説明

ヒドロキサメート組成物

【課題】増強された抗菌効力を維持し得る医療デバイス、パッケージ材料および布を提供すること。
【解決手段】本開示は、ヒドロキサメートと組み合わせたフラノンを有するコポリマーを含む組成物、このようなコポリマーまたは組成物で形成またはコーティングされた物品、ならびにこのような組成物および物品を作製する方法を提供する。1つの実施形態において、本開示は、少なくとも1つのビニル基を有する少なくとも1種のリン脂質を含む第一の成分、ビニル基および/またはアクリレート基を有するフラノンを含む第二の成分、ならびにヒドロキサメートを含む第三の成分を含む、組成物を提供する。上記成分のコポリマーおよびブレンドを含む組成物、医療デバイス、およびコーティングもまた提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本願は、2008年10月15日に出願された米国仮出願番号61/105,478の利益および優先権を主張する。この米国仮出願の全開示は、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(技術分野)
本開示は、ヒドロキサメートと組み合わせたフラノンを有するコポリマーを含む組成物、およびこのようなコポリマーまたは組成物で作製またはコーティングされた物品に関する。
【背景技術】
【0003】
マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)は、ほとんどの細胞外マトリックス分子(コラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、ラミニンおよびプロテオグリカン)に対する基質特異性を有する、中性亜鉛依存性エンドペプチダーゼである。これは、その触媒活性のために、亜鉛に依存する。
【0004】
ほとんどの細胞は、インビボでMMPを発現しない。その代わりに、増殖因子、成長因子、ホルモン、炎症性サイトカイン、細胞−マトリックス相互作用および細胞形質転換は、これらの発現を調節する。好中球および好酸球の分泌顆粒は、いくらかのMMPを貯蔵することが公知であるが、ほとんどの細胞型は、通常、非常に低い量のMMPを合成する。
【0005】
MMPは、シグナル配列、アミノ末端プロペプチドドメイン、触媒性亜鉛結合ドメイン、プロリンリッチヒンジ領域、およびカルボキシ末端のヘモペキシン様ドメインを含む、いくつかの共通の構造特性を共有する。
【0006】
細胞外マトリックスの分解は、形態形成、生殖、ならびに成長および維持のプロセス(例えば、細胞移動、血管形成、および組織再造形)に関連する生理学的再建における、通常の事象である。炎症およびいくつかの疾患状態の間、過剰なMMPは、周囲のタンパク質性マトリックスに損傷を与え得、これにより、結合組織の破壊もしくは弱化、制御されない細胞の移動/侵入、および/または組織線維症が生じ得る。例えば、結合組織の弱化または破壊は、慢性関節リウマチ、変形性関節症、慢性歯周炎、ならびに動脈瘤および心臓瘤を生じ得る。従って、MMPインヒビターが、骨粗鬆症、変形性関節炎、ヒト慢性歯周疾患および種々の型の動脈瘤を処置するために使用されている。
【0007】
抗菌剤が、医療デバイス(例えば、眼内レンズ、コンタクトレンズ、縫合糸、メッシュ、このようなデバイスを入れるパッケージなど)の内部および/または表面において使用されている。しかし、いくつかの医療デバイスは、有効レベルの抗菌活性を充分な期間にわたって提供しないかもしれない。さらに、医療デバイス上の抗菌剤は、それらのパッケージに望ましくなく移動し得、この医療デバイスのインビボでの移植または使用の際に所望の抗菌効果を得る目的で、より高レベルの抗菌剤の使用を必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、増強された抗菌効力を維持し得る医療デバイス、パッケージ材料および布が必要とされている。特に疾患または損傷に応答して炎症を減少させ得、そしてMMPによる細胞外マトリックスの分解を防止し得る、医療デバイスおよび組成物もまた必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1)
少なくとも1種のビニルリン脂質を含む第一の成分;
式:
【0010】
【化1】

の第二の成分であって、該式において、
、RおよびRは、独立してかまたは全てが、Hまたは水素であり;そして
は、H、ハロゲン、ホルミル、カルボキシル、シアノ、エステル、アミド、アルキル、アルコキシ、オキソアルキル、アルケニル、アルキニル、アリールまたはアリールアルキルからなる群より選択される部分であり;
、R、RおよびRのうちの少なくとも1つは、ビニル部分およびアクリルアミド部分からなる群より選択される部分で置換されている、第二の成分;ならびに
式:
【0011】
【化2】

のヒドロキサメートを含む第三の成分であって、該式において、R10は、ビニル基、ヒドロキシアルキルアクリレート基、ヒドロキシアルキルメタクリレート基、アルキルアミン、アクリルアミド、メタクリルアミド、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、上記基を末端とするポリマー、およびこれらの組み合わせからなる群より選択され、そしてR11は水素を含む、第三の成分、
を含む、組成物。
(項目2)
前記第一の成分が、式:
【0012】
【化3】

の、少なくとも1つのビニル基を有するホスホリルコリンを含み、該式において、xは約1〜約10であり、そしてyは約1〜約10である、上記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目3)
前記第一の成分が、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンおよびこれらの組み合わせからなる群より選択される、上記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目4)
前記第二の成分がビニルフラノンを含む、上記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目5)
前記第一の成分、前記第二の成分、および必要に応じて前記第三の成分が、コポリマーを構成する、上記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目6)
前記コポリマーが、ビニルモノマー、アクリレートモノマー、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種のさらなるモノマーをさらに含む、上記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目7)
ビニル官能性第四級アミン、メタクリル酸ヒドロキシエチル、n−ビニルピロリドン、アクリル酸ナトリウム、ビスアクリレート、スチレンスルホン酸、アクリル酸ブチル、アクリル酸スルホプロピル、メタクリル酸スルホプロピル、アクリルアミド、ジアクリルアミド、メタクリル酸、アクリル酸、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールアクリレート、シリコーンアクリレート、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種のさらなるモノマーをさらに含む、上記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目8)
式:
【0013】
【化4】

の、少なくとも1つのビニル基を有するホスホリルコリンを含む第一の成分であって、該式において、xは約1〜約10であり、そしてyは約1〜約10である、第一の成分;
式:
【0014】
【化5】

のフラノンであって、該式において、
、RおよびRは、独立してかまたは全てが、Hまたはハロゲンであり、そして
は、H、ハロゲン、ホルミル、カルボキシル、シアノ、エステル、アミド、アルキル、アルコキシ、オキソアルキル、アルケニル、アルキニル、アリールまたはアリールアルキルからなる群より選択される部分であり、
、R、RおよびRのうちの少なくとも1つは、ビニル部分およびアクリレート部分からなる群より選択される部分で置換されている、フラノン;ならびに
式:
【0015】
【化6】

のヒドロキサメートであって、該式において、R10は、ビニル基、アクリル酸ヒドロキシルアルキル基、メタクリル酸ヒドロキシルアルキル基、アルキルアミン、アクリルアミド、メタクリルアミド、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、上記基を末端とするポリマー、およびこれらの組み合わせからなる群より選択され、そしてR11は水素を含む、ヒドロキサメート、
を含む組成物。
(項目9)
前記第一の成分が、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンおよびこれらの組み合わせからなる群より選択される、上記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目10)
前記フラノンがビニルフラノンを含む、上記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目11)
前記第一の成分、前記フラノン、および必要に応じて前記ヒドロキサメートが、コポリマーを構成する、上記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目12)
ビニルモノマー、アクリレートモノマー、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種のさらなるモノマーをさらに含む、上記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目13)
ビニル官能性第四級アミン、メタクリル酸ヒドロキシエチル、n−ビニルピロリドン、アクリル酸ナトリウム、ビスアクリレート、スチレンスルホン酸、アクリル酸ブチル、アクリル酸スルホプロピル、メタクリル酸スルホプロピル、アクリルアミド、ジアクリルアミド、メタクリル酸、アクリル酸、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールアクリレート、シリコーンアクリレート、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種のさらなるモノマーをさらに含む、上記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目14)
少なくとも1種のビニルリン脂質を含む第一の成分;
式:
【0016】
【化7】

の第二の成分であって、該式において、
、RおよびRは、独立してかまたは全てが、Hまたはハロゲンであり、そして
は、H、ハロゲン、ホルミル、カルボキシル、シアノ、エステル、アミド、アルキル、アルコキシ、オキソアルキル、アルケニル、アルキニル、アリールまたはアリールアルキルからなる群より選択される部分であり、
、R、RおよびRのうちの少なくとも1つは、ビニル部分およびアクリレート部分からなる群より選択される部分で置換されている、第二の成分;ならびに
式:
【0017】
【化8】

のヒドロキサメートを含む第三の成分であって、該式において、R10は、ビニル基、アクリル酸ヒドロキシルアルキル基、メタクリル酸ヒドロキシルアルキル基、アルキルアミン、アクリルアミド、メタクリルアミド、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、上記基を末端とするポリマー、およびこれらの組み合わせからなる群より選択され、そしてR11は水素を含む、第三の成分、
を含む物品。
(項目15)
前記第一の成分が、式:
【0018】
【化9】

の、少なくとも1つのビニル基を有するホスホリルコリンを含み、該式において、xは約1〜約10であり、そしてyは約1〜約10である、上記項目のいずれかに記載の物品。
(項目16)
前記第一の成分が、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンおよびこれらの組み合わせからなる群より選択される、上記項目のいずれかに記載の物品。
(項目17)
前記第二の成分がビニルフラノンを含む、上記項目のいずれかに記載の物品。
(項目18)
前記第一の成分、前記第二の成分、および必要に応じて前記第三の成分が、コポリマーを構成する、上記項目のいずれかに記載の物品。
(項目19)
前記物品が、縫合糸、外科手術用メッシュ、コンタクトレンズ、眼内レンズ、ステープル、クリップ、バットレス、ラップバンド、カテーテル、包帯、ステント、移植片、ステント/移植片、結び目のない創傷閉鎖具、封止剤、接着剤、接着防止デバイス、アンカー、トンネル、骨充填剤、合成腱、合成靭帯、移植片、組織足場、ピン、ねじ、整形外科用金属類、ペーサー、ペースメーカー、および移植物からなる群より選択される、上記項目のいずれかに記載の物品。
(項目20)
少なくとも1種のビニルリン脂質を含む第一の成分;ならびに
式:
【0019】
【化10】

のヒドロキサメートを含む第二の成分であって、該式において、R10は、ビニル基、アクリル酸ヒドロキシルアルキル基、メタクリル酸ヒドロキシルアルキル基、アルキルアミン、アクリルアミド、メタクリルアミド、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、上記基を末端とするポリマー、およびこれらの組み合わせからなる群より選択され、そしてR11は水素を含む、第二の成分、
を含む組成物。
【0020】
(摘要)
本開示は、少なくとも1つのビニル基を有する少なくとも1種のリン脂質を含む第一の成分、ビニル基および/またはアクリレート基を有するフラノンを含む第二の成分、ならびにヒドロキサメートを含む第三の成分を含む、組成物を提供する。上記成分のコポリマーおよびブレンドを含む組成物、医療デバイス、およびコーティングもまた提供される。
【0021】
(要旨)
本開示は、ヒドロキサメートと組み合わせたフラノンを有するコポリマーを含む組成物、このようなコポリマーまたは組成物で形成またはコーティングされた物品、ならびにこのような組成物および物品を作製する方法を提供する。
【0022】
1つの実施形態において、本開示の組成物は、少なくとも1種のビニルリン脂質を含む第一の成分、式:
【0023】
【化11】

の第二の成分であって、この式において、R、RおよびRは、独立してかまたは全てがHまたはハロゲンであり、そしてRは、H、ハロゲン、ホルミル、カルボキシル、シアノ、エステル、アミド、アルキル、アルコキシ、オキソアルキル、アルケニル、アルキニル、アリールまたはアリールアルキルなどの部分であり、R、R、RおよびRのうちの少なくとも1つは、ビニル部分およびアクリレート部分などの部分で置換されている、第二の成分、ならびに式:
【0024】
【化12】

のヒドロキサメートを含む第三の成分であって、この式において、R10は、ビニル基、ヒドロキシアルキルアクリレート基、ヒドロキシアルキルメタクリレート基、アルキルアミン、アクリルアミド、メタクリルアミド、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、これらの基を末端とするポリマー、およびこれらの組み合わせであり得、そしてR11は水素であり得る、第三の成分を含み得る。
【0025】
他の実施形態において、本開示の組成物は、式:
【0026】
【化13】

の少なくとも1つのビニル基を有するホスホリルコリンを含む第一の成分であって、この式において、xは約1〜約10であり、そしてyは約1〜約10である、第一の成分、式:
【0027】
【化14】

のフラノンであって、この式において、R、RおよびRは、独立してかまたは全てがHまたはハロゲンであり、そしてRは、H、ハロゲン、ホルミル、カルボキシル、シアノ、エステル、アミド、アルキル、アルコキシ、オキソアルキル、アルケニル、アルキニル、アリールまたはアリールアルキルなどの部分であり、R、R、RおよびRのうちの少なくとも1つは、ビニル部分およびアクリレート部分などの部分で置換されている、フラノン;ならびに式:
【0028】
【化15】

のヒドロキサメートであって、この式において、R10は、ビニル基、ヒドロキシアルキルアクリレート基、ヒドロキシアルキルメタクリレート基、アルキルアミン、アクリルアミド、メタクリルアミド、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、これらの基を末端とするポリマー、およびこれらの組み合わせであり得、そしてR11は水素であり得る、ヒドロキサメートを含み得る。
【0029】
ある実施形態において、本開示の物品は、少なくとも1種のビニルリン脂質を含む第一の成分、式:
【0030】
【化16】

の第二の成分であって、この式において、R、RおよびRは、独立してかまたは全てがHまたはハロゲンであり、そしてRは、H、ハロゲン、ホルミル、カルボキシル、シアノ、エステル、アミド、アルキル、アルコキシ、オキソアルキル、アルケニル、アルキニル、アリールまたはアリールアルキルなどの部分であり、R、R、RおよびRのうちの少なくとも1つは、ビニル部分およびアクリレート部分などの部分で置換されている、第二の成分、ならびに式:
【0031】
【化17】

のヒドロキサメートを含む第三の成分であって、この式において、R10は、ビニル基、ヒドロキシアルキルアクリレート基、ヒドロキシアルキルメタクリレート基、アルキルアミン、アクリルアミド、メタクリルアミド、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、これらの基を末端とするポリマー、およびこれらの組み合わせであり得、そしてR11は水素であり得る、第三の成分を含み得る。
【0032】
なお他の実施形態において、本開示の組成物は、少なくとも1種のビニルリン脂質を含む第一の成分;および式:
【0033】
【化18】

のヒドロキサメートを含む第二の成分であって、この式において、R10は、ビニル基、ヒドロキシアルキルアクリレート基、ヒドロキシアルキルメタクリレート基、アルキルアミン、アクリルアミド、メタクリルアミド、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、これらの基を末端とするポリマー、およびこれらの組み合わせであり得、そしてR11は水素であり得る、第二の成分を含み得る。
【発明の効果】
【0034】
疾患または損傷に応答して炎症を減少させ得、そしてMMPによる細胞外マトリックスの分解を防止し得る、医療デバイスおよび組成物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0035】
(詳細な説明)
本開示は、少なくとも1種のビニルリン脂質モノマー、および少なくとも1種のフラノンを含む、コポリマーを提供する。このコポリマーは、コモノマーとして少なくとも1種のヒドロキサメートをさらに含み得るか、またはフラノン/ビニルリン脂質コポリマーは、少なくとも1種のヒドロキサメートとブレンドされ得る。他の実施形態において、本開示の組成物は、少なくとも1種のビニルリン脂質および少なくとも1種のヒドロキサメートを、コポリマーまたはブレンドのいずれかとして、あるいはその両方として含み得る。このようなコポリマーおよびブレンドを含む組成物もまた提供される。
【0036】
本発明のコポリマーは、生体吸収性であっても非吸収性であってもよい、本明細書中で使用される場合、用語「コポリマー」は、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、グラフトコポリマーおよび/またはセグメント化コポリマーを含むが、これらに限定されない。
【0037】
本開示のコポリマーは、第一の成分として、少なくとも1つのビニル基を有する少なくとも1種のリン脂質を有し得る。このようなリン脂質は、当業者の知識の範囲内であり、そして例えば、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)、2−アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンなど、およびこれらの組み合わせが挙げられる。他のホスホリルコリンが利用され得、これらのホスホリルコリンとしては、リン酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチル;リン酸3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチル;リン酸4−(メタ)アクリロイルオキシブチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチル;リン酸5−(メタ)アクリロイルオキシペンチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチル;リン酸6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチル;リン酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2’−(トリエチルアンモニオ)エチル;リン酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2’−(トリプロピルアンモニオ)エチル;リン酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2’−(トリブチルアンモニオ)エチル;リン酸2−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチル;リン酸2−(メタ)アクリロイルオキシブチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチル;リン酸2−(メタ)アクリロイルオキシペンチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチル;リン酸2−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチル;リン酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−3’−(トリメチルアンモニオ)プロピル;リン酸3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−3’−(トリメチルアンモニオ)プロピル;リン酸4−(メタ)アクリロイルオキシブチル−3’−(トリメチルアンモニオ)プロピル;リン酸5−(メタ)アクリロイルオキシペンチル−3’−(トリメチルアンモニオ)プロピル;リン酸6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル−3’−(トリメチルアンモニオ)プロピル;リン酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−4’−(トリメチルアンモニオ)ブチル;リン酸3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−4’−(トリメチルアンモニオ)ブチル;リン酸4−(メタ)アクリロイルオキシブチル−4’−(トリメチルアンモニオ)ブチル;リン酸5−(メタ)アクリロイルオキシペンチル−4’−(トリメチルアンモニオ)ブチル;リン酸6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル−4’−(トリメチルアンモニオ)ブチル;およびこれらの組み合わせが挙げられるがこれらに限定されないモノマーをベースとするかまたはこれらのモノマーから誘導されるホスホリルコリンが挙げられる。本明細書中で使用される場合、「(メタ)アクリル」は、メタクリル基および/またはアクリル基の両方を含む。このようなモノマーからホスホリルコリンを形成する方法は、当業者の知識の範囲内である。
【0038】
ある実施形態において、適切なビニルホスホリルコリンは、以下の式:
【0039】
【化19】

のものであり得、この式において、xは約1〜約10であり、ある実施形態においては約2〜約6であり、そしてyは約1〜約10であり、ある実施形態においては約2〜約6である。
【0040】
ある実施形態において、適切なホスホリルコリンとしては、Biocompatibles Limited(Middlesex,UK)からPC1059、PC1036、PC1062、PC2028、PC1071、PC1015、および/またはPC2083として市販されているものが挙げられる。
【0041】
本開示のコポリマーは、上記少なくとも1つのビニル基を有するリン脂質を、ビニル基および/またはアクリレート基を有するフラノンと重合させることによって形成され得る。本開示によるコポリマーを形成する際に使用するために適切な、ビニル基および/またはアクリレート基を有するフラノンとしては、例えば、式:
【0042】
【化20】

の化合物が挙げられ、この式において、R、RおよびRは、独立してかまたは全てが、Hまたはハロゲンであり;そして
は、H、ハロゲン、アクリレート、ホルミル、カルボキシル、シアノ、エステル、アミド、アルキル、アルコキシ、オキソアルキル、アルケニル、アルキニル、アリールまたはアリールアルキルなどの部分であり、これらの部分は必要に応じて、1つ以上の置換基で置換され得;そして/または1つ以上のヘテロ原子が介在し得;そして/または直鎖、分枝鎖、疎水性、親水性、および/またはフッ素親和性(fluorophilic)であり得;ただし、R、R、RおよびRのうちの少なくとも1つは、ビニル部分および/またはアクリレート部分で置換されている。ある実施形態において、ビニル基および/またはアクリレート基を有するフラノンはまた、ハロゲン化され得る。
【0043】
本明細書中で使用される場合、「ハロゲン」および/または「ハロゲン化」は、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素を含む。
【0044】
本明細書中で使用される場合、置換フラノンまたは置換部分としては、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、ハロ、ハロアルキル、ハロアルキニル、ヒドロキシ、アルコキシ、アルケニルオキシ、ハロアルキル、ハロアルケニルオキシ、ニトロ、アミノ、ニトロアルキル、ニトロアルケニル、ニトロアルキニル、ニトロヘテロシクリル、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルケニルアミン、アルキニルアミノ、アシル、アルケニルアシル、アルキニルアシル、アシルアミノ、ジアシルアミノ、アシルオキシ、アルキルスルホニルオキシ、ヘテロシクリル、ヘテロシクロオキシ、ヘテロシクロアミノ、ハロヘテロシクリル、アルキルスルフェニル、カルボアルコキシ、アルキルチオ、アシルチオ、リン含有基(例えば、ホスホノおよびホスフィニル)、ならびにこれらの組み合わせなどの基を有する基が挙げられる。
【0045】
本明細書中で使用される場合、「アルキル」とは、単独でかまたは複合語(例えば、「ハロアルキル」もしくは「アルキルチオ」)においてのいずれかで使用され、直鎖または分枝鎖のC1〜12アルキル基を含む。例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピルなどが挙げられる。
【0046】
本明細書中で使用される場合、「アルコキシ」とは、直鎖または分枝鎖のアルコキシを含み、ある実施形態においては、C1〜12アルコキシであり、例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、およびブトキシ異性体である。
【0047】
本明細書中で使用される場合、「アルケニル」とは、直鎖、分枝鎖または単環式もしくは多環式のアルケンから形成される基を含み、エチレン性モノ不飽和またはエチレン性ポリ不飽和の上で定義されたようなアルキル基またはシクロアルキル基を含み、ある実施形態においては、C2〜12アルケニルである。アルケニルの例としては、ビニル;アリル;1−メチルビニル;ブテニル;イソブテニル;3−メチル−2−ブテニル;1−ペンテニル;シクロペンテニル;1−メチル−シクロペンテニル;1−ヘキセニル;3−ヘキセニル;シクロヘキセニル;1−ヘプテニル;3−ヘプテニル;1−オクテニル;シクロオクテニル;1−ノネニル;2−ノネニル;3−ノネニル;1−デセニル;3−デセニル;1,3−ブタンジエニル;1,4−ペンタジエニル;1,3−シクロペンタジエニル;1,3−ヘキサジエニル;1,4−ヘキサジエニル;1,3−シクロヘキサジエニル、1,4−シクロヘキサジエニル;1,3−シクロヘプタジエニル;1,3,5−シクロヘプタトリエニル;および/または1,3,5,7−シクロオクタテトラエニルが挙げられる。
【0048】
本明細書中で使用される場合、「ヘテロ原子」は、O、Nおよび/またはSを含む。
【0049】
本明細書中で使用される場合、「アシル」は、単独でかまたは複合語(例えば、「アシルオキシ」、「アシルチオ」、「アシルアミノ」もしくは「ジアシルアミノ」)において使用され、カルバモイル、脂肪族アシル基および複素環式環を含むアシル基(これは、複素環式アシルと称され得る)が挙げられ、ある実施形態においては、C1〜10アシルである。アシルの例としては、カルバモイル;直鎖または分枝鎖のアルカノイル(例えば、ホルミル、アセチル、プロパノイル、ブタノイル、2−メチルプロパノイル、ペンタノイル、2,2−ジメチルプロパノイル、ヘキサノイル、ヘプタノイル、オクタノイル、ノナノイル、デカノイル);アルコキシカルボニル(例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、t−ペンチルオキシカルボニルまたはヘプチルオキシカルボニル);シクロアルキルカルボニル(例えば、シクロプロピルカルボニル、シクロブチルカルボニル、シクロペンチルカルボニルまたはシクロヘキシルカルボニル);アルキルスルホニル(例えば、メチルスルホニルまたはエチルスルホニル);アルコキシスルホニル(例えば、メトキシスルホニルまたはエトキシスルホニル);ヘテロシクリルカルボニル;ヘテロシクリルアルカノイル(例えば、ピロリジニルアセチル、ピロリジニルプロパノイル、ピロリジニルブタノイル、ピロリジニルペンタノイル、ピロリジニルヘキサノイルまたはチアゾリジニルアセチル);ヘテロシクリルアルケノイル(例えば、ヘテロシクリルプロペノイル、ヘテロシクリルブテノイル、ヘテロシクリルペンテノイルまたはヘテロシクリルヘキセノイル);および/あるいはヘテロシクリルグリオキシロイル(例えば、チアゾリジニルグリオキシロイルまたはピロリジニルグリオキシロイル)が挙げられる。
【0050】
本明細書中で使用される場合、「フッ素親和性」は、特定の基(例えば、非常にフッ素化されたC〜C10の鎖長のアルキル基)がペルフルオロアルカンおよびペルフルオロアルカンポリマーに対して有する、非常に誘引的な相互作用を含む。
【0051】
他の実施形態において、適切なフラノンは、以下の式:
【0052】
【化21】

のフラノンであり得、この式において、
およびRは独立して、H、ハロゲン、ヒドロキシ、置換または非置換のアルキル、置換または非置換のアルコキシ、置換または非置換のオキソアルキル、置換または非置換のアルケニル、置換または非置換のアリール、あるいは置換または非置換のアリールアルキルであり、必要に応じて1つ以上のヘテロ原子が介在しており、直鎖または分枝鎖であり、親水性またはフッ素親和性であり、
およびRは独立して、H、ハロゲン、置換または非置換のアルキル、置換または非置換のアルコキシ、置換または非置換のアリール、あるいは置換または非置換のアリールアルキルであり、そして
は、H、ヒドロキシ、置換または非置換のアルキル、置換または非置換のアルコキシ、置換または非置換のオキソアルキル、置換または非置換のアルケニル、置換または非置換のアリールあるいは置換または非置換のアリールアルキルであり、必要に応じて、1つ以上のヘテロ原子が介在しており、直鎖または分枝鎖であり、親水性またはフッ素親和性である。
【0053】
式IIIのこのような化合物の具体的な例としては、例えば、
【0054】
【化22】

【0055】
【化23】

が挙げられる。
【0056】
いくつかの実施形態において、上記式IIIのフラノンは、脱水して以下の式IV:
【0057】
【化24】

の別の適切なフラノンを形成し得、式IVにおいて、R、R、R、R、およびRは、上で定義されたとおりである。
【0058】
式IVの化合物の具体的な例としては、例えば、
【0059】
【化25】

【0060】
【化26】

が挙げられる。
【0061】
他の適切なフラノン誘導体としては、ある実施形態において、以下の式:
【0062】
【化27】

のフラノン誘導体が挙げられ得、この式において、R、R、R、R、およびRは、上で定義されたとおりであり、そしてXは、OまたはNRである。
【0063】
式Vのフラノンの具体的な例としては、例えば、
【0064】
【化28】

【0065】
【化29】

が挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
なお他の適切なフラノンとしては、以下の式:
【0067】
【化30】

のフラノンが挙げられ、この式において、R、R、R、およびRは、上で定義されたとおりであり、そしてXは、OまたはNRである。
【0068】
式VIのフラノンの具体的な例としては、例えば、
【0069】
【化31】

【0070】
【化32】

が挙げられるが、これらに限定されない。
【0071】
なお他の適切なフラノンとしては、以下の式:
【0072】
【化33】

のフラノンが挙げられ、この式において、R、R、R、R、およびRは、上で定義されたとおりであり、そしてZは、R、ハロゲン、OC(O)R、=O、アミン、アジド、チオール、メルカプトアリール、アリールアルコキシ、メルカプトアリールアルキル、SC(O)R、OS(O)、NHC(O)R、=NR、またはNHRである。
【0073】
式VIIの化合物の具体的な例としては、例えば、
【0074】
【化34】

【0075】
【化35】

が挙げられるが、これらに限定されない。
【0076】
フラノン(ハロゲン化フラノンおよび/またはヒドロキシルフラノンが挙げられる)は、集団感知のインヒビターとして公知である。集団感知(細菌シグナル伝達としてもまた公知)は、多くの細菌における遺伝子調節の一般的な機構として認識されており、そして細菌が一斉に、生物発光、スウォーミング、生物フィルム形成、タンパク質分解性酵素の産生、抗生物質の合成、遺伝能力の発生、プラスミド接合移動(plasmid conjugal transfer)、および破壊(spoliation)などの活性を実施することを可能にする。集団感知は、グラム陽性細菌(例えば、Staphylococcus aureus、Streptococcus pneumoniae、Salmonella enteritidis、Staphylococcus epidermidis、Bacillus subtilisなど)とグラム陰性細菌(例えば、Pseudomonas aeruginosa、Escherichia coli、Aeromonas hydrophilaなど)との両方により使用される汎用調節機構である。
【0077】
フラノン(ハロゲン化フラノンおよび/またはヒドロキシルフラノンが挙げられる)はまた、哺乳動物細胞に対して非毒性である量で、集団感知を遮断し得、そして細菌の増殖を阻害し得る。これらの作用の機構を考慮すると、フラノンの抗病原性特性は、広いスペクトルの感染因子に対して有効であり得、そしてまた、グラム陽性細菌とグラム陰性細菌との両方(上記のものが挙げられる)を減少および/またはこれらのコロニー形成防止することが可能であり得る。
【0078】
本開示によれば、必要に応じて本明細書中に記載されるビニル基および/またはアクリレート基を有し、ある実施形態においてはまた、ハロゲン基および/またはヒドロキシル基を有する、集団感知インヒビター(例えば、上記フラノン)は、微生物の発生および増殖を阻害することによって、抗菌剤として働き得る。上記のように、集団感知インヒビターとして作用するフラノンは、スウォーミング運動性および生物フィルム形成(これらの両方は頻繁に、感染性疾患の病態生理学の基礎である)を阻害し得る。従って、スウォーミングおよび生物フィルム形成の阻害は、細菌負荷を減少させ得、従って、感染および疾患の進行を防止し得る。
【0079】
さらに、細菌を殺傷し、そして抗菌耐性を誘導する危険性を有する抗生物質および防腐剤化合物とは異なり、フラノン(本明細書中に記載されるハロゲン化フラノンおよび/またはヒドロキシルフラノンを含む)は、このような進化圧力(evolutionary pressure)を付与しない。従って、本開示のコポリマーで作製またはコーティングされた物品に対する抗菌耐性は、懸念事項ではない。
【0080】
上記フラノンと少なくとも1つのビニル基を有する少なくとも1種のリン脂質との共重合を実施するための条件は、当業者の知識の範囲内である。この共重合は、少なくとも1つのビニル基を有する少なくとも1種のリン脂質を、ビニル基および/またはアクリレート基を有するフラノンと反応させることによって達成され得る。少なくとも1つのビニル基を有する少なくとも1種のリン脂質をフラノンと反応させ得る条件は、特定のリン脂質、使用される特定のフラノン、および達成されることが望ましい重合度に依存して、広範に変動し得る。リン脂質対フラノンのモル比は、約1:10〜約10:1であり得る。ある実施形態において、使用されるフラノンの量は、少なくとも1つのビニル基を有するリン脂質1モル当たり約2モル〜約8モルのフラノンであり得る。適切な反応時間および温度は、約15分〜約72時間、ある実施形態においては約60分〜約24時間であり得、約0℃〜約250℃、ある実施形態においては約25℃〜約80℃の温度であり得る。
【0081】
ある実施形態において、本開示のコポリマーは、ビニル基またはアクリレート基を有するフラノンを、液体ビニルモノマーまたはモノマー溶液(例えば、少なくとも1つのビニル基を有する少なくとも1種のリン脂質)に溶解することによって調製される、モノマー溶液から調製され得る。このような溶液を形成する際に利用され得る適切な溶媒としては、例えば、水、低級アルコール、これらの混合物などが挙げられる。他の実施形態において、水溶液または水性懸濁物が、ビニル基および/またはアクリレート基を有するフラノンを少なくとも1つのビニル基を有する少なくとも1種のリン脂質と組み合わせて用いて形成され得る。なお他の実施形態において、ビニル基またはアクリレート基を有するフラノンは、有機溶媒と組み合わせられ得、次いで得られた溶液が、少なくとも1つのビニル基を有する少なくとも1種のリン脂質を含む適合性または非適合性の水溶液と混合または乳化され得る。適切な有機溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、イソプロパノール、クロロホルム、塩化メチレン、これらの組み合わせなどが挙げられる。
【0082】
ある実施形態において、上記フラノンと少なくとも1つのビニル基を有する少なくとも1種のリン脂質とのコポリマーは、ヒドロキサメートと共重合されて、本開示のコポリマーを形成し得る。他の実施形態において、上記フラノンと上記少なくとも1つのビニル基を有する少なくとも1種のリン脂質とのコポリマーがヒドロキサメートとブレンドされて、本開示の組成物を形成し得る。なお他の実施形態において、本開示の組成物は、コポリマーまたはブレンドのいずれかとして少なくとも1種のヒドロキサメートと組み合わせられた、少なくとも1つのビニル基を有する少なくとも1種のリン脂質を含み得る。
【0083】
コモノマーまたはブレンドのいずれかとして、上記成分と組み合わせるために適切なヒドロキサメートとしては、以下の式(VIII):
【0084】
【化36】

のヒドロキサメート基を有する成分が挙げられ、式(VIII)において、R10は、ビニル基(ポリビニルアルコールなどのビニルアルコールが挙げられる)、ヒドロキシアクリレート基(ヒドロキシアルキルアクリレートが挙げられる)、ヒドロキシメタクリレート基(ヒドロキシアルキルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレートが挙げられる)、酸基(アクリル酸、メタクリル酸が挙げられる)、アルキルアミン、アクリルアミド、メタクリルアミド、他のアルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、ならびにヒドロキシル基を有するポリマー(上記基のうちのいずれか(例えば、ビニルアルコール、ヒドロキシエチルメタクリレート)を末端とするポリマーが挙げられる)などを含み得、そしてR11は、水素であり得る。
【0085】
本明細書中で使用される場合、「アルキル」とは、単独でかまたは複合語(例えば、「ハロアルキル」もしくは「アルキルチオ」)においてのいずれかで使用され、直鎖または分枝鎖のC1〜12アルキル基を含む。例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピルなどが挙げられる。
【0086】
本明細書中で使用される場合、「アルコキシ」とは、直鎖または分枝鎖のアルコキシを含み、ある実施形態においては、C1〜12アルコキシであり、例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、およびブトキシ異性体である。
【0087】
本明細書中で使用される場合、「アルケニル」とは、直鎖、分枝鎖または単環式もしくは多環式のアルケンから形成される基を含み、エチレン性モノ不飽和またはエチレン性ポリ不飽和の上で定義されたようなアルキル基またはシクロアルキル基を含み、ある実施形態においては、C2〜12アルケニルである。アルケニルの例としては、ビニル;アリル;1−メチルビニル;ブテニル;イソブテニル;3−メチル−2−ブテニル;1−ペンテニル;シクロペンテニル;1−メチル−シクロペンテニル;1−ヘキセニル;3−ヘキセニル;シクロヘキセニル;1−ヘプテニル;3−ヘプテニル;1−オクテニル;シクロオクテニル;1−ノネニル;2−ノネニル;3−ノネニル;1−デセニル;3−デセニル;1,3−ブタンジエニル;1,4−ペンタジエニル;1,3−シクロペンタジエニル;1,3−ヘキサジエニル;1,4−ヘキサジエニル;1,3−シクロヘキサジエニル、1,4−シクロヘキサジエニル;1,3−シクロヘプタジエニル;1,3,5−シクロヘプタトリエニル;または1,3,5,7−シクロオクタテトラエニルが挙げられる。
【0088】
これらのヒドロキサメート官能性成分を形成するための方法は、当業者の知識の範囲内である。例えば、ある実施形態において、ヒドロキサメート官能性ポリマーは、架橋ポリメタクリル酸(PMAA)−co−メタクリル酸メチル(MAA)ビーズの表面修飾により生成され得、これにより、ヒドロキサメート官能性成分として、ヒドロキサメート官能性ポリマー(すなわち、PMAA−MAA−ヒドロキサメート)を生成する。
【0089】
他の実施形態において、フラノンおよび少なくとも1つのビニル基を有する少なくとも1種のリン脂質、またはそのブレンドと共重合し得る、重合性ヒドロキサメートモノマーが合成され得る。ヒドロキサメートモノマー(これは、上記式VIIIにより包含され得る)は、CH=C−CHを含むR10および水素であり得るR11を有し得る。他の実施形態において、ヒドロキサメートモノマーは、ヒドロキサメートホモポリマーを合成するために利用され得るか、または他の任意の適切な成分と共重合してコポリマーを生成し得、このコポリマーは次に、フラノンおよび少なくとも1つのビニル基を有する少なくとも1種のリン脂質、もしくはそのブレンドと共重合し得る。
【0090】
上記ヒドロキサメートモノマーから合成されるヒドロキサメートホモポリマーはまた、任意の誘導体化可能なポリマーにグラフトされ得る。次いで、得られるヒドロキサメート官能性組成物は、モノマーであっても、ホモポリマーであっても、コポリマーであっても、コモノマーまたはブレンドとして、上記フラノンおよび少なくとも1つのビニル基を有する少なくとも1種のリン脂質を含むコポリマーと組み合わせられ得る。
【0091】
もちろん、2種以上のヒドロキサメートが、コポリマーまたはブレンドを形成する際に利用され得ることが理解されるべきである。
【0092】
他の実施形態において、上記のように、ヒドロキサメートは、少なくとも1つのビニル基を有するリン脂質と、フラノンなしで共重合またはブレンドされ得る。例えば、MPCおよびn−ヒドロキシメタクリルアミド(NHMAA)などのモノマーは、 従来のフリーラジカル重合技術、リビングラジカル重合技術、原子移動ラジカル(ATR)重合技術、または放射線重合技術によって重合され得る。このような技術は、当業者の知識の範囲内である。得られる組成物(ある実施形態においては、コポリマー)の溶解度、両親媒性、および膨潤性は、この組成物に他のモノマーを組み込むことによって、制御され得る。このようなさらなるモノマーとしては、例えば、アクリレートモノマーまたはメタクリレートモノマー(例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸オクチル、これらの組み合わせ)などが挙げられる。
【0093】
正電荷を有するさらなるモノマーをコポリマーまたはブレンドに組み込むことによって、さらなる創傷治癒特性が、このコポリマーまたはブレンドに付与され得る。このような正電荷を有するモノマーとしては、メタクリル酸2−(ジエチルアミノ)エチル;メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル;アクリレート(アクリル酸2−(ジエチルアミノ)エチル、アクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチルが挙げられる)、これらの組み合わせなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0094】
さらなる機能性(脈管形成特性、抗炎症特性、酵素阻害特性など)が、陰イオン性モノマーの負荷により付与され得る。適切な陰イオン性モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、ビニルスルホン酸、アクリル酸スルホプロピル、これらの組み合わせなどが挙げられる。これらのモノマーは、リン脂質、ヒドロキサメート、またはこれらの両方とブレンドまたは共重合され得る。
【0095】
同様に、第四級アンモニウム基を含むモノマー(例えば、2−(メタクリルオキシエチル)トリメチルアンモニウムクロリド)の添加によって、抗菌特性がこの組成物に提供され得る。
【0096】
ヒドロキサメートとフラノンおよび/またはリン脂質(ある実施形態において、フラノン/リン脂質コポリマー)との重合を実施するための条件は、当業者の知識の範囲内であり、そしてフラノンと少なくとも1つのビニル基を有する少なくとも1種のリン脂質との重合について上に記載された条件が挙げられる。
【0097】
重合はまた、モノマー(例えば、少なくとも1つのビニル基を有する少なくとも1種のリン脂質、ならびに/またはビニル基および/もしくはアクリレート基を有するフラノン、ならびに/またはヒドロキサメート)を、エネルギー誘導照射(例えば、高エネルギー放射線(γ線および/または電子線、紫外(UV)光、パルスレーザ切除解離、プラズマエネルギー処理が挙げられる))、化学的開始、光開始などに曝露することによって、開始され得る。ある実施形態において、高エネルギー放射線開始の使用は、有利であり得る。なぜなら、化学開始剤または触媒などのさらなる開始剤の使用を必要としないはずであるからである。
【0098】
ある実施形態において、本開示のコポリマーは、このコポリマーの約5重量%〜約95重量%、ある実施形態においてはこのコポリマーの約15重量%〜約85重量%のビニルリン脂質を有し得る。したがって、本開示のコポリマーは、このコポリマーの約5重量%〜約95重量%、ある実施形態においては、このコポリマーの約15重量%〜約85重量%の量の、ビニル基および/もしくはアクリレート基を有するフラノン、またはヒドロキサメートを有し得る。
【0099】
上記フラノン/リン脂質コポリマーをブレンドとしてヒドロキサメートと共に含む組成物は、この組成物の約1重量%〜この組成物の約99重量%、ある実施形態においては、この組成物の約5重量%〜この組成物の約95重量%の量のフラノン/ビニルリン脂質コポリマーを含み、ヒドロキサメートは、この組成物の約1重量%〜この組成物の約99重量%、ある実施形態においては、この組成物の約5重量%〜この組成物の約95重量%の量で存在する。
【0100】
ヒドロキサメートが、フラノン/ビニルリン脂質コポリマーとのコモノマーとして含まれる場合、得られるコポリマーは、このコポリマーの約1重量%〜このコポリマーの約98重量%、ある実施形態においては、このコポリマーの約5重量%〜このコポリマーの約90重量%の量のフラノンを有し得、ビニルリン脂質は、このコポリマーの約1重量%〜このコポリマーの約98重量%、ある実施形態においては、このコポリマーの約5重量%〜このコポリマーの約90重量%の量で存在し得、そしてヒドロキサメートは、このコポリマーの約1重量%〜このコポリマーの約98重量%、ある実施形態においては、このコポリマーの約5重量%〜このコポリマーの約90重量%の量で存在し得る。
【0101】
ある実施形態において、上記ヒドロキサメートは、リン脂質なしでフラノンと共重合またはブレンドされ得る。他の実施形態において、上記ヒドロキサメートは、フラノンなしでリン脂質と共重合またはブレンドされ得る。ヒドロキサメートとフラノンとの重合、および/またはヒドロキサメートとリン脂質との共重合のために適切な条件としては、ヒドロキサメートとフラノン/リン脂質コポリマーとの共重合について本明細書中に記載される条件、およびフラノンと少なくとも1つのビニル基を有する少なくとも1種のリン脂質との重合について上に記載された条件が挙げられる。
【0102】
本開示の組成物がリン脂質およびヒドロキサメートをまたはブレンドとして含む場合、このリン脂質は、この組成物の約5重量%〜約95重量%、ある実施形態においては、この組成物の約15重量%〜約85重量%の量で存在し得、ヒドロキサメートは、この組成物の約5重量%〜約95重量%、ある実施形態においては、この組成物の約15重量%〜約85重量%の量で存在する。
【0103】
ある実施形態において、少なくとも1つのビニル基を有するリン脂質、ビニル基および/またはアクリレート基および必要に応じてハロゲン基および/またはヒドロキシル基を有するフラノン、ならびに必要に応じてヒドロキサメートはまた、さらなるビニルモノマーまたはアクリレートモノマー(必要に応じて、上記ヒドロキサメート基を有する)の存在下で共重合されて、優れた溶解度、湿潤性、熱特性、フィルム形成特性などを有するコポリマーを与え得る。このようなさらなるビニルモノマーまたはアクリレートモノマーとしては、例えば、ビニル官能性第四級アミン、メタクリル酸ヒドロキシエチル、n−ビニルピロリドン、アクリル酸ナトリウム、ビスアクリレート、スチレンスルホン酸、アクリル酸ブチル、アクリル酸スルホプロピル、メタクリル酸スルホプロピル、アクリルアミド、ジアクリルアミド、メタクリル酸、アクリル酸、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコール/ポリプロピレンアクリレート、シリコーンアクリレート、これらの組み合わせなどが挙げられる。少なくとも1つのビニル基を有するリン脂質ならびにビニル基および/またはアクリレート基を有するフラノンとのコポリマーを形成することに加えて、いくつかの実施形態において、これらのさらなるビニルモノマーまたはアクリレートモノマーは、本開示のコポリマーと、混合物またはブレンドとして組み合わせられ得る。
【0104】
例えば、いくつかの実施形態において、本開示のコポリマーは、少なくとも1つのビニル基を有するリン脂質と、ビニル基および/またはアクリレート基を有するフラノンと、さらなるビニルモノマーまたはアクリレートモノマー(ヒドロキサメート官能基を含む)とのランダムコポリマーを含み得る。
【0105】
ある実施形態において、ビニル基またはアクリレート基を有するフラノン、および少なくとも1つのビニル基を有する少なくとも1種のリン脂質は、ヒドロキサメート基を有するさらなるアクリレート化合物またはビニル化合物と一緒に、溶液に入れられ得る。例えば、いくつかの実施形態において、フラノンアクリレートおよびMPCが、上記PMAA−MMA−ヒドロキサメートと共に(約50:約25:約25の比で)溶液に入れられ得、そしてこれらのモノマーをγ放射線に供することにより重合させて、コポリマーを生成し得る。得られるコポリマーは、ある実施形態において、ヒドロゲルの形態であり得る。
【0106】
ヒドロキサメートを含む本開示の組成物は、創傷処置において使用され得るか、または医療デバイスおよび移植物の形成において使用され得る。慢性創傷は、治癒に数ヶ月または数年かかり得る。これは部分的には、新たに形成されるマトリックスを合成と同時に分解する高レベルのMMPに起因する。ヒドロキサメートを含む本開示のコーティングは、そのヒドロキサメート基の存在に起因して、創傷またはその隣接部位におけるMMPの活性を阻害し得、これによって、治癒を促進する。
【0107】
同様に、腫瘍の新脈管形成または脈管形成、および転移の形成は、細胞の移動および侵入を必要とし、これらはプロMMPの放出により可能にされる。従って、ヒドロキサメート(これは、これらのMMPと反作用する)を含む本開示の組成物は、腫瘍の新脈管形成および/または脈管形成を最小にするために適切であり得る。
【0108】
さらに、組織再造形は、MMPの分泌または発現に対して二次的に起こる。従って、MMPの作用によって、創傷修復に関連する血管が再吸収されるか、または虚血性組織が破壊される。従って、ヒドロキサメート(これは、これらのMMPと反作用する)を含む本開示の組成物は、創傷修復を増強するために適切であり得る。
【0109】
MMPの活性はまた、アテローム性動脈硬化症の斑形成に関与するプロセス(炎症性細胞の浸潤、新脈管形成、ならびに平滑筋細胞の移動および増殖)の多くのために必須である。上昇したレベルのMMPは、ヒトアテローム性動脈硬化症斑および動脈瘤の部位に発現される。さらに、MMPによるマトリックス分解は、斑の不安定性および破壊を引き起こし得、これは、アテローム性動脈硬化症の臨床症状をもたらす。従って、ヒドロキサメート(これは、これらのMMPと反作用する)を含む本開示の組成物は、アテローム性動脈硬化症斑の形成、および動脈瘤の部位の破壊の発生を減少させるために適切であり得る。
【0110】
関節炎の文脈において、軟骨分解における活性化MMPと類似の役割が実証されている。数種のMMP(MMP−1、MMP−3、MMP−8およびMMP−13が挙げられる)ならびにアグリカナーゼ(別のメタロプロテイナーゼ)の上昇した濃度および活性は、変形性関節症および慢性関節リウマチの患者の滑液において同定されている。従って、ヒドロキサメート(これは、これらのMMPと反作用する)を含む本開示の組成物は、関節炎を処置するため、および/または軟骨の分解を最小にするために適切であり得る。
【0111】
活性MMPの割合の増加が、冠状動脈疾患の処置のための脈管介入(例えば、バルーン血管形成術または冠状血管内ステント配置)後の再狭窄の進行に関連することの証拠もまた蓄積されている。プロ(不活性)MMP−2のみを構成的に発現する非疾患脈管壁とは異なり、損傷した動脈またはアテローム性動脈硬化症の動脈は、MMP−2活性の劇的な増加を示す。このことは、MMP−3、MMP−7、MMP−9、MMP−12、およびMMP−13の誘導された発現に関連して起こる。従って、ヒドロキサメート(これは、これらのMMPと反作用する)を含む本開示の組成物は、再狭窄を減少させるために利用され得る。
【0112】
ヒドロキサメートを含む本開示の組成物は、MMP酵素の活性中心の亜鉛に結合することによって、MMPを不活性化し得る。複数の付着点があるので、ヒドロキサメートは、亜鉛に対する分子磁石のように挙動する。
【0113】
ある実施形態において、ヒドロキサメートを有する本開示の組成物は、特定のMMP型に対するいかなる特異性もなしに、MMPの活性形態に結合し得る。他の実施形態において、ヒドロキサメートを有する本開示の組成物は、局所組織環境において、MMPの活性形態に対する優先的な結合を提供し得る。これは、MMP調節カスケードにおける1つのステージ(すなわち、マトリックス分解の直前のステージ)を特異的に標的とするので、有利であり得る。さらに、選択的結合は、過剰阻害の危険性を減少させ得る。過剰阻害は、組織の代謝回転ならびに必須のプロセス(例えば、細胞移動および新脈管形成)の健常な速度を防止することによって、治癒を遅延させる。
【0114】
このように生成されたコポリマーは、加水分解により分解可能な結合を介してポリマー鎖のヘッドに結合したフラノンおよび/またはヒドロキサメートを有し得る。有利には、加水分解の際に、本発明のコポリマーは、低濃度のフラノンおよび/またはヒドロキサメートを放出し得、これによって、本開示の組成物を含むコポリマーまたは物品が適用される移植または損傷の部位で、フラノンが放出される箇所で抗菌特性を提供し、そしてヒドロキサメートが放出される箇所でMMP活性の阻害を提供する。
【0115】
得られる本開示の組成物(リン脂質、ヒドロキサメート、および/またはフラノンを含む)は、従来の熱可塑性プロセス(成形、押出しなど)の後に固体材料に作製されるか、またはスプレー乾燥、溶媒エバポレーションもしくは他の任意の従来のポリマー加工方法によってビーズもしくはナノ粒子に作製される、他の材料をコーティングするために適切であり得る。
【0116】
従って、ある実施形態において、フラノンおよび/またはヒドロキサメートを、必要に応じてコポリマーブレンドとして有する、本開示の組成物で調製またはコーティングされた物品は、細菌に対する改善された耐性を示し得る。得られる組成物はまた、MMP阻害特性を有し得、これは、創傷治癒を増強し得る。
【0117】
本開示の組成物は、医療デバイスおよびその上のコーティングの形成において、多数の用途を見出し得る。ある実施形態において、外科手術用物品は、本明細書中に記載される組成物から製造され得る。適切な医療デバイスとしては、クリップおよび他のファスナー、ステープル、タック、縫合糸、ピン、ねじ、プロテーゼデバイス、創傷包帯、包帯、薬物送達デバイス、吻合リング、外科手術用刃、コンタクトレンズ、眼内レンズ、外科手術用メッシュ(ヘルニアメッシュが挙げられる)、ステント、ステントコーティング、移植片、組織パッチ、カテーテル、ステント/移植片、結び目のない創傷閉鎖具、封止剤、接着剤、コンタクトレンズ、眼内レンズ、接着防止デバイス、アンカー、トンネル、骨充填剤、合成腱、合成靭帯、組織足場、ステープル止めデバイス、バットレス、ラップバンド、整形外科用金属類、ペーサー、ペースメーカー、薬物送達デバイス、軟組織修復デバイス(メッシュ固定具が挙げられる)、ならびに他の移植物および移植可能デバイスが挙げられるが、これらに限定されない。
【0118】
繊維が、本開示の組成物から作製され得る。ある実施形態において、本開示の組成物で製造された繊維は、他の繊維(吸収性繊維または非吸収性繊維のいずれか)と編まれるかまたは織られて、布を形成し得る。繊維はまた、不織材料に作製されて、メッシュおよびフェルトなどの布を形成し得る。
【0119】
本発明のコポリマーまたは本開示のブレンドは、当業者の知識の範囲内である任意の技術(例えば、押出し、成型および/または溶媒キャスティング)を使用して、物品に形成され得る。本明細書中のコポリマーおよび/またはブレンドは、単独でかまたは他のポリマー(吸収性または非吸収性のいずれでもよい)と組み合わせて使用され得る。必要に応じて他の材料と組み合わせられた本開示のコポリマーおよび/またはブレンドは、ある実施形態において、本開示の組成物と称され得る。本開示の組成物を用いて物品を形成する方法は、当業者の知識の範囲内である。
【0120】
本開示の組成物を用いて形成され得るパッケージ材料としては、医療デバイス、薬品、布、消耗品、食品などのためのパッケージが挙げられる。
【0121】
本開示のコポリマーまたはブレンドはまた、物品(布、医療デバイス、およびパッケージ材料が挙げられる)のためのコーティングを形成するために使用され得る。コーティングは、物品の表面の少なくとも一部分(内部、外部、またはこれらの両方が挙げられる)に適用され得る。
【0122】
ある実施形態において、本開示のコーティングは、溶液として適用され得、そしてその溶媒が蒸発させられて、コーティング成分(ある実施形態において、本開示のフラノン、リン脂質、およびヒドロキサメート)を残す。この溶液を形成する際に利用され得る適切な溶媒としては、選択されたコーティング組成物のために適切な任意の溶媒または溶媒の組み合わせが挙げられる。適切であるためには、溶媒は、(1)コーティング組成物と混和性でなければならず、そして(2)コーティングされる物品(例えば、縫合糸)を形成するために使用される任意の材料の一体性にかなりの影響を与えてはならない。適切な溶媒のいくつかの例としては、アルコール、ケトン、エーテル、アルデヒド、アセトニトリル、酢酸、塩化メチレン、クロロホルムおよび水が挙げられる。ある実施形態において、塩化メチレンが溶媒として使用され得る。
【0123】
本開示による医療デバイスおよびパッケージ材料は、当業者の知識の範囲内である技術に従って滅菌され得る。
【0124】
本開示のコーティング溶液の調製は、比較的単純な手順であり得、そしてブレンド、混合などにより達成され得る。1つの実施形態において、本開示の組成物と塩化メチレンなどの溶媒がコーティング溶液を形成するために使用される場合、所望の量の組成物が容器に入れられ得、続いて所望の量の塩化メチレンが添加され得る。次いで、これらの2つの成分が徹底的に混合されて、これらの成分を組み合わせ得る。
【0125】
当業者の知識の範囲内である任意の技術が、コーティング溶液または懸濁物を物品に適用するために使用され得る。適切な技術としては、浸漬、噴霧、ワイピングおよびブラッシングが挙げられる。コーティング溶液または懸濁物で濡らされた物品は、引き続いて、溶媒を気化させて除去するために充分な時間および温度で、乾燥オーブンに通されるかまたは乾燥オーブン内に保持され得る。
【0126】
さらに、本開示は、デバイスの表面/内部修飾のための方法を提供する。この方法は、医療デバイスなどのデバイスを、ビニルリン脂質、ならびに/あるいはビニル基および/またはアクリレート基を有するフラノン、ならびに/あるいはヒドロキサメートのモノマー溶液で、例えば浸漬によって含浸させ、そしてこのモノマー溶液をインサイチュで重合させて、このデバイスと組み合わせられた本開示のグラフトコポリマーまたはコポリマーの相互侵入網目構造を調製することによる。
【0127】
溶液はまた、化学カップリング剤(例えば、シラン、ビニルシロキサンなど)と一緒に使用されて、医療デバイスの表面にグラフトまたは含浸し得るのみでなく、本開示のコポリマーをデバイスの表面に共有結合により付着させ得る。
【0128】
本開示のコーティングを有する医療デバイスは、本開示のコポリマーまたはブレンドから形成され得る。他の実施形態において、医療デバイスは又、吸収性材料、非吸収性材料、およびこれらの組み合わせから形成され得る。医療デバイスを形成するために利用され得る適切な吸収性材料としては、トリメチレンカーボネート、カプロラクトン、ジオキサノン、グリコール酸、乳酸、これらのホモポリマー、これらのコポリマー、およびこれらの組み合わせが挙げられる。医療デバイスを形成するために利用され得る適切な非吸収性材料としては、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンとポリプロピレンとのコポリマー、ポリエチレンとポリプロピレンとのブレンド)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート)、ポリイミド、ポリアミド、これらの組み合わせなどが挙げられる。
【0129】
本開示の組成物でコーティングされ得る布としては、本開示のコポリマーまたはブレンドから作製された繊維、ならびに他の天然繊維、合成繊維、天然繊維のブレンド、合成繊維のブレンド、および天然繊維と合成繊維とのブレンドが挙げられる。布を形成するために利用される適切な他の材料としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ハロゲン化ポリマー、ポリエステル/ポリエーテル、ポリウレタン、これらのホモポリマー、これらのコポリマー、およびこれらの組み合わせが挙げられる。適切な材料の具体的な例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン6、およびナイロン6,6が挙げられる。
【0130】
いくつかの実施形態において、本開示による組成物は、本開示のコポリマーまたはブレンドを、他のさらなる成分と組み合わせることにより形成され得る。ある実施形態において、本開示のコーティング組成物は、脂肪酸成分(例えば、脂肪酸または脂肪酸塩または脂肪酸エステルの塩)と組み合わせられ得る。適切な脂肪酸は、飽和であっても不飽和であってもよく、そして約12個より多い炭素原子を有する高級脂肪酸を含み得る。適切な飽和脂肪酸としては、例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸およびラウリン酸が挙げられる。適切な不飽和脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸、およびリノレン酸が挙げられる。さらに、脂肪酸のエステル(例えば、トリステアリン酸ソルビタンまたは硬化ヒマシ油)が使用され得る。
【0131】
適切な脂肪酸塩としては、C以上の高級脂肪酸(特に、約12個〜約22個の炭素原子を有する脂肪酸)の多価金属イオン塩、およびこれらの混合物が挙げられる。ステアリン酸、パルミチン酸およびオレイン酸の、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩、アルミニウム塩、および亜鉛塩が挙げられる脂肪酸塩が、本開示のいくつかの実施形態において有用であり得る。いくつかの有用な塩としては、市販の「食品等級」のステアリン酸カルシウムが挙げられ、これは、約3分の1のC16脂肪酸と3分の2のC18脂肪酸との混合物を含み、少量のC14脂肪酸およびC22脂肪酸を含む。
【0132】
本開示の組成物に含まれ得る適切な脂肪酸エステルの塩としては、ステアロイルラクチル酸カルシウム、ステアロイルラクチル酸マグネシウム、ステアロイルラクチル酸アルミニウム、ステアロイルラクチル酸バリウム、またはステアロイルラクチル酸亜鉛;パルミチルラクチル酸カルシウム、パルミチルラクチル酸マグネシウム、パルミチルラクチル酸アルミニウム、パルミチルラクチル酸バリウム、またはパルミチルラクチル酸亜鉛;および/あるいはオレイルラクチル酸カルシウム、オレイルラクチル酸マグネシウム、オレイルラクチル酸アルミニウム、オレイルラクチル酸バリウム、またはオレイルラクチル酸亜鉛が挙げられる。ある実施形態において、ステアロイル−2−ラクチレートカルシウム(例えば、商品名VERVとしてAmerican Ingredients Co.,Kansas City,Mo.から市販されているステアロイル−2−ラクチレートカルシウム)が利用され得る。利用され得る他の脂肪酸エステル塩としては、ステアロイルラクチル酸リチウム、ステアロイルラクチル酸カリウム、ステアロイルラクチル酸ルビジウム、ステアロイルラクチル酸セシウム、ステアロイルラクチル酸フランシウム、パルミチルラクチル酸ナトリウム、パルミチルラクチル酸リチウム、パルミチルラクチル酸カリウム、パルミチルラクチル酸ルビジウム、パルミチルラクチル酸セシウム、パルミチルラクチル酸フランシウム、オレイルラクチル酸ナトリウム、オレイルラクチル酸リチウム、オレイルラクチル酸カリウム、オレイルラクチル酸ルビジウム、オレイルラクチル酸セシウム、およびオレイルラクチル酸フランシウムからなる群より選択されるものが挙げられる。
【0133】
利用される場合、脂肪酸成分の量は、本開示の全組成物の約5重量%〜約60重量%であり得る。ある実施形態において、脂肪酸成分は、全組成物の約15重量%〜約55重量%の量で存在し得る。
【0134】
ある実施形態において、リン脂質、フラノンおよびヒドロキサメートを含むコポリマーまたはブレンドは、この組成物の約45重量%〜約60重量%の量で存在し得、そして脂肪酸成分(例えば、脂肪酸塩または脂肪酸エステルの塩)は、この組成物の約40重量%〜約55重量%の量で存在し得る。ある実施形態において、リン脂質、フラノンおよびヒドロキサメートは、この組成物の約50重量%〜約55重量%の量で存在し得、そして脂肪酸成分は、この組成物の約45重量%〜約50重量%の量で存在し得る。
【0135】
ある実施形態において、上記のような脂肪酸成分(ステアロイル乳酸カルシウムが上げられる)は、本開示のコポリマーまたはブレンドと組み合わせられ得るか、または本開示のコポリマーまたはブレンドを医療物品、パッケージ布などに適用するために利用される任意のコーティング溶液に含まれ得る。
【0136】
他の実施形態において、本開示のコポリマーまたはブレンドは、さらなるポリマー材料(例えば、オリゴマーおよび/またはポリマー)と組み合わせられ得る。これらのさらなるポリマー材料は、生体吸収性であっても非吸収性であってもよい。この組成物において利用され得る生体吸収性ポリマーは、当業者の知識の範囲内であり、そして例えば、グリコリド、ラクチド、グリコール酸、乳酸、カプロラクトン、トリメチレンカーボネート、ジオキサノン、ジオキセパノンなどが挙げられるモノマーから誘導される連結を含むポリマー、ならびにこれらのホモポリマー、コポリマーおよび組み合わせが挙げられる。同様に、ポリオルトエステル、ポリヒドロキシブチレート、ポリチロシンカーボネート、ポリヒドロキシアルカノエート、これらの組み合わせなどが添加され得る。さらなるポリマー材料は、本開示のコポリマーまたはブレンドとブレンドまたは結合され(例えば、ブロックコポリマーを作製し)得る。
【0137】
ある実施形態において、本開示のコポリマーまたはブレンドは、ポリアルキレンオキシド(例えば、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、これらのコポリマーなどであり、アクリレート基を有するもの(例えば、アクリレートPEG、および/またはアクリレートPEG/PPGコポリマー)が挙げられる)と組み合わせられ得る。このような組み合わせは本開示のコポリマーまたはブレンドを、ポリアルキレンオキシドオリゴマーおよび/またはポリマーならびに/あるいは他の非毒性界面活性剤と一緒に含み得る。従って、得られる組成物は、上記コポリマーまたはブレンドの存在に起因して、抗菌特性およびMMP阻害特性を有し得る。他の実施形態において、本開示のコポリマーまたはブレンドは、シリコーンアクリレートと組み合わせられ得る。
【0138】
所望であれば、本開示のコポリマーまたはブレンドに加えて、本明細書中に記載される組成物は、必要に応じて、さらなる成分(例えば、色素、抗菌剤、増殖因子、成長因子、抗炎症剤など)を含み得る。用語「抗菌剤」とは、本明細書中で使用される場合、抗生物質、防腐剤、殺菌剤およびこれらの組み合わせを含む。ある実施形態において、抗菌剤は、防腐剤(例えば、トリクロサンまたは上記フラノンのうちの1種)であり得る。
【0139】
本開示の組成物と組み合わせられ得る抗生物質の種類としては、テトラサイクリン(ミノサイクリンなど);リファマイシン(リファンピンなど);マクロライド(エリスロマイシンなど);ペニシリン(ナフシリンなど);セファロスポリン(セファゾリンなど);β−ラクタム抗生物質(イミペネムおよびアズトレオナムなど);アミノグリコリド(ゲンタマイシンおよびTOBRAMYCIN(登録商標)など);クロラムフェニコール;スルホンアミド(スルファメトキサゾールなど);糖ペプチド(バンコマイシンなど);キノロン(シプロフロキサシンなど);フシジン酸;トリメトプリム;メトロニダゾール;クリンダマイシン;ムピロシン;ポリエン(アンホテリシンBなど);アゾール(フルコナゾールなど);ならびにβ−ラクタムインヒビター(スルバクタムなど)が挙げられる。添加され得る他の抗菌剤としては、例えば、抗菌ペプチドおよび/またはタンパク質、化学療法薬物、テロメラーゼインヒビター、他のフラノン(5−フラノンが挙げられる)、ミトキサントンなどが挙げられる。
【0140】
本開示の組成物と組み合わせられ得る防腐剤および殺菌剤の例としては、ヘキサクロロフェン;陽イオン性ビグアニド(クロルヘキシジンおよびシクロヘキシジンなど);ヨウ素およびヨードフォア(ポビドン−ヨウ素など);ハロ置換フェノール性化合物(PCMX(すなわち、p−クロロ−m−キシレノール)およびトリクロサン(すなわち、2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシ−ジフェニルエーテル)など);フラン医薬調製物(ニトロフラントインおよびニトロフラゾンなど);メテナミン;アルデヒド(グルタルアルデヒドおよびホルムアルデヒドなど);ならびにアルコールが挙げられる。いくつかの実施形態において、これらの抗菌剤のうちの少なくとも1つは、防腐剤(例えば、トリクロサン)であり得る。
【0141】
他の実施形態において、ポリマー薬物(すなわち、このような化合物のポリマー形態であり、例えば、ポリマー抗生物質、ポリマー防腐剤、ポリマー非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)など)が利用され得る。
【0142】
陰イオン性ポリマー(硫酸化ポリマーおよび/またはカルボン酸化ポリマーが挙げられる)が、本開示の組成物と組み合わせられ得る。このような陰イオン性ポリマーは、ある実施形態において、インビボで移植される場合に脈管形成応答を誘導し得る。
【0143】
他の実施形態において、正に荷電した粒子(例えば、ジエチルアミノエチルデキストラン(DEAE−デキストラン))が適用され得る。このような粒子は、皮膚の創傷および他の創傷の治癒の速度を増加させ得る。
【0144】
なお他の実施形態において、防腐特性を付与し得る第四級アンモニウム化合物が含まれ得る。
【0145】
本開示の組成物は、種々の任意の成分(例えば、安定剤、増粘剤、着色料など)と組み合わせられ得る。任意の成分は、本開示のコポリマーまたはブレンドから形成される組成物の総重量の約10%までの量で存在し得る。
【0146】
少量のフラノンおよび/またはヒドロキサメートが本開示の組成物において必要とされるので、既存の処方物および製造プロセスは、本明細書中に記載される組成物を製造するために、最小の改変のみを必要とする。この処方および製造の容易さは、他の抗菌剤またはMMPインヒビターを既存の材料に添加することと比較して、本開示の組成物を調製するために必要な時間と費用との両方を減少させ得る。
【0147】
ある実施形態において、本開示の組成物は抗菌特性およびMMP阻害特性を有するので、これらの組成物は、コンタクトレンズ、眼内レンズ、および他の医療デバイスまたはその上のコーティング(これらは、本開示の組成物を用いない場合、感染の高い発生にさらされることが公知である)を形成する際に有用であり得る。コンタクトレンズおよび眼内レンズについて、これらのレンズは、レンズに対して貧溶媒であり、そしてビニル基またはアクリレート基を有するフラノン、少なくとも1つのビニル基を有する少なくとも1種のリン脂質、およびヒドロキサメートを含む、溶液と一緒にインキュベートされ得る。これらのモノマーを含む溶液と一緒にこのレンズをインキュベートすることによって、このレンズの表面がこれらのモノマーで膨潤する。次いで、レンズおよびモノマーは、低線量の放射線(例えば、低線量のγ放射線)に曝露されて、コポリマーの形成、およびこのコポリマーとレンズ材料とのグラフト/相互侵入重合を開始し得る。
【0148】
他の実施形態において、本開示の組成物は、接着剤または封止剤として利用され得る。これらはまた、他の材料と一緒に利用されて、接着剤または封止剤を形成し得る。例えば、メタクリルアミド単位がポリマーの骨格に組み込まれる場合(例えば、MPCとNHMAAとが組み合わせられる場合)、得られるアミン基は、接着剤の他の成分(例えば、NHS官能基化PEGまたはポリイソシアネート官能性成分)上の求電子性基を架橋させるために使用され得る。他の実施形態において、本開示の2つの組成物が調製され得、一方が、正味正の電荷を有し、他方が正味負の電荷を有し、これらの2つの組成物は、組み合わせるとゲル化し得る。
【0149】
上記のように、本開示の組成物は、創傷治癒を促進するために利用され得、そしてまた、免疫調節剤、新生血管形成増強/刺激剤、およびさらなる創傷治癒剤を含んで、創傷の内部および周囲の疾患組織、損傷組織および/または損なわれた組織の創傷治癒を改善し得る。このことは、多くの損傷および/または創傷の処置において有用であり得る。例えば、本開示の組成物は、胃腸管の吻合の処置において、移植物またはその上のコーティングのいすれか、ならびに接着剤および/または封止剤を形成する際に有用であり得、虚血および/または再灌流障害を減少させる。虚血および/または再灌流障害は、創傷治癒の遅延、または組織壊死、吻合漏出、腹膜炎、術後接着、および潜在的に死をもたらし得る。
【0150】
ある実施形態において、外科手術用縫合糸、メッシュ、コンタクトレンズ、または他の医療デバイスは、ビニル基またはアクリレート基を有するフラノン、少なくとも1つのビニル基を有する少なくとも1種のリン脂質、およびヒドロキサメートを、必要に応じてさらなるビニルモノマーまたはアクリレートモノマーと組み合わせて含む溶液で、膨潤され得る。このデバイスが、モノマーを完全には可溶化しない溶媒を用いるモノマー溶液で膨潤される場合、得られるコポリマーの形成は、このデバイスの表面に局在し得、そしてこのデバイスの全体の特性に影響を与えたり損なったりしない。
【0151】
重合後、このデバイスは重合媒体(すなわち、モノマーおよび任意の開始剤、触媒などを含む溶液)から取り出され得、そして洗浄されて、過剰な本開示の遊離コポリマーおよび/または任意の残留モノマーを除去される。次いで、コポリマーコーティングを有する(ある実施形態において、グラフトされそして/または相互侵入される)デバイスは、さらなるエネルギー処理(γ放射線などの高エネルギー放射線が挙げられる)に供されてこのコポリマーコーティングを滅菌し得、かつさらに修飾し得る。
【0152】
ある実施形態において、本開示による医療デバイスは、縫合糸であり得る。本開示による縫合糸は、モノフィラメントであってもマルチフィラメントであってもよく、そして本開示の組成物または任意の従来の材料(生体吸収性材料と非生体吸収性材料との両方が挙げられる)から作製され得る。適切な材料としては、外科手術用ガット、絹、綿、ポリオレフィン(例えば、ポリプロピレン)、ポリアミド、ポリグリコール酸、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート)およびグリコリド−ラクチドコポリマーなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0153】
ある実施形態において、縫合糸は、ポリオレフィンから作製され得る。適切なポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンとポリプロピレンとのコポリマー、およびポリエチレンとポリプロピレンとのブレンドが挙げられる。いくつかの実施形態において、ポリプロピレンが、縫合糸を形成するために利用され得る。ポリプロピレンは、アイソタクチックポリプロピレンであっても、アイソタクチックポリプロピレンとシンジオタクチックポリプロピレンまたはアタクチックポリプロピレンとの混合物であってもよい。
【0154】
他の実施形態において、縫合糸は、合成吸収性ポリマー(例えば、グリコリド、ラクチド、カプロラクトン、アルキレンカーボネート(すなわち、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネートなど)、ジオキサノン、オルトエステル、ヒドロキシアルカノエート、ヒドロキシブチレート、チロシンカーボネート、ポリミドカーボネート、ポリイミノカーボネート(例えば、ポリ(ビスフェノールA−イミノカーボネート)およびポリ(ヒドロキノン−イミノカーボネート))、ならびにこれらのコポリマーおよび組み合わせ)から作製されるポリマーから作製され得る。利用され得る1つの組み合わせとしては、グリコリドおよびラクチドをベースとするポリエステル(グリコリドとラクチドとのコポリマーが挙げられる)が挙げられる。
【0155】
上記のように、縫合糸は、モノフィラメントであってもマルチフィラメントであってもよい。縫合糸がモノフィラメントである場合、このような縫合糸を製造する方法は、当業者の知識の範囲内である。このような方法としては、縫合糸材料(例えば、ポリオレフィン樹脂または本開示のコポリマー)を形成する工程、ならびにこの樹脂またはコポリマーを押し出し、延伸し、そしてアニーリングしてモノフィラメントを形成する工程を包含する。
【0156】
縫合糸が複数のフィラメントから作製される場合、この縫合糸は、当業者の知識の範囲内である任意の技術(例えば、編組、織ることまたは編むこと)を使用して作製され得る。これらのフィラメントはまた、組み合わせられて不織縫合糸を製造し得る。フィラメント自体は、縫合糸形成プロセスの一部として、延伸されるか、配向されるか、絡ませられるか、撚られるか、混繊されるか、または空気で絡ませられて、糸を形成し得る。
【0157】
ある実施形態において、本開示のマルチフィラメント縫合糸は、編組により製造され得る。編組は、当業者の知識の範囲内である任意の方法によりなされ得る。例えば、縫合糸および他の医療デバイスのための編組構築物は、米国特許第5,019,093号;同第5,059,213号;同第5,133,738号;同第5,181,923号;同第5,226,912号;同第5,261,886号;同第5,306,289号;同第5,318,575号;同第5,370,031号;同第5,383,387号;同第5,662,682号;同第5,667,528号;および同第6,203,564号に記載されており、これらの各々の全開示は本明細書中に参考として援用される。一旦、縫合糸が構築されると、この縫合糸は、当業者の知識の範囲内である任意の手段により滅菌され得る。
【0158】
いくつかの場合において、管状の編組またはシースが、コア構造体の周りに構築され得、編組機の中心に通して供給される。公知の管状編組縫合糸(コアを有するものを含む)は、例えば、米国特許第3,187,752号;同第3,565,077号;同第4,014,973号;同第4,043,344号;および同第4,047,533号に開示されている。
【0159】
ある実施形態において、本開示による縫合糸は、当業者の知識の範囲内である任意の外科手術用針に取り付けられて、針付き縫合糸を製造し得る。この針付き縫合糸を組織に通すことによって創傷が縫合され得、創傷閉鎖を作製する。次いで、この針がこの縫合糸から除去され得、そしてこの縫合糸が結ばれ得る。この縫合糸はこの組織内に残り得、そしてその抗菌特性によりこの組織の汚染および感染を防止することを補助し、これによって、創傷治癒を促進し、そして感染を最小にする。縫合糸コーティングはまた、有利には、外科医がこの縫合糸を組織に通す能力を増強し、そしてこの外科医がこの縫合糸を結び得る容易さおよび安全性を増加させる。
【0160】
上記説明は多くの具体例を含むが、これらの具体例は、本明細書中の開示の範囲に対する限定と解釈されるべきではなく、単に、本開示の特に有用な実施形態の例示と解釈されるべきである。当業者は、本開示の範囲および趣旨内で、他の多くの可能性を、添付の特許請求の範囲により規定されるものとして予測する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のビニルリン脂質を含む第一の成分;
式:
【化37】

の第二の成分であって、該式において、
、RおよびRは、独立してかまたは全てが、Hまたは水素であり;そして
は、H、ハロゲン、ホルミル、カルボキシル、シアノ、エステル、アミド、アルキル、アルコキシ、オキソアルキル、アルケニル、アルキニル、アリールまたはアリールアルキルからなる群より選択される部分であり;
、R、RおよびRのうちの少なくとも1つは、ビニル部分およびアクリルアミド部分からなる群より選択される部分で置換されている、第二の成分;ならびに
式:
【化38】

のヒドロキサメートを含む第三の成分であって、該式において、R10は、ビニル基、ヒドロキシアルキルアクリレート基、ヒドロキシアルキルメタクリレート基、アルキルアミン、アクリルアミド、メタクリルアミド、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、上記基を末端とするポリマー、およびこれらの組み合わせからなる群より選択され、そしてR11は水素を含む、第三の成分、
を含む、組成物。
【請求項2】
前記第一の成分が、式:
【化39】

の、少なくとも1つのビニル基を有するホスホリルコリンを含み、該式において、xは約1〜約10であり、そしてyは約1〜約10である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記第一の成分が、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンおよびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記第二の成分がビニルフラノンを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記第一の成分、前記第二の成分、および必要に応じて前記第三の成分が、コポリマーを構成する、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記コポリマーが、ビニルモノマー、アクリレートモノマー、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種のさらなるモノマーをさらに含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
ビニル官能性第四級アミン、メタクリル酸ヒドロキシエチル、n−ビニルピロリドン、アクリル酸ナトリウム、ビスアクリレート、スチレンスルホン酸、アクリル酸ブチル、アクリル酸スルホプロピル、メタクリル酸スルホプロピル、アクリルアミド、ジアクリルアミド、メタクリル酸、アクリル酸、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールアクリレート、シリコーンアクリレート、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種のさらなるモノマーをさらに含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
式:
【化40】

の、少なくとも1つのビニル基を有するホスホリルコリンを含む第一の成分であって、該式において、xは約1〜約10であり、そしてyは約1〜約10である、第一の成分;
式:
【化41】

のフラノンであって、該式において、
、RおよびRは、独立してかまたは全てが、Hまたはハロゲンであり、そして
は、H、ハロゲン、ホルミル、カルボキシル、シアノ、エステル、アミド、アルキル、アルコキシ、オキソアルキル、アルケニル、アルキニル、アリールまたはアリールアルキルからなる群より選択される部分であり、
、R、RおよびRのうちの少なくとも1つは、ビニル部分およびアクリレート部分からなる群より選択される部分で置換されている、フラノン;ならびに
式:
【化42】

のヒドロキサメートであって、該式において、R10は、ビニル基、アクリル酸ヒドロキシルアルキル基、メタクリル酸ヒドロキシルアルキル基、アルキルアミン、アクリルアミド、メタクリルアミド、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、上記基を末端とするポリマー、およびこれらの組み合わせからなる群より選択され、そしてR11は水素を含む、ヒドロキサメート、
を含む組成物。
【請求項9】
前記第一の成分が、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンおよびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記フラノンがビニルフラノンを含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
前記第一の成分、前記フラノン、および必要に応じて前記ヒドロキサメートが、コポリマーを構成する、請求項8に記載の組成物。
【請求項12】
ビニルモノマー、アクリレートモノマー、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種のさらなるモノマーをさらに含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
ビニル官能性第四級アミン、メタクリル酸ヒドロキシエチル、n−ビニルピロリドン、アクリル酸ナトリウム、ビスアクリレート、スチレンスルホン酸、アクリル酸ブチル、アクリル酸スルホプロピル、メタクリル酸スルホプロピル、アクリルアミド、ジアクリルアミド、メタクリル酸、アクリル酸、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールアクリレート、シリコーンアクリレート、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種のさらなるモノマーをさらに含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項14】
少なくとも1種のビニルリン脂質を含む第一の成分;
式:
【化43】

の第二の成分であって、該式において、
、RおよびRは、独立してかまたは全てが、Hまたはハロゲンであり、そして
は、H、ハロゲン、ホルミル、カルボキシル、シアノ、エステル、アミド、アルキル、アルコキシ、オキソアルキル、アルケニル、アルキニル、アリールまたはアリールアルキルからなる群より選択される部分であり、
、R、RおよびRのうちの少なくとも1つは、ビニル部分およびアクリレート部分からなる群より選択される部分で置換されている、第二の成分;ならびに
式:
【化44】

のヒドロキサメートを含む第三の成分であって、該式において、R10は、ビニル基、アクリル酸ヒドロキシルアルキル基、メタクリル酸ヒドロキシルアルキル基、アルキルアミン、アクリルアミド、メタクリルアミド、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、上記基を末端とするポリマー、およびこれらの組み合わせからなる群より選択され、そしてR11は水素を含む、第三の成分、
を含む物品。
【請求項15】
前記第一の成分が、式:
【化45】

の、少なくとも1つのビニル基を有するホスホリルコリンを含み、該式において、xは約1〜約10であり、そしてyは約1〜約10である、請求項14に記載の物品。
【請求項16】
前記第一の成分が、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンおよびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項14に記載の物品。
【請求項17】
前記第二の成分がビニルフラノンを含む、請求項14に記載の物品。
【請求項18】
前記第一の成分、前記第二の成分、および必要に応じて前記第三の成分が、コポリマーを構成する、請求項14に記載の物品。
【請求項19】
前記物品が、縫合糸、外科手術用メッシュ、コンタクトレンズ、眼内レンズ、ステープル、クリップ、バットレス、ラップバンド、カテーテル、包帯、ステント、移植片、ステント/移植片、結び目のない創傷閉鎖具、封止剤、接着剤、接着防止デバイス、アンカー、トンネル、骨充填剤、合成腱、合成靭帯、移植片、組織足場、ピン、ねじ、整形外科用金属類、ペーサー、ペースメーカー、および移植物からなる群より選択される、請求項14に記載の物品。
【請求項20】
少なくとも1種のビニルリン脂質を含む第一の成分;ならびに
式:
【化46】

のヒドロキサメートを含む第二の成分であって、該式において、R10は、ビニル基、アクリル酸ヒドロキシルアルキル基、メタクリル酸ヒドロキシルアルキル基、アルキルアミン、アクリルアミド、メタクリルアミド、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、上記基を末端とするポリマー、およびこれらの組み合わせからなる群より選択され、そしてR11は水素を含む、第二の成分、
を含む組成物。

【公開番号】特開2010−95719(P2010−95719A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−237494(P2009−237494)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【出願人】(507362281)タイコ ヘルスケア グループ リミテッド パートナーシップ (666)
【Fターム(参考)】