説明

ヒト非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の非ヒトモデル動物

【課題】ヒトの臨床病態に即した非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の非ヒトモデル動物(NASHモデル動物)を提供する。
【解決手段】非ヒト動物に以下の(1)〜(3)から選択される少なくとも1つの特徴を有するコリン不含・L−アミノ酸規定(CDAA)飼料を与えて飼育することにより、ヒト非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の非ヒトモデル動物を作製する。
(1)脂質含量が高められている。
(2)血中インスリン濃度や血中コレステロール濃度が上昇しやすく、血中トリグリセリド濃度が低下しにくい脂質を含有する。
(3)コレステロールを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の非ヒトモデル動物、該動物の作製方法、および該動物の利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は脂肪肝を基本病変とし、飲酒歴が乏しいにも関わらず、アルコール性肝障害に類似する肝実質の炎症・壊死、繊維化などの組織変化を呈する病態である。NAFLDは基本的に無症候性であり、病態の進行に伴い、脂肪肝から脂肪性肝炎、さらに肝硬変を経て肝癌に移行する。NAFLDにおける脂肪性肝炎を非アルコール性脂肪性肝炎(non−alcoholic steatohepatitis: NASH)と称する。特に近年、肥満または糖尿病などを背景とするメタボリック症候群が社会問題となっており、NASHもメタボリック症候群の一つであると考えられている。NASHには、合併症として、肥満、糖尿病、高脂血症、および高血圧などの生活習慣病が認められ、NASHの臨床病態の主な特徴としては、ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)優位のトランスアミナーゼ活性の上昇や、ヒアルロン酸濃度などの繊維化マーカーの上昇などが挙げられる(非特許文献1)。しかしながら、NASHの発症機序はいまだ不明な点も多く、NASHの効果的な治療法や治療薬は確立されていない。その原因の一端は、NASHはヒトの生活習慣病を発症の基盤とする為に、NASHの研究のための適当な非ヒトモデル動物が未だ確立されていないことにある。
【0003】
肝硬変、肝癌など致死性の疾患に進展するNASHの病態の解明は、効果的な治療法並びに治療薬の開発に必須であり、そのためには適当なNASHの非ヒトモデル動物が必要である。NASHの研究に用いられる非ヒトモデル動物としては、レプチン受容体欠損マウス(非特許文献2)、肝細胞特異的Pten欠損マウス(非特許文献3)、およびレチノイン酸受容体αの優性阻害型遺伝子改変マウス(非特許文献4)などの単一遺伝子改変マウスが知られているが、ヒトのNASHはそれら遺伝子改変マウスの様に単一遺伝子変異で病態が発症進行するわけではないことから、それら遺伝子改変マウスがヒトのNASHの臨床病態を反映しているとは言えない。また、マウス等のげっ歯類にメチオニン・コリン不含食(MCD)(非特許文献5、非特許文献6)やコリン不含L−アミノ酸規定飼料(CDAA)(非特許文献7)などの特殊な餌を摂餌させることで作製されるNASHの非ヒトモデル動物も知られているが、ヒトのNASHの臨床病態とは異なり体重の低下や血中脂質の低下などが認められることから、ヒトのNASHの臨床病態を反映していない。
【0004】
さらに、マウスへN−アセチル−β−D−グルコサミニダーゼ阻害剤を投与しインスリン抵抗性を惹起させ、さらに高脂肪食を与えて飼育することにより脂肪肝を誘発させ、脂肪性肝炎を発症させたモデルマウスの報告がある(特許文献1)。しかし、該モデルマウスにおいては、NASH症状から肝癌へ移行する時間が短く、劇症化していると考えられ、一般的に緩やかに病態が進行するヒトのNASHの臨床病態を反映していない。また、薬剤によりインスリン抵抗性を惹起させていることから、治療薬等のスクリーニングの際に、試験薬剤との相互作用を考慮する必要があり、該スクリーニングの結果の解釈ができない可能性があるため、該モデルマウスは治療薬等のスクリーニングに使用するのに最適であるとはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−178143
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】橋本悦子、日本臨床 64巻6号 1025−1032、2006
【非特許文献2】Sahai A et al., Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 287:G1035, 2004
【非特許文献3】Horie Y et al., J Clin Invest 113:1774, 2004
【非特許文献4】Yanagitani A et al., Hepatology 40:366, 2004
【非特許文献5】Rinella M et al., Journal of Hepatology 40:47, 2004
【非特許文献6】Wang B et al., Hepatology 50(4):1152-1161, 2009
【非特許文献7】Sakaida I et al., Journal of Hepatology 38:762-769, 2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ヒトの臨床病態に即した非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の非ヒトモデル動物(NASHモデル動物)を作製することを課題とする。具体的には、これまでのNASHモデル動物で報告のない、ヒトの臨床病態として必須である高脂血症(高中性脂肪血症、高コレステロール血症など)を呈する、ヒトに外挿可能な非ヒトモデル動物を作製することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。本発明者は、インスリン抵抗性を遺伝背景としてII型糖尿病を自然発症するKK−Ayマウスを用いて、新規なコリン不
含・L−アミノ酸規定(CDAA)飼料を与えることにより、ヒトと同様の臨床病態を示すNASHのモデルマウスの作製に成功し、本発明を完成させた。当該モデルマウスには、肝臓への異常な脂質の蓄積(脂肪肝)、肝臓の繊維化、および血中パラメータによる慢性肝炎像が認められ、特に、従来のNASHモデル動物で報告の無かった、体重の増加、血清トリグリセリドの増加、および血清総コレステロールの増加が認められた。また、当該モデルマウスにおいては、ヒトと同様の緩やかな病態の進行が認められた。
【0009】
すなわち、本発明としては、具体的には以下のものが例示される。
[1]非ヒト動物にコリン不含・L−アミノ酸規定(CDAA)飼料を与えて飼育する工程を含む、ヒト非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の非ヒトモデル動物を作製する方法であって、
前記CDAA飼料が、以下の(1)〜(3)から選択される少なくとも1つの特徴を有する、方法。
(1)脂質含量が高められている。
(2)血中インスリン濃度や血中コレステロール濃度が上昇しやすく、血中トリグリセリド濃度が低下しにくい脂質を含有する。
(3)コレステロールを含有する。
[2]前記CDAA飼料がパーム油またはヤシ油を含有する、[1]に記載の方法。
[3]前記CDAA飼料におけるコレステロール含量が0.2%以上2.0%以下である、[1]または[2]に記載の方法。
[4]前記CDAA飼料における脂質含量が飼料全体に対するカロリーベースで30%以上60%以下である、[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記非ヒト動物がげっ歯類である、[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記非ヒト動物がマウスまたはラットである、[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
[7]前記非ヒト動物がインスリン抵抗性を有する、[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[8]前記インスリン抵抗性が、遺伝背景によって獲得されたものである、[7]に記載の方法。
[9]前記非ヒト動物がKK−Ayマウスである、[8]に記載の方法。
[10][1]〜[9]のいずれかに記載の方法により作製されうる、ヒト非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の非ヒトモデル動物。
[11]以下の所見(1)〜(11)の少なくとも1つを示す、ヒト非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の非ヒトモデル動物。
(1)体重の増加
(2)体重あたりの肝臓重量の増加(肝臓/体重比)
(3)アラニンアミノトランスフェラーゼ活性(ALT)、およびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ活性(AST)の増加
(4)AST/ALT比の減少
(5)血清トリグリセリド(TG)の増加
(6)血清総コレステロールの増加
(7)肝ヒドロキシプロリン量(HYP)の増加
(8)肝トリグリセリド(TG)の増加
(9)肝細胞において大滴性の脂肪沈着が観察され、肝細胞の風船様膨化が観察される(脂肪変性)。
(10)炎症性細胞浸潤が認められる。
(11)中心静脈を中心とした線維化が観察される。
[12]前記非ヒトモデル動物が、前記所見(5)、(6)、(9)、(10)、および(11)を示す、[11]に記載の非ヒトモデル動物。
[13]前記非ヒトモデル動物が、前記所見(1)〜(11)の全てを示す、[11]に記載の非ヒトモデル動物。
[14]以下の工程(a)および(b)を含む、ヒト非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の治療用もしくは予防用物質のスクリーニング方法。
(a)[10]〜[13]のいずれかに記載のヒト非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の非ヒトモデル動物へ被験物質を投与する工程
(b)非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に対する改善効果を評価する工程
[15]以下の工程(a)および(b)を含む、ヒト非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の改善に対する薬効評価方法。
(a)[10]〜[13]のいずれかに記載のヒト非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の非ヒトモデル動物へ被験物質を投与する工程
(b)非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に対する改善効果を評価する工程
[16]以下の(1)〜(3)から選択される少なくとも1つの特徴を有するCDAA飼料。
(1)脂質含量が高められている。
(2)血中インスリン濃度や血中コレステロール濃度が上昇しやすく、血中トリグリセリド濃度が低下しにくい脂質を含有する。
(3)コレステロールを含有する。
[17]パーム油またはヤシ油を含有する、[16]に記載のCDAA飼料。
[18]コレステロール含量が0.2%以上2.0%以下である、[16]または[17]に記載のCDAA飼料。
[19]脂質含量が飼料全体に対するカロリーベースで30%以上60%以下である、[16]〜[18]のいずれか1項に記載のCDAA飼料。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、ヒトと同様の臨床病態を示す非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の非ヒトモデル動物、該動物の作製方法、該動物作製用の飼料、及び該動物の利用方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、ヒト非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を発症する非ヒトモデル動物(以下、本発明のモデル動物ともいう)を提供する。
【0012】
本発明のモデル動物は、例えば、後述する新規なコリン不含・L−アミノ酸規定(CDAA)飼料を非ヒト動物に与えて飼育することにより作製することができる。なお、以下、新規なCDAA飼料を、従来のCDAA飼料と区別して、新規コリン不含・L−アミノ酸規定(N−CDAA)飼料と記載する場合がある。
【0013】
すなわち、本発明は、非ヒト動物に新規コリン不含・L−アミノ酸規定(N−CDAA)飼料を与えて飼育する工程を含む、ヒト非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の非ヒトモデル動物を作製する方法(以下、本発明の方法ともいう)を提供する。
【0014】
本発明のモデル動物を作製するために使用される非ヒト動物(以下、本発明で用いられる非ヒト動物ともいう)は、実験動物として一般的に使用される非ヒト動物であれば特に制限されないが、好ましくは非ヒト脊椎動物であり、より好ましくは非ヒト哺乳動物であり、さらに好ましくはげっ歯類である。本発明で用いられる非ヒト動物としては、具体的には、マウス、ラット、ラビット、イヌ、ニワトリ、サル等を例示することができる。本発明で用いられる非ヒト動物は、好ましくはマウス、ラット、モルモット、またはハムスターであり、特に好ましくはマウスまたはラットである。
【0015】
本発明で用いられる非ヒト動物は、背景として、ヒトと同様に肥満、糖尿病、高脂血症、または高血圧などの生活習慣病を有しているのが好ましい。本発明で用いられる非ヒト動物が生活習慣病を有する場合には、該非ヒト動物が有する生活習慣病の種類は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。本発明で用いられる非ヒト動物は、例えば、インスリン抵抗性を有する非ヒト動物であるのが好ましい。前記疾患は、遺伝背景として有するものであってもよく、後天的に獲得されたものであってもよい。
【0016】
前記疾患を遺伝背景として有する非ヒト動物の例としては、インスリン抵抗性を遺伝背景としてII型糖尿病を自然発症するKK−Ayマウスが挙げられる。
【0017】
一方、前記疾患を後天的に獲得した非ヒト動物の例としては、薬剤によりインスリン抵抗性が惹起されたモデルマウスが挙げられる。インスリン抵抗性が惹起されたモデルマウスは、例えば、特開2009−178143に記載方法に従って、マウスへN−アセチル−β−D−グルコサミニダーゼ阻害剤を投与することにより作製することができる。
【0018】
なお、薬剤により非ヒト動物に前記疾患を後天的に獲得させる場合には、当該薬剤がNASH症状に与える影響や、後述するスクリーニングや薬効評価の際に当該薬剤が試験対象の物質と相互作用する可能性等について考慮すべきである。よって、そのような薬剤を使用せずに済む点で、前記疾患は遺伝背景として獲得されたものであるのが好ましい。
【0019】
本発明の方法において用いられる新規コリン不含・L−アミノ酸規定(N−CDAA)飼料(以下、本発明の飼料、または本発明のN−CDAA飼料ともいう)は、従来のコリン不含・L−アミノ酸規定(CDAA)飼料の組成を基本として、脂質含量が高められていること、血中インスリンやコレステロールが上昇しやすく、トリグリセリドが低下しにくい脂質を含有すること、およびコレステロールを含有すること、から選択される少なくとも1つの特徴を有するCDAA飼料である。なお、従来のCDAA飼料において、脂質含量は飼料全体に対するカロリーベースで約10%であり、脂質としてはコーン油が含有され、コレステロールは含有されない。
【0020】
本発明の飼料の一態様においては、従来のコリン不含・L−アミノ酸規定(CDAA)飼料と比較して、飼料中の脂質含量が高められているのが好ましい。本発明の飼料の脂質含量は、NASH症状を誘発できる限り特に制限されないが、飼料全体に対するカロリーベースで、例えば、好ましくは20%以上60%以下であり、より好ましくは30%以上60%以下であり、さらに好ましくは40%以上60%以下である。
【0021】
本発明の飼料の一態様においては、血中インスリン濃度や血中コレステロール濃度が上昇しやすく、血中トリグリセリド濃度が低下しにくい脂質が含有されるのが好ましい。本発明の飼料に含有される脂質は、NASH症状を誘発できる限り特に制限されないが、本発明の飼料に含有される脂質としては、例えば、パーム油、ヤシ油(ココナッツオイル)、ラード、アブラナ油、サフランオイルが挙げられ、中でもパーム油またはヤシ油が好ましく、パーム油が特に好ましい。本発明の飼料は、これらの脂質を1種、または2種以上含有することができる。なお、本発明の飼料は、NASH症状の誘発を阻害しない限りにおいて、さらに他の任意の脂質、例えばコーン油を追加的に含有していてもよい。
【0022】
本発明の飼料の一態様においては、コレステロールが含有されるのが好ましい。本発明の飼料のコレステロール含有量は、NASH症状を誘発できる限り特に制限されないが、飼料全体に対する重量として、例えば、好ましくは0.2%以上2.0%以下、より好ましくは、0.5%以上1.5%以下である。
【0023】
また、本発明の飼料の一態様においては、上記の各態様を組み合わせるのが好ましい。上記の各態様を組み合わせた飼料を用いることで、更に効率的に、NASHの非ヒトモデル動物を作製することができる。すなわち、本発明の飼料は、
(1)脂質含量を高め、且つ、血中インスリンやコレステロールが上昇しやすく、トリグリセリドが低下しにくい脂質を含有するもの、
(2)脂質含量を高め、且つ、コレステロールを含有するもの、
(3)血中インスリンやコレステロールが上昇しやすく、トリグリセリドが低下しにくい脂質を含有し、且つ、コレステロールを含有するもの、あるいは、
(4)脂質含量を高め、且つ、血中インスリンやコレステロールが上昇しやすく、トリグリセリドが低下しにくい脂質を含有し、且つ、コレステロールを含有するもの、であるのが好ましい。本発明の飼料は、上記(4)に示した、脂質含量を高め、且つ、血中インスリンやコレステロールが上昇しやすく、トリグリセリドが低下しにくい脂質を含有し、且つ、コレステロールを含有するものであるのが特に好ましい。
【0024】
従来のコリン不含・L−アミノ酸規定(CDAA)飼料の組成は、中江 大の報告(化学生物総合管理、第1巻第3号、331−352(2005))などの記載を参照して、本発明で用いられる非ヒト動物の種類に合わせて適宜設定することができる。そのように設定したコリン不含・L−アミノ酸規定(CDAA)飼料の組成を基本にして、本発明のN−CDAA飼料の組成を設定すればよい。本発明の飼料の組成を設定し該飼料を作製することは、当業者であれば本明細書の記載および公知の情報や技術を元に容易に実施することができる。
【0025】
本発明の方法において、本発明で用いられる非ヒト動物に本発明のN−CDAA飼料を与え始める時期は、NASHを誘発できる限り特に制限されず、例えば非ヒト動物の種類や合併症の有無に応じて適宜設定することができる。例えば、本発明で用いられる非ヒト動物が糖尿病等の生活習慣病を有する場合には、生活習慣病を発症する時期に合わせて摂餌を開始するのが好ましい。例えば、KK−Ayマウスを用いる場合には、ほぼ100%の個体が糖尿病を発症する7週齢時より投与を開始するのが好ましい。また、該飼料の摂取量は、NASHを誘発できる限り特に制限されず、例えば本発明で用いられる非ヒト動物の種類、大きさ、または体重等に応じて適宜設定することができる。例えばマウスを用いる場合には、1日あたりの該飼料の摂取量は3〜6グラム程度である。また、該飼料を餌として用いて飼育する期間は、NASHを誘発できる限り特に制限されず、例えば本発明で用いられる非ヒト動物の種類に応じて適宜設定することができる。例えばマウスを用いる場合には、通常6週間以上、好ましくは9週間以上、該飼料を餌として用いて飼育することが好ましい。このようにして、新規コリン不含・L−アミノ酸規定(N−CDAA)飼料を用いて飼育することにより、ヒト非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を誘発させることができる。また、例えばマウスを用いる場合には、該飼料で飼育を続けると、およそ20週以降で肝硬変となり、その後肝癌を発症する。
【0026】
なお、本発明の方法において、「N−CDAA飼料を与えて飼育する」とは、上述したN−CDAA飼料自体を与える場合に限られず、上述したN−CDAAの組成に該当するよう各成分を別個に与える場合も含む。すなわち、例えば、コレステロールを含有するCDAA飼料を与える代わりに、従来のCDAA飼料を与え、且つ、コレステロールを追加的に与える場合も本発明の方法の範囲に含まれる。また、N−CDAA飼料を餌として用いて飼育する期間中、N−CDAA飼料のみが餌として与えられてもよく、また、NASHを誘発できる限りにおいて他の飼料を併用してもよい。
【0027】
本発明の方法により作製されうるNASHモデル動物は、ヒトのNASHの特徴的な臨床病態をよく反映し、また、該モデル動物においてはヒトのNASHと同様の緩やかな病態の進行が認められる。よって、本発明の方法により作製されうるNASHモデル動物は、ヒトへの外挿性が高く有用である。また、飼料を摂餌させるだけで、NASH症状を生じさせることができるため作製が簡便であり、また、作製されたモデル動物を後述するスクリーニングや薬効評価に用いる際に、被験物質の効果を評価し易く有用である。
【0028】
本発明のモデル動物は、以下の(1)〜(11)から選択される少なくとも1つの所見を示す。本発明のモデル動物は、好ましくは以下の(5)または(6)の所見を示し、より好ましくは以下の(5)、(6)、(9)、(10)、および(11)の所見を示し、特に好ましくは以下の(1)〜(11)全ての所見を示す。なお、本明細書においては、以下の所見(1)〜(11)を総称して、NASHの所見と称する場合がある。以下の所見(1)〜(11)において、「減少」または「増加」(所見(9)〜(11)においては病理結果をスコア化した際のスコアの「減少」または「増加」)とは、該当するパラメータが、正常個体と比較して「減少」または「増加」していることを意味する。「減少」または「増加」しているかは、例えば、正常個体群と比較した際の統計学的有意差に基づき判断できる。なお、各所見において、統計解析手法としては公知の統計解析手法を適宜選択して使用することができ、好ましい統計解析手法としては、例えば、連続数の検定の場合にはStudentのt検定法が、病理結果のスコアなどの検定の場合にはWilcoxon検定法が挙げられる。上記検定法においてP値が0.05未満であった場合に「減少」または「増加」が認められたと判断し、一方、P値が0.05以上であった場合に「減少」または「増加」が認められなかったと判断することができる。比較対象である正常個体としては、例えばNASHを誘発しない飼料で飼育された個体を用いることができ、NASHを誘発しない飼料としては例えば通常食であるCRF−1飼料が挙げられる。具体的には、以下の所見(1)〜(8)については、Studentのt検定法を使用し、(9)〜(11)については、Wilcoxon検定法を使用することができる。
(1)体重の増加
(2)体重あたりの肝臓重量の増加(肝臓/体重比)
(3)アラニンアミノトランスフェラーゼ活性(ALT)、およびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ活性(AST)の増加
(4)AST/ALT比の減少
(5)血清トリグリセリド(TG)の増加
(6)血清総コレステロールの増加
(7)肝ヒドロキシプロリン量(HYP)の増加
(8)肝トリグリセリド(TG)の増加
(9)肝細胞において大滴性の脂肪沈着が観察され、肝細胞の風船様膨化が観察される(脂肪変性)。
(10)炎症性細胞浸潤が認められる。
(11)中心静脈を中心とした線維化が観察される。
【0029】
また、本発明のモデル動物を利用することにより、ヒトNASHの治療または予防用物質をスクリーニングすることが可能である。すなわち本発明は、以下の工程(a)および(b)を含む、ヒトNASHの治療用または予防用物質のスクリーニング方法(以下、本発明のスクリーニング方法ともいう)を提供する。
(a)本発明のヒトNASHの非ヒトモデル動物へ被験物質を投与する工程
(b)NASHに対する改善効果を評価する工程
【0030】
本発明のスクリーニング方法に用いられる被験物質は、特に制限されず、例えば、天然化合物、有機化合物、無機化合物、タンパク質、およびペプチド等の単一化合物、化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物等を被験物質として用いることができる。
【0031】
上記工程(a)において、被験物質の投与方法は、特に制限されず、例えば、経口的に、または注射等により被験物質を投与することができる。また、被験物質がタンパク質である場合には、例えば、該タンパク質をコードする遺伝子を有するウイルスベクターを構築して本発明のモデル動物へ感染させることで、本発明のモデル動物へ該遺伝子を導入し該タンパク質を発現させることも可能である。
【0032】
上記工程(b)において、NASHに対する改善効果の評価は、該モデル動物の呈する所見に基づいて行うことができる。NASHに対する改善効果の評価に用いられる所見としては、例えば、上述したNASHの所見(1)〜(11)が挙げられる。なお、本発明における「改善」とは、NASHの症状が正常な状態へ回復していること、あるいは、NASHの症状が緩和していることをいう。当業者であれば、本明細書に記載された所見に基づき、モデル動物についてNASHの症状が改善しているか否かを判定することができる。
【0033】
本発明のスクリーニング方法においては、上記工程(b)において改善効果を示す被験物質を、NASHの治療または予防用物質として選択する。
【0034】
また、本発明のモデル動物を利用することにより、薬物のNASHの改善に対する薬効評価を行うことも可能である。即ち本発明は、以下の工程(a)および(b)を含む、薬物のNASHの改善に対する薬効評価方法(以下、本発明の薬効評価方法ともいう)を提供する。
(a)本発明のヒトNASHの非ヒトモデル動物へ被験物質を投与する工程
(b)NASHに対する改善効果を評価する工程
【0035】
本発明の薬効評価方法によって薬効の評価が可能な薬物の種類は特に制限されず、例えば、公知の種々の薬物(低分子化合物、タンパク質、核酸など)の薬効を評価することができる。任意の被験物質について、NASH症状に対する改善効果に基づき、NASHに対する予防効果または治療効果を評価することができる。なお、本発明の薬効評価方法において、被験物質の投与や改善効果を評価等は、本発明のスクリーニング方法と同様に行うことができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により制限されるものではない。
【0037】
<実施例1:NASH非ヒトモデル動物の作製>
(1−1)新規コリン不含・L−アミノ酸規定(N−CDAA)飼料の作製
新規コリン不含・L−アミノ酸規定(N−CDAA)飼料を、従来のコリン不含・L−アミノ酸規定(CDAA)飼料の組成を改変して作製した。具体的には、脂質含量をカロリーベースで50%に高め、脂質としてはパーム油を含有させた。更に、コレステロールを添加し、その含量を1.27%とした。他のアミノ酸などの成分については、げっ歯類に必要とされている量を添加した。
【0038】
また、コントロール用の飼料として、通常食であるCRF−1飼料、NASH症状を呈すると言われているMCD飼料、CDAA飼料、および高脂肪食、並びに、別のコントロールとして、コリン含有のN−CDAA飼料(N−CDAA(+コリン))を作製した。
【0039】
上記各飼料の組成を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
(1−2)NASHの非ヒトモデル動物の作製
遺伝背景としてインスリン抵抗性を有しII型糖尿病を自然発症する肥満マウス(KK−Ay Ta/Jcl 雄性マウス)をメタボリックシンドローム患者に見立て、以下の手順でNASHの非ヒトモデル動物を作製した。
【0042】
6週齢のKK−Ay Ta/Jcl 雄性マウスを日本クレア株式会社から購入し、飼料としてCRF−1飼料を用い、通常の飼育環境(温度:21〜27℃、湿度:35〜75%、照明サイクル:7:00〜19:00が明、19:00〜7:00が暗)で飼育した。7週齢より飼料を上記で作製したN−CDAA飼料、または上記各コントロール用飼料に変更し、更に、6〜12週間、自由摂餌により飼育した。
【0043】
詳細な結果は後述するが、N−CDAA飼料を与えて飼育することにより、ヒトのNASHに外挿可能なNASHマウスを作製することができた。
【0044】
(1−3)臨床病態の検討
上記のように飼育された各マウス群について、NASHの臨床病態の検討を行った。NASHの臨床病態としては、ヒトのNASHを診断する指標(例えば、非特許文献1を参照)を参考にして、以下の項目(1)〜(11)を設定した(NASHの所見)。なお、ヒトのNASHの繊維化の指標として用いられる血中ヒアルロン酸、コラーゲン量の代わりに、項目(7)では、一般的にげっ歯類等の臓器繊維化の指標として用いられている肝臓中のヒドロキシプロリン量(HYP)を指標とした。
(1)体重の増加
(2)体重あたりの肝臓重量の増加(肝臓/体重比)
(3)アラニンアミノトランスフェラーゼ活性(ALT)、およびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ活性(AST)の増加
(4)AST/ALT比の減少
(5)血清トリグリセリド(TG)の増加
(6)血清総コレステロールの増加
(7)肝ヒドロキシプロリン量(HYP)の増加
(8)肝トリグリセリド(TG)の増加
(9)肝細胞において大滴性の脂肪沈着が観察され、肝細胞の風船様膨化が観察される(脂肪変性)。
(10)炎症性細胞浸潤が認められる。
(11)中心静脈を中心とした線維化が観察される。
【0045】
(a)測定方法
N−CDAA飼料、または各コントロール用飼料の摂餌開始後3週ごとに、20時間程度の絶食の後、ペントバルビタールナトリウム麻酔下で屠殺し、採血を行い血清または血漿を得た。また、肝臓を採取した。得られた試料を用いて、上記各項目の測定を行った。
【0046】
血清中ALT、AST、中性脂肪(TG)、ALP、血糖値(GLU)、総コレステロール(T−CHO)、HDLコレステロール(HDLC)に関しては、富士ドライケム(富士フィルム株式会社製)を使用して測定した。肝臓中ヒドロキシプロリン(HYP)は定法に従って測定し、TGはトリグリセライドキットLタイプワコーTG(和光純薬工業株式会社製)、T−CHO量はコレステロールE−テストワコー(和光純薬工業株式会社製)を用いて測定した。測定に際し、吸光度はENios社製のマイクロプレートリーダーを使用して測定した。肝臓の病理検査に関しては、従来の方法に基づいて、H.E.染色,マッソン・トリクローム(M.T.)染色を実施して検討した。
【0047】
(b)測定結果
通常食であるCRF−1飼料で飼育した個体群においては、NASHの病態は認められなかった。よって、CRF−1飼料で飼育した個体群を正常個体群とした。上記各項目について、N−CDAA飼料、または各コントロール用飼料により飼育した群と、CRF−1飼料で飼育した正常個体群とを統計解析により比較した結果を表2に示す。統計解析は、項目(1)〜(8)についてはStudentのt検定法により、項目(9)〜(11)については病理結果をスコア化しWilcoxon検定法により行った。
【0048】
【表2】

【0049】
表2中、上向き矢印あるいは下向き矢印で示したものは、正常個体群に対し、P値が0.01以下で有意差があると認められた結果、また横向き矢印で示したものは、正常個体群に対し、P値が0.01以上で有意差が無いと認められた結果を示す。なお、矢印の本数は、それぞれの数値の大きさを相対的に示す。すなわち、上向き二本の矢印の方が、上向き一本の矢印の方よりも値が大きく、下向き二本の矢印の方が、下向き一本の矢印の方よりも値が小さいことを示す。
【0050】
N−CDAA飼料により飼育したマウス群では、CRF−1飼料で飼育した正常個体群に比べ、肝臓重量、肝臓/体重比の著しい増加、すなわち肝肥大が認められた。
【0051】
また、N−CDAAの摂餌開始後3週目よりアラニンアミノトランスフェラーゼ(Alanine amino transferase: ALT)およびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(Aspartate Amino Transferase:
AST)の上昇が認められ、更に、AST/ALT比の低下が認められた。これらの指標の変化から、N−CDAA飼料により飼育したマウス群は、慢性肝炎を引き起こしていることが示された。さらに、摂餌開始後9週目より、空腹時血糖、総コレステロール及び中性脂肪の値がCRF−1で飼育した正常個体群より高くなった。また、総コレステロールに占めるHDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)の割合が低下していることから、悪玉コレステロールの増加が示唆された。更に、肝臓中の中性脂肪量、コレステロール量、および繊維化の指標であるヒドロキシプロリン量(HYP)の増加が認められ、N−CDAA飼料により飼育したマウス群は、脂肪肝およびNASH症状を呈していることが確認された。これらの状態は、摂餌開始後12週目まで続いた。なお、従来の高脂肪食(脂質含量約60%)のように、単に飼料を高脂肪化した場合、血中のコレステロールおよびトリグリセリドは減少することが知られている。したがって、N−CDAA飼料において、脂質含量が高められているにも関わらず、血中のコレステロールおよびトリグリセリドが増加したことは当業者が予想できない効果であった。
【0052】
また、組織学的には、N−CDAAの摂餌開始後3週目より脂肪肝および炎症を示す大滴性脂肪変性および炎症性細胞浸潤が認められ、摂餌開始後6週目よりNASHの著症状である肝臓の中心静脈を中心とする繊維化が進行していることが認められた。また、肝臓の繊維化の進行はN−CDAAの摂餌期間と比例していた。これらの症状は、観察期間として設定した摂餌開始後12週目まで続いた。
【0053】
以上より、N−CDAA飼料により飼育したマウスは、N−CDAAの摂餌開始後6〜12週目において、NASHの臨床病態を示すことが明らかとなった。特にN−CDAAの摂餌開始後9〜12週目においては、従来のNASHモデルマウスと異なり、ヒトのNASHに特徴的な病態の全てを反映しており、N−CDAA飼料により飼育したマウスはヒトのNASHに外挿可能であることが明らかとなった。したがって、N−CDAA飼料を与えて飼育することにより、ヒトのNASHに外挿可能なNASHモデル動物を作製できることが確認された。なお、ヒトのNASHに特徴的な病態の内、体重の増加、並びに血中のコレステロールおよびトリグリセリドの増加を示すNASHモデル動物はこれまでに報告されておらず、それらの病態を反映する本発明のNASHモデル動物は、従来のNASHモデル動物と比較してヒトのNASHの研究に有用である。さらに、N−アセチル−β−D−グルコサミニダーゼ阻害剤と高脂肪食により作製した従来のモデルマウスと異なり、N−CDAA飼料により飼育したマウスにおいては、ヒトのNASHと同様の緩やかな病態の進行が認められたことから、本発明のNASHモデル動物はNASHの病態の解析に好適であると考えられる。
【0054】
一方、コントロール用の飼料であるMCD飼料、CDAA飼料、高脂肪食、およびコリン含有のN−CDAA飼料(N−CDAA(+コリン))のそれぞれを摂餌させて飼育したマウスは、いずれも、ヒトのNASHに特徴的な病態の全てを反映しておらず、ヒトのNASHに外挿可能ではないことが確認された。
【0055】
<実施例2:NASH非ヒトモデル動物を利用した薬剤の評価>
ヒトのNASHの治療に用いられているピオグリタゾン(商品名:アクトス)(武田薬品工業株式会社)を投与することによって、N−CDAAを摂餌させて作製した上記NASHマウスのNASH症状が緩和されるか否か検討した。ピオグリタゾンは20 mg/kg体重の用量で1日1回経口投与した。
【0056】
(2−1)予防効果について
N−CDAAの摂餌開始から12週間、ピオグリタゾンを投与し続け、NASH症状が現れるか検討した。その結果、ピオグリタゾンを投与しない群と比較して、肝臓重量、肝臓体重比の低下、血清ALTの減少、血清HDLCの上昇、血清総コレステロール中のHDLC比の上昇、肝臓中HYP、TG含量の低下が認められ、更に、病理組織学的検査において炎症性細胞浸潤および繊維化の改善が認められた。したがって、ピオグリタゾンの投与により、現れるNASH症状の程度が緩和されることが認められた。
【0057】
(2−2)治療効果について
次に、肝臓の繊維化が認められるN−CDAAの摂餌開始後6〜12週目の6週間、ピオグリタゾンを投与し続け、NASH症状が改善されるか検討した。その結果、ピオグリタゾンを投与しない群と比較して、肝臓重量、肝臓体重比の低下、血清ALTの減少、血清HDLCの上昇、血清総コレステロール中のHDLC比の上昇、肝臓中HYP、TG含量の低下が認められ、NASH症状が改善されることが認められた。
【0058】
以上より、ヒトのNASHの治療薬であるピオグリタゾンによって、上記で作製されたNASHマウスのNASH症状が緩和されることが判明し、ヒトに近いNASHモデルであることが確認された。したがって、N−CDAAを摂餌させて作製した上記NASHマウスを用いることで、ヒトのNASHの予防薬または治療薬の薬効を評価することができる。さらに、同様に、未知の薬物を投与しNASH症状の緩和を評価することで、ヒトのNASHの治療薬または予防薬をスクリーニングすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明により、ヒトと同様の臨床病態を示す非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の非ヒトモデル動物を作製することができる。該モデル動物を利用して薬物のスクリーニングや薬効評価を行うことにより、ヒトのNASHの治療法並びに治療薬の開発が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非ヒト動物にコリン不含・L−アミノ酸規定(CDAA)飼料を与えて飼育する工程を含む、ヒト非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の非ヒトモデル動物を作製する方法であって、
前記CDAA飼料が、以下の(1)〜(3)から選択される少なくとも1つの特徴を有する、方法。
(1)脂質含量が高められている。
(2)血中インスリン濃度や血中コレステロール濃度が上昇しやすく、血中トリグリセリド濃度が低下しにくい脂質を含有する。
(3)コレステロールを含有する。
【請求項2】
前記CDAA飼料がパーム油またはヤシ油を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記CDAA飼料におけるコレステロール含量が0.2%以上2.0%以下である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記CDAA飼料における脂質含量が飼料全体に対するカロリーベースで30%以上60%以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記非ヒト動物がげっ歯類である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記非ヒト動物がマウスまたはラットである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記非ヒト動物がインスリン抵抗性を有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記インスリン抵抗性が、遺伝背景によって獲得されたものである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記非ヒト動物がKK−Ayマウスである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法により作製されうる、ヒト非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の非ヒトモデル動物。
【請求項11】
以下の所見(1)〜(11)の少なくとも1つを示す、ヒト非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の非ヒトモデル動物。
(1)体重の増加
(2)体重あたりの肝臓重量の増加(肝臓/体重比)
(3)アラニンアミノトランスフェラーゼ活性(ALT)、およびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ活性(AST)の増加
(4)AST/ALT比の減少
(5)血清トリグリセリド(TG)の増加
(6)血清総コレステロールの増加
(7)肝ヒドロキシプロリン量(HYP)の増加
(8)肝トリグリセリド(TG)の増加
(9)肝細胞において大滴性の脂肪沈着が観察され、肝細胞の風船様膨化が観察される(脂肪変性)。
(10)炎症性細胞浸潤が認められる。
(11)中心静脈を中心とした線維化が観察される。
【請求項12】
前記非ヒトモデル動物が、前記所見(5)、(6)、(9)、(10)、および(11)を示す、請求項11に記載の非ヒトモデル動物。
【請求項13】
前記非ヒトモデル動物が、前記所見(1)〜(11)の全てを示す、請求項11に記載の非ヒトモデル動物。
【請求項14】
以下の工程(a)および(b)を含む、ヒト非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の治療用もしくは予防用物質のスクリーニング方法。
(a)請求項10〜13のいずれか1項に記載のヒト非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の非ヒトモデル動物へ被験物質を投与する工程
(b)非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に対する改善効果を評価する工程
【請求項15】
以下の工程(a)および(b)を含む、ヒト非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の改善に対する薬効評価方法。
(a)請求項10〜13のいずれか1項に記載のヒト非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の非ヒトモデル動物へ被験物質を投与する工程
(b)非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に対する改善効果を評価する工程
【請求項16】
以下の(1)〜(3)から選択される少なくとも1つの特徴を有するCDAA飼料。
(1)脂質含量が高められている。
(2)血中インスリン濃度や血中コレステロール濃度が上昇しやすく、血中トリグリセリド濃度が低下しにくい脂質を含有する。
(3)コレステロールを含有する。
【請求項17】
パーム油またはヤシ油を含有する、請求項16に記載のCDAA飼料。
【請求項18】
コレステロール含量が0.2%以上2.0%以下である、請求項16または17に記載のCDAA飼料。
【請求項19】
脂質含量が飼料全体に対するカロリーベースで30%以上60%以下である、請求項16〜18のいずれか1項に記載のCDAA飼料。

【公開番号】特開2012−80830(P2012−80830A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230076(P2010−230076)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(591122956)三菱化学メディエンス株式会社 (45)
【Fターム(参考)】