説明

ヒト皮膚外植片培養系及びその使用

本発明は、ヒト皮膚外植片培養系及びその使用を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2009年8月21日出願の、米国仮出願第61/235,923号の優先権を主張する。上述の関連する米国特許出願の完全な開示内容を本明細書に援用するものである。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、ヒト皮膚外植片培養系、及び組成物の皮膚の代謝活性に対する影響を調べるためのこの系の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
インビトロモデル系は、基礎研究及び応用研究の両方において、常に重要な要素である。欧州共同体による化粧品成分の動物試験の使用を禁ずる最近の規制により、皮膚に対するこのようなモデル系開発の優先順位が高まっている。
【0004】
培養でのヒト皮膚外植片は、主に表皮の生態、及び表皮癌の研究において、50年以上も研究されている。しかしながら、これらのモデル系は、表皮活性を中心としており、皮膚及び脂肪層の代謝活性、並びに組織構造の再現には成功していない。
【0005】
New Concepts for Topical Use of Natural Retinoids,Retinaldehyde in Perspective,Proceedings of a Satellite Symposium held at the 7th EADV Meeting,October 7,1998,Nice,France(編集者:J.−H.Saurat、Geneva,Switzerland;A.Vahlquist、Uppsala,Sweden)に掲載されるS.Boisnicらによる文献「Repair of UVA−Induced Elastic Fiber and Collagen Damage by 0.05% Retinaldehyde Cream in an ex vivo Human Skin Model」では、皮膚外植片培養中のコラーゲンに対するレチナールデヒドの影響について考察している。
【0006】
最近出版された「Effect of Green Coffea Arabica L.Seed Oil on Extracellular Matrix Components and Water−channel Expression in in vitro and ex vivo Human Skin Models」(Journal of Cosmetic Dermatology,2009 Mar;8(1):56〜62,Velazquez Pereda Mdel Cら)の著者らは、外植片培養の効果を示すことができなかった。そのため彼らは、試験薬とインキュベートし、免疫染色したヒト皮膚組織切片を用い、コラーゲン、エラスチン、及びその他細胞外基質成分の合成における刺激作用を立証した。
【0007】
これらの文献による知見にもかかわらず、生理的複雑性、代謝活性、及び全皮膚区画の構造的完全性を最も表すヒト皮膚外植片モデル系の必要性が引き続いて存在する。
【0008】
また、薬剤及び組成物の局所適用試験を可能にするために、培養生検材料の表面積を増加させる必要性もある。標準的な生検材料のサイズである直径4mmは、これらの試験を支持しない。「A Human Full−Skin Culture System for Interventional Studies」(Eplast.2009;9:e5.Published online 2009 January 9,by Lars Steinstraesserら)は、より大きな皮膚生検材料の培養について記載しており、4週間の皮膚外植片の組織学的特徴の保持を立証している。しかしながら、この外植片系で導入遺伝子の発現パターンを調べると、in vivoで観察された代謝活性を模倣していないことが判明した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
生理的複雑性、代謝活性、及び全皮膚区画の構造的完全性を最も表し、試験薬及び組成物の局所処理を可能にする十分な表面積を有する、ヒト皮膚外植片モデル系の必要性が引き続いて存在する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、培地中における、最大約25mmの直径を有するヒト皮膚生検材料を含む、ヒト皮膚外植片培養系であって、培地が、約40容量%〜約60容量%のダルベッコ変法イーグル培地と、約40容量%〜約60容量%のF−12栄養素混合物と、約0.5重量%〜約5重量%のウシ胎児血清と、1〜20μg/mLのインスリンと、1〜20ng/mLのヒドロコルチゾンと、1〜20ng/mLの上皮成長因子と、1x抗生物質抗真菌物質混合液と、を含む、ヒト皮膚外植片培養系を目的とする。
【0011】
本発明はまた、皮膚への局所適用における組成物の影響を判断する方法であって、培地中における、最大約25mmの直径を有する皮膚生検材料をインキュベートして皮膚外植片培養系を作製する工程であって、培地が、約40容量%〜約60容量%のダルベッコ変法イーグル培地と、約40容量%〜約60容量%のF−12栄養素混合物と、約0.5重量%〜約5重量%のウシ胎児血清と、1〜20μg/mLのインスリンと、1〜20ng/mLのヒドロコルチゾンと、1〜20ng/mLの上皮成長因子と、1x抗生物質抗真菌物質混合液と、を含む、工程と、皮膚生検材料上に組成物を局所的に適用する工程と、組成物に対する皮膚生検材料の生物学的応答を解析する工程と、を含む、方法も提供する。別の実施形態では、異なる皮膚区画に対する組成物の生物学的影響を、局所的送達の影響と区別するために、組成物又は試験薬は上記培地中に適用される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の培養系は、皮膚外植片の生存を延長させ、皮膚外植片全層の代謝活性を可能にするのに有用であり、局所的に適用される組成物の効果に対する試験を可能にする。
【0013】
外植片が大きくなると、標準的な培養条件下において組織中央部が壊死を起こすため、一般には皮膚外植片は、直径2〜4mmのサイズの皮膚生検材料として用いられる。しかしながら、そのような小さいサイズの皮膚外植片は、局所適用に適していない。局所適用される皮膚科的活性物質の評価を可能にする、より大きいヒト皮膚外植片の完全性を支持するために最適な培地が、今や確認されている。
【0014】
培養系は、スクロース含量が高いダルベッコ変法イーグル培地(「DMEM」)を含有する培地を含む。ダルベッコ変法イーグル培地は、例えばInvitrogen Corporation(Carlsbad,CA,USA)からDulbecco’s Modified Eagle Medium(D−MEM)(1X),liquid(high glucose)/カタログ番号:11965として入手できる。
【0015】
DMEMの量は、約40〜約60容量パーセントであってよく、例えば培地の約50容量パーセントである。
【0016】
また、培地はF−12栄養素混合物(「F−12」)も含む。F−12栄養素混合物は、例えばInvitrogen Corporation(Carlsbad,CA,USA)からF−12 Nutrient Mixture(Ham)(1X),liquid 12/カタログ番号:11765として入手できる。
【0017】
F−12栄養素混合物の量は、約40〜約60容量パーセントであってよく、例えば培地の約50容量パーセントである。
【0018】
培地は、ウシ血清、例えばウシ胎児血清を更に含む。ウシ血清は、例えばInvitrogen Corporation(Carlsbad,CA,USA)からFetal Bovine Serum,Certified,Heat−Inactivated/カタログ番号:10082−139として入手できる。
【0019】
ウシ血清の量は、約0.5〜約5重量パーセントであってよく、例えば、培地の約2重量パーセントである。
【0020】
培地には、インスリン、ヒドロコルチゾン、上皮成長因子(「EGF」)、及び抗生物質抗真菌物質混合液(「ABAM」)が追加される。
【0021】
インスリンの量は1〜20μg/mLであってよく、例えば10μg/mLである。インスリンは、例えばSigma(St.Louis,MO,USA)からinsulin solution human/カタログ番号:I9278として入手できる。
【0022】
ヒドロコルチゾンの量は1〜20ng/mLであってよく、例えば10ng/mLである。ヒドロコルチゾンは、例えばSigma(St.Louis,MO,USA)からhydrocortisone powder,γ−irradiated/カタログ番号:H0135)として入手できる。
【0023】
上皮成長因子の量は1〜20ng/mLであってよく、例えば10ng/mLである。上皮成長因子は、例えばInvitrogen Corporation(Carlsbad,CA,USA)からRecombinant Human Epidermal Growth Factor(EGF)/カタログ番号:PHG0311として入手できる。
【0024】
抗生物質抗真菌物質混合液の量は1xである。抗生物質抗真菌物質混合液は、例えばInvitrogen Corporation(Carlsbad,CA,USA)からAntibiotic−Antimycotic(100X),liquid/カタログ番号15240−062として入手できる。
【0025】
直径が最大約25mm、例えば約2〜約25mm、又は約4〜約25mm、又は特定の実施形態では直径約12mmのヒト皮膚外植片を、培地中に置く。培地は、外植片の高さと同じ高さにしなくてはならない。
【0026】
一実施形態では、外植片を約32℃〜約37℃、例えば約32℃でインキュベートする。予想外にも、培養温度を37℃(標準的温度)から約32℃に下げると、より長く生存でき、外植片の完全性及び代謝活性が向上できることが判明している。予想外にも、培養開始後24時間の培養温度を37℃(標準的温度)から約32℃に下げ、その後外植片を37℃でインキュベートしても、より長く生存でき、外植片の完全性及び代謝活性が向上できることも判明している。
【0027】
別の実施形態では、ウシ胎児血清の量を5%から2%に低下させる。これによっても、より長く生存でき、培養外植片の組織完全性及び代謝活性が向上できる。
【0028】
別の実施形態では、標準的な5容量% COを含有する加湿環境内で外植片をインキュベートする。
【0029】
培地は毎日新しくする。つまり、培地及び栄養素を除去し交換する。
【0030】
本発明で用いられる培地は、組織の生存を可能にする。本明細書で用いるとき、「組織の生存を可能にする」とは、培養中の組織生存、及び、細胞及び組織の死亡につながる組織損傷の予防、例えば組織の壊死の予防を可能にすることを意味する。
【0031】
組織生存率は、組織学的に染色された組織切片の組織学的解析、及び無傷かつ正常な組織構造の実証により、示すことができる。
【0032】
組織生存率は、細胞生存に必須であるとわかっている遺伝子の遺伝子発現の解析により測定することもできる。このような遺伝子として、「ハウスキーピング遺伝子」として定義される遺伝子群が挙げられるが、これらに限定されない。ハウスキーピング遺伝子は、典型的に、多くの又は全ての既知の条件において比較的一定のレベルで転写される構成遺伝子である。ハウスキーピング遺伝子の産物は、典型的に細胞の維持に必須である。一般には、ハウスキーピング遺伝子の発現は、非毒性剤の局所的処理による影響を受けないと考えられる。ハウスキーピング遺伝子の例として、アクチン、GAPDH、18S RNA、及びユビキチンが挙げられるが、これらに限定されない。組織生存率は、当業者に周知の任意の手段によっても測定できる。
【0033】
本発明の培養系は、皮膚に局所適用する組成物の影響を試験できる。調べた組成物に対する皮膚外植片の分子応答、細胞応答、及び/又は生理応答を測定できる。皮膚外植片は、組織学的に、分子解析、バイオマーカー解析などにより解析できる。
【0034】
具体的には、本発明は、皮膚外植片の全区画において、皮膚のin vivo代謝活性をより高いレベルで可能にし、この代謝活性に更に類似する。皮膚の3つの区画の代謝活性を、本発明にしたがって培養された外植片を用いて測定できる。本明細書で用いるとき、「代謝活性」とは、活性遺伝子発現、又は遺伝子産物の合成、又は酵素などのタンパク質の活性、及び、組織区画に特化しており、単に組織生存率又は生存に必須ではない最終産物の産生を意味する。
【0035】
一実施形態では、本発明にしたがって培養された外植片の代謝活性は、組織特異的遺伝子の遺伝子発現により解析される。
【0036】
皮膚の表皮区画では、そのような遺伝子として、ケラチノサイト発現遺伝子、例えば、ケラチン5、14、1及び10などの特定のケラチン、PAR−2、又はKGFR、並びにメラノサイト特異的遺伝子、例えば、チロシナーゼ、TRP−1及びTRP−2、及びその他メラニン形成遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
皮膚の真皮区画では、そのような遺伝子として、エラスチン、エラスチンアクセサリータンパク質、例えばフィブリリン1及びフィビュリン5、並びにコラーゲン、例えば、コラーゲン1α1及びコラーゲン4が挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
皮膚の脂肪層では、そのような遺伝子として、脂質生成遺伝子、例えばPPAR−γ、レプチン、GLUT4、FABP4、AdPLA、及びPref−1、並びに脂肪分解性遺伝子、例えばPPAR−α、アシル−CoAデヒドロゲナーゼ、ホスホジエステラーゼ、CPTカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ(carnitylpalmitoyltransferase)及びGPR81が挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
本発明の別の実施形態では、皮膚真皮層の代謝活性は、本発明にしたがって培養された外植片の組織切片の組織学的又は免疫組織化学的染色により解析される。このような染色例として、増強したエラスチン繊維ネットワークを示すLunaエラスチン染色、又は新たなコラーゲン合成を示すプレコラーゲン免疫組織化学的染色が挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
更に別の実施形態では、本発明による外植片の脂肪層の代謝活性は、これら外植片の培地内に分泌される、脂質代謝に関与する分子の分析により測定される。このような分子の例として、レプチンなどの分泌タンパク質、並びに、グリセロール及び非エステル化脂肪酸などの脂質分子の分泌物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
別段の規定がない限り、本明細書及び「特許請求の範囲」で使用される技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されている意味と同一の意味を有する。別段の指定がない限り、使用する際、全てのパーセンテージは重量パーセント(w/w)である。
【0042】
本発明の実施例を以下に記載する。本発明は、その詳細に限定されると解釈されてはならない。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
形成手術を受ける健康人から、インフォームドコンセントを得てヒト腹部皮膚を入手した。US HIPAA規則に従い、機密情報を保持するために患者の身元は開示されなかった。切り取った生検材料(直径4及び12mm)をまず、全てInvitrogen(Carlsbad CA)から入手した、Pen/Strep(200ユニット/mLペニシリン、200μg/mLストレプトマイシン)、ファンギゾン(5μg/mL)、及びゲンタマイシン(20μg/mL)を追加したDMEMで、30分間室温で殺菌した。この外植片を表1に示す異なる培地(表2に示す抗生物質及び成長因子混合物を追加)内に入れ、5% CO雰囲気下37℃の加湿チャンバに置いた。培地を毎日新しくした。
【0044】
培地A〜Gは比較例とした。培地1は本発明によるものであった。
【表1】

【表2】

【0045】
指定の時間後に皮膚外植片を回収し、10%ホルマリン(Richard−Allan scientific(Kalamazoo,MI))中で一晩固定し、続いて70%エタノール中で保存した。次に、このサンプルをパラフィンブロックに包埋して薄切し(5μm)、標準的手順を用いてヘマトキシリン及びイオジン(H&E)染色を行った。Leica顕微鏡(Leitz DM1L,Leica(Allendale,NJ))及びQiCAMカメラ(QIMAGING(Surrey,BC,Canada))を用いて染色切片の画像を得た。各試験条件の少なくとも12枚の画像について、表皮細胞の完全性、及び真皮コラーゲン分解に焦点を当てて、専門の評価者が組織完全性について評価した。
【0046】
4mm(標準的サイズ)又は12mm(大きいサイズ)の外植片のいずれについても、培地1で培養した外植片は、最大12日間壊死が確認されなかった。表皮では僅かな空胞化細胞が観察されたか、又は空胞化細胞は観察されず、真皮において、培養12日目まで細胞外マトリックスの分解は検出されなかった。対照的に、壊死、真皮マトリックス分解、及び空胞化表皮細胞が、培地A〜Gを用いた培養12日目、又はより早い時期で観察された。
【0047】
表3は、培地1と培地Aを比較する、代表的実験から得たデータを示す。表1に示す他の比較培地、及び表2に示す補足物質を用いて同様の試験を行い、培地1の有意性を確認した。表3に示す各データポイントは、3つの大きな生検材料(12mm)を表す。これらの試験における評価スケールは1〜5の範囲とし、5が最高の組織完全性を有するとした。各試験において、培養直前(ここでは「培養前」とする)の組織完全性を5と定義した。
【表3】

12日間の試験は別の実験で行った。
【0048】
表3のデータは、生存可能な皮膚器官培養をより長い生存期間で維持するという点で、本発明による培地1(5% FBS含有)が比較培地Aより優れていることを表す。
【0049】
(実施例2)
ヒト皮膚外植片培養(12mm)を、実施例1に記載される2% FBSを含有する培地1で樹立した。外植片培養を、5% CO雰囲気で、37℃又は32℃のいずれかでインキュベートした。培地を毎日新しくした。実験開始から所定の期間後、皮膚外植片を組織学的染色のために回収し、実施例1に記載するように評価した。表4は、37℃と32℃を比較する、代表的実験から得たデータを示す。各データポイントは、3つの生検材料を表す。
【表4】

【0050】
表4のデータは、低温(32℃)で12日間インキュベートした皮膚外植片培養が、標準的温度(37℃)でインキュベートした同じ提供者の皮膚外植片と比較して優れた代謝活性を有することを示す。更に、低濃度の血清(2%)を含む本発明の培地(表3に示すような5% FBSを含む培地1、表4のような2%血清を含む培地1)を用いて、皮膚外植片培養のより長期の生存が達成される。その上、最初の24時間を低温(32℃)でインキュベートし、次に標準的温度(37℃)に変更した皮膚外植片は、37℃で継続的にインキュベートした外植片よりも長期間生存する。
【0051】
(実施例3)
生存可能な組織外植片は、代謝的に活性であることができるか、又は低い代謝活性を有することができるのみであるか、又は活動停止状態であり得るため、そして、皮膚科用剤の評価には代謝的に活性な皮膚器官培養の使用が望ましいため、培養中の代謝活性の支持能について、本発明の最適化された培養条件下での培養の試験を行った。
【0052】
皮膚外植片培養を、実施例1に記載されるように培地1を用いて樹立した。外植片を、5% CO雰囲気内、37℃でインキュベートした。培地1中で、皮膚外植片を未処理のままにするか、又はTGF−β(エラスチン産生を増加すると知られている剤)で処理した。培地を毎日新しくした。所定の期間後、皮膚外植片を回収し、以下のように組織学的、免疫組織化学的、及び遺伝子発現的に評価を行った。
1.Kligman、Am.J.of Dermatopathology,3(2):199〜201,1981に記載されるように、LUNA染色を用いてエラスチン繊維を組織学的に実証した。エラスチン繊維の品質評価は1〜5の範囲とし、5のときに繊維品質が最高であるとした。
2.Thermo Scientific(Pittsburgh,PA)から購入したKi67に対するウサギモノクローナル抗体による免疫組織化学的手技を用いて、細胞増殖のマーカーとしてKi67を用いた。メーカーの説明書にしたがって、免疫組織化学的染色を実施した。Ki67の評価は1〜5の範囲とし、5のときに培養前の皮膚サンプル中のKi67濃度が正常であることを示す。
3.エラスチン遺伝子発現レベル(mRNAレベル)をQPCRにより評価した。メーカーの説明書にしたがって、Trizol(Invitrogen(Carlsbad CA))を用いて皮膚外植片から総RNAを抽出した。続いて、Superscript(登録商標)III逆転写酵素(Invitrogen(Carlsbad,CA))を用いて、RNAをcDNAに転換し、7300 Realtime PCRシステム(Applied Biosystems(Foster City,California))を用いてQPCR分析を行った。
エラスチンプライマー:フォワード:GGTATCCCATCAAGGCCCC リバース:TTTCCCTGTGGTGTAGGGCA。QPCR反応、20μL容量中に、10μLのQPCR master mix(Applied Biosystems(Foster City,CA))、1.5μLのフォワード又はリバースプライマーのいずれか(5μM)、5μLのcDNA、及び2μLのHO)を含有した。未処理対照を100%に正規化した。
【0053】
表5は代表的実験から得たデータを示す。
【表5】

【0054】
表5のデータは、本発明にしたがって培養された皮膚外植片の真皮区画の代謝活性を示す。エラスチンは最適化された培養条件でTGF−βに応答して誘導されるため、TGF−βに対する組織の肯定応答により、代謝活性が更に確認される。
【0055】
(実施例4)
PPAR−γ活性化は、脂肪細胞の増殖、分化、維持、及び生存の必須制御因子である(Anghelら、J.of Biol.Chem.,282(41),29946〜57,2007)。PPAR−γアゴニストであるロシグリタゾンは、脂肪細胞の分化を誘導する(Patelら、Diabetes.52(1):43〜50,2003)。一方、共役リノール酸は、脂質生成を減弱し、脂肪酸酸化を誘導する(Evansら、J Nutr.;132(3):450〜5,2002;Brownら、J Nutr.;131(9):2316〜21,2001)。
【0056】
皮下脂肪層の代謝活性を調べるために、実施例1に記載されるように、5%血清を含む最適化培地を用いて外植片培養を樹立した。一晩のインキュベーション後、皮下脂肪層の脂質生成及び脂肪分解に対する影響を評価するため、皮膚外植片を未処理のままにするか、又は培地中の20μMのロシグリタゾン、若しくは50μMの共役リノール酸で処理した。外植片を、5% CO雰囲気内、37℃でインキュベートした。
【0057】
脂質生成の評価のために、皮膚外植片を、20μMのロシグリタゾン及びC−14標識したアセテートを含有する培地で、24時間培養した。続いて皮下脂肪を回収し、トリグリセリド濃度を(Pappasら、JID 118(1)164〜171,2002)に記載されるようにHPTLCにより決定した。
【0058】
脂肪分解の評価のために、皮膚外植片を50μMの共役リノール酸を含有する培地で培養し、培地を指定の時間に回収した。遊離グリセロール試薬及びキット(Sigma)をメーカーの説明書にしたがって用い、培地内に放出されたグリセロール濃度を測定した。
【0059】
代表的実験の結果を表6に示す。
【表6】

【0060】
表6のデータは、本発明にしたがって培養された皮膚外植片の脂肪層の代謝活性を示す。ロシグリタゾン(トリグリセリドの増加)及び共役リノール酸(グリセロール放出の増加)の両方に対する皮膚外植片の肯定応答は、培養した皮膚外植片の代謝的に活性な脂肪層を表す。
【0061】
〔実施の態様〕
(1) 培地中における、最大約25mmの直径を有するヒト皮膚生検材料を含む、ヒト皮膚外植片培養系であって、前記培地が、
約40容量%〜約60容量%のダルベッコ変法イーグル培地と、
約40容量%〜約60容量%のF−12栄養素混合物と、
約0.5重量%〜約5重量%のウシ胎児血清と、
1〜20μg/mLのインスリンと、1〜20ng/mLのヒドロコルチゾンと、1〜20ng/mLの上皮成長因子と、1x抗生物質抗真菌物質混合液(1x antibiotic antimycotic)と、を含む、ヒト皮膚外植片培養系。
(2) 約50容量%のダルベッコ変法イーグル培地と、約50容量%のF−12栄養素混合物と、約2重量%のウシ胎児血清と、を含む、実施態様1に記載の培養系。
(3) 約10ng/mLの上皮成長因子を含む、実施態様1に記載の培養系。
(4) 約32℃〜約37℃でインキュベートされる、実施態様1に記載の培養系。
(5) 約32℃でインキュベートされる、実施態様1に記載の培養系。
(6) 約32℃で24時間インキュベートされ、その後約37℃でインキュベートされる、実施態様1に記載の培養系。
(7) 皮膚への局所適用における組成物の影響を判定する方法であって、
培地中における、最大約25mmの直径を有する皮膚生検材料をインキュベートして皮膚外植片培養系を作製する工程であって、前記培地が、
約40容量%〜約60容量%のダルベッコ変法イーグル培地と、
約40容量%〜約60容量%のF−12栄養素混合物と、
約0.5重量%〜約5重量%のウシ胎児血清と、
1〜20μg/mLのインスリンと、1〜20ng/mLのヒドロコルチゾンと、1〜20ng/mLの上皮成長因子と、1x抗生物質抗真菌物質混合液と、を含む、工程と、
前記皮膚生検材料上に前記組成物を局所的に適用する工程と、
前記組成物に対する前記皮膚生検材料の生物学的応答を解析する工程と、を含む、方法。
(8) 前記培養系が約10ng/mLの上皮成長因子を含む、実施態様7に記載の方法。
(9) 前記培養系が約32℃でインキュベートされる、実施態様7に記載の方法。
(10) 前記培養系が約32℃〜約37℃でインキュベートされる、実施態様7に記載の方法。
【0062】
(11) 前記培養系が約32℃で24時間インキュベートされ、その後約37℃でインキュベートされる、実施態様7に記載の方法。
(12) 前記解析工程が、LUNA染色、エラスチン又はエラスチンアクセサリー遺伝子のQPCR又は転写解析、エラスチン又はエラスチンアクセサリー遺伝子のタンパク質検出、組織学的染色、及び免疫組織化学的染色からなる群から選択される方法によりエラスチン繊維産生を観察することを含む真皮解析である、実施態様7に記載の方法。
(13) 前記解析工程が、様々なコラーゲン遺伝子の転写、様々なコラーゲンタンパク質のタンパク質検出、組織学的染色、及び免疫組織化学的染色からなる群から選択される方法によりコラーゲン合成を観察することを含む真皮解析である、実施態様7に記載の方法。
(14) 前記解析工程が、脂質生成を観察するための脂肪細胞分化誘導剤処理後のトリグリセリド濃度の生化学的分析を含む、皮膚脂肪層の解析である、実施態様7に記載の方法。
(15) 前記解析工程が、脂肪分解を実証するための脂質生成剤使用後の遊離グリセロール放出の検出を含む、皮膚脂肪層の解析である、実施態様7に記載の方法。
(16) 前記解析工程が、レプチン遺伝子の転写、分泌されたレプチンのタンパク質検出、及び免疫組織化学的染色からなる群から選択される方法によりレプチン代謝を観察することを含む、皮膚脂肪層の解析である、実施態様7に記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培地中における、最大約25mmの直径を有するヒト皮膚生検材料を含む、ヒト皮膚外植片培養系であって、前記培地が、
約40容量%〜約60容量%のダルベッコ変法イーグル培地と、
約40容量%〜約60容量%のF−12栄養素混合物と、
約0.5重量%〜約5重量%のウシ胎児血清と、
1〜20μg/mLのインスリンと、1〜20ng/mLのヒドロコルチゾンと、1〜20ng/mLの上皮成長因子と、1x抗生物質抗真菌物質混合液と、を含む、ヒト皮膚外植片培養系。
【請求項2】
約50容量%のダルベッコ変法イーグル培地と、約50容量%のF−12栄養素混合物と、約2重量%のウシ胎児血清と、を含む、請求項1に記載の培養系。
【請求項3】
約10ng/mLの上皮成長因子を含む、請求項1に記載の培養系。
【請求項4】
約32℃〜約37℃でインキュベートされる、請求項1に記載の培養系。
【請求項5】
約32℃でインキュベートされる、請求項1に記載の培養系。
【請求項6】
約32℃で24時間インキュベートされ、その後約37℃でインキュベートされる、請求項1に記載の培養系。

【公表番号】特表2013−502219(P2013−502219A)
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−525657(P2012−525657)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【国際出願番号】PCT/US2010/045832
【国際公開番号】WO2011/022451
【国際公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(502112382)ジョンソン・アンド・ジョンソン・コンシューマー・カンパニーズ・インコーポレイテッド (27)
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON & JOHNSON,CONSUMER,COMPANIES,INC.
【住所又は居所原語表記】199 Grandview Road,Skillman,NJ 08558,US
【Fターム(参考)】