説明

ヒドロキシカルボン酸化合物またはその塩の製造方法

【課題】シアン化水素を原料として使用することなく、4−メチルチオ―2−ヒドロキシ酪酸等のヒドロキシカルボン酸化合物を製造できる新たな方法が求められていた。
【解決手段】遷移金属触媒の存在下、式(2)


(式中、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基または置換基を有していてもよい炭素数3〜12のシクロアルキル基を表し、nは1〜4の整数を表す。)
で示されるケトカルボン酸化合物またはその塩と、水素とを反応させる工程を有することを特徴とする式(1)


(式中、Rおよびnはそれぞれ上記で定義した通り。)
で示されるヒドロキシカルボン酸またはその塩の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシカルボン酸化合物またはその塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4−メチルチオ―2−ヒドロキシ酪酸等のヒドロキシカルボン酸化合物は、多くの生物に普遍的に存在し、生物反応に重要な化合物である。特に、4−メチルチオ―2−ヒドロキシ酪酸は、生体内変換により必須アミノ酸であるメチオニンに変換されるため、飼料添加剤としても用いられる重要な化合物である。
【0003】
ヒドロキシカルボン酸化合物の製造方法として、例えば、非特許文献1には、次の方法が記載されている。まず、アクロレインにメタンチオールを付加させ、3−メチルチオプロピオンアルデヒドとし、これをシアン化水素と反応させて2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチロニトリルを得る。次いで、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチロニトリルを硫酸で加水分解することにより、4−メチルチオ―2−ヒドロキシ酪酸を得る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】工業有機化学、東京化学同人、273〜275頁(1978年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記製造方法は、シアン化水素を原料として使用するが、シアン化水素の取り扱いには充分な管理やそれに適合する設備等が必要である。
かかる状況下、シアン化水素を原料として使用することなく、4−メチルチオ―2−ヒドロキシ酪酸等のヒドロキシカルボン酸化合物を製造できる新たな方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討し、本発明に至った。
【0007】
即ち本発明は、以下の通りである。
〔1〕 遷移金属触媒の存在下、式(2)
【0008】
【化1】

(式中、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基または置換基を有していてもよい炭素数3〜12のシクロアルキル基を表し、nは1〜4の整数を表す。)
で示されるケトカルボン酸化合物またはその塩と、水素とを反応させる工程を有することを特徴とする式(1)
【0009】
【化2】

(式中、Rおよびnはそれぞれ上記で定義した通り。)
で示されるヒドロキシカルボン酸化合物またはその塩の製造方法。
〔2〕 前記工程が、さらに溶媒の存在下に前記ケトカルボン酸化合物またはその塩と、水素とを反応させる工程である前記〔1〕記載の製造方法。
〔3〕 前記溶媒が、メタノールおよび水からなる群より選ばれる少なくとも一種である前記2記載の製造方法。
〔4〕 前記遷移金属触媒が、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金およびイリジウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を担体に担持させた触媒である前記〔1〕〜〔3〕のいずれか記載の製造方法。
〔5〕 前記担体が、活性炭、アルミナ、シリカおよびゼオライトからなる群より選ばれる少なくとも一種である前記〔4〕記載の製造方法。
〔6〕 前記工程が、0〜100℃の範囲から選ばれる温度で、前記ケトカルボン酸化合物またはその塩と、水素とを反応させる工程である前記〔1〕〜〔5〕のいずれか記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シアン化水素を原料として使用することなく、4−メチルチオ―2−ヒドロキシ酪酸等のヒドロキシカルボン酸化合物を製造できる新たな方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、本発明で用いられる式(2)
【0012】
【化3】

で示されるケトカルボン酸化合物またはその塩、および本発明で得られる式(1)
【0013】
【化4】

で示されるヒドロキシカルボン酸化合物またはその塩について説明する。
【0014】
式(2)で示されるケトカルボン酸化合物の塩は、式(2)において−COOHで表される基から解離し得るHが、任意の陽イオンに置き換わってなる塩を意味する。かかる陽イオンとしては、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびカリウムイオン等のアルカリ金属イオン;並びにカルシウムイオンおよびマグネシウムイオン等のアルカリ土類金属イオンが挙げられる。
以下、式(2)で示されるケトカルボン酸化合物および式(2)で示されるケトカルボン酸化合物の塩を、化合物(2)ということがある。
【0015】
式(1)で示されるヒドロキシカルボン酸化合物の塩は、式(1)において−COOHで表される基から解離し得るHが、任意の陽イオンに置き換わってなる塩を意味する。かかる陽イオンとしては、例えばリチウムイオン、ナトリウムイオンおよびカリウムイオン等のアルカリ金属イオン;並びにカルシウムイオンおよびマグネシウムイオン等のアルカリ土類金属イオンが挙げられる。
以下、式(1)で示されるヒドロキシカルボン酸化合物および式(1)で示されるヒドロキシカルボン酸化合物の塩を、化合物(1)ということがある。
【0016】
式(2)および式(1)において、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基または置換基を有していてもよい炭素数3〜12のシクロアルキル基を表し、nは1〜4の整数を表す。
【0017】
式(2)および式(1)において、Rで表される置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基における、炭素数1〜12のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、オクチル基およびデシル基が挙げられ、置換基を有していてもよい炭素数3〜12のシクロアルキル基における、炭素数3〜12のシクロアルキル基としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基およびシクロヘキシル基が挙げられる。
【0018】
炭素数1〜12のアルキル基が有していてもよい置換基および炭素数3〜12のシクロアルキル基が有していてもよい置換基としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、4−メチルフェニル基等の炭素数6〜20のアリール基;メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基等の炭素数1〜12のアルコキシ基;トリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基等の炭素数1〜6のペルフルオロアルキルオキシ基;並びにフッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも一種の基が挙げられる。ここで、前記炭素数6〜20のアリール基、前記炭素数1〜12のアルコキシ基および前記炭素数6〜20のアリールオキシ基は、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシ基および炭素数6〜20のアリールオキシ基からなる群より選ばれる少なくとも一種の基をさらに有していてもよい。
【0019】
で表される置換基を有する炭素数1〜12のアルキル基および置換基を有する炭素数3〜12のシクロアルキル基としては、具体的には例えば、ナフタレン−1−イルメチル基、ナフタレン−2−イルメチル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、イソプロピルオキシメチル基、ブチルオキシメチル基、イソブチルオキシメチル基、sec−ブチルオキシメチル基、tert−ブチルオキシメチル、フェノキシメチル基、2−メチルフェノキシメチル基、4−メチルフェノキシメチル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、1−(ナフタレン−1−イル)エチル基、1−(ナフタレン−2−イル)エチル基、1−(4−メチルフェニル)エチル基、1−(3,4−ジメチルフェニル)エチル基、1−(4−メトキシフェニル)エチル基、1−(3,4−ジメトキシフェニル)エチル基、1−(4−フェニルフェニル)エチル基、1−(4−フェノキシフェニル)エチル基、2−(メトキシ)エチル基、2−(エトキシ)エチル基、2−(イソプロピルオキシ)エチル基、2−(ブチルオキシ)エチル基、2−(イソブチルオキシ)エチル基、2−(sec−ブチルオキシ)エチル基、2−(tert−ブチルオキシ)エチル、2−(フェノキシ)エチル基、2−(2−メチルフェノキシ)エチル基、2−(4−メチルフェノキシ)エチル基、2−フェニルシクロプロピル基および4−フェニルシクロヘキシル基が挙げられる。
【0020】
は、好ましくは、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基であり、さらに好ましくは、メチル基である。
【0021】
化合物(2)としては、具体的には例えば、3−メチルチオ−2−オキソプロピオン酸、3−tert−ブチルチオ−2−オキソプロピオン酸、3−エチルチオ−2−オキソプロピオン酸、4−メチルチオ−2−オキソ酪酸、4−エチルチオ−2−オキソ酪酸、2−オキソ−4−プロピルチオ酪酸、5−メチルチオ−2−オキソペンタン酸、5−エチルチオ−2−オキソペンタン酸、2−オキソ−5−(プロピルチオ)ペンタン酸、6−メチルチオ−2−オキソヘキサン酸、6−エチルチオ−2−オキソヘキサン酸、2−オキソ−6−(プロピルチオ)ヘキサン酸およびそれらの塩が挙げられる。
化合物(2)は、市販品であってもよいし、例えば「Bull.Agr.Chem.Soc.Japan,第21巻,第6号,333〜336頁(1957年)」、「Jounal of Labelled Compounds and Radiopharmaceuticals,第XXXVI巻,第5号,431〜437頁(1995年)」に記載される方法により製造されるもの、または当該方法に準じて製造されるものであってもよい。
【0022】
化合物(1)としては、具体的には例えば、2−ヒドロキシ−3−(メチルチオ)プロピオン酸、3−tert−ブチルチオ−2−ヒドロキシプロピオン酸、2−ヒドロキシ−3−(エチルチオ)プロピオン酸、2−ヒドロキシ−4−(メチルチオ)酪酸、4−エチルチオ−2−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−4−(プロピルチオ)酪酸、2−ヒドロキシ−5−(メチルチオ)ペンタン酸、5−エチルチオ−2−ヒドロキシペンタン酸、2−ヒドロキシ−5−(プロピルチオ)ペンタン酸、2−ヒドロキシ−6−(メチルチオ)ヘキサン酸、6−エチルチオ−2−ヒドロキシヘキサン酸、2−ヒドロキシ−6−(プロピルチオ)ヘキサン酸およびそれらの塩が挙げられる。
【0023】
本発明は、遷移金属触媒の存在下、化合物(2)と、水素とを反応させる工程を有することを特徴とする。以下、化合物(2)と、水素とを反応させる工程を、本反応ということがある。本反応により、化合物(2)は還元され、化合物(1)に変換される。
【0024】
本反応に用いられる遷移金属触媒としては、例えば、ニッケルおよびコバルト等の鉄族元素、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金およびイリジウム等の貴金属元素が挙げられる。
【0025】
遷移金属触媒は、例えば、鉄族元素、貴金属元素等の遷移元素より選ばれる少なくとも一種の元素を担体に担持させた触媒(以下、担持触媒ということがある。)であってもよく、かかる担体として、好ましくは、活性炭、アルミナ、シリカおよびゼオライトからなる群より選ばれる少なくとも一種が挙げられる。
担持触媒としては、例えば、ルテニウム/炭素(Ru/C)、ロジウム/炭素(Rh/C)、パラジウム/炭素(Pd/C)、白金/炭素(Pt/C)、イリジウム/炭素(Ir/C)、白金/アルミナ(Pt/アルミナ)が挙げられる。
担持触媒に含まれる遷移元素の量は、担体と遷移元素との合計量に対して、例えば0.1〜30重量%であり、好ましくは0.5〜20重量%である。
【0026】
また、遷移金属触媒は、例えば、鉄族元素、貴金属元素等の遷移元素から選ばれる少なくとも一種の元素の無担持触媒であってもよい。かかる無担持触媒としては、例えば、還元ニッケル、スポンジニッケル(ラネーニッケル;「ラネー」は登録商標である)、還元コバルト、スポンジコバルト(ラネーコバルト;「ラネー」は登録商標である)、ルテニウムブラック、ロジウムブラック、パラジウムブラック、白金ブラック、イリジウムブラック、酸化ルテニウム、酸化ロジウム、酸化パラジウム、酸化白金、酸化イリジウムが挙げられる。
【0027】
遷移金属触媒は、好ましくは、貴金属元素より選ばれる少なくとも一種の元素を担体に担持させた触媒、スポンジニッケル又はスポンジコバルトであり、より好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金およびイリジウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を担体に担持させた触媒であり、さらに好ましくは、白金及びロジウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を担体に担持させた触媒である。
【0028】
遷移金属触媒は、市販品であってもよいし、任意の公知の方法により調製したものであってもよい。
遷移金属触媒の使用量は、後述する反応温度、反応試剤や溶媒の使用量、水素分圧等により適宜決定され、化合物(2)1重量部に対して、好ましくは、遷移元素が0.0001〜10重量部含まれる範囲の量、より好ましくは、遷移元素が0.001〜5重量部含まれる範囲内の量である。遷移金属触媒として、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金およびイリジウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を担体に担持させた触媒を用いる場合、その使用量は、化合物(2)1重量部に対して、さらに好ましくは、遷移元素が0.01〜0.1重量部含まれる範囲内の量である。
【0029】
本反応に用いられる水素は、市販の水素ガスであってもよいし、例えば、ギ酸またはその塩から、任意の公知の方法により発生させたものであってもよい。水素ガスを用いる場合、その分圧は、好ましくは10MPa以下であり、より好ましくは0.01〜5MPaであり、さらに好ましくは0.02〜2MPaであり、より一層好ましくは0.05〜1.5MPaである。
【0030】
本反応は、好ましくは溶媒の存在下で行われる。かかる溶媒は、本反応に対して不活性なものであることが好ましく、例えば、ペンタン、ヘキサン、イソヘキサン、ヘプタン、イソヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン、イソノナン、デカン、イソデカン、ウンデカン、ドデカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、tert−ブチルシクロヘキサン、石油エーテル等の脂肪族炭化水素溶媒;テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジペンチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジヘプチルエーテル、ジオクチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル溶媒;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、イソペンチルアルコール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、イソヘキシルアルコール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、イソペプチルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノtert−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノtert−ブチルエーテル等のアルコール溶媒;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸tert−ブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル等のエステル溶媒;水;並びにそれらの混合物が挙げられる。溶媒は、好ましくは、アルコール溶媒および水からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、より好ましくは、メタノールおよび水からなる群より選ばれる少なくとも一種である。
溶媒の使用量は、化合物(2)1gに対して、好ましくは1〜200mL、より好ましくは10〜150mLである。
【0031】
本反応において、反応試剤の混合順序は特に規定されず、例えば、化合物(2)と遷移金属触媒とを混合し、得られた混合物に水素を加える方法や、化合物(2)とギ酸とを混合し、必要に応じて水酸化ナトリウムあるいは水酸化カリウム等の塩基を用いて任意のpHに調整した後、得られた混合物に遷移金属触媒を加える方法が挙げられる。
【0032】
本反応における反応温度は、好ましくは0〜100℃の範囲、より好ましくは20〜90℃の範囲、さらに好ましくは30〜70℃の範囲から選ばれる。本反応における反応時間は、反応温度、反応試剤や溶媒の使用量、水素分圧等にもよるが、例えば1〜24時間である。
反応の進行度合いは、薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等の分析手段により確認できる。
【0033】
反応終了後、得られる反応混合物に、例えば、濾過、中和、抽出、水洗等の後処理を施し、次いで、蒸留等の単離処理を施せば、化合物(1)を取り出すことができる。反応混合物に水素が含まれる場合には、例えば、反応混合物中に窒素ガスを吹き込むことにより、水素を反応混合物から取り除くことができる。
取り出された化合物(1)は、抽出精製;蒸留;活性炭、シリカ、アルミナ等への吸着処理等の精製処理により、精製することができる。
【実施例】
【0034】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明する。
【0035】
以下の各実施例では、高速液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製)を用いて下記分析条件により反応混合物を分析し、下式に基づいて転化率及び選択率を算出した。
【0036】
<分析条件>
LCカラム :Lichrosorb−RP−8
カラム温度 :40℃
移動相 :アセトニトリル/水=5/95
添加剤 1−ペンタンスルホン酸ナトリウム
添加剤濃度 2.5mmol/L
移動相のpH 3(40%リン酸を添加して調整)
流速 :1.5mL/分
検出波長 :210nm
測定時間 :60分
【0037】
<転化率を算出した式>
転化率(%)=100(%)−(化合物(1)のピーク面積(%))
【0038】
<選択率を算出した式>
選択率(%)=(化合物(2)のピーク面積)/(全生成物のピーク面積)X100
【0039】
<実施例1>
内容量50mLのオートクレーブに、4−メチルチオ−2−オキソ酪酸ナトリウム50mg、蒸留水5gおよびラネーニッケル(61mg湿重量。「ラネー」は登録商標である。)を加え、得られた混合物を攪拌した。オートクレーブに水素を圧入して1MPaG(ゲージ圧)とした後、得られた混合物を50℃まで昇温し、6時間攪拌した。得られた反応混合物の一部を高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、4−メチルチオ−2−オキソ酪酸ナトリウムの転化率は56.6%であり、2−ヒドロキシ−4−(メチルチオ)酪酸の選択率は67.1%であった。
【0040】
<実施例2>
内容量50mLのオートクレーブに、4−メチルチオ−2−オキソ酪酸ナトリウム50mg、蒸留水5gおよびラネーコバルト(61mg湿重量。「ラネー」は登録商標である。)を加え、得られた混合物を攪拌した。オートクレーブに水素を圧入して1MPaG(ゲージ圧)とした後、得られた混合物を50℃まで昇温し、6時間攪拌した。得られた反応混合物の一部を高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、4−(メチルチオ)−2−オキソ酪酸ナトリウムの転化率は14.6%であり、2−ヒドロキシ−4−(メチルチオ)酪酸の選択率は21.2%であった。
【0041】
<実施例3>
内容量50mLのオートクレーブに、4−メチルチオ−2−オキソ酪酸ナトリウム50mg、蒸留水5gおよび5%Pd/C(エヌイーケムキャット社製50%wet)126mgを入れ、得られた混合物を攪拌した。オートクレーブに水素を圧入して1MPaG(ゲージ圧)とした後、得られた混合物を50℃まで昇温し、6時間攪拌した。得られた反応混合物の一部を高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、4−メチルチオ−2−オキソ酪酸ナトリウムの転化率は29.7%であり、2−ヒドロキシ−4−(メチルチオ)酪酸の選択率は83.9%であった。
【0042】
<実施例4>
内容量50mLのオートクレーブに、4−メチルチオ−2−オキソ酪酸ナトリウム50mg、蒸留水5gおよび5%Pt/C(エヌイーケムキャット社製50%wet)229mgを入れ、得られた混合物を攪拌した。オートクレーブに水素を圧入して1MPaG(ゲージ圧)とした後、得られた混合物を50℃まで昇温し、6時間攪拌した。得られた反応混合物の一部を高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、4−メチルチオ−2−オキソ酪酸ナトリウムの転化率は68.4%であり、2−ヒドロキシ−4−(メチルチオ)酪酸の選択率は85.4%であった。
【0043】
<実施例5>
内容量50mLのオートクレーブに、4−メチルチオ−2−オキソ酪酸ナトリウム50mg、蒸留水5gおよび5%Ru/C(和光純薬株式会社製)59mgを入れ、得られた混合物を攪拌した。オートクレーブに水素を圧入して1MPaG(ゲージ圧)とした後、50℃まで昇温し、得られた混合物を6時間攪拌した。得られた反応混合物の一部を高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、4−メチルチオ−2−オキソ酪酸ナトリウムの転化率は29.6%であり、2−ヒドロキシ−4−(メチルチオ)酪酸の選択率は86.2%であった。
【0044】
<実施例6>
内容量50mLのオートクレーブに、4−メチルチオ−2−オキソ酪酸ナトリウム50mg、蒸留水5gおよび5%Rh/C(和光純薬株式会社製)61mgを入れ、得られた混合物を攪拌した。オートクレーブに水素を圧入して1MPaG(ゲージ圧)とした後、50℃まで昇温し、得られた混合物を6時間攪拌した。得られた反応混合物の一部を高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、4−メチルチオ−2−オキソ酪酸ナトリウムの転化率は95.6%であり、2−ヒドロキシ−4−(メチルチオ)酪酸の選択率は93.9%であった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
4−メチルチオ―2−ヒドロキシ酪酸等のヒドロキシカルボン酸化合物は、多くの生物に普遍的に存在し、生物反応に重要な化合物である。特に、4−メチルチオ―2−ヒドロキシ酪酸は、生体内変換により必須アミノ酸であるメチオニンに変換されるため、飼料添加剤としても用いられる重要な化合物である。
本発明は、かかるヒドロキシカルボン酸化合物またはその塩の製造方法として利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属触媒の存在下、式(2)
【化1】

(式中、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基または置換基を有していてもよい炭素数3〜12のシクロアルキル基を表し、nは1〜4の整数を表す。)
で示されるケトカルボン酸化合物またはその塩と、水素とを反応させる工程を有することを特徴とする式(1)
【化2】

(式中、Rおよびnはそれぞれ上記で定義した通り。)
で示されるヒドロキシカルボン酸化合物またはその塩の製造方法。
【請求項2】
前記工程が、さらに溶媒の存在下に前記ケトカルボン酸化合物またはその塩と、水素とを反応させる工程である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記溶媒が、メタノールおよび水からなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
前記遷移金属触媒が、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金およびイリジウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を担体に担持させた触媒である請求項1〜3のいずれか記載の製造方法。
【請求項5】
前記担体が、活性炭、アルミナ、シリカおよびゼオライトからなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
前記工程が、0〜100℃の範囲から選ばれる温度で、前記ケトカルボン酸化合物またはその塩と、水素とを反応させる工程である請求項1〜5のいずれか記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−126651(P2012−126651A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276653(P2010−276653)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】