説明

ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとその製造方法

【課題】 ジアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートの副生を実質的に抑えた、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法、および、実質的にジアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートを含まないヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを提供する。
【解決手段】 本発明にかかる製造方法は、触媒の存在下で(メタ)アクリル酸とアルキレンカーボネートとを反応させてヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを製造する方法において、前記触媒として、ナトリウム化合物、カリウム化合物、セシウム化合物、マグネシウム化合物、バナジウム化合物、クロム化合物、亜鉛化合物、リン化合物、および硫黄化合物から選ばれる少なくとも1種を用いる。本発明にかかるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、ジアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートの含有割合が0.01重量%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒の存在下で(メタ)アクリル酸とアルキレンカーボネートとを反応させてヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを製造する方法、および、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを製造する方法として、触媒の存在下で(メタ)アクリル酸とアルキレンオキシドとを反応させる方法が知られている(特許文献1参照)。しかし、この方法では、アルキレンオキシドの二付加体であるジアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート(以下、「二付加体」と称することがある。)が、選択率(原料(メタ)アクリル酸基準)で数モル%〜10モル%ほど副生するため、目的生成物(ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート)の収率が低下するという問題が生じている。
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを製造する別の方法として、特定の窒素化合物(3級アミンなど)の存在下で(メタ)アクリル酸とアルキレンカーボネートとを反応させる方法が知られている(特許文献2参照)。しかし、この方法においても、二付加体が選択率(原料(メタ)アクリル酸基準)で数モル%〜10モル%ほど副生するため、上記と同様の問題が生じている。
【特許文献1】特開2004−10602号公報
【特許文献2】ベルギー国特許第632941号(1963)明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が解決しようとする課題は、ジアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートの副生を実質的に抑えた、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法を提供することにある。また、実質的にジアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートを含まないヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った。その結果、原料として(メタ)アクリル酸とアルキレンカーボネートを採用するとともに、触媒として、ナトリウム化合物、カリウム化合物、セシウム化合物、マグネシウム化合物、バナジウム化合物、クロム化合物、亜鉛化合物、リン化合物、および硫黄化合物から選ばれる少なくとも1種を用いるようにすると、ジアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートの副生が選択率(原料(メタ)アクリル酸基準)で0.8モル%未満に抑えることができ、実質的にジアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートを含まないヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを容易に製造することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0005】
すなわち、本発明にかかるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法は、触媒の存在下で(メタ)アクリル酸とアルキレンカーボネートとを反応させてヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを製造する方法において、前記触媒として、ナトリウム化合物、カリウム化合物、セシウム化合物、マグネシウム化合物、バナジウム化合物、クロム化合物、亜鉛化合物、リン化合物、および硫黄化合物から選ばれる少なくとも1種を用いることを特徴とする。
また、本発明にかかるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、ジアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートの含有割合が0.01重量%以下である。
【0006】
また、本発明にかかる別のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、本発明の製造方法によって得られるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートであって、ジアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートの含有割合が0.01重量%以下である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、触媒の存在下で(メタ)アクリル酸とアルキレンカーボネートとを反応させてヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを製造するにあたり、ジアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートの副生が選択率(原料(メタ)アクリル酸基準)で0.8モル%未満に抑えることができ、実質的にジアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートを含まないヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを容易に製造することができる。また、本発明によれば、実質的にジアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートを含まないヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
本発明において用いる(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸および/またはメタクリル酸を意味する。
本発明において用いるアルキレンカーボネートとしては、特に限定されないが、好ましくは、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートである。
本発明の製造方法において、(メタ)アクリル酸とアルキレンカーボネートとの反応における、(メタ)アクリル酸の全供給量とアルキレンカーボネートの全供給量との量関係は、特に限定されないが、(メタ)アクリル酸1モルに対してアルキレンカーボネートが、好ましくは0.5〜20モル、より好ましくは0.5〜10モル、さらに好ましくは0.5〜5モル、特に好ましくは1〜5モル、最も好ましくは1〜2モルである。上記量関係において、(メタ)アクリル酸1モルに対しアルキレンカーボネートが0.5モル未満であると、反応が進行しにくくなるおそれがあるほか、反応転化率が低下し、副生物が増加するおそれがある。上記量関係において、(メタ)アクリル酸1モルに対しアルキレンカーボネートが20モルを超えると、アルキレンカーボネートの回収工程等が必要となり、経済的不利益を招くおそれがある。
【0009】
本発明の製造方法において、(メタ)アクリル酸とアルキレンカーボネートとの反応に用いる触媒は、ナトリウム化合物、カリウム化合物、セシウム化合物、マグネシウム化合物、バナジウム化合物、クロム化合物、亜鉛化合物、リン化合物、および硫黄化合物から選ばれる少なくとも1種であり、好ましくは、リン化合物、および硫黄化合物から選ばれる少なくとも1種である。特に、リン化合物、および硫黄化合物から選ばれる少なくとも1種を用いると、ジアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートの副生を非常に効果的に抑えたヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを得ることが可能となる。
ナトリウム化合物としては、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、ナトリウムメトキシド、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0010】
カリウム化合物としては、水酸化カリウム、酢酸カリウム、カリウムメトキシド、ヨウ化カリウム、アクリル酸カリウム、メタクリル酸カリウムなどが挙げられる。
セシウム化合物としては、酢酸セシウム、アクリル酸セシウム、メタクリル酸セシウムなどが挙げられる。
マグネシウム化合物としては、酢酸マグネシウム、アクリル酸マグネシウム、メタクリル酸マグネシウムなどが挙げられる。
バナジウム化合物としては、塩化バナジウム、アセチルアセトンバナジウム、ナフテン酸バナジウム、アクリル酸バナジウム、メタクリル酸バナジウムなどが挙げられる。
【0011】
クロム化合物としては、塩化クロム、アセチルアセトンクロム、蟻酸クロム、酢酸クロム、オクタン酸クロム、イソオクタン酸クロム、重クロム酸ソーダ、ジブチルジチオカルバミン酸クロム、アクリル酸クロム、メタクリル酸クロムなどが挙げられる。
亜鉛化合物としては、塩化亜鉛、アセチルアセトン亜鉛、蟻酸亜鉛、酢酸亜鉛、アクリル酸亜鉛、メタクリル酸亜鉛などが挙げられる。
リン化合物としては、トリ−n−ブチルホスファイト、トリフェニルホスファイトなどのアルキルホスファイト類;トリ−n−ブチルホスフェート、トリフェニルホスフェートなどのアルキルホスフェート類;トリ−n−ブチルホスフィンオキシド、トリフェニルホスフィンオキシドなどのアルキルホスフィンオキシド類;トリメチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリトルイルホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィン)エタンなどのアルキルホスフィン類;ヨード化合物、ブロム化合物、クロル化合物;(メタ)アクリル酸塩等の4級ホスホニウム塩;などが挙げられる。
【0012】
硫黄化合物としては、ジメチルスルフィド、ジブチルスルフィド、ジオクチルスルフィド、ジフェニルスルフィドなどの、アルキルスルフィド類;ヨード化合物、ブロム化合物、クロル化合物;(メタ)アクリル酸塩等のスルホニウム塩などが挙げられる。
本発明の製造方法において、(メタ)アクリル酸とアルキレンカーボネートとの反応に用いる触媒の使用量は、(メタ)アクリル酸の使用量に対し、好ましくは0.01〜10モル%、より好ましくは0.05〜10モル%、さらに好ましくは0.1〜10モル%、特に好ましくは0.1〜5モル%である。上記使用量が0.01モル%未満であると、反応速度が小さくなるため反応時間が長くなり生産コストが高くなるおそれがあり、10モル%を超えると、副生物(二付加体など)の反応選択性が高くなるおそれがある。
【0013】
本発明の製造方法において、(メタ)アクリル酸とアルキレンカーボネートとの反応は、バッチ式の反応(バッチ反応)であってもよいし連続式の反応(連続反応)であってもよい。バッチ反応は、反応を容易に完結させることができ、未反応(メタ)アクリル酸やアルキレンカーボネートを回収する設備が必要でないために経済的である。連続反応は、バッチ反応を実施した場合のような、原料仕込み、昇温、冷却、抜き出しおよび待機等の、反応器の占有時間が無いため、生産性を高くできる。
本発明の製造方法をバッチ反応により実施する場合は、反応器に触媒と(メタ)アクリル酸とアルキレンカーボネートとを適宜供給して反応を進行させ、反応液中の残存(メタ)アクリル酸量が所望の量になった時点で反応を終了させるようにすることが好ましい。
【0014】
本発明の製造方法をバッチ反応により実施する場合、(メタ)アクリル酸およびアルキレンカーボネートの供給方法(供給順や供給量等)については、特に限定されず、(メタ)アクリル酸のみをその一部もしくは全量を初期仕込みしてもよいし、アルキレンカーボネートのみをその一部もしくは全量を初期仕込みしてもよいし、(メタ)アクリル酸の一部とアルキレンカーボネートの全量とを初期仕込みしてもよいし、アルキレンカーボネートの一部と(メタ)アクリル酸の全量とを初期仕込みしてもよいし、(メタ)アクリル酸の全量とアルキレンカーボネートの全量とを初期仕込みしてもよい。
本発明の製造方法をバッチ反応により実施する場合、(メタ)アクリル酸およびアルキレンカーボネートの供給は、一括投入および逐次投入(連続的な投入および/または間欠的な投入)のいずれでもよいが、好ましくは、初期仕込み分については一括投入するのがよく、その後に供給する分については逐次投入するのがよい。なお、連続的な投入とは、少しずつ連続的に投入する形態を意味し、間欠的な投入とは、パルス的または断続的に、任意の回数に分けて投入する形態を意味する。また、連続的に投入をする場合は、投入速度を一定にしたまま投入終了まで進行させてもよいし、途中で少なくとも1回速度を変化させて進行させてもよいし、速度自体を連続的に任意に変化させながら進行させてもよい。
【0015】
本発明の製造方法をバッチ反応により実施する場合、(メタ)アクリル酸およびアルキレンカーボネートの全量を供給し終えるまでに要する時間は、限定はされず、反応の進行具合や生産コスト等を考慮して、適宜設定すればよい。
本発明の製造方法を連続反応により実施する場合は、反応器に触媒と(メタ)アクリル酸とアルキレンカーボネートとを連続的に供給して反応を進行させ、反応液中の残存(メタ)アクリル酸量が所望の量となる滞留時間になった時点で反応器から反応液を抜き出して反応を終了させるようにするのが好ましい。
本発明の製造方法を連続反応により実施する場合、(メタ)アクリル酸およびアルキレンカーボネートの供給方法(供給順や供給量等)については、特に限定されないが、反応器に(メタ)アクリル酸の全量とアルキレンカーボネートの全量とを同時に供給するようにすることが好ましい。なお、2以上の反応器を用いて反応させる場合、(メタ)アクリル酸とアルキレンカーボネートとを各反応器に分割して供給してもよいし、(メタ)アクリル酸のみを各反応器に分割して供給してもよい。
【0016】
本発明の製造方法を連続反応により実施する場合、(メタ)アクリル酸およびアルキレンカーボネートの供給としては、逐次投入することが好ましく、投入速度を一定にしたまま連続的に投入することがより好ましい。また、2以上の反応器を用いて反応させる場合、各反応器に分割するにしたがって(メタ)アクリル酸に対するアルキレンカーボネートのモル比を1.0に近づけていくことが好ましい。
本発明の製造方法において、(メタ)アクリル酸やアルキレンカーボネートは、常温で反応器に投入してもよいし、その時点での反応液の温度を変化させないように所望の温度に予め加温しておいてから反応器に投入してもよい。
【0017】
本発明の製造方法において、(メタ)アクリル酸とアルキレンカーボネートとを同時に投入する場合は、それぞれ別々の投入ラインから反応器に投入してもよいし、予め配管内(ラインミキサー等)やミキシングタンク等で混合しておいてから反応器に投入してもよいが、別々の投入ラインから投入すると、反応液内でのアルキレンカーボネートと(メタ)アクリル酸のモル比に部分的に偏りが生じるおそれがあるので、予め混合しておいてから投入することが好ましい。なお、別々の投入ラインから投入する場合、投入の形態(一括投入または逐次投入)や、投入する原料化合物の温度や、投入速度等については、各原料化合物で互いに同じであっても異なっていてもよく、限定はされない。
【0018】
本発明の製造方法において、(メタ)アクリル酸とアルキレンカーボネートとの反応温度は、好ましくは50〜150℃の範囲であり、より好ましくは50〜120℃の範囲である。上記反応温度が50℃未満であると、反応の進行が遅くなり実用性に欠けるおそれがあり、150℃を超えると、原料化合物である(メタ)アクリル酸や目的生成物であるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの重合が起こるなど、副生物の生成量が多くなるおそれがある。
本発明の製造方法において、(メタ)アクリル酸とアルキレンカーボネートとの反応時の系内圧力については、アルキレンカーボネートの反応転化率により異なるが、好ましくは0.1〜5MPa・Gであり、より好ましくは0.1〜1MPa・Gであり、さらに好ましくは0.1〜0.5MPa・Gである。系内圧力が5MPa・Gより高いと、反応器の耐圧を特別高くする必要があり、経済的でない。アルキレンカーボネートの反応転化率が高く、系内圧力が5MPa・G以下で実施する場合には、反応ガスをパージしながら反応してもよい。
【0019】
本発明の製造方法において、(メタ)アクリル酸とアルキレンカーボネートとの反応を穏和に進行させること等を目的として、反応溶媒を用いるようにしてもよい。反応溶媒としては、限定はされないが、トルエン、キシレン、ヘプタンおよびオクタン等の、反応溶媒として一般的なものを用いることができる。
本発明の製造方法においては、(メタ)アクリル酸とアルキレンカーボネートとの反応の終了後の反応液から目的生成物であるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを留去して(蒸留精製して)回収するようにすることが好ましい。具体的には、汎用の蒸留塔、充填塔や泡鐘塔、多孔板塔などの精留塔などを用いて蒸留する方法が採用できるが、これらに限定はされない。バッチ式の蒸留(バッチ蒸留)であってもよいし、連続式の蒸留(連続蒸留)であってもよい。蒸留精製する際は、他の精製手段を併用することもできる。蒸留精製する際の条件として、真空度は1〜50hPaが好ましく、1〜20hPaがより好ましく、1〜10hPaがさらに好ましい。蒸留温度は50〜120℃が好ましく、60〜100℃がより好ましい。蒸留時間は0.5〜24時間が好ましく、0.5〜12時間がより好ましく、1〜6時間がさらに好ましく、1〜3時間が特に好ましい。ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを留去した反応液は、温度や時間等による熱履歴によって、粘度の上昇や副生物の増加等、液性状の悪化が懸念されるため、蒸留温度以下に維持することが好ましく、5日以上の長期保存を行う場合には50℃以下に維持することが好ましい。
【0020】
本発明の製造方法において、(メタ)アクリル酸とアルキレンカーボネートとの反応(バッチ反応や連続反応)や、反応後の蒸留は、重合防止剤の存在下で行うことができる。
重合防止剤としては、一般に公知のものを使用できるが、特に限定はされず、例えば、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、tert−ブチルハイドロキノン、2,6−ジ−tert−ブチルハイドロキノン、2,5−ジ−tert−ブチルハイドロキノン、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、ハイドロキノンモノメチルエーテル等のフェノール化合物;N−イソプロピル−N´−フェニル−パラ−フェニレンジアミン、N−(1,3−ジメチルブチル)−N´−フェニル−パラ−フェニレンジアミン、N−(1−メチルヘプチル)−N´−フェニル−パラ−フェニレンジアミン、N,N´−ジフェニル−パラ−フェニレンジアミン、N,N´−ジ−2−ナフチル−パラ−フェニレンジアミン等のパラフェニレンジアミン類;チオジフェニルアミン、フェノチアジン等のアミン化合物;ジブチルジチオカルバミン酸銅、ジエチルジチオカルバミン酸銅、ジメチルジチオカルバミン酸銅等のジアルキルジチオカルバミン酸銅塩類;ニトロソジフェニルアミン、亜硝酸イソアミル、N−ニトロソ−シクロヘキシルヒドロキシルアミン、N−ニトロソ−N−フェニル−N−ヒドロキシルアミン又はその塩等のニトロソ化合物;2,2,4,4−テトラメチルアゼチジン−1−オキシル、2,2−ジメチル−4,4−ジプロピルアゼチジン−1−オキシル、2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル、2,2,5,5−テトラメチル−3−オキソピロリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、6−アザ−7,7−ジメチル−スピロ[4.5]デカン−6−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−アセトキシピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−ベンゾイルオキシピペリジン−1−オキシル、4,4´,4"−トリス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル)ホスファイト、4,4´−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル)セバケート等のN−オキシル化合物;一酸化窒素、二酸化窒素等の窒素酸化物;などが挙げられる。重合防止剤は1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。また、重合防止効果をより高めるために、酸素を併用しても良い。重合防止剤の添加量は、(メタ)アクリル酸に対して、好ましくは0.0001〜1重量%、より好ましくは0.001〜0.5重量%である。なお、重合防止剤は反応や蒸留時に通常過剰に添加しているので、一部変質等することによって重合防止効果を失うことがあるが、大半は重合防止効果を持っているため、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを留去した反応液をリサイクルすることによって、重合防止剤の使用量を削減することもできる。
【0021】
重合防止剤は、反応器や蒸留塔に直接添加してもよく、予め、反応液、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、またはヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを留去した反応液に溶解させ、一括投入してもよいし、逐次投入してもよい。
本発明の製造方法においては、重合防止効果をより高めるため、特開2003−267929号公報に記載のように、重合防止剤とともに酸類を併用してもよい。
本発明の製造方法においては、反応器や蒸留塔の気相部壁面は、反応液が蒸発し、気相部の壁面で凝縮した重合防止剤を含まない(メタ)アクリル酸やヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが熱滞留することにより重合物が発生する問題があるため、前述の重合防止剤を含む反応液によって凝縮液(重合物を含んでいてもよい)を洗い流すことが好ましい。
【0022】
本発明の製造方法においては、目的生成物であるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを留去した後の反応液を次の反応に用い、一旦反応に用いた触媒を次の反応にリサイクルしても良い。
上記留去後の反応液としては、特に限定されず、原料化合物である(メタ)アクリル酸をアルキレンカーボネートと完全に反応させて上記留去を行った後の反応液であってもよいし、(メタ)アクリル酸とアルキレンカーボネートの反応途中の任意の段階で反応を終了させて上記留去を行った後の反応液であってもよく、触媒のリサイクル効率や目的生成物の収率等がより一層向上するよう適宜考慮して選択すればよい。
【0023】
上記留去後の反応液においては、目的生成物であるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが完全に留去されていてもよいし、一部留去されずに残存していてもよい。また、各種副生物や原料化合物等のその他成分についても、完全に留去されていてもよいし、一部留去されずに残存していてもよい。
上記留去後の反応液は、その全量を次の反応に用いても良いし、その一部のみを用いたり、分割して複数の反応に分けて用いたりしても良い。
本発明の製造方法においては、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを留去して新規な触媒を補充した反応液を次の反応に用いてもよい。詳しくは、反応液から目的生成物を留去したあと溶液状態のままで使用済みの触媒を回収し、その回収液に新規な触媒を補充して、次の反応にリサイクルする。これより、触媒の使用量を大きく低減できるとともに、低コストで経済性に優れ、操作が簡便で触媒を再利用し易く、高い触媒回収率を確保し、かつ、十分な触媒反応効率を達成することができる。
【0024】
目的生成物であるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが留去され且つ反応に使用した触媒が含まれている反応液(以下、残存反応液と称することがある。)中の触媒と、新規に補充する触媒(以下、新規触媒と称することがある。)と、を含んでなる触媒を、次の反応に使用するにあたり、残存反応液に新規触媒を補充する形態としては、特に限定されないが、例えば、予め残存反応液に新規触媒を溶解させておいてから次の反応に用いても良いし、次の反応が開始してから残存反応液に新規触媒を溶解させるようにしても良いし、あるいは、残存反応液に予め新規触媒の一部だけを溶解させておき残りの新規触媒は次の反応が開始してから溶解させるようにしても良いし、残存反応液の一部に予め新規触媒を溶解させておき残りの残存反応液は次の反応が開始してから加えるようにしても良い。これらの中でも、予め次の反応に用いる残存反応液全量に、補充する新規触媒を全量溶解させておいてから、次の反応に用いることが、操作も煩雑にならず次の反応に用いる触媒としても扱いやすいため、好ましい。
【0025】
上記新規触媒としては、前述した本発明の製造方法に用いることができる触媒と同様のものであることが好ましい。
上記残存反応液は、反応後の液から目的生成物であるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを留去した液であるが、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが完全に留去されている必要はなく、多少残存していても構わない。
上記残存反応液は、一旦反応に使用した触媒の少なくとも一部を再度反応触媒として使用することができるのであれば特に限定はされず、その全量を次の反応に用いても良いし、一部のみを用いても良いし、任意に分割して複数の反応に分けて用いても良い。具体的には、例えば、残存反応液の一部、好ましくは20〜90重量%、より好ましくは30〜80重量%、さらに好ましくは40〜80重量%、特に好ましくは50〜80重量%を次の反応系にリサイクルし、残存反応液の残りを廃棄する形態が挙げられる。
【0026】
新規触媒の補充量は、上記残存反応液の全量を次の反応に用いる場合、リサイクルする残存反応液中の触媒が完全に失活している場合には、反応系に必要な触媒量の100重量%を補充することが好ましく、リサイクルする残存反応液中の触媒が失活しておらず反応系に必要な触媒量の100重量%をまかなえる場合には、補充しなくてもよい。残存反応液の一部を次の反応に用いて残りを廃棄する場合、廃棄した残存反応液中に含まれる触媒の量を補充することが好ましく、残存反応液の一部に含まれる触媒が一部失活している場合は、失活している触媒の量相当と廃棄した残存反応液中に含まれる触媒の量とを補充することが好ましい。
【0027】
本発明の製造方法においては、アルキレンカーボネートと(メタ)アクリル酸との反応によってヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを製造する際に、反応したアルキレンカーボネートと等モルの二酸化炭素が発生するが、この発生した二酸化炭素は、アルキレンカーボネートを製造する原料として再利用(リサイクル)することが好ましい。
本発明の製造方法によれば、実質的にジアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートを含まないヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを容易に製造することができる。
本発明にかかるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、ジアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートの含有割合が0.01重量%以下であり、好ましくは0.005重量%以下、より好ましくは0.001重量%以下、さらに好ましくは0.0001重量%以下、特に好ましくは検出限界以下である。
【0028】
本発明にかかるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、また、ジアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートの副生が、反応選択率(原料(メタ)アクリル酸基準)で、好ましくは0.8モル%未満、より好ましくは0.6モル%以下、さらに好ましくは0.4モル%以下、さらに好ましくは0.2%以下、さらに好ましくは0.1モル%以下、特に好ましくは0.01モル%以下、最も好ましくは0.001モル%以下に抑えることができる。特に、触媒として、リン化合物、および硫黄化合物から選ばれる少なくとも1種を用いると、ジアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートの副生が、反応選択率(原料(メタ)アクリル酸基準)で、好ましくは0.001モル%以下に抑えることができる。
【0029】
このように、本発明の製造方法を好ましく適用することにより得られるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、上述のごとく、実質的にジアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートを含まないヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートであり、好ましくは、触媒の存在下で(メタ)アクリル酸とアルキレンカーボネートとを反応させて得られたヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートであって、精製工程を行っていないヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートであり、実質的にジアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートを含まないヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートである。従来公知のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、精製工程を行っていない場合、ジアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートが、選択率(原料(メタ)アクリル酸基準)で数モル%〜10モル%ほど副生するが、本発明の製造方法を好ましく適用することにより得られるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、精製工程を行っていない場合、ジアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートの副生が、選択率(原料(メタ)アクリル酸基準)で、好ましくは0.8モル%未満、より好ましくは0.6モル%以下、さらに好ましくは0.4モル%以下、さらに好ましくは0.2%以下、さらに好ましくは0.1モル%以下、特に好ましくは0.01モル%以下、最も好ましくは0.001モル%以下である。
【実施例】
【0030】
以下に、実施例および比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下では、便宜上、「重量部」を単に「部」と、「リットル」を単に「L」と記すことがある。また、「重量%」を「wt%」と記すことがある。
また、ガスクロマトグラフィーは、島津製作所のGC17A(使用カラム:J&W製のDB1701)を用いた。
〔実施例1〕
温度計、加熱冷却装置、および攪拌機を備えた容量100mlのSUS316製オートクレーブを用意し、このオートクレーブ内に、エチレンカーボネート5.1g、メタクリル酸4.9g、重合防止剤としてフェノチアジン0.05gを仕込み、触媒としてトリフェニルホスフィンを上記メタクリル酸に対して10.0モル%となるように添加した。
【0031】
次に、オートクレーブ内の液温を、反応温度である90℃に昇温した。この後、90℃を維持しながら2時間反応を継続した。
反応後、反応液を冷却し、得られた反応液をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、メタクリル酸の反応転化率は20%、目的生成物であるヒドロキシエチルメタクリレートの反応選択率は99.8モル%、副生物であるジエチレングリコールモノメタクリレートの反応選択率は0.001モル%以下(ガスクロマトグラフィーの検出限界である1ppm以下)であった。
結果を表1に示した。
【0032】
〔実施例2〜9〕
触媒として、トリフェニルホスフィンの代わりに表1に示す触媒を用いた以外は実施例1と同様の反応を行った。
反応後、反応液を冷却し、実施例1と同様、得られた反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果を表1に示した。
〔比較例1〕
触媒として、トリフェニルホスフィンの代わりにピリジンを用いた以外は実施例1と同様の反応を行った。
【0033】
反応後、反応液を冷却し、実施例1と同様、得られた反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果を表1に示した。
〔比較例2〕
温度計、加熱冷却装置、および攪拌機を備えた容量100mlのSUS316製オートクレーブを用意し、オートクレーブ内を窒素ガス(窒素濃度100容量%)で置換した。
このオートクレーブ内に、エチレンオキシド3.4g、メタクリル酸6.6g、重合防止剤としてフェノチアジン0.05gを仕込み、触媒として酢酸クロムを上記メタクリル酸に対して0.05モル%となるように添加した。
【0034】
次に、オートクレーブ内の液温を、反応温度である90℃に昇温した。この後、90℃を維持しながら2時間反応を継続した。
反応後、反応液を冷却し、実施例1と同様、得られた反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果を表1に示した。
【0035】
【表1】

【0036】
〔実施例10〕
温度計、加熱冷却装置、および攪拌機を備えた容量100mlのSUS316製オートクレーブを用意し、このオートクレーブ内に、エチレンカーボネート5.5g、アクリル酸4.5g、重合防止剤としてフェノチアジン0.05gを仕込み、触媒としてトリフェニルホスフィンを上記アクリル酸に対して10.0モル%となるように添加した。
次に、オートクレーブ内の液温を、反応温度である90℃に昇温した。この後、90℃を維持しながら2時間反応を継続した。
反応後、反応液を冷却し、得られた反応液をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、アクリル酸の反応転化率は18%、目的生成物であるヒドロキシエチルアクリレートの反応選択率は99.8モル%、副生物であるジエチレングリコールモノアクリレートの反応選択率は0.001モル%以下(ガスクロマトグラフィーの検出限界である1ppm以下)であった。
【0037】
結果を表2に示した。
〔実施例11〕
触媒として、トリフェニルホスフィンの代わりにトリメチルスルホニウムアイオダイドを用いた以外は実施例10と同様の反応を行った。
反応後、反応液を冷却し、得られた反応液をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、アクリル酸の反応転化率は15%、目的生成物であるヒドロキシエチルアクリレートの反応選択率は99.8モル%、副生物であるジエチレングリコールモノアクリレートの反応選択率は0.001モル%以下(ガスクロマトグラフィーの検出限界である1ppm以下)であった。
【0038】
結果を表2に示した。
〔比較例3〕
温度計、加熱冷却装置、および攪拌機を備えた容量100mlのSUS316製オートクレーブを用意し、このオートクレーブ内を窒素ガス(窒素濃度100容量%)で置換した。
このオートクレーブ内に、エチレンオキシド3.8g、アクリル酸6.2g、重合防止剤としてフェノチアジン0.05gを仕込み、触媒として酢酸クロムを上記アクリル酸に対して0.05モル%となるように添加した。
【0039】
次に、オートクレーブ内の液温を、反応温度である90℃に昇温した。この後、90℃を維持しながら2時間反応を継続した。
反応後、反応液を冷却し、得られた反応液をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、アクリル酸の反応転化率は59%、目的生成物であるヒドロキシエチルアクリレートの反応選択率は96.5モル%、副生物であるジエチレングリコールモノアクリレートの反応選択率は3.2モル%であった。
結果を表2に示した。
【0040】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、実質的にジアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートを含まないヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが要求される産業分野において好ましく利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒の存在下で(メタ)アクリル酸とアルキレンカーボネートとを反応させてヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを製造する方法において、
前記触媒として、ナトリウム化合物、カリウム化合物、セシウム化合物、マグネシウム化合物、バナジウム化合物、クロム化合物、亜鉛化合物、リン化合物、および硫黄化合物から選ばれる少なくとも1種を用いる
ことを特徴とする、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法。
【請求項2】
前記触媒として、リン化合物、および硫黄化合物から選ばれる少なくとも1種を用いる、請求項1に記載のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法。
【請求項3】
ジアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートの含有割合が0.01重量%以下である、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート。
【請求項4】
請求項1または2に記載の製造方法によって得られるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートであって、
ジアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートの含有割合が0.01重量%以下である、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート。

【公開番号】特開2006−117567(P2006−117567A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−305869(P2004−305869)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】