説明

ヒドリドシランの製造方法

本発明は、ハロゲンシランからヒドリドシランを製造するための方法において、a)i)一般式Sin2n+2[式中、n≧3であり、かつX=F、Cl、Br及び/又はIである]の少なくとも1のハロゲンシランと、ii)一般式NRR’aR’’bc[式中、a=0又は1であり、b=0又は1であり、かつc=0又は1であり、かつ式(I)であり、その際、aa)R、R’及び/又はR’’は、−C1〜C12−アルキル、−C1〜C12−アリール、−C1〜C12−アラルキル、−C1〜C12−アミノアルキル、−C1〜C12−アミノアリール、−C1〜C12−アミノアラルキルであり、かつ/又は、基R、R’及びR’’のうち2つ又は3つは、c=0である場合には、一緒になって、Nを含む環式又は二環式、複素脂肪族又は複素芳香族系を形成するが、但し、基R、R’又はR’’のうち少なくとも1つは−CH3ではなく、かつ/又は、bb)R及びR’及び/又はR’’は、(c=1である場合には)−C1〜C12−アルキレン、−C1〜C12−アリーレン、−C1〜C12−アラルキレン、−C1〜C12−ヘテロアルキレン、−C1〜C12−ヘテロアリーレン、−C1〜C12−ヘテロアラルキレン及び/又は−N=であるか、又は、cc)(a=b=c=0である場合には)R=≡C−R’’’(但し、R’’’=−C1〜C10−アルキル、−C1〜C10−アリール及び/又は−C1〜C10−アラルキルである)である]の少なくとも1の触媒とを、一般式Sim2m+2[式中、m>nであり、かつX=F、Cl、Br及び/又はIである]の少なくとも1のハロゲンシランとSiX4[式中、X=F、Cl、Br及び/又はIである]とを含む混合物の形成下に反応させ、かつ、b)一般式Sim2m+2の少なくとも1のハロゲンシランを、一般式Sim2m+2のヒドリドシランの形成下に水素化することを特徴とする方法、該方法により製造可能なヒドリドシラン及びその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲンシランからヒドリドシランを製造するための方法に関する。
【0002】
ヒドリドシランないしその混合物は、刊行物において、シリコン薄膜作製のための考えられる出発材料として記載されている。ここで、ヒドリドシランとは、実質的にケイ素原子及び水素原子のみを含有する化合物であると理解される。ヒドリドシランは、ガス状、液状又は固形であってよく、かつ、 −固体の場合には− トルエン又はシクロヘキサンといった溶剤、又はシクロペンタシランのような液状シランに実質的に可溶である。その例としては、モノシラン、ジシラン、トリシラン、シクロペンタシラン及びネオペンタシランが挙げられる。少なくとも3ないし4個のケイ素原子を有するヒドリドシランは、Si−H結合を有する直鎖、分枝鎖、又は(場合により二/多)環式の構造を有してよく、かつ、それぞれ一般式Sin2n+2(直鎖又は分枝鎖;n≧2)、Sin2n(環状;n≧3)、又はSin2(n-i)(二環式又は多環式;n≧4;i={環の数}−1)で表すことができる。
【0003】
ヒドリドシランの製造法の多くは、低級ヒドリドシラン、特にSiH4を形式的なH2の脱離下に脱水素重合反応させて高級シランへと転化させることに基づくものである。脱水素重合反応は、この場合、1)熱により(US6,027,705Aでは、触媒を使用しない場合に)、及び/又は、2)触媒、例えばa)元素の遷移金属(不均一系触媒;US6,027,705Aでは、白金族金属、即ちRu、Rh、Pd、Os、Ir、Ptを使用する場合に;US5,700,400Aでは、第3B族〜第7B族及び第8族の金属、即ち、Cu族及びZn族を除く遷移金属/ランタニドに関して)、b)非金属酸化物(不均一系触媒;US6,027,705Aでは、Al23又はSiO2を使用する場合に)、c)スカンジウム、イットリウム又は希土類の水素化シクロペンタジエニル錯体(均一系触媒;US4,965,386A、US5,252,766A)、d)遷移金属錯体(均一系触媒;US5,700,400Aでは、第3B族〜第7B族及び第8族の金属、即ち、Cu族及びZn族を除く遷移金属/ランタニドの錯体;JP02−184513A)、又は、e)担体上で不動態化された特定の遷移金属(不均一系触媒;US6,027,705Aでは、白金族金属を担体、例えばSiO2上で使用する場合に、US5,700,400Aでは、炭素、SiO2又はAl23上で不動態化されたルテニウム、ロジウム、パラジウム又は白金に関して)、又は遷移金属錯体(不均一系触媒、US6,027,705Aでは、白金族金属錯体を担体、例えばSiO2上で使用する場合に)の使用により実施することができる。しかしながら、これらの方法はいずれも、使用される低級ヒドリドシラン自体をまず費用をかけて製造しなければならないという欠点を有する。さらに、これらの方法に関しては、出発材料の自然発火性に基づき高い装置コストを要することが不利である。結果的に、これまでは、これらの方法を用いて十分に高い収率を実現することは不可能であった。さらに、コストのかかる精製が必要とされる。
【0004】
例えば、EP0673960A1にはヒドリドシランの他の製造法が記載されており、その際、ジハロシランを場合によりトリハロシラン及び/又はテトラハロシランと一緒に電気化学的方法で転化させる。しかしながらこの方法も、電気化学的な反応実施に基づき、高い装置コスト、さらには高いエネルギー密度を要するという欠点を有する。結果的に、ここでも、予めジ−ないしトリハロシランそれぞれをまず費用をかけて製造しなければならない。
【0005】
また、高級ヒドリドシランは、アルカリ金属を用いたハロシランの脱ハロゲン化及び重縮合によっても製造できる(GB2077710A)。しかしながらこの方法も、不十分な高さの収率を招く。さらに、これは選択率の低い方法である。
【0006】
A. Kaczmarczyk et al., J. Inorg. Nucl. Chem., 1964, Vol.26, 421-425ないしG. Urry, J. Inorg. Nucl. Chem., 1964, Vol.26, 409-414は、低級クロロシランからの高級クロロシランの接触合成、特に、ペンタシリコンドデカクロリド(ネオペンタシランSi(SiH34の塩素類似物)の合成を教示している。例えばA . Kaczmarczyk et al., J. Inorg. Nucl. Chem., 1964, Vol.26, 421-425は、テトラクロロシランの生成下でのヘキサクロロジシランからのペンタシリコンドデカクロリドの合成を教示している。さらに該刊行物には、オクタクロロトリシランを相応して使用した場合に、ペンタシリコンドデカクロリド及びヘキサクロロジシランが生じることが記載されている。該刊行物において使用されている触媒は、トリメチルアミンである。G. Urry, J. Inorg. Nucl. Chem., 1964, Vol.26, 409-414は、テトラクロロシランの生成下でのヘキサクロロジシランからの、ないし、ヘキサクロロジシランの生成下でのオクタクロロトリシランからの、ペンタシリコンドデカクロリドのトリメチルアミン接触合成を教示している。生成物の水素化によるヒドリドシランへの変換は、該刊行物には記載されていない。さらに、これらの方法により達成される高級ペルクロロシランの収率は、満足のいくものではない。さらに、合成変法において生じるオクタクロロトリシランは、生成される副生成物であるヘキサクロロジシランが、ヘキサクロロジシランをベースとする変法の場合に生成されるテトラクロロシランとは対照的に、室温、常圧で易揮発性でないため、ストリッピングではなく、費用をかけて留去されねばならないという欠点を有する。
【0007】
WO2008/051328A1は、ネオペンタシラン含有組成物の製造に際し、式X3SiSiX3のヘキサハロジシランを、3級アミン触媒を用いて、テトラキス(トリハロシリル)シラン(Si(SiX34)とテトラハロシランとを含む第一の混合物の形成下に転化させること教示している。テトラキス(トリハロシリル)シラン及びテトラハロシランの両主成分ともに、相互に分離することができる。得られたテトラキス(トリハロシリル)シランを、水素化ジイソブチルアルミニウムを用いた水素化により、ネオペンタシラン(Si(SiH34)に変換することができる。しかしながらこの方法も、反応式(4Si2Cl6→Si5Cl12+3SiCl4)に基づき、なおも不十分な収率を招く。
【0008】
よって、従来技術の上記欠点を回避するという課題が生じる。特に、コストをかけて分離すべき副生成物が生じることなく、ハロゲンシランからより迅速かつ高収率でヒドリドシラン、特にネオペンタシランを製造することができる方法を提供するという課題が生じる。
【0009】
前記課題はここで、
a)
i)一般式Sin2n+2[式中、n≧3であり、かつX=F、Cl、Br及び/又はIである]の少なくとも1のハロゲンシランと、
ii)一般式
NRR’aR’’bc
[式中、a=0又は1であり、b=0又は1であり、かつc=0又は1であり、かつ
【化1】

であり、その際、
aa)
− R、R’及び/又はR’’は、−C1〜C12−アルキル、−C1〜C12−アリール、−C1〜C12−アラルキル、−C1〜C12−アミノアルキル、−C1〜C12−アミノアリール、−C1〜C12−アミノアラルキル、
【化2】

であり、
かつ/又は
− 基R、R’及びR’’のうち2つ又は3つは、c=0である場合には、一緒になって、Nを含む環式又は二環式、複素脂肪族又は複素芳香族系を形成し、特に、ここで有利には、前記の環式又は二環式、複素脂肪族又は複素芳香族系は、ピロリジン環系、ピロール環系、ピペリジン環系、ピリジン環系、ヘキサメチレンイミン環系、アザトロピリデン環系又はキノリン環系であるが、
− 但し、基R、R’又はR’’のうち少なくとも1つは−CH3ではなく、
かつ/又は
bb)
− R及びR’及び/又はR’’は、(c=1である場合には)−C1〜C12−アルキレン、−C1〜C12−アリーレン、−C1〜C12−アラルキレン、−C1〜C12−ヘテロアルキレン、−C1〜C12−ヘテロアリーレン、−C1〜C12−ヘテロアラルキレン及び/又は−N=、
【化3】

であるか、
又は、
cc)
− (a=b=c=0である場合には)R=≡C−R’’’(但し、R’’’=−C1〜C10−アルキル、−C1〜C10−アリール及び/又は−C1〜C10−アラルキルである)である]の少なくとも1の触媒とを、
一般式Sim2m+2[式中、m>nであり、かつX=F、Cl、Br及び/又はIである]の少なくとも1のハロゲンシランとSiX4[式中、X=F、Cl、Br及び/又はIである]とを含む混合物の形成下に反応させ、
かつ、
b)一般式Sim2m+2の少なくとも1のハロゲンシランを、一般式Sim2m+2のヒドリドシランの形成下に水素化する、ハロゲンシランからヒドリドシランを製造するための本発明による方法により解決される。
【0010】
該方法は、従来技術に対して生じる課題を解決するばかりでなく、さらに、より良好な空時収率で純粋なヒドリドシランをもたらす。
【0011】
本発明による方法において使用されるハロゲンシランは、本質的にケイ素原子及びハロゲン原子(ハロゲン=フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)のみからなり、かつ少なくとも3個のケイ素原子を有する化合物である。少なくとも3ないし4個のケイ素原子を有する一般式Sin2n+2のハロゲンシランは、直鎖又は分枝鎖構造を有していてよい。
【0012】
本発明による方法のために特に良好に使用可能であるのは、直鎖ハロゲンシランである。
【0013】
有利に、一般式Sin2n+2の少なくとも1のハロゲンシランは、オクタハロゲントリシラン又はデカハロゲンテトラシラン、即ち、一般式Si38ないしSi410[式中、X=F、Cl、Br及び/又はIである]の化合物の群から選択された化合物である。
【0014】
極めて特に有利なものは、オクタハロゲントリシランである。この化合物のうち、オクタフルオロトリシラン、オクタクロロトリシラン、オクタブロモトリシラン及びオクタヨードトリシラン、即ち一般式Si38[式中、X=F、Cl、Br又はIである]の化合物が特に有利である。極めて特に有利に、本発明による方法のためにオクタクロロトリシランが使用される。オクタクロロトリシランの使用は、本発明による方法において、一次方法生成物(SiX4以外)として、ネオペンタシランを、従来技術による他の方法よりも本質的により高収率でかつ本質的により高純度で製造できるという利点を有する。
【0015】
該方法において使用される反応混合物に対する少なくとも1のハロゲンシランの割合は、反応混合物の全質量に対して有利には少なくとも60、有利には少なくとも80質量%である。極めて特に有利に、反応混合物は、少なくとも1の触媒及び1以上のハロゲンシランのみを含有する。
【0016】
本発明による方法の場合、1以上のハロゲンシランを使用することができる。有利に、1のみのハロゲンシランが使用される。複数のハロゲンシランが使用される場合には、有利には少なくとも1のハロゲンシランが、オクタハロゲントリシランとして、ハロゲンシランの混合物に対して少なくとも20、有利には少なくとも80質量%の割合で存在する。
【0017】
本発明による方法において使用可能な触媒は、一般式
NRR’aR’’bc
[式中、a=0又は1であり、b=0又は1であり、かつc=0又は1であり、かつ
【化4】

であり、
その際、R、R’及びR’’は、相互に無関係に種々の一価又は二価の基であってよく、該基は、窒素原子Nの置換基であるか、又は窒素原子と −基Yが存在する限りは、場合によりこの基Yを組み込んで− (場合により二又は多)環式の構造を形成し得る。]
の触媒である。
【0018】
c=0でありかつa及びb=1である場合には、該触媒の一般式は触媒の有利な一群を表し、該触媒は、3級(場合により環式、二環式又は三環式)アミン又は窒素含有ヘテロ原子であってよい。
【0019】
特に有利に、a=b=1でありかつc=0である場合には、触媒はこの場合3級アミン、即ち、一般式
NRR’R’’
[式中、R、R’及びR’’は、
【化5】

であるが、但し、基R、R’又はR’’のうち少なくとも1つは−CH3ではない]
の触媒である。
【0020】
有利に、基R、R’及びR’’のうち2つ又は3つは、c=0でありかつa=1でありかつb=0又は1である場合には、一緒になって、Nを含む環式又は二環式、複素脂肪族又は複素芳香族系を形成してよい。ここで有利には、生じる触媒は、環式又は二環式、複素脂肪族又は複素芳香族の環系、有利にはピロリジン、ピロール、ピペリジン、ピリジン、ヘキサメチレンイミン、アザトロピリデン又はキノリンである。
【0021】
有利に、(a=b=c=0である場合には)Rは≡C−R’’’(R’’’は−C1〜C10−アルキル、−C1〜C10−アリール及び/又は−C1〜C10−アラルキル)であってもよい。相応する触媒はアルキルニトリルである。
【0022】
c=1である場合には、一般式NRR’aR’’bcは、環式ないし二(場合により多)環式の環状構造を有する少なくとも1の他のヘテロ原子を有する種々の触媒を表す。
【0023】
有利な単純な環状構造、例えばトリアゾール、オキサジン又はピペラジンは、
【化6】

であり、かつ、相応する基R、R’及びR’’のうち2つ又は3つが、−C1〜C12−アルキレン、−C1〜C12−アリーレン、−C1〜C12−アラルキレン、−C1〜C12−ヘテロアルキレン、−C1〜C12−ヘテロアリーレン及び−C1〜C12−ヘテロアラルキレン基及び/又は−N=
【化7】

からなる群から選択される場合に生じる。その都度場合により環形成の際に関与しない基R、R’又はR’’は、−C1〜C12−アルキル、−C1〜C12−アリール、−C1〜C12−アラルキル、−C1〜C12−アミノアルキル、−C1〜C12−アミノアリール、−C1〜C12−アミノアラルキル、
【化8】

からなる群から選択されている。
【0024】
極めて特に有利には、一般式NRR’aR’’bc[式中、c=1である]の触媒は、二環式又は多環式アミン化合物である。二環式又は多環式アミン化合物は、
【化9】

であり、かつ、基R、R’及びR’’が、−C1〜C12−アルキレン基、−C1〜C12−アリーレン基、−C1〜C12−アラルキレン基、−C1〜C12−ヘテロアルキレン基、−C1〜C12−ヘテロアリーレン基及び−C1〜C12−ヘテロアラルキレン基及び/又は−N=からなる群から相応して選択される場合に生じる。さらに有利なものは、
【化10】

からなる群から選択された基R、R’及びR’’である。極めて特に有利な触媒は、アザビシクロアルカン及びピペラジン、特にジアザビシクロオクタン及びN,N−1,4−ジメチルピペラジンである。
【0025】
本発明による方法において、他のヘテロ原子を有するか又は有しない、環式、二環式又は多環式アミンからなる化合物の群から選択された触媒を使用した場合に、最良の結果が達成され得る。
【0026】
さらに有利には、触媒として、ジアザビシクロオクタン、ピリジン及びN,N−1,4−ジメチルピペラジンを使用することができる。これらの触媒は、オクタハロゲントリシランから相応するテトラキス(トリハロシリル)シラン(Si(SiX34)への転化を触媒するのに特に良好に好適である。
【0027】
従って同様に、
a)
i)一般式Si38[式中、X=F、Cl、Br及び/又はIである]の少なくとも1のオクタハロゲントリシランと、
ii)ジアザビシクロオクタン、ピリジン及びN,N−1,4−ジメチルピペラジンからなる群から選択された少なくとも1の触媒とを、
一般式Si512[式中、X=F、Cl、Br及び/又はIである]の少なくとも1のハロゲンシランとSiX4[式中、X=F、Cl、Br及び/又はIである]とを含む混合物の形成下に反応させ、かつ、
b)一般式Si512の少なくとも1のハロゲンシランを、ネオペンタシランの形成下に水素化する、ネオペンタシランの製造法も本発明の対象である。
【0028】
使用されるクロロシランの量に対する少なくとも1の触媒の割合は、ヒドリドシラン、特にネオペンタシランの本発明による製造法の場合、有利には0.001〜1質量%である。
【0029】
ここで、触媒は、純物質として使用されてもよいし、例えばジエチルエーテルのような溶剤中のスラリーとして、有利には、該スラリーの全質量に対する触媒の割合が1〜25質量%となるように使用されてもよい。
【0030】
反応は、溶剤の存在か又は不在で行うことができる。有利には、本発明による方法は溶剤なしに実施される。該方法が溶剤の存在下に実施される場合には、有利な溶剤として、1〜12個の炭素原子を有する直鎖、分枝鎖又は環式の、飽和、不飽和又は芳香族炭化水素(場合により部分的又は完全にハロゲン化されているもの)、エーテル、ケトン及びエステルからなる群から選択された溶剤を使用することができる。特に有利なものは、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−デカン、ドデカン、シクロヘキサン、シクロオクタン、シクロデカン、ジシクロペンタン、ベンゼン、トルエン、m−キシレン、p−キシレン、メシチレン、テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラヒドロフラン、アセトン、p−ジオキサン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジクロロメタン及びクロロホルムである。特に良好に使用可能な溶剤は、炭化水素n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘキサン、n−オクタン、n−デカン、ドデカン、シクロヘキサン、シクロオクタン、シクロデカン、ベンゼン、トルエン、m−キシレン、p−キシレン、メシチレンである。溶剤は、全質量の0.01〜90質量%を占めることができる。
【0031】
一般式Sin2n+2のハロゲンシランの触媒支援転化は、有利に−78〜300℃の温度でかつ1ミリバール〜5バールの圧力で行われる。特に有利には、ハロゲンシランの触媒支援転化は10〜50℃でかつ900〜1100ミリバールで行われる。
【0032】
一般式Sim2m+2[式中、m>nであり、かつX=F、Cl、Br及び/又はIである]の少なくとも1のハロゲンシランとSiX4とを含有する混合物の形成後に、この混合物を原則的に後精製なしに後続の水素化のために使用することができる。
【0033】
しかしながら有利には、生じたテトラハロゲンシランは、水素化の前に、一般式Sim2m+2の生じたハロゲンシランから分離除去される。更に有利に、これは、−30〜+100℃の温度でかつ0.01〜1100ミリバールの圧力、有利には+20〜+30℃の温度でかつ0.02〜0.2ミリバールの圧力でのSiX4の留去ないしストリッピングにより行われる。
【0034】
一般式Sim2m+2の少なくとも1のハロゲンシランは、一般式Sim2m+2のヒドリドシランの形成下に水素化される。有利に、これは、第1〜第3主族の金属の金属水素化物(特に、アルカリ−又はアルカリ土類金属水素化物)の群、又は、LiAlH4、NaBH4、iBu2AlHからなる水素化化合物の群から選択された少なくとも1の水素化剤の使用下に行われる。特に有利には、水素化剤はiBu2AlHである。
【0035】
また、本発明による方法により製造可能なヒドリドシランとは、実質的にケイ素原子及び水素原子のみを含有する化合物であると理解されるべきである。このヒドリドシランは、ガス状、液状又は固形であってよく、かつ、 −固体の場合には− トルエン又はシクロヘキサンといった溶剤、又はシクロペンタシランのような液状シランに実質的に可溶である。例としては、ジシラン、トリシラン、シクロペンタシラン及びネオペンタシランが挙げられる。またこれらのヒドリドシランは、Si−H結合を有する直鎖又は分枝鎖構造を有していてよい。本発明による方法は、分枝鎖ヒドリドシランの製造に特に良好に好適である。該方法は特に、好適な出発材料を選択した場合には、ネオペンタシランの製造に好適である。
【0036】
水素化の際に、水素化剤は、存在するハロゲンシランに対して有利には2〜30倍、有利には10〜15倍のモル過剰で存在する。
【0037】
水素化も、溶剤の存在又は不在で行われてよい。有利に、水素化は溶剤なしに実施される。溶剤の存在下に水素化が行われる場合には、有利に使用可能な溶剤は、1〜12個の炭素原子を有する直鎖、分枝鎖又は環式の、飽和、不飽和又は芳香族炭化水素及びエーテルからなる群から選択されてよい。特に有利なものは、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−デカン、ドデカン、シクロヘキサン、シクロオクタン、シクロデカン、ジシクロペンタン、ベンゼン、トルエン、m−キシレン、p−キシレン、メシチレン、テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラヒドロフラン、p−ジオキサン、アセトニトリルである。特に良好に使用可能な溶剤は、炭化水素n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘキサン、n−オクタン、n−デカン、ドデカン、シクロヘキサン、シクロオクタン、シクロデカン、ベンゼン、トルエン、m−キシレン、p−キシレン、メシチレンである。溶剤は、全質量の0.01〜90質量%を占めることができる。
【0038】
一般式Sim2m+2のハロゲンシランの水素化は、有利には−78〜300℃の温度でかつ500ミリバール〜5バールの圧力で行われる。特に有利には、該水素化は−10〜30℃でかつ900〜1100ミリバールで行われる。
【0039】
同様に、該方法により製造可能なヒドリドシランも本発明の対象である。
【0040】
さらに、電子部品薄膜又は光電子部品薄膜を製造するための、特に光起電性の適用のための、又はトランジスタにおける、本発明による方法により製造可能なヒドリドシランの使用も本発明の対象である。
【0041】
同様に、シリコン含有薄膜、有利には元素シリコン薄膜を製造するための、本発明による方法により製造可能なヒドリドシランの使用も本発明の対象である。
【0042】
以下の実施例は、本発明の対象を、それ自体を限定するものとして作用することなく、さらに補足的に説明するものである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明による方法における、高級ハロゲンシランの合成反応による生成物の、29Si−NMR分光法による分析結果を示す図。
【図2】本発明による方法における、高級ハロゲンシランの合成反応後の水素化反応による生成物の、1H−NMR分光法による分析結果を示す図。
【実施例】
【0044】
実施例:
1.本発明による実施例
a)高級ハロゲンシランの合成及び分離
i)Si3Cl8からSi5Cl12への転化
aa)触媒バリエーションI
オクタクロロトリシラン50.8g(0.14モル)を、室温で撹拌下に、ジエチルエーテル0.5ml中の1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン40.0mg(3.6×10-4モル;0.25モル%)と混合したところ、その直後に、この反応混合物は、白色の固体の生成を経て2時間以内で硬化した。揮発性成分(SiCl4)を真空中(0.05ミリバール)で40℃で除去した後、生成物Si5Cl12が白色の結晶性固体として残留する。残留している主生成物として、29Si−NMR分光法によれば(図1を参照のこと)実質的に純粋なSi5Cl12が生じる。収量は、以下の反応式を示唆している:2Si3Cl8→Si5Cl12+SiCl4
【0045】
収量Si5Cl1237.0g
収量SiCl413.0g
【0046】
bb)触媒バリエーションII
オクタクロロトリシラン5.1g(0.014モル)を、室温で撹拌下に、ジエチルエーテル0.04ml中のN,N−ジメチルピペラジン3.7mg(3.3×10-5モル;0.25モル%)の溶液と混合したところ、その直後に、この反応混合物は、白色の固体の生成を経て2時間以内で硬化した。揮発性成分を真空中(0.05ミリバール)で40℃で除去した後、生成物が白色の結晶性固体として残留し、この固体は29Si−NMR分光法により純粋なSi5Cl12と同定することができた。
【0047】
収量Si5Cl123.7g
【0048】
cc)触媒バリエーションIII
オクタクロロトリシラン5.1g(0.014モル)を、室温で撹拌下に、N,N−ジメチルピペラジン4.4mg(4.0×10-5モル;0.3モル%)と混合したところ、その直後に、この反応混合物は、白色の固体の生成を経て24時間以内で硬化した。揮発性成分を真空中(0.05ミリバール)で40℃で除去した後、生成物が白色の結晶性固体として残留し、この固体は29Si−NMR分光法により純粋なSi5Cl12と同定することができた。
【0049】
収量Si5Cl123.7g
【0050】
dd)触媒バリエーションIV
オクタクロロトリシラン5.1g(0.014モル)を、室温で撹拌下に、ジエチルエーテル0.04ml中のピリジン2.8mg(3.5×10-5モル;0.25モル%)の溶液と混合したところ、その直後に、この反応混合物は、白色の固体の生成を経て12時間以内で硬化した。揮発性成分を真空中(0.05ミリバール)で40℃で除去した後、生成物が結晶性固体として残留し、この固体は29Si−NMR分光法により純粋なSi5Cl12と同定することができた。
【0051】
収量Si5Cl123.7g
【0052】
ee)触媒バリエーションV
オクタクロロトリシラン5.1g(0.014モル)を、室温で撹拌下に、ピリジン3.5mg(4.2×10-5モル;0.3モル%)と混合したところ、その直後に、この反応混合物は、白色の固体の生成を経て12時間以内で硬化した。揮発性成分を真空中(0.05ミリバール)で40℃で除去した後、生成物が結晶性固体として残留し、この固体は29Si−NMR分光法により純粋なSi5Cl12と同定することができた。収量は、以下の反応式を示唆している:
【0053】
収量Si5Cl123.7g
【0054】
ii)Si3Cl8の蒸留残滓からSi5Cl12への転化
オクタクロロトリシランの合成に由来する、オクタクロロトリシランの留去後に残った、少なくとも4個のSi原子を有する高級クロロシランの混合物50gを、室温で撹拌下に、ジエチルエーテル0.5ml中の1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン40.0mg(3.6×10-4モル)と混合したところ、その直後に、この反応混合物は、白色の固体の生成を経て12時間以内で硬化した。揮発性成分(SiCl4)を真空中(0.05ミリバール)で40℃で除去した後、白色の結晶性固体が残留する。
【0055】
収量Si5Cl1244.0g
収量SiCl46.0g
【0056】
結論:
高級クロロシランも、触媒によりSi5Cl12へと転位し得る。それどころか収量はジ−又はトリシランと比較して増加しており、一方で生成物品質は完全に好ましいままである。反応速度はSi3Cl8と比較して若干低い。
【0057】
b)水素化
テトラキス(トリクロロシリル)シラン38.0g(0.067モル)を、氷冷下に、水素化ジイソブチルアルミニウム131g(0.92モル)と混合し、室温で一晩撹拌した。次いで、生成物を真空中(0.05ミリバール、室温)での再凝縮により反応混合物から単離した;その際、無色透明な液体が得られた。
【0058】
1H−NMR(図2)は、主生成物としてのSi512を示している。
【0059】
収量:9.7g
【0060】
2.比較例
a)Si2Cl6からSi5Cl12への転化
ヘキサクロロジシラン60g(0.22モル)を、室温で撹拌下に、ジエチルエーテル0.5ml中の1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン60.0mg(5.4×10-4モル;0.24モル%)と混合したところ、その直後に、この反応混合物は、白色の固体の生成を経て15時間以内で硬化した。揮発性成分を真空中(0.05ミリバール)で40℃で除去した後、生成物が白色の結晶性固体として残留する。反応生成物として、29Si−NMR分光法によれば実質的に純粋なSi5Cl12が生じる。
【0061】
収量Si5Cl1229.6g
収量SiCl428.0g
【0062】
結論:
Si3Cl8及び高級クロロシランは、触媒によりSi5Cl12へと転位し得る。収量は、Si2Cl6を使用した場合よりも多い。反応速度はSi2Cl6を使用した場合と比較して明らかに高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲンシランからヒドリドシランを製造するための方法において、
a)
i)一般式Sin2n+2[式中、n≧3であり、かつX=F、Cl、Br及び/又はIである]の少なくとも1のハロゲンシランと、
ii)一般式
NRR’aR’’bc
[式中、a=0又は1であり、b=0又は1であり、かつc=0又は1であり、かつ
【化1】

であり、その際、
aa)
− R、R’及び/又はR’’は、−C1〜C12−アルキル、−C1〜C12−アリール、−C1〜C12−アラルキル、−C1〜C12−アミノアルキル、−C1〜C12−アミノアリール、−C1〜C12−アミノアラルキルであり、
かつ/又は
− 基R、R’及びR’’のうち2つ又は3つは、c=0である場合には、一緒になって、Nを含む環式又は二環式、複素脂肪族又は複素芳香族系を形成するが、
− 但し、基R、R’又はR’’のうち少なくとも1つは−CH3ではなく、
かつ/又は
bb)
− R及びR’及び/又はR’’は、(c=1である場合には)−C1〜C12−アルキレン、−C1〜C12−アリーレン、−C1〜C12−アラルキレン、−C1〜C12−ヘテロアルキレン、−C1〜C12−ヘテロアリーレン、−C1〜C12−ヘテロアラルキレン及び/又は−N=であるか、
又は、
cc)
− (a=b=c=0である場合には)R=≡C−R’’’(但し、R’’’=−C1〜C10−アルキル、−C1〜C10−アリール及び/又は−C1〜C10−アラルキルである)である]の少なくとも1の触媒とを、
一般式Sim2m+2[式中、m>nであり、かつX=F、Cl、Br及び/又はIである]の少なくとも1のハロゲンシランとSiX4[式中、X=F、Cl、Br及び/又はIである]とを含む混合物の形成下に反応させ、
かつ、
b)一般式Sim2m+2の少なくとも1のハロゲンシランを、一般式Sim2m+2のヒドリドシランの形成下に水素化することを特徴とする方法。
【請求項2】
一般式Sin2n+2のハロゲンシランが直鎖シランである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1のハロゲンシランが、一般式Si38又はSi410[式中、X=F、Cl、Br及び/又はIである]を有する化合物の群から選択された化合物である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
触媒が、他のヘテロ原子を有するか又は有しない、環式、二環式又は多環式アミンからなる化合物の群から選択されている、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
触媒が、ジアザビシクロオクタン、ピリジン又はN,N−1,4−ジメチルピペラジンである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
水素化の前に、一般式Sim2m+2の少なくとも1のハロゲンシランから、−30〜+100℃の温度でかつ0.01〜1100ミリバールの圧力でのSiX4の留去ないしストリッピングによりSiX4を分離除去する、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
水素化を、第1〜第3主族の金属の金属水素化物の群、又は、LiAlH4、NaBH4、iBu2AlHからなる水素化化合物の群から選択された少なくとも1の水素化剤の添加により行う、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
水素化剤が、存在するハロゲンシランに対して有利には2〜30倍、有利には10〜15倍のモル過剰で存在する、請求項7記載の方法。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項記載の方法により製造可能なヒドリドシラン。
【請求項10】
電子部品薄膜又は光電子部品薄膜を製造するための、請求項1から8までのいずれか1項により製造可能な少なくとも1のヒドリドシランの使用。
【請求項11】
シリコン含有薄膜、有利には元素シリコン薄膜を製造するための、請求項1から8までのいずれか1項により製造可能な少なくとも1のヒドリドシランの使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−511459(P2013−511459A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−539266(P2012−539266)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【国際出願番号】PCT/EP2010/067016
【国際公開番号】WO2011/061088
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】