ヒト神経幹細胞及びこれを利用した中枢または末梢神経系疾患及び損傷治療用薬学的組成物
本発明は、ヒト神経幹細胞及びこれを利用した神経系疾患及び損傷治療用薬学的組成物に関する。より詳細には、本発明は、神経系疾患及び損傷の治療に効果的なヒト終脳由来のヒト神経幹細胞及びこれを利用した神経系疾患及び損傷治療用薬学的組成物、神経系疾患及び損傷治療剤の製造のための前記ヒト神経幹細胞の用途、及び前記ヒト神経幹細胞を、これを必要とする個体に有効量で投与することを特徴とする神経系疾患及び損傷治療方法に関する。本発明のヒト神経幹細胞は、神経系疾患及び損傷、特に現在特別な治療法がなく、永久的神経学的後遺症を残す重症脊髄損傷患者、虚血性脳損傷、てんかん及びアルツハイマー病の治療に有効な効果を有する。したがって、本発明のヒト神経幹細胞を含む薬学的組成物は、神経系損傷の治療のための新しい方法を提供する効果がある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト神経幹細胞及びこれを利用した神経系疾患及び損傷治療用薬学的組成物に関する。より詳細には、本発明は、神経系損傷の治療に効果的なヒト終脳由来のヒト神経幹細胞及びこれを利用した神経系疾患及び損傷治療用薬学的組成物、神経系疾患及び損傷治療剤の製造のための前記ヒト神経幹細胞の用途、及び前記ヒト神経幹細胞を、これを必要とする個体に有効量で投与することを特徴とする神経系疾患及び損傷治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
神経幹細胞とは、主に神経系に存在する未成熟(immature)細胞であって、未分化(undifferentiated)状態で増殖し続ける自己更新(self-renew)を示し、神経細胞(neuron)及び神経膠細胞(glia)に分化する分化の多能性(multipotency)を示す細胞と定義される。神経幹細胞は、ヒトを含む哺乳動物の胎児神経系全般にかけて多様な解剖学的部位に存在して、最近は、胎児だけではなく、成体神経系の特定部位でも増殖し続けつつ新しい神経細胞を生成する。この他にも、神経幹細胞は、より未成熟な細胞の胚芽幹細胞から分化されることもあり、神経系ではない体の他の部位、即ち、骨髄、皮膚、羊膜(amniotic membrane)、さい帯血(umbilical cord blood)細胞などからも分化され得ると報告されているが、このような組織から出る神経幹細胞及び神経細胞はごく稀で、真正の機能性神経幹細胞に分化されるかはまだ確実ではない。しかし、神経系に存在する神経幹細胞は、確実に機能性神経細胞に分化するため、最近、このような神経幹細胞を利用した幹細胞の増殖と分化機序及び神経系発達に関する基礎研究だけではなく、一度損傷したら再生が不可能だと知られている先天性及び後天性難治性神経系疾患において、神経幹細胞の生物学的特性を利用して、新しい細胞及び遺伝子治療の可能性に対する関心が増大している。
【0003】
現在、神経系疾患に対する数多し新しい治療薬物、蛋白質及び神経栄養因子が検索されて、成体内外で治療効果と神経保護作用の評価などを通じて多様な治療法が活発に開発されているが、まだ可視化された成果はあまりない。実際、臨床的に損傷された神経組織を保護して再生させる特別な治療法はない実情である。一方、難治性神経系疾患の治療のためには、治療薬物、神経栄養因子及び化合物質のような‘小分子(small molecules)’の開発だけでは充分ではなく、既に死滅したか機能不全を示す神経細胞に代わって、神経再生を誘導する細胞治療が必須的である。したがって、最近、幹細胞学が発展しつつ、既存の遺伝子治療の安全性と効率性の問題点、そして、1次胎児組織または細胞使用の限界点を克服し、人体に対する新しい細胞及び幹細胞を利用した遺伝子治療を可能にする最善の代案として、ヒト神経幹細胞に対する研究と治療的適用が浮かび上がっている。
【0004】
しかしながら、現在ヒト神経幹細胞の治療的適用のためには、たくさんの基礎的な研究が必要であり、実際臨床施術のためには、様々な臨床適用に係わる問題が解決されなければならない。即ち、ヒト神経幹細胞の大量増殖及び分化の制御調節、生体内移植時、腫瘍発生の抑制などの長期的安全性、神経系移植時、供与幹細胞の生着、移駐、分化、宿主神経系への統合機序、及び神経機能改善効果の検定及び機序、難治性神経系疾患の病態生理究明による幹細胞移植治療目標設定、動物実験結果の臨床試験適用時の差異点と注意すべき点、幹細胞の抗炎症及び免疫制御調節機序、幹細胞と他の多様な治療法との混合治療法の追求などに関するたくさんの研究が必要である(Alvarez-Buylla, et al. Nat Rev Neurosci 2:287, 2001; Flax, et al., Nat Biotech 16:1033, 1998; Gage, Science 287:1433, 2000; Lindvall, Nature 441:1094, 2006)。
【0005】
脊髄損傷は、産業の高度化と人間活動量の増加によって、事故などにより発生頻度が増加しているが、米国の場合、既存の脊髄損傷患者が100万名程度であって、年間人口100万名当たり50名の脊髄損傷発生頻度を示し、毎年12000名の新しい患者が発生しており、特に患者の大部分が30歳以下の青壮年期であって、患者の平均生存期間が増加しており、一年に約97億ドルの医療費がかかっていると推算される。韓国の場合、約7万名が脊髄障害人と登録されているが、特に韓国実情から見て、交通事故の増加は、必然的に脊髄損傷患者の増加に繋がっている。このような脊髄損傷患者は、深刻な運動、感覚及び自律神経系障害により、病院での長期入院及びリハビリ治療を必要として、日常の生活のために他人の助けを絶対的に必要として、社会的及び個人的に深刻な経済的な負担と人的資源の損失、個人の尊厳性及び独立性維持に大きい障害を招来している。しかしながら、韓国ではまだ、このような脊髄損傷障害人の社会的活動と更生及び独立性維持のための社会的福祉提供が極めて少なく、損傷された脊髄神経の再生のための生物学的、医学的研究は、今始まったばかりの段階にある。
【0006】
一般的に、中枢神経系疾患である脊髄損傷は、非可逆的なもので、損傷後再生は非常に難しいと知られており、最近、脊髄損傷に対する治療及びリハビリ療法の刮目に値する発展にもかかわらず、損傷の根本原因となる神経組織の再生が不可能であって、根本治療は不可能な状態である。したがって、最近まで臨床で主に使用される治療法は、損傷した脊髄に対する根本治療よりは、二次的な脊髄損傷を防ぐための手術治療と薬物治療などが利用されている実情である。急性脊髄損傷の場合、メチルプレドニソロン(methylprednisolone)を注入すると効果あるというが、薬効が確実ではなく、合併症がよく発生し、多くの国では使用しておらず、その他、実験的に神経損傷に効果を示す薬剤(monosialoganglioside sodium [GM-1 ganglioside], naloxone, and tirilazad)などが臨床試験に使用されたが、結果が報告されていないか、効果が不明で、現在まで米国FDAで臨床使用が許可された神経保護薬剤はない実情である(Ducker et al., Spine 19:2281, 1994; Hurlbert, J Neurosurg 93:1, 2000; Short, et al., Spinal Cord 38:273, 2000; McDonald, et al., Lancet 359:417, 2002)。
【0007】
ところが、最近、脊髄損傷治療法の開発のために、再生医学的研究が大きく浮かび上がっているが、脊髄損傷時、組織環境に多様な髄鞘関連物質(myelin associated molecules)及び神経膠細胞瘢痕関連細胞外基質蛋白質(glial scar-asociated extracellular matrix protein)などの作用により損傷された神経軸索突起(axon)の再生が起こらないため、このような物質に対する作用抑制剤を使用するか、多様な組織あるいは細胞を移植して、切られた脊髄神経軸索突起の成長と再生を促進させる動物及び臨床試験が報告されている(Bradbury et al., Nature 416:636, 2002; Bregman et al., Nature 378:498, 1995; GrandPre, et al., Nature 417:547, 2002; Bunge, Neuroscientist 7:325, 2001; Cheng et al., Science 273:510, 1996; Coumans et al., J Neurosci 21:9334, 2001; Keyvan_Fouladi et al., J Neurosci 23:9428, 2003; Rossignol et al., J Neurosci 27:11782, 2007)。
【0008】
一方、最近、幹細胞学研究が大きく発展して活性化されつつ、脊髄損傷部位に幹細胞を移植して、損傷された神経細胞への分化誘導、神経軸索突起の再生誘導及び軸索突起の再髄鞘化(remyelination)などを示す動物実験がたくさん報告されているが、マウス及びヒト胚芽幹細胞から多様な神経細胞に分化誘導して移植する場合、神経機能の好転は示すが、まだ腫瘍発生可能性による安全性と胚芽幹細胞の使用による倫理性問題などが解決すべき課題であり(McDonald et al., Nat Med 5:1410, 1999; Keirstead et al., J Neurosci 25:4694, 2005)、骨髄幹細胞(bone marrow stromal stem cells)使用は、自己細胞の使用により、免疫拒否反応及び倫理性問題は避けられるが、骨髄幹細胞の機能性神経細胞へのクロス分化の可否が確実ではなく(Terada, et al., Nature 416:542, 2002; Ying et al., Nature 416:545, 2002; Alvarez-Dolado et al., Nature 425:968, 2003)、実際、脊髄損傷部位に移植時、神経細胞への分化はよく発生しないというが(Hofstetter, et al., PNAS 99:2199, 2002)、供与細胞による損傷された脊髄神経軸索突起の再生誘発可能性が報告された(Ankeny et al., Exp Neurol 190:17, 2004)。げっ歯類及び人間の中枢神経系由来の神経幹細胞は、移植後、脊髄損傷部位で機能性神経細胞に分化可能であり、腫瘍を形成する可能性があまりなく、動物実験で神経機能好転が報告されて(Cummings et al., PNAS 102:14069, 2005; Hofstetter et al., Nat Neurosci 8:346, 2005; Iwanami et al., J Neurosci Res 80:182, 2005; Karimi-Abdolrezaee et al., J Neurosci 26:3377, 2006; Ogawa et al., J Neurosci Res 69:925, 2002; Teng et al., PNAS 99:3024, 2002; Yan et al., PLos Medicine 4:e39, 2007)、最近は、脊髄損傷時、実際灰白質の神経細胞損傷よりは白質の神経膠細胞損傷による神経機能損傷が重要であることが明かされて、幹細胞由来の神経膠細胞前駆細胞(glial-restricted progenitor cells; GRPs)あるいは稀突起膠細胞前駆細胞(oligodendrocyte precursor cells; OPCs)などを移植する動物実験も報告された(Bambakidis et al., Spine J 4:16, 2004; Cao et al., J Neurosci 25:6947, 2005; Han et al., Glia 45:1, 2004; Herrera et al., Exp Neurol 171:11, 2001; Hill et al., Exp Neurol 190:289, 2004; Mitsui et al., J Neurosci 25:9624, 2005)。以上、多様な種類の幹細胞を脊髄損傷部位に移植する場合、動物実験で神経機能の好転を報告しているが、幹細胞移植の臨床適用のためには、どんな種類の幹/前駆細胞が最も理想的な供与細胞であるかまだ確実ではなく、よりよい治療効果を得るためには、脊髄損傷の病態生理研究を通じての多様な治療目標及び段階の設定と、幹/前駆細胞移植と他の治療法との混合による複合的接近法が求められている。
【0009】
脳卒中の場合、大韓民国国民の死亡原因第2位、単一疾患としては第1位に該当する非常に重要な国民保健問題の一つであるが、成人の場合、毎年約15万名以上の新しい患者が発生しており、胎児及び新生児において周産期仮死による低酸素性虚血性脳病症の発生頻度は、臨月児では、1,000名の生存出生児の中、2〜4名から発生し(毎年2000名の新しい患児発生)、極小低出生体重未熟児では出生児の約60%から発生すると報告されており(毎年3000〜4000名の新しい患児発生)、低酸素性虚血性脳病症患児の約10〜60%が新生児期に死亡して、高い死亡率を示し、生存児の25%では、脳性麻痺、知能発達遅延、学習障害及びてんかんなどの永久的な重症の神経発達学的後遺症を残して、成人の脳卒中と共に、本疾患は、国民保健福祉的な側面だけではなく、社会経済的な側面でも深刻な問題を引き起こす主要神経系疾患である。しかしながら、実際臨床的に低酸素性虚血性脳病症を好転させる特別な治療方法はない実情であり、現在保全的な治療に局限されているが、このような治療法が、現在進行している脳損傷を中断させるか予防することはできない(Rogers MC, Nichols DG (Eds). Rogers’' Textbook of Pediatric Intensive Care. 4th Edition. Philadelphia, Lippincott Williams & Wilkins, 2008, pp 810-825; Roach et al., Stroke 39:2644, 2008; van Bel and Groenendaal, 2008 Neonatology 94:203)。
【0010】
てんかん(epilepsy)は、最もありふれた神経系疾患の一つであるが、人口の約3〜5%が生涯一度くらいは痙攣症状を示すと知られており、人口の約0.5〜1%は、繰り返される発作を示すてんかん患者である。大部分の患者は、抗痙攣剤の投薬により治療ができるが、一次全身てんかん(primary generalized epilepsy)患者の約20%、部分てんかん(partial epilepsy)患者の約35%は、薬物治療によく反応しない難治性てんかん(refractory epilepsy)であるが、抗痙攣剤で治療ができない場合は、脳の一部分を切除する手術的治療方法を考慮することができるが、このような場合も、患者の約50%(手術適応症を示す患者を厳しく選択した場合は、患者の約2/3)でのみ手術後てんかんが完全になくなって、大部分の場合、てんかんの頻度が減るか、程度が弱化する効果のみを示す。そして、たくさんの患者において、手術による深刻な脳機能喪失の危険性により、手術的治療が受けられない場合も多く、破局てんかん症候群(catastrophic epilepsy syndrome)を示す乳幼児患児では、脳波にびまん性、両側性あるいは多焦点てんかんを示し、手術的治療において適応対象になれない場合もあり、手術が可能な場合でもmultilobar resectionまたは大脳半球切除術などを行って、脳組織の損傷が多く、手術による神経学的欠損が残る場合が多い。したがって、現在までてんかんに対するたくさんの治療法が開発されてきたが、難治性てんかん患者数は、全ての種類の脳腫瘍、多発性硬化症、筋ジストロフィー(muscular dystrophy)、脊髄運動神経疾患、Guillain-Barre syndromeのような代表的な難治性神経系疾患患者の全体より多く、このような理由で難治性てんかんに対する新しい治療法の開発は、公衆保健学的次元で非常に重要な問題である。したがって、このような難治性てんかん患者でてんかん誘発部位、発作開始部位及び機能低下部位に神経幹細胞を移植し、損傷されたあるいは機能低下された神経細胞を代替して、神経回路を再構成して、神経細胞の電気生理学的過興奮状態を調節し、てんかん発作を抑制して、神経機能の向上を誘導する治療法の開発は、てんかん治療に対する画期的且つ根本的な試みになり得る(Rakhade and Jensen, Nat Rev Neurol 5:380, 2009; Marson et al., Clin Evid pil:1201, 2009; Banerjee et al., Epilepsy Res 85:31, 2009; Jacobs et al., Epielepsy Behav 14:438, 2009)。
【0011】
アルツハイマー病は、老人からよく観察される進行性退行性脳疾患であって、痴呆を誘発する最も重要な原因疾患の一つであって、全体老人性痴呆患者の約半分以上を占める(原因として、血管性痴呆が30〜40%、代謝性痴呆が10〜20%、原因不明痴呆が50%程度)。発病率と有病率は、年齢によって増加し、60歳以後5年毎に二倍ずつ増加する。60〜64歳のアルツハイマー病の有病率は約1%であり、65〜69歳は2%、70〜74歳は4%、75〜79歳は8%、80〜84歳は16%、85歳以上は約35〜40%に達して、ほぼ65歳以上老人の10%がアルツハイマー病を病んでいる。発病率は、75〜79歳で2.3%であり、80〜84歳で4.6%、85〜89歳では8.5%に達する。韓国では、2000年に65歳以上老人人口が7%の高齢社会になって、2022年には、65歳以上老人人口が14%以上である高齢社会になると予想しており、今後、アルツハイマー病患者が急増すると予想される。実際2007年、韓国の痴呆老人は、全体老人481万名の中、8.3%に該当する39万9000名であって、2000年の28万2000名から、7年の間11万7000名(41.4%)が増加した。したがって、韓国の痴呆患者の比率は、日本(3.8%)、英国(2.2%)、米国(1.6%)、スペイン(1.0%)などと比較して最高水準であるが、高齢化速度がどの国よりも速いため、今後も増加勢が険しいと予想され、2010年には46万1000名(全体老人の8.6%)、2015年には58万名(9.0%)に増えると見込まれる。したがって、痴呆による経済的損失も莫大であって、去年韓国で痴呆患者の直接診療費は、3268億ウォンであったが、間接費用を含む場合、年間3兆4000億〜7兆3000億ウォンに至ると推定される。米国の場合、既に520万名のアルツハイマー病患者がいて、65歳以下の患者も50万名であって、特に、今後ベビーブーマー世代において、今後18%からアルツハイマー病が発生する可能性があって、今後約140万名がアルツハイマー病にかかると予想される。現在米国の場合でも、患者の70%は、家庭で家族が世話をしているが、去年の一年間、アルツハイマー病にかかった家族や親戚を看護した人は約1000万名、時間で換算すると総84億時間、金額で換算すると890億ドルに該当するという。最近、アルツハイマー病の症状改善・進行を遅らせる薬物が一部開発されて使用されているが、根本的な治療にはなれなく、今後高齢人口の増加からみた疾患の直接的治療及び看護に所要される保健医学的経費は莫大であると予想される。したがって、アルツハイマー疾患において神経幹細胞を利用した新しい治療法の開発は、難治性退行性神経系疾患治療の画期的な試みになりえる(Minati et al., Am J Alzheimers Dis Other Demen 24:95, 2009; Ziegler-Graham et al., Alzheimers Dement 4:316, 2008; Kalaria et al., Lancet Neurol 7:812, 2008)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは、脊髄損傷など、神経系疾患及び損傷を効果的に治療できる方法を開発するために鋭意研究した結果、ヒト終脳から採取されて培養された新しいヒト神経幹細胞が、安全で且つ有効に神経系疾患及び損傷を治療することができることを見い出し、本発明を完成した。
【0013】
したがって、本発明の目的は、寄託番号KCTC11370BPを有するヒト神経幹細胞及びこれを含む神経系疾患及び損傷治療用薬学的組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記のような目的を達成するために、本発明は、寄託番号KCTC11370BPを有するヒト神経幹細胞を提供する。
【0015】
本発明の他の目的を達成するために、本発明は、前記ヒト神経幹細胞を含む神経系疾患及び損傷治療用薬学的組成物を提供する。
【0016】
本発明のまた他の目的を達成するために、本発明は、神経系疾患及び損傷治療剤の製造のための前記ヒト神経幹細胞の用途を提供する。
【0017】
本発明のまた他の目的を達成するために、本発明は、前記ヒト神経幹細胞を、これを必要とする個体に有効量で投与することを特徴とする神経系疾患及び損傷治療方法を提供する。
【0018】
以下、本発明の内容をより詳細に説明する。
【0019】
本発明のヒト神経幹細胞は、合法的流産で既に死亡した在胎月齢(gestational age)13週(13weeks)のヒト胎児中枢神経系の終脳(telencephalon)神経組織で採取されて、特定成長因子を使用して、遺伝子変形のない一次神経幹細胞に培養されて、生体外で幹細胞としての細胞特性が確認されたものである。本発明のヒト神経幹細胞は、臨床に適用する前に、脊髄損傷動物モデルに移植されて、細胞治療剤としての安全生及び有効性が確認されて、2008年7月24日韓国生命工学研究院生物資源センターに寄託番号KCTC11370BPとして寄託された。
【0020】
本発明で使用された用語‘幹細胞’は、組織及び器官の特殊化された細胞を形成するように非制限的に再生できるマスター細胞を称する。幹細胞は、発達可能な万能性または多能性細胞である。幹細胞は、二つの娘幹細胞、または一つの娘幹細胞と一つの由来(‘転移(transit)’)細胞に分裂できて、以後、組織の成熟且つ完全な形態の細胞に増殖される。
【0021】
本発明で使用された用語‘多能性細胞’は、哺乳類身体の約260個細胞類型の任意の下位セットへの成長能力を有する細胞を意味する。万能性細胞とは異なって、多能性細胞は、全ての細胞類型を形成する能力を有するわけではない。
【0022】
本発明で使用された用語‘分化(differentiation)’は、細胞が分裂増殖して成長する間に、互いに構造や機能が特殊化する現象、即ち、生物の細胞、組織などがそれぞれに与えられた役割を行うために形態や機能が変わっていくことを意味する。一般に、比較的単純な系が、二つ以上の質的に異なる部分系に分離される現象である。例えば、個体発生において最初は同質的であった卵部分間に頭や胴体などの区別が生じるか、細胞においても筋細胞とか神経細胞などの区別が生じることのように、最初はほぼ同質であったある生物系の部分間に質的な差が生じること、またその結果として質的に区別できる部域または部分系に分かれている状態を分化という。
【0023】
本発明で使用された用語‘細胞治療剤’は、ヒトから分離、培養及び特殊な製作を通じて製造された細胞及び組織で治療、診断及び予防の目的で使用される医薬品(米国FDA規定)であって、細胞あるいは組織の機能を復元させるために、生きている自己、同種、または異種細胞を体外で増殖、選別するか、他の方法で細胞の生物学的特性を変化させるなどの一連の行為を通じて治療、診断及び予防の目的で使用される医薬品を称する。細胞治療剤は、細胞の分化程度によって大きく体細胞治療剤、幹細胞治療剤に分類されて、本発明は、特に幹細胞治療剤に関する。
【0024】
本発明の神経幹細胞は、ヒト胎児の終脳由来のものである。好ましくは、ヒト胎児の脳組織から得た細胞を、神経幹細胞成長因子が添加された培地で培養して製造することができる(実施例1参照)。前記神経幹細胞成長因子は、bFGF(fibroblast growth factor-basic)、LIF(leukemia inhibitory factor)及びヘパリン(heparin)を使用することができる。好ましくは、20ng/ml bFGF、10ng/ml LIF及び8μg/mlヘパリンを使用することができる。
【0025】
本発明のヒト神経幹細胞は、当業界に公知された方法によって増殖及び培養できる。本発明の神経幹細胞は、目的細胞タイプの生存または増殖を裏付ける培養液内で培養される。時には、血清の代わりに自由アミノ酸で栄養を供給する培養液を使用することが好ましい。神経細胞の持続的な培養のために開発された添加剤を培養液に補充することが好ましい。例えば、Gibco社で市販されるN2及びB27添加剤がある。培養時、培地と細胞の状態を観察しながら培地を交換することが好ましい。また、神経幹細胞が増殖し続け、互いに固まって神経球(neurospheres)を形成すると、継代培養を行うことが好ましい。継代培養は、約7〜8日毎に行うことができる。
【0026】
本発明による神経幹細胞の好ましい培養方法は、以下のようである:培養液の組成が知られている特定培地(例えば、DMEM/F-12またはNeurobasal培地など)に、N2またはB27添加剤(Gibco)、神経幹細胞増殖誘発サイトカイン(例えば、bFGF、EGF、LIFなど)とヘパリンを添加する。一般に、血清は添加しない。前記培地で神経幹細胞を神経球形態で増殖培養する。3〜4日に一回ずつ、培地の半分くらいを新しい培地に入れ換える。細胞数が増えると、7〜8日毎に機械的方法またはトリプシン(0.05% trypsin/EDTA)を利用して細胞を解離させる。以後、細胞浮遊液を新しいプレートにプレーティングして、前記組成の培地で続けて増殖培養させる(Gage et al. PNAS, 92(11):879, 1995; McKay. Science, 276:66, 1997; Gage., Science, 287:1433, 2000; Snyder et al. Nature, 374:367, 1995; Weiss et al. Trends Neurosci., 19:387, 1996)。
【0027】
また、本発明の神経幹細胞は、当業界に公知された通常的な方法によって各種神経細胞に分化できる。一般に分化は、細胞培地に神経幹細胞増殖誘発サイトカインは添加せず、適切な基質または分化試薬が添加される栄養培養液を含有する培養環境で行う。適切な基質は、陽電荷でコーティングされた固体表面、例えば、ポリ−L−リシン及びポリオルニチンが適している。基質は、細胞外マトリックス成分、一例として、フィブロネクチン及びラミニンでコーティング可能である。その他に許容される細胞外マトリックスは、マトリゲル(Matrigel)を含む。その他に適切なものは、ポリ−L−リシンをフィブロネクチン、ラミニンまたはこれらの混合物と混合した組み合わせ基質である。
【0028】
適切な分化試薬は、多様な種類の成長因子、例えば、表皮成長因子(EGF)、転換成長因子α(TGF-α)、任意の形態の線維芽細胞成長因子(FGF-4、FGF-8及びbFGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、インシュリン様成長因子(IGF-1など)、高濃度のインシュリン、骨形成蛋白質(特に、BMP-2及びBMP-4)、レチノイン酸(RA)及びgp130と複合する受容体に対するリガンド(例えば、LIF、CNTF及びIL-6)があり、これに制限されるものではない。
【0029】
また、本発明の神経幹細胞は、長期間保管のために、当業界に公知された方法によって凍結保管することができる。一般的な凍結保管は、継代培養を続けて十分な数の神経幹細胞を獲得すると、機械的方法またはトリプシンを利用して神経球を細かく潰し、単一細胞懸濁液を製造する。その後、20〜50%牛胎児血清(fetal bovine serum)、10〜15%DMSO及び細胞培地からなる凍結保管液に前記細胞懸濁液を混合して、凍結ガラス瓶(freezing vial)に分株する。凍結保管液に混合した細胞は、直ちに4℃に保管した状態で−70℃の冷凍庫に移して、少なくとも24時間後に液体窒素タンクに移して長期保管する(Gage et al. PNAS, 92(11):879, 1995; McKay. Science, 276:66, 1997; Gage., Science, 287:1433, 2000; Snyder et al. Nature, 374:367, 1995; Weiss et al. Trends Neurosci., 19:387, 1996)。
【0030】
さらに、凍結保管された本発明の神経幹細胞は、当業界に公知された方法によって解凍することができる。凍結保管された細胞を溶かす時は、凍結ガラス瓶を37℃恒温水槽に浸して徐々に振る。凍結ガラス瓶に入っている細胞が半分くらい解けた時、予め37℃に暖めておいた、神経幹細胞倍地に入っているコニカルチューブに前記細胞懸濁液を移し始める。細胞懸濁液を全て移して、遠心分離して上澄み液を除去する。沈殿されている細胞ペレットを神経幹細胞培地に注意を払って浮遊させる。細胞懸濁液を60mm細胞培養プレートに移す。以後、神経幹細胞増殖誘発サイトカインを培地に添加して、続けて37℃、5%CO2培養器で培養する。
【0031】
一方、本発明は、本発明のヒト神経幹細胞を含む神経系疾患及び損傷治療用薬学的組成物を提供する。
【0032】
上記において、‘治療(treatment)’は、症状の緩和、疾患(または損傷、以下、同一)程度の減少、悪化されなかった疾患の維持、疾患進行の遅延、疾患状態の改善または緩和(palliation)、(一部または完全な)緩和(remission)を含む。また、治療は、治療を受けなかった場合に予想される疾患の状態と比較し、好転された状態を意味することができる。治療は、治療的手段の他に、予防的手段を同時に含む。治療が必要な場合は、疾患を既に有している場合と、疾患の予防が必要な場合を含む。疾病の緩和は、治療を受けない状況と比較し、望まない疾病の臨床様相の好転や疾病の推移が遅延されるか延長される場合である。典型的に治療は、損傷された神経系の再生のために、本発明の神経幹細胞を投与する場合を含む。この際、本発明における神経系は、脳、中枢または末梢神経系である。
【0033】
本発明のヒト神経幹細胞は、所望の組織部位に直接移植するか移動する方式で投与されて、損傷された神経系が再生されるか、機能的に回復されるようにする。例えば、治療される疾患によって、本発明の神経幹細胞を、損傷された神経部位に直接移植する。移植は、単細胞懸濁液またはμl当たり1×105〜1.5×105細胞密度の小さい集合体を利用して行う(米国特許第5,968,829号参照)。
【0034】
本発明のヒト神経幹細胞は、人間内への投与のために、薬学的組成物の形態で供給できる。本発明の薬学的組成物には、薬学的に許容される担体をさらに含むことができる。前記‘薬学的に許容される’とは、前記組成物に露出される細胞や人間に毒性がないことを意味する。前記担体は、緩衝剤、保存剤、無痛化剤、可溶化剤、等張剤、安定化剤、基剤、賦形剤、潤滑剤、保存剤など、当業界に公知されたものであれば制限なく使用できる。本発明の薬学的組成物は、各種剤形の形態で、通用される技法によって製造できる。例えば、注射剤の場合は、単位投薬アンプルまたは多数回投薬包含剤形態に製造できる。本発明による薬学的組成物の医薬剤形の一般的な原理については、下記の文献を参考することができる:Cell Therapy; Stem Cell Transplantation, Gene Therapy, and Cellular Immunotherapy, G. Morstyn amp; W. Sheridan編著, Cambridge University Press, 1996; 及びHematopoietic Stem Cell Therapy, E. D. Ball, J. Lister amp; P. Law, Churchill Livingstone, 2000。本発明の薬学的組成物は、所望の目的、例えば、損傷された神経系の再生のために、表記された指示にしたがって適切な容器内に包装できる。
【0035】
一方、本発明は、神経系疾患及び損傷治療剤の製造のための本発明のヒト神経幹細胞の用途を提供する。さらに、本発明は、本発明のヒト神経幹細胞を、これを必要とする個体に有効量で投与することを特徴とする神経系疾患及び損傷治療方法を提供する。
【0036】
上記において、本発明のヒト神経幹細胞及びこれらの効果に対しては、上記に記載の通りであり、上記において、‘有効量’とは、本発明のヒト神経幹細胞が、投与対象である個体内で神経系疾患及び損傷に対して治療の効果を示す量を意味し、前記‘個体(subject)’とは、哺乳動物、特に、人間を含む動物を意味する。前記個体は、神経系疾患及び損傷治療が必要な人間である。
【0037】
本発明のヒト神経幹細胞は、前記記載の効果の中、所望の効果が導出されるまで投与できて、当業界に公知された方法によって多様な経路で投与できる。
【0038】
本発明の薬学的組成物、用途及び治療方法が適用できる神経系疾患及び損傷は、脊髄損傷、パーキンソン病、脳卒中、筋萎縮性脊髄側索硬化症、運動神経損傷、外傷による末梢神経損傷、虚血性脳損傷、新生児低酸素性虚血性脳損傷、脳性麻痺、てんかん、難治性てんかん、アルツハイマー病、先天性代謝性神経系疾患または外傷性脳損傷(traumatic brain injury)を含み、これらに限定されるものではない。
【0039】
本発明の一実施例では、合法的流産で死亡した胎児の終脳から採取した神経細胞を、成長因子を利用して神経幹細胞に培養した。
【0040】
本発明の他の実施例では、前記製造された神経幹細胞を脊髄損傷動物モデルに移植して、安全性及び効能を確認した。その結果、特に毒性を示さず、脊髄損傷が治療されて、本発明の神経幹細胞が安全性及び有効性を有していることが分かった。
【0041】
本発明のまた他の実施例では、本発明の神経幹細胞を脊髄損傷患者に移植して、既存の脊髄損傷患者に行う物理治療と作業治療を行いながら経過を確認した。その結果、総17例の臨床において、ASIA−A患者の15例の中、1例は、ASIA−Bに、2例は、ASIA−Cに変化して、ASIA−B患者の2例の中、2例ともASIA−Dに変化して、運動完全脊髄損傷患者の29%がASIA等級変化を示す程度の臨床的好転を示すことが分かった。特に、実際ASIA−A患者の中、3例では、幹細胞移植だけでは臨床的好転が期待し難い程度の手術所見がある重症の患者であって、これを除く場合、ASIA−A患者において、神経幹細胞の移植後、25%が好転を示して、運動完全損傷患者においては、神経幹細胞の移植後、36%が好転を示すことが分かった。さらに、全体ASIA−A患者の75%が、全体運動完全脊髄損傷患者の82%以上(17例の中、14例)が、運動機能の好転を示すことが分かった。
【0042】
本発明の他の実施例では、前記製造された神経幹細胞を新生児低酸素性虚血性脳損傷動物モデルに移植して、安全性及び効能を確認した。その結果、特に毒性を示さず、低酸素性虚血性脳損傷が治療されて、本発明の神経幹細胞が安全性及び有効性を有していることが分かった。
【0043】
本発明の他の実施例では、前記製造された神経幹細胞を難治性てんかん動物モデルに移植して、安全性及び効能を確認した。その結果、特に毒性を示さず、難治性てんかんが治療されて、本発明の神経幹細胞が安全性及び有効性を有していることが分かった。
【0044】
本発明の他の実施例では、前記製造された神経幹細胞をアルツハイマー病動物モデルに移植して、安全性及び効能を確認した。その結果、特に毒性を示さず、アルツハイマー病が治療されて、本発明の神経幹細胞が安全性及び有効性を有していることが分かった。
【発明の効果】
【0045】
したがって、本発明のヒト神経幹細胞は、神経系疾患及び損傷、特に現在特別な治療法がなくて、永久的神経学的後遺症を残す脊髄損傷、パーキンソン病、脳卒中、筋萎縮性脊髄側索硬化症、運動神経損傷、外傷による末梢神経損傷、虚血性脳損傷、新生児低酸素性虚血性脳損傷、脳性麻痺、てんかん、難治性てんかん、アルツハイマー病、先天性代謝性神経系疾患、外傷性脳損傷(traumatic brain injury)などの治療に有効な効果を有して、本発明のヒト神経幹細胞を含む薬学的組成物は、神経系損傷の治療のための新しい方法を提供する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】移植されたヒト神経幹細胞が脊髄損傷部位及びその周辺部位へ移駐して生着することを示したものである(赤色:human-specific nuclei antigen (hNuc; Chemicon, Temecula, CA)免疫染色陽性であるヒト神経幹細胞生着部位、緑色:Neurofilament (NF; Sternberger, USA)免疫染色陽性の損傷された宿主脊髄神経突起)。
【図2】本発明の神経幹細胞が神経細胞(neurons)、星状細胞(astrocytes)、稀突起膠細胞(oligodendrocytes)に分化するか、あるいは未分化された状態に残っていることを確認したものである(A;初期神経細胞標識因子であるTUJ1(β-tubulin III, Covance)の発現確認(矢印)、B;星状細胞の標識因子であるGFAP(glial fibrillary acidic protein, DAKO)の発現確認(矢印)、C; 稀突起膠細胞の標識因子であるCNPase (2,3-cyclic nucleotide-3-phosphohydrolase, Chemicon)の発現確認(矢印)、D;ヒト身分化神経幹細胞の標識因子であるhNestin (human nestin, Chemicon)の発現確認(矢印))。
【図3】移植されたヒト神経幹細胞が脳梗塞症周辺部位へ移駐して生着することを示したものであり(赤色:human specific nuclear matrix (hNuMA; Calbiochem, Germany)免疫染色陽性であるヒト神経幹細胞生着部位)、また、移植された神経幹細胞は、神経細胞、星状細胞、稀突起膠細胞に分化したことを示しており、(緑色:神経細胞標識因子であるNeurofilament (NF; sternberger, USA)の発現確認、稀突起膠細胞標識因子であるMyelin Basic Protein (MBP; DAKO, Carpinteria, CA)の発現確認、星状細胞の標識因子であるGlial Fibrillary Acidic Protein (GFAP; DAKO, Carpinteria, CA)の発現確認)、赤色と緑色の同時発現は、黄色として観察される。
【図4】移植されたヒト神経幹細胞が神経細胞に分化した時、どのような神経伝達物質を分泌するかを示したものである(赤色:human specific nuclear matrix (hNuMA; Calbiochem, Germany)免疫染色陽性であるヒト神経幹細胞、緑色 : glutamatergic neuronの標識因子であるGlutamate(Glut; Sigma, Saint Louis, MO)の発現確認、GABAnergic neuronの標識因子であるγ-Aminobutyric acid(GABA; Sigma, Saint Louis, MO)の発現確認、cholinergic neuronの標識因子であるCholine acetyl transferase(Chat; Chemicon, Temecula, CA)の発現確認、シナプス形成に係わる標識因子であるSynapsin I(Syn-1; Chemicon, Temecula, CA)の発現確認)。
【図5】低酸素性−虚血性脳損傷動物モデルにヒト神経幹細胞を移植した群(hNSC)とH−Hバッファを移植した群(vehicle)間に神経学的行動検査を示したものである(移植後3週から、2週間隔で11週まで測定した)。
【図6】低酸素性−虚血性脳損傷動物モデルにヒト神経幹細胞を移植した群(hNSC)とH−Hバッファを移植した群(vehicle)間に空間知覚学習及び記憶能力行動検査結果であって、6日間特定位置学習後、7日目に特定位置が属している四分面に留まった時間(goal quadrant spent time)を示したものである。
【図7】移植されたヒト神経幹細胞が移植部位及びその周辺部位へ移駐して生着することを示したものである(緑色:BrdU免疫染色陽性であるヒト神経幹細胞、赤色:Tuj1免疫染色陽性である神経細胞、緑色と赤色が重ねられた細胞は、黄色あるいはオレンジ色である)。
【図8】移植されたヒト神経幹細胞がGABA発現神経細胞あるいは稀突起膠細胞に分化するが、星状膠細胞には分化しないことを示したものである(A;BrdU陽性である緑色の供与細胞が赤色のGABAを発現する。緑色と赤色が重ねられた細胞は、黄色あるいはオレンジ色である。B;BrdU陽性である緑色の供与細胞が、赤色の稀突起膠細胞の標識因子APC-CC1[adenomatous polyposis coli clone CC1, Abcam, UK]を発現することを確認、緑色と赤色が重ねられた細胞は、黄色あるいはオレンジ色である、C; BrdU陽性である緑色の供与細胞が、赤色の星状膠細胞の標識因子であるGFAP[glial fibriilary acidic protein, DAKO]を発現しないことを確認)。
【図9】ヒト神経幹細胞を難治性てんかんモデルのキンドリング動物モデルに移植した後、痙攣発作抑制効果をビデオ(図9A)とEEG貯蔵装置(図9B)で分析したものである)Racine等級(1段階; facial movements only, 2段階; facial movements and head nodding, 3段階; facial movements, head nodding, and forelimb clonus, 4段階; facial movements, head nodding, forelimb clonus, and rearing, 5段階; facial movements, head nodding, forelimb clonus, rearing, and falling, 6段階; facial movements, head nodding, forelimb clonus, and a multiple sequence of rearing and falling)によって発作程度を等級で示して、EEG上では、1Hz以上の頻度で発生する棘波(spike)を、発作を示す脳波に定義して、持続時間を示した(Y Kitano, et al., Epilepsia 2005;46:1561, Loscher W, et al., Eur J Phamacol.1989;163;1)。図において星印は、統計的に有意な(p<0.05)区間を示す)。
【図10】APPsw形質転換マウスの脳に移植されたヒト神経幹細胞が側脳室周辺部から大脳皮質、海馬、脳梁に移駐して生着することを示している(免疫蛍光染色上、赤色:human specific nuclear matrix (hNuMA; Calbiochem, Germany), human specific heat shock protein 27 (hHsp27; Stressgen, Ann Arbor, MI)。
【図11】APPsw形質転換マウスにヒト神経幹細胞を移植した群(APP-hNSC)とAPPsw形質転換マウスにH−Hバッファを移植した群(APP-vehicle)において、海馬歯状回部位で微細膠細胞標識因子(緑色:CD11b [AbD Serotec, UK]とF4/80 [AbD Serotec, UK])を使用して免疫蛍光染色を行って、微細膠細胞の数と分布を比較したものであり、神経幹細胞を移植した群が、H−Hバッファを移植した群と比較し、微細膠細胞標識因子を発現する緑色細胞数が有意に減少することを示した。
【図12】APPsw形質転換マウスにヒト神経幹細胞を移植した群(APP-hNSC)、APPsw形質転換マウスにH−Hバッファを移植した群(APP-vehicle)、正常マウスにヒト神経幹細胞を移植した群(Wild-hNSC)、正常マウスにH−Hバッファを移植した群(Wild-vehicle)において、空間知覚学習及び記憶能力行動検査を比較したものであり、前記四つの群とも、検査6日間、毎日特定位置を探して行くのにかかった時間(latency to find hidden platform)に特別な差がなかったが(図12A)、検査7日目に特定な位置を探して行く時間(escape latency)を比較した結果(図12B)、ヒト神経幹細胞を移植したAPPsw形質転換マウスの記憶能力が、H−Hバッファを移植したAPPsw形質転換マウスに比べ、統計的に有意に向上されることが観察された。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明する。
【0048】
但し、下記実施例は、本発明を例示するためのものであって、本発明の内容が下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0049】
(実施例1)
ヒト神経幹細胞の分離及び培養
(1−1)脳組織の分離
セブランス病院IRB(Institution Review Board)の許可をもらった後、保健福祉家族部の生命倫理法案と教育科学技術部細胞応用研究事業団倫理委員会の研究指針及びシンチョンセブランス病院の人体組織研究管理指針にしたがって、妊娠13週に自然流産されて死亡した胎児の死体を、前もって保護者の同意書をもらって獲得した。胎児死体を、滅菌された冷たいH−H緩衝溶液(Hanks' balanced salt solution, 1×[GIBCO]+HEPES, 10 mM [GIBCO] in ddH2O, pH 7.4)で洗浄して、顕微鏡下で中枢神経系のみを解剖した。その後、脳脊髄膜と血管を全て除去して、終脳(telencephalon)部位の組織を別途分離した。
【0050】
分離された脳組織をペトリディッシュ(petri dish)に入れて、約1×1mm大きさに切った。950rpmで3分間遠心分離して、上澄液を除去した。組織を再びH−H緩衝溶液で洗浄し、前記遠心分離を3回繰り返して行った。最後の遠心分離を行った後、上澄液を全て除去し、残った組織に0.1%トリプシン(Gibco)5mlとDNase I(Roche, 1mg/dl)を添加してよく混合した。37℃、5%CO2培養器で30分間反応した。30分後、トリプシン阻害剤(T/I, Soybean, Sigma, 1mg/ml)が含有されているH−H緩衝液5mlを添加した。血清ピペット(serologic pipette, Falcon)で徐々に組織を細かく潰し、単一細胞水準まで解離させた。その後、遠心分離を行って上澄液を除去した後、細胞ペレット(pellet)をH−H緩衝液で洗浄した。そして再び遠心分離をした後、上澄液を除去した。
【0051】
(1−2)神経幹細胞への増殖
前記実施例(1−1)を通じて得られた脳組織の細胞ペレットにN2培地(D-MEM/F-12 [98% volume(v)/volume(v)]+N2 supplement [1% v/v]+Penicillin/Streptomycin [1% v/v];全てGIBCO製品)10mlを添加して徐々に混合した。約4×106−6×106個の細胞を組織培養処理100mmプレート(tissue culture treated 100mm plate, Corning)に移した。神経幹細胞成長因子として20ng/ml bFGF(recombinant human fibroblast growth factor-basic, R & D)、10ng/ml LIF(recombinant human leukemia inhibitory factor, Sigma)及び8μg/mlヘパリン(Sigma)をそれぞれ添加して、左右前後によく振った後、37℃、5%CO2培養器で培養した。24時間後、5mlの培地を捨てて、新しいN2培地5mlを添加した。同時に20ng/ml bFGF、10ng/ml LIF及び8μg/mlヘパリンを添加して、培養し続けた。培地交換は、培地と細胞の状態を観察しながら、3〜4日毎に行った。この際、約半分くらいの培地のみを新しい培地に入れ換えて、成長因子を一緒に添加した。
【0052】
(1−3)継代培養
前記実施例(1−2)を通じて未分化された神経幹細胞が増殖し続けて固まり合って、細胞塊、即ち神経球(neurospheres)を形成しつつ育ち始めると(図1)、普通7〜8日毎に継代培養を行った。継代培養は、次のような方法で行った:細胞培養プレートから培地を全て除去した。細胞に0.05%トリプシン/EDTA(T/E, Gibco)2mlを処理して、37℃、5%CO2培養器で2分30秒間反応した。その後、トリプシンの作用を中断させるためにトリプシン阻害剤(T/I, Soybean, Sigma, 1mg/ml)2.5mlを添加してよく混合した。細胞懸濁液を15mlコニカルチューブ(cornical tube, Falcon)に移した。遠心分離をして上澄液を除去した。細胞をN2培地3mlで再浮遊させた後、神経球が単一細胞に解離されるまで血清ピペットで細かく潰した。細胞数を測定した後、約4×106〜6×106個の細胞を含んでいる細胞懸濁液を、既存の培地が一部含まれている新しい細胞培養プレートに移して、足りないN2培地を添加して、総10mlの培地にした。そして、20ng/ml bFGF、10ng/ml LIF及び8μg/mlヘパリンを添加した後、続けて5%CO2培養器で培養した。
【0053】
(1−4)凍結保管(cryopreservation)
前記実施例(1−3)に記載の方法にしたがって継代培養を続けて、充分な数の神経幹細胞を獲得したら、一部細胞は凍結保管した。凍結保管は、次のような方法で行った:細胞継代培養時のように0.05%トリプシン/EDTAとトリプシン阻害剤を順に処理した神経球を細かく潰して、15mlチューブに全て移した。H−H緩衝液8mlを添加して細胞を洗浄した。遠心分離して上澄液を除去した。細胞ペレットに予め用意した4℃凍結保管溶液(N2培地[40% v/v]+FBS [50% v/v]+DMSO[10% v/v, Sigma])を添加して柔らかく細胞を再浮遊させた。細胞懸濁液を一つの凍結ガラス瓶(freezing vial, NUNC)に1.8mlずつ分株した。普通10mm細胞培養プレート一個に入っている細胞を3〜4個の凍結ガラス瓶に分株した。その後、アイスバケット(ice bucket)に保管した状態で−70℃の冷凍庫に移して、少なくとも24時間後に再び液体窒素タンクに移し、長期保管した。
【0054】
(1−5)凍結保管された細胞の解凍
凍結保管された細胞を解凍させる時は、凍結ガラス瓶を37℃恒温水槽に浸して徐々に振った。細胞が半分くらい解凍された時、細胞懸濁液を、予め37℃に暖まれたN2培地10mlが入っているコニカルチューブに移した。遠心分離を行って上澄液を除去した。細胞ペレットを、N2培地5mlで注意を払って浮遊させて60mm細胞培養プレートに移した。その後、プレートに20ng/ml bFGF、10ng/ml LIF及び8μg/mlヘパリンを添加した後、37℃、5%CO2培養器で培養した。細胞が神経球を形成しながら育つと、再び前記実施例(1−3)に記載の方法によって継代培養をした。通常10日ほど経つと、10mm細胞培養プレートに移せるくらいに育つようになる。
【0055】
(実施例2)
ヒト神経幹細胞のマウス移植及び効果確認
本発明のヒト神経幹細胞が脊髄損傷に対して再生効果を有するかを確認するために、脊髄損傷動物モデルに移植した後、その結果を確認した。脊髄損傷は、NYU(New York University)インパクト(impact)モデルを使用したが、Sprague-Dawley成体マウス(体重300-350gm)を麻酔して、第9〜10番胸椎(thoracic spine)部位に椎弓切除術(laminectomy)を行った後、脊髄の背面(dorsal part)に直径2mm、重量10gの重量錘を25mm高さから落として、中等度挫傷性脊髄損傷(moderate contussive spinal cord injury)を誘発した(Basso et al., J Neurotrauma 1995;12:1, Liu et al., J Neurosci 1997;17:5395)。脊髄損傷誘発7〜8日後、損傷部位に、前記確立されたヒト神経幹細胞10μl(4x104cells/μl)をガラスマイクロピペット(glass micropipette)を利用して移植して、免疫拒否反応を避けるために、細胞移植群及びH−H緩衝液を注射した対照群の全てに、細胞移植前日から細胞移植後12週まで免疫抑制剤のシクロスポリン(cyclosporine, 10mg/kg)を毎日腹腔内注射した。
【0056】
細胞移植2、4、6、12週後、それぞれマウスの脊髄組織を分析したところ、図1から分かるように、細胞移植後12週が経過しても、human-specific nuclei antigen (hNuc; Chemicon, Temecula, CA)免疫染色陽性である赤色の多いヒト神経幹細胞が移植された脊髄損傷部位だけではなく、周囲脊髄部位まで広範囲に移駐して生着されることが観察されて、生着された供与細胞部位に沿って、Neurofilament(NF; Sternberger, USA)免疫染色陽性である緑色の損傷された宿主脊髄神経突起が長く伸展されていることから、供与細胞は、細胞移植部位及び周囲の上下脊髄1〜2segment部位まで広範囲に移駐して生着することが分かり、生着された供与細胞に沿って、損傷あるいは切断された宿主脊髄神経細胞の軸索突起が大きく伸展されており、移植した供与細胞が損傷された宿主神経細胞突起の再生を促進させることを確認することができた。
【0057】
さらに、図2から分かるように、human-specific nuclei antigen(hNuc; Chemicon, Temecula, CA)免疫染色陽性である赤色の移植されたヒト神経幹細胞が脊髄損傷部位でそれぞれ神経細胞(neurons)(図2A)、星状細胞(astrocytes)(図2B)、稀突起膠細胞(oligodendrocytes)(図2C)に分化して、一部細胞は、ヒト未分化神経幹細胞の標識因子であるhNestinを表現する未分化された状態を維持することが分かった。
【0058】
また、脊髄損傷誘発1週後から脊髄損傷部位にヒト神経幹細胞を移植した移植群(マウス20匹)とH−H緩衝液のみを注射した対照群(マウス15匹)で後足の運動機能を評価するために、BBB(Basso-Beattie-Bresnahan) locomotor rating scale (Basso, et al., J Neurotrauma 1995;12:1)を利用したBBB点数を1週間隔で3ヶ月間測定したところ、3ヶ月後、ヒト神経幹細胞移植群の平均BBB点数は、左足は、11.8±0.4点(平均値±標準誤差)、右足は、12.2±0.6点であり、対照群の左足は、9.0±0.4点、右足は、8.6±0.2点であって、神経幹細胞移植群が、対照群に比べて運動機能が統計的に有意に向上されることが分かった(p<0.05)。
【0059】
細胞移植12週後、細胞移植群と対照群において、運動及び感覚機能を客観的に評価するために、運動誘発電位検査(motor evoked potential; MEP)と体性感覚誘発電位検査(somatosensory evoked potential; SSEP)などの電気生理学的検査を行った(Fehlings et al., Electroencephalogr Clin Neurophysiol 1988;69:65)。体性感覚誘発電位検査上、対照群(3匹)において、N1波とP1波の平均潜伏時間(latency)は、それぞれ46.7msec、68.6msecであり、振幅(amplitude)は、それぞれ4.3μv、6.2μvであった。移植群(3匹)において、N1波とP1波の平均潜伏時間は、それぞれ36.6msec、61.8msecであって、振幅は、それぞれ18.9μv、33.1μvであった。したがって、対照群に比べ、移植群において体性感覚誘発電位検査波の潜伏時間は短くなって、振幅は増加し、部分的な感覚機能の好転を示した。運動誘発電位検査上、対照群(3匹)において、N1波とP1波の平均潜伏時間は、それぞれ58.7msec、81.5msecであって、振幅は、それぞれ1.0μv、0.4μvであったが、移植群(3匹)において、N1波とP1波の平均潜伏時間は、それぞれ49.0msec、73.8msecであって、振幅は、それぞれ1.5μv、2.9μvであった。したがって、対照群に比べ、移植群において運動誘発電位検査波の潜伏時間は短くなって、振幅は増加し、運動機能の部分的な好転を示した。
【0060】
ヒト神経幹細胞の脊髄移植後約12週間動物を観察した結果、全ての実験群から、非正常的な行動及び神経学的所見を示すか、腫瘍形成を観察することができなく、細胞組織学的分析を行った全ての動物においても、脊髄損傷部位及びその周辺部位から腫瘍、出血及び異常免疫反応の発生が観察されなかった。
【0061】
(実施例3)
ヒト神経幹細胞の移植及び効果確認
(3−1)移植対象患者
本発明の神経幹細胞が移植された患者は、外傷により頚髄部位(cervical spine)に脊髄損傷を受けて四肢麻痺を示す患者であって、15〜60歳の成人であり、脊髄損傷に対する他の細胞治療を受けた経歴がなくて、脊髄損傷の他に下肢に骨折あるいはその他の連関損傷(associated injury)がなく、幹細胞移植術及び神経機能評価に影響を与えるような重症の内外科的疾患がなくて、腫瘍性脊髄疾患や脊髄損傷による上下肢関節及び筋肉の萎縮がなく、他の進行性/非進行性中枢及び末梢神経系疾患、薬物中毒あるいはその他の精神科的疾患がない患者である。さらに、対象患者は、機械的脊髄神経圧迫があって二次減圧手術が必要であるか、多発性部位に脊髄損傷、その他、主治医判断下で移植術に不適な要因などがある場合は除いた。
【0062】
(3−2)移植前検査
幹細胞移植術前、基本的血液及び化学スクリーニング(screening)診断検査(CBC, urinalysis, BUN/creatinin, liver function testなど)、理学的検査、ASIA (American Spinal Injury Association)2002点数評価と、感覚及び運動神経の選択要素(optional elements)を含んだ神経学的検査(Reference manual for the international standards for neurological classification of spinal cord injury; Braddom RL, Physical medicine & rehabilitation, 3rd edition, Saunders Elesevier, Philadelphia, 2007, pp1295, 1297-1299; Delisa JA, Phisical medicine & rehabilitation, 4th edition, Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, 2005, pp1719-1721)、呼吸能力評価(Kang SW, et al., J Korean Acad Rehab Med 2007;31:346)、脊髄自己共鳴映像(spine MRI)、世界痛み研究学会(IASP)分類法基準による患者の痛み評価(VAS点数)(Ohnhaus EE, et al., Pain 1975;1:379; Wewers ME, et al., Res Nurs Health 1990;13:227)、硬直程度評価(modified Ashworth scale)(Ashworth B, Preliminary trial of carisoprodol in multiple sclerosis, Practitioner 1964;192:540; Braddom RL. Physical medicine & rehabilitation, 3rd edition. Saunders Elesevier, Philadelphia, 2007, pp652)、電気診断検査(両側上下肢に筋電図検査[EMG;electromyography])(Liveson JA, Ma DM, Laboratory reference for clinical neurophysiology, F. A. Davis company, Philadelphia, 1992, pp82-85, 98-100, 133-137, 147-149, 195-200, 204-207, 219-221; Dumitru D, Amato AA, Zwarts M, Electrodiagnostic medicine, 2nd edition, Hanley & Belfus, Philadelphia, 2002, pp200-204, 211-213)と運動誘発電位検査(MEP; motor evoked potential)(Chen R, et al., Clinical Neurophysiology 2008;119:504; Liveson JA, Ma DM, Laboratory reference for clinical neurophysiology. F. A. Davis company, Philadelphia, 1992, pp357-362; Dumitru D, Amato AA, Zwarts M, Electrodiagnostic medicine, 2nd edition, Hanley & Belfus, Philadelphia, 2002, pp419-420)、両側正中神経(median nerve)、尺骨神経(ulnar nerve)、脛骨神経(tibial nerve)、腓骨神経(peroneal nerve)と陰部神経(pudendal nerve)に体性感覚誘発電位検査(SSEP; somatosensory evoked potential)(Liveson JA, Ma DM, Laboratory reference for clinical neurophysiology. F. A. Davis company, Philadelphia, 1992, pp278-297, 301-304; Dumitru D, Amato AA, Zwarts M, Electrodiagnostic medicine, 2nd edition, Hanley & Belfus, Philadelphia, 2002, pp384-395, 400)を全て行った。
【0063】
ASIA2002点数評価時、必ず電気診断検査を一緒に行って、末梢神経損傷を伴ってはいけなく、脊髄分節(spinal segment)脊柱(sacrum)部位(S4-5)に感覚及び運動機能がないながらSSEP検査上でも反応がない場合を完全脊髄損傷(complete spinal cord injury; ASIA-A)と定義して、神経学的検査とASIA 2002点数上、完全脊髄損傷と評価されるが、SSEP検査上、しばらく電磁波の遅延(latency)を示すとしても、電磁波が観察される場合は、不完全脊髄損傷(ASIA-B)と定義したが、運動完全損傷(motor complete injury; ASIA-A; 15名, ASIA-B; 2名)患者17例を確認した(表1参照)。
【0064】
(3−3)ヒト神経幹細胞の移植
本患者らを対象に、脊髄損傷後2〜8週(亜急性脊髄損傷:11例)及び8週以後(慢性脊髄損傷:6例)に全員全身麻酔して、椎弓切除術(laminectomy)を行った後、脊髄硬膜(dura)を開けた。手術顕微鏡下で脊髄MRI所見上確認された脊髄損傷中央部位(epicenter)の真ん中(midline)に23G needleを接近させて脊髄背面(dorsal part)表面から直角で5mm挿入した後、予め確立された同種ヒト神経幹細胞浮遊液0.5ml(1.0x105/μl)を3分間徐々に注射し、2分間待ってから針を抜いて、さらに脊髄損傷中央部位の真ん中から5mm近位部(proximal part)と遠位部(distal part)に、それぞれ上記と同一な方法でヒト神経前駆細胞浮遊液0.25ml(1.0x105/μl)ずつを3分間徐々に注射した。
【0065】
免疫抑制剤であるシクロスポリン(cyclosporine)は、幹細胞移植3日前から投与(3mg/kg/day, #2, po)し始めて、移植後2週までは同じ容量で投与して、その後、2mg/kg/dayに減量して4週間投与して、その後、2週間1mg/kg/dayに減量して投与した後、投薬中断した。
【0066】
(3−4)移植経過及び治療効果の確認
幹細胞移植後、前記実施例(3−2)でのように、次のような検査を行った:3日、1週、2週、4週、6週、2ヶ月、3ヶ月、6ヶ月後に血液及び化学検査を行って、移植後1週から6週までは毎週、その後2ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、12ヶ月に理学的検査、神経学的検査、ASIA 2002点数評価、痛み及び硬直程度評価を行って、脊髄MRI検査は、移植後1週、8週、6ヶ月及び12ヶ月後に行って、EMG、SSEP及びMEP検査は、移植後2ヶ月、6ヶ月及び12ヶ月後に行った。
【0067】
対象患者の全員に同一に、既存の脊髄損傷患者に施す物理治療と作業治療を行って、中枢神経系発達治療(neurodevelopmental treatment)及び起立器(standing flame)、有酸素運動のための電動自転車運動などを行って、患者の麻痺程度によって、座る姿勢における均衡練習及び日常生活動作練習(ADL training)などを行った。患者が移植後運動水準(motor level)の好転を示すと、運動水準(motor level)の好転程度によって筋電図検査を使用したバイオフィードバック(biofeedback)治療を通じて神経筋骨格再教育(neuromuscular reeducation)を行って、下肢のcentral pattern generatorを刺激するために、水治療(pool therapy)を行った。
【0068】
幹細胞移植後、平均11ヶ月以上(12ヶ月以上;13例、10ヶ月;1例、7ヶ月;3例、4ヶ月;1例)観察した結果、表1から分かるように、ASIA−A患者の15例の中、1例はASIA−Bに、2例はASIA−Cに変化して(ASIA−A患者の中、20%からASIA等級変化が起こる、等級変化が起こった患者は、全員亜急性脊髄損傷患者、基準が多様であるが、文献報告(Bedbrook GM, et al., Paraplegia 1982;20:321; Frankel HL, et al., Paraplegia 1969;7:179-92; Marino RJ, et al., Paraplegia 1995;33:510; Maynard FM, et al., J Neurosurg 1979;50:611; Stover SL, et al. J Urol 1986;135:78; Wu L, et al. Arch Phys Med Rehabil 1992;73:40)によると、0〜11%から自然再生によってASIA等級変化が起こる)、ASIA−B患者の2例の中、2例ともASIA−Dに変化(100% ASIA等級変化、等級変化が起こった患者は、全員亜急性脊髄損傷患者、文献報告(Waters RL, et al., Arch Phys Med Rehabil 1994;75:306; Crozier KS, et al., Arch Phys Med Rehabil 1991;72:119; Folman Y, et al., Injury 1989;20:92; Foo D, et al., Surg Neurol 1981;15:389; Katoh S, et al., Paraplegia 1995;33:506)によると、11〜14%から66〜89%まで多様に自然再生が起こる)して、運動完全脊髄損傷患者の中、29%がASIA等級変化を示すほどの臨床的好転を示した。
【0069】
しかしながら、実際ASIA−A患者の3例(表1の04_キムOO、05_パクOO及び10_クァックOO)では、手術所見上、重症の脊髄萎縮を示し、損傷部位が殆ど切られた状態であって、幹細胞の注射時、細胞液が脊髄の外に漏れる水準であった。したがって、このような患者は、実際重症脊髄萎縮部位に幹細胞の移植だけでは臨床的好転を期待し難い実情であって、3例の患者を除く場合、ASIA−A患者の中、神経幹細胞の移植後、25%が好転を示して、運動完全損傷患者の全体では、神経幹細胞移植後、36%が好転を示した。
【0070】
そして、幹細胞の移植後、ASIA 2002評価上、等級変化のなかったASIA−A患者12例の中(亜急性精髄損傷6例、慢性脊髄損傷6例)、3例(全部慢性脊髄損傷)を除いては、全て運動指標点数(AMS; ASIA motor score)が、移植前に比べて5%以上好転を示し、全体ASIA−A患者の75%が、全体運動完全脊髄損傷患者の82%以上(17例の中、14例)が運動機能の好転を示した。ASIA−A患者の中、手術所見上、重症の脊髄萎縮を示し損傷部位が殆ど切られた状態で、幹細胞注射時、細胞液が脊髄の外に漏れる水準であって、実際幹細胞移植後に臨床的好転を期待し難い実情である前記3例(04_キムOO、05_パクOO、10_クァックOO)の患者においても、1例(10_クァックOO患者)を除いては、幹細胞移植後、運動指標点数が5%以上好転を示した。そして、対象患者全体において、幹細胞移植関連副作用(出血、腫瘍、頭痛、硬直、感染症、異常免疫反応、神経学的異常所見、脊髄MRI検査上の異常所見)発生を観察することができなかった。
【0071】
【表1】
【0072】
(実施例4)
ヒト神経幹細胞の低酸素性虚血性脳損傷マウス移植及び効果確認
本発明のヒト神経幹細胞が新生児の低酸素性虚血性脳損傷に対して再生効果を有するかどうかを確認するために、新生児低酸素性−虚血性脳損傷動物モデルに移植した後、その結果を確認した。動物モデルは、生後7日のICRマウスから右側頚動脈(common carotid artery)を露出させて、永久的に結紮し、虚血性脳損傷を誘発した。2時間の回復時間後、温度調節装置と酸素測定器が装着されたチャンバー(chamber)内で、37℃、酸素8%の環境で1時間30分間維持した(Park KI et al., Nat Biotech 2002; 20:1111)。脳損傷を誘発してから1週間後、動物モデルをケタミン(ketamine; 50mg/kg)とロムパン(Rompun; 10mg/kg)で麻酔させて、頭の皮膚を70%アルコールで消毒して切開した後、ガラスマイクロピペット(glass micropipette)を利用してヒト神経幹細胞12μl(1×105cells/μl)をマウスの脳梗塞部位に注射して、一部は、対照群実験のためにH−Hバッファ(buffer)12μlをマウスの脳梗塞部位に注射した。手術部位は、ヨード軟膏で消毒して縫合し、麻酔から醒めるまで37℃のwarm padで安定化させて、移植されたヒト神経幹細胞に対する免疫拒否反応を防ぐために、移植一日前から実験動物が死亡するまで毎日シクロスポリン(cyclosporine; 10mg/kg/day)を腹腔内注射した。ヒト神経幹細胞移植が実験動物に及ぼす影響を評価するために、細胞移植後3週から11週まで2週間隔で動物モデルの神経学的行動検査を行って、11週には、空間知覚学習及び記憶能力を評価するための行動検査を行った。細胞移植後、12週間後に実験マウスの脳組織を得て分析した。
【0073】
細胞移植後、12週間後に実験マウスの脳組織を分析したが、図3から分かるように、hNuMA(human specific nuclear matrix; Calbiochem, Germany)免疫染色陽性である赤色の多いヒト神経幹細胞が移植された脳梗塞症周辺部から大脳皮質(cerebral cortex)、海馬(hippocampus)、脳梁(corpus callosum)、脳白質神経路(white matter tract)、側脳室(lateral ventricle)周辺まで広範囲に移駐して生着されることが分かった。生着された供与細胞がニューロフィラメント(Neurofilament, NF; sternberger, USA)免疫染色陽性の緑色であることから、神経細胞に分化されたことが分かり、ミエリン塩基性蛋白質(Myelin basic protein; MBP; DAKO, Carpinteria, CA)免疫染色陽性の緑色であることから、稀突起膠細胞に分化されたことが分かり、GFAP(Glial fibrillary acidic protein ; DAKO, Carpinteria, CA)免疫染色陽性の緑色であることから、星状細胞に分化されたことを観察した。免疫染色上、赤色と緑色、両方とも陽性である場合、黄色に観察された。
【0074】
移植されたヒト神経幹細胞が神経細胞に分化された場合、どのような神経伝達物質(neurotransmitter)を分泌するかを調べるために、免疫染色を行った。図4から分かるように、hNuMA免疫染色陽性である赤色のヒト神経幹細胞が、グルタメート(Glutamate; Glut; Sigma, Saint Louis, MO)免疫染色陽性の緑色を示し、グルタミン酸作動性ニューロン(glutamatergic neuron)に分化したことが分かり、GABA(γ-Aminobutyric acid; Sigma, Saint Louis, MO)免疫染色陽性の緑色を示し、 GABA作動性ニューロン(GABAergic neuron)に分化したことが分かり、コリンアセチル転移酵素(Choline acetyl transferase; Chat; Chemicon, Temecula, CA)免疫染色陽性の緑色を示し、コリン作動性ニューロン(cholinergic neuron)に分化したことが分かった。また、hNuMA免疫染色陽性である赤色のヒト神経幹細胞がシナプシンI(Synapsin I; Syn-1; Chemicon, Temecula, CA)免疫染色陽性の緑色を示し、ニューロンに分化されたヒト神経幹細胞がシナプスを形成したことが観察された。免疫染色上、赤色と緑色、両方とも陽性である場合、黄色に観察された。
【0075】
細胞移植後3週から11週まで2週間隔で動物モデルの神経学的行動検査では、尾懸垂(tail suspension)、前肢の屈曲(forelimb flexion)、胴体の捻転(torso twisting)、右側反響(right reflection)、環境反応(placing reaction)、足指伸ばし(toe spreading)の六つの項目を評価するが(Brooks and Dunnett, Nat Rev Neurosci 10:519, 2009)、正常的な動きを示す場合は0点であり、非正常的な動きを示す場合、1点を付与する。図5から分かるように、実験動物にヒト神経幹細胞を移植した場合(hNSC;29匹)、移植3週間後、神経学検査点数は、1.14±1.1(平均±標準誤差)、5週間後、0.86±0.99、7週間後、0.83±0.85、9週間後、0.76±0.91、11週間後、0.62±0.73であって、H−Hバッファを移植した対照群の場合(vehicle;33匹)、神経学検査点数は、3週間後、1.39±1.20、5週間後、1.45±1.03、7週間後、1.39±1.00、9週間後、1.42±1.03、11週間後、1.58±1.12であった。
【0076】
したがって、ヒト神経幹細胞を移植した場合、漸次的に神経学的行動検査において病的症状が好転されることが観察されて、H−Hバッファを移植した対照群の場合と比較し、移植5週目から統計的に有意によくなることが観察された(p<0.05)。
【0077】
ヒト神経幹細胞の移植後11週目に空間知覚学習及び記憶能力行動検査(Morris water maze test)を行った(Gerlai, Behav Brain Res 125:269, 2001)。対象マウスを6日間毎日水槽で特定位置を教育させた後、7日目にその位置が属する四分面に留まる時間(goal quadrant spent time)を評価した。6日間対象マウスにおいて、特定位置を学習することにおいて、ヒト神経幹細胞移植群(hNSC)とH−Hバッファ移植群間に差はなかったが、図6から分かるように、7日目、浴槽の特定位置が属する四分面(quadrant)に留まる時間は、ヒト神経幹細胞を移植された場合(hNSC;20匹)は、20.28±7.83秒、H−Hバッファを移植された場合(vehicle;28匹)は、16.69±5.24秒であった。したがって、神経幹細胞を移植される場合が空間記憶能力が向上されて、対照群に比べ、学習された特定位置が属する四分面を記憶して留まる時間が長いことが分かり、二つの群間に統計的に有意な差を示した(p<0.05)。
【0078】
(実施例5)
ヒト神経幹細胞の難治性てんかんモデル(キンドリングモデル)移植及び効果の確認
本発明のヒト神経幹細胞がてんかんに対し発作抑制効果を有するかを確認するために、てんかん動物モデルに移植した後、その結果を確認した。てんかんモデルは、側頭葉てんかんの最も広く使われるモデルはキンドリング(Kindling)モデルとてんかん重積症(Status epilepticus; SE)であって、本実験では、キンドリングモデルを使用した(Morimoto K, et al., Prog Neurobiol 2004;73:1)。スプラグドーリー(Sprague-Dawley)成体マウス(体重300gm)を麻酔して、右側海馬(hippocampus)の背側CA3に陽極電極(bipolar electode)を挿入して、一週間回復させた後、毎日二回ずつ電気刺激(2msec, 50Hz, biphasic rectangular, constant current stimulation, 1 sec duration)を与えながら、ビデオと脳波図(electroencephalogram, EEG)蓄積装置で行動とEEGの変化を観察した。刺激の強度は、EEGで後放電(afterdischarge, AD)の発生が現れる最小の値をAD閾値 と定めて、実験過程で一定に維持した。初期にAD閾値の刺激は、外観上、発作を起こすことはできないが、刺激が続くにつれて発作の程度を示すRacine等級1から6まで順次的に発作が深化されて、Racine等級5以上を連続的に5回すると、キンドリングモデルになったと定義する(Racine RJ, Electroenchepalogr Clin Neurophysiol 1972;32:281, Pinel JP, et al., Exp Neurol 1978;58:335, T. Nishimura, et al., Neuroscience 2005;134:691, McIntyre DC, et al., Epilepsy Res 1993;14:49, Mirnajafi-Zadeh, et al., Brain Res 2000;858:48, Vezzani, et al., Neurosci Lett 1988;87:63)。キンドリングモデルの確立一週間後、刺激部位に前記確立されたヒト神経幹細胞4μl(1 x 105cells/μl)を移植して、免疫拒否反応を避けるために、細胞移植群及びH−H緩衝液を注射した対照群の全てに、細胞移植一日前から細胞移植8週間後まで免疫抑制剤であるシクロスポリン(cyclosporine, 10mg/kg)を毎日腹腔内注射した。
【0079】
細胞移植2、4、8週間後、それぞれマウスの脳組織を分析したが、図7から分かるように、細胞移植後8週間が経過しても、細胞移植前に神経幹細胞に標識したBrdU(5-Bromo-2-deoxyuridine; Roche, USA)免疫染色陽性の緑色を帯びる多い供与細胞が、細胞移植された背側の海馬のCA3だけではなく、痙攣発作の形成に関与する脳構造である海馬の歯状回(dentate gyrus)と海馬采(fimbriae)まで移駐して生着されることを示し、生着された供与細胞の大部分でTuj1(β-tubulin III; Covance, Berkeley, CA)免疫染色陽性の赤色を発現しており、神経細胞への分化を確認した。また、BrdU免疫染色陽性の緑色の移植されたヒト神経幹細胞の多数が、抑制性神経伝達物質であるGABA(γ-aminobutyrate; Sigma, USA)免疫染色陽性の赤色(図8A)を発現しており、発作発生に関与する興奮性神経細胞を抑制することができることを確認した。供与細胞の一部は、稀突起膠細胞(oligdendrocytes)(図8B)に分化した。てんかんモデルでは、一般に痙攣発作の生成と維持に関与すると知られている重症の膠細胞増殖(astrogliosis)を示すが、移植された神経幹細胞は、星状膠細胞(astrocytes)には全く分化せず(図8C)、却って対照群に比べ、移植群で宿主動物の膠細胞増殖が減少することを確認した。
【0080】
難治性てんかんモデルにおいて、ヒト神経幹細胞の移植がてんかん発作に及ぼす影響を研究するために、神経幹細胞を移植した移植群(マウス15匹)とH−H緩衝液のみを注射した対照群(マウス15匹)に、移植後に1週間間隔で刺激を与え、8週間Racine等級による発作程度(図9A)と脳波検査(EEG)上(図9B)の発作持続時間を観察した。幹細胞移植群の発作程度は、移植後にだんだん減少し、移植2、3週間後に統計的に有意に対照群に比べて減少することを示し(図9A)(p<0.05)、発作持続時間は、対照群に比べ、移植群で細胞移植4週間後に統計的に有意に減少することを確認した(図9B)(p<0.05)。
【0081】
(実施例6)
ヒト神経幹細胞のアルツハイマー病モデルに移植及び効果の確認
本発明のヒト神経幹細胞が老人性痴呆の一種であるアルツハイマー病モデルにおいて、治療的有用性があるかを確認するために、アルツハイマー病動物モデルに移植した後、結果を確認した。アルツハイマー病動物モデルは、人間アミロイド前駆蛋白質(amyloid precursor protein, APP)695イソフォーム(isoform)遺伝子のスウェディッシュ(swedish)突然変異(KM595/596NL)を有したマウスであって、ニューロン特異エノラーゼ(neuron specific enolase; NSE)プロモーターによりAPPが発現される形質転換マウスである(Hwang DY et al., Exp Neurol 2004;186:20)。B57BL/6系統マウスと交配させて、出生後3週目に一腹から生まれたマウスの遺伝子型を確定して、ヒトAPPsw(AAPのスウェディッシュ突然変異)を有している異種接合体(heterozygote)遺伝子型マウスを実験群、有していない正常マウスを対照群に使用した。生後13ヶ月のAPPsw形質転換マウスと正常対照群マウスをキシラジン(Xylazine; 0.1mg/10g of mouse)とケタミン(Ketamine; 0.5mg/10g of mouse)で麻酔させて、頭の皮膚を70%アルコールで消毒して切開した後、ステレオタキシック装置(stereotaxic apparatus)に固定された状態で両側側脳室(lateral ventricle)部位(Bregmaから後ろに0.1mm、横に0.9mm)に1mmドリルバー(drill bar)で頭蓋骨(skull bone)に穴を開けた。10μlへミルトン注射器(Hemilton syringe)に、用意されたヒト神経幹細胞またはH−Hバッファを入れて、ステレオタキシック装置に固定させて、脳硬膜(dura mater)から深さ2mmにマイクロインジェクションポンプ(micro injection pump)で1μl/分の速度で徐々に各側脳室に5μl(1×105cells/μlまたはH−Hバッファ)ずつ移植した。移植が終わった後、2分間安定化した後、再び3分間徐々に注射器針を抜いた。手術部位は、ヨード軟膏で消毒して縫合し、麻酔が醒めるまで37℃のwarm padで安定化させて、移植されたヒト神経幹細胞の免疫拒否反応を防ぐために、移植一日前から実験動物を分析するまで、6週間毎日シクロスポリン(10mg/kg/day)を実験群と対照群の全てのマウスの腹腔内注射した。細胞移植後5週目にヒト神経幹細胞移植が実験動物個体の空間知覚学習及び記憶能力に及ぼす行動学的変化を測定して、6週目に実験マウスから脳組織を得て分析した。
【0082】
細胞移植6週間後、分析した脳組織を見ると、図10から分かるように、ヒト神経幹細胞移植後6週間が経過した時、hNuMA(Calbiochem, Germany)、hHsp27(human specific heat shock protein 27; Stressgen, Ann Arbor, MI)免疫染色陽性である赤色の多い神経幹細胞が移植された側脳室周辺部位から大脳皮質(cortex)、海馬(hippocampus)、脳梁(corpus callosum)まで広範囲に移駐して生着されることを観察することができた。
【0083】
アルツハイマー病の病態生理機序で重要な役割をする炎症反応と関連し、APPsw形質転換マウスにヒト神経幹細胞を移植した群(APP-hNSC)とH−Hバッファを移植した群(APP-vehicle)で微細膠細胞の分布と細胞数を比較分析したが、移植群と対照群の海馬歯状回(DG;dentate gyrus)で微細膠細胞標識因子であるCD11b(AbD Serotec, UK)とF4/80(AbD Serotec, UK)を利用した免疫染色検査を行った(図11)。神経幹細胞を移植した移植群でCD11b陽性である緑色の微細膠細胞の数は、48.25±15.08(平均±標準誤差)(n=5)であり、対照群において、CD11b陽性の細胞数は、94.25±24.51(n=6)であった。したがって、移植群において、対照群に比べ、海馬歯状回部位で微細膠細胞の数が統計的に有意に減って(p<0.05)、アルツハイマー病モデルにヒト神経幹細胞を移植する場合、脳から炎症反応を減少させた。
【0084】
APPsw形質転換マウスと対照群の正常マウスに、ヒト神経幹細胞とH−Hバッファを移植した後、5週目に空間知覚学習及び記憶能力行動検査を行った。APPsw形質転換マウスにヒト神経幹細胞を移植した群(APP-hNSC : 32匹)、APPsw形質転換マウスにH−Hバッファを移植した群(APP-vehicle : 24匹)、正常マウスにヒト神経幹細胞を移植した群(Wild-hNSC : 25匹)、正常マウスにH−Hバッファを移植した群(Wild-vehicle : 30匹)を比較分析した。検査6日間水槽で特定位置を教育させた後、検査7日目にその位置を探していく時間を評価した。6日間特定位置を学習するにおいては、前記四つの群に差がなかったが(図12A)、7日目に特定位置を探していく記憶能力においては差を示した(図12B)。7日目に評価された時間(escape latency)は、APP-hNSC群は、10.98±6.49秒(平均±標準誤差)、APP-vehicle群は、18.19±12.96秒、Wild-hNSC群は、9.83±5.24秒、Wild-vehicle群は、10.28±6.26秒であった。したがって、ヒト神経幹細胞を移植したAPPsw形質転換マウスの記憶能力が、H−Hバッファを移植したAPPsw形質転換マウスに比べ、統計的に有意に向上されたことが分かり(p<0.05)、またAPP−vehicle群とWild−vehicle群において、記憶能力に統計的に有意に差があること(p<0.01)から、APPsw形質転換マウスが、正常マウスに比べて記憶能力が有意に劣ることが確認されて、正常マウスでは、神経幹細胞を移植しても記憶能力の増加は示さなかった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
以上のように、本発明のヒト神経幹細胞は、神経系疾患及び損傷、特に現在特別な治療法がなく、永久的神経学的後遺症を残す脊髄損傷、パーキンソン病、脳卒中、筋萎縮性脊髄側索硬化症、運動神経損傷、外傷による末梢神経損傷、虚血性脳損傷、新生児低酸素性虚血性脳損傷、脳性麻痺、てんかん、難治性てんかん、アルツハイマー病、先天性代謝性神経系疾患、外傷性脳損傷(traumatic brain injury)などの治療に有効な効果を有して、本発明のヒト神経幹細胞を含む薬学的組成物は、神経系損傷の治療のための新しい方法を提供する効果がある。
【受託番号】
【0086】
KCTC 11370BP
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト神経幹細胞及びこれを利用した神経系疾患及び損傷治療用薬学的組成物に関する。より詳細には、本発明は、神経系損傷の治療に効果的なヒト終脳由来のヒト神経幹細胞及びこれを利用した神経系疾患及び損傷治療用薬学的組成物、神経系疾患及び損傷治療剤の製造のための前記ヒト神経幹細胞の用途、及び前記ヒト神経幹細胞を、これを必要とする個体に有効量で投与することを特徴とする神経系疾患及び損傷治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
神経幹細胞とは、主に神経系に存在する未成熟(immature)細胞であって、未分化(undifferentiated)状態で増殖し続ける自己更新(self-renew)を示し、神経細胞(neuron)及び神経膠細胞(glia)に分化する分化の多能性(multipotency)を示す細胞と定義される。神経幹細胞は、ヒトを含む哺乳動物の胎児神経系全般にかけて多様な解剖学的部位に存在して、最近は、胎児だけではなく、成体神経系の特定部位でも増殖し続けつつ新しい神経細胞を生成する。この他にも、神経幹細胞は、より未成熟な細胞の胚芽幹細胞から分化されることもあり、神経系ではない体の他の部位、即ち、骨髄、皮膚、羊膜(amniotic membrane)、さい帯血(umbilical cord blood)細胞などからも分化され得ると報告されているが、このような組織から出る神経幹細胞及び神経細胞はごく稀で、真正の機能性神経幹細胞に分化されるかはまだ確実ではない。しかし、神経系に存在する神経幹細胞は、確実に機能性神経細胞に分化するため、最近、このような神経幹細胞を利用した幹細胞の増殖と分化機序及び神経系発達に関する基礎研究だけではなく、一度損傷したら再生が不可能だと知られている先天性及び後天性難治性神経系疾患において、神経幹細胞の生物学的特性を利用して、新しい細胞及び遺伝子治療の可能性に対する関心が増大している。
【0003】
現在、神経系疾患に対する数多し新しい治療薬物、蛋白質及び神経栄養因子が検索されて、成体内外で治療効果と神経保護作用の評価などを通じて多様な治療法が活発に開発されているが、まだ可視化された成果はあまりない。実際、臨床的に損傷された神経組織を保護して再生させる特別な治療法はない実情である。一方、難治性神経系疾患の治療のためには、治療薬物、神経栄養因子及び化合物質のような‘小分子(small molecules)’の開発だけでは充分ではなく、既に死滅したか機能不全を示す神経細胞に代わって、神経再生を誘導する細胞治療が必須的である。したがって、最近、幹細胞学が発展しつつ、既存の遺伝子治療の安全性と効率性の問題点、そして、1次胎児組織または細胞使用の限界点を克服し、人体に対する新しい細胞及び幹細胞を利用した遺伝子治療を可能にする最善の代案として、ヒト神経幹細胞に対する研究と治療的適用が浮かび上がっている。
【0004】
しかしながら、現在ヒト神経幹細胞の治療的適用のためには、たくさんの基礎的な研究が必要であり、実際臨床施術のためには、様々な臨床適用に係わる問題が解決されなければならない。即ち、ヒト神経幹細胞の大量増殖及び分化の制御調節、生体内移植時、腫瘍発生の抑制などの長期的安全性、神経系移植時、供与幹細胞の生着、移駐、分化、宿主神経系への統合機序、及び神経機能改善効果の検定及び機序、難治性神経系疾患の病態生理究明による幹細胞移植治療目標設定、動物実験結果の臨床試験適用時の差異点と注意すべき点、幹細胞の抗炎症及び免疫制御調節機序、幹細胞と他の多様な治療法との混合治療法の追求などに関するたくさんの研究が必要である(Alvarez-Buylla, et al. Nat Rev Neurosci 2:287, 2001; Flax, et al., Nat Biotech 16:1033, 1998; Gage, Science 287:1433, 2000; Lindvall, Nature 441:1094, 2006)。
【0005】
脊髄損傷は、産業の高度化と人間活動量の増加によって、事故などにより発生頻度が増加しているが、米国の場合、既存の脊髄損傷患者が100万名程度であって、年間人口100万名当たり50名の脊髄損傷発生頻度を示し、毎年12000名の新しい患者が発生しており、特に患者の大部分が30歳以下の青壮年期であって、患者の平均生存期間が増加しており、一年に約97億ドルの医療費がかかっていると推算される。韓国の場合、約7万名が脊髄障害人と登録されているが、特に韓国実情から見て、交通事故の増加は、必然的に脊髄損傷患者の増加に繋がっている。このような脊髄損傷患者は、深刻な運動、感覚及び自律神経系障害により、病院での長期入院及びリハビリ治療を必要として、日常の生活のために他人の助けを絶対的に必要として、社会的及び個人的に深刻な経済的な負担と人的資源の損失、個人の尊厳性及び独立性維持に大きい障害を招来している。しかしながら、韓国ではまだ、このような脊髄損傷障害人の社会的活動と更生及び独立性維持のための社会的福祉提供が極めて少なく、損傷された脊髄神経の再生のための生物学的、医学的研究は、今始まったばかりの段階にある。
【0006】
一般的に、中枢神経系疾患である脊髄損傷は、非可逆的なもので、損傷後再生は非常に難しいと知られており、最近、脊髄損傷に対する治療及びリハビリ療法の刮目に値する発展にもかかわらず、損傷の根本原因となる神経組織の再生が不可能であって、根本治療は不可能な状態である。したがって、最近まで臨床で主に使用される治療法は、損傷した脊髄に対する根本治療よりは、二次的な脊髄損傷を防ぐための手術治療と薬物治療などが利用されている実情である。急性脊髄損傷の場合、メチルプレドニソロン(methylprednisolone)を注入すると効果あるというが、薬効が確実ではなく、合併症がよく発生し、多くの国では使用しておらず、その他、実験的に神経損傷に効果を示す薬剤(monosialoganglioside sodium [GM-1 ganglioside], naloxone, and tirilazad)などが臨床試験に使用されたが、結果が報告されていないか、効果が不明で、現在まで米国FDAで臨床使用が許可された神経保護薬剤はない実情である(Ducker et al., Spine 19:2281, 1994; Hurlbert, J Neurosurg 93:1, 2000; Short, et al., Spinal Cord 38:273, 2000; McDonald, et al., Lancet 359:417, 2002)。
【0007】
ところが、最近、脊髄損傷治療法の開発のために、再生医学的研究が大きく浮かび上がっているが、脊髄損傷時、組織環境に多様な髄鞘関連物質(myelin associated molecules)及び神経膠細胞瘢痕関連細胞外基質蛋白質(glial scar-asociated extracellular matrix protein)などの作用により損傷された神経軸索突起(axon)の再生が起こらないため、このような物質に対する作用抑制剤を使用するか、多様な組織あるいは細胞を移植して、切られた脊髄神経軸索突起の成長と再生を促進させる動物及び臨床試験が報告されている(Bradbury et al., Nature 416:636, 2002; Bregman et al., Nature 378:498, 1995; GrandPre, et al., Nature 417:547, 2002; Bunge, Neuroscientist 7:325, 2001; Cheng et al., Science 273:510, 1996; Coumans et al., J Neurosci 21:9334, 2001; Keyvan_Fouladi et al., J Neurosci 23:9428, 2003; Rossignol et al., J Neurosci 27:11782, 2007)。
【0008】
一方、最近、幹細胞学研究が大きく発展して活性化されつつ、脊髄損傷部位に幹細胞を移植して、損傷された神経細胞への分化誘導、神経軸索突起の再生誘導及び軸索突起の再髄鞘化(remyelination)などを示す動物実験がたくさん報告されているが、マウス及びヒト胚芽幹細胞から多様な神経細胞に分化誘導して移植する場合、神経機能の好転は示すが、まだ腫瘍発生可能性による安全性と胚芽幹細胞の使用による倫理性問題などが解決すべき課題であり(McDonald et al., Nat Med 5:1410, 1999; Keirstead et al., J Neurosci 25:4694, 2005)、骨髄幹細胞(bone marrow stromal stem cells)使用は、自己細胞の使用により、免疫拒否反応及び倫理性問題は避けられるが、骨髄幹細胞の機能性神経細胞へのクロス分化の可否が確実ではなく(Terada, et al., Nature 416:542, 2002; Ying et al., Nature 416:545, 2002; Alvarez-Dolado et al., Nature 425:968, 2003)、実際、脊髄損傷部位に移植時、神経細胞への分化はよく発生しないというが(Hofstetter, et al., PNAS 99:2199, 2002)、供与細胞による損傷された脊髄神経軸索突起の再生誘発可能性が報告された(Ankeny et al., Exp Neurol 190:17, 2004)。げっ歯類及び人間の中枢神経系由来の神経幹細胞は、移植後、脊髄損傷部位で機能性神経細胞に分化可能であり、腫瘍を形成する可能性があまりなく、動物実験で神経機能好転が報告されて(Cummings et al., PNAS 102:14069, 2005; Hofstetter et al., Nat Neurosci 8:346, 2005; Iwanami et al., J Neurosci Res 80:182, 2005; Karimi-Abdolrezaee et al., J Neurosci 26:3377, 2006; Ogawa et al., J Neurosci Res 69:925, 2002; Teng et al., PNAS 99:3024, 2002; Yan et al., PLos Medicine 4:e39, 2007)、最近は、脊髄損傷時、実際灰白質の神経細胞損傷よりは白質の神経膠細胞損傷による神経機能損傷が重要であることが明かされて、幹細胞由来の神経膠細胞前駆細胞(glial-restricted progenitor cells; GRPs)あるいは稀突起膠細胞前駆細胞(oligodendrocyte precursor cells; OPCs)などを移植する動物実験も報告された(Bambakidis et al., Spine J 4:16, 2004; Cao et al., J Neurosci 25:6947, 2005; Han et al., Glia 45:1, 2004; Herrera et al., Exp Neurol 171:11, 2001; Hill et al., Exp Neurol 190:289, 2004; Mitsui et al., J Neurosci 25:9624, 2005)。以上、多様な種類の幹細胞を脊髄損傷部位に移植する場合、動物実験で神経機能の好転を報告しているが、幹細胞移植の臨床適用のためには、どんな種類の幹/前駆細胞が最も理想的な供与細胞であるかまだ確実ではなく、よりよい治療効果を得るためには、脊髄損傷の病態生理研究を通じての多様な治療目標及び段階の設定と、幹/前駆細胞移植と他の治療法との混合による複合的接近法が求められている。
【0009】
脳卒中の場合、大韓民国国民の死亡原因第2位、単一疾患としては第1位に該当する非常に重要な国民保健問題の一つであるが、成人の場合、毎年約15万名以上の新しい患者が発生しており、胎児及び新生児において周産期仮死による低酸素性虚血性脳病症の発生頻度は、臨月児では、1,000名の生存出生児の中、2〜4名から発生し(毎年2000名の新しい患児発生)、極小低出生体重未熟児では出生児の約60%から発生すると報告されており(毎年3000〜4000名の新しい患児発生)、低酸素性虚血性脳病症患児の約10〜60%が新生児期に死亡して、高い死亡率を示し、生存児の25%では、脳性麻痺、知能発達遅延、学習障害及びてんかんなどの永久的な重症の神経発達学的後遺症を残して、成人の脳卒中と共に、本疾患は、国民保健福祉的な側面だけではなく、社会経済的な側面でも深刻な問題を引き起こす主要神経系疾患である。しかしながら、実際臨床的に低酸素性虚血性脳病症を好転させる特別な治療方法はない実情であり、現在保全的な治療に局限されているが、このような治療法が、現在進行している脳損傷を中断させるか予防することはできない(Rogers MC, Nichols DG (Eds). Rogers’' Textbook of Pediatric Intensive Care. 4th Edition. Philadelphia, Lippincott Williams & Wilkins, 2008, pp 810-825; Roach et al., Stroke 39:2644, 2008; van Bel and Groenendaal, 2008 Neonatology 94:203)。
【0010】
てんかん(epilepsy)は、最もありふれた神経系疾患の一つであるが、人口の約3〜5%が生涯一度くらいは痙攣症状を示すと知られており、人口の約0.5〜1%は、繰り返される発作を示すてんかん患者である。大部分の患者は、抗痙攣剤の投薬により治療ができるが、一次全身てんかん(primary generalized epilepsy)患者の約20%、部分てんかん(partial epilepsy)患者の約35%は、薬物治療によく反応しない難治性てんかん(refractory epilepsy)であるが、抗痙攣剤で治療ができない場合は、脳の一部分を切除する手術的治療方法を考慮することができるが、このような場合も、患者の約50%(手術適応症を示す患者を厳しく選択した場合は、患者の約2/3)でのみ手術後てんかんが完全になくなって、大部分の場合、てんかんの頻度が減るか、程度が弱化する効果のみを示す。そして、たくさんの患者において、手術による深刻な脳機能喪失の危険性により、手術的治療が受けられない場合も多く、破局てんかん症候群(catastrophic epilepsy syndrome)を示す乳幼児患児では、脳波にびまん性、両側性あるいは多焦点てんかんを示し、手術的治療において適応対象になれない場合もあり、手術が可能な場合でもmultilobar resectionまたは大脳半球切除術などを行って、脳組織の損傷が多く、手術による神経学的欠損が残る場合が多い。したがって、現在までてんかんに対するたくさんの治療法が開発されてきたが、難治性てんかん患者数は、全ての種類の脳腫瘍、多発性硬化症、筋ジストロフィー(muscular dystrophy)、脊髄運動神経疾患、Guillain-Barre syndromeのような代表的な難治性神経系疾患患者の全体より多く、このような理由で難治性てんかんに対する新しい治療法の開発は、公衆保健学的次元で非常に重要な問題である。したがって、このような難治性てんかん患者でてんかん誘発部位、発作開始部位及び機能低下部位に神経幹細胞を移植し、損傷されたあるいは機能低下された神経細胞を代替して、神経回路を再構成して、神経細胞の電気生理学的過興奮状態を調節し、てんかん発作を抑制して、神経機能の向上を誘導する治療法の開発は、てんかん治療に対する画期的且つ根本的な試みになり得る(Rakhade and Jensen, Nat Rev Neurol 5:380, 2009; Marson et al., Clin Evid pil:1201, 2009; Banerjee et al., Epilepsy Res 85:31, 2009; Jacobs et al., Epielepsy Behav 14:438, 2009)。
【0011】
アルツハイマー病は、老人からよく観察される進行性退行性脳疾患であって、痴呆を誘発する最も重要な原因疾患の一つであって、全体老人性痴呆患者の約半分以上を占める(原因として、血管性痴呆が30〜40%、代謝性痴呆が10〜20%、原因不明痴呆が50%程度)。発病率と有病率は、年齢によって増加し、60歳以後5年毎に二倍ずつ増加する。60〜64歳のアルツハイマー病の有病率は約1%であり、65〜69歳は2%、70〜74歳は4%、75〜79歳は8%、80〜84歳は16%、85歳以上は約35〜40%に達して、ほぼ65歳以上老人の10%がアルツハイマー病を病んでいる。発病率は、75〜79歳で2.3%であり、80〜84歳で4.6%、85〜89歳では8.5%に達する。韓国では、2000年に65歳以上老人人口が7%の高齢社会になって、2022年には、65歳以上老人人口が14%以上である高齢社会になると予想しており、今後、アルツハイマー病患者が急増すると予想される。実際2007年、韓国の痴呆老人は、全体老人481万名の中、8.3%に該当する39万9000名であって、2000年の28万2000名から、7年の間11万7000名(41.4%)が増加した。したがって、韓国の痴呆患者の比率は、日本(3.8%)、英国(2.2%)、米国(1.6%)、スペイン(1.0%)などと比較して最高水準であるが、高齢化速度がどの国よりも速いため、今後も増加勢が険しいと予想され、2010年には46万1000名(全体老人の8.6%)、2015年には58万名(9.0%)に増えると見込まれる。したがって、痴呆による経済的損失も莫大であって、去年韓国で痴呆患者の直接診療費は、3268億ウォンであったが、間接費用を含む場合、年間3兆4000億〜7兆3000億ウォンに至ると推定される。米国の場合、既に520万名のアルツハイマー病患者がいて、65歳以下の患者も50万名であって、特に、今後ベビーブーマー世代において、今後18%からアルツハイマー病が発生する可能性があって、今後約140万名がアルツハイマー病にかかると予想される。現在米国の場合でも、患者の70%は、家庭で家族が世話をしているが、去年の一年間、アルツハイマー病にかかった家族や親戚を看護した人は約1000万名、時間で換算すると総84億時間、金額で換算すると890億ドルに該当するという。最近、アルツハイマー病の症状改善・進行を遅らせる薬物が一部開発されて使用されているが、根本的な治療にはなれなく、今後高齢人口の増加からみた疾患の直接的治療及び看護に所要される保健医学的経費は莫大であると予想される。したがって、アルツハイマー疾患において神経幹細胞を利用した新しい治療法の開発は、難治性退行性神経系疾患治療の画期的な試みになりえる(Minati et al., Am J Alzheimers Dis Other Demen 24:95, 2009; Ziegler-Graham et al., Alzheimers Dement 4:316, 2008; Kalaria et al., Lancet Neurol 7:812, 2008)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは、脊髄損傷など、神経系疾患及び損傷を効果的に治療できる方法を開発するために鋭意研究した結果、ヒト終脳から採取されて培養された新しいヒト神経幹細胞が、安全で且つ有効に神経系疾患及び損傷を治療することができることを見い出し、本発明を完成した。
【0013】
したがって、本発明の目的は、寄託番号KCTC11370BPを有するヒト神経幹細胞及びこれを含む神経系疾患及び損傷治療用薬学的組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記のような目的を達成するために、本発明は、寄託番号KCTC11370BPを有するヒト神経幹細胞を提供する。
【0015】
本発明の他の目的を達成するために、本発明は、前記ヒト神経幹細胞を含む神経系疾患及び損傷治療用薬学的組成物を提供する。
【0016】
本発明のまた他の目的を達成するために、本発明は、神経系疾患及び損傷治療剤の製造のための前記ヒト神経幹細胞の用途を提供する。
【0017】
本発明のまた他の目的を達成するために、本発明は、前記ヒト神経幹細胞を、これを必要とする個体に有効量で投与することを特徴とする神経系疾患及び損傷治療方法を提供する。
【0018】
以下、本発明の内容をより詳細に説明する。
【0019】
本発明のヒト神経幹細胞は、合法的流産で既に死亡した在胎月齢(gestational age)13週(13weeks)のヒト胎児中枢神経系の終脳(telencephalon)神経組織で採取されて、特定成長因子を使用して、遺伝子変形のない一次神経幹細胞に培養されて、生体外で幹細胞としての細胞特性が確認されたものである。本発明のヒト神経幹細胞は、臨床に適用する前に、脊髄損傷動物モデルに移植されて、細胞治療剤としての安全生及び有効性が確認されて、2008年7月24日韓国生命工学研究院生物資源センターに寄託番号KCTC11370BPとして寄託された。
【0020】
本発明で使用された用語‘幹細胞’は、組織及び器官の特殊化された細胞を形成するように非制限的に再生できるマスター細胞を称する。幹細胞は、発達可能な万能性または多能性細胞である。幹細胞は、二つの娘幹細胞、または一つの娘幹細胞と一つの由来(‘転移(transit)’)細胞に分裂できて、以後、組織の成熟且つ完全な形態の細胞に増殖される。
【0021】
本発明で使用された用語‘多能性細胞’は、哺乳類身体の約260個細胞類型の任意の下位セットへの成長能力を有する細胞を意味する。万能性細胞とは異なって、多能性細胞は、全ての細胞類型を形成する能力を有するわけではない。
【0022】
本発明で使用された用語‘分化(differentiation)’は、細胞が分裂増殖して成長する間に、互いに構造や機能が特殊化する現象、即ち、生物の細胞、組織などがそれぞれに与えられた役割を行うために形態や機能が変わっていくことを意味する。一般に、比較的単純な系が、二つ以上の質的に異なる部分系に分離される現象である。例えば、個体発生において最初は同質的であった卵部分間に頭や胴体などの区別が生じるか、細胞においても筋細胞とか神経細胞などの区別が生じることのように、最初はほぼ同質であったある生物系の部分間に質的な差が生じること、またその結果として質的に区別できる部域または部分系に分かれている状態を分化という。
【0023】
本発明で使用された用語‘細胞治療剤’は、ヒトから分離、培養及び特殊な製作を通じて製造された細胞及び組織で治療、診断及び予防の目的で使用される医薬品(米国FDA規定)であって、細胞あるいは組織の機能を復元させるために、生きている自己、同種、または異種細胞を体外で増殖、選別するか、他の方法で細胞の生物学的特性を変化させるなどの一連の行為を通じて治療、診断及び予防の目的で使用される医薬品を称する。細胞治療剤は、細胞の分化程度によって大きく体細胞治療剤、幹細胞治療剤に分類されて、本発明は、特に幹細胞治療剤に関する。
【0024】
本発明の神経幹細胞は、ヒト胎児の終脳由来のものである。好ましくは、ヒト胎児の脳組織から得た細胞を、神経幹細胞成長因子が添加された培地で培養して製造することができる(実施例1参照)。前記神経幹細胞成長因子は、bFGF(fibroblast growth factor-basic)、LIF(leukemia inhibitory factor)及びヘパリン(heparin)を使用することができる。好ましくは、20ng/ml bFGF、10ng/ml LIF及び8μg/mlヘパリンを使用することができる。
【0025】
本発明のヒト神経幹細胞は、当業界に公知された方法によって増殖及び培養できる。本発明の神経幹細胞は、目的細胞タイプの生存または増殖を裏付ける培養液内で培養される。時には、血清の代わりに自由アミノ酸で栄養を供給する培養液を使用することが好ましい。神経細胞の持続的な培養のために開発された添加剤を培養液に補充することが好ましい。例えば、Gibco社で市販されるN2及びB27添加剤がある。培養時、培地と細胞の状態を観察しながら培地を交換することが好ましい。また、神経幹細胞が増殖し続け、互いに固まって神経球(neurospheres)を形成すると、継代培養を行うことが好ましい。継代培養は、約7〜8日毎に行うことができる。
【0026】
本発明による神経幹細胞の好ましい培養方法は、以下のようである:培養液の組成が知られている特定培地(例えば、DMEM/F-12またはNeurobasal培地など)に、N2またはB27添加剤(Gibco)、神経幹細胞増殖誘発サイトカイン(例えば、bFGF、EGF、LIFなど)とヘパリンを添加する。一般に、血清は添加しない。前記培地で神経幹細胞を神経球形態で増殖培養する。3〜4日に一回ずつ、培地の半分くらいを新しい培地に入れ換える。細胞数が増えると、7〜8日毎に機械的方法またはトリプシン(0.05% trypsin/EDTA)を利用して細胞を解離させる。以後、細胞浮遊液を新しいプレートにプレーティングして、前記組成の培地で続けて増殖培養させる(Gage et al. PNAS, 92(11):879, 1995; McKay. Science, 276:66, 1997; Gage., Science, 287:1433, 2000; Snyder et al. Nature, 374:367, 1995; Weiss et al. Trends Neurosci., 19:387, 1996)。
【0027】
また、本発明の神経幹細胞は、当業界に公知された通常的な方法によって各種神経細胞に分化できる。一般に分化は、細胞培地に神経幹細胞増殖誘発サイトカインは添加せず、適切な基質または分化試薬が添加される栄養培養液を含有する培養環境で行う。適切な基質は、陽電荷でコーティングされた固体表面、例えば、ポリ−L−リシン及びポリオルニチンが適している。基質は、細胞外マトリックス成分、一例として、フィブロネクチン及びラミニンでコーティング可能である。その他に許容される細胞外マトリックスは、マトリゲル(Matrigel)を含む。その他に適切なものは、ポリ−L−リシンをフィブロネクチン、ラミニンまたはこれらの混合物と混合した組み合わせ基質である。
【0028】
適切な分化試薬は、多様な種類の成長因子、例えば、表皮成長因子(EGF)、転換成長因子α(TGF-α)、任意の形態の線維芽細胞成長因子(FGF-4、FGF-8及びbFGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、インシュリン様成長因子(IGF-1など)、高濃度のインシュリン、骨形成蛋白質(特に、BMP-2及びBMP-4)、レチノイン酸(RA)及びgp130と複合する受容体に対するリガンド(例えば、LIF、CNTF及びIL-6)があり、これに制限されるものではない。
【0029】
また、本発明の神経幹細胞は、長期間保管のために、当業界に公知された方法によって凍結保管することができる。一般的な凍結保管は、継代培養を続けて十分な数の神経幹細胞を獲得すると、機械的方法またはトリプシンを利用して神経球を細かく潰し、単一細胞懸濁液を製造する。その後、20〜50%牛胎児血清(fetal bovine serum)、10〜15%DMSO及び細胞培地からなる凍結保管液に前記細胞懸濁液を混合して、凍結ガラス瓶(freezing vial)に分株する。凍結保管液に混合した細胞は、直ちに4℃に保管した状態で−70℃の冷凍庫に移して、少なくとも24時間後に液体窒素タンクに移して長期保管する(Gage et al. PNAS, 92(11):879, 1995; McKay. Science, 276:66, 1997; Gage., Science, 287:1433, 2000; Snyder et al. Nature, 374:367, 1995; Weiss et al. Trends Neurosci., 19:387, 1996)。
【0030】
さらに、凍結保管された本発明の神経幹細胞は、当業界に公知された方法によって解凍することができる。凍結保管された細胞を溶かす時は、凍結ガラス瓶を37℃恒温水槽に浸して徐々に振る。凍結ガラス瓶に入っている細胞が半分くらい解けた時、予め37℃に暖めておいた、神経幹細胞倍地に入っているコニカルチューブに前記細胞懸濁液を移し始める。細胞懸濁液を全て移して、遠心分離して上澄み液を除去する。沈殿されている細胞ペレットを神経幹細胞培地に注意を払って浮遊させる。細胞懸濁液を60mm細胞培養プレートに移す。以後、神経幹細胞増殖誘発サイトカインを培地に添加して、続けて37℃、5%CO2培養器で培養する。
【0031】
一方、本発明は、本発明のヒト神経幹細胞を含む神経系疾患及び損傷治療用薬学的組成物を提供する。
【0032】
上記において、‘治療(treatment)’は、症状の緩和、疾患(または損傷、以下、同一)程度の減少、悪化されなかった疾患の維持、疾患進行の遅延、疾患状態の改善または緩和(palliation)、(一部または完全な)緩和(remission)を含む。また、治療は、治療を受けなかった場合に予想される疾患の状態と比較し、好転された状態を意味することができる。治療は、治療的手段の他に、予防的手段を同時に含む。治療が必要な場合は、疾患を既に有している場合と、疾患の予防が必要な場合を含む。疾病の緩和は、治療を受けない状況と比較し、望まない疾病の臨床様相の好転や疾病の推移が遅延されるか延長される場合である。典型的に治療は、損傷された神経系の再生のために、本発明の神経幹細胞を投与する場合を含む。この際、本発明における神経系は、脳、中枢または末梢神経系である。
【0033】
本発明のヒト神経幹細胞は、所望の組織部位に直接移植するか移動する方式で投与されて、損傷された神経系が再生されるか、機能的に回復されるようにする。例えば、治療される疾患によって、本発明の神経幹細胞を、損傷された神経部位に直接移植する。移植は、単細胞懸濁液またはμl当たり1×105〜1.5×105細胞密度の小さい集合体を利用して行う(米国特許第5,968,829号参照)。
【0034】
本発明のヒト神経幹細胞は、人間内への投与のために、薬学的組成物の形態で供給できる。本発明の薬学的組成物には、薬学的に許容される担体をさらに含むことができる。前記‘薬学的に許容される’とは、前記組成物に露出される細胞や人間に毒性がないことを意味する。前記担体は、緩衝剤、保存剤、無痛化剤、可溶化剤、等張剤、安定化剤、基剤、賦形剤、潤滑剤、保存剤など、当業界に公知されたものであれば制限なく使用できる。本発明の薬学的組成物は、各種剤形の形態で、通用される技法によって製造できる。例えば、注射剤の場合は、単位投薬アンプルまたは多数回投薬包含剤形態に製造できる。本発明による薬学的組成物の医薬剤形の一般的な原理については、下記の文献を参考することができる:Cell Therapy; Stem Cell Transplantation, Gene Therapy, and Cellular Immunotherapy, G. Morstyn amp; W. Sheridan編著, Cambridge University Press, 1996; 及びHematopoietic Stem Cell Therapy, E. D. Ball, J. Lister amp; P. Law, Churchill Livingstone, 2000。本発明の薬学的組成物は、所望の目的、例えば、損傷された神経系の再生のために、表記された指示にしたがって適切な容器内に包装できる。
【0035】
一方、本発明は、神経系疾患及び損傷治療剤の製造のための本発明のヒト神経幹細胞の用途を提供する。さらに、本発明は、本発明のヒト神経幹細胞を、これを必要とする個体に有効量で投与することを特徴とする神経系疾患及び損傷治療方法を提供する。
【0036】
上記において、本発明のヒト神経幹細胞及びこれらの効果に対しては、上記に記載の通りであり、上記において、‘有効量’とは、本発明のヒト神経幹細胞が、投与対象である個体内で神経系疾患及び損傷に対して治療の効果を示す量を意味し、前記‘個体(subject)’とは、哺乳動物、特に、人間を含む動物を意味する。前記個体は、神経系疾患及び損傷治療が必要な人間である。
【0037】
本発明のヒト神経幹細胞は、前記記載の効果の中、所望の効果が導出されるまで投与できて、当業界に公知された方法によって多様な経路で投与できる。
【0038】
本発明の薬学的組成物、用途及び治療方法が適用できる神経系疾患及び損傷は、脊髄損傷、パーキンソン病、脳卒中、筋萎縮性脊髄側索硬化症、運動神経損傷、外傷による末梢神経損傷、虚血性脳損傷、新生児低酸素性虚血性脳損傷、脳性麻痺、てんかん、難治性てんかん、アルツハイマー病、先天性代謝性神経系疾患または外傷性脳損傷(traumatic brain injury)を含み、これらに限定されるものではない。
【0039】
本発明の一実施例では、合法的流産で死亡した胎児の終脳から採取した神経細胞を、成長因子を利用して神経幹細胞に培養した。
【0040】
本発明の他の実施例では、前記製造された神経幹細胞を脊髄損傷動物モデルに移植して、安全性及び効能を確認した。その結果、特に毒性を示さず、脊髄損傷が治療されて、本発明の神経幹細胞が安全性及び有効性を有していることが分かった。
【0041】
本発明のまた他の実施例では、本発明の神経幹細胞を脊髄損傷患者に移植して、既存の脊髄損傷患者に行う物理治療と作業治療を行いながら経過を確認した。その結果、総17例の臨床において、ASIA−A患者の15例の中、1例は、ASIA−Bに、2例は、ASIA−Cに変化して、ASIA−B患者の2例の中、2例ともASIA−Dに変化して、運動完全脊髄損傷患者の29%がASIA等級変化を示す程度の臨床的好転を示すことが分かった。特に、実際ASIA−A患者の中、3例では、幹細胞移植だけでは臨床的好転が期待し難い程度の手術所見がある重症の患者であって、これを除く場合、ASIA−A患者において、神経幹細胞の移植後、25%が好転を示して、運動完全損傷患者においては、神経幹細胞の移植後、36%が好転を示すことが分かった。さらに、全体ASIA−A患者の75%が、全体運動完全脊髄損傷患者の82%以上(17例の中、14例)が、運動機能の好転を示すことが分かった。
【0042】
本発明の他の実施例では、前記製造された神経幹細胞を新生児低酸素性虚血性脳損傷動物モデルに移植して、安全性及び効能を確認した。その結果、特に毒性を示さず、低酸素性虚血性脳損傷が治療されて、本発明の神経幹細胞が安全性及び有効性を有していることが分かった。
【0043】
本発明の他の実施例では、前記製造された神経幹細胞を難治性てんかん動物モデルに移植して、安全性及び効能を確認した。その結果、特に毒性を示さず、難治性てんかんが治療されて、本発明の神経幹細胞が安全性及び有効性を有していることが分かった。
【0044】
本発明の他の実施例では、前記製造された神経幹細胞をアルツハイマー病動物モデルに移植して、安全性及び効能を確認した。その結果、特に毒性を示さず、アルツハイマー病が治療されて、本発明の神経幹細胞が安全性及び有効性を有していることが分かった。
【発明の効果】
【0045】
したがって、本発明のヒト神経幹細胞は、神経系疾患及び損傷、特に現在特別な治療法がなくて、永久的神経学的後遺症を残す脊髄損傷、パーキンソン病、脳卒中、筋萎縮性脊髄側索硬化症、運動神経損傷、外傷による末梢神経損傷、虚血性脳損傷、新生児低酸素性虚血性脳損傷、脳性麻痺、てんかん、難治性てんかん、アルツハイマー病、先天性代謝性神経系疾患、外傷性脳損傷(traumatic brain injury)などの治療に有効な効果を有して、本発明のヒト神経幹細胞を含む薬学的組成物は、神経系損傷の治療のための新しい方法を提供する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】移植されたヒト神経幹細胞が脊髄損傷部位及びその周辺部位へ移駐して生着することを示したものである(赤色:human-specific nuclei antigen (hNuc; Chemicon, Temecula, CA)免疫染色陽性であるヒト神経幹細胞生着部位、緑色:Neurofilament (NF; Sternberger, USA)免疫染色陽性の損傷された宿主脊髄神経突起)。
【図2】本発明の神経幹細胞が神経細胞(neurons)、星状細胞(astrocytes)、稀突起膠細胞(oligodendrocytes)に分化するか、あるいは未分化された状態に残っていることを確認したものである(A;初期神経細胞標識因子であるTUJ1(β-tubulin III, Covance)の発現確認(矢印)、B;星状細胞の標識因子であるGFAP(glial fibrillary acidic protein, DAKO)の発現確認(矢印)、C; 稀突起膠細胞の標識因子であるCNPase (2,3-cyclic nucleotide-3-phosphohydrolase, Chemicon)の発現確認(矢印)、D;ヒト身分化神経幹細胞の標識因子であるhNestin (human nestin, Chemicon)の発現確認(矢印))。
【図3】移植されたヒト神経幹細胞が脳梗塞症周辺部位へ移駐して生着することを示したものであり(赤色:human specific nuclear matrix (hNuMA; Calbiochem, Germany)免疫染色陽性であるヒト神経幹細胞生着部位)、また、移植された神経幹細胞は、神経細胞、星状細胞、稀突起膠細胞に分化したことを示しており、(緑色:神経細胞標識因子であるNeurofilament (NF; sternberger, USA)の発現確認、稀突起膠細胞標識因子であるMyelin Basic Protein (MBP; DAKO, Carpinteria, CA)の発現確認、星状細胞の標識因子であるGlial Fibrillary Acidic Protein (GFAP; DAKO, Carpinteria, CA)の発現確認)、赤色と緑色の同時発現は、黄色として観察される。
【図4】移植されたヒト神経幹細胞が神経細胞に分化した時、どのような神経伝達物質を分泌するかを示したものである(赤色:human specific nuclear matrix (hNuMA; Calbiochem, Germany)免疫染色陽性であるヒト神経幹細胞、緑色 : glutamatergic neuronの標識因子であるGlutamate(Glut; Sigma, Saint Louis, MO)の発現確認、GABAnergic neuronの標識因子であるγ-Aminobutyric acid(GABA; Sigma, Saint Louis, MO)の発現確認、cholinergic neuronの標識因子であるCholine acetyl transferase(Chat; Chemicon, Temecula, CA)の発現確認、シナプス形成に係わる標識因子であるSynapsin I(Syn-1; Chemicon, Temecula, CA)の発現確認)。
【図5】低酸素性−虚血性脳損傷動物モデルにヒト神経幹細胞を移植した群(hNSC)とH−Hバッファを移植した群(vehicle)間に神経学的行動検査を示したものである(移植後3週から、2週間隔で11週まで測定した)。
【図6】低酸素性−虚血性脳損傷動物モデルにヒト神経幹細胞を移植した群(hNSC)とH−Hバッファを移植した群(vehicle)間に空間知覚学習及び記憶能力行動検査結果であって、6日間特定位置学習後、7日目に特定位置が属している四分面に留まった時間(goal quadrant spent time)を示したものである。
【図7】移植されたヒト神経幹細胞が移植部位及びその周辺部位へ移駐して生着することを示したものである(緑色:BrdU免疫染色陽性であるヒト神経幹細胞、赤色:Tuj1免疫染色陽性である神経細胞、緑色と赤色が重ねられた細胞は、黄色あるいはオレンジ色である)。
【図8】移植されたヒト神経幹細胞がGABA発現神経細胞あるいは稀突起膠細胞に分化するが、星状膠細胞には分化しないことを示したものである(A;BrdU陽性である緑色の供与細胞が赤色のGABAを発現する。緑色と赤色が重ねられた細胞は、黄色あるいはオレンジ色である。B;BrdU陽性である緑色の供与細胞が、赤色の稀突起膠細胞の標識因子APC-CC1[adenomatous polyposis coli clone CC1, Abcam, UK]を発現することを確認、緑色と赤色が重ねられた細胞は、黄色あるいはオレンジ色である、C; BrdU陽性である緑色の供与細胞が、赤色の星状膠細胞の標識因子であるGFAP[glial fibriilary acidic protein, DAKO]を発現しないことを確認)。
【図9】ヒト神経幹細胞を難治性てんかんモデルのキンドリング動物モデルに移植した後、痙攣発作抑制効果をビデオ(図9A)とEEG貯蔵装置(図9B)で分析したものである)Racine等級(1段階; facial movements only, 2段階; facial movements and head nodding, 3段階; facial movements, head nodding, and forelimb clonus, 4段階; facial movements, head nodding, forelimb clonus, and rearing, 5段階; facial movements, head nodding, forelimb clonus, rearing, and falling, 6段階; facial movements, head nodding, forelimb clonus, and a multiple sequence of rearing and falling)によって発作程度を等級で示して、EEG上では、1Hz以上の頻度で発生する棘波(spike)を、発作を示す脳波に定義して、持続時間を示した(Y Kitano, et al., Epilepsia 2005;46:1561, Loscher W, et al., Eur J Phamacol.1989;163;1)。図において星印は、統計的に有意な(p<0.05)区間を示す)。
【図10】APPsw形質転換マウスの脳に移植されたヒト神経幹細胞が側脳室周辺部から大脳皮質、海馬、脳梁に移駐して生着することを示している(免疫蛍光染色上、赤色:human specific nuclear matrix (hNuMA; Calbiochem, Germany), human specific heat shock protein 27 (hHsp27; Stressgen, Ann Arbor, MI)。
【図11】APPsw形質転換マウスにヒト神経幹細胞を移植した群(APP-hNSC)とAPPsw形質転換マウスにH−Hバッファを移植した群(APP-vehicle)において、海馬歯状回部位で微細膠細胞標識因子(緑色:CD11b [AbD Serotec, UK]とF4/80 [AbD Serotec, UK])を使用して免疫蛍光染色を行って、微細膠細胞の数と分布を比較したものであり、神経幹細胞を移植した群が、H−Hバッファを移植した群と比較し、微細膠細胞標識因子を発現する緑色細胞数が有意に減少することを示した。
【図12】APPsw形質転換マウスにヒト神経幹細胞を移植した群(APP-hNSC)、APPsw形質転換マウスにH−Hバッファを移植した群(APP-vehicle)、正常マウスにヒト神経幹細胞を移植した群(Wild-hNSC)、正常マウスにH−Hバッファを移植した群(Wild-vehicle)において、空間知覚学習及び記憶能力行動検査を比較したものであり、前記四つの群とも、検査6日間、毎日特定位置を探して行くのにかかった時間(latency to find hidden platform)に特別な差がなかったが(図12A)、検査7日目に特定な位置を探して行く時間(escape latency)を比較した結果(図12B)、ヒト神経幹細胞を移植したAPPsw形質転換マウスの記憶能力が、H−Hバッファを移植したAPPsw形質転換マウスに比べ、統計的に有意に向上されることが観察された。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明する。
【0048】
但し、下記実施例は、本発明を例示するためのものであって、本発明の内容が下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0049】
(実施例1)
ヒト神経幹細胞の分離及び培養
(1−1)脳組織の分離
セブランス病院IRB(Institution Review Board)の許可をもらった後、保健福祉家族部の生命倫理法案と教育科学技術部細胞応用研究事業団倫理委員会の研究指針及びシンチョンセブランス病院の人体組織研究管理指針にしたがって、妊娠13週に自然流産されて死亡した胎児の死体を、前もって保護者の同意書をもらって獲得した。胎児死体を、滅菌された冷たいH−H緩衝溶液(Hanks' balanced salt solution, 1×[GIBCO]+HEPES, 10 mM [GIBCO] in ddH2O, pH 7.4)で洗浄して、顕微鏡下で中枢神経系のみを解剖した。その後、脳脊髄膜と血管を全て除去して、終脳(telencephalon)部位の組織を別途分離した。
【0050】
分離された脳組織をペトリディッシュ(petri dish)に入れて、約1×1mm大きさに切った。950rpmで3分間遠心分離して、上澄液を除去した。組織を再びH−H緩衝溶液で洗浄し、前記遠心分離を3回繰り返して行った。最後の遠心分離を行った後、上澄液を全て除去し、残った組織に0.1%トリプシン(Gibco)5mlとDNase I(Roche, 1mg/dl)を添加してよく混合した。37℃、5%CO2培養器で30分間反応した。30分後、トリプシン阻害剤(T/I, Soybean, Sigma, 1mg/ml)が含有されているH−H緩衝液5mlを添加した。血清ピペット(serologic pipette, Falcon)で徐々に組織を細かく潰し、単一細胞水準まで解離させた。その後、遠心分離を行って上澄液を除去した後、細胞ペレット(pellet)をH−H緩衝液で洗浄した。そして再び遠心分離をした後、上澄液を除去した。
【0051】
(1−2)神経幹細胞への増殖
前記実施例(1−1)を通じて得られた脳組織の細胞ペレットにN2培地(D-MEM/F-12 [98% volume(v)/volume(v)]+N2 supplement [1% v/v]+Penicillin/Streptomycin [1% v/v];全てGIBCO製品)10mlを添加して徐々に混合した。約4×106−6×106個の細胞を組織培養処理100mmプレート(tissue culture treated 100mm plate, Corning)に移した。神経幹細胞成長因子として20ng/ml bFGF(recombinant human fibroblast growth factor-basic, R & D)、10ng/ml LIF(recombinant human leukemia inhibitory factor, Sigma)及び8μg/mlヘパリン(Sigma)をそれぞれ添加して、左右前後によく振った後、37℃、5%CO2培養器で培養した。24時間後、5mlの培地を捨てて、新しいN2培地5mlを添加した。同時に20ng/ml bFGF、10ng/ml LIF及び8μg/mlヘパリンを添加して、培養し続けた。培地交換は、培地と細胞の状態を観察しながら、3〜4日毎に行った。この際、約半分くらいの培地のみを新しい培地に入れ換えて、成長因子を一緒に添加した。
【0052】
(1−3)継代培養
前記実施例(1−2)を通じて未分化された神経幹細胞が増殖し続けて固まり合って、細胞塊、即ち神経球(neurospheres)を形成しつつ育ち始めると(図1)、普通7〜8日毎に継代培養を行った。継代培養は、次のような方法で行った:細胞培養プレートから培地を全て除去した。細胞に0.05%トリプシン/EDTA(T/E, Gibco)2mlを処理して、37℃、5%CO2培養器で2分30秒間反応した。その後、トリプシンの作用を中断させるためにトリプシン阻害剤(T/I, Soybean, Sigma, 1mg/ml)2.5mlを添加してよく混合した。細胞懸濁液を15mlコニカルチューブ(cornical tube, Falcon)に移した。遠心分離をして上澄液を除去した。細胞をN2培地3mlで再浮遊させた後、神経球が単一細胞に解離されるまで血清ピペットで細かく潰した。細胞数を測定した後、約4×106〜6×106個の細胞を含んでいる細胞懸濁液を、既存の培地が一部含まれている新しい細胞培養プレートに移して、足りないN2培地を添加して、総10mlの培地にした。そして、20ng/ml bFGF、10ng/ml LIF及び8μg/mlヘパリンを添加した後、続けて5%CO2培養器で培養した。
【0053】
(1−4)凍結保管(cryopreservation)
前記実施例(1−3)に記載の方法にしたがって継代培養を続けて、充分な数の神経幹細胞を獲得したら、一部細胞は凍結保管した。凍結保管は、次のような方法で行った:細胞継代培養時のように0.05%トリプシン/EDTAとトリプシン阻害剤を順に処理した神経球を細かく潰して、15mlチューブに全て移した。H−H緩衝液8mlを添加して細胞を洗浄した。遠心分離して上澄液を除去した。細胞ペレットに予め用意した4℃凍結保管溶液(N2培地[40% v/v]+FBS [50% v/v]+DMSO[10% v/v, Sigma])を添加して柔らかく細胞を再浮遊させた。細胞懸濁液を一つの凍結ガラス瓶(freezing vial, NUNC)に1.8mlずつ分株した。普通10mm細胞培養プレート一個に入っている細胞を3〜4個の凍結ガラス瓶に分株した。その後、アイスバケット(ice bucket)に保管した状態で−70℃の冷凍庫に移して、少なくとも24時間後に再び液体窒素タンクに移し、長期保管した。
【0054】
(1−5)凍結保管された細胞の解凍
凍結保管された細胞を解凍させる時は、凍結ガラス瓶を37℃恒温水槽に浸して徐々に振った。細胞が半分くらい解凍された時、細胞懸濁液を、予め37℃に暖まれたN2培地10mlが入っているコニカルチューブに移した。遠心分離を行って上澄液を除去した。細胞ペレットを、N2培地5mlで注意を払って浮遊させて60mm細胞培養プレートに移した。その後、プレートに20ng/ml bFGF、10ng/ml LIF及び8μg/mlヘパリンを添加した後、37℃、5%CO2培養器で培養した。細胞が神経球を形成しながら育つと、再び前記実施例(1−3)に記載の方法によって継代培養をした。通常10日ほど経つと、10mm細胞培養プレートに移せるくらいに育つようになる。
【0055】
(実施例2)
ヒト神経幹細胞のマウス移植及び効果確認
本発明のヒト神経幹細胞が脊髄損傷に対して再生効果を有するかを確認するために、脊髄損傷動物モデルに移植した後、その結果を確認した。脊髄損傷は、NYU(New York University)インパクト(impact)モデルを使用したが、Sprague-Dawley成体マウス(体重300-350gm)を麻酔して、第9〜10番胸椎(thoracic spine)部位に椎弓切除術(laminectomy)を行った後、脊髄の背面(dorsal part)に直径2mm、重量10gの重量錘を25mm高さから落として、中等度挫傷性脊髄損傷(moderate contussive spinal cord injury)を誘発した(Basso et al., J Neurotrauma 1995;12:1, Liu et al., J Neurosci 1997;17:5395)。脊髄損傷誘発7〜8日後、損傷部位に、前記確立されたヒト神経幹細胞10μl(4x104cells/μl)をガラスマイクロピペット(glass micropipette)を利用して移植して、免疫拒否反応を避けるために、細胞移植群及びH−H緩衝液を注射した対照群の全てに、細胞移植前日から細胞移植後12週まで免疫抑制剤のシクロスポリン(cyclosporine, 10mg/kg)を毎日腹腔内注射した。
【0056】
細胞移植2、4、6、12週後、それぞれマウスの脊髄組織を分析したところ、図1から分かるように、細胞移植後12週が経過しても、human-specific nuclei antigen (hNuc; Chemicon, Temecula, CA)免疫染色陽性である赤色の多いヒト神経幹細胞が移植された脊髄損傷部位だけではなく、周囲脊髄部位まで広範囲に移駐して生着されることが観察されて、生着された供与細胞部位に沿って、Neurofilament(NF; Sternberger, USA)免疫染色陽性である緑色の損傷された宿主脊髄神経突起が長く伸展されていることから、供与細胞は、細胞移植部位及び周囲の上下脊髄1〜2segment部位まで広範囲に移駐して生着することが分かり、生着された供与細胞に沿って、損傷あるいは切断された宿主脊髄神経細胞の軸索突起が大きく伸展されており、移植した供与細胞が損傷された宿主神経細胞突起の再生を促進させることを確認することができた。
【0057】
さらに、図2から分かるように、human-specific nuclei antigen(hNuc; Chemicon, Temecula, CA)免疫染色陽性である赤色の移植されたヒト神経幹細胞が脊髄損傷部位でそれぞれ神経細胞(neurons)(図2A)、星状細胞(astrocytes)(図2B)、稀突起膠細胞(oligodendrocytes)(図2C)に分化して、一部細胞は、ヒト未分化神経幹細胞の標識因子であるhNestinを表現する未分化された状態を維持することが分かった。
【0058】
また、脊髄損傷誘発1週後から脊髄損傷部位にヒト神経幹細胞を移植した移植群(マウス20匹)とH−H緩衝液のみを注射した対照群(マウス15匹)で後足の運動機能を評価するために、BBB(Basso-Beattie-Bresnahan) locomotor rating scale (Basso, et al., J Neurotrauma 1995;12:1)を利用したBBB点数を1週間隔で3ヶ月間測定したところ、3ヶ月後、ヒト神経幹細胞移植群の平均BBB点数は、左足は、11.8±0.4点(平均値±標準誤差)、右足は、12.2±0.6点であり、対照群の左足は、9.0±0.4点、右足は、8.6±0.2点であって、神経幹細胞移植群が、対照群に比べて運動機能が統計的に有意に向上されることが分かった(p<0.05)。
【0059】
細胞移植12週後、細胞移植群と対照群において、運動及び感覚機能を客観的に評価するために、運動誘発電位検査(motor evoked potential; MEP)と体性感覚誘発電位検査(somatosensory evoked potential; SSEP)などの電気生理学的検査を行った(Fehlings et al., Electroencephalogr Clin Neurophysiol 1988;69:65)。体性感覚誘発電位検査上、対照群(3匹)において、N1波とP1波の平均潜伏時間(latency)は、それぞれ46.7msec、68.6msecであり、振幅(amplitude)は、それぞれ4.3μv、6.2μvであった。移植群(3匹)において、N1波とP1波の平均潜伏時間は、それぞれ36.6msec、61.8msecであって、振幅は、それぞれ18.9μv、33.1μvであった。したがって、対照群に比べ、移植群において体性感覚誘発電位検査波の潜伏時間は短くなって、振幅は増加し、部分的な感覚機能の好転を示した。運動誘発電位検査上、対照群(3匹)において、N1波とP1波の平均潜伏時間は、それぞれ58.7msec、81.5msecであって、振幅は、それぞれ1.0μv、0.4μvであったが、移植群(3匹)において、N1波とP1波の平均潜伏時間は、それぞれ49.0msec、73.8msecであって、振幅は、それぞれ1.5μv、2.9μvであった。したがって、対照群に比べ、移植群において運動誘発電位検査波の潜伏時間は短くなって、振幅は増加し、運動機能の部分的な好転を示した。
【0060】
ヒト神経幹細胞の脊髄移植後約12週間動物を観察した結果、全ての実験群から、非正常的な行動及び神経学的所見を示すか、腫瘍形成を観察することができなく、細胞組織学的分析を行った全ての動物においても、脊髄損傷部位及びその周辺部位から腫瘍、出血及び異常免疫反応の発生が観察されなかった。
【0061】
(実施例3)
ヒト神経幹細胞の移植及び効果確認
(3−1)移植対象患者
本発明の神経幹細胞が移植された患者は、外傷により頚髄部位(cervical spine)に脊髄損傷を受けて四肢麻痺を示す患者であって、15〜60歳の成人であり、脊髄損傷に対する他の細胞治療を受けた経歴がなくて、脊髄損傷の他に下肢に骨折あるいはその他の連関損傷(associated injury)がなく、幹細胞移植術及び神経機能評価に影響を与えるような重症の内外科的疾患がなくて、腫瘍性脊髄疾患や脊髄損傷による上下肢関節及び筋肉の萎縮がなく、他の進行性/非進行性中枢及び末梢神経系疾患、薬物中毒あるいはその他の精神科的疾患がない患者である。さらに、対象患者は、機械的脊髄神経圧迫があって二次減圧手術が必要であるか、多発性部位に脊髄損傷、その他、主治医判断下で移植術に不適な要因などがある場合は除いた。
【0062】
(3−2)移植前検査
幹細胞移植術前、基本的血液及び化学スクリーニング(screening)診断検査(CBC, urinalysis, BUN/creatinin, liver function testなど)、理学的検査、ASIA (American Spinal Injury Association)2002点数評価と、感覚及び運動神経の選択要素(optional elements)を含んだ神経学的検査(Reference manual for the international standards for neurological classification of spinal cord injury; Braddom RL, Physical medicine & rehabilitation, 3rd edition, Saunders Elesevier, Philadelphia, 2007, pp1295, 1297-1299; Delisa JA, Phisical medicine & rehabilitation, 4th edition, Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, 2005, pp1719-1721)、呼吸能力評価(Kang SW, et al., J Korean Acad Rehab Med 2007;31:346)、脊髄自己共鳴映像(spine MRI)、世界痛み研究学会(IASP)分類法基準による患者の痛み評価(VAS点数)(Ohnhaus EE, et al., Pain 1975;1:379; Wewers ME, et al., Res Nurs Health 1990;13:227)、硬直程度評価(modified Ashworth scale)(Ashworth B, Preliminary trial of carisoprodol in multiple sclerosis, Practitioner 1964;192:540; Braddom RL. Physical medicine & rehabilitation, 3rd edition. Saunders Elesevier, Philadelphia, 2007, pp652)、電気診断検査(両側上下肢に筋電図検査[EMG;electromyography])(Liveson JA, Ma DM, Laboratory reference for clinical neurophysiology, F. A. Davis company, Philadelphia, 1992, pp82-85, 98-100, 133-137, 147-149, 195-200, 204-207, 219-221; Dumitru D, Amato AA, Zwarts M, Electrodiagnostic medicine, 2nd edition, Hanley & Belfus, Philadelphia, 2002, pp200-204, 211-213)と運動誘発電位検査(MEP; motor evoked potential)(Chen R, et al., Clinical Neurophysiology 2008;119:504; Liveson JA, Ma DM, Laboratory reference for clinical neurophysiology. F. A. Davis company, Philadelphia, 1992, pp357-362; Dumitru D, Amato AA, Zwarts M, Electrodiagnostic medicine, 2nd edition, Hanley & Belfus, Philadelphia, 2002, pp419-420)、両側正中神経(median nerve)、尺骨神経(ulnar nerve)、脛骨神経(tibial nerve)、腓骨神経(peroneal nerve)と陰部神経(pudendal nerve)に体性感覚誘発電位検査(SSEP; somatosensory evoked potential)(Liveson JA, Ma DM, Laboratory reference for clinical neurophysiology. F. A. Davis company, Philadelphia, 1992, pp278-297, 301-304; Dumitru D, Amato AA, Zwarts M, Electrodiagnostic medicine, 2nd edition, Hanley & Belfus, Philadelphia, 2002, pp384-395, 400)を全て行った。
【0063】
ASIA2002点数評価時、必ず電気診断検査を一緒に行って、末梢神経損傷を伴ってはいけなく、脊髄分節(spinal segment)脊柱(sacrum)部位(S4-5)に感覚及び運動機能がないながらSSEP検査上でも反応がない場合を完全脊髄損傷(complete spinal cord injury; ASIA-A)と定義して、神経学的検査とASIA 2002点数上、完全脊髄損傷と評価されるが、SSEP検査上、しばらく電磁波の遅延(latency)を示すとしても、電磁波が観察される場合は、不完全脊髄損傷(ASIA-B)と定義したが、運動完全損傷(motor complete injury; ASIA-A; 15名, ASIA-B; 2名)患者17例を確認した(表1参照)。
【0064】
(3−3)ヒト神経幹細胞の移植
本患者らを対象に、脊髄損傷後2〜8週(亜急性脊髄損傷:11例)及び8週以後(慢性脊髄損傷:6例)に全員全身麻酔して、椎弓切除術(laminectomy)を行った後、脊髄硬膜(dura)を開けた。手術顕微鏡下で脊髄MRI所見上確認された脊髄損傷中央部位(epicenter)の真ん中(midline)に23G needleを接近させて脊髄背面(dorsal part)表面から直角で5mm挿入した後、予め確立された同種ヒト神経幹細胞浮遊液0.5ml(1.0x105/μl)を3分間徐々に注射し、2分間待ってから針を抜いて、さらに脊髄損傷中央部位の真ん中から5mm近位部(proximal part)と遠位部(distal part)に、それぞれ上記と同一な方法でヒト神経前駆細胞浮遊液0.25ml(1.0x105/μl)ずつを3分間徐々に注射した。
【0065】
免疫抑制剤であるシクロスポリン(cyclosporine)は、幹細胞移植3日前から投与(3mg/kg/day, #2, po)し始めて、移植後2週までは同じ容量で投与して、その後、2mg/kg/dayに減量して4週間投与して、その後、2週間1mg/kg/dayに減量して投与した後、投薬中断した。
【0066】
(3−4)移植経過及び治療効果の確認
幹細胞移植後、前記実施例(3−2)でのように、次のような検査を行った:3日、1週、2週、4週、6週、2ヶ月、3ヶ月、6ヶ月後に血液及び化学検査を行って、移植後1週から6週までは毎週、その後2ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、12ヶ月に理学的検査、神経学的検査、ASIA 2002点数評価、痛み及び硬直程度評価を行って、脊髄MRI検査は、移植後1週、8週、6ヶ月及び12ヶ月後に行って、EMG、SSEP及びMEP検査は、移植後2ヶ月、6ヶ月及び12ヶ月後に行った。
【0067】
対象患者の全員に同一に、既存の脊髄損傷患者に施す物理治療と作業治療を行って、中枢神経系発達治療(neurodevelopmental treatment)及び起立器(standing flame)、有酸素運動のための電動自転車運動などを行って、患者の麻痺程度によって、座る姿勢における均衡練習及び日常生活動作練習(ADL training)などを行った。患者が移植後運動水準(motor level)の好転を示すと、運動水準(motor level)の好転程度によって筋電図検査を使用したバイオフィードバック(biofeedback)治療を通じて神経筋骨格再教育(neuromuscular reeducation)を行って、下肢のcentral pattern generatorを刺激するために、水治療(pool therapy)を行った。
【0068】
幹細胞移植後、平均11ヶ月以上(12ヶ月以上;13例、10ヶ月;1例、7ヶ月;3例、4ヶ月;1例)観察した結果、表1から分かるように、ASIA−A患者の15例の中、1例はASIA−Bに、2例はASIA−Cに変化して(ASIA−A患者の中、20%からASIA等級変化が起こる、等級変化が起こった患者は、全員亜急性脊髄損傷患者、基準が多様であるが、文献報告(Bedbrook GM, et al., Paraplegia 1982;20:321; Frankel HL, et al., Paraplegia 1969;7:179-92; Marino RJ, et al., Paraplegia 1995;33:510; Maynard FM, et al., J Neurosurg 1979;50:611; Stover SL, et al. J Urol 1986;135:78; Wu L, et al. Arch Phys Med Rehabil 1992;73:40)によると、0〜11%から自然再生によってASIA等級変化が起こる)、ASIA−B患者の2例の中、2例ともASIA−Dに変化(100% ASIA等級変化、等級変化が起こった患者は、全員亜急性脊髄損傷患者、文献報告(Waters RL, et al., Arch Phys Med Rehabil 1994;75:306; Crozier KS, et al., Arch Phys Med Rehabil 1991;72:119; Folman Y, et al., Injury 1989;20:92; Foo D, et al., Surg Neurol 1981;15:389; Katoh S, et al., Paraplegia 1995;33:506)によると、11〜14%から66〜89%まで多様に自然再生が起こる)して、運動完全脊髄損傷患者の中、29%がASIA等級変化を示すほどの臨床的好転を示した。
【0069】
しかしながら、実際ASIA−A患者の3例(表1の04_キムOO、05_パクOO及び10_クァックOO)では、手術所見上、重症の脊髄萎縮を示し、損傷部位が殆ど切られた状態であって、幹細胞の注射時、細胞液が脊髄の外に漏れる水準であった。したがって、このような患者は、実際重症脊髄萎縮部位に幹細胞の移植だけでは臨床的好転を期待し難い実情であって、3例の患者を除く場合、ASIA−A患者の中、神経幹細胞の移植後、25%が好転を示して、運動完全損傷患者の全体では、神経幹細胞移植後、36%が好転を示した。
【0070】
そして、幹細胞の移植後、ASIA 2002評価上、等級変化のなかったASIA−A患者12例の中(亜急性精髄損傷6例、慢性脊髄損傷6例)、3例(全部慢性脊髄損傷)を除いては、全て運動指標点数(AMS; ASIA motor score)が、移植前に比べて5%以上好転を示し、全体ASIA−A患者の75%が、全体運動完全脊髄損傷患者の82%以上(17例の中、14例)が運動機能の好転を示した。ASIA−A患者の中、手術所見上、重症の脊髄萎縮を示し損傷部位が殆ど切られた状態で、幹細胞注射時、細胞液が脊髄の外に漏れる水準であって、実際幹細胞移植後に臨床的好転を期待し難い実情である前記3例(04_キムOO、05_パクOO、10_クァックOO)の患者においても、1例(10_クァックOO患者)を除いては、幹細胞移植後、運動指標点数が5%以上好転を示した。そして、対象患者全体において、幹細胞移植関連副作用(出血、腫瘍、頭痛、硬直、感染症、異常免疫反応、神経学的異常所見、脊髄MRI検査上の異常所見)発生を観察することができなかった。
【0071】
【表1】
【0072】
(実施例4)
ヒト神経幹細胞の低酸素性虚血性脳損傷マウス移植及び効果確認
本発明のヒト神経幹細胞が新生児の低酸素性虚血性脳損傷に対して再生効果を有するかどうかを確認するために、新生児低酸素性−虚血性脳損傷動物モデルに移植した後、その結果を確認した。動物モデルは、生後7日のICRマウスから右側頚動脈(common carotid artery)を露出させて、永久的に結紮し、虚血性脳損傷を誘発した。2時間の回復時間後、温度調節装置と酸素測定器が装着されたチャンバー(chamber)内で、37℃、酸素8%の環境で1時間30分間維持した(Park KI et al., Nat Biotech 2002; 20:1111)。脳損傷を誘発してから1週間後、動物モデルをケタミン(ketamine; 50mg/kg)とロムパン(Rompun; 10mg/kg)で麻酔させて、頭の皮膚を70%アルコールで消毒して切開した後、ガラスマイクロピペット(glass micropipette)を利用してヒト神経幹細胞12μl(1×105cells/μl)をマウスの脳梗塞部位に注射して、一部は、対照群実験のためにH−Hバッファ(buffer)12μlをマウスの脳梗塞部位に注射した。手術部位は、ヨード軟膏で消毒して縫合し、麻酔から醒めるまで37℃のwarm padで安定化させて、移植されたヒト神経幹細胞に対する免疫拒否反応を防ぐために、移植一日前から実験動物が死亡するまで毎日シクロスポリン(cyclosporine; 10mg/kg/day)を腹腔内注射した。ヒト神経幹細胞移植が実験動物に及ぼす影響を評価するために、細胞移植後3週から11週まで2週間隔で動物モデルの神経学的行動検査を行って、11週には、空間知覚学習及び記憶能力を評価するための行動検査を行った。細胞移植後、12週間後に実験マウスの脳組織を得て分析した。
【0073】
細胞移植後、12週間後に実験マウスの脳組織を分析したが、図3から分かるように、hNuMA(human specific nuclear matrix; Calbiochem, Germany)免疫染色陽性である赤色の多いヒト神経幹細胞が移植された脳梗塞症周辺部から大脳皮質(cerebral cortex)、海馬(hippocampus)、脳梁(corpus callosum)、脳白質神経路(white matter tract)、側脳室(lateral ventricle)周辺まで広範囲に移駐して生着されることが分かった。生着された供与細胞がニューロフィラメント(Neurofilament, NF; sternberger, USA)免疫染色陽性の緑色であることから、神経細胞に分化されたことが分かり、ミエリン塩基性蛋白質(Myelin basic protein; MBP; DAKO, Carpinteria, CA)免疫染色陽性の緑色であることから、稀突起膠細胞に分化されたことが分かり、GFAP(Glial fibrillary acidic protein ; DAKO, Carpinteria, CA)免疫染色陽性の緑色であることから、星状細胞に分化されたことを観察した。免疫染色上、赤色と緑色、両方とも陽性である場合、黄色に観察された。
【0074】
移植されたヒト神経幹細胞が神経細胞に分化された場合、どのような神経伝達物質(neurotransmitter)を分泌するかを調べるために、免疫染色を行った。図4から分かるように、hNuMA免疫染色陽性である赤色のヒト神経幹細胞が、グルタメート(Glutamate; Glut; Sigma, Saint Louis, MO)免疫染色陽性の緑色を示し、グルタミン酸作動性ニューロン(glutamatergic neuron)に分化したことが分かり、GABA(γ-Aminobutyric acid; Sigma, Saint Louis, MO)免疫染色陽性の緑色を示し、 GABA作動性ニューロン(GABAergic neuron)に分化したことが分かり、コリンアセチル転移酵素(Choline acetyl transferase; Chat; Chemicon, Temecula, CA)免疫染色陽性の緑色を示し、コリン作動性ニューロン(cholinergic neuron)に分化したことが分かった。また、hNuMA免疫染色陽性である赤色のヒト神経幹細胞がシナプシンI(Synapsin I; Syn-1; Chemicon, Temecula, CA)免疫染色陽性の緑色を示し、ニューロンに分化されたヒト神経幹細胞がシナプスを形成したことが観察された。免疫染色上、赤色と緑色、両方とも陽性である場合、黄色に観察された。
【0075】
細胞移植後3週から11週まで2週間隔で動物モデルの神経学的行動検査では、尾懸垂(tail suspension)、前肢の屈曲(forelimb flexion)、胴体の捻転(torso twisting)、右側反響(right reflection)、環境反応(placing reaction)、足指伸ばし(toe spreading)の六つの項目を評価するが(Brooks and Dunnett, Nat Rev Neurosci 10:519, 2009)、正常的な動きを示す場合は0点であり、非正常的な動きを示す場合、1点を付与する。図5から分かるように、実験動物にヒト神経幹細胞を移植した場合(hNSC;29匹)、移植3週間後、神経学検査点数は、1.14±1.1(平均±標準誤差)、5週間後、0.86±0.99、7週間後、0.83±0.85、9週間後、0.76±0.91、11週間後、0.62±0.73であって、H−Hバッファを移植した対照群の場合(vehicle;33匹)、神経学検査点数は、3週間後、1.39±1.20、5週間後、1.45±1.03、7週間後、1.39±1.00、9週間後、1.42±1.03、11週間後、1.58±1.12であった。
【0076】
したがって、ヒト神経幹細胞を移植した場合、漸次的に神経学的行動検査において病的症状が好転されることが観察されて、H−Hバッファを移植した対照群の場合と比較し、移植5週目から統計的に有意によくなることが観察された(p<0.05)。
【0077】
ヒト神経幹細胞の移植後11週目に空間知覚学習及び記憶能力行動検査(Morris water maze test)を行った(Gerlai, Behav Brain Res 125:269, 2001)。対象マウスを6日間毎日水槽で特定位置を教育させた後、7日目にその位置が属する四分面に留まる時間(goal quadrant spent time)を評価した。6日間対象マウスにおいて、特定位置を学習することにおいて、ヒト神経幹細胞移植群(hNSC)とH−Hバッファ移植群間に差はなかったが、図6から分かるように、7日目、浴槽の特定位置が属する四分面(quadrant)に留まる時間は、ヒト神経幹細胞を移植された場合(hNSC;20匹)は、20.28±7.83秒、H−Hバッファを移植された場合(vehicle;28匹)は、16.69±5.24秒であった。したがって、神経幹細胞を移植される場合が空間記憶能力が向上されて、対照群に比べ、学習された特定位置が属する四分面を記憶して留まる時間が長いことが分かり、二つの群間に統計的に有意な差を示した(p<0.05)。
【0078】
(実施例5)
ヒト神経幹細胞の難治性てんかんモデル(キンドリングモデル)移植及び効果の確認
本発明のヒト神経幹細胞がてんかんに対し発作抑制効果を有するかを確認するために、てんかん動物モデルに移植した後、その結果を確認した。てんかんモデルは、側頭葉てんかんの最も広く使われるモデルはキンドリング(Kindling)モデルとてんかん重積症(Status epilepticus; SE)であって、本実験では、キンドリングモデルを使用した(Morimoto K, et al., Prog Neurobiol 2004;73:1)。スプラグドーリー(Sprague-Dawley)成体マウス(体重300gm)を麻酔して、右側海馬(hippocampus)の背側CA3に陽極電極(bipolar electode)を挿入して、一週間回復させた後、毎日二回ずつ電気刺激(2msec, 50Hz, biphasic rectangular, constant current stimulation, 1 sec duration)を与えながら、ビデオと脳波図(electroencephalogram, EEG)蓄積装置で行動とEEGの変化を観察した。刺激の強度は、EEGで後放電(afterdischarge, AD)の発生が現れる最小の値をAD閾値 と定めて、実験過程で一定に維持した。初期にAD閾値の刺激は、外観上、発作を起こすことはできないが、刺激が続くにつれて発作の程度を示すRacine等級1から6まで順次的に発作が深化されて、Racine等級5以上を連続的に5回すると、キンドリングモデルになったと定義する(Racine RJ, Electroenchepalogr Clin Neurophysiol 1972;32:281, Pinel JP, et al., Exp Neurol 1978;58:335, T. Nishimura, et al., Neuroscience 2005;134:691, McIntyre DC, et al., Epilepsy Res 1993;14:49, Mirnajafi-Zadeh, et al., Brain Res 2000;858:48, Vezzani, et al., Neurosci Lett 1988;87:63)。キンドリングモデルの確立一週間後、刺激部位に前記確立されたヒト神経幹細胞4μl(1 x 105cells/μl)を移植して、免疫拒否反応を避けるために、細胞移植群及びH−H緩衝液を注射した対照群の全てに、細胞移植一日前から細胞移植8週間後まで免疫抑制剤であるシクロスポリン(cyclosporine, 10mg/kg)を毎日腹腔内注射した。
【0079】
細胞移植2、4、8週間後、それぞれマウスの脳組織を分析したが、図7から分かるように、細胞移植後8週間が経過しても、細胞移植前に神経幹細胞に標識したBrdU(5-Bromo-2-deoxyuridine; Roche, USA)免疫染色陽性の緑色を帯びる多い供与細胞が、細胞移植された背側の海馬のCA3だけではなく、痙攣発作の形成に関与する脳構造である海馬の歯状回(dentate gyrus)と海馬采(fimbriae)まで移駐して生着されることを示し、生着された供与細胞の大部分でTuj1(β-tubulin III; Covance, Berkeley, CA)免疫染色陽性の赤色を発現しており、神経細胞への分化を確認した。また、BrdU免疫染色陽性の緑色の移植されたヒト神経幹細胞の多数が、抑制性神経伝達物質であるGABA(γ-aminobutyrate; Sigma, USA)免疫染色陽性の赤色(図8A)を発現しており、発作発生に関与する興奮性神経細胞を抑制することができることを確認した。供与細胞の一部は、稀突起膠細胞(oligdendrocytes)(図8B)に分化した。てんかんモデルでは、一般に痙攣発作の生成と維持に関与すると知られている重症の膠細胞増殖(astrogliosis)を示すが、移植された神経幹細胞は、星状膠細胞(astrocytes)には全く分化せず(図8C)、却って対照群に比べ、移植群で宿主動物の膠細胞増殖が減少することを確認した。
【0080】
難治性てんかんモデルにおいて、ヒト神経幹細胞の移植がてんかん発作に及ぼす影響を研究するために、神経幹細胞を移植した移植群(マウス15匹)とH−H緩衝液のみを注射した対照群(マウス15匹)に、移植後に1週間間隔で刺激を与え、8週間Racine等級による発作程度(図9A)と脳波検査(EEG)上(図9B)の発作持続時間を観察した。幹細胞移植群の発作程度は、移植後にだんだん減少し、移植2、3週間後に統計的に有意に対照群に比べて減少することを示し(図9A)(p<0.05)、発作持続時間は、対照群に比べ、移植群で細胞移植4週間後に統計的に有意に減少することを確認した(図9B)(p<0.05)。
【0081】
(実施例6)
ヒト神経幹細胞のアルツハイマー病モデルに移植及び効果の確認
本発明のヒト神経幹細胞が老人性痴呆の一種であるアルツハイマー病モデルにおいて、治療的有用性があるかを確認するために、アルツハイマー病動物モデルに移植した後、結果を確認した。アルツハイマー病動物モデルは、人間アミロイド前駆蛋白質(amyloid precursor protein, APP)695イソフォーム(isoform)遺伝子のスウェディッシュ(swedish)突然変異(KM595/596NL)を有したマウスであって、ニューロン特異エノラーゼ(neuron specific enolase; NSE)プロモーターによりAPPが発現される形質転換マウスである(Hwang DY et al., Exp Neurol 2004;186:20)。B57BL/6系統マウスと交配させて、出生後3週目に一腹から生まれたマウスの遺伝子型を確定して、ヒトAPPsw(AAPのスウェディッシュ突然変異)を有している異種接合体(heterozygote)遺伝子型マウスを実験群、有していない正常マウスを対照群に使用した。生後13ヶ月のAPPsw形質転換マウスと正常対照群マウスをキシラジン(Xylazine; 0.1mg/10g of mouse)とケタミン(Ketamine; 0.5mg/10g of mouse)で麻酔させて、頭の皮膚を70%アルコールで消毒して切開した後、ステレオタキシック装置(stereotaxic apparatus)に固定された状態で両側側脳室(lateral ventricle)部位(Bregmaから後ろに0.1mm、横に0.9mm)に1mmドリルバー(drill bar)で頭蓋骨(skull bone)に穴を開けた。10μlへミルトン注射器(Hemilton syringe)に、用意されたヒト神経幹細胞またはH−Hバッファを入れて、ステレオタキシック装置に固定させて、脳硬膜(dura mater)から深さ2mmにマイクロインジェクションポンプ(micro injection pump)で1μl/分の速度で徐々に各側脳室に5μl(1×105cells/μlまたはH−Hバッファ)ずつ移植した。移植が終わった後、2分間安定化した後、再び3分間徐々に注射器針を抜いた。手術部位は、ヨード軟膏で消毒して縫合し、麻酔が醒めるまで37℃のwarm padで安定化させて、移植されたヒト神経幹細胞の免疫拒否反応を防ぐために、移植一日前から実験動物を分析するまで、6週間毎日シクロスポリン(10mg/kg/day)を実験群と対照群の全てのマウスの腹腔内注射した。細胞移植後5週目にヒト神経幹細胞移植が実験動物個体の空間知覚学習及び記憶能力に及ぼす行動学的変化を測定して、6週目に実験マウスから脳組織を得て分析した。
【0082】
細胞移植6週間後、分析した脳組織を見ると、図10から分かるように、ヒト神経幹細胞移植後6週間が経過した時、hNuMA(Calbiochem, Germany)、hHsp27(human specific heat shock protein 27; Stressgen, Ann Arbor, MI)免疫染色陽性である赤色の多い神経幹細胞が移植された側脳室周辺部位から大脳皮質(cortex)、海馬(hippocampus)、脳梁(corpus callosum)まで広範囲に移駐して生着されることを観察することができた。
【0083】
アルツハイマー病の病態生理機序で重要な役割をする炎症反応と関連し、APPsw形質転換マウスにヒト神経幹細胞を移植した群(APP-hNSC)とH−Hバッファを移植した群(APP-vehicle)で微細膠細胞の分布と細胞数を比較分析したが、移植群と対照群の海馬歯状回(DG;dentate gyrus)で微細膠細胞標識因子であるCD11b(AbD Serotec, UK)とF4/80(AbD Serotec, UK)を利用した免疫染色検査を行った(図11)。神経幹細胞を移植した移植群でCD11b陽性である緑色の微細膠細胞の数は、48.25±15.08(平均±標準誤差)(n=5)であり、対照群において、CD11b陽性の細胞数は、94.25±24.51(n=6)であった。したがって、移植群において、対照群に比べ、海馬歯状回部位で微細膠細胞の数が統計的に有意に減って(p<0.05)、アルツハイマー病モデルにヒト神経幹細胞を移植する場合、脳から炎症反応を減少させた。
【0084】
APPsw形質転換マウスと対照群の正常マウスに、ヒト神経幹細胞とH−Hバッファを移植した後、5週目に空間知覚学習及び記憶能力行動検査を行った。APPsw形質転換マウスにヒト神経幹細胞を移植した群(APP-hNSC : 32匹)、APPsw形質転換マウスにH−Hバッファを移植した群(APP-vehicle : 24匹)、正常マウスにヒト神経幹細胞を移植した群(Wild-hNSC : 25匹)、正常マウスにH−Hバッファを移植した群(Wild-vehicle : 30匹)を比較分析した。検査6日間水槽で特定位置を教育させた後、検査7日目にその位置を探していく時間を評価した。6日間特定位置を学習するにおいては、前記四つの群に差がなかったが(図12A)、7日目に特定位置を探していく記憶能力においては差を示した(図12B)。7日目に評価された時間(escape latency)は、APP-hNSC群は、10.98±6.49秒(平均±標準誤差)、APP-vehicle群は、18.19±12.96秒、Wild-hNSC群は、9.83±5.24秒、Wild-vehicle群は、10.28±6.26秒であった。したがって、ヒト神経幹細胞を移植したAPPsw形質転換マウスの記憶能力が、H−Hバッファを移植したAPPsw形質転換マウスに比べ、統計的に有意に向上されたことが分かり(p<0.05)、またAPP−vehicle群とWild−vehicle群において、記憶能力に統計的に有意に差があること(p<0.01)から、APPsw形質転換マウスが、正常マウスに比べて記憶能力が有意に劣ることが確認されて、正常マウスでは、神経幹細胞を移植しても記憶能力の増加は示さなかった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
以上のように、本発明のヒト神経幹細胞は、神経系疾患及び損傷、特に現在特別な治療法がなく、永久的神経学的後遺症を残す脊髄損傷、パーキンソン病、脳卒中、筋萎縮性脊髄側索硬化症、運動神経損傷、外傷による末梢神経損傷、虚血性脳損傷、新生児低酸素性虚血性脳損傷、脳性麻痺、てんかん、難治性てんかん、アルツハイマー病、先天性代謝性神経系疾患、外傷性脳損傷(traumatic brain injury)などの治療に有効な効果を有して、本発明のヒト神経幹細胞を含む薬学的組成物は、神経系損傷の治療のための新しい方法を提供する効果がある。
【受託番号】
【0086】
KCTC 11370BP
【特許請求の範囲】
【請求項1】
KCTC11370BPの寄託番号を有するヒト神経幹細胞。
【請求項2】
請求項1に記載のヒト神経幹細胞を含む神経系疾患及び損傷治療用薬学的組成物。
【請求項3】
前記神経系疾患及び損傷は、脊髄損傷、パーキンソン病、脳卒中、筋萎縮性脊髄側索硬化症、運動神経損傷、外傷による末梢神経損傷、虚血性脳損傷、新生児低酸素性虚血性脳損傷、脳性麻痺、てんかん、難治性てんかん、アルツハイマー病、先天性代謝性神経系疾患及び外傷性脳損傷(traumatic brain injury)からなる群から選択された疾患及び損傷であることを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
神経系疾患及び損傷治療剤の製造のための請求項1に記載のヒト神経幹細胞の用途。
【請求項5】
請求項1に記載のヒト神経幹細胞を、これを必要とする個体に有効量で投与することを特徴とする神経系疾患及び損傷の治療方法。
【請求項1】
KCTC11370BPの寄託番号を有するヒト神経幹細胞。
【請求項2】
請求項1に記載のヒト神経幹細胞を含む神経系疾患及び損傷治療用薬学的組成物。
【請求項3】
前記神経系疾患及び損傷は、脊髄損傷、パーキンソン病、脳卒中、筋萎縮性脊髄側索硬化症、運動神経損傷、外傷による末梢神経損傷、虚血性脳損傷、新生児低酸素性虚血性脳損傷、脳性麻痺、てんかん、難治性てんかん、アルツハイマー病、先天性代謝性神経系疾患及び外傷性脳損傷(traumatic brain injury)からなる群から選択された疾患及び損傷であることを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
神経系疾患及び損傷治療剤の製造のための請求項1に記載のヒト神経幹細胞の用途。
【請求項5】
請求項1に記載のヒト神経幹細胞を、これを必要とする個体に有効量で投与することを特徴とする神経系疾患及び損傷の治療方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2011−521639(P2011−521639A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−511526(P2011−511526)
【出願日】平成21年8月12日(2009.8.12)
【国際出願番号】PCT/KR2009/004504
【国際公開番号】WO2010/018996
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(506157422)インダストリー‐アカデミック・コオペレイション・ファウンデイション,ヨンセイ・ユニバーシティ (8)
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRY‐ACADEMIC COOPERATION FOUNDATION, YONSEI UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】YONSEI UNIVERSITY, 134, SHINCHON‐DONG, SEODAEMUN‐GU, SEOUL 120‐749, KOREA
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月12日(2009.8.12)
【国際出願番号】PCT/KR2009/004504
【国際公開番号】WO2010/018996
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(506157422)インダストリー‐アカデミック・コオペレイション・ファウンデイション,ヨンセイ・ユニバーシティ (8)
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRY‐ACADEMIC COOPERATION FOUNDATION, YONSEI UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】YONSEI UNIVERSITY, 134, SHINCHON‐DONG, SEODAEMUN‐GU, SEOUL 120‐749, KOREA
【Fターム(参考)】
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