説明

ヒトPD−1に対し特異性を有する物質

【課題】自己免疫疾患の制御因子であるヒトPD−1の抑制シグナルを伝達することができ、免疫異常による疾患の治療および/または予防に有用であるモノクローナル抗体の提供。
【解決手段】国際受託番号FERM BP−8392で識別されるハイブリドーマから産生される抗ヒトPD−1モノクローナル抗体。ヒトPD−1およびヒトPD−1が発現している細胞の膜に存在する膜タンパクを選択的に認識し、ヒトPD−1の抑制シグナルを伝達する抗体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトPD−1に対し特異性を有する抗体、ヒトT細胞受容体複合体あるいはヒトB細胞受容体複合体に対する抗体からなるバイスペシフィック抗体、それをコードするポリヌクレオチドおよびそのバイスペシフィック抗体の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫システムは多様な外来抗原に対し応答できる機構を獲得した。その機構とはT細胞、B細胞においてV(D)J断片の組替えにより抗原レセプターの多様性をもたらすものである。この機構は同時に自己反応性リンパ球を産出する結果となったが、これら自己反応性リンパ球は胸腺や骨髄における負の選択によって除かれ、更に末梢においてもクローン除去やアナジーという自己免疫寛容機構により制御されている。
【0003】
自己免疫疾患は、自己免疫寛容の破綻により発症すると考えられるが、その発症機序の解明に向けて様々な疾患モデルマウスを用いた研究がなされてきた。しかし、自己免疫疾患の病因学的解明や自己免疫寛容の分子機構に関しては依然不明な点が多い。このような状況において、単一遺伝子欠損にて自己免疫疾患を発症するマウスの存在は、分子生物学的な観点から病因学的考察を図る上で極めて重要である。致死性全身性リンパ球浸潤を起すCTLA4−/−マウス(サイエンス(Science),1995年,第270号,第5238号,p.985〜988、イムニティ(Immunity),1995年,第3巻,第5号,p.541〜547参照)、SHP−1欠損mothaten mice(セル(Cell),1993年,第73巻,第7号,p.1445〜1454、ネイチャー(Nature),1992年,第359巻,第6397号,p.693〜699参照)や、糸球体腎炎を発症するlyn−/−マウス(セル(Cell),1995年,第83巻,第2号,p.301〜311参照)、およびFCRIIB−/−マウス(イムニティ(Immunity),2000年,第13巻,第2号,p.277〜285参照)等はその代表であり、これらの分子と自己免疫寛容との関連が研究されている。
【0004】
PD−1は免疫グロブリンファミリーに属する55kDのI型膜タンパクである。ヒトPD−1は、マウスPD−1と同じく288個のアミノ酸からなり、N末端のシグナルペプチド(20アミノ酸)と中間部位に細胞膜貫通領域である疎水性領域を有する(ザ・エンボ・ジャーナル(The EMBO Journal),1992年,第11巻,第11号,p.3887〜3895、特開平5-336973号公報、EMBO/GenBank/DDBJ Acc. No. NM_005018、特開平7-291996号公報(米国特許第5629204号明細書)参照)。
【0005】
PD−1の発現は、胸腺細胞においてはCD4−CD8−からCD4+CD8+細胞に分化する際に認められる(インターナショナル・イムノロジー(International Immunology),1996年,第8巻,第5号,p.773〜780、ジャーナル・エクスペリメンタル・メディスン(Journal of Experimental Medicin),2000年,第191巻,第5号,p.891〜898参照)。また、末梢においてPD−1の発現は、抗原レセプターからの刺激により活性化したT細胞、B細胞(インターナショナル・イムノロジー(International Immunology),1996年,第8巻,第5号,p.765〜772参照)および活性化マクロファージを含む骨髄細胞に認められる。
【0006】
PD−1は、その細胞内領域にITIM(Immunoreceptor Tyrosine-based Inhibitory Motif)を有し、従って免疫反応における負の制御因子と考えられる。PD−1欠損マウスにおいて糸球体腎炎、関節炎といったループス様自己免疫病(C57BL/6遺伝子背景)(インターナショナル・イムノロジー(International Immunology),1998年,第10巻,第10号,p.1563〜1572、イムニティ(Immunity),1999年,第11巻,第2号,p.141〜151参照)や、拡張性心筋症様疾患(BALB/c遺伝子背景)(サイエンス(Science),2001年,第291巻,第5502号,p.319〜322参照)を発症することから、PD−1が自己免疫疾患発症の、特に末梢自己免疫寛容の制御因子であることが明らかとなった。また、PD−1シグナルの阻害によって移植片拒絶反応が抑制されることも報告されている(ジャーナル・オブ・イムノロジー(Journal of Immunology),2000年,第169巻,第11号,p.6543〜6553参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−336973号公報
【特許文献2】特開平7−291996号公報(米国特許第5629204号明細書)
【特許文献3】国際公開第01/014557号パンフレット
【特許文献4】国際公開第02/078731号パンフレット
【特許文献5】特願2003−517101号(特許第4249013号公報)
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】サイエンス(Science),1995年,第270号,第5238号,p.985〜988
【非特許文献2】イムニティ(Immunity),1995年,第3巻,第5号,p.541〜547
【非特許文献3】セル(Cell),1993年,第73巻,第7号,p.1445〜1454
【非特許文献4】ネイチャー(Nature),1992年,第359巻,第6397号,p.693〜699
【非特許文献5】セル(Cell),1995年,第83巻,第2号,p.301〜311
【非特許文献6】イムニティ(Immunity),2000年,第13巻,第2号,p.277〜285
【非特許文献7】ザ・エンボ・ジャーナル(The EMBO Journal),1992年,第11巻,第11号,p.3887〜3895
【非特許文献8】EMBO/GenBank/DDBJ Acc. No. NM_005018
【非特許文献9】インターナショナル・イムノロジー(International Immunology),1996年,第8巻,第5号,p.773〜780
【非特許文献10】ジャーナル・エクスペリメンタル・メディスン(Journal of Experimental Medicin),2000年,第191巻,第5号,p.891〜898
【非特許文献11】インターナショナル・イムノロジー(International Immunology),1996年,第8巻,第5号,p.765〜772
【非特許文献12】インターナショナル・イムノロジー(International Immunology),1998年,第10巻,第10号,p.1563〜1572
【非特許文献13】イムニティ(Immunity),1999年,第11巻,第2号,p.141〜151
【非特許文献14】サイエンス(Science),2001年,第291巻,第5502号,p.319〜322
【非特許文献15】ジャーナル・オブ・イムノロジー(Journal of Immunology),2000年,第169巻,第11号,p.6543〜6553
【非特許文献16】Journal of immunological methods,1999年,Vol.231,p.177-189
【非特許文献17】Protein Engineering,2000年,Vol.13, No.8,pp.583-588
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
PD−1は様々な自己免疫疾患の制御因子であり、自己免疫疾患の原因遺伝子の一つであると考えられる。PD−1の機能を制御することにより、免疫機能の低下または亢進、感染症、移植時の拒絶反応、腫瘍等の治療や診断を行えると考えて鋭意検討を重ねた結果、本発明者らはPD−1の機能を制御する物質に係る本発明に到達した。
【0010】
免疫を司るリンパ球への刺激は主にT細胞の場合T細胞受容体(TCR)を、B細胞の場合B細胞受容体(BCR)を介し伝わり、その分子機構には細胞内リン酸化反応が重要な役割を担っている。
【0011】
PD−1が免疫系においてリンパ球や骨髄系細胞等様々な免疫担当細胞を負に制御していることが明らかとなり、またPD−1の細胞内領域にITIM(Immunoreceptor Tyrosine-based Inhibitory Motif)を有することから、本発明者らは、PD−1の抑制性シグナル伝達における分子機構は脱リン酸化酵素のリクルートと考えた。従って、TCRやBCRの近傍にPD−1を位置させることによって、PD−1の機能を発現させることができると考えるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、PD−1とTCRあるいはBCRを物理的に接近させる物質によってPD−1の抑制性シグナルが伝わることを確認した。本発明者らは、まず抗PD−1抗体と抗ヒトCD3抗体を用いて上記の考えが正しいことを確認した。CD3とはT細胞に発現する膜タンパクであり、TCRを構成する複合体の一つである。そして、抗ヒトPD−1抗体をコードするcDNAおよび抗ヒトTCR抗体をコードするcDNAをそれぞれ単離して、両抗体の抗原認識部位からなる融合タンパク質を発現するような発現ベクターを構築し、適当に産生させることができるバイスペシフィック抗体を作製し、本発明を完成した。
【0013】
本発明は、
1. ヒトPD−1を認識する部分、ヒトPD−1が発現している細胞膜に存在する膜タンパク質を認識する部分およびリンカーからなるヒトPD−1に対し特異性を有する物質、
2. ヒトPD−1を認識する部分が、ヒトPD−1に対する抗体あるいはその部分断片である前記1に記載のヒトPD−1に対し特異性を有する物質、
3. ヒトPD−1が発現している細胞膜に存在する膜タンパク質を認識する部分が、その膜タンパク質に対する抗体あるいはその部分断片である前記1に記載のヒトPD−1に対し特異性を有する物質、
4. ヒトPD−1に対する抗体あるいはその部分断片と、ヒトPD−1が発現している細胞膜に存在する膜タンパク質に対する抗体あるいはその部分断片およびリンカーからなる前記1に記載のヒトPD−1に対し特異性を有する物質、
5. 膜タンパク質が、T細胞受容体複合体またはB細胞受容体複合体である前記1、3または4に記載のヒトPD−1に対し特異性を有する物質、
6. リンカーがペプチドである前記1または4に記載のヒトPD−1に対し特異性を有する物質、
7. ヒトPD−1に対する抗体あるいはその部分断片と、T細胞受容体複合体に対する抗体あるいはその部分断片およびリンカーからなるバイスペシフィック抗体、
8. ヒトPD−1に対する抗体あるいはその部分断片と、B細胞受容体複合体に対する抗体あるいはその部分断片およびリンカーからなるバイスペシフィック抗体、
9. リンカーがペプチドである前記7または8に記載のバイスペシフィック抗体、
10. ヒトPD−1に対する抗体を構成するポリペプチドであって、実質的に純粋な形である配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのホモログ、そのフラグメントまたはそのフラグメントのホモログ、または、そのポリペプチドの1から10個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、
11. ヒトPD−1に対する抗体を構成するポリペプチドであって、実質的に純粋な形である配列番号4に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのホモログ、そのフラグメントまたはそのフラグメントのホモログ、またはそのポリペプチドの1から10個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、
12. 前記10および11に記載のポリペプチドからなるポリペプチド複合体、
13. 実質的に純粋な形である配列番号11に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのホモログ、そのフラグメントまたはそのフラグメントのホモログ、または、そのポリペプチドの1から10個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、
14. 前記7乃至9のいずれかに記載のバイスペシフィック抗体であって、実質的に純粋な形である配列番号11に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのホモログ、そのフラグメントまたはそのフラグメントのホモログ、または、そのポリペプチドの1から10個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、
15. 前記10、11、13または14に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、そのホモログまたはその相補鎖ポリヌクレオチド、そのフラグメントまたはそのフラグメントのホモログ、
16. 配列番号1、配列番号3または配列番号9に示す塩基配列からなるポリヌクレオチド、そのホモログまたはその相補鎖ポリヌクレオチド、そのフラグメントまたはそのフラグメントのホモログ、
17. 前記15または16に記載のポリヌクレオチドからなる複製または発現ベクター、
18. 前記17記載の複製または発現ベクターによって形質転換された宿主細胞、
19. 前記1乃至6のいずれかに記載の物質を発現させるための条件下で前記18記載の宿主細胞を培養することからなる物質の製造方法、
20. 前記7乃至9のいずれかに記載のバイスペシフィック抗体を発現させるための条件下で前記18記載の宿主細胞を培養することからなるバイスペシフィック抗体の製造方法、
21. 前記10乃至14のいずれかに記載のポリペプチドを発現させるための条件下で前記18記載の宿主細胞を培養することからなるポリペプチドの製造方法、
22. 前記1乃至6のいずれかに記載の物質、前記7乃至9のいずれかに記載のバイスペシフィック抗体、前記12に記載のポリペプチド複合体、または前記13または14に記載のポリペプチドを、ヒトPD−1が関与する疾患の治療および/または予防に有効な量含有する薬学的組成物、
23. ヒトPD−1が関与する疾患が、神経変性疾患、自己免疫疾患、膠原病、臓器移植片拒絶反応、腫瘍および感染症からなる群から選ばれる疾患である前記22記載の薬学的組成物、
24. 神経変性疾患が、老年期痴呆、アルツハイマー病、ダウン症、パーキンソン病、クロイツフェルトヤコブ病、筋萎縮性脊髄側索硬化症、糖尿病性ニューロパシー、パーキンソン症候群、ハンチントン病、マシャドジェセフ病、筋萎縮性側索硬化症およびクロイツフェルトヤコブ病からなる群から選ばれる疾患である前記22記載の薬学的組成物、および
25. 自己免疫疾患が、糸球体腎炎、関節炎、拡張性心筋症様疾患、潰瘍性大腸炎、シェーグレン症候群、クローン病、全身性エリテマトーデス、慢性関節リウマチ、多発性硬化症、乾鮮、アレルギー性接触性皮膚炎、多発性筋炎、強皮症、結節せい動脈周囲炎、リウマチ熱、尋常性白斑、インスリン依存性糖尿病、ベーチェット病、橋本病、アジソン病、皮膚筋炎、重症筋無力症、ライター症候群、グレーブス病、悪性貧血、グッドパスチャー症候群、不妊症、慢性活動性肝炎、天疱瘡、自己免疫性血小板減少性紫斑病、自己免疫性溶血性貧血および血管炎からなる群から選ばれる疾患である前記22記載の薬学的組成物に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のヒトPD−1に対する特異性を有する物質は、ヒトPD−1を認識する部分、ヒトPD−1が発現している細胞膜に存在する膜タンパクを認識する部分およびリンカーからなり、ヒトPD−1および膜タンパクを特異的に認識し、ヒトPD−1シグナルを伝達することができる優れた物質である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】バイスペシフィック抗体発現ベクターの構成を示す図である。
【図2】AおよびBは、各々バイスペシフィック抗体の、(CD3(−)/PD−1(+)cells)を強制発現させたX63細胞表面抗原および(CD3(+)/PD−1(−)cells)としたヒト末梢血単核球細胞(PBMC)表面抗原に対する反応性を示す。図中、ヒストグラムの充填領域はコントロールIgGを示し、開口領域はPD−1あるいはCD3陽性細胞分布を示すグラフである。
【図3】バイスペシフィック抗体の活性化ヒト末梢血T細胞の増殖反応に対する効果を示すグラフである。図中“−”は、コントロールIgG添加群、“BsAb”は、バイスペシフィック抗体添加群を示し、縦軸は、測定吸光度を示し、**は、有意差検定でのP<0.05を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明でのヒトPD−1を認識する部分とは、ヒトPD−1を認識する物質であれば良く、例えば、抗ヒトPD−1抗体、抗ヒトPD−1抗体の断片、ヒトPD−1自体、ヒトPD−1の断片、ヒトPD−1のリガンド(ヒトPD−L1(Freeman, GJ. 外18名,ジャーナル・エクスペリメンタル・メディスン(Journal Experimental Medicine),2000年,第19巻,第7号,p.1027〜1034)、ヒトPD−L2、ヒトPD−H3等)、それらの断片、低分子有機化合物等が挙げられる。
【0017】
ヒトPD−1に対する抗体あるいはその部分断片とは、抗ヒトPD−1抗体あるいは抗ヒトPD−1抗体の断片を含み、完全型のポリクローナルまたはモノクローナル抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体またはその短縮型(例えばF(ab')2、Fab'、Fab、Fv)抗体などのいずれの形体であってもよい。
【0018】
より具体的には、2002年12月19日付で日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託され(受託番号:FERM P−19162)、2003年6月5日付で国際寄託に移管されている(国際受託番号:FERM BP−8392)「J110」と命名したハイブリドーマが産生するモノクローナル抗ヒトPD−1抗体である。より好ましくは、この抗体のF(ab')2、Fab'、Fab、Fv抗体フラグメント等であるが、これに限定されるものではない。
【0019】
F(ab')2、Fab'、Fab、Fv抗体フラグメントは、完全型抗体をプロテアーゼ酵素により処理し、場合により還元して得ることができる。また、抗体を産生するハイブリドーマから、そのcDNAを単離し、遺伝子改変によって作製された発現ベクターを用いて、抗体またはその抗体の断片あるいは抗体の断片と別のタンパク質との融合タンパク質として産生することができる。
【0020】
ヒトPD−1が発現している細胞膜に存在する膜タンパク質とは、ヒトPD−1が発現している細胞と同じ細胞の細胞膜上に発現している膜タンパク質を意味し、ヒトPD−1を発現しているヒト由来初代培養細胞あるいはヒト細胞株に由来する細胞膜に存在する膜タンパク質のいずれのものも含まれる。例えば、T細胞受容体複合体またはB細胞受容体複合体が好ましい。
【0021】
ヒトPD−1が発現している細胞膜に存在する膜タンパク質を認識する部分とは、ヒトPD−1が発現している細胞と同じ細胞の細胞膜上に発現している膜タンパク質を認識する物質であれば良い、例えば、膜タンパク質に対する抗体、その抗体の断片、膜タンパク質自体、膜タンパク質の断片、膜タンパク質のリガンド、そのリガンドの断片、膜タンパク質に結合する低分子有機化合物等が挙げられる。
【0022】
ヒトPD−1が発現している細胞膜に存在する膜タンパク質に対する抗体あるいはその部分断片とは、ヒトPD−1が発現している細胞と同じ細胞の細胞膜上に発現している膜タンパク質に対する抗体あるいはその抗体の部分断片であり、完全型のポリクローナルまたはモノクローナル抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体またはそれらの短縮型(例えば、F(ab')2、Fab'、Fab、Fv)抗体などのいずれの形体であってもよい。
【0023】
T細胞受容体複合体とは、少なくとも、αサブユニットとβサブユニットから構成されるT細胞受容体と、γサブユニット、δサブユニット、εサブユニットおよびζサブユニットから構成されるCD3から構成される複合体である。
【0024】
B細胞受容体複合体とは、少なくとも、膜結合型イムノグロブリンとCD79αサブユニットおよびCD79βサブユニットから構成される複合体である。
【0025】
T細胞受容体複合体に対する抗体あるいはその部分断片とは、T細胞受容体複合体を認識する抗体あるいはその抗体の部分断片であればいずれのものでもよく、またT細胞受容体複合体を構成するT細胞受容体とCD3のそれぞれのサブユニットに対する抗体あるいはその抗体の部分断片をも含み、完全型のポリクローナルまたはモノクローナル抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体またはそれらの短縮型(例えば、F(ab')2、Fab'、Fab、Fv)抗体などのいずれの形体であってもよい。例えば、CD3に対するモノクローナル抗体は、すでに確立されているハイブリドーマを用いて産生することもできる。また、市販されている抗CD3抗体(α−CD3εmAb、ファーミンジェン(Pharmingen)社製)が入手可能である。
【0026】
B細胞受容体複合体に対する抗体あるいはその部分断片とは、B細胞受容体複合体を認識する抗体あるいはその抗体の部分断片であればいずれのものでもよく、またB細胞受容体複合体を構成する膜結合型イムノグロブリンとCD79のそれぞれのサブユニットに対する抗体あるいはその抗体の部分断片をも含み、完全型のポリクローナルまたはモノクローナル抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体またはそれらの短縮型(例えば、F(ab')2、Fab'、Fab、Fv)抗体などのいずれの形体であってもよい。具体的には、市販されている抗BCR抗体を使用することができ、例えば、抗IgG(H+L)ポリクローナル抗体(ジェンメッド(Zymed)社製)が入手可能である。
【0027】
ヒトPD−1を認識する部分およびヒトPD−1が発現している細胞膜に存在する膜タンパク質を認識する部分からなる物質とは、同一の細胞の細胞膜上に発現しているヒトPD−1の細胞外ドメインと膜タンパク質の細胞外ドメインに同時に結合することができる物質を意味する。具体的には、ヒトPD−1に特異的な抗体あるいは抗体の部分断片およびヒトPD−1が発現している細胞膜に存在する膜タンパク質に特異的な抗体あるいは抗体の部分断片からなるバイスペシフィック抗体が挙げられる。
【0028】
バイスペシフィック抗体とは、2つの異なる抗原特異性を有する2つの独立した抗原認識部位を持ち合わせた非対称の抗体である。バイスペシフィック抗体の製造法は、既に公知である化学的方法(Nisonoff, A. 外1名,アーカイブス・オブ・バイオケミストリー・アンド・バイオフィジックス(Archives of biochemistry and biophysics.),1961年,第90巻,p.460〜462、Brennan, M. 外2名,サイエンス(Science),1985年,第299巻,p.81〜83)が良く知られている。これらの方法は、まず2種類の抗体を酵素によりそれぞれ加水分解した後、抗体のH鎖のジスルフィド結合を還元剤で切断し、続いて異種の抗体を混合し再酸化することで二価反応性抗体を得るものである。最近では、グルタルアルデヒドやカルボジイミドなどの架橋剤を用いた調製方法も開示されている(特開平2-1556号公報)。
【0029】
また、遺伝子組み換え技術を用いて直接バイスペシフィック抗体を作製する技術が知られている。例えば、Alt,フェブス・レター(FEBS Letter),1999年,第454巻,第90号では、癌胎児抗原および大腸菌β−ガラクトシダーゼに対するバイスペシフィック抗体(シングルチェーンダイアボディーと呼ばれる。)の作製が報告されている。その断片は同一鎖上の2つの連続したドメイン間で対合するために、リンカーによって一方の重鎖可変ドメイン(VH)と他方の軽鎖可変ドメイン(VL)が連結されている。そのため、その断片のVHおよびVLドメインは、別の断片の相補的VLおよびVHドメインと対合することを余儀なくされ、それにより2つの抗原結合部位を形成する。ペプチドリンカーは3−12アミノ酸残基が好ましいが、配列は特に限定されない(Hudson, PJ. 外1名,ジャーナル・オブ・イムノロジー・メディスン(Journal of Immunology Medicine),1999年,第231巻,第1-2号,p.177〜189)。
【0030】
ハイブリドーマを用いたバイスペシフィック抗体の製造では、リーディング(Reading)らの方法、すなわちモノクローナル抗体を産生する2種類のハイブリドーマをさらに融合してハイブリッドハイブリドーマを作製し、目的とするバイスペシフィック抗体を産生するハイブリッドハイブリドーマを選択する方法がある(米国特許第4474893号明細書)。
【0031】
ヒトPD−1に対する抗体あるいはその部分断片およびヒトPD−1が発現している細胞膜に存在する膜タンパク質に対する抗体あるいはその部分断片からなるバイスペシフィック抗体とは、同一の細胞の細胞膜上に発現しているヒトPD−1の細胞外ドメインと膜タンパク質の細胞外ドメインに同時に結合することができる抗体である。バイスペシフィック抗体は以下の作製法によって作製することができる。
【0032】
(1)ヒトPD−1あるいはヒト由来の膜タンパク質を免疫抗原として、動物に感作し、
(2)感作動物の脾細胞と感作動物由来のミエローマ細胞を細胞融合し、
(3)得られたハイブリドーマより、感作抗原(ヒトPD−1あるいはヒト由来の膜タンパク質)に対するモノクローナル抗体を産生する細胞をスクリーニングし、
(4)目的とする抗体産生ハイブリドーマをクローニングし、
(5)クローン化された抗体産生ハイブリドーマを増殖させ、
(6)産生された抗体を分離精製し、
(7)得られた抗ヒトPD−1抗体と抗ヒト由来膜タンパク抗体をリンカーで架橋して作製することができる。
【0033】
あるいは、
(8)F(ab')2を得るため、更にペプシン処理をして、分離精製し、
(9)調製したそれぞれのF(ab')2を還元し、分離精製し、
(10)調製したそれぞれのFabSHをリンカーで架橋して作製することができる。
【0034】
リンカーは、上記のヒトPD−1を認識する部分およびヒトPD−1が発現している細胞膜に存在する膜タンパクを認識する部分を適切な距離を保って繋ぐことができるもので有れば特に限定されない。より具体的には、ペプチド、アミド等が挙げられる。
リンカーは、市販されているものを使用することができ、例えば、フェニレンジマレイミド(Phenylenedimaleimide,Aldrich社製)が入手可能である。
【0035】
ヒトPD−1とヒトPD−1が発現している細胞膜に存在する膜タンパク質をそれぞれ認識する物質として、両方あるいは片方が低分子有機化合物である場合は、
(11)上記の手法で作製した抗体を用い、それぞれの抗原であるヒトPD−1あるいはヒト由来の膜タンパクとの結合を適当な検出装置によって測定することによりその結合を阻害する低分子を見出し、
(12)その低分子同士あるいは抗体またはFabをリンカーによって架橋して作製することができる。
【0036】
各工程を以下により具体的に説明する。
(1)感作の工程では、ヒトPD−1あるいはヒト由来の膜タンパクは感作動物に腹腔内投与あるいはフットパットに投与することが好ましい。また感作動物は、マウス、ラットなどの一般にモノクローナル抗体が得られている動物であれば特に限定されない。抗原の投与量は、例えばマウスの場合、1回につき10〜200μgを投与すれば十分である。
【0037】
(2)の細胞融合は、(1)で免疫感作した感作動物のうち、抗体価が十分に上昇してきた感作動物の脾臓を摘出し、常法に従って、脾細胞の懸濁液を調製し、次に得られた脾細胞と感作動物由来のミエローマ細胞との混合物に37℃でポリエチレングリコール(好ましくは、PEG4000)を加えることによって行なわれる。マウスミエローマ細胞にはP3×63Ag8、P3/NS1/1−Ag4−1、SP−2/0−Ag−14など数種類が知られており、いずれも容易に入手可能である。
ミエローマ細胞はHAT培地(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培地)では生存できないHGPRT(ヒポキサンチン・グアニン・ホスホリボシル・トランスフェラーゼ)欠損細胞株が有用であり、さらにミエローマ細胞自身が抗体を分泌しない細胞株であることが望ましい。好適にはSP−2/0−Ag−14が用いられる。
次に、得られた細胞融合の混合物を、低細胞密度で96マイクロウェルプレートに分注し、HAT培地で培養する。1〜2週間の培養で未融合のミエローマ細胞、ミエローマ細胞同志のハイブリドーマ、さらに未融合の脾細胞、脾細胞同志のハイブリドーマは生存条件が満足されないため死滅し、脾細胞とミエローマ細胞とのハイブリドーマのみが増殖してくる。
【0038】
(3)のスクリーニングは、ハイブリドーマ培養上清と固相化した抗原を反応させ、抗原に特異的に吸着した上清中の抗体を、標識された第2抗体を用いて定量することによって、ヒトPD−1あるいはヒト由来の膜タンパクに対する抗体を産生しているハイブリドーマか否かを判定する。
【0039】
(4)の工程は、抗体産生ハイブリドーマを軟寒天培養法(モノクローナル・アンチボディ(Monoclonal Antibodies),1980年、第372巻)に従ってクローニングすることによって行なわれる。この際、限界希釈法を用いることも可能である。
【0040】
(5)の工程は、クローン化されたハイブリドーマを通常の培地で培養し、その培養上清から分離精製することにより得られるが、より大量の抗体を効率よく得るにはハイブリドーマをマウス腹腔内に投与し、増殖させ、その腹水中より分離精製する方法が用いられる。
【0041】
(6)の工程は、通常の方法、例えば塩析、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過、疎水性クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどにより精製できるが、より効果的にはプロテインA−セファロースCL−4B(アマシャムバイオサイエンス社製)を用いたアフィニティークロマトグラフィーが用いられる。
本発明のバイスペシフィック抗体は、ヒトPD−1を特異的に認識するので、ヒトPD―1の精製および濃縮、例えばアフィニティークロマトグラフィーなどに利用することができる。
【0042】
(7)の工程は、架橋剤として、例えばスルフォ−EMCS(N−(6−マレイミドカプロキシ)スルフォスクシンイミドナトリウム塩)を抗体のアミド基またはSH(メルカプト)基に結合させることで架橋できる。どちらか一方の抗体をまずスルフォ−EMCSとアミドカップリング結合させ、未反応のスルフォ−EMCSをゲルろ過で分離し、2−メルカプトエチルアミンなどで還元した他方の抗体のSH(メルカプト)基と最初の抗体に結合したスルフォ−EMCSのマレイミド基を反応させ、ゲルろ過で2種の抗体同士が架橋されたものを分取する。
【0043】
(8)の工程は、工程(6)で得られたそれぞれの抗体にペプシンを加え、37℃で48時間消化する。ペプシン消化されたF(ab')2は、通常の方法、例えば塩析、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過、疎水性クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどにより精製できるが、より効果的にはセファクリルS−200(アマシャムバイオサイエンス社製)を用いたゲルろ過が用いられる。
【0044】
(9)の工程は、F(ab')2に2−メルカプトエタノールを加え、30℃で30分間還元する。還元されたFabSHは、通常の方法、例えば塩析、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過、疎水性クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどにより精製できるが、より効果的にはセファクリルS−200を用いたゲルろ過が用いられる。
【0045】
(10)の工程は、一方の抗体のFabSH画分にリンカーを結合させる。架橋剤としてはFabSHのメルカプト(SH)基に結合できるものであれば良く、例えばフェニレンジマレイミドを加え、室温で30分間反応させる。次に、他方のFabSHを1.3倍量加え、室温で4時間反応させる。得られる二価の特異性を有する物質は、通常の方法、例えば塩析、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過、疎水性クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどにより精製できるが、より効果的にはセファクリルS−200を用いたゲルろ過が用いられる。
【0046】
(11)の工程は、工程(6)で得られた抗体をそのまま用いるか、常法により適当に標識(例えば、ビオチン化標識、FITC標識等)して用いることができる。ELISA法を用いる場合は、常法により抗原を固相化し、抗体を添加する。次に酵素標識した2次抗体、ビオチン化標識した抗体を用いる場合は、酵素標識したストレプトアビジンを添加した後、抗体と抗原との特異的結合を、クロモフォー産生物質存在下で吸光光度計により測定する。このアッセイ系を用いることによって、PD−1あるいは膜タンパクを特異的に認識する低分子が得られる。
【0047】
(12)の工程は、片方が抗体あるいはFabである場合、得られた低分子に適当な官能基を導入することにより、抗体あるいはFabと結合させることができる。例えば、マレイミド基を導入すれば、抗体あるいはFabのメルカプト(SH)基に結合させることが可能である。また、低分子同士であれば、両物質を含む分子を合成することが可能である。
【0048】
一方、それぞれの抗原に対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマから、それぞれの抗体cDNAを単離し、遺伝子組換によって両cDNAあるいはそのcDNA部分断片を融合させ、作製されたDNAを挿入した発現ベクターを用いて、適当な宿主細胞を形質転換させることによって、その宿主細胞からバイスペシフィック抗体を産生させることができる。
【0049】
具体的には、ヒトPD−1に対する抗体あるいはその部分断片およびヒトPD−1が発現している細胞膜に存在する膜タンパクに対する抗体あるいはその部分断片からなるバイスペシフィック抗体の作製は、
(1)抗ヒトPD−1モノクローナル抗体、抗膜タンパク質モノクローナル抗体を産生するそれぞれのハイブリドーマから抗体遺伝子を単離し、
(2)抗ヒトPD−1モノクローナル抗体遺伝子の可変領域をコードするDNAと抗膜タンパク質モノクローナル抗体遺伝子の可変領域をコードするDNAをリンカーDNAを用いて連結し、連結したDNA断片を発現ベクターに組み込み、適当な宿主細胞に導入して、
(3)適当な培養条件下で培養することによって、産生されたタンパクを分離精製して行なうことができる。
【0050】
各工程を以下により具体的に説明する。
(1)の工程は、ハイブリドーマ細胞からRNAを単離し、抗体遺伝子またはその部分ペプチドをコードするcDNAを単離する工程からなる。
ハイブリドーマ細胞から全RNA(totalRNA)またはmRNAを単離する工程は、公知の方法(以下、公知の方法は特に記載がなければ Sambrook, J. 外2名著,モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning),1989年,Cold Spring Harbor Laboratory または F. M. Ausubel 外2名編,カレント・プロトコール・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current Protocol in Molecular Biology)に記載の方法)に従って行なうことができる。
【0051】
本発明の抗体遺伝子またはその部分ペプチドをコードするcDNAのクローニングの手段としては、本発明の抗体タンパク質の部分塩基配列を有する合成DNAプライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction;以下、PCR法と略記する。)によって増幅するか、または適当なベクターに組み込んだcDNAを本発明の抗体タンパク質の一部あるいは全領域をコードするDNA断片もしくは合成DNAを用いて標識したものとのハイブリダイゼーションによって選別することができる。ハイブリダイゼーションの方法は公知の方法に従って行なうことができる。抗体遺伝子は、全RNA(totalRNA)またはmRNAを用いて直接、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(Reverse Transcriptase Polymerase Chain Reaction;以下、RT−PCR法と略記する。)によって増幅することもできる。
【0052】
(2)本発明のバイスペシフィック抗体を産生する方法としては、
i)ペプチド合成する方法、または
ii)遺伝子組み換え技術を用いて生産する方法、
などが挙げられるが、工業的にはii)に記載した方法が好ましい。
遺伝子組み換え技術を用いてペプチドを生産するための発現系(宿主−ベクター系)としては、例えば、細菌、酵母、昆虫細胞および哺乳動物細胞の発現系が挙げられる。
【0053】
ベクター系としては、大腸菌由来のプラスミド(例えば、pBR322,pBR325,pUC12,pUC13)、枯草菌由来のプラスミド(例、pUB110,pTP5,pC194)、酵母由来プラスミド(例えば、pSH19,pSH15)、λファージなどのバクテリオファージ、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルスなどの動物ウイルスなどの他、pA1−11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neoなどが用いられる。
【0054】
本発明で用いられるプロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応した適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。例えば、動物細胞を宿主として用いる場合は、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター、HSV−TKプロモーターなどが挙げられる。これらのうち、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、SRαプロモーターなどを用いるのが好ましい。宿主がエシェリヒア(Escherichia coli)属菌である場合は、trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーター、T7プロモーターなどが好ましく、宿主がバチルス属菌である場合は、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーターなどが好ましく、宿主が酵母である場合は、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどが好ましい。宿主が昆虫細胞である場合は、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーターなどが好ましい。
【0055】
発現ベクターには、以上の他に、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製オリジン(以下、SV40oriと略記する場合がある。)などを含有しているものを用いることができる。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素(以下、dhfrと略記する場合がある。)遺伝子(メソトレキセート(MTX)耐性)、アンピシリン耐性遺伝子(以下、Amprと略記する場合がある。)、ネオマイシン耐性遺伝子(以下、Neorと略記する場合がある。G418耐性)等が挙げられる。特に、dhfr遺伝子欠損チャイニーズハムスター細胞を用いてdhfr遺伝子を選択マーカーとして使用する場合、目的遺伝子をチミジンを含まない培地によっても選択できる。また、必要に応じて、宿主に合ったシグナル配列を、本発明のタンパク質のN端末側に付加する。宿主がエシェリヒア属菌である場合は、PhoA・シグナル配列、OmpA・シグナル配列などが、宿主がバチルス属菌である場合は、α−アミラーゼ・シグナル配列、サブチリシン・シグナル配列などが、宿主が酵母である場合は、MFα・シグナル配列、SUC2・シグナル配列など、宿主が動物細胞である場合には、インシュリン・シグナル配列、α−インターフェロン・シグナル配列、抗体分子・シグナル配列などがそれぞれ利用できる。このようにして構築された本発明のタンパク質をコードするDNAを含有するベクターを用いて、形質転換体を製造することができる。
【0056】
発現ベクターで形質転換したエシェリヒア属菌を適当な培地で培養して、その菌体より目的とするペプチドを得ることができる。また、バクテリアのシグナルペプチド(例えば、pelBのシグナルペプチド)を利用すれば、ペリプラズム中に目的とするペプチドを分泌することもできる。さらに、他のペプチドとのフュージョン・プロテインを生産することもできる。また、哺乳動物細胞で発現させる場合には、例えば、目的とするタンパク質をコードしたcDNAを適当な発現ベクターを用いて、宿主細胞として適当な哺乳動物細胞を形質転換し、形質転換体を適当な培地で培養することによって、その培養液中に目的とするペプチドが分泌される。
【0057】
宿主細胞としては、例えば、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、酵母、昆虫細胞、昆虫、動物細胞などが用いられる。エシェリヒア属菌の具体例としては、例えば、エシェリヒア・コリK12、DH1、JM103、JA221、HB101、C600、JM109、DH5、DH5αなどが用いられる。バチルス属菌としては、例えば、バチルス・サブチルス(Bacillus subtilis)MI114などが用いられる。酵母としては、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)AH22、AH22R−、NA87−11A、DKD−5D、20B−12、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Saccharomyces pombe)NCYC1913、NCYC2036、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)KM71などが用いられる。昆虫細胞としては、例えば、ウイルスがAcNPVの場合は、夜盗蛾の幼虫由来株化細胞(Spodoptera frugiperda Cell;Sf細胞)、Trichoplusia niの中腸由来のMG1細胞、Trichoplusia niの卵由来のHigh FiveTM細胞、Mamestra brassicae由来の細胞またはEstigmene acrea由来の細胞などが用いられる。ウイルスがBmNPVの場合は、蚕由来株化細胞(Bombyx moriN細胞;BmN細胞)などが用いられる。該Sf細胞としては、例えば、Sf9細胞(ATCC CRL1711)、Sf21細胞(Vaughn, J. L.,イン・ヴィボ(In Vivo),1977年,第13巻,p.213〜217)などが用いられる。昆虫としては、例えば、カイコの幼虫などが用いられる。動物細胞としては、例えば、サルCOS−1細胞、COS−7細胞、Vero、チャイニーズハムスター細胞CHO(以下、CHO細胞と略記する。)、dhfr遺伝子欠損チャイニーズハムスター細胞CHO(以下、CHO(dhfr−)細胞と略記する。)、マウスL細胞、マウスAtT−20、マウスミエローマ細胞、ラットGH3、HEK293T細胞、ヒトFL細胞などが用いられる。
【0058】
エシェリヒア属菌を形質変換する場合には、例えば、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)),1972年,第69巻,第2110号に記載の方法に従って行なうことができる。バチルス属菌を形質転換するには、例えば、モレキュラー・アンド・ジェネラル・ジェネティックス(Molecular & General Genetic),1979年,第168巻,第111号に記載の方法に従って行なうことができる。酵母を形質転換するには、例えば、Becker, DM. 外1名,メソッズ・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology),1991年,第194巻,p.182〜187、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)),1978年,第75巻,第1929号に記載の方法に従って行なうことができる。昆虫細胞または昆虫を形質転換するには、例えば、バイオ/テクノロジー(Bio/Technology),1988年,第6巻,p.47〜55に記載の方法に従って行なうことができる。動物細胞を形質転換する場合には、例えば、「細胞工学別冊8新細胞工学実験プロトコール」,秀潤社,1995年,第263 や ヴァイロロジー(Virology),1973年,第52巻,第456号 に記載の方法に従って行なうことができる。
【0059】
(3)以上のようにして得られたペプチドは、通常の方法、例えば塩析、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過、疎水性クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどにより精製できる。
【0060】
本発明の実質的に純粋な形である配列番号2、配列番号4または配列番号11に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドとは、一般に、生産時のポリペプチドの90%以上、例えば、95、98または99%以上相同であるアミノ酸配列を有するポリペプチドである。
【0061】
実質的に純粋な形である配列番号2、配列番号4または配列番号11で示すアミノ酸配列からなるポリペプチドのホモログとは、一般に少なくとも20個、好ましくは少なくとも30個、例えば40、60または100個の連続したアミノ酸領域で、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80または90%、より好ましくは95%以上相同性であるアミノ酸配列を有するポリペプチドである。
【0062】
さらに、実質的に純粋な形である配列番号2、配列番号4または配列番号11で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのフラグメントとは、少なくとも10アミノ酸、好ましくは少なくとも15アミノ酸、例えば20、25、30、40、50または60アミノ酸部分を含むポリペプチドであり、それらのホモログとは、一般に少なくとも10アミノ酸、好ましくは少なくとも15アミノ酸、例えば20、25、30、40、50または60個の連続したアミノ酸領域で、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80または90%、より好ましくは95%以上相同性であるアミノ酸配列を有するポリペプチドである。
【0063】
実質的に純粋な形である配列番号2、配列番号4または配列番号11に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの1もしくは数個のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列からなるポリペプチドとは、アミノ酸配列中の1もしくは2個以上(好ましくは、1〜25個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5)個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列を含むポリペプチドである。
【0064】
実質的に純粋な形である配列番号2、配列番号4または配列番号11に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの1もしくは数個のアミノ酸が置換したアミノ酸配列からなるポリペプチドとは、アミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1〜25個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5)個)のアミノ酸が置換したアミノ酸配列を含むポリペプチドである。
【0065】
実質的に純粋な形である配列番号2、配列番号4または配列番号11に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの1もしくは数個のアミノ酸が付加したアミノ酸配列からなるポリペプチドとは、アミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1〜25個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5)個)のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列を含むポリペプチドである。
【0066】
配列番号1、配列番号3または配列番号9に示されるDNA塩基配列からなるポリヌクレオチドのホモログとは、一般に、少なくとも20個、好ましくは少なくとも30個、例えば40、60または100個の連続した塩基配列領域で、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80または90%、より好ましくは95%以上相同であるポリヌクレオチドである。
【0067】
配列番号1、配列番号3または配列番号9に示されるDNA塩基配列からなるポリヌクレオチドのフラグメントとは、少なくとも20塩基、好ましくは少なくとも30塩基、例えば40、50、60または100塩基部分からなるポリヌクレオチドを含むものである。または、そのフラグメントのホモログとは、一般に、少なくとも20個、好ましくは少なくとも30個、例えば40、60または100個の連続した塩基配列領域で、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80または90%、より好ましくは95%以上相同であるポリヌクレオチドである。
【0068】
配列番号1、配列番号3または配列番号9で示される塩基配列を含有するDNAとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとしては、例えば、それぞれ配列番号1、配列番号3あるいは配列番号9で示される塩基配列と約70%以上、好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有する塩基配列を含有するDNAが含まれる。ハイブリダイゼーションは、公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、J.Sambrook著,モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)2版,コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー(ColdSpring Harbor Labratry)に記載の方法などに従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。より好ましくは、ハイストリンジェントな条件に従って行なうことができる。ハイストリンジェントな条件とは、例えば、ナトリウム濃度が約19〜40mM、好ましくは約19〜20mMで、温度が約50〜70℃、好ましくは約60〜65℃の条件を示す。特に、ナトリウム濃度が約19mMで温度が約65℃の場合が最も好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0069】
[医薬品への適用]
本発明のヒトPD−1に対し特異性を有する物質は、下記の疾患の治療および/または予防に用いることである。
本発明のヒトPD−1に対し特異性を有する物質は、例えば、神経変性疾患(老年期痴呆、アルツハイマー病、ダウン症、パーキンソン病、クロイツフェルトヤコブ病、筋萎縮性脊髄側索硬化症、糖尿病性ニューロパシー、パーキンソン症候群、ハンチントン病、マシャドジェセフ病、筋萎縮性側索硬化症、クロイツフェルトヤコブ病等)の疾患の治療および/または予防に有用である。
【0070】
また、本発明のヒトPD−1に対し特異性を有する物質は、PD−1が関与し、免疫反応が亢進することによる疾患、例えば、自己免疫疾患(糸球体腎炎、関節炎、拡張性心筋症様疾患、潰瘍性大腸炎、シェーグレン症候群、クローン病、全身性エリテマトーデス、慢性関節リウマチ、多発性硬化症、乾鮮、アレルギー性接触性皮膚炎、多発性筋炎、強皮症、結節せい動脈周囲炎、リウマチ熱、尋常性白斑、インスリン依存性糖尿病、ベーチェット病、橋本病、アジソン病、皮膚筋炎、重症筋無力症、ライター症候群、グレーブス病、悪性貧血、グッドパスチャー症候群、不妊症、慢性活動性肝炎、天疱瘡、自己免疫性血小板減少性紫斑病、自己免疫性溶血性貧血および血管炎等)の治療および/または予防に有用である。
【0071】
さらに、本発明のヒトPD−1に対し特異性を有する物質は、膠原病(全身性エリテマトーデス、慢性関節リウマチ、汎発性強皮症、全身性進行性硬化症、皮膚筋炎、多発性筋炎、シェーグレン症候群、混合性結合組織病、結節性多発性動脈炎、リウマチ熱等)の疾患の治療および/または予防に有用である。
【0072】
また、本発明のヒトPD−1に対し特異性を有する物質は、臓器移植片拒絶反応、アレルギー疾患、さらに、PD−1が関与し、免疫反応が低下することによって引き起こされる疾患、例えば、腫瘍、感染症等の疾患の治療および/または予防に有用である。
【0073】
本発明のヒトPD−1に対する特異性を有する物質を上記の目的で用いる場合には、通常、全身的または局所的に、経口または非経口の形で投与される。
【0074】
投与量は、年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なるが、通常、成人一人あたり、1回につき、0.1mgから100mgの範囲で、1日1回から数回経口投与されるか、または成人一人あたり、1回につき、0.01mgから30mgの範囲で、1日1回から数回非経口投与(好ましくは、静脈内投与)されるか、または1日1時間から24時間の範囲で静脈内に持続投与される。
もちろん前記したように、投与量は種々の条件によって変動するので、上記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、また範囲を越えて必要な場合もある。
【0075】
本発明化合物を投与する際には、経口投与のための内服用固形剤、内服用液剤、および非経口投与のための注射剤、外用剤、坐剤等として用いられる。
経口投与のための内服用固形剤には、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤等が含まれる。カプセル剤には、ハードカプセルおよびソフトカプセルが含まれる。
【0076】
このような内服用固形剤においては、ひとつまたはそれ以上の活性物質がそのままか、または賦形剤(ラクトース、マンニトール、グルコース、微結晶セルロース、デンプン等)、結合剤(ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等)、崩壊剤(繊維素グリコール酸カルシウム等)、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム等)、安定剤、溶解補助剤(グルタミン酸、アスパラギン酸等)等と混合され、常法に従って製剤化して用いられる。また、必要によりコーティング剤(白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等)で被覆していてもよいし、また2以上の層で被覆していてもよい。さらにゼラチンのような吸収されうる物質のカプセルも包含される。
【0077】
経口投与のための内服用液剤は、薬剤的に許容される水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤等を含む。このような液剤においては、ひとつまたはそれ以上の活性物質が、一般的に用いられる希釈剤(精製水、エタノールまたはそれらの混液等)に溶解、懸濁または乳化される。さらにこの液剤は、湿潤剤、懸濁化剤、乳化剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、保存剤、緩衝剤等を含有していてもよい。
【0078】
非経口投与のための注射剤としては、溶液、懸濁液、乳濁液および用時溶剤に溶解または懸濁して用いる固形の注射剤を包含する。注射剤は、ひとつまたはそれ以上の活性物質を溶剤に溶解、懸濁または乳化させて用いられる。溶剤として、例えば注射用蒸留水、生理食塩水、植物油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノールのようなアルコール類等およびそれらの組み合わせが用いられる。さらにこの注射剤は、安定剤、溶解補助剤(グルタミン酸、アスパラギン酸、ポリソルベート80(登録商標)等)、懸濁化剤、乳化剤、無痛化剤、緩衝剤、保存剤等を含んでいてもよい。これらは最終工程において滅菌するか無菌操作法によって調製される。また無菌の固形剤、例えば凍結乾燥品を製造し、その使用前に無菌化または無菌の注射用蒸留水または他の溶剤に溶解して使用することもできる。
【0079】
非経口投与のための、その他の製剤としては、ひとつまたはそれ以上の活性物質を含み、常法により処方される外用液剤、軟膏剤、塗布剤、吸入剤、スプレー剤、坐剤および膣内投与のためのペッサリー等が含まれる。
【0080】
スプレー剤は、一般的に用いられる希釈剤以外に亜硫酸水素ナトリウムのような安定剤と等張性を与えるような緩衝剤、例えば塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウムあるいはクエン酸のような等張剤を含有していてもよい。スプレー剤の製造方法は、例えば米国特許第2868691号明細書および同第3095355号明細書に詳しく記載されている。
【0081】
PD−1は、免疫反応に関与していることから、本発明のヒトPD−1に対する特異性を有する物質を用いて、ヒトPD−1の発現を測定することによって、免疫反応に関与する物質のスクリーニング等にも利用することができる。
【実施例】
【0082】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を制限するものではない。
【0083】
実施例1:
抗ヒトPD−1抗体、抗ヒトCD3抗体をそれぞれコードするDNAを取得するため、J110(識別のための表示:国際受託番号FERM PB-8392)ハイブリドーマ細胞、CD3抗体ハイブリドーマ(ATCCから分譲:ATCC Number:CRL−8001)細胞から、それぞれの全RNA(totalRNA)を調製した。調製にはSV total Isolation System(商品名:プロメガより購入)を用い、操作は添付書に従って行った。
J110ハイブリドーマcDNAライブラリーおよびCD3抗体ハイブリドーマcDNAライブラリーの作製は、Ready-To-Go You-Prime First-Strand Beads(商品名:アマシャムファルマシアより購入)を用いて、全RNA(totalRNA)からオリゴdTプライム法によりcDNAを作製した。操作および手順については、添付書に従った。
抗ヒトPD−1抗体、抗ヒトCD3抗体のそれぞれのIgG重鎖およびIgG軽鎖の可変領域のcDNAの単離は、Heavy PrimersおよびLight Primers(商品名:アマシャムファルマシアより購入)をそれぞれ用いてPCR反応によって行った。PCR反応は、最初95℃下で2分間保持し、続いて95℃下で30秒間、50℃下で30秒間、72℃下で40秒間の温度操作を30回繰り返し、最後に72℃下で5分間保持して行った。
PCR反応で増幅されたDNAをアガロースゲル電気泳動によって分離後、予測されるサイズのDNA断片を回収し、これをpGEM-T Easy Vector(商品名:プロメガより購入)に連結させた。さらに、このプラスミドで大腸菌DH5αを形質転換させた後、プラスミドを精製して、抗ヒトPD−1抗体抗のIgG重鎖(配列番号1)およびIgG軽鎖(配列番号3)、ヒトCD3抗体のIgG重鎖(配列番号5)およびIgG軽鎖(配列番号7)のそれぞれのcDNAの塩基配列を決定した。
【0084】
実施例2:
バイスペシフィック抗体をコードするDNAは、実施例1でそれぞれ単離したcDNAを連結することによって作製した。抗ヒトPD−1抗体IgG重鎖cDNA(配列番号1)と抗ヒトCD3抗体IgG軽鎖cDNA(配列番号7)の連結は、リンカーNo.1(配列番号19)おとびNo.2(配列番号20)およびプライマーNo.1(配列番号14)およびNo.2(配列番号15)を用いたPCR反応により行ない、フラグメント1を作製した(図1)。次に、抗ヒトCD3抗体IgG重鎖cDNAと抗ヒトPD−1抗体IgG軽鎖cDNAの連結は、リンカーNo.3(配列番号21)およびNo.4(配列番号22)およびプライマーNo.3(配列番号16)およびNo.4(配列番号17)を用いたPCR反応により行ない、フラグメント2を作製した(図1)。さらに、フラグメント1とフラグメント2の連結は、リンカーNo.5(配列番号23)およびNo.6(配列番号24)およびプライマーNo.5(配列番号18)およびNo.4(配列番号22)を用いたPCR反応により行ない、フラグメント3を作製し(図1)、その塩基配列を決定した(配列番号9)。
それぞれのPCR反応は、2回に分けて行った。1回目のPCR反応は、94℃下で30秒間、40℃下で30秒間、72℃下で50秒間の温度操作を20回繰り返して行ない、2回目のPCR反応は1回目のPCR反応溶液を鋳型サンプルとして用いて、94℃下で30秒間、50℃下で30秒間、72℃下で50秒間の温度操作を30回繰り返して行った。
プライマーNo.1
5'−TTTTTTAAGCTTACAGGTCCAGCTGCAGGAGTCA−3'(配列番号14)
プライマーNo.2
5'−TTTTTTGCGGCCGCCCGGTTTATTTCCAACTTTG−3'(配列番号15)
プライマーNo.3
5'−TTTTTTAAGCTTACAGGTCCAGCTGCAGCAGTCT−3'(配列番号16)
プライマーNo.4
5'−TTTTTTGCGGCCGCCCGTTTGATTTCCAGCTTGG−3'(配列番号17)
プライマーNo.5
5'−ATGAACTGGTACCAGCAGAAG−3'(配列番号18)
リンカーNo.1
5'−AGGGACCACGGTCACCGTCTCCTCAGGTGGAGGCGGTTCACAAATTGTTCTCACCCAGTCTCCAG−3'(配列番号19)
リンカーNo.2
5'−CTGGAGACTGGGTGAGAACAATTTGTGAACCGCCTCCACCTGAGGAGACGGTGACCGTGGTCCCT−3'(配列番号20)
リンカーNo.3
5'−AGGCACCACTCTCACAGTCTCCTCAGGTGGAGGCGGTTCAGACATCCAGATGACCCAGTCTCCAG−3'(配列番号21)
リンカーNo.4
5'−CTGGAGACTGGGTCATCTGGATGTCTGAACCGCCTCCACCTGAGGAGACTGTGAGAGTGGTGCCT−3'(配列番号22)
リンカーNo.5
5'−GGGGACAAAGTTGGAAATAAACCGGGGTGGAGGCGGTTCAGGCGGAGGTGGCTCTGGCGGTGGCGGATCGCAGGTCCAGCTGCAGCAGTCTGGGG−3'(配列番号23)
リンカーNo.6
5'−CCCCAGACTGCTGCAGCTGGACCTGCGATCCGCCACCGCCAGAGCCACCTCCGCCTGAACCGCCTCCACCCCGGTTTATTTCCAACTTTGTCCCC−3'(配列番号24)
上記方法で作製したバイスペシフィック抗体をコードするDNAを構成するDNAを発現ベクターpSecTag2/HygroA(商品名:インビトロジェンより購入)へ連結した。まず、フラグメント1およびフラグメント3のそれぞれを制限酵素HindIIIおよびKpnI、KpnIおよびNotIの組み合わせで消化し、アガロース電気泳動によって精製したDNA断片を得た。続いて、制限酵素HindIIIおよびNotIで消化、精製したpSecTag2/HygroAに連結した。最終的に、作製されたプラスミドを用いて大腸菌DH5αを形質転換させた後、これからプラスミドを抽出、精製して、バイスペシフィック抗体の発現プラスミドJ110-CD3scDb-pSec/hygroAを得た(図1)。
【0085】
実施例3:
バイスペシフィック抗体の発現は、LipofectAMINE-plus(商品名:インビトロジェンより購入)を用いてJ110-CD3scDb-pSec/hygroAを遺伝子導入したヒト腎臓細胞株293T(ATCC Number:CRL−11268)を用いて行った。同発現ベクター遺伝子導入後4日間培養し、その培養上清を回収した。この培養上清を0.22μmPVDFフィルターで濾過滅菌し、40%PEG20000溶液中で透析して濃縮した。この濃縮した上清をHiTrap Chelating HP column(商品名:アマシャムファルマシアより購入)を用いて精製した。
【0086】
実施例4:
バイスペシフィック抗体の細胞表面抗原(PD−1およびCD3)に対する反応性をFACScanによって確認した。
PD−1陽性・CD3陰性細胞(CD3(−)/PD−1(+)cells)とした、ヒトPD−1を強制発現させたX63細胞株およびPD−1陰性CD3陽性細胞(CD3(+)/PD−1(−)cells)としたヒト末梢血単核球細胞(以下、PBMCと略記する。)のそれぞれに、1または10μgのバイスペシフィック抗体を添加し、一時氷上に静置した後、続いて、二次抗体を添加して氷上で30分間静止した。その後、これらをFACScanを用いて解析した。結果を図2に示す。
バイスペシフィック抗体は、PD−1およびCD3に反応することを確認した。
【0087】
実施例5:
バイスペシフィック抗体の活性確認は、活性化ヒト末梢血T細胞の増殖反応に対する効果として評価した。
具体的には、健常人ヒト末梢血からLymphoprep Tube(商品名:HYCOMED PHARMA より購入)を用いてPBMCを調製した。操作および手順については、添付書に従った。これにより分離した細胞を溶血バッファー(0.8% NH4Cl,0.1% KCO3,1mM EDTA)に懸濁させ、赤血球を溶血させた。続いて、Nylon Fiber ColumnT(商品名:ロシュより購入)を用いて精製したT細胞を、培地(10%ウシ胎児血清を含むRPMI1640培地)に懸濁した。
予め、5μg/mlの抗ヒトαβTCR抗体(クローン名:T10B9.1A−31、Pharmingenより購入)をコートした24ウェルプレートに、先に調製したT細胞を2×106個/ml/ウェルの割合で播種した。続いて、1μg/mlの抗ヒトCD28抗体(クローン名:CD28.2、Pharmingenより購入)を含む培地1ml添加して、60時間培養した。抗体刺激した細胞を回収し、無刺激下で12時間培養した後、予め、0.1μg/mlの抗αβTCR抗体をコートておいた96ウェルプレートに、T細胞を1×106細胞/ウェル/100μlで播き、これにバイスペシフィック抗体を1μg/ウェルで添加して培養した。48時間後に、Cell Proliferation ELISA(商品名:ロシュより購入)を用いて、BrdUの取り込みを指標として増殖を測定した。結果を図3に示す。
バイスペシフィック抗体は、活性化したヒト末梢血T細胞の増殖活性を有意に低下させた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
国際受託番号FERM BP−8392で識別されるハイブリドーマから産生される抗ヒトPD−1モノクローナル抗体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−229134(P2010−229134A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100455(P2010−100455)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【分割の表示】特願2005−504930(P2005−504930)の分割
【原出願日】平成16年1月22日(2004.1.22)
【出願人】(000185983)小野薬品工業株式会社 (180)
【出願人】(396023812)
【Fターム(参考)】