説明

ヒトCSF−1Rに対する抗体及びその使用

本発明は、ヒトCSF-1Rに対する抗体(CSF-1R抗体)、それらの生産の方法、前記抗体を含有する薬学的組成物、及びその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトCSF-1Rに対する抗体(CSF-1R抗体)、それらの生産方法、前記抗体を含有する薬学的組成物、及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
CSF-1受容体(CSF-1R;異名:M-CSF受容体;マクロファージコロニー刺激因子1受容体、EC 2.7.10.1、Fms癌原遺伝子、c-fms、Swiss Prot P07333、CD115)は1986年以来知られている(Coussens L., et al., Nature 320(1986) 277-280)。CSF-1Rは増殖因子であり、c-fms癌原遺伝子によってコードされている(例えばRoth, P. and Stanley, E.R., Curr. Top. Microbiol. Immunol. 181 (1992) 141-67に概説される)。
【0003】
CSF-1Rは、M-CSF(マクロファージコロニー刺激因子、CSF-1とも呼ばれる)の受容体であり、このサイトカインの生物学的効果を媒介する(Sherr, C.J., et al., Cell 41 (1985) 665-676)。コロニー刺激因子-1受容体(c-fmsとも呼ばれる)のクローニングは、Roussel, M.F., et al., Nature 325 (1987) 549-552に最初に記載された。その文献公開において、CSF-1Rは、Cblを結合し受容体ダウンレギュレーションを調節する阻害性チロシン969リン酸化の欠如を含むタンパク質のC末端尾部における変化に依存する形質転換能を有することが示された(Lee, P.S., et al., Embo J. 18 (1999) 3616-3628)。
【0004】
CSF-1Rは単鎖の、膜貫通受容体チロシンキナーゼ(RTK)であり、受容体の細胞外部分における反復Igドメインによって特徴付けられるRTKを有する免疫グロブリン(Ig)モチーフのファミリーのメンバーである。細胞内タンパク質チロシンキナーゼドメインは、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)、幹細胞増殖因子受容体(c-Kit)及びfins様サイトカイン受容体(FLT3)を含む他の関連RTKクラスIIIファミリーにも存在する特有な挿入ドメインを挟む。増殖因子受容体のこのファミリー間の構造的相同性にもかかわらず、それらは異なる組織特異的機能を有する。CSF-1Rは、単球系の細胞上及び女性生殖器官及び胎盤に主に発現される。更に、CSF-1Rの発現は、皮膚のランゲルハンス細胞、平滑筋細胞のサブセット(Inaba, T., et al., J. Biol. Chem. 267 (1992) 5693-5699)、B細胞(Baker, A.H., et al., Oncogene 8 (1993) 371-378)及びマイクログリア(Sawada, M., et al., Brain Res. 509 (1990) 119-124)において報告されている。
【0005】
CSF-1Rシグナル伝達の主な生物学的効果は、造血前駆細胞のマクロファージ系(破骨細胞を含む)への分化、増殖、遊走、及び生存である。CSF-1Rの活性化はそのリガンド、M-CSFによって媒介される。CSF-1RへのM-CSFの結合は、ホモ二量体の形成及びチロシンリン酸化によりキナーゼの活性化を誘導する(Stanley, E.R., et al., Mol. Reprod. Dev. 46 (1997) 4-10)。更に、シグナル伝達は、それぞれPI3K/AKT及びRas/MAPK経路に連結するPI3K及びGrb2のp85サブユニットによって媒介される。これらの2つの重要なシグナル伝達経路は、増殖、生存及びアポトーシスを制御する。CSF-1Rのリン酸化細胞内ドメインに結合する他のシグナル伝達分子は、STAT1、STAT3、PLCy、及びCblを含む(Bourette, R.P. and Rohrschneider, L.R., Growth Factors 17 (2000) 155-166)。
【0006】
CSF-1Rシグナル伝達は、免疫反応、骨リモデリング及び生殖器系において生理学的役割を有する。M-CSF-1(Pollard, J.W., Mol. Reprod. Dev. 46 (1997) 54-61)又はCSF-1R(Dai, X.M., et al., Blood 99 (2002) 111-120)どちらかに対するノックアウト動物は、それぞれの細胞タイプにおけるCSF-1Rの役割と一致して大理石骨病性、造血性、組織マクロファージ、及び生殖性表現型を有することが示された。
【0007】
Sherr, C.J. et al., Blood 73 (1989) 1786-1793は、CSF-1活性を阻害するCSF-1Rに対する幾つかの抗体を記載する(Sherr, C.J. et al., Blood 73 (1989) 1786-1793を参照)。Ashum, R.A., et al., Blood 73 (1989) 827-837は、CSF-1R抗体に関する。Lenda, D.M., et al., Journal of immunology 170 (2003) 3254-3262は、腎性炎症の間、低下した管状アポトーシスとなるCSF-1欠損マウスにおける低減されたマクロファージの動員、増殖、及び活性化に関する。Kitaura, H., et al., Journal of dental research 87 (2008) 396-400は、歯の矯正移動を阻害する抗CSF-1抗体に関する。WO2001/030381は、アンチセンスヌクレオチド及び抗体を含むCSF-1活性インヒビターに言及するが、CSF-1アンチセンスヌクレオチドのみを開示する。WO2004/045532は、転移及びM-CSFアンタゴニストによる転移性癌の骨量減少防止及び治療に関し、アンタゴニストとして抗CSF-1抗体のみを開示する。WO2005/046657は、抗CSF-1抗体による炎症性腸疾患の治療に関する。US2002/0141994は、コロニー刺激因子のインヒビターに関する。WO2006/096489は、抗CSF-1抗体による関節リウマチの治療に関する。
【0008】
WO2009/026303及びWO2009/112245は、抗CSF-1R抗体に関する。
【発明の概要】
【0009】
発明は、寄託抗体DSM ACC2921と同じエピトープに結合することを特徴とする、ヒトCSF-1Rに結合する抗体を含む。
【0010】
一実施態様では、抗体は、重鎖可変ドメインCDR3領域として配列番号:1のCDR3領域を含んでなることを特徴とする。
【0011】
一実施態様では、抗体は、
a)重鎖可変ドメインが配列番号:1のCDR3領域、配列番号:2のCDR2領域、及び配列番号:3のCDR1領域を有し、軽鎖可変ドメインが配列番号:4のCDR3領域、配列番号:5のCDR2領域、及び配列番号:6のCDR1領域を有する;又は
b)a)の抗体のCDR移植化、ヒト化又はT細胞欠失化抗体変異体
を特徴とする。
【0012】
一実施態様では、抗体は、
a)重鎖可変ドメインのアミノ酸配列が配列番号:7であり、軽鎖可変ドメインのアミノ酸配列が配列番号:8;又は
b)a)の抗体のCDR移植化、ヒト化又はT細胞欠失化抗体変異体
を含んでなることを特徴とする。
【0013】
一実施態様では、ヒトCSF-1Rに結合し、上記アミノ酸配列及びアミノ酸配列断片に特徴付けられる抗体は、ヒトIgG1サブクラス又はヒトIgG4サブクラスのものである。
【0014】
発明の更なる実施態様は、発明による抗体を含んでなる薬学的組成物である。
【0015】
発明は更に、上記エピトープ結合特性によって、あるいは上記アミノ酸配列及びアミノ酸配列断片によって特徴付けられるヒトCSF-1Rに結合する抗体を含んでなることを特徴とする薬学的組成物を含む。
【0016】
発明は更に、上記エピトープ結合特性によって、あるいは上記アミノ酸配列及びアミノ酸配列断片によって特徴付けられるヒトCSF-1Rに結合する抗体を含んでなることを特徴とする抗体の、薬学的組成物の製造のための使用を含む。
【0017】
発明は更に、上記エピトープ結合特性によって、あるいは上記アミノ酸配列及びアミノ酸配列断片によって特徴付けられるヒトCSF-1Rに結合する抗体を含んでなることを特徴とする抗体の、CSF-1R媒介疾患の治療のための使用を含む。
【0018】
発明は更に、上記エピトープ結合特性によって、あるいは上記アミノ酸配列及びアミノ酸配列断片によって特徴付けられるヒトCSF-1Rに結合する抗体を含んでなることを特徴とする抗体の、癌の治療のための使用を含む。
【0019】
発明は更に、上記エピトープ結合特性によって、あるいは上記アミノ酸配列及びアミノ酸配列断片によって特徴付けられるヒトCSF-1Rに結合する抗体を含んでなることを特徴とする抗体の、骨量減少の治療のための使用を含む。
【0020】
発明は更に、上記エピトープ結合特性によって、あるいは上記アミノ酸配列及びアミノ酸配列断片によって特徴付けられるヒトCSF-1Rに結合する抗体を含んでなることを特徴とする抗体の、転移防止又は治療のための使用を含む。
【0021】
発明は更に、上記エピトープ結合特性によって、あるいは上記アミノ酸配列及びアミノ酸配列断片によって特徴付けられるヒトCSF-1Rに結合する抗体を含んでなることを特徴とする抗体の、炎症性疾患の治療のための使用を含む。
【0022】
発明の一態様は、重鎖可変ドメインCDR3領域として配列番号:1のCDR3領域を含んでなることを特徴とする、ヒトCSF-1Rに結合する抗体である。
【0023】
発明の別の態様は、
a)重鎖可変ドメインが配列番号:1のCDR3領域、配列番号:2のCDR2領域、及び配列番号:3のCDR1領域を有し、軽鎖可変ドメインが配列番号:4のCDR3領域、配列番号:5のCDR2領域、及び配列番号:6のCDR1領域を有する;又は
b)a)の抗体のCDR移植化、ヒト化又はT細胞欠失化抗体変異体
を特徴とするヒトCSF-1Rに結合する抗体。
【0024】
一実施態様では、抗体は、
a)重鎖可変ドメインのアミノ酸配列が配列番号:7であり、軽鎖可変ドメインのアミノ酸配列が配列番号:8;又は
b)a)の抗体のCDR移植化、ヒト化又はT細胞欠失化抗体変異体
を含んでなることを特徴とする。
【0025】
発明の一態様では、発明による抗体は、少なくとも10−8mol/l〜10−12mol/lの親和性でヒトCSF-1Rに結合する。
【0026】
発明の一態様では、発明による抗体は、ヒト化抗体である。
【0027】
発明の更なる実施態様は、発明による抗体の重鎖可変ドメイン及び/又は軽鎖可変ドメインをコードする核酸である。好ましくは、核酸は、重鎖CDR3領域として配列番号:1のCDR3領域を含んでなることを特徴とする、ヒトCSF−1Rに結合する抗体の重鎖をコードする。
【0028】
発明の更なる実施態様は、
a)重鎖可変ドメインが配列番号:1のCDR3領域、配列番号:2のCDR2領域、及び配列番号:3のCDR1領域を有し、軽鎖可変ドメインが配列番号:4のCDR3領域、配列番号:5のCDR2領域、及び配列番号:6のCDR1領域を有する;又は
b)a)の抗体のCDR移植化、ヒト化又はT細胞欠失化抗体変異体
を特徴とする発明による抗体をコードしている核酸。
【0029】
発明は更に、発明による核酸を有する発現ベクターであって、原核生物又は真核生物宿主細胞において前記核酸を発現可能なベクター、及びかかる抗体の組換え生産のためのかかるベクターを有する宿主細胞を提供する。
【0030】
発明は更に、発明によるベクターを含んでなる原核生物又は真核生物宿主細胞を含む。
【0031】
発明は更に、本発明による組換えヒト化抗体の生産方法であって、原核生物又は真核生物宿主細胞における本発明による核酸の発現、及び前記細胞又は細胞培養上清からの前記抗体の回収を特徴とする方法を含む。発明は更に、このような組換え方法によって入手可能な抗体を含む。
【0032】
発明による抗体は、CSF-1R標的治療を必要としている患者に対する利益を示す。発明による抗体は、腫瘍疾患、特に癌を患っている患者に利益をもたらす新規な発明的特性を有する。
【0033】
発明は更に、癌を患っている患者の治療方法であって、このような疾患を有していると診断された(従って、このような療法を必要としている)患者に、発明による、ヒトCSF-1Rに結合する有効量の抗体を投与することを含んでなる方法を提供する。抗体は、好ましくは薬学的組成物において投与される。
【0034】
発明の更なる実施態様は、発明による抗体を患者に投与することを特徴とする、癌を患っている患者の治療方法である。
【0035】
発明は更に、癌を患っている患者の治療のための、及び発明による薬学的組成物の製造のための、本発明による抗体の使用を含む。更に、発明は、発明による薬学的組成物の製造方法を含む。
【0036】
発明は更に、発明による抗体を、場合によっては薬学的目的に対する抗体の製剤に有用なバッファー及び/又はアジュバントと共に含んでなる薬学的組成物を含む。
【0037】
発明は更に、薬学的に許容可能な担体中における発明による抗体を含んでなる薬学的組成物を提供する。一実施態様では、薬学的組成物は、製造品又はキットに含まれうる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】10μg/mlの濃度の異なる抗CSF-1Rモノクローナル抗体での処理による、3D培養におけるBeWo腫瘍細胞の増殖阻害。X軸:細胞のATP量に対応する生存平均相対発光量(RLU)(CellTiterGloアッセイ)。Y軸:試験プローブ:最少培地(0.5%FBS)、マウスIgG1(mIgG1,10μg/ml)、マウスIgG2a(mIgG2a 10μg/ml)、CSF-1のみ、<CSF-1R>7G5.3B6、及びSC-02、クローン2-4A5。CSF-1誘発増殖の最も高い阻害は、発明による抗CSF-1R抗体に観察された。
【0039】
(発明の詳細な説明)
I.定義
「抗体」なる用語は、様々な形態の抗体を包含し、限定するものではないが、全体抗体、抗体断片、ヒト化抗体、キメラ抗体、T細胞エピトープ欠失抗体、及び発明による特性が保持されるならば、更なる遺伝子組み換え抗体を含む。
【0040】
「抗体断片」とは、完全長抗体の一部を含み、好ましくはその可変ドメイン、又は少なくともその抗原結合部位を含む。抗体断片の例は、ダイアボディ、単鎖抗体分子、及び抗体断片から形成される多重特異性抗体を含む。scFv抗体は、例えばHuston, J.S., Methods in Enzymol. 203 (1991) 46-88)に記載されている。更に、抗体断片は、機能的抗原結合部位に、CSF-1Rに結合するVドメインの特性(すなわちVドメインと組み合わさることが可能)、又はCSF-1Rに結合するVドメインの特性(すなわちVドメインと組み合わさることが可能)を有する単鎖ポリペプチドを含み、これにより特性を与える。
【0041】
「モノクローナル抗体」又は「モノクローナル抗体組成物」なる用語は、ここで使用される場合、単一アミノ酸組成である抗体分子の調製物を指す。
【0042】
「キメラ抗体」なる用語は、マウスからの可変領域、すなわち結合領域、及び異なる共有源又は種由来の定常領域の少なくとも一部を含んでなるモノクローナル抗体を指し、通常、組換えDNA技術によって調製される。マウス可変領域及びヒト定常領域を含んでなるキメラ抗体が特に好ましい。このようなラット/ヒトキメラ抗体は、ラット免疫グロブリン可変領域をコードするDNAセグメント、及びヒト免疫グロブリン定常領域をコードするDNAセグメントを含んでなる免疫グロブリン遺伝子の発現産物である。本発明に包含される「キメラ抗体」の他の形態は、クラス又はサブクラスが元の抗体の形態から修飾又は変更されたものである。このような「キメラ」抗体は、「クラススイッチ抗体」とも呼ばれる。キメラ抗体の生産方法は、一般的な組換えDNA及び現在当分野でよく知られている遺伝子トランスフェクション技術を含む。例えば、Morrison, S.L., et al., Proc. Natl. Acad Sci. USA 81 (1984) 6851-6855;US5,202,238及びUS5,204,244を参照のこと。
【0043】
「CDR移植変異体」なる用語は、本出願において使用される場合、一共有源又は種からの相補性決定領域(CDR又は超可変領域)、及び異なる共有源又は種からのフレームワーク領域(FR)を含んでなる抗体の可変ドメインを意味し、通常、組換えDNA技術によって調製される。マウスCDR及びヒトFRを含んでなる可変ドメインのCDR移植変異体が好ましい。
【0044】
「T細胞エピトープ欠失変異体」なる用語は、本出願において使用される場合、ヒトT細胞エピトープ(MHCクラスII分子に結合する能力を有する可変ドメイン内のペプチド配列)を除去することにより、免疫原性を除去又は低減するように改変された抗体の可変ドメインを意味する。この方法により、可変ドメインのアミノ酸側鎖及びMHCクラスII結合溝を有する特異的結合ポケット間の相互作用が同定される。同定された免疫原性領域はは、免疫原性を除去するために変異される。このような方法は、例えばWO98/52976に一般的に記載されている。
【0045】
「ヒト化変異体」なる用語は、本出願において使用される場合、非ヒト起源、例えば非ヒト種の相補性決定領域(CDR)、及びヒト起源のフレームワーク領域(FR)から再構成され、また元の非ヒト可変ドメインの結合親和性及び特異性を再構成又は改善するために更に改変された抗体の可変ドメインを意味する。このようなヒト化変異体は通常、組換えDNA技術によって調製される。親非ヒト可変ドメインの親和性及び特異性の再構成は重要な工程であり、それに対し異なる方法が現在使用されている。一方法では、非ヒトCDR並びにヒトFRに、いわゆる逆突然変異なる変異を導入することが有益かどうかが決定される。このような逆突然変異に適した位置は、例えば配列又は相同性解析によって、ヒトフレームワークを選択することによって(固定化フレームワークアプローチ;相同性マッチング、又はベストフィット)、コンセンサス配列を使用することによって、幾つかの異なるmAbからFRを選択することによって、又は3次元表面において非ヒト残基をヒトmAbに見られる最も一般的な残基と置換することによって(“resurfacing”又は“veneering”)、同定されうる。
【0046】
発明による抗体は更に、発明による抗体の上記特性に影響しない又は変更しない「保存配列修飾」、ヌクレオチド及びアミノ酸配列修飾を有する抗体を含む。改変は当分野で知られている標準的な技術、例えば部位特異的変異誘発及びPCR変異誘発によって導入されることができる。保存アミノ酸置換は、アミノ酸残基が、類似な側鎖を有するアミノ酸残基で置換されるものを含む。類似な側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは当分野で定義されている。これらのファミリーは、塩基性側鎖(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、ベータ分岐側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)及び芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸を含む。このように、ヒト抗CSF-1R抗体における予測非必須アミノ酸残基は、好ましくは同じ側鎖ファミリーからの別のアミノ酸残基で置換される。
【0047】
アミノ酸置換は、Riechmann, L., et al., Nature 332 (1988) 323-327 and Queen, C., et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86 (1989) 10029-10033に記載される分子モデリングに基づく変異誘発によって実施されうる。
【0048】
「CSF-1」成る用語は、ここで使用される場合、ヒトCSF-1R(配列番号:15)を指し、CSF-1R(異名:CSF-1受容体M-CSF受容体;マクロファージコロニー刺激因子1受容体、EC 2.7.10.1、Fms癌原遺伝子、c-fms、Swiss Prot P07333、CD115)は、1986年以来知られている(Coussens L., et al., Nature 320 (1986) 277-280)。CSF-1Rは増殖因子であり、c-fms癌原遺伝子によってコードされている(例えばRoth, P. and Stanley, E.R., Curr. Top. Microbiol. Immunol. 181 (1992) 141-67に概説される)。
【0049】
CSF-1Rは、M-CSF(マクロファージコロニー刺激因子、CSF-1とも呼ばれる)の受容体であり、このサイトカインの生物学的効果を媒介する(Sherr, C.J., et al., Cell 41 (1985) 665-676)。コロニー刺激因子-1受容体(c-fmsとも呼ばれる)のクローニングは、Roussel, M., F., et al., Nature 325 (1987) 549-552に最初に記載された。その文献公開において、CSF-1Rは、Cblを結合し受容体ダウンレギュレーションを調節する阻害性チロシン969リン酸化の欠如を含むタンパク質のC末端尾部における変化に依存する形質転換能を有することが示された(Lee, P.S., et al., Embo J. 18 (1999) 3616-3628)。
【0050】
CSF-1Rは単鎖の、膜貫通受容体チロシンキナーゼ(RTK)であり、受容体の細胞外部分における反復Igドメインによって特徴付けられるRTKを有する免疫グロブリン(Ig)モチーフのファミリーのメンバーである。細胞内タンパク質チロシンキナーゼドメインは、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)、幹細胞増殖因子受容体(c-Kit)及びfins様サイトカイン受容体(FLT3)を含む他の関連RTKクラスIIIファミリーにも存在する特有な挿入ドメインを挟む。増殖因子受容体のこのファミリー間の構造的相同性にもかかわらず、それらは異なる組織特異的機能を有する。CSF-1Rは、単球系の細胞上及び女性生殖器官及び胎盤に主に発現される。更に、CSF-1Rの発現は、皮膚のランゲルハンス細胞、平滑筋細胞のサブセット(Inaba, T., et al., J. Biol. Chem. 267 (1992) 5693-5699)、B細胞(Baker, A.H., et al., Oncogene 8 (1993) 371-378)及びマイクログリア(Sawada, M., et al., Brain Res. 509 (1990) 119-124)において報告されている。
【0051】
ここで使用される場合、「ヒトCSF-1Rへの結合」、又は「ヒトCSF-1Rに結合する」又は「抗CSF-1R」なる用語は互換可能に使用され、ヒトCSF-1R抗原に特異的に結合する抗体を指す。結合親和性は、35°Cで1.0x10−8mol/l以下のKD値、好ましくは、35°Cで1.0x10−9mol/l以下のKD値である。結合親和性は標準的な結合アッセイ、例えば表面プラズモン共鳴法(Biacore(登録商標))を用いて決定される(実施例4を参照)。
【0052】
「エピトープ」なる用語は、抗体に特異的に結合することが可能なタンパク質決定因子を意味する。エピトープは、化学的に活性な表面分子群、例えばアミノ酸又は糖側鎖から通常成り、通常エピトープは特異的な三次元構造特性、並びに特異的な荷電特性を有する。コンホメーション及び非コンホメーションエピトープは、変性溶媒の存在において、後者ではなく、前者への結合が失われることにおいて区別される。好ましくは、発明による抗体は、天然CSF-1Rに特異的に結合するが変性CSF-1Rには結合しない。
【0053】
「寄託抗体DSM ACC2921と同じエピトープに結合する」なる用語は、ここで使用される場合、抗体<CSF-1R>7G5.3B6(寄託番号DSM ACC2921)が結合する、CSF-1R上の同じエピトープに結合する発明の抗CSF-1R抗体を指す。本発明の抗CSF-1R抗体のエピトープ結合特性は、当分野で知られている技術を使用して決定されうる。CSF-1R抗体は、インビトロ競合結合阻害アッセイにおいて表面プラズモン共鳴(SPR)によって25°Cで測定され、CSF-1Rへの抗体<CSF-1R>7G5.3B6(寄託番号DSM ACC2921)の結合を阻害する試験抗体の能力が決定される。これは、例えば実施例5に示すように、BIAcoreアッセイ(Pharmacia Biosensor AB, Uppsala, Sweden)によって調査されることができる。実施例5では、結合された抗体<CSF-1R>7G5.3B6(寄託番号DSM ACC2921)と競合する発明のCSF-1R抗体の予測結合反応のパーセンテージ(%)を、「100 * relativeResponse(general_stability_early) / rMax」によって算出し、ここでrMaxは、BIAcoreアッセイエピトープマッピングの説明に記載されるように「relativeResponse(general_stability_late) * 抗体分子量 / 抗原分子量」によって算出される。最小結合反応は、同一抗体1及び2の対からも算出される(実施例5を参照)。そこから、得られた最大値+100%、好ましくは50%が、有意な競合、すなわち同じエピトープへの有意な結合、に対する閾値として設定される(実施例5を参照。抗体<CSF-1R>7G5.3B6に対して算出された閾値は3+3=6、好ましくは3+1.5=4.5である)。このように、「<CSF-1R>7G5.3B6(寄託番号DSM ACC2921)と同じエピトープに結合する」ことを特徴とする、ヒトCSF-1Rに結合する抗体は、6未満、好ましくは4.5未満の予測結合反応のパーセンテージ(%)を有する(%予測結合反応<6、好ましくは<4.5)。
【0054】
一態様では、発明による抗体は、ヒトCSF-1Rへの結合について、寄託抗体DSM ACC2921と競合する。このような競合結合は、当分野で知られている技術を使用して決定されうる。CSF-1R抗体は、インビトロ競合結合阻害アッセイにおいて表面プラズモン共鳴(SPR)によって25°Cで測定され、ヒトCSF-1Rへの抗体<CSF-1R>7G5.3B6(寄託番号DSM ACC2921)の結合を阻害する試験抗体の能力が決定される。これは、例えば実施例5に示すように、BIAcoreアッセイ(Pharmacia Biosensor AB, Uppsala, Sweden)によって調査されることができる。
【0055】
ここで使用される「可変ドメイン」(軽鎖の可変ドメイン(V)、重鎖の可変ドメイン(V))は、抗原への抗体の結合に直接関与している軽鎖及び重鎖ドメイン対のそれぞれを示す。軽鎖及び重鎖ドメインは同じ一般構造を有し、各ドメインは、その配列が広範囲に保存され、3つの「高頻度可変領域」(又は相補性決定領域、CDR)により結合されている4つのフレームワーク(FR)領域を含む。フレームワーク領域はβシート立体構造を採り、CDRはβシート構造を連結するループを形成しうる。各鎖のCDRは、フレームワーク領域によりその3次元構造で保持され、他の鎖のCDRと共に抗原結合部位を形成する。抗体の重鎖及び軽鎖CDR3領域は、本発明に係る抗体の結合特異性/親和性において特に重要な役割を担っており、よって本発明の更なる目的を提供する。
【0056】
ここで使用される場合、「抗体の抗原結合部分」なる用語は、抗原結合の原因となる抗体のアミノ酸残基を意味する。抗体の抗原結合部分は、「相補性決定領域」又は「CDR」からのアミノ酸残基を含む。「フレームワーク」又は「FR」領域は、ここで定められる高頻度可変領域残基以外の可変ドメイン領域である。よって、抗体の軽鎖及び重鎖可変ドメインは、N末端からC末端へ、ドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4を含む。特に、重鎖のCDR3は、抗原結合に最も寄与し、抗体の特性を定める領域である。CDR及びFR領域は、Kabat, E.A.等, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5版, Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991) の標準的定義に従い決定され、及び/又は「高頻度可変ループ」からの残基である。
【0057】
ここで使用される「核酸」又は「核酸分子」なる用語は、DNA分子及びRNA分子を含むことを意図している。核酸分子は一本鎖又は二本鎖であってよいが、好ましくは二本鎖DNAである。
この出願中において使用される「アミノ酸」なる用語は、アラニン(3文字コード:ala、1文字コード:A)、アルギニン(arg、R)、アスパラギン(asn、N)、アスパラギン酸(asp、D)、システイン(cys、C)、グルタミン(gln、Q)、グルタミン酸(glu、E)、グリシン(gly、G)、ヒスチジン(his、H)、イソロイシン(ile、I)、ロイシン(leu、L)、リジン(lys、K)、メチオニン(met、M)、フェニルアラニン(phe、F)、プロリン(pro、P)、セリン(ser、S)、スレオニン(thr、T)、トリプトファン(trp、W)、チロシン(tyr、Y)、及びバリン(val、V)を含む天然に生じるカルボキシα-アミノ酸の群を示す。
【0058】
「イムノコンジュゲート」は、限定しないが細胞傷害剤を含む一又は複数の異種性分子にコンジュゲートした抗体である。
「個体」又は「被験体」は哺乳動物である。哺乳動物は、これに限定されないが、家畜化動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、及びウマ)、霊長類(例えばヒト及び非ヒト霊長類、例えばサル)、ウサギ、及び齧歯類(例えばマウス及びラット)を含む。ある実施態様では、個体又は被験体はヒトである。
【0059】
「単離された」抗体とは、その自然環境の成分から分離されたものである。ある実施態様では、抗体は、例えば電気泳動(例えばSDS-PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動)又はクロマトグラフィー(例えばイオン交換又は逆相HPLC)によって決定して95%又は99%より大きい純度まで精製される。抗体純度の評価法法の概説については、例えばFlatman等, J. Chromatogr. B 848:79-87 (2007)を参照のこと。
「単離された」核酸は、その自然環境の成分から分離された核酸分子を意味する。単離された核酸は、通常は核酸分子を含む細胞に含まれる核酸分子を含むが、核酸分子は、染色体外にあるいはその天然の染色体位置とは異なる染色体位置に存在する。
「抗CSF-1R抗体をコードする単離された核酸」は、抗体重鎖及び軽鎖(又はその断片)をコードする一又は複数の核酸分子を意味し、単一のベクター又は別個のベクター中のそのような核酸、及び宿主細胞の一又は複数の位置に存在する核酸分子を含む。
【0060】
「天然抗体」は様々な構造を有する天然に生じる免疫グロブリン分子を意味する。例えば、天然IgG抗体は、ジスルフィド結合した二つの同一の軽鎖及び二つの同一の重鎖からなる約150000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端に向けて、各重鎖は、3つの定常ドメイン(CH1,CH2,及びCH3)が続く可変重鎖ドメイン又は重鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VH)を有している。同様に、N末端からC末端に向けて、各軽鎖は、定常軽鎖(CL)ドメインが続く可変軽鎖ドメイン又は軽鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VL)を有している。抗体の軽鎖には、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づき、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる二つのタイプのうち一つをあてがうことができる。
【0061】
「パッケージ挿入物」なる用語は、適応症、用法、用量、投与法、併用療法、禁忌及び/又はこのような治療用製品の使用に関する注意についての情報を含む、治療用製品の市販パッケージに常套的に含まれる指示を意味するために使用される。
【0062】
参照ポリペプチド配列に対する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」は、配列を整列させ、最大のパーセント配列同一性を達成するために必要ならば間隙を導入し、如何なる保存的置換も配列同一性の一部と考えないとした、参照ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセントとして定義される。パーセントアミノ酸配列同一性を決定する目的のためのアラインメントは、例えば公に利用できるコンピュータソフトウェア、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアを使用して、当業者の技量の範囲にある様々な方法で達成することができる。当業者であれば、比較されている配列の完全長に対して最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列をアラインメントするための適切なパラメータを決定することができる。しかしながら、ここでの目的のためには、パーセントアミノ酸配列同一性値は、配列比較コンピュータプログラムALIGN-2を使用して得られる。ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムは、ジェネンテック社によって著作され、そのソースコードが米国著作権庁、ワシントンD.C.,20559に使用者用書類と共に提出され、米国著作権登録番号TXU510087の下で登録されている。ALIGN-2プログラムはジェネンテック社、サウスサンフランシスコ、カリフォルニアから公的に入手可能であるか、又はソースコードからコンパイルすることができる。ALIGN-2プログラムは、デジタルUNIX V4.0Dを含むUNIXオペレーティングシステムで使用するようにコンパイルされなければならない。全ての配列比較パラメータは、ALIGN-2プログラムによって設定され、変動しない。
【0063】
アミノ酸配列比較にALIGN-2が用いられる状況では、与えられたアミノ酸配列Aの、与えられたアミノ酸配列Bとの、又はそれに対する%アミノ酸配列同一性(あるいは、与えられたアミノ酸配列Bと、又はそれに対してある程度の%アミノ酸配列同一性を持つ又は含む与えられたアミノ酸配列Aと言うこともできる)は次のように計算される:
分率X/Yの100倍
ここで、Xは配列アラインメントプログラムALIGN-2のA及びBのアラインメントによって同一であると一致したスコアのアミノ酸残基の数であり、YはB中の全アミノ酸残基数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと異なる場合、AのBに対する%アミノ酸配列同一性は、BのAに対する%アミノ酸配列同一性とは異なることは理解されるであろう。特に別の定義がなされない限り、ここで使用される全ての%アミノ酸配列同一性は、ALIGN-2コンピュータプログラムを使用して直ぐ前の段落に記載されたようにして得られる。
【0064】
II.組成物及び方法
一態様では、発明は、一つには、寄託抗体DSM ACC2921と同じエピトープに基づく。発明の抗体は、例えば、癌の、炎症性疾患の又は骨量減少の診断又は治療に対し;又は転移の防止又は治療に対し有用である。
【0065】
例示的抗CSF-1R抗体
一態様では、発明は、ヒトCSF-1Rに結合する抗体を提供する。ある実施態様では、抗CSF-1R抗体は、寄託抗体DSM ACC2921と同じエピトープに結合することを特徴とする。
【0066】
発明の別の態様は、
a)重鎖可変ドメインが配列番号:1のCDR3領域、配列番号:2のCDR2領域、及び配列番号:3のCDR1領域を有し、軽鎖可変ドメインが配列番号:4のCDR3領域、配列番号:5のCDR2領域、及び配列番号:6のCDR1領域を有する;又は
b)a)の抗体のCDR移植化、ヒト化又はT細胞欠失化抗体変異体
を特徴とするヒトCSF-1Rに結合する抗体である。
【0067】
発明の別の態様は、ヒトCSF-1Rに結合する抗体であって、
a)重鎖可変ドメインが配列番号:1のCDR3領域、配列番号:2のCDR2領域、及び配列番号:3のCDR1領域を有し、軽鎖可変ドメインが配列番号:4のCDR3領域、配列番号:5のCDR2領域、及び配列番号:6のCDR1領域を有する;又は
b)a)の抗体のCDR移植化、ヒト化又はT細胞欠失化抗体変異体
を特徴とし、
一又は複数の次の特性を有する(実施例2、3、4、6、7及び8に記載されるアッセイにおいて決定される):
− 抗CSF-1R抗体が、CSF-1がCSF-1Rに結合するのを25ng/ml以下のIC50、一実施態様では、20ng/ml以下のIC50で阻害する;
− 抗CSF-1R抗体が、CSF-1誘発CSF-1Rリン酸化(NIH3T3-CSF-1R組換え細胞において)を、100ng/ml以下のIC50、一実施態様では、50ng/ml以下のIC50で阻害する;
− 抗CSF-1R抗体が、ヒトCSF-1R(配列番号:15)を発現する組換えNIH3T3細胞の増殖を、80%以上(抗体の不在と比較して)、好ましくは90%以上阻害する;
− 抗CSF-1R抗体が、BeWo腫瘍細胞(ATCC CCL-98)の増殖を、80%以上(10μg/mlの抗体濃度で;抗体の不在と比較して)、好ましくは90%以上阻害する;
− 抗CSF-1R抗体がマクロファージの、分化を阻害する(一実施態様では、抗CSF-1R抗体は単球の生存を1.5nM以下のIC50で、好ましくは1.0nM以下のIC50で阻害する);又は
− 抗CSF-1R抗体が、ヒトCSF-1Rに、35°Cで、KD=1.0x10−9mol/l以下の結合親和性で結合する。
【0068】
別の態様では、発明による抗CSF-1R抗体は、重鎖可変ドメイン(VH)配列に、a)配列番号:3と同一か、又は配列番号:3と比較して1、2、又は3のアミノ酸残基置換を含んでなるアミノ酸配列を有するCDR1H、b)配列番号:2と同一か、又は配列番号:2と比較して1、2、又は3のアミノ酸残基置換を含んでなるアミノ酸配列を有するCDR2H及びc)配列番号:1と同一か、又は配列番号:1と比較して1、2、又は3のアミノ酸残基置換を含んでなるアミノ酸配列を有するCDR3Hを有する。
【0069】
ある実施態様では、a)配列番号:3と同一か、又は配列番号:3と比較して1、2、又は3のアミノ酸残基置換を含んでなるアミノ酸配列を有するCDR1H、b)配列番号:2と同一か、又は配列番号:2と比較して1、2、又は3のアミノ酸残基置換を含んでなるアミノ酸配列を有するCDR2H、及びc)配列番号:1と同一か、又は配列番号:1と比較して1、2、又は3のアミノ酸残基置換を含んでなるアミノ酸配列を有するCDR3Hを含んでなる重鎖可変ドメイン(VH)配列は、基準配列と比較して、置換(例えば、保存的置換)、挿入、又は欠失を有するが、その配列を含んでなる抗CSF-1R抗体はCSF-1Rに結合する能力を保持する。
【0070】
別の態様では、発明による抗CSF-1R抗体は、軽鎖可変ドメイン(VL)配列に、a)配列番号:6と同一か、又は配列番号:6と比較して1、2、又は3のアミノ酸残基置換を含んでなるアミノ酸配列を有するCDR1L、b)配列番号:5と同一か、又は配列番号:5と比較して1、2、又は3のアミノ酸残基置換を含んでなるアミノ酸配列を有するCDR2L及びc)配列番号:4と同一か、又は配列番号:4と比較して1、2、又は3のアミノ酸残基置換を含んでなるアミノ酸配列を有するCDR3Lを有する。
【0071】
ある実施態様では、a)配列番号:6と同一か、又は配列番号:6と比較して1、2、又は3のアミノ酸残基置換を含んでなるアミノ酸配列を有するCDR1L、b)配列番号:5と同一か、又は配列番号:5と比較して1、2、又は3のアミノ酸残基置換を含んでなるアミノ酸配列を有するCDR2L、及びc)配列番号:4と同一か、又は配列番号:4と比較して1、2、又は3のアミノ酸残基置換を含んでなるアミノ酸配列を有するCDR3Lを含んでなる軽鎖可変ドメイン(VL)配列は、基準配列と比較して、置換(例えば、保存的置換)、挿入、又は欠失を有するが、その配列を含んでなる抗CSF-1R抗体はCSF-1Rに結合する能力を保持する。
【0072】
別の態様では、発明による抗CSF-1R抗体は、
− 重鎖可変ドメイン(VH)配列に、a)配列番号:3と同一か、又は配列番号:3と比較して1、2、又は3のアミノ酸残基置換を含んでなるアミノ酸配列を有するCDR1H、b)配列番号:2と同一か、又は配列番号:2と比較して1、2、又は3のアミノ酸残基置換を含んでなるアミノ酸配列を有するCDR2H、及びc)配列番号:1と同一か、又は配列番号:1と比較して1、2、又は3のアミノ酸残基置換を含んでなるアミノ酸配列を有するCDR3Hを含み、軽鎖可変ドメイン(VL)配列に、d)配列番号:6と同一か、又は配列番号:6と比較して1、2、又は3のアミノ酸残基置換を含んでなるアミノ酸配列を有するCDR1L、e)配列番号:5と同一か、又は配列番号:5と比較して1、2、又は3のアミノ酸残基置換を含んでなるアミノ酸配列を有するCDR2L、及びf)配列番号:4と同一か、又は配列番号:4と比較して1、2、又は3のアミノ酸残基置換を含んでなるアミノ酸配列を有するCDR3Lを含む。
【0073】
別の態様では、発明による抗CSF-1R抗体は、
− 重鎖可変ドメイン(VH)配列に、a)配列番号:3と同一か、又は配列番号:3と比較して1、2、又は3のアミノ酸残基置換を含んでなるアミノ酸配列を有するCDR1H、b)配列番号:2と同一か、又は配列番号:2と比較して1、2、又は3のアミノ酸残基置換を含んでなるアミノ酸配列を有するCDR2H、及びc)配列番号:1と同一か、又は配列番号:1と比較して1、2、又は3のアミノ酸残基置換を含んでなるアミノ酸配列を有するCDR3Hを含み、軽鎖可変ドメイン(VL)配列に、d)配列番号:6と同一か、又は配列番号:6と比較して1、2、又は3のアミノ酸残基置換を含んでなるアミノ酸配列を有するCDR1L、e)配列番号:5と同一か、又は配列番号:5と比較して1、2、又は3のアミノ酸残基置換を含んでなるアミノ酸配列を有するCDR2L、及びf)配列番号:4と同一か、又は配列番号:4と比較して1、2、又は3のアミノ酸残基置換を含んでなるアミノ酸配列を有するCDR3Lを含み;
抗CSF-1R抗体は、一又は複数の次の特性を有する(実施例2、3、4、6、7及び8に記載されるアッセイにおいて決定される):
− 抗CSF-1R抗体が、CSF-1がCSF-1Rに結合するのを25ng/ml以下のIC50、一実施態様では、20ng/ml以下のIC50で阻害する;
− 抗CSF-1R抗体が、CSF-1誘発CSF-1Rリン酸化(NIH3T3-CSF-1R組換え細胞において)を、100ng/ml以下のIC50、一実施態様では、50ng/ml以下のIC50で阻害する;
− 抗CSF-1R抗体が、ヒトCSF-1R(配列番号:15)を発現する組換えNIH3T3細胞の増殖を、80%以上(抗体の不在と比較して)、好ましくは90%以上阻害する;
− 抗CSF-1R抗体が、BeWo腫瘍細胞(ATCC CCL-98)の増殖を、80%以上(10μg/mlの抗体濃度で;抗体の不在と比較して)、好ましくは90%以上阻害する;
− 抗CSF-1R抗体がマクロファージの、分化を阻害する(一実施態様では、抗CSF-1R抗体は単球の生存を1.5nM以下のIC50で、好ましくは1.0nM以下のIC50で阻害する);又は
− 抗CSF-1R抗体が、ヒトCSF-1Rに、35°Cで、KD=1.0x10−9mol/l以下の結合親和性で結合する。
【0074】
組換え方法及び組成物
発明による抗体は、好ましくは組換え手段によって生産される。このような方法は当分野の水準で広く知られており、原核生物及び真核生物細胞におけるタンパク質発現、及びその後の抗体ポリペプチドの単離、そして通常は薬学的に許容可能な純度までの精製を含む。タンパク質発現については、軽及び重鎖をコードする核酸又はその断片が、標準的な方法によって発現ベクターに挿入される。発現は、適切な原核生物又は真核生物宿主細胞、例えばCHO細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、HEK293細胞、COS細胞、酵母、又は大腸菌細胞において実施され、抗体が該細胞から回収される(上澄みから又は細胞溶解後に)。
【0075】
抗体の組換え生産は当分野の水準においてよく知られており、例えば、Makrides, S.C., Protein Expr. Purif. 17 (1999) 183-202; Geisse, S., et al., Protein Expr. Purif. 8 (1996) 271-282; Kaufman, R.J., Mol. Biotechnol. 16 (2000) 151-161; Werner, R.G., Drug Res. 48 (1998) 870-880の総説に記載されている。
【0076】
抗体は、全細胞において、細胞溶解において、又は部分的に精製された、又は実質的に純粋な形態において存在しうる。精製は、アルカリ/SDS処理、CsClバンド形成、カラムクロマトグラフィー、アガロースゲル電気泳動及び当分野でよく知られている他のものを含む、標準的な技術によって、他細胞成分又は他の混入物、例えば他細胞核酸又はタンパク質を除去するために実施される。Ausubel, F., et al., ed. Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing and Wiley Interscience, New York (1987)を参照のこと。
【0077】
NS0細胞における発現は、例えばBarnes, L.M., et al., Cytotechnology 32 (2000) 109-123; Barnes, L.M., et al., Biotech. Bioeng. 73 (2001) 261-270に記載されている。一過性発現は、例えばDurocher, Y., et al., Nucl. Acids. Res. 30 (2002) E9に記載されている。可変ドメインのクローニングは、Orlandi, R., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86 (1989) 3833-3837; Carter, P., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89 (1992) 4285-4289; Norderhaug, L., et al., J. Immunol. Methods 204 (1997) 77-87に記載されている。好ましい一過性発現システム(HEK 293)は、Schlaeger, E.-J., Christensen, K., in Cytotechnology 30 (1999) 71-83, and by Schlaeger, E.-J., in J. Immunol. Methods 194 (1996) 191-199に記載されている。
【0078】
原核生物に適したコントロール配列は、例えば、プロモーター、場合によってはオペレーター配列、及びリボソーム結合部位を含む。真核生物細胞は、プロモーター、エンハンサー及びポリアデニル化シグナルを利用することが知られている。
【0079】
核酸は、他の核酸配列と機能的な関係にあるときに「作用可能に結合し」ている。例えば、プレ配列あるいは分泌リーダーのDNAは、ポリペプチドの分泌に参画するプレタンパク質として発現されているなら、そのポリペプチドのDNAに作用可能に結合している;プロモーター又はエンハンサーは、配列の転写に影響を及ぼすならば、コード配列に作用可能に結合している;又はリボソーム結合部位は、もしそれが翻訳を容易にするような位置にあるなら、コード配列と作用可能に結合している。一般的に、「作用可能に結合している」とは、結合したDNA配列が近接しており、分泌リーダーの場合には近接していて読みフェーズにあることを意味する。しかし、エンハンサーは必ずしも近接している必要はない。結合は簡便な制限部位でのライゲーションにより達成される。そのような部位が存在しない場合は、従来の手法に従って、合成オリゴヌクレオチドアダプターあるいはリンカーが使用される。
【0080】
モノクローナル抗体は、一般的な免疫グロブリン精製手順、例えば、プロテインA-セファロース、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、又はアフィニティークロマトグラフィーなどによって、培養培地から適切に分離される。モノクローナル抗体をコードしているDNA及びRNAは、一般的な手順を使用して容易に単離及び配列決定される。ハイブリドーマ細胞は、このようなDNA及びRNAの供給源として利用できる。一旦単離されたら、DNAは発現ベクターに挿入され得、次いでそれは宿主細胞、例えば、免疫グロブリンタンパク質を他に産生しない、HEK 293細胞、CHO細胞、又は骨髄腫細胞にトランスフェクトされ、宿主細胞において組換えモノクローナル抗体の合成を得る。
【0081】
抗CSF-1R抗体のアミノ酸配列変異体をコードする核酸分子は、当分野で知られている様々な方法によって調製される。これらの方法は、限定するものではないが、天然供給源からの単離(自然発生的なアミノ酸配列変異体の場合)又は先に調製されたヒト化抗CSF-1R抗体の変異体又は非変異体型のオリゴヌクレオチド媒介(又は部位特異的)変異誘発、PCR変異誘発、及びカセット変異導入による調製を含む。
【0082】
発明による重及び軽鎖可変ドメインは、プロモーター、翻訳開始、定常領域、3’非翻訳領域、ポリアデニル化、及び転写終結の配列と組み合わせられ、発現ベクターコンストラクトが形成される。重及び軽鎖発現コンストラクトは単一ベクターに組み入れられ、宿主細胞に同時に、連続的に、又は別々にトランスフェクトされ、次いでそれは融合され両鎖を発現する単一宿主細胞が形成される。
【0083】
ここで使用される場合、「細胞」、「細胞株」、及び「細胞培養物」なる表現は互換的に使用され、全てのこのこのような指定は子孫を含む。従って、「形質転換体」及び「形質転換細胞」なる言葉は、転換の数に関係なく、一次主細胞及びそれから得られる培養物を含む。全ての子孫は、故意又は偶発的な変異により、DNA内容物に正確に同一ではない場合があることも理解される。最初にスクリーニングされたのと同じ機能的又は生物学的活性を有する変異体子孫が含まれる。
【0084】
抗体の「Fc」部分は抗原に対する抗体の結合に直接は関与しないが、様々なエフェクター機能を示す。「抗体のFc部分」は、当業者によく知られた用語であり、抗体のパパイン切断に基づいて定義される。それらの重鎖の定常領域のアミノ酸配列により、抗体又は免疫グロブリンはクラスに分けられ:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgM、これらの幾つかはサブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4、IgA1、及びIgA2に更に分けられうる。重鎖定常領域に従い、免疫グロブリンの異なるクラスはそれぞれα、δ、εγ、及びμと呼ばれる。抗体のFc部分は、補体活性化、C1q結合及びFc受容体結合に基づき、ADCC(抗体依存細胞媒介細胞傷害)及びCDC(補体依存細胞傷害)に直接関与する。補体活性化(CDC)は、多くの抗体サブクラスFc部分への補体因子の結合によって開始される。補体系における抗体の影響は特定の条件に依存するが、C1qへの結合は、Fc部分における決められた結合部位により引き起こされる。このような結合部位は当分野の水準において知られており、例えばBoackle, R.J., et al., Nature 282 (1979) 742-743, Lukas, T.J., et al., J. Immunol. 127 (1981) 2555-2560, Brunhouse, R., and Cebra, J.J., Mol. Immunol. 16 (1979) 907-917, Burton, D.R., et al., Nature 288 (1980) 338-344, Thommesen, J.E., et al., Mol. Immunol. 37 (2000) 995-1004, Idusogie, E.E., et al., J. Immunol.164 (2000) 4178-4184, Hezareh, M., et al., J. Virology 75 (2001) 12161-12168, Morgan, A., et al., Immunology 86 (1995) 319-324, EP0307434に記載されている。このような結合部位は、例えばL234、L235、D270、N297、E318、K320、K322、P331及びP329である(番号付けはKabat,E.A.のEU indexに従う。下を参照のこと)。サブクラスIgG1、IgG2及びIgG3の抗体は通常、補体活性化及びC1q及びC3結合を示すが、IgG4は補体系を活性化せず、C1q及びC3を結合しない。
【0085】
一実施態様では、発明による抗体はヒト起源由来のFc部分、及び好ましくはヒト定常領域の他の部分全てを含む。ここで使用される場合、「ヒト起源由来のFc部分」とは、サブクラスIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4のヒト抗体のFc部分の何れか、好ましくはヒトIgG1サブクラスからのFc部分、ヒトIgG1サブクラスからの変異Fc部分(好ましくはL234A+L235Aにおける変異)、ヒトIgG4サブクラスからのFc部分又はヒトIgG4サブクラスからの変異Fc部分(好ましくはS228Pにおける変異)であるFc部分を意味する。最も好ましいのは、配列番号:11(ヒトIgG1サブクラス)、配列番号:12(変異L234A及びL235Aを有するヒトIgG1サブクラス)、配列番号:13(ヒトIgG4サブクラス)、又は配列番号:14(変異S228Pを有するヒトIgG4サブクラス)の重鎖定常領域である。
【0086】
一実施態様では、発明による抗体は、定常鎖がヒト起源のものであることを特徴とする。このような定常鎖は当分野の水準においてよく知られており、例えばKabat, E.A.によって記述されている(例えばJohnson, G. and Wu, T.T., Nucleic Acids Res. 28 (2000) 214-218を参照のこと)。例えば、有用なヒト重鎖定常領域は、配列番号:9のアミノ酸配列を含む。例えば、有用なヒト軽鎖定常領域は、配列番号:10のカッパ軽鎖定常領域のアミノ酸配列を含む。抗体が、マウス起源のものであり、Kabatによるマウス抗体の抗体可変配列フレームを含むことが更に好ましい。
【0087】
イムノコンジュゲート
発明はまた、一又は複数の細胞傷害性物質、例えば化学療法剤又は薬物、増殖阻害剤、毒素(例えばタンパク質毒素、細菌性、真菌性、植物性、又は動物起源の酵素的活性毒素、又はその断片)、又は放射性同位体にコンジュゲートされたここにおける抗CSF-1R抗体を含んでなるイムノコンジュゲートを提供する。
【0088】
一実施態様では、イムノコンジュゲートは抗体-薬物複合体(ADC)であり、抗体が一又は複数の薬物、限定するものではないが、マイタンシノイド(米国特許第5,208,020号、同第5,416,064号及び欧州特許EP0425235B1);アウリスタチン、例えばモノメチルアウリスタチン薬剤成分DE及びDF(MMAE及びMMAF)(米国特許第5,635,483号、及び同第5,780,588号、及び同第7,498,298号を参照);ドラスタチン;カリチアマイシン又はその誘導体(米国特許第5,712,374号、同第5,714,586号、同第5,739,116号、同第5,767,285号、同第5,770,701号、同第5,770,710号、同第5,773,001号、及び同第5,877,296号; Hinman et al., Cancer Res. 53:3336-3342 (1993); and Lode et al., Cancer Res. 58:2925-2928 (1998)を参照);アントラサイクリン、例えばダウノマイシン又はドキソルビシン (Kratz et al., Current Med. Chem. 13:477-523 (2006); Jeffrey et al., Bioorganic & Med. Chem. Letters 16:358-362 (2006); Torgov et al., Bioconj. Chem. 16:717-721 (2005); Nagy et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97:829-834 (2000); Dubowchik et al., Bioorg. & Med. Chem. Letters 12:1529-1532 (2002); King et al., J. Med. Chem. 45:4336-4343 (2002);及び米国特許第6,630,579号を参照);メトトレキサート;ビンデシン;タキサン、例えばドセタキセル、パクリタキセル、ラロタキセル、tesetaxel、及びortataxel;トリコテシン;及びCC1065にコンジュゲートされている。
【0089】
別の実施態様では、イムノコンジュゲートは、限定するものではないが、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合活性断片、外毒素A鎖(緑膿菌から)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシンA鎖、αサルシン、Aleurites fordiiタンパク質、dianthinタンパク質、ヨウシュヤマゴボウタンパク質(PAPI、PAPII、及びPAP-S)、ツルレイシインヒビター、curcin、crotin、sapaonaria officinalisインヒビター、ゲロニン、mitogellin、レストリクトシン、フェノマイシン、エノマイシン、及びトリコテシンを含む、酵素的活性毒素又はその断片にコンジュゲートされたここに記載の抗体を含む。
【0090】
別の実施態様では、イムノコンジュゲートは、放射性原子にコンジュゲートされラジオコンジュゲートを形成するここに記載の抗体を含む。様々な放射性同位体が、ラジオコンジュゲートの生産のために利用可能である。例は、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、Pb212及びLuの放射性同位体を含む。検出のためにラジオコンジュゲートが使用される場合、それは、シンチグラフィ試験のための放射性原子、例えばtc99m又はI123、又は核磁気共鳴(NMR)画像法(磁気共鳴画像法、mriとしても知られる)のためのスピン標識、例えば再びヨウ素-123、ヨウ素-131、インジウム-111、フッ素-19、炭素-13、窒素-15、酸素-17、ガドリニウム、マンガン又は鉄を含みうる。
【0091】
抗体及び細胞傷害性物質のコンジュゲートは、様々な二官能性タンパク質カップリング剤、例えばN-サクシニミジル-3-(2-ピリジニルジチオ)プロピオナート(SPDP)、サクシニミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシラート(SMCC)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(例えば、アジプイミド酸ジメチルHCl)、活性エステル(例えば、スベリン酸ジサクシンイミジル)、アルデヒド(例えば、グルタルアルデヒド)、ビス-アジド化合物(例えば、ビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン),ビス-ジアゾニウム誘導体(例えば、ビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミン)、ジイソシアネート(例えば、トルエン2,6-ジイソシアネート)、及びビス-活性フッ素化合物(例えば、1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン))を使用して作成されうる。例えば、リシンイムノトキシンは、Vitetta et al., Science 238:1098 (1987)に記載されるように調製されうる。炭素-14標識 1-イソチオシアナトベンジル-3-メチルジエチレン トリアミン5酢酸(MX-DTPA)は、抗体への放射性ヌクレオチドのコンジュゲーションの例示的キレート剤である。WO94/11026を参照。リンカーは、細胞における細胞傷害性薬物の放出を容易にする「切断可能リンカー」でありうる。例えば、酸不安定性リンカー、ペプチダーゼ過敏性リンカー、光不安定性リンカー、ジメチルリンカー又はジスルフィド含有リンカーが使用されうる(Chari et al., Cancer Res.52:127-131 (1992);米国特許第5,208,020号)。
【0092】
ここでのイムノコンジュゲート又はADCは、限定するものではないがBMPS、EMCS、GMBS、HBVS、LC-SMCC、MBS、MPBH、SBAP、SIA、SIAB、SMCC、SMPB、SMPH、スルホ-EMCS、スルホ-GMBS、スルホ-KMUS、スルホ-MBS、スルホ-SIAB、スルホ-SMCC、及びスルホ-SMPB、及びSVSB(サクシニミジル-(4-ビニルスルホン)ベンゾアート)、市販されている(例えばPierce Biotechnology, Inc., Rockford, IL., U.S.Aから入手可能))を含む架橋試薬を用いて調製されるコンジュゲートなどが明らかに含まれるが、これに限定されるものではない。
【0093】
治療方法及び組成物
発明は、治療的に有効な量の発明による抗体を患者に投与することを特徴とする、治療を必要としている患者の治療方法を含む。
【0094】
発明は、治療のための、発明による抗体の使用を含む。
【0095】
発明の好ましい実施態様は、「CSF-1R媒介疾患」の治療における使用のための本発明のCSF-1R抗体、又は「CSF-1R媒介疾患」の治療における医薬の製造に対する使用のための本発明のCSF-1R抗体であり、以下のように説明されうる:
【0096】
それによりCSF-1Rシグナル伝達が腫瘍増殖及び転移に関与すると思われる3つの異なるメカニズムがある。一つ目は、CSF-リガンド及び受容体の発現が、女性生殖器系(胸、卵巣、子宮内膜、子宮頸部)に起因する腫瘍細胞に見つけられ(Scholl, S.M., et al., J. Natl. Cancer Inst. 86 (1994) 120-126; Kacinski, B.M., Mol. Reprod. Dev. 46 (1997) 71-74; Ngan, H.Y., et al., Eur. J. Cancer 35 (1999) 1546-1550; Kirma, N., et al., Cancer Res 67 (2007) 1918-1926)、発現が乳癌異種移植片増殖並びに乳癌患者における予後不良に関連したことである。2つの点変異が、一研究において試験された、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病及び骨髄形成異常患者の約10−20%におけるCSF-1Rに見られ、変異の一つが受容体ターンオーバーを妨害することが分かった(Ridge, S.A., et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 87 (1990) 1377-1380)。しかしながら、変異の出現は後の研究で確認されることができなかった(Abu-Duhier, F.M., et al., Br. J. Haematol. 120 (2003) 464-470)。変異は肝細胞癌(Yang, D.H., et al., Hepatobiliary Pancreat.Dis.Int. 3 (2004) 86-89)及び特発性骨髄線維症(Abu-Duhier, F.M., et al., Br. J. Haematol.120 (2003) 464-470)の幾つかのケースにおいても見られた。
【0097】
色素性絨毛結節性滑膜炎(PVNS)及び腱しょう巨細胞腫(TGCT)は、M-CSF遺伝子をコラーゲン遺伝子COL6A3に融合させ、M-CSFの過剰発現をもたらすトランスロケーションの結果として生じうる(West, R.B., et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA 103 (2006) 690-695)。ランドスケープ効果が、生じた腫瘍体積に関与することが提案され、それはM-CSFを発現する細胞によって誘因される単球系細胞からなる。TGCTは小さい腫瘍であり、それらの主に生じる指から比較的容易に除去されることができる。PVNSはより浸潤性であり、大関節において再発し得、外科的に容易にコントロールされない。
【0098】
2つ目のメカニズムは、破骨細胞形成、骨吸収及び溶骨性病変を誘発する、骨の転移部位でのM-CSF/CSF-1Rを介したシグナル伝達の阻害に基づく。乳癌、多発性骨髄腫及び肺癌は、骨に転移することが分かった癌の例であり、骨格合併症をもたらす溶骨性病変を引き起こす。腫瘍細胞及びストローマにより放出されるM-CSFは、核内因子κB活性化受容体リガンド-RANKLのとの協調において、造血骨髄性単球前駆体の成熟破骨細胞への分化を誘発する。このプロセスの間、破骨細胞に生存シグナルを与えることにより、M-CSFは許容因子として作用する(Tanaka, S., et al., J. Clin.Invest.91 (1993) 257-263)。抗CSF-1R抗体での、破骨細胞の分化及び成熟中のCSF-1R活性の阻害は、溶骨性疾患及び転移性疾患における関連骨関連事象を引き起こす破骨細胞の不均衡な活性を防止すると思われる。乳癌、肺癌及び多発性骨髄腫は典型的には溶骨性病変となるが、前立腺癌における骨への転移は最初は造骨性の様子を有し、そこでは増加した骨形成活性が線維性骨をもたらし、これは正常な骨の典型的な層状組織と異なる。疾患進行の間、骨病変は、著しい溶骨性成分並びに高血清レベルの骨吸収を示し、抗吸収性治療が有用でありうることを示唆する。ビスホスホネートは溶骨性病変の形成を阻害することが示され、ホルモン不応性転移性前立腺癌を有する男性においてのみ骨関連事象の数を低減するが、現時点では、造骨性病変におけるそれらの効果は議論の余地があり、ビスホスホネートはこれまで、骨転移又はホルモン応答性前立腺癌を防止することに有益ではなかった。混合溶骨性/造骨性前立腺癌における抗吸収剤の効果は臨床において依然として研究中である(Choueiri, M.B., et al., Cancer Metastasis Rev. 25 (2006) 601-609; Vessella, R.L. and Corey, E., Clin.Cancer Res.12 (20 Pt 2) (2006) 6285s-6290s)。
【0099】
3つ目のメカニズムは、乳癌、前立腺癌、卵巣癌及び子宮頸癌の固形腫瘍において見られる腫瘍関連マクロファージ(TAM)が予後不良に相関するという最近の観察に基づく(Bingle, L., et al., J. Pathol.196 (2002) 254-265; Pollard, J.W., Nat. Rev. Cancer 4 (2004) 71-78)。マクロファージは、M-CSF及び他のケモカインによって腫瘍に動員される。マクロファージは次いで、血管新生因子、プロテアーゼ及び他の増殖因子及びサイトカインの分泌により腫瘍進行に貢献し得、CSF-1Rシグナル伝達の阻害によってブロックされうる。最近、Zins, K., et a1 (Zins, K., et al., Cancer Res. 67 (2007) 1038-1045)によって、腫瘍壊死因子α(TNF アルファ)、M-CSF又は双方の組合せのsiRNAの発現が、それぞれのsiRNAの腫瘍内投与の後、34%〜50%で、マウス異種移植片モデルにおける腫瘍増殖を低減させることが示された。ヒトSW620細胞により分泌されるTNFアルファを標的にするSiRNAはマウスM-CSFレベルを低減させ、腫瘍におけるマクロファージの減少を導いた。更に、M-CSFに対する抗原結合断片によるMCF7腫瘍異種移植片の処置は、40%の腫瘍増殖阻害をもたらし、化学療法への抵抗性を逆転させ、化学療法との組合せにおいて与えられた場合、マウスの生存度を改善した(Paulus, P., et al., Cancer Res. 66 (2006) 4349-4356)。
【0100】
TAMは慢性炎症及び癌の間の新たな関連の一例にすぎない。炎症及び癌の間の関連に対する更なるエビデンスがあり、多くの慢性疾患は癌のリスクの増大と関連し、癌は慢性炎症の部位で生じ、炎症の化学伝達物質は多くの癌において見つけられ;炎症の細胞性又は化学伝達物質の欠失は実験癌の発生を阻害し、抗炎症剤の長期の使用は幾つかの癌のリスクを低減させる。癌への関連は、多くの炎症性疾患に対し存在し、胃癌に対するH.ピロリ誘発による胃炎、膀胱癌に対する住血吸虫症、カポジ肉腫に対するHHVX、卵巣癌に対する子宮内膜症及び前立腺癌に対する前立腺炎がある(Balkwill, F., et al., Cancer Cell 7 (2005) 211-217)。マクロファージは慢性炎症において鍵となる細胞であり、それらの微小環境に対して異なって応答する。機能状態の連続においてエクストリームであると考えられる2タイプのマクロファージがある:M1マクロファージは1型反応に関与する。これらの反応は、微生物産物による活性化、及び活性酸素中間体を生じる病原微生物の結果としての殺傷を含む。エクストリームの対極は、細胞増殖を促進し、炎症及び適応免疫を調整し、組織リモデリング、血管新生及び修復を促進する2型反応に関与するM2マクロファージである。確立した新生物をもたらす慢性炎症は通常、M2マクロファージに関連する。炎症反応を媒介する中心的なサイトカインはTNFアルファであり、その名の通り高用量で抗腫瘍免疫及び出血性壊死を刺激するが、近年、腫瘍細胞によって発現され、腫瘍プロモーターとして作用することが見出された(Zins, K., et al., Cancer Res. 67 (2007) 1038-1045; Balkwill, F., Cancer Metastasis Rev. 25 (2006) 409-416)。腫瘍に対するマクロファージの具体的な役割は依然として更に理解される必要があり、それらの機能における空間的及び時間的潜在依存、及び特定の腫瘍タイプへの関連を含む。
【0101】
従って、発明の一実施態様は、癌の治療における使用のための本発明のCSF-1R抗体である。ここで使用される「癌」なる用語は、例えば、肺癌、非小細胞肺(NSCL)癌、細気管支肺胞細胞肺癌、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、頭部もしくは頚部の癌、皮膚もしくは眼内メラノーマ、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門部の癌、胃癌(stomach cancer、gastric cancer)、結腸癌、乳癌、子宮癌、卵管癌、子宮内膜の癌腫、子宮頚部の癌腫、膣癌、外陰癌、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌系の癌、甲状腺癌、副甲状腺の癌、副腎の癌、軟組織の肉腫、尿道の癌、陰茎の癌、前立腺癌、膀胱癌、腎臓もしくは尿道の癌、腎細胞癌、腎盂癌、中皮腫、肝細胞癌、胆道癌、中枢神経系(CNS)の新生物、脊髄軸腫瘍、脳幹膠腫、多形膠芽腫、星状細胞腫、シュワン腫、上衣腫、髄芽腫、髄腹腫、扁平上皮癌、下垂体腺腫、リンパ腫、リンパ性白血病、例えば上記癌の何れかの難治性型、又は上記癌の一又は複数の組み合わせでありうる。好ましくは、このような癌は、乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、肺癌又は前立腺癌である。好ましくは、このような癌は、CSF-1又はCSF-1R発現又は過剰発現によって更に特徴付けられる。更なる一実施態様では、発明は、原発腫瘍及び新しい転移の同時治療における使用のための、本発明のCSF-1R抗体である。
【0102】
従って、発明の別の実施態様は、歯周炎、ヒスチオサイトーシスX、骨粗鬆症、骨パジェット病(PDB)、癌治療による骨量減少、プロテーゼ周囲骨溶解、グルココルチコイド誘発性骨粗しょう症、関節リウマチ、乾癬性関節炎、変形性関節症、炎症性関節炎、及び炎症の治療における使用のための、本発明のCSF-1R抗体である。
【0103】
Rabello, D., et al., Biochem. Biophys. Res. Commun.347 (2006) 791-796は、CSF1遺伝子におけるSNPが、侵襲性歯周炎:歯槽骨の吸収による歯欠損を引き起こす歯周組織の炎症性疾患とポジティブ相関を示すことを実証した。
【0104】
ヒスチオサイトーシスX(ランゲルハンス細胞組織球症、LCHとも呼ばれる)は、骨及び骨外LCH病変において破骨細胞に分化すると思われるランゲルハンス樹状細胞の増殖性疾患である。ランゲルハンス細胞は、循環単球由来である。血清及び病変において測定されたM-CSFの増加レベルが、疾患重症度と相関することが分かった(da Costa, C.E., et al., J. Exp.Med.201 (2005) 687-693)。該疾患は小児患者集団において主に生じ、疾患が全身性になった場合、又は再発性である場合、化学療法で治療されなければならない。
【0105】
骨粗鬆症の病態生理は、骨形成骨芽細胞の欠如及び増加した破骨細胞依存骨吸収によって媒介される。裏付けデータがCenci et alによって記述され、抗M-CSF抗体インジェクションが骨密度を保護し、卵巣摘出マウスにおける骨吸収を阻害することを示した(Cenci, S., et al., J. Clin. Invest. 105 (2000) 1279-1287)。近年、エストロゲン欠乏に起因する閉経後の骨量減少の潜在的な関連が同定され、T細胞を産生するTNFアルファの存在が骨代謝に影響することがわかった(Roggia, C., et al., Minerva Med. 95 (2004) 125-132)。考えられるメカニズムは、インビボでのTNFαによるM-CSFの誘発である。TNF-アルファ誘発破骨細胞形成におけるM-CSFの重要な役割が、マウスにおけるTNF-アルファ誘発骨溶解をブロックするM-CSFに対する抗体の効果によって確認され、そして炎症性関節炎のためのCSF-1Rシグナル伝達潜在標的の阻害剤が作成された(Kitaura, H., et al., J. Clin. Invest. 115 (2005) 3418-3427)。
【0106】
骨パジェット病(PDB)は、骨粗鬆症後の2番目に一般的な骨代謝障害であり、増加した骨ターンオーバーの局限性異常が、骨痛、奇形、病的骨折及び難聴等の合併症を引き起こす。正常な破骨細胞機能を制御し、個体をPDB及び関連疾患に掛かりやすくさせる4つの遺伝子における変異が同定された:破骨細胞機能の重要な制御因子である核内因子(NF)κB活性化受容体(RANK)をコードするTNFRSF11Aにおける挿入変異、オステオプロテゲリン(RANKリガンドに対するデコイ受容体)をコードするTNFRSF11Bの不活性化変異、NFカッパB経路における重要なスカフォールドタンパク質をコードするsequestosome 1 gene(SQSTM1)の変異、及びバロシン含有タンパク質(VCP)遺伝子における変異。この遺伝子は、プロテアソームによる分解に対するNFカッパBのインヒビターを標的にすることにおいて役割を果たすVCPをコードする(Daroszewska, A. and Ralston, S.H., Nat. Clin. Pract. Rheumatol. 2 (2006) 270-277)。標的化CSF-1Rインヒビターは、RANKLシグナル伝達の脱制御を間接的にブロックする機会を提供し、現在使用されているビスホスホネートに更なる治療選択を加える。
【0107】
特に乳癌及び前立腺癌患者における、癌治療誘発骨量減少は、標的化CSF-1Rインヒビターが骨量減少を防止しうる更なる適応症である(Lester, J.E., et al., Br. J. Cancer 94 (2006) 30-35)。早期乳癌の改善された予後によりアジュバント療法の長期的結果がより重要になり、これは、化学療法、放射線療法、アロマターゼ阻害剤及び卵巣切除を含む療法の幾つかは、骨ミネラル濃度を低下されることにより骨代謝に影響し、骨粗鬆症及び関連骨折をもたらすからである(Lester, J.E., et al., Br. J. Cancer 94 (2006) 30-35)。乳癌におけるアジュバントアロマターゼ阻害剤に相応するものは、前立腺癌におけるアンドロゲン除去療法であり、これは、骨ミネラル濃度の欠乏を導き、骨粗鬆症関連骨折のリスクを著しく増加させる(Stoch, S.A., et al., J. Clin. Endocrinol. Metab. 86 (2001) 2787-2791)。
【0108】
CSF-1Rシグナル伝達の標的化阻害は、標的化細胞タイプが破骨細胞及びマクロファージを含む場合、他の適応症においても有益であり得、例えば、関節リウマチの結果としての関節置換による特定の合併症の治療に有用である。プロテーゼ周囲骨量減少によるインプラントの失敗及び義肢の結果としての緩みは、関節置換の主な合併症であり、それぞれの患者及び医療制度に対し高い社会経済的負担を伴う度重なる手術を必要とする。これまでに、プロテーゼ周囲骨溶解を防止又は阻害する承認された薬物療法はない(Drees, P., et al., Nat. Clin. Pract. Rheumatol. 3 (2007) 165-171)。
【0109】
グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症(GIOP)は別の適応症であり、CSF-1Rインヒビターが、慢性閉塞性肺疾患、喘息及び関節リウマチにおける様々な状態の結果として与えられる長期のグルココルチコステロイドの使用後の骨量減少を防止しうる(Guzman-Clark, J.R., et al., Arthritis Rheum. 57 (2007) 140-146; Feldstein, A.C., et al., Osteoporos. Int. 16 (2005) 2168-2174)。
【0110】
関節リウマチ、乾癬性関節炎及び炎症性関節炎はそれ自体、それらがマクロファージ成分から成るとういう点において、また様々な程度の骨破壊に対し、CSF-1Rシグナル伝達阻害剤の潜在的適応症である(Ritchlin, C.T., et al., J. Clin. Invest. 111 (2003) 821-831)。骨関節炎及び関節リウマチは、結合組織におけるマクロファージの蓄積、及び滑液へのマクロファージの浸潤によって引き起こされる炎症性自己免疫疾患であり、少なくとも部分的にM-CSFにより媒介される。Campbell, I.K., et al., J. Leukoc.Biol.68 (2000) 144-150は、M-CSFがインビトロでヒト関節組織細胞によって産生され、関節リウマチを有する患者の滑液に見られることを示し、それが、疾患の病変形成と関連する滑膜組織増殖及びマクロファージ浸潤に貢献することを示唆した。CSF-1Rシグナル伝達の阻害は、関節におけるマクロファージの数を制御し、関連する骨破壊からの疼痛を軽減すると考えられる。副作用を最小限にし、これらの適応症におけるCSF-1Rシグナル伝達の影響を更に理解するために、一方法は、Rafキナーゼなどの無数の他のキナーゼを標的にすることなく、CSF-1Rを特異的に阻害する。
【0111】
最近の文献報告は、増加した循環M-CSFと、慢性冠動脈疾患における予後不良及びアテローム硬化性進行とを相関させる(Saitoh, T., et al., J. Am. Coll. Cardiol. 35 (2000) 655-665; Ikonomidis, I., et al., Eur. Heart. J. 26 (2005) p. 1618-1624);M-CSFは、CSF-1Rを発現し初期プラークを呈する泡沫細胞(摂取された酸化LDLを有するマクロファージ)の形成を支援することによってアテローム硬化性プロセスに影響する(Murayama, T., et al., Circulation 99 (1999) 1740-1746)。
【0112】
M-CSF及びCSF-1Rの発現及びシグナル伝達は、活性化マイクログリアに見られる。中枢神経系の常在マクロファージであるマイクログリアは、感染及び外傷を含む様々な侵襲によって活性化される。M-CSFは脳における炎症反応の鍵となる制御因子と考えられており、M-CSFレベルは、HIV-1、脳炎、アルツハイマー病(AD)及び脳腫瘍において増加する。M-CSF/CSF-1Rによる自己分泌シグナル伝達の結果として生じる小膠細胞症は炎症性サイトカイン及び一酸化窒素を誘導し、例えば実験神経損傷モデルを使用して示されるように放出される(Hao, A.J., et al., Neuroscience 112 (2002) 889-900; Murphy, G.M., Jr., et al., J. Biol. Chem. 273 (1998) 20967-20971)。CSF-1Rの増加発現を有するマイクログリアは、AD及びADのアミロイド前駆体タンパク質V717Fトランスジェニックマウスモデルにおいて周囲プレークに見られる(Murphy, G.M., Jr., et al., Am. J. Pathol. 157 (2000) 895-904)。一方、脳に少ないマイクログリアを有するop/opマウスは、ノーマルコントロールと比較してA-ベータの線維性沈着及びニューロン欠失を生じ、マイクログリアが、op/opマウスにおいて欠失しているADの発生において神経保護機能を持つことを示唆する(Kaku, M., et al., Brain Res.Brain Res.Protoc.12 (2003) 104-108)。
【0113】
M-CSF及びCSF-1Rの発現及びシグナル伝達は、炎症性腸疾患(IBD)に関連する(WO2005/046657)。「炎症性腸疾患」なる用語は、胃腸管の様々な部位での慢性炎症により特徴付けられる腸管の重篤な慢性疾患を指し、具体的には、潰瘍性大腸炎(UC)及びクローン病を含む。
【0114】
発明は、上記エピトープ結合特性によって、あるいは上記アミノ酸配列及びアミノ酸配列断片によって特徴付けられるヒトCSF-1Rに結合する抗体を含んでなることを特徴とする、癌の治療のための抗体である。
【0115】
発明は、上記エピトープ結合特性によって、あるいは上記アミノ酸配列及びアミノ酸配列断片によって特徴付けられるヒトCSF-1Rに結合する抗体を含んでなることを特徴とする、骨量減少の治療のための抗体である。
【0116】
発明は、上記エピトープ結合特性によって、あるいは上記アミノ酸配列及びアミノ酸配列断片によって特徴付けられるヒトCSF-1Rに結合する抗体を含んでなることを特徴とする、転移の防止又は治療のための抗体を含む。
【0117】
発明は、上記エピトープ結合特性によって、あるいは上記アミノ酸配列及びアミノ酸配列断片によって特徴付けられるヒトCSF-1Rに結合する抗体を含んでなることを特徴とする、炎症性疾患の治療のための抗体を含む。
【0118】
発明は、上記エピトープ結合特性によって、あるいは上記アミノ酸配列及びアミノ酸配列断片によって特徴付けられるヒトCSF-1Rに結合する抗体を含んでなることを特徴とする抗体の、癌の治療のための、あるいは癌の治療のための医薬の製造のための使用を含む。
【0119】
発明は、上記エピトープ結合特性によって、あるいは上記アミノ酸配列及びアミノ酸配列断片によって特徴付けられるヒトCSF-1Rに結合する抗体を含んでなることを特徴とする抗体の、骨量減少の治療のための、あるいは骨量減少の治療のための医薬の製造のための使用を含む。
【0120】
発明は、上記エピトープ結合特性によって、あるいは上記アミノ酸配列及びアミノ酸配列断片によって特徴付けられるヒトCSF-1Rに結合する抗体を含んでなることを特徴とする抗体の、転移の防止又は治療のための、あるいは転移の防止又は治療のための医薬の製造のための使用を含む。
【0121】
発明は、上記エピトープ結合特性によって、あるいは上記アミノ酸配列及びアミノ酸配列断片によって特徴付けられるヒトCSF-1Rに結合する抗体を含んでなることを特徴とする抗体の、炎症性疾患の治療のための、あるいは炎症性疾患の治療のための医薬の製造のための使用を含む。
【0122】
一実施態様では、発明による抗体は、CSF-1がCSF-1Rに結合するのを25ng/ml以下のIC50、好ましくは20ng/ml以下のIC50で阻害する。CSF-1RへのCSF-1の結合の阻害のIC50は、実施例2に示すように決定されうる。
【0123】
一実施態様では、発明による抗体は、CSF-1誘発CSF-1Rリン酸化(NIH3T3-CSF-1R組換え細胞において)を、100ng/ml以下のIC50で、好ましくは50ng/ml以下のIC50で、より好ましくは25ng/ml以下のIC50で阻害する。CSF-1誘発CSF-1Rリン酸化のIC50は、実施例3に示すように決定されうる。
【0124】
一実施態様では、発明による抗体は、ヒトCSF-1R(配列番号:15)を発現する組換えNIH3T3細胞の増殖を、80%以上(抗体の不在と比較して)、好ましくは90%以上阻害する。%増殖阻害は実施例6に示すように決定され、ここにおいて%生存度が測定される。%生存度から、%増殖阻害が次のように算出される:%増殖阻害=100−%生存度。例えば、<CSF-1R>7G5.3B6は、100−0=100%の、NIH3T3細胞を発現するwtヒトCSF-1Rの増殖阻害を示す。
【0125】
一実施態様では、発明による抗体は、ヒトCSF-1R L301S Y969F(配列番号:16)を発現する組換えNIH3T3細胞の増殖を、5%以上(抗体の不在と比較して)、好ましくは20%以上刺激する。%増殖刺激は実施例6に示すように決定され、ここにおいて%生存度が測定される。%生存度から、%増殖刺激が次のように算出される:%増殖刺激=−(100−%生存度)。例えば、<CSF-1R>7G5.3B6は、−(100−0)=−(100−140)%=+40%の、NIH3T3細胞を発現する変異ヒトCSF-1Rの増殖刺激を示す。
【0126】
一実施態様では、発明による抗体は、BeWo腫瘍細胞(ATCC CCL-98)の増殖を、80%以上(10μg/mlの抗体濃度で;抗体の不在と比較して)、好ましくは90%以上阻害する。%増殖阻害は、阻害7に示すように決定される。訪えば、<CSF-1R>7G5.3B6は、101%の、BeWo腫瘍細胞の増殖阻害を示す。
【0127】
一実施態様では、発明による抗体は、マクロファージの分化を阻害する。一実施態様では、発明による抗体は、単球の生存を、1.5nM以下のIC50で、好ましくは1.0nM/ml以下のIC50で阻害する。単球の生存の阻害は、実施例8に示すように決定される。
【0128】
発明の更なる実施態様は、CSF-1Rに対する抗体の生産方法であって、発明によるヒトCSF-1Rに結合するヒトIgG1クラス抗体の重鎖をコードする核酸の配列を特徴とし、前記修飾核酸及び前記抗体の軽鎖をコードする核酸が発現ベクターに挿入され、前記ベクターが真核生物宿主細胞に挿入され、コードされたタンパク質が発現され、宿主細胞又は上澄みから回収されることを特徴とする。
【0129】
薬学的製剤
「薬学的製剤」なる用語は、それに含有される有効成分の生物学的活性を有効にするような形態であり、製剤が投与されうる被験体に許容できない毒性である追加成分を含有しない調製物を指す。
【0130】
別の態様では、本発明は、本発明の、モノクローナル抗体、又はその抗原結合部分の一又は複数のの組合せを含有し、薬学的に許容可能な担体と共に製剤化された、組成物、例えば薬学的組成物を提供する。
【0131】
「薬学的に許容可能な担体」とは、被験体に非毒性である、有効成分以外の、薬学的製剤における成分を指す。薬学的に許容可能な担体は、限定するものではないが、バッファー、賦形剤、安定剤、又は保存剤を含む。ここで使用される場合、「薬学的に許容可能な担体」は、生理学的適合性の、ありとあらゆる溶剤、分散媒、コーティング、抗菌及び抗真菌剤、等張剤及び吸収/再吸収遅延剤、及び同様なものを含む。好ましくは、担体は注射又は注入に適している。
【0132】
本発明の組成物は、当分野で知られている様々な方法によって投与されることができる。当業者に理解されるように、投与の経路及び/又は方法は、所望される結果に依存して様々であろう。
【0133】
薬学的に許容可能な担体は、無菌の水溶液又は分散系及び無菌の注射可能溶液又は分散系の調製のための無菌粉末を含む。薬学的に活性な物質に対するこのような媒体及び薬剤の使用は当分野で知られている。水に加えて、担体は、例えば、等張緩衝生理食塩水でありうる。
【0134】
選択される投与の経路にかかわらず、適した水和物の形で使用されうる本発明の化合物、及び/又は本発明の薬学的組成物は、当業者に知られている一般的な方法によって、薬学的に許容可能な剤形に製剤化される。
【0135】
本発明の薬学的組成物における有効成分の実際の投与量レベルは、患者に毒性となることなく、特定の患者、組成物、及び投与の方法に対し所望の治療応答を達成するのに有効な有効成分の量を得るために様々でありうる。選択された投与量レベルは、様々な薬物動態要因に依存し、用いられる本発明の特定の組成物又はそのエステル、塩又はアミドの活性、投与の経路、投与の時間、用いられている特定の化合物の排せつ率、用いられる特定の組成物との組合せにおいて使用される他の薬剤、化合物及び/又は材料、治療されている患者の年齢、性別、体重、状態、一般的な健康及び過去の病歴、及び医学分野において良くしられている同様な要因を含む。
【0136】
発明は、癌、特に結腸、肺又は膵臓癌を患っている患者の治療のための、本発明による抗体の使用を含む。
【0137】
発明はまた、このような疾患を患っている患者の治療の方法も含む。
【0138】
発明は更に、薬学的に許容可能な担体と共に、有効量の本発明による抗体を含んでなる薬学的組成物の製造方法、及びかかる方法のための本発明による抗体の使用を提供する。
【0139】
発明は更に、癌を患っている患者の治療のための、好ましくは薬学的に許容可能な担体を伴う、医薬品の製造に有効な量における本発明による抗体の使用を提供する。
【0140】
発明はまた、癌を患っている患者の治療のための、好ましくは薬学的に許容可能な担体を伴う、医薬品の製造に有効量における本発明による抗体の使用を提供する。
【0141】
製造品
発明の別の態様では、上記の疾患の治療、防止及び/又は診断に有用な材料を含有する製造品も提供される。製造品は、容器、及び容器上又は容器に付随されるラベル又はパッケージ挿入物を含む。適した容器は、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ、静脈注射用溶液のバッグ等を含む。容器は、ガラス又はプラスチックなどの様々な材料から形成されうる。容器は、単独か、又は状態を治療、防止及び/又は診断するのに有効な別の組成物との組み合わせによる組成物を収容し、無菌のアクセスポート(例えば、容器は、皮下注射針によって貫通可能なストッパーを有する静脈注射用溶液バッグ又はバイアルでありうる)。組成物における少なくとも一つの活性薬剤は、本発明の抗体である。ラベル又はパッケージ挿入物は、組成物が、選択の状態を治療するために使用されることを記載する。更に、製造品は、(a)その中に組成物を収容し、該組成物は発明の抗体を含有している第一容器;及び(b)その中に組成物を収容し、該組成物は更に細胞傷害の又は他の治療剤を含有している第二容器を含みうる。発明のこの実施態様における製造品は、組成物が特定の状態を治療するために使用されることができることを示しているパッケージ挿入物を更に含みうる。あるいは、又は加えて、製造品は、薬学的に許容可能なバッファー、例えば注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンガー溶液及びデキストロース溶液を含んでなる第二(又は第三)容器を更に含む。それは、他のバッファー、希釈剤、フィルター、針、及びシリンジを含む、商業及び使用者の立場から所望される他の材料を更に含みうる。
【0142】
何れかの上の製造品は、抗CSF-1R抗体の代わりに、又は加えて、発明のイムノコンジュゲートを含みうることが理解される。
【0143】
次の実施例及び配列表は、本発明の理解を補助するために提供され、その真の範囲は添付の請求の範囲に記載される。記載の手順において、発明の精神から逸脱することなく変更がなされ得ることが理解される。
【0144】

次の実施例、配列表及び図は、本発明の理解を補助するために提供され、その真の範囲は添付の請求の範囲に記載される。記載の手順において、発明の精神から逸脱することなく変更がなされ得ることが理解される。
【0145】
III.実施例
実施例 1
抗CSF-1R抗体を産生するハイブリドーマ細胞株の生成
NMRIマウスの免疫化方法
NMRIマウスを、エレクトロポレーションを使用して、huCSF-1Rの細胞外ドメインをコードする発現ベクターpDisplayTM(Invitrogen, USA)を用いて免疫化した。全てのマウスを100μgのDNAで4回免疫化した。抗huCSF-1Rの血清力価が十分であった場合、マウスを、融合の4及び3日前に、静脈内に(i.v.)、200μl PBS中に50μgの1:1混合huCSF-1R ECD/huCSF-1R ECDhuFcキメラを用いて1回更にブーストした。
【0146】
抗原特異的ELISA
免疫化マウスの血清中における抗CSF-1R力価を、抗原特異的ELISAによって決定した。
【0147】
0.3μg/mlのhuCSF-1R-huFcキメラ(可溶性細胞外ドメイン)を、ストレプトアビジンプレート(MaxiSorb; MicroCoat, DE, Cat.No. 11974998/MC1099)において、0.1mg/mlのビオチン化抗Fc(Jackson ImmunoResearch., Cat.No. 109-066-098)を用いて捕獲し、PBS/0.05%Tween20/0.5%BSAにおいて1/800に希釈された西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート化F(ab’)抗マウス(GE Healthcare, UK, Cat.No.NA9310V)を加えた。全タップからの血清をPBS/0.05%Tween20/0.5%BSAにおいて1/40に希釈し、段階的に1/1638400まで希釈した。希釈血清をウェルに加えた。プレタップ血清ををネガティブコントロールとして使用した。500ng/ml〜0,25ng/mlのマウス抗ヒトCSF-IR Mab3291(R&D Systems, UK)の希釈系列をポジティブコントロールとして使用した。全要素を共に1,5時間インキュベートし、ウェルをPBST(PBS/0.2% Tween20)を用いて6回洗浄し、アッセイを新鮮に調製されたABTS溶液(1mg/ml)(ABTS:2,2’-アジノ ビス(3-エチルベンズチアゾリン-6-スルホン酸)を用いて10分間室温で展開させた。吸光度を405nmで測定した。
【0148】
ハイブリドーマ生成
マウスリンパ球は単離され、PEGに基づく標準プロトコルを使用してマウス骨髄腫細胞株を用いて融合されハイブリドーマが生成されうる。得られたハイブリドーマは次いで、抗原特異的抗体の産生に対しスクリーニングされる。例えば、免疫化マウスからの脾臓由来リンパ球の単一細胞懸濁液は、50%PEGを用いてAg8非分泌マウス骨髄腫細胞P3X63Ag8.653(ATCC,CRL-1580)と融合される。細胞は、平底96ウェルマイクロタイタープレートにおよそ10でプレーティングされ、次いで選択培地において約2週間インキュベートされる。個々のウェルは次いで、ELISAによって、ヒト抗CSF-1RモノクローナルIgM及びIgG抗体に対してスクリーニングされる。一旦大規模なハイブリドーマ増殖が生じたら、抗体分泌ハイブリドーマは再プレーティングされ、再度スクリーニングされ、もしヒトIgG抗CSF-1Rモノクローナル抗体に対して依然として陽性である場合には、FACSによってサブクローニングされうる。安定サブクローンは次いで、特徴づけのために組織培養培地において抗体を生産するためにインビトロで培養される。
【0149】
ハイブリドーマの培養
生成されたmuMAbハイブリドーマを、2mMのL-グルタミン(GIBCO-Cat.No.35050-038)、1mMのNa-Pyruvat(GIBCO-Cat.No.11360-039)、1x NEAA(GIBCO-Cat.No.11140-035)、10%FCS(PAA-Cat.No.A15-649)、1x Pen Strep(Roche-Cat.No.1074440)、1x Nutridoma CS(Roche-Cat.No.1363743)、50μMのメルカプトエタノール(GIBCO-Cat.No.31350-010)及び50U/mlのIL6マウス(Roche-Cat.No.1 444 581)で補充されたRPMI 1640(PAN-Catalogue No. (Cat. No.)PO4-17500)において、37℃、5%COで培養した。
【0150】
実施例 2
CSF-1RへのCSF-1の結合の阻害(ELISA)
試験を、384ウェルマイクロタイタープレート(MicroCoat, DE, Cat.No.464718)において室温で実施した。各インキュベーション工程後、プレートをPBSTで3回洗浄した。
【0151】
初めに、プレートを、0.5mg/mlのヤギF(ab’)ビオチン化抗Fc(Jackson ImmunoResearch., Cat.No.109-006-170)で、1時間(h)コートした。
【0152】
その後、ウェルを、0.2%Tween(登録商標)-20及び2%BSA(Roche Diagnostics GmbH, DE)で補充されたPBSで0.5hブロックした。75ng/mlのhuCSF-1R-huFcキメラ(可溶性細胞外ドメイン)を、1h、プレートに固定化した。次いで、PBS/0.05%Tween20/0.5%BSA中における精製抗体の希釈を、1h、インキュベートした。3ng/mlのCSF-1(Biomol, DE, Cat.No.60530)、50ng/mlのビオチン化抗CSF-1クローンBAF216(R&D Systems,UK)及び1:5000に希釈されたストレプトアビジンHRP(Roche Diagnostics GmbH, DE, Cat.No.11089153001)の混合物を1h加えた後、プレートをPBSTで6回洗浄した。リガンド-受容体相互作用を阻害する抗CSF-IR SC-02、クローン2-4A5 (Santa Cruz Biotechnology, US)を、ポジティブコントロールとして使用した。プレートを、新鮮に調製されたBMブルー(登録商標)POD基質溶液(BMブルー:3,3´-5,5´-テトラメチルベンジジン, Roche Diagnostics GmbH, DE, Cat.No. 11484281001)を用いて30分間室温で展開させた。吸光度を370nmで測定した。全ての抗CSF-1R抗体は、CSF-1Rに対するCSF-1結合の有意な阻害を示した(表1を参照)。リガンド-受容体相互作用を阻害する抗CSF-IR SC-02、クローン2-4A5(Santa Cruz Biotechnology, US)を基準コントロールとして使用した。

【0153】
実施例 3
NIH3T3-CSF-1R組換え細胞におけるCSF-1誘発CSF-1Rリン酸化の阻害
完全長CSF-1Rに対する発現ベクターでレトロウイルス性感染された4.5x10のNIH 3T3細胞を、DMEM(PAA Cat. No.E15-011)、2mMのL-グルタミン(Sigma, Cat.No.G7513, 2mMのピルビン酸ナトリウム、1x非必須アミノ酸、10%FKS(PAA, Cat.No.A15-649)及び100μg/mlのPenStrep (Sigma , Cat.No. P4333 [10mg/ml])において、それらがコンフルエンシーに達するまで培養した。その後、細胞を、亜セレン酸ナトリウム[5ng/ml] (Sigma, Cat.No.S9133)、トランスフェリン[10μg/ml](Sigma, Cat.No.T8158)、BSA[400μg/ml] (Roche Diagnostics GmbH, Cat.No.10735078)、4mMのL-グルタミン(Sigma, Cat.No.G7513)、2mMのピルビン酸ナトリウム(Gibco, Cat.No.11360)、1x非必須アミノ酸(Gibco, Cat:11140-035)、2-メルカプトエタノール[0,05mM](Merck, Cat.No.M7522)、100μg/ml及びPenStrep (Sigma, Cat.No. P4333)で補充された無血清DMEMで洗浄し、30μlの同じ培地において16時間インキュベートし、受容体をアップレギュレーションさせた。10μlの希釈抗CSR-1R抗体を細胞に1.5h加えた。次いで、細胞を5分間、10μlの100ng/mlのhuM-CSF-1(Biomol Cat.No.60530)で刺激した。インキュベーション後、上澄みを取り除き、細胞を80μlの氷冷PBSで2回洗浄し、50μlの新鮮に調製された氷冷溶解バッファー(150mMのNaCl/20mMのTris pH7.5/1mMのEDTA/1mMのEGTA/1%トリトンX100/1プロテアーゼインヒビタータブレット(Roche Diagnostics GmbH Cat.No.1 836 170) per10mlのバッファー10μl/mlのホスファターゼインヒビターカクテル1(Sigma Cat.No. P-2850, 100x Stock)10μl/mlのプロテアーゼインヒビター1(Sigma Cat.No.P-5726, 100x Stock)/10μl/ml 1MのNaF)を加えた。氷上に30分後、プレートをプレートシェイカー上で3分間勢いよく振とうさせ、次いで2200rpmで10分間遠心分離させた(Heraeus Megafuge 10)。
【0154】
細胞溶解物におけるリン酸化及び全CSF-1受容体の存在を、Elisaで分析した。リン酸化受容体の検出のために、R&D Systems (Cat. No. DYC3268-2)からのキットを、サプライヤーの指示に従って使用した。全CSF-1Rの検出のために、10μlの溶解物を、キットに含まれる捕獲抗体の使用によりプレートに固定化した。その後、1:750に希釈されたビオチン化抗CSF-1R抗体BAF329(R&D Systems)及び1:1000に希釈されたストレプトアビジン-HRPコンジュゲートを加えた。60分後、プレートを新鮮に調製されたABTS(登録商標)溶液で展開させ、吸光度を検出した。データを、抗体を用いないポジティブコントロールの%、及び発現されたリン酸/全受容体の比率として算出した。ネガティブコントロールを、M-CSF-1を加えずに定義した。リガンド-受容体相互作用を阻害する抗CSF-1R SC-02、クローン2-4A5(Santa Cruz Biotechnology, US, see also Sherr, C.J., et al., Cell 41 (1985) 665-676)を、基準コントロールとして使用した。

【0155】
実施例 4
CSF-1Rに対する抗CSF-1R抗体の親和性の決定

親和性測定に対し、36μg/mlの抗マウスFcγ抗体(ヤギから, Jackson Immuno Reasearch JIR115-005-071)を、CSF-1Rに対する抗体の捕獲のためにチップ表面にカップリングさせた。CSF-1R ECD(R&D-Systems 329-MR又はin-houseサブクローン pCMV-presS-HisAvitag-hCSF-1R-ECDを、様々な濃度で溶液に加えた。会合を、35°C、1.5分のCSF-1R注入によって測定した;解離を、35°Cで10分間、バッファーを用いてチップ表面を洗浄することによって測定した。リガンド-受容体相互作用を阻害する抗CSF-IR SC-02、クローン2-4A5(Santa Cruz Biotechnology, US; see also Sherr, C.J., et al., Cell 41 (1985) 665-676)を、基準コントロールとして使用した。
【0156】
キネティックパラメーターの算出に対し、ラングミュア1:1モデルを使用した。

【0157】
実施例 5
SPRの使用による交差競合に基づいた抗CSF-1Rモノクローナル抗体のエピトープマッピング

交差競合によるエピトープマッピングアッセイのために、36μg/mlの抗マウスFcγ抗体又は抗ラットFcγ抗体(ヤギから、Jackson Immuno Research Cat.No.115-005-071及びCat. No.112-005-071)を、CSF-1Rに対する抗体の提示のために、センサーチップ表面にカップリングさせた。5μg/mlの抗CSF-1Rモノクローナル抗体からの捕獲後、捕獲抗体の自由結合特性を250μg/mlのマウス又はラット免疫グロブリン(Pierce Cat. No. 31202及びPierce Cat. No.31233)を用いてブロックし、12.5μg/mlのCSF-1R(R&D-Systems Cat.No. 329-MR)を2分間注入した。第二抗CSF-1R抗体の結合を2分間の注入により分析し、解離を5分間バッファーを用いて洗浄することによって測定した。アッセイ及び測定を25°Cで実施した。第二抗CSF-1R抗体の特異的結合を、同じチップセットアップであるがCSF-1Rの注入のみを行わないスポットに対して照会した。交差競合データを、第二抗CSF-1R抗体の予測結合反応のパーセンテージ(%)において算出した。第二抗体の結合に対する項目「予測結合反応のパーセンテージ(%)」を「100 * relativeResponse(general_stability_early) / rMax」によって算出し、ここでrMaxは、(BIACORE(登録商標)A100機器に対する)BIAcoreアッセイエピトープマッピングの説明に記載されるように「relativeResponse(general_stability_late) * 抗体分子量 / 抗原分子量」によって算出される。
【0158】
最小結合反応も、同一抗体1及び2の対から算出した。そこから、得られた最大値+100%、好ましくは50%が、有意な競合、すなわち同じエピトープへの有意な結合、に対する閾値として設定される(表Xを参照。抗体<CSF-1R>7G5.3B6に対して算出された閾値は3+3=6、好ましくは3+1.5=4.5である)。このように、「<CSF-1R>7G5.3B6と同じエピトープに結合する抗CSF-1R抗体」は、6未満、好ましくは4.5未満の予測結合反応のパーセンテージ(%)を有する。
【0159】
リガンド-受容体相互作用を阻害する抗CSF-IR SC-02、クローン2-4A5(Santa Cruz Biotechnology, US; see also Sherr, C.J., et al., Cell 41 (1985) 665-676)を、基準コントロールとして使用した。
【0160】

結果は、<CSF-1R>7G5.3B6と同じエピトープに結合する抗体が、SC-02,クローン2-4A5以外の別のエピトープに結合することを示す。
【0161】
実施例 6
抗CSF-1Rモノクローナル抗体での処理下における3D培養におけるNIH3T3-CSF-1R組換え細胞の増殖阻害
完全長野生型CSF-1R(配列番号:15)又は変異体CSF-1R L301S Y969F(配列番号:16)の発現ベクターの何れかを用いてレトロウイルス性に感染させたNIH 3T3細胞を、プラスチック表面への接着を防ぐためにポリ-HEMA(ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)) (Polysciences, Warrington, PA, USA))がコートされたディッシュ上において、2mMのL-グルタミン、2mMのピルビン酸ナトリウム及び非必須アミノ酸及び10%のウシ胎児血清(Sigma, Taufkirchen, Germany)で補充されたDMEM高グルコース培地(PAA, Pasching, Austria)において培養した。Cells are seeded in medium replacing serum with 5ng/ml sodium selenite, 10mg/ml transferrin, 400μg/ml BSA and 0.05 mM 2-mercaptoethanol.100ng/mlのhuCSF-1(Biomol, Hamburg, Germany)で処理された場合、wtCSF-1R発現細胞は、足場非依存性と呼ばれる特性である、3次元的に増殖する高密度スフェロイドを形成する。これらのスフェロイドは、インサイツ固形腫瘍の3次元構造及び構成に酷似している。変異体CSF-1R組換え細胞は、CSF-1リガンドと無関係にスフェロイドを形成する。スフェロイド培養物を10μg/mlの抗体の存在下において3日間インキュベートした。CellTiterGloアッセイを使用し、細胞のATP量を測定することによって細胞生存度を検出した。

【0162】
実施例 7
抗CSF-1Rモノクローナル抗体での処理下の3D培養におけるBeWo腫瘍細胞の増殖阻害(CellTiterGlo-アッセイ)
BeWo絨毛癌細胞(ATCC CCL-98)を、10%FBS(Sigma)及び2mMのL-グルタミンで補充したF12K培地(Sigma, Steinheim, Germany)において培養した。5x10細胞/ウェルを、0.5%FBS及び5%BSAで補充したF12K培地を有する96-ウェル ポリ-HEMA(ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート))コート化プレートに播種した。同時に、200ng/mlのhuCSF-1及び10μg/mlの異なる抗CSF-1Rモノクローナル抗体を加え、6日間インキュベートした。CellTiterGloアッセイを使用し、細胞におけるATP量を相対発光量(RLU)において測定することによって細胞生存度を検出した。BeWoスフェロイド培養物を異なる抗CSF-1R抗体(10μg/ml)で処理した場合、CSF-1誘発増殖の阻害が観察された。抗体媒介阻害を算出するために、非刺激BeWo細胞の平均RLU値を全サンプルから減算した。CSF-1刺激細胞の平均RLU値を任意に100%に設定した。CSF-1で刺激し、抗CSF-1R抗体で処理した細胞の平均RLU値を、CSF-1刺激RLUの%において算出した。表6は算出データを示し;図1は平均RLU値を示す。各平均値を三つ組から得た。

【0163】
実施例 8
抗CSF-1Rモノクローナル抗体での処理によるマクロファージ分化/単球生存の阻害(CellTiterGlo-アッセイ)
単球を、RosetteSepTM Human Monocyte Enrichment Cocktail(StemCell Tech. -Cat. No.15028)を使用して、末梢血から単離した。濃縮単球集団を、10FCS(GIBCO-Cat. No.011-090014M)、4mMのL-グルタミン(GIBCO-Cat. No.25030)及び1xPenStrep(Roche Cat. No.1 074 440)で補充された100μlのRPMI 1640(Gibco-Cat. No.31870)における、96ウェルマイクロタイタープレートに、37°C及び5%COで播種した(2.5x10細胞/ウェル)。150ng/mlのhuCSF-1を培地に加えた場合、接着マクロファージへの明確な分化が観察された。この分化は、抗CSF-1R抗体を加えることにより阻害できた。同時に、単球生存度が影響を受け、CellTiterGlo(CTG)分析によって分析された。抗体処理による単球の生存の濃度依存阻害から、IC50を算出した(表7を参照)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
寄託抗体DSM ACC2921と同じエピトープに結合することを特徴とする、ヒトCSF-1Rに結合する抗体。
【請求項2】
重鎖可変ドメインCDR3領域として配列番号:1のCDR3領域を含んでなることを特徴とする請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
a)重鎖可変ドメインが配列番号:1のCDR3領域、配列番号:2のCDR2領域、及び配列番号:3のCDR1領域を有し、軽鎖可変ドメインが配列番号:4のCDR3領域、配列番号:5のCDR2領域、及び配列番号:6のCDR1領域を有する;又は
b)a)の抗体のCDR移植化、ヒト化又はT細胞欠失化抗体変異体
を特徴とする請求項2に記載の抗体。
【請求項4】
a)重鎖可変ドメインのアミノ酸配列が配列番号:7であり、軽鎖可変ドメインのアミノ酸配列が配列番号:8;又は
b)a)の抗体のCDR移植化、ヒト化又はT細胞欠失化抗体変異体
を含んでなることを特徴とする請求項3に記載の抗体。
【請求項5】
前記抗体がヒトIgG4サブクラスのものか、又はヒトIgG1サブクラスのものであることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の抗体。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の抗体又は断片を含んでなることを特徴とする薬学的組成物。
【請求項7】
癌の治療のための請求項1〜5の何れか一項に記載の抗体。
【請求項8】
骨量減少の治療のための請求項1〜5の何れか一項に記載の抗体。
【請求項9】
転移の防止又は治療のための請求項1〜5の何れか一項に記載の抗体。
【請求項10】
炎症性疾患の治療のための請求項1〜5の何れか一項に記載の抗体。
【請求項11】
CSF-1Rに結合する抗体の重鎖をコードする核酸であって、前記抗体が請求項2、3又は4に記載の可変ドメインを含むことを特徴とする核酸。
【請求項12】
原核生物又は真核生物宿主細胞におけるCSF-1Rに結合する抗体の発現のための、請求項11に記載の核酸を含んでなることを特徴とする発現ベクター。
【請求項13】
請求項12に記載のベクターを含んでなる原核生物又は真核生物宿主細胞。
【請求項14】
原核生物又は真核生物宿主細胞における請求項11に記載の核酸の発現、及び前記細胞又は細胞培養上澄みからの前記抗体の回収を特徴とする請求項1〜5に記載の組換え抗体の生産方法。
【請求項15】
ヒトCSF-1Rに結合する抗体であって、
a)重鎖可変ドメインが配列番号:1のCDR3領域、配列番号:2のCDR2領域、及び配列番号:3のCDR1領域を有し、軽鎖可変ドメインが配列番号:4のCDR3領域、配列番号:5のCDR2領域、及び配列番号:6のCDR1領域を有するか、又は
b)a)の抗体のCDR移植化、ヒト化又はT細胞欠失化抗体変異体である
ことを特徴とする抗体。
【請求項16】
請求項15に記載の抗体であって、
a)重鎖可変ドメインのアミノ酸配列が配列番号:7であり、軽鎖可変ドメインのアミノ酸配列が配列番号:8、又は
b)a)の抗体のCDR移植化、ヒト化又はT細胞欠失化抗体変異体
を含んでなることを特徴とする抗体。

【図1】
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【公表番号】特表2013−520978(P2013−520978A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555429(P2012−555429)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際出願番号】PCT/EP2011/053213
【国際公開番号】WO2011/131407
【国際公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.UNIX
【出願人】(306021192)エフ・ホフマン−ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト (58)
【Fターム(参考)】