説明

ヒトTRPチャネルの調節

ヒトTRPチャネルを調節する試薬およびヒトTRPチャネル遺伝子産物に結合する試薬は、尿失禁、膀胱活動亢進、良性前立腺肥大、下部尿路症候群およびCNS障害を包含するがこれらに限定されない機能不全または疾患の予防、改善または矯正において役割を担うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオンチャネル調節の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンチャネル
イオンチャネルタンパク質の生物学的重要性のために、当分野において、その活性を調節して治療効果をもたらすようなさらなる化学物質を同定することが必要とされている。
【0003】
低温およびメントール感受性受容体とTRPチャネル
最近、ラット由来の、低温およびメントールに対して感受性を持つ受容体(CMR1)がクローニングされた[McKemy D.D., Neuhausser W.M., and Julius, D.: Identification of a cold receptor reveals a general role for TRP channels in thermosensation. Nature 416:52-58, 2002]。この受容体は、三叉神経および後根神経節の小径のニューロンによって発現する興奮性イオンチャネルである。このチャネル受容体は低温(8〜28℃)や熱に応答する受容体の化学的アゴニストとしてのメントールによって活性化される(8〜28℃)、冷感として同様の知覚をもたらす。CMR1は、他の 温度受容体、VR1およびVRL1と同様に、TRPチャネルサブファミリーに属し、不快な熱に応答し、脊髄と脳に知覚情報を伝達する [Nagy I., Rang H.: Noxious heat activates all capsaicin-sensitive and also a sub-population of capsaicin- insensitive dorsal root ganglion neurons. Neuroscience 88:995-997, 1999] [Cesare P., McNaughton P.: A novel heat-activated current in nociceptive neurons and its sensitization by bradykinin. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 93:15435-15439, 1996]。
【0004】
最近、クローン化されたヒトTrp−p8 (マウスTRPM8に対する高い相同性)が選択的に発現されたが、その生理学的機能が解明されていない[Tsavaler L., Shapero M.H., Morkowski S., Laus R.: Trp−p8, a novel prostate-specific gene, is up-regulated in prostate cancer and other malignancies and shares high homology with transient receptor potential calcium channel proteins. Cancer Res. 61:3760-3769, 2001]。マウスTRPM8の機能は、冷刺激およびメントールにより開閉するイオンチャネルとして特徴付けられ、その発現は、疼痛および温度に感受性を有するDRGニューロンの部分的集団に限定されていた [Peier A.M., Moqrich A., Hergarden A.C., Reeve A.J., Andersson D.A., Story G.M., Earley T.J., Dragoni I., McIntyre P., Bevan S., Patapoutian A.: TRP Channel that Senses Cold Stimuli and Menthol. Cell 108:705-715, 2002]。イオンチャネルの特性は、解離したDRGニューロンのパッチクランプ分析において記載されている定温およびメントールにより活性化される電流の特性とと非常によく似ていると思われる[Reid G. and Flonta M.L.: Cold current in thermoreceptive neurons. Nature 413:480, 2001]。
【0005】
ヒトTrp−p8は、ラットCMR1およびマウスTRPM8と、それぞれ92%および93%同一であり、Trp−p8は、ラットCMR1およびマウスTRPM8のオーソログであるようである [Tsavaler L., Shapero M.H., Morkowski S., Laus R.: Trp-p8, a novel prostate-specific gene, is up-regulated in prostate cancer and other malignancies and shares high homology with transient receptor potential calcium channel proteins. Cancer Res. 61:3760-3769, 2001] [McKemy D.D., Neuhausser W.M., and Julius D.: Identification of a cold receptor reveals a general role for TRP channels in thermosensation. Nature 416:52-58, 2002] [Peier A.M., Moqrich A., Hergarden A.C., Reeve A.J., Andersson D.A., Story G.M., Earley T.J., Dragoni I., McIntyre P., Bevan S., Patapoutian A.: TRP Channel that Senses Cold Stimuli and Menthol. Cell 108:705-715, 2002].
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明の要旨
本発明の目的は、TRPチャネルを調節するための試薬および方法を提供することである。本発明のこの目的および他の目的は、以下に記載する態様の1つによって提供される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、TRPチャネルの活性を調節することができる物質に関するスクリーニングの方法であり、この活性に関連する疾患の処置に有用である。被験化合物を、配列番号12〜21に示すいずれかのアミノ酸配列と少なくとも約70%一致するアミノ酸配列を含むポリペプチドと接触させる。試験化合物とポリペプチドとの結合を検出する。このポリペプチドと結合する試験化合物を、その結果、TRPチャネル活性を調節するための可能性のある治療物質であると同定する。
【0008】
本発明のもう一つの態様は、TRPチャネルの活性に関連する疾患の処置に有用な物質をスクリーニングするための方法である。配列番号12〜21に示されるいずれかのアミノ酸配列に少なくとも約70%一致するアミノ酸配列を含むヒトTRPチャネルタンパク質をコードするポリヌクレオチドの発現を、試験化合物の存在下と非存在下で分析する。発現を増大させる試験化合物を、TRPチャネルに関連する疾患の処置に有用な候補治療剤として同定する。あるいは、発現を減少させる試験化合物を、TRPチャネルに関連する疾患の処置に有用な候補治療剤として同定する。本発明のさらなる態様は、TRPチャネルの活性を減少する物質をスクリーニングする方法である。試験化合物をTRPチャネルポリペプチドをコードする、配列番号1〜11に示すいずれか1つのヌクレオチド配列と少なくとも約70%一致するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドと接触させる。
【0009】
本発明のさらにもう一つの態様は、TRPチャネルにより媒介される生物学的活性を調節する物質に関するスクリーニングの方法である。被験化合物を、配列番号12〜21に示されるいずれかのアミノ酸配列に少なくとも約70%一致するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドによってコードされる産物と接触させる。このポリペプチドにより媒介される生物学的活性を検出する。この生物学的活性を減少させる化合物を、その結果、TRPチャネルの生物学的活性を減少させる治療物質として同定する。この生物学的活性を増大させる化合物を、その結果、TRPチャネルの生物学的活性を増大させる治療物質として同定する。
【0010】
本発明のさらなる態様は、ヒトTRPチャネル活性を調節すつ物質をスクリーニングする方法である。試験化合物を、配列番号1〜11に示すいずれか1つのヌクレオチド配列と少なくとも約70%一致するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドによってコードされる産物と接触させる。前記産物への被験化合物の結合を検出する。前記産物に結合する被験化合物を、その結果、ヒトTRPチャネルの活性を調節する可能性のある治療物質であると同定する。本発明のさらにもう一つの態様は、TRPチャネルの活性に関連する疾患を処置するための方法である。この方法は、TRPチャネルに関連する疾患を有する患者に、
(a)配列番号12〜21に示されるいずれかのアミノ酸配列に少なくとも約70%一致するアミノ酸配列を含むヒトTRPチャネルタンパク質をコードするヒトTRPチャネル遺伝子の発現を減少させる、または
(b)TRPチャネルタンパク質の有効レベルを減少させ、それによりTRPチャネルに関連する疾患の症状を低減する
物質の有効量を投与することを含む。あるいは、この方法は、TRPチャネルに関連する疾患を有する患者に、TRPチャネルアゴニスト、TRPチャネルタンパク質をコードするタンパク質または発現ベクターの有効量を投与し、それによりTRPチャネルに関連する疾患の症状を低減することを含む。
【0011】
本発明のさらなる態様は、ヒトTRPチャネルの活性を調節する方法である。細胞を、配列番号1〜11に示すいずれか1つのヌクレオチド配列と少なくとも約70%一致するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドによってコードされる産物に特異的に結合する試薬と接触させる。その結果、TRPチャネルの活性が低下する。本発明のもう一つの態様は、配列番号1〜11に示すいずれか1つのヌクレオチド配列と少なくとも約70%一致するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドによってコードされる産物に特異的に結合する試薬と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物である。
【0012】
本発明のさらなる態様は、TRPチャネルタンパク質をコードするヒトTRPチャネル遺伝子の発現産物と結合する試薬を含有する医薬組成物である。本タンパク質は、配列番号12〜21に示されるいずれかの配列に少なくとも約70%一致するアミノ酸配列;および製薬的許容し得る担体を含む。あるいは、医薬組成物は、配列番号12〜21に示されるいずれかのアミノ酸配列に少なくとも約70%一致するアミノ酸配列を含むヒトTRPチャネルタンパク質を含んでいても良い。
【0013】
本発明のさらなる態様は、この酵素の活性の異常な活性によって引き起こされる疾患、およびTRPチャネルの活性を刺激または阻害することによってその症状が緩和される疾患の処置のための医薬の製造における、配列番号1〜11に示すいずれか1つのヌクレオチド配列と少なくとも約70%一致するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドによってコードされる産物と特異的に結合する物質の使用である。
【0014】
本明細書における「TRPチャネルに関連する疾患」としては、例えば、膀胱の活動亢進、過反射、良性前立腺肥大が挙げられる。したがって、本発明は、調節されて治療効果をもたらし得る、ヒトTRPチャネルを提供する。
【0015】
発明の詳細な説明
本発明の発見は、ヒトTRPチャネルの異常な活性により引き起こされる疾患、およびTRPチャネルの活性を刺激または阻害することによりその症状を低減し得る疾患を管理するために、ヒトTRPチャネルを調節することができるということである。ヒトTRPチャネルを用いてヒトTRPチャネル活性化物質および阻害物質をスクリーニングすることができる。
【0016】
ヒトTRPチャネル遺伝子は、癌、心疾患、CNS障害および喘息または他のアレルギーまたは炎症性疾患等の障害を処置するための治療方法において有用であると考えられる。本発明は、ヒトTRPチャネルタンパク質の活性化物質または阻害物質を用いて、ヒトTRPチャネルと泌尿器系の障害との関連性を提供する。例えば、膀胱の活動亢進、過反射、良性前立腺肥大等の疾患を管理するためにTRPチャネルを調節することができる。
【0017】
冷感化合物であるメントールは、冷感受容体に対して選択的な強化作用を有し、動物において、膀胱冷却反射の温度反応曲線を高い温度にシフトさせる[Lindstrom S. and Mazi鑽es L.: Acta Physiol Scand, 141: 1, 1991] [Mazi鑽es L., Jiang C. and Lindstrom S.: J Physiol (Lond), 513: 531, 1998]。メントール処置はまた、すべての患者において、冷感反射の閾温度(threshold temperature)を高い数値にシフトさせる[Geirsson G.: J. Urol. 150:427, 1993]。電気生理学的研究は、後根神経節(DRG)ニューロンにおける冷感受容体の存在を示し、メントールが低温のシグナルを媒介する同じ受容体を用いることを示唆した。低温シグナルは、カルシウム透過イオンチャネルのダイレクトな開口を介して伝達されると考えられる[Reid G., Flonta M.L.: Nature 413:480, 2001]。非活動亢進膀胱は、通常の膀胱内圧径が最大400mL満たされるまで不随意の排尿筋収縮を起こさないものであると定義される。氷水試験(IWT)では、0〜4℃にて100mL/分の流速で氷水を用いて行う。臨床上、例えば、不随意排尿筋収縮を200mL未満、および200〜400mLの間の充填量で示す患者は、陽性とされる。一方、不随意排尿筋収縮が400mLまでの充填量の間に起こらなければ、氷水膀胱内圧計試験は陰性とされる[Ismael S.S., Epstein T., Bayle B., Denys P., Amarenco G.: J. Urol. 164:1280-1284, 2000]。OABを有する537人の患者の過去にさかのぼる分析では、上部運動ニューロン障害を有する患者の90%以上がIWT陽性であったが、上部運動ニューロン障害の軽い患者は完全に陰性であり、これら2種類のOAB患者を識別するこの試験の有用性が確認された [Geirsson G.: J. Urol. 150:427,1993]。興味深いことに、多発性硬化症、パーキンソン病または過去の脳血管障害等のCNS障害と関連するOABを有する患者の75%がIWTにおいて陽性であった。脊髄障害を有する76人のOAB患者についての別の研究では、54%の患者が、IWT陽性であった[Geirsson G., Fall M.: Scand. J. Urol. Nephrol. 29:457-461, 1995]。さらに、膀胱下閉塞を有する17人のOAB患者のうちの12人(71%)がIWT陽性であった[Chai T.C., Gray M.L., Steers W.D.: J. Urol. 160:34-38, 1998]。これらの証拠は、半数を超えるOAB患者における、冷感受容体が介在する反射の存在または機能的なアップレギュレーションを明確に示している。したがって、ヒトTrp−p8/CMR1は、IWTに応答する患者におけるOABを調節するための適当な治療標的である。
【0018】
ポリペプチド
本発明に係るヒトTRPチャネルポリペプチドには、配列番号12〜21に示すアミノ酸配列で示されるアミノ酸配列から選択される、少なくとも6、10、15、20、25、50、75、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375,400または419個の連続アミノ酸、または以下に定義される生物学的に活性な変異体が含まれる。したがって、本発明のTRPチャネルポリペプチドは、TRPチャネルタンパク質の一部、完全長のTRPチャネルタンパク質、又はTRPチャネルタンパク質の全部または一部を含む融合タンパク質であり得る。
【0019】
生物学的に活性な変異体
生物学的に活性な、即ちイオンチャネルとして機能する能力を保持する、ヒトTRPチャネルポリペプチド変異体もまた、TRPチャネルタンパク質ポリペプチドである。好ましくは、天然または非天然に存在するTRPチャネルポリペプチド変異体は、配列番号12〜21に示すいずれかのアミノ酸配列またはその断片と、少なくとも約26、30、35、40、45、50、55、60、65または70%、好ましくは約75、80、85、90、96、96、98または99%同一のアミノ酸配列を有する。推定されるTRPチャネルポリペプチド変異体と配列番号12〜21のアミノ酸配列との同一性のパーセントは、慣用の方法によって決定する。例えば、Altschul et al., Bull. Math. Bio. 48:603 (1986)、およびHenikoff & Henikoff, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915 (1992)を参照。簡潔には、2つのアミノ酸配列を、ギャップオープニングペナルティ10、ギャップ伸長ペナルティ1、およびHenikoff & Henikoff (1992)の「BLOSUM62」スコアリングマトリクスを用いてアライメントスコアが最適になるよう整列させる。
【0020】
当業者は、2つのアミノ酸配列を整列させるために用いることができる確立されたアルゴリズムが多く存在することを理解している。Pearson and Lipmanの「FASTA」類似性検索アルゴリズムは、本明細書に開示されたアミノ酸配列と推定の変異体のアミノ酸配列が共有する同一性のレベルを調べるための適当なタンパク質アライメント法である。FASTAアルゴリズムは、Pearson and Lipman, Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 85:2444(1988)、およびPearson, Meth. Enzymol. 183:63 (1990)に記載されている。簡潔には、FASTAは、最初に、保存的なアミノ酸置換、挿入または欠失を考慮することなく、照会する配列(例えば、配列番号12〜21)および最も高い同一性の密度(ktup変数が1である場合)または同一の対(ktup=2の場合)のいずれかを有する試験配列が共有する領域を同定することによって配列の類似性を特徴付ける。次いで、最も高い同一性の密度を有する10の領域を、アミノ酸置換マトリクスを用いてすべての対のアミノ酸の類似性を比較することによって再スコア化し、その領域の末端を、最も高いスコア貢献する残基のみを含むように切り取る。「切り捨て(cutoff)」値(配列の長さとktup値に基づいて所定の式によって計算された)よりも大きいスコアを有する領域がいくつか存在する場合は、切取った最初の領域を調べ、その領域が連結してgapを有する近似アライメントを形成することができるかどうかを決定する。最後に、2つのアミノ酸配列の最も高いスコアの領域を、アミノ酸挿入および欠失を許容する、Needleman-Wunsch- Sellers algorithm (Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol.48:444 (1970); Sellers, SIAM J. Appl. Math. 26:787 (1974))を用いて整列させる。FASTA分析に好ましいパラメーターは、以下のとおりである:ktup=1, ギャップオープニングペナルティ=10、ギャップ伸長ペナルティ=1、および置換マトリクス=BLOSUM62。これらのパラメータは、Appendix 2 of Pearson, Meth. Enzymol. 183:63 (1990)において説明されているように、スコアリングマトリクスファイル(「SMATRIX」)に修飾を施してFASTAプログラムに導入することができる。
【0021】
FASTAは、上記の比率を用いて核酸分子の配列同一性を決定するために用いることもできる。ヌクレオチド配列の比較に関して、ktup値は、1〜6の範囲内であり得、好ましくは3〜6の範囲、最も好ましくは3であり、その他のパラメータは既定値である。
【0022】
同一性の百分率における変化は、例えばアミノ酸置換、挿入または欠失に起因し得る。アミノ酸置換は1対1のアミノ酸の置き換えとして定義される。置換されたアミノ酸が類似の構造的および/または化学的性質を有する場合、置換は保存的である。保存的置換の例は、イソロイシンまたはバリンによるロイシンの置換、グルタミン酸塩によるアスパラギン酸塩の置換、またはセリンによるスレオニンの置換である。
【0023】
アミノ酸挿入または欠失は、アミノ酸配列への、またはその内部での変化である。これらは典型的には約1ないし5アミノ酸の範囲で起こる。TRPチャネルポリペプチドの生物学的または免疫学的活性を廃絶することなく、どのアミノ酸残基が置換、挿入または欠失できるかを決定する際の指針は、当分野で周知のコンピュータープログラム、例えばDNASTARソフトウェアを用いて見出すことができる。アミノ酸変化またはポリペプチド修飾が生物学的に活性な膜様セリンプロテアーゼポリペプチドを生じるかどうかは、例えば、以下の「機能検定」の節に記載されているように、機能の活性を分析することにより容易に決定することができる。
【0024】
融合タンパク質
融合タンパク質は、TRPチャネルポリペプチドアミノ酸配列に対する抗体を作成するため、および様々な分析系において用いるために有用である。例えば、融合タンパク質を用いて、TRPチャネルポリペプチドの一部分と相互作用するタンパク質を同定することができる。この目的のために、タンパク質アフィニティークロマトグラフィーまたはタンパク質タンパク質相互作用に関するライブラリーベースのアッセイ、例えば酵母ツーハイブリッドまたはファージディスプレイシステム、を用いることができる。そのような方法は当分野において周知であり、薬物スクリーニングに用いることもできる。
【0025】
TRPチャネルポリペプチド融合タンパク質は、ペプチド結合で互いに融合した2つのポリペプチドセグメントを含んでなる。第1のポリペプチドセグメントは、上記のような、配列番号12〜21のいずれかの、少なくとも6、10、15、20、25、50、75、100、125、150、175、200、225、250、275、300、400、500、600、700、800、900または1000の連続したアミノ酸配列またはその生物学的に活性な変異体を含んでなる。第1のポリペプチドセグメントはまた完全長のTRPチャネルポリペプチドを含んでなることもある。
【0026】
第2のポリペプチドセグメントは完全長のタンパク質またはタンパク質断片であってよい。融合タンパク質構造において一般に用いられるタンパク質としては、β−ガラクトシダーゼ、p−グルクロニダーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、自己蛍光タンパク質(青色蛍光タンパク質(BFP)を含む)、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、ルシフェラーゼ、ホースラディシュ・ペルオキシダーゼ(HRP)およびクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)が挙げられる。さらに、融合タンパク質構造において、ヒスチジン(His)タグ、FLAGタグ、インフルエンザヘマグルチニン(HA)タグ、Mycタグ、VSV−Gタグおよびチオレドキシン(Trx)タグを含むエピトープタグが用いられる。他の融合構築物としては、マルトース結合蛋白質(MBP)、S−タグ、Lex DNA結合ドメイン(DBD)融合物、GAL4 DNA 結合ドメイン融合物、単純ヘルペスウイルス(HSV)BP16タンパク質融合物が挙げられる。融合タンパク質はまた、TRPチャネルポリペプチドが開裂してヘテロローガスな部分から精製できるように、TRPチャネルポリペプチドをコードする配列とヘテロローガスなタンパク質配列との間に位置する開裂部位を含むことができる。
【0027】
融合タンパク質は当分野で周知のように化学合成できる。好ましくは、融合タンパク質は二つのポリペプチドセグメントを共有結合で連結することにより、または分子生物学分野で標準的な方法により調製する。例えば、当分野で知られているように、第二のポリペプチドセグメントをコードしているヌクレオチドを有する適切なリーディングフレームに配列番号1から選ばれるコード配列を含む、DNA構築物を作製し、このDNA構築物を宿主細胞で発現させる事による組換えDNA法を用いて、融合タンパク質を調製できる。融合タンパク質を組み立てるための多くのキットは、Promega Corporation(Madison, WI)、Stratagene(La Jolla, CA)、CLONTECH(Mountain View, CA)、Santa Cruz Biotechnology(Santa Cruz, CA)、MBL international Corporation(MIC; Watertown, MA)、およびQuantum Biotechnologies(Montreal, Canada; 1-888-DNA-KITS)等から入手できる。
【0028】
種相同体の同定
TRPチャネルポリペプチドのポリヌクレオチド(下記)を使用して他の種、例えばマウス、サル、または酵母由来のcDNA発現ライブラリーをスクリーニングするために好適なプローブまたはプライマーを作製し、TRPチャネルポリペプチドの相同体をコードしているcDNAを同定し、そして当分野で周知のようにこのcDNAを発現させて、ヒトTRPチャネルポリペプチドの種相同体を得ることができる。
【0029】
ポリヌクレオチド
TRPチャネルポリヌクレオチドは一本鎖または二本鎖であってよく、TRPチャネルポリペプチドのコード配列またはこのコード配列の相補体を含んでいる。ヒトTRPチャネルのコード配列は、配列番号1〜11からなる群から選択される。
【0030】
ヒトTRPチャネルポリペプチドをコードしている縮重ヌクレオチド配列、および、配列番号1〜11に示すヌクレオチド配列と少なくとも約50、55、60、65、70%、好ましくは約75、90、96、98もしくは99%一致するホモローガスなヌクレオチド配列またはこれらの相補物もまた、TRPチャネルポリヌクレオチドである。二つのポリヌクレオチド配列間の配列同一性のパーセントは、ALIGNのようなコンピュータープログラムを用いて決定するが、これは、ギャップオープンペナルティー−12およびギャップエクステンションペナルティー−2によるアフィンギャップ検索を用いるFASTAアルゴリズムを使用するものである。相補的DNA(cDNA)分子、種相同体および生物学的に活性なTRPチャネルポリペプチドをコードするTRPチャネルポリヌクレオチドの変異体もやはりTRPチャネルポリヌクレオチドである。配列番号1〜11に示すいずれかの配列の少なくとも8、9、10、11、12、15、20または25の連続したヌクレオチドを含むポリヌクレオチド断片またはその相補物もまたTRPチャネルポリヌクレオチドである。これらの断片は、例えば、ハイブリダイゼーションプローブまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドとして用いることができる。
【0031】
ポリヌクレオチド変異体および相同体の同定
上記のTRPチャネルポリヌクレオチドの変異体および相同体もまたTRPチャネルポリヌクレオチドである。典型的には、TRPチャネルポリヌクレオチド配列は、当分野で周知のように、ストリンジェントな条件下で候補ポリヌクレオチドを既知のTRPチャネルポリヌクレオチドにハイブリダイズすることにより同定できる。例えば、以下の洗浄条件:2X SSC(0.3M NaCl、0.03M クエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.1%SDS、室温で2回、各々30分間;次いで2X SSC、0.1%SDS、50℃で1回、30分間;次いで2X SSC、室温で2回、各々10分間、を使用して、最大約25−30%の塩基対ミスマッチを含むホモローガス配列を同定できる。より好ましくは、ホモローガス核酸鎖は15〜25%の塩基対ミスマッチを、さらに好ましくは5〜15%の塩基対ミスマッチを含む。
【0032】
本明細書に開示するTRPチャネルポリヌクレオチドの種相同体はさらに、適当なプローブまたはプライマーを作製し、他の種、例えばマウス、サル、または酵母由来のcDNA発現ライブラリーをスクリーニングすることによって同定できる。TRPチャネルポリヌクレオチドのヒト変異体は、例えばヒトcDNA発現ライブラリーをスクリーニングすることにより同定できる。二本鎖DNAのTは相同性が1%低下する毎に1−1.5℃低下することがよく知られている(Bonner et al., J.Mol.Biol. 81,123(1973))。故にヒトTRPチャネルポリヌクレオチドの変異体または他の種のTRPチャネルポリヌクレオチドは、推定のホモローガスTRPチャネルポリヌクレオチドを、配列番号1〜11のいずれかのヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドまたはその相補物とハイブリダイズさせて被験ハイブリッドを作製することによって同定できる。被験ハイブリッドの融解温度を、完全に相補的なヌクレオチド配列を有するトランスホルミラーゼポリヌクレオチドを含むハイブリッドの融解温度と比較し、被験ハイブリッドの中の塩基対ミスマッチのパーセント数を算出する。
【0033】
ストリンジェントなハイブリダイゼーションおよび/または洗浄条件に従いTRPチャネルポリヌクレオチドまたはその相補物とハイブリダイズするヌクレオチド配列もまたTRPチャネルポリヌクレオチドである。ストリンジェントな洗浄条件は当分野で周知且つ理解されており、例えばSambrook et al., MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL, 2d ed., 1989, 9.50-9.51頁に開示されている。
【0034】
典型的には、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件のためには、温度と塩濃度の組み合わせを、検討中のハイブリッドの理論的Tよりおよそ12−20℃低くなるよう選択する。配列番号1〜11からなる群から選択されるいずれかのヌクレオチド配列を有するTRPチャネルポリヌクレオチドまたはその相同体と、それらのヌクレオチド配列のいずれか1つと少なくとも約50、好ましくは約75、90、96、または98%同一のポリヌクレオチド配列との間のハイブリッドのTは、例えばBolton and McCarthy, Proc.Natl.Acad.Sci. U.S.A. 48,1390(1962)の式:
=81.5℃−16.6(log10[Na])+0.41(%G+C)−0.63(%ホルムアミド)−600/l)、
[式中、l=塩基対で表したハイブリッドの長さ]
を用いて算出できる。
【0035】
ストリンジェントな洗浄条件としては例えば、4X SSC(65℃)、または50%ホルムアミド、4X SSC(42℃)、または0.5X SSC、0.1%SDS(65℃)が挙げられる。高度ストリンジェントな洗浄条件は、例えば0.2X SSC(65℃)などである。
【0036】
ポリヌクレオチドの調製
TRPチャネルポリヌクレオチドは、膜成分や脂質などの他の細胞成分を含まないように単離することができる。ポリヌクレオチドは、細胞によって産生され、標準的な核酸精製技術を用いて単離することができるか、またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等の増幅技術、あるいは自動化された合成装置を用いて合成することができる。ポリヌクレオチドを単離する方法は、常套的で当分野において周知である。ポリヌクレオチドを得るためのそのような任意の方法を用いて単離されたTRPチャネルポリヌクレオチドを得ることができる。例えば、制限酵素およびプローブを用いて、TRPチャネルヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド断片を単離することができる。単離されたポリヌクレオチドは、他の分子を少なくとも70、80、または90%含まない調製物中に存在する。
【0037】
ヒトTRPチャネルcDNA分子は、TRPチャネルmRNAをテンプレートして用いて標準的な分子生物学の技術によって作成することができる。ヒトTRPチャネルcDNA分子はその後で当分野で周知の、Sambrook et al. (1989)等のマニュアルに開示されている分子生物学の技術を用いて複製することができる。PCR等の増幅技術を用いて、ヒトゲノムDNAまたはcDNAのいずれかをテンプレートとして用い、本発明のさらなるポリヌクレオチドを得ることができる。
【0038】
あるいは、化学合成法を用いて、TRPチャネルポリヌクレオチドを合成することができる。遺伝コードの縮重によって、合成される、例えば、配列番号12〜21のいずれかに示すアミノ酸配列を有するTRPチャネルポリペプチドまたは生物学的に活性なその変異体をコードするさらに別のヌクレオチド配列が可能である。
【0039】
ポリヌクレオチドの伸長
本明細書に開示された部分配列を用いてその部分配列から誘導された対応する完全長遺伝子を同定することができる。部分配列をニック翻訳するかまたはポリヌクレオチドキナーゼを用い当業者に周知の標識法(BASIC METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY, Davis et al., eds., Elsevier Press, N.Y., 1986)を用いて末端を32Pで標識することができる。ヒト組織から調製したラムダライブラリーを目的の標識配列を用いて直接スクリーニングするかまたはライブラリーをまとめてpBluescript (Stratagene Cloning Systems, La Jolla, Calif. 92037)に変換して細菌コロニースクリーニングを容易にすることができる(Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989, pg. 1.20)を参照)。
【0040】
いずれの方法も当分野では周知である。簡潔には、pBluescriptにそのライブラリーを含有する細菌コロニーを有するフィルターまたはラムダプラークを含有する細菌のローン(lawn)を変性させ、DNAをフィルターに固定する。このフィルターをDavis et al., 1986に記載されているハイブリダーゼーション条件を用いて標識プローブとハイブリダイズさせる。ラムダまたはpBluescriptにクローニングした部分配列を、ポジティブコントロールとして用い、バックグラウンドの結合を調べ、正確なクローンの同定に必要なハイブリダイゼーションおよび洗浄ストリンジェンシーを調整する。得られたオートラジオグラムを、それぞれ暴露されたスポットが陽性コロニーまたはプラークに対応する、コロニーまたはプラークの2枚一組のプレートと比較する。コロニーまたはプラークを選択し、増殖させ、DNAを更なる解析および配列決定のためにコロニーから単離する。
【0041】
それらが含んでいる更なる配列の量を決定するために、一方は部分配列に由来するプライマー、他方はベクターに由来するプライマーを用いるPCRを用いて陽性のcDNAコロニーを解析する。最初の部分配列よりも大きなベクターインサートPCR生成物を有するクローンを制限消化およびDNA配列決定により解析し、それらがノーザンブロット分析から決定されたmRNAと同じ大きさかまたは同様の大きさのインサートを含んでいるかどうかを決定する。
【0042】
1またはそれ以上の重複cDNAクローンを同定したら、例えばエキソヌクレアーゼIII消化(McCombie et al., Methods 3, 33 40, 1991)の後にそのクローンの完全な配列を決定する。一連の欠失クローンを作成し、それぞれの配列を決定する。得られた重複配列を、縮重度の高い1つの連続した配列(各ヌクレオチドの位置で通常3〜5の重複配列)に組み立て、正確度の高い最終配列を得る。
【0043】
ポリヌクレオチドの伸張
様々なPCRをベースとする方法を用いて本明細書に開示した核酸配列を伸張することができ、例えば、プロモーターや調節エレメントなどの上流配列を検出することができる。例えば、制限部位PCRはユニバーサルプライマーを用いて、既知の座(Sarkar, PCR Methods Applic. 2, 318 322, 1993)に隣接する未知の配列を読み出すことができる。リンカー配列に対するプライマーおよび既知の領域に特異的なプライマーの存在下で最初にゲノムDNAを増幅する。増幅した配列を、同じリンカープライマーと、最初のプライマーの内部の別の特異的プライマーを用いて第2のPCRに付す。各PCRの産物を適当なRNAポリメラーゼを用いて転写し、逆転写酵素を用いて配列を決定する。
【0044】
インバースPCRもまた、既知の領域(Triglia et al., Nucleic Acids Res. 16, 8186, 1988)に基づいたダイバージェントプライマーを用いて配列を増幅または伸張するために使用することができる。OLIGO4.06プライマー解析ソフトウェア(National Biosciences Inc.,Plymouth, Minn. )等の商業的に入手可能なソフトウェアを用いて、長さ22〜30ヌクレオチド、GC含量50%以上で、約68〜72℃で標的配列をアニールするプライマーを設計することができる。この方法は、いくつかの制限酵素を用いて遺伝子の既知の領域の適当な断片を調製する。次いでこの断片を 分子内ライゲーションにより環状にし、PCRテンプレートとして用いる。
【0045】
使用できるさらなる方法は、捕捉PCRであり、これはヒトおよび酵母の人工染色体DNAの既知の配列(Lagerstrom et al., PCR Methods Applic. 1, 111 119, 1991)に隣接するDNAのPCR増幅が関わる。この方法では、複数の酵素消化とライゲーションを用いて遺伝し操作した2本鎖の配列を、PCRを行う前にDNA分子の未知の断片内に配置させることができる。
【0046】
未知配列を回収するために使用できるもう一つの方法はParker et al., Nucleic Acids Res. 19,3055-3060,1991の方法である。加えて、PCR、入れ子式(nested)プライマー、およびPROMOTERFINDERライブラリー(CLONTECH, Palo Alto, Calif.)を用いてゲノムDNAを移動させることができる(CLONTECH, Palo Alto, Calif.)。このプロセスはライブラリーをスクリーニングする必要性を排除し、イントロン/エクソン接合点の発見に有用である。
【0047】
完全長のcDNAをスクリーニングする場合、より大きなcDNAを含むようにサイズ選択されたライブラリーを用いることが好ましい。遺伝子の5'領域を含む配列をより多く含む点で、ランダムにプライミングされたライブラリーが好ましい。ランダムにプライミングされたライブラリーの使用は、オリゴd(T)ライブラリーが完全長のcDNAを生じない状況では、特に好ましいであろう。ゲノムライブラリーは、5'非転写調節領域へ配列を伸張するのに有用である。
【0048】
商業的に入手可能なキャピラリー電気泳動システムを用いて、大きさを解析またはPCRのヌクレオチド配列を確認または産物の配列を決定することができる。例えば、キャピラリー配列決定は、電気泳動の分離のために流動性ポリマー、レーザー励起される4つの異なる蛍光染料(各ヌクレオチドについて1つ)、および放射された波長のCCDカメラによる検出を用いることができる、出力/光強度を電気的信号に変換することができる。適当なソフトウェア(例えば、GENOTYPERおよびSequence NAVIGATOR, Perkin Elmer)を用い、試料の投入からコンピュータ解析までの全課程と電子データ表示をコンピュータ制御することができる。キャピラリー電気泳動は、特定の試料における限られた量に存在し得るDNAの小さい部分の配列決定に特に好ましい。
【0049】
ポリペプチドの取得
ヒトTRPチャネルポリペプチドは、例えばヒト細胞からの精製によって、TRPチャネルポリヌクレオチドの発現によって、または直接的化学合成によって取得できる。
【0050】
蛋白精製
ヒトTRPチャネルポリペプチドは、TRPチャネル発現構築物でトランスフェクトした宿主細胞を包含する、該ポリペプチドを発現する任意のヒト細胞から精製できる。精製TRPチャネルポリペプチドは、細胞内のTRPチャネルポリペプチドに通常付随するその他の化合物、例えば或る種の蛋白、炭水化物、または脂質から、当分野で周知の方法を用いて分離する。このような方法は、サイズ排除クロマトグラフィー、硫酸アンモニウム分画、イオン交換クロマトグラフィー、親和クロマトグラフィー、および調製用ゲル電気泳動を包含するが、これらに限定されない。精製されたTRPチャネルポリペプチドの調製物は少なくとも80%、好ましくは90%、95%、または99%純粋である。調製物の純度は、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動等の当分野において公知の任意の手段によって調べることができる。
【0051】
ポリヌクレオチドの発現
TRPチャネルポリヌクレオチドを発現させるため、挿入されたコード化配列の転写と発現に必要な要素を含む発現ベクター中にこのポリヌクレオチドを挿入することができる。TRPチャネルポリペプチドをコードしている配列および適当な転写および翻訳調節要素を含む発現ベクターを組み立てるため、当業者に周知の方法が利用できる。これらの方法には、インビトロ組換えDNA技術、合成技術、およびインビボ遺伝子組換えがある。このような技術は、例えばSambrook et al. (1989) and in Ausubel et al., CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, John Wiley & Sons, New York, N.Y., 1989に記載されている。
【0052】
TRPチャネルポリペプチドをコードしている配列を含みそして発現する様々な発現ベクター/宿主系が利用できる。これらには、微生物、例えば組換えバクテリオファージ、プラスミド、またはコスミドDNA発現ベクターにより形質転換された細菌;酵母発現ベクターにより形質転換された酵母、ウイルス発現ベクター(例えばバキュロウイルス)により感染を受けた昆虫細胞系、ウイルス発現ベクター(例えばカリフラワーモザイクウイルス、CaMV;タバコモザイクウイルス、TMV)、もしくは細菌発現ベクター(例えばTiまたはpBR322プラスミド)により形質転換された植物細胞系、または動物細胞系が包含されるがこれらに限定される訳ではない。
【0053】
調節要素または調節配列は、宿主細胞蛋白と相互作用して転写と翻訳を実行する、ベクターの非翻訳領域−エンハンサー、プロモーター、5’および3’非翻訳領域−である。係る要素はその強さと特異性において異なっている。利用するベクター系および宿主に応じて、構成的および誘導的プロモーターを包含する、多数の好適な転写および翻訳要素を使用できる。例えば、細菌系でクローニングを行う場合、BLUESCRIPTファージミド(Stratagene, LaJolla,Calif.)またはpSPORT1プラスミド(Life Technologies)等のハイブリッドlacZプロモーターのような誘導的プロモーターを使用できる。バキュロウイルスのポリヘドリンプロモーターは昆虫細胞に使用できる。植物細胞のゲノムから(例えば熱ショック、RUBISCO、および貯蔵蛋白遺伝子)、または植物ウイルスから(例えば、ウイルスプロモーターまたはリーダー配列)誘導したプロモーターまたはエンハンサーを該ベクター中にクローニングすることができる。哺乳動物細胞系では、哺乳動物遺伝子由来の、または哺乳動物ウイルス由来のプロモーターが好ましい。TRPチャネルポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列を複数コピー含むセルラインを作製する必要がある場合は、SV40またはEBVに基づくベクターを適当な選択マーカーと共に使用することができる。
【0054】
細菌および酵母発現系
細菌系では、TRPチャネルポリペプチドに対して意図する用途に応じて幾つかの発現ベクターを選択できる。例えば、抗体の誘導のため大量のTRPチャネルポリペプチドが必要である場合は、容易に精製できる融合蛋白の高レベル発現を指令するベクターが使用できる。このようなベクターは、BLUESCRIPT(Stratagene)のような多機能E.coliクローニングおよび発現ベクターを包含するが、これに限定される訳ではない。BLUESCRIPTベクターにおいては、TRPチャネルポリペプチドをコードしている配列を、β−ガラクトシダーゼのアミノ末端Metとこれに続く7残基の配列と共にフレーム内で該ベクター中にライゲーションすることができ、その結果ハイブリッド蛋白が産生される。pINベクター(Van Heeke & Schuster, J.Biol.Chem. 264,5503-5509,1989)またはpGEXベクター(Promega, Madison, Wis.)もまた、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)を伴う融合蛋白として外来ポリペプチドを発現させるのに使用できる。一般に、このような融合蛋白は可溶性であり、グルタチオン−アガロースビーズに吸着させ、その後遊離グルタチオンの存在下で溶離することにより、溶菌させた細胞から容易に精製できる。このような系で調製した蛋白は、ヘパリン、トロンビン、または第Xa因子プロテアーゼ開裂部位を含むよう設計でき、その結果、主題とするクローンポリペプチドをGST部分から随意に解放することができる。
【0055】
酵母Saccharomyces cerevisiaeにおいては、α因子、アルコールオキシダーゼ、およびPGHのような構成的または誘導的プロモーターを含む幾つかのベクターが使用できる。総説としてAusubel et al.(1989)およびGrant et al., Methods Enzymol. 153,516-544,1987を参照されたい。
【0056】
植物および昆虫発現系
植物発現ベクターを使用する場合、TRPチャネルポリペプチドをコードしている配列の発現は、幾つかのプロモーターのうち任意のものにより駆動できる。例えば、CaMVの35Sおよび19Sプロモーターのようなウイルスプロモーターを、単独で、またはTMV由来のオメガリーダー配列と組み合わせて使用できる(Takamatsu, EMBO J. 6, 307-311, 1987)。別法として、RUBISCOの小サブユニットのような植物プロモーターまたは熱ショックプロモーターを使用することもできる(Coruzzi et al., EMBO J. 3, 1671-1680, 1984; Broglie et al., Science 224, 838-843, 1984; Winter et al., Results Probl. Cell Differ. 17, 85-105, 1991)。これらの構築物は、直接DNA形質転換または病原体仲介トランスフェクションにより植物細胞中に導入できる。そのような技術は、一般に入手可能な数多くの概説に記載されている(例えば、Hobbs or Murray, in MCGRAW HILL YEARBOOK OF SCIENCE AND TECHNOLOGY, McGraw Hill, New York, N.Y., pp. 191-196, 1992)。
【0057】
昆虫系もまたTRPチャネルポリペプチドの発現に使用できる。例えば、係る系の1つAutographa californica核多角体病ウイルス(AcNPV)は、Spodoptera frugiperda細胞またはTrichoplusiaの幼虫で外来遺伝子を発現させるベクターとして使用する。TRPチャネルポリペプチドをコードしている配列を、ポリヘドリン遺伝子のような該ウイルスの非必須領域中にクローニングし、ポリヘドリンプロモーターの調節下に置くことができる。TRPチャネルポリペプチドをうまく挿入すると、ポリヘドリン遺伝子は不活性化し、コート蛋白を欠く組換えウイルスが生成する。次いでこの組換えウイルスをS.frugiperda細胞またはTrichoplusiaの幼虫への感染に使用し、そこでTRPチャネルポリペプチドを発現させることができる(Engelhard et al., Proc. Nat. Acad. Sci. 91, 3224-3227, 1994)。
【0058】
哺乳動物発現系
ウイルスに基づく多くの発現系を用いて哺乳動物宿主細胞でTRPチャネルポリペプチドを発現させることができる。例えば、発現ベクターとしてアデノウイルスを使用する場合、TRPチャネルポリペプチドをコードしている配列は、後期プロモーターおよび3部に分かれたリーダー配列を含むアデノウイルス転写/翻訳複合体中にライゲーションできる。該ウイルスゲノムの非必須E1またはE3領域における挿入を用いて、感染宿主細胞においてTRPチャネルポリペプチドを発現できる生存ウイルスを取得できる(Logan & Shenk, Proc. Natl. Acad. Sci. 81, 3655-3659, 1984)。所望によりラウス肉腫ウイルス(RSV)エンハンサーのような転写エンハンサーを用いて哺乳動物宿主細胞での発現を増大させることができる。
【0059】
ヒト人工染色体(HAC)もまた、プラスミドが内包し発現するDNA断片よりも大きなDNA断片の運搬に使用できる。6Mないし10MのHACを組み立て、常套的デリバリー法により細胞に到達させる(例えば、リポソーム、ポリカチオンアミノポリマー、または小胞)。
【0060】
さらに、TRPチャネルポリペプチドをコードしている配列の、より効率的な翻訳を達成するために、特異的開始シグナルを使用できる。係るシグナルはATG開始コドンおよび連続配列を包含する(Kozak配列)。TRPチャネルポリペプチドをコードしている配列、その開始コドン、および上流配列を適当な発現ベクター中に挿入した場合、さらなる転写または翻訳調節シグナルは必要ないであろう。しかしながら、コード化配列またはその断片のみを挿入した場合は、外因性の翻訳調節シグナル(ATG開始コドンを包含する)を供給すべきである。開始コドンは挿入物全体を確実に翻訳させるために、正しいリーディングフレームになければならない。外因性翻訳要素および開始コドンは天然および合成両者の様々な起源であってよい。発現効率は、用いる具体的な細胞系に適当なエンハンサーと導入することによって高めることができる(Scharf et al., Results Probl. Cell Differ. 20, 125-162, 1994を参照)。
【0061】
宿主細胞
宿主細胞菌株は、挿入した配列の発現を調節する能力または発現されたTRPチャネルポリペプチドを所望の方法で処理できる能力を主題として選択できる。該ポリペプチドのこのような修飾には、アセチル化、カルボキシ化、グリコシル化、リン酸化、脂質化、およびアシル化が包含されるがこれらに限定されない。該ポリペプチドの「プレプロ」型を開裂する翻訳後プロセシングもまた、正しい挿入、折り畳み、および/または機能を促進するために使用できる。翻訳後活性のための特異的な細胞機構および特徴的メカニズムを持つ異なる宿主細胞(例えばCHO、HeLa、MDCK、HEK293、1321N1およびWI38)が、American Type Culture Collection(ATCC;10801 University Boulevard, Manassas, VA 20110-2209)から入手でき、外来蛋白の正しい修飾およびプロセシングを確実とするために選択できる。
【0062】
組換え蛋白の、長期高収量産生のために、安定な発現が好ましい。例えば、TRPチャネルポリペプチドを発現するセルラインは、ウイルス複製起点および/または内因性発現要素、および同じまたは別のベクター上にある選択マーカー遺伝子を含む発現ベクターを使用して形質転換することができる。該ベクターの導入に続いて、細胞を強化培地で1−2日間生育させた後、培地を選択培地に交換することができる。選択マーカーの目的は、選択に対する抵抗性を付与することであり、その存在が、導入されたTRPチャネルポリペプチド配列をうまく発現する細胞の生育と回収を可能にする。安定に形質転換された細胞の耐性クローンは、その細胞型にとって適当な組織培養技術を用いて増殖させることができる。例えば、ANIMAL CELL CULTURE, R.I. Freshney, ed., 1986を参照。
【0063】
幾つかの選択系を用いて、形質転換されたセルラインを回収できる。
【0064】
これらには、それぞれtk-またはaprt-細胞で使用できる単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(Wigler et al., Cell 11, 223 32, 1977)およびアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ[Wigler, (1977)]遺伝子が包含されるがこれらに限定される訳ではない。さらに、代謝拮抗物質、抗生物質、または除草剤耐性を選択の基準に用いることができる。例えば、dhfrはメソトレキサート(Wigler et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 77, 3567 70, 1980)に対する耐性を付与し、nptはアミノグリコシド、ネオマイシンおよびG−418に対する耐性を付与し、G-418 (Colbere Garapin et al., J. Mol. Biol. 150, 1 14, 1981)、そしてalsおよびpatはそれぞれクロルスルフロンおよびホスフィノトリシンアセチルトランスフェラーゼに対する耐性を付与する(Murray, 1992, 前掲)。さらなる選択遺伝子が記載されている。例えば、trpBは細胞がトリプトファンの代わりにインドールを利用するようにさせ、hisDは細胞がヒスチジンの代わりにヒスチノールを利用するようにさせる(Hartman & Mulligan, Proc. Natl. Acad. Sci. 85, 8047 51, 1988)。アントシアニンのような可視マーカー、β−グルクロニダーゼとその基質GUS、およびルシフェラーゼとその基質ルシフェリンは、形質転換体を同定し、特異的ベクター系に帰すことのできる一過性または安定な蛋白発現の量を定量するために使用できる(Rhodes et al., Methods Mol. Biol. 55, 121 131, 1995)。
【0065】
発現の検出
マーカー遺伝子発現の存在はTRPチャネルポリヌクレオチドもまた存在することを示唆しているが、その存在と発現は確認する必要がある。例えば、もしTRPチャネルポリペプチドをコードしている配列がマーカー遺伝子配列内部に挿入されるならば、TRPチャネルポリペプチドをコードしている配列を含む形質転換された細胞は、マーカー遺伝子機能の不在によって同定できる。これに代わり、マーカー遺伝子は、単一のプロモーターの調節下にTRPチャネルポリペプチドをコードしている配列とタンデムに並べて位置させることもできる。誘導または選択に応答したマーカー遺伝子の発現は、通常、TRPチャネルポリヌクレオチドの発現を示す。
【0066】
これとは別に、TRPチャネルポリヌクレオチドを含みTRPチャネルポリペプチドを発現する宿主細胞は、当業者に知られる様々な方法によって同定できる。これらの方法には、DNA−DNAまたはDNA−RNAハイブリダイゼーションおよび蛋白生検またはイムノアッセイ技術(核酸または蛋白の検出および/または定量のための膜、溶液、またはチップに基づく技術を包含する)が包含されるがこれらに限定されない。例えば、TRPチャネルポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド配列の存在は、プローブまたは断片またはTRPチャネルポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドの断片を使用するDNA−DNAまたはDNA−RNAハイブリダイゼーションまたは増幅によって検出できる。核酸増幅に基づく検定は、TRPチャネルポリヌクレオチドを含む形質転換体を検出するための、TRPチャネルポリペプチドをコードしている配列から選択されるオリゴヌクレオチドの使用を含む。
【0067】
TRPチャネルポリペプチドに対し特異的なポリクローナルまたはモノクローナル抗体のいずれかを使用して該ポリペプチドの発現を検出および測定するための様々なプロトコルが当分野で知られている。例として、酵素結合イムノソルベント検定(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、および蛍光活性化セルソーティング(FACS)がある。TRPチャネルポリペプチド上の2個の非干渉性エピトープに反応するモノクローナル抗体を用いる、2部位のモノクローナルに基づくイムノアッセイが使用でき、または、競合的結合検定を使用することができる。これらのおよび他のアッセイは、Hampton et al., SEROLOGICAL METHODS: A LABORATORY MANUAL, APS Press, St. Paul, Minn., 1990およびMaddox et al., J. Exp. Med. 158, 1211-1216, 1983に記載されている。
【0068】
多岐にわたる標識およびコンジュゲーション技術が当業者に知られており、様々な核酸およびアミノ酸検定に使用できる。TRPチャネルポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドに関連する配列を検出するための標識化ハイブリダイゼーションまたはPCRプローブを調製する手段は、標識したヌクレオチドを使用する、オリゴ標識化、ニック翻訳、末端標識化、またはPCR増幅を包含する。これとは別に、TRPチャネルポリペプチドをコードしている配列を、mRNAプローブの産生のためのベクター中にクローニングすることもできる。このようなベクターは当分野で既知であり、市販品が入手でき、標識化ヌクレオチドおよび適当なRNAポリメラーゼ、例えばT7、T3、またはSP6を添加することによりインビトロでのRNAプローブの合成に使用することができる。これらの方法は、市販の様々なキットを用いて実施できる(Amersham Pharmacia Biotech、 Promega、およびUS Biochemical)。検出を容易にするために使用できる適当なリポーター分子または標識には、放射性核種、酵素、および蛍光、化学ルミネセント、または色素生成物質、ならびに基質、補助因子、阻害物質、磁性粒子などが包含される。
【0069】
ポリペプチドの発現および精製
TRPチャネルポリペプチドをコードするヌクレオチド配列で形質転換させた宿主細胞は、発現と、細胞培養からの蛋白の回収に適した条件下で培養できる。形質転換細胞により産生されたポリペプチドは、その配列および/または使用したベクターに応じて分泌されまたは細胞内に貯留され得る。当業者には理解できるであろうが、TRPチャネルポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドを含む発現ベクターは、原核または真核細胞膜を通った可溶性TRPチャネルポリペプチドの分泌を指令する、または膜結合TRPチャネルポリペプチドの、膜挿入を指令する、シグナル配列を含むよう設計できる。
【0070】
上に論じたように、他の構築物を用いて、TRPチャネルポリペプチドをコードしている配列を、可溶性蛋白の精製を促進するポリペプチドドメインをコードしているヌクレオチド配列と結合させることができる。このような精製促進ドメインは、金属キレート化ペプチド、例えば固定化金属上での精製を可能にするヒスチジン−トリプトファンモジュール、固定化免疫グロブリン上での精製を可能にする蛋白Aドメイン、およびFLAGS伸長/アフィニティ精製系で利用するドメインが包含されるが、これらに限定されない(Immunex Corp., Seattle, Wash.)。精製ドメインとTRPチャネルポリペプチドとの間に開裂可能リンカー配列、例えば第Xa因子またはエンテロキナーゼに特異的なリンカー配列を入れること(Invitrogen, San Diego, CA)もまた、精製を促進するために利用できる。このような発現ベクターの1つは、TRPチャネルポリペプチドと、チオレドキシンまたはエンテロキナーゼ開裂部位に先立つ6個のヒスチジン残基とを含む融合蛋白の発現を提供する。このヒスチジン残基はIMAC(Porath et al., Prot. Exp. Purif. 3, 263-281, 1992に記載の、固定化金属イオン親和クロマトグラフィー)による精製を促進し、一方エンテロキナーゼ開裂部位は融合蛋白からのTRPチャネルポリペプチドの精製手段を提供する。融合蛋白を含むベクターはKroll et al., DNA Cell Biol. 12, 441-453, 1993に開示されている。
【0071】
化学合成
TRPチャネルポリペプチドをコードしている配列は、その全体または一部を、当分野で周知の化学的方法を用いて合成できる(例えば、Caruthers et al., Nucl. Acids Res. Symp. Ser. 215-223, 1980; Horn et al. Nucl. Acids Res. Symp. Ser. 225-232, 1980)。これとは別に、TRPチャネルポリペプチド自身を、そのアミノ酸配列を合成するための化学的方法、例えば固相技術を用いる直接ペプチド合成を用いて調製できる(Merrifield, J. Am. Chem. Soc. 85, 2149 2154, 1963; Roberge et al., Science 269, 202-204, 1995)。蛋白合成は手動のまたは自動化された技術を用いて実施できる。自動化合成は、例えばApplied Biosystems 431Aペプチド合成機(Perkin Elmer)を用いて達成できる。所望により、TRPチャネルポリペプチドの断片を別々に合成し、化学的方法を用いて合成して完全長の分子を調製することもできる。
【0072】
新たに合成したペプチドは、調製用高速液体クロマトグラフイーにより実質的に精製できる(例えば、Creighton, PROTEINS: STRUCTURES AND MOLECULAR PRINCIPLES, WH Freeman and Co., New York, N.Y., 1983)。合成TRPチャネルポリペプチドの組成はアミノ酸分析または配列決定により確認できる(例えば、Edman 分解法; Creighton, 前掲参照)。さらに、直接合成中にTRPチャネルポリペプチドのアミノ酸配列の任意の部分を改変させ、そして/または化学的方法を用いて他の蛋白由来の配列と合して、変異体ポリペプチドまたは融合蛋白を調製することができる。
【0073】
改変TRPチャネルポリペプチドの調製
当業者には理解できるであろうが、天然に存在しないコドンを有するTRPチャネルポリペプチドをコードするヌクレオチドを調製することは有利であり得る。例えば、特定の原核または真核宿主が好むコドンを選択して、蛋白発現の速度を増大させ、または所望の性質、例えば天然に存在する配列から産生される転写物の半減期より長い半減期を持つRNA転写物を調製することができる。
【0074】
本明細書に開示するヌクレオチド配列は、当分野で一般的に知られる方法を用いて、該ポリペプチドまたはmRNA産物のクローニング、プロセシング、および/または発現を修飾する改変を包含する(但しこれらに限定される訳ではない)様々な理由で、TRPチャネルポリペプチドをコードする配列を改変させるように設計できる。無作為断片化によるDNAシャフリングと遺伝子断片および合成オリゴヌクレオチドのPCR再集合を用いてヌクレオチド配列を設計できる。例えば、位置指定突然変異誘発を用いて、新たな制限部位を挿入し、グリコシル化パターンを変え、コドンの優先性を変え、スプライス変異体を調製し、突然変異を導入する等を実施できる。
【0075】
抗体
当分野で知られているいかなる型の抗体も、TRPチャネルポリペプチドのエピトープに特異的に結合するよう作製できる。本明細書で使用する「抗体」とは、無傷の免疫グロブリン分子、およびその断片、例えばFab、F(ab')2、およびFvを包含し、これらはTRPチャネルポリペプチドのエピトープに結合できる。典型的には、エピトープを形成するためには少なくとも6、8、10、または12の連続するアミノ酸が必要である。しかしながら、非連続アミノ酸を含むエピトープはより多くの、例えば少なくとも15、25、または50のアミノ酸を必要とするかも知れない。
【0076】
TRPチャネルポリペプチドのエピトープに特異的に結合する抗体は治療に使用でき、そして免疫化学検定、例えばウェスタンブロット、ELISA、ラジオイムノアッセイ、免疫組織化学検定、免疫沈降、またはその他の当分野で既知の免疫化学的検定に使用できる。所望の特異性を有する抗体の同定のため、様々なイムノアッセイが使用できる。競合的結合または免疫放射検定のための多数のプロトコルが当分野でよく知られている。このようなイムノアッセイは典型的には、免疫原と、その免疫原に特異的に結合する抗体との間の複合体形成の測定を含んでいる。
【0077】
典型的には、TRPチャネルポリペプチドに特異的に結合する抗体は、免疫化学検定に使用する場合、他の蛋白が提供する検出シグナルより少なくとも5、10、または20倍高い検出シグナルを提供する。好ましくは、TRPチャネルポリペプチドに特異的に結合する抗体は、免疫化学検定で他の蛋白を検出せず、TRPチャネルポリペプチドを溶液から免疫沈降させることができる。
【0078】
ヒトTRPチャネルポリペプチドは、哺乳動物、例えばマウス、ラット、ウサギ、モルモット、サル、またはヒトを免疫してポリクローナル抗体を産生させるのに使用できる。所望により、TRPチャネルポリペプチドは、担体蛋白、例えば牛血清アルブミン、チログロブリン、およびスカシガイヘモシアニンとコンジュゲートさせることができる。宿主の種に応じて、免疫学的反応を増大させるために種々のアジュバントを使用できる。このようなアジュバントは、フロイントアジュバント、鉱物性ゲル(例えば水酸化アルミニウム)、および界面活性物質(例えばリゾレシチン、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油性エマルジョン、スカシガイヘモシアニン、およびジニトロフェノール)を包含するがこれらに限定されない。ヒトに使用するアジュバントの中ではBCG(bacilli Calmette-Guerin)およびCorynebacterium parvumが特に有用である。
【0079】
TRPチャネルポリペプチドに特異的に結合するモノクローナル抗体は、培養中の連続的セルラインにより抗体分子の産生を提供する任意の技術を用いて調製できる。これらの技術には、ハイブリドーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術、およびEBV−ハイブリドーマ技術があるがこれらに限定されない(Kohler et al., Nature 256, 495 497, 1985; Kozbor et al., J. Immunol. Methods 81, 31 42, 1985; Cote et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 80, 2026 2030, 1983; Cole et al., Mol. Cell Biol. 62, 109 120, 1984)。
【0080】
さらに、マウス抗体遺伝子をヒト抗体遺伝子にスプライシングして適当な抗原特異性と生物活性を持つ分子を得る、「キメラ抗体」の産生のために開発された技術が利用できる(Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 81, 6851 6855, 1984; Neuberger et al., Nature 312, 604 608, 1984; Takeda et al., Nature 314, 452 454, 1985)。モノクローナルおよびその他の抗体はまた、これを治療に使用した場合に患者が該抗体に対する免疫反応を起こすのを防ぐため、「ヒト化」することができる。このような抗体は、治療に直接使用できるほど配列が充分ヒトに類似しているかも知れず、または幾つかの重要残基の変更を必要とするかも知れない。齧歯類の抗体とヒト配列の間の配列相違は、個々の残基の位置指定突然変異誘発により、または相補性決定領域全体のgratingにより、ヒト配列内の残基と相違する残基を置き換えることによって最小化することができる。あるいは、GB2188638Bに記載されているような組換え法を用いてヒト化抗体を製造することができる。TRPチャネルポリペプチドに特異的に結合する抗体は、米国特許第5,565,332号に開示のように、部分的または完全にヒト化した抗原結合部位を含むことができる。
【0081】
これに代わり、当分野で既知の方法を用いて、一本鎖抗体の調製のために記載した技術を適合させ、TRPチャネルポリペプチドに特異的に結合する一本鎖抗体を調製することができる。関連する特異性を持つが別個のイディオタイプ組成を有する抗体を、無作為組み合わせ免疫グロブリンライブラリーから鎖シャフリングによって調製することができる(Burton, Proc. Natl. Acad. Sci. 88, 11120 23, 1991)。
【0082】
一本鎖抗体はまた、ハイブリドーマcDNAを鋳型に用いて、PCRのようなDNA増幅法を用いて組み立てることができる(Thirion et al., 1996, Eur. J. Cancer Prev. 5, 507-11)。一本鎖抗体は単一または二重特異性であり得、また、二価または四価であり得る。四価二重特異性一本鎖抗体の組み立ては、例えば、Coloma & Morrison, 1997, Nat. Biotechnol. 15, 159-63に教示されている。二価二重特異性一本鎖抗体の組み立ては、例えば、Mallender & Voss, 1994, J. Biol. Chem. 269, 199-206に教示されている。
【0083】
下記のように、一本鎖抗体をコードしているヌクレオチド配列を手動または自動ヌクレオチド合成を用いて組み立て、標準的組換えDNA法を用いて発現構築物中にクローニングし、そして細胞中に導入してコード化配列を発現させることができる。別法として、一本鎖抗体を、例えば糸状ファージ技術を用いて直接調製することもできる(Verhaar et al., 1995, Int. J. Cancer 61, 497-501; Nicholls et al., 1993, J. Immunol. Meth. 165, 81-91)。
【0084】
TRPチャネルポリペプチドに特異的に結合する抗体はまた、リンパ球集団においてインビボ産生を誘導することによって、または、文献に開示されている極めて特異的な結合試薬のパネルまたは免疫グロブリンライブラリーをスクリーニングすることによって調製することもできる(Orlandi et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 86, 3833 3837, 1989; Winter et al., Nature 349, 293 299, 1991)。
【0085】
その他の型の抗体を、本発明方法において組み立て、治療に使用することができる。例えば、WO93/03151に開示のように、キメラ抗体を組み立てることができる。免疫グロブリンから誘導され多価且つ多重特異的である結合蛋白、例えばWO94/13804に記載の「二重特異性抗体(diabody)」もまた調製できる。
【0086】
本発明の抗体は当分野で周知の方法により精製できる。例えば、抗体は、TRPチャネルポリペプチドが結合しているカラムを通過させることによりアフィニティ精製できる。次いで、結合した抗体を、高い塩濃度の緩衝液を用いてカラムから溶出することができる。
【0087】
アンチセンスオリゴヌクレオチド
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、特定のDNAまたはRNA配列に対し相補的なヌクレオチド配列である。いったん細胞中に導入されるとこの相補的ヌクレオチドは、該細胞が産生した天然配列と結合して複合体を形成し、転写または翻訳のいずれかを遮断する。好ましくは、アンチセンスオリゴヌクレオチドは少なくとも11ヌクレオチド長であるが、少なくとも12、15、20、25、30、35、40、45、もしくは50またはそれ以上のヌクレオチド長であってもよい。より長い配列もまた使用できる。アンチセンスオリゴヌクレオチド分子をDNA構築物に提供し、上記のように細胞中に導入して、その細胞におけるTRPチャネルポリペプチド遺伝子産物のレベルを低下させることができる。
【0088】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、またはこの両者の組み合わせであってよい。オリゴヌクレオチドは、1つのヌクレオチドの5’末端を、アルキルホスホネート、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、アルキルホスホノチオエート、アルキルホスホネート、ホスホロアミデート、リン酸エステル、カルバメート、アセトアミデート、カルボキシメチルエステル、カルボネート、およびリン酸トリエステルといった非ホスホジエステルヌクレオチド間結合を有する別のヌクレオチドの3’末端と共有結合させることにより、手動で、または自動合成機によって合成できる。Brown, Meth. Mol. Biol. 20, 1 8, 1994; Sonveaux, Meth. Mol. Biol. 26, 1-72, 1994; Uhlmann et al., Chem. Rev. 90, 543 583, 1990参照。
【0089】
TRPチャネルポリペプチド遺伝子の制御配列、5’配列、または調節領域と二本鎖を形成するアンチセンスオリゴヌクレオチドを設計することにより、TRPチャネルポリペプチド遺伝子発現の修飾が得られる。転写開始部位、例えば開始部位から−10および+10位の間から誘導されるオリゴヌクレオチドが好ましい。同様に、「三重らせん」塩基対合法を用いて阻害を達成できる。三重らせん対合は、二重らせんがポリメラーゼ、転写因子またはシャペロンの結合に足るほど開く能力の阻害を惹起するため、有用である。三本鎖DNAを用いる治療上の進歩が文献に記載されている(例えば、Gee et al., in Huber & Carr, MOLECULAR AND IMMUNOLOGIC APPROACHES, Futura Publishing Co., Mt. Kisco, N.Y., 1994参照)。転写物がリボソームに結合するのを防ぐことによりmRNAの翻訳を遮断するアンチセンスオリゴヌクレオチドもまた設計できる。
【0090】
アンチセンスオリゴヌクレオチドとTRPチャネルポリヌクレオチドの相補配列との間に好結果の複合体を形成させるためには、正確な相補性は必要ない。例えばTRPチャネルポリヌクレオチドに対し正確に相補的である2、3、4、もしくは5またはそれ以上の長さの連続するヌクレオチドであって、その各々が、隣接するTRPチャネルポリペプチドヌクレオチドとは相補的ではない連続する或る長さのヌクレオチドによって隔てられているものを含有するアンチセンスオリゴヌクレオチドは、TRPチャネルポリペプチドmRNAに対する充分な標的化特異性を提供できる。好ましくは、相補的な連続ヌクレオチドの長さはそれぞれ少なくとも4、5、6、7もしくは8またはそれ以上のヌクレオチド長である。非相補的な介在配列は、好ましくは1、2、3、または4ヌクレオチド長である。当業者は、アンチセンス−センスの対の算出融点を容易に使用して、特定のアンチセンスオリゴヌクレオチドと特定のTRPチャネルポリヌクレオチド配列間で寛容されるミスマッチの程度を決定できるであろう。
【0091】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、TRPチャネルポリヌクレオチドとハイブリダイズする能力に影響を及ぼすことなく修飾できる。これらの修飾は該アンチセンス分子の内部、または一端もしくは両端である。例えば、ヌクレオシド間のリン酸結合は、アミノ基と末端リボースの間にいろいろな数の炭素残基を有するコレステリルまたはジアミン部分を加えることによって修飾できる。修飾された塩基および/または糖、例えばリボースの代わりのアラビノース、または3’ヒドロキシ基または5’リン酸基が置換されている3’,5’−置換オリゴヌクレオチドもまた修飾アンチセンスオリゴヌクレオチドに使用できる。これらの修飾オリゴヌクレオチドは当分野で周知の方法により調製できる。例えば、Agrawal et al., Trends Biotechnol. 10, 152 158, 1992; Uhlmann et al., Chem. Rev. 90, 543 584, 1990; Uhlmann et al., Tetrahedron. Lett. 215, 3539 3542, 1987参照。
【0092】
リボザイム
リボザイムは触媒活性を有するRNA分子である。例えば、Cech, Science 236, 1532 1539; 1987; Cech, Ann. Rev. Biochem. 59, 543 568; 1990, Cech, Curr. Opin. Struct. Biol. 2, 605 609; 1992, Couture & Stinchcomb, Trends Genet. 12, 510 515, 1996参照。当分野で知られるように、リボザイムは、RNA配列を開裂することにより遺伝子機能を阻害するのに使用できる(例えば、Haseloff et al., 米国特許第5,641,673号)。リボザイムの作用機構は、相補的標的RNAに対するリボザイム分子の配列特異的ハイブリダイゼーションと、その後のendonucleolyticな開裂を含む。例には、特異的ヌクレオチド配列のendonucleolyticな開裂を特異的且つ効果的に触媒できる、設計されたハンマーヘッドモチーフリボザイム分子がある。
【0093】
TRPチャネルポリヌクレオチドのコード化配列、例えば配列番号1に示したものの相補物を用いて、TRPチャネルポリヌクレオチドから転写されたmRNAに特異的に結合するリボザイムを作製できる。他のトランスのRNA分子を極めて配列特異的に開裂できるリボザイムを設計し組み立てる方法が開発され、当分野で記載されている(Haseloff et al. Nature 334, 585 591, 1988参照)。例えば、リボザイムの開裂活性は、別個の「ハイブリダイゼーション」領域を該リボザイム中に組み入れることによって、特定のRNAを標的とさせることができる。このハイブリダイゼーション領域は標的RNAに対し相補的な配列を含んでおり、したがってその標的RNAと特異的にハイブリダイズする(Gerlach et al., EP 321,201参照)。
【0094】
TRPチャネルポリペプチド RNA標的内部の特異的リボザイム開裂部位は、この標的分子を、以下の配列:GUA、GUU、およびGUCを包含するリボザイム開裂部位についてスキャンすることにより同定できる。同定できたならば、該開裂部位を含む標的RNAの領域に対応する、15および20の間のリボヌクレオチドを有する短いRNA配列を、標的を非機能的にし得る二次構造の特徴について評価できる。さらに、候補のTRPチャネルポリペプチド RNA標的の適合性を、リボヌクレアーゼ防護検定を用いて相補的オリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションに対する利用可能性を試験することによって評価できる。より長い相補配列を用いて、標的に対するハイブリダイゼーション配列の親和性を増大させることができる。リボザイムのハイブリダイズおよび開裂する領域は、相補領域を介して標的RNAにハイブリダイズする場合、リボザイムの触媒領域が標的を開裂し得るといったように、完全に相関している。
【0095】
リボザイムはDNA構築物の一部として細胞内に導入できる。マイクロ注入、リポソーム仲介トランスフェクション、エレクトロポレーション、またはリン酸カルシウム沈殿といった機械的方法を用いて、TRPチャネルポリペプチド発現の低下が望まれる細胞中にリボザイム含有DNA構築物を導入することができる。これとは別に、細胞がDNA構築物を安定的に保持することが望まれる場合は、該構築物をプラスミド上で供給し、当分野で知られるように、別個の要素として維持するか、または細胞のゲノム中に組み込むことができる。リボザイムコード化DNA構築物は、細胞におけるリボザイムの転写調節のために、プロモーターエレメント、エンハンサーまたはUASエレメント、および転写ターミネーターシグナルといった転写調節エレメントを含み得る
【0096】
Haseloff et al.,米国特許第5,641,673号に教示されているように、標的遺伝子の発現を誘導するように因子に応答してリボザイム発現が起きるようにリボザイムを設計することができる。リボザイムはまた、mRNAの破壊はリボザイムと標的遺伝子の両者が細胞内で誘導された場合にのみ起こるように、追加レベルの調節を提供するよう設計できる。
【0097】
区別的に発現される遺伝子
その産物がヒトTRPチャネルと相互作用する遺伝子の同定方法をここに記載する。このような遺伝子は、膀胱の活動亢進、過反射、良性前立腺肥大、およびCNS障害を包含するがこれらに限定されない障害において、異なった形で発現し得る。さらにそのような遺伝子はそのような疾患の進行または処置と関連する操作に応答して違った形で調節される遺伝子を示しうる。さらに、そのような遺伝子は、組織または生物の発達の異なる段階で増大または減少する一時的に調節された発現を示す。異なった形で発現した遺伝子はまた、対照対実験条件下で調節された発現を示す。さらに、遺伝子または遺伝子産物それ自身を異なる形での発現について試験することができる。
【0098】
正常と疾病状態とで発現が相違する程度は、標準的なキャラクタリゼーションの技術、例えば区別的ディスプレイ技術によって視覚化されるに充分大きければよい。発現の相違を視覚化することのできる、その他のこのような標準的なキャラクタリゼーション技術は、定量的RT(逆転写酵素)、PCR、およびノーザン分析を包含するが、これらに限定されない。
【0099】
区別的に発現される遺伝子の同定
区別的に発現される遺伝子を同定するために、目的とする組織から全RNA、または好ましくはmRNAを単離する。例えば、RNA試料は、実験対象の組織から、そして対照となる対象の対応組織から取得する。mRNAの単離に対して選択しない任意のRNA単離技術を、係るRNA試料の精製に利用できる。例えば、Ausubel et al., ed., CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, John Wiley & Sons, Inc. New York, 1987-1993を参照されたい。当業者に周知の技術、例えばChomczynski、米国特許4843155の一段階RNA単離プロセスを用いて多数の組織試料を容易に処理することができる。
【0100】
区別的に発現される遺伝子が産生したRNAを表す、集められたRNA試料内部の転写物は、当業者に周知の方法により同定する。これらには、例えば、ディファレンシャルスクリーニング(Tedder et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85, 208-12, 1988)、差分ハイブリダイゼーション(Hedrick et al., Nature 308, 149-53; Lee et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 88, 2825, 1984)、および好ましくはディファレンシャルディスプレイ(Liang & Pardee, Science 257, 967-71, 1992; 米国特許5262311)が包含される。
【0101】
区別的発現の情報はそれ自体、ヒトTRPチャネルポリペプチドの関与する疾病の治療のための関連する方法を示唆している。例えば、治療は、区別的に発現される遺伝子および/またはヒトTRPチャネルポリペプチドをコードしている遺伝子の発現の調節を包含し得る。区別的発現の情報は、区別的に発現される遺伝子もしくは遺伝子産物またはヒトTRPチャネルポリペプチド遺伝子もしくは遺伝子産物の活性または発現が、アップレギュレーションであるかダウンレギュレーションであるかを示すことができる。
【0102】
スクリーニング方法
本発明は、TRPチャネルポリペプチドまたはTRPチャネルポリヌクレオチドに結合する、またはその活性を調節する、被験化合物をスクリーニングするための検定を提供する。被験化合物は好ましくはTRPチャネルポリペプチドまたはポリヌクレオチドに結合する。より好ましくは、被験化合物は、機能的活性を、被験化合物の不在時と比較して少なくとも約10、好ましくは約50、より好ましくは約75、90、または100%低下または増大させる。
【0103】
被験化合物
被験化合物は当分野で既知の薬理学的物質であってよく、または薬理活性を持っていることが前もって分かっていない化合物であってよい。この化合物は天然に存在する、または実験室で設計されたものであってよい。これらは、微生物、動物、または植物から単離されたものであってよく、そして組換え的に調製され、または当分野で既知の化学的方法により合成されたものであってよい。所望により被験化合物は、生物学的ライブラリー、空間的アドレス特定可能な並行固相または液相ライブラリー、デコンボルーションを要する合成ライブラリー法、「一ビーズ一化合物」ライブラリー法、およびアフィニティークロマトグラフィー選択を用いる合成ライブラリー法を包含する(但しこれらに限定される訳ではない)当分野で既知の数多くの組み合わせライブラリー法のいずれかを用いて取得できる。生物学的ライブラリーアプローチはポリペプチドライブラリーに限定されているが、他の4種のアプローチはポリペプチド、非ペプチドオリゴマー、または化合物の小分子ライブラリーに適用できる。Lam, Anticancer Drug Des. 12,145,1997を参照されたい。
【0104】
分子ライブラリーの合成法は当分野でよく知られている(例えば、DeWitt et al., Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. 90,6909,1993; Erb et al., Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. 91,11422,1994; Zuckermann et al., J.Med.Chem. 37,2678,1994; Cho et al., Science 261,1303,1993; Carell et al., Angew.Chem.Int.Ed.Engl. 33,2059,1994; Carell et al., Angew.Chem.Int.Ed.Engl. 33,2061; Gallop et al., J.Med.Chem. 37,1233,1994を参照されたい)。化合物のライブラリーは溶液で(例えば、Houghten, Biotechniques 13,412-421,1992)、またはビーズ(Lam, Nature 354,82-84,1991)、チップ(Fodor, Nature 364,555-556,1993)、細菌または胞子(Ladner、米国特許5223409)プラスミド(Cull et al., Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. 89,1865-1869,1992)、またはファージ(Scott & Smith, Science 249,386-390, 1990; Devlin, Science 249,404-406,1990);Cwirla et al., Proc.Natl.Acad.Sci.97,6378-6382,1990; Felici, J.Mol.Biol. 222,301-310,1991; およびLadner、米国特許5223409)上に提供できる。
【0105】
ハイスループットスクリーニング
被験化合物は、高(ハイ)スループットスクリーニングを用いて、TRPチャネルポリペプチドまたはポリヌクレオチドに結合する能力、またはTRPチャネル活性もしくはTRPチャネル遺伝子発現に影響を及ぼす能力についてスクリーニングできる。ハイスループットスクリーニングを使用して、多くの個別的化合物を並行して試験でき、その結果多数の被験化合物を迅速にスクリーニングできる。最も広範に確立されている技術は96ウェル微量定量プレートを利用するものである。この微量定量プレートのウェルは、典型的には50ないし500μlの範囲の検定容量を必要とする。このプレートに加えて、96ウェルフォーマットに適合させた多くの機器、材料、ピペット、ロボット、プレート洗浄機、およびプレート読み取り機が市販されている。
【0106】
別法として、「自由フォーマット検定」、または試料間に物理的障壁を持たない検定が使用できる。例えば、組み合わせペプチドライブラリーのための、単純な均質検定で色素細胞(メラノサイト)を用いる検定が、Jayawickreme et al., Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. 19,1614-18(1994)に記載されている。ペトリ皿中のアガロースの下にこの細胞を入れ、次いで組み合わせ化合物を伴っているビーズをアガロースの表面に載せる。組み合わせ化合物はこのビーズから化合物を部分的に放出する。化合物がゲルマトリックス中へと局所的に拡散するにつれて活性化合物が細胞の色の変化を惹起するため、活性化合物を暗色色素領域として視覚化することができる。
【0107】
自由フォーマット検定のもう一つの例は、生体分子スクリーニング学会第1回年次総会(Philadelphia,Pa.、1995年11月7-10日)で報告されたChelsky、「組み合わせライブラリーのスクリーニングのための戦略:新規な、そして伝統的なアプローチ」により記載されている。Chelskyは、カルボニックアンヒドラーゼのための単純な均質レセプター検定をアガロースゲルの内部に入れ、その結果ゲル中のレセプターがゲル全体に色の変化を惹起するようにさせた。その後、光リンカーを介して組み合わせ化合物を持つビーズをゲル内部に入れ、すると該化合物はUV光により部分的に放出された。レセプターを阻害する化合物は、色の変化がより少ない局所阻害領域として観察された。
【0108】
もう一つのハイスループットスクリーニング法がBeutel et al.、米国特許5976813に記載されている。この方法では、被験試料を多孔性マトリックスに入れる。次に1またはそれ以上の検定成分を、マトリックス、例えばゲル、プラスチックシート、フィルター、またはその他の形の容易に操作できる固体担体の内部、上、または底に入れる。試料がこの多孔性マトリックスに導入されるとこれらは充分ゆっくりと拡散し、その結果、被験試料が混ざらずに検定が遂行できる。
【0109】
結合検定
結合検定に関して、被験化合物は、好ましくは、TRPチャネルポリペプチドに結合して正常な生物活性が妨げられるような小分子である。
【0110】
結合検定では、被験化合物またはTRPチャネルポリペプチドのいずれかが検出可能な標識、例えば蛍光、放射性同位元素、化学ルミネセント、または酵素標識(例えばホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、またはルシフェラーゼ)を含むことができる。そこで、TRPチャネルポリペプチドに結合している被験化合物の検出は、例えば放射能の放出を直接計数することにより、またはシンチレーション計数により、または検出可能産物への適当な基質の変換を測定することにより、達成できる。
【0111】
別法として、TRPチャネルポリペプチドへの被験化合物の結合を、反応体のいずれをも標識せずに測定することができる。例えば、マイクロフィジオメーターを用いて、被験化合物とTRPチャネルポリペプチドとの結合を検出できる。マイクロフィジオメーター(例えばサイトセンサー(商標))とは、細胞がその環境を酸性化する速度を光アドレッサブル電位差センサー(LAPS)を用いて測定する分析機器である。この酸性化速度の変化は、被験化合物とTRPチャネルポリペプチドの相互作用の指標として使用できる(McConnell et al., Science 257, 1906 1912, 1992)。
【0112】
被験化合物がTRPチャネルポリペプチドに結合する能力の測定はまた、リアルタイムの分子間相互作用解析(BIA)のような技術を用いて達成できる(Sjolander & Urbaniczky, Anal. Chem. 63, 2338 2345, 1991, and Szabo et al., Curr. Opin. Struct. Biol. 5, 699 705, 1995)。BIAは、いかなる反応体をも標識せずに、生体特異的相互作用をリアルタイムで研究するための技術である(例えばBIAcore(商標))。光学的現象表面プラズモン共鳴(SPR)の変化を、生体分子間のリアルタイム反応の指標に使用できる。
【0113】
本発明のさらに別の態様では、TRPチャネルポリペプチド様タンパク質をツーハイブリッド検定またはスリーハイブリッド検定(例えば、米国特許第5,283,317号; Zervos et al., Cell 72, 223 232, 1993; Madura et al., J. Biol. Chem. 268, 12046 12054, 1993; Bartel et al., BioTechniques 14, 920 924, 1993; Iwabuchi et al., Oncogene 8, 1693 1696, 1993; and Brent W094/10300参照)における「おとり蛋白」として使用し、TRPチャネルポリペプチドに結合またはこれと相互作用してその活性を調節する他の蛋白を同定することができる。
【0114】
ツーハイブリッド系は殆どの転写因子のモジュール的性格に基づくものであり、それは、分離可能なDNA結合および活性化ドメインから成っている。簡潔に述べると、この検定は二種の異なるDNA構築物を利用する。例えば、一方の構築物においては、TRPチャネルポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドが、既知の転写因子のDNA結合ドメインをコードしているポリヌクレオチドに融合できる(例えばGAL−4)。別の構築物においては、未同定蛋白(「餌」または「試料」)をコードしているDNA配列が、既知の転写因子の活性化ドメインをコードしているポリヌクレオチドに融合できる。もし「おとり」および「餌」蛋白がインビボで相互作用して蛋白依存複合体を形成できたならば、該転写因子のDNA結合および活性化ドメインは極めて近位に招来される。この近位性が、転写因子に応答する転写調節部位と機能的に結合しているリポーター遺伝子(例えばLacZ)の転写を可能にする。リポーター遺伝子の発現が検出でき、機能的転写因子を含む細胞コロニーを単離し、TRPチャネルポリペプチドと相互作用する蛋白をコードしているDNA配列取得に使用することができる。
【0115】
反応体の一方または両方の非結合型からの結合型の分離を促進するため、そして検定の自動化の便宜を図るため、TRPチャネルポリペプチド(またはポリヌクレオチド)または被験化合物のいずれかを固定化することが望ましいかも知れない。したがって、TRPチャネルポリペプチド(またはポリヌクレオチド)または被験化合物のいずれかを固体支持体に結合させることができる。好適な固体支持体は、ガラスまたはプラスチックスライド、組織培養プレート、微量定量ウェル、管、シリコンチップ、またはビーズ(ラテックス、ポリスチレン、またはガラスビーズを包含するがこれらに限定されない)のような粒子を包含するがこれらに限定されない。共有および非共有結合、受動吸収、またはそれぞれポリペプチド(またはポリヌクレオチド)または被験化合物に付着させた結合部分と固体支持体の対、の使用を包含する、当分野で既知の任意の方法を用いてTRPチャネルポリペプチド(またはポリヌクレオチド)または被験化合物を固体支持体に付着させることができる。被験化合物は好ましくは整列して固体支持体に結合させ、その結果個々の被験化合物の位置を追跡することができる。TRPチャネルポリペプチド(またはポリヌクレオチド)への被験化合物の結合は、反応体を入れるのに適した任意の容器で達成できる。そのような容器の例には微量定量プレート、試験管、および微量遠沈管がある。
【0116】
一つの態様において、TRPチャネルポリペプチドは、TRPチャネルポリペプチドを固体支持体に結合させるドメインを含む融合蛋白である。例えば、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ融合蛋白をグルタチオンセファロースビーズ(Sigma Chemical, St.Louis, Mo.)上またはグルタチオン誘導体化微量定量プレート上に吸着させ、次いでこれを被験化合物または被験化合物および非吸着TRPチャネルポリペプチドに合し;次にこの混合物を複合体形成が行われる条件下でインキュベートする(例えば、塩およびpHに関して生理的条件)。インキュベーションの後、ビーズまたは微量定量プレートのウェルを洗浄して未結合成分を除去する。反応体の結合は上記のように直接的または間接的に測定できる。別法として、複合体を固体支持体から解離させた後に結合を測定することもできる。
【0117】
本発明のスクリーニング検定には、蛋白またはポリヌクレオチドを固体支持体上に固定化するためのその他の技術を使用することもできる。例えば、TRPチャネルポリペプチド(またはポリヌクレオチド)または被験化合物のいずれかを、ビオチンとストレプトアビジンのコンジュゲーションを利用して固定化できる。当分野で周知の技術(例えばビオチニル化キット、Pierce Chemicals, Rockford,Ill.)を用いて、ビオチニル化したTRPチャネルポリペプチド(またはポリヌクレオチド)または被験化合物をビオチン−NHS(N-ヒドロキシスクシンイミド)から調製し、ストレプトアビジン被覆した96ウェルプレート(Pierce Chemical)のウェルに固定化できる。別法として、TRPチャネルポリペプチド、ポリヌクレオチド、または被験化合物に特異的に結合するが、所望の結合部位に干渉しない抗体をプレートのウェルに誘導体化することができる。未結合の標的または蛋白が抗体コンジュゲーションによりウェル中に捕捉できる。
【0118】
GST−固定化複合体について上に記載した方法に加え、このような複合体を検出する方法には、TRPチャネルポリペプチドまたは被験化合物に特異的に結合する抗体を用いる、複合体の免疫検出、TRPチャネルポリペプチドの活性検出へと引き継がれる酵素結合検定、および非還元条件下でのSDSゲル電気泳動がある。
【0119】
TRPチャネルポリペプチドまたはポリヌクレオチドに結合する被験化合物を求めるスクリーニングは、インタクトな細胞で実施することもできる。TRPチャネルポリペプチドまたはポリヌクレオチドを含む任意の細胞が、細胞に基づく検定系で使用できる。TRPチャネルポリヌクレオチドは細胞中に天然に存在し、または上記のような技術を用いて導入できる。TRPチャネルポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対する被験化合物の結合は、上記のように測定する。
【0120】
機能検定
TRPチャネルポリペプチドの生物学的効果を増大または低下させる能力について被験化合物を試験することができる。そのような生物学的効果は、下記の具体的実施例に記載の機能検定を用いて測定できる。機能検定は、精製したTRPチャネルポリペプチド、細胞膜調製物、またはインタクトな細胞を被験化合物と接触させた後に実施することができる。TRPチャネルポリペプチドの機能的活性を少なくとも約10、好ましくは約50、より好ましくは約75、90、または100%低下させる被験化合物を可能性ある物質として同定する。
【0121】
イオンチャネルを生細胞において機能的に試験することができる。本発明のオープンリーディングフレームによってコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドを、適当なレポーター細胞において内因的に発現させるか、または組換え法により導入する。チャネル活性は、このポリペプチドの活性によって引き起こされる、透過イオンの濃度変化、膜貫通電気的ポテンシャル勾配の変化、または細胞応答 (例えば、レポーター遺伝子の発現または神経伝達物質の分泌)を測定することによってモニターすることができる。
【0122】
例えば、細胞にイオン感受性の蛍光指標を導入することにより、細胞におけるイオンチャネルタンパク質の活性を測定することができる。蛍光指標は、96ウェルプレートまたは別の容器にて、細胞に導入することができ、種々の試験化合物の存在下または不在下でのイオンチャネルの活性を単純にそして容易に測定することができる。例えば、米国特許第6,057,114号参照。イオンチャネルの電流は、電気的膜電位(Vm)の変化を引き起こし、これはを電位差蛍光プローブ用いて直接モニターすることができる。これらの電気的に荷電した指標(例えば、アニオン系オキソノール色素DiBAC4(3)) は、電位の変化に応答して、イオンチャネルが存在する膜を介して、細胞外コンパートメントと細胞内コンパートメントとの間で再分配する。平衡分配はネルンストの式に支配される。したがって膜電位の変化は、細胞の蛍光において同時に起こる変化をもたらす。ここでも、Vmの変化は、標的イオンチャネルの活性によって直接引き起こされるか、または同じ細胞において同時発現したチャンネルによるシグナルの増幅および/または持続を介して引き起こされる。
【0123】
イオンチャネルタンパク質の活性を測定する別の方法は、イオン電流の電気生理学的測定を行うものである。TRPチャネルを外因的に発現する細胞を用いて、TRPチャネルの活性に帰する内因性のイオン電流に対する、種々の試験化合物またはTRPチャネルポリペプチド効果を試験する。あるいは、TRPチャネルを発現しない細胞を、TRPチャネルの発現のための宿主として用い、その活性を電気生理学的またはその他の手段により試験する。TRPチャネルのヘテロローガスな発現のための宿主細胞として好ましい細胞は、好ましくは、COS細胞、マウスL細胞、CHO細胞(例えばDG44細胞)、ヒト胚性腎細胞(例えばHEK293細胞)、アフリカミドリザル細胞等の哺乳類細胞、アフリカツメガエル卵母細胞等の両生類細胞、S. cerevisiaeまたはP. pastoris等の酵母である。例えば、米国特許第5,876,958参照。
【0124】
細胞膜を介する電流を測定するための電気生理学的手法は周知である。好ましい方法は、ホールセル・パッチクランプ法(Whole-cell patch clamp)におけるような、電圧固定法の使用である。確立された方法によって非カルシウム電流を排除して、イオンチャネルタンパク質を介して流れたイオン電流が単離することができる。ヘテロローガスに発現したTRPチャネルの場合は、内因性のイオンチャネルタンパク質から生じたイオン電流を既知の薬理学的または電気生理学的技術により抑得ることができる。例えば、米国特許第5,876,958号を参照。
【0125】
A further activity of the 分析することができるTRPチャネルのさらなる活性は、試験化合物を含む種々のリガンドに結合するその能力である。試験化合物がTRPチャネルまたはその断片と結合する能力は、結合力および/またはアフィニティーが、TRPチャネルに対して既知のアフィニティーを有する1またはそれ以上の濃度の化合物の存在下および非存在下で測定される、任意の適当な競合結合分析によって測定することができる(例えば、スキャッチャード・プロット)。結合分析は、TRPチャネルを(内因的または外因的に)発現している全細胞、そのような細胞から調製された膜または精製されたTRPチャネルを用いて行うことができる。
【0126】
遺伝子発現
別の態様では、TRPチャネルポリペプチド遺伝子の発現を増大または減少させる被験化合物を同定する。TRPチャネルポリヌクレオチドを被験化合物と接触させ、RNAまたはTRPチャネルポリヌクレオチドのポリペプチド産物の発現を測定する。被験化合物存在下での適当なmRNAまたはポリペプチドの発現レベルを、該被験化合物不在下でのmRNAまたはポリペプチドの発現レベルと比較する。すると被験化合物が、この比較に基づく発現のモジュレーターとして同定できる。例えば、mRNAまたはポリペプチドの発現が、被験化合物の不在時よりも存在時により大きい場合は、この被験化合物を、該mRNAまたはポリペプチド発現の刺激物質または増強物質と同定する。そうではなく、mRNAまたはポリペプチドの発現が、被験化合物の不在時よりも存在時により小さい場合は、この被験化合物を、該mRNAまたはポリペプチド発現の阻害物質と同定する。
【0127】
細胞におけるTRPチャネルポリペプチドmRNAまたはポリペプチド発現のレベルは、mRNAまたはポリペプチドを検出するための当分野で周知の方法により決定できる。定性または定量的方法のいずれかが使用できる。TRPチャネルポリヌクレオチドのポリペプチド産物の存在は、例えばラジオイムノアッセイのような免疫化学的方法、ウエスタンブロッティング、および免疫組織化学を包含する、当分野で周知の様々な技術を用いて決定できる。別法として、ポリペプチド合成は、TRPチャネルポリペプチド内への標識アミノ酸の取り込みを検出することにより、インビボで、細胞培養で、またはインビトロ翻訳系で決定できる。
【0128】
このようなスクリーニングは、無細胞検定系またはインタクトな細胞のいずれかで実施できる。TRPチャネルポリヌクレオチドを発現する任意の細胞が、細胞に基づく検定系で使用できる。TRPチャネルポリヌクレオチドは細胞内に天然に存在するか、または上記のような技術を用いて導入することができる。CHOまたはヒト胚腎臓293細胞等の一次培養または確立されたセルラインを使用できる。
【0129】
医薬組成物
本発明はまた治療の効果を達成するために患者に投与することができる医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物は、例えば、TRPチャネルポリペプチド、TRPチャネル ポリヌクレオチド、リボザイムまたはアンチセンスオリゴヌクレオチド、TRPチャネルポリペプチドに特異的に結合する抗体、または模倣物、TRPチャネルポリペプチド活性の作用物質、アンタゴニスト、または阻害剤を含むことができる。組成物は単独でまたは少なくとも1つの他の物質、例えば安定剤との組み合わせにおいて投与することができ、これは、生理食塩水、緩衝塩溶液、デキストロース、および水を含むが、これらに限定されない滅菌、生体適合性医薬担体中で投与することができる。組成物は単独で、または他の作用物質、医薬またはホルモンと組み合わせて患者に投与することができる。
【0130】
活性成分に加えて、これらの医薬組成物は、製薬に用いることができる製剤中の活性化合物の処理を容易にする賦形剤および助剤を含む適当な医薬的に許容される担体を含むことができる。本発明の医薬組成物は、経口、静脈内、筋肉内、動脈内、髄内、髄腔内、心室内、経皮、皮下、腹膜組織内、鼻内、非経口、局所、舌下、または直腸手段を含むが、これらに限定されない任意の数の経路により投与することができる。経口投与用医薬組成物は、経口投与に適した用量において当該分野で一般的な、医薬的に許容される担体を用いて処方することができる。このような担体により、医薬組成物は患者が摂取するために、錠剤、丸薬、糖衣錠、カプセル、液体、ジェル、シロップ剤、syラリー、懸濁剤などとして処方することが可能になる。
【0131】
経口用医薬製剤は、活性化合物を固体賦形剤と組み合わせ、所望により得られる混合物を粉砕し、望ましいならば錠剤または糖衣錠コアを得るために適当な助剤を添加した後、顆粒混合物を加工することにより得ることができる。適当な賦形剤は、炭水化物またはタンパク質フィラー、例えば、ラクトース、シュークロース、マンニトール、またはソルビトールを含む糖;トウモロコシからのでんぷん、麦、米、ジャガイモ、または他の植物;メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、またはカルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース;アラビアゴムおよびトラガカントを含むゴム;ゼラチンおよびコラーゲンなどのタンパクである。もし望ましいなら、崩壊剤または可溶化剤、たとえば架橋されたポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸、またはその塩、例えば、アルギン酸ナトリウムを添加することができる。
【0132】
糖衣錠コアは、適当なコーティング、例えば、濃縮糖溶液と組み合わせて用いることができ、これもまた、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カーボポールゲル、ポリエチレングリコール、および/または二酸化チタン、ラッカー溶液、および適当な有機溶剤または溶剤混合物を含むことができる。製品の識別または活性化合物の量、すなわち用量を特徴づけるために、色素または顔料を錠剤または糖衣錠コーティングに添加することができる。
【0133】
経口で用いることができる医薬製剤は、ゼラチンでできたプッシュフィットカプセル、ならびにゼラチンおよびコーティング、例えば、グリセロールまたはソルビトールからできたソフトシールドカプセルを含む。プッシュフィットカプセルは、フィラーまたはバインダー、例えば、ラクトースまたはデンプン、滑剤、例えばタルクまたはステアリン酸マグネシウム、および任意に安定剤を含むことができる。ソフトカプセルにおいて、活性化合物は、適当な液体、例えば、脂肪油、液体、または液体ポリエチレングリコール(安定剤を含むかまたは含まない)中に溶解または検濁させることができる。
【0134】
非経口投与に適した医薬処方は、水溶液、好ましくはハンクス溶液、リンガー溶液、または生理的緩衝塩溶液などの生体適合性緩衝液中で処方することができる。水性注射懸濁液は、懸濁液の粘度を増大させる物質、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、またはデキストランを含むことができる。加えて、活性化合物の懸濁液は適切な油性注射懸濁液として調製することができる。適当な親油性溶剤またはビヒクルは、ゴマ油などの脂肪油、または合成脂肪酸エステル、たとえばオレイン酸エチルまたはトリグリセリド、またはリポソームを含む。非脂質多カチオン性アミノポリマーも送達のために用いることができる。任意に、懸濁液は、高度に濃縮された溶液の調製を可能にするために化合物の溶解度を増大させる適当な安定剤または物質も含むことができる。局所または経鼻投与のために、浸透される特定のバリヤに適当な浸透剤を処方において用いることができる。このような浸透剤は当該分野において一般的に知られている。
【0135】
本発明の医薬組成物は、例えば、通常の混合、溶解、顆粒化、糖衣錠製造、湿式粉砕、乳化、カプセル化、封入、または凍結乾燥プロセスにより、当該分野において公知の方法で製造することができる。医薬組成物は、塩として提供することができ、これらに限定されないが、塩酸、硫酸、酢酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸などを含む多くの酸を用いて形成することができる。塩は対応する遊離塩基形態よりも水性または多のプロトン性溶剤中により可溶性である傾向がある。他の場合においては、好ましい製剤は:1〜50mMのヒスチジン、0.1%〜0.2%のシュークロース、および2〜7%のマンニトール(4.5から5.5までのpH範囲)のうちのいずれかまたは全部を含むことができる凍結乾燥粉末であり、これは使用の前に緩衝液と組み合わせられる。
【0136】
処方および投与のための技術に関しての詳細は、レミントンの製薬の科学(REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCES (Maack Publishing Co., Easton, Pa.))の最新版において記載されている。医薬組成物は調製された後、適切な容器中に入れ、適応症の治療のためにラベルをはることができる。このようなラベルは、投与量、頻度および方法を含む.
【0137】
治療の指標と方法
ヒトTRPチャネル (TRPC)を調節することにより、尿失禁、膀胱の活動亢進、良性前立腺肥大および下部尿路症候群等の泌尿器系の障害の有効な抑制がもたらされる。
【0138】
尿失禁
尿失禁(UI)は尿の不随意の喪失である。切迫性尿失禁(UUI)、ストレス性尿失禁と共に、最も一派的なタイプの尿失禁の1つであり、通常は尿路閉塞のメカニズムの障害によって引き起こされる。UUIは、痴呆、パーキンソン病、多発性硬化症、卒中および糖尿病等の神経の損傷を引き起こす神経性の障害または疾患に関連していることが多いが、そのような障害を持たない人にも起こる。UUIの一般的な原因の1つは、膀胱の活動亢進(OAB)であり、これは、収縮の異常および排尿筋の不安定性から生じる頻度および切迫性の症状に関する医学的状態である。
【0139】
膀胱に氷水を急速に注入すると、脊髄上位運動ニューロンに病変を有する患者に排尿筋の収縮を引き起こす。初期の冷却反射は、髄鞘のないC求心性カプサイシン感受性線維を介して媒介され、上脊髄中心(supraspinal centers)によって正常に阻害される。しかしながら、上位運動ニューロンに病変を有する患者においては、冷却反射は阻害されない。これらの不随意の排尿筋収縮反射脊髄反射シグナルは、膀胱および尿道ヘキの特異的な冷感受容体に端を発する[Lindstrom S. および Mazi鑽es L.: Effect of menthol on the bladder cooling reflex in the cat. Acta Physiol Scand, 141: 1, 1991] [Mazi鑽es L., Jiang C. およびLindstrom S.: The C fibre reflex of the cat urinary bladder. J Physiol (Lond), 513: 531, 1998]。
【0140】
冷感化合物であるメントールは、冷感受容体に対して選択的な強化作用を有し、動物において、膀胱冷却反射の温度反応曲線を高い温度にシフトさせる[Lindstrom S. and Mazi鑽es L.: Acta Physiol Scand, 141: 1, 1991] [Mazi鑽es L., Jiang C. and Lindstrom S.: J Physiol (Lond), 513: 531, 1998]。メントール処置はまた、すべての患者において、冷感反射の閾温度(threshold temperature)を高い数値にシフトさせる[Geirsson G.: J. Urol. 150:427, 1993]。電気生理学的研究は、後根神経節(DRG)ニューロンにおける冷感受容体の存在を示し、メントールが低温のシグナルを媒介する同じ受容体を用いることを示唆した。低温シグナルは、カルシウム透過イオンチャネルのダイレクトな開口を介して伝達されると考えられる[Reid G., Flonta M.L.: Physiology. Cold current in thermoreceptive neurons. Nature 413:480, 2001]。
【0141】
非活動亢進膀胱は、通常の膀胱内圧径が最大400mL満たされるまで不随意の排尿筋収縮を起こさないものであると定義される。氷水試験(IWT)では、0〜4℃にて100mL/分の流速で氷水を用いて行う。臨床上、例えば、不随意排尿筋収縮を200mL未満、および200〜400mLの間の充填量で示す患者は、陽性とされる。一方、不随意排尿筋収縮が400mLまでの充填量の間に起こらなければ、氷水膀胱内圧計試験は陰性とされる[Ismael S.S., Epstein T., Bayle B., Denys P., Amarenco G.: Bladder cooling reflex in patients with multiple sclerosis. J. Urol. 164:1280-1284, 2000]。OABを有する537人の患者の過去にさかのぼる分析では、上部運動ニューロン障害を有する患者の90%以上がIWT陽性であったが、上部運動ニューロン障害の軽い患者は完全に陰性であり、これら2種類のOAB患者を識別するこの試験の有用性が確認された[Geirsson G.: Evidence of cold receptors in the human bladder: effect of menthol on the bladder cooling reflex. J. Urol. 150:427,1993]。興味深いことに、多発性硬化症、パーキンソン病または過去の脳血管障害等のCNS障害と関連するOABを有する患者の75%がIWTにおいて陽性であった。脊髄障害を有する76人のOAB患者についての別の研究では、54%の患者が、IWT陽性であった[Geirsson G., Fall M.: Scand. J. Urol. Nephrol. 29:457-461, 1995]。さらに、膀胱下閉塞を有する17人のOAB患者のうちの12人(71%)がIWT陽性であった[Chai T.C., Gray M.L., Steers W.D.: The incidence of a positive ice water test in bladder outlet obstructed patients: evidence for bladder neural plasticity. J. Urol. 160:34-38, 1998]。これらの証拠は、半数を超えるOAB患者における、冷感受容体が介在する反射の存在または機能的なアップレギュレーションを明確に示している。したがって、ヒトTrp−p8/CMR1は、IWTに応答する患者におけるOABを調節するための適当な治療標的である。
【0142】
良性前立腺肥大
良性前立腺肥大(BPH)は、50歳を超えた男性に一般的にみられる尿道周囲前立腺の良性のコブ状の過形成である。異常増殖は、尿道周囲を取り巻く移行域と呼ばれる前立腺の中央部において起きる。BPHは、種々の程度の膀胱排尿障害を引き起こし、これはBPHの主な症状の1つである。BPHの本当の原因はよく分かっていないが、加齢に伴うステロイド性ホルモンのバランスの変化が関わっているかもしれない。
【0143】
ヒトの前立腺において、Trp−p8遺伝子が最も豊富に発現することが報告されており [Tsavaler L., Shapero M.H., Morkowski S., Laus R.: Trp−p8, a novel prostate-specific gene, is up-regulated in prostate cancer and other malignancies and shares high homology with transient receptor potential calcium channel proteins. Cancer Res. 61:3760-3769, 2001]、細胞内Ca2+濃度の調節を介する前立腺細胞増殖の維持における重要な役割が示唆されている。したがって、Trp−p8の機能的活性を調節する薬物は、前立腺の物理的または機能的コントロールのいずれかをコントロールするのに有用である。
【0144】
下部尿路症候群
BPHは、種々の程度の膀胱排尿障害を引き起こし、膀胱の不完全な排出および急速な補充に起因する、頻尿、尿意逼迫および夜間多尿症によって特徴付けられる、進行性の下部尿路症候群(LUTS)をもたらす。
【0145】
部分的な排尿障害によって引き起こされる主な機能不全の1つは、フィールド刺激(field stimulation)と直接のムスカリン様刺激の両方による刺激の間の、このようなカルシウム誘発性カルシウム放出の関与の顕著な減少であることが示された [Levin RM, et al. Scand. J. Urol. Suppl 184: 43-50, 1997]。したがって、カルシウム貯蔵および放出は、神経伝達物質が介在する刺激および直接の平滑筋刺激の両方に対するウサギ膀胱の収縮反応に重要な役割を担っている。このように、ヒトTRPチャネルタンパク質は、LUTSを管理するための適当な標的となることができる。
【0146】
CNS障害
中枢および末梢神経系障害、例えば、脳損傷、気分障害、不安障害、思考および意思の障害、睡眠および覚醒の障害、運動単位の疾患、例えば、神経性および筋障害性の障害、神経変性疾患、例えばアルツハイマー病およびパーキンソン病および末梢および慢性的な疼痛もまた処置することができる。
【0147】
CNS障害に関連する疼痛もまた、ヒトTRPチャネルの活性を調節することによって処置できる。処置できる疼痛には、中枢神経系障害と関連するもの、例えば多発性硬化症、脊髄損傷、坐骨神経痛、失敗した腰部手術(failed back surgery)症候群、外傷性脳損傷、癲癇、パーキンソン病、脳卒中後、及び脳や脊髄における血管破壊(例えば、梗塞、出血、血管新生異常)が挙げられる。非中枢神経因性疼痛には、乳房切除術後疼痛、反射性交感神経性ジストロフィー(RDS)、三叉神経痛ラジオキュロパシー(trigeminal neuralgiaradio−culopathy)、術後の疼痛、HIV/AIDS関連疼痛、癌疼痛、代謝神経痛(例えば、糖尿病性神経障害、結合組織疾患に対する第2の血管炎神経障害)、例えば肺癌種、白血病、リンパ腫、前立腺、大腸若しくは胃癌種、三叉神経痛及び疱疹後神経痛と関連する腫瘍随伴性多発神経障害が挙げられる。癌及び癌処置と関連する疼痛もまた処置でき、頭痛(例えば前兆を伴う片頭痛、前兆を伴わない片頭痛、および他の片頭痛障害)、偶発性及び慢性緊張性頭痛、緊張型様頭痛、群発性頭痛や慢性発作性片頭痛も処置できる。
【0148】
本発明は、上記のスクリーニング検定によって同定される新規物質の使用にさらに関する。従って、本明細書に記載するように同定される被験化合物を適当な動物モデルに使用することは、本発明の範囲内にある。例えば、本明細書に記載するように同定される物質(例えば、調整物質、アンチセンス核酸分子、特異的な抗体、リボザイム又はTRPチャネルポリペプチド結合分子)を、そのような物質を用いた処置の効果、毒性又は副作用を決定するために、動物モデルに用いることがある。あるいは、本明細書に記載するように同定された物質を、該物質の作用機構を決定するために、動物モデルに使用する場合がある。さらに、本発明は、本明細書に記載の処置に対する上記スクリーニング検定によって同定される新規物質の使用に関する。
【0149】
TRPチャネル活性に影響を及ぼす試薬を、TRPチャネル活性を低下させるために、インビトロ又はインビボのいずれかにおいてヒト細胞に投与することができる。試薬は、ヒトTRPチャネル遺伝子の発現産物と結合することが好ましい。その発現産物がタンパク質である場合、試薬は抗体であることが好ましい。エックスビボにおけるヒト細胞の処置については、抗体を、人体から取り出しておいた幹細胞の調製物に添加することができる。その後、その細胞を、当分野で周知のように、クローン増殖させるか、又はさせずに同じ又は別の人体に移すことができる。
【0150】
1つの態様においては、試薬を、リポソームを用いて送達する。リポソームは、投与した動物中にて、少なくとも約30分間、より好ましくは少なくとも約1時間、さらにより好ましくは少なくとも約24時間安定であることが好ましい。リポソームは、試薬、特にポリヌクレオチドを、動物(例えばヒト)の特定の部位に標的化することができる脂質組成物を含む。リポソームの脂質組成物は、動物の特有の器官、例えば肺、肝臓、脾臓、心臓、脳、リンパ節及び皮膚を標的化できることが好ましい。
【0151】
本発明に有用なリポソームは、標的化した細胞の原形質膜と融合でき、その内容物を細胞に送達できる脂質組成物を含む。好ましくは、リポソームのトランスフェクション効率は約106細胞に送達されるリポソーム16nmol当たりDNA約0.5μgであり、より好ましくは約106細胞に送達されるリポソーム16nmol当たりDNA約1.0μgであり、さらにより好ましくは約106細胞に送達されるリポソーム16nmol当たりDNA約2.0μgである。好ましくは、リポソームは直径が、約100〜500nmであり、より好ましくは約150〜450nmであり、さらにより好ましくは約200〜400nmである。
【0152】
本発明に用いるに適したリポソームは、例えば当業者に知られる遺伝子送達法に標準的に用いられるリポソームを含む。より好ましいリポソームは、ポリカチオン脂質組成物を有するリポソームおよび/またはポリエチレングリコールと連結されたコレステロールバックボーン(骨格鎖)を有するリポソームを含む。あるいは、リポソームは特定の細胞タイプを標的化できる化合物、例えばリポソームの外側表面に曝される細胞特異的リガンドを包含する。
【0153】
リポソームを、試薬、例えばアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはリボザイムと複合化させることは、当分野で標準的な方法 (例えば、米国特許5,705,151を参照のこと) を用いて達成することができる。好ましくは、ポリヌクレオチド約0.1μg〜約10μgをリポソーム約8nmolと複合化する、より好ましくはポリヌクレオチド約0.5μg〜約5μgをリポソーム約8nmolと複合化する、さらにより好ましくはポリヌクレオチド約1.0μgをリポソーム約8nmolと複合化する。
【0154】
別の態様においては、抗体を、受容体媒介性標的化送達を用いて、インビボにて特定の組織に送達することができる。受容体媒介性DNA送達技術は、例えばFindeisら、Trends in Biotechnol. 11, 202-05 (1993); Chiouら、GENE THERAPEUTICS: METHODS AND APPLICATIONS OF DIRECT GENE TRANSFER (J. A. Wolffら、) (1994); Wu & Wu, J. Biol. Chem. 263, 621-24 (1988); Wuら、J. Biol. Chem. 269, 542-46 (1994); Zenkeら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 87, 3655-59 (1990); Wuら、J. Biol. Chem. 266, 338-42 (1991) にて教示されている。
【0155】
治療的有効量の決定
治療的有効量の決定は、充分当業者の能力の範囲内にある。治療的有効量とは、治療的有効量の不在下で起こるTRPチャネルポリペプチドの活性に比較してTRPチャネルポリペプチドの活性を増大させまたは低下させる活性成分の量を指す。
【0156】
任意の化合物に関して、治療的有効量は最初に細胞培養検定で、または動物モデル、通常マウス、ウサギ、イヌ、またはブタで見積もることができる。動物モデルは適当な濃度範囲および投与経路の決定にも使用できる。次にこのような情報を用いてヒトでの有用な用量と投与経路を決定できる。
【0157】
治療的有効性および毒性、例えばED50(集団の50%で治療的に有効な用量)およびLD50(集団の50%で致死的な用量)は、細胞培養または実験動物における標準的薬学的方法により決定できる。治療効果に対する毒性効果の用量比が治療指数であり、比LD50/ED50で表すことができる。
【0158】
大きな治療指数を示す医薬組成物が好ましい。細胞培養検定および動物研究から得られるデータを、ヒトへの使用のための用量範囲を処方する際に使用する。係る組成物に含まれる用量は、好ましくは殆どまたは全く毒性を持たないED50を包含する循環濃度の範囲内である。この用量は、使用する投与剤型、患者の感受性、および投与経路に応じてこの範囲内で変わる。
【0159】
正確な用量は、治療を必要とする対象に関連する因子に照らして医師が決定する。用量および投与は、充分なレベルの活性成分を提供するよう、または所望の効果を維持するよう、調節する。考慮できる因子は、疾病状態の重篤度、対象の全身健康状態、年齢、体重、および対象の性別、食餌、投与の時間および頻度、薬物の組み合わせ、反応の感受性、および療法に対する寛容/応答を包含する。長時間作用性医薬組成物は、その製剤の半減期およびクリアランス率に応じて3ないし4日毎、毎週、または2週間に1回投与することができる。
【0160】
標準的な用量は投与経路に応じて0.1から100000マイクログラムまで変えることができ、約1gまでの総用量とすることができる。特定の用量およびデリバリー方法についての指針は文献に提供されており、一般に当分野の医師が入手できる。当業者は、ヌクレオチド用には蛋白またはそれらの阻害物質用のものとは異なる製剤を使用するであろう。同様に、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドのデリバリーは特定の細胞、状態、場所などに特異的である。
【0161】
この試薬が一本鎖抗体である場合、この抗体をコードしているポリヌクレオチドを組み立て、トランスフェリン−ポリカチオン−仲介DNA転移、裸のまたはカプセル内核酸を用いるトランスフェクション、リポソームの仲介する細胞融合、DNA被覆ラテックスビーズの細胞内輸送、プロトプラスト融合、ウイルス感染、エレクトロポレーション、「遺伝子銃」、およびDEAE−またはリン酸カルシウム−仲介トランスフェクションを包含する(但しこれらに限定される訳ではない)充分確立した技術を用いて、ex vivoまたはインビボで細胞内に導入できる。
【0162】
抗体の有効なインビボ用量は、約5μg〜約50μg/kg、約50μg〜約5mg/kg、約100μg〜約500μg/kg(患者の体重)、および約200〜約250μg/kg(患者の体重)の範囲である。一本鎖抗体をコードしているポリヌクレオチドの投与のためには、有効なインビボ用量は、約100ng〜約200ng、500ng〜約50mg、約1μg〜約2mg、約5μg〜約500μg、および約20μg〜約100μgのDNAの範囲である。
【0163】
発現産物がmRNAである場合、試薬は好ましくはアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはリボザイムである。アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはリボザイムを発現するポリヌクレオチドは、上記のように多岐にわたる方法によって細胞中に導入できる。
【0164】
好ましくは、試薬は、TRPチャネルポリペプチド遺伝子の発現またはTRPチャネルポリペプチドの活性を、該試薬の不在時と比較して少なくとも約10、好ましくは約50、より好ましくは約75、90、または100%低下させる。TRPチャネルポリペプチド遺伝子の発現レベルまたはTRPチャネルポリペプチドの活性を低下させるよう選択した機構の有効性は、当分野で周知の方法、例えばTRPチャネルポリペプチド特異的mRNAへのヌクレオチドプローブのハイブリダイゼーション、定量的RT−PCR、TRPチャネルポリペプチドの免疫学的検出、またはTRPチャネルポリペプチド活性の測定を用いて評価できる。
【0165】
上記のいずれの態様においても、本発明の任意の医薬組成物は他の適当な治療薬と組み合わせて投与できる。併用療法に使用するための適当な物質の選択は、慣用の製薬における原理に従い、当業者により実施することができる。治療薬の組み合わせは、相乗的に働いて、上記の様々な疾患の治療または予防を奏効させる。このアプローチを用いて、より低い各物質の用量で治療効果を達成することができ、したがって有害な副作用の可能性を低減することができる。
【0166】
上記の治療方法のいずれも、例えばイヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ウサギ、サル、および最も好ましくはヒトといった哺乳動物を包含する、このような治療を必要とする任意の対象に適用することができる。
【0167】
診断方法
ヒトTRPチャネルはさらに、そのポリペプチドをコードしている核酸配列における突然変異の存在に関連した疾病および異常、または疾病および異常に対する感受性を検出する診断検定に使用できる。該疾患は、一例として、細胞形質転換体(例えば、腫瘍及び癌)、及び種々の心疾患(高血圧症及び低血圧症を含む)、並びに異常な血流量、異常なアンジオテンシン誘導型アルドステロン分泌、及び異常な体液や電解質ホメオスタシスから生じる疾患に関連している。本発明に基づき、疾患に罹患している個体と正常な個体とにおけるTRPチャネルをコードしているcDNAまたはゲノム配列の間の差異を決定できる。もし、罹患している個体の幾つかまたは全てに突然変異が観察され、正常な個体で観察されないならば、その突然変異がその疾患の原因物質である可能性がある。
【0168】
レファレンス遺伝子および突然変異を有する遺伝子の間の配列相違は、直接DNA配列決定法によって明らかにできる。加えて、クローニングしたDNAセグメントを、特定のDNAセグメントを検出するためのプローブとして使用できる。この方法の感受性はPCRと組み合わせる時極めて増強される。例えば、二本鎖PCR産物または修飾PCRにより調製された一本鎖テンプレート分子と共に、配列決定プライマーを使用することができる。配列決定は、放射標識したヌクレオチドを用いる常套的方法によって、または蛍光標識を使用する自動配列決定法によって実施する。
【0169】
DNA配列相違に基づく遺伝子試験は、変性させる物質を含むまたは含まないゲル中のDNA断片の電気泳動移動度の変化を検出することにより実施できる。小配列の欠失および挿入は、例えば高分解能ゲル電気泳動によって視覚化できる。異なる配列のDNA断片は変性させるホルムアミド勾配ゲル上で識別でき、ここでは、異なるDNA断片の移動度が、それらの特異的融解温度または部分的融解温度に従って、ゲル中の異なる位置で遅延する(例えば、Myersら、Science 230,1242,1985を参照されたい)。特定の位置での配列改変もまたヌクレアーゼ保護検定、例えばRNアーゼおよびS1保護または化学的開裂法によって明らかにすることができる(例えば、Cottonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85,4397-4401,1985)。即ち特異的DNA配列の検出は、ハイブリダイゼーション、RNアーゼ保護、化学的開裂、直接DNA配列決定といった方法によって、または制限酵素とゲノムDNAのサザンブロッティングを使用することによって実施できる。ゲル電気泳動およびDNA配列決定のような直接法に加えて、突然変異はin situ分析により検出することもできる。
【0170】
TRPチャネルレベルの変化もまた種々の組織で検出できる。血液または組織生検のように、宿主から誘導した身体試料中のタンパク質ポリペプチドのレベルを検出するために用いる検定は、当業者に周知であり、ラジオイムノアッセイ、競合的結合検定、ウェスタンブロット分析、およびELISA検定を包含する。
【0171】
本明細書に引用する全ての特許および特許出願は、引用により特に本明細書の一部とする。上記の内容は本発明を一般的に記載するものである。より完全な理解は以下の具体的実施例を参照することによって得られ、それらの実施例は例示のみの目的で提供するものであり、本発明の範囲を限定する意図は無い。
【0172】
実施例1
組換えヒトTRPチャネルの発現
ピキア パストリス(Pichia pastoris)発現ベクターpPICZB(Invitrogen, San Diego, CA) を用いて、大量の組換えヒトTRPチャネルポリペプチドを酵母中に生産させる。ヒトTRPチャネルコード化DNA配列は配列番号1〜11から誘導する。ベクターpPICZB中に挿入する前に、DNA配列を、その5'端に開始コドン、及び3'端にエンテロキナーゼ開列部位、His6レポータータグや終止コドンを含ませるといった周知の方法によって修飾する。さらに、その両末端に制限エンドヌクレアーゼの認識配列を加え、対応する制限酵素を用いてpPICZBのマルチクローニングサイトを消化した後に、修飾ポリペプチドをコードするDNA配列をpPICZB中にライゲートする。この発現ベクターを、ピキア パストリスにて発現が酵母プロモーターにより誘導される誘導性発現用に設計する。得られたpPICZ/md−His6ベクターを用いて、酵母を形質転換する。
【0173】
この酵母を、5リッター攪拌フラスコ中で通常の条件下にて培養し、組換え産物タンパク質を、8Mウレアの存在下で親和性クロマトグラフィー(Ni−NTA−樹脂)により培養物から単離する。結合したポリペプチドを、pH3.5の緩衝液を用いて溶出し、中性化する。His6レポータータグからのポリペプチドの分離は、製造元の指示に従い、エンテロキナーゼ(Invitrogen, San Diego, CA)を用いる部位特異的タンパク質分解により行なう。精製ヒトTRPチャネルポリペプチドを得る。
【0174】
実施例2
TRPチャネルポリペプチドと結合する被験化合物の同定
グルタチオン−S−トランスフェラーゼタンパク質を含み96ウェル マイクロタイタープレートのグルタチオン誘導化ウェルに吸着した精製TRPチャネルポリペプチドを、生理緩衝溶液pH7.0の小分子ライブラリー由来の被験化合物と接触させる。ヒトTRPチャネルポリペプチドは、配列番号12〜21に示すいずれかのアミノ酸配列を含む。被験化合物は蛍光標識を含む。この試料を5分間〜1時間インキュベートする。コントロール試料は、被験化合物の非存在下にてインキュベートする。
【0175】
被験化合物を含む緩衝液を、ウェルから洗い出す。TRPチャネルポリペプチドに対する被験化合物の結合を、ウェルの内容物の蛍光測定により検出する。被験化合物をインキュベートしていないウェルの蛍光と比較して少なくとも15%ウェル中の蛍光を増大させる被験化合物を、TRPチャネルポリペプチドと結合する化合物と同定する。
【0176】
実施例3
TRPチャネル遺伝子発現を低下させる被験化合物の同定
被験化合物を、TRPチャネル発現構築物でトランスフェクトしたヒト培養細胞に投与し、37℃で10〜45分間インキュベートする。トランスフェクトしていない同じタイプの細胞培養を、被験化合物を加えず同じ時間インキュベートし、ネガティブコントロールとする。
【0177】
RNAを、Chirgwinら、Biochem. 18, 5294-99,1979に記載のように2つの培養物から単離する。ノーザンブロットを全RNA20〜30μgを用いて調製し、エクスプレスハイブ(Expresshyb)(CLONTECH)にて65℃で、32P−標識化TRPチャネル特異的プローブを用いてハイブリダイズさせる。このプローブは配列番号1〜11の相補物より選ばれる少なくとも11個の連続ヌクレオチドを包含する。被験化合物の非存在下にて得られるシグナルと比較してTRPチャネル特異的シグナルを低下させる被験化合物を、TRPチャネル遺伝子発現の阻害物質として同定する。
【0178】
実施例4
TRPチャネルの組織特異的発現
種々の組織におけるTRPチャネルの定量的発現パターンを逆転写PCR(RT−PCR)により測定した。
【0179】
TRPチャネルがCNS障害に関与することを実証するために、以下の組織をスクリーニングした:胎児および成人脳、筋肉心臓、肺、腎臓、肝臓、胸腺、精巣、結腸、胎盤、気管、膵臓、腎臓、胃粘膜、結腸、肝臓、小脳、皮膚、皮質(アルツハイマーおよび正常)、視床下部、皮質、扁桃、小脳、海馬、脈絡膜、叢、視床および脊髄。
【0180】
定量的発現プロフィリング。定量的発現プロフィリングは、「動力学的解析」(Higuchiら、BioTechnology 10, 413-17,1992、及びHiguchiら、BioTechnology 11, 1026-30,1993に初めて記載された)と称する定量的PCR解析の方式により実施する。原理は、PCRの指数関数相内の所定の任意のサイクルにおいては、産物の量が最初の鋳型のコピー数と比例することである。
【0181】
増幅を、標的配列と相補的な内部クエンチ蛍光オリゴヌクレオチド(TaqManプローブ)の存在下で行なう場合、プローブはTaq DNAポリメラーゼの5'−3'エンドヌクレアーゼ活性により開裂され、蛍光色素が媒体に放出される(Hollandら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 88, 7276-80, 1991)。蛍光発光は、特異的増幅産物量と直接比例して増大するため、PCR産物の指数関数的増幅相を検出し、初期鋳型濃度を決定するのに用いることができる(Heidら、Genome Res. 6, 986-94, 1996、及びGibsonら、Genome Res. 6, 995-1001, 1996)。
【0182】
内部対照の増幅を行って、反応物に添加したサンプルRNAの量を標準化することができる。この種の実験では、選択した対照は18SリボソームRNAである。異なる放射スペクトルを有するレセプター色素が利用できるので、異なる色素で標識したプローブを用いれば、標的と内部標準とを同じ試験管内で独立して定量することができる。
【0183】
蛍光のリアルタイムPCR測定はすべて、ABI Prism7700で行う。
【0184】
蛍光のリアルタイムPCR測定はすべて、ABI Prism7700で行う。
RNA抽出およびcDNA調製。上記の組織から得た全RNAを発現の定量化に使用する。「剖検から得た」標識RNAを、製造元のプロトコルにしたがって、TRIzol試薬(Life Technologies, MD)を用いて剖検組織から抽出した。
【0185】
各RNA50μgを、以下の反応混合物中、DNaseIで37℃にて1時間処理した:0.2U/μL RNase不含DNaseI (Roche Diagnostics, Germany); 0.4 U/μL RNaseインヒビター(PE Applied Biosystems, CA); 10mM Tris−HCl pH7.9;10mM MgCl2; 50mM NaCl;および1mM DTT。
【0186】
インキュベーション後、RNAを1体積のフェノール:クロロホルム−イソアミールアルコール(24:24:1)で1回、クロロホルムで1回抽出し、1/10体積の3M 酢酸ナトリウム(pH5.2)および2体積のエタノールで沈殿させた。
【0187】
剖検組織から得た各RNA50μgを、Ambion(Ambion, TX)から購入したDNA不含キットを用いてDNase処理する。再懸濁および分光学的定量の後、各サンプルをTaqMan逆転写試薬(PE Applied Biosystems, CA)を用い、製造元のプロトコルにしたがって逆転写する。反応混合物中のRNAの最終濃度は200ng/μLである。逆転写は2.5μMのランダムヘキサマープライマーを用いて行う。
【0188】
TaqMan定量分析。特異的プライマー及びプローブは、PE Applied Biosystemsの推奨に基づいて設計する。プローブは、FAM(6−カルボキシフルオレセイン)またはTAMRA(6−カルボキシ−テトラメチル−ローダミン)のいずれかを用いて5'末端を標識することができる。定量実験は、それぞれの試料由来の逆転写RNA10ngに対して行う。それぞれの測定は3回行なう。
【0189】
全cDNA量を、Pre-Developed TaqMan Assay Reagents (PDAR)コントロールキット (PE Applied Biosystems, CA)を用いて、18SリボソームRNAの同時定量(多重PCR)により標準化する。
【0190】
検定反応混合物は以下の通り:1X最終TaqMan Universal PCR Master Mix(2Xストックより)(PE Applied Biosystems, CA);1X PDAR コントロール−18S RNA(20Xストックより);300nMフォワードプライマー;900nMリバースプライマー;200nMプローブ;10ng cDNA;および水を加えて25μlとする。
【0191】
以下の工程をそれぞれ1回実施した:プレPCR、50Cで2分間、および95Cで10分間。以下の工程は40回実施する:変性、95Cで15秒間、アニーリング/伸長、60Cで1分間。
【0192】
実験は全てABI Prism 7700配列検出機(PE Applied Biosystems, CA)を用いて実施した。実施の最後に、PCR中に得られた蛍光データをABI Prism 7700の取扱説明書の記載のとおりに処理し、より良いバックグラウンドの削減と、出発標的量とのシグナル直線性を達成した。
【0193】
実施例5
ゲノム作製したCHOやHEK宿主細胞等の安定な哺乳類細胞においてTrp−p8を発現する細胞系を用いて、Trp−p8/CMR1アゴニストまたはアンタゴニストを調べる。組換え細胞に加え、実験動物から単離したDRG神経細胞も調節物質のキャラクタリゼーションに用いることができる。新生Wisterラット(5〜11日齢)を屠殺し、DRGを採取した。DRGを0.1%トリプシンとPBS中で30分間37℃にてインキュベーションした後、体積の半分のウシ胎児血清(FCS)を加え、細胞を遠心した。DRG神経細胞をHam F12/10% FCS中で再構成し、繰り返しピペッティングして分散させ、70μmのメッシュに通した。培養皿を37℃にて3時間インキュベーションして、シュワン細胞を除去した。Non-adherent 細胞を回収し、ラミニンコートした384ウェルプレートにて、50ng/mL組換えラットNGFおよび50μM 5−フルオロデオキシ尿素の存在下、1×104細胞/50μL/ウェルで2日間さらに培養した。DRG神経細胞を、17mM HEPES(pH7.4)および0.1%BSAを添加したHBSSで2回洗浄した。2μM フルオ−3AM、0.02%PF127および1mMプロベネシドと共に40分間37℃にてインキュベーションした後、細胞を3回洗浄した。FDSS−6000(λex=410nm、λem=510nm/浜松ホトニクス)にて、細胞をアンタゴニストまたはビークル(ジメチルスルホホキシド)、次いで1μM アゴニスト(例えば、メタノールまたはイシリン(icilin)等)と共にインキュベーションした。480nmでの蛍光変化を2.5分間モニターした。積分比を算出し、対照と比較した。
【0194】
実施例6
膀胱排尿筋の収縮性に対する候補薬物の効果を器官槽分析により見積もった。アゴニストにより誘発される膀胱の収縮を測定する器官槽分析を、候補薬物の生物学的活性を調べるために用いた。 雄性Wistarラット(10週齢)をエーテルで麻酔し、頚部を脱臼させて屠殺した。全膀胱を切除して、以下の組成(112mM NaCl、5.9mM KCl、1.2mM MgCl、1.2mM NaHPO、2mM CaCl、2.5mM NaHCO、12mMブドウ糖)の酸素添加した修飾Krebs-Henseleit溶液(pH7.4)中に置いた。ラット排尿筋の縦細片を用いて、等尺性張力を適当な負荷の下で記録した。膀胱細片を、それぞれの刺激前に60分間平衡化した。80mM KClに対する収縮性応答を、15分間隔で再現性のある応答が得られるまで測定した。KClに対する応答を内部標準として用いて、試験化合物の効果を評価した。適当なアゴニストまたは電気的刺激に先立ち、切片を化合物と共に30分間インキュベートすることにより、化合物の効果を調べた。同じ動物から調製した標本の1つを対照とし、残りを化合物の評価に使用した。内部標準(即ち、KClにより誘発された収縮)に対する各収縮の比を計算し、収縮に対する試験化合物の効果を評価した。
【0195】
実施例7
器官漕分析を、前立腺の収縮性に対する候補薬物の生物学的活性を評価するために用いた。候補薬物の生物学的活性を調べるために、アゴニストにより誘導される膀胱の収縮を測定する器官漕分析を用いた。雄のNew Zealand 白ウサギにネンブタールを静脈内に過剰投与して屠殺した。前立腺を全摘出し、酸素を含んだ以下の組成の修飾Krebs-Henseleit溶液(pH7.4)に入れた:112mM NaCl、5.9mM KCl、1.2mM MgCl、1.2mM NaHPO、2mM CaCl、2.5mM NaHCO、12mMグルコース)。ウサギ前立腺の細長い切片を用いて、適当な負荷をかけて等尺性張力を記録した。各刺激の前に、前立腺の切片を60分間平衡化した。1μM フェニレフリン、80mM KClまたは電場刺激に対する収縮反応を、再現性のある反応が得られるまで、適当な時間間隔で測定した。選択した刺激に対する反応を、試験化合物に対する効果を評価するための内部標準として用いた。適当なアゴニストまたは電気的刺激に先立ち、切片を化合物と共に30分間インキュベートすることにより、化合物の効果を調べた。同じ動物から調製した標本の1つを対照とし、残りを化合物の評価に使用した。内部標準(即ち、刺激物により誘発された収縮)に対する各収縮の比を計算し、収縮に対する試験化合物の効果を評価した。
【0196】
実施例8
膀胱内圧計からの排尿パラメータを用いて、排尿障害に対する候補薬物を評価した。Sprague-Dawleyラットをウレタンの腹腔内投与(1.2g/kg)により麻酔した。腹部を正中切開し、ポリエチレンカテーテルをドーム(dome)を介して膀胱へ挿入した。並行して、鼠蹊部を切開し、2IU/mL(生理食塩中)のヘパリンを満たしたポリエチレンカテーテルを総腸骨動脈内に挿入した。膀胱カテーテルをT字管を介して圧力変換器およびマイクロインジェクションポンプに接続した。生理食塩水を室温にて2.4mL/時間の流速にて膀胱内に潅流した。静脈圧を、チャートペンレコーダーにて継続的に記録した。試験化合物の投与前に、少なくとも3回の再現性のある排尿サイクルを記録し、基底値として用いた。化合物を投与する前に生理食塩水の潅流を止めた。適当なビークルに溶解した試験化合物を動脈内注射し、2分後、メタノールまたはイシリン(icilin)等の刺激物質をさらに動脈内投与した。膀胱内圧の誘導された相対的増加を、正常な排尿パターンと比較して膀胱内圧計のデータから解析した。膀胱内圧の上昇の試験化合物による阻害をStudent t検定を用いて評価した。5%未満の確率水準を有意差とした。
【0197】
実施例9
LUTSに影響を及ぼす薬物の評価について、膀胱排尿障害モデルは有用である。尿道を部分的に閉塞させるために、Wistar ラットをケタミン(腹腔内)で麻酔した。腹部を正中切開し、膀胱および近位の尿道を露出させた。尿道およびカテーテル(外径1mm)の周囲をひもで結紮して尿道を一定の程度に閉塞させた。腹壁を閉じ、ラットを回復させた。6週間後、ラットをケタミンで麻酔し、尿道周囲の結紮を注意深く取り除き、尿道抵抗を常態化させ、排尿を繰り返すようにした。ポリエチレンカテーテルをドーム(dome)を介して膀胱に挿入し、肩のところまで露出させた。次いで、ラットを少なくとも48時間回復させた。対照および実験動物について、膀胱カテーテルの挿入から2日後に麻酔なして細胞検査を行った。膀胱カテーテルを、T字管を介して、歪みゲージおよびマイクロインジェクションポンプに連結した。意識下ラットを拘束具にて部分的に拘束した。対照および実験動物に、温めた生理食塩水を、3mL/時間の流速で膀胱内へ潅流した。潅流の流速を3〜10mL/時間に変化させて、実験および対照ラットにおける排尿の時間間隔を同じにした。閉塞させた膀胱の過剰活動を、膀胱内圧パラメータ(基底圧力、ピークの排尿圧、閾圧力、排尿間隔、自発的活動の大きさと頻度(amplitude and frequency of spontaneous activity)および排尿スロープ(micturition slope)等)を測定することによって評価した。Lluel P, Duquenne C, Martin D; Experimental bladder instability following bladder outlet obstruction in the female rat. J. Urol. 160:2253-2257, 1998]。
【0198】
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【配列表】







































【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、ヒトTRPチャネルの活性を減少させる薬剤のスクリーニング方法:
i)試験化合物を、以下からなる群から選択されるポリヌクレオチドによってコードされる任意のヒトTRPチャネルポリペプチドと接触させる工程:
a)配列番号12〜21に示すいずれかのアミノ酸配列と少なくとも約50%同一であるアミノ酸配列;および
配列番号12〜21に示すいずれかのアミノ酸配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むヒトTRPチャネルポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
b)配列番号1〜11の配列のいずれかを含むポリヌクレオチド;
c)ストリンジェントな条件下で(a)および(b)に示すポリヌクレオチドとハイブリダイズし、ヒトTRPチャネルをコードするポリヌクレオチド;
d)遺伝コードの縮重のため、その核酸配列が(a)から(c)に明記する核酸配列から逸脱しており、ヒトTRPチャネルをコードするポリヌクレオチド;および、
e)(a)から(d)に明記した核酸配列の断片、誘導体またはアレル変異を表し、ヒトTRPチャネルをコードするポリヌクレオチド;および
ii)ヒトTRPチャネル ポリペプチドに対する試験化合物の結合を検出し、該ポリペプチドと結合する化合物を、ヒトTRPチャネルの活性を減少し泌尿器系の障害を処置するための可能性ある治療物質として同定する工程。
【請求項2】
以下の工程を含む、ヒトTRPチャネルの活性を調節する薬剤のスクリーニング方法:
i)試験化合物を、以下からなる群から選択されるいずれかのポリペプチドによってコードされる任意のヒトTRPチャネルポリペプチドと接触させる工程:
a)配列番号12〜21に示すいずれかのアミノ酸配列と少なくとも約50%同一であるアミノ酸配列;および
配列番号12〜21に示すいずれかのアミノ酸配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むヒトTRPチャネルポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
b)配列番号1〜11の配列を含むポリヌクレオチド;
c)ストリンジェントな条件下で(a)および(b)に示すポリヌクレオチドとハイブリダイズし、ヒトTRPチャネルをコードするポリヌクレオチド;
d)遺伝コードの縮重のため、その核酸配列が(a)から(c)に明記する核酸配列から逸脱しており、ヒトTRPチャネルをコードするポリヌクレオチド;および、
e)(a)から(d)に明記した核酸配列の断片、誘導体またはアレル変異を表し、ヒトTRPチャネルをコードするポリヌクレオチド;および
ii)ポリペプチドのヒトTRPチャネル活性を検出し、
ヒトTRPチャネル活性を増大させる化合物を、ヒトTRPチャネルの活性を増大させるための、泌尿器系の障害の処置に有用な可能性のある治療物質として同定し、ポリペプチドのヒトTRPチャネル活性を減少させる化合物を、ヒトTRPチャネルの活性を減少し、泌尿器系の障害の処置に有用な可能性のある治療物質として同定する工程。
【請求項3】
以下の工程を含む、ヒトTRPチャネルの活性を減少させる薬剤のスクリーニング方法:
i)試験化合物を、以下からなる群から選択されるポリヌクレオチドと接触させる工程:
a)配列番号12〜21に示すいずれかのアミノ酸配列と少なくとも約50%同一であるアミノ酸配列;および
配列番号12〜21に示すいずれかのアミノ酸配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むヒトTRPチャネルポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
b)配列番号1〜11の配列を含むポリヌクレオチド;
c)ストリンジェントな条件下で(a)および(b)に示すポリヌクレオチドとハイブリダイズし、ヒトTRPチャネルをコードするポリヌクレオチド;
d)遺伝コードの縮重のため、その核酸配列が(a)から(c)に明記する核酸配列から逸脱しており、ヒトTRPチャネルをコードするポリヌクレオチド;および、
e)(a)から(d)に明記した核酸配列の断片、誘導体またはアレル変異を表し、ヒトTRPチャネルをコードするポリヌクレオチド;および
ii)該ポリヌクレオチドに対する試験化合物の結合を検出し、該ポリヌクレオチドと結合する試験化合物を、ヒトTRPチャネルの活性を減少させ、泌尿器系の障害の処置に有用な可能性のある治療物質として同定する工程。
【請求項4】
以下の工程を含む、ヒトTRPチャネルの活性を減少させる方法:
細胞を、以下からなる群から選択されるいずれかのポリヌクレオチドと特異的に結合する試薬と接触させる工程:
a)配列番号12〜21に示すいずれかのアミノ酸配列と少なくとも約50%同一であるアミノ酸配列;および
配列番号12〜21に示すいずれかのアミノ酸配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むヒトTRPチャネルポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
b)配列番号1〜11の配列を含むポリヌクレオチド;
c)ストリンジェントな条件下で(a)および(b)に示すポリヌクレオチドとハイブリダイズし、ヒトTRPチャネルをコードするポリヌクレオチド;
d)遺伝コードの縮重のため、その核酸配列が(a)から(c)に明記する核酸配列から逸脱しており、ヒトTRPチャネルをコードするポリヌクレオチド;および、
e)(a)から(d)に明記した核酸配列の断片、誘導体またはアレル変異を表し、ヒトTRPチャネルをコードするポリヌクレオチド、または
それによってヒトTRPチャネルの活性が減少する、(a)から(e)のポリヌクレオチドのいずれかによってコードされるヒトTRPチャネルポリペプチド。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかによって同定され、泌尿器系の障害の処置に有用な、ヒトTRPチャネルポリペプチドまたはポリヌクレオチドの活性を調節する試薬。
【請求項6】
請求項5に記載の試薬、および製薬的に許容し得る担体を含有する、泌尿器系の障害の処置のための医薬組成物。
【請求項7】
泌尿器系の障害におけるヒトTRPチャネルの活性を調節するための医薬の製造のための、請求項5記載の試薬の使用。
【請求項8】
泌尿器系の障害が、膀胱の活動亢進によって引き起こされる障害、過反射、良性前立腺肥大および下部尿路症候群からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項7記載の使用。

【公表番号】特表2006−510343(P2006−510343A)
【公表日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−584113(P2003−584113)
【出願日】平成15年4月10日(2003.4.10)
【国際出願番号】PCT/EP2003/003713
【国際公開番号】WO2003/087158
【国際公開日】平成15年10月23日(2003.10.23)
【出願人】(503412148)バイエル・ヘルスケア・アクチェンゲゼルシャフト (206)
【氏名又は名称原語表記】Bayer HealthCare AG
【Fターム(参考)】