過発現され癌を誘発する発癌遺伝子であって、染色体12番の長腕(12q)に位置し、一つの開放型読み枠(open reading frame)を有して、これから約36KDaの大きさの蛋白質(以下、HCCR‐2蛋白質と称す)が類推される。
【0011】
HCCR‐2蛋白質に特異的な抗体は、HCCR‐2抗原蛋白質を動物に免疫させて得られた抗血清または卵から精製したものが望ましく、特にウサギに免疫させて得られた血清から精製した多重クローン(polyclonal)抗体が望ましい。
【0012】
HCCR‐2蛋白質を特異的に認識する抗体を製造するためには、まず、HCCR‐2蛋白質を入手する必要がある。HCCR‐2蛋白質は、公知のアミノ酸配列を用いて合成したり遺伝子工学的方法によって組換え蛋白質の形態で生産することができる。例えば、NIHプログラムGenBank上に登録されたHCCR‐2遺伝子の塩基配列を用いてHCCR‐2蛋白質を組換え蛋白質の形態で発現する発現ベクターを製造する段階と、上記発現ベクターを大腸菌に形質転換させてHCCR‐2組換え蛋白質を生産する形質転換体を得る段階と、上記形質転換体を培養してヒト癌原遺伝子HCCR‐2組換え蛋白質を分離・精製する段階とによってHCCR‐2組換え蛋白質を製造することができる。
【0013】
本発明の望ましい実施例においては、HCCR‐2遺伝子のアミノ酸配列112〜304を含有するpMAL‐p2X/HCCR‐2112‐304ベクターに形質転換された大腸菌BL21からN‐末端にマルトース(maltose)が融合された組換え蛋白質を生産した後、適切な酵素を処理してマルトースを分離・精製したHCCR‐2112‐304蛋白質を抗原蛋白質として用いる。上記のように大腸菌形質転換体から生産された蛋白質がHCCR‐2112‐304組換え蛋白質であることを確認するためにウェスタンブロット分析を行った結果、約66KDaの分子量(pMALの45KDa+HCCR‐2112‐304の16KDa)を有するHCCR‐2組換え蛋白質が特異的に検出されることを確かめた。
【0014】
大腸菌形質転換体から分離・精製されたHCCR‐2組換え蛋白質は、ウサギの免疫化を通じて多重クローン抗体を生産するための抗原として用いられる。
【0015】
多重抗体の開発に必要な免疫化されたウサギは、上記から分離・精製されたHCCR‐2組換え蛋白質と同量のプロイント完全補助抗原(Freund’s complete adjuvant)を乳状化されるまでよく混合して、ウサギの皮下に注射した後、ウサギの免疫性を向上させるためにさらに抗原注入(booster injection)して得られる。このとき、完全補助抗原を用いずにHCCR‐2組換え蛋白質をプロイント不完全補助抗原(Freund’s incomplete adjuvant)に乳状化させてウサギの皮下内にさらに3回以上にかけて注射することが望ましい。このようにHCCR‐2組換え蛋白質抗原が注射されて免疫化されたウサギから血清を採取して抗体の力価を測定する。
【0016】
上記のように生産されたHCCR‐2特異的な抗体を用いて抗原‐抗体結合反応によって癌を診断する方法は、当分野において公知の酵素結合免疫吸着分析法(enzyme‐linked immunosorbent assay;ELISA)、放射線免疫測定法(radioimmunoassay;RIA)、サンドイッチ測定法(sandwich assay)、ポリアクリルアミドゲル上のウェスタンブロット、免疫ブロット分析または免疫組織化学染色(Immunohistochemical staining)などの方法によって、対象者の生体試料(検体)中に上記蛋白質が発現されたかを確認することによって診断することができる。
【0017】
生体試料(検体)としては、組織、血清または血漿を用いることができて、血清が最も望ましい。
【0018】
本発明の望ましい一例として、HCCR‐2蛋白質に特異的な抗体を用いた酵素結合免疫吸着分析法は、
1)検体及び対照群がコーティングされた反応器にHCCR‐2特異的な抗体を入れて反応させる段階と、
2)上記反応を通じて生成された抗原‐抗体反応物を2次抗体‐接合体(conjugate)及び発色基質溶液を用いて検出する段階と、
3)検体と対照群に対する検出結果を比較する段階と、を含み得る。
【0019】
また、ELISA方法とともに、上記HCCR‐2特異的な抗体を生物学的マイクロチップ(biological microchip)上に固定させた後、対象者から分離された生体試料と反応させて上記抗体蛋白質に対する抗原を検出することができる生物学的マイクロチップ及び自動化された微細配列システム(microarray system)を用いれば大量に試料を分析することができる。
【0020】
また、本発明は肝硬変症を有効に早期診断するために、上記HCCR‐2蛋白質に特異的に反応する抗体を構成要素として含む肝硬変症診断キットを提供する。
【0021】
本発明の診断キットは、
1)HCCR‐2蛋白質に特異的な抗体と、
2)HCCR‐2標準抗原を含む陽性対照群と上記抗原が注入されなかった動物の抗血清を含む陰性対照群と、
3)基質との反応により発色する標識体が接合された2次抗体接合体と、
4)上記標識体と発色反応する発色基質溶液と、
5)各反応段階に用いられる洗浄液と、
6)酵素反応停止溶液とを含むことを特徴とする。
【0022】
上記診断キットは、抗原‐抗体結合反応を通じて抗体蛋白質に対する抗原を定量分析または定性分析することによって肝硬変症を診断することができ、上記抗原‐抗体結合反応は通常のELISA、RIA、サンドイッチ測定法、ポリアクリルアミドゲル上のウェスタンブロット、免疫ブロット分析または免疫組織化学染色方法で測定することができる。例えば、検体及び対照群を表面にコーティングさせた96ウェルマイクロタイタープレートなどを用いて、上記組換え単一クローン抗体蛋白質と反応するELISAを行うように上記診断キットを提供することができる。
【0023】
上記抗原‐抗体結合反応のための反応器としては、ニトロセルローズ膜、ポリビニル(Polyvinyl)樹脂またはポリスチレン(Polystyrene)樹脂で合成されたウェルプレート(well plate)及びガラスからなるスライドガラスなどが用いられ得る。
【0024】
本発明の抗体は前述したように、HCCR‐2蛋白質抗原を動物に免疫させて得られた抗血清から精製することが望ましい。本発明のHCCR‐2特異的な抗体は反応器当り1ないし10μg/100μgに添加することが望ましい。
【0025】
本発明の診断キットに含まれる対照群には、陽性対照群と陰性対照群とがあるが、陽性対照群はHCCR‐2蛋白質標準抗原を含む混合物であり、陰性対照群はHCCR‐2蛋白質抗原で感染されなかった動物の血清である。本発明の望ましい実施例においては、蛋白質濃度がそれぞれ0ng/ml(A)、20ng/ml(B)、40ng/ml(C)、80ng/ml(D)、160ng/ml(E)、320ng/ml(F)及び640ng/ml(G)であるHCCR‐2蛋白質標準抗原溶液を用意して用いた。
【0026】
上記2次抗体の標識体としては、発色反応をする通常の発色剤が望ましく、HRP(horseradish peroxidase)、塩基性脱燐酸化酵素(alkaline phosphatase)、コロイドゴールド(coloid gold)、FITC (poly L‐lysine‐fluorescein isothiocyanate)、RITC(rhodamine‐B‐isothiocyanate)などの蛍光物質(fluorescein)及び色素(dye)などの標識体が用いられ得る。本発明においては、例えば、ヤギ由来の抗‐ウサギIgG‐HRP接合体(goat anti‐rabbit IgG‐HRP conjugate)を用いる。
【0027】
上記発色を誘導する基質は発色反応をする標識体に応じて用いることが望ましく、TMB(3,3',5,5'‐tetramethyl bezidine)、ABTS[2,2'‐azino‐bis(3‐ethylbenzothiazoline‐6‐sulfonic acid)]、OPD(o‐phenylenediamine)などを用いることができる。このとき、発色剤基質は、緩衝溶液(0.1 M NaAc, pH5.5)に溶解された状態で提供されることがさらに望ましい。TMBのような発色基質は2次抗体接合体の標識体として用いられたHRPによって分解されて発色沈積体を生成し、その発色沈積体の沈積程度を肉眼で確認することによってHCCR‐2蛋白質抗原の存在有無を検出する。
【0028】
上記洗浄液は、燐酸塩緩衝溶液、NaCl及びツイン20(Tween 20)を含むことが望ましく、0.02M燐酸塩緩衝溶液(phosphate buffer)、0.13M NaCl、及び0.05% ツイン20から構成された緩衝溶液がさらに望ましい。洗浄液は抗原‐抗体結合反応後、抗原‐抗体結合体に2次抗体を反応させた後、適当量を反応器に入れて3回ないし6回洗浄するものである。ブロッキング溶液としては、0.1% BSAを含有する燐酸塩緩衝溶液が望ましく、反応停止溶液としては2Nの硫酸溶液が望ましい。
【0029】
上記診断キットを用いて検体試料内のHCCR‐2抗原を検出することによって肝硬変症を早期に診断する方法は、陽性及び陰性対照群と検体試料にHCCR‐2多重クローン抗体を各々反応させ、洗浄液で洗浄した後、基質との反応によって発色する標識体が標識された2次抗体接合体を加え、洗浄液で再洗浄した後、上記基質含有溶液を添加して発色反応させ、450nmでの吸光度を測定することを特徴とする。このとき、標準抗原溶液Aの吸光度は平均値が0.000以上であり0.200以下であるべきであり、Fの吸光度は1.200以上であり3.000以下であるべきである。標準抗原溶液A及びFの吸光度の中間値を閾値(cut‐off value)として検体を陽性または陰性に判定する基準とする。検体の吸光度が標準抗原溶液Fの吸光度より大きい場合には検体を希釈した後再測定する。検体の吸光度が閾値以上である場合を陽性と判断し、以下である場合を陰性と判断する。
【0030】
本発明によるヒト癌原遺伝子HCCR‐2に特異的な抗体を含む肝硬変症診断キットは、患者の血液を用いる新しい免疫学的診断道具として正確度及び再現性が高いという事実が確認された。既存に肝硬変症に対する血清学的診断道具としては、肝癌で用いられているAFP肝癌診断剤が用いられていたが診断的正確度が肝硬変症においては非常に低い。
【0031】
しかし、肝硬変症の早期診断のための血清HCCR‐2検査法は、既存のAFP検査法を用いた肝硬変症診断より診断的正確度が統計的に有意に高かった(95.1%)。従って、本発明によるヒト癌原遺伝子HCCR‐2を用いた肝硬変症検出方法及び肝硬変症診断キットは、診断の正確度及び再現性が高くて肝硬変症の早期診断に非常に有用な道具として用いることができる。
【0032】
〔図面の簡単な説明〕
図1は、pMAL‐p2X/HCCR‐2ベクターに形質転換された大腸菌BL21菌株から分離・精製されたHCCR‐2組換え蛋白質の免疫ブロットの結果を示したものであり、図2は、本発明のHCCR‐2多重クローン抗体を用いた診断キットで肝硬変症患者及び正常人の血液を対象としてHCCR‐2蛋白質の発現を検出した結果を示したものである。
【0033】
〔発明の実施のための最良の形態〕
以下、本発明を下記実施例に基づいてより詳しく説明する。但し、下記実施例は本発明を例示するだけであって、本発明の内容は下記実施例により限定されるのではない。
【0034】
<実施例1> HCCR‐2多重クローン抗体の生産
<1‐1> HCCR‐2組換え蛋白質の生産
肝硬変診断のための腫瘍の標識物質としてのヒト癌原遺伝子HCCR‐2に特異的な抗体を生産するために、ヒト癌原遺伝子HCCR‐2の一部(GenBank Accession No.AF315598のアミノ酸配列112ないし304に該当)をpMALTM‐p2X発現ベクター(New England Biolabs, MA)の多重クローニング部位に挿入してpMALTM‐p2X/HCCR‐2112‐304ベクターを作製した。上記ベクターを大腸菌BL21(DE3)(Novagen, WI)に形質転換した後、1mM IPTG(isopropyl β‐D‐thiogalacto‐pyranoside, Sigama)処理で発現を誘導して約45KDaのマルトース結合蛋白質が融合された66KDaのHCCR‐2112‐304融合蛋白質を生産し、これをアミロース樹脂キット(New England Biolabs)で精製した(国際出願公開第WO02/44370 A1号)。精製された組換え蛋白質を免疫ブロットした結果、約66KDaの融合蛋白質が多量含有されていることを確認した(図1)。このように分離・精製されたHCCR‐2組換え蛋白質は、ウサギの免疫化及び多重クローン抗体を生産するための抗原‐抗体結合反応の抗原として用いられた。
【0035】
<1‐2> ウサギの免疫化
上記<1‐1>で獲得したHCCR‐2組換え蛋白質に特異的な抗体生産のための動物としては、約2.5kg重量のNZWウサギを用いた。HCCR‐2組換え蛋白質(200μg/ml)とプロイント完全補助剤(Sigma Chemical Co.)を各々同量混合して乳化させた。上記乳化液2mlをウサギの皮下に各々0.25mlずつ8か所に筋肉注射して1次接種した。追加抗原注入(Booster injection)は1次接種後、2週間隔で数回行い、免疫抗原をプロイント不完全補助剤(Sigma Chemical Co.)で乳化して1次接種と同一の方法で施した。
【0036】
<1‐3> ウサギ血清(Rabbit serum)の分離及び特異多重抗体の選別
<1‐2>のように免疫化されたウサギの動脈から最終接種以後5日目から2週間隔で血液を採取して血清を分離した後、−20℃に保管して各種の実験測定に用いた。上記血清は抗体特異性を調べたところ、ヒト癌原遺伝子HCCR‐2蛋白質にのみ特異的に反応した。採取した血清よりヒト癌原遺伝子HCCR‐2組換え蛋白質抗原にのみ特異的に反応する血清を選別するために、上記<1‐1>の大腸菌形質転換体から分離・精製されたHCCR‐2組換え蛋白質を抗原として用いたELISAを行った。
【0037】
具体的に、非特異性免疫反応を抑制するために、96ウェルプレート(Falcon Co., USA)を1%脱脂粉乳(skim milk)‐PBSを添加して室温で1時間露出させコーティングした後、ウェル当り1ugの組換え蛋白質をコーティングした。上記ウェルにウサギ血清の原液を2% BSAを含有したPBS溶液で各々1×10、1×10、1×10、1×10、1×10の濃度に希釈させた後、希釈液をウェル当り各々100μlずつ添加した後、37℃で2時間抗原‐抗体結合反応を行った以後PBS溶液で3回洗浄した。以後、2%(W/V)BSAを含有するPBS緩衝溶液で希釈(1:10,000)されたヤギ由来の抗‐ウサギIgG‐HRP(Sigma Co., USA)2次抗体をウェル当り100μlずつ添加して37℃で1時間反応させた。
【0038】
以後、0.1Mシートレート燐酸塩緩衝溶液(phosphate buffered citrate, pH 5.0)10mlに、1mgのTMB(3.3', 5.5'‐tetramethylbenzidine, Sigma Co., USA)と20μlの35%過酸化水素を混合して製造した基質溶液をウェル当り100μlずつ添加して酵素反応を誘導した。室温で15分間酵素反応を維持させた後、同量の2N硫酸溶液を添加して酵素反応を中断させてから発色反応の程度を450nmで測定した。これからHCCR‐2抗原に対する特異抗体を有している多重クローン抗体をELISAで分析したとき抗体力価が陰性対照群より10倍以上高い血清を再選別して特性分析を始めた。
【0039】
<実施例2> HCCR‐2多重クローン抗体を用いたELISA
HCCR‐2多重クローン抗体を用いたELISAによって肝硬変症を診断する方法は、(1)検体試料を処理してウェルにコーティングさせる段階と、(2)ELISAプレートのウェルにウサギから分離・精製したHCCR‐2多重クローン抗体をコーティングする段階と、(3)検体試料内に存在するHCCR‐2抗原がウェルの抗体に結合されていることを検出する段階とによって行われた。
【0040】
<2‐1> ウェルに検体試料のコーティング
検体試料としては、肝硬変症患者から抽出した血液、肝炎患者から抽出した血液、正常人の血液から血清を分離して用意し、閾値(cut‐off value)測定のための標準曲線(standard curve)は、HCCR‐2組換え蛋白質を各々0ng/ml、20ng/ml、40ng/ml、80ng/ml、160ng/ml, 320ng/ml及び640ng/mlの濃度で希釈した標準抗原溶液A、B、C、D、E、F及びGを用いた。底が平らな96ウェルELISAプレートのウェルに検体試料を100μlずつ分株した後、37℃で4時間反応させ各ウェルを洗浄用緩衝溶液(0.05% ツイン20を含んだPBS、pH 7.4)で4回洗浄した。このとき、陽性対照群としては上記で用意した標準抗原溶液を添加し、陰性対照群としては正常ウサギの血清を同量添加した。
【0041】
<2‐2> HCCR‐2多重クローン抗体の添加
検体がコーティングされたプレートの各ウェルに上記<1‐3>で用意したHCCR‐2多重クローン抗体を注入し蓋をした後、4℃で16ないし18時間放置した。このとき、多重クローン抗体は5μg/ml濃度で0.5M炭酸塩緩衝溶液(pH 9.6)に希釈した後100μlずつウェルに添加した。対照群としてHCCR‐2蛋白質で免疫されなかったウサギの血清(正常ウサギの血清)を炭酸塩緩衝溶液に500倍希釈して100μlずつウェルに分株した。
【0042】
その後、プレートのウェルを洗浄用緩衝溶液で4回洗浄し非特異的蛋白質の結合部位を遮断するためにブロッキング溶液(2% BSAを含んだPBS(pH 7.4)緩衝溶液)を300μlずつ分株した後、37℃で2時間放置した。
【0043】
<2‐3> 抗原‐抗体結合体の検出
山葵ペルオキシダーゼ(horserardish peroxidase)で標識されたヤギ由来の抗‐ウサギIgG2次抗体を1:10,000に希釈させて上記の各ウェルに100μlずつ添加し、プレートを37℃で1時間定置した後各ウェルを洗浄用緩衝溶液で4回洗浄した。続いて、基質であるTMB(3.3', 5.5'‐tetramethylbenzidine, Sigma Co., USA)1mgを基質用緩衝溶液(クエン酸緩衝溶液、pH5.0)10mlに溶解させ、35%過酸化水素を2μlになるように添加して基質溶液を製造した。上記基質溶液100μlずつをウェルに入れ光を遮断して室温で15分間反応させた後、2N HSO溶液を50μlずつ添加して反応を停止させた。基質溶液の発色反応程度は450nm波長での吸光度を測定することによって決定した。
【0044】
各検体試料の吸光度から、陽性対照群であるHCCR‐2融合蛋白質のみがコーティングされたウェルの吸光度と陰性対照群であるPBSのみを入れたウェルの吸光度とを引いた残りをHCCR‐2抗原による吸光度として推定した。また、同一方法で標準液の吸光度を計算した後、標準液AとFの吸光度の中間値を閾値と定め、吸光度が閾値以上である検体は陽性に判定し、以下である検体は陰性に判定した。このとき、標準液Aの吸光度は平均値が0.000以上であり0.200以下であるべきであり、標準液Fの吸光度は平均値が1.200以上であり3.000以下であるべきである。
【0045】
HCCR‐2標準抗原溶液を用いて作成した標準曲線から閾値を10μg/mlに決め、これを基準として各検体の吸光度を比較して陽/陰性を判定した。肝硬変症患者及び正常人においてELISA方法によりHCCR‐2蛋白質の血中濃度を測定した結果は図3に示した。
【0046】
<実施例3> HCCR‐2多重クローン抗体を用いたELISAによる肝硬変症診断の効率性確認
<3‐1> 肝硬変症患者群におけるAFPとHCCR‐2キットの診断正確度の比較
本発明によるHCCR‐2多重クローン抗体を用いたELISA診断キット及び検出方法による肝硬変症診断の効率性を確認するために、実施例2に記載されたHCCR‐2特異的な抗体を用いたELISA方法と既存に肝癌または肝硬変症診断のために用いられてきた血清アルファー‐胎児蛋白(alpha‐fetoprotein, AFP)の数値測定方法を比較した。このとき、AFP数値は市販されているELSA2‐AFP測定キット(CIS Bio International, France)を用いて測定した。
【0047】
診断結果の陽/陰性は、AFPの場合には20ng/mlを、HCCR‐2の場合には標準曲線(standard curve)から得られた10μg/mlを各々の閾値(cut‐off value)として決定した。肝硬変症群と正常群との各集団内におけるAFPとHCCR‐2との陽性反応率の差はマクネマー(McNemar)検定で比較し、肝硬変症群と正常群からHCCR‐2の敏感度、特異度、偽陽/陰性率と各々の95%信頼区間を推定した。HCCR‐2の集団間の陽性反応率の差はフィッシャーの正確度テスト(Fisher’s exact test)で、各集団内におけるAFPとHCCR‐2間の陽性反応率の差はマクネマー検定で比較した。全ての統計的分析にはSAS分散6.12(SAS.SAS/STAT Software: Changes and Enhancements through Release 6.12.Cary, NC: SAS Institute, 1997)が用いられ、検定の有意水準は0.05とした。
【0048】
下記表1に62人の肝硬変症患者群よりAFP数値が確認できなかった1人の肝硬変症患者を除いた61人におけるHCCR‐2とAFPキットとの診断正確度を比較した。その結果、HCCR‐2の診断正確度は95.1%で、AFPの18.0%に比べて有意に高く示された(
【0049】
【数1】

【0050】
df=1, P=0.0001, マクネマーテスト)。
【0051】
【表1】

【0052】
<3‐2> HCCR‐2キットの肝硬変症診断道具としての有用性確認
下記表2及び表3からわかるように、62人の肝硬変症患者と138人の正常人とを対象として実施例2のHCCR‐2特異的抗体を用いたELISA方法で肝硬変症を診断したとき、本発明のHCCR‐2キットの敏感度は95.2%、特異度は91.3%であり、偽陽性率と偽陰性率は各々16.9%と2.3%で示された。また、全体診断の正確度は92.5%に示されて、診断道具としての有用性が非常に高いことを確かめた。
【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
〔産業上の利用可能性〕
上述したように、本発明によるヒト癌原遺伝子HCCR‐2に特異的な抗体を含む肝硬変症診断キットは、患者の血液を用いる新しい免疫学的肝硬変症診断道具であって、肝硬変症に対する診断的正確度及び再現性が高く肝硬変症の早期診断に有用に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】pMAL‐p2X/HCCR‐2ベクターに形質転換された大腸菌BL21菌株から分離・精製されたHCCR‐2組換え蛋白質の免疫ブロットの結果を示したものである。
【図2】本発明のHCCR‐2多重クローン抗体を用いた診断キットで肝硬変症患者及び正常人の血液を対象としてHCCR‐2蛋白質の発現を検出した結果を示したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)検体及び対照群がコーティングされた反応器にヒトHCCR‐2蛋白質(GenBank Accession No.AF315598)に特異的な抗体を入れて反応させる段階と、
2)上記反応を通じて生成された抗原‐抗体反応物を2次抗体‐標識体接合体(conjugate)及び標識体の発色基質溶液を用いて検出する段階と、
3)検体と対照群に対する検出結果を比較して検体試料中のHCCR‐2蛋白質の発現程度を測定する段階とを含む、検体内HCCR‐2蛋白質の測定方法。
【請求項2】
上記抗原‐抗体結合反応を酵素結合免疫吸着分析法(enzyme linked immunosorbent assay)、放射線免疫測定法(radioimmunoassay)、サンドイッチ測定法(sandwich assay)、ポリアクリルアミドゲル上のウェスタンブロット、免疫ブロット分析法または免疫組織化学染色方法で測定することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記HCCR‐2特異的な抗体が、ヒトHCCR‐2蛋白質を動物に免疫させて得られた抗血清または卵から精製して得られたものであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
上記検体が、組織、血清または血漿であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
上記反応器が、ニトロセルローズ膜、ポリビニル(polyvinyl)またはポリスチレン(polystyrene)樹脂で合成されたウェルプレート及びグラスからなるスライドガラスからなる群より選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
上記HCCR‐2蛋白質に特異的な抗体が反応器当り1ないし10μl/100μlで添加されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ヒトHCCR‐2蛋白質(GenBank Accession No.AF315598)に特異的な抗体を含んで抗原‐抗体結合反応を通じて検体試料中のHCCR‐2蛋白質の発現程度を測定して肝硬変症を診断するための診断キット。
【請求項8】
上記キットは、
1)HCCR‐2蛋白質に特異的な抗体と、
2)HCCR‐2標準抗原を含む陽性対照群と上記抗原が注入されなかった動物の抗血清を含む陰性対照群とを含むことを特徴とする請求項7に記載の診断キット。
【請求項9】
上記キットは、
a)基質との反応によって発色する標識体が接合された2次抗体接合体と、
b)上記標識体と発色反応する発色基質溶液と、
c)各反応段階に用いる洗浄液と、
d)酵素反応停止溶液とをさらに含むことを特徴とする請求項7または請求項8に記載の診断キット。
【請求項10】
上記2次抗体接合体の標識体が、HRP(horseradish peroxidase)、塩基性脱燐酸化酵素(alkaline phosphatase)、コロイドゴールド(coloid gold)、蛍光物質(fluorescein)及び色素(dye)からなる群より選択されることを特徴とする請求項9に記載の診断キット。
【請求項11】
上記発色基質が、TMB(3,3',5,5'‐tetramethyl bezidine)、ABTS [2,2'‐azino‐bis(3‐ethylbenzothiazoline‐6‐sulfonic acid)]及びOPD(o‐phenylenediamine)からなる群より選択されることを特徴とする請求項9に記載の診断キット。
【請求項12】
上記抗原‐抗体結合反応を、酵素結合免疫吸着分析法(enzyme linked immunosorbent assay; ELISA)、放射線免疫測定法(radioimmunoassay;RIA)、サンドイッチ測定法(sandwich assay)、ポリアクリルアミドゲル上のウェスタンブロット、免疫ブロット分析法または免疫組織化学染色方法で測定することを特徴とする請求項7に記載の診断キット。
【請求項13】
上記HCCR‐2蛋白質に特異的な抗体がヒトHCCR‐2蛋白質を動物に免疫させて得られた抗血清または卵から精製して得られたものであることを特徴とする請求項7に記載の診断キット。
【請求項14】
上記検体が、組織、血清または血漿であることを特徴とする請求項7に記載の診断キット。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−502427(P2007−502427A)
【公表日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−532061(P2006−532061)
【出願日】平成16年5月25日(2004.5.25)
【国際出願番号】PCT/KR2004/001242
【国際公開番号】WO2004/104598
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(501241818)
【Fターム(参考)】