説明

ヒトTGFβ1を発現するトランスジェニックマウス

【課題】 肺特異的にTGFβ1を発現し、自然発症的に肺線維症を発症するTGマウスを提供すること。
【解決手段】 マウス・サーファクタント・プロテインC(SP-C)のプロモーター領域と、その下流に配置されて発現を制御されるヒト形質転換因子β1(hTGFβ1)の全遺伝子領域とを含むことを特徴とするトランスジェニックマウスによって達成される。このとき、トランスジェニックマウスは、生後10週齢から自然的に肺線維症を発症し、生後16週〜18週から死亡し始めることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトTGFβ1(transforming growth factor β1;形質転換(トランスフォーミング)成長(増殖)因子ベータ1;以下、「hTGFβ1」という)を発現するトランスジェニック(TG)マウスに関する。
【背景技術】
【0002】
肺線維症(pulmonary fibrosis; PF)は、突発性間質性肺炎(IIP)としてグループ化される突発性疾患の末期形態である。突発性肺線維症(IPF)は、最も通常の形態であり、平均的な余命が2〜3年程度の進行性疾患である。世界には、約500万人のIPF患者がいると推定されている。IPF患者の生存期間を延ばす有効な治療法については、現在まで知られていない。この疾患の病因については不明である。初期には、慢性的な炎症によってIPFが起こるのではないかと仮定されていたが、炎症だけでは繊維化の進行を説明できていない。炎症は、この疾患の初期には重要な働きを示すが、繊維化は異常な上皮及び間葉組織の反応によって起こる慢性的な上皮損傷によって進行する。
また、IPF以外にも、TGFβ1の関与する繊維化および形態変化は、気管支喘息、COPD、肺癌などにも認められることが分かっている。
【0003】
形質転換成長因子β1(TGFβ1)、結合組織成長因子(connective tissue growth factor(CTGF))、血小板成長因子(platelet-derived growth factor (PDGF))、炎症性サイトカイン、ケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド2/単球走化性タンパク質1(CCL2)、酸化剤、凝固因子を含む多くの因子は、繊維化の病因であると考えられている。マクロファージ、T細胞、好酸球、好中球、好塩基球を含む多くの細胞はTGFβ1を産生し、細胞内において、関連タンパク質(latency-associated protein (LAP))に結合した非活性な形で保存される。活性型TGFβ1は、繊維化の過程において共通して増加するカテプシン、プラスミン、カルパイン、トロンボスパンジン、インテグリン−αvβ6、メタロプロテイナーゼなどによってLAPから切り離されることによって放出される。アデノウイルスを介した遺伝子導入や、遺伝子組み換えによって、肺内に活性型TGFβ1濃度が上昇すると、単核球浸潤に伴う肺線維化が誘導されることに鑑みると、肺線維症にはTGFβ1が重要な役割を担っていると考えられる。従来より、重篤な肺線維症患者の肺から得られた気管支肺胞洗浄液(BALF)には、活性型及び潜在型TGFβ1が高濃度に観察されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Rosas-Taraco AG, Higgins DM, Sanchez-Campillo J, Lee EJ, Orme IM, Gonzalez-Juarrero M. Intrapulmonary delivery of xcl1-targeting small interfering rna in mice chronically infected with mycobacterium tuberculosis. Am J Respir Cell Mol Biol 2009;41:136-145
【非特許文献2】Fujimoto H, D'Alessandro-Gabazza CN, Palanki MS, Erdman PE, Takagi T, Gabazza EC, Bruno NE, Yano Y, Hayashi T, Tamaki S, et al. Inhibition of nuclear factor-kappab in t cells suppresses lung fibrosis. Am J Respir Crit Care Med 2007;176:1251-1260.
【非特許文献3】Ashcroft T, Simpson JM, Timbrell V. Simple method of estimating severity of pulmonary fibrosis on a numerical scale. J Clin Pathol 1988;41:467-470.
【非特許文献4】Muyrers JP, Zhang Y, Benes V, Testa G, Ansorge W, Stewart AF. Point mutation of bacterial artificial chromosomes by et recombination. EMBO Rep 2000;1:239-243.
【非特許文献5】Abe K, Hazama M, Katoh H, Yamamura K, Suzuki M. Establishment of an efficient bac transgenesis protocol and its application to functional characterization of the mouse brachyury locus. Exp Anim 2004;53(4):311-320.
【非特許文献6】Giraldo P, Montoliu L. Size matters: Use of yacs, bacs and pacs in transgenic animals. Transgenic Res 2001;10(2):83-103.
【非特許文献7】Zhou L, Dey CR, Wert SE, Whitsett JA. Arrested lung morphogenesis in transgenic mice bearing an sp-c-tgf-beta 1 chimeric gene. Dev Biol 1996;175(2):227-238.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
肺線維症のモデルマウスとして、肺特異的にTGFβ1を発現するマウスが望まれているが、現在までのところ、そのようなTGマウスは得られていなかった。
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、肺特異的にTGFβ1を発現し、自然発症的に肺線維症を発症するTGマウスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための発明に係るトランスジェニックマウスは、マウス・サーファクタント・プロテインC(SP-C)のプロモーター領域と、その下流に配置されて発現を制御されるヒト形質転換因子β1(hTGFβ1)の全遺伝子領域とを含むことを特徴とする。このとき、このトランスジェニックマウスは、生後10週齢から自然的に肺線維症を発症し、生後16週〜18週で死亡し始めることが好ましい。
上記トランスジェニックマウスの系統は、C57BL/6Jであることが好ましい。
また、上記トランスジェニックマウスの作成方法は、(1)ヒトTGFβ1遺伝子を含むBACにおいて、ヒトTGFβ1遺伝子のイントロン部分に選択用カセットを組み込み、選択用遺伝子導入ヒトTGFβ1遺伝子を得る選択用遺伝子組換え工程、(2)前記選択用遺伝子導入ヒトTGFβ1遺伝子の5'-側及び3'-側に、マウスSP-Cプロモータの下流の配列に相同的な配列を導入して、修飾hTGFβ1遺伝子フラグメントとする修飾工程、(3) 5'-側及び3'-側にフランキング配列を有するマウスSP-C全コード配列を含むBACにおいて、前記修飾hTGFβ1遺伝子フラグメントを、前記マウスSP-Cプロモータ領域の下流側に転移させて、SP-C・選択用hTGFβ1遺伝子フラグメントとする工程、(4)前記選択用カセットを取り除いて、SP-C-TGFβ1 BACトランスジェニック構築物を得る工程、(5)前記SP-C-TGFβ1 BACトランスジェニック構築物からSP-C-TGFβ1遺伝子を精製し、マウス胚にマイクロインジェクションして、トランスジェニックマウスを得る工程を備えることを特徴とする。
上記発明において、選択用遺伝子は、ストレプトマイシン感受性の野生型リボソーマルS12タンパクコード遺伝子(rpsl)であることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、肺特異的にTGFβ1を発現し、自然発症的に肺線維症を発症するTGマウスを提供できる。このTGマウスを用いることにより、呼吸器関連疾患(肺線維症、気管支喘息、肺ガン、COPDなどを含む)に関する研究を飛躍的に発展させられる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】成長因子、CCL2及びTFに特異的なsiRNAによって肺線維症が抑制されることを示すデータである。 (A)肺組織中の各因子のタンパク質濃度を示す棒グラフである。 (B)肺内コラーゲンの堆積を顕微鏡によって確認した写真図である。 (C)アッシュクロフト線維症スコア及び組織中ヒドロキシプロリン濃度を示す棒グラフである。 BLM(BLM; 100 mg/kg マウス)の投与によって肺線維症を誘導したマウスに対し、BLM投与後3,7及び14日目に、TGFβ1 (BLM/TGFβ1 siRNA; n=8), CTFG (BLM/CTGF siRNA; n=7), PDGF (BLM/PDGF siRNA; n=7), CCL2 (BLM/CCL2 siRNA; n=7) 及び組織因子(tissue factor;BLM/TF siRNA; n=3)に特異的なsiRNA または基剤のみ(vehicle alone;BLM/vehicle; n=6)を投与し、肺線維症の抑制効果を確認した。マウスは、21日目に絶命させた。 ネガティブコントロール(BLM/vehicle)に比べると、特異的siRNAによって処理したマウスでは有意に抑制された(A)。TGFβ1, CTGF, CCL2 及びTFに特異的なsiRNAの経気管支滴下によって、基剤のみ(BLM/vehicle)を投与した場合に比べると、肺内コラーゲンの堆積が有意に減少することが、マッソン3色染色法によって確認された(B)。特異的なsiRNAの経気管支滴下によって、基剤のみ(BLM/vehicle)を投与した場合に比べると、アシュクロフト線維化スコア(TGFβ1, CTGF, CCL2 及びTF)及びヒドロキシプロリン量(TGFβ1及び CCL2)が有意に減少することが確認された(C)。 (B)中のスケールバーは、200μmを示す。統計解析は、分散分析によって行った。データは、平均値±標準誤差にて示した。「§」は、p<0.05 vs SAL/vehicleを、「*」は、p<0.05 vs. BLM/vehicleを意味する。
【図2】特異的TGFβ1 siRNAによる肺線維症の用量依存的抑制効果を示すデータである。 (A)肺内コラーゲンの堆積を顕微鏡によって確認した写真図である。 (B)組織中ヒドロキシプロリン濃度、組織中コラーゲン、及びアシュクロフト線維化スコアを示す棒グラフである。 (C)組織中TGFβ1タンパク濃度、及びTGFβ1 mRNA量を示す棒グラフである。 (D)siRNAを投与したときのTGFβ1 mRNA発現量を5'-RACE法によって調べた結果を示す電気泳動写真である。 BLMによって肺線維症を誘導されたマウスに対して、BLM投与から3,7及び14日後に、5 (BLM/TGFβ1 siRNA 5; n=6), 0.5 (BLM/TGFβ1 siRNA 0.5; n=5) または 0.05 (BLM/TGFβ1 siRNA 0.05; n=3) mg/kg のマウス特異的TGFβ1 siRNA、混合siRNA(BLM/scrambled siRNA; n=6)、または基剤のみ(BLM/vehicle; n=5)を投与し、21日後に絶命させた。生理食塩水(SAL/vehicle)を投与したマウスをコントロールとして用いた。TGFβ1 siRNAは、基剤のみ及び混合siRNA群に比べると、5及び0.5mg/kgにおいて、肺線維症を抑制した(A,B)。TGFβ1 siRNAは、基剤のみ及び混合siRNA群に比べると、5、0.5及び0.05mg/kgにおいて、有意にTGFβ1の発現を抑制した(C)。 (A)中のスケールバーは、200μmを示す。統計解析は、分散分析によって行った。データは、平均値±標準誤差にて示した。「§」は、p<0.05 vs SAL/vehicleを、「*」は、p<0.05 vs. BLM/vehicleを意味する。
【図3】急性期または慢性期にTGFβ1 siRNAを肺内に投与すると肺線維症を抑制することを示すデータである。 (A)肺内コラーゲンの堆積を顕微鏡によって確認した写真図である。 (B)アシュクロフト線維化スコアを示す棒グラフである。 (C)組織中ヒドロキシプロリン濃度を示す棒グラフである。 (D)組織中TGFβ1濃度を示す棒グラフである。 BLMによって引き起こされた肺線維症を伴うマウスに対して、BLM投与後、3,7,14日目(BLM/TGFβ1 siRNA days 3+7+14; n=5)、3,7日目(BLM/TGFβ1 siRNA days 3+7; n=5)、12,16日目(BLM/TGFβ1 siRNA days 12+16; n=5)、または14日目(BLM/TGFβ1 siRNA day 14; n=7)にマウス特異的TGFβ1 siRNAを投与した。混合siRNAを用いて、上記と同じ投与を行った。コントロール群については、混合siRNA(n=4〜7)及び基剤のみ(BLM/vehicle; n=6)をマウスに投与した。浸透圧ポンプを用いて生理食塩水を投与されたマウス(Sal/vehicle; n=7)をネガティブコントロール群とした。TGFβ1 siRNAを急性期または慢性期のいずれに投与した場合でも、肺内コラーゲン堆積を抑制した(A〜D)。 (A)中のスケールバーは、200μmを示す。統計解析は、分散分析によって行った。データは、平均値±標準誤差にて示した。「§」は、p<0.05 vs SAL/vehicleを、「*」は、p<0.05 vs. BLM/vehicleを意味する。
【図4】TGFβ1 siRNA/DNAキメラは肺線維症を抑制することを示すデータである。 (A)A549細胞中のTGFβ1 mRNA量を測定した棒グラフである。 (B)LA-4細胞中のTGFβ1 mRNA量を測定した棒グラフである。 (C)肺内コラーゲンの堆積を顕微鏡によって確認した写真図である。 (D)組織中ヒドロキシプロリン濃度、組織中コラーゲン、及びアシュクロフト線維化スコアを示す棒グラフである。 (E)組織中TGFβ1濃度を示す棒グラフである。 コンフルエント細胞を0.1% BSAを含むDMEM中において血清飢餓状態にて12時間培養した後、TGFβ1に対するsiRNA/DNAキメラまたはsiRNAを様々な濃度でリポフェクタミン(Lipofectamine)2000とOpti-MEMを用いて遺伝子導入した。6時間後に、細胞を回収し、TGFβ1 mRNAの発現量を評価した。 siRNAの投与によって、TGFβ1 mRNAが減少した(A,B)。BLMによって肺線維症を発症させたマウスに対してBLM投与後3,7及び14日目に、マウス特異的siRNA(BLM/m specific TGFβ1 siRNA; n=4)、ヒト/マウスに共通な配列を含むTGFβ1 siRNA/DNAキメラ(BLM/TGFβ1-Ch1 [n=7] 、BLM/TGFβ1-Ch2 [n=6])及び混合siRNA(BLM/scrambled siRNA; n=4)、または基剤のみ(BLM/vehicle; n=6)を投与した。生理食塩水を投与されたマウス(Sal/vehicle; n=5)をネガティブコントロール群とした。マウス特異的siRNA、及びTGFβ1に対するsiRNA/DNAキメラを投与すると、無処置マウスまたは混合siRNAを投与した群に比べて、肺線維症が抑制されることが、マッソン三色染色法(C)、アシュクロフトスコア、コラーゲン量、及びヒドロキシプロリン量(D)によって確認された。これらの知見は、肺組織中のTGFβ1タンパク質の減少によっても支持された(E)。他の群の肺線維症マウスには、Smad3 siRNA/DNAキメラ(BLM/Smad-Ch1 [n=5] and BLM/Smad-Ch2 [n=6])を投与した。Smad3 siRNA/DNAキメラの投与によっても、マッソン三色染色法(C)、肺内のアシュクロフトスコア、コラーゲン及びヒドロキシプロリン量(D)を有意に抑制した。 (C)中のスケールバーは、200μmを示す。統計解析は、分散分析によって行った。データは、平均値±標準誤差にて示した。「§」は、p<0.05 vs SAL/vehicleを、「*」は、p<0.05 vs. BLM/vehicleを意味する。
【図5】ヒトTGFβ1-BAC TGマウスの作成概要を示すデータである。 (A)マウスSP-C及びヒトTGFβ1 BACクローンの構造を示す図である。各BACクローンは、全コード配列と5'-及び3'-のフランキング配列を含んでいる。 (B)遺伝子組み換え用構築物の概要を示す図である。マウスSP-C遺伝子(中央)は、Red/ET組み換えによって、ヒトTGFβ1配列(上)に置換された。キメラSP-C-TGFβ1 BAC組み換え用構築物(下)は、遺伝子組み換え(TG)マウスの遺伝子タイピングを行えるように、単一のPstI(Pst1)を持っている。 (C)BAC構築物の塩基配列解析結果を示す図である。キメラSP-C-TGFβ1遺伝子の結合部位は、BAC構築物をPCRによって増幅させた後、シークエンスした。 (D)TGFβ1 BAC TGマウスの生成を示す写真図である。精製されたTGFβ1 BAC遺伝子組み換え用構築物は、ほぼ200kbである(左側写真)。レーンMは、サイズマーカである。TGFβ1 BAC TGマウスの創始系統の尾部DNAをサザンブロットにて解析した(右側写真)。 (E)マイクロCTの写真図である。 (F)肺の組織学的所見を示す顕微鏡写真図である。 (G)組織中のhTGFβ1の発現を確認する電気泳動ゲル写真図である。 (H)BALF中の活性型TGFβ1(各左側)及び全TGFβ1(各右側)濃度を示すグラフである。 TGFβ1 BAC DNAは、(B)に示すヒトTGFβ1イントロン1からなるプローブにハイブリダイズする3.5kb PstIフラグメントとして確認した。各ポジティブなラインにおいて挿入された組み換え遺伝子のコピー数は、コントロールであるコピー数シグナル強度(右側)との比較によって求めた。ホモ接合雄性及びホモ接合雌性の交配によって子孫が得られた。このマウスにおいて、妊娠期間は通常であり、同腹子は通常の大きさであり、メンデル比に沿って誕生した。hTGFβ1-BAC TGマウスは、自然発症的に肺線維症となることが、マイクロCT(E)及び組織学的所見(F)から確認された。ヒトTGFβ1 mRNAは、肺特異的に発現され(G)、気管支肺胞洗浄液(BALF)には、特異的hTGFβ1 EIAによって、全hTGFβ1及び活性型hTGFβ1が有意に増加していた(H)。統計解析は分散分析によって行った。rpsl-neoカセットには、ストレプトマイシン感受性の野生型リボソーマルS12タンパクコード遺伝子(rpsl)が含まれる。赤色及びすみれ色は、ヒト由来であることを示す。青色及び緑色は、マウス由来であることを示す。(F)中のスケールバーは、100μmを示す。Exはエクソンを、SP-Cはサーファクタントタンパク質Cを、BACはバクテリア人工染色体を、pDNR-1rは創作ドナーベクターを意味する。「§」はp<0.005、「*」はp<0.0006 にて、野生型(WT)マウスの各型のTGFβとの統計的有意差を意味する。
【図6】ヒト特異的TGFβ1 siRNAは、自然発症性肺線維症を抑制し、TGFβ1-BAC TGマウスにBLMを投与して肺線維症を誘導したときの生存曲線を向上させることを示すデータである。 (A)基剤またはヒトTGFβ1 siRNA 13の投与プロトコールを示す図である。 (B)マイクロCTの結果を示す写真図である。 (C)肺中の高密度領域を比較したグラフである。 (D)血中ガス(PaO2及びSO2)の割合を示すグラフである。 (E)肺組織学的観察の結果を示す顕微鏡写真図である。 (F)マウスの生存曲線を示すグラフである。 (G)組織中ヒドロキシプロリン量を示すグラフである。 (H)肺組織をマッソン三色染色法にて処理したときの顕微鏡写真図である。 マイクロCTによって同程度の肺炎症/肺線維症を示した10週齢のホモ接合TGFβ1-BAC TGマウスをランダムに2群に割り付けた。一方の群には、3週間に渡って週1回の割合で基剤を経気管支投与し、他方の群には、同じプロトコールでヒトsiRNA 13を経気管支投与した。マイクロCTは、各投与の前と、最終投与後の1週間後に実施した(A)。高密度領域の割合を求めたところ、ヒト特異的TGFβ1 siRNAを投与したTGマウスでは有意に減少しており(B,C)、基剤のみを投与したTGマウスでは変化が認められなかった(B,C)。最終投与から1週間後、TGマウスを絶命させ、血中ガスの測定(D)と肺組織学的な検証(E)を行った。血中酸素分圧(PaO2)と酸素飽和度(SO2)は、TGFβ1 siRNAを投与した場合に比べ、基剤のみを投与したTGマウスでは、有意に減少した(D)。組織学的な検討によれば、TGFβ1 siRNAを投与したマウスでは、肺胞の状態が改善された(E)。(E)及び(F)中のスケールバーは、50μmを示す。統計解析は、分散分析によって行った。データは、平均値±標準誤差にて示した。「§」は、p<0.001 vs 野生型マウス(WT mice)を、「*」は、p<0.0001 vs 基剤のみ(vehicle)を意味する。マウスの生存率に対する影響を確認するため、hTGFβ1-BAC TGマウスをランダムに2群に分け、浸透圧ミニポンプによってBLM(80 mg/kg mouse)を皮下投与した後、0,3,7及び14日目に、一方の群(BLM-hTGFβ1-BAC/siRNA; n=5)には、ヒト特異的TGFβ1 siRNA(No.13)を経気管支投与し、他方の群(BLM-hTGFβ1-BAC/vehicle; n=5)には、基剤のみを投与した。hTGFβ1-BAC TGマウスにヒト特異的TGFβ1 siRNAを経気管投与すると、生存率を改善し(F)、ヒドロキシプロリン量(G)及び肺内コラーゲン量(H)を減少させた。(E)及び(H)中のスケールバーは、200μmを示す。統計解析には、分散分析とログランクテストを用いた。
【図7】肺線維症において、成長因子、CCL2及びTFの経時的変化を示すデータである。 (A)BALF中のTGFβ1濃度の変化を示すグラフである。 (B)BALF中のCTGF濃度の変化を示すグラフである。 (C)BALF中のPDGF濃度の変化を示すグラフである。 (D)BALF中のCCL2濃度の変化を示すグラフである。 (E)BALF中のTAT濃度の変化を示すグラフである。 (F)TGFβ1のmRNA発現量の変化を示すグラフである。 (G)CTGFのmRNA発現量の変化を示すグラフである。 (H)Smad3のmRNA発現量の変化を示すグラフである。 (I)PDGFのmRNA発現量の変化を示すグラフである。 (J)CCL2のmRNA発現量の変化を示すグラフである。 (K)TFのmRNA発現量の変化を示すグラフである。 (L)BALF中の全タンパク質の変化を示すグラフである。 (M)BALF中のコラーゲン量の変化を示すグラフである。 (N)生理食塩水またはBLMを投与後、21日目の肺中ヒドロキシプロリン量を比べたグラフである。 絶命前の0日前(n=6)、3日前(n=15)、7日前(n=13)、14日前(n=15)、及び21日前(n=15)にBLMの皮下投与によってマウスに肺線維症を引き起こした。肺中のTGFβ1(A)濃度は急性期及び慢性期の間に有意に、CTGF(B)及びPDGF(C)は慢性期に、CCL2(D)及びTAT(E)は急性期に、それぞれ有意に上昇した。TGFβ1(F)、CTGF(G)及びSmad3(H)のmRNA発現量は慢性期に、CCL2(J)とTF(K)のmRNA発煙量は急性期に、それぞれ増加し、PDGF mRNA発現量(I)は有意に変化しなかった。BALF中の全タンパク質(L)及びコラーゲン量(M)は全期間を通して増加した。BLM投与マウスの肺では、生理食塩水を投与したマウスの肺に比べ、肺中ヒドロキシプロリン量(N)は、有意に増加した。 統計解析は分散分析にて行った。データは、平均値±標準誤差にて示した。「*」は、p<0.05にて第0日目(day0)との間で有意差が認められたことを示す。
【図8】siRNAを経気管支投与した後の局在性を示すデータである。 (A)50μLのエバンスブルーを経気管支投与した後の肺への色素の局在性を確認した写真図である。 (B)75μLのエバンスブルーを経気管支投与した後の肺への色素の局在性を確認した写真図である。 (C)肺切片の微分干渉顕微鏡写真図である。 (D)肺切片をCy3及びDAPIの蛍光で観察したときの顕微鏡写真図である。 (E)肺切片をPSPC及びDAPIの蛍光で観察したときの顕微鏡写真図である。 (F)上記(D)と(E)のイメージを重ね合わせたものである。 通常の野生型マウスの絶命前に、50μL(A)または75μL(B)のエバンスブルーをマイクロスプレーを用いて経気管支投与したところ、物質は肺全体に供給されることが確認された。経気管支投与されたsiRNAが肺に分布することを確認するために、マウスにBLMを投与し、その7日目にCy3をラベルしたマウス特異的TGFβ1 siRNAを経気管支投与した(C〜F)。肺を抗プロサーファクタントタンパク質C(PSPC)ウサギ血清抗ポリクローナル抗体にて処理し、洗浄した後に、蛍光色素を結合させた抗ウサギ抗体(Alexa Fluor 488 anti-rabbit IgG)にて処理した。蛍光の局在を顕微鏡にて評価した。DAPIを対比染色剤として使用した。肺切片を観察したときの微分干渉顕微鏡の代表的な顕微鏡イメージ(C)、Cy3蛍光(D)、PSPC染色(E)、及びDとEを組み合わせたものを示す。II型上皮細胞(F中の矢印)には、肺胞及び間質腔の他の細胞と同様に蛍光が認められた。(C)〜(F)中のスケールバーは、50μmを示す。
【図9】肺線維症マウスについて、成長因子、CCL2及びTFに特異的なsiRNAによって肺炎症が抑制されることを示すデータである。 (A)各因子のmRNAの相対発現量を測定したグラフである。 (B)タンパク質の発現量を比較したグラフである。 (C)BALF中の全タンパク質を比較したグラフである。 (D)BALF中の炎症性細胞数を比較したグラフである。 BLMを投与して肺線維症を誘導したマウスに対して、BLM投与から3,7,及び14日目に、TGFβ1(BLM/TGFβ1 siRNA; n=8)、CTGF(BLM/CTGF siRNA; n=7)、PDGF(BLM/PDGF siRNA; n=7)、CCL2(BLM/CCL2 siRNA; n=7)及びTF(BLM/TF siRNA; n=3)に特異的なsiRNA、または基剤のみ(BLM/vehicle; n=6)を投与した。マウスは21日目に絶命させた。基剤のみを投与したBLMによる肺線維症マウス(BLM/vehicle, n=6)では、各因子の発現量は、コントロールマウス(SAL/vehicle, n=8)に比較すると有意に増加した。各因子のmRNAの相対発現量(A)は、基剤のみを投与した肺線維症マウス(BLM/vehicle)に比べると、特異的なsiRNAを投与したマウスでは、有意に抑制された。なお、タンパク質発現量の変化は、ネガティブコントロールマウス群(SAL/vehicle group)の0におけるタンパク質発現量と比較して計算した(B)。BALF中の全タンパク質濃度(C)は、TGFβ1 siRNAとPDGF siRNAの投与によってのみ有意に減少した。マクロファージ、リンパ球及び好中球を含む炎症性細胞の数(D)は、基剤のみを投与した群(BLM/vehicle)に比べると、いずれの因子のsiRNAを投与した場合にも有意に減少した。統計解析は分散分析によって行った。データは、平均値±標準誤差にて示した。「§」は、p<0.05にてネガティブコントロール(SAL/vehicle)との間で、「*」は、p<0.05にてコントロール(BLM/vehicle)との間で、有意差が認められたことを示す。
【図10】TGFβ1 siRNAがインビボ(in vivo)試験において、上皮-間充織転換(EMT)を抑制することを示すデータである。 (A)マウス肺組織切片中のSMA、PSPC、及び共局在(merge)の様子を観察した顕微鏡写真図である。 (B)各群のマウスにおいて、SMAとPSPCの共局在を相対的に定量化したグラフである。 生理食塩水(SAL/vehicle)、BLM+基剤(BLML/vehicle)またはBLM+マウス特異的TGFβ1 siRNAを3,7及び14日目に投与(BLM/TGFβ1 siRNA)したときに、マウス肺組織切片中の平滑筋細胞のアクチン(SMA)とプロサーファクタントタンパク質C(PSPC)を染色した。緑色は、間質マーカであるSMAを示しており、赤色は、肺胞のII型細胞のマーカであるPSPCを示している。核は、4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(4',6-diamidino-2-phenylindole)にて対比染色した(青色)。結合したイメージ(merge)は、SMAとPSPCの共局在を示している。白矢印(A中の右上)は、共局在している様子を示す。 SMAとPSPCの共局在を各群において、10の異なる視野の平均値として、相対的に定量化した(B)。(A)中のスケールバーは、50μmを意味している。統計的解析は、分散分析によって行った。データは、平均値±標準誤差にて示した。「§」は、p<0.05にてネガティブコントロール(SAL/vehicle)との間で、「*」は、p<0.05にてBLM/TGFβ1 siRNAとの間で、有意差が認められたことを示す。
【図11】ヒトTGFβ1 siRNAのインビトロ(in vitro)スクリーニングを行った結果を示すデータである。 (A)TGFβ1 mRNAの抑制効果をsiRNA 1〜13について評価した結果を示すグラフである。 (B)TGFβ1 mRNAの抑制効果をsiRNA 14〜26について評価した結果を示すグラフである。 (C)TGFβ1 mRNAの抑制効果をsiRNA 1〜26について評価した結果をまとめて示すグラフである。 (D)siRNA 13, 16 について、低用量でのTGFβ1 mRNAの抑制効果を評価した結果を示すグラフである。 siRNAターゲット配列(1〜26)の抑制効果をインビトロ(in vitro)試験によって評価した。コンフルエントA549細胞を0.1% BSAを含むDMEM中において血清飢餓状態にて12時間培養した後、TGFβ1に対するsiRNA/DNAキメラまたはsiRNAを様々な濃度でリポフェクタミン(Lipofectamine)2000とOpti-MEMを用いて遺伝子導入した。6時間後に、細胞を回収し、TGFβ1 mRNAの発現量を評価した。データは、遺伝子導入を行っていないコントロールとの比較として示した。siRNAの20〜25を除き、各siRNAは用量依存的にTGFβ1 mRNA量を抑制する効果を示した(A,B,C,)。抑制効果が高かったsiRNA 16と13については、低用量での効果を確認した(D)。統計的解析は、分散分析によって行った。データは、平均値±標準誤差にて示した。「*」はp<0.0001、「§」はp<0.001、「¶」はp<0.05にて、無処理コントロールとの間で、有意差が認められたことを示す。
【図12】通常マウスとサルにおいて、TGFβ1 siRNA が、オフターゲット効果を示すことなく、TGFβ1の発現を抑制することを示すデータである。各グラフは、縦軸に記載の物質の濃度を示し、横軸は3群(SAL/vehicle, SAL/TGFβ1 siRNA, SAL/TGFβ1-Ch1)を示す。 肺線維症を発症しない野生型マウスに対し、浸透圧ポンプを用いて生理食塩水を投与し、その3,7及び14日目に、基剤のみ(vehicle)、特異的TGFβ1 siRNA(TGFβ1 siRNA)と、ヒト/マウスに共通の配列を持つTGFβ1 siRNA/DNAキメラ1(TGFβ1-Ch1)を投与した。マウスは、21日目に絶命させた。BALFまたは肺ホモジネート中のINF-α、INF-β、TNF-α、IL-1及びIL-6の濃度は、各群間において統計的な有意差を示さなかった。しかしながら、BALF中の全TGFβ1濃度は、マウスTGFβ1 siRNAまたはTGFβ1 siRNA/DNAキメラの投与によって、有意に減少した。統計解析は、分散分析によって行った。データは、平均値±標準誤差にて示した。
【図13】特異的Smad3 siRNAの経気管支投与によって、肺線維症が弱く抑制されることを示すデータである。 (A)肺組織切片の顕微鏡写真図である。 (B)肺のアシュクロフトスコアを示すグラフである。 (C)肺のヒドロキシプロリン量を示すグラフである。 (D)肺のTGFβ1濃度を示すグラフである。 BLM投与によって肺線維症を発症させたマウスに対し、BLM投与から3,7及び14日目に5mg/kgのマウス特異的Smad3 siRNA(BLM/Smad3 siRNA; n=5)または基剤(BLM/vehicle; n=5)を投与し、21日目に絶命させた。生理食塩水を投与したマウス(SAL/vehicle)をコントロールとした。基剤のみを投与したマウスに比べ、Smad3 siRNAを投与したマウスでは、肺の組織学的検査(A)、アシュクロフトスコア(B)、及びヒドロキシプロリン量(C)によって、肺線維症が弱く抑制されることが分かった。肺のTGFβ1濃度(D)は、Smad3 siRNAの投与によって減少する傾向を示したが、有意差は認められなかった。(A)中のスケールバーは、200μmを示す。統計的解析は、分散分析によって行った。データは、平均値±標準誤差にて示した。「§」は、p<0.05にてネガティブコントロール(SAL/vehicle)との間で、「*」は、p<0.05にてBLM/TGFβ1 siRNAとの間で、有意差が認められたことを示す。
【図14】肺線維症の各ステージにおいて、TGFβ1 siRNAを投与したときの肺のマイクロRNA(miRNA)プロファイリングを示すデータである。 (A)miRNA発現のヒートマップを示す図である。 (B)成熟型および未成熟型(*)のmiR-21量をコントロール(BLM/vehicle)のものと比較したときの結果を示すグラフである。 BLM投与によって肺線維症を発症させた野生型マウスに対し、別の日にマウスTGFβ1 siRNAまたは基剤を投与したマウスの肺組織から全RNAを抽出し、miRNAを定量した。成熟型および未成熟型(*)のmiR-21量をコントロール(BLM/vehicle)のものと比較したところ、二つの型のmiR-21量は、ネガティブコントロール群(SAL/vehicle)に比べると、コントロール群(BLM/vehicle)では増加し、TGFβ1 siRNAを投与した群(BLM/siRNA)では減少した。
【図15】hTGFβ1 BAC TGマウスにTGFβ1 siRNAを投与したときの肺のmiRNAプロファイリングを示すデータである。 (A)miRNA発現のヒートマップを示す図である。 (B)成熟型および未成熟型(*)のmiR-21量をコントロール(hTGFβ1-BAC/vehicle)のものと比較したときの結果を示すグラフである。 肺線維症を自然発症するhTGFβ1-BAC TGマウスに対し、ヒト特異的TGFβ1 siRNA(hTGFβ1-BAC/siRNA)または基剤を投与したマウス(hTGFβ1-BAC/vehicle)の肺組織、及び野生型マウス(Wild type)の肺組織から全RNAを抽出し、miRNAプロファイリングを行い比較した。成熟型および未成熟型(*)のmiR-21量を野生型マウス及びヒト特異的TGFβ1 siRNAを投与したマウスにて比較した。二つの型のmiR-21量は、野生型マウス群に比べると、コントロール群(hTGFβ1-BAC/vehicle)では増加し、TGFβ1 siRNAを投与した群(hTGFβ1-BAC/siRNA)では減少した。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明の実施形態について、図表を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。
<試験材料と試験方法>
1.試薬
ダルベッコMEM(DMEM)、脂肪酸フリーBSA(BSA)及びL-グルタミンは、シグマ・アルドリッチ(Sigma-Aldrich (St Louis, MO))から購入した。ウシ胎児血清(FBS)は、バイオ・ホイタッカー(Bio Whittaker (Walkersville, MD))、ペニシリンとストレプトマイシンは、ナカライテスクのものを用いた。非必須アミノ酸、トリゾール(TRIZOL)試薬、スーパースクリプト・プレアンプリフィケーション・システム(Superscript preamplification system)、リポフェクチン2000、オプティ-MEM(Opti-MEM)は、インビトロージェン(Invitrogen (Carlsbad, CA))から購入した。ブレオマイシン(Bleomycin (BLM))は、日本化薬から購入した。TGFβ1、PDGF、CTGF、TF、MCP-1、Smad3のsiRNAは、ハヤシ化成から購入した。その他の試薬については、試薬級または高度精製のものを一般的な市販品として購入した。
【0010】
2.siRNAデザイン
標的配列に対するsiRNA及び混合siRNAは、エンハンスト・siDirectプログラム(株式会社RNAi)を用いてデザインした。塩基配列として、オフターゲット作用を起こす可能性が低いものを選択した。
【0011】
3.野生型マウスを用いたインビボ(in vivo)試験
野生型マウスを用いた肺線維症モデルにおいて、潜在的に原因となりうる因子の経時的な変化を追うために、100 mg/kg BLMを経皮投与したマウスを投与後0, 3, 7, 14 及び 21日目に絶命させた。BALF中のTGFβ1, CTGF, PDGF, MCP-1及びTFタンパク質の濃度をEIAによって測定し、肺組織中の各mRNA量を各時点において定量的PCRによって測定した。BALF中の全タンパク質とコラーゲン濃度を各時点で測定し、21日目の肺内ヒドロキシプロリン濃度を測定した。
肺繊維化におけるsiRNAの効果を評価するために、20g〜22gのメス9〜11週齢のC57BL/6野生型(WT)マウスを用いた。マウスは、日本SLC(浜松市)から購入し、三重大学動物施設にて飼育した。本試験は、三重大学動物実験委員会によって承認された。滅菌生理食塩水にブレオマイシン(BLM)を溶解し、無作為抽出されたマウスに対して、浸透圧式ミニポンプ(model 2001; Alzet Corporation, Palo Alto, CA)を用いて、100 mg/kgを持続的に筋肉内投与することで肺障害を起こした。対照群には、BLMを含まない生理食塩水を投与した(20)。試験開始から、いずれの動物にも死亡例は認められなかった。21日後に、全ての試験動物を腹腔内へのペントバルビタールの過剰投与によって絶命させ、気管支肺胞洗浄液(BALF)、血液、及び臓器を摘出した。肺繊維化の程度は、アッシュクラフト・スコア(Ashcroft score)、CT所見、及び組織中のコラーゲン及び/又はヒドロキシプロリンの量によって評価した。
【0012】
TGFβ1、CTGF、PDGF、CCL2または組織因子(TF)のsiRNAを気管支内に投与したときの抗繊維化効果を評価するために、BLM投与後3,7及び14日目にマウス特異的siRNA(5 mg/kg)を投与した。用量依存的試験のために、5, 0.5, 及び0.05 mg/kg のマウス特異的TGFβ1 siRNAを投与した。コントロール群には、気管支内に混合siRNA(5mg/kg)または基材を投与した。治療について最適な疾患ステージを評価するために、疾患の急性期(3及び7日目)、慢性期(12及び16日目)、または両期(3,7及び14日目)に 5 mg/kg のTGFβ1 siRNAを投与した。TGFβ1 siRNA の単回投与の効果は、BLM投与後14日目のみに投与することで評価した。ヒトとマウスに共通な配列を持つTGFβ1とSmad3のsiRNA/DNAキメラの抑制効果を評価するために、BLM投与3,7及び14日目に各キメラを気管内投与した。
肺線維症に対するSmad3の抑制効果を評価するため、BLM投与によって肺線維症を起こさせたマウスに、マウス特異的Smad3 siRNA、混合siRNA、または基剤のみ(各5mg/kg)を投与し、肺線維症の程度を各投与処理から21日目に調べた。
【0013】
4.肺内滴下によるマウスへの処理
マウスへの肺内投与の詳細は、既報(非特許文献1)に従って行った。簡単に説明すると、マウスの腹腔内にペントバルビタールナトリウム(75 mg/kg)を投与して睡眠状態とし、45°に傾けた処理台上に上歯を引っ掛けて吊した。舌をパッドしたピンセットを用いて引っ張り、その後から挿入した喉頭鏡を通して気管支を視認した。を気管支内微小噴霧器(Penn-Century, Philadelphia, PA)を用いて、肺内に75μLの試験液を投与し、機器を取り除いた。その後、マウスが完全に回復するまで監視した。この方法によって、経気管支的に投与された試験液が拡散することを75μLまたは50μLのエバンス・ブルーによって確認した。
【0014】
5.経気管支投与後の肺内TGFβ1 siRNAの局在
肺内のTGFβ1 siRNAの局在を確認するために、C57BL/6野生型マウスに浸透圧ミニポンプを用いてBLMを投与し、その後7日目にCy3をラベルしたTGFβ1 siRNA(100μg)を経気管支投与した。3時間後にマウスを絶命し、肺を10%ホルマリンに漬けた後、膨らませて、パラフィンで固定した。肺組織は、パラフィンを除き、生理食塩水−トリス緩衝液にて数回洗浄した。洗浄後、切片を抗プロサーファクタント・タンパク質Cポリクローナル抗体(ウサギ血清:Millipore, Bedford, MA)と共に4℃にて1時間反応させ、生理食塩水−トリス緩衝液にて洗浄後、抗ウサギ抗体蛍光標識試薬(Alexa Fluor 488 anti-rabbit IgG)によって処理した。洗浄処理後に、サンプルを蛍光試薬を含むイメージング試薬(DAPI(4',6-diamidino-2-phenylindole)を含むSlowFade Goldantifae)によって処理した。蛍光の局在を顕微鏡にて観察した。TGFβ1 siRNAのセンス配列とアンチセンス配列は、それぞれセンス:5'-CCGUACUAGCCAUUAUGCGUC-3'(配列番号1)、アンチセンス:5'-CGCAUAAUGGCUAGUACGGGU-3'(配列番号2)であった。
【0015】
6.BALFと末梢血の回収方法
ヘパリンを含むチューブ内に心臓穿刺によって血液サンプルを集めた後、遠心分離(1000 g, 10 min)して血漿を回収した。BALFサンプルは、既報(非特許文献2)に記載された方法に従って得た。BALF中の全細胞数は、ケモメテック社製(ChemoMetec (Allerod, Denmark))の細胞計数装置によって計数した。BALFを遠心分離(1000 g, 10 min, 4℃)後に上清を回収し、必要となるまで-80℃にて保存した。分画細胞の計数のために、BALF細胞をサイトスピンを用いて遠心分離し、メイ・グリンヴァルト・ギムザ染料(May-Grunwald-Giemsa (Merck, Darmstadt, Germany))にて染色した。血液中の気体は、コーバスb221血液中気体システム(Cobas b221 Blood Gas system (Roche, Basel, Switzerland))によって解析した。
【0016】
7.生化学的解析
全タンパク質濃度は、市販のキット(BCATM protein assay kit; Pierce, Rockford, IL, USA)を用いて、使用マニュアルに従って測定した。ヒト及びマウスTGFβ1(R&D System, Minneapolis, MIN)、INF-αとIFN-β(PBL Biomedical Laboratories, Piscataway, NJ)、MCP-1(BD Biosciences Pharmingen, San Diego, CA)、血液凝固活性マーカ、トロンビン・アンチトロンビン複合体(TAT)(Cedarlane Laboratories, Hornby, ON, Canada)及びTF(IMUBIND, Tissue factor, American Diagnostica, Greenwich, CT)の濃度については、市販のEIAキットを用いて、それぞれの使用マニュアルに従って測定した。PDGF濃度は、ポリクローナル抗PDGF抗体(Genzyme Corporation, Cambridge, MA)とビオチン化抗PDGF抗体を用いて測定した。PDGF濃度は、PDGF抗原の標準品を用いて作成した用量カーブに内挿することで求めた。PDGF測定系の日間及び日内変動は、10%以内であった。
【0017】
8.肺の組織学的検査
マウスを絶命後、肺循環を生理食塩水で洗浄した後、肺と他の臓器を取り出した。左肺はホルマリン(10%中性緩衝液)でかん流し、ガスで膨らませて、ホルマリン中にて24時間固定した後、パラフィンに包埋した。5μm厚さの組織検査用切片を作成後、パラフィンを除き、生理食塩-リン酸緩衝液にて数回洗浄した。組織切片は、ヘマトキシリン/エオジンとマッソン三色染色法にて処理した。ランダムに抽出された切片を盲験観測者によって評価した。肺の組織学的検査は、オリンパスDP70デジタルカメラを装着したオリンパスBX50顕微鏡を用いて行った。全群の各マウスについて、肺組織中の5個の顕微鏡視野をランダムに抽出し、アッシュクラフト繊維化スコア(非特許文献3)に従って5名の盲験観測者が肺繊維化の状態を評価した。
【0018】
9.ヒドロキシプロリン測定
肺中のコラーゲン沈澱量とヒドロキシプロリン濃度は、比色分析により測定した。簡単に説明すると、次の通りである。左肺を切除し、ホモジナイズ処理前に乾燥させた。サンプルを6N塩酸中にて20時間、110℃にて加水分解した。96穴プレートに、いずれも3個ずつ(triplicate)の標準品またはサンプル(5μL)を用意し、5μLクエン酸・酢酸緩衝液(238 mM クエン酸、1.2% 氷酢酸、532 mM 酢酸ナトリウム、85 mM 水酸化ナトリウム)、100μLクロラミンT溶液(16 mLクエン酸・酢酸緩衝液に0.282 gクロラミンTを添加した溶液、2 mL n-プロパノール、2 ml 精製水)を加えて、室温にて20分間反応させた。その後、100μL エールリッヒ溶液(9.3 mL n-プロパノールと 3.9 mL 70% 過塩素酸に 2.5 g p-ジメチルアミノベンゾアルデヒドを加えた溶液)を加えて、65℃にて20分間反応させた後、プレートリーダーにて 550 nm の吸光度を測定した。
【0019】
10.滴下されたsiRNAのオフターゲット作用
浸透圧ミニポンプにより生理食塩水を皮下投与された野生型C57BL/6マウスをランダムに次の3群に分類した。生理食塩水の投与から3,7及び14日目に、第1群にはマウスTGFβ1 siRNAを(表1)、第2群にはヒト及びマウスに共通な配列を持つsiRNA/DNAキメラを(TGFβ1-Ch1、表3)、第3群には基剤のみを、それぞれ投与した。マウスは21日目に絶命し、BALFと肺サイトカインをEIAにて測定した。
【0020】
11.hTGFβ1-BAC トランスジェニックマウスの作成
マウスSP-Cプロモータによって制御されるヒトTGFβ1遺伝子を持つTGFβ1 BAC トランスジェニックマウスは、C57BL/6Jマウス胚への前核インジェクションによって作成された(日本クレア株式会社)。BACによるトランスジェニック動物作成の初代遺伝子導入と生殖細胞への伝達の確認は、ヒトTGFβ1遺伝子のイントロン1フラグメントを[P32]でラベルしたDNAプローブを使用し、Pstlによって切断した尾部DNAを用いたサザンブロットによって行った。子孫56匹のうち7匹には、コロニーが得られた導入遺伝子を持っていた。
TGマウスの作成方法について、詳細に説明すると次の通りである。NCBI(National Center for Biotechnology Information)データベースを用いてマウスBACエンドデータベースを検索し、RPCI-23メスC57BL/6Jマウスから、SP-C BAC クローンマウス(RP23-216B15)を選択した。BACエンド配列は、このBACクローンが、全3kbのマウスSP-C遺伝子配列に加えて、5'側に59kb、3'側に145kbのゲノムDNAを含むことを示している。NCBIのジーンバンク(GenBank)データベースをブラスト(BLAST)検索し、RPCL-11ヒトBACライブラリーからヒトTGFβ1 BAC(hTGFβ1 BAC)クローン(RP11-638N16)を選択した。BACエンド配列は、このBACクローンが全23kbのhTGFβゲノム配列に加えて、5'側に57kb、3'側に115kbのゲノムDNAを含むことを示している。
【0021】
両BACクローンをバックパック・リソース・センター(BACPAC Resources Center; Children's Hospital Oakland Research Institute (CHORI, Oakland, CA))から入手した。マウスSP-C遺伝子座にヒトTGFβ1の全長コードエクソンとイントロンを持つキメラSP-C-TGFβ1 BACトランスジェニック構築物(コンストラクト)は、BAC組み換え介在遺伝子工学法(BAC recombination-mediated genetic engineering)によって作成した。hTGFβ1遺伝子は、Red/Etカウンター・セレクションBAC修飾キット(Red/ET Counter Selection BAC Modification Kit (Gene Bridges, Heidelberg, Germany))を用いて、ヒトBACクローンからマウスSP-C BACクローンに転移した(非特許文献4)。
方法を説明すると次の通りである。ヒトTGFβ1遺伝子のイントロン近傍の二つの配列によって、rpsl-neo用選択カセットをPCRによって増幅した。PCRに用いたプライマーと、その塩基配列は、それぞれRHODTF forward1(5'-GTA TAC TCT GCC ACG GCT TCC AAG ACG GAG ACC AGC CAG GTG GCC CGT GAG CAA GGG CGA GGA GCT G:配列番号3)及び RHODTF reverse1(5'-GTA TAC ATG GGA GAC TCC TAC AGT CGG CCA CGG AGT CCC TGG CAG TCT TGT ACA GCT CGT CCA TGC C:配列番号4)であった。増幅したrpsl-neo選択用カセットをRed/ET組み換えによって得られたヒトBACクローンのTGFβ1遺伝子中に組み込み、選択用遺伝子導入ヒトTGFβ1遺伝子とした(選択用遺伝子組換え工程)。
【0022】
hTGFβ1遺伝子の両端部分の配列をホモロジーアームとして用いて、TGFβ1遺伝子をプラスミドpDNR-1r (Clontech, Mountain View, CA)にサブクローニングした。サブクローニングしたhTGFβ1遺伝子フラグメントをマウスSP-C遺伝子の非翻訳領域の40塩基隣において、スタートコドン(5'エンド)とストップコドン(3'エンド)の隣に直接的に配置した(修飾工程)。修飾後のhTGFβ1遺伝子フラグメント(修飾hTGFβ1遺伝子フラグメント)は、キメラSP-C-TGFβ1 BACクローンを構築するために、Red/ET組み換えによってマウスBACクローンのマウスSP-C遺伝子に転移し、SP-C・選択用hTGFβ1遺伝子フラグメントとした。hTGFβ1遺伝子のイントロン中のrpsl-neoカセットは、rpsLカウンターセレクションによって取り除いた。BAC修飾については、シークエンスを行って配列を確認した。SP-C-TGFβ1 BAC トランスジェニック構築物は、アベらの方法(非特許文献5)を改変した方法によって、マイクロインジェクションによって精製した。BAC トランスジェニック構築物をヌクレオボンド・プラスミド・精製キット(Nucleobond Plasmid Purification kit (MACHEREY-NAGEL, Germany))を用いて、250mLの大腸菌培養液から精製した。精製に際して、10μgのBACトランスジェニック構築物をPI-Scelエンドヌクレアーゼ(New England Biolabs, Ipswich, MA)を用いて一晩処理し、pBACe3.6ベクター配列中に一つだけ含まれる切断部位を切断することにより線形化した。線形化したBAC DNAをパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)にかけて分離した後、電気泳動溶出してゲルから抽出した。0.1mM EDTA-トリス緩衝液を用いて透析し、大きさと表品を用いてPFGEによって試料を得た。BAC DNA構築物は、1 ng/μL に調整してマイクロインジェクション用とし、使用時まで4℃にて保管した。
【0023】
12.肺線維症を自然発症するhTGFβ1-BAC TGマウスのsiRNAによる治療
hTGFβ1-BAC TGマウスは、マイクロCTと組織学的な検討によって、10週齢から肺炎症と肺繊維化を発症する。マイクロCTによる肺炎症/肺繊維化を同程度に発症したhTGFβ1-BAC TGマウスをランダムに2つの群に分割した。一方の群には、ヒト特異的TGFβ1 siRNA (5 mg/kg)を連続する3週間に渡って毎週1回投与し、他方の群には、基剤のみを3週間に渡って毎週1回投与した。各マウスは毎週マイクロCTによって検査を行い、試験開始から21日目に絶命させ、BALF、血液及び肺組織のサンプリングを行った。
13.hTGFβ1-BAC TG マウスにBLMを皮下投与して肺線維症を進展させた後のsiRNAによる生存曲線への影響
hTGFβ1 siRNAの肺内投与治療による延命効果を評価するために、10匹のhTGFβ1-BAC TGマウスをランダムに2群に分類し、浸透圧ミニポンプにより80 mg/kg BLMを皮下投与した後に0,3,7及び14日目に、一方の群(BLM/TGFβ1 siRNA; n=5)には、ヒト特異的TGFβ1 siRNA (No 13)を経気管支投与し、他方の群(BLM/vehicle; n=5)には、基剤のみを投与した。BLMは、hTGFβ1-BAC TGマウスの肺繊維化の進行を速めるために投与した。
【0024】
14.半定量的PCR
hTGFβ1 TGマウスの各組織におけるhTGFβ1遺伝子の発現量を調べるため、逆転写酵素PCR(RT-PCR)を行った。各組織からトリゾール(TRIZOL (Invitrogen, Carlsbad, CA))を用いて、全RNAを抽出した。RT-PCRに使用したプライマーの配列は、次の通りであった。human TGFβ1, forward 5'- AAGACTATCGACATGGAGCTGG-3'(配列番号5)及び、reverse 5'-GTATCGCCAGGAATTGTTGCTG-3'(配列番号6); human GAPDH, forward 5'-CCACCCATGGCAAATTCCATGGCA-3'(配列番号7)及び reverse 5'-TCTAGACGGCAGGTCAGGTCCACC-3'(配列番号8); mouse GAPDH, forward 5'-CCCTTATTGACCTCAACTACATGGT-3'(配列番号9)及び reverse 5'-GAGGGGCCATCCACAGTCTTCTG-3'(配列番号10)であった。全PCRは、各増幅反応においてプラトーとなる前の状態で実施した。PCR反応物は、2%アガロースゲルを用いて電気泳動し、バンドを臭化エチジウムで染色した後、紫外光にて観察した。
【0025】
15.定量的リアルタイムRT-PCR
A549細胞及び器官組織から全RNAを抽出し、2μgの全RNAから逆転写反応とオリゴdTプライマーを用いてcDNAを調製した。定量的リアルタイムRT-PCRは、アプライド・バイオシステムズ7500リアル・タイムPCRシステム(Applied Biosystem 7500 Real-Time PCR System)によって実施した。マウス及びヒト遺伝子(TGFβ1, Tgfβ1, Ctgf, F3 [tissue factor], pdgfa, mcp-1)に特異的なプライマーとプローブは、キアゲン(Qiagen (Valencia, CA))から購入した。データは、アプライド・バイオシステムズの7500ソフトウエアによって解析し、各遺伝子の発現量はGAPDHの転写量によって標準化した。
16.マイクロCT(computed tomography)による肺線維症の評価
マウスモデルにおける肺線維症の評価は、マイクロCT(理化学研究所製)を用いて行った。CTデータは、イソフルランの吸入によって呼吸抑制された麻酔下にあるマウスを用いて得られた。データ取得時のパラメータは、スキャンスピード17秒、分解能20〜135μm、管電圧90kV、管電流200μAとした。イメージは、アイ・ビュー・ソフトウエア(i-VIEW software;モリタ製作所)によって解析した。CTデータはゼロアジャストを行い、各マウスから下部肺野の4ヶ所の断面図を採用した。換気可能な領域は、肺線維症の進展に伴って減少することから、肺断面図中の全換気可能領域が占める割合をウインドウズ版WinROOFイメージ解析ソフトウエア(三谷商事)にて解析し、そのデータを野生型マウスのCT画像から得られたデータと比較して、高密度領域の割合として示した。
【0026】
17.上皮・間葉転移(epithelial-mesenchymal transition (EMT))のインビボ(in vivo)試験
3,7,及び14日目に、生理食塩水(SAL/vehicle)、BLM+基剤(BLML/vehicle)、またはBLM+マウス特異的TGFβ1 siRNA(BLM/TGFβ1 siRNA)を投与されたマウス肺組織を脱パラフィン処理し、トリス緩衝液-生理食塩水を用いて数回洗浄した。洗浄処理した後、切片を抗プロサーファクタントCウサギ抗血清(Millipore, Bedford, MA)と共に4℃にて1時間反応させ、トリス緩衝液-生理食塩水にて洗浄した後、抗ウサギIgGに結合させた蛍光色素(Alexa Fluor 594 anti-rabbit IgG)にて処理した。更に洗浄処理した後、切片を抗α平滑筋アクチンA4マウスモノクローナル抗体(DAKO, Glostrup, Denmark)の存在下で4℃、1時間反応させ、トリス緩衝液-生理食塩水で洗浄し、抗マウスIgGに結合させた蛍光色素(Alexa Fluor 488 donkey anti-mouse IgG)にて処理した。洗浄処理後に、サンプルを蛍光試薬を含むイメージング試薬(DAPIを含むSlowFade Goldantifae)によって処理した。スライドグラスをオリンパスFV1000-D顕微鏡にて観察した。共局在化をウインドウズ版WinROOFイメージ解析ソフトウエア(三谷商事)にて解析した。各群について、肺組織の10個の顕微鏡視野をランダムに抽出し、盲験観察者によってEMTの評価を行った。
【0027】
18.マイクロRNAプロファイリング
BLMによって肺線維症を誘導し、BLM投与とは異なる日にマウスTGFβ1 siRNAまたは基剤で処理したマウスの肺組織から全RNAをトリゾール(TRIZOL (Invitrogen, Carlsbad, CA))によって抽出した。RNAサンプルを3D-Gene miRNAマイクロアレイプラットフォーム(東レ)を用い、マイクロRNAプロファイリングに供した。生理食塩水を投与された無処理マウスのマイクロRNAプロファイリングについても実施した。マイクロRNAプロファイリングデータは、NCBI GEOデータベースに寄託されている(accession No GSE28122)。
19.細胞株と培養条件
ヒト肺ガン由来肺胞上皮細胞株であるA549は、米国タイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection (Rockville, MD))から入手し、マウス肺腫瘍細胞株であるLA-4は、大日本住友製薬から入手した。A549細胞は、10% FBS(加熱処理済)、50μg/mLペニシリン、50μg/mLストレプトマイシン、2mM L-グルタミン、0.1mM 非必須アミノ酸を含むDMEMを用い、加湿環境において5%二酸化炭素、95%空気の環境下で培養した。LA-4細胞は、10% FBS(加熱処理済)を含むF-12 HAM培養液(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)にて培養した。コンフルエントとなるまで培養した後、0.02% EDTAを含む0.025% トリプシン溶液(ヘペス緩衝液-生理食塩水(Hepes-buffered saline (50 mM Hepes, 150 mM NaCl at pH 7.4))にて短時間処理して細胞を回収し、5〜7日毎に継代した。
【0028】
20.TGFβ1 siRNAのインビトロ(in vitro)試験における阻害活性の測定
マウスTGFβ1 mRNAに対するsiRNAの活性評価をマウスLA-4細胞を用いて行い、ヒトTGFβ1 mRNAに対するsiRNAの活性評価をA549細胞を用いて行った。コンフルエント細胞を0.1% BSAを含むDMEM中において血清飢餓状態にて12時間培養した後、TGFβ1に対するsiRNA/DNAキメラまたはsiRNAを様々な濃度でリポフェクタミン(Lipofectamine)2000とOpti-MEMを用いて遺伝子導入した。6時間後に、細胞を回収し、TGFβ1 mRNAの発現量を評価した。
21.siRNAがmRNAの発現を抑制することの確認
5'-RACE法(Rapid amplification of cDNA ends)を実施することによって、インビボ(in vivo)においてsiRNAがTGFβ1 mRNAの発現を抑制することを確認した。マウス肺から得られた2μgの全RNAを用いてcDNAを合成した。5'-full RACE Core Set(タカラバイオ)と5'末端リン酸化プライマー(5'-gATCCCGTTGATTTCCACGT-3':配列番号11)を用いて、最初のcDNAを調製した。このcDNA(2μL)を用いて第1回目のPCRを行った。このときのセンスプライーマの配列は、5'-GCAACAATTCCTGGCGTTACC-3'(配列番号12)であり、アンチセンスプライマーの配列は、 5'-CACATGTTGCTCCACACTTGAT-3'(配列番号13)であった。PCRの反応条件は、95℃にて30秒間、60℃にて30秒間、72℃にて1分間を1サイクルとし、25サイクルを行った。次いで、第1回目のPCR産物(2μL)を用いて、第2回目のPCR(nested PCR)を行った。このときのセンスプライマーの配列は、 5'-CGTCACTGGAGTTGTACGGCA-3'(配列番号14)であり、アンチセンスプライマーの配列は、 5'-TTAATCTCTGCAAGCGCAGC-3'(配列番号15)であった。PCRの反応条件は、95℃にて30秒間、60℃にて30秒間、72℃にて1分間を1サイクルとし、35サイクルを行った。PCR産物は、4%アガロースゲルを用いた電気泳動によって解析した。
【0029】
22.統計解析
全データは、平均値±標準誤差(mean ± standard error (s.e.m.))によって示した。3個またはそれ以上の変数の統計的有意性は、チューキー検定(Tukey's test)を用いた事後解析(post hoc analysis)によって、分散分析を行うことによって評価した。2変数の統計的有意性は、マン・ホイットニーU検定(Mann-Whitney U test)によって評価した。生存曲線は、カプラン・メイヤー法(Kaplan-Meier method)によって計算し、有意差は、ログ・ランクテストで計算した。統計的有意差は、危険率5%(p<0.05)にて評価した。解析には、マッキントッシュ用ソフトウエアのスタットビュー4.1(StatView 4.1)パッケージ(Abacus Concepts, Berkeley, CA)を用いた。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

【0034】
<試験結果>
1.肺線維症のマウスモデルにおける繊維形成因子の配列変異
ブレオマイシンによって誘導されたマウス慢性肺線維症モデルを用いて繊維化因子を経時的に評価したところ、慢性期には、主として成長因子(CTGF、PDGF)とTGFβ1誘導転写因子Smad3が増加し、繊維化サイトカイン(CCL2)と凝固活性化物質(トロンビン・アンチトロンビン複合体、組織因子)は、急性期に有意に増加することが分かった。これに対し、TGFβ1は両期に増加したことから、TGFβ1がより一般的なターゲットであることが示唆された(図7、A〜N)。
2.肺細胞へのsiRNAの到達
Cy3標識TGFβ1 siRNA を気管支内投与した後に、siRNAが肺に到達したか否かを評価した。気管支内投与から3時間後に、肺胞および肺間質に蛍光が観察された(図8、A〜H)。
【0035】
3.前繊維化因子に対するsiRNAの効果
肺線維症に対するsiRNA療法の有効性を確認するため、TGFβ1、CTGF、PDGF、CCL2及びTFに対するマウス特異的siRNAをデザインし、肺線維症における有効性を比較した(表1)。BLMの皮下投与開始から3日目(準急性期)、7日目(急性期)、及び14日目(慢性期)にエアロゾルによりsiRNAをそのまま投与した。各因子のタンパク質及びmRNA発現量は、コントロール群に比べて、対応するsiRNAを投与した群では、有意に減少した(図1A、図3A)。TGFβ1とCTGFに対しては、対応するsiRNAは、他の因子の場合よりも強いタンパク質の発現抑制効果が認められた(図1A、図93A,B)。このことから、これらの因子では、siRNAは、より強力にタンパク質の発現を抑制していると考えられる。組織学的及びアッシュクロフト・スコアを用いた定量化による肺繊維化と肺ハイドロプロリン量は、TGFβ1とCCL2 siRNA によって強く抑制されたものの、CTGF、PDGF及びTF siRNA では弱い抑制しか認められなかった(図1B,C)が、これらのsiRNAの多くは肺胞内の全タンパク量を減少させ、炎症性細胞による肺浸潤を抑制した(図9C、D)。次に、TGFβ1 siRNA に注目した試験を行った。これは、TGFβ1の肺での発現は、疾患の急性期及び慢性期のいずれでも維持されていたが、CCL2の肺における発現は、そうではなかったこと、及びCCL2 siRNA はBALFのCCL2タンパク質量を減少できなかったためである(図9C)。
【0036】
4.TGFβ1 siRNA の用量依存的な抑制効果
肺内にTGFβ1 siRNA を投与すると、0.5 mg/kg 及び 5 mg/kg の用量において用量依存的に、TGFβ1の発現と肺線維症の増悪を有意に効果を示した。TGFβ1の発現を有意に抑制するが、低用量のsiRNAでは、肺線維症を抑制しなかった(図2A,B,C)。混合siRNAはポジティブコントロール群に対して効果をしめさなかったことから、TGFβ1 siRNAが、特異的に効果を示すことが分かった。TGFβ1 mRNA がsiRNA によって抑制されることをインビボ(in vivo)試験において5'-RACE 法によって確認した(図2D)。
5.肺線維症の全ステージにおけるTGFβ1 siRNA の効果
急性期、慢性期、または両期において、TGFβ1 siRNA を投与すると、混合siRNAまたは基剤のみを投与したマウスに比べ、肺におけるTGFβ1の発現および肺線維症を有意に抑制した。更に、慢性期におけるsiRNAの単回投与だけでも、コントロールマウスに比べ、肺内のコラーゲン低下を有意に抑制した(図3A〜D)。
【0037】
6.ヒトと齧歯類に共通な塩基配列を持つsiRNA及びsiRNA/DNAキメラの抑制活性
ヒト、マウス、及び/又はラットのsiRNA標的配列(表2)によって、インビボ(in vivo)試験において、上皮から間葉への変化を効果的に抑制した(図10A,B)。また、ヒト及びマウスTGFβ1及びSmad3遺伝子をターゲットとするsiRNA/DNAキメラについても評価をした(表3)。TGFβ1 siRNA/DNAキメラは、ヒト(A549)および齧歯類(LA-4)細胞株のいずれにおいてもTGFβ1の発現を有意に阻害した(図4A,B)。TGFβ1 siRNA/DNAキメラを気管支内投与するとTGFβ1の発現を有意に誘導した(図4C)。TGFβ1及びSmad3 siRNA/DNAキメラは、混合siRNAまたは基剤のみを投与したマウスに比較すると、肺線維症を有意に阻害することが、アッシュクラフト・スコア及び肺内のコラーゲンとヒドロキシプロリンの評価によって確認された(図4D,E)。
【0038】
7.ヒトTGFβ1トランスジェニック(TG)マウスの作成
従来報告されているTGFβ1トランスジェニック(TG)マウスとは異なり、TGFβ1-BAC TGマウスは、全長のヒトTGFβ1遺伝子の発現量と、潜在型及び活性型TGFβ1タンパク質の濃度をいずれも上昇させ、ヒトの形態に近似していた。こうして、ヒトの状態に近いインビボ(in vivo)モデルとして肺線維症を研究するための良好なTGFβ1 TGマウスを確立した。このマウスは、BACを利用して、サーファクタント・タンパク質C(SP-C)のプロモータの下流にヒトTGFβ1を配置した作成されたものである(図5A〜D)(非特許文献5、6)。このTGマウスは、肺の発達段階においてTGFβ1の過剰発現による胚致死性のものではなかったが、10週齢において肺炎症と肺線維症が増悪する(図5E,F)(非特許文献7)。導入された遺伝子は肺のみで特異的に発現し(図5G)、全TGFβ1及び活性型TGFβ1濃度は肺液中で増加した(図5H)。
【0039】
8.ヒト特異的TGFβ1 siRNAは、自然発症性肺線維症を持つヒトTGFβ1 BAC TGマウスにおいて、放射性及び肺機能パラメータの評価によって、良好な結果を示す
インビトロ(in vitro)試験でヒト特異的siRNAの活性を評価した後、肺炎症/肺線維症を発症するヒトTGFβ1TGマウスを用いて、肺線維症に対するヒト特異的siRNAの効果を評価した(表4)。最も強いインヒビターは、siRNA13であり、0.01nMでも活性を示した(図11A〜D)。マイクロCTによって肺炎症/線維症が認められた10週齢ヒトTGFβ1-BAC TGマウスを用いて、siRNA13の阻害活性を評価した。ブラインドテストによってマウスをランダムに2群に分け、一方の群にはTGFβ1 siRNAを経気管支的に投与し(週1回×3週間)、他方の群には同様のプロトコールで基剤のみを投与した。最終投与から1週間後に動物を絶命させた。肺線維症の変化をCTと組織学的試験によって評価したところ、基剤のみを投与した群に比べ、TGFβ1 siRNA13 を投与した群では、有意に良好な結果が認められた(図6A〜C)。基剤を投与したTGマウスでは、野生型マウス(ネガティブコントロール)に比べて、有意に血中酸素濃度が低下した(図6D)。TGFβ1 siRNA13を投与したTGマウスでは、野生型マウスと同等の血中酸素濃度を維持していた(図6D)。
【0040】
9.ヒト特異型TGFβ1 siRNAは、BLM投与されたヒトTGFβ1-BAC TGマウスの生存曲線を向上させる
ヒトTGFβ1-BAC TGマウスは、10週齢から徐々に肺線維症を発症させ、16〜18週齢において死亡する。BLM(80 mg/kg mouse)を皮下投与すると、肺線維症を増悪させ、TGマウスを死亡させる。生存曲線に対する影響を評価するため、ヒトTGFβ1-BAC TGマウスをランダムに2群に分類し、一方の群には、BLM投与から0,3,7及び14日目にヒト特異的TGFβ1 siRNA(No.13)を経気管支投与し、他方の群には、同様のプロトコールで基剤のみを投与した。ヒト特異的TGFβ1 siRNAの肺への投与によって、TGマウスの生存曲線は有意に向上し、肺中のヒドロキシプロリン濃度及びコラーゲン量も好転した(図6,F,G,H)。
10.TGFβ1 siRNAのオフターゲット作用
TGFβ1 siRNAのオフターゲット作用を確認するため、通常マウスに対して、マウス特異的TGFβ1 siRNAを経気管支投与し、肺中のサイトカインの発現を測定した。通常マウスにTGFβ1 siRNAを経気管支投与したところ、IL-1β、IL-6、TNF-α、IFN-α、IFN-βの肺中濃度は、いずれも有意に増加せず、TGFβ1のBALF濃度は、コントロール群に比べ、TGFβ1 siRNAを投与した群では、有意に(完全にではないものの)阻害された(図12)。
【0041】
11.Smad3 siRNAのインビボ(in vivo)試験での抑制活性
Smad3を標的としたsiRNAを経気管支投与すると、肺内TGFβ1の発現と肺中コラーゲン沈澱量を僅かに抑制した(図13 A-D)。
12.TGFβ1 siRNAは、前繊維化miRNAを抑制する
異なるステージにおいてマウス特異的TGFβ1 siRNAを投与したマウス、及び異なるステージにおいてヒト特異的TGFβ1 siRNAを投与した hTGFβ1-BAC TGマウスを用いて、前繊維化miR-21 miRNAの発現パターンを評価した。野生型マウスにBLMを投与した肺線維症モデルマウスを用いた場合には、全てのステージにおいて、TGFβ1 siRNAは、前繊維化miR-21 miRNAの肺での発現を抑制し(図14A、B)、hTGFβ1 siRNA 13は、hTGFβ1-BAC TGマウスの前繊維化miR-21 miRNAの肺での発現を抑制した(図15A、B:GEO data base accession No GSE28122)。
このように本願実施形態によれば、肺特異的にTGFβ1を発現し、自然発症的に肺線維症を発症するTGマウスを提供できた。このTGマウスを用いることにより、呼吸器関連疾患(肺線維症、気管支喘息、肺ガン、COPDなどを含む)に関する研究を飛躍的に発展させられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マウス・サーファクタント・プロテインC(SP-C)のプロモーター領域と、その下流に配置されて発現を制御されるヒト形質転換因子β1(hTGFβ1)の全遺伝子領域とを含むことを特徴とするトランスジェニックマウス。
【請求項2】
前記トランスジェニックマウスは、生後10週齢から自然的に肺線維症を発症し、生後16週〜18週から死亡し始めることを特徴とする請求項1に記載のトランスジェニックマウス。
【請求項3】
上記トランスジェニックマウスの系統は、C57BL/6Jであることを特徴とする請求項1または2に記載のトランスジェニックマウス。
【請求項4】
(1)ヒトTGFβ1遺伝子を含むBACにおいて、ヒトTGFβ1遺伝子のイントロン部分に選択用カセットを組み込み、選択用遺伝子導入ヒトTGFβ1遺伝子を得る選択用遺伝子組換え工程、(2)前記選択用遺伝子導入ヒトTGFβ1遺伝子の5'-側及び3'-側に、マウスSP-Cプロモータの下流の配列に相同的な配列を導入して、修飾hTGFβ1遺伝子フラグメントとする修飾工程、(3) 5'-側及び3'-側にフランキング配列を有するマウスSP-C全コード配列を含むBACにおいて、前記修飾hTGFβ1遺伝子フラグメントを、前記マウスSP-Cプロモータ領域の下流側に転移させて、SP-C・選択用hTGFβ1遺伝子フラグメントとする工程、(4)前記SP-C・選択用hTGFβ1遺伝子フラグメントから前記選択用カセットを取り除いて、SP-C-TGFβ1 BACトランスジェニック構築物を得る工程、及び(5)前記SP-C-TGFβ1 BACトランスジェニック構築物からSP-C-TGFβ1遺伝子を精製し、マウス胚にマイクロインジェクションして、トランスジェニックマウスを得る工程、を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のトランスジェニックマウスの作成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−94071(P2013−94071A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237166(P2011−237166)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【Fターム(参考)】