説明

ヒト第VIII因子および第VIII因子様タンパク質に対する結合分子

【課題】第VIII因子および第VIII因子様タンパク質を、これらのタンパク質を含有する溶液から、活性のある状態で、同定、単離および精製するための新規材料および方法を提供する。
【解決手段】血液または調整培地のような溶液中のヒト第VIII因子または第VIII因子様ポリペプチドを検出し、それを上記溶液から単離するための方法、ならびに、ヒト第VIII因子および/または第VIII因子様ポリペプチドを認識し、それと共に結合複合体を形成する結合部分を含む、上記目的に適合する試薬を開示する。特に、好適なポリペプチド結合部分を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタンパク質の単離および精製の分野に関する。特に、本発明は第VIII因子および/または第VIII因子様ポリペプチドと結合する結合分子の、同定、単離および合成に関する。こうした結合分子は、第VIII因子および第VIII因子様ポリペプチドを含有する溶液から、これらを検出、精製するために有用である。
【背景技術】
【0002】
血友病Aは、X染色体に連関した血漿凝固第VIII因子の欠損の結果として生じ、およそ10,000人あたり1例の頻度で、ほぼ男性のみが罹患する。X染色体の欠陥は、本人は発症しない女性保因者によって遺伝的に伝えられる。第VIII因子は、抗血友病因子(AHF)、血友病因子A、血小板コファクター、トロンボプラスチノーゲン、トロンボサイトリシン、および抗血友病性グロブリン(AHG)としても知られている。「第VIII:C因子」という呼称は、血液凝固に作用する化合物であることを示すために使用される。第VIII因子は高分子量の280kDaのタンパク質であり、それぞれ200kDaと80kDaの2本のポリペプチド鎖からなる。Anderssonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 83: 2979-2973 (1986)。この2本鎖は金属イオン架橋によって結合する。
【0003】
血友病Aの主症状は、血液が凝固しないで出血することである。第VIII因子濃縮製剤の投与によって、この病気と診断された個体の症状が軽快することが発見される以前は、患者の平均寿命は、およそ20才であった。
【0004】
近年まで、治療用第VIII因子の主な供給源は通常の血漿であった;しかしながら、この方法で単離された第VIII因子は、ある程度は有効であるが、いくつかの重大な欠点を有する。たとえば、血漿から単離された第VIII因子は非常に不純物が多く、典型的には、比活性はタンパク質1mgあたり2ユニット未満の第VIII因子であり、全第VIII因子含量は1%より低い。さらに、出発材料であるヒト血漿が高価であるため、精製法は費用がかかる。患者に病原体を伝播するリスクを減らすために、多くの予防措置もとらなくてはならない。たとえば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスおよび他の病原体が、提供された血液中に一般的に検出される。こうした方法によって得られる第VIII因子を使用するもう一つの不都合な点は、重症の血友病A患者の約10分の1に第VIII因子に対する抗体が出現し、疾病の治療が困難になることである。
【0005】
高度に精製された生物学的に活性な第VIII因子を、完全長の形や誘導体の形で作製し、単離するための方法を開発することに焦点を絞って研究努力がなされてきた。高純度タンパク質の利点としては、治療用混合物における本質的部分以外のタンパク質レベルの低下、ならびに病原体が存在する可能性の減少がある。第VIII因子がもっと精製された状態であればより少量の投与が可能となり、用量が少ないほど免疫系への攻撃も小さいと考えられるので、抗-第VIII因子抗体を生じるリスクが減少する可能性がある。
【0006】
生物学的に活性な第VIII因子フラグメントの単離から始まる、第VIII因子の組換え体の生産に向けて、重要なステップが踏み出された。Anderssonら、米国特許第4,749,780号;Anderssonら、米国特許第4,877,614号参照。完全長ヒト第VIII因子タンパク質をコードする遺伝子を、ブタ第VIII因子との配列相同性を利用して単離した。Tooleら、米国特許第4,757,006号参照。Tooleらは、第VIII:C因子の凝血促進活性を有するヒトおよびブタタンパク質の発現も報告している。
【0007】
しかしながら、ヒトおよびヒト以外のいずれの起源から単離した場合でもタンパク質の投与に伴って、抗-第VIII因子抗体の産生を含む重篤な副作用がなお存在する。ヒト第VIII:C因子と反応する抗体は、他の種に由来する第VIII:C因子にも、ある程度、反応することが知られており、ブタ第VIII因子はそれ自体が、ヒトにおいては抗原となる。また、血友病でないヒトも、免疫系が第VIII:C因子に対して感受性となったとき、発病する可能性がある。
【0008】
この問題に対する実行可能な解決法として、凝血促進活性を示す末端切断型の比較的低分子量のタンパク質をデザインした。Toole、米国特許第4,868,112号参照。Tooleは、完全長第VIII因子と同様の凝血促進活性を示す、約2000アミノ酸からなる比較的低分子量のブタ第VIII因子を用いた代替治療法を報告した。明らかに、一定のアミノ酸および25のグリコシル化可能な部位のうち19までを除去すると、そのタンパク質の抗原性が低下し、それによって抗-第VIII因子抗体出現の可能性も減少した。しかしながら、組換え第VIII因子の開発に伴う1つの困難は、十分に高収率な生産レベルを達成することである。
【0009】
最近、医薬製剤を目的とした工業的製法に使用するために、十分に高い収率で、生物学的に活性な組換え第VIII因子タンパク質を与える可能性が高い、組換え第VIII因子誘導体をコードする欠失型の第VIII因子cDNA分子が開発された。Almstedtら、米国特許第5,661,008号参照。Almstedtらは、完全長第VIII因子cDNAから誘導された修飾型第VIII因子をデザインし、これを動物細胞で発現させた場合に第VIII因子活性を有する第VIII因子様タンパク質を高レベルに産生した。このタンパク質は、本質的に、ヒト第VIII因子から誘導された2つのポリペプチド鎖からなり、そのポリペプチド鎖の分子量はそれぞれ90kDaおよび80kDaであった。Almstedtらの方法にしたがって、第VIII因子cDNAを転写単位に組み立てて、発現のために適当な宿主系に導入する。細胞系を懸濁培養または固相支持体上で大規模に増殖させることができる。次いで、培養培地中に産生されたタンパク質を濃縮し、精製する。最終的な活性タンパク質は、ヒト第VIII因子の1から743まで、および1638から2332までのアミノ酸から構成される。このポリペプチド配列は、市販のrFVIII-SQまたはREFACTO(登録商標)として知られている。Lindら、Euro. J. Biochem., 232: 19-27(1995)参照。Bドメインがほぼ欠失している、別のタイプの末端切断型第VIII因子を構築することもできる。このような実施形態において、本質的にヒト第VIII因子の1から740までのアミノ酸からなり、約90kDaの分子量を有する重鎖のアミノ酸は、本質的にヒト第VIII因子の1649から2332までのアミノ酸からなり、約80kDaの分子量を有する軽鎖のアミノ酸に連結される。重鎖および軽鎖は、2から15までのアミノ酸からなるリンカーペプチド、たとえばリシンまたはアルギニン残基を含むリンカー、によって連結可能であり、あるいはまた、金属イオン結合によって連結されることもある。
【0010】
現在、この分野では、血液や細胞培養上清のようなさまざまな溶液から直接、活性のある精製第VIII因子を得るための、効率的かつ費用対効果に優れた方法が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、第VIII因子および第VIII因子様タンパク質(REFACTO(登録商標)を包含する)を、これらのタンパク質を含有する溶液から、活性のある状態で、同定、単離および精製するための新規材料および方法を提供する。本発明の第VIII因子結合分子は、第VIII因子および第VIII因子様ペプチドに高い親和性を示す。このように、本発明は、血友病Aの治療に有用なタンパク質を工業規模で迅速に精製することを目的とする、費用対効果のすぐれた方法を提供する。
【0012】
したがって、本発明の目的は、第VIII因子および第VIII因子様タンパク質に対する新規結合分子を提供することである。本発明の望ましい結合分子は、標的である第VIII因子ポリペプチドの結合に対して明確な特性を示すだけでなく、標的のポリペプチドの遊離(溶出)についても特異的で望ましい特性を示す。本発明の特に望ましい結合分子は、安定なループ構造を特徴とする短いポリペプチド配列である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の結合分子を単離するための望ましい方法はファージ展示法を用いて本明細書に開示する。本発明のファージ展示法は、ポリペプチド結合分子のファミリーを同定するために有用であり、この技法を用いて、第VIII因子および第VIII因子様ペプチドに強い親和性を示すいくつかの結合ペプチドが同定され、単離された。このような結合ペプチドは、溶液から第VIII因子および第VIII因子様ポリペプチドを同定、単離し、精製するために有用である。
【0014】
本発明のファージ展示法によって単離される第VIII因子および第VIII因子様ペプチドに対して特異的な、もっとも望ましい結合分子は、配列番号1、配列番号2および配列番号3において明示された位置に存在する、2つのシステイン残基間のジスルフィド結合の結果として形成されたループ構造を特徴とするポリペプチドである。本発明の特異的ポリペプチド結合分子は、下記の一般式を有するアミノ酸配列を含んでなるポリペプチドを包含する。
【0015】
I. X1-X2-Cys-X3-X4-X5-X6-X7-Cys-X8-X9(配列番号1)、
ここにおいて、X1はArg、Phe、HisまたはPro;X2はSer、Gly、LeuまたはHis;X3はGly、Asn、IleまたはSer;X4はSer、TrpまたはGly;X5はTrp、Ile、LeuまたはVal;X6はPhe、TrpまたはSer;X7はProまたはPhe;X8はSer、Leu、ProまたはPhe;X9はAla、Phe、LeuまたはHisである;
II. X10-X11-Cys-X12-X13-Trp-X14-X15-Pro-Cys-X16-X17(配列番号2)、
ここにおいて、X10はArgまたはHis;X11はAla、Arg、Gly、LeuまたはPro;X12はGlyまたはPhe;X13はAlaまたはSer;X14はLeuまたはPhe;X15はArg、AsnまたはHis;X16はAla、Asp、His、Leu、Phe、ProまたはTyr;X17はAla、Arg、Asn、AspまたはHisである;さらに、
III. Phe-Cys-X18-Val-X19-X20-Phe-X21-His-Cys-X22(配列番号3)、
ここにおいて、X18はHisまたはTrp;X19はHisまたはPhe;X20はAla、Asn、HisまたはPro;X21はAla、Asn、Asp、Gln、His、Leu、SerまたはVal;X22はAla、Asp、His、Leu、PheまたはSerである。
【0016】
さらにまた、本発明のファージ展示法を使用して第VIII因子および第VIII因子様ポリペプチドに対して特異的な、別のファミリーの結合分子を単離することも可能であると考えられる。
【0017】
溶液から、上記のように、第VIII因子および第VIII因子様ポリペプチド(特にREFACTO(登録商標)を包含する)を単離および/または精製するためにもっとも望ましい結合分子は、下記のポリペプチドである:
His-Ser-Cys-Gly-Ser-Trp-Leu-Phe-Pro-Cys-Phe-Ala(配列番号4);
Phe-Gly-Cys-Ser-Trp-Leu-Phe-Pro-Cys-Pro-Phe(配列番号5);
Pro-His-Cys-Asn-Trp-Leu-Phe-Pro-Cys-Ser-Leu(配列番号6);
Arg-Leu-Cys-Ser-Trp-Ile-Ser-Pro-Cys-Ser-Ala(配列番号7);
Phe-His-Cys-Ile-Gly-Val-Trp-Phe-Cys-Leu-His(配列番号8);
Arg-Leu-Cys-Ser-Trp-Val-Ser-Pro-Cys-Ser-Ala(配列番号9);
His-Pro-Cys-Gly-Ser-Trp-Leu-Arg-Pro-Cys-Leu-His(配列番号10);
Arg-Gly-Cys-Gly-Ser-Trp-Leu-Arg-Pro-Cys-Leu-Asp(配列番号11);
His-Pro-Cys-Gly-Ser-Trp-Leu-His-Pro-Cys-Ala-Ala(配列番号12);
His-Pro-Cys-Gly-Ser-Trp-Phe-Asn-Pro-Cys-Ala-His(配列番号13);
His-Pro-Cys-Gly-Ser-Trp-Phe-Arg-Pro-Cys-Phe-His(配列番号14);
His-Ala-Cys-Gly-Ser-Trp-Phe-Arg-Pro-Cys-His-Ala(配列番号15);
His-Leu-Cys-Gly-Ala-Trp-Phe-Arg-Pro-Cys-Asp-Ala(配列番号16);
His-Leu-Cys-Phe-Ala-Trp-Phe-Arg-Pro-Cys-Asp-Ala(配列番号17);
His-Gly-Cys-Gly-Ala-Trp-Phe-Arg-Pro-Cys-His-Ala(配列番号18);
His-Pro-Cys-Gly-Ala-Trp-Phe-Asn-Pro-Cys-Pro-Arg(配列番号19);
His-Pro-Cys-Gly-Ala-Trp-Leu-Arg-Pro-Cys-Tyr-Asn(配列番号20);
His-Arg-Cys-Gly-Ser-Trp-Leu-His-Pro-Cys-Leu-Ala(配列番号21);
Phe-Cys-Trp-Val-Phe-Ala-Phe-Asp-His-Cys-His(配列番号22);
Phe-Cys-Trp-Val-His-Pro-Phe-Ala-His-Cys-Leu(配列番号23);
Phe-Cys-His-Val-Phe-His-Phe-Ser-His-Cys-Asp(配列番号24);
Phe-Cys-Trp-Val-Phe-Ala-Phe-Asp-His-Cys-His(配列番号25);
Phe-Cys-Trp-Val-Phe-Asn-Phe-Ser-His-Cys-Ser(配列番号26);
Phe-Cys-Trp-Val-Phe-Pro-Phe-Asn-His-Cys-Asp(配列番号27);
Phe-Cys-Trp-Val-Phe-Pro-Phe-Asn-His-Cys-Ser(配列番号28);
Phe-Cys-Trp-Val-Phe-Pro-Phe-Gln-His-Cys-Ala(配列番号29);
Phe-Cys-Trp-Val-Phe-Pro-Phe-His-His-Cys-Phe(配列番号30);
Phe-Cys-His-Val-Phe-Asn-Phe-Val-His-Cys-Ser(配列番号31); 及び
Phe-Cys-His-Val-Phe-Pro-Phe-Leu-His-Cys-Asp(配列番号32)
【0018】
第VIII因子および第VIII因子様ポリペプチドが単離精製される、そのもとの溶液は、血液、血液画分、および組換え宿主細胞によって産生、分泌された第VIII因子または第VIII因子様ポリペプチドを含有する組換え細胞培養上清を包含するが、それに限定されない。
【0019】
また別の実施形態において、本発明は、ファージ展示法によって第VIII因子結合分子を同定および単離するための方法を提供する。より詳細には、ファージ展示ライブラリーのような結合分子ライブラリーから、特異的であらかじめ決定された結合・溶出特性を有する第VIII因子および第VIII因子様結合分子を選択することができ、この方法は下記のステップ:
(a)結合分子が第VIII因子または第VIII因子様ポリペプチドに対して親和性を示し、アフィニティ複合体を形成することが要求される第1溶液条件(すなわち結合条件)を選択すること;
(b)結合分子が第VIII因子または第VIII因子様ポリペプチドから解離することが要求される第2溶液条件(すなわち遊離条件)を選択すること、ただし、第2溶液条件はある点(たとえば、温度、pH、溶媒濃度など)で第1溶液条件とは異なるものであること;
(c)親となる第VIII因子結合ドメインのアナログライブラリーを用意すること、ただし、それぞれのアナログは該ドメイン内の1以上のアミノ酸位置でのアミノ酸配列の変異によって、該当する親の結合ドメインとは異なるものであること;
(d)結合分子と第VIII因子または第VIII因子様ポリペプチドとの間で複合体を形成するのに適した条件下の第1溶液条件で、上記アナログライブラリーを第VIII因子または第VIII因子様ポリペプチドと接触させること;
(e)その溶液から、結合しなかった結合ドメインライブラリーのメンバー(アナログ)を除去すること;
(f)ステップ(e)で残された第VIII因子または第VIII因子様ポリペプチド複合体を、結合分子/第VIII因子(または第VIII因子様ポリペプチド)複合体の一部を解離させるための第2溶液条件下におくこと;
(g)第2溶液条件下で遊離した結合アナログを回収すること、ただし、回収されたアナログが、単離された第VIII因子または第VIII因子様結合分子に合致すること;
を含んでなる。
【0020】
場合により、上記の方法は、追加の遊離条件ステップを包含することができる。すなわち、ステップ(f)で残された第VIII因子または第VIII因子様ポリペプチド複合体を、他の残存複合体を解離させる第3の溶液条件下におくことを包含することができ、この残存複合体は、第2溶液条件下で遊離した第VIII因子結合分子とは異なる画分に集められる。このようなステップは、その条件がステップ(d)で生成したすべての複合体を解離するのに十分ストリンジェントであるならば、上記方法にしたがって単離された結合分子を利用した結合マトリックスの再生に適した溶液条件を同定するだろう。
【0021】
また、第VIII因子および/または第VIII因子様ポリペプチドと結合する、ペプチド以外の結合分子および修飾ポリペプチドも、本発明に包含される。このような修飾の例としては、システインのうちの一方を、他方のシステイン側鎖と縮合して安定なチオエーテル結合を形成することができる天然に存在しないアミノ酸に置き換えることによって、システイン残基で修飾された、ジスルフィド結合を形成するシステイン残基対を有する制約型ループペプチドがある。このような合成ペプチドの環状チオエーテルアナログはPCT公開WO 97/46251に記載されており、参考として本明細書に含めるものとする。ほかに特に考慮すべき修飾には、第VIII因子の結合にほとんど影響を与えずに安定性または他の性質を付与する、特定のアミノ酸の置換(たとえば、Asp-Proの代わりにGlu-Proを用いると酸不安定性が減少する);ポリ-グリシンセグメントのようなリンカーを組み込む、N末端またはC末端の修飾、および、たとえば本発明の結合ポリペプチドを固相支持体に固定化する際に助けとなる、官能基、特にヒドラジド(-NH-NH2)官能基を包含する変化、が含まれる。
【0022】
もう一つの実施形態において、本発明は、本発明の結合分子をコードする単離された核酸、好ましくはDNA、を含んでなる物質の組成物を包含する。
【0023】
また別の実施形態において、本発明は、第VIII因子または第VIII因子様ペプチドを、これを含有すると予測される溶液中で検出するための方法を提供するが、この方法は溶液を本発明の結合分子と接触させ、結合複合体が形成されたかどうかを判定することを含んでなる。
【0024】
本発明の別の実施形態としては、第VIII因子または第VIII因子様ポリペプチドを、これを含有すると予測される溶液から精製するための方法があるが、これは次のステップ:
(a)第VIII因子または第VIII因子様ポリペプチドと、結合分子を含む結合複合体の形成を助ける溶液条件下で、第VIII因子または第VIII因子様ポリペプチドを含有する溶液を、本発明の結合分子と接触させること;
(b)溶液中の非結合成分から複合体を分離すること;
(c)結合分子から第VIII因子または第VIII因子様ポリペプチドを解離すること;および
(d)解離、精製された第VIII因子または第VIII因子様ポリペプチドを回収すること;
を含んでなる。
【0025】
第VIII因子および第VIII因子様ペプチドを単離するための方法も本発明によって想定され、この方法は下記のステップ:
(a)本発明の結合分子を固相支持体に固定化すること、
(b)第VIII因子含有溶液または第VIII因子様ポリペプチド含有溶液を、上記固相支持体に接触させること、
(c)溶液から非結合成分を除去すること、および
(d)固相支持体から第VIII因子または第VIII因子様ポリペプチドを溶出すること;
を含んでなる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によって、第VIII因子および/または第VIII因子様ポリペプチドを含有する溶液中で、または溶液から、これらを高度に選択的に検出する、または精製することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
定義
本明細書で使用される「組換え体」という用語は、天然に存在しない改変された、あるいは操作を加えられた核酸、外来核酸をトランスフェクションされた宿主細胞、または単離されたDNAの操作や宿主細胞の形質転換によって天然に存在しない状態で発現されたポリペプチドを表すために用いられる。組換え体は特に、遺伝子工学の技法を用いてin vitroで構築されたDNA分子をとりわけ包含する用語であり、分子、構築物、ベクター、細胞、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドを説明するために形容詞として「組換え」という用語を使用することは、本質的に天然に存在するそうした分子、構築物、ベクター、細胞、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドを除外する。
【0028】
「バクテリオファージ」という用語は、DNAコア、および多数の異なるタンパク質分子の凝集によってつくられた保護殻を含有する細菌ウイルスとして定義される。「バクテリオファージ」および「ファージ」という語は、本明細書では置き換え可能として使用される。
【0029】
「第VIII因子様ポリペプチド」という語は、天然に存在する第VIII因子または完全長組換え第VIII因子の、修飾された、あるいは切断された形態を指すために使用され、この第VIII因子様ポリペプチドは第VIII因子の凝血促進性の特性を保持している。第VIII因子様ポリペプチドの例としては、活性のある第VIII因子断片および第VIII因子誘導体があり、これらは上記のAnderssonら、Toole、およびAlmstedtらの特許によって開示されたが、そのすべてが参照により本明細書に組み込まれる。「第VIII因子標的」という用語は、溶液または産物供給物流の中に包含される第VIII因子および/または第VIII因子様ポリペプチドを集合的に指示するために以下、時に使用される場合がある。
【0030】
本明細書で使用される「結合分子」という用語は、別の分子、ポリペプチド、ペプチド様物質、または形質転換体とともに結合複合体を形成することのできるあらゆる分子、ポリペプチド、ペプチド様物質、または形質転換細胞(「形質転換体」)を意味する。「第VIII因子結合分子」は、第VIII因子と共に複合体を形成する結合分子である。第VIII因子結合分子の具体的な例としては、本明細書に記載のポリペプチド(例えば配列番号1-32)およびこのようなポリペプチドをすべて展示するバクテリオファージがある。また、上記の式I、IIまたはIIIのアミノ酸配列を有するポリペプチドから由来する、またはこれを包含するポリペプチドおよび特別の結果を目的として修飾されたポリペプチドも第VIII因子結合分子の定義に包含される。考慮すべき修飾の具体的な例は、C末端またはN末端のアミノ酸置換、またはポリペプチド鎖の伸長であるが、その目的はクロマトグラフィー支持体または他の基体に結合分子部分を連結することである。さらに通常はジスルフィド結合を形成するシステイン残基ペアを、例えば反応性側鎖を有する天然には存在しないアミノ酸残基で置換することも考慮すべき修飾の具体的な例であって、その目的はそのようなアミノ酸の位置に前者のジスルフィド結合よりも安定な結合を形成するためである。このような修飾された結合分子はいずれも、第VIII因子および/または第VIII因子様ポリペプチドと結合する能力を保持する限りは、やはり本発明の結合分子とみなされる。
【0031】
あらゆる公知の方法で、第VIII因子および第VIII因子様ペプチドを製造することができる。該方法には、化学合成;形質転換宿主細胞内での産生;天然に存在する細胞または組換えによって形質転換された細菌、酵母、真菌、昆虫細胞および哺乳動物細胞による培地中への分泌;遺伝子工学によって作製された生物(例、トランスジェニック哺乳動物)からの分泌;または血液、血漿などのような生体内の液体または組織中に分泌が含まれる。最初に産生されたままの粗製の第VIII因子を含有する溶液(すなわち産物溶液)を「供給物流(feed stream)」と呼ぶこともある。
【0032】
第VIII因子(または第VIII因子様ポリペプチド)を製造するそれぞれの方法は、多くの不純物(第VIII因子に関しての)を余分に含有する供給物流のなかで第VIII因子を生じる。本発明の目的の1つは、特別な供給物流からの迅速で特異性の高い第VIII因子の精製を可能にするアフィニティリガンド、およびかかるリガンドを含んでなる調製物(例えばクロマトグラフィー媒体)を製造することである。本明細書で得られた第VIII因子アフィニティリガンドを、予め選択された特別な条件下で特定の供給物流から第VIII因子を単離することに合わせることができる。第VIII因子のための別の製造方法を用いる場合には、異なる供給物流が生じ、同レベルの精製を達成するためには異なるセットのアフィニティリガンドが必要となりうる。新たなリガンドのセットは、本明細書に概説した手順に従って容易に得ることができる。
【0033】
本発明の第VIII因子結合分子は、第VIII因子と結合することが知られている抗体のような他のタンパク質と同等、またはそれに勝る高い親和性をもって第VIII因子と結合する。さらに、本明細書に記載の好ましいアフィニティリガンドは特定の遊離条件下で第VIII因子を完全で、かつ活性のある状態で遊離する。
【0034】
結合および遊離条件の選択
結合と遊離に関するあらかじめ選択された特別な性質を示す、第VIII因子結合ペプチドを同定するための手法であるファージ展示法を用いて、本発明のポリペプチド結合分子を単離した。この方法論では、2つの溶液条件、すなわち結合条件および遊離条件を予め選択することができる。結合条件は、発見された結合ポリペプチドが標的である第VIII因子(または第VIII因子様ポリペプチド)と結合することが望ましい一連の溶液条件である;遊離条件は、発見された結合ポリペプチドが第VIII因子と結合しない(すなわち第VIII因子から解離する)ことが望ましい一連の溶液条件である。この2つの条件は、実施者のあらゆる基準(例えば、条件の達成しやすさ、他の精製ステップとの適合性、他のアフィニティ媒体と比較して条件の間を切り替えるコストの安さなど)を満足するように選択することができる。好ましくは、標的タンパク質(第VIII因子または第VIII因子様ポリペプチド)の安定性または活性に悪影響を与えることのないように、および少なくとも1つの溶液パラメーターに関して有意に異なるように2つの溶液条件を選択する。例えば、本明細書に記載の好適な結合ペプチドに対するスクリーニングを行なう際に、エチレングリコール含有バッファーの存在下で、もしくは低いpH条件(すなわちpH2)で、またはそれらを組み合わせた条件で、標的分子から解離する結合物質を選択した。これらの条件は、結合のために用いた条件とは異なっていた。都合よく変更できるもう一つのパラメーターは、結合および溶出バッファー中の塩(例えばNaCl)濃度である。
【0035】
親結合ドメインの選択
第VIII因子の所望の結合および遊離を目的とする特別な溶液条件を選択することと併せて、所望の結合能力および遊離能力を示す改変結合分子のための構造鋳型となる親結合ドメインを選択する。該結合ドメインは天然に存在する、もしくは合成のタンパク質、またはタンパク質の領域もしくはドメインである。親結合ドメインは、親結合ドメインと第VIII因子の間の公知の相互作用に関する知見に基づいて選択することができるが、これが決定的ではない。実際、親結合ドメインが第VIII因子に対する何らかの親和性を有することはまったく必須ではない:その目的は、非常に多数のアナログ(「ライブラリー」)がそれから生じるような構造を提供することであり、その多数のアナログは、結合および遊離の所望の特性(および何らかの他の選択された特性)を示す1つ以上のアナログを包含するであろう。上記で論じた結合条件および遊離条件は、親結合ドメインとなる正確なポリペプチドの知識、または親結合ドメインの属するタンパク質またはドメインのクラスの知識を考慮して、あるいは親結合ドメインの選択とはまったく無関係に選択される。同様に結合および/または遊離条件は、結合ドメインと第VIII因子間の既知の相互作用に関連して、例えば一方または両方の溶液条件下での相互作用を助長するために選択することができ、あるいはそうした既知の相互作用とは無関係に選択することもできる。同じように、結合ドメインアナログが結合または遊離条件下で不安定ならば、有用な結合分子は得られないということは考慮されるべきではあるが、親結合ドメインは結合および/または遊離条件を考慮して選択されることもあり、そうでない場合もある。
【0036】
親結合ドメインの性質は、第VIII因子の分子に対して試験される誘導ペプチド(アナログ)の特性に大きな影響を与える。親結合ドメインの選択において最も重要な考慮すべき点は、どのようにしてアナログドメインを第VIII因子に与えるのか、すなわちどのような立体構造で第VIII因子とアナログが接触するのかという点である。好ましい実施形態において、例えばアナログは、アナログをコードする合成DNAを複製可能な遺伝子パッケージに挿入することによって生成することができるが、その結果、下記の技法を用いて、M13ファージのような微生物の表面にドメインが展示される;例えば、Kayら、Phage Display of Peptides and Proteins: A Laboratory Manual, (Academic Press, Inc.; San Diego 1996)および米国特許第5,223,409号(Ladnerら)で、これらは参照により本明細書に組み込まれる。
【0037】
ファージ展示ライブラリーを作製するために、構造的に構築されていない線状ペプチドに対して、結合ドメイン鋳型として構築されたポリペプチドを使用することが好ましい。タンパク質の表面残基の変異は、通常、タンパク質の全体的な構造や一般的な特性(例えば、大きさ、安定性、および変性温度)にほとんど影響を与えない;しかしながら、同時に表面残基の変異はタンパク質の結合性に大いに影響を与える可能性がある。ペプチドセグメントが厳しく制約されるほど、特定の標的と結合しにくくなる。しかしながら結合しさえすれば、その結合はよりしっかりとして、より特異的である可能性が高い。したがって、親結合ドメインを選択し、次にある程度の厳格をもつフレームワーク内に制約されたポリペプチドアナログのための構築物を選択することが好ましい。
【0038】
ドメインアナログのライブラリーを作製するための鋳型または親ドメインとして使用されるタンパク質ドメインは、小さいタンパク質またはポリペプチドであることが好ましい。小さいタンパク質またはポリペプチドは、大きなタンパク質以上の利点をいくつか提供する:第1に、結合部位あたりの質量が減少する。低分子量の非常に安定なタンパク質ドメイン、例えば、Kunitzドメイン(〜7 kDa)、Kazalドメイン(〜7 kDa)、Cucurbida maxima トリプシンインヒビター(CMTI)ドメイン(〜3.5 kDa)、およびエンドセリン(〜2 kDa)は、抗体(150 kDa)または一本鎖抗体(30 kDa)よりも、非常に高いグラムあたりの結合を示すことができる。第2に、利用できる表面が小さいので、非特異的結合の可能性が減少する。第3に、もっと大きなタンパク質または抗体では実施不可能な方法で、独特のテサーリング(tethering)部位を有する小さいタンパク質またはポリペプチドを、工学的に作製することができる。例えば、テサーリング(tethering)(例、クロマトグラフィーマトリックスに対する)に適した部位にのみリジンを有する小さいタンパク質を工学的に作製することができるが、これは抗体に関しては実行不可能である。第4に、制約型ポリペプチド構造は、構造ドメインと共に、あるフレームワークから別のフレームワークにそのまま移動するとき、その機能を維持する可能性がより高い。例えば、結合ドメイン構造は、ライブラリーでの呈示のために使用される(例えば、ファージ上で展示される)フレームワークから呈示フレームワークから除去され、またはクロマトグラフィー基体に固定化された単離タンパク質へ、移動できる可能性がある。
【0039】
例えば、クロマトグラフィーマトリックスに本発明のポリペプチドを固定化し、溶液、例えば全血、または形質転換体である宿主細胞から分泌された第VIII因子を含有する馴化培地のための効率のよい第VIII因子分離用媒体を作製することを意図する。適当な結合ドメイン鋳型を選択することによって、単一で遊離の(たいていの場合ジスルフィド結合を形成するもう1つのシステインと対をなしていない)システインを有する結合ポリペプチドを単離することができる。このようなチオール官能性ポリペプチドは、ヨードアセトアミド、ヨード酢酸、または類似のα-ヨードカルボン酸基とともにチオエーテルを形成することによって、基体への非常に安定した固定化のために使用することができる。
【0040】
同様に、アルデヒド官能性基質または他のアミン反応性基質との反応のために、ポリペプチドドメインのC末端カルボキシル基をヒドラジド(-NH-NH2)に変換することができる。この技法は好ましい。
【0041】
親結合ドメインとして使用するのに適した、多数の小さく安定なタンパク質ドメインがあり、そのために下記の有用な情報を利用できる:(1)アミノ酸配列、(2)いくつかの相同ドメインの配列、(3) 3次元構造、および/または(4) pH範囲、温度、塩分、有機溶媒、オキシダント濃度に関する安定性データ。例としては:Kunitzドメイン(58アミノ酸、3ジスルフィド結合)、Cucurbida maximaトリプシンインヒビタードメイン(31アミノ酸、3ジスルフィド結合)、グアニリンに関するドメイン(14アミノ酸、2ジスルフィド結合)、グラム陰性細菌由来の耐熱性エンテロトキシンIAに関するドメイン(18アミノ酸、3ジスルフィド結合)、EGFドメイン(50アミノ酸、3ジスルフィド結合)、クリングルドメイン(60アミノ酸、3ジスルフィド結合)、菌類の炭水化物結合ドメイン(35アミノ酸、2ジスルフィド結合)、エンドセリンドメイン(18アミノ酸、2ジスルフィド結合)、および連鎖球菌G IgG結合ドメイン(35アミノ酸、ジスルフィド結合なし)がある。これらのすべてではないが大半が、構造を維持し安定化するジスルフィド結合を含有する。また、親結合ドメインは、既知のタンパク質ドメインと相同性がある、または相同性がない微小タンパク質の一重ループ(1ジスルフィド)に基づくことができる。例えば、7〜9アミノ酸からなる制約型ループを使用して、第VIII因子および第VIII因子様ポリペプチド結合分子を単離するためのライブラリーを下記のように作製した。好ましくはファージに展示される、上記ドメインに基づくライブラリーは容易に構築され、本発明の結合分子を選択するために使用することができる。
【0042】
親結合ドメインアナログのライブラリーの提供
ひとたび親結合ドメインが選択されたならば、所望の結合条件および(オプションとして)所望の溶出(遊離)条件のもとで、標的、この場合は第VIII因子および/または第VIII因子様タンパク質に対してスクリーニングするために、可能性のある結合分子のライブラリーが作製される。ライブラリーは一連のアナログを作製することによって作製されるが、それぞれのアナログは、1つ以上のアミノ酸の置換をドメインのアミノ酸配列中に有することを除いては、親結合ドメインに一致する。アミノ酸置換によって、少なくともほとんどの置換に関して、構造は有意に変化せずに、ドメインの結合性が変化することが期待される。変異のために選択されるアミノ酸の位置(変異可能なアミノ酸位置)は、表面のアミノ酸位置である、すなわち、ドメインがもっとも安定な立体構造をとった場合、ドメインのアミノ酸配列において、ドメインの外部表面(すなわち溶液に曝される表面)上に現われる位置であることが好ましい。変異すべきアミノ酸位置は、置換の効果を最大にするために隣接する、または互いに接近していることがもっとも好ましい。さらに、余分のアミノ酸を親結合ドメインの構造中に付加することができる。好ましい実施形態において、第VIII因子と他の分子、特に親結合ドメインとの相互作用に関して相当量の情報が利用可能である場合には特に、結合の相互作用に必須であるアミノ酸位置が決定され、アナログライブラリーをつくる工程で保存される(すなわち、結合に必須のアミノ酸は変異しない)。
【0043】
アナログライブラリーを作製する目的は、極めて多数の可能性のある結合分子を第VIII因子分子との反応のために提供することであり、一般にライブラリーにおけるアナログの数が多ければ多いほど、ライブラリーの少なくとも1つのメンバーが第VIII因子と結合し、遊離のために予め選択された、または所望の条件下で遊離する可能性も大きい。特定の鋳型構造にしたがって、特定の位置でのアミノ酸の多様化を制限する、設計されたライブラリーが非常に好ましいが、それは1つのライブラリーが設計されたアナログのすべてを包含することが可能であり、包含される配列が既知であって、おおよそ同じ数だけ与えられるためである。これに対して、アミノ酸配列中のわずか6カ所のランダム置換であっても、6千万以上のアナログを提供するが、これはたとえファージ展示と同様に強力なスクリーニング技術を利用する場合であっても、実施する上での限界を示し始めるライブラリーサイズである。これより大きなライブラリーは、操作において問題を有すると考えられ、例えば発酵容器は並外れた大きさであることが必要となり、さらに重要なことは、調製されたライブラリーの中に提示され、計画されたポリペプチド配列の変異のすべてを含有する可能性が、明らかに減少することである。したがって、設計された、あるいは偏りのあるライブラリーを作製することが好ましく、ここにおいて、変異を指定されたアミノ酸位置は、アナログの結合性に対する置換の効果を最大とするように考慮され、さらに置換における使用が可能であり、または計画されたアミノ酸残基は、例えば、結合物質を目的としてライブラリーをスクリーニングする溶液条件下でそれがアナログを結合させやすくすることに基づいて限定される。
【0044】
前述のように、Kayら、上記、およびLadnerら、米国特許第5,223,409号において論じられた技法は、選択した親結合ドメインに対応するアナログライブラリーを調製する際に特に有用であり、このアナログは、標的である第VIII因子分子に関する多数のアナログの大規模スクリーニングに適した形態で提示されるだろう。複製可能な遺伝子パッケージ、もっとも好ましくはバクテリオファージの使用は、新規ポリペプチド結合物質を生成する強力な方法である。すなわち、この方法は新規外因性DNAセグメントをバクテリオファージ(または他の増幅可能な遺伝子パッケージ)のゲノムに導入することを包含し、その結果天然に存在しないDNAにコードされたポリペプチドが、ファージの表面に現われる。挿入されたDNAが配列多様性を有する場合、それぞれの受容ファージは、DNAによってコードされた鋳型(親)アミノ酸配列の変異体1つを展示し、ファージ集団(ライブラリー)は、莫大な数の異なっているが関連性のあるアミノ酸配列を展示する。
【0045】
本発明の第VIII因子結合物質を得るためのスクリーニング法において、ファージライブラリーを、通常は固相支持体に固定化された標的である第VIII因子分子と接触させて、結合させることが可能である。結合物質でないものを、結合物質から分離する。様々な方法で、結合したファージを第VIII因子から解放させ、回収し、増幅する。ファージは細菌細胞への感染によって増幅することができるので、小量の結合ファージであっても結合物質をコードする遺伝子配列を明らかにするには十分である。この技法を用いて、集団の2千万の中のほとんど1である結合ファージを回収することができる。それぞれ1〜2千万またはそれ以上の、可能性のある結合ポリペプチドを展示する1つ以上のライブラリーを、親和性の高い第VIII因子結合物質を発見するために迅速にスクリーニングすることができる。選別方法がうまく機能する場合、優れた結合物質のみが残るまで集団の多様性は1回毎に低下し、すなわち選別方法は一点に収束する。一般的に、ファージ展示ライブラリーは、いくつかの密接に関連した結合物質を含有する(1千万のうち10〜50結合物質)。収斂の徴候は、結合の増加(ファージ力価によって測定される)および密接に関連した配列の回収を包含する。最初の1セットの結合ペプチドを同定した後、その配列情報を用いて、例えば特別の供給物流の中で第VIII因子と特定の断片または密接に関連した不純物との間を識別するような、別の所望の特性を有する、構成に偏りのある他のライブラリーを設計することができる。
【0046】
このような技法は、多数の可能性のある結合分子のスクリーニングを可能にするだけでなく、結合/溶出サイクルの反復および、当初の基準に合致するアナログ展示パッケージをスクリーニングするための、二次的な偏りのあるライブラリーの構築を実行可能にする。この技法を用いて、アナログに偏りのあるライブラリーをスクリーニングし、スクリーニング条件下でしっかりと(すなわち、高い親和性をもって)結合するメンバーを明らかにすることができる。
【0047】
ポリペプチドアナログの合成
上記に概説した方法を受けて、第VIII因子および/または第VIII因子様ポリペプチドに対するさらなる結合分子を、本明細書に記載のファージ展示ライブラリーから、または他のファージ展示ライブラリーから、あるいは可能性のある結合分子の集積(例えば、有機化合物の組み合わせライブラリー、ランダムペプチドライブラリーなど)から、単離することができる。一度単離されれば、個々の結合ペプチドの配列または結合分子の構造を分析することが可能であり、その結合物質を既知の方法を用いて所望の量で製造することができる。例えば、本明細書に記載のポリペプチド結合分子は、その配列が現在は明らかであるため、化学合成によって有利に製造することができ、それに続いて、天然に存在する立体構造、すなわち正しいジスルフィド結合を得るために適した酸化条件下で処理を行なう。合成は当業者に公知の方法論によって行なわれる(Kelleyら、Genetic Engineering Principles and Methods, (Setlow, J. K.編), Plenum Press, NY., (1990)、 vol. 12, pp. 1-19;Stewartら、Solid-Phase Peptide Synthesis (1989)、W. H. Freeman Co., San Franciscoを参照)。本発明の結合分子は、化学合成または半合成のいずれかによって作製できる。化学合成または半合成の方法によって、非天然アミノ酸残基の可能性を取り込むことが可能になる。
【0048】
本発明のポリペプチド結合分子は、固相ペプチド合成法を用いて調製することが好ましい(Merrifield, J. Am. Chem. Soc., 85: 2149(1963); Houghten, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82: 5132(1985))。固相合成法は、保護されたアミノ酸を適当な樹脂に結合することによって、想定されるポリペプチドのカルボキシル末端から開始されるが、ここで、この樹脂はC末端アミノ酸のカルボキシ基と反応して、あとで容易に切断される結合を形成する。樹脂の例としては、ハロメチル樹脂(例えばクロロメチル樹脂およびブロモメチル樹脂)、ヒドロキシメチル樹脂、アミノメチル樹脂、ベンズヒドリルアミン樹脂、またはt-アルキルオキシカルボニル-ヒドラジド樹脂がある。例えば、塩化メチレンに溶解したトリフルオロ酢酸(TFA)を用いて、α-アミノ保護基をはずし、例えばTFA中で中和を終えると、合成の次のサイクルが進行する準備ができる。つぎに、残存するαアミノおよび必要がある場合、側鎖を保護されたアミノ酸を、所望の順序で連続的に縮合によって結合し、樹脂に連結された中間化合物を得る。あるいはまた、伸長する固相ポリペプチド鎖にオリゴペプチドを付加する前に、アミノ酸を、お互いに結合しオリゴペプチドを形成することができる。
【0049】
2つのアミノ酸の間、またはアミノ酸とペプチドの間、あるいはペプチドとペプチドの間の縮合は、通常の縮合法、例えばアジド法、混合酸無水物法、DCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド)法、活性エステル法(p-ニトロフェニルエステル法、BOP[ヘキサフルオロリン酸ベンゾトリアゾール-1-イル-オキシ-トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウム]法、N-ヒドロキシコハク酸イミドエステル法)、およびウッドワード試薬K(Woodward reagent K)法に従って行うことができる。
【0050】
ペプチドの化学合成に共通するのは、鎖が完全に組み立てられた後、最終的に保護基を除去するまで、その部位に適当な保護基を用いて、さまざまなアミノ酸部分の反応性側鎖基を保護することである。アミノ酸または断片のαアミノ基の保護がやはり共通であるが、その一方で、これらの物質はカルボキシル基で反応し、続いてαアミノ保護基を選択的に除去し、それによって次の反応がその位置で起ることが可能となる。したがって、共通なこととして、合成の一段階として中間化合物が産生するが、この化合物はポリペプチド鎖の中の所望の配列内に位置する各々のアミノ酸残基を包含し、多数のこのような残基は側鎖の保護基を有する。そこで、このような保護基は通常、精製のあとで、所望の最終産物を産生させるために、ほぼ同時に除去される。
【0051】
α-およびε-アミノ側鎖基を保護するための典型的な保護基の例としては、ベンジルオキシカルボニル(Z)、イソニコチニルオキシカルボニル(iNOC)、O-クロロベンジルオキシカルボニル [Z(NO2)]、p-メトキシベンジルオキシカルボニル [Z(OMe)]、t-ブトキシカルボニル(Boc)、t-アミルオキシカルボニル(Aoc)、イソボルニルオキシカルボニル、アダマンチルオキシカルボニル、2-(4-ビフェニル)-2-プロピルオキシカルボニル(Bpoc)、9-フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)、メチルスルホニルエトキシカルボニル(Msc)、トリフルオロアセチル、フタリル、ホルミル、2-ニトロフェニルスルフェニル(NPS)、ジフェニルホスフィノチオイル(Ppt)、ジメチルホスフィノチオイル(Mpt)などがある。
【0052】
カルボキシ基のための保護基としては、例えば、ベンジルエステル(OBzl)、シクロへキシルエステル(Chx)、4-ニトロベンジルエステル(ONb)、t-ブチルエステル(OBut)、4-ピリジルメチルエステル(Opic)などを例示することができる。アルギニン、システインおよびセリンのように、アミノ基およびカルボキシル基以外の官能基を有する特別なアミノ酸は、必要に応じて適当な保護基で保護することが望ましい。例えば、アルギニンのグアニジノ基は、ニトロ、p-トルエンスルホニル、ベンジルオキシカルボニル、アダマンチルオキシカルボニル、p-メトキシベンゼンスルホニル、4-メトキシ-2,6-ジメチルベンゼンスルホニル(Mds)、1,3,5-トリメチルフェニルスルホニル(Mts)などを用いて保護できる。システインのチオール基は、p-メトキシベンジル、トリフェニルメチル、アセチルアミノメチルエチルカルバモイル、4-メチルベンジル、2,4,6-トリメチル-ベンジル(Tmb)などを用いて保護でき、また、セリンのヒドロキシル基は、ベンジル、t-ブチル、アセチル、テトラヒドロピラニルなどで保護することができる。
【0053】
所望のアミノ酸配列が完成した後、液体HFおよび1つ以上のチオ-含有スカベンジャーのような試薬で処理することによって樹脂支持体から中間体ポリペプチドを取り除く。ここで、この試薬は樹脂からポリペプチドを切断するのみならず、残っている側鎖の保護基もすべて切断する。HF切断のあと、タンパク質配列をエーテルで洗浄し、大量の希酢酸に移し、pHを水酸化アンモニウムで約8.0に調整して撹拌する。pH調整時に、ポリペプチドは所望の立体構造配置をとる。
【0054】
ポリペプチド合成をサービスとして提供する会社によって、商業的に、本発明のポリペプチドが調製することもできる(例えば、BACHEM Bioscience, Inc., King of Prussia, PA; Quality Controlled Biochemicals, Inc., Hopkinton, MA)。
【0055】
検出または精製における結合分子の利用
血液や調整培地のような、第VIII因子および/または第VIII因子様ポリペプチドを含有すると推測される溶液中で、これらの因子を検出するために、本発明の結合分子に検出可能な標識を付し(たとえば、放射能標識または酵素標識)、次にこれを溶液と接触させた後、結合分子と標的第VIII因子との複合体の生成を検出することができる。本発明のファージ結合分子、すなわち第VIII因子結合ポリペプチドを表面に展示する組換えファージは、第VIII因子および/または第VIII因子様ポリペプチドと複合体を形成するが、それを反応試験管内で沈澱として検出することができ、その沈澱を沈降または遠心分離後、目視によって検出することができる。
【0056】
あるいはまた、サンドイッチ型アッセイを用いることができるが、ここにおいて、第VIII因子結合分子は、プラスチック試験管もしくはウェル、またはクロマトグラフィー用マトリックス、たとえばセファロースビーズ、のような固相支持体に固定化され、つぎに標的とする第VIII因子を含有すると推測される溶液を固定化された結合分子と接触させ、結合しないものを洗い流し、複合体を形成した第VIII因子または第VIII因子様ポリペプチドを適当な検出試薬、たとえば標的の第VIII因子を認識するモノクローナル抗体、を用いて検出する。この試薬は、当技術分野で公知の従来からの方法によって検出可能であり、検出できるように標識化すること、たとえば放射能標識または西洋ワサビペルオキシダーゼを用いた酵素標識などを包含する。
【0057】
本発明の結合分子は、アフィニティクロマトグラフィー法によって第VIII因子および/または第VIII因子様ポリペプチドを単離するために極めて有用である。従来からのいかなるクロマトグラフィー法も使用することができる。本発明のアフィニティリガンドは、たとえば、クロマトグラフィーカラムに充填するのに適した固相支持体に固定化するのが好ましい。固定化されたアフィニティリガンドを充填し、結合分子/第VIII因子(または第VIII因子様ポリペプチド)複合体の形成に有利な条件下で供給流れと接触させる。結合しないものを洗い流した後、結合複合体の解離に好都合な溶液条件を導入することによって、第VIII因子(または第VIII因子様ポリペプチド)を溶出することができる。
【0058】
あるいはまた、標的の第VIII因子および結合分子を含有する溶液を混合し、次に標的第VIII因子と結合分子の複合体を単離することによって、バッチクロマトグラフィーを行なうことができる。こういったタイプの分離のために、多くの方法が知られている。たとえば、結合分子は固相支持体に固定化され、次に標的の第VIII因子と共に、供給流れから濾過によって分離される。あるいは、結合分子は、ポリHisテイルのような固有のアフィニティ標識で修飾されうるが、これは、複合体が生成した後、固定化金属アフィニティクロマトグラフィーを用いて結合物質を結合するために使用される。一度分離されたら、溶出条件下で結合分子から標的第VIII因子が遊離され、純粋な状態で回収される。
【0059】
本明細書で明らかにした第VIII因子結合ポリペプチドを得る際に、正確な結合条件を予め選択したが、アフィニティ精製において後に使用することによって、同一の単離アフィニティリガンドが機能を発揮する、より最適な結合および遊離条件が明らかになる可能性があることに、留意すべきである。したがって、本発明にしたがって単離したあとで、常に結合分子を、ライブラリーからのその分離を導く結合条件および遊離条件でのみ、使用することは重要でない。
【実施例】
【0060】
本発明による第VIII因子結合分子の単離を下記に詳しく説明する。下記の実施例に包含される特定のパラメーターは、発明の実施を説明することを目的としており、けっして本発明の範囲を限定するために提示されるわけではない。
【0061】
実施例I:第VIII因子様ポリペプチドに対する結合分子の単離
上記の技術を用いて、組換えによって作成された第VIII因子様ポリペプチドに対する、親和性の高いリガンド用結合分子を単離した。この第VIII因子様ポリペプチドは、米国特許第5,661,008号(Almstedtら)に記載のように、ヒト第VIII因子の2つのセグメント、すなわちヒト第VIII因子のアミノ酸1-743および1638-2332から成り、REFACTO(登録商標)という商品名で、Genetics Institute, Inc. (Cambridge, MA)から購入した。標的のREFACTO(登録商標)は、19.4 mM His、300 mM NaCl、3.4 mM CaCl2および0.1 % Tween 80、pH 7.0に中、約530μg/ml(7800 IU/ml)の濃度で提供される。
【0062】
M13ファージ上に多様なポリペプチドを発現させるために、TN7(5 x 109アミノ酸配列多様性)、TN8(6 x 109アミノ酸配列多様性)、およびTN9(5 x 109アミノ酸配列多様性)と称する、3つのライブラリーを構築した。精製REFACTO(登録商標)に対する結合物質を目的として、それぞれのライブラリーをスクリーニングした。各ライブラリーは11または12アミノ酸の鋳型に基づく微笑タンパク質を表すように構築した。TN7ライブラリーは鋳型配列Xaa-Xaa-Cys-Xaa-Xaa-Xaa-Xaa-Xaa-Cys-Xaa-Xaa(配列番号33)を利用した;TN8ライブラリーは鋳型配列Xaa-Xaa-Cys-Xaa-Xaa-Xaa-Xaa-Xaa-Xaa-Cys-Xaa-Xaa(配列番号34)を利用した;TN9ライブラリーは鋳型配列Xaa-Cys-Xaa-Xaa-Xaa-Xaa-Xaa-Xaa-Xaa-Cys-Xaa(配列番号35)を利用した。
【0063】
それぞれのライブラリーについて、3回のスクリーニングを行なった。3回のスクリーニングの結果溶出されたファージを増殖させ、それぞれのライブラリーから単離された個々のファージ(溶出条件あたり96)をランダムに選択して、標的第VIII因子への結合について標準的なELISA法によって試験した。結合したファージをHRP結合抗-M13ポリクローナル抗体(Pharmacia)を用いて検出した。ELISA検出機構においてHRPに対してTMBペルオキシダーゼ基質を使用した。TMB基質は、ペルオキシダーゼによる分解後、青色を生じる。この色をOD630での吸光度によって定量する。バックグラウンド以上の(OD630 > 0.25)有意なシグナルを与える、単離ファージは陽性クローンと考えられる。展示されたペプチドを同定するために、この単離ファージのDNA配列決定を行なった。
【0064】
得られたDNA配列から、展示されたペプチドのアミノ酸配列を推定した。単離されたファージからの配列データをライブラリーによってグループ分けし、類似の程度によって分類した。任意の所定の配列が得られる頻度に注目したのは、これが特異的な結合物質の選択を指示するためである。2つの溶出法の両方によって得られたファージ群に、同一の展示ペプチドを有する単離ファージが存在することが明らかになった。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
実施例II:標的第VIII因子に対するアフィニティリガンドの調製
上記で提示されたデータに基づいて、9種のペプチドを選択し、アフィニティマトリックス材料に固定化するために合成した。合成されたペプチドを表4に示す。
【0069】
【表4】

【0070】
9種の上記アフィニティペプチドを、上記の伝統的固相合成法によって作成した。固相支持体への固定化を促すために、短い7アミノ酸ヒドラジド官能性リンカー領域(-PGPEGGGS-NHNH2;配列番号45)を、7種のペプチドのカルボキシル末端に組み込んだ(表4参照)。2種のペプチド(表4のGI-1およびGI-2)については、他の固定化リンカー、すなわち-PEGGGSK;(配列番号46)を使用し、固定化のためのC末端リジンおよびアセチル化されたアミノ末端を示した。
【0071】
ホルミル置換エチレングリコール-メタクリレートクロマトグラフィー樹脂(Toyopearl Formyl 650-M、孔径 約1000Å TosoHaas, Montgomeryville, PA)にリガンド候補を固定化した。ヒドラゾン結合生成を促進することによって、ヒドラジド含有ペプチドを固定化し、GI-1および -2ペプチドを、NaCNBH3を用いた還元的アミノ化によって固定化した。固相支持体に固定化されたポリペプチドの量は、溶液中に残留する遊離のポリペプチドの量を定量することによって測定された。樹脂1mlあたりに固定化されたリガンドの量は、ヒドラジン-固定化ペプチドについては、0.7〜1.5μmolの範囲であった。
【0072】
実施例Iに記載のREFACTO(登録商標)を捕捉する能力について、特定の結合および遊離条件下でアフィニティクロマトグラフィーによって、9種のペプチドを評価した。この評価に使用したバッファーを表5に示す。
【0073】
【表5】

【0074】
第VIII因子様ポリペプチド(REFACTO(登録商標))を、150μg/mlの濃度になるようにSPバッファーで希釈した。アフィニティ樹脂(約350μl)をガラス製カラムにそれぞれ充填し、調製されたアフィニティカラムに約150μgの標的第VIII因子を、200μl/分(線速度170 cm/時間)の流速で加えた。結合した物質を表5に示したバッファーを用いて連続的に溶出し、タンパク質溶出物を280 nmでのUV吸光度によってモニターした。画分を集め、回収された第VIII因子様ポリペプチドの質量および活性を、逆相HPLCおよび酵素アッセイによって測定した。
【0075】
質量測定のために、REFACTO(登録商標)(0〜200μg)に関する標準曲線を作成し、各画分中に存在する量を当業界で広く知られた技法にしたがって算出した。20 mM EDTA存在下の逆相HPLCを用いて、REFACTO(登録商標)分子をその構成サブユニットに分解し、このサブユニットをアセトニトリル/0.01%TFAの濃度勾配を用いて溶出した。活性アッセイは、第IX因子、第X因子に基づくアッセイとした。それぞれのアフィニティ樹脂についての結果を下記に示す(表6)。
【0076】
【表6】

【0077】
全体として、9種のリガンドについて、クロマトグラフィー後に回収された標的の第VIII因子の総量は、40〜67%の範囲にあった。ポリペプチドリガンドCS-453、CS-454、CS-456およびCS-459は、加えた標的第VIII因子の事実上すべてを捕捉し、結合した物質をエチレングリコール存在下で溶出した。pH2の溶離液では活性は見られなかったので、リガンドに結合したままの標的は残っていないと想定した。CS-455およびGI-1樹脂が標的を捕捉できないのは、ペプチドの分解もしくは不安定性、または支持体上のリガンド密度が低いことによるものと思われる。
【0078】
実施例III:nhfVIIIおよびREFACTO(登録商標)の結合の比較
実施例IIの固定化されたポリペプチドリガンドが、第VIII因子様ポリペプチドREFACTO(登録商標)について観察されたのと同様の条件下で、同様の収率で、天然に存在するヒト第VIII因子(nhfVIII)と結合し、これを遊離することを示すために実験を行なった。
【0079】
この実験のために、安定化剤を含有する凍結乾燥粉末形態の、nhfVIIIをAmerican Diagnostica, Inc.(Greenwich, CT; 製品#408 nat)から購入した。nhfVIIIは取扱説明書にしたがって再構成バッファー(72 mM NH4OAc、pH 6.3、360mM NaCl, 0.04% Tween 80 (バッファー1))中で再構成された。
【0080】
第VIII因子を検出するために開発された市販のELISAキット(IMUBIND fVIII ELISA キット、製品#884、American, Inc., Greenwich, CT)を、取扱説明書にしたがって使用し、REFACTO(登録商標)およびnhfVIII標的の両者を検出した。このキットは、サンドイッチELISAアッセイを用いているが、ここにおいて、標的は固定化されたモノクローナル抗体に捕らえられ、捕捉された標的は、第2のモノクローナル抗体-西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)複合体を用いて検出した。ペルオキシダーゼ基質の添加、およびそれに続くHRPとの反応によって青色が生じ(630 nmで検出される)、それが0.5 N硫酸停止液を添加すると黄色に変化する(450 nmで検出される)。呈色反応は、製造元から提供された第VIII因子標準品を用いてキャリブレートする。
【0081】
バッファー1においてREFACTO(登録商標)の結合を試験した。REFACTO(登録商標)およびnhfVIIIの結合の双方を、Toyopearl Formyl 650-M媒体に固定化されたアフィニティペプチドCS-454, CS-456およびCS-458を使用して、実施例IIのように調製された3種のアフィニティ樹脂を用いて試験した。各ポリペプチドに関するリガンド密度は、それぞれ1.79 mg/ml(0.67μmol/ml)、3.69 mg/ml(1.43μmol/ml)および3.15 mg/ml(1.17μmol/ml)であった。
【0082】
試験した3つの固定化ペプチドのそれぞれについて、Toyopearl-結合ポリペプチド懸濁液の50%スラリー200 mlからペプチド-ビーズを、短時間遠心分離し(2000 x gで30秒、室温)、上清液を除去し、ビーズ(ペレット)を2回洗浄した。各洗浄毎に、ビーズを500μlのバッファー1に再懸濁し、前と同様に遠心分離した。
【0083】
REFACTO(登録商標)のストック溶液をバッファー1で希釈して、200 U/mlの最終濃度とし、250μlの希釈溶液(約50 U合計)をそれぞれのペプチド-ビーズの洗浄ペレットに添加した。懸濁液を1時間、室温で、転倒式(end-over-end)ミキサー上でインキュベートし、このような結合時間の後、遠心分離(30秒、2000 x g)によってビーズをペレット化した。非結合画分(下記、表7の「非結合」)に相当する上清溶液を除去し、非結合の第VIII因子活性のアッセイのために保存した。
【0084】
ペレット化したビーズを250μlのバッファー1で1回洗浄し、短時間で混合し、懸濁液を前と同様に遠心分離した。上清溶液(表7の「洗浄」)を取り除き、第VIII因子活性を測定するために保存した。
【0085】
洗浄したペレットを250μlのバッファーA(20 mM L-ヒスチジン-HCl、250 mM CaCl2、0.01% Tween 80、50%エチレングリコール、pH 6.3)で再懸濁し、室温で、15分間、転倒式ミキサー上でインキュベートした。溶出期間の最後に、懸濁液を上記のように遠心分離した。上清溶液(表7の「溶出」)を除去し、溶出された第VIII因子活性のアッセイのために保存した。
【0086】
上記のように得られた、出発の(希釈された)REFACTO(登録商標)溶液(インプット)、および各試料(非結合、洗浄、および溶出)を、Assay Diluent(キットで提供される)で1:1400に希釈し、次にこれを、市販の第VIII因子アッセイキットを用いて、ELISAに供した。表7はその結果をまとめる。
【0087】
【表7】

【0088】
試験した固定化ポリペプチドのそれぞれについて、結合反応に加えた、ほとんどすべてのREFACTO(登録商標)(>75%)が、非結合、洗浄、および溶出画分に回収された。そのうちの小量(10%〜25%)が、溶出後のビーズに保持された可能生がある。
【0089】
次に、50%エチレングリコール、20 mM His、0.25 M NaCl、20 mM CaCl2、0.01% Tween 80、pH 7で1回、さらに250μlの30 mM H3PO4、1 M NaCl、pH 2で2回洗浄することによって、アフィニティビーズを再生した(洗浄はそれぞれ15分)。pH 2での洗浄の後、ビーズをPBS含有0.05%アジドで1回洗浄し、4℃で保存した。
【0090】
2.32 ml H2O、180μl 1M NH4OAc、pH 6.3 (72 mMまで)、および1μl Tween 80 (0.04%まで)の添加によって、nhfVIIIの試料を最終濃度100 U/mlとなるように希釈した。REFACTO(登録商標)ストック溶液は、改変されたバッファー1で100 U/mlに希釈した。この改変バッファー1では、NaCl濃度を660mMから330mMに減じた。
【0091】
固定化されたペプチドのnhfVIIIに対する結合を、REFACTO(登録商標)と比較して試験した。非結合対照として、TN9ライブラリー(B10)由来のポリペプチド(これは無関係な標的と結合し標的第VIII因子とは結合しない)を上記と同じメタクリレートビーズに固定化した。次に、nhfVIIIおよびREFACTO(登録商標)溶液を、比較バッチ精製法において、CS-454、CS-456およびCS-458リガンドを担持する再生されたアフィニティビーズと混合した。反応条件を表8に示す。
【0092】
【表8】

【0093】
上記実験の結果を、表9に示す。
【表9】

【0094】
結論として、固定化ポリペプチドリガンド、CS-458、CS-454およびCS-456は、第VIII因子様ポリペプチドについて観察されたのと同様の条件下、同様の収率で、nhfVIIIと結合し、これを遊離する。
【0095】
前の記述から、第VIII因子または第VIII因子様ポリペプチドの、あらゆる溶液における検出、またはあらゆる溶液からの分離を可能にするアフィニティ結合分子として重要な性質を、認めることができる。本発明の他の結合分子による実施形態、および特定の溶液または供給流れに適合した別法は、前の記載を研究することによって明白となるであろう。あらゆるこうした実施形態および明白な別法は、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲内にあることを意図するものである。
【0096】
上記で言及した各刊行物は引用によって本文に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離用媒体であって、
(a)アミン反応性クロマトグラフィーマトリックス材料と、
(b)以下の配列:
AEGTGDFHCIGVWFCLHDPGPEGGGS-NHNH2;
AEGTGDFGCSWLFPCPFDPGPEGGGS-NHNH2;
AEGTGDFCWVFAFDHCHDPGPEGGGS-NHNH2;
AEGTGDFCWVFPFQHCADPGPEGGGS-NHNH2;
AEGTGDFCWVFPFHHCFDPGPEGGGS-NHNH2;および
アセチル-AEGTGDRLCSWVSPCSADPEGGGSK;
からなる群から選択されるポリペプチドと、
の反応生成物を含んでなる分離用媒体。
【請求項2】
上記マトリックス材料が、アルデヒド官能性メタクリレートクロマトグラフィー樹脂である、請求項1に記載の分離用媒体。
【請求項3】
上記樹脂がホルミル置換エチレングリコール-メタクリレートコポリマー支持体である、請求項2に記載の分離用媒体。
【請求項4】
第VIII因子または第VIII因子様ポリペプチドを、それを含有する溶液から分離する方法であって、
(a)上記溶液を請求項1〜3のいずれか一項に記載の分離用媒体と結合条件下で接触させること、
(b)結合しない物質を除去すること、および
(c)結合した第VIII因子または第VIII因子様ポリペプチドを上記分離用媒体から溶出すること、
を含んでなる方法。
【請求項5】
前記ポリペプチドがアセチル-AEGTGDRLCSWVSPCSADPEGGGSKである、請求項1に記載の分離用媒体。
【請求項6】
前記分離用媒体が請求項5に記載の分離用媒体である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記工程(a)が100mM NH4OAc、0.8M NaCl、1M ソルビトール、0.02% Tween 80、3mM EDTA、5mM CaCl2、pH6.3を含んでなる溶液中で行われる、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記溶出が50%のエチレングリコールを含んでなる溶液中で行われる、請求項4、6又は7に記載の方法。

【公開番号】特開2013−79272(P2013−79272A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−284538(P2012−284538)
【出願日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【分割の表示】特願2010−108017(P2010−108017)の分割
【原出願日】平成12年1月3日(2000.1.3)
【出願人】(500214439)
【氏名又は名称原語表記】DYAX CORP.
【Fターム(参考)】