説明

ヒドロキシキナゾリノン誘導体

【課題】過活動膀胱症候群の諸症状、とくに尿意切迫感に対する強力な改善作用を期待できる化合物として、ムスカリン受容体拮抗作用に末梢神経テトロドトキシン非感受性Na+-channel抑制作用を併せ持つ化合物を提供する。
【解決手段】 式(1)


で表されるキナゾリノン誘導体の光学活性体もしくはその薬学上許容される塩。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性なヒドロキシ−3,4−ジヒドロ−2(1H)−キナゾリノン誘導体、その製造方法、それを含む医薬及び医薬としての使用、特に頻尿・尿失禁など過活動膀胱症候群の諸症状を治療するための使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ムスカリン受容体拮抗作用を有する医薬品としてオキシブチニンが頻尿・尿失禁治療剤として使用されているが、ムスカリン受容体拮抗作用に基づく副作用を回避できないことが知られている。近年、膀胱選択的ムスカリン受容体拮抗薬としてトルテロジンが、M3受容体選択的なムスカリン受容体拮抗薬としてダリフェナシンおよびソリフェナシンが開発されているが、これらにより、オキシブチニンと比較した副作用の改善はみられているものの、M3受容体拮抗作用に基づく口内乾燥、便秘といった副作用は完全には回避できないでいる。また、ムスカリン受容体拮抗薬により膀胱の異常な収縮を抑制することで、ある程度の症状改善作用は認められているものの、とくに尿意切迫感の改善についてはまだ不十分であり、ムスカリン受容体拮抗以外の作用点を有する薬剤の開発がのぞまれている。
過活動膀胱症候群とは尿意切迫感を主症状とし、頻尿および尿失禁を伴うことの多い症状症候群であるが、その成因として病態において異常に活性化する求心性C-fiberが尿意切迫感を惹起するものとして注目されている。また、膀胱求心性神経の中でも小径細胞(C-fiberの割合が多い)にはテトロドトキシン非感受性Na+-channelが高密度に分布しており、その活性化を担っていることが知られている。病態時に求心性C-fiberを活性化する因子およびその受容体は種々のものがあるため、この中の単独の受容体を拮抗するだけでは、他の受容体からのシグナルを遮断できず、十分なC-fiber抑制効果を期待できない可能性がある。しかしNa+-channelは種々の受容体からのシグナルをうけた後、神経の電気活動そのものを惹起するため、Na+-channelを抑制する化合物は強力なC-fiber抑制作用を示す可能性がある。また、末梢神経に多く存在するテトロドトキシン非感受性Na+-channelのサブタイプは心臓、中枢神経、骨格筋には局在していないため、末梢神経型テトロドトキシン非感受性Na+-channelを抑制する化合物は重篤な副作用を回避しながら有効性を示すことが期待される。
従って、ムスカリン受容体拮抗作用と末梢求心性神経テトロドトキシン非感受性Na+-channel抑制作用を併せ持つ化合物は、膀胱の異常な収縮を抑制するとともに、膀胱からの異常なC-fiber活性化を抑制できるため、ムスカリン受容体拮抗薬を上回る過活動膀胱の諸症状、とくに尿意切迫感の改善効果が期待できる。
【0003】
一方、M3選択的なムスカリン受容体拮抗作用を有する化合物として、特許文献1にキナゾリノン誘導体が報告されている。また、M3選択的なムスカリン受容体拮抗作用だけでなく律動的膀胱収縮頻度抑制作用を有する化合物として、特許文献2にキナゾリノン誘導体が報告されている。
【特許文献1】国際公開第00/23436号パンフレット
【特許文献2】国際公開第03/16299号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、過活動膀胱症候群の諸症状、とくに尿意切迫感に対する強力な改善作用を期待できる化合物として、ムスカリン受容体拮抗作用に末梢神経テトロドトキシン非感受性Na+-channel抑制作用を併せ持つ化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
今回本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ね、下記一般式(1)で表されるキナゾリノン誘導体の光学活性体もしくはその薬学的に許容される塩(以下必要に応じ本発明化合物と略する場合がある)がムスカリン受容体拮抗作用だけでなく新たに末梢神経テトロドトキシン非感受性Na+-channel抑制作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
また本作用は、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群(PBS/IC)、神経因性疼痛、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、過敏性大腸症候群(IBS)の治療にも有効と考えられる。
すなわち、本発明は、以下のものに関する。
〔1〕 一般式(1):
【0006】
【化1】

で表されるキナゾリノン誘導体の光学活性体もしくはその薬学上許容される塩。
〔2〕 一般式(1a):
【0007】
【化2】

で表されるキナゾリノン誘導体の光学活性体もしくはその薬学上許容される塩。
〔3〕 (+)体である、〔1〕〜〔2〕のいずれかに記載のキナゾリノン誘導体の光学活性体もしくはその薬学上許容される塩。
〔4〕 〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の化合物もしくはその薬学上許容される塩を含有する医薬。
〔5〕 〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の化合物もしくはその薬学上許容される塩を有効成分として含有する、過活動膀胱症候群の諸症状ならびに間質性膀胱炎・膀胱痛症候群(PBS/IC)、神経因性疼痛、慢性閉塞性肺疾患(COPD)または過敏性大腸症候群(IBS)の治療剤。
【0008】
本発明化合物は溶媒和物を含み、例えば水和物や、エタノール和物等のアルコール和物が挙げられる。
【発明の効果】
【0009】
本発明化合物は、過活動膀胱症候群の諸症状ならびに間質性膀胱炎・膀胱痛症候群(PBS/IC)、神経因性疼痛、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、過敏性大腸症候群(IBS)の治療剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明をさらに詳細に説明する。
【0011】
本発明のキナゾリノン誘導体もしくはその薬学上許容される塩は、以下の方法により合成することができる。
【0012】
【化3】

[式中、P1は水素原子または二級アミノ基の保護基を表し、P2は水素原子またはフェノール性水酸基の保護基を表す。]
【0013】
一般式(2)で表されるラセミ化合物から、光学分割または光学活性体分離用カラムを用いた高速液体クロマトグラフィーによる分取によって、式(3)で表される化合物の光学活性体を単離することができる。光学分割の方法としては光学活性な酸を分割剤として用いて通常行われている方法、または優先晶析法等が挙げられる。
次いで、公知の方法に従って化合物(3)の保護基P1を除去することにより、式(6)で表される化合物の光学活性体を得ることができる。二級アミノ基の保護基としては、ベンジル基等が挙げられ、ギ酸アンモニウムや水素ガス等の水素源の存在下、エタノール等の溶媒中で金属触媒を用いた接触水素化反応によって除去することができる。接触水素化反応に用いる金属触媒としては、パラジウム、ロジウム、白金、ニッケル等の遷移金属が挙げられる。
【0014】
次いで、公知の方法に従って、化合物(6)とアルデヒド誘導体(4)もしくは化合物(5)と反応させることにより、式(7)で表される化合物の光学活性体を得ることができる。アルデヒド誘導体(4)との反応は還元的アミノ化反応であり、化合物(6)と1〜5当量のアルデヒド誘導体(4)を溶媒中、0〜50℃にて1〜5当量の還元剤で処理することにより行うことができる。還元剤としては、例えば水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(NaBH3CN)、トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム(NaB(OCOCH33H)等が挙げられる。溶媒としては、反応を妨げない限りいかなる溶媒でも良いが、例えばメタノール、エタノール等のアルコール系溶媒、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒等が挙げられる。
アルキル化反応は、化合物(6)を溶媒中、一般式(5)で表されるアルキル化試剤と反応させることにより行うことができる。反応は通常溶媒中0℃〜100℃、好ましくは室温〜70℃にて、必要に応じて塩基の存在下行うことができる。溶媒としては例えばテトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒、アセトン等のケトン溶媒、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。塩基としては例えば炭酸カリウム、トリエチルアミン等が挙げられる。Gで表される脱離基としては例えば塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、p-トルエンスルホニルオキシ基等の芳香族スルホニルオキシ基またはメタンスルホニルオキシ基が挙げられる。
【0015】
次いで、公知の方法に従って化合物(7)の保護基P2を除去することにより、式(1)で表される化合物の光学活性体を得ることができる。フェノール性水酸基の保護基P2としては、メチル基等が挙げられ、三臭化ホウ素や塩化アルミニウム等のルイス酸存在下、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素系溶媒中で反応させることによって除去することができる。
【0016】
また、式(1)で表される化合物の光学活性体は以下の方法でも合成することができる。
【0017】
【化4】

式(3)で表される化合物から式(1)で表される化合物への変換と同様にして、式(2)で表される化合物のラセミ体から式(1)で表される化合物のラセミ体を合成し、次いで式(1)で表される化合物のラセミ体を光学分割または、光学活性体分離用カラムを用いた高速液体クロマトグラフィーによる分取によって式(1)で表される化合物の光学活性体を単離することができる。光学分割の方法としては光学活性な酸を分割剤として用いて通常行われている方法、または優先晶析法等が挙げられる。
【0018】
本発明において、薬学上許容される塩としては例えば無機酸または有機酸との塩が挙げられる。無機酸としては、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸等が挙げられ、有機酸としてはギ酸、酢酸、乳酸、酒石酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、クエン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等が挙げられる。このような塩は通常の方法に従って、例えば、水、メタノール、アセトン等の溶媒中で、上記薬学上許容される酸と混合することで製造することができる。
【0019】
式(2)で表される化合物は特開平7−215943号公報に記載されている方法にて合成することができる。また、式(17)で表される化合物は、以下の方法でも合成することができる。
【0020】
【化5】

[式中、P1は水素原子または二級アミノ基の保護基を表し、P2は水素原子またはフェノール性水酸基の保護基を表し、Yは低級アルキル基もしくは低級アルコキシ基を表す。]
【0021】
式(8)で表されるアニリド誘導体をn-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム等のアルキルリチウム塩基と反応させた後、次いでベンズアルデヒド(9)と反応させ、化合物(10)を得ることができる。反応は、例えば式(8)で表される化合物に対し、n-ブチルリチウムを1〜3当量、必要に応じて、ジイソプロピルアミン、テトラメチレンジアミン等の二級もしくは三級アミンを1〜5当量用い、-78℃〜室温にて反応した後、1〜3当量のベンズアルデヒドと反応させることにより行い得る。溶媒としては、例えばテトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒等が挙げられる。
【0022】
次いで、得られた化合物(10)を酸化することにより化合物(11)を得ることができる。酸化方法としては、例えば電解二酸化マンガン、PCC類等の無機酸化剤を用いる方法、またはSwern酸化等の有機酸化反応を用いる方法等が挙げられる。
さらに化合物(11)を塩基存在下、加水分解することにより化合物(12)を得ることができる。塩基としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ等が挙げられる。溶媒としては、例えば水もしくはメタノール、エタノール等のアルコール系溶媒等が挙げられる。
また本加水分解反応は、酸性条件下でも実施し得る。
【0023】
次いで化合物(12)を還元することにより化合物(13)を得ることができる。還元剤としては、例えば水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)等が挙げられる。溶媒としては、例えば水、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒等が挙げられる。
また化合物(13)の合成は化合物(10)を加水分解することによっても成し得る。
【0024】
次いで、化合物(13)を塩化トリクロロアセチル等のトリクロロアセチル化剤と反応させることにより、化合物(14)を得ることができる。溶媒は反応を妨げない限り如何なる溶媒でもよいが、例えばジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素系溶媒やジメチルホルムアミド等が挙げられる。また必要に応じてトリエチルアミン、炭酸カリウム等の塩基を添加することで好適に反応を行うことができる。
化合物(14)から化合物(17)への変換は、特開2003−226690号公報に記載の方法に準じて行い得る。
【0025】
本発明化合物は、これらを医薬として用いるにあたり経口的または非経口的に投与することができる。すなわち通常用いられる投与形態、例えば粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、懸濁液等の剤型で経口的に投与することができ、あるいは、例えば、その溶液、乳剤、懸濁液の剤型にしたものを注射の型で非経口投与することができる。坐剤の型で直腸投与することもできる。溶液の型で膀胱内注入することもできる。前記の適当な投与剤型は、例えば、許容される通常の担体、賦型剤、結合剤、安定剤、希釈剤に本発明化合物を配合することにより製造することができる。注射剤型で用いる場合には、例えば、許容される緩衝剤、溶解補助剤、等張剤を添加することもできる。投与量および投与回数は、例えば、対象疾患、症状、年齢、体重、投与形態によって異なるが、通常は成人に対し1日あたり0.1〜2000mg好ましくは1〜200mgを1回または数回(例えば2〜4回)に分けて投与することができる。
【0026】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0027】
実施例1
(+)−3−{1−[3−(トリフルオロメトキシ)ベンジル]ピペリジン−4−イル}−4−フェニル−6−ヒドロキシ−3,4−ジヒドロ−2(1H)−キナゾリノンの合成
a)(+)−3−(1−ベンジルピペリジン−4−イル)−4−フェニル−6−メトキシ−3,4−ジヒドロ−2(1H)−キナゾリノンの合成
ラセミ体の3−(1−ベンジルピペリジン−4−イル)−4−フェニル−6−メトキシ−3,4−ジヒドロ−2(1H)−キナゾリノン2000gを下記操作条件によって分取することにより表題化合物1001gを白色粉末として得た。
[α]D25 +124.2°(c=1.0,クロロホルム)
操作条件
カラム : CHIRALPAK IA
サイズ : 10cmφ×25cmL
移動相 : メタノール/アセトニトリル/テトラヒドロフラン/ジエチルアミン=15/45/40/0.1(v/v)
流量 : 190mL/min.
測定波長 : 282nm
温度 : 40℃
試料注入量 : 3.8g/1回
分取装置 : 少量分取装置 A−1系列(ダイセル化学)
【0028】
b)(+)−3−(ピペリジン−4−イル)−4−フェニル−6−メトキシ−3,4−ジヒドロ−2(1H)−キナゾリノンの合成
(+)−3−(1−ベンジルピペリジン−4−イル)−4−フェニル−6−メトキシ−3,4−ジヒドロ−2(1H)−キナゾリノン5.0g(23.4mmol)のメタノール(50mL)溶液に10%パラジウム炭素2.0g(50%吸湿品)およびギ酸アンモニウム4.4g(70.2mmol)を添加し、4時間加熱還流した。放冷後、不溶物を濾去し濾液を減圧下濃縮した。濃縮残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール/28%アンモニア水=94/6/0.6〜88/12/1.2)で精製して表題化合物3.8gを無色アモルファスとして得た。
1H−NMR δ(CDCl3):1.20−1.42(1H,m),1.50−1.80(2H,m),1.80−2.00(1H,m),2.50−2.75(2H,m),2.90−3.20(2H,m),4.30−4.50(1H,m),5.50(1H,s),6.60−6.75(3H,m),7.15−7.35(4H,m),7.30−7.45(2H,m),7.59(1H,s)
【0029】
c)(+)−3−{1−[3−(トリフルオロメトキシ)ベンジル]ピペリジン−4−イル}−4−フェニル−6−メトキシ−3,4−ジヒドロ−2(1H)−キナゾリノンの合成
(+)−3−(ピペリジン−4−イル)−4−フェニル−6−メトキシ−3,4−ジヒドロ−2(1H)−キナゾリノン3.7g(11.0mmol)、3−トリフルオロメトキシベンズアルデヒド1.7mL(12.1mmol)および氷酢酸0.63mL(11.0mmol)のジクロロメタン50mL溶液に、氷冷下トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム4.7g(21.9mmol)を加え、室温にて16時間攪拌した。氷冷下、反応液に2N塩酸水(25mL)を添加し室温にて30分攪拌した。氷冷下15%水酸化ナトリウム水溶液を添加しpH10とした後、クロロホルムで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下濃縮した。濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール/28%アンモニア水=100/0/0〜93/3/0.3)で精製して、表題化合物4.4gを無色固体として得た。
1H−NMR δ(CDCl3):1.35−1.70(3H,m),1.90−2.20(3H,m),2.70−3.00(2H,m),3.45(2H,s),3.73(3H,s),4.30−4.45(1H,m),5.50(1H,s),6.60−6.75(3H,m),7.05−7.45(12H,m)
【0030】
d)(+)−3−{1−[3−(トリフルオロメトキシ)ベンジル]ピペリジン−4−イル}−4−フェニル−6−ヒドロキシ−3,4−ジヒドロ−2(1H)−キナゾリノンの合成
(+)−3−{1−[3−(トリフルオロメトキシ)ベンジル]ピペリジン−4−イル}−4−フェニル−6−メトキシ−3,4−ジヒドロ−2(1H)−キナゾリノン4.4g(8.6mmol)のジクロロメタン44mL溶液に、三臭化ホウ素の1.0Mジクロロメタン溶液34mL(34.2mmol)を氷冷下30分かけて滴下した。室温で1時間攪拌後、再び氷冷し飽和重曹水50mLを添加した。2N水酸化ナトリウム水溶液を添加しpH10としてから、クロロホルムで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下濃縮した。濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール/28%アンモニア水=100/0/0〜91/9/0.9)で精製してからエタノールに再溶解、減圧乾固することにより表題化合物3.4gを無色アモルファスとして得た。これをジエチルエーテル96mLに溶解した溶液に、氷冷下、n-ヘキサン192mLを1時間かけて滴下した。室温で30分攪拌後、析出した結晶を濾取して、表題化合物2.6gを白色粉体として得た。
1H−NMR δ(DMSO−d6):1.20−1.50(3H,m),1.70−2.20(3H,m),2.60−2.90(2H,m),3.44(2H,s),4.00−4.15(1H,m),5.65(1H,s),6.47(1H,dd,J=9.0,3.0Hz),6.58(1H,d,J=9.0Hz),6.67(1H,d,J=3.0Hz),7.10−7.45(9H,m),8.94(1H,brs),9.06(1H,brs).
融点:120−122℃
[α]D23 +118.4°(c=1.0,メタノール)
【0031】
参考例1
3−(ベンジルピペリジン−4−イル)−4−フェニル−6−メトキシ−3,4−ジヒドロ−2(1H)−キナゾリノンの合成
a) N−(4−メトキシフェニル)−2,2−ジメチルプロピオンアミドの合成
4−メトキシアニリン50.0g(0.406mol)およびトリエチルアミン67.9mL(0.487mol)のテトラヒドロフラン500mL溶液に、塩化ピバロイル55.1mL(0.447mol)を氷冷下滴下し、1時間攪拌した。反応液に水1.5Lを加え、酢酸エチルで抽出した。5%食塩水で有機層を洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮することにより表題化合物78.0gを淡紫色固体として得た。
【0032】
b) N−{2−[ヒドロキシ(フェニル)メチル]−4−メトキシフェニル}−2,2−ジメチルプロピオンアミドの合成
N−(4−メトキシフェニル)−2,2−ジメチルプロピオンアミド82.9g(0.400mol)および1,2−ビス(ジメチルアミノ)エタン151mL(1.00mol)のテトラヒドロフラン500mL溶液にn−ブチルリチウムの2.6Mヘキサン溶液385mL(1.00mol)を−50℃にて滴下した。氷冷下2時間攪拌した後、ベンズアルデヒド42.4g(0.400mol)のテトラヒドロフラン溶液100mLを−60℃にて滴下した。室温まで昇温した後、水1.8Lを添加し酢酸エチルにて抽出した。有機層を5%食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。濃縮残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル 4/1〜2/1)で精製して表題化合物72.5gを橙色アモルファスとして得た。
【0033】
c)N−(2−ベンゾイル−4−メトキシフェニル)−2,2−ジメチルプロピオンアミドの合成
N−{2−[ヒドロキシ(フェニル)メチル]−4−メトキシフェニル}−2,2−ジメチルプロピオンアミド72.5g(0.231mol)のジクロロメタン700mL溶液に室温下攪拌しながら、電解二酸化マンガン120.6g(1.39mol)を6回に分割して1時間ごとに添加した。反応液の不溶成分をセライトろ過で除去し、濾液を減圧下濃縮乾固することにより表題化合物74.6gを橙色油状物質として得た。
【0034】
d)2−ベンゾイル−4−メトキシアニリンの合成
N−(2−ベンゾイル−4−メトキシフェニル)−2,2−ジメチルプロピオンアミド74.6g(0.231mol)のエタノール100mL溶液に濃塩酸100mLを添加し100℃にて終日攪拌した。氷冷下2N水酸化ナトリウム水溶液600mLを添加し、酢酸エチルで抽出した。有機層を5%食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下溶媒を留去することにより表題化合物51.1gを褐色油状物質として得た。
【0035】
e)(2−アミノ−5−メトキシフェニル)(フェニル)メタノールの合成
2−ベンゾイル−4−メトキシアニリン51.0g(0.224mol)のメタノール500mL溶液に室温下、水素化ホウ素ナトリウム8.49g(0.224mol)を添加した。1時間後5%重曹水200mLを添加し、減圧下メタノール溶媒を留去した後、酢酸エチルにて抽出した。有機層を5%食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下溶媒を留去することにより表題化合物51.9gを褐色油状物質として得た。
【0036】
f)2,2,2−トリクロロ−N−{2−[ヒドロキシ(フェニル)メチル]−4−メトキシフェニル}アセトアミドの合成
(2−アミノ−5−メトキシフェニル)(フェニル)メタノール51.8g(0.224mol)およびトリエチルアミン37.2mL(0.267mol)のテトラヒドロフラン500mL溶液に氷冷下、塩化トリクロロアセチル27.5mL(0.246mol)を滴下した。室温にて30分攪拌した後、水1.5Lを添加し酢酸エチルで抽出した。有機層を5%食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。濃縮残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=6/1〜4/1)で精製して表題化合物60.0gを橙色アモルファスとして得た。
【0037】
g)N−{2−[[(1−ベンジルピペリジン−4−イル)アミノ](フェニル)メチル]−4−メトキシフェニル}−2,2,2−トリクロロアセトアミドの合成
2,2,2−トリクロロ−N−{2−[ヒドロキシ(フェニル)メチル]−4−メトキシフェニル}アセトアミド59.8g(0.160mol)、4−アミノ−1−ベンジルピペリジン45.7g(0.240mol)およびトリフェニルホスフィン62.9g(0.240mol)のテトラヒドロフラン500mL溶液に氷冷下、ジエチルアゾジカルボキレートの40%トルエン溶液104g(0.240mol)を滴下した。室温まで昇温し1時間攪拌した後、反応液を減圧下で濃縮し、さらにヘキサンを加えて減圧下で濃縮乾固した。得られた残渣にジエチルエーテルを添加し、析出した結晶を濾去した。濾液を減圧下で濃縮乾固することにより、表題化合物の粗生成物141gを褐色油状物として得た。
【0038】
h)3−(ベンジルピペリジン−4−イル)−4−フェニル−6−メトキシ−3,4−ジヒドロ−2(1H)−キナゾリノンの合成
N−{2−[[(1−ベンジルピペリジン−4−イル)アミノ](フェニル)メチル]−4−メトキシフェニル}−2,2,2−トリクロロアセトアミド141g(0.160mol)のジメチルホルムアミド500mL溶液に、炭酸カリウム44.2g(0.320mol)を添加し、80℃で1時間攪拌した。反応液に水1.5Lを添加し酢酸エチル/トルエン(1/1)で抽出した。有機層を5%重曹水、5%食塩水で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。濃縮残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=1/1〜クロロホルム/メタノール=100/5)で精製し、さらにメタノールから再結晶することによって表題化合物34.8gを白色粉末として得た。
【0039】
試験例1:
本明細書記載化合物のムスカリン受容体(サブタイプM1、M2、M3)およびナトリウムチャンネル結合親和性を測定した。
本試験はNagaoらの方法[Nagao M, Kaneko S, Hirota T, Isogami M & Shimizu H. Folia Pharmacol Jpn 1999; 113: 157-166]、Hiroseらの方法[Hirose H, Aoki I, Kimura T, Fujikawa T, Numazawa T, Sasaki K, et al., J Pharmacol Exp Ther 2001; 297: 790-797]およびCatterallらの方法[Catterall WA, Morrow CS, Daly JW & Brown GB. J Biol Chem 1981; 256: 8922-8927]に準じて実施した。すなわち、ムスカリン受容体(サブタイプM1、M2、M3)に対する結合親和性はヒト組み換えムスカリン受容体(サブタイプM1、M2、M3)を発現させたChinese Hamster Ovary細胞膜を受容体材料とし、 [N-methyl-3H]-Scopolamine methyl chlorideをトレーサーとし、非特異的結合検出にはatropine sulfateを用いた。また、ナトリウムチャンネルに対する結合親和性はラット脳ミクロソームを受容体材料とし、[3H]-Batrachotoxinをトレーサーとし、非特異的結合検出にはveratridineを用いた。各受容体に対する濃度−反応曲線を作成し、受容体とトレーサーの結合を50%阻害する濃度であるIC50を算出した。また、受容体のScatchard解析を実施しKd値を求め、Ki値は以下の式より算出した。Ki = IC50/{1+(トレーサー濃度/Kd)}
【0040】
表1 ムスカリン受容体(サブタイプM1、M2、M3)およびナトリウムチャンネル結合親和性(Ki; nM)
【0041】
【表1】

【0042】
試験例2:
本明細書記載化合物のM3受容体拮抗作用を測定した。
本試験はGiglioらの方法[Giglio D, Delbro DS & Tobin G. Eur J Pharmacol 2001; 428: 357-364]に準じて実施した。すなわち、ラットより摘出した膀胱より横2-3 mm、縦10-15 mmの切片を作製し、ムスカリン受容体アゴニストであるカルバコール累積処置時の張力変化の濃度−反応曲線を作成した。Shield plotによりアゴニスト濃度を2倍高濃度に平行移動させるのに必要な競合的アンタゴニスト濃度のnegative logarithm(pA2値)を算出した。
ラット摘出膀胱切片を用いてカルバコール収縮に対する抑制作用を測定したところ、実施例1の化合物のpA2値は6.7であった。
【0043】
試験例3:
本明細書記載化合物のナトリウムチャンネル拮抗作用を測定した。
本試験はStummannらの方法を参考に一部変更して実施した。すなわち、新生児(生後7日)ラットより後根神経節(DRG)を摘出し、コラゲナーゼおよびトリプシン処理して細胞懸濁液を回収した。細胞外液(160 mM NaCl, 4.5 mM KCl, 1 mM MgCl2, 2 mM CaCl2, 10 mM Hepes/NaOH pH7.2)、細胞内液(10 mM CsCl, 10 mM NaCl, 135 mM CsF, 2 mM MgCl2, 10 mM EGTA, 10 mM Hepes/CsOH pH7.2)を用い、オートパッチクランプシステム(商品名:Port-a-patch, Nanion社)によりナトリウム電流を測定した。ナトリウム電流の確認のため、Na-free細胞外液(160 mM Choline-Cl,NaCl, 4.5 mM KCl, 1 mM MgCl2, 2 mM CaCl2, 10 mM Hepes/NaOH pH7.2)を用いた。1 マイクロMのテトロドトキシン存在下で得られるテトロドトキシン抵抗性ナトリウムイオン電流を測定した。DRGは-100 mVに電圧固定し、-80 mVから+40 mVまで10 mV間隔でステップワイズに脱分極パルスを与えたときのピーク電流に対する化合物の阻害作用を測定した。
ラット後根神経節細胞を用いてパッチクランプ法によりテトロドトキシン抵抗性ナトリウムイオン電流に対する阻害作用を測定したところ、実施例1の化合物は0.1〜10 μMの濃度において20〜50%阻害作用を示した。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明化合物はムスカリン受容体拮抗作用だけでなくナトリウムチャンネル抑制作用に基づく求心性神経の活性化抑制作用を有し、過活動膀胱症候群の諸症状ならびに間質性膀胱炎・膀胱痛症候群(PBS/IC)、神経因性疼痛、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、過敏性大腸症候群(IBS)の治療に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】

で表されるキナゾリノン誘導体の光学活性体もしくはその薬学上許容される塩。
【請求項2】
一般式(1a):
【化2】

で表されるキナゾリノン誘導体の光学活性体もしくはその薬学上許容される塩。
【請求項3】
(+)体である、請求項1〜2のいずれか一項に記載のキナゾリノン誘導体の光学活性体もしくはその薬学上許容される塩。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物もしくはその薬学上許容される塩を含有する医薬。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物もしくはその薬学上許容される塩を有効成分として含有する、過活動膀胱症候群の諸症状ならびに間質性膀胱炎・膀胱痛症候群(PBS/IC)、神経因性疼痛、慢性閉塞性肺疾患(COPD)または過敏性大腸症候群(IBS)の治療剤。

【公開番号】特開2008−115118(P2008−115118A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−299974(P2006−299974)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】