説明

ヒドロキシヒドロキノン生成抑制剤

【課題】ヒドロキシヒドロキノンの生成が抑制された容器詰コーヒー飲料を提供すること。
【解決手段】ピリドキサール及びピリドキサミンから選択される少なくとも1種を有効成分とする、容器詰コーヒー飲料のヒドロキシヒドロキノン生成抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器詰コーヒー飲料のヒドロキシヒドロキノン生成抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒー飲料には、ポリフェノールの一種である、クロロゲン酸、カフェ酸、フェルラ酸等のクロロゲン酸類が含まれており、このクロロゲン酸類は優れた生理活性を有することが知られている。しかしながら、クロロゲン酸類による生理活性は、コーヒー飲料に含まれているヒドロキシヒドロキノンにより阻害されることが報告されている。
【0003】
したがって、クロロゲン酸類による生理活性を有効に発現させるためには、コーヒー飲料中のヒドロキシヒドロキノン含量を低減することが有利である。このようなコーヒー飲料として、例えば、コーヒー飲料中のクロロゲン酸類量を一定範囲に保持し、ヒドロキシヒドロキノン含量を通常含まれる量より十分少ない一定量以下に低減させたコーヒー飲料組成物が提案されている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、このようにコーヒー飲料中のヒドロキシヒドロキノン量を低減しても、容器詰する際の加熱殺菌工程でヒドロキシヒドロキノンが生成しやすいという問題がある。そこで、コーヒー飲料中のクロロゲン酸類量を一定範囲に保持し、ヒドロキシヒドロキノン含量を通常含まれる量より十分少ない一定量以下に低減させた上で、更にpHを一定範囲とするか、あるいはコーヒー固形分に占めるクロロゲン酸類の比率を一定以上とした容器詰コーヒー飲料(特許文献2、3)が提案されている。
【0005】
一方、ビタミンの生体内での機能に着目し、その苦味をマスキングするために、ビタミンB群をコーヒー抽出物及び/又はコーヒーフレーバーと配合した飲料が提案されている(特許文献4)。しかしながら、コーヒー飲料を加熱殺菌した後のヒドロキシヒドロキノンの生成を抑制するために、ビタミンをコーヒー飲料に配合した前例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−204192号公報
【特許文献2】特開2007−54061号公報
【特許文献3】特開2006−54062号公報
【特許文献4】特開平5−146253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の課題は、容器詰コーヒー飲料のヒドロキシヒドロキノン生成抑制剤を提供することにある。
本発明はまた、ヒドロキシヒドロキノンの生成を抑制した容器詰コーヒー飲料及び容器詰コーヒー飲料のヒドロキシヒドロキノンの生成抑制方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、容器詰コーヒー飲料のヒドロキシヒドロキノンの生成を抑制すべく種々検討したところ、ビタミンB6類の中でも特定のビタミンB6をコーヒー飲料中に含有せしめることにより、容器詰コーヒー飲料のヒドロキシキドロキノンの生成が顕著に抑制されることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、ピリドキサール及びピリドキサミンから選択される少なくとも1種を有効成分とする、容器詰コーヒー飲料のヒドロキシヒドロキノン生成抑制剤(以下、「HHQ生成抑制剤」とも称する)を提供するものである。
【0010】
本発明はまた、次の成分(A)及び(B):
(A)クロロゲン酸類:0.01〜1質量%、及び
(B)ピリドキサール及びピリドキサミンから選択される少なくとも1種
を含有する容器詰コーヒー飲料を提供するものである。
【0011】
本発明は更に、ピリドキサール及びピリドキサミンから選択される少なくとも1種を含有する、容器詰コーヒー飲料を提供するものである。
【0012】
本発明はまた更に、クロロゲン酸類に、上記ヒドロキシヒドロキノン生成抑制剤を添加する、容器詰コーヒー飲料のヒドロキシヒドロキノンの生成抑制方法(以下、「HHQ生成抑制方法」とも称する)を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、容器詰コーヒー飲料のヒドロキシヒドロキノンの生成を有効に抑制し得る剤及び方法が提供される。
本発明の容器詰コーヒー飲料は、上記ヒドロキシヒドロキノン生成抑制剤を含有することで、ヒドロキシヒドロキノンが生成しやすい長期保存時においてもヒドロキシヒドロキノンの生成が抑制されるため、クロロゲン酸類による生理活性がヒドロキシヒドロキノンにより阻害され難い。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(容器詰コーヒー飲料のヒドロキシヒドロキノン生成抑制剤)
本発明のHHQ生成抑制剤は、ピリドキサール及びピリドキサミンから選択される少なくとも1種を有効成分とすることを特徴とするものである。
本発明のHHQ生成抑制剤の有効成分であるピリドキサール及びピリドキサミンはビタミンB6類の1種であり、ビタミンB6類は生体内でアミノ酸とたんぱく質の代謝に係わる生理活性物質として知られている。
ビタミンB6類としてピリドキシン、ピリドキサール及びピリドキサミン、並びにそれらの5'位のリン酸エステルであるピリドキシン5'−リン酸、ピリドキサール5'−リン酸及びピリドキサミン5'−リン酸等が存在するが、これらの中でピリドキサール及びピリドキサミンが容器詰コーヒー飲料のヒドロキシヒドロキノンの生成を特異的に抑制することを本発明者は見出したものである。
【0015】
本発明で使用するピリドキサール及びピリドキサミンとしては、公知の方法で合成したものでも、市販品であってもよい。
【0016】
本発明のHHQ生成抑制剤の容器詰コーヒー飲料中への添加量は適宜選択することが可能であるが、HHQ生成抑制及び風味の観点から、上限は0.2質量%、更に0.15質量%、更に0.1質量%、特に0.07質量%であることが好ましく、他方下限は0.001質量%、更に0.005質量%、更に0.01質量%、特に0.02質量%であることが好ましい。このような少量の添加量でヒドロキシヒドロキノンの生成を十分に抑制することが可能である。
【0017】
なお、本発明のHHQ生成抑制剤が添加される容器詰コーヒー飲料は、以下と同様の構成を採用することができる。
【0018】
(容器詰コーヒー飲料、容器詰コーヒー飲料のヒドロキシヒドロキノンの生成抑制方法)
本発明に係る容器詰コーヒー飲料は、当該容器詰コーヒー飲料中に(A)クロロゲン酸類を0.01〜1質量%含有するが、生理活性及び風味の観点から、上限は0.8質量%、更に0.6質量%、より更に0.5質量%、特に0.3質量%であることが好ましく、他方下限は0.05質量%、更に0.08質量%、より更に0.1質量%、特に0.13質量%であることが好ましい。なお、クロロゲン酸類の含有量は、後掲の実施例に記載の「クロロゲン酸類の分析」により測定された値である。
ここで、本明細書において「(A)クロロゲン酸類」とは、3−カフェオイルキナ酸、4−カフェオイルキナ酸及び5−カフェオイルキナ酸の(A1)モノカフェオイルキナ酸と、3−フェルラキナ酸、4−フェルラキナ酸及び3−フェルラキナ酸の(A2)フェルラキナ酸と、3,4−ジカフェオイルキナ酸、3,5−ジカフェオイルキナ酸及び4,5−ジカフェオイルキナ酸の(A3)ジカフェオイルキナ酸を併せての総称である。クロロゲン酸類含量は、上記9種の合計量に基づいて定義される。
【0019】
また、本発明に係る容器詰コーヒー飲料は、(C)ヒドロキシヒドロキノン含量が通常含まれる量よりも十分低減されていることが好ましく、具体的には、当該容器詰コーヒー飲料中の(C)ヒドロキシヒドロキノンの含有量は(A)クロロゲン酸類に対して0.1質量%未満であり、0であってもよい。生理活性阻害抑制及び生産効率の観点から、当該容器詰コーヒー飲料中の(C)ヒドロキシヒドロキノンの含有量は、上限が(A)クロロゲン酸類に対して0.05質量%未満、更に0.01質量%未満、更に0.005質量%未満、更に0.001質量%未満、更に0.0005質量%未満、特に0.0003質量%未満であることが好ましい。他方下限は、(A)クロロゲン酸類に対して0.00001質量%、特に0.0001質量%であることが好ましい。なお、ヒドロキシヒドロキノンの含有量は、後掲の実施例に記載の「ヒドロキシヒドロキノンの分析」により測定された値であるが、検出手段として電気化学検出器を使用するため高感度に検出される。また、HPLCによるヒドロキシヒドロキノンの分析においては、容器詰コーヒー飲料を濃縮した後に測定してもよい。
【0020】
このような容器詰コーヒー飲料は、(C)ヒドロキシヒドロキノン含量が十分に低減されたコーヒー抽出液を配合し、(A)クロロゲン酸類含量を調整して得ることができる。
【0021】
ヒドロキシヒドロキノン含量が十分に低減されたコーヒー抽出液は、例えば、次の方法により得ることができる。
先ず、コーヒー豆からコーヒー抽出液を調製する。この場合、コーヒー抽出液に換えて、インスタントコーヒーの水溶液、液体コーヒーエキス等を使用してもよい。
抽出に使用するコーヒー豆の種類は特に限定されないが、例えば、ブラジル、コロンビア、タンザニア、モカ、キリマンジェロ、マンデリン、ブルーマウンテンが例示される。また、コーヒー豆種としては、アラビカ種、ロブスタ種等がある。コーヒー豆は、1種でもよいし、複数種をブレンドして用いてもよい。
コーヒー豆として焙煎コーヒー豆を使用することが好ましく、焙煎度としては、例えば、ライト、シナモン、ミディアム、ハイ、シティ、フルシティ、フレンチ、イタリアンが例示される。中でも、ライト、シナモン、ミディアム、ハイ、シティがクロロゲン酸類を多く含み、飲用しやすい点で好ましい。
コーヒー豆の焙煎方法は特に制限はなく、焙煎温度、焙煎環境についても何ら制限はなく、通常の方法を採用できる。更に、抽出方法についても何ら制限はなく、例えば、焙煎コーヒー豆又はその粉砕物から水又は熱水(0〜100℃)を用いて10秒〜30分抽出する方法が例示される。抽出方法としては、例えば、ボイリング式、エスプレッソ式、サイホン式、ドリップ式(ペーパー、ネル等)が例示される。
【0022】
コーヒー豆は、容器詰コーヒー飲料100g当たり生豆換算で1g以上、更に2.5g以上、特に5g以上使用することが好ましい。
【0023】
次に、得られたコーヒー抽出液を吸着剤処理してヒドロキシヒドロキノン含量を低減させる。
吸着剤としては、活性炭、逆相クロマトグラフ担体等を使用することができる。より具体的には、コーヒー抽出液又はコーヒー抽出液の乾燥品の水溶液に、吸着剤を加え0〜100℃で10分〜5時間撹拌した後、吸着剤を除去すればよい。吸着剤は、コーヒー豆の質量に対して、活性炭の場合は0.02〜1.0倍、逆相クロマトグラフ担体の場合は2〜100倍用いることが好ましい。活性炭としては、ミクロ孔領域における平均細孔半径が5オングストローム(Å)以下、更に2〜5オングストローム、特に3〜5オングストロームであるものが好ましい。
【0024】
ここで、ミクロ孔領域とは、平均細孔半径が10オングストローム以下であることをいい、平均細孔半径はMP法により測定して得た細孔分布曲線のピークトップを示す細孔半径の値とする。なお、「MP法」とは、文献(Colloid and Interface Science, 26, 46(1968))に記載の細孔測定法である。
【0025】
また、活性炭の種類としては、ヤシ殻活性炭が好ましく、更に水蒸気賦活化ヤシ殻活性炭が好ましい。活性炭の市販品として、白鷺WH2C(日本エンバイロケミカルズ(株))、太閣CW(二村化学(株))、クラレコールGW(クラレケミカル(株))等を用いることができる。逆相クロマトグラフ担体としては、YMC・ODS−A(YMC(株))、C18(ジーエルサイエンス(株))等が例示される。
これらの吸着剤処理法のうち、特定の活性炭を用いた吸着剤処理法はクロロゲン酸類含量を低下させることなく選択的にヒドロキシヒドロキノン含量を低減させることができ、しかも工業的に有利に製造することが可能で、カリウム含量を低下させない(質量比で1/5以上、特に1/2以上保持)点からも好ましい。
【0026】
本発明の容器詰コーヒー飲料のブリックス値は、1〜2、更に1.1〜1.8、1.2〜1.6であることが好ましい。ブリックス値は上記範囲内であると、風味に優れ、沈殿が生成し難いため好ましい。ここで、「ブリックス(Brix)値」とは、後掲の実施例に記載の「ブリックスの測定」により測定された値である。
【0027】
なお、ブリックス値の調整には、例えば、次の方法を採用することができる。
1)コーヒー豆の焙煎度や抽出時における焙煎豆と抽出液の比率を制御する方法。
2)抽出時に得られる抽出液をフラクションに分けて所望のブリックス値を有するフラクションを抜き取る方法。
3)活性炭処理により特定成分を吸着する方法。
4)別途低焙煎豆や生豆からの抽出液を添加してブリクッス値を調整する方法。
【0028】
本発明に係る容器詰コーヒー飲料中の(B)ピリドキサール及び/又はピリドキサミンの合計含有量は、HHQ生成抑制及び風味の観点から、上限は0.2質量%、更に0.15質量%、更に0.1質量%、特に0.07質量%であることが好ましく、他方下限は0.001質量%、更に0.005質量%、更に0.01質量%、特に0.02質量%であることが好ましくい。
【0029】
また、本発明に係る容器詰コーヒー飲料には、必要により、乳成分、甘味料、苦味抑制剤、酸化防止剤、香料、有機酸類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、乳化剤、保存料、調味料、酸味料、アミノ酸、pH調整剤、品質安定剤等の添加剤の1種又は2種以上が配合されていてもよい。
本発明の容器詰コーヒー飲料は、ブラックコーヒー飲料でも、ミルクコーヒー飲料でもよいが、実質的に乳成分を含まないブラックコーヒー飲料が好ましい。また、容器詰コーヒー飲料は、シングルストレングスであることが好ましい。ここで、「シングルストレングス」とは、容器詰コーヒー飲料を開封した後、常態として薄めずにそのまま飲めるものをいう。
【0030】
本発明に係る容器詰コーヒー飲料は、ヒドロキシヒドロキノンの生成抑制及び風味の観点から、H22(過酸化水素)の含有量が1ppm以下、更に0.1ppm以下、より更に0.05ppm以下、特に0.01ppm以下であることが好ましい。ここで、過酸化水素の含有量は、後掲の実施例に記載の「過酸化水素の測定」により定量された値である。なお、過酸化水素は密閉容器にコーヒー飲料を充填し殺菌処理すると失われるものの、容器開封によって空気に触れると時間経過と共に徐々に増加する傾向があることから、特許第3732782号公報、特許第3706339号公報に記載の測定条件に則り、開封後迅速かつ速やかに分析する。
【0031】
本発明に係る容器詰コーヒー飲料は、pH(20℃)が5〜7、更に5.4〜6.5、特に5.6〜6.3であることが好ましい。
【0032】
本発明に係る容器詰コーヒー飲料は、PETボトル、缶(アルミニウム、スチール)、紙、レトルトパウチ、瓶(ガラス)等の容器を用いることができる。この場合、容器は50〜2500mLとすることができる。容器としては、コーヒー中の成分の変化を防止する観点から、酸素透過度の低い容器が好ましく、例えば、アルミニウムや、スチールなどの缶、ガラス製のビン等を用いることが好ましい。缶やビンの場合、リキャップ可能なリシール型のものも含まれる。ここで、「酸素透過度」とは、容器・フィルム酸素透過率測定器で20℃、相対湿度50%の環境下で測定した酸素透過度(cc・mm/m2・day・atm)であり、酸素透過度は5以下、更に3以下、特に1以下であることが好ましい。
【0033】
本発明に係る容器詰コーヒー飲料は、殺菌処理することが好ましい。殺菌処理は、例えば、金属缶のような容器に充填後、加熱殺菌できる場合にあっては適用されるべき法規(日本にあっては食品衛生法)に定められた殺菌条件で製造できる。また、PETボトル、紙容器のようにレトルト殺菌できないものについては、あらかじめ上記と同等の殺菌条件、例えばプレート式熱交換器などで高温短時間殺菌後、一定の温度迄冷却して容器に充填する等の方法が採用できる。
本発明の容器詰コーヒー飲料及び該容器詰飲料のHHQ生成抑制方法によれば、加熱殺菌してもヒドロキシヒドロキノンの生成が顕著に抑制されるため、クロロゲン酸類による生理活性がヒドロキシヒドロキノンにより阻害され難く、更には長期保存安定性にも優れるようになる。
【実施例】
【0034】
(1)クロロゲン酸類の分析
分析機器はHPLCを使用した。装置の構成ユニットの型番は次の通りである。
UV−VIS検出器:L−2420((株)日立ハイテクノロジーズ)、
カラムオーブン:L−2300((株)日立ハイテクノロジーズ)、
ポンプ:L−2130((株)日立ハイテクノロジーズ)、
オートサンプラー:L−2200((株)日立ハイテクノロジーズ)、
カラム:Cadenza CD−C18 内径4.6mm×長さ150mm、粒子径3μm(インタクト(株))。
【0035】
分析条件は次の通りである。
サンプル注入量:10μL、
流量:1.0mL/min、
UV−VIS検出器設定波長:325nm、
カラムオーブン設定温度:35℃、
溶離液A:0.05M 酢酸、0.1mM 1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、10mM 酢酸ナトリウム、5(V/V)%アセトニトリル溶液、
溶離液B:アセトニトリル。
【0036】
濃度勾配条件
時間 溶離液A 溶離液B
0.0分 100% 0%
10.0分 100% 0%
15.0分 95% 5%
20.0分 95% 5%
22.0分 92% 8%
50.0分 92% 8%
52.0分 10% 90%
60.0分 10% 90%
60.1分 100% 0%
70.0分 100% 0%
【0037】
HPLCでは、試料1gを精秤後、溶離液Aにて10mLにメスアップし、メンブレンフィルター(GLクロマトディスク25A,孔径0.45μm,ジーエルサイエンス(株))にて濾過後、分析に供した。
クロロゲン酸類の保持時間(単位:分)
(A1)モノカフェオイルキナ酸:5.3、8.8、11.6の計3点
(A2)フェルラキナ酸:13.0、19.9、21.0の計3点
(A3)ジカフェオイルキナ酸:36.6、37.4、44.2の計3点。
ここで求めた9種のクロロゲン酸類の面積値から5−カフェオイルキナ酸を標準物質とし、クロロゲン酸類の含有量(質量%)を求めた。
【0038】
(2)HPLC−電気化学検出器によるヒドロキシヒドロキノンの分析
分析機器はHPLC−電気化学検出器(クーロメトリック型)であるクーロアレイシステム(モデル5600A、米国ESA社製)を使用した。装置の構成ユニットの名称・型番は次の通りである。
アナリティカルセル:モデル5010、クーロアレイオーガナイザー、
クーロアレイエレクトロニクスモジュール・ソフトウエア:モデル5600A、
溶媒送液モジュール:モデル582、グラジエントミキサー、
オートサンプラー:モデル542、パルスダンパー、
デガッサー:Degasys Ultimate DU3003、
カラムオーブン:505、
カラム:CAPCELL PAK C18 AQ 内径4.6mm×長さ250mm 粒子径5μm((株)資生堂)。
【0039】
分析条件は次の通りである。
サンプル注入量:10μL、
流量:1.0mL/min、
電気化学検出器の印加電圧:0mV、
カラムオーブン設定温度:40℃、
溶離液C:0.1(W/V)%リン酸、0.1mM 1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、5(V/V)%メタノール溶液、
溶離液D:0.1(W/V)%リン酸、0.1mM 1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、50(V/V)%メタノール溶液。
【0040】
溶離液C及びDの調製には、高速液体クロマトグラフィー用蒸留水(関東化学(株))、高速液体クロマトグラフィー用メタノール(関東化学(株))、リン酸(特級、和光純薬工業(株))、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸(60%水溶液、東京化成工業(株))を用いた。
【0041】
濃度勾配条件
時間 溶離液C 溶離液D
0.0分 100% 0%
10.0分 100% 0%
10.1分 0% 100%
20.0分 0% 100%
20.1分 100% 0%
50.0分 100% 0%
【0042】
試料5gを精秤後、0.5(W/V)%リン酸、0.5mM 1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、5(V/V)%メタノール溶液にて10mLにメスアップし、この溶液について遠心分離を行い、上清を分析試料とした。この上清について、ボンドエルートSCX(固相充填量:500mg、リザーバ容量:3mL、ジーエルサイエンス(株))に通液し、初通過液約0.5mLを除いて通過液を得た。この通過液について、メンブレンフィルター(GLクロマトディスク25A,孔径0.45μm,ジーエルサイエンス(株))にて濾過し、速やかに分析に供した。
【0043】
HPLC−電気化学検出器の上記の条件における分析において、ヒドロキシヒドロキノンの保持時間は、6.38分であった。得られたピークの面積値から、ヒドロキシヒドロキノン(和光純薬工業(株))を標準物質とし、ヒドロキシヒドロキノンの含有量(質量%)を求めた。
【0044】
(3)ブリックスの測定
試料を、20℃における糖用屈折計示度(Brix)を、糖度計(Atago RX-5000(Atago社製))を用いて測定した。
【0045】
(4)過酸化水素の測定
過酸化水素分析計(SUPER ORITECTOR MODEL 5、セントラル科学(株))を使用し、標準校正液(過酸化水素1ppm)で校正した後、分析計測定セル内に、0.5%臭素酸カリウム配合の0.2Mリン酸バッファー(pH7.0)を1mL入れた。セル内に窒素を供給しセル内の溶存酸素がゼロになった時点で30℃恒温槽に静置しておいたセルから試料1mLを速やかに抜き取り、測定セル内に加えた。その後、装置の測定手順に従い、発生した酸素濃度をプリンターから読み取った。以後、15分毎に測定し、得られた1時間後までのデータを用いて最小二乗法で直線を引き、発生速度を求めた。ここで、MODEL5の検出限界は0.1mg/kgであった。
【0046】
(5)官能試験
60℃で2週間保存前後における各容器詰コーヒー飲料の風味の変化の有無について、パネラー5名により評価し、その後協議により判定した。
【0047】
実施例1
多段抽出機を用いて、中焙煎度のコーヒー豆を95℃のイオン交換水で抽出し、コーヒー抽出エキスを得た。次に、コーヒー抽出エキス中のBrixを測定し、Brixに対して50質量%の量の活性炭(白鷺WH2C、日本エンバイロケミカルズ(株))を充填したカラム(内径45mm、長さ150mm)を準備した。その後、活性炭を充填したカラムに温度25℃、SV3[1/容量[m3]/流量[m3/hr]]の条件下でコーヒー抽出液を通液し、活性炭処理してヒドロキシヒドロキノンを除去したコーヒー抽出エキスを得た。
次に、得られたヒドロキシヒドロキノンを除去したコーヒー抽出エキスをイオン交換水で希釈し、加熱殺菌処理後のpH値が6.2となるよう重曹にてpH調整し、更にピリドキサールの配合を行った。なお、加熱殺菌前のヒドロキシヒドロキノンは、検出限界以下であった。
次に、得られたコーヒー組成物を190g缶に充填後、密封し、レトルト殺菌処理(135℃、100秒)を施し、容器詰コーヒー飲料を得た。そして、加熱殺菌後のクロロゲン酸量及びヒドロキシヒドロキノン量の分析、ブッリクス値並びに過酸化水素の測定を行った。次いで、得られた容器詰コーヒー飲料を60℃で2週間保存した後、保存後のクロロゲン酸量及びヒドロキシヒドロキノン量の分析、並びに官能試験を行った。その結果を表1に併せて示す。
【0048】
実施例2
ピリドキサールの添加量を換えたこと以外は、実施例1と同様に容器詰コーヒー飲料を製造した。そして、60℃で2週間保存前後の容器詰コーヒー飲料を分析し、官能試験を行った。その結果を表1に併せて示す。
【0049】
実施例3
ピリドキサールをピリドキサミンに換えたこと以外は、実施例1と同様に容器詰コーヒー飲料を製造した。そして、60℃で2週間保存前後の容器詰コーヒー飲料を分析し、官能試験を行った。その結果を表1に併せて示す。
【0050】
実施例4
ピリドキサールをピリドキサミンに換え、その添加量を変更したこと以外は、実施例1と同様に容器詰コーヒー飲料を製造した。そして、60℃で2週間保存前後の容器詰コーヒー飲料を分析し、官能試験を行った。その結果を表1に併せて示す。
【0051】
比較例1
ピリドキサールをピリドキシンに換えたこと以外は、実施例1と同様に容器詰コーヒー飲料を製造した。そして、60℃で2週間保存前後の容器詰コーヒー飲料を分析し、官能試験を行った。その結果を表1に併せて示す。
【0052】
比較例2
ピリドキサールを配合しなかったこと以外は、実施例1と同様に容器詰コーヒー飲料を製造した。そして、60℃で2週間保存前後の容器詰コーヒー飲料を分析し、官能試験を行った。その結果を表1に併せて示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示したように、クロロゲン酸類及びヒドロキシヒドロキノンの各濃度を一定に制御し、ピリドキサール又はピリドキサミンを配合した容器詰コーヒー飲料においては、加熱殺菌直後のヒドロキシヒドロキノンの生成が抑制されるだけなく、60℃で2週間保存後のヒドロキシヒドロキノンの生成も顕著に抑制されることが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピリドキサール及びピリドキサミンから選択される少なくとも1種を有効成分とする、容器詰コーヒー飲料のヒドロキシヒドロキノン生成抑制剤。
【請求項2】
当該ヒドロキシヒドロキノン生成抑制剤の容器詰コーヒー飲料中への添加量が0.001〜0.2質量%である、請求項1記載のヒドロキシヒドロキノン生成抑制剤。
【請求項3】
前記容器詰飲料が0.01〜1質量%のクロロゲン酸類を含有するものである、請求項1又は2記載のヒドロキシヒドロキノン生成抑制剤。
【請求項4】
次の成分(A)及び(B):
(A)クロロゲン酸類:0.01〜1質量%、及び
(B)ピリドキサール及びピリドキサミンから選択される少なくとも1種
を含有する容器詰コーヒー飲料。
【請求項5】
当該容器詰コーヒー飲料中の前記成分(B)の含有量が0.001〜0.2質量%である、請求項4記載の容器詰コーヒー飲料。
【請求項6】
当該容器詰コーヒー飲料が加熱殺菌処理したものである、請求項4又は5記載の容器詰コーヒー飲料。
【請求項7】
当該容器詰コーヒー飲料のブリックス値が1〜2である、請求項4〜6のいずれか1項に記載の容器詰コーヒー飲料。
【請求項8】
ピリドキサール及びピリドキサミンから選択される少なくとも1種を含有する、容器詰コーヒー飲料。
【請求項9】
クロロゲン酸類に、請求項1〜3のいずれか1項に記載のヒドロキシヒドロキノン生成抑制剤を添加する、容器詰コーヒー飲料のヒドロキシヒドロキノンの生成抑制方法。