説明

ヒト皮膚メタボリックシンドローム組織モデルの製造方法

【課題】in vivoと極めて近似し、研究等に有用な、メタボリックシンドロームの基盤病態を再現した人工のヒト皮膚メタボリックシンドローム組織モデルの製造方法を提供する。
【解決手段】間葉系細胞OP9細胞等の前駆脂肪細胞と、未分化のU937細胞、分化誘導されたマクロファージ細胞等とを真皮形成用コラーゲンゲル中で共培養する工程と、この真皮形成用コラーゲンゲルの表面にヒトおよび/または哺乳類動物皮膚角化細胞を含む表皮形成用細胞を播種する工程とを含み、前記共培養により前駆脂肪細胞を脂肪細胞へ分化誘導して真皮形成部分に脂肪滴および/または脂肪塊を蓄積させると共に、活性化したマクロファージ細胞および/またはマクロファージ細胞に分化されたU937細胞により炎症反応を惹起する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト皮膚メタボリックシンドローム組織モデルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の3次元皮膚組織モデルは表皮と真皮とからなる比較的簡易なものが主体であった(非特許文献1参照)。しかし近年では、美容や脂質代謝改善を果たすセルライト抑制剤の開発向け評価系の確立と、それに用いられるin vivoに近い3次元皮膚組織モデルの開発が求められている。
【0003】
このような背景にあって、本発明者らは、前駆脂肪細胞として多分化能骨髄間葉系細胞OP9等を分化誘導処理して取得した脂肪細胞を組み込んだ皮膚組織モデル系Adipogenetic skin equivalents(ASE)を構築し(非特許文献2参照)、各種薬剤の脂肪生成抑制能を確認している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Esther B., Mary C.H., Verhoeven, and Maria P., The Journal of Investigative Dermatology, 489-498, Vol. 112, No.4, April, 1999
【非特許文献2】第33回日本香粧品学会 講演要旨「高度水酸化フラーレンによる酸化ストレスと脂肪細胞分化への抑制効果、および、多分化能細胞を含む皮膚組織モデルの活用」2008年6月5日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年では、内臓脂肪型肥満(内臓肥満・腹部肥満)に高血糖・高血圧・高脂血症のうち2つ以上を合併したメタボリックシンドロームが治療の対象として考えられるようになってきており、特定健診制度の実施項目にもなっている。そのため、研究等に有用な、メタボリックシンドロームの基盤病態を再現した人工のヒト皮膚組織モデルを構築することが求められている。
【0006】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、in vivoと極めて近似し、研究等に有用な、メタボリックシンドロームの基盤病態を再現した人工のヒト皮膚メタボリックシンドローム組織モデルの製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0008】
第1:間葉系細胞OP9細胞、間葉系幹細胞UE6E7T-3および前駆脂肪細胞3T3-L1から選ばれる少なくとも1種の前駆脂肪細胞と、未分化のU937細胞、分化誘導されたマクロファージ細胞、ヒト単球様細胞株THP-1、マウスマクロファージ様細胞J774.1およびRAW264.7から選ばれる少なくとも1種の細胞とを真皮形成用コラーゲンゲル中で共培養する工程と、この真皮形成用コラーゲンゲルの表面にヒトおよび/または哺乳類動物皮膚角化細胞を含む表皮形成用細胞を播種する工程とを含み、前記共培養により前駆脂肪細胞を脂肪細胞へ分化誘導して真皮形成部分に脂肪滴および/または脂肪塊を蓄積させると共に、活性化したマクロファージ細胞および/またはマクロファージ細胞に分化されたU937細胞により炎症反応を惹起し、メタボリックシンドロームおよび/または脂質代謝失調疾患の基盤病態を再現したヒト皮膚組織モデルを構築することを特徴とするヒト皮膚メタボリックシンドローム組織モデルの製造方法。
【0009】
第2:OUMS、DUMS、およびNHDFから選ばれる少なくとも1種のヒト皮膚由来繊維芽細胞を真皮形成用コラーゲンゲル中で培養する工程と、真皮形成用コラーゲンゲルの表面にIV型コラーゲン、ラミニン、およびエンタクチンを含有する基底膜形成用ゲルおよび/またはI型コラーゲンを主成分とする基底膜形成用ゲルを重層する工程とをさらに含み、真皮部分に基底膜が重層されたヒト皮膚組織モデルを構築することを特徴とする上記第1のヒト皮膚メタボリックシンドローム組織モデルの製造方法。
【0010】
第3:基底膜形成用ゲルの表面に、HaCaT細胞およびPam212細胞から選ばれる少なくとも1種のヒトおよび/または哺乳動物由来の皮膚角化細胞を含む表皮形成用細胞を播種する工程と、それに引き続き空気曝露する工程および/または、HMV-II細胞、B16細胞、HM-3-KO細胞から選ばれる少なくとも1種のヒトおよび/または哺乳動物由来の皮膚色素細胞を重層する工程とを含み、基底膜の上に表皮部分、角質層部分、および/または色素細薄層を形成することを特徴とする上記第2のヒト皮膚メタボリックシンドローム組織モデルの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、in vivoと極めて近似し、研究等に有用な、メタボリックシンドロームの基盤病態を再現した人工のヒト皮膚組織モデルを得ることができる。
【0012】
また、表皮維持培地には、通常20種類以上の試薬を必要とするが、本発明では安価で調製も簡便なSerum replacement(SR)培地を用いることができる。
【0013】
また、表皮細胞が健全であり、緊密な角質層を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1で得られたヒト皮膚メタボリックシンドローム組織モデルの顕微鏡写真である。
【図2】実施例1で得られたヒト皮膚メタボリックシンドローム組織モデルおよび市販3D皮膚の角質層の形成を比較した写真である。
【図3】実施例1で得られたヒト皮膚メタボリックシンドローム組織モデルおよび市販3D皮膚の真皮側の脂肪滴の形成を比較したOil Red染色写真である。
【図4】実施例1で得られたヒト皮膚メタボリックシンドローム組織モデルの脂肪滴蓄積後の皮膚表面形状を示した図である。
【図5】高度水酸化フラーレンによるメタボリックシンドロームの基盤病態の改善効果を調べた結果を示す、実施例1で得られたヒト皮膚メタボリックシンドローム組織モデルの顕微鏡写真である。
【図6】実施例2で得られたヒト皮膚通常組織モデルを用いて、UVA起因性シワ防御効果を解析した結果を示す皮膚表面形状のレプリカ像である。
【図7】実施例2で得られたヒト皮膚通常組織モデルを用いて、UVA起因性シワ防御効果を解析した結果を示すSEMイメージである。
【図8】Liposome fullereneによる真皮保持I型コラーゲンに対するUVA防御効果(繊維分断度)を、免疫染色を用いて調べた結果を示すヒト皮膚通常組織モデル切片の断面の蛍光顕微鏡写真である。
【図9】Liposome fullereneによる真皮保持IV型コラーゲンに対するUVA防御効果(繊維分断度)を、免疫染色を用いて調べた結果を示すヒト皮膚通常組織モデル切片の断面の蛍光顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)ヒト皮膚メタボリックシンドローム組織モデルの製造
本発明のヒト皮膚メタボリックシンドローム組織モデルの製造方法では、間葉系細胞OP9細胞、間葉系幹細胞UE6E7T-3(JCRB1136、骨髄由来不死化間葉系幹細胞)、前駆脂肪細胞3T3-L1(JCRB9014)から選ばれる少なくとも1種の前駆脂肪細胞と、未分化のU937細胞(JCRB9021)、分化誘導されたマクロファージ細胞、ヒト単球用細胞株THP-1、およびマウスマクロファージ様細胞J774.1(RCB0434)、およびRAW264.7(ATCC, TIB-71)から選ばれる少なくとも1種の細胞とを真皮形成用コラーゲンゲル中で共培養する。
【0016】
また、さらにOUMS-36(JCRB1006.0)、DUMS、およびNHDF(タカラバイオ(株)、三光純薬(株)、クラボウ等から入手可能)から選ばれる少なくとも1種のヒト皮膚由来繊維芽細胞も真皮形成用コラーゲンゲル中で共に培養することもできる。
【0017】
真皮形成用コラーゲンゲルとしては、I型コラーゲンゲルを用いることができる。また、マトリゲル(Matrigel)も有用である。これはIV型コラーゲン・ラミニン・エンタクチンを含有し、基底膜を再構成したものである。
【0018】
例えば、培地(MEM-α/20%FCS)中でI型コラーゲンゲルやマトリゲルあるいは両者混合物を液相培養すると、数日後にはゲルが収縮して固化される。
【0019】
次に、真皮形成用コラーゲンゲルの表面にHaCaT細胞、Pam212細胞から選ばれる皮膚角化細胞を含む表皮形成用細胞を播種し、これを例えばSR培地中にて、培地を入れ替えて血清濃度を適宜に変更しながら液相培養する。これにより、表皮形成用細胞が培養されると共に、I型コラーゲンゲル中にてOP9細胞を脂肪細胞に分化誘導して脂肪滴、脂肪塊が蓄積、増加し、分化誘導されたマクロファージ細胞を活性化させる。脂肪滴は主にトリグリセリドを含有し、細胞質に形成され細胞膨大が起こる。また、皮膚角化細胞とともに、あるいは代わりとしてHMV-II細胞(RCB0777)、B16細胞(JCRB0202)、HM-3-KO細胞から選ばれる少なくとも1種の皮膚色素細胞を重層して色素細薄層を形成することもできる。
【0020】
次に、表皮形成用細胞を重層したI型コラーゲンゲルを、例えばSR培地に漬けた濾紙上に置き、表皮形成用細胞を空気暴露し、例えば10日以上培養する。これにより真皮形成用コラーゲンゲル中に脂肪滴、脂肪塊がさらに蓄積、増加すると共に、その上に表皮と角質層が形成される。
【0021】
このようにして、表面が凹凸なセルライト形状を呈する、メタボリックシンドロームの基盤病態を再現したヒト皮膚組織モデルを構築することができる。すなわち、未分化のU937細胞および/またはマクロファージ細胞をOP9細胞と共培養することで、OP9細胞はホルモン(SR)刺激を受けて大量の脂肪滴を蓄積する。これが活性酸素を産生し、U937細胞をマクロファージ様細胞に分化させ、そしてマクロファージ様細胞はさらに活性酸素を放出しつつ、脂肪滴の蓄積を助長する。
【0022】
これによりメタボリックシンドロームの基盤病態を細胞レベルで再現することができ、このヒト皮膚メタボリックシンドローム組織モデルは、各種薬剤の効能の調査等、研究用途に好適に用いることができる。
【0023】
そしてこのヒト皮膚メタボリックシンドローム組織モデルは、既に市販されている3次元皮膚モデルに比べて、表皮細胞が健全で角質層が緊密である。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<実施例1> ヒト皮膚メタボリックシンドローム組織モデルの製造
コラーゲンゲル培養キット(新田ゼラチン(株))を用いて、コラーゲンゲルの培養を、新田ゼラチン(株)のプロトコル(http://www.nitta-gelatin.co.jp/products/labo/column_1.html参照)に従って行った。遠心回収したOP9細胞および未分化のU937細胞を含むペレットに、冷却したI型コラーゲンゲル混合溶液を加え、均一になるように混合した。このOP9細胞および未分化のU937細胞を含んだI型コラーゲン混合溶液を培養皿に分注し、インキュベータ中で37℃、30分間静置しゲル化した。
【0025】
次に、培地(MEM-α/20%FCS)中でI型コラーゲンゲルを液相培養した。2〜5日後にはゲルが収縮した。
【0026】
次に、I型コラーゲンゲル上にヒト皮膚角化細胞(HaCaT)を播種し、これを培地(DMEM/Ham’s F12(1:1)+5%FBS+15% Knock out serum replacement(SR、Introgen Inc.))中で1日間液相培養した。これによりヒト皮膚角化細胞が培養されると共に、I型コラーゲンゲル内に脂肪滴、脂肪塊が蓄積し始めた。
【0027】
次に、培地(DMEM/Ham’s F12(1:1)+1%FBS+15% Knock out serum replacement)に交換して2日間液相培養した。これによりヒト皮膚角化細胞が培養されると共に、I型コラーゲンゲル内に脂肪滴、脂肪塊がさらに蓄積、増加した。
【0028】
次に、ヒト皮膚角化細胞を重層したI型コラーゲンゲルを培地(DMEM/Ham’s F12(1:1)+15% Knock out serum replacement)に漬けた濾紙上に置き、ヒト皮膚角化細胞を空気暴露し14日間培養した。これによりI型コラーゲンゲル内に脂肪滴、脂肪塊がさらに蓄積、増加すると共に、ヒト皮膚角化細胞上に表皮と角質層が形成された。
【0029】
このようにして、SR培地でOP9細胞を脂肪細胞へ分化誘導して真皮形成部分に脂肪滴、脂肪塊を蓄積させると共に、活性化したマクロファージ細胞および/またはマクロファージ細胞に分化されたU937細胞により炎症反応を惹起し、メタボリックシンドロームの基盤病態を再現したヒト皮膚組織モデルを構築した。
【0030】
得られたヒト皮膚メタボリックシンドローム組織モデルの切片を染色し顕微鏡観察を行った。細胞核の染色はヘマトキシリンで行い(青)、脂肪滴の染色はoil red O(赤)で行った。染色した試料の顕微鏡写真を図1〜3に示す。
【0031】
図1に示すように、OP9細胞はホルモン(SR)刺激を受けて大量の脂肪滴を蓄積した。これが活性酸素を産生し、U937細胞をマクロファージ様細胞に分化させた(培養器(24-well plate)に付着して変形し、核が小さくなった。また、細胞質に大量の泡が生じた)。そしてマクロファージ様細胞はさらに活性酸素を放出しつつ、脂肪滴の蓄積を助長した。図2に示すように市販3D皮膚モデル(TEST SKIN LSE-high、東洋紡)と比較して、本実施例で作成された皮膚モデルは表皮細胞が健全で角質層が緻密であり、市販品表皮細胞は角質層がばらばらとなり易かった。図3では真皮側の脂肪滴を見たが、市販品(TEST SKIN LSE-high、東洋紡)では真皮側に脂肪滴が全く形成されなかったが、本実施例で作成された皮膚モデルにおいては、真皮に脂肪滴が観察された。
【0032】
本実施例にて作製された皮膚モデルにて皮膚表面のレプリカを作製した。図4に示すように表面が凸凹となりセルライト様形状となっていることを示している。このように、メタボリックシンドロームの基盤病態を細胞レベルで再現することが明らかとなった。
【0033】
次に、得られたヒト皮膚メタボリックシンドローム組織モデルを用いて、高度水酸化フラーレン(HHF:水酸基数32-34)によるメタボリックシンドロームの基盤病態の改善効果を調べた。その結果を図5に示す。HHFの添加によって脂肪滴の蓄積を抑制すると同時に、マクロファージ様細胞は大幅に減少し、メタボリックシンドロームの基盤病態である炎症状態を抑制できることが明らかとなった。
【0034】
なお、U937細胞は正常培養の条件ではマクロファージ細胞に分化せず、浮遊した。
<実施例2> ヒト皮膚組織モデルの製造
コラーゲンゲル培養キット(新田ゼラチン(株))を用いて、コラーゲンゲルの培養を、新田ゼラチン(株)のプロトコル(http://www.nitta-gelatin.co.jp/products/labo/column_1.html参照)に準拠して行った。遠心回収した繊維芽細胞OUMS-36 5×105/wellを含むペレットに、冷却したI型コラーゲンゲル混合溶液を加え、均一になるように混合した。この繊維芽細胞OUMS-36を含んだI型コラーゲン混合溶液を培養皿に分注し、インキュベータ中で37℃、30分間静置しゲル化した。
【0035】
次に、培地(DMEM/10%FCS)中でI型コラーゲンゲルを液相培養した。5日後にはゲルが収縮した。
【0036】
次に、I型コラーゲンゲルの上にIV型コラーゲン、ラミニン、およびエンタクチンを含有する基底膜形成用ゲルを重層した。
【0037】
次に、基底膜形成用ゲル上にヒト皮膚角化細胞(HaCaT)5×105/wellを播種し、これを培地(DMEM/Ham’s F12(1:1)+5%FBS+15% Knock out serum replacement(SR、Introgen Inc.))中で1日間液相培養した。
【0038】
次に、培地(DMEM/Ham’s F12(1:1)+1%FBS+15% Knock out serum replacement)に交換して4日間液相培養した。
【0039】
次に、ヒト皮膚角化細胞を重層したゲルを培地(DMEM/Ham’s F12(1:1)+15% Knock out serum replacement)に漬けた濾紙上に置き、ヒト皮膚角化細胞を空気暴露し14日間培養した。これにより基底膜上に表皮と角質層が形成された。
【0040】
このようにして、真皮、基底膜、表皮、および角質層を有する直径24mmのヒト皮膚通常組織モデルを得た。
【0041】
このヒト皮膚組織モデルを用いて、UVA起因性シワ防御効果の試験を行った。Liposome fullerene(Phytopresome F-3(日本精化(株)), Bio fullerene(ビタミンC60バイオリサーチ(株))0.3%配合)またはLiposome(0.5%リポソーム化粧水、日本精化(株)研究所、PBS(-)で0.25-0.075%に希釈)をヒト皮膚通常組織モデルに150μL/well(φ 24mm)投与した。1.5hrおきにLiposome fullereneまたはLiposomeをアスピレートし、PBS(-)150μLを加えてUVA照射(4J/cm2)を行い、照射後にLiposome fullereneまたはLiposomeを再投与した。これによりUVAを合計で4J/cm2, 87sec×19回=76J/cm2)照射した。
【0042】
その後、ヒト皮膚組織モデルの皮膚表面形状をレプリカによる3次元像で検証した。その結果を図6に示す。Liposome fullerene 0.025%の投与によりUVA起因性シワ防御効果が認められた。
【0043】
また、同様の試料を用い、UVA起因性シワ防御効果として、ヒト皮膚組織モデルの表面の鱗片度および断面の層間剥離度をSEMイメージにより解析した。Liposome fullerene(Phytopresome F-3, Bio fullerene 0.3%配合)またはLiposome(0.5%リポソーム化粧水、日本精化(株)研究所、PBS(-)で0.025%に希釈)をヒト皮膚通常組織モデルに30μL/well(φ 12mm)投与した。45minおきにLiposome fullereneまたはLiposomeをアスピレートし、PBS(-)30μLを加えてUVA照射(4J/cm2)を行い、照射後にLiposome fullereneまたはLiposomeを再投与した。これによりUVAを合計で4J/cm2, 87sec×19回=76J/cm2)照射した。
【0044】
その結果を図7に示す。無投与、0.025% Liposome投与では表面が細かく破砕し、断裂した断面構造を示した。これに対し0.025% Liposome fullerene投与ではコントロールと同レベルの平滑な表面と断面構造を示した。
【0045】
また、Liposome fullereneによる真皮保持I型コラーゲンに対するUVA防御効果(繊維分断度)を、免疫染色を用いた蛍光顕微鏡測定により調べた。0.025% Liposome fullereneまたはLiposome 150μLをヒト皮膚通常組織モデル(φ 24mm)に投与してインキュベート(5hr, 37℃)後、UVA(4J/cm2)を1.5hrおきに繰り返し照射した。UVA照射中はLiposome fullereneまたはLiposomeをアスピレートし、PBS(-)を加えて皮膚表面の乾燥を防いだ。UVA照射後、すぐにLiposome fullereneまたはLiposomeを再投与した。これによりUVAを合計で4J/cm2, 87sec×19回=76J/cm2)照射した。
【0046】
真皮(コラーゲンI)の免疫染色は次の手順で行った。
【0047】
【表1】

【0048】
ヒト皮膚通常組織モデル切片(厚さ5μm)の断面の蛍光顕微鏡写真を図8に示す。コントロールでは、真皮はコラーゲン繊維に特徴的な弾力構造(健常な状態)であった。無投与、0.025% Liposome投与では、真皮はコラーゲン繊維がUVA照射により断裂していた。一方、0.025% Liposome fullerene投与では、真皮はコラーゲン繊維の構造が保持されていた。
【0049】
また、Liposome fullereneによる真皮保持IV型コラーゲンに対するUVA防御効果(破綻度)を、免疫染色を用いた蛍光顕微鏡測定により調べた。0.025% Liposome fullereneまたはLiposome 150μLをヒト皮膚通常組織モデル(φ 24mm)に投与してインキュベート(5hr, 37℃)後、UVA(4J/cm2)を1.5hrおきに繰り返し照射した。UVA照射中はLiposome fullereneまたはLiposomeをアスピレートし、PBS(-)を加えて皮膚表面の乾燥を防いだ。UVA照射後、すぐにLiposome fullereneまたはLiposomeを再投与した。これによりUVAを合計で4J/cm2, 87sec×19回=76J/cm2)照射した。
【0050】
基底膜(コラーゲンIV)の免疫染色は、1次抗体反応において抗ヒトコラーゲンI型抗体の代わりに抗ヒトコラーゲンIV型抗体(第一ファインケミカル株式会社)、二次抗体としてGoat Anti Mouse IgG FITC(Santa Cruz)を用いた以外は表1と同様の手順で行った。
【0051】
ヒト皮膚組織モデル切片(厚さ5μm)の断面の蛍光顕微鏡写真を図9に示す。コントロールでは、基底膜部分にコラーゲン繊維が認められた。無投与、0.025% Liposome投与では、基底膜部分のコラーゲン繊維がUVA照射により断裂していた。一方、0.025% Liposome fullerene投与では、基底膜を構成するコラーゲン繊維の構造がほぼ保持されていた。
<実施例3>
ヒト皮膚角化細胞HaCaTおよびHMV-II細胞(4:1、0.25-1.25×106)を基底膜形成用ゲル上に播種して培養を行い、それ以外は実施例1と同様にして、真皮、基底膜、表皮、および角質層を有する直径24mmのヒト皮膚通常組織モデルを得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系細胞OP9細胞、間葉系幹細胞UE6E7T-3および前駆脂肪細胞3T3-L1から選ばれる少なくとも1種の前駆脂肪細胞と、未分化のU937細胞、分化誘導されたマクロファージ細胞、ヒト単球様細胞株THP-1、マウスマクロファージ様細胞J774.1およびRAW264.7から選ばれる少なくとも1種の細胞とを真皮形成用コラーゲンゲル中で共培養する工程と、この真皮形成用コラーゲンゲルの表面にヒトおよび/または哺乳類動物皮膚角化細胞を含む表皮形成用細胞を播種する工程とを含み、前記共培養により前駆脂肪細胞を脂肪細胞へ分化誘導して真皮形成部分に脂肪滴および/または脂肪塊を蓄積させると共に、活性化したマクロファージ細胞および/またはマクロファージ細胞に分化されたU937細胞により炎症反応を惹起し、メタボリックシンドロームおよび/または脂質代謝失調疾患の基盤病態を再現したヒト皮膚組織モデルを構築することを特徴とするヒト皮膚メタボリックシンドローム組織モデルの製造方法。
【請求項2】
OUMS、DUMS、およびNHDFから選ばれる少なくとも1種のヒト皮膚由来繊維芽細胞を真皮形成用コラーゲンゲル中で培養する工程と、真皮形成用コラーゲンゲルの表面にIV型コラーゲン、ラミニン、およびエンタクチンを含有する基底膜形成用ゲルおよび/またはI型コラーゲンを主成分とする基底膜形成用ゲルを重層する工程とをさらに含み、真皮部分に基底膜が重層されたヒト皮膚組織モデルを構築することを特徴とする請求項1に記載のヒト皮膚メタボリックシンドローム組織モデルの製造方法。
【請求項3】
基底膜形成用ゲルの表面に、HaCaT細胞およびPam212細胞から選ばれる少なくとも1種のヒトおよび/または哺乳動物由来の皮膚角化細胞を含む表皮形成用細胞を播種する工程と、それに引き続き空気曝露する工程および/または、HMV-II細胞、B16細胞、HM-3-KO細胞から選ばれる少なくとも1種のヒトおよび/または哺乳動物由来の皮膚色素細胞を重層する工程とを含み、基底膜の上に表皮部分、角質層部分、および/または色素細薄層を形成することを特徴とする請求項2に記載のヒト皮膚メタボリックシンドローム組織モデルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−178701(P2010−178701A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−26565(P2009−26565)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(503272483)ビタミンC60バイオリサーチ株式会社 (16)
【出願人】(507234438)公立大学法人県立広島大学 (24)
【Fターム(参考)】