説明

ヒト神経成長因子に対する高親和性ヒト抗体

5pM以下のKDでヒト神経成長因子(NGF)に特異的に結合し、ニューロトロフィン-3(NT-3)と交差反応せず、かつラットおよびマウスのNGFに結合するよりも約2〜約10倍高いKDでヒトNGFに結合する、ヒト抗体または抗体の抗原結合断片を開示する。抗体は、炎症性疼痛、術後切開疼痛、神経因性疼痛、骨折疼痛、骨粗鬆症性骨折疼痛、ヘルペス後神経痛、骨関節炎、慢性関節リウマチ、癌疼痛、熱傷に起因する疼痛、痛風関節疼痛を含む疼痛、ならびに肝細胞癌、乳癌、および肝硬変などの疾患の処置において有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の領域
本発明は、ヒト神経成長因子(NGF)に特異的に結合するヒト抗体およびヒト抗体の抗原結合断片、ならびにそれら抗体を使用した治療法に関する。
【背景技術】
【0002】
関連分野の記述
神経成長因子(NGF)は、最初に同定されたニューロトロフィンであり、末梢ニューロンおよび中枢ニューロンの両方の発達および生存におけるその役割は、十分に特徴決定されている。NGFは、末梢交感神経ニューロンおよび胚性感覚ニューロンならびに基底前脳コリン作動性ニューロンの発達における重大な生存維持因子であることが示されている(Smeyne et al.(1994)Nature 368:246-249(非特許文献1);Crowley et al.(1994)Cell 76:1001-1011(非特許文献2))。NGFは、感覚ニューロンにおけるニューロペプチドの発現をアップレギュレートし(Lindsay et al.(1989)Nature 337:362-364(非特許文献3))、その活性は、二つの異なる膜結合型受容体、TrkA受容体およびp75共通ニューロトロフィン受容体により媒介される。
【0003】
NGFは、慢性関節リウマチおよびその他の型の関節炎に罹患した患者の滑液において上昇する。NGFアンタゴニストは、神経因性疼痛および慢性炎症性疼痛の動物モデルにおいて、痛覚過敏および異痛症を防止することが示されている。
【0004】
抗NGF抗体は、例えば、WO01/78698(特許文献1)、WO02/096458(特許文献2)、WO2004/032870(特許文献3)、米国特許公開第2005/0074821号(特許文献4)、第2004/0237124号(特許文献5)、および第2004/0219144号(特許文献6)に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO01/78698
【特許文献2】WO02/096458
【特許文献3】WO2004/032870
【特許文献4】米国特許公開第2005/0074821号
【特許文献5】米国特許公開第2004/0237124号
【特許文献6】米国特許公開第2004/0219144号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Smeyne et al.(1994)Nature 368:246-249
【非特許文献2】Crowley et al.(1994)Cell 76:1001-1011
【非特許文献3】Lindsay et al.(1989)Nature 337:362-364
【発明の概要】
【0007】
第一の局面において、本発明は、約5pM以下のKDでヒト神経成長因子(NGF)に特異的に結合し、ニューロトロフィン-3(NT-3)と交差反応しない、完全ヒト抗体およびその抗原結合断片を提供する。好ましい態様において、抗NGF抗体またはその断片は、1.0pM以下のKDでヒトNGFに結合する。これらの抗体は、高い親和性、高い特異性でのNGFとの結合、およびNGF活性を中和する能力を特徴とする。好ましい態様において、抗体またはその断片は、ラットNGFおよび/またはマウスNGFより約2〜10倍高く、ヒトNGFに結合する。
【0008】
抗体は、全長(例えば、IgG1もしくはIgG4抗体)であってもよいし、または抗原結合部分(例えば、Fab、F(ab')2、もしくはscFv断片)のみを含んでいてもよく、機能性をもたらすため、例えば、残留エフェクター機能を排除するため修飾されていてもよい(残留エフェクター機能を排除するGlu(Reddy et al.(2000)J.Immunol.164:1925-1933)。
【0009】
一つの態様において、本発明は、SEQ ID NO:4、20、36、52、68、84、100、104、108、112、116、132、136、140、156、160、176、180、184、200、204、208、224、228、232、236、240、256、260、264、280、284、288、304、308、312、328、332、336、352、356、360、376、380、384、400、404、420、424、440、456、460、464、480、484、488、504、508、512、528、および532の群より選択される重鎖可変領域(HCVR)、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するそれらの実質的に類似した配列を含む抗体または抗体の抗原結合断片を含み;より好ましくは、抗体またはその断片は、SEQ ID NO:108、100、または84に示されるHCVRを含み;さらに好ましくは、HCVRは、SEQ ID NO:108に示されるアミノ酸配列を含む。
【0010】
一つの態様において、抗体またはその断片は、SEQ ID NO:12、28、44、60、76、92、102、106、110、114、124、134、138、148、158、168、178、182、192、202、206、216、226、230、234、238、248、258、262、272、282、286、296、306、310、320、330、334、344、354、358、368、378、382、392、402、412、422、432、448、458、462、472、482、486、496、506、510、520、530、および534の群より選択される軽鎖可変領域(LCVR)、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するそれらの実質的に類似した配列をさらに含む。好ましい態様において、LCVRは、SEQ ID NO:110、102、または92であり;さらに好ましくは、LCVRは、SEQ ID NO:110に示されるアミノ酸配列である。
【0011】
特定の態様において、抗体またはその断片は、SEQ ID NO:4/12、20/28、36/44、52/60、68/76、84/92、100/102、104/106、108/110、112/114、116/124、132/134、136/138、140/148、156/158、160/168、176/178、180/182、184/192、200/202、204/206、208/216、224/226、228/230、232/234、236/238、240/248、256/258、260/262、264/272、280/282、284/286、288/296、304/306、308/310、312/320、328/330、332/334、336/344、352/354、356/358、360/368、376/378、380/382、384/392、400/402、404/412、420/422、424/432、440/448、456/458、460/462、464/472、480/482、484/486、488/496、504/506、508/510、512/520、528/530、および532/534の群より選択されるHCVRおよびLCVR(HCVR/LCVR)の配列対を含む。好ましい態様において、HCVR/LCVR対は、SEQ ID NO:108/110、100/102、または84/92のうちの一つであり;より好ましくは、SEQ ID NO:108/110である。
【0012】
第二の局面において、本発明は、SEQ ID NO:10、26、42、58、74、90、122、146、166、190、214、246、270、294、318、342、366、390、410、430、446、470、494、および518より選択される重鎖CDR3(HCDR3)ドメイン、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するそれらの実質的に類似した配列;ならびに18、34、50、66、82、98、130、154、174、198、222、254、278、302、326、350、374、398、418、438、454、478、502、および526より選択される軽鎖CDR3(LCDR3)ドメイン、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するそれらの実質的に類似した配列を含む、抗体または抗体の抗原結合断片を特色とする。好ましい態様において、HCDR3/LCDR3対はSEQ ID NO:90および98;214および222;410および418;430および438;または446および454のうちの一つであり;好ましくは、SEQ ID NO:90および98である。
【0013】
さらなる態様において、本発明は、SEQ ID NO:6、22、38、54、70、86、118、142、162、186、210、242、266、290、314、338、362、386、406、426、442、466、490、および514より選択される重鎖CDR1(HCDR1)ドメイン、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するそれらの実質的に類似した配列;SEQ ID NO:8、24、40、56、72、88、120、144、164、188、212、244、268、292、316、340、364、388、408、428、444、468、492、および516より選択される重鎖CDR2(HCDR2)ドメイン、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するそれらの実質的に類似した配列;SEQ ID NO:14、30、46、62、78、94、126、150、170、194、218、250、274、298、322、346、370、394、414、434、450、474、498、および522より選択される軽鎖CDR1(LCDR1)ドメイン、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するそれらの実質的に類似した配列;ならびにSEQ ID NO:16、32、48、64、80、96、128、152、172、196、220、252、276、300、324、348、372、396、416、436、452、476、500、および524より選択される軽鎖CDR2(LCDR2)ドメイン、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するそれらの実質的に類似した配列をさらに含む、抗体またはその断片を含む。好ましい態様において、重鎖CDR配列および軽鎖CDR配列は、SEQ ID NO:86、88、90、94、96、および98;210、212、214、218、220、および222;406、408、410、414、416、および418;442、444、446、450、452、および454;ならびに426、428、430、434、436、および438であり;さらに好ましくは、CDR配列は、SEQ ID NO:86、88、90、94、96、および98である。
【0014】
第三の局面において、本発明は、抗NGF抗体またはその断片をコードする核酸分子を提供する。本発明の核酸を保持している組換え発現ベクター、およびそのようなベクターが導入された宿主細胞も、本発明に包含され、抗体の産生を許容する条件の下で宿主細胞を培養し、産生された抗体を回収することにより抗体を作製する方法も、同様に包含される。
【0015】
一つの態様において、本発明は、SEQ ID NO:3、19、35、51、67、83、99、103、107、111、115、131、135、139、155、159、175、179、183、199、203、207、223、227、231、235、239、255、259、263、279、283、287、303、307、311、327、331、335、351、355、359、375、379、383、399、403、419、423、439、455、459、463、479、483、487、503、507、511、527、および531より選択される核酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の相同性を有するそれらの実質的に類似した配列によってコードされたHCVRを含む、抗体またはその断片を提供し;より好ましくは、HCVRは、SEQ ID NO:107または99によってコードされる。
【0016】
一つの態様において、抗体またはその断片は、SEQ ID NO:11、27、43、59、75、91、101、105、109、113、123、133、137、147、157、167、177、181、191、201、205、215、225、229、233、237、247、257、261、271、281、285、295、305、309、319、329、333、343、353、357、367、377、381、391、401、411、421、431、447、457、461、471、481、485、495、505、509、519、529、および533より選択される核酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の相同性を有するそれらの実質的に類似した配列によってコードされたLCVRをさらに含み;好ましくは、LCVRは、SEQ ID NO:109または101によってコードされる。
【0017】
一つの態様において、本発明は、SEQ ID NO:9、25、41、57、73、89、121、145、165、189、213、245、269、293、317、341、365、389、409、429、445、469、493、および517より選択されるヌクレオチド配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の相同性を有するそれらの実質的に類似した配列によってコードされたHCDR3ドメイン;ならびにSEQ ID NO:17、33、49、65、81、97、129、153、173、197、221、253、277、301、325、349、373、397、417、437、453、477、501、および525より選択されるヌクレオチド配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の相同性を有するそれらの実質的に類似した配列によってコードされたLCDR3ドメインを含む、抗体または抗体の抗原結合断片を特色とする。好ましい態様において、HCDR3配列およびLCDR3配列は、それぞれ、SEQ ID NO:89および97によってコードされる。
【0018】
さらなる態様において、抗体またはその断片は、SEQ ID NO:5、21、37、53、69、85、117、141、161、185、209、241、265、289、313、337、361、385、405、425、441、465、489、および513より選択されるヌクレオチド配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の相同性を有するそれらの実質的に同一の配列によってコードされたHCDR1ドメイン;SEQ ID NO:7、23、39、55、71、87、119、143、163、187、211、243、267、291、315、339、363、387、407、427、443、467、491、および515より選択されるヌクレオチド配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の相同性を有するそれらの実質的に同一の配列によってコードされたHCDR2ドメイン;SEQ ID NO:13、29、45、61、77、93、125、149、169、193、217、249、273、297、321、345、369、393、413、433、449、473、497、および521より選択されるヌクレオチド配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の相同性を有するそれらの実質的に同一の配列によってコードされたLCDR1ドメイン;ならびに、SEQ ID NO:15、31、47、63、79、95、127、151、171、195、219、251、275、299、323、347、371、395、415、435、451、475、499、および523より選択されるヌクレオチド配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の相同性を有するそれらの実質的に同一の配列によってコードされたLCDR2ドメインをさらに含む。好ましい態様において、抗体またはその断片は、SEQ ID NO:85、87、および89によってコードされた重鎖CDR配列;ならびにSEQ ID NO:93、95、および97によってコードされた軽鎖CDR配列を含む。
【0019】
第四の局面において、本発明は、HCDR3およびLCDR3を含む、ヒトNGFに特異的に結合する単離された抗体または抗体の抗原結合断片を特徴とし、ここで、HCDR3は、式X1-X2-X3-X4-X5-X6-X7-X8-X9-X10-X11-X12-X13-X14-X15-X16-X17-X18(SEQ ID NO:537)[式中、X1はAlaまたはSerであり、X2はThrまたはLysであり、X3はGluまたはIleであり、X4はPheまたはGlyであり、X5はValまたはGlyであり、X6はValまたはTrpであり、X7はValまたはPheであり、X8はThrまたはGlyであり、X9はAsnまたはLysであり、X10はPheまたはLeuであり、X11はAspまたはPheであり、X12はAsnまたはSerであり、X13はSerであるかまたは存在せず、X14はTyrであるかまたは存在せず、X15はGlyであるかまたは存在せず、X16はMetであるかまたは存在せず、X17はAspであるかまたは存在せず、かつX18はValであるかまたは存在しない]のアミノ酸配列を含み;かつLCDR3は、式X1-X2-X3-X4-X5-X6-X7-X8-X9(SEQ ID NO:540)[式中、X1はGlnであり、X2はGlnであり、X3はTyrであり、X4はAsnであり、X5はArgまたはAsnであり、X6はTyrまたはTrpであり、X7はProであり、X8はTyrまたはTrpであり、かつX9はThrである]のアミノ酸配列を含む。
【0020】
さらに具体的な態様において、抗体またはその断片は、式X1-X2-X3-X4-X5-X6-X7-X8(SEQ ID NO:535)[式中、X1はGlyであり、X2はPheであり、X3はThrまたはAsnであり、X4はPheまたはLeuであり、X5はThrまたはAspであり、X6はAspまたはGluであり、X7はTyrまたはLeuであり、かつX8はSerまたはAlaである]のHCDR1配列;式X1-X2-X3-X4-X5-X6-X7-X8(SEQ ID NO:536)[式中、X1はIleまたはPheであり、X2はAspまたはSerであり、X3はProまたはTrpであり、X4はGluまたはAsnであり、X5はAspまたはSerであり、X6はGlyであり、X7はThr、Glu、またはSerであり、X8はThrまたはIleである]のHCDR2配列;式X1-X2-X3-X4-X5-X6-X7-X8-X9-X10-X11-X12-X13-X14-X15-X16-X17-X18(SEQ ID NO:537)[式中、X1はAlaまたはSerであり、X2はThrまたはLysであり、X3はGluまたはIleであり、X4はPheまたはGlyであり、X5はValまたはGlyであり、X6はValまたはTrpであり、X7はValまたはPheであり、X8はThrまたはGlyであり、X9はAsnまたはLysであり、X10はPheまたはLeuであり、X11はAspまたはPheであり、X12はAsnまたはSerであり、X13はSerであるかまたは存在せず、X14はTyrであるかまたは存在せず、X15はGlyであるかまたは存在せず、X16はMetであるかまたは存在せず、X17はAspであるかまたは存在せず、かつX18はValであるかまたは存在しない]のHCDR3配列;式X1-X2-X3-X4-X5-X6(SEQ ID NO:538)[式中、X1はGlnまたはArgであり、X2はAla、Ser、またはThrであり、X3はValまたはIleであり、X4はArgまたはThrであり、X5はAsn、Phe、またはTyrであり、かつX6はAspまたはAsnである]のLCDR1配列;式X1-X2-X3(SEQ ID NO:539)[式中、X1はGlyまたはAlaであり、X2はAlaであり、かつX3はSerまたはPheである]のLCDR2配列;および式X1-X2-X3-X4-X5-X6-X7-X8-X9(SEQ ID NO:540)[式中、X1はGlnであり、X2はGlnであり、X3はTyrであり、X4はAsnであり、X5はArgまたはAsnであり、X6はTyrまたはTrpであり、X7はProであり、X8はTyrまたはTrpであり、かつX9はThrである]のLCDR3配列をさらに含む。
【0021】
第五の局面において、本発明は、インビトロPC12細胞アッセイ(下記)で測定される場合に約10nM未満のIC50でNGF活性を阻止する完全ヒト抗体または抗体断片を特色とする。好ましい態様において、本発明の抗体は、約500pM以下のIC50;さらに好ましくは、約100pM以下;約50pM以下;または約25pM以下のIC50を示す。
【0022】
一つの態様において、本発明は、表面プラズモン共鳴(BIACORE(商標))によって決定されるように、約500pM未満、好ましくは約300pM未満、さらに好ましくは約100pM未満、約50pM未満、約20pM未満;約10pM未満、約5pM未満、または約1pM未満のKDでNGFに結合する単離されたヒト抗体またはその抗原結合部分を提供する。好ましい態様において、本発明の抗NGFヒト抗体または抗体断片は、約0.5pM以下のKDでヒトNGFに結合する。好ましい態様において、抗体またはその断片は、ラットNGFより1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、または10倍高く、マウスNGFより1.5倍、2倍、2.5倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、または10倍高い親和性で、ヒトNGFに結合する。
【0023】
好ましい態様において、抗体またはその断片は、ヒトNGFに対する高い特異性を示し、例えば、近縁のニューロトロフィン-3(NT-3)と交差反応しない。従って、好ましい態様において、高親和性かつ高選択性の抗体またはその断片は、表面プラズモン共鳴によって測定される場合に1.0pM以下のヒトNGFに対するKDを示し、NGFが受容体TrkAおよびp75に結合するのを阻害し、かつヒトNT-3と交差反応しない。NT-3は、例えば、筋肉運動ニューロン協調のような生理学的過程において重大な役割を果たしており、従って、NT-3と交差反応しない抗体または抗体断片は、先行技術の抗体と比べて予想外の臨床的および治療的な利点を提供する。NT-3は、神経因性疼痛のCCIモデルにおいて熱痛覚過敏の発症を防止することが示されている(例えば、Wilson-Gerwing et al.(2005)J Neuroscience 25:758-767を参照のこと)。さらに最近、外因性NT-3は、神経因性疼痛の発生において役割を果たしていると考えられる2種のナトリウムチャンネルの発現を有意に減少させることが示された(Wilson-Gerwing & Verge(2006)Neuroscience 141:2075-2085)。これらのデータは、神経因性疼痛におけるNT-3の有益な役割を示唆している。
【0024】
本発明は、修飾されたグリコシル化パターンを有する抗NGF抗体を包含する。いくつかの適用において、望ましくないグリコシル化部位を除去する修飾が有用であり得る。または、例えば、抗体依存性細胞障害性(ADCC)機能を増加させるため、オリゴ糖鎖上に存在するフコースモエティを欠く抗体(Shield et al.(2002)JBC 277:26733を参照のこと)。その他の適用において、補体依存性細胞障害性(CDC)を修飾するため、ガラクトシル化の修飾がなされてもよい。
【0025】
第六の局面において、本発明は、NGFに特異的に結合する組換えヒト抗体またはその断片と許容される担体とを含む組成物を特色とする。関連する局面において、本発明は、NGF阻害剤と第二の治療剤との組み合わせである組成物を特色とする。一つの態様において、NGF阻害剤は、抗体またはその断片である。好ましい態様において、第二の治療剤は、NGF阻害剤と有利に組み合わせられる任意の適当な治療剤である。
【0026】
第七の局面において、本発明は、本発明の抗NGF抗体または抗体の抗原結合部分を使用して、ヒトNGF活性を阻害する方法を特色とする。処置される障害は、NGF活性の除去、阻害、または低下によって改善されるか、寛解されるか、阻害されるか、または防止される任意の疾患または状態である。より具体的には、本発明は、本発明の抗体または抗体断片のようなNGF阻害剤を、単一薬剤として、または第二の治療剤と共に、投与することにより、炎症性疼痛、術後切開疼痛、複合性局所疼痛症候群、原発性または転移性の骨癌疼痛、神経因性疼痛、骨折疼痛、骨粗鬆症性骨折疼痛、熱傷に起因する疼痛、骨粗鬆症、痛風関節疼痛、鎌状赤血球クリーゼに関連した疼痛、およびその他の侵害受容性疼痛、ならびに肝細胞癌、乳癌、および肝硬変のようなNGFにより媒介される疾患または状態を処置する方法を提供する。神経因性疼痛の好ましい態様において、好ましくは、関連三叉神経痛、ヘルペス後神経痛、幻肢痛、線維筋痛症、反射性交感神経性ジストロフィー、および神経原性疼痛の状態が処置される。第二の治療剤は、インターロイキン-1(IL-1)阻害剤、例えば、米国特許第6,927,044号に記載されたもののような融合タンパク質;またはガバペンチン、プレガバリン、トピラマートのような抗てんかん薬;またはアミトリプチリンのような三環系抗うつ薬;セレコキシブ;IL-1、IL-6、IL-6R、IL-18、またはIL-18Rに対するアンタゴニストタンパク質または抗体のようなサイトカインアンタゴニストであり得る。一つの態様において、第二の治療剤は、別のニューロトロフィン、例えば、NT-3である。
【0027】
第八の局面において、本発明は、ヒトにおけるNGFにより媒介される疾患または状態を和らげるためまたは阻害するために使用するための上記のような抗体または抗原結合断片を提供する。NGFにより媒介される状態または疾患は、有意な協調運動障害を伴うことなく阻害され、炎症性疼痛、術後切開疼痛、神経因性疼痛、骨折疼痛、痛風関節疼痛、ヘルペス後神経痛、熱傷に起因する疼痛、癌疼痛、骨関節炎もしくは慢性関節リウマチの疼痛、座骨神経痛、鎌状赤血球クリーゼに関連した疼痛、またはヘルペス後神経痛のうちの一つである。
【0028】
関連する局面において、本発明は、ヒトにおけるNGFにより媒介される疾患または状態を和らげるためまたは阻害するために使用するための薬の製造における、上記のような抗体または抗体の抗原結合断片の使用を提供する。
【0029】
その他の目的および利点は、以下の詳細な説明を参照することにより明白になるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0030】
詳細な説明
本発明の方法を説明する前に、本発明は、記載された特定の方法および実験条件に限定されず、従って、方法および条件は変動し得ることが理解されるべきである。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるため、本明細書において使用される用語法は、特定の態様を記載することのみを目的としており、限定するためのものではないことも理解されるべきである。
【0031】
別途定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同一の意味を有する。本明細書に記載されたものに類似しているかまたは等価である任意の方法および材料が、本発明の実施または試験において使用され得るが、好ましい方法および材料がここに記載される。
【0032】
定義
「ヒト神経成長因子」または「NGF」という用語は、本明細書において使用されるように、SEQ ID NO:1に示される核酸配列およびSEQ ID NO:2のアミノ酸配列を有するヒトNGF、または生物学的活性を有するその断片をさす。
【0033】
「抗体」という用語は、本明細書において使用されるように、ジスルフィド結合によって相互に接続された4本のポリペプチド鎖、2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖から構成された免疫グロブリン分子をさすものとする。各重鎖は、重鎖可変領域(HCVRまたはVHと本明細書において略記される)および重鎖定常領域から構成される。重鎖定常領域は、3個のドメイン、CH1、CH2、およびCH3から構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(LCVRまたはVLと本明細書において略記される)および軽鎖定常領域から構成される。軽鎖定常領域は、1個のドメインCLから構成される。VH領域およびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる比較的保存された領域が散在している、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性領域にさらに細分され得る。VHおよびVLは、各々、以下の順にアミノ末端からカルボキシ末端へと配置された3個のCDRおよび4個のFRから構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。
【0034】
抗体の「抗原結合部分」(または単に「抗体部分」または「抗体断片」)という用語は、本明細書において使用されるように、抗原(例えば、NGF)に特異的に結合する能力を保持している一つまたは複数の抗体の断片をさす。抗体の抗原結合機能は、全長抗体の断片によって達成され得ることが、示されている。抗体の「抗原結合部分」という用語に包含される結合断片の例には、(i)VLドメイン、VHドメイン、CLドメイン、およびCH1ドメインからなる一価の断片であるFab断片;(ii)ヒンジ領域のジスルフィド架橋によって連結された2個のFab断片を含む二価の断片であるF(ab')2断片;(iii)VHドメインおよびCH1ドメインからなるFd断片;(iv)抗体の単一アームのVLドメインおよびVHドメインからなるFv断片、(v)VHドメインからなるdAb断片(Ward et al.(1989)Nature 241:544-546);ならびに(vi)単離された相補性決定領域(CDR)が含まれる。さらに、Fv断の2個のドメインVLおよびVHは、別々の遺伝子によってコードされるが、VL領域およびVH領域が対合して一価の分子を形成した単一のタンパク質鎖として作成することを可能にする合成リンカーによって、組み換え法を使用して、それらを接合することができる(単鎖Fv(scFv)として公知である;例えば、Bird et al.(1988)Science 242:423-426;およびHuston et al.(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883を参照のこと)。そのような単鎖抗体も、抗体の「抗原結合部分」という用語に包含されるものとする。ダイアボディ(diabody)のようなその他の型の単鎖抗体も包含される。ダイアボディとは、VHドメインおよびVLドメインが単一ポリペプチド鎖上に発現している二価の二重特異性抗体である。同一鎖上の2個のドメイン間の対合を可能にしない短いリンカーを使用しているため、ドメインは別の鎖の相補ドメインと対合せざるを得ず、二つの抗原結合部位が作出される(例えば、Holliger et al.(1993)Proc.Natl.Acad Sci.USA 90:6444-6448;Poljak et al.(1994)Structure 2:1121-1123を参照のこと)。
【0035】
さらに、抗体またはその抗原結合部分は、抗体または抗体部分の、一つまたは複数のその他のタンパク質またはペプチドとの共有結合性または非共有結合性の会合によって形成された、比較的大きい免疫接着(immunoadhesion)分子の一部分であるかもしれない。そのような免疫接着分子の例には、四量体scFv分子を作成するためのストレプトアビジンコア領域の使用(Kipriyanov et al.(1995)Human Antibodies and Hybridomas 6:93-101)、および二価のビオチン化されたscFv分子を作成するための、システイン残基、マーカーペプチド、およびC末端ポリヒスチジンタグの使用(Kipriyanov et al.(1994)Mol.Immunol.31:1047-1058)が含まれる。Fab断片およびF(ab')2断片のような抗体部分は、完全抗体の、それぞれ、パパイン消化またはペプシン消化のような従来の技術を使用して、完全抗体から調製され得る。さらに、抗体、抗体部分、および免疫接着分子は、本明細書に記載されるような標準的な組み換えDNA技術を使用して入手され得る。
【0036】
「ヒト抗体」という用語は、本明細書において使用されるように、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体を含むものとする。本発明のヒト抗体は、例えば、CDR、特に、CDR3に、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロのランダム変異誘発もしくは部位特異的変異誘発、またはインビボの体細胞変異誘発により導入された変異)を含んでいてもよい。しかしながら、「ヒト抗体」という用語は、本明細書において使用されるように、マウスのような別の哺乳動物種の生殖系列に由来するCDR配列が、ヒトフレームワーク配列へ接ぎ合わされた抗体は含まないものとする。
【0037】
「組換えヒト抗体」という用語は、本明細書において使用されるように、(以下にさらに記載される)宿主細胞にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを使用して発現された抗体、(以下にさらに記載される)組換えコンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離された抗体、ヒト免疫グロブリン遺伝子に関してトランスジェニックの動物(例えば、マウス)から単離された抗体(例えば、Taylor et al.(1992)Nucl.Acids Res.20:6287-6295を参照のこと)、またはヒト免疫グロブリン遺伝子配列のその他のDNA配列へのスプライシングを含むその他の任意の手段によって調製、発現、作出、もしくは単離された抗体のような、組み換え手段によって調製、発現、作出、または単離された全てのヒト抗体を含むものとする。そのような組換えヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する。しかしながら、ある種の態様において、そのような組換えヒト抗体は、インビトロ変異誘発(または、ヒトIg配列の関してトランスジェニックの動物が使用される場合には、インビボ体細胞変異誘発)に供され、従って、組換え抗体のVH領域およびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列VH配列およびVL配列に由来し、関連しているが、インビボのヒト抗体生殖系列レパートリー内に天然には存在しないかもしれない配列である。
【0038】
「単離された抗体」とは、本明細書において使用されるように、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体をさすものとする(例えば、NGFに特異的に結合する単離された抗体は、NGF以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含まない)。しかしながら、NGFに特異的に結合する単離された抗体は、他の種に由来するNGF分子のような他の抗原との交差反応性を有するかもしれない。さらに、単離された抗体は、他の細胞材料および/または化学物質を実質的に含まないかもしれない。
【0039】
「中和抗体」(または「NGF活性を中和する抗体」)とは、本明細書において使用されるように、NGFと結合することにより、NGFの生物学的活性の阻害をもたらす抗体をさすものとする。このNGFの生物学的活性の阻害は、NGFにより誘導される細胞活性化およびNGFのNGF受容体への結合のような、NGF生物学的活性のうちの一つまたは複数の指標を測定することにより査定され得る。NGF生物学的活性のこれらの指標は、当技術分野において公知のいくつかの標準的なインビトロまたはインビボのアッセイのうちの一つまたは複数により査定され得る(下記例を参照のこと)。
【0040】
「CDR」または相補性決定領域とは、「フレームワーク領域」と呼ばれる比較的保存された領域が散在している超可変性領域である。CDRの群は、アミノ酸コンセンサス配列として定義され得る。
【0041】
「表面プラズモン共鳴」という用語は、本明細書において使用されるように、例えば、BIACORE(商標)システム(Pharmacia Biosensor AB,Uppsala,Sweden and Piscataway,N.J.)を使用した、バイオセンサーマトリックス内のタンパク質濃度の改変の検出による、リアルタイムの生体分子特異的相互作用の分析を可能にする光学的現象をさす。
【0042】
「KD」という用語は、本明細書において使用されるように、特定の抗体-抗原相互作用の平衡解離定数をさすものとする。
【0043】
NGFに結合する抗体または抗体部分(例えば、VH、VL、CDR3)をコードする核酸に関して本明細書において使用されるような「単離された核酸分子」という用語は、抗体または抗体部分をコードするヌクレオチド配列が、ヒトゲノムDNAにおいてその核酸に天然に隣接しているかもしれない、NGF以外の抗原に結合する抗体または抗体部分をコードする他のヌクレオチド配列を含まない、核酸分子をさすものとする。従って、例えば、抗NGF抗体のVH領域をコードする本発明の単離された核酸は、ヒトNGF以外の抗原に結合する他のVH領域をコードする他の配列を含有していない。
【0044】
「エピトープ」という用語には、免疫グロブリンまたはT細胞受容体との特異的結合能を有する決定基、好ましくは、ポリペプチド決定基が含まれる。ある種の態様において、エピトープ決定基は、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリル基、またはスルホニル基のような分子の化学的活性を有する表面配置を含み、ある種の態様において、特異的な三次元構造的特徴および/または特異的な電荷特徴を有し得る。エピトープは、抗体が結合する抗原の領域である。ある種の態様において、抗体がタンパク質および/または高分子の複雑な混合物の中の標的抗原を優先的に認識する場合、その抗体はその抗原に特異的に結合すると言われる。好ましい態様において、平衡解離定数が10-8M以下である場合、より好ましくは平衡解離定数が10-9M以下である場合、最も好ましくは解離定数が10-10M以下である場合、その抗体はその抗原に特異的に結合すると言われる。
【0045】
核酸またはその断片に言及する場合、「実質的同一性」または「実質的に同一な」という用語は、適切なヌクレオチドの挿入または欠失を用いて、別の核酸(またはその相補鎖)と最適に整列化された時、以下に記述されるようなFASTA、BLAST、またはGAPのような配列同一性の周知のアルゴリズムによって測定される場合にヌクレオチド塩基の少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95%、96%、97%、98%、または99%にヌクレオチド配列同一性が存在することを示す。
【0046】
ポリペプチドに適用されるように、「実質的類似性」または「実質的に類似した」という用語は、二つのペプチド配列が、デフォルトギャップウェイトを使用してプログラムGAPまたはBESTFIT等によって、最適に整列化された時、少なくとも90%の配列同一性、さらに好ましくは少なくとも95%、98%、または99%の配列同一性を共有していることを意味する。好ましくは、同一でない残基位置は保存的アミノ酸置換によって異なっている。「保存的アミノ酸置換」とは、あるアミノ酸残基が、類似した化学的特性(例えば、電荷または疎水性)を有する側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基に置換されるものである。一般に、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能的特性を実質的に変化させないであろう。二つ以上のアミノ酸配列が保存的置換によって相互に異なっている場合、類似性の率または程度は、置換の保存的な性質について補正するため上方調整され得る。この調整を行うための手段は、当業者に周知である。例えば、Pearson(1994)Methods Mol.Biol.24:307-331を参照のこと。類似した化学的特性を有する側鎖を有するアミノ酸の群の例には、(1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシン;(2)脂肪族ヒドロキシル側鎖:セリンおよびトレオニン;(3)アミド含有側鎖:アスパラギンおよびグルタミン;(4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン;(5)塩基性側鎖:リジン、アルギニン、およびヒスチジン;(6)酸性側鎖:アスパラギン酸およびグルタミン酸、ならびに(7)硫黄含有側鎖:システインおよびメチオニンが含まれる。好ましい保存的アミノ酸置換の群には:バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、グルタミン酸-アスパラギン酸、およびアスパラギン-グルタミンが含まれる。または、保存的交換は、Gonnet et al.(1992)Science 256:1443 45に開示されたPAM250対数尤度マトリクスにおいて正の値を有する変化である。「中程度に保存的な」交換とは、PAM250対数尤度マトリックスにおいて負でない値を有する変化である。
【0047】
ポリペプチドの配列類似性は、典型的には、配列分析ソフトウェアを使用して測定される。タンパク質分析ソフトウェアは、保存的アミノ酸置換を含む様々な置換、欠失、およびその他の修飾に割り当てられた類似性の尺度を使用して、類似配列をマッチさせる。例えば、GCGソフトウェアは、異なる生物種に由来する相同ポリペプチドのような近縁ポリペプチドの間、または野生型タンパク質とそのムテインとの間の配列相同性または配列同一性を決定するためのデフォルトパラメータを用いて使用され得るGAPおよびBESTFITのようなプログラムを含有している。例えば、GCGバージョン6.1を参照のこと。ポリペプチド配列は、デフォルトまたは推奨されたパラメータを用いてFASTAを使用して比較されてもよい;GCGバージョン6.1の中のプログラム。FASTA(例えば、FASTA2およびFASTA3)は、クエリー配列とサーチ配列との間の最適なオーバーラップの領域のアラインメントおよび配列同一率を提供する(Pearson(2000)(前記))。本発明の配列を、異なる生物に由来する多数の配列を含有しているデータベースと比較する場合、別の好ましいアルゴリズムは、デフォルトパラメータを使用した、コンピュータプログラムBLAST、特に、BLASTPまたはTBLASTNである。例えば、Altschul et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403 410およびAltschul et al.(1997)Nucleic Acids Res.25:3389 402を参照のこと。
【0048】
ヒト抗体の調製
ヒト抗体を作成する方法には、例えば、VELOCIMMUNE(商標)、XENOMOUSE(商標)技術(Green et al.(1994)Nature Genetics 7:13-21)、「ミニローカス」アプローチ、およびファージディスプレイが含まれる。VELOCIMMUNE(商標)技術(米国特許第6,596,541号、Regeneron Pharmaceuticals)は、選択された抗原に対する高特異性完全ヒト抗体を作成する方法を包含する。この技術は、マウスが、抗原刺激に応答して、ヒト可変領域およびマウス定常領域を含む抗体を産生するような、内因性マウス定常領域遺伝子座に機能的に連結されたヒトの重鎖および軽鎖の可変領域を含むゲノムを有するトランスジェニックマウスの作成を含む。抗体の重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAが単離され、ヒトの重鎖および軽鎖の定常領域をコードするDNAに機能的に連結される。次いで、DNAは、完全ヒト抗体を発現することができる細胞において発現される。特定の態様において、細胞はCHO細胞である。
【0049】
抗体は、補体の固定および補体依存性細胞障害(CDC)への参加を通して、または抗体依存性細胞障害(ADCC)を通して、細胞を死滅させるのではなく、リガンド-受容体相互作用の阻止または受容体成分相互作用の阻害において治療的に有用であり得る。従って、抗体の定常領域は、補体を固定し、細胞依存性細胞障害を媒介する抗体の能力において重要である。従って、抗体のアイソタイプは、抗体が細胞障害性を媒介することが望ましいか否かに基づき選択され得る。
【0050】
ヒト免疫グロブリンは、ヒンジの不均一性に関連している二つの型で存在することができる。一つの型において、免疫グロブリン分子は、鎖間重鎖ジスルフィド結合によって二量体が維持されたおよそ150〜160kDaの安定的な四鎖構築物を含む。第二の型において、二量体は鎖間ジスルフィド結合を介して連結されず、共有結合的にカップリングされた軽鎖および重鎖から構成された約75〜80kDaの分子(半抗体)が形成される。これらの型は、アフィニティ精製の後ですら、分離するのが極めて困難である。
【0051】
様々な完全IgGアイソタイプにおける第二の型の出現の頻度は、それに限定はされないが、抗体のヒンジ領域アイソタイプに関連した構造的差異による。ヒトIgG4ヒンジのヒンジ領域における単一アミノ酸置換は、ヒトIgG1ヒンジを使用した時に典型的に観察されるレベルへと第二の型の出現を有意に低下させ得る(Angal et al.(1993)Molecular Immunology 30:105)。本発明は、例えば、作製の際、所望の抗体型の収率を改善するために望ましいかもしれない一つまたは複数の変異をヒンジ領域、CH2領域、またはCH3領域に有する抗体を包含する。
【0052】
本発明の抗体は、好ましくは、VELOCIMMUNE(商標)技術を使用して調製される。内因性免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の可変領域が、対応するヒト可変領域に交換されたトランスジェニックマウスを、関心対照の抗原によりチャレンジし、抗体を発現するマウスから(B細胞のような)リンパ細胞を回収する。不死ハイブリドーマ細胞系を調製するためにリンパ細胞を骨髄腫細胞系と融合させることもでき、そのようなハイブリドーマ細胞系を、関心対象の抗原に対して特異的な抗体を産生するハイブリドーマ細胞系を同定するためにスクリーニングし、選択する。重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAを単離し、重鎖および軽鎖の望ましいアイソタイプ定常領域に連結してもよい。そのような抗体タンパク質は、CHO細胞のような細胞において産生され得る。または、抗原特異的キメラ抗体または軽鎖および重鎖の可変ドメインをコードするDNAを、抗原特異的リンパ球から直接単離してもよい。
【0053】
一般に、本発明の抗体は、極めて高い親和性を保有し、典型的には、固相に固定化された抗原または液相中の抗原との結合により測定した場合、約10-9〜約10-12Mまたはそれ以上、例えば、少なくとも約10-9M、少なくとも10-10M、少なくとも10-11M、または少なくとも10-12MのKDを保有する。
【0054】
最初に、ヒト可変領域およびマウス定常領域を有する高親和性キメラ抗体を単離する。下記のように、抗体を特徴決定し、親和性、選択性、エピトープ等を含む望ましい特徴により選択する。本発明の完全ヒト抗体、例えば、野生型または修飾型のIgG1またはIgG4(例えば、SEQ ID NO:541、542、または543)を作成するため、マウス定常領域を、所望のヒト定常領域と交換する。選択される定常領域は、特定の使用によって変動し得るが、高親和性抗原結合および標的特異性の特徴は可変領域に存在する。
【0055】
エピトープマッピングおよび関連技術
特定のエピトープに結合する抗体(例えば、IgEの高親和性受容体との結合を阻止するもの)についてスクリーニングするためには、Harlow and Lane(1990)(前記)に記載されたもののようなルーチンのクロスブロッキングアッセイを実施することができる。その他の方法には、アラニンスキャニング変異体、ペプチドブロット(Reineke(2004)Methods Mol Biol 248:443-63)、またはペプチド切断分析が含まれる。さらに、エピトープ切除、エピトープ抽出、および抗原の化学的修飾のような方法を利用することができる(Tomer(2000)Protein Science 9:487-496)。
【0056】
「エピトープ」という用語は、B細胞および/またはT細胞が応答する抗原上の部位をさす。B細胞エピトープは、連続アミノ酸からも形成されるし、またはタンパク質の三次折り畳みによって並置された非連続アミノ酸からも形成される。連続アミノ酸から形成されたエピトープは、典型的には、変性溶媒に曝されても保持されるが、一方、三次折り畳みによって形成されたエピトープは、典型的には、変性溶媒による処理によって失われる。エピトープは、典型的には、特有の空間的コンフォメーションで、少なくとも3個、通常、少なくとも5個または8〜10個のアミノ酸を含む。
【0057】
抗原構造に基づく抗体プロファイリング(Antigen Structure-based Antibody Profiling)(ASAP)としても公知の修飾支援プロファイリング(Modification-Assisted Profiling)(MAP)は、化学的または酵素的に修飾された抗原表面に対する各抗体の結合プロファイルの類似性によって、同一抗原に対して差し向けられた多数のモノクローナル抗体(mAb)を分類する方法である(US 2004/0101920)。各カテゴリーは、別のカテゴリーによって表されるエピトープと明確に異なるかまたは部分的にオーバーラップする独特のエピトープを反映し得る。この技術は、遺伝学的に同一の抗体の迅速なフィルタリングを可能にするため、遺伝学的に明確な抗体に焦点を当てて特徴決定を行うことができる。ハイブリドーマスクリーニングに適用された時、MAPは所望の特徴を有するmAbを産生する稀少なハイブリドーマクローンの同定を容易にし得る。MAPは、本発明の抗NGF抗体を、異なるエピトープに結合する抗体の群へと分取するために使用され得る。
【0058】
イムノコンジュゲート
本発明は、細胞毒素、化学療法薬、免疫抑制薬、または放射性同位元素のような治療用モエティにコンジュゲートされたヒト抗NGFモノクローナル抗体(「イムノコンジュゲート」)を包含する。細胞毒素剤には、細胞にとって有害な薬剤が含まれる。イムノコンジュゲートの形成のために適している細胞毒素剤および化学療法剤の例は、当技術分野において公知であり、例えば、WO 05/103081を参照のこと。
【0059】
二重特異性
本発明の抗体は、単一特異的、二重特異的、または多重特異的であり得る。多重特異的抗体は、一つの標的ポリペプチドの異なるエピトープに対して特異的であるかもしれないし、または複数個の標的ポリペプチドに特異的な抗原結合ドメインを含有しているかもしれない。例えば、Tutt et al.(1991)J.Immunol.147:60-69を参照のこと。ヒト抗NGF抗体を、別の機能性分子、例えば、別のペプチドまたはタンパク質に連結するか、または共発現させることができる。例えば、第二の結合特異性を有する二重特異的または多重特異的な抗体を作製するため、抗体またはその断片を、別の抗体または抗体断片のような一つまたは複数の他の分子エンティティに(例えば、化学的カップリング、遺伝子学的融合、非共有結合性の会合、またはその他により)機能的に連結することができる。
【0060】
治療的投与および製剤化
本発明は、本発明の抗NGF抗体またはその抗原結合断片を含む治療用組成物を提供する。本発明に係る治療用組成物の投与は、改善された移動、送達、耐性等を提供するために製剤に組み入れられる適当な担体、賦形剤、およびその他の薬剤と共に投与されるであろう。多くの適切な製剤が、全ての薬化学者に公知の処方集に見出され得る:Remington's Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Company,Easton,PA。これら製剤には、例えば、散剤、ペースト、軟膏、ゼリー、ロウ、油、脂質、(LIPOFECTIN(商標)のような)脂質(カチオン性またはアニオン性)含有小胞、DNAコンジュゲート、無水吸収ペースト、水中油型および油中水型の乳剤、乳剤カーボワックス(様々な分子量のポリエチレングリコール)、半固体ゲル、ならびにカーボワックスを含有している半固体混合物が含まれる。Powell et al."Compendium of excipients for parenteral formulations" PDA(1998)J Pharm Sci Technol 52:238-311も参照のこと。
【0061】
用量は、投与される対象の年齢およびサイズ、標的疾患、状態、投与経路等に依って変動し得る。本発明の抗体が、成人患者において、炎症性疼痛、神経因性および/または侵害受容性疼痛、肝細胞癌、乳癌、肝硬変等を含む、NGFに関連した様々な状態および疾患を処置するために使用される場合、通常、約0.01〜約20mg/kg体重、より好ましくは約0.02〜約7、約0.03〜約5、または約0.05〜約3mg/kg体重、好ましくは約0.1〜約10mg/kg体重、より好ましくは約0.1〜約5mg/kg体重の一回用量で、本発明の抗体を静脈内投与することが有利である。状態の重度に依って、処置の頻度および継続時間は調整され得る。
【0062】
様々な送達系、例えば、リポソーム、微粒子、マイクロカプセルへの封入、変異体ウイルスを発現することができる組換え細胞、受容体により媒介されるエンドサイトーシス(例えば、Wu et al.(1987)J.Biol.Chem,262:4429-4432参照)が公知であり、本発明の薬学的組成物を投与するために使用され得る。導入の方法には、以下に限定はされないが、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、ならびに経口の経路が含まれる。組成物は、任意の便利な経路によって、例えば、注入またはボーラス注射によって、上皮または粘膜皮膚の裏打ち(例えば、口腔粘膜、直腸および腸の粘膜等)からの吸収によって投与され得、他の生物学的活性を有する薬剤と共に投与されてもよい。投与は、全身性または局所性であり得る。
【0063】
薬学的組成物は、小胞、特にリポソームで送達されてもよい(Langer(1990)Science 249:1527-1533;Treat et al.(1989)in Liposomes in the Therapy of Infectious Disease and Cancer,Lopez Berestein and Fidler(eds.),Liss,New York,pp.353-365;Lopez-Berestein、同書、pp.317-327を参照のこと;同書を一般に参照のこと)。
【0064】
ある種の状況において、薬学的組成物は、放出制御系で送達され得る。一つの態様において、ポンプが使用され得る(Langer(前記);Sefton(1987)CRC Crit.Ref.Biomed.Eng.14:201を参照のこと)。別の態様において、ポリマー材料が使用され得る(Medical Applications of Controlled Release,Langer and Wise(eds.),CRC Pres.,Boca Raton,Florida(1974)を参照のこと)。さらに別の態様において、放出制御系は、組成物の標的の近位に置かれ、従って、全身用量と比べてほんのわずかな用量を必要とするかもしれない(例えば、Goodson,Medical Applications of Controlled Release(前記)vol.2,pp.115-138,1984を参照のこと)。その他の放出制御系は、Langer(1990)Science 249:1527-1533による概説に記述されている。
【0065】
注射可能調製物には、静脈内注射、皮下注射、皮内注射、筋肉注射、点滴等のための剤形が含まれ得る。これらの注射可能調製物は、公知の方法により調製され得る。例えば、注射可能調製物は、例えば、上記の抗体またはその塩を、注射用に従来使用されている無菌の水性媒体または油性媒体に溶解、懸濁、または乳化させることにより調製され得る。注射用の水性媒体としては、例えば、生理食塩水、グルコースおよびその他の補助剤を含有している等張溶液等があり、それらは、アルコール(例えば、エタノール)、多価アルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤[例えば、ポリソルベート80、HCO-50(水素化ヒマシ油のポリオキシエチレン(50モル)付加物)]等のような適切な可溶化剤と組み合わせて使用され得る。油性媒体としては、例えば、ゴマ油、大豆油等が利用され、それらは、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等のような可溶化剤と組み合わせて使用され得る。このようにして調製された注射剤は、好ましくは、適切なアンプルに充填される。
【0066】
有利には、上記の経口使用または非経口使用のための薬学的組成物は、活性成分の用量に合わせて適合させた単位用量の剤形へと調製される。そのような単位用量の剤形には、例えば、錠剤、丸剤、カプセル、注射剤(アンプル)、坐剤等が含まれる。単位用量の剤形に含有される抗体の量は、一般に、約5〜500mgであり;注射の形態剤においては、約5〜100mg、その他の剤形の場合には、約10〜250mgの抗体が含有されることが好ましい。
【0067】
単独治療および組み合わせ治療。本発明は、本発明の抗体または抗体断片が、NGFが関与する多様な状態に関連した疼痛を処置するために有用である、治療法を提供する。本発明の抗NGF抗体または抗体断片は、神経原性疼痛、神経因性疼痛、または侵害受容性疼痛に関連した状態に起因する疼痛の処置のために特に有用である。神経因性疼痛の好ましい態様において、関連三叉神経痛、ヘルペス後神経痛、幻肢痛、線維筋痛症、反射性交感神経性ジストロフィー、および神経原性疼痛の状態が、好ましくは処置される。その他の好ましい態様において、癌疼痛、特に、骨癌疼痛、骨関節炎または慢性関節リウマチの疼痛、腰痛、術後切開疼痛、骨折疼痛、骨粗鬆症性骨折疼痛、骨粗鬆症、痛風関節疼痛、糖尿病性ニューロパシー、坐骨神経痛、鎌状赤血球クリーゼに関連した疼痛、片頭痛、ならびにその他の神経因性および/または侵害受容性の疼痛が、好ましくは処置される。
【0068】
その他の適用症には、例えば、乳癌の処置が含まれる(Adriaenssens et al.(2008)Cancer Res 68:346-51)。本発明の治療法の特定の態様において、痛風に関連した関節痛に罹患した対象は、本発明の抗体または抗体断片と第二の治療剤との組み合わせにより処置される。一つの態様において、第二の治療剤は、好ましくは、リロナセプト(「IL-1 trap」;Regeneron)のようなインターロイキン-1(IL-1)アンタゴニストである。適当な第二の治療剤は、リロナセプト、アナキンラ(KINERET(登録商標)、Amgen)、組換え非グリコシル化型のヒトIL-1受容体アンタゴニスト(IL1Ra)、IL-18BPまたは誘導体、IL-18 Trapのような抗IL-18薬、または抗IL-18、抗IL-18R1、抗IL-18Racp、抗IL-6、および/または抗IL6Ra抗体のような抗体からなる群より選択される一つまたは複数の薬剤であり得る。単独で、またはIL-1アンタゴニストと組み合わられて、NGF抗体またはその抗原結合断片と組み合わせられ得るその他の同時治療には、低用量コルチン(colchine)、アスピリン、またはその他のNSAID、プレドニゾロンのようなステロイド、メトトレキサート、低用量シクロスポリンA、ENBREL(登録商標)のようなTNF阻害剤、またはHUMIRA(登録商標)、カスパーゼ-1の阻害剤のようなその他の炎症阻害剤、p38、IKK1/2、CTLA-4Ig等、および/または体内の尿酸の蓄積を阻害する尿酸合成阻害剤、例えば、アロプリノール、体内に蓄積した尿酸の迅速な排泄を加速する尿酸排泄促進剤(例えば、プロベネシド、スルフィンピラゾン、および/またはベンズブロマロンが尿酸排泄促進剤の例である);副腎皮質ステロイド;非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、トピラマート;ガバペンチン、プレガバリンのような抗てんかん薬;セレコキシブ;またはNT-3のような別のニューロトロフィンのような同時治療が含まれる。
【0069】
実施例
以下の実施例は、本発明の方法および組成物を作成し、使用する方法の完全な開示および説明を当業者に提供するために提示され、本発明者らが本発明と見なすものの範囲を限定するためのものではない。使用された数字(例えば、量、温度等)に関しては、正確さを保証する努力が成されたが、ある程度の実験誤差および偏差は斟酌されるべきである。特記されない限り、部分は重量部分であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏度であり、圧力は大気圧またはほぼ大気圧である。統計分析は、ボンフェロニポストホックテストまたはチューキーHSDポストホックテストと共に混合要因(mixed Factorial)ANOVAによって実施された。
【0070】
実施例1 免疫感作および抗体作成
げっ歯動物の免疫感作は、当技術分野において公知の任意の方法によって行われ得る(例えば、Harlow and Lane,Antibodies:A Laboratory Manual:Cold Spring Harbor Press,New York;Malik and Lillehoj,Antibody techniques:Academic Press,San Diegoを参照のこと)。好ましい態様において、ヒトNGFタンパク質を、免疫応答を刺激するアジュバントと共に、ヒトIg重鎖可変領域およびカッパ軽鎖可変領域の両方をコードするDNA遺伝子座を有するマウス(VELOCIMMUNE(商標)、Regeneron;米国特許第6,596,541号)に直接投与する。そのようなアジュバントには、完全フロイントアジュバントおよび不完全フロイントアジュバント、MPL+TDMアジュバント系(Sigma)、またはRIBI(ムラミルジペプチド)(O'Hagan,Vaccine Adjuvant,Human Press,2000,Totawa,NJを参照のこと)が含まれる。そのようなアジュバントは、局所的な貯蔵所に抗原を隔離することによりポリペプチドの迅速な分散を防止することができ、宿主免疫応答を刺激することができる因子を含有しているかもしれない。一つの態様において、NGFは、抗原ポリペプチドをインビボで産生する宿主細胞のタンパク質発現機構を使用して、NGF遺伝子を含有しておりNGFを発現するDNAプラスミドとして、間接的に投与される。いずれのアプローチにおいても、最適の抗抗原応答を入手するため、マウスに3〜4週間毎に追加刺激注射を与え、各注射の10日後に血清試料を収集する。抗体免疫応答を、標準的な抗原直接結合ELISA法を使用してモニタリングする。3倍段階希釈で希釈された追加刺激後の血清試料を、NGFによりコーティングされたプレートに適用する。血清力価は、アッセイ中のバックグラウンドシグナルの2倍を与えた血清試料の希釈度と定義される。最適の応答を有する動物に、アジュバントなしで静脈内注射および腹腔内注射を介して最終追加刺激を与え、その3〜4日後に屠殺する。抗原特異的なモノクローナル抗体を得るため、採集した脾細胞を下記のように加工する。
【0071】
実施例2 モノクローナル抗体単離
一つの態様において、抗体を発現するB細胞を、マウス骨髄腫細胞と融合させ、ハイブリドーマ細胞を形成させる。ハイブリッド細胞を、HAT選択下で96ウェルプレートに播種し、10〜20日間増殖させる。増殖中のハイブリドーマ細胞を含むウェルからの条件培地を、下記のように抗原結合活性および受容体阻止活性についてスクリーニングする。関心対象の抗体を発現しているハイブリドーマ細胞を、フローサイトメトリーを使用して単細胞サブクローニングし、クローンハイブリドーマ細胞からのVH遺伝子およびVL遺伝子を、クローニングし配列決定する。抗体タンパク質も、IgG枯渇培地(Invitrogen)を使用して抗原特異的ハイブリドーマの培養物から精製し、下記のように特徴決定する。
【0072】
別の態様において、USSN 11/809,482(米国特許公開第2007/0280945号)に記載されたように、特別な骨髄腫細胞により不死化されていない抗原陽性B細胞から抗原特異的抗体を直接単離し、安定的な組換え抗体を産生する宿主CHO細胞を作成する。
【0073】
実施例3 一次抗原結合および受容体阻止スクリーニング
抗原特異的抗体を産生するハイブリドーマを同定するため、融合の10〜20日後、96ウェル培養プレートから条件培地を試料採取し、ハイスループット直接結合ELISAを使用して抗原結合特異性を決定した。簡単に説明すると、10倍希釈および100倍希釈の条件培地を、100ng/ウェルで組換えNGFタンパク質によりコーティングされたMAXISORB(商標)プレート(Nunc)に結合させた。プレートに結合した抗体を、ヤギ抗マウスIgG Fcγ特異的HRPコンジュゲートポリクローナル抗体(Jackson Immuno Lab)を使用して検出した。プレートをTMB基質(BD Pharmigen)を使用して発色させ、OD450nmにおける光学密度を記録した。平行して、同一希釈度の試料を、ストレプトアビジンが提示されたビオチン標識NGFプレートに適用し、プレートに結合した抗体を検出した。いずれかのプレートへの結合活性を示すウェルを、細胞培養物増幅のために選択し、凍結保存し、抗体含有上清を、特異性、親和性、および機能性のプロファイルを入手するためのさらなる分析に使用した。
【0074】
直接抗原結合スクリーニングに加え、望ましい特性を有する抗体を分泌するクローンを同定するために、機能性スクリーニングも利用した。Maxisorbプレートを、4℃で、一夜、100ng/ウェルの組換えヒトTrkA-hFcによりコーティングした。2倍希釈および10倍希釈の条件培地を、1時間、溶液中の2ng/mlビオチン-NGFと結合させた後、プレートに結合したビオチン-NGFの測定のため、TrkA-hFcでコーティングされたプレートに移した。プレートに結合したビオチン-NGFを、HRPコンジュゲートストレプトアビジン(Pierce)を使用して検出し、TMB基質(BD Pharmingen)を使用して発色させ、光学密度を記録した。TrkA-hFcへのビオチン-NGFの結合を防止した培養培地中のハイブリドーマを、可能性のあるブロッカーとして同定し、さらに特徴決定した。
【0075】
抗原陽性B細胞から直接単離されたV遺伝子を含有している完全ヒトIgGによりトランスフェクトされたCHO細胞からの96ウェル条件培地に、類似のインビトロスクリーニングを適用した。さらに、抗原特異的な結合抗体が、PEコンジュゲートヤギ抗ヒトIgG Fcγ特異的ポリクローナル抗体を使用して検出される、抗原によりコーティングされたLUMINEX(商標)ビーズを使用して、NGF結合活性について、試料をスクリーニングした。抗原結合抗体を、BIACORE(商標)を使用した親和性測定に供した。簡単に説明すると、粗培養上清からの抗体を、アミンカップリングしたhFc特異的ポリクローナル抗体表面に捕獲した。単一濃度における抗原結合をモニタリングした。同一条件下での各抗体相互作用について、動力学的速度定数kaおよびkdを使用して、抗原結合親和性(KD)を決定するため、1:1二分子相互作用モデルを、結合センソグラム(sensogram)を適合させるために使用した。具体的には、ヤギ抗ヒトIgG Fcγ特異的ポリクローナル抗体を、CM-5チップ表面上に共有結合的にカップリングし、抗体含有CHO上清を、5分間、1μl/分で注入し、その後、緩衝液で洗浄した。ヒト抗体が固定化された表面にNGFを結合させるため、ヒトNGF(25nM)を3分間注入した。NGF注入の直後、およそ10分間100μl/分で表面に緩衝液を注入し、RUシグナルの崩壊を記録した。結合した抗体およびNGFを除去するために表面を再生し、次のCHO上清試料を用いてそのサイクルを繰り返した。
【0076】
実施例4 抗原結合親和性決定
ヒトNGFに対する抗体の抗原結合親和性を、リアルタイムバイオセンサー表面プラズモン共鳴アッセイ(BIACORE(商標))を使用した表面動力学により決定した。BIACORE(商標)チップへの捕獲抗体の直接アミンカップリングにより作出された抗ヒトまたは抗マウスのいずれかのヤギIgGポリクローナル抗体表面に抗体を捕獲した。抗原の抗体との会合および結合した複合体の解離をリアルタイムでモニタリングしながら、様々な濃度のヒトNGFを、捕獲された抗体表面に注入した。平衡解離定数(KD)および解離速度定数を入手するための動力学的分析を実施し、後者を、抗原/抗体複合体解離t1/2を計算するために使用した(表1)。ヒト化抗ヒトNGFモノクローナル抗体E3(「RN624」)(タネズマブ(tanezumab);CAS登録番号880266-57-9;米国特許公開第2004/0237124号)を対照として使用した。
【0077】
【表1】

【0078】
選択された精製されたNGF抗体の抗原結合親和性も、上記のようなリアルタイムバイオセンサー表面プラズモン共鳴アッセイ(BIACORE(商標))を利用した表面動力学により決定した。便宜のため、抗体301272-3H10-A10を、「REGN261」(HCVR/LCVR SEQ ID NO:84/92およびhIgG1 SEQ ID NO:541)と改名し;301272-6E07-D10を、「REGN263」(HCVR/LCVR SEQ ID NO:208/216およびhIgG1 SEQ ID NO:541)と改名した。試験された派生抗体には、REGN472(HCVR/LCVR SEQ ID NO:100/102およびhIgG1 SEQ ID NO:541)、REGN474(HCVR/LCVR SEQ ID NO:100/102および変異体hIgG4 SEQ ID NO:543)、REGN475(HCVR/LCVR SEQ ID NO:108/110および変異体hIgG4 SEQ ID NO:543)、REGN476(HCVR/LCVR SEQ ID NO:224/226および変異体hIgG4 SEQ ID NO:543)、ならびにREGN477(HCVR/LCVR SEQ ID NO:232/234および変異体hIgG4 SEQ ID NO:543)が含まれていた。
【0079】
【表2】

【0080】
実施例5 ニューロトロフィン-3(NT-3)との交差反応性
NGFおよびNT-3は神経成長因子ファミリーに属しており、特定のニューロン集団の生存を可能にする、小さい塩基性の分泌タンパク質である。これらの二つのニューロトロフィンは、ある程度のアミノ酸同一性を共有するが、生物学的機能は変動し得る(Barde et al.1990 Prog Growth Factor Res 2(4):237-48)。
【0081】
抗NGF抗体を、ヒトNT-3との結合交差反応性について調査した。簡単に説明すると、ヤギ抗ヒトIgGポリクローナル抗体を、CM5チップに化学的に連結した。抗NGFモノクローナル抗体を、チップにカップリングされたポリクローナル抗体との相互作用を通して、約50〜900RUの固定化抗体の表面が形成されるよう注入した。20nMの濃度のNGFタンパク質またはNT-3タンパク質を表面に注入し、続いて、結合したリガンドを分離させるために緩衝液で洗浄した。会合相および解離相の両方をモニタリングし、データを分析した。結果は表3に示される(NB=結合活性が観察されなかった)。対照抗体(RN624)とは対照的に、試験抗体の全てがNT-3との測定可能な結合を示さず、従って、対照抗体に比べてより高度の抗原特異性を示した。
【0082】
【表3】

【0083】
NT-3、NGF、またはヒト脳由来神経栄養因子(hBDNF)への結合について溶液中で競合するREGN475およびRN624の能力を測定するため、OCTET(商標)に基づく溶液競合アッセイも利用した。簡単に説明すると、30℃で1時間、様々な濃度のNT-3(0〜4μM)、hBDNF(0〜4μM)、またはNGF(0〜0.2μM)と共に、対照抗体RN624(2.5μg/ml)またはREGN475(2.5μg/ml)をプレインキュベートすることにより、抗体-抗原試料を調製した。Streptavidin high binding FA sensors(HBS,ForteBio,Inc.,CA)を、30℃で10分間、2μg/mlのビオチン-NGFと共にインキュベートした。次いで、ビオチン-NGFが結合したセンサーを、30℃で10分間、プレインキュベートされた抗原-抗体試料と共にインキュベートした。生物学的層の厚さの変化を、インキュベーション後に測定した。競合剤の非存在下での抗体の結合に対する結合の割合として、結合を規準化した。表4に示されるように、NGFとRN624との間の結合は、NT-3により用量依存的に阻止されたが、REGN475とNGFとの間の結合は、NT-3により阻止されなかった。hBDNFの存在は、RN624またはREGN475のNGFとの結合を阻止しなかったが、可溶性NGFの存在は、RN624およびREGN475の両方の、固定化されたNGFとの結合をほぼ完全に阻止した。
【0084】
【表4】

【0085】
選択された精製されたヒト抗NGF抗体REGN472、REGN474、REGN475、REGN476、REGN477、または対照抗体RN624とNT-3との間の結合を、1.25nM〜40nMの範囲のNT-3濃度で、BIACORE(商標)アッセイを使用しても評価した。対照抗体(RN624)は、1.1nMというKDでNT-3に結合したが、試験抗体は、いずれも、NT-3に対する測定可能な親和性を示さなかった。
【0086】
実施例6 マウスおよびラットのNGFとの交差反応性
ヒトNGF(NGF)は、マウスNGF(mNGF)およびラットNGF(rNGF)とアミノ酸配列が高度に相同であり、約90%の同一性を有する。mNGFおよびrNGFの両方に対する抗体の結合親和性を、下記のように決定した。全ての抗体が、mNGFおよびrNGFの両方との交差反応性を示した。ある抗体群は、10pM未満のKD値で全ての種に由来するNGFに強力に結合し;第二の群は、好んでNGFに結合し、mNGFおよびrNGFに対してはおよそ100pMより大きいKDを示した(対照=RN624)(表5)。
【0087】
【表5】

【0088】
選択された精製された抗NGF抗体のmNGFおよびrNGFに対する結合親和性も決定した(表6)。
【0089】
【表6】

【0090】
実施例7 NGFの受容体TrkA/hFcおよびp75/hFcとの結合の阻害
阻止抗体を同定するため、受容体阻止アッセイを、BIACORE(商標)3000装置を使用して設計した。組換えのヒトTrkA-hFcタンパク質およびヒトp75-hFcタンパク質を、約5000〜6000RUの密度でCM5チップにアミンカップリングした。NGF結合についての最大RUを決定するため、ヒトNGF(10nM〜25nM)をTrkA表面およびp75表面に結合させた。次いで、表面を再生し、10nM〜25nM NGFを、過剰モル濃度の個々の抗体または可溶性レセプタボディ(receptorbodies)と混合し、残存する遊離NGFの結合シグナルを決定するため、溶液を、再生されたチップ表面に注入した。表7は、抗体またはレセプタボディの存在下でのTrkAおよびp75と結合した遊離NGFの割合を示す。抗体の非存在下でのヒトNGFの最大RU結合に、100%という相対値を与えた。陽性対照として、溶液中のRN624、TrkA-hFc、およびp75-hFcを使用し、陰性結合対照として、IgG1対照(AVASTIN(登録商標);Genentech,CA)を使用した。
【0091】
【表7】

【0092】
抗体が、溶液中に、固定された濃度のNGFと共に存在する場合、マイクロタイタープレートにコーティングされたTrkA-hFcまたはp75-hFcへのNGFの結合が防止される、競合サンドイッチELISAにより、選択された試験抗体REGN472、REGN474、REGN475、REGN476、およびREGN477、ならびに対照抗体RN624の、ヒトNGFのヒトTrkA受容体およびp75受容体との結合を阻止する能力も、定量的に測定した。アッセイにおいて使用されたヒトNGFは、大腸菌において産生された組換えタンパク質であり、ヒトTrkA-hFcタンパク質およびp75-hFcタンパク質は、ヒトIgG1のFc部分とインラインで融合したそれぞれの受容体の細胞外ドメインからなる二量体融合タンパク質であった。50pMの固定された濃度のビオチン標識NGFタンパク質を、室温で1時間、溶液中の1.5pM〜1.5nMの様々な量の抗体により滴定した。次いで、hTrkA-hFcまたはhp75-hFcによりコーティングされたマイクロタイタープレート上にビオチン-NGFを捕獲し、続いてストレプトアビジン-HRPを用いてプレートに結合したビオチン化NGFを検出することにより、溶液混合物中の未結合遊離ビオチン-NGFの量を定量化した。具体的には、マイクロタイタープレートは、4℃で一夜、PBS緩衝液中の0.5μg/ml hTrkA-hFcまたは1μg/ml hp75-hFc溶液によりプレートをコーティングし、続いて0.5%BSAでプレートをブロッキングすることにより調製された後に使用された。未結合のビオチン-NGFを測定するため、プレインキュベートされた抗体およびビオチン-NGF溶液を、受容体によりコーティングされたプレートに移し、続いて室温で1時間インキュベートした。プレートに結合したビオチン化NGFを、ストレプトアビジン-HRPにより検出し、比色定量TMB基質により発色させ、OD450nmを記録した。結合前溶液中のREGN475濃度に対するOD450nm値の依存性を、PRISM(商標)(Graph Pad,CA)により提供されたS字形の用量応答モデルを使用して分析した。受容体によりコーティングされたプレートとの50pMビオチン化NGFの結合の50%を阻止するのに必要とされる抗体濃度として定義される予測IC50値を、NGFのhTrkA-hFcまたはhp75-hFcとの結合を阻止する抗体の効力の指標として使用した。表8は、hTrkA-hFcおよびhp75-hFcに対して試験された各抗体のIC50値を示す。対照mAb=RN624。
【0093】
【表8】

【0094】
実施例8 NT-3の受容体TrkA-hFc、TrkB-hFc、TrkC-hFc、およびp75-hFcとの結合の阻害
500nMのREGN475、RN624、およびAVASTIN(登録商標)(IgG1対照)の存在下での、20nMヒトNT-3のヒトTrkA-hFc表面、TrkB-hFc表面、TrkC-hFc表面、およびp75-hFc表面との結合もそれぞれ試験した。ヒトTrkA-hFc(9300RU)、ヒトTrkB-hFc(6000RU)、ヒトTrkC-hFc(9100RU)、およびヒトp75-hFc(7500RU)を、アミンカップリング法により、BIACORE(登録商標)CM5チップ表面に共有結合的にカップリングした。20nMのヒトNT-3を、溶液中の500nMの対照(IgG1対照AVASTIN(登録商標))、REGN475、RN624、hTrkA-hFc、TrkB-hFc、TrkC-hFc、またはp75-hFcと混合した。まず、結合混合物を平衡に達するまで(約1hr)室温でインキュベートし、次いで、上記のTrkA-hFc表面、TrkB-hFc表面、TrkC-hFc表面、およびp75-hFc表面に注入した。各試料中のヒトNT-3結合のレベルを測定した。各試料混合物からの結合RUを、陰性対照試料(すなわち、500nM AVASTIN(登録商標)による20nMヒトNT-3)からのRU値によって規準化し、Trk表面との結合%として提示した(表9)。REGN475は、NT-3の受容体との結合にほとんど干渉しなかったが、残りの試料は、NT-3の受容体との結合の有意な阻止を示した。
【0095】
【表9】

【0096】
実施例9 インビトロのNGF生物学的活性の中和
NGF依存性のTrkA受容体により媒介される細胞増殖活性を阻止するNGF抗体の能力を、ヒトTrkA受容体をコードするプラスミドにより安定的にトランスフェクトされたMG87細胞を使用して実施した。簡単に説明すると、トランスフェクトされた細胞をトリプシン処理し、1ml当たりおよそ2.5×105細胞で再懸濁させ、96ウェル組織培養プレートに1ウェル当たり5,000細胞で播種した。精製された抗体タンパク質を、限定培地+0.1%BSAで段階希釈し、0〜500nMの範囲の濃度で播種された細胞に添加した。ヒトNGFを、373pMの最終濃度でウェルに添加した。加湿5%CO2インキュベーター内で37℃で3日間、細胞をインキュベートした後、応答を測定した。細胞増殖活性をCCK8キット(Dojindo)により測定し、OD450nmを記録した。抗体の濃度に対するシグナルの依存性を分析し、IC50値を報告した(表10、第2列)。
【0097】
NGFがシグナル伝達するp75受容体およびTrkA受容体により媒介される活性を阻止するNGF抗体の能力も、両受容体を内因的に発現するラット副腎髄質細胞系PC12を使用してインビトロで測定した(Urdiales et al.1998 J.Neuroscience 18(17):6767-6775)。簡単に説明すると、PC12細胞を、ルシフェラーゼ遺伝子に連結された血清応答要素(SRE)を含有しているレポータープラスミドにより安定的にトランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞を、1ml当たりおよそ2.5×105細胞で再懸濁させ、Opti-MEM培地で96ウェル組織培養プレートに1ウェル当たり50,000細胞で一夜播種した。精製された抗体タンパク質を培地(DMEM+0.1%BSA)で段階希釈し、0〜100nMの範囲の濃度で播種された細胞に添加した。ヒトNGFを12.5pMの最終濃度でウェルに添加した。加湿7.5%CO2インキュベーター内で37℃で6時間、細胞をインキュベートした後、BRIGHT GLOW(商標)ルシフェラーゼアッセイ系(Promega)を使用して、ルシフェラーゼ活性を測定した。上記のようにIC50値を決定し、表10、第3列に報告した。対照mAb=RN624。
【0098】
【表10】

【0099】
選択された精製された抗NGF抗体REGN472、REGN474、およびREGN475、ならびに対照mAb RN624の、PC12細胞系におけるp75受容体およびTrkA受容体により媒介される活性を通したNGFシグナリングを阻止する能力も、上記のルシフェラーゼアッセイにより評価した(表11)。
【0100】
【表11】

【0101】
抗NGF抗体REGN475および対照抗体の、PC12細胞系におけるp75受容体およびTrkA受容体により媒介される活性を通したNT-3シグナリングを阻止する能力を、12.5pM NGFを75nM NT-3に交換することにより修飾された上記のルシフェラーゼアッセイにより評価した。結果は、対照mAb RN624は約104.8nMというIC50でNT-3シグナリングを阻止するが、REGN475は、本実験条件下でNT-3シグナリングに影響を与えないことを示した。
【0102】
さらに、抗NGF抗体REGN475およびRN624の、インビトロでのTrkCを通したNT-3により媒介される細胞機能を中和する能力を決定するため、バイオアッセイを開発した。TrkCを発現する操作されたHEK293細胞系を、SRE-ルシフェラーゼレポータープラスミドによりトランスフェクトした。NT-3は6時間アッセイでルシフェラーゼ発現を駆動する。この操作された細胞系におけるTrkC受容体により媒介される活性を通したNT-3シグナリングを阻止するREGN475およびRN624の能力を、ルシフェラーゼアッセイにより評価した。操作されたHEK293細胞系を、無血清培地で1×104細胞/ウェルで96ウェルプレートに播種し、37℃、5%CO2で一夜インキュベートした。1.6μM〜28pMの範囲の濃度のREGN475およびRN624を、1時間、15pM NT-3と共にプレインキュベートし、混合物を細胞に添加した。次いで、細胞を、37℃、5%CO2で6時間、インキュベートした。等しいウェル量のBRIGHT GLOW(商標)(Promega)を添加することにより、ルシフェラーゼ活性を決定した。結果は、RN624が、15pMという一定濃度のNGFの存在下で、およそ150〜200nMのIC50で、NT-3により媒介されるルシフェラーゼ活性を阻害するが、REGN475は、NT-3により媒介されるルシフェラーゼ活性を阻害しないことを示した。
【0103】
実施例10 インビボのNGF生物学的活性の中和
炎症性疼痛の完全フロイントアジュバント(CFA)試験。抗NGF抗体が慢性末梢炎症マウスモデルにおいて疼痛を軽減し得るか否かを決定するため、完全フロイントアジュバント(CFA)をC57BL/6雄マウスの後肢に皮下(s.c.)注入し、熱痛覚過敏を引き起こし、それをHargreaves試験(Torres et al.(2007)Pain 130:267-278)を使用して測定した。対照マウスには、媒体(即ち、PBS)のみを与えた。3日間1日当たり2〜3時間、Hargreaves装置(モデル336、IITC Life Science)にマウスを順応させた後、17%の活性強度(active intensity)設定を有する装置で試験した。組織傷害を回避するため、25秒のカットオフ時間を使用した。各マウスについて、1日30分で3回の読み取りを入手し、潜時中央値を分析のために使用した。Hargreaves装置における基線読み取りを入手した後、試験抗NGF抗体301272-7E05-F6(REGN268)および301272-7G09-E4(REGN270)ならびに陽性対照としてのヒト化抗NGF抗体(RN624)を、10mg/kgまたは25mg/kgでs.c.注射し、その1hr後に、CFAの50%溶液(10mg/20μl)を後肢足底内に注射した。CFA注射後4日目まで、毎日、Hargreaves試験を繰り返し、後肢逃避潜時の基線からの減少%を計算した(表12および13、平均変化%±SEM)。媒体のみを受容した対照マウスと比較して、熱痛覚過敏の有意な減少が、試験された抗体の各々について、調査された日のうちの少なくとも一日について観察された(p<0.001〜0.05)。試験抗体と対照抗体との間の統計的な差はなかった。表12:n=各群7匹;全ての群10mg/kg。表13:媒体:n=5;対照RN624:n=5、10mg/kg;REGN269:いずれもn=9。
【0104】
【表12】

【0105】
【表13】

【0106】
術後切開疼痛モデル。後肢足底切開が、増加した触覚、警戒行動、および熱痛覚過敏を引き起こす、術後疼痛のげっ歯動物モデルを、抗NGF抗体治療の効力を研究するために使用した。足底切開手術のため、イソフルラン下のC57BL/6マウスに、皮膚、筋膜の切開、次いで、基礎をなす屈筋の単離、および垂直二分を与えた。縫合および回復の後、5日間、マウスを、Hargreaves試験で熱痛覚過敏について試験し、体重負荷試験(モデル600、IITC Life Science)で警戒行動について試験した。媒体(n=7)、10mg/kgのmAb REGN268(n=7)または対照mAb RN624(n=7)の単回s.c.注射を、切開の1hr前に投与した(表14、Hargreaves基線からの平均変化パーセント±SEM)。表15は、体重負荷試験(影響を受けた肢への平均体重分布パーセント±SEM)の結果を示す(各群n=7、対照RN624およびREGN268 各10mg/kg)。いずれの試験においても、試験抗体または対照抗体による前処置は、媒体のみを受容した対照マウスと比較して、術後疼痛を有意に緩和させた(p<0.001〜0.05)。
【0107】
【表14】

【0108】
【表15】

【0109】
抗NGF抗体が、術後切開疼痛モデルにおいて確立された疼痛を軽減し得るか否かを研究するため、行動課題を実施した後、術後1日目に、REGN475(25mg/kg、n=7)、RN624(25mg/kg、n=7)、およびIgG1対照抗体(25mg/kg、n=7)を腹腔内(i.p.)注入した。熱痛覚過敏をHargreaves試験で研究し、機械的異痛症をvon Frey試験で試験した。この後者の試験においては、マウスを、ワイヤーメッシュ床を有する装置で4日間2〜3時間順応させた後、試験した。その試験は、切開を有する後肢の足底表面に、ワイヤーメッシュを通して、一連のvon Freyヘアを昇順に適用することにより実施された。フィラメントの適用に応答してプラットフォームから肢が上がった場合、応答を陽性と見なした。最も細いヘアから出発して、応答が観察されるまで、各von Freyフィラメントを5回まで適用した。Hargreaves試験からの結果(表16)は、REGN475抗体処理が術後72時間目までに熱痛覚過敏の有意な逆転をもたらしたことを示した(p<0.001〜0.01)。この基線への復帰は、RN624により処理されたマウスコホートでは観察されず、それらは、IgG対照により処理された群と類似した行動を示した。von Frey試験(肢退避閾値)(g)(表17)においては、両方の抗NGF抗体が、機械的異痛症の類似した軽減を引き起こした(p<0.001〜0.05)(IgG1対照=AVASTIN(登録商標)、25mg/kg、n=7;RN624、25mg/kg、n=7;REGN475、25mg/kg、n=7)。
【0110】
【表16】

【0111】
【表17】

【0112】
切開後疼痛モデルからの行動試験が完了した後、4日目に、マウスの血清を収集し、サンドイッチELISAを使用して、ニューロトロフィン-3(NT-3)の循環血中レベルについて分析した。応答濃度曲線を確定するため、最低5つのNT-3標準を用いてバックグラウンドより2標準偏差(2σ)上に検出限度(およそ40pg/ml)を定義した。RN624により処理されたマウスからのNT-3レベル(平均値±標準偏差(pg/ml)、表18)は、REGN475(検出されない=ND、n=7)またはIgG対照(AVASTIN(登録商標);ND、n=7)のいずれかにより処理されたものと比べて、有意な増加(172±114pg/ml、n=7)を示した。
【0113】
【表18】

【0114】
比較のため、イソフルラン下の未感作C57BL/6マウスに、REGN475、RN624、またはIgG1対照mAb(AVASTIN(登録商標))の単回s.c.注射(50mg/kg)を与え、処理後1日目、7日目、および14日目に、サンドイッチELISAを使用して、それらの血清をNT-3レベルについて分析した。応答濃度曲線を確定するため、最低5つのNT-3標準を用いてバックグラウンドより2標準偏差(2σ)上に検出限度(およそ40pg/ml)を定義した。RN624により処理されたマウスにおけるNT-3レベル(131〜199pg/ml、n=6)(表19)は、上記の術後切開疼痛モデルにより観察されたのと同様に、REGN475(ND、n=6)またはIgG対照(ND、n=6)と比較して上昇した。
【0115】
【表19】

【0116】
急性痛風関節疼痛モデル。足首への尿酸ナトリウム(MSU)結晶の注射により引き起こされた関節痛のマウスモデルを、痛風関節炎性関節痛を処置する本発明の抗体の効力を研究するために使用した。内毒素を含まないMSU結晶(0.5mg/20μl)を、C57BL/6マウスの足首関節内に注射し、次いで、MSU結晶注射後3日目まで、Hargreaves試験において、マウスを踵熱痛について試験した。Hargreaves試験のための順応パラメーターおよび装置設定は、上記の通りである。試験mAb 7E05-F6(REGN268;n=7)、6E07-D10(REGN263;n=7)、または対照ヒト化mAb(RN624;n=7)、または媒体(n=7)を、MSU結晶足首注射の1hr前に10mg/kgでs.c.注射した。表20および21に示されるように、試験抗体は、媒体のみを受容した対照マウスと比較して、関節痛を有意に緩和させた(p<0.001〜0.05)。
【0117】
【表20】

【0118】
【表21】

【0119】
急性痛風モデルにおいて確立された疼痛を軽減する抗NGF抗体の能力を、IL-1アンタゴニスト(IL-1 trap(リロナセプト)、Economides et al.(2003)Nature 9:47-52)またはコルヒチンを注射されたマウスにおいてさらに研究した。足首にMSU結晶を注射した一日後、マウスにmIL-1 trap(35mg/kg;n=7)、コルヒチン(1mg/kg;n=7)、または対照mAb RN624(10mg/kg;n=7)、または媒体(n=7)を注射し、上記のように熱痛覚過敏について試験した。さらに、別のマウスコホート(n=3)に、mIL-1 trapおよび対照RN624の両方による同時処理を与えた。抗NGF抗体およびIL-1アンタゴニストの組み合わせ治療は、処理後2日目に、媒体のみ(p<0.001〜0.05)、抗NGF抗体単独(p<0.001)、またはIL-1アンタゴニスト単独(p<0.001)による処置と比較して、確立された熱痛覚過敏を有意に軽減した(表22)。
【0120】
【表22】

【0121】
神経因性疼痛。神経因性疼痛のマウスSeltzerモデル(Malmberg et al.(1998)Pain 76:215-222)を、各マウスの一つの大腿の坐骨神経の直径およそ1/3〜1/2を7-0絹糸できつく結紮することにより部分的な神経損傷を作製したC57BL/6雄マウスにより使用した。手術後、マウスを少なくとも2日間回復させ、次いで、術後数週間、Hargreaves試験において熱痛覚過敏について研究した。対照は、坐骨神経を露出させ上昇させたが結紮はしていない偽操作マウスであった。手術の後、術後4日目および7日目に、熱痛覚過敏を発症したことを確認するためにマウスを試験した。術後7日目、マウスに、mAb REGN268(100mg/kg)、IgG1対照(AVASTIN(登録商標)100mg/kg)、および媒体をs.c.注射した。REGN268は、この神経損傷モデルにおいて確立された熱痛覚過敏を有意に軽減した(表23;p<0.05)。この疼痛緩解は偽操作マウスでは観察されなかった。結果は、Hargreaves基線からの平均変化パーセント±SEMとして表される(偽-媒体、n=3;偽-100mg/kg IgG1対照(AVASTIN(登録商標))、n=4;偽-100mg/kg REGN268、n=5;Seltzer-媒体、n=5;Seltzer-100mg/kg IgG1対照(AVASTIN(登録商標))、n=5;Seltzer-100mg/kg REGN268、n=8)。
【0122】
【表23】

【0123】
第二の実験において、抗NGF処置が、術後7日目を過ぎた熱痛覚過敏を軽減し得るか否かを調べるため、抗NGF REGN268(100mg/kg)を、術後7日目、14日目、または21日目に、s.c.注射した。IgG1対照(AVASTIN(登録商標)100mg/kg;p<0.05)と比較して、有意な疼痛緩解が、三つの時点全てにおいて入手された(表24、Hargreaves基線からの平均変化パーセント±SEM;100mg/kg IgG1対照、n=6;100mg/kg REGN268、n=7)。
【0124】
【表24】

【0125】
第三の実験において、別の抗NGF抗体REGN475の能力を、Seltzerモデルにおいて試験した。Seltzer手術の後、術後5日目および7日目に、熱痛覚過敏を発症したことを確認するためマウスを試験した。次いで、術後7日目、s.c.またはi.p.経路により、REGN475(50mg/kg)、対照mAb RN624(50mg/kg)、またはIgG1対照(AVASTIN(登録商標))(50mg/kg)をマウスに注射した。s.c.注射されたマウス(表25)またはi.p.注射されたマウス(表26)の両方のコホートで、両方の抗NGF抗体により、有意な疼痛緩解が観察されたが、対照IgG1は効果を示さなかった(p<0.001〜0.05)(Hargreaves基線からの平均変化パーセント±SEM;50mg/kg IgG1対照、n=7;50mg/kg RN624、n=7;50mg/kg REGN475、n=7)。
【0126】
【表25】

【0127】
【表26】

【0128】
インビボでヒトNGF活性を中和する抗体の能力を決定するため、内因性マウスNGF遺伝子座がヒトNGF遺伝子に交換されたトランスジェニックマウスを作成した。これらのマウスを、REGN268および対照mAbを試験するため、Seltzer神経因性疼痛モデルにおいて使用した。Seltzer手術の後、術後4日目および8日目に、熱痛覚過敏を発症したことを確認するためこれらのマウスを試験した。次いで、術後8日目、50mg/kg mAb REGN268(n=7)、50mg/kg対照RN624(n=8)、または50mg/kg IgG1対照(AVASTIN(登録商標))(n=6)をマウスにs.c.注射した。結果(表27)は、REGN268が、ヒト化NGFマウスにおける神経因性疼痛の軽減に関して、ヒト化抗NGF抗体(RN624)と同等に有効であるが、IgG1対照には効果がないことを示した(p<0.05)。
【0129】
【表27】

【0130】
実施例11 動物運動機能に対する抗NGFの効果
抗NGF処置が運動機能を改変し得るか否かを研究するため、未感作C57BL/6雄マウスでロータロッド試験において協調運動を査定した。まず、連続的に高くなるスピード(最高スピード10rpm)で回転するロータロッド(Columbus Instruments、直径3.5cm、幅9cm)の上にとどまる訓練を動物にさせた。マウスは、連続して60秒間歩くことができるようになるまで、または連続する3日間で各日10rpmでロータロッド上を合計2分間歩くまで、10rpmで訓練し続けた。訓練後、各マウスを、連続3回10rpmのロータロッド上に置き(トライアル間には短時間の休憩を置いた)、落下するまでの潜時を記録した。1分後に動物を除去し、落下しなかった場合、60秒のスコアを割り当てた。各マウスについての3回のトライアルのスコア中央値を分析において使用した。ロータロッドでの基線読み取りを入手した後、mAb REGN475、RN624、またはIgG陰性対照を、50mg/kgまたは100mg/kgでs.c.注射した。次いで、マウスを抗体注射後20日目まで試験した。結果(表28、落下するまでの潜時(秒)として表される)(平均値±sem)は、RN624により処理されたマウスは協調運動を有意に損なったが、REGN475により処理されたマウスはそうでなかったことを示した(p<0.001〜0.05)。興味深いことに、NT-3ノックアウトマウスおよびTrkCノックアウトマウスは、異常な運動および姿勢を示し、自己受容性感覚を失うことが報告されている(Ernfors et al.(1994)Cell 77:503-512;およびKlein et al.(1994)Nature 368:249-251)。ロータロッドに加えて、抗NGF抗体を注射された未感作マウスに対して、Hargreaves試験およびvon Frey試験も実施した。抗体投与後20日間、Hargreaves試験およびvon Frey試験において、いずれのマウス群についても統計的有意差は観察されなかった(各群n=6)。
【0131】
【表28】

【0132】
実施例12 ヘルペス後神経痛に罹患した患者の処置
帯状疱疹の部位に慢性疼痛を発症した患者は、ヘルペス後神経痛と診断される。患者は、本発明の抗NGF mAbを含む薬学的に許容される組成物を、治療的に有効な量、投与することにより処置される。投与は、好ましくは0.1〜10mg/kg体重の抗NGF抗体濃度で、皮下注射または静脈内注射によることができる。処置の頻度は、1〜12週間毎、または必要に応じたものであってよい。抗NGF抗体組成物の投与後の数日以内に、患者の疼痛は実質的に軽減される。抗NGF mAb組成物の反復投与が、この疼痛緩解を維持する。
【0133】
実施例13 骨関節炎疼痛に罹患した患者の処置
任意の関節における骨関節炎により引き起こされた中程度〜重度の疼痛に罹患した患者が、本発明の抗NGF mAbを含む薬学的に許容される組成物を、治療的に有効な量、投与することにより処置される。組成物は、10μg/kg体重〜10mg/kg体重の抗NGF抗体の濃度で静脈内に投与され得る。処置の頻度は、1〜12週間毎、または必要に応じたものであってよい。抗NGF抗体組成物の投与の数日以内に、患者の疼痛は実質的に軽減され、影響を受けた関節の可動性が回復する。処置は、必要な期間、繰り返され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面プラズモン共鳴により測定される場合に5pM以下のKDでヒト神経成長因子(NGF)に特異的に結合するヒト抗体または抗体の抗原結合断片であって、ラットおよびマウスのNGFに結合するよりも約2〜約10倍高いKDでヒトNGFに結合する、ヒト抗体または抗体の抗原結合断片。
【請求項2】
それぞれSEQ ID NO:90および98に示されたアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域3(HCDR3)および軽鎖CDR3(LCDR3)を含む、請求項1記載のヒト抗体または抗原結合断片。
【請求項3】
SEQ ID NO:86であるHCDR1と、SEQ ID NO:88であるHCDR2と、SEQ ID NO:94であるLCDR1と、SEQ ID NO:96であるLCDR2とをさらに含む、請求項2記載のヒト抗体または抗原結合断片。
【請求項4】
5pM以下のKDでヒト神経成長因子(NGF)に特異的に結合し、重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)を含むヒト抗体または抗体の抗原結合断片であって、HCVRおよびLCVRが、SEQ ID NO:108および110、またはSEQ ID NO:100および102に示されたアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列である、ヒト抗体または抗体の抗原結合断片。
【請求項5】
HCDR3およびLCDR3を含む、5pMのKDでヒトNGFに特異的に結合するヒト抗体または抗体の抗原結合断片であって、
HCDR3が、X1がAlaまたはSerであり、X2がThrまたはLysであり、X3がGluまたはIleであり、X4がPheまたはGlyであり、X5がValまたはGlyであり、X6がValまたはTrpであり、X7がValまたはPheであり、X8がThrまたはGlyであり、X9がAsnまたはLysであり、X10がPheまたはLeuであり、X11がAspまたはPheであり、X12がAsnまたはSerであり、X13がSerであるかまたは存在せず、X14がTyrであるかまたは存在せず、X15がGlyであるかまたは存在せず、X16がMetであるかまたは存在せず、X17がAspであるかまたは存在せず、かつX18がValであるかまたは存在しない、式X1-X2-X3-X4-X5-X6-X7-X8-X9-X10-X11-X12-X13-X14-X15-X16-X17-X18(SEQ ID NO:537)のアミノ酸配列を含み;かつ
LCDR3が、X1がGlnであり、X2がGlnであり、X3がTyrであり、X4がAsnであり、X5がArgまたがAsnであり、X6がTyrまたはTrpであり、X7がProであり、X8がTyrまたはTrpであり、かつX9がThrである、式X1-X2-X3-X4-X5-X6-X7-X8-X9(SEQ ID NO:540)のアミノ酸配列を含む、
ヒト抗体または抗体の抗原結合断片。
【請求項6】
X1がGlyであり、X2がPheであり、X3がThrまたはAsnであり、X4がPheまたはLeuであり、X5がThrまたはAspであり、X6がAspまたはGluであり、X7がTyrまたはLeuであり、かつX8がSerまたはAlaである、式X1-X2-X3-X4-X5-X6-X7-X8(SEQ ID NO:535)のアミノ酸配列を含むHCDR1と;
X1がIleまたはPheであり、X2がAspまたはSerであり、X3がProまたはTrpであり、X4がGluまたはAsnであり、X5がAspまたはSerであり、X6がGlyであり、X7がThr、Glu、またはSerであり、X8がThrまたはIleである、式X1-X2-X3-X4-X5-X6-X7-X8(SEQ ID NO:536)のアミノ酸配列を含むHCDR2と;
X1がGlnまたはArgであり、X2がAla、Ser、またはThrであり、X3がValまたはIleであり、X4がArgまたはThrであり、X5がAsn、Phe、またはTyrであり、かつX6がAspまたはAsnである、式X1-X2-X3-X4-X5-X6(SEQ ID NO:538)のアミノ酸配列を含むLCDR1と;
X1がGlyまたはAlaであり、X2がAlaであり、かつX3がSerまたはPheである、式X1-X2-X3(SEQ ID NO:539)のアミノ酸配列を含むLCDR2と
をさらに含む、請求項5記載のヒト抗体または抗体断片。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項記載のヒト抗体または抗原結合断片をコードする核酸分子。
【請求項8】
請求項7記載の核酸分子を含む発現ベクター。
【請求項9】
抗ヒトNGF抗体または抗体の抗原結合断片を作製する方法であって、請求項8記載の発現ベクターを単離された宿主細胞に導入する工程と、抗体または抗体断片の産生を許容する条件の下で細胞を培養する工程と、そのように産生された抗体または抗体断片を回収する工程とを含む、方法。
【請求項10】
宿主細胞が大腸菌細胞、CHO細胞、またはCOS細胞である、請求項8記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれか一項記載の抗体または抗体の抗原結合断片と薬学的に許容される担体とを含む、薬学的組成物。
【請求項12】
インターロイキン-1(IL-1)阻害剤、抗てんかん薬、サイトカインアンタゴニスト、および別のニューロトロフィンより選択されるさらなる治療剤をさらに含む、請求項11記載の薬学的組成物。
【請求項13】
ヒトにおいてNGFにより媒介される疾患または状態を和らげるためまたは阻害するために使用するための、請求項1〜6のいずれか一項記載の抗体または抗体の抗原結合断片。
【請求項14】
インターロイキン-1(IL-1)阻害剤、抗てんかん薬、サイトカインアンタゴニスト、および別のニューロトロフィンより選択されるさらなる治療剤と組み合わせて使用するための、請求項11記載の抗体または抗体の抗原結合断片。
【請求項15】
NGFにより媒介される疾患または状態が、有意な協調運動障害を伴うことなく阻害される、請求項13または14に記載の抗体または抗体の抗原結合断片。
【請求項16】
NGFにより媒介される疾患または状態が、炎症性疼痛、術後切開疼痛、神経因性疼痛、骨折疼痛、痛風関節疼痛、ヘルペス後神経痛、熱傷に起因する疼痛、癌疼痛、骨関節炎もしくは慢性関節リウマチの疼痛、座骨神経痛、鎌状赤血球クリーゼに関連した疼痛、またはヘルペス後神経痛より選択される、請求項12〜15のいずれか一項記載の抗体または抗体の抗原結合断片。
【請求項17】
ヒトにおいてNGFにより媒介される疾患または状態を和らげるためまたは阻害するために使用するための医薬の製造における、請求項1〜6のいずれか一項記載の抗体または抗体の抗原結合断片の使用。
【請求項18】
NGFにより媒介される疾患または状態が、有意な協調運動障害を伴うことなく阻害される、請求項17記載の使用。
【請求項19】
NGFにより媒介される疾患または状態が、炎症性疼痛、術後切開疼痛、神経因性疼痛、骨折疼痛、痛風関節疼痛、ヘルペス後神経痛、熱傷に起因する疼痛、癌疼痛、骨関節炎もしくは慢性関節リウマチの疼痛、座骨神経痛、鎌状赤血球クリーゼに関連した疼痛、またはヘルペス後神経痛より選択される、請求項17記載の使用。
【請求項20】
インターロイキン-1(IL-1)阻害剤、抗てんかん薬、サイトカインアンタゴニスト、および別のニューロトロフィンより選択されるさらなる治療剤と組み合わせて使用するための医薬の製造における、請求項17〜19のいずれか一項記載の使用。
【請求項21】
第一の治療剤および第二の治療剤をそれらの必要のあるヒト対象に投与する工程を含む、NGFの阻害によって阻害されるか、改善されるか、または緩和されるNGFに関連した状態または疾患を処置する方法であって、第一の治療剤が、表面プラズモン共鳴により測定される場合に5pMのKDでヒト神経成長因子(NGF)に特異的に結合し、抗体または抗体の抗原結合断片が、ラットおよびマウスのNGFに結合するよりも約2〜約10倍高いKDでヒトNGFに結合する、方法。
【請求項22】
抗体または抗原結合断片が、請求項1〜5のいずれか一項記載の抗体または抗原結合断片である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
第二の治療剤が、インターロイキン-1(IL-1)阻害剤、抗てんかん薬、サイトカインアンタゴニスト、または別のニューロトロフィンである、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
NGFにより媒介される状態または疾患が、有意な協調運動障害を伴うことなく阻害される、請求項21〜23のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
NGFにより媒介される状態または疾患が、炎症性疼痛、術後切開疼痛、神経因性疼痛、骨折疼痛、痛風関節疼痛、ヘルペス後神経痛、熱傷に起因する疼痛、癌疼痛、骨関節炎もしくは慢性関節リウマチの疼痛、座骨神経痛、鎌状赤血球クリーゼに関連した疼痛、またはヘルペス後神経痛より選択される、請求項21〜24のいずれか一項記載の方法。

【公表番号】特表2010−535509(P2010−535509A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−520319(P2010−520319)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【国際出願番号】PCT/US2008/072561
【国際公開番号】WO2009/023540
【国際公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(507302748)リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド (9)
【Fターム(参考)】