説明

ヒドロキシアダマンタンカルボン酸類の製造方法及び精製方法

【課題】アダマンタン骨格を有し、光学特性や耐熱性などに優れた機能性樹脂の原料であるヒドロキシアダマンタンカルボン酸類の効率的な製造方法を提供すること。
【解決手段】一般式(1)で表されるアダマンタンジオール類を、液状プロトン酸溶媒中、該アダマンタンジオール類の水酸基1当量に対し2当量以下の一酸化炭素源を反応させ、その後一般式(2)で表されるヒドロキシアダマンタンカルボン酸の結晶をろ別する、ヒドロキシアダマンタンカルボン酸類の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アダマンタン骨格を有し、光学特性や耐熱性、酸解離性などに優れた、架橋型樹脂、光ファイバーや光導波路、光ディスク基板、フォトレジストなどの光学材料およびその原料、医薬・農薬中間体、その他各種工業製品などとして有用なヒドロキシアダマンタンカルボン酸類の新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アダマンタン骨格を有する化合物は剛直な構造を有し、高い耐熱性や光学特性を示すことから、高機能樹脂材料や医薬中間体、光学材料、フォトレジスト材料などに有用であることが知られている(例えば特許文献1〜4参照)。その中でも同一分子中に水酸基とカルボキシル基を有するヒドロキシアダマンタンカルボン酸類は耐熱性に優れることに加え、水酸基とカルボキシル基の反応性の違いを利用することで特異な樹脂材料、医薬中間体として使用できるため有用である。
【0003】
ヒドロキシアダマンタンカルボン酸類はアダマンタンジオール類からアダマンタンジカルボン酸類をKoch反応により製造する際の副生成物として生成することが知られているが(特許文献5参照)、ヒドロキシアダマンタンカルボン酸類を目的物として製造する方法はこれまで示されていなかった。
また、ヒドロキシアダマンタンカルボン酸類とアダマンタンジカルボン酸類はその分子の極性が非常に近いため、通常の精製方法では分離しにくいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−0305044号公報
【特許文献2】特公平1−53633号公報
【特許文献3】特開平4−39665号公報
【特許文献4】特開2006−016379号公報
【特許文献5】特開2010−150220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、アダマンタンジオール類からヒドロキシアダマンタンカルボン酸類を主生成物として得る方法を提供し、さらに該反応等により得られる、ヒドロキシアダマンタンカルボン酸類とアダマンタンジカルボン酸類とを含む混合物について、特定の精製方法を用いることにより、高純度のヒドロキシアダマンタンジカルボン酸類を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、アダマンタンジオール類の水酸基をKoch反応によりカルボキシル基に変換するに際し、特定量の一酸化炭素源を用いることにより、目的とするヒドロキシアダマンタンカルボン酸類を主生成物として得ること、及び該反応で得られるような、ヒドロキシアダマンタンカルボン酸類とアダマンタンジカルボン酸類との混合物に対し、極性溶媒と水を用いてアダマンタンジカルボン酸類を析出させて除くという方法を見出し、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、アダマンタン骨格を有し、光学特性や耐熱性、酸解離性などに優れた、架橋型樹脂、光ファイバーや光導波路、光ディスク基板、フォトレジストなどの光学材料およびその原料、医薬・農薬中間体、その他各種工業製品などとして有用なヒドロキシアダマンタンカルボン酸類を効率的に製造できるヒドロキシアダマンタンカルボン酸類の製造方法及びアダマンタンジカルボン酸類を不純物として含むヒドロキシアダマンタンの精製方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0009】
本発明は、以下である。
1.
一般式(1)で表されるアダマンタンジオール類を、液状プロトン酸溶媒中、該アダマンタンジオール類の水酸基1当量に対し2当量以下の一酸化炭素源を反応させ、その後一般式(2)で表されるヒドロキシアダマンタンカルボン酸の結晶をろ別する、ヒドロキシアダマンタンカルボン酸類の製造方法。
【化1】

(1)
(式中、Xは同一または異なって水素原子、アルキル基、アルコキシ基を示し、nは14の整数を示す。)
【化2】

(2)
(式中、Xは同一または異なって水素原子、アルキル基、アルコキシ基を示し、nは14の整数を示す。)
2.
前記結晶のろ別方法が、下記(i)〜(iii):
(i)反応液に水を加えて析出する結晶をろ別する、
(ii)反応液に水を加えて析出する結晶をろ別し、得られた結晶にアルカリ性水溶液と有機溶媒とを添加し、アルカリ性水溶液と有機溶媒を分液して、アルカリ性水溶液に酸性水溶液を加えて析出する結晶をろ別する、
(iii)反応液にアルカリ性水溶液と有機溶媒とを添加してアルカリ性水溶液と有機溶媒を分液して、アルカリ性水溶液に酸性水溶液を加えて析出する結晶をろ別する、
のいずれかの方法である、1.に記載の製造方法。
3.
前記一酸化炭素源が、一酸化炭素、ギ酸、ギ酸アルキルエステルからなる群から選ばれるいずれか1種以上である、1.又は2.に記載の製造方法。
4.
不純物として少なくとも一般式(3)で表されるアダマンタンジカルボン酸類を含有する、一般式(2)で表されるヒドロキシアダマンタンカルボン酸類が主成分である混合物の精製方法であって、該精製方法が、極性有機溶媒と水を使用した晶析により該アダマンタンジカルボン酸を析出させて除くものである、ヒドロキシアダマンタンカルボン酸類の精製方法。
【化3】

(3)
(式中、Xは同一または異なって水素原子、アルキル基、アルコキシ基を示し、nは14の整数を示す。)
5.
前記混合物が、さらに一般式(4)で表されるアダマンタンモノカルボン酸を含む、4.に記載の精製方法。
【化4】

(4)
(式中、Xは同一または異なって水素原子、アルキル基、アルコキシ基を示し、nは15の整数を示す。)
6.
前記晶析方法が、前記混合物を極性有機溶媒に溶解させ、その後水を加えて前記アダマンタンジカルボン酸を析出させて除くものである、4.又は5.に記載の精製方法。
7.
前記極性有機溶媒が、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドから選ばれる群のうちいずれか1種以上である、4.〜6.のいずれかに記載の精製方法。
8.
前記極性有機溶媒の使用量が、前記混合物に対して4〜40質量倍である、請求項4.〜7.のいずれかに記載の精製方法。
9.
前記水の使用量が、前記極性有機溶媒に対して、3〜5質量倍である、4.〜8.のいずれかに記載の精製方法。
10.
前記混合物が、1.〜3.のいずれかに記載のヒドロキシアダマンタンカルボン酸類の製造方法により得られたものである、4.〜9.のいずれかに記載の精製方法。
【0010】
本発明に用いられるアダマンタンジオール類は一般式(1)で表わされる。具体的には、1,3−アダマンタンジオール、5−メチル−1,3−アダマンタンジオール、5,7−ジメチル−1,3−アダマンタンジオール、5,7−ジエチル−1,3−アダマンタンジオール、5−メトキシ−1,3−アダマンタンジオール、5−エトキシ−1,3−アダマンタンジオール、5−プロポキシ−1,3−アダマンタンジオール、5−ブトキシ−1,3−アダマンタンジオールなどが挙げられる。
特に、原料の調達が容易であることから1,3−アダマンタンジオールが好ましい。
【0011】
本発明における溶媒としては、反応を円滑に行うことができるため、液状プロトン酸が用いられる。例えば、有機酸(ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸などの有機カルボン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、トリフルオロメチルスルホン酸などの有機スルホン酸など)、無機酸(例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸など)があり、その中で得られるヒドロキシアダマンタンカルボン酸の反応における選択率の観点から硫酸が好ましい。
特に硫酸を用いる場合には、使用する濃硫酸の濃度は、水酸基の転化率の観点から90質量%以上の水溶液を用いることが好ましく、さらに96質量%以上の水溶液を用いることが好ましい。
【0012】
液状プロトン酸溶媒の使用量は、アダマンタンジオール類に対して2〜20質量倍、好ましくは4〜16質量倍、さらに好ましくは4〜6質量倍にすることが望ましい。この範囲内であると、水酸基のカルボキシル化反応が十分進行し、分離工程を少量の有機溶媒や水で行うことができる。
【0013】
本反応においては、水酸基をカルボキシル基に変換するものとして、一酸化炭素源が用いられる。一酸化炭素源としては、一酸化炭素、ギ酸、ギ酸アルキルエステルが用いられる。
一酸化炭素は、純粋な一酸化炭素であってもよく、不活性ガスで希釈して使用してもよい。一酸化炭素は常圧もしくはオートクレーブを使用した加圧下で使用してもよい。
ギ酸及びギ酸アルキルエステルは、試薬又は工業薬品が使用できる。
【0014】
ギ酸アルキルエステルの具体例としては、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸ペンチル、ギ酸ヘキシル、ギ酸ヘプチル、ギ酸オクチル、ギ酸ノニル、ギ酸デカニル、ギ酸シクロヘキシルなどが挙げられる。
その中でも、ギ酸メチルが安価で取り扱いが容易なため好ましい。
【0015】
一酸化炭素源の使用量は、アダマンタンジオール類の水酸基1当量に対して2当量以下が用いられる。2当量より多いと、アダマンタンジカルボン酸類が主生成物として生成し、目的とするヒドロキシアダマンタンカルボン酸類がほとんど得られないためである。また目的とするヒドロキシアダマンタンカルボン酸類を収率良く製造するために0.9〜2当量使用するのが好ましい。さらに0.9〜1.2当量で使用することが特に好ましい。
【0016】
次に、本発明の反応条件について詳細に説明する。
反応温度は、例えば、−78〜200℃で行われ、好ましくは−20〜100℃で、さらに好ましくは0〜80℃程度で行うことが好ましい。この範囲内であればヒドロキシル基のカルボキシル化反応が十分進行し、副反応の進行も少ない。
また、反応圧力は特に制限されず、常圧または加圧下で行なうことができる。
【0017】
反応時間は、一酸化炭素源が十分に転化されれば特に限定されないが、1〜100時間で行うことが好ましく、さらに1〜10時間で行うことが特に好ましい。この範囲内で反応を行うことで、カルボキシル化を十分に進行させることと、製造効率を両立させることができるからである。
【0018】
カルボキシル化反応終了後は、目的とするジヒドロキシアダマンタンカルボン酸類をろ別して目的とするジヒドロキシアダマンタンカルボン酸類を得る。ろ別の方法は特に制限されないが、特に以下の3種の方法が、ヒドロキシアダマンタンカルボン酸類の析出効率が良好で、不純物の少ないものが得られる。
(i)反応液に水を加えて結晶を析出させ、ろ別する。
(ii)反応液に水を加えて析出する結晶をろ別し、得られた結晶にアルカリ性水溶液と有機溶媒とを添加し、アルカリ性水溶液と有機溶媒を分液して、アルカリ性水溶液に酸性水溶液を加えて析出する結晶をろ別する。
(iii)反応液にアルカリ性水溶液と有機溶媒とを添加してアルカリ性水溶液と有機溶媒を分液して、アルカリ性水溶液に酸性水溶液を加えて析出する結晶をろ別する。
【0019】
(i)及び(ii)の操作で結晶を析出させるために加える水の量は、反応に使用したプロトン酸溶媒に対し1〜20質量倍、好ましくは1〜10質量倍、さらに好ましくは2〜5質量倍で実施する。この範囲内であると硫酸が十分希釈され、ヒドロキシアダマンタンカルボン酸類の溶液への残留が少なくなる。
【0020】
(ii)及び(iii)の操作で加えるアルカリ性水溶液のアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化アンモニウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドのようなテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド類等が挙げられ、特に水酸化ナトリウムが安価で取り扱いが容易なため好ましい。
アルカリ性水溶液の濃度は、1〜30質量%が好ましく、10〜20質量%の濃度がより好ましい。
加えるアルカリ性水溶液の量は、(ii)の操作の場合は、原料アダマンタンジオール類に対して、1質量倍〜10質量倍、(iii)の操作の場合は、原料アダマンタンジオール類に対して、10質量倍〜40質量倍を使用し、pHがアルカリ性側になるまで添加する。
【0021】
また、(ii)及び(iii)の操作で加える有機溶媒としては、ヒドロキシアダマンタンカルボン酸類が溶解するものであれば特に限定されないが、例えば酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、酢酸ヘキシル、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸ペンチル、ギ酸ヘキシル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸ペンチル、プロピオン酸ヘキシルなどのエステル類、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノールなどのアルコール化合物、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、3−ヘキサノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン化合物等が挙げられる。その中でも溶解効率の観点から酢酸エチルが好ましい。
また、加える有機溶媒の量は、原料アダマンタンジオール類に対して、1〜100質量倍、好ましくは1〜20質量倍、より好ましくは2〜20質量倍を使用する。また、抽出回数に特に制限はない。
【0022】
さらに、(ii)及び(iii)の操作で加える酸性水溶液の酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸類の水溶液が挙げられ、特に硫酸が安価で取り扱いが容易なため好ましい。
酸性水溶液の濃度は、1〜30質量%が好ましく、より好ましくは10〜20質量%の濃度の水溶液を使用する。
加える酸性水溶液の量は、1質量倍〜20質量倍を使用し、pHが酸性側になるまで添加する。
【0023】
ろ別の方法としては、フィルターを用いた自然ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過、遠心ろ過など一般的なろ過の方法で行うことができる。
【0024】
以上の操作を具体的に例示すると、式(5)で表される1,3−アダマンタンジオール1.0モルに4.0質量倍の濃硫酸を加え、攪拌しながら一酸化炭素源としてギ酸を1.0モル(アダマンタンジオールの水酸基に対して0.5当量)を滴下して加え、常圧下、35℃で3時間攪拌しながら反応させた後、反応液に酢酸エチルと水酸化ナトリウム水溶液を加えて分液し、得られた水層に硫酸水溶液を加えてヒドロキシアダマンタンカルボン酸類を析出させ、ろ過により結晶を得るという方法により、ヒドロキシアダマンタンカルボン酸類を製造することができる。
【0025】
【化5】

(5)
【0026】
次に、不純物として少なくとも一般式(3)で表されるアダマンタンジカルボン酸類を含有する、ヒドロキシアダマンタンカルボン酸類が主成分である混合物の精製方法について詳細に説明する。
本発明は、該混合物に極性有機溶媒と水を加えることで、不純物であるアダマンタンジカルボン酸類の結晶を析出させ、その結晶をろ過等により除いてヒドロキシアダマンタン類を精製するというものである。
また、該混合物においてはアダマンタン骨格を有する化合物が存在してもよく、例えば一般式(4)で表されるアダマンタンカルボン酸類も本発明により効率良く除くことができる。
【0027】
本発明で使用する溶媒の一つとして極性有機溶媒を使用する。極性有機溶媒を水と使用することでヒドロキシアダマンタンカルボン酸類を溶解させ、アダマンタンジカルボン酸類を溶解させないという調節をすることができる。
極性有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノールなどのアルコール化合物、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル化合物、ジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドが挙げられ、特にメタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノールなどのアルコール化合物がヒドロキシアダマンタンカルボン酸類とアダマンタンジカルボン酸類の溶解度差が大きくアダマンタンジカルボン酸類の分離が容易となるため好ましい。
これらの極性有機溶媒は1種又は2種以上を使用することができる。
使用する有機溶媒の使用量としては、特に制限はないが、十分にヒドロキシアダマンタンカルボン酸類を溶解させる観点から前記混合物に対して4〜40質量倍が好ましく、特に4〜10質量倍であることが好ましい。
【0028】
本発明で使用する水は、アダマンタンジカルボン酸類の溶媒への溶解度を低下させ、アダマンタンジカルボン酸類の結晶を析出させやすくするという効果がある。
使用する水の量としては、アダマンタンジカルボン酸類が析出することにより分離できれば特に制限はないが、ヒドロキシアダマンタンカルボン酸類を収率良く取得するためには極性有機溶媒に対して3〜5質量倍を使用することが好ましい。
【0029】
本発明においては、極性有機溶媒と水を加える順序として特に制限はないが、前記混合物を極性有機溶媒に溶解させた後、水を加えて結晶を析出させるという方法は特にアダマンタンカルボン酸類の除去効率が高く好ましい。
【0030】
本発明においては、アダマンタンジカルボン酸類等をろ過により取り除き、目的とするヒドロキシアダマンタンカルボン酸類はろ液中に溶解した状態で存在するので、該ろ液の極性有機溶媒を留去し、ヒドロキシアダマンタンカルボン酸類を析出させて得る。その際乾固しても良いが、ろ液を2〜20倍濃縮することで他の微量不純物も効率良く除くことができ、ヒドロキシアダマンタンカルボン酸の純度を向上させることができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて、本発明の内容をさらに具体的に説明する。但し、本発明は、下記実施例に何ら制約されるものではない。
【0032】
実施例1
(1)カルボキシル化工程
攪拌機、温度計、滴下ロート、ジムロートを備えたフラスコに、1,3−アダマンタンジオール(純度96%)50gを仕込み、濃硫酸200.7gを入れた。フラスコを35℃のウォーターバスで加熱し30分攪拌した後、反応温度を35℃〜40℃に保ちギ酸13.7gを1時間かけて滴下した。滴下終了後、2時間室温で攪拌し、その後、フラスコを氷冷して液温10〜40℃の範囲に留まるように時間をかけて、イオン交換水775.2gを加えた。その後十分に攪拌し、析出した結晶を吸引ろ過によりNo.5Cろ紙を用いてろ別した。結晶に15質量%水酸化ナトリウム水溶液120gと酢酸エチル200mLとを加えて十分に攪拌し、分液した。分液後、水酸化ナトリウム水溶液に10質量%硫酸水溶液180gを加え析出した結晶をろ別し、3−ヒドロキシ−1−アダマンタンカルボン酸を含む混合物39.2g(純度74%)を得た。また、3−ヒドロキシ−1−アダマンタンカルボン酸以外の成分は表1に示す通りであった。
【0033】
実施例2
(2)精製工程
実施例1で得られた混合物にメタノール200gを加え、30分攪拌した後、イオン交換水770gを加え氷冷しながら2時間攪拌した。その後、結晶をろ別し、ろ液を579gまで濃縮した。結晶が析出し、ろ別したところ、3−ヒドロキシ−1−アダマンタンカルボン酸21.7gを得た(取出し収率38%、純度96%)。
【0034】
実施例3
(1)カルボキシル化工程
攪拌機、温度計、滴下ロート、ジムロートを備えたフラスコに、1,3−アダマンタンジオール(純度96%)50.6gを仕込み、濃硫酸201.6gを入れた。フラスコを35℃のウォーターバスで加熱し30分攪拌した後、反応温度を35℃〜40℃に保ちギ酸13.7gを1時間かけて滴下した。滴下終了後、2時間室温で攪拌し、その後、フラスコを氷冷して液温10〜40℃の範囲に留まるように時間をかけて、15質量%水酸化ナトリウム水溶液1100gを加えた。その後、酢酸エチル200mLを加えて十分に攪拌し、分液した。分液後、水酸化ナトリウム水溶液に10質量%硫酸水溶液230gを加え析出した結晶を吸引ろ過によりNo.5Cろ紙を用いてろ別し、3−ヒドロキシ−1−アダマンタンカルボン酸を含む混合物36.4g(純度67%)を得た。また、3−ヒドロキシ−1−アダマンタンカルボン酸以外の成分は表1に示す通りであった。
【0035】
実施例4
(2)精製工程
実施例3で得られた混合物にメタノール120gを加え、30分攪拌した後、イオン交換水360gを加え氷冷しながら2時間攪拌した。その後、結晶をろ別し、ろ液を340gまで濃縮した。結晶が析出し、ろ別したところ、3−ヒドロキシ−1−アダマンタンカルボン酸16.8gを得た(取出し収率31%、純度96%)。
【0036】
比較例1
実施例2の精製工程において、メタノール/イオン交換水混合溶媒に換えてアセトニトリル1000gを加える以外は実施例2と同様の操作を行ったところ、3−ヒドロキシ−1−アダマンタンカルボン酸9gを得た(取出し収率10%、純度78%)。収率は大幅に低下し、純度はほとんど向上しなかった。
【0037】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されるアダマンタンジオール類を、液状プロトン酸溶媒中、該アダマンタンジオール類の水酸基1当量に対し2当量以下の一酸化炭素源を反応させ、その後一般式(2)で表されるヒドロキシアダマンタンカルボン酸の結晶をろ別する、ヒドロキシアダマンタンカルボン酸類の製造方法。
【化1】

(1)
(式中、Xは同一または異なって水素原子、アルキル基、アルコキシ基を示し、nは14の整数を示す。)
【化2】

(2)
(式中、Xは同一または異なって水素原子、アルキル基、アルコキシ基を示し、nは14の整数を示す。)
【請求項2】
前記結晶のろ別方法が、下記(i)〜(iii):
(i)反応液に水を加えて析出する結晶をろ別する、
(ii)反応液に水を加えて析出する結晶をろ別し、得られた結晶にアルカリ性水溶液と有機溶媒とを添加し、アルカリ性水溶液と有機溶媒を分液して、アルカリ性水溶液に酸性水溶液を加えて析出する結晶をろ別する、
(iii)反応液にアルカリ性水溶液と有機溶媒とを添加してアルカリ性水溶液と有機溶媒を分液して、アルカリ性水溶液に酸性水溶液を加えて析出する結晶をろ別する、
のいずれかの方法である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記一酸化炭素源が、一酸化炭素、ギ酸、ギ酸アルキルエステルからなる群から選ばれるいずれか1種以上である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
不純物として少なくとも一般式(3)で表されるアダマンタンジカルボン酸類を含有する、一般式(2)で表されるヒドロキシアダマンタンカルボン酸類が主成分である混合物の精製方法であって、該精製方法が、極性有機溶媒と水を使用した晶析により該アダマンタンジカルボン酸を析出させて除くものである、ヒドロキシアダマンタンカルボン酸類の精製方法。
【化3】

(3)
(式中、Xは同一または異なって水素原子、アルキル基、アルコキシ基を示し、nは14の整数を示す。)
【請求項5】
前記混合物が、さらに一般式(4)で表されるアダマンタンモノカルボン酸類を含む、請求項4に記載の精製方法。
【化4】

(4)
(式中、Xは同一または異なって水素原子、アルキル基、アルコキシ基を示し、nは15の整数を示す。)
【請求項6】
前記晶析方法が、前記混合物を極性有機溶媒に溶解させ、その後水を加えて前記アダマンタンジカルボン酸類を析出させて除くものである、請求項4又は5に記載の精製方法。
【請求項7】
前記極性有機溶媒が、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドからなる群から選ばれるいずれか1種以上である、請求項4〜6のいずれかに記載の精製方法。
【請求項8】
前記極性有機溶媒の使用量が、前記混合物に対して4〜40質量倍である、請求項4〜7のいずれかに記載の精製方法。
【請求項9】
前記水の使用量が、前記極性有機溶媒に対して、3〜5質量倍である、請求項4〜8のいずれかに記載の精製方法。
【請求項10】
前記混合物が、請求項1〜3のいずれかに記載のヒドロキシアダマンタンカルボン酸類の製造方法により得られたものである、請求項4〜9のいずれかに記載の精製方法。

【公開番号】特開2013−107836(P2013−107836A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252231(P2011−252231)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】