説明

ヒドロキシシリルエーテル化合物の製造方法

【課題】ジオール化合物の二つの水酸基のうち、片方の水酸基をシリルエーテル化してヒドロキシシリルエーテル化合物を得る方法を提供する。
【解決手段】有機溶媒中、環状1,2−ジオール化合物、鎖状1,2−ジオール化合物、及び鎖状1,3−ジオール化合物から選ばれるジオール化合物(例えば、シス−1,2−シクロオクタンジオール(環状1,2−ジオール化合物))と、有機ケイ素ハライド化合物とを、ルイス酸触媒と有機塩基存在下で反応させることで、高収率で目的とするヒドロキシシリルエーテル化合物を方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジオール化合物、例えば、シス−1,2−シクロオクタンジオールのような化合物の一方の水酸基のみを、有機ケイ素ハライド化合物によって選択的に保護したヒドロキシシリルエーテル化合物を製造する新規な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジオール化合物は、医薬、農薬、樹脂添加剤、液晶等の合成に欠くことのできない重要な化合物である。このジオール化合物は、ほぼ同じ反応性の二つの水酸基を有するため、一方の水酸基のみを他の化合物と反応させるためには、もう一方の水酸基を何らかの保護基で保護する必要があった。水酸基を保護する保護基としては、幾つかの保護基が知られているが、通常、有機ケイ素基が使用されている。
【0003】
二つの水酸基の一方の水酸基のみを有機ケイ素基で保護する具体的な方法としては、ジイソプロピルエチルアミンの存在下、ジオール化合物とt−ブチルジフェニルシリルクロライドとを反応させて、ヒドロキシ−t−ブチルジフェニルシリルエーテルを製造する方法(非特許文献1参照)や、ジイソプロピルエチルアミンとアミノ酸誘導体触媒の存在下、環状1,2−ジオール化合物、及び環状1,3−ジオール化合物から選ばれるジオール化合物とt−ブチルジメチルシリルクロライドとを反応させて、ヒドロキシ−t−ブチルジメチルシリルエーテルを製造する方法が知られている(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】テトラヘドロン レターズ(Tetrahedron Letters)、41巻、4281−4285頁、2000年
【非特許文献2】ネイチャー(Nature)、443巻、67−70頁、2006年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上の方法によれば、ジオール化合物から一方の水酸基のみを有機ケイ素基で保護した化合物を得ることができる。しかしながら、上記方法においては、以下の点で改善の余地があった。
【0006】
例えば、非特許文献1に記載された方法では、塩基として用いるジイソプロピルエチルアミンを生成物の抽出相として用いるため、ジオール化合物に対して10当量のジイソプロピルエチルアミンが必要な上に、反応溶媒がジイソプロピルエチルアミンと2相を形成するジメチルホルムアミドのような溶媒に限定されるため、反応条件が制限されるという点で改善の余地があった。
【0007】
また、非特許文献2に記載された方法では、ジイソプロピルエチルアミンが塩基としてのみ用いられるため、ジオール化合物に対して1.25当量の使用量でよいものの、反応温度が−28〜−70℃という低温で行われるため、温和な条件下での反応ではなかった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、有機塩基を大過剰に用いることなく、且つ、温和な条件下においても、副生物の生成が少なく、高収率でヒドロキシシリルエーテル化合物を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる実情に鑑み、本発明者らは鋭意検討した。その結果、有機塩基と併用してルイス酸を触媒に用い、さらに、特定の構造を有するジオール化合物を原料とすることにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、
ルイス酸触媒と有機塩基の存在下、
下記一般式(I)
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、下記式
【0013】
【化2】

【0014】
で示される環Xは、式中の2つの炭素原子を含む環Xを形成する総原子数が4以上10以下となる環である。)で示される環状1,2−ジオール化合物、
下記一般式(II)
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、R、及びRは、それぞれ、水素原子、アルキル基、アリール基、あるいはアルコキシカルボニル基であり、同一の基であっても、異なる基であってもよい。)で示される鎖状1,2−ジオール化合物、並びに
下記一般式(III)
【0017】
【化4】

【0018】
(式中、R、R、R、及びRは、それぞれ、水素原子、アルキル基、あるいはアリール基であり、同一の基であっても、異なる基であってもよい。)で示される鎖状1,3−ジオール化合物から選ばれるジオール化合物と有機ケイ素ハライド化合物とを反応させることを特徴とするヒドロキシシリルエーテル化合物の製造方法である。
【0019】
また、本発明においては、前記有機ケイ素ハライド化合物が、下記一般式(IV)
【0020】
【化5】

【0021】
(式中、
は、アルキル基、ハロアルキル基、シアノアルキル基、アルケニル基、アリール基、又はアラルキル基であり、
は、同一の基であっても、異なる基であってもよく、
Yは、ハロゲン原子である。 )
で示される化合物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高収率でヒドロキシシリルエーテル化合物を製造することができる。また、得られるヒドロキシシリルエーテル化合物は、医薬及び農薬の原料として極めて重要な化合物であり、これらの化合物を触媒量のルイス酸触媒、有機塩基存在下、温和な条件下、簡便な操作で製造する本発明は、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、ルイス酸触媒、有機塩基存在下、特定のジオール化合物と有機ケイ素ハライド化合物とを反応させることを特徴とするものである。以下、本発明に使用する上記化合物を、順を追って説明する。
【0024】
(ルイス酸)
本発明で使用するルイス酸は、特に制限されるものではなく、触媒として知られている公知の化合物を使用することができる。これらルイス酸を具体的に例示すると、ジメチルジクロロ錫、ジメチルジブロム錫、ジブチルジクロロ錫、ジトリフルオロメタンスルホン酸錫、ジトリフルオロメタンスルホン酸銅、ジトリフルオロメタンスルホン酸亜鉛、ジトリフルオロメタンスルホン酸鉄、ジトリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム、2,2’−(2,2−ジブロモ−2−スタナプロパン−1,3−ジイル)−1,1’−ビナフタレン、2,2’−(2,2−ジブロモ−2−スタナプロパン−1,3−ジイル)− 3,3’−ジフェニル−1,1’−ビナフタレン等を挙げることができる。これらのルイス酸の中でも、高収率が期待できる、ジメチルジクロロ錫、ジブチルジクロロ錫、ジトリフルオロメタンスルホン酸銅、ジトリフルオロメタンスルホン酸亜鉛、2,2’−(2,2−ジブロモ−2−スタナプロパン−1,3−ジイル)−1,1’−ビナフタレン、2,2’−(2,2−ジブロモ−2−スタナプロパン−1,3−ジイル)− 3,3’−ジフェニル−1,1’−ビナフタレン等が好適に使用され、特に、ジメチルジクロロ錫、2,2’−(2,2−ジブロモ−2−スタナプロパン−1,3−ジイル)− 3,3’−ジフェニル−1,1’−ビナフタレンが好ましい。
【0025】
本発明において、ルイス酸の使用量は、触媒として機能する有効量であれば特に制限されるものではないが、多くなりすぎると後処理工程が煩雑になり、少なすぎると反応速度が低下する傾向にある。そのため、通常、下記に詳述するジオール化合物1モルに対して、0.0001モル以上0.2モル以下とすることが好ましく、さらに0.0005モル以上0.15モル以下とすることが好ましい。
【0026】
(有機塩基)
本発明で使用する有機塩基は、公知のものを何等制限なく使用できる。これら有機塩基を具体的に例示すると、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルメチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、メチルモルホリン等の脂肪族アミン、ピリジン、4−N,N−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチルベンジルアミン等の芳香族アミン等を挙げることができる。これらの有機塩基の中でも、トリエチルアミン、トリブチルアミン、メチルモルホリン、ジイソプロピルメチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等の脂肪族アミン、4−N,N−ジメチルアミノピリジン等の芳香族アミン等が、高い反応選択性と収率を示すため好適に採用でき、特に、トリエチルアミンが好適に採用できる。また、これら有機塩基は、単独でも、複数種類のもの、または複数のものを混合して使用することができる。
【0027】
有機塩基の使用量は、特に制限されるものではないが、本発明によれば比較的少ない量で十分に効果を発揮する。この有機塩基は、下記に詳述する有機ケイ素ハライド化合物から発生するハロゲン化水素を中和するものと考えられるため、該有機ケイ素ハライド化合物1モルに対して、1.0モル以上2.0モル以下とすることが好ましく、さらに1.0モル以上1.5モル以下とすることが好ましい。なお、1種類の有機塩基を使用する場合には、その有機塩基の使用量が前記範囲を満足することが好ましい。また、2種類以上の塩基を使用する場合には、2種類以上の塩基の合計使用量が前記範囲を満足することが好ましい。
【0028】
(ジオール化合物)
本発明で使用するジオール化合物は、前記一般式(I)、前記一般式(II)、及び前記一般式(III)で示されるジオール化合物から選ばれる1種の化合物である。これら特定の構造を有するジオール化合物を使用することにより、優れた効果を発揮することができる。先ず、前記一般式(I)で示される環状1,2−ジオール化合物について説明する。
【0029】
(環状1,2−ジオール化合物)
本発明で使用する環状1,2−ジオール化合物は、下記一般式(I)
【0030】
【化6】

【0031】
(式中、下記式
【0032】
【化7】

【0033】
で示される環Xは、式中の2つの炭素原子を含む環Xを形成する総原子数が4以上10以下となる環である。)で示される。
【0034】
本発明において上記一般式(I)で示される環状1,2−ジオール化合物において、上記式で示される環Xは、式中の2つの炭素原子を含む環Xを構成する総原子数が4以上10以下となる環である。総原子数が前記範囲を満足する化合物を使用することにより、その化合物自体の入手が容易となるだけでなく、ヒドロキシシリルエーテル化が容易となり、さらには、得られるヒドロキシリルエーテル化合物が様々な合成に使用できる有用なものとなる。
【0035】
上記一般式(I)で示される環状1,2−ジオール化合物は、環Xの総炭素数が前記範囲を満足すれば、如何なる化合物であってもよい。そのため、上記式で示される環Xは、前記条件を満足すれば、脂肪族炭化水素環、ヘテロ原子を含む複素環、これら環にさらに環が結合した縮合環、芳香環であってもよい。また、上記式で示される環Xは、置換基を有することもできる。なお、縮合環、環Xが置換基を有する場合、上記一般式(I)で示される環Xの総炭素数は、縮合している環、及び置換基の原子数は含まないものとする。
【0036】
上記一般式(I)で示される環状1,2−ジオール化合物を具体的に例示すると、シス−1,2−シクロペンタンジオール、シス−1,2−シクロヘキサンジオール、シス−1,2−シクロヘプタンジオール、シス−1,2−シクロオクタンジオール、シス−2,3−ジヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン、シス−3,4−ジヒドロキシテトラハイドロフラン、シス−3,4−ジヒドロキシ−1−ベンジルオキシカルボニルピロリジン、シス−4−シクロヘキセン−1,2−ジオール、シス−5−シクロオクテン−1,2−ジオール、トランス−1,2−シクロペンタンジオール、トランス−1,2−シクロヘキサンジオール、トランス−1,2−シクロヘプタンジオール、トランス−1,2−シクロオクタンジオール、トランス−2,3−ジヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン、トランス−3,4−ジヒドロキシテトラハイドロフラン、トランス−4−シクロヘキセン−1,2−ジオール、トランス−5−シクロオクテン−1,2−ジオール、カテコール等の環状1,2−ジオール化合物を挙げることができる。これら環状シスジオール化合物の中でも、特に高収率が期待できる、シス−1,2−シクロペンタンジオール、シス−1,2−シクロヘキサンジオール、シス−1,2−シクロヘプタンジオール、シス−1,2−シクロオクタンジオール、シス−2,3−ジヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン、シス−3,4−ジヒドロキシ−1−ベンジルオキシカルボニルピロリジン等が好適に使用される。
【0037】
(鎖状1,2−ジオール化合物)
本発明で使用する鎖状1,2−ジオール化合物は、下記一般式(II)
【0038】
【化8】

【0039】
(式中、R、及びRは、それぞれ、水素原子、アルキル基、アリール基、あるいはアルコキシカルボニル基であり、同一の基であっても、異なる基であってもよい。)で示される。
【0040】
上記一般式(II)において、R、及びRは、それぞれ、水素原子、アルキル基、アリール基、又はアルコキシカルボニル基である。また、R、及びRは、同一の基であっても、異なる基であってもよい。
【0041】
アルキル基としては、特に制限されるものではないが、炭素数1〜4のものが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基を挙げることができる。
【0042】
アリール基としては、特に制限されるものではないが、特にフェニル基が好ましい。
【0043】
また、アルコキシカルボニル基としては、特に制限されるものではないが、炭素数2〜5のものが好ましく、具体的には、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブチロキシカルボニル基を挙げることができる。
【0044】
上記一般式(II)で示される鎖状1,2−ジオール化合物において、R、及びRが同一の基となる化合物を具体的に例示すると、エチレングリコール、(2R,3S)−2,3−ブタンジオール、(3R,4S)−3,4−ヘキサンジオール、(1R,2S)−1,2−ジフェニル−1,2−エタンジオール、(1R,2S)−1,2−ジメトキシカルボニル−1,2−エタンジオール、(1R,2S)−1,2−ジエトキシカルボニル−1,2−エタンジオール、(1R,2S)−1,2−ジプロポキシカルボニル−1,2−エタンジオール、(1R,2S)−1,2−ジブトキシカルボニル−1,2−エタンジオール、(2R,3R)−2,3−ブタンジオール、(3R,4R)−3,4−ヘキサンジオール、(1R,2R)−1,2−ジフェニル−1,2−エタンジオール、(1R,2R)−1,2−ジメトキシカルボニル−1,2−エタンジオール、(1R,2R)−1,2−ジエトキシカルボニル−1,2−エタンジオール、(1R,2R)−1,2−ジプロポキシカルボニル−1,2−エタンジオール、(1R,2R)−1,2−ジブトキシカルボニル−1,2−エタンジオール、(2S,3S)−2,3−ブタンジオール、(3S,4S)−3,4−ヘキサンジオール、(1S,2S)−1,2−ジフェニル−1,2−エタンジオール、(1S,2S)−1,2−ジメトキシカルボニル−1,2−エタンジオール、(1S,2S)−1,2−ジエトキシカルボニル−1,2−エタンジオール、(1S,2S)−1,2−ジプロポキシカルボニル−1,2−エタンジオール、(1S,2S)−1,2−ジブトキシカルボニル−1,2−エタンジオール等を挙げることができる。これら鎖状1,2−ジオール化合物の中でも、特に高収率が期待できる、(2R,3S)−2,3−ブタンジオール、(3R,4S)−3,4−ヘキサンジオール、(1R,2S)−1,2−ジフェニル−1,2−エタンジオール、(1R,2S)−1,2−ジメトキシカルボニル−1,2−エタンジオール、(1R,2S)−1,2−ジエトキシカルボニル−1,2−エタンジオール、(1R,2S)−1,2−ジプロポキシカルボニル−1,2−エタンジオール、(1R,2S)−1,2−ジブトキシカルボニル−1,2−エタンジオール等が特に好適に使用される。
【0045】
また、R、及びRが異なる基となる化合物を例示すると、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、1−フェニル−1,2−エタンジオールが挙げられ、特に、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、1−フェニル−1,2−エタンジオールが好適に使用される。
【0046】
(鎖状1,3−ジオール化合物)
本発明で使用する鎖状1,3−ジオール化合物は、下記一般式(III)
【0047】
【化9】

【0048】
(式中、R、R、R、及びRは、それぞれ、水素原子、アルキル基、あるいはアリール基であり、同一の基であっても、異なる基であってもよい。)で示される。
【0049】
上記一般式(III)において、R、R、R、及びRは、それぞれ、水素原子、アルキル基、又はアリール基である。また、R、R、R、及びRは、同一の基であっても、異なる基であってもよい。
【0050】
アルキル基としては、特に制限されるものではないが、炭素数1〜4のものが好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基を挙げることができる。
【0051】
アリール基としては、特に制限されるものではないが、特にフェニル基が好ましい。
【0052】
上記一般式(III)で示される鎖状1,3−ジオール化合物において、本発明以外の反応系では一方の水酸基のみを有機ケイ素基で保護するのが難しく、本発明の方法が特に有効になる化合物としては、RとRとが水素原子となる化合物が挙げられ、この際、RとRは、水素原子、又はアルキル基であることが好ましい。具体的な化合物を例示すると、1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジプロピル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール等を挙げることができる。これら鎖状1,3−ジオール化合物の中でも、特に高収率が期待でき、本発明の方法がより有用なものになるのは、RとRとが水素原子であり、RとRが同一のアルキル基である化合物が好ましい。具体的には、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール等が挙げられる。
【0053】
また、RとRが水素原子であり、RとRが異なる基である化合物を使用する場合も、本発明の方法が有用なものとなる。具体的な化合物を例示すると、1,3−ブタンジオール、2,4−オクタンジオール、1−フェニル−1,3−プロパンジオール等が挙げられ、特に、1,3−ブタンジオール、1−フェニル−1,3−プロパンジオールが好適に使用される。
【0054】
本発明において使用される上記ジオール化合物は、試薬あるいは工業原料として入手可能である。
【0055】
(有機ケイ素ハライド化合物)
本発明で使用する有機ケイ素ハライド化合物は、試薬あるいは工業原料として入手可能なものが何等制限なく使用できる。この有機ケイ素ハライド化合物を例示すれば、下記一般式(IV)
【0056】
【化10】

【0057】
(式中、
は、アルキル基、ハロアルキル基、シアノアルキル基、アルケニル基、アリール基、又はアラルキル基であり、
は、同一の基であっても、異なる基であってもよく、
Yは、ハロゲン原子である。 )
で示される化合物である。
【0058】
のアルキル基としては、特に制限されるものではないが、炭素数1〜8のものが好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、又はn−オクチル基を挙げることができる。
【0059】
ハロアルキル基としては、炭素数1〜4のものが好ましく、特に、前記炭素数1〜4のアルキル基において、水素原子の1つがハロゲン原子で置換された基であることが好ましい。ハロゲン原子としては、塩素原子、又は臭素原子が好ましく、特に塩素原子が好ましい。好ましい基を具体的に例示すれば、クロロメチル基、2−クロロエチル基、3−クロロプロピル基、又は4−クロロブチル基が挙げられる。
【0060】
シアノアルキル基としては、炭素数3〜4のものが好ましく、特に、アルキル基の水素原子の1つがシアノ基で置換された基であることが好ましい。好ましい基を具体的に例示すれば、2−シアノエチル基、又は3−シアノプロピル基が挙げられる。
【0061】
アルケニル基としては、特に制限されるものではないが、炭素数2〜4のものが好ましい。具体的には、ビニル基、又はアリル基が挙げられる。
【0062】
アリール基としては、特に制限されるものではないが、炭素数6〜10のものが挙げられる。中でも、フェニル基が好ましい。
【0063】
アラルキル基としては、特に制限されるものではないが、炭素数7〜11のものが挙げられる。好適なアラルキル基としては、ベンジル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基、又は4−フェニルブチル基が挙げられる。
【0064】
なお、有機ケイ素ハライド化合物において、基Rは、3つ存在するが、これらRは、同一の基であっても、異なる基であってもよい。
【0065】
Yは、ハロゲン原子であり、塩素原子、又は臭素原子を有するものが好ましい。
【0066】
これら有機ケイ素ハライド化合物を具体的に例示すると、トリメチルシリルクロライド、トリエチルシリルクロライド、トリプロピルシリルクロライド、トリイソプロピルシリルクロライド、tert−ブチルジメチルシリルクロライド、ジメチルフェニルシリルクロライド、ジメチル(3−フェニルプロピル)シリルクロライド、アリルジメチルシリルクロライド、クロロメチルジメチルシリルクロライド、(3−シアノプロピル)ジメチルシリルクロライド、ベンジルジメチルシリルクロライド、ジメチルビニルシリルクロライド、ジメチルイソプロピルシリルクロライド、tert−ブチルジフェニルシリルクロライド、トリメチルシリルブロマイド、トリエチルシリルブロマイド、トリプロピルシリルブロマイド、トリイソプロピルシリルブロマイド、tert−ブチルジメチルシリルブロマイド、ジメチルフェニルシリルブロマイド、ジメチル(3−フェニルプロピル)シリルブロマイド、アリルジメチルシリルブロマイド、クロロメチルジメチルシリルブロマイド、(3−シアノプロピル)ジメチルシリルブロマイド、ベンジルジメチルシリルブロマイド、ジメチルビニルシリルブロマイド、ジメチルイソプロピルシリルブロマイド、tert−ブチルジフェニルシリルブロマイド等を挙げることができる。これらの有機ケイ素ハライド化合物の中でも、特に高収率が期待できる、トリエチルシリルクロライド、トリプロピルシリルクロライド、ジメチル(3−フェニルプロピル)シリルクロライド、アリルジメチルクロライド、クロロメチルジメチルシリルクロライド、(3−シアノプロピル)ジメチルシリルクロライド、ベンジルジメチルシリルクロライド、ジメチルビニルシリルクロライド、ジメチルイソプロピルシリルクロライド、tert−ブチルジメチルシリルクロライド、ジメチルフェニルクロライド等が好適に使用される。
【0067】
本発明において、有機ケイ素ハライド化合物の使用量は、特に制限されるものではないが、前記ジオール化合物とは等量反応であるため、ジオール化合物の使用量に対して等モル以上であればよい。ただし、使用量が多くなりすぎると、二つの水酸基が共にシリルエーテル化された化合物が副生するため、前記ジオール化合物1モルに対して、1モル以上2モル以下とすることが好ましく、さらには1モル以上1.7モル以下とすることが好ましい。
【0068】
(反応条件、およびシリルエーテル化合物の精製方法)
本発明の方法は、有機溶媒中で上記各成分を混合することにより、実施することができる。本発明で使用できる有機溶媒は、各成分が溶解し、反応を阻害しないものであれば、試薬、又は工業原料として入手可能な溶媒を使用することができる。具体的には、テトラハイドロフラン、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、メチルシクロペンチルエーテル等のエーテル類、tert−ブチルアルコール、tert−アミルアルコール等のアルコール類、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、ジメチルカーボネート等のカーボネート類、ジメチルスルホキシド等を挙げることができる。これらの有機溶媒の中でも、高い収率が期待できる、テトラハイドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル類、トルエン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素類、アセトニトリル等のニトリル類が好適に採用され、特に、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、塩化メチレンが好ましい。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、2種類以上の溶媒を混合して用いることもできる。
【0069】
上記有機溶媒は、乾燥処理等の精製を行い使用してもよいし、市販のものをそのまま使用することもできる。ただし、該有機溶媒中に含まれる水分は、有機ケイ素ハライド化合物と反応するため、あまり量が多いと本発明の収率が低下する傾向にある。そのため、有機溶媒中に含まれる水分量は、本発明に使用される有機ケイ素ハライド化合物1モルに対して、50モル以下とすることが好ましい。なお、該有機溶媒中の水分量の下限値は、乾燥した有機溶媒を使用することもできるため、有機ケイ素ハライド化合物1モルに対して、0モルである。
【0070】
本発明において、上記有機溶媒の使用量は、特に制限はないが、あまり量が多いとバッチあたりの収量が減少するため経済的ではなく、あまり量が少ないと攪拌等に支障をきたすおそれがある。そのため、通常、有機溶媒の使用量は、反応溶媒(有機溶媒)中のジオール化合物の濃度が、好ましくは0.1〜70質量%、より好ましくは1〜60質量%となる量である。
【0071】
(反応方法)
本発明においては、前記ルイス酸、有機塩基の存在下、前記ジオール化合物と前記有機ケイ素ハライド化合物とを有機溶媒中で反応させることができる。この反応(以下、シリルエーテル化反応と称す。)は、有機溶媒中でルイス酸、有機塩基、ジオール化合物、有機ケイ素ハライド化合物を混合してやればよい。そのため、これらの添加順序は、特に制限されるものではない。中でも、収率等を考慮すると、前記ジオール化合物、及びルイス酸が溶解した混合溶液(有機溶媒)を攪拌混合しながら、該混合溶液中に有機塩基を添加し、続いて、有機ケイ素ハライド化合物を添加することが好ましい。例えば、反応器にジオール化合物、ルイス酸、有機溶媒を仕込み、それらを攪拌しながら混合溶媒とし、該混合溶媒に有機塩基を添加し、続いて、有機ケイ素ハライド化合物を添加する方法を採用すればよい。なお、ジオール化合物、ルイス酸、有機塩基、有機ケイ素ハライド化合物は、有機溶媒で希釈したものを使用することもできるし、そのまま使用することもできる。
【0072】
シリルエーテル化反応を行う際の反応温度は、使用するジオール化合物、有機ケイ素ハライド化合物、ルイス酸、有機塩基の種類によって異なるため、一義的に限定されるものではない。ただし、本発明の方法によれば、比較的温和な条件下でも、副生物の生成が少なく、一方の水酸基のみを反応させることができる。そのため、反応温度は、0℃以上50℃以下とすることが好ましく、さらには0℃以上30℃以下とすることが好ましい。また、反応時間は、特に制限されるものではないが、0.1〜50時間もあれば十分である。この反応の間は、各成分が十分に混合できるように有機溶媒を攪拌しておくことが好ましい。
【0073】
また、シリルエーテル化反応は、常圧、減圧、加圧のいずれの状態でも実施可能である。さらに、本反応は、空気(大気雰囲気下)中で実施することもできるし、または、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性気体を反応系内に存在させ、不活性気体雰囲気下で実施することもできる。収率を考慮すると、不活性気体雰囲気下で実施することが好ましい。
【0074】
本発明おいては、前記方法によりシリルエーテル化反応を実施することにより、ジオール化合物の一方の水酸基のみを保護したヒドロキシシリルエーテル化合物を高収率で製造できる。このヒドロキシシリルエーテル化合物の構造は、使用したジオール化合物と、使用した有機ケイ素ハライド化合物との構造によって決定する。次に、得られた反応物から目的とするヒドロキシシリルエーテル化合物を分離精製する方法について説明する。
【0075】
(分離精製方法)
上記方法で得られたヒドロキシシリルエーテル化合物を分離し、精製する方法は、特に制限されるものではなく、反応混合物から、公知の単離精製方法によって、目的とするヒドロキシシリルエーテル化合物を分離することができる。具体的な分離精製方法を例示すれば以下の方法を挙げることができる。先ず、反応終了後の反応溶液に水を投入する。次いで、該水溶液と水に難溶な有機溶媒(例えば、酢酸エチル)と接触させ、該有機溶媒により目的物を抽出する。その後、得られた有機溶媒を乾燥剤(例えば、硫酸マグネシウム等)により乾燥し、該溶媒を留去し、残渣を公知の方法で精製、例えば、シリカゲルクロマトグラフィーによって精製することにより、目的とするヒドロキシシリルエーテル化合物を分離精製できる。
【0076】
本発明に用いるジオール化合物のうち、水酸基が結合する炭素原子が不斉炭素である場合、前記分離精製方法によって得られるヒドロキシシリルエーテル化合物は、一方の水酸基のみが保護された化合物の混合物、即ち、ラセミ体となる。例えば、原料として1位、2位の炭素原子に水酸基を有する環状シスジオール化合物を使用した場合には、1位の水酸基がシリルエーテル化された化合物と2位の水酸基がシリルエーテル化された化合物の混合物(ヒドロキシシリルエーテル化合物)となる。このとき、両者(例えば、1位の水酸基がシリルエーテル化された化合物と2位の水酸基がシリルエーテル化された化合物)の生成比は、1:1となるため、得られたヒドロキシシリルエーテル化合物はラセミ体となる。なお、当然のことながら、不斉炭素が存在しないジオール化合物を使用した場合には、得られる化合物は、1種類のヒドロキシシリルエーテル化合物である。
【実施例】
【0077】
以下、実施例を掲げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何等制限されるものではない。
【0078】
実施例1
10mlの茄子型フラスコに、大気雰囲気下、シス−1,2−シクロオクタンジオール72.1mg(0.5mmol)、ジメチルジクロロ錫11.0mg(0.05mmol)を加えて、次いで、塩化メチレン3mlを加え、攪拌混合し、シス−1,2−シクロオクタンジオール、ジメチルジクロロ錫が溶解した混合溶液を得た。次いで、該混合溶液中に、トリエチルアミン104.4μl(0.75mmol)、次いでトリエチルシリルクロライド125.9μl(0.75mmol)を室温(23℃)で順次添加し、1時間撹拌した。反応終了後、反応溶液に水を10ml投入し、酢酸エチル10mlを用いて抽出を行った。抽出操作を3回行った後、硫酸マグネシウムで乾燥させた後、酢酸エチルを留去した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィーで分離精製(展開溶媒 n−ヘキサン:酢酸エチル=1:1)したところ、ラセミ体のシス−1−トリエチルシリルオキシ−2−シクロオクタノールを127.8mg(収率99%)取得した。
【0079】
実施例2〜5
実施例1で使用したジメチルジクロロ錫の代わりに表1のルイス酸を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果を表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】

実施例6〜8
実施例1で使用したトリエチルアミンの代わりに表2の有機塩基を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果を表2に示す。
【0082】
【表2】


実施例9〜12
実施例1で使用した塩化メチレンの代わりに表3の有機溶媒を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果を表3に示す。
【0083】
【表3】


実施例13〜14
実施例1で使用したジメチルジクロロ錫の使用量を表4に示した使用量とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果を表4に示す。
【0084】
【表4】


実施例15〜30
実施例1で使用したシス−1,2−シクロオクタンジオールの代わりに表5のジオール化合物を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果を表5に示す。
【0085】
【表5】

【0086】

実施例31
実施例1で使用したトリエチルシリルクロライドの代わりにジメチルフェニルシリルクロライドを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、ラセミ−シス−1−ジメチルフェニルシリルオキシ−2−シクロオクタノールを130.5mg(収率89%)で取得した。
【0087】
実施例32
実施例1で使用したトリエチルシリルクロライドの代わりにジメチル(3−フェニルプロピル)シリルクロライドを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、ラセミ−シス−1−ジメチル(3−フェニルプロピル)シリルオキシ−2−シクロオクタノールを134.9mg(収率84%)で取得した。
【0088】
実施例33〜38
実施例1で使用したトリエチルシリルクロライドの代わりに表6の有機ケイ素ハライド化合物を用い、使用量を0.6mmolにした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
その結果を表6に示す。
【0089】
【表6】

【0090】

実施例39
実施例22で使用したトリエチルシリルクロライドの代わりにジメチルフェニルシリルクロライドを用いた以外は、実施例22と同様の操作を行った。その結果、(1R,2S)−1,2−ジフェニル−1−ジメチルフェニルシリルオキシ−2−エタノールと対応する(1S,2R)−体の1対1混合物を144.9mg(収率83%)で取得した。
【0091】
実施例40
実施例25で使用したトリエチルシリルクロライドの代わりにtert−ブチルジフェニルシリルクロライドを用いた以外は、実施例25と同様の操作を行った。その結果、2,2−ジメチル−1−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−3−プロパノールを137.3mg(収率80%)で取得した。
【0092】
比較例1
実施例1で使用したジメチルジクロロ錫を使用しなかった以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、ラセミ体のシス−1−トリエチルシリルオキシ−2−シクロオクタノールの取得量は、83.9mg(収率65%)であった。
【0093】
比較例2
実施例1で使用したトリエチルアミンの代わりに炭酸カリウムを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、ラセミ体のシス−1−ベンゼンカルボニルオキシ−2−シクロオクタノールは全く取得できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルイス酸触媒と有機塩基の存在下、
下記一般式(I)
【化1】

(式中、下記式
【化2】

で示される環Xは、式中の2つの炭素原子を含む環Xを形成する総原子数が4以上10以下となる環である。)で示される環状1,2−ジオール化合物、
下記一般式(II)
【化3】

(式中、R、及びRは、それぞれ、水素原子、アルキル基、アリール基、あるいはアルコキシカルボニル基であり、同一の基であっても、異なる基であってもよい。)で示される鎖状1,2−ジオール化合物、並びに
下記一般式(III)
【化4】

(式中、R、R、R、及びRは、それぞれ、水素原子、アルキル基、あるいはアリール基であり、同一の基であっても、異なる基であってもよい。)で示される鎖状1,3−ジオール化合物から選ばれるジオール化合物と有機ケイ素ハライド化合物とを反応させることを特徴とするヒドロキシシリルエーテル化合物の製造方法。
【請求項2】
前記有機ケイ素ハライド化合物が、下記一般式(IV)
【化5】

(式中、
は、アルキル基、ハロアルキル基、シアノアルキル基、アルケニル基、アリール基、又はアラルキル基であり、
は、同一の基であっても、異なる基であってもよく、
Yは、ハロゲン原子である。 )
で示される化合物である請求項1に記載のヒドロキシシリルエーテル化合物の製造方法。

【公開番号】特開2012−162512(P2012−162512A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51602(P2011−51602)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】