説明

ヒト癌胎児性抗原(CEA)用の特異的抗体断片

本発明は、組換えDNA技術を用いて、抗癌胎児性抗原(CEA)モノクローナル抗体(McA)CB/ior−CEA.1から得られる一価及び二価(二重特異性抗体)の単鎖Fv型(scFv)抗体断片に関する。前述のMcAはCEAに対する高い親和性を有しており、ヒトにおける結腸直腸腫瘍の診断及びモニターリングに使用されている。元のMcAと同様に、二重特異性抗体及び一価scFv断片はヒトCEAに対する高い親和性、及び炭水化物の保存に依存的なエピトープ認識を示す。二重特異性抗体及び一価scFv断片はそれぞれ(5.0±0.4)×10L mol−1及び(2.8±0.3)×1010L mol−1のCEAに対する親和定数を有する。前述の2つの断片は、CEAがしばしば存在する正常な結腸粘膜を除いては、正常なヒト組織及び細胞と交差反応性を示さない。前記断片は、CB/ior−CEA.1 McAによって産生されるハイブリドーマから得られうる可変領域をコードしている核酸配列のクローニングから、組換え微生物中で発現させることによって産生できる。元のMcAと同様に、二重特異性抗体及び一価scFvは、腫瘍の形成を増殖するヒトCEA産生細胞をラット内でin vivoで同定する能力を有している。一価scFv及び二重特異性抗体はFcドメインを有さず、前記一価scFv及び二重特異性抗体の分子量はラットMcAよりもそれぞれ5倍及び2.5倍小さい。その結果、前述の一価scFv及び二重特異性抗体はin vivoで組織により良好に浸透することができ、且つヒトにおいて免疫原性がより低い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫学の分野に関し、具体的には、本発明はヒト癌胎児性抗原に特異的な、臨床的有効性が証明されているマウスモノクローナル抗体から出発して組換えDNA技術によって得られた一価及び二価(二重特異性抗体)の形態の単鎖Fv型の抗体断片に関する。
【背景技術】
【0002】
癌胎児性抗原(CEA)とは、好ましくはヒト胃腸管系の腫瘍及び他の癌腫の細胞によって分泌される180kDaの糖タンパク質であるが、結腸粘膜などの一部の悪性でない組織でも検出されることがある。その生理的な役割は完全に解明されておらず、また、何らかの形で細胞接着プロセスに関連していると現在までは考えられている(Gold P、Freedman SO.Journal of Experimental Medicine 122:467;1965;Zimmermann W他、PNAS USA 84:2960−2964;1987;Paxton RJ他、PNAS USA 84:920−924、1987;Beauchemin N他、Molec.Cellular Biol.7:3221−3230、1987;Gold P、Goldenberg NA.MJM 3:46−66、1997)。
【0003】
CEAは、反復ドメインを特徴とするその構造のため、免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーである(Oikawa S他、BBRC 144:634−642、1987;Thompson J、Zimmermann W.Tumor Biology 9:63−83、1988;Hammarstrom S、Seminars in Cancer Biology 67−81、1999)。CEAは、NCA、胎便抗原、妊娠に特異的なA型及びB型胆汁糖タンパク質などのこのスーパーファミリーの他の分子に対して高い相同性を有している(von Kleist S、Burtin P.Immunodiagnosis of Cancer.Marcel Dekker.322−341、1979;Buchegger.F.他、Int.J.Cancer 33;643−649、1984;Matsuoka Y他、Cancer Res.42:2012−2018、1982;Svenberg T.Int.J.Cancer 17:588−596、1976)。
【0004】
循環CEAレベルの上昇は、この抗原を発現する原発性結腸腫瘍の手術を受ける患者において、再発及び/又は転移の可能性の最良の指標の1つとして何年も前から検討されている(Gold P、Goldenberg NA.MJM 3:46−66、1997)。循環CEAの測定は、この腫瘍マーカーの有意な手術前レベルが実証された場合に、他のヒトの癌(乳房、肺)の経過観察を行う方法としても拡張されている(Gold P、Goldenberg NA.MJM.3:46−66、1997)。
【0005】
モノクローナル抗体を産生する技術が発見されて以来(Mab;Kohler G、Milstein C.Nature 256:52−53、1975)、循環CEAを測定するための免疫アッセイは特異性が向上し、またその使用は広く拡張されている。
【0006】
CEAはまた、何年も前からin vivo診断学(Goldenberg DM Int.J.of Biol.Markers 7;183−188、1992)及びin situ放射線療法(Ledermann他、Int.J.Cancer 47;659−664、1991)において放射性同位体を特異的に方向づけるための、可能性のある「細胞標的」としても研究されている。またその使用は、腫瘍細胞を毒素、薬物、及び他の生物活性生成物の標的とすることが予測されていた(Bagshawe KD.Drug Dev.Res.34:220−230、1995)。
【0007】
抗CEA抗体はこのような目的のために使用する主要なベヒクルであり、ポリクローナル抗体の調製から出発し、続いてマウスMab、そのFab断片、マウスMabから遺伝子操作することによって得られた抗体断片、及びより最近では、繊維状ファージで提示されるネズミ及びヒト抗体のライブラリーから出発している(Hammarstrom S他、Cancer Res.49、4852−4858、1989;Hudson PJ Curr.Opinion Immunology 11:548−557、1999;Griffiths AD他、EMBO J.12、1993;725−734;Griffiths AD他、EMBO J.13 3245−3260、1994;国際公開公報WO93/11236号;Chester K他 1995、国際公開公報WO95/15341号;Allen DJ他、1996、US5872215号)。
【0008】
大腸菌(E.coli)などの原核細胞中、及び他の微生物中での抗体及び抗体断片の発現は当分野で十分に確立されている(Pluckthun.A.Bio/Technology 9:545−551、1991;Gavilondo J、Larric JW.Biotechniques 29:128−132、134−136、2000)。培養中の上位真核細胞中での抗体及び抗体断片の発現も当業者に知られている(Reff ME.Curr.Opinion Biotech.4:573−576、1993;Trill JJ他、Curr.Opinion Biotech 6:553−560、1995)。
【0009】
CB−CEA.1又はior−CEA.1(以降CB/ior−CEA.1と呼ぶ)としてあいまいに命名されているマウスMabは、現況技術で知られている。このMabはヒトCEAに対する高い特異性を有しており、NCAなどの分子と望ましくない交差反応を示さず、また、CEAが一般に分極して見つかる正常な結腸上皮の細胞を除いては、正常な組織を認識しない(Tormo B他、APMIS 97:1073−1080、1989)。このMabはCEAに対する非常に高い親和性を有している(Perez L他、Applied Biochem.Biotechnol. 24:79−82、1996)。99mTcで標識したこのMabの、ヒト結腸直腸腫瘍の診断及び経過観察における使用が成功している。放射免疫検出の臨床研究により、これが91.3%の感度、77.1%の特異性、及び82.8%の陽性予測値を有することが示されている(Oliva JP他、Rev Esp Med Nucl. 13:4−10、1994)。このことから、これが、このような目的のために現在世界で臨床的に使用されている唯一の他の抗CEAモノクローナル抗体である、Immunomedics(米国ニュージャージー州Morris Plains)のCEA−Scan(99mTc−Arcitumomab)よりも優れていることとなる。
【0010】
Mab CB/ior−CEA.1を産生するハイブリドーマから抽出したRNAのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって得た単鎖Fv(scFv)抗体断片の開発が1992年に報告されている(Ayala M他、Biotechniques 13:790−799、1992)。その後の実験戦略では、CB/ior−CEA.1の可変ドメインの増幅は、両方の可変ドメインのフレームワーク領域の縮重オリゴヌクレオチドを用いて行われた。scFvは大腸菌(E.coli)中で産生され、これはELISA及び細胞化学の研究においてCEAの認識を示したが、固定した抗原に対する親和性は天然の方法で得たFabよりも200倍低かった(PerezL他、Applied Biochem.Biotechnol.24:79−82、1996)。この同じscFv断片をピキアパストリス(Pichia pastoris)中にクローニングし、発現させ、産生させたが(Freyre FM他、J Biotechnol.76(2−3):157−163、2000)、ヒトCEAに対する親和性は向上せず、放射標識した断片を用いて実験動物で実施した研究では異常な体内分布が示され(Pimentel GJ他、Nucl Med Commun.22:1089−94、2001)、これにより、これを更に開発し続けないことが促された。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、抗癌胎児性抗原(CEA)モノクローナル抗体CB/ior−CEA.1から出発してDNA組換え技術によって得られた、一価及び二価(二重特異性抗体)の形態の単鎖Fv(scFv)抗体断片に関する(Tormo B他、APMIS 97:1073−1080、1989)。このMabはCEAに対する非常に高い親和性を有しており(Perez L他、Applied Biochem.Biotechnol.24:79−82、1996)、ヒト結腸直腸腫瘍の診断及び経過観察における使用が成功している(Oliva JP他、Rev Esp Med Nucl.13:4−10、1994)。本発明中で報告するscFvの一価及び二重特異性抗体の断片は、細菌及び酵母などの組換え微生物中でそれを発現させることによって産生することができる。元のMabと同様に、scFvの一価及び二重特異性抗体の断片は、炭水化物の保存に依存的なヒトCEAのエピトープに対する特異性を有しており、またこの抗原に対して高い親和性を示す。scFvの一価及び二重特異性抗体の断片は、元のMabに類似した、ヒトの正常及び腫瘍細胞並びに組織のin vitro認識パターンを有しており、したがって、放射標識した後は、先天性胸腺欠損マウス中で増殖しているヒトCEAを発現する腫瘍細胞を同定する能力を有する。scFvの一価及び二重特異性抗体の断片はFcドメインを有さず、分子量がマウスMabよりも小さいので、診断又は治療目的のためにヒトに施用した場合に、in vivoで組織により良好に浸透し、且つ免疫原性がより低いという潜在性が与えられる。
【0012】
本発明で報告するscFvの一価及び二重特異性抗体の断片は、同じMabから以前に開発されている他のscFvに対して重鎖(VH、及び軽鎖(VL)可変ドメイン中のアミノ酸に重要な差異を有しており、CEAに対する親和性、細胞及び組織の認識における性能、並びにマウス内にin vivoで増殖しているヒトCEAを産生する腫瘍の位置決定における有効性について、より優れている。
【0013】
本発明で報告する組換えscFv一価及び二重特異性抗体断片は、CB/ior−CEA.1ハイブリドーマから抽出したRNAから出発して、PCR並びに組換え微生物中におけるクローニング及び発現技術を使用して開発された。MabのVH及びVLドメインをコードしている塩基配列の増幅及び単離には、以前に報告されているscFvを得るために使用したオリゴヌクレオチドの組(Ayala他、Biotechniques 13:790−799、1992)とは異なるものを使用した。本発明では、新しい一価及び二重特異性抗体のscFvは、以前に得られたscFvに対してVH及びVLドメインのアミノ酸配列中に重要な差異を有しており、この差異は、VHドメイン中のフレームワーク1(FR1)及び3(FR3)並びに相補的決定領域2(CDR2)で以前に得られたscFvと16個のアミノ酸が異なっており、VLドメインのFR1及びFR3間では3個のアミノ酸が以前に得られたscFvと異なっている。これは、これらのドメインがAyala他、Biotechniques 13:790−799、1992に報告されたものに対して異なるクローニング起点を有していることを示している。二重特異性抗体の場合、これは、scFv型分子の作製で使用した結合セグメント(リンカー)の大きさ及びアミノ酸組成においても、以前に得られたscFvと異なる。
【0014】
驚くべきことに、この変更は、新しい断片の生化学的及び生物学的特性に反映されており、これらにMab CB/ior−CEA.1に非常に類似しており以前に報告されたscFvよりもはるかに優れた挙動を与える。以前に報告されたscFvと同一のリンカーを有するが(Ayala他、Biotechniques 13:790−799、1992)、前述の可変ドメイン中にアミノ酸の変更を有する新しい一価scFv断片は、以前に報告されたscFvよりもはるかに高いヒトCEAに対する親和定数を有する。また、二重特異性抗体は、ヒトCEAに対するその親和定数に関してどちらの一価scFvの形態よりも優れている。2つの新しいscFv一価及び二重特異性抗体断片は、CEAの認識、腫瘍細胞及び組織の同定、NCAとの交差反応性が存在しないこと、並びにヒトCEAを産生するマウスに移植した腫瘍を選択的に蓄積する能力に関して元のMabの特異性の特性を保存しており、これらは全て以前に得られたscFvよりもはるかに優れた性能である。
【0015】
2つの新しい一価及び二重特異性抗体のscFvは、元のMabよりも分子量がそれぞれ少なくとも5及び2.5倍小さく、これにより、組織により良好に浸透し、且つ人間に対してより免疫原性が低いという潜在性がこれらに与えられ、これらは全て、ヒトCEAを発現する腫瘍を放射性同位元素、薬物、毒素、及び他の生理活性要素の対象とさせるのにこれらを元のCB/ior−CEA.1 Mabよりも魅力的且つ恐らくは優位にする。
【0016】
本発明では、シグナルペプチド並びに定常ドメインCH1及びCkをコードしている塩基配列にハイブリダイズする合成オリゴヌクレオチドを使用した、Mab CB/ior−CEA.1のVH及びVLドメインのPCRによる増幅がどのように可能かを示す。また、増幅したVH及びVLドメインをこの順序で、PCRを使用してアセンブリ形成し、ドメインを連結するリンカーの大きさを操作してscFv断片の様々な形態を得る可能性も示す。14個のアミノ酸を使用して一価のscFv形態がもたらされ、この数字を5に減らすと二重特異性抗体のscFv型の形態がもたらされる。
【0017】
本発明では、細菌大腸菌(E.coli)及び酵母ピキアパストリス(Pichia pastoris)中で一価及び二価のscFv断片を発現させることが可能であり、またこれらの断片がin vitroで、特定の様式で腫瘍細胞に連結している又はしていないヒトCEAを同定することが実証されている。本発明では、放射標識した一価及び二重特異性抗体のscFvが、ヒトCEAを発現しマウス内で腫瘍として増殖する腫瘍細胞をin vivoで同定し、またMab CB/ior−CEA.1に非常に類似した挙動を示し、以前に得られたscFvよりもはるかに優れた性能を示すことも実証されている。本発明では、新しいscFvの一価及び二重特異性抗体の断片を精製且つ特徴づける方法も示す。
【0018】
本発明中に記述する抗体断片は、これらが臨床的有効性が証明されたMabに由来すること、その大きさがより小さいこと及びFcドメインが存在しないことのいずれもからより良好な組織浸透が可能になること、また、ヒト抗マウス免疫グロブリン応答の誘発能がより低いことで反復処置に使用できることが利点であり、癌の診断及び治療への応用に有用である(HAMA;Schroff他、Cancer Res 45:879−885、1985;DeJager他、Proc.Am.Assoc.Cancer Res. 29:377、1988)。HAMA応答は、投与した抗体の生物学的効果が中和され結果的に投与量が低下すること、またこれらがアレルギー応答、「血清」病、及び腎臓障害を引き起こす可能性があることから、処置に不都合である。
【0019】
用語
抗体及びその特異的断片
これらの用語は、天然又は部分的に若しくは完全に合成によって生成した、抗原特異性を有する免疫グロブリン又はその一部を説明している。これらの用語はまた、抗体の結合部位又はその相同体である結合ドメインを有する任意のポリペプチド又はタンパク質にもわたる。これらは天然の方法によって、又は部分的に若しくは完全に合成によって生成することができる。抗体の例は、免疫グロブリンの様々なクラス及びサブクラス、並びにFab、scFv、Fv及び二重特異性抗体などの、1つ又は複数の抗原結合部位を含むこれらの断片である。
【0020】
抗体及び抗体断片には、天然又は完全に若しくは部分的に合成によって生成した免疫グロブリン結合ドメインを含む任意のポリペプチド、及び他のポリペプチドに融合した免疫グロブリン結合ドメイン若しくはその等価物を含むキメラ分子が含まれる。
【0021】
完全な抗体の断片は、抗原と結合する機能を実行することができることが示されている。このような結合断片の例は、(i)免疫グロブリンのVL、VH、CL及びCH1ドメインを含むFab断片、(ii)VH及びCH1ドメインからなるFd断片、(iii)所定の抗体のVL及びVHドメインからなるFv断片、(iv)所定の抗体のVH及びVLドメインが、2つのドメインが会合して抗原結合部位を形成することを可能にするペプチドリンカーで結合されたscFv断片(Bird他、Science 242:423−426、1988;Huston他、PNAS USA 85:5879−5883、1988)、(v)scFvと類似の方法で構築するが、リンカーが小さいことにより同一scFv分子のVH及びVLドメインがその間で会合できず、また抗原結合部位が2つ以上あるscFvの会合によって形成される多価又は多重特異的断片である「二重特異性抗体」(国際公開公報WO94/13804号;Holliger P他、PNAS USA 90 6444−6448、1993)、(vi)dAb(Ward SE他、Nature 341:544−546、1989)、単離CDR領域、F(ab’)断片及び二重特異性scFv二量体(PCT/US92/09965号;Holliger P、Winter G.Current Opinion Biotechnol.4:446−449、1993;de Haard,H他、Adv.Drug Delivery Rev.31:5−31、1998)などの他の断片である。
【0022】
二重特異性抗体及びscFvは、可変ドメインのみを用いてFc領域なしで構築することができ、これにより、ヒトに投与した際の抗アイソタイプ反応の有効性が潜在的に低減される。また、これらは大腸菌(E.coli)及び組換え酵母中で産生されるので特に有用である。その大きさが完全な免疫グロブリンよりも小さいので、組織への浸透性の潜在性が増す。
【0023】
抗原結合部位
この用語は、全ての抗原又はその一部と特異的に相互作用する区域を含む抗体部分を説明している。抗原が大きい場合は、抗体はエピトープと呼ばれる抗原の特定の部分としか結合することができない。抗体結合部位は、1つ又は複数の抗体可変ドメインで与えることができる。好ましくは、抗原結合部位は抗体の軽鎖(VL)の可変領域(又はドメイン)及び重鎖(VH)の可変領域(又はドメイン)を含む。
【0024】
特異性
抗体又はその断片が、その特異的結合対とは異なる他の分子と有意な結合を提示しない状態を言う。また、この用語は、抗原結合部位がいくつかの関連又は非関連抗原中に表れる特定のエピトープに特異的である場合にも適用可能であり、この場合、結合部位はこのエピトープを保有するいくつかの抗原と結合することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明を通して特異的ポリペプチド分子が得られ、これはヒトCEAに特異的なマウスMab由来の1つ又は複数の抗原結合部位によって形成されている。抗原結合部位は、ポリペプチド分子を構築する方法に応じて、一価、二価、及び他の形態の抗体断片の形態でアセンブリ形成される。
【0026】
ヒトCEAに特異的な一価scFv断片の形態のポリペプチド分子は、この抗原に対する親和定数(5.0±0.4)×10L mol−1を示し、14個のアミノ酸の結合セグメント(リンカー)によって連結されているVH及びVLドメインをこの順序で含み、配列番号16に示すアミノ酸配列を有する。
【0027】
ヒトCEAに特異的な二価scFv断片(二重特異性抗体)の形態のポリペプチド分子は、この抗原に対する親和定数(2.8±0.3)×1010L mol−1を示し、それぞれが5個のアミノ酸の結合セグメント(リンカー)によって連結されているVH及びVLドメインによってこの順序で形成される2つの同一の分子の対合を含み、配列番号17に示すアミノ酸配列を有する。
【0028】
本発明の別の態様では、一価及び二重特異性抗体のscFv断片は、正常組織、又は以下の正常組織、すなわち肝臓、腎臓、肺、精巣、血液、脾臓、及び膵臓由来の細胞と結合しない、又は有意でない様式で結合する。結腸粘膜の場合、一価及び二重特異性抗体のscFv断片は管腔分泌の産物及び尖端域又は一部の腺中で独占的に反応する。一価及び二重特異性抗体のscFv断片が正常なリンパ球及び好中球と反応性を持たないことは、NCA抗原との交差反応性が重要なレベルでないことの指標である(von Kleist S、Burtin P.Immunodiagnosis of Cancer.Marcel Dekker.322−341、1979;Buchegger,F.他、Int.J.Cancer 33;643−649、1984)。
【0029】
一価及び二重特異性抗体のscFv断片は、可溶性CEA、固体表面に吸着させたCEA、又はそれを産生する細胞に結合しているCEA、及び腫瘍組織、とりわけヒトの結腸直腸、乳房、肺、膵臓及び胃の腺癌に結合することができる。一価及び二重特異性抗体のscFv断片並びにMab CB/ior−CEA.1は、ヒトCEAのグリコシル化の保存に依存的な形態で可溶性CEA及び固体表面に結合したCEAに結合し、これにより、この抗原の炭水化物が認識に関与していることが示唆される。
【0030】
本発明中で報告する、CEAと結合する能力、その報告された親和性、特異的なエピトープ認識、並びに本発明中に記載した断片と類似及び等価な生物学的及び生化学的性能を有する一価及び二重特異性抗体のscFv断片由来のポリペプチド分子は、等価な変形形態であるとみなされ、本発明に含まれる。このようなポリペプチド分子は、VLドメインがVHに先行するscFv、又はFab、Fab’、F(ab’)2、Fabc、Fabb、三量体及び四量体scFv等(Winter G、Milstein C.Nature 349:293−299、1991;国際公開公報WO94/13804号;de Haard.H他、Adv.Drug Delivery Rev.31:5−31、1998)などの他の組換え抗体断片の形態をとることができ、また、現況技術で知られている他の結合セグメント(リンカー)が使用される。これらはまた、一部分がCEAに対する特異性を保存しており、他の部分が異なる特異性を有する二重特異性抗体分子の形態をとることもできる。
【0031】
本発明には、先の段落に記載した特徴に従っており、可変ドメイン中に存在するB細胞及びT細胞のエピトープが、抗原認識は変化しないが生じる分子のヒトにおける免疫原性が低減されているように改変されている、いわゆる「免疫原性の低減によるヒト化」による一価及び二重特異性抗体のscFv断片の変形形態、例えばCarr FJ他、2000、EP983303A1号及びRodriguez Perez R他、US5712120−A号に示されるものも同様に含まれる。第1の抗体のCDR配列をその抗体由来でない配列のフレーム内に配置する、いわゆる「CDR移植」によって、例えばEP−B−0239400号、EP−A−184187号、GB2188638A又はEP−A−239400号に示されるように産生し、且つ同様の親和性でCEAと結合する能力、競合能力、特定のエピトープ認識、並びに本発明中に記載した一価及び二重特異性抗体のscFv断片に類似及び等価な生物学的及び生化学的性能を有するものも、本発明中に含まれる、等価とみなされる変形形態である。
【0032】
抗体配列以外にも本発明に含まれるポリペプチド分子は、ペプチド若しくはポリペプチドを形成する他のアミノ酸、又はCEA抗原と結合することとは異なる機能的特徴を分子に付加する他のアミノ酸、例えば精製若しくは同定用のタグ、酵素若しくはその断片、生体応答調整物質、毒素又は薬物などを含むことができる。
【0033】
本発明に従って、一価及び二重特異性抗体のscFv断片を単離又は精製した形態で投与することができる。
【0034】
本発明は、CEAを発現するヒトの癌形態、例えば結腸、肺、乳房又は他の腺癌などの診断試薬としての、上述のポリペプチド分子の一部の使用を予測している。
【0035】
上述のCEAに特異的なポリペプチド分子を放射標識し、ヒトにおいてCEAを発現する腫瘍の存在及び位置を特異的な様式で実証する画像を得るための試薬として使用することができる。本発明は、CEAを発現する細胞又は腫瘍の存在を決定する方法を提供し、この方法では、細胞を記載したポリペプチド分子と接触させ、これらの細胞との結合を決定する。この方法はin vivoで、又はin vitro若しくはex vivoで身体から取り出した細胞試料で開発することができる。
【0036】
本発明は、前述したものなどのポリペプチド分子をヒトCEAに結合させる方法を提供する。この結合はin vitro、ex vivo又はin vivoで起こることができる。結合がin vivoである場合、本方法は、ポリペプチド分子を1個又は複数の個体である哺乳動物に投与することを含むことができる。tを本明細書中で実験的に実証するように、本発明の一価及び二重特異性抗体のscFv断片は、マウスに移植した後に腫瘍として増殖する形質移入させたマウス腫瘍細胞によって発現されたヒトCEAに結合するので、特異的な結合を有する分子及びその特性の研究、調査、並びに開発に有用な実験モデルを提供する。
【0037】
細胞試料上の抗体の反応性は、任意の適切な手段によって検出することができる。このような可能性の1つは、個別のレポーター分子で標識することである。レポーター分子は、直接的又は間接的に検出され得る、好ましくは測定されるシグナルを生じることができる。レポーター分子のカップリングは直接又は間接の、共有又は非共有カップリングであることができる。ペプチド結合による結合は抗体とレポーター分子とをカップリングする遺伝子融合の組換え発現によりもたらすことができる。カップリング方法を決定する形態は本発明の特徴ではなく、当業者はその選好及び一般知識に従って適切なモデルを選択する能力を有するであろう。
【0038】
125I、111In又は99mTcなどの放射性核種を使用して一価及び二重特異性抗体のscFv断片並びにその等価形を標識する場合は、これらが好ましくは腫瘍中に存在し、正常組織中に存在しなければ、腫瘍組織中の放射性標識の存在はγカメラを用いて検出及び定量することができる。得られた画像の質はシグナル:バックグラウンドに直接関連する(Goldenberg DM.Int.J.of Biol.Markers.1992、7;183−188)。125Iの実験的な使用を本文中に例示する。
【0039】
本発明はまた、前述の一価及び二重特異性抗体のscFv断片及びその等価な変形形態を、例えば、これらが治療能力を有する分子にカップリング、コンジュゲート若しくは結合している場合、又は組換え融合タンパク質として作製される場合に、治療試薬として使用できるような要素も提供する。本発明による一価及び二重特異性抗体のscFv断片及びその等価な変形形態を使用して、CEAを発現する腫瘍を毒素、放射活性体、T及びNK細胞、若しくは他の分子の対象とさせる、又は生物中で所望の治療効果を導くことができる抗イディオタイプ応答を発生させることができる。これと一致して、本発明の他の態様は、一価及び二重特異性抗体のscFv断片又はその等価な変形形態を医薬品又は薬剤組成物として投与することを含む処置方法の要素を提供する。
【0040】
本発明に従って、この組成物を個体に、好ましくは少なくとも1つの症状を改善するという点で患者への利点を実証するのに十分な「治療上有効量」で投与することができる。投与する量、投与の頻度及び間隔に関する詳細は処置する疾病の性質及び重篤度に依存し、これらの決定は専門家及び他の医師の責任である。抗体の適切な用量は当分野で周知である(Ledermann J.A.他、Int J.Cancer 47:659−664、1991;Bagshawe KD他、Antibody、Immunoconjugates、and Radiopharmaceuticals 4:915−922、1991)。
【0041】
組成物は、処置する疾病に応じて、単独で又は他の処置と同時に若しくは連続的に組み合わせて投与することができる。
【0042】
本発明に従い、また本発明に従って使用すべき薬剤組成物は、活性成分以外に、賦形剤、緩衝剤、安定剤若しくは許容される薬剤担体、又は当業者に周知の他の物質を含むことができる。これらの物質は無毒性であるべきであり、活性成分の有効性を妨害しないべきであり、またその詳細な性質は経口であろうと、例えば静脈内などの注入であろうと投与経路に依存する可能性がある。
【0043】
本発明に従うscFvの一価及び二重特異性抗体の断片及びその等価な変形形態は、それをコードしている核酸の発現によって作製することができる。前述のこれらポリペプチド分子の任意のものをコードしている核酸は本発明の一部であり、このような核酸の発現方法も同様である。異なる実施形態では、核酸は配列番号16及び17に示すアミノ酸配列をコードしていることができる。
【0044】
一価及び二重特異性抗体のscFv及びその等価な変形形態の組換え発現には、プロモーター、ターミネーター、エンハンサー、ポリアデニル化、マーカー遺伝子、及び他の関連配列を含めた十分な制御配列を有する適切なベクターを選択又は構築することができる。ベクターはプラスミドであることができる。核酸を操作するための多くの既知のプロトコル及び技術、例えば核酸構築体の調製、ポリメラーゼ連鎖反応、突然変異誘発、配列決定、細胞及び遺伝子発現におけるDNAの導入、タンパク質分析、並びに他のものは、分子クローニング:実験室手引き:第2版(Molecular Cloning:a Laboratory Manual:2nd edition)、Sambrook他、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989又は分子生物学の手短なプロトコル、第2版(Short Protocols in Molecular Biology,Second Edition)、Ausubel他編、John Wiley&Sons、1992又はErlich HA PCR Technology、Stockton Press、1989などのいくつかの参考文献に詳細に記載されている。これらの参考文献に示される開示は、参考として本文書に組み込まれている。
【0045】
本発明の別の態様は、外来核酸を含む宿主細胞及びこのような核酸を宿主細胞中に導入する方法を提供する。導入には、このような目的のために存在する技術のうち任意のものを使用することができる。細菌細胞及び酵母細胞では、この技術はエレクトロポレーションであることができる。導入後、例えば遺伝子の発現に望ましい条件下で宿主細胞を増殖させることで核酸の発現を誘発させるか又は許容することができる。一実施形態では、本発明の核酸は宿主細胞に取り込まれる。
【0046】
産生された後、一価及び二重特異性抗体のscFv断片及びその等価な変形形態は、上記で述べたように、特異的結合メンバー以外にメンバーと細胞又はメンバーと細胞に連結していないCEAとの結合を決定するための1つ又は複数の試薬を含む一組の試薬など、薬剤としての組成物又は診断用製品の形成等において、本明細書中に示す任意の形態で使用することができる。
【0047】
本発明の他の更なる態様及びその実現は、当業者には明らかであろう。本発明の完全な理解のために実施例を提供するが、本発明の拡張及び範囲を限定するものではない。以下の図を参照する。
【0048】
本明細書中で言及する全ての文献は参照により組み込まれている。
【0049】
(実施例)
1.Mab CB/ior−CEA.1の可変ドメインのPCRによる増幅、クローニング、及び配列決定。
2.scFv及び二重特異性抗体のアセンブリ形成、大腸菌(E.coli)中での発現、及びそれらのヒトCEAの認識の実証。
3.ピキアパストリス(Pichia pastoris)中でのscFv及び二重特異性抗体の発現、並びにそれらのヒトCEAの認識の実証。
4.細菌中で産生されたscFv及び二重特異性抗体の精製。
5.タンパク質分解性消化及び質量分析による二重特異性抗体の特性決定。
6.脱グリコシル化したCEAの認識の研究。
7.正常及び腫瘍組織における免疫細胞化学的及び組織化学的調査。
8.親和定数の決定。
9.B16−CEA13細胞を接種することによって誘発させた腫瘍を有するC57Bl/6マウスにおける、125Iで標識した断片及び抗体のin vivoでの特異的認識の決定。
【実施例1】
【0050】
Mab CB/ior−CEA.1の可変ドメインのPCRによる増幅、クローニング、及び配列決定
手順(a)RNAの精製及び可変領域の増幅
マウスハイブリドーマCB/ior−CEA.1の10個の細胞由来の全RNA(Tormo B.他、APMIS.97:1073−1080、1989)を、TriPure(商標)試薬(Boehringer−Mannheim)で抽出した。オリゴdTをプライマーとして使用して、First−Strand cDNA Synthesis for RT−PCRキット(Boehringer−Mannheim)を用いて相補的DNA(cDNA)を合成した。重鎖及び軽鎖可変ドメインの遺伝子の特異的増幅にはポリメラーゼ連鎖反応技術(PCR)を用いた。使用した合成プライマーは、Kabat E.他(米国保健社会福祉省、NIH、1991)が報告したマウスIgG及びκ鎖のコンセンサス配列に基づいて設計され、実験方法は以前に本研究室によって開発されている(Coloma、MJ他、Biotechniques 11:152−156、1991)。PCRで用いたオリゴヌクレオチドの配列を表Iに示す。
【0051】
【表1】

【0052】
PCRには、PCR Coreキット(Boehringer−Mannheim)を使用した。PCRの条件は以下の通りであった:94℃で変性、1分間、55℃でアニーリング、1分間、72℃で伸張、1分間、25サイクル、及び最終サイクルで既に記載した温度で更に5分間の伸張。これらは全てMJ Research Minicycler装置で行った。各反応の最終体積は100μLであった。全てのオリゴヌクレオチドを最終濃度1μMで使用した。
【0053】
予想される大きさが約320〜530bpであるDNA増幅断片を、QIAquick Gel Extractionキット(QIAGEN,GmbH)を用いて低集合点アガロースゲル(Sigma)で精製し、DNA断片の「平滑末端」クローニング用に設計されたpMOSベクター(Amersham Pharmacia Biotech)中にそれぞれ独立にクローニングした。
【0054】
手順(b).可変ドメインのヌクレオチド配列
ベクターpMOS中にクローニングした軽鎖及び重鎖可変ドメインのヌクレオチド配列を決定するために、製造元が推奨するオリゴヌクレオチドを使用した(Amersham Pharmacia Biotech)。塩基の配列はPharmacia(Amersham Biosciences)のALFexpress II装置及び「Thermus Sequenase 5 Cy Dye Terminatorキット」を用いた自動化方法によって作製した。プラスミドpVL2及びpVH5がそれぞれVL及びVHの配列の代表として選択された。
【実施例2】
【0055】
scFv及び二重特異性抗体のアセンブリ形成、大腸菌(E.coli)中での発現、及びそのヒトCEAの認識の実証
手順(a).可変ドメインの再増幅並びにscFv及び二重特異性抗体のアセンブリ形成
プラスミドpVH5及びpVL2中に含まれるVH及びVLドメインのscFv及び二重特異性抗体の形態のアセンブリ形成にPCRを使用した。
【0056】
合成オリゴヌクレオチドは、プラスミドpVH5及びpVL2中のVH及びVLの配列に基づいて設計した。これらには、ベクターpJG−1m中へのクローニングのための制限部位が含まれ、また単量体scFv及び二重特異性抗体のアセンブリ形成のための14個及び5個のアミノ酸のリンカーセグメントが組み込まれていた(表II及びIII)。
【0057】
表II.scFv及び二重特異性抗体断片の構築に使用した結合セグメント(リンカー)のアミノ酸配列
ScFv.−リンカーL1:EGKSSGSGSESKVD(配列番号5)
二重特異性抗体.−リンカーL2:GGGGS(配列番号6)
【0058】
【表2】

【0059】
断片のアセンブリ形成には、以下を増幅するために第1ステップでそれぞれ独立したPCRを行った:
1.一価scFvに複製起点を与えるドメイン。反応1:プラスミドpVH5を鋳型として使用し、オリゴヌクレオチド5及び6(表III)を用いる。反応2:プラスミドpVL2を使用し、オリゴヌクレオチド7及び8(表III)を用いる。
2.二重特異性抗体に複製起点を与えるドメイン。反応3:プラスミドpVH5を使用し、オリゴヌクレオチド5及び9(表III)を用いる。反応4:プラスミドpVL2を鋳型として使用し、オリゴヌクレオチド8及び10(表III)を用いる。
【0060】
PCRで使用した条件及び試薬は既に上に記載してある。全てのオリゴヌクレオチドは最終濃度1μMで使用した。
【0061】
scFvのアセンブリ形成には、4μLの反応物1及び2を、最終濃度1μMのオリゴヌクレオチド5及び8(表III)と、並びに最終濃度0.01μMのオリゴヌクレオチド6及び7(表III)と混合して、新たなPCRを行った。
【0062】
二重特異性抗体のアセンブリ形成には、4μLの反応物3及び4を、最終濃度1μMのオリゴヌクレオチド5及び8(表III)と、並びに最終濃度0.01μMのオリゴヌクレオチド6及び7(表III)と混合して、新たなPCRを行った。
【0063】
増幅したDNA断片は約700bpの主要なバンドとして検出され、これを既に記載のように低融点アガロースゲルで単離した。
【0064】
手順(b).pJG−1mベクターへのクローニング
ベクターpJG−1mとは、大腸菌(E.coli)のペリプラズム中での抗体断片の発現のために設計されたプラスミドである(図1)。主要素として、これは、LacZプロモーター、シグナルペプチド、遺伝子断片を挿入するための制限部位ApaL I及びNot I、c−mycペプチド及び6個のヒスチジンをコードしている配列を有する。この最後の要素は、固定金属イオンアフィニティークロマトグラフィーによる発現産物の精製用のタグとして使用する(IMAC;Porath J、Prot.Expr.Purif. 3:263−281、1992)。当該のscFvをベクター内にクローニングするためのクローニング用制限部位の塩基配列、及びscFvに付加されるC末端アミノ酸の配列を図1に示す(配列番号13)。
【0065】
scFv及び二重特異性抗体に対応するDNA断片並びにpJG−1mベクターをApaLI及びNot I(Promega)制限酵素で消化し、T4 DNAリガーゼ(Promega)を使用してバンド及びベクターをそれぞれ独立にライゲートさせた。ライゲート反応の産物を、エレクトロポレーションによるコンピテント大腸菌(E.coli)の形質転換に使用し(XL−1 Blue strain;Stratagene)、形質転換された細胞を固体選択培地(100μg/mLのアンピシリンを含むLB寒天)中で、37℃で16時間増殖させた。用いた方法は分子クローニングの実験室手引き、第2版(Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Second Edition)、Sambrook、Fritsch、Maniatis 1989に記載されている。
【0066】
いくつかのコロニーからプラスミドDNAを精製した後に組換えプラスミドを選択し(QIAGEN MiniPrepキット)、既に記載した制限酵素で消化することによって予想されるライゲート産物が対応するかどうかの確認を行った。制限分析では、線状化したベクターに対応する約3.5kbのバンド、並びにscFv及び二重特異性抗体の断片をコードしている遺伝子の約700bpのバンドが得られた。
【0067】
ベクターpJG−1mのクローニング領域の外部にハイブリダイズする特異的に設計したプライマーを用いて(表IV)、既に記載した手順によって各構築体について5つのクローンの配列決定を行った。
【0068】
表IV.PCRでアセンブリ形成し、ベクターpJG−1m中にクローニングしたscFv及び二重特異性抗体の塩基配列を決定するための合成オリゴヌクレオチド
オリゴ11.(配列番号14)
5’...GTTGTTCCTTTCTATTCTCAC...3’
オリゴ12.(配列番号15)
5’...CTCTTCTGAGATGAGTTTTTGTTC...3’
【0069】
一価scFv(クローンpJG1m−25)及び二重特異性抗体(クローンpJG1m−18)について得られた塩基配列から導いたアミノ酸配列を図2に示す(配列番号16及び配列番号17)。以前に開発されたscFvに対して(Ayala M他、Biotechniques 13:790−799、1992)、新しい一価scFv及び二重特異性抗体について今回得られたVH及びVL配列は、VHのFR1、CDR2及びFR3ドメイン内で16個のアミノ酸が異なっており、VLのFR1及びFR3ドメインで3個のアミノ酸が異なっている。
【0070】
これらの結果は、新しい一価scFv及び二重特異性抗体を構築するためにハイブリドーマCB/ior−CEA.1から増幅及びクローニングした可変ドメインは、以前に報告されたscFvをクローニングするための増幅で使用したものとは異なるRNA由来であることができることを示している。
【0071】
新しい一価scFvのリンカーセグメントは以前に報告されているscFvのリンカーセグメントと同一である。新しい二価scFv(二重特異性抗体)の結合セグメントは5個のアミノ酸しか含まないので、以前に得られたscFvの結合セグメントとは異なる。これらの実験では、リンカーセグメントL1及びL2の配列も確認され、これらを表IIに示す。
【0072】
手順(c)SDS−PAGE及びウエスタンブロットによる大腸菌(E.coli)中のscFv及び二重特異性抗体の発現の確認
コンピテント大腸菌(E.coli)細胞TG1を、どちらの抗体断片の情報も含むプラスミドpJG1m−25及びpJG1m−18でそれぞれ独立して形質転換させた。この株では、異種タンパク質のペリプラズムにおける発現、又は培地へのその分泌が可能になる。
【0073】
形質転換させた細菌を固体選択培地に播種し、37℃で16時間増殖させた。2つの構築体のそれぞれの代表コロニーを、OD530nm=1となるまで液体培地で増殖させ、培地に1mMのIPTGを加えて12時間誘発させた。12%SDS−ポリアクリルアミドゲル(SDS−PAGE)中の電気泳動で評価するために、細胞を遠心分離し、ペリプラズム内容物を浸透圧衝撃及び短い超音波処理(数秒間)によって単離した。この試験により、どちらの場合にも予想された分子量(約27kDa)のタンパク質が発現されたことが明らかとなり、その後これを、このタンパク質が含むc−myc由来のペプチドに対して特異的なMab(9E10)(1μg/mL)を一次抗体として使用して、次いで西洋ワサビペルオキシダーゼ(Sigma)とコンジュゲートしたウサギ抗−マウスIgG抗体を使用して、ウエスタンブロットによって評価した。SDS−PAGEからHybond C Extraニトロセルロース(Amersham Life Sciences)へのタンパク質の移動は半乾燥移動装置(BioRad)中で行った。展開にはDAB(Sigma)不溶性基質を使用した。
【0074】
2つの構築体で、Mab9E10を用いて言及した大きさの組換えタンパク質を同定した。
【0075】
手順(d)ELISAによる、scFv及び二重特異性抗体によるヒトCEAの特異的認識
ELISA試験は、ポリビニル製プレート(Costar、96ウェルのビニル製アッセイプレート)をヒトCEA(Calbochem 219369)で、1μg/mLの濃度でコーティングすることによって作製した。プレートを脱脂乳でブロッキングした後、2つの構築体に対応する細菌ペリプラズム試料をPBS−2%脱脂乳中の1:5、1:10、及び1:20の希釈率で加え、室温で2時間インキュベートした。
【0076】
断片のCEAとの結合の検出には、Mab9E10(1μg/mL)を使用し、次いでSigmaの西洋ワサビペルオキシダーゼとコンジュゲートしたマウス抗マウスIgG抗体を使用した。数回洗浄した後、反応を展開させるためにOPD(Sigma)及びHを色素原及び基質として使用し、反応物の定量的評価はLabSystems Multiskan MSで492nmの読取を行った。
【0077】
この試験では、陽性対照としてMab CB/ior−CEA.1を使用した。挿入物を有さないベクターpJG−1mで形質転換させた細胞TG1に対応するペリプラズム分画、及び非関連のMabを陰性対照として使用した。また、以下の関連性のない抗原でプレートをコーティングした:10μg/mLのウシ血清アルブミン(BSA、Sigma)、10μg/mLの卵白アルブミン、10μg/mLのリゾチーム、10μg/mLのキーホールリンペットヘモシアニン(Sigma)。全てのプレートに、抗原を含まないリン酸緩衝生理食塩水(PBS)のみを入れたウェル(ブランク)を含めた。陰性対照で生じるよりも少なくとも4倍高い吸光値が陽性であるとみなされた。
【0078】
これらの実験では、scFv及び二重特異性抗体の構築体のペリプラズム試料は、ポリビニル製プレートに吸着させたヒトCEAの認識能力に関して陽性の結果となった。これらの同じ試料が、関連性のない抗原の全てで陰性であった。
【0079】
手順(e)ELISA及び間接免疫蛍光法における、scFv及び二重特異性抗体による細胞に会合しているヒトCEAの認識
全て培養中にCEAを発現するヒト腫瘍細胞系LoVo(ATCC CCL−229)、AsPC−1(ATCC CRL−1682)、及びLS 174T(ATCC CL−188)を96ウェルのポリスチレン製プレート(Costar)に播種した。コンフルエントな状態に達した後、ウェルをPBSで2回洗浄し、排水し、空気乾燥させた。その後、冷アセトン−メタノールの1:1(v:v)混合物を3分間用いることによって細胞をプラスチックに固定した。残渣を排除するために蒸留水で数回洗浄した後、プレートを、2つの構築体に対応する細菌ペリプラズム試料をPBS−2%脱脂乳中の1:2、1:8、及び1:16の希釈率で加えて室温で2時間インキュベートするELISAにおける固相として使用した。数回洗浄した後、断片のCEAとの結合を検出するために、Mab 9E10(1μg/mL)を使用し、次いで西洋ワサビペルオキシダーゼ(Sigma)とコンジュゲートした抗マウスIgG抗体を使用した。数回洗浄した後、反応を展開させるために色素原OPD(Sigma)及び基質としてHを使用し、492nmで反応物の定量的評価を行うためにLabSystems Multiskan MS読取器を使用した。読取ステップでは上清を新しいプレートに移した。アッセイではMab CB/ior−CEA.1を陽性対照として使用した。挿入物を有さないベクターpJG−1mで形質転換させた細胞TG1に対応するペリプラズム分画、及び非関連のMabを陰性対照として使用した。CEAを発現しないヒト細胞HEK 293(ATCC CRL−1573)を含むプレートも陰性対照として使用した。陽性の判定基準は前の手順で記載したELISAで用いたものと類似していた。
【0080】
この実験では、scFv及び二重特異性抗体の構築体のペリプラズム試料はLoVo、AsPC−1及びLS 174T細胞しか認識しなかった。すべての陰性対照は陰性であった。このようにして、ポリスチレン製プレート上に固定したこの抗原を発現するヒト腫瘍細胞上のヒトCEAを細胞−ELISAによって同定するscFv及び二重特異性抗体の能力を実証した。
【0081】
別の実験では、LoVo、AsPC−1及びLS 174T細胞を直径35mmのポリスチレン製プレート(COSTAR)に播種し、コンフルエントな状態に達するまで培養した。プレートをPBSで2回洗浄し、排水し、空気乾燥させ、冷アセトン−メタノールの1:1(v:v)混合物を使用して細胞をプラスチックに固定した。残渣を排除するために蒸留水で数回洗浄した後、プレートを間接免疫蛍光試験の固相として使用した。このために、固定細胞を含む表面で円形区域を定義し、この中で、PBS−3%BSA中の1:2、1:4及び1:8の希釈率の2つの構築体に対応する細菌ペリプラズム試料をそれぞれ独立にインキュベートした。細胞−ELISAで使用したものと同じ陽性対照及び陰性対照を使用した。
【0082】
インキュベーションは湿ったチャンバ内で、室温(RT)で1時間行い、次いで冷PBS−3%BSAで数回洗浄し、やはり湿ったチャンバ内でMab 9E10(10μg/mL)を全ての単層にRTで1時間加えた。冷PBS−3%BSAで数回洗浄した後、単層を、PBS−3%BSAで1:64に希釈したフルオレセインイソチオシアネート(FITC、Sigma)とコンジュゲートした抗マウスIgG抗体と共に30分間、暗い湿ったチャンバ内でインキュベートし、その後、PBS−3%BSAで5回洗浄し、PBSで更に1回洗浄し、最後にEvans Blue溶液で数分間染色した。
【0083】
単層をPBS−10%グリセロールで覆い、カバーガラスで密閉し、Olympus BHT顕微鏡上に設置した蛍光灯アクセサリーOlympus BH2−RFLで観察した。HEK 293ヒト細胞を含むプレートも陰性対照として使用した。膜及び細胞質に青リンゴ色の蛍光が存在すれば、陰性対照試料やCEAに陰性であるヒト細胞中にも存在しない限りは、陽性の結果の判定基準として確立した。
【0084】
この実験では、scFv及び二重特異性抗体構築体のペリプラズム単純物はLoVo、AsPC−1及びLS 174T細胞しか認識しなかった。陰性対照は陰性であった。このようにして、ポリスチレン製プレート上に固定したこの抗原を発現するヒト腫瘍細胞上のヒトCEAを間接免疫蛍光法によって同定するscFv及び二重特異性抗体の能力を実証した。結果の一例を図3に示す。
【実施例3】
【0085】
ピキアパストリス(Pichia pastoris)中でのscFv及び二重特異性抗体の発現、並びにそのヒトCEAの認識の実証
手順(a)scFv及び二重特異性抗体の再増幅及びベクターpPS7中でのクローニング
構築体pJG1−25及びpJG1−18をそれぞれ鋳型として使用し、またピキアパストリス(Pichia pastoris)発現ベクターpPS7中にクローニングすることを目的として遺伝子の5’及び3’末端にNcoIを付加するように設計されたオリゴヌクレオチド(オリゴ13及び14;表V)を使用して、scFv及び二重特異性抗体をコードしている遺伝子をPCRで増幅した。増幅手順は既に記載した手順に類似している。プラスミドpPS7とは、アルコールオキシダーゼ(AOX.1)酵素のプロモーターに対応する1.15Kbの断片、次いでサッカラマイセスセレビセイ(Saccharamyces cerevisae)のスクロースインベルターゼ(sucII)の分泌シグナルをコードしている遺伝子、唯一のNcoIクローニング部位、転写の完了を保証するための酵素グリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ(Gapt)の960bpの断片、及び選択マーカーとしてサッカラマイセスセレビセイ(Saccharamyces cerevisae)のHIS3遺伝子を含む、組込みベクターである。更に、このベクターはAOX.1遺伝子の3’配列に対応する2.1kbの断片も含む。これらの要素すべてがベクターpUC18中に挿入される(Herrera Martinez LS他、EP0438200A1号)。
【0086】
【表3】

【0087】
scFv及び二重特異性抗体に対応する増幅したバンドをNcoIで消化した後(Promega)、同じ酵素で事前に消化したベクターpPS7にそれぞれ独立にライゲートさせ、ライゲート産物を用いて大腸菌(E.coli)のXL−1 Blue株をそれぞれ独立に形質転換させた。それぞれの組換えベクターを用いた株の形質転換体に対応する単離したコロニーを、プロモーターにハイブリダイズするプライマー(オリゴ15、表V)及びVLの3’末端にハイブリダイズするプライマー(オリゴ8、表III)を用いたコロニーPCRで分析した。正しい方向の挿入物を含むコロニーを選択した。クローニングした遺伝子の配列決定は、オリゴ15(表V)を用いて既に記載した手順に従って行った(実施例1手順b)。組換えプラスミドspPSM2(scFv)及びpPSM3(二重特異性抗体)のVH及びVLドメインについて得られた配列は、配列番号16及び配列番号17で既に述べたものと一致していた。
【0088】
ピキアパストリス(Pichia pastoris)の組換え株は、これら2つのプラスミドを用いて事前に制限酵素PvuII(Promega)で消化した言及したプラスミドの両方でMP36 his 3野生株をエレクトロポレーションし(Yong V他、Biotechnol.Applic. 9:55−61、1992)、ヒスチジン欠乏最少培地で選択することによって得られた。組換えプラスミドのピキアパストリス(Pichia pastoris)のゲノム中の特異的部位との様々な組換え機構の結果、それぞれの構築体について2つの異なる型の分泌株の表現型を単離することが可能であった:(a)組換え事象の間にAOX.1遺伝子が影響を受けず、したがってメタノールを含む培地中で増殖し、野生株に類似の増殖を示した株(Mut+)、並びに(b)AOX.1遺伝子が発現カセットで置き換えられており、メタノールの存在下で遅い増殖を示した株(Mut s)。
【0089】
手順(b)発現の研究
抗体断片の発現の研究は、選択的MD培地(窒素酵母ベース、ビオチン、デキストロース)を含むプレート中で増殖させた原栄養コロニーHis+から出発して行った。選択したコロニーを50mLチューブ中の10mLの富化BMGY緩衝培地(酵母抽出物、ペプトン、リン酸カリウム、窒素酵母ベース、ビオチン、及びグリセロール)に接種し、150rpmで回転しながら28℃の場所に置いた。培養物をSPECTRONIC GENESIS2装置で測定して2単位のOD600nmに達したら、これを2000rpmで10分間遠心分離した。細胞ペレットを、グリセロールの代わりにメタノールを唯一の炭素原として含む10mLの富化培地(BMMY)に懸濁させた。この時点以降96時間の間に目的のタンパク質が誘発され、毎日純粋なメタノールを培養物中の最終濃度が1%になるまで加えた。陰性対照としては、挿入物を有さないベクターで形質転換させたMP36his3株を使用した。
【0090】
培養期間の終了後、細胞を遠心分離し、誘導期に代謝された培地を回収し、最終クリーンアップ(clarification)のために再び遠心分離し、scFv又は二重特異性抗体の検出はSDS−ポリアクリルアミド(SDS−PAGE)の15%ゲル中での電気泳動によって行った。この試験により、どちらの場合にも予想された分子量(約27kDa)のタンパク質が発現されたことが明らかとなり、その後これを、Mab 9E10を一次抗体として使用し、西洋ワサビペルオキシダーゼ(Sigma)とコンジュゲートしたウサギ抗マウスIgG抗体を二次抗体として使用して、ウエスタンブロットによって評価した。上述のように移動を行った。展開では、DAB(Sigma)を不溶性の基質として使用した。2つの構築体では、組換えタンパク質はMab9E10を用いて同定した。
【0091】
手順(c)ELISAにおけるscFv及び二重特異性抗体によるヒトCEAの認識
大腸菌(E.coli)由来の材料について既に記載した試験と非常に類似したELISA試験を、類似の固相、試薬及びコーティング、インキュベート、展開、並びに陽性対照の条件を用いて行った。誘発された組換え株の代謝培養物の試料をPBS−1%のミルクで希釈し、1ウェル当たり100μLの割合で加え、室温で2時間インキュベートした。陰性対照として、MP36his3株に対応する代謝培地、及び非関連のMabを使用した。吸光度が陰性対照で生じるよりも少なくとも4倍高い場合に値が陽性であるとみなされた。
【0092】
この実験では、ピキアパストリス(Pichia pastoris)中で発現されたscFv及び二重特異性抗体の構築体の誘導期に代謝された培地の試料は、ポリビニル製プレートに吸着させたヒトCEAの認識能力に関して陽性の結果となった。
【0093】
手順(d)細胞−ELISA及び間接免疫吸光法による、細胞と会合しているヒトCEAの認識
大腸菌(E.coli)由来の材料について既に記載した試験と非常に類似したELISA試験を、類似の固相、試薬及びコーティング、インキュベート、展開、並びに陽性対照の条件を用いて行った。誘発された組換え株の代謝培養物の試料をPBS−2%のミルクで希釈し、固定したLoVo、AsPC−1、及びLS 174T細胞を含むプレートに加え、穏やかに攪拌しながら室温で2時間インキュベートした。この試験では、Mab CB/ior−CEA.1を陽性対照として使用した。挿入物を有さないベクターpPS7で形質転換させた株MP36hisの代謝された誘導期の培養物、及び非関連のMabを陰性対照として使用した。また、陰性対照として、ヒトHEK293細胞を含むプレートも使用した。
【0094】
この実験では、ポリスチレン支持体上に固定されたヒト腫瘍細胞上のヒトCEAをELISAによって特異的に同定するscFv及び二重特異性抗体の能力が実証された。
【0095】
大腸菌(E.coli)由来の材料について既に記載した試験と非常に類似した間接免疫蛍光試験を、類似の培養細胞、及び固定、試薬、インキュベート、展開、装着、顕微鏡観察及び陽性判定基準の条件を用いて使用した。固定したLoVo、AsPC−1及びLS 174T細胞を含むプレートで独立した区域を定義し、これにPBS−3%BSA、0.02%アジ化ナトリウムで希釈した2つの構築体に対応する組換えストックの誘発させた培養物の試料及び陰性試料を施用した。
【0096】
室温(RT)で1時間、湿ったチャンバ内でインキュベートし、次いで冷PBS−BSA−アジ化ナトリウムで数回洗浄し、やはり湿ったチャンバ内でMab9E10を全ての単層にRTで1時間加えた。冷PBS−3%BSAで数回洗浄した後、単層をPBS−3%BSAで1:64に希釈したフルオレセインイソチオシアネート(Sigma)とコンジュゲートさせた抗マウスIgG抗体と共に暗い湿ったチャンバ内で30分間インキュベートした。プレートをPBS 3%BSAで5回洗浄し、PBSで1回洗浄し、最後にEvans Blue溶液で数分間染色した。PBS−10%グリセロールで覆った単層にカバーガラスを装着し、紫外光顕微鏡で観察した。
【0097】
このアッセイでは、Mab CB/ior−CEA.1を陽性対照として使用した。陰性対照として、挿入物を有さないpPS7で形質転換させたMP36his3の誘発させた培地、及び非関連のMabを使用した。また、HEK293細胞を含むスライドも陰性対照として使用した。この実験では、組換えscFv及び二重特異性抗体を分泌した誘発させた培養物の試料は、LoVo、AsPC−1及びLS 174T細胞のみを認識した。陰性対照は陰性であった。ピキアパストリス(Pichia pastoris)中で産生されたscFv及び二重特異性抗体の、ポリスチレン製プレート上に固定したこの抗原を発現するヒト腫瘍細胞上のヒトCEAを間接免疫蛍光によって同定する能力が実証された。
【実施例4】
【0098】
細菌中で産生されたscFv及び二重特異性抗体の精製
手順(a)固定イオン金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)及びイオン交換を用いた、scFv及び二重特異性抗体断片の精製
組換えタンパク質中にベクターpJG−1mから供与される6個のヒスチジンのドメインが存在することを精製に使用した。これらの配列はタンパク質に、様々なクロマトグラフィー用支持体にキレート化されることができる金属イオン(例えばZn+2、Cu+2、Ni+2)に対する非常に高い親和性を与え、これにより簡単且つ再現性のある精製が可能となる。
【0099】
前述のように得た組換え細菌を遠心分離し、ペリプラズム内容物を浸透圧衝撃及び短い超音波処理(数秒間)によって単離し、その後、カップリング緩衝剤(20mMのTris−HCl、1MのNaCl、20mMのイミダゾール、pH7.0)中で72時間透析した。scFv及び二重特異性抗体を含む細菌ペリプラズム調製物を直接且つそれぞれ独立にSepharose−IDA−Cu+2マトリックス(Pharmacia)に施用した。タンパク質がカップリングされた後、大腸菌(E.coli)汚染タンパク質を排除するためにゲルをまず10倍体積のカップリング緩衝剤で洗浄し、次いで同様に洗浄緩衝液(20mMのTris−HCl、1MのNaCl、150mMのイミダゾール、pH7.0)で洗浄した。scFv及び二重特異性抗体の溶出は、20mMのTris−HCl、1MのNaCl、250mMのイミダゾール、pH7.0を用いて行った。目的タンパク質の存在を確認するために、溶出ピークの試料を12%SDS−PAGEに供した。scFv及び二重特異性抗体を含む溶出分画をUltraFree15(Amicon)装置で濃縮し、20mMのTris−HCl、pH8.7を含む緩衝溶液中で透析し、イオン交換を使用した第2の精製ステップに供した。これには、試料をMono Qカラム(Pharmacia)に施用し、直線NaCl勾配(0〜1M)によって溶出させた。回収したピークの試料を12%のSDS−PAGEで確認した。予想された大きさ(約27kDa)のscFv及び二重特異性抗体が確認された。2つの分子で達成されたSDS−PAGE及び銀染色で推定した最終純度は非常に類似しており、95%近くであった。純粋なscFv及び二重特異性抗体のピークをUltraFree15(Amicon)装置で2mg/mLまで濃縮した。本発明中で既に記載した手順に類似の手順に従って、精製した調製物の生物学的活性をELISAで確認した。全ての試料を4℃で保存した。
【0100】
手順(b)ゲル濾過によるscFv及び二重特異性抗体の分析
以前の手順に記載したように精製したscFv及び二重特異性抗体を、試料の均一性及び多量体の存在を決定するために分子篩クロマトグラフィーを用いて調査した。これにはSuperdex200(Pharmacia)及びHPLC装置中の従来のゲル濾過プロセスを使用した。scFvが単量体と一致する約27kDaの主要なピーク中に濃縮されていることが決定された。二重特異性抗体は主に約45kDaの大きさで表れ、これは二量体と一致している。
【実施例5】
【0101】
タンパク質分解性消化及び質量分析による二重特異性抗体の特徴づけ
精製した二重特異性抗体を終夜4℃で、2mol/Lの濃度の尿素を含み1%NHHCOを含むpH=8.3の緩衝溶液に対して透析した。透析したタンパク質を酵素:基質比1:50の配列決定グレードのトリプシン(Promega)で、37℃で4時間消化した。等体積の1%トリフルオロ酢酸水溶液で酸性にすることによってタンパク質分解性消化を停止させ、質量分析装置に連結した液体クロマトグラフィー(LC−MS)で分析するまで−20℃で保存した。
【0102】
トリプシン消化物を液体クロマトグラフィーAKTA Basic(Amersham Pharmacia Biotech)の逆相クロマトグラフィーで、0%〜80%の溶液Bの直線勾配を100分間で使用して、分離した。勾配を生じさせるのに使用した溶液は、A:HO/TFA 0.05%及びB:アセトニトリル/TFA 0.05%であった。
【0103】
タンパク質分解性消化の間に得られた分画を、クロマトグラフィーシステムに直交配置のQTOF−2(Micromass Ltd.)を備えたLC−MSハイブリッド質量分析装置をオンラインで連結させた、エレクトロスプレーイオン化(ESI−MS)を用いた質量分析によって分析した。LC−MSの測定の間、各走査間に0.02秒を使用して、0.98秒間に350〜1800の質量分析スペクトルが得られた。質量分析装置はナトリウムとヨウ化セシウムの混合物からなる生理食塩水で較正した。コーン及びキャピラリーで使用した電圧はそれぞれ50及び3000ボルトであった。スペクトルはプログラムパッケージMassLinx v3.5(Micromass Ltd)を使用して処理した。
【0104】
図4及び付属の表では、二重特異性抗体のトリプシン消化のクロマトグラフィープロファイル、及び二重特異性抗体をトリプシンで消化したペプチドの割当を見ることができる。ESI−MSスペクトルでは、それぞれシステイン22と95及び147と212の間でジスルフィド結合(−S−S−)によって連結されているペプチド(20Phe−Arg31)−S−S−(87Ser−Arg97)及び(143Val−Lys148)−S−S−(186Ile−Lys228)を含む図4に付属の表の分画8及び12の要約から明らかなように、誤って連結されたシステインを示すシグナルは検出されなかった。
【0105】
ESI−MSで分析したペプチドから、二重特異性抗体の配列の92%を1回のタンパク質分解性消化から得ることができる(図5)。この配列では、Mab CB/ior−CEA.1を産生するハイブリドーマの全RNAから開始するPCRによって増幅した、5−アミノ酸リンカーセグメント(配列番号10)のVH及びVLドメインの塩基配列から推論したアミノ酸配列(配列番号16及び17)、並びにベクターpJG−1mに提供されるc−mycペプチドの配列のC末端部分及び最後の6個のヒスチジン(図2)が完全に一致している。
【実施例6】
【0106】
脱グリコシル化したCEAの認識の調査
ヒトCEA(Calbochem)をN−グリコシル化に特異的なエンドグリコシダーゼPNGasa F(New England Biolabs)で酵素的に脱グリコシル化した。CEAを20mMのリン酸緩衝液、pH7.8に溶かし、SDS及び2−メルカプトエタノールを用いて100℃、5分間で変性させた。その後、NP−40及び1μLのPNGasa Fを37℃で2時間加えた。対照及び脱グリコシル化した試料をクマシーブルー染色でSDS−PAGE分析した結果、エンドグリコシダーゼで消化した後に分子量が顕著に減少していた(50%近く)。(a)Mab CB/ior−CEA.1、(b)精製した二価scFv(二重特異性抗体)又は(c)マウスで得られた抗ヒトCEA抗清を一次抗体として使用し、次いで(a)及び(b)には西洋ワサビペルオキシダーゼとコンジュゲートしたMab CB/ior−CEA.1のFabに対するポリクローナル抗体、(c)には西洋ワサビペルオキシダーゼとコンジュゲートした抗マウスIgG抗体を使用して、ウエスタンブロットを行った。移動及び展開は、本発明中でウエスタンブロットについて既に言及したものと類似していた。Mab CB/ior−CEA.1及び二重特異性抗体は脱グリコシル化されていない抗原しか認識しなかった。ポリクローナル抗血清は脱グリコシル化の前及び後のCEAを認識した。
【0107】
特異的レクチンを認識するためのドットブロットシステムによってネイティブヒトCEAの試料を分析した。使用したレクチンは、それぞれα2,6及びα2,3で連結された末端シアル酸に特異的なセイヨウニワトコ(Sambucus nigra)凝集素(SNA)及びイヌエンジュ(Maackia amurensis)凝集素(MAA)であった。これらの実験で使用したレクチンはジゴキシゲニンとコンジュゲートされており、アルカリホスファターゼで標識した抗ジゴキシゲニン抗体によって同定した。レクチン−オリゴ糖の相互作用に陽性である試料は、ホスファターゼに特異的な基質との反応によって開発した(塩化4−ニトロブルーテトラゾリウムと5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−リン酸の混合物)。この実験ではどちらのレクチンの陽性対照としてもフェツインを使用した。ネイティブCEAはSNAによって認識されたがMAAによっては認識されず、このことは、α2,6で連結された末端シアル酸が非常に多く存在することを示している。
【0108】
その後、ヒトCEAを酵素NANAsa II及び末端のα2,6シアル酸を加水分解することができるエキソグリコシダーゼ(シアリダーゼ)で消化した。消化産物をSDS−PAGEで分離し、それらの認識の調査は、Mab CB/ior−CEA.1及びマウスで得られた抗ヒトCEA抗血清を一次抗体として使用したウエスタンブロットによって行った。結果により、ネイティブCEA対照はどちらの試料にも認識されたが、マウス抗CEA抗血清のみがNANAsa IIで消化したCEAを認識したことが示された。
【実施例7】
【0109】
ヒトの正常及び腫瘍組織における免疫細胞化学的及び組織化学的調査
組織の調査は検屍材料由来の正常及び腫瘍組織アーカイブから選択した試料で行った。Mab CB/ior−CEA.1について以前に記載されている認識を確認するために(Tormo B他、APMIS 97:1073−1080、1989)組織の最小限のパネルを使用した。試料には、肺、皮膚、乳房、子宮頚部、食道及び腎臓の癌腫、結腸、前立腺、膵臓、胆嚢、小腸及び胃の腺癌、神経、造血及び肉腫起源の腫瘍、正常な結腸粘膜、並びに肝臓、腎臓、肺、精巣、脾臓及び膵臓などの正常な組織や血液細胞も含まれていた。
【0110】
この調査は、以前に報告されている手順(Tormo B他、APMIS 97:1073−1080、1989)にいくつかの変形を加えたものに従って行った。定法に従って組織試料を10%の緩衝ホルマリンで固定し、脱水し、清浄にし(clear)、パラフィンに包埋した。組織病理学は、ヘマトキシリン−エオシンで染色した切片で評価した。組織病理学によって評価したブロックの連続した切片を免疫ペルオキシダーゼ技法に使用した。
【0111】
パラフィンを含まない再水和した切片を、内在ペルオキシダーゼを遮断するために3%のHで30分間処理し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、PBS−1%ウシ血清アルブミン(希釈緩衝液)で希釈した試料と共に1時間インキュベートした。その後、スライドをMab CB/ior−CEA.1のFabを用いた免疫化によって得られた、ビオチン標識したポリクローナルIgGウサギ抗体の1:100希釈液と共に30分間、最後に同様の時間の間ペルオキシダーゼ−ストレプトアビジン複合体(Amersham)の1:500希釈液と共にインキュベートした。
【0112】
検査した単純物は、以下の通りである。
(a)20μg/mLの濃度のMab CB/ior−CEA.1(陽性対照)
(b)50μg/mLの濃度の、実施例4、手順(a)に記載した大腸菌(E.coli)の精製したscFv
(c)50μg/mLの濃度の、実施例4、手順(a)に記載した大腸菌(E.coli)の精製した二重特異性抗体
(d)50及び100μg/mLの濃度の、これらの実施例中で「F3」と呼ぶ以前に得られた精製したscFv(Ayala他、Biotechniques 13:790−799、1992;Perez L他、Applied Biochem.Biotechnol. 24:79−82、1996)。
【0113】
全ての希釈は希釈緩衝液で行い、インキュベートは室温で湿ったチャンバ内で行った。各ステップ間に、希釈緩衝液又はPBSでそれぞれ1分間の洗浄を3回行った。免疫ペルオキシダーゼ反応は、3mgのジアミノベンシジン、5mLのPBS及び5mLの30%Hを含む溶液と共に5〜10分間インキュベートすることによって展開させた。スライドをマイヤーヘマトキシリンで対比染色した。特徴的な茶色の反応物を強度が増大していく3つのレベル(1+、2+、3+)で陰性又は陽性として登録した。各スライドで目的試料を用いて標識を行い、陰性対照として隣接区域を希釈緩衝液で標識した。
【0114】
血液細胞での調査には、赤血球を最初に除去し、残った白血球をゼラチンでコーティングしたガラス製スライドに施用し、アセトン:メタノール1:1(v:v)で固定した。技法の続きは、基本的に上述したように展開した。
【0115】
調査した組織に関して得られた結果を表VIに要約する。調査した正常組織(肝臓、腎臓、肺、精巣、血液、脾臓、膵臓)はこの断片にもMabにも同定されなかった。結腸粘膜の場合、Mab CB/ior−CEA.1について以前に得られたものと一致して、F3 scFv並びに新しいscFv及び二重特異性抗体が管腔分泌産物及び一部の腺の尖端域で独占的に反応した。F3 scFvの場合、反応の強度はより低く、これは後にいくつかの腫瘍でも見られた。血液細胞の場合、Mab、scFv及び二重特異性抗体は正常なリンパ球及び好中球と反応を示さず、これは、NCA抗原との重要な交差反応が存在しないことを示している。対照的に、F3 scFvはこれらの細胞の微量な認識をある程度示した。
【0116】
Mab、scFv、及び二重特異性抗体は胃腸管系起源のほとんどの腫瘍と反応し、腫瘍細胞の尖端表面及び細胞質のどちらの場合にもほとんどの事例で強力な標識化が観察された。これらの試料はどれも、管状乳癌及び肺大細胞癌を除いては、造血及び肉腫起源の腫瘍又は上皮由来の他の腫瘍の標識化を行わなかった。よく分化した結腸腺癌では、細胞質の尖端域及び管腔分泌産物で標識化が強く、中程度及び不十分に分化した腺癌では、全ての細胞質で標識化が観察された。非常に僅かな試料を除いては、これら3つの分子で染色強度は非常に類似していた。
【0117】
F3の場合、一部の場合でscFv及び二重特異性抗体で使用した濃度よりも2倍高い濃度を使用したにもかかわらず、染色強度の全般的な低下が見られる。染色の強度がより低かったことで、他の抗体によって同定された一部の試料がF3に認識されなかったのかもしれない。
【0118】
【表4】


注記:表中の数字は、陽性染色の事例/調査した全事例の数を表す。括弧がない場合は、陽性の染色強度は2+〜3+であった。Ca:癌腫、ADC:腺癌、HDG:ホジキン、BD:良好に分化、MD:中程度に分化、PD:不十分に分化。():標識化が管腔分泌産物及び一部の腺の尖端域に制限されていると考えられる;(a):陽性の事例は1+と分類できる染色を示した、(b)1+と分類できる強度のリンパ球及び好酸球の認識、(c)6つの陽性事例のうち2つが1+と分類できる強度の染色を示した。
【実施例8】
【0119】
親和定数の決定
親和定数の決定では、質量作用の法則に基づいた非競合的ELISA法(Beatty JD他、J.Immunol Meth. 100:173−184、1987)を用いた。親和定数Kaffは[AgAb]/[Ag][Ab]に等しく、ここで、AgAbは抗原−抗体複合体のL/mol(M−1)であり、[Ag]は遊離抗原の濃度であり(mol)、[Ab]は遊離抗体の濃度である(mol)。
【0120】
ヒトCEA(Calbochem)の4つの2倍段階希釈液を、ポリビニル製ELISAプレート(Costar)のコーティングに使用した。PBS−脱脂乳1%を使用してプレートを遮断した。試料(全て精製したscFv F3、scFv、二重特異性抗体、Mab CB/ior−CEA.1)を様々な濃度でプレートに施用した。洗浄後、3つの最初の試料に対応するウェルをMab9E10(10μg/mL)と共にインキュベートし、Mab CB/ior−CEA.1に対応するウェルでは遮断溶液を使用した。次のステップでは、ペルオキシダーゼ(Sigma)とコンジュゲートさせた抗マウスIgG抗体を1:2500の希釈率で、37℃で1時間加えた。使用した基質はOPDであり、反応を15分間展開させた。吸光度の読取はLabSystems Multiskan MS装置で492nmで行った。
【0121】
それぞれの事例の吸光(OD)値を縦軸(y)にプロットし、濃度をng/mLで横軸(x)に、log10の対数スケールでプロットした。OD100はシグナルが最大に維持されたものとした。それぞれの曲線で、OD100の半分(OD50)を計算した。各試料のOD50の濃度値をそれぞれの曲線で決定し、以下の式を用いて親和性の計算を行った:Kaff=(n−1)/2(n)、ただし、n=[Ab’]t/[Ab]tである。[Ab’]tは比較する最も高い抗原濃度のOD50値に対応する試料の濃度値であり、[Ab]tは比較する最も低い抗原濃度のOD50値に対応する単純物の濃度値である。4つの得られた曲線で可能な親和性を6回決定し、これらの平均を最終的なKaffと概算した。
【0122】
表VIIは、アッセイした変異体のそれぞれについて計算したKaff値を反映している。scFvは(5.0±0.4)×10L mol−1のKaffを有しており、これは、F3で得られたものより(Kaff=(9.2±0.8)×10L mol−1)1桁半大きい。この最後の値は基本的に異なった手順(Perez L他、Applied Biochem.Biotechnol. 24:79−82、1996)で行った測定でF3について計算された値に対応している。二重特異性抗体は(2.8±0.3)×1010L mol−1のKaffを有しており、Mab CB/ior−CEA.1のKaff値は(6.1±0.5)×1010L mol−1であった。
【0123】
【表5】

【実施例9】
【0124】
B16−CEA13細胞を接種することによって誘発させた腫瘍を有するC57Bl/6マウスにおける、125Iで標識した断片及び抗体のin vivoでの特異的認識の決定
抗体断片のin vivoでの特異的認識を決定するために、ロドゲン(lodogen)法を使用して(Fraker PJ、Speck JC Jr. Biochem Biophys Res Comm 80:849−857、1978)、以下の分子を125I(Amersham、UK)で標識した:
(a)大腸菌(E.coli)から精製したscFv、(特異的活性1.1MBq/5μg)
(b)大腸菌(E.coli)から精製した二重特異性抗体、(特異的活性:1.2MBq/5μg)
(c)Mab CB/ior−CEA.1、(特異的活性:1.8MBq/5μg)
(d)精製したScFv F3(Ayala他、Biotechniques 13:790−799、1992;Perez L他、Applied Biochem.Biotechnol.24:79−82、1996)(特異的活性:1.0MBq/5μg)
【0125】
タンパク質への取り込みを決定するために放射標識した産物を薄層クロマトグラフィーで分析し、95〜98%の放射活性値が見つかった。放射標識した産物のCEAを検出する能力は、ポリスチレン製チューブをCEA(5μg/mL;Calbochem)でコーティングし、遮断し、この固相によって捕捉され得る抗体の量に調節した放射標識した産物の試料を加えるシステムでアッセイした。インキュベート及び洗浄の後、上述の試料(a)〜(d)についてそれぞれ80、79、83、及び81%の放射活性が固相に捕捉されたことが決定され、放射標識化手順が抗体の生物活性に目立って影響を与えなかったことが実証された。
【0126】
体内分布を調査するために、それぞれが12匹のC57Bl/6マウス(CENPALAB、キューバ)からなる4つの動物グループを形成した。腋窩内経路を使用して動物に1匹当たり1×10個のB16−CEA13細胞を接種した。腫瘍は7日後に目視及び触知可能であり(約0.3〜0.5g)、その後、マウスに放射標識した目的の産物を尾部の静脈内により注入し、12、24及び48時間後に屠殺し、腫瘍並びに以下の正常組織、すなわち脾臓、肝臓、腎臓、腸管、筋肉、骨髄、及び血液を外科的に切除した。放射活性の蓄積は、組織1グラム当たりの注射した用量に対する割合として表した。較正は、注入した用量の標準試料によって行った。放射活性はγシンチレーションカウンターを用いて決定した。
【0127】
これらの実験で使用したB16−CEA13細胞は、pDisplay(商標)ベクター(カタログ番号V660−20、Invitrogen)内にクローニングされた、ヒトCEAの細胞外ドメインをコードしている遺伝子の形質移入によって得られた。この遺伝子は、公開されているヒトCEAの配列を変化させて設計したオリゴヌクレオチドを用いて、CRL−1682細胞から抽出したRNAのPCRによって得られた。組換えプラスミドpDisplay−CEAを精製し、Lipofectamine PLUS(商標)(Gibco−BRL)を使用して、1回の形質転換当たり5μgのDNAを用いてC57Bl/6マウスのB16−F10黒色腫細胞(ATCC CRL−6475)に形質移入させた。安定な形質移入体の選択は、4.0mg/mLの硫酸ジェネティシン(G418;Gibco−BRL)を用いて14日間で行い、その後、生存している培養細胞を限界希釈によってクローニングし、表面にヒトCEAを発現したクローンを、一次抗体としてMab CB/ior−CEA.1を使用し、展開にFITC(Sigma)とコンジュゲートさせた抗マウスIgG抗体を使用して間接免疫蛍光法によって同定した。クローンの73%が80%を超える細胞が特異的膜蛍光を示すことを表していることが判明し、これは、ヒトCEAが正しいフォールディングを提示し且つ表面がグリコシル化されたことを示している。
【0128】
B16−F10に形質移入されていない細胞を対照として使用した。間接免疫蛍光法によって陽性として選択されたクローンの複製物を増やし、1匹当たり1×10個の細胞で、腋窩内経路を用いてそれぞれ独立にC57Bl/6マウスに注入した。腫瘍を生じる10個のクローンのうち、B16−CEA13と呼ばれるより速く且つ進行的な増殖特徴を有するものを、本明細書で報告した実験用に選択した。
【0129】
図6は、様々な時間における調査した組織当たり(注入した全量に対する)回収された放射活性の割合、及び腫瘍中の放射活性:血液中の放射活性の比を示す。表VIIIに含めた結果は、24〜48時間の間では、腫瘍中の放射活性腫瘍:血液中の放射活性の比が二重特異性抗体、scFv、及びMabで高く維持され、後者で値が最も高く、次いで二量体分子であることが実証された。以前に得られたF3 scFvは非常に低い値を示し、CEAに対するその親和性が減少することに関連づけることができる、不十分なin vivoでの挙動を有する。
【0130】
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】大腸菌(E.coli)中における一価scFv及び二重特異性抗体の発現に使用したpJG−1mベクターを表す図である。幅広の水平バーで記したベクター区域に対応して、クローニング部位断片、c−mycペプチド、6−ヒチジンドメイン、並びに一部のドメイン間及びドメイン後領域の塩基配列を示す(配列番号13)。
【図2】(1)一価scFv断片(配列番号16)、及び(2)二価断片(二重特異性抗体)(配列番号17)について、ヌクレオチド配列から推論したアミノ酸配列のアラインメントを表す(一文字コードで示す)図である。いずれの構築体でも、ドメインの順番はVH−リンカーセグメント−VLである。2つの分子のそれぞれで使用したリンカーセグメントのアミノ酸を太字で示した。
【図3】培養腫瘍細胞AsPC−1(ATCC CRL−1682)中で発現されたCEAに関して、(A)Mab CB/ior−CEA.1、(B)一価scFv、及び(C)二重特異性抗体の、間接免疫蛍光技術による認識を示す図である。A、B、及びCで、膜及び近傍細胞質の特徴的な蛍光が見られる。拡大率は200×である。
【図4】二重特異性抗体のタンパク質分解性消化のクロマトグラフィープロファイル及び質量分析で得た、トリプシンで消化したペプチドの割当を表す図である。上:二重特異性抗体のトリプシン消化のクロマトグラフィープロファイル。下:二重特異性抗体のトリプシンで消化したペプチドの割当を要約した表。M/z exp:実験質量、理論m/z:理論質量、Z:電荷。得られたスペクトルでは、正しくないリンカーシステインに対応するシグナルは検出されなかった。
【図5】二重特異性抗体(配列番号21)のアミノ酸配列の確認のまとめである図である。質量分析によって確認したタンパク質配列の領域を太字で示し、トリプシン消化の後に回収されなかった配列の区域をイタリックで示す。太字の区域は、二重特異性抗体の塩基配列から推論したアミノ酸配列と全体で一致する。pJG−1mベクター(図1)により提供されるc−mycペプチド及び最後の6個のヒスチジンの配列もC末端部分に見られる。
【図6】125Iで放射標識した以下の分子、すなわち左から右に、4つの2つ組バーの群で、(a)二重特異性抗体、(b)scFv、(c)F3、及び(d)Mab CB/ior−CEA.1を、ヒトCEAを発現する腫瘍を有するマウスに接種した24時間(斜線バー)及び48時間(非斜線バー)の、組織1グラム当たりにおける注入した用量に対する割合を表す図である。それぞれのバーは12匹のマウスから得られた組織から回収されたカウントの平均を表す。結果から、24〜48時間の間では、腫瘍中の放射活性:血液中の放射活性の比が二重特異性抗体、scFv、及びMabで高い値に維持され(後者で値が高い)、次いで二量体分子であることが実証された。F3は非常に低い値を示し、CEAに対するその親和性が減少することに関連づけることができる、不十分なin vivoでの挙動を有する。
【配列表】








【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mab CB/ior−CEA.1を産生するハイブリドーマから抽出したRNAから得た単量体scFv型の抗体断片であって、可溶性の形態であるか、固体表面上に吸着されているか、又は細胞中に存在するヒト癌胎児性抗原(CEA)に特異的であり、並びに、(5.0±0.4)×109L mol−1のCEAに対する親和定数、及びそのグリコシル化の保存に依存的なこのような抗原の認識を示す、抗体断片。
【請求項2】
アミノ酸配列が配列番号16に示すものである、請求項1記載の単量体scFv型の抗体断片。
【請求項3】
Mab CB/ior−CEA.1を産生するハイブリドーマから抽出したRNAから得た二価(二重特異性抗体)scFv型の抗体断片であって、可溶性の形態であるか、固体表面上に吸着されているか、又は細胞中に存在するヒト癌胎児性抗原(CEA)に特異的であり、並びに、(2.8±0.3)×1010L mol−1のCEAに対する親和定数、及びそのグリコシル化の保存に依存的なこのような抗原の認識を示す、抗体断片。
【請求項4】
アミノ酸配列が配列番号17に示すものである、請求項3記載の二価(二重特異性抗体)scFv型の抗体断片。
【請求項5】
ヒトCEAを発現する腫瘍細胞の同定に使用する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗体断片。
【請求項6】
Fab断片及び他のscFv変異体、二重特異的抗体の形態で人為的に連結されているか、又は生物学的若しくは生化学的に活性のあるドメインと融合している、配列番号16及び配列番号17に報告されている可変ドメインVH及びVLのアミノ酸配列を含むことを特徴とする、ヒトCEAに特異的な組換え又は合成組換え抗体。
【請求項7】
組換え細菌又は酵母、昆虫若しくは哺乳動物の形質移入細胞、又は遺伝子改変した生物中で産生される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の抗体断片。
【請求項8】
放射性若しくは他の方法で検出可能な標識、又は抗腫瘍の潜在性を有する化学的若しくは生物学的物質を更に含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の抗体断片。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の抗体断片を含む、CEAを発現するヒト腫瘍を治療するための、医薬組成物。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の抗体断片を含む、画像化技術を使用してCEAを発現するヒト腫瘍をイン・ビボ(in vivo)で放射性により位置決定するための、医薬組成物。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の抗体断片を含む、細胞に連結している又は連結していないヒトCEAを検出するための、イン・ビトロ(in vitro)又はエクス・ビボ(ex vivo)診断用の試薬。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の抗体断片を発現する細胞であって、組換えDNAによる遺伝子操作によって得られ、及び、細胞は、細菌、酵母、昆虫細胞、哺乳動物細胞又は植物細胞である、細胞。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の抗体断片を発現する多細胞生物であって、組換えDNAによる遺伝子操作によって得られ、及び、生物は、トランスジェニック動物又はトランスジェニック植物である、多細胞生物。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の抗体断片をコードしているベクターであって、組換えDNAの遺伝子操作によって得られ、及び、ベクターは、プラスミド、又は宿主細胞内に組み込まれることが可能な配列である、ベクター。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mab CB/ior−CEA.1を産生するハイブリドーマから抽出したRNAから得た単量体scFv型の抗体断片であって、可溶性の形態であるか、固体表面上に吸着されているか、又は細胞中に存在するヒト癌胎児性抗原(CEA)に特異的であり、並びに、(5.0±0.4)×10L mol−1のCEAに対する親和定数、及びそのグリコシル化の保存に依存的なこのような抗原の認識を示す、抗体断片。
【請求項2】
アミノ酸配列が配列番号16に示すものである、請求項1記載の単量体scFv型の抗体断片。
【請求項3】
Mab CB/ior−CEA.1を産生するハイブリドーマから抽出したRNAから得た二価(二重特異性抗体)scFv型の抗体断片であって、可溶性の形態であるか、固体表面上に吸着されているか、又は細胞中に存在するヒト癌胎児性抗原(CEA)に特異的であり、並びに、(2.8±0.3)×1010L mol−1のCEAに対する親和定数、及びそのグリコシル化の保存に依存的なこのような抗原の認識を示す、抗体断片。
【請求項4】
アミノ酸配列が配列番号17に示すものである、請求項3記載の二価(二重特異性抗体)scFv型の抗体断片。
【請求項5】
ヒトCEAを発現する腫瘍細胞の同定に使用する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗体断片。
【請求項6】
Fab断片及び他のscFv変異体、二重特異的抗体の形態で人為的に連結されているか、又は生物学的若しくは生化学的に活性のあるドメインと融合している、配列番号16及び配列番号17に報告されている可変ドメインVH及びVLのアミノ酸配列を含むことを特徴とする、ヒトCEAに特異的な組換え又は合成組換え抗体。
【請求項7】
組換え細菌又は酵母、昆虫若しくは哺乳動物の形質移入細胞、又は遺伝子改変した生物中で産生される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の抗体断片。
【請求項8】
放射性若しくは他の方法で検出可能な標識、又は抗腫瘍の潜在性を有する化学的若しくは生物学的物質を更に含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の抗体断片。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の抗体断片を含む、CEAを発現するヒト腫瘍を治療するための、医薬組成物。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の抗体断片を含む、画像化技術を使用してCEAを発現するヒト腫瘍をイン・ビボ(in vivo)で放射性により位置決定するための、医薬組成物。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の抗体断片を含む、細胞に連結している又は連結していないヒトCEAを検出するための、イン・ビトロ(in vitro)又はエクス・ビボ(ex vivo)診断用の試薬。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の抗体断片を発現する細胞であって、組換えDNAによる遺伝子操作によって得られ、及び、細胞は、細菌、酵母、昆虫細胞、哺乳動物細胞又は植物細胞である、細胞。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の抗体断片を発現する多細胞生物であって、組換えDNAによる遺伝子操作によって得られ、及び、生物は、トランスジェニック動物又はトランスジェニック植物である、多細胞生物。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の抗体断片をコードしているベクターであって、組換えDNAの遺伝子操作によって得られ、及び、ベクターは、プラスミド、又は宿主細胞内に組み込まれることが可能な配列である、ベクター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−500913(P2006−500913A)
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−501454(P2004−501454)
【出願日】平成15年4月28日(2003.4.28)
【国際出願番号】PCT/CU2003/000005
【国際公開番号】WO2003/093315
【国際公開日】平成15年11月13日(2003.11.13)
【出願人】(304012895)セントロ デ インジエニエリア ジエネテイカ イ バイオテクノロジア (46)
【Fターム(参考)】