ヒト臍帯組織由来細胞を用いた腎組織の修復および再建
少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するための方法を提供する。本方法は、ヒト臍帯組織細胞から得られた細胞を投与すること、または、このような細胞を含む、もしくは、このような細胞から準備された医薬用組成物を投与することを含む。投与された場合、細胞は、患者における疾患または損傷のある腎臓組織の修復および再建を促進し、助ける。本発明の方法での使用のための医薬用組成物も、本方法を実施するためのキットと同様に提供される。
【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
〔関連出願の相互参照〕
本発明は、2007年10月5日に出願された米国仮出願第60/977,775号の利益を主張するものであり、参照により、内容全体を本明細書に組み入れる。
【0002】
〔発明の分野〕
本発明は、概して、細胞に基づいた治療の分野に関する。具体的には、本発明は、疾患または損傷のある腎臓を修復し再建するための、臍帯由来細胞の使用に関する。
【0003】
〔発明の背景〕
特許、公開された出願、技術文献、および学術文献を含むさまざまな刊行物を、本明細書全体を通じて引用する。これらの引用刊行物を、全体的に、また、あらゆる目的のために、参照により本明細書に組み入れる。
【0004】
腎臓疾患は、270億ドルを超える米国の年間費用負担を伴う、重篤でいまだ解決されていない内科的疾患である。現在、4000万人を上回るアメリカ人が、腎臓疾患の危険性があるか腎臓疾患に罹っており、罹患率は年につき6%の驚くべき速度で増加している。したがって、2020年までに、推定4人の人々のうちの1人が、透析または腎臓移植のいずれかを必要とする末期腎疾患(ESRD)に罹るだろう。これらの経済的課題または医学的課題を緩和するために、急性腎不全(ARF)および慢性腎疾患(CKD)の治療のための、新しい転換技術が必要とされている。
【0005】
急性腎不全(急性尿細管壊死とも呼ばれている)は、全入院患者のうちの最大7%が罹る一般的な症候群である(Kelly et al. (2000) Semin. Nephrol. 1:4-19)。ARFとは、老廃物を排出し、尿を濃縮し、電解質を保存するような腎臓の能力が突然失われることである。ARFが最もよく発生するのは、個体が腎毒性剤にさらされた後、または、虚血−再灌流事象の後である。他の原因には、感染、尿路閉塞、ならびにいくつかの血液疾患および自己免疫疾患が含まれる。これらの傷害には、腎臓の機能的要素であるネフロンに対する損傷が含まれる。具体的には、近位尿細管の細胞が壊死になる。その後、尿細管細胞が尿細管基底膜から剥がれ、尿細管内腔を閉塞する。この閉塞により、尿細管内圧が高まって、ネフロンから周囲の腎実質組織への濾液の漏出が引き起こされる。ネフロン機能の低下と腎組織での濾液の蓄積とにより、糸球体濾過速度の低下が起こり、最終的に腎不全が引き起こされる。ARFは重篤で生命をおびやかす疾患であるが、可逆的である。
【0006】
ARFを減少させたり、取り除いたりすることを目的として、さまざまな治療方法が提案されてきた。最も注目すべきことには、高度な透析技術が頻繁に用いられている。それにも関わらず、透析治療を受けたARF患者の致死率は、30〜80%のままであり、このことは、ARFの治療において、透析がほとんど治療価値を有さないことを示している。(Morigi et al. (2004) J. Am. Soc. Nephrol. 15:1794-804)。さらに、薬理学に基づいた治療法(たとえば、ドーパミン、フロセミド、マンニトール、または心房性ナトリウム利尿ペプチドの投与)は、臨床研究では失敗している(Haug et al. (1993) Transplantation 55:766-772;Lieberthal and Nigam (2000) Am. J. Physiol. Renal Physiol. 278: F1-F12)。これらのデータは、ARF治療法を開発するための従来の戦略が不適当であり、新たな論理的根拠が満たされなければならないということを示唆している。
【0007】
ARF後の腎機能の回復は、壊死した尿細管細胞を、機能性の尿細管上皮で置換することに依存している。傷害の後、尿細管は自己修復することが可能であり、新しい近位尿細管細胞を形成して、損なわれた細胞または壊死細胞を置換する。新しい尿細管細胞を生じる前駆細胞の起源は不明である。しかしながら、尿細管再建は、臓器系が急速に再建されることについて説明している幹細胞/TA細胞(transit-amplifying cell)パラダイムに従うことが可能である。
【0008】
最近の研究では、骨髄細胞由来の間葉系幹細胞(MSC)が向腎性であり、薬物および虚血により誘導されたARF後の腎臓の修復を助けることが示されている(Morigi et al. 2004)。また最近、虚血/再灌流傷害を有するラットにつき、1×106細胞のMSCを頸動脈内投与することにより、顕著に腎機能が改善することも示された(Togel et al. (2005) Am. J. Physiol. Renal Physiol. 289(1):F31-42)。さらに、MSCの保護効果は、幹細胞の分化とは独立しており、むしろ腎保護栄養因子の分泌の結果であることが示された。
【0009】
ARFと対照的に、慢性腎疾患(CKD)は、段階的で進行性の腎臓機能の損失である。それは、概して、不可逆的であり、最終的に末期腎疾患をもたらす。米国では、CDKがますます一般的なものになりつつあり、不良な健康転帰および高い医療費と関連している。National Kidney Foundation(腎財団)は、2000万人のアメリカ人がCKDに罹っており、さらに少なくとも2000万人の人々が、CKDに罹る危険性があると推定している。もし未治療のままならば、CKDにより、貧血、電解質平衡異常、骨疾患、心血管疾患、および腎不全から、重大な罹患率および致死率がもたらされうる。
【0010】
進行性腎疾患は、初期の病害(たとえば、高血圧)の組み合わせと、その傷害に対するその後の順応不良な腎臓応答に起因する。このような応答には、前炎症性および前線維症性のサイトカインや成長因子の産生が含まれる。したがって、CKDの進行をゆるやかにするための1つの戦略は、存在する腎臓損傷を修復するか、元に戻すかすることとともに、炎症性応答および線維症性応答を改善することである。成長因子の投与によりCKDの進行をゆるやかにしうることが分かっている。たとえば、片側性尿管閉塞を有するラットでは、bone morphogenic protein-7(BMP-7)が、尿細管萎縮症、間質性炎症、および線維症を防止した。同様に、ループス腎炎のMRL lpr/lprマウスモデルでは、BMP-7投与により、尿細管間質性線維症および糸球体硬化症が減少した。さらに、多種多様な腎臓傷害の動物モデルで、hepatocyte growth factorが、抗炎症性および抗線維症性の効果を有することが示されている。治療展望を示した他の因子には、transforming growth factor-β1、vascular endothelial growth factor(VEGF)、connective tissue growth factor、fibroblast growth factor-2(FGF-2)、Interleukin、tumor necrosis factor、およびmonocyte chemotactic protein-1が含まれる。これらの研究はすべて、成長因子の投与が、CKDの防止処置についての見込みのある治療アプローチであることを示している。
【0011】
医学的処置選択が存在するにも関わらず、致死率は非常に高いままであるし、腎臓疾患の発病は上昇傾向である。したがって、本分野では、改良され、潜在的に病気に効く治療法が必要とされている。今日、腎疾患の進行を止めることを試みるような、または元に戻すことさえも試みるような治療的介入は存在しない。本発明は、非常に腎保護的な展望を示し、また、内因性の腎再建を促進し、壊死した腎細胞を置換し、最終的にESRDを防止するような治療方法を提供する。
【0012】
〔発明の概要〕
1つの態様によると、本発明は、少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するための方法を提供する。たとえば、腎臓に対する疾患は、年齢、外傷、毒物曝露、薬物曝露、放射線曝露、酸化、免疫複合体沈着、または移植片拒絶により引き起こされてもよい。本方法は、疾患または損傷を治療するのに有効な量で、臍帯組織由来細胞を患者に投与することを含む。好ましくは、細胞が得られた臍帯組織は、実質的に血液を含まない。好ましくは、臍帯組織由来細胞は、培養において自己再生および増殖が可能であり、たとえば腎臓表現型へと、分化する能力を有し、成長のためにL−バリンを要求し、少なくとも約5%の酸素中で成長することができ、CD117またはHLA-DRを産生せず、alpha smooth muscle actinを発現し、ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞と比べて、増加したレベルのoxidized low density lipoprotein receptor 1、interleukin 8、またはreticulon 1を発現する。ある実施態様では、臍帯組織由来細胞は、oxidized low density lipoprotein receptor 1、reticulon、chemokine receptor ligand 3、および/またはgranulocyte chemotactic protein 2を発現する。好ましい態様では、臍帯組織由来細胞は、CD10、CD13、CD44、CD73、およびCD90を発現する。ある実施態様では、臍帯組織由来細胞は、患者に投与する前に、in vitroで腎系統細胞へと分化するよう誘導される。臍帯組織由来細胞は、腎臓組織の修復および/または再建を促進するような遺伝子産物を発現するように、遺伝子操作されてもよい。本発明のある実施態様では、臍帯組織由来細胞は、少なくとも1つの他の細胞型ともに投与される。その細胞型は、たとえば、近位尿細管上皮細胞、ヘンレ係蹄上皮細胞、遠位尿細管細胞、集合細管細胞、糸球体壁細胞、糸球体足細胞、メサンギウム細胞、血管内皮細胞、間質細胞、または、他の分化多能性幹細胞もしくは分化万能性幹細胞(multipotent or pluripotent stem cell)であるが、これらに限定されない。少なくとも1つの他の細胞型は、臍帯組織由来細胞と同時に、その前に、またはその後に投与されてもよい。本発明のある態様では、臍帯組織由来細胞は、少なくとも1つの薬剤とともに投与される。薬剤は、臍帯組織由来細胞と同時に、その前に、またはその後に投与されてもよい。本発明のある好ましい態様では、臍帯組織由来細胞は、患者の腎臓に対して栄養効果を発揮する。本発明のある態様によると、細胞は、注射または注入により投与されてもよい。ある実施態様では、細胞は、植え込み可能な装置内にカプセル化されて投与される。本発明のある実施態様では、細胞は、細胞を含む装置を植え込むことにより投与される。
【0013】
別の態様によると、本発明は、少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するための方法であって、臍帯組織由来細胞から準備された可溶性細胞分画、可溶化液、細胞外マトリクス、または馴化培地を含む組成物を、患者に投与することによる、方法を提供する。ここで、臍帯組織は、実質的に血液を含まないものであり、細胞は、培養において自己再生および増殖が可能であり、分化する能力を有し、成長のためにL−バリンを要求し、少なくとも約5%の酸素中で成長することができ、CD117またはHLA-DRを産生せず、alpha smooth muscle actinを発現し、ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞と比べて、増加したレベルのoxidized low density lipoprotein receptor 1、interleukin 8、またはreticulon 1を発現するものである。
【0014】
別の態様によると、本発明は、少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するための医薬用組成物であって、医薬用に許容可能なキャリアと、疾患または傷害を治療するのに有効な量の臍帯組織由来細胞とを含む、医薬組成物を提供する。ここで、臍帯組織は、実質的に血液を含まないものであり、細胞は、培養において自己再生および増殖が可能であり、分化する能力を有し、成長のためにL−バリンを要求し、少なくとも約5%の酸素中で成長することができ、CD117またはHLA-DRを産生せず、alpha smooth muscle actinを発現し、ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞と比べて、増加したレベルのoxidized low density lipoprotein receptor 1、interleukin 8、またはreticulon 1を発現するものである。ある実施態様では、腎臓に対する損傷は、年齢、外傷、毒物曝露、薬物曝露、放射線曝露、酸化、免疫複合体沈着、または移植片拒絶により引き起こされてもよい。ある実施態様では、臍帯組織由来細胞は、組成物の処方の前に、in vitroで腎系統細胞へと分化するよう誘導される。ある実施態様では、臍帯組織由来細胞は、腎臓組織の修復、および/または再建を促進するような遺伝子産物を発現するように遺伝子操作される。ある実施態様では、本医薬組成物には、少なくとも1つの他の細胞型が含まれる。少なくとも1つの他の細胞型は、近位尿細管上皮細胞、ヘンレ係蹄上皮細胞、遠位尿細管細胞、集合細管細胞、糸球体壁細胞、糸球体足細胞、メサンギウム細胞、血管内皮細胞、間質細胞、または、他の分化多能性幹細胞もしくは分化万能性幹細胞であってもよいが、これらに限定されない。ある好ましい実施態様では、本医薬用組成物には、少なくとも1つの薬剤がさらに含まれる。ある好ましい実施態様では、本医薬用組成物は、注射または注入により投与されるよう処方される。本発明の医薬用組成物のある好ましい実施態様では、臍帯組織由来細胞は、植え込み可能な装置内にカプセル化される。本発明の医薬用組成物のある実施態様では、細胞はマトリクス上に蒔かれる。
【0015】
別の態様によると、本発明は、少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するための医薬用組成物であって、医薬用に許容可能なキャリアと、臍帯組織由来細胞から準備された可溶化液、細胞外マトリクス、または馴化培地とを含む、医薬用組成物を提供する。ここで、臍帯組織は、実質的に血液を含まないものであり、細胞は、培養において自己再生および増殖が可能であり、分化する能力を有し、成長のためにL−バリンを要求し、少なくとも約5%の酸素中で成長することができ、CD117またはHLA-DRを産生せず、alpha smooth muscle actinを発現し、ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞と比べて、増加したレベルのoxidized low density lipoprotein receptor 1、interleukin 8、またはreticulon 1を発現するものである。
【0016】
別の実施態様によると、本発明は、少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するためのキットであって、医薬用に許容可能なキャリアと、疾患または傷害を治療するために有効な量の臍帯組織由来細胞と、少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するための方法でキットを使用するための使用説明書とを含む、キットを提供する。ここで、臍帯組織は、実質的に血液を含まないものであり、細胞は、培養において自己再生および増殖が可能であり、分化する能力を有し、成長のためにL−バリンを要求し、少なくとも約5%の酸素中で成長することができ、CD117またはHLA-DRを産生せず、alpha smooth muscle actinを発現し、ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞と比べて、増加したレベルのoxidized low density lipoprotein receptor 1、interleukin 8、またはreticulon 1を発現するものである。ある実施態様では、キットには、細胞を培養するための少なくとも1つの試薬と、そのための使用説明書とが含まれる。ある実施態様では、キットには、少なくとも1つの他の細胞型の集団が含まれる。ある実施態様では、キットには、少なくとも1つの薬剤が含まれる。
【0017】
また、本発明により、少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するためのキットであって、医薬用に許容可能なキャリアと、ヒト臍帯組織から得られた臍帯組織由来細胞から準備された可溶化液、細胞外マトリクス、または馴化培地と、少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するための方法でキットの構成要素を用いるための使用説明書とを含む、キットも提供される。ここで、臍帯組織は、実質的に血液を含まないものであり、細胞は、培養において自己再生および増殖が可能であり、分化する能力を有し、成長のためにL−バリンを要求し、少なくとも約5%の酸素中で成長することができ、CD117またはHLA-DRを産生せず、alpha smooth muscle actinを発現し、ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞と比べて、増加したレベルのoxidized low density lipoprotein receptor 1、interleukin 8、またはreticulon 1を発現するものである。
【0018】
本発明の前述の特徴および利点や、他の特徴および利点は、添付した図面に示されているとおり、以下の本発明の好ましい実施態様のより具体的な説明から明らかだろう。
【0019】
〔図面の簡単な説明〕
図1は、腎臓の損傷および修復実験の実施についての時系列を示している。太い矢印は、採血および剖検があった時間とともに、シスプラチン、細胞、またはHBSSビヒクルのいずれかを注射した時間を示している。
図2は、腎臓損傷の誘導および臍帯組織由来細胞の移植後の、動物生存率を示している。処理群数をx軸上に示す。
図3は、マウスにおけるBUN測定を示している。細胞移植後1日目、3日目、5日目、7日目で血清サンプルを収集し、BUNを測定した。エラーバーはSEMを示す。
図4は、血清クレアチニン測定の結果を示している。エラーバーは標準誤差を示す。(*)P<0.03
図5は、代表的な組織画像を示している。尿細管変性の度合いについて、組織切片をスコア化した。(A)ビヒクル処理群、(B)hUTC(0.2e6細胞用量)処理群。顕著な変性を有する代表的な尿細管。
図6は、ラットにおけるBUN分析を示している。エラーバーは標準誤差を示す。**p値<0.005、*p値<0.03
図7は、ラットにおけるSCr分析を示している。エラーバーは標準誤差を示す。**p値<0.005、*p値<0.03
図8は、ラットにおけるCrCl分析を示している。エラーバーは標準誤差を示す。*p値<0.03
【0020】
〔発明の詳細な説明〕
明細書および特許請求の範囲全体を通じて、本発明の方法および他の態様に関するさまざまな用語が用いられる。このような用語は、他に指定しない限り、本分野における通常の意味が与えられるだろう。他の具体的に定義された用語は、本明細書で示された定義と一致するように解釈されるだろう。
【0021】
本明細書および添付の特許請求の範囲で用いられるとおり、単数形“a”、“an”、および“the”には、他に明確に内容が指定されない限り、複数のものが含まれる。したがって、“a cell(細胞)”への言及には、2つ以上の細胞の組み合わせおよび同様のものが含まれる。
【0022】
本明細書で用いられる用語「約」は、量、期間、および同様のもののような測定可能な値をいう場合に、±20%または±10%、より好ましくは±5%、さらに好ましくは±1%、なおさら好ましくは±0.1%の、特定の値からの変動を包含することを意味する。このような変動は、開示の方法を実行するのに適当である。
【0023】
「由来(する)」とは、細胞が生物材料から入手されており、成長し、培養において増殖し、不死化し、または、さもなければin vitroで操作されていることを示すために用いられる。
【0024】
「単離(された)」とは、天然状態から「ヒトの手によって」変えられたことを意味する。もし分子または組成物が天然に存在するならば、もともとの環境から変更されているか、もしくは、取り除かれているか、またはその両方かの場合、その分子または組成物は「単離されて」いる。
【0025】
用語「発現する」、「発現された」、または核酸分子または遺伝子の「発現」とは、遺伝子産物の生合成、たとえば、ポリペプチドの生合成をいう。
【0026】
「栄養因子」は、細胞の生存、成長、分化、増殖、および/または、成熟を促進する物質、すなわち、細胞の生物活性を高めるよう刺激する物質である。
【0027】
「損傷」とは、腎臓に対する任意の物理的損害、傷害、変性、または外傷をいう。
【0028】
「病理」とは、本分野で適した任意の手段により測定されるような、細胞、組織、臓器、またはシステムの正常状態からの逸脱についての、任意の構造的または機能的な兆候をいう。
【0029】
「疾患」とは、本分野で適した任意の手段により測定されるような、健康状態(すなわち、細胞、組織、臓器、システム、もしくは生物が全体的に機能すること)からの任意の逸脱、すなわち、機能障害である。
【0030】
腎臓の「原発性疾患」は、腎臓に起源し、排他的に腎臓を標的し、実質的に排他的に腎臓を標的し、または実質的に腎臓を標的とするような任意の疾患である。
【0031】
腎臓の「二次疾患」は、腎臓の原発性疾患ではない任意の疾患である。例であって限定するものではないが、このような疾患は、非排他的に腎臓を標的としてもよいし、偶発的に腎臓を標的としてもよいし、腎臓に対して広がってもよいし、さもなければ、腎臓に作用してもよい。この用語は、腎臓の疾患であって、腎臓に対する病理を誘導し、持続し、または強めるような、体の他の臓器もしくはシステムの感染または疾患、あるいは全身性疾患から生じた、腎臓の疾患を包含する。
【0032】
「腎臓の」とは、1つ以上の腎臓のものを意味するか、その腎臓に関連していることを意味する。
【0033】
「治療する」、「治療すること」、または「治療」とは、疾患、損傷、もしくは病状の弱化または改善における成功または成功の兆候をいい、任意の客観的または主観的なパラメータであって、たとえば、軽減すること、鎮静すること、病兆が消失し、または、疾患、損傷、もしくは病状を、患者に対してより耐性があるようにすること、変性速度もしくは衰弱速度をゆるやかにすること、変性の終点をあまり衰弱させないようにすること、患者の肉体的もしくは精神的な平穏を改善すること、あるいは、生存期間を延ばすことといったパラメータが含まれる。病兆の治療または改善は、客観または主観的なパラメータに基づくことができ、それには、健康診断、神経検査、および/または、精神鑑定の結果が含まれる。
【0034】
「有効な量」または「治療的に有効な量」は、本明細書では交換可能に用いられており、化合物、材料、または組成物の量であって、特定の生物学的な結果(たとえば、限定するものではないが、本明細書で開示し、説明し、または例示した生物学的な結果)を達成するのに有効であると本明細書で説明したような量をいう。このような結果には、本分野で適切な任意の方法により決定された、患者における腎臓疾患または腎臓損傷の治療が含まれるが、これらに限定するものではない。
【0035】
「医薬用に許容可能な」とは、薬理学/毒性学の観点から患者に対して許容可能であり、また、組成物、処方、安定性、患者許容性、および生体利用性についての物理的/化学的観点から薬剤師に対して許容可能である特性および/または物質をいう。「医薬用に許容可能なキャリア」とは、活性成分の生物活性の有効性に干渉せず、投与されたホストに対して毒性がない培地をいう。
【0036】
本発明によって、臍帯組織由来細胞を投与することで、損傷のある腎臓を修復し再建することができ、それにより、急性腎不全を元に戻し、腎臓に対する発作に冒された動物の生存を高めるということが見出された。またさらに、このような細胞を動物に投与することで、傷害のある動物における血中尿素窒素および血清クレアチニンの濃度を標準化することが見出された。したがって、本発明は、少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するための方法を特徴とする。概して、本方法は、患者に治療上有効な量の臍帯組織由来細胞を投与することを含み、それにより、病気に冒された腎臓の修復および/または再建が起こる。
【0037】
哺乳動物の臍帯は、満期妊娠または早産妊娠のいずれかの分娩中または分娩直後(たとえば、生後の娩出、または帝王切開後の外科的な除去の後)に回収することができる。細胞の単離の前に、たとえば、任意の適切な培地および緩衝液により洗浄することにより、血液および壊死細胞片を臍帯組織から取り除く。
【0038】
機械的な力または酵素消化により、臍帯組織から細胞を単離することができる。好ましい酵素は、メタロプロテアーゼ、中性プロテアーゼ、および粘液溶解酵素である。たとえば、臍帯組織から細胞を分離するために、コラゲナーゼ、ディスパーゼ、およびヒアルロニダーゼのさまざまな組み合わせを用いることができる。本分野において、このような酵素処理の多くが、さまざまな組織材料から細胞を単離するために知られていることを、当業者は理解するだろう。たとえば、LIBERASE(登録商標)Blendzyme(Roche)シリーズの酵素の組み合わせが、本方法での使用に適している。他の酵素の材料も知られているが、当業者は、このような酵素をそれらの天然材料から直接得ることも可能である。また、当業者は、本発明の細胞を単離する際の有用性について、新規のまたは追加の、酵素または酵素の組み合わせを評価するように設定することもできる。好ましい酵素処理は、0.5時間、1時間、1.5時間、もしくは2時間、またはそれ以上である。
【0039】
単離された細胞を用いて、細胞培養を開始することができる。コーティングしていない滅菌組織培養容器、または、細胞外マトリクスもしくはリガンド[たとえば、ラミニン、コラーゲン(天然コラーゲン、変性コラーゲン、または架橋コラーゲン)、ゼラチン、フィブロネクチン、および他の細胞外マトリクスタンパク質]でコーティングした滅菌組織培養容器のいずれかに、単離された細胞を移す。細胞の持続的な成長を可能にするような任意の培養培地で、臍帯組織由来細胞を培養する。その培地は、たとえば、DMEM(高グルコースまたは低グルコース)、アドバンストDMEM、DMEM/MCDB201、イーグル基礎培地、ハムF10培地(F10)、ハムF12培地(F12)、ヘイフリック培地、イスコブ変法ダルベッコ培地、間葉系幹細胞成長培地(MSCGM)、DMEM/F12、RPMI1640、およびCELL-GRO-FREEであるが、これらに限定されない。培養培地には、1つ以上の成分を補うことができる。その成分は、たとえば、ウシ胎仔血清[好ましくは、約2〜15%(v/v)]、ウマ血清、ヒト血清、コウシ胎仔血清、β−メルカプトエタノール[好ましくは、約0.001%(v/v)]、1つ以上の成長因子[たとえば、血小板由来成長因子(PDGF)、上皮成長因子(EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、インスリン様成長因子1(IGF−1)、白血球阻害因子(LIF)、およびエリスロポエチン]、アミノ酸(L−バリンを含む)、ならびに、細菌汚染を制御するための1つ以上の抗生剤および/または抗真菌剤(たとえば、ペニシリンG、硫酸ストレプトマイシン、アンホテリシンB、およびナイアシン)を、単独または組み合わせのいずれかで、含む。
【0040】
細胞成長が可能な密度で、培養容器に細胞を蒔く。1つの実施態様では、約0〜約5容量%の大気CO2で、細胞を培養する。ある実施態様では、約2〜約25%の大気O2で、好ましくは約5〜約20%の大気O2で、細胞を培養する。好ましくは、約25〜約40℃で培養し、より好ましくは、37℃で培養する。培養容器中の培地は、静止状態で、または、撹拌する(たとえば、バイオリアクターを用いて)ことができる。好ましくは、低酸化ストレス下で(たとえば、グルタチオン、ビタミンC、カタラーゼ、ビタミンE、N−アセチルシステインを添加して)、臍帯組織由来細胞を成長させる。これは、培養細胞に対するフリーラジカルの損傷をなくすか、最小限にすることを意味している。
【0041】
臍帯組織由来細胞を継代することができる。すなわち、細胞集団が体細胞分裂増殖できるような、最初に用いたのと同じ、または、異なる種類の新鮮な培地を含む別の培養容器へと、臍帯組織由来細胞を取り除くことができる。0代継代から老化の間の任意の時点で、本発明の細胞を用いてもよい。好ましくは、約3回から約25回、細胞を継代し、より好ましくは、約4回から約12回継代し、好ましくは、10回または11回継代する。細胞のクローン集団が単離されたことを確認するために、クローニングおよび/またはサブクローニングを行ってもよい。
【0042】
臍帯組織に存在する異なる細胞型を、サブ集団に分離することができる。このことは、細胞分離のための標準技術を用いて達成してもよい。その技術には、酵素処理、特定の細胞型のクローニングおよび選択(たとえば、限定するものではないが、形態マーカーおよび/または生化学マーカーに基づく選択)、所望の細胞の選択的成長(陽性選択)、望ましくない細胞の選択的破壊(陰性選択)、混合集団における異なる細胞凝集力に基づく分離(たとえば、ダイズアグルチニン)、凍結解凍法、混合集団における細胞の異なる付着特性、濾過、慣習的な遠心分離およびゾーン遠心分離、遠心分離の水簸(centrifugal elutriation)(向流遠心分離)、単位重力分離、向流分布、電気泳動、蛍光標識細胞分取(FACS)、ならびに、同様のものが含まれるが、これらに限定されない。
【0043】
臍帯組織から単離された細胞の例は、2004年6月10日にAmerican Type Culture Collection(アメリカ培養細胞系統保存機関)に供託した。また、割り当てられたATCCアクセッション番号は以下のとおりである。(1)系統名UMB 022803 (P7):アクセッション番号PTA-6067、(2)系統名UMB 022803 (P17):アクセッション番号PTA-6068
【0044】
臍帯組織由来細胞は、たとえば、成長特性(たとえば、集団倍化能力、倍加時間、老化までの継代数)、核型分析(たとえば、正常な核型、母側の系統もしくは子側の系統)、フローサイトメトリー(たとえば、FACS分析)、免疫組織化学および/もしくは免疫細胞化学(たとえば、エピトープの検出)、遺伝子発現プロファイリング[たとえば、遺伝子チップアレイ、ポリメラーゼ連鎖反応(たとえば、逆転写PCR、リアルタイムPCR、および慣用的なPCR)]、タンパク質アレイ、タンパク質分泌[たとえば、血漿凝固解析またはPDC馴化培地の分析(たとえば、酵素結合免疫吸着測定(ELISA))による]、混合リンパ球反応(たとえば、PBMCの刺激の測定として)、ならびに/または、本分野で既知の他の方法により特徴付けることができる。
【0045】
さまざまな態様では、臍帯組織由来細胞は、以下の成長特性のうちの1つ以上を有する。それは、培養において成長のためにL−バリンを要求すること、約5%から少なくとも約20%の酸素を含む大気中で成長できること、培養において老化に達する前に少なくとも約40回倍加する能力を有すること、コーティングした培養容器またはコーティングしていない培養容器上に付着し増殖することであって、コーティングした組織培養容器が、ゼラチン、ラミニン、コラーゲン、ポリオルニチン、ビトロネクチン、またはフィブロネクチンのコーティングを含むことである。
【0046】
ある実施態様では、細胞は正常な核型を有し、細胞が継代される間、維持される。胎盤に由来する母系細胞から子系細胞を同定し区別するために、核型決定は特に有用である。核型決定するための方法は、本分野の当業者に利用可能であり、既知である。
【0047】
他の実施態様では、特定のタンパク質の産生により、細胞を特徴付けることができる。それには、tissue factor、vimentin、およびalpha-smooth muscle actinのうちの少なくとも1つの産生と、CD10、CD13、CD44、CD73、CD90、PDGFr-alpha、PD-L2、およびHLA-A,B,C細胞表面マーカーのうちの少なくとも1つの産生とが含まれ、そのことはフローサイトメトリーによって検出される。他の実施態様では、細胞は、CD31、CD34、CD45、CD80、CD86、CD117、CD141、CD178、B7-H2、HLA-G、ならびにHLA-DR、HLA-DP、および/またはHLA-DQ細胞表面マーカーのうちの少なくとも1つの産生がないことによって特徴付けされてもよく、そのことはフローサイトメトリーのような任意の適切な手段によって検出される。特に好ましいのは、tissue factor、vimentin、およびalpha-smooth muscle actinのうちの少なくとも2つを産生する細胞である。さらに好ましいのは、tissue factor、vimentin、およびalpha-smooth muscle actinの3つのタンパク質すべてを産生する細胞である。
【0048】
他の実施態様では、細胞は、interleukin 8、reticulon 1、chemokine (C-X-C motif) ligand 1 (melonoma growth stimulating activity, alpha)、chemokine (C-X-C motif) ligand 6 (granulocyte chemotactic protein 2)、chemokine (C-X-C motif) ligand 3、tumor necrosis factor, alpha-induced protein 3、C-type lectin superfamily member 2、Wilms tumor 1、aldehyde dehydrogenase 1 family member A2、renin、oxidized low density lipoprotein receptor 1、Homo sapiens clone IMAGE:4179671、protein kinase C zeta、hypothetical protein DKFZp564F013、downregulated in ovarian cancer 1、およびHomo sapiens gene from clone DKFZp547k1113のうちの少なくとも1つをコードする遺伝子について、線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞のようなヒト細胞と比べて、増加した発現を有する。
【0049】
さらに他の実施態様では、細胞は、short stature homeobox 2、heat shock 27 kDa protein 2、chemokine (C-X-C motif) ligand 12 (stromal cell-derived factor 1)、elastin (supravalvular aortic stenosis, Williams-Beuren syndrome)、Homo sapiens mRNA、cDNA DKFZp586M2022 (from clone DKFZp586M2022)、mesenchyme homeo box 2 (growth arrest-specific homeo box)、sine oculis homeobox homolog 1 (Drosophila)、crystallin, alpha B、disheveled associated activator of morphogenesis 2、DKFZP586B2420 protein、similar to neuralin 1、tetranectin (plasminogen binding protein)、src homology three (SH3) and cysteine rich domain、cholesterol 25-hydroxylase、runt-related transcription factor 3、interleukin 11 receptor, alpha、procollagen C-endopeptidase enhancer、frizzled homolog 7 (Drosophila)、hypothetical gene BC008967、collagen, type VIII, alpha 1、tenascin C (hexabrachion)、iroquois homeobox protein 5、hephaestin、integrin, beta 8、synaptic vesicle glycoprotein 2、neuroblastoma, suppression of tumorigenicity 1、insulin-like growth factor binding protein 2, 36kDa、Homo sapiens cDNA FLJ12280 fis, clone MAMMA1001744、cytokine receptor-like factor 1、potassium intermediate/small conductance calcium-activated channel, subfamily N, member 4、integrin, beta 7、transcriptional co-activator with PDZ-binding motif (TAZ)、sine oculis homeobox homolog 2 (Drosophila)、KIAA1034 protein、vesicle-associated membrane protein 5 (myobrevin)、EGF-containing fibulin-like extracellular matrix protein 1、early growth response 3、distal-less homeo box 5、hypothetical protein FLJ20373、aldo-keto reductase family 1, member C3 (3-alpha hydroxysteroid dehydrogenase, type II)、biglycan、transcriptional co-activator with PDZ-binding motif (TAZ)、fibronectin 1、proenkephalin、integrin, beta-like 1 (with EGF-like repeat domains)、Homo sapiens mRNA full length insert cDNA clone EUROIMAGE 1968422、EphA3、KIAA0367 protein、natriuretic peptide receptor C/guanylate cyclase C (atrionatriuretic peptide receptor C)、hypothetical protein FLJ14054、Homo sapiens mRNA、cDNA DKFZp564B222 (from clone DKFZp564B222)、BCL2/adenovirus E1B 19kDa interacting protein 3-like、AE binding protein 1、およびcytochrome c oxidase subunit VIIa polypeptide 1 (muscle)のうちの少なくとも1つをコードする遺伝子について、線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞のようなヒト細胞と比べて、低下した発現を有する。
【0050】
ある実施態様では、細胞は、MCP-1、IL-6、IL-8、GCP-2、HGF、KGF、FGF、HB-EGF、BDNF、TPO、MIP1a、RANTES、およびTIMP1のうちの少なくとも1つの分泌により特徴付けることができる。ある実施態様では、細胞は、TGF-beta2、ANG2、PDGFbb、MIP1b、I309、MDC、およびVEGFのうちの少なくとも1つの分泌がないことにより特徴付けることができ、そのことはELISAにより検出される。
【0051】
好ましい実施態様では、細胞は、上記のような成長、タンパク質/表面マーカーの産生、遺伝子発現、または物質−分泌特性のうちの2つ以上を含む。さらに好ましいのは、それらの特性のうちの3つ、4つ、もしくは5つ、またはそれ以上を含む細胞である。なおより好ましいのは、それらの特性のうちの6つ、7つ、もしくは8つ、またはそれ以上を含む細胞である。なおより好ましいのは、上記のような特性すべてを含む細胞である。
【0052】
本発明のさまざまな態様に使用するのに好ましい細胞の中には、上記のような特性を有する細胞があり、より具体的には、正常な核型を有し、継代とともに正常な核型を維持する細胞であって、さらに、その細胞は、マーカーCD10、CD13、CD44、CD73、CD90、PDGFr-alpha、およびHLA-A,B,Cのそれぞれを発現し、挙げられたマーカーに対応する、免疫学的に検出可能なタンパク質を産生する、細胞がある。なおより好ましいのは、上記のものに加えて、マーカーCD31、CD34、CD45、CD117、CD141、またはHLA-DR,DP,DQのうちの任意のものに対応するタンパク質を産生しない細胞であり、そのことは、本分野において適切な手段(たとえば、フローサイトメトリー)により検出される。非常に好ましいのは、CD117またはHLA-DRを発現しない細胞である。
【0053】
非常に好ましい態様では、本方法は、少なくとも1つの疾患または損傷のある腎臓を治療することが必要とされる患者に対して、ヒト臍帯組織から得られた、または、単離された細胞を投与することを含み、その細胞は、培養において自己再生および増殖が可能であり、成長のためにL−バリンを要求し、少なくとも約5%の酸素中で成長することができ、CD117またはHLA-DRを産生せず、alpha smooth muscle actinを発現し、ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞と比べて、増加したレベルのoxidized low density lipoprotein receptor 1、interleukin 8、またはreticulon 1を発現する。ヒト臍帯組織から単離された細胞を、投与の前に培養で増殖してもよい。ある実施態様では、ヒト臍帯組織由来細胞から入手された細胞は、少なくとも腎臓表現型の細胞に分化する能力を有する。臍帯組織由来細胞の腎臓表現型または腎細胞系統への分化を同定するために、Pax-2、腎上皮前駆細胞により発現される転写因子の発現を用いてもよい。また、臍帯組織由来細胞の腎細胞分化は、尿細管形成、および、三次元コラーゲンゲルにおける枝分かれした形態形成によっても示される。
【0054】
さまざまな表現型をもたらす系統に沿って分化する能力を有する特定の細胞は、不安定であり、それゆえに、自発的に分化することができる。現在のところ、本発明の使用のために好ましいのは、たとえば、腎臓細胞系統に沿って、自発的に分化しない細胞である。好ましい細胞は、成長培地で成長する場合、それらの表面上に産生される細胞マーカーに関して、また、さまざまな遺伝子の発現パターン(たとえば、核酸アレイまたはポリペプチドアレイを用いて、たとえば、遺伝子発現プロファイリングを用いて決定されるような発現パターン)に関して、実質的に安定である。細胞は、継代の間中、複数の集団倍化を通じて、たとえば、その表面マーカー特性において、実質的に不変のままである。
【0055】
本発明の方法において、他の治療的な細胞とともに、および/または、生物活性のある薬剤[たとえば、抗血栓形成剤、抗アポトーシス剤、抗炎症剤、免疫抑制剤(たとえば、シクロスポリン、ラパマイシン)、抗酸化剤、または腎臓損傷もしくは腎臓疾患を治療するために本分野で通常使用される他の薬剤(たとえば、エプロジセートおよびトリプトライド)]とともに、臍帯組織由来細胞を投与することができる。HMG-CoAリダクターゼ阻害剤(シンバスタチン、プラバスタチン、ロバスタチン、フルバスタチン、セリバスタチン、およびアトルバスタチンを含むが、これらに限定されない)とともに、臍帯組織由来細胞を投与してもよい。臍帯組織由来細胞は、他の細胞または薬剤と連続して投与することができるし、他の細胞または薬剤と共投与することができる。また、臍帯組織由来細胞に由来する可溶化液、可溶性細胞分画、膜リッチ細胞分画、細胞培養培地(たとえば、馴化培地)、または細胞外マトリクスを、適切に(臍帯組織由来細胞それ自体、および追加の細胞または薬剤とともに共投与することを含む)、患者に投与することもできる。患者の治療を指示する医療専門家の判断で、特定の薬剤を選ぶことができるし、患者の特定の必要性または状態に応じて、その薬剤を変更することができる。選ばれた薬剤は、さまざまな目的(たとえば、細胞の投与を容易にすること、腎臓の修復および/または再建を改善すること、患者の健康全体を改善すること、痛みを減らすこと、移植した細胞の拒絶を減らすか妨げること、ならびに同様のものを含むがこれらに限定されない)で用いることができる。
【0056】
腎臓組織の修復および再建を促進することは、臍帯組織由来細胞により分泌される栄養因子を通じてもよい。たとえば、腎保護効果が、臍帯組織由来細胞パラクリンまたは栄養因子を介したメカニズムを通じて与えられてもよい。このような因子には、たとえば、hepatocyte growth factor(HGF)、bone morphogenic protein-7(BMP-7)、transforming growth factor beta(TGF-β)、matrix metalloproteinase-2(MMP-2)、およびbasic fibroblast growth factor(bFGF)が含まれる。臍帯組織由来細胞の投与により、1つ以上の腎保護因子の連続的な放出が提供されてもよい。臍帯組織由来細胞による栄養的なサポート、または腎保護因子の放出は、1つ以上の腎保護因子の投与に代えて、または、その投与に加えて用いられてもよい。
【0057】
本方法は腎臓損傷を治療するために有用である。本方法は、罹病率または減少した余命を生ずるような、急性腎不全、傷害、または慢性腎疾患を含む腎臓損傷を治療するために有用である。本発明により、修復され元に戻ることができる損傷の非限定的な例には、腎臓の任意の部分(または全部)の外科的除去、薬物により誘導された損傷、毒物により誘導された損傷、酸化により誘導された損傷、環境曝露により誘導された損傷、音波損傷、熱損傷、低酸素損傷、酸化損傷、ウイルス性の損傷、年齢、老化に関係する損傷、炎症により誘導された損傷、免疫細胞により誘導された損傷(たとえば、移植片拒絶)、免疫複合体により誘導された損傷、および同様のものが含まれる。腎病に関連した5つの主要な薬物のカテゴリーは、血流過程、代謝過程、線維症過程、炎症過程、または免疫調節過程を標的とする薬物である。臍帯組織由来細胞は、これらの生理学的な過程のうちの1つ以上に作用することにより、それらの効果を発揮してもよい。
【0058】
本明細書で説明し例示しているとおり、医薬用に許容可能なキャリアと臍帯組織由来細胞とを含む医薬/治療用の細胞組成物として、細胞を投与することができる。治療用の細胞組成物は、腎臓細胞経路または系統に沿って分化するよう誘導された臍帯組織由来細胞を含むことができる。治療用の細胞組成物は、分裂、分化、またはその両方を行うよう患者の腎臓の細胞を刺激するような細胞または細胞産物を含むことができる。治療用の細胞組成物が、投与された患者の腎臓の修復および/または再建を誘導し、促進し、または維持することが好ましい。
【0059】
注射により、患者に細胞を投与することができる。たとえば、患者の1つまたは両方の腎臓に、細胞を直接注射することができるし、腎臓の表面に、隣接した領域に、または、その後の患者の腎臓へ移動する離れた領域にでさえ、細胞を注射することができる。ある好ましい態様では、細胞は、疾患または損傷のある領域に存在することができる。特に好ましいのは、静脈注射することができ、所望の作用部位に適切に局在することができる細胞である。たとえば、腎臓細胞またはそれらの前駆体が、好ましくは、腎臓、または、その構造体もしくはサブ構造体に局在し、存在することができる。
【0060】
また、マトリクス−細胞複合体のような装置の形態で、細胞を投与することもできる。装置材料には、生体再吸収材料[たとえば、コラーゲン、35/65ポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)/ポリ(グリコール酸)(PGA)、Panacryl(商標)生体吸収性構築物、Vicryl(商標)polyglactin 910、および、自己集合ペプチド]、および非吸収性材料[たとえば、フルオロポリマー(たとえば、Teflon(登録商標)フルオロポリマー)、プラスチック、および金属]が含まれるが、これらに限定されない。マトリクスには、生体適合性足場、格子、自己集合構造、および同様のものが含まれ、生体吸収性かそうではない液体、ゲル、または固体である。このようなマトリクスは、治療用細胞治療、外科的修復、組織工学、および創傷治癒の分野では既知である。好ましくは、マトリクスは、治療用細胞で事前処理される。より好ましくは、マトリクスは、マトリクスまたはその空間に密接に関係した細胞により集団化される。細胞はマトリクスに付着することができ、マトリクス空間内に取り込まれるか、含まれることができる。最も好ましいのは、細胞がマトリクスと密接に関係して成長するマトリクス−細胞複合体であり、治療的に用いられた場合、患者自身の腎臓細胞の成長、修復、および/または再建を刺激しサポートし、また、適切な血管形成も同様に刺激しサポートする。本分野で既知の任意の方法で、マトリクス−細胞組成物を患者の体内に導入することができ、その方法には、移植、注入、外科的付着、他の組織との移植、および同様ものが含まれるが、これらに限定されない。ある実施態様では、マトリクスは、in vivoで、または、より好ましくはin situで形成され、たとえば、本発明にしたがって、in situポリマー化ゲルを使用することができる。このようなゲルの例は、本分野で既知である。
【0061】
また、このような三次元マトリクス(たとえば、足場)に、本発明の細胞を蒔き、in vivoに移植することができる。蒔かれた細胞は、フレームワーク上またはその中で増殖してもよいし、他の細胞と協働して、または協働せずに、in vivoでの組織置換を助けてもよい。三次元フレームワーク上の臍帯組織由来細胞の成長は、好ましくは、三次元組織の形成、またはその確立をもたらし、in vivoで(たとえば、損傷または疾患のある組織を修復、および/または再建するために)利用することができる。たとえば、腎血管の修復、または、腎系もしくは腎臓構造のさまざまな他の態様についての使用のために、三次元組織足場を、たとえば、細管構造を形成するために用いることができる。
【0062】
三次元フレームワークまたはマトリクス(たとえば、足場、フォーム、またはハイドロゲル)上に、細胞を蒔くことができ、その後投与することができる。フレームワークをさまざまな形態(たとえば、実質的に平面、実質的に筒状または管状)に構築することができるし、懸案の修正構造に必要とされ、望まれるかもしれない、完全に自由な形態に形成することができる。2つ以上の実質的に平面のフレームワークを、他のものの上に重ねて、ともに固定することができ、必要に応じて、複数層のフレームワークを生成することができる。
【0063】
ある態様では、細胞は三次元構造上で成長し、また、ある態様では、たとえば、腎臓組織の修復または再建を刺激し促進する(好ましくは、血管形成を促進し、または維持する)けれども、細胞は生きているのみであるか、または死んでさえいるものである。
【0064】
このような三次元フレームワーク上で、他の腎臓細胞型、または他の軟組織型の前駆細胞(幹細胞を含む)とともに、細胞を共投与することができる。この三次元システムで成長する場合、増殖している細胞は、成熟し適切に分離して、in vivoで天然に見出される対応物と同類の成熟組織の成分を形成する。
【0065】
本明細書で説明し例示したマトリクスは、マトリクス構造がその後分解することなく臍帯組織由来細胞を支持するように、蒔いた時点から組織移植片が宿主組織によりリモデリングされるまで、細胞を支持するように、または、蒔かれた細胞が、付着し、増殖し、in vitroでそれ自体を支持するのに十分な機械強度を有する組織構造へと発達することを可能にし、その時点でマトリクスが分解されるように、設計することができる。
【0066】
本発明の使用のために考えられるマトリクス、足場、フォーム、および自己集合システムは、本発明の細胞に加えて、任意の1つ以上の細胞、成長因子、薬物、または他の成分(たとえば、組織の治癒、再建、修復、または内方成長を促進し、血管新生または神経分布を刺激し、さもなければ、治療転帰または本発明の有用性を高め、改良するような生体活性剤)と組み合わせて植え込むことができる。1つの好ましい態様では、1つ以上のHMG CoAリダクターゼ阻害剤を含む装置が、臍帯組織由来細胞とともに蒔かれる。HMG CoAリダクターゼ阻害剤は、装置にポンプ送りされてもよい。1つ以上のHMG CoAリダクターゼ阻害剤は、装置に組み込まれてもよい。ある実施態様では、本発明の細胞を蒔かれた装置は、1つ以上のHMG CoAリダクターゼ阻害剤で処理される。装置をin vivoに植え込んでもよい。
【0067】
培養において細胞を自由に成長させ、培養から取り除き、三次元フレームワーク上に植え付けることができる。好ましくは、ある濃度の細胞(たとえば、約106〜107細胞/mL)の三次元フレームワークの植え付けにより、比較的より短時間で三次元支持体が確立する。さらに、ある適用では、所望の結果に応じて、より多い、またはより少ない数の細胞を用いることが好ましいかもしれない。
【0068】
ある態様では、in vivoで見出される細胞微環境を、培養において再現することが有用であり、細胞がin vivoへの移植の前に成長する程度、または、in vitroで用いられる程度が変化するかもしれない。移植のために望ましい形態(たとえば、ロープ、管、線維、および同様のもの)を形成する前、またはその後に、細胞をフレームワーク上に植え付けることができる。細胞のフレームワークへの植え付けの後、好ましくは、フレームワークを適切な成長培地中でインキュベーションする。インキュベーション期間の間、植え付けられた細胞は、成長し、フレームワークを覆うだろうし、たとえば、そのフレームワークの中の任意の隙間空間を架橋、または部分的に架橋してもよい。必要ではないが、好ましくは、修復または再建されるべき腎臓組織のin vivo細胞密度を反映する適切な程度まで、細胞を成長させる。他の実施態様では、たとえフレームワーク上に少ない数であったとしても、細胞の存在は、内部の健康な細胞の内方成長を促進し、たとえば損傷または傷害のある組織の治癒を促進する。
【0069】
マトリクス、たとえば、本発明の態様のために用いられてもよい足場の例には、マット(織られているか、編まれているか、より好ましくは不織のマット)、多孔フォームまたは半多孔フォーム、自己集合ペプチド、および同様のものが含まれる。不織マットは、たとえば、天然ポリマーまたは合成ポリマーから成る繊維を用いて形成されてもよい。好ましい実施態様では、商品名VICRYL(登録商標)(Ethicon, Inc.;Somerville, NJ)で販売されている、グリコール酸および乳酸の吸収性コポリマー(PGA/PLA)を用いて、マットを形成する。たとえば、米国特許第6,355,699号で議論されている、ポリ(ε−カプロラクトン)/ポリ(グリコール酸)(PCL/PGA)コポリマーで構成され、たとえば凍結乾燥のような過程により形成されたフォームもまた、足場として有用であり得る。ゲルもまた、本発明で用いるのに適切なマトリクスを形成する。例としては、in situポリマー化ゲル、および、たとえば、自己集合するペプチドから構成されるハイドロゲルが含まれる。これらの材料は、組織成長のための支持体としてよく用いられる。in situ形成分解可能ネットワークも本発明における使用に適切である(Anseth, K.S. et al., 2002, J. Controlled Release 78: 199-209;Wang, D. et al., 2003, Biomaterials 24: 3969-3980;米国特許出願公開第2002/0022676号He et al.参照)。これらの材料は、注射に適した液体として処方され、その後、さまざまな手段(たとえば、温度、pH、光曝露における変化)により誘導して、in situまたはin vivoで分解可能なハイドロゲルネットワークを形成する。
【0070】
フレームワークはフェルトであることができ、そのフェルトは、生体吸収性材料(たとえば、PGA、PLA、PCLコポリマーもしくは混合物、またはヒアルロン酸)から製造されたマルチフィラメントヤーンから構成されることができる。ヤーンは、圧着、裁断、梳綿、および穿刺から成る標準的な布地加工技術を用いてフェルトへと作られる。本発明の細胞を、複合構造であるかもしれないフォーム足場上に蒔くことができる。その上、三次元フレームワークを、修復し、置換し、または補強されるべき腎臓における特定の構造、あるいはその腎臓の周囲の特定の構造のような、有用な形態へと成型してもよい。
【0071】
本発明の細胞の植え付けの前に、フレームワークを処理し、細胞接着を高めることができる。たとえば、本発明の細胞による植え付けの前に、ナイロンマトリクスを、0.1モル酢酸で処理し、ポリリシン、PBS、および/またはコラーゲンでインキュベーションして、ナイロンをコーティングすることができる。ポリスチレンも、硫酸を用いて、同様に処理することができる。
【0072】
さらに、三次元フレームワークの外側表面を修飾して、細胞の付着または成長、および組織の分化を改良することができる。それは、たとえば、フレームワークのプラズマコーティング、または1つ以上のタンパク質(たとえば、コラーゲン、弾性繊維、細網繊維)、糖タンパク質、グリコサミノグリカン(たとえば、ヘパリン硫酸、コンドロイチン−4−硫酸、コンドロイチン−6−硫酸、デルマタン硫酸、ケラチン硫酸)、細胞マトリクス、および/または、他の材料(たとえば、限定するものではないが、ゼラチン、アルギン酸塩、アガー、アガロース、および植物ガム)の追加による。
【0073】
足場を、非血栓形成のままにする材料を含ませ、または、そのような材料で処理することができる。また、これらの処理および材料も、内皮成長、移動、および細胞外マトリクス沈着を促進し、維持してもよい。これらの材料および処理の例には、天然材料(たとえば、ラミニンおよびIV型コラーゲンのような基底膜タンパク質)、合成材料(たとえば、ePTFE)、およびセグメント化ポリウレタンウレアシリコーン[たとえば、PURSPAN(登録商標)(The Polymer Technology Group, Inc.;Berkeley, CA)]が含まれるが、これらに限定されない。これらの材料は、さらに処理され、足場を非血栓形成性にすることができる。このような処理には、抗血栓形成剤(たとえば、ヘパリン)、および材料の表面電荷を変化させる処理(たとえば、プラズマコーティング)が含まれる。
【0074】
後にフレームワークに植え付けられてもよいし、in vivoでの構造上で成長してもよい組織特異的な細胞または他の細胞の成長に対して、異なる割合のさまざまな種類のコラーゲン(たとえば、フレームワーク上に配置される)が、影響を与えることができる。あるいは、フレームワークに、所望の適当なコラーゲン型を合成するような細胞の混合物を植え付けることができる。培養される組織に応じて、フレームワークに植え付けられ、または蒔かれた細胞により産生される適当なコラーゲンの種類を選択してもよい。たとえば、最初の接種材料におけるコラーゲン産生細胞の、エラスチン産生細胞に対する比率を制御することにより、フレームワークに存在するコラーゲン線維および合成繊維の相対的な量を調節することができる。たとえば、動脈の内壁はエラスチンに富んでいるので、動脈の足場は、エラスチンを分泌する平滑筋細胞の共培養物を含むべきである。
【0075】
本発明の蒔かれた、または植え付けられた三次元フレームワークは、マトリクスから得られた培養細胞、またはin vivoで培養されたマトリクスそれ自体のいずれかの移植または埋め込みのためのものである。本発明によると、現存する組織を置換または補強するために、新しいまたは変更された組織を導入するために、人工プロテーゼを修飾するために、あるいは生物組織または構造体とともに組み入れるために、三次元足場を用いてもよい。また、限定するものではないが、たとえば、in vivoでの損傷または疾患のある細管組織の置換のために役立ちうる単層および複層の管状組織を、in vitroで構築するために、三次元フレームワークを用いることができる。
【0076】
足場を、最終的に挿入される、管状の臓器(たとえば、腎杯または尿管)の内周とほぼ等しい幅の片(たとえば、長方形の形)に切ることができる。細胞を足場上に植え付け、液体培地中に浮かせ、または懸濁することにより、インキュベーションすることができる。コンフルエントの適当な段階で、足場の長辺をつなぐことにより、足場を管状に巻き上げることができる。適当な直径の適切な材料の糸を用いて2つの辺を縫合することにより、つなぎ目を閉じることができる。
【0077】
本発明によると、足場を管状に形成し、臍帯組織由来細胞を植え付け、インキュベーションチャンバー中の培地に懸濁することができる。細胞が管腔を閉塞するのを防ぐために、管状のフレームワークの開口端のうち1つをノズルに固定することができる。このノズルを通して、インキュベーションチャンバーに連結されているソースチャンバーから、液体培地を押し出すことができ、管状フレームワークの内部を通る流れを作る。培地がソースチャンバーを通って再循環できるような収集チャンバーへと導く流出出口に、他の開口端をつなぐことができる。インキュベーションが完了すると、管をノズルおよび流出出口から外すことができる。本方法は、Ballermann, B. J., et al.により、国際公開第WO94/25584号および米国特許出願第08/430,768号に開示されており、ともに参照により全体を本願に組み入れる。
【0078】
本発明によると、概して、以下の任意の方法を用いることで、2つの三次元フレームワークを組み合わせて管状にすることができる。2つ以上の平面フレームワークを互いに上に重ね、ともに縫合することができる。この2層のシートをその後巻き上げ、上記のように、つないで縫合することができる。
【0079】
内層として有用な1つの管状足場に、臍帯組織由来細胞を植え付けて、インキュベーションすることができる。2つ目の足場を、管状フレームワークの外形よりも少し大きな幅の平面の片として成長させることができる。適当な成長が達成された後、管状フレームワークの外側の周りを、平面フレームワークで包み、その後、平面フレームワークの2つの縁のつなぎ目を閉じ、好ましくは、平面フレームワークを内側の管へと縫合することができる。
【0080】
少しだけ異なる直径の2つ以上の管状メッシュを別々に成長させることができる。より小さな直径のフレームワークを、より大きな直径のフレームワークの内側に挿入し、縫合することができる。
【0081】
これらの方法のうちのいずれかについて、2層の管に対して方法を再び適用することにより、より多い層を加えることができる。臍帯組織由来細胞の成長の任意の段階で、足場を組み合わせることができ、組み合わされた足場のインキュベーションを必要なときに続行することができる。
【0082】
管状構築物の管腔態様は、管状構築物の管腔表面を非血栓形成性のままにするような材料を含む、または、そのような材料により処理することができる。また、これらの処理および材料も、内皮成長、移動、および細胞外マトリクス沈着を促進し、維持してもよい。これらの材料および処理の例には、天然材料(たとえば、ラミニンおよびIV型コラーゲンのような基底膜タンパク質)、合成材料(たとえば、ePTFE)、およびセグメント化ポリウレタンウレアシリコーン[たとえば、PURSPAN(登録商標)(The Polymer Technology Group, Inc.;Berkeley, CA)]が含まれるが、これらに限定されない。これらの材料は、さらに処理され、足場を非血栓形成性にすることができる。このような処理には、抗血栓形成剤(たとえば、ヘパリン)、および材料の表面電荷を変化させる処理(たとえば、プラズマコーティング)が含まれる。
【0083】
ある現在好ましい実施態様では、本方法は、腎臓細胞経路に沿って、腎臓細胞表現型、または、前駆体、もしくは上記のより原始的な関連物へと分化するように、治療用の分娩後由来細胞を誘導することを含む。治療用の細胞組成物は、患者の腎臓に統合されることができ、あるいは、天然に存在する腎臓幹細胞に対して、分化するように成長または刺激するためのサポートを提供することができる。細胞可溶化液、または他の異系細胞、同系細胞、もしくは自家細胞とともに、治療用細胞を共投与することができる。治療用の細胞組成物を投与する場合、送達された細胞の生存は、それらの使用の成功または結果の決定因子ではないし、むしろ腎臓の健康、または患者の全体的な健康の改善が転帰の決定因子である。このように、細胞は、患者の腎臓に、または血管にでさえ統合される必要はなく、処理前および処理後の患者における腎臓の健康の改善の兆候には、好ましくは、腎臓の健康の客観的な測定値[たとえば、限定されないが、血清、またはクレアチニン、尿素、タンパク質、血中尿素窒素(BUN)、および浸透圧試験における改善]のうちの少なくとも1つ、および患者の状態の主観的な診断(自己診断を含む)が含まれる。
【0084】
したがって、成功する治療には、腎臓に対して疾患、病理、または外傷を有する患者の治療であって、別の細胞型の存在下または不存在下で、臍帯組織由来細胞を含む治療用細胞組成物による、治療が含まれる。限定するものではないが、たとえば、好ましくは、細胞は、少なくとも部分的に患者に統合され、増幅し、または生存する。他の好ましい実施態様では、患者は治療から利益を得ているし、たとえば、他の細胞(腎臓に存在する幹細胞または前駆細胞を含む)の成長をサポートする細胞の能力から利益を得ているし、組織の内方成長または血管成長から利益を得ているし、また、有用な細胞因子(ケモカイン、サイトカイン、および同様のもの)の存在から利益を得ているが、細胞は患者に統合もされていないし、増幅もしていない。ある態様では、患者は細胞による治療的処置により利益を得ているが、細胞は患者の中で持続的な期間生存しない。たとえば、1つの実施態様では、細胞は、数、生存力、または生化学活性において、段階的に減衰しているし、他の実施態様では、細胞における減衰が、活性(たとえば、成長、分裂、または生化学活性)の期間以前であってもよい。他の実施態様では、老化した細胞、生存可能でない細胞、死んだ細胞でさえ、有用な治療効果を有することができる。
【0085】
投与は、好ましくは、in vivoであり、移植、植え込み、注射、融合、カテーテルを通じた送達、もしくはマトリクス−細胞複合体としての提供、または細胞治療を提供するための分野で既知の他の任意の手段による。
【0086】
ある実施態様では、本発明の方法は、腎臓の構造および/または機能における改善、または全体的な健康に置ける改善について、患者を評価することをさらに含むことができる。このような評価は、本明細書で説明し例示したようなものを含む本分野で適切な任意の手段によって行うことができる。
【0087】
また、本発明によって特徴とされるのは、本発明の方法を実行するためのキットである。1つの実施態様では、少なくとも1つの腎臓の疾患、または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するためのキットが提供される。キットは、医薬用に許容可能なキャリアと、その疾患または傷害を治療するために有効な量の、ヒト臍帯組織から得られた細胞(たとえば、本明細書で説明され例示されたような細胞)と、少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するための方法でキットを使うための使用説明書とを含む。キットは、細胞を培養するための少なくとも1つの試薬と、使用説明書とをさらに含んでいてもよい。キットは、少なくとも1つの他の細胞型の集団、および/または、少なくとも1つの薬剤をさらに含んでもよい。
【0088】
ある態様では、キットは、医薬用に許容可能なキャリアと、本明細書で説明し例示した特徴を有する、ヒト臍帯組織から得られた細胞から準備された可溶化液、細胞外マトリクス、または馴化培地とを含む。キットは、損傷または疾患のある腎臓の修復および/または再建を促進するのに有用である。
【0089】
以下の実施例を、本発明をより詳細に説明するために提供する。これらは例示を意図しており、発明を限定するものではない。
【0090】
〔実施例1:臍帯組織由来細胞の単離〕
臍帯をNational Disease Research Interchange(NDRI;Philadelphia, PA)から入手した。組織を、正常分娩の後に入手した。層流フードにおいて、細胞単離プロトコルを無菌的に実行した。血液および壊死組織片を取り除くために、抗真菌剤および抗生剤(ペニシリン 100ユニット/mL、ストレプトマイシン 100μg/mL、アンホテリシンB 0.25μg/mL)を含むリン酸緩衝食塩水(PBS)(Invitrogen;Carlsbad, CA)で臍帯を洗浄した。その後、培地(DMEM-Low glucoseまたはDMEM-High glucose;Invitrogen)50mLを入れた150cm2組織培養プレートにおいて、組織を機械的に分解し、細かいパルプ状になるまで組織を刻んだ。刻まれた組織を50mLコニカルチューブへと移した(組織 約5g/チューブ)。その後、組織を、上記の抗真菌剤および抗生剤を含むDMEM-Low glucose培地またはDMEM-High glucose培地のいずれかの中で消化した。ある実験では、コラゲナーゼおよびディスパーゼの酵素混合液を用いた[“C:D”:コラゲナーゼ(Sigma;St Louis, MO)500ユニット/mL、およびディスパーゼ(Invitrogen)50ユニット/mLを含むDMEM-Low glucose培地]。他の実験では、コラゲナーゼ、ディスパーゼ、およびヒアルロニダーゼの混合液(“C:D:H”)を用いた(コラゲナーゼ 500ユニット/mL、ディスパーゼ 50ユニット/mL、およびヒアルロニダーゼ(Sigma)5ユニット/mLを含むDMEM-Low glucose]。組織、培地、および消化酵素を含むコニカルチューブを、37℃、225rpmのオービタルシェイカー(Environ;Brooklyn, NY)で2時間インキュベーションした。
【0091】
消化の後、150×g、5分間、組織を遠心分離し、上澄みを吸引した。成長培地 20mL[DMEM: Low glucose(Invitrogen)、15%(v/v)ウシ胎仔血清(FBS)(defined bovine serum;ロット番号AND18475;Hyclone;Logan, UT)、0.001%(v/v)2−メルカプトエタノール(Sigma)、上記の抗生剤/抗真菌剤 1mL/100mL]に、ペレットを再懸濁した。細胞懸濁液を70μmナイロンセルストレイナー(70-micrometer nylon cell strainer;BD Biosciences)でろ過した。成長培地を含む追加のリンス液 5mLに、ストレイナーを通過させた。その後、細胞懸濁液を40μmナイロンセルストレイナー(40-micrometer nylon cell strainer;BD Biosciences)を通過させ、追加の成長培地 5mLのリンス液を追加した。
【0092】
ろ過物を成長培地(全容量50mL)に再懸濁し、150×g、5分間、遠心分離した。上澄みを吸引し、細胞を新しい成長培地50mLに再懸濁した。この手順をあと2回くり返した。
【0093】
最後の遠心分離で、上澄みを吸引し、細胞ペレットを新しい成長培地5mLに再懸濁した。トリパンブルー染色を用いて、生存細胞の数を決定した。その後、細胞を標準条件で培養した。
【0094】
上記の抗生剤/抗真菌剤を含む成長培地を入れた、ゼラチンコーティングしたT−75cm2フラスコ(Corning Inc.;Corning, NY)に、臍帯から単離した細胞を5,000細胞/cm2で蒔いた。2日後(さまざまな実験では、2〜4日間、細胞をインキュベーションした)、使用後の培地をフラスコから取り除いた。細胞をPBSで3回洗浄し、壊死組織片および血液由来細胞を取り除いた。その後、細胞に成長培地を補充し、コンフルエントまで成長させ、1代継代とした(0代継代から約10日)。その後の継代では(1代継代から2代継代等)、4〜5日で、細胞はサブコンフルエント(75〜85%コンフルエント)に到達した。これらのその後の継代については、細胞を5,000細胞/cm2で蒔いた。5%二酸化炭素および大気酸素を含む高湿度インキュベーターにおいて、37℃で細胞を成長させた。
【0095】
〔実施例2:フローサイトメトリーによるヒト分娩後由来細胞表面マーカーの評価〕
フローサイトメトリーを用いて、臍帯組織を特徴づけし、臍帯組織から得られた細胞の同定についてのプロファイルを提供した。
【0096】
ペニシリン/ストレプトマイシンを含む成長培地(Gibco;Carlsbad, CA)で細胞を培養した。血漿処理したT75組織培養フラスコ、T150組織培養フラスコ、およびT225組織培養フラスコ(Corning;Corning, NY)で、細胞をコンフルエントまで成長させた。2%ゼラチン(Sigma;St. Louis, MO)を20分間、室温でインキュベーションすることにより、フラスコの成長表面をコーティングした。
【0097】
フラスコの付着細胞をPBSで洗浄し、トリプシン/EDTAで剥がした。細胞を採集し、遠心分離し、3%(v/v)FBSを含むPBS中に、1×107細胞/mLの細胞濃度で再懸濁した。製造業者の説明書によると、目的の細胞表面マーカーに対する抗体(下記参照)を、細胞懸濁液100μLに加え、4℃、30分間、暗所で、混合液をインキュベーションした。インキュベーションの後、細胞をPBSで洗浄し、遠心分離して、非結合抗体を取り除いた。細胞を、PBS 500μL中に再懸濁し、フローサイトメトリーで分析した。フローサイトメトリー分析は、FACScalibur装置(Becton Dickinson;San Jose, CA)により実行した。
【0098】
以下の細胞表面に対する抗体を用いた。
【表1】
【0099】
8代継代、15代継代、および20代継代で、細胞を分析し、異なるドナーからの臍帯組織由来細胞を互いに比較した。さらに、ゼラチンコーティングしたフラスコで培養した細胞を、非コーティングフラスコで培養した細胞と比較した。
【0100】
臍帯組織由来細胞は、CD10、CD13、CD44、CD73、CD90、PDGFr-alpha、およびHLA-A,B,Cの陽性発現を示し、そのことは、IgG対照に比べて増加した蛍光値によって示された。これらの細胞は、CD31、CD34、CD45、CD117、CD141、およびHLA-DR,DP,DQの検出可能な発現について陰性であり、そのことは、IgG対照と同程度の蛍光値によって示された。陽性曲線の蛍光値における変動が説明された。陽性曲線の平均(すなわち、CD13)および範囲(すなわち、CD90)が、変動を示していたが、曲線は正常に見えており、均質集団であることを確認した。両方の曲線のそれぞれが、IgG対照よりも高い値を示していた。
【0101】
8代継代、15代継代、および20代継代の細胞はすべて、CD10、CD13、CD44、CD73、CD90、PDGFr-alpha、およびHLA-A,B,Cを発現し、そのことは、IgG対照に比べて増加した蛍光により示された。これらの細胞は、CD31、CD34、CD45、CD117、CD141、およびHLA-DR,DP,DQに対して陰性であり、そのことは、IgG対照と一致する蛍光値により示されていた。
【0102】
別々のドナーそれぞれからの単離物は、CD10、CD13、CD44、CD73、CD90、PDGFr-alpha、およびHLA-A,B,Cの陽性発現を示し、そのことは、IgG対照に比べて増加した蛍光値を反映していた。これらの細胞は、CD31、CD34、CD45、CD117、CD141、およびHLA-DR,DP,DQの発現については陰性であり、それらは、IgG対照と一致する蛍光値を有していた。
【0103】
ゼラチンフラスコおよび非コーティングフラスコ上で増殖した細胞はすべて、CD10、CD13、CD44、CD73、CD90、PDGFr-alpha、およびHLA-A,B,Cの発現について陽性であり、それらは、IgG対照に対して増加した蛍光値を有していた。これらの細胞は、CD31、CD34、CD45、CD117、CD141、およびHLA-DR,DP,DQの発現については、陰性であり、それらは、IgG対照と一致する蛍光値を有していた。
【0104】
このように、臍帯組織由来細胞は、CD10、CD13、CD44、CD73、CD90、PDGFr-alpha、HLA-A,B,Cについて陽性であり、CD31、CD34、CD45、CD117、CD141、およびHLA-DR,DP,DQについて陰性である。この同一性は、ドナー、継代、および培養容器表面コーティングを含む変数における変動において一致していた。個々の蛍光値ヒストグラム曲線の平均および範囲にはいくつかの変動が見られたが、試験したすべての条件下のすべての陽性曲線は正常であったし、IgG対照よりも高い蛍光値を示していた。これらのことから、細胞は、マーカーの陽性発現を有する均質集団を含むことが確認された。
【0105】
〔実施例3:細胞表現型の免疫組織化学的特徴づけ〕
ヒト臍帯組織を採取し、4℃一晩で、4%(w/v)パラホルムアルデヒド中で浸漬固定した。以下のエピトープに対する抗体を用いて、免疫組織化学を実行した。vimentin(1:500;Sigma;St. Louis, MO)、desmin(1:150、ウサギ由来;Sigma、または1:300、マウス由来;Chemicon;Temecula, CA)、alpha-smooth muscle actin(SMA)(1:400;Sigma)、cytokeratin 18(CK18)(1:400;Sigma)、von Willebrand Factor(vWF)(1:200;Sigma)、およびCD34(human CD34 Class III)(1:100;DAKOCytomation;Carpinteria, CA)。さらに、以下のマーカーを試験した。抗ヒトGROalpha-PE(1:100;Becton Dickinson;Franklin Lakes, NJ)、抗ヒトGCP-2(1:100;Santa Cruz Biotech;Santa Cruz, CA)、抗ヒトoxidized LDL receptor 1(ox-LDL R1)(1:100;Santa Cruz Biotech)、および抗ヒトNOGO-A(1:100;Santa Cruz Biotech)。固定した標本を外科用メスで処理し、エタノールを含むドライアイスバス上のOCT包埋用化合物(Tissue-Tek OCT;Sakura;Torrance, CA)中に置いた。その後、標準クリオスタット(Leica Microsystems)を用いて、凍結ブロックを切片化し(10μm厚)、染色のためにスライドガラス上に乗せた。
【0106】
免疫組織化学をこれまでの研究と同様に実行した(Messina et al. (2003) Exper. Neurol. 184:816-29)。簡単に説明すると、組織切片をリン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄し、PBS、4%(v/v)ヤギ血清(Chemicon;Temecula, CA)、および0.3%(v/v)Triton(Triton X-100;Sigma)を含むタンパク質ブロッキング溶液に1時間さらし、細胞内抗原を評価した。目的のエピトープが細胞表面に局在するだろう場合(CD34、ox-LDL R1)には、エピトープの損失を防ぐために、手順のすべての段階でTritonを省略した。さらに、一次抗体がヤギ由来である場合(GCP-2、ox-LDL R1、NOGO-A)には、手順を通じ、ヤギ血清の代わりに3%(v/v)ロバ血清が用いられた。その後、ブロッキング溶液で希釈した一次抗体を、室温、4時間、切片に適用した。一次抗体溶液を除去し、培養物をPBSで洗浄し、ヤギ抗マウスIgG−テキサスレッド(1:250;Molecular Probes;Eugene, OR)、および/または、ヤギ抗ウサギIgG−Alexa488(1:250;Molecular Probes)、もしくは、ロバ抗ヤギIgG−FITC(1:150;Santa Cruz Biotech)とブロッキングとを含む二次抗体溶液を適用した(室温、1時間)。培養物を洗浄し、10μM DAPI(Molecular Probes)を10分間適用して、細胞核を可視化した。
【0107】
Olympus倒立エピ蛍光顕微鏡(Olympus inverted epi-fluorescent microscope)(Olympus;Melville, NY)の適当な蛍光フィルタを用いて、蛍光を可視化した。陽性染色は、対比染色の蛍光シグナルによって示された。デジタルカラービデオカメラおよびImageProソフトウェア(Media Cybernetics;Carlsbad, CA)を用いて、代表的な画像を取り込んだ。三重染色サンプルについては、1つの発光フィルタのみを用いて、各画像を一度に撮影した。
【0108】
臍帯内に見られた細胞のサブセットにおいて、Vimentin、desmin、SMA、CK18、vWF、およびCD34マーカーが発現していた。特に、vWFおよびCD34の発現は、臍帯内に含まれる血管に限定された。CD34+細胞は、最も内側の層(管腔側)に存在した。Vimentinの発現は、臍帯のマトリクスおよび血管全体に見られた。SMAは、マトリクスと動脈および静脈の外壁とに限定されたが、血管それ自体には含まれていなかった。CK18およびdesminは、血管内のみで観察され、desminは、中層および外層に限定された。GROalpha、GCP-2、ox-LDL R1、およびNOGO-Aの発現は、臍帯組織内では観察されなかった。
【0109】
〔実施例4:オリゴヌクレオチドアレイ分析〕
臍帯組織由来細胞を、線維芽細胞、ヒト間葉系幹細胞、およびヒト骨髄に由来した他の細胞株と比較するために、Affymetrix GeneChip(登録商標)アレイを用いた。この分析により、分娩後由来細胞の特徴が提供されるとともに、これらの細胞について特有の分子マーカーが同定された。
【0110】
患者の同意を得た正常分娩のヒト臍帯を、National Disease Research Interchange(NDRI;Philadelphia, PA)から入手した。上記に説明したように、組織を受領し、細胞を単離した。ゼラチンコーティング組織培養プラスチックフラスコ上の成長培地(DMEM−LGを用いた)上で、細胞を培養した。37℃、5%CO2で、培養物をインキュベーションした。
【0111】
ヒト皮膚線維芽細胞を、Cambrex Incorporated(Walkersville, MD;ロット番号9F0844)、およびATCC CRL-1501(CCD39SK)から購入した。10%(v/v)ウシ胎仔血清(Hyclone)およびペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen)を含むDMEM/F12培地(Invitrogen;Carlsbad, CA)で、両方の細胞株を培養した。細胞を標準組織処理プラスチック上で成長させた。
【0112】
ヒト間葉系幹細胞(hMSC)を、Cambrex Incorporated(Walkersville, MD;ロット番号2F1655、2F1656、および2F1657)から購入し、MSCGM培地(Cambrex)で業者の説明書にしたがって培養した。37℃、5%CO2で、標準組織培養プラスチック上で、細胞を成長させた。
【0113】
患者の同意のあるヒト腸骨稜骨髄細胞をNDRIから受領した。Ho, et al.(国際公開第WO03/025149号)により概説された方法にしたがって、骨髄を加工した。可溶化バッファー(155mM NH4Cl、10mM KHCO3、および0.1mM EDTA,pH7.2)に骨髄を、可溶化バッファー20部に対して骨髄1部の比率で混合した。細胞懸濁液をボルテックスし、2分間、大気温度でインキュベーションし、500×g、10分間、遠心分離した。上澄みを捨て、10%(v/v)ウシ胎仔血清および4mM グルタミンを補った最小必須培地(Invitrogen)に、細胞ペレットを再懸濁した。細胞を再び遠心分離し、細胞ペレットを新鮮な培地に再懸濁した。トリパンブルー排除(Sigma;St. Louis, MO)を用いて、生存可能な単核細胞をカウントした。組織培養プラスチックフラスコに、単核細胞を5×104細胞/cm2で蒔いた。37℃、5%CO2、および、標準大気O2または5%O2のいずれかで、細胞をインキュベーションした。培地交換なしに、細胞を5日間培養した。培養5日後に、培地および非付着細胞を取り除いた。付着細胞は、培養中で維持された。
【0114】
活発に成長している細胞の培養物を、冷PBS中で、細胞スクレーパーにより、フラスコから取り除いた。300×g、5分間、細胞を遠心分離した。上澄みを取り除き、細胞を新鮮なPBSに再懸濁し、再び遠心分離した。上澄みを取り除き、細胞ペレットを瞬間凍結し、−80℃で保管した。細胞のmRNAを抽出し、cDNAに転写した。その後、cDNAはcRNAへと転写され、ビオチン標識された。ビオチン標識cRNAをHG-U133A GeneChipオリゴヌクレオチドアレイ(Affymetrix;Santa Clara CA)とハイブリダイゼーションさせた。業者の説明書にしたがって、ハイブリダイゼーションおよびデータ収集を実行した。「マイクロアレイの有意性分析(Significance Analysis of Microarrays)(SAM)」1.21版コンピュータソフトウェア(Stanford University;Tusher et al. (2001) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:5116-21)を用いて、分析を実行した。
【0115】
14個の異なる細胞集団を分析した。細胞を、継代情報、培養基質、および培養培地とともに、表1に一覧にした。
【表2】
【0116】
主成分分析により、データを評価し、細胞で異なるように発現している290個の遺伝子を分析した。この分析は、集団間の類似性についての相対的な比較を可能にする。表2は、細胞ペアの比較について計算されたユークリッド距離を示している。ユークリッド距離は、細胞型のうち異なって発現した290個の遺伝子に基づいた細胞の比較に基づいている。ユークリッド距離は、290個の遺伝子の発現間の類似性と反比例している(すなわち、距離が遠くなるにつれ、あまり類似性がない)。
【表3】
【0117】
以下の表3および表4は、臍帯組織由来細胞において増加した遺伝子の発現(表3)、および臍帯組織由来細胞において低下した遺伝子の発現(表4)を示している。「プローブセットID」と名付けられた列は、チップ上の特定の位置に局在する、さまざまなオリゴヌクレオチドプローブのセットについての業者のIDコードである。そのオリゴヌクレオチドプローブは、NCBI(GenBank)データベース内に特定のアクセッション番号(列「NCBIアクセッション番号」)で見出される配列を含む、命名された遺伝子(列「遺伝子名」)とハイブリダイゼーションすることができる。
【表4】
【表5−1】
【表5−2】
【0118】
表5、表6、表7は、ヒト線維芽細胞(表5)、ICBM細胞(表6)、およびMSC(表7)において増加した遺伝子発現を示している。
【表6−1】
【表6−2】
【表7】
【表8】
【0119】
以上の分析には、異なる3つの臍帯に由来する細胞、ならびに、異なる2つの皮膚線維芽細胞株、3つの間葉系幹細胞株、および3つの腸骨稜骨髄細胞株が含まれる。22,000個の遺伝子についてのプローブを含むオリゴヌクレオチドアレイを用いて、これらの細胞により発現したmRNAを分析した。結果は、これらの5つの異なる細胞株において、290個の遺伝子が異なる発現をすることを示していた。これらの遺伝子には、臍帯組織由来細胞で、特異的に増加した7個の遺伝子が含まれる。臍帯組織由来細胞において、54個の遺伝子が、他の細胞型と比べて特に低い発現レベルを有することが見出された。選択された遺伝子の発現をPCRで確認した。これらの結果は、臍帯組織由来細胞が、たとえば骨髄由来細胞および線維芽細胞と比べて、異なる遺伝子発現プロファイルを有することを示している。
【0120】
〔実施例5:臍帯組織由来細胞における細胞マーカー〕
以上に示したように、臍帯組織由来細胞について、6個の「特徴」遺伝子を同定した。oxidized LDL receptor 1、interleukin-8、rennin、reticulon、chemokine receptor ligand 3 (CXC ligand 3)、およびgranulocyte chemotactic protein 2 (GCP-2)。これらの「特徴」遺伝子は、分娩後由来細胞において相対的に高いレベルで発現した。
【0121】
本実施例で説明する手法を、マイクロアレイデータを検証し、遺伝子発現およびタンパク質発現間の一致/不一致を見出し、また、臍帯組織由来細胞に特有の同定因子の検出のための一連の信頼性のある解析を確立するために実行した。
【0122】
臍帯組織由来細胞(4つの単離物)、および正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF:新生児および成人)を、ゼラチンコーティングしたT75フラスコ中のペニシリン/ストレプトマイシンを含む成長培地中で成長させた。間葉系幹細胞(MSC)を、間葉系幹細胞成長培地ブリットキット(Mesenchymal Stem Cell Growth Medium Bullet kit)(MSCGM;Cambrex;Walkerville, MD)で成長させた。
【0123】
IL-8プロトコルのために、細胞を液体窒素から解凍し、5,000細胞/cm2でゼラチンコーティングフラスコ上に蒔き、48時間、成長培地中で成長させた。その後、血清枯渇培地 10mL[DMEM-low glucose(Gibco;Carlsbad, CA)、ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco;Carlsbad, CA)、および0.1%(w/v)ウシ血清アルブミン(BSA)(Sigma;St. Louis, MO)]中で8時間さらに成長させた。この処理の後、RNAを抽出し、150×g、5分間、上澄みを遠心分離して、壊死細胞片を取り除いた。その後、ELISA分析のために、上澄みを−80℃で凍結した。
【0124】
ヒト新生児包皮由来のヒト線維芽細胞と同様に、ゼラチンコーティングしたT75フラスコ中の成長培地において、臍帯由来の分娩後細胞を培養した。11代継代で、細胞を液体窒素により凍結した。細胞を解凍し、15mL遠心分離チューブに移した。150×g、5分間の遠心分離後、上澄みを廃棄した。培養培地4mLに細胞を再懸濁し、カウントした。成長培地15mLを含む75cm2フラスコにおいて、37,500細胞/フラスコで、細胞を24時間成長させた。培地を、8時間の血清枯渇培地に変更した。インキュベーションの終了時に血清枯渇培地を収集し、14,000×g、5分間、遠心分離した(その後、−20℃で保管した)。
【0125】
各フラスコにおける細胞数を推定するために、トリプシン/EDTA(Gibco;Carlsbad, CA)2mLを各フラスコに加えた。細胞をフラスコから分離した後、トリプシン活性を成長培地8mLで中和した。細胞を15mL遠心チューブに移し、150×g、5分間、遠心分離した。上澄みを取り除き、成長培地1mLを各チューブに加え、細胞を再懸濁した。ヘモサイトメーターを用いて、細胞数を推定した。
【0126】
ELISA分析(R&D Systems;Minneapolis, MN)を用いて、細胞から血清枯渇培地に分泌されたIL-8の量を分析した。業者から提供された説明書にしたがって、すべての分析を試験した。
【0127】
コンフルエント状態の臍帯組織由来細胞および線維芽細胞から、または、IL-8発現のために、上記に説明したように処理した細胞から、RNAを抽出した。業者の説明書(RNeasyミニキット;Qiagen;Valencia, CA)にしたがって、β−メルカプトエタノール(Sigma;St. Louis, MO)を含むバッファーRLT 350mLにより、細胞を可溶化した。業者の説明書(RNeasyミニキット;Qiagen;Valencia, CA)にしたがって、RNAを抽出し、DNase処理(2.7U/サンプル)(Sigma;St. Louis, MO)にさらした。DEPC処理水 50μLでRNAを溶出し、−80℃で保管した。
【0128】
RNAをヒト臍帯組織からも抽出した。組織(30mg)を、2−メルカプトエタノールを含むRLT緩衝液 700mLに懸濁した。サンプルを機械的にホモジェナイズし、業者の説明書にしたがって、RNA抽出を行った。DEPC処理水 50μLでRNAを抽出し、−80℃で保管した。TaqMan逆転写試薬(Applied Biosystems;Foster City, CA)とランダムヘキサマーを用いて、25℃10分間、37℃60分間、および95℃10分間で、RNAを逆転写した。サンプルをー20℃で保管した。
【0129】
分娩後細胞で特別に制御されているものとしてcDNAマイクロアレイにより同定された遺伝子(oxidized LDL receptor、interleukin-8、rennin 、およびreticulonを含む特徴遺伝子)を、リアルタイムPCRおよび慣習的なPCRを用いてさらに調査した。
【0130】
Assays-on-Demand(商標)を用いて、cDNAサンプルに対してPCRを実行した。ABI Prism 7000 SDSソフトウェアを含む7000配列検出システム(7000 sequence detection system)(Applied Biosystems;Foster City, CA)を用いて、業者の説明書(Applied Biosystems;Foster City, CA)にしたがって、遺伝子発現産物[oxidized LDL receptor (Hs00234028)、rennin (Hs00166915)、reticulon (Hs00382515)、CXC ligand 3 (Hs00171061)、GCP-2 (Hs00605742)、IL-8 (Hs00174103)、およびGAPDH(Applied Biosystems;Foster City, CA)]を、cDNAおよびTaqManユニバーサルPCRマスターミックス(TaqMan Universal PCR master mix)とともに混合した。サーマルサイクル条件は、最初に、50℃2分間および95℃10分間、その後、95℃15秒間および60℃1分間を40サイクルであった。業者の説明書(Applied BiosystemsのABI Prism 7700配列検出システムのためのユーザー紀要第2)にしたがって、PCRデータを分析した。
【0131】
リアルタイムPCRの結果を確認するために、ABI PRISM 7700(Perkin Elmer Applied Biosystems;Boston, Massachusetts, USA)を用いて、通常のPCRを実行した。cDNA溶液 2μL、1×AmpliTaqゴールドユニバーサルミックスPCR反応バッファー(AmpliTaq Gold universal mix PCR Reaction buffer)(Applied Biosystems;Foster City, CA)、および開始変性条件94℃、5分間を用いて、PCRを実施した。各プライマーセットについて、増幅を最適化した。IL-8、CXC ligand 3、およびreticulon:94℃15秒間、55℃15秒間、および72℃30秒間を30サイクル、rennin:94℃15秒間、53℃15秒間、および72℃30秒間を38サイクル、oxidized LDL receptorおよびGAPDH:94℃15秒間、55℃15秒間、および72℃30秒間を33サイクル。増幅に用いたプライマーを表8に一覧にする。最終PCR反応におけるプライマー濃度は、0.5μM GAPDH以外、1μMであった。GAPDHプライマーについては、業者のTaqManプローブが最終PCR反応に加えられない点を除いて、リアルタイムPCRと同じものであった。サンプルを2%(w/v)アガロースゲルに泳動し、エチジウムブロマイド(Sigma;St. Louis, MO)で染色した。焦点距離ポラロイドカメラ(focal-length Polaroid camera)(VWR International;South Plainfield, NJ)、および667ユニバーサルツインパックフィルム(667 Universal Twinpack film)(VWR International;South Plainfield, NJ)を用いて、画像を撮影した。
【表9】
【0132】
冷4%(w/v)パラホルムアルデヒド(Sigma-Aldrich;St. Louis, MO)により、室温10分間、細胞を固定した。0代継代(P0)(単離後直接)の1つの単離物および11代継代(P11)の2つの単離物、ならびに線維芽細胞(P11)を用いた。以下のエピトープに対する抗体を用いて、免疫細胞化学を実行した。vimentin(1:500;Sigma;St. Louis, MO)、desmin(1:150;Sigma−ウサギ由来、または1:300;Chemicon;Temecula, CA−マウス由来)、alpha-smooth muscle actin(SMA)(1:400;Sigma)、cytokeratin 18(CK18)(1:400;Sigma)、von Willebrand Factor(vWF)(1:200;Sigma)、およびCD34(human CD34 Class III)(1:100;DAKOCytomation;Carpinteria, CA)。さらに、11代継代の分娩後細胞に対して、以下のマーカーを試験した。抗ヒトGROalpha-PE(1:100;Becton Dickinson;Franklin Lakes, NJ)、抗ヒトGCP-2(1:100;Santa Cruz Biotech;Santa Cruz, CA)、抗ヒトoxidized LDL receptor 1(ox-LDL R1)(1:100;Santa Cruz Biotech)、および抗ヒトNOGA-A(1:100;Santa Cruz Biotech)。
【0133】
リン酸緩衝食塩水(PBS)で培養物を洗浄し、PBS、4%(v/v)ヤギ血清(Chemicon;Temecula, CA)、および0.3%(v/v)Triton(Triton X-100;Sigma;St. Louis, MO)を含むタンパク質ブロッキング溶液に30分間さらし、細胞内抗原に接触させた。目的のエピトープが細胞表面上に局在する場合(CD34、ox-LDL R1)には、エピトープの損失を防ぐために、手順のすべての段階でTriton X-100を省略した。さらに、一次抗体がヤギ由来である場合(GCP-2、ox-LDL R1、NOGO-A)には、ヤギ血清に代えて、3%(v/v)ロバ血清を用いた。その後、ブロッキング溶液に希釈した一次抗体を、室温、1時間、培養物に適用した。一次抗体溶液を除去し、培養物をPBSで洗浄し、ヤギ抗マウスIgG−テキサスレッド(1:250;Molecular Probes;Eugene, OR)、および/または、ヤギ抗ウサギIgG−Alexa488(1:250;Molecular Probes)、もしくは、ロバ抗ヤギIgG−FITC(1:150;Santa Cruz Biotech)とブロッキングとを含む二次抗体溶液を適用した(室温で1時間)。その後、培養物を洗浄し、10μM DAPI(Molecular Probes)を10分間適用して、細胞核を可視化した。
【0134】
免疫染色後、Olympus倒立エピ蛍光顕微鏡(Olympus;Melville, NY)の適当な蛍光フィルタを用いて、蛍光を可視化した。すべての場合において、陽性染色が、対照染色を超える蛍光シグナルを示した。ここで、対照染色においては、一次抗体溶液の適用を除いて、上記に概説した全体の手順が実施されていた。デジタルカラービデオカメラおよびImageProソフトウェア(Media Cybernetics;Carlsbad, CA)を用いて、代表的な画像を取り込んだ。三重染色サンプルについては、1つの発行フィルタのみを用いて、各画像を一度に撮影した。その後、層状モンタージュを、Adobe Photoshopソフトウェア(Adobe;San Jose, CA)を用いて用意した。
【0135】
フラスコ中の付着細胞をリン酸緩衝食塩水(PBS)(Gibco;Carlsbad, CA)で洗浄し、トリプシン/EDTA(Gibco;Carlsbad, CA)で分離した。細胞を採集し、遠心分離し、1×107細胞/mLの細胞濃度で、3%(v/v)FBSを含むPBSに再懸濁した。100μL分液をコニカルチューブに移した。細胞内抗原を染色した細胞をPerm/Wash緩衝液(BD Pharmingen;San Diego, CA)で透過性にした。業者の説明書にしたがって、分液に抗体を加え、4℃、30分間、暗所で、細胞をインキュベーションした。インキュベーション後、細胞をPBSで洗浄し、遠心分離して、余分な抗体を取り除いた。二次抗体を必要とする細胞を、3%FBS 100μLに再懸濁した。業者の説明書にしたがって、二次抗体を加え、4℃、30分間、暗所で、細胞をインキュベーションした。インキュベーション後、細胞をPBSで洗浄し、遠心分離して、余分な二次抗体を取り除いた。洗浄した細胞を、PBS 0.5mLに再懸濁し、フローサイトメトリーにより分析した。以下の抗体を用いた。oxidized LDL receptor 1(sc-5813;Santa Cruz, Biotech)、GROa(555042;BD Pharmingen;Bedford, MA)、マウスIgG1 kappa(P-4685およびM-5284;Sigma)、ヤギ由来ロバIgG(sc-3743;Santa Cruz, Biotech)。フローサイトメトリー分析をFACScalibur(Becton Dickinson;San Jose, CA)により実行した。
【0136】
リアルタイムPCRから得られたデータを、ΔΔCT法により分析し、対数軸で表現した。reticulonおよびoxidized LDL receptorの発現レベルが、臍帯組織由来細胞で、他の細胞と比べて高かった。CXC ligand 3およびGCP-2の発現レベルには、分娩後由来細胞と対照との間に有意差はまったく見られなかった。リアルタイムPCRの結果を通常のPCRで確認した。さらに、PCR産物の配列決定により、これらの観察を確認した。上記に挙げた通常のCXC ligand 3プライマーを用いた場合には、CXC ligand 3の発現レベルには、分娩後由来細胞と対照との間で有意差が見られなかった。
【0137】
分娩後細胞におけるcytokine、IL-8の産生を、成長培地培養の分娩後由来細胞および血清涸渇の分娩後由来細胞の両方で評価した。通常のPCRおよびPCR産物の配列決定により、すべてのリアルタイムPCRデータを確認した。
【0138】
IL-8の存在について、血清を含まない培地で成長させた細胞の上澄みを試験した場合、臍帯細胞および胎盤細胞のいくつかの単離物に由来する培地で最高量が検出された(表9)。ヒト皮膚線維芽細胞由来の培地では、IL-8はまったく検出されなかった。
【表10】
【0139】
免疫細胞化学分析により、選択されたタンパク質の産生について、0代継代のヒト臍帯に由来する細胞を探索した。単離直後(0代継代)、4%パラホルムアルデヒドで細胞を固定し、6つのタンパク質(von Willebrand Factor、CD34、cytokeratin 18、desmin、alpha-smooth muscle actin、およびvimentin)に対する抗体にさらした。臍帯組織由来細胞は、alpha-smooth muscle actinおよびvimentinについて陽性であり、11代継代全体で一致した染色パターンを有していた。
【0140】
マイクロアレイおよびPCR(リアルタイムPCRおよび慣習的なPCRの両方)により測定された遺伝子発現レベルの一致は、以下の4つの遺伝子について確立された。oxidized LDL receptor 1、rennin、reticulon、およびIL-8。これらの遺伝子の発現は、PPDCにおけるmRNAレベルで異なるように制御されており、IL-8もまたタンパク質レベルで異なるように制御されている。alpha-smooth muscle actinおよびvimentinの発現について、0代継代のヒト臍帯組織由来の細胞を探索したところ、両方ともについて陽性であった。11代継代を通じて、染色パターンが保存されていた。
【0141】
〔実施例6:in vitroでの分娩後由来細胞の免疫学的評価〕
これらの細胞がin vivoへの移植において引き起こすかもしれない免疫応答を予測する目的で、分娩後由来細胞(PPDC)を、その免疫学的特性について評価した。HLA-DR、HLA-DP、HLA-DQ、CD80、CD86、およびB7-H2の存在について、PPDCをフローサイトメトリーにより分析した。これらのタンパク質は、抗原提示細胞(APC)により発現され、ナイーブCD4+T細胞の直接刺激を必要とするものである(Abbas & Lichtman, CELLULAR AND MOLECULAR IMMUNOLOGY, 5th Ed. (2003) Saunders, Philadelphia, p. 171)。また、HLA-G(Abbas & Lichtman, 2003、前述)、CD178(Coumans, et al., (1999) Journal of Immunological Methods 224, 185-196)、およびPD-L2(Abbas & Lichtman, 2003、前述;Brown, et. al. (2003) The Journal of Immunology 170, 1257-1266)の発現について、細胞株をフローサイトメトリーにより分析した。これらのタンパク質の、胎盤組織に存在する細胞による発現は、子宮内の胎盤組織の免疫特異的な状態を仲介すると考えられている。胎盤組織由来細胞株および臍帯組織由来細胞株がin vivoで免疫応答を引き起こす程度を予測するために、一方向混合リンパ球反応(MLR)により、細胞株を試験した。
【0142】
2%ゼラチン(Sigma;St. Louis, MO)でコーティングしたT75フラスコ(Corning, Corning, NY)中のペニシリン/ストレプトマイシンを含む成長培地において、細胞をコンフルエントまで培養した。
【0143】
リン酸緩衝食塩水(PBS)(Gibco;Carlsbad, CA)で細胞を洗浄し、トリプシン/EDTA(Gibco;Carlsbad, MO)で分離した。細胞を採取し、遠心分離し、3%(v/v)を含むPBSに、1×107個/mLの細胞濃度で再懸濁した。業者の説明書にしたがって、細胞懸濁液100μLに抗体(表10)を加え、4℃、30分間、暗所で、インキュベーションした。インキュベーション後、細胞をPBSで洗浄し、遠心分離して、非結合抗体を取り除いた。PBS 500μLに細胞を再懸濁し、FACSCalibur装置(Becton Dickinson;San Jose, CA)を用いて、フローサイトメトリーにより分析した。
【表11】
【0144】
細胞株Aとラベルした10代継代の臍帯組織由来細胞の凍結保存バイアルを、ドライアイス上からCTBR(Senneville;Quebec)に送り、CTBR SOP No. CAC-031を用いて混合リンパ球反応を実施した。複数の男女のボランティアドナーから、末梢血単核球(PBMC)を収集した。マイトマイシンCにより、刺激(ドナー)同種PBMC、自家PBMC、および分娩後細胞株を処理した。自家およびマイトマイシンC処理した刺激細胞を、応答(レシピエント)PBMCに加え、4日間培養した。インキュベーション後、各サンプルに[3H]チミジンを加え、18時間培養した。細胞を採取した後、放射性標識されたDNAを抽出し、シンチレーションカウンターを用いて、[3H]チミジン取込みを測定した。
【0145】
レシーバーおよびマイトマイシンC処理した同種ドナーの平均増殖を、レシーバーの基準増殖で割ることにより、同種ドナーに対する刺激指数(SIAD)を計算した。レシーバーおよびマイトマイシンC処理した分娩後細胞株の平均増殖を、レシーバーの基準増殖で割ることにより、PPDCの刺激指数を計算した。
【0146】
6人のヒトボランティア血液ドナーをスクリーニングして、他の5つの血液ドナーとの混合リンパ球反応において、ロバストな増殖応答を示すだろう単一の同種ドナーを同定した。このドナーを、同種陽性対照ドナーとして選択した。残りの5つの血液ドナーを、レシピエントとして選択した。同種陽性対照ドナーおよび胎盤細胞株をマイトマイシンC処理し、5つの同種レシーバーそれぞれとの混合リンパ球反応で培養した。プレートあたり3つのレシーバーを有する2つの細胞培養プレートを用いて、反応を3回くり返した(表11)。平均刺激指数は、6.5(プレート1)〜9(プレート2)の範囲であり、同種ドナー陽性対照は、42.75(プレート1)〜70(プレート2)の範囲であった(表12)。
【表12】
【表13】
【0147】
フローサイトメトリーにより分析された臍帯組織由来細胞のヒストグラムは、HLA-DR,DP,DQ、CD80、CD86、およびB7-H2の陰性発現を示し、そのことは、IgG対照と一致した蛍光値により示される。このことは、臍帯細胞株が、CD4+T細胞を直接刺激するのに必要とされる細胞表面分子を欠いているということを示している。フローサイトメトリーにより分析された臍帯組織由来細胞のヒストグラムは、PD-L2の陽性発現を示し、そのことは、IgG対照に対して増加した蛍光値により示されており、また、そのヒストグラムは、CD178およびHLA-Gの陰性発現を示し、そのことは、IgG対照と一致した蛍光値により示されている。
【0148】
臍帯組織由来細胞株により実行された混合リンパ球反応において、平均の刺激指数は6.5〜9の範囲であり、同種陽性対照の刺激指数は、42.75〜70の範囲であった。臍帯組織由来細胞株は、刺激タンパク質HLA-DR、HLA-DP、HLA-DQ、CD80、CD86、およびB7-H2の発現について陰性であり、そのことは、フローサイトメトリーにより測定された。臍帯組織由来細胞株は、免疫調節タンパク質HLA-GおよびCD178の発現については陰性、また、PD-L2の発現については陽性であり、そのことは、フローサイトメトリーにより測定された。同種ドナーPBMCは、HLA-DR,DQ、CD8、CD86、およびB7-H2を発現している抗原提示細胞を含んでおり、ナイーブCD4+T細胞の刺激を可能にする。胎盤組織由来細胞および臍帯組織由来細胞上のナイーブCD4+T細胞の直接刺激に必要とされる抗原提示細胞表面分子の不存在、および、免疫調節タンパク質PD-L2の存在によって、MLRにおける、これらの細胞により示された異系対照と比べて低い刺激指数が、説明されるかもしれない。
【0149】
〔実施例7:臍帯組織由来細胞による栄養因子の分泌〕
選択された栄養因子についての臍帯組織由来細胞からの分泌を測定した。検出のために選択された因子には、(1)血管新生活性を有することが知られている因子[たとえば、肝細胞成長因子(HGF)(Rosen et al. (1997) Ciba Found. Symp. 212:215-26)、単球走化タンパク質1(MCP-1)(Salcedo et al. (2000) Blood 96;34-40)、インターロイキン−8(IL-8)(Li et al. (2003) J. Immunol. 170:3369-76)、ケラチノサイト成長因子(KGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、血管内皮成長因子(VEGF)(Hughes et al. (2004) Ann. Thorac. Surg. 77:812-8)、マトリクスメタロプロテアーゼ1(TIMP1)、アンジオポエチン2(ANG2)、血小板由来成長因子(PDGF-bb)、トロンボポエチン(TPO)、ヘパリン結合上皮成長因子(HB-EGF)、ストロマ細胞由来因子1α(SDF-1alpha)]、(2)神経栄養/神経保護活性を有することが知られている因子[たとえば、脳由来神経栄養因子(BDNF)(Cheng et al. (2003) Dev. Biol. 258;319-33)、インターロイキン−6(IL-6)、顆粒球走化性タンパク質2(GCP-2)、形質転換成長因子β2(TGFbeta2)]、および(3)ケモカイン活性を有することが知られている因子[たとえば、マクロファージ炎症性タンパク質1α(MIP1a)、マクロファージ炎症性タンパク質1β(MIP1b)、単球走化性タンパク質1(MCP-1)、Rantes(regulated on activation, normal T cell expressed and secreted)、I309、胸腺および活性化制御ケモカイン(TARC)、 Eotaxin、マクロファージ由来ケモカイン(MDC)、IL-8]が含まれる。
【0150】
ヒト新生児包皮に由来するヒト線維芽細胞と同様に、臍帯に由来する細胞を、ゼラチンコーティングしたT75フラスコ上のペニシリン/ストレプトマイシンを含む成長培地で培養した。11代継代で細胞を凍結保存し、液体窒素中で保存した。細胞の解凍後、成長培地を細胞に加え、その後、15mL遠心分離チューブに移し、150×g、5分間、細胞を遠心分離した。上澄みを捨てた。成長培地4mLに細胞ペレットを再懸濁し、細胞をカウントした。成長培地15mLを含む75cm2フラスコあたり375,000細胞で、細胞を蒔き、24時間培養した。8時間にわたって、血清を含まない培地[DMEM-low glucose (Gibco)、0.1%(w/v)ウシ血清アルブミン(Sigma)、ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco)]に、培地を変えた。血清を含まない馴化培地を、14,000×g、5分間、遠心分離して、インキュベーションの終了時に収集し、−20℃で保管した。各フラスコにおける細胞の数を推定するために、細胞をPBSで洗浄し、トリプシン/EDTA 2mLを用いて分離した。成長培地 8mLを加えることにより、トリプシン活性を抑制した。150×g、5分間、細胞を遠心分離した。上澄みを取り除き、成長培地 1mLに細胞を再懸濁した。ヘモサイトメーターを用いて、細胞数を推定した。
【0151】
5%二酸化炭素および大気酸素中、37℃で、細胞を成長させた。また、5%酸素またはβ−メルカプトエタノール(BME)中で、胎盤由来細胞(バッチ101503)を成長させた。各細胞サンプルにより産生されたMCP-1、IL-6、VEGF、SDF-1alpha、GCP-2、 IL-8、およびTGF-beta2の量を、ELISA解析(R&D Systems;Minneapolis, MN)により測定した。業者の説明書にしたがって、すべての解析を実行した。
【0152】
SEARCHLIGHT(登録商標)プロテオームアレイ(Pierce Biotechnology Inc.)を用いて、ケモカイン(MIP1a、MIP1b、MCP-1、Rantes、I309、TARC 、Eotaxin、MDC、IL8)、BDNF、および血管新生因子(HGF、KGF、bFGF、VEGF、TIMP1、ANG2、PDGF-bb、TPO、HB-EGF)を測定した。プロテオームアレイは、ウェルあたり2〜16個のタンパク質を量的測定するためのマルチプレックスサンドイッチELISAである。そのアレイは、96ウェルプレートの各ウェルに、4〜16個の異なる捕捉抗体を2×2、3×3、または4×4のパターンでスポッティングすることにより作られる。サンドイッチELISAの後、プレート全体を画像化して、プレートの各ウェル内の各スポットに生成された化学蛍光シグナルを取り込む。各スポットにおいて生成されたシグナルの量は、もともとの標準またはサンプルにおける標的タンパク質の量に比例する。
【0153】
MCP-1およびIL-6は、臍帯組織由来細胞および上皮線維芽細胞によって分泌された(表13)。SDF-1alphaは、線維芽細胞によって分泌された。GCP-2およびIL-8は、BMEまたは5%O2の存在下で培養された臍帯組織由来細胞によって分泌された。GCP-2は、ヒト線維芽細胞によっても分泌された。TGF-beta2は、ELISA解析では検出できなかった。
【表14】
【0154】
TIMP1、TPO、KGF、HGF、FGF、HBEGF、BDNF、MIP1b、MCP1、RANTES、I309、TARC、MDC、およびIL-8は、臍帯組織由来細胞から分泌された(表14および表15)。Ang2、VEGF、またはPDGF-bbは、まったく検出されなかった。
【表15】
【表16】
【0155】
臍帯組織由来細胞は、多くの栄養因子を分泌した。これらの成長因子のいくつか(たとえば、HGF、bFGF、MCP-1およびIL-8)は、血管形成において重要な役割を果たしている。他の栄養因子(たとえば、BDNFおよびIL-6)は、神経再建において、重要な役割を有している。
【0156】
〔実施例8:HMG-CoAリダクターゼ阻害剤による、増殖したヒト臍帯組織由来細胞上のIFN-gammaにより誘導されたHLA-DR,DP,DQの発現の阻害〕
培養増殖したヒト臍帯組織由来細胞(022803 P4)を6ウェル組織培養プレートに蒔き、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)−低グルコース、15%ウシ胎仔血清(FBS)、ペニシリン/ストレプトマイシン(P/S)、β−メルカプトエタノール(BME)中で、およそ70%コンフルエントまで培養した。その後、各HMG-CoAリダクターゼ阻害剤10μM[DMSOに10mMストック試薬として処方したシンバスタチン酸(Alexis Biochemicals;Lausen, Switzerland)]、またはDMSOビヒクル−0.1%(Sigma;St. Louis, MO)を含む培地で、細胞を処理し、一晩インキュベーションした。培地を吸引により除去し、rhIFN-gamma 500ユニット/mL(BD Pharmingen;Franklin Lakes, NJ)および各HMG-CoAリダクターゼ阻害剤10μMを含む培地で置換し、3日間インキュベーションした。3日目に、細胞をトリプシンにより採取した。
【0157】
採取された細胞をPBSで1回洗浄し、3%FBSを含むPBS 100μLに、FITC標識したHLA-DR,DP,DQ(BD Biosciences;Franklin Lakes, NJ)またはFITC標識したIgG抗体(BD Biosciences;Franklin Lakes, NJ)20μLを含むものに再懸濁し、1時間インキュベーションした。細胞をPBSで1回洗浄し、PBS 500μLに再懸濁し、FACSCaliburフローサイトメーター(BS Biosciences;Franklin Lakes, NJ)で分析した。
【表17】
【0158】
表16に示すとおり、炎症性サイトカインIFN-gammaとともにインキュベーションした未処理のヒト臍帯組織由来細胞、および0.1%DMSOビヒクル対照のヒト臍帯組織由来細胞は、HLA-DR,DP,DQ発現の増加を示しており、フローサイトメトリーにより検出された増加した蛍光が観察された。HMG-CoAリダクターゼ阻害剤により事前処理され、次いでIFN-gammaとともにインキュベーションされたヒト臍帯組織由来細胞は、未処理およびビヒクル対照と同様のHLA-DR,DP,DQ発現を示した。
【0159】
このデータは、HMG-CoAリダクターゼは、ヒト臍帯組織由来細胞における炎症性サイトカイン介在性のHLA-DR,DP,DQの発現を阻害するということを示している。
【0160】
〔実施例9:薬物により誘導された急性腎不全のげっ歯類モデルにおける、ヒト臍帯組織由来細胞の腎保護能力〕
58匹のメスC57BL/6JマウスをThe Jackson Laboratory(Bar Harbor, Maine)から購入した。表17は、本研究で実行された実験計画を示している。
【表18】
【0161】
10mg/kgの濃度でシス−ジアミンジクロロ白金(シスプラチン)(Sigma Co. Cat# P4394)を2回皮下注射することにより、マウスに腎不全を誘導し、その後、最初のシスプラチン注射後24〜48時間で、細胞、またはCa2+/Mg2+を含まないハンクス平衡塩類溶液(HBSS)(Invitrogen;カタログ番号14025、ロット番号1300696)を注入した。図1は、本研究の実行のための一連の出来事を示している。
【0162】
10代継代のhUTC(ロット番号120304)を単離し増殖し、−120℃未満(液体窒素の蒸気相)で凍結保存した。業者の説明書にしたがって、hMSC(Cambrex (Lonza), Walkersville, MD;カタログ番号PT-2501、ロット番号4F1560)を6代継代まで増殖し、その後凍結保存した。マウスMSC(mMSC)を新たに単離し増殖した。簡単に説明すると、C57BL/6Jマウスの骨髄を、脛骨および大腿骨から、25ゲージ針を用いて押し出した。10%胎仔血清が補われたイスコブ変法ダルベッコ培地において、1〜2×106細胞/cm2で、骨髄を培養した。非付着細胞を取り除き、播種後48〜72時間で、培地を交換し、その後、4日ごとに交換した。組織培養フラスコがコンフルエントに近づいたとき、培養フラスコからmMSCを酵素的に取り除いた。2代継代後、mMSCを採取し、移植のために準備した。hUTCおよびhMSCは、正常な核型を示し、病原およびマイコプラズマによる汚染はなかった。
【0163】
細胞注入時に、hUTCおよびhMSCを37℃で解凍し、HBSSにより2回洗浄した。ヘモサイトメーターを用いて、細胞をカウントし、トリパンブルー染料排出により、細胞生存力を決定した。0.2×106細胞/200μL HBSSまたは0.4×106細胞/200μL HBSSの濃度で、細胞を再構成した。細胞を含むHBSSまたは(陰性対照として)HBSS単独を、27ゲージ針を取り付けた1mLシリンジを用いて、前顔面静脈に注入した。
【0164】
動物生存率を決定するために、細胞移植後7日目の生存動物の数を、処理群における最初の動物数で割った。表18および図2に示すとおり、HBSSビヒクル処理では、移植後7日目で生存している動物は、43%しかいなかった。しかしながら、mMSCおよびhMSC処理では、ともに90%の動物が生存した。hUTCの低用量(0.2×106細胞)注射では、7日目に70%の動物が生存しており、hUTCの高用量(0.4×106細胞)処理では、50%の動物が生存していた。
【表19】
【0165】
シスプラチン注射(1日目)および細胞移植後3日目、5日目、7日目に、尾静脈から血液サンプル(50μL)を収集した。血液サンプルから血清を調製し、分析の時まで、EDTA処理したチューブに入れ−80℃で保管した。血液サンプリングの前一晩、すべての動物から食餌を取り除いた。COBASミラ化学分析器(COBAS Mira Chemical Analyzer)(Roche;Switzerland)を用いて、血中尿素窒素(BUN)測定を実施した。Advia 1650化学分析器(Advia 1650 Chemical Analyzer)(Bayer;Pittsburgh, PA)を用いて、血清クレアチニン(Scr)を分析した。
【0166】
傷害の前では、HBSS、mMSC、hMSC、低用量hUTC、および高用量hUTCすべてが、通常のBUN値を示し、それぞれ16.89mg/dL、17.19mg/dL、17.21mg/dL、17.47mg/dL、17.33mg/dLであった(表19、図3)。しかしながら、5日目に、すべての処理群が、上昇したBUNレベルを示していた。HBSS処理では、平均BUNは64.37mg/dLであり、mMSC処理では58.96mg/dLであった。しかしながら、hMSCおよび低用量hUTC処理は、ともに低下したBUN値であり、それぞれ40.44mg/dLおよび51.32mg/dLであり、また、高用量hUTC処理は、増加したBUNを示し、97.28mg/dLであった。ビヒクルと処理群との間に、統計的な差異は見られなかった。これは、BUN測定で一般的に見られる変動のためである。7日目の測定では、同様の傾向のデータを示した。しかしながら、ビヒクル群のBUN値において、劇的な低下が見られた。このことが、移植後7日目の腎機能に対する細胞処理の効果を正確に解析することを困難にしている。
【表20−1】
【表20−2】
【0167】
表20および図4は、5日目の血清サンプルのSCr測定を示している。HBSSおよびmMRS処理は、それぞれ0.74mg/dLおよび0.66mg/dLの平均クレアチニン値であった。SCrの統計的に有意な低下は、hMSCまたは低用量hUTC処理後に観察された(P<0.03)。hMSC処理は、平均SCr値0.47mg/dLであり、低用量hUTC処理は、平均SCr値0.57mg/dLであった。
【表21】
【0168】
細胞移植後7日目に、処理群あたり2匹のマウスを屠殺し、食塩水による経心腔灌流、および、その後の4%パラホルムアルデヒドの灌流および浸漬により、組織を固定した。腎臓をマウスから取り除き、組織学のために加工した。その後、H&E染色した切片を組織学的損傷について評価した。2名の訓練された病理学者が盲検し、腎尿細管変性の程度をスコア化した。
【0169】
HBSS、hMSC、および低用量hUTC処理された動物由来の組織学切片において、尿細管壊死を定量的に測定した。尿細管変性を、1〜4の範囲のスケールでスコア化した(1:最小損傷、2:軽度損傷、3:中程度損傷、4:重度損傷)。表21および図5に示すとおり、ビヒクルおよびhMSC処理ともに軽度の尿細管変性であり、平均傷害スコアは2.5であった。しかしながら、低用量hUTC処理は、最小尿細管損傷を示し、平均傷害スコアは1.9であった。このことは、hUTCの腎保護能力を示している。
【表22】
【0170】
データは、hUTCおよびhMSCが、シスプラチンにより誘導された腎毒性から腎臓を保護することを示している。本研究は、非常に高い濃度のシスプラチンを利用しており、そのため重度の腎毒性のモデルを示している。今後の研究では、より低い致死量以下のシスプラチンを利用するつもりである。この低用量の腎毒性モデルは、ヒトで観察される障害の種類をより示すことだろう。さらに、hUTCの静脈内投与を、シスプラチン注入後少なくとも24時間後に行う。このことは、シスプラチンの血液濃度が非常に低く、hUTCの陰性効果があまり発揮されない見込みであることを確認するだろう。
【0171】
傷害のあるマウスを0.2×106個のhUTCで処理することにより、ビヒクル処理した動物と比較して、生存率が増加し、SCrが23%減少し、尿細管変性が減少した。これらの顕著な発見は、hUTCが、薬物により誘導された急性腎不全から腎臓を保護するかもしれないということを示している。
【0172】
〔実施例10:シスプラチンにより誘導された腎毒性のラットモデルにおける、ヒト臍帯組織由来細胞の腎保護効果の評価〕
腎毒性を39匹のオスSprague Dawleyラットで誘導した。シス−ジアミンジクロロ白金(シスプラチン)(Sigma Co.;カタログ番号P4394、ロット番号076K1697)を、細胞投与前24時間で、腹腔内(IP)注射により投与した(6mg/kg)。動物に5mL/kgの容量で投薬し、投薬レベルは、直近に収集した肉体重量に基づいた。
【0173】
10代継代のhUTC(ロット番号Q091506)を単離し増殖し、−120℃(液体窒素気相)で凍結保存した。hUTCは正常な核型を示し、病原およびマイコプラズマによる汚染はなかった。
【0174】
細胞移植時点で、hUTCを37℃で解凍し、HBSSで2回洗浄し、適当な濃度でHBSSに再懸濁した。シスプラチン投与後24時間、1日目に、ビヒクル[Ca2+/Mg2+を含まないハンクス平衡塩類溶液(HBSS)(Invitrogen;カタログ番号14025、ロット番号1226569)]、または、hUTCを含むHBSS 2mL容量により、約2分の注入速度の静脈内(IV)注入によって、動物に1回投与した。表22の処理群割り当てを参照のこと。群1はビヒクルのみを受け、群2〜4は、動物あたり0.3×106細胞、1×106細胞、および3×106細胞濃度でhUTCを受けた。投薬時に、動物は約7〜8週齢であった。
【表23】
【0175】
細胞またはビヒクル処理前(1日目)、および、シスプラチン処理後4日後、6日後、8日後に、尾静脈の穿刺により、血液サンプルを収集した。血液サンプルを血清について加工し、その後BUNおよびSCrを、Olympus AU640化学免疫分析器(Olympus AU640 chemistry immuno analyzer)を用いて測定した。
【0176】
1日目、4日目、6日目、および8日目に、BUNおよびSCrについて、血液サンプルを評価した(表23、図6、図7)。すべての動物にシスプラチンが投与され(群1〜4)、1〜4日目のすべての群において、平均BUNおよびSCrについて著しい増加のある同様の基準レベルを示した。すべての処理群が、BUNおよびSCrレベルに著しい増加を示しており、処理群平均レベルは、1日目の12〜13mg/dL(Bun)および0.3mg/dL(SCr)から、4日目の62〜68mg/dL(Bun)および1.8〜2.2mg/dL(SCr)までの範囲であった。しかしながら、ビヒクル対照動物(群1)は、6日目に低下した平均BUNおよびSCrを示し(それぞれ、34±10.4mg/dLおよび0.8±0.2mg/dL)、さらに病状の進んだ8日目に、基準レベルに達した(それぞれ、19±4.1mg/dLおよび0.5±0.1mg/dL)。このことは、腎毒性が一時的であり、8日目の基準値に近いBUNおよびSCrレベルへと、6日目に逆転しはじめたということを示唆している。同様に、hUTCを投与された動物(群2〜4)についてのBUNおよびSCrレベルは、ビヒクル対照動物(群1)のものと同程度またはわずかに低いものであった。6日目および8日目における、0.3×106細胞/動物(群2)および1×106細胞/動物(群3)の用量レベルでの細胞処理は、ほとんど効果がないことがわかった。しかしながら、3×106細胞/動物(群4)の用量レベルでのhUTCによる処理では、6日目の平均BUNおよびSCr値に、顕著な低下が生じた(それぞれ、20±6.1mg/dLおよび0.5±0.12mg/dL)。
【表24−1】
【表24−2】
【0177】
細胞処理前、ならびに4日目、6日目、および8日目(剖検前)に、代謝ケージに動物を置き、約8〜10時間後に尿サンプルを氷上に収集した。尿容量を測定し、尿収集の全体時間を記録した。その後、尿サンプルをOlympus AU640化学免疫分析器を用いて、クレアチニンについて分析した。クレアチニンクリアランス(CrCl)を、以下の方程式を用いて決定した。CrCl=尿クレアチニン(mg/dL)×尿容量(mL/時)/[血清クレアチニン(mg/dL)×体重(kg)]。
【0178】
1日目、4日目、6日目、および8日目に、尿サンプルをSCrについて評価し、CrClを計算した(表24、図8)。すべての動物にシスプラチンを投与し、1〜4日目のすべての群において、平均CrCl値について劇的な減少のある同様の基準レベルを示した。すべての処理群は、CrClに著しい増加を示し、平均レベルは、1日目の2.304〜2.595mL/分から4日目の0.381〜0.459mL/分の範囲であった。ビヒクル対照動物は、6日目にCrClの増加を示し(1.290mL/分)、8日目にはさらに増加して、基準レベル(1.802mL/分)に達した。このことは、CrClレベルについては、腎機能が6日目に改善しはじめ、8日目に基準に近づくという腎毒性障害の一過性の性質を確認している。同様に、hUTCを投与した動物(群2〜4)についてのCrClは、ビヒクル対照動物のものと同等であるか、わずかに低かった。3×106細胞/動物(群4)の用量レベルでのhUTCによる処理は、6日目で、ビヒクル対照と比べて改善されたCrClを示した(1.792mL/対ビヒクル対照1.290mL/分)。
【表25】
【0179】
シスプラチンにより誘導された腎毒性のラットモデルにおいて、hUTCの腎保護効果が説明されている。3.6e6個のhUTCの投与により、ビヒクル対照処理と比較して、BUN、SCrにおける中程度の低下、およびCrClにおける増加があった。シスプラチンは、悪性腫瘍の化学療法において用いられる最も一般的な抗腫瘍剤の1つである。したがって、hUTCの投与が、腎毒性障害から腎臓を保護し、究極的には、化学療法を受けているがん患者の転帰および生活の質を改善する。さらに、hUTC処理は、急性尿細管壊死の重症度を低下させるかもしれないし、他の医学的介入(たとえば、心臓血管手術後に見られるものや、抗菌薬、ヨウ化造影剤、麻酔薬、免疫抑制剤、および鎮痛剤を受けているうちのいくつかの患者)に関係するARFさえも予防するかもしれない。
【0180】
〔実施例11:閉塞性腎疾患のげっ歯類モデルにおけるヒト臍帯組織由来細胞の腎保護効果の評価〕
この予言的な実施例の目的は、腎傷害の片側性尿管閉塞(UUO)モデルにおけるヒト臍帯組織由来細胞(hUTC)の腎保護効果を評価することである。UUOモデルは、短期間の閉塞性腎疾患および尿細管間質性線維症についての有効なモデルである。腎保護効果を評価するために、細胞移植後12日目の傷害のあるマウスにおいて、細胞生体内分布、血中尿素窒素(BUN)、血清クレアチニン(SCr)、および組織学的傷害を評定するだろう。
【0181】
メスC57BL/6Jマウス(The Jackson Laboratory;Bar Harbor, Maine)を、1〜3%イソフルオランで麻酔する。各動物の腹部を剃毛し、70%アルコール、次いでベタジンで消毒する。中線の腹部切開を行う。腹壁を開き、腸を腰の上に移動し、ぬらしたガーゼで保護する。左の腎臓を位置づけ、尿管を脂肪がないように切除する。2つの8−0非吸収性の結び目を、尿管上に作る。その後、腸を腹部に戻し、あたたかい食塩水1cm3を腹膜腔内に置く。4−0Dexonで筋肉層を閉じ、ステープルで皮膚を閉じる。イソフランを中断し、加温パッド上で、マウスが歩行するまで100%酸素で回復させる。
【0182】
動物が手術から回復直後に、hUTCを37℃で解凍し、Ca2+/Mg2+を含まないハンクス平衡塩類溶液(HBSS)中で2回洗浄し、HBSS 1mLに再懸濁する。その後、ヘモサイトメーターを用いて、細胞をカウントし、トリパンブルー染料排出により、細胞生存力を決定する。生存細胞を1.0×106細胞/mLの濃度で含むHBSSに、細胞を再構成する。その後、200μLのHBSSに懸濁した細胞を、27ゲージの針を取り付けた1mLシリンジを用いて、尾静脈注入により移植する。
【0183】
すべての動物を、細胞移植後12日目に、二酸化炭素窒息により屠殺する。腎臓、肺、脳、および心臓を、各動物から取り除く。各腎臓の半分をその後、組織学的分析のために10%中性緩衝ホルマリンに固定する。残り半分の腎臓および他の全臓器を、液体窒素で瞬間凍結する。その後、すべての凍結臓器を、7mm廃棄可能ローターステータージェネレータープローブ(7mm disposable rotor stator generator probe)を取り付けたOmni THホモジェナイザー(Omni International, Inc.;Marietta, GA)を用いて、ホモジェナイズする。その後、RNeasyプラスミニキット(RNeasy Plus Mini Kit)(Qiagen;Valencia, CA)を用いて、全RNAを抽出する。RNAをDEPC処理水 50μLに溶出し、NanoDrop1000(NanoDrop Technologies;Wilmington, DE)を用いて定量する。RNAをランダムヘキサマーおよびTaqman逆転写試薬(Applied Biosystems;Foster City, CA)を用いて逆転写する。ヒト特異的β2マクログロブリンプライマープローブ(カタログ番号4310886E;Applied Biosystems;Foster City, CA)を用いて、cDNAサンプルに対してPCR反応を実行する。PCRは、ABI Prism 7900 HT配列検出システム(Applied Biosystems;Foster City, CA)を用いて行う。
【0184】
剖検時に、全血を収集し、凝血させ、微遠心チューブに入れ、2500rpmで15分間遠心分離して、血清と他の血液成分とを分離する。その後、血清サンプルをVetAce化学分析器(VetAce Chemistry Analyzer)(Alpha Wassermann Diagnostic Technologies, LLC;West Caldwell, NJ)を用いて分析する。
【0185】
固定した腎臓組織をパラフィンワックスに埋め込み、切片化し(5μm厚)、ヘマトキシリン/エオシン(H&E)およびマッソンのトリクロームで染色する。その後、尿細管傷害(尿細管壊死、拡張、間葉細胞浸潤)および間葉系線維症(コラーゲン沈着)について、1〜4の範囲のスコア化指標を用いて、切片をスコア化する(1:最小、2:軽度、3:中程度、4:重度)。評価者は処理群割り当てについて盲検である。
【0186】
ヒト臍帯組織由来細胞が、組織学的評価により評価された尿細管傷害の全体の内容を低下させることが期待される。
【0187】
〔実施例12:慢性腎臓疾患の5/6残存モデルにおける局所的ヒト臍帯組織由来細胞の腎保護効果の評価〕
この予言的な実施例の目的は、慢性腎疾患のげっ歯類モデルにおけるhUTCの局所的な被膜下移植の腎保護効果を決定することである。
【0188】
これらの実験のために、最初の体重が200〜250gのSDラット(n=30;8週齢、オス)を用いる。ケタミン塩酸塩とキラジン塩酸塩の4:1溶液の腹腔内注射(5mg/kg)により、ラットを麻酔する。2段階腎切除法により、腎不全を誘導する。左の腎臓の上部および下部(1つの腎臓の2/3)を、腎被膜を保存しながら、絹糸結紮を用いて切除する。10日後、右の腎臓を取り除き、全体の腎臓量の約1/6を残す(5/6腎切除)。メチルセルロースによりやさしく圧力をかけて、出血を止め、腹膜および皮膚を、再吸収性4−0Vicryl縫合糸により、層を閉じる。
【0189】
5/6腎切除法後5週間目に、腎不全を有するラットの残存組織の被膜下に、hUTCを、フィブリンゲルマトリクスを用いて移植する。hUTC(60×106細胞)を含むフィブリノゲン溶液(1.0mL)、および、トロンビン溶液(1.0mL)を用意する。ラットを麻酔し、残りの腎臓を中線回復により曝露する。フィブリンおよびトロンビン溶液を同時に注射するよう設計されたシリンジにより、トロンビンおよび細胞を含むフィブリノゲン溶液の1:1(容量比率)混合物0.1mLを、18ゲージ皮下注射針で被膜下空間へ注射する。対照として、5/6腎摘出術のラットにフィブリンマトリクスのみを注入する。
【0190】
血清サンプルを0日目(5/6腎切除の前)、1日目(細胞移植の日)、7日目、14日目、21日目、28日目、および35日目(剖検の日)に入手する。VetAce化学分析器(Alpha Wassermann Diagnostic Technologies, LLC;West Caldwell, NJ)を用いて、血中尿素窒素およびクレアチニンを定量する。
【0191】
細胞移植後5週目に、二酸化炭素窒息により、すべての群の動物を屠殺する。組織学および転写分析のために、腎臓を取り除く。RT−PCR分析のために、各腎臓の半分を液体窒素で瞬間凍結する。研究コーディネーターにより、凍結腎臓組織からメッセンジャーRNAを単離し、線維症促進遺伝子および炎症遺伝子を含む低密度マイクロアレイカードを利用して、転写分析にさらす。下流の組織学的分析のために、残りの腎臓切片を10%中性緩衝ホルマリンで固定する。
【0192】
組織学のために固定された腎臓組織を組織学的に加工し、切片化し(5μm厚)、およびヘマトキシリン/エオシンで染色する。尿細管傷害を評価し、動物用病理学により、スコア化する。
【0193】
本研究において、フィブリンに埋め込まれた6.0e6hUTCの被膜下移植は、5/6腎臓切除げっ歯類の腎臓における腎傷害の進行を遅らせることが期待される。対照動物と比較して、hUTC処理動物における血清クレアチニンおよび血中尿素窒素値はともに有意に減少することが期待される。さらに、組織学傷害評価は、治療された動物における尿細管壊死および尿細管拡張の低下を明らかにするだろう。また、hUTC処理したげっ歯類の腎臓において、対照群の腎臓に比べて、炎症性遺伝子発現の全体の程度が低下していることが観察されることも期待される。
【0194】
〔実施の態様〕
本願の実施態様は、以下のとおりである。
(1)少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するための方法において、
前記疾患または損傷を治療するのに有効な量で、ヒト臍帯組織から得られた細胞を、前記患者に投与することを含み、
前記臍帯組織が、実質的に血液を含まず、
前記細胞が、
培養において自己再生および増殖が可能であり、分化する能力を有し、
成長のためにL−バリンを要求し、
少なくとも約5%の酸素中で成長することができ、
CD117またはHLA-DRを産生せず、
alpha smooth muscle actinを発現し、
ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞と比べて、増加したレベルのoxidized low density lipoprotein receptor 1、interleukin 8、またはreticulon 1を発現する、方法。
(2)実施態様(1)に記載の方法において、
前記細胞が、oxidized low density lipoprotein receptor 1、reticulon、chemokine receptor ligand 3、および/またはgranulocyte chemotactic protein 2を発現する、方法。
(3)実施態様(1)に記載の方法において、
前記細胞が、CD10、CD13、CD44、CD73、およびCD90を発現する、方法。
(4)実施態様(1)に記載の方法において、
前記細胞が、注射または注入により投与される、方法。
(5)実施態様(1)に記載の方法において、
前記細胞が、植え込み可能な装置内にカプセル化されて投与される、方法。
【0195】
(6)実施態様(1)に記載の方法において、
前記細胞が、前記細胞を含むマトリクスの植え込みにより投与される、方法。
(7)実施態様(1)に記載の方法において、
前記細胞が、少なくとも1つの他の細胞型とともに投与される、方法。
(8)実施態様(7)に記載の方法において、
前記少なくとも1つの他の細胞型が、ヒト臍帯組織から得られた前記細胞と同時に、該細胞の前に、または該細胞の後に投与される、方法。
(9)実施態様(1)に記載の方法において、
前記細胞が、少なくとも1つの薬剤とともに投与される、方法。
(10)実施態様(9)に記載の方法において、
前記少なくとも1つの薬剤が、ヒト臍帯組織から得られた前記細胞の投与と同時に、該細胞の投与前に、または該細胞の投与後に投与される、方法。
【0196】
(11)実施態様(1)に記載の方法において、
前記細胞が、前記患者の前記腎臓に対して栄養効果を発揮する、方法。
(12)実施態様(1)に記載の方法において、
前記腎臓に対する前記損傷が、年齢、外傷、毒物曝露、薬物曝露、放射線曝露、酸化、免疫複合体沈着、または移植片拒絶により引き起こされる、方法。
(13)少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するための医薬用組成物において、
医薬用に許容可能なキャリアと、
前記疾患または傷害を治療するのに有効な量の、ヒト臍帯組織から得られた細胞と、
を含み、
前記臍帯組織が、実質的に血液を含まず、
前記細胞が、
培養において自己再生および増殖が可能であり、分化する能力を有し、
成長のためにL−バリンを要求し、
少なくとも約5%の酸素中で成長することができ、
CD117またはHLA-DRを産生せず、
alpha smooth muscle actinを発現し、
ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞と比べて、増加したレベルのoxidized low density lipoprotein receptor 1、interleukin 8、またはreticulon 1を発現する、医薬用組成物。
(14)実施態様(13)に記載の医薬用組成物において、
前記腎臓に対する損傷が、年齢、外傷、毒物曝露、薬物曝露、放射線曝露、酸化、免疫複合体沈着、または移植片拒絶により引き起こされる、医薬用組成物。
(15)実施態様(13)に記載の医薬用組成物において、
少なくとも1つの他の細胞型をさらに含む、医薬用組成物。
【0197】
(16)実施態様(13)に記載の医薬用組成物において、
少なくとも1つの薬剤をさらに含む、医薬用組成物。
(17)実施態様(13)に記載の医薬用組成物において、
注射または注入による投与用に処方される、医薬用組成物。
(18)実施態様(13)に記載の医薬用組成物において、
前記細胞が、植え込み可能な装置内にカプセル化される、医薬用組成物。
(19)実施態様(13)に記載の医薬用組成物において、
前記細胞が、マトリクス上に蒔かれる、医薬用組成物。
(20)少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するためのキットにおいて、
医薬用に許容可能なキャリアと、
前記疾患または傷害を治療するのに有効な量の、ヒト臍帯組織から得られた細胞であって、
前記臍帯組織が、実質的に血液を含まず、
前記細胞が、
培養において自己再生および増殖が可能であり、分化する能力を有し、
成長のためにL−バリンを要求し、
少なくとも約5%の酸素中で成長することができ、
CD117またはHLA-DRを産生せず、
alpha smooth muscle actinを発現し、
ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞と比べて、増加したレベルのoxidized low density lipoprotein receptor 1、interleukin 8、またはreticulon 1を発現する、細胞と、
少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するための方法で前記キットを使用するための、使用説明書と、
を含む、キット。
【0198】
(21)実施態様(20)に記載のキットにおいて、
前記細胞を培養するための、少なくとも1つの試薬および使用説明書をさらに含む、キット。
(22)実施態様(20)に記載のキットにおいて、
少なくとも1つの他の細胞型の集団をさらに含む、キット。
(23)実施態様(20)に記載のキットにおいて、
少なくとも1つの薬剤をさらに含む、キット。
(24)少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療する方法において、
ヒト臍帯組織から得られた細胞から準備された可溶性細胞分画、可溶化液、細胞外マトリクス、または馴化培地を含む組成物を、前記患者に投与することを含み、
前記臍帯組織が、実質的に血液を含まず、
前記細胞が、
培養において自己再生および増殖が可能であり、分化する能力を有し、
成長のためにL−バリンを要求し、
少なくとも約5%の酸素中で成長することができ、
CD117またはHLA-DRを産生せず、
alpha smooth muscle actinを発現し、
ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞と比べて、増加したレベルのoxidized low density lipoprotein receptor 1、interleukin 8、またはreticulon 1を発現する、方法。
(25)少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するための医薬用組成物において、
医薬用に許容可能なキャリアと、
ヒト臍帯組織から得られた細胞から準備された可溶化液、細胞外マトリクス、または馴化培地と、
を含み、
前記臍帯組織が、実質的に血液を含まず、
前記細胞が、
培養において自己再生および増殖が可能であり、分化する能力を有し、
成長のためにL−バリンを要求し、
少なくとも約5%の酸素中で成長することができ、
CD117またはHLA-DRを産生せず、
alpha smooth muscle actinを発現し、
ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞と比べて、増加したレベルのoxidized low density lipoprotein receptor 1、interleukin 8、またはreticulon 1を発現する、医薬用組成物。
【図面の簡単な説明】
【0199】
【図1】腎臓の損傷および修復実験の実施についての時系列を示す。
【図2】腎臓損傷の誘導および臍帯組織由来細胞の移植後の、動物生存率を示す。
【図3】マウスにおけるBUN測定を示す。
【図4】血清クレアチニン測定の結果を示す。
【図5】代表的な組織画像を示す。
【図6】ラットにおけるBUN分析を示す。
【図7】ラットにおけるSCr分析を示す。
【図8】ラットにおけるCrCl分析を示す。
【開示の内容】
【0001】
〔関連出願の相互参照〕
本発明は、2007年10月5日に出願された米国仮出願第60/977,775号の利益を主張するものであり、参照により、内容全体を本明細書に組み入れる。
【0002】
〔発明の分野〕
本発明は、概して、細胞に基づいた治療の分野に関する。具体的には、本発明は、疾患または損傷のある腎臓を修復し再建するための、臍帯由来細胞の使用に関する。
【0003】
〔発明の背景〕
特許、公開された出願、技術文献、および学術文献を含むさまざまな刊行物を、本明細書全体を通じて引用する。これらの引用刊行物を、全体的に、また、あらゆる目的のために、参照により本明細書に組み入れる。
【0004】
腎臓疾患は、270億ドルを超える米国の年間費用負担を伴う、重篤でいまだ解決されていない内科的疾患である。現在、4000万人を上回るアメリカ人が、腎臓疾患の危険性があるか腎臓疾患に罹っており、罹患率は年につき6%の驚くべき速度で増加している。したがって、2020年までに、推定4人の人々のうちの1人が、透析または腎臓移植のいずれかを必要とする末期腎疾患(ESRD)に罹るだろう。これらの経済的課題または医学的課題を緩和するために、急性腎不全(ARF)および慢性腎疾患(CKD)の治療のための、新しい転換技術が必要とされている。
【0005】
急性腎不全(急性尿細管壊死とも呼ばれている)は、全入院患者のうちの最大7%が罹る一般的な症候群である(Kelly et al. (2000) Semin. Nephrol. 1:4-19)。ARFとは、老廃物を排出し、尿を濃縮し、電解質を保存するような腎臓の能力が突然失われることである。ARFが最もよく発生するのは、個体が腎毒性剤にさらされた後、または、虚血−再灌流事象の後である。他の原因には、感染、尿路閉塞、ならびにいくつかの血液疾患および自己免疫疾患が含まれる。これらの傷害には、腎臓の機能的要素であるネフロンに対する損傷が含まれる。具体的には、近位尿細管の細胞が壊死になる。その後、尿細管細胞が尿細管基底膜から剥がれ、尿細管内腔を閉塞する。この閉塞により、尿細管内圧が高まって、ネフロンから周囲の腎実質組織への濾液の漏出が引き起こされる。ネフロン機能の低下と腎組織での濾液の蓄積とにより、糸球体濾過速度の低下が起こり、最終的に腎不全が引き起こされる。ARFは重篤で生命をおびやかす疾患であるが、可逆的である。
【0006】
ARFを減少させたり、取り除いたりすることを目的として、さまざまな治療方法が提案されてきた。最も注目すべきことには、高度な透析技術が頻繁に用いられている。それにも関わらず、透析治療を受けたARF患者の致死率は、30〜80%のままであり、このことは、ARFの治療において、透析がほとんど治療価値を有さないことを示している。(Morigi et al. (2004) J. Am. Soc. Nephrol. 15:1794-804)。さらに、薬理学に基づいた治療法(たとえば、ドーパミン、フロセミド、マンニトール、または心房性ナトリウム利尿ペプチドの投与)は、臨床研究では失敗している(Haug et al. (1993) Transplantation 55:766-772;Lieberthal and Nigam (2000) Am. J. Physiol. Renal Physiol. 278: F1-F12)。これらのデータは、ARF治療法を開発するための従来の戦略が不適当であり、新たな論理的根拠が満たされなければならないということを示唆している。
【0007】
ARF後の腎機能の回復は、壊死した尿細管細胞を、機能性の尿細管上皮で置換することに依存している。傷害の後、尿細管は自己修復することが可能であり、新しい近位尿細管細胞を形成して、損なわれた細胞または壊死細胞を置換する。新しい尿細管細胞を生じる前駆細胞の起源は不明である。しかしながら、尿細管再建は、臓器系が急速に再建されることについて説明している幹細胞/TA細胞(transit-amplifying cell)パラダイムに従うことが可能である。
【0008】
最近の研究では、骨髄細胞由来の間葉系幹細胞(MSC)が向腎性であり、薬物および虚血により誘導されたARF後の腎臓の修復を助けることが示されている(Morigi et al. 2004)。また最近、虚血/再灌流傷害を有するラットにつき、1×106細胞のMSCを頸動脈内投与することにより、顕著に腎機能が改善することも示された(Togel et al. (2005) Am. J. Physiol. Renal Physiol. 289(1):F31-42)。さらに、MSCの保護効果は、幹細胞の分化とは独立しており、むしろ腎保護栄養因子の分泌の結果であることが示された。
【0009】
ARFと対照的に、慢性腎疾患(CKD)は、段階的で進行性の腎臓機能の損失である。それは、概して、不可逆的であり、最終的に末期腎疾患をもたらす。米国では、CDKがますます一般的なものになりつつあり、不良な健康転帰および高い医療費と関連している。National Kidney Foundation(腎財団)は、2000万人のアメリカ人がCKDに罹っており、さらに少なくとも2000万人の人々が、CKDに罹る危険性があると推定している。もし未治療のままならば、CKDにより、貧血、電解質平衡異常、骨疾患、心血管疾患、および腎不全から、重大な罹患率および致死率がもたらされうる。
【0010】
進行性腎疾患は、初期の病害(たとえば、高血圧)の組み合わせと、その傷害に対するその後の順応不良な腎臓応答に起因する。このような応答には、前炎症性および前線維症性のサイトカインや成長因子の産生が含まれる。したがって、CKDの進行をゆるやかにするための1つの戦略は、存在する腎臓損傷を修復するか、元に戻すかすることとともに、炎症性応答および線維症性応答を改善することである。成長因子の投与によりCKDの進行をゆるやかにしうることが分かっている。たとえば、片側性尿管閉塞を有するラットでは、bone morphogenic protein-7(BMP-7)が、尿細管萎縮症、間質性炎症、および線維症を防止した。同様に、ループス腎炎のMRL lpr/lprマウスモデルでは、BMP-7投与により、尿細管間質性線維症および糸球体硬化症が減少した。さらに、多種多様な腎臓傷害の動物モデルで、hepatocyte growth factorが、抗炎症性および抗線維症性の効果を有することが示されている。治療展望を示した他の因子には、transforming growth factor-β1、vascular endothelial growth factor(VEGF)、connective tissue growth factor、fibroblast growth factor-2(FGF-2)、Interleukin、tumor necrosis factor、およびmonocyte chemotactic protein-1が含まれる。これらの研究はすべて、成長因子の投与が、CKDの防止処置についての見込みのある治療アプローチであることを示している。
【0011】
医学的処置選択が存在するにも関わらず、致死率は非常に高いままであるし、腎臓疾患の発病は上昇傾向である。したがって、本分野では、改良され、潜在的に病気に効く治療法が必要とされている。今日、腎疾患の進行を止めることを試みるような、または元に戻すことさえも試みるような治療的介入は存在しない。本発明は、非常に腎保護的な展望を示し、また、内因性の腎再建を促進し、壊死した腎細胞を置換し、最終的にESRDを防止するような治療方法を提供する。
【0012】
〔発明の概要〕
1つの態様によると、本発明は、少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するための方法を提供する。たとえば、腎臓に対する疾患は、年齢、外傷、毒物曝露、薬物曝露、放射線曝露、酸化、免疫複合体沈着、または移植片拒絶により引き起こされてもよい。本方法は、疾患または損傷を治療するのに有効な量で、臍帯組織由来細胞を患者に投与することを含む。好ましくは、細胞が得られた臍帯組織は、実質的に血液を含まない。好ましくは、臍帯組織由来細胞は、培養において自己再生および増殖が可能であり、たとえば腎臓表現型へと、分化する能力を有し、成長のためにL−バリンを要求し、少なくとも約5%の酸素中で成長することができ、CD117またはHLA-DRを産生せず、alpha smooth muscle actinを発現し、ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞と比べて、増加したレベルのoxidized low density lipoprotein receptor 1、interleukin 8、またはreticulon 1を発現する。ある実施態様では、臍帯組織由来細胞は、oxidized low density lipoprotein receptor 1、reticulon、chemokine receptor ligand 3、および/またはgranulocyte chemotactic protein 2を発現する。好ましい態様では、臍帯組織由来細胞は、CD10、CD13、CD44、CD73、およびCD90を発現する。ある実施態様では、臍帯組織由来細胞は、患者に投与する前に、in vitroで腎系統細胞へと分化するよう誘導される。臍帯組織由来細胞は、腎臓組織の修復および/または再建を促進するような遺伝子産物を発現するように、遺伝子操作されてもよい。本発明のある実施態様では、臍帯組織由来細胞は、少なくとも1つの他の細胞型ともに投与される。その細胞型は、たとえば、近位尿細管上皮細胞、ヘンレ係蹄上皮細胞、遠位尿細管細胞、集合細管細胞、糸球体壁細胞、糸球体足細胞、メサンギウム細胞、血管内皮細胞、間質細胞、または、他の分化多能性幹細胞もしくは分化万能性幹細胞(multipotent or pluripotent stem cell)であるが、これらに限定されない。少なくとも1つの他の細胞型は、臍帯組織由来細胞と同時に、その前に、またはその後に投与されてもよい。本発明のある態様では、臍帯組織由来細胞は、少なくとも1つの薬剤とともに投与される。薬剤は、臍帯組織由来細胞と同時に、その前に、またはその後に投与されてもよい。本発明のある好ましい態様では、臍帯組織由来細胞は、患者の腎臓に対して栄養効果を発揮する。本発明のある態様によると、細胞は、注射または注入により投与されてもよい。ある実施態様では、細胞は、植え込み可能な装置内にカプセル化されて投与される。本発明のある実施態様では、細胞は、細胞を含む装置を植え込むことにより投与される。
【0013】
別の態様によると、本発明は、少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するための方法であって、臍帯組織由来細胞から準備された可溶性細胞分画、可溶化液、細胞外マトリクス、または馴化培地を含む組成物を、患者に投与することによる、方法を提供する。ここで、臍帯組織は、実質的に血液を含まないものであり、細胞は、培養において自己再生および増殖が可能であり、分化する能力を有し、成長のためにL−バリンを要求し、少なくとも約5%の酸素中で成長することができ、CD117またはHLA-DRを産生せず、alpha smooth muscle actinを発現し、ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞と比べて、増加したレベルのoxidized low density lipoprotein receptor 1、interleukin 8、またはreticulon 1を発現するものである。
【0014】
別の態様によると、本発明は、少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するための医薬用組成物であって、医薬用に許容可能なキャリアと、疾患または傷害を治療するのに有効な量の臍帯組織由来細胞とを含む、医薬組成物を提供する。ここで、臍帯組織は、実質的に血液を含まないものであり、細胞は、培養において自己再生および増殖が可能であり、分化する能力を有し、成長のためにL−バリンを要求し、少なくとも約5%の酸素中で成長することができ、CD117またはHLA-DRを産生せず、alpha smooth muscle actinを発現し、ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞と比べて、増加したレベルのoxidized low density lipoprotein receptor 1、interleukin 8、またはreticulon 1を発現するものである。ある実施態様では、腎臓に対する損傷は、年齢、外傷、毒物曝露、薬物曝露、放射線曝露、酸化、免疫複合体沈着、または移植片拒絶により引き起こされてもよい。ある実施態様では、臍帯組織由来細胞は、組成物の処方の前に、in vitroで腎系統細胞へと分化するよう誘導される。ある実施態様では、臍帯組織由来細胞は、腎臓組織の修復、および/または再建を促進するような遺伝子産物を発現するように遺伝子操作される。ある実施態様では、本医薬組成物には、少なくとも1つの他の細胞型が含まれる。少なくとも1つの他の細胞型は、近位尿細管上皮細胞、ヘンレ係蹄上皮細胞、遠位尿細管細胞、集合細管細胞、糸球体壁細胞、糸球体足細胞、メサンギウム細胞、血管内皮細胞、間質細胞、または、他の分化多能性幹細胞もしくは分化万能性幹細胞であってもよいが、これらに限定されない。ある好ましい実施態様では、本医薬用組成物には、少なくとも1つの薬剤がさらに含まれる。ある好ましい実施態様では、本医薬用組成物は、注射または注入により投与されるよう処方される。本発明の医薬用組成物のある好ましい実施態様では、臍帯組織由来細胞は、植え込み可能な装置内にカプセル化される。本発明の医薬用組成物のある実施態様では、細胞はマトリクス上に蒔かれる。
【0015】
別の態様によると、本発明は、少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するための医薬用組成物であって、医薬用に許容可能なキャリアと、臍帯組織由来細胞から準備された可溶化液、細胞外マトリクス、または馴化培地とを含む、医薬用組成物を提供する。ここで、臍帯組織は、実質的に血液を含まないものであり、細胞は、培養において自己再生および増殖が可能であり、分化する能力を有し、成長のためにL−バリンを要求し、少なくとも約5%の酸素中で成長することができ、CD117またはHLA-DRを産生せず、alpha smooth muscle actinを発現し、ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞と比べて、増加したレベルのoxidized low density lipoprotein receptor 1、interleukin 8、またはreticulon 1を発現するものである。
【0016】
別の実施態様によると、本発明は、少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するためのキットであって、医薬用に許容可能なキャリアと、疾患または傷害を治療するために有効な量の臍帯組織由来細胞と、少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するための方法でキットを使用するための使用説明書とを含む、キットを提供する。ここで、臍帯組織は、実質的に血液を含まないものであり、細胞は、培養において自己再生および増殖が可能であり、分化する能力を有し、成長のためにL−バリンを要求し、少なくとも約5%の酸素中で成長することができ、CD117またはHLA-DRを産生せず、alpha smooth muscle actinを発現し、ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞と比べて、増加したレベルのoxidized low density lipoprotein receptor 1、interleukin 8、またはreticulon 1を発現するものである。ある実施態様では、キットには、細胞を培養するための少なくとも1つの試薬と、そのための使用説明書とが含まれる。ある実施態様では、キットには、少なくとも1つの他の細胞型の集団が含まれる。ある実施態様では、キットには、少なくとも1つの薬剤が含まれる。
【0017】
また、本発明により、少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するためのキットであって、医薬用に許容可能なキャリアと、ヒト臍帯組織から得られた臍帯組織由来細胞から準備された可溶化液、細胞外マトリクス、または馴化培地と、少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するための方法でキットの構成要素を用いるための使用説明書とを含む、キットも提供される。ここで、臍帯組織は、実質的に血液を含まないものであり、細胞は、培養において自己再生および増殖が可能であり、分化する能力を有し、成長のためにL−バリンを要求し、少なくとも約5%の酸素中で成長することができ、CD117またはHLA-DRを産生せず、alpha smooth muscle actinを発現し、ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞と比べて、増加したレベルのoxidized low density lipoprotein receptor 1、interleukin 8、またはreticulon 1を発現するものである。
【0018】
本発明の前述の特徴および利点や、他の特徴および利点は、添付した図面に示されているとおり、以下の本発明の好ましい実施態様のより具体的な説明から明らかだろう。
【0019】
〔図面の簡単な説明〕
図1は、腎臓の損傷および修復実験の実施についての時系列を示している。太い矢印は、採血および剖検があった時間とともに、シスプラチン、細胞、またはHBSSビヒクルのいずれかを注射した時間を示している。
図2は、腎臓損傷の誘導および臍帯組織由来細胞の移植後の、動物生存率を示している。処理群数をx軸上に示す。
図3は、マウスにおけるBUN測定を示している。細胞移植後1日目、3日目、5日目、7日目で血清サンプルを収集し、BUNを測定した。エラーバーはSEMを示す。
図4は、血清クレアチニン測定の結果を示している。エラーバーは標準誤差を示す。(*)P<0.03
図5は、代表的な組織画像を示している。尿細管変性の度合いについて、組織切片をスコア化した。(A)ビヒクル処理群、(B)hUTC(0.2e6細胞用量)処理群。顕著な変性を有する代表的な尿細管。
図6は、ラットにおけるBUN分析を示している。エラーバーは標準誤差を示す。**p値<0.005、*p値<0.03
図7は、ラットにおけるSCr分析を示している。エラーバーは標準誤差を示す。**p値<0.005、*p値<0.03
図8は、ラットにおけるCrCl分析を示している。エラーバーは標準誤差を示す。*p値<0.03
【0020】
〔発明の詳細な説明〕
明細書および特許請求の範囲全体を通じて、本発明の方法および他の態様に関するさまざまな用語が用いられる。このような用語は、他に指定しない限り、本分野における通常の意味が与えられるだろう。他の具体的に定義された用語は、本明細書で示された定義と一致するように解釈されるだろう。
【0021】
本明細書および添付の特許請求の範囲で用いられるとおり、単数形“a”、“an”、および“the”には、他に明確に内容が指定されない限り、複数のものが含まれる。したがって、“a cell(細胞)”への言及には、2つ以上の細胞の組み合わせおよび同様のものが含まれる。
【0022】
本明細書で用いられる用語「約」は、量、期間、および同様のもののような測定可能な値をいう場合に、±20%または±10%、より好ましくは±5%、さらに好ましくは±1%、なおさら好ましくは±0.1%の、特定の値からの変動を包含することを意味する。このような変動は、開示の方法を実行するのに適当である。
【0023】
「由来(する)」とは、細胞が生物材料から入手されており、成長し、培養において増殖し、不死化し、または、さもなければin vitroで操作されていることを示すために用いられる。
【0024】
「単離(された)」とは、天然状態から「ヒトの手によって」変えられたことを意味する。もし分子または組成物が天然に存在するならば、もともとの環境から変更されているか、もしくは、取り除かれているか、またはその両方かの場合、その分子または組成物は「単離されて」いる。
【0025】
用語「発現する」、「発現された」、または核酸分子または遺伝子の「発現」とは、遺伝子産物の生合成、たとえば、ポリペプチドの生合成をいう。
【0026】
「栄養因子」は、細胞の生存、成長、分化、増殖、および/または、成熟を促進する物質、すなわち、細胞の生物活性を高めるよう刺激する物質である。
【0027】
「損傷」とは、腎臓に対する任意の物理的損害、傷害、変性、または外傷をいう。
【0028】
「病理」とは、本分野で適した任意の手段により測定されるような、細胞、組織、臓器、またはシステムの正常状態からの逸脱についての、任意の構造的または機能的な兆候をいう。
【0029】
「疾患」とは、本分野で適した任意の手段により測定されるような、健康状態(すなわち、細胞、組織、臓器、システム、もしくは生物が全体的に機能すること)からの任意の逸脱、すなわち、機能障害である。
【0030】
腎臓の「原発性疾患」は、腎臓に起源し、排他的に腎臓を標的し、実質的に排他的に腎臓を標的し、または実質的に腎臓を標的とするような任意の疾患である。
【0031】
腎臓の「二次疾患」は、腎臓の原発性疾患ではない任意の疾患である。例であって限定するものではないが、このような疾患は、非排他的に腎臓を標的としてもよいし、偶発的に腎臓を標的としてもよいし、腎臓に対して広がってもよいし、さもなければ、腎臓に作用してもよい。この用語は、腎臓の疾患であって、腎臓に対する病理を誘導し、持続し、または強めるような、体の他の臓器もしくはシステムの感染または疾患、あるいは全身性疾患から生じた、腎臓の疾患を包含する。
【0032】
「腎臓の」とは、1つ以上の腎臓のものを意味するか、その腎臓に関連していることを意味する。
【0033】
「治療する」、「治療すること」、または「治療」とは、疾患、損傷、もしくは病状の弱化または改善における成功または成功の兆候をいい、任意の客観的または主観的なパラメータであって、たとえば、軽減すること、鎮静すること、病兆が消失し、または、疾患、損傷、もしくは病状を、患者に対してより耐性があるようにすること、変性速度もしくは衰弱速度をゆるやかにすること、変性の終点をあまり衰弱させないようにすること、患者の肉体的もしくは精神的な平穏を改善すること、あるいは、生存期間を延ばすことといったパラメータが含まれる。病兆の治療または改善は、客観または主観的なパラメータに基づくことができ、それには、健康診断、神経検査、および/または、精神鑑定の結果が含まれる。
【0034】
「有効な量」または「治療的に有効な量」は、本明細書では交換可能に用いられており、化合物、材料、または組成物の量であって、特定の生物学的な結果(たとえば、限定するものではないが、本明細書で開示し、説明し、または例示した生物学的な結果)を達成するのに有効であると本明細書で説明したような量をいう。このような結果には、本分野で適切な任意の方法により決定された、患者における腎臓疾患または腎臓損傷の治療が含まれるが、これらに限定するものではない。
【0035】
「医薬用に許容可能な」とは、薬理学/毒性学の観点から患者に対して許容可能であり、また、組成物、処方、安定性、患者許容性、および生体利用性についての物理的/化学的観点から薬剤師に対して許容可能である特性および/または物質をいう。「医薬用に許容可能なキャリア」とは、活性成分の生物活性の有効性に干渉せず、投与されたホストに対して毒性がない培地をいう。
【0036】
本発明によって、臍帯組織由来細胞を投与することで、損傷のある腎臓を修復し再建することができ、それにより、急性腎不全を元に戻し、腎臓に対する発作に冒された動物の生存を高めるということが見出された。またさらに、このような細胞を動物に投与することで、傷害のある動物における血中尿素窒素および血清クレアチニンの濃度を標準化することが見出された。したがって、本発明は、少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するための方法を特徴とする。概して、本方法は、患者に治療上有効な量の臍帯組織由来細胞を投与することを含み、それにより、病気に冒された腎臓の修復および/または再建が起こる。
【0037】
哺乳動物の臍帯は、満期妊娠または早産妊娠のいずれかの分娩中または分娩直後(たとえば、生後の娩出、または帝王切開後の外科的な除去の後)に回収することができる。細胞の単離の前に、たとえば、任意の適切な培地および緩衝液により洗浄することにより、血液および壊死細胞片を臍帯組織から取り除く。
【0038】
機械的な力または酵素消化により、臍帯組織から細胞を単離することができる。好ましい酵素は、メタロプロテアーゼ、中性プロテアーゼ、および粘液溶解酵素である。たとえば、臍帯組織から細胞を分離するために、コラゲナーゼ、ディスパーゼ、およびヒアルロニダーゼのさまざまな組み合わせを用いることができる。本分野において、このような酵素処理の多くが、さまざまな組織材料から細胞を単離するために知られていることを、当業者は理解するだろう。たとえば、LIBERASE(登録商標)Blendzyme(Roche)シリーズの酵素の組み合わせが、本方法での使用に適している。他の酵素の材料も知られているが、当業者は、このような酵素をそれらの天然材料から直接得ることも可能である。また、当業者は、本発明の細胞を単離する際の有用性について、新規のまたは追加の、酵素または酵素の組み合わせを評価するように設定することもできる。好ましい酵素処理は、0.5時間、1時間、1.5時間、もしくは2時間、またはそれ以上である。
【0039】
単離された細胞を用いて、細胞培養を開始することができる。コーティングしていない滅菌組織培養容器、または、細胞外マトリクスもしくはリガンド[たとえば、ラミニン、コラーゲン(天然コラーゲン、変性コラーゲン、または架橋コラーゲン)、ゼラチン、フィブロネクチン、および他の細胞外マトリクスタンパク質]でコーティングした滅菌組織培養容器のいずれかに、単離された細胞を移す。細胞の持続的な成長を可能にするような任意の培養培地で、臍帯組織由来細胞を培養する。その培地は、たとえば、DMEM(高グルコースまたは低グルコース)、アドバンストDMEM、DMEM/MCDB201、イーグル基礎培地、ハムF10培地(F10)、ハムF12培地(F12)、ヘイフリック培地、イスコブ変法ダルベッコ培地、間葉系幹細胞成長培地(MSCGM)、DMEM/F12、RPMI1640、およびCELL-GRO-FREEであるが、これらに限定されない。培養培地には、1つ以上の成分を補うことができる。その成分は、たとえば、ウシ胎仔血清[好ましくは、約2〜15%(v/v)]、ウマ血清、ヒト血清、コウシ胎仔血清、β−メルカプトエタノール[好ましくは、約0.001%(v/v)]、1つ以上の成長因子[たとえば、血小板由来成長因子(PDGF)、上皮成長因子(EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、インスリン様成長因子1(IGF−1)、白血球阻害因子(LIF)、およびエリスロポエチン]、アミノ酸(L−バリンを含む)、ならびに、細菌汚染を制御するための1つ以上の抗生剤および/または抗真菌剤(たとえば、ペニシリンG、硫酸ストレプトマイシン、アンホテリシンB、およびナイアシン)を、単独または組み合わせのいずれかで、含む。
【0040】
細胞成長が可能な密度で、培養容器に細胞を蒔く。1つの実施態様では、約0〜約5容量%の大気CO2で、細胞を培養する。ある実施態様では、約2〜約25%の大気O2で、好ましくは約5〜約20%の大気O2で、細胞を培養する。好ましくは、約25〜約40℃で培養し、より好ましくは、37℃で培養する。培養容器中の培地は、静止状態で、または、撹拌する(たとえば、バイオリアクターを用いて)ことができる。好ましくは、低酸化ストレス下で(たとえば、グルタチオン、ビタミンC、カタラーゼ、ビタミンE、N−アセチルシステインを添加して)、臍帯組織由来細胞を成長させる。これは、培養細胞に対するフリーラジカルの損傷をなくすか、最小限にすることを意味している。
【0041】
臍帯組織由来細胞を継代することができる。すなわち、細胞集団が体細胞分裂増殖できるような、最初に用いたのと同じ、または、異なる種類の新鮮な培地を含む別の培養容器へと、臍帯組織由来細胞を取り除くことができる。0代継代から老化の間の任意の時点で、本発明の細胞を用いてもよい。好ましくは、約3回から約25回、細胞を継代し、より好ましくは、約4回から約12回継代し、好ましくは、10回または11回継代する。細胞のクローン集団が単離されたことを確認するために、クローニングおよび/またはサブクローニングを行ってもよい。
【0042】
臍帯組織に存在する異なる細胞型を、サブ集団に分離することができる。このことは、細胞分離のための標準技術を用いて達成してもよい。その技術には、酵素処理、特定の細胞型のクローニングおよび選択(たとえば、限定するものではないが、形態マーカーおよび/または生化学マーカーに基づく選択)、所望の細胞の選択的成長(陽性選択)、望ましくない細胞の選択的破壊(陰性選択)、混合集団における異なる細胞凝集力に基づく分離(たとえば、ダイズアグルチニン)、凍結解凍法、混合集団における細胞の異なる付着特性、濾過、慣習的な遠心分離およびゾーン遠心分離、遠心分離の水簸(centrifugal elutriation)(向流遠心分離)、単位重力分離、向流分布、電気泳動、蛍光標識細胞分取(FACS)、ならびに、同様のものが含まれるが、これらに限定されない。
【0043】
臍帯組織から単離された細胞の例は、2004年6月10日にAmerican Type Culture Collection(アメリカ培養細胞系統保存機関)に供託した。また、割り当てられたATCCアクセッション番号は以下のとおりである。(1)系統名UMB 022803 (P7):アクセッション番号PTA-6067、(2)系統名UMB 022803 (P17):アクセッション番号PTA-6068
【0044】
臍帯組織由来細胞は、たとえば、成長特性(たとえば、集団倍化能力、倍加時間、老化までの継代数)、核型分析(たとえば、正常な核型、母側の系統もしくは子側の系統)、フローサイトメトリー(たとえば、FACS分析)、免疫組織化学および/もしくは免疫細胞化学(たとえば、エピトープの検出)、遺伝子発現プロファイリング[たとえば、遺伝子チップアレイ、ポリメラーゼ連鎖反応(たとえば、逆転写PCR、リアルタイムPCR、および慣用的なPCR)]、タンパク質アレイ、タンパク質分泌[たとえば、血漿凝固解析またはPDC馴化培地の分析(たとえば、酵素結合免疫吸着測定(ELISA))による]、混合リンパ球反応(たとえば、PBMCの刺激の測定として)、ならびに/または、本分野で既知の他の方法により特徴付けることができる。
【0045】
さまざまな態様では、臍帯組織由来細胞は、以下の成長特性のうちの1つ以上を有する。それは、培養において成長のためにL−バリンを要求すること、約5%から少なくとも約20%の酸素を含む大気中で成長できること、培養において老化に達する前に少なくとも約40回倍加する能力を有すること、コーティングした培養容器またはコーティングしていない培養容器上に付着し増殖することであって、コーティングした組織培養容器が、ゼラチン、ラミニン、コラーゲン、ポリオルニチン、ビトロネクチン、またはフィブロネクチンのコーティングを含むことである。
【0046】
ある実施態様では、細胞は正常な核型を有し、細胞が継代される間、維持される。胎盤に由来する母系細胞から子系細胞を同定し区別するために、核型決定は特に有用である。核型決定するための方法は、本分野の当業者に利用可能であり、既知である。
【0047】
他の実施態様では、特定のタンパク質の産生により、細胞を特徴付けることができる。それには、tissue factor、vimentin、およびalpha-smooth muscle actinのうちの少なくとも1つの産生と、CD10、CD13、CD44、CD73、CD90、PDGFr-alpha、PD-L2、およびHLA-A,B,C細胞表面マーカーのうちの少なくとも1つの産生とが含まれ、そのことはフローサイトメトリーによって検出される。他の実施態様では、細胞は、CD31、CD34、CD45、CD80、CD86、CD117、CD141、CD178、B7-H2、HLA-G、ならびにHLA-DR、HLA-DP、および/またはHLA-DQ細胞表面マーカーのうちの少なくとも1つの産生がないことによって特徴付けされてもよく、そのことはフローサイトメトリーのような任意の適切な手段によって検出される。特に好ましいのは、tissue factor、vimentin、およびalpha-smooth muscle actinのうちの少なくとも2つを産生する細胞である。さらに好ましいのは、tissue factor、vimentin、およびalpha-smooth muscle actinの3つのタンパク質すべてを産生する細胞である。
【0048】
他の実施態様では、細胞は、interleukin 8、reticulon 1、chemokine (C-X-C motif) ligand 1 (melonoma growth stimulating activity, alpha)、chemokine (C-X-C motif) ligand 6 (granulocyte chemotactic protein 2)、chemokine (C-X-C motif) ligand 3、tumor necrosis factor, alpha-induced protein 3、C-type lectin superfamily member 2、Wilms tumor 1、aldehyde dehydrogenase 1 family member A2、renin、oxidized low density lipoprotein receptor 1、Homo sapiens clone IMAGE:4179671、protein kinase C zeta、hypothetical protein DKFZp564F013、downregulated in ovarian cancer 1、およびHomo sapiens gene from clone DKFZp547k1113のうちの少なくとも1つをコードする遺伝子について、線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞のようなヒト細胞と比べて、増加した発現を有する。
【0049】
さらに他の実施態様では、細胞は、short stature homeobox 2、heat shock 27 kDa protein 2、chemokine (C-X-C motif) ligand 12 (stromal cell-derived factor 1)、elastin (supravalvular aortic stenosis, Williams-Beuren syndrome)、Homo sapiens mRNA、cDNA DKFZp586M2022 (from clone DKFZp586M2022)、mesenchyme homeo box 2 (growth arrest-specific homeo box)、sine oculis homeobox homolog 1 (Drosophila)、crystallin, alpha B、disheveled associated activator of morphogenesis 2、DKFZP586B2420 protein、similar to neuralin 1、tetranectin (plasminogen binding protein)、src homology three (SH3) and cysteine rich domain、cholesterol 25-hydroxylase、runt-related transcription factor 3、interleukin 11 receptor, alpha、procollagen C-endopeptidase enhancer、frizzled homolog 7 (Drosophila)、hypothetical gene BC008967、collagen, type VIII, alpha 1、tenascin C (hexabrachion)、iroquois homeobox protein 5、hephaestin、integrin, beta 8、synaptic vesicle glycoprotein 2、neuroblastoma, suppression of tumorigenicity 1、insulin-like growth factor binding protein 2, 36kDa、Homo sapiens cDNA FLJ12280 fis, clone MAMMA1001744、cytokine receptor-like factor 1、potassium intermediate/small conductance calcium-activated channel, subfamily N, member 4、integrin, beta 7、transcriptional co-activator with PDZ-binding motif (TAZ)、sine oculis homeobox homolog 2 (Drosophila)、KIAA1034 protein、vesicle-associated membrane protein 5 (myobrevin)、EGF-containing fibulin-like extracellular matrix protein 1、early growth response 3、distal-less homeo box 5、hypothetical protein FLJ20373、aldo-keto reductase family 1, member C3 (3-alpha hydroxysteroid dehydrogenase, type II)、biglycan、transcriptional co-activator with PDZ-binding motif (TAZ)、fibronectin 1、proenkephalin、integrin, beta-like 1 (with EGF-like repeat domains)、Homo sapiens mRNA full length insert cDNA clone EUROIMAGE 1968422、EphA3、KIAA0367 protein、natriuretic peptide receptor C/guanylate cyclase C (atrionatriuretic peptide receptor C)、hypothetical protein FLJ14054、Homo sapiens mRNA、cDNA DKFZp564B222 (from clone DKFZp564B222)、BCL2/adenovirus E1B 19kDa interacting protein 3-like、AE binding protein 1、およびcytochrome c oxidase subunit VIIa polypeptide 1 (muscle)のうちの少なくとも1つをコードする遺伝子について、線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞のようなヒト細胞と比べて、低下した発現を有する。
【0050】
ある実施態様では、細胞は、MCP-1、IL-6、IL-8、GCP-2、HGF、KGF、FGF、HB-EGF、BDNF、TPO、MIP1a、RANTES、およびTIMP1のうちの少なくとも1つの分泌により特徴付けることができる。ある実施態様では、細胞は、TGF-beta2、ANG2、PDGFbb、MIP1b、I309、MDC、およびVEGFのうちの少なくとも1つの分泌がないことにより特徴付けることができ、そのことはELISAにより検出される。
【0051】
好ましい実施態様では、細胞は、上記のような成長、タンパク質/表面マーカーの産生、遺伝子発現、または物質−分泌特性のうちの2つ以上を含む。さらに好ましいのは、それらの特性のうちの3つ、4つ、もしくは5つ、またはそれ以上を含む細胞である。なおより好ましいのは、それらの特性のうちの6つ、7つ、もしくは8つ、またはそれ以上を含む細胞である。なおより好ましいのは、上記のような特性すべてを含む細胞である。
【0052】
本発明のさまざまな態様に使用するのに好ましい細胞の中には、上記のような特性を有する細胞があり、より具体的には、正常な核型を有し、継代とともに正常な核型を維持する細胞であって、さらに、その細胞は、マーカーCD10、CD13、CD44、CD73、CD90、PDGFr-alpha、およびHLA-A,B,Cのそれぞれを発現し、挙げられたマーカーに対応する、免疫学的に検出可能なタンパク質を産生する、細胞がある。なおより好ましいのは、上記のものに加えて、マーカーCD31、CD34、CD45、CD117、CD141、またはHLA-DR,DP,DQのうちの任意のものに対応するタンパク質を産生しない細胞であり、そのことは、本分野において適切な手段(たとえば、フローサイトメトリー)により検出される。非常に好ましいのは、CD117またはHLA-DRを発現しない細胞である。
【0053】
非常に好ましい態様では、本方法は、少なくとも1つの疾患または損傷のある腎臓を治療することが必要とされる患者に対して、ヒト臍帯組織から得られた、または、単離された細胞を投与することを含み、その細胞は、培養において自己再生および増殖が可能であり、成長のためにL−バリンを要求し、少なくとも約5%の酸素中で成長することができ、CD117またはHLA-DRを産生せず、alpha smooth muscle actinを発現し、ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞と比べて、増加したレベルのoxidized low density lipoprotein receptor 1、interleukin 8、またはreticulon 1を発現する。ヒト臍帯組織から単離された細胞を、投与の前に培養で増殖してもよい。ある実施態様では、ヒト臍帯組織由来細胞から入手された細胞は、少なくとも腎臓表現型の細胞に分化する能力を有する。臍帯組織由来細胞の腎臓表現型または腎細胞系統への分化を同定するために、Pax-2、腎上皮前駆細胞により発現される転写因子の発現を用いてもよい。また、臍帯組織由来細胞の腎細胞分化は、尿細管形成、および、三次元コラーゲンゲルにおける枝分かれした形態形成によっても示される。
【0054】
さまざまな表現型をもたらす系統に沿って分化する能力を有する特定の細胞は、不安定であり、それゆえに、自発的に分化することができる。現在のところ、本発明の使用のために好ましいのは、たとえば、腎臓細胞系統に沿って、自発的に分化しない細胞である。好ましい細胞は、成長培地で成長する場合、それらの表面上に産生される細胞マーカーに関して、また、さまざまな遺伝子の発現パターン(たとえば、核酸アレイまたはポリペプチドアレイを用いて、たとえば、遺伝子発現プロファイリングを用いて決定されるような発現パターン)に関して、実質的に安定である。細胞は、継代の間中、複数の集団倍化を通じて、たとえば、その表面マーカー特性において、実質的に不変のままである。
【0055】
本発明の方法において、他の治療的な細胞とともに、および/または、生物活性のある薬剤[たとえば、抗血栓形成剤、抗アポトーシス剤、抗炎症剤、免疫抑制剤(たとえば、シクロスポリン、ラパマイシン)、抗酸化剤、または腎臓損傷もしくは腎臓疾患を治療するために本分野で通常使用される他の薬剤(たとえば、エプロジセートおよびトリプトライド)]とともに、臍帯組織由来細胞を投与することができる。HMG-CoAリダクターゼ阻害剤(シンバスタチン、プラバスタチン、ロバスタチン、フルバスタチン、セリバスタチン、およびアトルバスタチンを含むが、これらに限定されない)とともに、臍帯組織由来細胞を投与してもよい。臍帯組織由来細胞は、他の細胞または薬剤と連続して投与することができるし、他の細胞または薬剤と共投与することができる。また、臍帯組織由来細胞に由来する可溶化液、可溶性細胞分画、膜リッチ細胞分画、細胞培養培地(たとえば、馴化培地)、または細胞外マトリクスを、適切に(臍帯組織由来細胞それ自体、および追加の細胞または薬剤とともに共投与することを含む)、患者に投与することもできる。患者の治療を指示する医療専門家の判断で、特定の薬剤を選ぶことができるし、患者の特定の必要性または状態に応じて、その薬剤を変更することができる。選ばれた薬剤は、さまざまな目的(たとえば、細胞の投与を容易にすること、腎臓の修復および/または再建を改善すること、患者の健康全体を改善すること、痛みを減らすこと、移植した細胞の拒絶を減らすか妨げること、ならびに同様のものを含むがこれらに限定されない)で用いることができる。
【0056】
腎臓組織の修復および再建を促進することは、臍帯組織由来細胞により分泌される栄養因子を通じてもよい。たとえば、腎保護効果が、臍帯組織由来細胞パラクリンまたは栄養因子を介したメカニズムを通じて与えられてもよい。このような因子には、たとえば、hepatocyte growth factor(HGF)、bone morphogenic protein-7(BMP-7)、transforming growth factor beta(TGF-β)、matrix metalloproteinase-2(MMP-2)、およびbasic fibroblast growth factor(bFGF)が含まれる。臍帯組織由来細胞の投与により、1つ以上の腎保護因子の連続的な放出が提供されてもよい。臍帯組織由来細胞による栄養的なサポート、または腎保護因子の放出は、1つ以上の腎保護因子の投与に代えて、または、その投与に加えて用いられてもよい。
【0057】
本方法は腎臓損傷を治療するために有用である。本方法は、罹病率または減少した余命を生ずるような、急性腎不全、傷害、または慢性腎疾患を含む腎臓損傷を治療するために有用である。本発明により、修復され元に戻ることができる損傷の非限定的な例には、腎臓の任意の部分(または全部)の外科的除去、薬物により誘導された損傷、毒物により誘導された損傷、酸化により誘導された損傷、環境曝露により誘導された損傷、音波損傷、熱損傷、低酸素損傷、酸化損傷、ウイルス性の損傷、年齢、老化に関係する損傷、炎症により誘導された損傷、免疫細胞により誘導された損傷(たとえば、移植片拒絶)、免疫複合体により誘導された損傷、および同様のものが含まれる。腎病に関連した5つの主要な薬物のカテゴリーは、血流過程、代謝過程、線維症過程、炎症過程、または免疫調節過程を標的とする薬物である。臍帯組織由来細胞は、これらの生理学的な過程のうちの1つ以上に作用することにより、それらの効果を発揮してもよい。
【0058】
本明細書で説明し例示しているとおり、医薬用に許容可能なキャリアと臍帯組織由来細胞とを含む医薬/治療用の細胞組成物として、細胞を投与することができる。治療用の細胞組成物は、腎臓細胞経路または系統に沿って分化するよう誘導された臍帯組織由来細胞を含むことができる。治療用の細胞組成物は、分裂、分化、またはその両方を行うよう患者の腎臓の細胞を刺激するような細胞または細胞産物を含むことができる。治療用の細胞組成物が、投与された患者の腎臓の修復および/または再建を誘導し、促進し、または維持することが好ましい。
【0059】
注射により、患者に細胞を投与することができる。たとえば、患者の1つまたは両方の腎臓に、細胞を直接注射することができるし、腎臓の表面に、隣接した領域に、または、その後の患者の腎臓へ移動する離れた領域にでさえ、細胞を注射することができる。ある好ましい態様では、細胞は、疾患または損傷のある領域に存在することができる。特に好ましいのは、静脈注射することができ、所望の作用部位に適切に局在することができる細胞である。たとえば、腎臓細胞またはそれらの前駆体が、好ましくは、腎臓、または、その構造体もしくはサブ構造体に局在し、存在することができる。
【0060】
また、マトリクス−細胞複合体のような装置の形態で、細胞を投与することもできる。装置材料には、生体再吸収材料[たとえば、コラーゲン、35/65ポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)/ポリ(グリコール酸)(PGA)、Panacryl(商標)生体吸収性構築物、Vicryl(商標)polyglactin 910、および、自己集合ペプチド]、および非吸収性材料[たとえば、フルオロポリマー(たとえば、Teflon(登録商標)フルオロポリマー)、プラスチック、および金属]が含まれるが、これらに限定されない。マトリクスには、生体適合性足場、格子、自己集合構造、および同様のものが含まれ、生体吸収性かそうではない液体、ゲル、または固体である。このようなマトリクスは、治療用細胞治療、外科的修復、組織工学、および創傷治癒の分野では既知である。好ましくは、マトリクスは、治療用細胞で事前処理される。より好ましくは、マトリクスは、マトリクスまたはその空間に密接に関係した細胞により集団化される。細胞はマトリクスに付着することができ、マトリクス空間内に取り込まれるか、含まれることができる。最も好ましいのは、細胞がマトリクスと密接に関係して成長するマトリクス−細胞複合体であり、治療的に用いられた場合、患者自身の腎臓細胞の成長、修復、および/または再建を刺激しサポートし、また、適切な血管形成も同様に刺激しサポートする。本分野で既知の任意の方法で、マトリクス−細胞組成物を患者の体内に導入することができ、その方法には、移植、注入、外科的付着、他の組織との移植、および同様ものが含まれるが、これらに限定されない。ある実施態様では、マトリクスは、in vivoで、または、より好ましくはin situで形成され、たとえば、本発明にしたがって、in situポリマー化ゲルを使用することができる。このようなゲルの例は、本分野で既知である。
【0061】
また、このような三次元マトリクス(たとえば、足場)に、本発明の細胞を蒔き、in vivoに移植することができる。蒔かれた細胞は、フレームワーク上またはその中で増殖してもよいし、他の細胞と協働して、または協働せずに、in vivoでの組織置換を助けてもよい。三次元フレームワーク上の臍帯組織由来細胞の成長は、好ましくは、三次元組織の形成、またはその確立をもたらし、in vivoで(たとえば、損傷または疾患のある組織を修復、および/または再建するために)利用することができる。たとえば、腎血管の修復、または、腎系もしくは腎臓構造のさまざまな他の態様についての使用のために、三次元組織足場を、たとえば、細管構造を形成するために用いることができる。
【0062】
三次元フレームワークまたはマトリクス(たとえば、足場、フォーム、またはハイドロゲル)上に、細胞を蒔くことができ、その後投与することができる。フレームワークをさまざまな形態(たとえば、実質的に平面、実質的に筒状または管状)に構築することができるし、懸案の修正構造に必要とされ、望まれるかもしれない、完全に自由な形態に形成することができる。2つ以上の実質的に平面のフレームワークを、他のものの上に重ねて、ともに固定することができ、必要に応じて、複数層のフレームワークを生成することができる。
【0063】
ある態様では、細胞は三次元構造上で成長し、また、ある態様では、たとえば、腎臓組織の修復または再建を刺激し促進する(好ましくは、血管形成を促進し、または維持する)けれども、細胞は生きているのみであるか、または死んでさえいるものである。
【0064】
このような三次元フレームワーク上で、他の腎臓細胞型、または他の軟組織型の前駆細胞(幹細胞を含む)とともに、細胞を共投与することができる。この三次元システムで成長する場合、増殖している細胞は、成熟し適切に分離して、in vivoで天然に見出される対応物と同類の成熟組織の成分を形成する。
【0065】
本明細書で説明し例示したマトリクスは、マトリクス構造がその後分解することなく臍帯組織由来細胞を支持するように、蒔いた時点から組織移植片が宿主組織によりリモデリングされるまで、細胞を支持するように、または、蒔かれた細胞が、付着し、増殖し、in vitroでそれ自体を支持するのに十分な機械強度を有する組織構造へと発達することを可能にし、その時点でマトリクスが分解されるように、設計することができる。
【0066】
本発明の使用のために考えられるマトリクス、足場、フォーム、および自己集合システムは、本発明の細胞に加えて、任意の1つ以上の細胞、成長因子、薬物、または他の成分(たとえば、組織の治癒、再建、修復、または内方成長を促進し、血管新生または神経分布を刺激し、さもなければ、治療転帰または本発明の有用性を高め、改良するような生体活性剤)と組み合わせて植え込むことができる。1つの好ましい態様では、1つ以上のHMG CoAリダクターゼ阻害剤を含む装置が、臍帯組織由来細胞とともに蒔かれる。HMG CoAリダクターゼ阻害剤は、装置にポンプ送りされてもよい。1つ以上のHMG CoAリダクターゼ阻害剤は、装置に組み込まれてもよい。ある実施態様では、本発明の細胞を蒔かれた装置は、1つ以上のHMG CoAリダクターゼ阻害剤で処理される。装置をin vivoに植え込んでもよい。
【0067】
培養において細胞を自由に成長させ、培養から取り除き、三次元フレームワーク上に植え付けることができる。好ましくは、ある濃度の細胞(たとえば、約106〜107細胞/mL)の三次元フレームワークの植え付けにより、比較的より短時間で三次元支持体が確立する。さらに、ある適用では、所望の結果に応じて、より多い、またはより少ない数の細胞を用いることが好ましいかもしれない。
【0068】
ある態様では、in vivoで見出される細胞微環境を、培養において再現することが有用であり、細胞がin vivoへの移植の前に成長する程度、または、in vitroで用いられる程度が変化するかもしれない。移植のために望ましい形態(たとえば、ロープ、管、線維、および同様のもの)を形成する前、またはその後に、細胞をフレームワーク上に植え付けることができる。細胞のフレームワークへの植え付けの後、好ましくは、フレームワークを適切な成長培地中でインキュベーションする。インキュベーション期間の間、植え付けられた細胞は、成長し、フレームワークを覆うだろうし、たとえば、そのフレームワークの中の任意の隙間空間を架橋、または部分的に架橋してもよい。必要ではないが、好ましくは、修復または再建されるべき腎臓組織のin vivo細胞密度を反映する適切な程度まで、細胞を成長させる。他の実施態様では、たとえフレームワーク上に少ない数であったとしても、細胞の存在は、内部の健康な細胞の内方成長を促進し、たとえば損傷または傷害のある組織の治癒を促進する。
【0069】
マトリクス、たとえば、本発明の態様のために用いられてもよい足場の例には、マット(織られているか、編まれているか、より好ましくは不織のマット)、多孔フォームまたは半多孔フォーム、自己集合ペプチド、および同様のものが含まれる。不織マットは、たとえば、天然ポリマーまたは合成ポリマーから成る繊維を用いて形成されてもよい。好ましい実施態様では、商品名VICRYL(登録商標)(Ethicon, Inc.;Somerville, NJ)で販売されている、グリコール酸および乳酸の吸収性コポリマー(PGA/PLA)を用いて、マットを形成する。たとえば、米国特許第6,355,699号で議論されている、ポリ(ε−カプロラクトン)/ポリ(グリコール酸)(PCL/PGA)コポリマーで構成され、たとえば凍結乾燥のような過程により形成されたフォームもまた、足場として有用であり得る。ゲルもまた、本発明で用いるのに適切なマトリクスを形成する。例としては、in situポリマー化ゲル、および、たとえば、自己集合するペプチドから構成されるハイドロゲルが含まれる。これらの材料は、組織成長のための支持体としてよく用いられる。in situ形成分解可能ネットワークも本発明における使用に適切である(Anseth, K.S. et al., 2002, J. Controlled Release 78: 199-209;Wang, D. et al., 2003, Biomaterials 24: 3969-3980;米国特許出願公開第2002/0022676号He et al.参照)。これらの材料は、注射に適した液体として処方され、その後、さまざまな手段(たとえば、温度、pH、光曝露における変化)により誘導して、in situまたはin vivoで分解可能なハイドロゲルネットワークを形成する。
【0070】
フレームワークはフェルトであることができ、そのフェルトは、生体吸収性材料(たとえば、PGA、PLA、PCLコポリマーもしくは混合物、またはヒアルロン酸)から製造されたマルチフィラメントヤーンから構成されることができる。ヤーンは、圧着、裁断、梳綿、および穿刺から成る標準的な布地加工技術を用いてフェルトへと作られる。本発明の細胞を、複合構造であるかもしれないフォーム足場上に蒔くことができる。その上、三次元フレームワークを、修復し、置換し、または補強されるべき腎臓における特定の構造、あるいはその腎臓の周囲の特定の構造のような、有用な形態へと成型してもよい。
【0071】
本発明の細胞の植え付けの前に、フレームワークを処理し、細胞接着を高めることができる。たとえば、本発明の細胞による植え付けの前に、ナイロンマトリクスを、0.1モル酢酸で処理し、ポリリシン、PBS、および/またはコラーゲンでインキュベーションして、ナイロンをコーティングすることができる。ポリスチレンも、硫酸を用いて、同様に処理することができる。
【0072】
さらに、三次元フレームワークの外側表面を修飾して、細胞の付着または成長、および組織の分化を改良することができる。それは、たとえば、フレームワークのプラズマコーティング、または1つ以上のタンパク質(たとえば、コラーゲン、弾性繊維、細網繊維)、糖タンパク質、グリコサミノグリカン(たとえば、ヘパリン硫酸、コンドロイチン−4−硫酸、コンドロイチン−6−硫酸、デルマタン硫酸、ケラチン硫酸)、細胞マトリクス、および/または、他の材料(たとえば、限定するものではないが、ゼラチン、アルギン酸塩、アガー、アガロース、および植物ガム)の追加による。
【0073】
足場を、非血栓形成のままにする材料を含ませ、または、そのような材料で処理することができる。また、これらの処理および材料も、内皮成長、移動、および細胞外マトリクス沈着を促進し、維持してもよい。これらの材料および処理の例には、天然材料(たとえば、ラミニンおよびIV型コラーゲンのような基底膜タンパク質)、合成材料(たとえば、ePTFE)、およびセグメント化ポリウレタンウレアシリコーン[たとえば、PURSPAN(登録商標)(The Polymer Technology Group, Inc.;Berkeley, CA)]が含まれるが、これらに限定されない。これらの材料は、さらに処理され、足場を非血栓形成性にすることができる。このような処理には、抗血栓形成剤(たとえば、ヘパリン)、および材料の表面電荷を変化させる処理(たとえば、プラズマコーティング)が含まれる。
【0074】
後にフレームワークに植え付けられてもよいし、in vivoでの構造上で成長してもよい組織特異的な細胞または他の細胞の成長に対して、異なる割合のさまざまな種類のコラーゲン(たとえば、フレームワーク上に配置される)が、影響を与えることができる。あるいは、フレームワークに、所望の適当なコラーゲン型を合成するような細胞の混合物を植え付けることができる。培養される組織に応じて、フレームワークに植え付けられ、または蒔かれた細胞により産生される適当なコラーゲンの種類を選択してもよい。たとえば、最初の接種材料におけるコラーゲン産生細胞の、エラスチン産生細胞に対する比率を制御することにより、フレームワークに存在するコラーゲン線維および合成繊維の相対的な量を調節することができる。たとえば、動脈の内壁はエラスチンに富んでいるので、動脈の足場は、エラスチンを分泌する平滑筋細胞の共培養物を含むべきである。
【0075】
本発明の蒔かれた、または植え付けられた三次元フレームワークは、マトリクスから得られた培養細胞、またはin vivoで培養されたマトリクスそれ自体のいずれかの移植または埋め込みのためのものである。本発明によると、現存する組織を置換または補強するために、新しいまたは変更された組織を導入するために、人工プロテーゼを修飾するために、あるいは生物組織または構造体とともに組み入れるために、三次元足場を用いてもよい。また、限定するものではないが、たとえば、in vivoでの損傷または疾患のある細管組織の置換のために役立ちうる単層および複層の管状組織を、in vitroで構築するために、三次元フレームワークを用いることができる。
【0076】
足場を、最終的に挿入される、管状の臓器(たとえば、腎杯または尿管)の内周とほぼ等しい幅の片(たとえば、長方形の形)に切ることができる。細胞を足場上に植え付け、液体培地中に浮かせ、または懸濁することにより、インキュベーションすることができる。コンフルエントの適当な段階で、足場の長辺をつなぐことにより、足場を管状に巻き上げることができる。適当な直径の適切な材料の糸を用いて2つの辺を縫合することにより、つなぎ目を閉じることができる。
【0077】
本発明によると、足場を管状に形成し、臍帯組織由来細胞を植え付け、インキュベーションチャンバー中の培地に懸濁することができる。細胞が管腔を閉塞するのを防ぐために、管状のフレームワークの開口端のうち1つをノズルに固定することができる。このノズルを通して、インキュベーションチャンバーに連結されているソースチャンバーから、液体培地を押し出すことができ、管状フレームワークの内部を通る流れを作る。培地がソースチャンバーを通って再循環できるような収集チャンバーへと導く流出出口に、他の開口端をつなぐことができる。インキュベーションが完了すると、管をノズルおよび流出出口から外すことができる。本方法は、Ballermann, B. J., et al.により、国際公開第WO94/25584号および米国特許出願第08/430,768号に開示されており、ともに参照により全体を本願に組み入れる。
【0078】
本発明によると、概して、以下の任意の方法を用いることで、2つの三次元フレームワークを組み合わせて管状にすることができる。2つ以上の平面フレームワークを互いに上に重ね、ともに縫合することができる。この2層のシートをその後巻き上げ、上記のように、つないで縫合することができる。
【0079】
内層として有用な1つの管状足場に、臍帯組織由来細胞を植え付けて、インキュベーションすることができる。2つ目の足場を、管状フレームワークの外形よりも少し大きな幅の平面の片として成長させることができる。適当な成長が達成された後、管状フレームワークの外側の周りを、平面フレームワークで包み、その後、平面フレームワークの2つの縁のつなぎ目を閉じ、好ましくは、平面フレームワークを内側の管へと縫合することができる。
【0080】
少しだけ異なる直径の2つ以上の管状メッシュを別々に成長させることができる。より小さな直径のフレームワークを、より大きな直径のフレームワークの内側に挿入し、縫合することができる。
【0081】
これらの方法のうちのいずれかについて、2層の管に対して方法を再び適用することにより、より多い層を加えることができる。臍帯組織由来細胞の成長の任意の段階で、足場を組み合わせることができ、組み合わされた足場のインキュベーションを必要なときに続行することができる。
【0082】
管状構築物の管腔態様は、管状構築物の管腔表面を非血栓形成性のままにするような材料を含む、または、そのような材料により処理することができる。また、これらの処理および材料も、内皮成長、移動、および細胞外マトリクス沈着を促進し、維持してもよい。これらの材料および処理の例には、天然材料(たとえば、ラミニンおよびIV型コラーゲンのような基底膜タンパク質)、合成材料(たとえば、ePTFE)、およびセグメント化ポリウレタンウレアシリコーン[たとえば、PURSPAN(登録商標)(The Polymer Technology Group, Inc.;Berkeley, CA)]が含まれるが、これらに限定されない。これらの材料は、さらに処理され、足場を非血栓形成性にすることができる。このような処理には、抗血栓形成剤(たとえば、ヘパリン)、および材料の表面電荷を変化させる処理(たとえば、プラズマコーティング)が含まれる。
【0083】
ある現在好ましい実施態様では、本方法は、腎臓細胞経路に沿って、腎臓細胞表現型、または、前駆体、もしくは上記のより原始的な関連物へと分化するように、治療用の分娩後由来細胞を誘導することを含む。治療用の細胞組成物は、患者の腎臓に統合されることができ、あるいは、天然に存在する腎臓幹細胞に対して、分化するように成長または刺激するためのサポートを提供することができる。細胞可溶化液、または他の異系細胞、同系細胞、もしくは自家細胞とともに、治療用細胞を共投与することができる。治療用の細胞組成物を投与する場合、送達された細胞の生存は、それらの使用の成功または結果の決定因子ではないし、むしろ腎臓の健康、または患者の全体的な健康の改善が転帰の決定因子である。このように、細胞は、患者の腎臓に、または血管にでさえ統合される必要はなく、処理前および処理後の患者における腎臓の健康の改善の兆候には、好ましくは、腎臓の健康の客観的な測定値[たとえば、限定されないが、血清、またはクレアチニン、尿素、タンパク質、血中尿素窒素(BUN)、および浸透圧試験における改善]のうちの少なくとも1つ、および患者の状態の主観的な診断(自己診断を含む)が含まれる。
【0084】
したがって、成功する治療には、腎臓に対して疾患、病理、または外傷を有する患者の治療であって、別の細胞型の存在下または不存在下で、臍帯組織由来細胞を含む治療用細胞組成物による、治療が含まれる。限定するものではないが、たとえば、好ましくは、細胞は、少なくとも部分的に患者に統合され、増幅し、または生存する。他の好ましい実施態様では、患者は治療から利益を得ているし、たとえば、他の細胞(腎臓に存在する幹細胞または前駆細胞を含む)の成長をサポートする細胞の能力から利益を得ているし、組織の内方成長または血管成長から利益を得ているし、また、有用な細胞因子(ケモカイン、サイトカイン、および同様のもの)の存在から利益を得ているが、細胞は患者に統合もされていないし、増幅もしていない。ある態様では、患者は細胞による治療的処置により利益を得ているが、細胞は患者の中で持続的な期間生存しない。たとえば、1つの実施態様では、細胞は、数、生存力、または生化学活性において、段階的に減衰しているし、他の実施態様では、細胞における減衰が、活性(たとえば、成長、分裂、または生化学活性)の期間以前であってもよい。他の実施態様では、老化した細胞、生存可能でない細胞、死んだ細胞でさえ、有用な治療効果を有することができる。
【0085】
投与は、好ましくは、in vivoであり、移植、植え込み、注射、融合、カテーテルを通じた送達、もしくはマトリクス−細胞複合体としての提供、または細胞治療を提供するための分野で既知の他の任意の手段による。
【0086】
ある実施態様では、本発明の方法は、腎臓の構造および/または機能における改善、または全体的な健康に置ける改善について、患者を評価することをさらに含むことができる。このような評価は、本明細書で説明し例示したようなものを含む本分野で適切な任意の手段によって行うことができる。
【0087】
また、本発明によって特徴とされるのは、本発明の方法を実行するためのキットである。1つの実施態様では、少なくとも1つの腎臓の疾患、または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するためのキットが提供される。キットは、医薬用に許容可能なキャリアと、その疾患または傷害を治療するために有効な量の、ヒト臍帯組織から得られた細胞(たとえば、本明細書で説明され例示されたような細胞)と、少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するための方法でキットを使うための使用説明書とを含む。キットは、細胞を培養するための少なくとも1つの試薬と、使用説明書とをさらに含んでいてもよい。キットは、少なくとも1つの他の細胞型の集団、および/または、少なくとも1つの薬剤をさらに含んでもよい。
【0088】
ある態様では、キットは、医薬用に許容可能なキャリアと、本明細書で説明し例示した特徴を有する、ヒト臍帯組織から得られた細胞から準備された可溶化液、細胞外マトリクス、または馴化培地とを含む。キットは、損傷または疾患のある腎臓の修復および/または再建を促進するのに有用である。
【0089】
以下の実施例を、本発明をより詳細に説明するために提供する。これらは例示を意図しており、発明を限定するものではない。
【0090】
〔実施例1:臍帯組織由来細胞の単離〕
臍帯をNational Disease Research Interchange(NDRI;Philadelphia, PA)から入手した。組織を、正常分娩の後に入手した。層流フードにおいて、細胞単離プロトコルを無菌的に実行した。血液および壊死組織片を取り除くために、抗真菌剤および抗生剤(ペニシリン 100ユニット/mL、ストレプトマイシン 100μg/mL、アンホテリシンB 0.25μg/mL)を含むリン酸緩衝食塩水(PBS)(Invitrogen;Carlsbad, CA)で臍帯を洗浄した。その後、培地(DMEM-Low glucoseまたはDMEM-High glucose;Invitrogen)50mLを入れた150cm2組織培養プレートにおいて、組織を機械的に分解し、細かいパルプ状になるまで組織を刻んだ。刻まれた組織を50mLコニカルチューブへと移した(組織 約5g/チューブ)。その後、組織を、上記の抗真菌剤および抗生剤を含むDMEM-Low glucose培地またはDMEM-High glucose培地のいずれかの中で消化した。ある実験では、コラゲナーゼおよびディスパーゼの酵素混合液を用いた[“C:D”:コラゲナーゼ(Sigma;St Louis, MO)500ユニット/mL、およびディスパーゼ(Invitrogen)50ユニット/mLを含むDMEM-Low glucose培地]。他の実験では、コラゲナーゼ、ディスパーゼ、およびヒアルロニダーゼの混合液(“C:D:H”)を用いた(コラゲナーゼ 500ユニット/mL、ディスパーゼ 50ユニット/mL、およびヒアルロニダーゼ(Sigma)5ユニット/mLを含むDMEM-Low glucose]。組織、培地、および消化酵素を含むコニカルチューブを、37℃、225rpmのオービタルシェイカー(Environ;Brooklyn, NY)で2時間インキュベーションした。
【0091】
消化の後、150×g、5分間、組織を遠心分離し、上澄みを吸引した。成長培地 20mL[DMEM: Low glucose(Invitrogen)、15%(v/v)ウシ胎仔血清(FBS)(defined bovine serum;ロット番号AND18475;Hyclone;Logan, UT)、0.001%(v/v)2−メルカプトエタノール(Sigma)、上記の抗生剤/抗真菌剤 1mL/100mL]に、ペレットを再懸濁した。細胞懸濁液を70μmナイロンセルストレイナー(70-micrometer nylon cell strainer;BD Biosciences)でろ過した。成長培地を含む追加のリンス液 5mLに、ストレイナーを通過させた。その後、細胞懸濁液を40μmナイロンセルストレイナー(40-micrometer nylon cell strainer;BD Biosciences)を通過させ、追加の成長培地 5mLのリンス液を追加した。
【0092】
ろ過物を成長培地(全容量50mL)に再懸濁し、150×g、5分間、遠心分離した。上澄みを吸引し、細胞を新しい成長培地50mLに再懸濁した。この手順をあと2回くり返した。
【0093】
最後の遠心分離で、上澄みを吸引し、細胞ペレットを新しい成長培地5mLに再懸濁した。トリパンブルー染色を用いて、生存細胞の数を決定した。その後、細胞を標準条件で培養した。
【0094】
上記の抗生剤/抗真菌剤を含む成長培地を入れた、ゼラチンコーティングしたT−75cm2フラスコ(Corning Inc.;Corning, NY)に、臍帯から単離した細胞を5,000細胞/cm2で蒔いた。2日後(さまざまな実験では、2〜4日間、細胞をインキュベーションした)、使用後の培地をフラスコから取り除いた。細胞をPBSで3回洗浄し、壊死組織片および血液由来細胞を取り除いた。その後、細胞に成長培地を補充し、コンフルエントまで成長させ、1代継代とした(0代継代から約10日)。その後の継代では(1代継代から2代継代等)、4〜5日で、細胞はサブコンフルエント(75〜85%コンフルエント)に到達した。これらのその後の継代については、細胞を5,000細胞/cm2で蒔いた。5%二酸化炭素および大気酸素を含む高湿度インキュベーターにおいて、37℃で細胞を成長させた。
【0095】
〔実施例2:フローサイトメトリーによるヒト分娩後由来細胞表面マーカーの評価〕
フローサイトメトリーを用いて、臍帯組織を特徴づけし、臍帯組織から得られた細胞の同定についてのプロファイルを提供した。
【0096】
ペニシリン/ストレプトマイシンを含む成長培地(Gibco;Carlsbad, CA)で細胞を培養した。血漿処理したT75組織培養フラスコ、T150組織培養フラスコ、およびT225組織培養フラスコ(Corning;Corning, NY)で、細胞をコンフルエントまで成長させた。2%ゼラチン(Sigma;St. Louis, MO)を20分間、室温でインキュベーションすることにより、フラスコの成長表面をコーティングした。
【0097】
フラスコの付着細胞をPBSで洗浄し、トリプシン/EDTAで剥がした。細胞を採集し、遠心分離し、3%(v/v)FBSを含むPBS中に、1×107細胞/mLの細胞濃度で再懸濁した。製造業者の説明書によると、目的の細胞表面マーカーに対する抗体(下記参照)を、細胞懸濁液100μLに加え、4℃、30分間、暗所で、混合液をインキュベーションした。インキュベーションの後、細胞をPBSで洗浄し、遠心分離して、非結合抗体を取り除いた。細胞を、PBS 500μL中に再懸濁し、フローサイトメトリーで分析した。フローサイトメトリー分析は、FACScalibur装置(Becton Dickinson;San Jose, CA)により実行した。
【0098】
以下の細胞表面に対する抗体を用いた。
【表1】
【0099】
8代継代、15代継代、および20代継代で、細胞を分析し、異なるドナーからの臍帯組織由来細胞を互いに比較した。さらに、ゼラチンコーティングしたフラスコで培養した細胞を、非コーティングフラスコで培養した細胞と比較した。
【0100】
臍帯組織由来細胞は、CD10、CD13、CD44、CD73、CD90、PDGFr-alpha、およびHLA-A,B,Cの陽性発現を示し、そのことは、IgG対照に比べて増加した蛍光値によって示された。これらの細胞は、CD31、CD34、CD45、CD117、CD141、およびHLA-DR,DP,DQの検出可能な発現について陰性であり、そのことは、IgG対照と同程度の蛍光値によって示された。陽性曲線の蛍光値における変動が説明された。陽性曲線の平均(すなわち、CD13)および範囲(すなわち、CD90)が、変動を示していたが、曲線は正常に見えており、均質集団であることを確認した。両方の曲線のそれぞれが、IgG対照よりも高い値を示していた。
【0101】
8代継代、15代継代、および20代継代の細胞はすべて、CD10、CD13、CD44、CD73、CD90、PDGFr-alpha、およびHLA-A,B,Cを発現し、そのことは、IgG対照に比べて増加した蛍光により示された。これらの細胞は、CD31、CD34、CD45、CD117、CD141、およびHLA-DR,DP,DQに対して陰性であり、そのことは、IgG対照と一致する蛍光値により示されていた。
【0102】
別々のドナーそれぞれからの単離物は、CD10、CD13、CD44、CD73、CD90、PDGFr-alpha、およびHLA-A,B,Cの陽性発現を示し、そのことは、IgG対照に比べて増加した蛍光値を反映していた。これらの細胞は、CD31、CD34、CD45、CD117、CD141、およびHLA-DR,DP,DQの発現については陰性であり、それらは、IgG対照と一致する蛍光値を有していた。
【0103】
ゼラチンフラスコおよび非コーティングフラスコ上で増殖した細胞はすべて、CD10、CD13、CD44、CD73、CD90、PDGFr-alpha、およびHLA-A,B,Cの発現について陽性であり、それらは、IgG対照に対して増加した蛍光値を有していた。これらの細胞は、CD31、CD34、CD45、CD117、CD141、およびHLA-DR,DP,DQの発現については、陰性であり、それらは、IgG対照と一致する蛍光値を有していた。
【0104】
このように、臍帯組織由来細胞は、CD10、CD13、CD44、CD73、CD90、PDGFr-alpha、HLA-A,B,Cについて陽性であり、CD31、CD34、CD45、CD117、CD141、およびHLA-DR,DP,DQについて陰性である。この同一性は、ドナー、継代、および培養容器表面コーティングを含む変数における変動において一致していた。個々の蛍光値ヒストグラム曲線の平均および範囲にはいくつかの変動が見られたが、試験したすべての条件下のすべての陽性曲線は正常であったし、IgG対照よりも高い蛍光値を示していた。これらのことから、細胞は、マーカーの陽性発現を有する均質集団を含むことが確認された。
【0105】
〔実施例3:細胞表現型の免疫組織化学的特徴づけ〕
ヒト臍帯組織を採取し、4℃一晩で、4%(w/v)パラホルムアルデヒド中で浸漬固定した。以下のエピトープに対する抗体を用いて、免疫組織化学を実行した。vimentin(1:500;Sigma;St. Louis, MO)、desmin(1:150、ウサギ由来;Sigma、または1:300、マウス由来;Chemicon;Temecula, CA)、alpha-smooth muscle actin(SMA)(1:400;Sigma)、cytokeratin 18(CK18)(1:400;Sigma)、von Willebrand Factor(vWF)(1:200;Sigma)、およびCD34(human CD34 Class III)(1:100;DAKOCytomation;Carpinteria, CA)。さらに、以下のマーカーを試験した。抗ヒトGROalpha-PE(1:100;Becton Dickinson;Franklin Lakes, NJ)、抗ヒトGCP-2(1:100;Santa Cruz Biotech;Santa Cruz, CA)、抗ヒトoxidized LDL receptor 1(ox-LDL R1)(1:100;Santa Cruz Biotech)、および抗ヒトNOGO-A(1:100;Santa Cruz Biotech)。固定した標本を外科用メスで処理し、エタノールを含むドライアイスバス上のOCT包埋用化合物(Tissue-Tek OCT;Sakura;Torrance, CA)中に置いた。その後、標準クリオスタット(Leica Microsystems)を用いて、凍結ブロックを切片化し(10μm厚)、染色のためにスライドガラス上に乗せた。
【0106】
免疫組織化学をこれまでの研究と同様に実行した(Messina et al. (2003) Exper. Neurol. 184:816-29)。簡単に説明すると、組織切片をリン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄し、PBS、4%(v/v)ヤギ血清(Chemicon;Temecula, CA)、および0.3%(v/v)Triton(Triton X-100;Sigma)を含むタンパク質ブロッキング溶液に1時間さらし、細胞内抗原を評価した。目的のエピトープが細胞表面に局在するだろう場合(CD34、ox-LDL R1)には、エピトープの損失を防ぐために、手順のすべての段階でTritonを省略した。さらに、一次抗体がヤギ由来である場合(GCP-2、ox-LDL R1、NOGO-A)には、手順を通じ、ヤギ血清の代わりに3%(v/v)ロバ血清が用いられた。その後、ブロッキング溶液で希釈した一次抗体を、室温、4時間、切片に適用した。一次抗体溶液を除去し、培養物をPBSで洗浄し、ヤギ抗マウスIgG−テキサスレッド(1:250;Molecular Probes;Eugene, OR)、および/または、ヤギ抗ウサギIgG−Alexa488(1:250;Molecular Probes)、もしくは、ロバ抗ヤギIgG−FITC(1:150;Santa Cruz Biotech)とブロッキングとを含む二次抗体溶液を適用した(室温、1時間)。培養物を洗浄し、10μM DAPI(Molecular Probes)を10分間適用して、細胞核を可視化した。
【0107】
Olympus倒立エピ蛍光顕微鏡(Olympus inverted epi-fluorescent microscope)(Olympus;Melville, NY)の適当な蛍光フィルタを用いて、蛍光を可視化した。陽性染色は、対比染色の蛍光シグナルによって示された。デジタルカラービデオカメラおよびImageProソフトウェア(Media Cybernetics;Carlsbad, CA)を用いて、代表的な画像を取り込んだ。三重染色サンプルについては、1つの発光フィルタのみを用いて、各画像を一度に撮影した。
【0108】
臍帯内に見られた細胞のサブセットにおいて、Vimentin、desmin、SMA、CK18、vWF、およびCD34マーカーが発現していた。特に、vWFおよびCD34の発現は、臍帯内に含まれる血管に限定された。CD34+細胞は、最も内側の層(管腔側)に存在した。Vimentinの発現は、臍帯のマトリクスおよび血管全体に見られた。SMAは、マトリクスと動脈および静脈の外壁とに限定されたが、血管それ自体には含まれていなかった。CK18およびdesminは、血管内のみで観察され、desminは、中層および外層に限定された。GROalpha、GCP-2、ox-LDL R1、およびNOGO-Aの発現は、臍帯組織内では観察されなかった。
【0109】
〔実施例4:オリゴヌクレオチドアレイ分析〕
臍帯組織由来細胞を、線維芽細胞、ヒト間葉系幹細胞、およびヒト骨髄に由来した他の細胞株と比較するために、Affymetrix GeneChip(登録商標)アレイを用いた。この分析により、分娩後由来細胞の特徴が提供されるとともに、これらの細胞について特有の分子マーカーが同定された。
【0110】
患者の同意を得た正常分娩のヒト臍帯を、National Disease Research Interchange(NDRI;Philadelphia, PA)から入手した。上記に説明したように、組織を受領し、細胞を単離した。ゼラチンコーティング組織培養プラスチックフラスコ上の成長培地(DMEM−LGを用いた)上で、細胞を培養した。37℃、5%CO2で、培養物をインキュベーションした。
【0111】
ヒト皮膚線維芽細胞を、Cambrex Incorporated(Walkersville, MD;ロット番号9F0844)、およびATCC CRL-1501(CCD39SK)から購入した。10%(v/v)ウシ胎仔血清(Hyclone)およびペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen)を含むDMEM/F12培地(Invitrogen;Carlsbad, CA)で、両方の細胞株を培養した。細胞を標準組織処理プラスチック上で成長させた。
【0112】
ヒト間葉系幹細胞(hMSC)を、Cambrex Incorporated(Walkersville, MD;ロット番号2F1655、2F1656、および2F1657)から購入し、MSCGM培地(Cambrex)で業者の説明書にしたがって培養した。37℃、5%CO2で、標準組織培養プラスチック上で、細胞を成長させた。
【0113】
患者の同意のあるヒト腸骨稜骨髄細胞をNDRIから受領した。Ho, et al.(国際公開第WO03/025149号)により概説された方法にしたがって、骨髄を加工した。可溶化バッファー(155mM NH4Cl、10mM KHCO3、および0.1mM EDTA,pH7.2)に骨髄を、可溶化バッファー20部に対して骨髄1部の比率で混合した。細胞懸濁液をボルテックスし、2分間、大気温度でインキュベーションし、500×g、10分間、遠心分離した。上澄みを捨て、10%(v/v)ウシ胎仔血清および4mM グルタミンを補った最小必須培地(Invitrogen)に、細胞ペレットを再懸濁した。細胞を再び遠心分離し、細胞ペレットを新鮮な培地に再懸濁した。トリパンブルー排除(Sigma;St. Louis, MO)を用いて、生存可能な単核細胞をカウントした。組織培養プラスチックフラスコに、単核細胞を5×104細胞/cm2で蒔いた。37℃、5%CO2、および、標準大気O2または5%O2のいずれかで、細胞をインキュベーションした。培地交換なしに、細胞を5日間培養した。培養5日後に、培地および非付着細胞を取り除いた。付着細胞は、培養中で維持された。
【0114】
活発に成長している細胞の培養物を、冷PBS中で、細胞スクレーパーにより、フラスコから取り除いた。300×g、5分間、細胞を遠心分離した。上澄みを取り除き、細胞を新鮮なPBSに再懸濁し、再び遠心分離した。上澄みを取り除き、細胞ペレットを瞬間凍結し、−80℃で保管した。細胞のmRNAを抽出し、cDNAに転写した。その後、cDNAはcRNAへと転写され、ビオチン標識された。ビオチン標識cRNAをHG-U133A GeneChipオリゴヌクレオチドアレイ(Affymetrix;Santa Clara CA)とハイブリダイゼーションさせた。業者の説明書にしたがって、ハイブリダイゼーションおよびデータ収集を実行した。「マイクロアレイの有意性分析(Significance Analysis of Microarrays)(SAM)」1.21版コンピュータソフトウェア(Stanford University;Tusher et al. (2001) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:5116-21)を用いて、分析を実行した。
【0115】
14個の異なる細胞集団を分析した。細胞を、継代情報、培養基質、および培養培地とともに、表1に一覧にした。
【表2】
【0116】
主成分分析により、データを評価し、細胞で異なるように発現している290個の遺伝子を分析した。この分析は、集団間の類似性についての相対的な比較を可能にする。表2は、細胞ペアの比較について計算されたユークリッド距離を示している。ユークリッド距離は、細胞型のうち異なって発現した290個の遺伝子に基づいた細胞の比較に基づいている。ユークリッド距離は、290個の遺伝子の発現間の類似性と反比例している(すなわち、距離が遠くなるにつれ、あまり類似性がない)。
【表3】
【0117】
以下の表3および表4は、臍帯組織由来細胞において増加した遺伝子の発現(表3)、および臍帯組織由来細胞において低下した遺伝子の発現(表4)を示している。「プローブセットID」と名付けられた列は、チップ上の特定の位置に局在する、さまざまなオリゴヌクレオチドプローブのセットについての業者のIDコードである。そのオリゴヌクレオチドプローブは、NCBI(GenBank)データベース内に特定のアクセッション番号(列「NCBIアクセッション番号」)で見出される配列を含む、命名された遺伝子(列「遺伝子名」)とハイブリダイゼーションすることができる。
【表4】
【表5−1】
【表5−2】
【0118】
表5、表6、表7は、ヒト線維芽細胞(表5)、ICBM細胞(表6)、およびMSC(表7)において増加した遺伝子発現を示している。
【表6−1】
【表6−2】
【表7】
【表8】
【0119】
以上の分析には、異なる3つの臍帯に由来する細胞、ならびに、異なる2つの皮膚線維芽細胞株、3つの間葉系幹細胞株、および3つの腸骨稜骨髄細胞株が含まれる。22,000個の遺伝子についてのプローブを含むオリゴヌクレオチドアレイを用いて、これらの細胞により発現したmRNAを分析した。結果は、これらの5つの異なる細胞株において、290個の遺伝子が異なる発現をすることを示していた。これらの遺伝子には、臍帯組織由来細胞で、特異的に増加した7個の遺伝子が含まれる。臍帯組織由来細胞において、54個の遺伝子が、他の細胞型と比べて特に低い発現レベルを有することが見出された。選択された遺伝子の発現をPCRで確認した。これらの結果は、臍帯組織由来細胞が、たとえば骨髄由来細胞および線維芽細胞と比べて、異なる遺伝子発現プロファイルを有することを示している。
【0120】
〔実施例5:臍帯組織由来細胞における細胞マーカー〕
以上に示したように、臍帯組織由来細胞について、6個の「特徴」遺伝子を同定した。oxidized LDL receptor 1、interleukin-8、rennin、reticulon、chemokine receptor ligand 3 (CXC ligand 3)、およびgranulocyte chemotactic protein 2 (GCP-2)。これらの「特徴」遺伝子は、分娩後由来細胞において相対的に高いレベルで発現した。
【0121】
本実施例で説明する手法を、マイクロアレイデータを検証し、遺伝子発現およびタンパク質発現間の一致/不一致を見出し、また、臍帯組織由来細胞に特有の同定因子の検出のための一連の信頼性のある解析を確立するために実行した。
【0122】
臍帯組織由来細胞(4つの単離物)、および正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF:新生児および成人)を、ゼラチンコーティングしたT75フラスコ中のペニシリン/ストレプトマイシンを含む成長培地中で成長させた。間葉系幹細胞(MSC)を、間葉系幹細胞成長培地ブリットキット(Mesenchymal Stem Cell Growth Medium Bullet kit)(MSCGM;Cambrex;Walkerville, MD)で成長させた。
【0123】
IL-8プロトコルのために、細胞を液体窒素から解凍し、5,000細胞/cm2でゼラチンコーティングフラスコ上に蒔き、48時間、成長培地中で成長させた。その後、血清枯渇培地 10mL[DMEM-low glucose(Gibco;Carlsbad, CA)、ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco;Carlsbad, CA)、および0.1%(w/v)ウシ血清アルブミン(BSA)(Sigma;St. Louis, MO)]中で8時間さらに成長させた。この処理の後、RNAを抽出し、150×g、5分間、上澄みを遠心分離して、壊死細胞片を取り除いた。その後、ELISA分析のために、上澄みを−80℃で凍結した。
【0124】
ヒト新生児包皮由来のヒト線維芽細胞と同様に、ゼラチンコーティングしたT75フラスコ中の成長培地において、臍帯由来の分娩後細胞を培養した。11代継代で、細胞を液体窒素により凍結した。細胞を解凍し、15mL遠心分離チューブに移した。150×g、5分間の遠心分離後、上澄みを廃棄した。培養培地4mLに細胞を再懸濁し、カウントした。成長培地15mLを含む75cm2フラスコにおいて、37,500細胞/フラスコで、細胞を24時間成長させた。培地を、8時間の血清枯渇培地に変更した。インキュベーションの終了時に血清枯渇培地を収集し、14,000×g、5分間、遠心分離した(その後、−20℃で保管した)。
【0125】
各フラスコにおける細胞数を推定するために、トリプシン/EDTA(Gibco;Carlsbad, CA)2mLを各フラスコに加えた。細胞をフラスコから分離した後、トリプシン活性を成長培地8mLで中和した。細胞を15mL遠心チューブに移し、150×g、5分間、遠心分離した。上澄みを取り除き、成長培地1mLを各チューブに加え、細胞を再懸濁した。ヘモサイトメーターを用いて、細胞数を推定した。
【0126】
ELISA分析(R&D Systems;Minneapolis, MN)を用いて、細胞から血清枯渇培地に分泌されたIL-8の量を分析した。業者から提供された説明書にしたがって、すべての分析を試験した。
【0127】
コンフルエント状態の臍帯組織由来細胞および線維芽細胞から、または、IL-8発現のために、上記に説明したように処理した細胞から、RNAを抽出した。業者の説明書(RNeasyミニキット;Qiagen;Valencia, CA)にしたがって、β−メルカプトエタノール(Sigma;St. Louis, MO)を含むバッファーRLT 350mLにより、細胞を可溶化した。業者の説明書(RNeasyミニキット;Qiagen;Valencia, CA)にしたがって、RNAを抽出し、DNase処理(2.7U/サンプル)(Sigma;St. Louis, MO)にさらした。DEPC処理水 50μLでRNAを溶出し、−80℃で保管した。
【0128】
RNAをヒト臍帯組織からも抽出した。組織(30mg)を、2−メルカプトエタノールを含むRLT緩衝液 700mLに懸濁した。サンプルを機械的にホモジェナイズし、業者の説明書にしたがって、RNA抽出を行った。DEPC処理水 50μLでRNAを抽出し、−80℃で保管した。TaqMan逆転写試薬(Applied Biosystems;Foster City, CA)とランダムヘキサマーを用いて、25℃10分間、37℃60分間、および95℃10分間で、RNAを逆転写した。サンプルをー20℃で保管した。
【0129】
分娩後細胞で特別に制御されているものとしてcDNAマイクロアレイにより同定された遺伝子(oxidized LDL receptor、interleukin-8、rennin 、およびreticulonを含む特徴遺伝子)を、リアルタイムPCRおよび慣習的なPCRを用いてさらに調査した。
【0130】
Assays-on-Demand(商標)を用いて、cDNAサンプルに対してPCRを実行した。ABI Prism 7000 SDSソフトウェアを含む7000配列検出システム(7000 sequence detection system)(Applied Biosystems;Foster City, CA)を用いて、業者の説明書(Applied Biosystems;Foster City, CA)にしたがって、遺伝子発現産物[oxidized LDL receptor (Hs00234028)、rennin (Hs00166915)、reticulon (Hs00382515)、CXC ligand 3 (Hs00171061)、GCP-2 (Hs00605742)、IL-8 (Hs00174103)、およびGAPDH(Applied Biosystems;Foster City, CA)]を、cDNAおよびTaqManユニバーサルPCRマスターミックス(TaqMan Universal PCR master mix)とともに混合した。サーマルサイクル条件は、最初に、50℃2分間および95℃10分間、その後、95℃15秒間および60℃1分間を40サイクルであった。業者の説明書(Applied BiosystemsのABI Prism 7700配列検出システムのためのユーザー紀要第2)にしたがって、PCRデータを分析した。
【0131】
リアルタイムPCRの結果を確認するために、ABI PRISM 7700(Perkin Elmer Applied Biosystems;Boston, Massachusetts, USA)を用いて、通常のPCRを実行した。cDNA溶液 2μL、1×AmpliTaqゴールドユニバーサルミックスPCR反応バッファー(AmpliTaq Gold universal mix PCR Reaction buffer)(Applied Biosystems;Foster City, CA)、および開始変性条件94℃、5分間を用いて、PCRを実施した。各プライマーセットについて、増幅を最適化した。IL-8、CXC ligand 3、およびreticulon:94℃15秒間、55℃15秒間、および72℃30秒間を30サイクル、rennin:94℃15秒間、53℃15秒間、および72℃30秒間を38サイクル、oxidized LDL receptorおよびGAPDH:94℃15秒間、55℃15秒間、および72℃30秒間を33サイクル。増幅に用いたプライマーを表8に一覧にする。最終PCR反応におけるプライマー濃度は、0.5μM GAPDH以外、1μMであった。GAPDHプライマーについては、業者のTaqManプローブが最終PCR反応に加えられない点を除いて、リアルタイムPCRと同じものであった。サンプルを2%(w/v)アガロースゲルに泳動し、エチジウムブロマイド(Sigma;St. Louis, MO)で染色した。焦点距離ポラロイドカメラ(focal-length Polaroid camera)(VWR International;South Plainfield, NJ)、および667ユニバーサルツインパックフィルム(667 Universal Twinpack film)(VWR International;South Plainfield, NJ)を用いて、画像を撮影した。
【表9】
【0132】
冷4%(w/v)パラホルムアルデヒド(Sigma-Aldrich;St. Louis, MO)により、室温10分間、細胞を固定した。0代継代(P0)(単離後直接)の1つの単離物および11代継代(P11)の2つの単離物、ならびに線維芽細胞(P11)を用いた。以下のエピトープに対する抗体を用いて、免疫細胞化学を実行した。vimentin(1:500;Sigma;St. Louis, MO)、desmin(1:150;Sigma−ウサギ由来、または1:300;Chemicon;Temecula, CA−マウス由来)、alpha-smooth muscle actin(SMA)(1:400;Sigma)、cytokeratin 18(CK18)(1:400;Sigma)、von Willebrand Factor(vWF)(1:200;Sigma)、およびCD34(human CD34 Class III)(1:100;DAKOCytomation;Carpinteria, CA)。さらに、11代継代の分娩後細胞に対して、以下のマーカーを試験した。抗ヒトGROalpha-PE(1:100;Becton Dickinson;Franklin Lakes, NJ)、抗ヒトGCP-2(1:100;Santa Cruz Biotech;Santa Cruz, CA)、抗ヒトoxidized LDL receptor 1(ox-LDL R1)(1:100;Santa Cruz Biotech)、および抗ヒトNOGA-A(1:100;Santa Cruz Biotech)。
【0133】
リン酸緩衝食塩水(PBS)で培養物を洗浄し、PBS、4%(v/v)ヤギ血清(Chemicon;Temecula, CA)、および0.3%(v/v)Triton(Triton X-100;Sigma;St. Louis, MO)を含むタンパク質ブロッキング溶液に30分間さらし、細胞内抗原に接触させた。目的のエピトープが細胞表面上に局在する場合(CD34、ox-LDL R1)には、エピトープの損失を防ぐために、手順のすべての段階でTriton X-100を省略した。さらに、一次抗体がヤギ由来である場合(GCP-2、ox-LDL R1、NOGO-A)には、ヤギ血清に代えて、3%(v/v)ロバ血清を用いた。その後、ブロッキング溶液に希釈した一次抗体を、室温、1時間、培養物に適用した。一次抗体溶液を除去し、培養物をPBSで洗浄し、ヤギ抗マウスIgG−テキサスレッド(1:250;Molecular Probes;Eugene, OR)、および/または、ヤギ抗ウサギIgG−Alexa488(1:250;Molecular Probes)、もしくは、ロバ抗ヤギIgG−FITC(1:150;Santa Cruz Biotech)とブロッキングとを含む二次抗体溶液を適用した(室温で1時間)。その後、培養物を洗浄し、10μM DAPI(Molecular Probes)を10分間適用して、細胞核を可視化した。
【0134】
免疫染色後、Olympus倒立エピ蛍光顕微鏡(Olympus;Melville, NY)の適当な蛍光フィルタを用いて、蛍光を可視化した。すべての場合において、陽性染色が、対照染色を超える蛍光シグナルを示した。ここで、対照染色においては、一次抗体溶液の適用を除いて、上記に概説した全体の手順が実施されていた。デジタルカラービデオカメラおよびImageProソフトウェア(Media Cybernetics;Carlsbad, CA)を用いて、代表的な画像を取り込んだ。三重染色サンプルについては、1つの発行フィルタのみを用いて、各画像を一度に撮影した。その後、層状モンタージュを、Adobe Photoshopソフトウェア(Adobe;San Jose, CA)を用いて用意した。
【0135】
フラスコ中の付着細胞をリン酸緩衝食塩水(PBS)(Gibco;Carlsbad, CA)で洗浄し、トリプシン/EDTA(Gibco;Carlsbad, CA)で分離した。細胞を採集し、遠心分離し、1×107細胞/mLの細胞濃度で、3%(v/v)FBSを含むPBSに再懸濁した。100μL分液をコニカルチューブに移した。細胞内抗原を染色した細胞をPerm/Wash緩衝液(BD Pharmingen;San Diego, CA)で透過性にした。業者の説明書にしたがって、分液に抗体を加え、4℃、30分間、暗所で、細胞をインキュベーションした。インキュベーション後、細胞をPBSで洗浄し、遠心分離して、余分な抗体を取り除いた。二次抗体を必要とする細胞を、3%FBS 100μLに再懸濁した。業者の説明書にしたがって、二次抗体を加え、4℃、30分間、暗所で、細胞をインキュベーションした。インキュベーション後、細胞をPBSで洗浄し、遠心分離して、余分な二次抗体を取り除いた。洗浄した細胞を、PBS 0.5mLに再懸濁し、フローサイトメトリーにより分析した。以下の抗体を用いた。oxidized LDL receptor 1(sc-5813;Santa Cruz, Biotech)、GROa(555042;BD Pharmingen;Bedford, MA)、マウスIgG1 kappa(P-4685およびM-5284;Sigma)、ヤギ由来ロバIgG(sc-3743;Santa Cruz, Biotech)。フローサイトメトリー分析をFACScalibur(Becton Dickinson;San Jose, CA)により実行した。
【0136】
リアルタイムPCRから得られたデータを、ΔΔCT法により分析し、対数軸で表現した。reticulonおよびoxidized LDL receptorの発現レベルが、臍帯組織由来細胞で、他の細胞と比べて高かった。CXC ligand 3およびGCP-2の発現レベルには、分娩後由来細胞と対照との間に有意差はまったく見られなかった。リアルタイムPCRの結果を通常のPCRで確認した。さらに、PCR産物の配列決定により、これらの観察を確認した。上記に挙げた通常のCXC ligand 3プライマーを用いた場合には、CXC ligand 3の発現レベルには、分娩後由来細胞と対照との間で有意差が見られなかった。
【0137】
分娩後細胞におけるcytokine、IL-8の産生を、成長培地培養の分娩後由来細胞および血清涸渇の分娩後由来細胞の両方で評価した。通常のPCRおよびPCR産物の配列決定により、すべてのリアルタイムPCRデータを確認した。
【0138】
IL-8の存在について、血清を含まない培地で成長させた細胞の上澄みを試験した場合、臍帯細胞および胎盤細胞のいくつかの単離物に由来する培地で最高量が検出された(表9)。ヒト皮膚線維芽細胞由来の培地では、IL-8はまったく検出されなかった。
【表10】
【0139】
免疫細胞化学分析により、選択されたタンパク質の産生について、0代継代のヒト臍帯に由来する細胞を探索した。単離直後(0代継代)、4%パラホルムアルデヒドで細胞を固定し、6つのタンパク質(von Willebrand Factor、CD34、cytokeratin 18、desmin、alpha-smooth muscle actin、およびvimentin)に対する抗体にさらした。臍帯組織由来細胞は、alpha-smooth muscle actinおよびvimentinについて陽性であり、11代継代全体で一致した染色パターンを有していた。
【0140】
マイクロアレイおよびPCR(リアルタイムPCRおよび慣習的なPCRの両方)により測定された遺伝子発現レベルの一致は、以下の4つの遺伝子について確立された。oxidized LDL receptor 1、rennin、reticulon、およびIL-8。これらの遺伝子の発現は、PPDCにおけるmRNAレベルで異なるように制御されており、IL-8もまたタンパク質レベルで異なるように制御されている。alpha-smooth muscle actinおよびvimentinの発現について、0代継代のヒト臍帯組織由来の細胞を探索したところ、両方ともについて陽性であった。11代継代を通じて、染色パターンが保存されていた。
【0141】
〔実施例6:in vitroでの分娩後由来細胞の免疫学的評価〕
これらの細胞がin vivoへの移植において引き起こすかもしれない免疫応答を予測する目的で、分娩後由来細胞(PPDC)を、その免疫学的特性について評価した。HLA-DR、HLA-DP、HLA-DQ、CD80、CD86、およびB7-H2の存在について、PPDCをフローサイトメトリーにより分析した。これらのタンパク質は、抗原提示細胞(APC)により発現され、ナイーブCD4+T細胞の直接刺激を必要とするものである(Abbas & Lichtman, CELLULAR AND MOLECULAR IMMUNOLOGY, 5th Ed. (2003) Saunders, Philadelphia, p. 171)。また、HLA-G(Abbas & Lichtman, 2003、前述)、CD178(Coumans, et al., (1999) Journal of Immunological Methods 224, 185-196)、およびPD-L2(Abbas & Lichtman, 2003、前述;Brown, et. al. (2003) The Journal of Immunology 170, 1257-1266)の発現について、細胞株をフローサイトメトリーにより分析した。これらのタンパク質の、胎盤組織に存在する細胞による発現は、子宮内の胎盤組織の免疫特異的な状態を仲介すると考えられている。胎盤組織由来細胞株および臍帯組織由来細胞株がin vivoで免疫応答を引き起こす程度を予測するために、一方向混合リンパ球反応(MLR)により、細胞株を試験した。
【0142】
2%ゼラチン(Sigma;St. Louis, MO)でコーティングしたT75フラスコ(Corning, Corning, NY)中のペニシリン/ストレプトマイシンを含む成長培地において、細胞をコンフルエントまで培養した。
【0143】
リン酸緩衝食塩水(PBS)(Gibco;Carlsbad, CA)で細胞を洗浄し、トリプシン/EDTA(Gibco;Carlsbad, MO)で分離した。細胞を採取し、遠心分離し、3%(v/v)を含むPBSに、1×107個/mLの細胞濃度で再懸濁した。業者の説明書にしたがって、細胞懸濁液100μLに抗体(表10)を加え、4℃、30分間、暗所で、インキュベーションした。インキュベーション後、細胞をPBSで洗浄し、遠心分離して、非結合抗体を取り除いた。PBS 500μLに細胞を再懸濁し、FACSCalibur装置(Becton Dickinson;San Jose, CA)を用いて、フローサイトメトリーにより分析した。
【表11】
【0144】
細胞株Aとラベルした10代継代の臍帯組織由来細胞の凍結保存バイアルを、ドライアイス上からCTBR(Senneville;Quebec)に送り、CTBR SOP No. CAC-031を用いて混合リンパ球反応を実施した。複数の男女のボランティアドナーから、末梢血単核球(PBMC)を収集した。マイトマイシンCにより、刺激(ドナー)同種PBMC、自家PBMC、および分娩後細胞株を処理した。自家およびマイトマイシンC処理した刺激細胞を、応答(レシピエント)PBMCに加え、4日間培養した。インキュベーション後、各サンプルに[3H]チミジンを加え、18時間培養した。細胞を採取した後、放射性標識されたDNAを抽出し、シンチレーションカウンターを用いて、[3H]チミジン取込みを測定した。
【0145】
レシーバーおよびマイトマイシンC処理した同種ドナーの平均増殖を、レシーバーの基準増殖で割ることにより、同種ドナーに対する刺激指数(SIAD)を計算した。レシーバーおよびマイトマイシンC処理した分娩後細胞株の平均増殖を、レシーバーの基準増殖で割ることにより、PPDCの刺激指数を計算した。
【0146】
6人のヒトボランティア血液ドナーをスクリーニングして、他の5つの血液ドナーとの混合リンパ球反応において、ロバストな増殖応答を示すだろう単一の同種ドナーを同定した。このドナーを、同種陽性対照ドナーとして選択した。残りの5つの血液ドナーを、レシピエントとして選択した。同種陽性対照ドナーおよび胎盤細胞株をマイトマイシンC処理し、5つの同種レシーバーそれぞれとの混合リンパ球反応で培養した。プレートあたり3つのレシーバーを有する2つの細胞培養プレートを用いて、反応を3回くり返した(表11)。平均刺激指数は、6.5(プレート1)〜9(プレート2)の範囲であり、同種ドナー陽性対照は、42.75(プレート1)〜70(プレート2)の範囲であった(表12)。
【表12】
【表13】
【0147】
フローサイトメトリーにより分析された臍帯組織由来細胞のヒストグラムは、HLA-DR,DP,DQ、CD80、CD86、およびB7-H2の陰性発現を示し、そのことは、IgG対照と一致した蛍光値により示される。このことは、臍帯細胞株が、CD4+T細胞を直接刺激するのに必要とされる細胞表面分子を欠いているということを示している。フローサイトメトリーにより分析された臍帯組織由来細胞のヒストグラムは、PD-L2の陽性発現を示し、そのことは、IgG対照に対して増加した蛍光値により示されており、また、そのヒストグラムは、CD178およびHLA-Gの陰性発現を示し、そのことは、IgG対照と一致した蛍光値により示されている。
【0148】
臍帯組織由来細胞株により実行された混合リンパ球反応において、平均の刺激指数は6.5〜9の範囲であり、同種陽性対照の刺激指数は、42.75〜70の範囲であった。臍帯組織由来細胞株は、刺激タンパク質HLA-DR、HLA-DP、HLA-DQ、CD80、CD86、およびB7-H2の発現について陰性であり、そのことは、フローサイトメトリーにより測定された。臍帯組織由来細胞株は、免疫調節タンパク質HLA-GおよびCD178の発現については陰性、また、PD-L2の発現については陽性であり、そのことは、フローサイトメトリーにより測定された。同種ドナーPBMCは、HLA-DR,DQ、CD8、CD86、およびB7-H2を発現している抗原提示細胞を含んでおり、ナイーブCD4+T細胞の刺激を可能にする。胎盤組織由来細胞および臍帯組織由来細胞上のナイーブCD4+T細胞の直接刺激に必要とされる抗原提示細胞表面分子の不存在、および、免疫調節タンパク質PD-L2の存在によって、MLRにおける、これらの細胞により示された異系対照と比べて低い刺激指数が、説明されるかもしれない。
【0149】
〔実施例7:臍帯組織由来細胞による栄養因子の分泌〕
選択された栄養因子についての臍帯組織由来細胞からの分泌を測定した。検出のために選択された因子には、(1)血管新生活性を有することが知られている因子[たとえば、肝細胞成長因子(HGF)(Rosen et al. (1997) Ciba Found. Symp. 212:215-26)、単球走化タンパク質1(MCP-1)(Salcedo et al. (2000) Blood 96;34-40)、インターロイキン−8(IL-8)(Li et al. (2003) J. Immunol. 170:3369-76)、ケラチノサイト成長因子(KGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、血管内皮成長因子(VEGF)(Hughes et al. (2004) Ann. Thorac. Surg. 77:812-8)、マトリクスメタロプロテアーゼ1(TIMP1)、アンジオポエチン2(ANG2)、血小板由来成長因子(PDGF-bb)、トロンボポエチン(TPO)、ヘパリン結合上皮成長因子(HB-EGF)、ストロマ細胞由来因子1α(SDF-1alpha)]、(2)神経栄養/神経保護活性を有することが知られている因子[たとえば、脳由来神経栄養因子(BDNF)(Cheng et al. (2003) Dev. Biol. 258;319-33)、インターロイキン−6(IL-6)、顆粒球走化性タンパク質2(GCP-2)、形質転換成長因子β2(TGFbeta2)]、および(3)ケモカイン活性を有することが知られている因子[たとえば、マクロファージ炎症性タンパク質1α(MIP1a)、マクロファージ炎症性タンパク質1β(MIP1b)、単球走化性タンパク質1(MCP-1)、Rantes(regulated on activation, normal T cell expressed and secreted)、I309、胸腺および活性化制御ケモカイン(TARC)、 Eotaxin、マクロファージ由来ケモカイン(MDC)、IL-8]が含まれる。
【0150】
ヒト新生児包皮に由来するヒト線維芽細胞と同様に、臍帯に由来する細胞を、ゼラチンコーティングしたT75フラスコ上のペニシリン/ストレプトマイシンを含む成長培地で培養した。11代継代で細胞を凍結保存し、液体窒素中で保存した。細胞の解凍後、成長培地を細胞に加え、その後、15mL遠心分離チューブに移し、150×g、5分間、細胞を遠心分離した。上澄みを捨てた。成長培地4mLに細胞ペレットを再懸濁し、細胞をカウントした。成長培地15mLを含む75cm2フラスコあたり375,000細胞で、細胞を蒔き、24時間培養した。8時間にわたって、血清を含まない培地[DMEM-low glucose (Gibco)、0.1%(w/v)ウシ血清アルブミン(Sigma)、ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco)]に、培地を変えた。血清を含まない馴化培地を、14,000×g、5分間、遠心分離して、インキュベーションの終了時に収集し、−20℃で保管した。各フラスコにおける細胞の数を推定するために、細胞をPBSで洗浄し、トリプシン/EDTA 2mLを用いて分離した。成長培地 8mLを加えることにより、トリプシン活性を抑制した。150×g、5分間、細胞を遠心分離した。上澄みを取り除き、成長培地 1mLに細胞を再懸濁した。ヘモサイトメーターを用いて、細胞数を推定した。
【0151】
5%二酸化炭素および大気酸素中、37℃で、細胞を成長させた。また、5%酸素またはβ−メルカプトエタノール(BME)中で、胎盤由来細胞(バッチ101503)を成長させた。各細胞サンプルにより産生されたMCP-1、IL-6、VEGF、SDF-1alpha、GCP-2、 IL-8、およびTGF-beta2の量を、ELISA解析(R&D Systems;Minneapolis, MN)により測定した。業者の説明書にしたがって、すべての解析を実行した。
【0152】
SEARCHLIGHT(登録商標)プロテオームアレイ(Pierce Biotechnology Inc.)を用いて、ケモカイン(MIP1a、MIP1b、MCP-1、Rantes、I309、TARC 、Eotaxin、MDC、IL8)、BDNF、および血管新生因子(HGF、KGF、bFGF、VEGF、TIMP1、ANG2、PDGF-bb、TPO、HB-EGF)を測定した。プロテオームアレイは、ウェルあたり2〜16個のタンパク質を量的測定するためのマルチプレックスサンドイッチELISAである。そのアレイは、96ウェルプレートの各ウェルに、4〜16個の異なる捕捉抗体を2×2、3×3、または4×4のパターンでスポッティングすることにより作られる。サンドイッチELISAの後、プレート全体を画像化して、プレートの各ウェル内の各スポットに生成された化学蛍光シグナルを取り込む。各スポットにおいて生成されたシグナルの量は、もともとの標準またはサンプルにおける標的タンパク質の量に比例する。
【0153】
MCP-1およびIL-6は、臍帯組織由来細胞および上皮線維芽細胞によって分泌された(表13)。SDF-1alphaは、線維芽細胞によって分泌された。GCP-2およびIL-8は、BMEまたは5%O2の存在下で培養された臍帯組織由来細胞によって分泌された。GCP-2は、ヒト線維芽細胞によっても分泌された。TGF-beta2は、ELISA解析では検出できなかった。
【表14】
【0154】
TIMP1、TPO、KGF、HGF、FGF、HBEGF、BDNF、MIP1b、MCP1、RANTES、I309、TARC、MDC、およびIL-8は、臍帯組織由来細胞から分泌された(表14および表15)。Ang2、VEGF、またはPDGF-bbは、まったく検出されなかった。
【表15】
【表16】
【0155】
臍帯組織由来細胞は、多くの栄養因子を分泌した。これらの成長因子のいくつか(たとえば、HGF、bFGF、MCP-1およびIL-8)は、血管形成において重要な役割を果たしている。他の栄養因子(たとえば、BDNFおよびIL-6)は、神経再建において、重要な役割を有している。
【0156】
〔実施例8:HMG-CoAリダクターゼ阻害剤による、増殖したヒト臍帯組織由来細胞上のIFN-gammaにより誘導されたHLA-DR,DP,DQの発現の阻害〕
培養増殖したヒト臍帯組織由来細胞(022803 P4)を6ウェル組織培養プレートに蒔き、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)−低グルコース、15%ウシ胎仔血清(FBS)、ペニシリン/ストレプトマイシン(P/S)、β−メルカプトエタノール(BME)中で、およそ70%コンフルエントまで培養した。その後、各HMG-CoAリダクターゼ阻害剤10μM[DMSOに10mMストック試薬として処方したシンバスタチン酸(Alexis Biochemicals;Lausen, Switzerland)]、またはDMSOビヒクル−0.1%(Sigma;St. Louis, MO)を含む培地で、細胞を処理し、一晩インキュベーションした。培地を吸引により除去し、rhIFN-gamma 500ユニット/mL(BD Pharmingen;Franklin Lakes, NJ)および各HMG-CoAリダクターゼ阻害剤10μMを含む培地で置換し、3日間インキュベーションした。3日目に、細胞をトリプシンにより採取した。
【0157】
採取された細胞をPBSで1回洗浄し、3%FBSを含むPBS 100μLに、FITC標識したHLA-DR,DP,DQ(BD Biosciences;Franklin Lakes, NJ)またはFITC標識したIgG抗体(BD Biosciences;Franklin Lakes, NJ)20μLを含むものに再懸濁し、1時間インキュベーションした。細胞をPBSで1回洗浄し、PBS 500μLに再懸濁し、FACSCaliburフローサイトメーター(BS Biosciences;Franklin Lakes, NJ)で分析した。
【表17】
【0158】
表16に示すとおり、炎症性サイトカインIFN-gammaとともにインキュベーションした未処理のヒト臍帯組織由来細胞、および0.1%DMSOビヒクル対照のヒト臍帯組織由来細胞は、HLA-DR,DP,DQ発現の増加を示しており、フローサイトメトリーにより検出された増加した蛍光が観察された。HMG-CoAリダクターゼ阻害剤により事前処理され、次いでIFN-gammaとともにインキュベーションされたヒト臍帯組織由来細胞は、未処理およびビヒクル対照と同様のHLA-DR,DP,DQ発現を示した。
【0159】
このデータは、HMG-CoAリダクターゼは、ヒト臍帯組織由来細胞における炎症性サイトカイン介在性のHLA-DR,DP,DQの発現を阻害するということを示している。
【0160】
〔実施例9:薬物により誘導された急性腎不全のげっ歯類モデルにおける、ヒト臍帯組織由来細胞の腎保護能力〕
58匹のメスC57BL/6JマウスをThe Jackson Laboratory(Bar Harbor, Maine)から購入した。表17は、本研究で実行された実験計画を示している。
【表18】
【0161】
10mg/kgの濃度でシス−ジアミンジクロロ白金(シスプラチン)(Sigma Co. Cat# P4394)を2回皮下注射することにより、マウスに腎不全を誘導し、その後、最初のシスプラチン注射後24〜48時間で、細胞、またはCa2+/Mg2+を含まないハンクス平衡塩類溶液(HBSS)(Invitrogen;カタログ番号14025、ロット番号1300696)を注入した。図1は、本研究の実行のための一連の出来事を示している。
【0162】
10代継代のhUTC(ロット番号120304)を単離し増殖し、−120℃未満(液体窒素の蒸気相)で凍結保存した。業者の説明書にしたがって、hMSC(Cambrex (Lonza), Walkersville, MD;カタログ番号PT-2501、ロット番号4F1560)を6代継代まで増殖し、その後凍結保存した。マウスMSC(mMSC)を新たに単離し増殖した。簡単に説明すると、C57BL/6Jマウスの骨髄を、脛骨および大腿骨から、25ゲージ針を用いて押し出した。10%胎仔血清が補われたイスコブ変法ダルベッコ培地において、1〜2×106細胞/cm2で、骨髄を培養した。非付着細胞を取り除き、播種後48〜72時間で、培地を交換し、その後、4日ごとに交換した。組織培養フラスコがコンフルエントに近づいたとき、培養フラスコからmMSCを酵素的に取り除いた。2代継代後、mMSCを採取し、移植のために準備した。hUTCおよびhMSCは、正常な核型を示し、病原およびマイコプラズマによる汚染はなかった。
【0163】
細胞注入時に、hUTCおよびhMSCを37℃で解凍し、HBSSにより2回洗浄した。ヘモサイトメーターを用いて、細胞をカウントし、トリパンブルー染料排出により、細胞生存力を決定した。0.2×106細胞/200μL HBSSまたは0.4×106細胞/200μL HBSSの濃度で、細胞を再構成した。細胞を含むHBSSまたは(陰性対照として)HBSS単独を、27ゲージ針を取り付けた1mLシリンジを用いて、前顔面静脈に注入した。
【0164】
動物生存率を決定するために、細胞移植後7日目の生存動物の数を、処理群における最初の動物数で割った。表18および図2に示すとおり、HBSSビヒクル処理では、移植後7日目で生存している動物は、43%しかいなかった。しかしながら、mMSCおよびhMSC処理では、ともに90%の動物が生存した。hUTCの低用量(0.2×106細胞)注射では、7日目に70%の動物が生存しており、hUTCの高用量(0.4×106細胞)処理では、50%の動物が生存していた。
【表19】
【0165】
シスプラチン注射(1日目)および細胞移植後3日目、5日目、7日目に、尾静脈から血液サンプル(50μL)を収集した。血液サンプルから血清を調製し、分析の時まで、EDTA処理したチューブに入れ−80℃で保管した。血液サンプリングの前一晩、すべての動物から食餌を取り除いた。COBASミラ化学分析器(COBAS Mira Chemical Analyzer)(Roche;Switzerland)を用いて、血中尿素窒素(BUN)測定を実施した。Advia 1650化学分析器(Advia 1650 Chemical Analyzer)(Bayer;Pittsburgh, PA)を用いて、血清クレアチニン(Scr)を分析した。
【0166】
傷害の前では、HBSS、mMSC、hMSC、低用量hUTC、および高用量hUTCすべてが、通常のBUN値を示し、それぞれ16.89mg/dL、17.19mg/dL、17.21mg/dL、17.47mg/dL、17.33mg/dLであった(表19、図3)。しかしながら、5日目に、すべての処理群が、上昇したBUNレベルを示していた。HBSS処理では、平均BUNは64.37mg/dLであり、mMSC処理では58.96mg/dLであった。しかしながら、hMSCおよび低用量hUTC処理は、ともに低下したBUN値であり、それぞれ40.44mg/dLおよび51.32mg/dLであり、また、高用量hUTC処理は、増加したBUNを示し、97.28mg/dLであった。ビヒクルと処理群との間に、統計的な差異は見られなかった。これは、BUN測定で一般的に見られる変動のためである。7日目の測定では、同様の傾向のデータを示した。しかしながら、ビヒクル群のBUN値において、劇的な低下が見られた。このことが、移植後7日目の腎機能に対する細胞処理の効果を正確に解析することを困難にしている。
【表20−1】
【表20−2】
【0167】
表20および図4は、5日目の血清サンプルのSCr測定を示している。HBSSおよびmMRS処理は、それぞれ0.74mg/dLおよび0.66mg/dLの平均クレアチニン値であった。SCrの統計的に有意な低下は、hMSCまたは低用量hUTC処理後に観察された(P<0.03)。hMSC処理は、平均SCr値0.47mg/dLであり、低用量hUTC処理は、平均SCr値0.57mg/dLであった。
【表21】
【0168】
細胞移植後7日目に、処理群あたり2匹のマウスを屠殺し、食塩水による経心腔灌流、および、その後の4%パラホルムアルデヒドの灌流および浸漬により、組織を固定した。腎臓をマウスから取り除き、組織学のために加工した。その後、H&E染色した切片を組織学的損傷について評価した。2名の訓練された病理学者が盲検し、腎尿細管変性の程度をスコア化した。
【0169】
HBSS、hMSC、および低用量hUTC処理された動物由来の組織学切片において、尿細管壊死を定量的に測定した。尿細管変性を、1〜4の範囲のスケールでスコア化した(1:最小損傷、2:軽度損傷、3:中程度損傷、4:重度損傷)。表21および図5に示すとおり、ビヒクルおよびhMSC処理ともに軽度の尿細管変性であり、平均傷害スコアは2.5であった。しかしながら、低用量hUTC処理は、最小尿細管損傷を示し、平均傷害スコアは1.9であった。このことは、hUTCの腎保護能力を示している。
【表22】
【0170】
データは、hUTCおよびhMSCが、シスプラチンにより誘導された腎毒性から腎臓を保護することを示している。本研究は、非常に高い濃度のシスプラチンを利用しており、そのため重度の腎毒性のモデルを示している。今後の研究では、より低い致死量以下のシスプラチンを利用するつもりである。この低用量の腎毒性モデルは、ヒトで観察される障害の種類をより示すことだろう。さらに、hUTCの静脈内投与を、シスプラチン注入後少なくとも24時間後に行う。このことは、シスプラチンの血液濃度が非常に低く、hUTCの陰性効果があまり発揮されない見込みであることを確認するだろう。
【0171】
傷害のあるマウスを0.2×106個のhUTCで処理することにより、ビヒクル処理した動物と比較して、生存率が増加し、SCrが23%減少し、尿細管変性が減少した。これらの顕著な発見は、hUTCが、薬物により誘導された急性腎不全から腎臓を保護するかもしれないということを示している。
【0172】
〔実施例10:シスプラチンにより誘導された腎毒性のラットモデルにおける、ヒト臍帯組織由来細胞の腎保護効果の評価〕
腎毒性を39匹のオスSprague Dawleyラットで誘導した。シス−ジアミンジクロロ白金(シスプラチン)(Sigma Co.;カタログ番号P4394、ロット番号076K1697)を、細胞投与前24時間で、腹腔内(IP)注射により投与した(6mg/kg)。動物に5mL/kgの容量で投薬し、投薬レベルは、直近に収集した肉体重量に基づいた。
【0173】
10代継代のhUTC(ロット番号Q091506)を単離し増殖し、−120℃(液体窒素気相)で凍結保存した。hUTCは正常な核型を示し、病原およびマイコプラズマによる汚染はなかった。
【0174】
細胞移植時点で、hUTCを37℃で解凍し、HBSSで2回洗浄し、適当な濃度でHBSSに再懸濁した。シスプラチン投与後24時間、1日目に、ビヒクル[Ca2+/Mg2+を含まないハンクス平衡塩類溶液(HBSS)(Invitrogen;カタログ番号14025、ロット番号1226569)]、または、hUTCを含むHBSS 2mL容量により、約2分の注入速度の静脈内(IV)注入によって、動物に1回投与した。表22の処理群割り当てを参照のこと。群1はビヒクルのみを受け、群2〜4は、動物あたり0.3×106細胞、1×106細胞、および3×106細胞濃度でhUTCを受けた。投薬時に、動物は約7〜8週齢であった。
【表23】
【0175】
細胞またはビヒクル処理前(1日目)、および、シスプラチン処理後4日後、6日後、8日後に、尾静脈の穿刺により、血液サンプルを収集した。血液サンプルを血清について加工し、その後BUNおよびSCrを、Olympus AU640化学免疫分析器(Olympus AU640 chemistry immuno analyzer)を用いて測定した。
【0176】
1日目、4日目、6日目、および8日目に、BUNおよびSCrについて、血液サンプルを評価した(表23、図6、図7)。すべての動物にシスプラチンが投与され(群1〜4)、1〜4日目のすべての群において、平均BUNおよびSCrについて著しい増加のある同様の基準レベルを示した。すべての処理群が、BUNおよびSCrレベルに著しい増加を示しており、処理群平均レベルは、1日目の12〜13mg/dL(Bun)および0.3mg/dL(SCr)から、4日目の62〜68mg/dL(Bun)および1.8〜2.2mg/dL(SCr)までの範囲であった。しかしながら、ビヒクル対照動物(群1)は、6日目に低下した平均BUNおよびSCrを示し(それぞれ、34±10.4mg/dLおよび0.8±0.2mg/dL)、さらに病状の進んだ8日目に、基準レベルに達した(それぞれ、19±4.1mg/dLおよび0.5±0.1mg/dL)。このことは、腎毒性が一時的であり、8日目の基準値に近いBUNおよびSCrレベルへと、6日目に逆転しはじめたということを示唆している。同様に、hUTCを投与された動物(群2〜4)についてのBUNおよびSCrレベルは、ビヒクル対照動物(群1)のものと同程度またはわずかに低いものであった。6日目および8日目における、0.3×106細胞/動物(群2)および1×106細胞/動物(群3)の用量レベルでの細胞処理は、ほとんど効果がないことがわかった。しかしながら、3×106細胞/動物(群4)の用量レベルでのhUTCによる処理では、6日目の平均BUNおよびSCr値に、顕著な低下が生じた(それぞれ、20±6.1mg/dLおよび0.5±0.12mg/dL)。
【表24−1】
【表24−2】
【0177】
細胞処理前、ならびに4日目、6日目、および8日目(剖検前)に、代謝ケージに動物を置き、約8〜10時間後に尿サンプルを氷上に収集した。尿容量を測定し、尿収集の全体時間を記録した。その後、尿サンプルをOlympus AU640化学免疫分析器を用いて、クレアチニンについて分析した。クレアチニンクリアランス(CrCl)を、以下の方程式を用いて決定した。CrCl=尿クレアチニン(mg/dL)×尿容量(mL/時)/[血清クレアチニン(mg/dL)×体重(kg)]。
【0178】
1日目、4日目、6日目、および8日目に、尿サンプルをSCrについて評価し、CrClを計算した(表24、図8)。すべての動物にシスプラチンを投与し、1〜4日目のすべての群において、平均CrCl値について劇的な減少のある同様の基準レベルを示した。すべての処理群は、CrClに著しい増加を示し、平均レベルは、1日目の2.304〜2.595mL/分から4日目の0.381〜0.459mL/分の範囲であった。ビヒクル対照動物は、6日目にCrClの増加を示し(1.290mL/分)、8日目にはさらに増加して、基準レベル(1.802mL/分)に達した。このことは、CrClレベルについては、腎機能が6日目に改善しはじめ、8日目に基準に近づくという腎毒性障害の一過性の性質を確認している。同様に、hUTCを投与した動物(群2〜4)についてのCrClは、ビヒクル対照動物のものと同等であるか、わずかに低かった。3×106細胞/動物(群4)の用量レベルでのhUTCによる処理は、6日目で、ビヒクル対照と比べて改善されたCrClを示した(1.792mL/対ビヒクル対照1.290mL/分)。
【表25】
【0179】
シスプラチンにより誘導された腎毒性のラットモデルにおいて、hUTCの腎保護効果が説明されている。3.6e6個のhUTCの投与により、ビヒクル対照処理と比較して、BUN、SCrにおける中程度の低下、およびCrClにおける増加があった。シスプラチンは、悪性腫瘍の化学療法において用いられる最も一般的な抗腫瘍剤の1つである。したがって、hUTCの投与が、腎毒性障害から腎臓を保護し、究極的には、化学療法を受けているがん患者の転帰および生活の質を改善する。さらに、hUTC処理は、急性尿細管壊死の重症度を低下させるかもしれないし、他の医学的介入(たとえば、心臓血管手術後に見られるものや、抗菌薬、ヨウ化造影剤、麻酔薬、免疫抑制剤、および鎮痛剤を受けているうちのいくつかの患者)に関係するARFさえも予防するかもしれない。
【0180】
〔実施例11:閉塞性腎疾患のげっ歯類モデルにおけるヒト臍帯組織由来細胞の腎保護効果の評価〕
この予言的な実施例の目的は、腎傷害の片側性尿管閉塞(UUO)モデルにおけるヒト臍帯組織由来細胞(hUTC)の腎保護効果を評価することである。UUOモデルは、短期間の閉塞性腎疾患および尿細管間質性線維症についての有効なモデルである。腎保護効果を評価するために、細胞移植後12日目の傷害のあるマウスにおいて、細胞生体内分布、血中尿素窒素(BUN)、血清クレアチニン(SCr)、および組織学的傷害を評定するだろう。
【0181】
メスC57BL/6Jマウス(The Jackson Laboratory;Bar Harbor, Maine)を、1〜3%イソフルオランで麻酔する。各動物の腹部を剃毛し、70%アルコール、次いでベタジンで消毒する。中線の腹部切開を行う。腹壁を開き、腸を腰の上に移動し、ぬらしたガーゼで保護する。左の腎臓を位置づけ、尿管を脂肪がないように切除する。2つの8−0非吸収性の結び目を、尿管上に作る。その後、腸を腹部に戻し、あたたかい食塩水1cm3を腹膜腔内に置く。4−0Dexonで筋肉層を閉じ、ステープルで皮膚を閉じる。イソフランを中断し、加温パッド上で、マウスが歩行するまで100%酸素で回復させる。
【0182】
動物が手術から回復直後に、hUTCを37℃で解凍し、Ca2+/Mg2+を含まないハンクス平衡塩類溶液(HBSS)中で2回洗浄し、HBSS 1mLに再懸濁する。その後、ヘモサイトメーターを用いて、細胞をカウントし、トリパンブルー染料排出により、細胞生存力を決定する。生存細胞を1.0×106細胞/mLの濃度で含むHBSSに、細胞を再構成する。その後、200μLのHBSSに懸濁した細胞を、27ゲージの針を取り付けた1mLシリンジを用いて、尾静脈注入により移植する。
【0183】
すべての動物を、細胞移植後12日目に、二酸化炭素窒息により屠殺する。腎臓、肺、脳、および心臓を、各動物から取り除く。各腎臓の半分をその後、組織学的分析のために10%中性緩衝ホルマリンに固定する。残り半分の腎臓および他の全臓器を、液体窒素で瞬間凍結する。その後、すべての凍結臓器を、7mm廃棄可能ローターステータージェネレータープローブ(7mm disposable rotor stator generator probe)を取り付けたOmni THホモジェナイザー(Omni International, Inc.;Marietta, GA)を用いて、ホモジェナイズする。その後、RNeasyプラスミニキット(RNeasy Plus Mini Kit)(Qiagen;Valencia, CA)を用いて、全RNAを抽出する。RNAをDEPC処理水 50μLに溶出し、NanoDrop1000(NanoDrop Technologies;Wilmington, DE)を用いて定量する。RNAをランダムヘキサマーおよびTaqman逆転写試薬(Applied Biosystems;Foster City, CA)を用いて逆転写する。ヒト特異的β2マクログロブリンプライマープローブ(カタログ番号4310886E;Applied Biosystems;Foster City, CA)を用いて、cDNAサンプルに対してPCR反応を実行する。PCRは、ABI Prism 7900 HT配列検出システム(Applied Biosystems;Foster City, CA)を用いて行う。
【0184】
剖検時に、全血を収集し、凝血させ、微遠心チューブに入れ、2500rpmで15分間遠心分離して、血清と他の血液成分とを分離する。その後、血清サンプルをVetAce化学分析器(VetAce Chemistry Analyzer)(Alpha Wassermann Diagnostic Technologies, LLC;West Caldwell, NJ)を用いて分析する。
【0185】
固定した腎臓組織をパラフィンワックスに埋め込み、切片化し(5μm厚)、ヘマトキシリン/エオシン(H&E)およびマッソンのトリクロームで染色する。その後、尿細管傷害(尿細管壊死、拡張、間葉細胞浸潤)および間葉系線維症(コラーゲン沈着)について、1〜4の範囲のスコア化指標を用いて、切片をスコア化する(1:最小、2:軽度、3:中程度、4:重度)。評価者は処理群割り当てについて盲検である。
【0186】
ヒト臍帯組織由来細胞が、組織学的評価により評価された尿細管傷害の全体の内容を低下させることが期待される。
【0187】
〔実施例12:慢性腎臓疾患の5/6残存モデルにおける局所的ヒト臍帯組織由来細胞の腎保護効果の評価〕
この予言的な実施例の目的は、慢性腎疾患のげっ歯類モデルにおけるhUTCの局所的な被膜下移植の腎保護効果を決定することである。
【0188】
これらの実験のために、最初の体重が200〜250gのSDラット(n=30;8週齢、オス)を用いる。ケタミン塩酸塩とキラジン塩酸塩の4:1溶液の腹腔内注射(5mg/kg)により、ラットを麻酔する。2段階腎切除法により、腎不全を誘導する。左の腎臓の上部および下部(1つの腎臓の2/3)を、腎被膜を保存しながら、絹糸結紮を用いて切除する。10日後、右の腎臓を取り除き、全体の腎臓量の約1/6を残す(5/6腎切除)。メチルセルロースによりやさしく圧力をかけて、出血を止め、腹膜および皮膚を、再吸収性4−0Vicryl縫合糸により、層を閉じる。
【0189】
5/6腎切除法後5週間目に、腎不全を有するラットの残存組織の被膜下に、hUTCを、フィブリンゲルマトリクスを用いて移植する。hUTC(60×106細胞)を含むフィブリノゲン溶液(1.0mL)、および、トロンビン溶液(1.0mL)を用意する。ラットを麻酔し、残りの腎臓を中線回復により曝露する。フィブリンおよびトロンビン溶液を同時に注射するよう設計されたシリンジにより、トロンビンおよび細胞を含むフィブリノゲン溶液の1:1(容量比率)混合物0.1mLを、18ゲージ皮下注射針で被膜下空間へ注射する。対照として、5/6腎摘出術のラットにフィブリンマトリクスのみを注入する。
【0190】
血清サンプルを0日目(5/6腎切除の前)、1日目(細胞移植の日)、7日目、14日目、21日目、28日目、および35日目(剖検の日)に入手する。VetAce化学分析器(Alpha Wassermann Diagnostic Technologies, LLC;West Caldwell, NJ)を用いて、血中尿素窒素およびクレアチニンを定量する。
【0191】
細胞移植後5週目に、二酸化炭素窒息により、すべての群の動物を屠殺する。組織学および転写分析のために、腎臓を取り除く。RT−PCR分析のために、各腎臓の半分を液体窒素で瞬間凍結する。研究コーディネーターにより、凍結腎臓組織からメッセンジャーRNAを単離し、線維症促進遺伝子および炎症遺伝子を含む低密度マイクロアレイカードを利用して、転写分析にさらす。下流の組織学的分析のために、残りの腎臓切片を10%中性緩衝ホルマリンで固定する。
【0192】
組織学のために固定された腎臓組織を組織学的に加工し、切片化し(5μm厚)、およびヘマトキシリン/エオシンで染色する。尿細管傷害を評価し、動物用病理学により、スコア化する。
【0193】
本研究において、フィブリンに埋め込まれた6.0e6hUTCの被膜下移植は、5/6腎臓切除げっ歯類の腎臓における腎傷害の進行を遅らせることが期待される。対照動物と比較して、hUTC処理動物における血清クレアチニンおよび血中尿素窒素値はともに有意に減少することが期待される。さらに、組織学傷害評価は、治療された動物における尿細管壊死および尿細管拡張の低下を明らかにするだろう。また、hUTC処理したげっ歯類の腎臓において、対照群の腎臓に比べて、炎症性遺伝子発現の全体の程度が低下していることが観察されることも期待される。
【0194】
〔実施の態様〕
本願の実施態様は、以下のとおりである。
(1)少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するための方法において、
前記疾患または損傷を治療するのに有効な量で、ヒト臍帯組織から得られた細胞を、前記患者に投与することを含み、
前記臍帯組織が、実質的に血液を含まず、
前記細胞が、
培養において自己再生および増殖が可能であり、分化する能力を有し、
成長のためにL−バリンを要求し、
少なくとも約5%の酸素中で成長することができ、
CD117またはHLA-DRを産生せず、
alpha smooth muscle actinを発現し、
ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞と比べて、増加したレベルのoxidized low density lipoprotein receptor 1、interleukin 8、またはreticulon 1を発現する、方法。
(2)実施態様(1)に記載の方法において、
前記細胞が、oxidized low density lipoprotein receptor 1、reticulon、chemokine receptor ligand 3、および/またはgranulocyte chemotactic protein 2を発現する、方法。
(3)実施態様(1)に記載の方法において、
前記細胞が、CD10、CD13、CD44、CD73、およびCD90を発現する、方法。
(4)実施態様(1)に記載の方法において、
前記細胞が、注射または注入により投与される、方法。
(5)実施態様(1)に記載の方法において、
前記細胞が、植え込み可能な装置内にカプセル化されて投与される、方法。
【0195】
(6)実施態様(1)に記載の方法において、
前記細胞が、前記細胞を含むマトリクスの植え込みにより投与される、方法。
(7)実施態様(1)に記載の方法において、
前記細胞が、少なくとも1つの他の細胞型とともに投与される、方法。
(8)実施態様(7)に記載の方法において、
前記少なくとも1つの他の細胞型が、ヒト臍帯組織から得られた前記細胞と同時に、該細胞の前に、または該細胞の後に投与される、方法。
(9)実施態様(1)に記載の方法において、
前記細胞が、少なくとも1つの薬剤とともに投与される、方法。
(10)実施態様(9)に記載の方法において、
前記少なくとも1つの薬剤が、ヒト臍帯組織から得られた前記細胞の投与と同時に、該細胞の投与前に、または該細胞の投与後に投与される、方法。
【0196】
(11)実施態様(1)に記載の方法において、
前記細胞が、前記患者の前記腎臓に対して栄養効果を発揮する、方法。
(12)実施態様(1)に記載の方法において、
前記腎臓に対する前記損傷が、年齢、外傷、毒物曝露、薬物曝露、放射線曝露、酸化、免疫複合体沈着、または移植片拒絶により引き起こされる、方法。
(13)少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するための医薬用組成物において、
医薬用に許容可能なキャリアと、
前記疾患または傷害を治療するのに有効な量の、ヒト臍帯組織から得られた細胞と、
を含み、
前記臍帯組織が、実質的に血液を含まず、
前記細胞が、
培養において自己再生および増殖が可能であり、分化する能力を有し、
成長のためにL−バリンを要求し、
少なくとも約5%の酸素中で成長することができ、
CD117またはHLA-DRを産生せず、
alpha smooth muscle actinを発現し、
ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞と比べて、増加したレベルのoxidized low density lipoprotein receptor 1、interleukin 8、またはreticulon 1を発現する、医薬用組成物。
(14)実施態様(13)に記載の医薬用組成物において、
前記腎臓に対する損傷が、年齢、外傷、毒物曝露、薬物曝露、放射線曝露、酸化、免疫複合体沈着、または移植片拒絶により引き起こされる、医薬用組成物。
(15)実施態様(13)に記載の医薬用組成物において、
少なくとも1つの他の細胞型をさらに含む、医薬用組成物。
【0197】
(16)実施態様(13)に記載の医薬用組成物において、
少なくとも1つの薬剤をさらに含む、医薬用組成物。
(17)実施態様(13)に記載の医薬用組成物において、
注射または注入による投与用に処方される、医薬用組成物。
(18)実施態様(13)に記載の医薬用組成物において、
前記細胞が、植え込み可能な装置内にカプセル化される、医薬用組成物。
(19)実施態様(13)に記載の医薬用組成物において、
前記細胞が、マトリクス上に蒔かれる、医薬用組成物。
(20)少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するためのキットにおいて、
医薬用に許容可能なキャリアと、
前記疾患または傷害を治療するのに有効な量の、ヒト臍帯組織から得られた細胞であって、
前記臍帯組織が、実質的に血液を含まず、
前記細胞が、
培養において自己再生および増殖が可能であり、分化する能力を有し、
成長のためにL−バリンを要求し、
少なくとも約5%の酸素中で成長することができ、
CD117またはHLA-DRを産生せず、
alpha smooth muscle actinを発現し、
ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞と比べて、増加したレベルのoxidized low density lipoprotein receptor 1、interleukin 8、またはreticulon 1を発現する、細胞と、
少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するための方法で前記キットを使用するための、使用説明書と、
を含む、キット。
【0198】
(21)実施態様(20)に記載のキットにおいて、
前記細胞を培養するための、少なくとも1つの試薬および使用説明書をさらに含む、キット。
(22)実施態様(20)に記載のキットにおいて、
少なくとも1つの他の細胞型の集団をさらに含む、キット。
(23)実施態様(20)に記載のキットにおいて、
少なくとも1つの薬剤をさらに含む、キット。
(24)少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療する方法において、
ヒト臍帯組織から得られた細胞から準備された可溶性細胞分画、可溶化液、細胞外マトリクス、または馴化培地を含む組成物を、前記患者に投与することを含み、
前記臍帯組織が、実質的に血液を含まず、
前記細胞が、
培養において自己再生および増殖が可能であり、分化する能力を有し、
成長のためにL−バリンを要求し、
少なくとも約5%の酸素中で成長することができ、
CD117またはHLA-DRを産生せず、
alpha smooth muscle actinを発現し、
ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞と比べて、増加したレベルのoxidized low density lipoprotein receptor 1、interleukin 8、またはreticulon 1を発現する、方法。
(25)少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するための医薬用組成物において、
医薬用に許容可能なキャリアと、
ヒト臍帯組織から得られた細胞から準備された可溶化液、細胞外マトリクス、または馴化培地と、
を含み、
前記臍帯組織が、実質的に血液を含まず、
前記細胞が、
培養において自己再生および増殖が可能であり、分化する能力を有し、
成長のためにL−バリンを要求し、
少なくとも約5%の酸素中で成長することができ、
CD117またはHLA-DRを産生せず、
alpha smooth muscle actinを発現し、
ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞と比べて、増加したレベルのoxidized low density lipoprotein receptor 1、interleukin 8、またはreticulon 1を発現する、医薬用組成物。
【図面の簡単な説明】
【0199】
【図1】腎臓の損傷および修復実験の実施についての時系列を示す。
【図2】腎臓損傷の誘導および臍帯組織由来細胞の移植後の、動物生存率を示す。
【図3】マウスにおけるBUN測定を示す。
【図4】血清クレアチニン測定の結果を示す。
【図5】代表的な組織画像を示す。
【図6】ラットにおけるBUN分析を示す。
【図7】ラットにおけるSCr分析を示す。
【図8】ラットにおけるCrCl分析を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するための医薬用組成物において、
医薬用に許容可能なキャリアと、
前記疾患または傷害を治療するのに有効な量の、ヒト臍帯組織から得られた細胞と、
を含み、
前記臍帯組織が、実質的に血液を含まず、
前記細胞が、
培養において自己再生および増殖が可能であり、分化する能力を有し、
成長のためにL−バリンを要求し、
少なくとも約5%の酸素中で成長することができ、
CD117またはHLA-DRを産生せず、
alpha smooth muscle actinを発現し、
ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞と比べて、増加したレベルのoxidized low density lipoprotein receptor 1、interleukin 8、またはreticulon 1を発現する、医薬用組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の医薬用組成物において、
前記腎臓に対する損傷が、年齢、外傷、毒物曝露、薬物曝露、放射線曝露、酸化、免疫複合体沈着、または移植片拒絶により引き起こされる、医薬用組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の医薬用組成物において、
少なくとも1つの他の細胞型をさらに含む、医薬用組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の医薬用組成物において、
少なくとも1つの薬剤をさらに含む、医薬用組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の医薬用組成物において、
注射または注入による投与用に処方される、医薬用組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の医薬用組成物において、
前記細胞が、植え込み可能な装置内にカプセル化される、医薬用組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の医薬用組成物において、
前記細胞が、マトリクス上に蒔かれる、医薬用組成物。
【請求項8】
少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するためのキットにおいて、
医薬用に許容可能なキャリアと、
前記疾患または傷害を治療するのに有効な量の、ヒト臍帯組織から得られた細胞であって、
前記臍帯組織が、実質的に血液を含まず、
前記細胞が、
培養において自己再生および増殖が可能であり、分化する能力を有し、
成長のためにL−バリンを要求し、
少なくとも約5%の酸素中で成長することができ、
CD117またはHLA-DRを産生せず、
alpha smooth muscle actinを発現し、
ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞と比べて、増加したレベルのoxidized low density lipoprotein receptor 1、interleukin 8、またはreticulon 1を発現する、細胞と、
少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するための方法で前記キットを使用するための、使用説明書と、
を含む、キット。
【請求項9】
請求項8に記載のキットにおいて、
前記細胞を培養するための、少なくとも1つの試薬および使用説明書をさらに含む、キット。
【請求項10】
請求項8に記載のキットにおいて、
少なくとも1つの他の細胞型の集団をさらに含む、キット。
【請求項11】
請求項8に記載のキットにおいて、
少なくとも1つの薬剤をさらに含む、キット。
【請求項12】
少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するための医薬用組成物において、
医薬用に許容可能なキャリアと、
ヒト臍帯組織から得られた細胞から準備された可溶化液、細胞外マトリクス、または馴化培地と、
を含み、
前記臍帯組織が、実質的に血液を含まず、
前記細胞が、
培養において自己再生および増殖が可能であり、分化する能力を有し、
成長のためにL−バリンを要求し、
少なくとも約5%の酸素中で成長することができ、
CD117またはHLA-DRを産生せず、
alpha smooth muscle actinを発現し、
ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞と比べて、増加したレベルのoxidized low density lipoprotein receptor 1、interleukin 8、またはreticulon 1を発現する、医薬用組成物。
【請求項1】
少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するための医薬用組成物において、
医薬用に許容可能なキャリアと、
前記疾患または傷害を治療するのに有効な量の、ヒト臍帯組織から得られた細胞と、
を含み、
前記臍帯組織が、実質的に血液を含まず、
前記細胞が、
培養において自己再生および増殖が可能であり、分化する能力を有し、
成長のためにL−バリンを要求し、
少なくとも約5%の酸素中で成長することができ、
CD117またはHLA-DRを産生せず、
alpha smooth muscle actinを発現し、
ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞と比べて、増加したレベルのoxidized low density lipoprotein receptor 1、interleukin 8、またはreticulon 1を発現する、医薬用組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の医薬用組成物において、
前記腎臓に対する損傷が、年齢、外傷、毒物曝露、薬物曝露、放射線曝露、酸化、免疫複合体沈着、または移植片拒絶により引き起こされる、医薬用組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の医薬用組成物において、
少なくとも1つの他の細胞型をさらに含む、医薬用組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の医薬用組成物において、
少なくとも1つの薬剤をさらに含む、医薬用組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の医薬用組成物において、
注射または注入による投与用に処方される、医薬用組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の医薬用組成物において、
前記細胞が、植え込み可能な装置内にカプセル化される、医薬用組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の医薬用組成物において、
前記細胞が、マトリクス上に蒔かれる、医薬用組成物。
【請求項8】
少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するためのキットにおいて、
医薬用に許容可能なキャリアと、
前記疾患または傷害を治療するのに有効な量の、ヒト臍帯組織から得られた細胞であって、
前記臍帯組織が、実質的に血液を含まず、
前記細胞が、
培養において自己再生および増殖が可能であり、分化する能力を有し、
成長のためにL−バリンを要求し、
少なくとも約5%の酸素中で成長することができ、
CD117またはHLA-DRを産生せず、
alpha smooth muscle actinを発現し、
ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞と比べて、増加したレベルのoxidized low density lipoprotein receptor 1、interleukin 8、またはreticulon 1を発現する、細胞と、
少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するための方法で前記キットを使用するための、使用説明書と、
を含む、キット。
【請求項9】
請求項8に記載のキットにおいて、
前記細胞を培養するための、少なくとも1つの試薬および使用説明書をさらに含む、キット。
【請求項10】
請求項8に記載のキットにおいて、
少なくとも1つの他の細胞型の集団をさらに含む、キット。
【請求項11】
請求項8に記載のキットにおいて、
少なくとも1つの薬剤をさらに含む、キット。
【請求項12】
少なくとも1つの腎臓の疾患または少なくとも1つの腎臓に対する損傷を有する患者を治療するための医薬用組成物において、
医薬用に許容可能なキャリアと、
ヒト臍帯組織から得られた細胞から準備された可溶化液、細胞外マトリクス、または馴化培地と、
を含み、
前記臍帯組織が、実質的に血液を含まず、
前記細胞が、
培養において自己再生および増殖が可能であり、分化する能力を有し、
成長のためにL−バリンを要求し、
少なくとも約5%の酸素中で成長することができ、
CD117またはHLA-DRを産生せず、
alpha smooth muscle actinを発現し、
ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞と比べて、増加したレベルのoxidized low density lipoprotein receptor 1、interleukin 8、またはreticulon 1を発現する、医薬用組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公表番号】特表2010−540662(P2010−540662A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−528176(P2010−528176)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【国際出願番号】PCT/US2008/078800
【国際公開番号】WO2009/046335
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(507209506)エシコン・インコーポレイテッド (12)
【氏名又は名称原語表記】Ethicon Incorporated
【住所又は居所原語表記】Rt. 22 West,P.O.Box 151,Somerville,NJ 08876−0151 United States of America
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【国際出願番号】PCT/US2008/078800
【国際公開番号】WO2009/046335
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(507209506)エシコン・インコーポレイテッド (12)
【氏名又は名称原語表記】Ethicon Incorporated
【住所又は居所原語表記】Rt. 22 West,P.O.Box 151,Somerville,NJ 08876−0151 United States of America
【Fターム(参考)】
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