説明

ヒドロキシスチレンダイマー誘導体、その製造方法、連鎖移動剤およびラジカル重合性モノマーの重合方法

【課題】ラジカル重合で得られるポリマー或はコポリマーの分子量を効率的に調節できる連鎖移動剤として有用なヒドロキシスチレンダイマー誘導体、その製造方法、連鎖移動剤及びラジカル重合性モノマーの重合方法を提供する。
【解決手段】ヒドロキシスチレンダイマー誘導体の構造は、式(1)


(式中、置換基R1およびR3は水素原子、アルコキシ基またはアセトキシ基のいずれかであり、R2はアセチル基またはアルキル基のいずれかである)で表される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低分子量ポリマーを得るための連鎖移動剤として有用な新規ヒドロキシスチレンダイマー誘導体、ヒドロキシケイ皮酸誘導体を原料としてヒドロキシスチレンダイマー誘導体を得る簡便な製造方法、およびヒドロキシスチレンダイマー誘導体を用いてラジカル重合性モノマーを重合させる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ラジカル重合反応により得られるポリマーは、いわゆる合成樹脂原料として様々な用途に用いられている。ポリマーの性質は、用いるモノマーの種類や異種モノマーによる共重合などにより大きく変えることができるが、目的とする用途に応じた性質・物性を得るためには、ポリマーの分子量を調節することが極めて重要な技術となっている。
ラジカル重合反応における分子量調節技術としては、重合系への連鎖移動剤の添加が効果的な方法の一つとして知られている。連鎖移動剤としては多数の既知化合物が提案されており、近年ではα−メチルスチレンダイマー誘導体が広く使用されている。このα−メチルスチレンダイマー誘導体は、アルキルメルカプタン連鎖移動剤よりも効率は悪いが、無臭で取り扱いやすく、変色などポリマーの安定性にも影響を及ぼすことが少ないという特徴を有している。
【0003】
このようなα−メチルスチレンダイマー誘導体は、α−メチルスチレンを酸性条件下で二量化反応させることで得られる。しかし、この方法では連鎖移動剤として有用な2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンだけでなく、2,4−ジフェニル−4−メチル−2−ペンテンおよび飽和二量体1,1,3−トリメチル−3−フェニルインダンや三量体(2,4,6−トリフェニル−4,6−ジメチル−1−ヘプテン)なども副生するため、目的物の収率が低いという問題があった。そのため、このような問題を解決する製造方法の開発が行われ、近年では安価で高純度な物が得られるようになってきた(例えば特許文献1〜4参照)。
【0004】
一方、ヒドロキシル基、ビニル基、アミノ基などの官能基を含むスチレンダイマー誘導体は、連鎖移動剤としての機能に加え、ポリマー鎖の末端に反応性の官能基を導入できることから、特殊ポリマーの合成において有用と考えられている。しかし、官能基を有するスチレンダイマー誘導体を製造することは困難であり、例えば、特許文献5あるいは特許文献6に示される特殊な金属触媒の使用など、その製造例も含めて多くの課題が残されている。
【0005】
他方で、近年、ポリスチレンの重合末端にフェノール基を導入することで、ポリアクリル酸エステル樹脂とポリスチレン樹脂の相溶性が向上することが報告され(非特許文献1)、ポリスチレン末端に容易にフェノール基を導入することが可能となるヒドロキシスチレンダイマー誘導体が注目されている。
【0006】
また、ヒドロキシスチレンダイマー誘導体に関しては、例えば非特許文献2〜8などに、幾つかの種類について、その分子構造や生理活性機能が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭57−10850号公報
【特許文献2】特開平7−82180号公報
【特許文献3】特開平8−176028号公報
【特許文献4】特開平9−194402号公報
【特許文献5】特表2002−503645号公報
【特許文献6】特開2002−241338号公報
【0008】
【非特許文献1】Shimon Tanaka, Haruo Nishida, and Takeshi Endo, Macromolecules, 2009, 42 (1), 293-298.
【非特許文献2】大橋秀雄ら、岐阜大農研報(52)、131-139(1987).
【非特許文献3】S.Suzuki, T.Umezawa and M. Shimada, J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1, 2001 3252-3257.
【非特許文献4】D. M. Skytte ら、J. Med. Chem., 2006, 49, 436-440.
【非特許文献5】R. Bernini ら、Tetrahedron, 2007, 63, 9663-9667.
【非特許文献6】T.Higashimuraら、Polymer Journal,13, 563-568 (1981).
【非特許文献7】K. Kodairaら、Makromol. Chem., Rapid Commun., 1, 427-431(1980).
【非特許文献8】O. Frankら、J. Agric. Food. Chem., 55, 1945-1954(2007).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、公知のヒドロキシスチレンダイマー誘導体がラジカル重合反応における分子量調節剤である連鎖移動剤として利用可能であることは見出されておらず、また有効な製造方法の開示もされていないのが現状である。本発明は、このような状況下、所定の特徴構造を有するヒドロキシスチレンダイマー誘導体がラジカル重合反応における連鎖移動剤として有用であることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、下記の式(1)の構造を有する新規なヒドロキシスチレンダイマー誘導体、その製造方法、ヒドロキシスチレンダイマー誘導体からなる連鎖移動剤、およびこの連鎖移動剤を用いたラジカル重合性モノマーの重合方法を提供する。
【化1】

(式中、置換基R1およびR3は水素原子、アルコキシ基またはアセトキシ基のいずれかであり、R2はアセチル基またはアルキル基のいずれかである)。
【0011】
本発明は、より具体的には下記の式(2)で表されるヒドロキシスチレンダイマー誘導体である。
【化2】

【0012】
また、下記の式(3)で表されるヒドロキシスチレンダイマー誘導体である。
【化3】

【0013】
さらには、下記の式(4)で表されるヒドロキシスチレンダイマー誘導体である。
【化4】

これらのヒドロキシスチレンダイマー誘導体は、芳香環のフェノール性ヒドロキシル基が適当な保護基より保護されていることを特徴としている。
【0014】
更に、これらの製造方法として、式(5):
【化5】

(式中、置換基R1、R2、R3およびR4は、水素、ヒドロキシル基またはメトキシ基のいずれかである)で表されるヒドロキシケイ皮酸誘導体を塩基触媒およびプロティックソルベントの存在下で加熱してヒドロキシスチレンダイマー誘導体を得る製法を提供する。
【0015】
また、本発明は、上記した式(1)〜(4)の構造のヒドロキシスチレンダイマー誘導体からなる連鎖移動剤である。
【0016】
そして、本発明は、前記の連鎖移動剤を用いてラジカル重合性モノマーを重合させることを特徴とするラジカル重合性モノマーの重合方法である。
【発明の効果】
【0017】
前述のように公知のヒドロキシスチレンダイマー誘導体はその存在や生理活性機能などが報告されているだけであった。これに対して、本発明はラジカル重合の分野で有用な構造のヒドロキシスチレンダイマー誘導体を見出して提供したのである。このヒドロキシスチレンダイマー誘導体は、ラジカル重合性モノマーの重合において連鎖移動剤として使用されることで、その連鎖移動機構からポリマー末端に容易にフェノール基を導入することが可能になるなど、得られるポリマーの機能性付与の効果にも優れている。そして、本発明に係る工業的に有用な製造方法によれば、本発明の新規なヒドロキシスチレンダイマー誘導体を初めて製造できたのである。また、入手容易なフェルラ酸を原料として有効利用できるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】原料フェルラ酸の量、得られたスチレン誘導体の量および中間体ダイマーの量の経時変化を示し、(a)は溶媒としてエチレングリコールを用いた場合のグラフ、(b)は溶媒としてトルエンを用いた場合のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について説明するが、本発明はこれらの形態のみに限定されるものではなく、本発明の精神とその思想の範囲内において、様々な変形が可能であることは言うまでもないことである。
本発明に係るヒドロキシスチレンダイマー誘導体は、下記の式(1) に示したように、内部二重結合(内部オレフィン)を有するスチレンダイマー構造に加え、芳香環上にアセトキシ基あるいはアルコキシ基を複数個有することを特徴とする。このため、製造されるポリマーまたはコポリマーの末端にはこの構造が導入される。
【化6】

【0020】
本発明に係るヒドロキシスチレンダイマー誘導体は例えば以下の反応式(a)〜(d)で示した方法により具体的に製造することができるが、下記の方法以外にも、その基本骨格あるいは置換基の種類に基づく特徴を利用し、種々の合成方法を適用して製造することが可能である。
まず、本発明のヒドロキシスチレンダイマー誘導体は、具体的に次の反応式(a)に示した方法により製造することができる。
【化7】

【0021】
更に、置換基の異なるヒドロキシスチレンダイマー誘導体は、以下の例えば反応式(b)、反応式(c)および反応式(d)に示した方法により製造できる。
【化8】

【化9】

【化10】

【0022】
芳香環の4位にOH基を有する中間体(式(6))、または芳香環の4位のOH基および3位のメトキシ基を有する中間体(式(7)、(8))は、これらのOH基やメトキシ基がラジカルトラップとして働き重合禁止剤となるのでラジカル重合反応には使えないし、これらの中間体は不安定な化合物である。それに対し、これらの中間体から得られるヒドロキシスチレンダイマー誘導体(式(2)、(3)、(4)、(10))は安定な化合物であり、後で詳述するように連鎖移動剤としてラジカル重合反応に使用できるのである。
【0023】
上記したように、本発明の製造方法では、4位にヒドロキシル基を有するケイ皮酸誘導体が原料として好適に用いられる。本発明の製造方法に用いる具体的なケイ皮酸誘導体としては、4−ヒドロキシケイ皮酸(R1=R2=R3=R4=H)、3−メトキシ−4−ヒドロキシケイ皮酸(フェルラ酸:構造式を下記の式(11)に示す)(R1=R2=R4=H、R3=OMe)、3,4−ジヒドロキシケイ皮酸(カフェー酸)(R1=R2=R4=H、R3=OH)、3,5−ジメトキシ−4−ヒドロキシケイ皮酸(シナピン酸)(R1=R4=H、R2=R3=OMe)などが挙げられる。これらのヒドロキシケイ皮酸誘導体を原料にして、脱炭酸反応とそれに続く二量化反応を行い、その後にアセチル化あるいはアルキル化反応を行うことで、目的とするヒドロキシスチレンダイマー誘導体が得られる。
【化11】

【0024】
脱炭酸反応と二量化反応を連続して起こさせるために用いる塩基触媒としては、特に限定されないが、例えば直鎖状、分岐状の分子鎖が含まれるアルキルアミン(メチル基、エチル基、炭素数3のアルキル基(n−プロピル、iso−プロピル)、炭素数4のアルキル基(n−ブチル、iso−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル)など炭素数20までのアルキルアミン)、ピペリジンおよびピロリジンなどの環状アミン類、アニリンなどの芳香族アミン類、ピリジンなどの含窒素芳香族化合物、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物、高分子基材に担持された固体塩基などをその具体例として挙げることができるが、目的物を収率良く得るためには、用いる溶媒に溶解するものを使用することが好ましい。
【0025】
これら塩基触媒の使用量は、原料のヒドロキシケイ皮酸誘導体1モルに対して1/100〜5(モル比)の量で反応が進行するが、塩基触媒の量が少ないと目的物の収率が低くなるため、好ましくはヒドロキシケイ皮酸誘導体1モルに対して0.5〜5(モル比)である。好ましくは、1〜5(モル比)である。塩基触媒量がヒドロキシケイ皮酸誘導体1モルに対して0.5モルより少ないと、反応が1段目の脱炭酸で停止してしまうおそれがある。尚、高収率でヒドロキシスチレンダイマーを得るためには、モル比0.5〜5の範囲内でも、極力多量に用いることが肝要である。
【0026】
本発明の製造方法に用いる溶媒としては、プロトンを解離するプロティックソルベントを含んでいることが必要である。このプロティックソルベントは特に限定するものでないが、例えばメタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、水などからなる群より選ばれる1種または2種以上を用いることができる。また、これらのプロティックソルベントに加えて、芳香族系溶媒であるベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、エチルベンゼンなどのほか、脂肪族系疎水性溶媒のn−ヘキサン、シクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、n−ノナン、n−デカン、灯油などの疎水性溶媒群より選ばれる1種または2種以上の溶媒を組み合わせた混合系でも、効率よく高収率で目的物を得ることが可能となる。
【0027】
本発明の製造方法において、ヒドロキシケイ皮酸誘導体の脱炭酸反応には、加熱が必要である。加熱温度は特に限定されないが、概ね50℃から250℃の加熱により反応が速やかに進行する。より好ましくは100℃以上の高温である。また、反応は、加熱しても圧力が上昇しない開放系、もしくは高温の加熱により圧力が上昇する密閉系のいずれでも行なうことができる。反応時の加熱方法は特に限定されないが、例えばオイルバスなど、通常の加熱方法で構わない。加熱時の雰囲気は酸素がない方が好ましい。但し、反応系は反応により生じた炭酸ガスで被われているので酸素は一応遮断されている。念のため、窒素気流下で反応させてもよい。
【0028】
本発明の製造方法は、ヒドロキシケイ皮酸誘導体を塩基触媒およびプロティックソルベントの存在下で加熱することにより、脱炭酸反応とそれに続く二量化反応を連続しておこさせてヒドロキシスチレンダイマーを得、得られたヒドロキシスチレンダイマーにアセチル化剤あるいはアルキル化剤を反応させることを特徴とするが、これらの反応は一般的に知られている反応を利用できる。例えば、アセチル化剤としては、一般的に無水酢酸、塩化アセチル、臭化アセチルから選ばれた少なくとも1種を用いることができる。アセチル化反応を効率よく進行せしめるには触媒の使用が有効である。かかる触媒としては特に限定されないが、アルキルアミン(メチル基、エチル基、炭素数3のアルキル基(n−プロピル、iso−プロピル)、炭素数4のアルキル基(n−ブチル、iso−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル)など炭素数20までのアルキルアミン)、ピペリジンおよびピロリジンなどの環状アミン類、アニリンなどの芳香族アミン類、ピリジンなどの含窒素芳香族化合物、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物、高分子基材に担持された固体塩基などを用いることが好ましい。本発明においては、脱炭酸反応に用いた塩基をそのまま用いても良いし、反応の進行に応じて追加することも可能である。
一方、アルキル化反応はハロゲン化アルキルあるいはジメチル硫酸を用いる汎用的な方法、あるいはメタノールなどのアルコールを光延反応により反応させる方法などが利用可能である。光延反応により目的物を得るためには、トリフェニルホスフィン、ジエチルフェニルホスフィン、ジフェニル−2−ピリジルホスフィン、トリブチルホスフィン、ポリスチレン樹脂固定化ジフェニルホスフィン誘導体などのリン化合物と、アゾジカルボン酸ジメチルエステル、アゾジカルボン酸ジエチルエステル、アゾジカルボン酸ジイソプロピルエステル、N,N,N,N,−テトラメチルアゾジカルボン酸アミド、アゾジカルボン酸ジ−2−メトキシエチルエステルなどのアゾ化合物とを組み合わせて用いることが有効である。
【0029】
本発明で使用可能なラジカル重合性モノマーとしては、具体的に、
(a)芳香族エチレン性不飽和単量体:スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ヒドロキシスチレンなどのスチレン類、ビニルナフタレン類、ジクロルスチレンなどのスチレン類のハロゲン置換体など、
(b)脂肪族エチレン性不飽和単量体:エチレン、プロピレン、ブテン、イソブチレン、ペンテン、ヘプテン、ジイソブチレン、オクテン、ドデセン、オクタデセン、ブタジエン、イソプレンなど、
(c)脂環式エチレン性不飽和単量体:シクロペンタジエン、ピネン、リモネン、インデン、ビシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネンなど、
(d)炭素数1〜50のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート:メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレートなど、
(e)ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート:ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなど、
(f)アミド含有エチレン性不飽和単量体:(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミドなど、
(g)3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどの不飽和有機シラン化合物など
が挙げられるが、これらに特に限定されるものではない。ラジカル重合性やモノマー入手の容易さからは、メタクリル酸類、アクリル酸類、α,β−不飽和カルボン酸類、スチレン類が好ましい。また、これらのラジカル重合性モノマーは1種類のみを用いてもよいし2種以上を組み合わせて用いても構わない。
【0030】
重合に使用されるラジカル重合開始剤としては、アゾ化合物および有機過酸化物が好ましく、重合温度に応じた10時間半減期温度を基準に選択される。有機過酸化物の具体例としては、例えば2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、o−メチルベンゾイルパーオキサイド、ビス−3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、シクロヘキサノンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイドなどが挙げられる。アゾ化合物の具体例としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス( 2,4−ジメチルバレロニトリル) 、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル) などが挙げられる。これらの中でも、ベンゾイルパーオキサイド、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル) 、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル) が入手容易で取り扱いやすいことから好ましい。これらのラジカル重合開始剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ラジカル重合開始剤の添加量は、ラジカル重合性モノマーの合計量100質量部に対し0.0001質量部以上10質量部以下の範囲内とするのが好ましい。ラジカル重合開始剤の前記添加量が10質量部を超えると、ラジカル重合開始剤自体の残分がポリマー中に残ってポリマーの品質低下を招くおそれが高くなる。一方、前記添加量が0.0001質量部を下回ると、ポリマーの重合度が必要以上に高くなって高分子化しすぎたり、重合終了までの反応時間が長くなって現実の製造にそぐわなくなる。
【0031】
重合温度に関しては特に限定されないが、高い連鎖移動効率を達成するために好ましくは40〜250℃ 、より好ましくは60〜160℃ で重合を行うのがよい。
【0032】
本発明に係るヒドロキシスチレンダイマー誘導体は、ラジカル重合性モノマーまたはそれらの混合物から製造される種々のポリマーまたはコポリマーのラジカル重合に使用することが可能であり、それらのポリマーまたはコポリマーの分子量を低下させる連鎖移動剤として有用である。この分子量の低下の程度は、添加する連鎖移動剤の量によって調節することが可能であり、連鎖移動剤の添加量は所望するポリマーまたはコポリマーの分子量によって決定される。
【0033】
本発明の連鎖移動剤を用いて重合を行い、ポリマーまたはコポリマーを製造する方法としては、一般に知られる重合法、例えば、バルク重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などを利用することが可能であるが、前記の重合法に限定されるものではない。
【実施例】
【0034】
以下、製造例、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの製造例、実施例および比較例によって何ら限定されるものでない。
ここで、製造例において合成したヒドロキシスチレンダイマー誘導体の構造は1H−NMR、13C−NMR(ブルカー製、AVANCE400)およびESI−TOF/MS(アプライドバイオ製、Mariner)により確認した。また、合成したポリマーの数平均分子量(=Mn)、重量平均分子量(=Mw)、分子量分布(=d(=Mw/Mn))は、GPC(ゲルパーミエイションクロマトグラフ:Waters製、Alliance 2690 )を用い、ポリスチレンをスタンダードとして測定した。
【0035】
(製造例1)
4−アセトキシスチレンダイマー(既述の反応式(a)で製造:アセチル化);
[1,3-Bis(4'-acetoxyphenyl)butene]
4−ヒドロキシケイ皮酸(p−クマル酸)6.56g(40mmol)をトルエン100mlに分散し、NaOH1.6g (40mmol) を水60mlに溶解した溶液を加え一晩還流した。放冷のあと水相を中和した後に分液ロートに移し水相を分離した。得られた有機相を水洗し、MgSO4で乾燥した後に減圧下で溶媒を留去し、粗4−ヒドロキシスチレンダイマー(式(6)の中間体ダイマー)4.26gを得た。
得られた粗4−ヒドロキシスチレンダイマーをピリジン20mlに溶解し、無水酢酸4.0ml(42.3mmol)を加え室温で一晩撹拌した。砕氷を加え反応を停止した後、酢酸エチル80mlを加え分液ロートに移し、飽和KHSO4、水、飽和NaHCO3、飽和食塩水の順に洗浄した。MgSO4で乾燥した後溶媒を留去し、残渣をカラムクロマトグラフィーにより精製し、無色油状の精製物を得た。得られた精製物を下記の通り機器分析に供したところ、4−アセトキシスチレンダイマー(式(2)のダイマー:収量4.35g、収率67%)であった。機器分析結果を下記に示す。
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δ1.44 (d, 3H, J=8.0 Hz , CH3) , 2.27 (s, 3H, acetyl) ,2.28 (s, 3H, acetyl), 3.63 (m, 1H, CH) , 6.30 (dd, 1H, J=4.0 and 16.0 Hz, CH=) , 6.39 (d, 1H, J=16.0 Hz, CH=), 6.27 - 7.36 (m, 8H, Ar-H) ppm ; 13C NMR (CDCl3) ( 21.04, 21.06, 21.09, 41.84, 121.40, 121.52, 126.98, 127.66, 128.17, 135.10, 135.18, 142.91, 148.92, 149.62, 169.40, 169.55 ppm ; MS (ESI-TOF) calcd for [C20H20O4]+ 325.14, found 325.10 [M + H]+.
【0036】
(製造例2)
4−メトキシスチレンダイマー(既述の反応式(d)の応用例で製造:アルキル化);
[1,3-Bis(4'-methoxyphenyl)butene]
製造例1と同様の反応で得られた粗4−ヒドロキシスチレンダイマー1.03g(4.28mmol)をジクロロメタン50mlに溶解し、トリフェニルホスフィン3.0 g (11.4 mmol), メタノール1.0ml (24.7mmol), ジイソプロピルアゾジカルボン酸(40%トルエン溶液)6.0mlを加え室温で一晩撹拌した。溶媒を留去した後に、残渣をカラムクロマトグラフィーにより精製し、無色油状の精製物を得た。得られた精製物を下記の通り機器分析に供したところ、4−メトキシスチレンダイマー(収量0.79g、収率69%)であった。機器分析結果を下記に示す。
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δ1.42 (d, 3H, J=8.0 Hz , CH3), 3.57 (m, 1H, CH) , 3.79 (s, 6H, OCH3), 6.22 (dd, 1H, J=4.0 and 16.0 Hz, CH=) , 6.33 (d, 1H, J=16.0 Hz, CH=), 6.81 - 7.30 (m, 8H, Ar-H) ppm ; 13C NMR (CDCl3) ( 21.06, 21.43, 41.65, 55.28, 113.62, 113.82, 113.89, 127.20, 127.58, 127.79, 128.19, 130.43, 133.51, 137.98, 157.95, 158.76 ppm ; MS (ESI-TOF) calcd for [C18H20O2]+ 269.15, found 270.17 [M + H]+.
【0037】
(製造例3)
4−アセトキシ−3-メトキシスチレンダイマー(既述の反応式(b)で製造:アセチル化);
[1,3-Bis(4'-acetoxy-3'-methoxyphenyl)butene]
4−ヒドロキシ−3−メトキシケイ皮酸(フェルラ酸)19.42g(0.1mol)をトルエン150mlに分散し、トリエチルアミン11.7g (0.115mol) および水50mlを加え一晩還流した。放冷のあと水相を中和した後に分液ロートに移し水相を分離した。得られた有機相を水洗し、MgSO4で乾燥した後に減圧下で溶媒を留去し、粗4−ヒドロキシ−3−メトキシスチレンダイマー(式(7)の中間体ダイマー)10.16gを得た。
得られた粗4−ヒドロキシ-3-メトキシスチレンダイマーをピリジン40mlに溶解し、無水酢酸8.0ml(84.6mmol)を加え室温で一晩撹拌した。砕氷を加え反応を停止した後、酢酸エチル150mlを加え分液ロートに移し、飽和KHSO4、水、飽和NaHCO3、飽和食塩水の順に洗浄した。MgSO4で乾燥した後溶媒を留去し、残渣をカラムクロマトグラフィーにより精製し、白色固体の精製物を得た。得られた精製物を下記の通り機器分析に供したところ、4−アセトキシ−3−メトキシスチレンダイマー(式(3)のダイマー:収量10.32g、収率72%)であった。機器分析結果を下記に示す。
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δ1.46 (d, 3H, J=8.0 Hz , CH3) , 2.31 (s, 3H, acetyl) ,2.31 (s, 3H, acetyl), 3.62 (m, 1H, CH) , 3.83 (s, 3H, OCH3), 3.84 (s, 3H, OCH3), 6.30 (dd, 1H, J=4.0 and 16.0 Hz, CH=) , 6.39 (d, 1H, J=16.0 Hz, CH=), 6.83 - 6.99 (m, 6H, Ar-H) ppm ; 13C NMR (CDCl3) ( 21.64, 20.68, 21.01, 42.30, 55.83, 55.84, 109.78, 111.59, 118.80, 119.34, 122.56, 122.71, 128.09, 135.12, 136.50, 138.03, 138.86, 144.33, 150.88, 151.02, 169.12, 169.25 ppm ; MS (ESI-TOF) calcd for [C22H24O6]+ 385.16, found 385.20 [M + H]+.
【0038】
(製造例4)
3,4−ジメトキシスチレンダイマーの合成(既述の反応式(d)で製造:アルキル化);
[1,3-Bis(3',4'-dimethoxyphenyl)butene]
製造例3と同様の反応で得られた粗4−ヒドロキシ-3-メトキシスチレンダイマー1.96g(6.5mmol)をジクロロメタン50mlに溶解し、トリフェニルホスフィン4.88g (18.6mmol), メタノール1.0ml (24.7mmmol), ジイソプロピルアゾジカルボン酸(40%トルエン溶液)10.0mlを加え室温で一晩撹拌した。溶媒を留去した後に、残渣をカラムクロマトグラフィーにより精製し、無色油状の精製物を得た。得られた精製物を下記の通り機器分析に供したところ、3,4−ジメトキシスチレンダイマー(式(10)のダイマー収量1.49g、収率70%)であった。機器分析結果を下記に示す。
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δ1.45 (d, 3H, J=8.0 Hz , CH3), 3.58 (m, 1H, CH), 3.87 (s, 3H, OCH3), 3.88 (s, 6H, OCH3), 6.23 (dd, 1H, J=4.0 and 16.0 Hz, CH=) , 6.33 (d, 1H, J=16.0 Hz, CH=), 6.79 - 6.92 (m, 6H, Ar-H) ppm ; 13C NMR (CDCl3) ( 21.30, 42.06, 55.80, 55.88, 55.92, 108.58, 110.79, 111.11, 111.20, 119.02, 119.12, 127.98, 130.68, 133.55, 138.40, 147.43, 148.38, 148.89, 148.98 ppm ; MS (ESI-TOF) calcd for [C20H24O4]+ 329.17, found 329.18 [M + H]+.
【0039】
(製造例5)
4−アセトキシ−3、5−ジメトキシスチレンダイマー(既述の反応式(c)で製造;アセチル化);
[1,3-Bis(4'-acetoxy-3',5'-dimethoxyphenyl)butene]
4−ヒドロキシー3,5−ジメトキシケイ皮酸 4.80g(21.4mmol)をエチレングリコール50mlに分散しトリエチルアミン 3.0ml (21.6mmol)を加え一晩還流した。放冷のあと中和し、水100mlを加え分液ロートに移しクロロホルム60mlで3回抽出した。得られたクロロホルム相を合わせた後に水洗しMgSO4で乾燥した。減圧下で溶媒を留去し、赤色油状の粗4−ヒドロキシ−3,5−ジメトキシスチレンダイマー5.30gを得た。
得られた粗4−ヒドロキシ−3,5−ジメトキシスチレンダイマーをピリジン20mlに溶解し、無水酢酸4.0ml(42.3mmmol)を加え室温で一晩撹拌した。砕氷を加え反応を停止した後、酢酸エチル80mlを加え分液ロートに移し、飽和KHSO4、水、飽和NaHCO3、飽和食塩水の順に洗浄した。MgSO4で乾燥した後溶媒を留去し、残渣をカラムクロマトグラフィーにより精製し、無色油状の精製物を得た。得られた精製物を下記の通り機器分析に供したところ、4−アセトキシ−3,5−ジメトキシスチレンダイマー(収量2.48g、収率52%)であった。機器分析結果を下記に示す。
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δ1.47 (d, 3H, J=8.0 Hz , CH3), 2.33 (s, 3H, acetyl), 2.34 (s, 3H, acetyl), 3.62 (m, 1H, CH), 3.82 (s, 6H, OCH3), 3.83 (s, 6H, OCH3), 6.30 (dd, 1H, J=4.0 and 16.0 Hz, CH=) , 6.37 (d, 1H, J=16.0 Hz, CH=), 6.50 (s, 2H, Ar-H), 6.62 (s, 2H, Ar-H) ppm ; 13C NMR (CDCl3) ( 20.46, 20.51, 20.86, 42.77, 56.13, 56.14, 102.82, 103.96, 127.01, 127.90, 128.52, 135.07, 135.85, 143.83, 152.00, 152.12, 168.84, 169.00 ppm ; MS (ESI-TOF) calcd for [C24H28O8]+ 445.18, found 445.16 [M + H]+.
【0040】
(製造例6)
4−ヒドロキシ−3−メトキシケイ皮酸(フェルラ酸)10mmolを原料として用い、目的物の中間体となる4−ヒドロキシ−3−メトキシスチレンダイマー(中間体ダイマー、構造式:反応式(b),(d)中の式(7))が得られる溶媒の条件を検討した。フェルラ酸に対し当量(eq:10mmol)のトリエチルアミン(10mmol)を塩基触媒として用い、表1に示す条件で反応を行った。反応の終点を薄相クロマトグラフィー(TLC)で確認し、原料消失までの時間経過、および得られた4−ヒドロキシ−3−メトキシスチレンダイマーの収率をNMRで調べた。スチレン誘導体の生成率と中間体ダイマーの収率は、反応開始5時間経過時のものである。
この製造例では、塩基溶媒として、プロティックソルベントである、エチレングリコールのみ、または水のみを用いたものを、実施例1,2とし、プロティックソルベント以外のトルエンのみ、N,N−ジメチルホルムアミドのみ、ジグライムのみを用いたものを比較例1〜3とした。各例において、用いた溶媒の量はいずれも20mlであり、反応温度はいずれも100℃とした。また、反応開始から5時間後に原料のフェルラ酸がスチレン誘導体や中間体ダイマーに転換した割合を原料転換率として示した。
【0041】
【表1】

【0042】
上記の表1から、用いる溶媒の種類により、4−ヒドロキシ−3−メトキシスチレンダイマーが得られる場合と、得られない場合があることがわかる。すなわち、プロティックソルベントであるエチレングリコールのみまたは水のみを用いたものは中間体ダイマーが得られ、特にエチレングリコールを用いた場合は中間体ダイマーが高収率で得られている。これらに対し、プロティックソルベント以外の溶媒(トルエン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジグライム)を用いたものは、フェルラ酸からスチレン誘導体が生成したのみで中間体ダイマーは得られなかった。
ここで、溶媒として、エチレングリコール(プロティックソルベント)のみ(実施例1)、またはトルエンのみ(比較例1)を用いた場合の、フェルラ酸、得られたスチレン誘導体、および中間体ダイマーの生成率の経時変化を図1に例示する。エチレングリコールを用いたものは(同図(a))、時間経過とともにフェルラ酸がスチレン誘導体および中間体ダイマーに転換されていくが、スチレン誘導体は途中から減少し、中間体ダイマーは増加を続けている。これに対し、トルエンを用いたものは(同図(b))、フェルラ酸が転換されてスチレン誘導体が増えていったが、中間体ダイマーは生成しなかった。すなわち、脱炭酸反応後の二量化反応について、プロティックソルベントが大きく関与していることが示唆される。
【0043】
(製造例7)
4−ヒドロキシ−3−メトキシケイ皮酸(フェルラ酸)10mmolを用い、目的物の中間体となる4−ヒドロキシ−3−メトキシスチレンダイマーが得られる条件を検討した。
トルエン/水混合溶媒(混合比5:3容量部)20mlを用い、各種の塩基触媒について用い、表2に示す条件で反応を行った。反応の終点を薄相クロマトグラフィー(TLC)で確認し、原料消失までに得られた4−ヒドロキシ−3−メトキシスチレンダイマー(中間体)の収率をNMRで調べた。
【0044】
【表2】

【0045】
上記の表2から、用いる塩基触媒の種類により、得られる4−ヒドロキシ−3−メトキシスチレンダイマーの収率が大きく異なることがわかる。尚、弱塩基である酢酸カリウムを塩基触媒として用いた場合(比較例4)、然るべき中間体はほとんど得られなかった。但し、フェルラ酸由来のスチレン誘導体(モノマー)は生成していた。
【0046】
(重合例)
(実施例7〜9、比較例5)
実施例7〜9は、本発明に係る60℃でのスチレン溶液重合方法を説明するものであり、連鎖移動剤を使用しない対照例(比較例5)を含む。重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルをモノマー1molに対し0.06mol%用い、連鎖移動剤として、製造例1で得られた4−アセトキシスチレンダイマー(構造式:式(2))を用いた。各成分を20mlのシュレンクに充填し、三方コックで密閉した後、窒素気流下で凍結脱気を3回行ったものを重合に用いた。重合は窒素気流下で60℃に加熱し3時間行った。得られたポリマーの分子量および分子量分布は、重合終了後の溶液を室温まで冷却した後、テトラヒドロフラン/メタノールにより再沈殿させ、それらを濾別し、乾燥して得たポリマー粉末を用いて測定した。かかる重合反応式を次式に示す。
【化12】

そして、それらの結果を、連鎖移動剤を含まない比較例5と合わせて表3に示す。
尚、表中に記載した転換率は重合開始後においてスチレンモノマーがポリマーに転換した割合を示している。以下の表4〜7についても同様である。
【表3】

【0047】
上記の表3から、連鎖移動剤の添加量の増加(実施例9<実施例8<実施例7)に応じて、得られたポリマーの分子量が低下しており、連鎖移動剤の機能を果たしていることがわかる。
【0048】
(実施例10〜12、比較例6)
製造例2で得られた4−メトキシスチレンダイマーを連鎖移動剤として用いた以外は、実施例7〜9および比較例5と同様の条件で実施した。それらの結果を、連鎖移動剤を含まない比較例6と合わせて表4に示す。
【表4】

【0049】
上記の表4から、連鎖移動剤の添加量の増加(実施例12<実施例11<実施例10)に応じて、得られたポリマーの分子量が低下しており、連鎖移動剤の機能を果たしていることがわかる。
【0050】
(実施例13〜15、比較例7)
製造例3で得られた4−アセトキシ−3−メトキシスチレンダイマー(フェルラ酸由来) を連鎖移動剤として用いた以外は、実施例7〜9と同様の条件で実施した。それらの結果を、連鎖移動剤を含まない比較例7と合わせて表5に示す。
【表5】

【0051】
上記の表5から、連鎖移動剤の添加量の増加(実施例15<実施例14<実施例13)に応じて、得られたポリマーの分子量が低下しており、連鎖移動剤の機能を果たしていることがわかる。
【0052】
(実施例16〜18、比較例8)
製造例4で得られた3,4−ジメトキシスチレンダイマーを連鎖移動剤として用いた以外は、実施例7〜9および比較例5と同様の条件で実施した。それらの結果を、連鎖移動剤を含まない比較例8と合わせて表6に示す。
【表6】

【0053】
上記の表6から、連鎖移動剤の添加量の増加(実施例18<実施例17<実施例16)に応じて、得られたポリマーの分子量が低下しており、連鎖移動剤の機能を果たしていることがわかる。
【0054】
(実施例19〜21、比較例9)
製造例5で得られた4−ヒドロキシ−3,5−ジメトキシスチレンダイマーを連鎖移動剤として用いた以外は、実施例7〜9および比較例5と同様の条件で実施した。それらの結果を、連鎖移動剤を含まない比較例9と合わせて表7に示す。
【表7】

【0055】
上記の表7から、連鎖移動剤の添加量の増加(実施例21<実施例20<実施例19)に応じて、得られたポリマーの分子量が低下しており、連鎖移動剤の機能を果たしていることがわかる。
尚、実施例7〜21および比較例5〜9で得られた分子量分布を示すdの値は1.60〜1.89の範囲に収まっており異常範囲ではなかった。
【0056】
ここで、連鎖移動剤の効率は、下記の計算式(A)より導かれる連鎖移動定数CTにより評価することができる。
CT=( 1 / Xn − 1 / Xn0 ) / ( [ T ] / [ M ] )
・・・(A)
(式(A)中、CT は連鎖移動定数、Xnは連鎖移動剤を添加した系での重合において得られるポリマーの重合度、Xn0は連鎖移動剤を添加しない系での重合において得られるポリマーの重合度、[ T ] は連鎖移動剤濃度、[ M ] はモノマー濃度である。)
具体的には、モノマーとしてスチレン を用いた場合、連鎖移動剤とスチレンの濃度比[ T ] / [ M ] を変化させた温度60℃ におけるスチレンの溶液重合において、それぞれ3時間経過後の溶液から得たポリマーをGPCで解析し、数平均分子量を決定する。数平均分子量から重合度を計算し、縦軸に1 / X n 、横軸に[ T ] / [ M ] を取ったグラフに各値をプロットすることによって得られる直線の傾きを求める。このときの直線の傾きが連鎖移動定数に相当し、この連鎖移動定数の値が大きいものほど連鎖移動効率が高く、優れた連鎖移動剤である。
【0057】
前記の手法により、製造例に示した5種類のヒドロキシスチレンダイマー誘導体について評価を行ったところ、下記の表8に示したとおり、製造例3で製造した4−アセトキシ−3−メトキシスチレンダイマー(反応式(b)の式(3)の構造式)が連鎖移動剤として最も優れていることが分かる。但し、製造例1,2,4,5により得られたダイマーも連鎖移動定数が実用上許容される範囲内の数値(0.046、0.0455、0.049、0.040)であるから、連鎖移動剤として相応の性能を有している。
【0058】
【表8】

【0059】
尚、従来例として、市販のα−メチルスチレンダイマーを用いて上記の実施例7と同様に重合試験を行ない、連鎖移動定数を得ている。その結果も表8に示す。このα−メチルスチレンダイマーは外部オレフィンを有しているので連鎖移動効率(連鎖移動定数=0.129)がよいことで知られている。しかしながら、α−メチルスチレンダイマーは芳香族環に置換基を持たないから、α−メチルスチレンダイマーを用いて重合させたポリマーの末端に連鎖移動剤由来の置換基を付加することができない。そこで、特許文献5,6のように芳香環に置換基を導入するように企図されていたが、既述のように種々の不具合が生じたのである。
これに対し、本発明により得られたヒドロキシスチレンダイマー誘導体は2つの芳香環間の直鎖に内部オレフィンを有するので、前記のα−メチルスチレンダイマーと比べるといくぶん連鎖移動効率が落ちるが、実用的にポリマーの分子量を調整できるのみならず、芳香族環の置換基に起因してポリマーに新たな成分や官能基を付加することができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明にかかるヒドロキシスチレンダイマー誘導体は、以上のように構成されているので、工業的に入手容易なヒドロキシケイ皮酸誘導体を原料として用いることで、比較的容易に合成することができる。得られたヒドロキシスチレンダイマー誘導体は、ヒドロキシル基が保護基で保護されていることから貯蔵性に優れ、またラジカル重合性モノマーの連鎖移動剤としても良好な物質となる。さらに、ポリマー末端にフェノール性ヒドロキシル基を導入することを可能にする特徴を生かし、ポリアクリル酸エステル樹脂/ポリスチレン樹脂の相溶性向上剤として利用できる可能性がある。なお、4−アセトキシ−3−メトキシスチレンダイマーは、近年、米糠油製造時の副産物として安価かつ大量に供給が可能となったフェルラ酸を原料として製造することが可能であることから、植物起源(カーボンニュートラル)な材料でもあり、バイオベースポリマーの製造原料としても良好な材料となることが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1):
【化1】

(式中、置換基R1およびR3は水素原子、アルコキシ基またはアセトキシ基のいずれかであり、R2はアセチル基またはアルキル基のいずれかである)で表されるヒドロキシスチレンダイマー誘導体。
【請求項2】
下記の式(2):
【化2】

で表されるヒドロキシスチレンダイマー誘導体。
【請求項3】
下記の式(3):
【化3】

で表されるヒドロキシスチレンダイマー誘導体。
【請求項4】
下記の式(4):
【化4】

で表されるヒドロキシスチレンダイマー誘導体。
【請求項5】
下記の式(5):
【化5】

(式中、置換基R1、R2、R3およびR4は、水素、ヒドロキシル基またはメトキシ基のいずれかである)で表されるヒドロキシケイ皮酸誘導体を塩基触媒およびプロティックソルベントの存在下で加熱してヒドロキシスチレンダイマー誘導体を得ることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のヒドロキシスチレンダイマー誘導体の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のヒドロキシスチレンダイマー誘導体からなることを特徴とする連鎖移動剤。
【請求項7】
請求項6に記載の連鎖移動剤を用いてラジカル重合性モノマーを重合させることを特徴とするラジカル重合性モノマーの重合方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−222285(P2010−222285A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70127(P2009−70127)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託研究「環境調和資源・技術による機能性有機材料の開発」産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの)
【出願人】(591023594)和歌山県 (62)
【Fターム(参考)】