説明

ヒトTNFαに結合するヒト抗体

【課題】ヒト腫瘍壊死因子α(TNFα)活性を阻害する方法を提供する。
【解決手段】ヒトTNFαを抗体と、ヒトTNFα活性が阻害されるように接触させることを含む、ヒトTNFα活性を阻害する方法であって、ここに、この抗体はヒトTNFαから1×10-8M以下のKd及び1×10-3-1以下のKoff速度定数で解離する単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分であり、この両者は表面プラズモン共鳴により測定されたものであり、且つ該抗体はヒトTNFαの細胞障害性を、標準イン・ビトロL929アッセイで1×10-7M以下のIC50で中和する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
腫瘍壊死因子α(TNFα)は、単球及びマクロファージを含む多くの型の細胞により産生されるサイトカインであり、それは、元々、ある種のマウスの腫瘍の壊死を誘導するその能力に基づいて同定されたものである。(例えば、非特許文献1参照)。その後、悪液質と関連するカケクチンと呼ばれる因子が、TNFαと同一分子であることが示された。TNFαは、ショックの媒介に関与してきた(例えば、非特許文献2、非特許文献3参照)。その上、TNFαは、敗血症、感染症、自己免疫疾患、移植片拒絶及び移植片対宿主病を含む様々な他のヒトの病気及び障害の病態生理学に関係してきた(例えば、非特許文献4、特許文献1、特許文献2、非特許文献5、非特許文献6参照)。
【0002】
種々のヒトの病気におけるヒトTNFα(hTNFα)の有害な役割の故に、治療ストラテジーは、hTNFαを阻害し又は打ち消すようにデザインされてきた。特に、hTNFαに結合する(そして中和する)抗体が、hTNFα活性を阻害する手段として探究されてきた。最も初期のかかる抗体の幾つかは、hTNFαで免疫されたマウスのリンパ球から調製されたハイブリドーマにより分泌されるマウスモノクローナル抗体(mAb)であった(例えば、非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9、非特許文献10、非特許文献4、特許文献1、特許文献3、特許文献4、特許文献2参照)。これらのマウスの抗hTNFα抗体は、しばしば、hTNFαに対する高い親和性(例えば、Kd≦10-9M)を示し且つhTNFα活性を中和することができたが、それらのイン・ビボでの利用は、マウス抗体のヒトへの投与に関係した問題例えば短い血清の半減期、ある種のヒトのエフェクター機能の引き金を引くことができないこと及びヒトにおけるマウス抗体に対する望ましくない免疫応答(「ヒト抗マウス抗体」(HAMA)反応)の誘出により制限され得る。
【0003】
ヒトにおける完全にマウスの抗体の使用に関係する問題を克服する試みにおいて、マウス抗hTNFα抗体は、遺伝子工学的に一層「ヒト様」にされてきた。例えば、抗体鎖の可変領域がマウス由来で且つ定常領域がヒト由来であるキメラ抗体が製造されてきた(非特許文献11、特許文献5)。更に、抗体の可変領域の超可変ドメインはマウス由来であるが、可変領域の残りと抗体の定常領域がヒト由来であるヒト化抗体も製造されてきた(特許文献6)。しかしながら、これらのキメラ抗体及びヒト化抗体は、未だ幾らかのマウス配列を保持しているので、それらは、やはり望ましくない免疫反応、ヒトの抗キメラ抗体(HACA)反応を、特に、例えばリウマチ様関節炎等の慢性適応症のために長期間投与した場合に誘出し得る(例えば、非特許文献12、非特許文献13参照)。
【0004】
マウスのmAb又はその誘導体(例えば、キメラ又はヒト化抗体)より好適なhTNFα阻害剤は、完全にヒトの抗hTNFα抗体であろう。何故なら、かかる剤は、たとえ長期間使用しても、HAMA反応を誘出しないからである。hTNFαに対するヒトモノクローナル抗体は、ヒトハイブリドーマ技術を用いて製造されてきた(非特許文献14、非特許文献15、特許文献7)。しかしながら、これらのハイブリドーマ由来のモノクローナル自己抗体は、慣用の方法で計算するには低過ぎるhTNFαに対する親和性を有し、可溶性のhTNFαに結合することができず、且つhTNFαにより誘導される細胞障害作用を中和することができなかった(Boyle,等;前出、参照)。その上、ヒトハイブリドーマ技術の成功は、ヒトの末梢血液中の、hTNFαに特異的な自己抗体を産生するリンパ球の自然の存在に依存している。ある研究では、hTNFαに対する血清自己抗体がヒト患者で検出された(非特許文献16、非特許文献17)が、他の研究では、検出されていない(非特許文献18)。
【0005】
天然のヒトの抗hTNFα抗体の代替物は、組換えhTNFα抗体であろう。hTNFαに比較的低い親和性(即ち、Kd〜10-7M)及び速い解離速度(即ち、Koff〜10-2-1)で結合する組換えヒト抗体は、記載されている(非特許文献19)。しかしながら、それらの比較的速い解離動力学の故に、これらの抗体は、治療用途に適していない。更に、組換えのヒトの抗hTNFαは、hTNFα活性を中和せず、むしろhTNFαの細胞表面への結合を促進してhTNFαの内在化を促進すると記載されてきた(非特許文献20、特許文献8)。
【0006】
従って、可溶性hTNFαと高い親和性及び遅い解離動力学で結合し、hTNFα誘導された細胞障害性(イン・ビトロ及びイン・ビボ)及びhTNFα誘導された細胞活性を含むhTNFα活性を中和する能力を有するヒト抗体例えば組換えヒト抗体がやはり必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】Moeller等の米国特許第5,231,024号
【特許文献2】Moeller,A.等による欧州特許出願第260610B1号
【特許文献3】Wallach,D.による欧州特許公開第186833B1号
【特許文献4】Old等による欧州特許出願公開第218868A1号
【特許文献5】Dassona,P.E.等によるPCT公開No.WO92/16553
【特許文献6】Adair,J.R.等によるPCT公開No.WO92/11383
【特許文献7】Boyle,等による欧州特許出願公開第614984A2号
【特許文献8】Aston,R.等によるPCT公開No.WO92/03145
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Old,L.(1985)Science230:630-632
【非特許文献2】Beutler,B.及びCerami,A.(1988)Annu.Rev.Biochem.57:505-518
【非特許文献3】Beutler,B.及びCerami,A.(1989)Annu.Rev.Immunol.7:625-655
【非特許文献4】Moeller,A.等(1990)Cytokine 2:162-169
【非特許文献5】Vasilli,P.(1992)Annu.Rev.Immunol.10:411-452
【非特許文献6】Tracey,K.J.及びCerami,A.(1994)Annu.Rev.Med.45:491-503
【非特許文献7】Hahn T;等(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA82:3814-3818
【非特許文献8】Liang,C-M.,等(1986)Biochem.Biophys.Res.Commun.137:847-854
【非特許文献9】Hirai,M.,等(1987)J.Immunol.Methods 96:57-62
【非特許文献10】Fendly,B.M.,等(1987)Hybridoma 6:359-370
【非特許文献11】Knight,D.M.等(1993)Mol.Immunol.30:1443-1453
【非特許文献12】Elliott,M.J.,等(1994)Lancet 344:1125-1127
【非特許文献13】Elliot,M.J.,等(1994)Lancet 344:1105-1110
【非特許文献14】Boyle,P.,等(1993)Cell.Immunol.152:556-568
【非特許文献15】Boyle,P.,等(1993)Cell.Immunol.152:569-581
【非特許文献16】Fomsgaard,A.,等(1989)Scand.J.Immunol.30:219-223
【非特許文献17】Bendtzen,K.,等(1990)Prog.Leukocyte Biol.10B:447-452
【非特許文献18】Leusch,H-G.,等(1991)J.Immunol.Methods139:145-147
【非特許文献19】Griffiths,A.D.,等(1993)EMBO J.12:725-734
【非特許文献20】Lidbury,A.,等(1994)Biotechnol.Ther.5:27-45
【発明の概要】
【0009】
発明の要約
この発明は、ヒトTNFαに特異的に結合するヒト抗体好ましくは組換えヒト抗体を提供する。この発明の抗体は、hTNFαへの高い親和性及び遅い解離動力学での結合により及び、hTNFα誘導された細胞障害性(イン・ビトロ及びイン・ビボ)及びhTNFα誘導された細胞活性化を含むhTNFα活性を中和することにより特徴付けられる。この発明の抗体は、更に、hTNFαには結合するがhTNFβ(リンホトキシン)には結合しないこと及びヒトTNFαに加えて他の霊長類のTNFα及び非霊長類TNFαに結合する能力を有することにより特徴付けられる。
【0010】
この発明の抗体は、完全長であってもよいし(例えば、IgG1又はIgG4抗体)又は抗原結合部分のみを含んでもよい(例えば、Fab、F(ab')2又はscFv断片)。D2E7と呼ばれるこの発明の最も好適な組換え抗体は、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3ドメイン及びSEQ ID NO:4のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3ドメインを有する。好ましくは、D2E7抗体は、SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)及びSEQ ID NO:2のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)を有する。
【0011】
一具体例において、この発明は、1×10-8M以下のKd及び1×10-3-1以下のKoff速度定数でヒトTNFαから解離し(これら両定数は、表面プラズモン共鳴により測定する)、1×10-7M以下のIC50の標準的イン・ビトロL929アッセイにおけるヒトTNFα細胞障害性を中和する単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分を提供する。一層好ましくは、単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分は、5×10-4-1以下のKoffで、尚一層好ましくは、1×10-4-1以下のKoffでヒトTNFαから解離する。一層好ましくは、単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分は、1×10-8M以下のIC50、尚一層好ましくは、1×10-9M以下のIC50、更に一層好ましくは、5×10-10M以下のIC50の標準的イン・ビトロL929アッセイにおけるヒトTNFα細胞障害性を中和する。
【0012】
他の具体例において、この発明は、下記の特徴を有するヒト抗体又はその抗原結合部分を提供する:
a)表面プラズモン共鳴により測定して、1×10-3-1以下のKoffでヒトTNFαから解離する;
b)SEQ ID NO:3のアミノ酸配列又は位置1、4、5、7若しくは8の単一のアラニン置換により又は位置1、3、4、6、7、8及び/若しくは9の1〜5の保存的アミノ酸置換によりSEQ ID NO:3から改変されたアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3ドメインを有する;
c)SEQ ID NO:4のアミノ酸配列又は位置2、3、4、5、6、8、9、10若しくは11の単一のアラニン置換により又は位置2、3、4、5、6、8、9、10、11及び/若しくは12の1〜5の保存的アミノ酸置換によりSEQ ID NO:4から改変されたアミノ酸配列を含む重鎖CDR3ドメインを有する。
【0013】
一層好ましくは、抗体又はその抗原結合部分は、5×10-4-1以下のKoffでヒトTNFαから解離する。更に一層好ましくは、この抗体又はその抗原結合部分は、1×10-4-1以下のKoffでヒトTNFαから解離する。
【0014】
更に別の具体例において、この発明は、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列又は位置1、4、5、7若しくは8の単一アラニン置換によりSEQ ID NO:3から改変されたアミノ酸配列を含むCDR3ドメインを有するLCVR及びSEQ ID NO:4のアミノ酸配列又は位置2、3、4、5、6、8、9、10若しくは11の単一アラニン置換によりSEQ ID NO:4から改変されたアミノ酸配列を含むCDR3ドメインを有するHCVRを有するヒト抗体又はその抗原結合部分を提供する。一層好ましくは、LCVRは、更に、SEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含むCDR2ドメインを有し且つHCVRは、更に、SEQ ID NO:6のアミノ酸配列を含むCDR2ドメインを有する。更に一層好ましくは、LCVRは、更に、SEQ ID NO:7のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを有し且つHCVRは、SEQ ID NO:8のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを有する。
【0015】
更に別の具体例において、この発明は、SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含むLCVR及びSEQ ID NO:2のアミノ酸配列を含むHCVRを有する単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分を提供する。ある具体例において、この抗体は、IgG1重鎖定常領域又はIgG4重鎖定常領域を有する。更に別の具体例において、この抗体は、Fab断片、F(ab')2断片又は単一鎖のFv断片である。
【0016】
更に別の具体例において、この発明は、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:11、SEQID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:15、SEQ ID NO:16、SEQ ID NO:17、SEQ ID NO:18、SEQ ID NO:19、SEQ ID NO:20、SEQID NO:21、SEQ ID NO:22、SEQ ID NO:23、SEQ ID NO:24、SEQ ID NO:25、SEQ ID NO:26よりなる群から選択するアミノ酸配列を含むCDR3ドメインを有するLCVR又はSEQ ID NO:4、SEQ ID NO:27、SEQ ID NO:28、SEQID NO:29、SEQ ID NO:30、SEQ ID NO:31、SEQ ID NO:32、SEQ ID NO:33、SEQ ID NO:34及びSEQ ID NO:35よりなる群から選択するアミノ酸配列を含むCDR3ドメインを有するHCVRを有する抗体又はその抗原結合部分を提供する。
【0017】
更に別の具体例において、この発明は、ヒトTNFαの活性を中和するがヒトTNFβ(リンホトキシン)の活性を中和しない単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分を提供する。好適具体例において、ヒト抗体又はその抗原結合部分は、ヒトTNFα、チンパンジーTNFα及び、ヒヒTNFα、キヌザルTNFα、カニクイザルTNFα及びアカゲザルTNFαよりなる群から選択する少なくとも一種の霊長類TNFαの活性を中和する。好ましくは、この抗体は又、少なくとも一種の非霊長類TNFαの活性をも中和する。例えば、一つのサブ具体例において、単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分は又、イヌTNFαの活性をも中和する。他のサブ具体例において、単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分は又、ブタTNFαの活性をも中和する。更に別のサブ具体例においては、単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分は又、マウスTNFαの活性をも中和する。
【0018】
この発明の他の面は、この発明の抗体又は抗原結合部分をコードする核酸分子に関係する。D2E7LCVRをコードするこの発明の好適な核酸は、図7及びSEQ ID NO:36に示したヌクレオチド配列を有する。D2E7HCVRをコードするこの発明の他の好適な核酸は、図8及びSEQ ID NO:37に示したヌクレオチド配列を有する。この発明の抗体をコードする核酸を有する組換え発現ベクター及びかかるベクターが導入された宿主細胞も又、この発明に包含され、それは、この発明の宿主細胞を培養することによるこの発明の抗体の製造方法である。
【0019】
この発明の更に別の面は、この発明の抗体又はその抗原結合部分を用いてヒトTNFα活性を阻害する方法に関係する。一具体例において、この方法は、ヒトTNFαをこの発明の抗体又はその抗原結合部分と、ヒトTNFα活性が阻害されるように接触させることを含む。他の具体例において、この方法は、この発明の抗体又はその抗原結合部分を、TNFα活性が有害な病気を患っているヒト患者に、そのヒト患者におけるヒトTNFα活性が阻害されるように投与することを含む。この病気は、例えば、敗血症、自己免疫疾患(例えば、リウマチ様関節炎、アレルギー、多発性硬化症、自己免疫性糖尿病、自己免疫性ブドウ膜炎及びネフローゼ症候群)、感染性疾患、悪性疾患、移植の拒絶又は移植片宿主病、肺病、骨の病気、腸疾患又は心臓病であってよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1A】D2E7の軽鎖可変領域のアミノ酸配列(D2E7VL;SEQ ID NO:1にも示されている)、D2E7VLのアラニンスキャン変異物(LD2E7*.A1、LD2E7*.A3、LD2E7*.A4、LD2E7*.A5、LD2E7*.A7及びLD2E7*.A8)、D2E7関連抗体2SD4の軽鎖可変領域(2SD4VL;SEQ ID NO:9にも示されている)及び他のD2E7関連軽鎖可変領域(EPB12、VL10E4、VL100A9、VL100D2、VL10F4、LOE5、VLLOF9、VLL0F10、VLLOG7、VLLOG9、VLLOH1、VLLOH10、VL1B7、VL1C1、VL1C7、VL0.1F4、VL0.1H8、LOE7、LOE7.A及びLOE7.T)のアミノ酸配列を示す図である。図1Aは、FR1、CDR1、FR2及びCDR2ドメインを示す。軽鎖のCDR1(「CDRL1」)、CDR2(「CDRL2」)及びCDR3(「CDRL3」)ドメインを、四角で囲んである。
【図1B】D2E7の軽鎖可変領域のアミノ酸配列(D2E7VL;SEQ ID NO:1にも示されている)、D2E7VLのアラニンスキャン変異物(LD2E7*.A1、LD2E7*.A3、LD2E7*.A4、LD2E7*.A5、LD2E7*.A7及びLD2E7*.A8)、D2E7関連抗体2SD4の軽鎖可変領域(2SD4VL;SEQ ID NO:9にも示されている)及び他のD2E7関連軽鎖可変領域(EPB12、VL10E4、VL100A9、VL100D2、VL10F4、LOE5、VLLOF9、VLL0F10、VLLOG7、VLLOG9、VLLOH1、VLLOH10、VL1B7、VL1C1、VL1C7、VL0.1F4、VL0.1H8、LOE7、LOE7.A及びLOE7.T)のアミノ酸配列を示す図である。図1Bは、FR3、CDR3及びFR4ドメインを示す。軽鎖のCDR1(「CDRL1」)、CDR2(「CDRL2」)及びCDR3(「CDRL3」)ドメインを、四角で囲んである。
【図2A】D2E7の重鎖可変領域(D2E7VH;SEQ ID NO:2にも示されている)、D2E7VHのアラニンスキャン変異物(HD2E7*.A1、HD2E7*.A2、HD2E7*.A3、HD2E7*.A4、HD2E7*.A5、HD2E7*.A6、HD2E7*.A7、HD2E7*.A8及びHD2E7*.A9)、D2E7関連抗体2SD4の重鎖可変領域(2SD4VH;SEQ ID NO:10にも示されている)及び他のD2E7関連重鎖可変領域(VH1B11、VH1D8、VH1A11、VH1B12、VH1−D2、VH1E4、VH1F6、VH1G1、3C−H2、VH1−D2.N及びVH1−D2.Y)のアミノ酸配列を示す図である。図2Aは、FR1、CDR1、FR2及びCDR2ドメインを示す。重鎖のCDR1(「CDRH1」)、CDR2(「CDRH2」)及びCDR3(「CDRH3」)を四角で囲んである。
【図2B】D2E7の重鎖可変領域(D2E7VH;SEQ ID NO:2にも示されている)、D2E7VHのアラニンスキャン変異物(HD2E7*.A1、HD2E7*.A2、HD2E7*.A3、HD2E7*.A4、HD2E7*.A5、HD2E7*.A6、HD2E7*.A7、HD2E7*.A8及びHD2E7*.A9)、D2E7関連抗体2SD4の重鎖可変領域(2SD4VH;SEQ ID NO:10にも示されている)及び他のD2E7関連重鎖可変領域(VH1B11、VH1D8、VH1A11、VH1B12、VH1−D2、VH1E4、VH1F6、VH1G1、3C−H2、VH1−D2.N及びVH1−D2.Y)のアミノ酸配列を示す図である。図2Bは、FR3、CDR3及びFR4ドメインを示す。重鎖のCDR1(「CDRH1」)、CDR2(「CDRH2」)及びCDR3(「CDRH3」)を四角で囲んである。
【図3】TNFα誘導されたL929細胞障害性の、ヒトの抗hTNFα抗体D2E7による阻害を、マウスの抗hTNFα抗体MAK195と比較して描いたグラフである。
【図4】U−937細胞上のhTNFαレセプターへのrhTNFαの結合の、ヒトの抗hTNFα抗体D2E7による阻害を、マウスの抗hTNFα抗体MAK195と比較して描いたグラフである。
【図5】TNFα誘導されたELAM−1のHUVECにおける発現の、ヒト抗hTNFα抗体D2E7による阻害を、マウスの抗hTNFα抗体MAK195と比較して描いたグラフである。
【図6】ヒト抗hTNFα抗体D2E7(黒い棒)の投与による、D−ガラクトサミン感作されたマウスにおけるTNFα誘導される致死性からの防護を、マウスの抗hTNFα抗体MAK195(斜線を引いた棒)と比較して描いた棒グラフである。
【図7】D2E7の軽鎖可変領域のヌクレオチド配列を、ヌクレオチド配列の下に予想されるアミノ酸配列と共に示す図である。CDRL1、CDRL2及びCDRL3領域に下線を引いてある。
【図8】D2E7の重鎖可変領域のヌクレオチド配列を、ヌクレオチド配列の下に予想されるアミノ酸配列と共に示す図である。CDRH1、CDRH2及びCDRH3領域に下線を引いてある。
【図9】多発性関節炎モデルとしてのTg197トランスジェニックマウスの平均関節サイズに対するに対するD2E7抗体処理の効果を描いたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
発明の詳細な説明
この発明は、TNFαに、高い親和性、低い解離速度及び高い中和能力をもって結合する単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分に関係する。この発明の種々の面は、抗体及び抗体断片、及びそれらの製薬組成物、並びに、かかる抗体及び断片を製造するための核酸、組換え発現ベクター及び宿主細胞に関係する。ヒトTNFαを検出し又はヒトTNFα活性を阻害するためのこの発明の抗体の利用方法(イン・ビトロ又はイン・ビボ)も又、この発明に包含される。
【0022】
本発明が一層容易に理解され得るように、若干の用語を先ず定義する。用語「ヒトTNFα」(ここでは、hTNFα又は単にhTNFと略記する)は、ここでは、17kDの分泌型及び26kDの膜結合型として存在し、生物学的に活性な型が非共有結合により結合された17kD分子の3量体よりなるヒトのサイトカインをいうことを意図している。hTNFαの構造は、例えば、Pennica,D.,等(1984)Nature 312:724-729;Davis,J.M.,等(1987)Biochemistry 26:1322-1326;及びJones,E.Y.,等(1989)Nature 338:225-228に、更に説明されている。用語ヒトTNFαは、標準的組換え発現方法により製造され得る又は市販の組換えヒトTNFα(rhTNFα)(ミネソタ、Minneapolis在、R&D Systems,カタログ番号210-TA)を包含することを意図している。
【0023】
用語「抗体」は、ここで用いる場合、ジスルフィド結合により相互に結合された4つのポリペプチド鎖{2つの重(L)鎖及び2つの軽(L)鎖}よりなる免疫グロブリン分子をいうことを意図している。各重鎖は、重鎖可変領域(HCVR又はVHと略す)及び重鎖定常領域よりなる。この重鎖定常領域は、3つのドメインCH1、CH2及びCH3よりなる。各軽鎖は、軽鎖可変領域(LCVR又はVLと略す)及び軽鎖定常領域よりなる。軽鎖定常領域は、1つのドメインCLよりなる。VH及びVL領域は、更に、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる一層保存されている領域に散在する相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域に細分割され得る。各VH及びVLは、3つのCDRと4つのFRよりなり、これらは、アミノ末端からカルボキシ末端まで次の順序で配置されている:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。
【0024】
用語抗体の「抗原結合部分」(又は単に「抗体部分」)は、ここで用いる場合、抗原(例えば、hTNFα)に特異的に結合する能力を保持する抗体の1つ以上の断片をいう。抗体の抗原結合機能は、完全長抗体の断片により遂行され得ることが示されている。用語抗体の「抗原結合部分」に包含される結合性断片の例には、(i)Fab断片、VL、VH、CL及びCH1ドメインよりなる一価断片;(ii)F(ab')2断片、ヒンジ領域でジスルフィド橋により架橋された2つのFab断片よりなる二価断片;(iii)VH及びCH1ドメインよりなるFd断片;(iv)抗体の一本のアームのVL及びVHドメインよりなるFv断片、(v)VHドメインよりなるdAb断片(Ward等(1989)Nature 341:544-546);及び(vi)単離された相補性決定領域(CDR)が含まれる。更に、Fv断片の2つのドメイン、VL及びVHは別個の遺伝子によりコードされているにもかかわらず、組換え技術を用いて、それらを単一の蛋白質鎖(VL及びVH領域が対をなして一価分子を形成する)として作ることのできる合成リンカーにより、それらを連結することができる(一本鎖Fv(scFv)として公知;例えば、Bird等(1988)Science 242:423-426;及びHuston等(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883参照)。かかる一本鎖抗体も又、用語抗体の「抗原結合部分」に包含されることを意図している。他の形態の一本鎖抗体例えばディアボディー(diabody)も包含される。ディアボディーは、VH及びVLドメインが単一ポリペプチド鎖上で発現され(同じ鎖上の2つのドメイン間での対形成を与えるには短過ぎるリンカーは用いない)、それにより、これらのドメインを他の鎖の相補性ドメインと対にさせて2抗原結合部位を造る二価の二特異性抗体である(例えば、Holliger,P.,等(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444-6448;Poljak,R.J.,等(1994)Structure 2:1121-1123参照)。
【0025】
尚、更に、抗体又はその抗原結合部分は、抗体又は抗体の部分の他の1つ以上の蛋白質又はペプチドとの共有又は非共有結合により形成される一層大きい免疫接着分子の部分であってよい。かかる免疫接着分子の例には、二価のビオチン化scFv分子を造るための4量体のscFv分子を造るストレプトアビジンコア領域の利用(Kipriyanov,S.M.,等(1995)Human Antibodies and Hybridomas 6:93-101)及びシステイン残基、マーカーペプチド及びC末端ポリヒスチジンタグの利用(Kipriyanov,S.M.,等(1994)Mol.Immunol.31:1047-1058)が含まれる。Fab及びF(ab')2断片等の抗体部分は、慣用の技術例えば、それぞれ、全抗体のパパイン又はペプシン消化を用いて、全抗体から調製することができる。その上、抗体、抗体部分及び免疫接着分子を、ここに記載のように、標準的組換えDNA技術を用いて得ることができる。
【0026】
用語「ヒト抗体」は、ここで用いる場合、ヒトの生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来する可変及び定常領域を有する抗体を含むことを意図している。この発明のヒト抗体は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列によりコードされないアミノ酸残基(例えば、イン・ビトロでランダム若しくは位置指定突然変異誘発により又はイン・ビボで体細胞突然変異により誘導された突然変異)を、例えばCDR中に(特に、CDR3中に)含んでよい。しかしながら、用語「ヒト抗体」は、ここで用いる場合、他の哺乳動物種の生殖細胞系に由来するCDR配列がヒトのフレームワーク配列に移植された抗体を含むことを意図していない。
【0027】
用語「組換えヒト抗体」は、ここで用いる場合、組換え手段により調製され、発現され、造られ又は単離されたすべてのヒト抗体例えば宿主細胞内にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを用いて発現された抗体(下記の第II節で更に説明する)、組換え組合せヒト抗体ライブラリーから単離された抗体(下記の第III節で更に説明する)、ヒト免疫グロブリン遺伝子についてトランスジェニックである動物(例えば、マウス)から単離された抗体(例えば、Taylor,L.D.,等(1992)Nucl.Acids Res.20:6287-6295参照)又はヒト免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングを含む任意の他の手段により調製され、発現され、造られ又は単離された抗体を含むことを意図している。かかる組換えヒト抗体は、ヒト生殖細胞系の免疫グロブリン配列に由来する可変及び定常領域を有する。しかしながら、ある具体例においては、かかる組換えヒト抗体をイン・ビトロ突然変異誘発(又は、ヒトIg配列に関してトランスジェニックな動物を用いる場合には、イン・ビボ体細胞突然変異誘発)にかけ、従って、これらの組換え抗体のVH及びVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系VH及びVL配列に由来し関係するにもかかわらず、天然にはイン・ビボでヒト抗体生殖細胞系レパートリー内に存在し得ない配列である。
【0028】
「単離された抗体」は、ここで用いる場合、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体をいうことを意図している(例えば、hTNFαに特異的に結合する単離された抗体は、hTNFα以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含まない)。しかしながら、hTNFαに特異的に結合する単離された抗体は、他の抗原例えば他の種からのTNFα分子に対する交差反応性を有する(下記に、一層詳細に論じる)。その上、単離された抗体は、他の細胞性物質及び/又は化学物質を実質的に含まない。
【0029】
「中和抗体」は、ここで用いる場合(又は、「hTNFα活性を中和した抗体」)、そのhTNFαへの結合がhTNFαの生物学的活性の阻害を生じる抗体をいうことを意図している。このhTNFαの生物学的活性の阻害は、hTNFαの生物学的活性の一種以上の指標例えばhTNFα誘導された細胞障害性(イン・ビトロ又はイン・ビボ)、hTNFα誘導された細胞活性化及びhTNFαレセプターに対するhTNFαの結合を測定することにより評価することができる。これらのhTNFαの生物学的活性の指標は、当分野で公知の幾つかの標準的イン・ビトロ又はイン・ビボアッセイの1つ以上により評価することができる(実施例4参照)。好ましくは、hTNFα活性を中和する抗体の能力を、L929細胞のhTNFα誘導された細胞障害性の阻害により評価する。hTNFα活性の更なる又は別のパラメーターとして、HUVEC上でのELAM−1のhTNFα誘導された発現を阻止する抗体の能力を、hTNFα誘導された細胞活性化の尺度として、評価することができる。
【0030】
用語「表面プラズモン共鳴」は、ここで用いる場合、リアルタイムの生体特異的相互作用の分析を、バイオセンサーマトリックス内の蛋白質濃度の変化を例えばBIAコアシステム(スゥエーデン国、Uppsala及びニュージャージー、Piscataway在、Pharmacia Biosensor AB)を用いて検出することにより可能にする光学的現象をいう。更なる説明は、実施例1及びJonsson,U.,等(1993)Ann.Biol.Clin.51:19-26;Jonsson,U.,等(1991)Biotechniques 11:620-627;Johnsson,B.,等(1995)J.Mol.Recognit.8:125-131;及びJohnnson,B.,等(1991)Anal.Biochem.198:268-277を参照されたい。
【0031】
用語「Koff」は、ここで用いる場合、抗体/抗原複合体からの抗体の解離についての解離速度定数をいうことを意図している。
【0032】
用語「Kd」は、ここで用いる場合、特定の抗体−抗原相互作用の解離定数をいうことを意図している。
【0033】
用語「核酸分子」は、ここで用いる場合、DNA分子及びRNA分子を含むことを意図している。核酸分子は、一本鎖でも二本鎖でもよいが、好ましくは、二本鎖DNAである。
【0034】
用語「単離された核酸分子」は、hTNFαに結合する抗体又は抗体部分(例えば、VH、VL、CDR3)をコードする核酸に関してここで用いる場合、抗体又は抗体部分をコードするヌクレオチド配列がhTNFα以外の抗原と結合する抗体又は抗体部分をコードする他のヌクレオチド配列を含まない核酸分子をいうことを意図しており、この他の配列は、天然において、ヒトのゲノムDNA中でこの核酸と隣接していてよい。従って、例えば、抗TNFα抗体のVH領域をコードするこの発明の単離された核酸は、TNFα以外の抗原に結合する他のVH領域をコードする他の配列を含まない。
【0035】
用語「ベクター」は、ここで用いる場合、それに結合された他の核酸を輸送することのできる核酸分子をいうことを意図している。ベクターの1つの型は、「プラスミド」であり、それは、追加のDNAセグメントを連結することのできる環状二本鎖DNAループである。他の型のベクターは、ウイルスベクターであり、そこでは、追加のDNAセグメントをウイルスゲノム中に連結することができる。ある種のベクターは、それらが導入された宿主細胞中で自律的に複製することができる(例えば、細菌の複製オリジンを有する細菌ベクター及びエピソーム性の哺乳動物用ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム性哺乳動物用ベクター)は、宿主細胞中に導入した際に宿主細胞のゲノム中にインテグレートされ得て、それにより、宿主ゲノムと共に複製される。その上、ある種のベクターは、それらが機能的に結合された遺伝子の発現を指図することができる。かかるベクターは、ここでは、「組換え発現ベクター」(又は単に、「発現ベクター」)として言及する。一般に、組換えDNA技術において有用な発現ベクターは、しばしば、プラスミド型である。プラスミドは最も普通に用いられるベクターの型であるので、本願明細書においては、「プラスミド」及び「ベクター」を、交換可能に用いることができる。しかしながら、この発明は、同等の機能を果たすウイルスベクター(例えば、複製欠損のレトロウイルス、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルス)等の他の型の発現ベクターを包含することを意図している。
【0036】
用語「組換え宿主細胞」(又は単に「宿主細胞」)は、ここで用いる場合、組換え発現ベクターが導入された細胞をいうことを意図している。かかる用語が特定の主題の細胞のみならずかかる細胞の子孫をもいうことを意図していることは、理解されるべきである。突然変異又は環境の影響のために、ある種の変化が続く世代に生じ得るので、かかる子孫が、実際、親細胞と同一でないことはあり得るが、やはり、ここで用いる用語「宿主細胞」の範囲に含まれる。
【0037】
この発明の種々の面を、下記の小区分で更に詳細に説明する。
I.ヒトTNFαに結合するヒト抗体
この発明は、ヒトTNFαに高い親和性、低い解離速度及び高い中和能力で結合する、単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分を提供する。好ましくは、この発明のヒト抗体は、組換えの中和ヒト抗hTNFα抗体である。最も好適なこの発明の組換えの中和抗体は、ここでは、D2E7といい、図1A、1B及び図2A、2Bに、それぞれ示したVL及びVH配列を有する(D2E7VL領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:1にも示されており;D2E7VH領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:2にも示されている)。高い親和性及び遅い解離動力学を示すマウス抗hTNFαMAK195mAb及びD2E7、2SD4と配列において関連する他のヒト抗hTNFα抗体と比較したD2E7の結合特性を下記にまとめる:
【0038】
【表1】

【0039】
D2E7抗体及び関連抗体は又、幾つかのイン・ビトロ及びイン・ビボアッセイにより評価したとき、強力なhTNFα活性中和能力を示す(実施例4参照)。例えば、これらの抗体は、L929細胞のhTNFα誘導された細胞障害性を、約10-7〜10-10Mの範囲のIC50で中和する。D2E7は、完全長IgG1抗体として発現された場合、L929細胞のhTNFα誘導された細胞障害性を、約1.25×10-10MのIC50で中和する。その上、このD2E7の中和能力は、抗体がFab、F(ab')2又はscFv断片として発現されるときに維持される。D2E7は又、HUVEC上のhTNFα誘導されたELAM−1発現により測定したとき、TNFα誘導された細胞活性化をも阻害し(IC50=約1.85×10-10M)且つU−937細胞上のhTNFαレセプターへのhTNFαの結合をも阻害する(IC50=約1.56×10-10M)。後者に関して、D2E7は、p55及びp75hTNFαレセプターの両者へのhTNFαの結合を阻害する。更にその上、この抗体は、マウスにおいて、イン・ビボで、hTNFα誘導される致死性を阻害する(ED50=1〜2.5μg/マウス)。
【0040】
D2E7の結合特異性に関して、この抗体は、可溶性hTNFα、膜貫通型hTNFα及び細胞のレセプターに結合したhTNFαを含む種々の型のヒトTNFαに結合する。D2E7は、他のサイトカイン例えばリンホトキシン(TNFβ)、IL−1α、IL−1β、IL−2、IL−4、IL−6、IL−8、IFNγ及びTGFβには、特異的に結合しない。しかしながら、D2E7は、他の種に由来する腫瘍壊死因子に対する交差反応性を示す。例えば、この抗体は、少なくとも5種類の霊長類TNFα(チンパンジー、ヒヒ、キヌザル、カニクイザル及びアカゲザル)の活性を、hTNFαの中和とほぼ等しいIC50値で中和する(実施例4、小区分E参照)。D2E7は又、ヒトTNFαより約1000倍弱いが、マウスTNFαの活性をも中和する(実施例4、小区分E参照)。D2E7は又、イヌ及びブタのTNFαにも結合する。
【0041】
一面において、この発明は、D2E7抗体及び抗体部分、D2E7関連の抗体及び抗体部分、並びにD2E7と同等の特性例えばhTNFαに対して高い親和性と低い解離動力学で結合すること及び高い中和能力を有する他のヒトの抗体及び抗体部分に関係する。一具体例において、この発明は、ヒトTNFαから、1×10-8M以下のKd及び1×10-3-1以下のKoff速度定数(これら両者は、表面プラズモン共鳴により測定する)で解離し、且つ標準的なイン・ビトロL929アッセイにおけるヒトTNFα細胞障害性を1×10-7M以下のIC50で中和する、単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分を提供する。一層好ましくは、この単離された抗体又はその抗原結合部分は、ヒトTNFαから、5×10-4-1以下のKoffで、尚一層好ましくは、1×10-4-1以下のKoffで解離する。一層好ましくは、この単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分は、標準的なイン・ビトロのL929アッセイにおけるヒトTNFα細胞障害性を、1×10-8M以下のIC50で、更に一層好ましくは、1×10-9M以下のIC50で、そして尚一層好ましくは、5×10-10M以下のIC50で中和する。好適具体例において、この抗体は、単離されたヒト組換え抗体又はその抗原結合部分である。他の好適具体例において、この抗体は又、TNFα誘導された細胞活性化をも、ヒトの臍静脈内皮細胞(HUVEC)におけるTNFα誘導されたELAM−1発現についての標準的イン・ビトロアッセイを用いて評価したときに中和する。
【0042】
d及びKoffを測定するための表面プラズモン共鳴は、実施例1に記載のようにして行なうことができる。IC50値を測定するための標準的なイン・ビトロL929アッセイを、実施例4、小区分Aに記載する。ヒトの臍静脈内皮細胞(HUVEC)におけるTNFα誘導されたELAM−1発現についての標準的イン・ビトロアッセイを、実施例4、小区分Cに記載する。前記の動力学及び中和基準を満たすか又は満たすと予想される組換えヒト抗体の例には、下記の[VH/VL]対を有する抗体が含まれ、これらの配列を、図1A、1B、2A及び2Bに示す(動力学及び中和分析については、実施例2、3及び4も参照されたい):[D2E7VH/D2E7VL];[HD2E7*.A1/D2E7VL]、[HD2E7*.A2/D2E7VL]、[HD2E7*.A3/D2E7VL]、[HD2E7*.A4/D2E7VL]、[HD2E7*.A5/D2E7VL]、[HD2E7*.A6/D2E7VL]、[HD2E7*.A7/D2E7VL]、[HD2E7*.A8/D2E7VL]、[HD2E7*.A9/D2E7VL]、[D2E7VH/LD2E7*.A1]、[D2E7VH/LD2E7*.A4]、[D2E7VH/LD2E7*.A5]、[D2E7VH/LD2E7*.A7]、[D2E7VH/LD2E7*.A8]、[HD2E7*.A9/LD2E7*.A1]、[VH1−D2/LOE7]、[VH1−D2.N/LOE7.T]、[VH1−D2.Y/LOE7.A]、[VH1−D2.N/LOE7.A]、[VH1−D2/EPB12]及び[3C−H2/LOE7]。
【0043】
抗体の重鎖及び軽鎖のCDR3ドメインが抗原に対する抗体の結合特異性/親和性に重要な役割を演じていることは、当分野で周知である。従って、他の面において、この発明は、hTNFαとの会合に関する遅い解離動力学を有し且つD2E7のものと構造的に同じか又は関連した軽鎖及び重鎖CDR3ドメインを有するヒト抗体に関係する。実施例3で示すように、D2E7VLCDR3の位置9を、実質的にKoffに影響を与えずにAla又はThrで占めることができる。従って、D2E7VLCDR3のコンセンサスモチーフは、アミノ酸配列:Q−R−Y−N−R−A−P−Y−(T/A)(SEQ ID NO:3)を含む。更に、D2E7VHCDR3の位置12を、実質的にKoffに影響を与えずにTyr又はAsnで占めることができる。従って、D2E7VHCDR3のコンセンサスモチーフは、アミノ酸配列:V−S−Y−L−S−T−A−S−S−L−D−(Y/N)(SEQ ID NO:4)を含む。その上、実施例2に示すように、D2E7重鎖及び軽鎖のCDR3ドメインは、実質的にKoffに影響を与えずに、単一アラニン残基による置換を受けやすい(VLCDR3内の位置1、4、5、7若しくは8又はVHCDR3内の位置2、3、4、5、6、8、9、10若しくは11において)。尚更に、当業者は、アラニンによる置換に対するD2E7VL及びVHCDR3ドメインの従順性を仮定するならば、やはり、抗体の低い解離速度定数を保持したままでの、CDR3ドメイン内の他のアミノ酸の置換、特に保存的アミノ酸での置換が可能であろうことを認めるであろう。「保存的アミノ酸置換」は、ここで用いる場合、一のアミノ酸残基が類似の側鎖を有する他のアミノ酸残基により置換されるものである。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当分野で規定されており、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非帯電性極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β−分枝側鎖(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)及び芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が含まれる。好ましくは、1〜5以下の保存的アミノ酸置換を、D2E7VL及び/又はVHCDR3ドメイン内に作る。一層好ましくは、1〜3以下の保存的アミノ酸置換を、D2E7VL及び/又はVHCDR3ドメイン内に作る。更に、保存的アミノ酸置換は、hTNFαへの結合に決定的に重要なアミノ酸位置には作るべきでない。実施例3に示すように、D2E7VLCDR3の位置2及び5並びにD2E7VHCDR3の位置1及び7は、hTNFαとの相互作用に決定的に重要であるらしく、従って、保存的アミノ酸置換は、好ましくは、これらの位置には作らない(もっとも、D2E7VLCDR3の位置5におけるアラニン置換は、上記のように、許容される)。
【0044】
従って、他の具体例において、この発明は、下記の特性を有する単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分を提供する:
a)ヒトTNFαから、表面プラズモン共鳴で測定して、1×10-3-1以下のKoff速度定数で解離し;
b)SEQ ID NO:3のアミノ酸配列、又は位置1、4、5、7若しくは8における単一アラニン置換又は位置1、3、4、6、7、8及び/若しくは9における1〜5の保存的アミノ酸置換によりSEQ ID NO:3から改変されたアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3ドメインを有し;
c)SEQ ID NO:4のアミノ酸配列、又は位置2、3、4、5、6、8、9、10若しくは11における単一アラニン置換又は位置2、3、4、5、6、8、9、10、11及び/若しくは12における1〜5の保存的アミノ酸置換によりSEQ ID NO:4から改変されたアミノ酸配列を含む重鎖CDR3ドメインを有する。
【0045】
一層好ましくは、抗体又はその抗原結合部分は、5×10-4-1以下のKoffで、ヒトTNFαから解離する。尚一層好ましくは、抗体又はその抗原結合部分は、1×10-4-1以下のKoffでヒトTNFαから解離する。
【0046】
更に別の具体例において、この発明は、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列、又は位置1、4、5、7若しくは8における単一アラニン置換によりSEQ ID NO:3から改変されたアミノ酸配列を含むCDR3ドメインを有する軽鎖可変領域(LCVR)及びSEQ ID NO:4のアミノ酸配列、又は位置2、3、4、5、6、8、9、10若しくは11における単一アラニン置換によりSEQ ID NO:4から改変されたアミノ酸配列を含むCDR3ドメインを有する重鎖可変領域(HCVR)を有する単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分を提供する。好ましくは、LCVRは、更に、SEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン(即ち、D2E7VLCDR2)を有し且つHCVRは、更に、SEQ ID NO:6のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン(即ち、D2E7VHCDR2)を有する。尚一層好ましくは、LCVRは、更に、SEQ ID NO:7のアミノ酸配列を含むCDR1ドメイン(即ち、D2E7VLCDR1)を有し且つHCVRは、SEQ ID NO:8のアミノ酸配列を含むCDR1ドメイン(即ち、D2E7VHCDR1)を有する。VLのフレームワーク領域は、好ましくは、VK Iヒト生殖細胞系のファミリーに由来し、一層好ましくは、A20ヒト生殖細胞系のVk遺伝子に由来し、最も好ましくは、図1A及び1Bに示したD2E7VLフレームワーク配列に由来する。これらのVHのフレームワーク領域は、好ましくは、VH3ヒト生殖細胞系のファミリーに由来し、一層好ましくは、DP−31ヒト生殖細胞系のVH遺伝子に由来し、最も好ましくは、図2A及び2Bに示したD2E7VHフレームワーク配列に由来する。
【0047】
更に別の具体例において、この発明は、SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)(即ち、D2E7VL)及びSEQ ID NO:2のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)(即ち、D2E7VH)を有する単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分を提供する。ある具体例において、この抗体は、重鎖定常領域例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、IgE、IgM又はIgD定常領域を含む。好ましくは、この重鎖定常領域は、IgG1重鎖定常領域又はIgG4重鎖定常領域である。更に、この抗体は、軽鎖定常領域、カッパー軽鎖定常領域又はラムダ軽鎖定常領域を含むことができる。好ましくは、この抗体は、カッパー軽鎖定常領域を含む。或は、この抗体部分は、例えば、Fab断片又は一本鎖Fv断片であってよい。
【0048】
更に別の具体例において、この発明は、D2E7関連VL及びVHCDR3ドメインを有する単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分、例えば、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、SEQID NO:15、SEQ ID NO:16、SEQ ID NO:17、SEQ ID NO:18、SEQ ID NO:19、SEQ ID NO:20、SEQ ID NO:21、SEQ ID NO:22、SEQ ID NO:23、SEQID NO:24、SEQ ID NO:25及びSEQ ID NO:26よりなる群から選択するアミノ酸配列を含むCDR3ドメインを有する軽鎖可変領域(LCVR)を有するか又はSEQ ID NO:4、SEQ ID NO:27、SEQ ID NO:28、SEQ ID NO:29、SEQ ID NO:30、SEQ ID NO:31、SEQ ID NO:32、SEQ ID NO:33、SEQ ID NO:34及びSEQ ID NO:35よりなる群から選択するアミノ酸配列を含むCDR3ドメインを有する重鎖可変領域(HCVR)を有する抗体又はその抗原結合部分を提供する。
【0049】
更に別の具体例において、この発明は、ヒトTNFαの活性を中和するが、ヒトTNFβの活性は中和しない組換えヒト抗体又はその抗原結合部分を提供する。好ましくは、抗体又はその抗原結合部分は又、チンパンジーのTNFα及びヒヒTNFα、キヌザルTNFα、カニクイザルTNFα及びアカゲザルTNFαよりなる群から選択する少なくとも一つの更なる霊長類TNFαの活性をも中和する。好ましくは、この抗体又はその抗原結合部分は、ヒト、チンパンジー及び/又は更なる霊長類のTNFαを、標準的イン・ビトロL929アッセイにおいて、1×10-8M以下の、一層好ましくは1×10-9M以下の、尚一層好ましくは5×10-10M以下のIC50で中和する。一つのサブ具体例において、この抗体は又、イヌTNFαの活性をも、好ましくは、標準的イン・ビトロL929アッセイにおいて、1×10-7M以下の、一層好ましくは1×10-8M以下の、尚一層好ましくは5×10-9M以下のIC50で中和する。他のサブ具体例において、この抗体は又、ブタTNFαの活性をも、好ましくは、1×10-5M以下の、一層好ましくは1×10-6M以下の、尚一層好ましくは5×10-7M以下のIC50で中和する。更に別の具体例において、この抗体は又、マウスTNFαの活性をも、好ましくは、1×10-4M以下の、一層好ましくは1×10-5M以下の、尚一層好ましくは5×10-6M以下のIC50で中和する。
【0050】
この発明の抗体又は抗体部分は、誘導体化したり、他の機能的分子(例えば、他のペプチド又は蛋白質)に結合することができる。従って、この発明の抗体及び抗体部分は、免疫接着分子を含むここに記載のヒト抗hTNFα抗体の誘導体化され或は改変された形態を含むことを意図している。例えば、この発明の抗体又は抗体部分は、1つ以上の他の分子実体例えば他の抗体(例えば、2特異性抗体又はディアボディー)、検出可能な薬剤、細胞毒性剤、医薬、及び/又は抗体若しくは抗体部分と他の分子(例えば、ストレプトアビジンコア領域又はポリヒスチジンタグ)との会合を媒介することのできる蛋白質若しくはペプチドと(化学的カップリング、遺伝子融合、非共有結合性の会合、その他により)機能的に結合することができる。
【0051】
一つの型の誘導体化抗体は、(同じ型の、又は例えば2特異性抗体を造るには異なる型の)2つ以上の抗体の架橋により生成される。適当な架橋剤には、適当なスペーサーにより分離された2つの異なる反応性の基を有するヘテロ二官能性のもの(例えば、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル)又はホモ二官能性のもの(例えば、ジスクシンイミジルスベレート)が含まれる。かかるリンカーは、イリノイ州、Rockford在、Pierce Chemical Companyより入手することができる。
【0052】
この発明の抗体又は抗体部分を誘導体化することのできる有用な検出可能な薬剤には、蛍光性化合物が含まれる。典型的な蛍光性の検出可能な薬剤には、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、5−ジメチルアミン−1−ナフタレンスルホニルクロリド、フィコエリトリン等が含まれる。抗体は又、検出可能な酵素例えばアルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ等により誘導体化することもできる。抗体を検出可能な酵素により誘導体化する場合は、それを、その酵素が利用して検出可能な反応生成物を生成する更なる試薬を加えることにより検出する。例えば、検出可能な薬剤、西洋ワサビペルオキシダーゼが存在する場合、過酸化水素とジアミノベンジジンの添加は、検出可能な彩色された反応生成物を生じる。抗体は又、ビオチンを用いて誘導体化することもでき、アビジン又はストレプトアビジン結合の間接的測定により検出することができる。
【0053】
II.抗体の発現
本発明の抗体または抗体部分は、宿主細胞中での免疫グロブリンLおよびH鎖の組換え発現によって製造することができる。組換えによって抗体を発現するには、該抗体の免疫グロブリンLおよびH鎖をコードするDNAフラグメントを有する1種類またはそれ以上の組換え発現ベクターを、宿主細胞に核酸移入して、該LおよびH鎖が、該宿主細胞中で発現され、好ましくは、宿主細胞を培養する培地中に分泌されるようにし、該培地から、抗体を回収することができる。抗体のHおよびL鎖遺伝子を入手し、これらの遺伝子を組換え発現ベクターに組み込み、宿主細胞に導入するには、標準的な組換えDNAの方法、例えば、Sambrook,Fritsch & Maniatis編、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Sedond Ed.,Cold Spring Harbor,N.Y.,(1989);Ausubel,F.M.et al.編、Current Protocols in Molecular Biology,Green Publishing Associates,(1989)およびBossらによる米国特許第4,816,397号明細書に記載のものを用いる。
【0054】
D2E7またはD2E7関連抗体を発現するには、LおよびH鎖の可変領域をコードするDNAフラグメントを初めに得る。これらのDNAは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いた、生殖系列のLおよびH鎖可変配列の増幅および修飾によって得ることができる。ヒトHおよびL鎖可変領域の遺伝子に関する生殖系列のDNA配列は、当技術に公知である[例えば、「Vbase」というヒト生殖系列の配列データベースを参照されたい;また、Kabat,E.A.,et al.(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition,U.S.Department ofHealth and Human Services,NIH Publication No.91-3242;Tomlinson,I.M.,et.al.,(1992)“The Repertoire of Human Germline VH Sequences Reveals aboutFifty Groups of VH Segments with Different Hypervariable Loops”J.Mol.Biol.227:776-798;およびCox,J.P.L.et al.(1994)“A Directory of Human Germ-line Vκ Segments Reveals a Strong Bias in their Usage"Eur.J.Immunol.24:827-846も参照されたい。それぞれの内容は、引用によって本明細書に明示的に組込まれる]。D2E7またはD2E7関連抗体のH鎖可変領域をコードするDNAフラグメントを得るには、ヒト生殖系列のVH遺伝子のVH3族の一員を標準的なPCRによって増幅する。最も好ましくは、DP−31というVH生殖系列の配列を増幅する。D2E7またはD2E7関連抗体のL鎖可変領域をコードするDNAフラグメントを得るには、ヒト生殖系列のVL遺伝子のVκI族の一員を標準的なPCRによって増幅する。最も好ましくは、A20というVL生殖系列の配列を増幅する。DP−31生殖系列VHおよびA20生殖系列VLの配列を増幅する際に用いるのに適したPCRプライマーは、標準的な方法を用いて、上に引用した参考文献に開示されたヌクレオチド配列に基づいて設定できる。
【0055】
生殖系列のVHおよびVLフラグメントを得たならば、これらの配列を、本明細書に開示のD2E7またはD2E7関連アミノ酸配列をコードするように突然変異させることができる。生殖系列VHおよびVLDNA配列がコードするアミノ酸配列を、初めに、D2E7またはD2E7関連VHおよびVLアミノ酸配列と比較して、生殖系列とは異なるD2E7またはD2E7関連配列中のアミノ酸残基を特定する。次いで、生殖系列DNA配列の適切なヌクレオチドを、突然変異した生殖系列配列が、D2E7またはD2E7関連アミノ酸配列をコードするように、どのヌクレオチドを変化させなければならないかを決定するための遺伝暗号を用いて突然変異させる。生殖系列配列の突然変異誘発は、標準的方法、例えば、PCR仲介突然変異形成(突然変異したヌクレオチドをPCRプライマーに組み込む結果、PCR産物が突然変異を含む)、または部位指向性突然変異誘発によって実施する。
【0056】
更に、PCR増幅によって得られた「生殖系列」の配列が、フレームワーク領域での真の生殖系列立体配置とのアミノ酸の相違(すなわち、例えば体細胞突然変異の結果としての、真の生殖系列の配列と比較しての増幅された配列中の相違)をコードするならば、これらのアミノ酸の相違は、真の生殖系列配列へと戻すよう変化させること(すなわち、生殖系列立体配置へのフレームワーク残基の「戻し突然変異」)が望ましいと思われることに注目すべきである。
【0057】
D2E7またはD2E7関連VHおよびVLセグメントをコードするDNAフラグメントを(上記のような、生殖系列VHおよびVL遺伝子の増幅と突然変異誘発とによって)得たならば、これらのDNAフラグメントは、標準的な組換えDNAの手法によって、例えば、可変領域遺伝子を完全長の抗体鎖遺伝子、Fabフラグメント遺伝子、またはscFv遺伝子へと転換するために、更に操作することができる。これらの操作の際は、VL−またはVH−コーディングDNAフラグメントを、もう一つのタンパク質、例えば抗体の不変部領域または可変リンカーをコードするもう一つのDNAフラグメントに機能的に結合する。用語「機能的に結合」とは、本明細書に用いられる限りで、二つのDNAフラグメントを結合した結果、該二つのDNAフラグメントがコードするアミノ酸配列がフレーム内に留まることを意味するものとする。
【0058】
VH領域をコードする単離されたDNAは、VHコーディングDNAをH鎖不変部領域(CH1、CH2およびCH3)をコードするもう一つのDNA分子と機能的に結合することによって、完全長のH鎖遺伝子へと転換することができる。ヒトH鎖不変部領域の遺伝子の配列は、当技術に公知であり[例えば、Kabat,E.A..etal.(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition,U.S.Department of Health and Human Services,NIH Publication No.91-3242を参照されたい]、これらの領域を包含するDNAフラグメントは、標準的PCR増幅によって得ることができる。H鎖不変部領域は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgGA、IgE、IgMまたはIgDの不変部領域であることができるが、最も好ましくは、IgG1またはIgG4の不変部領域である。FabフラグメントH鎖遺伝子については、VHをコードするDNAを、H鎖CH1不変部領域のみをコードするにすぎないもう一つのDNA分子に機能的に結合することができる。
【0059】
VL領域をコードする単離DNAは、VLコーディングDNAをL鎖不変部領域であるCLをコードするもう一つのDNA分子と機能的に結合することによって、完全長のL鎖遺伝子(およびFabL鎖遺伝子)へと転換することができる。ヒトL鎖不変部領域の遺伝子の配列は、当技術に公知であり[例えば、Kabat,E.A..etal.(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition,U.S.Department of Health and Human Services,NIH Publication No.91-3242を参照されたい]、これらの領域を包含するDNAフラグメントは、標準的PCR増幅によって得ることができる。L鎖不変部領域は、κまたはλ不変部領域であることができるが、最も好ましくはκ不変部領域である。
【0060】
scFv遺伝子を生成するには、VH−またはVL−コーディングDNAフラグメントを、可変リンカーをコードする、すなわちアミノ酸配列(Gly4−Ser)3をコードするもう一つのフラグメントと機能的に結合し、そのため、VHおよびVL配列が、VLおよびVH領域が可変リンカーによって結合されて、隣接する一本鎖タンパク質として発現され得るようにする[例えば、Bird et al.(1988)Science 242:423-426;Huston et at.(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA85:5879-5883;McCafferty et al.,Nature(1990)348:552-554を参照されたい]。
【0061】
本発明の抗体または抗体部分を発現するには、上記のとおりに得た、部分または完全長のLおよびH鎖を発現ベクターに挿入して、遺伝子が、転写および翻訳制御配列と機能的に結合される。この状況では、用語「機能的に結合される」とは、抗体遺伝子が、ベクター内の転写および翻訳制御配列が、抗体遺伝子の転写および翻訳を調節するというその意図された機能に役立つようにベクター中に結合されることを意味するものとする。発現ベクターおよび発現制御配列は、用いた発現宿主細胞と共存できるように選ぶ。抗体L鎖遺伝子および抗体H鎖遺伝子は、別個のベクターに挿入できるか、より代表的には、両遺伝子とも同じ発現ベクターに挿入する。抗体遺伝子は、標準的な方法(例えば、抗体遺伝子フラグメントとベクターの相補的制限部位の結合、または制限部位が全く存在しないならば、平滑末端結合)によって、発現ベクターに挿入する。D2E7またはD2E7関連のLまたはH鎖配列を挿入する前に、発現ベクターは、抗体不変部領域の配列を既に保有していてよい。例えば、D2E7またはD2E7関連VHおよびVL配列を完全長の抗体遺伝子へと転換する一つの方策は、それぞれH鎖不変部およびL鎖不変部領域を既にコードしている発現ベクターに、VHセグメントがベクター内のCHセグメントに機能的に結合され、VLセグメントがベクター内のCLセグメントに機能的に結合されるように挿入することである。追加的または代替的には、組換え発現ベクターは、宿主細胞からの抗体鎖の分泌を促すシグナルペプチドをコードすることができる。抗体鎖遺伝子は、シグナルペプチドが、抗体鎖遺伝子のアミノ末端にフレームに収まって結合されるように、ベクター中にクローニングすることができる。シグナルペプチドは、免疫グロブリンシグナルペプチドであるか、または異種シグナルペプチド(すなわち、非免疫グロブリンタンパク質からのシグナルペプチド)であることができる。
【0062】
抗体鎖遺伝子に加え、本発明の組換え発現ベクターは、宿主細胞内での抗体鎖遺伝子の発現を制御する調節配列を有する。用語「調節配列」は、プロモーター、エンハンサーその他の、抗体鎖遺伝子の転写または翻訳を制御する発現制御要素(例えばポリアデニル化シグナル)を包含するものとする。そのような調節配列は、例えば、Goeddel;Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185,Academic Press,San Diego,CA(1990)に記載されている。当業者には、調節配列の選択を包含する発現ベクターの設定は、形質転換しようとする宿主細胞の選択、望まれるタンパク質の発現レベル等々のような要因に依存し得ることが認識されると思われる。哺乳動物宿主細胞の発現に好適な調節配列は、哺乳動物細胞での高レベルのタンパク質発現を指図するウイルス性の要素、例えばサイトメガロウイルス(CMV)に由来するプロモーターおよび/またはエンハンサー(例えばCMVプロモーター/エンハンサー)、シミアンウイルス40(SV40)(例えばSV40プロモーター/エンハンサー)、アデノウイルス(例えばアデノウイルス主要後期プロモーター(AdMLP))、およびポリオーマを包含する。ウイルス性調節要素およびそれらの配列のこれ以上の説明には、例えば、Stinskiによる米国特許第5,168,062号明細書、Bellらによる米国特許第4,510,245号明細書、およびSchaffnerらによる米国特許第4,968,615号明細書を参照されたい。
【0063】
抗体鎖遺伝子および調節配列に加えて、本発明の組換え発現ベクターは、追加の配列、例えば、宿主細胞でのベクターの複製を調節する配列(例えば複製起点)、および選別可能マーカーの遺伝子を保有してもよい。選別可能マーカー遺伝子は、ベクターが導入された宿主細胞の選別を容易にする(例えば、すべてAxelらによる米国特許第4,399,216号、第4,634.665号および第5,179,017号明細書を参照されたい)。例えば、代表的には、選別可能マーカー遺伝子は、薬物、例えばG418、ヒグロマイシンまたはメトトレキサートに対する耐性を、ベクターを導入した宿主細胞に賦与する。好適な選別可能マーカー遺伝子は、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子(dhfr-宿主細胞でメトトレキサート選別/増幅とともに用いるため)、およびneo遺伝子(G418の選別のため)を包含する。
【0064】
LおよびH鎖の発現のためには、HおよびL鎖をコードする発現ベクターを、標準的手法によって宿主細胞に核酸移入する。様々な形態の用語「核酸移入」は、原核または真核宿主細胞への外因性DNAの導入に一般的に用いられる非常に様々な手法、例えば、電気穿孔、リン酸カルシウム沈澱、DEAEデキストラン核酸移入などを包含するものとする。本発明の抗体は、原核または真核宿主細胞のいずれでも発現することが理論的には可能であるが、真核宿主細胞、最も好ましくは哺乳動物の宿主細胞での抗体の発現が、最も好ましく、それは、そのような真核細胞、特に哺乳動物細胞は、適正に折畳まれた、免疫学的に活性を有する抗体を形成かつ分泌する可能性が、原核細胞よりも高いためである。抗体遺伝子の原核細胞での発現は、活性抗体の高収率での生産には無効果であると報告されている(Boss,M.A.and Wood,C.R.(1985)Immunology Today 6:12-13)。
【0065】
本発明の組換え抗体を発現するのに好適な哺乳動物宿主細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO細胞)[Urlaub & Chasin,(1980)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216-4220に記載され、例えば、R.J.Kaufman & P.A.Sharp(1982)Mol.Biol.159:601-621に記載されたとおりのDHFR選別可能マーカーとともに用いられたdhfr-CHO細胞を包含する]、NSO骨髄腫細胞、COS細胞およびSP2細胞を包含する。抗体遺伝子をコードする組換え発現ベクターを哺乳動物宿主細胞に導入するときは、宿主細胞を、該宿主細胞での抗体の発現を許し、より好ましくは該宿主細胞を増殖させる培地中への抗体の分泌を許すのに充分な期間培養することによって、抗体を生産する。抗体は、標準的なタンパク質精製の方法を用いて、培地から回収することができる。
【0066】
宿主細胞は、完全な抗体の一部、例えばFabフラグメントまたはscFv分子を生産するのに用いることもできる。上記手順の変化形は、本発明の範囲内であることが理解されると思われる。例えば、本発明の抗体のL鎖またはH鎖のいずれか(双方ではなく)をコードするDNAを、宿主細胞に移入するのが望ましいことがある。組換えDNAの技術は、hTNFαとの結合に不必要であるLおよびH鎖のいずれかもしくは双方をコードするDNAのいくらかまたはすべてを除去するのに用いてもよい。そのような断端DNA分子から発現される分子も、本発明の抗体に包含される。加えて、一方のH鎖および一方のL鎖が本発明の抗体であり、他方のH鎖およびL鎖がhTNFα以外の抗原に特異的である二機能性抗体を、本発明の抗体と第二の抗体とを標準的な化学的架橋結合法によって架橋結合させることによって生産してもよい。
【0067】
本発明の抗体、またはその抗原結合部分の組換え発現に好適な系では、抗体H鎖と抗体L鎖との双方をコードする組換え発現ベクターを、リン酸カルシウム仲介核酸移入によってdhfr-CHO細胞に導入する。組換え発現ベクター内では、抗体HおよびL鎖遺伝子が、それぞれ、エンハンサー/プロモーター調節要素(例えば、SV40、CMV、アデノウイルスなどに由来する、例えばCMVエンハンサー/AdMLPプロモーター調節要素、またはSV40エンハンサー/AdMLPプロモーター調節要素)と機能的に結合されて、遺伝子の高レベルの転写を駆使する。組換え発現ベクターは、DHFR遺伝子も保有し、これが、ベクターが移入されているCHO細胞の、メトトレキサートによる選別/増幅を用いた選別を可能にする。選別した形質転換体の宿主細胞を培養して、抗体HおよびL鎖の発現を許し、完全な抗体を培地から回収する。標準的な分子生物学的手法を用いて、組換え発現ベクターを調製し、宿主細胞に核酸移入し、形質転換体について選別し、宿主細胞を培養し、培地から抗体を回収する。
【0068】
前記に照らして、本発明のもう一つの態様は、本発明の抗体および抗体部分の組換え発現に用いることができる、核酸、ベクターおよび宿主細胞組成物に関する。D2E7L鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を、図7およびSEQ IDNO:36に示す。LCVRのCDR1ドメインはヌクレオチド70〜102を包含し、CDR2ドメインはヌクレオチド148〜168を包含し、CDR3ドメインは、ヌクレオチド265〜291を包含する。D2E7H鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を図8およびSEQ ID NO:37に示す。LCVRのCDR1ドメインは、ヌクレオチド91〜105を包含し、CDR2ドメインはヌクレオチド148〜198を包含し、CDR3ドメインは、ヌクレオチド295〜330を包含する。当業者には、D2E7関連抗体またはその部分(例えばCDRドメイン、例えばCDR3ドメイン)をコードするヌクレオチド配列は、遺伝暗号と標準的な分子生物学の手法とを用いて、D2E7LCVRおよびHCVRをコードするヌクレオチド配列から誘導できることが認識されると思われる。
【0069】
一実施態様では、本発明は、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列を含むL鎖CDR3(すなわちD2E7VLCDR3)、あるいは第1、4、5、7もしくは8位でのただ1回のアラニン置換によってか、または第1、3、4、6、7、8および/または9位での1〜5回の同類アミノ酸置換によってSEQ ID NO:3から修飾されたそれをコードする単離核酸を提供する。この核酸は、CDR3領域のみをコードできるにすぎないか、またはより好ましくは、抗体L鎖可変領域(LCVR)全体をコードする。例えば、該核酸は、SEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン(すなわちD2E7VLCDR2)と、SEQ ID NO:7のアミノ酸配列を含むCDR1ドメイン(すなわちD2E7VLCDR1)とを有するLCVRをコードすることができる。
【0070】
もう一つの実施態様では、本発明は、SEQ ID NO:4のアミノ酸配列を含むH鎖CDR3ドメイン(すなわちD2E7VHCDR3)、あるいは第2、3、4、5、6、8、9、10もしくは11位でのただ1回のアラニン置換によってか、または第2、3、4、5、6、8、9、10、11および/または12位での1〜5回の同類アミノ酸置換によってSEQ ID NO:4から修飾されたそれをコードする単離核酸を提供する。この核酸は、CDR3領域のみをコードできるにすぎないか、またはより好ましくは、抗体H鎖可変領域(HCVR)全体をコードする。例えば、該核酸は、SEQ ID NO:6のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン(すなわちD2E7VHCDR2)と、SEQ ID NO:8のアミノ酸配列を含むCDR1ドメイン(すなわちD2E7VHCDR1)とを有するHCVRをコードすることができる。
【0071】
更にもう一つの実施態様では、本発明は、例えば、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO: 12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:15、SEQ ID NO:16、SEQ ID NO:17、SEQ ID NO:18、SEQ ID NO:19、SEQ ID NO:20、SEQ ID NO:21、SEQ ID NO:22、SEQ ID NO:23、SEQ ID NO:24、SEQ ID NO:25、SEQ ID NO:26、SEQ ID NO:27、SEQ ID NO:28、SEQ ID NO:29、SEQ ID NO:30、SEQ ID NO:31、SEQ ID NO:32、SEQ ID NO:33、SEQ ID NO:34およびSEQ ID NO:35よりなる群から選ばれるアミノ酸配列を含む、D2E7関連CDR3ドメインをコードする単離核酸を提供する。
【0072】
更にもう一つの実施態様では、本発明は、SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含む抗体L鎖可変領域(すなわちD2E7LCVR)をコードする単離核酸を提供する。好ましくは、この核酸は、SEQ ID NO:36のヌクレオチド配列を含むが、当業者は、遺伝暗号の縮重のため、他のヌクレオチド配列がSEQ ID NO:1のアミノ酸配列をコードできることを認識するものと思われる。該核酸は、LCVRのみをコードできるにすぎないか、またはLCVRに機能的に結合した抗体L鎖不変部領域もコードできる。一実施態様では、この核酸は組換え発現ベクターである。
【0073】
更にもう一つの実施態様では、本発明は、SEQ ID NO:2のアミノ酸配列を含む抗体H鎖可変領域(すなわちD2E7LCVR)をコードする単離核酸を提供する。好ましくは、この核酸は、SEQ ID NO:37のヌクレオチド配列を含むが、当業者は、遺伝暗号の縮重のため、他のヌクレオチド配列がSEQ ID NO:2のアミノ酸配列をコードできることを認識するものと思われる。該核酸は、HCVRのみをコードできるにすぎないか、またはHCVRに機能的に結合したH鎖不変部領域もコードできる。例えば、該核酸は、IgG1またはIgG4の不変部領域を含むことができる。一実施態様では、この核酸は組換え発現ベクターである。
【0074】
本発明は、抗体H鎖と抗体L鎖との双方をコードする組換え発現ベクターも提供する。例えば、一実施態様では、本発明は、
(a)SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含む可変領域を有する抗体L鎖(すなわちD2E7LCVR);および
(b)SEQ ID NO:2のアミノ酸配列を含む可変領域を有する抗体H鎖(すなわちD2E7HCVR)をコードする組換え発現ベクターを提供する。
【0075】
本発明は、本発明の組換え発現ベクターのうち1種類またはそれ以上を導入した宿主細胞も提供する。好ましくは、該宿主細胞は、哺乳動物の宿主細胞、より好ましくは、該宿主細胞は、CHO細胞、NS0細胞またはCOS細胞である。更に、本発明は、本発明の組換えヒト抗体が合成されるまで、本発明の宿主細胞を適切な培地で培養することによって、本発明の組換えヒト抗体を合成する方法を提供する。該方法は、該組換えヒト抗体を該培地から単離する段階を、更に含むことができる。
【0076】
III.組換えヒト抗体の選別
本明細書に開示したD2E7またはD2E7関連抗体に加えて、本発明の組換えヒト抗体は、ヒトのリンパ球に由来するmRNAから調製したヒトVLおよびVHcDNAを用いて調製した、組換え組合せ抗体ライブラリー、好ましくはscFvファージ表示ライブラリーのスクリーニングによって単離することができる。そのようなライブラリーを調製し、スクリーニングする方法は、当技術に公知である。ファージ表示ライブラリーの作成のための商業的に入手できるキット(例えば、PharmaciaのRecombinant Phage Antibody System、カタログ番号第27-9400-01号;およびStratageneのSurfZAP(商品名)ファージ表示キット、カタログ番号第240612号)に加えて、抗体表示ライブラリーの作成やスクリーニングに用いるのに特に適応する方法および試薬の例は、例えば、Ladnerらの米国特許第5,223,409号明細書;Kangらの国際公開特許第WO92/18619号公報;Dowerらの国際公開特許第WO91/17271;Winterらの国際公開特許第WO92/20791号公報;Marklandらの国際公開特許第WO92/15679号公報;Breitlingらの国際公開特許第WO93/01288号公報;McCaffertyらの国際公開特許第WO92/01047号公報;Garrardらの国際公開特許第WO92/09690号公報;Fuchs et al.(1991)Bio/Technology 9:1370-1372;Hay et al.(1992)Hum.Antibod.Hybridomas 3:81-85;Huse et al.(1989)Science 246:1275-1281;McCafferty etal.,Nature(1990)348:552-554;Griffiths etal.(1993)EMBO J.12:725-734;Hawkins et al.(1992)J.Mol.Biol.226:889-896;Clackson et al.(1991)Nature352:624-628;Gram et al.(1992)PNAS 89:3576-3580;Garrad et al.(1991)Bio/Technology 2:1373-1377;Hoogenboom et al.(1991)Nuc.Acid Res.19:4133-4137およびBarbas et al.(1991)PNAS88:7978-7982に見出すことが できる。
【0077】
好適実施態様では、hTNFαに対する高い親和性と低いオフ速度とを有するヒト抗体を単離するのに、hTNFαに対する高親和性および低オフ速度を有するマウス抗hTNFα抗体(例えば、ECACC受託番号第87 050801号を有するハイブリドーマであるMAK195)を初めに用い、hTNFαとの類似の結合活性を有するヒトHおよびL鎖配列を、Hoogenboomらの国際公開特許第WO93/06213号公報に記載の方法である、エピトープ刻印または誘導選別を用いて選別する。この方法に用いる抗体ライブラリーは、好ましくは、McCaffertyらの国際公開特許第WO92/01047、McCafferty et al.,Nature(1990)348:552-554およびGriffiths et al.,(1993)EMBO J.12:725-734に記載のとおりに調製かつスクリーニングしたscFvライブラリーである。scFv抗体ライブラリーは、好ましくは、組換えヒトTNFαを抗原として用いてスクリーニングする。
【0078】
最初のヒトVLおよびVHセグメントを選別したならば、最初に選別したVLおよびVHセグメントの異なる対をhTNFαとの結合についてスクリーニングする「混合と適合」の実験を実施して、好適なVL/VH対の組合せを選別する。加えて、hTNFαと結合するための親和性を更に向上させ、かつ/またはオフ速度定数を低めるために、好ましいVL/VH対のVLおよびVHセグメントを、好ましくはVHおよび/またはVLのCDR3領域内で、自然の免疫応答の際の抗体の親和性成熟の原因となるin vivoでの体細胞突然変異の過程と同様の過程で無差別に突然変異させることができる。このin vitroでの親和性成熟は、それぞれVHCDR3またはCDR3VLに相補的なPCRプライマーを用いて、VHおよびVL領域を増幅することによって達成できるが、これらのプライマーは、4種類のヌクレオチド塩基の無作為混合物で一定の位置を「スパイク」して、得られるPCR産物が、VHおよび/またはVLCDR3領域内で無差別突然変異を導入したVHおよびVLセグメントをコードするようにしておく。これらの無差別に突然変異させたVHおよびVLセグメントは、hTNFαとの結合について再スクリーニングすることができ、hTNFαと結合するための高い親和性と低いオフ速度とを示す配列が選別できる。
【0079】
選ばれた抗体HおよびL鎖のアミノ酸配列は、生殖系列HおよびL鎖のアミノ酸配列と対照することができる。選ばれたVLおよび/またはVH鎖の一定のフレームワーク残基が、(例えば、ファージライブラリーを調製するのに用いた免疫グロブリン遺伝子の体細胞突然変異の結果として)生殖系列の立体配置と異なる場合は、選ばれた抗体の変化したフレームワーク残基を、生殖系列立体配置へと「戻し突然変異」させる(すなわち、選ばれた抗体のフレームワークアミノ酸配列を、生殖系列アミノ酸配列と同じになるように変化させる)のが望ましいことがある。フレームワーク残基のそのような「戻し突然変異」(または「生殖系列化」)は、特定の突然変異を導入するための標準的な分子生物学的方法によって達成できる(例えば、部位指向性突然変異;PCR仲介突然変異など)。
【0080】
組換え免疫グロブリン表示ライブラリーからの本発明の抗hTNFα抗体のスクリーニングおよび単離に続いて、選別した抗体をコードする核酸を、(例えばファージゲノムからの)表示パッケージから回収し、標準的な組換えDNAの手法によって他の発現ベクター中にサブクローニングすることができる。望むならば、該核酸を更に操作して、本発明のその他の抗体形態(例えば、免疫グロブリンの追加のドメイン、例えば追加の不変部領域)を生成することができる。組合せライブラリーのスクリーニングによって単離した組換えヒト抗体を発現するには、該抗体をコードするDNAを、上記の第II節で更に詳述したとおり、組換え発現ベクター中にクローニングし、哺乳動物の宿主細胞に導入する。
【0081】
IV.製剤組成物および製剤投与
本発明の抗体および抗体部分は、被験者への投与に適した製剤組成物に組み込むことができる。代表的には、該製剤組成物は、本発明の抗体または抗体部分と、製薬上許容され得る担体とを含む。本明細書に用いられる限りで、「製薬上許容され得る担体」は、生理学的に適合できるいかなるかつすべての溶媒、分散媒、コーティング、抗菌および抗真菌剤、等張剤および吸収遅緩剤などをも包含する。製薬上許容され得る担体の例は、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、デキストロース、グリセリン、エタノールなどのうち1種類またはそれ以上、ならびにそれらの組合せを包含する。多くの場合、等張剤、例えば糖、マンニトールのような多価アルコール、ソルビトールまたは塩化ナトリウムを組成物に含めるのが好ましいと思われる。製薬上許容され得る担体は、湿潤剤もしくは乳化剤、防腐剤または緩衝液のような、副次的量の補助的物質を更に含んでよく、これらは、該抗体または抗体部分の棚保ちや有効性を高める。
【0082】
本発明の組成物は、様々な形態をなしてよい。これらは、例えば、液体、半固体および固体の投与形態、例えば液体の溶液(例えば注射および注入できる溶液)、分散もしくは懸濁液、錠剤、丸薬、粉末、リポソームおよび坐薬を包含する。好ましい形態は、意図される投与の様式や治療の用途に依存する。代表的な好適組成物は、注射または注入できる溶液、例えば、他の抗体によるヒトの受身感作に用いられるのと同様の組成物の形態をなす。好適な投与様式は、非経口(例えば、静脈内、皮下、腹腔内、筋内)である。好適実施態様では、該抗体を、静脈内注入または注射によって投与する。もう一つの好適実施態様では、該抗体を、筋内または皮下注射によって投与する。
【0083】
治療組成物は、代表的には、製造および貯蔵の条件下で無菌かつ安定的でなければならない。該組成物は、溶液、マイクロエマルション、分散、リポソーム、または高い薬物濃度に適するよう誂えたその他の構造として配合することができる。無菌注射液は、必要に応じて上記に列挙した成分の一種類または組合せとともに、活性化合物(すなわち抗体または抗体部分)を必要量で適切な溶媒に組み込むことによって調製できる。一般的には、塩基性分散媒と、必要とされる上記に列挙したものからのその他の成分とを含有する無菌の賦形剤に、活性化合物を組み込むことによって調製する。無菌注射液の調製用の無菌粉末の場合は、好適な調製法は、真空乾燥および凍結乾燥であって、活性成分に、予め無菌濾過したその溶液からの望みのいかなる追加の成分も加えた粉末が得られる。溶液の適正な流動性は、例えば、レシチンのようなコーティングを用い、分散の場合は必要な粒径を保ち、かつ界面活性剤を用いることによって維持することができる。注射可能組成物の長期的吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えばモノステアリン酸塩およびゼラチンを組成物に含ませることによって達成できる。
【0084】
本発明の抗体および抗体部分は、当技術に公知の様々な方法によって投与できるが、多くの治療用途のためには、投与の好適な経路/様式は、静脈内注射または注入である。当業者には認識されると思われるとおり、投与の経路/様式は、望まれる結果に応じて変動することになる。一定の実施態様、例えば、移植体、経皮パッチ、およびマイクロカプセル化された送達系を包含する制御放出配合物では、活性化合物を、急速な放出から該化合物を防護するような担体とともに調製してよい。生体分解できる生体適合重合体、例えばエチレンビニルアセテート、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステルおよびポリ乳酸を用いることができる。そのような配合物の調製のための多くの方法は、特許されているか、または当業者に広く公知である。例えば、Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems,J.R.Robinson,ed.,Marcel Dekker,Inc.,New York,1978を参照されたい。
【0085】
一定の実施態様では、本発明の抗体または抗体部分は、例えば不活性希釈剤、または同化できる食用の担体とともに、経口的に投与してよい。該化合物(および望みならば他の成分)は、硬いか、もしくは軟らかい殻のゼラチンカプセルに封入し、錠剤に打錠し、または被験者の食餌に直接組み込んでもよい。経口の治療的投与のためには、該化合物を、添加剤とともに組み込み、摂取できる錠剤、口腔錠、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、カシュ剤などの形態で用いてよい。本発明の化合物を非経口投与以外によって投与するには、該化合物をその不活性化を防護する材料で被覆するか、またはそれらと該化合物とを同時投与することが必要であり得る。
【0086】
補助的活性化合物を、該組成物に組み込むこともできる。一定の実施態様では、本発明の抗体または抗体部分を、TNFα活性が不都合である疾患を治療するのに役立つ1種類またはそれ以上の追加の治療剤とともに、同時配合し、および/または同時投与する。例えば、本発明の抗TNFα抗体または抗体部分を、他の標的と結合する一種類またはそれ以上の追加の抗体(例えば、他のサイトカインと結合するか、または細胞表面分子と結合する抗体)、1種類またはそれ以上のサイトカイン、可溶性TNFα受容体(例えば国際公開特許第WO94/06476号公報を参照されたい)、および/またはhTNFαの生産もしくは活性を阻害する1種類またはそれ以上の化学的薬剤(例えば、国際公開特許第93/19751号公報に記載のとおりのシクロヘキサン−イリデン誘導体)とともに、同時配合し、および/または同時投与する。その上、本発明の1種類またはそれ以上の抗体は、前記の治療剤のうち2種類またはそれ以上と併用してよい。そのような併用療法は、好都合にも、低投与量の投与治療剤を活用し、こうして様々な単剤療法に付随することがある毒性または併発症を回避し得る。
【0087】
本発明の抗体または抗体部分を併用できる、リウマチ様関節炎に対する治療剤の非限定的な例は、下記を包含する:非ステロイド系抗炎症薬(NSAID);サイトカイン抑制性抗炎症薬(CSAID);CDP−571/BAY−10−3356(人体適応抗TNFα抗体;Celltech/Bayer);cA2(キメラ抗TNFα抗体;Centocor);75kdTNFR−IgG(75kDTNF受容体−IgG融合タンパク質;Immunex;例えばArthritis & Rheumatism(1994)Vol.37,S295;J.Invest.Med.(1996)Vol.44,235Aを参照されたい);55kdTNFR−IgG(55kDTNF受容体−IgG融合タンパク質;Hoffmann-LaRoche);IDEC−CE9.1/SB210396(非枯渇性霊長類適応抗CD4抗体;IDEC/SmithKline;例えばArthritis & Rheumatism(1995)Vol.38,S185を参照されたい);DAB486−IL−2および/またはDAB389−IL−2(IL−2融合タンパク質;Seragen;例えばArthritis & Rheumatism(1993)Vol.36,1223を参照されたい);抗Tac(人体適応抗IL−2Rα;Protein Design Labs/Roche);IL−4(抗炎症性サイトカイン;DNAX/Schering);IL−10(SCH52000;組換えIL−10、抗炎症性サイトカイン;DNAX/Schering);IL−4;IL−10および/またはIL−4作用薬(例えば作用薬抗体);IL−1RA(IL−1受容体拮抗薬;Synergen/Amgen);TNF−bp/s−TNFR(可溶性TNF結合性タンパク質;例えばArthritis & Rheumatism(1996)Vol.39 No.9(supplement),S284;Amer.J.Physiol.-Heart and Circulatory Physiology(1995)Vol.268,pp.37-42を参照されたい);R973401(ホスホジエステラーゼIV型阻害剤;例えばArthritis & Rheumatism(1996)Vol.39 No.9(supplement),S282を参照されたい);MK−966(COX−2阻害剤;例えばArthritis & Rheumatism(1996)Vol.39 No.9(supplement),S81を参照されたい);Iloprost(例えばArthritis & Rheumatism(1996)Vol.39.No.9(supplement),S82を参照されたい);メトトレキサート;サリドマイド(例えばArthritis & Rheumatism(1996)Vol.39 No.9(supplement),S282を参照されたい)およびサリドマイド関連薬物(例えばClegen);レフルノミド(抗炎症剤およびサイトカイン阻害剤;例えばArthritis & Rheumatism(1996)Vol.39,No.9(supplement),S131;Inflammation Research(1996)Vol.45,pp.103-107を参照されたい);トラネキサム酸(プラスミノーゲン活性化の阻害剤;例えばArthritis & Rheumatism(1996)Vol.39 No.9(supplement),S284を参照されたい);T−614(サイトカイン阻害剤;例えばArthritis & Rheumatism(1996)Vol.39 No.9(supplement),S282を参照されたい);プロスタグランジンE1(例えばArthritis & Rheumatism(1996)Vol.39 No.9(supplement),S282を参照されたい);Tenidap(非ステロイド系抗炎症薬;例えばArthritis & Rheumatism(1996)Vol.39,No.9(supplement),S280を参照されたい);ナプロキセン(非ステロイド系抗炎症薬;例えばNeuro Report(1996)Vol.7,pp.1209-1213を参照されたい);メロキシカム(非ステロイド系抗炎症薬);イブプロフェン(非ステロイド系抗炎症薬);ピロキシカム(非ステロイド系抗炎症薬);ジクロフェナク(非ステロイド系抗炎症薬);インドメタシン(非ステロイド系抗炎症薬);スルファサラジン(例えばArthritis & Rheumatism(1996)Vol.39 No.9(supplement),S281を参照されたい);アザチオプリン(例えばArthritis & Rheumatism(1996)Vol.39 No.9(supplement),S281を参照されたい);ICE阻害剤(酵素のインターロイキン−1β変換酵素の阻害剤);zap−70および/またはlck阻害剤(チロシンキナーゼzap−70またはlckの阻害剤);VEGF阻害剤および/またはVEGF−R阻害剤(血管内皮細胞成長因子または血管内皮細胞成長因子受容体の阻害剤;血管形成の阻害剤);コルチコステロイド抗炎症薬(例えばSB203580);TNF変換酵素阻害剤;抗IL−12抗体;インターロイキン−11(例えばArthritis & Rheumatism(1996)Vol.39,No.9(supplement),S296を参照されたい);インターロイキン−13(例えばArthritis & Rheumatism(1996)Vol.39,No.9(supplement),S308を参照されたい);インターロイキン−17阻害剤(例えばArthritis & Rheumatism(1996)Vol.39,No.9(supplement),S120を参照されたい);金;ペニシラミン;クロロキノン;ヒドロキシクロロキノン;クロラムブシル;シクロホスファミド;シクロスポリン;全リンパ照射;抗胸腺細胞グロブリン;抗CD4抗体;CD5毒素;経口投与されるペプチドやコラーゲン;ロベンザリット二ナトリウム;サイトカイン調節剤(CRA)HP228およびHP466(Houghten Pharmaceuticals,Inc.);ICAM−1アンチセンスモノチオリン酸オリゴヌクレオチド(ISIS2302;Isis Pharmaceuticals, Inc.);可溶性補体受容体1(TP10;T Cell Sciences,Inc.);プレドニゾン;オルゴテイン;グリコサミノグリカンポリ硫酸;ミノサイクリン;抗IL−2R抗体;海産および植物産脂質(魚および植物種子の脂肪酸;例えばDeLuca et al.,(1995)Rheum.Dis.Clin.North Am.21:759-777);オーラノフィン;フェニルブタゾン;メクロフェナム酸;フルフェナム酸;静脈内免疫グロブリン;ジロイトン;ミコフェノール酸(RS−61443);タクロリムス(FK−506);シロリムス(ラパマイシン);アミプリロース(テラフェクチン);クラドリビン(2−クロロデオキシアデノシン);ならびにアザリビン。
【0088】
本発明の抗体または抗体部分を併用できる炎症性腸疾患の治療剤の非限定的な例は、下記を包含する:ブデノシド;表皮成長因子;コルチコステロイド;シクロスポリン;スルファサラジン;アミノサリチル酸塩;6−メルカプトプリン;アザチオプリン;メトロニダゾール;リポキシゲナーゼ阻害剤;メサラミン;オルサラジン;バルサラジド;抗酸化剤;トロンボキサン阻害剤;IL−1受容体拮抗薬;抗IL−1βモノクローナル抗体;抗IL−6モノクローナル抗体;成長因子;エラスターゼ阻害剤;ピリジニル−イミダゾール複合体;CDP-571/BAY−10−3356(人体適応抗TNFα抗体;Celltech/Bayer);cA2(キメラ抗TNFα抗体;Centocor);75kdTNFR−IgG(75kDTNF受容体−IgG融合タンパク質;Immunex;例えばArthritis & Rheumatism(1994)Vol.37,S295;J.Invest.Med.(1996)Vol.44,235Aを参照されたい);55kdTNFR−IgG(55kDTNF受容体−IgG融合タンパク質;Hoffmann-LaRoche);インターロイキン−10(SCH52000;Schering Plough);IL−4;IL−10および/またはIL−4作用薬(例えば作用薬抗体);インターロイキン−11;プレドニゾロン、デキサメタゾンもしくはブデソニドのグルクロニド−またはデキストラン−複合プロドラッグ;ICAM−1アンチセンスモノチオリン酸オリゴヌクレオチド(ISIS2302;Isis Pharmaceuticals, Inc.);可溶性補体受容体1(TP10;T Cell Sciences,Inc.);徐放性メサラジン;メトトレキサート;血小板活性化因子(PAF)の拮抗薬;シフロフロキサシン;ならびにリグノカイン。
【0089】
本発明の抗体または抗体部分を併用できる多発性硬化症の治療剤の非限定的な例は、下記を包含する:コルチコステロイド;プロドニゾロン;メチルプレドニゾロン;アザチオプリン;シクロホスファミド;シクロスポリン;メトトレキサート;4−アミノピリジン;チザニジン;インターフェロン−β1a(Avonex(商品名);Biogen);インターフェロン−β1b(Betaseron(商品名);Chiron/Berlex);共重合体1(Cop-1;Copaxone(商品名);Teva PharmaceuticalIndustries,Inc.);高圧酸素;静脈内免疫グロブリン;クラブリビン;CDP-571/BAY−10−3356(人体適応抗TNFα抗体;Celltech/Bayer);cA2(キメラ抗TNFα抗体;Centocor);75kdTNFR−IgG(75kDTNF受容体−IgG融合タンパク質;Immunex;例えばArthritis & Rheumatism(1994)Vol.37,S295;J.Invest.Med.(1996)Vol.44,235Aを参照されたい);55kdTNFR−IgG(55kDTNF受容体−IgG融合タンパク質;Hoffmann-LaRoche);IL−10;IL−4;ならびにIL−10および/またはIL−4作用薬(例えば作用薬抗体)。
【0090】
本発明の抗体または抗体部分を併用できる敗血症の治療剤の非限定的な例は、下記を包含する:高張生理食塩水溶液;抗生物質;静脈内γ−グロブリン;連続血液濾過;カルバペネム(メロペネム);TNFα、IL−1β、IL−6および/またはIL−8のようなサイトカインの拮抗薬;CDP-571/BAY−10−3356(人体適応抗TNFα抗体;Celltech/Bayer);cA2(キメラ抗TNFα抗体;Centocor);75kdTNFR−IgG(75kDTNF受容体−IgG融合タンパク質;Immunex;例えばArthritis & Rheumatism(1994)Vol.37,S295;J.Invest.Med.(1996)Vol.44,235Aを参照されたい);55kdTNFR−IgG(55kDTNF受容体−IgG融合タンパク質;Hoffmann-LaRoche);サイトカイン調節剤(CRA)HP228およびHP466(Houghten Pharmaceuticals,Inc.);SK&F107647(低分子ペプチド;SmithKline Beecham);四価グアニルヒドラゾンのCNI−1493(Picower Institute);組織因子経路阻害剤(TFPI;Chiron);PHP(化学的に修飾されたヘモグロビン;APEX Bioscience);ジエチレントリアミン五酢酸−鉄(III)錯体(DTPA鉄(III);Molichem Medicines)を包含する鉄キレート化剤およびキレート;リゾフィリン(合成小分子メチルキサンチン;Cell Therapeutics,Inc.);PGG−グルカン(水性可溶性β1,3グルカン;Alpha-Beta Technology);脂質で再構成したアポリポタンパク質A−1;キラルなヒドロキサム酸(脂質Aの生合成を阻害する合成抗菌剤);抗内毒素抗体;E5531(合成脂質A拮抗薬;Eisai America,Inc.);rBPI21(ヒト殺菌/透過性上昇タンパク質の組換えN末端フラグメント);ならびに合成抗内毒素ペプチド(SAEP;Bios Ynth Research Laboratories)。
【0091】
本発明の抗体または抗体部分を併用できる成人呼吸困難症候群(ARDS)の治療剤の非限定的な例は、下記を包含する:抗IL−8抗体;界面活性剤置換療法;CDP-571/BAY−10−3356(人体適応抗TNFα抗体;Celltech/Bayer);cA2(キメラ抗TNFα抗体;Centocor);75kdTNFR−IgG(75kDTNF受容体−IgG融合タンパク質;Immunex;例えばArthritis & Rheumatism(1994)Vol.37,S295;J.Invest.Med.(1996)Vol.44,235Aを参照されたい);および55kdTNFR−IgG(55kDTNF受容体−IgG融合タンパク質;Hoffmann-LaRoche)。
【0092】
他の治療剤との本発明の抗体または抗体部分の併用は、サブセクションIVで更に考察する。
【0093】
本発明の製剤組成物は、「治療的有効量」または「予防的有効量」の本発明の抗体または抗体部分を含んでよい。「治療的有効量」とは、必要な投与量および期間で、望みの治療上の結果を達成するのに効果的である量を意味する。抗体または抗体部分の治療的有効量は、個体の疾病状態、年齢、性別および体重、ならびに望みの応答を個体に誘発できる抗体または抗体部分の能力のような要因に従って変動してよい。治療的有効量は、抗体もしくは抗体部分のいかなる有害または不都合な効果よりも、治療上有益な効果の方が重視される量でもある。「予防的有効量」とは、必要な投与量および期間で、望みの予防上の結果を達成するのに効果的である量を意味する。代表的には、予防の用量は、疾病の前または初期段階で被験者に用いられることから、予防的有効量は、治療的有効量より少ないことになる。
【0094】
投与方式は、望みの最適の応答(例えば、治療的または予防的応答)を与えるよう調整してよい。例えば、ただ1個の大型丸剤を投与しても、いくつかの分割された投与量を経時的に投与しても、あるいは治療状況の急迫が示すのに比例して、用量を増減してもよい。投与の簡易性と投与量の均一性とを求めて、非経口組成物を単位投与量形態で配合するのが、特に好都合である。本明細書に用いられる限りでの単位投与量形態とは、哺乳動物の被験体を治療するための一元的投与量として適した、物理的に分離した単位を意味し:各単位は、望みの治療的効果を生じるよう算出された所定量の活性化合物を、必要とされる製剤用担体を伴って含有する。本発明の単位投与量形態についての仕様は、(a)活性化合物の独自の特徴性、および達成しようとする特定の治療的または予防的効果と、(b)個体における感受性の治療のためにそのような活性化合物を複合させる技術に固有の限界とに指定され、かつ直接依存する。
【0095】
本発明の抗体もしくは抗体部分の治療的または予防的有効量についての例示的で非限定的な範囲は、0.1〜20mg/kg、より好ましくは1〜10mg/kgである。投与量の値は、緩和しようとする状態の形式および重篤度とともに変動してよいことが注目される。特定のいかなる被験者についても、特有の投与方式は、個別的な必要性と、組成物の投与を管理または監督する者の専門的判断とに従って経時的に調整しなければならず、本明細書に述べた投与量の範囲は、単に例示的であるにすぎず、クレームされた組成物の範囲および実施を限定するものではないことを理解すべきである。
【0096】
V.本発明の抗体の用途
hTNFαと結合できることが示されたため、本発明の抗hTNFα抗体またはその部分は、慣用の免疫検定法、例えば酵素結合免疫吸収検定法(ELISA)、放射線免疫検定法(RIA)または組織の免疫組織化学を用いて、(例えば、生物学的試料、例えば血清または血漿中の)hTNFαを検出するのに用いることができる。本発明は、生物学的試料中のhTNFαを検出する方法であって、生物学的を本発明の抗体または抗体部分と接触させ、hTNFαと結合した抗体(もしくは抗体部分)、または結合しなかった抗体(もしくは抗体部分)のいずれかを検出し、それによって該生物学的試料中のhTNFαを検出することを含む方法を提供する。結合または未結合抗体の検出を容易にするために、抗体は、検出できる物質で直接または間接的に標識する。適切な検出可能物質は、様々な酵素、補欠基、蛍光性材料、発光性材料および放射性材料を包含する。適切な酵素の例は、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼまたはアセチルコリンエステラーゼを包含し;適切な補欠基複合体の例は、ストレプトアビジン/ビオチンおよびアビジン/ビオチンを包含し;適切な蛍光材料の例は、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロリドまたはフィコエリトリンを包含し;発光性材料の例は、ルミノールを包含し;適切な放射性材料の例は、125I、131I、35Sまたは3Hを包含する。
【0097】
抗体の標識化に代えて、検出できる物質で標識したrhTNFαの標準と、標識していない抗hTNFα抗体とを用いた競争免疫検定法によって、hTNFαを生体液中で検定することができる。この検定法では、生物学的試料、標識したrhTNFαの標準、および抗hTNFα抗体を組合せ、未標識抗体と結合した標識rhTNFα標準の量を決定する。生物学的試料中のhTNFαの量は、抗hTNFα抗体に結合した標識rhTNFα標準の量に逆比例する。
【0098】
本発明のD2E7は、ヒト以外の種からのTNFα、特に霊長類(例えばチンパンジー、ヒヒ、キヌザル、カニクイザルおよびアカゲザル)、ブタおよびマウスからのTNFαを検出するのに用いることもできるが、それは、D2E7がこれらのTNFαのそれぞれと結合できるためである(実施例4サブセクションEで更に考察する)。
【0099】
本発明の抗体または抗体部分は、in vitroとin vivoとの双方で、hTNFα活性を中和することができる(実施例4を参照されたい)。その上、本発明の抗体の少なくともいくつか、例えばD2E7は、他の種からのTNFα活性を中和することができる。したがって、本発明の抗体または抗体部分は、例えば、hTNFαを含有する細胞培養体で、ヒトである被験者で、または本発明の抗体が交差反応するTNFαを有する哺乳動物の被験体(例えばチンパンジー、ヒヒ、キヌザル、カニクイザルおよびアカゲザル、ブタまたはマウス)で、TNFα活性を阻害するのに用いることができる。一実施態様では、本発明は、TNFαを本発明の抗体または抗体部分と接触させる結果、TNFα活性が阻害されることを含む、TNFα活性を阻害する方法も提供する。好ましくは、TNFαは、ヒトのTNFαである。例えば、TNFαを含有するか、または含有する疑いのある細胞培養体中に、本発明の抗体または抗体部分を培地に加えて、培養体中のhTNFα活性を阻害することができる。
【0100】
もう一つの実施態様では、本発明は、TNFα活性が不都合である疾患に罹患した被験者での、TNFα活性を阻害する方法を提供する。TNFαは、非常に様々な疾患の病態生理学に関連している[例えば、Moeller,A.,et al.(1990)Cytokine 2:162-169;Moellerらへの米国特許第5,231,024号明細書;Moeller,A.によるヨーロッパ特許第260 610 B1号公報を参照されたい]。本発明は、そのような疾患に罹患した被験者でのTNFα活性に関する方法であって、被験者に本発明の抗体または抗体部分を投与する結果、被験者のTNFα活性が阻害される段階を含む方法を提供する。好ましくは、TNFαはヒトのTNFαであり、被験者は、ヒトの被験者である。これに代えて、被験体は、本発明の抗体が交差反応するTNFαを発現する哺乳動物であることができる。また更に、被験体は、(例えば、hTNFαの投与、またはhTNFαの移入遺伝子の発現によって)hTNFαを導入した哺乳動物であることもできる。本発明の抗体は、治療を目的としてヒトの被験者に投与することができる(以下に更に考察する)。その上、本発明の抗体は、該抗体が交差反応するTNFαを発現するヒトではない哺乳動物(例えば霊長類、ブタまたはマウス)に、獣医学の目的でか、ヒトの疾病の動物モデルとして投与することができる。後者に関しては、そのような動物モデルは、本発明の抗体の治療的薬効を評価する(例えば投与量、および投与の時間的経過を試験する)のに役立ち得る。
【0101】
本明細書に用いられる限りで、用語「TNFα活性が不都合である疾患」は、該疾患に罹患した被験者でのTNFαの存在が、該疾患の病態生理学の原因であることか、もしくは該疾患の悪化に寄与する要因であることのいずれかが示されているか、またはその疑いがある疾病その他の疾患を包含するものとする。したがって、TNFα活性が不都合である疾患は、TNFα活性の阻害が、該疾患の徴候および/または進行を緩和すると期待される疾患である。そのような疾患は、例えば、該疾患に罹患した被験者の体液中のTNFαの濃度の上昇(例えば、被験者の血清、血漿、滑液等々中のTNFαの濃度の上昇)によって証拠付けられてよく、それは、例えば、上記のとおり、抗TNFα抗体を用いて検出することができる。TNFα活性が不都合である疾患の無数の例が存在する。以下、特定の疾患の治療の際の本発明の抗体および抗体部分の用途を更に考察する:
【0102】
A.敗血症
腫瘍壊死因子は、低血圧、心筋抑制、血管漏出症候群、器官壊死、有毒二次メジエーターの放出、および凝血カスケードの活性化を包含する生物学的効果を有して、敗血症の病態生理学で確定された役割を果たす[例えば、Moeller,A.,etal.(1990)Cytokine 2:162-169;Moellerらへの米国特許第5,231,024号明細書;Moeller,A.によるヨーロッパ特許第260 610 B1号公報;Tracey,K.J.& Cerami,A.(1994)Annu.Rev.Med.45:491-503;Russell,D & Thompson,R.C.(1993)Curr.Opin.Biotech.4:714-721を参照されたい]。したがって、本発明のヒトの抗体および抗体部分は、敗血症ショック、内毒素ショック、グラム陰性敗血症および毒物ショック症候群を包含する、その臨床的設定のいずれかにおいて敗血症を治療するのに用いることができる。
【0103】
その上、敗血症を治療するために、本発明の抗TNFα抗体または抗体部分は、敗血症を更に緩和し得る1種類またはそれ以上の追加の治療剤、例えばインターロイキン−1阻害剤(例えば国際公開特許第WO92/16221号および第WO92/17583号公報に記載のもの)、サイトカインのインターロイキン−6(例えば国際公開特許第WO93/11793号公報を参照されたい)、または血小板活性化因子の拮抗薬(例えばヨーロッパ特許第374 510号公報を参照されたい)と同時投与することができる。敗血症の治療のためのその他の併用療法は、サブセクションIIIで更に考察する。
【0104】
加えて、好適実施態様では、本発明の抗TNFα抗体または抗体部分は、治療の時点でIL−6の血清または血漿濃度が500pg/ml、より好ましくは1,000pg/mlを超える敗血症患者の下位群内のヒトである被験者に投与する(Daumらによる国際公開特許第WO95/20978号公報を参照されたい)。
【0105】
B.自己免疫病
腫瘍壊死因子は、様々な自己免疫病の病態生理学に役割を果たすことに関与している。例えば、TNFαは、リウマチ様関節炎では組織の炎症を活性化し、関節の破損を生起することに関与している[例えば、Moeller,A.,et al.(1990)Cytokine2:162-169;Moellerらへの米国特許第5,231,024号明細書;Moeller,A.によるヨーロッパ特許第260 610 B1号公報;Tracey,K.J. & Cerami,A.(前掲);Arend,W.P.& Dayer,J-M.(1995)Arth.Rheum.38:151-160;Fava,R.A.,etal.(1993)Clin.Exp.Immunol.94:261-266を参照されたい]。TNFαは、糖尿病でも、島細胞の死を促進し、インスリン耐性を媒介することに関与している(例えばTracey &Cerami(前掲);国際公開特許第WO94/08609号公報を参照されたい)。TNFαは、多発性硬化症でも、希突起神経膠細胞に対する細胞毒性の媒介、および炎症斑の誘導に関与している(例えばTracey & Cerami(前掲)を参照されたい)。キメラの人体適応マウス抗hTNFα抗体は、リウマチ様関節炎の治療について臨床試験を経ている[例えば、Elliott,M.J.,et al.(1994)Lancet 344:1125-1127;Elliott,M.J.,et al.(1994)Lancet 344:1105-1110;Rankin,E.C.,et al.(1995)Br.J.Rheumatol.34:334-342を参照されたい]。
【0106】
本発明のヒトの抗体および抗体部分は、自己免疫病、特にリウマチ様関節炎、リウマチ様脊椎炎、骨関節炎および痛風性関節炎を包含する炎症を伴うもの、アレルギー、多発性硬化症、自己免疫糖尿病、自己免疫葡萄膜炎、ならびに腎症性症候群を治療するのに用いることができる。代表的には、抗体または抗体部分を全身的に投与するが、一定の疾患に対しては、炎症の部位への抗体または抗体部分の局所投与が有益であり得る(例えば、単独でか、または国際公開特許第WO93/19751号公報に記載のとおり、シクロヘキサン−イリデン誘導体との併用での、リウマチ様関節炎での関節への局所投与、または糖尿性潰瘍に対する局所塗布)。本発明の抗体または抗体部分は、サブセクションIIIで更に考察したとおり、自己免疫病の治療に役立つ1種類またはそれ以上の追加の治療剤とともに、投与することもできる。
【0107】
C.伝染病
腫瘍壊死因子は、様々な伝染病で観察される生物学的効果の仲介に関与している。例えば、TNFαは、マラリアでは、脳の炎症、および毛細血管の血栓症や梗塞の仲介に関与している。TNFαは、髄膜炎では、脳の炎症を仲介し、血液−脳関門の破壊を誘導し、敗血症ショック症候群を誘発し、静脈梗塞を活性化することにも関与している。TNFαは、後天性免疫不全症候群(エイズ)では、悪液質を誘導し、ウイルス増殖を刺激し、中枢神経系の損傷を仲介することにも関与している。したがって、本発明の抗体および抗体部分は、細菌性髄膜炎(例えばヨーロッパ特許第585705号公報を参照されたい)、脳性マラリア、エイズやエイズ関連症候群(ARC)(例えばヨーロッパ特許第230574号公報を参照されたい)を包含する伝染病、および移植に副次的なサイトメガロウイルス感染[例えばFietze,E.,et al.(1994)Transplantation58:675-680を参照されたい]の治療に用いることができる。本発明の抗体または抗体部分は、感染(例えばインフルエンザ)による発熱や筋肉痛、および感染に副次的な悪液質(例えばエイズまたはARCに副次的な)を包含する、伝染病に付随する徴候を緩和するのにも用いることができる。
【0108】
D.移植
腫瘍壊死因子は、同種移植拒絶や移植片対宿主病(GVHD)の中枢的メジエーターとして、およびT細胞受容体のCD3複合体に仕向けたラット抗体OKT3を、腎移植体の拒絶を阻害するのに用いたときに観察される副作用を仲介することに関与している[例えば,Eason,J.D.,etal.(1995)Transplantation59:300-305;Suthanthiran,M.& Strom,T.B.(1994)New Engl.J.Med.331:365-375を参照されたい]。したがって、本発明の抗体および抗体部分は、同種および異種移植片の拒絶を包含する移植体拒絶を阻害し、GVHDを阻害するのに用いることができる。抗体または抗体部分は、単独で用いてよいが、最も好ましくは、同種移植片に対する免疫応答を阻害するか、またはGVHDを阻害する1種類またはそれ以上の他の薬剤と併用する。例えば、一実施態様では、本発明の抗体または抗体部分をOKT3と併用して、OKT3で誘導される反応を阻害する。もう一つの実施態様では、本発明の抗体または抗体部分を、免疫応答の調節に関与する他の標的、例えば細胞表面分子のCD25(インターロイキン−2受容体α)、CD11a(LFA−1)、CD54(ICAM−1)、CD4、CD45、CD28/CTLA4、CD80(B7−1)および/またはCD86(B7−2)に仕向けた1種類またはそれ以上の抗体と併用する。更にもう一つの実施態様では、本発明の抗体または抗体部分を、1種類またはそれ以上の一般的な免疫抑制剤、例えばシクロスポリンAまたはFK506と併用する。
【0109】
E.悪性腫瘍
腫瘍壊死因子は、悪性腫瘍では、悪液質の誘導、腫瘍成長の刺激、転移能の増強、および細胞毒性の仲介に関与している。したがって、本発明の抗体および抗体部分は、腫瘍成長もしくは転移を阻害し、および/または悪性腫瘍に副次的である悪液質を緩和するために、悪性腫瘍の治療に用いることができる。該抗体または抗体部分は、全身的にか、または腫瘍部位に局所的に投与してよい。
【0110】
F.肺疾患
腫瘍壊死因子は、白血球−内皮活性化の刺激、肺細胞への細胞毒性の指向、および血管漏出症候群の誘導を包含する、成人呼吸困難症候群(ARDS)の病態生理学に関与している。したがって、本発明の抗体および抗体部分は、成人呼吸困難症候群(例えば国際公開特許第WO91/04054号公報を参照されたい)、ショック肺、慢性炎症性肺病、肺サルコイドーシス、肺線維症およびケイ肺症を包含する様々な肺疾患を治療するのに用いることができる。該抗体または抗体部分は、全身的にか、または肺表面に局所的に、例えばエアゾルとして投与してよい。本発明の抗体または抗体部分は、サブセクションIIIで更に考察したとおり、肺疾患の治療に役立つ1種類またはそれ以上の追加の治療剤とともに、投与することもできる。
【0111】
G.腸疾患
腫瘍壊死因子は、炎症性腸疾患の病態生理学に関与している[例えば、Tracy,K.J.,et al.(1986)Science 234:470-474;Sun,X-M.,et al.(1988)J.Clin.Invest.81:1328-1331;MacDonald,T.T.,et al.(1990)Clin.Exp.Immunol. 81:301-305を参照されたい]。キメラマウスの抗hTNFα抗体は、クローン病の治療について臨床試験を受けている[van Dullemen,H.M.,et al.(1995)Gastroenterology 109:129-135]。本発明のヒト抗体および抗体部分は、腸疾患、例えば、二つの症候群:クローン病および潰瘍性大腸炎を包含する自発性炎症性腸疾患を治療するのに用いることもできる。本発明の抗体または抗体部分は、サブセクションIIIで更に考察したとおり、腸疾患の治療に役立つ1種類またはそれ以上の追加の治療剤とともに、投与することもできる。
【0112】
H.心疾患
本発明の抗体および抗体部分は、心臓の虚血(例えばヨーロッパ特許第453898号公報を参照されたい)および心不全(心筋の弱化)(例えば国際公開特許第WO94/20139号公報を参照されたい)を包含する様々な心疾患を治療するのに用いることもできる。
【0113】
I.その他
本発明の抗体および抗体部分は、TNFα活性が不都合であるその他の様々な疾患を治療するのに用いることもできる。TNFαが病態生理学に関与しており、そのため本発明の抗体または抗体部分を用いて治療できるその他の疾病および疾患の例は、炎症性骨疾患および骨吸収病[例えば、Bertolini,D.R.,et al.(1986)Nature 319:516-518;Konig,A.,et al.(1988)J.Bone Miner.Res.3:621-627;Lerner,U.H.& Ohlin A.(1993)J.Bone Miner.Res.8:147-155;およびShankar,G.&Stern,P.H.(1993)Bone14:871-876を参照されたい]、アルコール性肝炎[例えば、McClain,C.J.& Cohen,D.A.(1989)Hepatology 9:349-351;Felver,M.E.,et al.(1990)Alcohol Clin.Exp.Res.14:255-259;およびHansen,J.,et al.(1994)Hepatology 20:461-474を参照されたい]、ウイルス性肝炎[Sheron,N.,et al.(1991)J.Hepatol.12:241-245;およびHussain,M.J.,et al.(1994)J.Clin.Pathol.47:1112-1115]、および電撃的肝炎を包含する肝炎;凝固障害[例えば、van der Poll,T.,et al.(1990)N.Engl.J.Med.322:1622-1627;およびvan der Poll,T.,et al.(1991)Prog.Clin.Biol.Res.367:55-60を参照されたい]、火傷[例えば、Giroir,B.P.,et al.(1994)Am.J.Physiol.267:H118-124;およびLiu,X.S.,etal.(1994)Burns 20:40-44を参照されたい]、再灌流損傷[例えば、Scales,W.E.,et al.(1994)Am.J.Physiol.267:G1122-1127;Serrick,C.,et al.(1994)Transplantation58:1158-1162;およびYao,Y.M.,et al.(1995)Resuscitation 29:157-168を参照されたい]、ケロイド形成[例えば、McCauley,R.L.,et al.(1992)J.Clin.Immunol.12:300-308を参照されたい]、瘢痕組織形成;発熱;歯根膜病;肥満症、ならびに放射線毒性を包含する。
【0114】
本発明を下記の実施例によって更に説明するが、これは限定するとして解してはならない。本出願の全体を通じて、引用されたすべての参考文献、特許および公開特許願の内容は、引用によってここに組み込まれる。
【実施例】
【0115】
実施例1:hTNFαとのヒト抗体の結合の速度論的分析
リガンド(バイオセンサーのマトリックスに固定化されたビオチニル化組換えヒトTNFα(rhTNFα))と被分析物(溶液中の抗体)との実時間での結合相互作用を、BIAコアシステム(Pharmacia Biosensor, Piscataway,NJ)を用いた表面プラスモン共鳴(SPR)によって測定した。このシステムは、SPRの光学的特性を利用して、デキストランバイオセンサーマトリックス中のタンパク質の濃度の変化を検出する。タンパク質は、既知の濃度でデキストランのマトリックスと共有結合させる。抗体は、デキストランマトリックスを通じて注入し、注入された抗体と固定化されたリガンドとの特異的結合が、マトリックスのタンパク質濃度の上昇、および結果的なSPRシグナルの変化を招く。SPRでのこれらの変化は、共鳴単位(RU)として記録され、センサー記録図のy軸に沿って時間について表示される。バイオセンサーマトリックスへのビオチニル化rhTNFαの固定化を促すため、初めに100mMのN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)および400mMの塩酸N−エチル−N’−(3−ジエチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)によるマトリックス上のカルボキシル基の活性化によって、ストレプトアビジンを、遊離アミノ基を介してデキストランマトリックスに共有結合させる。次いで、活性化されたマトリックス越しにストレプトアビジンを注入する。酢酸ナトリウム、pH4.5に希釈したストレプトアビジン35μl(25μg/ml)を、活性化されたバイオセンサー越しに注入し、タンパク質上の遊離アミンを、活性化されたカルボキシル基に直接結合させる。1Mのエタノールアミンの注入によって、未反応のマトリックスEDC−エステルを失活させる。ストレプトアビジンと結合したバイオセンサーのチップは、商業的に入手可能でもある(Pharmacia BR-1000-16、Pharmacia Biosensor,Piscataway,NJ)。
【0116】
ビオチニル化rhTNFαは、初めにビオチン(D−ビオチニル−ε−アミノカプロン酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル;Boehringer Mannheimカタログ番号第1008960号)5.0mgをジメチルスルホキシド500μlに溶かして、10mg/mlの溶液を作成することによって調製した。(2.65mg/mlの)rhTNFα1mlあたりビオチン10μlを、ビオチンが2:1のモル比となるようにrhTNFαに加えた。反応物を静かに混合し、暗中で室温にて2時間インキュベートした。PD−10のカラム、セファデックスG−25M(Pharmaciaカタログ番号第17-085-01号)を、冷PBS25mlで平衡させ、カラムあたり2mlのrhTNFα−ビオチンを装荷した。カラムを10×1mlの冷PBSで溶出した。画分を捕集し、OD280で読み取った(1.0OD=1.25mg/ml)。適切な画分をプールし、使用まで−80℃で保管した。ビオチニル化rhTNFαは、商業的に入手可能でもある(R&D Systemsカタログ番号第FTA00号、Minneapolis,MN)。
【0117】
ストレプトアビジンを介してマトリックスに固定化しようとするビオチニル化rhTNFαを、0.05%の(BIAcore)界面活性剤P20(Pharmacia BR-1000-54、Pharmacia Biosensor,Piscataway,NJ)で補強したPBS実施緩衝液(Gibcoカタログ番号第1490-144号、Gibco BRL,Grand Island,NY)中に希釈した。固定化したrhTNFαと結合するrhTNFα特異性抗体の容量を決定するために、結合検定を下記のとおり遂行した。ビオチニル化rhTNFαのアリコート(25nM;10μlアリコート)を、ストレプトアビジン結合デキストランマトリックス中に5μl/分の流量で注入した。タンパク質の注入の前および直後に、PBS緩衝液のみを各フローセルに流通させた。基線と、ビオチニル化rhTNFα注入の完了の約30秒後との間のシグナルの正味の差が、結合の値を表すと解釈した(約500RU)。固定化されたビオチニル化rhTNFαとのrhTNFα特異性抗体の直接的結合を測定した。抗体(20μg/ml)をPBS操業緩衝液中に希釈し、25μlアリコートを、固定化タンパク質マトリックス中に5μl/分の流量で注入した。抗体の注入の前および直後に、PBS緩衝液のみを各フローセルに流通させた。基線シグナルと、抗体注入の完了後のシグナルとの正味の差が、特定の試料の結合の値を表すと解釈した。次の試料の注入の前に、100mMHClを用いてバイオセンサーのマトリックスを再生した。オフ速度(Koff)、オン速度(Kon)、会合速度(Ka)および解離速度(Kd)定数を決定するために、BIAcoreの速度論的評価ソフトウエア(バージョン2.1)を用いた。
【0118】
ビオチニル化rhTNFαとのD2E7(IgG4完全長抗体)の結合の、マウスmAbのMAK195(F(ab’)2フラグメント)と比較しての代表的な結果を下記の表1に示す。
【0119】
【表2】

第二の一連の実験では、IgG1完全長形態のD2E7とビオチニル化rhTNFαとの分子速度論的相互作用を、上記のとおり、BIAcore技術を用いて定量的に分析し、速度論的速度定数を導出し、下記の表2、3および4に要約した。
【0120】
【表3】

【0121】
【表4】

【0122】
【表5】

【0123】
解離および会合速度定数は、BIA分析ソフトウエアによってセンサーグラムの解離および会合領域を分析することによって算出した。D2E7とビオチニル化rhTNFα分子との相互作用に、慣用の化学的反応速度論:ゼロ次の解離および一次の会合速度論を仮定した。分析のために、速度論データの分析用の分子モデルを選ぶのに、二価のD2E7抗体の一方の腕と三量体のビオチニル化rhTNFの一方の単位との相互作用のみを考慮した。3回の独立した実験を実施し、結果を別個に分析した。D2E7とビオチニル化rhTNFとの相互作用の平均した見かけの解離速度定数(kd)は、8.81±1.06×10-5-1であり、平均した見かけの会合速度定数(ka)は、1.91±1.26×105-1-1であった。次いで、見かけの固有解離定数(Kd)を、式:Kd=kd/kaによって算出した。こうして、速度論的パラメータから導いた、rhTNFに対するD2E7の平均Kdは、6.09±3.42×10-10Mであった。IgG1形態のD2E7(表2、3および4に提示)とIgG4形態のD2E7(表1および実施例2および3に提示)とに対する速度論上の値の僅かな差は、IgG1またはIgG4不変部領域のいずれかの存在に起因する真の差ではなく、むしろ、IgG1の速度論的分析に用いた、より正確な抗体濃度測定に起因すると考えられる。したがって、ここに提示したIgG1形態のD2E7に対する速度論的な値が、D2E7抗体の最も正確な速度論的パラメータであると考えられる。
【0124】
実施例2:D2E7のCDR3ドメインのアラニン走査突然変異形成
標準的方法を用い、D2E7VLおよびD2E7VH領域のCDRドメイン沿いに、一連のアラニン単一突然変異を導入した。L鎖の突然変異を図1Bに示す(LD2E7*.A1、LD2E7*.A3、LD2E7*.A4、LD2E7*.A5、LD2E7*.A7およびLD2E7*.A8:D2E7VLCDR3ドメインの、それぞれ第1、3、4、5、7または8位でのアラニン突然変異を有する)。H鎖の突然変異を図2Bに示す(HD2E7*.A1、HD2E7*.A2、HD2E7*.A3、HD2E7*.A4、HD2E7*.A5、HD2E7*.A6、HD2E7*.A7、HD2E7*.A8およびHD2E7*.A9:D2E7VHCDR3ドメインの、それぞれ第2、3、4、5、6、8、9、10または11位でのアラニン突然変異を有する)。野生型D2E7VLおよびVHで構成される抗体とのrhTNFαの相互作用の速度論を、(1)アラニン置換D2E7VHと対合させた野生型D2E7VL;(2)アラニン置換D2E7VLと対合させた野生型D2E7VH;または(3)アラニン置換D2E7VHと対合させたアラニン置換D2E7VLで構成される抗体とのそれと比較した。すべての抗体は、完全長IgG4分子として試験した。
【0125】
rhTNFαとの抗体の相互作用の速度論を、実施例1に記載のとおり、表面プラスモン共鳴によって決定した。異なるVH/VL対についてのKoff速度を、下記の表5に要約する:
【0126】
【表6】

【0127】
これらの結果は、D2E7のVL領域およびVH領域のCDR3ドメインの位置の大多数は、ただ1個のアラニン残基との置換を受け易いことを立証する。D2E7VLCDR3ドメインの第1、4、5もしくは7位、またはD2E7VHCDR3ドメインの第2、5、6、8、9もしくは10位でのただ1個のアラニンの置換は、野生型の両親のD2E7抗体と比較した限りでは、hTNFαの結合のオフ速度に有意な効果を及ぼさない。D2E7VLCDR3の第8位、またはD2E7VHCDR3の第3位でのアラニンの置換は、4倍速いKoffを与え、D2E7VHCDR3の第4または11位でのアラニン置換は、8倍速いKoffを与えて、これらの位置は、hTNFαとの結合に、より決定的であることが示される。しかし、D2E7VLCDR3ドメインの第1、4、5、7もしくは8位、またはD2E7VHCDR3ドメインの第2、3、4、5、6、8、9、10もしくは11位でのただ1個のアラニン置換は、1×10-3-1またはそれ以下のKoffを有する抗hTNFα抗体を依然として生じる。
【0128】
実施例3:D2E7関連抗体の結合分析
D2E7に順次関連する一連の抗体を、実施例1に記載のとおりの表面プラスモン共鳴によって、rhTNFαとのそれらの結合について分析した。試験したVL領域のアミノ酸配列を図1Aおよび1Bに示す。試験したVH領域のアミノ酸配列を図2Aおよび2Bに示す。(完全長IgG1もしくはIgG4抗体、またはscFvのいずれかとして示されたフォーマットでの)様々なVH/VL対についてのKoff速度を、下記の表6に要約する:
【0129】
【表7】

【0130】
第9位にトレオニンまたはアラニンのいずれかを有する、D2E7、LOE7、LOE7.TおよびLOE7.Aから選ばれたVLを有する完全長抗体(すなわち、IgGフォーマット)についての遅いオフ速度(すなわち、Koff≦1×10-4-1)は、D2E7VLCDR3の第9位が、これら二つの残基によって、Koffに実質的に影響することなく占められ得ることを示す。したがって、D2E7VLCDR3に関する共通モチーフは、アミノ酸配列:Q−R−Y−N−R−A−P−Y−(T/A)(SEQ ID NO:3)を含む。更に、第12位にチロシンまたはアスパラギンのいずれかを有する、D2E7、VH1−D2.NおよびVH1−D2.Yから選ばれたVHを有する抗体についての遅いオフ速度(すなわち、Koff≦1×10-4-1)は、D2E7VHCDR3の第12位が、これら二つの残基によって、Koffに実質的に影響することなく占められ得ることを示す。したがって、D2E7VHCDR3に関する共通モチーフは、アミノ酸配列:V−S−Y−L−S−T−A−S−S−L−D−(Y/N)(SEQ ID NO:4)を含む。
【0131】
表6に示した結果は、scFvフォーマットでは、2SD4VLまたはVHCDR3領域を含む抗体は、D2E7VLまたはVHCDR3領域を含む抗体と比較して、より速いKoff(すなわち、Koff≧1×10-3-1)を示すことを立証する。VLCDR3内では、2SD4は、第2、5および9位でD2E7と異なる。しかし、上記に考察したとおり、第9位は、Ala(2SD4でのように)またはThr(D2E7でのように)によって、Koffに実質的に影響することなく占められ得る。したがって、2SD4およびD2E7の比較によって、D2E7VLCDR3の第2および5位は、ともにアルギニンであって、hTNFαとの抗体の会合に決定的であるとして特定できる。これらの残基は、抗体結合部位での接触残基として直接関与できるか、またはこの領域での抗体分子の骨格的構造の維持に決定的に寄与できると思われる。第2位の重要性に関しては、Lys(EPB12での)とのArg(D2E7と同じVLCDR3を有するLOE7での)の置換は、オフ速度を2倍に加速する。第5位の重要性に関しては、実施例2に記載したとおり、Ala(LD2E7*.A5での)とのArg(D2E7での)の置換も、オフ速度を2倍に加速する。その上、第2および5位のいずれにもArgがないと(2SD4での)オフ速度は5倍も速い。しかし、第5位は、hTNFαとの改良された結合に重要ではあるが、この位置での変化は、VLLOE4、VLLOH1またはVL0.1H8に見られるとおり、他の位置での変化によって打ち消され得ることに注目すべきである。
【0132】
VHCDR3内では、第1、7および12位でD2E7と異なる。しかし、上記に考察したとおり、第12位は、Asn(2SD4でのように)またはTyr(D2E7でのように)によって、Koffに実質的に影響することなく占められ得る。したがって、2SD4およびD2E7の比較によって、D2E7VHCDR3の第1および7位は、hTNFαとの結合に決定的であるとして特定できる。上記に考察したとおり、これらの残基は、抗体結合部位での接触残基として直接関与できるか、またはこの領域での抗体分子の骨格的構造の維持に決定的に寄与できると思われる。両位置とも、hTNFαとの結合に重要であり、それは、3C−H2VHCDR3(D2E7VHCDR3に関して、第1位にバリンからアラニンへの変化を有する)を用いたとき、D2E7VHCDR3を用いたときより3倍も速いオフ速度をscFvが有するからであるが、しかし、このオフ速度は、2SD4VHCDR3(D2E7VHCDR3に関して、第1および7位の双方に変化を有する)を用いたときより依然として4倍も遅い。
【0133】
実施例4:D2E7の機能的活性
D2E7の機能的活性を調べるために、該抗体がhTNFα活性をin vitroまたはin vivoのいずれでも阻害できる能力を測定するいくつかの検定で、該抗体を用いた。
【0134】
A.L929細胞でのTNFαの誘導による細胞毒性の中和
ヒト組換えTNFα(rhTNFα)は、18〜24時間のインキュベーション期間後にマウスL929細胞に細胞毒性を生起する。ヒト抗hTNFα抗体を、下記のような、rhTNFαおよび細胞との抗体の同時インキュベーションによるL929の検定で評価した。抗hTNFαAb100μlを含む96穴微量滴定プレートを、10%ウシ胎児血清(FBS)を含有するRPMI培地を用いて、二重にしたプレート伝いに1/3に系統希釈した。rhTNFα50μlを加えて、各試料のウェル中で500pg/mlの最終濃度とした。次いで、プレートを室温で30分間インキュベートした。次に、TNFα感受性であるL929マウス線維芽細胞50μlを加えて、1μg/mlのアクチノマイシンDを含む1ウェルあたり、5×104の細胞の最終濃度とした。対照は、培地に細胞を加えたものと、rhTNFαに細胞を加えたものとを含んだ。これらの対照、および2ng/ml〜8.2pg/mlにわたるTNFαの標準曲線を用いて、検定の質を決定し、中和の窓口を与えた。次いで、プレートを5%CO2中で37℃で終夜(18〜24時間)インキュベートした。
【0135】
培地100μlを各ウェルから除去し、PBS中に5mg/mlの3,(4,4−ジメチルチアゾール−2−イル)2,5−ジフェニルテトラゾリウム=ブロミド(MTT;Sigma Chemical Co.,St.Louis,Moより商業的に入手できる)50μlを加えた。次いで、プレートを37℃で4時間インキュベートした。次いで、20%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)50μlを各ウェルに加え、プレートを37℃で終夜インキュベートした。570/630nmでの光学密度を測定し、各試料について曲線をプロットし、標準的方法によってIC50を決定した。
【0136】
様々なVLおよびVH対を有するヒト抗体についての、マウスのMAK195mAbと比較した限りでの代表的な結果を下記の図3および表7に示す。
【0137】
【表8】

【0138】
図3および表7の結果は、D2E7のヒト抗hTNFα抗体、および様々なD2E7関連抗体は、TNFα誘導によるL929細胞毒性を、マウス抗hTNFαmAbであるMAK195のそれとほぼ同等の能力で中和することを立証する。
【0139】
もう一連の実験では、IgG1形態のD2E7がTNFα誘導L929細胞毒性を中和できる能力を、上記のとおりに調べた。3回の独立した実験から得られた結果、およびその平均を下記に要約する。
【0140】
【表9】

この一連の実験は、完全長IgG1の形態でのD2E7が、TNFα誘導L929細胞毒性を、1.25±0.01×10-10の平均IC50[M]で中和することを確認した。
【0141】
B.U−937細胞でのTNFα受容体とのTNFαの結合の阻害
ヒト抗hTNFα抗体が、細胞の表面でhTNFα受容体とのhTNFαの結合を阻害できる能力を、hTNFα受容体を発現するヒト組織球細胞系統であるU−937細胞系統(ATCC第CRL1593)を用いて調べた。U−937細胞を、10%ウシ胎児血清(Hyclone A-1111、Hyclone Laboratories,Logan,UT)、L−グルタミン(4nM)、HEPES緩衝液(10mM)、ペニシリン(100μg/ml)およびストレプトマイシン(100μg/ml)で強化したRPMI1640培地で増殖させた。完全長IgG抗体の活性を調べるために、1mg/mlのヒトIgG(Sigma I-4506、Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO)で強化したPBSとともにU−937細胞を氷上で45分間前インキュベートし、次いで、細胞を結合用緩衝液で3回洗浄した。受容体結合検定のためには、U−937細胞(5×106細胞/ウェル)を、96穴微量滴定プレート(Costar3799、CostarCorp.,Cambridge,MA)内で結合用緩衝液中で、125I標識化rhTNFα(3×10-10M;25μCi/ml;より入手)とともに、抗hTNFαを加えるか、または加えずに、0.2mlの総量でインキュベートした。プレートを氷上で1.5時間インキュベートした。次いで、各試料75μlを、ジブチルフタル酸塩(Sigma D-2270、Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO)およびジノニルフタル酸塩(ICN210733、ICN,Irvine,CA)を含む1.0ml入り試験管(Sarstedt 72.700、Sarstedt Corp.,Princeton,NJ)に移した。試験管は、ジブチルフタル酸塩およびジノニルフタル酸塩のそれぞれ2:1の体積比の混合物300mlを含んだ。遊離(すなわち未結合)125I標識化rhTNFαを、5分間の微量遠心分離によって除去した。次いで、細胞のペレットを含む各試験管端を、微小管鋏(Bel-Art210180001、Bel-Art Products,Pequannock,NJ)を援用して切断した。細胞ペレットは、p60またはp80TNFα受容体と125I標識化rhTNFαを含むが、油混合物の上の水相は、過剰な遊離125I標識化rhTNFαを含む。すべての細胞ペレットを計数管(Falcon2052、Becton DickinsonLabware,Lincoln Park,NJ)内に捕集し、シンチレーションカウンターで計数した。
【0142】
代表的な結果を図4に示す。U−937細胞でのhTNFα受容体とのhTNFαの結合のD2E7による阻害についてのIC50値は、これらの実験では約3×10-10Mである。これらの結果は、D2E7というヒト抗hTNFα抗体は、U−937細胞でのhTNFα受容体とのhTNFαの結合を、マウス抗hTNFαのmAbであるNAK195のそれとほぼ等価の濃度で阻害することを立証する。
【0143】
もう一連の実験では、IgG1形態のD2E7がU−937細胞でのhTNFα受容体とのrhTNFαの結合を阻害できる能力を、上記のとおりに調べた。これらの実験の結果、およびその平均を、下記の表9に要約する。
【0144】
【表10】

この一連の実験は、完全長のIgG1形態でのD2E7は、U−937細胞でのTNF受容体の結合を、1.56±0.12×10-10の平均IC50[M]で阻害することを確認する。
【0145】
個々のp55およびp75受容体と結合する125I−rhTNFαの結合におけるD2E7の阻害能を調べるため、固相放射線免疫検定を実施した。D2E7のIC50値を別個のTNF受容体について測定するため、様々な濃度の抗体を、3×10-10の濃度の125I−rhTNFαとともにインキュベートした。次いで、p55またはp75TNF受容体のいずれかを含む別個のプレートで、混合物を用量依存方式で試験した。結果を下記の表10に要約する:
【0146】
【表11】

D2E7によるU937細胞でのp55およびp75TNF受容体との125I−rhTNFの結合の阻害は、S字状曲線に従い、各受容体について類似のIC50値を示した。組換えTNF受容体による固相放射線免疫検定(RIA)の実験では、D2E7によるp55およびp75TNF受容体との125I−rhTNFの結合の阻害に対するIC50値は、それぞれ1.47×10-9および1.26×10-9Mとして算出された。固相でのIC50値の減少は、非標識rhTNFも同様のIC50値で阻害したことから、おそらく、RIAフォーマットでの受容体の、より高い濃度によるものであった。非標識rhTNFによるp55およびp75受容体との125I−rhTNFの結合の阻害についてのIC50値は、それぞれ2.31×10-9および2.70×10-9Mであった。
【0147】
C.HUVECでのELAM−1の発現の阻害
ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)は、rhTNFαの投与によって、それらの細胞表面で内皮細胞白血球付着分子1(ELAM−1)を発現するよう誘導することができ、これは、rhTNFα投与HUVECをマウス抗ヒトELAM−1抗体と反応させることによって検出できる。ヒト抗hTNFα抗体がHUVECでのELAM−1のこのTNFαに誘導された発現を阻害できる能力を、下記のとおり調べた:HUVEC(ATCC第CRL 1730号)を96穴プレートに接種し(5×104細胞/ウェル)、37℃で終夜インキュベートした。翌日、ヒト抗hTNFα抗体の系統希釈(1:10)を、20〜100μg/mlの抗体で開始して、微量滴定プレート中に調製した。rhTNFαの原液を4.5ng/mlで調製し、rhTNFαのアリコートを、抗体を含む各ウェルに加え、内容を充分混合した。対照は、培地のみ、培地プラス抗hTNFα抗体、および培地プラスrhTNFαを包含した。HUVECのプレートを、その37℃での終夜インキュベーションから取り出し、培地を各ウェルから静かに吸引した。抗体−rhTNFα混合物200μlをHUVECプレートの各ウェルに移した。次いで、HUVECプレートを37℃で更に4時間インキュベートした。次に、マウス抗ELAM−1抗体の原液をRPMIで1:1,000に希釈した。HUVECプレートの各ウェルの培地を静かに吸引し、50μl/ウェルの抗ELAM−1抗体液を加え、HUVECプレートを室温で60分インキュベートした。125I標識化抗マウスIg抗体液をRPMI中に調製した(50μl中約50,000cpm)。HUVECプレートの各ウェルの培地を静かに吸引し、ウェルをRPMIで2回洗浄し、125I標識化抗マウスIg液50μlを各ウェルに加えた。プレートを室温で1時間インキュベートし、次いで、各ウェルをRPMIで3回洗浄した。5%SDS180μlを各ウェルに加えて、細胞を溶解させた。次いで、各ウェルからの細胞溶解液を管に移し、シンチレーションカウンターで計数した。
【0148】
代表的結果を図5に示す。HUVECでのELAM−1のhTNFαで誘導される発現のD2E7による阻害に関するIC50値は、これらの実験では約6×10-11Mである。これらの結果は、D2E7のヒト抗hTNFα抗体は、HUVECでのhTNFα受容体で誘導されるELAM−1の発現を、マウス抗hTNFαmAbであるNAK195のそれとほぼ等価の濃度で阻害することを立証する。
【0149】
もう一連の実験では、IgG1形態のD2E7がHUVECでのhTNFα受容体で誘導されるELAM−1の発現を阻害できる能力を、上記のとおりにして調べた。3回の独立した実験からの結果、およびそれらの平均を下記の表11に要約する。
【0150】
【表12】

【0151】
この一連の実験は、完全長のIgG1形態でのD2E7は、HUVECでのTNFα誘導ELAM−1発現を、1.85±0.14×10-10の平均IC50[M]で阻害することを確認する。
【0152】
D2E7IgG1の中和能を、他の2種類の付着分子、すなわちICAM−1およびVCAM−1のrhTNF誘導での発現についても調べた。16時間でのICAM−1の発現についてのrhTNFの滴定曲線は、ELAM−1発現の曲線に非常に似ているため、同じ濃度のrhTNFを、抗体中和実験に用いた。様々な濃度のD2E7の存在下で、HUVECをrhTNFとともに37℃のCO2恒温器内で16時間インキュベートし、マウス抗ICAM−1抗体、およびその後の125I標識化ヒツジ抗マウス抗体によって測定した。
【0153】
VCAM−1発現の阻害を試験する実験の手順は、ELAM−1発現のための手順と同じであるが、抗ELAM−1MAbに代えて、抗VCAM−1MAbを用いた。3回の独立した実験を実施し、IC50値を算出した。無関係のヒトIgG1抗体は、VCAM−1の発現を阻害しなかった。結果を下記の表12に要約する:
【0154】
【表13】

【0155】
これらの実験は、ヒトの一次臍静脈内皮細胞へのrhTNFの投与は、4時間で付着分子:ELAM−1およびVCAM−1の最適発現へと、かつ16時間でICAM−1の上方調節された最大の発現へと導いた:D2E7は、3種類の付着分子の発現を用量依存方式で阻害することができた。ELAM−1、ICAM−1およびVCAM−1の阻害に関するIC50値は、それぞれ1.85×10-10、2.17×10-10および1.01×10-10Mであった。これらの値は非常に近く、ELAM−1、ICAM−1およびVCAM−1の誘導を発現するにはrhTNF活性化シグナルの用量が必要であることを示す。興味深いことに、D2E7は、ICAM−1の発現の比較的長期の阻害検定で、同様に効果的であった。ICAM−1の阻害検定は、ELAM−1やVCAM−1の阻害検定に要する4時間に対して、16時間のrhTNFおよびD2E7とHUVECとの同時インキュベーションを必要とした。D2E7がrhTNFに対して遅いオフ速度を有することから、16時間の同時インキュベーション期間の間に、HUVECのTNF受容体による有意な競争は皆無であったと考えられる。
【0156】
D.hTNFαのin vivoでの中和
3種類のin vivo系を用いて、D2E7がin vivoでhTNFα活性の阻害に有効であることを立証した。
【0157】
I.D−ガラクトサミン感作マウスでのTNFで誘導した致死性
D−ガラクトサミンで感作したマウスへの組換えヒトTNFα(rhTNFα)の注入は、24時間以内に致死性を生じる。このモデルでヒト抗hTNFα抗体がhTNFαをin vivoで中和できることを調べるため、PBS中の様々な濃度のD2E7−IgG1または対照タンパク質を、C57Bl/6マウスに腹腔内(i.p.)注射した。30分後、PBS中のrhTNFα1μg、およびD−ガラクトサミン20mg、i.p.にマウスを挑戦させ、24時間後に観察した。rhTNFαおよびD−ガラクトサミンのこれらの量は、80〜90%の致死率を達成するよう予め決定した。
【0158】
代表的な結果を、生存率の%対抗体濃度の棒グラフとして表し、図6に示す。黒い棒がD2E7を表すのに対し、斜線の棒はMAK195を表す。マウス1匹あたり2.5〜25μgの注入は、TNFαに誘導される致死性から動物を防護した。ED50値は約1〜2.5μg/マウスである。正の対照の抗体であるMAK195は、その防護能力が同様であった。rhTNFα不在下でのD2E7の注入は、マウスにいかなる不都合な効果もなかった。非特異的ヒトIgG1抗体の注入は、TNFα誘導致死性からのいかなる防護も与えなかった。
【0159】
第二の実験では、49匹のマウスを7群に等分した。各群には、様々な用量のD2E7を30分前に与えてから、LD80の用量のrhTNF/D−ガラクトサミン混合物(1マウスあたりrhTNF1.0μgおよびD−ガラクトサミン20mg)を与えた。対照の群7には、正常なヒトIgG1κ抗体を25μg/マウスの用量で与えた。24時間後にマウスを調べた。各群についての生存率を、下記の表13に要約する。
【0160】
【表14】

【0161】
II.TNFで誘導されるウサギの発熱の阻害
ウサギでのrhTNFで誘導される発熱応答の阻害におけるD2E7の薬効を調べた。体重約2.5kgのNZW系雌ウサギ3匹の群に、それぞれ、D2E7、rhTNF、およびD2E7とrhTNFとの免疫複合体を静脈内注射した。Kaye熱記録装置に接続したサーミスタのプローブによって、直腸温を1分ごとに約4時間測定した。5μg/kgとして注入した、生理食塩水中の組換えヒトTNFは、0.4℃を超える温度の上昇を注射の約45分後に誘発した。生理食塩水中に138μg/kgの用量での抗体製剤自体は、投与の140分後までウサギに温度上昇を全く誘発しなかった。以後のすべての実験では、D2E7または対照試薬(ヒトIgG1または生理食塩水担体)をウサギに静脈内注射した後、15分後に、生理食塩水中のrhTNFを5μg/kgとして静脈内注射した。いくつかの実験の代表的な結果を、下記の表14に要約する。
【0162】
【表15】

【0163】
14μg/kgの用量でのD2E7の静脈内事前投与は、生理食塩水のみ事前投与したウサギに比して、発熱応答を部分的に阻害した。137μg/kgで投与したD2E7は、同じ実験でのrhTNFの発熱応答を完全に抑制した。第二の実験では、24μg/kgで投与したD2E7は、やはり、生理食塩水のみ事前投与したウサギに比して、発熱応答を部分的に阻害した。この実験でのD2E7対rhTNFのモル比は1/6:1であった。第三の実験では、48μg/kgで静脈内注射したD2E7(D2E7:rhTNFのモル比=3.3:1)は、生理食塩水中の30μg/kgで対照ヒトIgG1を事前投与したウサギに比して、温度上昇を完全に抑制した。最後の実験では、rhTNFに対する非常に高いモル比(55:1)でD2E7(792μg/kg)を事前投与されたウサギは、観察4時間までのいかなる時点でも、温度のいかなる上昇も発症しなかった。55:1のモル比で37℃で1時間インキュベートした、D2E7とrhTNFとの混合物から生成した免疫複合体のウサギへの投与も、同じ実験で、いかなる温度上昇も誘発しなかった。
【0164】
III.Tg197トランスジェニックマウスでの多発性関節炎の防護
疾病の発症に対するD2E7の効果を、関節炎のトランスジェニックマウスのモデルで調査した。ヒト野生型TNFを発現する(コーディング配列を越えた3’領域が修飾されている)トランスジェニックマウス(Tg197)を生成し、これらのマウスは、生後4〜7週に100%の発生率で慢性多発性関節炎を発症する[多発性Tg197モデルのこれ以上の説明についてはEMBO J.(1991)10:4025-4031を参照されたい]。
【0165】
トランスジェニックな動物は、生後3日にPCRによって同定した。トランスジェニックマウスの同腹仔を6群に分けた。生後15日に、スロットブロットハイブリダイゼーション分析によってトランスジェニックマウスを確認した。6群の処理プロトコルは、次のとおりである:群1=処理なし;群2=生理食塩水(担体);群3=1.5μg/gでのD2E7;群4=15μg/gでのD2E7;群5=30μg/gでのD2E7;群6=対照として30μg/gでのイソタイプ。非トランスジェニックマウスを有する同腹仔も含めて、対照として役立てた(群7=非トランスジェニック;処理なし)。各群には、指示された処理の週3回の腹腔内注射を与えた。注射は10週間継続した。毎週、各動物について関節の形態学での巨視的変化を記録した。10週目に、すべてのマウスを殺し、マウスの組織をホルマリン中に捕集した。組織の顕微鏡検査を実施した。
【0166】
毎週の初めに、グラムでの動物の体重を各マウスについて計った。同時に、関節の大きさの測定(mmで)も、疾病の重篤度の測定として実施した。関節の大きさは、マイクロメータ装置を用い、後右足首での3回の測定の平均として確定した。毎週、関節炎の評点を次のとおり記録した:0=関節炎なし(正常な外見および屈曲);+=軽い関節炎(関節の歪み);++=程ほどの関節炎(腫脹、関節の変形);および+++=重い関節炎(屈曲と、ひどく損なわれた運動とで検出される強直)。関節切片のヘマトキシリン/エオシン染色に基づく組織病理学的評点は、次のとおりである:0=検出できる疾病なし;1=滑液膜の増殖;2=重度の滑液の濃化;3=軟骨の破壊および骨の侵食。
【0167】
Tg197トランスジェニック関節炎マウスの平均の関節の大きさに対するD2E7投与の効果を、図9のグラフに示す。Tg197トランスジェニックマウスの生後11週での組織病理学的および関節炎的評点を、下記の表15に要約する:
【0168】
【表16】

【0169】
この実験は、D2E7抗体が、野生型ヒトTNF(Tg197)を発現するトランスジェニックマウスに対する明確で好都合な効果を有し、研究期間後も明白な関節炎を伴わないことを立証する。
【0170】
E.他種からのTNFαのD2E7による中和
D2E7の結合特異性を、L929細胞毒性検定(上記の実施例4、サブセクションAで記載したとおり)を用い、様々な霊長類の種およびマウスからの腫瘍壊死因子を中和できるその能力によって調べた。結果を、下記の表16に要約する:
【0171】
【表17】

表16の結果は、D2E7が、5種の霊長類のTNFαの活性をヒトTNFαとほぼ等しく中和でき、その上、イヌTNFα(ヒトTNFαより約1/10)、およびブタとマウスのTNFα(ヒトTNFαより約1/1,000未満)の活性を中和できることを立証する。その上、液相rhTNFαとのD2E7の結合は、他のサイトカイン、例えばリンホトキシン(TNFβ)、IL−1α、IL−1β、IL−2、IL−4、IL−6、IL−8、IFNγおよびTGFβによっては阻害されず、DNAが、リガンドであるTNFαに対して非常に特異的であることを示した。
【0172】
F.D2E7とともにインキュベートしたヒト全血によって放出されるサイトカインの欠如
この実施例では、D2E7がそれ自体で、正常なヒトの血球を、サイトカインを分泌し、細胞表面の分子を脱落させるよう誘導できることを調べた。異なる3種類の正常な供与体からの、様々な濃度に希釈した全血とともに、D2E7を24時間インキュベートした。同時に、LPSの正の対照を、免疫担当血球を刺激してサイトカインを分泌させるよう予め決定した濃度で行動させた。上清を採集し、一連の10種類のサイトカイン、受容体および付着分子のELISAキット:すなわちIL−1α、IL−1β、IL−1受容体作用薬、IL−6、IL−8、TNFα、可溶性TNF受容体I、可溶性TNF受容体II、可溶性ICAM−1および可溶性E−セレクチン中で試験した。343μg/mlまでの濃度でのD2E7抗体との同時インキュベーションの結果として測定された、有意量のサイトカイン、または脱落した細胞表面分子は皆無であった。抗体の添加なしの対照培養体も、何ら測定可能量のサイトカインを生産しなかったのに対して、LPSと同時培養の対照は、高いpgないし低いngの範囲の増大した値を生じた。これらの結果は、D2E7が、生体外での培養体で全血球を、正常レベルを超えてサイトカインを分泌するか、または細胞表面タンパク質を脱落させるよう誘導しなかったことを示す。
【0173】
本開示の形成部分は、添付の配列表であり、その内容を下記の表に要約する。
【表18】

等価のもの
当業者は、本明細書に記載の発明の特定の実施態様と等価である多くのものを、定型的であることを超えない実験を用いて認識し、または確定できると思われる。そのような等価のものは、下記のクレームに包含されるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトTNFαを抗体と、ヒトTNFα活性が阻害されるように接触させることを含む、ヒトTNFα活性を阻害する方法であって、ここに、この抗体はヒトTNFαから1×10-8M以下のKd及び1×10-3-1以下のKoff速度定数で解離する単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分であり、この両者は表面プラズモン共鳴により測定されたものであり、且つ該抗体はヒトTNFαの細胞障害性を、標準イン・ビトロL929アッセイで1×10-7M以下のIC50で中和する、上記の方法。
【請求項2】
ヒトTNFαを抗体と、ヒトTNFα活性が阻害されるように接触させることを含む、ヒトTNFα活性を阻害する方法であって、ここに、この抗体は下記の特性を有する単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分である上記の方法:
a)ヒトTNFαから、表面プラズモン共鳴により測定して1×10-3-1以下のKoff速度定数で解離し;
b)SEQ ID NO:3のアミノ酸配列、又は位置1、4、5、7若しくは8における単一アラニン置換又は位置1、3、4、6、7、8及び/若しくは9における1〜5の保存的アミノ酸置換によりSEQ ID NO:3から改変されたアミノ酸配を含む軽鎖CDR3ドメインを有し;
c)SEQ ID NO:4のアミノ酸配列、又は位置2、3、4、5、6、8、9、10若しくは11における単一アラニン置換又は位置2、3、4、5、6、8、9、10、11及び/若しくは12における1〜5の保存的アミノ酸置換によりSEQ ID NO:4から改変されたアミノ酸配列を含む重鎖CDR3ドメインを有する。
【請求項3】
ヒトTNFαを抗体と、ヒトTNFα活性が阻害されるように接触させることを含む、ヒトTNFα活性を阻害する方法であって、ここに、この抗体は、SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)及びSEQ ID NO:2のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)を有する単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分である、上記の方法。
【請求項4】
ヒトTNFαから、表面プラズモン共鳴により測定して1×10-8M以下のKd及び1×10-3-1以下のKoff速度定数で解離し且つヒトTNFαの細胞障害性を、標準イン・ビトロL929アッセイで1×10-7M以下のIC50で中和する単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分の、TNFα活性が有害な病気の治療のための医薬の製造における利用であって、該抗体をヒト患者に、そのヒト患者におけるヒトTNFα活性が阻害されるように投与する、当該利用。
【請求項5】
下記の特性を有する単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分の、TNFα活性が有害な病気の治療のための医薬の製造における利用であって、該抗体をヒト患者に、そのヒト患者におけるヒトTNFα活性が阻害されるように投与する、当該利用:
a)ヒトTNFαから、表面プラズモン共鳴により測定して1×10-3-1以下のKoff速度定数で解離し;
b)SEQ ID NO:3のアミノ酸配列、又は位置1、4、5、7若しくは8における単一アラニン置換又は位置1、3、4、6、7、8及び/若しくは9におけるにおける1〜5の保存的アミノ酸置換によりSEQ ID NO:3から改変されたアミノ酸配を含む軽鎖CDR3ドメインを有し;
c)SEQ ID NO:4のアミノ酸配列、又は位置2、3、4、5、6、8、9、10若しくは11における単一アラニン置換又は位置2、3、4、5、6、8、9、10、11及び/若しくは12における1〜5の保存的アミノ酸置換によりSEQ ID NO:4から改変されたアミノ酸配列を含む重鎖CDR3ドメインを有する。
【請求項6】
SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)及びSEQ ID NO:2のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)を有する単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分の、TNFα活性が有害な病気の治療のための医薬の製造における利用であって、該抗体をヒト患者に、そのヒト患者におけるヒトTNFα活性が阻害されるように投与する、上記の利用。
【請求項7】
抗体D2E7の、TNFα活性が有害な病気の治療のための医薬の製造における利用であって、該抗体をヒト患者に、そのヒト患者におけるヒトTNFα活性が阻害されるように投与する、上記の利用。
【請求項8】
病気が自己免疫疾患である、請求項4、5、6及び7の何れか一つに記載の利用。
【請求項9】
病気が感染性疾患である、請求項4、5、6及び7の何れか一つに記載の利用。
【請求項10】
病気が移植拒絶又は移植片対宿主病である、請求項4、5、6及び7の何れか一つに記載の利用。
【請求項11】
病気が悪性疾患である、請求項4、5、6及び7の何れか一つに記載の利用。
【請求項12】
病気が肺病である、請求項4、5、6及び7の何れか一つに記載の利用。
【請求項13】
病気が腸疾患である、請求項4、5、6及び7の何れか一つに記載の利用。
【請求項14】
病気が心臓病である、請求項4、5、6及び7の何れか一つに記載の利用。
【請求項15】
病気が敗血症である、請求項4、5、6及び7の何れか一つに記載の利用。
【請求項16】
抗体をヒト患者に、サイトカインインターロイキン6(IL−6)と一緒に投与するか又は500pg/mlより高い血清若しくは血漿IL−6濃度を有するヒト患者に投与する、請求項15に記載の利用。
【請求項17】
病気がリウマチ様関節炎である、請求項4、5、6及び7の何れか一つに記載の利用。
【請求項18】
病気がリウマチ様脊椎炎である、請求項4、5、6及び7の何れか一つに記載の利用。
【請求項19】
病気が骨関節炎である、請求項4、5、6及び7の何れか一つに記載の利用。
【請求項20】
病気が通風関節炎である、請求項4、5、6及び7の何れか一つに記載の利用。
【請求項21】
病気がアレルギーである、請求項4、5、6及び7の何れか一つに記載の利用。
【請求項22】
病気が多発性硬化症である、請求項4、5、6及び7の何れか一つに記載の利用。
【請求項23】
病気が自己免疫性糖尿病である、請求項4、5、6及び7の何れか一つに記載の利用。
【請求項24】
病気が自己免疫性ブドウ膜炎である、請求項4、5、6及び7の何れか一つに記載の利用。
【請求項25】
病気がネフローゼ症候群である、請求項4、5、6及び7の何れか一つに記載の利用。
【請求項26】
病気が炎症性骨疾患である、請求項4、5、6及び7の何れか一つに記載の利用。
【請求項27】
病気が骨吸収病である、請求項4、5、6及び7の何れか一つに記載の利用。
【請求項28】
病気がアルコール性肝炎である、請求項4、5、6及び7の何れか一つに記載の利用。
【請求項29】
病気がウイルス性肝炎である、請求項4、5、6及び7の何れか一つに記載の利用。
【請求項30】
病気が凝固障害である、請求項4、5、6及び7の何れか一つに記載の利用。
【請求項31】
病気が火傷である、請求項4、5、6及び7の何れか一つに記載の利用。
【請求項32】
病気が再潅流傷害である、請求項4、5、6及び7の何れか一つに記載の利用。
【請求項33】
病気がケロイド形成である、請求項4、5、6及び7の何れか一つに記載の利用。
【請求項34】
病気が瘢痕組織形成である、請求項4、5、6及び7の何れか一つに記載の利用。
【請求項35】
病気が発熱である、請求項4、5、6及び7の何れか一つに記載の利用。
【請求項36】
ヒトTNFαから、表面プラズモン共鳴により測定して、1×10-8M以下のKd及び1×10-3-1以下のKoff速度定数で解離し且つヒトTNFαの細胞障害性を標準イン・ビトロL929アッセイで1×10-7M以下のIC50で中和する単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分の、TNFα活性が有害な病気の治療のための医薬の製造における利用であって、該抗体を患者にその病気が治療されるように投与する当該利用。
【請求項37】
下記の特徴を有する単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分の、TNFα活性が有害な病気の治療のための医薬の製造における利用であって、該抗体を患者にその病気が治療されるように投与する当該利用:
a)ヒトTNFαから、表面プラズモン共鳴により測定して1×10-3-1以下のKoff速度定数で解離し;
b)SEQ ID NO:3のアミノ酸配列、又は位置1、4、5、7若しくは8における単一アラニン置換又は位置1、3、4、6、7、8及び/若しくは9におけるにおける1〜5の保存的アミノ酸置換によりSEQ ID NO:3から改変されたアミノ酸配を含む軽鎖CDR3ドメインを有し;
c)SEQ ID NO:4のアミノ酸配列、又は位置2、3、4、5、6、8、9、10若しくは11における単一アラニン置換又は位置2、3、4、5、6、8、9、10、11及び/若しくは12における1〜5の保存的アミノ酸置換によりSEQ ID NO:4から改変されたアミノ酸配列を含む重鎖CDR3ドメインを有する。
【請求項38】
SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)及びSEQ ID NO:2のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)を有する単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分の、TNFα活性が有害な病気の治療のための医薬の製造における利用であって、該抗体を患者に、その病気が治療されるように投与する当該利用。
【請求項39】
抗体D2E7の、TNFα活性が有害な病気の治療のための医薬の製造における利用であって、該抗体を患者に、その病気が治療されるように投与する当該利用。
【請求項40】
病気が自己免疫疾患である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項41】
病気が感染性疾患である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項42】
病気が移植拒絶又は移植片対宿主病である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項43】
病気が悪性疾患である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項44】
病気が肺病である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項45】
病気が腸疾患である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項46】
病気が心臓病である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項47】
病気が敗血症である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項48】
抗体をヒト患者に、サイトカインインターロイキン6(IL−6)と一緒に投与するか又は500pg/mlより高濃度の血清若しくは血漿IL−6を有するヒト患者に投与する、請求項47に記載の利用。
【請求項49】
病気がリウマチ様関節炎である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項50】
病気がリウマチ様脊椎炎である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項51】
病気が骨関節炎である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項52】
病気が通風関節炎である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項53】
病気がアレルギーである、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項54】
病気が多発性硬化症である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項55】
病気が自己免疫性糖尿病である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項56】
病気が自己免疫性ブドウ膜炎である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項57】
病気がネフローゼ症候群である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項58】
病気が炎症性骨疾患である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項59】
病気が骨吸収病である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項60】
病気がアルコール性肝炎である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項61】
病気がウイルス性肝炎である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項62】
病気が凝固障害である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項63】
病気が火傷である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項64】
病気が再潅流傷害である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項65】
病気がケロイド形成である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項66】
病気が瘢痕組織形成である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項67】
病気が発熱である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項68】
単離されたヒト抗体を製薬上許容し得るキャリアーと組合せる、請求項4、5、6、7、36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項69】
単離されたヒト抗体を少なくとも一種の追加の治療剤と共に投与する、請求項4、5、6、7、36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項70】
患者がヒトである、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項71】
病気が敗血症性ショックである、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項72】
病気がエンドトキシン性ショックである、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項73】
病気がグラム陰性菌による敗血症である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項74】
病気が毒性ショック症候群である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項75】
病気がマラリアである、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項76】
病気が髄膜炎である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項77】
病気が悪液質である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項78】
病気がAIDSである、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項79】
病気が細菌性髄膜炎である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項80】
病気がAIDS関連合併症(ARC)である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項81】
病気が移植後のサイトメガロウイルス感染である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項82】
病気が感染及び感染後の悪液質による熱及び筋肉痛である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項83】
病気が同種異系移植片拒絶である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項84】
病気が腫瘍増殖の刺激である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項85】
病気が悪性疾患における転移の可能性の増大及び細胞障害性の媒介である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項86】
病気が腫瘍増殖又は転移の阻止である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項87】
病気が成人呼吸窮迫症候群である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項88】
病気がショック肺である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項89】
病気が慢性肺炎である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項90】
病気が肺サルコイドーシスである、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項91】
病気が肺繊維症である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項92】
病気が珪肺症である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項93】
病気が炎症性腸疾患、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項94】
病気が特発性炎症性腸疾患、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項95】
病気がクローン病である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項96】
病気が潰瘍性大腸炎である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項97】
病気が心臓虚血である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項98】
病気が心不全である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項99】
病気が肝炎である、請求項36、37、38及び39の何れか一つに記載の利用。
【請求項100】
下記の(a)又は(b)の単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分の、TNFα活性が有害である敗血症の治療のための医薬の製造における利用:
(a)SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)及びSEQ ID NO:2のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)を有する単離されたヒト抗体
(b)SEQ ID NO:1のアミノ酸配列から1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換及び/若しくは付加により得られるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)及びSEQ ID NO:2のアミノ酸配列から1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換及び/若しくは付加により得られるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)を有する単離されたヒト抗体であって、(a)に記載の抗体と同じ特性を有する単離されたヒト抗体。
【請求項101】
抗体を、ヒト患者に、サイトカインインターロイキン6(IL−6)と一緒に投与するか又は500pg/mlより高い血清若しくは血漿IL−6濃度を有するヒト患者に投与する、請求項100に記載の利用。
【請求項102】
下記の(a)又は(b)の単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分の、TNFα活性が有害である自己免疫疾患の治療のための医薬の製造における利用:
(a)SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)及びSEQ ID NO:2のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)を有する単離されたヒト抗体
(b)SEQ ID NO:1のアミノ酸配列から1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換及び/若しくは付加により得られるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)及びSEQ ID NO:2のアミノ酸配列から1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換及び/若しくは付加により得られるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)を有する単離されたヒト抗体であって、(a)に記載の抗体と同じ特性を有する単離されたヒト抗体。
【請求項103】
自己免疫疾患を、リウマチ様関節炎、リウマチ様脊椎炎、骨関節炎及び通風関節炎よりなる群から選択する、請求項102に記載の利用。
【請求項104】
自己免疫疾患を、アレルギー、多発性硬化症、自己免疫性糖尿病、自己免疫性ブドウ膜炎及びネフローゼ症候群よりなる群から選択する、請求項102に記載の利用。
【請求項105】
下記の(a)又は(b)の単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分の、TNFα活性が有害である感染性疾患の治療のための医薬の製造における利用:
(a)SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)及びSEQ ID NO:2のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)を有する単離されたヒト抗体
(b)SEQ ID NO:1のアミノ酸配列から1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換及び/若しくは付加により得られるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)及びSEQ ID NO:2のアミノ酸配列から1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換及び/若しくは付加により得られるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)を有する単離されたヒト抗体であって、(a)に記載の抗体と同じ特性を有する単離されたヒト抗体。
【請求項106】
下記の(a)又は(b)の単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分の、TNFα活性が有害である移植拒絶又は移植片対宿主病の治療のための医薬の製造における利用:
(a)SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)及びSEQ ID NO:2のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)を有する単離されたヒト抗体
(b)SEQ ID NO:1のアミノ酸配列から1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換及び/若しくは付加により得られるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)及びSEQ ID NO:2のアミノ酸配列から1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換及び/若しくは付加により得られるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)を有する単離されたヒト抗体であって、(a)に記載の抗体と同じ特性を有する単離されたヒト抗体。
【請求項107】
下記の(a)又は(b)の単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分の、TNFα活性が有害である悪性疾患の治療のための医薬の製造における利用:
(a)SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)及びSEQ ID NO:2のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)を有する単離されたヒト抗体
(b)SEQ ID NO:1のアミノ酸配列から1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換及び/若しくは付加により得られるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)及びSEQ ID NO:2のアミノ酸配列から1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換及び/若しくは付加により得られるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)を有する単離されたヒト抗体であって、(a)に記載の抗体と同じ特性を有する単離されたヒト抗体。
【請求項108】
下記の(a)又は(b)の単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分の、TNFα活性が有害である肺病の治療のための医薬の製造における利用:
(a)SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)及びSEQ ID NO:2のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)を有する単離されたヒト抗体
(b)SEQ ID NO:1のアミノ酸配列から1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換及び/若しくは付加により得られるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)及びSEQ ID NO:2のアミノ酸配列から1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換及び/若しくは付加により得られるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)を有する単離されたヒト抗体であって、(a)に記載の抗体と同じ特性を有する単離されたヒト抗体。
【請求項109】
下記の(a)又は(b)の単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分の、TNFα活性が有害である腸疾患の治療のための医薬の製造における利用:
(a)SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)及びSEQ ID NO:2のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)を有する単離されたヒト抗体
(b)SEQ ID NO:1のアミノ酸配列から1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換及び/若しくは付加により得られるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)及びSEQ ID NO:2のアミノ酸配列から1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換及び/若しくは付加により得られるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)を有する単離されたヒト抗体であって、(a)に記載の抗体と同じ特性を有する単離されたヒト抗体。
【請求項110】
下記の(a)又は(b)の単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分の、TNFα活性が有害である心臓病の治療のための医薬の製造における利用:
(a)SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)及びSEQ ID NO:2のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)を有する単離されたヒト抗体
(b)SEQ ID NO:1のアミノ酸配列から1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換及び/若しくは付加により得られるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)及びSEQ ID NO:2のアミノ酸配列から1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換及び/若しくは付加により得られるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)を有する単離されたヒト抗体であって、(a)に記載の抗体と同じ特性を有する単離されたヒト抗体。
【請求項111】
下記の(a)又は(b)の単離されたヒト抗体又はその抗原結合部分の、TNFα活性が有害である炎症性骨疾患、骨吸収病、アルコール性肝炎、ウイルス性肝炎、劇症肝炎、凝固障害、火傷、再潅流傷害、ケロイド形成、瘢痕組織形成、発熱、歯周病、肥満及び照射毒性よりなる群から選択する病気の治療のための医薬の製造における利用:
(a)SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)及びSEQ ID NO:2のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)を有する単離されたヒト抗体
(b)SEQ ID NO:1のアミノ酸配列から1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換及び/若しくは付加により得られるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)及びSEQ ID NO:2のアミノ酸配列から1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換及び/若しくは付加により得られるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)を有する単離されたヒト抗体であって、(a)に記載の抗体と同じ特性を有する単離されたヒト抗体。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−209119(P2010−209119A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149053(P2010−149053)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【分割の表示】特願2006−222629(P2006−222629)の分割
【原出願日】平成9年2月10日(1997.2.10)
【出願人】(505086495)アボット バイオテクノロジーズ リミテッド (3)
【Fターム(参考)】