説明

ヒト臍帯のウォートン・ジェリー由来の新規な生物材料

本発明は、再生医療に使用するための臍帯の細胞外マトリクスから生成された生体材料、特にヒドロゲルに関する。特に、本発明は、臍帯のウォートン・ジェリーから排他的に単離されたグリコサミノグリカンで構成されている、任意に細胞を含んでもよい生体材料に関し、またその生産及び使用のための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔本発明の技術分野〕
本発明は、臍帯の細胞外マトリクスから形成された、再生医療に適用するための生体材料、特にヒドロゲルに関する。本発明は、特に、臍帯におけるウォートン・ジェリーから排他的に単離されたグリコサミノグリカンで構成されている、任意に細胞を含んでもよい生体材料に関し、またその生産及び使用のための方法に関する。
【0002】
〔本発明の背景〕
ポリマーにより形成される生体材料は、移植細胞の接着、増殖及び分化のための一時的な三次元アンカーを提供するため、再生医療において中心的な役割を担う。この三次元性により、細胞内情報伝達のための好適な基盤が提供され、そして細胞と生体材料成分とが相互作用する。このマトリクスと細胞との間で生じる生相互作用は、やがて、この細胞の増殖能力、その新たな組織形成のための組織化、その分化、及び再生プロセスを導くシグナル分子の分泌を決定する(Dawson et al., 2008)。
【0003】
これらの事象が起こるためには、生体材料は、再生結果を伴う適切な細胞内作用のために、再吸収されるまでの限られた時間、十分長くその構造を維持しながら、適用された部位に残存している必要がある。
【0004】
生体材料における特定のタイプのヒドロゲルは、組織工学への適用に好適な多くの特性を有している。
【0005】
ヒドロゲルは、天然の親水性ポリマー又は合成された親水性ポリマーが相互に連結することにより形成された構造であり、その構造中に、それ自身の重量の10〜20%から数百倍の大量の水を含むことが可能である。これらのゲルは、半流動性の形態の三次元格子を示す。この三次元格子は、担体として作用し得る構造的マトリクスを形成するための理想的な候補として表される。この三次元構造は、物理的な架橋及び化学的な架橋の両方により形成され得る。物理的な架橋により、可逆性のヒドロゲルとなる。この可逆性のヒドロゲルの構造は、適用の最後までに反転させることができる。一方、化学的な架橋により、永続的なヒドロゲルとなる。この永続的なヒドロゲルの構造は、適用の全体を通して維持され得る(Coburn et al., 2007)。したがって、ヒドロゲルは、ネットワークの形で架橋されたポリマー材料(天然の、又は合成的な性質の)である。このヒドロゲルは、水と接触して膨潤し、柔らかい弾性材料を形成する。また、このヒドロゲルは、溶解させなくても、その構造中に有効な性質を保持している。
【0006】
ヒドロゲルは、一連の特徴を有する。例えば:
1.親水性:その構造中に水溶性の基(−OH,−COOH,−CONH2,−CONH,SO3H)が存在することに起因する。ヒドロゲルは、生組織の含水量と同様の高い含水量を有する(Elisseeff et al., 2005)。
2.水に不溶性:その構造中に三次元ポリマーネットワークが存在することに起因する。
3.ヒドロゲルは、滑らかでかつ弾力性のある粘性を有し、この粘性は、親水性の初期モノマーと、ポリマーの低い架橋濃度とによって決定される。
【0007】
ヒドロゲルは、水又は水溶液の存在により膨潤し、その形を失うことなく、容量を化学的−物理的な平衡に達するまで著しく増加させる能力を有する。この膨潤する能力によって、軟組織内に置かれている細胞の環境に匹敵する水溶性の微環境が提供される。水と多孔質な構造とが存在することはまた、細胞が生存するために重要でありかつ必須な低分子量の溶質及び栄養素を流動させ得るとともに、細胞廃棄物をヒドロゲルの外に輸送させ得る(Torres et al., 2000)。
【0008】
臍帯は、重要な細胞成分を有する、高く血管新生化された構造である。細胞及び血管システムは、ウォートン・ジェリー(WJ)と呼ばれるゼラチン状の結合組織中に統合される。WJは、少量の細胞と、主としてコラーゲン、ヒアルロン酸及び硫酸化グリコサミノグリカンにより構成された高レベルの細胞外マトリクスとを含む。
【0009】
グリコサミノグリカン(GAGs)はまた、ムコ多糖ともいわれるが、生物体ではタンパク質核に結合してプロテオグリカンといわれる高分子を形成した状態で見つかる、ヘテロ多糖である。これらは、細胞表面上又は細胞外マトリクス内で見つけることができ、細胞−細胞、及び細胞−細胞外マトリクス相互作用において重要な機能を果たす。これらは、硫酸化の形態及び非−硫酸化の形態であり、これらの分子の共通の特徴は、2個の異なる糖により形成された二糖の繰り返し配列という構成である:二糖のうちの1つが通常ヘキサウロン酸であり、一方他の1つがヘキソサミンである。二糖の結合及び硫酸化の位置の立体配置を変化させることにより、これらの鎖の物理的性質及び化学的性質の多様性が増加する。硫酸の含有量が高く、またウロン酸が存在することによって、GAGsが強い負電荷を付与されるので、WJに多量のGAGsが存在することによって、この組織が極度に水化する。
【0010】
GAGsは、基本的に細胞機能に直接関わっており、これらの構造からだけでなく、これらが様々な細胞シグナル分子のためのアンカー部位であるという理由からも、様々なタイプが存在する。
【0011】
ヒアルロン酸は、WJに最もたくさんあるGAGである。ヒアルロン酸は、GAGファミリーにおいて硫酸化されていない唯一のメンバーであり、インビボでフリーの炭水化物のように機能し、その構造は、D−グルクロン酸と(1−β−3)N−アセチル−D−グルコサミンとからなる二糖の繰り返しによって構成される(Goa et al., 1994; Laurent et al., 1992)。ヒアルロン酸は、いくつかのタイプの細胞によって合成され、そして細胞外空間に分泌され、そこで細胞外マトリクスにおける他の成分と相互作用し、細胞の周囲にある構造を支持するとともに保護する(Collins et al., 2008)。ヒアルロン酸は、ポリ陰イオン性の大きい線状ポリマーであり、100,000から5.10Daの分子量を有し得る単一の分子である(Toole et al., 2004; Bertolami et al., 1992)。ヒアルロン酸は、大きな容量を所有するコイル状構造を有し、そのため粘度の高い溶液となっている。ヒアルロン酸の個々の分子は互いに結び付き、網目又は格子を形成している。ヒアルロン酸は、成長中の組織における、細胞の増殖及び移動に関わる主要な構造高分子と考えられている。
【0012】
ヒアルロン酸は、血管新生、形態形成、細胞外マトリクスの一般的な整合性および修復などのいくつかのプロセスに関わってきた。羊水に含まれる多量のヒアルロン酸は、胎児の傷の修復を助けることが知られている(Longaker et al., 1989)。健康な皮膚と傷跡とでは、この分子の性質が変化していることがさらに観察されており、通常の傷跡におけるヒアルロン酸は、肥厚性瘢痕におけるヒアルロン酸とは確実に異なっている(Ueno et al., 1992)。
【0013】
コンドロイチン硫酸は、D−グルクロン酸とN−アセチルガラクトサミンとのダイマーの繰り返しによって形成される線状のポリマーである。関節症に対する治療におけるコンドロイチン硫酸の有用性を、軟骨成分基質の分解を引き起こす酵素の活性を阻害する方法によって試験した。コンドロイチン硫酸はまた、外科処置及び眼科学的なクリニックにおいて、補体を阻害する方法によって抗炎症性としても作用し得るとともに、血栓塞栓性障害の治療に有用である。
【0014】
デルマタン硫酸は、コンドロイチン硫酸Bとしても知られるが、ヘパリンコファクターIIを介したトロンビンに対する選択的な阻害効果によって強力な抗凝血性であり、出血性のリスクが低いためインビボで非常に有効である(Trowbridge et al., 2002)。
【0015】
一般的にはグリコサミノグリカン、特にヘパリンは、血漿カスケード活性を調節する能力を有し、内在性の凝血経路をより強く阻害し、かつ異なる点においてよく知られた補体活性経路を阻害する(Rabenstein, 2001)。ヘパリンの他の既知の機能は、血管形成の阻害、体液の成長、及び抗ウイルス性活性である。
【0016】
ヘパラン硫酸は、ヘパリンと密接に関連した構造を有する。ヘパラン硫酸は、広く動物組織中に分布しており、その機能のなかでも、細胞接着、及び細胞増殖の制御が目立っている。ヘパラン硫酸は、タンパク質分解に対する保護効果を有し、基底膜を通したタンパク質の輸送を制御し、また、タンパク質の内在化において干渉する(Rabenstein, 2001)。
【0017】
ヒト又は動物から得られたムコ多糖に関するいくつかの特許文献がある。米国特許第3,887,703号の特許文献は、雌ウシ又はヒツジの胎児における皮膚の外被及び臍帯から得られたムコ多糖の混合物に関する。唯一の例は、雌ウシの1〜9ヶ月の胎児の臍帯を使用したものであり、10℃以下で粉砕する最初の操作に続いて膜又は血管が除去されることは記載されていない。混合物を形成する個々のムコ多糖又はその存在量は記載されていない;活性のある生成物は、混合物中に存在するヘキソサミンの量によって同定される。脂性頭皮及び脂性毛髪、ならびに炎症の治療のための、注射用及び経口摂取用の両方の形態における組成物は、この抽出物により調製される。
【0018】
米国特許第5,814,621号の特許文献は、基本的に、水よりも有機溶剤−水の混合液により溶解する薬剤と、薬剤の一部を形成するムコ多糖とにより構成される組成物に関する。この組成物では、薬剤の結晶又は粒子がムコ多糖の粒子の表面に分布している。また、この組成物では、この薬剤は、単独である場合よりも素早く水に溶解する。この組成物は、顆粒の形態であってもよい。
【0019】
国際公開第2008/021391号パンフレットには、臍帯膜を含む生体材料について記載されている。また,この生体材料は、1つ以上の臍帯血管及び/又はウォートン・ジェリーをさらに含み得る。この生体材料は、乾燥していることが好ましく、また、平坦状、又は管状であってもよいし、特別な形状に合うように形作られていてもよい。この発明はまた、少なくとも1つの臍帯膜の層を含む生体材料の製造方法だけでなく、当該生体材料を取得するための方法及び組織又は臓器を修復するための当該生体材料の使用をも提供する。
【0020】
この明細書は、臍帯由来の生体材料を特徴付ける。この明細書には、当該材料の組成が、コラーゲン(I型、III型及びIV型、これらの生体材料マトリクスにおける割合は75〜80%)、フィブロネクチンならびにグリコサミノグリカンを含むことが記載される。
【0021】
この明細書にはまた、この生体材料が、臍帯由来でなく、かつ市販の起源を有するコラーゲン、又は他の組織から、従来知られる方法で単離されたコラーゲンをも含み得ることが記載されている。著者らはまた、生体材料が成長因子、ホルモン、抗生物質、免疫調節性因子などの非構造的な化合物を含み得ることを付け加える。
【0022】
スペイン国特許第8600613号明細書には、体組織の治療のためのプロセス、細胞膜,核酸,脂質及び細胞成分を分離し、そして主成分がコラーゲンである細胞外マトリクスを形成するためのプロセス、ならびに生体移植の使用に適した体組織を作るためのプロセスについて記載されている。生体移植の使用に適した体組織を作るためのプロセスは、少なくとも1つの界面活性剤によって当該組織を抽出しつつ、同時に生体内にそれを移植するために適した大きさ及び形状を維持する工程を含む。
【0023】
スペイン国特許第2180653T3号明細書には、細胞の少なくとも70%を除去するために、生物学的材料を自己溶解に直面した物質に変換させる方法、及びヒト又は動物における移植後の無機化を阻害するために当該材料を処理する方法が記載されている。この明細書では、最初の生物学的材料は、特にブタの大動脈弁に関するにもかかわらず、なかでも臍帯であり得ることを権利として要求する。それにもかかわらず、この明細書には、臍帯を用いて実施する点についてのいかなる詳細な説明も含まれていない。得られた生体材料は、心臓弁の生物義装具を製造するために使用される。
【0024】
米国特許第4,240,794号明細書は、血管の代替品として使用するための、ヒト又は他の動物の臍帯の調製に関する。この文献には、特に、アルコール中で臍帯を脱水し、その後これを所望の形状に固定するための方法についての技術が記載される。この明細書には、臍帯に存在し得る他の組織の残りを洗浄した後、この臍帯を回転軸上に載せ、これを脱水するために必要な時間、特定のエチルアルコール溶液中に浸すことが記載されている。脱水後、この臍帯を固定するために1%アルデヒド溶液中に浸す。
【0025】
仏国特許第2,563,727号明細書には、ウォートン・ジェリーが浸透され、凍結温度で保存されていた、目覚めた結合組織から、皮膚移植を製造する方法が記載されている。著者らは、臍組織にぶらさがっており、套管で圧縮空気を注入することにより膨張する装置について説明する。この明細書には、臍帯がその後切断され、かつ単離されることが記載されるが、このプロセスの結果の産物は、WJで独占的に構成されていない。
【0026】
所定の細胞を取得するために臍帯を使用する特許文献がある。この目的のために彼らはウォートン・ジェリーを分離し、かつこれを除去するプロセスを実施し、その結果当該細胞を取得する。例えば、PCT出願第98/17791号明細書には、臍帯からのプレ軟骨細胞の単離が記載される。このプレ軟骨細胞は、その後軟骨を製造するために治療的に使用される。同様に、国際公開第2004/072273号パンフレットにおいては、前駆細胞が、臍帯の血管周囲領域内に存在するウォートン・ジェリーから抽出され、かつヒト組織の修復に使用される。
【0027】
しかしながら、ヒト臍帯膜と血管とを含んでいないヒト臍帯のウォートン・ジェリーに位置するGAGsにより形成された生体材料であって、多様なヒトの病状に使用するために必要な粘度特性等に適応するヒドロゲルを形成できる生体材料について、述べている文献は存在しない。
【0028】
したがって、本発明に係る生体材料は、排他的に、WJとよばれる臍帯の細胞外マトリクスを形成するGAGsにより構成される。細胞外マトリクスは、組織における複合体及び特定の生物学的物質である。膀胱の血管由来の細胞外マトリクスは、真皮由来の細胞外マトリクスとは完全に異なっている(Hiles & Hodde, 2006)。このように、細胞外マトリクスを合成するいくつかの試みが文献において知られているにもかかわらず、所定の組織における天然の条件を擬態する正確な組成は達成されていない。
【0029】
本発明において開発された生体材料は、組織操作のための基底マトリクスとしての使用を可能にする3次元構造を提供する。そしてさらに、病状において直接に供給された場合又は細胞と共に供給された場合には、修復プロセスにおいて干渉し、組織自身の細胞に対して要求効果を及ぼし、かつ細胞プロセスの活性化にとって有利な環境を提供する。
【0030】
WJは、非常に少数の細胞と、これにもかかわらず多量の細胞外マトリクス(コラーゲン及びGAGs)とを含むことを特徴とする。言い換えれば、WJ内で見つかる細胞は、強く刺激されており、高レベルのマトリクスを生産することが可能である。これは、多量の成長因子がWJ中に蓄積しているという事実によっている。成長因子は、トランスフォーミング成長因子ベータ(TGF−β)、インスリン様成長因子タイプ1(IGF−I)、線維芽細胞成長因子(FGF)、上皮性成長因子(EGF)及び血小板由来の成長因子(PDGF)を含む。これらの成長因子は、特定のレセプターに結合することにより細胞活性を制御する役割を果たす。レセプターのいくつかはWJを構成する様々なGAGs中にある。これらの成長因子は、細胞の増殖、分化、ならびにWJを形成する細胞外マトリクスの合成及び再構築を制御する。多量の合成されたマトリクスは、高い機械抵抗、弾力性及び高い水和能を提供し、子宮収縮又は胎児の動きによって引き起こされる血管の閉塞を防ぐために使用される(Sobolewski et al., 2005)。
【0031】
他の生体材料と異なり、本発明に係る生体材料は、臍帯のWJからの異なるGAGsの組合せにより構成される。生体材料は主にヒアルロン酸により構成されるが、さらに、他のGAG化合物と異なり、生体材料はデルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ケラタン硫酸、コンドロイチン−4−硫酸及びコンドロイチン−6−硫酸を含む。このGAGsの組合せは、それぞれが細胞の挙動の制御機能を実施するため、生体材料の生理活性を向上させる。例えば、ヘパラン硫酸及びヘパリンは、FGF及びEGFのための主要な結合部位であることが知られている(Kanematsu et al., 2003; Ishihara et al., 2002)。FGF及びEGFは、それら自身をタンパク質分解から保護し、細胞環境におけるこれらの因子の局所濃度を高め、細胞が高く活性化されるのに適した分子的な微環境を作り上げる(Malkowski et al., 2007)。
【0032】
この生体材料中に存在するGAGsの組合せは、処理された不具合を再生かつ修復し得る細胞外マトリクスを高レベルに合成するため、適用部位において組織自身の細胞を高活性化させ得る多くの特定のシグナリング分子の結合部位を提供する。
【0033】
さらに、本発明に係る生体材料の由来は、非−免疫原性領域におけるヒト由来の天然の構造を提供する。この構造の除去は、正常な生理的サイクルに組み込まれている。この構造は、動物由来の生体材料の反応又はいくつかの人工の生体材料が引き起こし得る副作用、例えば炎症、硬化(臓器の組織の硬化)、肉芽腫の発症、粘膜におけるネクローシス及びこれらの製造に使用される物質の毒性による組織合併症、を阻害する。
【0034】
臍帯におけるGAGsの最も重要な機能の1つは、外部の攻撃から内側に位置する血管系を保護するため、強度、弾力性及び抵抗性を与えることである。事実、これらの分子の合成の異常は、妊娠中の重大な病状に関わっている(Gogiel et al., 2005)。臍帯の一部を形成する7つの異なるタイプのGAGsにより構成される生体材料の取得は、線維同士の間の架橋を形成すること、生物体内で起こることを擬態すること、そしてこのように臍帯内に与えられるものと同様の強度、弾力性、抵抗性及び圧縮を提供することを可能にし得る。
【0035】
〔図面の説明〕
図1:本発明に係る生体材料中に存在するGAGsの特徴決定及び定量化。
【0036】
棒グラフは、本発明に係る生体材料中に存在するGAGsの異なるタイプ、及び生体材料中のこれらそれぞれの割合を示す。HA:ヒアルロン酸,KS:ケラタン硫酸,C6S:コンドロイチン−6−硫酸,HS:ヘパラン硫酸,C4S:コンドロイチン−4−硫酸,DS:デルマタン硫酸,H:ヘパリン。
【0037】
図2:組織学的染色による、サンプル中のGAGsの存在、ならびにこれらの中における細胞及びDNA/RNAの不在の確認。
【0038】
左側の画像は細胞とともにあるサンプルを示し、右側の画像は生体材料のみの染色を示す。A,B:ヘマトキシリン−エオシン染色;C,D:メチルグリーン−ピロニン染色;E,F:アルシアンブルー染色。
【0039】
図3:走査型電子顕微鏡による、本発明に係る生体材料の内部における三次元構造の画像。
【0040】
この画像は、2つの異なる倍率(A:10μm、B:5μm)での、本発明に係る生体材料の内部構造を示す。互いに相互接続されたGAGユニットが見られ、非常に均一な多孔質構造を提示する。
【0041】
図4:本発明に係る生体材料における細胞の毒性研究の結果。
【0042】
このグラフは、AMSC細胞(脂肪−由来の間葉幹細胞)(A)、マウス線維芽細胞(B9)、L929(C)、骨芽細胞(D)、軟骨細胞(E)及びケラチノサイト(F)における細胞毒性カーブを示す。この結果は、コントロール(生体材料なしの細胞)及びポジティブコントロール(ISO−10993標準によって決定された毒性の生体材料における細胞、PVC)に関して与えられる。
【0043】
このグラフで見られるように、生体材料上に配置された細胞のミトコンドリア活性が、コントロール細胞に関して違いを示さないことから、生体材料は、試験したいかなるタイプの細胞においても毒性を引き起こさない(標準培地条件下)。
【0044】
図5:三次元の生体材料の顕微鏡画像。
【0045】
この画像は、本発明における、凍結乾燥後の固体の生体材料についての顕微鏡の三次元構造を示す。凍結乾燥のために、標準的な24−ウェル培養プレートを鋳型として用いた。この画像は、ウェル中で固化した生体材料の量に対応する。
【0046】
〔本発明の詳細な説明〕
臍帯は、WJとよばれ、軟部結合組織の一部を形成する多量の(硫酸化及び非硫酸化)GAGsを含む。これらのGAGsの中でも主要な非硫酸化GAGはヒアルロン酸である(Hadidian et al., 1948; Jeanloz et al., 1950)が、より少量の硫酸化GAGsもまた検出されている(Danishefsky et al., 1966)。さらに、臍帯の組織学的研究は、ヘパリンの存在を示唆している(Moore et al., 1957)。また、臍帯が、まだ認識されていない、より微量の硫酸化GAGsを有することも非常にありうる。
【0047】
本明細書に記載される本発明は、排他的に臍帯のWJから得られるGAGsにより構成されるヒドロゲルである。このヒドロゲルは、この生体材料を得たヒト臍帯のWJ中に存在する細胞を全く含んでいないため、免疫原性成分を全く有さない。
【0048】
生体材料は、以下を含む群より選択されるグリコサミノグリカンの混合物により形成される:ヒアルロン酸、ケラタン硫酸、コンドロイチン−6−硫酸、ヘパラン硫酸、コンドロイチン−4−硫酸、デルマタン硫酸及びヘパリン。
【0049】
生体材料を形成するGAGsの混合物は、以下の組合せ及び割合であることが好ましい:ヒアルロン酸(65−75%),ケラタン硫酸(5−15%),コンドロイチン−6−硫酸(6−8%),ヘパラン硫酸(3−7%),コンドロイチン−4−硫酸(2−6%),デルマタン硫酸(1−5%)及びヘパリン(0.1−2%)。より好ましいGAGsの組合せは、以下である:ヒアルロン酸(70%),ケラタン硫酸(10%),コンドロイチン−6−硫酸(7%),ヘパラン硫酸(5%),コンドロイチン−4−硫酸(4%),デルマタン硫酸(3%)及びヘパリン(1%)。
【0050】
本発明はまた、前述した任意に細胞を含むヒドロゲルにより構成された生体材料にも関する。ヒドロゲルの作用は、ひどく損傷した組織又は本特許によるin situでの細胞補充の可能性のない組織内で、再生プロセス及び組織修復プロセスにおいて向上する。これは、生体材料が、対象の組織と同じタイプの健康な細胞を有することによる結果である。生体材料に含まれる細胞は、特に以下であってもよい:未分化間葉幹細胞又は他の細胞株に分化した間葉幹細胞、幹細胞、未分化造血幹細胞又は他の細胞株に分化した造血幹細胞、軟骨細胞及び軟骨芽細胞、骨芽細胞及び骨細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、筋細胞、脂肪細胞、神経細胞又は神経系由来の他の細胞、白血球系由来の細胞、角膜細胞、内皮細胞又は上皮細胞。
【0051】
本発明は、以下の項目に分かれる:(i)臍帯のウォートン・ジェリーからのGAGs抽出物の取得、(ii)臍帯のウォートン・ジェリーから単離されたGAGsからのヒドロゲルの作製、(iii)取得されたヒドロゲルの特徴付け、そして(iv)この生体材料の使用。
【0052】
(臍帯のWJからのGAGs抽出物の取得)
生体材料を取得する方法は、以下のステップを含む:
a.ヒト臍帯を取得するステップ;
b.生理食塩水及び抗生物質により上記臍帯を処理するステップ;
c.上記臍帯の表面からの全ての血液を除去するステップ;
d.上記臍帯を1〜2cmの切片に断片化するステップ;
e.内部に保持されている全ての血液を洗浄するステップ;
f.上記臍帯の膜及び血管を除去するステップ;
g.ウォートン・ジェリーを含むゼラチン状物質を分離するステップ;
h.得られた上記ゼラチン状物質を酵素的に消化するステップ;及び
i.GAGsを沈殿させかつ単離するステップ。
【0053】
特に、以下は、臍帯のWJからグリコサミノグリカンを単離するために行なわれる:
(ウォートン・ジェリーの取得)
納入後すぐに臍帯を回収し、また、これを処理又は処理するまでの保存は4℃で行ない、この状態で24時間以上経過しないようにする。
【0054】
処理するにあたって、臍帯は、バイオセイフティーレベルII層流フード内において無菌状態で保存することが好ましい。臍帯は、血液の残りを完全に除去するために、抗生物質の混合物(ペニシリン,ストレプトマイシン,アンフォテリシン−B)を含むDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)溶液もしくはリン酸バッファー1X(1X PBS)、及び/又は赤血球溶解バッファー溶液を用いて、少なくとも3回の連続的な洗浄に供する。
【0055】
臍帯表面の血液を洗浄してすぐに、ペトリ皿に移して1〜2cmの切片に断片化する。臍帯を切片に切断する際に、内部の臍帯の血管に残っている血液が放出する可能性があり、そのためここでは臍帯切片を十分に洗浄することが必要であろう。
【0056】
臍帯は、構造的レベルで2個の臍動脈と1個の臍静脈とを有し、堅いマトリクス、つまりWJにより支持され、かつ薄い膜で覆われている。排他的にWJを取得するため、膜及び血管を機械的に除去する。そのために、臍帯切片は縦方向に切断され、メス及びピンセットを用いて、臍帯の膜及び血管の両方を慎重に除去する。この機械的な分離の結果として得られるゼラチン状の物質がWJである。一般的に25〜200gの臍帯から20〜160gのウォートン・ジェリーが得られる。
【0057】
(ウォートン・ジェリーからのGAGsの抽出)
臍帯のWJからGAGsを取得するために、酵素パパイン(SIGMA,Ref:P−4762)を用いて酵素的に消化することによりヒト軟骨からGAGsを取得する、文献(Rogers et al., 2006)に記載のプロトコルを、いくつか修正を加えて使用した。
【0058】
前段階で取得されたWJは、完全に消化するため、抽出バッファー溶液(5mM L−システイン,100mM NaHPOバッファー溶液,5mM EDTA,10mg(14U/mg)パパイン,pH7.5)10ml中に24〜48時間60℃で浸す。
【0059】
WJが完全に消化された後、無用な消化残留物を除去するために遠心分離する。この段階では、消化後の容量が最初の容量よりも多いことが観察される。この増加は、WJの中に存在するGAGsが溶解し、その結果これらが蓄積していた水が放出されることによるものである。
【0060】
サンプルを遠心分離した後、上清を他の容器に移し、そしてその後サンプル中に存在するGAGsを沈殿させる。
【0061】
(臍帯のWJからのGAGsの沈殿及び単離)
WJのGAGsを、5倍の容量の100%エタノールを用いて沈殿させる。このステップによって、サンプルにおけるGAGsとともにサンプル中に存在する塩が沈殿する。この沈殿は、サンプル中の水分子がエタノール分子と相互作用するため、水分子がサンプルにおけるGAGsと相互作用できなくなり、GAGsが水に不溶性となる結果、沈殿することによって起こる。したがって、エタノールを加えてチューブを振った直後、やや白い沈殿物が観察される。GAGsは、−20℃で12時間静置して沈殿させる。沈殿させた後、これらを遠心分離して100%エタノールを取り除き、その後沈殿を5倍の容量の75%エタノールで洗浄してサンプル中に沈殿していた存在し得る塩の残りを取り除く。このサンプルをもう一度遠心分離して、上清を完全に取り除く。
【0062】
GAGsサンプルを沈殿させた後、この固体の残留物を、全てのエタノールが蒸発するまで少なくとも30分間室温で静置して乾燥させる。エタノールが蒸発した後、GAGsサンプルをMilli−Q HO中に再懸濁し、4℃で無期限に保存する。
【0063】
このタイプの材料の機械的な抵抗性は低い;他のタイプの合成物又はリン酸カルシウム−タイプの材料と組み合わされた場合を除き負荷に耐えることは考えられず、むしろ損傷領域において再生的な生理活性作用を示すと考えられている。しかしながら、ヒドロゲルを構成する多糖分子間の親和性が最も高く、これらの間での結合力が高く維持されるため、注入部位において残存するとともに、粘着性を有する。
【0064】
(架橋:ヒドロゲルの取得)
他の治療的な適用においては、適用部位に隣接するどちらか一方の組織由来の細胞、又は生体材料内に配置された細胞による、移植より前のコロニー形成を可能にする、より抵抗性及び耐久性の優れた内部構造を持つ生体材料を必要とする。この場合には、本発明に係る生体材料は、組織の損傷の治療及び修復を誘導する生理活性の三次元マトリクスのように作用し得る。
【0065】
ヒアルロン酸、コンドロイチン−6−硫酸及びコンドロイチン−4−硫酸、ケラタン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸ならびにヘパリンは、細胞活性を制御し、かつ新たな細胞外マトリクスの合成を活性化する。生体材料中に多様なGAGsが存在することによって、細胞の増殖及び分化のプロセスを制御する成長因子に特異的な多くの結合部位を存在させ、また、細胞に、新たな細胞外マトリクス及び成長因子を合成する能力を持たせる。この効果により、影響を受けた組織においてより多くの応答が引き起こされ、制御が促進され、そして慢性潰瘍の場合のように非常に分解された領域における場合にさえ治癒することを可能にする。
【0066】
三次元マトリクスとして使用されることが可能な生体材料のために、GAGsの抽出物は安定化されるべきであり、これによって機械的性質が向上し、かつ三次元構造形成が可能になる。これらの目的を達成するために、GAGsは、固体のヒドロゲルの形で材料を構成するように、化学的修飾又は架橋されることができる。これらの化学的修飾は、一般的にアルコール又はカルボキシル基を含む。
【0067】
安定かつ固体のヒドロゲルを取得するために、サンプルを架橋反応(架橋、重合)させることが必要である。このプロセスは、不溶性になる水溶性ポリマーの鎖を含む(Elisseeff et al., 2005)。
【0068】
架橋によって取得されたヒドロゲルは、組織工学に有用となりうる独特の性質を有する:栄養分もしくは不用な物質を運ぶための高い含水量、弾力性、及び3D微環境においてin situで細胞を封入もしくは固定化する能力。架橋密度は、ヒドロゲルの孔のサイズに直接影響を与え、それゆえその物理的性質、例えば含水量又は機械的抵抗性に直接影響を与える。したがって、高い架橋密度を有するため孔のサイズが非常に小さいヒドロゲルは、ほとんど水を取り込み得ず、低い架橋密度を有しかつ孔のサイズが大きいヒドロゲルよりも強い機械的抵抗性を有し得る。
【0069】
架橋によるヒドロゲルの形成は、いくつかの方法によって行なうことができる:温度変化、化学反応及び光重合。
【0070】
本発明において架橋反応は以下のように行なわれる:架橋されるべきポリマー水溶液(ここではGAGsの水溶液)を取得し、架橋を引き起こし得る化学的試薬を添加する。ここでは、ヒドロゲルを構築するため、EDC(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド塩酸塩))が使用される。EDCは、水溶液中でカルボキシル基を活性化するためである。これらの活性化されたカルボキシル基は、第一級アミン又はヒドロキシル基と反応することができ、アミド結合又はエステル結合が生じる。ヒドロゲルを形成した後、これをPBSで何度か洗浄し、残留し得るEDCの残りを除去する。その後GAG分子が多量の水を取り込むようにされ、固体かつ多孔質の特徴を持つヒドロゲルが形成される(Pieper et al., 1999; Wissink et al., 2001)。
【0071】
架橋プロセス中に鋳型中で凝固され、特有の形状及びサイズを有するヒドロゲルは、所定の目的を意図した。所定の目的とは、使用される鋳型に依存する所望の形状及びサイズを利用するような目的である。
【0072】
固体のヒドロゲルは、凍結乾燥と言われるプロセスにより乾燥されてもよく、このようにしてヒドロゲル中に存在するGAG分子の間に挟まれている水分子を除去することにより多孔質な構造を得る(図5)。また、生体材料を凍結乾燥した後、走査型電子顕微鏡(SEM)によってヒドロゲルの三次元構造を特徴付けることができる(図3)。得られた固体のヒドロゲルを凍結乾燥によって凍結させ、凍結後、昇華とよばれるプロセスにより水を除去するために真空室に導入する。種々の凍結サイクルによって、当初のヒドロゲル中に含まれる事実上全ての自由水が除去される。
【0073】
ヒドロゲルをその最終形状にて取得した後、紫外線に40分間暴露することによって滅菌する。ヒドロゲルに対して行なわれる無菌テストにより、生体材料が至適に滅菌されていることが示される。
【0074】
滅菌後、このヒドロゲルは、直接適用又は細胞との結合のための準備ができている最終産物の形式である。
【0075】
本発明に係るヒドロゲルを用いた細胞結合アッセイによって、生体材料が細胞に対して毒性効果を引き起こさず、この細胞の増殖能が標準的な培養条件で生じる増殖能と同様であることが証明された(図4)。
【0076】
(バイオゲル(biogel)の使用)
本発明に係る生体材料は、細胞に結合した形態又は単独のいずれであっても、関節系疾患及び美的治療における注射用の形態に適用され得る。使用され得る細胞は、特に以下である:未分化間葉幹細胞又は他の細胞株に分化した間葉幹細胞、未分化造血幹細胞又は他の細胞株に分化した造血幹細胞、軟骨細胞及び軟骨芽細胞、骨芽細胞及び骨細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、筋細胞、脂肪細胞、神経細胞又は神経系由来の他の細胞、白血球系由来の細胞、角膜細胞、内皮細胞又は上皮細胞。
【0077】
ヒドロゲルが意図され得る適用に応じて、注射方法は異なってもよく、またヒドロゲルの粘度は注射システムの口径に適合されていてもよい。注射用のヒドロゲルの粘度は10〜15,000cSであり、好ましくは10〜2,000cSである。架橋したヒドロゲルは、15,000cS以上の粘度を有し得る。ヒドロゲルの粘度は、15,000cS以上の粘度を得られるように、必要に応じて架橋により変更することができる。
【0078】
本発明において発展された生体材料は、以下の病状の注射用形態に好適に適用し得る:軟部組織再構築、充填又は再構築、しわ、縦溝及び傷跡、火傷、潰瘍、軟部組織増強、顔面の脂肪萎縮症、椎間板疾患、軟骨修復、筋骨格損傷、変形性関節炎及び関節周囲炎における治療;腫瘍、腟疾患、脳障害、骨髄修復、神経変性障害、循環器疾患及び潤滑プロセスにおける、鎮痛性治療及び抗炎症性治療。
【0079】
固体の形態である本発明に係る生体材料は、実質的に多孔質な構造を有する。この構造では、15000cS以上の粘度を有し得るために、孔の直径は0.5〜1,000μm、好ましくは0.5〜500μmである。上述した固体の形態である生体材料は、以下の病状に好適に適用し得る:火傷、潰瘍及び皮膚性−上皮性異常における治療、角膜損傷、網膜損傷又は白内障などの眼科学的疾患における治療;軟骨の修復、骨軟骨性異常、変形性関節炎又は骨異常の場合における骨関節系の治療、ならびに腟疾患の回復におけるアジュバント、歯肉炎及び歯周炎における治療;細胞培養系の開発における使用。
【0080】
軟骨の疾患は、重要な世界的社会経済問題である。その意味では、これらの発生率を記録することは困難であるが、関節の損傷が5億人の人々に影響を及ぼすことが予測される。
【0081】
軟骨の病状は、損傷又は疾患の結果として生じ、もしこれらが治療されなければ、変形性関節炎(OA)などの変性疾患という結果になり得る。
【0082】
OAは、米国及びヨーロッパで3500万〜4000万人の人々に影響を及ぼす最も一般的なタイプの関節炎の1つである。OAは、骨における反応を伴う軟骨崩壊を引き起こす変性疾患である。OAは、一般的に手、膝、腰、足及び首に影響を及ぼし、そして成人では、物理的な無能力の最も一般的な原因の1つと考えられている。
【0083】
関節の軟骨は、体重に伴う力及び関節の表面の間の摩擦を導く衝撃から、可動関節の骨を保護する、極めて特殊化された血管の組織である。この組織は、単細胞型の軟骨細胞によって、また重要かつ豊富な細胞外マトリクスによって構成される。当該マトリクスは、タイプIIコラーゲン線維(主な分子)の高密度な網目と、この網目内にあるコンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、ヒアルロン酸及びアグリカンなどのGAGsを含むプロテオグリカンのマクロ−凝集体と、により構成される。
【0084】
軟骨の分化した構築物と、その制限された修復能とは、このタイプの損傷の治療を非常に複雑にする。幹細胞は、再生プロセスに寄与するために損傷エリアにアクセスすることができないため、血管新生がないことは、その再生能を非常に制限されたものとする。
【0085】
近年、生分解性の生体材料が、軟骨損傷の治療のために使用されてきた。この場合には、巨視的合成ポリマー(乳酸、グリコール酸、カプロラクトン等)が、生体材料における最も重要かつ多数のグループとなってきた。しかし、これらの巨視的な固体材料は、昔ながらの外科手術などの攻撃的な外科的手法の使用を必要とする。これらの制限を克服するために、最低限、浸潤性の手法により、例えば注射又は関節鏡検査により、移植され得る新しい生体材料が最近開発されている。
【0086】
したがって、本発明の注射用の生体材料における適用の1つは、変形性関節炎における退行性のプロセスにおいて損傷した関節の軟骨の再生である。この生体材料は、経皮的な手法、又はあらゆる注射器具によって、再生されるべき領域内に容易に投与され得る。経皮的な手法とは、例えば関節鏡検査である。投与の容易さに加えて、注射用のヒドロゲルは、悪化する組織のサイズ及び形状に適合している安定な移植片を形成する性質を有する。
【0087】
生体材料の他の適用は、傷の治療のための三次元の生体材料の使用である。
【0088】
慢性の糖尿病患者、褥瘡、及び静脈性潰瘍は、米国における3百万〜6百万人の人々に影響を及ぼす重大な問題である。この病状は、先進国の人口の1〜3%に影響を及ぼし、そして病院に入院している患者の15%がこの状態に苦しむ。これらの損傷に苦しむ多数の患者によって、社会経済及び健康管理に対しかなりの影響が作り出され、その後高い治療費が確立され、患者の生活の質がかなり変化する。
【0089】
潰瘍は、相当に複雑な生理病理学を有する生物体に対して非常に大きい効果を有する外傷である。傷のベッドにおいて線維芽細胞(真皮の細胞)、ケラチノサイト(表皮の細胞)、細胞外マトリクス及び血漿由来のタンパク質の間で複雑な相乗作用の相互作用が起こり、そのため異なる傷の治癒相、止血、炎症、修復及び組織修復が起こり得る。
【0090】
しかし、慢性の性質及び再発は、臨床の発達において最も関連して発生する。今日、非常に多様な治療及び包帯が利用可能であるのにもかかわらず、回復率及び回復割合は非常に低くなり続けており、早く傷を治癒することができるより効果的な治療が必要である。近年における慢性潰瘍の生理病理学について得られた進歩的な知見によって、この疾患の治療において著しい進歩である新しい包帯が発展してきた。しかしながらこれまで、皮膚を覆うための理想的な包帯はない;理想的な包帯は、一連の基本的な特徴、例えば傷に早く接着し、液体の喪失に対する効果的なバリアを提供し、長期的な安定性を供給するために機械的な圧力に対して抵抗することができなければならず、滅菌が容易でなければならず、取り扱い及び持ち運びが容易であり、そして無害でなければならない。
【0091】
本発明における固体の生体材料は、慢性潰瘍の治療に効果的な包袋に必要な特徴の多くを有する。その意味で、慢性潰瘍における治療的効果を評価するために、マウスを用いてin vivoでの実証研究を行なった。
【0092】
〔実施例〕
(実施例1.ウォートン・ジェリーの取得)
臍帯のWJからGAGsを単離するために、以下を行なった:
50gの臍帯は、納入後すぐに、滅菌ビンの中に回収した。滅菌ビンには、300mlの1X濃度のPBS(水1リットル中:8g NaCl、0.2g KCl、1.44g NaHPO、0.24g KHPO、pH=7.4)、ならびに3mlの1X濃度の抗生物質の混合物(ペニシリン(30,000ユニット)、ストレプトマイシイン(30,000μg)及びアンフォテリシン−B(75μg)(LONZA,Ref:17−745E))を事前に入れておいた。臍帯は、処理まで24時間以内であれば4℃で保存することができるが、本実施例では臍帯は受け取った後すぐに処理した。
【0093】
処理中、臍帯をバイオセイフティーレベルII層流フード内に滅菌条件で維持し、臍帯に含まれる血液の残りを完全に除去するために、連続的な洗浄を行なった。このために、臍帯を容器の中に置き、3mlの抗生物質の混合物(ペニシリン(30,000ユニット)、ストレプトマイシイン(30,000μg)及びアンフォテリシン−B(75μg)(LONZA、Ref:17−745E))を含む、300mlの1XPBS(水1リットル中:8g NaCl、0.2g KCl、1.44g NaHPO、0.24g KHPO、pH=7.4)を添加した;傾けた容器を手動で垂直に10秒間5回振り、液体を捨て、この操作を、血液の大部分が除去されるまで少なくとも3回繰り返した。その後、血液の残りが完全に除去されるまで500mlの1X濃度の赤血球溶解溶液(水1リットル中:8.99g NHCl,1g KHCO,37mg EDTA,pH7.3)で臍帯を洗浄した。
【0094】
臍帯は、表面の血液を洗浄した後、10cmペトリ皿に移し、滅菌したはさみを用いて1〜2cm切片に切断した。臍帯を切片に切断している間に血管中に残っていた血液が放出したため、1mlの抗生物質の混合物(10,000ユニット)(ストレプトマイシイン(10,000μg)及びアンフォテリシン−B(25μg))を含む10mlの1XPBSを、十分に洗浄した上述した切片に添加した。そして、切片の表面を、その表面の支持に対抗して圧迫し、滅菌したメスを用いて切片に沿って水平方向に移動させた。このプロセスを、全ての血液の残りが内部から除去されるまで繰り返した。完全に洗浄された臍帯の切片は、滅菌チューブに移し、すぐに処理した。しかしもし必要であれば、これらは−80℃で永久に凍結保存し得る。
【0095】
その後、臍帯を取り巻く膜、及びその中に位置する血管を、機械的に除去した。このために、臍帯切片を縦方向に開き、メス及びピンセットを用いて臍帯の膜及び血管の両方を慎重に除去した。この機械的な分離の結果として得られたゼラチン状の物質がWJである。40gのWJが得られた。
【0096】
(実施例2.ウォートン・ジェリーからのGAGsの抽出)
臍のWJからGAGsを取得するために、記述されているヒト軟骨からGAGsを取得するためのプロトコルを、いくつか修正を加えて使用した(Rogers et al., 2006)。
【0097】
実施例1で取得したWJは、10mlの抽出バッファー溶液(242μl 200mM L−システイン,1.42ml 704mM NaHPOバッファー,100μl 0.5M EDTA,10mg(14U/mg)パパイン,pH7.5)(SIGMA,Ref:P−4762)に浸した。そして、WJを完全に消化するため、これを60℃で24時間維持した。次いで、消化させた後、消化残留物を除去するため、サンプルを800rpmで5分間遠心分離した。消化後の容量は30mlであることが観察され、最初の容量である10mlより約20ml多かった。これは、WJの中に存在するGAGsが溶解し、その結果これらが蓄積していた水が放出されたことによる。
【0098】
サンプルを遠心分離した後、上清を他のチューブに移し、そしてその後サンプル中に存在するGAGsを沈殿させた。
【0099】
(実施例3.臍帯のWJからのGAGsの沈殿及び単離)
上清中に存在するWJのGAGsを、5倍の容量の100%エタノールを用いて沈殿させた。このステップによって、サンプルにおけるGAGsとともにサンプル中に存在する塩が沈殿した。この沈殿は、サンプル中の水分子がエタノール分子と相互作用するため、水分子がサンプルにおけるGAGsと相互作用できなくなるという事実によっている。GAGsは−20℃で12時間静置して沈殿させた。沈殿させた後、これらを2500rpmで5分間遠心分離して、全ての100%エタノールを取り除いた。サンプル中に沈殿していた存在し得る塩の残りを取り除くため、沈殿を5倍の容量の75%エタノールで洗浄した。その後このサンプルを2500rpmで約5分間遠心分離して、上清を完全に取り除いた。
【0100】
GAGsサンプルを沈殿させた後、この固体の残留物を、全てのエタノールが蒸発するまで約30分間室温で静置して乾燥させた。約40gのWJにおけるサンプルから始まって沈殿したGAGsの量は、最初の材料に応じて、50〜300mgの範囲となり得る。この特定の場合では、200mgのGAGの沈殿物が得られ、これを2mlのMilli−Q HO中に再懸濁し、その後ヒドロゲルを生産するまで4℃で無期限に保存した。
【0101】
(実施例4.臍帯のWJにおけるGAGsを含む注射用ヒドロゲルの製造)
ヒドロゲルの含水量は、その適用に要求される粘度に基づいて、それ自身の重量の10%〜100倍であってもよい。
【0102】
2mlのHO中で沈殿したGAGsの再懸濁後に得られたヒドロゲルを、生理的な血清溶液中に再懸濁し、1000cSの粘度を得た。このヒドロゲルを、続いて注射用の生理的な血清溶液8ml中に再懸濁し、200センチストーク(cS)の粘度を得た。そして、完全に溶解して均一化するまでボルテックス中で穏やかに撹拌し、ゲルの構造の分解を防止した。
【0103】
ヒドロゲルが溶解した後、永久に保管しておくことができる4℃で保存した。
【0104】
(実施例5.臍帯のWJ由来のGAGsを含む固体のヒドロゲルの製造)
固体のヒドロゲルを製造するために,文献に記載されているプロセスに従った(Cui et al., 2006)。実施例3によるWJから得られたGAGsの抽出物より、水溶液を調製した。特に、GAGsの1%水溶液を調製した。このために、沈殿及び単離後に得られたGAGs(実施例3)200mgに10mlの水を添加した。この溶液に1.2gのアジピンジヒドラジド(adipic dihydrazide)(ADH)を添加し、溶液のpHを0.1N HClでpH=3.5に調整した。pHを調整した後、この溶液に0.6gの固定剤、EDC(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド塩酸塩))(SIGMA,Ref:E6383)、を添加した。固体のヒドロゲルが得られるまで、この混合液を30分〜1時間、室温で一定に撹拌し続けた。
【0105】
固体のヒドロゲルが形成した後、過剰のEDCを除去するために、1XPBS(水1リットル中:8g NaCl,0.2g KCl,1.44g NaHPO,0.24g KHPO,pH=7.4)で5分3回洗浄した。ヒドロゲルの物理的形状については、これを固める鋳型の形状を有し得る。鋳型は、標準的な96,48,24,12及び6−ウェルの培養プレート,ペトリ皿又は使用できる所望の形状を有するあらゆる他の容器などである。また、ヒドロゲルは、ビーカーなどの大きい容器内で固めることができ、固まった後に、ヒドロゲルを固有の形状及び厚さに切断することができる。特に、本実施例ではヒドロゲルを24−ウェルプレートのウェル内で固め、固まった後に500μlの1XPBSで5分間3回洗浄した。
【0106】
ここでは、24−ウェルプレート内で架橋した固体のヒドロゲルを、以下のステップからなる凍結乾燥プロセスに供した:ヒドロゲルを−80℃で凍結させた。凍結したヒドロゲルサンプルを凍結乾燥機の真空室内に導入した。ヒドロゲルサンプルを、温度が0.1℃/分の割合で−40℃まで上昇する間減圧させた後、20分間温度を−40℃で維持した。続いて温度を0.1℃/分の割合で−20℃まで上昇させた後、15分間温度を−20℃で維持した。その後、温度を0.1℃/分の割合で0℃まで上昇させた後、15分間温度を0℃で維持した。続いて温度を0.1℃/分の割合で25℃まで上昇させた後、真空室の外部の圧力と内部の圧力とが等しくなるのに必要な時間、この温度で維持した。
【0107】
本実施例では、走査型電子顕微鏡(SEM)により三次元のヒドロゲルを特徴づけるため、ヒドロゲルが凍結乾燥した後、以下を行なった:凍結乾燥したヒドロゲルの切片を切断し、この切片をAUTOSAMDRI−814乾燥機内でCOにより臨界点まで乾燥し、その後SPUTTER内で金を用いて金属化した。この標本を、JEUL走査型電子顕微鏡(JSM35)において20KVの電圧にて観察した。
【0108】
ヒドロゲルのSEM解析(図3)は、ヒドロゲルが均一の多孔質な構造を有し、かつ相互接続された孔のネットワークを含むことを示した。顕微鏡写真は、直径が0.5〜500μmの範囲である孔を有する、高多孔質の三次元構造の存在を示す。この孔の範囲は、ミクロ細孔構造及びマクロ細孔構造の存在を意味する。マクロ細孔(300〜500μm)は必要である。マクロ細孔によって適した細胞のコロニー形成が行なわれ、多数の細胞が濃縮され、そして異なる種類の細胞が共存し、この共存は構造化組織の形成に有利であり、例えば血管のネットワークが形成され得る。中間の孔は、細胞を統合させる。ミクロ細孔(0.5〜50μm)は細胞の生存に必要である。ミクロ細孔は、ガス、栄養物の正しい拡散、細胞の代謝によって生じた老廃物の除去を行なうことを担っているためである。孔のサイズは、走査型電子顕微鏡によって得られた計量スケールに基づいて測定される。
【0109】
ここでは、注射用の生体材料における前述した実施例とは異なり、固体のヒドロゲルは、その全体の内部構造及び外部構造の両方において、細胞の成育及びコロニー形成のためのマトリクスである三次元構造を提供する。この生体材料は、例えば特に潰瘍及び他の真皮性−上皮性疾患の治療、軟骨修復及び眼科学的な治療に適用されるために、求められている生理活性及び栄養性作用だけでなく、組織修復が行なわれるまで一時的に細胞を収容することができる構造もまた示唆される、より高い構造的な感受性を示す。生体材料内に含まれる細胞は、移植部位に隣接する組織の細胞であって、何とかコロニー形成した細胞であってもよいし、又は臨床の適用の前に生体材料内に生体外にて配置された細胞であって、その再生作用が向上されている細胞であってもよい。
【0110】
この生体材料は、0.01〜500μmの範囲のサイズである、均一に配置された孔を有する。サイズは走査型電子顕微鏡法によって測定される。この多孔度の範囲は、その全体構造を通したガス及び栄養分の拡散のため、及び細胞を生体材料に入らせるための両方に好適である。
【0111】
(実施例6.本発明に係る生体材料内に存在するGAGsの特徴づけ及び定量化)
本発明に係る生体材料中に存在する多様なGAGを、質量分析(ESI/MS)法によって解析かつ定量化した。この手法を用いると、200〜2000ダルトンの分子量を有する分子のみを測定することが可能である。また、GAG分子は、おおむねこの範囲を超える。これらをふまえ、まず200〜2000Daの分子量を有するGAG鎖を得るために、サンプルを酵素的に消化した。
【0112】
GAGsの同定及び定量化をするための基準として、既知の濃度を有する、GAGsそれぞれの標準的な市販の化合物を用いた。特に、GAGsの定量化を行なうために用いた標準物質は、以下である:ヒアルロン酸用:ヒアルロン酸カリウム塩(SIGMA,Ref:53750);コンドロイチン硫酸用:コンドロイチン硫酸ナトリウム塩(SIGMA,Ref:C4384);デルマタン硫酸用:デルマタン硫酸ナトリウム塩(SIGMA,Ref:C3788);ケラタン硫酸用:ケラタン硫酸(CHEMOS,Ref:7295);ヘパリン用:ヘパリンナトリウム塩(SIGMA,Ref:H8537);及びヘパラン硫酸用:ヘパラン硫酸ナトリウム塩(SIGMA,Ref 51541)。
【0113】
サンプル中に存在するGAGsの定量化の値は、使用したそれぞれのGAG標準物質について得られた結果に基づいて取得した。
【0114】
GAGsを酵素的に消化するために、文献に記載されているプロセスに従った(Mahoney et al., 2001)。そのために、それぞれのGAGの消化に特異的な酵素を用いた。
【0115】
ヒアルロン酸のために、ヒアルロニダーゼ(SIGMA,Ref:H3506)を用いた;コンドロイチン硫酸のために、コンドロイチナーゼ(SIGMA,Ref:C2780)を用いた;デルマタン硫酸のために、コンドロイチナーゼB(SIGMA,Ref:C8058)を用いた;ヘパリンのために、ヘパリナーゼI(SIGMA,Ref:H2519)を用いた;ヘパラン硫酸のために、ヘパリナーゼI(SIGMA,Ref:H2519)を用いた;ケラタン硫酸のために,ケラタナーゼ(K2876)を用いた。
【0116】
これらの酵素は、以下のバッファー10mlに440Uに相当する酵素を再懸濁することによって調製した:2ml 100mMリン酸バッファー pH=7.77,770μl 1M NaCl,1mgBSA及び7.23ml HO。
【0117】
酵素濃度160U/mlを有する酵素消化バッファーを、以下のように調製した:4.5mlの酵素(2000U)を、7.5mlの消化バッファー,1.5ml 1M NaCl,0.333ml 3M酢酸ナトリウム pH=5.2及び5.67ml HOに添加した。酵素的に消化させるためのサンプル及び標準物質を、以下のように調製した:500μl消化バッファー(酵素80U)を、各GAGに対する濃度2mg/mlの標準物質500μlに添加し、これにより、標準物質の最終溶液の濃度は1mg/mlとなった。GAGsのサンプルについても同様に行なった:500μl消化バッファー(酵素80U)を、GAGsサンプル500μlに添加した。
【0118】
サンプルを、37℃1時間消化し、その後60℃5分間の熱変性によって酵素を不活性化した。
【0119】
消化を行なった後、サンプル及び標準物質を、質量分析によって解析した。質量分析法は、解析すべきサンプル中に存在する特定のイオンの質量/電荷数の測定を用いる、実験的方法である。質量分析計は、3つの基本的な構成要素からなる:イオン源、質量分析器及び検出器。解析すべきサンプルは、イオン源によってイオン化され、質量分析器内で分離され、そしてマススペクトルを作るために検出される。マススペクトルでは、質量/電荷の値は、特定のイオン種の相対的な存在量と比較されて示される。
【0120】
特に、本実施例では質量分析計へのサンプルの注入は、以下のように行なった:20μlのサンプルを、マス/マス検出器(Thermo LCQ model)の中に直接、0.2ml/分の流速で注入した。陰性エレクトロスプレーイオン化(ESI−)法を用い、クロマトグラム時刻を10分に設定した。文献(Mahoney et al., 2001)に従って、認識されたそれぞれのタイプのGAGについての鎖の分子量に相当する、±6Daの範囲の分子イオンを選択した。標準GAGsのサンプル中、及び解析すべきサンプル中の両方に存在するイオンが残っており、これによりサンプル中の各GAGの存在が定性的に示された。この結果の再現性を保証するために、サンプル及び標準物質を二通りに注入した。
【0121】
種々のGAGsの定量化のために、各GAGの標準物質について1mg/mlにて標準ラインを作成した。各標準GAGs(ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸及びケラタン硫酸)を、以下の濃度にて使用して標準ラインを作成した:750μg/ml,500μg/ml,250μg/ml,100μg/ml,0μg/ml。標準ラインの希釈は、HOを用いて行い、等しい割合の酵素消化バッファーとHOとを含む混合液を、ラインのブランクとして使用した。
【0122】
本発明に係る生体材料中の各GAGの認定及び割合の結果は以下である。生体材料の起源が天然であることは、これらの組成(図1)に若干のばらつきが存在することを示すことに注意すべきである:
70% ヒアルロン酸
10% ケラタン硫酸
7% コンドロイチン−6−硫酸
5% ヘパラン硫酸
4% コンドロイチン−4−硫酸
3% デルマタン硫酸
1% ヘパリン。
【0123】
(実施例7.生体材料における細胞の残りの存在を測定するための組織学的研究)
本発明に係る生体材料は、天然起源のGAGsの組合せを含む。この天然起源は、その再生効果及び細胞活性に対する効果を高める。GAGsの構造及びこれらの間の相互作用が、生理的条件で細胞外マトリクスにおいて見られるものと似ているためである。
【0124】
臍帯は、あまり免疫原性でないタイプの組織であり、実際に複数の研究において、WJに含まれる幹細胞を治療のために異種使用することが検討されている。また、異種使用のために、臍帯の脈管構造から動脈又は静脈系を発展させる研究もある。
【0125】
しかしながら、本発明に係る生体材料が、炎症性反応又は移植の拒絶反応を引き起こし得る細胞及び細胞の残りを有さないことを保証するために、ヘマトキシリン−エオシン、アルシアンブルー及びメチルグリーン−ピロニンによる組織学的な染色を行なった(図2)。
【0126】
[ヘマトキシリン−エオシン]
これは、組織病理学的レベルで最も広く使用される組織化学的染色である。これは、細胞及び細胞成分の観察を可能にする。ヘマトキシリンは、細胞における酸性の成分に対する親和性を示し、またエオシンは基礎的領域に対する親和性を示し、細胞の細胞質の良好な観察を可能にする。GAGsサンプルの調製物を染色し(図2B)、そしてポジティブコントロールとして細胞を伸ばしたものを使用した(図2A)。
【0127】
ヘマトキシリン−エオシン染色を実施するために行なったプロセスは、以下である:滅菌したスワブを用いてスライド上にGAGサンプルを伸ばし、この伸ばしたものを少なくとも24時間静置して乾燥させた。スライドが乾燥した後、この伸ばしたものを70%メタノールにより5分間固定した。その後、HOで洗浄することにより固定液を除去した。このスライドを、ヘマトキシリンを用いて3分間染色した(PANREAC,DC Harrisのヘマトキシリン溶液)。その後、HOで洗浄することにより余分な染料を除去した。全てのスライドを0.5%HClの水溶液に通し、色素の非特異的結合を取り除いた。スライドをHOで洗浄した。このスライドを、エオシン(0.5%水溶液)で30秒間染色した。過剰のエオシンを除去するため、スライドをHOで洗浄した。この調製物にFluoromount−G封入剤(SOUTHERN BIOTECH,Ref:0100−01)を数滴添加し、スライドカバーでカバーし、そして顕微鏡下で観察した。
【0128】
ヘマトキシリン−エオシン染色の結果(図2の画像A及びB)は、解析したGAGsのサンプルにおいて細胞が存在しないことを示す。
【0129】
[アルシアンブルー]
アルシアンブルーは、主要なカチオン染料(分子中に正電荷を含む)の1つであり、プロテオグリカンの一部を形成する、硫酸、リン酸又は炭酸塩のラジカルを有する多糖類の、負電荷を有する部位に結合する。これらの静電気的結合は、媒体のpHに依存する;中性のpHでは、染料は、中性のラジカルを有するプロテオグリカンに結合する;酸性のpHでは、硫酸化プロテオグリカンに結合する;そして塩基性のpHでは、リン酸化プロテオグリカンに結合する。pH=1では、アルシアンブルーは弱い、かつ強固に硫酸化プロテオグリカンに結合する。硫酸化プロテオグリカンは、ウォートン・ジェリーのGAGの一部を構成するコンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸及びケラタン硫酸を含む。GAGsサンプルの調製物(図2のF)を染色し、コントロールとして細胞を伸ばしたものを使用した(図2のE)。
【0130】
本実施例においてアルシアンブルー染色を実施するために行なったプロセスは以下である:
滅菌したスワブを用いてスライド上にGAGサンプルを伸ばし、伸ばしたものを少なくとも24時間静置して乾燥させた。スライドが乾燥した後、この伸ばしたものを70%メタノールにより5分間固定した。その後、1XPBSで洗浄することにより固定液を除去した。このスライドを、0.1N HCl pH=1に5分間浸した。その後、これらを0.1N HCl pH=1中で1%アルシアンブルーにより2時間染色した。このスライドを0.1N HClに5分間浸し、すぐにHOで洗浄して余分な染料を除去した。この調製物にFluoromount−G封入剤(SOUTHERN BIOTECH,Ref:0100−01)を数滴添加し、スライドカバーでカバーし、そして顕微鏡下で観察した。
【0131】
アルシアンブルー染色の結果(図2の画像E及びF)は、解析した生体材料サンプル内にGAGsが存在することを示す。
【0132】
[メチルグリーン−ピロニン]
この染色法は、組織に含まれる核酸の組織学的な調査のためだけでなく、リンパ性の細胞及びプラズマ細胞の存在を示すためにも使用される。また、この染色法は、組織切片及び細胞学的調製物におけるプラズマ細胞及びRNAの同定にも有用である。ピロニンは、プラズマ細胞の細胞質、及び核小体の大部分を赤色に染色する。メチルグリーンは、DNAを青みを帯びた緑(薄紫)色に染色する。GAGsのサンプルの調製物を染色し(図2のD)、コントロールとして細胞を伸ばしたものを使用した(図2のC)。
【0133】
本実施例においてメチルグリーン−ピロニン染色を実施するために行なったプロセスは以下である:
滅菌したスワブを用いてスライド上に各GAGサンプルを伸ばし、伸ばしたものを少なくとも24時間静置して乾燥させた。スライドが乾燥した後、この伸ばしたものを70%メタノールにより5分間固定した。その後、HOで洗浄することにより固定液を除去した。このスライドを、0.1N HCl pH=1に5分間浸した。その後、これらを0.1N HCl pH=1中でメチルグリーン−ピロニン(0.012%メチルグリーン水溶液,0.01%ピロニン水溶液,0.75%メタノール)により5分染色し、すぐにHOで洗浄して余分な染料を除去した。この調製物にFluoromount−G封入剤(SOUTHERN BIOTECH,Ref:0100−01)を数滴添加し、スライドカバーでカバーし、そして顕微鏡下で観察した。
【0134】
メチルグリーン−ピロニン染色の結果(図2,画像C及びD)は、解析したGAGsサンプル中に核酸が存在しないことを示す。
【0135】
図4の画像に見られるように、細胞及び核酸のどちらの残りも本発明に係る材料内に見られない。しかし、アルシアンブルー染色によって、この開発された生体材料内にGAGsが存在することを観察することができる。
【0136】
(実施例8.本発明に係る生体材料におけるいくつかの細胞タイプの毒性)
移植に使用することができる、又は組織工学のためのマトリクスとして使用することができる生体材料に主に要求されることは、完全に細胞毒性がないことである。
【0137】
本発明に係る生体材料が毒性効果を引き起こさないことを検証するために、細胞毒性を、MTT法(Roche Diagnostics)によって測定し、本発明に係る生体材料上に配置された細胞に対してECVAM(European Centre for the Validation of Alternative Methods)により確証した。使用する細胞タイプは、生体材料の標的である病理と関連しており、例えば、皮膚のケラチノサイト及び線維芽細胞、骨の骨芽細胞、軟骨の軟骨細胞及び脂肪由来の間葉幹細胞、ならびにL929毒性アッセイのためのISO10993において示される細胞株である。
【0138】
MTTアッセイは、生細胞のミトコンドリア酵素における特定の基質を他の二次代謝産物に変換する能力に基づく。形成される化合物量は、ミトコンドリアのデヒドロゲナーゼ活性に依存し、培養中に存在する生細胞の数の明瞭な指標である。
【0139】
特に、このミトコンドリア試験(Cell Proliferation Kit I(MTT)Cat.No.1 465 007 Roche)は、細胞のミトコンドリアのデヒドロゲナーゼによって行なわれる(黄色い)テトラゾリウム塩のコハク酸塩から不溶性の(青い)ホルマザン結晶への変換を測定する。その後細胞を透過させ、そして形成された結晶を溶解させて着色した溶液にし、550nmの波長にてELISAマイクロプレートリーダーにおいてこの溶液の吸光度を測定することにより定量化することができる。得られた結果を図4に示す。
【0140】
従ったプロセスは以下である:
1.各ウェルに50μlの生体材料を有する非接着性の96−ウェルプレートに、細胞のタイプに依存して1ウェルあたり2000〜5000細胞の濃度で細胞を接種した。各細胞タイプにとっての適切な細胞濃度は、あらかじめ決定されている。線維芽細胞、骨芽細胞、軟骨細胞及び脂肪由来の間葉幹細胞(全てヒト起源の初代培養から)は、1ウェルあたり4000細胞の濃度で接種し、L929マウス線維芽細胞株は、1ウェルあたり200細胞の濃度で接種し、そして初代培養におけるヒトの皮膚から得られたケラチノサイトは、1ウェルあたり5000細胞の濃度で接種した。
【0141】
2.培養液は、安定化させるために、細胞毒性アッセイを始める前に37℃、5%COで24時間放置した。このアッセイは、ポジティブコントロール(細胞+培地+細胞毒性を誘導する既知の材料、ここではポリビニル ポリクロライド又はPVCを使用した)、コントロール(細胞+標準的な培養液)、及び本発明に係る生体材料と接触させた細胞を含んでいた。
【0142】
3.これらを、プロトコルに示される定量が行なわれるまでの時間(ここでは、接触後24,48及び72時間)、恒温器内で37℃でインキュベートした。
【0143】
4.インキュベーション時間が終了した後、MTT溶液(0.5mg/ml)10μlを、各100μlの培地が入った各ウェル内の培養液に添加し、恒温器の中で37℃、4時間インキュベートした。
【0144】
5.インキュベート終了後、細胞の内部のホルマザン結晶が観察された。100μlの可溶の溶液を、各培養液又は各ウェルに添加し、これを恒温器内で37℃にて一晩インキュベートした。その後細胞を透過させ、100μlの可溶化剤を用いて結晶を可溶化させ、容易に定量化できる着色した溶液を得た。
【0145】
6.結晶を可溶化させた後、ELISAリーダーを用いて550nmにて培養プレートを直接読み取った。読み取る前に、エタノールにてプレートの下面をきれいにすることが望ましい。
【0146】
図4に見られるように、本発明に係る生体材料は、試験したいかなる細胞株に対しても毒性効果を引き起こさず、コントロールとの著しい違いはなかった。
【0147】
(実施例9.変形性関節炎の治療のための注射用形態についての、本発明に係る生体材料の使用)
OAにおける本発明の生体材料の治療効果をインビボで評価するために、実施例3で得られたヒドロゲルを用いた。このヒドロゲルを8mlの注射用生理的血清溶液に再懸濁し、200cSの粘度を得た。ひざの1つにおける前十字靱帯が切除されたウサギを実験モデルとして使用した。この靱帯の切除は、側方の関節切開によって行なわれた。次に、ひざを不安定化させるために、変形性関節炎と同様に軟骨において侵食が起こるまで、数ヶ月から数週間にわたる期間待機した。また、ひざの関節切開を行なわない動物をコントロール群として用いた。
【0148】
洗浄、及び関節鏡視下手術による創面切除によって損傷した接合面を準備し、本発明に係る注射用の生体材料により損傷を覆った。生体材料を沈着させて4週間後、動物を屠殺して軟骨を抽出した。得られた軟骨を、その後の組織学的工程のために4%パラホルムアルデヒドで固定した。組織学的切片を得るために、サンプルをパラフィンに含ませた。このために、サンプルを50,70,90及び100%のアルコールに5分間保持した。その後サンプルをシトロソール(citrosol)中に5分間おき、固体のブロックを得るまでパラフィン中に含ませた。ミクロトームを用いて5μmの組織学的切片を取得し、これらの切片を用いて組織学的な染色及び免疫標識を行なった。
【0149】
免疫組織化学的手法を用いて、組織学的切片における、軟骨の細胞外マトリクスの多様なマーカーを解析した。解析した軟骨の細胞外マトリクスの特異的分子及び分子マーカーは、タイプIIコラーゲン,ケラタン硫酸,コンドロイチン−4−硫酸及びコンドロイチン−6−硫酸であった。免疫標識は、モノクローナル抗体を用いて行なった。組織切片を標識するために用いた手法は、蛍光色素で標識されたモノクローナル抗体を用いて直接的に免疫標識する手法である。この標識は、共焦点顕微鏡を用いて観察された。
【0150】
以下の理由から、得られた結果は、損傷した軟骨の再生を生体材料が誘導することを示す:
−注射用の生体材料は、移植後に毒性を引き起こさなかった。すなわち、組織学的切片において、肉眼で、あるいは顕微鏡レベルで、炎症の事実が観察されなかった。
【0151】
−生体材料は、修復されるべき傷の形状及びサイズに適合し、移植領域に留まった。
【0152】
−移植領域に隣接する健康な組織の細胞の形態に変化が観察されなかった。
【0153】
−移植領域において、軟骨に特異的な細胞外マトリクス分子、例えばタイプIIコラーゲン、が存在した。このことは、天然の組織の細胞外マトリクスと同じ質の新しい細胞外マトリクスの形成を伴う再生プロセスの始まりを示す。
【0154】
−移植領域において軟骨細胞が存在することが観察された。このことは、細胞の移動、接着及び増殖が刺激されたことを示す。
【0155】
これらの事実から、本発明に係る生体材料は、軟骨修復のいかなる徴候も存在しなかったコントロール動物と異なって、軟骨の異常における再生を促進することが分かった。
【0156】
(実施例10.三次元生体材料の使用)
実施例5で得られた本発明の固体の生体材料は、慢性潰瘍の治療に効果的な包袋に必要な特性の大部分を有している。この意味で、慢性潰瘍における治療効果を評価するために、背部領域に約3cmの熱的擦過傷を受けたスイスのアルビノマウスを用いて、インビボで実証研究を行なった。同じタイプの傷を受けたが市販のヒアルロン酸ゲルにより治療した動物を、コントロール群として使用した。
【0157】
本発明に係る生体材料を適用するために、洗浄、消毒及び外科的な創面切除によって、誘導された傷の表面を準備し、本発明における成形用の固体の生体材料を用いて、損傷を深層的かつ表面的に覆うとともに充填した。生体材料を置いて15日後に、動物を屠殺し、傷の領域を摘出し、その後の組織学的調査のために4%パラホルムアルデヒド中で固定した。このプロセスのために、サンプルをパラフィンに含ませた。このために、サンプルを50,70,90及び100%のアルコールに5分間保持した。その後サンプルをシトロソール(citrosol)中に5分間おき、固体のブロックを得るまでパラフィン中に含ませた。ミクロトームを用いて5μmの組織学的切片を取得し、これらの切片を用いて組織学的な染色及び免疫標識を行なった。
【0158】
免疫組織化学的手法を用いて、組織学的切片における、多様な上皮性の形態マーカー,例えば5及び10ケラチン,分化マーカー,例えばインボルクリン及びロリクリン,皮膚のマーカー ビメンチン,ならびにラミニンなどのマトリクス成分を解析した。組織切片を標識するために用いた手法は、蛍光色素で標識されたモノクローナル抗体を用いて直接的に免疫標識する手法である。この標識は、共焦点顕微鏡を用いて観察された。
【0159】
以下の理由から、得られた結果は、生体材料が潰瘍の再生に効果的であることを示す:
−傷に適用された生体材料は免疫学的に不活性であり、毒性の徴候が全く存在しなかった。
【0160】
−生体材料は、修復されるべき傷の形状及びサイズに適合し、深層的かつ表面的に、作用する領域を完全に覆った。
【0161】
−生体材料は、治癒プロセスの開始の徴候である、止血性の現象を促進させた。
【0162】
−治癒プロセスが進行するにつれて、生体材料は分解し、真皮−上皮成分に取って代わられた。
【0163】
−組織学的切片は、生体材料が、その中に生存可能に残存する線維芽細胞及びケラチノサイトの移動及び増殖を誘導したことを示した。
【0164】
−本発明に係る生体材料は、傷に対する治療効果を、コントロール動物に関する有効性の2倍において誘導し、そしてまた、新たな瘢痕組織の質は、本発明に係る生体材料の適用を受けていない動物よりも著しく高かった。
【0165】
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【図面の簡単な説明】
【0166】
【図1】本発明に係る生体材料中に存在するGAGsの特徴決定及び定量化。
【図2】組織学的染色による、サンプル中のGAGsの存在、ならびにこれらの中における細胞及びDNA/RNAの不在の確認。
【図3】走査型電子顕微鏡による、本発明に係る生体材料の内部における三次元構造の画像。
【図4】本発明に係る生体材料における細胞の毒性研究の結果。
【図5】三次元の生体材料の顕微鏡画像。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトの臍帯膜と血管とを含んでいないヒトの臍帯由来のグリコサミノグリカン(GAGs)の混合物を含むことを特徴とする生体材料。
【請求項2】
上記GAGsの混合物は、ヒト臍帯内に存在するウォートン・ジェリーから抽出されたことを特徴とする請求項1に記載の生体材料。
【請求項3】
以下からなる群より選択されたグリコサミノグリカンの混合物を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の生体材料:
ヒアルロン酸、ケラタン硫酸、コンドロイチン−6−硫酸、ヘパラン硫酸、コンドロイチン−4−硫酸、デルマタン硫酸及びヘパリン。
【請求項4】
上記GAGsの混合物の全量における65〜75%のヒアルロン酸を含むことを特徴とする請求項3に記載の生体材料。
【請求項5】
上記GAGsの混合物の全量における5〜15%のケラタン硫酸を含むことを特徴とする請求項3に記載の生体材料。
【請求項6】
上記GAGsの混合物の全量における6〜8%のコンドロイチン−6−硫酸を含むことを特徴とする請求項3に記載の生体材料。
【請求項7】
上記GAGsの混合物の全量における3〜7%のヘパラン硫酸を含むことを特徴とする請求項3に記載の生体材料。
【請求項8】
上記GAGsの混合物の全量における2〜6%のコンドロイチン−4−硫酸を含むことを特徴とする請求項3に記載の生体材料。
【請求項9】
上記GAGsの混合物の全量における1〜5%のデルマタン硫酸を含むことを特徴とする請求項3に記載の生体材料。
【請求項10】
上記GAGsの混合物の全量における0.1〜2%のヘパリンを含むことを特徴とする請求項3に記載の生体材料。
【請求項11】
ヒト臍帯由来の生体材料であって、
ヒアルロン酸(70%),ケラタン硫酸(10%),コンドロイチン−6−硫酸(7%),ヘパラン硫酸(5%),コンドロイチン−4−硫酸(4%),デルマタン硫酸(3%)及びヘパリン(1%)を含むことを特徴とする請求項3に記載の生体材料。
【請求項12】
ヒト臍帯由来の生体材料であって、
ヒドロゲルであることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の生体材料。
【請求項13】
注射用のヒドロゲルであることを特徴とする請求項12に記載の生体材料。
【請求項14】
注射用の上記ヒドロゲルは、10〜15,000cSの粘度を有することを特徴とする請求項12又は13に記載の生体材料。
【請求項15】
10〜2,000cSの粘度を有することを特徴とする請求項12に記載の生体材料。
【請求項16】
15,000cS以上の粘度を有することを特徴とする請求項12に記載の生体材料。
【請求項17】
固体のヒドロゲルであることを特徴とする請求項12に記載の生体材料。
【請求項18】
直径が0.5〜1000μmの孔を持つ、実質的に多孔質な構造を有することを特徴とする請求項17に記載の生体材料。
【請求項19】
上記孔の直径が0.5〜500μmであることを特徴とする請求項18に記載の生体材料。
【請求項20】
細胞をさらに含むことを特徴とする請求項1〜19のいずれか1項に記載の生体材料。
【請求項21】
上記細胞は、未分化間葉幹細胞もしくは他の細胞株に分化した間葉幹細胞、及び/又は未分化造血幹細胞もしくは他の細胞株に分化した造血幹細胞、及び/又は軟骨細胞、及び/又は軟骨芽細胞、及び/又は骨芽細胞、及び/又は骨細胞、及び/又はケラチノサイト、及び/又は線維芽細胞、及び/又は筋細胞、及び/又は脂肪細胞、及び/又は神経細胞、及び/又は神経系由来の他の細胞、及び/又は白血球系由来の細胞、及び/又は角膜細胞、及び/又は内皮細胞、及び/又は上皮細胞からなる群より選択されることを特徴とする請求項20に記載の生体材料。
【請求項22】
請求項1〜21に記載の生体材料を取得する方法であって、以下のステップを含むことを特徴とする生体材料を取得する方法:
a)ヒト臍帯を取得するステップ;
b)生理食塩水及び抗生物質により上記臍帯を処理するステップ;
c)上記臍帯の表面から全ての血液を除去するステップ;
d)上記臍帯を1〜2cmの切片に断片化するステップ;
e)内部に保持されている全ての血液を洗浄するステップ;
f)上記臍帯の膜及び血管を除去するステップ;
g)ウォートン・ジェリーを含むゼラチン状物質を分離するステップ;
h)得られた上記ゼラチン状物質を酵素的に消化するステップ;及び
i)GAGsを沈殿させかつ単離するステップ。
【請求項23】
請求項1〜21のいずれか1項に記載の生体材料を取得する方法であって、
上記生体材料は、請求項22において得られるGAGsを溶解することにより取得可能であるヒドロゲルを含み、
上記ヒドロゲルは10〜15,000cSの粘度を有することを特徴とする生体材料を取得する方法。
【請求項24】
請求項17〜19のいずれか1項に記載の生体材料を取得する方法であって、
請求項22において得られるGAGsを基にした架橋により取得可能であるヒドロゲルを含み、
上記ヒドロゲルは、直径が0.5〜1000μmの孔を持つ、実質的に多孔質な三次元構造を有することを特徴とする生体材料を取得する方法。
【請求項25】
上記孔の直径が好ましくは0.5〜500μmであることを特徴とする請求項24に記載の生体材料を取得する方法。
【請求項26】
上記架橋は、温度変化、化学反応又は光重合により行なわれることを特徴とする請求項24又は25に記載の生体材料を取得する方法。
【請求項27】
軟部組織の組織修復、充填又は再構築、しわ、縦溝及び傷跡、火傷、潰瘍、軟部組織増強、顔面の脂肪萎縮症、椎間板疾患、軟骨修復、筋骨格損傷、変形性関節炎及び関節周囲炎における治療;
腫瘍、腟疾患、脳障害、骨髄修復、神経変性障害、循環器疾患及び潤滑プロセスにおける、鎮痛性治療及び抗炎症性治療;
火傷、潰瘍及び皮膚性−上皮性異常における治療、角膜損傷、網膜損傷又は白内障などの眼科学的疾患における治療;
軟骨の修復、骨軟骨性異常、変形性関節炎又は骨異常の場合における骨関節系の治療、ならびに腟疾患の回復におけるアジュバント、歯肉炎及び歯周炎における治療;
細胞培養系の開発における使用;のための、請求項1〜26のいずれか1項に記載の生体材料の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−505188(P2012−505188A)
【公表日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−530512(P2011−530512)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【国際出願番号】PCT/ES2008/000640
【国際公開番号】WO2010/040865
【国際公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(511008182)
【氏名又は名称原語表記】HISTOCELL,S.L.
【住所又は居所原語表記】ParqueTecnologico 800,2,E−48160 Derio(Bizkaia),Spain
【Fターム(参考)】