説明

ヒトPF4A受容体とその使用

【課題】血小板因子4スーパーファミリーの構成要素(PF4A)の受容体(PF4AR)を提供する。
【解決手段】PF4ARの一種をコード化するcDNAをヒト組織中で同定し、診断薬として、あるいはPF4ARを組換え生産する際に、有用な3つのPF4AR(ヒトIL−8受容体を含む)の核酸配列を決定した。これらのPF4ARは、該受容体に結合することができる抗体の調製と精製において、並びに、診断的検定において、使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血小板因子4スーパーファミリーの構成要素(以下「PF4A」と略記する)を検定する分野と、このファミリーの構成要素に対する作用薬および拮抗薬の調製に関する。
【背景技術】
【0002】
インターロイキン8は好中球にとっての化学誘引物質として最初に同定され、好中球上の受容体を結合することが知られていたが(非特許文献1−3)、この物質はさらに、脱穎粒の刺激や細胞接着分子MAC−1と補体受容体CR1(非特許文献4)の上方調節を含む広範な前炎症活性を持っている。IL−8は活性化された内皮細胞に対する好中球の接着の阻害を媒介することもできる(非特許文献5)。
【0003】
IL−8は約10000のMrを持つ10またはそれ以上の前炎症性サイトカインのファミリーの構成要素である(非特許文献4)。このかなり大きいタンパク質ファミリーは血小板因子4スーパーファミリーと呼ばれている(非特許文献6)。一般にCXCペプチド(IL−8を含む)と呼ばれる副集団である血小板因子4スーパーファミリーのいくつかの構成要素は、好中球作用薬活性を保持しており、例えばNAP−2、MIP−2、血小板因子4およびNAP−3(MGSA/gro)などである。このファミリーの他の構成要素であるC−Cペプチドは好中球作用薬ではない。以下「PF4A」とはPF4スーパーファミリーを意味する。
【0004】
【非特許文献1】サマンタ,エイ・ケイ,オッペンハイム,ジェイ・ジェイおよびマツシマ,ケイ, J.Exp.Med.,169:1185−1189(1989)
【非特許文献2】ベセマー,ジェイ,ヒューバー,エイおよびクーン,ビー,J.Bio1.Chem.,264:17409−17415(1989)
【非特許文献3】グロッブ,ピー・エムら,J.Biol.Chem.,265:8311−8316(1990)
【非特許文献4】オッペンハイム,ジェイ・ジェイら,Annu.Rev.lmmunol.,9;617−648(1991)
【非特許文献5】ギムブロン,エム・エイ・ジュニアら,Science,246:1601−3(1989)
【非特許文献6】ウォルペら,FASEB J.3:2565−73[1989]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、PF4Aスーパーファミリーの受容体(以下「PF4AR」と略記する)を同定することである。
【0006】
本発明のもう1つの目的は、これらの受容体をコード化するDNAもしくはこれらの受容体にハイブリッド形成するDNAを得ること、並びに、宿主細胞中で該受容体を発現させることである。
【0007】
本発明のさらなる目的は、診断的用途および医療的用途のためにPF4ARの単離物を提供することである。
【0008】
本発明のさらなる目的は、該受容体の変種をコード化するDNAを得ること、並びに、組換え細胞培養中で該変種を調製することである。
【0009】
本発明のこれらの目的とその他の目的は本明細書全体から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ある側面として、これらの目的は、構造的にPF4ARに関連するポリペプチドを含む、単離された新規なPF4ARポリペプチドを提供することによって達成される。この種に属するポリペプチドをこれ以降一般に「PF4AR」と呼び、それらの誘導体と変種を包含するものとする。
【0011】
もう1つの側面として本発明は、PF4ARからなる組成物であって、そのPF4ARが由来する動物種の混入ポリペプチドを含有しない組成物を提供する。
【0012】
PF4ARまたはその断片(これは化学的方法によって合成することもできる)を免疫原性ポリペプチドに(組換え発現またはインビトロ共有結合法によって)融合し、次いでその融合ポリペプチドを用いて動物を免疫化することにより、PF4ARエピトープに対する抗体を生じさせる。抗PF4AR抗体は免疫化した動物の血清から回収される。別法として免疫化した動物の細胞から従来の方法でモノクローナル抗体を作成することもできる。
【0013】
抗PF4AR抗体はPF4ARの診断(インビトロまたはインビボ)やPF4ARの精製(不溶性の基盤に固定化されている場合)にとりわけ有用である。
【0014】
PF4ARの置換、欠失または挿入変種はインビトロ法または組換え法によって作成され、PF4ARとの免疫交差反応性およびPF4AR拮抗薬または作用薬活性についてスクリーニングされる。
【0015】
特にPF4ARとその抗体の診断のため、あるいはPF4AR抗体のアフィニティー精製のためには、PF4ARをインビトロで誘導体化することによって、固定化したPF4ARや標識したPF4ARを作成する。
【0016】
特に医療的使用のためには、PF4AR、その誘導体またはその抗体を生理学的に許容される賦形剤中に製剤化する。そのような賦形剤にはPF4ARの徐放性製剤が含まれる。
【0017】
さらに異なる側面として、本発明は、PF4ARをコード化する単離された核酸(標識されているもの、あるいは標識されていないもの)およびPF4ARをコード化する核酸配列に相補的な核酸配列またはPF4ARをコード化する核酸配列に対して適当な条件下でハイブリッド形成する核酸配列を提供する。
【0018】
さらに本発明は、複数可能なベクターであって、そのベクターによって形質転換される宿主によって認識される制御配列に機能可能に連結したPF4ARをコード化する核酸分子からなる複製可能なベクター、並びに、PF4ARの生産を達成するためにPF4ARをコード化する核酸を使用する方法であって、形質転換された宿主細胞の培養中で該核酸分子を発現させ、その宿主細胞培養からPF4ARを回収することからなる方法を提供する。この核酸配列はPF4AR核酸に関するハイブリッド形成検定法においても有用である。上記の組換え宿主細胞は適当なPF4A構成要素を検定する際にとりわけ有用である。
【0019】
さらなる態様として、本発明は、PF4ARを生産する方法であって、PF4ARをコード化する核酸を含有する細胞のDNA中に、PF4AR核酸に対して、生物学的に活性なPF4ARをコード化するDNAの転写に影響を与えるか、もしくはその転写を破壊するに足る近さと配向で、転写変調要素を挿入することからなり、さらにその転写変調要素とPF4AR核酸を含有する細胞を培養するという随意の段階を伴う方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
出願人らは、発現クローニングによってヒト好中球IL−8受容体をコード化するcDNAを2つの他の相同な受容体と共に単離した。そのアミノ酸配列は、このIL−8受容体が、化学誘引物質f−Met−Leu−Phe(参考文献3)およびC5a(参考文献4)にとってのヒト好中球受容体に対して明確な類似性(アミノ酸同一性29%)を伴うG−タンパク質共役受容体ファミリーの構成要素であることを示している。このIL−8受容体配列はウサギのf−Met−Leu−Phe受容体(参考文献5)のイソ型として同定されているもののヒト相同体であり得るが、出願人らは、哺乳類細胞中にトランスフェクションすると、この受容体クローンがIL−8に対する高親和性結合を付与し、f−Met−Leu−Pheに対する結合または応答を伴うことなく、IL−8に応答して一時的なCa++の流動化を生み出すことを明らかにした。
【0021】
IL−8受容体をコード化するクローンを単離するために、COS細胞発現クローニング法(参考文献6−7)を使用した。ヒト好中球mRNAから哺乳類発現ベクターpRK5B中に構築したcDNAライブラリーを2500クローンのプールとしてCOS−7細胞中にトランスフェクションし、その細胞を1251−IL−8の結合についてスクリーニングした。最初の58トランスフェクションから得た1つの陽性プールを純粋な1クローン(pRK5B.i18r1.1)が得られるまで、より小さいプールに分配した。図1は、単離された上記クローンでトランスフェクションされたCOS細胞に対する、未標識のIL−8による125I−IL−8結合の競争を示す。このデータの分析により、IL−8結合に関するKd値が、ヒト好中球に対するIL−8結合について報告されている0.8〜4nMの範囲内(参考文献8−10)である3.6nMであることがわかった。走化性ペプチドf−Met−Leu−Phe(f(MLP)によるIL−8結合の競争はない。
【0022】
単離されたcDNAクローンのDNA配列(図2)は、翻訳開始部位と予想されるコンセンサスに合致するメチオニン残基(参考文献11)に始まる1つの長い読み取り枠を含有している。この読み取り枠は350アミノ酸のタンパク質(翻訳されたMrは39.5kD)をコード化している。そのアミノ酸配列は、細胞膜をまたぐと予想される7つの疎水性ドメインとN−末端近くのN−結合型グリコシル化部位(参考文献12)(下記参照)を含むロドプシンスーパーファミリーのG−タンパク質共役受容体といくつかの特徴を共有している。
【0023】
コード化されているアミノ酸配列は最近クローン化されたウサギfMLP受容体(参考文献5)に関する配列に最も類似している。その類似性は、これら2つの配列が充分に同じ受容体の種相同体であり得るほどに高い(20以上の連続したアミノ酸が合致する複数の領域を伴う79%の総合アミノ酸同一性)。ヒトfMLP受容体も既にクローン化されており(参考文献3)、それはウサギfMLP受容体と26%のアミノ酸同一性しか有さない(また本明細書に開示するヒトIL−8受容体に対する同一性は29%である)。ウサギfMLP受容体アミノ酸配列とヒトfMLP受容体アミノ酸配列の間のかなりの相違は、これらがfMLP受容体の2つのイソ型であろう(参考文献5)という示唆を当該技術分野に与えてきた(これは現在ではおそらく誤りであろうと考えられる)。
【0024】
好中球は化学誘引物質IL−8およびfMLPに対して迅速で一時的な細胞内遊離Ca++濃度の増大を伴って応答する(参考文献1,13)。本発明においてIL−8受容体として単離されたクローンの同定を立証するために、出願人らは、添加されたIL−8並びにfMLPに対する、トランスフェクションされた細胞の細胞内Ca++応答を決定した。出願人らはトランスフェクションされたヒトfMLP受容体または対照としての発現ベクターを用いて平行実験を行った。フローサイトメーター分析は、トランスフェクションされたIL−8受容体について、IL−8に対する応答として、細胞内Ca++の明らかな一時的増大を示している。fMLPに対する応答は認められない。逆にヒトfMLP受容体でトランスフェクションした細胞はfMLPには応答するが、IL−8には応答しない。ベクターでトランスフェクションされた細胞ではどちらの化学誘引物質に対する応答も認められない。トランスフェクション効率は15〜25%と見積もられるので、これらの実験において応答すると予期されるのはこれらの細胞の副集団に過ぎない。結合実験(参考文献14)も発現されたIL−8受容体に対するH−fMLPの結合もしくは発現されたヒトfMLP受容体に対する1251−IL−8の結合を検出することができなかった。これらの実験は上記2つの受容体のそれぞれの配位子に対する特異性、即ちIL−8とfMLPの間の好中球に関する結合競争の欠如に基づいて予期される結果(参考文献1)、を明確に立証している。またこれらの結果は、クローン化された受容体が配位子の結合に対する応答として、第2のメッセージを信号化するように機能することをも明らかにしている。
【0025】
ヒト好中球mRNAに対するクローン化したIL−8受容体cDNAのブロット・ハイブリッド形成は、2.4kbおよび3.0kbの強いバンドと共にかなり弱い3.5kbのバンドを示す。図2に示すDNA配列データから、受容体のmRNAが長い3’非翻訳領域を持っていることは明らかであるが、複数のRNAバンドが複数のポリアデニル化部位によるものであるかどうかを立証するにはさらなる研究が必要であろう。B細胞およびT細胞系統であるジュルカット(Jurkat)細胞系またはU266から得たmRNAに対するハイブリッド形成は検出されなかった。これらの細胞に対する低レベルのIL−8結合が報告されているにもかかわらず、単球細胞系U937から得たmRNAについてもやはりハイブリッド形成は観測されなかった。
【0026】
3種の好中球化学誘引物質IL−8、fMLP(参考文献3)およびC5a(参考文献4)に関する受容体配列の並列によって、それらが29〜34%のアミノ酸同一性を伴うG−タンパク質共役受容体のサブファミリーを形成していることが示される。このサブファミリーは、β−アドレナリン作動性受容体(参考文献12)またはムスカリン性アセチルコリン受容体(参考文献15)などの他のG−タンパク質共役受容体と比較して短い第3の細胞内ループを持っている。このループは少なくとも部分的にはその受容体(参考文献12)に対するG−タンパク質の結合の原因である決定基を含有している。IL−8受容体の細胞内C−末端領域はfMLPおよびC5a受容体のそれとはあまり類似していないものの、リン酸化部位として機能し得る多数のセリンおよびスレオニン残基を保存している。C5a受容体について注記されているように(参考文献4)、IL−8受容体のN−末端細胞外領域は数個の酸性残基を持っている。これらは極めて塩基性である1L−8(pI〜9.5)の結合を促進するのであろう。
【0027】
1.定義
一般に、この説明、実施例および請求の範囲で使用する下記の用語あるいは表現は以下に示す定義を有する。
【0028】
用語「PF4AR」は図2、4または5のポリペプチドに共通する定性的な生物学的活性を有するポリペプチドと定義される。随意に、PF4ARは、図2、4または5のポリペプチドのいずれかと少なくとも30%、通常は75%のアミノ酸配列同一性を有するであろう。随意に、PF4ARは、ウサギfMLP受容体(参考文献5)、ヒトfMLP受容体(参考文献3)、ヒトC5a受容体(参考文献4)および/またはマーフィーら,Science253:1280(1991)に記述されている受容体を除外する。
【0029】
PF4ARに関する同一性または相同性は、本明細書では、配列を並列させて、必要であれば最大の相同百分率が得られるように間隙を導入した後に、図2、4または5中の残基と同一である候補配列のアミノ酸残基の百分率と定義され、保存的な置換は残基の同一性を表すものと見なさない。N−末端またはC−末端伸長や欠失または挿入は同一性または相同性を減少させるものと見なされないであろう。
【0030】
PF4ARの定性的な生物学的活性は、(1)図2、4または5に記載のポリペプチドの少なくとも1つのエピトープとの免疫学的交差反応性、(2)PF4スーパーファミリーの構成要素に特異的に結合する能力、または(3)図2、4または5のポリペプチドに自然に認められる何らかのエフェクター活性または機能的活性(スーパーファミリー構成要素以外の何らかの配位子を結合する能力を含む)のいずれか1つと定義される。
【0031】
本明細書で使用される場合、免疫学的な交差反応性とは、候補ポリペプチドがPF4ARに対して生じさせた抗血清やポリクローナル抗体に対するPF4ARの結合を競争的に阻害することができることを意味する。このような抗体や血清は、ヤギやウサギなどの動物に完全フロイントアジュバント中の既知の天然のPF4ARを例えば皮下注射し、次いで不完全フロイントアジュバント中で腹腔内または皮下に追加免疫注射することによる従来の方法で調製される。
【0032】
本明細書で使用する用語としてのPF4ARの範囲には、図2、4または5に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド、そのようなアミノ酸配列のアミノ酸配列変種、それらのポリペプチドのグリコシル化変種およびそれらのポリペプチドの共有結合修飾体が含まれる。これらのそれぞれを以下に詳述する。
【0033】
「単離された」PF4AR核酸またはポリペプチドとは、通常自然に伴う少なくとも1つの混入物(それぞれ核酸またはポリペプチド)から(例えばPF4AR核酸またはポリペプチドの動物またはヒト供給源から)分離され、同定されたPF4AR核酸またはポリペプチドをいう。好ましい態様では、PF4ARが、その起源の種のタンパク質に関して医薬的に許容されるレベルの純度に単離されるであろう。好ましい態様では、PF4ARタンパク質が、(1)ローリー法で決定したタンパク質の95重量%以上(最も好ましくは99重量%以上)に精製されるか、(2)本願の出願日に市販されているアミノ酸配列決定装置によってN−末端(アミノ酸配列または内部アミノ酸配列の少なくとも15残基を得ることができる程度に精製されるか、あるいは(3)クーマシー・ブルー(好ましくは銀染色)を用いる従来の非還元的SDS−PAGEによって均一に精製されるであろう。単離されたPF4ARは組換え細胞内の現位置にあるPF4ARを包含する。なぜなら、この例ではPF4ARの自然の環境の少なくとも1つの成分が存在しないであろうからである。単離されたPF4ARはある種の組換え細胞培養内にある別の種からのPF4ARを包含する。なぜなら、そのような環境にある受容体は供給源のポリペプチドを含まないであろうからである。しかし通常は単離された受容体が少なくとも一つの精製段階によって調製されるであろう。
【0034】
単離されたPF4AR核酸は、通常はその受容体核酸の天然の供給源に伴う少なくとも1つの混入核酸から分離され、同定された核酸を包含する。したがって、単離されたPF4AR核酸は天然に認められる形態または状況とは異なる形態または状況で存在する。しかし単離された受容体コード化核酸は、その核酸が天然の細胞とは異なる染色体位置にあるか、もしくは天然に認められるもの以外の異なるDNA配列に隣接している、通常に受容体を発現させる細胞中のPF4AR核酸を包含する。
【0035】
該核酸またはポリペプチドを診断のためおよびプローブのために、下記の診断的検定法の議論で記述し定義する標識を用いて標識してもよい。
【0036】
PF4AR「核酸」は図2、4または5内のポリペプチド配列をコード化する10塩基以上を含有するRNAまたはDNAと定義され、図2、4または5の核酸配列に相補的であり、そのような核酸にハイブリッド形成して低い厳密条件下でそれに安定に結合したままであるか、あるいは図2、4または5に示す翻訳されたアミノ酸配列またはその断片と少なくとも30%、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも85%の配列同一性を共有するポリペプチドをコード化する。図2、4または5、の核酸にハイブリッド形成するDNAは好ましくは少なくとも20塩基、より好ましくは40塩基、さらに好ましくは60塩基を含有する。最も好ましくは、ハイブリッド形成するDNAまたはRNAが45塩基、さらにより好ましくは90塩基を含有する。しかしこのようなハイブリッド形成核酸または相補的核酸はさらに、ウサギfMLP受容体5、ヒトfMLP受容体または(随意に)マーフィーら(上記)のIL−8受容体をコード化する核酸をコード化するか、低い厳密条件下で該核酸とハイブリッド形成するか、あるいは該核酸に相補的な核酸を含めて、先行技術のいずれの核酸に対しても新規であって自明でないものと定義される。
【0037】
「高い厳密条件」とは、(1)洗浄のために低イオン強度と高温(例:50℃で0.015MNaC1/0.0015Mクエン酸ナトリウム/0.1%NaDodSO)を使用する条件であるか、もしくは(2)ハイブリッド形成の間に0.1%牛血清アルブミン/0.1%フィコール/0.1%ポリビニルピロリドン/50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)を伴う50%(体積/体積)ホルムァミドを750mM NaC1、75mMクエン酸ナトリウムと共に42℃で使用する条件か、あるいは(3)42℃において50%ホルムアミド、5×SSC(0.75M NaC1、0.075Mクエン酸ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(PH6.8)、0.1%ピロリン酸ナトリウム、5×デンハルト溶液、超音波処理したサケ精子DNA(50μg/m1)、0.1%SDSおよび10%硫酸デキストランを使用し、それに伴って0.2×SSCおよび0.1%SDS中42℃で洗浄する条件のいずれかである。
【0038】
用語「制御配列」は、特定の宿主生物中で機能可能に連結したコード配列の発現に必要なDNA配列を意味する。原核生物に適した制御配列には、例えばプロモーター、随意にオペレーター配列、およびリボソーム結合部位が含まれる。真核細胞はプロモーター、ポリアデニル化シグナルおよびエンハンサーを利用することがわかっている。
【0039】
ある核酸がもう1つの核酸配列と機能的な関係に置かれる場合、その核酸は「機能可能に連結」している。例えばプレ配列または分泌リーダーのDNAは、それがポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現される時、そのポリペプチドのDNAに機能可能に連結している。またプロモーターやエンハンサーは、それがコード配列の転写に影響を与える時、そのコード配列に機能可能に連結している。さらにリボソーム結合部位は、それが翻訳を促進するような位置にある時、コード配列に機能可能に連結している。「機能可能に連結している」とは、一般的には連結されるDNA配列が隣接していることを意味し、分泌リーダーの場合には隣接していて且つ解読相が一致していることを意味する。しかしエンハンサーは隣接している必要がない。連結は都合のよい制限部位での連結(ライゲーション)によって達成される。そのような部位が存在しない場合には、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーを従来の慣用に従って使用する。
【0040】
本発明における出発プラスミドは市販されており、制限なく公に使用することができるか、もしくは上記の利用可能なプラスミドから公表されている手法に従って構築することができる。さらに他の等価なプラスミドも当該技術分野では知られており、当業者には明らかであろう。DNAの制限酵素消化、回収または単離、ハイブリッド形成分析および連結(ライゲーション)は慣用の方法であり、現時点で当業者によく知られている。
【0041】
ある与えられたDNA断片の制限消化物からの「回収」または「単離」とは、ポリアクリルアミドゲルまたはアガロースゲル上で電気泳動によって消化物を分離し、既知の分子量を有するマーカーDNA断片の移動度とその移動度とを比較することによって興味ある断片を同定し、所望の断片を含有するゲル切片を取り出し、DNAからゲルを分離することを意味する。この手法は一般的に知られている。例えばローンら,Nucleic Acids Res.,9:6103−6114(1981)およびゲッデルら,Nucleic Acids Res.814057(1980)を参照のこと。
【0042】
<本発明を実施するための好適な方法>
.天然のPF4ARおよび変種の調製
A.PF4ARをコード化するDNAの単離
PF4ARをコード化するDNAは、PF4ARmRNAを含有していると考えられる組織から調製されるcDNAライブラリー、一般的にはHL60またはPBLライブラリーから得ることができる。PF4AR遺伝子をゲノムライブラリーから得ることもできる。興味ある遺伝子またはそれによってコード化されているタンパク質を同定するために設計されたプローブを用いてライブラリーをスクリーニングする。出願人らはIL−8受容体と2つの相同的受容体について全cDNAを記述した。この受容体ファミリーをコード化する核酸は図2、4または5の受容体遺伝子配列に由来するオリゴヌクレオチド配列を有するプローブを用いてゲノムDNAまたは好中球cDNAライブラリーから低い厳密条件下で容易に得ることができる。これらのプローブは通常約500塩基またはそれ以上を含有するであろう。これらのプローブは3つの代表的DNAに完全にハイブリッド形成するであろうから、縮重配列を含有するプローブプールを使用する必要はない。図2、4または5の受容体を同定するための上記プローブによるスクリーニングを高い厳密条件下で行えば、より効率が高い。
【0043】
図2、4または5に記載したもの以外のPF4ARが存在し、それが上記の代表的受容体に相同な領域を含有するものと考えられる。したがって図2、4または5に記載のDNA配列を有するプローブを用いてこれらの受容体を同様にスクリーニングすることができる。プローブとして最もよい候補は3つの代表的ヒト受容体の間で高度に相同な配列を表す(約100塩基以上の)長い配列である。IL−8残基15〜34、78〜94、176〜193、264〜282および299〜312をコード化するIL−8cDNA(およびIL−8Rファミリーの他の受容体から得られる同等なプロ一ブ)は、とりわけIL−8受容体DNAについてプローブする際に有用である。図4の受容体(および図5の受容体に特有の単離されたタンパク質)にとって有用なプローブは残基1〜48、77〜92、107〜137、156〜177、189〜226、239〜257および271〜315からなる配列によって表される。図4の受容体の相同的なプローブと残基、即ち残基1〜35、64〜78、94〜124、143〜164、176〜197、219〜239および251〜295も有用である。図2、4または5ポリペプチドの下記の領域をコード化するcDNAからなるcDNAは他の受容体をプローブする際に有用である:92〜106、57〜72、138〜154、314〜329および57〜154。
【0044】
一般的には、ある与えられたPF4Aを特異的に結合することができ、そのPF4Aによって活性化される細胞を、典型的にはインビトロ生物検定法によって、また随意に標識されたPF4Aを用いる細胞結合分析によって、まず同定する。それゆえに、この過程によって同定される細胞(いくつかは個々のPF4Aについて既に知られている)はそのPF4Aに関する受容体を発現させている。そのような細胞からcDNAライブラリーを調製し、それ自体は慣用の手法によって受容体プローブを用いてスクリーニングする。しかしこの場合、(実施例2に記述するような)低い厳密条件を使用することが好ましく、次いで得られた陽性クローンを図2、4または5の受容体に対する相同性について分析する。一般に、候補ヒトPF4ARは図2、4または5の受容体に対して約30%以上のアミノ酸配列相同性を示し、類似の貫膜ループ構造を保持しているであろう。
【0045】
次にハイブリッド形成する全長遺伝子が所望のPF4ARであることを確認するために検定を行う。その候補を単に発現ベクター中に挿入し、それを通常は候補PF4A配位子に結合しない宿主細胞中に形質転換する。したがって、その配位子を結合する能力を獲得した形質転換体は所望の受容体遺伝子を保持する。出願人らは実施例2において、PR4ARを表す2つの追加の相同なポリペプチド配列が、特定のプローブが不可欠であるとは思われないが、残基23〜314をコード化するIL−8R DNAを用いて同定されることを示す。
【0046】
追加のPF4ARをコード化する遺伝子を単離する代替手段は、例えばサムブルックら(上記)の14章に記述されているようにポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法(米国特許第4683195号;エルリッヒ編「PCR Technology」(1989))を用いて標的DNAまたはRNAを増幅することである。この方法はPF4ARにハイブリッド形成すると予期されるオリゴヌクレオチドプライマーの使用を必要とし、これらは図2、4または5の受容体cDNAから容易に選択される。オリゴヌクレオチドプライマーの選択法は上述の通りである。
【0047】
図2、4または5の受容体もしくは相同な受容体をコード化するDNAを得るために、様々な組織、好ましくは哺乳類PBL、単球、胎盤、胎児、脳および癌腫細胞系からcDNAライブラリーをスクリーニングすることができる。より好ましくは、ヒトまたはウサギの胎盤・胎児・脳および癌腫細胞系cDNAライブラリーを標識したオリゴヌクレオチドプローブでスクリーニングする。
【0048】
興味ある遺伝子を得るためのもう1つの方法は、エンゲルスら(Agnew.Chem.Int.Ed.Engl.,28:716−734[1989])に記述されている方法の1つを使用して、それを化学的に合成することである。これらの方法には、典型的には固体支持体上でのオリゴヌクレオチド合成によって進行する、トリエステル、ホスファイト、ホスフォルアミダイトおよびH−ホスホネート法が含まれる。その遺伝子の全アミノ酸配列または核酸配列が知られているか、そのコード鎖に相補的な核酸の配列が利用できる場合に、これらの方法を使用することができる。所望のアミノ酸配列が既知である場合には、各アミノ酸残基について既知の好ましいコード残基を用いることにより、考え得る核酸配列を推論することができる。
【0049】
B.PF4ARのアミノ酸配列変種
PF4ARのアミノ酸配列変種は、PF4AR DNAに適当なヌクレオチド変化を導入するか、もしくは所望のPF4ARポリペプチドのインビトロ合成によって調製される。そのような変種には、例えばそれらの受容体について図2、4または5に示したアミノ酸配列内の残基からの欠失体、挿入体または置換体が含まれる。最終構築物が所望の特性を有する限り、最終構築物に到達するために欠失、挿入および置換のどあような組み合わせを行ってもよい。
【0050】
グリコシル化部位の数または位置の変化、膜固定特性を変化させることによるなど、アミノ酸変化がPF4ARの翻訳後プロセシングを変化させてもよい。先行技術に対して法定の新規性および非自明性を持たないPF4AR変種またはポリペプチドは本発明の範囲から除外される。
【0051】
PF4ARのアミノ酸配列変種を設計するにあたって、突然変異部位の位置と突然変異の性質は修飾されるべきPF4ARの特性(単数または複数)に依存するであろう。突然変異の部位は個別に修飾することもでき、連続的に修飾することもできる。例えば、(1)まず保存的なアミノ酸選択物で置換した後に、達成された結果に応じてより過激な選択物で置換するか、(2)標的残基を削除するか、あるいは(3)位置を特定した部位に隣接して同じ種類か異なる種類の残基を挿入するか、もしくは選択枝(1)〜(3)の組み合わせによる。
【0052】
突然変異誘発法にとって好ましい位置にあるPF4ARポリペプチドのいくつかの残基または領域を同定する有用な方法は「アラニン走査突然変異誘発法(alanine scanning mutagenesis)」と呼ばれ、カニングハムとウェルスによって記述されている(Science,244:1081−1085[1989])。ここでは一残基または標的残基の群(例:arg、asp、his、lysおよびgluなどの荷電残基)を同定し、中性または陰性に荷電したアミノ酸(最も好ましくはアラニンまたはポリアラニン)で置換することによってそれらのアミノ酸とそれらを取り巻く細胞内外の水性環境との相互作用に影響を与える。次に、置換の部位にさらなる変化または他の変化を導入することによって、置換に対して機能的な感受性を示したドメインを詳細に調べる。したがってアミノ酸配列変化を導入する部位は予め決定されるが、置換の性質そのものは予め決定しておく必要がない。例えばある与えられた部位での突然変異の効果を最適化するために、ala走査または無作為突然変異誘発法を標的コドンまたは領域で行い、発現したPF4AR変種を所望の活性の最適な組み合わせについてスクリーニングする。
【0053】
一般に改変にとって好ましいPF4AR分子の領域は非親水性領域または高度に保存されていない領域である。そのような領域は、ウサギfMLP受容体、ヒトfMLP受容体、ヒトC5a受容体および図2、4および5の受容体中の相同な位置において本質的に保存されていない5またはそれ以上の残基の配列からなる領域である。
【0054】
PF4AR変種は少なくとも親配列の生物学的活性、例えば配位子結合活性や抗原性活性などを示すであろう。抗原的に活性なPF4ARは天然に存在するPF4AR配列に対して生じた抗体に対して少なくとも10−9l/molの親和性で結合するポリペプチドである。通常そのポリペプチドは少なくとも約10−8l/molの親和性で結合する。最も好ましくは、抗原的に活性なPF4ARが天然の立体配置にある受容体に対して生じた抗体に結合するポリペプチドであり、ここに「天然の立体配置」とは一般に、受容体の三次構造を本質的に改変するカオトロピック剤、熱または他の処理によって変性されていない自然に認められるままの受容体を意味する(これは例えば非還元的非変性的サイズ分画ゲル上での移動によって決定することができる)。抗原性活性の決定に使用される抗体は、フロイント完全アジュバント中に天然の非ウサギ受容体を製剤化し、その製剤を皮下注射し、抗受容体抗体の力価が平坦になるまでその製剤の腹腔内注射によって免疫応答を強化することによって生成させたウサギのポリクローナル抗体である。
【0055】
変種の1つの群は欠失突然変異体または図2、4または5に記載の配列または他のPF4ARの断片である。一般にこれらの断片は受容体の細胞外領域を構成するものである(これらの受容体は、それらが外質中に輪を作ると考えられる親水性配列によって分離された複数の疎水性貫膜ドメインを含有すると考えられている点で最も異なっている)。特に興味深いのは、酸性アミノ酸残基を含有するN−末端細胞外領域である。しかし、無傷の受容体と交差反応するであろう抗体を生じさせることができる配列、もしくはPF4スーパーファミリーの一構成要素に結合するであろう配列であれば、いずれも有用である。これらの断片は典型的には少なくとも約5(通常は少なくとも約10)残基の連続的な配列を含有するであろう。
【0056】
アミノ酸配列の欠失は一般に約1ないし30残基の範囲であり、より好ましくは約1ないし10残基であり、典型的には連続的である。図2、4および5の受容体の間で相同性が低い領域中に欠失を導入して、その受容体の活性を変化させることができる。そのような欠失は他の位置に行う欠失よりも有意にその受容体の生物学的活性を改変するものと考えられる。連続的な欠失の数は影響を加えるドメイン中のPF4ARの三次構造(例:べータひだ状シートまたはアルファヘリックス)を保存するように選択されるであろう。
【0057】
アミノ酸配列の挿入には1残基から100残基以上を含有するポリペプチドに至る長さのアミノ−および/またはカルボキシル−末端融合と、1アミノ酸残基または複数アミノ酸残基の配列内挿入が含まれる。配列内挿入(即ちPF4AR配列内の挿入)は一般に約1ないし10残基にわたり得、より好ましくは1ないし5残基、もっとも好ましくは1ないし3残基である。
【0058】
PF4ARの挿入変種またはその細胞外セグメントには、PF4ARのN−またはC−末端に対する免疫原性ポリペプチド(例:べーターラクタマーゼや大腸菌trp遺伝子座によってコード化されている酵素などの細菌ポリペプチド、または酵母タンパク質)の融合物、並びに、1989年4月6日に公開されたWO89/02922に記述されているような、免疫グロブンリン定常領域(または他の免疫グロブリン領域)、アルブミンまたはフェリチンなどの長い半減期を持つタンパク質とのC−末端融合物が含まれる。
【0059】
変種のもう1つの群はアミノ酸置換変種である。これらの変種ではPF4AR分子中の少なくとも1つのアミノ酸残基が除去され、その位置に異なる残基が挿入されている。置換的突然変異誘発にとって最も興味深い部位には、PF4ARの活性部位(単数または複数)と同定される部位、および様々な種から得たPF4AR中に認められるアミノ酸が、側鎖のかさ高さ、電荷および/または疎水性の点で本質的に異なっている部位が含まれる。
【0060】
その他の興味深い部位は、図2、4および5のPF4ARの特定の残基が同一である部位である。これらの位置はPF4ARの生物学的活性にとって重要であり得る。これらの部位(とりわけ少なくとも3つの他の同等に保存された部位の配列内にあるもの)は比較的保存的な方法で置換される。このような保存的置換を、好ましい置換と題した表1の欄に示す。このような置換が生物学的な活性の変化をもたらす場合には、表1で代表的な置換と名付けた、より本質的な変化、もしくはアミノ酸の種類に関してさらに後述するようなより本質的な変化を導入し、その産物をスクリーニングする。
【0061】
【表1】

【0062】
PF4ARの機能的または免疫学的同一性の本質的な改変は、(a)置換の領域におけるポリペプチド骨格の構造(例えばシートまたは螺旋立体配置)、(b)標的部位におけるその分子の電荷または疎水性、あるいは(c)側鎖のかさ高さ、の維持に対するそれらの効果がかなり異なる置換を選択することによって達成される。天然に存在する残基は共通の側鎖特性に基づいていくつかの群に分類される。
【0063】
(1)疎水性:ノルロイシン、met、ala、val、leu、ile;
(2)中性親水性:cys、ser、thr;
(3)酸性:asp、glu;
(4)塩基性:asn、gln、his、lys、arg;
(5)鎖の配向に影響を与える残基:gly、pro;
(6)芳香族:trp、tyr、phe。
【0064】
非保存的置換はこれらの種類の一つの構成要素を別のものに交換することを必然的に伴うであろう。他のPF4ARと相同なPF4ARの領域に、より好ましくは該分子の非相同領域にそのような置換された残基を導入することができる。
【0065】
PF4ARの適性な立体配置の維持に関与していないシステイン残基はいずれも一般的にはセリンで置換することによってその分子の酸化的安定性を改善し、常軌を逸した架橋を防止することができる。
【0066】
PF4ARのアミノ酸配列変種をコード化するDNAは当該技術分野で知られている様々な方法で調製される。これらの方法には天然の供給源からの単離(天然に存在するアミノ酸配列変種の場合)あるいはオリゴヌクレオチド媒介(または部位特異的)突然変異誘発法、PCR突然変異誘発法、および先に調製されたPF4ARの変種または非変種型のカセット突然変異誘発法などが含まれるが、これらに限定されない。これらの技術ではPF4AR核酸(DNAまたはRNA)またはPF4AR核酸に相補的な核酸を使用するであろう。
【0067】
オリゴヌクレオチド媒介突然変異誘発法は、PF4AR DNAの置換、欠失および挿入変種を調製する際に好ましい方法である。この技術はアデルマンら,DNA,2:183(1983)に記述されているように当該技術分野ではよく知られている。簡単に述べるとPF4AR DNAの未改変のDNA配列または天然のDNA配列を含有するプラスミドまたはバクテリオファージの一本鎖型であるDNA鋳型に所望の突然変異をコード化するオリゴヌクレオチドをハイブリッド形成させることによって、PF4AR DNAを改変する。ハイブリッド形成の後、DNAポリメラーゼを用いて上記鋳型の完全な第2の相補鎖を合成すれば、その相補鎖は上記オリゴヌクレオチドプライマーを組み込み、PF4AR DNA中の選択された改変をコード化するであろう。
【0068】
一般に少なくとも25ヌクレオチド長のオリゴヌクレオチドが使用される。最適なオリゴヌクレオチドは突然変異をコードするヌクレオチド(単数または複数)の両側に鋳型に対して完全に相補的な12〜15ヌクレオチドを有するであろう。このことはそのオリゴヌクレオチドが一本鎖DNA鋳型分子に対して適切にハイブリッド形成することを保証する。オリゴヌクレオチドは、クレアら(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,75:5765[1978])が記述しているような当該技術分野で既知の技術を用いて容易に合成される。
【0069】
一本鎖DNA鋳型も標準的な技術を用いて二本鎖プラスミド(または他の)DNAを変性させることによって生成させることができる。
【0070】
(例えばアミノ酸配列変種を生成させるべく)天然のDNA配列を改変するために、適当なハイブリッド形成条件下でオリゴヌクレオチドを一本鎖鋳型にハイブリッド形成させる。次にDNA重合酵素(通常はDNAポリメラーゼ1のクレノー断片)を加えることにより、上記オリゴヌクレオチドを合成のプライマーとして用いて鋳型の相補鎖を合成する。したがってDNAの1つの鎖はPF4ARの突然変異型をコード化し、他方の鎖(元の鋳型)はPF4ARの天然の変化していない配列をコード化しているというヘテロニ本鎖分子が形成される。次にこのヘテロニ本鎖分子を適当な宿主細胞(通常は大腸菌JM101などの原核生物)中に導入する。細胞を生育した後、それらをアガロースプレートに接種し、32−ホスフェートで放射線標識したオリゴヌクレオチドプライマーを用いてスクリーニングすることにより、突然変異したDNAを含有する細菌コロニーを同定する。次に突然変異した領域を取り出し、タンパク質の生産に適したベクター(一般的に適当な宿主の形質転換に典型的に使用される種類の発現ベクター)中に入れる。
【0071】
プラスミドのどちらの鎖も突然変異(単数または複数)を含有するようなホモニ本鎖分子を作成するように、すぐ上に記述した方法を改変することができる。この改変は以下の通りである。一本鎖オリゴヌクレオチドを上述の一本鎖鋳型にアニールさせる。3種類のデオキシリボヌクレオチド(即ちデオキシリボアデノシン(dATP)、デオキシリボグアノシン(dGTP)およびデオキシリボチミジン(dTTP))の混合物をdCTP−(aS)と呼ばれる改良されたチオ−デオキシリボシトシン(これはアマシャム・コーポレイションから入手できる)と混合する。この混合物を鋳型−オリゴヌクレオチド複合体に加える。この混合物にDNAポリメラーゼを加えると、突然変異させた塩基以外は鋳型と同一な鎖が生成する。さらにこの新しいDNA鎖はdCTPの代わりにdCTP−(aS)を含有し、これは制限エンドヌクレアーゼ消化からその鎖を保護するように機能するであろう。二本鎖になったヘテロニ本鎖の鋳型鎖に適当な制限酵素で裂け目を入れた後、その鋳型鎖をExoHIヌクレアーゼまたは他の適当なヌクレアーゼを用いて、突然変異を誘発すべき部位を含有する領域を通過して消化することができる。次に、一部分のみが一本鎖である分子が残るように反応を停止させる。次に4種類すべてのデオキシリボヌクレオチド三リン酸、ATPおよびDNAリガーゼの存在下でDNAポリメラーゼを用いることによって完全な二本鎖になったDNAホモニ本鎖を形成させる。次にこのホモニ本鎖分子を大腸菌JM101などの適当な宿主細胞中に上述の如く導入することができる。
【0072】
置換すべきアミノ酸が1より多いPF4AR突然変異体をコード化するDNAは数種類の方法の1つで作成することができる。それらのアミノ酸がそのポリペプチド鎖中で互いに接近して位置する場合には、所望のアミノ酸置換のすべてをコードする1つのオリゴヌクレオチドを用いて同時にそれらを突然変異させることができる。しかしそれらのアミノ酸が互いにいくらか離れて位置する場合(約10アミノ酸以上によって分離されている場合)には、所望の変化のすべてをコード化する1本のオリゴヌクレオチドを作成することがより困難になる。その代わりとして2つの代替方法のいずれかを使用することができる。第1の方法では、置換すべき各アミノ酸について別個のオリゴヌクレオチドを作成する。次にこれらのオリゴヌクレオチドを一本鎖鋳型DNAに同時にアニールさせると、その鋳型から合成される第2のDNA鎖は所望のアミノ酸置換のすべてをコード化するであろう。
【0073】
代替的な方法は所望の突然変異体を作成するために2回またはそれ以上の突然変異誘発を必要とする。第1回は単一の突然変異体について記述した通りであり、野生型DNAを鋳型として使用し、第1の所望のアミノ酸置換をコード化するオリゴヌクレオチドをこの鋳型にアニールさせ、次いでヘテロニ本鎖DNA分子を生成させる。第2回の突然変異誘発では第1回の突然変異誘発で作成された突然変異したDNAを鋳型として使用する。したがってこの鋳型はすでに1またはそれ以上の突然変異を含有している。次に追加の所望のアミノ酸置換(単数または複数)をコード化するヌクレオチドをこの鋳型にアニールさせると、得られるDNA鎖は第1回と第2回の突然変異誘発の両方に由来する突然変異をコード化していることになる。この得られたDNAを第3回の突然変異誘発などで鋳型として用いることができる。
【0074】
PCR突然変異誘発法もPF4ARのアミノ酸変種を作成するのに適している。以下の議論ではDNAについて述べるが、この技術がRNAにも応用されることは理解されるところである。PCR技術とは一般的には下記の操作を意味する(アールリッヒ(上記),アール・ヒグチによる章,61〜70頁)。少量の鋳型DNAをPCRにおける出発物質として使用すると、鋳型DNA中の対応する領域とは配列がわずかに異なるプライマーを用いることによって、そのプライマーが鋳型と異なる位置だけが鋳型配列と異なる特異的なDNA断片を比較的大量に生成させることができる。プラスミドDNA中に突然変異を導入するためには、プライマーの1つを、それが突然変異の位置と重複し、その突然変異を含有するように設計する。他方のプライマーの配列はそのプラスミドの反対鎖の配列と同一でなれけばならないが、この配列はプラスミドDNAに沿うどの位置にあってもよい。しかし、これらのプライマーによって挟まれた増幅されるPNAの全領域が最終的には容易に配列決定することができるように、第2のプライマーの配列が第1のプライマーの配列から200ヌクレオチド以内に位置するこ、とが好ましい。ここに記述したような一対のプライマーを用いるPCR増幅は、プライマーによって指定される突然変異の位置と、鋳型の複写がいくらか誤りがちであるのでおそらく他の位置とで異なるDNA断片の集団をもたらす。
【0075】
生成物に対する鋳型の比率が極端に低い場合には、生成物DNA断片の大部分が所望の突然変異(単数または複数)を組み込む。この生成物を用いて、標準的なDNA技術によって、PCR鋳型として機能したプラスミドの対応する領域を置換する。離れた位置にある突然変異は、突然変異第2プライマーを用いるか、あるいは異なる突然変異プライマーを用いて第2PCRを行い、得られた2つのPCR断片をベクター断片に三(またはそれ以上)部分連結で同時に連結することによって、同時に導入することができる。
【0076】
変種を作成するもう1つの方法であるカセット突然変異誘発法はウェルスらが記述した技術(Gene,34:315[1985])に基づく。
【0077】
C.クローニングベヒクルヘのDNAの挿入
天然のPF4ARまたは変種PF4ARをコード化するcDNAまたはゲノムDNAを、さらなるクローニングのため(DNAの増幅)、あるいは発現のために、複製可能なベクター中に挿入する。多くのベクターを利用することができ、適当なベクターの選択は、(1)それをDNA増幅に使用するのか、それともDNA発現に使用するのかということ、(2)ベクター中に挿入されるべきDNAの大きさ、および(3)そのベクターによって形質転換される宿主細胞、に依存するであろう。各ベクターはその機能(DNAの増幅またはDNAの発現)とそれが適合する宿主細胞に応じて様々な成分を含有する。ベクター成分には一般に下記成分の1またはそれ以上が含まれるが、それらに限定されない:シグナル配列、複製起点、1またはそれ以上の標識遺伝子、エンハンサー要素、プロモーターおよび転写終止配列。
【0078】
(i)シグナル配列成分
一般にシグナル配列はベクターの一成分であるか、もしくはベクター中に挿入されるPF4AR DNAの一部であり得る。天然のプロPF4AR DNAは、出願人らの組換え細胞においてその細胞表面に向けられるが、それは従来のシグナルを含有しておらず、PF4ARの膜挿入中に、そのポリペプチドの翻訳後プロセシングの間に切断されるN−末端ポリペプチドはない。
【0079】
(ii)複製起点成分
発現ベクターとクローニングベクターは共に、1またはそれ以上の選択された宿主細胞中でそのベクターが複製することを可能にする核酸配列を含有する。一般にクローニングベクターでは、この配列は、ベクターが宿主染色体DNAとは独立して複製することを可能にする配列であり、複製起点または自律的複製醍列を含む。このような配列は様々な細菌、酵母およびウイルスについてよく知られている。プラスミドpBR322から得られる複製起点はほとんどのグラム陰性菌に適しており、2μプラスミド起点は酵母に適しており、様々なウイルス起点(SV40、ポリオーマ、アデノウイルス、VSVまたはBPV)は哺乳類細胞中でのクローニングベクターに有用である。一般的に複製起点成分は哺乳類発現べクターには必要でない(SV40起点は典型的に使用され得るが、これは単にそれが初期プロモーターを含有しているからに過ぎない)。
【0080】
ほとんどの発現ベクターは「シャトル」ベクターであり、即ち、それらのベクターは少なくとも1種類の細胞中で複製することができ、発現のために別の生物中にトランスフェクションすることができるのである。例えばあるベクターを大腸菌中でクローン化し、次いで同じベクターを(宿主細胞染色体から独立して複製することはできないが)発現のために酵母や哺乳類細胞中にトランスフェクションする。
【0081】
宿主ゲノム中に挿入することによってDNAを増幅することもできる。これはバチルス種を宿主として使用し、例えばバチルスゲノムDNA中に認められる配列と相補的なDNA配列をベクター中に含めることによって容易に達成される。このベクターによるバチルスのトランスフェクションはゲノムとの相同的な組換えとPF4AR DNAの挿入をもたらす。しかしPF4ARをコード化するゲノムDNAの回収は外因的に複製されるベクターの場合より複雑である。なぜならPF4AR DNAを切り出すためには制限酵素消化が必要だからである。
【0082】
(iii)選択遺伝子成分
発現ベクターとクローニングベクターは選択可能標識とも呼ばれる選択遺伝子を含有すべきである。この遺伝子は形質転換された宿主細胞の選択培養培地中での成長または生存にとって必要なタンパク質をコード化する。選択遺伝子を含有するベクターで形質転換されなかった宿主細胞は上記培養培地中で生存できないであろう。代表的な選択遺伝子は、(a)抗生物質または他の毒素(例:アンピシリン、ネオマイシン、メトトレキセートまたはテトラサイクリン)に対する耐性を付与するタンパク質、(b)栄養要求性の欠損を補足するタンパク質、または(c)複合培地から利用することができない必須の栄養素を供給するタンパク質(例:バチルスにとってD−アラニンラセマーゼをコード化する遺伝子)をコード化する。
【0083】
選択法の一例では宿主細胞の成長を抑制するために薬物を使用する。異種遺伝子で成功裏に形質転換された細胞は薬剤耐性を付与するタンパク質を発現させ、それゆえにその選択法を生き抜くことができる。そのような優性選択の例では薬物ネオマイシン(サザンら,J.Molec.Appl.Genet.,1:327[1982])、ミコフェノール酸(ムリガンら,Science209:1422⊂1980])またはハイグロマイシン(サジェンら,Mol.Cell.Biol.,5:410−413[1985])を使用する。上記の三例では適当な薬物(それぞれG418またはネオマイシン(ジェネチシン)、xgpt(ミコフェノール酸)もしくはハイグロマイシン)に対する耐性を伝えるために真核性制御下で細菌遺伝子を使用する。
【0084】
哺乳類細胞に適する選択標識のもう1つの例は、PF4AR核酸を取り込む能力のある細胞の同定を可能にするもの、例えばジヒドロフォレート・レダクターゼ(DHFR)またはチミジン・キナーゼなどである。その標識を取り込んでいるがゆえに形質転換体のみが唯一生存に適合する選択圧下に哺乳類細胞形質転換体を置く。培地中の選択剤の濃度が連続的に変化するような条件下で形質転換体を培養し、それによって選択遺伝子とPF4ARをコード化するDNAの両方の増幅を導くことにより、選択圧をかけることができる。増幅とは、組換え細胞の連続的世代の染色体内で、成長にとって必須のタンパク質の生産がより強く求められる遺伝子が直列して反復される過程である。増大した量のPF4ARが増幅した遺伝子から合成される。
【0085】
例えばDHFR選択遺伝子によって形質転換された細胞は、DHFRの競争的拮抗剤であるメトトレキセート(Mtx)を含有する培養培地中ですべての形質転換体を培養することによって最初に同定される。野生型DHFRを使用する場合に適当な宿主細胞はDHFR活性が欠損しているチャイニーズ・ハムスター卵巣(CHO)細胞であり、これはウルラウブおよびチェイシン,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77:4216[1980]に記述されているように調製され、増殖される。次に形質転換細胞を増大したレベルのメトトレキセートにさらす。これはDHFR遺伝子の複数コピーの合成を導き、これに付随して、PF4ARをコード化するDNAなど、発現ベクターからなる他のDNAの複数コピーを導く。この増幅技術は、例えばMtxに対して高度に耐性な突然変異DHFR遺伝子使用すれば(EP117060)、内因的なDHFRの存在にもかかわらず、他の適当な宿主のいずれでも使用することができる(例:ATCC番号CCL61CHO−K1)。別法として、PF4ARをコード化するDNA配列、野生型DHFRタンパク質およびもう1つの選択可能標識(アミノグリコシド37ホスホトランスフェラーゼ(APH)など)で形質転換または同時形質転換された宿主細胞(特に内因性DHFRを含有する野生型宿主)を、アミノグリコシド性抗生物質(例:カナマイシン、ネオマイシンまたはG418)などの選択可能標識のための選択剤を含有する培地中での細胞成長によって選択することができる。米国特許第4965199号を参照のこと。
【0086】
酵母での使用に適した選択遺伝子は酵母プラスミドYRp7中に存在するtrp1遺伝子である(スチンクコームら,Nature,282:39[1979];キングスマンら,Gene,7:141[1979]またはチェンパーら,Gene,10:157[1980])。trp1遺伝子はトリプトファン中での生育能を欠く酵母の突然変異株(例えばATCC番号44076またはPEP4−1(ジョーンズ,Genetics,85:12[1977]))のための選択標識を提供する。酵母宿主細胞ゲノムにおけるtrp1損傷の存在は、トリプトファンの非存在下での成長によって形質転換を検出するための効果的な環境を提供する。同様にLeu2欠損酵母株(ATCC20622または38626)はLeu(含遺伝子を保持する既知のプラスミドによって補完される。
【0087】
(iv)プロモーター成分
発現ベクターは通常、宿主生物によって認識されるプロモーターを含有しており、それがPF4AR核酸に機能可能に連結している。プロモーターは構造遺伝子の開始コドンの上流(5’側)(一般的には約100〜1000bp内)に位置する翻訳されない配列であり、この配列は、それが機能的に連結している特定の核酸配列(PF4ARなど)の転写と翻訳を制御する。そのようなプロモーターは典型的には2つの種類、即ち、誘導性と構成性に分類される。誘導性のプロモーターは培養条件の何らかの変化(例:栄養素の存在または不在あるいは温度の変化)に応答してその制御下にあるDNAからの増大したレベルの転写を開始させるプロモーターである。現在では様々な潜在的宿主細胞によって認識される多数のプロモーターがよく知られている。これらのプロモーターは、制限酵素消化によって供給源DNAからそのプロモーターを取り出し、単離されたプロモーター配列をベクター中に挿入することによって、PF4ARをコード化するDNAに機能可能に連結される。天然のPF4ARプロモーター配列と多くの異種プロモーターは共に、PF4ARDNAの増幅および/または発現を管理するために使用することができる。しかし異種プロモーターは一般に天然のPF4ARプロモーターと比較してより高い転写と発現されるPF4ARのより高い収率を可能にするので、異種プロモーターが好ましい。
【0088】
原核宿主と共に使用するのに適したプロモーターにはβ−ラクタマーゼおよびラクトースプロモーター系(チャングら,Nature,275:615[1978];ゴェッデルら,Nature,281:544[1979])、アルカリ性ホスファターゼ、トリプトファン(trp)プロモーター系(ゴエッデルら,Nucleic Acids Res.,814057[1980]およびEP36776)、並びに、tacプロモーターなどのハイブリッドプロモーター(デボアーら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,80:21−25[1983])が含まれる。しかしその他の既知の細菌プロモーターも好適である。それらのヌクレオチド配列は公表されているので、当業者は、必要な制限部位を供給するためにリンカーやアダプターを使用することによって、PF4ARをコード化するDNAにそれらを機能可能に連結することができる(シーベンリストら,Cell,20:269[1980])。細菌系で使用されるプロモーターは一般に、PF4ARをコード化するDNAに機能可能に連結したシャイン・ダルガノ(S.D.)配列をも含有するであろう。
【0089】
酵母宿主と共に使用するのに適した促進配列には3−ホスホグリセレート・キナーゼ(ヒッチェマンら,J.Biol.Chem.,255:2073[1980])または他の解糖系酵素(ヘスら,J.Adv.EnzymeReg.,7:149[1968];ホーランド,Biochemistry,17:4900[1978])、例えばエノラーゼ、グリセルアルデヒド−3−ホスフェート・デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルベート・デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース−6−ホスフェート・イソメラーゼ、3−ホスホグリセレート・ムターゼ、ピルベート・キナーゼ、トリオセホスフェート・イソメラーゼ、ホスホグルコース・イソメラーゼおよびグルコキナーゼなどのプロモーターが含まれる。
【0090】
生育条件によって転写を制御できるという追加の利点を有する他の酵母プロモーターは、アルコール・デヒドロゲナーゼ2、イソチトクロームC、酸性ホスファターゼ、窒素代謝に関連する分解酵素、メタロチオネイン、グリセルアルデヒドー3−ホスフェート・デヒドロゲナーゼ、並びに、マルトースおよびガラクトース利用の原因である酵素のプロモーター領域である。酵母発現での使用に適した好適なベクターおよびプロモーターはさらにヒッチェマンら,EP73657Aに記述されている。酵母のエンハンサーも酵母プロモーターと共に有利に使用される。
【0091】
真核生物のためのプロモーター配列が知られている。実質上すべての真核遺伝子が、転写が開始される部位から約25〜30塩基上流に位置するATに富む領域を有する。多くの遺伝子の転写の開始から70〜80塩基上流に認められるもう1つの配列はCXCAAT領域であり、ここにXはいずれのヌクレオチドでもよい。ほとんどの真核遺伝子の3’末端にはAATAAA配列があり、この配列はコード配列の3’末端へのポリA尾部の付加のためのシグナルであるらしい。これらの配列はすべて好適に哺乳類発現ベクター中に挿入される。
【0092】
哺乳類宿主細胞におけるベクターからのPF4ARの転写は、ポリオーマウイルス、家禽ポックスウイルス(1989年7月5日に公表されたUK2211504)、アデノウイルス(アデノウイルス2など)、牛パピローマウイルス、ニワトリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルス、そして最も好ましくはシミアンウイルス40(SV40)などのウイルスのゲノムから得られるプロモーター、異種哺乳類プロモーター(例:アクチンプロモーターまたは免疫グロブリンプロモーター)から得られるプロモーター、熱ショックプロモーターから得られるプロモーター、並びに、PF4AR配列が正常時に伴っているプロモーター(ただしそのタうなプロモーターが宿主細胞系に適合する場合に限る)によって制御される。
【0093】
SV40ウイルスの初期および後期プロモーターはSV40制限断片として都合よく入手することができ、その断片はSV40ウイルス複製起点をも含有している。フィアースら,Nature,273:113(1978);ムリガンおよびバーグ,Science,209:1422−1427(1980);パブラキスら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,78:7398−7402(1981)。ヒトサイトメガロウイルスの即時初期プロモーターはHindIIIE制限断片として都合よく入手される。グリーンアウェイら,Gene,18:355−360(1982)。牛パピローマウイルスをベクターとして使用することにより哺乳類宿主中でDNAを発現させる系は米国4419446に開示されている。この系の変法は米国4601978に記述されている。サル細胞中で免疫インターフェロンをコード化するcDNAを発現させることについてはグレイら,Nature,295:503−508(f982)を、マウス細胞中でヘルペスシンプレックスウイルスに由来するチミジンキナーゼプロモーターの制御下でヒトβ−インターフェロンcDNAを発現させることについてはレイエスら,Nature,297:598−601(1982)を、マウスおよびウサギの培養細胞におけるヒトインターフェロンβ1遺伝子の発現についてはカナー二およびバーグ,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,79:5166−5170(1982)を、ラウス肉腫ウイルス長末端反復をプロモーターとして使用するCV−1サル腎臓細胞、ニワトリ胚線維芽細胞、チャイニーズ・ハムスター卵巣細胞、HeLa細胞およびマウスNIH−3T3細胞における細菌CAT配列の発現についてはゴーマンら,Proc.Nat1.Acad.Sci.USA,79:6777−6781(1982)をも参照のこと。
【0094】
(v)エンハンサー要素成分
本発明のPF4ARをコード化するDNAの高等真核生物による転写はそのベクター中にエンハンサー配列を挿入することによってしばしば増大する。エンハンサーは通常10〜300bpのシス作用性のDNA要素であって、プロモーターに作用してその転写を増大させる。エンハンサーは配向と位置には比較的非依存性であり、転写単位の5’側(ライミンスら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,78:993〔1981])および3’側(ラスキーら,Mol.CellBio.,3:1108[1983])、イントロン内(バネルジら,Cell,33:729[1983])、並びに、コード配列自体の中(オスボーンら,Mol.Cell.Bio.,4:1293[1984])に認められている。現在では哺乳類遺伝子(グロビン、エラスターゼ、アルブミン、α−フェトプロテインおよびインスリン)から多くのエンハンサー配列が知られている。しかし典型的には、真核細胞ウイルスから得られるエンハンサーを使用するであろう。その例には、複製起点の後期側(100〜270bp)のSV40エンハンサー、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後期側のポリオーマエンハンサーおよびアデノウイルスエンハンサーが含まれる。真核プロモーターの活性化のための増進要素についてはヤニブ,Nature,297:17−18(1982)をも参照のこと。PF4AR DNAに対して5’側または3’側の位置でベクターにエンハンサーを接合することができるが、プロモーターの5’側に位置させることが好ましい。
【0095】
(vi)転写終止成分
真核宿主細胞(酵母、カビ、昆虫、植物、動物、ヒトまたは他の多細胞生物から得られる有核細胞)中で使用される発現ベクターは転写の停止とその安定性にとって必要な配列をも含有するであろう。そのような配列は一般に真核またはウイルスDNAもしくはcDNAの5’非翻訳領域と、時には3’非翻訳領域から入手することができる。これらの領域は、PF4ARをコード化するmRNAの非翻訳部分にポリアデニル化された断片として転写されるヌクレオチドセグメントを含有する。3’非翻訳領域は転写終止部位をも含む。
【0096】
1またはそれ以上の上記成分と所望のコードおよび制御配列を含有する好適なベクターは、標準的な連結技術によって構築される。単離されたプラスミドまたはDNA断片を切断し、加工し、所望の形態で再連結して必要なプラスミドを作成する。
【0097】
構築したプラスミド中の正しい配列を確認するための分析については、連結混合物を用いて大腸菌K12株294(ATCC31446)を形質転換し、成功した形質転換体を、それが適当な場合には、アンピシリンまたはテトラサイクリン耐性によって選択する。形質転換体からプラスミドを調製し、制限エンドヌクレアーゼ消化によって分析し、かつ/または、メッシングら,Nucleic Acids Res.,9:309(1981)の方法またはマキサムら,Methods in Enzymology,65:499(1980)の方法によって配列決定する。
【0098】
本発明の実施において特に有用なものは、PF4ARをコード化するDNAの哺乳類細胞における一時的発現を供給する発現ベクターである。一般に一時的発現は、宿主細胞が発現ベクターの多くのコピーを蓄積し、次いでその発現ベクターによってコード化されている所望のポリペプチドを高レベルで合成するように、宿主細胞中で効率よく複製することができる発現ベクターの使用を必要とする。適当な発現ベクターと宿主細胞からなる一時的発現系はクローン化したDNAによってコード化されるポリペプチドの便利な陽性同定を可能にすると共に、そのようなポリペプチドを所望の生物学的または生理学的特性について迅速にスクリーニングすることを可能にする。したがって一時的発現系はPF4AR様活性を有するPF4ARの類縁体および変種を同定する目的にとって本発明において特に有用である。
【0099】
組換え脊椎動物細胞培養におけるPF4ARの合成に適合させるのに適した他の方法、ベクターおよび宿主細胞はゲシングら,Nature,293:620−625[1981];マンテイら,Nature,281:40−46[1979];レビンソンら,EP117060およびEP117058に記述されている。PF4ARの哺乳類細胞培養発現にとって特に有用なプラスミドはpRK5(EP公開番号307247)である。
【0100】
D.宿主細胞の選択と形質転換
本発明においてベクターをクローン化または発現させるのに適した宿主細胞は上述の原核生物、酵母または高等真核細胞である。好適な原核生物にはグラム陰性生物やグラム陽性生物などの真正細菌(例えば大腸菌、枯草菌などのバチルス、緑膿菌などのシュードモナス、ネズミチフス菌またはセラチア・マルセサンス)が含まれる。大腸菌B、大腸菌x1776(ATCC31537)および大腸菌W3110(ATCC27325)などの他の株も好適ではあるが、好ましい大腸菌クローニング宿主の一つは大腸菌249(ATCC31446)である。これらの例は限定的なものではなく単なる例示である。好ましくは宿主細胞が最小量のタンパク質加水分解酵素を分泌すべきである。別法として、インビトロ・クローニング法(例:PCRまたは他の核酸ポリメラーゼ反応)も好適である。
【0101】
原核生物に加えて、糸状菌や酵母などの真核微生物もPF4AR DNAを含有するベクターにとって好適な宿主である。サッカロミセス・セレビシェや一般的なパン酵母は下等真核宿主微生物のなかでは最も一般的に使用されるものである。しかし、他の属、種および株のいくつかも一般的に利用可能で、本発明において有用であり、例えばエス・ポムベ(S.pombe)[ビーチおよびナース,Nature,2901140(1981)]、クルイベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)[ルーべンコートら,J.BacterioL,737(1983)]、ヤロウィア(yarrowia)[EP402226]、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)[EP183070]、トリコデルマ・レーシア(Trichoderma reesia)[EP244234]、ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)[ケースら,Proc.Nat1.Acad.Sci.USA,76:5259−5263(1979)]、およびエイ・ニドユランス(A.nidulans)[バランスら,Biochem.Biophys.Res.Commun.,112:284−289(1983);チルバーンら,Gene,26:205−221(1983);ヤルトンら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:1470−1474(1984)]やエイ・ニガー[ケリーおよびハイネス,EMBOJ.,4:475−479(1985)]などのアスペルギラス宿主などである。
【0102】
グリコシル化されたPF4ARポリペプチドの発現に適した宿主細胞は多細胞生物から誘導される。そのような宿主細胞は複雑なプロセシングを行う能力とグリコシル化活性を有する。脊椎動物培養に由来するか非脊椎動物培養に由来するかにかかわりなく、原則としてどのような高等真核細胞培養でも役に立つ。非脊椎動物細胞の例には植物および昆虫細胞が含まれる。例えばスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)(イモムシ)、アエデス・アエジプチ(Aedes aegypti)(蚊)、アエデス・アルボピクツス(Aedes albopictus)(蚊)、ドロソフィラ・メラノガステル(Drosophila melanogaster)(ミバエ)およびボムビクス・モリ(Bombyx mori)宿主細胞などの宿主から数多くのバクロウイルス株と変種および対応する許容昆虫細胞が同定されている。例えばルコウら,Bio/Techno1ogy,6:47−55(1988);ミラーら,「Genetic Engineering」(セトロウ,ジェイ・ケイら編,第8巻,プレナム・パブリッシング,1986)中の277〜279頁;マエダら,Nature,315:592−594(1985)を参照のこと。そのような様々なウイルス株は公に利用可能であり(例:アウトグラファ・カリフォルニカNPV(Autographa californica NPV)のL1変種およびボムビクス・モリのBm−5株)、そのようなウイルスを本発明に従って本発明でのウイルスとして(とりわけスポドプテラ・フルギペルダ細胞のトランスフェクションに)使用することができる。綿、トウモロコシ、ジャガ芋、大豆、ツクバネアサガオ、トマトおよびタバコの植物細胞培養を宿主として使用することができる。典型的には、予めPF4AR DNAを含有するように操作しておいた細菌アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)のいくつかの株と共にインキュベートすることによって植物細胞をトランスフェクションする。植物細胞培養をエイ・ツメファシエンスと共にインキュベートする間にPF4ARをコード化するDNAが植物細胞宿主に移送されることによってそれがトランスフェクションされて、適当な条件下でPF4ARDNAを発現させるであろう。さらに植物細胞に適合する調節およびシグチル蓬列も利用することができ、それらは例えばノパリン・シンターゼ・プロモーターおよびポリァデニル化シグナル配列である。デピッカーら,J.Mol.Appl.Gen.,1:561(1982)。〔さらに、T−DNA780遺伝子の上流域から単離されたDNAセグメントは、組換えDNA含有植物組織における植物発現可能遺伝子の転写レベルを活性化または増大させることができる。1989年6月21日に公開されたEP321196を参照のこと。
【0103】
しかし、最も興味を集めてきたものは脊椎動物綿胞であり、脊椎動物細鞄の培養中での増殖(組織培養)は近年日常的な手法になっている[「Tissue Culture」(アカデミック・プレス,クルセおよびパターソン編(1973)]。有用な哺乳類宿主細胞系の例は、SV40で形質転換されたサル腎臓CV1系(COS−7,ATCC CRL1651)、ヒト胚腎臓系(293または懸濁培養中での成長のためにサブクローニングされた293細胞,グラハムら,J.Genvirol.,36:5911971])、幼若ハムスター腎臓細胞(BHK,ATCC CCL10)、チャイニーズ・ハムスター卵巣細胞/−DHFR(CHO,ウルラウブおよびチェシン,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77:4216[1980])、マウスセリトーリ細胞(TM4,マザー,Biol.Reprod.,23:243−251[1980])、サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL70)、アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO−76,ATCCCRL−1587)、ヒト頚部篶腫細胞(HELA,ATCC CCL2)、イヌ腎臓細胞(MDCK,ATCC CCL34)、バッファローラット肝臓細胞(BRL3A,ATCC CRL1442)、ヒト肺細胞(W138,ATCC CCL75)、ヒト肝臓細胞(HepG2,HB8065)、マウス乳房腫瘍(MMTO60562,ATCC CCL51)、TRI細胞(マザーら,Annals N.Y.Acad.Sci.,383:44−68[1982])、MRC5細胞、FS4細胞、およびヒト肝癌細胞系(HepG2)である。好ましい宿主細胞はヒト胚腎臓293細胞およびチヤイニーズ・ハムスター卵巣細胞である。
【0104】
宿主細胞を上述した本発明の発現ベクターまたはクローニングベクターでトランスフェクション(好ましくは形質転換)し、プロモーターを誘導するか、形質転換体を選択するか、もしくは所望の配列をコード化する遺伝子を増幅するのに適するように改変した従来の栄養培地中で培養する。
【0105】
トランスフェクションとは宿主細胞による発現ベクターの取り込みを意味し、何らかのコード配列が実際に発現されるかどうかにかかわらない。当業者は数多くのトランスフェクション法を知っており、例えばCaPO4およびエレクトロポレーションなどである。トランスフェクションの成功は一般にこのベクターの機能の何らかの指標が宿主細胞内で起こる時に認識される。
【0106】
形質転換とは、ある生物にDNAを導入することであって、そのDNAが染色体外要素として、あるいは染色体統合によって、複製可能であるような導入を意味する。形質転換は、使用する宿主細胞に応じて、その細胞に適した標準的な技術を用いて行われる。サムブルックら(上記)の1.82章に記述されているような塩化カルシウムを使用するカルシウム処理は、一般に原核生物や強固な細胞壁障壁を含有する他の細胞に用いられる。アグロバクテリウム・ツメファシエンスによる感染は、シャウら,Gene,23:315(1983)と1989年6月29日に公開されたWO89/05859に記述されているように、ある種の植物細胞の形質転換に用いられる。上述のような細胞壁を持たない哺乳類細胞については、サムブルックら(上記)の16.30〜16.37章に記述されているリン酸カルシウム沈殿法が好ましい。哺乳類細胞宿主系形質転換の一般的な側面はアレックスらが1983年8月16日に発効した米国4399216に記述している。酵母への形質転換は典型的にはファン・ゾーリンゲンら,J.Bact.,130:946(1977)とシャオら,Proc.Natl.Acad.Sci.(USA),76:3829(1979)の方法に従って行われる。しかし核注射、エレクトロポレーションあるいはプロトプラスト融合などの、細胞にDNAを導入する他の方法も使用することができる。
【0107】
E.宿主細胞の培養
本発明のPF4ARポリペプチドを生産するために使用する原核細胞を、サムブルックら(上記)に一般的に記述されているような適当な培地中で培養する。本発明のPF4ARを生産するために使用する哺乳類宿主細胞は様々な培地中で培養することができる。ハムF10(シグマ)、最小必須培地([MEM],シグマ)、RPMI−1640(シグマ)およびダルベッコ変法イーグル培地([DMEM],シグマ)などの市販の培地は上記宿主細胞の培養に適している。さらに、ハムおよびワラス,Meth.Enz.,58:44(1979)、バーンズおよびサトー,Anal.Biochem.,102:255(1980)、米国4767704、4657866、7927762または4560655、WO90/03430、WO87/00195または米国特許Re.30985に記述されている培地はいずれも上記宿主細胞のための培養培地として使用できる。これらの培地には必要に応じてホルモンおよび/または他の成長因子(インスリン、トランスフェリンまたは表皮成長因子など)、塩類(塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、リン酸塩など)、緩衝剤(HEPESなど)、ヌクレオシド(アデノシンやチミジンなど)、抗生物質(ジェンタマイシン(GentamycinTM)薬物など)、微量元素(通常はμM範囲の最終濃度で存在する無機化合物と定義される)およびグルコースや等価なエネルギー源を補足することができる。また他の必要な補足物はいずれも当業者が知っているであろう適当な(濃度で加えることができる。温度、pHなどの培養条件は、発現のために選択した宿主細胞について過去に用いられた条件であり、当業者には明白であろう。
【0108】
この開示で言う宿主細胞はインビトロ培養中の細胞と共に宿主動物内にある細胞をも包含する。
【0109】
本発明のPF4ARを相同的組換えによって生産し得ること、あるいは、PF4ARをコード化するDNAを既に含有している細胞中に導入される制御要素を利用する組換え生産法によって生産し得ることも、さらに予期されるところである。例えば強力なプロモーター/エンハンサー要素、サプレッサーまたは外因的転写変調要素を、所望のPF4ARをコード化するDNAの転写に影響を与えるに足る近さと配向で意図する宿主細胞のゲノム中に挿入する。制御要素は本発明のPF4ARをコード化しないが、宿主細胞のゲノム中に存在するDNAである。次いで、所望に応じて、本発明のPF4ARを生産する細胞、あるいは発現レベルの減少または増大に関してスクリーニングする。
【0110】
F.遺伝子増幅/発現の検出
試料中の遺伝子の増幅および/または発現は、例えば従来のサザンブロッティング、mRNAの転写を定量するためのノーザンブロッティング(トーマス,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77:5201−5205[1980])、ドットブロッティング(DNA分析)、あるいは原位置ハイブリッド形成などによって、本明細書に開示する配列に基づき、適切に標識されたプローブを用いることによって直接測定することができる。様々な標識を使用することができるが、最も一般的なものは放射性同位体、とりわけ32Pである。しかし、ポリヌクレオチド中へ導入するためにビオチン修飾核酸を使用することなど、他の技術を使用することもできる。次いでこのビオチンはアビジンまたは抗体に対する結合の部位として機能し、このアビジンや抗体は例えば放射性核種、蛍光剤、酵素などの様々な標識で標識することができる。別法として、DNA二本鎖、RNA二本鎖およびDNA−RNAハイブリッドニ本鎖またはDNA−タンパク質二本鎖を含む特定の二本鎖を認識することができる抗体を使用してもよい。次いでこの抗体を標識することができ、上記二本鎖が表面に結合して、表面上での二本鎖の形成時にその二本鎖に結合している抗体の存在が検出できるような検定法を行うことができる。
【0111】
別法として、遺伝子産物の発現を直接定量するために、免疫学的方法、例えば組織切片の免疫組織化学的染色や細胞培養または体液の検定などによって、遺伝子発現を測定することもできる。免疫組織化学染色技術の場合、典型的には脱水と固定によって細胞試料を調製し、次いで結合した遺伝子産物に特異的な、標識された抗体と反応させる。ここで用いる標識は通常、例えば酵素標識、蛍光標識、発光標識など、視覚的に検出可能なものである。本発明での使用に適した特に感度の高い染色技術はシュら,Am.J.Clin.Path.,75:734−738(1980)に記述されている。免疫組織化学的染色および/または試料液の検定に有用な抗体はモノクローン性であってもポリクローン性であってもよく、どのような哺乳動物中でも調製することができる。好都合なことに、天然の戸F4ARポリペプチドに対して、あるいは下記第4章にさらに記述するように本明細書に記載のDNA配列に基づく合成ペプチドに対して抗体を調製することができる。
【0112】
G.PF4ARポリペプチドの調製
PF4ARは界面活性剤中で細胞膜を可溶化することによって細胞培養から回収される。
ヒトPF4ARがヒト起源の細胞以外の組換え細胞中で発現される場合、そのPF4ARはヒト起源のタンパク質またはポリペプチドを全く含有しない。しかし、PF4ARに関して実質上均一な調製物を得るためには、組換え細胞タンパク質またはポリペプチドからPF4ARを精製する必要がある。第1段階として、細胞を遠心分離することによってそれらを培養培地から分離する。次に膜画分と,可溶性タンパク質画分を分離する。次に、界面活性剤による可溶化と、それに続く適当な精製法(免疫アフィニティーカラムまたはイオン交換カラムにおける分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカまたはカチオン交換樹脂(DEAEなど)でのクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、SDS−PAGE、硫酸アンモニウム沈殿、例えばセファデックスG−75を用いるゲル濾過、基板上に固定された適当なPF4Aを用いる配位子アフィニティーおよび疎水性アフィニティー樹脂)によって培養溶解液の膜画分からPF4ARを精製することができる。
【0113】
残基が欠失、挿入または置換されているPF4AR変種は、その変化が引き起こす特性の本質的な変化を考慮に入れて、天然のPF4ARと同じ方法で回収される。例えば別のタンパク質またはポリペプチド(例:細菌またはウイルス抗原)とPF4ARの融合物を調製すれば精製が容易になる。その融合物を吸着させるためにその抗原に対する抗体を含有する免疫アフィニティーカラムを使用することができる。ウサギポリクローナル抗PF4ARカラムなどの免疫アフィニティーカラムを利用して、少なくとも1つの残存する免疫エピトープにそれを結合させることによってPF4AR変種を吸収することができる。精製中のタンパク質加水分解による分解を阻害するためにはフェニルメチルスルホニルフルオライド(PMSF)などのプロテアーゼ阻害因子も有用であり、付随的な混入物の発達を防止するために抗体を含めてもよい。組換え細胞培養における発現時のPF4ARまたはその変種の特性の変化を説明するために、天然のPF4ARに適した精製法を改変する必要があり得ることは当業者には理解されるであろう。
【0114】
H.PF4ARポリペプチドの共有結合的修飾
PF4ARポリペプチドの共有結合修飾は本発明の範囲に包含される。天然のPF4ARとPF4ARのアミノ酸配列変種の両方を共有結合的に修飾することができる。PF4AR、その断片またはそれに対する抗体の共有結合的修飾は、PF4AR、その断片またはPF4AR抗体の標的アミノ酸残基を、選択した側鎖もしくはN−末端またはC−末端残基と反応することができる有機誘導体化試薬と反応させることによって、その分子中に導入される。最も一般的には、PF4ARまたはその抗体を診断で使用する検出可能な基(例:酵素、放射性同位体、抗原、蛍光または化学発光基など)に共有結合させる。
【0115】
システイニル残基を、最も一般的にはα−ハロアセテート(および対応するアミン)、例えばクロロ酢酸やクロロナセタミドと反応させることによって、カルキシメチルまたはカルボキシアミドメチル誘導体を得る。システイニル残基はブロモトリフルオロアセトン、α−ブロモ−β−(5−イミドゾイル)プロピオン酸、クロロアセチルホスフェート、N−アルキルマレイミド、3−ニトロ−2−ピリジルジスルフィド、メチル2−ピリジルジスルフィド、P−クロロメルクリベンゾエート、2−クロロメルクリ−4−ニトロフェノールまたはクロロ−7−ニトロベンゾ−2−オキサ−1,3−ジアゾールとの反応によっても誘導体化される。
【0116】
ヒスチジル残基はpH5.5〜7.0でのジエチルピロカーボネートとの反応によって誘導体化される。なぜならこの試薬はヒスチジル側鎖に比較的特異的だからである。パラ−ブロモフェナシルブロミドも有用であり、その反応は好ましくは0.1Mカコジル酸ナトリウム(pH6.0)中で行われる。
【0117】
リジニルおよびアミノ末端残基はコハク酸無水物または他のカルボン酸無水物と反応させる。これらの試薬による誘導体化はリジニル残基の電荷の反転という効果を持っていう。α−アミノ含有残基を誘導体化するのに適した他の試薬には、メチルピコリンイミデートなどのイミドエステル、ピリドキサルホスフェエート、ピリドキサール、クロロボロヒドリド、トリニトロベンゼンスルホン酸、O−メチルイソ尿素、2,4−ペンタンジオン、およびトランスアミナーゼが触媒するグリオキシレートとの反応が含まれる。
【0118】
アルギニル残基は1または数種類の従来の試薬との反応によって修飾され、それらの試薬にはフェニルグリオキサール、2,3−ブタンジオン、1,2−シクロヘキサンジオンおよびニンヒドリンなどがある。アルギニン残基を誘導体化する際には、そのグアニジン官能基の高いpK、ゆえに、その反応をアリカリ性条件下で行う必要がある。さらにこれらの試薬はアルギニンのイプシロン−アミノ基と同様にリジンの基とも反応し得る。
【0119】
チロシン残基の特異的修飾は、芳香族ジアゾニウム化合物またはテトラニトロメタンとの反応によってチロシン残基中に分光標識を導入するという特別な目的をもって行うことができる。最も一般的にはN−アセチルイミジゾールとテトラニトロメタンを用いて、それぞれO−アセチルチロシル種と3−ニトロ誘導体を形成させる。チロシル残基は、放射線免疫検定法用に標識されたタンパク質を調製するために1261または1311を用いてヨウ素化され、上述のクロラミンT法が好適である。
【0120】
カルボキシル側鎖基(アスパルチルまたはグルタミル)はカルボジイミド(R−N=C=N−R’;ここにRとR’は異なるアルキル基を表す)、例えば1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリニル−4−エチル)カルボジイミドまたは1−エチル−3−(4−アゾニア−4,4−ジメチルペンチル)カルボジイミドなどとの反応によって選択的に修飾される。さらに、アスパルチルおよびグルタミル残基はアンモニウムイオンとの反応によってアスパラギニルおよびグルタミニル残基に変換される。
【0121】
二官能性試薬による誘導体化は、抗PF4AR抗体を精製する方法またはその逆の方法で使用するために、PF4AR、その断片または抗体を水不溶性り支持基盤または表面に架橋するのに有用である。固定化されたPF4ARは、その受容体が結合するPF4スーパーファミリーの構成要素をスクリーニングする際にも有用である。一般的に使用される架橋剤には例えば1,1−ビス(ジアゾアセチル)−2−フェニルエタン、グルタルアルデヒド、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(例えば4−アジドサリチル酸とのエステル)、3,3−ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)などのジスグシンイミジルエステルを含むホモ二官能性イミドエステル、およびビス−N−マレイミド−1,8−オクタンなどの二官能性マレイミドが含まれる。メチル−3−[(P−アジドフェニル)ジチオ]プロピオイミデートなどの誘導体化試薬は、光の存在下で架橋を形成することができる光活性化中間体を与える。別法として、臭化シアン活性化炭水化物や米国3969287、3691016、4195128、4247642、4229537および4330440に記述されている反応性基責が、タンパク質の固定化に使用される。
【0122】
グルタミニル残基とアスパラギニル残基はしばしばそれぞれ対応するグルタミル残基とアスパルチル残基に脱アミド化される。あるいはこれらの残基を穏やかな酸性条件下で脱アミド化する。これらの残基のいずれの形態も本発明の範囲に包含される。
【0123】
他の修飾には、プロリンおよびリジンのヒドロキシル化、セリルまたはスレオニル残基のヒドロキシルのリン酸化、リジン、アルギニンおよびヒスチジン側鎖のα−アミノ基のメチル化(ティ・イー・クレイトン「Protein:Sturcture and Molecular Propertie」(ダブリュ・エイチ・フリーマン・アンド・カンパニー,サンフランシスコ)の79〜86頁[1983])、N末端アミンのアセチル化およびC末端カルボキシル基のアミド化が含まれる。
【0124】
本発明の範囲に包含されるべータ−8ポリペプチドの共有結合的修飾のもう1つの種類はこのポリペプチドの天然のグリコシル化様式を改変することからなる。改変とは、天然の受容体中に認められる1またはそれ以上の炭水化物の削除、および/または、天然の受容体には存在しない1またはそれ以上のグリコシル化部位の付加を意味する。
【0125】
ポリペプチドのグリコシル化は典型的にはN−結合型またはO−結合型のいずれかである。N−結合型とはアスパラギン残基の側鎖に対する炭水化物部分の結合を意味する。トリペプチド配列アスパラギン−X−セリンおよびアスパラギン−X−スレオニン(ここにXはプロリン以外のあらゆるアミノ酸を表す)はアスパラギン側鎖に対する炭水化物部分の酵素的結合にとっての認識配列である。したがって、(ポリペプチド中のこれらトリペプチド配列のいずれかの存在は潜在的なグリコシル化部位を作り出す。O−結合型グリコシル化とは、ヒドロキシアミノ酸(5−ヒドロキシプロリンや5−ヒドロキシリジンも使用できるが、最も一般的にはセリンまたはスレオニン)に対する、糖類N−アセチルガラクトサミン、ガラクトースまたはキシロースのひとつの結合を意味する。上述のようにOL−8受容体は6つの推定N−結合型グリコシル化部位を含有している。
【0126】
PF4ARポリペプチドに対するグリコシル化部位の付加は、上述のトリペプチド配列の1またはそれ以上を含有するようにアミノ酸配列を改変することによって都合よく達成される(N−結合型グリコシル化部位について)。天然のPF4AR配列に1またはそれ以上のセリンまたはスレオニン残基を付加するか、それらの残基で置換することによっても、この改変を施すことができる(O−結合型グリコシル化部位について)。容易のために、PF4ARのアミノ酸配列をDNAレベルでの変化によって、とりわけPF4ARポリペプチドをコード化するDNAを予め選択した塩基で突然変異させて所望のアミノ酸に翻訳されるであろうコドンを作成することによって、改変することが好ましい。「PF4ARポリペプチドのアミノ酸配列変種」と題した項で上述した方法を用いてDNA突然変異(単数または複数)を作成することができる。
【0127】
PF4AR上の炭水化物部分の数を増大させるもう1つの手段は、このポリペプチドに対して化学的または酵素的にグリコシドを結合させることによる。これらの手法は、N−およびO−結合型グリコシル化に関するグリコシル化能を有する宿主細胞中で該ポリペプチドを生産する必要がないという点で有利である。使用する結合様式に応じて、糖(単数または複数)を(a)アルギニンおよびヒスチジン、(b)遊離のカルボキシル基、(c)システインのスルフヒドリル基などの遊離のスルフヒドリル基、(d)セリン、スレオニンまたはヒドロキシプロリンのヒドロキシル基などの遊離のヒドロキシル基、(e)フェニルアラニン、チロシンまたはトリプトファンの芳香族残基などの芳香族残基あるいは(f)グルタミンのアミド基に結合させることができる。これらの方法は1987年9月11日に公開された(WO87/05330とアプリンおよびリストン,CRC Crit.Rev.Biochem.,259−306頁[1981]に記述されている。
【0128】
天然のPF4ARポリペプチド上に存在する炭水化物部分の除去は化学的もしくは酵素的に達成され得る。化学的脱グリコシル化の場合、化合物トリフルオロメタンスルホン酸や等価な化合物に該ポリペプチドをさらす必要がある。この処理は結合糖(N−アセチルグルコサミンまたはN−アセチルガラクトサミン)以外のほとんどの糖もしくはすべての糖の切断をもたらすが、ポリペプチドは無傷のままである。化学的脱グリコシル化はハキマッディンら(Arch.Biochem.Biophys.,259:52[1987])およびエッジら(Ana1.Biochem.,118:131[1981])に記述されている。ポリペプチド上の炭水化物部分の酵素的切断は、トタクラら(Meth.Enzymo1.,138:350[1987])が記述しているように様々なエンドグリコシダーゼとエキソグリコシダーゼを使用することによって達成することができる。
【0129】
ダスキンら(J.Biol.Chem.,257:3105[1982])が記述している化合物ツニカマイシン(tunicamycin)の使用によって、潜在的グリコシル化部位でのグリコシル化を防止することができる。ツニカマイシンはタンパク質−N−グリコシド結合の形成を遮断する。
【0130】
例えばコアセルベーション技術や界面重合(それぞれ例えばヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチンマイクロカプセルおよびポリ(メチルメタクリレート)マイクロカプセル)によって調製したマイクロカプセル中、コロイド薬物送達系(例えばリポソーム、アルブミン微小球、マイクロエマルジョン、ナノ粒子およびナノカプセル)中、あるいはマクロエマルジョン中にPF4ARを封入することもできる。そのような技術は「Remington’s Phamaceutical Science」(第16版,オソル,エイ編1980)に開示されている。
【0131】
またPF4AR調製物は、抗体を生成させる際に、あるいはPF4ARに関する検定における標品として(例1放射線免疫検定法、酵素結合免疫検定法または放射線受容体検定法において標品として使用するためにPF4ARを標識することによって)、アフィニティー精製技術において、並びに、放射性ヨウ素、酵素、(発蛍光団、スピンラベルなどで標識されている場合には競争型受容体結合検定法において、有用である。
【0132】
変種PF4ARの特性を前以て予測することはしばしば困難であるので、最適な変種を選択するためには回収した変種の何らかのスクリーニングが必要になるであろうことは理解されるであろう。例えば、ある与えられた抗体に対する親和性などのPF4AR分子の免疫学的特性の変化は、競争型免疫検定法によって測定される。同じ検定法で天然のPF4ARについて観測される活性との比較によって、その活性の抑制や増進の変化を検定する。タンパク質またはポリペプチド特性(例えば酸化還元安定性や熱安定性、疎水性、タンパク質加水分解的分解に対する感受性あるいは担体との会合傾向もしくは多量体への会合傾向など)の他の潜在的改変は当該技術分野でよく知られている方法によって検定される。
【0133】
3.PF4ARの医薬的組成物とその投与
PF4AR(PF4AR結合断片を含む)またはそれに対する抗体の医薬製剤は、所望の純度を有するPF4ARを随意の生理学的に許容される担体、賦形剤または安定化剤(Remington’s Pharmaceutical Science(上記))と混合することによって、凍結乾燥ケーキか水性溶液の形態で保存のために調製される。許容される担体、賦形剤または安定化剤は使用される投与量および濃度で受容者に対して非毒性であり、リン酸塩、クエン酸塩および他の有機酸などの緩衝剤、アスコルビン酸を含む抗酸化剤、低分子量(約10残基未満)のポリペプチド、血清アルプミン、ゼラチンまたは免疫グロブリンなどのタンパク質、ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジンなどのアミノ酸、グルコース、マンノースまたはデキストリンを含む単糖類、二糖類および他の炭水化物、EDTAなどのキレート剤、マンニトールやソルビトールなどの糖アルコール、ナトリウムなどの塩形成対イオンおよび/またはツゥイーン、プルロニクスまたはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤が含まれる。
【0134】
インビボ投与に使用されるべきPF4ARまたは抗体は滅菌状態でなければならない。これは凍結乾燥および再構成の前もしくは後に滅菌濾過膜を通して港過することによって容易に達成される。PF4ARは通常は凍結乾燥された形態か溶液状で保存されるであろう。
【0135】
医薬的なPF4ARまたは抗体組成物は一般に滅菌注入口を有する容器、例えば静脈内バックや皮下注射針によって突き刺すことができる蓋をもつバイアルなどの中に入れられる。
【0136】
PF4ARまたは抗体を投与する経路は、例えば静脈内、腹腔内、大脳内、筋肉内、眼球内、動脈内または外傷内経路による注射または注入、あるいは後述する徐放系によるなど、既知の方法に従って行われる。
【0137】
徐放性調製物の好適な例には、成型品の形態(例:フィルムまたはマイクロカプセル)にある半透過性ポリマー基盤が含まれる。徐放性基盤にはポリエステル、ヒドロゲル、ポリラクチド(米国3773919、EP58481)、L−グルタミン酸とL−グルタミン酸ガンマエチルの共重合体(シドマンら,Biopolymers,22:547−556[1983])、ポリ(2−ヒドロキシエチルーメタクリレート)(ランガーら,J.Biomed.Mater.Res.,15:167−277[1981]およびランガー,Chem.Tech.,12198−105[1982])、エチレンビニルアセテート(ランガーら(上記))またはポリ−D−(−)−3−ヒドロキシラク酸(EP133988)が含まれる。徐放性PF4ARまたは抗体纏成物にはリポソームに封入したPF4ARまたは抗体も含まれる。PF4ARまたは抗体を含有するリポソームはそれ自体は既知の方法によって調製される:DE3218121、エプスタインら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,8213688−3692(1985);ワングら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77:4030−4034(1980);EP52322、EP36676、EP88046、EP143949、EP142641、日本国特許出願83−118008、米国4485045および4544545、EP102324。通常リポソームは小さい(約200〜800オングストローム)単層型であり、その脂質含量は約30モル%コレステロール以上であるが、選択される比率は最適なPF4ARまたは抗体療法のために調節される。
【0138】
治療的に使用すべきPF4ARまたは抗体の有効量は、例えば治療する対象、投与経路および患者の状態などに依存するであろう。したがって治療者は投与量を滴定し、必要に応じて投与経路を変更することによって最適な治療効果を得る必要があるであろう。典型的には、臨床医は投与量が所望の効果を達成する量に至るまでPF4ARまたは抗体を投与するであろう。この療法の進行は従来の検定法によって容易に監視できる。
【0139】
4.PF4AR抗体の調製
一般にPF4ARとアジュバントの複数回の皮下(sc)または腹腔内(ip)注射によって、PF4ARに対するポリクローナル抗体を動物中に生じさせる。PF4ARで形質転換した組換え細胞(例:huPF4ARによって形質転換されたマウスまたはCHO細胞)による免疫化は満足できる結果を与え得る。あるしいはPF4ARを分離し、または標的アミノ酸配列を含有する断片を、二官能性試薬または誘導体化試薬(例えばマレイミドベンゾイルスルホスクシンイミドエステル(システイン残基による結合)、N−ヒドロキシスクシンイミド(リジン残基による)、グルタルアルデヒド、コハク酸無水物、SOClまたはRN=C=NR(ここにRおよびRは異なるアルキル基を表す))を用いて、免疫化する種の中で免疫原性であるタンパク質(例:キーホール・リムペット・ヘモシアニン、血清アルブミン、牛チログロブリンまたは大豆トリプシン阻害因子)に結合させることも有用である。
【0140】
通常は、1mgまたは1μgのPF4ARをフロイント完全アジュバントと混合し、その溶液を複数部位の皮内に注射することによって、動物を細胞または免疫原性複合体または誘導体に対して免疫化する。1カ月後に、元の量の1/5〜1/10のフロイント完全アジュバント中の複合体を用いて複数部位に皮下注射することによって動物を追加免疫する。7〜14日後に動物から採血し、その血清を抗PF4AR力価について検定する。力価が平坦になるまで動物を追加免疫する。好ましくは同じPF4ARの複合体で追加免疫するが、異なるタンパク質に結合させてもよく、かつ/または、異なる架橋剤によって結合させてもよい。組換え細胞培養中でタンパク質融合物として複合体を作成することもできる。また、免疫応答を増進させるためには明礬などの凝集剤を用いる。
【0141】
もう一つの選択肢は結合可変ドメインライブラリーと所望の抗PF4AR抗体を同定するためのスクリーニング法を使用することである。
【0142】
免疫化した動物から脾臓細胞を回収し、従来の方法で(例えば骨髄腫細胞との融合によって、あるいはエプスタインーバー(EB)ウイルス形質転換によって)その細胞を不死化し、所望の抗体を発現させるクローンをスクリーニングすることによってモノクローナル抗体を調製する。
【0143】
このモノクローナル抗体は好ましくは各標的PF4ARポリペプチドに特異的であって、ウサギfMLP受容体5、ヒトfMLP受容体、ヒトC5a受容体、低親和性IL−8受容体またはPF4ARファミリーの他の構成要素とは交差反応しないであろう。図2、4または5の受容体に特異的な抗体が好ましい。作用薬性、拮抗薬性であるか、あるいは受容体を結合または活性化する際のPF4スーパーファミリー構成要素の活性に対して効果を持たない抗体を選択する。
【0144】
マーフィーら(上記)は図2の受容体に対して高度な相同性を有する受容体を記述している。マーフィーらは組換え卵母細胞中で彼らの受容体を、IL−8の「低親和性」受容体であって、MGSAを結合する能力をほとんど持たないと特徴づけており、したがってIL−8およびMGSAのインビボでの生物学的活性に関してわずかな役割しか果たしていないことを示唆している。しかしながら出願人らの研究は、マーフィーらの受容体が図2の受容体と同等かそれ以上のIL−8親和性を示し、MGSAに対しても同様に高い親和性(約1〜10nM)を示すことを明らかにした。したがって、リンパ様細胞のIL−8および/またはMGSA応答の拮抗性は両受容体が共に阻害または遮断されることを必要とすると思われる。例えば、マーフィーらの受容体と共通する図2の受容体のエピトープに結合するIL−8拮抗性抗体を選択すべきである。これは慣用のスクリーニング法によって容易に達成されるであろう。例えば、図2の受容体を保持する細胞への結合に関して標識したIL−8に対して競争するというそれらの能力について候補抗体を検定し、次いで、同じ研究をマーフィーらの受容体を保持する細胞を用いて実行することができる。次に、両細胞に対する結合またはIL−8活性化を阻害する抗体を医薬候補として選択する。他方、図2の受容体とマーフィーらの受容体を識別することができ、どちらか一方のみに結合する抗体は診断の際に有用である。マーフィーらの受容体とは対照的に、図2の受容体はMGSAをわずかにしか結合しない。
【0145】
5.PF4AR、その核酸および抗体の使用
PF4ARをコード化する核酸を、組織特異的分類のための診断剤として使用することができる。例えば原位置ハイブリッド形成やノーザンブロッティングおよびサザンブロッティング並びにPCR分析などの手法を用いることによって、評価される細胞型(単数または複数)中にPF4ARをコード化するDNAおよび/またはRNAが存在するか否かを決定することができる。これらの受容体は典型的にはPBLまたは単球細胞の診断剤である。
【0146】
単離されたPF4ARポリペプチドを定量的な診断的検定法での標品または対照として使用することができ、これに対して未知量のPF4ARを含有する、例えばPBLまたは単球細胞から得た試料を比較することができる。IL−8受容体を発現させる組換え細胞は、例えばIL−8検定法において好中球が用いられるのと同じ方法でPF4AR配位子に関する検定法で使用することができる。PF4ARに対する抗体を生産する際の免疫原として、あるいは腹水または組換え細胞培養からそのような抗体を精製するために、あるいはスーパーファミリー配位子(例:IL−8)の競争的拮抗薬として使用するために、PF4ARポリペプチド、断片または細胞(そのままであるか、もしくは誘導体化したもの)を使用することができる。
【0147】
PF4ARはPF4スーパーファミリー構成要素のアミノ酸配列変種または他の変種についてスクリーニングする際に有用である。例えば候補IL−8アミノ酸配列変種の一群を部位特異的突然変異誘発法によって調製する。IL−8変種の拮抗薬性または作用薬性を同定するために、これらを、図2のIL−8受容体を保持する細胞について標識した天然のIL−8と競争させてインキュベートする。結合または細胞の活性化は好適な検定終点である。別法として、受容体を細胞非含型で回収し、IL−8および候補変種の結合を検定する。
【0148】
PF4AR抗体は特定の細胞または組織におけるPF4AR発現に関する診断的検定法で有用である。ここにおいて該抗体は上述のPF4ARと同じ方法で標識され、かつ/または、不溶性基盤に固定化される。PF4AR抗体は、組換え細胞培養もしくは天然の供給源からPF4ARをアフィニティー精製する際にも有用である。他のPF4ARと検出可能なほどには交差反応しないPF4AR抗体を用いて、他の相同的受容体を含有しない各PF4ARを精製することができる。PF4拮抗薬であるPF4AR抗体は他のPF4スーパーファミリーが媒介する障害の治療において、あるいは抗炎症剤として有用である。
【0149】
PF4ARとその抗体に関する好適な診断的検定法それ自体はよく知られている。そのような検定法には競争的検定法、サンドイッチ検定法および立体的阻害検定法が含まれる。競争的検定法とサンドイッチ検定法ではその方法の必須部分として相分離段階を使用するが、立体的阻害検定法は単一の反応混合物で行われる。検定される物質の分子量に応じてある種の方法が好まれるであろうが、基本的にはPF4ARの検定とPF4ARを結合する物質には同じ手法が用いられる。したがって本明細書では、それが抗原であるか抗体であるかにかかわらず試験される物質を分析物と呼び、それらが抗体であるか、細胞表面受容体であるか、あるいは抗原であるかにかかわらず、その分析物に結合するタンパク質を結合相手と呼ぶ。
【0150】
PF4ARまたはその抗体に関する分析法はすべて、下記の試薬のうちの1または複数を使用する:標識された分析物類縁体、固定化された分析物類縁体、標識された結合相手、固定化された結合相手および立体的複合体。標識された試薬は「トレーサー」としても知られている。
【0151】
使用される標識(これはプローブとして使用するためにPF4AR核酸を標識する際にも有用である)は、分析物とその結合相手の結合を妨害しないものであれば、どのような検出可能な官能基であってもよい。数多くの標識が免疫検定法での使用について知られており、その例には直接検出することができる部分(蛍光発色団、化学発光標識および放射能標識)と、検出するためには反応または誘導体化しなければならない部分(酵素など)が含まれる。そのような標識の例には、放射性同位体32P、14C、125I、Hおよび131I、発蛍光団(希土酸化物キレート、フルオレセインおよびその誘導体、ローダミンおよびその誘導体、ダンシルなど)、アンベリフェロン、ルシフェラーゼ(例:ホタルルシフェラーゼおよび細菌ルシフェラーゼ(米国特許第4737456号))、ルシフェリン、2,3−ジヒドロフタルアジンジオン、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリ性ホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、色素前駆体を酸化するために過酸化水素を使用する酵素(HRP、ラクトペルオキシダーゼまたはミクロペルオキシダーゼなど)と共役させた複素環オキシダーゼ(ウリカーゼやキサンチンオキシダーゼなど)、糖類オキシダーゼ(例:グルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼおよびグルコース−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ)、ビオチン/アビジン、スピンラベル、バクテリオファージラベル、安定な遊離基などが含まれる。
【0152】
これらの標識をタンパク質またはポリペプチドに共有結合させるためには従来利用することができる。例えばジアルデヒド、カルボジイミド、ジマレイミド、ビスイミデート、ビスジアゾ化ベンジジンなどの結合試薬を用いて上述の蛍光、化学発光および酵素標識で抗体を標識することができる。例えば米国特許第3940475号(蛍光測定)および第3645090号(酵素)、ハンターら,Nature,144:945(1962)、デイビッドら,Biochemistry,13:1014−1021(1974)、ペインら,J. Immunol. Methods,40:219−230(1981)、ナイグレン,J. Histochem. and Cytochem.,30:407−412(1982)を参照のこと。本発明において好ましい標識は西洋ワサビペルオキシダーゼやアルカリ性ホスファターゼなどの酵素である。
【0153】
酵素を含む上記の標識を抗体に結合させることは免疫検定技術の当業者には標準的な操作法である。例えばオサリバンら「酵素免疫検定法で使用する酵素−抗体複合体の調製法(原題:Methods for the Preparation of Enzyme−antibody Conjugates for Use in Enzyme Immunoassay)」(Methods in Enzymology,ジェイ・ジェイ・ランゴンおよびエイチ・ファン・フナキス編,第73巻(アカデミック・プレス,ニューヨーク,1981)の147〜166頁を参照のこと。このような結合法は、すべてタンパク質性であるPF4ARまたはその抗体での使用に適している。
【0154】
ある種の検定法では試薬の固定化が必要である。固定化には、溶液中に遊離して残っている分析物から結合相手を分離することが伴う。これは従来から、検定の前に結合相手か分析物類縁体のいずれかを不溶化することによって、水不溶性の基盤または表面への吸着によって(ベニッヒら,米国3720760)、(例えばグルタルアルデヒド架橋を用いて)共有結合することによって、もしくは相手または類縁体を(免疫沈降などによって)後で不溶化することによって、達成される。
【0155】
競争的検定法またはサンドイッチ検定法として知られている他の検定法は充分に確立されており、商業的な診断薬産業において広く用いられている。競争的検定法は、共通する結合相手上の限られた数の結合部位について試験試料分析物と競争するというトレーサー類縁体の能力によっている。結合相手は一般に競争の前または後に不溶化され、次いで結合相手に結合したトレーサーおよび分析物を未結合のトレーサーおよび分析物から分離する。この分離はデカンテーションすることによって(結合相手が予め不溶化されている場合)あるいは遠心分離によって(結合相手が競争反応後に沈殿された場合)達成される。試験試料分析物の量は、標識物質の量によって測定される結合したトレーサーの量に逆比例する。既知量の分析物を用いて服量−応答曲線を調製し、試験結果と比較することによって試験試料中に存在する分析物の量を定量的に決定する。これらの検定法は酵素を検出可能な標識として使用する場合にはELISA系と呼ばれる。
【0156】
「均一」検定法と呼ばれるもう1つの種類の競争的検定法は相分離を必要としない。ここでは、抗分析物が分析物に結合したときに、抗分析物の存在が酵素活性を変化させるように酵素と分析物の複合体を調製し、使用する。この場合、PF4ARまたはその免疫学的に活性な断片を二官能性有機橋でペルオキシダーゼCなどの酵素に結合させる。抗PF4ARの結合が標識である酵素の活性を阻害もしくは強化するように、抗PF4ARと共に使用するための複合体を選択する。この方法自体はEMITという名称で広く実施されている。
【0157】
立体的複合体は均一検定のための立体的障害法において使用される。これらの複合体は、ハプテンに対する抗体が実質上抗分析物と同時には複合体に結合できないように低分子量のハプテンを小さい分析物に共有結合させることによって合成される。この検定法では試験試料中に存在する分析物が抗分析物を結合し、それによって抗ハプテンが複合体に結合することを可能にし、複合体ハプテンの特性の変化(例:ハプテンが発蛍光団である場合には蛍光の変化)をもたらすであろう。
【0158】
サンドイッチ検定法はPF4ARまたはPF4AR抗体の決定にとりわけ有用である。逐次的サンドイッチ検定法では固定化した結合相手を用いて試験試料分析物を吸着し、試験試料を洗浄などによって除去し、結合した分析勧を用いて標識した結合相手を吸着し、次いで結合した物質を余ったトレーサーから分離する。結合したトレーサーの量は試験試料分析物に直接比例する。「同時」サンドイッチ検定法では、標識した結合相手を添加する前に試験試料を分離しない。抗PF4ARモノクローナル抗体を1つの抗体として使用し、ポリクローナル抗PF4AR抗体をもう1つの抗体として使用する逐次的サンドイッチ検定法はPF4AR活性について試料を試験する際に有用である。
【0159】
上の記述はPF4ARと抗体に関する診断的検定法の具体例に過ぎない。これらの分析物を測定するためにここで開発された方法もしくは今後開発される方法は、上述の生物検定法を含めて本発明の範囲に包含される。
【0160】
図4および5に記載のポリペプチドはPF4スーパーファミリー(これはC−CおよびCXCサブファミリーを含む)の異なる構成要素であって、今までのところはまだ決定されていない構成要素のための受容体であると考えられる。図2のIL−8受容体と同様に、これらはG−タンパク質共役スーパーファミリーの構成要素であり、他の受容体よりもIL−8受容体に対してより高い類似性を保持している。予備実験では、これらの受容体を保持する組換え細胞はランテス(Rantes)、MCP1、IL−8またはMGSAに対して応答しなかったが、それらは最終的にはPF4スーパーファミリーの他の構成要素または現在知られていない配位子を結合することが示されるであろう。しかし、図4または5のポリペプチドがPF4スーパーファミリーの構成要素を結合するか否かにかかわらず、これらのポリペプチドはその受容体の組織分布を決定する際の診断的使用のために抗体を調製するのに有用であり、したがってそのような組織に関する組織化学的診断剤として、具体的にはPBLまたは単球細胞に関する診断剤として有用である。なぜならそのような細胞が図4および5の受容体を発現させることがわかっているからである。当然のことながら、これらの受容体に結合するPF4スーパーファミリーの構成要素が同定されたら、その同定された構成要素の存在を診断するためにこれらの受容体を使用するか、あるいは特異的なアフィニティー法によるそれら構成要素の精製にこれらの受容体を使用することができる。図4および5に記載のDNAは低い厳密条件を使用するとき、IL−8受容体をコード化するDNAまたはRNAの存在に関する診断にも有用である。
【0161】
以下の実施例は例示を目的とするものであって、限定を目的とするものではない。
【実施例1】
【0162】
クローンPRK5B.il8r1.1を得るために、1,000,000クローンのcDNAライブラリー(参考文献16)をヒト好中球mRNA(参考文献17)からベクターpRK5B中にbstXIリンカーを用いて構築した。cDNAは平滑型で作成された。ヘミキナーゼbstXIリンカーをcDNAに連結し、bstXIで消化してホスファターゼ処理してその長いベクター断片を単離しておいたPRK5Bベクター中に、上記リンカーを連結した。どのような哺乳類細胞発現ベクターでもよいことは理解されるであろうが、PRK5Bはサイトメガロウイルスプロモーターとそれに続く5’イントロン、bstXIクローニング部位およびSV40初期ポリアデしニル化シグナルを含有するPRK5(参考文献18)の誘導体である。それぞれ2500クローンの58プールを、3,750,000細胞へのDNA20μgのエレクトロポレーション(参考文献19)によって、COS−7細胞中にトランスフェクションした。10%牛胎児血清を含有する培地(50:50::ハムF12:DMEM)中150mmディッシュ上で2日間成長させた後、125I−IL−8結合を行った。大腸菌(参考文献20)中で作成された精製したヒトの72アミノ酸IL−8をラクトペルオキシダーゼ法(参考文献21)によって約1100Ci/mmo1に標識し、これは少なくとも85%結合可能であった。ディッシュをリン酸緩衝化食塩水で2回濯ぎ、2.5%牛胎児血清と約0.5nM 125I−IL−8を含有する成長培地を1ディッシュあたり8ml用いて結合を行った。37℃で2時間の後、プレートをリン酸緩衝化食塩水で3回濯ぎ、底部を切り抜き(参考文献22)、オートラジオグラフィーに付した。次に、2500cDNAクローンのそれぞれの陽性プールを800クローンのプールに分配し、これらのそれぞれをトランスフェクションし、検定した。次にそれぞれの陽性プールを185クローン、30クローンのプールを通してさらに分割し、最終的に単一のクローンを同定することによって純粋な単離物を得た。各プールの一部のみをトランスフェクションに使用したので、形質転換体からクローンを回収する必要はなかった。
【0163】
6穴ディッシュ中で1日の発現の後、エレクトロポレーションにかけたCOS−7細胞を用いて結合競争を行った(約17500細胞/ディッシュ)。結合培地(25nM Hepesで緩衝化し、0.5%BSAを補足したCa2+およびMg2+を含まないハンクス)中4℃で約2時間、放射性ヨウ素化した野生型のIL−8を用いて結合を行った。次にウェルを洗浄し、細胞をトリプシンを用いて収集し、計数した。ベクターpRK5BからのDNAでトランスフェクションした細胞を含有する平行したウェルで非特異的な結合を観測した。好中球結合は記述されているように行ったが(参考文献22)、ただし4℃で2時間とした。
【実施例2】
【0164】
ヒト細胞系HL60およびヒト末梢血液リンパ球から得られた現存するλgt10cDNAライブラリーをクローン化した高親和性ヒトIL−8受容体(図2)のコード領域からのプローブを用いて低い厳密性でスクリーニングした。このプローブはアミノ酸23〜314のコード領域を含有する該受容体の874bpのPstI/NcoI断片であった。20%ホルムアミド、4×SSC、50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7)、0.2g/l超音波処理サケ精子DNA、5×デンハルト、10%硫酸デキストラン中42℃でハイブリッド形成を行い、1×SSC、0.1%SDS、50℃で洗浄した。変化する強度のいくつかの複製スポット(約60)を拾いあげ、プラーク精製し、プラスミドベクター中にサブクローニングし、配列決定した。最も強い強度のスポットの選択から核酸配列決定を始めた。ある与えられたスポット(ファージ)について、IL−8受容体と構造上または配列上の相同性が存在するか否かを決定するに足る配列を得た。そのような相同性が存在する場合には、その遺伝子の残りの部分を得、必要な場合、その全体を配列決定した。次いで、ハイブリッド形成遺伝子を含有する他のスポットを同定してそれを捨てるべく、クローンIL−8受容体DNAハイブリッド形成クローンの親収集物をプローブした。この技術は配列決定の負担を減じる上で極めて効果的であった。例えば、1クローンは最初の60クローンのうちの約1/3によって表され、この結果のみに基づいて、それらのクローンを配列決定する際に必要な仕事を考慮すれば、陰性スクリーニングは減少することができた。
【0165】
このスクリーニングから、2つの新しい遺伝子配列がIL−8受容体と明らかに関連していることがわかった。新しい遺伝子の一つのコード領域は2つのクローン(8rr.20および8rr.15)に分割された。この遺伝子の組み合わせた配列(8rr.20.15)を図4に示す。第2の遺伝子に関する完全なコード領域はクローン8rr.9上に認められる(図5)。8rr.20.15の予想アミノ酸配列は高親和性および低親和性IL−8受容体配列の両方と34%同一である。8rr.9の配列は高親和性および低親和性IL−8受容体と、それぞれ36%および38%同一である。8rr.20.15と8rr.9のアミノ酸配列は31%同一である。低い厳密条件下でこのプローブの使用は、これらのライブラリー中に認められると予期されたfMLP受容体遺伝子に対して検出可能なハイブリッド形成をもたらさなかった。
【0166】
参考文献
参考文献1. オッペンハイム,ジェイ・ジェイら,Annu. Rev. Immunol., 9:617−648 (1991)
参考文献2. ギムブロン,エム・エイ・ジュニアら,Science,246:1601−3(1989)
参考文献3. ボウレイ,エフら,Biochem. Biophys. Res. Comm., 168:1103−1109 (1990)
参考文献4. ゲラード,エヌ・ピーおよびゲラード,シー,Nature, 349:614−617 (1991)
参考文献5. トーマス,ケイ・エム,ピウン,エイチ・ワイおよびナバッロ,ジェイ,J. Biol. Chem. 265:20061−20064 (1990)
参考文献6. シムス,ジェイ・イーら,Science, 241:585−589 (1988)
参考文献7. ドゥアンドリュー,エイ・ディ,ロディッシュ,エイチ・エフおよびウォング,ジー・ジー,Cell, 57:277−285 (1989)
参考文献8. サマンタ,エイ・ケイ,オッペンハイム,ジェイ・ジェイおよびマツシマ,ケイ,J. Exp. Med., 169:1185−1189 (1989)
参考文献9. ベセマー,ジェイ,ヒューバー,エイおよびクーン,ビー,J. Biol. Chem., 264:17409−17415 (1989)
参考文献10. グロッブ,ピー・エムら,J. Biol. Chem., 265:8311−8316 (1990)
参考文献11. コザック,エム,Nucleic Acid Res., 12:857−872 (1984)
参考文献12. ディクソン,アール・エイ・エフ,シーガル,アイ・エスおよびストレイダー,シー・ディ,Cold Spring Har. Sym. Quant. Biol., 53:487−497 (1988)
参考文献13. コルチャック,エイチ・エムら,J. Biol. Chem. 259:4076−4082 (1984)
参考文献14. テンネンバーグ,エス・ディ,チェムラン,エフ・ピーおよびソロムキン,ジェイ・エス,J. Immunol., 141:3937−3944 (1988)
参考文献15. ラマチャンドラン,ジェイら,BioEssay, 10:54−57 (1989)
参考文献16. ガルブラー,ユーおよびホフマン,ビー・ジェイ,Gene, 25:263−269 (1983)
参考文献17. チグウィン,ジェイ・ジェイら,Biochem.., 18:5294−5299 (1979)
参考文献18. EP307247
参考文献19. ゲーリング,ディ・ピーら,EMBO J., 8:3667−3676 (1989)
参考文献20. へベルト,シー・エイら,J. Immunol., 145: 3033−3040 (1991)
参考文献21. モリソン,エムおよびバイゼ,ジー・エス,Biochem., 9:2995−3000 (1970)
参考文献22. バチョルクチク,ティ,ブライクレイ,アール・ディおよびアマラ,エス・ジー,BioTechniques. 9:556−558 (1990)
参考文献23. グリンキヴィック,ジー,ポエニー,エムおよびチェン,アール・ワイ,J. Biol. Chem., 260−:3440−3450 (1985)
【図面の簡単な説明】
【0167】
【図1】図1は、クローンpRK5B.i18r1.1でトランスフェクションされたCOS細胞に対するIL−8の高親和性結合を表す。a)標識していないIL−8またはfMLPとの競争。b)IL−8競争データのスカチャード分析;見かけ上のKd=3.6nM、平均820000結合部位/細胞。ヒト好中球による同様の競争はKd=1.1nM、31000結合部位/細胞を与えた。
【図2】図2a〜2c(配列番号1)(以下これらを総合して図2と呼ぶ)は、クローンpRK5B.i18r1.1から得たIL−8受容体cDNA挿入物のアミノ酸配列とヌクレオチド配列を表す。7つの推定貫膜ドメインを示す。4つの細胞外セグメントと4つの細胞内セグメントが存在し、それぞれのセグメントは貫膜ドメインの1つによって分離されている。細胞外セグメントはほぼ残基1〜39、99〜111、134〜154、175〜203および265〜290によって表される。このIL−8受容体は最初の細胞外領域に3つの潜在的N−結合型グリコシル化部位を含有しており、第3の細胞外ループにさらに3つの潜在的N−結合型グリコシル化部位を含有する。
【図3】図3aは、トランスフェクションされたヒトIL−8およびfMLP受容体のそれらの配位子に対する細胞内Ca++応答のフローサイトメトリー測定を表す。ヒト胚性腎臓293細胞をエレクトロポレーション(参考文献19)によって、IL−8受容体(クローンpRK5B.i18r1.1)、fMLP受容体(ベクターpRK5中のヒトfMLP受容体cDNA(参考文献3))またはベクター(pRK5B(参考文献18))DNAでトランスフェクションした。2日後に、RPMI培地中の2μM インド−1アセトキシメチルエステルを37℃で30分間細胞に充填した。405nmと525nmの蛍光の比を用いて(参考文献23)、細胞内Ca++をコールター753フローサイトメーターで測定した。 図3bは、IL−8の添加後の期間(各実験中で約15秒間)の400nMCa++以上の細胞の百分率を表す。
【図4】図4(配列番号2)は、ヒト単球様細胞系(HL−60)とヒトPBLから得たラムダライブラリーをIL−8受容体DNAの大きい断片を用いてプローブすることによって同定した2つの追加のPF4AR構成要素に関するポリペプチド配列のうちの一つを表す。
【図5】図5(配列番号3)は、ヒト単球様細胞系(HL−60)とヒトPBLから得たラムダライブラリーをIL−8受容体DNAの大きい断片を用いてプローブすることによって同定した2つの追加のPF4AR構成要素に関するポリペプチド配列のうちの一つを表す。
【図1a】

【図1b】

【図2A−1】

【図2A−2】

【図2A−3】

【図2B−1】

【図2B−2】

【図2B−3】

【図2C−1】

【図2C−2】

【図2C−3】

【図3a】

【図3b】

【図4A−1】

【図4A−2】

【図4A−3】

【図4B−1】

【図4B−2】

【図4B−3】

【図4C−1】

【図4C−2】

【図5A−1】

【図5A−2】

【図5A−3】

【図5B−1】

【図5B−2】

【図5B−3】

【図5C−1】

【図5C−2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1、配列番号2または配列番号3に記載の翻訳されたアミノ酸配列を有する単離されたポリペプチドまたは、配列番号1、配列番号2または配列番号3に記載の翻訳されたアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ配列番号1、配列番号2または配列番号3に記載の翻訳されたアミノ酸配列を有する単離されたポリペプチドと同様の血小板因子4スーパーファミリーレセプター(PF4AR)活性を有するポリペプチド。
【請求項2】
PF4ARポリペプチドをコード化する核酸が配列番号2または配列番号3に記載のポリペプチドをコード化する核酸の相補鎖と高い厳密条件下でハイブリッド形成する単離されたPF4ARポリペプチド。
【請求項3】
配列番号2または配列番号3に記載のPF4ARポリペプチドと特異的に結合可能なモノクローナル抗体が認識するエピトープを含む、配列番号2または配列番号3に記載のPF4ARポリペプチドの断片。
【請求項4】
エピトープが、配列番号2に記載のPF4ARポリペプチドのアミノ酸領域1〜48または配列番号3に記載のPF4ARポリペプチドのアミノ酸領域1〜48に含まれる、請求項3に記載の断片。
【請求項5】
配列番号2に記載のポリペプチドを含む請求項1〜4のいずれかに記載のPF4ARポリペプチドまたはその断片。
【請求項6】
配列番号1に記載のポリペプチドを含む請求項1に記載のPF4ARポリペプチド。
【請求項7】
PF4ARポリペプチドとは異種のポリペプチドと融合している請求項1〜6のいずれかに記載のPF4ARポリペプチドまたはその断片を含む単離されたポリペプチド。
【請求項8】
f−Met−Leu−Pheとは結合または反応せずにIL−8と結合する請求項1〜7のいずれかに記載のPF4ARポリペプチドまたはその断片。
【請求項9】
ヒト由来である請求項1〜8のいずれかに記載のPF4ARポリペプチドまたはその断片。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のPF4ARポリペプチドまたはその断片をコード化する核酸配列を含む単離された核酸分子。
【請求項11】
DNAであり、配列番号1、配列番号2または配列番号3に示される翻訳されたDNA配列を有する請求項10に記載の核酸分子。
【請求項12】
PF4ARポリペプチドまたはその断片をコード化する核酸配列と機能可能に連結されたプロモーターをさらに含む、請求項10または請求項11に記載の核酸分子。
【請求項13】
形質転換される宿主細胞によって認識される制御配列と機能可能に連結された請求項10〜12のいずれかに記載の核酸配列を含む発現ベクター。
【請求項14】
請求項13に記載のベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項15】
請求項1〜9のいずれかに記載のPF4ARポリペプチドまたはその断片の製造方法であって、形質転換する宿主細胞によって認識される制御配列と機能可能に連結されたPF4ARポリペプチドまたはその断片をコード化する核酸配列を含むベクターで形質転換した培養宿主細胞において該ポリペプチドまたはその断片をコード化する核酸配列を含む核酸分子を発現させ、それによりPF4ARポリペプチドまたはその断片を生産させ、この宿主細胞からPF4ARポリペプチドまたはその断片を回収することを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項1〜9のいずれかに記載のPF4ARポリペプチドまたはその断片を宿主細胞膜から回収する請求項15に記載の方法。
【請求項17】
請求項1〜5のいずれかに記載のPF4ARポリペプチドまたはその断片と特異的に結合可能なモノクローナル抗体。
【請求項18】
配列番号1、配列番号2または配列番号3に記載のPF4ARポリペプチドと特異的に結合可能なモノクローナル抗体。
【請求項19】
配列番号1に記載のPF4ARポリペプチドのアミノ酸領域1〜39、配列番号2に記載のPF4ARポリペプチドのアミノ酸領域1〜48、または配列番号3に記載のPF4ARポリペプチドのアミノ酸領域1〜48と特異的に結合可能な請求項18に記載のモノクローナル抗体。
【請求項20】
配列番号2に記載のPF4ARポリペプチドと特異的に結合可能な請求項18または19に記載のモノクローナル抗体。
【請求項21】
請求項17〜20のいずれかに記載のモノクローナル抗体および製薬的に許容される担体を含む、特定の細胞または組織におけるPF4AR発現を診断するための組成物。
【請求項22】
治療または診断に使用する請求項17〜20のいずれかに記載のモノクローナル抗体。

【公開番号】特開2008−178408(P2008−178408A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−1642(P2008−1642)
【出願日】平成20年1月8日(2008.1.8)
【分割の表示】特願平4−510608の分割
【原出願日】平成4年3月23日(1992.3.23)
【出願人】(596168317)ジェネンテック・インコーポレーテッド (372)
【氏名又は名称原語表記】GENENTECH,INC.
【Fターム(参考)】