説明

ヒト骨格筋における褐色脂肪細胞前駆体

褐色脂肪組織(BAT)前駆細胞、および細胞集団においてBAT前駆細胞を同定するための方法が提供される。また、BAT前駆細胞から分化した褐色脂肪細胞への分化を誘導するための方法、BAT脱共役タンパク質−1(「UCP1」)の発現または活性レベルの増加を誘導するための方法、ならびにBAT前駆細胞から褐色脂肪細胞への分化を誘導でき、かつ/またはUCP1の発現もしくは活性レベルの増加を誘導することができる作用物質を同定するための方法が提供される。分化した褐色脂肪細胞、ならびにBAT前駆細胞の分化を誘導するための作用物質および方法は、患者における代謝性疾患もしくは病状の処置、またはその処置のための薬剤の製造に使用することができる。分化した褐色脂肪細胞、ならびにBAT前駆細胞の分化を誘導するための作用物質および方法は低体温症の予防に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、米国仮特許出願番号第60/071,916号への優先権を主張し、上記米国仮特許出願の内容は、その全容が、参照によって本明細書に援用される。
【0002】
(技術分野)
本開示は、褐色脂肪組織、前駆細胞、細胞分化、および褐色脂肪組織脱共役タンパク質−1に関する。また、本開示は、肥満、2型糖尿病、インスリン抵抗性および脂質異常症(dyslipidemia)などの代謝性疾患に関する。
【背景技術】
【0003】
(序論)
肥満の蔓延は、糖尿病、高血圧症、冠動脈心疾患、がんおよび他の障害の有病率の増加と密接に関連している。白色脂肪組織の役割は脂質を貯蔵することであり、それは肥満と関連している。褐色脂肪組織(「BAT」)の役割は、事実上その反対である。褐色脂肪組織は脂質燃焼と熱としてのエネルギー消散に特化している。実際に、褐色脂肪細胞は、多くのミトコンドリア(そこでは細胞性燃焼が生じる)を含有し、独自にBAT脱共役タンパク質−1(「UCP1」)を発現する。UCP1は、酸化的リン酸化の脱共役因子として作用し、結果として、熱としてのエネルギー消散をもたらす。交換神経系は、ミトコンドリア形成(mitochondriogenesis)、ならびにUCP1発現および活性を刺激する。げっ歯類におけるBATに関連した熱発生は、低温への曝露に際して増加し(例えば、低体温症の回避)、または、過食、過剰に吸収された脂肪の燃焼、そして体重増加の回避の結果として増加する。また、BATは、体重増加への影響の受けやすさを変更し、大量のグルコース消費によってインスリン感受性を改善する。したがって、BATは、体温、エネルギーバランス、およびグルコース代謝の維持において重要な役割を果たす。
【0004】
トランスジェニック動物を用いた実験は、BATの潜在的な抗肥満特性を支持する。例えば、BATの遺伝的除去は肥満を引き起こすことが報告されており、一方、BATの量および/または機能(および/またはUCP1発現)の遺伝的増大は、報告によれば、細身および健康な表現型を促進する。具体的には、より多量のBATを有するマウスは、対照マウスより体重が増えにくく、よりインスリン感受性である。最近、異所性のBAT貯蔵がマウスの筋肉において証明され、体重増加およびメタボリックシンドローム(metabolic syndrome)に対する防御の遺伝学に基づいた機構を提供することが提案された。
【0005】
UCP1は、げっ歯類ではエネルギーバランスの制御において役割を果たすことが報告され、UCP1を発現するBATはヒト新生児に存在しているが、長い間、成人においては生理学的に関連したUCP1発現はないと考えられていた。実際に、UCP1を発現するBATは、一生のうちの初期に消失すると考えられ、そのため、成人はBATを欠いていると考えられた。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
(概要)
本出願人は、種々の組織において、褐色脂肪細胞に分化することができる細胞の存在を同定した。一局面では、本出願人は、本出願人がBAT前駆細胞と呼ぶ、骨格筋中の上記細胞集団を同定した。本開示は、種々の組織から細胞を選別し、BAT前駆細胞を同定および単離するための方法を提供する。いくつかの実施形態では、BAT前駆細胞は、ヒト骨格筋から単離される。インビトロおよびインビボにおいて、BAT前駆細胞を褐色脂肪細胞に分化させるための方法が提供される。いくつかの実施形態では、BAT前駆細胞は、ヒト被験体においてインビボで褐色脂肪細胞に分化させられ得る。
【0007】
いくつかの実施形態では、本開示のBAT前駆細胞は、培養して増殖させることができる。別の局面では、分化したBAT前駆細胞のUCP1のmRNA発現は、細胞透過性cAMP誘導体、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPARγ)アゴニストなどの作用物質によって増加する。褐色脂肪細胞に分化したBAT前駆細胞は、いくつかの実施形態では、ともにミトコンドリア形成の制御に関与する、多量のミトコンドリア転写因子A(mtTFA)およびPPARγコアクチベータ−1α(PGC−1α)ならびにミトコンドリアマーカーであるシトクロムオキシダーゼIV(COX IV)を含んでいる場合がある。分化したBAT前駆細胞は、1つまたは複数の以下の特徴:高レベルのUCP1発現、高レベルの脱共役呼吸、高い代謝率を示すことができる。本出願人は、グルコースを代謝し、脂肪酸を酸化し、酸化的リン酸化の脱共役を介して熱としてエネルギーを消散することができるようになっている分化した細胞を提供する。
【0008】
本開示は、成人の骨格筋においてUCP1のmRNAを検出するための方法、およびインビボにおいてその発現を増加させるための方法を提供する。成人におけるUCP1発現に関する以前の研究は、焦点を白色脂肪組織に合わせていたが、本出願人は、ヒト骨格筋におけるUCP1発現の実質的な潜在性を有する褐色脂肪前駆細胞の存在、およびヒト骨格筋からの上記細胞の単離を開示する。いくつかの実施形態では、エネルギー消散の調節、ならびに肥満、糖尿病、および代謝性疾患の処置にこのBAT前駆細胞のレザバーを利用することができる。
【0009】
いくつかの局面では、本開示は、ヒト骨格筋におけるBAT前駆細胞を同定するための方法、およびヒト骨格筋試料からこれらの細胞を単離するための方法を提供する。また、インビトロ、インビボ、またはその両方におけるこれらの前駆細胞から褐色脂肪細胞への分化を促進する条件および作用物質(例えば、化合物、タンパク質、生物学的製剤など)が提供される。肥満、2型糖尿病、インスリン抵抗性、脂質異常症などの代謝性疾患を処置するための、これらの条件および作用物質を用いるための方法が提供される。
【0010】
本開示は、UCP1遺伝子の発現を誘導するか、インビトロにおいてBAT前駆細胞から褐色脂肪細胞への分化を促進するか、インビボにおいてBAT前駆細胞から褐色脂肪細胞への分化を促進するか、またはこれらの活性の組合せを有する作用物質(例えば、化合物、タンパク質、生物学的製剤など)の同定を可能にするアッセイを提供する。いくつかの実施形態によれば、この様式で同定された作用物質を用いて、肥満、2型糖尿病、インスリン抵抗性、脂質異常症などの代謝性疾患を処置することができる。
【0011】
本開示のこれらの特徴および他の特徴を本明細書に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、ヒト胎児筋における血管細胞の免疫組織化学的描写ならびにFACS分析および選別を示す。図1(A)のスケールバーは50μMである。
【図2】図2は、ヒト胎児筋から選別された細胞の脂質生成条件下での培養、ならびにCD34+細胞のRT−PCRおよびウェスタンブロット分析を示す。図2(A)、(B)、(C):位相コントラスト;スケールバー:50μm。
【図3】図3は、ヒト胎児筋CD34+細胞におけるミトコンドリア呼吸の脱共役およびUCP1のmRNA発現の調節を示す。
【図4】図4は、脂質生成培養における成体の筋肉およびWAT細胞の特徴付けを示す。図4(A)、(C):位相コントラスト;スケールバー:50μm。
【図5】図5は、ヒト骨格筋におけるUCP1のmRNA発現に対するロシグリタゾンの効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(種々の実施形態の説明)
本開示は、種々の組織におけるBAT前駆細胞の同定、および種々の組織からのBAT前駆細胞の単離のための方法を提供し、いくつかの実施形態では、ヒト骨格筋において一般的な褐色脂肪細胞前駆細胞の同定、およびヒト骨格筋試料からの上記細胞の単離が含まれる。いくつかの実施形態では、細胞選別は、分化/命名クラスター(cluster of differentiation/designation「CD」)分子であるCD34、CD45、CD56、およびCD146などの細胞表面マーカーの免疫組織化学的分析によって行うことができる。造血細胞および筋原前駆体は、それらの細胞表面上のそれぞれCD45およびCD56の同定に基づいて選別することができる。CD34およびCD146を用いて、それぞれ内皮細胞および周皮細胞を同定することができる。一局面では、CD34の発現は、細胞を褐色脂肪細胞の前駆体であると同定する。
【0014】
フローサイトメトリー、蛍光活性化細胞選別(「FACS」)、および当該分野で公知の他の細胞選別技術は、種々の組織から得られた細胞を選別し、他の細胞からBAT前駆細胞を分離するために使用することができる。当該分野で公知の他の技術の中で、マルチカラーFACSは、CD34+内皮細胞およびCD146+周皮細胞を同定し、それら細胞を互いから、および、CD45+造血細胞およびCD56+筋原前駆体から分離するために使用することができる。逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(「RT−PCR」)分析を用いて、CD34+およびCD146+細胞集団に造血細胞および筋原前駆体が存在しないことを確認することができる。
【0015】
本出願人は、前駆体の集団が骨格筋に存在すること、いくつかの実施形態では、この集団は、骨格筋において見出されるが、白色脂肪組織においては見出されず、いくつかの実施形態では、専ら骨格筋に見られること(即ち、他の組織では見出されない)を見出した。骨格筋は、ヒトまたは任意の動物のものであってもよく、前駆細胞の集団は、骨格筋に拡散していても、または個別的な領域で濃縮されていてもよい。BAT前駆細胞は、いくつかの実施形態では、筋線維間で見出されてもよい。骨格筋BAT前駆細胞は、定常集団であってもよく、または骨格筋もしくは他の組織内、ならびに異なる組織間およびそれらの中で移動してもよい。さらに、BAT前駆細胞は、胎児、若年、および成体の骨格筋に見出すことができる。
【0016】
本教示は、種々の組織から単離されたBAT前駆細胞を提供する。例えば、ヒト骨格筋から単離されたBAT前駆細胞が提供される。いくつかの実施形態では、BAT前駆細胞は、骨格筋に見出されるが、白色脂肪組織では見出されず、および/または骨格筋に専ら見出される。いくつかのBAT前駆細胞は、UCP1、ミトコンドリア転写因子A(mtTFA)、および/またはPPARγコアクチベータ−1α(PGC−1α)、ならびに1つもしくは複数の対応するmRNAを発現することができる。本開示は、成人の骨格筋において、BAT前駆細胞および/またはUCP1のmRNAを検出するための方法を提供する。成人におけるUCP1発現に関する以前の研究は、焦点を白色脂肪組織に合わせていたが、本出願人は、UCP1発現の高い潜在性を有する褐色脂肪前駆細胞のヒト骨格筋における存在、およびヒト骨格筋からの単離を開示する。いくつかの実施形態では、骨格筋におけるBAT前駆細胞のレザバーは、肥満、糖尿病などの代謝性疾患を処置するためのエネルギー消散を調節する機構を提供する。
【0017】
骨格筋に存在する少なくとも一部の前駆細胞集団は、真の褐色脂肪細胞に分化することができ、いくつかの実施形態では、骨格筋に存在する一部の前駆細胞集団は、インビトロにおいて、真の褐色脂肪細胞に分化させられ得る。本開示は、BAT前駆細胞培養物を増殖させるための方法、およびBAT前駆細胞を真のBAT細胞に分化させるための方法を提供し、これは、前もって選別された細胞を脂肪生成培地中で分化させるための方法を含む。いくつかの実施形態では、選別された前駆細胞から褐色脂肪細胞への分化は、白色脂肪細胞分化を維持する条件を用いて、または前駆体から褐色脂肪細胞への分化を促進することが決定された作用物質の使用によって行うことができる。
【0018】
いくつかの実施形態は、UCP1、ミトコンドリア転写因子A(mtTFA)、および/またはPPARγコアクチベータ−1α(PGC−1α)、ならびに1つもしくは複数の対応するmRNAの存在を利用して、少なくとも部分的に分化を開始したBAT前駆細胞を同定する。高い代謝率または高レベルの脱共役呼吸、グルコース利用、脂肪酸酸化、または前述の特徴を互いにもしくは他の特徴と組み合わせたものを用いて、少なくとも部分的に分化を開始したBAT前駆細胞を同定することができる。この開示の目的のため、少なくとも部分的に褐色脂肪細胞に分化を開始したBAT前駆細胞は、「分化した褐色脂肪細胞」と呼ばれる。
【0019】
例えば、CD34マーカーが発現すると決定された細胞(即ち、CD34+細胞)は、0.86μMインスリン、10μg/mlトランスフェリン、0.2nMトリヨードチロニン、1μMロシグリタゾン、100μM 3−イソブチル−1−メチルキサンチン、1μMデキサメタゾンおよび1%ペニシリン−ストレプトマイシンを含有するDMEM−Ham’s F−12培地中で培養することによって褐色脂肪細胞に分化させることができる。また、他の作用物質を用いて、前駆細胞から褐色脂肪細胞への分化を促進することができる。いくつかの実施形態では、本開示の教示に従って同定された作用物質を用いて、前駆細胞から褐色脂肪細胞への分化を促進する。いくつかの実施形態では、分化した褐色脂肪細胞は、高レベルのUCP1発現、高レベルの脱共役呼吸、および/または高い代謝率を示す。
【0020】
本開示は、BAT前駆細胞、分化した褐色脂肪細胞、またはその両方においてUCP1のmRNA発現を増加させるための方法を提供する。例えば、細胞透過性cAMP誘導体およびペルオキシソーム増殖因子活性化受容体−γ(PPAR−γ)アゴニストなどの作用物質を用いて、BAT前駆細胞、分化した褐色脂肪細胞、またはその両方におけるUCP1のmRNA発現を増加させることができる。増大したUCP1発現は、当該分野で公知の方法によって決定することができ、これには、UCP1のmRNAの定量的RT−PCRによる測定が含まれる。UCP1のmRNAのRT−PCR分析に使用するための典型的なプライマーは、配列番号1〜4および11〜12として提供される。
【0021】
脂肪生成培地に曝露されたBAT前駆細胞は、脂肪生成培地に曝露されていないBAT前駆細胞よりも高レベルのUCP1のmRNAを含有することができる。サイクロフィリン(cyclophilin)mRNAレベルは、細胞におけるUCP1のmRMAの存在量を評価するための正規化値(細胞数または全RNA量を反映する)としての役割を果たすことができる。いくつかの実施形態では、脂肪生成培地に曝露されていないBAT前駆細胞におけるUCP1のmRNAレベルは、RT−PCRを用いて検出することができないが、一方、分化した褐色脂肪細胞におけるUCP1のmRNAレベルは検出することができ、サイクロフィリンmRNAレベルに対して正規化され得る。UCP1発現の比較測定として、分化した褐色脂肪細胞におけるUCP1のmRNAレベルは、培養されたマウスの褐色脂肪細胞におけるUCP1のmRNAレベルと比較可能である。本開示は、培養されたマウスの褐色脂肪細胞におけるUCP1のmRNAレベルの約25%の、分化した褐色脂肪細胞におけるUCP1のmRNAレベルを提供し、一方、他の実施形態では、UCP1のmRNAレベルは、培養されたマウスの褐色脂肪細胞におけるUCP1のmRNAレベルの約25±10%または約15%〜約30%である。本開示は、分化した褐色脂肪細胞におけるUCP1のmRNAレベルが、培養されたマウスの褐色脂肪細胞におけるUCP1のmRNAレベルの約5%〜約100%の範囲にあることを意図している。いくつかの実施形態では、UCP1のmRNAレベルは、培養されたマウスの褐色脂肪細胞におけるUCP1のmRNAレベルの100%を上回ることができる。
【0022】
分化した褐色脂肪細胞は、同種または同じ個体の成体骨格筋生検における細胞よりも有意に高いレベルのUCP1のmRNAを含むことができる。さらに、分化した褐色脂肪細胞のUCP1タンパク質の量は、同種または同じ個体の胎児BATにおけるUCP1タンパク質量とおよそ等しくてもよい。本開示は、ヒトの分化した褐色脂肪細胞におけるUCP1のmRNAレベルが、インビボでのヒト褐色脂肪細胞におけるUCP1のmRNAレベルとおよそ等しいことを意図する。いくつかの実施形態では、ヒトの分化した褐色脂肪細胞におけるUCP1のmRNAレベルは、インビボでのヒト褐色脂肪細胞におけるUCP1のmRNAレベルの約1%から数倍高い範囲にあってもよい。
【0023】
本開示は、BAT前駆細胞、分化した褐色脂肪細胞、またはその両方においてUCP1のmRNAレベルを増加させるための方法を提供する。いくつかの実施形態では、BAT前駆細胞、分化した褐色脂肪細胞、またはその両方においてUCP1のmRNAレベルを選択的に増加させるための方法を提供する。PPARγアゴニストは、骨格筋および分化した褐色脂肪細胞におけるUCP1のmRNA産生を刺激することができる。例えば、いくつかの実施形態では、PPARγアゴニストであるロシグリタゾンは、骨格筋または分化した褐色脂肪細胞におけるUCP1のmRNA産生を選択的に刺激する。細胞透過性cAMP誘導体は、骨格筋および分化した褐色脂肪細胞におけるUCP1のmRNA産生を刺激することができる。例えば、いくつかの実施形態では、細胞透過性cAMP誘導体である8−ブロモ−cAMPは、骨格筋または分化した褐色脂肪細胞におけるUCP1のmRNA産生を選択的に刺激し、一方、いくつかの実施形態では、細胞透過性cAMP誘導体である(4−クロロフェニルチオ)−cAMPは、骨格筋または分化した褐色脂肪細胞におけるUCP1のmRNA産生を選択的に刺激する。
【0024】
ミトコンドリア転写因子A(「mtTFA」)およびペルオキシソーム増殖因子活性化受容体−γコアクチベータ−1α(「PGC−1α」)は、ミトコンドリア形成の制御に関与している。分化した褐色脂肪細胞は、大量のmtTFA、PGC−1α、またはその両方を含むことができる。本開示は、分化していないBAT前駆細胞と比較して、有意に増加したレベルのmtTFAのmRNA、PGC−1αのmRNA、またはその両方を有する分化した褐色脂肪細胞を提供する。ミトコンドリアマーカーであるシトクロムオキシダーゼIV(COX IV)は、ミトコンドリアの呼吸鎖と関連している。本開示は、分化していないBAT前駆細胞と比較して、有意に増加したレベルのCOX IVのmRNAを有する分化した褐色脂肪細胞を提供する。
【0025】
いくつかの実施形態による分化した褐色脂肪細胞は、高レベルの脱共役呼吸および/または高い代謝率を有する。脱共役呼吸は、プロトンが、アデノシン三リン酸(「ATP」)の産生を促すアデノシン三リン酸シンターゼ(「ATPシンターゼ」)酵素を通過するときではなく、内部のミトコンドリア膜を横切って漏出するときに起こり得る。膜を横切る電気化学的プロトン勾配におけるプロトン移動によって放出されるエネルギーは、ATPを作るプロセスに入るのではなく、熱として消散される。脱共役呼吸は、ATPシンターゼによるATP形成とは独立して生じる、細胞呼吸の一部の機能として測定することができる(例えば、酸素消費量)。例えば、ATPシンターゼの機能をブロックするオリゴマイシン存在下での、酸化的リン酸化の電子伝達鎖における酸素消費量は、脱共役呼吸の尺度を提供する。
【0026】
本開示は、分化していないBAT前駆細胞と比較して、脱共役呼吸の有意に増加したレベルを有する分化した褐色脂肪細胞を提供する。いくつかの実施形態では、本開示は、全呼吸の約50%の脱共役呼吸レベルを有する分化した褐色脂肪細胞を提供する。いくつかの実施形態は、全呼吸の約20%〜約50%の範囲のレベルで脱共役呼吸を示す。比較のための標準としての成体白色脂肪細胞における脱共役呼吸のレベルを用いると、いくつかの実施形態は、成体白色脂肪細胞の場合よりも約1.5〜約3.5倍の範囲の脱共役呼吸を示す。いくつかの実施形態では、脱共役呼吸レベルは成体白色脂肪細胞の場合の約2.5倍である。本開示は、とりわけ、グルコースを代謝し、脂肪酸を酸化し、酸化的リン酸化の脱共役を介して熱としてエネルギーを消散することができるようになっている分化した褐色脂肪細胞を提供する。
【0027】
本開示は、インビトロおよびインビボにおける、BAT前駆細胞から褐色脂肪細胞への分化を促進する条件および作用物質(例えば、化合物、タンパク質、生物学的製剤など)を提供する。いくつかの実施形態では、分化を促進する作用物質は、PPARγ活性化因子、調節因子、もしくは阻害因子(例えば、ロシグリタゾン)、PPARα活性化因子もしくは調節因子(例えば、GW9578)、PPARδ活性化因子もしくは調節因子(例えば、GW501516もしくはGW0742)、デュアル(dual)PPARαおよびPPARδ活性化因子もしくは調節因子、pan−PPAR(α、δ、γ)活性化因子もしくは調節因子(例えば、GW4148)、PDE4阻害因子(例えば、ロリプラムもしくはIBMX)、PDE7阻害因子(例えば、BMS586353もしくはBRL50481もしくはIBMX)、NRIP1(RIP140)阻害因子、PTEN阻害因子(例えば、カリウムビスペルオキソ(ビピリジン)オキソバナデートもしくは2カリウムビスペルオキソ(5−ヒドロキシピリジン−2−カルボキシル)オキソバナデート)、α−アドレナリン作用性の完全もしくは部分的なアゴニスト(例えば、フェニレフリンもしくはシラゾリン)、RXRα活性化因子もしくは調節因子(例えば、LGD1069(タルグレチン)もしくは9−シスレチノイン酸)、PGC−1α活性化因子、PGC−1β阻害因子もしくは活性化因子、アディポネクチンもしくはアディポネクチン受容体AdipoR1および/もしくはAdipoR2の活性化因子、NOS阻害因子もしくは活性化因子(例えば、2−エチル−2−チオプソイド尿素もしくはNG−ニトロ−L−アルギニンメチルエステル(L−NAME)もしくはアデノシン)、RhoキナーゼROCK阻害因子(例えば、ファスジル)、BDNF、モノアミンオキシダーゼ(MAO)A阻害因子および/もしくはMAO B阻害因子(例えば、イソカルボキサジド(isocarboxazid)、モクロベミド、セレギリン)、SRCの活性化因子、EGRFの阻害因子(例えば、エルロチニブもしくはZD1839−ゲフィニチブもしくはアルゴス(Argos)タンパク質)、FAAHの阻害因子(例えば、URB597)、MAPK1の阻害因子(例えば、PD98059)もしくはMAPK2の阻害因子(例えば、PD98059)もしくはMAPK4の阻害因子もしくはMAPK5の阻害因子もしくはMAPK7の阻害因子もしくはMAPK8の阻害因子(例えば、PD98059)、CDK9の阻害因子(例えば、1,5,6,7−テトラヒドロ−2−(4−ピリジニル)−4H−ピロロ[3,2−c]ピリジン−4−オン塩酸塩)、TGR5アゴニスト(例えば、オレアノール酸)、AMPK活性化因子(例えば、AICAR)、BMP−7、mTOR阻害因子(例えば、ラパマイシン)、アデニル酸シクラーゼ活性化因子(例えば、フォルスコリン)、または前述の任意の組合せである。
【0028】
いくつかの実施形態では、ヒト被験体を含む被験体のロシグリタゾンを用いた処置は、被験体の骨格筋におけるUCP1のmRNA産生の増加をもたらす。ロシグリタゾンを用いた被験体の処置は、いくつかの実施形態では、骨格筋における褐色脂肪細胞の出現もしくは分化を誘導するか、骨格筋における既存の褐色脂肪細胞のUCP1遺伝子発現を増大させるか、またはその両方を可能にする。例えば、いくつかの実施形態では、骨格筋における褐色脂肪細胞の出現もしくは分化を、代謝性疾患を患っている被験体において誘導することができる。褐色脂肪細胞は、高いミトコンドリア呼吸および細胞呼吸および脂肪酸酸化率を伴うグルコースシンクを提供することができ、熱としてエネルギーを消散する(脱共役酸化的リン酸化)。被験体の代謝率を高めることができ、体重の減少を誘導することができる。また、褐色脂肪細胞の出現または分化の誘導は、インスリン感受性、血中グルコース恒常性および心血管疾患の危険因子の改善をもたらすことができる。
【0029】
また、本開示は、インビトロ、インビボ、またはその両方において、BAT前駆細胞から褐色脂肪細胞への分化を促進し、および/またはUCP1遺伝子発現を誘導する作用物質(例えば、化合物、タンパク質、生物学的製剤など)の同定を可能にするアッセイを提供する。このような作用物質は、化合物、タンパク質、生物学的製剤などをスクリーニングすることによって同定することができる。例えば、いくつかの実施形態では、単離されたCD34+細胞を用いて、UCP1遺伝子発現、および/またはCD34+細胞から褐色脂肪細胞への分化を誘導する能力について作用物質をスクリーニングすることができる。この様式で同定された作用物質は、例えば、肥満、2型糖尿病、インスリン抵抗性、脂質異常症などの代謝性疾患の処置を含む、様々な研究、診断および治療目的に使用可能である。いくつかの実施形態では、本開示によるアッセイによって同定された作用物質は、その物理化学的および/または薬物動態特性の改善について最適化される。
【0030】
インビトロおよびインビボにおいて、BAT前駆細胞におけるUCP1、mtTFA、PGC−1α、および/またはCOX IVの発現は、本開示において提供される方法に従って増大させられ得る。いくつかの実施形態では、脂質生成培地への曝露は、BAT前駆細胞におけるUCP1、mtTFA、PGC−1α、および/またはCOX IVの発現増加を刺激するために用いることができる。また、PPARγ活性化因子、調節因子、もしくは阻害因子(例えば、ロシグリタゾン)、PPARα活性化因子もしくは調節因子(例えば、GW9578)、PPARδ活性化因子もしくは調節因子(例えば、GW501516もしくはGW0742)、デュアルPPARαおよびPPARδ活性化因子もしくは調節因子、pan−PPAR(α、δ、γ)活性化因子もしくは調節因子(例えば、GW4148)、PDE4阻害因子(例えば、ロリプラムもしくはIBMX)、PDE7阻害因子(例えば、BMS586353もしくはBRL50481もしくはIBMX)、NRIP1(RIP140)阻害因子、PTEN阻害因子(例えば、カリウムビスペルオキソ(ビピリジン)オキソバナデートもしくは2カリウムビスペルオキソ(5−ヒドロキシピリジン−2−カルボキシル)オキソバナデート)、α1−アドレナリン作用性の完全もしくは部分的なアゴニスト(例えば、フェニレフリンもしくはシラゾリン)、RXRα活性化因子もしくは調節因子(例えば、LGD1069(タルグレチン)もしくは9−シスレチノイン酸)、PGC−1α活性化因子、PGC−1β阻害因子もしくは活性化因子、アディポネクチンもしくはアディポネクチン受容体AdipoR1および/もしくはAdipoR2の活性化因子、NOS阻害因子もしくは活性化因子(例えば、2−エチル−2−チオプソイド尿素もしくはNG−ニトロ−L−アルギニンメチルエステル(L−NAME)もしくはアデノシン)、RhoキナーゼROCK阻害因子(例えば、ファスジル)、BDNF、モノアミンオキシダーゼ(MAO)A阻害因子および/もしくはMAO B阻害因子(例えば、イソカルボキサジド、モクロベミド、セレギリン)、SRCの活性化因子、EGRFの阻害因子(例えば、エルロチニブもしくはZD1839−ゲフィニチブもしくはアルゴスタンパク質)、FAAHの阻害因子(例えば、URB597)、MAPK1の阻害因子(例えば、PD98059)もしくはMAPK2の阻害因子(例えば、PD98059)もしくはMAPK4の阻害因子もしくはMAPK5の阻害因子もしくはMAPK7の阻害因子もしくはMAPK8の阻害因子(例えば、PD98059)、CDK9の阻害因子(例えば、1,5,6,7−テトラヒドロ−2−(4−ピリジニル)−4H−ピロロ[3,2−c]ピリジン−4−オン塩酸塩)、TGR5アゴニスト(例えば、オレアノール酸)、AMPK活性化因子(例えば、AICAR)、BMP−7、mTOR阻害因子(例えば、ラパマイシン)、アデニル酸シクラーゼ活性化因子(例えば、フォルスコリン)、などの作用物質またはそれらの組合せは、BAT前駆細胞におけるUCP1、mtTFA、PGC−1α、および/またはCOX IVの発現増加を刺激するために用いることができる。
【実施例】
【0031】
(実施例)
本教示の局面は、以下の実施例を考慮してさらに理解され得るが、何れにしても本教示の範囲を制限するように解釈されるべきではない。
【0032】
(実施例1:筋肉血管細胞の選別および分化)
胎児骨格筋において、CD34およびCD146は、それぞれ内皮細胞および周皮細胞の表面で発現されていることが免疫組織化学によって見出されたが、CD34はまた、筋細線維内(inter−myofibrillar)空間に分散した細胞によって発現された。図1(A)は、CD146+周皮細胞(緑色)がCD34+内皮細胞(赤色)を囲んでいる小血管の長手方向の切片を示す。CD34+細胞とCD146+細胞との類似の分布が成体骨格筋において観察された。
【0033】
7つの独立した胎児筋(妊娠16〜24週)由来の血管細胞は、マルチカラー蛍光活性化細胞選別(FACS)を用いて選別された。筋原性前駆体(CD56+)と同様に、造血(CD45+)細胞を、最初にゲートをかけて除外した。次に、内皮細胞(CD34+/CD146−)および周皮細胞(CD34−/CD146+)を選別した。CD34+/CD146−/CD45−/CD56−は、以後、CD34+細胞と表され、CD34−/CD146+/CD45−/CD56−はCD146+細胞と表される。図1(B)は、CD34+/CD146−およびCD34−/CD146+細胞精製を示す。解離した細胞を、PE−抗CD34、FITC−抗CD146、PE−Cy7−抗CD56、およびAPC−Cy7−抗CD45抗体で染色し、FACS Ariaセルソーターで実行した。CD45+およびCD56+細胞(左パネル)の排除後、CD34+またはCD146+ゲート内の細胞を単離した。CD34+細胞は、開始胎児筋細胞集団の8±1%に達した。
【0034】
図1(C)は、CD34+/CD146−/CD45−/CD56−(CD34)、CD34−/CD146+/CD45−/CD56−(CD146)、および選別されていない全細胞に対するRT−PCR分析を示す。アクチンmRNAを対照として測定した。CD34+細胞は、検出され得るCD45+造血細胞またはCD56+筋原細胞による汚染がないことが示された。
【0035】
選別された細胞は、EGM2培地中で4〜6日間、そして材料および方法で記載した脂質生成培地中で8〜12日間増殖させた。これらの条件は、WAT初代培養における白色脂肪細胞分化を維持する。図2は、初代培養(PC)におけるCD34+(図2(A))およびCD146+(図2(B)、図2(C))細胞、ならびに最大3継代(P3)の培養において増殖させたCD34+(図2(D))細胞を示す。実質的に全ての選別された胎児筋CD34+細胞は、脂肪細胞様の多房性細胞に分化した(図2(A)、2(D))。細胞培養において、多房性構造が白色および褐色脂肪細胞によって共有されることは注目すべきである。対照的に、胎児筋CD146+細胞は、上述した条件下で非常にゆっくりと増殖した。これらの細胞は、細胞密集に到達せず、大きなサイズ、広がった形状、および不規則な境界によって特徴付けられる周皮細胞様の外観を示した(図2(B)および(C))。偶発的な多房性細胞を検出することができた(図2(C))。上述した条件下で最大3継代(4週間)培養して増殖させたCD34+細胞の形態は、成熟脂肪細胞の大きさはより小さかったが、初代培養で観察した場合と類似していた(図2(D))。
【0036】
(実施例2:培養したCD34+細胞におけるUCP1発現)
胎児筋CD34+細胞の著しい脂肪細胞様分化は、さらなる特徴付けの動機となった。際立って、定量的RT−PCRは、これらの細胞における高レベルのUCP1のmRNAを示した。図2(E)は、初代培養(PC)または最大3継代(P3)まで増殖させたCD34+細胞におけるUCP1(白抜きカラム)とレプチン(灰色カラム)のmRNA発現の定量的RT−PCR決定を示す。サイクロフィリンAに対して正規化された平均UCP1のmRNAレベルは、1797±510任意単位であり(即ち、対応するサイクロフィリンA値を用いて正規化された任意値の±s.e.m.;n=4〜7)、これは、このアッセイにおいて、25ngのcDNAについて22サイクル閾値(Ct)に対応する。
【0037】
比較のための、培養中の分化マウス褐色脂肪細胞におけるサイクロフィリンAに対して正規化された平均UCP1のmRNAレベルは、7715±2649(n=10)任意単位であった。したがって、ヒトCD34+細胞におけるUCP1のmRNAのレベルは、培養したマウス褐色脂肪細胞のレベルのほぼ4分の1に達した。ヒト胎児BATは定量的RT−PCR分析について正の対照として使用されなかった。それは、妊娠中絶後の時間経過によるRNA分解の危険性が高いためであった。アンプリコンをクローニングし、配列決定し、ヒトUCP1と100%同一であることが分かった。最大3継代まで増殖させた胎児筋CD34+細胞においては、初代培養細胞において検出された場合の43%に達し、高いUCP1のmRNA発現がなおも観察された。UCP1のmRNA発現は、分化していない胎児筋CD34+細胞または初代培養におけるCD146+細胞において検出されなかった。レプチンのmRNAレベルは、初代培養細胞および増殖した細胞において、それぞれ9.9±5.5および71±52任意単位であった(図2E)。
【0038】
(実施例3:CD34+細胞のさらなるフェノタイピング)
培養して増殖させた胎児筋CD34+細胞の遺伝子発現パターンを良好に特徴付けるために、遺伝子チップ分析を行った。有意な検出P値(p<0.01)を有するいくつかの代表的な遺伝子mRNAの発現レベルを表1に示し、ヒト筋生検のレベルと比較する。以下のタンパク質のmRNAが選択された:参照遺伝子としてのUCP1、熱発生およびミトコンドリア形成の制御に関与するミトコンドリア転写因子A(mtTFA)およびペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPARγ)およびPPARγコアクチベータ−1α(PGC−1α)、ミトコンドリア呼吸鎖コハク酸デヒドロゲナーゼ(SDH)およびシトクロムオキシダーゼIV(COX IV)の酵素、脂肪酸分解経路の酵素、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ1B(CPT1B)、アシル−コエンザイムAデヒドロゲナーゼ長鎖(ACAD)およびC−4〜C−12直鎖(ACADM)、ならびに骨格筋マーカーであるミオゲニン、筋原性因子5(Myf5)および筋原性分化1(MyoD1)。シデア(Cidea)は、BATで高く発現し、UCP1活性の抑制因子として作用することができ[16]、BATマーカーとして選択された。これらの遺伝子のGenbankアクセッション番号は、追加のデータに示されている。
【0039】
【表1】

表1のデータは、平均イルミナ(Illumina)シグナルとして表される。検出P値は<0.01である。以下の省略形を用いる:n.s.,有意でない;mtTFA、ミトコンドリア転写因子A;PPARγ、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体−γ;PGC−1α、PPARγコアクチベータ−1α;COX IV、シトクロムオキシダーゼIV;SDH、コハク酸デヒドロゲナーゼ;CPT1B、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ1B;ACAD、アシル−コエンザイムAデヒドロゲナーゼ長鎖;ACADM、C−4〜C−12直鎖;Myf5、筋原性因子5;MyoD1、筋原性分化1。
【0040】
UCP1は、胎児筋の増殖CD34+細胞において有意に発現したが、成体筋生検では発現しなかった(これらについてはp=0.12)。胎児筋由来の増殖CD34+細胞において選択した遺伝子のmRNA発現レベルは、PGC−1αおよびCPT1BのmRNA(該細胞において約1/5の発現)ならびにPPARγおよびACADのmRNA(筋生検においてそれぞれ1/40および1/7の発現)を除いて、成体筋生検のレベルと同等であった。筋マーカーであるミオゲニン、Myf5およびMyoD1のmRNAは筋肉でははっきりと発現したが細胞では発現されず、一方、BATマーカーであるシデアのmRNAは細胞では発現したが筋肉では発現しなかった。β−アドレナリン受容体のmRNAは、この遺伝子チップ分析で検出できなかった。しかしながら、β−アドレナリン受容体のmRNAが、初代培養の胎児筋CD34+細胞において定量的RT−PCR(参照としてサイクロフィリンAを用いた場合には任意値0.084±0.044;n=4)によって検出されたことは注目される。また、mtTFA、PGC1−αおよびCOX IVの測定が、定量的RT−PCRによって実施され、異なる技術を用いて遺伝子チップデータを確認した。この結果は確証のためのものであり、初代培養の胎児筋CD34+細胞は、参照としてサイクロフィリンAを用いるとき、高レベルのmtTFA、PGC1−αおよびCOX IVのmRNAを発現することを示した[それぞれ、306±117、385±294、および23,400±10,300任意単位(n=3〜4)に達する]。
【0041】
UCP1タンパク質は、ヒトUCP1(80%同一性)と交差反応する抗マウス抗体を用いたウェスタンブロッティングによって評価すると、胎児BATと同程度に、初代培養胎児筋CD34+細胞において富んでいた。図2(F)は、組織または全細胞抽出物における、UCP1およびグリセルアルデヒドリン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)タンパク質の典型的なウェスタンブロット分析を示す。19週胎児の肩甲骨間BAT(レーン1)、初代培養のCD34+細胞(レーン2)、および成人の骨格筋(レーン3)を示す。25μgのタンパク質を各レーンにロードした。
【0042】
(実施例4:酸化的リン酸化の脱共役)
筋肉由来細胞におけるUCP1の考えられる機能を考察するために、単離、培養したヒト胎児筋CD34+細胞および成人白色脂肪細胞のミトコンドリア呼吸を比較した。基礎呼吸は、アンチマイシンA感受性の酸素消費として定義された。脱共役呼吸(プロトン漏出)は、ATPシンターゼブロッカーであるオリゴマイシンに感受性でない基礎呼吸の割合として定義された。
【0043】
図3(A)は、初代培養で増殖させて新鮮なうちにトリプシン処理した単離胎児筋CD34+細胞および成人白色脂肪細胞における、ミトコンドリア呼吸の脱共役を示す。結果は、平均±s.e.m.である;p<0.05。n=3。全呼吸に対する脱共役されたものの比率は、ヒト胎児筋CD34+細胞および成体白色脂肪細胞においてそれぞれ47±12%および19±2%であった。
【0044】
(実施例5:培養されたCD34+細胞におけるUCP1発現の調節)
胎児筋CD34+細胞におけるUCP1のmRNA発現は、薬物処理によって調節可能であった。細胞透過性cAMP誘導体は、初代培養細胞および増殖細胞においてUCP1のmRNA発現を強力に(7〜8倍)刺激した。初代培養(PC)または最大3継代(P3)まで増殖させたCD34+細胞におけるUCP1のmRNA発現に対する、cAMP誘導体、8−ブロモ−cAMP、0.25mMまたは(4−クロロフェニルチオ)−cAMP、0.25mM(cAMP)の効果を図3(B)に示す。全ての細胞は、EGM2培地中で4〜6日間増殖させ、次に、材料および方法に記載した脂肪生成培地中に8〜12日間置いた。結果は、対応するサイクロフィリンA値を用いて正規化された任意値の平均±s.e.m.である。それらの値は、100%と考えられるそれぞれの無処理(対照)の値の%で表される(p<0.05。n=3〜6)。
【0045】
PPARγアゴニストであるロシグリタゾンは初代培養細胞では効果がなかったが、増殖細胞ではUCP1のmRNA発現を強力に(8倍)刺激した。CD34+細胞のPCまたはP3におけるUCP1のmRNA発現に対するロシグリタゾン(Rosi)1μMの効果を図3(C)に示す。結果を図3(B)として表す(**p<0.01、n=4〜7)。
【0046】
(実施例6:ヒト褐色脂肪細胞前駆体の筋肉特異性および一生を通じた持続性)
ヒト胎児筋からのUCP1発現細胞の派生は、この組織および胎児期への褐色脂肪細胞前駆体の制限という疑問を生じさせた。この問題に対処するために、ヒト胎児膵臓、肺および肝臓からFACSによって精製されたCD34+細胞が、胎児筋CD34+細胞と同じ脂肪生成条件下で培養された。選別された細胞はゆっくりと増殖し、それらの小さな割合だけが多房となった。UCP1のmRNAは膵臓または肺細胞において発現されなかった;しかしながら、僅かな発現が肝細胞において測定され、胎児筋CD34+細胞において検出されたものの2%に達した(示さず)。
【0047】
また、4つの成体(50〜78歳)の骨格筋試料から選別されたCD34+細胞は、脂肪生成条件下で初代培養(PC)において増殖し、多房性細胞に分化した。これらの細胞は、他のタイプの細胞とともに散在し、それらのいくつかは小さな脂肪滴を含んでいた(図4(A))。UCP1のmRNAレベル(370±132任意単位)は、初代培養した胎児筋CD34+細胞において検出されたものの21%であった。対照的に、レプチン発現(75±69任意単位)は、胎児細胞より7.6倍高かった。図4(B)は、UCP1(白抜きカラム)およびレプチン(灰色カラム)のmRNA発現の定量的RT−PCR決定を示す。全ての細胞を、EGM2培地において4〜6日間増殖させ、次に、材料および方法に記載した脂肪生成培地中で8〜12日間置いた。結果は、対応するサイクロフィリンA値に対して正規化された任意値の平均±s.e.m.である(n=4〜5)。また、4つの成体(45〜55歳)WAT試料から選別されたCD34+細胞を、脂肪生成条件下で初代培養(PC)において増殖させた。それらは、部分的に多房性となったが(図4(C))、UCP1のmRNAを発現しなかった。
【0048】
(実施例7:ヒト筋肉おけるUCP1のmRNA発現の検出およびインビボでのロシグリタゾンの効果)
成体骨格筋の褐色脂肪細胞前駆体はインビボで分化し、UCP1を発現する細胞を生じさせることができる。成体骨格筋におけるUCP1のmRNAの存在は、高感度RT−PCR技術を用いて追跡され、実際には、低レベルのUCP1のmRNAが、10人の細身の被験体の腹直筋において検出された(UCP1/サイクロフィリンA比:24±9)。PCR増幅した断片を配列決定し、ヒトUCP1と100%同一であることが分かった。成体筋肉におけるUCP1のmRNAレベルは、培養中の胎児筋CD34+細胞の場合の1/75であった。
【0049】
PPARγアゴニストであるロシグリタゾンは、培養中の筋CD34+細胞におけるUCP1のmRNA発現の強力な誘導因子であるため、ヒトにおいてインビボにおけるこの化合物の効果を調査した。ロシグリタゾンを用いたメタボリックシンドロームの管理について処置された、2型真性糖尿病を有する7人の肥満患者からの外側広筋生検を使用した。生検は、ロシグリタゾンによる8週間の処置前および後に得た(2×4mg/日)。ロシグリタゾンによる処置は、患者のインスリン抵抗性および糖尿病の有意な改善をもたらした。その研究では、ロシグリタゾンは、インスリン感受性における改善に付随して、約1.6倍に筋肉中のUCP1の発現レベルを増大させた。図5は、UCP1のmRNA発現の定量的RT−PCR決定を示す。結果は、対応するサイクロフィリンA値を用いて正規化された任意値の平均±s.e.m.である(n=7、p<0.05 対 対照)。使用したRT−PCR条件が異なるため、この図の任意値は図2〜4の値との直接的な比較を提供しない。
【0050】
図5は、患者群(n=7)からの骨格筋生検におけるUCP1のmRNAレベルを示し、「対照」は処置前のレベルに対応し、および「Rosi」はロシグリタゾンによる処置(8週)後のレベルに対応する。長期的研究で、各個体におけるUCP1レベルに対するロシグリタゾンの効果(「対照」(前条件)と「Rosi」(後条件)とについて個別の値の比較)を決定した。25ngのcDNA(RNAの逆転写によって生成される)から開始して、リアルタイムPCR中の検出閾値(Ct)は、UCP1については約22、およびサイクロフィリンについては約18であった。ロシグリタゾンの効果(処置終了時 対 処置前のUCP1レベル)は以下の通りであった:
患者1:50%増加(150%まで、対照=437、Rosi=652任意単位)
患者2:変化なし(100%まで、対照=444、Rosi=453任意単位)
患者3:80%増加(180%まで、対照=378、Rosi=677任意単位)
患者4:180%増加(280%まで、対照=260、Rosi=730任意単位)
患者5:8%増加(108%まで、対照=553、Rosi=600任意単位)
患者6:310%増加(410%まで、対照=135、Rosi=556任意単位)
患者7:10%増加(110%まで、対照=128、Rosi=142任意単位)。
【0051】
ロシグリタゾンの強力な効果は、1.5〜4.1倍の間で変化し、7人の患者中4人において観察された。この結果は、ロシグリタゾンが褐色脂肪細胞の出現を誘導し、かつ/または患者の骨格筋における既存の褐色脂肪細胞におけるUCP1遺伝子の発現を増大させたことを示唆する。PPARγアゴニストのこの効果は、インスリン感作物質としてのこの作用物質の治療効果において主要な役割を果たし得る。
【0052】
(実施例8:ヒトUCP1プロモーター/エンハンサー領域の潜在的な調節因子のスクリーニング)
同定および単離されたCD34+細胞は、これらの細胞から褐色脂肪細胞への分化を誘導するか、またはUCP1の発現を調節する作用物質(化合物、タンパク質、生物学的製剤など)を同定するためのツールとして用いることができる。
【0053】
この目的のため、ヒトUCP1遺伝子の転写開始部位のDNA上流(5’における)の大きな領域(6kb)(プロモーター/エンハンサー領域を含む)は、レポーター/MAR GFP(緑色蛍光タンパク質)またはルシフェラーゼ中にクローニングされた。この構築物を用いてCD34+細胞をトランスフェクトし、細胞をマルチウェルプレートで増殖させ、細胞の蛍光(GFP)または発光(ルシフェラーゼ)を増加(これは、遺伝子発現の誘導(つまり増加されたUCP1発現)を反映する)させる作用物質についてスクリーニングした。これは、UCP1遺伝子の転写を増大させ、かつ/またはUCP1転写の翻訳を増大させ、かつ/またはUCP1転写物もしくはタンパク質を安定化させることによって、CD34+細胞から褐色脂肪細胞への分化および/またはUCP1の発現を増大させることができる作用物質の同定を可能にする。
【0054】
例えば、ロシグリタゾンなどのPPARγ調節因子または活性化因子を用いて、CD34+前駆細胞から褐色脂肪細胞への分化を促進することができる(図3(C)および5)。別の例は、8−ブロモ−cAMPおよび/もしくは(4−クロロフェニルチオ)−cAMP(図3(B))のようなcAMP誘導体、またはプロテインキナーゼA(PKA)活性化因子またはホスホジエステラーゼ阻害因子の使用である。別の例は、トリヨードチロニン(T3)、他の甲状腺ホルモン、甲状腺ホルモン受容体であるTRαおよび/またはTRβのアゴニストまたは調節因子の使用である。別の例は、イソプロテレノール(pan−アゴニスト)または特異的なβ−、β−、β−アゴニストのようなβ−アドレナリン作用性アゴニストまたは調節因子を使用することである。別のものは、遺伝子チップ研究によって明らかにされる候補受容体、またはこれらの受容体の下流にあるシグナル伝達経路における標的遺伝子の調節因子の使用である。
【0055】
(実施例9:遺伝子チップ研究)
遺伝子チップ研究は、CD34+前駆細胞から褐色脂肪細胞への分化、および/またはUCP1の発現の誘導において役割を果たす分子経路を同定するために行われた。CD34+細胞は、ヒト骨格筋生検から単離され、以下の2つの研究に使用された:(1)cAMP研究:CD34+細胞を、ビヒクル(対照1試料)またはcAMP(cAMP試料)を添加して、材料(対照)に記載したように分化させ;および、(2)ロシグリタゾン研究:CD+34細胞を、ロシグリタゾンが脂質生成培地から除外されたことを除いて、材料に記載したように分化させた(対照2試料)。ロシグリタゾンは、この研究では第2試料(ロシグリタゾン試料)にだけ添加された。
【0056】
発明者らは、これらの化合物がCD34+細胞から褐色脂肪細胞への分化、およびUCP1の発現を促進することを見出した(図3(B)、(C)参照)。
【0057】
全RNAをこれらの細胞から精製し、転写プロフィールは、イルミナヒトWG−6ビードチップ(Illumina Human WG−6 BeadChip(Expression Analysis,Inc.,Durham,NC))を用いて評価された。結果は、Ingenuity Pathway Analysis 7.0(トライアルバージョン)を用いて分析された。これらの結果は、どの分子経路がCD34+細胞から褐色脂肪細胞への分化に関与するか、より重要なことには、どの分子標的が褐色脂肪細胞の出現およびUCP1の発現を促進する作用物質の開発に用いることができるのかを決定するために使用された。
【0058】
この研究は、以下の作用/作用物質が褐色脂肪細胞の発生を促進するはずであることを示した:PPARγ活性化因子、調節因子、もしくは阻害因子(例えば、ロシグリタゾン)、PPARα活性化因子もしくは調節因子(例えば、GW9578)、PPARδ活性化因子もしくは調節因子(例えば、GW501516もしくはGW0742)、デュアルPPARαおよびPPARδ活性化因子もしくは調節因子、pan−PPAR(α、δ、γ)活性化因子もしくは調節因子(例えば、GW4148)、PDE4阻害因子(例えば、ロリプラムもしくはIBMX)、PDE7阻害因子(例えば、BMS586353もしくはBRL50481もしくはIBMX)、NRIP1(RIP140)阻害因子、PTEN阻害因子(例えば、カリウムビスペルオキソ(ビピリジン)オキソバナデートもしくは2カリウムビスペルオキソ(5−ヒドロキシピリジン−2−カルボキシル)オキソバナデート)、α1−アドレナリン作用性の完全もしくは部分的なアゴニスト(例えば、フェニレフリンもしくはシラゾリン)、RXRα活性化因子もしくは調節因子(例えば、LGD1069(タルグレチン)もしくは9−シスレチノイン酸)、PGC−1α活性化因子、PGC−1β阻害因子もしくは活性化因子、アディポネクチンもしくはアディポネクチン受容体AdipoR1および/もしくはAdipoR2の活性化因子、NOS阻害因子もしくは活性化因子(例えば、2−エチル−2−チオプソイド尿素もしくはNG−ニトロ−L−アルギニンメチルエステル(L−NAME)もしくはアデノシン)、RhoキナーゼROCK阻害因子(例えば、ファスジル)、BDNF、モノアミンオキシダーゼ(MAO)A阻害因子および/もしくはMAO B阻害因子(例えば、イソカルボキサジド、モクロベミド、セレギリン)、SRCの活性化因子、EGFRの阻害因子(例えば、エルロチニブもしくはZD1839−ゲフィニチブもしくはアルゴスタンパク質)、FAAHの阻害因子(例えば、URB597)、MAPK1の阻害因子(例えば、PD98059)もしくはMAPK2の阻害因子(例えば、PD98059)もしくはMAPK4の阻害因子もしくはMAPK5の阻害因子もしくはMAPK7の阻害因子もしくはMAPK8の阻害因子(例えば、PD98059)、CDK9の阻害因子(例えば、1,5,6,7−テトラヒドロ−2−(4−ピリジニル)−4H−ピロロ[3,2−c]ピリジン−4−オン塩酸塩)、TGR5アゴニスト(例えば、オレアノール酸)、AMPK活性化因子(例えば、AICAR)、BMP−7、mTOR阻害因子(例えば、ラパマイシン)、アデニル酸シクラーゼ活性化因子(例えば、フォルスコリン)、または前述の任意の組合せ。
(材料および方法)
分析用または分子生物学的グレードの全ての有機および無機化学物質を、Sigma Chemical Co.(St Louis,MI)およびGibco BRL(New York,NY)から購入した。
(ヒト組織)
施設内倫理委員会(Institutional Review Board)のプロトコールに従って、ピッツバーグ大学内のマギーウィメンホスピタル(Magee Women Hospital)から、自然発生、自発的または治療的な妊娠中絶後のヒト胎児組織を匿名で入手した。発育年齢(妊娠16〜24週)を足長の測定によって推測した。胎児組織使用に関するインフォームドコンセントは、全ての症例において患者から得た。成体の廃棄された腹部皮下WATは、胃バイパスの1年後に行われた形成外科手術を受けた45〜55歳の患者由来であり、Peter Rubin博士(ピッツバーグ大学形成外科部門)から厚意により提供された。細胞選別に使用される成体骨格筋組織は、検視後の50〜78歳のドナーから得た。RT−PCR研究の第1群に使用される成体骨格筋は、10人の細身の男性および女性被験体のラップバンディング(lap banding)、鼡径ヘルニアまたは子宮摘出のいずれかの外科処置中に腹直筋から得た。全ての被験体は、手術中に筋肉試料を提供することに同意し、そのプロトコールは、ディーキン大学(Deakin University)の医学倫理学審査委員会(Medical Ethical Review Committee)によって承認された。平均年齢は45±3歳であり、平均体格指数(body mass index)は22.2±0.8であった。RT−PCR研究の第2群に使用される成体骨格筋は、7人の2型糖尿病の肥満の男性および女性患者の外側広筋から、8週間のロシグリタゾン処置(2×4mg/日)の前および後に得た。平均年齢は63±4歳であり、平均体格指数は29.9±3.8であった。患者の完全な臨床プロフィールは、以前の刊行物[18]に記載されている。全ての被験体は、筋肉試料を提供することに同意し、そのプロトコールは、マーストリヒト大学(Maastricht University)の医学倫理学審査委員会(Medical Ethical Review Committee)によって承認された。
(マウス)
センター医科大学(Centre Medical Universitaire(ジュネーブ))の制度ガイドラインに従って動物を処置した。動物を個別に収容し、12時間の明暗サイクルで、24℃に温度調節された室内で維持した。動物が随意に水および標準的な実験室用の餌を入手できるようにした。4〜6週齢の雄性の129匹のSv/evマウスの肩甲骨間BATを摘出し、従来報告されている[19]ように、それらの前駆細胞を単離し、培養した。
(免疫組織化学)
新鮮な胎児および成体組織を、液体窒素中で冷却したイソペンタン中に浸すことによって徐々に凍結させた。5〜7μmの切片をクリオスタット(マイクローム(Microm)HM 505E)で切り出し、50%アセトンおよび50%メタノールで固定し、5分間室温(RT)で乾燥させ、次に、リン酸緩衝生理食塩水中で5分間、3回洗浄した。非特異的な結合部位は、5%のヤギ血清を用いて1時間RTでブロックした。切片をCD34マウス抗ヒト抗体(セロテック(Serotech)、1:50)とともに一晩4℃でインキュベートし、その後、リンス後、二次ヤギ抗マウスビオチン化抗体(ダコ(DAKO)、1:1000)とともに1時間RTで、およびストレプトアビジン−Cy3(シグマ(Sigma)、1:1000)とともに30分間RTで、または結合体化CD146−アレクサ(Alexa)488マウス抗ヒト抗体(ケミコン(Chemicon)、1:200)とともに2時間RTでインキュベートした。核は、4’,6−ジアミノ−2−フェニルインドールジヒドロクロリド(モレキュラー プローブス(Molecular Probes)、1:2000)を用いて5分間RTで染色した。アイソタイプが一致した負の対照は、各免疫染色で行われた。
(フローサイトメトリー)
胎児骨格筋、膵臓、肺および肝臓の血管細胞、ならびに成体の筋肉およびWATの血管細胞をフローサイトメトリーによって分析した。新鮮な胎児または成体の筋肉、ならびに胎児の膵臓、肺および肝臓の組織を、20%ウシ胎仔血清(FBS)、1%ペニシリン−ストレプトマイシン(PS)ならびにコラゲナーゼIA−S、II−SおよびIV−S(1mg/mL)を含むダルベッコ変法イーグル培地高グルコース(Dulbecco’s Modified Eagle Medium high glucose(DMEM))中で外科用メスを用いて小片に切断し、次に、絶え間なく撹拌しながら、37℃で75分間(胎児組織)または90分間(成体組織)インキュベートした。最終の細胞の解離は、すりガラススライドの間で達成された。細胞をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄し、5分間350gで遠心分離した。細胞をDMEM、20%FBSに再懸濁し、100μmでろ過し、トリパンブルーで染色し、死細胞を排除後にカウントした。WAT間質血管画分をChampignyら[20]に従って、コラゲナーゼ消化により調製した。細胞(分析のために10個、および選別のためにおよそ30.10個)は、1ml DMEM、20%FBS、1%ペニシリン−ストレプトマイシンにおいて、以下:CD45−APC Cγ7(サンタ クルーズ バイオテクノロジーズ(Santa Cruz Biotechnologies)、1:200)、CD56−PE Cy7(BDファーミゲン(Pharmigen)、1:100)、CD34−PE(ダコ、1:100)およびCD146−FITC(セロテク(Serotec)、1:100)の1つと直接結合されたマウス抗ヒト抗体とともに4℃で15分間インキュベートされた。洗浄および遠心分離後、細胞を、死細胞を排除するために7−アミノ−アクチノマイシンD(7−ADD、BDファーミゲン、1:100)とともに30分間インキュベートし、70□mでろ過して、FACS Ariaフローサイトメーター(ベクトン ディッキンソン(Becton Dickinson))で実行した。負の対照として、細胞アリコートは、APC Cy7(BDファーミゲン、1:100)、PE Cy7(BDファーミゲン、1:100)、PE(ケミコン、1:100)およびFITC(USバイオロジカル(Biological)、1:100)に結合体化された、アイソタイプが一致したマウスIgGとともに同条件下でインキュベートされた。
(細胞培養)
細胞は、0.2%ゼラチンで被覆されたプレートに2.10個/cmで播種され、密集するまで(4〜6日間)EGM2培地(カンブレックス バイオ サイエンス(Cambrex Bio Science)、Walkersville,MD)中37℃で培養され、分化するまで(8〜12日間超)、0.86μMインスリン、10μg/mlトランスフェリン、0.2nMトリヨードチロニン、1μMロシグリタゾン(グラクソスミスクライン(GlaxoSmithKline)、Research Triangle Park,NC)、100μMの3−イソブチル−1−メチルキサンチン(IBMX)、1μMデキサメタゾンおよび1%ペニシリン−ストレプトマイシンを含むDMEM−Ham’s F−12培地からなる、Rodriguezら[21]によって記載された脂質生成培地の変法で培養された。細胞増殖研究のために、EGM2培地だけで増殖させた密集細胞を、トリプシン−EDTAによる3〜5分間37℃での処理によって脱着し、次に、1:3に分け、上述したように培養した。酸素測定(oxymetry)研究に使用された初代培養のヒト白色脂肪細胞を、以前記載された[22]ようにして得た。
(RT−PCR)
全細胞RNAは、キットのヌクレオスピン(NucleoSpin)(登録商標)RNAII(クローンテック(Clontech)、Palo Alto,CA)またはエクストラクトオール溶液(ユーロバイオ(Eurobio)、Courtaboeuf,France)を用いて調製され、Biophotometry(バイオフォトメーター(Biophotometer)、エッペンドルフ(Eppendorf))によって定量された。オリゴdTプライムされた第1鎖cDNAは、スーパースクリプト(Superscrpt)TM II RNase H逆転写キット(インビトロジェン(Invitrogen)、Carlsbad,CA)およびオリゴdTプライマー、または大容量cDNA逆転写キット(アプライド バイオシステムズ(Applied Biosystems)、Foster City,CA)およびランダムプライマーを用いて合成された。定量的リアルタイムPCRは、ABI高速熱サイクラーシステム、およびSYBRグリーンPCRマスタミックス(アプライド バイオシステムズ、Foster City,CA)を用いて行われた。サイクロフィリンAは、逆転写の効率に起因した任意の変化を明らかにするために対照として用いられた。上流および下流のオリゴヌクレオチドプライマーは、汚染しているゲノムDNAの増幅を回避するためにイントロンの両側で選ばれた。
【0059】
ヒト細胞およびマウスの褐色脂肪細胞におけるリアルタイム定量的PCRに使用されるプライマーは以下、
【0060】
【化1】

【0061】
【化2】

である。
【0062】
ヒト骨格筋におけるリアルタイム定量的PCRに使用されるプライマーは以下、
【0063】
【化3】

である。
【0064】
分析的PCRに使用されるプライマーは以下、
【0065】
【化4】

【0066】
【化5】

である。
【0067】
任意単位は、標的mRNAレベルをサイクロフィリンmRNAレベル(Ctに基づく)に対して正規化することによって決定された。この場合、容易に参照できるように、サイクロフィリンレベルを最初に100,000で割った。例えば、サイクロフィリンmRNAに対する標的mRNAの比である0.01797を1797として表す。
【0068】
(ヒトUCP1アンプリコンの確認)
PCR増幅された断片は、TOPO−TAクローニングシステム(インビトロジェン、Carlsbad,CA)を介してpCR2.1−TOPOベクターにクローニングされ、色選択されたコロニーの精製はキアプレップ スピン ミニプレップ(Qiaprep Spin Miniprep(Qiagen、Hilden,Germany))を用いて行われた。ABI3700自動化シークエンサー(アプライド バイオシステムズ(Applied Biosystems)、Foster City,CA)にて、アプライド バイオシステム ビック ダイ(Applied Biosystem Big Dye)配列決定キットを用いて、pCR2.1−TOPOベクターに対してオリゴヌクレオチドM13リバースにより配列を決定した。
【0069】
(ウェスタンブロット)
培養細胞は、200μlのRIPA緩衝液(150mM NaCl、1%ノニデットP−40、0.5%デオキシコール酸Na、0.1%SDS、1:200プロテアーゼインヒビターカクテル(シグマ ケミカル カンパニー、St Louis,MI)、および50mM Tris/HCl pH8.0)中でゴム冠ポリスマンを用いて収集された。ヒトBATおよび骨格筋は、上記RIPA緩衝液中でホモジナイズされた。Lowryの手法[23]に従って、タンパク質含量を決定した。ウェスタンブロットは前述[24]のように行った。UCP1タンパク質は、B.Cannon博士(ストックホルム、スウェーデン)によって厚意により提供された、ウサギ抗マウスUCP1ポリクローナル一次抗体の1/500希釈物を用いて検出された。この抗体は、ヒトUCP1と80%同一性、ならびにヒトUCP2およびUCP3とそれぞれ0%および10%同一性を共有するマウスUCP1のC末端デカペプチドに対して生じていた。グリセルアルデヒドリン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)タンパク質は、1/5000に希釈されたマウス抗マウスGAPDHモノクローナル一次抗体(ケミコン インターナショナル インコーポレイティド(Chemicon International,Inc.)、Temecula,CA)を用いて検出された。1/5000に希釈されたヤギ抗ウサギまたは抗マウスペルオキシダーゼ標識二次抗体(シグマ−アルドリッチ(Sigma−Aldrich)、St. Louis,MO、またはバイオ−ラッド(Bio−Rad)、Hercules,CA)を用いた。シーブルー(SeeBlue)(登録商標)プラス2事前染色標準ラダー(Plus 2 Pre−stained Standard Ladder)(インビトロジェン(Invitrogen)、Carlsbad,CA)を用いた。タンパク質シグナルを、標準的なECLキットを用いた化学発光によって検出し、ハイパーフィルム(Hyperfilm)ECLフィルム上で発色させた。
【0070】
(高分解能O消費測定)
酸素消費は、Peltierサーモスタット、クラーク型電極、および統合された電磁撹拌子を装備した2注入チャンバー呼吸計(オロボロス(Oroboros)(登録商標)オキシグラフ(Oxygraph)、Oroboros,Innsbruck,Austria)を用いて測定された。10%新生仔ウシ血清を含む2mlのDMEM F12中で、37℃で連続的に撹拌しながら測定を行った。これらの条件下で、この血清は、UCP1脱共役活性を持続するのに必要な脂肪酸を与えた。各O消費測定前に、チャンバーの培地を30分間空気と平衡化し、新鮮なうちにトリプシン処理された細胞を呼吸計ガラスチャンバーに移した。定常状態の呼吸フラックスを観察後、ATPシンターゼをオリゴマイシン(0.25〜0.5mg/l)で阻害し、細胞は、1〜2μMの範囲で最適濃度まで、脱共役剤であるカルボニルシアニド3−クロロ−フェニルヒドラゾンを用いて量が設定された(titrate)。呼吸鎖をアンチマイシンA(1μg/ml)によって阻害した。酸素消費は、データグラフ(DataGraph)ソフトウェア(Oroboros software)を用いて計算された。
【0071】
(遺伝子チップ分析)
3継代まで(4週間)培養して増殖させた胎児筋CD34+細胞の全RNA、およびヒト筋生検の全RNAを上述したように調製した。品質保証測定、cRNA標的の調製、およびイルミナヒトWG−6ビートチップを用いた遺伝子チップ分析は、エクスプレッション アナリシス、インコーポレイティド(Expression Analysis,Inc.(Durham,NC))によって行われた。ビードスタジオ(BeadStudio)ノンパラメトリック法は、検出P値の計算のために使用された。
【0072】
(統計分析)
データは平均±s.e.m.として表される。有意性は対応のないスチューデントt検定(unpaired Student’s t−test)を用いて評価された。対応のある(paired)スチューデントt検定を用いて、ヒト骨格筋UCP1のmRNAレベルに対するロシグリタゾンの効果を決定した。有意性はp<0.05で設定された。
【0073】
(ヒトUCP1プロモーター/エンハンサー領域のクローニング)
発明者らのスクリーニング戦略を展開するために、ヒトUCP1プロモーター/エンハンサーを以下の通りサブクローニングした:
ヒトBAC(細菌人工染色体)クローン♯RP11−5K16(AC108019)(これは、ヒトUCP1(脱共役タンパク質−1)プロモーター/エンハンサー領域を含む)は、CHORI(オークランド小児病院研究所(Children’s Hospital Oakland Research Institute))のBAC−PACリソースサービスから入手した。選択されたプロモーター/エンハンサー領域は、ヒトUCP1遺伝子(アクセッション番号:NM_021833)の5’UTR(非翻訳領域)の上流−25位で始まる。ヒトUCP1遺伝子開始コドンに基づいて、全長クローニングされたプロモーター/エンハンサー配列は、−149位と−6269位との間に位置する。
【0074】
プライマーセットは以下のいずれかを増幅するために設計された:
i)全長標的化プロモーター/エンハンサー領域(UCP1 5’UTRの上流−25位で始まる6120bp)
左プライマー:
【0075】
【化6】

(配列番号23)
右プライマー:
【0076】
【化7】

(配列番号24)
ii)近位標的化プロモーター/エンハンサー領域(UCP1 5’UTRの−25ヌクレオチドの上流3685bp)
左プライマー:
【0077】
【化8】

(配列番号25)
右プライマー:
【0078】
【化9】

(配列番号26)
iii)指示されるような、遠位標的化プロモーター/エンハンサー領域(近位標的化プロモーター/エンハンサー領域の上流2435bp)
左プライマー:
【0079】
【化10】

(配列番号27)
右プライマー:
【0080】
【化11】

(配列番号28)。
【0081】
各プライマーは、哺乳動物発現ベクターにおいてその後のクローニングを容易にするための制限酵素認識部位を含む(下記参照)。
【0082】
PCR反応におけるプロモーター/エンハンサーのクローニングは、鋳型として500ngのBAC ♯RP11−5K16を用い、増幅用にタカラ(Takara)Ex Taq DNAポリメラーゼキット(クローンテック)を用いて行われた。PCRプログラムステップは以下の通りであった:初期ステップ、92℃で2’、続いて28サイクル:変性:92℃−30秒/アニーリング:59℃−40秒/伸長:68℃−5分30秒、および最終伸長ステップ68℃−8分。
【0083】
続いて、全長プロモーター/エンハンサー、近位または遠位プロモーター/エンハンサーは、レポーター/MARエレメント含有ベクターp1_68_GFPのBlgII/HindIII部位にサブクローニングされ、これは、SV40プロモーターカセットを置換する[25]。あるいは、ルシフェラーゼ系pGL3ベーシックベクター(プロメガ(Promega))もまた、別のレポータータイプとして、サブクローニングを目的に同じBglII/NcoI部位を用いて利用された。
【0084】
クローニングされたヒトUCP1プロモーター配列は、最新技術の配列決定によって確認され、それはバイオテクノロジー会社であるファステリス(Fasteris)SA(スイス)で行われた。ヒトUCP1プロモーター配列の配列は、以下の通り提供される:
【0085】
【化12】

【0086】
【化13】

【0087】
【化14】

【0088】
【化15】

(配列番号29)。
【0089】
本明細書において使用された節の表題および副題は、組織化を目的としているにすぎず、決して記載の主題を限定するものとして解釈されるべきではない。さらに、本教示は様々な実施形態とともに記載されているが、本教示がこのような実施形態に限定されることを意図していない。対照的に、本教示は、種々の代替物、改変物、および均等物を包含し、それらは当業者に認識されるものである。
【0090】
(参考文献)
【0091】
【数1】

【0092】
【数2】

【0093】
【数3】

【0094】
【数4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞集団におけるBAT前駆細胞を同定するための方法であって、
少なくとも2つの細胞を用意するステップと、
内皮細胞と関連するが、造血細胞、筋原細胞、または周皮細胞とは関連しないマーカーに特異的である抗体と前記少なくとも2つの細胞とを接触させるステップと、
前記抗体が結合する細胞を決定するステップと
を含み、前記抗体が結合する細胞がBAT前駆細胞として同定される、方法。
【請求項2】
前記抗体がCD34に特異的である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記接触ステップが、前記細胞を、内皮細胞と関連するマーカーに特異的な抗体と接触させる前に、
前記細胞を、造血細胞、筋原細胞、および周皮細胞の少なくとも1つと関連するマーカーに特異的な抗体と接触させるステップと、
前記造血細胞、筋原細胞、および周皮細胞の少なくとも1つと関連するマーカーに特異的な抗体が結合する細胞を除去するステップと
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
BAT前駆細胞として同定された細胞を単離するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
BAT前駆細胞から褐色脂肪細胞への分化を誘導するための方法であって、
BAT前駆細胞を用意するステップと、
前記BAT前駆細胞を分化培地に曝露するステップと
を含み、前記分化培地が、褐色脂肪細胞に分化するように前記BAT前駆細胞を誘導する、方法。
【請求項6】
前記分化培地が、以下:PPARγ活性化因子、調節因子もしくは阻害因子;PPARα活性化因子もしくは調節因子;PPARδ活性化因子もしくは調節因子;デュアルPPARαおよびPPARδ活性化因子もしくは調節因子;pan−PPAR(α、δ、γ)活性化因子もしくは調節因子;PDE4阻害因子;PDE7阻害因子;NRIP1(RIP140)阻害因子、PTEN阻害因子;α1−アドレナリン作用性の完全もしくは部分的なアゴニスト;RXRα活性化因子もしくは調節因子;PGC−1α活性化因子;PGC−1β阻害因子もしくは活性化因子;アディポネクチンもしくはアディポネクチン受容体AdipoR1および/もしくはAdipoR2の活性化因子;NOS阻害因子もしくは活性化因子;RhoキナーゼROCK阻害因子;BDNF;モノアミンオキシダーゼ(MAO)A阻害因子および/もしくはMAO B阻害因子;SRC活性化因子、EGFR阻害因子;FAAH阻害因子;MAPK1もしくは2もしくは4もしくは5もしくは7もしくは8の阻害因子;CDK9阻害因子;TGR5アゴニスト;AMPK活性化因子;BMP−7、mTOR阻害因子;アデニル酸シクラーゼ活性化因子;または前述の任意の組合せのうちの1つまたは複数を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記分化培地がロシグリタゾンを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
患者においてBAT前駆細胞から褐色脂肪細胞への分化を誘導するステップを含む、前記患者における代謝性疾患または病状を処置するための方法。
【請求項9】
前記代謝性疾患が、肥満、体重超過、耐糖能異常、インスリン抵抗性、2型糖尿病、脂質異常症、高血圧症、心血管疾患、またはメタボリックシンドロームのうちの1つである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
BAT前駆細胞から褐色脂肪細胞への分化を誘導する作用物質を同定するための方法であって、
BAT前駆細胞を用意するステップと、
前記BAT前駆細胞を作用物質と接触させるステップと、
前記BAT前駆細胞が褐色脂肪細胞への分化の指標を示すかどうかを決定するステップと
を含む、方法。
【請求項11】
前記分化の指標が、以下:UCP1タンパク質もしくはmRNAの発現、mtTFAタンパク質もしくはmRNAの発現、PGC−1αタンパク質もしくはmRNAの発現、脱共役呼吸、代謝率、グルコース利用率、脂肪酸酸化率、および前述の任意の組合せのうちの1つまたは複数における増加である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
UCP1の発現または活性レベルを誘導する作用物質を同定するための方法であって、
BAT前駆細胞を用意するステップと、
前記BAT前駆細胞を作用物質と接触させるステップと、
前記BAT前駆細胞がUCP1発現または活性の増加を示すかどうかを決定するステップと
を含む、方法。
【請求項13】
前記UCP1発現または活性の増加が、以下:UCP1遺伝子転写の増加、UCP1のmRNAの安定化、UCP1のmRNAの翻訳の増加、UCP1タンパク質の安定化、UCP1タンパク質の活性化、UCP1遺伝子発現阻害の減少、UCP1活性阻害の減少のうちの1つまたは複数に起因している、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
患者における代謝性疾患を処置するための薬剤の製造における、請求項10に記載の方法または請求項12に記載の方法のいずれかを用いて同定される作用物質の使用。
【請求項15】
前記代謝性疾患が、肥満、体重超過、耐糖能異常、インスリン抵抗性、2型糖尿病、脂質異常症、高血圧症、心血管疾患、またはメタボリックシンドロームのうちの1つである、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
低体温症を予防するための薬剤の製造における、請求項10に記載の方法または請求項12に記載の方法のいずれかを用いて同定される作用物質の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−522534(P2011−522534A)
【公表日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−511627(P2011−511627)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【国際出願番号】PCT/US2009/003217
【国際公開番号】WO2009/151541
【国際公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(510312097)
【出願人】(510312101)
【Fターム(参考)】