説明

ヒト細胞IL−17産生抑制剤

【課題】ヒト細胞におけるIL−17産生を抑制できるヒト細胞IL−17産生抑制剤を提供する。
【解決手段】ビフィズス菌またはその菌体由来成分を有効成分として含有することを特徴とするヒト細胞IL−17産生抑制剤。前記ビフィズス菌は、ビフィドバクテリウム・ロンガムおよびビフィドバクテリウム・ブレベからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト細胞におけるIL−17産生を抑制するIL−17産生抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
Tヘルパー(Th)細胞は、免疫応答のコントロールにおいて重要な役割を果たしている。Th細胞は、従来、そのサイトカイン産生パターンによって、Tヘルパータイプ1(Th1)細胞,Tヘルパータイプ2(Th2)細胞の2つのサブセットに分類されていたが、近年、Th細胞の新たなサブセットとして、Tヘルパータイプ17(Th17)細胞が注目されている(非特許文献1)。
Th17細胞は、IL(インタローキン)−17を産生するTh細胞であり、炎症、自己免疫疾患等に深く関与していると考えられている。たとえば炎症性腸疾患患者の腸管組織では、Th17細胞が優位な状態にあることが確認されており、IL−17などのTh17関連サイトカインは、炎症の形成に重要な役割を果たしていることが示唆されている。
ナイーブT細胞から各種Th細胞への分化にはサイトカインの刺激が重要な役割を果たしている。マウスについては、TGF−βおよびIL−6の刺激により、ナイーブT細胞からTh17細胞への分化が誘導されることが既に明らかとなっている。しかし、ヒトの場合、TGF−βはむしろTh17細胞への分化を抑制するなど、種差が大きいことが報告されている(非特許文献1〜2等)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】佐藤浩二郎,“Th17細胞と自己免疫疾患”,科学と生物,第46巻第5号(2008年),第310−315頁
【非特許文献2】E. V Acosta-Rodriguez,G. Napolitani,A. Lanzavecchia,F. Sallusto,“Interleukins 1beta and 6 but not transforming growth factor-beta are essential for the differentiation of interleukin 17-producing human T helper cells”,ネイチャー・イムノロジー(Nat. Immunol.),第8巻第9号(2007年9月),第942−949頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
IL−17は、上記のように、炎症の形成に重要な役割を果たしていることが示唆されている。IL−17については、さらに、IL−6、TNF−α、細胞外マトリックス分解酵素群の産生を誘導することも報告されており、IL−17産生を抑制することは、炎症や自己免疫疾患等の予防または治療に効果的であると考えられる。そのため、優れたIL−17産生抑制作用を有する薬剤が望まれる。
しかし、これまで、ヒト細胞におけるIL−17産生の抑制については、上述したような種差の大きさ等の問題からその評価系が確立していないこともあり、上記のような薬剤についての研究があまり進んでいないのが現状である。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、ヒト細胞におけるIL−17産生を抑制できるヒト細胞IL−17産生抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意検討を行った結果、特定の5種のサイトカインを用いることにより、ヒト細胞におけるIL−17産生を効果的に誘導できるとの知見を得、かかる知見をもとにさらに検討を重ねた結果、ビフィズス菌およびその菌体由来成分が、ヒト細胞におけるIL−17産生を強く抑制する作用を有することを見出し、本発明を完成させた。
上記課題を解決する本発明は以下の態様を有する。
[1]ビフィズス菌またはその菌体由来成分を有効成分とするヒト細胞IL−17産生抑制剤。
[2]前記ビフィズス菌は、ビフィドバクテリウム・ロンガムおよびビフィドバクテリウム・ブレベからなる群から選択される少なくとも1種である[1]に記載のヒト細胞IL−17産生抑制剤。
[3]前記ビフィズス菌は、下記工程(1)〜(3)により求められるIL−17産生抑制率が85%以上となるIL−17産生抑制能を有する、[1]または[2]に記載のヒト細胞IL−17産生抑制剤。
工程(1):ヒト末梢血単核球を液体培地中に1×10cells/mLとなるように懸濁し、得られた懸濁液に対し、TGF−βを10ng/mL、IL−6を25ng/mL、IL−1βを25ng/mL、IL−21を25ng/mL、IL−23を12.5ng/mL、およびビフィズス菌の加熱菌体を1×10cells/mLとなるように添加し、37℃で72時間培養した後、その上清を回収する。
工程(2):ビフィズス菌の加熱菌体を添加しない以外は前記工程(1)と同様にして、上清を回収する。
工程(3):前記工程(1)、(2)でそれぞれ回収した上清中のIL−17濃度を測定し、下記式によりIL−17産生抑制率(%)を求める。
【0006】
【数1】

【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ヒト細胞におけるIL−17産生を抑制できるヒト細胞IL−17産生抑制剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のヒト細胞IL−17産生抑制剤(以下、IL−17産生抑制剤ということがある。)は、ビフィズス菌またはその菌体由来成分を有効成分とする。
ここで、本発明における「有効成分」とは、ヒト細胞におけるIL−17産生を抑制する作用(IL−17産生抑制能)を有する成分を意味する。
本発明のIL−17産生抑制剤に用いられる有効成分が有するIL−17産生抑制能は、ヒト細胞を、TGF−β、IL−6、IL−1β、IL−21およびIL−23の5種のサイトカインで刺激してIL−17産生を誘導する系を利用することで評価できる。
すなわち、本発明者らは、ヒト細胞におけるIL−17産生を抑制できる抑制剤を見出すべく鋭意検討を行うなかで、TGF−β、IL−6、IL−1β、IL−21およびIL−23の5種のサイトカインを用いることにより、ヒト細胞におけるIL−17産生を効果的に誘導できるとの知見を得ている。そこで、ヒト細胞を、上記5種のサイトカインで刺激してIL−17産生を誘導する系を利用することで、IL−17産生抑制能を評価できる。
上記評価は、より具体的には、以下の手順で実施できる。
ヒト細胞を上記5種のサイトカインの存在下で培養してヒト細胞からのIL−17産生を誘導する。このとき、培養を、有効成分の存在下または不在下で行う。培養後、両者のIL−17産生量を比較することにより、当該有効成分が有するIL−17産生抑制能を評価できる。
かかる評価方法は、有効成分の不在下で産生されるIL−17量が多いため、有効成分の添加によってIL−17産生がどの程度抑制されたのかを判別しやすい。
該評価方法に用いられるヒト細胞としては、ヒト末梢血単核球が好ましい。
上記評価方法の好ましい態様として、後述する工程(1)〜(3)を行い、IL−17産生抑制率を求める方法が挙げられる。
【0009】
「ビフィズス菌」は、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属に属する細菌を意味する。
ビフィズス菌として、具体的には、ビフィドバクテリウム・ロンガム(B. longum)、ビフィドバクテリウム・ブレベ(B. breve)、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム(B. pseudolongum)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(B. infantis)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(B. bifidum)、ビフィドバクテリウム・アドレッセンティス(B. adolescentis)、ビフィドバクテリウム・カテヌラタム(B. catenulatum)、ビフィドバクテリウム・アニマリス(B. animalis)等が挙げられる。
これらの中でも、ヒト細胞におけるIL−17産生の抑制効果に優れること、工業的に加工しやすいこと等から、ビフィドバクテリウム・ロンガムおよびビフィドバクテリウム・ブレベからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0010】
ビフィズス菌としては、特に、下記工程(1)〜(3)により求められるIL−17産生抑制率が85%以上となるIL−17産生抑制能を有するものが好ましい。該IL−17産生抑制率は95%以上がより好ましい。
工程(1):ヒト末梢血単核球を液体培地中に1×10cells/mLとなるように懸濁し、得られた懸濁液に対し、TGF−βを10ng/mL、IL−6を25ng/mL、IL−1βを25ng/mL、IL−21を25ng/mL、IL−23を12.5ng/mL、およびビフィズス菌の加熱菌体を1×10cells/mLとなるように添加し、37℃で72時間培養した後、その上清を回収する。
工程(2):ビフィズス菌の加熱菌体を添加しない以外は前記工程(1)と同様にして、上清を回収する。
工程(3):前記工程(1)、(2)でそれぞれ回収した上清中のIL−17濃度を測定し、下記式によりIL−17産生抑制率(%)を求める。
【0011】
【数2】

【0012】
液体培地としては、ヒト末梢血単核球を培養可能なものであればよく、公知の液体培地のなかから適宜選択できる。具体的には、10%ヒトAB型血清、3mMグルタミン、ペニシリン、ストレプトマイシン、20μM2−メルカプトエタノールを含むRPMI1640培地(インビトロジェン社製);AIM−V培地(GIBCO社製)等が挙げられる。
ビフィズス菌の加熱菌体は、加熱による殺菌処理を施した菌体である。加熱菌体は、たとえばビフィズス菌の生菌を公知の方法により培養し、得られた培養物に対し、60〜121℃で5〜30分間程度の加熱処理を行うことにより調製できる。
上清中のIL−17濃度は、従来、血清等についてのサイトカインアッセイに用いられている方法により測定できる。たとえば、BioPlexサスペンジョンアレイシステム(BioRad社)等の、市販の測定システムを使用して測定できる。
【0013】
上記IL−17産生抑制率が85%以上となるIL−17産生抑制能を有するビフィズス菌の菌株としては、たとえば、ビフィドバクテリウム・ロンガム ATCC BAA−999(製品名:Bifidobacterium longum BB536、森永乳業社製。)、ビフィドバクテリウム・ブレベ LMG 23729(製品名:Bifidobacterium breve M−16V、森永乳業社製。)等が挙げられる。
ただし本発明はこれに限定されるものではなく、公知の種々のビフィズス菌の菌株について上記工程(1)〜(3)を実施し、所望のIL−17産生抑制能を有するものを適宜選択して利用できる。
【0014】
有効成分としてビフィズス菌を用いる場合、該ビフィズス菌は、生菌であってもよく、死菌であってもよい。いずれを用いても、ヒト細胞におけるIL−17産生を抑制することができる。特に、性質が安定している点から、前記加熱菌体が好ましい。
有効成分としてビフィズス菌の菌体由来成分を用いる場合、該菌体由来成分としては、細胞破砕物、ビフィズス菌の菌体の一部を構成する成分等が挙げられる。
ビフィズス菌の菌体の一部を構成する成分としては、たとえば、ペプチドグリカンやリポテイコ酸などの細胞壁成分、DNAなどの核酸成分、細胞外多糖、細胞質成分等が挙げられる。
上記菌体由来成分は、それぞれ、公知の方法により調製できる。具体的には、たとえば細胞破砕物は、超音波処理、フレンチプレスによる物理的破壊等により調製できる。
【0015】
本発明のIL−17産生抑制剤が有効成分として含有するビフィズス菌またはその菌体由来成分は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
また、本発明のIL−17産生抑制剤は、前記有効成分のみからなるものであってもよく、前記有効成分と、有効成分以外の任意成分とを配合した組成物であってもよい。該任意成分としては、薬理学的に許容し得るものであれば特に限定されず、従来、医薬組成物に配合されている添加剤(たとえば後述する製剤担体等)を配合できる。
【0016】
本発明のIL−17産生抑制剤の投与経路は、経口、非経口のいずれでもよく、好ましくは経口である。非経口の投与経路としては、経直腸、経皮等が挙げられる。
本発明のIL−17産生抑制剤の投与量は、特に限定されず、期待するIL−17産生抑制効果に応じ、使用するビフィズス菌またはその菌体由来成分が有するIL−17産生抑制能や投与経路等を考慮して適宜設定すればよい。
たとえばビフィズス菌を有効成分とし、経口にて投与する場合、1日投与量は、通常、体重1kgあたりの細胞数(cells/kg体重)に換算して、1×10cells/kg体重以上であることが好ましく、1×10cells/kg体重以上がより好ましい。
本発明のIL−17産生抑制剤は、1日投与量の全量を1回で投与してもよく、数回に分けて投与してもよい。
【0017】
本発明のIL−17産生抑制剤は、投与方法に応じ、適宜所定の剤形に製剤化することができる。
本発明のIL−17産生抑制剤の剤形としては、たとえば経口投与の場合、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤などの固形製剤;溶液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤などの液剤;等が挙げられる。また、非経口投与の場合、座剤、軟膏剤、貼付剤、噴霧剤等が挙げられる。
製剤化は、剤形に応じ、適宜公知の方法により実施できる。
製剤化に際しては、有効成分のみを製剤化してもよく、適宜、製剤担体を配合して製剤化してもよい。
製剤担体を配合する場合、本発明のIL−17産生抑制剤中の有効成分の配合量は、特に制限はなく、剤形に合わせて適宜決定すればよい。
【0018】
前記製剤担体としては、剤形に応じ、慣用の各種有機または無機の担体を用いることができる。
たとえば固形製剤の場合の担体としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤等が挙げられる。
賦形剤としては、たとえば、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニット、ソルビット等の糖誘導体;トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、α−デンプン、デキストリン、カルボキシメチルデンプン等のデンプン誘導体;結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等のセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルラン;軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム等の珪酸塩誘導体;リン酸カルシウム等のリン酸塩誘導体;炭酸カルシウム等の炭酸塩誘導体;硫酸カルシウム等の硫酸塩誘導体等が挙げられる。
結合剤としては、例えば、上記賦形剤の他、ゼラチン;ポリビニルピロリドン;マグロゴール等が挙げられる。
崩壊剤としては、例えば、上記賦形剤の他、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン等の化学修飾されたデンプン又はセルロース誘導体等が挙げられる。
滑沢剤としては、例えば、タルク;ステアリン酸;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等のステアリン酸金属塩;コロイドシリカ;ビーガム、ゲイロウ等のワックス類;硼酸;グリコール;フマル酸、アジピン酸等のカルボン酸類;安息香酸ナトリウム等のカルボン酸ナトリウム塩;硫酸ナトリウム等の硫酸類塩;ロイシン;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム等のラウリル硫酸塩;無水珪酸、珪酸水和物等の珪酸類;デンプン誘導体等が挙げられる。
安定剤としては、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール等のアルコール類;塩化ベンザルコニウム;無水酢酸;ソルビン酸等が挙げられる。
矯味矯臭剤としては、例えば、甘味料、酸味料、香料等が挙げられる。
経口投与用の液剤の場合の担体としては、水などの溶剤、矯味矯臭剤等が挙げられる。
【0019】
本発明のIL−17産生抑制剤の有効成分であるビフィズス菌またはその菌体由来成分は、ヒト細胞におけるIL−17産生を抑制する作用を有している。そのため、本発明のIL−17産生抑制剤は、これを投与することにより、投与しない場合に比べて、ヒトの生体内におけるIL−17の産生を抑制する効果を奏する。
したがって、本発明のIL−17産生抑制剤は、IL−17産生が亢進したヒト疾患の予防または治療薬として有用である。かかる疾患としては、たとえば関節リウマチ、多発性硬化症、炎症性腸疾患、喘息などのアレルギー疾患等が挙げられる。
また、本発明のIL−17産生抑制剤は、ビフィズス菌またはその菌体由来成分を有効成分としているため、経口投与した場合の安全性が高く、副作用が生じるおそれも少ない。
本発明のIL−17産生抑制剤は、各種医薬品、食品、栄養剤等に添加して用いることができる。
【実施例】
【0020】
次に、試験例および実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[試験例1]
目的:マウス脾細胞およびヒト末梢血単核球におけるIL−17産生の誘導および各系におけるIL−17産生抑制効果の評価。
使用菌株:表1に示す、ビフィズス菌の2菌株および乳酸菌の1菌株。表中、上付文字Tは基準株であることを示す。
【0021】
【表1】

【0022】
上記各菌株の加熱菌体を下記に示す手順で調製した。
ビフィズス菌:MRS(de Man Rogasa Sharpe)培地(Difco(登録商標)製品、ベクトン・ディッキンソン社製)で16時間培養したものを、PBS(phosphate-buffer saline)で2回洗浄し、さらに蒸留水で2回洗浄した後に、PBSで懸濁し、80℃で30分間加熱処理(殺菌処理)を行った。
乳酸菌:M17培地(Difco(登録商標)製品、ベクトン・ディッキンソン社製)で16時間培養したものを、PBSで2回洗浄し、さらに蒸留水で2回洗浄した後に、PBSで懸濁し、80℃で30分間加熱処理(殺菌処理)を行った。
【0023】
試験方法I(マウス脾細胞におけるIL−17産生誘導、およびビフィズス菌・乳酸菌によるIL−17産生抑制効果の評価):
まず、雌性BALB/cマウスの脾細胞を採取し、細胞数が1×10cells/mlになるように下記の基本培地に懸濁し、細胞懸濁液を調製した。
マウス脾細胞培養用の基本培地:10%の非働化ウシ血清(GIBCO社製)、100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシンおよび10mMの2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジル]エタンスルホン酸(HEPES)を含むRPIM1640培地(インビトロジェン社製)。
【0024】
次に、上記細胞懸濁液を、100μlずつ96穴プレート(BD社製)に入れ、各穴に、IL−17産生を誘導するため、TGF−βおよびIL−6を、それぞれ、最終濃度が2ng/ml、20ng/mlとなるように添加した。また、それと同時に、上記加熱菌体のいずれか1種を、最終濃度が1×10cells/ml(マウス脾細胞の濃度の×1倍)となるように添加した。これを37℃で72時間培養した後、培養液を回収し、遠心分離(2500rpm、5分間)により細胞残渣を除去し、上清を回収した。
回収した上清中のIL−17濃度(pg/ml)を、BioPlexサスペンジョンアレイシステム(BioRad)により測定した。
また、対照として、TGF−βおよびIL−6および加熱菌体の添加を行わない以外は上記と同様の処理を行い、これを無刺激群とした。また、加熱菌体の添加を行わない以外は上記と同様の処理を行い、これを菌無添加群とした。
【0025】
各菌株を添加した群、無刺激群および菌無添加群のIL−17濃度の測定結果を表2に示す。
また、該測定結果から、下記の式により、IL−17産生の抑制率(%)を求めた。その結果を表2に示す。
式:抑制率(%)=(1−[各菌株を添加した群のIL−17濃度]/[菌無添加群のIL−17濃度])×100
【0026】
試験方法II(ヒト末梢血単核球におけるIL−17産生誘導、およびビフィズス菌・乳酸菌によるIL−17産生抑制効果の評価):
まず、健常ボランティア4名から全血を約10ml得て、ただちに、Histopaque 1077(Shigma社製)により末梢血単核球画分を調製した。これを、細胞数が1×10cells/mlになるように下記の基本培地に懸濁し、細胞懸濁液を調製した。
ヒト末梢血単核球培養用の基本培地:10%のヒトAB型血清(タカラバイオ社製)、3mMのグルタミン、100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシンおよび20mMの2−メルカプトエタノールを含むRPIM1640培地(インビトロジェン社製)。
【0027】
次に、上記細胞懸濁液を、100μlずつ96穴プレート(BD社製)に入れ、各穴に、IL−17産生を誘導するため、TGF−β、IL−6、IL−1β、IL−21およびIL−23を、それぞれ、最終濃度が10ng/ml、25ng/ml、25ng/ml、25ng/ml、12.5ng/mlとなるように添加した。また、それと同時に、上記加熱菌体のいずれか1種を、最終濃度が1×10cells/ml(ヒト末梢血単核球の濃度の10倍)となるように添加した。これを37℃で72時間培養した後、培養液を回収し、遠心分離(2500rpm、5分間)により細胞残渣を除去し、上清を回収した。
回収した上清中のIL−17濃度(pg/ml)を、BioPlexサスペンジョンアレイシステム(BioRad)により測定した。
また、対照として、TGF−βおよびIL−6および加熱菌体の添加を行わない以外は上記と同様の処理を行い、これを無刺激群とした。また、加熱菌体の添加を行わない以外は上記と同様の処理を行い、これを菌無添加群とした。
【0028】
各菌株を添加した群、無刺激群および菌無添加群のIL−17濃度の測定結果を表2に示す。
また、該測定結果から、前記試験方法Iと同様にして、IL−17産生の抑制率(%)を求めた。その結果を表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
上記結果に示すように、TGF−β、IL−6、IL−1β、IL−21およびIL−23の5種のサイトカインによる刺激を行うことにより、ヒト末梢血単核球におけるIL−17産生を効果的に誘導できた。なお、本発明者らの検討によれば、これら5種のサイトカインのいずれかを抜いた場合、IL−産生を誘導する効果は、5種全てを用いた場合に比べて小さかった。
また、B.ロンガムATCC BAA−999株およびB.ブレベLMG 23729株は、それぞれ、前記5種のサイトカインによる刺激で誘導されたヒト末梢血単核球からのIL−17産生の抑制効果が高く、抑制率がいずれも85%を超えていた。これらの菌株は、TGF−βおよびIL−6による刺激で誘導されたマウス脾細胞からのIL−17産生も抑制したが、その効果は、ヒト末梢血単核球の場合に比べて小さかった。
一方、乳酸菌のS.サーモフィラスATCC 19258株は、マウス脾細胞からのIL−17産生を強く抑制したが、ヒト末梢血単核球からのIL−17産生に対する抑制は弱かった。
これらの結果から、B.ロンガムATCC BAA−999株およびB.ブレベLMG 23729株が、ヒト細胞からのIL−17産生に対し、強い抑制作用を有することが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビフィズス菌またはその菌体由来成分を有効成分として含有することを特徴とするヒト細胞IL−17産生抑制剤。
【請求項2】
前記ビフィズス菌は、ビフィドバクテリウム・ロンガムおよびビフィドバクテリウム・ブレベからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1に記載のヒト細胞IL−17産生抑制剤。
【請求項3】
前記ビフィズス菌は、下記工程(1)〜(3)により求められるIL−17産生抑制率が85%以上となるIL−17産生抑制能を有する、請求項1または2に記載のヒト細胞IL−17産生抑制剤。
工程(1):ヒト末梢血単核球を液体培地中に1×10cells/mLとなるように懸濁し、得られた懸濁液に対し、TGF−βを10ng/mL、IL−6を25ng/mL、IL−1βを25ng/mL、IL−21を25ng/mL、IL−23を12.5ng/mL、およびビフィズス菌の加熱菌体を1×10cells/mLとなるように添加し、37℃で72時間培養した後、その上清を回収する。
工程(2):ビフィズス菌の加熱菌体を添加しない以外は前記工程(1)と同様にして、上清を回収する。
工程(3):前記工程(1)、(2)でそれぞれ回収した上清中のIL−17濃度を測定し、下記式によりIL−17産生抑制率(%)を求める。
【数1】


【公開番号】特開2011−32170(P2011−32170A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176743(P2009−176743)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者:第63回日本栄養・食糧学会大会事務局、第63回日本栄養・食糧学会大会プログラム、第49頁、発行日:平成21年3月24日 発行者:社団法人 日本栄養・食糧学会 会長 矢ヶ崎 一三、第63回日本栄養・食糧学会大会講演要旨集、第221頁、発行日:平成21年5月1日 掲載日:平成21年5月20日、http://release.nikkei.co.jp/detail.cfm?relID=220594&lindID=4 掲載日:平成21年5月20日、http://yakkei.jp/news/lfx−yakkei_news_detail−id−514.htm 掲載日:平成21年5月21日、http://news.livedoor.com/article/detail/4164486/ 第63回日本栄養・食糧学会大会、主催:社団法人日本栄養・食糧学会、開催日:平成21年5月22日 発行者:化学工業日報社、化学工業日報、第9面、発行日:平成21年5月27日
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】