説明

ヒドロキシエチルデンプン

ヒドロキシエチルデンプン、その製造方法、そのようなヒドロキシエチルデンプンを含む医薬製剤、および増量剤、血漿補充剤または血漿増量剤の製造のための医薬製剤の使用、ならびに正常血液量維持のため、および/またはマクロおよびミクロ循環の改善のため、および/または大および微小循環の改善のため、および/または栄養的酸素供給の改善のため、および/または血行動態の安定化のため、および/または量効率の改善のため、および/または血漿粘度の低下のため、および/または貧血耐性の増大のため、および/または血液希釈、特に血液供給が妨げられた状態および動脈、特に末梢動脈閉塞性疾患における治療的血液希釈のための医薬製剤の使用を記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシエチルデンプンおよびその製造方法に関する。さらに、本発明は、ヒドロキシエチルデンプンを含む医薬製剤、および増量剤、血漿補充剤または血漿増量剤の製造のための医薬製剤の使用、ならびに正常血液量維持のため、および/またはマクロおよびミクロ循環の改善のため、および/または大および微小循環の改善のため、および/または栄養的酸素供給の改善のため、および/または血行動態の安定化のため、および/または量効率の改善のため、および/または血漿粘度の低下のため、および/または貧血耐性の増大のため、および/または血液希釈、特に血液供給が妨げられた状態および動脈、特に末梢動脈閉塞性疾患における治療的血液希釈のための医薬製剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
血管内液の使用は、血液量不足が、血液または体液の急速な喪失(急性出血、外傷、外科手術、火傷)、大循環と微小循環との間の分配が妨げられた状態(敗血症など)、または血管拡張(たとえば、麻酔の開始中など)に起因するかどうかにかかわらず、血液量不足の予防および治療における最も重要な手段である。このような適応症に適する注入液は、正常血液量を回復し、重要臓器の灌流および末梢血流を維持することを想定される。一方、このような溶液は、循環を過剰に圧迫してはならず、可能な限り副作用が存在してはならない。この点において、現在利用可能な増量剤はすべて、利益および不利益を有する。いわゆるクリスタロイド溶液(電解質溶液)は、即時の副作用を本質的に有さないが、血管内容量および血行動態の短期間または不適切な安定化しか保証しない。重篤あるいは持続的な血液量不足の場合、該溶液は、血管内区画に残るとは限らず、素早く血管外区域に散逸するので、過剰量で注入しなければならない。しかし、血管外区域への流出が速いということは、クリスタロイド溶液の循環充填効果を制限するのみならず、末梢および肺浮腫の危険にも関与する。肺浮腫が意味しうる致命的脅威とは別に、さらに末梢浮腫も影響を与える栄養的酸素供給の悪化が引き起こされる。
【0003】
対照的に、コロイド増量剤は、含まれるコロイドが天然のものであれ合成されたものであれ、より多くの確かな効果を有する。これは、それらが、コロイド浸透圧効果によって、供給された液体をクリスタロイドと比べてより長く循環中に保持し、したがって、隙間に流出するのを防止するという事実によるものである。その一方で、コロイド増量剤は、クリスタロイド溶液と比べて望ましくない応答を引き起こすことが多い。したがって、すべての血液または血漿誘導体のように、天然のアルブミンは、ウイルス性疾患に感染する危険を伴う;さらに、天然のアルブミンは、たとえば、ACEインヒビターなどの他の薬物との相互作用をもたらす;最後に、アルブミンのアベイラビリティーは、限定され、増量剤としてのその使用は、高価すぎる。増量剤としてのアルブミンの使用に関するさらなる懸念は、外来的に加えられる場合のアルブミンの内因性合成の阻害およびその余分な血管新生が容易に起こることによるものである。これは、アルブミンのコロイド浸透圧効果に起因する望ましくない持続性の液体蓄積が起こりうる血管外区域への循環からの通路を意味する。
【0004】
合成コロイドでは、重篤なアナフィラキシー様反応および血液凝固の大規模な阻害からデキストラン製造が起こり、このためにこれは治療法からほとんど完全に姿を消している。ヒドロキシエチルデンプン(HES)溶液もまたアナフィラキシー様反応を引き起こし、血液凝固に影響を及ぼすが、デキストランと比べて程度が小さい。デキストランとは対照的に、HES溶液では重篤なアナフィラキシー様反応(重篤度IIIおよびIV)は、ほとんどまれにしか見られず、高分子量HES溶液に伴う血液凝固における影響は、近年、HES溶液のさらなる発展によって有意に減少している。血漿補充剤としても使用され、本質的に血液凝固に影響を及ぼさないゼラチン溶液と比べて、少なくとも高分子量および中分子量の具体例のHES溶液は、より長い血漿滞留時間および有効性という利点を有する。
【0005】
EP-A-0 402 724は、平均分子量Mw:60,000〜600,000、モル置換度MS:0.15〜0.5および置換度DS:0.15〜0.5のヒドロキシエチルデンプンの製造を開示する。開示は、血漿増量剤として用いられるヒドロキシエチルデンプンの迅速(6〜12時間)および完全な分解性を扱っている。平均分子量100,000〜300,000という好ましい範囲内で、平均分子量234,000を有するヒドロキシエチルデンプンが明確に考察された。
【0006】
US-A-5,502,043は、末梢動脈閉塞性疾患において微小循環を改善するための平均分子量Mw:110,000〜150,000、モル置換度MS:0.38〜0.5および置換度DS:0.32〜0.45のヒドロキシエチルデンプンの使用を開示する。さらに、この文献は、その低分子量のために、血漿粘度を低く保ち、したがって血流の微小循環の改善を保証する低分子量(Mw:110,000〜150,000)ヒドロキシエチルデンプンの使用を教示する。しかし、この文献は、Mw:500,000のヒドロキシエチルデンプンなどの高分子量ヒドロキシエチルデンプンは、血漿粘度を上昇させ、したがって、モル置換度が低い(MS=0.28)にもかかわらず微小循環を悪化させるので、それらを使用しないよう忠告している。
【0007】
世界中で、現在、種々のHES製剤がコロイド増量剤として用いられている。
主としてその分子量、さらにはそのヒドロキシエチル基とのエーテル化の度合いおよびその他のパラメーターによって区別される。このクラスの物質の最もよく知られた代表は、いわゆるヘタスターチ(Hetastarch(HES 450/0.7))およびペンタスターチ(Pentastarch(HES 200/0.5))である。後者は、現在最も広く知られた「標準HES」である。その上、HES 200/0.62およびHES 70/0.5は、重要でない役割も果たす。分子量ならびに他のパラメーターに関する公表された情報は、平均数量であり、ここで、公表分子量は、ダルトンで表されるか(たとえば、HES 200,000)、またはキロダルトンで簡潔に表された(たとえば、HES 200)重量平均(Mw)に基づく。ヒドロキシエチル基とのエーテル化の度合いは、モル置換度MS(たとえば、HES 200/0.5において0.5;MS=ヒドロキシエチル基:無水グルコース単位の平均モル比)または置換度(DS=モノまたはポリヒドロキシエチル化グルコース:総無水グルコース単位の比)を特徴とする。その分子量にしたがって、臨床使用におけるHES溶液は、高分子量(450 kD)、中分子量(200-250 kD)および低分子量(70-130 kD)製剤に分類される。
【0008】
HES溶液の凝固効果に関して、差異は、非特異的および特異的影響の間で作られる。血液凝固における非特異的影響は、HES溶液および他の増量剤の循環への注入中に起こる血液の希釈(血液希釈)に起因する。この血液希釈によって、注入による血液および血漿タンパク質の希釈の程度および期間に応じてその濃度が減少する凝固因子も影響を受ける。これに対して効果が大きいかまたは持続性である場合、検査診断によって検出可能な凝固性低下をもたらし、極端な場合は、臨床的に関連する。
【0009】
さらに、ヒドロキシエチルデンプンは、数種の因子が原因となる血液凝固に特異的影響を引き起こす。したがって、ある条件下、またはあるHES製剤を用いると、血液希釈による血漿タンパク質の一般的低下よりも大きい、タンパク質凝固因子VIII(F VIII)およびフォンウィルブランド因子(vWF)の低下が見られる。この予期した低下よりも大きい低下が、HESによって引き起こされる血管内皮におけるコーティング効果などによるF VIII/vWFの形成減少または放出によって引き起こされるのか、あるいは他のメカニズムによるものかは、よくわからない。
【0010】
しかし、HESは、言及した凝固因子の濃度のみならず、血小板の機能にも明らかに影響を及ぼす。これは、完全または部分的に、リガンドが血小板のフィブリノーゲン受容体に接近するのを阻害する、血小板の表面へのHESの結合によるものである。
血液凝固におけるHESのこれらの特異的効果が、中分子量HES(たとえば、HES 250/0.5)または低分子量HES(たとえば、HES 130/0.4またはHES 70/0.5)に対してこのような大きな役割を果たさないのに対して、高分子量HES(たとえば、HES 450/0.7)を用いる場合に、特に明らかである(J.Treibら、Intensive Care Med.(1999)、pp.258−268;O.Langeronら、Anesth.Analg.(2001)、pp.855−862;R.G.Straussら、Transfusion(1988)、pp.257−260;M.Jamnickiら、Anesthesiology(2000)、pp.1231−1237)。
【0011】
高分子量HESの危険率プロフィールを中分子量および低分子量製剤と比べるならば、すなわち、血液凝固との相互作用に関するのみならず、特定の薬物動態学的特性にも関して、後者において危険率の明らかな低下を確証することができる。したがって、高分子量HES溶液は、循環において高い蓄積を示すが、この不利益は、中分子量HESでは減少し、低分子量製剤では実質的になくなる。HESの血漿レベルは、臨床ルーチンで決定することができず、したがって、高分子量溶液を用いて2,3日で得ることができる高濃度でさえ、発見されないままであるので、HES 130/0.4などの低分子量HES溶液ではこれ以上の蓄積が起こらないという事実は、適切な治療的発達である。この場合、循環に蓄積した「残留HES」の量は使用者にわからないが、それにもかかわらず、循環中に存在する量は依然としてわからないままで、追加で注入したHESの動態および挙動に影響を及ぼす。したがって、従来技術における高分子量HESの効果を計算することはできない;大部分のケースにおいて治療的理由のために必要あるいは望ましい時間よりも長く循環中に滞留し、その代謝における結末はわからない。
【0012】
対照的に、低分子量HESは、注入後約20〜24時間以内に循環から完全に消滅する。このことは、バックログ効果を回避し、注入を繰り返しても、蓄積が起こらない。高分子量デンプンとは対照的に、低分子量デンプンの薬物動態学的挙動は、計算することができ、したがって、容易にコントロールすることができる。循環またはクリアランスメカニズムにおける過剰負荷が起こらない。
【0013】
しかし、高分子量製剤と比べての低分子量HESのこの有利な挙動は、有意に短い血漿半減期を犠牲にして獲得される。低分子量HESの血漿半減期は、HES 200の約半分またはそれ以下にすぎず(J.Waitzingerら、Clin.Drug Invest.(1998)、pp.151 to 160)、明らかに有効期間が短いと判断されるゼラチン製剤の半減期の範囲である。増量剤の半減期が短いことは、問題になっている増量剤のより頻繁あるいはより高用量での投与によって補償されうるので、絶対的に不利点とみなす必要はないが、重篤または持続的血液量不足においては、半減期が短く、有効期間が短い増量剤は、不十分な循環充填という危険、あるいは、この不利益を補償するためにそれに応じて投与を増加する場合、隙間の液体の過負荷という危険を伴う(クリスタロイド溶液に類似する)。
【0014】
この背景の前に、一方では、蓄積に対する傾向が低いことおよび血液凝固における影響が小さいこと(低分子量HESなど)を特徴とするが、他方では、クリスタロイド溶液の特性に近い特性を有する低分子量HES溶液と比べてより長い半減期を有する増量剤に対する必要性がある。
【0015】
このような特性を有するヒドロキシエチルデンプンを捜索したところ、非常によいのは、公知の低分子量HES溶液と比べてより長い血漿半減期を有するHES溶液のためのヒドロキシエチルデンプンであり、驚くべきことに、循環中で蓄積する特性または血液凝固の明らかな阻害などのこれまでの高分子量溶液の不利益を有するこれらの高分子量溶液なしで、これらを製造することができることが今や見出されている。
【0016】
したがって、1つの具体例において、本発明は、平均分子量Mw≧500,000、モル置換度MS0.25〜0.5、好ましくは0.35〜0.50(0.35≦MS≦0.50)およびC2/C6比:2〜8であるヒドロキシエチルデンプンに関する。
本発明のヒドロキシエチルデンプンは、モル置換度MSに影響される。モル置換度MSは、無水グルコース単位当たりのヒドロキシエチル基の平均数として定義される(Sommermeyerら、Krankenhauspharmazie(1987)、pp.271〜278)。モル置換度は、Ying-Che Leeら、Anal.Chem.(1983)55、334およびK. L.Hodgesら、Anal.Chem.(1979)51、2171にしたがって、決定することができる。この方法では、既知量のHESをアジピン酸およびヨウ化水素酸(HI)のキシレン溶液を加えることによるエーテル切断に付す。続いて、内部標準(トルエン)および外部標準(ヨウ化エチル較正溶液)を用いるガスクロマトグラフィーによって遊離したヨウ化エチルを定量する。モル置換度MSは、本発明のヒドロキシエチルデンプンの効果に影響を及ぼす。高すぎるMSを選択すると、ヒドロキシエチルデンプンを増量剤として用いる場合に循環において蓄積効果を引き起こす。一方、低すぎるMSを選択すると、循環においてヒドロキシエチルデンプンの急速すぎる分解がもたらされ、所望の半減期が減少する。モル置換度MS:0.35〜0.5(0.35≦MS≦0.50)、好ましくは0.39〜0.45(0.39≦MS≦0.45)および特に好ましくは0.4〜0.44(0.4<MS≦0.44)が、有利であることがわかっている。
【0017】
本発明のヒドロキシエチルデンプンは、高分子量ヒドロキシエチルデンプンに属し、平均分子量(Mw)は、好ましくは600,000より上から1,500,000、より好ましくは620,000〜1,200,000、特に好ましくは700,000〜1,000,000である。製造条件により、ヒドロキシエチルデンプンは、確定した一定の分子量をもつ形体ではなく、ヒドロキシエチル基で異なって置換された種々のサイズの分子の混合物の形体である。したがって、このような混合物の特徴は、統計的平均量を用いることを必要とする。したがって、重量平均分子量(Mw)が、平均分子量を特徴付けるために役立ち、この平均値の一般的定義は、Sommermeyerら、Krankenhauspharmazie(1987)、pp.271〜278に記載されている。
【0018】
分子量決定は、GPCカラムTSKgel G 6000 PW、G 5000 PW、G 3000 PWおよびG 2000 PW(7.5 mm x 30 cm)、MALLS検出器(DAWN-EOS;Wyatt Deutschland GmbH、Woldert)およびRI検出器(Optilab DSP;Wyatt Deutschland GmbH、Woldert)、流速1.0 ml/分、50 mMリン酸緩衝液、pH 7.0を用いるGPC-MALLSによって行うことができる。計算は、ASTRAソフトウェア(Wyatt Deutschland GmbH、Woldert)を用いて行うことができる。
【0019】
天然または部分加水分解された、穀物もしくはジャガイモデンプンから得られるヒドロキシエチルデンプンが好ましい。アミロペクチンを多く含んでいることから、もし存在すれば(たとえば、モチ性トウモロコシ(waxy maize)、モチ米など)、ロウ分を含む種類の対応する作物からのデンプンの使用が特に有利である。
【0020】
本発明のヒドロキシエチルデンプンは、無水グルコース単位のC2における置換:C6における置換の比率によってさらに説明される。本発明の範囲内において、またC2/C6比として略記するこの比は、ヒドロキシエチルデンプンの2位で置換された無水グルコース単位の数:6位で置換された無水グルコース単位の数の比を意味する。第1表および第2表に示すように、HESのC2/C6比は、ヒドロキシエチル化に用いた水性水酸化ナトリウムの量に応じて広範に変化しうる。使用したNaOHの量が多いほど、ヒドロキシエチル化のために活性化されるデンプンの無水グルコースの6位における水酸基が多くなる。したがって、NaOH濃度を増加させると、ヒドロキシエチル化中のC2/C6比は低下する。Sommermeyerら、Krankenhauspharmazie(1987)、pp.271〜278の記載にしたがって、定量を行うことができる。好ましい順において、C2/C6比は、3〜8以下、2〜7、3〜7、2.5〜7以下、2.5〜6または4〜6である。本発明の高分子量HESにおいて、C2/C6比は、本発明の目的を達成するためのもう1つの貢献である。
【0021】
ヒトまたは動物における優れた耐容性および容易な分解性のために、本発明のヒドロキシエチルデンプンは、広範囲の医薬製剤において用いるのに適している。
特定の具体例において、本発明のHESは、平均分子量700,000〜1,000,000、モル置換度約0.4〜0.44(0.4<MS≦0.44)およびC2/C6比2〜7、好ましくは3〜7、特に好ましくは2.5〜6である。
【0022】
本発明はさらに、ヒドロキシエチルデンプン、好ましくは本発明のヒドロキシエチルデンプンの製造方法に関する。方法が、以下のステップを含むのが好ましい:
(i)水に懸濁したデンプン、好ましくはトウモロコシデンプン、より好ましくは部分加水分解、いわゆる、シン(thin)煮沸モチ性トウモロコシデンプンをエチレンオキシドと反応させ;次いで、
(ii)所望の範囲の平均分子量のヒドロキシエチルデンプンに達するまで、酸、好ましくは塩酸で、得られたデンプン誘導体を部分的に加水分解する。
【0023】
原則として、すべての公知のデンプンは、本発明のヒドロキシエチルデンプンの製造に適しているが、主として、天然または部分加水分解デンプン、好ましくは穀物またはジャガイモデンプン、特に好ましくはアミロペクチン含量が高いデンプンである。本発明方法の特定の具体例において、モチ性種、特に、モチ性トウモロコシおよび/またはモチ米に由来するデンプンを用いる。特定の具体例において、HESの製造は、水に懸濁した穀物および/またはジャガイモデンプン、好ましくはシンボイリングモチ性トウモロコシデンプンをエチレンオキシドと反応させることによって達成される。アルカリ化剤、好ましくは、たとえば、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムなどの水酸化アルカリ金属を加えることによって反応を触媒するのが有利である。したがって、本発明方法の好ましい具体例において、アルカリ化剤、好ましくは水酸化ナトリウムを水に懸濁したデンプンにさらに加える。アルカリ化剤をアルカリ化剤:デンプンの比が0.2以上、好ましくは0.25〜1、特に好ましくは0.3〜0.8である量で懸濁デンプンに加えるのが好ましい。ヒドロキシエチル化ステップ中のエチレンオキシドとデンプンの比を介して、モル置換度、すなわち、ヒドロキシエチル基:無水グルコース単位のモル比を所望のMS範囲にわたって任意にコントロールすることができる。エチレンオキシドと懸濁デンプンの反応を、30〜70℃、好ましくは35〜45℃の温度範囲で行うのが好ましい。通常、反応後、残ったエチレンオキシドを除去する。この反応に続く第2のステップにおいて、誘導されたデンプンの酸性部分加水分解を行う。「部分加水分解」は、αグリコシド的に相互結合したデンプンのグルコース単位の加水分解を意味する。原則として、当業者に周知のすべての酸を、この酸性加水分解に用いることができるが、鉱物酸、特に塩酸が好ましい。市販のアミラーゼを用いて酵素的に加水分解を行うこともできる。
【0024】
もう1つの好ましい具体例において、本発明の方法はさらに、(iii)滅菌濾過および必要に応じて(iv)限外濾過のステップを含む。上述の濾過を本発明方法において行う場合、HESの酸性部分加水分解は、所望の目標分子量よりわずかに低い平均分子量で達成される。限外濾過により、低分子量反応副産物、主としてエチレングリコールを除去することができ、低分子量HESフルクションの部分が消滅するために、平均分子量がわずかに増加する。
本発明製造方法から誘導された溶液を、次いで、所望のHES濃度に希釈し、塩を加えて所望の浸透圧に調節し、滅菌濾過に付し、適当な容器に充填するのが好ましい。必要に応じて、滅菌は、好ましくは生蒸気によって達成されうる。
【0025】
したがって、本発明はさらに、1つ以上の本発明のヒドロキシエチルデンプンを含む医薬製剤に関する。原則として、本発明の医薬製剤は、可能なあらゆる生薬投与剤形で提供されうる。本発明の好ましい具体例において、本発明の医薬製剤は、静脈内注射または注入されうる。したがって、医薬製剤が、水溶液またはコロイド水溶液であるのが好ましい。この製剤が、20%以下、より好ましくは0.5〜15%、より好ましくは2〜12%、特に好ましくは4〜10%、たとえば、6%の濃度で本発明のヒドロキシエチルデンプンを含むのが好ましい。
他に特記しない限り、量は%で表され、%は、本発明の範囲内でg/溶液100 mlを意味すると理解されるべきである。
【0026】
さらなる具体例において、本発明の医薬製剤はさらに、好ましくは0.6〜2%、より好ましくは0.9%の塩化ナトリウムを含む。塩化ナトリウムの0.9%水溶液は、「生理的食塩水」とも呼ばれる。この溶液は、血清と同じ浸透圧をもち、したがって、静脈内注射または注入のための等張液として適している。他の浸透圧的に有効な物質もまた、それらが、グルコース、グルコース置換体(フルクトース、ソルビトール、キシリトール)またはグリセロールなどのように生理的に安全であり、耐容性が良好であれば、等張化のために用いることができる。別の好ましい具体例において、医薬製剤はさらに、さらなる血漿適合性電解質を含む。このような等張製剤の製造は、当業者に公知である。血漿適合性電解質の等張液の例は、いわゆるタイロード溶液である。この溶液は、100 mlの蒸留水に、0.8 gのNaCl、0.02 gのKCl、0.02 gのCaCl2、0.01 gのMgCl2、0.005 gのNaH2PO4、0.1 gのNaHCO3および0.1 gのグルコースを含む。別の例は、0.8%塩化ナトリウム、0.02%塩化カリウム、0.02%塩化カルシウムおよび0.1% 炭酸水素ナトリウムを含む、いわゆるリンガー溶液である。もちろん、電解質のアニオンを代謝アニオンに置き換えてもよい;したがって、たとえば、リンガー溶液中の炭酸水素ナトリウムを0.3または0.6%乳酸ナトリウムと置き換えてもよい。対応する電解質組成物または溶液は、「乳酸リンガー液」として当業者に公知である。単独または組み合わせて用いることができる、さらなる代謝アニオンは、酢酸塩(たとえば、酢酸リンガー液)またはリンゴ酸塩である。
【0027】
本発明の別の具体例において、医薬製剤は、高張液となってもよい。高張液は、ヒトの血液よりも浸透圧が高い溶液である。高張医薬製剤は、特定の臨床像において有利である。必要とされる高張液の高い浸透圧は、たとえば塩化ナトリウムなどの浸透圧的に有効な物質を対応する量で加えることによって調節される。7.5%以下およびこの目的ではそれ以上の濃度で使用される。
【0028】
感染の危険を回避および減少するために、本発明の医薬製剤を滅菌濾過または加熱滅菌に付すのが好ましい。水性またはコロイド水性の本発明の医薬製剤の滅菌濾過に特に適するの、商品名SARTOPOREでSartoriusが市販しているものなどの微小孔フィルターカートリッジである。たとえば、孔径0.2 μmのこのようなフィルターカートリッジが適当である。さらに、ヒドロキシエチルデンプンに悪影響を及ぼすことなく、本発明の医薬製剤を加熱滅菌に付すことができる。約100℃、より好ましくは105〜150℃、特に好ましくは110〜130℃、たとえば、121℃にて、30分以下、好ましくは25以下、特に好ましくは18〜22分の温度で熱滅菌を行うのが好ましい。
【0029】
好ましい具体例において、医薬製剤は増量剤である。増量剤は、動物およびヒトの静脈内液を補充するために用いる。増量剤は、特に、血液量不足の予防および治療において用いる。血液量不足が、急性出血、外傷、外科手術、火傷などの血液または体液の急速な喪失に起因するか、または敗血症などの大循環と微小循環との間の分配が妨げられた状態に起因するか、または麻酔の開始中などの血管拡張に起因するかは重要ではない。増量剤は、いわゆる血漿補充剤といわゆる血漿増量剤さらに分類される。血漿補充剤では、血管内に適用された血漿補充剤の量が、血管へ供給される量に対応する。対照的に、血漿増量剤では、血管内に適用された血漿増量剤の量が、実際に血管に供給される量より少ない。この現象は、血漿増量剤の使用が、血管内空間と血管外空間との間の膠質の平衡を妨げ、さらなる液体量が、血管外空間から処置された血管系へ流れるという事実に基づく。
血漿増量剤は、含まれる本発明のヒドロキシエチルデンプンの濃度が増加する、および/またはそれぞれの電解質が膠質および/または浸透圧アンバランスを引き起こすという事実によって血漿補充剤と本質的に区別される。
【0030】
本発明の医薬製剤はさらに、医薬的活性成分または活性成分の組み合わせを含むため、それらに溶解した活性成分を投与するための媒体として機能する。
【0031】
本発明はさらに、増量剤または血漿補充剤または血漿増量剤の製造のための本発明の医薬製剤の使用に関する。
本発明の医薬製剤を増量剤または血漿補充剤または血漿増量剤として使用するのが、より好ましい。医薬製剤が、正常血液量を維持するために機能するのが好ましい。正常血液量の維持は、ヒトまたは動物において、たとえば、血圧、利尿率または心拍に関し、重大な影響を有する血行動態的安定性にとって特に重要である。できるだけ素早く血管内液の喪失を補償し、正常血液量を回復させるために、当業界で公知の血漿補充剤、特にHES 130/0.4などの低分子量HES溶液と比べて本発明の医薬製剤は血漿半減期が長いので、本発明の医薬製剤が、特に注入の直後の重大な局面において、特に有利であることがわかっている。本発明の医薬製剤は、特に、驚いたことに、高分子量HESについてのU.S.5,502,043の記載とは対照的に、本発明製剤を用いたときに血液および/または血漿粘度が上昇しないことが見出されており、他の高分子量製剤と比べて血液凝固が阻止される程度が小さいので、さらに有利である。血漿粘度が驚いたことに上昇しないという事実は、微小循環の改善および改善された血管への栄養的酸素補給も提供する。
【0032】
本発明はさらに、正常血液量維持のため、および/またはマクロおよびミクロ循環の改善のため、および/または大および微小循環の改善のため、および/または栄養的酸素供給の改善のため、および/または血行動態の安定化のため、および/または量効率の改善のため、および/または血漿粘度の低下のため、および/または貧血耐性の増大のため、および/または血液希釈、特に血液供給が妨げられた状態および動脈、特に末梢動脈閉塞性疾患における治療的血液希釈のための本発明の医薬製剤の使用に関する。
【0033】
本発明の医薬製剤または本発明のヒドロキシエチルデンプンを、医薬、特に、正常血液量維持のため、および/またはマクロおよびミクロ循環の改善のため、および/または大および微小循環の改善のため、および/または栄養的酸素供給の改善のため、および/または血行動態の安定化のため、および/または量効率の改善のため、および/または血漿粘度の低下のため、および/または貧血耐性の増大のため、および/または血液希釈、特に血液供給が妨げられた状態および動脈、特に末梢動脈閉塞性疾患における治療的血液希釈のための医薬の製造のために用いるのが好ましい。
【0034】
さらに、本発明の医薬製剤または本発明のヒドロキシエチルデンプンを、
正常血液量維持の治療方法、および/またはマクロおよびミクロ循環の改善方法、および/または大および微小循環の改善方法、および/または栄養的酸素供給の改善方法、および/または血行動態の安定化方法、および/または量効率の改善方法、および/または血漿粘度の低下方法、および/または貧血耐性の増大方法、および/または血液希釈方法、特に血液供給が妨げられた状態および動脈、特に末梢動脈閉塞性疾患における治療的血液希釈方法に用いるのが有利である。
【0035】
本発明はさらに、別々に、
(i)本発明のヒドロキシエチルデンプン;
(ii)滅菌塩溶液、好ましくは塩化ナトリウム溶液;および必要に応じて、
(iii)医薬的活性成分または活性成分の組み合わせ;
を含むキットに関する。
【0036】
好ましい具体例において、本発明のキットは、マルチコンパートメントバッグに入った別々のコンパートメント中の個々の成分(i)、(ii)および必要に応じて(iii)を含み、ここで、すべての成分を別々にしてもよく、あるいは(i)および(ii)などの特定の成分を1つのコンパートメントに一緒に入れてもよい。
【実施例】
【0037】
以下の実施例によって、本発明をさらに説明する。
原料HESの製造例
【0038】
実施例1:MSおよびC2/C6比は同じであるが、分子量が異なる原料HESの製造
フラクション加水分解による1つの反応物から、インビボ研究のための実験的部分で記載したHESの種類を製造した。この目的のために、以下の手順を採用した。激しく攪拌しながら、30 kgのシン煮沸モチ性トウモロコシデンプンを、52.2 kgの注射用水に室温にて懸濁した。デンプンを最適に水和するために、続いて、懸濁液を少なくとも85℃に加熱することによりゼラチン化した。10分間窒素でスパージし、排気することによる懸濁液の不活化を繰り返した後、5.1 kgのNaOHを加えてデンプンを活性化した。続いて、4.159 kgの冷エチレンオキシドの液体を反応器に導入し、温度を40℃にゆっくりと上昇させ、反応混合物を一定に攪拌しながら室温にて2時間放置した。上述のように繰り返し不活性かすることにより、未反応のエチレンオキシドを反応物から除去した。次いで、段階的酸性加水分解によって、この原HESからMSおよびC2/C6比は同じであるが、分子量が異なる3つのHES調製物を製造した。分子量を低くするために、20% HClで溶液をpH 2.0に調節し、75±1℃に加熱し、GPC-MALLSを用いて決定するHESコロイドの平均分子量Mwが865 kDに減少するまでその温度で維持した。加水分解物の1/3を反応器から除去し、直ちに50℃以下の温度まで冷却した。活性炭で処理することにより溶液を脱色した後、市販のプレフィルターおよび滅菌フィルターを用いて溶液を濾過し、限外濾過(UF)により12%まで希釈した後、精製した。したがって、ミリポア社製のカットオフ10 kDのポリエーテルスルホン膜を用いた。UFの過程で、低分子量HESフラクションの部分的排除のために、Mwはわずかに増加する。この増加は、コロイド調製物の出発Mwに応じて変わるが、主として用いたUF膜の公表カットオフおよび用いたUF膜ロットに応じる。UF後に所望の目標分子量を達成するために、UF中のMwシフトを、用いたUF膜ロットで実験的に予め確立しなければならない。酸性加水分解中のMwを決定するためのサンプリングの時点から確立されたMw値が得られるまで、加水分解が継続することも留意すべきである。したがって、Mwの減少を加水分解期間を通して系統的にモニターすべきであり、MWを時間に対して外挿することによって目標Mwに到達する時点を計算すべきである。次いで、この外挿された時間で加水分解を停止する。その間、最初の1/3が除去された後に残っている加水分解物を、平均分子量Mwが460 kDに減少するまで継続した。続いて、第2の1/3を最初の1/3と同様に処理した。並行して、残りの1/3をMw95 kDになるまでさらに加水分解し、他の2つの部分と同じ処理手順に付した。部分1からHES 900/0.42(C2/C6比=4.83)を得ることができ、部分2からHES 500/0.42(C2/C6比=4.83)を得ることができ、部分3からHES 130/0.42(C2/C6比=4.83)を得ることができた。限外濾過が完了した後、コロイド濃度を6%に、pH値を5.5に調節し、NaClを加えて溶液を等張化し、各500 mlのガラス瓶に入れ、121℃にて20分間滅菌した。
【0039】
実施例2:さらなる原料HESの製造
その他のモル置換度およびC2/C6比を有するHESコロイドを製造するために、同じ規模で、エチレンオキシドの量を変化させて、多くのさらなる実験を行った。さらに、異なるMw(目標Mw)に到達した時点で、酸性加水分解を停止した。これらの実験を以下の第1表にまとめる。
【0040】
第1表
【表1】

【0041】
実施例3:C2/C6比におけるヒドロキシエチル化中のNaOH:デンプンのモル比の影響
NaOH:デンプンの無水グルコース単位のモル比によるC2/C6比の制御可能性を実証するために、30 kgのシン煮沸モチ性トウモロコシデンプンを異なる量のナトリウムと混合し、40℃にてエチレンオキシドと反応させた。第2表に、用いた試薬の量およびC2/C6比ならびにこの反応によって得られたHES生成物のMSを記載する。表からわかるように、NaOH:デンプン比が増加すると、C2/C6比は減少する。これは、低いNaOH濃度でのデンプンの塩基触媒ヒドロキシエチル化が、最も反応性の高い無水グルコース単位の2位のヒドロキシエチル基で達成されるのが好ましいという事実によるものである。NaOH濃度がより高いことにより、それ自体は反応性がより低いC6ヒドロキシ基もまた十分に活性化されて、効率良くヒドロキシエチル化される。
【0042】
第2表:ヒドロキシエチル化中のC2/C6比のコントロール
【表2】

【0043】
HES最終生成物の製造例
以下の第3表に、種々のHES溶液の製造のための製剤形態を記載する。HESは、限外濾過後のHES濃縮物として用いた。6%または10%HES溶液の製造に必要なHES濃縮物の量は、3の法則計算によって決定した。別の可能性は、自由に使える噴霧塔を有する当業者にとって何の問題も提出しない、噴霧乾燥したHESを使用することである。分子量900 kDおよびMS0.42のHESを用いた。
200 lの反応槽にて、それぞれ必要量のHES濃縮物および表に記載したとおりの量のNaOH溶液を秤量し、塩を攪拌溶解した。溶液1、4、5、7および8のpHを5.5に、溶液 2、3、6のpHを6.0に調節した後、明細書にしたがって理論的Na濃度に達する様な量で注射用水を加えた。
当業者には明らかなとおり、記載した活性成分または補助剤の比率を変化させること、およびさらなる物質を削除または追加することによって、製剤を広範に変化させることができ、もし、他の種類のHESを用いるならば、対応する溶液を同様に製造することができる。
【0044】
第3表
【表3】

【0045】
適用例の測定方法
以下に、血液および血漿サンプルを試験した測定方法を記載する。
自然血測定:
実験室にて、クエン酸を加えた血液サンプルを以下のとおり処置した:
せん断速度を1〜240/秒で直線的に増加させる血液粘度の測定のために、1つのサンプルを直ちに用いたレオストレス((Rheostress)(登録商標)1、Thermo-Haake、Karlsruhe、Germany)。1/秒および128/秒のせん断速度で粘度を試験した。トロンボエラストグラフ(Thromboelastograph)(登録商標)(TEG(登録商標)、Haemoscope Corporation、Niles、Illinois)で分析する前に、血液サンプルを37℃の水浴中で1時間インキュベートした。使用説明書にしたがって、血液再沈着およびTEG(登録商標)測定を行った。トロンボエラストグラフィーの数個の部分機能をまとめる凝固指数(CI)を測定した。
【0046】
血漿測定:
4℃および3000 rpmにて15分間、血液サンプルを遠心分離した(Rotana/RP、Hettich、Bach、Switzerland)。上述の血液測定と同様にして、血漿粘度を測定した。組換え組織因子を含むPT試薬(Innovin(登録商標)、Dade Behring)およびエラグ酸を含むaPTT試薬(Actin FS(登録商標)、Dade Behring)を用いる自動凝固アナライザー(BCS、Dade Behring、Marburg、Germany)を用いて、プロトロンビン時間(PT)および活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)を測定した。メーカーが提供するISI値に基づいて、PT値をINR値に変換した。市販のリストセチン補因子アッセイ(vWF RCA、Dade Behring)を用いて、自動凝固アナライザー(BCS、Dade Behring)でフォンウィルブランド因子(vWF)の機能活性を測定した。リストセチンの存在下でヒト血小板を凝集させる能力によって、vWF活性を確立した。凝固アナライザーによる濁度測定を用いて、凝集を測定した。使用説明書にしたがって、市販のELISAキット(Asserachrom vWF antigenic、Roche Diagnostics、Rotkreuz、Switzerland)によって、抗原vWFを検出した。
【0047】
血漿から抽出し、グルコースモノマー単位に加水分解した後、HES濃度を定量した(H.Foersterら、Infusionstherapie 1981;2:88-94)。0.5 mlのKOH溶液 35%(w/w)(Fluka、Buchs、Switzerland)と混合した後、血漿サンプル(1 ml)を100℃にて60分間インキュベートした。反応混合物の上清に10 mlの氷冷無水エタノール(Fluka、Buchs、Switzerland)を加えることによって、HESを沈澱させ、次いで、2 N HCl(Fluka、Buchs、Switzerland)中、100℃にて60分間酸加水分解を行った。ヘキソキナーゼ/グルコース 6−ホスファターゼに基づく酵素テストキット(Boehringer Mannheim、Darmstadt、Germany)を用いることによって、グルコース測定を行った。実際の用量および注入期間を用い、定常注入速度での2−コンパートメントモデルの仮定により、薬物動態パラメーターの計算を行った(WinNonlin、Version 4.1、Pharsight Corp.、Mountainview、CA)。
【0048】
統計解析:
値は、平均値±標準偏差として記載した。JMP 5.1統計パッケージ(SAS Institute,Inc.、Cary、NC)を用いて、2つの高分子量(500および900 kD)のHES溶液を低分子量(130 kD)溶液と比較した。ボンフェローニ補正を考慮に入れ、両側ANOVA分析を用いて、溶液と時間効果の相互作用を試験した。薬物動態パラメーターの統計分析にとって、対応のないスチューデントのt検定を用いた。p<0.05を統計的に有意であるとみなした。
【0049】
適用例
下記のインビボ実験のために、平均分子量(Mw)500,000および900,000ダルトンおよび同じモル置換度(MS =0.42)および同じC2/C6比(4.83)を有する本発明のヒドロキシエチルデンプン(以下の適用例において、それぞれHES 500/0.42およびHES 900/0.42と称する)を用いた(原料HESについては製造例参照)。両方のヒドロキシエチルデンプン(HES 900/0.42およびHES 500/0.42)を、0.2μmフィルターカートリッジ(Sartpore;Sartorius)を用いて6%の濃度で0.9%生理的食塩水に溶解し、滅菌濾過に付し、ガラス瓶に入れ、121℃にて15分間加熱滅菌した。同じMSおよびC2/C6比を有する低分子量ヒドロキシエチルデンプン(Mw=130,000ダルトン)(以下の適用例ではHES 130/0.42と称する)は、比較溶液としての役割を果たした。記載したように、低分子量ヒドロキシエチルデンプンは、本発明の高分子量デンプンと同じ反応物から得られたものであり、したがって、高分子量ヒドロキシエチルデンプンとは分子量によってのみ区別された。
【0050】
血漿排出および血液凝固におけるその影響の試験
30頭のブタをそれぞれ10頭からなる3つのグループに無作為に分ける。比較のために、静脈内注入にて、1つのグループには、HES 900/0.42を処置し、別のグループには、HES 500/0.42を処置し、第3のグループには、HES 130/0.42を処置した。すべてのケースにおいて、用量は、それぞれ6%のHES溶液として20 ml/体重kgであり、注入は30分間かけた。注入およびそれに続く血液サンプリングのために、動物を麻酔(ハロタン麻酔)し、呼吸調節に付した。注入開始前、注入の終了後5、20、40、60、120および240分ならびに24時間の時点で血液サンプリングを行った。そのようにして得られた血液サンプルおよび血漿サンプルにおいて、次のパラメーター:血液および血漿粘度、HES濃度、プロトロンビン時間、部分トロンボプラスチン時間、フォンウィルブランド因子、第VIII因子およびリストセリン補因子ならびに通常のトロンボエラストグラフィー特性を測定した。注入の終了時からその後24時間までのHES濃度の経過から、濃度−時間曲線下面積(=AUC、曲線下面積)、αおよびβ半減期およびクリアランスを計算した。AUCの計算は、対数線形台形法則にしたがって行い、残りの薬物動態パラメーターは、2−コンパートメントモデルに基づいた。このようにして、中央コンパートメント(本質的に血管内空間に対応する)から末梢コンパートメントへのHESの移動を表す2つの半減期、αおよびβ半減期が得られ、β半減期は、逆方向における戻り分配を表す。
【0051】
HES濃縮の過程および薬物動態パラメーターから、低分子量HES(HES 130/0.42)と比べて、高分子量バリアント(HES 900/0.42およびHES 500/0.42)の血漿滞留時間がより長いことが明らかになった。したがって、高分子量バリアントにおいて、AUCおよびα半減期は、低分子量コントロールと比べて、それぞれ有意に大きいか、または長かった;したがって、高分子量HESタイプのクリアランスは、低分子量HESのクリアランスよりも有意に低かった。
【0052】
しかし、これまでに知られているタイプの中または高分子量HES(HES 200/0.5;HES 200/0.6;HES 450/0.7)とは驚いたことに完全に異なって、「注入の24時間後」の時点での血漿濃度において、本発明の高分子量バリアントと低分子量比較溶液との間に、相当する差異はなかった(図1を参照)。このことは、注入直後の段階において、本発明の高分子量ヒドロキシエチルデンプンが、低分子量比較HESと比べて、量効率にとって重大である有意に長い血漿滞留時間を有するが、これまでに知られている高分子量HESのタイプとは対照的に、循環中に蓄積する傾向をもたないことを意味する。むしろ、本発明のHESバリアントは、低分子量比較HESのように、注入後24時間で循環から実質的に完全に消滅した。
【0053】
第4表
【表4】


第4表:6% HES 130/0.42、6% HES 500/0.42および6% HES 900/0.42をそれぞれブタに20 ml/kgで注入した後の濃度−時間曲線下面積(AUC)、クリアランス(CL)、αおよびβ半減期(t1/2αおよびt1/2β)。
対応のないスチューデントのt検定を用いて、HES 130/0.42と比べてHES 500およびHES 900の間で有意性検定を行った;*:p<0.01;**:p<0.001。
【0054】
高分子量HES(HES 500/0.42およびHES 900/0.42)は、低分子量HES(HES 130/0.42)と比べて、血管内空間中のより長い滞留時間に対応する有意により大きい濃度−時間曲線下面積(AUC)、有意に長い初期血漿半減期(t1/2α)および有意により低いクリアランス速度を示した。最初、HES 500/0.42およびHES 900/0.42をHES 130/0.42と比べてよりゆっくりと血管内空間から排除した(第4表参照:薬物動態パラメーター);しかし、排除の最終段階、すなわち注入の24時間後において、もはや血漿濃度間に関連のある差異はなかった(平均濃度は、定量下限の範囲内である0.2 g/l以下であった)。
【0055】
したがって、本発明のヒドロキシエチルデンプンは、一方では、現在公知の低分子量参照溶液(HES 130/0.42)と比べて、より長い血漿半減期を有するが、他方では、注入後24時間以内に低分子量比較製剤と同程度に容易に循環から排除されうることが見出されており、この点において、有利である。
また、行った凝固分析(血漿凝固試験、トロンボエラストグラフィー、vWF濃度の測定)から得られた結果は、これまでに高分子量HES製剤で達成されえた結果とは完全に相異した、予期せぬ結果であった。中分子量および、より明瞭な程度まで、高分子量ヒドロキシエチルデンプンは通常、低分子量HES溶液と比べて凝固性低下に関して、より強い血液凝固の障害をすでに示しているが(J.Treibら、Intensive Care Med.(1999)、pp.258−268;R.G.Straussら、Transfusion(1988)、pp.257−260)、本発明の高分子量HES製剤と公知の低分子量比較溶液との間に有意な差異は見出されなかった(第5表参照)。
【0056】
第5表
【表5】

【0057】
第5表は、血漿凝固パラメーターであるプロトロンビン時間(PT)、活性化部分トrンボプラスチン時間(aPTT)、フォンウィルブランド因子の機能活性(vWF機能活性)およびフォンウィルブランド因子の抗原活性(vWF抗原活性)の時間経過ならびに6% HES 130/0.42、6% HES 500/0.42および6% HES 900/0.42をそれぞれブタに20 ml/kgで注入した後のトロンボエラストグラフィーの凝固指数(CI)の時間経過を示す。両側ANOVAを用い、それぞれHES 130/0.42と比べて、HES 500/0.42およびHES 900/0.42の間で統計的有意性(溶液の相互作用および時間効果)の検定を行った。より高い分子量、より高い濃度およびより長い血漿中の滞留時間にもかかわらず(図1および第4表参照)、本発明の高分子量HES(HES 500/0.42およびHES 900/0.42)は、血液凝固に影響を及ぼさない程度は低分子量HES(HES 130/0.42)よりいくらか高かった。
【0058】
言い換えれば、分子量が高いことによって達成されたより長い血漿滞留時間にもかかわらず、本発明のヒドロキシエチルデンプンは、公知の高分子量溶液によって引き起こされる血液凝固の障害などの該溶液の不利点を示さなかった。
さらに、驚いたことに、本発明の高分子量ヒドロキシエチルデンプンは、公知の高分子量ヒドロキシエチルデンプンとは対照的に、低分子量HESと比べて、血液および血漿粘度を上昇させないことが動物実験において見出された。低いせん断力において、本発明のヒドロキシエチルデンプンが、低分子量HESと比べて、粘度もより低いことが見出された(第6表:血漿粘度参照)。
【0059】
第6表
【表6】

【0060】
第6表は、6% HES 130/0.42、6% HES 500/0.42および6% HES 900/0.42をそれぞれブタに20 ml/kgで注入した後の低および高せん断力(γ=1/秒 およびγ=128/秒)における血漿粘度の時間経過を示す。両側ANOVAを用い、それぞれHES 130/0.42と比べて、HES 500/0.42およびHES 900/0.42の間で統計的有意性(溶液の相互作用および時間効果)の検定を行ったが、高分子量HES(HES 900およびHES 500)と低分子量HES(HES 130)との間に差異はなかった。低せん断力では、血漿粘度における溶液と時間効果の間の相互作用は、低分子量HES(HES 130/0.42)と比べて、高分子量HES(HES 500/0.42およびHES 900/0.42)においてより低いことが分かった。
しかし、これは、溶液効果よりもむしろ時間によるものであった。高せん断力では、差異はなかった;特に、血漿粘度は、低分子量HES(HES 130/0.42)と比べて、高分子量HES(HES 900/0.42およびHES 500/0.42)においてより高いということはなかった。
したがって、血漿粘度は、本発明のHES溶液において増加しない。US-A-5,502,043(比較例3)に開示された同等の分子量500,000を有するヒドロキシエチルデンプンは、血漿粘度の増加を示すので、血漿粘度の増加が観測されなかったという事実は驚くべきことである。もし粘度が増加しないならば、このことは、妨害されない毛細管灌流(微小循環)が妨害されず、組織への栄養的酸素供給が改善される。
【0061】
上述のインビボ実験に加えて、またトロンボエラストグラフィーを用いて、特に血液凝固におけるC2/C6比の影響を試験するインビトロ実験も行った。この目的のために、低MS(0.4)および低(3:1)、中(7:1)または高(12:1)C2/C6比を有する3つの高分子量HES溶液(Mw:800 kD)を製造し、以下の通り試験した。30人の男性および女性外科患者(除外基準:既知の凝固性障害、血液凝固インヒビターによる治療、外科手術の5日前以内のアセチルサリチル酸または他の非ステロイド性抗炎症薬の摂取)から、麻酔開始前に血液サンプルを採取した。すべての血液サンプルにおいて、トロンボエラストグラフィーを用いて、すなわち、非希釈血液および3つのHES溶液(HES 800/0.4/3:1;HES 800/0.4/7:1およびHES 800/0.4/12:1)それぞれを用いるインビトロ血液希釈(20%、40%および60%)後において、凝固を測定した。インビボ実験において、測定したパラメーターは、トロンボエラストグラフィーの個々の部分的機能をまとめる凝固指数(CI)であった。見出されたCI値の平均値(±SD)を、すなわち、それぞれの非希釈血液サンプルにおけるCIからの偏差として以下の第7表に示す。
【0062】
第7表
【表7】

【0063】
すべての血液希釈程度において、天然血液のCIに関するCIは、より少なく減少し、すなわち、血液希釈に用いたHESのC2/C6比が低いほど血液凝固への影響が小かった。血液希釈シリーズの間の溶液の効果は、有意に異なった(p<0.05;ANOVA)。結果から、ヒドロキシエチルデンプンのC2/C6比の低下がそれらの血液凝固における影響にとって有利である、すなわち、このような点において、血液凝固は、高い比と比較して、より低いC2/C6比において阻害されることが示される。このことは、HES溶液をとりわけ、外傷的または外科手術的に引き起こされた出血後の血漿補充剤として用いるので重要であり、この状況において、血液凝固を阻害することによる血液損失に対してそれらを加えてはならない。上述の実験の結果から、HES溶液のC2/C6比が、HESの他の分子パラメーターから独立している血液凝固および循環におけるその行動において本質的効果を有することがさらに示される。このことはこれまでに知られていない。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】各HES溶液をブタに20 ml/kgで注入した後の血漿中の低分子量HES(HES 130/0.42)および高分子量HES(HES 500/0.42およびHES 900/0.42)の濃度の経過を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル置換度MS:0.25〜0.5およびC2/C6比:2〜8を有することを特徴とする平均分子量Mw≧500,000を有するヒドロキシエチルデンプン。
【請求項2】
モル置換度MSが、0.35〜0.5、好ましくは0.39〜0.45および特に好ましくは0.4〜0.44であることを特徴とする請求項1に記載のヒドロキシエチルデンプン。
【請求項3】
平均分子量が、600,000より上〜1,500,000、好ましくは620,000〜1,200,000、より好ましくは700,000〜1,000,000であることを特徴とする請求項1および2のいずれかに記載のヒドロキシエチルデンプン。
【請求項4】
C2/C6比が、2〜7、好ましくは2.5〜7、より好ましくは2.5〜6、さらにより好ましくは4〜6であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のヒドロキシエチルデンプン。
【請求項5】
モチ性トウモロコシデンプンから得られることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のヒドロキシエチルデンプン。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のヒドロキシエチルデンプンを含む医薬製剤。
【請求項7】
水溶液またはコロイド水溶液であることを特徴とする請求項6に記載の医薬製剤。
【請求項8】
ヒドロキシエチルデンプンが、20%以下、好ましくは0.5〜15%、より好ましくは2〜12%、特に好ましくは4〜10%、たとえば、6%の濃度であることを特徴とする請求項6または7のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項9】
さらに塩化ナトリウを好ましくは0.9%の濃度で含むことを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項10】
さらに血漿適合性電解質を含むことを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項11】
緩衝液および/または代謝アニオンを含む溶液であることを特徴とする請求項6〜10のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項12】
高張液であることを特徴とする請求項6〜11のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項13】
滅菌濾過または加熱滅菌されていることを特徴とする請求項6〜12のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項14】
増量剤であることを特徴とする請求項6〜13のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項15】
医薬的活性成分または活性成分の組み合わせを含むことを特徴とする請求項6〜14のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項16】
血漿補充剤または血漿増量剤の製造のための請求項6〜15のいずれかに記載の医薬製剤の使用。
【請求項17】
(i)水に懸濁したデンプン、好ましくはトウモロコシデンプンをエチレンオキシドと反応させ;次いで、
(ii)所望の範囲の平均分子量のヒドロキシエチルデンプンに達するまで、酸、好ましくは塩酸で、得られたデンプン誘導体を部分的に加水分解する;
ことによる、好ましくは請求項1〜5のいずれかに記載のヒドロキシエチルデンプンの製造方法。
【請求項18】
水に懸濁したデンプンにアルカリ化剤、好ましくはNaOHを加えることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
アルカリ化剤をアルカリ化剤:デンプンの比が0.2以上、好ましくは0.25〜1、特に好ましくは0.3〜0.8である量で懸濁デンプンに加えることを特徴とする請求項17または18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
さらに、(iii)滅菌および必要に応じて(iv)限外濾過のステップを含むことを特徴とする請求項17〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
医薬、特に、正常血液量維持のため、および/またはマクロおよびミクロ循環の改善のため、および/または大および微小循環の改善のため、および/または栄養的酸素供給の改善のため、および/または血行動態の安定化のため、および/または量効率の改善のため、および/または血漿粘度の低下のため、および/または貧血耐性の増大のため、および/または血液希釈、特に血液供給が妨げられた状態および動脈、特に末梢動脈閉塞性疾患における治療的血液希釈のための医薬の製造のための請求項6〜15のいずれかに記載のヒドロキシエチルデンプンの使用。
【請求項22】
別々に、
(i)請求項1〜5に記載のヒドロキシエチルデンプン;
(ii)滅菌塩溶液、好ましくは塩化ナトリウム溶液;および必要に応じて、
(iii)医薬的活性成分または活性成分の組み合わせ;
を含むキット。
【請求項23】
個々の成分(i)、(ii)および必要に応じて(iii)を、マルチコンパートメントバッグ内の別々のコンパートメントに入れる請求項22に記載のキット。

【図1】
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【公表番号】特表2007−525588(P2007−525588A)
【公表日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−501278(P2007−501278)
【出願日】平成17年3月1日(2005.3.1)
【国際出願番号】PCT/EP2005/050877
【国際公開番号】WO2005/082942
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(591002131)ベー・ブラウン・メルズンゲン・アクチエンゲゼルシャフト (12)
【氏名又は名称原語表記】B.BRAUN MELSUNGEN AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】