説明

ヒドロキシイソ酪酸(エステル)(メタ)アクリラートのホモポリマー及びコポリマー

本発明は、成形材料を製造するための新規のポリ(メタ)アクリラートに関する。特に本発明は、開裂の際に、再度の共重合が不可能である成分を極めてわずかな程度でのみ遊離するに過ぎないエステル基を有する、新規の(メタ)アクリラートに関する。成形材料のための新規のポリ(メタ)アクリラートを製造する際にこのようなモノマーを共重合することによって、その耐熱変形性は最小限の変化にとどまるか、もしくはむしろ改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、成形材料を製造するための新規のポリ(メタ)アクリラートに関する。特に本発明は、再度の共重合が不可能である成分を、開裂の際に、 −たとえ遊離するにしても− 極めてわずかな程度でのみ遊離するに過ぎないエステル基を有する、新規の(メタ)アクリラートに関する。成形材料のための新規のポリ(メタ)アクリラートを製造する際にこのようなモノマーを共重合することによって、その耐熱変形性は最小限の変化にとどまるか、もしくはむしろ改善される。
【0002】
(メタ)アクリラートないしポリ(メタ)アクリラートとは、以下で、アクリル酸の誘導体、メタクリル酸の誘導体及び前記のものないしそのポリマーからの混合物と解釈される。
【0003】
(メタ)アクリル酸エステルからのポリマーは、十分に公知であり、かつ広範囲に使用される。該ポリマーは、殊にその高い光透過性及び極めて良好な耐候性が顕著である。ポリ(メタ)アクリル酸エステルの耐熱変形性も、他のポリマーに対して極めて高く、それゆえ有利である。この場合、ガラス転移温度はエステル基のサイズに依存する。エステル基がアルキル基である場合、アルキル基が短鎖であるほど耐熱変形性は高くなる。例えば、ポリメチルメタクリラートのガラス転移温度(示差走査熱分析;以下、略してDSC)は、重合温度に応じて112℃〜118℃である。これに対して、ポリ−n−ブチルメタクリラートのガラス転移温度は、わずかに約25℃〜30℃であるに過ぎない。
【0004】
エステル基の好適な選択により、ポリ(メタ)アクリラートの特性を意図的に変化させることができる。鎖を硬化させるアルキルエステル基を有する(メタ)アクリラートエステルの多くは、高い加工温度でエステル基において開裂する傾向にあるという欠点に基づき、ポリメチルメタクリラート(PMMA)よりもわずかな熱安定性を示す。例えばシクロヘキシルメタクリラートの場合、270℃を上回る温度でかつ加工機中での短い滞留時間ですでに、開裂によりシクロヘキセンが生じる。開裂により外れたエステル基は、ポリマー中、ひいては生成物中に残留するか、又は、加工の際に同時に脱気する場合に除去され、かつ濃縮物として捕集される。どちらの場合にも、生成物の毒物学の別個の評価を必要とする不所望な異種物質が生成される。開裂により外れたエステル基は、通常、プロセスでは再使用できない。
【0005】
高い耐熱変形性を有するポリ(メタ)アクリラートの製造は、すでに長期にわたって工業的研究における目標設定である。高い耐熱変形性によって、より良好な押出成形性、ないし、押出機又は他の溶融プロセスを介して加工する際により高い自由度が可能となるばかりでなく、より長期間の色安定性又は高い耐候性といった、改善された特性も付随する。また、より高い耐熱変形性から、しばしば、本来の製造プロセスにおいて、例えば揮発性成分の除去の際に、より高い自由度が生じる。
【0006】
先行技術
EP0113105には、PMMAと、無水マレイン酸、α−メチルスチレン及びMMAからのターポリマーとからの混合物が記載されている。配合工程が必須であることに加え、比較的長い耐候試験下で成形材料が明らかに脆化する点が不利である。該ブレンドの改良については、EP1742997に詳論されている。ここでは、PMMAと、無水マレイン酸、スチレン及びMMAからの比較的短鎖のターポリマーとからの混合物が存在している。しかしながら、この系も耐熱変形性に関して十分な改善を要する。さらに、該系はスチレンを含有しているが、スチレンは当業者に公知の通り耐候性に不利な影響をもたらす。ポリメタクリラート中の構造単位としての無水マレイン酸とビニル芳香族化合物との組合せは、ポリメタクリラート成形材料の熱安定性の改善のためにしばしば用いられる解決策である。しかしながら該解決策は根本的にまだ不十分であり、それというのも、確かにこの方法でガラス転移温度を高めることはできるが、しかしながら潜在的な非相容性、ひいては相分離を甘受しなければならないためである。さらに、熱分解の問題への影響も極めてわずかである。DE29504693U1では、有機化合物、より厳密には有機ホスファイトの添加によるアプローチが考慮されている。しかしながら、低分子化合物はマイグレーションの傾向を示し、かつ熱負荷下での比較的長期の安定化を保証し得ない。そのような配合解決策として、共配合することなくそれ自体で耐熱変形性を有するように変性されたポリメタクリラートが理想的である。これは、好適なコモノマーの導入により達成することができる。EP0722960では、PMMA成形材料に、exo-メチレンラクトン側鎖基を有するメタクリラートが導入されている。しかしながら該基の欠点は、親水性及びこれに伴う成形材料の吸水性である。
【0007】
DE10320317では、イミド基、より厳密にはイミド化ポリメチルメタクリラートが使用されている。しかしながら、窒素含有化合物の欠点は、根本的に、熱負荷の際に生じる変色である。該欠点は、安定性化合物を添加することによって最大限相殺されることができる。
【0008】
高いメタクリル酸分を有するポリメタクリラートは、特に良好な耐熱変形性を有する。そのようなコポリマーは、メタクリル酸の腐食特性に基づき困難を伴ってのみ製造可能である。酸含有ポリ(メタ)アクリラートの製造装置を連続運転させた場合、わずかな割合、例えば1質量%の(メタ)アクリル酸ですでに、比較的長い運転時間後に腐食を招き、ひいては装置のメンテナンスの必要性がより高まる。
【0009】
そのようなポリマーを合成する重要な代替法は、潜在的に不安定なコモノマーを導入し、このコモノマーからポリマー類似反応を介して酸を形成することである。t−ブチル(メタ)アクリラートの共重合及び引き続く熱分解は公知である。この措置の欠点は、イソブテンの遊離による材料の発泡である。JP11222460ではこのために、三環式不飽和化合物と、弱く酸変性されたポリメタクリラートとを反応させている。該基は、ポリマーの処理により酸基を妨害した後に、高エネルギー放射線の適用によって開裂により外されることができる。しかしながらこの方法は、その適用可能性に関して、種々の理由から、ごくわずかな分野、例えばレーザーリソグラフィに限定される。該基はポリマー類似的に結合されたり外されたりするため、説明された制限が、酸変性されたポリ(メタ)アクリラートの合成の際にそのまま保持される。比較的厚い成形材料の場合には、放射線を用いた基の開裂も不利である。幾つかの適用については、加工の間に押出機又は混練機中で開裂を実施するのがより良いと考えられる。この手順であれば、揮発性開裂生成物も容易に除去できる。開裂生成物として酸を形成する、高エネルギー放射線の適用により除去可能な他の基についての十分な概要は、JP2000347410に記載されている。これは、重合前にメタクリル酸とエステル化される5種類のアルコールである:単環式、複素環式、多環式、例えば二環式又は三環式基、エステル基へのC1架橋を有するエーテル、及び、3級アルコールを介してエステル化されている化合物。後者の基は、専ら純粋なアルキル−ないしハロゲン置換アルキル基のみを含む。該メタクリラートは他のメタクリラートと共重合可能である。全ての化合物について、重合後に専ら高エネルギー放射線を用いた活性化のみが記載されているが、これはすでに説明された欠点を伴う。
【0010】
レーザーリソグラフィにおける適用のために、三環式基と一緒になってポリメタクリラートに導入可能な、他の、開裂下に酸へと変換可能な基は、JP11024274に記載されている。これに関しては、特に以下の、詳細には具体化されていないモノマー種が共重合可能である:
【化1】

ここで、数n=0又は1であり、かつ基R1-3は水素、標準的なアルキル基等であるが、該基については詳説されていない。R4はC1−、C2−又はC3基としてのみ使用される。前記構造単位の活性化は高エネルギー放射線を用いてのみ行われ、それゆえレーザーリソグラフィ適用にふさわしく表面的にのみ行われる。問題となるのは、既に記載した例の通り、生成物中に妨害的に残存するか、又は費用をかけて除去しなければならない副生成物である。該除去は、加工の後に実施される放射線活性化の際には、全く不可能であるか、又はせいぜい表面上でのみ可能であるに過ぎない。
【0011】
本発明の課題
本発明の課題は、塊状重合又は溶液重合のためのプロセスにおいて、プロセスの反応器及び脱気装置内での腐食を招かない、従来技術に対して改善された耐熱変形性及びより高い耐候性を有する新規の成形材料を提供することである。
【0012】
特に、該課題は、純粋なPMMA成形材料に対してより高いガラス転移温度及び改善された熱安定性を有する成形材料を製造することである。
【0013】
前記課題の特別な観点の一つは、合成全体にわたって、系にとって異種の他の物質が開裂により生じることがない、という点である。
【0014】
明示されていない更なる課題は、以下の発明の詳細な説明、特許請求の範囲及び実施例の全体の脈絡から明らかである。
【0015】
課題の解決方法
該課題は、二つの観点により特徴付けられる、(メタ)アクリラートベースの耐熱変形性成形材料の新規の製造法によって解決される:第一に、該方法により、少なくとも1質量%、有利には少なくとも2質量%、特に有利には少なくとも4質量%が(メタ)アクリル酸繰り返し単位から構成されている成形材料が得られる。
【0016】
(メタ)アクリル酸、有利にはメタクリル酸の繰り返し単位は、成形材料及び該成形材料から製造された成形体の明らかに改善された耐熱変形性に寄与する。この場合、成形材料のガラス転移温度、ひいては耐熱変形性は、酸の割合と共に高まる。
【0017】
第二に、メタクリル酸繰り返し単位は、熱的に、プレポリマーからポリマー類似反応により得られる。有利には、該ポリマー類似反応は開裂による低分子物質の生成である。本発明による方法の特徴の一つは、該低分子物質がメタクリル酸又はメタクリル酸のエステルである点である。
【0018】
もう一つの観点は、ポリマー類似開裂が熱的に行われることである。より厳密には、本発明による方法、特にポリマー類似開裂は、押出機又は重合混練機中で実施される。該押出機又は重合混練機中で、残留モノマー及び/又は残存する遊離した低分子化合物を除去することもできる。
【0019】
前もって成形材料の製造に使用したモノマーと類似又はそれどころか同一の化合物を遊離させることの利点は、該化合物を遊離後にポリマー鎖に導入させることもできるし、あるいは、系から残留モノマーと共に蒸留により除去し、かつ他の開裂生成物とは対照的に、再度モノマー合成ないしポリマー製造に使用することもできる、という点にある。その後に残存する遊離したメタクリル酸及び/又は遊離したメタクリル酸のエステルのうち、少なくとも80質量%、有利には少なくとも90質量%、特に有利には少なくとも95質量%は、減圧により残留モノマーと一緒に成形材料から除去される。
【0020】
「プレポリマー」の概念は、この文脈において、ポリマー類似開裂により低分子物質酸基が形成される前に存在しているポリマーであると解釈される。
【0021】
本発明の特別な観点の一つは、プレポリマーがα−ヒドロキシイソ酪酸(メタ)アクリラート及び/又はα−ヒドロキシイソ酪酸(メタ)アクリラートのアルキルエステルの繰り返し単位を含むことである。熱処理により、該繰り返し単位から脱離反応によって鎖末端の酸基が生じ、繰り返し単位に応じてメタクリル酸ないしメタクリル酸のアルキルエステルが遊離する。
【0022】
上記の基を有するプレポリマーを製造するためには2つの異なる方法が存在する:
第一の方法において、プレポリマーは、α−ヒドロキシイソ酪酸(メタ)アクリラート又はα−ヒドロキシイソ酪酸(メタ)アクリラートのアルキルエステルの共重合により製造される。該モノマーは相応して以下の一般式を有する:
【化2】

ここで、R5は水素又はメチル基であり、R6はアルキル基、シクロアルキル基、エーテル基、オリゴエーテル基、シリル基であるか、もしくは、ヒドロキシ基、アミン基、シリル基、酸基、エステル基又はエポキシ基を有する官能性アルキル基である。
【0023】
有利には、R6は単純なアルキル基、例えばt−ブチル、n−ブチル、イソ−プロピル、プロピル、エチル又はメチルである。メチル基、従って全体としてα−ヒドロキシイソ酪酸(メチルエステル)(メタ)アクリラートが極めて特に有利である。この場合には、本発明による熱的開裂の際にMMAが遊離される。
【0024】
本発明の特別な一実施態様において、基R6はエステル化された1以上の付加的なα−ヒドロキシイソ酪酸基である。この場合例えば、(メタ)アクリル酸はさらなる1〜4分子のα−ヒドロキシイソ酪酸とエステル化されていてよい。また、複数のエステル化工程の場合、最後にエステル化された分子がα−ヒドロキシイソ酪酸のアルキルエステルであってもよい。
【0025】
【化3】

ここで、mは0〜10、有利には0〜4の数、特に有利には0である。R7はR6に相応するが、但し、さらなるα−ヒドロキシイソ酪酸繰り返し単位を除く。
【0026】
α−ヒドロキシイソ酪酸(エステル)とエステル化された種々のメタクリラートの混合物も使用できる。このことは、任意のエステル基R6ないしR7のみならず、α−ヒドロキシイソ酪酸繰り返し単位の数にも関連する。
【0027】
また、プレポリマーを製造するための第二の方法が存在する。該方法は、本発明による開裂のようにポリマー類似的に、(メタ)アクリル酸含有ポリメタクリラートとα−ヒドロキシイソ酪酸又はα−ヒドロキシイソ酪酸のアルキルエステル、有利にはα−ヒドロキシイソ酪酸(メチルエステル)とのエステル化によりプレポリマーを製造するという様式で行われる。
【0028】
【化4】

6は、第一の方法の際に記載されたのと同じ基であるか、又は、二量体又はオリゴマーである。プレポリマーの第一の製造法におけるモノマー合成のみならず、第二の製造法のポリマー類似反応も、種々の反応を介して実施することができる。酸−ないし塩基触媒エステル化に加え、例えばMMA又はt−ブチルメタクリラートのエステル交換、又は、酸ハロゲン化物、例えば(メタ)アクリル酸クロリドとのエステル交換、又は(メタ)アクリル酸無水物とのエステル交換も考慮される。
【0029】
ポリマー類似反応の変換率を向上させるために、エステル交換の場合にはエステル交換触媒を添加することができる。意想外にも、この生成物中に残存する触媒が、比較的高温での開裂反応において鹸化を促進することが見出された。この目的のために、そのようなエステル交換触媒を、別の、第一の製造法に従ってか又はエステル化反応により得られた本発明によるプレポリマーにも添加することができる。
【0030】
エステル交換触媒として、例えばLiOH、LiOCH3、LiNH2、CaO、Ca(OH)2、NaOH、NaOCH3、塩基性イオン交換体、酸性イオン交換体、イソプロピルチタナート、イソブチルチタナート、水酸化チタン、二酸化チタン、ジオクチル錫オキシド、ジブチル錫オキシド、硫酸を使用することができる。
【0031】
プレポリマーのための第一の製造法は、第二の方法よりも有利である。
【0032】
本発明による成形材料のもう一つの観点は、該成形材料の少なくとも1質量%、有利には少なくとも2質量%、特に有利には少なくとも4質量%が(メタ)アクリル酸の単位からなることである。該単位は、少なくとも60%、有利には少なくとも80%が、本発明によるポリマー類似開裂により得られるものである。この場合、プレポリマーが第一の製造方法により提供されたものであるか、第二の製造方法により提供されたものであるかは無関係である。
【0033】
さらに、本発明によるポリ(メタ)アクリラート成形材料は、当業者に公知の構造単位からなる。種々の繰り返し単位の選択により、例えば極性、吸水性、光学的特性又は触感といった材料特性を調節することができる。
【0034】
メタクリラートベースの本発明による成形材料は、メタクリラートベースのモノマー少なくとも40質量%、有利には少なくとも60質量%、特に有利には少なくとも80質量%から得られる。
【0035】
MMA及び熱的に不安定な本発明によるモノマーに加えて、該成形材料は一連のコモノマーを含有することができる。例えば、メチル(メタ)アクリラート、エチル(メタ)アクリラート、プロピル(メタ)アクリラート、イソ−プロピル(メタ)アクリラート、ブチル(メタ)アクリラート、イソ−ブチル(メタ)アクリラート、t−ブチル(メタ)アクリラート、ヘキシル(メタ)アクリラート、ヘプチル(メタ)アクリラート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリラート、シクロヘキシル(メタ)アクリラート、オクチル(メタ)アクリラート、イソ−オクチル(メタ)アクリラート、デシル(メタ)アクリラート、ベンジル(メタ)アクリラート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリラート、オクタデシル(メタ)アクリラート、ドデシル(メタ)アクリラート、テトラデシル(メタ)アクリラート、オレイル(メタ)アクリラート、4−メチルフェニル(メタ)アクリラート、ベンジル(メタ)アクリラート、フルフリル(メタ)アクリラート、セチル(メタ)アクリラート、2−フェニルエチル(メタ)アクリラート、イソボルニル(メタ)アクリラート、ネオペンチル(メタ)アクリラート、ビニルメタクリラート、ヒドロキシエチルメタクリラート、メタクリルアミド、n−イソプロピルメタクリルアミド、又は列挙した2以上のモノマーの混合物を使用することができる。
【0036】
列挙した(メタ)アクリラートに対してさらに、該成形材料は、(メタ)アクリル酸をベースとしていないものの(メタ)アクリラートと共重合可能な他のモノマーから構成されてもよい。これについての例は、スチレン、α−メチルスチレン、ノルボルネン、シクロヘキシルマレイミド、イタコン酸又は無水マレイン酸である。
【0037】
(メタ)アクリラート及び(メタ)アクリラートと共重合可能なモノマーの列挙はいずれも例示的なものであり、本発明を何らかの形で限定するのに適したものでは決してない。
【0038】
より高いガラス転移温度に基づき、メタクリラートはアクリラートと比較して成形材料の製造に有利である。しかしながら、付加的な熱安定化のために、成形材料は少量のアクリラートを含有することができる。アクリラート繰り返し単位は、メタクリラート繰り返し単位と比較してより高い天井温度を有しており、それに伴って、特に鎖末端において熱的解重合に対してより良好な安定性を示す。この種の成形材料は、アクリラート繰り返し単位を20質量%まで、有利には10質量%まで有することができる。アクリラート繰り返し単位は、例えばまた、本発明による方法を用いることによって、アクリル酸繰り返し単位の形で完全に又は部分的に実現することができる。
【0039】
本発明による成形材料は、有利には塊状重合により製造することができる。特に有利に、該成形材料は連続的な塊状重合により製造される。該製造は、1以上の押出機又は混練機中で実施することができる。
【0040】
重合の開始は、通常、ラジカル重合開始剤の添加により行われる。ラジカル重合開始剤が親油性であり、それに伴って塊状重合の混合物中に溶解するのが有利である。使用可能な化合物には、古典的なアゾ開始剤、例えばアゾイソブチロニトリル(AIBN)ないし1,1−アゾビスシクロヘキサンカルボニトリルに加え、とりわけ脂肪族ペルオキシ化合物、例えばt−アミルペルオキシネオデカノアート、t−アミルペルオキシピバラート、t−ブチルペルオキシピバラート、t−アミルペルオキシ−2−エチルヘキサノアート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノアート、t−アミルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノアート、エチル−3,3−ジ−(t−アミルペルオキシ)−ブチラート、t−ブチルペルベンゾアート、t−ブチルヒドロペルオキシド、デカノイルペルオキシド、ラウリルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、t−ブチルペルネオデカノアート及び上記化合物の任意の混合物が挙げられる。上記化合物のうち、AIBNが極めて特に有利である。また、開始を、公知の光開始剤の使用下にUV線等の照射により行うこともできる。ここで、一般的に市販されている化合物、例えばベンゾフェノン、α,α−ジエトキシアセトフェノン、4,4−ジエチルアミノベンゾフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、4−イソプロピルフェニル−2−ヒドロキシ−2−プロピルケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、イソアミル−p−ジメチルアミノベンゾアート、メチル−4−ジメチルアミノベンゾアート、メチル−o−ベンゾイルベンゾアート、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−イソプロピルチオキサントン、ジベンゾスベロン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビスアシルホスフィンオキシド等を使用することができ、その際、上記光開始剤を、単独か又は2以上を組み合わせて、又は上述の重合開始剤のうち1つと組み合わせて利用することができる。開始剤の量は幅広い範囲内で変えることができる。有利には、全組成物の質量に対して例えば0.01〜5質量%の範囲内の量が使用される。その都度全組成物の質量に対して0.01〜2質量%の範囲内の量、特に0.01〜0.5質量%の範囲内の量が特に有利である。
【0041】
成形材料の分子量の調節は、モノマー混合物を、連鎖移動剤とも呼称される分子量調整剤、例えば特にそのために公知であるメルカプタン、例えばn−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、メチル−3−メルカプトプロピオナート又は2−エチルヘキシルチオグリコラートの存在で重合することにより行うことができる。この場合、分子量調節剤は、モノマー混合物に対して一般に0.01〜5質量%の量で、有利には0.01〜2質量%の量で、特に有利には0.02〜1質量%の量で使用される(例えばH. Rauch-Puntigam, Th. Voelker, "Acryl- und Methacrylverbindungen" , Springer, Heidelberg, 1967; Houben-Weyl, Methoden der organischen Chemie, Bd. XIV/1, 第66頁, Georg Thieme, Heidelberg, 1961又はKirk-Othmer, Encyclopedia of Chemical Technology, Vol. 1, 第296頁以降, J. Wiley, New York, 1978を参照のこと)。有利には、分子量調節剤として、n−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、メルカプロエタノール又はメチル−3−メルカプトプロピオナートが使用される。
【0042】
本発明による成形材料の幾つかの適用に関して、特に機械的特性が不可欠である。ポリメチルメタクリラート成形体の製造に利用できる成形材料の耐衝撃性を改良するために、該材料は、架橋ポリマー粒子からのエラストマー相である耐衝撃性改良剤を1質量%〜30質量%、有利には2質量%〜20質量%、特に有利には3質量%〜15質量%、特に5質量%〜12質量%含有することができる。
【0043】
耐衝撃性改良剤は、それ自体として知られた方法でパール重合によるか又は乳化重合により得ることができる。好ましい耐衝撃性改良剤は、50〜1000nm、好ましくは60〜500nm、特に好ましくは80〜120nmの範囲内の平均粒度を有する架橋粒子である。
【0044】
このような粒子は、例えば、一般には少なくとも40質量%、好ましくは50質量%〜70質量%のメチルメタクリラート、20質量%〜80質量%、好ましくは25質量%〜35質量%のブチルアクリラート並びに0.1質量%〜2質量%、好ましくは0.5質量%〜1質量%の架橋性モノマー、例えば多官能性(メタ)アクリラート、例えばアリルメタクリラート、及び、前記ビニル化合物と共重合可能なコモノマーを含有する混合物を、ラジカル重合することによって得ることができる。好ましいコモノマーには、とりわけ、C1〜C4−アルキル(メタ)アクリラート、例えばエチルアクリラート又はブチルメタクリラート、好ましくはメチルアクリラート、又はその他のビニル重合可能なモノマー、例えばスチレンが属する。前記粒子を製造するための混合物は、コモノマーを好ましくは0質量%〜10質量%、より好ましくは0.5質量%〜5質量%含んでいてよい。
【0045】
特に好ましい耐衝撃性改良剤は、二層の、特に好ましくは三層のコア・シェル構造を有するポリマー粒子である。そのようなコア・シェルポリマーは、とりわけEP0113924、EP0522351、EP0465049及びEP0683028に記載されている。
【0046】
コア並びにシェルは、挙げられたモノマーに加えて、その都度別のモノマーを含有していてよい。これらは前に説明されており、その際、特に好ましいコモノマーは架橋作用を有する。
【0047】
耐衝撃性改良剤の粒度は、通常、50〜1000nm、好ましくは100〜500nm、特に好ましくは150〜450nmの範囲内であるが、これにより限定が行われるものではない。
【0048】
本発明による成形材料は、成形体へと加工される。そのために慣例の技術方法、例えば射出成形、押出成形、プレス成形、焼結、並びに他の成形法も適している。該成形体の形態に制限は設けられていない。その高い耐熱変形性に相応して、使用の重点が置かれるのは、当然のことながら、高温にさらされる成形体、例えば照明技術における光導体適用、光導体シート又は光学レンズ、並びに自動車の温度負荷がかかる領域における成形部材、例えば特にヘッドランプレンズ、テールランプ又はフォグライト等である。
【0049】
本発明のもう一つの観点は、本発明により製造された成形材料から得ることができる成形体である。殊に、該観点は、少なくとも40質量%が(メタ)アクリル酸の繰り返し単位から構成されている成形材料から得られる成形体に関する。
【0050】
該観点はまた、<2の黄色度及び<1.5%、有利には<1%の曇り度を有する、本発明による成形材料ないし本発明による方法により得られた成形材料から得られた成形体に関する。該成形体は、>89%〜92%、有利には>90.5%〜92%の範囲の透明度を有することを特徴とすることができる。
【0051】
前記適用のために重要なのは、応用技術的利点である。例えば、本発明による成形体は、本発明による方法の実施後に、実質的に無色である。その黄色度又はYI(yellowness index) −DIN 6167(D65/10)に従って、もしくはASTM D1925に従って測定されたもの− は、試料厚3mmでの測定で、2未満、有利には1未満である。着色顔料により、該成形体は当業者に公知の方法に従って着色されることができる。
【0052】
本発明による成形材料は、光学的に要求度の高い成形部材の製造に際しても使用される。特に長い流路及び/又は複雑な成形部材形状にはまさに高い処理温度が必要である。本発明の対象はまた、上記方法に従って得られるような成形材料から得られる成形体である。
【0053】
この材料からの成形体は、他の高透明性の熱可塑性樹脂、例えばポリメチルメタクリラート(PMMA)からの成形体より明らかに高い温度にずっと曝されることができる。当然のことながら、より高い熱負荷によって変色のリスクも高まる。この高性能の熱可塑性樹脂を例えばランプ及び発光ダイオードのカバーに使用できるようにするためには、該樹脂を、黄色度の増大として視認可能な熱により引き起こされる変色から、出来る限り保護することが必要である。
【0054】
好ましい実施態様において、本発明の成形体は、>89%〜92%、有利には>90.5%〜92%の範囲の透明度を有することを特徴とする。
【0055】
他の適用は、共押出における、例えば共押出層、被覆としての、又はポリマーブレンドにおける成分としての、前記方法により得られる成形材料の使用である。もう一つの適用は、光電池のカバーである。
【実施例】
【0056】
実施例
以下でα−HIBSM−MAとは、以下の図(m=0)による、メタクリル酸とα−ヒドロキシイソ酪酸メチルエステルとのエステル化生成物と解釈される:
【化5】

【0057】
二量体α−HIBSM−MAとは、相応してm=1のエステル化生成物と解釈されるべきである。オリゴマーα−HIBSM−MAについては、m>1である。
【0058】
実施例1
以下のものから構成されている溶液のラジカル重合(全てのパーセンテージは、出発組成物の液体分に関するものである。)
a)モノマー(50質量%)
メチルメタクリラート:42質量%
メチルアクリラート 0.5質量%
α−HIBSM−MA溶液 7.5質量%(α−HIBSM−MA80質量%及び二量体α−HIBSM−MA10質量%及びオリゴマーα−HIBSM−MA10質量%からなる)
b)溶剤(50質量%)
ブチルアセタート 50質量%
【0059】
それぞれ溶液の液体分に関して、開始剤としてt−ブチルペルネオデカノアート0.9質量%を使用し、連鎖移動剤としてメチル−3−メルカプトプロピオナート0.24質量%を使用した。反応混合物を開始剤の供給下に80℃で6時間重合させた。次いで、揮発性成分をポリマーシロップからベント式押出機中に移した。生成物は透明である。
【0060】
熱負荷の際に生じる開裂生成物を調べるために、上記方法により製造された試料を270℃で15分間にわたりTGA(Thermal Gravimetrie Analysis、熱重量分析)において熱負荷をかけ、質量減少を測定した。さらに、ガス状及び固形の開裂生成物の組成をGC及びGC−MSにより調べた。質量減少は15分後に12質量%であった。以下の成分を開裂生成物として同定した:
メチルメタクリラート 77質量%
α−HIBSM−MA 14質量%
二量体α−HIBSM−MA 1.4質量%
他の成分 7.4質量%
【0061】
熱負荷後、ポリマー中に、ポリマーに結合した酸が認められた。メタクリル酸に関して、これはポリマー中での5質量%のメタクリル酸分に相当する。この値は開裂生成物から期待される値と非常に良好に一致する。
【0062】
DSCにより測定したDIN ISO 11357−2によるコポリマーのガラス転移温度は、熱負荷前には114℃であり、270℃で15分間の熱負荷後には118℃である。
【0063】
実施例2
以下のものから構成されている溶液のラジカル重合
a)モノマー(50質量%)
メチルメタクリラート:49.5質量%
メチルアクリラート 0.5質量%
b)溶剤(50質量%)
ブチルアセタート 50質量%
【0064】
それぞれ溶液の液体分に関して、開始剤としてt−ブチルペルネオデカノアート0.9質量%を使用し、連鎖移動剤としてメチル−3−メルカプトプロピオナート0.24質量%を使用した。反応混合物を開始剤の供給下に80℃で6時間重合させた。次いで、揮発性成分をポリマーシロップからベント式押出機中に移した。生成物は透明である。実施例1と同様にDSCにより測定したガラス転移温度は114℃であった。270℃で15分間熱負荷をかけ、揮発性成分を分離した後、ガラス転移温度は変わらず114℃であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリラートベースの耐熱変形性成形材料の製造法において、
該成形材料は、少なくとも1質量%、有利には少なくとも2質量%、特に有利には少なくとも4質量%が(メタ)アクリル酸繰り返し単位から構成されており、
該(メタ)アクリル酸繰り返し単位の少なくとも60%、有利には少なくとも80%は、熱的に、プレポリマーから、ポリマー類似開裂による低分子物質の生成により形成されており、
該低分子物質は、メタクリル酸又はメタクリル酸のエステルであることを特徴とする方法。
【請求項2】
開裂により低分子物質が生成される前のプレポリマーが、α−ヒドロキシイソ酪酸(メタ)アクリラート又はα−ヒドロキシイソ酪酸(メタ)アクリラートのアルキルエステル、有利にはα−ヒドロキシイソ酪酸(メチルエステル)(メタ)アクリラートの共重合により製造されたものである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
開裂により低分子物質が生成される前のプレポリマーが、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸エステル含有ポリメタクリラートと、α−ヒドロキシイソ酪酸又はα−ヒドロキシイソ酪酸のアルキルエステル、有利にはα−ヒドロキシイソ酪酸(メチルエステル)とのエステル化又はエステル交換により製造されたものである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
α−ヒドロキシイソ酪酸又はα−ヒドロキシイソ酪酸のアルキルエステルと、(メタ)アクリル酸ないし(メタ)アクリル酸の繰り返し単位とのエステルを、さらなる1〜4分子のα−ヒドロキシイソ酪酸又はα−ヒドロキシイソ酪酸のアルキルエステルと部分的にエステル化する、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
遊離したメタクリル酸及び/又は遊離したメタクリル酸のエステルの少なくとも80質量%、有利には少なくとも90質量%を、減圧により残留モノマーと一緒に成形材料から除去する、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
ポリマー類似開裂、及び、残留モノマー及び/又は遊離した低分子化合物の除去を、押出機又は重合混練機中で行う、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
ポリマー類似開裂をエステル交換触媒の添加又は存在により促進させる、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項記載の方法により製造可能なポリ(メタ)アクリラートベースの成形材料。
【請求項9】
少なくとも1質量%、有利には少なくとも2質量%、特に有利には少なくとも4質量%が(メタ)アクリル酸の繰り返し単位からなる、請求項8記載の成形材料。
【請求項10】
請求項8又は9記載の成形材料から得ることができる成形体。
【請求項11】
光導体、光導体シート、光学レンズ、光電池のカバーとしての、共押出層としての、又はブレンド成分としての、請求項10記載の成形材料の使用。

【公表番号】特表2013−509461(P2013−509461A)
【公表日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535703(P2012−535703)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【国際出願番号】PCT/EP2010/063067
【国際公開番号】WO2011/051032
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(390009128)エボニック レーム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (293)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Roehm GmbH
【住所又は居所原語表記】Kirschenallee, D−64293 Darmstadt, Germany
【Fターム(参考)】