ヒト臍帯血に由来する間葉系幹細胞の単離方法
ヒト臍帯血(UCB)は、成人骨髄由来MSCよりも多能性の高い間葉系幹細胞(MSC)を含む。しかしながら、UCB中のMSC出現頻度が極めて稀(単核細胞1×108個当たり0.4〜30個)であるため、これらの細胞を入手することは困難であった。今日まで、MSCの単離は、そのプラスチック接着能に依存してきた。プラスチックへと接着する能力が不十分である場合があるため、一部の「真」のMSCを見落とす可能性があった。骨髄細胞により作製された細胞外マトリックス(ECM)がMSCの付着および増殖を向上させ、かつその幹細胞特性を保持することは、従前の研究により実証されている。本発明は、ECMへの接着により臍帯血からMSCを単離する方法を提供し、および単離された幹細胞の使用を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年3月31日に出願された米国仮出願第61/165.193号の優先権の恩典を主張し、その内容全体は、本明細書中に参照により組み入れられる。
【0002】
本発明は、米国国立衛生研究所により授与された5R21AG25466-2号に基づく政府助成により行われた。米国政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0003】
1.発明の分野
本発明は概して生物学の分野に関する。とりわけ、本発明は、臍帯血(UCB)から間葉系幹細胞を単離して増殖させるための方法に関する。
【背景技術】
【0004】
2.関連技術の説明
幹細胞は、今日の生物医学で最も魅力的な領域の一つである。間葉系幹細胞(MSC)は、その自己複製能と多系列への分化能とのために大きな治療可能性を有する。
【0005】
最近、関節炎、心疾患、神経、および組織再生の分野における幹細胞療法用の間葉系幹細胞(MSC)の代替源として、臍帯血(UCB)が提唱されている。骨髄由来MSC(BM-MSC)と比べてUCB-MSCを使用することの利点は、1)UCBは大量に入手可能であり且つドナーを傷つけることなしに回収可能であること、2)UCB-MSCはより高い増殖可能性とより大きな分化能力とを有することである。しかしながら、研究と臨床応用の両方に関するUCB-MSCの使用は、UCB中のMSCの出現頻度が極めて低い(単核細胞(MNC) 1×108個当たり約0.4から30個)こと、およびUCB-MSCの単離成功率も低い(約30%)ことにより主に限定される。幹細胞として、長期培養においてその幹細胞特性を失うことなく増殖させるのは難しい。これらの細胞を規定することができる特異的マーカーが無いため、現在まで、MSCは、古典的なプラスチック接着法により、骨髄または任意の他組織から単離されている。Wolfe et al., 2008; Soleimani and Nadri, 2009; Kern et al., 2006. Comparative analysis of mesenchymal stem cells from bone marrow, umbilical cord blood, or adipose tissue. Stem Cells 24:1294-1301。
【0006】
同様の手法を用いると、プラスチックへの接着能力が不十分なため、UCB中の極めて未成熟なMSCのほとんどを見落とす可能性が高い。骨髄細胞により作製された細胞外マトリックス(ECM)によりMSCの付着および増殖が向上すると共に、その幹細胞特性が保持されることが、最近報告された。Chen et al., 2007, JBMR, 22:1943。
【0007】
ここで、本発明は、ECMへの接着によって、MSCを単離し、その増殖を促進するための方法を提供する。このシステムを用いて大量のhUCB-MSCが単離可能であり、これにより、古典的なフィブロネクチンまたはFBSでプレコートしたプラスチックによる接着方法を用いてUCB-MSCを単離した第三者が以前報告したものよりも、MSCの出現頻度が少なくとも1000倍高いことが示される。より重要なことに、ECMにより得られたMSCは、胚性幹細胞の独特の特徴である胚体をインビトロで形成し、三種類の胚性胚葉を起源とする組織をインビボで生成した。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、細胞外マトリックス(ECM)への接着により臍帯血から間葉系幹細胞(MSC)を単離する方法を提供し、かつ単離MSCの使用を提供する。
【0009】
一局面において、本発明は間葉系幹細胞(MSC)の単離方法を提供し、該方法は(a)試料を採取する工程;(b)該試料を細胞外マトリックス(ECM)プレコート培養皿上に播種する工程;および(c)MSCを単離する工程を含む。いくつかの態様では、前記方法は、播種の前に単核細胞を採取するために試料を遠心分離する工程をさらに含む。
【0010】
またさらなる態様では、前記方法は、単離MSCを移植して分化組織を得る工程をさらに含む。他の態様では、前記方法は、単離MSCを移植して分化組織を得る工程をさらに含む。
【0011】
他の局面において、本発明はMSC増殖の促進方法を提供し、該方法は、(a)単離MSCの試料を入手する工程、および(b)前記単離MSCの試料の増殖を促進させるために該単離MSCをECM上に播種する工程を含む。
【0012】
またさらなる局面では、本発明は分化組織の産生方法を提供し、該方法は(a)単離MSCの試料を入手する工程、および(b)該単離MSCを免疫無防備状態マウス中に移植して分化組織を得る工程を含む。
【0013】
前記試料は、MSCを含む任意の組織または試料由来であってもよい。いくつかの態様においては、試料は、骨膜、海綿骨、脂肪組織、滑膜、骨格筋、乳歯、胎性の膵臓、肺、肝臓、羊水、臍帯血、および臍帯組織に由来する。特定の態様では、試料は臍帯血(UCB)である。試料は、任意のほ乳類由来であってよく、特定の態様では、ヒト由来である。試料は任意の時点で採取可能である。特定の態様では、試料は出生後に採取される。別の態様では、試料は出生前に採取されてもよい。
【0014】
細胞外マトリックスは、任意の適切な供給源に由来してもよい。いくつかの態様では、細胞外マトリックスはヒト骨髄細胞に由来する。特定の態様において、ECMは、I型コラーゲン、III型コラーゲン、フィブロネクチン、バイグリカン、デコリン、パールカン、および/またはラミニンを含んでもよい。
【0015】
分化組織は、いくつかの層を含んでいてもよい。特定の態様では、分化組織は三種類の胚性胚葉に由来する組織を含む。いくつかの態様では、分化組織は、内胚葉-腺;中胚葉-骨、筋肉、脂肪、血管;および/または外胚葉-神経線維を含む。
【0016】
実施例の項における態様は、本発明の全ての局面に適用可能な本発明の態様として理解される。
【0017】
添付の特許請求の範囲における用語「または」は、代替物のみを指すと特記されない限り、かつ該代替物が相互排他的でない限り、「および/または」を意味するように使用されるが、当開示は、代替物のみを指す定義および「および/または」に対応する。
【0018】
本出願全体を通して、用語「約」は、ある値を測定するのに用いられている機器や方法に関する誤差の標準偏差を該値が含んでいることを示すために使用される。
【0019】
長年の特許法に従い、単語「一つの(a)」および「ある(an)」は、特記しない限り、添付の特許請求の範囲または明細書において単語「含む」と一緒に使用される場合、一つ又は複数を示す。
【0020】
本明細書中に使用される用語「治療上有効」は、治療されている状態の少なくとも一つの症状を少なくとも軽減する等の治療効果を達成するために本発明の方法で採用される、細胞および/または治療用組成物(例えば、治療用ポリヌクレオチドおよび/または治療用ポリペプチド)の量を指す。
【0021】
本発明の他の目的、特徴、および利点は、以下の詳細な説明から明らかになる。しかしながら、本発明の趣旨と範囲の範疇にある種々の変更や改変が、詳細な説明から当業者に明らかになるので、この詳細な説明と具体的な実施例は本発明の具体的態様を示すが、例示のみを目的として与えられることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
添付の図面は本明細書の一部を形成するものであり、本発明のある種の局面をさらに実証するために含まれる。本明細書に提示される具体的態様の詳細な説明と組み合わせて、該図面の一つ又は複数を参照することにより、本発明はより良く理解されうる。
【図1】図1A〜D ヒト間質細胞培養物およびそのECMの走査型顕微鏡写真。細胞除去前(図1A、B)と細胞除去後(図1C、D)の培養間質細胞のSEM顕微鏡写真。パネルB中の矢印は細胞を示す。本発明者らの従前の研究に基づく標準的手法を利用した。継代1代目または2代目由来の間質細胞を、組織培養プラスチック上に、細胞1×104個/cm2で播種し、15日間培養した。培地(15%FBS含有α-MEM)交換を3〜4日ごとに行い、アスコルビン酸(50μM)を、培養の最後8日間添加した。PBSを用いて徹底的に洗浄後、PBS中において20mM NH4OHを含む0.5%Triton X-100を用いて5分間室温でインキュベートすることにより、細胞を除去した。PBSで4回洗浄後、50μg/mlゲンタマイシンと0.25μg/mlファンギゾンとを含有するPBSをプレートへと加え、これを最長4ヶ月間にわたり4℃で保存した。
【図2】ヒト骨髄間質細胞が産生したECM中のI型およびIII型コラーゲン、フィブロネクチン、バイグリカン、デコリン、パールカン、およびラミニンの局在を示す共焦点画像。タンパク質の検出は、示された構成成分に対する抗体と緑色蛍光標識二次抗体とを用いて行った。非特異的アイソタイプであるIgGを、陰性対照として使用した。DAPIを用いた核染色は、青色で示されている。
【図3】図3A〜D 初代播種から4時間および72時間後の2DプレートおよびECMプレートから取り出した非接着細胞を、ECMプレート上に再播種した。再播種から24時間後、初代2Dプレート由来の非接着細胞(図3A、C;クリスタルバイオレット染色)は、初代ECMプレート由来の非接着細胞(図3B、D)よりも5倍多い細胞の付着を示した。
【図4】ECMは、UCB由来MSCの付着および増殖を促進する。ヒトUCBを、テキサス臍帯血バンク(San Antonio、TX)から購入した。UCBから単離された単核細胞(MNC)を、MNC 1×106個/cm2にてECMまたは非コートプラスチック上に播種し、示された種々の時間にわたり37℃でインキュベートした。その後、PBSで洗浄することにより非接着細胞を取り除いた。元の拡大率:×100。
【図5】コロニー形成。ECMへの接着により単離されたUCB-MSCは、多数のコロニーを形成し(左パネル、元の拡大率:×50、中央パネル、元の拡大率:×200)、その一部は胚体を生成した(右パネル、元の拡大率:×200)。
【図6】図6A〜C コロニー形成。UCB-MSCを、MNC 1×106/cm2にてECM(図6A)または非コートプラスチック(図6B)上に播種し、37℃で72時間インキュベートした(元の拡大率:×100)。(図6C)胚様体が、ECMコートプレート上に形成された(元の拡大率:×200)。
【図7】図7A〜C 細胞分化。(図7A)未分化UCB-MSC。(図7B)UCB-MSCの脂肪生成:オイルレッド染色によって脂肪滴を示した。(図7C)UCB-MSCの筋形成:ヘマトキシリン染色によって多核の筋管(矢印)を示した。
【図8】古典的プラスチック接着法(プラスチック)によって単離された細胞に対する、ECM接着(ECM)により単離された細胞の、フローサイトメトリーによる分析。図4に前記されたのと同一の実験において、トリプシン処理後72時間にわたるECMまたはプラスチック上での細胞インキュベーションから、単細胞懸濁液を得て、種々の一次抗体とFITC結合二次抗体とを用いて染色した。非特異的一次抗体(アイソタイプ、IgG)で染色した細胞を、陰性対照(灰色のピーク)とする。染色された細胞の解析では、各々の試料に関して集めた10,000事象を用いるBecton Dickinson FACStarplusフローサイトメーターを行った。
【図9】図9A〜B ECMにより単離されたUCB-MSCは、三種類の胚性胚葉を起源とする組織をインビボで生成した。ECMにより単離されECM上で連続的に増殖したUCB-MSC、またはプラスチックにより単離されプラスチック上で連続的に増殖したUCB-MSCを、Gelfoamまたは、骨格形成を好都合に誘導するヒドロキシアパタイト/リン酸三カルシウム(HA/TCP)にロードし、10週齢の免疫不全ベージュマウスの背面内に皮下移植した。各媒体には、細胞0.5×106個をロードした。各々の条件に関して、移植を3回実行した。移植8週間後に移植物を回収して、組織学的解析のための処理を行った。切片をH&E染色した。さらに、Bielschowsky銀染色を使用して、神経を具体的に同定した(中央パネルの神経線維を参照されたい)。生成された組織の起源を決定するために、H&E染色切片に隣接する切片を、Millipore(Billerica、MA)から購入したヒト核リボ核タンパク質に特異的な抗体を用いて染色した。マウス組織およびヒト組織は、それぞれ陰性対照および陽性対照とした。小骨中に生成した骨格組織を、ドナー起源由来であるとして定義した(30)。A:動脈;B:骨;C:毛細血管;E:内皮細胞;F:脂肪;G:腺;M:筋肉;およびN:神経。
【図10】ECM接着法により単離されたUCB細胞の遺伝子発現プロフィール。RNA調製は、4人の個別ドナーから分離された、ECM上で前単離し且つ維持されたUCB細胞(継代1代目)(UMSC/E)、または、プラスチック上で前単離し且つ維持されたUCB細胞(継代1代目)(UMSC/P)から行った。関心対象の転写物の測定は、TaqMan PCR Master Mix and Assay Demand(Applied Biosystems)を使用するリアルタイムPCRにより行った。ヒトES細胞[(hES)細胞株H7]から単離されたRNAは、USTA所属のChristopher Navara博士により供与された。ヒトMSC(BMSC)のRNAの調製は、方法の項に記載されるようにALLCELLS(Emeryville、CA)から購入したヒト骨髄細胞から実施した。*P<0.01(n=4):hESに対してUMSC/E、UMSC/P、またはBMSC。†P<0.01(n=4)UMSC/Eに対してUMSC/PまたはBMSC。
【発明を実施するための形態】
【0023】
例示的態様の説明
本発明は、ECMへの接着によりMSCを単離する方法を提供し、かつ単離MSCの使用を提供する。
【0024】
I.間葉系幹細胞(MSC)
MSCは、その自己複製能と多系列への分化能とに起因して、大きな治療可能性を有する。MSCは多能性幹細胞であって、様々な細胞タイプへと分化することができる。インビトロまたはインビボにおいてMSCが分化することが示されている細胞タイプは、骨芽細胞、軟骨細胞、筋細胞、および脂肪細胞を含む。本明細書中に使用される用語「幹細胞」は、一種又は複数種の細胞系列を生じる細胞を指す。
【0025】
MSCは骨膜、海綿骨、脂肪組織、滑膜、骨格筋、乳歯、胎性の膵臓、肺、肝臓、羊水、臍帯血および臍帯組織を含む種々の組織から単離可能であることが報告されている。その利用しやすさ、ドナーにとって無痛の手法であること、自己由来の細胞療法用の有望な供給源であること、およびウイルス汚染のリスクが低いことにより、これらの中では、臍帯血が理想的な供給源である。臍帯血幹細胞は、出生直後の臍帯から入手可能である。これらの幹細胞は、成人または子供の骨髄で見られる幹細胞よりも未成熟である。その上、ヒト臍帯血(hUCB)は、成人の骨髄由来MSC(BM-MSC)よりも高い増殖能とより大きな分化能とを有する間葉系幹細胞MSCを含む。しかしながら、UCB-MSC単離成功率が低いために、これらの細胞を従来法を用いて入手することは困難であった。従来法を用いると、任意の所定のUCB試料10個について僅か3個の試料からしかUCB-MSCを単離することができず(成功率30%)、UCB-MSCが見つかったこれらの試料において、UCB中のMSCの絶対数が極めて小さい(単核細胞MNC 1×108個当たり約5から30個)。
【0026】
II.ECM上でのMSCの単離
今日まで、MSCの単離は、そのプラスチック接着能に依存してきた。従って、プラスチックへの接着能が不十分なためにUCB中の真のMSCの一部は見落とされる可能性が高い。さらに、幹細胞には、その機能を維持するための専用の微小環境が必要である。MSCの幹細胞特性が喪失することから分かるように、現状の組織培養技術ではこの環境が提供されていない。かわりにこれは、老化するか、「自発的に」特定の細胞系列にコミットするか、または形質転換細胞になる。
【0027】
いくつかの局面においては、本発明は、ECMへの接着によるMSCの単離を提供する。ECM接着手法を使用することで、驚くほど多数の胚様幹細胞のヒト臍帯血からの単離を実現する。目下説明される方法を用いて、ヒト骨髄(hBM)細胞により作製された細胞不含有の未変性ECMが再構成可能である。ECMは、少なくとも部分的に、I型およびIII型コラーゲン、フィブロネクチン、バイグリカンおよびデコリン等の小型ロイシンリッチプロテオグリカン、ならびにパールカンおよびラミニン等の基底膜の主要構成成分を含む。これらのマトリックスタンパク質はすべて、細胞の接着、移動、増殖、分化、および生存を制御することにおいて非常に重要である。hBM-ECMの構成成分と独特の構造は、MSCを支持するインビボにおける微小環境の重要な特徴を模倣しており、hUCB-MSCの付着および増殖を著しく向上させ、かつその幹細胞特性を保持させる。
【0028】
骨髄細胞により作製されたECMは、UCB-MSCの付着および増殖を向上させ、かつその幹細胞特性の保持を増大させた。このシステムを用いて、ECMには接着するがプラスチックには接着しない多数のMSCがヒトUCBに含まれることが分かった。さらにまた、初代細胞を低播種密度(MNC 3×104〜1×105個/cm2)でECM上にて培養した場合に多数のコロニーが形成された。このデータが示すのは、EMC上で培養されたUCB-MSCが、プラスチック上で培養されたものよりもずっと高いコロニー形成能を有することである。コロニー形成単位(CFU)の測定によると、UCB-MSCの出現頻度は、MNC 1×108個当たり22,800〜37,000個であり、これは他者により従前に報告された(MNC 1×108個当たり0.4〜30個)よりも少なくとも1,000倍(760〜92,500)大きい。
【0029】
より重要なことに、いかなる特異的分化誘導も行うことなく、ECMにより得られたhUCB由来MSC(hUCB-MSC)を免疫無防備状態マウスに移植することで、三種類の胚性胚葉に由来する組織、つまり骨、筋肉、脂肪、血管、腺、および神経線維を含む組織が生成されることが、本試験により示された。ECMにより単離され続いてECM上で培養されたhUCB-MSCは、未変性且つ多能性でありhES細胞の特性を呈するので、これらの細胞を「ヒト臍帯血由来の胚様幹細胞(hUCB-ELSC)と名付けた。
【0030】
この新規技術を使用して、驚くほど多数のUCB-ELSCを、たった一つの臍帯血ユニットから得ることができる。いかなる特異的分化誘導も行うことなくECM上で培養されたhUCB-MSCは、継代6〜8代目であってさえ、hESの様に、三種類の胚性胚葉を起源とする種々の組織へと非常に効果的にインビボで分化することができた。これらの独特の特徴に基づいて、目下開示される方法は、以下に関して非常に有用である。
1.組織工学基礎研究:ECM接着により得られる、高度に精製された大量のhUCB-MSCによって、その挙動を制御する分子機序の研究が促進される。
2.創薬:ECM上で維持される、高度に精製されたhUCB-MSCは、インビトロでのドラッグスクリーニングに使用可能である。
3.組織工学の臨床使用:大量の未変性且つ多能性のUCB-ELSCは、近い将来、細胞ベースの臨床応用に関してES細胞の代替物となる可能性がある。
【実施例】
【0031】
III.実施例
本発明の好ましい態様を実証するために、以下の実施例を含める。後述の実施例中に開示される技術は、本発明の実施において良好に機能すると本発明者により発見された技術を表しており、かつしたがって、その実施に関して好ましい様態を構成するとみなされ得ることが、当業者により理解されるべきである。しかしながら、本開示を鑑みて当業者は、本発明の趣旨と範囲から逸脱することなく開示される具体的態様において多くの変更が可能でありかつ同様もしくは同等の結果が得られることを理解されたい。
【0032】
実施例1-培養骨髄細胞からの細胞不含有ECMの調製
(1)新鮮な単離ヒト骨髄単核細胞(MSCを含む、20〜30歳のドナーから入手)をALLCELLS(Emeryville、CA)から購入する。
【0033】
(2)T175フラスコに、1cm2当たり8.5〜17×104個の密度で細胞をプレーティングし、グルタミン(4mM)、ペニシリン(100U/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)、および15%の前選択したウシ胎仔血清を含むα-MEM中で培養する。24時間後、非接着細胞を取り除き、新鮮な培地を加え、70%コンフルエントにまで増殖させる(2〜3週間)。
【0034】
(3)PBSで培養物を洗浄する。0.05%トリプシンを使用して接着細胞を剥離する。細胞を回収、再懸濁し、組織培養プラスチック上に細胞6×103個/cm2にて再播種し、15日間培養する。3〜4日ごとに培地の半分を交換し、培養の最後8日間、アスコルビン酸(50μM)を添加した。PBSを用い徹底的に洗浄後、PBS中に20mM NH4OHを含有するpH7.4の0.5% TritonX-100を5分間37℃でインキュベーションして細胞を除去する。その後、PBSでプレートを4回洗浄し、50μg/mlゲンタマイシンと0.25μg/mlファンギゾンとを含有するPBSを加えて、4℃で最大4ヶ月間保管する。
【0035】
実施例2-hUCB由来MSCの単離および培養
(1)Ficoll密度勾配を使用した、hUCBの単核細胞(MNC)の単離:抗凝固処理した臍帯血を平衡塩類溶液(BSS)で希釈する(1:1)。希釈臍帯血を50mlチューブ中で、10mlのFicoll-Paque PREMIUM 溶液(GE Healthcare BioSciences社、Piscataway、NJ)層上にゆっくりと重ねる(比率4:1)。層状の血液試料を、18〜20℃にて30分間、480gで遠心分離する。単核/白色層を回収して新しい50mlチューブに入れ;3倍容量のBSSをMNCに加え;細胞懸濁物を、18〜20℃にて6分間、480gで遠心分離し;ペレットを10mlの2%FBS含有α-MEM中に再懸濁する。細胞を計数し、生存率を確認する。
【0036】
(2)MNC 1×106個/cm2の密度にて、ヒト骨髄細胞由来ECMでプレコートした培養プレートまたは培養皿へと播種する。最初のプレーティングの24時間後に、非接着細胞を取り除く。PBSを加えて激しく振とうしながら接着細胞を2回洗浄して、造血系細胞を含む全ての非接着細胞を取り除き、新鮮な培地を加える。MSC(hUCB-MSC)を含む、得られた線維芽細胞様の接着細胞を、37℃にて5%CO2を含む加湿雰囲気下で培養する。
【0037】
(3)週に一度培地を交換する。増殖培地は、20%FBSを含む。70%〜90%コンフルエントに達するまで、MSCを前記培地中で維持する。0.05%のトリプシンを使用して、サブコンフルエントで細胞を回収してもよい。2度目の継代の際、細胞を平均密度6×103個/cm2にて再プレーティングする。
【0038】
(4)線維芽細胞様コロニー形成単位(CFU-F)と称する、単一の分離された線維芽細胞様コロニーの生成は、MNCをまず低密度(1cm2当たり細胞1×103〜1×105個)で播種することにより達成可能である。
【0039】
実施例3-プラスチックとECMに対するMSC接着の比較
方法:
プラスチックと骨髄由来ECMに対してMSCが接着する能力を比較するために、細胞1×106個/cm2にてプラスチック上に細胞を播種し、4、24、および72時間インキュベートした。プラスチックから非接着細胞を回収し、ECM上に再播種して、さらに24時間インキュベートした。接着細胞を、クリスタルバイオレットで染色し、定量した(図8)。脂肪生成および筋形成の判定は、それぞれ脂肪生成培地または筋形成培地中に維持した細胞により行った。
【0040】
結果:
UCB中の接着細胞の大多数は、インキュベーション4時間時点でECMへ付着することができた。一方、プラスチックには、ほとんど細胞は付着しなかった。しかしながら、プラスチックから回収された非接着細胞は、ECMへ付着する多数の細胞を含んでいた。ECM接着性の細胞は、インビトロで、脂肪細胞および筋肉細胞に分化することができる。
【0041】
実施例4-移植および分化の評価
(1)移植:
0.5×106個の前培養されたhUCB-MSC(継代6〜8代目)を、移植媒体であるヒドロキシアパタイト/リン酸三カルシウム(HA/TCP)セラミック粉末またはGelfoamへと載せて、10週齢の免疫不全ベージュマウス(NIH-bg-nu-xid)の背面内に皮下移植した。
【0042】
(2)分化の評価:
移植2〜4ヶ月後に、移植物を回収し、4%ホルムアルデヒドを用いて、室温で固定する。パラフィン包埋移植物の4μm連続切片を、H&E染色および免疫染色により試験する。ドナーのhUCB-MSCから分化した組織は、抗ヒト特異的RNP抗体(1:60;Millipore/Chemicon)で免疫染色することにより検出可能である。
【0043】
実施例5-結果
大量のUCB-MSCがECMに接着したが、プラスチックには接着しなかった
骨髄細胞により作られた細胞外マトリックス(ECM、図1、図2)は、hUCB-MSCの付着と増殖とを向上させると共に、その幹細胞特性を保持した。このシステムを使用して、ECMには接着するがプラスチックには接着しない多数のMSCが、ヒトUCBに含まれることが分かった。初代細胞をMNC 3×104〜1×105個/cm2の播種密度でECM上にて培養した場合、多数のコロニーが形成された(図3、4)。このデータが示すのは、ECM上で培養されたhUCB-MSCが、プラスチック上で培養されたものよりも遙かに大きなコロニー形成能を有することである。コロニー形成単位(CFU)の測定によると、hUCB-MSCの出現頻度は、MNC 1×108個当たり22,800〜37,000個であり、これは、他者により従前に報告された(MNC 1×108個当たり0.4〜30個)よりも少なくとも1,000(760〜92,500)倍大きい。
【0044】
ECMへ接着したUCB細胞は、SSEA-4および他のMSCマーカーを発現したが、造血細胞マーカーは発現しなかった
ECMへ接着した細胞の表現型は、フローサイトメトリー分析により決定され、これによって、これらの細胞の約40%がES細胞マーカーであるSSEA-4(15)を発現したこと、ならびに、前記細胞の約90%はCD29、CD105、CD166、およびCD146を含む数種のMSCマーカーも発現したが造血細胞マーカーであるCD34とCD45との発現はみられなかったことが示唆された(図8)。対照的に、プラスチックへ接着した細胞は、ほとんどSSEA-4+細胞を含まず、少数の細胞がこれらのMSCマーカーを発現した。これらの結果により、ECMへ接着した細胞の表現型がプラスチックへ接着したものと非常に異なることが示唆される。ECM接着により単離された細胞は独特であり、MSCの比較的均質な集団を含む可能性がある。これらの細胞は、ES細胞の特徴の一部を有する可能性もある。
【0045】
ECM上で培養されたhUCB-MSCは、三種類の胚性胚葉を起源とする組織をインビボで生成した
ECMシステムにより、ヒト臍帯血から胚様細胞が濃縮される。ECMにより取得され、続いてECM上で培養されたhUCB-MSCは、胚性幹細胞の独特の特徴である胚体をインビトロで形成した(図5および図6)。いかなる特異的分化誘導も行わずに、hUCB-MSCを免疫無防備状態マウスに移植することにより、以下を含む三種類の胚性胚葉に由来する組織が生成された:内胚葉-腺;中胚葉-骨、筋肉、脂肪、血管;および外胚葉-神経線維。ドナーhUCB-MSCからこれらの組織が分化し、抗ヒト特異的RNP抗体を用いた免疫染色により検出される。大多数の移植物は、hES細胞のような細胞から生成された様々な異質性組織を含んでいたが、テラトーマは生じなかった(図9)。
【0046】
ECMに接着し、続いてECM上で培養されたhUCB細胞の表現型は、hESおよびhBM-MSCの表現型とは異なる
hUCB-MSCをさらに定義し特徴付けるため、本発明者らは、ECM接着により単離されたUCB-MSCが、NANOG、OCT4、TDGF1、DNMT3B、GABRB3、およびSox2を発現するかどうかを検討した。これらのマーカーは全て、hES細胞により強く発現される(Adewumiら、2007)。ECM接着により単離されたUCB-MSCが発現しているこれら遺伝子のレベルは、hES細胞が発現しているレベルよりも遙かに低いが、プラスチック接着により単離されたUCB-MSCおよびヒト骨髄由来の間葉系幹細胞(hBM-MSC)が発現しているレベルの両者よりは高いことが分かった(図10)。これは、これらの遺伝子のいくつかを組み込んだ体細胞がテラトーマを形成することは従前の研究により明確に示されているため、ECM接着により単離されたUCB-MSCがテラトーマを形成しなかった理由の説明となる可能性がある。UCBは、BM由来のECMには接着するがプラスチックには接着しない多数の胚様幹細胞を含み得、かつ、ECM接着法により得られたUCB-MSCは、古典的なプラスチック接着法により単離されたものとは異なる特性を有し得るようである。ECM接着により得られたUCB-MSCの分化ステージはES細胞に近い可能性があり、かつこれは、従来のプラスチック接着法により単離されたUCB-MSCと比較して分化のより初期にある可能性がある。以上より、これらのデータは、ECM接着により単離されたhUCB-MSCが、これまでに特徴決定されたタイプの幹細胞(hESC、hBM-MSC、脂肪組織-MSC、骨膜-MSC等、およびさらに、標準的プラスチック接着法を使用して単離されたhUCB-MSC)と比較して、これらの細胞を幹細胞の別のクラスへと位置づける根拠となるのに十分な独特の特性を有していることを示唆する。
【0047】
本明細書中に開示され且つ添付の特許請求の範囲に記載される組成物および/または方法の全ては、本開示に鑑みて過度の実験なしに作製および実行が可能である。本発明の組成物および方法はいくつかの態様に関して記載されているが、本発明の概念、趣旨、および範囲から逸脱することなしに、本明細書中に記載される組成物ならびに方法および該方法の工程もしくは工程の順序に対して種々の変更を適用可能であることは、当業者に明らかとなろう。より具体的には、同一または類似の結果が実現される限り、化学的および生理学的に関連する特定の剤を、本明細書中に記載される剤の代替としてもよいことが明らかであろう。当業者に明らかなそのような類似代替物および改変の全ては、添付の特許請求の範囲により規定される本発明の趣旨、範囲、および概念の範疇にあるとみなされる。
【0048】
参考文献
以下の参考文献は、それらが本明細書の記載の補足となる例示的な手法または他の詳細を提供する程度に、参照により本明細書中に具体的に組み入れられる。
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年3月31日に出願された米国仮出願第61/165.193号の優先権の恩典を主張し、その内容全体は、本明細書中に参照により組み入れられる。
【0002】
本発明は、米国国立衛生研究所により授与された5R21AG25466-2号に基づく政府助成により行われた。米国政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0003】
1.発明の分野
本発明は概して生物学の分野に関する。とりわけ、本発明は、臍帯血(UCB)から間葉系幹細胞を単離して増殖させるための方法に関する。
【背景技術】
【0004】
2.関連技術の説明
幹細胞は、今日の生物医学で最も魅力的な領域の一つである。間葉系幹細胞(MSC)は、その自己複製能と多系列への分化能とのために大きな治療可能性を有する。
【0005】
最近、関節炎、心疾患、神経、および組織再生の分野における幹細胞療法用の間葉系幹細胞(MSC)の代替源として、臍帯血(UCB)が提唱されている。骨髄由来MSC(BM-MSC)と比べてUCB-MSCを使用することの利点は、1)UCBは大量に入手可能であり且つドナーを傷つけることなしに回収可能であること、2)UCB-MSCはより高い増殖可能性とより大きな分化能力とを有することである。しかしながら、研究と臨床応用の両方に関するUCB-MSCの使用は、UCB中のMSCの出現頻度が極めて低い(単核細胞(MNC) 1×108個当たり約0.4から30個)こと、およびUCB-MSCの単離成功率も低い(約30%)ことにより主に限定される。幹細胞として、長期培養においてその幹細胞特性を失うことなく増殖させるのは難しい。これらの細胞を規定することができる特異的マーカーが無いため、現在まで、MSCは、古典的なプラスチック接着法により、骨髄または任意の他組織から単離されている。Wolfe et al., 2008; Soleimani and Nadri, 2009; Kern et al., 2006. Comparative analysis of mesenchymal stem cells from bone marrow, umbilical cord blood, or adipose tissue. Stem Cells 24:1294-1301。
【0006】
同様の手法を用いると、プラスチックへの接着能力が不十分なため、UCB中の極めて未成熟なMSCのほとんどを見落とす可能性が高い。骨髄細胞により作製された細胞外マトリックス(ECM)によりMSCの付着および増殖が向上すると共に、その幹細胞特性が保持されることが、最近報告された。Chen et al., 2007, JBMR, 22:1943。
【0007】
ここで、本発明は、ECMへの接着によって、MSCを単離し、その増殖を促進するための方法を提供する。このシステムを用いて大量のhUCB-MSCが単離可能であり、これにより、古典的なフィブロネクチンまたはFBSでプレコートしたプラスチックによる接着方法を用いてUCB-MSCを単離した第三者が以前報告したものよりも、MSCの出現頻度が少なくとも1000倍高いことが示される。より重要なことに、ECMにより得られたMSCは、胚性幹細胞の独特の特徴である胚体をインビトロで形成し、三種類の胚性胚葉を起源とする組織をインビボで生成した。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、細胞外マトリックス(ECM)への接着により臍帯血から間葉系幹細胞(MSC)を単離する方法を提供し、かつ単離MSCの使用を提供する。
【0009】
一局面において、本発明は間葉系幹細胞(MSC)の単離方法を提供し、該方法は(a)試料を採取する工程;(b)該試料を細胞外マトリックス(ECM)プレコート培養皿上に播種する工程;および(c)MSCを単離する工程を含む。いくつかの態様では、前記方法は、播種の前に単核細胞を採取するために試料を遠心分離する工程をさらに含む。
【0010】
またさらなる態様では、前記方法は、単離MSCを移植して分化組織を得る工程をさらに含む。他の態様では、前記方法は、単離MSCを移植して分化組織を得る工程をさらに含む。
【0011】
他の局面において、本発明はMSC増殖の促進方法を提供し、該方法は、(a)単離MSCの試料を入手する工程、および(b)前記単離MSCの試料の増殖を促進させるために該単離MSCをECM上に播種する工程を含む。
【0012】
またさらなる局面では、本発明は分化組織の産生方法を提供し、該方法は(a)単離MSCの試料を入手する工程、および(b)該単離MSCを免疫無防備状態マウス中に移植して分化組織を得る工程を含む。
【0013】
前記試料は、MSCを含む任意の組織または試料由来であってもよい。いくつかの態様においては、試料は、骨膜、海綿骨、脂肪組織、滑膜、骨格筋、乳歯、胎性の膵臓、肺、肝臓、羊水、臍帯血、および臍帯組織に由来する。特定の態様では、試料は臍帯血(UCB)である。試料は、任意のほ乳類由来であってよく、特定の態様では、ヒト由来である。試料は任意の時点で採取可能である。特定の態様では、試料は出生後に採取される。別の態様では、試料は出生前に採取されてもよい。
【0014】
細胞外マトリックスは、任意の適切な供給源に由来してもよい。いくつかの態様では、細胞外マトリックスはヒト骨髄細胞に由来する。特定の態様において、ECMは、I型コラーゲン、III型コラーゲン、フィブロネクチン、バイグリカン、デコリン、パールカン、および/またはラミニンを含んでもよい。
【0015】
分化組織は、いくつかの層を含んでいてもよい。特定の態様では、分化組織は三種類の胚性胚葉に由来する組織を含む。いくつかの態様では、分化組織は、内胚葉-腺;中胚葉-骨、筋肉、脂肪、血管;および/または外胚葉-神経線維を含む。
【0016】
実施例の項における態様は、本発明の全ての局面に適用可能な本発明の態様として理解される。
【0017】
添付の特許請求の範囲における用語「または」は、代替物のみを指すと特記されない限り、かつ該代替物が相互排他的でない限り、「および/または」を意味するように使用されるが、当開示は、代替物のみを指す定義および「および/または」に対応する。
【0018】
本出願全体を通して、用語「約」は、ある値を測定するのに用いられている機器や方法に関する誤差の標準偏差を該値が含んでいることを示すために使用される。
【0019】
長年の特許法に従い、単語「一つの(a)」および「ある(an)」は、特記しない限り、添付の特許請求の範囲または明細書において単語「含む」と一緒に使用される場合、一つ又は複数を示す。
【0020】
本明細書中に使用される用語「治療上有効」は、治療されている状態の少なくとも一つの症状を少なくとも軽減する等の治療効果を達成するために本発明の方法で採用される、細胞および/または治療用組成物(例えば、治療用ポリヌクレオチドおよび/または治療用ポリペプチド)の量を指す。
【0021】
本発明の他の目的、特徴、および利点は、以下の詳細な説明から明らかになる。しかしながら、本発明の趣旨と範囲の範疇にある種々の変更や改変が、詳細な説明から当業者に明らかになるので、この詳細な説明と具体的な実施例は本発明の具体的態様を示すが、例示のみを目的として与えられることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
添付の図面は本明細書の一部を形成するものであり、本発明のある種の局面をさらに実証するために含まれる。本明細書に提示される具体的態様の詳細な説明と組み合わせて、該図面の一つ又は複数を参照することにより、本発明はより良く理解されうる。
【図1】図1A〜D ヒト間質細胞培養物およびそのECMの走査型顕微鏡写真。細胞除去前(図1A、B)と細胞除去後(図1C、D)の培養間質細胞のSEM顕微鏡写真。パネルB中の矢印は細胞を示す。本発明者らの従前の研究に基づく標準的手法を利用した。継代1代目または2代目由来の間質細胞を、組織培養プラスチック上に、細胞1×104個/cm2で播種し、15日間培養した。培地(15%FBS含有α-MEM)交換を3〜4日ごとに行い、アスコルビン酸(50μM)を、培養の最後8日間添加した。PBSを用いて徹底的に洗浄後、PBS中において20mM NH4OHを含む0.5%Triton X-100を用いて5分間室温でインキュベートすることにより、細胞を除去した。PBSで4回洗浄後、50μg/mlゲンタマイシンと0.25μg/mlファンギゾンとを含有するPBSをプレートへと加え、これを最長4ヶ月間にわたり4℃で保存した。
【図2】ヒト骨髄間質細胞が産生したECM中のI型およびIII型コラーゲン、フィブロネクチン、バイグリカン、デコリン、パールカン、およびラミニンの局在を示す共焦点画像。タンパク質の検出は、示された構成成分に対する抗体と緑色蛍光標識二次抗体とを用いて行った。非特異的アイソタイプであるIgGを、陰性対照として使用した。DAPIを用いた核染色は、青色で示されている。
【図3】図3A〜D 初代播種から4時間および72時間後の2DプレートおよびECMプレートから取り出した非接着細胞を、ECMプレート上に再播種した。再播種から24時間後、初代2Dプレート由来の非接着細胞(図3A、C;クリスタルバイオレット染色)は、初代ECMプレート由来の非接着細胞(図3B、D)よりも5倍多い細胞の付着を示した。
【図4】ECMは、UCB由来MSCの付着および増殖を促進する。ヒトUCBを、テキサス臍帯血バンク(San Antonio、TX)から購入した。UCBから単離された単核細胞(MNC)を、MNC 1×106個/cm2にてECMまたは非コートプラスチック上に播種し、示された種々の時間にわたり37℃でインキュベートした。その後、PBSで洗浄することにより非接着細胞を取り除いた。元の拡大率:×100。
【図5】コロニー形成。ECMへの接着により単離されたUCB-MSCは、多数のコロニーを形成し(左パネル、元の拡大率:×50、中央パネル、元の拡大率:×200)、その一部は胚体を生成した(右パネル、元の拡大率:×200)。
【図6】図6A〜C コロニー形成。UCB-MSCを、MNC 1×106/cm2にてECM(図6A)または非コートプラスチック(図6B)上に播種し、37℃で72時間インキュベートした(元の拡大率:×100)。(図6C)胚様体が、ECMコートプレート上に形成された(元の拡大率:×200)。
【図7】図7A〜C 細胞分化。(図7A)未分化UCB-MSC。(図7B)UCB-MSCの脂肪生成:オイルレッド染色によって脂肪滴を示した。(図7C)UCB-MSCの筋形成:ヘマトキシリン染色によって多核の筋管(矢印)を示した。
【図8】古典的プラスチック接着法(プラスチック)によって単離された細胞に対する、ECM接着(ECM)により単離された細胞の、フローサイトメトリーによる分析。図4に前記されたのと同一の実験において、トリプシン処理後72時間にわたるECMまたはプラスチック上での細胞インキュベーションから、単細胞懸濁液を得て、種々の一次抗体とFITC結合二次抗体とを用いて染色した。非特異的一次抗体(アイソタイプ、IgG)で染色した細胞を、陰性対照(灰色のピーク)とする。染色された細胞の解析では、各々の試料に関して集めた10,000事象を用いるBecton Dickinson FACStarplusフローサイトメーターを行った。
【図9】図9A〜B ECMにより単離されたUCB-MSCは、三種類の胚性胚葉を起源とする組織をインビボで生成した。ECMにより単離されECM上で連続的に増殖したUCB-MSC、またはプラスチックにより単離されプラスチック上で連続的に増殖したUCB-MSCを、Gelfoamまたは、骨格形成を好都合に誘導するヒドロキシアパタイト/リン酸三カルシウム(HA/TCP)にロードし、10週齢の免疫不全ベージュマウスの背面内に皮下移植した。各媒体には、細胞0.5×106個をロードした。各々の条件に関して、移植を3回実行した。移植8週間後に移植物を回収して、組織学的解析のための処理を行った。切片をH&E染色した。さらに、Bielschowsky銀染色を使用して、神経を具体的に同定した(中央パネルの神経線維を参照されたい)。生成された組織の起源を決定するために、H&E染色切片に隣接する切片を、Millipore(Billerica、MA)から購入したヒト核リボ核タンパク質に特異的な抗体を用いて染色した。マウス組織およびヒト組織は、それぞれ陰性対照および陽性対照とした。小骨中に生成した骨格組織を、ドナー起源由来であるとして定義した(30)。A:動脈;B:骨;C:毛細血管;E:内皮細胞;F:脂肪;G:腺;M:筋肉;およびN:神経。
【図10】ECM接着法により単離されたUCB細胞の遺伝子発現プロフィール。RNA調製は、4人の個別ドナーから分離された、ECM上で前単離し且つ維持されたUCB細胞(継代1代目)(UMSC/E)、または、プラスチック上で前単離し且つ維持されたUCB細胞(継代1代目)(UMSC/P)から行った。関心対象の転写物の測定は、TaqMan PCR Master Mix and Assay Demand(Applied Biosystems)を使用するリアルタイムPCRにより行った。ヒトES細胞[(hES)細胞株H7]から単離されたRNAは、USTA所属のChristopher Navara博士により供与された。ヒトMSC(BMSC)のRNAの調製は、方法の項に記載されるようにALLCELLS(Emeryville、CA)から購入したヒト骨髄細胞から実施した。*P<0.01(n=4):hESに対してUMSC/E、UMSC/P、またはBMSC。†P<0.01(n=4)UMSC/Eに対してUMSC/PまたはBMSC。
【発明を実施するための形態】
【0023】
例示的態様の説明
本発明は、ECMへの接着によりMSCを単離する方法を提供し、かつ単離MSCの使用を提供する。
【0024】
I.間葉系幹細胞(MSC)
MSCは、その自己複製能と多系列への分化能とに起因して、大きな治療可能性を有する。MSCは多能性幹細胞であって、様々な細胞タイプへと分化することができる。インビトロまたはインビボにおいてMSCが分化することが示されている細胞タイプは、骨芽細胞、軟骨細胞、筋細胞、および脂肪細胞を含む。本明細書中に使用される用語「幹細胞」は、一種又は複数種の細胞系列を生じる細胞を指す。
【0025】
MSCは骨膜、海綿骨、脂肪組織、滑膜、骨格筋、乳歯、胎性の膵臓、肺、肝臓、羊水、臍帯血および臍帯組織を含む種々の組織から単離可能であることが報告されている。その利用しやすさ、ドナーにとって無痛の手法であること、自己由来の細胞療法用の有望な供給源であること、およびウイルス汚染のリスクが低いことにより、これらの中では、臍帯血が理想的な供給源である。臍帯血幹細胞は、出生直後の臍帯から入手可能である。これらの幹細胞は、成人または子供の骨髄で見られる幹細胞よりも未成熟である。その上、ヒト臍帯血(hUCB)は、成人の骨髄由来MSC(BM-MSC)よりも高い増殖能とより大きな分化能とを有する間葉系幹細胞MSCを含む。しかしながら、UCB-MSC単離成功率が低いために、これらの細胞を従来法を用いて入手することは困難であった。従来法を用いると、任意の所定のUCB試料10個について僅か3個の試料からしかUCB-MSCを単離することができず(成功率30%)、UCB-MSCが見つかったこれらの試料において、UCB中のMSCの絶対数が極めて小さい(単核細胞MNC 1×108個当たり約5から30個)。
【0026】
II.ECM上でのMSCの単離
今日まで、MSCの単離は、そのプラスチック接着能に依存してきた。従って、プラスチックへの接着能が不十分なためにUCB中の真のMSCの一部は見落とされる可能性が高い。さらに、幹細胞には、その機能を維持するための専用の微小環境が必要である。MSCの幹細胞特性が喪失することから分かるように、現状の組織培養技術ではこの環境が提供されていない。かわりにこれは、老化するか、「自発的に」特定の細胞系列にコミットするか、または形質転換細胞になる。
【0027】
いくつかの局面においては、本発明は、ECMへの接着によるMSCの単離を提供する。ECM接着手法を使用することで、驚くほど多数の胚様幹細胞のヒト臍帯血からの単離を実現する。目下説明される方法を用いて、ヒト骨髄(hBM)細胞により作製された細胞不含有の未変性ECMが再構成可能である。ECMは、少なくとも部分的に、I型およびIII型コラーゲン、フィブロネクチン、バイグリカンおよびデコリン等の小型ロイシンリッチプロテオグリカン、ならびにパールカンおよびラミニン等の基底膜の主要構成成分を含む。これらのマトリックスタンパク質はすべて、細胞の接着、移動、増殖、分化、および生存を制御することにおいて非常に重要である。hBM-ECMの構成成分と独特の構造は、MSCを支持するインビボにおける微小環境の重要な特徴を模倣しており、hUCB-MSCの付着および増殖を著しく向上させ、かつその幹細胞特性を保持させる。
【0028】
骨髄細胞により作製されたECMは、UCB-MSCの付着および増殖を向上させ、かつその幹細胞特性の保持を増大させた。このシステムを用いて、ECMには接着するがプラスチックには接着しない多数のMSCがヒトUCBに含まれることが分かった。さらにまた、初代細胞を低播種密度(MNC 3×104〜1×105個/cm2)でECM上にて培養した場合に多数のコロニーが形成された。このデータが示すのは、EMC上で培養されたUCB-MSCが、プラスチック上で培養されたものよりもずっと高いコロニー形成能を有することである。コロニー形成単位(CFU)の測定によると、UCB-MSCの出現頻度は、MNC 1×108個当たり22,800〜37,000個であり、これは他者により従前に報告された(MNC 1×108個当たり0.4〜30個)よりも少なくとも1,000倍(760〜92,500)大きい。
【0029】
より重要なことに、いかなる特異的分化誘導も行うことなく、ECMにより得られたhUCB由来MSC(hUCB-MSC)を免疫無防備状態マウスに移植することで、三種類の胚性胚葉に由来する組織、つまり骨、筋肉、脂肪、血管、腺、および神経線維を含む組織が生成されることが、本試験により示された。ECMにより単離され続いてECM上で培養されたhUCB-MSCは、未変性且つ多能性でありhES細胞の特性を呈するので、これらの細胞を「ヒト臍帯血由来の胚様幹細胞(hUCB-ELSC)と名付けた。
【0030】
この新規技術を使用して、驚くほど多数のUCB-ELSCを、たった一つの臍帯血ユニットから得ることができる。いかなる特異的分化誘導も行うことなくECM上で培養されたhUCB-MSCは、継代6〜8代目であってさえ、hESの様に、三種類の胚性胚葉を起源とする種々の組織へと非常に効果的にインビボで分化することができた。これらの独特の特徴に基づいて、目下開示される方法は、以下に関して非常に有用である。
1.組織工学基礎研究:ECM接着により得られる、高度に精製された大量のhUCB-MSCによって、その挙動を制御する分子機序の研究が促進される。
2.創薬:ECM上で維持される、高度に精製されたhUCB-MSCは、インビトロでのドラッグスクリーニングに使用可能である。
3.組織工学の臨床使用:大量の未変性且つ多能性のUCB-ELSCは、近い将来、細胞ベースの臨床応用に関してES細胞の代替物となる可能性がある。
【実施例】
【0031】
III.実施例
本発明の好ましい態様を実証するために、以下の実施例を含める。後述の実施例中に開示される技術は、本発明の実施において良好に機能すると本発明者により発見された技術を表しており、かつしたがって、その実施に関して好ましい様態を構成するとみなされ得ることが、当業者により理解されるべきである。しかしながら、本開示を鑑みて当業者は、本発明の趣旨と範囲から逸脱することなく開示される具体的態様において多くの変更が可能でありかつ同様もしくは同等の結果が得られることを理解されたい。
【0032】
実施例1-培養骨髄細胞からの細胞不含有ECMの調製
(1)新鮮な単離ヒト骨髄単核細胞(MSCを含む、20〜30歳のドナーから入手)をALLCELLS(Emeryville、CA)から購入する。
【0033】
(2)T175フラスコに、1cm2当たり8.5〜17×104個の密度で細胞をプレーティングし、グルタミン(4mM)、ペニシリン(100U/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)、および15%の前選択したウシ胎仔血清を含むα-MEM中で培養する。24時間後、非接着細胞を取り除き、新鮮な培地を加え、70%コンフルエントにまで増殖させる(2〜3週間)。
【0034】
(3)PBSで培養物を洗浄する。0.05%トリプシンを使用して接着細胞を剥離する。細胞を回収、再懸濁し、組織培養プラスチック上に細胞6×103個/cm2にて再播種し、15日間培養する。3〜4日ごとに培地の半分を交換し、培養の最後8日間、アスコルビン酸(50μM)を添加した。PBSを用い徹底的に洗浄後、PBS中に20mM NH4OHを含有するpH7.4の0.5% TritonX-100を5分間37℃でインキュベーションして細胞を除去する。その後、PBSでプレートを4回洗浄し、50μg/mlゲンタマイシンと0.25μg/mlファンギゾンとを含有するPBSを加えて、4℃で最大4ヶ月間保管する。
【0035】
実施例2-hUCB由来MSCの単離および培養
(1)Ficoll密度勾配を使用した、hUCBの単核細胞(MNC)の単離:抗凝固処理した臍帯血を平衡塩類溶液(BSS)で希釈する(1:1)。希釈臍帯血を50mlチューブ中で、10mlのFicoll-Paque PREMIUM 溶液(GE Healthcare BioSciences社、Piscataway、NJ)層上にゆっくりと重ねる(比率4:1)。層状の血液試料を、18〜20℃にて30分間、480gで遠心分離する。単核/白色層を回収して新しい50mlチューブに入れ;3倍容量のBSSをMNCに加え;細胞懸濁物を、18〜20℃にて6分間、480gで遠心分離し;ペレットを10mlの2%FBS含有α-MEM中に再懸濁する。細胞を計数し、生存率を確認する。
【0036】
(2)MNC 1×106個/cm2の密度にて、ヒト骨髄細胞由来ECMでプレコートした培養プレートまたは培養皿へと播種する。最初のプレーティングの24時間後に、非接着細胞を取り除く。PBSを加えて激しく振とうしながら接着細胞を2回洗浄して、造血系細胞を含む全ての非接着細胞を取り除き、新鮮な培地を加える。MSC(hUCB-MSC)を含む、得られた線維芽細胞様の接着細胞を、37℃にて5%CO2を含む加湿雰囲気下で培養する。
【0037】
(3)週に一度培地を交換する。増殖培地は、20%FBSを含む。70%〜90%コンフルエントに達するまで、MSCを前記培地中で維持する。0.05%のトリプシンを使用して、サブコンフルエントで細胞を回収してもよい。2度目の継代の際、細胞を平均密度6×103個/cm2にて再プレーティングする。
【0038】
(4)線維芽細胞様コロニー形成単位(CFU-F)と称する、単一の分離された線維芽細胞様コロニーの生成は、MNCをまず低密度(1cm2当たり細胞1×103〜1×105個)で播種することにより達成可能である。
【0039】
実施例3-プラスチックとECMに対するMSC接着の比較
方法:
プラスチックと骨髄由来ECMに対してMSCが接着する能力を比較するために、細胞1×106個/cm2にてプラスチック上に細胞を播種し、4、24、および72時間インキュベートした。プラスチックから非接着細胞を回収し、ECM上に再播種して、さらに24時間インキュベートした。接着細胞を、クリスタルバイオレットで染色し、定量した(図8)。脂肪生成および筋形成の判定は、それぞれ脂肪生成培地または筋形成培地中に維持した細胞により行った。
【0040】
結果:
UCB中の接着細胞の大多数は、インキュベーション4時間時点でECMへ付着することができた。一方、プラスチックには、ほとんど細胞は付着しなかった。しかしながら、プラスチックから回収された非接着細胞は、ECMへ付着する多数の細胞を含んでいた。ECM接着性の細胞は、インビトロで、脂肪細胞および筋肉細胞に分化することができる。
【0041】
実施例4-移植および分化の評価
(1)移植:
0.5×106個の前培養されたhUCB-MSC(継代6〜8代目)を、移植媒体であるヒドロキシアパタイト/リン酸三カルシウム(HA/TCP)セラミック粉末またはGelfoamへと載せて、10週齢の免疫不全ベージュマウス(NIH-bg-nu-xid)の背面内に皮下移植した。
【0042】
(2)分化の評価:
移植2〜4ヶ月後に、移植物を回収し、4%ホルムアルデヒドを用いて、室温で固定する。パラフィン包埋移植物の4μm連続切片を、H&E染色および免疫染色により試験する。ドナーのhUCB-MSCから分化した組織は、抗ヒト特異的RNP抗体(1:60;Millipore/Chemicon)で免疫染色することにより検出可能である。
【0043】
実施例5-結果
大量のUCB-MSCがECMに接着したが、プラスチックには接着しなかった
骨髄細胞により作られた細胞外マトリックス(ECM、図1、図2)は、hUCB-MSCの付着と増殖とを向上させると共に、その幹細胞特性を保持した。このシステムを使用して、ECMには接着するがプラスチックには接着しない多数のMSCが、ヒトUCBに含まれることが分かった。初代細胞をMNC 3×104〜1×105個/cm2の播種密度でECM上にて培養した場合、多数のコロニーが形成された(図3、4)。このデータが示すのは、ECM上で培養されたhUCB-MSCが、プラスチック上で培養されたものよりも遙かに大きなコロニー形成能を有することである。コロニー形成単位(CFU)の測定によると、hUCB-MSCの出現頻度は、MNC 1×108個当たり22,800〜37,000個であり、これは、他者により従前に報告された(MNC 1×108個当たり0.4〜30個)よりも少なくとも1,000(760〜92,500)倍大きい。
【0044】
ECMへ接着したUCB細胞は、SSEA-4および他のMSCマーカーを発現したが、造血細胞マーカーは発現しなかった
ECMへ接着した細胞の表現型は、フローサイトメトリー分析により決定され、これによって、これらの細胞の約40%がES細胞マーカーであるSSEA-4(15)を発現したこと、ならびに、前記細胞の約90%はCD29、CD105、CD166、およびCD146を含む数種のMSCマーカーも発現したが造血細胞マーカーであるCD34とCD45との発現はみられなかったことが示唆された(図8)。対照的に、プラスチックへ接着した細胞は、ほとんどSSEA-4+細胞を含まず、少数の細胞がこれらのMSCマーカーを発現した。これらの結果により、ECMへ接着した細胞の表現型がプラスチックへ接着したものと非常に異なることが示唆される。ECM接着により単離された細胞は独特であり、MSCの比較的均質な集団を含む可能性がある。これらの細胞は、ES細胞の特徴の一部を有する可能性もある。
【0045】
ECM上で培養されたhUCB-MSCは、三種類の胚性胚葉を起源とする組織をインビボで生成した
ECMシステムにより、ヒト臍帯血から胚様細胞が濃縮される。ECMにより取得され、続いてECM上で培養されたhUCB-MSCは、胚性幹細胞の独特の特徴である胚体をインビトロで形成した(図5および図6)。いかなる特異的分化誘導も行わずに、hUCB-MSCを免疫無防備状態マウスに移植することにより、以下を含む三種類の胚性胚葉に由来する組織が生成された:内胚葉-腺;中胚葉-骨、筋肉、脂肪、血管;および外胚葉-神経線維。ドナーhUCB-MSCからこれらの組織が分化し、抗ヒト特異的RNP抗体を用いた免疫染色により検出される。大多数の移植物は、hES細胞のような細胞から生成された様々な異質性組織を含んでいたが、テラトーマは生じなかった(図9)。
【0046】
ECMに接着し、続いてECM上で培養されたhUCB細胞の表現型は、hESおよびhBM-MSCの表現型とは異なる
hUCB-MSCをさらに定義し特徴付けるため、本発明者らは、ECM接着により単離されたUCB-MSCが、NANOG、OCT4、TDGF1、DNMT3B、GABRB3、およびSox2を発現するかどうかを検討した。これらのマーカーは全て、hES細胞により強く発現される(Adewumiら、2007)。ECM接着により単離されたUCB-MSCが発現しているこれら遺伝子のレベルは、hES細胞が発現しているレベルよりも遙かに低いが、プラスチック接着により単離されたUCB-MSCおよびヒト骨髄由来の間葉系幹細胞(hBM-MSC)が発現しているレベルの両者よりは高いことが分かった(図10)。これは、これらの遺伝子のいくつかを組み込んだ体細胞がテラトーマを形成することは従前の研究により明確に示されているため、ECM接着により単離されたUCB-MSCがテラトーマを形成しなかった理由の説明となる可能性がある。UCBは、BM由来のECMには接着するがプラスチックには接着しない多数の胚様幹細胞を含み得、かつ、ECM接着法により得られたUCB-MSCは、古典的なプラスチック接着法により単離されたものとは異なる特性を有し得るようである。ECM接着により得られたUCB-MSCの分化ステージはES細胞に近い可能性があり、かつこれは、従来のプラスチック接着法により単離されたUCB-MSCと比較して分化のより初期にある可能性がある。以上より、これらのデータは、ECM接着により単離されたhUCB-MSCが、これまでに特徴決定されたタイプの幹細胞(hESC、hBM-MSC、脂肪組織-MSC、骨膜-MSC等、およびさらに、標準的プラスチック接着法を使用して単離されたhUCB-MSC)と比較して、これらの細胞を幹細胞の別のクラスへと位置づける根拠となるのに十分な独特の特性を有していることを示唆する。
【0047】
本明細書中に開示され且つ添付の特許請求の範囲に記載される組成物および/または方法の全ては、本開示に鑑みて過度の実験なしに作製および実行が可能である。本発明の組成物および方法はいくつかの態様に関して記載されているが、本発明の概念、趣旨、および範囲から逸脱することなしに、本明細書中に記載される組成物ならびに方法および該方法の工程もしくは工程の順序に対して種々の変更を適用可能であることは、当業者に明らかとなろう。より具体的には、同一または類似の結果が実現される限り、化学的および生理学的に関連する特定の剤を、本明細書中に記載される剤の代替としてもよいことが明らかであろう。当業者に明らかなそのような類似代替物および改変の全ては、添付の特許請求の範囲により規定される本発明の趣旨、範囲、および概念の範疇にあるとみなされる。
【0048】
参考文献
以下の参考文献は、それらが本明細書の記載の補足となる例示的な手法または他の詳細を提供する程度に、参照により本明細書中に具体的に組み入れられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)試料を採取する工程;
(b)細胞外マトリックス(ECM)プレコート培養皿上に該試料を播種する工程;および
(c)間葉系幹細胞(MSC)を単離する工程
を含む、MSCを単離する方法。
【請求項2】
前記試料が骨膜、海綿骨、脂肪組織、滑膜、骨格筋、乳歯、胎性の膵臓、肺、肝臓、羊水、臍帯血、および臍帯組織に由来する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記試料が臍帯血(UCB)である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記臍帯血がヒトUCB(hUCB)である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記試料が出生後に採取される、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
播種前に単核細胞を採取するために前記hUCB試料を遠心分離する、請求項4または5記載の方法。
【請求項7】
前記ECMがヒト骨髄細胞に由来する、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
前記ECMがI型コラーゲン、III型コラーゲン、フィブロネクチン、バイグリカン、デコリン、パールカン、および/またはラミニンを含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記単離MSCを移植して分化組織を得る工程をさらに含む、請求項1〜8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
前記分化組織が三種類の胚性胚葉由来の組織を含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記分化組織が内胚葉-腺;中胚葉-骨、筋肉、脂肪、血管;および/または外胚葉-神経線維を含む、請求項9または10記載の方法。
【請求項12】
(a)単離MSCの試料を入手する工程;および
(b)該単離MSCの試料の増殖を促進させるために該単離MSCをECM上に播種する工程
を含む、MSC増殖を促進させるための方法。
【請求項13】
前記試料が骨膜、海綿骨、脂肪組織、滑膜、骨格筋、乳歯、胎性の膵臓、肺、肝臓、羊水、臍帯血、および臍帯組織に由来する、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記試料が臍帯血(UCB)である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記臍帯血がヒトUCB(hUCB)である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記ECMがヒト骨髄細胞に由来する、請求項12〜15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
前記ECMがI型コラーゲン、III型コラーゲン、フィブロネクチン、バイグリカン、デコリン、パールカン、および/またはラミニンを含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
(a)単離MSCの試料を入手する工程;および
(b)該単離MSCを免疫無防備状態マウス中に移植して分化組織を得る工程
を含む、分化組織を産生する方法。
【請求項19】
前記分化組織が三種類の胚性胚葉由来の組織を含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記分化組織が内胚葉-腺;中胚葉-骨、筋肉、脂肪、血管;および/または外胚葉-神経線維を含む、請求項18または19記載の方法。
【請求項21】
(a)試料を採取する工程;
(b)細胞外マトリックス(ECM)プレコート培養皿上に該試料を播種する工程;および
(c)間葉系幹細胞(MSC)を単離する工程
を含む、MSCを単離する方法。
【請求項22】
前記試料が骨膜、海綿骨、脂肪組織、滑膜、骨格筋、乳歯、胎性の膵臓、肺、肝臓、羊水、臍帯血、および臍帯組織に由来する、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記試料が臍帯血(UCB)である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記試料が出生後に採取される、請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記臍帯血がヒトUCB(hUCB)である、請求項23記載の方法。
【請求項26】
播種前に単核細胞を採取するために前記hUCB試料を遠心分離する、請求項23記載の方法。
【請求項27】
前記ECMがヒト骨髄細胞に由来する、請求項21記載の方法。
【請求項28】
前記ECMがI型コラーゲン、III型コラーゲン、フィブロネクチン、バイグリカン、デコリン、パールカン、および/またはラミニンを含む、請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記単離MSCを移植して分化組織を得る工程をさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項30】
前記分化組織が三種類の胚性胚葉由来の組織を含む、請求項29記載の方法。
【請求項31】
前記分化組織が内胚葉-腺;中胚葉-骨、筋肉、脂肪、血管;および/または外胚葉-神経線維を含む、請求項30記載の方法。
【請求項32】
(a)単離MSCの試料を入手する工程;および
(b)該単離MSCの試料の増殖を促進させるために該単離MSCをECM上に播種する工程
を含む、MSC増殖を促進させるための方法。
【請求項33】
前記試料が骨膜、海綿骨、脂肪組織、滑膜、骨格筋、乳歯、胎性の膵臓、肺、肝臓、羊水、臍帯血、および臍帯組織に由来する、請求項32記載の方法。
【請求項34】
前記試料が臍帯血(UCB)である、請求項33記載の方法。
【請求項35】
前記臍帯血がヒトUCB(hUCB)である、請求項34記載の方法。
【請求項36】
前記ECMがヒト骨髄細胞に由来する、請求項32記載の方法。
【請求項37】
前記ECMがI型コラーゲン、III型コラーゲン、フィブロネクチン、バイグリカン、デコリン、パールカン、および/またはラミニンを含む、請求項36記載の方法。
【請求項38】
(a)単離MSCの試料を入手する工程;および
(b)該単離MSCを免疫無防備状態マウス中に移植して分化組織を得る工程
を含む、分化組織を産生する方法。
【請求項39】
前記分化組織が三種類の胚性胚葉由来の組織を含む、請求項38記載の方法。
【請求項40】
前記分化組織が内胚葉-腺;中胚葉-骨、筋肉、脂肪、血管;および/または外胚葉-神経線維を含む、請求項39記載の方法。
【請求項1】
(a)試料を採取する工程;
(b)細胞外マトリックス(ECM)プレコート培養皿上に該試料を播種する工程;および
(c)間葉系幹細胞(MSC)を単離する工程
を含む、MSCを単離する方法。
【請求項2】
前記試料が骨膜、海綿骨、脂肪組織、滑膜、骨格筋、乳歯、胎性の膵臓、肺、肝臓、羊水、臍帯血、および臍帯組織に由来する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記試料が臍帯血(UCB)である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記臍帯血がヒトUCB(hUCB)である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記試料が出生後に採取される、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
播種前に単核細胞を採取するために前記hUCB試料を遠心分離する、請求項4または5記載の方法。
【請求項7】
前記ECMがヒト骨髄細胞に由来する、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
前記ECMがI型コラーゲン、III型コラーゲン、フィブロネクチン、バイグリカン、デコリン、パールカン、および/またはラミニンを含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記単離MSCを移植して分化組織を得る工程をさらに含む、請求項1〜8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
前記分化組織が三種類の胚性胚葉由来の組織を含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記分化組織が内胚葉-腺;中胚葉-骨、筋肉、脂肪、血管;および/または外胚葉-神経線維を含む、請求項9または10記載の方法。
【請求項12】
(a)単離MSCの試料を入手する工程;および
(b)該単離MSCの試料の増殖を促進させるために該単離MSCをECM上に播種する工程
を含む、MSC増殖を促進させるための方法。
【請求項13】
前記試料が骨膜、海綿骨、脂肪組織、滑膜、骨格筋、乳歯、胎性の膵臓、肺、肝臓、羊水、臍帯血、および臍帯組織に由来する、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記試料が臍帯血(UCB)である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記臍帯血がヒトUCB(hUCB)である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記ECMがヒト骨髄細胞に由来する、請求項12〜15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
前記ECMがI型コラーゲン、III型コラーゲン、フィブロネクチン、バイグリカン、デコリン、パールカン、および/またはラミニンを含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
(a)単離MSCの試料を入手する工程;および
(b)該単離MSCを免疫無防備状態マウス中に移植して分化組織を得る工程
を含む、分化組織を産生する方法。
【請求項19】
前記分化組織が三種類の胚性胚葉由来の組織を含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記分化組織が内胚葉-腺;中胚葉-骨、筋肉、脂肪、血管;および/または外胚葉-神経線維を含む、請求項18または19記載の方法。
【請求項21】
(a)試料を採取する工程;
(b)細胞外マトリックス(ECM)プレコート培養皿上に該試料を播種する工程;および
(c)間葉系幹細胞(MSC)を単離する工程
を含む、MSCを単離する方法。
【請求項22】
前記試料が骨膜、海綿骨、脂肪組織、滑膜、骨格筋、乳歯、胎性の膵臓、肺、肝臓、羊水、臍帯血、および臍帯組織に由来する、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記試料が臍帯血(UCB)である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記試料が出生後に採取される、請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記臍帯血がヒトUCB(hUCB)である、請求項23記載の方法。
【請求項26】
播種前に単核細胞を採取するために前記hUCB試料を遠心分離する、請求項23記載の方法。
【請求項27】
前記ECMがヒト骨髄細胞に由来する、請求項21記載の方法。
【請求項28】
前記ECMがI型コラーゲン、III型コラーゲン、フィブロネクチン、バイグリカン、デコリン、パールカン、および/またはラミニンを含む、請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記単離MSCを移植して分化組織を得る工程をさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項30】
前記分化組織が三種類の胚性胚葉由来の組織を含む、請求項29記載の方法。
【請求項31】
前記分化組織が内胚葉-腺;中胚葉-骨、筋肉、脂肪、血管;および/または外胚葉-神経線維を含む、請求項30記載の方法。
【請求項32】
(a)単離MSCの試料を入手する工程;および
(b)該単離MSCの試料の増殖を促進させるために該単離MSCをECM上に播種する工程
を含む、MSC増殖を促進させるための方法。
【請求項33】
前記試料が骨膜、海綿骨、脂肪組織、滑膜、骨格筋、乳歯、胎性の膵臓、肺、肝臓、羊水、臍帯血、および臍帯組織に由来する、請求項32記載の方法。
【請求項34】
前記試料が臍帯血(UCB)である、請求項33記載の方法。
【請求項35】
前記臍帯血がヒトUCB(hUCB)である、請求項34記載の方法。
【請求項36】
前記ECMがヒト骨髄細胞に由来する、請求項32記載の方法。
【請求項37】
前記ECMがI型コラーゲン、III型コラーゲン、フィブロネクチン、バイグリカン、デコリン、パールカン、および/またはラミニンを含む、請求項36記載の方法。
【請求項38】
(a)単離MSCの試料を入手する工程;および
(b)該単離MSCを免疫無防備状態マウス中に移植して分化組織を得る工程
を含む、分化組織を産生する方法。
【請求項39】
前記分化組織が三種類の胚性胚葉由来の組織を含む、請求項38記載の方法。
【請求項40】
前記分化組織が内胚葉-腺;中胚葉-骨、筋肉、脂肪、血管;および/または外胚葉-神経線維を含む、請求項39記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【公表番号】特表2012−521780(P2012−521780A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503404(P2012−503404)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【国際出願番号】PCT/US2009/047981
【国際公開番号】WO2010/114572
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(508152917)ザ ボード オブ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ テキサス システム (17)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【国際出願番号】PCT/US2009/047981
【国際公開番号】WO2010/114572
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(508152917)ザ ボード オブ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ テキサス システム (17)
【Fターム(参考)】
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