説明

ヒトIL−17産生ヘルパーT細胞検出用マーカーおよびヒトIL−17産生ヘルパーT細胞の検出方法

【課題】ヒトのIL-17産生ヘルパーT細胞(ヒトTh17細胞)を特異的に検出することを可能にするマーカーを提供することを課題とする。
【解決手段】L1CAM、MCAMおよびPTPRMからなる群より選択される少なくとも1つで表される遺伝子の塩基配列を有するポリヌクレオチドまたはその遺伝子によりコードされるタンパク質を含むヒトTh17細胞検出用マーカーにより、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトのIL-17産生ヘルパーT細胞(以下、「Th17細胞」ともいう)を検出するためのマーカーおよびヒトTh17細胞を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性関節リウマチ(以下、「RA」という)は、関節炎を主な臨床症状とする全身性の炎症性自己免疫疾患である。RAは、関節の痛みのような自覚症状および腫脹の程度、骨X線による知見などに基づく視覚的な手法によりその病勢が判断されているが、定量的な指標が確立されていない。よって、治療効果を継続的にモニターする定量的方法も確立されていないのが現状である。
【0003】
RAの発症原因の詳細は未だ明らかとなっていないが、細菌感染などが引き金となり、免疫細胞群およびサイトカイン群の複雑なネットワークを介して、関節組織の炎症が起こると考えられている。
免疫反応の中心を担うのは、ヘルパーT細胞群である。未熟なヘルパーT細胞(ナイーブT細胞)が抗原提示細胞から抗原を提示されると、ヘルパーT細胞に分化するが、このときに特定のサイトカインが存在することにより、ナイーブT細胞は4種類の細胞種に分化誘導される。4種類の細胞種とは、インターフェロン(IFN)-γを産生するヘルパーT細胞(Th1細胞)、インターロイキン(IL)-4を産生するヘルパーT細胞(Th2細胞)、IL-17を産生するヘルパーT細胞(Th17細胞)および免疫抑制効果を有する制御性T細胞(Treg細胞)である。
【0004】
これらのヘルパーT細胞のうち、Th17細胞がRAの発症に関与し得ることが明らかになっている。例えば、特開2000−186046号公報(特許文献1)には、RA患者の関節滑液では、変形関節炎の患者の関節滑液よりも、Th17細胞によって産生されるIL-17の量が有意に高いことや、RA患者由来の滑液組織中のT細胞にIL-17陽性細胞が存在することから、IL-17がRAの病態形成、特に関節・骨破壊に深く関与することが示されている。さらに、特許文献1では、IL-17をRAの診断マーカーとして用いることができると記載している。
【0005】
また、特開2007−506100号公報(特許文献2)には、RA患者からの末梢血血清中のサイトカインを分析したところ、IFN-γ、IL-1β、TNF-α、G-CSF、GM-CSF、IL-6、IL-4、IL-10、IL-13、IL-5およびIL-7のレベルがRA患者において有意に高い値であり、IL-2、CXCL8/IL-8、IL-12およびCCL2/MCP-1は高い値ではなかったことが記載されている。
【0006】
Th17細胞に関して、Ivanovら(Cell, 2006, 126, p.1121-1133:非特許文献1)、Stumhoferら(Nature Immunology, 2006, vol.7, p.937-945:非特許文献2)、Wilsonら(Nature Immunology, 2007, vol.8, p.950-957:非特許文献3)などの研究により、以下のことが明らかになっている。
- RORγtとよばれる核内受容体がTh17細胞の分化に重要な役割を果たす。
- IL-6、IL-23およびTGF-βにより、未熟なヘルパーT細胞(ナイーブT細胞)からTh17細胞への分化が誘導される。
- IL-17A、IL-17F、IL-6、IL-22、IL-26、TNF、IFN-γ、CCL20を発現する。
- Th17細胞の表面には、IL-23受容体やIL-12受容体βが存在する。
【0007】
非特許文献1〜3では、IL-17に特異的な抗体を用いた酵素結合免疫吸着法(ELISA法)を用いてIL-17の量を測定している。しかし、自己免疫疾患におけるRAとTh17細胞との関連をより深く理解するためには、間接的にIL-17の量を測定するのではなく、直接的にTh17細胞自体を検出する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−186046号公報
【特許文献2】特開2007−506100号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Ivanovら, "The Orphan Nuclear Receptor RORγt Directs the Differentiation Program of Proinflammatory IL-17+ T Helper Cells", Cell, 2006, 126, p.1121-1133
【非特許文献2】Stumhoferら, "Interleukin 27 negatively regulates the development of interleukin 17-producing T helper cells during chronic inflammation of the central nervous system" Nature Immunology, 2006, vol.7, p.937-945
【非特許文献3】Wilsonら, "Development, cytokine profile and function of human interleukin 17-producing helper T cells" Nature Immunology, 2007, vol.8, p.950-957
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ヒトTh17細胞を特異的に検出することを可能にする分子マーカーを見出すことを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、RAを含む自己免疫疾患の原因であると考えられているIL-17産生ヘルパーT(Th17)細胞に着目し、健常な成人の末梢血から分取したTh17細胞において特異的に発現する遺伝子をこれまでに同定している(国際出願PCT/JP2010/062807)。今回、本発明者らは、それらの遺伝子の中から、Th17細胞と該細胞以外のヘルパーT細胞とを高精度に区別可能なマーカーの組み合わせを見出して、本発明を完成した。
【0012】
よって、本発明は、L1CAM(L1 cell adhesion molecule)、MCAM(melanoma cell adhesion molecule)およびPTPRM(protein tyrosine phosphatase, receptor type, M)からなる群より選択される少なくとも1つで表される遺伝子の塩基配列を有するポリヌクレオチドまたはその遺伝子によりコードされるタンパク質を含む、ヒトTh17細胞検出用マーカーである。
本発明は、L1CAM、MCAMおよびPTPRMからなる群より選択される少なくとも1つと、CCR6(chemokine (C-C motif) receptor 6)およびCXCR3(chemokine (C-X-C motif) receptor 3)からなる群より選択される少なくとも1つとで表される遺伝子の塩基配列を有するポリヌクレオチドまたはそれらの遺伝子によりコードされるタンパク質を含む、ヒトIL-17産生ヘルパーT細胞検出用マーカーも提供する。
【0013】
さらに、本発明は、細胞を含む試料における、上記のヒトTh17細胞検出用マーカーの発現レベルを取得する工程と、取得した前記マーカーの発現レベルに基づいて、上記試料中のヒトTh17細胞を検出する工程とを含む、ヒトTh17細胞の検出方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のヒトTh17細胞検出用マーカーおよびヒトTh17細胞の検出方法によって、ヒトTh17細胞を特異的に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】Th1、Th2、TregおよびTh17の各細胞における、本発明のTh17細胞検出用マーカー(L1CAM、MCAMおよびPTPRM)と既知マーカーであるCCR6の発現量を示すヒストグラムである。
【図2】「本発明のTh17細胞検出用マーカーの発現細胞数の比率(%)」に対する「IL-17Aにより検出したTh17細胞の比率(%)」をプロットしたグラフである。
【図3】Th1、Th2、TregおよびTh17細胞を含む細胞集団から、Th17細胞を本発明のTh17細胞検出用マーカーにより分取したときのTh17細胞の濃縮率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[1.ヒトTh17細胞検出用マーカー]
本発明のヒトTh17細胞検出用マーカー(以下、単に「マーカー」ともいう)は、L1CAM、MCAMおよびPTPRMからなる群より選択される少なくとも1つで表される遺伝子の塩基配列を有するポリヌクレオチドまたはその遺伝子によりコードされるタンパク質を含む。
本発明のマーカーは、ヒト末梢血由来の他のヘルパーT細胞(Th1、Th2およびTreg細胞)に比べて、Th17細胞において特異的に発現することが本発明者らにより見出されている。
なお、本明細書において、あるポリヌクレオチドがTh17細胞において「特異的に発現する」との表現は、Th17細胞以外の細胞でのそのポリヌクレオチドの発現に比べて、Th17細胞におけるそのポリヌクレオチドの発現が有意に高いことを意味する。
具体的には、Th17細胞におけるそのポリヌクレオチドの発現が、Th17細胞以外の細胞でのそのポリヌクレオチドの発現の約2倍以上、好ましくは約3倍以上であることを意味する。より好ましくは、Th17細胞におけるそのポリヌクレオチドの発現が、Th17細胞以外のヘルパーT細胞(Th1細胞、Th2細胞およびTreg細胞)でのそのポリヌクレオチドの発現の約2倍以上、さらに好ましくは約3倍以上である。
したがって、本発明のマーカーによれば、Th17細胞をTh1、Th2およびTreg細胞と区別して特異的に検出すること、およびTh17細胞が関与すると考えられている疾患の活動性指標を検討することができる。
【0017】
上記のヒトTh17細胞検出用マーカーの塩基配列およびアミノ酸配列は、UniGeneなどの米国生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information:NCBI)により提供されているデータベースから知ることができる。各マーカーのアクセッション番号を、以下の表1に示す。なお、これらのアクセッション番号は、2011年1月19日時点での最新の番号である。
【0018】
【表1】

【0019】
本発明の実施形態においては、ヒトTh17細胞検出用マーカーはポリヌクレオチドマーカーであってもよいし、ポリペプチドマーカーであってもよい。
したがって、ヒトTh17細胞検出用マーカーは、L1CAM、MCAMおよびPTPRMからなる群より選択される少なくとも1つで表される遺伝子の塩基配列を有するポリヌクレオチドまたはその変異型もしくは断片であるか、あるいはL1CAM、MCAMおよびPTPRMからなる群より選択される少なくとも1つで表される遺伝子によりコードされるタンパク質またはその機能的に同等な変異型もしくは断片である。
なお、本明細書において、ポリヌクレオチドは、DNAまたはRNAのいずれであってもよく、上記の遺伝子そのもの(DNA)、mRNA、cDNAまたはcRNAのいずれであってもよい。
【0020】
本発明の実施形態においては、ヒトTh17細胞検出用マーカーは、L1CAM、MCAMおよびPTPRMからなる群より選択される少なくとも2つを含むことが好ましい。この場合、ヒトTh17細胞検出用マーカーは、L1CAM、MCAMおよびPTPRMからなる群より選択される少なくとも2つで表される遺伝子の塩基配列を有するポリヌクレオチドまたはその変異型もしくは断片であってもよいし、あるいはL1CAM、MCAMおよびPTPRMからなる群より選択される少なくとも2つで表される遺伝子によりコードされるタンパク質またはその機能的に同等な変異型もしくは断片であってもよい。
【0021】
また、本発明の別の実施形態においては、ヒトTh17細胞検出用マーカーは、当該技術においてヒトTh17細胞を検出するために用いられている既知マーカーをさらに含んでいてもよい。当該技術において、ヒトTh17細胞にはCCR6が高発現しており(「CCR6陽性」または「CCR6+」)且つCXCR3があまり発現していない(「CXCR3陰性」または「CXCR3-」)ことが知られている。
本実施形態においては、ヒトTh17細胞検出用マーカーは、L1CAM、MCAMおよびPTPRMからなる群より選択される少なくとも1つと、CCR6およびCXCR3からなる群より選択される少なくとも1つとを含むことが好ましい。
【0022】
上記の実施形態においては、ヒトTh17細胞検出用マーカーは、L1CAM、MCAMおよびPTPRMからなる群より選択される少なくとも1つと、CCR6およびCXCR3からなる群より選択される少なくとも1つとで表される遺伝子の塩基配列を有するポリヌクレオチドまたはその変異型もしくは断片であってもよい。あるいは、ヒトTh17細胞検出用マーカーは、L1CAM、MCAMおよびPTPRMからなる群より選択される少なくとも1つと、CCR6およびCXCR3からなる群より選択される少なくとも1つとで表される遺伝子によりコードされるタンパク質またはその機能的に同等な変異型もしくは断片であってもよい。
【0023】
本明細書において、ポリヌクレオチドの変異型とは、上記の遺伝子によりコードされるタンパク質の機能を変化させないような変異が導入されたポリヌクレオチドを意味する。このような変異は、上記の遺伝子の塩基配列における1もしくは複数のヌクレオチドの欠失または置換、あるいは1もしくは複数のヌクレオチドの付加を含む。変異型の塩基配列は、本来の遺伝子の塩基配列と、少なくとも80%以上、好ましくは少なくとも85%以上、より好ましくは少なくとも90%以上、特に好ましくは少なくとも95%以上の配列同一性を有する。
【0024】
本明細書において、タンパク質の機能的に同等な変異型とは、上記のタンパク質の機能を変化させないような変異が導入されたタンパク質を意味する。このような変異は、上記のタンパク質のアミノ酸配列における1もしくは複数のアミノ酸の欠失または置換、あるいは1もしくは複数のアミノ酸の付加を含む。タンパク質の機能的に同等な変異型のアミノ酸配列は、本来のタンパク質のアミノ酸配列と、少なくとも80%以上、好ましくは少なくとも85%以上、より好ましくは少なくとも90%以上、特に好ましくは少なくとも95%以上の配列同一性を有する。
なお、本明細書において、塩基配列およびアミノ酸配列の配列同一性は、BLASTN、BLASTP、BLASTXまたはTBLASTN(例えば、http://www.ncbi.nlm.nih.govから利用可能)を標準設定で用いて算出されるものを意味する。
【0025】
本明細書において、ポリヌクレオチドの断片とは、上記のヒトTh17細胞検出用マーカーの塩基配列の一部を連続して有し、後述するヒトTh17細胞検出用マーカーの発現レベルを取得するためのプローブと特異的にハイブリダイズできる長さのポリヌクレオチドを意味する。
本明細書において、タンパク質の断片とは、上記のヒトTh17細胞検出用マーカーのアミノ酸配列の一部を連続して有し、後述するヒトTh17細胞検出用マーカーの発現レベルを取得するための抗体または核酸アプタマーにより特異的に認識される長さのポリペプチドを意味する。
【0026】
[2.ヒトTh17細胞の検出方法]
本発明の範囲には、上記のヒトTh17細胞検出用マーカーを用いて、細胞を含む試料中のヒトTh17細胞を検出する方法も含まれる。
本発明のヒトTh17細胞の検出方法(以下、単に「検出方法」ともいう)は、細胞を含む試料における、本発明のマーカーの発現レベルを取得する工程と、取得した該マーカーの発現レベルに基づいて、上記の試料中のヒトTh17細胞を検出する工程とを含むことを特徴とする。
【0027】
本発明の実施形態において、細胞を含む試料としては、ヒトから採取した生体試料または人工的に培養した細胞株を含む試料が挙げられる。生体試料としては、血液、組織、関節液、脳脊髄液、胸水、腹水などが挙げられる。
【0028】
本明細書において、「マーカーの発現レベル」とは、当該技術において公知の方法により、細胞を含む試料から取得される各マーカーの発現量を示すデータであれば特に制限されない。
本発明のヒトTh17細胞検出用マーカーがポリヌクレオチドマーカーの場合、マーカーの発現レベルは、例えば、PCR法、RT-PCR法、リアルタイムPCR法、LAMP(Loop-mediated isothermal amplification)法などの核酸増幅法、サザンハイブリダイゼーション、ノザンハイブリダイゼーションなどのハイブリダイゼーション法、マイクロアレイ法などの当該技術において公知の方法により取得できる、核酸(DNA、mRNA、cDNAまたはcRNA)の定量値が挙げられる。
本発明のヒトTh17細胞検出用マーカーがポリペプチドマーカーの場合、マーカーの発現レベルは、後述するマーカーの発現レベルを取得するための抗体または核酸アプタマーを用いて、例えば免疫沈降法、ウェスタンブロット法、ELISA法などの当該技術において公知の方法により取得できる、タンパク質の定量値が挙げられる。
【0029】
本発明の実施形態においては、ポリヌクレオチドマーカーとしてのヒトTh17細胞検出用マーカーに特異的にハイブリダイズできる分子を、該マーカーの発現レベルを取得するためのプローブとして用いることができる(以下、該プローブを「発現レベル取得用プローブ」ともいう)。発現レベル取得用プローブは、ポリヌクレオチドマーカーとしてのヒトTh17細胞検出用マーカーに特異的にハイブリダイズできる核酸プローブおよびペプチドプローブのいずれであってもよい。そのようなプローブとしては、核酸プローブが好ましく、特にDNAプローブが好ましい。
【0030】
本明細書において、「特異的にハイブリダイズできる」とは、上記のプローブが、ストリンジェントな条件下でポリヌクレオチドマーカーとしてのヒトTh17細胞検出用マーカーにハイブリダイズできることを意味する。
本明細書において、ストリンジェントな条件とは、上記のプローブが標的ポリヌクレオチドに、該標的ポリヌクレオチド以外のポリヌクレオチドよりも検出可能に大きい程度(例えば、バックグラウンドの少なくとも2倍を超える)でハイブリダイズできる条件である。
なお、ストリンジェントな条件は、通常、配列依存性であり、そして種々の環境において異なる。一般的に、ストリンジェントな条件は、規定のイオン強度およびpHでの特定の配列の熱的融点(thermal melting point:Tm)よりも、約5℃低くなるように選択される。このTmは、(規定されたイオン強度、pHおよび核酸組成の下で)上記の標的核酸分子の塩基配列に相補的なプローブの50%が平衡してハイブリダイズする温度である。
【0031】
このような条件は、当該技術において公知のポリヌクレオチド同士のハイブリダイゼーション法、例えばPCR法、マイクロアレイ法、サザンブロット法などにおいて、ポリヌクレオチド同士のハイブリダイゼーションに用いられる条件であってよい。具体的には、pH 7.0〜9.0で塩濃度が約1.5 M Naイオンより低い、より具体的には、約0.01〜1.0 M Naイオン濃度(または他の塩)であり、少なくとも約30℃の条件が挙げられる。例えば、マイクロアレイ法におけるストリンジェントな条件は、37℃で50%ホルムアミド、1M NaCl、1% SDS中でのハイブリダイゼーション、および60〜65℃での0.1×SSC中での洗浄を含む。また、PCR法におけるストリンジェントな条件は、pH 7.0〜9.0、0.01〜0.1 MのTris HCl、0.05〜0.15 M Kイオン濃度(または他の塩)、少なくとも約55℃の条件が挙げられる。
【0032】
上記の発現レベル取得用プローブの塩基配列は、当該技術常識ならびにヒトTh17細胞検出用マーカーの塩基配列に基づいて、該マーカーに特異的にハイブリダイズできるように、当業者が適宜決定できる。そのような配列は、例えば、一般に利用可能なプライマー設計ソフトウェア(例えばPrimer3(http://frodo.wi.mit.edu/cgi-bin/primer3/primer3.cgiから利用可能)やDNASIS Pro(日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社))を用いて決定できる。
また、発現量取得用プローブは、当該技術において公知のポリヌクレオチドの合成方法により作製できる。発現レベル取得用プローブの長さは、通常5〜50ヌクレオチド、好ましくは10〜40ヌクレオチドである。
【0033】
上記の発現レベル取得用プローブは、1種のみを用いるか、または複数種を組み合わせて用いることができる。例えば、当該技術において公知の方法を用いて該プローブ1種以上を基板上に固定化することにより、ヒトTh17細胞検出用マーカーの発現レベルを取得するためのマイクロアレイを作製できる。
上記の発現レベル取得用プローブは、例えば、核酸増幅法によりヒトTh17細胞検出用マーカーを増幅するための2種以上のプライマーのセットとすることができる。
【0034】
本発明の実施形態において、ポリペプチドマーカーとしてのヒトTh17細胞検出用マーカーに特異的に結合できる分子を、該マーカーの発現レベルを取得するために用いることができる。このような分子は、ヒトTh17細胞検出用マーカーと特異的に反応する抗体およびアプタマーなどのいずれであってもよいが、好ましくは抗体である(以下、該抗体を「発現レベル取得用抗体」ともいう)。
【0035】
上記の発現レベル取得用抗体は、例えば、次のような当該技術において公知の手順により作製できる。ヒトTh17細胞検出用マーカーである遺伝子の塩基配列またはタンパク質のアミノ酸配列に基づいて、各マーカーのアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA分子を適切な発現ベクターに組み込む。得られた発現ベクターを適切な宿主細胞に導入し、得られた形質転換細胞を培養して、目的のタンパク質を得る。得られたタンパク質を精製して免疫原とし、該免疫原と所望によりアジュバントとを用いて、適切な哺乳動物、例えばラット、マウスなどを免疫する。免疫された動物の脾臓細胞などから、目的の免疫原に対する抗体を産生する抗体産生細胞をスクリーニングにより選択する。得られた抗体産生細胞を、ミエローマ細胞と融合させてハイブリドーマを得て、これをスクリーニングすることにより、上記の遺伝子によりコードされるタンパク質に特異的結合性を有する抗体を産生する抗体産生ハイブリドーマを得ることができる。得られた抗体産生ハイブリドーマを培養することにより、発現レベル取得用抗体を得ることができる。
【0036】
ヒトTh17細胞検出用マーカーの発現レベルを取得するために用いることができアプタマー(以下、該アプタマーを「発現レベル取得用アプタマー」ともいう)は、例えば、次のような当該技術において公知の手順により作製できる。ランダムな核酸の塩基配列を有する核酸ライブラリーを公知の手法により作製し、これを試験管内進化法(SELEX法)などに付すことより標的のタンパク質(タンパク質又はポリペプチドとしてのヒトTh17細胞検出用マーカー)に特異的に結合できるアプタマーを選択できる。
【0037】
上記の発現レベル取得用プローブ、抗体およびアプタマーは、当該技術において通常用いられる標識物質により標識されていてもよい。標識されたプローブ、抗体およびアプタマーを用いることにより、ヒトTh17細胞検出用マーカーの発現量を簡便に取得することができる。そのような標識物質は、32P、35S、3Hおよび125Iなどの放射性同位体、フルオレセイン、Alexa Fluor(登録商標)などの蛍光物質、アルカリホスファターゼ、セイヨウワサビペルオキシダーゼなどの酵素、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジンなどの当該技術において通常用いられる標識物質であり得る。
フローサイトメータを用いて、本発明のマーカーの発現レベルを取得する場合、標識物質は蛍光物質であることが好ましい。
【0038】
本発明の実施形態においては、上記のマーカーの発現レベルは、本発明のヒトTh17細胞検出用ポリペプチドマーカーを高発現しているか又はほとんど発現していない細胞に関する情報であってもよい。そのような情報としては、例えば、試料中の細胞の表面に存在する本発明のマーカーに結合した標識化抗体の標識物質から発せられるシグナルが挙げられる。
本発明の好ましい実施形態においては、上記のマーカーの発現レベルを取得する工程は、標識物質で標識された、ヒトTh17細胞検出用ポリペプチドマーカーと特異的に反応する標識化抗体と、上記の細胞を含む試料とを接触させて測定用試料を調製し、得られた測定用試料における、上記のポリペプチドマーカーを介してヒトTh17細胞に結合した標識化抗体の標識を検出する工程である。
上記の標識化抗体は、上記の発現レベル取得用抗体に標識物質を直接結合させるか又は該抗体を一次抗体として、この一次抗体を特異的に認識する標識化二次抗体を結合させることにより得ることができる。
【0039】
本発明の検出方法では、互いに異なる複数のヒトTh17細胞検出用ポリペプチドマーカーの発現レベルを取得することが好ましい。
よって、本発明の実施形態においては、上記のマーカーの発現レベルを取得する工程が、互いに異なる複数のTh17細胞検出用マーカーの発現レベルを取得する工程であり、上記の標識化抗体は、複数のTh17細胞検出用マーカーのそれぞれと特異的に反応する、互いに異なる抗体であり、且つ互いに識別可能な標識物質で標識されていることが好ましい。
なお、互いに識別可能な標識物質の組み合わせは当該技術において公知であり、例えば赤色の蛍光物質と緑色の蛍光物質との組み合わせなどが挙げられる。
【0040】
本発明の実施形態においては、標識化抗体は、蛍光標識物質で標識された抗体であることが好ましい。
【0041】
上記の各実施形態における測定用試料は、標識化抗体と、細胞を含む試料とを適切な時間接触させることにより調製することができる。測定用試料において、存在する場合にヒトTh17細胞は、その表面の本発明のマーカーを介して標識化抗体と結合する。そして、この測定用試料中のヒトTh17細胞に結合した標識化抗体の標識を検出することにより、本発明のヒトTh17細胞検出用ポリペプチドマーカーを高発現しているか又はほとんど発現していない細胞に関する情報を得ることができる。
上記の標識化抗体が蛍光標識化抗体である場合、測定用試料からの標識の検出は、フローサイトメータを用いて、該蛍光標識化抗体から発せられる蛍光を検出することにより行われることが好ましい。フローサイトメータを用いる場合、蛍光標識化抗体と結合したヒトTh17細胞を分取することもできる。なお、フローサイトメータを用いて測定用試料から蛍光を検出することは当該技術において公知であり、検出の条件などは当業者により適宜決定される。
【実施例】
【0042】
本発明を、実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)ヒト末梢血由来培養Th17細胞における高発現遺伝子の解析
1.ヒト末梢血からのTh1、Th2、TregおよびTh17細胞の単離
(1)ヒト末梢血からのTh1、Th2およびTh17細胞の単離
健常な成人の末梢血から得たバフィーコートをFicoll-paque plus溶液(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社)に重層し、これを遠心分離することにより、単核球フラクションを得た。次いで、抗CD4抗体を結合させた磁気ビーズ(Miltenyi Biotec社)を用いて、上記のフラクションからCD4陽性細胞を粗精製した。
このようにして得たCD4陽性細胞を、表2に示す蛍光標識抗体を用いて染色した後、セルソーター(FACS Aria:Becton Dickinson社)を用いて、Th1、Th2およびTh17の各細胞を分離した。また、分離のゲーティングは、表3に示すとおりに行った。
【0044】
【表2】

【表3】

【0045】
なお、上記のソーティングの操作の詳細は、Acosta-Rodriguez EVらによる文献(Surface phenotype and antigenic specificity of human interleukin 17-producing T helper memory cells.,Nat Immunol., 2007, vol. 8, p.639-646)を参照されたい。
【0046】
(2)ヒト末梢血からのTreg細胞の単離
上記の工程(1)と同様にして得たCD4陽性細胞を、表4に示す蛍光標識抗体を用いて染色した後、上記のセルソーターを用いて、CD4high CD25high CD127internal-negative細胞をTreg細胞として純化した。
【0047】
【表4】

【0048】
なお、上記のソーティングの操作の詳細は、Weihong Liuらによる文献(CD127 expression inversely correlates with FoxP3 and suppressive function of human CD4+ T reg cells.,J Exp Med. 2006, vol. 203, p.1701-1711)を参照されたい。
【0049】
2.細胞の培養
(1)Th1、Th2およびTh17細胞の培養
上記の工程1.(1)で得られた成人末梢血由来のTh1、Th2およびTh17細胞をそれぞれ96ウェルプレートに1.5 x 105細胞/0.3 ml/ウェルの密度で播種した。培地は、Yssel培地(IMDM,1%ヒトAB型血清,0.25% BSA,1.8 mg/l 2−アミノメタノール,40 mg/lトランスフェリン,5 mg/lインスリン,2 mg/lリノール酸,2 mg/lオレイン酸,2 mg/lパルミチン酸,1%ペニシリン/ストレプトマイシン)を用いた。
また、上記の細胞の活性化および増殖のために、各ウェルに抗CD2/3/28抗体でコーティングした磁気ビーズ(Miltenyi Biotec社)(以下、「抗体ビーズ」ともいう)を0.75 x 105個ずつ添加した。そして、Th1、Th2およびTh17細胞のそれぞれの分化培養に適したサイトカインおよび中和抗体を添加して、細胞を37℃、5% CO2雰囲気のインキュベータ内で培養した。表5に用いたサイトカインおよび中和抗体を示す。
【0050】
【表5】

【0051】
上記のサイトカインの濃度は、IL-6を50 ng/mlとし、IL-6以外を10 ng/mlとした。また、上記の抗体の濃度は、抗IFN-γ抗体を10μg/mlとし、抗IL-4抗体を2.5μg/mlとした。
なお、サイトカインおよび中和抗体は、それぞれR&D systems社およびeBioscience社から入手した。
培養開始から3日後、上記のサイトカインおよび抗体を含んだ培地で細胞を3倍に希釈し、さらに7日間(合計10日間)培養した。
【0052】
(2)Treg細胞の培養
上記の工程1.(2)で得られたTreg細胞を、上記の工程2.(1)と同様にYssel培地で培養し、そして抗体ビーズを用いて活性化した。さらに、培地には、サイトカインとして、IL-2およびTGF-β1(R&D systems社)、ならびに中和抗体として、抗IFN-γ抗体、抗IL-4抗体(eBioscience社)および抗IL-6抗体(BD bioscience社)を添加した。
なお、これらのサイトカインおよび中和抗体は、それぞれ10 ng/mlおよび5μg/mlの濃度で用いた。
培養開始から3日後、培養開始時と同量のサイトカインおよび中和抗体を添加した。培養開始から3日後、上記のサイトカインおよび抗体を含んだ培地で細胞を3倍に希釈し、さらに7日間(合計10日間)培養した。
【0053】
3.トータルRNAの抽出
上記の工程2.で得た各細胞からトータルRNAを抽出するために、それぞれRNeasy Plus MiniキットおよびRNeasy microキット(QIAGEN社)を用いた。なお、具体的な操作は、各キットの添付文書の記載に従って行った。
【0054】
4.マイクロアレイ発現解析
Two-Cycle Target Labeling and Control Reagents(Affymetrix社)を用いて、上記の工程3.で抽出した各細胞のトータルRNA(10-100 ng)をcDNAに逆転写し、さらにビオチン化cRNAへの転写反応を行った。次いで、増幅したビオチン化cRNA(20μg)を断片化した。なお、具体的な操作は、キットに添付の説明書の記載に従って行った。
上記で得られた各細胞由来のビオチン化cRNA(15 μg)を検体として、それぞれGeneChip Hunman Genome U-133 Plus 2.0 Array(Affymetrix社)に添加し、GeneChip Hybridization Oven 640(Affymetrix社)に移して、45℃、60 rpmの条件下で16時間ハイブリダイゼーションを行った。
ハイブリダイゼーション終了後、上記のマイクロアレイを、GeneChip Fluidic Station 450(Affymetrix社)を用いて洗浄および蛍光標識を行い、該マイクロアレイを、GeneChip Scanner 3000 7G(Affymetrix社)を用いてスキャンし、蛍光強度データを取得した。
【0055】
5.ヒトTh17細胞に特異的に発現する遺伝子の同定
上記の工程4.で得られた蛍光強度のデータに基づいて、発現解析ソフトウェアGeneSpring Ver.10(Agilent Technologies社)を用いて、MAS5アルゴリズムにより該データを標準化した。そして、Th17細胞の各遺伝子の相対蛍光強度を、Th1、Th2およびTreg細胞のものと比較した。
なお、上記の遺伝子の選択工程に用いた各検体の数を表6に示す。
【0056】
【表6】

【0057】
Th17細胞における相対蛍光強度がTh1、Th2およびTreg細胞のいずれよりも3倍以上高く、且つ有意に発現する遺伝子(相対蛍光強度のTh1、Th2、TregおよびTh17細胞の4群間のANOVA統計解析により、「p値<0.05」を示した遺伝子)を、Th17細胞に特異的に発現している遺伝子として同定した。
その結果、L1CAM、MCAMおよびPTPRMを含む142遺伝子を同定した。なお、L1CAM、MCAMおよびPTPRMについての、Th1、Th2およびTreg細胞のそれぞれに対するTh17細胞での発現比を表7に示す。
【0058】
【表7】

【0059】
(実施例2)ヒト末梢血由来培養Th1、Th2、TregおよびTh17細胞におけるTh17細胞検出用マーカーのタンパク質発現解析
1.測定用試料の調製
(1)MCAM測定用試料の調製
実施例1の「2.細胞の培養」において調製したTh17細胞(5×106cells/ml)に、フィコエリスリン(PE)標識抗MCAM抗体(Biolegend社)を終濃度1.25μg/mlとなるように添加し、4℃で20分間反応させた。
反応後、0.5% BSAを含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を添加し、遠心分離によりTh17細胞を回収することで、洗浄を行った。洗浄後のTh17細胞を、0.5μg/ml 7-アミノ-アクチノマイシンD(7-AAD)および0.5% BSAを含有するPBSに懸濁し、Th17細胞のMCAM測定用試料(5×106cells /ml)を調製した。
Th17細胞に代えて、Th1細胞、Th2細胞、およびTreg細胞を用い、同様の操作を行うことで、それぞれTh1細胞のMCAM測定用試料(5×106cells/ml)、Th2細胞のMCAM測定用試料(5×106cells/ml)およびTreg細胞のMCAM測定用試料(5×106cells/ml)を調製した。
PE標識MCAM抗体に代えてPE標識マウスIgG2aアイソタイプコントロール(Biolegend社)を終濃度1.0μg/mlとなるように添加し、4℃で20分間反応させネガティブコントロール用試料(5×106cells/ml)を調製した。
【0060】
(2)PTPRM測定用試料の調製
上記の「2.細胞の培養」において調製したTh17細胞(5×106cells/ml)に、抗PTPRM抗体(Abcam社)を終濃度が2.0μg/mlとなるように添加し、4℃で20分間反応させた。
反応後、0.5% BSAを含有するPBSを添加し、遠心分離によりTh17細胞を回収した。回収したTh17細胞を、0.5% BSAを含有するPBSに懸濁した。この懸濁液に、PE標識抗マウスIgG抗体(Biolegend社)終濃度1.0μg/mlとなるように添加し、4℃で20分間反応させた。
PE標識抗マウスIgG抗体と反応させた後、0.5% BSAを含有するPBSを添加し、遠心分離によりTh17細胞を回収することで、洗浄を行った。洗浄後のTh17細胞を、0.5μg/ml 7-アミノ-アクチノマイシンD(7-AAD)および0.5% BSAを含有するPBSに懸濁し、Th17細胞のPTPRM測定用試料(5×106cells/ml)を調製した。
Th17細胞に代えて、Th1細胞、Th2細胞、およびTreg細胞を用い、同様の操作を行うことで、それぞれTh1細胞のPTPRM測定用試料(5×106cells/ml)、Th2細胞のPTPRM測定用試料(5×106cells/ml)およびTreg細胞のPTPRM測定用試料(5×106cells/ml)を調製した。
抗PTPRM抗体に代えてマウスIgG2aアイソタイプコントロール(Biolegend社)を終濃度1.0μg/mlとなるように添加し、4℃で20分間反応させネガティブコントロール用試料(5×106cells/ml)を調製した。
【0061】
(3)L1CAM測定用試料の調製
上記の「2.細胞の培養」において調製したTh17細胞(5×106cells/ml)に、抗L1CAM抗体(BDバイオサイエンス社)を終濃度が1.25μg/mlとなるように添加し、4℃で20分間反応させた。
反応後、0.5% BSAを含有するPBSを添加し、遠心分離によりTh17細胞を回収した。回収したTh17細胞を、0.5% BSAを含有するPBSに懸濁した。この懸濁液に、APC標識抗マウスIgG抗体(BDバイオサイエンス社)終濃度1.0μg/mlとなるように添加し、4℃で20分間反応させた。
APC標識抗マウスIgG抗体と反応させた後、0.5% BSAを含有するPBSを添加し、遠心分離によりTh17細胞を回収することで、洗浄を行った。洗浄後のTh17細胞を、0.5μg/ml 7-アミノ-アクチノマイシンD(7-AAD)および0.5% BSAを含有するPBSに懸濁し、Th17細胞のL1CAM測定用試料(5×106cells/ml)を調製した。
Th17細胞に代えて、Th1細胞およびTh2細胞を用い、同様の操作を行うことで、それぞれTh1細胞のL1CAM測定用試料(5×106cells/ml)およびTh2細胞のL1CAM測定用試料(5×106cells/ml)を調製した。
抗L1CAM抗体に代えてマウスIgG2aアイソタイプコントロール(Biolegend社)を終濃度1.0μg/mlとなるように添加し、4℃で20分間反応させネガティブコントロール用試料(5×106cells/ml)を調製した。
【0062】
(4)CCR6測定用試料の調製
上記の「(1)MCAM測定用試料の調製」における、PE標識抗MCAM抗体に代えて、終濃度1.0μg/mlのPE標識抗CCR6抗体(BDバイオサイエンス社)を用い、同様の操作を行うことで、Th17細胞のCCR6測定用試料(5×106cells/ml)、Th1細胞のCCR6測定用試料(5×106cells/ml)、Th2細胞のCCR6測定用試料(5×106cells/ml)およびTreg細胞のCCR6測定用試料(5×106cells/ml)を調製した。
上記のPE標識抗CCR6抗体に代えてPE標識マウスIgG1アイソタイプコントロール(Biolegend社)を終濃度1.0μg/mlとなるように添加し、4℃で20分間反応させネガティブコントロール用試料(5×106cells/ml)を調製した。
【0063】
2.フローサイトメータを用いた各測定用試料におけるポリペプチドマーカーの発現解析
上記のようにして調製したMCAM測定用試料、PTPRM測定用試料、L1CAM測定用試料およびCCR6測定用試料を、FACSCanto II(BDバイオサイエンス社)およびFACS DIVAソフトウェア(BDバイオサイエンス社)を用いて解析した。解析により得られた蛍光強度のヒストグラム(粒度分布)を図1に示す。なお、図1において、ヒストグラムの縦軸は細胞数を示し、横軸は蛍光強度を示す。また、ヒストグラムの右上の数値は、各測定用試料における、全細胞数に対するマーカー陽性細胞数の比率(%)を示す。ここで、陽性細胞と陰性細胞の判定は、ネガティブコントロールにおける最大の蛍光強度を基準として行った。すなわち、ネガティブコントロールにおける最大の蛍光強度よりも高い蛍光強度を示す細胞を陽性細胞と判定した。逆に、ネガティブコントロールにおける最大の蛍光強度以下の蛍光強度を示す細胞を陰性細胞と判定した。陽性細胞比率は、全細胞数に対する陽性細胞数の比として算出した。
図1より、MCAM、PTPRMおよびL1CAMは、Th1細胞、Th2細胞およびTreg細胞よりもTh17細胞において特異的に高発現していることが分かる。また、MCAM測定用試料、PTPRM測定用試料およびL1CAM測定用試料のTh17細胞の陽性細胞比率は、既知マーカーであるCCR6の測定用試料の場合と比べて高いことがわかる。以上のことから、MCAM、PTPRMおよびL1CAMで表される各遺伝子によりコードされるタンパク質は、Th17細胞検出用ポリペプチドマーカーとして利用可能であることが分かった。
【0064】
(実施例3)ヒト末梢血由来培養Th1、Th2、TregおよびTh17細胞におけるTh17検出用マーカーのタンパク質発現との相関解析
1.ポリペプチドマーカーセットによる測定のための試料調製
(1)Th細胞混合試料の調製
上記の「2.細胞の培養」において調製したTh1細胞、Th2細胞、Treg細胞およびTh17細胞をそれぞれ、以下の表8に示す比率で混合してTh細胞混合試料(10種類)を調製した。このTh細胞混合試料の調製を独立に4回行い、計40サンプル調製した(このうち、2サンプルについてデータを取得できなかったので、最終的には38サンプル分のデータを用いて後述する解析を行った)。
【0065】
【表8】

【0066】
(2)PTPRM/MCAMポリペプチドマーカー測定用試料の調製
上記の「1−(1)測定用試料の調製」において調製したTh細胞混合試料(5×106cells/ml)に終濃度2.0μg/mlの抗PTPRM抗体(Abcam社)を添加し、4℃で20分間反応させた。
反応後、0.5% BSAを含有するPBSを添加し、遠心分離によりTh細胞を回収した。回収したTh細胞を、0.5% BSAを含有するPBSに懸濁した。この懸濁液に、APC標識抗マウスIgG抗体(Biolegend社)終濃度1.0μg/mlとなるように添加し、4℃で20分間反応させた。
APC標識抗マウスIgG抗体と反応させた後、0.5% BSAを含有するPBSを添加し、遠心分離によりTh細胞を回収することで、洗浄を行った。
洗浄後のTh細胞にPE標識抗MCAM抗体(Biolegend社)を終濃度1.25μg/mlとなるように添加し、4℃で20分間反応させた。
反応後、0.5% BSAを含有するPBSを添加し、遠心分離によりTh細胞を回収することで、洗浄を行った。
洗浄後のTh細胞を、0.5μg/ml 7-アミノ-アクチノマイシンD(7-AAD)および0.5% BSAを含有するPBSに懸濁し、PTPRM/MCAMポリペプチドマーカー測定用試料(5×106cells/ml)を調製した。
【0067】
(3)PTPRM/L1CAMポリペプチドマーカー測定用試料の調製
上記の「(2)PTPRM/MCAM測定用試料の調製」における抗MCAM抗体に代えて、PE標識抗L1CAM抗体(eBioscience社)を終濃度が1.25μg/mlとなるように添加し、4℃で20分間反応させた。
反応後、0.5% BSAを含有するPBSを添加し、遠心分離によりTh細胞を回収することで、洗浄を行った。洗浄後のTh細胞を、0.5μg/ml 7-アミノ-アクチノマイシンD(7-AAD)および0.5% BSAを含有するPBSに懸濁し、PTPRM/L1CAMポリペプチドマーカー測定用試料(5×106cells/ml)を調製した。
【0068】
(4)PTPRM/CCR6ポリペプチドマーカー測定用試料の調製
上記の「(2)PTPRM/MCAM測定用試料の調製」における抗MCAM抗体に代えて、PE標識抗CCR6抗体(BDバイオサイエンス社)を終濃度が1.0μg/mlとなるように添加し、4℃で20分間反応させた。
反応後、0.5% BSAを含有するPBSを添加し、遠心分離によりTh細胞を回収することで、洗浄を行った。洗浄後のTh細胞を、0.5μg/ml 7-アミノ-アクチノマイシンD(7-AAD)および0.5% BSAを含有するPBSに懸濁し、PTPRM/CCR6ポリペプチドマーカー測定用試料(5×106cells/ml)を調製した。
【0069】
(5)PTPRM/CXCR3ポリペプチドマーカー測定用試料の調製
上記の「(2)PTPRM/MCAM測定用試料の調製」における抗MCAM抗体に代えて、Alexa488標識抗CXCR3抗体(BDバイオサイエンス社)を終濃度が1.0μg/mlとなるように添加し、4℃で20分間反応させた。
反応後、0.5% BSAを含有するPBSを添加し、遠心分離によりTh細胞を回収することで、洗浄を行った。洗浄後のTh細胞を、0.5μg/ml 7-アミノ-アクチノマイシンD(7-AAD)および0.5% BSAを含有するPBSに懸濁し、PTPRM/CXCR3ポリペプチドマーカー測定用試料(5×106cells/ml)を調製した。
【0070】
(6)CCR6/CXCR3ポリペプチドマーカー測定用試料の調製
上記の「(5)PTPRM/CXCR3測定用試料の調製」における抗PTPRM抗体に代えて、PE標識抗CCR6抗体(BDバイオサイエンス社)を終濃度が1.0μg/mlとなるように添加し、4℃で20分間反応させた。なお、この場合、「(5)PTPRM/CXCR3測定用試料の調製」における二次抗体(APC標識抗マウスIgG抗体)を用いた処理は行わなかった。
反応後、0.5% BSAを含有するPBSを添加し、遠心分離によりTh細胞を回収することで、洗浄を行った。洗浄後のTh細胞を、0.5μg/ml 7-アミノ-アクチノマイシンD(7-AAD)および0.5% BSAを含有するPBSに懸濁し、CCR6/CXCR3ポリペプチドマーカー測定用試料(5×106cells/ml)を調製した。
【0071】
(7)CCR6/MCAMポリペプチドマーカー測定用試料の調製
上記の「(2)PTPRM/MCAM測定用試料の調製」における抗PTPRM抗体に代えて、Alexa488標識抗CCR6抗体(Biolegend社)を終濃度が1.0μg/mlとなるように添加し、4℃で20分間反応させた。なお、この場合、「(2)PTPRM/MCAM測定用試料の調製」における二次抗体(APC標識抗マウスIgG抗体)を用いた処理は行わなかった。
反応後、0.5% BSAを含有するPBSを添加し、遠心分離によりTh細胞を回収することで、洗浄を行った。洗浄後のTh細胞を、0.5μg/ml 7-アミノ-アクチノマイシンD(7-AAD)および0.5% BSAを含有するPBSに懸濁し、CCR6/MCAMポリペプチドマーカー測定用試料(5×106cells/ml)を調製した。
【0072】
(8)CCR6/L1CAMポリペプチドマーカー測定用試料の調製
上記の「(7)CCR6/MCAM測定用試料の調製」における抗MCAM抗体に代えて、PE標識抗L1CAM抗体(eBioscience社)を終濃度が1.0μg/mlとなるように添加し、4℃で20分間反応させた。
反応後、0.5% BSAを含有するPBSを添加し、遠心分離によりTh細胞を回収することで、洗浄を行った。洗浄後のTh細胞を、0.5μg/ml 7-アミノ-アクチノマイシンD(7-AAD)および0.5% BSAを含有するPBSに懸濁し、CCR6/L1CAMポリペプチドマーカー測定用試料(5×106cells/ml)を調製した。
【0073】
2.各Th細胞の既知マーカーによる測定のための試料調製
(1)IFN-γ、IL-4、IL-17A測定用試料の調製
上記の「1.(1)Th細胞混合試料の調製」において調製したTh細胞混合試料を5%FBS/RPMIで2.5×105cells/mlとなるように調製した。次に、ホルボールミリステートアセテートを終濃度50 ng/mlおよびイオノマイシンを終濃度1μMとなるように添加し、37℃で4時間インキュベートすることで、Th細胞を刺激した。次に、ブレフェルディンAを終濃度10μg/mlとなるように添加して、37℃で2時間インキュベートした。
培養後、0.5% BSAを含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を添加し、遠心分離によりTh細胞を回収することで、洗浄を行った。洗浄したTh細胞に、2%パラホルムアルデヒドを添加し、固定した。固定後、サポニン緩衝液(0.5%サポニン、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)、1 mMアジ化ナトリウム(PBS中))を添加し、Th細胞の細胞膜の透過性を亢進させた。
サポニン緩衝液処理後の試料に、終濃度0.15μg/ml のPerCP-Cy5.5標識抗IL-17A抗体(eBioscience社)と、終濃度0.2μg/mlのAPC標識抗IL-4抗体(eBioscience社)および、終濃度1.0μg/mlのAlexa488標識抗IFN-γ抗体(Biolegend社)を添加し、4℃で20分間反応させた。なお、IFN-γはTh1細胞検出用の既知マーカーとして、IL-4はTh2細胞検出用の既知マーカーとして、IL-17AはTh17細胞検出用の既知マーカーとして用いた。
反応後、サポニン緩衝液を添加し、遠心分離によりTh細胞を回収することで、洗浄を行った。洗浄後のTh細胞を、0.5% BSAを含有するPBSに懸濁し、IFN-γ、IL-4、IL-17A測定用試料(2.5×105cells/ml)を調製した。
【0074】
(2)FOXP3測定用試料の調製
上記の「1.(1)Th細胞混合試料の調製」において調製した、Th細胞混合試料を、FOXP3 staining buffer set(eBioscience社)により固定および膜透過処理を行った後にPE標識抗FOXP3抗体(Biolegend社)を終濃度3.125μg/mlとなるように添加して4℃で20分間反応させた。なお、FOXP3はTreg細胞検出用の既知マーカーとして用いた。
反応後、0.5% BSAを含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を添加し、遠心分離によりTh細胞を回収することで、洗浄を行った。洗浄後のTh細胞を、0.5% BSAを含有するPBSに懸濁し、FOXP3測定用試料(5×106cells /ml)を調製した。
【0075】
3.フローサイトメータを用いた各測定用試料におけるポリペプチドマーカーセットおよびTh細胞既知マーカーの発現解析
上記1.(2)〜(8)で調製した各ポリペプチドマーカー測定用試料と、上記2.(1)〜(2)で調製したIFN-γ、IL-4、IL-17A、FOXPの測定用試料を、FACSCanto II(BDバイオサイエンス社)およびFACS DIVAソフトウェア(BDバイオサイエンス社)を用いて解析した。各ポリペプチドマーカー測定用試料において、以下の表9に示すポリペプチドマーカーを発現する細胞の数の、全細胞数に対する比率(%)を算出した。また、IFN-γ、IL-4、IL-17A、FOXP3の測定用試料において、全細胞数に対する、IFN-γ陽性細胞数、IL-4陽性細胞数、IL-17A陽性細胞数およびFOXP3陽性細胞数の比率を、それぞれTh1細胞比率(%)、Th2細胞比率(%)、Th17細胞比率(%)およびTreg細胞比率(%)とした。なお、陽性細胞と陰性細胞の判定は、ネガティブコントロールにおける最大の蛍光強度を基準として行った。すなわち、ネガティブコントロールにおける最大の蛍光強度よりも高い蛍光強度を示す細胞を陽性細胞と判定した。逆に、ネガティブコントロールにおける最大の蛍光強度以下の蛍光強度を示す細胞を陰性細胞と判定した。陽性細胞比率は、全細胞数に対する陽性細胞数の比として算出した。
【0076】
【表9】

【0077】
4.各Th17マーカーとTh陽性細胞の相関解析
上記3.において得られた各ポリペプチドマーカー発現細胞数の比率(%)とIL-17A陽性細胞数の比率(すなわちTh17細胞比率)(%)とのスピアマン順位相関係数をStatFlexソフトウェア(株式会社アーテック)により算出した。同様にして、各ポリペプチドマーカー発現細胞数の比率(%)とIFN-γ陽性細胞数の比率(すなわちTh1細胞比率)(%)、IL-4陽性細胞数(すなわちTh2細胞比率)(%)またはFOXP3陽性細胞数の比率(すなわちTreg細胞比率)(%)とのスピアマン順位相関係数を算出した。各マーカーの組み合わせ(マーカーセット)におけるスピアマン順位相関係数を、表10に示す。また、各検体についての「各ポリペプチドマーカー発現細胞数の比率(%)」に対する「IL-17Aにより検出したTh17細胞の比率(%)」のプロットを、図2に示す。図2において、「rs」はスピアマン順位相関係数を意味する。また、各マーカーの名称の後に付された「+」および「-」は、それぞれ「マーカーが発現している(陽性)」および「マーカーが発現していない(陰性)」ことを意味する。
【0078】
【表10】

【0079】
図2および表10より、本発明のTh17細胞検出用マーカーの各組み合わせは、標準的なTh17細胞の検出方法であるIL-17Aマーカーを用いる検出方法に対して、既知のマーカーセットであるCCR6及びCXCR3と同程度以上の高い相関を示すことがわかる。
他方、本発明のTh17細胞検出用マーカーの各組み合わせは、Th1、Th2およびTreg細胞の検出方法(INF-γ、IL-4およびFOXP3マーカーを用いる方法)に対して相関が認められない。
以上のことから、本発明のTh17細胞検出用マーカーがTh17細胞を特異的に検出できることが示唆される。例えば、本発明のマーカーを用いてることにより、患者から採取した組織などの細胞を含む試料においてTh17細胞を特異的に検出することができると考えられ、さらに、Th17細胞が関与すると考えられている疾患、例えばRAなどの自己免疫疾患に該患者が罹患しているか否かの判定に用いることができると考えられる。
【0080】
(実施例4)各Th17細胞検出用マーカー分画に含まれるTh17細胞比率の解析
(1)分画試料の調製
実施例3の1.(1)で調製したTh細胞混合試料2(混合比率が、Th1:Th2:Treg:Th17=0.5:1:1:1である試料)から、実施例3の1.(2)、(4)、(6)および(8)と同様の方法により、PTPRM/MCAM、PTPRM/CCR6、CCR6/CXCR3およびCCR6/L1CAMポリペプチドマーカー測定用試料をそれぞれ調製した。
調製した各ポリペプチドマーカー測定用試料中のTh細胞から、セルソーター(FACS Aria:Becton Dickinson社)を用いて、PTPRM陽性且つMCAM陽性の細胞、PTPRM陽性且つCCR6陽性の細胞、CCR6陽性かつCXCR3陰性の細胞およびCCR6陽性且つL1CAM陽性の細胞をそれぞれ分離した。
この分離した細胞をそれぞれ96ウェルプレートに1.5 x 105細胞以下/0.3 ml/ウェルの密度で播種した。培地は、IL-2(R&D systems社)を終濃度10ng/mlとなるように添加したYssel培地(IMDM,1%ヒトAB型血清,0.25% BSA,1.8 mg/l 2−アミノメタノール,40 mg/lトランスフェリン,5 mg/lインスリン,2 mg/lリノール酸,2 mg/lオレイン酸,2 mg/lパルミチン酸,1%ペニシリン/ストレプトマイシン)により細胞を37℃、5% CO2雰囲気のインキュベータ内で3日間培養し、PTPRM/MCAM 分画試料、PTPRM/CCR6分画試料、CCR6/CXCR3分画試料およびCCR6/L1CAM分画試料を調製した。
【0081】
(2)IL-17A陽性細胞測定のための試料処理
上記(1)の分画前のTh細胞混合試料2、ならびに分画後のPTPRM/MCAM分画試料、PTPRM/CCR6分画試料、CCR6/CXCR3分画試料およびCCR6/L1CAM分画試料のそれぞれに含まれるIL-17A陽性細胞を測定するために、各試料からIL-17A測定用試料を調製した。具体的には、Th細胞混合試料2、PTPRM/MCAM 分画試料、PTPRM/CCR6分画試料、CCR6/CXCR3分画試料、CCR6/L1CAM分画試料を、5%FBS/RPMIで2.5×105cells/mlとなるように調製した。次に、ホルボールミリステートアセテートを終濃度50 ng/mlおよびイオノマイシンを終濃度1μMとなるように添加し、37℃で4時間インキュベートすることで、Th細胞を刺激した。次に、ブレフェルディンAを終濃度10μg/mlとなるように添加して、37℃で2時間インキュベートした。
培養後、0.5% BSAを含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を添加し、遠心分離によりTh細胞を回収することで、洗浄を行った。洗浄したTh細胞に、2%パラホルムアルデヒドを添加し、固定した。固定後、サポニン緩衝液(0.5%サポニン、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)、1 mMアジ化ナトリウム(PBS中))を添加し、Th細胞の細胞膜の透過性を亢進させた。
サポニン緩衝液処理後の試料に、終濃度0.15μg/ml のPerCP-Cy5.5標識抗IL-17A抗体(eBioscience社)を添加し、4℃で20分間反応させた。
反応後、サポニン緩衝液を添加し、遠心分離によりTh細胞を回収することで、洗浄を行った。洗浄後のTh細胞を、0.5% BSAを含有するPBSに懸濁し、IL-17A測定用試料を調製した。
【0082】
(3)IL-17A陽性細胞の測定
上記(2)において調製した各IL-17A測定用試料を、FACSCanto II(BDバイオサイエンス社)およびFACS DIVAソフトウェア(BDバイオサイエンス社)を用いて解析した。各IL-17A測定用試料において、全細胞数に対する、IL-17A陽性細胞数の比率を、Th17細胞比率(%)を算出した。
ここで、陽性細胞と陰性細胞の判定は、ネガティブコントロールにおける最大の蛍光強度を基準として行った。すなわち、ネガティブコントロールにおける最大の蛍光強度よりも高い蛍光強度を示す細胞を陽性細胞と判定した。
反対に、ネガティブコントロールにおける最大の蛍光強度以下の蛍光強度を示す細胞を陰性細胞と判定した。陽性細胞比率は、全細胞数に対する陽性細胞数の比として算出した。
【0083】
(4)Th17濃縮率の算出
上記(3)で得られた各試料のTh17細胞比率(%)に基づいて、Th17細胞検出用マーカー分画におけるTh17濃縮率を算出した。具体的には、上記(3)で得られたTh細胞混合試料2のTh17細胞比率(%)に対する、PTPRM/MCAM 分画試料、PTPRM/CCR6分画試料、CCR6/CXCR3分画試料、CCR6/L1CAM分画試料のTh17細胞比率(%)の比をそれぞれ算出した。得られた比をTh17濃縮率とし、Th17細胞検出用マーカー分画におけるTh17濃縮率を図3に示した。
図3より、「CCR6とPTPRM」、「CCR6とL1CAM」および「MCAMとPTPRM」の本発明のTh17細胞検出用マーカーの組み合わせは、従来のマーカーセットであるCCR6およびCXCR3よりも高い濃度でTh17細胞が濃縮されることが分かる。このことから、本発明のマーカーを用いることにより、ヒト由来の種々の細胞を含む試料からTh17細胞を従来よりも高精度に単離できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
L1CAM、MCAMおよびPTPRMからなる群より選択される少なくとも1つで表される遺伝子の塩基配列を有するポリヌクレオチドまたはその遺伝子によりコードされるタンパク質を含む、ヒトIL-17産生ヘルパーT細胞検出用マーカー。
【請求項2】
L1CAM、MCAMおよびPTPRMからなる群より選択される少なくとも1つと、CCR6およびCXCR3からなる群より選択される少なくとも1つとで表される遺伝子の塩基配列を有するポリヌクレオチドまたはそれらの遺伝子によりコードされるタンパク質を含む、請求項1に記載のヒトIL-17産生ヘルパーT細胞検出用マーカー。
【請求項3】
前記マーカーが、L1CAM、MCAMおよびPTPRMからなる群より選択される少なくとも1つで表される遺伝子によりコードされるタンパク質またはその機能的に同等な変異型もしくは断片である、請求項1に記載のヒトIL-17産生ヘルパーT細胞検出用マーカー。
【請求項4】
前記マーカーが、L1CAM、MCAMおよびPTPRMからなる群より選択される少なくとも1つと、CCR6およびCXCR3からなる群より選択される少なくとも1つとで表される遺伝子によりコードされるタンパク質またはその機能的に同等な変異型もしくは断片である、請求項2に記載のヒトIL-17産生ヘルパーT細胞検出用マーカー。
【請求項5】
前記マーカーが、L1CAM、MCAMおよびPTPRMからなる群より選択される少なくとも1つで表される遺伝子の塩基配列を有するポリヌクレオチドまたはその変異型もしくは断片である、請求項1に記載のヒトIL-17産生ヘルパーT細胞検出用マーカー。
【請求項6】
前記マーカーが、L1CAM、MCAMおよびPTPRMからなる群より選択される少なくとも1つと、CCR6およびCXCR3からなる群より選択される少なくとも1つとで表される遺伝子の塩基配列を有するポリヌクレオチドまたはその変異型もしくは断片である、請求項2に記載のヒトIL-17産生ヘルパーT細胞検出用マーカー。
【請求項7】
細胞を含む試料における、請求項1〜6のいずれか1項に記載のヒトIL-17産生ヘルパーT細胞検出用マーカーの発現レベルを取得する工程と、
取得した前記マーカーの発現レベルに基づいて、前記試料中のヒトIL-17産生ヘルパーT細胞を検出する工程と
を含む、ヒトIL-17産生ヘルパーT細胞の検出方法。
【請求項8】
前記マーカーの発現レベルを取得する工程が、
標識物質で標識された、請求項1〜4のいずれか1項に記載のヒトIL-17産生ヘルパーT細胞検出用マーカーと特異的に反応する標識化抗体と、前記細胞を含む試料とを接触させて測定用試料を調製し、
得られた測定用試料における、前記ヒトIL-17産生ヘルパーT細胞検出用マーカーを介してヒトIL-17産生ヘルパーT細胞に結合した前記標識化抗体の標識を検出する工程である、請求項7に記載の検出方法。
【請求項9】
前記マーカーの発現レベルを取得する工程が、互いに異なる複数のヒトIL-17産生ヘルパーT細胞検出用マーカーの発現レベルを取得する工程であり、
前記標識化抗体が、前記複数のヒトIL-17産生ヘルパーT細胞検出用マーカーのそれぞれと特異的に反応する、互いに異なる抗体であり、且つ互いに識別可能な標識物質で標識されている、
請求項8に記載の検出方法。
【請求項10】
前記標識化抗体が、蛍光標識物質で標識された抗体である、請求項8または9に記載の検出方法。
【請求項11】
前記蛍光標識化抗体から発せられる蛍光をフローサイトメータを用いて検出する、請求項10に記載の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−154899(P2012−154899A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16753(P2011−16753)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】