説明

ヒドロキシエチルセルロースに基づく生体接着性ゲル

唯一のゲル化剤としてヒドロキシエチルセルロースを含む、有効成分および/または活性成分を適用するための粘膜、特に膣粘膜に接着する、生体接着性ゲルの形態の組成物を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有効成分(active ingredients)および/または活性成分(active principles)を適用するための粘膜、特に膣粘膜に接着する生体接着性ゲルの形態の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
生体接着性とは、ある種のヒドロゲルが生体組織、特に、胃、口腔、膣および直腸の粘膜などの粘膜で覆われた上皮に接着する性質をいう。
【0003】
この性質は、薬物送達系を開発するため、とりわけ、治療の対象となっている特定の部位または領域への薬物の接触持続時間を延長し、全身的効果を上昇させ(すなわち経粘膜吸収を増大させ)、または局所効果を上昇させるために開発されてきた。
【0004】
ヒドロゲルを形成し、生体および/または粘膜接着性を与えうるものとして最も一般的に用いられるポリマーは、アクリル酸またはメタアクリル酸ポリマーで、場合によっては架橋されているもの、ならびにキトサン、或いはこれらの誘導体である。
【0005】
特に婦人科用に設計された薬物では、生体接着性ゲルは、確実に有効成分と膣粘膜とを長時間接触させ、その成分を長時間にわたって徐放することを可能にし、有効性と患者のコンプライアンスとの観点から理想的な解決を与える。
【0006】
そこで、生体接着性の膣ゲルは、例えばUS6159491、US2002012674、US2003091642、WO200047144、WO200203896号、WO200143720、WO9610989に開示されている。これらの全ての場合において、粘度調整剤または生体接着剤としては、アクリル酸ポリマー(カルボマーまたはポリカルボフィル)が用いられている。
【0007】
WO200015192には、アクリル酸ポリマーの代わりにキトサンを用いた粘膜接着性製剤が記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、以下の利点や性質を有する生体接着性製剤を得るという課題は、実質的に未解決のままとなっている:
−最大約24時間に及ぶ薬物の放出;
−酸性基の存在により特徴づけられ、そのために媒体のイオン強度の影響を受け易く、塩基による中和を時として必要とするゲル化剤/生体接着剤を含まないこと;
−異なる物理化学的性質を有する薬物、特に、水可溶性薬物と実質的に水に不溶の脂溶性薬物とを担持する可能性;
−治療の時間とコストの削減。
【0009】
前記目的は、唯一の生体接着性ポリマーとしてヒドロキシエチルセルロースを含む、粘膜、特に膣粘膜に接着する生体接着性ゲル製剤により達成されることが見出された。このゲル化賦形剤は酸性基を有さず、従って媒体のイオン強度に左右されることがない。有効成分の最大24時間に及ぶ、特に緩徐な徐放を可能にするようなマトリクス効果も有する。
【0010】
従って、本発明は、唯一のゲル化剤および生体接着剤としてヒドロキシエチルセルロースを含む、有効成分の膣内送達のための水性ゲルの形態の組成物に関する。
【0011】
本発明の組成物はまた、グリセロール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、界面活性剤、保存料、酸性化剤、および、ここで想定する送達の形態に通常用いられるようなその他の賦形剤を含有していてもよい。
【0012】
本発明の組成物は、1から5重量%のヒドロキシエチルセルロースと、25から90重量%の水と、5から25重量%のグリセロールと、5から50重量%のジエチレングリコールモノエチルエーテルと、0.01から10重量%の界面活性剤と、0.05から1重量%の保存料と、0.01から1重量%の酸性化剤とを含有することが好ましい。
【0013】
ヒドロキシエチルセルロース含有量は、2%よりも高く、4%未満であることが好ましい。
【0014】
ヒドロキシエチルセルロースは、多くの供給業者から市販されている。ヒドロキシエチルセルロースは、約1.5の置換度(糖単位2個毎に3個のヒドロキシエチル基に相当する)を有し、固有粘度測定値から算出される分子量が1.0×106から1.3×106であることが好ましい。前記の特徴を有するヒドロキシエチルセルロースは、Hercules Inc.UKからNatrosol250HXの商標のもとに販売されている。
【0015】
有効成分の割合は、選択される薬物の特徴に明らかに依存し、例えば約0.01から10重量%のように広い範囲にわたって変えてもよい。
【0016】
本発明によって有利に製剤化できる有効成分には、抗真菌剤、殺菌剤、抗菌剤、抗生剤、鎮痛剤、局部麻酔剤、抗ヒスタミン剤、抗炎症剤、避妊剤、ホルモン剤、またはこれらの組合せが含まれる。
【0017】
これらの有効成分の例には、特に、エコナゾール、ミコナゾール、フルコナゾール、シクロピロクスオラミン、ニフラテル(nifuratel)、ナイスタチン、クロルヘキシジン、イブプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン、ベンジダミン(benzydamine)、ベンザルコニウム クロライド、またはその他の四級アンモニウム殺菌剤、およびノノキシノール−9、ならびにその他の、婦人科用途に関係する全ての有効成分が含まれる。
【0018】
以下の実施例は、本発明をさらにより詳細に示す。
【0019】
実施例1
組成 割合
精製水 81.9%
グリセロール 12.9%
クロルヘキシジン ジグルコネート、20%溶液w/v 2.7%
ヒドロキシエチルセルロース(Natrosol250HX) 2.5%
実施例2−イブプロフェン膣ゲル
組成 割合
イブプロフェン 0.100%
ベンザルコニウム クロライド 0.150%
ポリオキシエチエン−20−モノエチル エーテル(Brij 58)
0.500%
ヒドロキシエチルセルロース(Natrosol250HX) 2.500%
ジエチレン グリコール モノエチル エステル(Transcutol P)
10.000%
精製水 86.750%
実施例3−エコナゾールナイトレート膣ゲル
組成 割合
エコナゾール ナイトレート 1.000%
ベンザルコニウム クロライド 0.150%
ヒドロキシエチルセルロース(Natrosol250HX) 2.500%
ポリソルベート80(Tween80) 4.000%
グリセロール 10.000%
ジエチレン グリコール モノエチル エステル(Transcutol P)
40.000%
精製水 42.350%
実施例4−膣ゲルの生体接着性の研究
生体接着性を、適当に改変したロイド動力計を用いてin vitroで測定した。測定基体(ウサギの胃粘膜、またはポリプロピレン)を、接着剤で上部支持体に固定し、この支持体を可動性のクロスバーに接続して、下部支持体上に表面を均一にカバーするように200mgの試験製剤をおいた。製剤と基体との間を緊密に接触させた(30s)後、2つの表面が離れるまで規定の一定速度でクロスバーを上昇させた。
【0020】
測定には、20Nのロードセルを用いた(J.Y.Chang,Y−K.Oh,H.S.Kong,E.J.Kimら,J.Control.Release 82(2002)39〜50頁;S.Skulason,T.Kristmundsdottir,W.P.Holbrook,Bio−Gels Pharmaceuticals)。
【0021】
各サンプルにつき5回の測定を行った。考慮したパラメータは、最大破壊荷重(ML)と、接着仕事(W)であった。
【0022】
検討において用いた操作条件について、下に報告する。
【0023】
【表1】

【0024】
結果
結果を表1に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
実施例5−実施例1、2および3のゲルのpH4.0での拡散試験
拡散媒体:乳酸バッファ、pH4.0
拡散体積:50mL
温度:37±0.5℃
攪拌速度:50rpm
サンプル量:1.5g
放出面積:4.5cm2
放出膜:セルロースアセテート 0.45μm
ゲルからの薬物放出試験を、4.5cm2の表面積を有するセルロースアセテート膜を備えた拡散セルを用いて実施した。塗布したゲルの量は1.5gであった。自動化システムにより、定められた時間に予め決定されたサンプルアリコートを採取し、ただちにUV分光光度計254nmで判読した。
【0027】
図1は、クロルヘキシジンの拡散プロファイルを、8個のサンプルの平均±標準偏差として示している。
【0028】
図2は、8個のサンプルから得られたクロルヘキシジンの拡散プロファイルを示している。
【0029】
表2は、8個のクロルヘキシジンサンプルの放出率を示している。
【0030】
【表3】

【0031】
図3は、イブプロフェンの拡散プロファイルを、8個のサンプルの平均±標準偏差として示している。
【0032】
表3は、8個のイブプロフェンサンプルの放出率を示している。
【0033】
【表4】

【0034】
図4は、エコナゾールの拡散プロファイルを、8個のサンプルの平均±標準偏差として示している。
【0035】
表4は、8個のエコナゾールサンプルの放出率を示している。
【0036】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】クロルヘキシジンの拡散プロファイルを、8個のサンプルの平均±標準偏差として示している。
【図2】8個のサンプルから得られたクロルヘキシジンの拡散プロファイルを示している。
【図3】イブプロフェンの拡散プロファイルを、8個のサンプルの平均±標準偏差として示している。
【図4】エコナゾールの拡散プロファイルを、8個のサンプルの平均±標準偏差として示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
唯一のゲル化剤および生体接着剤としてヒドロキシエチルセルロースを含む、有効成分および/または活性成分の送達のための水性生体接着性ゲルの形態の組成物。
【請求項2】
有効成分および/または活性成分の膣内送達のための、請求項1に記載の水性ゲルの形態の組成物。
【請求項3】
さらに、グリセロール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、界面活性剤、保存料および酸性化剤を含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
1から5重量%のヒドロキシエチルセルロースと、25から90重量%の水と、5から25重量%のグリセロールと、5から50重量%のジエチレングリコールモノエチルエーテルと、0.01から10重量%の界面活性剤と、0.05から1重量%の保存料と、0.01から1重量%の酸性化剤とを含有する請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
有効構成成分として、抗真菌剤、殺菌剤、抗菌剤、抗生剤、鎮痛剤、局部麻酔剤、抗ヒスタミン剤、抗炎症剤、避妊剤、ホルモン剤、またはこれらの組合せを含有している、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
有効成分が、エコナゾール、ミコナゾール、フルコナゾール、シクロピロクスオラミン、ニフラテル、ナイスタチン、クロルヘキシジン、イブプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン、ベンジダミン、ベンザルコニウムクロライドまたはその他の四級アンモニウム殺菌剤、およびノノキシノール−9から選択される、請求項5に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−533604(P2007−533604A)
【公表日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522300(P2006−522300)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【国際出願番号】PCT/EP2004/008577
【国際公開番号】WO2005/014047
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(506043398)ミファルム ソシエタ ペル アチオニ (1)
【氏名又は名称原語表記】MIPHARM S.P.A.
【Fターム(参考)】